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殲神封神大戦⑰〜骸の海に抗え~

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#渾沌氏『鴻鈞道人』


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 私は最初からそこにいたのだ。
 こんなにも傍にいたというのに。

――そう、私は骸の海。お前達が抗い続けたもの。

 ただお前達が気付かなかっただけということ。
 またの名を鴻鈞道人。それは隠さず、語り続けたもの。
 そう、お前達が気付かぬ間も。
 絶えず流れる時は命を運び、土へと還り続けた。
 私はそのひとしずくを掬ってみせるだけ。
 破滅と悲劇が好きなだけ。
 何、まだ左眼ひとつだけだ。
 語る口もなければ、声を聞く耳も、お前達の志を嗅ぐ鼻もない。

――つまり、興味などないのだよ。

 私が見たいと思うのはひとつだけ。
 数多の死を産みだし、織り上げ、その綾模様を見せておくれ。
 きっと悪夢のように麗しいだろう。
 罪深き刃(ユーベルコード)を刻まれしものよ。
 更なる悲劇を繰り返して。
 いずれ、この左眼に炎の破滅を映してくれまいか。


――それまで私は滅する事なく、揺蕩うだけ。
 或いは、お前の大切なものを骸の残滓と掬ってやろうか――


 響き渡るは愉悦の哄笑。
 無知なるものに、なんとも愚かな笑みを見せるは渾沌の姿。
 左眼のみの顔なれど、笑い転がる気配のみは漂う。
 そこにあるというのに、告げられるまで猟兵たちはついぞ気付かなかった。
 今まで踏みしめてきた道もまた彼。
 笑い合った記憶もまた、彼そのもの。
 彼は骸の海そのものだから。
 お前たちの情も想い。
 知らぬぞ。存ざぬ。
 私は己が想いを示しもしないが、隠しもしない。
 ただ私は慈悲深き死にて消えること、安らかなる眠りに至るを赦さぬと知れ。
 蘇れ、蘇れ。渾沌たる骸の海より幾度となく、破滅を呼ぶ泥となれ。
 お前の愛したものが、世界を炎に包むのだ。

「なあ」

 故に、此処でようやく彼は、鴻鈞道人は『みんな』に呼びかける。
 言葉はなく、思念によるもの。
 だからこそ、その邪悪さは心に直接響き渡る。
 相争うならば、さあ。
 過去の愛しき者とがよいだろう。
 胸に抱き締めて、鼓動を止めてやれよ。

「お前は、誰と共に涙を流して終わりたい?」

 せせら笑いて揺れる気配は、何処までも純粋。
 あまりにも強大な存在は指先ではなく、吐息ひとつで『みんな』を相手取ってやると謂うのだ。
 誇りを。愛を。信念を。
 お前の大事な過ぎ去ったものを。
 さあ、破滅の炎が為に薪としてくべろ。
 そう念じるのは邪悪でしかないが、これを滅することはできない。
 ただ。

「抗うことは、許可する。それもまた……」

 笑う。笑う。笑う。
 無貌の渾沌。ただ左眼のひとつのみで具現したそれが。
 終わるということを赦さず、骸の海に幾らでも中身がある限り、繰り返すのだと。
 お前の過去は有能だからもう一度。
 死んでしまった友は強いな、果てるには勿体ない。
 愛を抱いている魂が私の裡を彷徨う。――ああ、素晴らしい。


「……泣けるだろう?」


 お前の生きていた今までも。
 共にある大切なひとの過去も。
 全て私なのだよ。
 だというのに慈悲深い私は抗う事を、今は許可しよう。


● グリモアベース


 仙界の最深部にそれは在った。
 いいや、他の場所にもきっといたのだろう。
「居るのです。それは。あなたの傍に」
 語るのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)。
 柔らかな笑みも今は消えて、眉を潜めている。
 骸の海という存在は、どうしようもなく生きるということに絡み付く。
 例え唾棄すべき邪悪なる渾沌であっても、別けて生きることなど出来ず。
「……ええ、だとしても。今までの悲劇も惨劇もそうだったように、抗わない理由がないのです」
 気付かなかったというのなら、今は違う。
 剣を向け、意思を放ち、抗うことはきっと出来る。
 ただ今を生きる命たちが、流されて海へと消えるなど、ありえない。
 破滅を見たいという、ただその想いだけで玩ばれるなど。
「再孵化――この単語も幾度となく聞いたことがあるかもしれません」
 帝竜も同じ言葉を使っていた。
 探せば幾らでも出てくるだろうそれ。
 が、今回だけは鴻鈞道人は再孵化による『オブリビオン』を作り出してけしかけるのではなく、本人が挑んでくるのだという。
 完全に滅ぼす方法はなくとも殺すことはできる。
 そして、幾らかその身と命を削れば撤退までは持ち込めるだろう。
 それが今の猟兵たちの限界でもあるのだが。
 何も知らない、今のままでは。
「場所は、いまだ形定まらぬ『渾沌の地』。鴻鈞道人は肉体とその地を一体化させて襲ってくるようです」
 見えるのは『白き天使の翼・白きおぞましき触手・白き無貌の牛頭・白き殺戮する刃』……等の、無形にして不定形の怪物。
 『渾沌の諸相』たる怪物に変異して襲い来る鴻鈞道人。
 確実に先制するのはまるで世の道理さえ渾沌でねじ曲げるようだが、真実、恐ろしいのは更なる一点。
「……判らないのです。幾ら予知しようとしても、鴻鈞道人の繰り出すユーベルコードの真実は」
 詳細不明。
 ただただ広がるは渾沌の闇。
 全く判らない先制攻撃を凌ぎ、反撃に繋げなければならぬという理不尽。
「けれど」
 呟く秋穂が、きゅっと眦を決す。
「私達は、それを知ったのです。抗えるということも。ならば――何時ものように、過去を越えて明日へと向かうだけ」
 今は滅ぼせずとも。
 それに繋げるだけだと、穏やかながら強い意志を見せて。
「信じています。必勝を」
 そうして猟兵たちを、みんなを『渾沌の地』へと誘う。
 待ち受けるものを打ち払い、望む明日を手にすると信じて。


遙月
 マスターの遙月です。
 何時もお世話になっております。


 渾沌氏のシナリオと余力をもって待っておりましたら、このようなシナリオ……。
 全力を以てお送り致しますので、どうぞ宜しくお願い致しますね。

 今回は鴻鈞道人との直接対決となります。
 ……久しぶりに悪役らしい悪役を書けると喜んでいるのは隠せぬままに。

 オープニングでも語った通り。
 場所はまだ形も定まらぬ『渾沌の地』。
 そこで待つのは形を異形の怪物へと変える鴻鈞道人。
 そのユーベルコードの詳細は一切不明。発動するまで何が起きるかは判りません。
 身体も『渾沌の地』と融合して、一定の形を保ちません。変形するのが己が意思かどうかも、定かではなく。
 その上での確実の先制攻撃。
 どうぞ、全力と最善を尽くしてくださいませ。
 


=============================
プレイングボーナス……鴻鈞道人の「詳細不明な先制攻撃」に対処する。
=============================
(ユーベルコードでの対応は不可とさせて頂きます)




 プレイングの採用に関しては、成功が見込めてかつ執筆可能な限りは全て採用させて頂こうと思います。
 私の出来る限りですので、どうぞ宜しくお願い致しますね。
 プレイングの受付は、考えたり相談する時間をしっかりと想っての25日(火曜)の08:31より、27日の日付が変わる頃を〆切りとさせて頂きたく。
 ただし、オーバーロードの方はその前からでもOKです(オーバーロードに関してはマスターページをご覧ください。だいぶお待たせする可能性も出てきます)


 それでは、本当に何が起きるか判らないシナリオとなりますが。
 どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『渾沌氏『鴻鈞道人』undefined』

POW   :    渾沌災炎 undefined inferno
【undefined】が命中した対象を燃やす。放たれた【undefined】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    渾沌解放 undefined infinity
【undefined】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    渾沌収束 undefined gravity
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【undefined】で包囲攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夜刀神・鏡介
俺達、猟兵の力も少なからず増しているだろうに、完全に滅ぼす手段は無いと断言されるとはな
だが、滅ぼせずとも勝てない相手ではないなら、今はそれで良い

神刀の封印を解き、神気により身体能力を強化
回避の為に常に移動をしながら、斬撃波を放つ。敵が飛ばしてくる何かしらが物理的なモノであれば迎撃できるだろう
尤も、物理的なものでない可能性もあるので食らうことも前提に入れつつ、自分をを燃やされた場合は浄化の力でダメージを軽減しつつ、即座に刀で炎を切り飛ばす事で被害を抑えよう

先制攻撃を凌いだならば、改めて鴻鈞道人の元へ切り込んでいく
捌の型【水鏡】の構えによる自在の太刀で炎を切り裂きながら攻撃を仕掛けよう



形定まらず、変貌していく大地と光景。
 一切の規則性なく、変化していくその様はまさに渾沌。
 長く直視するべきものでもなく。
 何故ならこれは過去。
 骸の海の一部なのだから。
 だが。
「俺達、猟兵の力も少なからず増しているだろうに」
 この中に、自分が力を得たものもあるのだと。
 真実、消え去らぬ輝きもある筈だと、鋭き漆黒の双眸で見つめるは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)。
 渾沌の地へと切り込む一番槍として勇は奮えど、怖れることはないのだと。
「完全に滅ぼす手段は無いと断言されるとはな」
 肩を竦めてみせる夜刀神の姿に、驕りもありはしない。
 ただ自らを信じているだけ。
 滅する方法がないとしても、屈する必要などないのだと。
 己が生命力を注いで神刀の解放し、封じの白鞘よりさらりと抜き放つ。
「だが、滅ぼせずとも勝てない相手ではないなら、今はそれで良い」
 夜刀神の言動は穏やかなるもの。
 そうであっても骸の海に勝つという宣言。
 万象の悉くを斬る神刀【無仭】と、脈動する神気を携えて。
 鴻鈞道人へと一歩、また一歩と踏み出していく夜刀神。
「全てを斬り、ただ、勝って帰るだけだ」
 その言葉に微かに笑う気配が揺れる。
「お前の進んできた道を、踏みしめた大地を、受け継いだ過去を斬ると。出来るならば、ああ、見せてくれ」
 左眼に愉悦の色を忍ばせ、鴻鈞道人が渾沌の地より創造するのは白き炎を纏う直刀。
 宝剣の如き装飾はある。
 だが、これは果たして正しきものなのか。
 渾沌の属性を帯びたそれは、邪剣という言葉こそが相応しいだろう。
 鴻鈞道人が構えると同時、生きるものが触れてはならないと直感する白炎が、一気に燃え上がる。
「お前の志も、技も。受け継ぎ、磨き上げて来た過去――その一切が私だと知れ」
 踏み込む鴻鈞道人の歩法は瞬足。
 純粋な武術を扱うのは意外か。いいや、その認識は甘い。
 そう。誰かが磨き上げられた武の過去もまた、鴻鈞道人という骸の海にあるのだから。
「お前の知らぬ、剣豪の技を披露しよう。何、嫌がるな。これも私だ」
 精緻なる鴻鈞道人の動き、太刀筋。どれも達人の域を超えている。
「くっ」
 夜刀神が咄嗟に神刃を振るい、斬擊波を放つが鴻鈞道人の邪剣に断たれ、そのまま懐へとするりと。
 逃れる術などありはしないと、狂奔する渾沌の刃と白炎が夜刀神を捉えた。
 血の一切は流れない。だが、灼き斬る刃は深々と夜刀神の胸部を撫で斬っている。
 恐ろしい程の力と熱量。それを振るう鴻鈞道人の武も、物理であれば抗えるというものではない。
 骸の海と戦う。負傷と共にその意味の深さを受けて、夜刀神の意識が掠れる。
「だ、が……!」
 事前に纏っていた浄化の力が受けるダメージを減少させている。
 即座に振るった刀で受けた炎を切り飛ばそうとするが無意味。これは、夜刀神の裡にある何かを燃やして、更にその激しさを増していくもの。
 凌いだとはいえ、長期戦はありえない。
 狙うは短期決戦――夜刀神が燃え墜ちる前に、鴻鈞道人の命を絶つ。
『我が太刀は鏡の如く――捌の型【水鏡】』
 故にこそ、夜刀神が焦り、猛りて心の水面の乱すことなどありはしない。
 精神は静謐を保って。勝利が為の刹那を手繰り寄せるべく、水の如く清らかに流れる夜刀神の連閃は変幻自在。
 鋭く襲い懸かれば、柔らかに受け流し、上段より剛の響きを以て墜ちる神刃。
 神刀と邪剣が噛み合い、刃金が鳴いて白炎が舞う。
 僅かでも気を抜けば相手の切っ先に命を奪われる剣戟の只中。
「――そこだ」
 鴻鈞道人の左眼を惑わし、動きを誘導した夜刀神の一閃が、白すぎるその首を斬り払う。
 吹き抜ける剣風。神気の流れが光と揺れて。

「抗うことに満足したかね?」

 夜刀神の眼前の躯がぼろぼろと朽ち果て、すぐ後ろに新たな器を作り出す鴻鈞道人。
 殺せたとしても。
 滅する方法がないという現実がそこに。
 だと、しても。

「無論――まだだ」

 振り返り様に斬り掛かる夜刀神の剣閃は、再び鴻鈞道人の躯を斬り裂いた。
 いくらでも。お前に勝つまで。
 必勝を信じた身は白炎に包まれてなお、勢い衰えることはない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…信じたくは無い、というのが正直な所です。
骸の海とは、今の時まで世界を繋いだ過去が役目を終えて静かに眠る場所なのだと、そう考えておりましたゆえ。
それが、過去の残滓を掬い上げ今を侵すが骸の海そのものの意志であり、
この世界に顕現し願うが破滅の道であろうとは。

