殲神封神大戦⑭〜梁山泊の死闘・仙女は酔生に死を夢見る~
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――仙女『妲己』は泣いていた。
ああ、ああ。どうしてこんなことに。
封神台の建立の為、自らを蠱毒の贄としその身を捧げた結果がこれだなどと。
ああ、私は何の為にあらゆる罪を犯したのでしょう?
自らを蠱毒の贄とし、あらゆる色欲と殺意の坩堝とし、魔女としてこの世界で屠られることで世界に調和を齎すハズだった。
それがいざ時が経てばどうしたことか。
己に平和への礎となることを課した仙翁たちが死んだどころか、自らの命を供物として作り上げた封神台(へいわのしょうちょう)すらも壊されて。
そして、平和の為に封じ続けるハズだったオブリビオンへと、自らは成り果ててしまったなんて。
「ああ……ああ……こんなことなら、私は……私は、何の為に――」
そこから先の言葉は声にすらならず、妲己はただただすすり泣く。
「……お願いです……誰か、私を――」
●
「……妲己を殺してやって欲しい」
予知の内容を語る地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)の顔は非常に鎮痛な面持ちで、今にも泣きそうにすら見える。
「死が救いだなんて流石に思いたくはない。けど、これじゃあまりにも……」
封神仙女『妲己』は、自らの手で自らを終わらせるという選択肢すら選べない。
離反を恐れたかつての仙翁たちによって移植された、自動発動型のユーベルコード。
そのどれもが彼女の意志とは関係なく発動し、自死を阻んでしまうのだ。
彼女は生前望まぬことを嫌という程やってきた。
嫌だと言うことすら許されぬ環境に身を染め、後世の平和の為に自らの存在そのものが罪と言わしめる程にまでその手を血に、色欲の蜜に染めて。
そうしてできあがった封神台は平和の象徴となるハズだったのに――封神台は破壊され、妲己はオブリビオンとして蘇ってしまった。
その上彼女が陣を置くのは、かつて宿星武侠たちが大乱にて集いし時、人界においての拠点とする為に作られた山岳武侠要塞・梁山泊。
幾千幾万もの武器が湧き出ては侵入者を殺す、死の山岳なのだ。
それはつまり、誰かが彼女を殺そうとする前に殺される魔の地でもあるということ。
そんな場所に陣を置くことになった彼女は、ある意味で最も世界に残酷な仕打ちをされた存在……と言っても過言ではないかもしれない。
「唯一、宿星武侠を襲わないという特徴はあるが、例えそうだとしても妲己の持つユーベルコードは強力だ。決して彼女を死なせない為のものなのだから。
とても厳しい戦いを強いられるだろう……でも、どうか。彼女を救ってやってくれ。
彼女もまた、オブリビオンによって翻弄された犠牲者だから――」
深く頭を下げ、心壊にして無穢の白き竜は、猟兵たちを濁流流るる魔の山脈へと転移陣を開いた。
御巫咲絢
御巫は三国志系とか封神演義には疎いんですが、妲己はだいたいどこでも悪女的なニュアンスが多かったのでこういうのとても新鮮だなあと思う次第。
こんにちはこんばんはあるいはおはようございます、初めましての方は初めまして御巫咲絢です。
当シナリオの閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページをご一読くださると幸いです。
というワケで戦争シナリオ4本目です。
世界の礎として蠱毒の贄となした罪に染まった仙女を止めてやってください。
●シナリオについて
当シナリオは『戦争シナリオ』です。1章で完結する特殊なシナリオとなっています。
判定は「やや難」となっていますので、普段とは違い厳し目な判定をさせて頂きますのであしからずご了承ください。
当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。
●プレイングボーナス
無数の武器が飛び回る中で、妲己の先制攻撃に対処する。
妲己のユーベルコードは自動発動型の為、先制攻撃=先制ユーベルコード、と捉えて頂ければと思います。
また、宿星武侠のPCさんが参加された場合は梁山泊の飛び回る武器の影響を受けない為「相手の先制攻撃(ユーベルコード)に対処する」対応をして頂けましたらプレイングボーナスを満たしたものとさせて頂きます。
●プレイング受付について
プレイング受付:1月19日(水)8:31~受付開始予定です。
主にリアル仕事都合の為お受けできる方が非常に限られます。申し訳ない……!
