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巡ル輪廻ノ安ラギヲ

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●非業ナル不死鳥
 何処にでもあるありふれた一つの悲喜劇。
 何ということはない、生活に困っていたというわけでも、何でもない、ただの女学生。
 ただ周りと馴染めなかった、世界から何も無く拒絶された女学生の、三文小説家がめりぃばっどえんどとドヤ顔で描きそうな結末。
 世の中に馴染めなかった女学生の、世から解き放たれたことを喜ぶ自殺。

 その筈だったのに。

 未遂に終わってしまった。あの時の奇跡<神の悪戯>って奴が起こらなければ。
 あの時、……に発見されて、それから奴の親友だっていう女の子の――とも出会って。ええと……そう、私は生きることにしたんだ。真面目に。

 だっていうのに。

 女の方は病気で亡くなって。それから……は抜け殻のようになって。
 あれから……は大変で、でも何だかんだで、バカやって笑って……。
 ……それからは覚えていない。多分、自殺したわけでもない、はず。わからない。わからないけれど、この姿は紛れもなく私、いや、私であって私じゃない何か? でももう、それすらも分からない、けど。
「ねえ叱ってよ。こんなのミュリエルじゃないって怒ってよ。あはは。ねえ」
 逢えるよね。また逢えるよね。逢えたら、だから。
「――……こんな醜い火なんて、消して頂戴よ」
 ばさり、ばさり、ゆらゆら、めらめら。
 哀しい不死なる鳥の炎は盛り桜の都に走る――舞い散る桜も焼き尽くし、涙跡の如く残される炎の軌跡が虚しく都の道に刻まれたまま。

●世ノ中全テ歌劇ガ如シ
「私の今いる場所ももしかしたら歌劇の舞台なのかもしれない」
 グリモア猟兵スフィーエ・シエルフィートは、唐突にしてグリモアベースの在るかどうかも分からない壁を触れにいくかのように手を伸ばした。
「どこに第四の壁があるのか、考えれば考える程にハマるが……さて」
 まあ気にして歩みを止めるだけ損だ、と語ってから彼女はグリモアを手に映る世界の風景を変え――幻影の花吹雪舞う光景が映し出されていった。

「さぁ語ろうか。舞台は悲劇も喜劇も歌劇も花咲く千年の都、サクラミラージュ。君達には魂鎮めの儀を執り行って貰いたい」

 非常に強力な影朧の出現が予知された。だが帝都桜學府は既にそれに対する手段として、一つの儀式魔術を用意していた。
 それこそが【魂鎮メ歌劇ノ儀】というもので、影朧の過去にまつわる物語を演じながら戦うことで、より強く影朧を癒すことができるのだという。
「幸いに舞台装置の類の用意や、安全の確保などは向こうで行ってくれている。だが……歌劇を演じながら、強大な影朧を相手取るのは君達しか出来ない」
 曲がりなりにも強大と称されるだけあり、配下諸共、超弩級戦力である猟兵達にしか実際に戦うことは出来ないと語る。

 そしてスフィーエは語り出す――非業の灼熱と称される、今回の哀しき影朧の生い立ちを。曰く、ありふれた孤独感からの自殺未遂を引き起こし、だが奇跡的に友人に恵まれやり直そうとした日々、友人の一人が急逝したところから彼女は堕ちたという。
「……ありふれているからこそ救いもなく、絶望から立ち直ったかと思えば、友に先立たれ、もう一人の友は抜け殻。その後の経緯は分からないが……」
 何しろ輪廻転生を繰り返す不死鳥と交じり合い、哀しい輪廻を繰り返しながら全てを焼き尽くし――そして彷徨い続け狂って炎を盛らせ続ける存在となったのだから。
 その後は往く者全てを焼き尽くしながら、心の内では滅びを望んでいる――とか。
「……あまりにも悲しく燃え盛る不死の鳥だ。終わらせて、あげよう。彼女の本当に求めるものを用意できるかは、わからないがね……」
 いずれにせよ危険な影朧であることに違いはなく、放置すれば世界を破滅に導かれるのは道理であると語り。
「何はともあれ、君達は彼女の過去にまつわる役を演じながら戦って欲しい。大きな役は先立った友人と、抜け殻となった友人……それに……、……世に馴染めなかった普通の少女、かな」
 他にもこれはあるのではないか、と思う役があれば演じて、その上で過去を辿る歌劇を演じて倒すことが最優先だと語った。

「さて、悲劇はそこから学ぶものが無ければ更なる悲劇を生むものだ。どうかこの悲劇を、更なる悲劇の幕開けとしない為に……」
 一通りを語り終え、スフィーエはパタンと手帳を閉じると、羽根ペン型のグリモアを用いて劇場への扉を描いていき。猟兵達をその場へエスコートするスタッフの如く、開かれた門に入るよう促して。
「そして、眠れない不死の鳥に救いをあげてくれ。頼んだよ……では、準備が出来たら行ってくれたまえ」


裏山薬草
 どうも、裏山薬草です。
 いわゆる回想シーンを実際にその場で上演した盗賊団もいましたね。
 あれは初見で突っ込んだ彼と同じ心境になったと思います。

 さて今回は自分のいる場所から拒絶され、立ち直ってはまた拒絶されと繰り返し、非業の死を遂げた先に影朧となった少女の魂を鎮めるシナリオです。
 皆様には少女の過去……彼女の親友役、あるいは世の中に馴染めなかった普通の少女の役などを演じながら戦って頂きます。他にもこういう役とかあるんじゃないかと思われたら、自由に演じてくださって問題ありません。
 尚、入れ替わり立ち代わり戦うと思われますので、同じ役を違う猟兵の方がやっても全然構いません。

●第一章『集団戦』
 影朧の過去に纏わる何かを演じながら、影朧から出た配下との集団戦になります。
 基本的には雑魚を蹴散らしていく流れですが、この章での呼びかけ次第では次章にボーナスが加算されるかもしれません。

●第二章『ボス戦』
 強力な影朧との決戦となります。
 影朧の過去に準じて演じながら語りかけるも、演じずに皆様ご自身の言葉で語られるも良し。とにかく彼女に語りかけながら戦うとボォナスになります。

●第三章『日常』
 消滅していく影朧を香木を焚きながら盛大に見送ってあげましょう。
 舞台装置の美しい演出や、ねぎらいの言葉などを掛けてあげると、より晴れやかに見送ることが出来ます。

 プレイングの受付状況に関しては、タグにてお知らせします。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
 裏山薬草でした。
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第1章 集団戦 『『夜香影』灼岩』

POW   :    攻勢活性
【傷を得ても即時強化回復する超活性状態】に変形し、自身の【寄生先、その人体の限界】を代償に、自身の【戦闘能力】を強化する。
SPD   :    迅速石火
【自壊する程に速度へと自己強化を施す】事で【高速かつ高機動の戦闘状態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    鎧纏防壁
対象の攻撃を軽減する【溢れた血液を、自在に凝固融解し武装】に変身しつつ、【自己強化した体術と作り出した武装】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
詳しい事情はわからない。
けど、俺に言えるのは一つ。
「生きろ、それでも。お前はその二人に命を託されたんだから」

俺が演じるのは少女の抜け殻になった友人。
場面は少女の友人が病死するところ。
シャーリーが演じる病死した少女の亡骸を抱えながら、影朧に訴えるかのように叫ぶ。
「せめて、お前は生きてくれ! 彼女の分まで、そして俺の分まで!」

襲いかかる敵を大包丁で切り裂き、溢れた血液が武装に変化する前に【厨火三昧】の炎で蒸発させそのまま【厨火三昧】の炎を乗せた炎の【属性攻撃】の【斬撃波】の【範囲攻撃】でまとめて蹴散らし、彼女の元を目指す。

その孤独な心を救うために。


シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
生きるって事は難しく、そしてそれでも面白いんだと思う

ウィーリィくんと一緒に彼女の親友が病死する場面を演じる
「…もうちょっと、生きたかったな。せっかく新しい友達も出来たのに」
そしてウィーリィくんの腕の中で、彼女に呼びかける
「最後にお願いがあるんだ。ボクの分まで生きて、彼を支えてあげて」
「ごめんね、押し付けちゃって。でも、ありがとう。君がいてくれたからボクは安心して旅立てるんだ」

敵との戦闘ではシンプルに襲ってくる高機動状態の敵をビーム銃の【零距離射撃】+【弾幕】+【クイックドロウ】で至近距離からのビームの散弾で粉砕していく
自壊して脆くなっているんだから耐えられないよね!



