殲神封神大戦⑰〜穢れに呑まれし黒き竜~
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「不運に定評のある俺だが、その中でも特に最悪のファンブル展開を引いた気分だぜ」
地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は大きく溜息をついてグリモアによって彩られる白紙のページをめくる。
「……次の相手は、"【骸の海】そのもの"だ」
鴻鈞道人――予兆で目にしたその特徴的な外見は中々目から焼き付いて離れないだろう。
奴は【骸の海】そのものだと言った。
今までの世界たちが消費した時間の廃棄場、ありとあらゆる世界から流れ着いた過去の坩堝。
何と、それが――グリモア猟兵の身体を乗っ取り猟兵たちに襲いかかるというのだ。
つまり、凌牙に鴻鈞道人が乗り移り、彼の能力を駆使して戦いを挑むのだという。
「いいか、よく聞けよ。
……相手が俺だからって加減はすんな。殺す気でやれ。
良く付き合ってくれる奴らもいるのはわかってるが、そんなこと鴻鈞道人からしたら知ったこっちゃねえ。
絆の繋がりで身体の制御権を取り戻す――なんて物語でよくある展開は100%訪れねえ。ここで断言する」
骸の海そのものが具現化した存在はそれほどまでに強力な力を有しているのだという。
心の繋がりすらも、消費された時間と蓄積した過去の権化には無意味だと、まるであざ笑っているかのようにすら思えてしまうかもしれない。
だが、一番避けなければならないのは今ここで戦っている猟兵たちが全滅するという自体である。
例えグリモア猟兵が犠牲になることになろうとも、だ。
「一度あいつに操られたら身体中の全部のリミッター外して戦わざるを得ない、が……どうせ俺不運の塊だし?流石に運の良し悪しまで鴻鈞道人にゃ制御できねえだろ。
なんとかなるさ、多分な」
常日頃から不運不幸、呪いの源を取り込むことで力を得る黒竜であるが故に、必然的に不運が付き纏う体質と化している。
鴻鈞道人が果たしてその不運まみれの因果すらも抑え混んで猟兵たちに襲いかかってくるだろうか?
そこまでは流石に凌牙も予知はし切れなかった。
――だが、そこに賭ける価値はあるハズだ。
御巫咲絢
ええっ!?合法的にうちの子と素敵なお子さんたちでPvPしていいんですか!?
嘘ですごめんなさいでも正直ちょっとやってみたかった。
こんにちはこんばんはあるいはおはようございます。初めましての方は初めまして御巫咲絢です。
シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページの方もご一読くださると幸いです。
アポヘル戦争に続き封神武侠界でもきましたねえ、グリモア猟兵ネタ。
というワケで鴻鈞道人が乗り移ったグリモア猟兵、地籠・凌牙を徹底的にフルボッコしてください!!!!!!!!!
というシンプルなシナリオでございます。
今回の戦場となる渾沌の地は、炎の破滅(カタストロフ)を望む鴻鈞道人の心情と凌牙のブレイズキャリバーとしての特性が合わさった煉獄のような灼熱の地となっています。
が、戦場の地形等はシナリオの難しさには影響致しませんのでご安心ください。
●シナリオについて
当シナリオは『戦争シナリオ』です。1章で完結する特殊なシナリオとなっております。
当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在します。
●プレイングボーナス
グリモア猟兵と融合した鴻鈞道人の先制攻撃に対処する。
先制攻撃とは基本的にユーベルコードのことを指します。"相手がかならず先にユーベルコードを撃ってきます"のでご注意ください(ユーベルコードをぶつけての相殺などはできません!)。
OPでもある通り、鴻鈞道人は非常に強い強敵です。仮に猟兵の皆さんがグリモア猟兵と何らかの"心の繋がり"があったとしても一切有利には働きません。
融合した鴻鈞道人が力尽きない限り引き剥がすこともできません。だからといって手加減をしたら当然皆さんがやられてしまいます。
そこだけはご留意くださいませ。
●プレイングについて
現在執筆中のシナリオが一段落してから受け付けますので1月24日(月)8:31より受付たいと思います。
オーバーロードは期間外投函OK、非オバロの方はどうしても書いて欲しい方は一旦失効でご返却しますので再送をお願いします。
また、執筆は「先着順ではありません」他、「判定が成功、大成功のプレイングのみを採用」とさせて頂きます。あしからずご了承ください。
長々と諸事項失礼しました。
それでは、皆様のプレイングをお待ち致しております!
第1章 ボス戦
『渾沌氏『鴻鈞道人』inグリモア猟兵』
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POW : 肉を喰らい貫く渾沌の諸相
自身の【融合したグリモア猟兵の部位】を代償に、【代償とした部位が異形化する『渾沌の諸相』】を籠めた一撃を放つ。自分にとって融合したグリモア猟兵の部位を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 肉を破り現れる渾沌の諸相
【白き天使の翼】【白きおぞましき触手】【白き殺戮する刃】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 流れる血に嗤う渾沌の諸相
敵より【多く血を流している】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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そして、予言の時は訪れる。
「がっ……!!ぐ、うぅうう……!!!」
次なる戦場に訪れた瞬間、凌牙が頭を抱えて蹲る。
それに呼応するかのように、混沌に揺らぐ地が赤く染まり、煉獄の炎が噴き上がり始めた。
(絶えず時は運び、全ては土へと還る)
「が、ぁ……っ、ぐ、……みんな、いい、か……!俺が言ったこと、忘れるんじゃねえぞ……ッ!!」
(罪深き刃――ユーベルコード――を刻まれし者よ。その身体を私に明け渡せ)
「迷うな!絶対に……殺す、気で……っ!!」
(そして相争い、炎の破滅――カタストロフ――を見せてくれ。この私の左目に……)
凌牙の背からまるで這い出るかのように触手が、翼が、飛び出して。
最早呻き苦しむことも忘れたかのように、頭を抑えていた手は一度だらしなくぶらりと垂れ下がった。
かと思うと、蹲ることをやめ、ゆらりと立ち上がり、その手を軽く握っては開いてを繰り返す。
「――ほう、面白い。呪いや不幸を呼ぶ"種”を喰らいて力とするとはな」
顔にはまるで蜘蛛の巣のような、ひび割れた硝子の鑑のような、白い亀裂にも似た模様が浮かび上がり、濁った水のような白い瞳で猟兵たちを興味深く見やる。
今ここにいるのは地籠・凌牙というドラゴニアンの青年にあらず。
鴻鈞道人――全ての世界が生きる為に踏みしめてきた全ての過去、時間の廃棄場そのもの。
「さあ、炎の破滅へと至る戦いを始めようか」
穢れに呑まれた黒き竜が、不気味な笑みを浮かべた。
ミリアリア・アーデルハイム
憑依しても、あなたなどに地籠さんの真価が発揮できるとは思いませんけど。
それにしても、技能・バイタル共に私から見ると相性最悪ですね、地籠さん。
アドバンテージが取れるとすれば飛行時の機動力位ですか・・・全く。(嘆息)
箒で飛び屏氷万理鏡を展開、残像やフェイントを駆使し避け、命中する場合はオーラと結界で防御
【止血】属性の魔法弾を【誘導弾】として連射、ルーンソードの刃を左手で握り込み引く。これで出血量がぎりぎり上回れば!
UCを全力発動 これが伝説の『でっかくなっちゃった!』です!
ローラちゃん(掃除機)を巨大化し【掃除・捕食・浄化】
苦難の中支え合ってきた兄弟を片割れだけになど、絶対にさせません!
黒木・摩那
グリモアの猟兵さんにも色々な方がいて、予言だけをする方もいれば、予言もして依頼もこなすマメな方もいます。
凌牙さんは後者なんですよね。
確かに本人が言う通り、手加減なんてしている場合じゃないです。
というか、ヤラれる前にヤラないとこちらの身が危ないです。
しかも、接近戦だと凌牙さんに歩がありそうです。
渾沌からの攻撃は【第六感】とスマートグラスのセンサで全力回避。
【念動力】を反発力に使って、距離を取ります。
反撃はヨーヨー『エクリプス』で。
ヨーヨーを地面に転がしたところに誘い込み、【念動力】を操って絡め取ります。
そしてUC【獅子剛力】で地面にびったんびったん。
鴻鈞道人を絞り出します。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
そんな自分を不運だなんて自嘲するんじゃ
……ん?前に予知したのを聞いたのは……
(思い出すキマフューでの依頼)
……確かに不運だな、おい。
その不運ごと、ブッ飛ばせるくらい熱く闘ってやろうか!
