リュテス共和国軍が発動した首都奪還計画、リュミエール作戦。後方の守りを同盟国の多国籍軍に一切委ね、キャバリアを基幹とする陸軍の動員可能兵力をほぼすべて動員しての背水の陣で臨むこの大反攻を前に、予備兵力たる第七騎士団が国内で足止めされ、主力だった第四、第八騎士団をすでに東部の戦線で喪失した聖王国軍の勝利は至難であろう。
その二人に頭を下げられては、第三騎士団長ジョルジオ・デ・イベリオとて否を突き付けることは難しい。何より第八騎士団と第四騎士団を投じて行われた東部戦線での暴虐によって、ジョルジオ自身本国への信頼が揺らぎつつある。
信仰と正義で隠しきれぬ祖国の、その指導者たちの悪意。聞けば第四、第八の騎士団長のみならず自らの副官にまで及んでいたオブリビオンマシンの汚染。何か自分の知らぬところで、おぞましいものが蠢いているという確信はジョルジオも得ている。
「講和、か。良かろう。だが本国の耳目たる第五騎士団の手の者がメルヴィンにも潜伏している。諸君が本国の意に沿わぬ動きをしていることをギリギリまで気取られぬため、第三騎士団は本国の命令に従い臨戦態勢で接近する共和国軍と睨み合いを演じることになる」
「護衛戦力は出せない、ということだね。私もエレーヌ殿も、共和国への誠意を見せるためにも機体に乗って出るわけには行かない。あまりにも危険だが――だからこそ安全だとも言える」
「場所は旧リュテス第五民主共和国首都、メルヴィン市。今は戦争状態にある隣国、聖ガディル王国の支配下にある街やね。その郊外にある、観光客向けの高級ホテルに行ってもらうよ」
「ばってん、聖王国にも和平反対派が居るっちゃんね。というか好戦派が主流やけどね。共和国の高官に先駆けて現地入りして、そん人らの妨害を阻止するとが皆の仕事ばい」
特に諜報担当の第五騎士団がこの和平交渉の情報を嗅ぎつければ、最悪の場合両軍の要人が軒並み暗殺された挙げ句、その犯人を互いに擦り付けられ停戦など望めなくなる。
紅星ざーりゃ
こんにちは、お久しぶりです。紅星ざーりゃです。
今回は停戦を掲げた聖王国の青年将校との交渉を成功に導くのが目的となるシナリオです。
両軍ともに交渉の末に目指すところは戦前までの国境の回復、共和国領からの聖王国騎士団の撤兵、可能な範囲での賠償金の支払いと引き換えに主戦力を失った聖王国を殴り返さない、などといった方向で一致しているため、両軍の交渉に猟兵が介入する必要はあまりありません。
ただし交渉そのものを妨害しようと第五騎士団が活動しているため、猟兵は交渉の会場となるホテルを警備し、その阻止を行う必要があります。
また、第五騎士団に気取られる可能性を極限まで下げるために、何も知らされていない聖王国第三騎士団の騎士たちが共和国の侵攻に備える名目でメルヴィン市周辺に厳戒態勢を敷いています。
このため、強力なステルス機能を持つキャバリアや召喚・転移能力を持つサイキックキャバリアなどを除いて、キャバリアの持ち込みが非常に困難となっています。
生身での対キャバリア戦も十分に発生しうる状況であるという前提での出撃をお願いします。
第一章で現地で事前に怪しげな物がないか、不審者は居ないか、といった調査を行います。聖王国第一騎士団長および第六騎士団長と会話する機会もあるでしょう。
第一章が成功した場合、第二章以降で第五騎士団がなんらかの実力行使を行う可能性があります。
キャバリアの投入も考えられますので、十全の体制でこれを迎撃してください。
それでは皆様のご武運をお祈りいたします。
第1章 日常
『市街地警備』
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POW | 軽犯罪者を現行犯で取り押さえる |
SPD | 人目に付かなさそうな場所を重点的にチェックする |
WIZ | 市民と会話し、情報を集める |
👑5 |
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 |
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「やぁ、よく来てくれた! 君たちならきっと来てくれると信じていたよ」
メルヴィン郊外に建てられた、旧王族の別荘を転用したホテル。3階建ての屋敷といった風情の豪奢に飾られた建物の正面、色とりどりの冬の花々が咲き誇る見事な庭園に降り立った猟兵たちを迎えたのは、建物によく似合う甲冑に身を包んだ、騎士然とした金髪碧眼の貴公子であった。
「面と向かって会うのはこれが始めてだったね。私は聖ガディル王国第一騎士団長、ウィルフレド・カステリオだ。今回の講和会談の聖王国側の代表者でもある」
そして、と一歩横に身体をずらした彼の後ろから現れた、修道服の女性。豊かに波打つ亜麻色の髪に、憂い祈るように伏せられた目が印象的な彼女を、ウィルフレドは猟兵たちに紹介するように示す。
「彼女は第六騎士団長エレーヌ・ロンズフォーン卿。私と志を同じくする同志さ。そして私以上に重要な人物でもある」
「はじめまして、猟兵の方。ウィルフレド様のご紹介に預かりました、第六騎士団長エレーヌ・ロンズフォーンと申します。わたくし共第六騎士団は、共和国の皆様との一日でも早い和平を望んでいます。皆様のお力をお借りして、今回の講和を成功に導ければ幸いですわ」
柔和な雰囲気の修道女に、やや気障な風でありながらも誠実な印象の青年騎士。聖王国の心ある指揮官たちに促され、猟兵達はホテルのロビーへと導かれる。
「さて、君たちが来てくれたということは、この講和会談……主戦派に気取られていると考えて良いのだろう?」
「ジョルジオ様のご忠告通り、第五騎士団の方々が……バルトアンデルス様がメルヴィン市にもいらしているのでしょう。分かっていたこととはいえ、和平を望まぬ本国の姿勢は悲しいものです……」
俯くエレーヌと真剣な面持ちのウィルフレドを正面に、ロビーに用意された豪奢なソファに掛ける猟兵達。
全員で収まらなかった者や敵地で腰掛けるを警戒した者は、会話の聞こえる距離で壁に寄り掛かるなり、周囲を見張るように立つなりしている。
「主戦派にしてみればここを狙わない道理はない。私とエレーヌ殿は講和を望む"教典派"の中核メンバー。そして自分で言うのも気恥ずかしいが、これでも信徒たちの人気はある。主戦派……"聖堂派"に属する騎士団長が第四のハルバリ殿や第八のサンドーサ殿のような、民にウケのいい人間ではなかったのを差し引いても、我らが起てば信徒の支持はこちらに傾くだろう」
「そういった聖堂派にとっての危険分子をこの機会に纏めて葬り、共和国の方々をその犯人に仕立て上げれば国内の主戦論は再び燃え上がるでしょう。それに、この会談には共和国の方も見えますから」
共和国の要人もそこで消せば、共和国側ももう二度と講和を結ぼうなどと思うまい。情報操作に長けた第五騎士団のことだ。使者の死という事実さえあれば、両軍双方に主戦派……聖堂派の都合のいいように捻じ曲げた情報を流すことなど容易いだろう。
「だから、諸君には共和国の交渉スタッフが到着するまでの間ホテル近辺の警備を任せたい。第三騎士団長のジョルジオ殿の意向で市内には特段戒厳令などは敷かれていなくてね。残った市民に負担を掛けたくない、というのと私達が失敗すればメルヴィンを二度と戦場にすることなくすぐに軍を退くという使者への意思表示なのだけれど」
その分、市民に紛れて第五騎士団の暗殺者が動き回ることもできる、ということだ。
ホテルに侵入してウィルフレド達や共和国の要人を直接襲うことはもちろん、罠を仕掛けたり、自動車爆弾なりでホテルに突っ込んでくることもありうる。
そういった脅威を事前に排除するのが今回の猟兵の役割ということらしい。
「念の為に、皆様にはわたくし共に繋がる専用の通信機をお渡ししておきます。経済連合製の最新式ですから、第五騎士団の傍受にもしばらくは耐えるでしょう。任務中に何かお話がありましたら、これで遠慮なくお声掛けください」
ウィルフレドとエレーヌはホテルのロビーにて待機し、共和国側の要人が到着次第その場で3階の客室のいずれかを選び会談の場とするらしい。
念には念を入れた対策を講じているが、相手は諜報のプロ。第五騎士団にとって完全な想定外の奇兵となる猟兵の働きが、この会談の成否を分けることになるだろう。
ジェイ・ランス
【SPD】※アドリブ、連携歓迎
■心情
いやはや、和平交渉と反対派ねえ。つか、戦争大好きマンが主流とはね…
ほんと、ブッソーな事考えるよねえ…
ま、オレはお仕事するだけさね。情報収集も済んだし、いってみますか。
―――Ubel:Code Löwe_Illusion Dame.
