逆接のライスメキアⅡ
●銀の雨が降る
「その歌はまだ聞こえるか」
「はい、先生。聞こえます」
亜麻色の髪の壮年の男の問いかけに少女が応える。銀誓館学園の中等部の制服に身を包んだ少女の名前は『銀鈴・花』。
彼女は問いかけに確信を持って答えた。
壮年の男は彼女の担当クラスの教師だ。武芸全般を教える師ともいうべき存在である。
サングラスの奥の瞳が迷うのを『銀鈴・花』は見た。
「その歌はまだ歌えるか」
「勿論。謳えますとも。生命賛歌は私の心に従った結果。聞こえるのではなく、謳うもの」
そこには嘆きも、恐れもなかった。
だからこそ、危うい。何かを護るために己の生命を厭わぬことは尊ばれるべきものである。得難い善性である。
その善性がいつだって生命を喪わせることを男は知っていた。
その善性がいつだって誰かの生命を奪うことを男は知っていた。
「君は生きろ。君だけは幸せになるべきだと俺が言ったのならば、君は首を縦に振るか」
「いいえ。振りません」
「そうだったな、愚問だった」
「はい、先生。だから私はユーベルコードに目覚めていなくてもやらなければならないと思っています」
その善性が生命を喪わせる。
他者のものも、己のものも。それを悲しいと思えるだけ男は幸せであったのかもしれない。
徒に死を強いる指導者のどこに正しさがある。
そして同時に自身だけが生き長らえろという指導者もまた正しくない。
ゆえに男は告げるのだ。
「標的はきっと君だ。最善を考えろ。何をすべきか。何をしないべきか。俺が君に与えることができるのは戦う術でもなく、戦いから逃れる術でもない。選択だけだ――」
●獣ではない妖獣
ゆったりと鎌倉の市街地を列車が走る。
それは鎌倉に所在を持つ『銀誓館学園』へと向かう列車であった。夕暮れを迎え、夜の帳が降りようとしている。
「強者との戦いを。私の前に立つものは、須らく――斬る」
その『銀誓館学園』の校門の前に立つ影があった。
今の時代にそぐわぬ姿。和服であるということがわかる。けれど、陣笠の奥にあるギラつく眼光が鋭くあらゆるものをねめつける。
斬らねばならない。
あらゆるものを切り裂かなければならない。
如何にして斬るか。
ただそれだけが陣笠の男――『人斬り与吉』の胸中に渦巻く。
それしか考えられない。
強者も弱者も関係ない。己の前に立つ者すべてを切り捨てる。そうして己が高みに昇ることしか考えられないのだ。
もしも、知識ある者が『人斬り与吉』の姿を見たのならば、彼が『妖獣化』したオブリビオンであるとわかるだろう。
暴力衝動に支配され、人を斬る。
「強者を。鎌倉の能力者を。その血を我が妖刀に吸わせなければならない。何処だ。何処にいる、能力者――!」
咆哮する『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』は血走った目を光らせ、その手にした妖刀『銀の五月雨』の刀身を怪しく輝かせるのであった――。
●シルバーレイン
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件はシルバーレイン世界……『妖獣化オブリビオン』による大量殺戮を止めて頂きたいのです」
その言葉に緊張が走る。
彼女の予知は、『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』による『銀誓館学園』の能力者たちの大量殺戮を示していた。
世界結界の復活に寄って弱体化している能力者たちという特定の種類の人間だけを襲う『人斬り与吉』の行動は本能や衝動に任せたものである。
「この凶行を事前に予知できたことは幸いでした。『人斬り与吉』が特定の能力者と接触することによって大量殺戮のトリガーが引かれてしまいます。これを止めるためには、『銀誓館学園』に赴き、彼らを避難させる必要があります。時刻は夕刻。部活動が終わる頃合いになります。皆さんは、彼らを避難させなければなりません」
能力者たちに協力してもらえれば、という猟兵の言葉にナイアルテは頭を振る。
彼らもまた被害に遭う可能性が高い。
予知された凶行の場面では、能力者たちすらも『人斬り与吉』は斬り捨てている。どうあがいても猟兵達だけで対処するしかないのだという。
「密かに学園に入り、日常生活を楽しみながら能力者たちを戦いの場から引き離しましょう。私が見た予知では、『人斬り与吉』は学園校門……学園直行の列車が到着するプラットフォームにて大量殺戮を行っていました」
ならば、その周辺の能力者たちを退避させるように動くがいいだろう。部活動を楽しんだり、授業の合間を縫って友人たちを作って交流を深め、優等生を満喫してもいい。
そうして、学生……能力者たちを学園校門とプラットフォームから引き離せばいい。
「夕刻までに退避を完了させ、『妖獣化オブリビオン』である『人斬り与吉』を打倒しましょう。どうやら、彼は一人の能力者の最初のターゲットとしているようです」
その能力者の名は『銀鈴・花』。
彼女の殺害が皮切りとなって大量殺戮が引き起こされてしまう。しかし、『妖獣化』した『人斬り与吉』は能力者を見れば即座に切り捨てるだろう。どちらにせよ、能力者を『人斬り与吉』に近づけさせてはならない。
「また『人斬り与吉』が現れる夕刻には、彼に汚染され凶暴化したオブリビオンの群れ……『鉄鼠』の存在も確認されています。これらを蹴散らし、『人斬り与吉』に迫りましょう」
どうやら『人斬り与吉』は『妖獣化』によって通常よりも強化されているようである。しかし、衝動により思考が単純化されている。
この弱点をつくしかない。
ナイアルテは転移の準備を整えると猟兵たちを送り出す。
妖獣化、過去のゴーストたちがオブリビオンとして蘇り、世界結界によって弱体化した能力者たちを襲う。
オブリビオンを捨て置けば、勝ち得た平穏すらも無意味と化す。
そんなことをさせてはならぬと、ナイアルテは願い、猟兵達に再び頭を下げたのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
銀色の雨が降る世界、シルバーレインにおいて世界結界によって弱体化した能力者の学生を狙う『妖獣化オブリビオン』を打倒し、大量殺戮を防ぐシナリオになっております。
舞台は『銀誓館学園』であり、能力者の学生たちがたくさんいますが、オブリビオンの殺戮衝動の前に斬り殺されてしまいます。彼らに協力を仰ぐことはさらなる危険に近づけさせるだけとなるので、猟兵の皆さんだけで事態に対処するしかないでしょう。
●第一章
日常です。
まずは大量殺戮の予知の舞台である『銀誓館学園』に赴き、学園生活を楽しみながら密かに戦いの現場となる学園校門と列車が入り込むプラットフォーム間から能力者たちを退避させましょう。
混乱が起こるかもしれません。
それと気が付かせることなく遠ざける方策が必要になるでしょう。そのためには朝から昼間の内に学園に入り、学園生活に溶け込み学生たちを遠ざけましょう。
●第二章
集団戦です。
学園校門とプラットフォーム間に溢れるオブリビオンの群れ『鉄鼠』との戦いになります。
彼らは皆、『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』に汚染され凶暴化しています。
通常の群れよりも強力な群れとなっており、手強いです。
●第三章
ボス戦です。
『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』との戦いになります。
通常よりも強化されていますが、殺戮衝動により思考が単純化されています。そこをつくことで戦いを有利に運ぶことができるでしょう。
それでは、シルバーレインにおける嘗ての脅威が再び蘇る事件。それを解決するために戦う皆さんの物語の一片となれるように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『楽しい学校生活』
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POW : 運動大好き! 体育会系の部活をとことん楽しむ
SPD : 休み時間の人気者。沢山の友人を作って交流を深める
WIZ : 授業で優秀な点を取ったり生徒会に立候補したり、優等生を満喫する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
いつもの日常と言葉にすれば、それは陳腐なものでしかなかったのかもしれない。
けれど、それが他に代えがたいものであると能力者たちは知っている。
世界結界が蘇ったことにより、超常を超常と認識できなくなってしまった人々がいる。そんな彼らを護ることができるのは自分たちだ。
ならばこそ、彼らは躊躇わないだろう。
死と隣り合わせの青春であっても構わない。
「そのための力があるのなら躊躇わない。私達はそういう者たちなのですから」
『銀鈴・花』は朗らかに笑って言うだろう。
屈託のない笑顔で、青春を謳歌する。
例え、隣に死が横たわっているのだとしても。
学園は活気に満ちている。
どれだけ世界が危機に陥るのだとしても、心まで失ってはならない。其れが何よりも力になることを知っている。
嘗て多くのゴースト、来訪者たちと戦い対話してきた先輩たちがそうしてきたように。
決して心まで喪わないように。
学園生活は、生きることは、素晴らしいことだと、楽しいことだと謳うのだ――。
ファランス・ゲヘナ
【心境】
「学園生活…カ…オレには縁がなかったナ。」
生まれも育ちも宇宙船…教育も同じ宇宙船育ちの宇宙海賊だったしナ。
しかし、このオブビリオン…サムライエンパイアに行けと言いたくなる情報だなオイ。
【行動】
判定:POW
折角なんで束の間の学園生活…楽しませてもらうゼ。
ブラックタール得意の形状変化…『肉体改造』で高校生の人間に変態して銀誓館学園に潜入ダナ。
何故から今日から高校生のふぁらんすくんダ。
体育会系の部活に潜入して猟兵譲りのあくろばてぃっくな運動力で無双しつつ能力者たちに近づいて行ク。やるナお前ラ。
お前らならオレのとっておきの特訓場所を教えてもいいかもナ。
という体で能力者と仲良くなって連れ出すゼ。
数多の世界が存在する。
それは猟兵であれば誰もが知ることである。同時にその世界に生きる者、種族というものはあまりにも多い。
ブラックタールという種族は、その外見からも大いに奇異なる者として目に映ることだろう。けれど、ファランス・ゲヘナ( ・f03011)が猟兵である以上、それはあり得ないことだ。
猟兵とは生命の埒外にある者である。
人々は、それがどんなに巨大な存在であれ、人の言葉を離す獣であれ、猟兵である以上違和感を感じることはない。
ファランスのブラックタールのスライムのような姿であっても奇異に映ることはなかっただろう。
けれど、彼がブラックタール得意の形状変化によって高校生の人間の姿に変身して『銀誓館学園』に潜入したのは、彼が学園生活というものに縁がなかったからであったのかもしれない。
「学園生活……カ……オレには縁がなかったナ」
生まれも育ちも宇宙船。
スペースシップワールドで生きてきた彼にとって、生きるということはサバイバルと同じことであったことだろう。
そういう意味ではシルバーレインの能力者と似た境遇であったのかもしれない。
ゴーストという生命を脅かす存在が常に死と隣り合わせの青春を強いる。
それは宇宙海賊として生きてきたファランスの境遇に照らし合わせてみても、そこが宇宙船か地上かの違いだけでしかない。
「しかし、この予知されているオブリビオン……『妖獣化オブリビオン』つったカ……サムライエンパイアに行けと言いたくなる情報だなオイ」
『妖獣化』したオブリビオンである『人斬り与吉』は能力者を標的にしている。
現れる夕刻までに『銀誓館学園』の能力者たちを避難させなければならない。
その使命を果たすべくファランスは転校初日から体育会系の部活の花形、サッカー部に入部し、その類まれなる運動力でもって無双状態である。
「ひゃっはー!」
いや、別に元が球状のスライムのブラックタールであるから、ボールは友達だゼ! もといオレがボールだ! 状態だからとかそういうのは些細な問題である。
「す、すげぇ……! なんであんなところからカバーできるんだ……!?」
能力者の学生たちもまた一般人以上の身体能力を持っている。
けれど、それらを凌駕するファランスの動きは最早人外であった。いやまあ元から人外であるけれど。
そこは猟兵として違和感を感じさせぬがゆえである。
急に足がにゅっと伸びても、そういうものかなぁと思う程度なのだ。
さらに宇宙船、スペースシップワールドで育った無重力下での活動に長けたファランスのアクロバティックな動きに能力者の学生たちは翻弄されっぱなしである。
「だけど、俺たちだって!」
そう、伊達に能力者ではないのだ。
日々の訓練で培った能力で持って学生たちもファランスに猛追する。放課後の部活動。爽やかな汗。
今までファランスは感じたことのない爽快感を感じていたことだろう。
同時に自分と渡り合えるほどの能力者たちの身体能力も、彼にとっては心地よいものであった。
「やるナ、お前ラ」
夕日をバックにがしっ! と友情を育むファランス。
学生たちもお前こそ! とにこやかな笑顔で手を取る。ここに麗しい友情が育まれたのだ。
「あんな動きができるなんてな……! 一体普段どんな練習をしているんだ?」
サッカー部の面々が次々に訪ねてくるのをファランスは自分の行動がうまく運んでいることに笑む。
「お前らならオレのとっておきの特訓場所を教えてもいいかもナ」
秘密だゼ? とファランスが声を潜めてサッカー部の面々を学園のグランドから避難させていく。
そう、彼の目的は『銀誓館学園』の能力者を襲う『妖獣化オブリビオン』が現れる校門前から引き離すことにある。
これならば十分自然に彼らを学園の外に連れ出すことができる
ファランスは学園の裏門から彼らを夕日沈む河川敷に連れ出し、そこで友情トレーニングを行うのだ。
「いくゼ! 友情ツープラトン!」
「任せろ、ファランス!」
兎に角ダッシュアンドダッシュである。キャプテンファランスのサッカー特訓は、夕日が沈む頃まで楽しげに、そして爽やかに行われていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
かつての英雄たちも今は昔か。銀晢館学園の能力者たちと肩を並べて戦いたかったけど。
詠唱調律列車からプラットフォームに降りてきた風を装って。
「コミュ力」で周囲の生徒たちに新入りの能力者だから銀晢館学園を案内してもらいたいって頼むわ。イエーガーカードをちらっと見せて、同類だと思わせてね。
せっかくだし、出会ったみんなとお話しながら見て回りたいわ。というわけで、人数はどんどん膨れ上がって校門やプラットフォームから離れていく。
案内のお礼に一つ芸を見せましょう。折紙を折って、「式神使い」で一匹の犬に。これでも色々と便利なのよ。
こっそり「地形の利用」をして、戦場が見えない位置で、あたしはひっそり抜けるわ。
シルバーレイン世界は、生命を脅かすゴーストとの戦いが終結した世界である。
しかし、オブリビオン化して復活した世界結界の復元に寄って、超常を超常として認識できぬ者たちが再び出始めたのと同時に能力者の力も減退している。
『銀誓館学園』に通う能力者たちもまた同様である。
そして、彼らこそが今回の事件の標的である。
『妖獣化オブリビオン』は、獣の如き殺戮衝動によって、能力者を見れば殺さずには居られないのだという。
確かに能力者たちは戦う者たちである。
しかし、このような状況であれば彼らを徒に危機に晒すわけにはいかない。
「かつての英雄たちも今も昔か。『銀誓館学園』の能力者たちと肩を並べて戦いたかったけど」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は残念そうに詠唱調律列車の車両に乗り込んで鎌倉の町並みを見やる。
ここで多くの能力者たちが死と隣り合わせの青春を送ったのだという。
彼がやり遂げたことは世界一つを救う行いである。
それが過去になり、オブリビオン化したゴーストが現れ始めたことは、許しがたいことである。
平穏があるから争いがある。争いがあるから平穏がある。
その輪廻の如き輪の中にこの世界もまた囚われていると言えるだろう。
「さて、あそこが『銀誓館学園』ね。結構きれいなのね」
ゆかりはプラットフォームに降り立つ。
周囲には登校時間であろう学生たちが同じように居る。
「おや、どうしました? もしかして転入生でしょうか?」
そんな彼女に中等部の制服を着た少女が話しかけてくる。どうやらゆかりが持っていたカードを見やり、イグニッションカードだと思ったのだろう。
「ええ、転入生ってやつね。あなたは?」
「私は『銀鈴・花』といいます。恐らく年上のお方だと思うのですが!」
ゆかりはそのとおりだと説明すると、そのコミュ力を使って『銀鈴・花』に案内を願い出るのだ。
その願いに嫌な顔一つせず『銀鈴・花』は、わかりましたと元気よくゆかりの手を引いて学園の校門をくぐる。
「ありがとう。職員室に行けばいいのかしら」
「はい、まずは転入の手続きとかるでしょうから。あ、私は中等部なので、ここで一旦お別れですね。またお話いたしましょう!」
元気よく『銀鈴・花』は手を振りながら駆けていく。
その背中を見送ってゆかりは、職員室に居た教師に案内されて高等部へと向かう。
転入生として紹介され、多くの能力者、学生たちと共にゆかりは学園の中を案内される。
転入生は『銀誓館学園』では珍しものではない。
けれど、それでも学生たちは皆、そんなことお構いなしである。気の良い者たちばかりなのだろう。
いつしか、ゆかりを案内する者たちは列を成していく。
これもまたゆかりのコミュ力というやつであろう。
「ねえ、せっかくだから学園の外ってどうなってるのかしら? 学外での演習とかもあるのでしょう?」
あたしに教えて、とゆかりは列をなす学生たちと共に放課後の学園から離れていく。
想った以上に大名行列みたいになっていることに彼女は苦笑せざるを得ない。
「そういえば、村崎さんは、どんな能力者なんだい?」
「ああ、そうね。案内のお礼として一つ芸を見せましょう」
そう言ってゆかりは校外で折り紙を折って、『式神使い』としての力を見せる。
おられた紙の犬が意志を持つように吠える様を見せれば、学生たちは興味深げにゆかりの手繰る式神に注目する。
「すごいな……こういうことができる能力者もいるんだ」
「これは応用できるかも知れないな」
そんなふうに学生たちが折り紙の式神にかかりっきりになっているのをゆかりは見やり、人知れずその場を離れていく。
彼女の目的は達せられた。
放課後の学内から生徒たちを遠ざけること。
夕刻の校門には『妖獣化オブリビオン』とそれに当てられたオブリビオンの群れが迫る。
ここからがゆかりの、猟兵の戦いが始まるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
おやまあ、学園ねぇ。何度かUDCアースのには潜入しましたけどー…ここでもですかー。
学校って、縁が無かったんですよねー…(15歳まで、いわゆる自宅学習な忍者の家)
この年齢ですしー。臨時教員(日本史)ということでー。ふふ、何かしようものなら…目敏く見つけますけどねー?