アタシゃ小細工が苦手だから、真正面からぶつからせてもらう!
何度か直撃は受け止める心算で、激痛やら呪詛やらへの耐性でやせ我慢しながらもグラップルでのステゴロができる距離までダッシュして踏み込み、
電撃の属性を込めて、マヒ狙いで殴り合う!
致命的な一撃はなるべく念動力の衝撃波で躱そうとするけど、
最後まで奥の手は見せない。
大きな隙が見えたら、そこが勝負時。
【魂削ぐ刃】で鴻鈞道人だけをぶった切る!
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「……確かに不運だな、おい」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はこの光景を眼前にして、いかにこのグリモア猟兵が不運であるかを改めて思い知った。
そんな自分を不運だなんて自嘲すんじゃないよ、と最初は励ましをかけようと思ったのだが……キマイラフューチャーでの予知を思い出して言えなくなったのでしまい込んだ程ではあったが、ここまでとは。
「確かに興味深いな。不運をこれだけ喰らっておきながら、未だ五体満足でいられることはそうあるまい。故に良いものが見れそうだ」
「憑依しても、あなたなどに地籠さんの真価が発揮できるとは思いませんけど」
ミリアリア・アーデルハイム(永劫炉の使徒・f32606)は鴻鈞道人の言葉を切り捨てる。
言葉に混ざっているのは確かな怒り。
グリモア猟兵の身体を奪い、望まぬ戦いを強いる諸悪の根源に対しての義憤が燻っていた。
今にも一触即発せんかの空気が漂う中、それらを湛えてはいても冷静に分析することはやめてはならぬと自らに言い聞かせ。
「それにしても……私から見ると相性最悪ですね、地籠さん」
元々ミリアリアが遠距離からの魔術等による攻撃を得意とする典型的な魔術師であるのに対し、凌牙は肉弾戦を得意とするインファイター。
それだけであったら互いの得意な距離を維持する為の戦いになるのであるが――ミリアリアが最も得意とする魔術の一つに呪殺の呪いをかけた魔法弾を発射するものがある。
対して凌牙は元より不運の源を取り込み力とする関係で呪詛への耐性が非常に高い為、彼女は事実上最も扱いに長けた魔術を封じられたも同然なのである。
「グリモアの猟兵さんにも色々な方がいて、予知だけする方もいれば、予知もして依頼もこなすマメな方もいますからね……確かに、本人が言っていた通り手加減なんてしている場合じゃないです」
黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)の言う通り、前線に出る出ないでグリモア猟兵の中でも練度の差が出る――誰であってもそれはそうなのだが――。
目の前のグリモア猟兵は後者、何度も前線に向かっているが故にその分練度も高いのだ。
尚の事、加減などすれば死が待ち受けているのはこちらになる。
「接近戦だと凌牙さんに分がありそうです。ここはなるべく距離を取るべきでしょうね」
「とは言っても骸の海が乗り移ってんだろ?そう簡単に離れるのを許しちゃくれねえだろうさ。
……ま、アタシは小細工が苦手だから真正面からぶつからせてもらうよ。その間に二人は距離を取りな」
そう告げて多喜は二人よりも一歩前へ。
たった一歩前に出ただけだと言うのに、グリモア猟兵の体を牛耳る鴻鈞道人――骸の海の放つ禍々しい邪気がぴりぴりと肌を刺激する。
元々不運の源を喰らう竜性を持つ凌牙の体を支配しているからか、ひどくドス黒くさえ感じられる程だ。
サイキッカー故に人並み外れた感覚が嫌というほど感じ取らせてくるが、それぐらいで怖気付く程度の覚悟で彼女たちはここにいない。
鴻鈞道人はその口元をにたりと緩ませた。
「良い目だ……罪深き刃を刻まれし者たちよ。それでこそ私の見たい物が見れる。
――さあ、始めようか。炎の破滅(カタストロフ)に至る戦いを」
背中を突き破るように現れた触手が、羽が……ありとあらゆる【渾沌の諸相】が凌牙の腕に突き刺さり、混ざり合い、巨大な腕を作り出す。
小柄なドラゴニアンの青年の体にはあまりにも不相応で、あまりにもグロテスクなそれを握り締め、鴻鈞道人が一気に踏み込んでくる。
ミリアリアは直ぐに箒で飛翔し、摩那と多喜も別方向にそれぞれ回避。
無人の地が殴りつけられ、亀裂から煉獄の炎が噴き上がる。
それを気に留めることなく鴻鈞道人はそのまま異形の腕を食い破るかのように触手を飛び出させた。
渾沌の諸相が姿を見せる度に響く、憑依元である凌牙の身体が軋むような折れるような音。
血を滴らせて不規則な起動を描くそれを、ミリアリアの屏氷万理鏡と摩那のスマートグラスが捉え、回避の一手を間に合わせる。
瞬時に魔術を発動させたミリアリアは幻を生み出してそれを身代わりとしている間にさらに距離を取り、摩那は念動力で衝撃波を発生させ、地面に叩きつけて反発力で触手とは反対の方向に移動。
二人仕留め損なった触手はそのまま多喜へと迫り、致命の一撃を加えんと襲いかかる!
「ぐ……っ……!」
念動力を纏わせた手を盾のようにして受け止める多喜。
宿主となってしまったグリモア猟兵が元より膂力に優れたドラゴニアンであることも相まってか、ただ受け止めただけでも酷く腕が痺れかねない程の強い衝撃を受け、痛みに顔を歪ませた。
いや、腕が痺れるだけならまだ良い方だろう。念動力を使って小規模な衝撃波を起こして抵抗していなければ骨なぞあっという間に折れていたかもしれない。
「ほう、防ぐか。大したものだ。ならこれはどうだ」
ばき、ばき、ぶちり。
鴻鈞道人のユーベルコードにより、宿主となっている凌牙の背をさらに食い破るように触手が飛び出した。
文字通り物理的に食い破っているのだろう、次々と血が滴っていく。
「これは……まずいですね」
スマートグラスが示した数値に摩那が眉を潜める。
ぼたりぼたりと血が滴る度に敵の能力数値を示す指数が爆発的に上昇していっているのだ。
「気をつけてください、モロに受けたら間違いなく致命傷です!」
「触手がきます!」
ミリアリアの屏氷万理鏡が映し出した鴻鈞道人の動きに対応すべく、3人は再び散開。
フェイントを使い、残像を使い、時には防御障壁を展開し、各々のやり方でそれらを凌ぎながら攻撃のチャンスを伺う。
「(こうしている間にもどんどん触手が飛び出して出血が増えていく……何とか止めないと!)」
ミリアリアが触手を紙一重で躱しながら魔弾を発射。
だが、鴻鈞道人が放つ【混沌の諸相】の波はあっという間にそれらを飲み込み、ダメージを受ける様子はない。
それどころか執拗に弾を放ち続ける様に鴻鈞道人の視線が向けられ、波がミリアリアへと方向を変えてうねる。
術士である彼女が一番耐久力が低く、このまま真正面から触手をぶつけられてしまったら間違いなく倒れてしまうだろう。
「よそ見してる場合かいッ!?」
「!」
だが同時に鴻鈞道人は多喜の接近を許した。
電撃を纏わせた拳を【混沌の諸相】で塗り固めた拳で受け止める。
「死を恐れず踏み込んでくる意気や良し。だがこの程度で……っ!」
刹那、鴻鈞道人の動きが鈍る。
多喜が拳に纏わせた電撃が運動神経に作用し、一時的に麻痺をもたらしたのだ。
それを見た多喜は今がチャンスだとひたすら電撃の拳を振るい、鴻鈞道人の動きの抑制に出る!
