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亡國より呪詛をこめて

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●憎めばこそ、その生に幕引きを
 革命などと言う言葉には、随分とご大層な夢や希望があるらしい。暴虐に等しい圧政に疲弊し尽くした市民たちの不平や不満を燃料にその大義名分で火をつけてやったなら、呆気ないほど簡単に燃え広がった程度には。

 圧政に飢饉が重なったその冬に、病弱だったお袋は死に、親父は税を納められずに受けた鞭打ちの傷を腐らせて狂い死んで行ったという。二つ下の妹は身売りして、幼かった弟は飢えて弱って死んだらしい。全て俺が傭兵として稼ぎに出ていた間のことだと、とうぶんの間家族に楽をさせてやれるだけの金を手にして村に戻った俺に、隣家で唯一生きていた男はそう告げた。俺の帰りを待つと言っていた幼馴染も弱った果てに風邪を悪くして死んだという。
 腐るほどによくある話だ。どこにでもあればこそ、同じ怒りややるせなさを抱く者を集め焚きつけるのは易かった。
 役立たずの王族に、国を腐らせた門閥貴族、もはや傀儡じみた騎士団。力を持つそれらとて腐敗し切れば権益の為に歪み合っては瓦解もすすむ。その隙につけ入る様に、最後の亀裂を齎す様に市民たちは蜂起して、王侯貴族や騎士どもを討ち取って、或いは断頭台へと送ってやった。

 革命は成った。国家の転覆という一事を指してそう呼ぶのなら。

 荒唐無稽な理想論に出来ようもない大言壮語、ままごとみたいな民主主義気取りの新政権が立った後にも俺は変わらず殺し続けた。
 まず貴族と名のつく者は皆殺し。その様をみて、これ以上はと諫めた参謀も処刑台へと送ってやった。もう嫌だ等と嘆いた処刑人も私刑の末に殺してやった。手のひらを返すもの、気に食わぬもの、誰も彼も殺し尽くした。
 お飾りの新政府など役にも立たず、あってないような秩序はもはや暴力と見せしめでしか保てずに国は革命前にも増して荒れ果てる。
 どうしてこんなことにと誰かが呟いた。
 おめでたいことだ。俺は端から革命だなんて望んでいない。全ては王侯貴族どもへの復讐だ。だが無論、殺せど殺せど俺の家族も幼馴染も戻らない。ゆえに、と敢えて理不尽にそう継ごう。

 ーーゆえに、おまえたちも皆死ね。

 だから大陸が雲海に沈んだあの日、沈みゆく地で空を仰いで俺は笑って笑って笑い続けた。
「ざまぁみろ」

 やがてどれだけ時が経ってか、骸の海で目が覚めて、この手の中に武器がある。
 ーー嗚呼、まだ殺しても良いらしい。

●誤用のほうの「確信犯」
「復讐をしたいと思ったことはある? その先に待つものは果たして何であろうかね」
 ラファエラ・エヴァンジェリスタは机の上で指を組み、何処か寂しげに微笑んだ。半歩下がって控える白銀の鎧兜の騎士がじっと彼女のことを見下ろしている。
「革命に潰えた後に雲海に沈んだ国が、屍人帝国となっている。その配下の大軍勢が、近隣の平和な王国をひとつ、滅ぼそうとしているようだ」
 黒衣の女はヴェールの下から、猟兵たちを眺めやる。
「屍人帝国の軍勢はいかに貴公らであれ手に余るほどの大軍だ。だが幸い、攻め込まれた王国とて軍備はある。彼らと上手く連携し、或いは貴公らが指揮を執り、迎え撃ってやって欲しい」
 敵味方の位置と進路を記号で示した地図を示した後で、女は暫し物思う様に間をおいた。
「……敵の軍勢を率いる男はね、全ての命が憎いらしいよ」
 曰く、圧政による貧困で大切な者たちを失った。曰く、その復讐の為に革命を焚きつけた。けれども当然、復讐を成したところで失くした存在が戻るはずもなく、八つ当たる様に殺し殺して尚その心は満たされぬ。ゆえにこそ、のうのうと生きる全ての命が憎い。お前も、お前も、皆死ね。
「不憫よな。元凶を殺しても尚報われぬ。否、殺してしまえばこそ……かね」
 その白い頸に鮮やかな斬首の跡を指先でなぞり、ラファエラはそっと首を横に振る。
「武運を祈るよ」
 ゆったりと開く黒き洋扇が翻り、黒い茨のかたちのグリモアが展開されて猟兵たちの視界を埋める。
 黒が消えれば広がる蒼穹に、今、鬨の声が響き渡る。


lulu
 ご機嫌よう。luluです。

 正しいと思い込んでの悪と悪いと理解しての悪、どちらがたちが悪いでしょうか。
 本シナリオは後者です。
 OPのモノローグ内容はPC様に認知して頂いて構いません。

 三章全て戦闘、敵味方ともに血腥くまいります。
 畏れ入りますが再送前提での運営となりますことをご容赦ください。

●一章
 集団戦。市街戦かつ、敵のその一撃の威力たるや。
 勇士たちや王国軍と共闘を。

●二章
 集団戦。一章よりは戦いやすく。
 引き続き勇士たちや王国軍がいるようです。

●三章
 ボス戦。殺すためにこそ生き汚く。
 彼いわく、「誰も彼も皆死ね」。

 各章に断章を挟みまして、プレイング受付期間はタグ及びマスターページにてお伝え申し上げます。

 それでは宜しくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『空を砕くもの『スターブレイカー』』

POW   :    暴食の邪竜『デス・オブ・ホープス』
【体中いたるところから生えている爪】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【恐怖、苦痛、悲鳴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    厄災速射砲『コンティニュアス・カラミティ』
レベル分の1秒で【全身から放出される【星破壊】属性の光線】を発射できる。
WIZ   :    星砕きの厄災『スターブレイク・ディザスター』
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【星破壊】属性の【厄災レベルの光線】を、レベル×5mの直線上に放つ。

イラスト:木之仔じゅま

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●猟兵へ
「皆殺しにしろ」
 出陣に際して彼らの指揮官はそう告げた。
 あまりにもシンプルなその命令の遂行において彼らほどの適任は他にない。
 屍人帝国の先遣隊は空を埋めんばかりの竜の群れだった。スターブレイカーと呼ばれるその邪竜は本来、直撃すれば大陸を落とすとさえも言われる光線を吐き、まさに空を舞う災厄そのものだ。今空を黒く染めるこれらは弱体化したその分体ではあれど、弱いと言っても本体に比べたならばと言うに過ぎぬ。
 邪竜たちが迫る先、まるで浮遊する城塞の様に高い壁に囲まれた大陸がある。その城壁の上、壁を護る様に飛び交う数多の飛空挺の上、整然と佇むのは王国の正規軍の兵士たちだ。強力な武力を防衛へとあてて平和を維持して来たこの王国軍には腕の立つ勇士たちも多い。だがその表情に一様に滲むのは深い絶望だ。
「あんなの勝てるわけがない……」
「もうすぐ射程に入ります!」
「命令を!砲撃命令を早く!」
「まだだ、まだ引きつけろ」
 城壁の上、ヒポグリフに跨ったまだ若い将校が青ざめながらも平静を保った声で告げる。一秒が永遠にも感じられるその時間、息を詰めて押し黙る重い沈黙の中で近づいてくる羽音だけが不気味に響いていた。
「まだ待て、まだだ…………ーー総員撃てェ!!」
 飛空挺に備えられた天使核の力で駆動する魔道砲が一斉火を吹いて、邪竜たちを迎え撃つ。無数の砲撃の直撃を受け、或いは羽根を裂かれて雲海へと落ちてゆく邪竜の後ろにも邪竜が続く。
「撃て!撃ち続けろ!グリフォン隊とヒポグリフ隊は展開して援護に回れ!天馬隊は負傷者の救出に備えろ!」
 邪竜は砲撃の一撃や二撃で落ちぬ。落ちてもまだまだ次がいる。有翼の獣たちに跨って空へと翔けたものたちの攻撃も、オブリビオンを狩るに慣れぬ身のものならば竜の鱗を前にしてまるで蚊の刺す様なもの。そして手慣れた勇士とて易々と深手を与えるには至らない。それなのに嗚呼、反撃の様に振るう尾は、鉤爪は、人獣の命をいとも容易く雲海へと散らしてゆく。恐怖によって統制が乱れれば乱れるほどに軍は儚き個々となり、散りゆく数が増してゆく。
 撃てども撃てども邪竜の数は減らずに、弾幕をくぐり抜けた前線の邪竜たちがついに飛空挺に取り付いて壊しにかかり、或いは城壁の上の兵士たちへと襲いかかる。
 そうして今、その鉤爪にて兵士の二、三人を無惨な肉塊に変えながら城壁に降り立つ邪竜の一頭がある。咆哮と共に壁の内に広がる都へと光線を吐く。青白く走った一条の光はまるで紙でも裂く様な容易さで地を裂いて、その上に立つ家々を瓦礫と呼ぶにもお粗末な塵と変え、彼方まで続くその射線の上にあった全ての命を蒸発させた。まるで都の街並みに細く刀傷でも入れたよう。その傷には黒く焦げた地面が残るばかり。
「嘘だ……」
 あまりの威力、あまりの無惨。それを目にして城壁上で力なく膝をついた兵士のひとりを、後ろから邪竜の脚が踏み潰す。
「壁を越えさせるな!ここで討て!」
 自らヒポグリフを駆って、飛空挺に組み付いた邪竜の脚へとロケットランスを叩き込みながら将校が絶叫する。けれどもまるで嘲笑うかの様に弾幕を抜けた無数の邪竜たちが城壁へと向かう。
「誰か!誰か助けてくれ!」
 響く誰かの懇願はいずこへ向けたものであったか。

【マスターより】
 市街戦じゃなかったですが市街戦もできます。
 空を飛ぶアイテムや技能がない場合でも城壁の上や飛空挺の上を飛び回って戦えますが、市街地に入り込んだ邪竜もいますのでそちらを倒しに回っても構いません。

 たくさん死にます。邪竜の光線は直撃したら猟兵も危ういです。
 王国軍は動揺でいきなり総崩れ気味ですが、士気を取り戻せば戦える筈です。
ゾーヤ・ヴィルコラカ

 今、誰かが助けを求める声が聞こえたわ。このゾーヤさんがいる限り、これ以上邪竜さんたちの好きにはさせないんだから!

 城壁上に立って【UC:絶対零度の眼差し】(WIZ)を発動よ。詠唱中の邪竜を優先的に狙っていくわ。あの光線を撃たれる前に、何としてでも止めるわね。

 ひとしきり氷を降らせたら、すぐに襲われている人や兵士さん達を助けに行くわ。今にも爪の餌食になりそうな人を〈かばう〉わね。わたしが〈結界術〉で強化した盾で攻撃を受け止めている隙に、兵士さんや猟兵の皆に攻撃を叩き込んでもらうわ。

 諦めたらそこで終わっちゃうわ、ここが踏ん張りどころよ! 絶対に、絶対にこの街を守るんだから!



●冬は来たれり
「誰か!誰か助けてくれ!」
 この場にて蹂躙されてその命を終える筈の誰かの悲痛な叫びを確かに聞き届けた者がいる。神ならぬ、天使ならぬ……それを拾うのは柔らかな赤茶色の髪の上にきりりと立った同色の一対の狼の耳である。
「今、誰かが助けを求める声が聞こえたわ」
 黒い修道服の長い裾をはためかせ、長く豊かな尻尾を靡かせて、転送されたその刹那から蒼穹を駆け出す者がある。軽やかに飛空挺を跳び移り、邪竜たちが迫る城壁へと最短距離で駆け抜けて、人の身ならば到底届かぬその空白を跳躍し、やがてはその城壁をーー浮遊大陸の一端を彼女は確かに踏みしめた。
 己の来し方をくるり振り向き、邪竜たちを睨み据え、ゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)は高らかに告げるのだ。
「このゾーヤさんがいる限り、これ以上邪竜さんたちの好きにはさせないんだから!」
 果たしてその声は、向けた瞳は、冷厳なる寒気をこの地に連れて来た。遥か高き虚空から降り注ぐのはまるで流氷を思わせる氷塊だ。無論、流氷と言えど優美に水上に覗くものならぬ。その水面下の大質量さえ含めたかの様な暴力的な氷塊が、今、重力に任せるままに、ゾーヤのペリドットの瞳の向く先に自由自在に降り注ぐ。
 【絶対零度の眼差し(コキュートス・アイズ)】、慈悲なき冬は此処に来たれり。
 災厄にも等しく注ぐ氷塊はこの今城塞都市の城壁へと滑空して来る邪竜たちの翼を圧し折って機動力を奪い去り、或いは今まさに光線を吐き出そうとした邪竜たちの上顎を押さえつけては閉じた口の中でそれをその身へと爆ぜさせる。
 まだ晩秋のはずである周囲の気温がにわかに冷え込んで真冬のそれへと至る心地に、王国正規軍の兵士たちが僅かにその身を震わせる。他方でそれは万年雪と絶望とがとざす村に生まれ育ったゾーヤにしてみれば、戦いの熱を冷ますに相応しい仄かな涼感程度のものであれども。
 火照る肌を「程よく」冷ます冷気の中をゾーヤの脚は止まらない。人狼の血を昂らせ、その本来は四足たるべき野性を理性で押さえ込みながら、彼女の原動力は野生の本能などとは遥かに遠い場所にある。
ーー救えなかった。
 その後悔は、いくらその表向きを天真爛漫な笑みで飾れど、いつもその胸の奥深く、澱の様に深く沈みて確かにそこにある。
 ゆえにこそせめて猟兵として戦場に立つこの今は、この目の届く範囲で何も失くすまい。心の内に立てた不文律の誓いは彼女のその身を今まさに、城壁上の兵士たちを狩らんとする邪竜の鉤爪の前へと踊り出させる。
 殺意しかない鉤爪の一閃。何も成さねば華奢なその身はあえなくこの地に散る他にない。けれどもこの今、ゾーヤのその身を護る様にして鋭い鉤爪を防ぎ止めたのは淡い金色の魔力を纏う盾である。刺さる鉤爪を魔力で絡め取り、抜くことさえも許さねば邪竜の体勢は不自然に不自由なまま。
「今よ!」
 最前線に立ちながら振り向く様にして叫ぶ。斯くも可憐な少女の献身を目の前に、応えなければ何が兵士か。左様な思索の有無はいざ知らず、足止めを食う邪竜へと城壁上の兵士たちが一斉に、砲弾を、矢を、槍先を叩き込む。この一瞬においては優勢な多勢に無勢、けれども邪竜のその偽りの生命が途絶えて眼下の雲間に沈みゆく様を見送る間もなく、またも新たな邪竜が襲い来るという、その事実。だがしかし。
「諦めたらそこで終わっちゃうわ、ここが踏ん張りどころよ!」
 ゾーヤは絶望などは露も見せない。そも、そんなものはありもせぬ。迫り来る邪竜たちを氷塊で迎え撃ちながら、兵士たちへと語って聞かす人狼聖女は思うのだ。
 王政であれ帝政であれあるいは共和制であれ。いかな名を掲げるものであれ、ひとつの共同体が終わるとき。ーーそれは等しく、民たる彼らが諦めてしまうときなのだ。ゆえに彼女は諦めず、また、この場の兵士たちにも諦めさせる気などない。
「絶対に、絶対にこの街を守るんだから!」
 その白い手に守護の長剣を携えながら、人狼聖女は蒼穹を翔けつ、声を張る。その声に、振るうたび定かに邪竜を墜としてみせる太刀筋に励ましを得たかの様に、王国の正規軍の幾らかが士気高く鬨の声で応えてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ

真の姿を解放
メボンゴは背に括る
操り糸経由で魔力を流し操作

もう嫌だと嘆いた処刑人って前に私が戦った処刑人のことかな
理解はできないけど嫌いじゃなかったよ
あの時は愛じゃないって言ったけど、ある意味ではあの人なりの愛だとも思うから
完全に間違ってたけどね
もしかしたら本来は優しい人だったのかも
生前の処刑人はこの男のせいで殺されちゃったんだね
『八つ当たりで殺しまくるなんて許せない!』
うん、馬鹿げてる!
絶対に思い通りにはさせない!

