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殲神封神大戦⑰〜神月円明

作者：海鶴

●渾沌
　仙界、未だ形定まらぬ『渾沌の地』。
　待ち受けるは謎の敵『鴻鈞道人』。
（私は常より名乗っており、隠しても居ない）
　それは思念。
　口もなく、耳鼻もなく。
　されど、あるは左目のみ。七孔なくして、そこにあるのはまさしく名の通り、渾沌のみ。
（私は渾沌氏……すなわち【骸の海】である）

　己を世界の外にあるという骸の海そのものと名乗る。
　その存在は、告げる。
（お前達が生きるために踏みしめてきた、全ての過去である）
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉が真実であるのならば、そんな途方も無い存在をどうやって滅すれば良いというのだろうか。
　時は過去を排出して進む。
『今』という時を『未来』にすすめるためには『過去』は排出さればならない。

　それは轍そのものであった。
（絶えず時は運び、全ては土に還る）
　運命であるというのならば、仕組まれたものである。
　さりとて、人の可能性は暗闇の如き荒野を切り開いて進むものをもつ。
（罪深き刃を刻まれし者達よ）
　猟兵ならば誰もが持つ刃。それがユーベルコードである。そして、同時に相対するオブリビオンもまたユーベルコードを持つ。
　世界を救わんとする者と、世界を破滅に導かんとする者とがいる。
（相争い、私の左目に炎の破滅を見せてくれ）

　左目だけが見ている――。

●殲神封神大戦
　不定形なる土地、『渾沌の地』に脳無き巨人『ユミルの子』たる白銀のジャイアントキャバリアが立っている。
『第九号』と呼ばれたジャイアントキャバリアは、『渾沌の諸相』を顕現する。白き天使の翼、おぞましき触手、殺戮する刃。それらを纏い、白銀のジャイアントキャバリアが牙をむく。
　明滅するユーベルコードの煌めく瞳。
　その内部にナイアルテ・ブーゾヴァ（神月円明・f25860）は座す。
　彼女の構えは、ジャイアントキャバリアに伝達され、寸分違わず再現される。
「弱すぎる。『不敗を象る名』を持ちながら、『血統』に裏付けされた肉体……此の程度とは」
　その言葉はナイアルテの口より紡がれていた。

　猟兵達は何が起こったのか理解できなかったかもしれない。
　オブリビオンである渾沌氏『鴻鈞道人』を打倒するために降り立った直後、転移を担当したグリモア猟兵であるナイアルテが彼女のジャイアントキャバリアに乗り込み猟兵たちへと襲いかかってきたのだ。
　暴風の如き力を解き放つ白銀のジャイアントキャバリアが咆哮する。
「『我、神の名においてこれを鋳造す』か……『全機能解放』したとしても、この程度の出力しか出せぬとは、この猟兵の力は弱すぎる」
　その言葉はナイアルテの声を、肉体をして、彼女ではないと猟兵達は気がつくだろう。

『渾沌の地』がゆらめき、瞬時に溶岩層の如く燃え続ける炎と生命力に溢れた光景へと変わって行く。
　それはオブリビオン、渾沌氏『鴻鈞道人』の為せる力であった。
　グリモア猟兵であるナイアルテの体内に潜り込み、融合を果たしたが、渾沌氏『鴻鈞道人』にとって想定外であったのは、ナイアルテが弱すぎたということ。
　しかし、『渾沌の諸相』の力は凄まじい力となって溢れる。
　ジャイアントキャバリア『第九号』は体高5mはあろうかという戦術兵器、そして、その機体が構える姿、重圧は嘗て在りしオブリビオンのそのものであった。

「だが、お前達を滅ぼすには十分であると思うほかない。この力の一端を知るがいい」
　渾沌氏『鴻鈞道人』はナイアルテの肉体を乗っ取り、対峙する猟兵達に告げる。
　如何なるものも介在を許さぬ力の存在を。
　どれだけ育まれた『心のつながり』があるのだとしても、一切が不条理に切り捨てられることを。
「『神月円明』その名を刻み。私の望む『炎の破滅』を見せてくれ」

　躊躇いは許されない。
　予断も許されない。
　一瞬の過ちが猟兵自身の生命を危機に陥れるだろう。
　どれだけ目の前の存在が、かつて優しげな微笑みを浮かべ、何度となく己たちを送り出した存在であろうとも、己の生命を護ることをやめてはならない。
　いつかの日に彼女が歌うようにつぶやいた言葉が響く。
「きれいはきたない。きたないはきれい」
　その言葉の意味は知れずとも、猟兵達が為さねばならぬことは唯一つなのだから――。

第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』

POW   :    肉を喰らい貫く渾沌の諸相 自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。 SPD   :    肉を破り現れる渾沌の諸相 【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。 WIZ   :    流れる血に嗤う渾沌の諸相 敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。 イラスト：樫か 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

『炎の破滅（カタストロフ）』。
　それを望むは渾沌氏『鴻鈞道人』である。
　彼自身が『骸の海』であると自称することを裏付けるかのごとく、恐るべき力を発揮する。
　オブリビオンを『再孵化』させる力。
　変容した『渾沌の地』は、まるで溶岩層の如き様相を見せる。
　絶えることのない炎、そして満ちる生命力の中にありて、グリモア猟兵と融合した『鴻鈞道人』が、白銀の巨人であるジャイアントキャバリアを駆りて猟兵へと迫る。
　その力は凄まじいと言うほかなかった。
　これこそが『渾沌の諸相』の力。
「私が望むのは『炎の破滅』のみ。左目に見せてくれ。世界の破滅が如何なるものかを。それを見たいと願っているのだ」

　放たれる拳は大地を切り裂き、蹴撃は海すら割る。
　それがジャイアントキャバリアの如き体高5mの戦術兵器でもって放たれるのであれば、その力の強大さがうかがい知れよう。　
　されど、その全てを原理でもって断絶し、否定するのが蒼光であった。
「演説は仕舞いか」
　アルトリウス・セレスタイト（忘却者・f01410）は短く言葉を紡ぐ。
　彼の瞳に在るのは青い光。
　纏う原理は十一。
　その原理を無限に廻し、害ある全てを無限に破壊することに寄って、迫る白銀のジャイアントキャバリアの一撃を躱す。
　無限加速に至りて尚追いすがる拳は、距離を無視したかのような一撃であった。

「では退場しろ」
　目の前にあるのは渾沌氏『鴻鈞道人』と融合したグリモア猟兵。
　手加減は出来ない。全行程に必要な魔力を世界の外から引きずり出し、その瞳がユーベルコードに輝く。
「煌めけ」
　放たれるは絢爛（ケンラン）たる蒼光。
　無機物を起点に空間を完全支配し、原理でもって操作する力。
　戦域全てを支配する破壊の原理を刃と換え、放たれたジャイアントキャバリアの拳を切り裂く。
　しかし、血を流す度に『渾沌の諸相』は膨れ上がっていくのだ。
「無駄だ。『渾沌の諸相』こそ、我が証。なれば、如何なる原理も無駄である」

　全てが地に還るように。
　あまねく全てに滅びが訪れるように。しかし、アルトリウスはためらうことをしなかった。
　如何に相手がグリモア猟兵であろうとも、手加減することも必要としなかった。
「たかが『骸の海如き、消し飛ばすのみだ」
　放たれる極大の刃。
　その破壊の原理が振るう拳から放たれる衝撃波を打ち消し、その拳を寸断する。