●燃え盛りそして狂うか
 此れは彼女の為の部隊、彷徨い滅びを望む狂える鳳凰の踊る舞台――灼熱の紅蓮を揺らめかせ、風切音も鮮やかに紅き不死鳥の化身は踊る。
 世を破滅に導く業火を盛らせていくかのように、強大な影朧としての眷属が次々と生み出され続ける。
 煮え滾った溶岩を何処か思わせる、巌の屈強な肉体を持った影朧が産み出され、熱量が世を揺らめかせ火を広げていく。
 哀しくも狂おしく、破壊の炎を撒き散らすこの不死鳥が何故に至ったか、何故にそこまでに狂うかも分からない。されど彼は――ウィーリィ・チゥシャン(鉄鍋のウィーリィ・f04298)は狂える不死鳥に語る。
「生きろ、それでも。お前はその二人に命を託されたんだから」
「……あはは。生きる? 生きる? 全て燃やして、灰にして、それで、それで……」
 わからない。その後にどうするか、生きるべきか死ぬべきかも分からぬまま、頭を抱えた不死鳥の嘆きを象徴するかのように。
 彼女が産み出した眷属の、溶岩の熱を孕んだ影朧が走り向かっていく――それを勢いよく切り裂くは重厚な鉄の大包丁。
 単純明快にして強烈なウィーリィの技が影朧を切り裂き、そして――付着する血が更なる熱と変わる前に、それよりも疾く紡ぎあげられた原初の炎が熱を上書きし消し飛ばしながら。
 新たなスポットライトの当たる場所へと彼は往く――その先にいる少女シャーリー・ネィド(宇宙海賊シャークトルネード・f02673)は横たわり、力が抜け落ちたかのように金糸の髪を床に垂らしていた。
 其れは“彼女”を演じるかのように――影朧の友であった、あの時の奇跡<運命の悪戯>を導いた者の最期を演じるかのように。
「……もうちょっと生きたかったな」
「っ……!」
 ――フラッシュバックするは、かの少女。運命の悪戯が引き寄せ、終幕を辿る筈だった己を掬い上げた存在。
「せっかく、新しい友達も出来たのに」
 ――されど儚く。朧の桜のように散ってしまった命。
 儚き桜の散るかのような共に歩む未来も叶わなかった命が、この一時演じられていく。
「最後にお願いがあるんだ。ボクの分まで生きて、彼を支えてあげて」
「……あ、あはは、女の子同士の話って、それ?」
 僅かな動揺と共に問いかける不死鳥に、シャーリーは静かに微笑んだ。
 大丈夫か、しっかりしろ――今にも去ろうとしている儚き命に呼びかける少年の声も虚しく、少女の手から力は無情にも抜け落ちていく。
「ごめんね、押し付けちゃって。でも、ありがとう。君がいてくれたからボクは安心して旅立てるんだ」
「~~~~っ!!」
 末期の言葉が告げられ、儚き命が静かに目を伏せる――その亡骸を抱え、抜け殻となる前の、最後の輝きのようにそれを抱える少年は嘆き、そして叫ぶ。
 ――フラッシュ(突発的な発火)のように、狂える不死鳥の脳裏に浮かぶは静かな口元の笑み。
 手を伸ばしても届かない追い求める幻影に如何とも言い難き表情を浮かべると、場に立つ二人の演者<ウィーリィとシャーリー>へと彼女は血走った眼を向け、燃え盛るような赤髪と翼を揺らめかせ、眷属の影朧達を嗾ける。
 煮え滾る溶岩の尾を引かせ、帝都を翔る紅き流星が如く自らを燃やし、凄まじい速度で影朧達は向かって行く。
 それは宛ら自らも滅ぼし全てを巻き込み滅ぶかの如く――吶喊を試みる影朧へとシャーリーは躊躇いなく銃口を向けた。
「自壊して脆くなっているんだから、耐えられないよね!!」
 突撃してきた屈強な影朧の身体が罅割れ、中から迸る光が赤から白い閃光の輝きに変わる。
 弾かれるように打ち出されたシャーリーからの光線が、自壊と引き換えに強大な力を得た筈の溶岩を力を発揮させることなく消し飛ばしていく。そして――この一幕の主演男優は最高潮の科白を叫んだ。
「せめて、お前は生きてくれ! 彼女の分まで、そして俺の分まで!」
 薙ぎ払われる大包丁が鈍色の弧月を描き、紡ぎ続ける原初の炎が盛る――それは奇しくも不死鳥の羽ばたきにも似た動きで。
 哀しき不死鳥の生み出した破滅の眷属が、今を生きる光と炎の二つの熱を以て押し返され焼き尽くされる。
 開かれ行く道に覗く少年と少女、演じられた一幕にそれでも不死鳥は笑い続け。
「あははは! あいつが、そんなこという訳、あれ……? あいつって、……私、は……」
 狂える不死鳥が笑い、彼等の演じた姿を否定する。されど狂気の笑みを崩さぬままに、彼女は頭を抱え周囲を見渡した。
「……ああ……」
 発せられた惚けたような声が、果たして何に依るものかは分からねど。
 羽をはためかせ、迸る熱を広げては笑う悲しき不死鳥の炎と、嗾けられる眷属を切り開きながらウィーリィとシャーリーは進む。
 影朧の引き入り混じる笑みを目に写しながら、シャーリーは密かに呟きを一つ風と桜吹雪に流しながら足を一歩踏み出す。
「……生きるって、難しい。でも……それでも面白いんだと、ボクは思うよ」
 されど彼女がこのまま、苦しみの中に生きていく孤独から、必ず救ってみせよう――過去を演じた二人は今、手を取り合い影朧の群れを切り開き迫っていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四季乃・瑠璃
緋瑪「こんな術式があるんだね~、瑠璃」
瑠璃「面白いけど、実際やるのは大変だね」

瑠璃が少女、緋瑪が親友役(他の猟兵次第で瑠璃が先だった女性の友人役)を演じつつ戦闘。
凍結式ボム【属性攻撃、範囲攻撃、爆撃、蹂躙、早業】で敵集団をUCの血液ごと凍結する事で動きと武装を封じ、指向性ボムで凍結・凝固した血液ごと一体ずつ敵を爆砕。
確実に一体ずつ始末して片づけていくよ。