「好きにはさせないよッ!」
「……舐めてくれるな」
多喜の死角から触手が飛ぶ、が――止まる。
絡みつくはヨーヨーの糸、摩那の武器の一つである『イクリプス』が多喜への致命的な一撃を阻止したのだ。
「3人を相手にしているということを忘れないでもらいたいですね……!」
「言っただろうが、よそ見してる場合かってな!!」
摩那が動きを封じている間に多喜によって叩き込まれるラッシュ。
そこにさらにミリアリアの魔弾が次々と突き刺さり、それはやがて鴻鈞道人に異変をもたらした。
「く……何だ?力が抜けて……」
何と、先程まで力強く暴れていた触手が段々と力をなくしていくではないか。
「この弾を受けるのではなく、躱しておくべきでしたね。鴻鈞道人!」
そう、ミリアリアの魔弾による効果である。
彼女が放ったのは攻撃の為の魔弾ではなく、止血効果を齎す治癒の魔弾。
鴻鈞道人は先程まで少しでも増えれば致死量になりかねないのもおかまいなしに凌牙の身体を突き破り血を溢れさせていた。
それを止血の治癒魔弾によって抑止。
同時に左手でルーンソードの刃を握り込んで出血させておくことで鴻鈞道人のユーベルコードの条件と思われる出血量を猟兵側が上回ることで封じ、弱体化させることに成功したのである。
「今が好機――”接地、反転”!」
能力が著しく下がった今こそ反撃の狼煙を上げる時だ。
『エクリプス』を持つ手に力を込め、摩那は――
「”アンカー作動……力場解放”!!」
何と、明らかに人の重量を越えるであろう鴻鈞道人を軽々と持ち上げた!
ユーベルコード【獅子剛力(ラ・フォルス)】。彼女の扱う呪力型加速エンジン『ジュピター』の出力を最大にし、反発力で凡そ120tもの超々重量であろうと持ち上げて自由に引っ張り回すものだ。
これにより動きを封じられた鴻鈞道人は残る自由に動く【混沌の諸相】で抵抗しようとするも、摩那の地面にびたんばたんと叩きつける速度に能力が低下した上に麻痺が加わっている状態では中々引き剥がせない。
「多喜さん、ミリアリアさん!いきますよ!!」
摩那が最後に渾身の一撃と言わんばかりに鴻鈞道人を地面に叩きつける。
地面がえぐれる程の衝撃を受けた鴻鈞道人にまず追撃をかけたのは多喜だ。
「見えたよ鴻鈞道人!本当のアンタの姿って奴が!!
"引き裂け、【魂削ぐ刃(アストラル・グラインド)】”ッ!!!」
朧げな光を束ね集めたサイキックエナジーの手刀が凌牙ごと鴻鈞道人を貫く。
だがこの【魂削ぐ刃】が攻撃するは肉体ではなく、身体を支配する鴻鈞道人本体そのもののみ。
「ぐ、う……!」
直接身体の持ち主との繋がりを断ち切らん一撃を加えられた鴻鈞道人の【混沌の諸相】、その一部が身体から分離され、凌牙の片腕が元に戻る。
そして中に浮かぶ【混沌の諸相】であり鴻鈞道人の一部にミリアリアが最後の一撃を与えるべく飛翔。
「”万物の基成す奇しき力よ、我が願いの前に位相を定めよ”――これが伝説の!『でっかくなっちゃった!』ですっ!!」
【忘却されし昔日の魔術(エルダリーエンチャントマジック)】によるレトロマジックがミリアリアの愛機であるローラちゃんことクロウラー式掃除機(零式)を巨大化させ、その口を大きく開けてブラックホールが如き引力を発生させ、分離した鴻鈞道人の一部がそれに引きずられていく――!
「苦難の中支え合ってきた兄弟を片割れだけになど、絶対にさせません!!」
ミリアリアの決意の一言に呼応するかのように、ローラちゃんはよりその吸引力を増して【混沌の諸相】の一部を勢いよく飲み込んだ。
「く、ふふふ……やるな。実に面白い光景だ。それでこそ罪深き刃を刻まれし者たちよ」
鴻鈞道人は未だ余裕を崩さず、凌牙の身体を離れる気配はない。
だが、その纏う禍々しい邪気は確かに弱まった。
そして、3人のコンビネーションによる一撃はこの後続く猟兵たちの大きな力となるのである――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎!
了解、全力で攻撃しマース!
凌牙殿はハードラックゆえに、楽に死ねる気がしないと思うのであります!
という訳で、遠慮なく元気に殴りかかりマース!
部位を代償とする渾沌の諸相。どのような異形化といえども物理的に迫ってくるなら対処は可能!
まともに受けず、ファルシオンで受け流すように逸らして防ぎマース!
一撃の威力が高いほど、放った後の隙は大きくなりマスネー!
……まあ予想に反して早く動くかもしれないので、油断はせずに。
ガトリングガンを接射!
「六式武装展開、氷の番!」
何やら出血すると拙い予感がするので、流血を止めるべく血管を凍らせていただきマシタ!
お許しくだサイ、凌牙殿!(満面の笑顔)
ベルゼ・アール
いいわ、凌牙。
私は怪盗だもの。貴方を鴻鈞道人の手から盗み出してやるわよ。
…貴方の身体の頑丈さに賭けるけどね!
自慢の軽業でまずは距離をとって回避に徹するわ!
凌牙は接近戦が得手分野、それなら間合いを広げつつ動きを見る…ついでに、誕生日プレゼントで渡したLAKHESISを凌牙から盗むわ。
それは貴方がつけてていいものじゃないのよ、鴻鈞道人。
LAKHESISとVARAFARをデータリンクさせて、近未来予測をしながら凌牙の攻撃を全て回避しつつ…隙をみて一気に間合いを詰める!
私の新技、二丁拳銃のガンフーで銃弾の熱烈なキスを雨あられとプレゼントよ!
…これ(LAKHESIS)、元気になったらちゃんと返すからね。
●
鴻鈞道人の一部を倒すことで、少しだけグリモア猟兵と奴の繋がりを弱めることはできた。
……が、当然それだけで剥がれるような存在であるワケがない。
相手にしているのは骸の海そのものなのだから。
今も尚【渾沌の諸相】と一体化した凌牙の背と左腕は完全に異形のそれであるが、先程一部を取り込まれた影響か、右腕は仮に触手を融合させようと突き刺しても変化することがない。
その右腕につけられているとあるものが、ベルゼ・アール(怪盗"R"・f32590)の目に映る。
以前ベルゼから凌牙に送ったスマートウォッチ『LAKHESIS』――誕生日のお祝いにと、彼のユーベルコードによる代償の影響を少しでも小さく抑える為に高精度の災害予測システムを組み込んだもの……
それが、奇跡的に無事な状態で右手首に巻かれていた。
「さあ、罪深き刃を刻まれし者たち……お前たちの言葉では猟兵と呼ぶのだったか。この程度ではなかろう?
もっと相争わなければ、私の望む炎の破滅に至らぬ。お前たちが取り戻したいと願うこの依代もまた戻ることはないぞ」
尤も、戦い終えた頃にこの依代が生きているとは限らんがな――そう、鴻鈞道人は笑う。
その声も表情も凌牙のそれと全く変わらないというのに、不似合いな程の不気味さと吐き気を催す程の邪悪さを醸し出す。
「……いいわ、凌牙。私は怪盗だもの、貴方を鴻鈞道人の手から盗み出してやるわよ」
友を救う為、ベルゼが決意と共に予告状代わりの宣戦布告を突きつける。
……貴方の身体の頑丈さに賭けるけどね、と心の中で呟いて。
「その意気デース、ベルゼ殿!
