殲神封神大戦⑭〜絶世の色香
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梁山泊。いつか遠い未来、人界が宿星武侠を必要とした時に備えて築かれた山岳武侠要塞の内部。
『……嗚呼、やはり死ぬことは叶いませんか』
死者を埋葬するための玄室に自ら籠った封神仙女『妲己』は、天下に類のない美貌を曇らせてため息を吐いた。
彼女の体から立ち上る香気は武骨な岩壁を色とりどりの織物や金銀宝石で飾り、美しい羽衣人を誘い込んでは正気を奪って踊り子に仕立て上げる。
狂気と欲情がたちこめる『酒池肉林の宴の間』へと変貌した玄室の中央で唯一人、美しき仙女はほろほろと玉のような涙を流した。
『誰か、誰か、私を殺してくださいませ。この悪夢を終わらせてくださいませ』
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「それじゃ皆に向かってもらう戦場について、説明を始めるわね」
田抜・ユウナ(狸っていうな・f05049)はいつもの伊達メガネをくいと持ち上げて、集まった猟兵たちを見渡した。
「今回の目的は封神仙女『妲己』の討伐。妲己自身に戦意はなくてむしろ殺されることを願ってるくらいなんだけど、彼女に植え付けられた自動発動型ユーベルコードが厄介でね。猟兵の最高位すら軽々と蹴散らし、妲己に傷一つ付けず守り抜くような、とんでもない力を持っているの」
妲己のユーベルコードは、猟兵が使用したものと同じ能力値・同じ回数だけ発動する。
猟兵側の対抗手段は、ユーベルコード・技能・装備アイテム・その他諸々、多岐にわたるが、相手は圧倒的な格上だ。レベルや性能・数をそろえただけでは足元にも及ばないだろう。「何故その行動が有効な対策になり得るのか」ということが重要となる。
「それから注意してほしいことがもう一、二点。戦場となる『酒池肉林の宴の間』は妲己のユーベルコード【傾世元禳】の香気に満たされてるわ。⑬番の戦場で大勢が『破魔の宝貝』を作ってくれたおかげで猟兵全員がある程度の抵抗力を獲得してるんだけど、油断すれば一瞬でメロメロの骨抜きにされちゃうから、ちゃんと対策を準備しておいてねってのが一点。
そして二点目なんだけど、すでに多数の羽衣人が魅了されしまってるみたい。狂気に囚われてはいるけれど、彼らは罪のない一般人よ。できる限り傷つけないよう気にかけてあげて」
絶対的先制攻撃への対処、生物に限らず森羅万象すべてを魅了する香気への対策、そして戦場で踊り狂っている一般人を傷つけぬこと、考えねばならないことは盛り沢山だが、百戦錬磨の猟兵たちならばきっと勝利を勝ち取ってくれるはず。そう信頼を込めて、ユウナは戦場へとテレポートするための転移門を開いた。
黒姫小旅
どうも、黒姫小旅でございます。
此度は難易度「やや難」となります。基本的にはプレイング通りの結果になるかと思いますが、プレイング内容や成功度判定の結果によってはヒドイ目に会う可能性が多分にありますのでご注意ください。
●プレイングボーナス
『「酒池肉林の宴」の魅了に耐えつつ、妲己の先制攻撃に対処する』
『魅了に堪える』『先制攻撃に対処する』の両方に対して有効な行動を取った場合に限り、成功度判定のサイコロ振り直し回数が増加します。
また、『羽衣人達を傷つけないように戦う』ことでボーナスを追加します。
●備考
・SPD【流星胡蝶剣】の「🔵取得数」は0個で固定されます。
第1章 ボス戦
『封神仙女『妲己』』
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POW : 殺生狐理精(せっしょうこりせい)
対象に【殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
SPD : 流星胡蝶剣(りゅうせいこちょうけん)
レベル×5km/hで飛翔しながら、【武林の秘宝「流星胡蝶剣」】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : 傾世元禳(けいせいげんじょう)
【万物を魅了する妲己の香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
イラスト:碧川沙奈
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
隠神・華蘭
【化術】にて手持ちの葉っぱを固めて防毒面に。
少しの間で構わないのでこれで香気を防ぎます。
あちらのUCはあえて受けます。
友好的にお望み……死にたいという願い、叶えて差し上げますので。
近寄る分には抵抗する必要もないでしょう。意識飛ばさないように【集中力】を途切れさせないようにはしますが。
さて、一通り耐え抜きましたらこちらの番。
UC使用、羽衣人の誘導用に一人一匹はつける程度の数の化け狸を喚びます。
避難は彼らにお任せし続けてUCの第二効果も発揮します。
今日の天気は隙間風!
