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フルール・ジェムの奇跡

#アルダワ魔法学園 #戦後 #北方帝国

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●魔法の宝石
 太陽の光を浴びて、キラキラと輝く宝石達。
 真っ赤なルビー、青いサファイア、森の輝きのエメラルドに、虹色のオパール。
 どれもこれも純度が高く、輝きも綺麗な特別品。
 彼等は今か今かと、花開く瞬間を待っている。

 さあ、魔法をかけて。
 アナタの心を花開かせよう。

●宝石花の開くとき
 北方帝国は金属や宝石等の鉱山が多く存在する地域で、鉱物資源を利用した蒸気機械技術が発達した地域である。
「今回はその、北方帝国でのお話です」
 楽しそうに瞳を輝かせながら、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵へ向けて今回の依頼についての話を始める。

 今回赴くのは、北方帝国でも鉱石……特に宝石を主に採掘している地域。
 数多の鉱山により採れる宝石は多岐に渡る。珍しい物も採れるようで、探せば種類も大きさも様々な物が見つかるだろう。
 そして、この地の宝石には少しだけ変わった魔法が掛けられている。
「何の変哲も無い宝石。けれど手に取ると、その人に合わせたお花に変わるそうです!」
 不思議な魔法にキラキラと瞳を輝かせながら、ラナは詳細を語る。
 元は此の地ならではの特色が欲しいと云う想いで編み出された技術なのか。採れた宝石には魔法が掛けられ、何の変哲も無い宝石は一瞬で花へと変化する。
 それは人によって変化する不思議な魔法。触れた人の思い出の花かもしれないし、その人を表した花かもしれない。何に反応しているかは不明だが、種類の他咲き方も様々な為、きっと世界でひとつだけの花を咲かせることが出来るだろう。
 勿論、魔法の掛かっていない宝石も普通に取り扱ってはいるが。メインはやはり決して散ることの無い花を咲かせる宝石だ。
「咲かせたお花は、特別な技術で色々な物に一瞬で加工してくれるそうですよ」
 それはアクセサリーだったり小物だったりと様々。特殊な技術を持つ者が多い為、願う物は大体は形になるだろう。また、折角の花なので硝子瓶に入れハーバリウムのように愛でる者も居るようだ。
「あと、この季節にぴったりの宝石そっくりなチョコレートもあるみたいです」
 言葉の通り、見た目は宝石の輝きや透き通り具合を見事に表現しているが、一口食べれば舌に広がる味わいはチョコレート。ルビーはストロベリー、ラピスラズリはブルーベリー等、中から芳醇なソースが零れるような品もあるらしい。ビターからスイートまで、甘さも様々でどれもこれも職人達の腕が光る逸品に仕上がっている。
 ――自分だけの甘い宝石箱を。
 そのフレーズの元、美しいチョコレートの宝石を箱に詰めればまるで本物の宝石を詰め込んだような宝箱が出来上がるのがポイントだ。
 花も、チョコレートも。
 丁度バレンタイン目前の今は、プレゼント目的で訪れる者も多いとか。

 一通り街でのひと時を楽しんだ頃には、事件の起こる鉱山の場所が分かるだろう。
 案内された鉱山へと踏み込めば、そこは所々に魔法石の煌めきが美しく目も眩む程。――それらは魔力の蓄積した石で、宝石としての価値は無い。どうやら照明替わりとしても使われているようで、眺めても良いが採取するのは禁止だ。
 その美しい地を奥へと進めば、そこには宝石の魔女が待っているという。
「その魔女さんですが……どうやら、人の生命力を吸い上げて、宝石へと変えてしまうそうなんです」
 先程までの楽しげな表情とは打って変わって、どこか真剣な眼差しでラナは語る。
 生き物ならば誰もが持っている生命力。その一部を吸い上げ宝石に変える魔法を扱うようだが、問題なのはその吸い上げる量。一般人は彼女の魔法により衰弱死する程のようで、このままでは数多の死人が出てしまうだろう。
「でも、皆さんなら大丈夫です! ちょっと疲れちゃうかもしれませんけど、死んでしまうことはありません」
 ほんの少し戦いで不利になる程、弱ってしまうことはあるかもしれないが。さほど戦いに支障は無いだろう。むしろ出会いがしら宝石へと変えられた、己の力がどのような物なのか確かめるのも良いだろう。
 ちなみに、魔女を倒すことが出来れば自身の宝石を回収することが出来るとか。
 先に街で手に入れた宝石の花と合わせて持ち帰っても良いだろう。はたまた、その経緯から壊そうと想う者もいるだろう。どのようにするかは、各自の判断に任せる。

「宝石が有名な地域ですからね、様々な宝石が見られると思いますよ。でも、深い知識が無くても大丈夫です」
 石には様々な力が宿されていたり、その石に意味があると云う。けれどそれは知識の一部で、単純に自分が惹かれた物が見つかればそれで良い。
 きっとそれこそが、アナタの求める石なのだから。
 永久に散らない花と、とろける煌めき、己の心を表す欠片。
 数多の色は、どんな輝きだろうか。


公塚杏
 こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
 『アルダワ魔法学園』でのお話をお届け致します。

●シナリオの流れ
 ・1章 日常(散らずの花)
 ・2章 ボス戦(宝石の魔女)

●1章について
 以下の行動が可能です。
 両方楽しんでも良いですが、メインを定めて頂くのがお勧めです。

 (1)花を咲かせる。
 露店通りに並ぶのは、数々の宝石。
 どのお店も宝石に触れると、花の形になる魔法が掛けられています。
 石のサイズによって咲く花の大きさも変わります。魔法なので現実には難しい程本物に近い形にも、宝石らしさを残した花にもなります。
 何の花が、どのような形で咲くのかご指定頂ければ。

 また、花は何かに加工が可能です。
 ネックレス等のアクセサリーの他。万年筆の飾りや、硝子容器の飾り等。アルダワ世界らしく様々な物に加工してくれます。
 こちらもお好きなものをご指定頂いて大丈夫です。

 (2)宝石チョコレートを楽しむ。
 見た目が宝石そっくりのチョコレート。味は店によって違うのでお好きに指定頂いて構いません。
 好きな宝石を綺麗な容器に詰めて、自分だけの宝石箱を作るのが主流のようです。

●2章について
 人々から生命力を吸い上げ、その命を宝石に変える魔女。(猟兵にとっては少し弱る程度なので、命に別状はありません。また魔法なので傷が無ければ痛みもありません)
 自分の生命力がどのような宝石になるか、ご指定下さい。
 自然発生の物では無いので、実在の物と全く違っても構いません。

 WIZで攻撃した場合は、基本的には自身か同行者様の幻影の輝きと戦うことになります。(他の人物の場合は、過去に魔女と出会ったことになるので、その辺りをご了承頂ければ。また、ぼかしながらの描写になります)

●その他
 ・基本的には心情寄りを想定していますが、プレイングによってはお遊び寄りに変化致します。
 ・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・2章は短期間・少人数でのご案内の予定です。
 ・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。

 以上。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『散らずの花』

POW   :    迷わず触れる

SPD   :    そっと触れる

WIZ   :    優しく触れる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宝石の街
 右も、左も。
 視界に飛び込んでくるのは、美しい煌めきだった。
 太陽の光を浴びてキラキラと輝くのは、宝石達。透き通る姿、光により複雑な色に変化していくもの、どこか深い深い何かを思わせるもの。
 並ぶ宝石は様々だけれど、これは一体何だろう?
 それは花開く宝石かもしれない。
 それは口にすればとろける甘い甘い宝石かもしれない。
 不思議ならば手にしてご覧。きっとアナタの心に溶けて花開く、特別なものだから。

 花と、甘味と。
 とびきりメロウなひと時を、アナタへ。
蝶ヶ崎・羊
ナナさん(f02709)に同行します

色とりどりで綺麗ですね
これが食べ物だとは説明されないと分からなかったかもしれません

ふふ、詰めたら是非見せてくださいね?
丸くて白い箱で好きな色を詰めた宝石箱を作ります
まずはエメラルド色のチョコを入れます
好きな色なんです…あ、オレの目は食べられませんよ?(冗談めかして)
後は誕生石のペリドットと綺麗なアメジスト…改めて見ると緑ばかりですねぇ…
ナナさんは綺麗で楽しい春のような宝石箱ですね
ではオレもご一緒記念として桜色の宝石を一つ

勿体ないですが、これも貴重な体験です。いただきましょう
ふふ、チョコに合う珈琲もどうぞ


黒瀬・ナナ
羊さん(f01975)と
(2)宝石チョコレートを楽しむわ

きゃーっ!すごーい、本物の宝石みたーい!
これ、本当にチョコレートなの?

よーし!わたしは、桜模様の綺麗な容器に、きらきらの宝石をたくさん詰めて
春の宝石箱を作っちゃうわよ
羊さんはどんな宝石箱にするのかしら?

赤、黄色、ピンクにオレンジ
春らしい暖かい色の宝石を詰め込んで
今日のお出掛けの記念に、緑色の宝石をひとつ
ふふ、羊さんの瞳みたいで綺麗でしょ?

楽しい春と、優しくて穏やかな緑
世界にひとつだけの宝石箱を見せあった後は……うぅ、食べるのが勿体無い!けど、いただきまーす♪
あまーいチョコに、珈琲が良く合うわね
チョコがあっという間に無くなっちゃいそうだわ




「きゃーっ! すごーい、本物の宝石みたーい! これ、本当にチョコレートなの?」
 並ぶキラキラと輝く宝石達に、黒瀬・ナナ(春陽鬼・f02709)は大きな琥珀色の瞳を輝かせた。その美しさは正に本物のようだけれど、宝石の横には宝石名の他、どのようなチョコレートなのかの説明が記されている。
「色とりどりで綺麗ですね」
 視線を揺らすナナの横で、蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)も穏やかに紡ぐ。このような魔法はアルダワ世界出身で魔法を得意とする彼としても珍しい。モノクル下の瞳で宝石を見つめるけれど、説明が無ければ食べ物だと分からなかったかもしれない。
「種類も沢山ございます、ゆっくりご覧下さい」
 美しいミレナリィドールの店主が優雅に微笑めば、ナナは嬉しそうに笑顔を返す。
 そう、今日は宝石を眺めるだけでは無い。この甘い輝きを箱に詰めようと想ったのだ。
 そのままナナが手にしたのは、ピンク色に白で桜が描かれた愛らしい箱。この中にきらきらの宝石を沢山詰めて、春の宝石箱を作りたいのだ。
「ふふ、詰めたら是非見せてくださいね?」
 箱を手に取り、どうやって入れようかと考えるナナへ向けて。羊が語れば、彼女は大きく頷いた。――しかし、同時に心に湧き上がる不思議がある。
(「羊さんはどんな宝石箱にするのかしら?」)
 丸くて白い、どこか大人っぽい箱を選び取った羊をちらりと見ながら、そんなことを考える。でもそれは、この先自ずと分かる筈だから。気を取り直してナナは、美しきミレナリィドールに向ける視線を再び宝石へと戻した。
 輝く色はどれも綺麗だけれど――春色だと語るのならば、やはり温かい色が良い。
 赤の王道たるルビーに、結晶が美しいストロベリークォーツ。柑橘のようなシトリンに、桜を閉じ込めたような淡いピンクのシャンパンガーネット。
 ひとつひとつ手に取って、その輝きを光に映してから箱に収めていくナナ。そんな彼女の様子を眺めていた羊は微笑みを浮かべ、自分も宝石へと視線を向ける。
 色々な種類があるが――彼がまず手を伸ばしたのは、深みのある緑が美しいエメラルド。若葉色の愛らしいペリドットは誕生石故特別な意味を持つだろうし、透き通る様が神秘的なのは珍しいアメジスト。
 ひとつひとつ、目の辺りまで上げ確認すれば、彼のエメラルドのような緑色の瞳と揃いでキラキラと輝いている。
「好きな色なんです……あ、オレの目は食べられませんよ?」
 じっと見つめるナナの眼差しに気付いたのか、羊は冗談めかして語り空いた指先をひとつそっと口許へと向ける。その彼の言葉にはっと現実に返ったナナは――そっと彼の瞳と同じ色の緑の宝石を手に取った。
「ふふ、羊さんの瞳みたいで綺麗でしょ?」
「ではオレもご一緒記念として桜色の宝石を一つ」
 今日のお出掛けの記念に。――彼女の言葉に少しだけ驚いたようにひとつ瞬き。すぐに穏やかな笑みを浮かべると羊も彼女と揃いに淡い桜色の宝石へと手を伸ばす。温かな色を緑の中へと添えれば、新緑から一気に春らしさが舞い降りた。
「ナナさんは綺麗で楽しい春のような宝石箱ですね」
 温かな色にひとつ添えられた緑がまた、芽吹く季節を表しているかのようで美しい。その羊の言葉に嬉しそうに微笑みながら、彼等は店主に箱を差し出し蓋をして貰った。
「こちらが、お客様の宝石箱でございます」
 機械じみた笑みと共に渡された箱を受け取れば、自分だけの宝石箱の出来上がり。
「うぅ、食べるのが勿体無い! けど、いただきまーす♪」
 店を出て、すぐ横のベンチへと腰掛けると。改めてナナは戸惑うように笑う。
「勿体ないですが、これも貴重な体験です。いただきましょう」
 彼女の言葉に頷きを返しながら、羊も腰を下ろすとチョコレートに合う珈琲を差し出してくれた。甘さと苦さのハーモニーは、きっと素敵なお茶の時間。
 楽しい春と優しくて穏やかな緑を詰め込んだ箱。
 お供の珈琲の芳しい香りの中、二人は甘い欠片を口の中で溶かした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久留米・圓太郎
1)花を咲かせる
■WIZ
オブリビオン倒す為だけに魔法使いすぎたし、たまには人々を楽しませるために使うのも良かろう!
うん!