王国軍と共闘
UCで防御力重視の強化を私と仲間に
星の加護を貴方達にも
私達がついてるよ!大丈夫!

全ての攻撃に光属性付与
初手は矢で攻撃
その後飛空艇を跳んだり
魔法の傘で滑空したり
メボンゴの手から風属性衝撃波出してスラスター代わりにしたり
撹乱しながら近付き自分に攻撃力強化のUCをかけナイフで2回攻撃
距離あれば矢で

敵の攻撃は動作を見切り、早業でオーラ防御の範囲を広げる

事ある毎に笑顔で仲間を鼓舞
大丈夫だよ!私達は負けない!
この国の人々を守る為に一緒に頑張ろう!
と仲間に防御力重視のUCを再度



●真白き薔薇(そうび)は戦場に咲く
「もう無理だ!退け!」
「駄目だ!俺たちが敗走したら都の民はどうなる……!」
 それは戦闘の長引く内に伸びた戦線の果てのこと。猟兵たちの頼もしき異能も届かぬその場所で、邪龍の放つ光線の威力を目にしたがゆえにこそ、王国の正規軍の兵士たちは恐怖して、それゆえにその場に留まる意義を得もした。ただそこにある事実として明らかなのは、彼らの足並みがまるで揃わぬというその一事。
 そんな事情など敵はお構い無しどころか、好機とばかりに襲い来る。城壁上で後ずさる兵士たちへと振るった邪竜の鉤爪は幾つの命を奪う筈であっただろうか。それが突如力を失くしたもののようにその狙いも勢いもなくして重力に引きずられるままにその巨体ごと墜ちてゆく。墜ちゆくその邪竜の両の瞳を、眉間を、光纏う矢が貫いていた。
 何が起きたかと唖然とする兵士たちの前に今、まるで重力などなきものかのように軽やかに城壁に降り立つひとりの乙女の姿があった。その背に白き両翼はなく、何故かそこにはおんぶ紐で背負われた白い兎頭の人形がご機嫌にこちらに手を振っているのだが、邪竜を前に立ちすくんでいた王国の正規軍の者たちには彼女の姿が天使のようにも映っていた。
「もう大丈夫だよ!」
 陽に柔らかに透く様な栗色の髪を靡かせて、翻り広がる白きスカートは大輪の花のよう。その瞳と同じ五月の薔薇の若葉めいた緑が彩る装い、その佇まい、まるで陽の当たる庭に咲く可憐な白薔薇のようであるとーーかつて誰かが称したものと同じ感想を奇しくも彼らも抱くのだ。
「私たちが前に出るから援護をお願い!皆の力を貸して欲しい!」
 呼びかけながら答えさえも待たぬまま、ジュジュは軽やかに飛空挺へと跳び移る。そうも信頼を向けられて応えぬことなど出来ようか。彼女のその背を守る様に、城壁上の兵士たちは誰からともなく反撃へと転ず。
 その進路を守り切り開くかの様に背後より張り巡らされた弾幕を確かめて、よく手に馴染む愛弓にて己も邪竜へと矢を放ちながら、ジュジュには今、心にかかるものがある。
 元凶たるオブリビオンのその心根の一端を、グリモア猟兵は語ってみせた。それはその生い立ちに同情を示しての配慮か何かであっただろうか。その中で。
ーーもう嫌だと嘆いた処刑人って……
 脳裏に浮かぶのは、教会のステンドグラスの下、眉を下げた微笑みのまま大鎌を振るう奢侈な黒である。狂った信条ゆえに半ば捨て身にも等しくとある浮島を落とそうとしたその最期、猟兵たちから逃げも隠れもすることもなく教会にて祈りを捧げ跪いていたその姿には、何かしらの符合が行く様な気がした。
 愛ゆえに殺すだ等と臆面もなく宣ったその男の気持ちをジュジュはあの時全く解らぬと告げて見せ、果たして、今もわからない。けれども愛の形だなどというものが人の数だけあるならば、あれも確かに彼なりの愛ではあっただろうか。ーー時間をおいた今ならば共感までには至らずとも、そうしたどこか譲歩めく理解くらいは示してやれる。
 ならば、と前提を設けるならば。狂ったオブリビオンとしての彼はいかにも歪なものであったけれども、最期には己の領分たるはずの刑の執行を厭うて殺されたという生前のその存在は、もしかして、優しいものであっただろうか。解らない。判らない。確かめるべくもないその前提の真偽をよそに、ただ厳然と今目の前に横たわるのは、彼の生もまたかの復讐に狂った男によって閉ざされたという事実ひとつに他ならぬ。
『八つ当たりで殺しまくるなんて許せない!』
 ジュジュの心のそのままをメボンゴが彼女の背中より叫ぶ。
「うん、馬鹿げてる!」
 絶対にその思い通りになどさせてなるものか。内心に誓いを立てながら、頭上から咆哮をあげて迫る邪竜へとジュジュは金色の弓を引く。光纏う矢は邪竜の右の羽根を裂き、二の矢三の矢が浮力を無くした巨体が悪あがく様に開いて青白い光を覗かせた口の上顎と右の目を深く抉って、その鏃を脳へと至らせる。
 雲海へ消えゆく邪竜を尻目にジュジュはまるで庭園の飛び石でも踏むかの様に軽やかに飛空挺を跳び、駆けてゆく。途中、颯爽と開くのは幅の広いフリルをその縁にあしらう白いパゴダ傘だ。その繊細な骨も薄い絹張りも、魔術を宿してある以上、彼女の華奢な身体を宙に浮かすには十分だ。そうして風を受けて滑空し、けれども風の向くままになどならぬ。傘のその柄を掴まぬもう片手には銀のナイフを握り、その切っ先は的確に邪竜たちの瞳や皮翼を狙って切り裂いた。彼女の背負う白兎頭の人形の脚から放つ風属性の魔法はスラスターの様にして、翼持たぬ筈の彼女が自在に空を翔けることを能わせる。自由自在の追い風の向かうまま、ジュジュは邪竜たちの機動力を奪って回る。そのまま雲海に墜ちるのならば僥倖、足掻く余力があるならば、とどめは敢えて王国の正規軍へと譲ってやって、
「ナイス!」
『よっ、救世主!』
 その「手柄」を惜しみなく褒めてやりながら、彼らの自信を取り戻させるのだ。
 そうして派手に立ち回る自身へと存分にその注目を向けさせて、全てを観衆とした後で。多くの視線が今確かに己へと注がれている確証を得てからジュジュはその異能を発動して見せるのだ。
「星の魔法をここに!」
『此度の演目を彩るは星の煌めき!
 あえて芝居がかった大仰な仕草にて、その手のひらから放たれた光の粒子はその身を包み、やがて範囲を広げて戦場を包む。どこか温かな光に包まれ、魔力が満ちる感覚に兵士たちが本能から感じ取る安堵と幾らかの困惑を見せるそのさなか。
 正規軍の猛攻に雲海へ墜ちゆく邪竜が自棄の様に虚空へと無軌道に放つ光線がジュジュの傘持つ腕をかすめた。元来躱せたはずのそれを、ジュジュは「観衆たち」の目の向く前で敢えて躱さない。先に見た邪竜の光線の威力ならそれだけでその細腕のひとつ容易く千切れ飛んでいそうなものを。
「ほらみて!かすり傷だよ!」
 息を呑んだ兵士たちへと向けて、その腕に血を滲ませながらもジュジュは笑ってみせるのだ。
「これと同じ強化をさっき皆にも施したよ!」
『百人力だね!』
 その言葉を受けた兵士たちの顔にはもはや絶望はない。
「大丈夫だよ!私達は負けない!この国の人々を守る為に一緒に頑張ろう!」
 朗らかに告げる救国の乙女の言葉に鼓舞されて、兵士たちはやがて一人二人とその背を追って攻勢に出る。この乙女の声の、異能の届く範囲においてはもはや邪竜ども恐るるに足らず。そうまでも思わせる頼もしさに兵士たちは士気高く、襲い来る無数の敵を迎え撃つのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
勝った者が正義である以上、敗北者とは悪ではあるのでしょうね
とまれ、前哨戦を制しましょう

◆行動
【空中浮遊】を活用し戦闘

【罠使い】として持ち込んだ「浮遊型白燐発煙弾」を【衝撃波】に乗せて戦域に散布
如何に高火力と言えど、直撃しなければ問題ありません
自身の視界は赤外線センサで補い、【聞き耳】を立てる事で索敵

さて、国軍諸兄
畏れを抱くは人として正しい反応です
ですが其れを越えてこその勇士
共に眼前の脅威を喰い破るとしましょう

『涅槃寂静』にて「死」属性の「濃霧」を行使し【範囲攻撃】

私自身も【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



●勝てば官軍、異端の女神が微笑むは
 どの時代にも人の世の常は勝てば官軍、それだけだ。勝った者だけが正義でありーー或いは「正義と成る」以上、敗北者とはその事情や背景などを斟酌される余地もなく「悪」たることを押し付けられる。
 人の世においてはあまりにも見飽きるほどに見尽くして来た、よくある構図だ。城壁の上に佇んでその白い上衣を翻しながら敵の全容を眺め渡して、異端の神たる霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は思案する。今、屍人帝国によって攻め込まれるこの国もまた、猟兵たちの力なくしては敗北者として悪として歴史にその名を刻むのだろう。城塞都市を守らんとその城壁の先の蒼穹で、青褪めた顔でペガサスを、グリフォンを駆る王国の正規軍の兵士たちがある。それらが邪竜の爪牙で、光線で、騎獣諸共にあえなく命を散らしてゆく。光線を受けた飛空挺が墜ちる間もなく砕け散る。それが人の営みの延長線上にある人対人の戦役におけるものでならばこの神の出る幕ではないが、この陣営の他方が過去たるオブリビオンであるならば、猟兵としての絶奈には止める義務がある。その個々を、全景を、目深なフードに隠した瞳に映し、絶奈は城壁の上より蒼穹へと足を踏み出した。この前哨戦を制する為に。
 有翼の騎獣も持たずに空を踏むその姿に王国正規軍の者たちが目を見張ったのは一瞬のこと。刹那、俄に弾ける様にして戦場を駆け抜けた衝撃派は、敵も味方も戸惑わす。この今は動揺だけを招いたそれが真威を発するのはその少しばかり先のことである。相も変わらず城壁へ、飛空挺へと襲いくる邪竜たちが虚空に漂う何かに触れたその瞬間に、爆ぜる様な白き光と白煙が辺り一面を満たすのだ。
 絶奈に言わせれば、如何に邪竜の光線が火力の高いものであれ、直撃せねば意味はない。白に視界を染められた邪竜たちが苛立つ様に咆哮を上げる。それでも生命の本能として同士討ちはせぬのであろう、ゆえに闇雲な光線は降らぬ。注がぬ。だが、赤外線センサと聴覚で知覚を補う絶奈と異なり、友軍たる王国の正規軍とてまた一面の白の内に混迷を極めて騒ぐのだ。
「何が起きている?!」
「これは敵襲か?友軍の援護か?」
「わかりません!何も見えずーー」
「さて、国軍諸君」
 先を見通せぬ白の内より凛と響き渡る絶奈の声はそれこそ神の声の様にも彼らに響いただろう。神の様、否、神なのだ。その威厳は迷える子羊たちの騒乱を終わらせるには十分だ。
「畏れを抱くは人として正しい反応です。ですが其れを越えてこその勇士。……共に眼前の脅威を喰い破るとしましょう」
 白煙の彼方、しんと黙して聴き入る兵士たちへと、言うは易しいそれを絶奈は率先する様に行動で示して見せるのだ。白い指先が敵を示すを誰も見ぬ。静かな詠唱は誰の耳朶を打つこともない。ただ密やかに、今この場を満たす白煙を静謐の内に侵して取って変わって侵食するは別の白ーー「死」属性の濃霧である。
『涅槃寂静(ヨクト)』。それは絶奈の異能であって、まさにこの場に誂えた様に相応しいユーベルコードだ。
 王国の正規軍の誰の視界も白に覆われ、誰の瞳にも映らぬその先で。友軍たちの誰も毒さぬ白き濃霧は、定かに邪竜たちだけを蝕んでゆく。緩やかにその身を浸す様に訪れる確かな死によって、今際の際の苦悶に邪竜が吠えた。けれども剰えその口蓋の内に光線を溜めるなら、それが暴威を振るう前に絶奈の黒剣が首を落とす。成させて、吠えさせてなるものか。一度沈んだ過去は過去、卑しくも勝者として正義として、再び表に史実に名を刻むことなどは断じて罷り成らぬのだ。誰ひとり見通せぬ濃霧の内は絶奈の独壇場であり、この神が振るう黒剣は己の力に驕り昂る邪竜たちへと裁きの鉄槌の様に下される。
 やがて気流に流されて、蒼穹を満たす濃霧が晴れる頃。息を詰める様にして見守っていた王国正規軍の兵士達の眼前に在るのはあんなにも恐ろしかった邪竜たちが力なく雲海へとその身を墜とし、或いは辛うじて留まれど息も絶え絶えに身を捩る様である。
「さぁ、反撃開始ですーー愉しみましょう、この逢瀬を」
 勝利の女神と言うには邪悪なれども、女神は女神。知ってか知らずか、だが抗えぬ。絶奈の言葉にいざなわれるが儘に兵士たちは得物を手にして邪竜たちへと反撃に出る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

マスタリング歓迎

_

共に空を駆けるは漆黒の鎧纏うヒポグリフ
誰かの懇願の刹那
咄嗟に割り込みその者を背に庇い
竜を斬り伏せ
外套はためかせ振り返る
「──無事か」

竜の蔓延る空中戦、その最前線と陽動を主に担当
戦況を冷静に見極め
連携を常に意識
打てる最善手を瞬間思考により毎秒弾き出し
一切の無駄なく行動
士気の乱れた味方の軍勢を見下ろし
「聴け」
凛と威厳を以て告げる
「お前達が戦場に立つのは、護りたいものがあるからではないのか」
「顔を上げろ、前を向け。お前達は、俺が必ず生きて帰す」
だから、
「──決して、諦めるな」
鼓舞と同時に発動させるは《黒耀》
これより此処は我が支配下となり、彼らを含む味方の負傷は全て俺が請け負う
もう誰一人死なせない
彼らが愛するものの元へ、必ず生きて帰す
最前線にて刃を奮い、味方を鼓舞しながら指揮を執り
どれだけの傷を請け負っても背筋は伸ばしたまま
彼らの前で弱いところは決して見せない
ヒポグリフのヨルへはオーラ防御で庇護し
戦場を蹂躙し
安息の願い込め
断つはオブリビオンたる根源と縁を



