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過去は未来に復讐する

#カクリヨファンタズム #猟書家の侵攻 #猟書家 #妖喰い #西洋妖怪

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●憎悪の連鎖
「う、うわあぁっ!」
 逃げ惑う西洋妖怪たちのひとりが、襲いかかってきたしなやなか肉食獣の鋭い爪に引き裂かれる。
 何で、どうして――などと考えている余裕はなかった。
 その暇さえ、与えられなかった。
 肉体は己を引き裂いた肉食獣と同じモノに変じつつあり、傷口からは妖しげな気配が立ち込めていく。
 このままでは、カクリヨファンタズム中の西洋妖怪が肉食獣――ジャガーに変じ尽くされてしまう。

 ――たすけて。

 西洋妖怪たちの切なる叫びは、確かに、猟兵たちに届こうとしていた。

●抉る幻影
「猟書家の事件も長期戦が続いてるけど、地道にやってくしかないわよね」
 グリモアベースの一角で、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)が呟いた。
 猟兵たちが集ったのを確認したミネルバは「ありがと」と短く礼を述べ、中空にホロビジョンを展開させる。
 映し出されたのは、まだら模様が鮮明なネコ科の動物――ジャガーであった。
「今回の敵はこいつ、というかこいつを使役する骸魂『妖喰い』。猟書家幹部、ってヤツね。自分の家族を西洋妖怪に奪われた、っていう憎悪だけで生きてるみたい……なんだけど、それさえも妄執かも知れない。でも、どっちにせよその憎しみは根深いわ」
 ホロビジョンに映るジャガーの数は、ネズミ算式に増えていく。
 それは、このまま手をこまねいていたら遠からぬ未来そうなるという予知。
「妖喰いがその憎しみから生み出して放つジャガーはね、憎き西洋妖怪を襲って自分と同じジャガーに変えてしまうの。ジャガーに触れた者もまた同じ呪いで……キリがないわ」
 だから、止めてきて頂戴。
 ミネルバからの要請は、実にシンプルだった――が。
「ただ、事件の根底に『憎しみ』が絡んでるからかしら、事件の解決はちょっと大変かも」
 こおりのむすめの金眼が、猟兵たち一人一人の瞳を射抜くように見回す。
「事件が起きてる西洋妖怪たちの集落には、見る者の『死んだ想い人の幻影』が現れて、生前の無念を語りかけてくるんですって」
 ジャガーに傷付けられた西洋妖怪の傷口から湧き出すその幻影は、対峙した者へと憎悪に満ちた無念を語るという。
 その内容は事実かも知れないし、妖喰いの憎悪に影響され歪み果てているかも知れない。
 ジャガーや妖喰いそのものよりも、この幻影の方が余程厄介そうだと誰もが顔をしかめる。ミネルバも、猟兵たちの様子を察して緩く首を振った。
「無理にとは言わないわ、思う所がある人は力を貸してくれると、とてもうれしい」
 雪花のグリモアを掲げながら、ミネルバは改めて依頼のまとめに入る。

「転移先の西洋妖怪の集落では、まさにジャガーたちが西洋妖怪を襲っている真っ最中よ。そこへ割って入れば、みんなを過去の幻影が襲う。それとどう向き合うかはみんな次第だけど、無念を晴らしてやるか諦めさせれば呪いは浄化されて西洋妖怪も助かるわ」
 はらはらと、グリモアベースに雪が舞う。
「あとは幹部との戦いだけ。憎しみに負けない心で、やっつけて来てね」
 道は開かれた――その一歩を踏み出すかは、貴方次第。


かやぬま
 過去と向き合い、折り合いをつけること。
 しんどいですけど、大切なことだと思います。
 カクリヨファンタズムからお届け致します。

●プレイングボーナス
 ・あなたの『想い人』を描写し、その無念に打ち勝つ。

●第1章
 現場に到着すると同時に『今はもういない、猟兵の大切な人』の幻影が現れ、憎悪に満ちた無念を語り始めます。
 内容は事実でもいいですし、歪められた虚偽でも構いません。
 プレイング内であなたの想い人と語る無念の内容を、そしてそれに対してどう対処するかを、存分に教えて下さい。
 見事幻影を打ち払うことができれば、西洋妖怪たちも自然と救われます。

●第2章
 幹部猟書家『妖喰い』との戦いです。
 襲われた西洋妖怪たちは自分たちが狙われていることを嫌というほど理解しているので、戦闘の邪魔にならないように逃げ回ってくれます。
 うまく誘導してあげれば、敵をこちらの有利な位置に誘い込むことも可能なので、工夫してみて下さい。

●プレイング受付期間につきまして
 MSページとタグでお知らせしていますので、ご確認をよろしくお願いします。
 また、お手数でもMSページをご一読の上ご参加下さいますと幸いです。

 それでは、ご参加をお待ちしております!
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第1章 日常 『幻影は無念を語る』

POW   :    その無念は間違いだと真っ向から反論する。

SPD   :    歪められた無念に対して、論理的に対話を試みる。

WIZ   :    歪んだ形だとしても無念に寄り添い、慰める。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●残響
 今はもう居ないはずのあなたが、何故。

『どうして、母さんを大事にしてくれなかったの』

 ようやく子育てがひと段落して、これからは自分の人生を謳歌するはずだったあなた。
 不治の病が見つかったのは、最悪のタイミングだった。
 そこからは長い闘病生活だったけれど、わたしは多忙にかまけて母との時間を作ろうともしなかった。

 後悔はしている。
 罵られても当然。

『母さん、もっとあなたとたくさん思い出を作りたかった』
『あなたがこんなにも薄情な子だとは思わなかった』
『どうして、最期まで会いに来てくれなかったの』

 目の前の『母さん』は、ひどく無念そうな顔をしていた。
 わたしは。

 口を開けども、発するべき言葉が、見つからず――。
満月・双葉

無念を諦めさせる
心を失い『死んだ』母親
まだ死にたくなかった、助けてと手を伸ばしてくる

幸せになることも未来を望むことも許されないと解った時

僕は貴女に助けを求めた

でも貴女は冷たく僕を捨てたじゃないか

僕を救ってくれたのは貴女じゃなくて師匠だった

まぁ、師匠は僕にそんな運命を与えた彼自身の責任を果たしただけだったのでしょうけど

それでも貴女はそんな師匠の気持ちを利用して僕を捨てたんだ

助けて貰えると思うなよ?
お前がしたことが跳ね返ってきただけだろう

母親が自分にしたように、母親が伸ばしてくる手を冷たく振り払う

お互い無念は捨てようよ、ママ
感謝してる、お陰で僕は強くなれた
希望など持つなと、貴女が教えてくれたから



●許されざるもの
 逃げてくれ、これは『よくないもの』だ――そう叫ぶ西洋妖怪たちを敢えて無視して、満月・双葉(時に紡がれた人喰星・f01681)は傷ついた西洋妖怪たちの傷口から噴き出す靄のようなものが徐々に眼前で人のカタチを取るのを無表情で見ていた。