ある程度オレの思う姿を採れるんだな、この魔法の花は。
水晶のような透明な宝石を見付けて、【UC】を僅かに使って、宝石に流し込むか。

(氷雪の魔法だけに、白色に先の方が水色の雪の結晶ばりの花が、スプレー菊の如く出来上がる)

丁度今日(2/8)はオレの誕生日だし、師匠にも見ていただくかな?
(と、軽口を叩いたところで、寝不足の時のような疲労が襲ってくる)

「なるほど。オレは魔法、もといUCを流し込む量を加減できたけど、普通の人だとこれはヤバいぞ。これはこれで良いけど」

※連携・アドリブ共歓迎




 賑わう人の中、宝石は太陽の光を浴びて輝く。
 煌めきを赤い瞳に映せば、久留米・圓太郎(自称魔法使いの一番弟子・f00447)の双眸はまるで宝石のようにキラキラと輝いた。
 すぐ隣の女性が宝石を花へと変える様子を眺めて、此処が魔法に溢れた世界だと云うことを改めて実感する。圓太郎は普段、オビリビオンを倒す為に魔法を使用している。けれども偶には、人々を楽しませる為に魔法を使うのも良いのではないか。
 それが、偉大なる魔法使いの一番弟子である彼らしさ。
「ある程度オレの思う姿を採れるんだな、この魔法の花は」
 輝く宝石は色とりどりで形も様々。けれど花とは似ても似つかぬその姿が、花へと変貌するのは正に魔法だろう。どうしようかと暫し視線を動かし、指を揺らす圓太郎。視線を揺らす彼へと「ゆっくり見てね」と店主のドラゴニアンの男性は微笑んだ。
 店主の顔をちらりと見上げ、視線を再び下ろした時。きらりと輝いた煌めきに彼が視線を奪われれば、そこには水晶のように透き通る宝石があった。
 そっと手に取れば見た目以上に重さがある。
 両手で包み込み、ひとつ深呼吸をして。掌へと魔力を込めれば――ちらちらと彼の周りに雪が降る中、眩い光が掌に満ちる。
 それは一瞬の出来事。そうっと掌を開いてみれば、そこには白色から先に向けて水色へと移り変わる、雪の結晶ばりの花が咲き誇っていた。まるでスプレー菊のように華やかで、堂々とした花は宝石とは思えぬ見事な花弁を作り出している。
「丁度今日はオレの誕生日だし、師匠にも見ていただくかな?」
 彼が師と仰いでいる、世界を救った偉大な魔法使い。それは前世の記憶だけれど、今も圓太郎を見守っていてくれると想うから――そう想った時、くらりと視界が揺らぎ、圓太郎は倒れそうになるが、どうにかその場に踏み止まる。
「なるほど。オレは魔法、もといUCを流し込む量を加減できたけど、普通の人だとこれはヤバいぞ。これはこれで良いけど」
 頭を抑えながら紡ぐ彼。
 掌の輝きは、今まで頑張ってきた彼の力の証なのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
アドリブ◎
町全体がキラキラピカピカで宝石箱のようですね。ここまで沢山の宝物があると目が眩んでしまいそうです。あなたはどう思いますか?藍。

あなたはチョコレートが食べられませんから、宝石花をプレゼントにしたいのですが気に入るものはあるでしょうか?

ふふっ、さあ!楽しいショッピングと参りましょう。

このお店いいですね。質も職人の腕も良さそうです。

そうして、目についた白い宝石を手に取ります。

変化した花の名前はヘリオトロープ、私の誕生花。花言葉は献身的な愛、夢中。

あら、ピッタリの花になりました。献身的に支えてくれるあなたに私は、夢中です。これからもよろしくお願いしますね。

あっ!加工は首輪飾りでお願いします。




 視界に広がるのは、キラキラと輝く宝石の煌めき。
 それはまるで、町全体が宝石箱のように美しく。目が眩んでしまいそうな程の輝き。
「あなたはどう思いますか? 藍」
 ひとつ感想を零しながら、豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)が足元へと視線を向ければ。足元のふわふわの使い魔は嬉しそうに尾を揺らした。
 彼は本物の動物では無いけれど、やはりチョコレートを食べることは出来ない。その為、プレゼントをするのなら宝石の花。
 ふたいろの瞳を揺らせば、輝きへと視線を向け。
「ふふっ、さあ! 楽しいショッピングと参りましょう」
 心躍らせ一歩踏み出せば、藍も一声鳴き彼女の後を追った。

 右も左も宝石のお店が並んでいるが、その品揃えも店構えもそれぞれで違う。どこにしようかと晶は考えながら歩んでいたが、不意に足を止めた。
「このお店いいですね。質も職人の腕も良さそうです」
「いらっしゃいませにゃー」
 興味を持ち近付いてみれば、立っていたのは三毛柄のケットシー。小さな身体ながらも纏う宝石の装飾は美しく、晶の直感は正しかったことが分かる。そのまま彼女は品を見せて貰う旨断りを入れると、ひとつひとつ宝石を眺める。
 藍の名に相応しい深い青の宝石。晶の瞳のような赤と金色の宝石。それらも良いけれど、彼女の眼に留まったのは白の宝石。角度により煌めき具合が変わるその石を手に取って、そうっと祈るように掌で包めば――光の後、咲いたのはヘリオトロープ。
 それは、晶の誕生花。花言葉は、献身的な愛と夢中。
「あら、ピッタリの花になりました。献身的に支えてくれるあなたに私は、夢中です」
 これからもよろしくお願いしますね、その一言と共に藍へと花を見せれば。彼は尾の揺れを一層激しくし、喜びを表現している。
「あっ! 加工は首輪飾りでお願いします」
「おまかせにゃ! 特別なお品をお作りしますにゃー!」
 嬉しそうに身体を寄せる藍を撫でながら、店主に向け晶がそう紡げば。ケットシーの彼はとん、と胸を叩く。
 出来上がるのは、猫の姿をした彼だからこそ分かる締め付けの苦しくない首飾り。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルルマ・リュネール
ふぅん?面白い宝石があるのね
お仕事柄結構見てきたつもりだったけど花に変わるっていうのは初めて会った
せっかくの機会だし試してみようかしら
私を表す花――っていったらきっと赤薔薇でしょ?
優雅で華やかで、おまけに棘がある
花言葉はいろいろあるけど情熱や美なんて私にぴったりだし

というわけで露店通りを散策して目についたルビーを購入
買えるなら買うわよ?いつも盗るわけじゃないし
そっと手に取って

――ああ、そうくるんだ。
まったく、『よく見てる』わね。憎らしいくらい。
鏡なんかよりずっと、鮮明にそのひとを映すのね。

……なんて、隠すようにしまった宝石の形は。
小さく、控えめながらも美しく咲いたフリージアだったのです。




「ふぅん? 面白い宝石があるのね」
 赤い仮面の奥の七色の瞳をキラリと輝かせ、ルルマ・リュネール(怪盗リュネール・f31597)は美しき笑みを桜色の唇に浮かべた。
 怪盗である彼女としては、宝石は身近なもの。数多の美しき宝石をこの目で見て、手にして来たけれど、花に変わる宝石と云うのは初めての出逢い。
 だから、気になったのだろう。己を表す宝石が。
(「私を表す花――っていったらきっと赤薔薇でしょ?」)
 冷たい冬の風が吹けば、ルルマの透き通るピンクの髪がさらりと流れる。
 自信に溢れた表情を隠す仮面の下で、彼女は優雅に笑みを浮かべながらさも当然と言いたげに想った。
 赤の薔薇は優雅で、華やかで、おまけに刺がある。
 花言葉は数多あるけれど、『情熱』や『美』といった言葉はルルマにぴったりだ。
 そう、きっとそうなる――。
 ほぼ確信のような想いを抱いて、ルルマが歩めばヒールの音が石畳に響いた。
 街に溢れる宝石は、美しくも素晴らしい価値だと彼女には一目で分かる。その中で、ルルマが足を止めたのは赤を集めた店。仄かに色合いが違うけれど、どれもこれもあかいろであるその中から――彼女が手を伸ばしたのは、ルビー。
 鮮やかな色を持つその石は赤い宝石の王道。石言葉も『情熱』を持つ、正に自分に相応しいものだとルルマは想う。
 怪盗然した見た目にも関わらず、当然のように金銭での取引をするのは少し違和感があるけれど、彼女だって何でもかんでも盗むわけでは無い。
 細い手で包むように宝石を握れば、一瞬だけ光り手の中の感触が変わる。
 恐る恐る掌を開いてみれば――。
「――ああ、」
 そうくるんだ。
 零れた息と共に漏れた声は、続きを発することが出来なかった。
 掌の中に咲くその花を見てルルマは仮面の下の瞳を細める。
 自分に合った花へと変わる、その言葉に偽りなど無かった。憎らしい程『よく見ている』のは掌のルビーなのか、それともアルダワ世界の不思議な魔法なのか。
 種は不思議だけれど、鏡なんかよりもずっと、鮮明にそのひとを映す様子にルルマはひとつ息を吐き、そのまま隠すように掌を握りそっとその宝石を仕舞った。
 隠れるように咲いたのは――小さく、控えめながらも美しいフリージアの花。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花牟礼・桜深
・アドリブ・連携可
輝きがプリズムのように煌めいて不思議だね。
ふっと露店のところにある白い宝石に目がとまって。
あ、触れると白い花になったよ。
これは……チューベローズかな?
ゆっくりと花開くように八重咲きの白い花が咲いていくのが美しいね。魔法ってすごい。
あっ、流石に匂いはしないのか。宝石だものね。
ふふ、桜の花があらわれると思っていたのにまさか違う花になるなんて、面白いね。
え、加工してくれるの?
そうなんだね。……どうしようか。硝子容器の飾りかぁ。うん、それもいいね。へぇ、ありがとう加工まで一瞬なんだ。……うん、綺麗だね。ありがとう大切にするね。大切なものがひとつ増えたね。これも旅の大切な僕の記憶。




