殲神封神大戦⑰~戦い、倒すことが愛(ミチ)ならば
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――『渾沌の地』に行って、『鴻鈞道人』を倒してきておくれ。
椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)から伝えられたグリモアの予知と依頼の内容は、簡単に要約するとこんな感じだった。
『鴻鈞道人』。仙界の最深部にある、いまだ形定まらぬ『渾沌の地』で待ち受ける、そして自らを【骸の海】と自称する謎の敵。再孵化といった能力も含め、判明していないことも多岐に渡るが、今回の殲神封神大戦において重要なポジションにいることは明白であった。
その姿が予知(み)えたのならば討伐に向かわないわけにはいかない。例え鴻鈞道人が使うユーベルコードは詳細不明であっても、だ。
そんなわけで司のグリモアで現地へと転送された猟兵たちは、来たる戦いに向けて身構える……。
……が。
そんな猟兵たちの前に現れたのは、先ほど自分たちを転送したグリモア猟兵である司であった。糸に釣られたような少し不自然な態勢でよろめきながらこちらに向けて歩いてくる司は、猟兵たちの姿に気づいて気まずそうな表情を作る。
「あー……すまん。ドジった」
そう言いながら司は朱拵えの野太刀を抜き放つ。その切っ先が猟兵たちに向きかけて、それをもう片方の手で強引に抑える司。
「悪いね、詳細を伝えている暇がない」
苦し気な顔を作りながら、事の次第を端的に伝えてきた。
曰く。
皆を転送した後、こちらに引き込まれたこと。そしてこの地に着いた途端、鴻鈞道人に体内へ潜り込まれ、融合してしまったこと。完全に『持っていかれる』まであと少しということ。そして。
「鴻鈞道人は強い。手加減してる余裕はないさね」
だが鴻鈞道人は倒さねばならない、封神武侠界を守るためにも。
そのために取れる手段はひとつ。ただただ、融合した鴻鈞道人が力尽きるまで戦うしかない。
「アレだ。あたいごと殺すつもりで。此処で止めないと本気でマズイ」
猟兵たちに仕事の依頼続行を頼み込む司。
直後、鴻鈞道人の膨大な力が『渾沌の諸相』となって司を包み込んでいく。司の体が彼女の制御下から離れていく。その意識も飲み込まれる寸前。
「ま、運が良かったら生きてるサ。とにかく、頼んだよ」
その一言を最後に、司は鴻鈞道人と渾沌の諸相に飲み込まれる。
(『罪深き刃(ユーベルコード)』を刻まれし者達よ)
脳裏に響くのは鴻鈞道人の声。目、鼻、耳、口の七孔のうち左目しか持たない彼は思念で話しかけてくる。
(私の左目に『滅び』を見せてくれ)
そう言って司の体で襲い掛かってくる鴻鈞道人。
この戦いは避けられない。殲神封神大戦における勝利は『この先』にあるからだ。それを感じ取った者は自身の得物を司に向ける。
こうしてグリモア猟兵と融合した鴻鈞道人との戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
るちる
まいどです。いつもありがとうございます、るちるです。
巻き込まれ系若作りグリモア猟兵の司さんです、じゃなくて。
『殲神封神大戦』鴻鈞道人戦のお届けです。
●全体
1章構成の戦闘シナリオです。
純戦になります。司に関しては特に気にせず、全力で鴻鈞道人を倒しに来てください。
リプレイの雰囲気はプレイング準拠。オープニングはシリアスですが、シリアスなプレじゃないとダメとかそういうのはありません。
行動やアイテム、ユーベルコードに制限はありませんが、R18およびR18Gな内容・表現はしませんのでご了承ください。
当シナリオには以下のプレイングボーナスがあります。活用してください。
(=============================)
プレイングボーナス……グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
(=============================)
鴻鈞道人は指定UCに対応した能力のユーベルコードで先制攻撃を仕掛けてきますのでご参考に。
●1章
ボス戦『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
見た目は司、中身は鴻鈞道人な敵が相手です。身体能力がかなり強化されています。ユーベルコードは鴻鈞道人のものしか使いません。
また武器として野太刀と霊符を使用します。形状を利用した行動(霊符による遠距離攻撃とか野太刀による受け流しとかなぎ払いとか)は行いますが、結界張ったり斬撃波飛ばしたりとかはしません。
ちなみに、司の友人や見知った顔だったとしても特殊行動はありませんのでご留意ください。心情やる分には大歓迎です。
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オープニング承認後、プレ受付開始。冒頭説明とか断章とかはありません。採用人数は最低限+0~2名。プラスアルファは気分で変わります。執筆速度はたぶんのんびり。ある程度をタグでご案内します。
それでは皆さんの参加をお待ちしていまーす!
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
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POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リーヴァルディ・カーライル
…心配しないで。憑依したり人質にしたりする敵には慣れているもの
…むしろ人質が頑丈な分、多少手荒に扱っても問題無いわよね?