 ――助けて。

 靄は女性のカタチを取り、それは紛れもなく心を失い『死んだ』母親であり。
 まだ死にたくなかった、助けて、そう言いながら双葉に手を伸ばすのだ。
「……」
 双葉の無表情は変わらない。
 思い出す。
 幸せになることも、未来を望むことも、許されないと解った時。
「……僕は、貴女に助けを求めた」
 伸ばされた白い手が、ぴくりと止まる。
「でも、貴女はどうだ」
 双葉は微動だにせず、唇だけを淡々と動かす。
「冷たく僕を捨てたじゃないか」

 何と薄情な話だろうか。
 見捨てた者に救いを求めるなど。

「僕を救ってくれたのは、貴女じゃなくて師匠だった――まぁ、師匠は僕にそんな運命を与えた彼自身の責任を果たしただけだったのでしょうけど」

 双葉の母の姿を取った靄はゆらゆらと、それでも諦めきれない様子で身を震わせる。
 それを見た双葉は、初めて表情を見せた――不快そうに、顔を歪めて。
「それでも貴女は、そんな師匠の気持ちを利用して、僕を捨てたんだ」
 伸ばされた手は少しばかり引っ込められ、震えるばかり。
 眼前の無念を救うつもりなどさらさらない双葉は、言葉の刃を突きつける。
「――助けて貰えると思うなよ? お前がしたことが跳ね返ってきただけだろう」

 ばしっ。

 それでもと再度伸ばされた母親の手を、双葉は冷たく振り払った。
 ――母親が、あの日自分にそうしたように。

「お互い無念は捨てようよ、ママ」
 救い難いものは、確かに存在する。
 関係を修復するには、あまりにも、何もかもが遅すぎたし残酷すぎた。
「感謝してる、お陰で僕は強くなれた」
 ぐずぐずと人のカタチを取れなくなっていく靄に背を向けて、双葉は呟いた。
「希望など持つなと、貴女が教えてくれたから」

 一瞬だけ訪れた静寂に、靄は融けるように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黄泉川・宿儺
POWで挑むでござる ◎
小生を産み、そのまま亡くなった顔も知らない「母親」
「あなたなんて産むんじゃなかった」
そう告げる「母親」に、心からの感謝を告げるでござる

お母さんが小生を産んだとき
小生は怪異が取り憑く呪われた子で
それはきっと、望まれない出生だったのかもしれない

それでもちゃんと小生を産んでくれた
怪我も病気もしない丈夫な身体に産んでくれた
おかげで小生、たくさん人助けをすることが出来たでござる

だから、ありがとう。お母さん。
あなたが小生のことを恨んでいたとしても
小生はお母さんのこと、ずっと大好きでござるよ

この世界に小生という存在を残してくれた
それだけで、ずっとずっと感謝してる



●揺るがないもの
 黄泉川・宿儺(両面宿儺・f29475)は、母の顔を知らぬ。
 獄中出産だったという。宿儺を産み落として、すぐ亡くなったという。
 故に宿儺の眼前でゆらめく人影は顔の部分が茫洋として、判然としない。
 けれど、宿儺にはそれが己の母であると、直感で理解していた。

 ――あなたなんて、産むんじゃなかった。

 投げかけられる言葉はあまりにも心なきものであり、宿儺の心に深く突き刺さる。
 その身に怪異を封じられた忌み子であるとはいえ、存在そのものを否定するとは。
 宿儺の胸中やいかばかりであったろう――身体の痣を包帯で隠し、ボロボロの学ランに身を包み、『母親』と思しき靄と対峙する宿儺は。

 胸元に両手を当てて、微笑っていた。

「お母さんが小生を産んだとき、小生は怪異が取り憑く呪われた子で」
 祝福とは程遠い、忌まわしいものに迎えられた。
 それはきっと、望まれない出生だったのかも知れない。
 それでも。
「それでも、ちゃんと小生を産んでくれた」
 極論、堕胎という選択肢もあっただろうに。
 宿儺の母は、宿儺を怪我も病気もしない丈夫な身体に産んでくれたのだ。
「おかげで小生、たくさん人助けをすることが出来たでござる」
 これまでに、幾つもの事件に臨んできた。
 そのどれもに、真摯に挑んできた。
 望まれぬ生まれであっても、呪われた身の上であっても、宿儺は常に人生を『よいもの』にすべく頑張ってきた。

 宿儺の笑顔に、曇りはない。嘘偽りはない。
 眼前の『母親』がどんなに己を否定しようと、揺るがぬ感情が胸の裡にはあった。
 だから、告げる言葉はただひとつ。

「ありがとう、お母さん」
 靄が揺れる。宿儺の真っ直ぐな思いは、あまりにも眩しい。
「あなたが小生のことを恨んでいたとしても、小生はお母さんのこと」
 犯罪者の身の上で、自業自得だったのかも知れない。
 身勝手な恨みで、我が子を貶めた罪は重いだろうに。
 むしろ、宿儺の方が母を恨んでこそ正当性がある状況だというのに。
 にもかかわらず、宿儺は母を恨まない。
 恨む、どころか。

「ずっと、大好きでござるよ」

 揺るがぬ事実が、そこにはあった。
(「この世界に、小生という存在を残してくれた」)
 今、宿儺がこうして生きているということは、つまりはそういうことであった。
 どれだけ存在を否定されようとも、その事実がある限り、宿儺は前を向いていられる。

「――それだけで、ずっとずっと、感謝してる」

 晴れ晴れしい言葉の前に、忌まわしい靄は霧散していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨナルデ・パズトーリ

PC元ネタ
テスカトリポカ
子等とアステカの民の幻出現想定

ああ、うむ
復讐に狂い我が手で止めた夫も国が滅び嘆いて消えた兄弟達も覚悟しておったが……こう来るか
子等、そして民達よ

そうよな
世界が異なるとはいえ国を滅ぼした者達の同輩を救う為に戦う妾に怒りと嘆きの声を投げかけるは道理よ
じゃが彼らは奴等ではないぞ?
生まれた大地が同じに過ぎぬのに怒りを向けてどうする
あの時代すらバルトロメ神父の様に弾圧に疑念を抱き命を懸け狂人と蔑まれようと訴え続けた御仁も居たというに……其れでは其方等の憎む奴等以下であろう
妾は其方らに斯様に堕ちて欲しくはない

怒りあらば妾に刃を向け発散せよ
妾は其方らの神であり母
存分に受け止めよう



●夜の斧
 それは、年端もいかぬ乙女に見えたろう。
 だが、悪意の靄は『それ』を『そう』とは許さなかったし、乙女自身もそれはむしろ正当な評価として真っ向から受け入れる。
 ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)、アステカの神にして母であるもの。
 ヨナルデは靄が群衆のカタチを取るのを見て、何とも言えぬ息を吐いた。

「ああ、うむ」
 何者が、己を糾弾しに現れるのだろうと考えていた。
 復讐に狂い、他ならぬ己が手で止めた夫か。
 国が滅び、嘆いて消えていった兄弟たちか。
「こう、来るか――子等、そして民達よ」
 だが眼前に現れたのは、かつて愛し守った我が子であり、民たちであった。