ま受付期間外の方は一旦失効を以てお返し致しますのでどうしても!という方はご再送をお願い致します。
また、プレイング採用は「成功か大成功判定を出した方のみ」かつ、『執筆は先着順ではありません』。
あしからずご了承頂きますようお願い致します。
それでは、皆様のプレイングをお待ち致しております!
第1章 ボス戦
『封神仙女『妲己』』
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POW : 殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD : 流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : 傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
イラスト:碧川沙奈
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
隠神・華蘭
部屋突入前に手持ちの葉っぱを固め【化術】で分身を作りわたくしはおでこの葉っぱに化けて張り付きまして。
この分身を【念動力】で動かして飛んでくる武器と先制UCを受けてもらいます。
術を解いて次が来る前に仕込みです。
さ、わたくしにお願いしてくださいな「自分を殺せ」と。
妲己さんの命令を受託してUC発動、【残像】ができるくらいの速さで【逃げ足】を駆使して武器を避け彼女に接近して引っ掴んで壁際まで駆け抜け壁を背にして【彼女に盾に】なってもらいます。
悪趣味なのは百も承知です、逃がさないようしっかり抱きしめてこの身を覆う炎で【焼却】してあげます。
……ま、痛み感じないよう【催眠術】くらいはかけてあげますけどね。
●
濁流長るる魔の山岳。
四方八方から武器が睨みを聞かせているその中心で、かつて魔女とされた仙女は静かに涙を流している。
そこに開かれる転移陣、グリモア猟兵の導きにより先陣を切ったのは隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)。
足を踏み入れた瞬間、梁山泊に眠りし武器たちが一斉に目を覚まして暴れ狂う。
だがそれに怖気づくことなく華蘭は駆ける、駆ける。一目散に。
「……ああ、きてはなりません。ここは宿星宿す戦士以外を拒む魔の領域、貴女の命が摘み取られてしまいます……!」
華蘭に襲いかかる武器を目の当たりにした妲己はそう言うが、彼女の意志に反して胡蝶の紋を宿した流星の剣が妲己の身体をふわりと浮き上げて武器の群れに続かせる。
「ダメ……!逃げて……!」
「お気遣いはありがたいですけど、そうはいかないのですよねえ……ッ!」
まるで羽衣人のように軽やかに舞い、華蘭は武器の群れをいなす。
とはいえ一人でこの無数の武器を相手にするには限りがある。
最初こそ軌道をいくつか見切って躱すものの、次々に襲いかかる多種多様の武器は流石にそれぞれ二つしかない目と耳では追いきれない。
「避けて……ッ!!」
涙が溢れるままに妲己が叫ぶが――時既に遅しと流星胡蝶剣は華蘭の身体を貫いた。
――ああ、また。もうこんなことはしたくないのに。
仙女の心に再び絶望の色が差し込んだその時、ぽふん!と煙る音共に大量の葉っぱが風邪に攫われる。
「え……?」
いったい何が起こったのか。思わず目を丸くする妲己の前で吹き荒れる木の葉の嵐の中、華蘭は姿を現した。
そう、これは所謂化術という奴だ。
ここにくる直前に、華蘭は大量の葉っぱをかき集めて化術を用いて自らの分身を作り、その分身の額にティアラのようにあしらわれている葉っぱに自らを化かすことでここまで無傷でたどり着いたというワケだ。
まあ、そんなギミックであったことなど妲己には知る由もないが、彼女は殺さずに済んだことに安堵の涙を流し始める。
「ああ、よかった……またいたずらに殺さねばならぬのかと……」
「あれぐらいでは私たち猟兵は簡単には死にませんから大丈夫ですよ。さ、妲己さん。わたくしにお願いしてくださいな。