■行動
"事象観測術式"によって【世界知識】から周辺の【偵察】を兼ねて【情報収集】し、UCを起動。ホテルの【残像】を光学【迷彩】としてホテルに被せ、中の様子が外から見えないようにします。【ジャミング】によって、内部の盗聴なども無効にします
その上で、暗殺者や襲撃者の動向に注意しつつ、万が一のために重力障壁(オーラ防御)をホテルに張ります
●
「いやはや、戦争大好きマンが主流派とはね」
聖王国騎士の口から語られた彼の国の内情。主戦論を支持する聖堂派なる派閥が国の意思決定を掌握しているのだとすれば、この和平交渉が成功したとしてももう一波乱起こるのは確実だろう。
「それにしても講和派を暗殺ねえ。意に沿わないからって、ほんとブッソーなことを考えるもんだよねえ……」
ホテルの屋根の上に腰掛け、周囲を見回すジェイがふうと息を吐く。
開戦時に発生した同時多発テロで甚大な被害を受けたメルヴィン市は、市民の多数が疎開してもなお残った市民と聖王国第三騎士団の手で復興が進み、もともと戦災の被害薄いこの郊外のエリアにあってはほとんど戦前の平穏を取り戻している――のだろう。戦前の姿を知らないジェイの目からも、周囲一帯の景色は穏やかで、戦争とは無縁のように思えた。
最も背後、市街地の方を見れば外壁が削り取られたビルや穴の空いた路面、大破してそのまま放棄された車両やキャバリアの残骸がちらほらと見えるし、市外のほうに目をやれば聖堂派によるメルヴィン絶対死守命令を表向きには従順に遂行しているよう振る舞う第三騎士団所属のキャバリアが陣列を組んで迫る共和国主力本隊と対峙している姿がある。
「ほんと、ヒトって奴は……ま、オレはお仕事するだけさね」
電脳の存在である彼ならば、機材を介することなく電子的手法による探査を行うことは易い。ホテルを中心に1.2km半径ほどのエリアをマッピング完了したジェイは、続けてその中で変動する値――それは人であったり、車両であったり、あるいは逞しく生きる野生の動物であったり――を捕捉して追い続ける。
「戒厳令も何も敷かれてないってのも本当なんだな。これは守る側には少し大変だぜ」
共和国側の使者に、メルヴィン進駐軍の誠意ある統治を見せるには良かろうが、それだけ暗殺者を発見することは難しくなるだろう。
市民の生活に紛れて忍び寄る相手を正確に捉え、迎え撃つことはジェイであっても容易いことではない。
「んじゃ、暗殺者がホテルに入れないようにしちまいますか」
故に、ジェイは暗殺者を個別に捕捉して捕らえるのではなく、そも暗殺者がホテルに侵入するルート自体を封鎖してしまうことにした。
「―――Ubel:Code Löwe_Illusion Dame.」
ジェイの唱えたコマンドコードによって、電子の魔術がホテル本館を包み込む。
ほんの僅か、数ミリに満たない範囲で本来の寸法より大きくなったホテルは、ジェイによって数分前の姿をテクスチャとして被せられたそれだ。
これで外部からの狙撃などで正確にウィルフレドら教典派騎士を殺傷することは難しいだろう。外から窓越しに覗き見ることのできる映像は、ジェイが恣意的に編集した虚像なのだ。
「これでオレがやられない限りはスナイパーなんかを警戒する必要はなくなったかな。ああ、念の為にもう一手打っておこう」
直接狙撃は防げても、すでにホテル内部に爆弾なりが仕込んであって、それを遠隔で起爆されるとまずい。もっと言えば爆弾を満載した装甲車なりで突っ込まれれば、ホテルの建物そのものが耐えられないだろう。
猟兵が警戒のために展開した以上、万が一の事態に過ぎないが――それでも万に一つはありうる可能性だ。
ジェイはホテルの外壁に重力障壁を展開すると、最後に自分たちが渡された通信機以外の周波数の電波がホテルの内外を出入りしないようジャミングを掛ける。
「これでだいぶ時間は稼げるでしょ。後は和平交渉が上手くいくことを願って待つだけだねえ」
成功
🔵🔵🔴
ノエル・カンナビス
侵入側の立場で経路を検討。
簡単な映像送信機とリモート催涙弾とを設置(SPD
一つ伺いたい。
あなた方は聖王国を代表する交渉者たる権限を得ていますか?
聖王国の意思決定機関、教主か執政官か存じませんが、
その者からの指示命令は受けていますか?
そうでなければ、あなた方は叛逆者に過ぎません。
それに対し第五騎士団は、正当な監査処理を行う者です。
国家の同意がない講和は成立せず、全て徒労に終わります。
そこはどう解決します?
国民を味方に付けて世論で国を動かそう等と考えているなら、
体制打倒から新政府樹立まで覚悟しませんと国が壊れますよ。
あなた方に公式の資格があれば良し。
ないのなら、ではどんな終着点を目指していますか?
●
正面からのルートは監視体制が完成した。
その知らせを受けたノエルは、ホテルの地下フロアから通じるライフラインのメンテナンストンネルへと降りてゆく。
「私が侵入側であれば、こういったルートを利用しない手はありません」
教典派は教典派なりに情報の秘匿に労力を割いている。彼らの防諜能力がよほどのザルでなければ、敵の第五騎士団が諜報機関であることを差し引いてもこの和平交渉が察知されたのはそう遠い過去の話ではないだろう。
で、あるならば。旧王政時代に"あったかもしれない"レベルの隠し通路などを第五騎士団が完全に掌握している可能性は低い。
その場合、やはり正面からの強攻突破か、あるいは何かに紛れて入り込むか――もしくは既知の別ルートを通って侵入しようと考えるのが自然であろう。
王族のために誂えられた、古い建築様式の地下酒蔵。ムッとするような酒精の匂いを袖で防ぎながら、近代に増設されたトンネルに降りるハッチを押し開ける。
地下の湿った冷たい空気が吹き込むその小さな四角い穴に身を押し込めば、しばらく梯子を降りた先に人一人がようやく通れるような狭いトンネルがある。
非常灯の赤みを帯びた光にぼんやりと照らされるその壁面には送電ケーブルや排水管が縦横に這い回り、まるで何か大きな生き物の臓腑の内側のようにも見える。おまけに防犯レベルでの侵入対策か、いくらかの区間ごとに金網フェンスで区切られ簡素な南京錠で封鎖されていた。
「相手が諜報機関であるなら、この程度の障害は障害のうちにも入らないでしょう。やはりこのトンネルは侵入経路として機能するようですね」
南京錠を預かった鍵で解錠し進むノエル。
いくつかの区間ごとに立ち止まると、彼女は配管やケーブルの隙間に動体に反応して撮影を開始し、警報と共に映像を送るカメラを仕込み、ついでに連動して催涙ガスを噴霧する警備用の機材を仕込んでゆく。
殺傷力のある警備装置のほうがプロの工作員を相手にするとき有効であろうが、それでホテルの電気設備をダウンさせたあげく別ルートから容易く侵入されるリスクがある以上は力不足を承知で非殺傷性の装置を使わざるを得ない。ノエルは淡々と成すべきことを過不足なく遂行していった。
最後の一つを取り付け終え、フェンスに南京錠を付け直しながらの帰路で、ふとノエルは借り受けた通信機の送信ボタンに指を掛ける。
「――こちらはカステリオだ。何かあったのかい?」
「――いえ、地下のメンテナンストンネルは現在のところ異常はありませんでした。……あなた方に一つ伺いたい」
ノエルには一つ、明らかにしておかねばならないことがある。それはこの和平交渉を無事に終えた先、きっと必要になることであろうから。
「あなた方は聖王国という国家を代表する交渉者たる権限を得ているのですか? 聖王国の教主か執政官か……そちらで何と呼んでいるかは存じませんが、意思決定を担う者の指示命令を受けての行動でないならば――この講和は成立せず、すべて徒労に終わりますよ」
戦争継続を望む聖堂派が主流派であるというウィルフレドたちの言葉。それはつまり、今この場での和平交渉が成ったとして、聖王国の本国はそれに従う理由は無いということである。
むしろウィルフレドら教典派こそ聖王国を裏切り、敵国に利する叛逆者。第五騎士団は国家の益を保護するため、それを監査するという大義名分のもと何を非難されることもなくその任務を遂行する権利がある。
「もし世論を味方に国を動かそう等と考えているなら、今の体制を打倒し新しい体制を立ち上げるところまで覚悟しているのですか?」
今の戦争が続いたとして、最後には聖王国か共和国か、どちらかが残るだろう。
だがこの講和が成立して、されど聖王国の本国が戦争を継続しようとしたならば。主戦派によるだまし討ちのような形で共和国は斃れ、あげく聖王国も内紛で崩壊した結果何も残らない、という最悪の結末すらある。
「耳が痛い話だ。確かに私達の手による和平を本国は認めないだろう。だが、私達は聖堂派をひっくり返すだけの切り札と、その先に国を導いていくだけの覚悟を持って事にあたっているつもりだ。今はまだ、信じてくれとしか言えないけれどね」
わかりました、と。納得はできないが、しかし彼の言う覚悟を見届けるまでは力を貸すことに吝かでないとノエルは通信を切る。
会話が途絶え静寂の戻った薄暗いトンネルに、彼女の足音だけが響いていた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
お会い出来て光栄です
カステリオ卿、マゴー二卿の説得、感謝申し上げます
ええ、私は白に四腕のパラティヌス改修機の…
驚かれたでしょう
四肢を縮めた姿勢で大柄な機体に収まっているのです
威圧と抑止目的のこの巨体で動き回ると相手の警戒を引き上げるばかり
周囲の探査は小型機に任せ、こうしてお傍で控えている…という訳です
直接的な護衛の手腕は指折りであると自負しておりますよ
…だからこそ
仮想敵たる設計思想の面でも、人権得た機械種族としても、私はバルトアンデルス卿を意識してしまうのかもしれません
…“彼女ら”は自ら来ると考えますか?