　いかに『渾沌の諸相』が強大な力であるのだとしても、蒼光は潰えない。
「理不尽は唐突に来るもの。消えるのは貴様のみと知れ、渾沌」
　めぐる原理が中空にて回る。
　組み上げられた力は世界の外。
　ゆえに振るう一撃は強大な刃となって『渾沌の諸相』すらも切り裂く光と変わるだろう。

　渾沌氏『鴻鈞道人』、その左目に写すのは『炎の破滅』などではない。
　あるのは、ただ己達猟兵の敵としての存在のみ。
　振るう力はオブリビオンのみにて振るわれる。如何に融合を果たしていたのだとしても、その力はグリモア猟兵には作用しない。
「私のみを狙い撃ちにするか。その罪深き刃こそ、お前達に刻まれたものであると知れ」
「知るものか。お前は今、ここで己の目論見が打破される様だけを見ればいい」
　振るう一撃は蒼光と共にジャイアントキャバリアを飲み込み、その機体を取り巻く『渾沌の諸相』のみを引き裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「私のナイアルテさんになんてことを！」
　その言葉は大町・詩乃（阿斯訶備媛・f17458）より発せられた言葉であった。
　渾沌氏『鴻鈞道人』が融合を果たしたグリモア猟兵のことを知る詩乃にとって、それは許しがたき所業であった。
　すでに彼女の瞳は超克の輝きに満ちていた。
　許せないという思いが、彼女の心より溢れてくる。
　尋常ならざる怒り。
　きっとそれは、よく知る者を傷つけられたことにほかならぬからであり、詩乃の激情もまた理解できるものであった。

「この行いに意味はない。つながる道があるだけだ。『炎の破滅』。ただそれだけを私は見たいと思う。見せてくれ。罪深き刃を持つ者よ。相争い、その末路に広がる世界の破滅をもたらしてくれ」
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉に何一つ詩乃は頷くことができなかった。
　グリモア猟兵と融合したことにより、その言葉は己がよく知るナイアルテの声色でもって響く。
　それがどうしても許し難い。

　同時に詩乃は彼女の貞操の危機をあんじていた。
　オブリビオンに操られた『ナイアルテの救出の為』という名目であんなことやこんなことをする者がでてくるかもしれないと感じていたのだ。
　もしも、ナイアルテの意識があるのならば、そんなことはないはずであるといい切ることだろうけれど。
　それでも詩乃は一刻も早く彼女を救い出さんとする。
　その意志は尊ばれることであり、同時に彼女にとって喜ばしい気持ちであったことだろう。厚意と呼ぶにふさわしいものであった。

「全力でお仕置きしますよ！」
　迫るジャイアントキャバリアと組み合うのは、真紅の装甲を持つ女皇帝型スーパーロボット『焔天武后』である。
　白銀のジャイアントキャバリアの出力は『渾沌の諸相』を得て、さらに強大なものとなっている。
　先行した猟兵の一撃に寄って拳が砕けているが、即座に膨れ上がり、元のキャバリアとは別物へと変わる。
　その拳に込められたユーベルコードの輝きを見た瞬間、詩乃は悟った。
　あの一撃を受けてしまえば、如何頑強なる装甲を持つ己の『焔天武后』であってもひとたまりもないであろうと。

　ゆえに彼女は結界術を高速詠唱で持って多重に張り巡らし、さらには宙に浮かぶ天耀鏡でもって受け止める。
「無駄だ」
　放たれる拳の一撃は多重に張り巡らせた障壁を砕き、天耀鏡すらも砕く。
「無駄などではありません！」
　漲る気合と共に詩乃の力が発露する。
　オーバーロードに至りし彼女の力は、迫る拳を止める。おそらく初見であれば、確実に拳の一撃で己が仕留められたと知る。

　だが、詩乃には見えている。
　いつだったか、彼女が見せた素振り。それが今の一撃とそっくりであった。最速の拳の形。
　それを彼女は見ていたからこそ、己の漲る気合と共に相殺せしめるのだ。
「決して、歩んできた道は無駄だとは、言うはずがないのです！」
　砕けた天耀鏡と共に放たれる衝撃波が白銀のジャイアントキャバリアの視界を塞ぐ。
　飛び散る破片では打撃には成りえないだろう。
　けれど、視界は潰した。
　瞬間、手にした薙刀の一撃がジャイアントキャバリアの――渾沌氏『鴻鈞道人』へと放たれる。

　それは詩乃の神力を込めた一撃。
　肉体を傷つけることなく、詩乃が指定する魂、邪神、呪い、病魔のみを穿つユーベルコード。
　渾沌氏『鴻鈞道人』が望むのは相争うことによって生まれる『炎の破滅』のみ。
　ならばこそ、詩乃の刃は、『渾沌の諸相』を放つ渾沌氏『鴻鈞道人』のみを切り裂く一撃。
「ナイアルテさんは私達が絶対に助けますからね！　その禍を断ち切ります！」
　霊刃・禍断旋（レイハ・カダンセン）の一撃は、たしかにグリモア猟兵の肉体に宿る渾沌氏『鴻鈞道人』のみを斬りつける。

　手加減などできない。　
　そして、彼女を救う手立ても今は見えない。　
　しかし、それでも詩乃が彼女を大切に思う気持ちは本物であったことだろう。一人では為し得ないことかもしれない。
　けれど、この場に集った者たちがいるのならば、きっと救い出すことができるはずだと詩乃は信じている。
「警告します。ナイアルテさんを取り込むこと、そして、彼女を傷つけること。私はそれを許しません」
　漲る超克の輝き。
　その瞳にある光を持って、詩乃は激情のままに刃を振るう。
　如何なる存在も冒してはならぬ領域がある。

　詩乃の神性が発露し、『渾沌の地』に満ちる邪心そのものを切り裂き、勝利への標とするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　渾沌氏『鴻鈞道人』――『骸の海』を自称する謎の怪人物。
　その名を聞いた董・白（尸解仙・f33242）はあまりの大物の出現に息を呑む。
　恐ろしいと思う。
　目の前に迫る白銀の巨人、ジャイアントキャバリアを手繰るグリモア猟兵と融合した渾沌氏『鴻鈞道人』が放つ『渾沌の諸相』は凄まじ力の発露を齎す。
　世界を揺らすほどの咆哮。
　振るう拳は、あらゆるものを砕く。
　放たれる蹴撃は、全てを切り裂く。
「ですが、がんばります」
　白は決意したのだ。これまで何度も恐ろしき戦場へと足を踏み出した。

　何度も恐ろしいと思っただろう。
　けれど、その度に彼女は強くなっていった。己自身でもって強くなったのだ。誰かの力ではない。もたらされた力でもない。
　白自身が修行し、勝ち得た力は、『渾沌の諸相』という取ってつけたような力に負けるほどやわなものではないのだ。
「私も今では一人の猟兵。逃げるわけにはいきません」
　道術で強化した結界が展開される。

