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殲神封神大戦⑰~ゆらゆら、ゆらぐ

#封神武侠界 #殲神封神大戦 #殲神封神大戦⑰ #渾沌氏『鴻鈞道人』

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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●ぐるり
 仙界の最深部にある、いまだ形定まらぬ『渾沌の地』。
 彼の地には自身を骸の海と称する『鴻鈞道人』が猟兵たちを待っている。
「親玉らしき者への道がひらかれたよ」
 手のひらの上に蓮花のグリモアを啓かせた雅楽代・真珠(水中花・f12752)は、珊瑚色の瞳にまつ毛の影を落としながら猟兵たちを見遣った。形の良い花唇は紡がなかったが、視線には『お前たちのことだ、当然行くよね?』と含まれている。
「僕は予知で鴻鈞道人がそこに居ることを知り、道をひらくことは出来るけれど――謎の多い敵だ。現地での行動はお前たちの裁量に委ねることになると思う」
 真珠は一度口を閉ざす。
 悔しいことに、何も見えなかったのだ。
 親玉らしき者が迎え待つ場所に、策もなく送り出さねばならない。
 けれど、それでも。
「お前たちなら大丈夫だろう。必ず勝利を持ち帰ってくるのだよ」
 待っているからねといつも通りいとけなく微笑んで。
 金魚が蓮の上をくうるり廻ると、猟兵たちは『渾沌の地』へと転送された。
 いつも通り見送って、真珠はグリモアベースでゲートを管理する。

 ――その、はずだった。

「――……え?」
 あり得ない場所で、驚いたような声がした。
 転送された猟兵たちからは、少し離れた場所。
 転送して見送ったはずのグリモア猟兵の人魚が浮かんでいる。
 いつも彼と一緒にいる使用人人形たちの姿はなく、その代わり――。
「な――、」
 背後に立っていた鴻鈞道人が真珠の顎を手で捕らえ、白き天使の翼が真珠の身を覆い隠すように包む。覗く尾鰭が一度だけ跳ねた。
 白い魚の尾が、『変わる』。
 尾が伸びて、ひいらり揺蕩う尾鰭が広がっていく。
「…………ぼく、は……おとな、になん、てッ」
 翼の向こうで抗うような声は、今にも消えてしまいそうだ。
 大人になんてなりたくない。――それは、歳を経ても幼い姿で在り続けるびいどろ金魚の願いである。大好きな人の『弟』で居続けたいから成長を願わない、彼の。
「お前たち!」
 普段声を荒らげない真珠が、最後の力を振り絞って叫ぶ。

 ――どんな手を使ってでも、僕を戻して!

 翼がひらかれる。
 蓮花がひらかれる。
 水の金魚が真珠の周りを游ぐのみで、鴻鈞道人の姿はそこにはない。
「罪深き刃を刻まれし者達よ。相争い、私の左目に炎の破滅を見せてくれ」
 大人の姿になった人魚がただ、うっそりと微笑むのみだった。


壱花
 敵対! したい! します!

 このシナリオは、戦争シナリオです。1フラグメントで終了します。

●受付期間
 受付は【24日(月)8:31~23:59まで】となります。
 採用は25日中に書ききれる分だけ+オバロ分(後日お届け)を予定しております。
 ※オーバーロードについては雑記を参照ください。

●シナリオについて
 グループでのご参加は【2名まで】。

●鴻鈞道人
 グリモア猟兵の身体を奪いました。
 どんなに真珠と絆を築いていようとも、一切有利には働きません。鴻鈞道人が強敵すぎるためです。融合した鴻鈞道人が力尽きるまで戦うしかなく、彼に手加減をしようと思う気持ちがあれば次の瞬間倒れているのはあなたでしょう。
 グリモア猟兵が戦闘後に生きていてくれている事を祈り、全力で戦ってください。残念ながら現時点で鴻鈞道人を完全に滅ぼす方法はありませんが、一時的に殺すことは可能であり、体力が0になると撤退します。