●国に魔王の加護ぞあれ
 いかに猟兵ならぬ身であれど、王国の正規軍たちとて鍛錬を積んだ兵士である。武を極めるに至らずとも、戦地での振る舞いを心得て、その主義として防戦に徹し続けたこの国のこの城壁で戦うことに慣れてもいる。この戦線の一角で、事実、その大隊は恐怖を克してよく耐えていたほうだ。
 だがそれも、邪竜の光線が城壁を大きく穿つまでのこと。彼らの誇りで、この国の守りの象徴。それが幾つもの命と共に砕かれ焼け落ちる様を目にしての兵士達の動揺たるやいかばかり。刹那の逡巡さえも命取りとなる戦地において恐怖に支配された軍隊などは所詮烏合の衆未満、怯えた者から邪竜の爪牙に死んでゆく。
「神様ーー……」
 真正面に邪竜の口が開くのを、その喉奥に青白い光が宿るのを目にして叫んだ若い兵士の懇願は神になど遠く届かない。然し応える様に翔けたのは黒い影。眼前を一瞬にしてよぎったそれが何であったか兵士は俄には理解が出来ず、その一瞬にて斬りつけられた邪竜自身とてそうだろう。今、騎乗する黒き鎧のヒポグリフの首を返して若い兵士を背に庇う位置へと舞い戻る彼のその向こう、既に首と胴体を分たれていた邪竜が墜ちてゆく。
「ーー無事か」
 ヨルの名を持つ黒耀の如き鱗のヒポグリフの騎上にて、刀片手に、黒い外套を靡かせて城壁上の兵士たちを振り返るのは丸越・梓(零の魔王・f31127)。神さえ見捨てた者たちに手を差し伸べたのは果たして黒き魔王であった。呆気に取られて頷くしか出来ぬままの兵士たちへと梓は今は言葉を掛けるでもなく、微かな微笑みのみを見せ、その愛刀を高く掲げてヒポグリフを駆り、飛来する敵どものただ中へと飛び出してゆく。ついて来いと無言で語ったその背中に、兵士たちが各々の得物を握り直した。
 皆殺しを命じられた邪竜たちとて、目の前で仲間が易く落とされたのを目にしてはその脅威へと注目は向く。高威力の光線にて城壁を薙ぎ払うことは易けれど、己の命と引き換えにでは釣り合わぬ。邪竜の牙が、鍵爪が、或いはその全身に生やした鍵爪めいた鱗が体当たる様に襲い来るのを梓もヨルも見越していた。邪竜の巨体に比べれば矮小とさえ言えるヒポグリフの躯は軽やかに宙を滑ってその牙を逃れ、爪先を躱し、無謀にも突っ込んで来た巨躯の動線を誘導しては他の一頭へぶつけて見せる。そうする間にも、擦れ違う間に、躱す刹那に、梓が振るう愛刀は邪竜の硬い鱗をものともせずに、銀のナイフで水菓子でも切る容易さで、刻み、暴威を削いでゆく。
 その派手な立ち回り、陽動たるや、まるで辺り一帯の邪竜が全て彼ひとりに向くかのよう。邪竜の群れが城壁に飛空挺に目もくれず、ひとところに群がる様は圧巻であり、一網打尽の好機に他ならぬ。けれど圧倒されるあまりに自分たちの出る幕等はないと踏んでか、王国軍のヒポグリフ隊もグリフォン隊もどこか遠巻きにそれを眺めて、城壁からの援護射撃も何処か火力が足りぬ。
「聴け」
 友たる黒きヒポグリフの翼を鷲掴まんと伸ばされた鉤爪をその脚ごと斬って捨てながら、梓の玲瓏な声は無為に叫ばずとも戦場に酷くよく通る。ひとたびそれを耳にしたならば兵士たれども所詮人の身、魔王の威厳に抗えるものぞなき。
「お前達が戦場に立つのは、護りたいものがあるからではないのか」
 銀の刃の閃く度に邪竜の翼が、首が断たれる。光線を溜めた口蓋が縦に分かたれる。先までの人の命の散る儚さで邪竜が空へと散ってゆくその様を見つめる兵士たちの瞳は光を取り戻す。
「顔を上げろ、前を向け。お前達は、俺が必ず生きて帰す」
 一騎当千。獅子奮迅。その様を斯くも見せつけられて、誰がその言葉を疑えよう。それだけで既に十全に士気高揚した兵士たちへと、さらなる一手を用意しているのが丸越・梓と言う男。
「──決して、諦めるな」
 肩越しに振り向く男の射干玉の瞳が兵士たちを映す刹那に、邪竜が跋扈するこの蒼穹に黒き夜が舞い降りる。遥か眼下の雲海さえも見通せぬその夜の闇、慈悲深き魔王の統べる舞台は此の今此処に成されり。
 降りた静謐な闇の中、兵士たちは感じ取るのだ。この闇の中に在る限りいかな傷も苦痛も訪れぬ。それらは全てこの場の主への供物たれ。名も知らぬ見も知らぬ誰ひとりの命も散らせぬと魔王が己に誓いを立てた以上は、それがこの場の理だ。
 総毛立つ様な闇の中、邪竜たちは悟るのだ。その身へと邪悪なる力を与え続けた何かが、因果が、消えてゆく。嫌だ。厭だ。この身にはまだ贄が要る。闇のくせしてまるで浄化でもするかの様にその欲さえも根こそぎ攫うこの夜のなんと不可解なこと。
「臆するな」
 その隙を逃さず梓が静かに放つ言葉は、兵士たちの背を押した。王国の正規軍のヒポグリフが、グリフォンが、今、飛翔する。その背に刃を煌めかす騎手たちを乗せて。飛空挺から魔導砲が、城壁上からバリスタの矢が注ぐ。守りに秀でた王国軍の本来のその務めを果たすべく。
 無論邪竜とて無抵抗に討たれてやる道理などはない。苦し紛れに宙を掻けば、光線を迸らせればそれらは邪竜を取り囲む兵士たちの数を減らしてーー否、どうしてそれが成らぬ。臓腑を抉った筈の一撃は、四肢を散らした筈の一閃は、兵士たちに傷のひとつも齎さぬ。不死身とも映るその様に恐怖を覚えるは邪竜のほうだ。今や士気を取り戻し、狩る側に回る兵士たちへと陣頭指揮を取りながら、梓の纏う黒衣が重く血に濡れていること等はこの場の誰にもわからない。苦悶の声のひとつも漏らすことなくただ凛とその背筋を伸ばし、梓は誰をも守って見せて、誰ひとりにも悟らせぬ。兵士たる彼らがこの戦地に在る理由はきっと様々であれ、彼らにもまた愛する者が有るのであろう。ならばその元に翳りない笑顔で帰してやることこそが己の務めと梓は決めている。
 その黒衣を他者の為に流したその血で重く濡らしてありながら、梓の振るう刃の冴えは衰えず。その手にしかと手網を握られたヨルもヨル、斯くなる局面、己の主が一歩も退かぬと知ればこそ、尚高らかに嘶きながら敵陣の中央へ飛び込むことに躊躇いはない。夜の帳の降りた戦場を蹂躙し尽くすようでありながら、梓は刃に安息の願いを宿して今また邪竜を雲に沈める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム
復讐の念なら……確かにありました。
復讐を果たした時見えた景色は――
今は言わなくてよいことでしょう。
私の手は《戦士の手》。
未来を侵す敵を、オブリビオンを討つのみです。

――風の【属性攻撃】を武器に纏い、
【空中浮遊】して飛び回り戦います!
敵の竜達へ【ダッシュ】で寄りて力強く【なぎ払い】。
【衝撃波】を見まい、多くの竜を巻き込むような初撃を撃つ

一撃叩き込んだ後は各個撃破を狙い、
竜の体を捕まえて【鎧砕き】【鎧無視攻撃】をねじ込むっ
小兵に見えても、【力溜め】た私の一撃は効くでしょう
武器だけでなく、時には【功夫】も生かした
打撃もお見舞いして

相手も光線で反撃してくるでしょうが、
自慢の【オーラ防御】を展開し弾き飛ばしてみせます
宿縁を感じる竜たちです
貴方達に屈するわけにはいかないッ
【気合い】十分に耐えて、組み付き
フィニッシュは【怪力】を生かしての投げで
地面に叩きつけますよ
さぁ、次の相手はどなたです?

と説いて、さらに次の竜に向かいますっ!
竜を殲滅するまで止まらず、【勇気】を胸に、戦士の手と共に、
闘い続けますよ!



●戦士のその手は竜をも砕き
「復讐の念なら……確かにありました」
 復讐。
 この大掛かりな侵攻の動機は左様に取るにも足らず同情の余地とてない単純なものに過ぎぬとグリモア猟兵は告げて見せた。その言葉を思い返しては、一面の蒼穹を同じ空色の瞳に映し、未だあどけなさの残る花のかんばせを僅か曇らせながらユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)の思考は刹那、過去を向く。
 復讐の念に駆られたことは、ある。自らを蛮人であると些かの自虐と矜持を交えてそう称する彼女は、友の屍を踏み越えて今此処に立つ。野生の獣たちの跋扈する密林に育った彼女が、かつて共に笑い合ったその親友。戦士として共に鍛錬に明け暮れたり、狩の成果を競い合ったり、年頃の少女らしい話題に花を咲かせたり……それらのどの瞬間にも在ったのは懐かしいただ一人の笑顔であった。そうしてそのどれも今はもう戻れぬ、とうに失くした過去のこと。平穏な日々のその最期、朱に沈む親友のその姿を目にしては、復讐の二文字が浮かばぬ道理などない。けれども果たしてそれを遂げた時にユーフィが目にした景色はーー……。
 誰にともなく小さく首を横に振って見せ、ユーフィは無理矢理回顧を終わらせる。それらは今は言わずとも物思わずとも良いことだ。その過去がいかなものであれ、今の彼女の艶やかな褐色のその手は小さくとも《戦士の手》なのである。それは骸の海に沈める過去たる分際で今を未来を侵し脅かすオブリビオンを葬るためにあるもので、それ以上でも以下でもない。
 ゆえにこそ今目の前で王国の正規軍の兵士たちへと牙を剥く邪竜を彼女が見逃す筈もない。転送されて降り立ったこの城壁上より、黒いブーツに包まれたその脚先は足場ひとつない宙を踏み、空を駆ける。ただ真っ直ぐに、果たすべき邪竜の元へ。
「私が、蛮人がお相手しましょう」
 風を纏わせて邪竜の首へと唸る大剣の名は『ディアボロス』。友が為の復讐を遂げて尚彼女は愛剣のその名を強いて改めぬ。復讐の刃は定かに邪竜の首を斬ると言うよりは叩き砕いて、その勢いのままに遥か眼下の雲海へその身を墜落せしめるのだ。
 その刃を返す様にして、眼前に居並ぶ邪竜たちへと放つ衝撃波は刃の届かぬ彼方までをも切り裂いて、その統率を狂わせる。統率を失くした部隊が弱いのは何も王国軍のみならぬ。邪竜たちとてその数が脅威なればこそ、個々に散らせば勝機もあろう。僅かたじろいだ気配を見せた手近な一体の尾をまずは掴んで、逃れ得ぬ様に捕まえてからユーフィがその胴に叩き込む刃は過たずその身を穿つ。光線の代わりに血反吐と断末魔めく咆哮を吐いて墜ちてゆく邪竜のことなどもはや見もしない。その頃にはもう彼女は次の一体を仕留める最中なればこそ。邪竜の巨体に比べれば無論、人の身にしても小兵と称するに相応しい華奢なその身のどこにそんな力が宿るのか、刃ならぬその拳さえ邪竜の鱗を砕くのだ。
 無論、空を舞う災厄たちは大人しく虐殺されてくれよう筈もない。星砕きのその名に恥じず、不敵に青白く光宿したその全身から今放つのは、瞬きをするその間にさえも街ひとつ滅ぼす勢いで放たれる無数の光線だ。
「させません……!」
 城壁上の友軍へ、飛空挺へと降り注ぐはずの光を押し留めたのはユーフィが咄嗟に張り巡らせたオーラによる護りであった。仄かな煌めき纏うそれは傍目にはさながら硝子細工の様に薄く儚くありながら、けれども邪竜の光線さえも弾き飛ばして揺るがない。それは猟兵として鍛え抜かれたユーフィの自慢の業であればこそ、星さえ砕く災厄ですら傷ひとつ入れることぞ能わぬ。
 そうとも知らず懲りもせず光線を放ち続ける邪竜たちを空色の瞳がじっと見つめる。
 闇色の鱗纏う邪竜たちは何処までも禍々しくも、その圧倒的な力強さはいっそ神々しくさえもある。その威容を正眼に見据え、冷静に観察しつつ、ゆえにこそユーフィは思うのだ。これは此処で己が討つべき敵だ。この邪龍どもに直接に何の恨みも因果もありはせぬ。ただ、猟兵としてのその本能が告げている。これは己に何らかの宿縁のある敵であろうと。そうして、野生に近しく生きてきたユーフィの本能が誤ることなどこれまでありはせず、此度もまた見誤ることはあるまい。それゆえに。
「貴方達に屈するわけには行かないッ」
 ようやく光線が効かぬと見て取って鉤爪を振るう邪竜の脚は、けれどもこの野に咲く花を散らすには至らない。その爪に細い肩を裂かれながらも花の唇から呻きのひとつ漏らさずに、ユーフィはその脚に組みついてみせた。その細腕が邪竜のその身を重力などは無視するものかの様に遥か頭上に持ち上げて、今、眼下の雲海に叩きつける様に投げ込むのだ。そうしてその様を目にしては、周囲の邪竜も、友軍たるべき王国の正規軍さえただ気圧されて固唾を呑んで見守る他にない。
「さあ、次の相手はどなたです?」
 可憐な少女である以上に、戦士たるユーフィは強者を求む。それがこの今目の前に在る。ゆえに問いかける言葉に返事があろうとなかろうと彼女の為すべきはただひとつ。相手が来ぬなら自ずから次の「強者」ーー新たな邪竜へ向かうのみ。嗚呼、無情。邪龍たちとて斯様にいとけない少女によもや蹂躙されようと予想の出来よう筈もなく、確かに慢心もあったであろう。そうして間近なこの距離で戦士のその手より逃れられよう筈もなく。
 戦士の手により、蒼穹に血が散る。邪竜たちが散る。復讐ならねど因果を感じる敵をこの可憐な見目に似合わぬ生粋の闘士がその目の届く限りで生かしておこう筈もない。王国の正規軍などが出る幕もない。誰も彼も邪魔する勿れ。この国を蹂躙しに来た筈の邪竜たちへの蹂躙劇は小さくも確かな力を宿すその手の届く限りの全ての命が尽きるまで終わるべくもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黒翼騎士』

POW   :    集団突撃戦術
【背中の翼と飛行魔術】によりレベル×100km/hで飛翔し、【一緒に突撃を仕掛ける人数】×【速度】に比例した激突ダメージを与える。
SPD   :    黒翼斧槍
【敵の頭上に飛翔し、ハルバード】による素早い一撃を放つ。また、【追い風を受ける】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    黒翼防御戦術
自身の【部隊の守備担当】になり、【翼に風を受ける】事で回避率が10倍になり、レベル×5km/hの飛翔能力を得る。

イラスト:astk

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●み空より天使の群れ来たれり
 先遣隊たる邪竜たちを、猟兵たちと、彼らが鼓舞した王国の正規軍たちが迎え討つさなか。
 戦線の彼方、力強く天を打つ幾千幾万の羽音が降り注ぐ。屍人帝国の大軍勢、その本隊のお目見えだ。
 先遣隊は陽動だ。あれだけの大火力を叩きつける邪竜の群れならいかな軍備を持つ王国とて放置出来よう筈もない。そちらへと戦力を向けさせた上で、迂回した本隊が城塞都市の一角へと攻め入るという算段だった。日輪を背に、黒翼を羽ばたかせて舞い降りる騎士たちは黒く禍々しき鎧を纏い、深く沈む闇を纏ったハルバードの穂先を並べていた。
 街には怯えた様に見つめる住民たちの姿がある。陣頭にて大軍を率いる騎士が剣を掲げた。
「蹂躙せよ」
「させるかよ!」
 勝気な声を号令に降り注ぐのは無数の矢であり銃弾だ。ありとあらゆる物陰から建物から姿を現すのは王国の正規軍の兵士たち。ほとんど無人と見えた城壁の上にも、どうやって身を隠していたのか兵士たちが居並んで、弩や銃火器を射掛ける。尚、住民のふりをしていたのも兵士であり勇士たちである。
「なに……?!」
 やや面食らった黒翼の騎士たちへと、民家の屋根に登って銃を構えたエンジェルの女将校が舌を出す。
「この王国が何十年防戦に徹してると思ってるんだ!一見さんたちめ!」
「小癪な……ッ!」
 王国の正規軍とて実はこちらが本隊だ。両軍の戦いの火蓋が切って落とされる。
 