　しかしジャイアントキャバリアから放たれる拳の一撃が、強化したはずの結界すらも吹き飛ばす。
「わかっていましたよ。破られることは！」
　だからこそ、白は結界だけではなくオーラによる二重の守りでもってジャイアントキャバリアの拳を防いだのだ。
「無駄だ。抵抗は無駄だ。この拳の一撃が、その程度で防げるわけもなし」
　オーラすらもひしゃげるようにして衝撃が白を襲う。
　だが、白も負けては居ない。破魔の霊符でもって打ち込まれる衝撃波を相殺し、絶える。

　しかし、どろりと血が滴るのを感じただろう。
　体高の差もあるのだろう。けれど、白は立っている。
「これが、今代の仙人……猟兵の気概というやつです」
　腰が引ける。
　分かっているのだ。対峙するのは渾沌氏『鴻鈞道人』。
　崑崙派の流れをくむ仙人として相手をするには、正直に言って荷が重い。
　だが、白は立ち向かったのだ。誰もが恐れ、戦うことから逃げるかも知れない存在を前にして、彼女は一歩を踏み出した。
　それを勇気と呼ぶのならば、あまりにも蛮勇であったと言わざるを得ないだろう。

　だが、それでも白の瞳がユーベルコードに輝く。
「この炎は全てを焼き尽くし、この風は全てを吹き飛ばす。舞い散らんこの世の儚さよ……お、お返しいたします」
　宝貝「五火神焔扇」（パオペエゴカシンエンセン）を握りしめ、全てを塵に焼き尽くす猛火と狂風を生み出す。
　それは膨大な熱量となってジャイアントキャバリアを飲み込んでいく。
　如何に『渾沌の諸相』を発露させるのだとしても、融合したグリモア猟兵の手繰るキャバリアは熱に弱い。

　吹きすさぶ狂風が炎を竜巻へと換え、渦巻く炎でもって足を止める。
　装甲を溶かし、その機体を破壊へと導く。
「どんなに劣勢であっても、それを覆す力が今代の……私にはあるのです。相手が如何に渾沌氏『鴻鈞道人』、その人であろうとも！」
　打ち払うように振るわれる宝貝の生み出す炎が全てを飲み込んでいく。
　どれほどの渾沌を内包しているのだとしても、全てが地に還るというのならば、その渾沌こそ地に還るべきものである。

　白は己の振るうユーベルコードの限界を超えて、渾沌氏『鴻鈞道人』を焼き払うように己自身で勝ち得た力を示すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

『渾沌の地』あっても戦い続けるものが在るのならば、その溶岩層の如き様相を見せる戦場の炎と生命力は途絶えることなく。
　そして白銀のジャイアントキャバリアは、渾沌氏『鴻鈞道人』と融合したグリモア猟兵が駆る機体である。
　体高5mの戦術兵器。
　その拳が穿つ大地を駆けるは半人半獣たる瑞獣、厳・範（老當益壮・f32809）であった。
「渾沌氏『鴻鈞道人』……また大物だな？　仙人の端くれであるわしでも、聞いたことのある名だぞ」
「私を知ることは無意味だ。意味のないことだ。すなわち無駄である。私は『骸の海』そのもの。どれだけ滅ぼそうとも、お前達が踏みつけてきた過去がある限り、時が未来へと進む限り滅びることのない存在だ」

　その言葉はグリモア猟兵の口から紡がれる。
　駆るジャイアントキャバリアは鋼鉄の巨人そのもの。
　放つ拳の衝撃波が範の頬を掠るだけで、身を強かに打ち据えるような痛みが走る。
「だが、わしも猟兵であり親友との約束がある以上、諦めぬ」
　その拳と蹴撃の応酬は、体格差を差し引いたとしても凄まじいものであった。
　砕けた大地の破片が飛び散る。
　その破片の上を蹴って飛ぶ範の瞳にあるのは諦めではなかった。

　どれだけ強大な力を有する『渾沌の諸相』を得たグリモア猟兵であろうとも、範が為すべきことは唯一と定める。
「戦うのみよ」
　放たれる拳を結界術で防ぐ。
　しかし、その結界術を容易く拳は裂き、蹴り砕かれる。
「いいや、無駄だ。何をしても。全ては地に還る。それが理だ。ただの先延ばしに過ぎないのだ。『炎の破滅』は、必ずや訪れる。その光景を私は見たいのだ」
　ジャイアントキャバリアの放つ拳と蹴撃を見切ることができない。
　それほどまでに鋭いのだ。

　けれど、範の瞳はユーベルコードに輝く。
「今を生きる者らの強さを舐めるなよ」
　手にする宝貝『雷公鞭』より放たれる雷撃が空よりジャイアントキャバリアを穿つ。
　グリモア猟兵の駆るキャバリアが空を飛ぶことを想定していなかったことが幸いであった。
　もしも、かのキャバリアが戦場を空にまで拡充する兵器であったのならば、範は空中機動であっても捉えられていたことだろう。
　しかし、かの戦術兵器が存在する世界にあって空は戦場なり得ない。それがオブリビオンの為したことであるのならば、皮肉であった。

　今目の前のジャイアントキャバリアは地上でこそ真価を発揮する兵器。
　ならばこそ、範は空よりその瞳をユーベルコードに輝かせる。
「グリモア猟兵と融合したと言ったな……ならば、その融合こそがお前の不利に働こう。生身を得たからこそ、感電するのだからな」
　放たれるは宝貝「雷公天絶陣」。
　その迸る雷撃がジャイアントキャバリアを穿つ。
　もしも、渾沌氏『鴻鈞道人』がグリモア猟兵と融合していなかったのならば、この一撃はただの雷撃であったことだろう。

　だが、グリモア猟兵と融合しているからこそ通じるものがある。
「お前の望む破滅なぞ、見させるか」
　世界を護ること。
　それを己の親友と交わした約束が今の範をひた走らせるのだ。
　親友が好きだと言った世界。
　その世界を護るために、範は猟兵となった。力を磨いた。その時間は決して無駄にはならなかったのだ。

「渾沌氏『鴻鈞道人』、お前が如何なる存在であろうとも、この約束だけは違えるわけにはいかんのだ」
　雷撃がジャイアントキャバリアを縛る。
　機体のあちこちから白煙をあげながら、その動きが止まる。渾身の一撃。繋ぐのならば今であると範は反撃を知らせる。
　ただ一人で戦うわけではない。
　猟兵としての戦いを知るからこそ、範は後に続くものに繋ぐのだ。

　そうして世界は守られる。
　己が約束を守り続けるように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　白煙を上げるジャイアントキャバリアが軋むようにして動く。
　雷撃の一撃は確かに機体を損傷へと導くが、それでもなお、立ち上がる姿は異質であった。
　白き天使の翼、うごめく触手、殺戮を齎す刃。
　それらをもってジャイアントキャバリアは、そのアイセンサーをきらめかせる。
「渾沌氏――神話における原初の存在。おそらくは太極そのもの。そして、『骸の海』の顕現」
　村崎・ゆかり（《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》／黒鴉遣い・f01658）は己が対峙する存在を知る。
　底の知れぬ存在。
　おそらく殺し切ることはできないであろうことが示唆されている。
　世界の外にある『骸の海』そのものであるというのならば、そんな存在を如何にして滅ぼせと言うのだろうか。