 POWの攻撃は硝子の鱗が剥がれ落ちていきます。
 また、宙に浮いている水の金魚、触れずとも斬れる長い爪等での通常攻撃も行えます。

●プレイングボーナス
 『グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する』です。
 ユーベルコード以外の行動で対処してください。難易度はやや難になりますので、それなりの説得力等は数値で示してください。

●迷子防止とお一人様希望の方
 同行者が居る場合は冒頭に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。
 お一人での描写を希望される場合は【同行NG】等の記載をお願いします。
 また、文字数軽減用のマークをMSページに用意してありますので、そちらを参照ください。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ゆらぐ
 不定形なその地は、ゆらぐ。
 姿を奪われたグリモア猟兵に応じてか、そこは全て『水中の日本庭園』となった。
 水中に、季節の木々と花が咲き。
 水中に、池が出来て朱塗りの橋が掛かった。
 何処かの貴族の屋敷を思わせる庭園は、きっと乗っ取られたグリモア猟兵の心象風景なのだろう。

 しかし水の中なのに、息も出来れば、少し浮力と水が纏わりついてくるような感じはするものの陸上程ではないが動くことは出来る。この場に満ちるものがまだ完全な『水』になりきってはいないのだろう。
 けれども予感めいた確信が、胸の内をよぎる。よぎってしまう。
 戦闘が長引けばきっと、此処は本当に水の底となることだろう。
 人魚の姿を奪った鴻鈞道人が”誘惑するように”花のかんばせで微笑む。
 ――永久に此処に居れば良い、と。

 さすれば誰も彼も、人魚さえもが水の底に飲み込まれる。
 ぶくぶく沈んで、浮かび上がるものはひとつもない。
ヲルガ・ヨハ
♢♡

からくり人形の腕に抱えられ
ゆらり、尾を揺らす

無粋な手で
己を奪われ、己のものに触れられるとおもえば
虫酸が走るものよ
土塊の頬を指先で撫で

彼の神の望みどおり
取り戻してやろうぞ

揺蕩う水の金魚を視てとれば
ふれるな、と"おまえ"に命じ

強敵だ、永く動く必要はない
「限界突破」し感覚を研ぎ
翼の羽ばたきでひと息に距離を詰めるか
触手と刃で攻勢と出るかーー

ごうごうと纏うは雷雲が如き「オーラ防御」
後者なれば人形の「2回攻撃」か、われの「なぎ払い」で逸らしーー或いは、斬りふせる

ふふ、ふ!
触れずとも
紅さかす爪に傷負えば
今のわれらでは意識があるだけ上々か

肉薄し
徒手空拳と尾とで【UC】を
ならば
斃れるまで往こう、"おまえ"よ


ルドラ・ヴォルテクス
アドリブ&連携OK

【ルドラ・ゴースト】
骸の海、死の気配が俺をここに呼び寄せたな。

……ラブリーにも見せてやりたいな……きっと喜ぶだろう。
……こんなまやかしでなければ。

……血の業で穢すな、傲慢な過去の化生。
限界突破とリミッター解除で、タービュランスを渦の結界として機能させ、UCを起動する時間を作る。

【反撃】
UC、無終の円環。
お前の業は無力だ、こちらからいかせてもらう。
ヤドリガミだと聞いていた……本体を裂かぬよう……覚悟と祈りの一刀で、この呪縛を断ち切る!
手繰り糸はもう切れているぞ、悪性を曝け出せ、お前が見せる邪悪な昏い孔が、お前を存在たらしめる痕だ。