――"自分を殺せ”、と」
その望みを叶えるべく、そして世界の平和を取り戻すべく、猟兵はここに訪れたのだから。
妲己は華蘭のその意志を信じ、涙を流しながらこくりと頷いた。
「……お願いです。私を――殺してください」
「ええ、確かに引き受けました――いきますよ」
刹那、不気味に静寂を保っていた武器たちが一斉に暴れ出し、華蘭を再び貫いく。
妲己の悲鳴は最早声にすらならない――だが、貫かれた華蘭の姿がまるで陽炎のようにかき消えた。
そして同時に妲己の視界が揺れる。
残像すら生み出す程の速さで接近した華蘭にその身を捕らえられたのだ。
ユーベルコードが生み出した金色の炎が妲己を包む。
【山口霊神の加護】を受けた今の華蘭は身体能力が爆発的に向上し、あらゆる技術を天才と同等の精確さで使用できる。
故に妲己の動きを封じることも、盾代わりとして扱うことも造作もない。
追いかける武器たちを誘導し、行き止まりとみせかけて華蘭は壁を背に妲己を武器に対する盾とする。
傍から見ればあまりにも悪趣味な光景だろう。金色の炎で焼き焦がすだけでなく遅いかかる武器たちに立ちはだかる肉壁としても利用しているのだから。
オブリビオンですら間違いなく受け続ける痛みから死を望みかねない程の衝撃が妲己の身体を次々に襲う。
「……優しいのですね」
だが妲己は、それらを請けながら柔らかく微笑んだ。
あまりにも悪趣味な手立てだと解っていたが故に、華蘭が催眠術で自身から痛覚を奪っていたから。
「悪趣味なのは百も承知ですから。でも安心してください、死ぬまで離すつもりはありませんからね」
「ええ……それでいいんです。ありがとう」
金色の炎は妲己を貫く武器たちをも巻き込んで、より強く、激しく燃え上がる――
成功
🔵🔵🔴
ミア・ミュラー
ん、とってもいい人、なんだね。また倒されるなんて嫌なはず、なのに……。それでも願うなら何とか叶えて、あげないと。
たくさんの武器だけど怯んでは、いられない。正面からの攻撃は傘を広げて、上と横からのはソリッドダイヤとアーデントクラブを操作して、後ろのはひとりでに動くコンパスで、それぞれ受け流しながらダッシュで向かう、よ。
魅了の香気には、桃月桃源郷で作った光風桃帯の、出番。髪を束ねていたのを解いて、振り回して魔力を浄化しながら風を起こして、吹き飛ばす。
あの人のもとに着いたら【陽はまた昇る】の、光を。ん、あなたはとっても頑張った、のね。わたしたちがきっと忘れない、から……あとは任せてゆっくり、休んで?
●
「ん……とってもいい人、なんだね」
ミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)が妲己に対して抱いた第一印象がそれだった。
かつて悪女として、魔女として人々に討たれた時はそれが必要だったからとはいえ、とてつもなく苦痛を要することだったのだろう。
もう一度死を迎えるということは、そのとてつもない苦痛を再び体験することと同義に他ならない。
そんな想いをするのは例え彼女だって嫌であろうに。
「いい人……いい人などではありません。私は"そういう風に語られている"のですから……」
自虐気味に妲己は呟く。
そう、例えどのような理由があったとしても彼女の犯した罪は犯した罪であり、消えるものではない。
それを強く自覚しているからこそ、自分はここに居てはいけない。
今を生きる者たちの前に立ちはだかってはいけないのだと。
故に彼女は死を望む。
もう生きていたくないし、もう誰も傷つけたくはないから。
「……また倒されるなんて、とても痛い想いをすることになる、よ。なのに……それでも願うなら何とか叶えて、あげないとね」
「今ならまだ間に合います。貴女のような幼子がこのような場所にきてはいけません。早く逃げて……」
「逃げないよ。だってわたしも、猟兵、だから」
――助けてくれたみんなのように、わたしも誰かを助けたいから。
傘を広げてミアは武器の波に自ら飛び込む。