　無理だ。
　時は過去を排出して進む。未来へと『今』が進む以上、『骸の海』は消えることはない。それどころか、勢いを増していくだろう。
　どうしようもない滅びが目の前に迫っているようにさえ思えた。
「だからって、ナイアルテを渡すわけにはいかないのよ！」
　ゆかりは走る。
　すでに『渾沌の地』は溶岩層のような様相を見せ、炎と生命力に溢れた戦場へと変わっている。
　先行した猟兵の雷撃で動きが止まっている今が好機であると彼女は判断した。
　どれだけ渾沌氏『鴻鈞道人』に融合されたグリモア猟兵と繋がりがあったのだとしても、全てが無駄である。

「あたしがただの力となって、渾沌氏からナイアルテを引き剥がす！」
　迫るゆかりにジャイアントキャバリアが咆哮する。
　牙を剥き、その拳を振るう。
　体高5mの戦術兵器の振るう拳は、距離を空けていても衝撃波となってゆかりを襲う。
　偶神兵装『鎧装豪腕』で受け流す。
　衝撃波は受け流せる。だが、それでも迫る蹴撃は海をも断ち切る一撃。
　全力の破魔の力込めたオーラと結界であっても蹴り砕かれてしまう。重たい衝撃波がゆかりを打つ。

「――ッ！！」
「無駄だ。無意味だ。全ては地に還る。神さえ殺す拳……それに至らぬを完成形とした愚かさ。されど、お前達を殺すには十分。存分に味わうがいい。相争い、その後に訪れる『炎の破滅』を」
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉は淡々としていた。
　そこに喜びも悲哀もなにもない。
　あるのは起伏のない平坦な感情。見据えるは『炎の破滅』のみ。ゆえに追撃の一撃に躊躇いはなかった。
　その一撃をゆかりは『鎧装豪腕』で受け止める。
　砕ける結界の音を聞きながらゆかりは、その瞳をユーベルコードに輝かせる。

「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ！」
「足掻くな。無駄だ。何もかも」
「そんなこと知ったことじゃないわ。その消耗した機体で――！」
　紅水陣（コウスイジン）が展開され、真っ赤な血のような、全てを蝕む強酸性の雨が降りしきる。
　あらゆるものを腐食させる赤い靄の中でゆかりは立つ。

　これまで他の猟兵達が紡いできた傷がある。
　消耗だってしているだろう。どれだけ強固な装甲を持つのだとしても、この全てを腐食させる赤い靄の中でどれだけ抵抗することが出来るだろう。
「この酸の雨にどれだけ耐えられる？」
　ゆかりは手にした薙刀を構え、己に振るわれる拳の一撃を真っ向から迎え撃つ。

　その一撃はジャイアントキャバリアの腕部を切り裂く。
　赤い靄で装甲を劣化させていなければできなかったことだろう。けれど、ゆかりだけがこの赤い靄に適応した存在である。
　彼女が為さしめると決めたことは、尽くが貫き通されることだろう。
「救うと決めた！　なら、その言葉は信じない！」
　全てが無意味だと告げる言葉を切り裂くようにゆかりの薙刀は、奔るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　白銀のジャイアントキャバリア『第九号』の内部に存在するエネルギーインゴットが砕けて消える。
　それは凄まじきユーベルコードの呼び水であった。
　渾沌氏『鴻鈞道人』と融合したグリモア猟兵は『渾沌の諸相』を得て、尋常ならざる力を引き出されている。
　他の猟兵達によって消耗させられていてなお、この力の奔流。
　咆哮するジャイアントキャバリアは、最早怪物そのものとなっていた。
　漲る力は拳に集約され、放たれた一撃は溶岩層の如き炎と生命力溢れる『渾沌の地』を一撃の元にえぐる。

　その一撃を念動力でもって全力で躱す夜鳥・藍（宙の瞳・f32891）は己の幸運に感謝した。
　下手をすれば、今の一撃で全てが終わっていただろう。
『渾沌の諸相』。
　凄まじき力である。これが本来のグリモア猟兵の力でないことを藍は理解していた。
「躱すか。それはただの先延ばしに過ぎない。滅びは必定。『炎の破滅』への道筋はすでに見えている。抗うことは無駄だ。無意味だ」
　その言葉はグリモア猟兵の口から紡がれている。

　見知った顔。耳に馴染んだ声色。
　そのどれもが藍の心を揺らそうとしている。けれど、彼女の心は揺らがなかった。
「うん、大丈夫」
　彼女の瞳はジャイアントキャバリアを見据える。
　その足元へと一撃をかわして降り立ち、見上げたのだ。迷いはなかった。
　目の前の存在がどんな存在であっても、己がそれを討つことができると理解した。
　必要であれば、どんな代償でも払える。
　己は昔からそうだった。そしてこれからも、変わることはない。

　それを自覚したのだ。
　変わろうとしなくていい。ありのままで在っていい。
「私は私になれたのだから後悔することはあっても、誰のせいにもしない」
　彼女の知るグリモア猟兵であっても、きっと同じことを言っただろう。もしも、逆の立場であっても、藍は自分が同じように思うことを間違えない。
　戦いの場にあって、藍の声色は優しかった。

　ジャイアントキャバリアの咆哮が轟き、己の眼下にある猟兵を打ち据えんと拳を振るう。
　またあの極大なる拳の一撃が振るわれると藍は感知する。
　何のために自分がこの真下へと至ったのかを、渾沌氏『鴻鈞道人』は知らないだろう。知っていたとしても、無駄なあがきであると一蹴したかもしれない。
　だからこそ、藍は真の姿に至る。
　星乙女（パルテノス）は此処に至る。

　この一瞬に全てを賭けたのだ。
　拳が振るわれ、凄まじい衝撃波が『渾沌の地』に迸る。しかし、それで藍は終わらない。
　真の姿となった彼女は凄まじい速度で拳の一撃をかわしていたのだ。
「ですからナイアルテさん、しばし我慢をお願いしますね」
　彼女が生存できる確証は何処にもない。
　生きていることを願うしかない。けれど、それで藍は渾身の力でもってジャイアントキャバリアを真下からの巨大化でもってひっくり返すのだ。

　しかし、ジャイアントキャバリアの膂力は、自身よりも巨大化した藍すら抑え込む。
「抑え込まれる……けれど」
　明滅する藍のユーベルコード。
　それは真白の光線となって放たれる。その一撃はジャイアントキャバリアを吹き飛ばす。
　至近距離より放たれた光線の一撃を防御することも躱すこともできないジャイアントキャバリアは、腐食した装甲を飛び散らせながら『渾沌の地』へと沈む。
「私は負けない。私は変わらない。私が私であることの証明。どれだけ過去が追いすがるのだとしても」
　捉えられぬ光が天に在る。

　それが星の輝であると示す藍は真白の光線とともに地に伏したジャイアントキャバリアを穿つのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　渾沌氏『鴻鈞道人』はグリモア猟兵と融合を果たし、その『渾沌の諸相』をもって猛威を振るう。
　ジャイアントキャバリアの巨体が咆哮する。
　どれだけその機体が消耗に追い込まれたのだとしても、溢れる血の如き巨体を構成するものが、その力を増幅させていく。
「無駄だ。罪深き刃を持つ者たちよ。相争い、『炎の破滅』の道は開かれる。私はみたいだけだ」
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉がグリモア猟兵の口を通じて放たれる。