「無粋なものよな」
 大人の姿となった人魚を見遣り、ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)はからくり人形の腕の中で尾を揺らした。ほんの先刻前――そして以前も遭ったことのある人魚はいつも、ヲルガと同じように人形の腕の家で尾を揺らしていたことを思い出す。
(己を奪われるだけでなく、意図せず”おまえ”と離れさせられたら、われは――)
 無粋にも程がある。虫酸が走るだけでは飽き足らず、怒りの侭に身を任せようか。
 けれども知らぬ手で己のものに泥を塗られるよりはと思えば、どうであろうなと土塊の頬を指先で撫でた。”おまえ”は応えない。彼の神の人形も、そうであるように。
「骸の海……の、まやかしか」
 そうでなければ見せたい者がいたと、死の気配に呼ばれて赴いたルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)は赤眼を眇めた。
 眼前の敵が強敵であることは、承知済み。
 普通に力を振るうよりも扱いが難しいのは、ゲートを開いたグリモア猟兵の身であるせい。――だが、手加減をすることも許されはしない。
 ルドラの視線がチラとヲルガへ向けられ、ヲルガは面紗の下で浅く顎を引く。
 仕掛けるのならば一瞬。
「臆しているのか罪深き刃を刻まれし者達よ。その力、見せてみよ」
 鴻鈞道人が動くのに合わせ、ルドラとヲルガのふたりは同時に感覚を研ぎ澄ませる。
 水の金魚には決して触れるなと”おまえ”に命を出し、大きく広げられた翼から舞う羽根をごうごうと神鳴るようなオーラ防御で身を守りながら払える羽根をヲルガは払った。
 息をつく間を与えず、鴻鈞道人が肉薄する。
「ふふ、ふ!」
 振るわれる爪に、思わず笑みが溢れた。真っ直ぐに喉を狙ってきた爪は守りを重ねたお陰で皮一枚のみを切り裂いて、白い首に朱を残す。
 鴻鈞道人は奪った身体は使い捨てるのだろう。代償に血を吐く人魚の身体を気にすること無く、振るう爪はぐるんを身を捩るままにルドラへと向けられた。
「……血の業で穢すな、傲慢な過去の化生」
 己が血を流さず、他者の身で。
 他者の身体の代償を気にせずに。
 そうしてきっと、これまでも幾つもの命を使い捨ててきているのだろう。
 幾重にも重なり続ける鴻鈞道人が犯す業に、ルドラもまた苛立ちを覚えていた。
 リミッターを解除したタービュランスの渦の結界で爪撃を避け、作った時間で発動させるは《無終の円環(アーディシェーシャ)》。見えざる波紋が空間に漂う水を震わせ、それと同時に鴻鈞道人が爪を振るった形で動きを止めた。
 鴻鈞道人が相手ならば、刹那の刻を止められればいい。
「手繰り糸はもう切れているぞ、悪性を曝け出せ、お前が見せる邪悪な昏い孔が、お前を存在たらしめる痕だ」
 ヤドリガミだと聞いている人魚が持つであろう本体に当たらぬ事を祈り、ルドラは『チャンドラー・エクリプス』で切りつける。同時に口から溢れる血は反動が大きい証拠だが、ルドラは耐える。あと僅かでも鴻鈞道人の動きを止めていたいから。
「助かる」
 静かな声には、戦いへの愉悦が滲み出て――否、隠しても詮無きことだ。
 竜神が動きを止めたままの鴻鈞道人へと滑るように肉薄する。
 どちらかが斃れるまで踊ろうと咲い、からくり人形とともに舞うように掌底と尾を叩きつけた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
行くよ真珠、君とはいつか白黒つけたいと思っていたんだ
(うまいこと言った顔)

白黒……
くッ、無反応が一番つらい!