 ――どうして。

 今のヨナルデの立場は、猟兵。
 過去より生まれ出でし世界の敵を討滅するが使命。
「そうよな」
 それ即ち、現存する世界を救い守るも同義。
「世界が異なるとはいえ、国を滅ぼした者達の同輩を救う為に戦う妾に、怒りと嘆きの声を投げかけるは道理よ」

 ――母は我らを裏切ったか、見捨てたもうたか。
 ――神はお心変わりをなさってしまわれたのか。

 ヨナルデは幼子の姿で、しかし信じられない程の貫禄と気迫を見せながら首を振る。
「じゃが、彼らは奴等ではないぞ? 生まれた大地が同じに過ぎぬのに怒りを向けてどうする」
 回顧する。遠い昔、先住民の奴隷化に対し非難の声を上げ、命を懸けて弾圧に立ち向かった者が居た。名を、バルトロメ・デ・ラス・カサス神父。
「狂人と蔑まれようと、己の主張を訴え続けた御仁も居たというに……」

 ――殺せ、殺せ。
 ――それが出来ないなら、あなたが死ね。

 荒れ狂う怨嗟に、ヨナルデは再び首を振った。
「其れでは其方等の憎む奴等以下であろう」
 今はただの鏡でも、かつては立派な神器であったことを思わせる黒曜石の鏡を持つ。
「妾は其方らに、斯様に堕ちて欲しくはない」

 ――オ、ォ、ォオオオオ……!

 靄が様々な古代の武器のカタチを取って、ヨナルデを狙う。
 対するヨナルデもまた、神器たる鏡から様々な黒曜石の装飾品を展開する。
「怒りあらば、妾に刃を向け発散せよ」
 ひゅんっ、がきん……っ!
 言葉の先から、刀や槍などが次々と投げつけられる。
 女神の神威は、その全てを受け止める。
「妾は其方らの神であり、母」
 満足するまで、その怒りを、嘆きを、受け止めようではないか。

 ――……、……。

 攻勢が、次第に収まっていく。
 怒りを存分にぶつけて、気が済んだのだろうか。
 他ならぬ母にままならぬ心を受け止めてもらって、満足したのだろうか。
 靄は、気がつけば霧散していた。

「……ふぅ」
 偉大なる者であるということは、中々に大変なのだなと。
 全力一歩手前で攻勢を凌いでいたヨナルデは、内心で息を吐いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
◎×

――自分より少し低い背丈、燃えるように鮮やかな真紅の髪、快活「だった」群青の瞳。
…それは、目の前で龍の爪牙によって引き裂かれたあの子。

あたしなら、やっぱりあなたよねぇ…エスィルト。
恨み言は、「どうして助けてくれなかったの」ってとこかしらぁ?
…けど、お生憎様。それに関してはもう答えを貰ってるのよねぇ。正確にはスワンプマンみたいなものだけど。(参照シナリオid=30995)
だから――とっとと消えなさいな、ニセモノ。(●鴆殺を起動、〇浄化の魔弾を○クイックドロウ一閃)

…はぁ。とはいえ、ものすごぉくムカつくことには変わりないのよねぇ。
必要以上にやる気出したくないんだけどなぁ…



●あの日の君へ
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の眼前に噴き出した靄は、今までになく、いやにハッキリとした姿形を取ってみせた。
 ティオレンシアよりも少しばかり低い背丈。
 燃えるように鮮やかな真紅の髪。
 快活『だった』群青の瞳。
 今や濁った青と化した虚ろな瞳で、全身をズタズタに引き裂かれた凄惨な姿で、少女はティオレンシアをただじっと見ていた。

「あたしなら、やっぱりあなたよねぇ……」
 あの日、目の前で龍の爪牙によって引き裂かれた、
「エスィルト」
 フィクサーの女が、生まれて初めて『大切』と思えた存在。

 ――……どうして、

 惨たらしい姿形を態々取って現れたのだから、恨み言も容易に推測できる。
「恨み言は『どうして助けてくれなかったの』ってとこかしらねぇ?」
 エスィルトという名の少女をカタチどった靄が言葉を止める。
「……けど、お生憎様」
 対峙するティオレンシアはあくまで常通り飄々と、甘く言葉を紡いでみせる。
「それに関しては、もう答えを貰ってるのよねぇ」
 本物か、偽者か、一夜の夢か。
 今でもそれは分からないけれど。

『何で助けてくれなかったの、なんて、思ってないよ』

 あの日、桜舞う奇跡のようなひと時の最後に。
 エスィルトは、確かにそういって笑ったのだ。
 だから、今ティオレンシアが対峙しているボロボロのスィルは。
 違うのだ。お前は『違う』と、そう断言できる。

 人は、怒りが度を超すとかえって冷静になるらしい。
 既に救われたはずの大切な人を、このような姿で愚弄した罪は重い。

 ――ねえ、どうして助けて、

 がぉんっ!!
 再度口を開いたのが致命的だった。
 目にも留まらぬ早撃ちで、躊躇なくティオレンシアがエスィルトの姿をした忌々しいものに浄化の魔弾を叩き込めば、あっという間に霧散する靄。
「だから――とっとと消えなさいな、ニセモノ」
 ほんの少しだけ眉間にしわを寄せて、ティオレンシアはホルスターに銃を戻す。
 あの子を汚された気がして、怒りが湧くような心地がしなくもなかったけれど。

『だいすきだよ』

 胸の奥の深いところに、今もはっきりと思い出せるあの言葉が残っているから。
 急ごしらえのまがい物などには、今更心を乱されることもなかったのだ。

「……はぁ」
 とはいえ、ぶっちゃけた話、ものすごぉくムカつくことには変わりない。
「必要以上に、やる気出したくないんだけどなぁ……」
 このまま、やられっぱなしという訳にも行かない心地であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
●幻影
およそ十年前に戦死した、つかさの実の祖父
身長2.5mを超す、筋骨隆々な老爺
当時の里長で里最強の戦士でもあった
(なお本物は妹の守護霊(ユーベルコード)化している)

●無念
『お前程の才覚ならば、幼き頃より鍛えておれば』
『里を襲ったあの鬼(※妹の宿敵)に後れを取る事も』
『時を稼ぐために儂が死ぬことも』
『お前が妹と離れ離れになる事も』
『無かったであろうに……!』



……そうね。
あの頃の私は、戦が嫌いだった。
力で相手を捻じ伏せるのは野蛮だって、そう思っていたわ。
そのせいで、当時の私は無力で。
何もできず、あの子と離れ離れになるしかなかった。

(瞼を開き、幻影を正面から見据え)
……この幻影は、私自身の無念が形を生したものでもあるわね。
であれば、やるべきことは一つだわ。
(真の姿解放し、構える)
あれから歩んだ私の道程、そうして辿り着いた境地。
この一撃にてお見せします――!
(【破界拳】発動、自身の成長を見せつけるが如く幻影へと撃ち放つ)