その頑丈さたるや、最早全てがアダマンタイトやオリハルコンでできているのではないかという驚異的な硬度であり、襲いかかる武器が逆に刃こぼれまで起こすほど。
死角から襲いかかれば自律式のシールドコンパスが受け止め、ならばと上空と左右から攻めれば諦めぬ意志の象徴たるダイヤがそれらを弾き、立ち向かう勇気の象徴たるクラブがその鉄を溶かす。
これぐらいで怯んではいられないと、ミアは的確な対処をしながら妲己に迫っていく。
その自慢の健脚を止めようと、妲己の意志とは裏腹に今まで積み重ねた罪の象徴たる万物を魅了する香気がゆるやかにミアを包み込む。
「ああ、また……」
妲己はさめざめと崩折れてすすり泣く。
彼女の放つ万物を魅了する香気は生命どころか無機物や自然体すらもさも当然のように手駒に操ることができるもの。
故に生半可な対応では防ぎきれない――故にミアもまた切り札を切る。
光風桃帯……桃月桃源郷で紡ぎあげた宝具を髪の毛から取り外し、振り回す。
この霊帯が風をなぐだけで浄化の波長が広がり、魅了の香気の効果を阻害する。
遥か彼方にまで飛ばしてしまえばこれ以上警戒する必要はない。
そうしてミアは終ぞ邪魔されることなく妲己の目と鼻の先まで迫いつき――太陽を放つ。
【陽はまた昇る(セカンド・サンライズ)】。
あらゆる敵の魔の力を拒む灼熱を帯びた太陽はその浄化の光で妲己と武器たちを照らす。
「……ああ。何て綺麗な光……」
それには思わず妲己も手を伸ばす程の綺麗な輝きがある。
当然ながら伸ばしても届かない。だがこの光は何故か不思議と暖かく、自らの罪を全部濯いでくれるかのような慈悲深さと神聖さを感じずにはいられなかった。
そんな妲己の眼の前にたどり着いたミアは、にこりと微笑んで声をかけた。
「あなたはとっても頑張った、のね」
「!」
「わたしたちが、きっと忘れない、から」
ああ、そのような言葉をかけてもらったのはいつぶりだろうか?
誰しもが悪女と呼び、罵り、虐げる扱いを受けながらも使命に準じた妲己にとっては、その言葉だけでもかなりの救いになったのか、再び大粒の涙をぽろぽろと零し始めた。
「ああ……ああ……私のしたことを無駄ではないと、言ってくださるのですね……」
「うん。……あとは任せてゆっくり、休んで?」
「ええ……お願いします。どうかこの世界に、平和を――」
優しい破魔の光に包まれその身を浄化されながら、妲己はしばらくぼろぼろと泣き崩れながら、その光に身を焼かれ続けた。
成功
🔵🔵🔴
夜刀神・鏡介
人は生きてこそだが、過去の存在たるオブリビオンであれば最早……
そうするしかないのなら、ああ。殺そう
……彼女自身の意思はさておき、その力は間違いなく強敵。なら、全霊で相手を
神刀の封印を解放、神気によって身体能力を強化
この状況下で動き回りながらだと状況把握が遅れる。基本的には立ち止まり、最低限の回避をしながら斬撃波で武器を弾き飛ばし、刀で妲己の攻撃を受け流しにいく
先制攻撃を凌いでUCが使用可能になったなら、陸の秘剣【緋洸閃】を発動
緋色の刀で飛び回る武器を迎撃しつつ妲己にも攻撃。こちらは直接狙うというよりは彼女の移動先を塞ぐように刀を降らせて牽制しながら接近
直接切り込んで、一気に攻撃をしよう
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「……人は生きてこそだが」
と、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は思う。
――だが、それは"今この時を生きる者に限った話”だ。
過去の存在たるオブリビオンであれば、最早再びの生を得ることそのものが世界にとっての厄災に他ならない。
当人らが望む、望むまいにしろ"世界の敵"そのものになってしまったのだから。
それはこうしてこの世に再び顕現してしまった妲己本人が何よりも痛感していることだろう、故に自ら死することもできぬこの状況に深く嘆き絶望している。
「――そうするしかないのなら、ああ」
殺すことが救いになる……そのような状況に遭遇しなかったことがないワケではない。色々と思うところもある。