私を舐めないことです。
ええ、放課後校外学習ですよー。ここ、鎌倉ですからねー。
題材には困らないんですよー。とくにお寺ですねー。…悪霊としては行きにくいんですが、いいでしょう。
※
内部三人、生徒たちが『疾き者』を怒らせないように祈ってる。怒ると一番怖いのが『疾き者』
「おやまあ、学園ねぇ」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は4つの悪霊が束ねられた猟兵である。
その四柱の一柱である『疾き者』は学園というものにつくづく縁があるものだと感心している様子であった。
若い少年少女たちが学業に勤しむ場所。
次代を育てる機関。
それはUDCアースにも当然ある機関である。そこに幾度か潜入したことがある。しかし、新たなる世界シルバーレインにおいてもまた自分が潜入しないといけないのかとオブリビオンの齎す事件に歯噛みするものでもある。
「学校って、縁がなかったんですよねー」
世界が違えば世俗も違うものである。
『疾き者』たちが暮らしていた世界にも育成機関はあっただろう。
けれど、『疾き者』には、縁がなかった。忍びの者として育てられるのであれば、それは当然であったのかもしれない。
世俗と隔絶した理の中に生きる。いや、生きるしかなかった『疾き者』にとって、『銀誓館学園』の光景はどのようなものに映っただろうか。
若者たちのキラキラした表情。
死と隣り合わせの青春。
それをわかっていながらも戦う彼らは生命力に溢れていたことだろう。そんな彼らを襲う『妖獣化オブリビオン』の影が迫っている。
ならばこそ、『疾き者』は躊躇わなかっただろう。
「それではー、臨時教員の馬県・義透と申しますー。教科は日本史を担当いたしますのでー」
そう、例え、それが教師として潜入することになろうとも、一切の躊躇いはない。
「よろしくお願いします!」
学生たちは皆素直な者たちばかりであった。
何か自分に悪戯しようものなら、目ざとく見つけてしまおうと思っていた『疾き者』にとって、それは意外であったかもしれない。
舐められてはならないと思っていたからこそ、学生たちの反応は素直そのものであった。
中等部の生徒たちを受け持つことに成った『疾き者』は、そんな中でもひときわ生命力に溢れる少女を見ただろう。
彼女の名は『銀鈴・花』。
剣を扱う能力者であるようだが、彼女が『妖獣化オブリビオン』に狙われている理由は未だわからない。
ただ、予知では彼女の死が皮切りに成って大量殺戮を引き起こされてしまうのだ。
「して、放課後なのですが! 先生! どうするんでしょう!」
『銀鈴・花』の言葉に『疾き者』はうなずく。
「ええ、放課後校外学習ですよー」
ここ、鎌倉ですからねーと。
題材には困らないのだ。特にお寺などは歩けば当たるほどあるだろう。しかし、まあ、悪霊として存在している猟兵としては近づきがたいものがある。
しかし、そうも言っていられない。
能力者を見た瞬間に斬りかかる『妖獣化オブリビオン』から彼らを引き離すには兎に角学園から引き離さなければならない。
ならばこそ、こうやって学園の外に連れ出すのだ。
「なるほど。ですが、先生。此処も、あそこも、遠足やらなんやらで結構行きましたよ!」
『銀鈴・花』の言葉を皮切りに学生たちが次々に不平不満を呟き始める。
つまんなーいとか、別のところがいいーとか。
それは学生らしい言い分であったことだろう。
いくら戦う能力者であったとしても、その心根は未だ幼い少年少女たちだ。そんな彼らをして微笑ましく思う……ことは、ちょっとむずかしいかも知れない。
『疾き者』の雷が落ちたことは言うまでもない。
怒らせたら四悪霊の中で随一である『疾き者』の雷は凄まじいものであった。内部の三人たちは祈っていたが、どうやらそれも無駄であったようだ。
学園校外で落ちた雷は、しばらく学生たちのトラウマになったとかならなかったとか――。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
うんうん良いでござるよね青春!デュフフ!
拙者も女学生達とお近づきになって日常アニメチックな大ジャンプせねば…
正門からズカズカと侵入すれば第一学園生発見!
爽やかに挨拶をばウワーッ!?学生じゃねぇ誰こいつ!【知らない人】がいる!誰なの!?怖いよぉ!
近くの学生に知らない不審者が出たと騒ぎ立てれば大体の仕事は終わりですぞ
騒ぎが大きくなれば近くの能力者が能力者を呼んでお祭り騒ぎ!
後は知らない不審者をプラットフォームから遠ざかるようにちょっと誘導すれば能力者集団が地の果てまで追っかけて行くって訳だ
能力者ってのは大体血の気が多いもの相場が決まってるでござるからな…
拙者?拙者は誓って不審者ではございません
青春。
それは人の人生において僅かな時間である。
だからこそ人は思い出し、その輝きに目がくらむような思いをするのだろう。それがどれだけ大切なものになるのか、人は過ぎ去りし未来にしか理解はできないのかもしれない。
けれど、それは悪いことではない。
そんなときがあったのだと懐かしむことができることは幸せである。
「うんうん良いでござるよね青春! デュフフ!」
そんなキラキラした青春を送る『銀誓館学園』に向かうプラットフォームに降り立ったエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)は、正直言って浮いていた。
黒ひげが悪いわけじゃない。
なんというか、こう、独特な雰囲気がエドゥアルトを青春の中で浮かび上がらせていたのだ。
何がどうとうまく説明できないことを詫びさせてほしい。
「拙者も女学生達とお近づきになって日常アニメチックな大ジャンプをせねば……」
大丈夫だろうか?
本来の目的忘れてない? と思わず同じ猟兵がいたのならば尋ねずには居られない位の空気を醸し出しつつ、エドゥアルトはとても嘘くさ……いや、爽やかな笑顔で、はいこんにちはである。
周囲の学生たちは、なんかおかしいなと思いつつも、そこはそれ。
猟兵が一般人に違和感を感じさせぬように、エドゥアルトは能力者である学生たちをしても違和感を覚えることができぬまでに周囲に溶け込んでいた。
黒ひげのおじさんがズカズカと正面から侵入……今侵入って言った?
「むっ、第一学園生発見! やあ、ハローハロー爽やかな挨拶を……ウワーッ!? 学生じゃねぇ誰こいつ! 誰だお前!!(ダレコイツ) 知らない人がいる! 誰なの!? 怖いよぉ!」
いきなりである。
そう、エドゥアルトは校門に侵入した瞬間に己のユーベルコードを発現させたのだ。
呼び出された『知らない人』。それはエドゥアルトのユーベルコードに寄って生み出された存在であり、まじで『知らない人』なのである。
それはエドゥアルトにも理解できない存在であるのかも知れない。
こっちが聞きたいわとなるほどの狂乱ぶりでエドゥアルトは騒ぎ立てる。
学園の中は一時騒然となるだろう。
「どうした!? 大丈夫か、君!」
そんなこんなで騒ぎ立てれば、能力者の学生たちは、本来、気の良い者たちばかりである。
そんなふうに不審者の騒ぎをたれれば、自然と集まってくるし、お祭り騒ぎである。
そこまでいけばもうエドゥアルトのお仕事は終わりも同然である。
「大変でござる! 不審者でござる! 殿中でござる!」
最後は若干なんで? となるものであったが、それでもエドゥアルトの騒ぎは能力者たちをひきつけ、ついでにエドゥアルトが呼び出した『知らない人』をプラットフォームから遠ざけるように移動させれば、彼らは勇んで飛び出していくだろう。
「能力者ってのはだいたい血の気が多いのも相場が決まっているでござるからな……」
熱い風評被害である。
エドゥアルトは『知らない人』を追いかけてプラットフォームから遠ざかっていく能力者の学生たちの一団をお見送りして、仕事の完遂にしめしめとうなずく。
ミッションコンプリートである。
しかし、エドゥアルト自身が若干不審者っぽい気がしないでもない。
「……で、貴方は何者なんです?」
しまった。冷静な能力者もいる!
流石に無理があったのかもしれない。けれど、エドゥアルトは、そんなことおくびにも出さない。
「拙者? 拙者は誓って不審者ではございません」
にこり。
爽やか過ぎる笑顔。
それがなんとも怪しいのは気のせいだろうか。明らかになんかこう、悪いこと考えてる人のそれに見えなくもないが、能力者たちは自分たちが違和感を感じぬことにこそ違和感を感じつつも、それでもエドゥアルトがヒトに害する者ではないことを直感的に感じたことだろう。
「いや、本当でござるからね!」
そんなふうにエドゥアルトは能力者たちをプラットフォームから遠ざけることには成功した。
けれど、若干何か大切なものを失った気がしないでもない。
そう、女学生たちとお近づきになるっていう、そういうフラグがべきべきに折れたのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
この世界ではどんな色とリズムに出会うことができるのでしょう?
学生さんと出会う機会が多いそうですから
夢に向かって努力する赤色の情熱のリズムとか
友達との会話で心弾ませる黄色の快活のリズムとか
素敵な色とリズムに溢れていそうですね
そんな素敵な世界だからこそオブリビオンなどという淀んだ色で
汚されることが無いように全力を尽くさなければなりません
ひとまず予知で示された場所から離れた場所で
『ダンス』をして注目を浴びることで
能力者の方々を引き寄せましょうか
(目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始める)
この世界の輝きには敵いませんが
この旋律の輝きはきっと注目を浴びるはずです
世界にはリズムと色で溢れている。
それは様々な波長と鮮やかさ。播州・クロリア(踊る蟲・f23522)にとって新たなる世界が見つかるということは、新たなリズムと色に出会うことを意味していたことだろう。
「この世界ではどんな色とリズムに出会うことができるのでしょう?」
シルバーレイン世界。
銀の雨が降る世界。そこにあるのは生命賛歌の歌声。
響く旋律を耳にするようにクロリアはプラットフォームに降り立つ。目指すは『銀誓館学園』である。
この世界にはゴーストと呼ばれる生命を脅かす存在がいる。
超常を超常として認識させぬ世界結界がオブリビオン化したことによって新たなる脅威に晒される人々がいる。
『妖獣化オブリビオン』が今回標的にしているのは能力者――即ち、学生たちである。
「夢に向かって努力する赤色の情熱のリズム」
クロリアは共に降り立つ学生たちの瞳に映る色を見る。
そこに刻まれるリズムを感じる。死と隣り合わせの青春を送る彼らには、きっと夢があるのだろう。
人々を護る。それ以外にもあるはずだ。どんな自分になりたいかという願いが。
「友達との会話で心はずませる黄色の快活のリズム」
クロリアは、その耳に流れ込んでくる学生たちの穏やかでありながら爽やかな話し声を聞く。
きっとどれも他愛のない話なのだろう。
親しい友人と話ながら学園へと向かう彼らの足取りはそれぞれだ。軽やかであったり、課題がしんどくて足取りが思いだとか、そんな些細なものばかりである。
けれど、そのどれもがクロリアにとってはどれもが素晴らしいものに思えたのだ。
素敵な色とリズムに溢れている。
こんな世界がある。
一時は戦いが終結した世界。
「こんな素敵な世界だからこそオブリビオンなどという淀んだ色で汚されることが無いように全力を尽くさなければなりません」
クロリアは予知された『妖獣化オブリビオン』が現れる場所から離れた場所で、放課後のストリートダンスに興じる。
彼女の踊りは、蠱の一念(コノイチネン)である。
本能の赴くままに思いを込めたダンスは、青春を送る能力者たちの視線を集めることだろう。
「さあ、一緒に踊りましょう」
それは言葉にせずとも伝わるものであった。
学生でもある彼らにとって、彼女のダンスは珍しいものであったし、同時彼らの中にはダンスを得意とする者たちだっている。
「見たことがない踊り。でも不思議ね。攻撃的でもない、けれど、とても綺羅びやかに感じる」
「ああ、なんだかこっちも踊りたくなるような……」
学生たちはクロリアの踊りに引き寄せられていく。
それは図ったように学園から、プラットフォームから彼らを遠ざける要因となるだろう。
クロリアにとって、己の輝きは、この世界の輝きには敵わないものであると思っていたかも知れない。
けれど、己の一念を籠めたダンスは人に伝わるものである。
戦うも対話をするも、己たちで決める能力者である学生たちにとって、それは言葉以上の意味を持って伝わるだろう。
彼女の奏でる旋律の輝きは、きっと彼らの視線を集め、彼らを危険から護ることだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【フィア師匠と】
銀誓館……学校生活というのは新鮮ですね!
さ、師匠もこの制服に着替えてください!(小学生制服)
そうなんです! 胸のサイズがどんぴしゃなんです!
これで師匠も銀誓館学園の小学生ですね!
……これで学園内ではわたしのほうが上級生。そこはかとない優越感。
って、師匠、降参です。詠唱すとっぷ!
それでは、こちらはいかがでしょう、
秘蔵(?)の銀誓館学園高校生制服、番長バージョンです!
スリットもセクシーではありますが! メインはこれです!
取り出したのは特別あつらえの長ラン。そして背中に輝く『菜医愛流帝』!
あ、はい。グリモアベースの陰に隠してあったのを持ってきました。
有名な番長さんなんじゃないですか?
フィア・シュヴァルツ
ルクスと
「青春か……懐かしい言葉よ……」(遠い目
わ、我は永遠の若さを保つ美少女!
決して遥か昔の学生時代を思い出していたわけではないぞ!
謎の美少女転校生として学園に颯爽登場だ!
「ほう、ルクスよ。
我のために制服を用意しておくとは手際がいいではないか。
うむ、サイズがぴったりだな。主に胸のあたりが。
……って、これ小学生用制服ではないかっ!」
ふむ、この制服ならよいか。
ルクスが用意したミニスカスリットの高校制服で転校生として目立たぬように学園に溶け込むとしよう。
「我は転校生の美少女魔法使いにして腹ペコぺったん番長フィアである。
腕に覚えがある者は後でプールに来るように!」
くくく、誰が学園一か教えてやろう!