ホテル周辺の電気系統への物理・電子両面の工作を警戒
小ささ活かし透明妖精で監視し情報収集
●
「お会いできて光栄です、カステリオ卿」
ホテルのロビーで貴公子の如き騎士と相対する巨躯の機械騎士。かつて敵として、しかし目的を同じくする者として戦場でまみえた者たちだ。
再会を穏やかな穏やかな空気の中で迎えられたことに、両者はふっと肩の力を抜くことで喜びを示す。
「ああ、貴殿はあの時の騎士君か! あの時は世話になったね」
改めて自己紹介を交わすウィルフレドとトリテレイア。トリテレイアの巨体を見上げ、ウィルフレドは僅かに眉を顰めた。
「私のような体躯でキャバリアを駆ること、驚かれたでしょう。四肢を縮めて機体に収まっているのです」
「それで操縦を? ……猟兵にはロボットヘッドのような種族も居ると聞いたことがあるけれど、貴殿はもしや……」
ウィルフレドの問いかけに首肯して、トリテレイアは兜と胸甲の隙間、首筋から覗く機構を示す。
「ウォーマシン、と。私はさる帝国で要人警護のために作られた機械ですから、直接的な護衛の手腕は指折りであると自負しておりますよ」
それこそ生半な暗殺者程度、小隊で掛かろうが単騎で制圧してみせるだろう。その上で支配下にある妖精を模した小型探査機を周囲一帯に展開し、リアルタイムでその観測情報を収集している。このような状況を想定して作られた存在だからこその自信である。
「そういう生命もあるのか。いやはや、教典派と名乗っては居るが教典がこの世の全てを記しているわけではないということを改めて叩き付けられた気分だよ」
「あなた方の神が全知でも、異なる世界のことまで詳らかに信徒に語る必要はないと判断されたのでしょう」
「ああ、いや。配慮は無用だよ。私は信仰の徒だけれど、神話が頭から信じ込むほど盲目でもないつもりさ。我が神が知らぬ世界が有ったと言われればそういうこともあると頷きもするさ。――さて、トリテレイア殿」
真剣な面持ちでトリテレイアの兜の奥に輝くツインアイを見つめるウィルフレド。その纏う空気は、気さくな青年のそれから一人の軍指揮官のそれへと変わっていた。
「東部での戦いでこちらの戦没者の遺体を返還するよう尽力してくれた猟兵というのは貴殿だね? 貴殿には第三国……人民平等会議経由で彼らが遺族のもとへ帰れたことを報告しておかねばならないと思っていた」
「そうですか、それは……」
よかった、と胸を撫で下ろすトリテレイア。第五騎士団長バルトアンデルスの遺体を回収したことをきっかけにトリテレイアが共和国軍に依頼していた、聖王国側の戦死者の亡骸を母国へ返す活動。それが実を結んだことを聞いて、騎士は己の行為が実を結んだことに安堵する。
対聖王国感情が最悪に近い東部戦線でもし彼の働きかけが無かったならば、多くの遺体が野ざらしで朽ちていったか、あるいは憎しみのままに損壊サせられていたことであろう。
「……カステリオ卿。私の行いに見返りを望むようで申し訳ありませんが、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか」
何だい、とその問を受け入れるウィルフレド。トリテレイアは彼に、あの戦いからずっと胸中で渦巻くものを吐き出す。
「この作戦の仮想敵としても……護衛機としての設計思想の面でも、そして故郷にて人権を得た機械種族としても。私は彼女、バルトアンデルス卿を意識せずにはいられません」
「そうか……貴殿は彼女と交戦し、その姿をその目で見たのだったね」
さもありなん。己と対極に位置する存在である第五騎士団長バルトアンデルスの存在は、そして彼女の生き様はトリテレイアのメモリーに影のように焼き付いている。
聖王国における彼女たちレプリカントの有様も、またトリテレイアの知るところだ。故に、トリテレイアの問いはウィルフレドが軍機に触れぬよう配慮しながらも単刀直入なもの。
「カステリオ卿、貴方は"彼女ら"が自ら来ると考えますか?」
その言葉に、ウィルフレドは頷く。
「第五騎士団が動く。ならばそこに在るのはバルトアンデルス卿の関与のみだよ。彼女は来る。確実にね」
成功
🔵🔵🔴
ジェイミィ・ブラッディバック
※アドリブ歓迎
個人的に協力関係にあるPMSC、イェーガー社の面々(UCにて呼び出し)と共に赴きます
メルヴィン市から離れた場所にイェーガー社の整備班と空母ヘルメスを待機させ、手持ちのキャバリアの射出準備を整えます
ホテル周辺に諜報班の人員を配置し、情報収集
不穏な動きは符牒ですぐに知らせてもらいます
私は社長のアイアンズ氏と共にホテルで直衛に回りつつ、警護の指揮を取ります
それと第一、第六騎士団長にアイアンズ社長と共にご挨拶をしておきましょう
「アイアンズだ。本日はよろしく頼むよ」
(精悍な雰囲気の初老の男性が自己紹介)
第五騎士団についてお話を伺っておきましょうか
戦力規模やここ最近の動向などを知りたいですね
赤城・晶
M、アドリブ、連携OK
ようやくいい方向に向いてきたな。あの嬢ちゃんにとっても時間ができるいい機会だ。
後は第一と第六の団長には聞きたいことがあるな。
口振りから第五の団長は生きているように聞こえる。
あいつは前に戦い、やったはずなんだが、言える範囲でいいが、奴は人間なのか?
というか何者だ?
UC発動
ウィリアム、ホテル周辺の見つかりにくい所でステルス、索敵は見つからないように慎重にな。
ホテルまでの共和国要人のルートから人目につかず、襲撃されそうなポイント、怪しい物、不審者を索敵からピックアップ。
それを仲間全体に共有だ。
常に情報は共有する。
傍受される可能性も高いから、直接ではなく暗号化か
●
メルヴィン近郊に現れたその巨影は、共和国・聖王国両軍から姿を隠すように超低空を航行し、そして着陸した。
メルヴィン市で戦端が開かれた場合、ギリギリ戦域外になるであろう距離。キャバリアの巡航速度ではそれなりに行き来に時間がかかることが、却って両軍を刺激しない利点になるだろう。
「とはいえ、私の機体もヘルメスの艦載機も、隠密行動向けではありません。諜報班は陸路で先発、クルーの皆さんにはいつでも出撃できるよう機体の射出準備をしておいていただくとして……」
「現地までの送迎は俺のヴェルデフッドで、ってことか。タクシー代わりに使われるなんてめったに無いが、ちゃんと報酬が出るなら文句はないさ。ようやくいい方向に向かってきたんだ、あの嬢ちゃんが落ち着いて考えられる時間を作るためなら足でも羽でもやってやるよ」
ジェイミィと彼を支援するPMCの代表者を手のひらに乗せ、飛行空母ヘルメスの甲板を飛び立ったキャバリアはすぐにその姿を風景と同化するようにかき消した。
かくてホテルの傍らに見えざるキャバリアが一機、警戒態勢で佇む事になったのである。
「では、第五騎士団についてお話を伺っておきましょうか」
「何事もまず敵を知るところから、というのがウチの社風でね」
ホテルのロビーでまるで彫像のような存在感を放つジェイミィの赤い視線がエレーヌを捉える。信心深き聖女は異界の機械人の威圧的な風貌に気圧されることなく微笑み、ジェイミィの傍らでソファに腰掛けるPMC代表アイアンズへと紅茶を勧めた。
「諜報統括第五騎士団……聖堂派の指導者でおられる大司教猊下直属の騎士団である彼女らについて、わたくし共もそう多くを知るわけではありません」
同じ聖王国軍内においても秘密主義のベールに包まれ、一般の騎士や従士は諜報統括というその役割と式典に参列する騎士団長の姿を辛うじて知る程度。
エレーヌら騎士団長クラスの人間であっても、それに加えて騎士団長は"バルトアンデルス"の名を名乗る女であること、彼女は四肢を機械化している――聖王国は人間に機械の義肢を取り付けることを教義によって認めていない――こと、くらい。
「ですので、活動している第五騎士団構成員の規模や装備など、わたくし共も知らぬのです。同じ聖堂派に属していたハルバリ提督やサンドーサ騎士団長ならばあるいは何か存じていたかもしれませんが……」
第四騎士団の傭兵提督ドゥルセ・ハルバリと第八騎士団の燎原フェリペ・サンドーサ。その聖堂派騎士団長二人はともに共和国東部戦線をめぐる激戦の中、猟兵との交戦で討ち死にしている。こうなれば謎多き第五騎士団について知るものは本国の大司教とその側近ぐらいであろう。
「それは何とも、困りましたな……」
眉間を揉んで唸るアイアンズ社長。その沈黙に、外で監視体制を取って待機するヴェルデフッドからの通信が割り込んだ。
「ちょっと待ってくれ。第六騎士団長の口振りだと、あいつ……第五騎士団長が生きているように聞こえる」
だが、晶は知っている。東部戦線に於いて、民間人が成行き上動かすことになったあの共和国の新型機。それを狙って襲撃してきた騎士こそ第五騎士団長バルトアンデルスその人で、そして彼女は猟兵によって討たれたはずだ。