だが、それでしかこの眼前の仙女が救えぬ以上、そうすることが最善なのだろう。
もし彼女が生きている存在であれば、他の道を探すことも考えられたのだが……なんてのも過ぎったが、そんなことを考えている暇はない。
妲己自身の意思はさておき、その力――植え付けられたユーベルコードの力は計り知れない。
「全霊で相手をしよう」
「……ありがとうございます」
嘆きの涙を尚溢れさせながら、妲己は鏡介のその選択に感謝した。
ああ、何と浅ましい。自らの介錯ができずに誰かに頼むしかできないなど――そんな彼女の想いとは正反対に、流星胡蝶剣の魔力は妲己を自らの振るい手として糸をくくった人形のように動かす。
そして、それに呼応した梁山泊の武器の群れが一斉に鏡介に刃を向ける。
「神刀、解放」
鏡介は神刀【無仭】の封印を解き放つ。
とめどなく溢れるその神気は彼の身体を怪奇人間という種の埒外へと簡単に至らせる程の力を与え、あらゆる感覚を研ぎ澄まさせる。
現在の状況を端的に例えるならばまさに四面楚歌、鏡介の周囲を武器の群れが囲っている。
この状況下で動き回ることは状況の把握が遅れ、致命傷を許してしまう可能性が非常に高い。
故に敢えて鏡介はその場から動かぬ選択を取った。動く時は相手が先に動いた時だけ。
早速その通りに武器の一本が襲いかかる様子を見せたので先手を取って刀を薙ぐ。
形成された斬撃波が武器を彼方へと吹き飛ばし、ついでに斬撃波の余波が周りを囲っている武器たちを吹き飛ばす。
後ろに回り込まれても神気により増幅した感覚でそれを捕らえ、最低限の動きで回避。
そして妲己を使い手として振るわれる流星胡蝶剣をその神刀の刀身が受け止め、流す。
確かに強力なユーベルコードだが、妲己自身がこの剣の扱いを心得ているかと言うと恐らく否であろう。猟兵にまで上り詰めた者となれば、その剣筋を見切り、流すことは容易いように思えた。
そして、その一撃をいなしたということは相手の先制攻撃を凌いだことを意味する。
「"斬り穿て、千の刃”」
鏡介の起動詠唱句に呼応して、神刀【無仭】はさらに強く神気を放つ。
それは練り上げられて緋色の刀となり――
「――陸の秘剣【緋洸閃】!」
――魔の山脈に降り注ぐ。
それは眠りから目覚めた武器たちを穿ち、斬り落とし、吹き飛ばし。耐えたとしても作り上げた切創が武器としての形を保つことすら許さない。
その緋色の刀が雨の如く落ちる光景はまさしく神の裁きが如き神々しさ。
その刃から逃れんと、流星胡蝶剣が妲己を担い手として無理やり動かすが、行く先々を緋色の刀に防がれる。
その度に、妲己は自らの身体が鉛のように重くなっていくのを感じていた。
鏡介のユーベルコードにより放たれる緋色の神刀は相手の動きを封じる楔としての役割を持っているからだ。
故にどれだけユーベルコードによって無理やり逃されようと、動きが鈍れば当然追い詰めるのは容易くなる。
妲己の眼の前には、鏡介が既にもう迫っていた。
「……貴方の優しさに、感謝を」
「その言葉、受け取ろう」
迷いなき一閃が、確かに仙女の身体を切り裂いた。
成功
🔵🔵🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK
※戦場⑬で入手したサシェ型宝貝【魔符桃香】を持参
部屋に入る前に、深呼吸なの
(内ポケットのサシェに触れて)
桃の精さん、力を、貸してね?
桃色の温かくて気が鎮まる闘気を纏うよ(【狂気耐性・呪詛・落ち着き・ジャミング】)※UC対策
桃の闘気に魔力を乗せて、強力になった【オーラ防御】の【結界術】で守りを固めて、【勇気】を出して、行くの!
妲己さん、望みを、叶えて上げに来たよ
結界・闘気と【第六感】、狼の脚力【ダッシュ・残像】も合わせて、武器を避けながら近づくの
手を差し伸べる様に、【浄化】の【祈り】を込めたUCを【全力魔術】で発動
ごめんね?
今のぼくには、こんな形でしか力になって上げられないの…
シホ・イオア
自らを犠牲にしてまで残した未来を、
貴方の手で壊させたりしない。
シホが、解き放ってみせるよ!