「青春か……懐かしい言葉よ……」
遠い目をしてたそがれるのは、フィア・シュヴァルツ(腹ペコぺったん番長魔女・f31665)である。
この場面だけ切り取ってみれば、なんかこう影のある美少女である。
だが我々は知っている。
彼女がただの腹ペコ魔女であることを。うっかり残念美少女であることを。
そんでもって、死と隣り合わせの青春を送る『銀誓館学園』の能力者たちにとって、そんな雰囲気はあまり珍しいものではなかった。
大なり小なりゴーストに関連する事情を持つ学生たちは、フィアの黄昏に一定の理解を示しつつそっとしておいている。
そんなときもある。
往々にして時間だけが解決してくれるものであるからだ。
「『銀誓館』……学校生活というのは新鮮ですね! 流石師匠! 似合っていますね!」
そんなふうに初等部の学生服を来たフィアを褒め称えるのは、ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)である。
自分だってついこの間までは初等部のカテゴリされる年齢であったことをすっかり忘れて中等部の制服に身を包んでいる。
言動の端々から謎の優越感がにじみ出ているのは気の所為であろうか。
いや、気の所為などではない。
彼女は確かに優越感に浸っているのだ。そう、学園内だけであれば、彼女は中等部。そんでもってフィアは初等部。
先輩なのである。
先輩。とても良い響きである。
そんなルクスが満足している間フィアははるか昔の学生時代を思い出してたそがれていたが――。
「ルクスよ、たしかにピッタリである。我のために制服を用意しておくとは手際がいいではないかと褒めてやらんでもないと思っていたのだが」
びきぃ。
なんの音? とルクスが振り返った先にあったのは、初等部学生服の裾をつまんでプルプル震えている師匠であった。
こういう師匠もいいよね。
良い……。
玄人同士の会話が聞こえてきそうである。
「ですよね! とても似合っていますよ! そうなんです! 胸のサイズがどんぴしゃなんです!」
「……って、これ小学生用の制服ではないかっ!」
フィアの瞳がユーベルコードに輝き始めている。
まーたぶっぱの時間であろうか。しかし、ルクスはストップストップと彼女をなだめる。
「師匠、降参です。詠唱すとっぷ!」
手でルクスが彼女を制する。
何か目算があるのだろうか。ルクスにしては余裕たっぷりである。
そんな彼女が差し出したのは、ミニスカスリットマシマシの学生服である。
「それでは、こちらはいかがでしょう。秘蔵の銀誓館学園高校制服、番長バージョンです!」
刮目して見るがいい。
このスカートのスリットを! えっぐい。えぐい。えっ、これ大丈夫なやつなんです? となる位の大胆スリット。
許されるのか。
これは許されるのかと思わないでもなかったが、フィアはお気に召したようである。
「ふむ、この制服ならよいか」
いそいそと早着替えである。
いいのかなーって思わないでもなかったが、さらにルクスは着替えたフィアに長ランを差し出す。
「そしてこれをどうぞ! グリモアベースの陰に隠してあったのを持ってきました。有名な番長さんなんですよね!」
そこにあったのは『菜医愛流帝』と刺繍の施された長ランであった。
ばかな、あれは処分したはず! なぜそこに!
みたいなやり取りがどこかで会ったような気がしたが、気の所為である。そんなこんなで銀誓館学園番長バージョンを身に纏ったフィアが学園へと登校する。
威風堂々。
風を切って歩く姿は、まさにまな板。いや、えっと、なんか、すごいあれ!
「我は転校生の美少女魔法使いにして腹ペコぺったん番長フィアである。腕に覚えがある者は後でプールに来るように!」
いや、プールはもう閉鎖されてるやつである。
行ってもただのプールしかない。まあ、この秋口にプールで水泳勝負というのも、アリなのかもしれない。
「風邪引かないでくださいね、師匠ー」
「くくく、誰が学園一か教えてやろう!」
やる気満々なフィアと、とりあえず師匠が無茶しないように見張っていようと意気込むルクス。
彼女たちのドタバタ珍道中は、まだはじまったばかりである。
果たして彼女たちは風邪を引かずに、『妖獣化オブリビオン』に対処することができるのか――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
若返ったことで学園に再入学していますので、いつも通りの登校…という形で学園に入ります。
…世界は変わりましたが、学園の空気は変わらないですね。この雰囲気、何としても守りませんと。
普通に授業を受けつつ、昼休み等にはクラスメイトの方々と会話。
その際に、直通列車が急なトラブルの為に夕方まで運休になるらしい、との情報を流していきます。他の生徒の皆さんにも伝えて貰うようお願いもしつつ。
放課後、夕刻が近くなってきたらプラットフォームに向かい、校門辺りに「点検中につき運休」という旨を記したデア・トレフプンクトを立てて、可能な限りの人払いを試みつつ敵を待とうかと。
『運命の糸症候群』。
それは世界結界がオブリビオン化し復活したことにより発現した症状である。
以前から全盛期の姿のまま本来の年齢が噛み合わぬ『銀誓館学園』の校長といった存在がいたこともあったが、近年では同じ症状を発症する能力者が続々と現れているのだという。
ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)もまたその一人であった。
復活した世界結界によって能力者の力が減退した今、全盛期の姿となった彼女は改めて学園に再入学を果たしている。
だからこそ、彼女はいつもどおりの生活を送っているだけにすぎない。
けれど、どこか彼女は懐かしさを感じている。
「……世界は代わりましたが、学園のっ空気は変わらないですね」
彼女は過ぎ去った青春を思い返す。
死と隣り合わせの青春。
言葉にすれば、それだけのことである。死が常に横たわる戦い。それを悔いたことはなかったかもしれない。
どんなときでも自分たちの選択をもって道を切り拓いて生きてきた。
その結果が今である。
この平穏を、せめて後輩でもあり同時に同級生でもある能力者の学生たちの送る青春は護りたいと彼女は思うのである。
「この雰囲気、なんとしても守りませんと」
教室の中に満ちる空気。
穏やかな日常。時に戦いの場へと変わることもあるだろう。今回予知された『妖獣化オブリビオン』は能力者を狙ってる。
その標的となるのが中等部の学生である『銀鈴・花』である。
自分にとっては後輩になる能力者だ。彼女や、それに類する能力者を護ることが己の使命。
「そういえば、直通列車が急なトラブルで夕方まで運休になるらしいですね」
ニーニアルーフは、クラスメイトたちと昼食を囲みながら、困ったように告げる。
「えー!? そうなの? 困ったなぁ……今日バイトあるのに」
「下校時間までには解消されないのかな?」
クラスメイトたちが一斉に今知ったというようにニーニアルーフに詰め寄る。
それもそのはずである。
それはニーニアルーフの嘘である。けれど、これもまた必要なことなのだ。『妖獣化オブリビオン』は夕刻のプラットフォームと学園の校門の間に現れる。
そこに能力者がいれば、構わず斬りかかるだろう。そうなれば、大量殺戮のきっかけとなって犠牲者が増えてしまう。
「そのようですね。他にも知らない方がいらっしゃると思いますので、他のみんさんにも教えてあげてくださいね。私もSNSで発信していますから」
ニーニアルーフはにこやかにほほえみながら、情報を伝播させていく。
嘘を付くことに心苦しさはあれど、それでも彼らを護るためである。ニーニアルーフは昼食を終え、午後の授業を終えた後、急ぎプラットフォームへと走る。
目的は己の手にした想集標『デア・トレフプンクト』に『点検中につき運休』と張り紙をして立て掛け、人払いを行う。
「後は……『妖獣化オブリビオン』の出現を待つのみですね」
ニーニアルーフは夕暮れに沈んでいく通学路を見つめる。
何度も通った道。
青春の日々も、今も。
変わらずある道。懐かしさが襲ってくるだろう。けれど、それは今すべきことではない。
「護ること。今も昔も変わらない。成すべきことは変わらない。ゴーストが人を襲うから、護るように」
今は後輩たちをオブリビオンから護るために戦う。
どれだけの月日が流れたとしても、以前己は戦う者である。その力があることにニーニアルーフは如何なる思いがあっただろう。
躊躇いはない。
その視線の先に現れる『妖獣化オブリビオン』たちの姿を認め、彼女は颯爽と戦場となった道へと駆け出すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
文月・悠
おー銀誓館学園、直殴りですかー
まあ、意外と防御機構ないですからねー
それにしても、ふふふ、この歳で制服を着ることになるなんて……
って着れるかー(すぱーんと地面に叩きつけ)
OGが着たらただのコスプレでしょ?!
こほん
まあ母校見学といきましょう
のんびりまったり校舎を見て歩きつつ
見知った顔は…いなさそうですかね?
この後の襲撃に関していえば…
そうですね
敵の襲撃視点とは逆側でちょっと
怪奇現象でも起こしてみますか
野次馬からでしょうし
【黒影剣】で探知不能状態からの
校舎破壊で
後で弁償するのでちょっと派手に壊しましょう
見えない何かが暴れている!
みたいな感じで人が寄ってくれば
あとはこっそり表に回るだけですね
『妖獣化オブリビオン』の蹴撃、その予知を聞いた文月・悠(緋月・f35458)は己の母校の危機に駆けつけることに厭う理由などなかった。
確かに母として育児戦争は大変である。
しかし、それは平穏という日常があってこそ成り立つものだ。だからこそ、この戦いは能力者の後輩たちを護るのと同時に我が子らを護ることにも繋がるのだ。
ならばこそ、悠は躊躇わない。
その手にした嘗ての『銀誓館学園』の高等部制服。
姿見の前であてがってみる。
悪くない。いや、むしろ、まだまだ行けるのではないか? うわきつっ、という者は誰も居ないだろう。
というか、二児の母と見られることもないのではないか?
そんな浮足立った気持ちになってしまうのも無理なからぬことである。
しかも、今回は後輩たちが標的にされている。守らぬ理由はない。
「ふふふ、この歳で制服を着ることになるなんて……」
案外悪くない顔である。むしろ、ちょっとノリノリではないかと思うところまである。だが、一瞬で冷静になる。
上着はオッケー。
だが、スカートはどうだろうか。あのえぐいスリット。そんでもって自分の歳を数える。
「……って着れるかー!」
すぱんと地面に叩きつける。冷静に鳴るとやべーやつである。
いくらOGとは言え、着たら最早ただのコスプレである。コスチュームプレイである。なんで二度言った。
「こほん」
悠は気を取り直して、学園へと向かう。
制服着ないの? と誰かが言った気がしたが、それは無視する。のんびりと嘗ての学び舎を見て回る。
部外者であるから、そう簡単に入れさせてはもらえないだろうが、それでもOGの特権というやつである。
我が子たちも大きくなればこの学園に通うかもうしれない。そうなったら下見をする意味だってあるのだ。
そして同時に『妖獣化オブリビオン』がもしも、この学園を襲うのであれば、能力者の学生たちを学園にいさせるわけにはいかない。
予知されたプラットフォームと校門の間は特に危険である。
ならば、下手に外に出させるわけにはいかない。
特に能力者というものは、危機が迫ると自分たちも対処しようと戦うだろう。それはどうしても避けたいのだ。
「うぅ……後で弁償するにしても、どれだけかかるのか……! ですが、背に腹は代えられないですし!」
どっせい! と悠は夕暮れに沈む校舎、その振るい校舎を前に己のユーベルコードを輝かせる。
旦那様に教えてもらった黒影剣が影のオーラとなって校舎を破壊する。
それはもう派手に。
ちょっとやりすぎたかなーって思わないでもない有様であったが、効果は抜群である。
「えー!? なんで、校舎が!? いきなり壊れたんですけど!?」
学生の一人が驚愕している。
そんな学生の視線を交わして悠はごめんなさいごめんなさいと念仏のように呟きながら、表の校門へと走る。
弁償金額どれくらいになるのかなって薄ら寒い思いをしながら、我が家の家計事情を頭で高速計算しながらひた走る。
「こ、これも後輩たちを護るため!」
悠は自分に言い聞かせながら、無人の校舎が破壊されて学生たちが集まる様子を背に、オブリビオン溢れる校門へと急ぐのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『鉄鼠』
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POW : 大鉄鼠顕現
自身と仲間達の【キャバリア肉体と呪的エネルギー】が合体する。[キャバリア肉体と呪的エネルギー]の大きさは合体数×1倍となり、全員の合計レベルに応じた強化を得る。
SPD : 必殺前歯
レベルm半径内の、自分に気づいていない敵を【鋭く尖った前歯】で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中する。
WIZ : 鼠算
レベル×5体の、小型の戦闘用【鼠型妖獣】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:桜木バンビ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「――! 学園の方で何か騒ぎがあったのでしょうか?」
『銀鈴・花』は直感的にすぐにそう感じているようであった。
放課後の課外授業で校外に出ていた彼女は、学園の方角が騒がしいことに気がついていた。
己の担任である教師が言っていた。
己を狙う『妖獣』がいる、と。
そして、己はそれに敵わないことも。恐らく戦えば殺されてしまうことも。
足が自然と動いていた。
止められていた。戦うべきではないと。逃げろと。
選択肢を二つ与えられていたのだ。無理だと承知でも戦うか。それとも逃げるか。
「私にはそんな選択肢はいらないのです。私の心が思うままに」
そして、それはきっといつかの誰かも同じであったことだろう。
どんな危険であっても、どんな最難が降りかかるのだとしても、決して誰も彼も見捨てずに手を伸ばす。
それが『銀誓館学園』の能力者たちであった。
その血脈は彼女にも受け継がれている。
彼女は躊躇わず駆け出す。
オブリビオンの群れ、『鉄鼠』溢れる学園校門へと。
『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』に当てられたオブリビオンである『鉄鼠』たちがプラットフォームと学園を繋ぐ道に溢れかえっていた。
彼らは皆、『人斬り与吉』に当てられたオブリビオンであり、彼の意志を反映するかのように、その鉄の体を駆動させ膨大な群れとなって疾駆している。
あまりに数が多い。
けれど、討ち漏らせば、どこから犠牲者が出るかわからない状況である。
状況は最悪を免れている。けれど、油断はできない。
猟兵たちは疾くこれらを排除し、『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』を排除しなければならないのだ――。
ファランス・ゲヘナ
【心境】
「ふう友達はボール…じゃない。ボールは友達とはよく言ったものだゼ。」
弱体化しているとはいえ一つの世界を救った能力者たちダ。部活を通じての彼等の心意気…色々参考になったゼ。
しかし、今度は鼠カ…どこの世界でも鼠は厄介だナ。
【行動】
これ以上は進ませないゼ。妖獣もオブビリオンも能力者にては出させなイ。
さて数には数で対抗ダ
襲撃者を発動させて『集団戦術』ダ。
ある個体は攻撃を『オーラ防御』で防ぎつつ迷刀悪切りで切り裂きつつ『生命力吸収』。
別の個体はバス停を『怪力』で振りかぶってぶん殴リ、別の個体は戦士の銃の『クイックドロウ』の早撃ちで撃ち抜いてるゼ。
集団のオレ達の『蹂躙』劇でヒャッハー。
青春の一コマは、宇宙海賊に一時の安らぎと清涼感を与えたものであったのかもしれない。
『銀誓館学園』の学生たちと興じたサッカーは、ファランス・ゲヘナ( ・f03011)にとっても、学生たちにとっても得難い経験であった。
彼らと共に過ごした僅かな時間。
それは確かに青春であった。
「ふう友達はボール……じゃない。ボールは友達とはよく言ったものだゼ」
ファランスは今、せっかくの良い一コマを台無しにしかけた言葉を吐き出しかけていたが、そこは見ぬふりをしておくことにする。
なにせ、これから行われる戦いは、そんな余裕がないからだ。
夕刻、『銀誓館学園』の校門とプラットフォームを繋ぐ道には、オブリビオンの群れが溢れかえっている。
『鉄鼠』と呼ばれるオブリビオンが群れをなし、その鋼鉄の体でもってあらゆるものに襲いかからんとしているのだ。
彼らの前歯は鋭く、如何に能力者といえど、弱体化している彼らでは防ぎようがないだろう。
しかし、彼らはそんなことを気にもとめないだろう。
どれだけ劣勢であっても、彼らは戦う。
人々の命を守るためならば、己の生命を省みぬ者たちなのだ。
そんな彼らだからこそ、ファランスは救いたいと思う。
部活を通じて彼らの心意気を知ることとなったファランスにとって、それは得難いものであった。
「鼠カ……どこの世界でも鼠は厄介だナ」
ファランスは己の球状のスライムの体をバウンドさせて、群れ成す『鉄鼠』たちの前に降り立つ。
「これ以上は進ませないゼ」
そんな彼の姿を認め、『鉄鼠』たちが蠢く。
無数の眼光がファランスを捉え、彼を敵と認めて襲いかかってくるのだ。
一匹一匹は大したことがないのかも知れない。
けれど、その数が尋常ではないのだ。
「戦いは数だよアニキ」
ファランスの言葉通りであった。数こそが個の力を圧倒するものである。群れを成す者たちは、数という暴力でもって猟兵であるファランスを打倒せんと迫る。
確かにファランス一人では彼らを止めることはできなかっただろう。
そう、一人であったのならば。
「数には数で対抗ダ」
ファランスは宇宙海賊である。
襲撃者(オソウモノ)である彼にとって、数とは己を優位に立たせるものでしかない。己の体は分身していく。
ブラックタールの体が次々と分裂し、己の分身を生み出していくのだ。
それらは絶え間ない集団戦法。
波のように襲いかかる『鉄鼠』たちを次々とバス停を振り回してぶちのめしていくのだ。
「『鉄鼠』――、野球やろーゼ! お前がボール、ナッ!」
さっきまでサッカーに興じていたファランスとは思えないほどのフルスイング。盛大にぶっ飛ばされていく『鉄鼠』を空に向かった早打ちでもって穿つのは、別のファランスであった。
手にした銃が次々と空中で無防備な『鉄鼠』を撃ち貫き、霧消させていく。
一糸乱れぬファランス自身による集団戦法。
それは波のように襲いかかる『鉄鼠』たちを次々と吹き飛ばしては空中で貫く流れ作業のような戦い方であり、同時に蹂躙者としてふさわしい戦いぶりでもあった。
「ヒャッハー。これがオレたちのやり方ダ!」
どれだけの数がいようとも恐れるに値しない。
此処にあるのは、変幻自在にして増殖していく個である。
どれだけ『鉄鼠』たちが数を頼みにし、誇るのだとしても、ファランスという猟兵の前では無意味。
彼の蹂躙劇はまだはじまったばかりである。
夕刻の学道にファランスのテンションぶち上がった声と、『鉄鼠』たちが貫かれ霧消していく音が次々と響き渡っていく――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
雷後だが、のほほん戻る。
さてー、現れましたか。鉄鼠とは…数が多いんですよねぇ。
花殿に近いのは、私になりそうですしー、まあ急いで私も帰りませんと。
【四悪霊・『解』】の範囲内に花殿を入れるように。
花殿は味方ですからねー、実は鉄鼠だけが不運になるんです。
つまりは、花殿に攻撃当たらないわけでー。
しかも生命力吸収してますし、陰海月と霹靂も護衛に回って…なんで震えてるんです?