それに、凌牙殿はハードラック故に楽に死ねる気がしないと思うのであります!ですので遠慮なく元気に殴りかかりマース!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)も意気揚々とファルシオン風サムライブレードを構えた。
尚彼女の主張は酷い言い様に見えるが事実である。
不運と踊ってこその地籠・凌牙というグリモア猟兵だと、彼女らのように彼と親しい間柄の猟兵たちはだいたいがそう言う。
言わなくても多分心の片隅で思ってるとこはあると思う。
「だがその不運とやらに私までもが踊る相手に選ばれるとも限るまい。そこまで言うのであれば証明してみせることだな」
鴻鈞道人が異形化したままの左腕にさらに異形が詰め込まれ、不相応すぎる程に肥大化した巨大な腕へと変化を遂げる。
そして力任せにその巨大な異形の腕で薙ぎ払おうと襲いかかるそれに対し、バルタンがファルシオン風サムライブレードの刃をぶつけた。
刃をぶつけて逸らして流すことで軌道を無理やり変え、ベルゼがバルタンを引っ張ってその僅かな死角へと滑り込むことで回避。
「(凌牙は接近戦が得手分野。それなら間合いを広げつつ動きを見るべきね)」
存外身軽な身のこなしで襲いかかる鴻鈞道人の異形の腕を自慢の軽業でひらりはらりと躱すベルゼ。
「(一撃の威力が高い程放った後の隙は大きくなりますが、予想に反して動きが速いデスネー!流石凌牙殿の身体を乗っ取っただけはありマース)」
バルタンもまた刃で受け流し、あるいはガトリングガンを接射して異形の攻撃方向を無理やりに転換させて捌いていく。
「随分と防戦を強いられているようだな?その分宿主の身体を私が喰らい尽くすだけなのだがな」
鴻鈞道人はさらに異形化した腕から触手を生やし、二人を拘束せんと伸ばす。
何十本も飛ばすそれらを二人とも躱していくのだが……
「Oh!」
バルタンのサイボーグの身体に内蔵されたガトリングガンが絡め取られてしまう。
即座に片手に持つファルシオン風サムライブレードで切断したはいいものの、残る触手が眼前に迫っていた。
「まずはひと――」
致命の一撃を与えようとしたその時、鴻鈞道人はやっとベルゼが肉薄していることに気づく。
対応するよりも早くベルゼの電磁スタンロッドが鴻鈞道人に叩きつけられ、高圧電流を流し込まれたショックで反応が遅れる鴻鈞道人。
ベルゼはそこで敢えて追い打ちをかけることなくバックステップで距離を取り、動きが怯んだことによりバルタンも触手の猛攻を回避することができた。
「ふー!ベルゼ殿のおかげで助かりマシター!」
「バルタンこそ、奴の視線を引きつけてくれたおかげで助かったわ。おかげでコレを手に入れられたしね」
ベルゼが手に握っているのは先程まで凌牙の腕に巻かれていた『LAKHESIS』。
先程の僅かな応酬の間に見事盗んでみせたのだ。
痺れが取り除かれて動けるようになった鴻鈞道人はそれを不思議そうに見る。
「"たかだかそれ如きで"と思っているんでしょうね?これは貴方がつけていいものじゃないのよ、鴻鈞道人。そして貴方には一生わからない」
――元気になったらちゃんと返すから。今はちょっと貸してね。
そう心の中で呟いて、サングラス型多目的HMD『VALAFAR』と盗み取った――いや、”護る為に取り戻した”『LAKHESIS』のデータをリンクさせるベルゼ。
これにより、VALAFARは一時的に近未来予測システムが実装されるのだ。
「わからないか、まあわかる必要性もあるまい」
鴻鈞道人は再び踏み込み、以上な肥大化を遂げた異形腕を再び見舞わんとする。
「バルタン、このまま散開して回避から0.5秒後、7時方角から触手がくるわ!」
「了解デース!」
データリンクさせた二つの叡智の結晶の力は凄まじいもので。
全てベルゼがまるで予言したかのように鴻鈞道人の動きが補足され、あらゆる方法でバルタンとベルゼが異形の腕を、触手を、グリモア猟兵の身体を使ってのあらゆる攻撃を凌ぎ切ってみせた。
「……中々面白いことをしてくれる」
「お褒めに預かり恐縮デース!お礼にこちらをお納めくだサーイ!――”六式武装展開、氷の番”!!」
ユーベルコード【必死結氷弾(フリージング・デスペラード)】を発動させたバルタンのガトリングガンが再び踏み込んできた鴻鈞道人の異形の腕に命中し、瞬く間に凍らせる!
「!」
鴻鈞道人の異形の腕が文字通り凍りついて動かなくなる。
それどころか、生やしていた触手ごと凍らされてしまった結果、バルタンの眼前まで迫っていた触手が切断されても血すら出ない。
そう、これはそういうユーベルコードだ。
命中した相手の血液を凍結させ、棘となることで血管を塞ぐ蓋となるのである。
「何やら出血すると拙い予感がするので、流血を止めるべく血管を凍らせていただきマシタ!お許しくだサイ凌牙殿!」
そう満面の笑顔でいうバルタン。
この時僅かにでも凌牙の意識があれば何かしらツッコミの一つや二つを入れてくれたのかもしれないが、当然鴻鈞道人はそれを許しはしない。
深い深い闇の底に本人の意識を沈めさせていることにより、強い絆があったとしても逃れられない。
ならば彼の頑丈さを信じ、全力で倒しに行くことこそ信頼の証――そう確信した二人が止まることはない。
「こしゃくな真似を――」
「するに決まってるでしょう!」
再びベルゼが死角から鴻鈞道人に迫る!
「この位置を私に許した貴方に特別なプレゼントよ!――JACKPOT!!」
握りしめた二丁拳銃から放たれる鉛弾のキス。
二丁拳銃の扱いとカンフーを複合させガンフーとして昇華させた【怪盗式拳銃・功夫複合格闘術奥義(アルセーヌガンフーラストアタック)】の一撃が、鴻鈞道人の胴を間違いなく捉え、派手に後方へと吹き飛ばし、大きく地面を抉れさせた――!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
糸井・真海
この場合においては、一度見かけたことがある、くらいのが都合がいい。
あれを殺すのに、情に駆られなくて済む。
最初の一撃に対しては俺も考えよう。
落ち着きで最後まで冷静を保ち、刃が紅く光り輝く鎌で以て武器受け、そのまま怪力に任せてなぎ払い、先制攻撃への対処とする。
そして俺の狙いは、決して向こうに3倍の境界線を踏ませないこと。
全力を緩めるなんて馬鹿な真似は考えないが、向こうは不運が付きまとうらしいからな、それが偶然俺に降りかかることも視野に入れ利用する。
それだけで俺の方がより血が流れる状態が出来上がる。
…お前にはこの色だ。
仕上げに黒色の薬品…オーバードーゼズで敵の動きを封じ、そこを思い切り切断する!