「死体も回収したはずだ。まさかお宅の神様とやらは死人を生き返らせる、なんて言わんよな?」
もしそうであるならば、死者の軍勢を前にたとえ多国籍軍が総力を挙げて正面決戦を挑んだとて分が悪かろう。そも、そんな物は一国が持ち得ていいものではない。
「まるで骸の海そのものじゃねえかよ……」
吐息混じりのつぶやきに、エレーヌは伏せた眼差しをふるりと揺らして、明確に否を告げる。
「わたくし共の信じる神は、生と死の輪廻をいたずらに玩ぶことはいたしません。ですが、バルトアンデルス様に限って言えば――」
聖王国は彼女らを人権ある生命と認めていない。
「彼女らはレプリカント。人ならざる機械なのです。もし任務の中で失われれば、新たに生産されたものが直ちにその役割を引き継ぐ……そのようなものであると、ウィルフレド様はお考えになられているようです」
「なるほど、な。機械化部位が脳味噌やそこらにまで及んでいるなら、どうやってか記憶を引き継いで同一人物のように振る舞うことはできるだろうさ。だが……胸糞悪い話だな」
バルトアンデルスの人格を上書きすることで、優秀な工作員が安定して確保できる。なるほど、軍事的には極めて優れた仕組みだろう。だが、バルトアンデルスにされるレプリカントが持っていただろうオリジナルの人格はおそらくその時点で消失している。
「その推論の裏付けが取れれば、今現在中立を標榜している第三国の国々もレプリカントの人権問題としてこちらの味方につけられるのでは?」
ジェイミィの発言に、アイアンズは渋く唸る。
「だが、レプリカントは人にあらずという文化が根付いた国に外圧でレプリカント解放を強いれば教典派に好意的な世論が敵に回るだろう。この問題と教典派の支援は切り分けて考えるべきだ、ジェイミィ君」
なんとも後味の悪さを感じる第五騎士団の正体。その犠牲となっているレプリカントをどう扱うかという課題を残したまま、遅れて到着したPMCの構成員による警備網構築に四人の議論は否応なく移っていくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メサイア・エルネイジェ
良からぬ企てを練る輩がいるのですわね
しかしわたくしが来たからには台無し確定でしてよ
王城のような場所ですわね
祖国に居た頃を思い出しますわ
よくあの手この手でお城を抜け出してヴリちゃんの所に遊びに行ってましたのよ
つまりここにも玄関以外に色々な出入り口があるはずですわ
一見通れなさそうなベランダなどでも縁や手摺り伝いに移動できたりするものですわ
刺客ならそういった経路を使うに違いありませんわ
そう…こうしている今まさに忍び込もうとしているかも知れませんのよ
わたくしが直々に改めに参りますわ
もし怪しい輩を見付けたら我が王家秘伝の王笏で引っ叩いてさしあげますわ!
荒谷・ひかる
あなた方が王国の講和派……「教典派」なんですね。
カステリオ卿とは以前、国境での一度だけお目見えしました。
こうして機体を降りてお会いできること、光栄に思います。
(二人へ向けてぺこりと一礼)
機体を降りての警備や護衛となると、姉さんに声をかけた方が良かったですかね……仕方ありません、わたしに出来る範囲で頑張りましょう
幸い、危険物の捜索とかなら得意ですしね
ということで【精霊さん捜索隊】発動
ホテル敷地内の不自然な危険物や不審者について、捜索と報告を行います
具体的には火薬や燃料のような可燃物、大量のバッテリー類、刃物と思われる金属類ですね
それぞれ炎、雷、大地の精霊さん達なら隠してても見つけられるはずです!
チトセ・シロガネ
散策ついでに周りを警備。
建物の上を軽業で乗り継いで移動、風が心地よいネ。
怪しい集団が何かしているのを見つけたので声をかけてみる。
ハロー、そこのブラザーたち、何をしているのかな?
第六感と瞬間思考力で黒い箱で何かしようとしているのを見抜く。
おっと、それはビックリ箱かな。イタズラにしては火薬の量、多くないカナ?
銃を向け、発砲されたら瞬時にBXグリントを抜き、銃弾を切断。
危ないネ、ハロウィンはもう終わってるヨ。
軽口を叩きつつ、怪しい人たちを軽業とカウンターでいなしていく。
逃げる場合は深追いはせず、箱と起爆スイッチは回収。
でも、ボク、爆弾処理はしたことないんだよネ。とりあえず本部に連絡しておこ。
●
「良からぬ企てを練る輩がいるのですわね。しかしわたくしが来たからには台無し確定でしてよ!」
などと高らかに宣言する声音が無人のホテル三階廊下に反響する。
装飾に乏しいながら真っ白な大理石の廊下に扉や手すりは黒みを帯びた上等の黒壇をふんだんに用いた建築は、この別荘を建てた旧王族の華美ならずも見るものに感嘆の息を漏らさせるようなこだわりが見て取れた。
「祖国のお城を思い出しますわね……」
こういった建築に縁遠い者が見れば「なんだかわからないが凄く上品」程度の感想しか出ないものだろうが、メサイアは違う。
その身に纏う豪奢なドレスや宝飾品の印象通り、彼女はエルネイジェ王国の王族なのだ。故にリュテス王族のセンスを理解出来もするし、その意図も読み解ける。
「リュテスという国は肥沃な大地を持ち、海にも面する豊かな国ですわ。その王族が別荘とはいえこんなにも慎ましい建物を建てるだなんて」
確かに良質の建材を用いた建物は贅沢ではある。しかし、この国の国力を考えればあまりにも質素なのだ。精緻を凝らした彫刻もなければ、窓だってステンドグラスの一枚も嵌められていない。
「道楽にお金を掛けない方が建てたのか、それとも……まあ、今それはどうでもいいことですわね。さてと、この手の建物はだいたい抜け道があるものですわ」
新しく購入した美術品や調度品を上階に直接搬入するための扉であったり、有事の際に王城や別邸、軍の基地などに逃げ延びるための抜け穴であったり、大抵の王族はそういうものを用意する。
メサイアは故郷の王城に住んでいたころを思い出しながら、リネン室の奥、嵌め殺しにされているように見える採光窓のふちを指でなぞると、そっと壁との境目を押し込んだ。
ぎし、と軋んで数十、あるいは数百年ぶりにその窓は隠された開閉機構を動作させ、若干の埃っぽさと共に外の乾いた空気が吹き込んだ。
「思ったとおりですわ。雨樋も頑丈な石造りですし、ここから外を伝って移動できそうですわね。ヴリちゃんの所に遊びに行っていたころを思い出しますわ」
ドレスの裾を結んで動きやすい格好に整えると、窓から外に出て雨樋やベランダの手摺を伝って軽やかに駆けるメサイア。
その姿を、同じく外を伝って――彼女の場合は抜け道から外に出るのではなく、その身のこなしで外壁を登って来たのだが――警戒にあたっていたチトセは見逃さなかった。
「怪しい人かとおもったケド、ただのお転婆プリンセスだったネ。さて、ト……」
メサイアから視線を戻し、チトセの真下。ホテルとして改装された折に増築された従業員用の区画、そこに直通する搬入口がある。
普段であれば廃棄物を業者に受け渡し、用品の補充を運び込むような。ひどく日常的であるがゆえ、非日常を求める宿泊客の目に触れにくいよう設置されたその前に一台のトラックが停車していた。
「こんな時に来るノ、疑ってくださいって言ってるようなモノだよネ」
荷台の側面には共和国の運送会社のロゴ。進駐軍は在メルヴィン企業の経済活動を殆ど制限していないと聞くので、それが荷物を運んでいることはおかしなことではない。
だが、厳戒態勢のこのホテルに、猟兵が展開する以前より停車したまま一切の動きがないというのはあまりにも怪しい。
「御用改めでアル、なんてネ!」
軽やかに屋根を飛び降り、トラックの後方に着地。勢いよく後方の扉を斬って開く。
『……ッ!? 何だ!!』
『くそっ、聖王国の豚野郎か!』
荷台の中で屯していた男たちは、ホテルの従業員の制服に身を包んでいた。荷物の積み下ろしを手伝っていたスタッフ――というにはあまりに剣呑な視線がチトセを穿つ。同時、懐に手を遣り消音拳銃を抜き放つ男たち。
「おっと危ないネ。ブラザー、そんな所で何してたのサ。サプライズパーティの準備カナ? ハロウィンはもう終わってるシ――」
目まぐるしく踊るビームカタナで三人の拳銃から射出された弾丸を切り払い、チトセは思考する。
諜報機関の手の物にしてはやり方が稚拙でかつ練度も低い。銃撃も正確ではないし、この場合チトセと撃ち合うより証拠を残さぬよう逃亡を図るほうが正解だろう。
というところで、チトセは彼らの背後にある怪しげな箱に気づく。
「オヤオヤ? それはビックリ箱カナ。それともクリスマスプレゼント? にしては火薬臭くないカナ?」