漆黒風の投擲していきましてー。数、減らしていきましょう。ふふ、気づいてますよー?
ええ、私は猟兵と呼ばれるものですよー。
※
ずっと影にいた陰海月と霹靂、実は『疾き者』が怒ってるところを見たことがなかった。雷怖い!
校外学習で放課後、学園の外に出ていた『銀鈴・花』は走っていた。
学園の方から響く音。
それはオブリビオンが出現したことを示していた。
己を狙うという『妖獣』。
それもただの『妖獣』ではない。『妖獣化オブリビオン』と呼ばれる特殊な存在にして、世界結界がオブリビオン化したことによる復活で生まれた脅威。
何故自分を狙うのかはわからない。けれど、それでも彼女は敵わなくても立ち向かわなければならないと感じていた。
それは嘗て、銀の雨が降る時代に戦った学園の先輩能力者達と同じ思いであったことだろう。
「征かなければ! あの騒ぎの元に誰かの生命が脅かされているというのなら!」
彼女は走る。
けれど、それよりは早く、疾風のごとき素早さで持って走る存在があった。
『銀鈴・花』の視界の端に走り抜けるは、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)その人であった。
『疾き者』――四悪霊の一柱が、即座に対応する。
『鉄鼠』と呼ばれるオブリビオンは群れを成す存在である。
一体一体は確かに今の能力者であっても対応できるかも知れない。けれど、群れをなした数で圧倒されれば、能力者は対応しきれず殺されてしまうだろう。
だからこそ、『疾き者』は『銀鈴・花』が『鉄鼠』と接触する前に動いたのだ。
「さてー、現れましたか……数が多いんですよねぇ……」
それにあの鋼鉄の前歯による刺突の一撃は用意に生命を奪うだろう。
数で圧せられれば、それだけ驚異になる。ならばこそ、『疾き者』は急ぎ学園に戻り、同時に『銀鈴・花』を守らなければならないと判断したのだ。
彼女が学園に戻ることはもう止められない。
ならば、彼女を護ることを有線スべきだと判断したのだろう。
「先生! 此処より先は戦場です。先生は……――」
彼女は見ただろう。
己の姿を。不思議な感覚を彼女は感じていたようであるが、その感覚が確かなものへと変わっていく。
『疾き者』の瞳がユーベルコードに輝き、その四悪霊が封じてきた呪詛が溢れ出し、戦場に満ちていく。
『疾き者』が敵と認識した者すべてに運気、霊気、生命力を奪い不幸を与える。そして、それに応じた幸運を自身に付与するユーベルコード、四悪霊・『解』(シアクリョウ・ホドキ)を解き放ったのだ。
「ええ、わかっていますよ。だからこそ戦うのですー」
学道にあふれかえる『鉄鼠』たちは己達が不幸に見舞われることも知らずに迫ってくるが、それらを防ぐのが『陰海月』と『霹靂』である。
見たこともない使役されるゴーストではない存在。
海月とヒポグリフ。
彼らが『銀鈴・花』を護るようにして壁と成っている。しかし、若干震えているのが気になる。
「クエッ……」
「ぷきゅ……」
「なんで震えてるんです?」
知らぬは『疾き者』だけである。
本気で起こった雷を落とす『疾き者』を見たのが『陰海月』と『霹靂』は初めてであったのだろう。
そのあまりの迫力にビビり倒しているのだ。
放つ棒手裏剣が次々と『鉄鼠』たちを討ち果たしていく。そんな中、『銀鈴・花』がいう。
「もしや……」
彼女は思い至ったのだろう。復活した世界結界。突如として蘇ってきたゴーストたち。それが何を示すのか。
オブリビオンと呼ばれる存在。
それとついになり、討ち果たす存在の名を。
「ええ、私は猟兵と呼ばれるものですよー」
以後お見知りおきを、というように『疾き者』は棒手裏剣を投げ放ち、不幸に見舞われる『鉄鼠』たちを無床させていく。
その戦いぶりは能力者たちと同じであったことを彼女は知るだろう。
「これが、猟兵――生命の埒外にある者たち……!」
嘗ての能力者たちと同じ、誰か為に戦う者たちであることを――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
派手な事して、施設を壊すのはまずいわよね。
視界内に要避難者無し。それなら誤射の心配は要らないか。
「結界術」で鉄鼠の群を囲み、「全力魔法」「範囲攻撃」「破魔」「浄化」「除霊」の落魂陣。
魂魄を滅する「レーザー射撃」を垂れ幕サイズの呪符から「一斉射撃」して、鉄鼠たちを殲滅していくわ。
これなら、施設に当たっても影響はない。
巨大化したって無駄。どうせ鼠の脳味噌程度じゃ、これに耐えるのは無理よ。
「弾幕」レベルの飽和攻撃で、前進も後退も許さないわ。諦めてこのまま討滅されなさい。
破れかぶれで突破してきた相手は、「衝撃波」と「斬撃波」を放つ薙刀でまとめて斬り倒す。
ゴーストだろうがオブリビオンだろうが、所詮鼠ね。
『銀誓館学園』とプラットフォームを繋ぐ学道にあふれかえるオブリビオン『鉄鼠』たち。
彼らの物量は凄まじいものであった。
例え、一体を倒すことができたとしても次々と湧いて出るように現れる『鉄鼠』たちの飽和攻撃は猟兵たちを消耗させていくだろう。
世界結界の復活に寄って弱体化した能力者たちであればなおさらである。
予知された大量殺戮は、多くは斬り殺されていたが、きっと『鉄鼠』たちによって消耗させられていたからという面も少なくはないだろう。
となればこそ、この『鉄鼠』たちを討ち果たすことは急務であった。
猟兵たちが護るべきは能力者の学生たちばかりではない。この『銀誓館学園』の周辺には学生御用達の店や、それに類する家屋が多く存在している。
溢れるオブリビオン『鉄鼠』たちが、そちらに向かうこともまた避けなければならないだろう。
「視界内に要避難者無し」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は学道にあふれかえる『鉄鼠』たちと、学生たちの姿がないことを確認し薙刀を構える。
学生たちをそれとなく避難させていたことが功を奏したのだろう。
今の所学生たちが戦いに参加してくる気配花い。
「これなら誤射の心配は要らないか」
だが、迫りくる『鉄鼠』だけは如何ともし難い。
彼らはどこにその数が潜んでいたのかと思うほどにあちこちから飛び出してくるのだ。
薙刀で薙ぎ払いながら、ゆかりは学道を走る。
逃げるのではない。
彼女が狙いのは『鉄鼠』たちの誘導である。標的である学生たちがいないのであれば、オブリビオンは必ず猟兵を狙う。
滅ぼし、滅ぼされる間柄であるからこそ、できることであった。
「ほら、こっちよ!」
挑発するようにゆかりが『鉄鼠』たちを迎える。一斉に飛びかかる『鉄鼠』にゆかりは笑う。
やはりオブリビオンと言えど、鼠でしかない。
彼女の周囲に張り巡らせた結界が次々と彼らを取り囲んでいく。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。心身支える三魂七魄の悉くを解きほぐし、天上天下へと帰らしめん。疾!」
ゆかりの瞳がユーベルコードに輝き、落魂陣(ラッコンジン)が戦場に敷かれる。戦場に無数に浮かぶ呪符は、魂魄を吹き飛ばす呪詛が籠められたものである。
それは肉体を傷つけず『鉄鼠』の魂魄のみを攻撃するユーベルコード。
放たれる光線が結界内に飛び込み、『鉄鼠』たちの魂魄を吹き飛ばしていく。
「これなら施設に当たっても問題はないでしょう。それに――」
ゆかりは結界の中で『鉄鼠』たちが次々と合体していく姿を見た。
キャバリア肉体である『鉄鼠』たちが徐々に巨大化していく。その威容は5m級戦術兵器にも比肩するほどの巨大さであり、その巨大化した鼠の前歯がゆかりの張り巡らせた結界を突き破るのだ。
「ギィィィィ――!」
金切り声のような鳴き声と共に巨大化した『鉄鼠』がゆかりへと襲いかかる。
周囲に浮かぶ呪符が次々と光線を解き放ち、その魂魄を撃ち抜く。
どれだけ体が巨大に成ったとしても、鼠の頭脳、その魂魄の総量が変わるわけではない。
合体した魂魄そのものもまた呪符より放たれる光線で吹き飛ばされれば、耐えることなどできようはずおないのだ。
「前進も後退も許さないわ。このまま諦めて討滅されなさい」
ゆかりの放つユーベルコードの光線が次々と巨大化した『鉄鼠』に突き立てられ、その内部にある魂魄を吹き飛ばしていく。
崩れるようにして『鉄鼠』の巨大な体が崩れ落ち、ゆかりは息を吐き出す。
「ゴーストだろうがオブリビオンだろうが、所詮鼠ね」
キャバリアの如き巨大を誇る『鉄鼠』の脅威は確かに凄まじいものがあった。
ただ相性が悪かったというだけの話である。
それ以上に『鉄鼠』の数が脅威だ。まだまだゆかりは己の仕事が終わらないことに嘆息しながらも、戦場となった学道を征く。
この道をまた明日、学生の彼らが笑い合って登校できるように。
そのために彼女は、この事件の元凶である『人斬り与吉』の姿を探すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【フィア師匠と】
師匠、あまり動かないで側にいてください、寒いですよ!
不老不死でも病気はするんですから(こそこそ)
決めている師匠の横で、火を焚きつつ、毛布を掛けますね。
え? 師匠あれも食べるんですか?
あー……まぁ、カピバラとかの仲間ではありますし、いけるかな?
いえ、師匠。鍋ネコ、食べ物じゃないですからね?
まさかどこかで食べたりしてないですよね……?
さて、師匠のフリーズ技術で鮮度は最高ですけど、
さすがに鍋は見た目厳しいですし、背負ってくれてる鉄板もありますし、
今日のメニューは鉄鼠餃子にしちゃいましょうか。
見た目モザイクでミンチ作りつつ、
師匠、それ『生命賛歌』でなくて『食物連鎖』じゃないですか……?
フィア・シュヴァルツ
ルクスと
「風邪とな?
くくく、不老不死である我が風邪など引くはずがあるまい!
ほら、美少女は風邪引かないというしな!」
さて、敵は鉄鼠か。
――つまりネズミが鍋背負ってやってきたということだな!
ルクス、今晩はネズミ鍋だな!
「さあ、まずは鮮度が落ちないようにしてくれるわ!」
【極寒地獄】で鍋ネズミどもを凍りつかせていこう。
……鍋ネズミ。言葉にすると、鍋ネコっぽい響きだな。え、そんなことない?
「銀鈴花とか言ったか。お前が歌う生命賛歌とやらを、我は知識でしか知らぬ。
だがな、これだけは覚えておけ。
人間の生命は、食料となる動物の生命の上に成り立っているのだ。
それに対する感謝を忘れるな」(いいこと言った顔
秋口とは言え、すでに冬の支度を始めなければならない頃合いである。
それは四季の存在するシルバーレイン世界の日本、鎌倉であっても変わりのないことであったことだろう。
どれだけオブリビオンの脅威があるのだとしても、人の営みは変わらない。
生命の危機に晒されても自然は我関せずと人に営みを強いる。それが冬の寒さであり、厳しさでもある。
だが、人はそこに楽しさや生き甲斐を見出すことができたからこそ、長らく反映してこれたのかもしれない。
世界が違えど、出自がどうであれ、種族が変わっても、そこだけは共通のものであったのかも知れない。
「師匠、あまり動かないで側にいてください、寒いですよ! 不老不死でも病気はするんですから」
こそこそと師匠であるフィア・シュヴァルツ(腹ペコぺったん番長魔女・f31665)の横で火を炊きつつ毛布をかけて上げるルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)。
いや、まじで何してんの?
何って火を焚いているんですけど、とルクスはきっと答えたであろう。
『銀鈴・花』はどうしていいかわからず、二人組の様子を見守る。いわゆる見に回るというやつである。
「風邪とな? くくく、不老不死である我が風邪など引くはずがあるまい! ほら、美少女は風邪を引かないというしな!」
いや、それは馬鹿は風邪を引かないってやつなのでは。
引いたらフィアは美少女という肩書を喪うが、賢いという肩書は守られる。逆に引かなかった美少女だけでおバカさん……。
どっちを選ぶべきであろうかと悩む程度には。
そんなことを考えている暇はない。今や学道に溢れるオブリビオン『鉄鼠』は膨大な数となっている。
彼らは次々と小型のネズミ型妖獣を生み出し、数を揃えてきている。
『鉄鼠』のキャバリアの体とは違う、ほんとうの意味での妖獣である鼠たちは学道に溢れかえり、動くものすべてを前歯でもって穿たんと疾駆しているのだ。
「さて、敵は『鉄鼠』か――つまりネズミが鍋背負ってきたということだな! ルクス、こんばんはネズミ鍋だな!」
フィアがそう言い放つ。
えぇ……ルクスもそうであったが、見に回っていた『銀鈴・花』もまた同じ表情をしていた。
あれを、食べるの……?
「あー……まあ、カピバラとかの仲間ではありますし、いけるかな?」
行くの!?