…なんて、冗談よ
「写し身の呪詛」を乱れ撃ち無数の残像を囮にする集団戦術で敵の攻撃を受け流し、
"過去を世界の外側に排出する自然現象"を結晶化した「精霊結晶」を使いUCを発動
…取って置きの一品だけど、此処が使い時ね
…例えオブリビオンで無かったとしても、過去の存在である事に変わりはないはず
…圧倒させて貰うわ。この一撃で、この世界から去るが良い
攻撃力を5倍、移動力を半減した巨大な竜型の精霊獣を召喚して血の魔力を溜め、
肉体を傷付けず過去の存在のみを浄化するブレスによる世界属性攻撃を放つ
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ぺたり、ぺたり、と。椎宮・司の草履が渾沌の地を踏みつける。それはさながら死体が無理やり動いているかのような、緩慢な動き。されど、抜き放った野太刀から立ち昇る殺気は本物で、司の目も死んではいない。むしろ、紫の右目と昏い蒼の左目はリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)をしっかりと捉えている。そう、『鴻鈞道人』が獲物と見定めているのだ。
相対するリーヴァルディもまた司の姿をした鴻鈞道人をしっかりと見据えて、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「……心配しないで。憑依したり人質にしたりする敵には慣れているもの」
その口調はどこか諦観にも似ていて。リーヴァルディの宿敵たるヴァンパイア、その生態を考えれば当然のことかもしれない。
「……むしろ人質が頑丈な分、多少手荒に扱っても問題無いわよね?」
小さく首を傾げながら問いかけるリーヴァルディ。鴻鈞道人からの返事は無い。ゆっくりと間合いを詰めてくるだけだ。
「……なんて、冗談よ」
そう添えたリーヴァルディ。鴻鈞道人が応える。
(終わったか? ならば刃を交えよ。お前達が取れる道は自身の滅びか、この身の死である)
念話で一方的に言葉を投げかけてきた鴻鈞道人が、先の動きなど嘘のように地を蹴って突撃してきたのである。
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肉を喰らい貫く渾沌の諸相。鴻鈞道人の、すなわち司の右腕が異形化する。何倍にも膨れ上がった筋肉質の剛腕はさながら鬼のよう。リーヴァルディに振るわれたその剛腕は当たれば吹き飛ばす棍棒のような殴打であった。
「……っ」
小さく息を吐いて、リーヴァルディが咄嗟に写し身の呪詛を顕現させる。戦闘力の無い残像を創造するその呪術は鴻鈞道人に対するかく乱として作用する。
無骨な棍棒のような腕が空間をなぎ払うが、捉えたリーヴァルディは写し身ばかり。
(ならば、全てを薙ぎ払おう)
右手がより醜悪に、巨大に異形化する。その重さで倒れそうになるほどにバランスが悪い。が、左手の野太刀を地面に突き刺し、そこを支点に右手を強引に振るう鴻鈞道人。その場にいた全てのリーヴァルディに右手が直撃……しかし、リーヴァルディの本体はそこに無い。
「……取って置きの一品だけど、此処が使い時ね」
リーヴァルディの声は鴻鈞道人の真後ろから。残像に紛れて死角に逃れていたのだ。ーヴァルディの手にあるのは自然現象を極限まで凝縮した魔力結晶体『精霊結晶』。リーヴァルディの素早い動きに、鴻鈞道人は右手の異形化ゆえについていけない。
「……例えオブリビオンで無かったとしても、過去の存在である事に変わりはないはず」
鴻鈞道人は渾沌氏、すなわち【骸の海】である。言い換えれば、生ある全ての者が踏みしめてきた、全ての過去の一部。
だから、この攻撃は効くはずだ。
「……限定解放。血の契約に従い、始原の姿を此処に顕現せよ」
リーヴァルディのキーワードに反応した精霊結晶が【限定解放・血の喚起】によってその身を変化させる。顕現するのは巨大な竜型の精霊獣。
「……圧倒させて貰うわ。この一撃で、この世界から去るが良い」
静かに放ったリーヴァルディの言葉に応じて、竜が顎を開く。リーヴァルディの血の魔力を力の源として放たれるブレス。その性質は『過去を世界の外側に排出する自然現象』。世界に干渉する世界属性攻撃。
(肉体を傷付けず過去の存在のみを浄化する……!)
リーヴァルディの意志を具現すべく、ブレスが鴻鈞道人の体を飲み込んでいく。
(なるほど。私の力を削ぐには悪くない手である)
竜のブレスが吹き荒れた後。再び姿を見せた鴻鈞道人。その身は司のまま特に変化なく、ただ異形化している右手がだらりと動かない。浄化のブレスは右手の分だけ、体内にある魂のみを、鴻鈞道人の力を削り取ったようだ。
(私は未だ在る。過去は常に現在の真後ろにいる)
「……なら何度でも」
リーヴァルディの血が竜にもたらされる。そしてもう一度と放たれた竜のブレスが鴻鈞道人に直撃するのであった。
成功
🔵🔵🔴
黒木・摩那
以前、デトロイトでマザー・コンピュータと対岐したときは司さんは守るべき対象でした。しかし、今は倒すべき相手になってしまうとは。
鴻鈞道人は確かに強敵のようです。手加減はできないでしょう。
ならば、せめて戦いが長引かないように一撃で片を付けるようにします。
鴻鈞道人&司さんからの攻撃は【第六感】で致命傷を避けつつ、受け止めます。苦戦上等!