 その少し後方にて、彼らを見下ろす者がある。
「話が違うぞ司令官殿!」
 黒翼の騎士のひとりが上空の飛空挺のひとつにて佇む男に訴えた。
「そもそも何故先遣隊が苦戦している?我らは先遣隊が落とした王都をただ蹂躙すれば良いとーー」
 その先はない。鎧の隙間を縫う様にその頸を貫いた矢が黙らせた。
「騎士団がこれではな……あの国も滅びる訳だ」
 蒼穹に、白雲によく映える紅を散らしながら雲海へと消えてゆく黒翼を冷めた瞳で見下ろして、男は心底の侮蔑をこめて呟いた。革命の前には部下や民草の心の掌握にもっと如才ない言葉のひとつ掛けたであろうに、過去に沈んだ今となっては、かつての扇動者はその貌に昏い憎悪しか見せぬのだ。
 ざわめいた周囲の黒翼騎士たちへと彼が向けるのは右手に構えたままのクロスボウの鏃と凍てる様な視線である。
「皆殺しにしろ。さもなくば殺す」
 男にはこの騎士たちの末路がいかなものであれ構わない。寧ろ。
「嗚呼、別に猟兵どもに殺されてくれても構わない」
 逃げる様に空を翔けゆく黒翼たちへと呪詛のひとつを吐き捨てて、金の瞳は何の感慨もなくそれらを見つめ続けていた。
 敵も味方もありはしない。一人でも多く死ぬならそれで良い。否、それが良い。

「北西に敵の本隊上陸!交戦中です!」
 邪竜と交戦中の戦場にロケットナイトの伝令が翔け抜けながら叫び伝える。
「猟兵諸君、残りの邪竜は俺たちに任せて向こうを頼む!」
 ヒポグリフを駆る将校が猟兵たちへと叫ぶ。猟兵達の活躍にて今や十分に士気と統率を取り戻した彼らは、猟兵たちのユーベルコードによる強化も加わり、邪竜と渡り合えている。
「後で会おう!」

【マスターより】
移動は気にしなくて良いですが格好良く駆けつけてくださっても構いません。
市街地戦。城壁の上からも戦えます。屍人帝国の本隊を迎え撃ってください。
猟兵のみ単騎で突出した場合には数に押されて苦戦判定。正規軍と連携を。

殲滅は無理なので、数を減らして正規軍を助けつつ、ある程度倒して後方の司令官への道を開いたらボス戦です(こちらは三章)。
ジュジュ・ブランロジエ

真の姿を解放

黒翼見てふと思い出す
前は白い天馬の騎士だったね
『なんか正反対〜』
そういえば処刑人は彼女達が討たれて泣いてたなぁ
狂っていてもそうならやっぱり優しい人だったんだろうね
だからかな、人の強さを信じてほしいって思っちゃったのは
『ただ倒すだけでいいのに説得みたいなことしちゃってたよね〜』
何故かわかってほしいって思っちゃったんだよね

軍と連携
私と一緒に戦う軍人グループを三つに分け
一つは私と正面から派手に暴れて
残りで挟撃

騎士って人を護る存在でしょ?
それでも騎士なの!?
お前達は騎士じゃない!
煽りながらUCで足止め
挟撃し易い様に派手な紙吹雪で目眩まし
光属性付与しキラキラ光らせる

陽動は得意!
さあ、どんどんいくよー!

敵の攻撃は風属性オーラ纏わせたメボンゴで武器受け
風属性衝撃波を手から出し勢い削ぎ
『真剣白羽取りっ』
と言いつつ受け止めず弾く
『この戦法、処刑人にも使ったね』
あの時上手くいったから今回も自信あったんだ
そういえばあの人、攻撃外したのに安堵してたっけ
『でもこいつらは違うみたい』
いくよ、メボンゴ!



●「どうかご武運を」
 黒き天使の軍勢は羽搏きと共に舞い来たる。騎士達のその翼にジュジュが思い起こすのはこの同じブルーアルカディア、鎌鼬の荒れ狂う或る浮島での光景だ。
 あの時天より舞い降りたのは。
「前は白い天馬の騎士だったね」
『なんか正反対〜』
 思わず零した一言にメボンゴが意を汲んだ様に答えてくれる。
 かの戦地にて。浮島を落とさんとしたオブリビオンは、猟兵たちの活躍に見入るあまり喝采混じりに無防備にその姿を現した。殺気立つ猟兵たちの前、首魁を討たせまいとして立ち塞がったのが真白き天馬騎士団である。彼女らの武運を祈って去ったその男はーーやがて教会にて祈りを捧げるそのさなか、猟兵たちの訪れに騎士たちの死を悟ったか。
「嗚呼、騎士様がたは……」
 その先にはもう言葉などなく、声もなく、ただ静かに彼が零した涙は不思議とジュジュの心に残るのだ。
 オブリビオンたるその根源は狂い果てると言うにも等しく狂気に満ちてありながら、尚誰かの死に落涙し嘆くその姿を目にしては、ジュジュはただ討つを良しとするほどに非情にはなり切れず。
「だからかな、人の強さを信じてほしいって思っちゃったのは」
『ただ倒すだけでいいのに説得みたいなことしちゃってたよね〜』
 何故、だろうか。
 転生が叶う見込みもないこの世界にて、改心しようと討つだけだ。それでもわかってほしいとジュジュは願った。相手は話の通じぬ狂人であると知りながら、一縷の望みを懸けていた。
 果たして、彼女の言葉を何ひとつ否定なく聞き届けてなお猟兵たちと戦い続け、果てに首を落とされたかの処刑人はせめてその最期には何らかを理解してくれたのであろうか。
「あの、猟兵さん……」
「あ、ごめんね。ちょっと考えごとしちゃってた」
 兵士に声を掛けられて、ジュジュは素直に謝った後、気を取り直す様に明るい笑みを取り戻して声を張る。
「じゃあ皆、作戦通りにお願い!」
「承知いたしました!」
 ジュジュの号令に二つの部隊がそれぞれ散開する。
「行くよ!」
 自らの元に残る部隊を率いてジュジュは屍人帝国の大軍に真正面から立ち向かう。
「素敵なショーをみせてあげる!」
 高らかにジュジュが告げて、己へ注目を引く様に高くその手を掲げれば、戦場に満ちるは色とりどりの紙吹雪。まるでパレードさながらの進軍に、舐められたものだと苛立ち混じりの黒翼騎士たちが襲い来る。刹那、辺りに漂う紙吹雪が煌めいた。ただの紙切れなどでない。それはジュジュのユーベルコード『ワンダートリート(ワンダートリック)』。光を纏う極彩色の目眩しは昼間の戦場において尚眩すぎるほどにその存在を主張して、敵が怯んだその隙にジュジュ率いる王国軍部隊の剣が、槍が、黒翼騎士たちを貫き屠って突き進む。
「さあ、どんどん行くよー!」
 血飛沫さえも塗り替える様に極彩の煌めきを振り撒きながら、味方を援護する様に光を纏う矢を射掛け、ジュジュは光と色彩でこの戦場を染めてゆく。煌びやかに華やかに、陽動は文字通り派手なら派手なだけ望ましい。疎む様な注目と殺意に満ちた矛先をジュジュがその身に向けさせる内に敵の背後を突くのは先に配置した二つの部隊だ。いかな大軍勢とて部隊として個としてばらしてゆくならば、猟兵の力添えも得た王国軍が押し勝とう。
「ええい、我が国の騎士団が何たるざまか!」
 挟撃を受けた敵の部隊を率いるらしい黒翼の騎士が歯噛みするのを目にしてジュジュは敢えて煽ってやる。
「騎士って人を護る存在でしょ?」
 煌めく紙吹雪の向こうで白いワンピースを翻し微笑む少女の可憐な姿さえ、今の騎士には憎らしかろう。
「こんな侵攻しか出来ないお前達は騎士じゃない!」
「その侮辱、万死に値するーー!」
 劣勢の焦りもあれば沸点は何処までも低く。狙い通り、ひときわ強く翼を羽搏かせ、滑空するかの様に黒翼の騎士はジュジュへと迫る。頭上高く掲げた位置より、この今も紙吹雪を撒く右の手首を狙って振り下ろされるハルバードの刃に、ジュジュはその刹那、まるで重ねる様にしていつかの大鎌の刃を見た。
ーー「お赦しください、猟兵様」。
 かつて添えられたのは何処か悲嘆混じりのその言葉。この今それはなくとも、重なる様な既視感を覚えるその太刀筋に、ならば、応えるはこの一手。
『真剣白刃取り!』
 傍らから躍り出たメボンゴが両手でその刃を受け止めるかに見せかけて、その手のひらから放つ衝撃波で刃を迎え撃つ。受け止めてしまうならそこにあるのは五分と五分の膠着なれど、弾いてしまえば有利はこちら。
『この戦法、処刑人にも使ったね』
 ゆえに、上手く行く自信があった。体勢を崩す騎士を前にジュジュの手の中には一振りの投擲用ナイフ。
 あの時、同じこの戦法に大鎌の刃を跳ね上げられて、よろめく様に後退った処刑人の表情に仄かな安堵めいたものをジュジュは確かに見て取った。果たし合うべき筈のあの場においてあまりにも不似合いに思えたそれが、己の刃でジュジュの手首を落とさず済んだことへの安堵であったと今ならば確信にも近く理解する。ただあの一閃のみが、猟兵の職務として完全に殺す気でかかったジュジュの猛攻に防戦一本で応えた末の唯一の反撃でありながら、それがこの身を傷つけなかったことを喜んだあの存在は。
「やっぱり優しい人だったんだろうね」
『でも、こいつらは違うみたい!』
 磨き抜かれた早業ゆえにジュジュの投げるナイフはそれを見た騎士の瞳には銀の閃光としか映らぬ。鎧の隙間をついて、彼女の投げたナイフは騎士の左肩を過たず貫いた。あの時と同じその一投、確かな既視感。けれどそれに応えてジュジュへと向くのは眉を下げた優男の困った様な微笑ではなく、肩に刺さる刃もそのままにハルバードを構え直して殺意を滾らす黒翼騎士の、悪鬼めいた憤怒の表情だ。
 だが、その刃がジュジュへと届く前に騎士のその身に降り注ぐのは王国の正規軍の兵たちによる援護射撃だ。ーーあの時とは違う。ジュジュは今この場において一人ではなく、だが対峙する敵もまた然り。不意をつくつもりだったであろう、急降下にて、上空よりほぼ垂直に降るハルバードの切っ先をジュジュは一歩退いて躱して、メボンゴが放つ衝撃波で吹き飛ばす。横合いからの別の騎士の刃をナイフで受け流し、返す刃で羽根を裂く。
「いくよ、メボンゴ!」
『オッケー!』
 紙吹雪が舞う。羽根が散る。喝采はなくも、絢爛なる彼女の舞台は未だ開幕したばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゾーヤ・ヴィルコラカ

 来たわね、騎士さん達。ゾーヤさんが相手になるわ、かかってきなさい! 先に進みたいなら、この茨の道を越えていくことね!

 【UC:氷棘の乱舞】(SPD)を発動よ。〈結界術〉で城壁や屋根にタイミングよく氷の棘と茨を現出させて、頭上から飛んでくる騎士さん達を迎え撃って地上戦に持ち込むわ。

 一騎でも多くわたしのところで食い止めて、王国軍の皆が攻撃しやすいように〈時間稼ぎ〉をするわね。もし、騎士さん達が一点集中で茨を強引に突破しようものなら、わたしの魔法で逆に戦線を〈こじ開け〉るわ!

 わたし達だって一歩も退けないの。いくらあなた達が強くても、わたし達の心は絶対に折れないわ! さぁ、此処からよ!



●氷雪の華ぞ狂い咲き
 大軍などというものは、ただそこに在るだけで目にする者の気勢を幾らか削ぐものだ。数に物を言わせたその存在それ自体が暴力であり脅威でもある。防戦に慣れた王国の正規軍たちがいくら果敢に立ち向かおうと、その数の差は明らかであり、いかに虚勢を張ろうともそのまま戦い続けるならば誰の目にもその勝敗も歴然だ。
 王国軍の誰もが口には出さぬまま抱く不安を祓ってやるかの様に、今、高らかに声を上げる少女がある。
「来たわね、騎士さん達。ゾーヤさんが相手になるわ。かかってきなさい!」
 騎士道らしい作法に則ってと言うわけでもないが、民家の屋根に駆け上がり、名乗りを上げるのはゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)。華奢な体躯に似合わぬ重たげな片手半剣を携えながら、舞い来たる黒翼騎士たちを睨め上げる。所詮は多勢に無勢であろうと騎士たちの顔に余裕の色があったのは、けれどもこの瞬間までのこと。
「先に進みたいなら、この茨の道を越えていくことね!」
 刹那、翠玉の瞳が煌めいた。ゾーヤの言葉は比喩などでない。
 蒼天の下、陽の光を受けて煌めきながら現出したのは儚くも鋭き棘持つ氷の茨であった。家々の屋根に、或いは城壁と民家の屋根を繋ぐかの様に生い茂る茨はさながら黒翼を捕らう網の様に張り巡らされ、先陣の翼を捉えては、それを目にした後続の行き足を鈍らせる。
「待て、止まれ!!」
「何だこれはーー?!」
 それこそゾーヤの狙い通りだ。
 【氷棘の乱舞(アイシクル・ストラグル)】。
 追い討ちをかけるかの様に民家の屋根に、城壁に、まるで意思を持つかの様に生え出ずるのは氷の棘だ。下から、真横から、空を埋めんばかりの黒き天使たちのその身を、翼を容赦なく貫いた。流れ落ちる筈の血さえも凍るこの氷雪の冬の領域。敵の勇壮な鬨の声はいつしか叫びと呻きに変わる。翼を裂かれて落とされた者たちはまだ幸いだろう。地上に落ちたその身へと王国軍の兵士たちがとどめを刺して回る。
「援護をお願い!勝って帰ったら後でゾーヤさん特製のボルシチをご馳走しちゃうんだから!」
 友軍へと告げてゾーヤが駆け出すその先で、垂直に切り立つ城壁から生え出る氷の棘が氷の階段を築いてゆく。黒の編み上げ靴が氷を踏んで軽やかに駆け上がる。その身を氷の茨に囚われて、或いは氷柱に貫かれたまま未だ死ぬに死にきれぬ黒翼の騎士たちの命に、ゾーヤの手により振われた守護の大剣が終止符を打つ。そうはさせぬと未だ無傷の黒翼騎士たちが振り上げたハルバードをゾーヤはその刃で受け流し、返す刃で彼らのその身を護る鎧ごと打ち砕く。
「わたし達だって一歩も退けないの。いくらあなた達が強くても、わたし達の心は絶対に折れないわ!」
 この場を支配する氷の華の術者がゾーヤであると理解してだろう、この今まるでこの場の騎士たち全ての矛先が殺意と共に彼女に向かうかのよう。王国軍の守りの要たるゾーヤ、その一点突破を狙ったかの様なその攻勢に、しかし彼女とて何も無策に単騎で駆け出してあろうはずもない。彼女の指示を受けていた王国の正規軍の援護射撃が背後から注いで黒翼騎士たちの刃先を彼女に届かせぬ。彼女の後を追う様に氷の道を駆け上がって来たものとてある。正対した騎士のハルバードとの鍔迫り合いを力で制して跳ね除けながら、ゾーヤは氷の茨をなお一層に張り巡らせた。
 一騎でも多く此処で食い止める。その固い決意に応えるかの様に、煌めく茨は逞しく空を打つ黒翼もハルバードの刃もものともせずに押し留め、ゾーヤの、友軍の為の時間を定かに稼ぐ。城壁下より放たれた矢が、魔術が、ゾーヤと共に駆けて来た友軍の刃が黒翼騎士たちへ牙を剥く。
「さぁ、此処からよ!」
 己へと向けられたハルバードの柄ごと断ち切ってみせながら、ゾーヤが力強く友軍へと呼びかける。
 防戦はおしまいだ。さぁ、反撃を始めよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
亡国の一端と、護国の志士…
差は歴然ですね