●
糸井・真海(まうとまみ・f08726)は、此度のグリモア猟兵と別段何らかの絆があるワケではない。
故にこそ彼は渾沌の地へと降り立った。
「(この場合においては一度見かけたことがある、くらいのが都合がいい――情に駆られなくて済む)」
グリモア猟兵も猟兵であり、猟兵である以前に一人の人物である。
絆を育むのは至極当然の営みであり、それ故にこうして敵の手に落ちた場合が何よりも危険性が高くなってしまう。
これに関してはそこに付け入った鴻鈞道人が一枚上手だったと言えるだろう、何せ基本としてグリモア猟兵が戦場に向かうことはない。
故にそのような事態に陥る可能性なんてことを猟兵たちは今まで考えてこなかったのだから。
先に交戦した猟兵たちからの攻撃を受け、倒れ伏していた鴻鈞道人はゆっくりと起き上がる。
「……新手か。良いぞ、共に炎の破滅に至ろうではないか」
少しばかり鮮血に染まった異形の左腕をゆるりと上げた刹那、一気に真海へ肉薄。
それを深紅の輝きを湛える鎌『Crimson drop』で受け止め、薙ぎ払って距離を取る。
決して心を乱さぬよう、常に自らを律して状況を把握して慎重に。
攻撃を受け止めては流し、流しては受け止めを繰り返すが、決してその身体に傷をつけぬよう細心の注意を払いながら。
何度目かの応酬が終わり、互いに距離を取った後鴻鈞道人は口を開く。
「またも防戦……いや、わざと自らを追い込んでいるな。大凡我が力の増強を抑える為であろう」
「(流石にお見通し、か)」
鴻鈞道人の乗り移ったグリモア猟兵から血が滴れば滴る程、奴の能力は向上する。
これまでの報告書のデータから換算すると現在の鴻鈞道人を100とするなら、大凡300程にまで上昇する程。
力のあるオブリビオン――否、【骸の海】そのものが力を3倍に向上させればそれだけで猟兵たちを追い詰めることだって容易い。
「そちらがその手なら、こうするまでだからな」
鴻鈞道人は迷いなく自らが乗り移るグリモア猟兵の腹に触手を尖らせて突き立てた。
「……そうだな。そういう方法もあるだろう」
何せ鴻鈞道人自身はあくまで宿主を動かしているに過ぎないのだから。
使えなくなれば捨てるだけ――乗り移ったグリモア猟兵のことなどその程度の印象でしかない。
これが彼らと繋がりのある者たちであったならば怒りに呑まれた者もいただろうが、真海はそうではない。故に可能性としてはあり得ると思っていた。
「揺らいでいないようだが、いつまでその感情の凪を保てるか見物だな」
鴻鈞道人が先程とは比べ物にならない勢いで肉薄し、異形の拳を再び繰り出す。
同じように受け止めるが、向上されたその腕力は真海の怪力を以てしても強く痺れを感じさせ、武器を強制的に手放させた。
『Crimson drop』が煉獄の炎燃ゆる渾沌の地の宙を舞う。
ならばと真海は痺れる腕を無理やり動かしてカウンターを刻むかのように苦痛の呪いが刻まれた剣――『Cantare. Dark beat』を抜いて突き出した。
だが、痺れた腕では狙いを定めるのもままならない……ならそれはそれでフェイントとして使えば良いと、真海は手を、脚を、とにかく動かした。
鴻鈞道人はならばと手を増やすことにした。異形の腕から触手が波のように溢れ、飲み込もうとした――その時だ。
「「!」」
鴻鈞道人の触手が一瞬にして切断され、真海の身体にも大きな傷が刻まれる。
先程宙を舞っていた『Crimson drop』が”偶然にも”双方に大きな傷を与える位置に降ってきたのだ。
血を吐きながらも真海は笑う。
「ふっ……本当に降りかかるとはな」
「……ちっ。そういうことか」
鴻鈞道人が乗り移っているグリモア猟兵は戦いの前にこう告げていた。
“どうせ俺不運の塊だし?流石に運の良し悪しまで鴻鈞道人にゃ制御できねえだろ”
――と。
流石に実際に因果さえも抑え込んだかどうかまでの予知はできなかったが、本人の言う通り凌牙に付き纏う不運がついに作用したのである。
結果、鴻鈞道人の出血量を真海の出血量が大幅に上回り、弱体化に持ち込めた。
今が好機だと、真海は自らの負傷を厭わずユーベルコードを発動する!
「……お前にはこの色だ」
散布される黒曜石色の薬品――【Overdoses】により放たれたそれは鴻鈞道人から一時的に力を奪う。
極端に作用した筋弛緩効果により、異形の左腕を満足に振るうことができなくなったのだ。
「っ……どこまでもやってくれるな、罪深き刃を刻まれし者よ――!」
「これで、仕上げだ……ッ!!」
『Cantare. Dark beat』の刃が鴻鈞道人のその異形の左腕に深く食い込み、会心の一撃を与える。
深い闇に堕ちるかのような苦痛の呪いはついに奴のその表情を強く歪ませるまでに至たったのだった。
成功
🔵🔵🔴
尾守・夜野
…まじかよ
もうそんな感想に尽きるな
ダチ…一方的に思ってるだけかもしれんが少なくとも知り合い捕まるとか地雷なんだが?
んにしても厄介だな…大抵なら多分俺の方が血を流してるとは思うんだが…
不幸な大きい事故とか経験してそう(※偏見)だ
「強化するならこっちも強化をすればいいってだけだがな!」
攻撃は黒纏と身代わりの宝珠で防御し、手はスキットルの中身で濡らす
まぁ透けて大分黒くなっちまってるの見えるだろう
例え数秒だろうと見られている時間が稼げりゃ問題はねぇ
真の姿になりつつUC発動
「手加減出来ねぇから死んでくれるなよ!少なくとも手足の一二本は覚悟しとけよ!」
とりあえず、手足だけを狙って攻撃はしてぇがどうだろな
少なくともそちらが血を流すような事があれば濡れるだろう俺の方もUCの発動条件を満たし続ける
それに手袋は俺だけに効果が有る訳じゃない
素手で攻撃する限りは回避率以外はとんとんだろ!
ひたすら攻撃してくぜ
俺は手加減できる状況じゃねぇが辉夜にゃ関係無い
やばそうなら独自の判断でどちらも等しく回復させるだろうよ
アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
ヴィジランテの説明と初期UCを根拠に技能値100以上の技能はUC並に鍛え上げたと主張。
私は欲深いから両取りイカせてもらうわよ。
リミッター解除、限界突破、オーバーロード!
化術肉体改造でこの身体を血液そのものに変え、血液魔王(悪のカリスマ)とも言うべき真の姿を解放(封印を解く)する。これで私より【多く血を流している】という条件は満たせない。とはいえ、それでも渾沌の方が格は上だろう。
だが、そんなジャイアントキリング(捕食)なぞ猟兵には日常茶飯事だ。中二病(青春)全開な1京2858兆519億くらいのスキル(多重詠唱結界術)を持っているチート院さんみたいなムーブでGO。油断さえしなけりゃあの人最強格だからのぉ。私のことは親しみを込めてアリス院さんと呼ぶように。
先制攻撃を凌げたら血液の肉体を糸状に、そう赤い糸だ。赤い糸として凌牙さんに繋がり化術肉体改造で融合(降霊)し死がふたりを分かつまで発動。凌牙さんの体内から渾沌を駆逐するわよ。寄生勝負なら私の土俵よ?
アスカ・ユークレース
アドリブ連携歓迎
相変わらずの不運ぶりね、ここまでツイてないのに五体満足でピンピンしてるなんて一周回って豪運なんじゃないかとすら思えてくるわ
【視力】をこらし【瞬間思考力】で軌道を予測、【限界突破】した身のこなしと【悪路走破】する足捌きで攻撃を【受け流し】続けて対処
攻撃は絶対に受けないよう注意
でないと戻ったとき凌牙が悲しむでしょうから
普段の彼、不運さえも利用して危険な盾や囮を引き受けるくらいには優しいのよ
攻撃が落ち着いた一瞬の隙を狙い【クイックドロウ】、UCを放つ
鴻鈞道人は友人を乗っ取り操って殺し合いをさせようとする許し難き悪魔、故に【破魔】の矢は効果テキメンなはず
貴方の豪運に賭けてるわ凌牙、だから……本気で行かせてもらう!
リミッター解除、真の姿へ移行。
貴方の不運が奴を呼び寄せたなら……私はその不運を【貫通攻撃】して【浄化】させてみせる!
蛇塚・ライム
……本来なら姉さんが向かうべきなのでしょうけど
今は私が出張らせていただきますわ
未熟者の私がどこまで通せるか分かりませんが、参ります
凌牙さん、お覚悟を
私は皆様が動きやすくなるためのサポート主体に行動しますわね
相棒のカマドGに乗り込んだ状態で戦闘開始
敵の体格差も有利に働けばいいのですが
カマドGのヒヒイロカネの勾玉から1億℃の熱光線を放ち
ヒートクローを振り乱し、接近させないように牽制してみますわね
ですが、恐らく一撃食らうでしょう。
だからカマドGが停止しても、一策講じてますの
射出座席(推力移動)を利用して敵へ逆に突撃致しますわ!
すぐさまレプンカムイを召喚して騎乗突撃!
纏う爆炎紅蓮色の覇気で渾沌の諸相を焼き払いながら更に加速ですの
接近したら魔改造した倶利伽羅剣を腕を伸ばして敵に一撃!
狙うは異形化した『渾沌の様相』!
巡り……芽吹いて……爆ぜなさい!
蛇炎神拳・伍式! 『皐月』ッ!