――我が拳、阻めるものなし。
つかさの成長、見て頂けましたか? お爺様……



●リグレット
 荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の眼前に広がった靄は、巨大であった。
 それはやがて見上げるほどの巨漢のカタチを取り、つかさの前に立ち塞がる。
「……お爺様」
 今よりおよそ十年前、戦に於いてその命を散らした、つかさの実の祖父。
 その体躯は筋骨隆々、身の丈は二メートル半を超え、老いの衰えというものを微塵も感じさせぬ男であった。
「当時の里長で、里最強の戦士でもあった――お爺様」
 つかさと老爺との視線がかち合った瞬間、地の底より響かんばかりの声がした。

 ――お前程の才覚ならば、幼き頃より鍛えておれば。
「……っ」
 言葉の切り出し方から、次の言葉が容易に想像できたものだから、つかさは思わず目をつむってしまう。
 ――里を襲ったあの鬼に後れを取る事も、時を稼ぐために儂が死ぬことも。
「……く、っ」
 あの日の光景が、瞼の裏でありありと蘇る。
 ――お前が妹と離れ離れになる事も、無かったであろうに……!
 お前のせいだ。
 お前が悪い。
 お前さえしっかりしていればと、ありとあらゆるものがつかさを責め苛む。

「……そうね」
 俯いたまま、つかさは声を震わせながら呟いた。
「あの頃の私は、戦が嫌いだった」
 今のつかさからは想像もできぬほど、戦いとは縁のない娘であったのだ。
「力で相手を捻じ伏せるのは野蛮だって、そう思っていたわ」
 考え方としては、決して間違ってはいないはずなのに。
 つかさを取り巻く環境が、その考えを『甘い』と断ずるに至った。
「そのせいで、当時の私は無力で」
 大切なものを守るためには、力が必要だったのだ。
「何もできず、あの子と離れ離れになるしかなかった」

 そこまで言うと、つかさは遂に顔を上げ、瞼を開き、祖父の幻影を正面から見据えた。
「……この幻影は、私自身の無念が形を生したものでもあるわね」
 過去の古傷を抉られ、それで頭を垂れて泣き濡れるような脆い娘ではない。
 つかさは決然と、祖父の姿をしたモノと対峙する。
「であれば、やるべきことは一つだわ」
 ――ぞぞ、ずぞぞ。
 つかさの指先から肩にかけて紅に染まり鋭く尖り、黒髪は一瞬にして銀へと変じ。
 羅刹の角は左右に一対増え、鍛え上げられた上半身を惜しげもなく晒すに至る。
 ――真の姿、つかさの極致。
 祖父の幻影が、一瞬瞠目したような気がした。

「あれから歩んだ私の道程、そうして辿り着いた境地」
 一分の隙もない構えで、つかさは拳を固く握る。
「この一撃にて、お見せします――!!」

 世界が、一瞬、その境目を失った。
 破壊――破界されたのだ。

 ――おおおおおおっ!!!??

 それは【破界拳(ボーダー・ブレイク)】。
 自身の成長を見せつけるがごとく、祖父の幻影へと撃ち放つ!

 ――見事、なり……。

 言葉は、不要だった。
 ただ、拳で語ることこそが、必要だったのだと。
「――我が拳、阻めるものなし」
 たとえ、お爺様であっても。
 今のつかさは、もうあの頃の無力なつかさではないのです。
「つかさの成長、見て頂けましたか? お爺様……」

 忌まわしい靄は晴れ、それこそが一番の答えであったろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月

…ごめん。
俺が実の家族に会ったからといって、じいさんを忘れる訳無いじゃないか。

俺、じいさんが、俺の実の家族や、仲間、大切な人を、怨んだり、妬んだりする人じゃないって、知ってる。

だから貴方は俺のじいさんじゃないと思う。
でも、あえて言葉を受け止めたいんだ。

俺が実の家族に会えたのは。
大事な仲間や大切な人と出会えたのは。
俺が人と世界を守る事が出来るのは。
全部じいさんのおかげなんだ。
人を、人の生き方を教えてくれた、じいさんのおかげなんだ。

まだ失敗も多いけど…最近は、箸で麺を掴み損ねなくなったんだ。
ネズミを狩って食べるだけじゃなくて、店で買った肉や野菜を料理する事も少し増えた。
炊飯器で米も炊ける。

俺がじいさんの事、忘れてないって、信じる信じないは、じいさんの問題。
でも、じいさんがどんなに憎んでも、俺がじいさんの事忘れたり、嫌ったりしない。
俺は、じいさんが大好きなんだから。
俺を俺に育ててくれた、そんなじいさんを、嫌うはずがないじゃないか。
実の両親も、妹も、そしてじいさんも、俺の大事な家族だから。



●あなたがいたから
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)を、年老いた男性が、黙って見ていた。

 ――……、……。

 罵倒するでもなく、ただ恨めしげにじっと、都月を見ていた。
「……ごめん」
 けれども都月には心当たりがあったのか、まずは素直に謝罪の言葉を述べた。
「俺が実の家族に会ったからといって、じいさんを忘れる訳無いじゃないか」
 老人は、それでもじっと都月を見つめ続ける。
「俺、じいさんが、俺の実の家族や、仲間、大切な人を、怨んだり、妬んだりする人じゃないって、知ってる」
 だから、都月も老人をしっかりと見つめ返して、心からの言葉を投げかける。

 そんな風に、俺を恨めしげに見てくるなんて、きっとそれは。
「貴方は、俺のじいさんじゃないと思う」
 でも、あえて言葉を受け止めたい。そう、逃げないことを決めた。

 ――お前は、儂のことなど、もうすっかり忘れてしまったのだろうのう。

 都月の狐耳がピンと立ち、すぐさまかぶりを振る。
「そんなことない!!」
 自分でも、驚くほどの大きな声が出た。
「俺が実の家族に会えたのは、大事な仲間や大切な人と出会えたのは、俺が人と世界を守る事が出来るのは」
 バッと両手を広げて、思いの丈を叫ぶ。
「全部、じいさんのおかげなんだ。人を、人の生き方を教えてくれた、じいさんのおかげなんだ」
 忘れたことなんて、一時たりともなかった。
 じいさんを大切な人たちに紹介できないのが悔しいほどに、いつだって覚えていた。

 聞いて欲しい話だって、たくさんある。たとえ、幻影だと分かっていても。
「まだ失敗も多いけど……最近は、箸で麺を掴み損ねなくなったんだ」
 靄でできた老人が、ほんの僅か驚いたように見えた。
「ネズミを狩って食べるだけじゃなくて、店で買った肉や野菜を料理することも少し増えた。炊飯器で米も炊ける」

 ――……。

 幻影は、黙して語らない。
 だから、都月が一方的に想いをぶちまける。
「俺がじいさんの事、忘れてないって、信じる信じないは、じいさんの問題」
 人の気持ちを勝手に決めつけることはできないから。
 信じて欲しいけれど、それを押し付けることはできないから。
「でも、じいさんがどんなに憎んでも、俺が」
 目頭が熱くなる。
 頬を温かいものが伝う。
「俺の方が、じいさんの事忘れたり、嫌ったりしない」
 ――涙が、止まらない。