優勢を崩すには敵より多く血を流せばいいんでしょ。
回避が落ちたところで、反撃。
野太刀を魔法剣『緋月絢爛』で【受け流し】しながら、【ダッシュ】で懐に潜ります。
最後にUC【偃月招雷】をグローブ『ラファル』に掛けて、【気合】【重量攻撃】込めて、拳を打ち込みます。
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椎宮・司と融合した『鴻鈞道人』。一方的に強制的に、融けてまざり合い、司という存在はいま現在この世に無いと言える。『鴻鈞道人が司の体を使っている』のではなく、『鴻鈞道人=司』なのである。
しかし、猟兵たちはその手を止めない。正解だ、世界を救うものが猟兵ならば、目の前の鴻鈞道人は必ず撃退せねばならない存在だ。
ゆえに黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は鴻鈞道人の前に立つ。既に他の猟兵と交戦したのか、鬼のように異形化した右腕がだらりと下がり、動く気配を見せない。
(以前、デトロイトでマザー・コンピュータと対岐したときは司さんは守るべき対象でした)
摩那が魔法剣『緋月絢爛』を鞘から抜き放ちながら、油断なく構える。思い出すのは先の戦争、アポカリプス・ランぺージ。その最中であったとある戦場の顛末だ。あの時は摩那をはじめとした猟兵たちの活躍で、司の命が助かった。
(しかし、今は倒すべき相手になってしまうとは)
皮肉なもので、命を助けた者と助けられた者が今、敵として相対している。いや、それは見た目だけで、本質は猟兵vs鴻鈞道人という、いつもと変わらない世界を救う戦いなのだ。だからこそ、緋月絢爛を握る手に力がこもる。
(鴻鈞道人は確かに強敵のようです。手加減はできないでしょう)
司が『飲み込まれる』前に告げた言葉通り、司ごと倒すつもりでいかないとこちらが負ける。
「ならば、せめて戦いが長引かないように一撃で片を付けるようにします」
小さく呟いて。摩那は戦闘態勢を取る。
(幸いだな。罪深き刃を刻まれし者よ)
鴻鈞道人が念話で摩那に語り掛けてくる。流れる血に嗤う渾沌の諸相は司の体から血が流れてこそ効果を発揮する。先の戦闘では『肉体を傷つけない』攻撃であったために、この渾沌の諸相は効果を成さない。
「運がいいみたいで」
短くそう告げて。摩那が地を蹴って駆け出すのであった。
●
摩那の動きに対して、鴻鈞道人も構えを取る。とはいっても、司由来の大雑把な上段の構え。そこから摩那の接近に合わせて鋭く野太刀を振り下ろす!
「……!」
摩那の背筋に悪寒が走る。それは第六感が告げる危機だ。咄嗟に速度を緩めて身を翻す。そこを通り過ぎる刃。
(速い……っ)
鴻鈞道人の力で底上げされているのか、殺気のこもった鋭すぎる斬撃。それも一撃では終わらず、下から強引に跳ね上げるような斬撃が続く。それをのけぞるような態勢でかわそうとする摩那。
しかし回避がわずかに間に合わない。摩那の前髪を斬り飛ばしていく刀身。
「くっ……!」
上体を起こして体勢を立て直そうとする摩那へ、体を旋回させるようにして踏み込んできた鴻鈞道人が柄を使って殴打を放つ。
「くぅっ……!」
摩那の胸元に柄が叩きつけられ、その衝撃に摩那が地面に倒れ込む。さらに追撃と切っ先が降ってくるが、それは素早く立ち上がった摩那が緋月絢爛を振るって刀身を弾き飛ばす。そのまま飛び退って距離を取る摩那。
鴻鈞道人は水が流れ落ちていくかのような軽やかな動きだが、繰り出される一撃はとても重い。
地面に叩きつけられた時に口の中を切ったのか、口端から零れる血を手の甲で拭い取って、摩那が再び鴻鈞道人と相対する。
(苦戦上等!)
ダメージはもらっているが、戦況は五分五分。……いや。
(優勢を崩すには敵より多く血を流せばいいんでしょ)
先に鴻鈞道人が告げていたではないか。流れる血に嗤う渾沌の諸相が効果を成していない、と。摩那が劣勢である状態ならば、鴻鈞道人はその渾沌の諸相を纏えない。
(致命傷さえ避けていけば、いけるはずです!)
そう考えながら緋月絢爛を構える摩那。
(待てど好機など来ぬ。疾く滅べ)
司の姿であるがゆえに、彼女が取っていた戦法は使える。地を蹴り出して一気に間合いを詰めてきた鴻鈞道人が水平に構えた野太刀を鋭く繰り出す。
「……ここです!」
もし、流れる血に嗤う渾沌の諸相を纏った一撃なら成す術もなく、摩那は貫かれていたであろう。しかし、それは有り得ないifだ。
さらに先の攻防で切っ先の鋭さは既に経験済。それに第六感が合わされば……今度こそ!
「――!」
小さく息を吐きながら体を半身にしつつ。緋月絢爛の刀身を立てて、鴻鈞道人の突きを横から払うようにして受け流す摩那。受け流す動きの勢いを利用して摩那は鋭く素早く鴻鈞道人の懐まで潜り込む!