　恐るべき力である。
　しかし、恐れることはないもない。
　猟兵たちのやるべきこと、為すべきことはただ一つ。
　世界に破滅をもたらさんとしている存在を排除すること。世界の悲鳴を聞くからこそ、為さねばならぬことを知る。
「……互いに相争い、ね。人質なんてものは、どうしようもない三下が取る手段よ」
　リーヴァルディ・カーライル（ダンピールの黒騎士・f01841）は、そのことをよく知っていた。
　そして、同時にグリモア猟兵が己の身を顧みないことを望んでいることも。
　だからこそ、彼女は力を振るう。

「……お前が如何に強大な存在で、どれほどの力を有していたとしても、そんあくだらない手を選択した時点で結果は見えているわ」
「無駄だ。どれだけの言葉を弄しようとも、結果はかわらない。全ては地に還る。運命さえも、流転するものであるがゆえに」
　放たれるジャイアントキャバリアの拳の一撃をリーヴァルディは見ただろう。
　衝撃波を放ち、間合いの外からでも必殺の威力を持つ一撃。
　これまで他の猟兵達が消耗させて尚、重さと鋭さを衰えさせることはなかった。如何に障壁を張り巡らそうとも、蹴り砕き、拳は引き裂く。

　だからこそ、肉体改造術式により強化した動体視力で放たれる拳の一撃を躱す。
「……来るが良い、渾沌氏『鴻鈞道人』。格の違いを教えてあげる」
「無駄だと言った。格の違いなど、そんなことは些細だ。無意味なことだ」
　衝撃波がリーヴァルディの頬を打つ。
　しかし、彼女の動きは流れるようであった。
　放たれたジャイアントキャバリアの拳の一撃を受け流し、怪力の呪詛による膂力の強化でもって、その巨体を投げ飛ばすのだ。
『渾沌の地』に凄まじい轟音が響き渡り、大地が砕ける。

　飛び散る大地の破片を躱して、リーヴァルディの瞳がユーベルコードに輝く。
「……その娘は返して貰うわ」
　睥睨するリーヴァルディにより、限定解放・血の教義（リミテッド・ブラッドドグマ）が迸る。
　手にした大鎌に時の属性が付与されていく。
　蓄積されていく魔力が過去の存在のみを切断する時の属性を極大にまで高めていく。

「過去を刻むものよ。その銘の威を此処に示せ」
　放たれる斬撃の一撃がジャイアントキャバリアの咆哮とぶつかって相殺される。
　だが、その咆哮はリーヴァルディの斬撃を相殺して終わりだ。しかし、リーヴァルディの斬撃は終わらない。
『過去を刻むもの』。
　その銘の意味を知らしめる。
　如何に渾沌氏『鴻鈞道人』が『骸の海』そのものを自称するのだとしても、時は過去を排出して進む。

　ならばこそ、その大鎌は刻むのだ。
　過去の集積地たる『骸の海』そのものであったとしても、その銘に偽りはなく。
「……過去が私の前に立たないで」
　放たれた斬撃は、咆哮も、ジャイアントキャバリアも、そして融合されたグリモア猟兵の肉体すらも透過して、その内に潜む渾沌氏『鴻鈞道人』そのものを切り裂く。

　彼女にとって過去は刻むもの。
『今』にあっていいものではないからこそ、その刃は切り裂くものを違えないのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　グリモア猟兵は猟兵たちを世界に送り届ける存在である。
　転移を維持するために戦うことはできないが、存在が危うくなれば、転移を維持することができなくなる。
　そうなれば、行くも退くこともできなくなってしまう。
「先の戦いでグリモア猟兵を狙われることはあったが、さらに厄介なことになるとは」
　夜刀神・鏡介（道を探す者・f28122）は溶岩層の如く揺らめく炎と生命力溢れる様相を見せる『渾沌の地』にて咆哮するジャイアントキャバリアの威容を見た。
　天使の翼、うごめく触手は髪のようになびき、全身に備えられた刃は、その鋭さをましていく。

　先行した猟兵達に消耗させられてなお、その重圧は凄まじいと言わざるを得ないものであった。
「だが、今はとにかく渾沌氏『鴻鈞道人』を打倒しなければならないか……」
　神刀の封印を解除し、神気を身にまとう。
　身体能力を強化し、いくらか距離を取ってとジャイアントキャバリアの動きを見切ろうとしていた鏡介は、その考えが即座に甘いものであると理解しただろう。
　あの巨体で踏み込む速度は凄まじいものであった。
　距離を開けようとした瞬間を読みきったようにジャイアントキャバリアは踏み込み、その拳を振るう。
　強化されているのは、鏡介だけではなかった。

　放たれる拳は刃によって衝撃波事態が刃となって彼我の距離を詰めてくるのだ。
「無駄だ。無意味だ。お前達のやろうとしていることは」
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉が融合したグリモア猟兵の口から紡がれる。
　キャバリアから放たれる拳を刀で受け止めることは、すなわち己の死につながる。ゆえに鏡介は攻撃をかいくぐる。
　斬撃のような衝撃波が周囲の大地を切り裂き、破片を撒き散らす。

「全ては地に還る。『今』も必ず『過去』に成り果てる。お前達が生きるために踏みつけてきた過去があるかぎり、私を滅することなどできない」
「だからそれがどうした」
　その言葉を鏡介は切って捨てる。
　彼の瞳が見据えるのは白銀のジャイアントキャバリアではなく、その中に存在するグリモア猟兵でもなく。
『骸の海』を自称する存在のみ。

「俺が、真に斬ると定めたモノだけを斬る」
　それ以外は必要ない。
　煌めくユーベルコードが瞳の中で明滅する。
　どれだけこのユーベルコードが罪深き刃であるのだとしても、刃は違えない。いつだって違えるのは、それを振るう者である。

　だからこそ、鏡介は己の心に従うのだ。
　なにゆえ己が刃を振るうのか。
「この一刀で総てを断つ――終の型【無仭】（ツイノカタ・ムジン）」
　放たれる斬撃は森羅万象を断ち切る刃。
　己が斬ると決めたものをのみ切り裂く至高の刃。

　届かぬ訳がない。
　追い求めたのはなんであるかを己の心が忘れぬ限り、鏡介の刃は『骸の海』すら切り裂くであろう。
　だからこそ、道をゆく。
　何ができるかではない。何をするか。
　それによって定まる道もあるだろう。ゆえに、己の斬撃は渾沌氏『鴻鈞道人』届くのだと知らしめるように、神刀【無仭】の剣閃が『渾沌の地』にきらめくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　白き天使の翼が『渾沌の地』に広がる。
　それはジャイアントキャバリアより広げられたものであり、触手が髪のようになびいていた。
　体高５mの戦術兵器にとって、それは邪魔でしかないものであったが、全身に備えられた刃は振るうだけで凄まじい斬撃波を周囲に撒き散らす。
　渾沌氏『鴻鈞道人』の融合したグリモア猟兵が駆るジャイアントキャバリアは、これまで猟兵たちの攻撃を受けて消耗している。
　しかし、消耗すればするほどに拳速は衰えるどころか、鋭さを増していくようであった。
「ナイアルテに入るとかとんでもねースケベ野郎じゃねーか！」
『助ける方弁でイロイロしちゃう？』
「後で怖いからそれはなし！」
　だけど、助けた後にぎゅーしてもらうぞ！　とカシム・ディーン（小さな竜眼・f12217）は己の駆るキャバリア、界導神機『メルクリウス』とともに『渾沌の地』を奔る。