「俺は、じいさんが大好きなんだから」

 老人のカタチをした靄が、徐々に薄れていく。
「俺を俺に育ててくれた、そんなじいさんを、嫌うはずがないじゃないか」
 その姿に向けて叫ぶ都月に、どこからともなく、声が聞こえた。

 ――わかって、おるよ。

「……」
 靄が晴れ、その場にへたり込んだ都月は、噛み締めるように呟いた。
「実の両親も、妹も、そしてじいさんも、俺の、大事な家族だから」
 優劣などない。
 みんな、みんな、大好き。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『妖喰い』

POW   :    獣の呪詛
【呪いの炎で構成された巨大なジャガー 】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【者は溶け落ちる溶岩の雨】を放ち続ける。
SPD   :    憎悪の呪詛
【己が影 】から【妖怪を憎む死者の群れ】を放ち、【彼等が襲い掛かる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    感染の呪詛
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【接触感染性の呪いを宿した妖喰いのジャガー】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。

イラスト:のはずく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ヨナルデ・パズトーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ジャガーの戦士
「……猟兵の邪魔が入ったか」
 逃げ帰ってきたジャガーたちを足元にはべらせながら、豊かな黒髪の女が呟く。
「だが、知ったことか。ならば猟兵ごと喰らってやるまで」
 ジャガーたちを撫でる手の動きは慈しみに満ちているのに、紡ぐ言葉から放つ気配までそれ以外の全てが――憎悪に満ちていた。
 妖喰い。
 カクリヨファンタズムに舞い降りた猟書家のひとり。
 西洋妖怪を憎み、根絶やしにせんと目論む、危険な存在。

●決戦の刻
「助けて下さって、ありがとうございました」
「あいつらの狙いは私たちです、皆さんの邪魔にならないように上手く逃げますね」
 幻影を引き受け浄化させたことにより一先ずの危機から脱した西洋妖怪たちは、猟兵たちに対して非常に協力的であった。
「死なない程度だったら、囮にだってなれます」
「指示さえしてくれればその通りに動くので、皆さんが有利になるようにあいつを誘導できるかも知れません」
 西洋妖怪の申し出を無理に採用する必要はないが、利用できそうなら協力を仰いでも良いかも知れない。
 せっかく平和になったカクリヨファンタズムを脅かす猟書家を、今こそ討ち倒す時だ。
黄泉川・宿儺
SPDで挑むでござる ※アドリブ連携等歓迎です
西洋妖怪殿たちには悪いでござるが、
ちょっと囮になってジャガーたちを誘導していただきたいでござる

西洋妖怪殿の協力により
ジャガーたちがある程度密集してきたあたりで
【UC:変異・地獄道】を使用
戦場全体に<破魔>の力を付与した炎の雨を降らし
死者とジャガーたちの群れを地獄の炎で焼き尽くすでござる

この炎は決して消えることなく
対象の体力をじわじわと削っていくでござるよ

これ以上、西洋妖怪殿を襲わせはしないでござる
この炎、止めて欲しくば小生を狙うがいいでござるよ!


火土金水・明
「猟兵ごと喰らうですか。できないことを言って後悔をするのはあなた自身ですよ。」「もちろん、西洋妖怪さん達を喰らわせる訳にはいきません。全力で邪魔をさせてもらいます。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【ホーリーランス】で、『妖喰い』を攻撃します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【呪詛耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)それは残像です。」「私の役目は少しでもダメージを与えて次の方に繋げる事です。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



●絢爛舞踏、光と炎
 外見こそ愛らしい少女の姿をしている妖喰いだが、憎悪に囚われるあまりに表情も口調も険しいものとなっている。
 立ちはだかった黄泉川・宿儺と火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)の姿を認め、その顔はいっそう険しく歪んだ。
『……余程、死にたいと見える』
 足元のジャガーをいつでもけしかけられるようにしながら、妖喰いが吐き捨てる。
「『猟兵ごと喰らう』ですか、できないことを言って後悔をするのはあなた自身ですよ」
 対する明も負けじと強気の言葉で打って出る。

 そんな言葉の応酬の最中、宿儺はひっそりと西洋妖怪たちにあるお願いをしていた。
「悪いでござるが、ちょっと囮になってジャガーたちを誘導していただきたいでござる」
「お安いご用だが、どんな風に誘き寄せればいい?」
「それはでござるな……(ひそひそ)」
 西洋妖怪たちの輪に混ざって、小声で指示を出す宿儺。西洋妖怪たちは心得たと左右二手に散って準備を始めた。

 宿儺たちの様子に、妖喰いが怪訝そうな顔をする。
 獲物が露骨に動いたのを見て、ジャガーたちが落ち着かなくなる。
「もちろん、西洋妖怪さん達を喰らわせる訳にはいきません」
 そうやすやすと思い通りには行かせぬと、明が魅力的な魔女服を揺らして立ちはだかる。
「――全力で、邪魔をさせてもらいます」
『ほざけ……!』
 一触即発の状況を打ち破ったのは、明だった。
 七色の杖をタクトのように振れば、無数の光輝く聖なる槍が中空に展開され、美しいまでの幾何学模様を描いて複雑に飛翔し、演舞のように妖喰いたちへと飛来する!
『ギャウッ……!』
 ジャガーたちの分厚い皮膚をもものともせずに、ひとたび貫けば抜けぬ棘のように痛みで責め苛む光の槍が、次々とジャガーたちを戦闘不能へと追いやっていく。
『言うだけのことはあるな……認識を改めよう』
 自らも槍による裂傷をいくつも作りながら、妖喰いは明の攻撃で意識を失い倒れ込んだジャガーたちを、溢れる呪詛を宿した状態で再び立ち上がらせた。
『できぬことか否か、貴様自身で試してやろう!』
 本来の動きよりは幾分か鈍い足取りのジャガーたちだが、呪詛にまみれたその身に少しでも触れれば、感染の呪いに汚染されてしまうだろう。

 ――ガルルルルッ!!

 四方八方、時間差で飛びかかってくるジャガーたちを回避するのは、実際困難だった。
 ああ、無残にも明が千々に引き裂かれて――!?
「それは、残像です」
『!?』
 喰い千切り、呪いに染め上げたと思ったはずの魔女が、離れた場所で平然としている。
 明本人には、強力なオーラの防御と呪詛への耐性が加護としてもたらされており、たとえ本当にジャガーたちの手が届いたとしても効果は薄いことだろう。
「私の役目は、少しでもダメージを与えて次の方に繋げる事です」
『くっ……! 手出しのしやすい奴から狙え!』
 バトンは渡された――宿儺の指示でわざとその身を左右から晒した西洋妖怪たちがわあわあと宿儺の元へ逃げていく。
 与しやすい相手と見てジャガーたちが西洋妖怪たちを追えば、自然とひとかたまりに密集するカタチとなる。
 その時をこそ、宿儺は待っていたのだ。
「お主たちの狼藉も、これで終わりでござるよ」
『! お前たち、散……ッ』
 状況を察した妖喰いが指示を出そうとするも、時すでに遅し。