「輝きがプリズムのように煌めいて不思議だね」
 そっと眩しそうに花牟礼・桜深(桜の樹の下・f35453)が桜色の瞳を細めれば、彼の長い睫毛が顔に影を作る。
 ゆるりとどこか世界に不釣り合いな草履の音を響かせ、歩みを進めていれば白い宝石に瞳が奪われる。
 美しく輝くそれは何故だろう、桜深の瞳だけでなく心も掴んでいた。
 そっと手を伸ばしたのはほぼ無意識に。手にして、きゅっと握れば掌が輝き――開いた時には、彼の手の中で白のチューベローズの花がゆっくりと花開いていく。
 その姿に桜深は少しだけ驚いたように瞳を瞬いた。だって掌の中には、五弁の桜の花が咲くと思っていたから。
「あっ、流石に匂いはしないのか。宝石だものね」
 夜になれば濃厚な香りを放つことで有名な花だが、残念ながら鼻を近付けても匂いはしない。けれど、その美しさには不思議と芳しい香りが漂っているような錯覚も。
 本物と見間違うほど美しくも繊細な花弁が見事で、つい取ってしまった行動。その行動が嬉しかったのか、店主のミレナリィドールの青年は嬉しそうに笑った。
「何か加工します?」
「え、加工してくれるの?」
 金の髪を揺らす青年の言葉に、驚いたように桜深は瞳を瞬くけば、勿論と店主は頷いた。そのまま彼は、ネックレス等様々な作品を見せてくれた。
「あとはこんな、硝子容器の飾りとか」
 彼が取り出したのは、透き通る硝子がクリスタルのように煌めく美しき容器。その蓋の部分に、ダイヤモンドで出来た薔薇の飾りが添えられた芸術的な品だった。
「硝子容器の飾りかぁ。うん、それもいいね」
 その輝きに眩しそうに瞳を細めた後、心惹かれた桜深は頷きを返す。
 そのまま桜深が咲かせた花を受け取れば――店主は呪文を唱え、掌が光に包まれたかと思えばそこには花を咲かせた硝子が出来上がっていた。
「へぇ、ありがとう加工まで一瞬なんだ」
 その鮮やかな魔法に感心したように息を零しながら、桜深は受け取ると同時にその美しき硝子を四方から眺めれば、桜の形なのだと店主は語る。
「……うん、綺麗だね。ありがとう大切にするね」
 割れないようにと大切そうに手にして、礼を告げる桜深。
 これでまた、大切なものがひとつ増えた。
 ――これも旅の、大切な僕の記憶。

大成功 🔵​🔵​🔵​

楊・暁
アルダワ…初めて来た
凄ぇな…見た事ねぇもんばっかりだ
…あんまりキョロキョロしてるのも大人げねぇかな
でも、綺麗なもん、珍しいもん
つい見渡しちまう

ふと目についた店先で足を止め見入る
薄青緑、緑、紫、暗い赤
あの日亡くした地縛霊の少女達の着物の色に似た
4色混ざった不思議な石

…あッ、や、別に俺は…ただ、綺麗だな、って…
灰簾石…?
色混ざってるの、そんなに珍しいのか?
…そっか

偶然?運命?
そんなのどうでもいいし、わかんねぇけど
ここで巡り会えたのを奇跡と言うなら

…これ、買う

触れれば花弁4枚の名もなき小さな花に
…あいつらみてぇだな
僅かに微笑み

あの、さ。これ…武器飾りにできるか?
腰の日本刀を見せ
こいつに…つけてぇんだ

完成品は大切に両手で受け取り、刀につけて
…なんだろ。なんか、胸がもぞもぞする
それが"喜び"だという事と緩んだ口許には気づかぬ侭
店主にありがとなと添え

ふと刀に手を添えれば、武器飾りの花に指が触れ
…頑張らねぇとな
なんでかそう思う

あの頃みてぇな気負いじゃなく
背中を押して貰ったような、奮い立つ感じがするんだ




 楊・暁(うたかたの花・f36185)が初めて訪れたアルダワの世界は、見たことも無い街並みに所々に上がる蒸気、道行く人の装いも、その姿も、そして並ぶ店の品も物珍しく。
「凄ぇな……見た事ねぇもんばっかりだ」
 ぴくりと黒い狐耳を動かしながら、きょろきょろと辺りを見渡す少年。――周りが気になるから、つい足取りも遅くなってしまう。そんな自分の様子にはっと気付くと、大人げ無いかと彼は想う。
 けれど、見える世界は綺麗で、珍しくて。ついつい視線が奪われてしまう。
 石畳の上をゆっくりと、しかし規則正しく歩む足が不意にぴたりと止まった。
 ――薄青緑、緑、紫、暗い赤。
 西洋風なこの街にはどこか不釣り合いな、その色合い。それはあの日亡くした地縛霊の少女達の、着物の色に似た四色が混じった不思議な石。
「それが気になるですかにゃ?」
 ぴこぴこと尻尾を揺らしながら、静かに見つめる暁に向けて白い毛並みのケットシーが声を掛けてくれた。その言葉に、暁は慌てたように首を振る。
「……あッ、や、別に俺は……ただ、綺麗だな、って……」
「少年、お目が高いですにゃ。それは灰簾石っていう石ですにゃ。色々な色の石がありますが、混じってるのはとーっても珍しいですにゃ」
 暁の言葉は耳に入っていないのか、説明を続ける店主のケットシー。その言葉に、否定をしていた筈の暁は言葉を止めて、じっと説明された灰簾石を見た。
「色混ざってるの、そんなに珍しいのか? ……そっか」
 この出会いは偶然か、運命か。
 言葉にするには何が相応しいのだろう。
 けれど、そんなことは暁にはどうでも良いし、分からない。それでも、ここで巡り会えたことを奇跡と言うのなら――。
「……これ、買う」
「はーい、毎度ありですにゃー」
 すうっと細めていた暁色の瞳を開くと、彼は石から視線を逸らさずにそう紡いだ。淡々と表情が変わらぬ彼の様子に、ケットシーは悪い気を起こすことなくご機嫌に石を彼へと握らせた。「きゅっと握ると花になりますにゃ」、その説明のまま暁が小さな掌で石を優しく握れば――四色に分かれた四枚の花弁が美しくも魅力的な、小さな花が咲く。
「……あいつらみてぇだな」
 ふわりと、大きな瞳を緩ませて、何時もは結んだ口元が緩んだのに気付いた人はいない。それ程に暁にとっては僅かな変化だけれど、その変化が現れたことすら珍しい。
 それ程に、彼にとってはこの色は、この花は、特別なもの。
 だから――。
「あの、さ。これ……武器飾りにできるか?」
 掌の花を差し出して、店主に向け暁は問い掛ける。そのまま腰に携えた赤い柄の日本刀を見せ、これに付けたいのだと言葉を添えて。
 示されれば店主は勿論快く頷いてくれる。どんな飾りが良いだろうか、考えながらもその手が輝けば――暁の組紐で花が結ばれた武器飾りが一瞬で出来上がった。
「どうですかにゃ? 戦いの邪魔にはならないと思いますにゃ」
 自信ありげに胸を反らせながら、店主は武器飾りを差し出してくる。暁は両手を伸ばし、丁寧にその飾りを受け取ると、早速日本刀へと花を添えた。
(「……なんだろ。なんか、胸がもぞもぞする」)
 付けた瞬間、胸に湧き上がる心地は知らない感覚。――それが『喜び』だと云うことも、自然と緩んだ口許も彼はまだ気付かない。
「ありがとな」
 けれど確かに礼を告げた彼の眼差しは、此処に訪れた時よりも柔らかな色をしていた。
 店主に別れを告げ街並みを歩めば、無意識に刀に添えた花へと指が触れる。
 輝く四色。その輝きが身近にあることを想うと――。
「……頑張らねぇとな」
 何故だか、その想いが湧いてきた。
 それはあの頃みたいな気負いでは無く。
 背中を押して貰ったような、奮い立つような前向きな心。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

宝石が沢山ありますねぇ
宝石が花に、確かに不思議で素敵ですね
ルーシーちゃんが素敵なの見つけるわととてててと探しに行く姿にくすりと笑って
気をつけてと一言添えて、僕も探す
綺麗なイエローが目に入ったが少し考えて一つの宝石を手に

ルーシーちゃんが笑顔でこちらへかけてくる
両手で優しく包まれているイエローサファイア
小さな向日葵の花を見てとても可愛く綺麗ですね
僕の初めに考えたのと一緒ですねと笑って
えぇ、僕達の花ですからねぇ
カフスボタンに?ふふっ、ありがとう大事にしますね
どんなモノにでも護ってもらえますね
ルーシーちゃんの大好きな気持ちが僕を包んでくれますね

片手を広げるとピンクダイヤモンド
それがピンク色のスズランのような花が数個咲く
この花は何の花でしょう?

正解はブルーベリーの花ですよ
可愛いでしょう?
僕はこれでお揃いのイヤーカフにしましょう

ブルーベリーの花は実りのある人生をと
君も僕も愛に包まれてこれから素敵な未来へと願って


ルーシー・ブルーベル
【月光】

宝石がお花になるなんてステキね
色とりどりの宝石に目がチカチカして
となり見上げれば、何よりまばゆいお月さまの色
ふふ、探したい色が決まっちゃった!

たくさん時間をかけ
漸く選びとった宝石を両手で包んで、彼の元へ
花咲いた姿を一緒に見たかったから

パパー!みてみて
覆う手をそうと解けば
イエローサファイアの煌めき残る
小さな向日葵が二つ咲いている
一つの宝石を半分にわけたもの
やっぱりヒマワリ!
パパとお出かけする度に心の裡に咲く花だもの

お花はカフスボタンに加工してもらうわ
男の人でも付けやすいかなって
パパ、受け取って下さる?
それにこの石は愛を護る石なんだって
うーんとルーシーの大好きって気持ちを込めたから
きっとパパを守ってくれる

パパは?何を選んだの?
広げた大きな手を覗き込むと
わあ…かわいいピンク色のお花
う?スズランじゃないの?

――ブルーベリー!
うん!こんなかわいいお花なのね
いやーかふ!わあわあステキ

花咲いて、実りを結んで
ステキな未来
ええ、一緒によ!

(君も『僕も』と言って下さったのが凄くすごく、…嬉しい!)




 視界に溢れるのは、宝石達の輝き。
「宝石が沢山ありますねぇ」
 その眩さが眼鏡に反射したのか、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は両目を瞬きながら傍らの少女の手を握り直す。
「宝石がお花になるなんてステキね」
 ぱっと見は普通の宝石なのに、この一面の並ぶ宝石は全て花開くと云うのはとても不思議で興味深い。楽しさに宝石に負けない程瞳を輝かせるルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)だけれど――その宝石達のあまりの眩さに、少し視界がチカチカと。
 だからつい、傍らの大好きな人を見上げる。
 そこにはチカチカとはしないけれど、何よりも眩いお月様の色があって。
「ふふ、探したい色が決まっちゃった!」
 じっと月の色を見つめた後、くすりと笑みを浮かべるルーシー。彼女の素敵と云う言葉に素直に頷いていたユェーは、紡ぎと同時にするりと手を離した少女に笑みを浮かべる。
「気をつけて」
 素敵なのを見つけると意気込む愛らしい娘の姿を見送る彼の眼差しは、とても温かな色を宿した素敵な色。人が多いけれど、此の場は平和そうだから少女一人でも大丈夫だろう。この間にユェーもじっくりと店を眺めることにした。
 どの店にも綺麗な宝石が並び、それぞれの店主の趣向が出ている気がする。ふわりと漂う甘い香りが鼻をくすぐれば、それは宝石では無く宝石そっくりなチョコレート。騙されてしまったと小さな笑みを浮かべて、また彷徨って。
 ――繰り返していれば不意に、ユェーは足を止めた。
 彼の輝く金色の瞳に映ったのは、美しくも力強い黄色の宝石。それは、あるものを思い出す色でついつい手を伸ばしそうになるけれど――唇を結び、手を握り。暫しの思考故の沈黙の後、彼はその隣の宝石へと手を伸ばした。
「パパー! みてみて」
 その時、掛かる声に振り向き視線を落とせば。そこには青い左目を楽しそうに輝かせるルーシーの姿が。彼女は小さな手をきゅっと握ったまま、その手をユェーの元へと差し出していた。随分と身長差があるから、少しでも差を埋めようと精一杯の背伸びをして。
 彼女の差し出す掌の中には、沢山の時間を掛けて探した唯一の宝石が。
 その宝石が花開く瞬間は、大好きなパパと一緒に見たいと想ったから。だからルーシーは、彼を見つけるまできゅっと手を握ったまま、覗くこともせずにいたのだ。
 寒さにか、此処まで走って来たからか。ルーシーが仄かに頬を染めている様子にそっとその柔らかな頬を一撫でした後、ユェーは彼女の続きの言葉を待つ。彼の大きな手の温もりに、嬉しそうにルーシーは笑った後――そうっと小さな手を解けば、そこにはイエローサファイアの煌めきを抱く、小さな向日葵が二つ咲いていた。
「やっぱりヒマワリ!」
 己の咲いた花を見て、更にキラキラとルーシーは瞳を輝かせながら、嬉しさを表現するかのように軽くその場で飛び跳ねた。
 向日葵は、パパとお出掛けする度に心の裡に咲く花が二つ。
 向日葵を想い選んだ黄色が、二つに分かれ二つの向日葵を咲かせたのは偶然か、必然か。それは分からないけれど、彼女の笑顔を見れば自然とユェーの口許にも笑みが咲く。
「とても可愛く綺麗ですね、僕の初めに考えたのと一緒ですね」
 ――そう、彼だって最初は同じ花を胸に咲かせた。
 想いが同じだと改めて確認すれば、心に満ちるこの想いは名前も付けられない程の幸せ。そのまま彼は、彼女の青い瞳の期待に応えるようにそうっと掌を開いた。
「わあ……かわいいピンク色のお花」
 彼の大きな手に咲いたのは、ピンクダイヤモンドの花。
「この花は何の花でしょう?」
「う? スズランじゃないの?」
 小さな花が鈴なりに咲く姿は、ルーシーにとっては鈴蘭しか覚えがない。けれど、そう尋ねるのなら違うのだろうか。小首を傾げ、瞳を瞬く少女に笑みを向けると。
「正解はブルーベリーの花ですよ。可愛いでしょう?」
「――ブルーベリー! うん! こんなかわいいお花なのね」
 彼の言葉に、新たな出会いに。ルーシーは驚いたように瞳を見開くと、嬉しそうに花をじっと見つめた。
 その時、ルーシーが店主にお願いした品が完成し声が掛かった。娘を見るような眼差しで差し出してくれたドラゴニアンの老人から小さな石を受け取ると。
「パパ、受け取って下さる?」
 そのままルーシーは、真っ直ぐにユェーを見つめてその宝石を差し出した。
 彼女が形にしたのは、向日葵の宝石で作ったカフスボタン。これならば、男性でも付けやすいと想ったのだ。
「それにこの石は愛を護る石なんだって。うーんとルーシーの大好きって気持ちを込めたから」
 ――きっと、パパを守ってくれる。
 愛らしい笑顔で、愛らしい声色で、そう紡ぐ娘の全てが愛おしくて。そうっと大切そうに受け取ると、ユェーは笑みと共にすぐに自身のカフスへと花を咲かせる。
「ルーシーちゃんの大好きな気持ちが僕を包んでくれますね」
 どんなモノからも、護ってくれるだろう。
 彼女の優しい想いが傍にあることが嬉しくて。大切にしようと心から想うのだ。
 そのまま彼は、先程の鈴なりの花をイヤーカフへと変えた品を手に取る。お揃いのイヤーカフを見れば、ルーシーは今にもはしゃぎそうな程に頬を染めていた。
「ブルーベリーの花は実りのある人生をと。君も僕も愛に包まれてこれから素敵な未来へと願って」
 優しい眼差しで、そっと小さな耳へと飾り付けてくれる大好きな人。
 花咲いて、実りを結んで。
 ステキな未来へ――。
「ええ、一緒によ!」
 向日葵のような笑みを咲かせて、幸せそうに笑うルーシー。
 けれどその笑みの裏側は、揃いの花だけでは無く。
(「君も『僕も』と言って下さったのが凄くすごく、……嬉しい!」)
 それは小さな少女の、積み重ねてきた時間の分だけの、想い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
多く並ぶ宝石を眺めて回る
ひやかしに来たわけではない
ちゃんと目的はあって来たんだ