入り口からUCの天候操作で強い風を常に妲己さんに向けて送り込みます。
突風で【体勢を崩し】た所に鉈の【呪詛】つき【切断】攻撃です!
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『猟兵であれば、あるいは私を殺してくださるのではないかと期待していましたが……』
封神仙女『妲己』は失望したように、隠神・華蘭(八百八の末席・f30198)を見つめた。
『……まさか無策で【傾世元禳】を受けるとは』
せめてもの防御として、華蘭は木の葉を化かして作った防毒マスクを着けていたが、絶対先制として放たれたユーベルコードを正面からくらってはひとたまりもなかった。瞬く間に妲己の香りに包み込まれ、心の底まで魅了されてしまう。
「あ……あなた様のお近くに……」
フラフラと夢遊病のような足取りで、引き寄せられていく華蘭。頭の中は妲己のことでいっぱいで、他のことなど何も考えられな……――――
……待て!
靄のかかった意識の奥で声がする。
かすかに残された集中力。蜘蛛の糸のようにか細いそれに繋ぎとめられた理性が叫んでいる。
魅了された、友好的に行動する、大いに結構。ただし間違えてはいけない。妲己のことを想うならばこそ、彼女の願いを叶えてやるべきだ。
「う、ああ……た、【狸の嫁入り】!」
力づくで思想行動の方向性を捻じ曲げ、ユーベルコードを発動。
召喚された化け狸の花嫁行列が周囲で踊り狂っている羽衣人たちを壁際に押しのけると同時、何処からともなく吹き込んできた隙間風が妲己を転倒させた。
『きゃあ!?』
「受け取ってください、妲己さん。あなたの望んだ『死』ですよ!」
仙女を転ばせた突風は、華蘭にとっての追い風。強力な魅了に苦戦させられた分だけパワーアップした大鉈が、呪詛を纏って妲己を斬り裂いた。
成功
🔵🔵🔴
サンディ・ノックス
困ったね
ユーベルコードを受ける前から俺は彼女に好意を抱いている
オブリビオンを封じるために己を犠牲にする覚悟をして、人々さえ必要な犠牲だと信じて悪に手を染めた悲劇のヒト
ただ好意を自覚しているのが強みになると思いたい
無自覚の好意だったらそこを香気に突かれて動けなくなりそうだもの
破魔の宝貝、俺の自我が残るかどうかは君にかかってると思ってる――頼むよ
先に妲己のUCが来るというのは香気が更に強くなるということだろうか
彼女への好意を自覚しろ
無意識に攻撃の手を緩めるな
無意識に彼女へ好意の言葉を吐くな
吐くならば己の意志で吐け
彼女を本気で好んでいるからこそ彼女を殺す
彼女は終わりを望んでいるし
こんな覚悟を無駄にされ尊厳を踏みにじられる生き地獄
終わらせてあげなきゃ
泣かないで
俺が必ず終わりへの道を作ってあげる
真の姿を開放し金の瞳の赤き竜人と化す
全身全霊を注いだUC解放・夜陰で妲己だけを狙撃
悪意は彼女を責め立てながら同化していくだろうけどそれは救いになると思う
己の罪を悔いる者は己を責める声に満足するんじゃないかな
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サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)が戦場に降り立つと、封神仙女『妲己』は懐かしげに目を細めた。
『この匂い、桃月桃源郷の……』
「そう、枯れない桃の花から作った破魔の宝貝だよ」
宝貝の加護によって玄室にたちこめる香気から身を守りながら、サンディは【解放・夜陰】を発動。秘めたる悪意の欠片を黒水晶という形で具現化させた。
数えて590本にも及ぶ漆黒の水晶が、一斉に放たれる。それぞれが餓鬼にも似た渇望を内包し、一心不乱に踊り続ける羽衣人たちの裾をかすめて妲己に殺到した。
『嗚呼、貴方もまた私に死を届けに来てくださったのですね』
仙女は黒き弾雨を歓迎するように手を広げるが、彼女に植え付けられたユーベルコードが自動発動する方が早かった。
――【傾世元禳】
ありとあらゆる存在を魅了する香りは悪意の塊すら篭絡する。闇の魔力は解きほぐされ、なまぬるい好意を残して溶けていった。
「やめろ、無意識に攻撃の手を緩めるな!」
妲己への好意に溺れそうになる自分自身を、サンディは𠮟り飛ばした。
確かに自分は、ユーベルコードの世話になるまでもなく妲己のことが好きになっている。だったら尚のこと自覚しろ。何故に彼女を好ましいと思ったか。我が身を極悪に堕とし、想像を絶する犠牲を払ってオブリビオンを封神台に封じ込めたというのに、その覚悟は無駄となり尊厳を踏みにじられる生き地獄。苦しみ続けることしかできない彼女の涙をぬぐい、終わりへの道を作ってやるのではなかったか。
無意識のまま、媚びへつらうような甘言など吐くな。さあ宣言しろ、お前の意志とは何だ!