「無意味だ。この行いの何処に意味があるというのだ。全ては地に還る。遅いか早いかだけの問題でしかない。ならば、お前達もまた『過去』になる」
　渾沌氏『鴻鈞道人』が融合したグリモア猟兵の口から紡がれる。
　その言葉が告げるところは、どれもが無駄と無意味であった。
　しかし、その言葉こそが無意味であると渾沌氏『鴻鈞道人』は理解していない。猟兵達は世界の悲鳴を聞くものである。

　悲鳴を聞くからといって駆けつけるとは限らない。
　駆けつけることができないものだっているかもしれない。けれど、その無意味、無駄と語るものをこそ貴ぶからこそ、猟兵達は駆けつけるのだ。
「そういうのは、もう少しまともな方法を取ってから言うんですね！」
　放たれる念動光弾が弾幕のように迫るジャイアントキャバリアから距離を開ける。
　だが、そこに踏み込んでくるジャイアントキャバリアの動きは尋常ならざるものであった。
　弾幕を躱すのではなく、弾幕の間隙を縫うようにして迫ってくるのだ。
　最短距離。
　それを理解したがゆえにカシムは放つ念動光弾の精度を高める。
　弾幕では、こちらの動きを制限されると理解したからだ。

「明らかにナイアルテの動きじゃあねーな、これは」
　動作の癖。
　それは、これまでカシムが知るものではなかった。むしろ、別の、と思った瞬間迫る触手を切り払い、『メルクリウス』のアイセンサーが煌めく。
「加速装置起動…メルクリウス…お前の力を見せてみろ…！」
　神速戦闘機構『速足で駆ける者』（ブーツオブヘルメース）。それは『メルクリウス』の速度をさらに三倍にまで高めるユーベルコードである。
　凄まじき速度で飛翔する機体。
　その機体の動きに対応するジャイアントキャバリアの力は、まさに『渾沌の諸相』を身につけたと言うに値するものであった。

「熱源も、姿も感知できない敵にどうやって対応するのか見せてもらおうか！」
『メルクリウス』の斬撃が飛ぶ。
　己の機体を隠蔽してから放つ弾幕と斬撃の一撃はジャイアントキャバリアを狙う。
　絶対に躱せぬ一撃。
　しかし、その一撃を殺気でもって感知したジャイアントキャバリアの拳が『メルクリウス』の頭部を穿つ。
　破片が飛び散る。

　しかし、それでいい。
『いったーい☆』
「我慢しろ！　後で返すから勘弁してくださいね！」
　カシムはジャイアントキャバリアとの距離を詰める。ただそれだけでよかったのだ。うごめく触手が『メルクリウス』の機体を取り囲む。
　しかし、その触手は切り裂かれた。
「……なんだ？」
「盗賊なんですよ、僕はね！」
　その『メルクリウス』の手に在ったのは、ジャイアントキャバリアに備えられた殺戮齎す刃であった。

　ジャイアントキャバリアの装備を強奪し、己の武装として扱う。
　その一撃が触手を切りつけ、さらにはジャイアントキャバリアの腐食した装甲をも切り裂くのだ。
「距離は詰めた！　格闘用の機体だろうがなんだろうが！」
　この距離では躱せない。
　放たれる殺戮の刃がジャイアントキャバリアの機体装甲を散々に切り裂き、容赦なく、その内部にあるであろう存在に消耗を与えるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　渾沌氏『鴻鈞道人』は『骸の海』を自称する存在である。　
　世界の外にあるという『骸の海』は、時が前に進むために排出された『過去』の集積地である。
　ならば、それは確かに渾沌と呼ぶにふさわしいものであったことだろう。
「全ての過去だって？！　なんてこった！」
　ロニ・グィー（神のバーバリアン・f19016）は思わずうめいていた。
　渾沌氏『鴻鈞道人』の言葉が真実であるというのならば、ロニは己のあんな秘密やこんな秘密までまるっとお見通しであるということにたじろいでいた。

　しかしながら、この『渾沌の地』における戦いにおいては関係がない。
　目の前の存在はグリモア猟兵と融合を果たし『渾沌の諸相』を解き放つ。駆るジャイアントキャバリアの中でエネルギーインゴットが消費される音が響く。
　凄まじい重圧とともに咆哮がほとばしり、対峙するロニを圧倒するだろう。
　確かにグリモア猟兵と融合した渾沌氏『鴻鈞道人』は強大そのもの。
　対峙して尚わかる強さ。
　けれど、ロニにとって、それは情けをかける必要性を感じなかった。
「どちらにしたって情け無用！」
　グリモア猟兵だって同じことを言うだろう。それがわかるからこそ、ロニは己の瞳をユーベルコードに輝かせる。

　対峙するジャイアントキャバリアもまた徒手空拳。
　ならばこそ、その機体を壊してしまえばいい。
「壊れても直せばいいよね！　直るよね？ま、いっか！」
　奔るは球体。
　あらゆるものを食す球体たちは、ジャイアントキャバリアの装甲をかじり取らんと迫るが、その尽くが放たれる拳で打ちのめされていく。
　見えなかった。
　拳を振るうに置いて、最速最短の所作。
　謂わば、ジャブ。その連打が迫る球体を打ちのめしていくのだ。
「ダメならダメでって思っていたけど、あの質量を撃ち落とすんだ！」

　すごいねーとは思わない。
　まるで悪い夢だ。あれほど容易く撃ち落とされることなど在って言い訳がない。夢でない現などあるものかと、ロニの瞳がユーベルコードに明滅する。
　神を超える拳などあっていいはずがない。
「其の拳が神の拳を上回るわけがない。だから――神パンチ（カミパンチ）でドーンッ！！」
　ロニが放つのは刹那よりも短きゼロににて打ち込まれる無限回の拳。
　その拳がジャイアントキャバリアと打ち合うのだ。
「無駄だ。どれだけの無限にいたろうとも、刹那に満たぬ時間であるのならば」
　刹那滅。
　明滅するユーベルコードの打ち合い。
　ロニの放つ拳とはそのようなものだ。

　どれだけジャイアントキャバリアの放つ拳が鋭く重いのであったとしても。
　神殺しすら体現する拳であったのだとしても。
　それでも上回ることなど許されない。
「ナイアルテ……キミはもっと筋トレとかしたらどうかな！　今後こんなとき相手の鼻面にグーパン決めれるように！」
　最後は笑って言うのだ。
　ロニの拳は光速すら超える。
　敵の打撃が重いのならば、それを上回る質量で打ち込めばいいだけの話だ。

　明滅するユーベルコードの彼方にロニは見ただろう。
　ジャイアントキャバリアの拳がロニの拳に耐えきれず砕けていくのを。どれだけ内包した力が強大なものであったとしても、出力する器がそれに耐えきれなければ無意味である。
「渾沌氏『鴻鈞道人』、残念だったね。キミの言うことはどうでもいいってことさ――！」
　放つ拳の一撃がジャイアントキャバリアを上回り、その拳を砕いて吹き飛ばす――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　白銀のジャイアントキャバリアの腕部が猟兵の拳に寄って砕けて散る。
　しかし、その砕けた拳を再構成するのが触手であった。蠢き、腕部を形作り、殺戮齎す力を纏う。
　頭部のアイセンサーが煌き、咆哮する機体は、天使の翼を広げ、『渾沌の諸相』を解き放つ。
　その重圧の凄まじさは言うまでもなく。
　そして、トリテレイア・ゼロナイン（「誰かの為」の機械騎士・f04141）はかつてカクリヨファンタズムで起こった戦争、覚悟を持って骸魂と一体化した妖怪親分たちを想起する。