紬、良いものを見つけたら教えるんだぞ

この小さな勿忘草色の妖精、紬は
アックス&ウィザーズの依頼で出会った子だ
今日はこの子の依代になる物を探しに来た

俺は世辞にも魔法が得意とは言えない
此の身に抱える事情のせいで発動自体も不安定だ
道具を依代としてやっと安定させる事が出来るくらい
だから紬にも依代を、と思い今回はやって来た
暫く練り歩いていれば
不意に止まり紬の視線が一点に注がれて

…それが、いいのか?

ふわり舞う紬が降り立った先に在った宝石は
天青石(セレスタイト)
薄青の小ぶりな宝石
手を伸ばし触れればそれは青を抱いたまま形を変える
本物と見紛う程の桜の形へと

…凄いな、まるで本物だ

桜の形は俺の心が反映されたのかもしれない
けれど穏やかな薄青のままなのはきっと、紬の心が反映されたのだろう
良いもの見つけられて良かったな、紬

大事に手に抱え店の者へと
どんなものに加工してもらおうか…
暫しの思案の後、言葉を紡ぐ

──腕輪、とかにする事は出来ますか?




 数多の宝石が並ぶ様子に、華折・黒羽(掬折・f10471)は圧倒されたかのように息を深く深く零していた。
 こうして街を歩き、見ているだけで少しずつ時間は過ぎていく。
 けれど今日は、ひやかしに来たわけでは無い。きちんと目的があって来たのだ。
「紬、良いものを見つけたら教えるんだぞ」
 傍らを飛ぶ勿忘草色の小さな妖精へと、黒羽が語り掛ければ。彼女は揺蕩う水羽衣を震わせながらこくこくと頷きを返した。
 彼女とは、アックス&ウィザーズでの依頼の最中出会った。折角の機会だから、水を司る彼女の依代になる物が見つかればと、その想いが本日の彼の目的。
 その理由は、お世辞にも黒羽は魔法が得意とは言えないのだ。それは自分でも自覚はしているし、黒羽の身に抱える事情のせいで、発動自体も不安定。
 その不安定さは、道具を依代としてやっと安定させることが出来るくらい。
 だからこそ、紬にも依代をと想ったのだ。近くに居る、大切な存在だから、一番相応しい物を差し出したい。
 耽る間、青の双眸を落としていた黒羽だけれど。彼の先程の言葉に従っていたのか、それとも自分が気になるのか、紬はしっかりと辺りを飛び回りひとつひとつ宝石を見つめている。世界は違えど、魔法が当たり前の世界故か幾分か紬も楽しそう。
 美しき青が、あちらこちらと飛び回る。
 水の衣が風に乗りひらひらと揺れ、白の装いが踊る姿が美しい。
 ぴくりと耳を動かして。烏の羽翼を微かに揺らして。
 踊るように宙を泳ぐ紬へと黒羽が視線を送っていれば――不意に、彼女が止まった。
 何だろうと想い彼女の元へと足早に近寄る黒羽。彼女の視線が一点に注がれている場へと、彼も青の瞳を向ければ。
「……それが、いいのか?」
 そこにあったのは天青石、別名セレスタイトと呼ばれる淡くも愛らしい青を抱く石。まるで晴れ渡った空を思わせるようなその石へと、紬は黒羽の質問に同意を示すかのようにそうっと優しく降り立った。
 彼女の為の石なのだ、彼女が気に入ったのならば迷うことは無い。
 黒羽は大きな漆黒の猫の手を伸ばすと、その天青石を手に取る。手を握る瞬間、寄り添っていた紬は優雅に離れ彼が花を咲かせる瞬間を見守っている。
 彼の手と比べれば、随分と小さな石だけれど。両手で優しく、包み込むように触れれば強い薄青光を放ち――宝石の欠片は一瞬で桜の花を咲かせていた。
「……凄いな、まるで本物だ」
 そのあまりの精巧さに、黒羽はため息交じりに言葉を零す。ぱちぱちと瞳を瞬いて、翼を震わせる様子からもその驚きが見て取れた。
 桜の儚さも、五枚の花弁も、そして中央のめしべとおしべまで。
 天青石で出来ている為全てが青いけれど、その再現度はあまりにも見事で本物のよう。それはきっと、人の技術では難しいレベルの息吹を感じるもの。
 この花を見て、黒羽は想う。――桜の形は俺の心が反映されたのかもしれない、と。
 けれど色が穏やかな薄青のままなのは、きっと紡の心が反映されたから。
「良いもの見つけられて良かったな、紬」
 彼の掌へと降り立って、咲かせた桜をまじまじと見つめる紬へと語り掛ければ、彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべたような気がした。
 さて、花は無事に咲かせたけれどどうしようか。
 紬の依代ではあるけれど、身につけるのは黒羽だ。それならば。
「──腕輪、とかにする事は出来ますか?」
「出来るよ、お主はどのような物がお好みかね?」
 少し偏屈そうな見た目の男性だけれど、職人としてしっかりと客と向き合ってくれる人らしい。様々なサンプルを見せてくれれば、繊細なデザインやシンプルなものと様々で腕も確かな様子。
 けれど、選択肢があればあるだけ悩ましいもの。
 だから黒羽は、また少しの間悩むのだ。
 ――紬と、己を表す宝石に、一番相応しい形が何かを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネムリア・ティーズ
【銀月】
宝石の花は絵本で見たことがあるの
でも自分で咲かせられると思わなかったな
ねえノヴァ、どんな花になるかすごく楽しみだね

どの子にしよう…みんなきれいで迷うの
…うん、決めたよ

移ろう夜を宿したタンザナイト
その一粒を、両手で掬うように乗せたなら
本物そっくりのバラが花開く

わあ…!ボクが絵本で見た
枯れない魔法のバラとおんなじだ
みてみて、と両手をキミへ差し出して

ノヴァはどの子にするか決まった?
星空色の宝石はキミらしい気がして
微笑みながら咲く様子を見守る

星空の花…かわいくて、とてもきれいだね
ふふ、ボクも名前は分からないから、
今度いっしょに調べにいこう?

うん、加工はお願いしたいな
月明りの下で眺められるように、
茎と葉のついた台座にバラを咲かせて
ガラスドームの器に飾りたいんだ

また花を咲かせるの?
取り出した朱色を覗き込み、小首をかしげ

そう……じゃあ、ほかのお店も見てみよう?
似た子が見つかったら何かわかるかも

ほんの少し、いつもと違う様子が気になって
こっちだよとキミを手招く
今はただ、きらめくひと時を楽しめたらと


ノヴァ・フォルモント
【銀月】
懐かしい空気感
この辺りに来る事はもう無いと思っていたけれど

今日は隣の君に誘われて
楽しげな様子を微笑ましく見守り

露店に並ぶ色鮮やかな宝石達
ネムリアはどの子が気になる?