狙った部位を操作して、凌牙さんを自滅させますわ
抵抗されても、それが隙となってお味方が攻め入る好機に
さあ、皆さん、今のうちに!
●
「ぐぅ……っ……まだだ。まだ終わってはいない……!」
常闇の底に堕ちるような苦痛に顔を歪めながらも、鴻鈞道人は未だ立っている。
一部の繋がりを切り離され、右腕はいくらやっても異形化しない。
その顔に刻まれた白い罅のような模様も少しずつ薄れつつある。
だが、それでも尚残る異形の腕と背から生える、血に染まった【渾沌の諸相】は未だ脅威として猟兵たちの前に立ちはだかっていた。
「……相変わらずの不運ぶりね。ここまでツイてないし散々攻撃を受けたのに五体満足なんて。一周回って豪運なんじゃないかとすら思えてくるわ」
アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)は凌牙の不運っぷりと頑丈さをある程度知っているとはいえ内心驚いていた。
今まで猟兵たちがそれはもう全力で殴りにかかっているというのに、奇跡的に身体そのものは腕や脚が千切れることすらなく――異形化はしているが――無事なのである。
これを豪運と言わずして何と言うのか、と逆に問いたくなる程だ。
「その気持ち、わかりますわ。私も姉さんがそんな感じでしたもの」
「……マジかよ」
蛇塚・ライム(その罪名は『憤怒』/IGNITE POP DiVA・f30196)は先日鴻鈞道人に乗っ取られた姉を猟兵たちに救出してもらった時のことを思い出す。
……そう、あれは本当に何をどうすればこんな風になるのかと言わんばかりの有様だった、と少しばかり遠い目をした。
尾守・夜野(墓守・f05352)はライムのその遠い目だけで全てを察してその一言以上は返さなかった。
「随分と、余裕があるようだな……」
そんなやり取りを見ての鴻鈞道人の一言は、先程までの余裕があった声とは少しばかり遠ざかったものであった。
身体は無事、異形も全て取り除かれていない。戦うことに問題はない――だが、先程食らった深い闇の底に突き落とされるかの苦痛に常時蝕まれている。
いくら骸の海の権化とて、宿主の身体を介しての痛みまで遮断できるワケではないようだ。
「余裕?さあ、どうでしょうね。実際がどうであれ貴方に教えるつもりはないけど」
燻る怒りを冷静というヴェールで覆い隠し、一切の感情を省いた視線と共に『フェイルノート』を構えるアスカ。
それに続くように夜野が怒りを露わにする。
「少なくともこっちはお前に眼前で地雷起爆されてんだよ。余裕のあるなしとか知るか。絶対に倒す」
夜野にとって友――自分が一方的にそう思っているだけかもしれない、と彼自身は言うが――が捕らわれ利用されることが何よりも許せないこと故に、鴻鈞道人に対する嫌悪感を隠さない。
「本来なら姉さんが向かうべきなのでしょうけど、今は私が出張らせて頂きますわ。
未熟者の私がどこまで通せるか分かりませんが……家族は一緒だから家族と呼べるのです。故に参ります」
同じきょうだいを持つ者として、絶対に家族が引き裂かれることなんてあってはいけないと立ち向かう覚悟で向かうライムは相棒『カマドG』に乗り込んだ。
三者三様の答えだが、その根源は同じである。
"鴻鈞道人を倒し、仲間を取り戻す"――故にここに集ったのだ。
「……いいだろう、罪深き刃を刻まれし者たちよ。そこまで言うならやってみせるがいい」
背を食い破り伸びる【渾沌の諸相】が、宿主の身体を次々に貫く。
「……!!」
まさに仲間たちの地雷を眼前で踏み抜くにも等しい行為。
特に夜野の目が怒りに見開くが、そんなこともお構いなしに突き立てた部位からさらに触手を、白羽根を生やし、それらを継ぎ接いでいく。
凌牙の小柄な身体など簡単に包み込んで、腕を、脚を作り、大きな翼を広げるそれは、まさしく竜そのもの。
繋がりを切り離され、どうやっても同化することができなくなった凌牙の右腕だけが不自然にそこにあり、まるで隻腕かのような状態。
足元を大量の血溜まりで染め上げた異形の竜がそこにいた。
◆
(さあ、始めようか。炎の破滅に至る戦いを)
どくどくと血を滴らせ、異形の竜と化した鴻鈞道人の背から触手が伸びる。
「させませんわ!!」
ライムの『カマドG』が億℃単位の熱光線を放ち、それを溶かし捨てる。
次にヒートクローを振り被るが、異形の竜はそれを回避。次は地面に触手を突き立てた。
すると、ライムの後ろにかまえているアスカと夜野めがけて【渾沌の諸相】が地面から飛び出す――が、それらは二人を傷つけるには至らなかった。
アスカは深く集中させて研ぎ澄ました動体視力で回避し、夜野への攻撃は彼の身に纏う『黒纏』が受け止め、その上で余剰のダメージを『身代わりの宝珠』が全て肩代わり。
事実上無傷での回避を果たしたのだ。
「夜野、攻撃を受けちゃダメよ!戻った時凌牙が悲しむでしょうから!」
「わかってる!そっちも気をつけろよ!」
二人は知っている。
普段の凌牙が、自らに付き纏う不運すら利用して仲間を護る盾となっていることを。
自らの不運を餌に、危険な囮も自ら買って出ていることを。
最も凌牙と共闘した猟兵であるアスカと夜野は、恐らく実の身内の次に凌牙を理解している存在と言っても過言ではない。
故に操られていたからとはいえ傷つけたなんてことになれば、わかっていても自責の念に駆られるだろう……と。
「ならばこれはどうだ?」
そんな二人の眼前で、鴻鈞道人は再び触手を生やし、それを自らに突き立てる。
さらには二人の回避を支援すべく前に出ているライム駆るカマドGのヒートクローをわざと受けて、出血量を一気に増大させていく……
「お前……ッ!!」
夜野の顔が怒りに歪み、同時に焦りも見せ始める。
出血量だけなら先程までならこちらの方が上であったが、それすらも一気に上回る量の出血などされたら追いつかないどころか取り込まれている凌牙の命が間違いなく危ない。
そして出血量に比例し、鴻鈞道人の能力は上昇する――その証明かのように禍々しい赤黒いオーラが肉眼で見える程に溢れ出ていた。
「憑依しているのを良いことに、文字通り宿主にした凌牙さんが死ぬまでこき使うつもりですわね……何て非道な!」
「何とか打開策を考えないと……!」
「血の量で上回れれば回避以外はとんとんに持ってけるハズなんだが……これじゃ足りねえか……!?」
夜野の『黒纏』が啜る血とありったけのスキットルズの中身をぶちまけても尚届かない。
このまま万事休すか――
……と、思われたその時。
「――間に合ったみたいね。全員無事みたいだし」
駆けつけたのはアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト艶魔少女・f05202)。
目の前で異形の竜と化した敵とその出血量を見て瞬時に状況を理解する。
「なる程。奴の強化をなかったことにできればいいのね?」
「できるんですの、アリスさん!?」
「ええ。私は欲深いの、最初から両取りする気できたんだから。話してる時間も惜しいでしょうし早速いきましょうか」
――オーバーロード!
アリスの力を押さえつける枷が全て解かれ、限界を越えた彼女の身体がどぷん、と紅い液体――血液に変わる。
一度溶けた身体から溢れた血が渾沌の地を覆い、鴻鈞道人の流した血溜まりすらも包み込んでから再び人の姿を成す。
その姿は普段の少女のそれではなく、妖艶な女性そのもの。真の姿に化術と肉体改造の術を施したアリスは、今まさに血液魔王、否、悪のカリスマとも言うべきオーラを纏っていた!
「何……?」
鴻鈞道人は忌々しげに呟いた。
足元の血溜まりすら綺麗さっぱり消え、先程まで纏っていた禍々しい空気もなくなっている。
先程まで発動していたハズのユーベルコードが消えているのだ。
「ついでに綺麗さっぱり片付けといたわ。これで私と夜野さんより血を多く流しているという条件は永遠に満たせない。とはいえ、それでも渾沌氏の方が格上ではあるかもね」
「でも、そんなジャイアントキリングなんて私たち猟兵にとっては日常茶飯事――でしょう?」
「御名答♪」
アスカの答えにアリスはぱちんと指を鳴らす。
同時に多重詠唱された結界術がフィールドを生成し、猟兵たちにとって有利な場へと書き換えられていく――!