緋瑪「貴女が死を求めるなら、与えてあげるのがわたし達の役目」
瑠璃「私達に殺せない存在(モノ)は無い。貴女が終わりを求めるならば、終わらせてあげよう。ただ…」
緋瑪「この世界が齎したのは「拒絶」だけではなかった筈。思い出して、暖かな思い出を」



●不死を殺す為の一歩
 世の中全て演劇にして物語というならば、この戦いの一幕もまた誰かの演劇か――花の帝都に齎され、舞い散る幻の桜すらも焼き払われるかのような、広げられる灼熱の被害は紛れもない現実で。
 四季乃・瑠璃("2人で1人"の殺人姫・f09675)と半身の緋瑪は顔を突き合わせながら、帝都が用意したスポットライトの輝きの中で語らう。
「こんな術式があるんだね~、瑠璃」
「面白いけど、実際やるのは大変だね」
 されど成せばなる、成せねばならぬ何事も――例えこの戦いが演目たれど、演じ切るが演者の定め。
 宛ら舞台の暗幕を降ろすかの如く、彼女達から投げ放たれた爆弾が内に秘められた力を迸らせ広げていく。
 解き放たれた力が吹雪を齎し、迫る溶岩を孕む影朧達の身体を凍結させて行きては、吹雪晴れた中にいたものは……。
「あれ、は……」
 ――瑠璃の演じた少女が手首から血糊を垂らしながら倒れ、瞼が閉じられ、また開きと繰り返す。用意された舞台装置から注ぐ雨が、絶望の涙も流すように。
 全てに不自由していない、否、だからこそか。
 だからこその拒絶の果てに身を儚んだ嘗ての姿に、狂える不死鳥は目を僅かに見開いていた。
 ……その中を、緋瑪の手が取り、彼女の手首を止血する。それは嘗て、狂える不死鳥が彼女の最初の【再生】を始めたときのように。
 生まれ変わり歩む決意に燃えて、されど、されど――神は賽子を無情に振り悲しき別れを齎した。
「貴女が死を求めるなら、与えてあげるのがわたし達の役目」
 紡がれた緋瑪の言葉と共に、凍てついた影朧達が震え動き出すその瞬間、投げ打たれた爆弾が爆ぜる。
 指向性を持たせば爆発の、その衝撃が凍てついた身体を硝子細工のように砕き散らしていく。
 暗転に続く暗転を経て、爆音の轟く中にも尚、涼やかに響き渡る歌劇の声。
「私達に殺せない存在(モノ)は無い。貴女が終わりを求めるならば、終わらせてあげよう。ただ……」
 投げ打たれる爆弾と、広がる極低温が眷属の影朧達をまた次々と凍てつかせていく。宛ら場面と場面の転換の合いの手を打つかのように。
「この世界が齎したのは【拒絶】だけではなかった筈。思い出して、暖かな思い出を」
 主人格の紡いだ言葉に更に続け、一つ一つ着実に影朧を砕き散らしながら半身が不死鳥に言葉を投げかける。
「……ああ、そうね。確かに……あの時は……そう、あの時は……」
 ――遠き思い出を懐かしむかのように不死鳥は爆風に乗って届く、氷の欠片と桜の花弁を自らの炎で焼き溶かし。
 己に【殺し】を与えようとしている二つの姫君を静かに待ち構えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャーロット・ゴッドチャイルド(サポート)
ダークセイヴァ―の貧しい農村に生まれた聖なる力を宿した女の子です。暗い過去を背負った子ですが、いつも周りに気を使っていて笑顔を絶やしません。

ホーリー・ボルト~光の精霊の力で、光属性の魔法の矢を放ちます。
エレメンタル・ファンタジア~炎の精霊を呼び出し、炎の竜巻を巻き起こす。予想以上の威力のため、制御するのがやっと。
絶望の福音~10秒後の未来を予測する。
生まれながらの光~左の手のひらにある聖痕から他者を癒す。

「私は笑うって決めたの・・・じゃなきゃ、前に進めないもん!」

エロやグロに巻き込まれなければ大体のことは大丈夫です。



●ソレデモ明ルク
 花舞う都に狂った不死鳥が踊り、翼がはためく度に悲しくも熱く、存在するだけで全てを焼き尽くす魔人が産み出され続ける。
「アハハ、アハハハハ……」
 哀しみとも喜びともつかない、強いて言うなれば狂気<喜>――貼り付けられた顔のままに動かせない表情を為している不死鳥を見て、少女は胸を抑えた。
(……なんとなく、わかるよ)
 シャーロット・ゴッドチャイルド(絶望の福音・f23202)は思う所がありながらも、迫りくる炎の魔人達の猛攻を躱していきながら、如何なることがあろうとも、絶やさぬ笑顔を向けたまま語りかける。
「ねえミュリエル」
 傘を差しながら差し伸べるその手は。
 不死鳥の踊りと溶岩の影朧が齎す炎の雨を凌ぎ、その中に差し伸べられる手は。
 ……顔立ちも年頃もまるで違う筈なのに、どこか似通ったあの笑顔は。
「せっかく助かったのだから、生まれ変わった気持ちで、どうかな?」
 ――それは影朧の過去の記憶。
 世に絶望に続く絶望を重ね、自らの命を断とうとしたその時に――流れゆく命を堰き止められ、おぼろげな視界の中で見たあの笑顔。
 ああ、そうだ。
 おぼろげな力で掴み、答えたあの日に【再生】を選んで、そして――。
「最期まで……、……」
 ここでふっと、口元の笑顔を崩さぬままに崩れ落ちるシャーロットの身体。
 ……看取ることが叶ったか、叶わなかったか。それすらも分からなくなった不死鳥の
「っ、あはははは! 何が最期、よ! よく笑って、笑って……!」
「私は笑うって決めたの……じゃなきゃ、前に進めないもん!」
 泣いているのか笑っているのかも分からない不死鳥の狂気の笑みが煽り、溶岩の魔人達の炎を盛らせる。
 それに対し、仮面の如く貼り付けた崩れぬ笑顔のままにシャーロットは宣言する。
 ――この哀しみに満ちた笑顔しか許されない狂った不死鳥を止める為に。
「風さん、風さん……私に力を貸して!!」
 傘を大きく天に突き出し、周囲に風が舞う。広げられた傘の風が唸り、シャーロットの身体を空へと運ぶ。
 魔人達が自らの身の崩壊を代償としての強化を物ともせずに、広げられた傘は風を舞う翼の如く少女の身を空へと躍らせて。
 迫る溶岩の身を、腕を――その全てを躱し切らせ、傘を掲げたままに彼女は舞い降りて。後には全て、文字通りに溶け落ちた溶岩の魔人の残骸があるのみであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ・改変大歓迎】
親しき人と非業の別れ、抜け殻になった友人……
何処かアタシも通じる所はあるね。
アタシが演じるならその抜け殻になった友……?
いや違うね。
たぶん、アタシが演るべきはその影朧。
友を失おうとも、歩み続けたその少女の、
心の叫びを代弁しなきゃな。

演舞の如く舞台上を『グラップル』の要領で立ち回り、
『オーラ防御』を展開しながら『衝撃波』を『範囲攻撃』で放ちつつ、
思念の腕も広げてく。
そうさ、アタシが紡ぐセリフはアンタが教えてくれる。
その心の奥、記憶の底に仕舞われた『優しさ』を、
『鼓舞』するように舞台の上で高らかに叫ぶ。
アタシ(アンタ)は、忘れたくなかったんだ。
あのキラキラした日々と世界を。