自分が手に取ったのは星空を映したようなラピスラズリ
そっと手のひらに乗せれば
小さなネリネの花へと変化する

あいにく、自分は花に詳しくないけれど
ただ純粋に綺麗だと思った

ネムリアのは薔薇なんだね
うん…俺のはわからないや
そうだね、今度一緒に調べてみたい

加工はせっかくだしお願いしよう
何時も持ち歩いているランタンの飾りにと

宝石花を満足気に眺めながら
ふと感じた違和感に足を止めた

普段は旅行鞄の奥に眠っていて
滅多に外へと出さない朱色の鉱石を取り出して
…ああ、ごめんね
この宝石は花には変わらないよ
どんな名前なのかも俺は知らないんだ

この宝石を持ち続けている意味も
とうに忘れてしまったと思っていたけれど…

故郷に近いこの地を訪れたからだろうか
懐かしさと、嫌な予感が過ぎる
不思議な感覚を覚えて

でも余計な心配は掛けたくない
今は君と一緒にきらめくひと時の中へ




 カツリを石畳に響く靴音。
(「懐かしい」)
 湧き上がる蒸気の景色も、少ない露出した肌を撫でる風も、行き交う人々の声も。この世界の空気感に、そうノヴァ・フォルモント(月蝕・f32296)は想った。
 この辺りにはもう、来ることは無いと思っていたのだけれど。不思議なことに今日は。
「ねえノヴァ、どんな花になるかすごく楽しみだね」
 ネムリア・ティーズ(余光・f01004)の誘いにより、こうして立っている。
 大きな明けぬ夜の瞳を楽しそうに輝かせ、この地の魔法を早く見たいとネムリアは胸をときめかせる。――だって、宝石の花は絵本では見たことがあったけれど。自分で咲かせることが出来るとは、想ってもいなかったから。
 そんな彼女の様子にノヴァは微笑むと、どちらからともなく足を踏み出す。
 カツリ、カツリ――石畳の足音は、同じ規則で二人分。
 右を見ても左を見ても、輝く色合いが美しく目を奪うけれど。
「ネムリアはどの子が気になる?」
 きょろきょろと顔を動かす彼女に向け、ノヴァが問い掛ければ。彼女は街へと向けていた瞳を、彼へ向けて。
「……うん、決めたよ」
 そこに浮かんだのは、先程までの迷いの色合いとは違う、確かな決意を込めた眼差し。――真っ直ぐな言葉の通り、彼女は移ろう夜を宿したタンザナイトを手に取った。
 両手で包み、一つの呼吸。その僅かな間で掌の中が輝いたかと思えば、開いた時には彼女の手の中には小さな欠片から本物そっくりの薔薇の花が咲いていた。薄く重なる花弁も、薔薇特有のその気高さも。生花を見事に表現した美しき花に。
「わあ……!」
 大きく瞳を開き、嬉しそうに頬を染めてネムリアは感嘆の吐息を零す。
 だってこの薔薇の花は、かつてネムリアが絵本で見た、枯れない魔法の薔薇と同じだったから。興奮気味に傍らへ視線を向けると、両手に乗せた薔薇を彼へと差し出していた。
「ネムリアのは薔薇なんだね」
「ノヴァはどの子にするか決まった?」
 彼の穏やかな黄昏空色の瞳が薔薇を捉えたのが嬉しくて、笑みを零しながらネムリアが問い掛ける。するとノヴァは、夢中になっていた彼女の横でしっかりと自身の石を見つけていた様子。星空を映したようなラピスラズリをそのまま包み込み――光と共に彼の掌で咲いたのは、ラッパのような形をした小さな花。
「星空の花……かわいくて、とてもきれいだね」
「うん……俺のはわからないや」
 その宝石があまりにも彼らしいと感じたネムリアは、素直にそう紡ぐ。この咲いた花はなんだろう、百合のようにも思えるけれど、ほんの少し違う気もする。けれど、ノヴァもネムリアも花の知識は浅くて、見知った花以外は判別がつかず――それがネリネと云う名の花だとは、分からなかった。
 今は分からなくても良い。ただ、純粋に綺麗だとノヴァは想うから。
「今度いっしょに調べにいこう?」
 けれどそれでは終わらせず、そう紡ぐネムリアの言葉は真っ直ぐで。こくりとノヴァは頷くと、帰ったらこの子の正体を一緒に調べようと約束を交わした。
 光に宝石の花をかざし、笑みを浮かべ合うと二人は同時に店主へと加工をお願いする。ノヴァはいつも腰に下げているランタンを店主へ見せると、このランタンの飾りにしたいのだと告げた。勿論店主はその意向をしっかりと聞き入れて、月のチャームを添えた繊細ながらも美しいランタン飾りを一瞬で作り上げてくれる。
 そのあまりの早さに見惚れたようにネムリアは溜息を零したけれど――いざ自分の番になれば、慌てたように唇を開く。
 彼女が願うのは、月明かりの下で眺められるように、茎と葉のついた台座に宝石の薔薇を咲かせたいと云うもの。
「ガラスドームの器に飾りたいんだ」
 器の中で、決して散ることの無い花を眺めたいから。
 かつての憧れを形にしようとする彼女の言葉に、店主は快く頷き魔法を輝かせた。

 しっかりと己の花を手にすれば、再びゆるりと街を歩いてもその心地は先程までとは違う。腰に携えたランタンが揺れる度、揺らめく夜空の花を見ていたノヴァは、突然足を止め辺りを見回した。
 ――何故だろう、ふと感じたこの違和感は。
 いつもの穏やかな眼差しとは違う、ほんの少しの真面目な色を宿した瞳。
 そのまま彼は、旅行鞄の奥でずっと眠っている、朱色の鉱石を取り出した。
 これは、滅多に外へは出さないもの。こうして陽の光に輝く姿を見るのは、どれだけぶりだろうか――キラリ、キラリとその輝きをノヴァが黄昏空の瞳に映していると。
「また花を咲かせるの?」
 彼の不思議な様子に、そして見たことも無いその鉱石に。小首を傾げながらネムリアが問い掛ける。彼女の大きな明けぬ夜の瞳に朱色が映り込む様子を見て、ノヴァは小さく息を吐きながら、ゆるりと首を振った。
「……ああ、ごめんね。この宝石は花には変わらないよ」
 そして、どんな名前なのかノヴァにも分からない。
 そんな思い出の石なのだ。
 この宝石を持ち続けている意味も、とうに忘れてしまったとノヴァは思っていたけれど……。今、故郷に近い此の地を訪れたからだろうか。ノヴァの心に湧き上がっては過ぎっていく、懐かしさと嫌な予感は。
(「不思議な感覚だ……」)
 光に輝く朱色の輝きを瞳に映したまま、まるで耽るように瞳を細め、唇を結ぶノヴァ。彼のその表情は、いつもの穏やかな彼とは全く違う姿で――。
「そう……じゃあ、ほかのお店も見てみよう? 似た子が見つかったら何かわかるかも」
 彼の顔を見て、不思議に想いながらもネムリアはそう語り掛ける。
 そのままこっちだよと、手招くように彼の手を取れば。互いの温もりを感じてノヴァも今此の場へと意識が戻る。
 そう、知らないあの日では無い。
 今は此の、鉱石の街で。夜を纏う硝子の彼女とのひと時を過ごしているのだ。
(「余計な心配は掛けたくない」)
 引かれる手に抵抗することなく、彼女の足取りに合わせてノヴァは歩みながらそう想う。だから先程浮かべていた表情はいつしか消え、いつもの彼のどこか遠くを見るような、柔らかくも包み込むような笑みへと戻っていた。
 ほんの少し、いつもと違った様子が気になったけれど。今の彼を見れば、ネムリアの心は少しの安堵を感じ、彼女の口許に咲く笑みにも表れる。
 ノヴァの心に、ざわつく心地はまだ残っているけれど。今ひと時はそっと蓋をして奥底に仕舞っておこうか。
 ――今はまだ、ただ、きらめくひと時を共に楽しみたいから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『宝石の魔女』

POW   :    あゝ、なんて甘美な味なのかしら
戦闘中に食べた【自身が所持する命の宝石】の量と質に応じて【元になった対象を思い出す事により高揚し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    あなたも私のコレクションになりなさい
【生命力を吸い上げる魔力】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    素敵な輝きを見せてあげる
自身の【所持する命の宝石】を代償に、1〜12体の【元になった対象を模した幻影の輝き】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。

イラスト:青谷

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ノヴァ・フォルモントです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●アナタの色
 街で宝石を楽しみながら耳を傾けていれば、自然と猟兵の元へは情報が集まっていた。
 ――あれは綺麗な夜色が採れる石の山。そこに美しき魔女が現れる。
 老若男女問わず、囁かれていた話の現場は同じ鉱山。夜色の美しい色が特に人を惹きつけるその場は、数多の採掘者が足を運んでいる。魔法石により照明もしっかりしており、足場も整えられている為さほど苦労せずとも歩ける場所だ。
 ――そこに訪れた者が、最近帰ってこないのだ。

 現場へと辿り着き、中へと入ればそこは山の中とは思えぬほどに眩い世界だった。
 天井、壁、床。所々が数多の色に輝いていて、しっかりと洞穴のような路を照らしている。飛び出たその色はチカチカと微かに明滅しており、七色に変化していく不思議な魔法石。それは誰かが、この地を照らす為に施したのであろう。
 穴の高さはかなりあり、大の大人も悠々通ることが出来る程。先の情報通り足元も気にならないので、探索には何ら問題は無いだろう。
 うっかり観光気分にでもなりそうな程、美しい世界の中――。
『あら、新しい人ね』
 甘い甘い声と共に、桃色の髪を泳がせながらくるりと振り向く一人の女性。
 とんがり帽子にフリルを沢山にあしらったその贅沢な装いは、不思議ながらもどこか上品で。恐らく彼女が、今回の事件の元凶である宝石の魔女なのであろう。
 彼女は掌に溢れた美しき宝石を愛おしそうに弄ると、そっと静かに口付けをする。すると――その紫色の宝石からは、輝く蝶が現れ辺りをひらひらと舞っている。
 次々に魔女が宝石へと口付ければ、兎に狼に、鉱山には不釣り合いな光る薔薇。
 生命、それは人だけでは無い。
 動物も、虫も、植物も。全てが生命で、彼女にとってはどんな宝石になるのか、興味の対象でしか無いのだ。自由に舞い、飛び跳ね、花弁を散らすその宝石の幻影は、魔女がひとつ指を鳴らせば、まるで泡沫のように消えていく。
『ねえ、アナタ方はどのような宝石を見せてくださるの?』
 優雅に微笑み、猟兵に向け問い掛ける魔女。
 その姿に敵意などは無く、ただ純粋に、己の好きな物への興味だけが満ちている。
『嗚呼、アナタ方は素敵な宝石に触れてきたのね。けれど私が一番欲しいのは、命が作り出す世界一美しい輝きなの』
 そう、この言葉も悪意からでは無い。
 ただ己の欲望に素直なだけの、美しき宝石への執着によるものだ。
 けれど、それで命を落とす者達がいるのなら――。
ネムリア・ティーズ
迷惑をかけないようにって、キミは離れたけど
……ボクだって心配なんだ
きっと、縁のある相手だから
せめてノヴァが戦いやすいように魔女の力を削りたい

向き合えばひとつぶの宝石がきらめく
涙のかたちをしたレインボームーンストーン
手の中で、不思議とゆらめくいろ

…うん、きれいだと思う
無色透明なガラスの魂を彩ったのは、たくさんの出逢い
注がれ、ふれて、抱いた
これまでの“想い”そのものだから

どの宝石もきれいだよ
だからこそ、もう奪わせたりしない

自分の幻影なら、どう動くかはよく解る
花の嵐に紛れて【フェイント】をかけながら
攻撃を【見切り】、蹴撃の【2回攻撃】
地を覆う耀きはボクだけに力を与えてくれる

穏やかな夜へ
おやすみなさい




 ――迷惑を掛けないように。
 その想いを向けられて、ネムリア・ティーズはここまで一緒していたドラゴニアンの青年と距離を置いた。彼のその眼差しと、声色と、その言葉に、きっと縁のある相手なのだとは分かる。そして彼は優しさから、ネムリアを気遣ってくれたことも。
 けれど――。
(「……ボクだって心配なんだ」)
 大きな明けぬ夜の瞳を伏せながら、静かにネムリアはそう想う。
 縁が深いからこそ、大丈夫なのかと心配なのだ。それは彼の身だけでなく、その心が、大丈夫なのかと。
 けれど、無理に一緒することも本望では無い。ならば彼をあらゆるものから守り、戦いやすいようにと、動くことが自身の役目。
 さらりと揺れる銀糸の髪。
 ネムリアのその姿に眩しそうに魔女は瞳を細めたけれど――そのまま彼女が手をくるりと回したかと思えば、ネムリアの身体が輝き、魔女の手元へと宝石が現れる。
『美しい……アナタもご覧になる?』
 そのまま魔女がネムリアへと投げたのは、ひと粒の宝石。涙のかたちをしたレインボームーンストーンは、ネムリアの手の中で不思議とゆらめく色を抱いていた。
「……うん、きれいだと思う」
 己の、その欠片に静かにネムリアは頷きを返す。
 ネムリアは、硝子小瓶の人の姿。そんな無色透明なガラスの魂を彩ったのは、たくさんの出逢いだ。注がれ、ふれて、抱いた、これまでの『想い』そのものが今、目の前に形となり輝いている。
 だから素直に、そう想う。
 そして――。
「どの宝石もきれいだよ」
 ヒトの数だけ存在する宝石。それは皆、人それぞれの道程を形として輝いているのだろう。だからこそ、もう奪わせたりはしないと、そう強く心に想う。
 目の前に現れた己の姿に、真っ直ぐにネムリアは向き合う。
 同じ瞳に映すのは、己の姿。鏡に映すかのような様子に、彼女は息を整えた。
 そう、自分の幻影なら、どう動くかはよく解る。
 花の嵐が巻き上がったかと思えば、ひらりと優雅にネムリアはステップを踏んだ。そのまま花影に隠れるように移動すると、彼女はスカートを翻し足業を繰り出す。
 地に輝く白銀は、同じ姿だとしても本物のネムリアにだけ力を与えてくれて。振るう脚に更なる力を宿し、確かに己を払っていく。
「穏やかな夜へ、おやすみなさい」
 消えゆく己の姿を見守るように見つめながら――静かに紡ぐ彼女。
 その一連の様子を眺める魔女は、余裕有りげに穏やかに微笑んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
私の宝石……。普通に予測できるというか、私の存在の根っこに宝石があるんですよねぇ。
おや!これはこれは……インクルージョンが水の水晶ですね。
いいものを見せて頂きました。では、そろそろあなたの所業についてオハナシしましょうか。
生命の輝きとは何者にも劣らぬ輝きを放ちますが、それをわざわざ宝石という形に留めるなど勿体無い。一生の中で歓喜し怒り哀しみ楽しむからこそ、輝きは強くなるのです。途中で切り取るなど、まるで我慢のできない子供のよう。なので、悪い子にはお仕置きが必要ですよね?
UC発動
竜脈使いで竜脈から力を借りて、結界術で逃げられないように。
さて、あなたの元気がいつまで保つか、我慢比べと参りましょう。