◆行動
【罠使い】の技を活かし「魔法で敵を識別する浮遊型指向性散弾」を【衝撃波】に乗せて戦域に散布
斃れるならば良し、そうでなくとも回避方向を限定させるだけでも十分です

飛翔能力を伴う十倍の回避力?
ならば其を上回るだけの面制圧で空間諸共蹂躙するまでです

さあ、国軍諸兄、勇士諸君
狩りの時間です
私と共に一斉に攻撃する事で【集団戦術】を【範囲攻撃】と為し敵を殲滅しましょう

『涅槃寂静』にて「死」属性の「マイクロバースト」を行使し【範囲攻撃】

私自身も【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



●護国の志士に暗き女神は微笑みて
 霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は今再び城壁の上に立つ。戦線を遥か先まで見通せるこの場ほど、彼女の戦術に相応しい場所もない。そうしてそれに気づきもせずに、彼女へと目もくれぬまま派手に立ち回る王国の正規軍へと気を取られた屍人帝国の軍勢などは、絶奈に言わせればあまりにも戦場を知らぬものであり、もはや恐るるにも足らぬ。その体たらくたるや、いかにもその末路を保身に走った亡國の残滓にも相応しくーー今、国を護らんと立ち向かう護国の志士たちに比べれたならば差は歴然とも言うべきか。
 白き指先が示すまま、彼女の随意に戦場を抜けた衝撃波は、彼女の意図するままに戦地の随所に罠を仕掛ける。敵と味方を区別する指向性の散弾は敵が間近に寄るまではただ大人しく宙を漂い、けれども間合いに入った敵を無数の弾丸は逃さない。
「気をつけろ!敵の罠だ!」
「飛び道具だ!下がれ!」
 飛翔しながらオブリビオンのその異能にて回避力を高めてゆく黒き翼の騎士たちに、けれども絶奈に焦りなどない。
 点でもない。線でもない。戦場とはそれ即ち面で制すべきものである。その理論において絶奈の戦略はぬかりない。相手は飛翔する敵だ。ゆえに動線に加えて高低差を考慮して配した罠たちは、撒き散らす様に放つ散弾で一方向へと黒翼騎士の群れを追い立てる。
 逃げる方向さえわかるなら、その先で迎え撃つことの容易さよ。
 目深に下ろしたフードの向こうで硬質な銀の瞳が煌めいて、【涅槃寂静(ヨクト)】は此処に発動される。あらゆる属性と現象を自由自在に組み合わせるその御業、此度連れて来たのは「死」の属性で、上空から叩きつける様に地表へと吹き降ろすダウンバーストだ。無数の黒翼たちを飲み込んで風は吹き荒れた。ただでさえ制御の難しいその術が、けれども暴走しようと構わない。狂え狂え。吹き荒べ。暴風が黒き翼を叩きつける先が地面であれ城壁であれ、或いは蒼穹にその身を舞いあげるものであろうと構わない。風に煽られ自由を失くした翼ほどに頼りないものもなかろう。尚且つ風に遊ばれる内にその身を深く死が侵すなら、後は時間の問題だ。
「さあ、国軍諸君。狩りの時間です」
 吹き荒れる風に銀の御髪を靡かせながら、異端の女神は凛と告げる。
 これより幕を開けるのは戦いならぬ、狩りである。互い命を賭しながら果たし合う場をこそ戦いと呼ぶならば、抵抗さえもままならぬ敵にとどめを刺して回るこの場をそれ以外に何と呼ぼうか。女神の言葉に従う儘に王国の正規軍たちがこの今並べる矛先は彼女が常より好んで率いる屍者の軍勢の槍衾にも似た。屠れ。踏み躙れ。さあ、蹂躙戦を始めよう。
 味方を穿たぬ散弾の降り注ぐ中、王国軍の剣が、槍が、風にその身を弄ばれる黒翼騎士の身を穿つ。血飛沫さえも巻き上げて赤い赤い風が吹く。今はもう亡き亡國の亡霊たる騎士たちが意地を見せようと吠え猛れども、叩きつける様な衝撃波がそれを許さない。怨嗟の瞳の睨む彼方に毅然と佇むは邪悪なる白き勝利の女神の姿。
 過去に沈んだ亡國に勝利の女神は微笑まぬ。絶奈がかたちの良いその口元に浮かべた冷笑は彼らにとって微笑み等とは遥か対極の恐怖それ自体に他ならぬ。黒翼騎士たちが自棄の様に振り上げるハルバードを持つその手さえ、死を齎す風に力を奪われ落ちてゆく。沈め、沈め。骸の海へと続く雲海は慈悲なくその身を受け止めようぞ。ただ亡國への忠誠と騎士の矜恃のみを支えに抗う黒翼たちが死力を絞って辛くも刃を女神のその身に届かせようとも、奪われてゆく己や仲間の生命が、刻んだばかりの傷を端から埋めてゆく。この今絶望のその二文字を思い浮かべるは誰であろうか。
 女神に導かれるままに王国軍の兵士たちが士気高く鬨の声を上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

マスタリング歓迎

_

例え無茶をして怪我ばかりしても
怒ってくれる人はもういない
孤児院の弟妹達も、親友であり部下であった者達も、かの憂いなき地の青年も
全て喪った
俺が護れなかったからだ

もう沢山だ
目の前で誰かを喪うのは
無茶だと無謀だと言われようが知ったことか
俺には責任がある
兵士らもこの騎士達も、竜達も
そして憎悪のままに復讐せんとする彼も
愛する者のもとへ帰す、責任が

ヨルへ鋭く指示を出し
兵らを庇いながら神速の斬撃を伴って最前線へ躍り出る
斃れるものか、斃させるものか
悪魔だと、怪物だと罵られ
傲慢だと、偽善だと謗られようと
真正面真っ直ぐ受け止めながら、それでも曲げられない
それが、俺の正義だから

激化する戦場においても常の冷静さは決して失わず
戦局を常に把握し
兵らを最優先に庇いながら
瞬間思考力により最適解の行動を

戦場は広がった
然し俺は何があろうと決して斃れない
ヨルを変わらずオーラ防御で護りながら
威厳と覇気を以て

──お前達の、"夜"が来たぞ

彼らの魂を
愛する者のもとへ送る為に
今は──眠れ



●斯くも慈悲深き夜の底に
 黒翼どもの乱舞するその戦場を尚黒き双眸が見つめて在った。黒き外套を翻し、毅然と己が手綱を握るヒポグリフの背の上に立つその男。その彼が纏う黒衣を重く己の血に濡らして居ようなどとは、誰も夢にも思うまい。
 先の邪竜との戦いにおいてその爪牙は悉く丸越・梓(零の魔王・f31127)の身には届かなかった。届きようのあるべきか。梓の身を護る堅牢な魔術の障壁が、梓に手網を委ねた黒き鎧の幻獣の機敏さが、それを許そう筈がない。しかしこの今その身が周囲の誰より満身創痍の理不尽よ。無理もあるまい、蛮勇で飛び出す歴戦の兵士たちも、初陣に膝を震わす新兵も、それら味方が本来負った筈である致命傷にも等しい傷を梓はその身に引き受けて、その術の、己の統べる夜の範囲に息づくものの全てを守り通して来たがゆえ。
 常より斯様に無茶ばかり繰り返すこの魔王とて、流石に斯くも傷だらけのていともあれば、本来ならば誰かが止めて叱ってくれる筈である。それは孤児院の弟妹達であり、かつて親友であり部下であった者達やもしれぬ。それは兄弟として、友として。彼らはきっと窘める様に諌める様に、その無茶を咎め引き止めよう。或いは憂いなき地で梓が出会った青年も、共に過ごした時間は短けれども、梓の今の姿を目にしたならばあの線の細い面差しを哀しげに曇らせてその身を案じたに違いない。例えばそうだ、「梓様、何故にそんなにもご無理をなさるのです?」などと。
 だがその様な諫言も気遣いも梓へと向けられることは二度と、ない。梓の人生に、その心の裡へと深く関わった存在たちは、そのどれもが既に梓の指先をすり抜ける様にして喪われている為だ。そうしてその誰も平穏無事に畳の上で死ねた者とてない。嗚呼そうだ。梓が護れなかったがゆえに。その誰も最期はその身を己が血潮に沈めて赤く紅くーー
「もう沢山だ」
 歯噛みする様に絞り出す言葉を耳にするものとてもはやなく。だが譬えそれを耳にした者がいたとて何かせん。
 もう沢山だ。短い言葉に込められた万感たるや。目の前で誰かを喪うことにあまりに梓は慣れすぎた。だがその心が麻痺などしよう筈もなく、喪う度にこの胸は確かに鋭く痛むのにーーもしこれ以上を喪うならば、その痛みが和らいでしまうことこそが梓にとっては恐ろしい。梓の意思などよそにして、それは先に逝った者への冒涜で、この先梓が喪うやもしれぬ者たちを軽んじてしまうことに他ならぬ。無意識下のその恐怖に抗うかの様に梓が振るう刃が黒翼を薙ぐ。応える様にヒポグリフが鉤爪を持つ前肢をあげて吠え猛る。対峙する敵陣の、或いは刃を並べる味方とて誰に理解が出来ようか。傍目には獅子奮迅のその切っ先が斯くも悲痛な内心の叫びと共にこの場に在ろうことなど。その刃が、少なくとも今はまだーー黒翼騎士たちの命を刈ることのなき様に振るわれている事実と共に。
 傲慢だと謗られようと偽善だなどと嘲けられようと、梓には責任がある。誰が課したものでもない。ただ、この黒き魔王自身が己に誓いを立てたのだ。この場に在る全て、その立ち位置が骸の海に隔てられた彼岸であれ此岸であれ、目に映る誰をもその愛すべき者たちの元へ返すと梓は決めた。護国の兵士たちは勿論のこと、贄を求めて殺意のままに牙を剥く邪竜たち、命令のままに舞い来たりては刃を振るう黒翼騎士たちに、その何よりの元凶たるかの復讐に狂う男まで。可笑しな話だと己でもわかる。男は梓の決意をそれこそ傲慢だなどと言うやもしれぬ。嗚呼、それでも構わない。構うまい。
 彼方にて邪竜どもを迎え撃つ戦場とこの場の戦線のその一端がいずれ繋がる。戦闘の長引く内に戦線が伸びたがゆえのものだった。それこそ梓の待ち望む瞬間。黒き友たるヒポグリフを駆りて戦場を翔ける魔王は敵味方の入り乱れ、弾と矢の降る場でなおも平静を失わぬ。元来は遠く二つに分かたれていた戦線がついに繋がるその刹那、魔王が喚ばうは夜の闇ーー
「お前たちの"夜"が来たぞ」
 【黒耀(ベルヴェルク)】。
 何と我が身を顧みぬ御業であろうか。夜が舞い降りて覆い尽くしたこの広大な戦場で、味方全ての傷と痛みは梓にのみぞ降る。夜の訪れた刹那から何処の誰ともわからぬ兵士の為にその身に傷を刻まれながら、魔王は声のひとつも漏らさない。
 そうして何と慈悲深き御業であろう。オブリビオンとして骸の海という過去に縛りつけられていた黒翼の騎士たちはその因果を断ち斬られた者から傷もないままに堕ちてゆく。真暗き夜だ。さぁ眠れ。この夜が誘う眠りはさぞ安らかで深かろう。
 だが断たれんとする過去の戒めを繋ぎ止めんと抗う者たちも多くある。朋輩を雲海へと沈められ、怒りに狂いて各々その手に槍斧を掲げ舞い来たる無数の黒翼がそこに在れども、一歩たりとも梓は退かぬ。光る刃を正眼に据え、敵の数にも怯みもしない。この場こそが最前線、その背に無数の王国軍の兵士たちを庇い立つ位置に居ればこそ尚更だ。誰一人とて殺させぬ。それが梓の信じ掲げる正義。誰が嗤おうと揺るぎなどせぬ。
 首を狙う刃を受け流し、心臓へと向けられた突きを叩き落として、背後からの袈裟斬りを身を捩る様にして躱し。返す刀に黒翼騎士の翼が腕が首が飛ぶ。数が増えても同じこと。
 まともに戦えば勝機なし。ならばと梓の騎乗するヒポグリフへと騎士たちが矛先を変えようとも、黒き鱗に向けた殺意は不可視なれども確かにそこにある魔術結界に弾かれる。有象無象にも等しい味方の誰一人傷つけさせまいとする丸越・梓という男がその友の身を無防備に危険に晒して居よう筈がないのだ。反撃と言わんばかりに猛る騎獣の鉤爪に、騎上より梓が振り下ろした刀に、羽根が散る。命が散る。堕ちゆくいずれかの黒翼が血と共に吐き捨てた。
「悪魔め……!」
 梓にはなんと耳慣れた罵りか。あまりにも圧倒的なまでの力と死という事実を目前に、斯くも陳腐な罵倒を遺言代わりにした者などはこれまでにも腐るほどに居た。
 向けられた悪意に梓が返すのは労りを込めた眼差しのみ。
「今はーー眠れ」
 その魂が愛する者の元へ還れるようにと祈りをこめて。
 黒翼騎士たちが墜ちてゆく。
 幸いなるかな、魔王の統べる夜の中で眠りに就くのだ。彼らの因果も断たれよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『革命の扇動者』

POW   :    驟雨
レベルm半径内を【呪詛を纏って降り注ぐ矢の雨】で覆い、[呪詛を纏って降り注ぐ矢の雨]に触れた敵から【自身の傷を癒す為の生命力】を吸収する。
SPD   :    遠雷
【魔力を解放することにより】【自身の傷と状態異常異常を治癒し】【戦場に散った仲間たちの無念と怨嗟】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    狂嵐
自身が戦闘不能となる事で、【自身にとどめを刺した】敵1体に大ダメージを与える。【憎悪や怨恨】を語ると更にダメージ増。