(刃だけが私の術(すべ)ではない)
鴻鈞道人が力を解き放つ。司の体から白きおぞましき触手が放たれ、摩那を迎撃しようと襲い掛かる。
「私もですよ!」
摩那が叫ぶ。迫ってきた触手を緋月絢爛で巻き取るようにして回避。そのまま緋月絢爛を手放して。
「……っ」
今度は小さく、しっかりと息を吸い込む。ぐっ、と握るのは拳。サイキックグローブ『ラファル』――電撃攻撃も可能な指ぬきグローブに紫電が迸る。
「ウロボロス起動……励起。昇圧、集束を確認……帯電完了」
摩那の詠唱に応じて【偃月招雷】発動。サイキックエナジーを得た紫電がより強力に、より鮮やかに、ラファルを強化する。
「いきますよ!」
摩那の裂帛の気合とともに叩き込まれる紫電の拳。ダッシュの勢いと自身の体重も乗せた強烈な一撃が鴻鈞道人の体をぶっ飛ばすのであった。
大成功
🔵🔵🔵
桐嶋・水之江
なんて事…ちょっと痛い思いをするけど我慢してね
司さんの戦闘スタイルが野太刀メインなら、得意なリーチに入った標的を狙うわよね
イカルガとウバザメを捨て駒にして初動の時間を稼ぐわ
私?勿論ワダツミの中よ
生身で司さんに勝てる訳ないじゃない
相手は1人…数で押すわ
人形機兵隊でイカルガ、ウバザメ、エレノア、そしてワダツミを複製してキャバリア部隊で波状攻撃を仕掛けるわ
その後ろからワダツミがミサイルと艦砲で援護射撃よ
でもまだまだ司さんはこの程度じゃ倒れないわ
足止めしている所にワダツミ艦隊のハイパーメガビーム砲を一斉射よ
これでも倒せるかどうか…
もし大怪我しちゃっても大丈夫
私が責任を持ってメカ宮司さんとして蘇らせるわ
アイ・リスパー
「椎宮さんっ!?
そんな、椎宮さんと戦うことになるなんて!?」
『機動戦車オベイロンⅡ』に乗り込んで戦闘準備をしたところで、椎宮さんが敵に乗っ取られてしまいました。
「オベイロン、センサー全開で回避運動!
装甲で弾ける攻撃は無視!
致命傷だけは受けないように!」
なんとか椎宮さんの先制攻撃を回避しようとしますが……
「くっ、さすがは椎宮さんの剣術……
オベイロンの装甲を簡単に斬り裂くなんて……」
露出した操縦席から椎宮さんと目が合います。
「手加減していたら、こちらがやられますね……
射線が通ったなら、この全力の電脳魔術で……!」
操縦席内から【破砕領域】による反粒子ビームを発射!
椎宮さんの武器を消し飛ばしますっ!
●
渾沌とは入り混じっている状態だ。陰陽の思想で言えば、気が陰と陽に分かれる前。どちらも同時に存在する状態にして、何ひとつ整然としていない環境。
過去も現在も『そこ』にあるがゆえに、『鴻鈞道人』はグリモア猟兵と融合・同一化できるのだろう。今、椎宮・司の姿をしている鴻鈞道人は過去でもあり、現在でもある。
司と鴻鈞道人は別のものではなく、ゆえに鴻鈞道人を止めるには司ごと倒すしかない。ただただ、融合した鴻鈞道人が力尽きるまで戦うしかないのだ。司が生還できるかどうかは『運に賭ける』しかない。
「椎宮さんっ!? そんな、椎宮さんと戦うことになるなんて!?」
猟兵としての本能が迎撃の態勢を整えながら、それでもなお、アイ・リスパー(電脳の天使・f07909)は躊躇せざるを得なかった。水陸両用の機動戦車『機動戦車オベイロンⅡ』に乗り込んで、人型の強化外装に変形したところで異変は起こったのだ。
(見せよ。滅びを)
アイの脳裏に鴻鈞道人の念話が響くと同時に、肉を破り現れる渾沌の諸相が顕現する。司の着物の下からずるりと肉塊が零れ出て、直後それは象る。白き天使の翼を、白きおぞましき触手を、白き殺戮する刃を。間髪を入れず、アイに向けて白き刃が放たれる。
「オベイロン、センサー全開で回避運動! 装甲で弾ける攻撃は無視! 致命傷だけは受けないように!」
アイの叫びにオベイロンⅡのAIが返答するよりも早く、機体が機動する。決まった形などない斬撃のひとつひとつを瞬時に判断して、オベイロンⅡが直撃コースだけを避けていく。
「くっ、オベイロンの装甲を簡単に斬り裂くなんて……」
どことなく司の剣術を思わせる大雑把にして確実に命を奪いにくる攻撃。
そして人の形をしながら、相手は人の身ではない。息をつく暇は必要なく、畳みかけるようにおぞましき触手でアイ&オベイロンⅡを貫かんと追撃してくる。
「……!」
視界を埋め尽くすほどの、白い壁かと間違いかねない攻撃。回避も防御もできないならば、その先には死しかない。その悪寒がアイの背筋を駆け抜けた、その時。
頭上から大量のミサイルが降ってきた。
●
「なんて事……」
その呟きは桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)のものであった。『ワダツミ【ワダツミ級強襲揚陸艦】』を封神武侠界に引っ張り込む関係か、少し出遅れた水之江であるが、結果オーライというところか。アイに対する鴻鈞道人の攻撃を相殺できたのだから。
コンソールに指を滑らせて現状を把握する姿は、桐嶋博士と呼んで何らおかしくない凛々しい雰囲気。
「……ちょっと痛い思いをするけど我慢してね」
そう言ってコンソールと同時に呼び出したホロディスプレイにもタッチしていく桐嶋博士。すこーし表情が悪い事を考えているように見えなくはない。
「ひぅっ?!」
なんか知らんけど、オベイロンの中のアイのアンテナ(アホ毛)がびくっとなってる。いや、大丈夫。たぶん今回は巻き込まれない、今回は。アンテナ取られたりしない、はず?