『テメエッ!!』
打ち止めになったか、銃を投げ捨て折りたたみナイフを抜いて突っ込んでくる不審者をビームカタナの柄で打ち据えて、続くもうひとりを軽やかな身のこなしで蹴り倒す。ここに来て最後の一人が逃げ出すが、チトセはそれを追いかけない。
「爆弾放って離れる方が危なそうだしネ。……でもボク、爆弾処理はしたこと無いんだよネ……」
どうしたものか、と頭を撚るチトセ。
そこへ不審者が逃げたのとは逆方向から駆け寄ってくる人影が見えた。
時は少し遡って。
かつて共和国陸軍第17機動防疫部隊――ヴェノムダガー隊の暴走を阻止する折に相まみえた騎士、ウィルフレドへの挨拶を済ませ、ひかるはホテルの正面玄関から外へと出ていた。
キャバリアを降りての要人警護となると、ひかるはあまり自信がない。同じ生身の相手ならともかく、暗殺者がキャバリアまで持ち出してくるとすればひかるの攻撃力では少しばかり物足りない気がするのだ。
「やっぱり姉さんにも声を掛けたほうが良かったですかね……」
姉のたくましい筋肉であれば、機動するキャバリアに取り付き、装甲であろうとくしゃりと捻じ曲げて下手人をコックピットから引きずり出すくらいはできそうだ。
というか実際にそういうことをやったという武勇伝も聞いた。
相変わらず遺伝子のいたずらが仕事をしすぎているような気がする姉のことを思えば心細くもなるが、都合が合わないのだから仕方がない。
ひかるはひかるのできることを精一杯するだけだと気合を入れ直し、あたりに宿る精霊へとよびかける。
「精霊さん、精霊さん……このあたりで火薬とか燃料とか、バッテリーや刃物みたいな金属の類を探してください」
呼び出すのは炎、雷、大地の精霊。およそ思いつく限りの危険物を探査させ、彼らの発見報告をもとに不自然な場所に在るものを報告していく。
多くがホテルスタッフや宿泊客が紛失したもの――落としたまま調理台の隙間に入ってしまったステーキナイフであったり、忘れ物として置き去られたモバイルバッテリーであったりしたが、そのうちに停車しているトラックの中に特大の火薬の塊をみつけた報告を受けてひかるは血相を変えて駆け出した。
そうしてチトセが三人の不審者のうちふたりを制圧した所に話が戻るのである。
「これ……爆弾、ですか?」
「ウン、どうやらそうミタイ。どうやって処理しようか悩んでたところサ」
チトセと二人、押収した爆弾を囲むひかる。不審者が起爆装置のリモコンを持っていたためどうやら基本的には遠隔操作で起爆する機構のようだが、よくよく調べればタイマーのような表示があるので万が一の際は時限式で爆発させられるのかもしれない。
「第六の団長サンが爆弾ちょっとワカルみたいなコト言ってたカラ、来てくれるみたいだけど……」
「いえ、護衛対象が外に出るのは危険です。狙撃妨害の術式もここにまでは及んでないようですし……ここはわたし達がなんとかします!」
覚悟を決めて爆弾に歩み寄るひかる。呼び出すのはまず炎の精霊。
彼らに火薬が爆発しないよう一時的にその力を弱めてもらい、ついで呼び出した雷の精霊に起爆装置の回路を解析してもらう。
数時間にも感じるほどの緊張の果て、ひかるは起爆装置を安全に停止するために操作するべきものを見極めた。
そこから手早く起爆装置を解体し、最後に切断するべきコードをチトセに斬り落としてもらうことで爆弾の停止に成功したのである。
「あとは逃げたって犯人が捕まるといいんですけど……」
「そうダネ。でも、心配ないと思うヨ。だってあいつの逃げたほう――」
「そこの怪しげな方! 止まりなさい!」
頭上からの声に、仲間を囮に逃げた男は思わず頭上を見上げてしまった。
ホテルのベランダの、なぜか手すりの上に立つドレス姿の女。
先程銃撃を往なして仲間二人を瞬時に伸した白い女も大概だが、こちらもまたとんでもなさそうな相手だと男は身構える。
しかも女が立つベランダは、万が一爆破作戦を諦めた時の侵入経路として策定していた窓につながっている。彼女をどうにか無力化せねば、置き去りにした同志に申し訳が立つまい。
無言でナイフに手を忍ばせる男。相手はまだ少女と言っていい年頃の娘、正面からの白兵戦で負けるとは思えな――
「成敗ですわ!!」
少女がベランダから飛び降りた。高層階ではないとはいえ、それなりの高さがある場所から飛んだという事実に男の思考が硬直する。
直後、落下の勢いに乗って振り下ろされた王笏が男の頭を強かに打ち据え、意識を刈り取った。
「やっぱり我が王家秘伝の王笏は最高に効きますわね!!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ファルルカ・ウェレマイン
メイファンさん(f33513)と
【WIZ】
出身世界とはいえ、世間知らずの身…細かな情勢まではわかりません
ですが平和に至るかもしれない一歩。どうにか、力になりたく思います
…和平を阻む勢力の思惑に、どのような考えがあるのか
こうしてソファーで思い巡らせても解決するものではない、ですね
…と、とはいえ、ボクだけではその…メイファンさんと、一緒に警備へ
市民の中にも暗殺者がいる…あまり、疑う事は得意ではありませんが
【瞬間思考力】【第六感】
仙術的、内気的な観察
人の気は心持ちにより陰陽に移ろうもの…
会話を交わしつつ、情報や…或いはオブリビオンマシンの影響にある様な人の気。多少でも影響を受けた人を見つけられれば…
楊・美帆
ファルルカ君(f32779)と
【POW】
ムズカシイことはわからないけど、ファルルカ君の世界がちょっと平和に近づけるならいいことだよネ!?とりあえず悪そうな人を探せばいいのカナ?
街の人たちと接するうちに【義侠心】にも火がついてくる。ここを戦場にしようなんて酷いヤツらだヨ!
そっか、ファルルカ君は普段オブリビオンマシンに乗ってるから何となく怪しい人が分かるかもネ?もし居たらとっ捕まえて軽〜く尋問してみよっか!
抵抗してきたら【功夫】で怪我をさせないように抑え込む。拳で壁に穴でも開ければ口を割ってくれるカナー?
もし戦闘になっても生身のファルルカ君には指一本触れさせないヨ!
●
「出身世界とはいえ、世間知らずの身。故郷ではない国の情勢まで細かに知っているわけではありません。ですが……」
ファルルカは思う。ウィルフレドとエレーヌ、二人の騎士団長の平和を望む心は本物だと。そう信じることが、平和に至る始まりの一歩に繋がるのだろう。
「力に成りたい……そう思いますね」
「ウン、ムズカシイことはわからないけど、ちょっと平和に近づけるならいいことだよネ!?」
ぴょんぴょんとソファに腰掛けるファルルカの周囲を飛び跳ねる僵尸。美帆の死体の如き風貌が放つ威圧感は持ち前の明るさで打ち消され、愛嬌さえ感じる表情である。
年上の女性のそんな仕草に少しばかり頬を赤らめ、ファルルカはソファに沈めていた腰を持ち上げた。
「ここで思いを巡らせていても解決するものではありませんね。でも、その……ボクだけではその。メイファンさん、一緒に来てくれますか?」
「モチロン! とりあえず悪そうな人を探せばいいのカナ?」
長い袖を振り回して拳法の真似をする美帆に苦笑して、まずは聞き込みからとホテルを出て市街地に繰り出すファルルカ。
「悪そうな人が見てわかるほど悪そうな格好をしているとは限りません。……市民の中にこそ暗殺者が潜んでいるかも。あまり、疑うことは得意ではありませんが」
「そっか、ファルルカ君は普段オブリビオンマシンに乗ってるからなんとなく怪しい人が分かるかもネ? 見つけたらボクがとっ捕まえて軽~く尋問してみよっか!」
幼さの残る人造仙人を守るのは自分だと気合を入れて、ぴったりファルルカに張り付いて護衛に徹する美帆。
そんな彼女に心強さを感じて、僅かに感じていた異国の地――それも正体知れぬ魑魅魍魎のごとき工作員の潜む街へと繰り出すことへの恐怖を踏み越える。
「人の気は心持ちにより陰陽に移ろうもの……」
「悪いこと考えてる人は陰気に満ちてるってコト?」
そんなものです、と美帆に頷いて、ファルルカは仙人として与えられた気を見極める感覚を研ぎ澄ましながら、あくまで一般の旅行者というていでメルヴィンの人々に声を掛けてゆく。
話を聞くうちに明らかになっていく、メルヴィン市民の感情。意外なことにこの地を占領統治していた第三騎士団長は人や物の流れに大きな制限を掛けることはしなかったらしい。
もちろん軍人や兵器の出入りは取り締まったが、聖王国軍の厳しい押さえつけで経済が悪化した、というような話は聞かなかった。
市民が望むならば共和国が死守していた北部や西部への脱出を咎めることもなく、市内に残るものには騎士団のキャバリア隊で重作業を手伝い、さらに物資を放出して頻繁に配給を行っていたという。