 空から。
 宿儺が敵とみなした者のみを的確に焼き尽くす地獄の業火が降り注ぐ!
『ギャウッ、ガアァ……!』
 ジャガーたちが毛皮を焼かれて地面をのたうち回れども、妖喰いが追撃でけしかけてきた妖怪を憎む死者の群れが暴れ狂えども、炎は消えることはない。
「その炎はただの炎ではない、破魔の力を宿しておいたでござるゆえ」
 内なる加虐衝動を必死で堪えながら、宿儺は敵対者たちに向き直って、叫ぶ。
「この炎は決して消えることなく、お主たちの体力をじわじわと削っていくでござるよ」
『我が憎しみをも燃やす炎、だと……!?』
 歯がみする妖喰いを、宿儺はズビシと鋭く指さした。
「これ以上、西洋妖怪殿を襲わせはしないでござる」
 今やすっかり宿儺の背後に逃げ込んだ西洋妖怪たちが、目を輝かせる。
「この炎、止めて欲しくば小生を狙うがいいでござるよ!」

 ――小生の前で、誰も死なせはしない。

 宿儺の矜持が、明の絶技が、いっとき妖喰いの襲撃を退けたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

満月・双葉

助けてくれるか…うーん…なら撹乱してくれると嬉しいかな…
無理だと思ったら下がっててくれていいから

君に礼を言わなくちゃ
僅かにあった『平穏』への未練を棄てられた

……というか憎悪の塊か…君美味しそうだね?
ちょっと齧らせて…【捕食】するだけだって!どうせ減るもんなんだし良いじゃん

相手に接触しないように見切りながら、気絶した者は【医術】の知識で気つけして起こし、戦闘続行不可なら下がらせる
死者は敵に利用されたら面倒くさいので出さぬように注意する

光の矢の弾幕を展開
戦場の状態を常に把握し作り出される【闇に紛れる】ことで姿を認識させにくくし、敵の防御状態を観察し【野生の勘】と合わせて【読心術】で敵の一番嫌がることをして注意を引く

この場にいる猟兵は僕だけじゃない
誰かが倒せばそれでいい
勿論僕が急所を狙える隙があればそれもいいけど、他の人が狙える隙を作らせることも必要だからね
UCの【生命力吸収攻撃】あてて敵自身気付かぬうちに弱ってるって出来たら理想かな
必要なら真の姿(狐面つけた黒髪の姿)でスピード上げるよ



●架け橋
『猟兵が来たから助かったと、お前たちは本気で思っているのか……?』
 元々は愛らしかったであろう顔を歪めて、妖喰いは忌々しげに呻く。
『逃がさない! 皆ことごとく、ジャガーに変えて従えてくれる!』
「……っ!!」
 流石は猟書家幹部、というべきか。
 怒号一喝のみで、気の弱い妖怪たちは幾人かその場に卒倒して頽れてしまう。
 まずはそれらからをジャガーの呪に染め上げようと、足を踏み出したその時。

「君に、礼を言わなくちゃ。僅かにあった『平穏』への未練を棄てられた」

 満月・双葉が、西洋妖怪たちを守るように間に割って入ったのだ。
「……というか憎悪の塊か……君、美味しそうだね?」
『な、何を』
「ちょっと囓らせて……」
『阿呆か!!?』
「捕食するだけだって! どうせ減るもんなんだし良いじゃん!」
『良くないわ!!』
 人様の宿敵撃破戦で、それを差し置いて捕食するのは良くないですよ。

「ちぇー、じゃあいいもん」
 不貞腐れたように言い捨てると同時、双葉は信じられない俊敏さで、先程気絶させられた西洋妖怪のもとへと駆けていく。
 卓越した技術を持つ闇医者しか知り得ぬ医術の知識であっという間に気つけて起こしてやると、ジャガー化の呪いから遠ざけてやった。
「まだ動けるかい?」
 双葉が意識を取り戻した西洋妖怪に問えば、軽く首を振る西洋妖怪。
「……すみません、頭がぼうっとして……」
「なら大人しく下がって、死なれて敵に利用されでもしたら面倒くさい」
「は、はい……! すみません……!」
 双葉の言葉を素直に聞き入れて、後方へと下がっていく西洋妖怪。
 一方で、いまだ健在で手伝わせて欲しいと申し出る者たちもいた。
「助けてくれるか……うーん……」
 双葉は少しばかり考え込む。
 元々他人へは微塵も期待をしていない身。
 けれどもあまりに無碍にするのも少々気が引けた。ので――。
「なら、攪乱してくれると嬉しいかな……無理だと思ったら下がっててくれていいから」
「「「はい!」」」
 役目を与えられた喜びに元気良く返事をして、健在な西洋妖怪たちは四方八方に散って狙いを定めにくくさせる動きを心掛けた。

 ひとかたまりになっていれば狙い易いものを、そしてそれを敢えて利用する猟兵もいるものを、ある意味一番取られたくない戦法を取られた妖喰いは奥歯を噛む。
『小賢しい……!』
「そろそろ、始めさせてもらおうか」
 双葉は両手を軽く広げるように、手のひらを上に向けてそう告げた。
 すると、手のひらからあふれるように虹色の薔薇をかたちどった揺れる炎が生まれ出て、双葉と妖喰いとの間に弾幕を張るように展開された。
『……何のつもりだ』
「炎が生み出す光あるところ、必ず闇がある」
 その言葉を残して、双葉はフッとその姿をかき消す。
『闇に紛れた、だと?』
 妖喰いは、自らへの攻撃に備えて神経を尖らせて防御を固めるが。
 双葉の狙いは、妖喰いが一番嫌がること――西洋妖怪を襲うことの妨害であった。
 西洋妖怪を追い回すジャガーの傍に唐突に現れては、その横っ腹に大根フルスイングの強烈な一撃をぶちかまして吹っ飛ばす。その繰り返しであった。

(「この場にいる猟兵は、僕だけじゃない」)
 そう、誰かがトドメを刺せばそれでいい。
(「勿論、僕が急所を狙える隙があればそれもいいけど、他の人が狙える隙を作らせることも必要だからね」)
 俊敏に戦場を動き回る双葉の姿は、いつしか解き放たれた真の姿と化していた。
 狐面をつけた黒髪の女傑は、縦横無尽に駆け巡りジャガーたちを撥ねのける。
『おのれ、可愛いジャガーたちをよくも執拗に……!』
「執拗なのはどっちですかねぇ?」
 敵の言葉に不敵に言い返す双葉。
 戦局は、確実に猟兵たちの方へ有利に傾いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月

西洋妖怪の人達を餌にするのは、嫌だけど…
俺が守るから、どうか協力して欲しい。
一塊になって、何があっても動かないで欲しい。
念のために西洋妖怪の人達に[オーラ防御]をかけよう。

俺は西洋妖怪の後ろで隠れておこう。
万が一の場合は[かばう]事も考える。

[野生の勘、第六感、集中力]、風の精霊様も協力して貰って[情報収集]。
敵の挙動に注意しよう。
同時に[魔力溜め]ながら、じっと待とう。
チィ、お手伝いだ。
UC【精霊共鳴】でフォローを頼む。

タイミング見て、水と土の精霊様に敵の足元を泥の沼にして貰おう。

敵はきっと沼から出ようとするはずだから、水の精霊様の所に氷の精霊様を呼ぼう。
このまま敵を凍らせて下さい。

敵の攻撃は[カウンター、高速詠唱、属性攻撃]で対処しよう。

これは仕事だから、西洋妖怪を守るのは当然なんだけど…
俺さっき、じいさんの声が聞こえた気がして嬉しくて。
でも、じいさんにあんな顔させた貴女に怒ってて。
自分がよく分からない。

だから、とりあえず電気でビリビリして貰おうか。
雷の精霊様、お願いします!