まずはオーラ防御…魔術障壁でダメージの緩和を狙うよ
止めきれない分は魔杖剣で受けて後方に跳躍、勢いを殺す
水中なら僕でも多少はアクロバティックに動けるんじゃない?
ぶっ飛ばされたら空中でマントの留め具を外して目くらましに
追撃を断ってから反撃に出たい

持久戦だと押し切られると予測、UCによる黒剣群を伴って仕掛けるよ
金魚や触手を貫いて、束ねた剣で白刃を防御
操作した剣に捕まって推進力の足しにしたり、足場や牽制に使って接敵
魔術で魔杖剣を赤熱させ、斬りかかる

こっちも命がけだからね、傷が残っても恨まないでよ




 知己であれば、戦いづらい。
 ――とは少しは思うものの、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)のその本質は戦いの道具である。普段はどうあれ、戦場に身を置く物であるはずだ。
「行くよ真珠、君とはいつか白黒つけたいと思っていたんだ」
 ……うまいこと言った顔で格好つけてみたが、今ので雰囲気が台無しになった。
 鴻鈞道人からは何の反応もなかった。もしかしたら彼には笑いどころが解らなかったのかもしれないと思ったオブシダンは懲りずに口を開いた。
「白黒……」
 笑いどころを自ら明かすのもつらいが、明かしたところで鴻鈞道人は真珠ではないため、ツッコミを入れることも、呆れたような視線で冷たく見てくることもない。正直な話、無反応なのが一番堪えた。
(今すぐ戻って欲しい!)
 心底そう思ったオブシダンの前で、鴻鈞道人が動く。
 ぞわりと悪寒が背を駆け、深く考えるよりも先にオブシダンは魔術障壁を展開した。幾筋もの白き殺戮する刃が飛来し、障壁で幾らか勢いの落ちた刃を急所になり得る場所のみ剣で受け、同時に後方に跳躍する。満たされる水に血が滲むが、動きを止める程ではない。
 陸上とは違う緩やかさでマントが落ちきる前に留め具を外して振り、マントの影から反撃に出るべく黒剣群を伴い低い姿勢で地を蹴った。
 黒が晴れた先に、赤が舞っている。
 地に落ちないそれは、どちらのものかわからない。
(君に触手は似合わないね)
 貫いて、斬り伏せて、互いの赤を散らせ、駆ける。
「――傷が残っても恨まないでよ」
 魔杖剣さえも赤熱させ、斬りつけた。
 赤く赤く、軌跡を遺して。

成功 🔵​🔵​🔴​

琴平・琴子
♢♡
――良いな
真珠さん、大人になれるだなんて

私が望んでもその姿には成れない
その姿に成るにはまだ遠すぎるから
羨ましい、なんて変な感じ
そういうのがずうっと嫌だったのにね

綺麗な大人の姿、良いな
なんて言ったら本当の真珠さん怒ってしまうかも
――僕は可愛いんだよ、って

ずうっと此処にいるのはきっと寂しい
私は泳げないし、水中で息もできない
一緒にはいられない

(学校の制服を着た今より少し幼い真の姿で)
帰りましょうよ、一緒に
防犯ブザーの中に隠した琴の絃を伸ばして広げてその爪も金魚も弾いて、切断
お琴の絃はとても丈夫だから、金魚くらいなら切れる筈
爪は絃を通り抜けてしまうでしょうけど、痛いのは我慢します
爪で服に穴が開いてしまったり顔も体も血が流れてしまうけど
痛い時に痛くない(激痛耐性)って言い聞かせてたのは何時もの事

貴方に似合うのは綺麗なもの、可愛いもの
今の私が持ってる物で一番綺麗なものを貴方にあげる
花束の中に隠したペリドットの短剣を花弁に変えて貴方を包み込む

ねえ綺麗でしょう?
ただいま、って何でもない顔して仰ってよ


冴島・類
突然の出来事に動揺するより先
耳を打つ声で、一気に頭が冷える

膨大な力の主、謎多いという鴻鈞道人
応変にとは思っていたが、随分な手を

加減をする気は微塵もなく
即戦闘に

先制攻撃の対処として、爪の攻撃は可能な限り見切り、刀で弾きかわし
水の金魚へは、連れのくれあに味方側に火の魔力で練った結界を頼み
わずかでも軽減を目指したい
それ以外の技へは、薙ぎ払いで軌道を逸らし
致命傷さえ避けられればよし