対妲己用宝具「天劾魔鏡」を身に着けて魅了に対抗。
さらにシホ自身の【破魔】の力と【呪詛耐性】・【狂気耐性】で抵抗力を強化。
数秒でも時間を稼げたらUCを発動。
ダメージ対象は妲己のみ。
「世界を癒せ、シホの光!」
香気を祓うため【破魔】と【浄化】を、
妲己の心を【慰め】るため【祈り】を込めて放つ。
UCだけで倒せなければ剣・空飛ぶハート・ガトリング砲を使用。
敵の物理的な攻撃は【空中戦】【残像】で回避。
シホの大きさなら動き回れるはず。
ダメージは【オーラ防御】と【見切り】で最小限に。
アドリブ連携歓迎。
●
「すぅー……はぁー……」
ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は踏み込む前に自らを落ち着かせるように深く呼吸をする。
そして、内ポケットにしまっているサシェ――桃月桃源郷で手に入れた宝具【魔符桃香】に触れる。
「(――桃の精さん。力を、貸してね?)」
桃色の温かな気がロランを包む。自然と気が鎮まり、思考が研ぎ澄まされていく。
もう一度軽く呼吸をして、あどけない少年の顔から覚悟を決めた戦士の顔へ。
「大丈夫?」
そこに、時を同じくして戦場にやってきたシホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)が声をかけてくる。
恐らく先程までのロランの姿が緊張しているように見えたのだろう。こくりと頷き返事を返す。
「だいじょうぶなの。桃の精さんも力を貸してくれるから。勇気を出して行くの!」
「ならよかった!シホも一緒に行くよ、助けてあげなきゃね!」
「うん!」
かくして、少年と少女は悲しき仙女と相対する。
梁山泊の中でも特に開けた空間――その中で無数の武器に囲まれて妲己は今も泣いている。
その姿が見えただけでロランもシホもきゅ、と心が痛む。
自分の命を犠牲にしてまで、平和の為に尽くした人が報われないのは、あまりにも酷いことだと。改めて思い知らされる。
だからこそ。
「妲己さん」
ロランがまず一歩踏み出して声をかける。
その声に覆っていた手を離し、涙が溢れ続ける瞳を向ける妲己。
「(ああ、こんな子供たちまでこの地に訪れてしまうなんて……)」
彼らのような子供たちが穏やかに過ごし育める世界になることを信じて礎になったのに――そう後悔するも、口には出さなかった。
ここにきたということは、この子たちは相応の覚悟をしてここまできているのだ。
先程訪れた幼子もそうだった。
きっとその言葉は子供たちへの侮辱に繋がると理解した故に、口には出すことをやめたのだ。
「望みを、叶えてあげにきたよ」
「自らを犠牲にしてまで残した未来を、貴方の手で壊させたりしない。シホが……シホたちが解き放ってみせるよ!」
ロランもシホも、まっすぐに妲己を見つめて己が意思をはっきりと口にする。
それを敵意を解釈したか、梁山泊の武器たちが再び目覚め妲己の下へと集い始める。
そして当然、それを妲己に止めることはできない。自律型のユーベルコードに縛られ、唯一自由に動かせるのはその口のみ。
「……ありがとうございます。どうか、私を――終わらせてください……!」
そう懇願すると同時に、彼女を歴史において悪女たらしめた魅了の香気が辺りに充満する。
あらゆる者を虜にしてしまう最早狂気にすら似たそれらは何の対策もなしに向かえば老若男女問わず籠絡する程の濃い甘い香り。
だが、宝具を手にしている二人にそれは通用しない。
ロランはそれに構わず、桃の闘気に結界術でオーラの防御膜を乗せ、武器が構える中に飛び込んで。
シホもまた、桃月桃源郷で作り上げた宝具「天劾魔境」を掲げ、その力と自身が保有する破魔の力と精神攻撃への耐性を高めて突撃する。
槍や斧、剣たち……宿星を持つ者のみしか許さない梁山泊内の全武器が一斉に降りかかる中をロランとシホが地を、空を駆けて潜り抜けていく。
人狼故の鋭い第六感と残像すら生み出すスピードを出せる脚力で、武器たちに攻撃したと錯覚させながら妲己に迫るロラン。
まるでそれと対比するかのようにシホは文字通り蝶のように舞いながら、同時に光へと近づくかのような速度で飛んでいく。
天を舞う蒼と地を駆ける紫が、それぞれ不規則な軌道を描いて死を待つ仙女に迫りながら武器をいなして大波を乗り越え、反撃に移る!