…貴方の言が真であるか、或いはその『左目』の意志であるのか。それを断ずる術を私は持ちません。
されど今この時、得た体を以て世界を侵すと云うのであれば。

──猟兵として立つこの身の責務を全うするのみです。


アイテム『薄氷帯』の効果にて全身を霊力保護しつつ
正体不明の攻撃、それら全てを野生の勘、瞬間思考力にて触れるもの、触れざるべきものを即座に感知し回避あるいは打ち払う
初撃を凌げばUC発動、残像、見切りも交え攻撃を凌ぎつつ相手を見定め少しでも『正体』を掴むに努める
隙を見れば怪力、グラップルによる無手格闘を以て相手の急所を狙う

己の戦がかの渾沌に届かず果てるとあらばそれも善し。
それは後の戦に臨む同胞にとって、『ヒトの業は通らぬ』という情報となりましょう。



 これは本当に白き色なのか。
 無貌の如く、定ることを知らず形を変え続ける渾沌の地。
 白といえばそう。だが、何かが違う。
 ましてや、真白き雪の色彩をその身に宿した少女が佇むとなれば。
 邪なる何かなのだと。
 これは、決してひとの見るべき色ではないのだと、本能が告げる。
 ああ、と。
 これは決して安寧なるものから程遠い。
 祈っていたものとは、なんと掛け離れているのかと。
 小さく、静かに嘆息を零して、月白・雪音(月輪氷華・f29413)は赤い眸をふるりと揺らした。
「……信じたくは無い、というのが正直な所です」
 雪のような美貌に情動のいろを乗せる術は知らない身。
 なれど、心はあるのだと赤い眸をただ、ただひっそりと揺らして。
 長い睫を、悲しむように震わせて。
「骸の海とは、今の時まで世界を繋いだ過去が役目を終えて静かに眠る場所なのだと」
 未練あれど、思い残りあれど。
 辿り着ければ、きっと安息がある。救いがある。
 極楽浄土のようなものではないけれど、生きる世にはない光があるから。
 微睡みながら、優しい夢を懐ける筈。
「そう考えておりましたゆえ」
 雪音が握り締めた拳で殺めたのは、その先の救済を信じて。
 何度も何度も繰り返すことなどさせぬ為に。
 優しさと、思いと、決意を秘めた今までは何だったのかと。
 静かなる怒りもまた、悲しみと同様に湧き上がる。
「それが――」
 それは雪のように軽やかで。
 決して重みをもって、誰かの前に現れ、触れることはあり得ずとも。
 雪音の胸の奥に確かに在る心なのだ。
「過去の残滓を掬い上げ今を侵すが骸の海そのものの意志であり」
 故に今も形を変える白い大地を踏み、前へと。
 これが過去を踏み躙ることだと言われたとしても。
「この世界に顕現し願うが破滅の道であろうとは」
 道は譲らぬ。
 判りはする。想いと痛みとて。
 されど。
 今と未来を生きるもの為に、雪音のこの身はあるのだから。
 そう告げた雪音に、低く笑うは渾沌たる鴻鈞道人。
「なぁ、おい。私が何を願おうとも、それは私の意思だろう」
 過去がそれでもと、悲痛な願いを叫んでいるのだろう。
 そう口にして、諸手を広げるは今まで戦ってきた存在――オブリビオンともまた違うもの。
「昔は昔。過去は過ぎ去った美しいもの。そういって、大地を踏み、時を消耗して、自分たちだけは前に」
 その為ならば
「骸の海とそこにあるものは、ただ消耗されるものと微睡み待てと。安らかに、遣い潰される瞬間まで眠っていろというのかい?」
 それは、確かに言われれば否定などできず。
 誰も鴻鈞道人という存在、骸の海の裡を覗けぬ以上、否定は出来ない。
 過去の存在が安らぎなどなく、今も絶えず叫んでいるというのならば。
 ああ、でも。
 だとしても。
「…貴方の言が真であるか」
 譲らぬ。渡さぬ。
 この身の在りし意味は、己が定めるのだと眦を決す雪音。
「或いはその『左目』の意志であるのか。それを断ずる術を私は持ちません」
 諸手を握り締め、構える雪音。
 薄氷帯より霊力の膜で身を包み、保護しながら。
「されど今この時、得た体を以て世界を侵すと云うのであれば」
 実力、規模。存在としての差を実感しながらも、決して己が心の儘に、退かず。
 此処に決別の言葉を告げるのだ。

「──猟兵として立つこの身の責務を全うするのみです」

 静かに。けれど、軽やかに。
 間合いを詰め、己が信念を込めた拳を叩き付けんと迫る雪音。
 表情で表せぬ想いを、ひたすらに握り締めて。
「加え、確信しました――それは戯れ言であると。貴方は、人の情や痛みを判らぬ、可哀想な存在なのだと」
 過去の全てが安らかに眠らず、未だ尽きぬ悲憤に苛まれていたとしても。
 その全てが、今に生きて未来を往くものを祝福しない。などということなどありえない。
「己が全てと驕り語る貴方になど、負けはしません」
「面白い。虎の娘、ならば果敢にこの身を討ち取るがいい」
 鴻鈞道人の両の掌から走るは白き稲妻。
 少なくとも外見はそう見える紫電が渦巻き、渾沌の地を縦横無尽に駆け巡る。
――これは、触れてもよいものなのか。
 完全に正体不明の攻撃を前に、野生の勘と瞬間思考。つまりは生存本能をもって見極めんとする雪音。
 精神侵食。状態異常。考えられるものは数多とあるからこそ、僅かな時間で対応を判じようとする雪音。
 いいや、この渾沌の地の有り様はまさに黄泉のそれ。過去という存在が渦巻く白き地獄だ。
 ならば答えは単純。
「これは――生きる者が触れざるべきもの」
 何が起きるかは不明でも、触れては鳴らぬと脳裏に警鐘。
 されど、放たれた白き雷撃の嵐を全て躱すなど無理に等しい。霊力の膜を圧縮した左腕で打ち払うものの、雪音の透き通るような肌が一瞬で焼け爛れる。
「なれど」
 芯には触れさせず、身は無事に凌ぎきった。
 腕が焦げたとしてもまだ動く。五体は全て、眼前の渾沌を撃ち砕く為に在るのだと、雪音の眸が決意を秘める。
『……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば』
 今もなお。
 この身と心は、弱きヒトが為にあるのだと。
 拳戦の真髄を解き放ち、白雪のような残像を舞い散らせながら、未だ吹き荒れる雷撃を見切って前へと跳躍する雪音。
 瞬間の隙へと滑り込み、放つ拳擊は躊躇うことなく心臓の真上へ。
 虎の猛威たる一撃。例え鋼鉄の身でも砕かんといういうそれに、鴻鈞道人の胸部が爆ぜて背まで突き抜ける。
 心臓を砕いた感触はある。
 狙った通りに急所を貫いた筈。
 だが――雪音の背筋に走る悪寒は、そのまま身体を巡らせる。
 瞬間、先ほどまで雪音の頭部があった所を走り抜ける帯電した拳。虎の爪のような握りをしたそれが、凶悪な一撃を見せる。
「いい勘だ。が、私を殺す、だけではないな」
「……ええ。情は解さぬとも、聡いようで」
 雪音の真の狙い。
 それは鴻鈞道人を斃すのではない。
 渾沌たるその身に少しでも迫るということ。
 相手を見定めて『正体』を掴み、次へと繋げるということ。
 何も判らぬ無明の闇にてどう対峙しろと。
 だからこそ真に討ち果たす方法判らず、相手の攻め手にもその場凌ぎしか出来ないのだから。
 ならば、白い暗闇に灯りを灯そう。
 月のように道筋を照らす、淡くも清らかなる光を。
「素晴らしい」
 笑う鴻鈞道人はそれを理解しつつ、雪音と徒手空拳の鬩ぎ合いを重ねる。
 放つ拳擊は肘で打ち払われるものの、連動させた蹴擊が死角より鴻鈞道人を襲う。白髪を散らしながら上半身を反らす男、されど、戻す勢いで放つはカウンターによる抜き手の殺技。雪音に受け止められても、その防御へと膝を重ねて打ち上げる。
「……っ」
 重い衝撃に身が竦むが、ギリギリで凌ぐ雪音。 
 そして、もう一歩で命に届くという瀬戸際で、更に攻め立てようとして。
 いや、これは可笑しいと気付くのだ。
「まさか――」
 鴻鈞道人の正体、術理を露わにすべく攻め懸かるほどに雪音の裡に膨れ上がる違和感。
 引き出す攻防の術。この拳、体術、身の捌き。
 足を払って動き止め、虚を付いて脛骨を砕こうと放った掌底を寸でで避ける、その魔性じみた勘も。
 まるで雪音が鏡を相手にしたようにそっくりで。
「気づいたか。私は骸の海、つまりは過去。昨日までのお前」
 くつくつと笑って放つ瞬速の拳。
 雪音もまた、命に迫る勘を頼りに躱して。
「私の雷撃に触れたものの技、武、術を培ってきた今までの過去を、私は映す」
「成る程」
 雪音の技能、武術。鴻鈞道人は悉くを理解し、反映する白き影法師。
 一秒前であれ過去は過去。
 ならば骸の海という過去の集積体がその様を取れるは当然。
 故に鏡映しのような鬩ぎ合いを見せるのだ。
「ですが、それは昨日までの私」
 故に僅かであれ。
 雪音の技が、武が、瞬間で積み重なる想いの強さが勝り、再び鴻鈞道人の身を急所を穿つ。
「ならば今の私は、それを越えて往くのみ――過去に抗うとは、先へ進むことなれば」
 身は痛み、軋み、倒れ込みそうでも。
 自分の全ての技を知っていると言われても。
 そう。幾度となく急所を捉え、絶命に至らせた筈でも倒れず滅さぬ姿にも、怖れを見せず。
「この無手格闘で骸の海に抗えた事実を成すのみ」
 疲労。負傷。それらで衰えを見せず。
 過去の己が武に、真っ向より挑み続ける。
「その事実は、渾沌たる身が昔日の己が模倣という貴方の技を、続く者に示すなれば」
 勝機は後に続く者へと繋ぐ。
 雪音はたったひとりではないのだから。
 例え鴻鈞道人が抱える渾沌がこれひとつのみらずとも。
 真実の欠片しか晒せず、そのまま雪音が果てて消えるとしても。
「それが鴻鈞道人――ただ独りなる貴方の、何れ辿る必滅の理と知りなさい」
 故に冷たく凜然と。
 氷華のように美しく、身を翻しながら告げる雪音。
「ただ今の己の戦が、かの渾沌に届かず、果てるとあらばそれも善し」
 身を翻して放つ蹴擊で鴻鈞道人の側頭部を撃ち砕きながら。
 なお足先を翻し、刀のような鋭い一撃でそま首を蹴り砕く。
 事実、屠る法が見えない。斃すべき芯に触れられない。勝てるかどうかさえも、怪しいほどに。
 なれど、いいや、故にこそ。
「それは後の戦に臨む同胞にとって、『ヒトの業は通らぬ』という情報となりましょう」
 そして、それこそが。
「今の『ヒト』が、渾沌を斃す道を探す標とならんことを」 
 祈るように。
 本当に命に届いているのか、判らぬ渾沌の身へと。
 白き泥を撃ち砕くように、雪音は拳戦を重ねるのだ。
重ねて、続けて。
 生きる道を示すように、白雪が戦に舞う。
 終わりと破滅に抗い、骸の海に過ぎ去る事を阻むように。
 己よりも――今を生きるものが、その心と思いが。
 さらなる光を懐くことができるように。
 炎の破滅へと抗い、氷の月のように冴え渡る一撃が渾沌の白き闇を晴らす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリスティア・クラティス
「あら。この付きまとう過去の全てが貴方であると言うのねっ」
にこやかに笑い、心まで冷え込む侮蔑
「…それはストーカーも吃驚ね
恥を知りなさい、渾沌氏」
敵が【骸の海】だとして
それが私に何の価値があって?