「――あなたを、殺すよ」
魅了にも屈さぬ誓いの言葉が、サンディを真の姿へとオーバーロードさせる。
柔らかな皮膚が赤き鱗に覆われ、青い瞳は黄金の竜眼に。レッドドラゴンの相を宿したサンディからこれまでにない魔力が沸き上がる。悪意の黒水晶が勢いを増して、一つまた一つと香気に絡め取られていきながら、届け、届け――――命中!
『あっ…………いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
獲物に喰らいついた悪意が玉の肌をどす黒く侵食し、美しき仙女は胸を掻きむしって泣き喚いた。
――オマエが奪った。オマエが犯した。オマエが傷つけた。よくもあんな事を。許さない。呪われろ。
悪意は渇望するまま同化していきながら、妲己を責め立てる。
それは生傷を針で突きまわすにも等しい行為だったが、彼女が救われるためには通らなければならない過程なのかもしれない。罪悪感や悔恨を抱える人は、時には優しい言葉よりも罰を受けることで満たされるのだから。
成功
🔵🔵🔴
ロラン・ヒュッテンブレナー
○アドリブ絡みOK
※戦場⑬で入手した宝貝【魔符桃香】という闘気を持参
今までも、香りで幻覚を見せたりする罠やUCも、あったけど、
ここのは一際、すごいね…
(内ポケットのサシェに触れて)
桃の精さん、力を、貸してね?
桃色の温かくて気が鎮まる闘気を纏うよ(【狂気耐性・呪詛・落ち着き・ジャミング】)
桃の闘気に魔力を乗せて、強力になった【オーラ防御】の【結界術】で守りを固めるの
妲己さん?
泣いてるの?
苦しいよね…
終わりにしたいなんて、悲しいね…
でも、これ以上苦しまないでいいなら、ぼくも、力を貸すの
限界が来る前に走り寄って、手を伸ばしながらUC発動
【浄化】される事を【祈り】つつ【全力魔術】なの
届いて、ぼくの手!
シホ・イオア
自らを犠牲にしてまで残した未来を、
貴方の手で壊させたりしない。
悪夢は、シホが止めて見せる。
対妲己用宝具「天劾魔鏡」を身に着けて魅了に対抗。
さらにシホ自身の【破魔】の力と【呪詛耐性】・【狂気耐性】で抵抗力を強化。
数秒でも時間を稼げたらUCを発動。
ダメージ対象は妲己のみ。
「世界を癒せ、シホの光!」
香気を祓うため【破魔】と【浄化】を、
妲己の心を【慰め】るため【祈り】を込めて放つ。
UCだけで倒せなければ剣・空飛ぶハート・ガトリング砲を使用。
敵の物理的な攻撃は【空中戦】【残像】で回避。
シホの大きさなら動き回れるはず。
ダメージは【オーラ防御】と【見切り】で最小限に。
アドリブ連携歓迎。
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「桃の精さん、力を、貸してね?」
ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が内ポケットのサシェに触れると、小さな人狼の体を【魔符桃香】が包み込んだ。温かな桃色の闘気は纏う者の気を鎮め、封神仙女の魅了に耐える力を与えてくれる。
備えは万全。だのに、それでも尚、戦場に降り立ったロランはむせかえるような香気に眩暈を覚えた。
「うっ。闘気で防いでるのに、これは……。今までも、香りで幻覚を見せたりする罠やユーベルコードは、あったけど、ここのは一際、すごいね……」
「確かにキツイね」
と、シホ・イオア(フェアリーの聖者・f04634)も苦しげに顔をしかめる。対妲己戦を想定して作った破邪顕正の鏡「天劾魔鏡」を身に着けているが、少しでも気を抜けば意識を持っていかれそうだ。
「でもこのくらいなら、シホの耐性レベルで……」
『何とかなる、と油断してはなりません』
警告の声が届くよりも先に、自動発動した【傾世元禳】が二人の猟兵を襲った。
追加で散布された魅了の香りが、辛うじて保たれていた拮抗を打ち崩す。
最初の一秒でシホによる破魔と浄化が追いつかなくなり、二秒後にはロランの張った防御結界が破られ、三秒も経てば二人の耐性限界を超えて、そして四秒。
「数秒あれば十分だよ。世界を癒せ、【レインボーフラッシュ】!」
シホの反撃が、侵食する香気を蹴散らした。
相手は圧倒的な格上。長時間耐え続けることができないことは織り込み済みで、速攻の備えをしてきた。聖痕、そして彼女の体からあふれ輝くカリスマから放たれる癒しのオーラは、周囲の羽衣人を傷つけることなくシホが『敵』と定めた妲己ただ一人を捉え、慰霊鎮魂の祈りでもって呪縛する。