おかげで戦前のように、とは行かないが復興も順調に進んでおり、市民の関心は共和国への帰順は望ましいがそのための戦闘でメルヴィンが再び戦場になるのは嫌だし、第三騎士団長が討ち死にでもしようものならどうにも寝覚めが悪い、という所にあるようだった。
「結構な人格者なんですね、その第三騎士団の団長という人は」
「敵国の人にこんなに慕われるなんてネ。そんな人が戦わずに済めばいいケド、敵はそれを望んでないんだよネ。酷いヤツらだヨ!」
義侠心を燃やして――両の手に宿す地獄もまた熱く燃やして憤る美帆。
「メイファンさん、まぁまぁ……」
『ケッ、聖王国に手懐けられた売国奴ども。愛国心を忘れやがったのかよ』
そんな彼女を宥めるファルルカの耳に、吐き捨てるようなつぶやきが飛び込んだ。同時に感じる、背筋に虫が這うような嫌な気。
「メイファンさん、あの人を!」
つぶやきの主はフードを目深に被ったパーカーの男。その男からオブリビオンマシンの気配の残滓のようなものを感じ取ったファルルカが叫べば、ほぼ同時に飛び出した美帆が見事な拳法で瞬時に男を制圧してのける。
「ファルルカ君、コイツでいいんだよネ!?」
「はい。……あなた、何か良からぬことを企んでますね?」
地にねじ伏せられたまま、ファルルカの問いに唾を吐いて黙る男の眼前で美帆の燃える拳が石畳に突き刺さる。次はお前の頭がこうなるぞ、という美帆の無言の圧力に、男は脂汗を滲ませる。
『てめぇら聖王国の連中か……? 俺は何も話さ』
二撃目が男の鼻先スレスレを掠め、炎がちろちろと顔面を舐める。
『……わ、わかった。だが仲間を売ることだけはしねぇぞ!』
「それでも構いません。あなた達のこと、聞かせてください」
――尋問の果て、得られた情報は多くはない。ファルルカが拷問めいた行為を嫌ったのと、男自身がそもそも情報を多く持つ立場ではなかったというのもある。
ひとつ。男の所属するグループ、「第六共和準備会」なる組織は反聖王国を掲げるレジスタンスグループであること。
ひとつ。せいぜいが火炎瓶や鉄パイプを加工した棍棒、拳銃程度の装備しか持たなかった第六共和準備会に、最近になって大手のスポンサーが付いて高度な爆弾や自動小銃などの装備が流れてきたこと。
ひとつ。聖王国の軍高官が郊外のホテルに宿泊している情報を得た第六共和準備会は、その暗殺を以て聖王国軍へ撤退を要求するため行動を開始していること。
そして最後にひとつ。その情報と装備を第六共和準備会に与えたのは、パストゥレルを名乗る仮面の女だったこと。
「第五騎士団が共和国のレジスタンスを扇動しているのかもしれません……」
「だとしたら共和国の人が鉄砲玉にされてるってコトだよネ。そんなの許せないヨ……!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
四季乃・瑠璃
緋瑪「マゴーニだっけ?アイツを助けた団長か~」
瑠璃「聖王国ってなんで部隊ごとにこんな人間が極端なの?」
防衛という事で、緋瑪の他、UCで必要な装備を【クリエイト】すると共に残り3人の人格も分身。
ホテルと周辺の見取り図を貰い、各所配備。
瑠璃と毒殺が得意な瑪瑙が毒物混入等も警戒してウィルフレド達や要人周辺の暗殺者を銃と猛毒ナイフ【ドロウ、切断、早業、毒使い】で抹殺。
緋瑪と暗殺が得意な真珠が暗殺・突入ルート上にセンサーや各種罠【罠使い】を仕掛け、引っ掛かった(潰された)ら、即座に排除。
翡翠がホテル屋上で探知術式【情報収集、高速詠唱】で周辺探知を行い、強行策に出た敵をスナイパーライフルで狙撃して排除。
●
「カステリオ……ってどこかで聞いた名前だよね」
「ほら、あの時の。毒ガス事件でマゴーニだっけ? アイツを助けた団長だよ」
覚えのある声と名前に記憶の糸を手繰る瑠璃と緋瑪。彼女もまた、かつて聖王国への報復攻撃のため化学兵器を持ち出したヴェノムダガー隊の事件に関与した猟兵である。
あの時猟兵と対峙した聖王国の騎士。オブリビオンマシンに囚われ、歪んだ正義感で暴走していた第七騎士団長マゴーニ卿を彼女たちが討ち取ろうとした時、それを制したのがウィルフレドであった。
同胞を身を挺して庇い、そして今戦争の早期終結のため尽力している。付き合いは短いが、ウィルフレド・カステリオという人間が好感を抱くことのできる者だというのは何となく感じ取れる。
「聖王国ってなんでこんなに人間が極端なの?」
金の亡者の第四騎士団、戦争狂の第八騎士団。そして傀儡のように任務にのみ忠実な第五騎士団。いずれも刃を交えた相手だが、ウィルフレドら教典派とは人間性の根底から何かが違う気がした。
「ま、それはいいか。瑠璃、今日は瑪瑙と真珠、それから翡翠にも出てもらおうよ」
「そうしようか、緋瑪。私と瑪瑙がカステリオ団長たちの警護だね」
すでに第五騎士団だけでなく、共和国系のレジスタンス組織も動いている追いう情報が上がってきている。となればホテル内部に少数残っている従業員も信用できる相手ではない。直接的な暴力での攻撃はもちろん、毒物を使用してくる可能性もある。
そういった毒や薬物の扱いに長けた人格である翡翠とともに、瑠璃がウィルフレドに張り付いて警護に。
姿を隠したまま対象を害することを得意とする真珠を緋瑪がフォローしつつホテル内部を巡回警備し、各所にトラップやセンサーを仕掛けていく。
そして二階の客室の一つに陣取った翡翠が窓越しにライフルを構え、狙撃を警戒――三組に別れた瑠璃たちの各人格は、静かに獲物を待ち続ける。
殺しのプロフェッショナルである殺人姫たちが警戒にあたることで、所詮素人に過ぎないレジスタンス――第六共和準備会の連中はマトモに動くこともできまい。
そして素人ならぬ本当の脅威――第五騎士団が動いたならば、瑠璃達は即座に相手を殺すつもりでいる。
如何に相手が熟達の工作員であったとて、不用意に飛び込めばタダでは済まぬ死の罠を、瑠璃たちはここに作り上げたのである。
成功
🔵🔵🔴
カシム・ディーン
キャバリア持ち込み…寧ろキャバリアがついてくる(UC発動中)
やれやれ…騎士とかそういうのが居る場所は妙に肩身が狭くなりますね
「それじゃ帰っちゃうご主人サマ?」(人間サイズの銀髪美少女キャバリア
そいつも悪くねーがやれる事はやるとしようか
【属性攻撃・迷彩】
光水属性を己達に付与
光学迷彩で存在を隠しつつ熱源と匂いも隠蔽
【情報収集・視力・戦闘知識】
こういう時に盗聴や調査を行うのにやりやすい立ち位置
更に怪しい奴がいないかをこっそり捕捉
人に紛れれば本当に難しいですしね
倒すんじゃねーぞ。バレたらそれこそ交渉どころじゃねーからな
「ラジャったよ☆」(ひそひそ)
後は怪しい物とか不自然なものがないかも把握
【属性攻撃】
見つけた物は必要時は凍結させて無力化できるか調べ
【念動力】
今回は念動力でわずかに浮いて足音も届かせない
こういう時は逆に泳がしつつ目的と行動を把握
可能時は会話も読唇術も利用し覗き見
見つけた物全てについて通信機で伝達
ついでに聖剣についてもどういう物か興味があるので聞きます
「メルシーの鎌剣も負けないよ☆」
●
「キャバリア持ち込みには配慮しろ、ね。寧ろキャバリアが勝手についてくるんだが」
物珍しげにキョロキョロとあたりを見回しながら後ろを歩く銀髪の少女をちらと振り返り、カシムは独り言ちた。
彼女、カシムがメルシーと呼ぶ少女は彼のサイキックキャバリア、メルクリウスそのものだ。それがどういうわけかヒトとしての人格と肉体を持っているというのは、このクロムキャバリアにおいては非常に稀なケースである。
古代魔法帝国時代のサイキックキャバリアにはそういうものも居たというほとんど伝説レベルの記録もあるにはあるが、自らの拾ったキャバリアがそういうものなのかもしれないというのは彼にとっては些末なことだ。
少しばかり煩く感じることもあれど、こういう時に限れば彼女は役に立つ。何しろ外目にはほとんど人間と変わらず、しかし戦闘力はキャバリアの時とさして変わらない。敵がキャバリアを持ち出して来て、こちらはキャバリアを出せない時、メルシーは戦力として極めて優秀だ。いざとなれば彼女が真の姿を解き放つことで、カシム自身もメルクリウスのコックピットに保護してもらうこともできよう。
――が、それもあくまで有事になればのこと。表向きは両国の睨み合いの中、緊張に満ちた均衡を保っている今、所属不明のキャバリアが突然メルヴィン市内に現れればあらぬ疑いから両軍の正面衝突を招きかねない。今しばらくメルクリウスにはメルシーで居てもらわねばなるまい。
となると気になるのが、第三騎士団配下か、市内に歩哨に立つ聖王国の従士――あの国ではキャバリアパイロットでない軍人を従士と呼ぶらしい――たちの目だ。