「両取りはイカせてもらうけど、おいしいところはあげるわ。さあ――
汝 が 為 し た い よ う に 為 す が 良 い !」
――かくして、ここから猟兵たちの反撃が始まる。
◆
「どこまでもやってくれる……いいだろう。ならばお前からだ」
能力が低下しても尚その異形の竜体は健在だ……たった一部を除けばだが。
そんな鴻鈞道人が最初に狙いをつけたのは夜野。
彼の手がよくよく目をこらせば非常に黒く染まっている――それは血液が彼の手袋の布を染め上げた果てであり、彼の身体が常に癒えぬ傷を負っているということ。
仕留めることにおいての確実性を狙い、【渾沌の諸相】が飛ぶ。
「そうくると思ったよ。まあ大分黒くなっちまってるのが見えるだろうからな。
だが……見られたならただで返すつもりはないッ!!!」
襲いかかる渾沌の諸相に対し、夜野もまたオーバーロードで真の姿を解き放つ。
夜野の小柄な体躯には不釣り合いな程に巨大な左腕が姿を現し、【渾沌の諸相】を掴んで引き千切る!
「凌牙!手加減できねえから死んでくれるなよ!少なくとも手足の1,2本は覚悟しとけよ!!」
彼の使っているユーベルコード【虚影(ウツロカガミ)】は本来戦闘用よりは変装用に用いられているものであり、夜野を攻撃した時にのみ彼の本来の姿を認識することができる仕様。
だが同時に、本当の彼を認識した者への攻撃力を著しく増加させる強化型のユーベルコードでもあり、これにより高めた戦闘力で攻撃する度に相手の生命力を吸収し、自らを回復させられる諸刃の刃でもある。
鴻鈞道人が夜野を最初に攻撃対象に定めたことにより、本来の姿を認識された夜野はそれに比例した力を得て反撃に映ったのだ。
本人の言う通り、手足の1,2本は簡単に叩き折ってしまえる程のとてつもない膂力で夜野は【渾沌の諸相】に攻撃を叩き込んでいく。
先程までの能力が著しく強化されていた鴻鈞道人であれば太刀打ちできたかもしれないが、夜野のパワーアップが上回ったことにより押され始めた。
「……っ、こちらも、ただで返すつもりはないぞ……!」
夜野の死角から【渾沌の諸相】による触手の刃が襲いかかる――が、それをアスカが撃ち落とす。
「逃さないわよ?」
三次元に複雑な軌道を描く弾幕が鴻鈞道人の動きを完全に捉え、破魔の力を纏った矢と共に叩き込まれダメージを与えていく。
「貴方のような悪魔には効果覿面でしょうね、この矢は!」
「先に死に急ぐか。いいだろう……!」
鴻鈞道人の狙いがアスカへと変わり、異形の翼を広げて飛翔する。
「ちっ、あの羽根飛べんのかよ……!」
夜野のことは最早気にかける余裕すらないかのように異形の竜は電子の射手へと一直線に突貫する。だが。
「させませんとさっき言いましたわよ、私は!!」
そこでライムが割り込み、カマドGが真正面から竜の躯体を受け止めた。
そのまま至近距離でヒヒイロカネの勾玉による熱光線を放とうとしたところで触手の刃が縄に変わり、カマドGを拘束する。
「ならばお前から同化させてくれる!」
触手が刃から鎖と貸し、カマドGの関節部にまで入り込むことで動くことを許さない。
そこに触手がさらに数本伸び、突き刺すと同時に後方へと叩きつける。
コクピット内の激しい揺れと衝撃にライムは顔を歪めつつも、迷わず反撃の一手を投じる。
元より一撃を受けるのは覚悟の上――むしろ避けることは不可能だろうと思って一策講じていたのだ。
「おいでなさい、レプンカムイ!」
カマドGのコクピットから座席を射出し飛び出したライムは神霊シャチである『レプンカムイ』を召喚。
その背に乗り、【渾沌の諸相】爆炎紅蓮色の覇気で焼き払いながら加速し、倶利伽羅剣を構えた腕を真っ直ぐに、一直線に伸ばす。
ライムの一手を察したのかさらに触手は猛反撃をかけるが、それらも全てアスカの破魔の矢が撃ち落とし、ダメージを与えると共に力を削ぐ。
破魔の矢が次々と突き刺さり、鴻鈞道人の動きはみるみると鈍っていく。
当然、その矢は取り込まれている本体にもダメージを与えるが、迷わずアスカは撃ち続ける。
「(貴方の豪運に賭けてるわ凌牙、だから……本気で行かせてもらう!)」
この程度でくたばっているなら既に今までの戦いでとっくに死んでいる――そんな攻撃を受けながらも立ち上がってきたのを知っているからこそ。
枷を解いて真の姿を解放したアスカの弾幕と共に放たれるクイックドローの矢は鴻鈞道人の反撃全てを許さない。
当然アスカ程の射手となればこれだけの早業で尚敵と味方の識別など造作もなく、その中をライムがさらに加速して突貫。
ついにはその倶利伽羅剣を鴻鈞道人の胸に突き立て、爆炎紅蓮色の覇気を流し込む――!
「巡り……芽吹いて……爆ぜなさい!
――蛇炎神拳・伍式!『皐月』ッ!!!」
流し込まれた覇気が凌牙ごと鴻鈞道人の身体を操作する。
その位置は紛れもなく心臓の位置。殺す気でかかれという凌牙の言葉通り、完全に殺すつもりとも取れるその一撃。
鴻鈞道人としては別に宿主が死のうが大したことではないが、だからといってここで抵抗せずにやられるつもりは毛頭ない。
だが、そうして抵抗させることこそライムの目論見であることに気づかなかった鴻鈞道人は、文字通りここから猟兵たちの掌で踊らされることになるのである。
「さあ皆さん、今のうちに!」
「はあい♪このタイミングを待ってたのよ」
ライムの一声から最初に動いたのはアリス。
血液性に改造せしめた自らの肉体を長い長い糸のような姿に変え、異形化を免れている凌牙の右腕に結びつけた。
アリスは元より他者に寄生し、それにより得るエナジーを生きる糧とするサイキックヴァンパイア。
故に、自らと繋がった相手を生かすことなど造作もなければ――
「!!」
鴻鈞道人の異形の竜、その体躯がぼろぼろと崩れ始めた。
糸を経由して凌牙に寄生し、彼と鴻鈞道人の繋がりを直接攻撃したのである。
そう、先に寄生したモノを排除することだって当然造作もないのだ。
「寄生勝負なら私の土俵よ?私にこういう勝負を挑んだ貴方のプレイングミスね♪」
次々と崩れ行く【渾沌の諸相】。
アリスによる排除とライムの【蛇炎神拳・伍式『皐月』】の両方に抵抗するべく、鴻鈞道人は自らの残滓を一点集中に集め始めた。
竜の身体が崩れたことにで取り込まれていた凌牙は完全に姿を現すが、同時にまるで胸から芽が伸び、花が咲くかの如く、残された【渾沌の諸相】が歪なまでに肥大化する――
「この勝負は最早私の負けは決まっているだろう――だが、最後に傷を一つくれてやらずに終わりはしない……!」
「ふぅん、心臓に直接寄生してやられる時に道連れにするつもりね?でも残念、当然そういうことになるだろうと思って対策は織り込み済みなの♪」
そう、アリスは寄生すると同時にユーベルコードを発動していた――既に自らの肉体を糸化させたことこそその伏線だった。
【死がふたりを分かつまで】……繋がれた両者が同時に死なない限り、決して死ぬことのない不死性を付与するユーベルコード。
「言ったでしょ、両取りイカせてもらうって♪」
「く……この……ならば!」
心臓から生えた【渾沌の諸相】、それが歪かつ巨大な鋭い刃と化す。
「この戦い、私の負けは確定だろうが――傷の一つはくれてやらねばな……!」
その刃が矛先を向けるは夜野とアスカの二人。
恐らくグリモア猟兵に最も親しい相手だけでも葬り傷を残そうという魂胆なのだろう。
「最後まで意地の悪いことしやがるぜ」
「全くだわ。そんなことさせると思う?」
あからさまな意図に当然二人して嫌悪感を隠すことはない。
その最後の抵抗に対する反撃に備え、身構えたその時だ。
「――させるワケねえだろ!!」
怒りを孕んだ声と共に、凌牙の胸から生え伸びる【渾沌の諸相】、その根元を思い切り手が掴む。
(な…………!?)