(司さんの戦闘スタイルなら、得意なリーチに入った標的を狙うわよね)
野太刀を、白き殺戮の刃を叩き付ける剣術。司の体を使う以上、普段の戦い方が動き易いのは必至。それがメインとなるならば……。
(思考すら隙になる。墜ちよ)
「……っ!?」
水之江の思考を中断させたのは、センサーをくぐり抜ける理不尽なまでの飛翔速度で接近してきた鴻鈞道人。人の身にかかる負荷を無視して飛んできた鴻鈞道人が水之江の態勢を整える前に野太刀を叩き付ける。
人の身に戦艦。大きさは戦力差だ。普通に考えて意味のある攻撃とは思えない。現にワダツミの重厚な装甲は刃を通さない……が、叩きつけられた衝撃で巨大な艦がわずかに揺らぐ。
「もうっ……!」
まるで虫を追い払うようにミサイルを放つワダツミに、鴻鈞道人はその場を飛び退いて地に降りる動作でミサイルを回避していく。
(データ修正。リーチに入っちゃダメだわ)
鴻鈞道人には翼がある。飛ばれたらワダツミとて射程内だ。だが、鴻鈞道人にはある種の余裕があるようだ。決着を急がなくていいような、そんな余裕が。
ならばこそ、水之江の推測は正しいだろう。手の届く範囲から潰していくはずだ。そしてこちらの攻撃は態勢を整えるのに時間が要る。
「なら、イカルガとウバザメを捨て駒にして初動の時間を稼ぐのが最適ね」
言葉を口にしながら、その手は即座に【機巧の魔女の人形機兵隊】を放つ水之江。桐嶋技研製キャバリア『イカルガ【イカルガ級キャバリア】』と『ウバザメ【ウバザメ級キャバリア】』が大量に地面に降り立ち、鴻鈞道人を囲い込む。
「さぁ、戦闘開始よ」
いつもの調子を取り戻した水之江が笑みを浮かべる。
そういえば、なんで(見た目は)司ひとりなのにワダツミなんですか博士?
「生身で司さんに勝てる訳ないじゃない」
『私? 勿論ワダツミの中よ』は名言だと思います。
●
「博士、助かりました!」
アイが通信越しに叫ぶ。ワダツミのミサイルで鴻鈞道人の触手はほぼ相殺されたのだが、それでもかいくぐって飛翔してきた触手を処理していたアイ。
最初の攻撃で致命傷は避けたものの、オベイロンⅡの装甲は斬り裂かれて、運悪く操縦席が露出している。だが、まだ戦闘不能には早すぎる。自らの視界とオベイロンⅡのセンサーで状況の確認を行うアイ。
現状、鴻鈞道人vs水之江の【機巧の魔女の人形機兵隊】が激突していた。
【機巧の魔女の人形機兵隊】は所詮その場限りのハリボテ。真正面から鴻鈞道人を倒す力はない。現に野太刀の一振りで1機が沈むような状態だ。
しかし、戦いにおいて数は力……戦術の基本である。いかに鴻鈞道人が強力な範囲攻撃で水之江の【機巧の魔女の人形機兵隊】を一掃しようとも、それを上回る勢いでキャバリアが追加されれば、戦況は拮抗に持ち込める。
「相手は1人……数で押すわ」
水之江が【機巧の魔女の人形機兵隊】によるキャバリア部隊で波状攻撃を仕掛ける。イカルガ、ウバザメに加えて、『アークレイズ・エレノア【アークレイズ級キャバリア】』を投入。
「そして、ワダツミも複製」
水之江の乗るワダツミの周辺に、複製されたワダツミが大量に出現する。
もはや世界を滅ぼすほどの戦争か、というほどの頭数だが、それでも鴻鈞道人のおぞましき触手と白き刃が無造作に縦横無尽に斬り裂いていくため、やはり戦況は拮抗から動かない。
「ワダツミ、援護射撃よ」
自身が乗る、ワダツミ本体からミサイルと艦砲で援護射撃を放つ水之江。
(手加減していたら、こちらがやられますね……)
水之江の作戦を確認しつつ、戦況を視認して、アイはそう判断した。いや、逆に言えば桐嶋博士がここまでして、この状況なのだ。手を抜いて勝てる相手ではない。
ならば、と【機巧の魔女の人形機兵隊】に紛れながら態勢を立て直すアイ。
一時後退を行うその瞬間に遣ったアイの視線が、鴻鈞道人の紫の右目――司の目と視線が合った。
(良い。此方を滅ぼさんとする気概。とても良い)
野太刀を、触手を、殺戮の刃を振るいながら、鴻鈞道人は笑っているようであった。力を振るえば振るうほど、司の体は肉を破り現れる渾沌の諸相の反動で流血していく。白い肌が見えなくなるほどに血が流れ出て、一張羅の着物を染めていく。
だが鴻鈞道人にとっては司の体は装備と変わりない。『使う』だけだ。損傷など気にせず、渾沌の諸相を振るい続ける鴻鈞道人。その動きに陰りは無いし、隙もない。
アイと水之江が焦れ始めた……その時。司の体が揺らぐのであった。
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(何事だ?)