「ナイアルテ様……」
　しかし、今回は違う。
　突如として現れた渾沌氏『鴻鈞道人』によってグリモア猟兵は融合された。
　覚悟も何もあったものではないだろう。
　けれど、トリテレイアは多くを知る。これまで己の背中を押してきた者を、その背中を見送った者を。
　その覚悟は言葉にしなくても伝わるものであった。
　だからこそ、彼のアイセンサーが煌めく。
「……騎士として、決断を下すべきは今この時。為すべきは変わりなし、参ります」
　ジャイアントキャバリアの中でエネルギーインゴットが砕ける音が響き渡る。
　振るう拳の重圧をトリテレイアは見ただろう。

　マルチセンサーから伝わる拳に集約されたエネルギーの総量は凄まじい。
「その動きは既に見ております」
　トリテレイアが電脳より解凍したデータは嘗てヒーローズアースにて対峙した猟書家のもの。
　あの拳は速かった。重たかった。
　地を砕き、海を割る。
　その一撃を知るからこそ、トリテレイアは己のキャバリア『ロシナンテⅣ』とともに『渾沌の地』を走る。

　溶岩層の如きゆらめき。炎と生命力ばかりが燃え盛る様相。
　知っている。あの拳を受ければ、己の機体は蒸発するだろう。だからこそ、盾を構える。
　打ち込まれたジャイアントキャバリアの拳の一撃が盾へと打ち込まれる瞬間、インパクトをずらす。
　受け流す。しかし、衝撃波が機体を襲う。
　ただの衝撃波が刃のように機体を切り裂く。機体が交錯する。己のあった大地が拳の衝撃波でえぐれ、消滅するのが見える。
「近接格闘戦が得手なのは此方も、機体も同じこと」
「無駄だ。無意味だ。お前の為す事すべてが。すべてが地に還るというのに何を抗う。破壊こそ、再生。渾沌こそが全てを飲み込み受け入れるものであると何故覚えない」

　放つ一撃をいなし、トリテレイアは溶解した盾を投げ捨て両手で構えた剣を放つ。
　あのエネルギーインゴットを消費して放つ拳の一撃はあらゆるものを破壊するだろう。　
　だからこそ、放たれた拳は使い物にならなくなる。
「その一瞬を突かせて頂きます。そのハードウェアに慣れていないようですね、渾沌氏『鴻鈞道人』」
　トリテレイアにはわかる。
　どれだけ強大な力を有するのだとしても、その力の扱いに長けているわけではないことを。
　出力するための器が、その強度が足りていないのだ。
　だからこそ、ナイアルテは弱いままに完成されている。その意味を知るからこそ、トリテレイアは剣を振り下ろす。
　天使の翼が防御のために前面に覆いかぶさるが、それは悪手だ。

「ナイアルテ様から即刻立ち去って頂きます！」
　前面を覆うということは、こちらの斬撃を見ることができないということだ。
　ならばこそ、トリテレイアは渾身の力を込めて斬撃を放つ。
　天使の翼が両断され、一刀の元にジャイアントキャバリアの姿を晒す。
　拳は使い物にならない。ならば、その一瞬こそがトリテレイアの限界を超える時であった。
「かの拳をも越えてきたのです」

　熟練戦闘技巧（バトルアーツ）は此処に極まる。
　彼我の性能差を埋めるは戦闘技量。
　それこそがトリテレイアの持つユーベルコードにまで昇華された力。渾沌氏『鴻鈞道人』が如何に『骸の海』そのものであるのだとしても、強大な力を持つのだとしても、それを手繰るにはあまりにも出力する先がか細い。
　ゆえに判断を誤らせる。
　己を仕留めるつもりであったのならば、防御ではなく攻撃するべきだったのだ。

「何故、そちらが押しきれないのか。それは……貴方が見誤ったからですよ」
　猟兵たちの力を。
　躊躇いも、逡巡もない。あるのは敵を穿つという意志のみ。
　振り下ろされた一撃がジャイアントキャバリアを切り裂き、コクピットハッチを切り裂くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　剣の一撃がジャイアントキャバリアのコクピットハッチを切り裂く。
　そこに覗くグリモア猟兵の姿を佐伯・晶（邪神（仮）・f19507）は見た。
　己たちを戦場に送り出す存在。
　グリモア猟兵。彼女の姿は変わらぬものであったが、放たれる『渾沌の諸相』は凄まじいものであった。
　重圧となって襲うそれは、間違いなく目の前の存在が敵であるという証左。
「何がどうなっているやら。知りたいことはたくさんあるけれども」
　この状況をなんとかしなければならないと、晶は試製竜騎「鉑帝竜」を駆る。
　超硬装甲に覆われた機体が咆哮するのに合わせ、ジャイアントキャバリアもまたアイセンサーをユーベルコードに輝かせ、咆哮する。

　その重圧は益々持って膨れ上がっていく。
　尋常ならざる力。
　それが『渾沌の諸相』であるというのならば、目の前の存在はまさに破壊の化身そのものであった。
「無意味だ。知ることも、知らざることも。すべてが地に還るのならば。お前達の戦いこそが無意味。『炎の破滅』は迫っている。先延ばしの延命など意味がない」
　踏み込むジャイアントキャバリアの速度は神速。
　瞳で追いきれるものではなかった。振るわれる拳が鉑帝竜の装甲をえぐる。
　ただの拳の一撃であっても、機体に衝撃が走る。

「ぐっ……！　だけどさ！」
　神気すら切り裂く殺戮齎す刃。その全身に配された刃が、神気すら切り裂いて拳の一撃をコクピットに座す晶にまで到達する。
　眼前に迫る刃に息を呑む。
　装甲が超硬装甲でなければ、今の一撃で終わっていた。
　逆を言えば、それほどまでにジャイアントキャバリアは、渾沌氏『鴻鈞道人』は追い込まれているということだ。
　機体の頑強さに助けられながら、晶は鉑帝竜はジャイアントキャバリアを押し返す。

「ギリギリのところまで使い込んだ技能ではないだろうから、勝負所を知らないよね！」
　そう、グリモア猟兵であるナイアルテは戦いに向いていない。
　晶は常々感じていたことだろう。予知を担当し続けているせいもある。同時に気質事態が戦いに向いていないのかもしれない。
　どちらにせよ、戦い続け習熟した技能を彼女は持っていない。
　磨かぬからこそ、猟兵たちの窮地を助けるものである。勝負勘はこちらにあるのならば、戦いようはある。

　放つ鉑帝竜がジャイアントキャバリアに組み付く。
「今だ、頼むよ！」
　使い魔達によって放たれる試製電撃索発射銃（エレクトリック・パラライザー）のワイヤーがジャイアントキャバリアを取り囲み、その機体を締め上げる。
「そう簡単には千切れないよ」
　超硬金属のワイヤーは、ジャイアントキャバリアを捉えて離さない。そして、放たれる電撃が機体を麻痺させていく。
　拘束を引きちぎろうとしても、流れ込む電撃が機体を縛り続けるだろう。
　徒に消耗するしかない。
　そういうユーベルコードなのだ。これで機体を破壊することはできないかもしれない。けれど、それでも晶はグリモア猟兵の中に融合している渾沌氏『鴻鈞道人』を消耗させ続ける。