 己の宝石は――。
(「普通に予測できるというか、私の存在の根っこに宝石があるんですよねぇ」)
 目の前に立つ桃色の髪の乙女の姿を見ながら、豊水・晶そう心に想う。
 己の生命力を宝石へと変える魔女だと云うが、晶は水湧き出る水晶と、それを水源とする川の神。今、此処に彼女がヒトとして存在しているとしても、神として崇められる本来の姿は変わらない。
 だから、己の輝きはもう知っているようなもの。
 魔女がルビーのような赤い瞳を細めて、呪文を唱えたのは出会い頭。その魔法による煌めきにより現れた宝石を、魔女は『御覧なさい』と云う言葉と共に晶へと寄越した。
「おや! これはこれは……インクルージョンが水の水晶ですね」
 覗けばそこには、透き通る水晶。その中にほんのりと見えるのは、透き通る中に微かに歪みを生み出す水の過程物。本物ではなかなかお目に掛かれない、水の欠片に晶はふた色の瞳をほんの少し見開きながら思わず声を上げていた。
 ほんの少しの倦怠感。
 けれどそれ以上に、この欠片への興味が強かった。
「いいものを見せて頂きました。では、そろそろあなたの所業についてオハナシしましょうか」
 そっと瞳を閉じて、石を握り締め晶は紡ぐ。
 彼女は、人を含む生命全てを石へと変えてしまう魔女。その想いは、その所業は――。
「生命の輝きとは何者にも劣らぬ輝きを放ちますが、それをわざわざ宝石という形に留めるなど勿体無い」
 ふるりと首を振り、晶は語る。
 一生の中で歓喜し、怒り、哀しみ、楽しむからこそ生命の輝きは強くなるのだ。途中で切り取る彼女の行動は、まるで我慢の出来ない子供ようだと晶は想う。
 だから、彼の敵にはおしおきが必要なのだ。
「我が神域に踏み入るのならば贄を捧げよ」
 紡ぐ呪文と共に、周囲に現れるは水と水晶片。周囲の光により輝きを生み出すそれらが魔女の周囲を覆っていけば、彼女の動きを止めその活力を奪い去って行く。
「さて、あなたの元気がいつまで保つか、我慢比べと参りましょう」
 美しい口許に笑みを浮かべ紡ぐ彼女。
 その言葉に、彼女の力を浴びて尚――魔女は優雅に、笑みを浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花牟礼・桜深
アドリブ・連携歓迎

悪気がなくても、それが誰かを傷つけるなら黙って見てるわけにはいかないよね。

自身の宝石は、桜の花弁のような色彩をしたガーネット。
光の加減で紫の色が混ざっているようにも見える。

少しふらつくな。自分自身と戦うなんて、あまり良い心地じゃないけれど、幻影をのさばらせておくわけもいかない。ためらいはしないよ。
意思を持つ箒に横向きに座り、飛翔する。そうして手を魔法使いのように一振り。そうして出した魔法剣を己の幻影に向かって振り下ろす。

ねぇ、ひたすらにひとつのものに執着するなんてある意味羨ましさすら覚える気がするね。
けど、それで命を失う誰かを僕はこれ以上見たくないんだ。
ごめんね、魔女さん。




 とんがり帽子を被る、いかにも魔女然とした姿の彼女。
 彼女が例え、ただ宝石を愛し、その輝きに魅了されただけの悪気が無い人物だとしても、その結果誰かを傷付けるのなら黙って見ているわけにはいかないと、花牟礼・桜深は静かに思う。
 淡い瞳を細め、思考を巡らせていれば。先手のように呪文を唱えた魔女の力により、桜深の身体が輝くと共に宝石が現れる。
 それは桜の花弁を溶かしこんだかのような、淡い淡い桜色のガーネットだった。その輝きに溜息を零しながら魔女が傾けてみれば、輝く色はほんの少し紫色が混じっているようにも見える不思議なもの。その石を手に取り、眺める魔女は幸せそうで。
 己の姿の欠片を目の当たりにして、桜深は静かに溜息を零した。同時に彼女の手元にあることに不思議な感覚が満ちる中――宝石の輝きと同時に目の前に己の姿が現れた。
 それが魔女の力だと云うことは、事前の情報から分かっている。
 ふらり、力を奪われたことで足元が微かにおぼつかない感覚。現実へと意識を強く向けるように、額に手を当てながら桜深はふるりと首を振った。
(「自分自身と戦うなんて、あまり良い心地じゃないけれど」)
 己と同じ姿の、同じような春を抱く、青年のカタチの何かを前に彼は――幻影をのさばらせておくわけにもいかないと、想う。
 そのまま手をかざせば、どこからか意志持つ箒が現れ、彼に乗ってくれとばかりに横に付く。その様子はすっかり当然なのか、桜深は横向きに腰掛けるとそのまま宙へと飛び上がった。鉱山内にも関わらず広い広い天井へと飛び上がれば――地に居る彼も桜深を模倣するかのように、飛び上がる。
 けれども、映すような行動では先手は取れない。桜深のほうが一枚も二枚も上手であることを表すかのように、彼の紡いだ先に現れた数多の魔法剣により、追い付く前に自身の幻影は儚くも消えていく。
 後に残るのは、宙から見下ろす桃色の魔女のみ。
「ねぇ、ひたすらにひとつのものに執着するなんてある意味羨ましさすら覚える気がするね」
 幻影が消えて尚、余裕有りげに微笑む彼女に向け桜深は紡ぐ。
 そう、その感情が羨ましいという心地は確かにある。けれど――それで命を喪う誰かを、これ以上見たくないと強く想うのだ。
 だから――ごめんね、魔女さん。
 ひとつの謝罪と共に、桜深は生み出した魔法剣を彼女に向けて放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
──紬

力使い彼女を喚び出せば
途端身体から力の抜ける感覚
事前に聞いていた魔女の力だろう
生命力を抜かれた
同時に捕らえられる此の身

魔女の手元で形となってゆく宝石は
何処までも暗く淀んだ黒
形も歪で穴だらけの、凡そ美しいとは思えぬ物
己の裡に潜む怨讐を模したかのような…

見るに、堪えないな…

独り言の様に溢した言葉
紛らわすよに何処をとも見ぬ眸を閉じ集中する
言葉なく紬へと伝える攻撃の意思
周囲から集めた水分は魔女を包み込む水の檻へと
紬の許しなくして呼吸は出来ない

捕縛を抜けたなら屠を一閃
魔女への攻撃と共に歪な黒の宝石を砕いてしまおう
歪な己を、壊すかのように

…美しい命など、俺は持ち合わせていませんよ

縋る様に
腕輪に触れた




「──紬」
 魔女と対峙してすぐに、華折・黒羽は水の精霊たる彼女の名を呼んだ。
 水音を彼の猫耳が捉える中、彼女の姿が現れると共に黒羽の力が急激に抜ける感覚が訪れ、その場で崩れるように膝を突く。
(「事前に聞いていた――」)
 魔女の力なのだと、すぐに黒羽は思い至り慌てること無く、静かに息を整える。
 大丈夫、猟兵である彼ならばこのまま死に至ることは無い。静かに、態勢を整えれば大丈夫――そう言い聞かせるように胸元に手を当て、深呼吸をする中。桃色の魔女が手にして、そのルビーのような瞳でまじまじと見つめる宝石を見て彼は一瞬息を止めた。
 それは、その宝石は、何処までも黒く淀んだ黒色をしていたから。
 形も歪で、穴だらけのそれは、お世辞にも美しいとは思えない代物。そう、それはまるで――黒羽の裡に潜む怨讐を模したかのような。
「見るに、堪えないな……」
 ぽつり、身動き出来ない身体のまま黒羽は独り言のように言葉を零す。
 その言葉を魔女は聞こえていないのか、それとも流しているのか。分からないけれど今は黒羽の宝石の珍しさに夢中の様子。彼女にとっての魅力は、ただ見目が美しいだけでは無いらしい。
 その様子に、どこか不思議な感覚を覚えながらも、気を紛らわすように黒羽は青い瞳を瞼で隠す。そのまま彼は心の中で、紬へと語り掛けた。
 するとどこからともなく水流が現れ、一気に魔女の身体を包み込み水の檻を形成する。その正体は、紬の力による水分から生まれた水だった。故に彼女の許しが無ければ、水から解放されることは無く、呼吸をすることも叶わない。
 言葉無くとも、彼等の絆があるから出来ること。
 水流が生まれたと同時、己を縛る力が解け黒羽は立ち上がる。
 ひとつ息を吐き、直ぐに彼は駆け出すと――水檻の中央へと飛び上がり、そのまま黒剣を煌めかせ魔女の身を、そして彼女が手にする歪な黒の宝石を一閃した。
 上がる水飛沫と共に魔女の身体に傷を付ける。
 それと同時、パキリと静かな音が鳴ったかと思えば、黒の宝石はその場で砕け散っていた。――それはまるで、歪な己を、壊すかのように。
「……美しい命など、俺は持ち合わせていませんよ」
 地に足を付け、屠の水を払うかのように一振りしながら黒羽は紡ぐ。
 そのまま彼が腕輪に触れる動作は――まるで、縋るように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久留米・圓太郎
■SPD
その宝石は、命……生命力ってわけか!
魔法使いの尊厳にかけて、魔法を自分の利己のためだけに使い、他人を蔑ろにする奴は許さん!

[空中戦、オーラ防御、地形の利用、野生の勘]で回避]で奴の魔法を避けておかなくちゃいけない。その上で【ナジュム・ダウ・ダナブ】で[高速詠唱、全力魔法、属性攻撃、範囲攻撃、2回攻撃]使って、ヒットアンドアウェイで魔女を攻撃する!

見たか!さっきは氷の魔法使ったが、そればっかりとは思うなよ!
誰がコレクションになってたまるもんか!

※連携・アドリブ共歓迎




 彼女の手にする、キラリと輝く数多の石の煌めき。
 その輝きを前にして――久留米・圓太郎は大きな赤い瞳を見開いた。
「その宝石は、命……生命力ってわけか!」
 一体どれだけの人が犠牲になったのだろう。彼女の手にする輝きの数を前に、それはまだ幼い彼の想像も出来ないことなのかもしれない。けれども、同じ魔法を扱う者として。そして、魔法使いの尊厳に掛けて。魔法を自分の利己の為だけに使い、他人を蔑ろにする目の前の魔女の姿に、圓太郎は握る手を震えさせた。
 まだまだ魔法使いの弟子である圓太郎よりも、彼女は一枚も二枚も上手だろう。
 けれど、彼は彼女の行動が分かっている。それならば対処することも十分に可能だ。彼女が魔法を紡ぐよりも先に、圓太郎は箒へとまたがると宙へと飛び上がった。
『あら……』
 己の魔法よりも早い彼の動きに、少しだけ驚いたように魔女は言葉を零す。けれど慌てた様子は無く、小さな圓太郎の動きをルビー色の瞳で追っている。
 いつ、彼女の魔法が放たれるのか分からない。
 熟練の魔女である彼女は、圓太郎の思いもよらぬ方法で魔法を使えるのかもしれない。
 けれど――。
(「誰がコレクションになってたまるもんか!」)
 彼女に負けない、その強い意志で少年は宙を舞い、予想出来ない動きで広い鉱山内を飛び回る。そのまま小振りの杖を操ると、魔女に向けて炎の魔法弾を放っていく。
 呪文を唱えていた魔女はその一瞬の流れに反応出来なかったのか、一発当たれば服の裾を燃え上がらせる。
「見たか! さっきは氷の魔法使ったが、そればっかりとは思うなよ!」
 自信満々に語る圓太郎。不意の攻撃に反応出来なかった魔女だけれど、慌てた様子は無くすぐに炎を消し去ると、彼の放つ魔法をひらりとかわしていく。
 宙と地と。離れた場での魔法使いの戦いは続いていく。
 彼はまだ小さいけれど、立派な魔法使い。
 その魔法を扱う心には、確かな意志が宿っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蝶ヶ崎・羊
ナナさん(f02709)に同行します

『命の輝きはこれからお見せしましょう。そして過度な執着はいけないことをお教えします』

『ナナさんは桜のようなピンクも似合いそうですね?…と、はい、こらしめてしまいましょう』

風の【属性攻撃】での敵の移動妨害とナナさんの攻撃の追い風のサポート

またUCのヒツジさん達も追い風のサポートで攻撃、回避を上げて蹄で殴ってもらいます

『…ナナさんの言う通り。幻影では表せない輝きと言うものもありますよ。こんな風に』

ワタシも人間になる事に執着しすぎたらこうなるのでしょうか…
いえ、きっとナナさん達が止めてくれる…そう信じます


黒瀬・ナナ
羊さん(f01975)と

命を宝石に変える魔女……わたしだったら、きらきらの太陽みたいな宝石かしら。
もしくは、揚げたての唐揚げみたいなキツネ色の宝石になったりして。
羊さんは、穏やかな緑色…さっきの宝石チョコみたいなエメラルド、とか?
どんな宝石になるのか、ちょっと気になるけれども。
誰かが命を落とす前に、懲らしめちゃいましょ!