ルクスはもうなれたものである。
師匠であるフィアの無茶振りと言う名のゲテモノ食い。そんな師匠についていけるのは、師匠の専属料理人(エヅケ・マスター)であるルクスくらいなものであろう。
「さあ、まずは鮮度が落ちないようにしてくれるわ!」
フィアの瞳が食欲に輝く。
いや、ごめん。ユーベルコードに輝く。そのユーベルコードは氷壁による迷路を作り出し、学道に溢れたネズミ型妖獣たちと『鉄鼠』たちをいっぺんに虜にするのだ。
出口は一つしかなく、そして破壊しようとしても迷路の強度は凄まじい。
走行している間に内部にあるものはすべて凍りついていく。
「これぞ、極寒地獄(コキュートス)。……鍋ネズミ。言葉にすると鍋ネコっぽい響きだな」
いや、そんなことはない。
雲泥の差である。というか、それはなんだか違う気がする。
「いえ、師匠。鍋ネコ、食べ物じゃないですからね?」
まさかどこかで食べたりしてないですよね……? とルクスが半信半疑の視線を向ける。
次々と迷路の中で凍りついていく『鉄鼠』たち。
確かにフィアのフリーズ技術で鮮度は最高かもしれない。だが、見た目的に鍋はキツイ。どう考えてもキツイ。
なので、ルクスは考えた。
「そうだ。背負ってくれてる鉄板もありますし、今日のメニューは鉄鼠餃子にしちゃいましょうか」
そんなルクスの手元は都合によりモザイクがかかっている。
食事時に見るやつではない。
食欲が減退するとか、そんなレベルじゃないあれである。そんなフィアとルクスのやり取りを見ていた『銀鈴・花』は空いた口が塞がらない。
なんて言っていいかわからん。
「『銀鈴・花』とか言ったか。お前が歌う生命賛歌とやらを我は知識でしか知らぬ。だがな、これだけは覚えておけ」
フィアがなんかとてもよい顔で、とてもよい雰囲気を醸し出しながら告げる。
「人間の生命は、食料となる動物の上に成り立っているのだ。それに対する感謝を忘れるな」
びしぃ、と言い放つフィア。
食い意地が張っているだけの気がしないでもない。なんでも口にしてしまおうという気概だけで今までなんとかやってこれた感じなのだが、言葉にすると確かに名言っぽい。
謎の説得力があるのもまた長らく生きてきた証であろうか。
そんな彼女を前に『銀鈴・花』が口を開きかけた所に今回のオチ担当のルクスが口を開く。
「師匠、それ『生命賛歌』ではなくて、『食物連鎖』じゃないですか……?」
いい感じの空気が一気に破壊された瞬間であった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
愛久山・清綱
銀誓館学園。此れも、あの夢に現れた光景だ。
『銀の雨』の影響が少なかった鎌倉に開かれた、
能力者を養成するための学園。
■闘
よく見ると、合体して巨大化している鼠達がいる。
だが、その方がかえってやりやすいやもしれん。
【野生の勘】で此方に向かおうとする鼠を事前に察知し、
其奴の動きを【見切り】つつ距離を取り、【衝撃波】を
放ち、吹き飛ばす。
「これでは仕留められない」と思わせ、巨大化を誘う作戦だ。
鼠達の何体かが巨大化したら、此方も攻撃の構えを取る。
巨大鼠を目視で捉え、【早業】の抜刀から「距離」の概念を
無視した【無刃・渾】による【範囲攻撃】を仕掛け、其の
巨体を真っ二つに【切断】するのだ!
※アドリブ歓迎・不採用可
夢を見た。
幾度かみた夢。
誰に説明しようもない夢であったことを愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は知っている。
『銀誓館学園』。
その名前を知っている。夢に見た光景である。初めて訪れた場所でありながら、既視感を覚える場所。
そして、その場所を知識として己は知っているのである。
シルバーレイン。銀の雨降る世界にあって、『銀の雨』の影響が少なかった鎌倉に開かれた能力者を養成するために学園。
「これがあの夢の光景」
清綱にとって、それは既視感だけが支配する光景であったことだろう。
何度と無く見た夢。
されど、己の手に実感は無い。学園とプラットフォームを繋ぐ学道にあふれかえるオブリビオン『鉄鼠』の姿を清綱は認め、猛禽の翼を広げて急降下し駆けつける。
手にした刀による斬撃波の一撃が『鉄鼠』たちを吹き飛ばす。
猟兵達によって標的と成った学生たちの避難は完了している。
ここに万が一の危険もない。けれど、彼の瞳に映ったのは『銀誓館学園』の中等部の制服であった。
『銀鈴・花』。
学園の能力者の一人である。彼女がこの場にいるということ事態がおかしなことであり、同時に必然であったのかも知れない。
「――何故、学生が此処に居るのだ」
「私も戦えます。先生は、私では敵わないと、死ぬだけだと言われましたが!」
『銀鈴・花』が叫ぶ。
彼女は能力者である。そう、『銀誓館学園』の能力者はいつだってそうだったのだ。
どれだけ自分たちよりも強大な存在であろうとも。
すぐそこに死が横たわっているのだとしても、それでも戦い続け、戦えぬ者たちのためにこそ戦い、力を発揮してきた。
その血脈が彼女には流れている。
「然らば」
清綱は刀より放たれる斬撃波でもって『鉄鼠』たちを吹き飛ばしながら、『銀鈴・花』を護るように手で制する。
「その意気や良し。だが――」
清綱の瞳がユーベルコードに輝く。
彼の瞳が見ているのは、『鉄鼠』たちが己の肉体を合体させ、巨大化していく光景であった。
己の放った斬撃にふきとばされる『鉄鼠』たちが、小さな体では己を仕留められぬと悟り合体していく。
キャバリア――他世界の戦術兵器の如き巨躯へと変貌していく『鉄鼠』の姿。それは確かに威容そのものであったことだろう。
けれど、清綱には勝算があった。
いや、むしろ、その方がやりやすいとさえ思ったのだ。
「いくさ場に道理の二字は無し……奥義、無刃」
煌めくは、無刃・渾(ムジン)。
解き放たれる輝きによって放たれるは、居合抜刀の一閃。
その所作を『銀鈴・花』は見た。
原理や概念すらも断つ刃の一閃。それは巨大な『鉄鼠』すらも一撃のもとに両断せしめる。
その中に内包されている魂さも切り裂く一撃は、『鉄鼠』たちを次々と霧消させていく。
オブリビオン。
過去の化身。銀の雨降る世界にありて、過去より蘇りしゴーストたち。
世界結界の復活に寄って能力が減退した能力者では倒せない。そんなオブリビオンと対を無し、滅ぼす存在。
それが猟兵であるのだと知るのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
文月・悠
また懐かしい妖獣が復活しましたねー
それではいきましょう(イグニッションカードを指の間に挟んで胸の前に構えつつ)
『起動(イグニッション)!!』
うん、やっぱりこうじゃないと!
範囲ユーベルコードがまだ整ってないので
手を動かすとしましょうか
【スピードスケッチ奥義】で猫大量作成
小学生が描いたような『ねこ……?』って感じのねこでいきます
いえ、単に数が欲しいので手を抜いているだけですよ、うふふ
ねこ軍団を作ったら鉄鼠に突撃!
ところで鉄鼠の必殺前歯って近寄ってこないと無理ですよね?
よし全周囲に解き放ちます
体当たりで一気に倒しちゃってくださいねー
食べる……ことは無いと思いますが
ぺいってしましょうねーぺいって
「また懐かしい妖獣が復活しましたねー」
懐かしさを感じるのは、それが過ぎ去りし青春の日々に見たものであるから。
決して好ましい想い出ではない『鉄鼠』たち。
けれど、やはり懐かしさを感じてしまうのが、文月・悠(緋月・f35458)であった。元能力者であり、『銀誓館学園』のOGである彼女。
彼女の指にあるのは『イグニッションカード』。胸の前に構えるのは、慣れたものである。
シルバーレイン世界に生きた能力者であれば、それは戦いの合図である。
「『起動(イグニッション)』――!!」
瞬時にイグニッションカードの中に納められていた武装や装備が展開し、悠の手の中にある。
それは懐かしさを感じるものであったし、未だ彼女が戦う者として現役であることを示していたことだろう。
「うん、やっぱりこうじゃないと!」
しかし、そんな懐かしさを噛みしめる時間すらオブリビオンは許してはくれない。
『銀誓館学園』とプラットフォームを繋ぐ学道に溢れる『鉄鼠』たちを見据え、悠は己のユーベルコードが未だ整っていないことを知る。
これだけの数。
歴戦の能力者であったとしても、数で圧倒されれば確かに殺されてしまうだろう。
世界結界によって減退したのならばなおさらである。
しかし、悠は昔とった杵柄ならぬ、ペンを走らせる。
その瞳はユーベルコードに輝き、スピードスケッチ奥義(スピードスケッチオウギ)のちからを発露させる。
空中に素早く描かれたネコ。
ネコ……だよね? となるくらい不安な絵面のデフォルメされたキャラクターたちがあふれかえる。
言うなれば、小学生が描いたような『ねこ……?』と思わず疑問符を付けたくなるような出来栄えである。
本当にコミックマスターなのだろうかと疑いそうになるが悠をして言わしめれば、これほど雑に描いていないと、数で『鉄鼠』たちに圧倒されるからだ。
「うふふ……出来栄えはともかく! 数で対抗するには走り書きが1番! というわけで、いっけー!」
雑に描かれているとは言え、数は数である。
己が信じるデフォルメキャラクターたちの力は十分だ。ネコ軍団を生み出し、途中で悠は思い至ったのだ。
ネコ軍団を作り上げるのならば、集団のネコをこう、一筆でささーっと書けばいいのでは? と。
正直に一体一体描いているから間に合わぬのだ。
世の中には便利な言葉がある。
「そう、コピー・アンド・ペースト!」
生み出されるネコ軍団たちが、にゃーにゃー鳴きながらスケッチブックから飛び出していく。
「ところで『鉄鼠』の必殺前歯って近寄ってこないと無理ですよね? なら、体当たりで一気に倒しちゃってくださいねー!」
鼠にはネコ。
これは古来からの様式美である。古事記にも書いてある。しらんけど。
鉄の体を持つ『鉄鼠』と言えど、デフォルメされて描かれた悠のネコたちの前には成すすべもないだろう。
だって、普通のネコではないのだ。
思わず疑問符を付けたく鳴るようなネコたちが、そのデフォルメされているがゆえのでたらめな機動でもって『鉄鼠』たちを追い詰め、その体に牙を突き立て、こきゃって嫌なおとを立てて砕いていくのだ。
「食べるのはやめましょうねー、ぺいってしましょうねーぺいって」
悠の言葉に砕いた『鉄鼠』たちをぺいってしてしまうネコたち。
そのデタラメさを具現化したようなデフォルメネコ……? たちは『鉄鼠』たちを蹂躙し、学道を一掃していくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
来ましたか・・・鉄のネズミとは厄介ですね
しかもあれほどの大群とは
全滅させるには少々骨が折れそう・・・っ!
約一名ほどの大きさのリズムが大群に向かっている!?
まずい!その方が接敵する前に早急にネズミたちを滅ぼさなくては・・・!
(肩幅ほどに足を開き、深く息を吐きながら全身の力を抜いた後{霹靂の旋律}で『ダンス』を始める)
急いでいる時こそ冷静に
ダンスを楽しむ心の余裕の持つこと
これが大事です
(そう自分に言い聞かせるように呟き、UC【蠱の宴】を発動した後、『衝撃波』を推進力にして敵の大群に突っ込み、{霹靂の旋律}で生み出した雷を纏わせた『斬撃波』を蹴りと共に放つ)
ネズミたちには楽しむ心が無かったようですね
学道に溢れかえるオブリビオン『鉄鼠』たちの群れは凄まじいものがあった。
その数はもとより、その強靭な前歯は鋼鉄であっても噛み砕くことだろう。それほどに蘇ったゴーストたちは力を世界結界によって減退させられた能力者たちにとって脅威であった。
何故『銀誓館学園』の能力者を襲うのか。
その理由は定かではない。
けれど、戦う理由には十二分にある。それが猟兵というものであり、かつて世界を救った能力者たちとも共通することであった。
「来ましたか……鉄の鼠とは厄介ですね」
しかもあれほどの大群である。
一体一体は能力者であっても仕留めることができるだろう。
けれど、あれだけの溢れるような数ともなれば話は別である。数で圧倒され、手数で負け、次第に鋼鉄すら噛み砕く前歯に寄って消耗させられていく。
そうなっては、どんな敵も敗北を喫するだろう。
だが、此処にあるのは、猟兵である。
播州・クロリア(踊る蟲・f23522)はたしかに己が此処にあるという意識を持っている。
「あれを全滅させるには少々骨が折れそう……―――ッ!」
クロリアは気がついた。
これだけの敵を如何にして滅ぼそうかと考えていた最中、一人分の大きさのリズム――即ち、猟兵以外の何者かが『鉄鼠』の群れへと向かっていると気がついたのだ。
「まずい! あれは――!」
そこにあったのは『銀誓館学園』中等部の制服に身を包んだ『銀鈴・花』の姿であった。
彼女では『鉄鼠』に、オブリビオンに敵わない。
それは彼女自身も理解していることだろう。けれど、それでも彼女は駆け出していた。きっと、誰かのために生命を懸けることなど当たり前のことであったのだろう。
ならばこそ、クロリアは肩幅に足を開き、深く息を吐きながら、己の肉体の力を抜いていく。
急がなければならない。
彼女を死なせてはならないという思いが、黒リアの中に満ちていく。
足を踏み出す。
それは瞬く間に広がる雷光となって戦場に走る轟音。雷光の後に訪れる轟音が、刹那と畏怖のリズムでもって刻まれていく。
「霹靂の旋律――急いでいる時こそ冷静に。ダンスを楽しむ心の余裕を持つこと。これが大事です」
クロリアは自身に言い聞かせる。
急がば回れ。急く心を制し、己の成すべきことを成す。それが彼女に課せられた使命であろう。
ならばこそ、彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
蠱の宴(コノウタゲ)は彼女が生み出された旋律に満ちていく。『鉄鼠』たちは己の旋律を、ダンスを楽しむ心を解さないだろう。
クロリアの踏み出す足が凄まじい轟音を響かせ、光速の如き速さで持って『銀鈴・花』に襲いかからんとする『鉄鼠』たちとの間に割って入る。
それは弾丸のようであり、同時に砲弾のようでもあった。
己の身にまとう雷光。
その旋律が生み出す雷まとわせた蹴撃の一撃が『鉄鼠』の大群を一撃のもとに吹き飛ばすのだ。
「――ッ、えええっ!?」
『銀鈴・花』が思わずうめいていた。
目の前に迫っていた津波のごとき『鉄鼠』の群れが一瞬で吹き飛び、その姿を無償させたのだ。
「鼠たちには楽しむ心が無かったようですね」
雷鳴のように轟く轟音は己の背後から聞こえてくる。
だというのに、閃光のように走るクロリアの蹴撃は目の前で『鉄鼠』たちを蹴り飛ばしていくのだ。
圧倒するクロリアのダンスを前に『銀鈴・花』は猟兵という存在、生命の埒外にある者のちからを見ただろう――。
大成功
🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
敵うかどうか、試みもせず逃げるなどできようも無し…
そうでしたね、それが私達、学園の能力者なのでした。
ならば私は。その命を散らすこと無きよう、お助けするのみ…です。
土蜘蛛の檻を展開、敵の力を奪い挙動を抑えた上で、【蟲使い】にて白燐蟲を【誘導弾】として撃ち込み攻撃していきます。そのまま体内を喰い荒らす【継続ダメージ】を与える形にすれば、合体されてもダメージを与え続けられるでしょうか。
特に花さんに迫っている敵を優先的に。
私については、多少の傷は【激痛耐性】で耐えられますので、花さんの危機が迫ってない時に対応します。
花さんを巻き込む心配の無い状況であれば、【衝撃波】で纏めて吹き飛ばすのも試みましょう。
学道に溢れかえる『鉄鼠』の群れを蹴散らしていく猟兵たちの姿は圧倒的であったことだろう。
嘗て世界を救った能力者たちもまた、きっとこのように戦っていたのだと、先達の戦いの記憶に思いを馳せるのは今を生きる『銀鈴・花』であった。
彼女の目の前で霧消していくオブリビオン『鉄鼠』たち。
だが、それでも数は衰えない。
数は減ってきてはいるが、未だ脅威は拭えていない。
「ならば、私も戦いましょう」
だが、そんな彼女を制する手があった。
足手まといだとか、力が足りないからだとか、そんなことは関係ないのだとニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)は頭を振った。
「敵うかどうか、試みもせず逃げるなどできゆもなし……そうでしたね、それが私達、学園の能力者なのでした」
運命の糸症候群によって若返ってしまったニーニアルーフにとって、肉体は全盛期のものであれど、その心は成長していた。
成長したことによって忘れかけていた思いもあったのだと、彼女は今『銀鈴・花』の戦う姿勢を見て思い出したのだ。
己は今、能力者でありながら猟兵でもある。
戦う力があるのだ。
目の前の『銀鈴・花』はそうではない。ならばこそ、彼女は決意を新たにするのだ。
「ならば私は。その生命を散らす事なきよう、お助けするのみ……です」
迫りくる津波の如き『鉄鼠』たちの群れ。
それは膨大な数でもって次々と合体し、5m級の戦術兵器の如き威容となってニーニアルーフと『銀鈴・花』を襲うだろう。
だが、ニーニアルーフの瞳に輝くのはユーベルコードである。
放たれるのは蜘蛛の巣。
土蜘蛛の檻と呼ばれるユーベルコードによる糸は、迫りくる『鉄鼠』たちを捉え、その腕力を吸収していく。
「どれだけ巨体となっても、その腕力を奪えば、挙動を抑えることなど用意。さあ、行きなさい」
ニーニアルーフの体から這い上がるようにして白燐蟲たちが弾丸となって『鉄鼠』たちに放たれていく。
どれだけ鋼鉄の肉体を持っているのだとしても、放たれた白燐蟲たちはあらゆるものを噛み砕いて内部へと侵入していく。