●忘レラレヌ彼女ノ思ヒ出
「あはっ、あはっ、あはははっ……!」
 かの笑いが悲痛に聞こえるのも、笑い以外の表情を許されない、狂える不死鳥に同情の念を禁じ得ないからか。
 彼女の心を打ち壊した――か否か、ただ分かるのは非業の別れと世を呪い、自らも呪い狂う不死なる鳥の叫びと、踊る翼が産み出す灼熱の炎が世界を壊そうとしているということだった。
 ――ああ、アタシにも通じる所があるね。
 抜け殻になった友――それこそが数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)そのものであり、それを演ずるかと思ったが。
 ――違う。そうじゃない。
 爆発的な勢いで、宛ら火山の噴火を思わせる勢いで襲い来る魔人の一撃を、周囲に迸らせた不可視の力場を以て受け止めて。
 その勢いで不可視の力場より、衝撃の力場を張り巡らせ、自壊の進む魔人を倒壊させていきながら。
「教えとくれ。アタシが言うべきセリフを……!」
 衝撃と共に伸ばしたる、思念の腕が不死鳥の脳を、過去の記憶を、思考を手繰り多喜の頭に引き寄せ――そして彼女は演ずる。
「……馬鹿ね。馬鹿みたいに落ち込んじゃって」
 ――それは狂える不死鳥の“生前”のお話。
 何が悪かった訳でもない、唯々起こるべくして起こった必然なれど、割り切れぬ人の情に嘆き落ち込む友を笑って発破をかけんとした女学生の姿。
 多喜の放った衝撃に膝を突き、手を地に付いた溶岩の魔人を打ちひしがれる“友”に見立て、多喜は語る。
「見てられないよ、ねえ――」
 思いっきり魔人を殴りつけ、打ちひしがれた“彼”を立たせて引っ張り上げる。
 哀しみの中、沈む幼馴染の男を無理矢理奮い立たせ、舞台に用意された階段を登りながら彼女は台詞を紡ぐ。
「あいつはすぐにダメになるんだ。折角上がった学校もサボり始めて」
 ――茶色の前髪の陰りに流す涙は、史実の再現か否かは分からずとも。流せずとも流せぬ不死鳥の嘆きを代弁するかのように、頬に雫を伝わらせながら口元の笑みを崩さぬままに更に紡ぐ。
「でも一緒に歩いたの。殴って止めて自殺とかそんなこと、絶対にやってない」
「そう、丁度あの娘の好きな桜が咲きそうだった」
 ――あの娘の想いに恥じないようにと、声を重ねて多喜と不死鳥は共にセリフを重ねていく。
「アタシは」「私は」
「忘れたくなかった」「忘れたくなかった!」
 ――あの輝ける世界を、目一杯生きて生きて、生き抜いた記憶を。
 崩れ去る溶岩の魔人が桜と共に風に散り行く中、その先にいる不死鳥は笑う。鏡合わせのように、多喜もまた泣きとも笑いともつかぬ笑いを共に浮かべていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

幽遠・那桜(サポート)
基本アドリブ、連携、負傷、絡み◎
「よーし、お手伝いするのですよ!」

幸せの道を探しながら、影朧には転生の道を示す霞桜の精。
精霊さん達は友達。いざと言う時はお願いして力を貸してもらいます!
精霊さんとは四精霊のブレスレットで。
万象の力は、八角形の金のネックレスを灰簾石の短杖にして。

UCは最善を選択。他の猟兵さん達とも協力。
刃物、血、過去に関わる内容になると少し慎重になることもありますが、怖い時もお仕事頑張るのです。
転生に関わることになるなら、相手に寄り添い転生出来るようにします。

公序良俗に反することはしません!
お仕事は、エッチ系はNG。
他は動かしやすいように。自由にどうぞ!

よろしくお願いするのです!



●桜舞イ散ル中ニ火ヲト
 ――親しき人との別れは誰にであろうとも、癒えぬ傷を残す。
 傷は膿を産み出し、骸の海を経て至って普通であった少女を狂える不死鳥としたというならば――
「…………」
 思い返すは、彼女自身にも身につまされる別れ。
 幽遠・那桜(輪廻巡る霞桜・f27078)は別たれた大事な存在に想いを馳せ、僅かに瞼を重くしながらも。
「よーし、お手伝いするのですよ!」
「……桜……?」
 ひらりと舞う幻影の花弁の中、柔らかな桜の精の笑顔が向けられ、狂える不死鳥は首を傾げた。
 そのまま何かを振り払うように、炎に盛る翼を揺らしては溶岩の溶け落ちるが如き灼熱を纏った巨人が次々と生み出され、那桜を焼き尽くさんと、自らの崩壊も厭わずに迫る。
 灼熱の武技を優雅に、幻朧桜の花弁が舞うかのように、霞桜の揺らめきを思わせるように文字通りの桜色の髪を揺らし、那桜は魔人の拳を躱していきながら、不死鳥と目を合わせた。
「もう立ち上がれるのでしょう?」
 手を差し伸べ、泣きたくても泣けぬままに、笑顔を張りつけられた不死鳥へと那桜は柔らかく笑顔で問いかけた。
「私達が出会ったのも雨の日、だから」
 ――例え哀しい雨の中に、消え去っていれば良かったと思っていたのだとしても。
 あの日に出会えて立ち直れた彼女が、どうか笑顔のままに天寿を全うして欲しかったと、狂える不死鳥が求める少女の面影を彷彿とさせながら、那桜は祈る。
「みんな、お願い!!!」
 精霊に呼びかけ、那桜は灰簾石の短杖を天に高く突き上げた。
 戦場に降り注ぐは、水の大雨――薄暗く桜すらも押し流し、崩壊を進める溶岩の魔人の火を消し止め、崩れ行く身体を流していく大雨。
 ――呆然と雨を浴びながら、眷属を最早産み出す力もなく、されど雨の中に微笑む優しさを讃えた瞳は、不死鳥にとっての二人の親友を思わせて。
「……ねえ」
「なんでしょう?」
「女の子には女の子同士の話って奴があるの」
 やがて雨の過ぎ去り、晴れ渡る舞台の上で力を抜いたかに見えた不死鳥は、ばさり、ばさりと翼を揺らしながら微笑む那桜に声を掛けた。
 彼女の眼には、桜舞い散る精である彼女が、宛ら求め人のように見えているかのようで――
「付き合ってくれるでしょう?」
 揺れる赤い翼と燃え盛るような赤髪が、濡れた身体を内から込み上げた灼熱で乾かし、狂える不死鳥は影朧として向かい合う。
「もちろんです。ですから……その火をまずは消しましょう!」
 ――それに応えるように桜の精は微笑んだ。
 狂える不死鳥の炎を消し、癒すべく――そして舞台の前座は終わり、真打としての不死鳥との戦いが控えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『非業の灼熱『ミュリエル』』