この情勢で現れた余所者を警戒する視線。今にも職務質問を掛けられそうな疑いの目は、自称盗賊であるところのカシムにはいささか痛い。
「やれやれ、騎士だかそういうのが居る街は妙に肩身が狭くなりますね」
「それじゃ帰っちゃう? ご主人サマ?」
肩を竦めるカシムに、くすりと笑うメルシー。そのご主人サマというただならぬ呼び方に、一部の従士の目が一層険しくなる。
殆どはこの緊急事態下でイチャつく若い男女を嗜めるような、これだから最近の若いものは、という視線。だが特に一部の若い従士たちから向けられるのは、自分もあんな美少女に御主人様と慕われたい、ずるいぞというような血の涙混じりの嫉妬の視線。
「…………そうだな、帰っちまいたい……が、やれることはやるとしようか」
一瞬全てを投げ出して帰還したいという気持ちも浮かんだが、しかしウィルフレドら教典派騎士やまして交渉に来る共和国の要人にこのやり場のない苛立ちをぶつけられる謂れはない。カシムはぐっと抑えて、メルシーを連れ一旦路地裏に滑り込む。
そこで手早く盗賊時代から得意とする光を操作する隠蔽術式を発動すれば、二人はほとんど不可視に。ついで水分をも操り、熱源を隠し匂いをも隠せば、機械式のセンサーや軍用犬であってもそうそう二人を発見することはできまい。念には念をで念動力で僅かに浮遊すれば、歩行による足音や振動、重量に反応するタイプのセンサーもごまかせる。
「メルシー、やることはわかってんだろーな?」
「もちろん! 怪しい人を探してー」
「おう」
「怪しいものがないか調べてー」
「そうだな」
「速攻で吹っ飛ばす!」
「おい」
やや軽薄なきらいがあるとは思っていたが、仮にも神を名乗るキャバリアの一機。もう少し思慮深いと、そうであってくれというカシムの祈りをあっさり打ち砕くメルシーの言葉。
「怪しいやつが必ずしも敵側の怪しいやつとは限らねーだろうが。とにかく僕が良いって言うまで倒すんじゃねーぞ。やらかしたらそれこそ交渉どころじゃねーからな」
「そっか! さすがご主人サマ、ラジャったよ☆」
きりりと敬礼して頷くメルシーに軽い頭痛を覚えながら路地から滑り出たカシム。姿をほぼ完璧に隠匿した彼に、従士達はもう気づけない。
そうして街中の剣呑な視線をないものとすれば、この街を行き交う人々は聖王国の兵が歩哨に立つ日常に慣れているが足運びや所作は素人丸出しのおそらくメルヴィン残留共和国市民と、同じく聖王国兵に慣れている――というより、彼らと同じ軍服や徽章を身につけた聖王国軍人、そしてそのどちらでもないものに大別できる。
カシムたちが追うべきは三番目だ。その中でも気になるのが、長い銀髪を後頭部の高い位置で一つに括った髪型の女。オフィス街のキャリアウーマンめいたパンツスーツ姿だが、その体捌きはカシムをして同族の気配を感じ取れる。
すなわち賊かその類であろう。猟兵仲間からの情報で、敵は聖王国第五騎士団と過激派レジスタンスの二派が存在するらしいというのが判明しているが、彼女はどちらかと言えば前者に近いのではないだろうか。
互いにだけ見えているメルシーを振り返り、目配せをして彼女を追うことにしたカシム。
聖王国の従士の検問を流暢な聖王国語ですり抜け、街の中央に近い廃墟――先のメルヴィン攻防戦で激戦が繰り広げられた旧官庁街に向かう銀髪の女を追えば、なにかの施設跡らしき二階建ての裏口、鉄扉に閉ざされたそれに据え付けられたインターホンへ今度は完璧な共和国語で何かを囁く。
カシムの読唇術でも完璧には読み取れない、ほとんど腹話術かというくらい口元を動かさないその囁きは、辛うじて「閣下」「時間」の二語を拾うことができた程度。
そこまでの材料が揃えばカシムは確信する。目の前で鉄扉を潜ろうとする女は確実に諜報機関の人間で、そしてこのメルヴィンにいる諜報員など第五騎士団くらいのものであると。
「メルシー、ついていって制圧するぞ。できればやつの仲間が揃ったところで一網打尽にしてやろう」
「はーい♪ 腕が鳴るよ!」
放っておけば本当に腕を鳴らして気づかれそうなのでメルシーを抑えて黙らせつつ、女の後ろに張り付いて鉄扉を潜り後に続――
「それで、貴方達はどなたですか? 出迎えにしては少し礼を失しているようですが」
ドアを潜った瞬間、メルシーに向けて突き出された拳銃の銃口。
如何に完璧な隠蔽術だとしても、物理的に存在を消せるわけではないのだから銃口はこつりとメルシーの額を小突く。
「ええーっ!? どうして気づかれたの!?」
「あっ、おいばか大声出すんじゃねーよ!」
「…………!! まさか本当につけられていたとは!」
三者それぞれに驚愕。すかさずカシムがソードブレイカーで女の拳銃をかちあげるが、女は鋭い身のこなしでソードブレイカーを持つ手首を掴んで捻り上げようとする。
すわメルシーが実力行使するか、というところまで思い切ったところで、その緊張状態はさらなる人物の登場でかき消えた。
「マルタン大尉、そこまでだ。君たちはカステリオ卿が手配した猟兵だね。――私はこの会談の共和国側特使を務める国防陸軍セバスティアン・シュヴィク大将だ。君たちに会場までの護衛を頼みたい」
廃墟の奥から歩み出た恰幅のいい老紳士。ジャンパーにジーンズのラフな格好はそこらの街角でコーヒー片手に世間話に花を咲かせていそうなただの中年親父に見えるが、その加齢で垂れ気味の瞼の奥から覗く目付きは老獪で鋭い。
彼の登場で銀髪の女諜報員が素早くカシムを離し、一歩下がって敬礼するのだから、彼が彼女の上役で間違いもないだろう。
「とりあえずこちらの雇い主に伺いを立てても? それと身分証か何か見せてもらえます?」
カシムの問いに、シュヴィク大将を名乗る中年は鷹揚に、マルタン大尉と呼ばれた女は憮然と共和国軍のIDカードを提示する。
「あー、カステリオ卿ですか? 共和国の特使って人たちを保護したんですが。名前? えーと、セバスティアン・シュヴィク大将と……」
ちら、とメルシーに目配せすれば、その意を汲んで彼女はマルタン大尉に一歩歩み寄ってIDカードを読み上げる。
「ルイーズ・マルタン情報局特務大尉って書いてあるよ。軍籍番号も読む?」
そこまではいい、と手を振って制してその旨を伝えれば、ウィルフレドから丁重にお連れしてくれとの回答。
「了解、了解しましたよ。警備のつもりでとんだ大役を背負わされたもんです。追加報酬ってわけじゃありませんが、この仕事が終わったら卿の聖剣ってのがどういう物か教えて下さいよ」
いいとも、という返答を最後まで聞くことなく、カシムは通信を切って二人に付いてくるよう示す。
マルタン大尉もそれなりに信用のおける従士が警備している安全なルートを調査していたようだが、カシムに言わせればまだまだ。
市民でも第三騎士団の兵でもない怪しい連中――マルタン大尉ほどではなかったのでおそらくは第六共和準備会とかいうレジスタンス――がうようよと潜むルートでは聖王国を狙うテロで大将まで吹っ飛ばされかねない。
「うちの連れは腕が立つんで、大将閣下はそいつの側を離れないでくださいね。大尉殿は殿をよろしく。僕が先導しますんで」
斯くして役者は揃い、停戦に向けて歯車は動き出す。
大成功
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ここまでで聖王国第五騎士団は不気味な沈黙を保ち続け、対象的に活発に活動を見せた共和国レジスタンス、第六共和準備会はしかしその素人に毛が生えた程度の練度の低さに加えてあくまで有志による抵抗組織に過ぎないという未発達な指揮系統のため統率を欠き、各個にホテルへ散発的なテロ攻撃を企図しては猟兵により撃退され続けている。
そうしてエントランスホールを固める猟兵たちとすれ違いざまに、特務大尉は敬礼を投げかけ、その功労をねぎらってゆく――斯くしてリュテス第五共和国と聖ガディル王国教典派将校団との停戦交渉が秘密裏に開始された。
――その一方。メルヴィン市に潜伏する……否、メルヴィンに取り残された、あるいは自ら残留することを選んだ共和国市民からなるレジスタンス、第六共和準備会の面々もまた、次なる段階に踏み込もうとしていた。
『……"パストゥレル"、あんたがどこからこんなブツを仕入れたのか、なんで俺たちを支援するのか……そいつは聞かない約束だが、それでもあんたのお陰で俺たちは行動することが出来たんだ。礼を言うぜ』
『皆聞いてくれ! もうすぐ共和国軍が聖王国を破ってメルヴィンに雪崩込んでくる。それを支援するために、後方で最大限の混乱を起こすのが俺たちの目的だ! そして、その上で呑気にホテルで寛いでいやがる聖王国の騎士団長どもの身柄を抑える! 奴らを人質にした交渉で俺たちの生まれ育ったメルヴィンを、俺たちの手で取り戻そう!』