『なんて優しく愛らしい……力が、抜ける……』
そして脱力状態に陥った仙女に、人狼の少年が駆け寄った。
「届いて、ぼくの手! ――【破邪結界【Luce a spirale】】!」
香気が薄れた隙を突いて距離を詰めたロランは、妲己の手首を掴むと全力で魔法を発動。1200本にも及ぶ光線が幾何学模様を描いて彼らを包み込み、魔や邪を滅する聖なる結界を作り上げた。
『あ、あ……嗚呼…………』
「苦しいよね……終わりにしたいなんて、悲しいね……。でも、これ以上苦しまないでいいなら、ぼくも、力を貸すの」
ロランの祈りがこもった結界術は、攻撃性とは思えないほど安らかに染み入っていく。
まるで幼子が眠りに落ちるように、静かに深々と目蓋を閉じる妲己。そしてロランが超至近距離から抑え込んでいるところへ、シホが空飛ぶハートを構える。
「自らを犠牲にしてまで残した未来を、貴方の手で壊させたりしない。悪夢は、シホ達が止めて見せる!」
可愛らしい羽のついたハートはシホの手の中で拳銃へと姿を変えて、狙い過たず酒池肉林に穢れた仙女の魂を撃ち抜いた。
大成功
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忌塚・御門
成程、宝貝が必要な訳だ
生憎持ってねえから代用といくか
万年筆・隠世の夢で空中に綴る【忌塚御門は何にも魅了されない】
インクは空中に文字を書いて、これでこの記述は現実になる
ついでに【誰にも欲情しない】【殺戮にも吞まれない】とも綴り、現実化させる
これでユーベルコードを使われたところで、俺が殺戮や欲情に狂うことはねえ
妲己、妲己ねえ
俺の世界の物語じゃあおしなべてアンタは悪女だったぜ
世界と一体化して勝ち逃げした女狐も居たっけな
そいつがこんな健気に死を望む、なんて、まあやりにくいったらありゃしねえが…
殺してくれと願うなら、殺意を持って殺してやるのが手向けかね
虚構からの侵略
【妲己の心臓は苦痛を伴わずに破裂した】
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「成程、破魔の宝貝が必要な訳だ」
忌塚・御門(RAIMEI・f03484)はいつも通りの陰気な顔で吐き捨てた。
玄室に充満する香気の凄まじさは小説家たる御門をしても筆舌に尽くしがたく、防御措置を怠ればどんな目にあうかなど想像もしたくない。
「とはいえ、宝貝なんて持ってねえからな。こいつで代用といくか」
肩をすくめて万年筆型のUDCオブジェクト、隠世の夢を取り出すと、ペン先から溢れ出たインクが空気中に文字を書き記す。すなわち――【忌塚御門は何にも魅了されない】。
隠世の夢による記述は現実を書き換える。『魅了されない』とプログラムされた世界律の下で、御門は香気に惑わされることなく封神仙女と対峙した。
「妲己、妲己ねえ。俺の世界の物語じゃあおしなべてアンタは悪女だったぜ」
『貴方の理解は間違ってなどいませんよ。生前の私は傾国の悪女たらんと、計り知れない殺戮と悪徳に手を染めて……危ないっ! 【殺生狐理精】です!』
「ぅお!?」
瞬間、御門は自身の中にナニかが潜り込んだのを感じた。
会話中も油断していたつもりはないが、微塵も気配を感じさせず憑依したそれは殺戮と欲情を煽る「殺生狐理精」だ。
激しく舌打ち、己の内から湧き上がる衝動を必死に抑えながら、御門は立て続けに隠世の夢を走らせる。――【誰にも欲情しない】【殺戮にも吞まれない】。記述の現実化によって力ずくで狂気を封印し、さらにペン先を妲己へと向けた。
――【妲己の心臓は苦痛を伴わずに破裂した】
宙に綴られた文章を妲己は一読し、それから自身の胸に手を当てて、
『……嗚呼、ありがとう。猟兵の皆様のおかげで、ようやく……終われ、る……』
木の葉のように軽い音を立てて仙女は斃れ、玄室に満ちていた香気も消えていく。
戦いは終わった。それを確認して御門は胸を撫でおろし……ゴボァ! と血を吐いてぶっ倒れた。
「ぐふっ……殺生狐理精の追加効果、生命力の30%喪失だったか。あれで殺せてなかったらヤバかったな」
絢爛豪華な宴席から元の武骨な石造りに戻った天井を見上げて、御門はしみじみと呟いたのだった。
【END】
苦戦
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