POW   :    想いを炎に焚べて
【灼熱の劫火を纏った不死鳥】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    死ねないことは幸福だと思う?
対象への質問と共に、【劫火の両翼】から【火花の身体をもつ極楽鳥】を召喚する。満足な答えを得るまで、火花の身体をもつ極楽鳥は対象を【癒えない火傷をもたらす嘴と爪】で攻撃する。
WIZ   :    あなたには、届かない
攻撃が命中した対象に【火傷と灼熱】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【血液が蒸発し皮膚が焼け爛れる激痛】による追加攻撃を与え続ける。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシャト・フランチェスカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●非業ナル業火
 狂える不死鳥が産み出す灼熱の魔人を退け、時に不死鳥にまつわる何かを演じながら。
 繰り広げられる歌劇の下、猟兵達は灼熱の魔人を打ち倒し――ついには灼熱の魔人を産み出すことも出来なくなった不死鳥へと、猟兵達は歩を進めた。
「あ、あはははっ…………」
 幾ら破滅に導く炎の翼を揺らめかせようとも、狂える不死鳥は最早魔人を産み出すことも能わず。
 彼女を取り囲む猟兵達の視線――憐みやら何やら、様々なものを含んだ目線に唇を震わせる。
 されど、狂える不死鳥が――非業なる業火はこのまま消え入ることもなく。
「燃やしてあげる。全部全部燃やしてあげるっ! それが私の……私の……なんだっけ……」
 広げられた翼から迸る炎が、舞台に広がり灼熱が燃え上がる光景が猟兵達の視界に広がった。
 万物を焼き尽くしかねない業火の中、狂ったような哄笑が響き渡る中、不意に不死鳥は笑顔を張り付けたまま僅かに視線を落す。
「ねえ」
 ――変わらずに、灼熱を揺らめかせながら不死鳥はぽつりと猟兵達に問いかける。
「こんな醜い炎なんて、消して頂戴よ――あんたたちに、出来る?」
 ――蘇らぬ死を、解放を。
 涙も蒸発しそうな灼熱の中、笑顔の仮面を張りつけられた不死鳥を解き放つ為に――猟兵達は改めて彼女と向き合うのだった。
ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
具体的に彼女に何があったのかまではわからない。
それでも、彼女に言葉を投げ続ける。
「逃げるなよ、『幸せだった思い出』から。いくらそれが叶わなかったからって」
この場に留まり彼女の攻撃を迎え撃つ構えを取る。
「『悲しみ』を繰り返すためにやり直すんじゃない。それを乗り越えるためにやり直したいんじゃないのか?」
それが可能なのかどうかはわからない。それでも。
「俺達に出来るのは、お前の悲しみを止める事だけだ」
彼女の一撃必殺の攻撃を【見切り】、【カウンター】で【幻炎鎮魂斬】で彼女の怒りと悲しみだけを斬る。
どんな超耐久力でも、彼女の心までは守ってやれないだろうから。


シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
それでも、これだけは言える
きっと、みんな生きたかったんだ
彼女も、彼も、
あなただって
あの時手を取ったから、あなたは『幸せ』を掴めたのだから

だけど、もう無理なんだよね
だからその悲しい連鎖を絶ち切ってあげる
せめて楽しかった頃の思い出と共に

【エクストリームミッション】で飛び回って囮を演じ、ビーム銃の【弾幕】+【目潰し】でその勢いを殺しながら【空中戦】で攻撃をかわし続ける
そうやってウィーリィくんの元に誘導し、彼の一撃と同時に【零距離射撃】+ 【クイックドロウ】+【乱れ撃ち】でトドメを刺してあげる
「やれるよ、ボクたちなら。その悲しい炎を消してみせる」



●炎断チ切ル決意ノ下ニ
 ぱちり、ぱちり、と弾けるような音が響いていく。
 非業なる灼熱の化身が身体を揺らめかせ、猟兵達と相対する気配も強くなれば、帝都に舞う桜花が焼けて散っていく。
「……」
 具体的にこの灼熱の化身、狂える不死鳥に何があったのか――彼女の死まで理由は分からない。ただ分かるのは、生きようと思ったことと、辛い別れを経て世界を侵す影朧として不本意な形で蘇ったこと。
「……逃げるなよ」
 静かに、はっきりとよく通る声でウィーリィが不死鳥に向けて言葉を言い放った。
「は?」
「逃げるなって言ったんだ。『幸せだった思い出』から。いくらそれが叶わなかったからって」
 何を言っているの――そう言わんばかりに、どこか嘲ったようにウィーリィを笑いながら、不死鳥が首を傾げてみせた。
 それに対し、ウィーリィが告げる言葉と彼の真っ直ぐな瞳が、不死鳥の足を僅かに退かせ――
「……あはは。あはは……」
 変わらない笑顔。
 枯れ果てることのない笑いと、空虚であまりにも悲しい笑みの後に、不死鳥は身に纏う炎を強く盛らせた。
「何が分かる!? 誰が望んでこんな姿になったって!? ねえ、教えてよ! なんでこんな姿にならなきゃ、いけなかったの!?」
 ――悲痛を込めて叫ぶ不死鳥の顔に笑顔は絶えず。貼り付けられ強制され続けた笑顔は、とても釣られて笑えるようなものでなく。
「アアアアアーーーッ!!」
 悲痛な叫びと共に、不死鳥は身を燃え上がらせより強大な、哀しく狂って舞う業火の大鳥と化して空に舞い上がる。
 羽ばたきする度に立ち込める、充てられそうな熱気に目を伏せながら、シャーリーは飛び立つ不死鳥を眺め、静かに呟いた。
「……もう、戻れないんだね」
 ――望んで死んだ訳じゃないのかもしれない。こんな形で、破壊を齎す不死鳥になってしまったのは彼女自身も不本意だったのかもしれない。
 彼女は、普通の少女だった。足掻いて生きる普通の少女だったのかもしれない。
 先立たれた友人も、抜け殻になってしまった友人も、みんな必死で生きたかった、ただそれだけだった。
「……断ち切ってあげるよ。楽しかった思い出と一緒に。……覚悟は、出来てる」
 故にシャーリーは翡翠の瞳にハイライトを消しながらも、冷たく重たい決意をしっかりと宿し。
 原動機の唸りも何処か物哀しく、二輪車を変形させ鎧のように纏い――バーニアから吹き上がる気流が、桜花と業火を散らしてシャーリーの身を天高く舞い上げる。
「アンタに何があったのかは分からない。ただ……」
 天上という舞台の中で、大海の覇者と業火を纏う大鳥がぶつかり合う――正に劇的な光景を見上げ、ウィーリィは理性を失った不死鳥へ更に言葉を投げかけた。
「『悲しみ』を繰り返すためにやり直すんじゃない。それを乗り越えるためにやり直したいんじゃないのか?」
「アアァァァアアッ!!」
 ――その言葉が届いたかどうか、それも分からない。
 ただ分かるのは、不死鳥は炎の翼を盛らせて舞い、空でより速く動き飛翔するシャーリーを追い続ける、ということ。
「せめて付き合ってあげるよ。あなたの哀しみが燃え尽きるまで」
 シャーリーの言葉もやはり届かない。
 されど只管に、炎の翼をはためかせ突撃する不死鳥の一撃を幾度となく躱し、時に突撃の勢いをマスケット銃から放つ熱線の弾幕が圧し留める。
 超耐久を得た不死鳥の前には致命打にならずとも、煽りには十二分であり、哀しい鳴き声と共に突撃する炎の突撃を幾度となく躱していきながら、シャーリーは地で待つウィーリィに目を向けた。
 ――手筈通りに行くよ、ウィーリィくん。
 密かにバイザーから覗く重たい輝きの眼と、何も言わずとも伝わった言葉に頷き、ウィーリィは大包丁を真っ直ぐに。
「俺達に出来るのは、お前の悲しみを止める事だけだ」
 突き出した大包丁の切っ先が鈍く煌めき、ウィーリィの瞳は強く、狂ったように灼熱を撒き散らす不死鳥を見据えた。
 其れを合図とするように、シャーリーは更にバーニアを噴き上げ、勢いよく不死鳥を誘うようにウィーリィの頭上スレスレを通り過ぎていき、不死鳥もまたそれを追う。
 腰を落とし、シャーリーの導く不死鳥の軌道を見極め、空気は堪らなく熱く、されど伝わってくる悲壮な思いに真っ直ぐに向き合って。
「やれるよ、ボクたちなら。その悲しい炎を消してみせる」
「ああ。極めた火工と刀工は、誰かの心を救うため、だ!」
 シャーリーの放った無数の熱線が火花を散らし、撒き散らされる不死鳥の業火を吹き飛ばしながら、無数の光熱が次々と叩き付けられる。
 ウィーリィに突撃をかまさんとしていた不死鳥は、それでも身を燃え上がらせて得た頑丈さで受け止めつつも、突撃する勢いは緩く。
 ――そして。
 燃え盛る不死鳥と擦れ違うように、ウィーリィが駆け抜けた。
 大きく振るわれた大包丁が桜と業火舞う舞台の上、鈍色の軌跡を残しながら不死鳥の身を過ぎ去っていく。
「あ、ああ……」
 ――彼の一閃が断ち切ったのはやり場のない不死鳥の怒りと悲しみ。
 如何に非業の灼熱が身を守ろうと心は守れず、寧ろ脆く、研ぎ澄まされた技は確かに怒りと悲しみを断ち切り、燃え盛っていた身を確かに鎮めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