イラスト:クラコ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ラファエラ・エヴァンジェリスタです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●その心をして凍てつかせしめ
 今はもう、遥か昔の褪せた記憶だ。
「ジル兄ちゃん行っちゃうの?」
「おー、おー。男の子だろ? そんな顔するな。たくさんお土産持って帰ってやるからさ」
 六つになった弟が泣き出しそうな顔で訊くものだから、高い高いをするように抱き上げてやって、俺は笑いかけてみせる。それだけで至極単純にきゃっきゃと笑う弟の笑顔は酷く眩しいものだった。
「ジル、危なくなったらすぐに逃げるんだよ」
「兄さん、無理はしないでね」
 流石に事情を知っているお袋と、妹の顔は暗かった。身内が傭兵に出るともあれば仕方あるまい。だから俺は殊更に笑みを崩さない。
「大丈夫だよ。俺が昔から腕っ節と悪運だけは強いって知ってるだろ?」
「それはそうなんだけどさ」
 唇を尖らせる妹の左の薬指に、安物ながらも一粒の宝石を煌めかせた指輪がある。それを贈った男を俺は知っている。当初妹との仲が許せずに散々にボコボコにしてやったのに諦めなかった、そんな奴だ。
「……私の結婚式までには帰って来てよね」
「わかってるって」
 弟を肩に抱き上げながら、空いた肩手で妹の髪を梳く様に撫でてやる。泣き出しそうな顔で妹は微笑んだ。
「父さん、留守は頼んだよ。じゃないと母さんとジェーンが五月蝿くってかなわないからさ」
「……気をつけて行っておいで」
 不器用ながらも精一杯の気遣いを滲ませて親父がぶっきらぼうにそう告げる。それだけで十分だった。出征の間際、人目を忍ぶ様にして隣家の幼なじみがこっそりとペンダントをくれた。
 愛する家族に、幼なじみに見送られて出征をしてーーけれど皮肉にも俺の凱旋に、その誰もそこに居なかった。
 聞き知ったその末路、思い出さえも踏みにじる様な王政のその暴虐をどうして許すことなどできようか。
 ゆえにこそ俺は復讐をした。扇動をした。是非も善悪もそこにない。
ーー誰も彼も皆死ね。
 俺が願うのはそれだけだ。他に望みなどありはせぬ。
 何故ああも善良な彼らが死んで、お前たちは生きている。この呪詛は怨嗟は、何処へとぶつけてやれば良い。
 お前も、お前も、皆死ね。嗚呼、でも、それらの命を摘むというただそれだけの目的の為、俺は生き続けなければならぬ。


「……猟兵ども」
 逃走の算段でも立てていたのだろう、船首を返したその敵の飛空艇に猟兵たちが降り立った時、近衛らしき黒翼騎士たちの背後にて敵の首魁たる男は忌々しげに呟いた。
 おそらくこのまま旗艦が退けども屍人帝国の軍勢は退かぬ。退く命令を受けぬまま退いたならこの男の制裁により、帰った先にて命なし。だがしかし、司令官たるこの男を殺せば軍勢は敗走を余儀なくされる。否、敗走を許される。
 猟兵たちに導かれてこの場へと至る王国軍の飛空艇から放たれた無数の魔導砲撃が男を狙う。身を挺したのは黒翼の騎士たちだ。
「嗚呼、ご立派な鎧纏ってなんてザマだよ」
 艦砲射撃の止んだ後、立っているのは男ひとりだ。咄嗟に掴んで盾にしていた騎士のひとりがその身を焦がして事切れているのを確かめて、男はそれを無造作に床へと投げ出しながらせせら笑った。
「猟兵ども」
 猟兵たちへと向き直り、男は笑みを消して低く呼びかける。
 燃える赤毛に金の瞳。吹き付ける強風に今靡かせる赤錆色のマントはどれだけの返り血を浴びて来たであろうか。かつて革命を扇動したと言われる男は今は屍人帝国の軍勢を率いてやはり騒乱を扇動し続ける。
 真っ直ぐに猟兵たちを睨みすえ、クロスボウを構えながら、その鏃と一体化した視線を向けて扇動者は告げるのだ。
「赦せとは言わない。ただ、死んでくれ」
 吐き捨てた言葉そのままに、爛々と光る金の瞳に狂おしいほどの憎悪が宿る。

【マスターより】
 ボス戦です。生き汚い。
 足場は敵味方の飛空艇。モブ程度に黒翼騎士がいます。
 モノローグはただの演出なので彼は言葉にしませんが、知っていても構いません。
 敵「扇動者」の武器はクロスボウ、近接ではナイフ。
 WIZUCご使用の際の敵の反撃UCはトドメ以外はPOWといたします。対策にはご注意を。
ゾーヤ・ヴィルコラカ

 『死んでくれ』なんて、そんな訳にはいかないわ。咎人さん、あなたの復讐は、ここで終わりよ!

 【UC:魔氷変容】(POW)を発動、射程を捨てて移動力を強化するわ。両手両足に氷の爪を生やして、四足で全力の〈ダッシュ〉よ! 矢の雨の中を〈覚悟〉を決めて、着弾するまでの一瞬のうちに駆け抜けるわ。接近したら飛びかかって近接戦闘、〈野生の勘〉で致命傷を避けながら彼を爪で切り裂くわ!

 大切な人を失った悲しみはそう簡単に消えてくれないし、世界だって憎らしい。けれど、それで屍を積み上げたら、憎しみは深まるばかり。だから、この国の人の為にも、血を流し倒れた人の為にも、何よりもあなたの為に、ここで終わりにするわ!



●氷雪の爪牙、降りしきる矢の雨などはものともせずに
 驟雨来たれり。矢の雨だ。無数の鏃が呪詛を纏いてこの戦場に広く遍く降り注ぐ。控える様に遥か上空を舞っていた黒翼騎士どもの身をまず穿ち、赤い血の雨を連れて来る。
「赦せとは言わない。ただ、死んでくれ」
 悪意そのものを吐き捨ててみせるかの様に紡いだその言葉を終えるか終えぬかの内に、扇動者は携えたクロスボウにて空を射てそのユーベルコードを成して、この矢の雨を注がせた。
 言うなればそれは野生の勘だ。男の挙動を目にする前に、痛いほどの殺気を読んだゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)もまた即座にユーベルコードを発動していた。【魔氷変容(エンチャント・フローズン)】。先の邪竜をも質量で圧倒した氷塊を喚ぶ術とは対照的に、此度の氷は繊細だ。か細い四肢を堅固に鎧うかの様に覆う氷はその先で肉食獣めいた長く鋭い爪を成す。
 硝子細工の様に冴えた煌めき纏わす四足で、どこかおとなびているくせ可憐な人狼聖者のおとめは矢の雨の注ぐ筈の死地へと駆け出した。その氷の齎す異能にて射程を犠牲に、代わりに俊足を強化したその選択は瞬時に導いた最適解。射程距離が狭い以上、接敵し間合いを詰める他にない。けれども降る矢がこの身に届く前にそれを成すだけの機動力は得た。
「目障りだ」
 ゾーヤに気付いた扇動者が手にしたクロスボウより矢を放つ。最短距離で己へと至る道それ即ちその射線上である。退けと言わんばかりに続ける二の矢三の矢、大きく回避したならば降り来たる矢の雨を逃れるに間に合わぬ。既に覚悟を決めたゾーヤの答えはひとつ。一の矢を身を伏せて躱し、二の矢を前肢の氷の爪で薙ぎ、三の矢は、致命傷には至らぬと踏んでその肩へと受けながら、扇動者へと飛びかかる。
「死んでくれなんて、そんな訳にはいかないわ」
「獣が喋るな」
 その身を引き裂かんと襲いかかった氷の爪を扇動者がクロスボウで防ぐ刹那、この男の周りの僅かな範囲を残してついに無数の鏃が戦場を穿つ。黒翼たちの血も、出来たばかりの屍たちも落ちて来る。無論ゾーヤとて矢の雨を逃れたと安堵する間などはなく、扇動者がもう片手にて抜いた軍用ナイフの刺突を間合いの外に飛び退る様にして避ける。
「咎人さん、あなたの復讐は、ここで終わりよ!」
「復讐なんてとうに終えた」
 瞬間、間合いを取り直そうとするかの様に自らも退く扇動者に、ゾーヤはそれを許さない。遠のけば一方的に弓矢を射掛けられるばかり。なれど近付きすぎたならナイフの刺突は振り翳し切り裂く爪よりは隙がない。なればこそ己が取るべき間合いをゾーヤはよくよく理解しているし、敵とてそれを知ってのこの立ち回り。
 ならばその間合い、踏み込み過ぎる程に踏み込んでやれ。覚悟はとうに決めている。氷の爪の一閃を伴って体当たりする勢いで踏み込んだゾーヤに意表を突かれたか、僅かに反応が遅れた扇動者のその肩口を四爪が深く抉り裂く。相討つ様にナイフが脇腹を抉れどゾーヤは退かぬ。
「大切な人を失った悲しみはそう簡単に消えてくれないし、世界だって憎らしい」
「知った風な口を」
 爪に刻まれた傷から血を流しながらも間髪入れずに殺意と共に向けられたナイフの切先を、次いで殴りつける様に振われたクロスボウを諸共に爪で防いで、氷の向こうで憎悪を燃やす瞳をゾーヤは真っ直ぐに見つめて叫ぶ。知った風な口などでない。知っている。それは己の身を以て、他の誰より身に染みているがゆえ。
「けれど、それで屍を積み上げたら、憎しみは深まるばかりなんだから!」
「俺は憎しみを消したいなんて願っちゃいない!」
 歯噛みする様に叫び返した扇動者が、ゾーヤの氷の爪を怒りに任せて跳ね除ける。感情に任せるがままの動作のその隙をゾーヤが見逃す筈ぞなき。
「嘘よ、ゾーヤさんにはわかるんだから!」
 その四肢に纏う氷のごとくゾーヤの思考は冷静だ。
「本当にそうだとしたら貴方はもっと平静でいるはずよ!この国の人の為にも、血を流し倒れた人の為にも、何よりもあなたの為に、ここで終わりにするわ!」
「偽善者めーー!」
 扇動者が咄嗟に構えたクロスボウでもナイフでも防ぎ切れない太刀筋を導いたのは野生の勘だ。ゾーヤの氷の爪は定かに扇動者の胴を切り裂いて、蒼穹に赤き花を散らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユーフィ・バウム


貴方のことは存じません
ですが、私の培った【野生の勘】は
なんとなく分かります
貴方の怒り、貴方の戦い、想い
そしてそれが今歪められてしまっていることも

猟兵がオブリビオンに出来ることは、ただ1つです
ユーフィ・バウム、参りますッ!

相手の矢に対しては、風の【属性攻撃】を
十分に纏うディアボロスでの【なぎ払い】【衝撃波】を
叩き込んで相殺を図りつつ、【ダッシュ】で間合いを詰めるっ

相殺しきれなくても自慢の【オーラ防御】を
突き出すようにして凌ぎ、迫り
十分に【力溜め】た【鎧砕き】の打撃を叩き込む!

そのまま、距離を離さず【怪力】を生かした
【グラップル】【功夫】だの打撃を見舞う

相手からの反撃にも、悲鳴は漏れたとしても
攻め手は止めず【気合い】十分に攻める
これしきの痛み。
力なき人々は。そしてもしかすると貴方は
もっと痛みがあったのでしょう?

最後は【限界突破】した上で相手の隙をつき、
めいっぱい間合いを詰め
《トランスバスター》の一撃で打ち砕きます

――骸の海へ、お還りくだい
貴方の怒りが、貴方の戦いが、二度と歪められないように



●深き痛みを知ればこそ、勝利へと伸ばす手は怯まずに
 蒼穹に浮かぶ無数の飛空挺のひとつにて、銀糸の髪を風に遊ばせて佇むひとりの美少女がある。煙る睫毛のその下に蒼い瞳を伏せながら、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)は物思う。
 ユーフィはこの男のことなど知らぬ。それでも確かに訴えかけてくるそれは文字通り何かを嗅ぎ取る嗅覚の様なものであり、肌に触れた空気より読み取ると言う意味では触覚の様なものであり。いずれにしても彼女が密林で培ったその野生の勘は、言葉で語られぬ有象無象を、言葉で描くよりも定かに彼女の心に告げることがあるのだ。その勘は今、別の猟兵に切り裂かれた傷より血を流すかの扇動者から、確かな怒りを読み取っていた。そうしてその怒りは本来あるべき形から随分と歪められたものでありーー彼が本来抱いていた筈の想いなどとはかけ離れ、この歪んだ戦いへと彼を駆り立てて居るのだろうと思われた。
 戦士たるユーフィにとって、戦いとは尊ぶべきものだ。何よりも神聖なものだ。互いに敬意を以て果たし合い、勝利の栄誉を手にすべく執り行われるある種の儀式でさえもある。それなのに、もはや勝利さえも求めずにひたすらに自他を傷つけ続けるだけのかの男の「戦い」の何と歪なことだろう。斯くも歪な戦いは、誰かが終えてやらねばならぬ。
 扇動者の鋭い金の瞳がユーフィを睨む。同時に射掛けられるのは携えたクロスボウから放たれた文字通り矢継ぎ早な矢の幾らかだ。
 それを愛剣『ディアボロス』で防ぎ、躱してやりながら、ユーフィは心を決めていた。
 猟兵がオブリビオンにしてやれることなど唯ひとつしかありはしない。ーーただ、引導を渡してやるだけだ。
「ユーフィ・バウム、参りますッ!」
「寄るな」
 戦士らしく高らかに名乗りを上げたユーフィへと扇動者が返すのは険しく短い一言のみ。クロスボウはユーフィではなく高き天を向く。魔力を纏わせ蒼穹を射た矢は晴れた空から鉄の驟雨を降り注がせる。遍くこの戦場全て、この世の全てが呪詛に沈めと言わんばかりに、呪詛纏う鏃が降りしきる。敵に向けねばその鏃とて生命力を啜ることなどなかろうに、ただの悪意で味方の筈の黒翼どもさえ巻き添えにする。
 それを見る前にユーフィはとうに駆け出していた。その華奢な腕に似つかわしくない鉄塊めいた大剣は風を纏って唸りを上げる。悪魔の咆哮めく風は降りしきる矢の雨を攫い、巻き上げて、その艶やかな小麦色の肌に届かせぬ。だがしかし無数の鏃はなおも険しく降りしきる。それでも本来その身を穿つ筈の鏃がユーフィの纏うオーラの壁に阻まれて、肩を、脚をただ掠めて行った。触れただけのそれさえも悪意を以て生命力を奪うのに、それでもユーフィの足は止まらぬ。
 駆け抜けた先、この今、手の届く距離に爛々と憎悪を燃やした金の双眸がある。下から振り抜くユーフィの右の拳の軌道を読んだかの様に合わせて構えた下向きの刃でその細腕を切り裂いてみせる扇動者だが、どうやらその読みは浅かった。
「く……ッ」
「ッ、がァ……!」
 ユーフィが悲鳴を噛み殺してみせる一方で、その胴に拳を叩き込まれた扇動者の口から濁った悲鳴混じりの空気が漏れた。
 畢竟、この戦いに於いて扇動者はユーフィに勝てぬ。そうしてそこに至るには幾つかの明確な誤算がある。
 一つ目の誤算は、ユーフィのその怪力。いかに大剣を振り回す様を目の当たりにしてあれど、その見目ゆえに所詮は女、所詮は子どもと甘く見ていたか。その利き腕を壊せるならば打撃の一撃くらいはと甘く見積もった男にとって、鎧さえ砕かんばかりの一撃は想定以上に重かった。
 二つ目の誤算は彼女の覚悟。その利き腕を半ば裂傷めいて深く切り裂かれてありながら、何故斯くも追撃が止まらない。その拳を、脚を防ぐべく扇動者は刃を以て迎え撃つと言うのに、一撃を加える度に己にも刻まれる傷をものともせずに、ユーフィは攻撃の手を止めぬ。
「気狂いが……!」
「これしきの痛みッ!」
 しなやかな軌道にてその側頭部を狙ったユーフィの左脚の蹴りをナイフを手にした右腕で受け止めながら、忌々しげに罵りを向ける扇動者にはもはや寸分の余裕もない。返すユーフィも、普段の嫋やかな様子もなく、らしくもなしに語気を強める。
「戦士である私にはこれしきの痛み、まるで取るに足りません!」
 そう、肉体の痛みなどユーフィにはたかが知れている。戦士として生きる以上、それも強者を求め続ける以上、無傷で終える戦いなどユーフィがこれまでに経験していよう筈もない。戦いの度に無数に刻まれる傷の痛みは慣れるものではないものの、決して耐えられぬものではない。
 しかし心の傷はどうだ。たった一度の、たったひとりの喪失がユーフィの心に齎したあの痛み。血など流れぬ。手当も出来ぬ。泣けど喚けど致し方ない。心を決めて乗り越えて痛みにも慣れたと思った頃に、たとえば朝の目覚めのすぐ後に、或いはあの彼女の好きだった食べ物を口にした折に、それとも、戦勝の喜びを分かち合いたいと思ってしまったその時にーーそんな日常の端々で、あの紅玉の瞳がもはやユーフィの傍らになく、二度と微笑みかけてくれることもないその事実をまざまざと突きつけられては、なおその心は痛むのだ。
 そうした長く深く引きずる喪失の痛みに比べたならば、戦いで受けるこんな傷など、肉体の受ける、所詮は刹那の痛みなど。何が恐るるに足るべきか。
「でも、力なき人々はーーそしてもしかすると貴方はもっと痛みがあったでしょう?」
「ねえよ!!」
 噛み付く様に吐き捨てた扇動者の言葉に明らかな苛立ちがある。陽動の様に、ユーフィの左脚を受け止めたその右腕にひときわ力をこめてみせながら、その脚にてユーフィの右脚を薙ぐ様に蹴り払い、バランスを崩した彼女へとナイフを振り下ろそうとしてーーけれどもユーフィの目の前でその胴は今、がら空きだ。
 扇動者の三つ目の、最も致命的な誤算。体術に秀でたユーフィにとってはどのような体勢も不利にはならぬ。斯様な体勢からであっても必殺の一撃を繰り出すことなど造作もないというその事実など、彼は知らずに、まるで思いもよらなかったのだ。
 がら空きのその胴へと体当たるにも等しく組み付くユーフィは、肩へと突き立つナイフの痛みに細い悲鳴は漏らせども怯むことなどありはせぬ。彼女の体当たりの勢いに呑まれるままにその背から後ろ向きに倒れ込む扇動者へと、ユーフィはこの今この零距離にて渾身の一撃を見舞うのだ。
「骸の海へ、お還りください」
 【トランスバスター】。森の勇者の一撃は骨身を砕く鈍い音を伴い、扇動者の身を飛空艇の床へとしたたかに叩きつけた。その衝撃でひび割れた床に身を沈めながら、血反吐を吐いた扇動者が声ひとつ零せぬままに目を瞠る。
「貴方の怒りが、戦いが、二度と歪められることのないように」
 復讐に狂い果てた男には、静かに掛けられた言葉の底にある慈悲などはもう分かるまい。ーー否、分かればこそであろうか。手の甲で口元の血を拭いつつ、辛くもその身を起こす男の金の双眸に尚一層の強い憎悪が燃え上がる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈


◆心情
其の憎悪も怨嗟も正当な物でしょう
私は其の感情も動機も否定はしません
ですが、遣り過ぎれば反感を買い、反発されるのは世の定めです
貴方にとっての王政がそうであった様に…
故に今度は貴方がその対象となっただけの事、其処に正義も悪もなし

成ればこそ愉しみましょう
善悪の彼岸を越えて、この『逢瀬』を

◆行動
<真の姿を開放>

【呪詛耐性】を高めた【オーラ防御】を球状に展開し敵の攻撃に対抗

【罠使い】の技を活かし「魔法で敵を識別するサーメート」を【衝撃波】に乗せて戦域に散布
牽制にしてトドメの為の布石です

『涅槃寂静』にて「死」属性の「嵐」を行使し【範囲攻撃】
暴風下で矢を戦域全体に満遍なく降り注がせ続ける事等不可能です
其れは当然クロスボウとて同じ事
厭うて接近するならば罠の餌食です

私自身も【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
命を喰らうのは貴方だけの専売特許ではありません

生き汚いそうですが…
闘争が長く続くと考えれば、私にとっては僥倖です



●命を削り命を喰らいそうして命を献れ
 邪竜たちの強襲を、黒き翼の天使たちの跳梁を防いで王国の正規軍が立ち回る城壁は今や遥か眼下だ。猟兵たちの力なくしては嘆きの壁とも瓦礫ともなる筈だったその壁はこの今も尚城壁として堅牢に城塞都市を護り続けてそこにある。
 その上空、蒼穹に飛び交う敵味方の飛空艇、その一つの甲板を今踏みしめる女があった。
 霧島・絶奈(暗き獣・f20096)。この女が城壁より遥か高みのこの場へ至るのに、翼持つ幻獣たちや飛空艇の助けは要らぬ。静かに空を踏みしめて、その道行きを遮る黒翼騎士たちを退けてーー暗き女神はその御身ひとつで今此の戦地に降り立てり。
 緩く波打つ硬質な光纏うた銀糸の髪を、真白いドレスの裾を靡かせる様は流石の神々しささえもある。だがしかし左様な女神の尊容へと畏れも知らず得物を向ける愚か者があるらしい。横合いより、絶奈の身へと迫る矢を、その目と鼻の先ほどの至近にて魔力が成した障壁が遮った。鷹揚に絶奈が見やれば、彼方にて、随分な満身創痍のくせをして憎悪の眼差しと弩弓を絶奈へと向ける赤毛の男の姿がそこにある。
「其の憎悪も怨嗟も正当なものでしょう」
 絶奈の声は静かなものだ。だがしかしこの上空にて乱れた気流に風が鳴けども、声を張らずともよく通る。
 生来の神であるならいざ知らず。人の身から神へと至った絶奈には、人の子らが抱く負の感情にまるで覚えがないでもない。儚く短命な人の子たちは孤独を埋める様にして他者との繋がりを求めてはその絆に束の間の幸福を得る。だがそうした絆の相手とて所詮儚い人の子なれば、いずれ来たるのは永訣だ。なまじひとたび幸福を知ればこそ失う孤独の慈悲なき深さよ。それに際して健気に悲しみにくれるばかりとは限らずに、別れの形如何では怒りを抱く者もあることを絶奈はよくよく知っている。
 故にこそそうした人の子の抱く感情を今更いちいち否定してやる道理もない。一方で肩入れや同情を示すつもりも同様に、ない。
 絶奈は確かに神なれど、その神性は救う神などの類とは遥かに遠いものである。
「ですが、遣り過ぎれば反感を買い、反発されるのは世の定めです」
 ゆえに今この女神が説くのは倫理ではない。世の理だ。聞いているのかいないのか、扇動者からの返事は今のところは絶奈の手並みの程を伺う様に鋭く放たれる矢ばかりで、絶奈の纏うオーラの護りがそれを防いでいるのだが。
「貴方にとっての王政がそうであった様に……故に今度は貴方がその対象となっただけの事、其処に正義も悪もなし」
「……何が言いたい」
 扇動者が漸く口を開く。次の矢を番えながら、いかにも夜闇によく光りそうなその金の瞳は絶奈をしかと見つめたままに逸らさない。
「成ればこそ愉しみましょうーー善悪の彼岸を越えて、この『逢瀬』を」
「断る」
 扇動者が返すと同時にクロスボウにて高き天を射つ。魔力を纏い蒼穹を奔るその矢を呼び水とする様に、やがて呪詛を纏った矢の雨が降る。
「おや、ご遠慮なさらずに」
 対する絶奈は余裕綽々。茶目っ気さえも見せながら、獣骨めいた籠手が覆う細い指先が、つと、扇動者を指し示す。
 風の如くに不可視なれども、俄かにその身に受けた衝撃に扇動者は数歩後退りながらも踏み止まった。そうして一層険しく眉根を寄せるのは、衝撃そのものゆえでなく、その衝撃波に乗せる様にしてこの戦場に撒き散らされた無数の影をしかと見届けていたがゆえ。無論、絶奈が見させてやったのだ。牽制というものは敵に知らしめてこそである。
 高きみ空より矢の雨が降る。この飛空艇にももうじき届く。だがしかし、ひらりと手首を返す様にして振られた女神の白き手はそれを封じる御業を持ち給う。
「雨は嫌いではありません」
 痛いほどに吹き付けるのは、猛る様な暴風だ。降りしきるのは瀑布の様な本物の雨である。
 三度めとなる【涅槃寂静(ヨクト)】は此度、驟雨など温いと言わんばかりの嵐を連れてきた。
 苛烈な嵐が横薙ぎに矢の雨を攫ってその威を殺す。扇動者が手にしたクロスボウにて絶奈へと矢を射掛けれど、いかに狙い澄ました一矢とて吹き荒ぶ風の中では狙い通りには届かない。
 先刻周囲へと張り巡らされた絶奈の罠の存在を扇動者は知っている。それがどの様に悪辣に作用するものであるのかは知らねども、知らぬがゆえに恐れることこそ戦地にて生き延びる為の鉄則だ。ゆえに嵐が収まるまでやり過ごすのが賢明な筈ながら、嵐が宿す濃密な死の気配がどうやらそれを許さない。今や風に遊ばれるばかりとなった鏃の驟雨に射たれもせずに、宙空にある黒翼どもが傷もないまま力尽きる様に墜ちてゆく。
 目には見えねど死は厳然とこの場に満ちていた。嵐の姿で吹き荒れるその猛威には何人たりとも抗えぬ。異変に気付いた黒翼どもが今更に逃げ惑えども逃れることなど出来ようか。そして扇動者とてまた然り。この場に佇むだけで命を吸い上げられるかの様な感覚に、焦れた様に絶奈へと駆け出したのは野生めいた本能か。
 仕掛けられた罠を思えば絶奈へと真っ直ぐに駆けるその道行きは他の何処より安全であろう筈がない。だが死の気配が身を侵すこの今は時間が敵だ。一秒を争う様に遮二無二駆けたその身がうっかり踏んだか触れたか、サーメートが起動して扇動者の身が燃え盛る炎に包まれる。
「畜生が……!」
 扇動者は立ち止まることもなく、派手に燃え上がるマントを脱ぎ去り、叩きつける様にして絶奈へと投げ掛ける。視界を埋めた炎を絶奈が焦りもせずに払い除ければ、俊足で距離を詰めて来た金の瞳が目の前だ。
 なお残る炎に身を焦がしながらでも扇動者が絶奈へと間合いを詰めた理由はその手の内にある。呪詛纏う矢だ。目眩しのあの刹那、風に流されたユーベルコードの矢のひとつをとらえたものだった。風がその威を削ぐならば直接に叩き込め。
「なるほど、これは随分と生き汚い」
 斬りつける様に抉る様に身を穿つ矢に、飛び散る己の血をその白き頬に浴びながら絶奈の唇に浮かぶのは、この場面にはあまりにも似つかわしからぬ喜色であった。力任せの一撃に、鏃をその身に残したままに篦が折れた。否、扇動者はその矢を抜かれることのなきように意図して折ってみせたのだろう。死が満たす嵐の中にて己が命を繋ぐには生命力を吸い上げる鏃は除かれぬほうが良い。いかにも生への執着に満ちたその判断は、絶奈の喜悦を濃くするものだ。
 折った矢の篦を捨てたその手で流れる様に抜いたナイフで絶奈へと斬りかかりながら、扇動者の身の生傷は今や血を止めて、火傷は薄れ、徐々に消え始めてさえもいる。黒き禍々しき大剣にて応えてみせた絶奈と斬り結びながら、今は扇動者にとって時間の経過は味方であろう。時間稼ぎめく立ち回りの内にその身は随分と回復を得たというのにーークロスボウにて黒剣を受けた刹那に覚えた、立ち眩む様な、膝の崩れる様な脱力感は何事か。得物にて受け止め損ねた刃を肩に受け、今また新たに血を流しつつ咄嗟に後ろへと飛び退った扇動者の前に、絶奈の薄い笑みがある。傷を治す前とさして変わらぬ程の疲弊に、その驚愕を悟られぬよう、手負いの獣の威嚇めいて扇動者は絶奈を睨む。女神の返事は涼やかなものだ。
「命を喰らうのは貴方だけの専売特許ではありませんよ」
 所詮人の子に出来ること等、この異端の神が成し得ぬ筈もなし。奪い返した生命力にて、絶奈の身からナイフに刻まれた幾つかの傷が消えてゆく。そうして今尚その身に埋まったままの呪詛の鏃は除かない。無論、除いてなどやるものか。互いに命を削り合っては啜り合い、闘争が長く続くなら絶奈にとってはその方が良い。
 心底の嫌悪と実感を込めて扇動者が吐き捨てる。
「……性悪女め」

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

マスタリング歓迎

_

彼の心を、正義を、決して否定しない
だが受け入れるわけにはいかぬ
兵達を護る為というのも勿論ある
だがそれ以上に
彼の手を、もう血に染めさせない為に
愛する者を護ろうとしたその手のまま
彼を、『ジル』のまま、眠らせる為に
俺は彼の前に立ちはだかる

いかな苦しみだっただろう
これは憐憫では無く、侮辱でも決して無い
だが胸が掻き毟られる程に苦しくて、堪らなくて

刀を納め、この手を伸ばし
彼に降る矢から、弾から、全てから庇うように
安息の願いを込めて抱き締める
例えナイフで刺し貫かれようと構わない
「──お前はもう、傷付かなくていいだろう」
もう彼は充分すぎるほど傷付いたのだ
だからもう、彼を──ジルを傷付けたくなかった
彼が赦せと言わずとも、俺は
「赦そう」
何と罵られても、それでも
俺は彼の攻撃を、怒りを、憎悪を
全て受け止めたい

_

ふらつく足だが
可能ならジルの故郷があった場所へ行きたい
彼の天使核やペンダントを連れて帰り
もしくは何も残らなくとも
彼が愛する者の元へいけますようにと
心から祈る