私がもし過去を望んでも
今、この手が届かなければ
どこまでも無価値で無意味であるように

UCは無理でも先制攻撃的に言葉途中で行動先手を取り
精神のリミッター解除
高速詠唱からの全力魔法による結界術で、防御に行動を限界まで振り、相手の攻撃の第一波を防ぐ
無傷は無理でも幸運に祈り立っている事を目指し

「全てが過去に貴方になる。で?
―『不要の有害汚染物質』如きが万能気取りでいるその自信は一体何処から出てくるのかしらっ?」
過去など、人々の未来の為なら幾らでも踏みしだこう
未来すらも危うい今しか生きられない私が、過去(あなた)となった暁には躊躇わず踏み躙られていい

故に笑う
だから、どうした―と

「さあ!己の無価値さに頭を垂れて
未来を走る存在の為に道を開けなさい!!」
叫び自UC発動
相殺に合わせ、属性攻撃で反抗の意を示す一筋の傷を



 音もなく変形する渾沌の地。
 さながら無貌。我に定まった形などないと笑うかのよう。
 見極めんと見れば見る程、心に不安をもたらす。
「どうした。抗うことを赦すのだぞ」
 そしてその場に溶けるように。
 いいや、この地と一体化した鴻鈞道人、過去たる骸の海が笑いかける。
 それはまるで死者からの呼び声めいた冷たさで。
 纏わり付くのは、悲嘆の響きのようで。
 紅玉のようなアリスティア・クラティス(歪な舞台で希望を謳う踊り子・f27405)の美しい眸が、周囲を見渡す。
 ああ、見たくない。
 見られたくないのだと、奥底に焦がれる想いを宿しながら。
「あら。この付きまとう過去の全てが貴方であると言うのねっ」
 にこやかに笑い、情動に溢れる双眸で周囲を見渡すけれど。
 そこにあるのは過去からの視線だけではない。
 心に、時に身体の肌にまで過去はひたりと触れて、付きまとい続けるもの。
 逃れる事など出来ないし、置いて逃げるなんて赦さない。 
 それこそ鴻鈞道人の言った通り、抗う事は赦しても――ひとり逃れるだなんて、決して、決して。
 そんな冷たい泥のようなものがうねり続ける渾沌の地で。
アリスティアの情動に溢れる深紅の眸が、一瞬だけ伏せられて。
 次の瞬間、その美貌に表れたのは氷よもなお冷たく、見る者の心を冷え込ませる侮蔑の色。
 微笑んでいるようで、貶している。
 敵意で歪み、憎悪で満ち溢れながら、それを氷の棘と成している。
 それでも美しいのは、アリスティアが誰かの愛で作られた人形だからたせろうか。
 真実などもはや誰にも判らずとも。
 いいや、それを過去の、骸の海から引き出されることこそを嫌悪するように、囀るアリスティアの美しい声色。
「……それはストーカーも吃驚ね。恥を知りなさい、渾沌氏」
 他人の過去を漁り尽くし、哄笑を漏らす姿に。
 或いは、誰彼の見境なく、心を侵そうとするその有り様に。
 自らを生きていないと想う人形は、凍えるような微笑みを浮かべてアリスティアは一歩、一歩と進み往く。
 敵が骸の海だして、それがいったい何の価値になるのだろうか。
 そこから大切で尊い宝石でも拾い上げられるのかしら。
 それとも、今も生きる為のパンのひときれでも差し出せるかしら。
 ああ、明日を生きる為の道を、その想いを、アリスティアに示せないのならば。
「何の価値があって、未だに漂っているのかしらね?」
 声色の冷たさは、何処か優雅ささえ感じさせる。
 届かぬ美。触れ得ぬ麗しさ。故にこそ綺麗な花であり、貴ぶべき石なのだと。
「私がもし過去を望んでも」
 アリスティアが己の指先を胸に這わせて。
 そこに秘めた願いの美しさを、貴石に託された祈りに触れたいのだと。
 託された指輪の輪郭をなぞる。
「今、この手が届かなければ」
 渡されたこの手が、もう一度誰かの手を取りたいのだと。
 けれど、どうして叶わないのかと悲痛な響きを乗せて。
「どこまでも無価値で無意味であるように」
 過去という影に思いを馳せる無意味さ、虚ろさ、悲しさ。
 故に冷たく、冷たく、研ぎ澄まされたアリスティアの本心、胸の奥底。もはや誰にも触れられないのだろう。
 触れるならば、氷の薔薇の棘にその手を捧げなければならないほどに。
 純潔と献身。奇跡が求めるはそればかりで。
 けれど、鴻鈞道人が念話で言葉を伝える。
 何処か歪に歪んだ笑みを含ませて。
「だが、無意味で無価値なモノを、過去と骸の海に投げ棄てるのはお前達だろう」
 知らない。忘れたい。消し去りたい。
「私はお前達のゴミ箱ではないのだよ」
 その塵屑の中に、大切な一滴を落としたからと騒いでも。
「お前たちの自業自得。ああ、常にそのように私はお前達の傍にあった――」
 そう伝えて、腕を広げる鴻鈞道人。
 真実、私は何も隠していない。何もない所に望みを抱いて夢を見たのは、愚かなお前達だと。
 そう言葉を結ぶより速く、精神のリミッターを解除するアリスティア。
 攻撃の意思を高め、せめて行動では先手を取るのだと煌めく鉱石を手に前へと駆け出す姿。
 果敢であり、勇敢である。
 自らの後に続くモノなどないと断じている、己が命を認めぬ人形の熾烈なる儚さ。
 高速詠唱で紡いだ全力の結界術。己が限界までを振り絞り防御へと。
 その結界は、ぱりぃんと砕けた鉱石たちの色彩を纏い、決して崩れぬのだとアリスティアの意思と共に張り巡らされる。
「だが、その想いも過去に流れる――」
 鴻鈞道人が手を振るえば、白い大地は醜い胎動と共に数千を超える刃を吐き出す。
「立ち続けたい。それは繋がっているだろうかね」
 数えきれぬ程の刃が煌めき、幾何学模様を描いて飛翔する。
 軌道を読むことさえ難しい筈だが、アリスティアが肌で感じるのは余りのおぞましさ。
 忌むべき刃であり、穢れたものだ。
 まるで獣の唸りを上げてアリスティアへと迫る第一波。結界に触れて止まったのは一瞬。
「……っ」
 確かに止めたと思った次の瞬間、魔力を貪るように吸い上げ、よりその刃たちが強く、鋭くと形を変える。
 そのまま結界を削って巡る第二波は止められない。触れる者を貪り、より凶悪となる魔獣の飢えを宿す数千の刃たち。
 結界を貫いた切っ先たちがアリスティアを貫き、身を切り刻んで虚空へと走り抜ける。
 吹き上がる血潮の赤。
 柔らかな金髪を染め上げる、己が血液。
 こんなに熱かったのかと、自然とアリスティアが微笑むのは、傷を受けてもまだ立っている己を感じるから。
 まだ戦えるのだと、幸運に祈り、願いを信じ、再び魔獣の刃たちが襲い来る前にと力を振り絞る。
 いや――此処でやらなければならないのだと、アリスティアの魔術への知識が、魔への本能が警鐘を鳴らす。
 この刃たちは、ただ幾何学模様を描き、力を貪って飛翔するのではなく、何かを成そうとしているのだと。
 けれど。
「全てが過去に、貴方になる。で?」
だからどうしたと、歩こうとして傷口から鮮血を零しながらアリスティアが真っ直ぐに歩む。
 狙うべき私はここに。
 穿つべき鼓動はここにあるのだと。
「――『不要の有害汚染物質』如きが万能気取りでいるその自信は一体何処から出てくるのかしらっ?」
 違うというのなら、この心の臓。
 違わず穿ち抜いてみせて。
私ごときを怖れるようで、未来という可能性を踏み躙るな。

 ああ、つまり――貴方が言ったじゃない。
 過去は塵屑の詰まったもの。そこで爛れ続けた毒は要らない。
 そんな場所でも輝き花があれば、抱き締めながら、心臓を捧げてもいいけれど。


「貴方は、違うわっ」
 過去など、人々が未来を生きる為ならば。
 その心が自由に羽ばたき、希望へと目指していく為ならば。
 冷たい足で幾らでも踏みしだこう。
 牙を剥いて、刃を構え、それでもと絶叫するなら、踏み抜くアリスティアの足を貫くがいい。
 代わりに、その悲嘆と悲憤。砕いて塵と化し、風に散らす。
 アリスティアは未来というものが危ういけれど。
 命というものが、正しく続くか定かではないかもしれないけれど
 そんな危うく、儚い自分で為せる事がある。それがある限り、私は貴方(かこ)になってあげない。
 けれど、何も出来なくなって、踊り疲れた人形が頽れ、過去(あなた)となった暁には、未来を生きる誰かに躊躇わず踏み躙られていい。
 そうしてきたの。
 そうやって、ひとは生きてきた筈だから。
 間違いかもしれない命を、せめて、少しでも正しく生きたくて。

「――だから、どうした」

 故に笑う。
 血塗れでも、これが生きている証の赤さ。
 真っ白な姿で、哄笑する貴方とは違うのだと。
「あなたは、生きている証として――血を流すことができるのかしら」
 危うき人形にもできる、ただそれを。
 渾沌たる骸の海。そんなたいそれたものが出来るのかと。
「ああ、出来るとも。残念ながら、涙する事は出来ないがね」
「それこそが貴方の、貴方という心と存在の無価値さよっ。誰かと共に泣いて歩めない人生に、何があるというのかしらね!」
 故に高らかと謳い挙げるアリスティア。
 負けない。負けたくない。
 引きたくないし、惑いたくても、倒れたくも無いのだと。
「さあ!」
 限界を越えるが故に、爆ぜて砕ける輝く鉱石。
 燦めく鱗粉のような色彩を纏いながら、アリスティアが発動させるのは相殺のユーベルコード。
 罪深き刃は、共に相打ちて砕け散る。
 その誠に持つ力、渾沌により分け与えられた呪いを見せる前に。
「己の無価値さに頭を垂れて、未来を走る存在の為に道を開けなさい!!」
 全ては未来を生きる存在の為に。
 明日の鼓動と心の為に、無常であれ散るのが過去というものだから。
 昨日見た夢は、今を懸命に駆ける理由になるのだと。
 硝子のように砕け散り、白い大地へと墜ちる刃たち。
 己が罪深さ。
 浅くも儚き命(ゆめ)を晒して。
「道を譲らぬなら、ただ貫くのみよ!」
光輝く美しい細身の剣、クラウ・ソラスに光の属性を宿したアリスティアが、一条の矢として。
 渾沌にもたらす一条の光の道筋として、駆け抜けた。
 鴻鈞道人の胸を穿ち抜く刀身。心臓を奪い、邪なる波動を光で灼いて、切っ先翻して示してみせる。
「これで終わらない、果てないのが過去だとしても」
 揺らぎそうになる身体を、それでもとアリスティアは奮い立たせて。
 最期まで立つのだ。
 これで死んだとしても、滅していない筈の鴻鈞道人が、ほらそぐ傍で笑っているから。
「まだ倒れずここにあるのが私。手折られず、花咲き続ける思いの色彩を知りなさい」
 柔らかなウェーブ描く金糸のような長髪を勇気と矜持に波打ち、震わせて。
 言葉と成し、刃を突きつけるアリスティアの心は終わりなどしない。
 まだ。
 過去になどなるものかと、炎のような戦意を秘めた紅の双眸で骸の海たる男を睨み付ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

楊・宵雪
「まあ、やれるだけやってみましょ

[ジャミング]と[残像]で敵命中率下げて、
[空中機動]と[受け流し]で回避
予備策として[オーラ防御]を発動しておく

敵UCの軌道は規則性があるみたいだからしっかり観察して回避に活かすわ

先制に対応できたらUCで反撃
形がなくて空間と一体化していようと、光と香りを避けるのは難しいはずよ



 常に脈動しながら変貌しつづける渾沌の地。
 その白さと決して相交わらぬは雪の色彩。
 美しく、麗しく。儚くも優しい白毛をふわりと揺らして。
「まあ、やれるだけやってみましょ」
 その柔らかな九本の尾もまた、ゆらりと踊らせるは楊・宵雪(狐狸精(フーリーチン)・f05725)。
 地を擦るほどに長い尾は、けれど渾沌の地に触れることを嫌って上へ。
 下弦の月を黒き双眸は微笑みを湛えるけれど、その奥底には確かな嫌悪、或いは、拒絶。
 生きる者の本能として蠢く渾沌の地を。
 或いは、それと融合した骸の海たる鴻鈞道人を嫌うのだ。
 過去。つまりは、死を愛して抱き締めることができないように。
 そうしてしまえば、自分も過去という骸に墜ちるのだと、囁きかけられる気がして。
「そうして、全てを無常に流して忘れる」
 騙るは鴻鈞道人の念話。
 音を介した言葉でないから、防ぎようもない。
 ゆらゆらと邪なる気配は、宵雪の首筋を這うように。
「愛? 愛しい? 次の瞬間に忘れるものを?」
「それでも、確かに。刹那であっても、愛した事実は変わらない。牛罠委。それも、過去という不変で、あなたでしょう?」
 宵雪との問答に笑うような鴻鈞道人の気配。
ああと。
 この渾沌の地にはきっと、宵雪が求める物語のような恋はないのだと。
 笑う無貌、ただひとつ左眼を得た鴻鈞道人の姿に思うのだ。
 そんな綺麗なものを、これは表に出さない。
 尊び、触れ合わせない。
 故に渾沌の地から吐き出されるのは数千の刃。
 飢えたる獣の咆哮のような音を響かせて、一気呵成と宵雪へと迫る。
「さて」
 数えきれぬ渾沌の刃たちをどうしたものか。
 恐怖や緊張はなく、緩やかに動く宵雪の姿。
 金の槍たる火華尖槍を構え、桜色の火の粉を周囲へと舞い散らせる。
 白雪に似た色彩は舞踏を刻むが如く。
 豊かな乳房や腿が舞う動きに釣られて蠱惑的に揺れ、火粉と共に現実を逸らす夢幻へと誘う。
 桜色の火が成すジャミング、舞う動きが成す甘き残像。
 更には念のためにとオーラ防御を重ねながら、宵雪の黒き眸が見つめるのは渾沌の刃たち。
 規則性があれば観察して規則性を読み、回避へと活かそうとするが。
「とても複雑ね。姿を変えるは渾沌のままに」
 言葉の通り、複雑怪奇に織り成す幾何学模様を先読むのは不可能。
 そうして火と美に惑わされぬ数多の切っ先が、瞬く間に宵雪の身体へと殺到し、その身を切り刻む。
 血も肉も。
 触れたオーラさえ貪り、更に強き刃となって巡る魔獣の如き刃たち。
 次はないのだと、流れた血と受けた傷に思うから。
 いいや、ならば次など来させないのだと。
 宵雪は帯より吊した薄紅色の佩玉より温かい光と花の香りを放つ。
 それは眠りの誘う優しき光と香気。
 渾沌の切っ先もその香を浴びて微睡むように勢いを落とし、鴻鈞道人に届いた光は骸の海たる存在を灼いている。
 けれど。
「眠れ、眠れ。無用な過去は安らかに眠れ――とでも言うのかな」
「どうかしら。ただ春の日差しは誰にでも平等に甘受できる、贅沢な優しさなのよ」
 貴方にだって届く筈だと。
 囁いて微笑む宵雪。
 事実、大地と空間と一体化した鴻鈞道人なれど。
 いいや、だからこそと光と香より逃れる術なく、その身に受けていく。
 避けるも防ぐも。
 そこにあるものに、平等に春の日差しと匂いは届くから。
 その瞬間は、確かに。
 のたうつように変形し続ける渾沌が、優しさにて縫い止められた。 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リヴィアン・フォンテーヌ
アドリブ歓迎

渾沌氏『鴻鈞道人』、骸の海そのもの……ですか
なんという、どう対処すべきか分からない相手ですね

先制攻撃には何が来るか分からないですが、ともかく私が作り出してきた無数の失敗作の聖剣達の『無銘の聖剣』を盾にします
失敗作とはいえ無数の聖剣を盾にすれば、きっと耐えられるはずですっ
耐えきれれば反撃です
骸の海を称するアナタには『聖剣クロノカリバー』でどうです!
これは質量を持つ物質である「時間」を集め鍛えた聖剣にして魔剣。剣の形をした時の集積体。いわばもう一つの骸の海
汝は時間という物質を鍛えたるモノ、もう一つの時の集積体。汝の一端を此処に示せ!【疑似真名解放・時の聖魔剣】クロス、カリバァァァァ!!