「滅ぼすことができなくても、殺すことができるっていうのなら！」
　自分自身も無事では済まない。
　組み付いているからこそ、こちらの機体にも電撃が流れ込む。けれど、それでも晶は、電撃を撃ち込み続けるのだ。
　グリモア猟兵がそうであったように。
　己の身を顧みないからこそ、得られるものがあるのだ。
「その体の中にいるお前を追い出すためなら、これくらいのことは！」
　明滅する世界。
　これが自分の戦い方だ。すべてを救えなくても。
　救うことを諦めてはならないと知るからこそ、晶の瞳はユーベルコードに輝くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　雷撃に寄ってジャイアントキャバリアの機体は損壊の一途を辿る。
　機体のあちこちから白煙が上がる。ワイヤーで拘束されていた機体が咆哮し、戒めをほどかれた獣のように『渾沌の地』を走る。
　踏み込む度に大地が砕ける。
　生み出される衝撃波は刃を思わせるようにして、あらゆる障害を切り裂く。
「無意味だ。すべてが。神殺しの拳も、何もかも。全ては地に還る――」
　グリモア猟兵と融合した渾沌氏『鴻鈞道人』は、これまで猟兵達によって消耗した機体を突き動かす。

　すでに限界を超えていたはずだ。
　けれど、ジャイアントキャバリアの力は膨れ上がっていく。
　天使の如き翼は切り裂かれ、うごめく触手も失われている。全身を覆う刃もひび割れ、砕かれているものもある。
「無駄。無駄。無意味だ。無意味すぎる。その抵抗も何もかも」
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、前口上の途中だけど」
　かもんっ！　と叫ぶ声が聞こえる。
　虚空より現出するは、白と紫を基調としたキャバリア『ファントムシリカ』であった。

　放たれる拳の一撃を前にして、サージェ・ライト（バーチャルクノイチ・f24264）は叫ぶ。
「『ファントムシリカ』！　『第九号』の攻撃を受け止めて！！」
　コクピットに座すサージェは迫る拳の一撃を受け止め、その衝撃が内部にある自身にまで到達し、身を打つ痛みに震える。
　痛みが体を駆け巡っていく。
　痛い。怖い。痛い。機体が吹き飛ばされる。それほどまでの一撃であった。『渾沌の地』はすでに溶岩層のように炎と生命力が揺らめく様相を見せている。
　その大地に吹き飛ばされた『ファントムシリカ』が立ち上がろうとした瞬間、目の前にあるのはジャイアントキャバリアの拳であった。

　打ち込まれた拳が大地を穿ち、えぐる。
　大地であった破片が飛び散る中、『ファントムシリカ』は飛ぶ。
「シリカ、今日ばかりはおふざけなしです」
　もはやサージェには恐ろしいものはなかった。目の前の存在を、ジャイアントキャバリアの中に座すグリモア猟兵を、いや……渾沌氏『鴻鈞道人』を見据える。
「誰よりも優しい彼女を、心の強い私の戦友を。弱いと侮辱したこと、死すら生ぬるい」
　漲る力が体の中を駆け巡っていく。
　今此処に至るはオーバーロード。
　超克の輝きを瞳に灯し、サージェはユーベルコードを明滅させる。

　渾沌氏『鴻鈞道人』をして、それを罪深き刃と言わしめた力。
　ジャイアントキャバリアが見上げる天を埋め尽くすのは、かげぶんしんの術（イッパイフエルクノイチ）によって生み出された五百を超える『ファントムシリカ』の分身であった。
　威風堂々とジャイアントキャバリアを睥睨する。
「どれだけ数を揃えようとも、無駄だ。滅びは必ず訪れる。私の望む『炎の破滅』は必ずや成される」
　渾沌氏『鴻鈞道人』はグリモア猟兵の中にあり、ジャイアントキャバリアが構える。
　満身創痍。
　されど、膨れ上がる重圧は『渾沌の諸相』となって放たれる。

「何を言おうとも全力で殺します、渾沌氏『鴻鈞道人』」
　天より飛来する五百を超える『ファントムシリカ』が疾風怒濤の如き風弾の弾幕と、弾幕をすり抜けるようにして迫る超連携の連続攻撃でもってジャイアントキャバリアを追い込んでいく。
　放たれるジャイアントキャバリアの拳は、分身である『ファントムシリカ』を一撃のもとに破壊していく。
　戦場と成った『渾沌の地』は明滅する破壊の光と音で満ちていく。

　五百あった『ファントムシリカ』の分身は僅かな時間で半数にまで落ち込む。
　どれだけ力を増しても『渾沌の諸相』放つジャイアントキャバリアの力には追いつけない。
　時間が経つにつれて、サージェは己が追い込まれていることを知る。
　これまで紡いできた猟兵たちの戦いをあざ笑うかのようなジャイアントキャバリアの拳。
　それはすべての不条理を煮詰めたかのような拳であった。
　分身は四分の一にまで減る。
　負ける。押し負ける。どれだけ数を増やしても、オーバーロードに至っても、到達できぬと思わせるような圧倒的な『渾沌の諸相』。
　しかし、サージェの瞳は超克でも、ユーベルコードでもない輝きに満ちていた。

「ナイアルテさんの姿をして世界を滅ぼすというのなら」
　サージェは『ファントムシリカ』を手繰る。
　疾風のように戦場を走り抜け、その手にした緑の燐光放つダガーを振るう。
　分身はすでにすべてがジャイアントキャバリアの拳に寄って打ちのめされた。恐るべき力である。
　だが、サージェは止まらなかった。
　あの拳が己を打ち砕く。そんな未来が見えてしまった。
「私は彼女の戦友として、その姿の者を殺してあげます」
「無駄だ。それは叶わない」
　放たれる拳が『ファントムシリカ』を砕く。

　ばらばらになる機体。
　だが、手応えがないことを渾沌氏『鴻鈞道人』は知る。
「――何？」
　すべての分身は打ち砕いた。
　そのはずだ。だが、最後の一体こそが、本体であったはず。だが、目の前の穿った機体の手応えはなく、分身であった。

「ええ、クノイチはきたないのです」
　サージェの声が天上より聞こえる。
　見上げた先にあったのは、分身ではない紛うことない本体である『ファントムシリカ』であった。
　その手に在る武装はない。
　己の武装を分身機体にもたせ、欺いたのだ。

　防ぐ手立てはない。
「ええ、お前は私を怒らせたってやつです」
　渾身の力を込めた一撃が、猟兵たちの打ち込んだ楔を繋ぐようにしてジャイアントキャバリアを打ち砕き、その内部にある渾沌氏『鴻鈞道人』の力を、最後の一片まで霧消させる。

「――」
　ジャイアントキャバリアが膝を付き、切り裂かれたコクピットハッチからグリモア猟兵であるナイアルテの体が落ちる。
　そこに最早『渾沌の諸相』はなく。
　立ち上がるナイアルテの瞳を猟兵達は見ただろう。

　そして、いつものように。
　見送るように彼女は頭を下げてから面をあげ、いつもの瞳と微笑みでもって猟兵達を迎えるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2022年01月24日