【破魔】と【浄化】の祈りを乗せて舞い、命を弄ぶ者へ【神罰】の一撃を。
幻影の輝きには惑わされないわよ。
だって、本物の方がもっと強く優しく輝いているし、ずっとずっと素敵だもの。

……大丈夫。
羊さんはあんな風にはならないわよ。
もし、そうなったとしても、
ガツンと止めちゃうから安心してね?




 目の前に立つ優雅な魔女。
 その色合いの華やかさも、彼女の纏う宝石の煌めきたちも、皆美しいけれどそれは少しだけ歪んだ輝きのカタチ。
「命を宝石に変える魔女……わたしだったら、きらきらの太陽みたいな宝石かしら」
 彼女の扱う魔法を想い、小首を傾げる黒瀬・ナナ。彼女の性格を表す石になるのか、はたまた揚げたての唐揚げみたいなキツネ色の宝石になるのか。それは彼女自身では予想に過ぎず、本物はどうなるのかは不明だ。
「ナナさんは桜のようなピンクも似合いそうですね?」
「羊さんは、穏やかな緑色…さっきの宝石チョコみたいなエメラルド、とか?」
 愛らしい彼女の様子を想い傍らの蝶ヶ崎・羊が穏やかに紡げば、彼の透き通る瞳をじっと見てナナも彼の色を想う。
 己の石は勿論気になるけれど、目の前の彼女の行動は近い将来数多の人の命を奪っていくのだ。だから今、二人が取る行動はひとつだけ。
「誰かが命を落とす前に、懲らしめちゃいましょ!」
「……と、はい、こらしめてしまいましょう」
 キリリと眉を上げ、強く言い放つナナの言葉に。現状を思い出すと羊は優雅に頷いた。
 数多の宝石を抱く目の前の魔女は、その美しさに魅了されてしまったのだろう。元は普通の宝石に心奪われ、その想いが過度になってしまい世界にひとつの宝石を求めたのか。
「命の輝きはこれからお見せしましょう。そして過度な執着はいけないことをお教えします」
 真意は羊には分からないけれど、彼は静かに口許に指先を当てると、年上として諭すようにそう紡いだ。
『あら、執着では無く純粋な愛です。美しい物に魅了され、夢中になるのは、人として当然のことでは無くて?』
 彼の言葉に、目の前の彼女は優雅に応える。さも当然のように、悪気等無さそうにそう紡ぐと――ナナと羊、二人の身体が輝きを放つと同時に、魔女の手には二つの石が。
 一つは、太陽のような煌めきを持つ、淡い桜色の愛らしい宝石。
 一つは、綺麗に整ったエメラルドのような深い緑の宝石。
 互いが互いに語ったような石が目の前に生まれ、それらは今魔女の手元で輝いている。そしてその宝石を掌の中で弄ると――目の前には、二人の幻影が現れた。
 同じ姿をして、同じように並び立つ男女の姿。
 けれど戸惑うこと無く、二人は武器を構えた。そのままナナは一歩踏み出すと、破魔と浄化の祈りを乗せ舞い踊り。そのまま薙刀を振るえば、幻影と共にその奥に居る魔女の身体を捉え、ひらりと揺れる深い青のスカートを切り裂いた。
 負けること無く、真っ直ぐに戦う彼女の姿を見て。羊も戦う意志を持ち、淡々と呪文を唱えると――彼の周りに風の魔力を纏った子羊が現れたかと思えば、翼を生やし幻影の元へとパタパタと近付く。
 その愛らしさとは裏腹に、彼等の蹄による攻撃は確かなもの。蹴り上げを受け羊の幻影は夢のように消えていった。
 そう、幻影の輝きになんて惑わされない。
「だって、本物の方がもっと強く優しく輝いているし、ずっとずっと素敵だもの」
 大きな琥珀色の瞳に宿すのは、強い意志。真っ直ぐに語る彼女のその姿に、羊は深く息を吸い込んだ。そう、同じでもただの幻影なのだ。
「……ナナさんの言う通り。幻影では表せない輝きと言うものもありますよ。こんな風に」 
 そのまま彼が風を起こせば、その力に後押しされたナナの放つ衝撃波が自身の幻影を襲いその姿を掻き消していく。
 夢から覚めたその先に待つのは、桃色の魔女のみ。尚も余裕有りげに、優雅に微笑む彼女の笑みがどこか歪んで見えるのは気のせいなのだろうか。
「ワタシも人間になる事に執着しすぎたらこうなるのでしょうか……」
 彼女のその姿を見て、羊は静かに想ったことを口にしていた。
 そんな『もしも』のことを考えるけれど、きっと――。
「……大丈夫。羊さんはあんな風にはならないわよ。もし、そうなったとしても、ガツンと止めちゃうから安心してね?」
 ナナが止めてくれる。
 そう想った時に、傍らから掛けられた本人からの言葉。
 その言葉に、彼女の眩しさに、羊はモノクロの奥の瞳を見開き――笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

何かが吸い取られる感覚がある
軽くなった様な、いや無くなった様な感覚
彼女手にうつるのは黒と白の混じり合い灰色になれない2色の宝石
おやおや、アレが僕の命ですか?
ルーシーちゃんの命の宝石は綺麗ですねぇ
昔なら僕の宝石をあげる代わりにルーシーちゃんのを返してくださいという所ですが
ふふっ、小さな僕の娘さんが怒ってしまうので両方返して頂きますね?

人型になる幻影
僕?と思ったがそれは小さく愛らしい姿。僕の娘の姿だ
彼女の幻影は
「いいのよ、パパ。苦しまないで貴方が苦しみから救ってあげる。
だから死んで楽になってもいいよ?」

嗚呼、くすりと笑みが溢れる
例え僕が死にたいほど哀しみに暮れていても
あの子は命を粗末にする言動などしない
死を選ぶ僕を怒りその哀しみを一緒に背負って生きる方を選ぶ子だ

嘘喰
嘘の幻影は食べてしまいましょう

彼女の小さな手を握り、僕は此処だよ
そしてこの子の存在を確認する
傍に居ると
ホンモノの命の宝石はもっと綺麗に輝くものです
一緒に取り戻しましょうね


ルーシー・ブルーベル
【月光】

くらりと眩暈がして
足から力が抜けたのは一瞬
何時の間にか魔女さんの手には
青に黄色が混ざるそれは、混色の碧玉
それがルーシーの命なの
ゆぇパパの宝石は……黒と白?
ルーシーもパパの宝石、キレイだと思う
黒も白も、どちらも大好きなパパだもの
――!
ふふ……!ええそう、そうよ
そんな事言われたら怒っちゃう
だから両方、取り返しましょうね

現れる人影
背が高くてキレイな白銀の髪にお月さま色の瞳
ゆぇパパの姿そのもの
けれど
「君は本物の娘じゃない。ルーシーという名前すら嘘をついていた悪い子にもう興味はありません。食べてしまいましょうか」

ちがう、ちがうわ
パパはそんな事絶対言わない
見た目がいくらソックリでも全然似てないわ
哀しまれていても
苦しまれていても
傍にいると言って下さった
『わたし』を娘だと
生きて欲しいと言って下さったもの
わたしの大切なパパの言葉を汚さないで

咲いて青花
彼の幻影を打ち消して

はっとすると大きな手の感触
そう、わたしのパパは此方
ようく知ってる!
パパの命はこんなにキレイで、大きくて、
あたたかく光ってるもの!




 桃色の髪を揺らす、麗しき女性と瞳が合った瞬間。ルーシー・ブルーベルと朧・ユェーの二人を襲ったのはくらりと頭と体が揺れる感覚と、一瞬だけの力が抜けるような心地。
 揺らぎ乱れる足を慌てて整え、下げた視線を上げると――いつの間にやら目の前の魔女の手の中には、輝く宝石が握られていた。
 辺りの魔法光を受けてキラキラと輝くそれは、青に黄色が混ざる混色の碧玉。
「それがルーシーの……」
 ――命なの。
 まるでルーシーの髪と、瞳と、名の花を表したようなそれを目の前に、少女は大きな瞳を離せずに見つめていた。その煌めきに心が惹かれたのか。それは自身で色を選び咲かせた向日葵とは違う、己を包み隠さず表した色だ。
「おやおや、アレが僕の命ですか?」
 自身の色に釘付けになっていた時、傍らから聴こえたユェーの声にルーシーは現実へと戻り瞳を瞬く。彼の語る通り、魔女は碧玉とは別に、逆の手で握られたのは黒と白の二色の宝石。――それは、混ざり合うことは出来ず完全なる灰色には成れない宝石だ。
 先程の何かが軽くなったような、無くなったような感覚はまだユェーの身体に残っているけれど。心配性な娘を安心させようと、緩やかな笑みを浮かべつつ彼は金色の瞳を眩しそうに細める。
「ルーシーちゃんの命の宝石は綺麗ですねぇ」
 光に当たり、輝く姿は愛しい彼女そのもののよう。二色が混ざり合う様は同じなのに、全く違う輝きを抱くその宝石は魔女だけでなくユェーの心をも掴んでいた。彼の言葉に、少しだけ胸にくすぐったさを感じながら……ルーシーはぽつりと、唇を開く。
「ルーシーもパパの宝石、キレイだと思う」
 ――黒も白も、どちらも大好きなパパだもの。
 そっと彼の大きな手を取って、ルーシーはそう紡いだ。
 鮮やかな彩りとは云えないその色を、真っ直ぐに認めてくれる彼女の言葉が、彼女の心が嬉しくて。ユェーはひとつ息を吸うと、自然と笑みを深めていた。
「昔なら僕の宝石をあげる代わりにルーシーちゃんのを返してくださいという所ですが」
 繋いだ彼女の温もりを優しく握り返しながら、ちらりと見下ろして。真っ直ぐにこちらを見る青い瞳を見返しながら、ユェーはくすくすと小さな笑い声を零した。
「ふふっ、小さな僕の娘さんが怒ってしまうので両方返して頂きますね?」
「――!」
 彼の言葉に、驚くようにルーシーは開いた左の目を見開く。確かに変わってくれた、大好きな父の言葉に、その心に、溢れる程の嬉しさは隠せない。
「ふふ……! ええそう、そうよ。そんな事言われたら怒っちゃう」
 何度も何度も頷きながら、彼女は真っ直ぐに紡ぐ。
 ――だから両方、取り返しましょうね、と。
『いいえ、これは私の輝き。私の心を捕らえた宝石よ』
 二人の言葉に、魔女は優雅に首を振り言葉を紡ぐ。その瞬間、現れた人影を前にユェーはルーシーを庇うように腕を広げ、ルーシーも兎のぬいぐるみをきゅっと抱き締めながらもしっかりと前を見て戦う意志を表した。
 現れる人影は、魔女の扱う魔法によるもの。
 宝石に込められた生命のカタチは――自分では無く、愛する家族だった。

 現れるのは自分自身だと思っていたユェーだが、現れたのが小さく愛らしい娘の姿だったことに、少しだけ驚いたように瞳を瞬く。
 けれども、自分自身よりもその姿は深く深く心に刺さる。
 敵ながら何とも的確に心に訴えるのだろう。その小さな、護ってあげたくなる程小さな姿で、いつもこちらを真っ直ぐに見てくれる眼差しで、目の前に居る幻影の彼女をユェーは静かに見つめ、次の行動を待った。
 さらりと二つの金の髪を揺らして、一歩、一歩彼女は近付く。
 間合いに入られても拒絶することなく、ユェーは静かに彼女の行動と言葉を待つ。気付けば手が届く距離になり、小さな両手を伸ばしてユェーへと触れようとする愛しい仔。
『いいのよ、パパ。苦しまないで貴方が苦しみから救ってあげる。だから死んで楽になってもいいよ?』
 ――嗚呼。
 思わず溜息と共に、くすりと笑みが零れていた。
 開いた左目でじっとユェーの金色の瞳を見つめて、小首を傾げて、紡ぐ彼女の言葉は何と現実とかけ離れたものだろうか。
 彼女は、例えユェーが死にたい程の哀しみに暮れていても、命を粗末にするような言動はしない。死を選ぶユェーを怒り、その哀しみを一緒に背負って生きる方を選ぶ仔だ。
 それは数多の冒険と、数多の出来事で心を通わせ、常に一緒に居たユェーだから、彼女の唯一の『パパ』である自分だから、自信を持ってそう言える。
 だからこの彼女は――。
「嘘の幻影は食べてしまいましょう」
 嘘であると、簡単に分かる。
 愛おしい仔の姿であろうと、関係は無い。それがホンモノで無いのなら、ユェーは迷うこと無く、小さな彼女の姿をしたソレに、死の文様を刻んでいった。