「"世界を癒せ、シホの光”!」
シホの聖者の象徴たる聖痕から、七色の輝きが溢れ出す。
それは万物を魅了する魔性の香気を祓い清め、仙女の心を慰める為の祈りを乗せて妲己を照らす。
世界そのものを治癒する癒しのオーラは、世界を過去で埋め尽くし滅ぼす存在であるオブリビオンには猛毒に等しく、その身を照らされた妲己の身体はまるで太陽を浴びた吸血鬼のように焼けていく。
「ああ……何て、眩しい……けれど、とても優しい……」
「貴方には痛いかもしれないけど、我慢してね……!」
「ええ……大丈夫です……」
身が焼かれていく感覚が逆に心地よいと妲己は感じていた。
望みに近づけているのだということを教えてくれていると同義である故に、そして。
……何より、この光に込められた少女の祈りが、何よりも優しく温かいから。
だがまだこれだけでは彼女を過去に返すには至らない。
「これだけじゃ倒せないみたいだね……でも!」
しかし、ここにいるのはシホだけではない。
「”地に福音を刻み、空に柱となれ。清浄なる風を呼び、浄化の光を灯さん”――」
ロランの詠唱が響き渡る。
世界の為に尊い犠牲となった仙女への祈りと、浄化の願いを込めた破邪の結界が構築され、逃げ道を塞いで。
「……ごめんね?今のぼくには、こんな形でしか力になってあげられないの……」
「いいえ……その想いだけで、私には十二分すぎる程です」
悲しげに告げるロランに妲己は穏やかに笑う。
様々な想いが頭の中を駆け巡る中、意を決して追い打つは魔と邪を滅する聖なる光。
「……――”ヒュッテンブレナー式破邪結界、飛翔”……!!」
放たれる全力で紡ぎ上げた術式。
幾何学模様を描き飛翔する光が、その日大きな柱となって梁山泊から立ち上った――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
その終焉(エンド)を許しはしない。死は救済にも贖罪にもなりえはしない。ならばその終焉を覆し(エンドブレイク)してくれよう。
リミッター解除、限界突破、オーバーロード。化術肉体改造で真の姿である終焉を終焉させる者(エンドブレイカー)となる。え、お前真の姿いくつあるのかだって?そりゃ無貌のおっとなんでもないわ、そうね不可思議ぐらいかしらね。
というわけで多重詠唱結界術の領域内においてあらゆる私に不利な終焉はブレイク(略奪)し化術で有利な終焉に塗り替えるわよ。たとえ全身を武器で貫かれようと次の瞬間にはその終焉(エンド)をブレイクして何事もなかったかのように平然としているわ(継戦能力)。
傾世元禳の香気とてエンドブレイクしてしまえば無害な香水も同然よ。ああ、いっそその埋め込まれた自動発動型UC全てを結界術で封印しブレイクしましょうか。
さて、先制攻撃を凌いでからが本番ね。設定したのはオブリビオンとしての死を与え新たな生を授ける生命再演能力。さ、共にイきましょ♥
●
何度も裁きの火に、光に、刃に焼かれ、妲己の生命はまさに尽きようとしていた。
酷く身体が痛む。だが、とても心地よい。
これでやっと、本当に死ねるのだと。悲しみや痛みよりも安堵が勝っていた。
「……願いを叶えてくれて、ありがとうございます」
これまで自らの前に立ちはだかった猟兵たちの姿が走馬灯のように駆け巡る。
皆優しく強い人たちばかりだった。
自らの罪を濯ぐことすらできぬあまりにも浅ましい存在である自分に、何と寛大な慈悲をくれたのだろう。
「ようやく私も、再び眠ることが――」
「いいえ?」
「……え?」
そのまま安らかに死を待つつもりであった矢先、まるで不服とでも言うかのような声。
死を静かに待つだけだった妲己の前に立ちはだかったのはアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト艶魔少女・f05202)。
「その終焉(エンド)を許しはしない。死は救済にも贖罪にもなりえはしない」
「そんな……最早オブリビオンとなってしまった私がこれ以上生きているワケには参りま――」
「な ら ば その終焉を覆し――エンドブレイク――してくれよう!」
「え、ええ……そんな……っ!?」
妲己が困惑しているのをよそにアリスは己の枷を全て解き放ち、オーバーロードを発現!