●怒りと怒り
(「西洋妖怪の人達を餌にするのは、嫌だけど……」)
 木常野・都月は自身が思い描いた作戦に自ら抵抗感を覚えながらも、それこそが最良と信じるが故に、一時後方に退避した西洋妖怪たちに深々と頭を下げた。
「俺が守るから、どうか協力して欲しい」
「ええ、私たちにできることなら……」
「教えてくれ、どうすればいい?」
 真摯な都月の姿勢に快く応じる西洋妖怪たちに、都月は己の前のスペースを両手で囲う仕草をしながら、こう指示を出した。
「ここに一塊になって、何があっても動かないで欲しい」
 都月の前で、まるで塹壕そのものになるように。
 厳しい申し出かと思いきや、西洋妖怪たちは早速指示通り移動を開始した。
(「念のために、みんなにオーラの防御障壁をまとわせておこう」)
 杖の先で地面をトンと突いて、気休め程度ながら不可視のオーラを展開させると、都月自身は西洋妖怪たちの後ろでひっそりと身を隠した。

「万一の場合は、すぐかばいに来ます」
 敵に聞かれぬような小声でそう言うと、西洋妖怪たちは信頼した顔で頷く。
『餌を差し出すか、猟兵』
 妖喰いは今にも飛びかからんとするしもべのジャガーたちを敢えて制しながら、都月に向けて剣呑な声音で語り掛ける。
『何を企んでおるか』
「……」
 都月も、西洋妖怪たちも、みな一様に口を噤む。
 今はただ、相手が『餌』に食いついて一直線に迫って来るのを待つのみだから。
『……まあ良い、西洋妖怪どもの次は猟兵、貴様と心得よ』
『ガウルルルッ!!』
 ジャガーたちが、いっせいに解き放たれた。
「……っ」
 西洋妖怪たちが、思わず瞼を強く閉じる。
(「風の精霊様、ご助力下さい……ジャガーたちがどこからどう迫って来るか」)
 ありとあらゆる勘を働かせてもなお足りぬ部分は、風の精霊様の力を借りる。
 ジャガーたちが西洋妖怪たちを狙って迫り来るのは分かっているのだから、あとはそれを一匹たりとも討ち漏らさぬよう、動きを捉えねばならない。

 集中する。同時に、精神を研ぎ澄ませて、身体中の魔力をかき集める。
 獰猛なるジャガーが迫るのを感じながら、都月はエレメンタルロッドに月の精霊「チィ」をちょんと乗せ、鋭く正面を見据えた。

「チィ、頼む。お手伝いだ」
「チィ!」

 十分すぎるほどの助走をつけたジャガーの群れがいよいよ西洋妖怪たち目がけて飛びかかろうとした、その時を都月は見逃さなかった。
「水の精霊様、土の精霊様!」
 踏み込んだ地面そのものを、精霊様の力で一瞬にして深い泥の沼に変貌させたのだ。
『……!!?』
 自ら勢いでずぶずぶと沼に沈んでいくジャガーたちは、必死にもがいて沼から這い出そうとする。
 だが、そこには水の精霊様の傍らに現れた氷の精霊様の無慈悲な洗礼が待ち受けていた。
「このまま、敵を凍らせて下さい」

 ――ばき、ばきばきばきっ!

 沼がたちまちにして凍りつき、ジャガーたちがその動きを封じられる。
 してやられたと、妖喰いは忌々しげな顔をした。
「これは仕事だから、西洋妖怪を守るのは当然なんだけど……」
 目論み通りに事が運んだのを確認した都月は、そんな妖喰いに向けて告げる。
「俺さっき、じいさんの声が聞こえた気がして、嬉しくて」
 都月の表情は、珍しく怒りに満ちていた。
「でも、じいさんにあんな顔させた貴女に怒ってて」
 自分の感情なのに、どうしてそんなことになっているのかが、よくわからなくて。
『怒りか、理解しよう――ならば、どうする』
「……とりあえず、電気でビリビリして貰おうか」
 杖をジャガーたちの方へ向け、都月は叫んだ。

「雷の精霊様、お願いします!」

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ
(西洋妖怪たちへ)
どういたしまして。
正直な所、早めに逃げてもらいたい所だけれど……
あの速度、迂闊に逃げても逃げ切れないでしょうし、私も追いきれないわ。
だから、ちょっと協力して貰えるかしら?

西洋妖怪たちには私の近くに居てもらう
その際に降ってくる溶岩の雨は、私も含め可能な限り頑張って回避又は防御しひたすら耐え凌ぐ
ある程度耐えつつ、敵が射程内に近づいて来たら【黄昏を灼く焔の巨剣・焼滅斬】発動
(本来はキャバリア用の)全長5mにも及ぶ鎖鋸剣を詠唱と共にフルドライブ
魔力を放つ巨剣と化し薙ぎ払い、範囲攻撃に呑み込む
西洋妖怪達がジャガーから受けた傷、溶岩で受けた傷
そして先程猟兵達が受けた心の傷が、力となるわ



●傷と痛みを力に変えて
 様々な手段で猟兵たちの戦闘を有利に進めるべく奮戦する西洋妖怪たちは、荒谷・つかさにも感謝の言葉を述べ、自分たちに何か出来ることはないかと問う。
「どういたしまして。正直な所、早めに逃げてもらいたい所だけれど……」
 西洋妖怪たちを最も確実に守り切る手段は、遠く遠く逃がしてしまうこと。
 それは理解していたが、西洋妖怪たちの申し出もまた、魅力的ではあった。
「あの速度、迂闊に逃げても逃げ切れないでしょうし、私も追い切れないわ」
 うんうん、と頷く西洋妖怪たちを見据えて、つかさはこう切り出した。
「――だから、ちょっと協力して貰えるかしら?」