次々と『鉄鼠』たちの内部で食い荒らす白燐蟲たちの群れ。
「貴方を巻き込むことを私達は良しとはしません……貴方の気概。それは確かに私達『銀誓館学園』の信念。その血脈を受け継いだ者としてふさわしいのでしょう」
ですが、とニーニアルーフは『銀鈴・花』に諭すのだ。
蛮勇と勇気を履き違えてはならないのだと。
覚悟と自棄を一緒くたにしてはならないのだと。
あの死と隣り合わせの青春の日々を送ったニーニアルーフだからこそ告げる言葉がある。
「貴方の帰りを待つ人がいるはず。だからこそ、貴方は生きなければならないのです。オブリビオンは私達が。貴方は私達ができぬことをしてください」
生きて、自分の顔を見せることができるのは、『銀鈴・花』にしかできぬことなのだとニーニアルーフは告げる。
「――……わかりました」
ニーニアルーフは微笑む。
土蜘蛛の檻に囚われた『鉄鼠』たちを食い破り、無償させて言う白燐蟲たち。
それらを手繰るニーニアルーフは学道の奥より迫る重圧を感じただろう。
あの先に居る者こそ、このオブリビオンたちを先導し、『銀誓館学園』を襲撃し、大量殺戮を引き起こす予知の元凶。
一筋縄では行かぬことをニーニアルーフは確信しただろう。
狙いは『銀鈴・花』。
守らねばならない。必ず。その思いを胸にニーニアルーフは、『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』と対峙するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『人斬り与吉』
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POW : 斬らせい
自身と武装を【触れた存在を切断する剣気】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[触れた存在を切断する剣気]に触れた敵からは【剣に対する防御力】を奪う。
SPD : 斬らせい
レベルm半径内に【範囲内を埋め尽くす不可視の斬撃】を放ち、命中した敵から【移動力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 斬らせい
【止まることなく放たれ続ける斬撃】が命中した対象を切断する。
イラスト:Re;9
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ベリル・モルガナイト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「斬らせい。邪魔立てするのならば、其の方も斬る」
それは短い言葉であり、警告の言葉であったことだろう。
オブリビオン『鉄鼠』たちを退けた猟兵たちの前に現れたのは、異様なる空気を纏う陣笠をかぶった時代錯誤の如き姿をした剣客の姿であった。
それを『人斬り与吉』と呼ぶ。
そう呼ばれている理由など、終ぞわからぬことであろう。
手にする妖刀『銀の五月雨』の刀身が怪しくきらめいている。
「斬らせい。我が一生は人斬りに捧げたもの。ならばこそ、我が剣は常に血を欲するものなれば」
一歩を踏み出す度に重圧が跳ね上がっていく。
『人斬り与吉』の言葉には傲慢さも、おごりもなかった。
あったのは、目の前の存在を斬るというただ一念。
それが猟兵達に重圧となってのしかかるのだ。
「斬らせい。あまねくすべての生命を斬って、私は世界すら切断せしめる力を得る……即ち此れ世界を殺すこと成り。この世界の有様は間違っていると斬ることによって証明する者成り」
凄まじい剣気が解き放たれ、夕刻から闇の帳が落ちる頃、ここに死闘の幕が上がるのであった――。
馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
斬ることに執念持ち、だからこそ厄介な手合いになってますねー。
陰海月と霹靂は一時的に退避を。
さてさてー、結界をクモの巣状に展開しましてー。引っ掛かればそこにいることはわかるのですよー。
ええ、誰も犠牲にはさせませんとも。早業で指定UC(攻撃力強化)発動。
そう、花殿を庇うように。斬られてもよいのですよ…ここに『馬県義透』を認識するものがおり、四悪霊は乱れずあるが故に。
瞬時に再構築しますから…ええ、そこですね。
風属性攻撃をつけた漆黒風を投擲+四天霊障による押し潰しを。
漆黒風は斬れましょうが…四天霊障は斬られてもそのまま暴走しますのでね?制御外れたんです、当たり前でしょう?
『人斬り与吉』、そのゴーストとしての性質が受け継がれているのかどうかはわからない。
過去の化身オブリビオンへと変貌し蘇った彼にあるのは『斬る』という一念のみ。
その身に宿る業は如何なるものであるのか。
それを知る術はない。
唯一確かなことがある。『人斬り与吉』を放置すれば、あらゆる生命は両断せしめられ、断絶するであろうと。
手にした妖刀『銀の五月雨』が怪しく煌めく。
「斬らせい。我が宿業より逃れる術などない。あらゆるものを両断するという結果のみが残るがゆえに」
凄まじい重圧を感じながらも、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)、その一柱である『疾き者』は退くことはなかった。
己に従う『陰海月』と『霹靂』を下がらせ、己の身にまとう結界を蜘蛛の巣のように展開し、戦場に張り巡らせていく。
どれだけ『人斬り与吉』の剣気が凄まじいものであったのだとしても、それに触れればわかる。
視覚、聴覚、嗅覚に感づかせぬほどの剣気。
凄まじく練り上げられた闘気と言ってもいい絶技を持つ『人斬り与吉』にとって、それは容易いことであったことだろう。
唯一、触覚を除いては。
しかし、それは意味のないことであった。
触れた瞬間に切断せしめる絶技であればこそ、斬ったと思った瞬間にこそ、その結果は起こっているのだから。
「斬ることに執念を持ち、だからこそ厄介な手合になっていますねー。ですが」
ぶつりと斬られる結界。
『人斬り与吉』が一歩を踏み出した瞬間、結界が両断される。
あらゆるものを切断せしめる力は、結界すらも切り裂くのだ。
「斬らせい。我が太刀筋の前に立つ者などあってはならぬ」
剣閃が閃く度に蜘蛛の巣のように張り巡らされた結界が斬れていく。
だが、『疾き者』は誰も犠牲にはさせるつもりはなかった。
其の瞳に輝くは、四悪霊・『戒』(シアクリョウ・イマシメ)。
結界が斬られ、ほどかれる度に彼らを束ねる呪詛が膨れ上がっていく。
「斬らせい」
「ええ、斬られてもよいのですよ」
『疾き者』が『銀鈴・花』を庇うようにして斬撃を受け、その身を両断される。だが、瞬時に『馬県・義透』という認識補助術式が、一瞬で『疾き者』の体を再構成していく。
生み出し封じてきた呪詛がその体を教科していくのだ。
「先生……!」
『銀鈴・花』の声が聞こえる。『疾き者』にとっては、それだけでよかったのだ。己を己として認識するものが居る。
ただそれだけで悪霊である己たちは瞬時に姿を取り戻す。
どれだけ結界がほつれようとも、己たちを認識する者がいるかぎり、どれだけ傷つけられても意味はない。
「斬らせい」
放たれる剣閃。
それも無意味である。
どれほどの絶技であったとしても、彼が斬ることができるのは四悪霊を束ねる結界のみ。存在、その認識そのものを未だ斬るには至らぬ存在であるからこそ、通じる戦法であった。
「ええ、そこですね」
放たれるは悪霊の呪詛と棒手裏剣。
その一閃すらも『人斬り与吉』は弾くように切り捨てる。攻撃が無意味なのはあちらも同じであった。
けれど、異なるものがある。
霊障は斬られることによって制御を外れ暴走する。霊障とは即ち、彼らの呪詛の源である。
オブリビオン憎しと叫ぶ呪詛である。
己たちから故郷を、生命を奪った者に対する呪詛は消えることはない。
尽きることのない呪詛こそが今度こそ津波のように『人斬り与吉』を押し込んでいく。
「四悪霊は滅びず」
斬れども、斬れども。
決して滅びない呪詛と共に『疾き者』は、今を生きる者を護るためにこそ、その溜め込まれた呪詛を開放し、『銀鈴・花』から『人斬り与吉』を引き離すように濁流のごとき姿となって押しつぶすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ファランス・ゲヘナ
【心境】
「ウン、あえて言おウ。お前生れてくる世界か時代を間違ってるゾ。」
もうこの世界に貴様が斬っていい存在はどこにもいなイ。遅刻だなオブビリオン!!
【行動】
斬っていいのは斬られる覚悟があるモノだけダ。
なんでオレが貴様を切ってやル。
『肉体改造』で近接戦闘に適した最終形態に変化スル。
迷刀悪切りとバス停の二刀流を取り出しこれで相手してやル。
斬り合いがしたいんダロ?
『怪力』でバス停を持ち上げるト、天宙之王で厄介そうな剣気を逆に切り裂ク。
バス停でも達人なら切り裂けるのサ(ぇ)
バス停で斬りすてた剣気の隙に悪切りで斬りかかリ、斬ると同時に『生命力吸収』
『オーラ防御』で敵の斬撃を防ぎつつこのまま押し切ル。
妖刀『銀の五月雨』が怪しく煌き、その刀身を包み込む剣気が膨れ上がっていく。
呪詛に塗れた体を振り払い『人斬り与吉』は己の中にある一念のみを成就せんと、己の力を持って世界に示すのだ。
「斬らせい」
ただ、その一言。
ただ、斬る。
ただ、それだけのために流れる血潮など考えることもないのだろう。己の欲望のままに、衝動のままに振る舞う。
そこに理知はなく。
あるのはただの殺戮衝動のみ。それが『妖獣化オブリビオン』という存在の成れ果なのだろう。
「ウン、あえて言おウ。お前生まれてくる世界化時代を間違ってるゾ」
ファランス・ゲヘナ( ・f03011)は、ブラックタールの体、その球状のスライムが如き体を跳ねさせ、身を晒す。
瞬間、その体を襲うのはあらゆるものを切断する剣気であった。
振るった妖刀の斬撃波が離れたファランスにまで到達するのだ。それを躱し、跳ねるようにしてファランスは飛び上がる。
斬っていいのは斬られる覚悟があるものだけだとファランスは言う。
斬られる覚悟があっても、斬られてやる理由など何処にもないのだ。彼のスライムのような体が肉体改造に寄って人の姿へと変わっていく。
近接戦闘に適した最終形態。
バス停と同じく妖刀にして迷刀悪切りを手に、大地を跳ねるようにして放たれる剣気を躱しながら『人斬り与吉』へと迫るのだ。
「斬らせい。我が理は世界すらも切り裂く刃となるのだ」
視覚、嗅覚、聴覚。
そのいずれにも知覚させぬ剣気の斬撃はファランスを襲う。しかし、ファランスの瞳に輝くはユーベルコード。
天宙之王(アルコル)たるファランスにとって、それは容易いことであったことだろう。
『人斬り与吉』が放つ剣気がユーベルコードであるのならば、暗黒物質を籠めたバス停の一撃がユーベルコードを切り裂く。
目に見えぬ剣気。
躱すのは至難の業であり、躱せず受け止めたと在っては、あらゆるものを切断せしめる。其の凄まじき剣気を暗黒物質が切り裂くのだ。
「切り合いがしたいんダロ? なら、相手になってやるヨ――!」
「否。我は斬るのみ。切り合うことなど望まぬ。我が前に立つものすべてを斬る」
剣気を切り裂くバス停の一撃。
バス停でありながら、鈍器でありながら剣気すら凌駕するは暗黒物質の為せる技であろう。
「もうこの世界に貴様が斬っていい存在はどこにもいなイ。遅刻だなオブリビオン!!」
ファランスが迫る。
バス停が斬り捨てた剣気の隙に迷刀悪切りで切り込んでいく。
その斬撃は一閃であらゆる生命を吸収していく。それが悪人のものであれば、なおのことである。
迷刀悪切り。
それはファランスがサムライエンパイアで手に入れた妖刀の一振り。
悪人を斬ることを望み、そのためにこそ力を振るうもの。ならば、『人斬り与吉』は世界に害なす悪人そのものであろう。
「バス停でも達人なら切り裂けるのサ」
再び放たれる剣気をバス停が次々と切り裂いては、無効化していく。
乱舞する剣気と暗黒物質の激突。
そこに巻き起こるのは余人の介入を許さぬ凄まじき戦いであったことだろう。
「押し込ム――!」
バス停の一撃が剣気を吹き飛ばし、迷刀悪切りの一閃が袈裟懸けに『人斬り与吉』の体へと刻まれる。
「またツマラヌものを切ってしまっタ」
刻まれた傷口から生命力を吸い上げ、ファランスは笑う。
どれだけ凄まじき剣気であったとしても、それを食い物にする力があることを知らなければならない。
彼の言葉通り、『人斬り与吉』は誰一人斬ることを許されぬまま、霧消する運命なのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
斬らせはしません、誰一人。
私が、此処にある限り。
白燐奏甲にて防御力を高め、放たれる斬撃に耐えます。
尤も、彼の刃はその上からでもこの身体を斬り裂き得る代物。【リミッター解除】し蟲達に私の力を分け与え、纏う蟲を前面に集中させることで耐えていきます。
伴う痛みは【激痛耐性】で堪え、切断に至らなければ良しとします。
反撃の好機は必ず訪れます、蟲達が持つ敵に不幸齎す力によって。
手元の狂いか、踏み込みのズレか。その瞬間に、纏っていた蟲達を一斉に敵へ向けて放ち、敵へ喰いつかせます。
そのまま敵の体内へと潜り込ませ、内側から喰い荒らす【継続ダメージ】を与えていければと。
人を斬る。
ただその一念のみにおいて世界すらも両断せしめようとする怨念の如き存在。
それが『人斬り与吉』である。
身に宿した衝動は御することのできないものである。
『妖獣化オブリビオン』となって蘇った『人斬り与吉』はあらゆるものを斬る。ただ、その執着が向く先にあるのが能力者に切り替わっただけの話である。
能力者すべてを斬り捨てた後、彼の剣先が向かうのは世界そのもの。
それこそが世界を滅ぼす過去の化身、オブリビオンとしてのあり方であった。
「斬らせい」
ただ一言。
己の身を猟兵の斬撃に寄って斬られても尚、その一念は途絶えることはなかった。
『人斬り与吉』は見る。
己の標的たる能力者『銀鈴・花』の姿を。何故斬らねばならぬのかという理由など明確なものは、彼の中にはない。
ただ、手にした妖刀『銀の五月雨』の刀身が怪しく煌き、その刃が求めるは血潮だけである。
「斬らせはしません、誰一人」
その言葉は、ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)のものであった。
例え、目の前の『妖獣化オブリビオン』がどれだけ強大な存在であったのだとしても。
それでも立ち向かうのが『銀誓館学園』の能力者だ。
己もまた、その能力者であり、猟兵でもある。戦える力を持つからこそ、その意義を、責務を果たすべきであると彼女は思う。
その思いの強さが白燐蟲の力を増幅させていく。
「私が、此処に在る限り」
標的である『銀鈴・花』を庇うようにしてニーニアルーフは白燐奏甲を纏う。
「斬らせい。あらゆる防護は無意味。あらゆる隔てりもまた無意味。我が振るうは絶技にして絶対」
放たれる斬撃。
『人斬り与吉』が一歩を踏み出す度に放たれる斬撃の軌跡をニーニアルーフは捉えることはできなかった。
どれだけ白燐蟲によって己の装甲を教科したのだとしても、その斬撃を防ぐことはできなかった。
あらゆるものを斬撃によって両断する力。
そのユーベルコードがニーニアルーフの身に纏った白燐蟲の装甲をたやすく切り裂く。
「ぐっ……、ですが!」
身を裂く痛みなど忘れていない。
あの青春の日々は痛みと共に在る。ならば、耐えられないわけがない。未だ彼女の心には生命賛歌が聞こえる。
歌えるのだ。
己と同じように『銀鈴・花』だってそうだったのだ。彼女の誰かを助けなければという思いこそが、己たちの原動力であったのだから。
痛みなど今は忘れる。
白燐蟲の装甲の下の皮膚が切り裂かれ、血潮が溢れる。
だが、反撃の好機は必ず訪れる。それが白燐蟲使いを相手にするということだ。普段ならばあり得ない不幸。それが白燐蟲の真骨頂である。
手元の狂いか、はたまた踏み込みのズレか。
どれにしてもニーニアルーフにとっては幸運であり、『人斬り与吉』にとっては不幸そのものである。
「斬ら――」
ぐらりと揺らめく。
それは『銀鈴・花』が放った刀剣の一撃。
投擲したのだ。ニーニアルーフにかばわれるだけではなく、己が標的になっていることもいとわず、彼女はニーニアルーフの助けにならんと己の武器を投げ放ち、一瞬の隙を生み出したのだ。
「斬らせい。無意味なる者――」
踏み込んでくる。
一瞬の刹那。『それ』をニーニアルーフは見逃さなかった。投擲された刀剣。その柄を踏む『人斬り与吉』。
本来であれば、そんなことは起こり得ない。
だが、現実は違う。そう、白燐蟲が引き起こした不幸な事故。それに寄って『人斬り与吉』が体勢を崩した瞬間を見逃さず、ニーニアルーフは己の身に纏っていた白燐蟲たちを一斉に解き放ち、『人斬り与吉』へと食いつかせるのだ。
「不幸は訪れる。私を前にして、ただの一瞬であっても己の不幸を自覚出来なかったがゆえに、貴方は敗れるのです。いえ――」
ニーニアルーフはわかっていた。
諦めない心。不屈の闘志。そのどちらも己たちの後継は、後輩は受け継いでいる。きっと『銀鈴・花』だけではないだろう。
他の後輩たちにだって脈々と受け継がれている。
ニーニアルーフは微笑む。
彼女の視線の先には、『人斬り与吉』の体の内側から食い破り飛び出す白燐蟲の羽撃く光景があったのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
来る場所間違えてるんじゃない? あなたみたいのはサムライエンパイアに帰りなさいな。
人斬りが放ってくる斬撃は、「オーラ防御」と「ジャストガード」で防御。それを抜けてくるなら、薙刀で「受け流し」て。
こういう単騎で強い相手は面倒なのよね。
『鎧装豪腕』、顕現! 「盾受け」よろしく!