 此処は白き渾沌の地なれば。
 何でもなれると変貌を繰り返す過去が場所。
故に、今は何もありはしない無形の世界。
 だからこそ入り込んだ者の思いを反映し、巡りて巡るは白い大地。
「湖がお好きかね。水の底で眠るのが」
 笑う気配は鴻鈞道人のもの。
 邪なると感じ取れる思いと共に。
「或いは、水の外へと手を引かれるのが」
 リヴィアン・フォンテーヌ(湖の乙女・f28102)へと語りかけるのだ。
 ああ、これは何だろう。
 幼げに見える貌に、礼節と正しき誇りを宿しながら。
 リヴィアンはふと、考えに浸るのだ。
 渾沌氏『鴻鈞道人』。
 どのような存在かも判らぬ、ただ左眼を得た存在。
「骸の海、そのもの……ですか」
 あまりにも大きい規模だからか。
 或いは概念的過ぎて確かに理解できないのだと、リヴィアンは首を振るう。
「なんという」
 水のような青い長髪を靡かせて。
 湖畔の如き碧瞳に、僅かな惑いを浮かべる。
「どう対処すべきか分からない相手ですね」
 殺す事はできたとしても、滅することはできないもの。
 肉体こそそこにあれど、この大地と融合しているのだ。
 いえばこの地、一体を滅しなければ物理的には消耗さえ出来ないのでは。いいや、それでも骸の海からすればきっと一部でしかなく。
「けれど、迷うことはありません」
 湖の乙女として。
 いずれ聖剣を届ける者として。
 迷いを振り払い、諸手で剣を携え、緩やかに近づくリヴィアン。
「迷え、惑え。そうした事実が過去となり、私となる」
 そうして、困惑という渾沌に落とそうと囁く鴻鈞道人。
 だからこそ、リヴィアンは真実にふと気付く。
「答えを出すがいい。それもいずれ、私となる。滅することのできぬ、傍にある者としてそれをこの左眼で見届けよう」
 真に抗うべきは力や武ではないのだと。
 ただ己を信じ抜くだけなのだと、無数の失敗作である聖剣を積み上げ、盾壁とする。
 それは確かに失敗作。
 けれど、ひとつひとつが聖なる剣であるのは確か。
 きっと耐えられるはず。
 鋼が帯びた聖なる力が、祈りが、身を護るのだとリヴィアンは信じ抜いて。
「ならば儚く無惨に、過去に食い散らされるがいい」
 そうして無常に剣たちが砕け散る。
 その神聖性も力も、悉く無数の刃に貫かれ、奪われ、吸い上げられてより強さを増すは鴻鈞道人の渾沌の刃。
 全ての過去を、今までの強さを奪う魔獣の牙めいたもの。
 身を深く穿たれ、斬り裂かれ。それでもと鮮血を散らしながら前へと駆けるはリヴィアン。
 無傷とはならずとも、確かに凌ぎ切れた。一撃ならば全力で打ち込める。
 清らかなる湖の乙女として、届けるべき剣を構えて。
「骸の海を称するアナタには『聖剣クロノカリバー』でどうです!」
 上段に振り上げるは質量を持つ物質である『時間』を集め鍛えた聖剣にして魔剣。
 剣の形をした時の集積体。いわば、もうひとつの骸の海だと。
「汝は時間という物質を鍛えたるモノ、もう一つの時の集積体」
 謳い挙げると共にリヴィアンはその剣を、ただ真っ直ぐに奮う。
 手に在るものを、共にあるものを信じずに、何が出来ようか。
「汝の一端を此処に示せ!」
 私の力は、此処にあるから。
 必ずや斬り裂くのだと、振るった刀身より放つのは時間という物質を放つことによる斬撃波。
 周囲の時間を狂わせる剣風が渦巻き、渾沌の地を緩やかに乱す。
「ああ」
 そして聞こえる、鴻鈞道人の声。
 みれば腕にはしるは僅かな裂傷。
「泣いて喜べよ。抗う事を赦された先に、かすり傷を与えた過去を、私が与えたことに」
 鴻鈞道人の思念が笑いに嗤う。
 リヴィアンの振るった剣など、骸の海という膨大な時からすれば、たったの一滴。
 泉に湧き上がった真水の一滴で、どうして海の塩水が変わろうか。
 そう思念で告げるからこそ。
「戯れ言など黙りなさい、痴れ者め!」
 身を翻し、剣を再び構えるリヴィアン。
 確かに量の多寡でみればそうであっても。
 同じ質だからこそ、真なる意味で存在へと届く。
 筈なのだから。
 正体不明。滅する方法も判らない。
 変貌と変形を続け、何も判らない者の言葉に従うなど、ただ欺かれるのを待つばかり。
 ただ相手の言動を受け取る必要などなく。
「過去を与えられたのではなく、未来を勝ち取ったんです!」
 与え傷がかすり傷。そう見せているだけ。
 そもそも負傷の程度。その身体で表す存在でもないだろう。
「騙して欺こうとするばかりなら、骸の海とて程度が知れますね」
 そう清冽に告げるリヴィアンの声に。
 鴻鈞道人の左眼は狂おしい程の何かを懐いて、瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…例えどんな物質、どんな現象であれ、お前が生み出す物は須く"過去"でしか無い

…過去など所詮、時間の一形態に過ぎない以上、
私の左眼に魅入られた時点でお前の勝機など何一つ無いと知りなさい

敵の先制UCを左眼の肉体改造により発現した「時間王の瞳」で暗視して見切り、
視線に乗せた過去の存在を支配する呪詛のオーラで防御を無視して敵を捕縛し、
体勢を崩した隙に正体不明の攻撃を受け流しつつ懐に切り込みUCを発動

…さあ、出番よ"過去を刻むもの"
骸の海を僭称する者に、その銘の意味を教育してあげなさい

大鎌の刃に限界突破した虚の魔力を溜めて怪力任せになぎ払い、
切断面が拡大していく暗黒空間に敵を呑み込む虚属性攻撃を行う



 渾沌の地を染める、過去の白。
 骸の海の色を拒むように、銀糸で編まれたような長髪が艶やかに輝いた。
 それは思いと、心と。
 どんな闇夜が相手でも退かぬ、力と強さ。
「……例えどんな物質、どんな現象であれ」
 何処までも静かなれど、誰にも譲らぬ信念をもって。
 渾沌の闇さえ切り裂くように告げるはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 その奥底でせせら笑う鴻鈞道人へと突きつけるように。
「お前が生み出す物は須く"過去"でしか無い」
この渾沌の地がどれほどに変貌し。
 何かへと形を成す事があっても、それは過去という誰かの模倣。
 自ら作ることはない。
 形を真似るばかりで、心の動きなければ絆とて。
 そんな虚ろ。どうして怖れる必要があるのだと。
 リーヴァルディは冷たく、刃のように告げていく。
「……過去など所詮、時間の一形態に過ぎない以上」
 どれ程に強大であっても。
 今がなければ過去はなく。
 未来がなければ、振り返る影としてもありはしない。
 自らの左手で、美しい銀の前髪をさらりとかきあげて、リーヴァルディはそこにある左眼を見せる。
「私の左眼に魅入られた時点で、お前の勝機など何一つ無いと知りなさい」
「ならば」
 緩やかに嗤う鴻鈞道人の気配。
 紡がれる言葉は思念だからこそ、その邪しまさがありありと伝わるのだ。
「この身で得た左眼で見られたお前は、もはや破滅の炎で燃え落ちる藁であると知れ」
「……戯れ言を重ねるのね」
真実、伝えることもないのだと。
 一瞬だけ瞼を伏せたリーヴァルディは左眼に宿した時間王の瞳を発現させる。
 聖痕が疼き、美しい紫の眸の色が変じる。
過去の存在を縛る呪宝珠と化して、魔の色彩を輝かせた。
 そうして見て、捉えるのは渾沌の大地から吐き出された邪悪なる宝剣。
 白き炎を纏うそれは、鴻鈞道人が望む破滅を呼ぶように。
 振るかけた瞬間、ぴたりと縫い止められる。
 それはリーヴァルディの魔瞳がもたらした術法。
 視線に乗せた呪詛で過去の存在ならば支配するのだと、リーヴァルディの視線が絡み付き、捕縛しようとする。
 けれど――それは時を操るという力の綱引き。
 過去、骸の海という鴻鈞道人の無尽とも言える力と、リーヴァルティの儚き身体に宿した魔の鬩ぎ合い。
 深淵を覗く時、深淵もまた等しく見返すように。
 リーヴァルディに絡み付く過去の呪詛。いいや、呪縛と視線を伝って、鴻鈞道人の力が及んだのだ。
 先に体勢を崩したのはリーヴァルディ。
 けれど咄嗟に身を翻した直後、白炎を纏う刃が襲い懸かる。
 身を捉え、切り裂き、炎が嵐と渦巻いて世界を白く染め上げる。
「……それでも、この鼓動と魂には届いていないわ」
 聖痕の浮かぶ左眼から血涙を流しながらも、正体不明である宝剣と白い炎を――そう、剣と炎のように見えるだけの何かを、視線で貫き通す。
 踊るように前へと飛び跳ねるリーヴァルディを両断できないのは、鴻鈞道人もまた完全にはリーヴァルディの過去を絡め録る呪詛の視線を消せないから。
 ならばこそ、此処に勝機がある。
 この宝剣と白炎がなんであれ。
 消すことができず、今も身を苛む災いの炎であっても。
「……さあ、出番よ"過去を刻むもの"」
 過去は過去。
 なればこそ、その漆黒の大鎌にて刻めぬものはないのだと。
 死者という過去の怨念を吸い上げれば、白炎もまた黒き鎌刃へと吸い上げられた。
 緩やかに、静かに。
 大鎌を構えるリーヴァルディは、まさしく美しき死神の姿そのもの。
「骸の海を僭称する者に、その銘の意味を教育してあげなさい」
 過去であれ、断つのだと。
 大鎌の刃に限界突破した虚の魔力を溜めて、怪力任せになぎ払うリーヴァルディ。
 轟くような斬風を渦巻かせ、狂奔する死神の黒き刃閃。
 受けた宝剣と炎ごと両断してその鴻鈞道人の身を刻み、上半身と下半身を黒刃で別つ。
 それでもせせら嗤うが鴻鈞道人。
 骸の海たる彼は殺せても、滅することができないから。
 その身を塵と化しても、次の器を用意するだけ。
 だからこそ。
「……別の場所に、虚ろな闇に。さあ、葬られなさい」
 切断面が拡大し、魔力によって表れるは暗黒の空間。
 全てを呑み込み、逃さない虚の属性魔法が鴻鈞道人を捉えて逃さない。
「ああ。そうやって」
 くつくつと笑う。
「――抗い続けることを、赦そう」
 繰り返す左眼だけのその無貌へと。
 走るリーヴァルディの返しの一閃が放たれ、その頭部を縦に両断する。
 両目、両耳、鼻に口。
 笑うだけのモノには不要でしょうと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
正体を知った処で遣る事は変わらん
未来へと害為すものならば斃す迄
如何な言を繰ろうとも――此の刃を止める事なぞ出来んと知れ

何をしてくるにしろ、容在るならば動きは見えよう
示す向き、空気や気配の揺らぎ等から、第六感にて兆候を見極め見切り
重ねた戦闘知識にて致命と行動阻害に至るだろう攻撃は躱し
些細なものは弾くに努めて初撃を防ぐ
――禁精招来、続く不明は無尽にて迎え討つ
『其の刃を以って、向かい来る災い悉く斬り伏せろ』
僅かでも隙間が空いたなら衝撃波を重ね道を抉じ開け
脚力に怪力回して一気に詰め、全力の斬撃を叩き込んでくれる