先の手の直撃を避ける事叶えば
力の大きさを目の当たりにした分、真の姿解放し
近寄らなければ倒し切るだけの攻撃は叶わぬと
舞を使い、次の手がまた来る前に、距離を詰め

育った姿に浮かぶ笑みが、どんなに麗しくともなんとも思わない
叫びが体を突き動かすから

少なくとも、僕の知る彼は…
己を誰かに良い様にされることを、許す方ではない
出来る事は、奪ったものを倒し
そうして、信じる事

力に飲み込まれた、みなそこにいる彼に届くよう
無事でという祈りを、全力で放つ衝撃波に乗せる

残念ながら、あなたに見せるのは破滅じゃない
勝手に…使うな!


エンゲージ・ウェストエンド

変身済

真の姿はあおいろ人魚
腹ぺこの静脈血、未明の金月、歯も爪も捕食者のそれ
本当は、恥ずかしいけれど
鰓も大きな鰭も、ずっと速く泳げる

「真珠ちゃん、真珠ちゃん
まだたくさんは知らないけんど、
いつものが真珠ちゃんが在りたい姿、だとおもうから
いらないとこ、食べちゃおねぇ 」

※POW攻撃は使わない※

僅かながら、水中よりも推進力は弱く、身体は陸上のように重い
それでも陸に上がって過ごしたから、もう知らない感覚ではない
速く、迅く、先へ、彼──のかたち、の元へ
不十分な力を少しでも補うよに流れを見極め、
繰り出される攻撃には、正面から当たらないよう立体的に、
時に操縦桿から手を離して避ける

至宝の面影に対峙する畏れよりも、彼ならば受け止めてくれるだろう勝手な予感ばかり
それが信に応えることだと
「おもいっきり、が良いよねぇ!

仲間と違う方向から一気に距離を詰め、爪で牙で穿っていく
びいどろより柔らかな肉、切り裂いて溢れるもの
そればかりを覚えてしまわないよう、自分の怪我は厭わず立ち向かう

「エニね、もっと一緒に遊ぶんだから」



●こども
 ――良いな。大人になれるだなんて。
 伸びた尾と尾鰭、手足。涼し気な容貌。その姿を見て、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)はそんな事を思った。緑色の大きな瞳に眼前のひとを映し、綺麗だなと思う。きっと本当の彼にそれを言ったら『――僕は可愛いんだよ』って怒られてしまうかもしれない。
 けれども琴子は、頭の中でちゃんと理解していながらもそう思ったのだ。
 いいな、って。うらやましいな、って。
 ぎゅうと防犯ブザーを握りしめた琴子の姿が変じていく。
 眼前の彼は大人になったのに、琴子はその逆だ。大人の姿には望んでもなれない。あの時よりも成長したはずの手足は縮んで、『あの時の私』になる。
 前を向くために履いた靴は、今はまだ未来へと琴子を連れて行ってくれない。
「帰りましょうよ、一緒に」
 琴子は常よりも幼い顔を向け、防犯ブザーの『糸』を引いた。

●腹ペコさん
「真珠ちゃん、」
 小さく呟いて、エンゲージ・ウェストエンド(糸・f00681)の甘い蜂蜜色の瞳がぱちんと水泡を潰すかのごとく瞬いた。
 エンゲージの知っている彼は、あんな姿ではない。いつも可愛くあることを誇らしげにしていて、水槽で游ぐ時も優美さを気にしていて、常に自身に自信と誇りを纏っている。
 そんな彼が、声を荒げた。エンゲージにはそれがどれだけ彼の望まないことなのかが解った。彼のことはまだ知らないことの方が多いけれど――でもねぇ、真珠ちゃん。
 エンゲージの姿が変わる。生命の色を脱ぎ捨て纏うは腹ペコの静脈血。歯も爪も伸びて、本当は恥ずかしいけれど――でもねぇ、真珠ちゃん。エニだってねぇ。
「いつものが真珠ちゃんが在りたい姿、だとおもうから――いらないとこ、食べちゃおねぇ」
 腹ペコ人魚がにんまり嗤う。ギザギザな歯を見せて、捕食者のそれで。