自らの肉体にも迷うことなくメスを入れ、とことん化かして改造して作り上げるは自らの真の姿の一つ、終焉を終焉させる者――エンドブレイカー――。
あれ、アリスさんあなた真の姿どんだけあるんですか。
「そりゃ無貌n――おっと。なんでもないわ。そうね不可思議ぐらいかしらね」
第四の壁を越えられて回答されるとは思わなかった。とりあえず不可思議だそうです。
ともかく、終焉を終焉させる者と化したアリスは自らの領域を展開し、周りを夜に染め上げていく。
それに呼応したのか、妲己の自動発動型ユーベルコードが起動。甘い蠱惑的な香気を放ってアリスを洗脳せしめんとするが全く通用しない。
それどころか、梁山泊の武器たちがどれだけ襲いかかってもその直後には何事もなかったかのように立ち上がる。
「ど、どうして……!?」
「私の領域内において、あらゆる私に不利な終焉はブレイクされるわ」
「え、ええ……?」
「傾城元禳の香気とてエンドブレイクしてしまえば無害な香水も同然よ。とてもいい匂いね♥」
そうして自らに不利な終焉を終焉(エンドブレイク)させたアリスは先制攻撃?何それ?と言わんばかりに妲己に迫る。
だが妲己のユーベルコードはこれだけではない。殺戮と欲情を司りし殺生狐理精と武林の宝具たる流星胡蝶剣が牙を向く――!
「だ、ダメです!逃げて……!」
「……ああ」
なる程?とアリスは何かを思いつき、何か詠唱のような言葉を唱える。
それは少なくとも妲己の耳では何を言っているのか、そもそも肉声を発しているのかすら理解が及ばぬ怪しげな呪文である――が。
何ということか、殺生狐理精が断末魔のような悲鳴を上げながら消え去り、流星胡蝶剣が地に落ちた。
「な、何で……何故……?」
「安心して。貴女を縛り付けるものは私がブレイクしておいたから」
「ぶ、ブレイク……??」
「貴女とユーベルコードの間に在る結びつきをね、こう、ブレイク★ってね」
いっそのこと埋め込まれた自動発動型ユーベルコードそのものを封じてしまえと妲己とそれの結びつきを結界術によって阻止したということらしい。
先程から襲いかかる武器たちも片っ端からアリスにエンドブレクされてしまい歯が立たないなんてどころではない。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったわ」
「あ、ああ……でも、私は……オブリビオンに」
「オブリビオンとしての貴女を殺せば何も問題はないのよね?」
「え……?」
妲己は最早完全に頭が追いついてなかった。
涙を目に溜めたまま、困惑のあまりフリーズし始めている彼女のそれは綺麗な肌にアリスはそっと触れる。
「そう、私のこのユーベルコードで貴女に新たな生き方を教えてあげる。
オブリビオンとしての死を与え、オブリビオンではない何かとして新たな生を授けることで――
そして『夜』に抱き、『夜』に蕩かし、『夜』に落としてあげる♥」
見つめてくる瞳を妲己はそらせない。何故か逸らしたくないと思ってしまう。
アリスの声が、手が、肌の感触が、ぬくもりが――抗うことを許してくれない。
否、"抗う理由がどこにもない"のだ。
不思議と、彼女の言葉に、手に、身を委ねたくなってしまう……
「さ、共にイきましょ♥」
そうしてアリスは哀れな傾城の美女をその夜に包み込んだのである。
その結果、どうなったかは――もちろん、彼女しか知らない。
大成功
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