鴻鈞道人が首を傾げる。自身の体を見れば血まみれ。しかしそれは問題ではない。体はまだ動く。渾沌が体を無理矢理動かしている。
だがそれでも……例え、猟兵であるとしても、あるいは非人道的な実験にによって人外の機能を備えていても、司の体は『人間』の域を超えていない。血が流れ過ぎれば、どうしても身体機能が低下する。その『常識』と鴻鈞道人の認識のズレが隙となって現れる。
――射線が通ったなら、この全力の電脳魔術で……!
そう考えていたアイは即座に照準ロックを完了する。
――でもまだまだ司さんはこの程度じゃ倒れないわ。
キャバリア隊の波状攻撃とワダツミからの援護射撃を以てして、『この程度』と称した水之江に油断は無く。トドメは別口、援護射撃を続けながら、空に陣取っているワダツミ艦隊は、超大口径の艦載装備にして拠点攻撃用の戦術兵器『水之江キャノン』ことハイパーメガビーム砲ををチャージしていた。
だから、この隙を逃す二人ではない。アイのオベイロンⅡと水之江のワダツミ艦隊が同時に動く。
「電脳魔術により不確定性原理に干渉。反粒子生成確認」
「ワダツミ艦隊、照準合わせ」
空と大地で声が重なる。直後。
「反粒子ビームによる対消滅攻撃、開始します!」
一瞬早く。アイが操縦席内から【破砕領域】を発射する。反粒子ビームが周辺の空気と反応しつつ、鴻鈞道人を消滅させんと突き進む。
(その程度……現世のもので過去は滅びぬ)
「そんなことわかっているんですよ!」
鴻鈞道人の念話にアイが叫び返す。元より司の体を消滅させるつもりもない。狙いは司の武器――鴻鈞道人の体から生えている白き骸の海の顕現を含めた、攻撃の手段だ。対象を対消滅させるビームが命中した部分を、翼を、触手を、殺戮の刃を消し飛ばしていく。
唯一残ったのは手にしていた野太刀。特殊な作用があったわけではない。人外の機能――単純に司の命と連動しているモノだから、司が死なない限り、その消失はあり得ないだけのこと。
ゆえに司の体を覆っていた白きおぞましきモノたち――渾沌の諸相の排除に成功したアイ。
(骸の海は消えぬ)
そう告げて、再び司の体を糧に渾沌の諸相を顕現させようとする鴻鈞道人。
「それはダメね。一斉射よ」
渾沌の諸相が顕現するより早く。水之江の言葉を切欠に、空から幾重にも降る極大ビーム。言わずと知れた、ワダツミ艦隊の水之江キャノン一斉射撃である。
下手をすれば仙界そのものを破壊する勢いの砲撃が鴻鈞道人を飲み込み、圧し潰していく!
眩いまでの閃光が辺りを包み込む。……だが、それでも。
(これでも倒せるかどうか……)
ワダツミの艦橋で水之江が唇をかむ。相手は骸の海。おそらくこの世界が滅びたとしてもなお存在する力を持つ。
「――」
同じくそれを感じていたアイもまた、オベイロンⅡをワダツミ艦隊のハイパーメガビーム砲の攻撃範囲から後退させながら、しかし戦闘態勢を解いていない。
そうだ、その戦果はまだはっきりと見えない。
ただ、ひとつ言えることは司の体がそろそろ限界ということ。
水之江は小さく頭を振る。
「もし大怪我しちゃっても大丈夫。私が責任を持ってメカ宮司さんとして蘇らせるわ」
「えっ?!」
水之江の呟きにアイが空を見上げる。
えーと、あの、そのー……え、マジっすか?(汗)
まぁ、普通は跡形も残らないし、真剣に仙界が崩壊しかけているような気がする攻撃だったわけですが。
それでもなお、鴻鈞道人の気配はいまだ消えることなく。『そこ』に残っていたのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
牧杜・詞
『滅び』を見せろ?
残念ね、わたしが見せられるのは『滅び』ではなく『殺し』よ。
ま、そんなことはどうでもいいわ。
あまり柄ではないけれど、司さんとは殺りあってみたいと思っていたからね。
思い切り死合う機会とか、同じ側に立っているとあまりないものだし、
せっかくのチャンス、めいっぱい楽しみましょう?