●明鏡止水
 一本の糸が張られたようだった。それは細くて頼りなくて、簡単に切れてしまう。
 けれど撓んだそれが切れてしまう前に、ピンと引っ張られるように頭が冷えた。
 耳朶に届いた声は悲痛なようにも聞こえるけれど、冴島・類(公孫樹・f13398)が今為さねばならない事を告げたのだ。そうだ、と息を呑む。前を見据えて敵を――彼の人の身体を奪った『鴻鈞道人』の姿を見据えた。
(――随分な手を)
 詰めた息を吐いてもこぽりと泡にはならないのは、この場が書き換わりきれていない証。心にさざなみを立てるのは、後だ。それは刃の届く瞬間でいい。
 一瞬、だった。
 霞んだと思った瞬間に、眼前に花冷えのかんばせが迫る。爪の斬撃の間に刀を滑り込ませれたのは、心が揺れぬように務め、すぐに刀へと手を伸ばして抜いていてからだ。

 ――カッ! カカン!

「くれあ!」
 爪を刀で弾きながら、炎の精霊『Clare』を喚んだ。
 水の揺らめきは金魚のそれ。水に満たされた環境で金魚の動きは読みづらく、けれども彼が動いたのならと火の魔力で結界を練れば、視界の端で琴の絃を伸ばしながら駆けてくる琴子と類を水の尾鰭が撫でるのは同時。
「助かります!」
 火の熱で威力の落ちた尾鰭にしゅるりと絃が巻き付き、切断する。とぷんと溶けるように離れて一度散った水がまた集まって尾鰭を形成し始めるけれど、瞬時ではない。だから琴子はそのまま駆ける。飛んでくる斬撃が、頬を切っても気にしない。我慢するのは慣れっこなのだ。これくらいで挫けたりなんてしない。
 類が刀で軌道を逸らせば、ぐるんと回って琴子へと向けられる。
 振るわれる度、漂う水に赤が滲む。
 けれど類も琴子も、それが致命傷でなければ引くこと無く踏み込む。
 躱せ、すれすれでもいい。皮一枚くれてやる。
 届かせろ、刃を。返してもらわねばならないのだから。
 鴻鈞道人が笑みを浮かべる。愉快そうな顔は可愛いを脱ぎ捨てて美しくあるけれど、熱の伴わぬ冷えたもの。
(こんなの、綺麗じゃない。可愛くない)
(――彼には、いつだってこころがあった)
 いとけない笑みを浮かべる人魚は、いつだって愛を囁いていた。愛されることを知っていて、愛すことを知っていて、だからこそ愛おしげに微笑んで愛らしくある。
「真珠ちゃん、すぐに側にいくからねぇ!」
 宇宙バイクを操るエンゲージは、操縦桿をぎりと握りしめる。一番距離のあったエンゲージに向かって雨のように降る羽根と人魚に似合わぬおぞましい触手が伸ばされるのを、多少の傷は気にせず突っ込み、時に操縦桿から手を話して避けて。速く、迅く、先へ、彼──のかたち、の元へ。
(攻めるならば、同時に――)
 類は迫るエンゲージを視界に収め、琴子を見る。
 返る頷きはない。ただひと呼吸分、視線が合わさっただけ。
 けれどそれでいい。返事は、きっと行動で示される。
(……出血がひどい)
 自分よりも、彼の。
 鴻鈞道人がその身を遠慮なく使う度、喪われていくのが解る。
 しかし、焦ってもいけない。必ず倒せると信じ、そうして彼を信ていじる。
 ――馬鹿だね、僕がこれしきで斃れる訳がないでしょ?
(あなたなら、きっとそう云う)
 ――贈り物に手を抜いては駄目だよ。だって、僕が貰うものだよ?
(ええ、ええ。知っています。今の私が持ってる物で一番綺麗なものを貴方にあげる)
(見ていてください、上手に舞うから)
(これが私があげられる、一番綺麗なものです)
 舞いとともに刀から放たれる衝撃波と、花束に隠したペリドットの短剣から成る白薔薇の花弁。
「勝手に……使うな!」
「ねえ綺麗でしょう?」
 籠もる願いは同じ。――どうか、ご無事で。
 真珠の――鴻鈞道人の身体が何箇所も斬られ、白薔薇の花弁が赤く染まる。
 よろめいた背後、纏わりつく花弁の間から唐突にぬっと伸びるのは白魚の。
「真珠ちゃん、来たよぉ」
 宇宙バイクを乗り捨てて、甘えるように飛びつく青い人魚が仲間の攻撃に巻き込まれるのも厭わず、大きく鋭い爪を振るった。
 大きく爪で斬りつけた背は、びいどろよりも柔らかくて。流れる赤は高揚するばかり。
 そればかりを覚えてしまわないようにと頭の隅に鳴る警鐘を忘れない内に、エンゲージは大きく口を開いて嗤う。
「エニね、もっと一緒に遊ぶんだから」
 だからねぇ、食べちゃおねぇ。
 大きく開いた口は、違わずその首元へ。
 温かな肉を食いちぎり、迸る鮮血を飲み込んで、遊びたいのはお前じゃないと鴻鈞道人を冷ややかに見下ろした。
 青い人魚とともに倒れ込む、白い人魚。
 周囲の水は揺らめく赤に染まっている。
「……見事。見せてくれた、な……罪深き刃を刻まれし者達よ……」
 血を吐いた人魚はそう口にして――ボロボロに敗れた尾鰭が縮んでいった。