「骸の海」と「過去」は別物――未来は元より過去とて弄ぶ事なぞ赦さん
今此の瞬間から潰えて消えろ



 此れが渾沌、骸の海だとしても。
 形定まらずに変貌を続けるものだとしても。
 白いばかりのものに何があるというのだ。
 形を保てず、崩れ去るばかりものが、何だというのだ。
 それは過去ですらあるまい。
「私にとっての『過去』とは不変。――変わらぬし、変わっては成らぬもの」
 変えてなどならない。
 この胸にある喜びも、痛みも、悲しみも愛しさも。
 全て抱き締めて、『過去』なのだ。
「それでも、お前が骸の海であるというのも変わらぬのだろう」
 だがと。
 煙を昇らせる煙草を放り投げ。
 馨しき紫煙を唇より零すは、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
 胸の奥底から吐き出されたそれは。
 ああ、白からはなんとも遠い色なのだと、煙に僅かな感傷を懐き。
「同時に――正体を知った処で遣る事は変わらん」
 純白、純潔ではなくともいい。
 この灰のような濁したものでも、抱えるべき美しき思い出。
 真実、己が過去。
 それが求める先があるというのならば、否応などあるだろうか。
「未来へと害為すものならば斃す迄」
 鞘より抜きは放った秋水もまた、一切の災禍を切り払わんと鋭刃を瞬かせる。
 鷲生の心と切っ先が斬ると、一度定めたのならば。
「如何な言を繰ろうとも――此の刃を止める事なぞ出来んと知れ」
 言い放つや否や、疾走する烈志の姿。
 正体不明。何が起きて、何が向かうのか判らない。
 ならばただ座して待つは不利と、戦場を潜り抜けた勘が告げるのだ。
「ああ。そうして駆けるお前も、約束という過去に縛られているだろうに。……泣いたらどうだ、そろそろ自由になりたいと」
「抜かせ。狂言を繰り返すは、心惑そうとする輩のみ」
 清冽なまでの鷲生の言葉に一蹴された鴻鈞道人が両手を広げる。
 渾沌の地が脈動し、あらゆる場所から吐き出されるのは無数の刃。
 いいや、これは。
「刃ならず、これは楔、か」
 餓狼の如き凶悪さと渇きを宿した過去の楔。
 正体を見切った所で鷲生にどうにか出来るものではない。
だが、何をしてくるにしても容あるのならば動きは見える。
 それが数千であれ、遣るべき事が変わることはないのだから。
 刃が示す向き、空気と気配の揺らぎに、第六勘を重ねて兆候を見極め、来たる一瞬を見切る。
 そして。
 どのような剣であれ、楔であれ。
 鷲生が戦い抜いた今までと変わることなどありはしない。
「貴様が過去ならば、今までにない未来を紡ぐ事は出来ん」
 断言と共に、迫る数千の楔へと自ら踏み込む鷲生。
 刃の瞬きと共に剣影を翻し、一気呵成と斬擊の嵐を以て楔に挑む鷲生。
 全てをなど無理だと、致命と行動阻害に至るもののみを躱し、些細なれば切っ先で弾き飛ばし。
 それでもと迫るものは鍔元と柄で受け、身に受けた痛みと共に更に前へと踏み込む。
 動きと共に吹き上がる血風は、ただ、ただの刹那の凄絶さを物語るのみ。
「おお、見事。過去の剣豪に劣らぬよな」
 黙れと。石榴の如き隻眼にて戦意を燃やし、睨み付ける鷲生。
 諸手で執りし秋水は常に戦場を渡り抜いた友なれど、苛烈なる渾沌の楔の嵐にあっては限界近く酷使され、刃金が震えている。
 されど、悉くを斬り抜け、至ったのだと。
「――禁精招来、続く不明は無尽にて迎え討つ」
 鷲生の右手が触れるは懐に秘めたる小柄、春暁。
 迅を以て禍を必滅せしめる光と成ると誓われたその短身より、呼び寄せるは『大将軍』。
 それは八将神が壱。一度定まれば三年は移ろわず、万事に大凶と為し、魔王天王とも称されし大鬼神。
 太白星の精は呼び寄せた者の血に、それを流させた戦の熱に歓び勇むかのようだからこそ。
『其の刃を以って、向かい来る災い悉く斬り伏せろ』
 鷲生の祝詞を聞き届け、渾沌の楔たちへと万物を必滅へと至らせる無尽の刃を踊らせる。
 だが、それでもなお何かを奪い、喰らい、強くなる。
 そしてこれは楔なれば。
「――陣を成す為の、依り代か」
「十絶の陣は如何かな。ああ、もう近いぞ」
 砕かれた楔が、必勝をと過去に敷かれた陣法を呼び起こす。
 それより速く。
 過去からさらなる何かを呼び起こされる前に。
 僅かな隙間の空きを見出し、刀身より衝撃波を重ねて放つ鷲生。
 愉悦に笑う鴻鈞道人はすぐそこ。
 ならば躊躇う必要などありはしない。 
 道を抉じ開け、剣にて切り拓くのみ。
「天絶、地烈、風吼――」
 詠う鴻鈞道人の声に合わせて、地に刺さり陣を成す。
 いいや、飛翔して描く幾何学模様が、かの仙人たちの過去を呼び起こすから。
「させるものか」
 脚へと全身の怪力を回して一気に詰める間合い。
 その瞬間、過ぎ去った風に桜の匂いを感じても、僅かにもその勢い緩まず。
 崩れ去る灰を渾沌の大地が吹き上げたとしても。
「その陣法は、かつての仙人たちの誇り、思い、戦への願い。それを玩具のように遊ぶなど断じて」
 止まらぬ烈士の剣。
 過去と今を切り拓き、未来へと繋げ。
 ここにある思いと約束を運ぶのだと、鷲生は誓いと矜持を刃へと伝える。
 全身全霊。他などないのだと、一刀を振り上げ、告げるは純粋にして明快な真実。
「『骸の海』と『過去』は別物――未来は元より過去とて弄ぶ事なぞ赦さん」
 放たれた斬閃、鴻鈞道人の身のみならず。
 白い色ばかり染まり上がった渾沌の地にも深き斬痕を刻む。
「今此の瞬間から潰えて消えろ」
 お前はただ夢を見ているだけ。
 他人の思いと記憶と技と、力を。
 自らのものだと酔い知れているだけならば。
「――まだ抜かぬならば、幕引きを暮れてやる」
 鷲生の返す刃は更に熾烈に。 
例え滅する法を知らずとも迷いなく。
 魂を燃やす程の剣閃が骸の海にまで届き、斬り裂き、明日を求む鼓動を響き渡らせる。
残るは諸行無常の理を奏でる剣風のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルター・ユングフラウ
鴻鈞だか雑巾だか知らぬが、随分と偉そうな口を叩いてくれる
詳細不明の先制を行うらしいが、ここは騎士の厚意に甘えて抱えて貰うか
騎士のオーラ防御と我のオーラ防御を重ねれば、あれの攻撃にも耐えられるかもしれぬ

罪深き刃、UCが何かと問われればこう答えよう
己の在り方、生き方そのものだ─と
故に、貴様がどう評しようが知った事か
我は、我の為したい事を為す
そうであろう、トリテレイアよ?
さあ、反撃の時だ

我は慈悲深いのでな
左眼しかない貴様でもよく見える様、脳があるか定かで無い貴様でも覚えられる様、攻撃力に特化して遊んでやろう
罪深き刃と評されるならば、まさにこの姿はその通りよな
暴虐の果てに得た、悪鬼の姿だ
だが…血を吸い育った罪と悪の妖花でも、それでも摘みたいという奇人もいる
悪を為せるならば、善も為せる筈─とな
まだ、我は結果を出していない
道半ばで、不定形な気色悪い輩に膝をつく訳がなかろう?
さあ舞い踊れ、闇より生まれし黒の剣たちよ
秋桜の海を抜け、無貌の渾沌を斬り刻め
千回斬っても死なぬのならば、万回斬り捨てるのみよ!


トリテレイア・ゼロナイン
骸の海の化身でも、退けねば封神武侠界に…
私達の世界に未来はありません

センサーで先制攻撃の分析
格納銃器で撃ち落とし
ワイヤアンカーで保持する盾と片手の剣で防ぎ
防げぬなら推力移動用い女帝抱え疾走

骸の海より来たりしこの剣
其方も同一なら…黒薔薇の加護ある此方が上!

フォルター様、罪深き刃…UCとは何だと思いますか?

私は創造主を殺し、壊され…数多の同型機の如き“過去”でなく、猟兵となりました

猟兵とオブリビオン
同一の力

もし世界の真実が
猟兵が“間違った存在”でも、私は驚きません


ええ
あの渾沌(カオス)の化身に対し、為す事は一つですとも

人が願いし御伽を此処に!

無辺の故郷よ、未来築く秩序よ、命紡ぎし花々よ!
コスモスよ、コスモスよ、コスモスよッ!
あの昏き無謬の宙において、幻想の中にのみ許された安寧よッ!

罪深き刃にて、冷たき鋼が希う!
花園と黒薔薇を守護する一輪の…ブローディアの騎士たらん事を許したまえ!