太刀筋が見えてきたら薙刀で打ち払えるようになったら、こちらからも「貫通攻撃」で「串刺し」を狙う。
薙刀を牽制に、「高速詠唱」「破魔」「浄化」で不動金縛り法。
いつまでも好き勝手はやらせない。
動きを封じられたら、「衝撃波」を放つ薙刀で「薙ぎ払い」、「斬撃波」で首を狙おうかしら。
ここはあなたの居場所じゃない! とどめに「串刺し」よ!
『人斬り与吉』の姿は確かに現代にそぐわぬ姿かたちであったことだろう。
他世界を知る猟兵たちからすれば、世界が違うとさえ思えたはずだ。けれど、このシルバーレイン世界もまた歴史の積み重ねが在る。
過去の化身がオブリビオンであるというのならば、ゴーストもまた残霊が集合して形を変えたものである。その姿形が過去に在りし者の姿を取るのもまた自然なことであっただろう。
「斬らせい」
ただ、『人斬り与吉』にあるのは、その一念のみである。
ただ切り捨てるのみ。
それだけのために彼は己の手にした妖刀『銀の五月雨』を振るう。
いかなる理由から『銀誓館学園』の能力者を狙うのかはわからない。けれど、危機に瀕する生命があるのならば、能力者であれ猟兵であれ変わることはない。
「来る場所間違えてるんじゃない? あなたみたいなのはサムライエンパイアに帰りなさいな」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、全身を内部から食い破られながらも未だ立つ『人斬り与吉』を前にして立ち塞がる。
彼の歩みを止めなければ、このまま学園へと『人斬り与吉』が乗り込むことは明白である。
そうなれば、予知あった大量殺戮を許してしまうことになるだろう。
「斬らせい。この世界は間違っている」
一歩を踏み出した瞬間に『人斬り与吉』の手にした『銀の五月雨』の刀身が煌き、ゆかりを襲う。
その斬撃波をゆかりはオーラの力でもって受け止める。
しかし、その斬撃波はあらゆるものを両断する力を秘めている。どれだけオーラの力で受け止めたとしても、そのオーラ事態を切り裂いて抜けてくるのだ。
「受け止められない。受け止めたものごと断ち切る力ってわけね」
迫る斬撃波を薙刀で受け止める――のではなく、受け流しゆかりは間合いを詰める。
単純に強い。
斬撃の業もそうであるが、足の運びも見事と言わざるを得ない。
これほどの使い手がゴーストとして、オブリビオン化してくること事態が凄まじいことである。
「こういう単騎で強い相手は面倒なのよね」
再び放たれる斬撃を『外装豪腕』が受け止める。しかし、それは時間稼ぎにしかならないだろう。
受け止めることをした瞬間に斬撃があらゆる防護すらも断ち切ってくるのだ。『外装豪腕』ですら受け流すことで精一杯である。
全身から血を噴出せながらも、一歩、また一歩と『人斬り与吉』は学園へと進んでいく。
「太刀筋……見えた! いつまでも好き勝手はやらせない」
ゆかりの瞳がユーベルコードに輝く。
薙刀の一撃を牽制に、一瞬の内に取り出した霊符『白一色』より放たれる不動明王の羂索。
「ノウマクサンマンダ バサラダンセン ダマカラシャダソワタヤ ウンタラタカンマン」
詠唱と共に羂索が『人斬り与吉』の体に絡みつき、その全身を縛り上げていく。
それこそ不動金縛り法(フドウカナシバリホウ)である。
「ここはあなたの場所じゃない!」
そう学生たちが、若者たちが生きる学園。
青春の煌き。
この時しか見ることの出来ないまばゆい輝きを血に塗れさせようとする『人斬り与吉』がいていい場所ではないのだ。
薙刀を構え、ゆかりが突進するように雁字搦めに捉えられ、動きを封じされた『人斬り与吉』へと刃を突き立てる。
首を狙った一撃は振り払う横薙ぎによって『人斬り与吉の喉を引き裂く。
鮮血は一瞬。
それは青春の煌めきを穢すことなく。
ゆかりの一撃は『人斬り与吉』を退ける一撃となるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
播州・クロリア
何をふざけたことを・・・
間違っているのは貴方の存在です
逆にその剣ごと叩き折って骸の海へ還して差し上げます
(敵を睨みつけながらその場で直立し左足、右足の順に大地を踏みしめるように力強く足を繰り出し、左腕、右腕の順に押しのけるように勢いよく腕を伸ばすと{岩石の旋律}で『ダンス』を始める)
この旋律は命に代えてもこの世界を護りたいと願う少女の強い思いを表現したものです
そして・・・
(UC【蠱の人】を発動する)
この人達は彼女の想いから生まれました
貴方の剣では切り裂くことはできない強い想いです
どうぞ心ゆくまでご堪能ください
「斬らせい」
迸る鮮血。
喉を引き裂かれても尚、『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』は、その一念においてのみ存在していた。
斬る。それは彼の存在意義そのものであったのかもしれない。
目の前に立つものを斬り、あらゆる生命を斬ることによって世界を滅ぼす存在に至らんとしている。
「この世界は間違っている。斬らせい。この世界を。間違えている世界を、滅ぼすのだ」
シルバーレイン世界のあり方を誤ちだという『人斬り与吉』の言葉は、世界に対する憎悪そのものであったのかもしれない。
手にした妖刀『銀の五月雨』の刀身が怪しく煌めく。
あらゆる生命を両断せしめる力は、『人斬り与吉』が一歩を踏み出す度に放たれる斬撃波となって周囲に斬撃の跡を刻んでいく。
「何をふざけたことを……」
播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は、『人斬り与吉』をにらみつける。
その場で直立し、右足で大地を踏みしめるように繰り出し、左腕、右腕を押しのけるように勢いよく腕を伸ばす。
それは大地のうねりに押しつぶされながらも堅牢に雄々しく存在し続ける岩石を表現したリズムであった。
「間違っているのは貴方の存在です。逆にその剣ごと叩き折って、骸の海へと還して差し上げます」
クロリアの胸にあった旋律は己の中から発したものではなかった。
己の生命に変えても世界を護りたいと願う少女の強い思いを表現したのが、岩石の旋律である。
彼女は見たのだ。
誰かのために戦う者の姿を。このシルバーレインの世界では、能力者たちにとって、それは当然のことであったのだ。
当たり前のことだったのだ。
生命を懸けること。誰かのために戦うこと。その積み重ねがきっと世界を救うことにつながったのだ。
誰もが死と隣り合わせだからこそ、隣り合う生命の為に戦う。
そんな思いを脈々と受け継ぐ少女『銀鈴・花』の姿をクロリアは見たのだ。
「斬らせい」
だが、それを踏みにじる者がいる。
『銀の五月雨』を構えた『人斬り与吉』は満身創痍である。だが、一歩を踏み出す瞬間に放たれる斬撃波はクロリアをしても防ぐ手立てはない。
だが、それでもクロリアの瞳はユーベルコードに輝く。
「蠱の人(コノヒト)たちは、彼女の想いから生まれました」
ダンスで生み出した旋律が肉体へと変わっていく。それこそがクロリアのユーベルコードである。
岩石は凄まじい圧力を受けて堅牢なる硬度を生み出す。
クロリアの旋律によって生み出される肉体は、想いによって凄まじい硬度を得るだろう。
放たれる斬撃がどれだけ両断の力を持っているのだとしても、人の想いを受けて輝くユーベルコードを切り裂くには至らぬだろう。
「貴方の剣では切り裂くことのできない強い想いです」
クロリアは己が表現したリズムを体現する蟲の人たちが斬撃波を受けて尚、突き進む姿を見た。
思いは切り裂けない。思いは止まらない。
世界を守らんとした強固なる思いを受けた蟲の人たちが『人斬り与吉』へと迫り、放たれる斬撃波と拳を打ち合わせるのだ。
火花散る光景が夜の帳落ちた暗闇の中に明滅する。
切り裂けぬ思いこそが、能力者たちの本質。
クロリアはそれを知るからこそ、叫ぶのだ。
「この世界は何も間違ってなどいない」
そう、こんな想いを持つ者たちが生きる世界が間違っているなど言わせはしない。クロリアは、その思いを受けて、その瞳をユーベルコードに輝かせ続ける。
生み出した想い受けた蟲の人たちが『人斬り与吉』を打ち据え、少女の想いを代弁するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
うるせーハゲ!!
こちとら貴様をパパっとブチのめして青春の続きがしてぇんだ!!
いちいち付き合ってられるか雑にやるぞ!【流体金属】を取り出し拙者と合体!メタリックカラーに輝く流体金属マン拙者の爆誕でござる!
そしてガションガションと軽率に接近、ズンバラリと斬られる拙者!
まあこの通り流体なので斬られても無事なんでござるが…
ほら斬れたでござろうはよ帰れ!死ね!!!
液体も斬れないんでござるか!そないな達人未満に用はねぇ!剣撃を気にせずガッツリ近づいての容赦無く文字通りの鉄の肉体で殴る蹴ると暴の嵐でござるよオラッ!!
人斬りに人斬れない尊厳破壊しつつ倒してやりますぞ
強固な想いがあらゆるものを切断する力を拒絶するように『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』の手にあった妖刀『銀の五月雨』の刀身に罅を入れる。
あらゆるものを切断する。
それこそが『人斬り与吉』の存在意義であったことだろう。
決して斬れぬものがあると知った時、その存在意義は否定される。
「斬らせい。我が太刀筋は未だ死なず」
達人の如き所作。
身は満身創痍。
されど、その剣気は凄まじいものであった。世界そのものを憎む一念。
どこまで言っても、『人斬り与吉』は人に害を成すものである。
この世界が、シルバーレイン世界が間違っているとどれだけ叫ぶのだとしても、それは意味のないことであった。
世界を破壊する過去の化身、それがオブリビオンであるというのならば、それに対を成すのが世界の悲鳴を聞き届ける者、猟兵である。
エドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)は立つ。
その剣呑なる剣気が暴風のように吹き荒れているのだとしても。それでも彼は立つ。
「うるせーハゲ!!」
そんな雰囲気を一蹴するようにエドゥアルトは叫ぶ。
彼は怒髪天を衝く勢いで怒り狂っていた。せっかく訪れた青春ライフ。あんな子やそんな子とのキャッキャウフフのスクールライフを邪魔する『妖獣化オブリビオン』にブチ切れ散らかしていた。
「こちとら貴様をパパっとブチのめして青春の続きがしてぇんだ!!」
世界がどうとか、そんなことにいちいち付き合ってられるかとエドゥアルトは雑に取り出した流体金属と融合する。
瞳に輝くユーベルコード。Innovator(マタノナヲアタラシキモノ)は、どこかで見たような要素に塗れていたが、そんなこといちいち気にしてられんのである。
流体金属と融合したメタル黒髭ことエドゥアルトは、メタリックカラーに輝く。
「流体金属マン拙者の爆誕でござる!」
ガションガションとなんかよくわからんサンドエフェクトが聞こえてくる。
別録りかな?
「斬らせい」
しかし、サンドエフェクトは『人斬り与吉』の放った斬撃の一撃に寄って斬り捨てられる。
流体金属の体となったエドゥアルトが一刀の元に両断される。
だが、流体金属であるがゆえに、彼の体は切り裂かれたとしても無事なのだ。失われる生命は何一つ無い。
「ほら斬れたでござろうはよ帰れ! 死ね!!!」
もうぞんざいな扱いというのはこういうことをいうのであろう。
ぶった切られた流体金属マン拙者ことエドゥアルトはすぐさま、ぶった切られた体をくっつけて迫るのだ。
「液体も斬れないでござるか! そないな達人未満に用はねぇ!」
迫る斬撃の嵐をものともせずエドゥアルトは進む。
完全に人間やめてる感。
ここだけコミカルな気がするが、気の所為である。なにせ、今の彼はあらゆる状態異常、物理を無効にする。
さらに反射と思考速度が強化されている。これはあんまり関係ないように思えるけど。
しかしながら、あらゆるものを切断する斬撃を物ともしなエドゥアルトにとって、これはワンサイドゲームである。
殴る蹴るの暴力。
やはり、暴力。暴力は全てを解決する。
「オラッ!!」
放つ金属パンチ。
蹴手繰りするエドゥアルトはもはや、『人斬り与吉』の身に消えない尊厳を破壊する打撃を打ち出すマシーンと化す。
反論も異論も何もかも認めない暴の嵐が此処に吹き荒れ、『人斬り与吉』は盛大にふきとばされるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
愛久山・清綱
此の凄まじき気魄、単なる『人斬り』と呼ぶには生温いな……
されど、脚の赴くままに只々「暴」を振るう者を、一介の卒
として赦すわけにはいかぬ!
其の荒ぶる魂、斬り祓って進ぜよう……覚悟!
■闘
与吉は姿を消し、視聴嗅覚での感知を不可能にして襲ってくる。
生来の【野生の勘】を用いようとも、探るには厳しいだろう……
だが、手筈は既に整っている。
戦闘に入った瞬間『心切』に【破魔】の力を込め、【暴切】の
構えを取りつつ全神経を『触覚』に集中させて敵を探るぞ。
肉を斬らせて骨を断つ……『剣気で斬られた感触』を感じた
その瞬間に【カウンター】の太刀を浴びせるのだ。
『斬られた感触』を少しでも感じたら【激痛耐性】で耐え、
瞬時に刀を構える。そこから感触を感じた方向に向かって
【残像】を伴う一瞬の一太刀を放ち、荒ぶる心を斬り祓う!