"パストゥレル"から供与された経済連合製の量産型キャバリア。素人の自分たちが乗って聖王国の騎士を圧倒できるようなハイエンドの最新鋭機ではないがそれでもたった一機、聖王国に一泡吹かせるための貴重すぎる戦力だ。
これを動かす時が来た。シミュレーターでの訓練は十分に熟したはず。同志たちの助力があれば、主力騎士団が軒並み出撃し、警備のために少数残された聖王国のセレナイトを撃破することも不可能ではあるまい。
正規軍人相手に多対一で生き延びられると思えるほど、男は自身の訓練が万全であったとは思っていない。それでも行かねばならないと、頭上の制帽のずれを直して改めて決意する。
『親父、あの世で見守っててくれ。俺が必ず仇を取る……! "パストゥレル"、最後になるが世話になったな。あんたのお陰で俺たちはここまで来れた。きっとあんたはあんたの望みのために俺たちを利用したんだろうが、それでも恩に着るぜ』
『その通りです、ミスター・ウェブスン。私は私の為に貴方たちレジスタンスを利用しただけ。感謝される謂れはありません。――ですが、スポンサーとして一言だけ。……ご武運を。貴方たちが本懐を遂げ、第一、第六騎士団長を拘束することができれば……それは私たちの望みに繋がります』
『ああ、任せておけ…………なんて言えるほど自信はないが、俺たちも俺たちの故郷を取り戻すために最善を尽くす。……あばよ、最後にあんたの素顔を拝みたかったぜ。きっと口説きたくなる美人だろうからな!』
主電源が起動し、ジェネレーターが唸りを上げて機体に活力を行き渡らせる。始めて乗り込んだ実機特有の振動と浮遊感にかすかに目を瞠って、ウェブスンは倉庫の屋根を景気よく突き破って白昼のメルヴィン市に出撃する。
今は、ウェブスンたちがその戦術目標を果たす果たせぬは置いても、満足の内に果てることを。もう一つ望むならば、生きて帰ることを、心のどこかで望まずにはいられない。
『……私たち、から逸脱しつつありますね。この任務を終えれば再調整っが必要でしょう。それでも、この任務が終わるまでは、私はバルトアンデルスではなくパストゥレルで在りたいと思ってしまう』
格納庫が爆破され、泡を食って飛び出してきたセレナイトは至近からの対キャバリア擲弾を食らってバランスを崩したところをウェブスンの駆るType-60の狙撃で胸郭コックピットを破壊され四散する。
「――我々としては、教典派が聖王国の主流となって和平路線に切り替えてくれるのならばそれを支援しない選択はない。だが、現状対聖堂派戦線に戦力を送るという手段は極めて非現実的であると言わざるを得まい」
「もちろん、それは共和国軍人の皆さんの対聖王国感情を考慮してもそのとおりでしょう。ですから、共和国領内に残り撤退を受け入れないだろう遠征軍聖堂派残党の討伐に我々を参加させていただきたい。その中で多国籍軍……同じ王政を敷く女王州連盟に協力を仰ぎたい、というのが我々の隠さざる本音です」
「十約同盟は宗教的に我が国とは相容れず、経済連合を味方につける資金力は我々第六騎士団を抜きにしたとしても聖堂派のほうが数段上。助力は必要ですが、それを頼めるのは女王州連盟か東方同盟戦線のみ……国力からも、おなじ王政国家という共通点からも、可能性があるのは女王州連盟でございましょう
「なるほど、教典派の描くヴィジョンは理解しました。共和国軍を代表して、この講和が成立した暁には女王州連盟派遣軍とのコンタクトを助力いたします。では次、そう……聖堂派残党の討伐という話ですが――」
護衛のためにシュヴィク中将の後ろに立ち、会議の流れを見守っていたマルタン大尉はひとまず胸を撫で下ろす。その彼女のインカムへ、傍受した聖王国軍の通信が怒涛のように流れ込む。
「……これは。閣下、カステリオ卿、ロンズフォーン卿! 退避を! メルヴィン基地の聖王国警備部隊が所属不明機の攻撃を受け壊滅、そのまま敵はこちらに向かっていると!」
『我々は第六共和準備会である! メルヴィン解放のため、聖王国打倒のため、ウィルフレド・カステリオ第一騎士団長ならびにエレーヌ・ロンズフォーン第六騎士団長の身柄を頂戴する!』
故にその動きは時としてファルルカの予想の範疇にない。この局面でレジスタンスが総力を投入することは予測できても、素人同然のパイロットがどんな戦闘機動をとって、どこを狙いどの程度の火力を投射するのか――それは一般的なキャバリア運用の理論の上にないのだ。
不用意に手を出せば、予想しない行動とぶつかり不要な犠牲を出すかもしれない。だが、だからといってレジスタンスに好き勝手に動かれるのではこの講話自体が白紙に戻るような事態を招きかねない。
ファルルカの頼みとあらば、と快活に引き受ける美帆。随伴するレジスタンス歩兵の持つ小火器程度ならば、この僵尸の肉体に対して脅威にはならない。流石にキャバリアの持つ数十ミリ口径の火砲が直撃すれば
勝負は長くとも一分半。それ以上はファルルカの命が保たないことを、美帆も知っている。故に、彼が詠唱を開始すると同時に僵尸の娘は勢いよく地を蹴り飛ばしてレジスタンスの背後より襲いかかる。
人造仙人たるファルルカに埋め込まれた宝貝のひとつ、月虹陣が起動する。月の陰気が世界を満たし、一時的に重力が軽減し大気は薄く、日輪の陽気と月の陰気のバランスが崩れたことでヒトの生まれ持つ力が十全に発揮できない環境が現出する。
そして陰とは死であり、女である。――即ち死せる娘、僵尸たる美帆の力は生者たるレジスタンスと反比例するが如く高まり、希薄化した重力の下を弾丸さながらの凄まじい速度で駆け抜けた。
一陣の雷光と化してType-60に襲いかかる美帆。膝関節部を狙う蹴脚を、ウェブスンはブーストジャンプで強引に飛び越え回避――予想外の低重力環境に想定以上の大跳躍をしてしまった機体は、殲禍炎剣を回避するべく強引な逆噴射急降下で着地し僅かにバランスを崩す。
美帆の飛び上がるようなアッパーがType-60の胸部装甲に突き刺さる。激しい金属音とともに後ろ向きに倒れる敵機。だが、その背が地に触れる寸前で狙撃砲が発砲された。
それが暴発だったのか、ウェブスンの意地で撃たれたものなのか。ついに宝貝の発動限界を迎えて膝をつくファルルカをめがけて飛翔する大口径スナイパーライフルの砲弾。
発砲と同時に飛び退った美帆が砲弾の横腹に掌底を叩き込む。砲身のライフリングによって螺旋の回転を与えられたそれは、触れたそばから鑢のように美帆を削り取ってゆく。
頷き合い、諜報スタッフの先導を受けて地下室に駆けてゆく護衛対象たち。ホテルの正面玄関に陣取りマシンガンの威嚇射撃でレジスタンス歩兵の足を遅らせながらその背を見送って、ジェイミィは母艦への通信を繋ぐ。
市内に出ていた猟兵が後背を突く形で奇襲を仕掛けたことで、若干の時間の余裕が生まれたのだ。ウォーマシンであるジェイミィが自身の機体のみで迎撃に出る選択肢もあったが、それを選ばず済むのであればそうするに越したことはない。常人を超越する戦闘兵器の身体であろうと、その倍以上の体躯を誇る機動兵器を相手に互角に渡り合うには若干火力が足りぬのだから。
それでもジェイミィはそれを望まない。祖国を思い立ち上がった彼らの想いを踏みにじれば、大多数の共和国民の猟兵に対する感情は失墜するだろう。そして打算を抜きにしても、彼らのような人々を死なせたくないと思うのだ。
「アイアンズ社長はおそらくヘルメスに移動を命じたでしょう。合流ポイントの候補から推測する航路と、殲禍炎剣の感知高度を避けての射出軌道から予測するに――TYPE[JM-E]が先行して到着するはず」
掠めただけで木っ端微塵に粉砕されそうな大口径砲弾が衝撃波を伴い至近を飛翔するのを振り返ることもなく回避して高度を上げれば、予想通りの軌道で飛来する己が愛機が陽光を受けて鈍く輝く。
自身をそのまま大型化させたようなキャバリアを駆って急降下したジェイミィがプラズマソードで斬りかかれば、ウェブスン操るType-60はアサルトライフルで弾幕を張りながら不格好にバックブーストでその一撃を回避――即座にジェイミィに襲いかかる、歩兵からの対戦車ロケット。
素人にしてはよく動く。ジェイミィは音声ユニットを震わせて舌を巻く。首都陥落から今日までおよそ一年、さして長い時を経たわけではない。レジスタンスが結成され、パストゥレルが彼らを支援し始めたのは更に最近のことだろう。その期間でここまで腕を磨き上げたのはウェブスンの才覚か、あるいは怨念に基づいた執念の賜物か。
ジェイミィの斬撃を受けつつも左腕でアサルトライフルを構えるType-60。その横っ面を殴り飛ばすように、墜落後出しうる最大戦速の強行軍で市内に突入したプレケスが乱入しそのまま体当たりをぶちかます。