禁忌剣最大駆動
大地と我らに襲い来る渾沌の悉く
コスモスの花園と花弁という秩序に整え

襲う辛苦を斬り払い
罪深き刃届かせて



 花なるもの、ひとつとてない。
 白き渾沌の大地は蠢くように形を変え続けれど。
今に花咲かせる一輪とて。
 待ち望む蕾もなければ、散った花びらのひとひらさえ。
 何処か焼き払われた灰燼のような有り様に、戦機の身体は零せぬ吐息を己を胸の奥のみで表す。
 ああ。
 幾百年と宇宙で戦い続けた私達、古代の戦機は。
 こんな有り様と星を、命育めぬ焦土を産んだのかと。
 まるで己が置き去りにした過去と対峙したように、ほんの一瞬、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は止まってしまった。
 それは彼の清冽な心のせいで。
 愚かなるほどに真っ直ぐな想いのせい。
 いいや、だからこそ。
「骸の海の化身でも、退けねば封神武侠界に……」
 幾らでも彼は、誰かの為に奮い立つ。
 今、この封神武侠世界に生きるひとを想い浮かべて。
 いいや、数多に駆けた世界のひとびとの笑顔を思い出して。
「私達の世界に未来はありません」
 その先が欲しいのだと。
 未来を見たいのだと、左腕を広げてみせる白銀の騎士。
 望む儘に、願う儘に。
 今は人生を伴う者がいればこそ。
「鴻鈞だか雑巾だか知らぬが」
その麗しき漆黒の姫が、美しき棘と傲慢さを含む声を漏らす。
「随分と偉そうな口を叩いてくれる」
 貴様は傍にいた。
 なんだそれは。知らぬ、存ざぬ。
 お前が赦しても、私は赦さぬ。
 これの傍に常にいてよいのは私だけだと、広げられた腕にと抱き抱えられる。
 それはさながら、騎士の厚意に甘える姫のように。
 或いは付き従う愛の語らいと共にあるように自然に。
 フォルター・ユングフラウ(嗜虐の女帝・f07891)は妖艶に微笑んでみせた。
「さて、トリテレイア。お前の厚意に甘え、抱き抱えられよう。存分に走れ」
「ええ、フォルター様。あなたの肌に傷ひとつつけません」
 言葉を交わしながら、フォルターとトリテレイアが重ねるオーラの守り。
 交ざることはなき白と黒。
 されど並び立ち、歩み続けるその色彩は宙に綾なす星々の光彩のように広がるのだ。
 これだけ備えれば、あれの攻撃にも。
 と、フォルターが赤い眸で見つめた先、鴻鈞道人は笑っている。
 何処かで見たような、誰かの嗤いに似たものを、左眼しかない無貌に浮かべながら、騙る念話の波動。
「私を否定したくば、互いの罪と過去も越えてみよ――自分に付きまとう塵と己が罪を払えても、白は黒の、黒は白の罪咎を、背についた血を容易くは拭えぬ」
 まるで知っているかのような口ぶりに、フォルターの眸が殺意で研ぎ澄まされる。
 いいや、事実。
 己が手で拭い、越えてこそだとフォルターはトリテレイアに想うし。
 トリテレイアもフォルターの殺戮の過去を脱することを、自らの歩みで願うから。
「間違いでは、ないが――その程度で揺れてやる程、私もこれも安くはないぞ」
「ならば、ふたりぶんで相手しよう」
 言い放つフォルターを左眼で見つめ、鴻鈞道人が呼び寄せるのはふたつの災厄。
 邪なる宝剣と、爛れた翼。
 どちらも白き炎を纏いながら、ゆらりと泳ぐ。
 瞬間、恐ろしい程の速度で迫る鴻鈞道人。
 迎え撃つのだとトリテレイヤが翠色のモノアイからセンサーを走らせるが、全ては正体不明とエラーが警鐘を鳴らす。
 不明、未分類、未知の存在――渾沌。
「ですがっ」
 だが、軌道は読めるのだと格納銃器より弾丸の雨を降らせるトリテレイア。
 人工筋肉で収縮して動くワイヤーアンカーは大盾を構え、麗しの姫君を守るのだと残る右腕で電脳禁忌剣を構えて。
「骸の海より来たりしこの剣」
 叫ぶトリテレイアは、心の底より信じるが故に。
 爛れた翼をはためかせ、邪なる白炎を吹き上げて迫る宝剣に真っ向より挑むのだ。
「其方も同一なら……黒薔薇の加護ある此方が上!」
 互いを守り合う星宙のようなオーラの守りを纏い。
 かつての主より託された不壊の剣を奮うトリテレイア。
 だが。
「狂った機械だ。算数も出来ないと見える」
 嘲りよりも落胆に似た言葉が鴻鈞道人より零れる。
 掲げた大盾を易々と両断し、戦機の出力する剛力をも制して奔る白炎の刃と翼。
 トリテレイアの胴体を半ばまで斬りく刃と、フォルターを庇った為に翼は胸部に突き刺さる。
 内部より灼き尽くす白炎の狂乱。
「その剣は大海の一滴であろう。黒薔薇の乙女の加護も、また生きるひとかけらだろう。――大海そのものに、一滴と一欠片で挑む?」
 トリテレイアの裡にある何を燃料として、その勢いを増す炎。
「ああ、赦そう。抗う事を、今だけは」
「……仰る通り、かも、しれませんが」
 そして溶断されかけた所を、スラスターで後方へと跳んで寸でで躱すトリテレイア。
 負傷は甚大。余りにも敵手を甘く見た。
 過去は尊く、大事なもの。
 それはトリテレイアやフォルターの過去だけが特別なのではない。
 むしろ自分がそうであればあるほど、他者の過去は輝くを増す至宝であり、その集積体である鴻鈞道人の強さだ。
 だとしても。 
「量よりも質。質量や巨大さより、そこに宿る想いが全てを決すると、私は知りました故に」
「ああ。星のように強大であっても、個の心を砕けぬこともある」
 そっとトリテレイアの傷口に。
 白炎に自らの指を灼かれること構わず、触れて撫ぜるフォルター。
 お前の受けた傷は、また私のものだと。
 私の知らないお前は、決して赦さないのだと。
「……どうだ。狂っている白と黒のふたりだろう? とてもらしいと想わないか」
「ああ。とても罪深い、愛というものだろうな」
 翼と剣をゆらゆらと泳がせ、次の攻勢の瞬間を待つ鴻鈞道人。
 凌いだというにはあまりにも深い負傷。
 稼働できる時間も炎に灼き尽くされていく中で。
 それでもトリテレイアは、ふと浮かんだ言葉をフォルターに投げかける。
「フォルター様、罪深き刃……彼が騙るユーベルコードとは何だと思いますか?」
 問い掛ける声にノイズが走っても、止めないトリテレイア。
 いいや、ある意味で大事なのだ。
「私は創造主を殺し、壊され……数多の同型機の如き“過去”でなく、猟兵となりました」
 鴻鈞道人に抗うとは、戦うとは。
 本当の意味で、自らの過去を越えて決別するということだから。
 未来に歩むのに過去に心囚われていれば、あの刃から逃れることはできしない。
 あらゆる守りも祈りも、白炎に包まれて灰と消えるのみ。
「猟兵とオブリビオン」
 今まで戦ってきたもの。
 トリテレイアが成ったものと、同胞たる鋼の器が墜ちたもの。
「奮うは――同一の力」
 その身に刻まれた罪深き刃。
「もし世界の真実が」
 自分たちは何も知らず、見えていないから。
 それこそ左眼しかない鴻鈞道人のほうがより真実に近いのかもしれない。
 炎の破滅こそ、何かしらの救いであって。
「猟兵が“間違った存在”でも、私は驚きません」
 それを止める自分が間違っているのでは。世界の敵とは己ではないのか。
 ここに来て懊悩するトリテレイアはとてもらしく、自らをただ貫く傲慢さなど持ち合わせていない。 
 ああ、だから。これほどに愛おしいのかと、フォルターはそっと囁く。
 罪深き刃、自分達に刻まれて奮うユーベルコードとは何なのかと問われれば、迷うことなく告げるのだと。
「己の在り方、生き方そのものだ――戦う為に奮うも心のまま、想いのまま。汝にはかつて送っただろう、あの剣の通りに」
 なあ、あれもまた罪深き剣というのか。
 心の儘に振るえと。そう刻んだあの言葉も罪深さなのか。
 違うだろう。惑わされるな。
 汝は我の双眸にだけ見蕩れていればいい。
「故に、貴様がどう評しようが知った事か」
 どうあれ、貴様は私についてくるのだろう。
 いいや、それ以外は認めぬ、赦さぬのだし、違うというのならそれは道理が狂っている。
「我は、我の為したい事を為す」
 狂っているのが我だというのか。
 ああ、それがあまりにも正しい言葉のように思えて。
 だからどうしたとフォルターは胸を張り、艶然と微笑んだ。
「そうであろう、トリテレイアよ?」
 煉獄であろうと、貴様とならば。
 そう思い、信じるフォルターの今は間違いなく真実だから。
 白炎に焼かれ続けるふたりは、鴻鈞道人へと眦を決する。
「さあ、反撃の時だ」
「ええ。あの渾沌(カオス)の化身に対し、為す事は一つですとも」
 女帝の威厳漂わせるフォルターを片腕で抱き、スラスターで疾走するトリテレイアが前へ、前へ。
「我は慈悲深いのでな」
 そしてフォルターは今もなお纏う死者の念を吸い上げ、喰らい、その身をヴァンパイアへと変貌させる。
 歩み往く道は外道の荒野なれど。
 この騎士となれば、いずれ何かの花も咲こう。
 その未来を過去如きに踏み躙らせはしないのだと。
「左眼しかない貴様でもよく見える様、脳があるか定かで無い貴様でも覚えられる様、殺戮に特化した黒血の刃を顕してやろう」
 罪深き刃だと評されるならば。
 禍々しき黒き血の剣を幾つもの従える姿はまさにそれ。
 フォルターは確かに、罪深い。
「暴虐の果てに得た、悪鬼の姿だ」
 だが、ああと。
 喉を鳴らせるような声を零して、不敵に笑うフォルター。
「……血を吸い育った罪と悪の妖花でも、それでも摘みたいという奇人もいる」
 故にこうなるのだと。
 黒剣を従え、切り刻む刃の舞踏を披露するフォルター。
 それは悉く白翼に打ち払われ、白炎に包まれ。
 砕け散り、焼け墜ち、灰燼となって風に散れども。 
 だからどうした。強さを誇るならば、子供にでもできると揺れることのないフォルター。
 真に強いとは。
「悪を為せるならば、善も為せる筈――とな」
そのように望む心だと想うから。
 今はその言葉を純粋に信じられると、更なる黒剣を紡ぎ出し、空を舞う鴻鈞道人へと襲い懸からせる。
「まだ、我は結果を出していない」
 ましてや、この御伽の戦機の前で。
「道半ばで、不定形な気色悪い輩に膝をつく訳がなかろう?」
故に舞い踊れよ。
 過去の血と闇より産まれし黒の剣たちよ。
 幾十と続けても無為というならば、更に幾百と。
 彼の騎士が駆け抜ける道をまずは紡げ。
 フォルターという傲慢の花も、彼が為ならばとその色艶を顕す。
 ついに鴻鈞道人の胸に突き刺さる黒の切っ先。真っ当なダメージは与えられずとも、攻撃力に特化したそれは空飛ぶ身を揺るがし、僅かな隙を作るから。
「人が願いし御伽を此処に!」
トリテレイアもまた推進器を轟かせ、虚空を飛ぶ。
 一瞬の隙なれど確かに漆黒の薔薇が紡いだものなれば、継いで続くが己が役目と知る白き騎士。
 禁忌の剣に、微かなる調べを奏でさせる。
 震える刀身。それは素粒子への干渉を可能にさせる超技術の表れ。
 ひとの想いが、知識が繋いだ夢の具現だ。
「無辺の故郷よ、未来築く秩序よ、命紡ぎし花々よ!」
 白い渾沌の大地、無貌と姿を変え続ける荒野にと。
 トリテレイアの祈りと声が響き渡る。
「コスモスよ、コスモスよ、コスモスよッ!」
 声に従い、声に同調し、大地の欠片がひとひらの秋桜と化す。
 いいや、それに続いて白い大地が秋桜の花畑へと変じていく。
「あの昏き無謬の宙において、幻想の中にのみ許された安寧よッ!」
 この歌に想いを共にする過去であるならば。
 共に未来が為に咲き誇らんと、禁忌剣の白と紫の刀身を掲げてみせる。
 誰かの安らぎが為に。
 届かなかった未来が為に。
 罪深き刃を、もう一度と重ねていくのだ。
何度でも、何度でも。そうやって繰り返す戦いこそが、罪咎の深さだと嘲笑われても。
「罪深き刃にて、冷たき鋼が希う!」
 此処に結べ、祈りの花。
 渾沌の地をただ虚ろな白のみに染め上げずに。
 自らの心を表し、共に戦って欲しいのだと過去に訴えるトリテレア。
「花園と黒薔薇を守護する一輪の……ブローディアの騎士たらん事を許したまえ!」
 トレテレイアひとりでは、きっと出来ないから。
 過去と共に進ませて欲しい。
 過去として阻む鴻鈞道人、彼がもたらす炎の破滅を退けて。
 トリテレイアとフォルターが罪人だとして。
 先に歩む事を、誰か守る騎士と、共に歩む姫として認めて欲しいのだ。
 故に最大駆動を響かせる禁忌剣、アレシクア。
 渾沌と大地を花園という秩序に。
 白き炎も未形の流動にも、形と色を与え、己を示させる。
 秋桜が舞い乱れ、フォルターの黒剣を包むは美麗なる花言葉――乙女の真心。
 理解しがたく、捻くれて、そして邪悪であっても。
 その底にあるのは何処までも、夢を願う乙女であることをトリテレイアは知るから。
「まったく、お前というものは」
 嘆息するフォルター。自らの心など、自らで示してみせよう。
 それが出来ず、どうしてお前の傍にいられるのかと。
 秋桜の花びらが成す海を越え、無貌の渾沌を斬り刻むべく深緋の眸を真っ直ぐに。
 もはや、それを血の色と喩えるものはきっといなくて。
「千回斬っても死なぬのならば」
 願う乙女の心。
 確かに剣呑で危うくとも、秋桜の色と共にある。
「万回斬り捨てるのみよ!」
 彼と、トリテレイアといたいから。
 過去に縛られるのはいやだと、骸の海たる鴻鈞道人に全力で抗うフォルターの黒血の剣。
「ならば、フォルター様が為に私が道を作るのみです」
 今までそうであるように。
 過去であるというのなら鴻鈞道人、あなたもまたよく私の信念を知るでしょう。
 そうと決め、守護したものの為ならば必ずや成すのだと。
「あらゆる辛苦を此の身に!」
 己が身を賭すように鴻鈞道人へと斬り掛かり。
 最初の時のように刃と翼で斬り裂かれ、貫かれるトリテレイア。
 白炎の貌を成して襲う辛苦。
 されど想いをもって斬り払い、禁忌剣にて秋桜と化すのだ。
 持ち得る罪咎の深さと等しく、鮮やかなる花を。
「素晴らしい」
 故に、鴻鈞道人の核たる何かを貫くのは必定なのだろう。
 せせら笑うのは止められないが、伝わる念話には痛みが滲む。
「だが、お前達は独善的だな。過去は変わることができないからこそ、輝く。誰にとっても成した輝きがそこにある。この渾沌の地が誰かの過去ならば、それを身勝手に秋桜へと変えたか」
 慈悲深い私でも。
 ああ、それは赦せぬなと左眼の視線がゆるりふたりへと流れて。
「……泣けないから、誰かの涙を消すか、戦機の人形。善を為せていないから、為した誰かの幸せを奪うか、黒の薔薇よ」
 お前達だけの過去と歩みのみが。
 素晴らしい至宝ではないのだと、鴻鈞道人が指鳴らした瞬間――渾沌の海の誠の脅威がふたりを襲う。
 秋桜が白き大地へと戻り、黒剣を成す亡者の念が骸の海へと還る。禁忌剣の超越技術の術理すら、その上から微塵に砕いて。
 これが鴻鈞道人の力。今までは全力を出しておらず、こちらに合わせて戯れていただけなのだと判る。
 どうして自分を滅せられない程度の、いずれ自分の一部となるものに全力を出す必要があるのだと。
「己が過去ばかりを尊く、大切だというのならば。他人の過去でもある私を越える事は出来はしない――抗う事は赦されても、斃す事は不可能だ」
 お前達はソレを見ていない。
 囁く鴻鈞道人。だからこうなると、秋桜も果てる。
 筈なのに。
「だと、しても……!」
 再びふたりを襲った白い炎の渦に焼かれながらも。
 禁忌剣を突き出す戦械の腕と、それに重ねるように黒き血剣を突き出す黒き乙女の腕。
 共に片腕は潰れたが、故に、互いの片腕を己がものとするように。
 罪という名の愛を信じて踊るのだ。
「ほう」
 そうして。
「なら、貴方に抗ったこの秋桜の名残は」
「――お前に否と。お前が無下にする、私達と共にある過去の想いと知れ」
 未だ尽きぬ微かなる秋花は。
 過去と言い切った鴻鈞道人に抗い、自らの意思を見せる様々なひとのよう。
 白炎が花びらと化し、トリテレイアとフォルターへのそれ以上の浸食と攻撃を赦さない。
「共に歩んだ想いこそ、お前をいずれ滅する道になるとも、な」
 だから。
 罪深き刃を、ふたりで届けて。
 喩え罪を重ねたとしても、なお前へと。
 より深く、より確かに、鴻鈞道人という存在を越え、骸の海にまでふたりの切っ先が届いた。
 フォルター曰く、これが生き方そのものなのだから
 重ねていく。紡いでいく。今なきものを。それが今に生きて、未来を歩み、護りながら進む者の光。渾沌をもいずれ晴らす、希望というもの。
 募り、宿し、確かな形となった暁には。
「その時には、別の答えも示しましょう――あなたが眠るに相応しい、言葉と花と、心と剣と共に」
今は滅することでぎずとも。
 刻んだ疵は、いずれ鴻鈞道人の滅びへと導くのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
確かにきみは僕そのものかもね
わざわざ慈悲深さを強調する所が特に