 同時刻。現れた人影にルーシーは少しだけ身構えるように唇を結び身体を強張らせた。
 すらりと高い背。透き通りキラキラと煌めく白銀の髪。そして、妖しくもルーシーには優しい色を宿しているように感じるお月さまの瞳。
 その姿は確かに、大好きな大好きな父の姿。
 けれど――。
『君は本物の娘じゃない。ルーシーという名前すら嘘をついていた悪い子にもう興味はありません。食べてしまいましょうか』
 不気味な笑みは、いつもルーシーに向けてくれる優しさに満ちたものでは無い。こんな彼の姿は知らない。こんな彼の言葉は知らない。
 違う、違うと。ルーシーは全てを拒絶するように首を何度も振っていた。
「パパはそんな事絶対言わない。見た目がいくらソックリでも全然似てないわ」
 何度も言葉と心を通わせたからこそ分かる。ルーシーに対して、娘だと語ってくれる優しい彼が、そんな言葉を嘘でも唇から零す筈が無いのだ。悪い子だなんて、そんなことを言うはずが無い。ホンモノの自分が、ルーシーの事を食べてしまう事を恐れていた姿を、ルーシーは知っているのだ。
 だって、彼は言っていた。哀しくても、苦しくても、傍に居ると。
 それに――。
「『わたし』を娘だと、生きて欲しいと言って下さったもの」
 恐れていた姿を見ても尚、彼は変わらず微笑んでくれた。血とは違う、確かな絆があるからこそ、二人の言葉と想いは確かに交差し、そして今に繋がっている。
「わたしの大切なパパの言葉を汚さないで」
 眼帯に隠れぬ左の目を、珍しくも怒りに満ち溢れさせ。真っ直ぐに偽の父の姿へと視線を送り、ルーシーは呪文を唱え青花を咲かせていく。
 ――全てを、打ち消す為に。

 視界が溢れる程の釣鐘水仙の花びらに覆われた時、掌に伝わる温もりにルーシーははっとした。顔を上げれば、そこにはいつもの優しいお月さまが輝いていて。
「そう、わたしのパパは此方。ようく知ってる!」
 見開かれた瞳は嬉しさに輝いていて、仄かに染まる頬は喜び故。そんな彼女の姿に、繋いだ小さな手の温もりに、確かにユェーも愛しい娘の存在を確認していた。
 彼女の煌めきは、偽物などでは作り出せない程美しい。
「傍に居ると、ホンモノの命の宝石はもっと綺麗に輝くものです」
 ――一緒に取り戻しましょうね。
 優しく紡ぐ彼の言葉に、大きく何度も頷くルーシー。
 一緒、の言葉がこんなにも嬉しくなったのは何時からだろう。
「パパの命はこんなにキレイで、大きくて、あたたかく光ってるもの!」
 分からない。けれど確かに命が、温もりが、此処にあるからルーシーは幸せになれる。
 これからも何度だって、一緒に進んで行こうと想える程強い強い温もりを、確かに二人は感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント
その姿を一目見れば思い出す

貴女の見た目は何一つ変わっていないけれど
俺の方は随分と変わってしまったよ

あの時の俺は
狭い世界しか知らない只の子供だった
退屈な故郷から遊び半分で抜け出したあの日
初めて出会った外の世界の人が貴女だった

でも幸か不幸か
俺は貴女に命を奪われなかった
代わりに受け取ったのがこの宝石だ

今なら理解出来る
コレは俺の命の一欠片
だから手放す事も出来なくて

長い年月を掛けて輝かせた宝石
魔女にはどう見えるのだろうな


―それから
あの日の夜
集落に帰った俺は叱られると思ったんだ
勝手に外へ出たのだから

でも迎えてくれたのは静寂だった
皆抜け殻のように地に伏せて

―それも全部、アンタがやったんだろう?

小さな集落だけれど世界の全て
それが一瞬で壊された
あの頃は子供で
何もかも分からなかったよ

……
今更答えが見つかっても全て遅すぎる
貴女に矛先を向けた所で何も戻って来ない

けれどもし
未だ故郷の皆の宝石を持っているのだとしたら
それだけは返して貰おうか


全てを終えても残るのは虚しさだけ
怒りも哀しみも
心の底で溶けてしまったみたいに




 ふわりと流れる、桃色の柔らかな髪にルビーのような瞳。
 青の魔女装束に、輝く宝石を抱いた杖。
 その姿は――幼い頃、ノヴァ・フォルモントが出逢った思い出の中の彼女『まま』だった。小さく見えるのは、彼女が縮んだ訳では無い。月日が経ったことにより――。
「貴女の見た目は何一つ変わっていないけれど、俺の方は随分と変わってしまったよ」
 しゃらりと黒角に飾られた金細工を揺らせば、小さな音が鳴る。
 そう、小さく見えるのはその分だけノヴァが成人などとうに過ぎる程に成長したから。
 それ程の月日が経ったのに――あの日のことは、鮮明に思い出せる。
 まだ小さくて、翼も尾も隠すことをしていなかった自分。夜を纏わずにいた、狭い世界しか知らない只の子供だった自分。
 退屈な故郷から、遊び半分で抜け出したあの日――。
「初めて出会った外の世界の人が貴女だった」
 ノヴァのその言葉に、魔女は瞳を瞬く。細い指を桜色の口許に当てて、あの日の事を思い出すようにルビーの瞳を揺らしていた。
 自分は、覚えている。
 けれど、彼女は覚えていないのだろうか。
 彼女のその様子に少しのざわめきを胸に感じながら、けれどノヴァは魔女を真っ直ぐに見て言葉を続ける。あの日の事を、静かに思い出すように。黄昏空の瞳を細め、遠く遠くの記憶を重ねるかのように。
「でも幸か不幸か、俺は貴女に命を奪われなかった」
 代わりに受け取ったのが、この宝石だと。ノヴァはずっと鞄の奥底に眠らせていた、つい先ほど久々の故郷の空気の元、陽の光に当てた朱色の宝石を彼女へと見せる。
 辺りの魔法光を浴びて、キラキラと輝く様は先程の太陽の下とはまた違う煌めきで、幻想的で。その視線を奪われる程の魅惑的な輝きに、魔女はひとつ息を吸い込んだ。
『……嗚呼、あの時の少年ね』
 そのまま息を吐くと共に、魔女はこくりと頷いた。
 彼女が魅了されたのは、美しき宝石。その為か、彼女の記憶もまた宝石と結びついているのだろう。ノヴァが手渡された丸い宝石を見ることにより、彼女は思い出したと何度も頷きながら、そっとノヴァの手元の宝石を見つめた。
『そう、誰しも私の魔法で命は美しき宝石に変わる筈なのに、貴方は変わらなかった。変えられたのは貴方の一部だけだった。だから、私は貴方に宝石を渡したの』
 ――全ての生命力では無い、その輝きは少し魔女には物足りなかったのだろう。
 あの時のノヴァには、ただの綺麗な宝石に見えた。
 けれど今のノヴァになら分かる。これが、ノヴァ自身の命の一欠片だと云うことを。だから、手放す事も出来なくて、けれど、あの時を思い出すから見ることも辛くて。鞄の奥底へと眠らせて、ずっとずっと持っていたのだ。
 あれからの月日の分だけ掛けて、輝かせた宝石。
 魔女にはどう――。
『でも、そうね――今は貴方の宝石が、欲しいわ』
 疑問に思っていた時、頬を染めながら紡ぐ魔女の言葉にノヴァは息を呑む。あの時とは違う、外の世界を知るだけでない、数多の世界を渡り数多の人々と出逢ったノヴァの輝きを、彼女に認められたような気がしたのだ。
 息を吐き、顔を俯かせ、心を落ち着けるノヴァ。
 あの時を思い、言葉にしていれば思い出すことがある。一人で勝手に外に出て、森を散策していた幼い自分。すっかり夜になり戻った時には叱られるものだと思っていた。
 けれど、幼い彼を迎えたのは、叱咤と云う優しさ込められた声では無かった。
 ――そう、何も無い、ただの静寂。
 人の姿はあちらこちらに居るのに、誰もが皆地に伏せっていて。声を掛けても身体を揺すってもぴくりともしないどころか、死の硬直さえ無い、何も無い抜け殻のような彼等。
 あれは、あの生命を感じない彼等の姿は。
「――それも全部、アンタがやったんだろう?」
 じっと魔女のルビーの瞳を見て、ノヴァは問い掛ける。
 それは確信のような言葉だった。
 小さな集落だったけれど、あの中がノヴァの世界の全てだった。それが一瞬で壊された出来事は、まだ子供だったノヴァには何もかも分からずただ茫然とするだけだった。
 けれど、今なら分かるのだ。何も知らない幼い自分が言葉を交わした、彼女が――。
『ええ、そうよ。私が全て宝石に変えたの』
 ノヴァの言葉に、その眼差しに。悪びれも無く魔女は優雅に微笑むだけ。そのまま彼女はどこからか色とりどりの宝石を取り出すと、彼女の周りにその宝石を浮かばせる。
 赤、青、緑――ノヴァの瞳のような朱色に髪と同じ月の色もある。
 色も形も様々な、美しき輝きを持つそれらを周りに纏わせながら、そっと彼女は口許に人差し指を当て、どこかうっとりとした眼差しと声色で言葉を紡ぐ。
『今もこうして大切にしているわ。大切な、生命の輝きを』
 その輝きはあまりにも眩しくて、ノヴァはつい瞳を閉じそうになる。
 けれどフードを少し深くして、瞳に影を作るとその輝きから視線を逸らさなかった。
「……」
 ずっと心にあった確信めいた疑問の、答えは出た。
 けれど今更答えが見つかっても、遅すぎることは分かっている。貴女に、彼女に矛先を向けた所で何も戻って来ないことも、大人である自分は分かっている。
 いつも共にある三日月の竪琴へと指先が触れるが、その弦を弾くことを躊躇ってしまう。今彼女を打ち倒せば、仇討になるのだろう。けれどそれは長年の燻りが消えただけで、己は満足することが出来るのだろうか。
 迷い故に竪琴への指はぴたりと止まったまま。
『もう一度魔法を掛ければ、もっと美しい宝石になるかしら? そうしたら皆様と一緒に愛でてさしあげるわね』
 くすくすと笑い声を零し、魔女はノヴァの命を再び宝石へと変えようとする。その言葉に、彼女の周りに舞う宝石達に、ノヴァは大切な彼等がもう戻らないならばと、己の奥底から湧き上がる強い意志に気が付いた。
 上げた黄昏空の瞳は強い意志を宿し、先程までの迷いを帯びた指は確かな意志を以て竪琴の弦を弾く。すると奏でられる音色は月夜の美しき旋律で、彼のすっかり成長した喉から奏でられる穏やかな歌声が戦場に響き渡れば、魔女はぐらりと態勢を崩す。
『貴方……何を……?』
 眠りに抗うように瞳を瞬き、零される魔女の問い掛けにノヴァは応えない。弦を弾きながらも歌を止めれば、彼女の周りの宝石を順々に見て言葉を零す。
「――それだけは返して貰おうか」
『……嗚呼、もうあの頃のような、幼い貴方では無いのね』
 彼女のルビー色の瞳が、ノヴァを映す。
 そこで初めて、魔女は青年を宝石の源では無くヒトとして認識したのだ。
 彼の言葉に、その姿に、魔女は最期の言葉を零すとその場へと倒れ込む。それと同時に、彼女の周りを漂っていた美しき宝石達は地へ落ちる音を立てた。
 それが全ての終焉だとノヴァは気付き、そっと瞳を伏せる。
 全ては終わったのに、彼の心に残るのは虚しさだけ。
 そう、まるで――。
(「怒りも哀しみも、心の底で溶けてしまったみたい」)
 ――音を奏でる手は止めぬ儘、ノヴァは静かにこの景色を瞳に焼き付けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月26日
宿敵 『宝石の魔女』 を撃破!


挿絵イラスト