「真珠さん!」
 ぽたぽたと顔に落ちた熱い雫に短い眉が寄せられ、重たげにまつ毛が持ち上げられた。
 ゴホッと咳き込み血を吐いた幼い姿に戻った人魚は鮮血に濡れた口をはくりと動かして――微かに揺らぐ水の流れから、それが息も絶え絶えに紡がれる歌だとわかる。
 首にひっついたままの『赤い髪』を撫でながら猟兵たちと自分を少しだけ癒やし、それから「世話をかけたね」と咳き込みながらも言葉を紡いだ。
「おかえりなさい、真珠さん」
「……ただいま、よいこだね……」
 人形の腕の中で揺れる竜神の尾と、嵐と雷鳴と共に駆け抜けた者へと向けられる視線は目礼をしたのだろう。
「大丈夫そうだね、真珠」
「……お前は……後で反省文……」
 覗き込む黒マントにはちゃんと聞こえていたよと返して、また咳き込んだ。
 帰還のゲートは開かなくとも、オブシダンと琴子がどうにかしてくれるだろうと踏んだ真珠は、類、と短く同胞の名を呼んで。はいと応えて膝をついた彼の手へ、血の付着した小さなびいどろの金魚を預けた。
「僕、疲れたから……」
「……はい。御家にお届けしますね」
「うん」
 お願いと最後まで口にすることなく、真珠は仮初の身を解いて眠りにつく。
「帰りましょう」
 受け取ったびいどろを袖で拭い、類は立ち上がる。つるりとしたその透き通った表面には傷ひとつ着いていないことに安堵して。暫く眠って癒えれば、またいつも通りに可愛く着飾った姿を見せるはずだ。
 喪われる生命はなく、鴻鈞道人を退かせることが叶った。けれどきっと、幾度も鴻鈞道人は復活しては猟兵たちの前に立ちふさがるのだろう。
 それでも今は、ひとときの勝利を喜んで――。
 帰ろう。僕たちの帰るべき場所へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月30日


挿絵イラスト