情も誇りも大切な物もなく
退屈を浪費するだけの虚無が
何故知的生命体の形で存在するか
実は有力な仮説がある
きみみたいなのに牙をむく為だ

何かが無差別に襲ってくる
つまり明確に僕を狙う訳ではない
分母が増えれば矛先も分散する
鴉達にも咎を引き受けて貰おう

僕だけを狙えないなら敢えて前進
対象が生体なら読心術と催眠が
物体なら逃げ足と受け流しが役立つ
生憎痛みに鈍い体質だ
死ぬまで止まれないよ

接近しつつUC使用
きみは自分を過去と定義したけれど
その存在を僕が再定義しよう

過去に存在したあらゆる肉食獣達が
きみという骸の海を
只の肉塊へ変えゆくだろう
これこそ皮肉だね

僕も仕事するよ
まず針を投げ左眼を狙う
獣達と言葉を通わせ連携し
鉈で彼を解体する早業を披露
一時的にでも『肉塊』に書き換え
精神や概念そのものを破壊する

役に立つかは判らないけど
彼の心が読めたら面白いね
顔をじっと見つめてみるよ

生きてるって素敵でしょう

その左眼も抉り出せたら良いけど
やめておくよ
何せ僕は慈悲深いから



 流動し、鳴動する渾沌の地。
 けれど無形であり、無貌そのもの。
 何でも形を変えながら、けれど、何かに成る前にと溶けて消える。
 骸の海たる鴻鈞道人と融合しているからだろうか。
 あらゆる過去にあったものを再現しようとし、けれど、何にも成れずに揺れ動く姿。
「確かにきみは僕そのものかもね」
 その奥で佇む鴻鈞道人を眺めながら、囁くは穏やかなる声。
 柔和で繊細、そんな容貌を一切崩す事無く。
「わざわざ慈悲深さを強調する所が特に」
 何処か暖かささえ滲ませるは鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)。
 彼はひとの心から程遠いのだ。
 近づこうとするということは、それを持たないということで。
 欲しい、欲しいと願うものから遠いのであれば。
 近づけないというのならば答えはふたつにひとつ。
 初めから胸の奥底に持っているのか。
 それとも、決して手に入らない奇跡の薔薇を求めているのか。
 彼はどちらだろう。
 鵜飼の穏やかなる紫の眸の奥底にあるのはどちらだろう。
 それこそ、渾沌の大地の有り様にも似ている。
 けれど。
 鵜飼は語る。自らの想いを。
「情も誇りも大切な物もなく」
 きっと大好きだと想うものができても、ふとした瞬間。
 飽きた。要らない。
 そういって投げ棄てるのが鵜飼だから。
 その原理が他から見て判らないのならば、ひとの情と誇りからはなんと遠いのか。
「退屈を浪費するだけの虚無が」
 それこそ暇つぶしにあらゆるものに触れるだけ。
 理解はするけれど。
 心と想いを寄せることはできない。
 難しいね、と今も微笑んで見せる美貌がその証拠。
「何故、知的生命体の形で存在するか」
どうして鵜飼がひとの姿で存在しているのか。
 四肢があって、顔がある。
 七竅ありて視て、聞いて、嗅ぎ、食して話す。
 その必要はどうしてあるのかと、鵜飼がほっそりとした指を立てた。
「実は有力な仮説がある」
「ほう」
 にこやかに語る鵜飼に対して、こちらも楽しげに鴻鈞道人が問い掛けた。
 左眼しかない貌に浮かぶ表情は一切読めない。
 けれど、鵜飼はたとえあったとしても気にせず、告げるのだ。
「きみみたいなのに牙をむく為だ――どうやら、僕はきみが嫌いみたいだよ」
「そうか、そうか。過去を振り返るのは誰しも忌む」
「ごめん、そういう難しいのはどうでもいいから」
 両腕を広げたのは共に同時。それはただの偶然か。 
 鵜飼の懐から飛び立つのは鴉たち。
 黒い翼を広げ、鵜飼の周囲を飛び回る。
「つまり、僕もきみに興味がないんだね?」
 そうして、夜色のネイルを塗った指先で虚空を撫ぜ、するりと鴉たちの飛び交う先を示す。
「ああ。誇りも嗅げねば、情も聞けない。ならばお前の言葉を確かめる術は私になく――どうでもいいか」
 故に邪なる波動が脈打ち、鴻鈞道人の両の掌から溢れ出るのは白い稲妻だ。
 これは何だ、と鵜飼が疑うことはない。
 何かが襲ってくる。それだけのこと。
 いつもと同じで、薄いにとって傍にある空気という怪物と変わりはないのだろう。
 ようは渾沌を畏れる心の有り様をしていないということ。
 未定義、未分類。何と判ればいいかなど、どうもでもいいから。
「鴉たち、頑張ってね」
 何かが無差別に襲ってくる。
 それなら明確に、狙って鵜飼のみを襲う訳ではないのだ。
 分母が増えれば敵意と殺意の矛先は分散し、威力は減じるというもの。
「鴉達にも咎を引き受けて貰おう」
 だとしても、迫る渾沌に対してみんな道連れなら大丈夫という精神は何処か可笑しい。
 穏やかに波打つ心そのもままならば、なおのこと。
繊細な美貌に浮かぶ表情も、柔らかな微笑みのみ。
「ああ、お前は私に興味はなくとも、私は経緯を払おうか。過去、骸の海からのだ。受け取るがいい」
「え、いやだなぁ。その辺りの石に変わりに送ってくれないかな。きっと喜んで受け取ってくれるよ」
 本当に困った顔をしながら語る鵜飼は、更に前へ。
 鴉がはためかせる黒翼を伴い、その夜色の裡にて前へ前へと歩み続ける。
 鵜飼だけを狙うことなど出来はしないと確信したのだ。
 骸の海の化身である鴻鈞道人を指して対象が生体物であると断じるのはあまりにも恐ろしい判断力。
 その上、鴻鈞道人に読心術と催眠術が通じるかと試すのも、ひとから遠く離れた精神構造だから為せるのか。
「ああ、成る程……」
 納得して頷く鵜飼。
 柔らかな笑みをその貌に広げて、口にするのだ。
「君は、未来に置いていかれるのが怖いんだね――前に進めない過去だから」
 それは真実か、否か。
 確かめる術はなくとも、白き稲妻の嵐が荒れ狂う。
 肉体的にはひとと変わらない鵜飼にそれを躱すことはではない。だが、言葉で誘導し、タイミングを絞らせるのは出来るのだ。
 辛うじて受け流し、雷撃に身を灼かれながらも緩やかに前へと歩き続ける。
「痛いな……相手の気持ち、考えたことある?」
「ああ。どうやらお前と相手する時、私はひとではなく動物と話していると想うべきだと、理解した」
「なんで?」
 純粋な疑問を浮かべながら鵜飼が接近し、ユーベルコードを発動させる。
『まあ、ひとでも動物でも――どちらでもいいよ。≪メビウスの輪≫』
 出来ればなりたいものはあるけれど。
 無理なら仕方ないよねと、鵜飼は唇より紡ぐ。
「きみは自分を過去と定義したけれど」
 伴う鴉の黒い翼は数を減らしても。
 今もなお、薄闇と共に歩くように鵜飼は鴻鈞道人へと近づく。
「その存在を僕が再定義しよう」
 結局、左眼だけでもしっかりあって。
 手足が二本ずつに、胴体がある。
 ひとの形をしている、肉であるもの。
「つまり、肉塊になれるものだ」
 鵜飼の足音が響く度に、誘われるように渾沌の地から這いずり出して表れるのは、無数の肉食獣。
 飢えている。乾いている。
 そこに肉の塊になれるものがあると、爛々とした瞳を鴻鈞道人に向けるのだ。
「過去に存在したあらゆる肉食獣達が、きみという骸の海を」
 そうして鵜飼の赦しを待たず、鴻鈞道人へと殺到する肉食獣の群れ。
「只の肉塊へ変えゆくだろう――これこそ皮肉だね」
 ゆっくりと鵜飼が微笑み、眺めれば。
 狼がいた。獅子がいる。 
 大鷹もいれば、幻想に生きた獣や、古代に生きた鮫まで大地を跳ねて。
「あ、メガロドン……いいよね」
 海ではなく、白い渾沌の大地の上を跳ね飛び、鴻鈞道人の左腕を食い千切って過ぎ去っていく。
 鴻鈞道人は痛みに声を出すことも、表情を変えることもないけれど。
「負けていられないね。僕も仕事をしよう」
 何故かと励む鵜飼の姿。
 しゅるりと。指の間より投げ放ったのは、昆虫標本を作る為の針。
 左眼を狙ったその針ばかりは右腕を掲げて防ぐものの、防いだ腕を今度は大熊に喰われる鴻鈞道人。
「さて、さて。頑張ろう、動物たち。餌はそこだよ」
 野生の動物たちと言葉を交わし、連携していく鵜飼は果たしてひとなのか。
 獣らしい飢餓を声で制しながら、鵜飼が求められた儘に振るうは羅生門
。鴉の羽を模した解体用の黒い鉈。
 早業で翻る刀身は、黒い瞬き。
 斬擊というには何処か禍々しくも、現実味をかいた冷たい刃が幾度となく繰り出され、鴻鈞道人を『肉塊』へと変えていく。
 一時であれ構わない。
 一瞬でも書き換え、精神や概念そのものを破壊するのだ。
 渾沌の海というよく判らないものなら、それを上書きして壊すだけ。
 そして一度壊れた精神、心、概念というものは戻らないから。
「儚いよね。みんな、ね」
 振るわれる鉈刃はひとの命より軽いのだと。
 肉塊となってしまった鴻鈞道人の身体を啄む鴉たちと共に、くすりと笑う鵜飼の美貌。
 そうして。
「面白いが、理解出来ないな。お前は」
 渾沌の大地から、ずるりと。
 そこに融合しているのだから、それ自体を全てどうにかしなければならないのだと。
 新しい肉体、器を紡ぎ上げて這い出す鴻鈞道人。
「凄いね。過去は微塵に斬り裂いても、追ってくるっていうのは本当だっんだ」
 殺せても滅することのできない存在。
 その事実を神秘的な紫でみて、やはり鵜飼は薄く微笑む。
 役に立つかは判らない。けれど、とじっと新しい鴻鈞道人の肉体を、顔を見つめる鵜飼。
 彼の心が読めれば面白い。
 どんな風に喜び、悲しみ、嘆いて怒るのか視てみたい。
 あれほど身体をぼろぼろの肉の塊にしているのだから、何かある筈。でなければ鵜飼のほうが悲しいのだと。
 見つめながら首を傾げ、理解できないからこそ鵜飼の胸に浮かんだことをそのまま言葉にする。
「ね」
 微笑みは変わらないアルカイックスマイル。
「生きてるって素敵でしょう」
 過去から這い出した獣たちも、血で濡れた喉で鳴いてそうだよと応えてみせる。
 実際はもっとと吼えているのだけれど。
 鵜飼にとっては同じこと。
「その左眼も抉り出せたら良いけど」
 変わりにと再び獣たちと共に襲い懸かり。
 鴉が飛びかかるような素早さで、黒い鉈刃を奮うのだ。
 血なんていやだよ。
 汚れるし、生暖かいし、濡れると気持ち悪い。
 そう言うかわりに、ひらりひらりと躱しながら。
「やめておくよ」
 するりと放つ鉈が鴻鈞道人の足を肉の塊に切り落とした。
 殺到する獣の牙と、唸り声でも掻き消されない距離で、鵜飼は囁く。

「何せ僕は慈悲深いから」

 君もそうだったね。
 有難うと微笑み、呟いて。
 次は鴻鈞道人の無貌を肉塊にするのだと、鉈は軽やかに空を泳ぐ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
ずっと疑問に思っていた
愛に溢るる旧い女神、誇り高き武芸者
揃いも揃って破滅を求めるのは何故だろう、と
彼らの、お師様の足跡を穢すのは、貴様か
――元凶!!