嘉納・日向(サポート)
アドリブ、UC詠唱アレンジ、苦戦描写等OK
エログロナンセンスな依頼はNG

人格の選択はMS様にお任せ

●キャラクター
口下手で無愛想、生真面目な主人格「日向」と
人懐こく能天気、ウェイ系コミュ強女子な副人格『ひまり』
人格双方は女子高生の親友同士といった関係
脳内でよく賑やかな漫才をしている

「マジで?」「ないわぁ」「ふざけんな」等、双方とも切羽詰まれば敵に荒めの啖呵切ったりディスる気概あり

●できること
バロックレギオン(闇の塊)による隠密・不意打ち
各種近接武器を使用した接近戦
銃も一応使えるけれど、慣れてはいない
戦闘外では探索や推理に真面目に参加

●やらないこと
他の猟兵に迷惑をかける行為、公序良俗に反する行動



●親友ノ在リ方ニ陽ト火ハ……
 亡き親友――その果てに嘆き、狂い、転生という業を背負わされた悲劇の不死鳥。
 何とも同情的なものだ。
 ……ほんの少し。ほんの少しだけ、引っ掛かるような、そうでもないような。
 そんなことを考えながら、嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)はゆらゆらと揺らめく不死鳥を見据えた。
「ねぇ」
 僅かに眼を伏せていた日向の耳に、狂える不死鳥は徐に問いかける。
「死ねないことは、幸福だと思う?」
 ばさり、ばさりと不死鳥の翼が舞い、風切音と共に炎が踊り始めていた。
 大気を歪ませ、揺らめく熱気が舞台のヴィジョンをも揺るがす熱量が、舞い散る幻朧桜を燃やして火花を散らす。
 舞い散った火花はそのまま、煌びやかな極楽鳥の姿を象り、空を斬り裂き鮮やかに日向の元へと飛翔し突撃する。
 日向を押し退けるかのように、彼女の内の副人格――ひまりがカッと目を見開き、慌てて振り下ろされる嘴を後方へ跳躍して躱した。
「うわっと! ひえっ……おおっ!!」
 嘴に穿たれ、貫かれる舞台の床と、伝わる熱量に肌に嫌な感触を覚えながらも、繰り出される極楽鳥の爪を、嘴を、寸での所で屈み、時に大きく跳躍しては躱しつつ。
「……まーね、分かんなくもないけどっ……!」
 ひまりは極楽鳥を横殴りに、可愛らしい装飾の為された釘バットで、宛ら本塁打を決めるが如く華麗に殴り伏せる――!
 確かに死にたくても死ねないという状況が、苦痛から逃れる為に死ねない、逃げられないという状況はきついものがあるだろうが――
「聞いてんの。死ねないことは、幸福だと思うって」
 されども不死鳥にとって、ひまりの言葉は満足のいくものでなかったか、翼をはためかせ更なる極楽鳥が産み出される。
 火花を散らし、幾度となく嫌な熱気を迸らせ攻め続けるそれに、次第に堪忍袋の緒が切れたか――
「っ……うぜぇ! さっきからいちいちいちいち、うっせぇわ!!」
「ッ……!?」
 張り上げられたひまりの声に、思わずにであるが不死鳥が僅かに身体を硬直させた。
「死ねないことが幸福だって!? 人に聞く前に自分で答えだせや!」
 荒々しく、半分切れ散らかしたかのごとくに啖呵を切れば、歪んだ笑みを浮かべ続ける不死鳥が僅かに身じろぎ――そして、火薬の爆ぜる音一つ、胸を撃ち抜かれた不死鳥が膝をつく。
「……ナイス!」
 ひまりが親指を挙げれば、密かに現れ出でたるもう一つの鏡写しの姿――表層より引っ込んだ日向の身が現れていて。
 それは身じろいだ不死鳥を、後ろから拳銃で撃ち抜いていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ソフィア・エーデルシュタイン(サポート)
わたくしは愛され望まれたからこそ生まれてきましたのよ
だからこそ、わたくしはこの世の全てが愛しいのですわ

狂気的な博愛精神の持ち主
命あるものは救われるべき
蘇った過去はあるべき場所に還るべき
果たすためならば手を下すことに躊躇う必要などないと胸を張る

主に【煌矢】を使用し、牽制や攻撃を行います
勿論、他のユーベルコードも必要があれば使いますわ
わたくしの愛するきょうだいである水晶髑髏は、盾にも刃にもなってくれますのよ

怪我など恐れる必要はありませんわ
わたくしが役に立てるのであればこの身が砕かれようとも構いませぬ
他の方の迷惑や公序良俗に反する事は致しません
それは、わたくしを愛してくれる人達への裏切りですもの