「やっと表に出てこれたぜこん畜生が!散々好き勝手なことしてくれやがって!!」
それは紛れもない地籠・凌牙本人であった。
アリスの寄生による駆逐とライムのユーベルコードから逃れるべく、自らの残滓を一点に集中させたことにより支配力が低下した結果、ついに意識を浮上させることができたのである。
その身に宿る黒竜の力を使い、これまで取り込んだ全ての"穢れ"を鴻鈞道人に押し付けていく。
(自らの心臓と繋がっているのも厭わず"種"を植えるか……!)
「はっ、不運に呑まれるのはてめえだけだ!何せ今の俺には"豪運"がついてっからなァ!!
――アスカ!夜野!みんな!!思いっきりやれ!!全力でぶっ飛ばせッ!!」
……かくして、ここから猟兵たちによるハイパーオーバーキルタイムが開幕する!!
●
「私は私でおいしいとこもらったから、後は任せるわよ。汝が為したいように成すが良い♪」
と言ってアリスはユーベルコードを維持したまま、結界術を書き換えて猟兵の利になる効果を付与した固有結界へと変える。
中二病全開の1京2858兆519億程の効果を内包したそのバフ効果は語るべくもあるまい。
「"我は印す 其は総ての害意を惹きつける的也"!皆さん、思いっきりやっちゃってください!その間に私は凌牙さんを治療しますので!」
さらにミリアリア(f32606)が不可視の的を付与(エンチャント)。
鴻鈞道人が結界内のどこにいても攻撃が当たるように因果を操作され、ここで鴻鈞道人の逃げ場は完全に消失する。
「やれやれ、後で心配かけたことはちゃんと謝るんだよ凌牙さん!」
そして多喜(f03004)が再び【魂削ぐ刃(アストラル・グラインド)】による手刀を以て攻撃することで、一点に集中していた鴻鈞道人の繋がりのほとんどを凌牙から断ち切った。
僅かに残った残滓はアリスにより排除されれば片付く為、後腐れも何もない完璧な状況が出来上がったことになる。
つまり、ますます猟兵たちに追い風がかかるのだ。
(く……罪深き刃をこうも何度も発動するとは……!)
「猟兵は埒外の存在ですから!さあ皆さん、"どんな困難にも立ち向かいましょう"!」
たたでさえバフがてんこ盛りに盛られている中、摩那(f06233)がさらに追い強化をかける。
今この場にいる全員が骸の海の権化という【強大な敵に立ち向かう仲間】である故に、それが与える強化量も言うべくもないだろう。
「あまり繋がりはない身だが、乗りかかった船だ。全力で便乗させてもらうとするさ」
真海(f08726)が再び漆黒の薬品をぶつけ、筋弛緩により鴻鈞道人の抵抗力を著しく削いでいく。
猟兵は無限に強化され、オブリビオンは無限に弱体していくこの場はまさにオーバーキルに相応しい戦場である。
だが、鴻鈞道人は骸の海の権化であり、仮にここで全力をぶつけたところで倒すには至らない。ならば何故そこまでするのか?
――そりゃあ、仲間を操って殺し合いさせようとした奴にかける容赦はないに決まってるからに他ならないでしょうよ。
「今ここで姉さんが貴方に操られた分の借りも返させてもらいますわ!
家族を操られた私の怒り、友を操られた皆さんの怒り!思い知りなさい!!
蛇炎神拳・弐式――『如月』ッ!!!」
"その名は憤怒"……その二つ名の通りのライムの怒りの拳が鴻鈞道人を激しく地面に叩きつける!
「夜野、手配したのは後30秒ぐらいでくるわよ!」
「その予測機能便利だな……ならその30秒間思い切りやらせてもらうさ!」
「HAHAHA!凌牙殿も無事なら尚更遠慮する必要がなくなりマシタ!限界越えて全力でいきマース!共に参りましょう夜野殿!」
ベルゼ(f32590)の『VALAFAR』と『LAKHESIS』による演算で確実に効果的な道筋を算出し、彼女と共に夜野とバルタン(f30809)が突撃!
これまで本体を認識され続けた夜野の受けた強化量はここまで追加で盛られた強化効果の相乗によりとてつもないものとなり、バルタンもまた電撃を纏いボルテージを上昇させ、
さらにベルゼも二丁拳銃を構えての三人による隙のない連携白兵連続攻撃が繰り出されていく!
(ぐ、おおお……ッ!!)
力の抜けた鴻鈞道人は備えも何もなくここまでの威力を全部受け、その【渾沌の諸相】は既に一部だけでも形を保てているのが奇跡な程までのダメージを受けた。
だが、まだ一部だけでも残っているならばその残滓だけでも跡形もなく消し去ることで、少しでもこの先の未来をより良くすることこそ猟兵の役目だ。
「OK、ジャスト30秒!」
「HEY!皆さん射線上から撤退してくだサーイ!耐衝撃閃光防御も忘れずにお願いしマース!」
「アスカ!あとは任せた!!」
3人の合図により猟兵たちが凌牙を連れて後方へと下がっていく。
一方、託されたアスカは高く飛び上がり空中から『フェイルノート』を構える。
そしてこの猟兵による何でも有りなオーバーキル空間に姿を現したのは――何と、飛空戦艦ワンダレイ。
団員――敢えて誰かは伏せておくものとする――の要請に答えて駆けつけ、アスカが引鉄を引くタイミングに合わせるかのように主砲をチャージする。
「私の想い、皆の想い、この矢に乗せて……
鴻鈞道人!
凌牙の不運が奴を呼び寄せたなら、私は――私たちは!その不運を貫いて浄化させてみせる!!」
【一射一殺(サジタリウス・オブ・アルナスル)】。
猟兵たちの様々な強化術と想いが込められ、極限までに破魔の力が高まった矢が超ワンダレイ砲をその身に纏って最速で最短で真っ直ぐに、一直線に、飛ぶ――!!
(……私は骸の海そのもの。この戦いは私の負けだが――またいずれ相見えよう。罪深き刃を刻まれし者たちよ……)
その言葉を残して、骸の海の権化はこの場に置いては跡形もなく消え去った。
◆
「悪い、みんな……迷惑かけたな」
ぐったりとした様子で、困ったように笑いながら凌牙が口を開く。
ユーベルコードのおかげで死ぬことはなかったものの、これでもかと致死レベルの攻撃を喰らった分当然疲労困憊どころではない。
治療を受けたおかげで何とか起きて話はできるが、という程度だ。
「さっきあいつ(鴻鈞道人)に"穢れ"を押し付けておいたから、少なくとも養生してる間にアンラッキーなことは起きねえだろう……多分。とにかく、ありがとな」
多分、としか本人が言えないのは根っからのハードラック故か。
ともあれ転移陣が開かれたことにより全員グリモアベースへ帰投する。
今回は色々な意味で疲労が著しい戦いであったことは事実で、できればこのような殺し合いじみた戦いは二度としたくない――と、皆が思ったことだろう。
皆で生きて帰れたということの喜びと大切さを噛み締め、猟兵たちは各々帰路についた。
骸の海の権化である鴻鈞道人を完全に消滅させることはできなかったが、いつかは必ず……
そんな想いを抱きながら。
こうして、不運が招き寄せた炎の破滅に至る運命への分岐点は消滅したのである。
尚、参戦した猟兵の皆さんには後で凌牙が菓子折り合わせを送っておいたので各人で自由に召し上がって欲しい。
助けてくれたことに心よりの感謝を。
大成功
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