【鉄和泉】を構えて正面から【切り込】んでいくわ。
もちろんこんなのが当たるなんて思ってはないわよ。
鉄和泉で相手の先制攻撃を受け止めて、刀はそのまま捨てるわ。
その隙に【ダッシュ】して距離を詰めたら【新月小鴨】を抜いて、接近戦に持ち込むわね。
司さんの攻撃を完全に躱しきれないことは想定済み。
致命傷を受けなければいいと思えばなんとかなるものよ。
その後は【見切り】や【第六感】【地形も利用】しながら、徹底して接近戦。
零距離での斬り合いで隙をうかがうわ。
といっても、わたしの一太刀には【命根裁截】が乗っているからね。
あまりのんびりしていると、命が先に尽きるわよ?
楽しい時間を終わらせるのはさみしいけれど、決着はつけましょう?
●
其の存在はどこまで行っても揺るがない。いや、揺らぐはずがないのだ。『鴻鈞道人』が言うように、彼自身が【骸の海】ならばその存在が揺らぐはずなどない。例え、この世界に在るのがその端末のようなものだとしても。
もし、目の前の鴻鈞道人が揺らいでいるとするならば、それは単純に端末を収納している器――椎宮・司の体が鴻鈞道人の能力についていけていないのだろう。
ゆらり、ゆらりと渾沌の地を踏みしめながら猟兵に向けて歩いてくる鴻鈞道人。司の姿をしたそれは度重なる猟兵たちの攻撃でぼろぼろであった。着物は裾が焦げ付き煤だらけで。垣間見える肌は渾沌の諸相による反動で血だらけ。それでもなお、猟兵を見据える昏い蒼の左目は力を失っていない。
(絶えず時は運び、全ては土へと還る)
(滅びとは、過去になること)
(私の左目に『滅び』を見せてくれ)
鴻鈞道人が呼びかける。いまだ戦いは終わっていない、と。
しゃり、と大地を踏みしめて進み出る影がひとり。
「残念ね、わたしが見せられるのは『滅び』ではなく『殺し』よ」
牧杜・詞(身魂乖離・f25693)はゆっくりと鞘から刀を抜き放ちつつ、濡れた瞳に歓喜を乗せて、鴻鈞道人を視線で射抜くのであった。
●
「ま、そんなことはどうでもいいわ」
そう言いながら、詞の手にある『鉄和泉』の切っ先はブレることなく、司――鴻鈞道人を捉えている。鴻鈞道人が揺れればそれに合わせて、鉄和泉の濡れたような深い緑に輝く切っ先も追尾するように揺れる。
「あまり柄ではないけれど、司さんとは殺りあってみたいと思っていたからね」
隠すことなく、この場に訪れた目的を零す詞に。
(死は時を止める。良い、止めてみよ罪深き刃を振るう者)
鴻鈞道人もまた殺し合いの意志を告げ、司の体に肉を喰らい貫く渾沌の諸相を顕現させる。異形化するのは両足。ただただ地を疾く駆け抜ける機構と化した司の足が地を蹴る。
高速で接近してくる司の体。もはや無事な部位は刀を握る左手のみ。その左手が野太刀を全力で振るう。
キィン!
直後、甲高い音を立てて弾き上げられる司の野太刀。それを成したのは横薙ぎに振るわれた詞の鉄和泉だ。
(思い切り死合う機会とか、同じ側に立っているとあまりないものだし)
鴻鈞道人の大振りに合わせて、詞も大振りしたため、鉄和泉が体の正中線から外れている。それは一撃必殺の隙を晒していることに他ならず。そこに強引に体勢を立て直して鴻鈞道人が野太刀を振り下ろす。その一撃を第六感で捉えつつ、わざわざギリギリを見切って回避する詞。命を奪う一撃が詞の1ミリ横を通り過ぎていく。
詞の体を突き抜けるように走る感覚は……快感。
「せっかくのチャンス、めいっぱい楽しみましょう?」
ゾクゾクと背筋をせり上がってくる享楽に、詞は思わず顔を愉悦に歪めるのであった。
●
今度はこちらの番、と詞が攻める。鉄和泉を構え直して真正面から斬り込む詞。上段から素早く振り下ろした一撃……へ、鴻鈞道人は異形の足による高機動で一気に間合いを詰める。
「……っ!」
刃が司の肩に食い込むが……そこまでだ。刀は引いて斬る構造であるがゆえに、斬れる場所が限られている。柄の近く、根元では食い込むのが限界なのだ。
「っ?!」
直後、異形の足で詞を蹴り飛ばす鴻鈞道人。殺気を感知した詞が咄嗟に飛び退くが、回避しきれず後方へ吹っ飛ばされる。
「くっ……」
吹っ飛ばされたことより鉄和泉を手放してしまったのが痛い。得物を手放した詞へ鴻鈞道人が再度距離を詰める。疾走の勢いを乗せた野太刀の鋭い突き!