●彼女ハ等シク愛ス
 戦いは佳境に到りて、狂える不死鳥は嗤い続ける――未だにそれ以外を許されないような、哀しくも見える笑顔を張り付けさせられたままに。
 ばっさばっさと、風を切る翼の音と燃え上がる炎の熱の中、温かな微笑みを浮かべた女は不死鳥に声を掛けた。
「まあまあ、あなたは還りたいのですね?」
 宛ら幻想の不死鳥と相対するは、幻想の人魚か何かだろうか――文字通りに透き通るような姿に、慈愛に満ち溢れた笑みを顔に浮かべ、ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)は問うた。
「愛おしい。ああ、愛おしい――」
「じゃあ教えてよ」
 全てを慈しむ微笑みを向けられ、不死鳥は苛立ちを交えたように笑顔を張り付け続け乍ら、その翼を強く打った。
「死ねないことは、幸福だと思う?」
 翼の一打ちが歪めた大気から、膨大な熱量が迸り熱い火花が散る。
 散った火花は見るも鮮やかなりし極楽鳥へとその姿を変え、孕む熱量の悍ましさは、擦れ違う者に癒えぬ傷を残す爪と嘴を以てソフィアへと幾度となく襲い掛かる。
 投げかけられた問いかけに、ソフィアは顎に指を当て、極楽鳥の爪と嘴を躱しつつも考え――
「それは難しいですわね。何を以て幸せか、など……わたくしが決めることではありませんわ。ただ」
 振り下ろされた爪を最低限、横跳びに避けてはソフィアは指を静かに極楽鳥へと向ける。
 すれば青味鮮やかな玉髄の、美しき無数の楔が一瞬で生み出され、紅き火花に作られた極楽鳥を貫き、狂える不死鳥の羽ばたきを止めさせた。
 その勢いで、怯んだ不死鳥へと向けたソフィアは確かに、ぶれることなき自らの博愛の心を示し微笑んだ。
「命あるものは救われるべき。死があなたの救いならば、わたくしは全力で救いましょう。不死鳥のあなた」
 ――この笑顔もまた、ある意味では……ある意味では、不死鳥のそれにも近いものがあるのかもしれない。されどその真偽も確かめる術もなく。
 ただただ、ソフィアは祈るように掌を掲げ己が博愛の魂の下に、不死鳥へとこの言葉を贈った。
「……どうか、いつまでも、幸せに」
 すれば掲げられた掌から、戦場を彩る燐灰石の欠片が降り注ぎ、絶えず花の都に舞う幻朧桜と競い合うように踊る。
 舞い散る燐灰石の――揺るがぬ彼女の博愛という名の自信が戦場を満たし、狂える不死鳥に一切の苦痛も与えぬ幸福を与え続け。
 されど煌めきは毒のように、不死鳥の身を苛めて――幸福の下に、彼女は解き放たれぬ不死鳥を眠らせにいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クレア・フォースフェンサー
死ねないことは幸福か、か

ありきたりじゃが、時と場合によるであろうな
死にたいのに死ねないとすれば、それは永遠に続く闇のようなものであろう

じゃが、生きたいのに生きられぬ者から見れば、それは一縷の光となる
今この瞬間も、おぬしの不死性を欲する者が幾万といるであろうよ

と、このような答えなど今のおぬしには何の役にも立たぬ
おぬしをこのまま骸の海に還したとしても、不死鳥として舞い戻る
そして、この世界の者達、そして自らの心をその炎で焼き続けるのじゃろう
それでは何ら救われぬ

不死鳥と混ざり合ったというおぬしの魂
わしの技で元の二つに切り分けられるか、試させてもらおうぞ

不死鳥としてではなく、人として骸の海に還るがよい



●ドウカ人トシテ灼熱ニ
 間も無く戦いは終わろうとしていた。翼が風を切る度に走る熱も衰え、幻朧桜の舞う花弁も焼ける頻度は減り。
 されど未だ悲しく、不死鳥は笑顔を張り付けさせられて呟く。
「……中々死ねないのよ」
 全てを焼き尽くし、自らも焼き尽くし、何も残らずに、灰となって蘇り虚無を永劫と過ごす。
 歪められた不死鳥の身となった哀しみに涙を流すことも叶わず、不死鳥は翼を幾度となくはためかせ火花を散らし、ばら撒き続けて呟いた。
「【こんな身体】でしょう?」
 クレア・フォースフェンサー(旧認識番号・f09175)は火花が集まり作られた、不死鳥の嗾ける極楽鳥と光輝く剣を両手に、癒えぬ熱傷を齎すであろう嫌な熱気を巧みに逸らし、不死鳥の嘆きと笑い入り混じる声を聞き入れた。
 一つ考え、光剣で嘴の追撃を横に逸らしていきながら、クレアは非業の不死鳥に対して考えを述べた。
「ありきたりじゃが、時と場合によるであろうな。死にたいのに死ねないとすれば、それは永遠に続く闇のようなものであろう」
 それこそ正に目の前の“生き”地獄に彷徨い続ける不死鳥のように――死を解放や安らぎと捉えられるのならば、死ねない身体や境遇は確かな地獄に他ならず。
 満足がそれでも尚いかぬのか、火花の極楽鳥が翼を打ち、嘴を突き出せば光剣を交錯させて受ける――光熱と火炎の異なる火花が散り、互いに押い合いつつもクレアはもう一つの意見も語る。
「じゃが、生きたいのに生きられぬ者から見れば、それは一縷の光となる。今この瞬間も、おぬしの不死性を欲する者が幾万といるであろうよ」
「……私は前者なのよ」
「知っておる」
 と、自分の考えを述べてはみたものの、火花散らす極楽鳥の追撃は留まることを知らず、繰り出される爪と剣で打ち合い息を吐く。
 このまま彼女を骸の海と還したとしても、因果のある身で無き以上は、また新たな骸の海から舞い戻り、消えぬ傷を世界に負わせ蝕み続けるのだろう。
 これでは何一つ救われない――打ち下ろされた嘴の真横を擦り抜け、腰を僅かに落としクレアは持ちうる技の全てを研ぎ澄ます。
 この技で断ち切れるかどうか、その保証はない。されどそれはやらぬ理由にならず、狂える不死鳥の隣を、鮮やかに過ぎ去り。
「不死鳥ではなく、人として骸の海に還るが良い――ミュリエル」
 如何に堅き物体も、果ては形を持たぬ流動も、霊魂も概念すらも斬り伏せ得る熟達した剣技。
 純粋に優れた剣の技、それのみが超常の境地に至った必殺の剣が不死鳥の身体を過ぎ去り、不死鳥に膝を着かせる。
 苦もなく痛みもなく――ただ膝を着き、天を仰ぐ不死鳥からは最早、戦う力は残されていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『香煙を薫らせて』

POW   :    元気の出る香りを楽しむ

SPD   :    リラックスする香りを楽しむ

WIZ   :    ロマンチックな香りを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●不死ナル時ヲ輪廻ニ返シテ
 ――戦いは終わり、致命打が不死鳥の下へ突き刺さった。
 舞台からも炎は、破滅を齎す炎は消え去り、炎が消えた後の何とも言えない虚しい風が吹き、熱の生み出した気流の乱れに幻朧桜の花弁が不規則に踊る。
「ああ……そっか、そっかぁ……」
 ――完全にはこの不死鳥が全てに納得したわけではないのかもしれない。
 しかしそれでも、どこか穏やかな、今までの張りつけられたような笑顔とは違う、全てを受け入れたような笑顔がそこにあった。
「もうすぐ消えるんだ、私」
 徐々に薄れゆくヴィジョンは、この非業なる灼熱――ミュリエルという女自身が間もなく消えようとしている証。
 影朧と成り果て、破滅を齎す存在と化して――それでも僅かながらに救われた、憑き物の落ちた顔のまま猟兵達を軽く見回し。
「……ねえ」
 薄れゆく存在の中、彼女を取り囲む香木から燻る煙……様々な匂いと木が焼けて爆ぜる音色、燻る煙の色味の温もりが包む。
 穏やかな香りと煙の熱の中、ミュリエルは穏やかに笑った。
「逝っちゃうまで、見ててよ。一人じゃないって分かるだけで、案外、楽になるものだからさ」
 ……不死鳥は命を終える時、自らを焼く際に香木を用いるという。
 狂った不死鳥と化した少女を送る為に、そして魂鎮めの儀を終え全てを癒す為に。
 今一度――香煙燻る中に猟兵達は心を取り戻した不死鳥に労いの言葉をかけにいくのだった。
ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
シャーリーと一緒に、ミュリエルを看取る。