※アドリブ歓迎・不採用可
ふきとばされる満身創痍の『人斬り与吉』の体はまるで木の葉のようにひらりと舞うように着地する。
猟兵たちの攻撃にさらされて尚、その体が消えることはない。
『妖獣化オブリビオン』。
それは衝動のままに己の力を振るう嘗てのゴーストがオブリビオン化した存在である。殺戮衝動に身を任せているがゆえに、理知的に振る舞うことは不可能である。
しかし、その身に染み付いた剣技は、あらゆる猟兵達に向けられる。
彼らを障害と判断しているのだろうし、同時に滅ぼさなければならないものの一つとして認識していることは疑いようがなかった。
「斬らせい。我が刃は、全てを両断せしめることを求めているがゆえに。この世界の誤ちを、在ってはならぬという意味を尽く切り捨てるために」
その手にある妖刀『銀の五月雨』はすでに刀身に罅が入っている。
しかし、それでもなお、その刃はふるわれるだろう。
「単なる『人斬り』と呼ぶには生温いな……」
愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は『人斬り与吉』の姿、その気魄を前に異様なる研鑽の日々を感じ取ったことだろう。
ゴーストとなって尚感じる殺人剣の凄まじさ。
確かにその剣技は絶技と呼ぶにふさわしいものであったことだろう。
あらゆる触れるものを切断せしめる魔業。
「されど、脚の赴くままに只々『暴』を振るう者を、一介の卒として赦すわけにはいかぬ!」
踏み込む。
ふるわれる斬撃は視覚、聴覚、嗅覚のどれにも感知することのできぬ凄まじき業である。
清綱は己の中にやどる野生の勘があろうとも、それを探ることが難しいだろうと考えていた。
見ては遅く。風を斬る刃の音を聞いても遅く。されど、ふるわれる血に塗れた鋼の匂いを感じ取るも遅く。
ならばと清綱は覚悟を決めたのだ。
己の手にした刃を非物質化させる。伏せた瞳の奥でユーベルコードが輝いている。
その剣は物理的な力の一切を喪う。
されど、見に輝くユーベルコードは違う。
ここからは業を競うに能わず。
「荒ぶる心を斬り祓わん……」
あらゆる神経が極限まで研ぎ澄まされていく。
視覚で捉えられぬのならば、視覚は不要。
聴覚で聞こえぬのならば、聴覚は不要。
嗅覚で感じることが出来ぬのであれば、嗅覚は不要。
ならば、最後に残されるのは触覚のみ。
「其の荒ぶる魂、斬り祓って進ぜよう……」
肉を切らせて骨を断つ。放たれた斬撃が清綱の皮膚を切り裂く。あらゆるものを両断せしめる刃は、皮膚を切り裂き、肉へと打ち込まれる。
その瞬間こそが清綱の研ぎ澄まされた感覚の最高潮であった。
「――」
痛みはない。
いや、あるのだ。痛覚が己の脳に痛みを伝える。それよりも早く己が為さねばならぬことがあるのだ。
痛みは忘れる。
今己の感覚は触覚にのみ絞られている。どこに『人斬り与吉』が位置しているかなど、斬撃をたどればすぐに分かること。
「……覚悟!」
それは稲妻よりも疾き踏み込み。
迅雷のように走る清綱の放つ斬撃の一撃。
それは暴切(アラキリ)。
残像伴い走る彼の手にした刃が『人斬り与吉』にふるわれる。
己の皮膚を切り裂いた瞬間に清綱は動いていた。全身全霊を籠めた一撃。人の生命を切り捨てることこそに存在意義を見出した存在を許してはおけぬという一念のみが、世界を殺す刃を覆す。
「斬らせい」
ふるわれる斬撃。二撃目。なんたる絶技。返す刃が清綱を襲う。最上段からふるわれた神速の如き斬撃は清綱の額に触れた瞬間、残像とともにかき消える。
「徒に暴力を振るう刃に意味はなし。鋭き刃だけに意味はなし。人が振るう業であるからこそ、断ち切れるものこそある。形見えぬものを断ち切ることこそ」
それは『人斬り与吉』のもつ宿業を断ち切る一撃。
放つ斬撃の軌跡は誰にも視えることはなかっただろう。
清綱の背後に『人斬り与吉』は倒れる。彼の刃に物理的な力はない。見えぬものを斬ってこそ業であるというのならば、清綱はそれを今まさに体現するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
文月・悠
うーん、武士というか妖刀使いというか?
なーんか嫌な気配しますねあの刀
力寄らないのがベストとみますが無傷とはいかないでしょうね
ま、それならこのユーベルコードも試しておきましょうか
【Don't Look Back in Anger】
さぁいきなさい!
ところで天剣士刹那って誰のオリキャラなんでしょうね?
創作というかコミマス歴含めていいなら学生の頃からなので!
猟兵に目覚めたばかりでもその強さは引けを取りませんよ!
相手の不可視の斬撃も面倒ですし
天剣士刹那がやられることも想定して
【Don't Look Back in Anger】を重ねていきましょう
うーん、あの刀、出来れば回収しちゃいたいですね?
『妖獣化オブリビオン』、『人斬り与吉』の身に宿る宿業は断ち切られた。
されど、その身はオブリビオンである。
あらゆるものを切り捨てるという衝動は斬られ、満身創痍たる身だ。それでも立ち上がってくるのは、如何なる理由からか。
すでにオブリビオンとしても、『妖獣化』した肉体としても、動く理由はないはずである。
しかし、それでも手に妖刀『銀の五月雨』を手に立ち上がる肉体。
もはや、それは。
「うーん、武士というか妖刀使いというか?」
文月・悠(緋月・f35458)は元『銀誓館学園』の能力者であり、OGである。
在学中に多くの仲間と運命の糸がつながった者であり、彼女の目に映る『人斬り与吉』は『妖獣化オブリビオン』でありながら、同時に別の何かを想起させるものであった。
そう、手にした妖刀『銀の五月雨』の刀身には猟兵たちの攻撃に寄って罅が入っている。
「なーんか、嫌な気配がしますねあの刀」
近寄らないのがベストと彼女は判断する。
「ま、それならこのユーベルコードも試しておきしょうか。Don't Look Back in Anger!」
輝くユーベルコードより具現化されるは、『天剣士刹那』である。
それは悠の描き、生み出した『天剣士刹那』は『設定』通りの能力を持つ。
即ち生み出した悠の書き加えた『設定』があれば、そのとおりの力を持つのである。これまでに創作に費やした時間に比例して能力は跳ね上がっていく。
猟兵としての技量は関係ない。
コミックマスターとしての来歴も関係ない。
あるのは、自身が創作したという事実のみ。
そして、その創作に掛けた自分の時間のみが『天剣士刹那』の力を高めていくのだ。
「学生の頃から貯まりに溜まった創作欲! これがあれば、『妖獣化オブリビオン』だろうがなんだろうが! 引けは取りませんよ!」
しかし、『人斬り与吉』の放つ不可視の斬撃は厄介極まりない力である。
満身創痍であり、同時に力を削ぎ落とされているとは言え、未だ『人斬り与吉』は殺戮を行うための装置そのものである。
放たれる斬撃の鋭さは『天剣士刹那』を追い込んでいく。
「確かにやられてしまうでしょうね! けれど、私の描く『天剣士刹那』は、やられる度に強くなって立ち上がる不屈の剣士! 誇りも矜持も全部胸に抱いて、それでもなお苦難に立ち向かっていく、そんなキャラクターなんです!」
描く。
思い描く。
自分の頭の中に在る世界を具現化する。それがコミックマスターの力であり、同時に己の創作欲を満たし、また発露させるものである。
世界を殺す刃。
それが『人斬り与吉』であるというのならば、己の頭の中の世界すらも殺すだろう。
けれど、それでも悠の瞳はユーベルコードに輝く。
「斬らせい」
その言葉と共に『天剣士刹那』が両断される。
瞬時に『天剣士刹那』は立ち上がり、何度でも『人斬り与吉』へと立ち向かっていく。
「どれだけ斬られても、私の『天剣士刹那』は、負けませんよ!」
自分が信じる限り『天剣士刹那』は倒れない。
不屈の闘志と戦う度に強くなっていく力。今までは両断されるばかりであったけれど、徐々に『人斬り与吉』の斬撃を躱し、そして返す刃でもって反撃を加え始めている。
その姿を悠は見届ける。
自分が生み出した創作キャラクター。何度も頭の中で、そしてぺんを走らせることによって具現化してきたキャラクター。
そんな彼が懸命に戦っている。
ならばこそ、悠は妖刀『銀の五月雨』に注目する。
「うーん、あの刀……できれば回収しちゃいたいですね?」
調べれば何かわかるかもしれない。
刀身に罅の入った妖刀。それは猟兵たちの攻撃に寄って打ち込まれた傷であろう。
そんな悠の頭に浮かんだのは、『カースブレイド』である。
呪われた刀の保持者。
学園の能力者にもいた。そんな彼らが手繰る妖刀に酷似した『銀の五月雨』を振るう『人斬り与吉』は、ますます力をつけた『天剣士刹那』が放つ一撃に寄って、その身を袈裟懸けに癒えぬ傷を刻まれるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【フィア師匠と】
師匠、なんか危ない人きましたよ?
抜き身で刃物ぶら下げてるとか、お腹減ってる師匠くらい危険じゃないですか!?
え、あれ包丁なんですか?
なるほど、料理界から追放された怨みであんなことを……。
失意の気持ちはわかりますが、光の勇者として見過ごせません。
さ、師匠、いっちゃってください!
え、だって、わたしのUC、師匠がダメージとか重圧とか受けてくれないと、
強くならないですから、そのあたりをですね?
少し制服とか斬られて視聴者サービスしていただければ、
すぐどこかの委員会みたいなのがクレーム入れてくれますから!
師匠、ありがとうございます!
専属料理人としての腕前【世界調律】でお見せいたしますね!
フィア・シュヴァルツ
ルクスと
「ほう、銀の五月雨か……」
あれは確か、あらゆる素材を斬り裂くという料理包丁の名前だったな。(たぶん記憶違い)
「くくく、たかが最高の包丁を持った程度で一流の料理人になった気になってもらっては困るな。
この世界の有様が間違っていると嘆くからには、料理界から追放された恨みでも持っているのだろう、この料理人は」
だが、最高の料理人は光の勇者にして我が専属料理人のルクスのことよ!
さあ、ルクスよ……って、行くの我!?
「仕方あるまい。ならば師匠としての手本を見せてやろう」
魔剣召喚による料理テクニックを披露しようとした我に、止まることない斬撃で食材を切り刻んだ料理人の姿が!
「くっ、我が負けるとはっ!」
猟兵と『妖獣化オブリビオン』との戦いの推移は言うまでもない。
例え、どれだけ『人斬り与吉』が人外の如き絶技を手繰るのだとしても。猟兵たちの戦いは常に繋ぐものである。
一人では敵わぬ存在であっても、数珠つなぎのように連なり入れ替わり、立ち代わり、ユーベルコードを叩き込んで打倒する。
それは嘗ての『銀誓館学園』の能力者がしたことと同じであったことだろう。
「斬らせい」
だが、それでもなお立ち上がってくるは、恐ろしき力を持つ『人斬り与吉』である。その手にした妖刀『銀の五月雨』がどれほどの力を持つのかは定かではない。
けれど、『妖獣化オブリビオン』となった『人斬り与吉』をただの殺戮装置へと押し上げていることは言うまでもないのだ。
「ほう、『銀の五月雨』か……」
フィア・シュヴァルツ(腹ペコぺったん番長魔女・f31665)は訳知り顔でうなずく。
彼女の記憶が確かならば、あれはあらゆる素材を切り裂くという料理包丁の名前であった。
他世界にはシルバーレイン世界には居ないような尋常ならざる生物もいる。そんな生物を生きる糧として得るためには、鋭き刃も必要となるだろう。
そのために必要なのが『銀の五月雨』であったのだ。
いや、ぜんぜん違うが。
確実にフィアの記憶違いである。だが、そんなことはフィアには関係ない。
「師匠、なんか危ない人来ましたよ? 抜身で刃物ぶら下げてるとか、お腹へってる師匠くらい危険じゃないですか!?」
突然のディス。
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)は師匠であるフィアの訳知り顔に首を傾げる。
「え、あれ包丁なんですか?」
どう考えてもむき身の日本刀である。包丁って言うには、なんていうか、マグロとかの巨大な魚を捌くやつにしか仕えないような気がする。
ついでに言うと、なんかすでにもう罅が入っている。
「くくく、たかが最高の包丁を持った程度で一流の料理人になった気になってもらっては困るな。この世界の有様が間違っていると嘆くからには、料理界から追放された怨みでも持っているのだろう、この料理人は」
フィアの自説が冴え渡る。いや、冴えてない。何もかも最初から間違ってる。けれど、フィアには関係ないのである。
彼女の瞳に輝くのは、ほかの誰にも己の言説を止めること能わずという光。
その光を灯すのは、そう己の弟子であるルクスだ。
「なるほど、料理界から追放された怨みであんなことを……」
ルクスは、その失意の気持ちを理解した。
いや、理解っていうか、前提が間違っているのだが。だがしかし、時にはツッコミ不在という窮地もある。
だーれもツッコまないので、フィアとルクスの自説はまるであたかも真実のように語られるのだ。
ツッコミー! 早く来てくれー!
「光の勇者として見過ごせません。さ、師匠、いっちゃってください!」
「ああ、最高の料理人は光の勇者にして我が専属料理人のルクスのことよ! さあ、ルクスよ……って行くの我!?」
いつもと立場が逆転している。
しかし仕方のないことなのだ。ルクスは光の勇者である。
同時に彼女が手繰るユーベルコードは彼女の仲間がダメージや重圧を感じなければ力を発揮することができない。
ならばこそ、ぐいぐいとルクスはフィアの背中を押して押して、押しまくるのだ。
別に少し制服とか斬られて視聴者サービスとかそういう、なんかこうピンクなやつがあると嬉しいなーとかルクスは考えていないのである。
そういうことするとすぐ何処かの委員会みたいなのがクレームを入れてくれるのだ。そうなればしめたものである。
その重圧を持ってルクスはさらなる強化を得るのだから。
いや、クレームってなんだろう。
そも視聴者ってなんだ。そんな些細なことはどうでもいいのである。目の前の『人斬り与吉』がおり、その手にした妖刀でもってフィアとルクスへと見えぬ斬撃を放つ。
それは触れればあらゆるものを両断する力。
今となっては『人斬り与吉』の業であるのか、それとも妖刀『銀の五月雨』の生み出す力なのかはわからない。
一つ判っていることがある。
「仕方あるまい。ならば師匠としての手本を見せてやろう――」
ミゼリコルディア・スパーダによって生み出された魔剣が乱舞する中、妖刀『銀の五月雨』から放たれた斬撃がユーベルコードに寄って生み出された魔剣を一瞬で刻むのだ。
「はれー!?」
「えー!?」
一瞬であった。
もう、なんかこう、もうちょっと苦戦的なあれがあるかと思ったが、一瞬で『人斬り与吉』の放った斬撃が魔剣の群れを切り裂くのだ。
「くっ、我が負けるとはっ!」
フィアはガクリと肩を落とす。今回はわりと踏んだり蹴ったりである。食材は手に入らないし、魔剣はぶった切られる。
弟子は弟子でぐいぐい背中を押してくる。
負けフラグを逆転フラグに変えるためとはいえ、師匠としての威厳がその、あれである。
しかし、そんな師匠の気持ちを知ってか知らずか。
「師匠、ありがとうございます! 専属料理人としての腕前、世界調律(セカイチョウリツ)でお見せいたしましょう!」
あらゆる師匠の負けフラグを回収してルクスは光の巨大音叉を振るい上げる。
それはユーベルコードの輝きにして、あらゆるものを打ち倒す勇者の剣。
光が収束し、振りかぶった一撃が『人斬り与吉』と妖刀『銀の五月雨』へと叩きつけられる。
光の奔流の中に『人斬り与吉』は消え、その手にしていた妖刀『銀の五月雨』はひび割れた刀身が砕けるようにしてへし折れる。
柄と砕けた刀身の一部が地面に突き刺さり、辺りには夜と静けさが戻ってくるだろう。
同時に、ルクスの背後で聞こえるのはフィアの腹の音である。
すっかりとお腹の空いたフィアをたしなめ、ルクスは勝利の凱旋をするように『銀誓館学園』の校門をくぐるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