『遊びはお終い、といった所かの』
 散々な目に遭ったジャガーたちを呼び戻し、慰めるようにその背を撫でてやりながら、妖喰いはつかさと西洋妖怪たちを鋭く睨んだ。
 そして次の瞬間、妖喰いは自らの身体を呪いの炎に包むと、巨大なジャガーへとその身を転じた。
「! まさに化け物ね……!」
 呪いの炎で構築されたジャガーは、その巨躯に似合わぬ俊敏さで瞬く間に宙を舞う。
 つかさは狼狽える西洋妖怪たちを落ち着かせるように、声を張り上げた。
「みんな、私の近くから離れないで!」
 まるでつかさの加護を受けようとするかのごとく、西洋妖怪たちが寄り集まる。
 天を翔けるジャガーは、呪いの炎を雨あられと降り注がせて迫り来る。
「た、大変だ猟兵さん、溶岩が……」
「いい、あれは可能な限り――頑張って回避して」
「頑張って回避」
 ここに来て気合と根性で何とかせよという指示が来て、西洋妖怪たちは思わずつかさの言葉を繰り返す。
 だが、この場に於いて生き残りたくば、実際そうするしかないのだ。
「防御の手段がある者は、それでひたすら耐え凌いで! 必ず何とかするわ!」
 そのつかさの言葉を信じて、西洋妖怪たちは各々が持ちうる力を振り絞って、弱者を容赦なく溶け落とす溶岩の雨を凌ぐべく奮闘した。

『無駄な足掻きを……苦しみが増すばかりであろうに』
 巨大なジャガーと化した妖喰いは、上空から溶岩の雨を降らせながら、より多くの西洋妖怪を、そしてつかさを葬り去らんと近づいていく。
 ――その時をこそ、つかさは待っていた。
 両手を掲げ、埒外の力で生み出したのは何と全長五メートルにも及ぶ巨大極まりない鎖鋸剣「黄昏を灼く焔の巨剣(レーヴァテイン)」!
「この輝きは終末の光。世界樹をも焼き尽くす終焉の焔!」
 およそ人の身では扱いきれないはずの鎖鋸剣をしっかりと構えて、つかさは天を睨む。
「灰燼と帰すがいい――」
 それは、つかさだけでなく西洋妖怪たちがジャガーから受けた傷、溶岩で負った傷、そして先程猟兵たちが受けた心の傷を、その全てを力に変える一撃。

「【黄昏を灼く焔の巨剣・焼滅斬(レーヴァテイン・フルドライブ)】!!」

 鎖鋸剣は魔力を放つ巨大な剣と化し、本来ならばキャバリアで運用するはずの刀身はつかさの尋常ならざる筋力によって生身で振りかざされ、遥か上空を舞う巨大ジャガーをも斬り払ったのだ。
『ぐ……っ! こんな、こんな出鱈目があってたまるか……!』
 呻きながら地上に戻り、元の少女の姿に戻る妖喰い。
「あら残念、本気で消し炭にしてやるつもりだったのに」
 鎖鋸剣を不思議な力で収納し、つかさは平然と言い放った。
 そして、背後を振り返る。

「まあいいか――どうせもうすぐ、幕引きだもの」
 振り返った先には、緑の髪の少女が待ち受けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヨナルデ・パズトーリ


其のいでたち、ジャガーを従えし様、そして言動……世界は違うが恐らくは妾達と同じ大地に住まいし者であろうな
故に妾との縁が紐づいたか

ならば此処で其れを止めるも縁というものよ

妾のナワルの一つにテペヨロトルと言う者がいる
地震を司るジャガーの神
其の名は山の心臓を意味し、故に山を巡る血潮たる溶岩も又妾の権能
効きはせぬ!

怒りに身を任せ復讐すべき者を見誤るな!

最後はせめて穏やかに、な

○高速詠唱でUC発動
溶岩を権能で○火炎と○呪詛耐性を高め耐え○全力魔法による○天候操作で○破魔の力が宿る○地形破壊級の大嵐を呼び出しマグマを固める
そのまま○空中戦で肉薄
痛みを与えぬ様○零距離射撃の○浄化の闇○属性攻撃○全力魔法



●終わらせるのは
 猟兵たちが、西洋妖怪たちが、そしてジャガーと妖喰いとが、一斉にその者を見た。
 ――ヨナルデ・パズトーリ。テスカトリポカにしてケツァルペトラトル。
 その場の者の視線を一身に受けたヨナルデは、しかし動じることなく立っていた。
「其のいでたち、ジャガーを従えし様、そして言動……」
『……』
 妖喰いは油断なくジャガーたちと共にヨナルデを睨む。
「世界は違うが、恐らくは妾達と同じ大地に住まいし者であろうな」
 これは、縁だ。
 ヨナルデと強く紐付いた、妖喰いとの縁。

 ――ならば、此処で其れを止めるも、縁というものよ。

 黒曜石の戦斧の柄を、一度地に打ちつける。
 どん、という衝撃が大地を震わせた。
「妾の『ナワル』の一つに『テペヨロトル』と言う者がいる」
『……! 貴様も、か……!』
 事ここに至りようやくヨナルデの『本質』を理解した妖喰いが、先手を取るように己のナワル――呪いの炎に包まれたジャガーに変じて飛翔する。
 ヨナルデの傍らには、神としての力の一部を分け与えられたジャガーがいた。
 それこそが、テペヨロトル。地震を司るジャガーの神。
「其の名は『山の心臓』を意味し、故に山を巡る血潮たる溶岩もまた妾の権能」
 溶岩の雨が降り注ぐ。
 しかし――。
「効きはせぬ!!」
 ヨナルデの一喝で、溶岩の雨は一瞬にして霧散した。
『馬鹿な、そんな馬鹿な……』
「怒りに身を任せ、復讐すべき者を見誤るな!!」
 圧倒的、であった。
 真なる神は、道を踏み外した邪神に負ける道理を持たぬ。
 ヨナルデはまるで慈母を思わせる優しい笑みで、告げた。
「最後はせめて穏やかに、な」
 ――終わりが、始まる。

「此れでも妾は其れなりに古き神での」
『今なら理解る……貴様は、貴様は……』
「幾多の名と側面、其の一部を見せてやろうぞ」

 ――【源神回帰(ナワル・ボロン・ザカブ)】!

 溶岩はいまや火炎と呪詛の耐性を極限まで高めたヨナルデの権能で防ぎきられ、逆に全力の天候操作で破魔の力を宿した大嵐を呼び出す。
 そのさま、まさに地形破壊級。神の御業と呼ぶ他なかった。
 大嵐はあっという間にマグマを固め封じ込める。
 それを確認すると、今なお裡より噴き上がる怒りと呪いの炎に身を包んだ妖喰い目がけて、ヨナルデは高速飛行で肉薄した。

「眠れ、安らかに」
『……、……!!』

 ヨナルデが両手で妖喰いの両頬を優しく包む。
 それが、終わりの合図だった。
 その属性は闇であっても、間違いなく妖喰いを浄化する一撃であった。
『……ああ……』
「ああ、別れの時ぞ」
 炎が、燃え尽きる。
 西洋妖怪たちが、そして共に戦った猟兵たちが見上げる中、宙に浮かぶのはヨナルデただ一人となった。
 ジャガーの群れもいつの間にか消え失せて、脅威は完全に去った。

 ――風が、吹き抜ける。
 地上に降り立ったヨナルデは、緑の髪をなびかせる。
 斯様な縁も、あるものだな、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年12月14日
宿敵 『妖喰い』 を撃破!


挿絵イラスト