もうお前は一人じゃない。
…まぁ、お前の顛末を知ってる訳じゃないけどさ。
それでもお前が悩み、苦しんできた事だけは分かる。
少なくともその事を知ってる奴らはここにいるんだからな。

だから祈らせてくれ。
お前がまた、その二人と再会できるように。
「そんなハズない」なんて言わないでくれよ。
…このままお前が消えて終わりだなんて、俺だって寂しいんだしさ。

本来【料理】で使う安眠効果のカモミールを一つまみ炎に混ぜて、来世まで彼女が幸せな夢を見られるように祈る。

それじゃ、おやすみ。


シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
救いになれたかなんてわからない
けど、ボクたちに出来るのはこれが精いっぱいだった
「…ごめんね」
呟きながら、隣のウィーリィくんと【手をつなぐ】

ボクには最後までミュリエルさんの気持ちはわからなかった
だから彼女の気持ちに寄り添う事ができなかった
だけど、これ以上彼女に苦しんで欲しくなかった

旅立つ彼女を見送りながら、【慰め】の言葉をかける
「苦しかったんだね、ずっと。誰が悪い訳でもないのに。ただ、理不尽に」
「でも、それももう終わりだよ。…さよなら」
桜の花弁を、燃え盛る炎に乗せながら

ねぇ、ウィーリィくん
ボクたち、ミュリエルさんに何か出来たのかなぁ



●彼ラ不死鳥ヲ見送リ
 乾いた音を立てて香木が焼けては弾け、薄らとした燻煙が舞台を満たす。
 華やかな、それでいてどことなく郷愁を感じさせる香に一抹の切なさを胸に抱きては、力無く燻煙の中に立ち尽くす不死鳥――否、ミュリエルへとシャーリーは歩み寄った。
「……ごめんね」
 何と声を掛ければ良いか、何を語れば良いか――それすらも分からないまま、まずはこの言葉を。
 隣に立つウィーリィの手を握り、今にも張り裂けそうな胸の痛みを堪えつつ、シャーリーは喉奥から言葉を絞り出した。
「ボクには最後まで、ミュリエルさんの気持ちが分からなかった。だから……」
「いーよ。分かって貰いたかったわけじゃ、なかったから」
「……うん。でもこれ以上、苦しんで欲しくはなかった」
「分かってる」
 ――出来るのはこれが精いっぱいだった。
 本当の望みを叶えてあげることはもしかしたら叶わないのかもしれないけれど、望まない在り方を強いられ続けた現在よりかは大分良きものであろうと信じて。
「もうお前は一人じゃない」
 薄れゆく身体と、今の滅びを悟り力を抜いているミュリエルへと、確かにウィーリィは告げる。
 確りと告げられたその言葉に、ミュリエルも、シャーリーも、ウィーリィ自身もまた暫く何も言葉を発せぬままに詰まり。
 それから時を僅かに経てから、後頭部を掻きつつウィーリィは言葉を続けていった。
「……お前の顛末を知ってる訳じゃないけどさ」
 彼女の顛末は、自殺未遂を起こし、立ち直り、友と出逢い、そして急激な別れの後に死して――何があったのかは分からないが、破壊を振り撒く不死鳥として蘇ったということ。
「それでもお前が悩み、苦しんできた事だけは分かる。少なくともその事を知ってる奴らはここにいるんだから」
 望んだわけではない。
 狂える不死鳥であった頃の彼女の嘆きを噛み締めながら、それでも、ウィーリィは確かに言葉を与えていく。
「苦しかったんだね、ずっと。誰が悪い訳でもないのに。ただ、理不尽に」
「……そうね。何でこんなになっちゃったんだろうね……」
 シャーリーの寄り添う言葉に静かに頷き、ミュリエルは遠く空を見上げていった。
 望んだわけではない骸の海の過去と交じり合ったが故の姿、生前の心を歪められ世界に破滅を齎す死の鳳と化してしまった嘆き。
 魂を歪めてしまった過去によって、望まぬ表情を張り付けられ続け、解放を望んで尚、狂い踊り続けて炎を撒き散らしていた嘆き――
「そんな顔しないでよ。もう、楽にはなったんだからさ」
「それでもだ」
 悲痛な面持ちでミュリエルの嘆きを見守るウィーリィとシャーリーに、苦笑いを――歪められて貼り付けられたそれではない、漸くに本来の感情のままに笑みを浮かべれば、ウィーリィは歯を食いしばりながらも彼女に想いを伝えた。
「祈らせてくれ。お前がまた、その二人と再会できるように」
「そんな」
「そんなハズない、なんて言わないでくれよ。……このままお前が消えて終わりだなんて、俺だって寂しいんだしさ」
 ミュリエルの言葉をウィーリィが制し、彼は香煙の中に一つの香を添えていた。
 安眠のハーブとして有名所の一つである、加密列(カミルレ)の穏やかな香りが香煙を燻らせる炎の中に投げ込まれていた。
 幾つもの香が入り混じる中に、新たに添えられた加密列の香に目を細め、ミュリエルは静かに微笑んだ。
「……あーあ。楽になれたと思ってたのに。いつだって、タイミングが悪い」
 薄れゆく身体は最早朧気にミュリエルの鮮やかであった赤ですらも、薄らとした影として残すだけとなり。
 不死なる鳥としての翼の、羽根の一枚一枚が空に解けていく。
 幻の朧の桜舞う中に、叶うことなき祈りを乗せて、桜花と羽根は踊る。
 いつだって狂える不死鳥ではなく、ミュリエルとしての時間を取り戻した安らぎは一時でしかなく、影朧としての身は程なく消えゆく定め。
「でも、それももう終わりだよ。……さよなら」
「……ええ。さよなら」
 振られる手と物哀しい笑みに最後まで、確りと向き合って。
 漸くに解き放たれたミュリエルとの別れを、最後の最後までシャーリーは見送り別れの言葉を告げて。
「ねぇウィーリィくん」
 ミュリエルであった影朧が静かに消え去り、何時しかに炎が齎した熱の傷跡も、何もかもが最初から無かったかのように癒された中で、シャーリーは悲痛を胸にしながら、まるで自分自身に問いかけるように言葉を紡いだ。
「ボクたちさ、ミュリエルさんの為に何か出来たのかなぁ……」
「さぁな。少なくとも……今苦しむことは、なくなったと思うぜ」
「だといいけどね……」
 骸の海が産み出した過去の侵食は、因果深き者が断つか、或いはこの桜花幻影の世では桜の精による癒しを与えてあげるか。
 そのどちらも、どちらでもない彼等が与えられることは無かったものの、それでも――それでも、だ。
 それでも、彼等は出来得る最大限のことを為したのだ。
 嘆きに寄り添い、今蘇った狂える不死鳥という、押し付けられてしまった役割から確かに解き放ったのだ。
「帰ろう」
「……うん」
 後はせめて、もう狂える不死鳥として地に降り立つことの無い様に――今しがた祈ったことがそのまま現実となるように願い。
 カァテンコォルの中を二人は降りていきながら、最後にミュリエルが存在していた場所へと二人同時に向き直り。
「「それじゃ、お休み」」
 ――帝都の中に幻朧桜の花弁が、冷たい冬の風の中に乗せて飛んでいく。
 今確かに存在していた、歪んだ不死鳥の残した熱も全て消し去り、焚き付けられた香煙も押し流しては。
 少なくともに、今、ここに巡る輪廻の苦しみから解き放たれた不死鳥の別れの舞台は、確かに幕が下ろされたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年02月22日


挿絵イラスト