「憑紅摸」に己から▲生命力吸収させ、
其れを燃料に▲焼却の獄焔を身に纏う
消炭にならず焔を抜けて来た攻撃のみ▲咄嗟の一撃で弾き落としたい
敵の先制を防ぎ【天片・識即是遂】を発動
一足飛びに剣の境地、その紛い物を借り受ける


天網恢恢疎にして不失。
其の先触として、先ずは斬り祓うわ。

敵のUC発動に被せる様に▲先制攻撃
"遠い昔"に極めた「流水紫電」(▲ダッシュ)で間合いに入り
刹那の内に幾重にも折り重ねる▲早業の剣撃で
敵が繰り出す攻撃ごと切断しましょう

視えない、ですって?
ええ、此処に至る迄の過去は存在しないのだもの。
言った筈よ、一足飛びの借り物だって。
疾く失せなさい、周回遅れ。
過去は彼方に在りて、時折思いを馳せる物。
未来を拓く猟兵の前に滲み出で、
剰え歪めた過去に世界を没しようとする不遜……
罷り成らぬと知りなさい。



 この白い渾沌の地こそ、骸の海が一端。
 鴻鈞道人が融合して成った、彼方の大地なのだ。
 故に無貌。定まらず流れる形。
ならばこそと。 
 ずっと懐き続けた疑問を宿した藍色の眸がそれを見つめる。
 長く見続ければ、心に異常をきたしそうな混濁の様であっても。
 求めていた答えの一端がそこにあるから。
 むしろ研ぎ澄まされるような心と精神で、クロム・エルフェルト(縮地灼閃の剣狐・f09031)は視線を離さない。
 これは過去ならば。
 この大地は、黄泉のそれ。
 下手に見続け、心に含み、口にすれば、自らも黄泉のものと穢れてしまう。
 そうクロムも判っていても。
「ずっと疑問に思っていた」
 死んだものが埋もれる世界に、小さな声が零れ落ちる。
 クロムのそれには僅かな感情が色付きながらも。
 いまだその姿を顕さず。
「愛に溢るる旧い女神、誇り高き武芸者」
 死に果ててしまった者達の姿を、名を、思い出の中から呼び起こすクロス。
 今となって振り返れば、なんと切なく悲しき泡影なのだろう。
 あれほどに広い愛を。
 あれほどに強い剣を。
 懐き、担い、示し見せていたというのに。
「揃いも揃って破滅を求めるのは何故だろう、と」
 抱えた真実の想いとは裏腹に。
 滅びへとひた走るその姿。
 どうして。あなたはきっとそんな存在じゃない筈。
 憧れ、追いかけ、理想と夢の欠片をくれたのはただ破滅にひた走る影ではなかったのだ。
 ああ。
 だからこそかと、今、クロムは納得して鞘に秘めた刀の柄を握り締める。
「……お前、か」
強く、強く。絡めた指に痛みが走るほど。
 そうやって心が乱れるのは未熟の証だと、胸の奥で声が聞こえるから。
 あの過日の師の誇りが示す輝きと温もりが、嘘や幻ではないのだと、確かに感じさせてくれるから。
「彼らの、お師様の足跡を穢すのは、貴様か」
 今、赫怒と瞋恚の念を懐いてクロムは抜刀する。
 鞘走る音の苛烈さは、クロムの想いの熱量故に。
 激しく燃え上がる炎を想わせる刃の瞬きが渾沌の地の白さを斬り裂いた。
 喩え身を粉塵とまで砕かれも潰えぬ戦意にて吼える熾烈なる剣士の姿が此処に在る。
「――元凶!!」
 またの名を骸の海、鴻鈞道人。
 せせら嗤うその左眼だけの貌へと、刻祇刀・憑紅摸の切っ先を突きつける。
「何を言う。私はただ、常に傍に在り続けただけだ」
 クロムの生命を吸い上げ、赤々とした輝きを産む刃の前で、なお鴻鈞道人は騙りて笑う。
「終わりたい。破滅を願う。ああ、確かに私は炎の破滅を視たいと想うが、相争い、命を薪にしてそれを呼ぶのはお前達だ。罪深き刃を刻まれしものよ」
 或いはと、白い肌に白い入れ墨のはいった腕を伸ばして。
「――命乗せた剣で斬り合う先に永き夢を見る、剣士という罪人よ」
 刹那にて散る命と心得て。
 なお未来を目指し、他人の未来を奪うとは。
「何処までも罪咎に塗れている」
 まさに私そのものだと、より深く、邪なる念話を響かせる鴻鈞道人。
「違う。そのようなものを目指していたのではない。私は、お師様は!」
 過去たるもの、骸の海ならば懐いていた志とて判る筈。
 桜のように散れど、潔く。
 想い、未練を残さず、剣に宿した想いを後に継ぐ。
 信念と魂の不滅を信じるからこそ果敢にあれて。
 罪なる茨道とて、痛みと苦しみに眼を濁らせずに、真っ直ぐに歩めるのだから。
 命を惜しむ必要がないと、伴に在る心があるから果てに挑める。
 そうやって継がれてきたものこそ、刃金が響かせる矜持というもの。
 故に穢すな。
本当はその裡に抱いて判る癖に。いいや。
「どのような想いでその道をひた走ったか。判るが故に弄して笑うなど、決して赦さぬ!」
 ならばこそ、命儚むを知り。
 なお越える剣の輝きを示して暮れようと、クロムが手に執りし憑紅摸へと生命力を捧げ、刀身より引き出した獄焔を身に纏う。
 全てを焼灼するその炎は、己が覚悟と想い故にある。
 薄刃の上を歩む道なれど、クロムが命と誇りを落とす事などありはしないのだ。
 生半可なものがくれば、ただ消炭するのみと舞い上がる獄炎。
「そうか。では、試してやろう」
 愉悦。鴻鈞道人のその気配が転じて閃くは邪なる剣。
 命を奪う為だけの殺人剣。裏太刀の冴えはクロムが背筋を振るわれる程。加え、その刀身に宿された白き稲妻。
「此ほど……」
 獄焔を喰い破り、届く剣と雷撃。
 生半可な技ではない。過去、骸の海から取り出した渾沌――過去の剣豪の技であれば、なおのことクロムは軽んじない。
 敬意さえ払おう。その技に対しては。
「此ほどを放ちながら、なお侮辱するか」
 だが、この剣を笑って罪と言葉転がす鴻鈞道人は決して赦さない。
 切っ先がクロムの身に触れる直前、閃いた憑紅摸がその切っ先を咄嗟に弾き落とす。
 芯たる誇りがないからこのようにブレるのだ。
 真心をもって、己として振るえば剣は応えるから。そうであったのなら、先の一撃で決着はついていた程だと、クロムは惜しみさえしながらも。
「ならば」
 敵の無知の先制は防ぎ、敵の斬擊を弾き落とした間隙を突いて。
 クロムが開眼へと至るは、無煩天の様。
『今開こう、極致の天(ソラ)を――』
 一足跳びて剣の境地、その紛い物であれど身につけるのだ。
 情動を破却したからこそ常時、明鏡止水へと冴え渡る心は清月の如く澄み切っている。
 迷い、怒り、悲しみに交ざった藍の眸はもう此処にはない。
 あるのは純然とし、凜然と悉くを見つめる剣の双眸のみ。
 ならばこれよりクロムが巻き起こす刃風も、ただ荒れ狂うには非ず。
「天網恢恢疎にして不失」
 決して天は何事も見逃さない。
 これは運命の糸にして、一度逃れたと想っても、必ずや訪れる応報。
 鴻鈞道人。お前が強いからこそと、天の眼を欺けたと想ったか。
 天の道理も覆せると、驕りて喉の奥で笑い続けられていたのか。
 ならば、この剣にて正してみせよう。
「其の先触として、先ずは斬り祓うわ」
 故にと奔るはクロムの熾烈なる剣閃。
 仙狐式抜刀術の要とも言える足捌の秘奥は、されど音も気配もなく。
 紫電を纏う足下に水飛沫のような蒼い粒子を舞わせ、鴻鈞道人の間合いをすり抜けた。
 神速を得て斬り抜けるクロムの斬刃。止める者などなく鴻鈞道人の胸を斬り裂く。
 身ごと翻す返す刃はさらに峻烈。惜しむものなどないと、全身全霊で奮われた切っ先が、鴻鈞道人の心の臓を斬り裂く。
 滅する方法がない。なら構わない。幾度も繰り返すのみ。
 三度重ねて吹き抜けるは灼刃の息吹。
 裏地に美しき揚羽蝶の模様が記された羽織り、霊威羽織が幾度となく翻る。
奮う刀もまた、揚羽蝶の如く重さのないものだと錯覚するほど。
 迅にして鋭、凄烈にして怜悧なる斬刃が此処に在る。
 クロムの燃え盛る志を宿し、無常に命散らせる剣舞として。
「さあ、剣の極致。師と、その師と、祖より受け継がれた冴えは如何か」
 幾重にも重ねられたクロムの剣擊は見切れるものではない。
 全てが刹那に終わり往く鋭刃なのだ。
 見極めるクロムの双眸は鴻鈞道人の技の起こりを読み切り、攻撃や防御へと転じる前に要たる部位を切断して行動へと繋げない。
 連なりて成るは神速の斬擊。
 鹿島が奉る天の大神とて、感嘆の息を零すほど。
 されど――武の心を知らぬ、存じぬと吐いた鴻鈞道人には見える道理はないのだ。
「これは……至った、過去、さえも」
 呼吸さえ斬り裂かれて、言葉が上手く紡げない。
 それでも笑う気配を変えないのは流石、渾沌の海。
 刃の一振りで大海は切り裂けない。
 だが、だからと諦めて終わる夢ならば、今のクロムへと継がれるものではないのだ。
「視えない、ですって?」
 それは当然。当たり前。
 今を生きるものならばその大小は判らずとも、似たものを視たことがはず。
「ええ、此処に至る迄の過去は存在しないのだもの」
「――――」
 断崖への飛翔。
 至る道はなくとも、一跳びにて踏破していくそれ。
 一言に陳腐で表せば奇跡の具現だ。それが夥しい修練と、先人たちの教えの積み重ねが引き起こしたものであれ。 
「一足飛びの借り物。でも、真実、此処に在る。継承され続けた、剣の夢が」
 お前が笑った罪人の夢が。
 こうしてお前を斬り刻むのだと、切っ先が詠う。
「疾く失せなさい、周回遅れ」
「成る程。幾度も人生を巡った者の教えを、志を、想いを切っ先に」
 ならば届かぬ訳だと。
 それでもと渾身の力と意を込めて。
 クロムの憑紅摸と激突し、絡み合う鴻鈞道人の邪なる宝剣。
 それが如何なる稲妻を宿していたとしても。
 過去の、昨日までのクロムの武と技を映し、奪う邪光を宿していても。
「研ぎ澄まされた光はこうも美しいか。――これが私の裡へ、骸の海に墜ちるのが待ち遠しい」
「そのような」
 未来は非ず。断ち斬るのみ。
 剣にて望む明日への道を斬り拓くのだと、鴻鈞道人の邪剣を弾いて、返す切っ先が笑い続ける喉を斬る。
「声も、指も、私達には届かぬと知りなさい」
 ようやく擦れ違う様に。
 クロムの憑紅摸と、鴻鈞道人の宝剣が火花を舞わす、刃金が衝突する澄んだ音色を奏で散らす。
 切っ先が吼えるように風を幾重にも渦巻かせ、鴻鈞道人の血飛沫をも逃さず。
 霜風に似た冴え、されど、烈火そのものの剣威をクロムは振るい続ける。
 何時まで。知らぬこと。
 どうすればこの鴻鈞道人は滅する。
 考えるに値しない。
 ただ研ぎ澄ました刃で、全てを越えてだけ。
「抗うではなく、斃す――天魔覆滅の剣威を示せ」
 そうだと。鴻鈞道人を斬り伏せる憑紅摸が、斬風を以て応えている。
 剣ならば。
 切れぬものを、切るまで為すだけ。
 成せぬものは、為さぬひとの心の弱さならば、成す全ては為すひとの心の強さ。
――そう、お師様も。
 いってくれるのだと、無心にクロムは信じて剣を奮う。
 ついに骸の海を退ける程に紡がれたクロムの太刀筋は、もはや無尽の剣。
「未来を拓く猟兵の前に滲み出で」
 肉体の負傷は悉く、一体化した渾沌の大地から補給して補っていた。
 いわば鴻鈞道人は泥の身体。どれほど切り刻めど、渾沌の泥たるこの地ごと滅しなければ意味は無く。
 けれど、クロムの剣気はついに肉体ではなく鴻鈞道人の心、魂の核を捉えるのだ。
「剰え歪めた過去に世界を没しようとする不遜……」
 故に鴻鈞道人の傷が癒えれど意味はない。
 真に負傷を抱え、渾沌に剣の理を届けられて、この場より存在を薄めていく。
 撤退――ならばこそ、更にと、クロムは攻め掛かる。
 諸行無常。
 全ては儚く消えるのだと、双方に唱える美しき刃の響きよ。
 それは過去を掘り返す不遜な輩を認めぬということ。
 盛者必衰。
 奢れるものは久しからず。それを知るからこそ、懸命に生きるいま。
 いずれは自分も頽れ、道となり、そして次のものが歩むからといまだ視ぬ未来を誇れる。
 目指した頂点は、天下無双とは、こんなものではないと尽きぬ情動があるからこそ。
 我は不滅なれど、滅びを呼ぶもの。
 お前達の常に傍にある、お前達なのだという不遜など。
「罷り成らぬと知りなさい」
 無謬なる剣の吐息。
 起こりも見えねば、太刀筋も判らぬもの。
 ただクロムの斬るという一念が為した刃は、確かに鴻鈞道人の身と存在の格をすり抜け。
 灼閃を以て、その頸を斬り別つ。
 怨敵とも言える存在の首が墜ちるその時も。
 凪いだ貌をみせるはクロム。
 ただの刃。
 ただ、刃であるということ。
 それを奮うものの矜持を、そこに残して。

――ちんっ、

 と、早業で鞘に納めた憑紅摸。
 幾ら骨肉を斬り裂いても震えぬは、クロムの想いと同じく。
 ただ藍色の双眸は。
 この渾沌の地より逃れ、退いていく骸の海の気配を感じている。
 無傷ではない。
 滅ぼすことには至らずとも。
 骸の海、鴻鈞道人の奥底にある何かまで刃は斬り、断ったのだと感触を覚え、残して。
「私は……受けた仇を、斬れたでしょうか」
 しずかに、ひっそりと。
 誰にも届かぬように、ただ鞘へとクロムは声を零す。
師であり養親である剣豪へ、微かでも恩を返せたのだろうか。
 今もクロムが信じ、懐く魂というものをくれたひとに。
 これからも返し続けていけるのだろうかと。
 けれどクロムは知っている。
 未来とは常に、手に執りし剣で切り拓くものだと。
 わかっているからも、ただ想いをもって剣を握り、奮うのだ。
 ただそれを続けるだけ。
 儚くも果敢に。
 白刃に己が命を晒すこと危うくとも。
 怖れること、ひとつの影もあらずと。
 クロムは静かに、瞼を伏せた。


 過去など幾らでも超えるものだから。
 確かに不変で不滅。変わらぬものなれど。
 それを認め、けれど、侵されず。
 越えて、明日を、未来へと心を届けることこそ。

 ひとが生きるということなのだから。



 清らかな風が吹き抜ける。
 戦の終わりを予感させる、穏やかなる天の吐息に。
 クロムはようやく、頬を緩めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月29日


挿絵イラスト