「……こっちの方が良さげね」
素早く腰に手を回した詞が握りしめていたのは白鞘の短刀『新月小鴨』。それを抜き放ちながら、今度は詞がダッシュで鴻鈞道人の懐へ踏み込む。狙いは打刀よりも狭い間合いでの接近戦。
(ぬるい)
その動きを読んでいたのか、あるいは今察知してなお迎撃が可能なのか。
鴻鈞道人が連続突きで、銃弾のような防御の弾幕を張る。
(司さんの攻撃を完全に躱しきれないことは想定済み)
元より詞も自分の血が流れることを厭う性格でもない。野太刀の切っ先が詞の頬を、腕を、胴を、足を斬り裂いていく。血の筋が詞の体に幾筋もの化粧を施していく。しかし、詞の足は止まらない。
「致命傷を受けなければいいと思えばなんとかなるものよ」
心臓や顔、あるいは各部位の中心への直撃。そういった攻撃だけを新月小鴨で弾きつつ、詞が鴻鈞道人の懐へと踏み込む。
「この間合いは防ぎようがないでしょう?」
踏み込みつつ、躊躇うことなく。新月小鴨の柄を右手で握りつつ、左手の掌で柄頭を押し込むように刺突する詞。
(その程度では滅びぬ)
貫かれながらも鴻鈞道人は野太刀の柄頭で詞を殴打しようとするが、間合いが近すぎて詞の背中を打つのが限界。
「……っ!」
その衝撃に小さく呻くも、詞は攻撃の手を止めない。新月小鴨をぐりんと抉るように回転させてそこから強引に横薙ぎすれば、刃が肉を引き裂きながら横に滑っていき、ついには自由を取り戻す。迸る血しぶき。
瞬間、バックステップで間合いを作った鴻鈞道人の一撃を、返り血に染まった詞は見切ったと最小の身の翻しで回避して。逃さないともう一度踏み込み。
「……!」
下から返す刀で跳ね上がってきた一撃を、詞は体ごと回転させて新月小鴨で弾き飛ばしつつ、回転した勢いのままに新月小鴨を司の腰のあたりに叩き付ける。足の付け根を大きく斬り裂く一撃に、司の体ががくん、と膝をつく。
司――鴻鈞道人の動きが止まる!
「楽しい時間を終わらせるのはさみしいけれど、決着はつけましょう?」
動きの止まった鴻鈞道人に対して、いまだ詞の体は流れるように回転。膝をついた鴻鈞道人の首の高さが……ちょうどいい。
「これで、終わり」
体の回転を乗せた鋭い横薙ぎの一撃はユーベルコード【命根裁截】――思念を籠めた刃が鴻鈞道人の首を斬り飛ばすように叩きつけられ、しかし肉体を傷つけずに鴻鈞道人の命のみを斬り裂く。
「あまりのんびりしていると、命が先に尽きるわよ?」
命に対しての強烈な一撃に鴻鈞道人が回避行動を取ろうとするも、動きが鈍い。詞が告げたように、この間合いに居続ければ【命根裁截】によって命が刈り取られるだけだというのに。
それを示すように詞の第二撃が放たれる。次いで第三、第四と攻撃が続き。
(ここまで、か……)
鴻鈞道人が告げた瞬間、ゆっくりと司の体が地面に向けて倒れ込む。体の異形化が解かれて、鴻鈞道人の気配が、魂が霧散していく……否、鴻鈞道人に滅びを与えることは今の猟兵たちには出来ない。単に力尽きて骸の海に還るだけなのだろう。本体ではなく端末が死んだだけだ。だが、端末と融合していた司の命もまた……。
「終わり……かしら?」
血まみれの詞が周囲を確認しながら呟く。渾沌の地が勢いを失ったかのように静まり返っていて、戦いは終わりを告げたことを示していた。
そこにあるのは猟兵たちと微動だにしないグリモア猟兵の体のみ。
猟兵たちは鴻鈞道人を撃退することに成功したのである。
大成功
🔵🔵🔵
●戦い終わり、顛末
渾沌の地は静まり、猟兵たちは『鴻鈞道人』を退けることに成功した。しかし、それは椎宮・司と命尽きるまで戦い、倒したのと同義である。彼女は鴻鈞道人と融合していたのだから。
その証拠に、猟兵たちの足元にうつ伏せに地面へ倒れ込んでいる司がいる。その傍らには彼女が常に持ち歩いている野太刀が横たわっている。
曰く、『あたいごと殺すつもりで』とのことだから。この結果は求められたもので、誰にも非は無く、強いて言うなら敵の手に落ちた司が悪い。
だが、血だまりに沈んでいる司の姿はやはり衝撃的なもので思わず目を逸らしたく……いや、今、指先がぴくりと動いた?
「痛って……ぇ……何がどうなって……体が動きゃしないんだが……」
血だまりの中からそう告げる司。その声は司のものであった。慌てて司の顔を覗き込めば、両目とも彼女の紫の瞳に戻っている。
「あー……命拾いしたかね?」
慌てて血だまりから引き上げられるようにして司の体が持ち上げられる。
「すまん、助かる。いや、それより仕事の方か。ちゃんとやり遂げてくれてありがとうだ」
猟兵たちに礼を言いながらどうにか座り込んだ司……が手をやったのは左乳房の下、心臓の辺り。そこに埋め込まれている、自身の体と融合しているクリスタリアンの欠片に触れながら。
「……たまにゃ、人と『違う』ことも役に立つもんだ」
微苦笑を浮かべる司は紛れもなく、普段通りの司であった。