●斯くも慈悲深き魔王を前に、悔いることさえ能わぬその身は泣き濡れて
 その男を睨みつけ、扇動者は暫し動かなかった。動けなかった、が正しかろうか。
 その男の均整の取れた体躯は、隙のない佇まいは、否、足や視線の運びのひとつ取ってもそれだけで彼がかなりの手練れであると定かに告げるのだ。そのくせ、その手に刀を携えながらもその男からはあまりにも殺気や敵意の類が読み取れず。それは即ち対峙する扇動者にしてみれば次の動きが些かも読めぬということに他ならぬ。手にしたクロスボウの矢の一方的に届く間合いを保つまま、やや低く構えたその身は飛び掛かるにも退くにも備えた足の向きにて、猫の様な金の瞳で用心深くその男ーー丸越・梓(零の魔王・f31127)の一挙一動を追っていた。 
「猟兵を援護しろ!」
 唐突にその背後、高き空より降る声は、城壁にて梓が護り戦った兵士たちである。一体誰が察したか、流石に隠し切れぬほど重い傷をその身に引き受けた梓の身を案じ、各々にそのヒポグリフやグリフォンを駆ってこの決戦の地へと馳せ参じたのだった。
 勇ましき彼らの声に応えるものがある。これまでは猟兵たちが扇動者のその至近にて戦っていたがゆえ、巻き添えを厭うて控えていたらしい周囲の王国軍の飛空艇からも、砲撃や、掃射にも等しい矢と銃弾が放たれる。
「……ッ!」
 それなりに死地を経験して来たがゆえに扇動者には判るのだ。盾とするべき黒翼どもも傍らになく、逃げるも防ぐも能わない。ーーこの先に待つのは確かな死であろう。
 図らずも顔をそむけた扇動者の身に、けれどもいつまで経っても痛みも衝撃も訪れぬ。温かい腕に抱きしめられるにも似た感覚は、命の終わりに錯乱した意識が齎す錯覚か?
 戸惑いながら上げた瞳が映すのは、己を庇う様に抱きしめながら魔力の護りを張り巡らせて、尚防ぎ切れぬ矢や弾丸によってその背より血を流す黒き魔王の姿であった。
「……何の真似だ」
 言い捨てる様な問いかけに、隠し切れない困惑がある。梓の答えは簡潔だ。
「──お前はもう、傷付かなくていいだろう」
 ーーいかな苦しみだっただろう。梓は思う。これは憐憫等でなく、侮辱でも決して無い。だが胸が掻き毟られる程に苦しくて堪らない。梓はこの男が受けた傷を、痛みを知っている。梓とて喪い続けて来た身なればこそ。
 喪ったのは、兄と慕ってくれた子らであった。故に梓は兄として優しくなくてはならぬ。
 喪ったのは、共に正義を志した友であり部下であった。故に梓は警察官として正義たらねばならぬ。
 彼岸へと渡った彼らに立てた誓いのそのどちらか一つが欠けたとて、今の梓はこの場に在りはせぬ。
 梓とてかつて力なき己を呪い、恨んで、血を吐く様な努力の末にようやく力を手に入れて今此処にある。それはこの扇動者も同じであろう。ゆえに思うのだ。これまでにどこかでただ一度でも道を違えていたならば、何かの掛け違いがあったなら。この扇動者の姿こそ梓の末路であったやもしれぬ。
 互いに大切な者たちを喪った存在だ。そうして手に入れた力を以て今度こそは護らんとする梓と、何もかも壊そうとするこの扇動者という存在は、対極の様でありながら、裏と表の様にして存外近い位置にある。
「礼なんか……」
「要らない。俺が自分で選んだことだ」
 ゆえにこそ。
「赦せとは言わないとお前は言ったな。ーー俺は赦そう」
 俄かに瞠る金の瞳に、驚愕と僅かな恐怖が浮かぶ。
「……るさい」
 最初、絞り出す様な声があり。
「五月蝿い、五月蝿い五月蝿い!俺はただの一度だって赦しなんか願ったこともない!!」
 語気を荒げて叫ぶ扇動者の言葉は、終いには血を吐くばかりの絶叫じみていた。
 既に血濡れの梓の背中に、扇動者の手にしたナイフが突き刺さる。俄かに殺気立つ王国軍の兵士たちを梓は視線で制しつつ、滅多刺しにも等しく執拗に幾度も突き立てられる刃は傷に傷を重ねてゆくのに、苦悶の声をも殺しながら、扇動者の身を抱き締めたまま梓の腕の力は揺るがない。
「聖人気取りか?これでもまだ赦せるって?!憎め!怨めよ!ここまでされて何故怒らない!!!」
「二言はない。赦す。それでお前の気が晴れるなら俺はいくらでも血を流そう」
 ーーこのオブリビオンは、己の怨みを、憎しみを、他者にも味わわせたいのだろう。それはかつてこの男が受け止め切れなかった悲しみや絶望が歪み歪んだ成れの果て。無論他人にそれを押し付けて救われる筈もない。それでも殺し続ける扇動者たるこの男の行動は誰の目からみてもただの八つ当たりに過ぎぬのだーー梓という男以外には。なれど梓の目に映るその様は、傷ついた幼子がよく言葉にも出来ぬまま己の痛みを訴えて、理解し慈しんでくれる筈の大人の気を引かんが為にわざと咎められる振る舞いをする様にも等しく思われた。それはあまりにも傍若無人で無様で不器用で、ある種の痛ましささえ齎すのだ。
 この扇動者とて当然理解していよう、己の行為の愚かしさなど。事実、梓の一言にこうまでも我を忘れて叫ぶほど彼は赦されたかったのやもしれぬ。
「ーージル。お前はもう十分過ぎるほど傷ついた」
 呼ばれた名前に扇動者が僅かに肩を震わせた。
 【君影(キミカゲ)】。
 オブリビオンたる存在をオブリビオンたらしめる根源のみを断つ梓の異能は、その言葉により、抱きしめる腕により、扇動者のその身へと慈悲を伴い齎される。
 この扇動者を過去に捕えて斯くも狂わせているものはその怒りや憎しみに他ならぬ。苛烈を極めたそれら負の感情がユーベルコードで解かれてゆく。それらが解けた先に残るのは、ただ純粋な悲しみであり、あの時それを受け入れられず涙のひとつ流せなかったことへの悔いでありーー
「う……ぁ……」
 扇動者の唇から漏れたのは消え入らんばかりの呻き声ひとつ。刹那の沈黙がそこにある。そうして梓の背へと突き立つナイフがその身に刃を埋めたまま、切り裂く様に大きく振り抜かれた。
「あ゛あああぁああああ!!!やめろやめろやめろ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れえええええええええッ」
 慟哭めいた絶叫と共に爆ぜた魔力が、高き天より矢の雨を呼ぶ。その背後、援護に来ていた王国の正規軍の者たちへと梓が咄嗟に魔力で護りを施さんと気を向けた刹那に、扇動者は梓の身体を突き飛ばし、慈悲の抱擁を抜け出でた。
「俺が傷付いた?何の話だ!ジルなんざ知らねえ!!気安く呼ぶな!!!殺す!!!絶対にお前だけは殺してやる!!!!!!」
 叫ぶ言葉のその矛盾、そのあまりの支離滅裂さよ。発狂と呼ぶにも等しい怒りに任せて振り回されるナイフの大振りな軌道を梓が強いて受ける間にも、鉄の驟雨は降り止まぬ。その鏃は常人ならばとうに致死にも近い傷を負った梓の身を穿ち生命力を吸い上げて、術者たる扇動者の傷を癒やして行くというのに、その扇動者の身にさえも今や容赦なく降り注ぎ新たな傷を刻むのだ。先までの戦いに於いてこの男の周囲の僅かな範囲ばかりは安全圏であったのに、もはや己の魔力を制御出来ぬとも自棄とも取れるこの事象。梓が彼へと与えた動揺の程も知れよう。
「殺してやる!誰も彼もだ!!俺はどうせ最初からそうしてた!!復讐なんかじゃなくてもだ!!!俺はこの世界を赦さない!!!!!」
 骸の海に沈んでも尚、あの喪失の悲しみを扇動者は受け入れられぬ。仮令受け入れられたとしても今更に受け入れる訳にも行かぬのだ。素直に悼めば良かったなどと、ーーもう引き返せる場所にない。
「……赦せるものなら赦してみろよ。お前が俺を赦そうと俺はお前を赦さない」
 喚きに喚いたその末に、梓が再び伸ばす手を逃れる様に距離を取り、クロスボウを構えながら扇動者は告げるのだ。
 対する梓の言葉はもう分かりきった唯一つ。
「……赦すよ」
 降りしきる矢の雨の中。もはや誰のものかもわからぬ血に濡れた扇動者の頬を、左目より零れた一筋の雫だけが洗い流していた。


 それはやがて戦闘を終え、帝国の大軍勢も引き上げて行った後のこと。
 飛空挺の床に鈍く煌めくものがある。戦いの内に切れて外れたものだろう、扇動者が身につけていたペンダントだ。常人ならば命があるとも思い難い傷と失血にふらつく歩みなれども、梓は慈しむ様に丁重にそれを拾い上げていた。
 ブロンズのメダリオンには幸運を願うまじないが刻まれている。かの男が未だ『扇動者』ではなく『ジル』であった頃に誰かが贈ったものやもしれぬ。その故郷へと連れて帰ってやりたいが、雲海に沈んだ亡國は今や屍人帝国としてこの蒼穹のいずこかを彷徨い漂っているのだろう。
 暫し逡巡した後に、梓は飛空挺より見下ろす雲海にそのペンダントを掌中より滑り落とした。彼が『ジル』として愛し愛された者たちの元へと行けるよう、心よりの祈りをこめて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ

真の姿を解放

情報からの推測を断定形で喋る
私の言葉を否定させたり処刑人の話で煽ったりして扇動者自身の話をさせない
処刑人への内容は全部本心
私、思ったよりあの人のこと好きみたい

ちゃっかり逃げ道用意してたんだね
お前が殺した処刑人もオブリビオンになってたけど、彼はお前より潔かったよ
八つ当たりで人を殺す奴はやっぱりその程度だね

あの状況で嫌だって言うのは勇気がいることだよ
お前は殺した処刑人を見下してるようで心の底では彼が羨ましかったんじゃないの?
お前は勇気なさそうだもんね

過去の境遇に同情の余地はあっても人の命を踏みにじるのは許せない
絶対に止める!
何度だって止めてやる!

UCでナイフ以外花弁に変え視界遮るように攻撃
私も弓使いだからわかるよ
狙い難いでしょ

接近後はナイフメインで
分かりやすい視線誘導する等わざとフェイントを見破らせる
私を侮るといい

押し負けそうになる演技で油断を誘い
幸運や第六感にも頼りタイミングを計って
UC全力魔法2回攻撃
オーラ防御一回分以外の全魔力をこめる
オーラ防御はいつでも発動できるよう留意



●触れなば手折れん可憐なれども白き薔薇(そうび)は棘を纏いて
「ちゃっかり逃げ道用意してたんだね」
 先刻、自軍の苦戦を見てとるや船首を返した旗艦の挙動を指して、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)は告げてやる。その返事、爛々と光る猫の様な金の瞳と共に扇動者が彼女へと向けるのはクロスボウより放つ矢だ。
「お前が殺した処刑人もオブリビオンになってたけど、彼はお前より潔かったよ」
 魔力を纏わせた日傘を傾けて襲い来る矢を防ぎつ告げたジュジュの言葉に、扇動者の眉が神経質げにやや歪む。
 焚きつけるかの様にジュジュが引き合いに出したのはかつて己が対峙した奢侈な黒纏う男のことだ。あれとて所詮は何処までも狂ったオブリビオンに他ならぬ。なれど勝機などもはやなかろうあの局面で逃げも隠れもせずにただ殺める予定の命の為に祈るを選んだその様は十分に潔いと称するに足る。
「八つ当たりで人を殺す奴はやっぱりその程度だね」
「処刑人……ああ、あの薄気味悪い優男か」
 先の言葉で確かに嫌悪を見せたくせ、たった今思い出したと言わんばかりの余裕を装い扇動者は答えてみせる。
 奇遇にもこの二人、互いに弓とナイフを扱う身。鏡に映したかの様に互いの狙う間合いも立ち回りも似通っていればこそ、会話の内にこの男は隙を探っているのであろう。或いは、対峙する可憐な白薔薇の乙女の見目に幾らか油断をしてか、受けた煽りを流し損ねてか、それは随分と饒舌に。
「人殺しのくせに生意気に、終いには罪人以外は斬れないだのと気取ったことを」
「あの人は人殺しじゃない。処刑人だ」
 処刑人、と自嘲と矜持を込めて名乗ったその職の名でしかジュジュはかの男を呼び得ない。こうまで心にかかるなら、あの時に名のひとつ尋ねておけば良かったと思えども既に後の祭りだ。ゆえにこそ今のジュジュにはよく解る。きっと思っていたよりも自分はあの存在を好きだった。ゆえに、骸の海に還した今更何の意味とてなかろうと、その名誉の為敢えて告げよう。
「あの状況で嫌だって言うのは勇気がいることだよーーあの人は誇りを守って職に殉じた」
 無論ジュジュはその場面など知らぬ。ただ、この今、グリモア猟兵の予知より聞いた情報と、この男の言葉より推し量るなら。かの処刑人は生前のその最期、己の矜持に殉じたのだろう。而してそれは正解である、忌々しげに歪む扇動者の表情こそが物語る。
「無価値な意地だ。命乞いのひとつしたならせめて生かしておいてやるものをーー」
「お前は彼を見下してるようで心の底では羨ましかったんじゃないの?」
 ジュジュのその言葉にはただ、ナイフ片手に音もない差し足で飛びかかる。それが扇動者の返答だ。
 投げる筈だったナイフでジュジュが凶刃を防いで受け流せど、弾かれた刃はまた即座にジュジュに向く。辛くもそれを防げども、互いに慣れた間合いにて手数の多い攻防は決定打には欠けながら互いに多数の生傷を生む。
「お前には命にかえても護りたい様な誇りも、その勇気もなさそうだもんね」
 防ぎ損ねた刃にて頬に一筋の傷を刻まれながらもジュジュは勝気に告げてやる。
 俄に憎悪を滾らせる金の瞳と、苛烈さを増す刃があった。かの狂愛の黒き瞳と、騙りなれども慈悲謳う刃とそれは何たる対極か。
「さっきから潔さだの誇りだのーーその為に死んで一体何の意味がある?」
『どっちもないやつが何を言っても負け惜しみ!』
 ジュジュの腕の中でメボンゴが持ち主の心根を代弁するかの様に声を上げ、衝撃波を放つのを扇動者は躱して見せて尚その刃をジュジュへと向ける。
「別にどっちも欲しくもねえよ。嗚呼ーーでも、あいつがオブリビオンになってるなんて傑作だ。何度でも殺してやるよ」
「殺させない!死ぬのはお前のほうだ!」
「いいや、お前だ」
 大上段からナイフを振り下ろすかに見せかけて、それは陽動。視線を向けさせた上体を寸分たりとてぶれさせることぞなく、予備動作さえも見せぬままその膝をジュジュの薄い腹へと叩き込んでから、くの字に折れたその身の腕に抱かれたメボンゴを横合いから蹴り飛ばす。それを追う様に手を伸ばそうとしたジュジュの肩を、逆手に握ったナイフの切っ先が袈裟懸けに切り裂いた。
 思わず傷を押さえて床に膝をつくジュジュの横面を刃持つ手の甲で返す様に殴りつけてから、その髪を掴み上げて扇動者は嗤うのだ。
「随分とあいつに肩入れしてるようだが……骸の海でせいぜい宜しく伝えておいてくれ」
 掛ける言葉の終わらぬ内に、逆の手で、その白くか細い頸を狙って振り下ろされるナイフの刃。
 その切っ先が白き肌へと届かん刹那、大きく真横へ弾かれた。ーー彼方にて横向きに地に伏すメボンゴが放つ衝撃波によるものである。血に染まるジュジュの指先とメボンゴとを繋ぐ絆の糸は今なお途切れてなどいない。
 吹き飛ばされて倒れ込みそうになりながら扇動者が身を捻る様にしなやかに受け身を取って地を踏んだ。だが完全に立て直す前にジュジュの風魔法が強く吹き付ける。舌打ち混じりに射ち返すクロスボウの矢は風に攫われ出鱈目に宙を裂いてジュジュのその身に届かぬ一方で、己の風を読み切り操るジュジュが放つ矢は、過たず扇動者の腕を、胴を貫いてゆく。
「ご覧あれ、白薔薇の華麗なるイリュージョン!」
 己の武器を刃持つ白き花弁へと変えるジュジュのその「演目(ユーベルコード)」は、此度は片手に携えた弓を無数の花弁へと変えて舞わせて扇動者へと襲いかからせながら。
「ーーッぐ、あ……ッ」
 扇動者の身に刺さる矢もまたジュジュの武器である。この今は花弁となって舞い踊る。その身を外から内から裂いて暴れる白薔薇の刃に、血を流し血を吐いて扇動者は辛くもその膝が地に着かぬようにと踏みとどまった。ひとたび膝を着いたならもう立ち上がれる気がしない。
 いくらその見目が酷く儚く可憐なれども薔薇とは即ち棘持つものである。かの処刑人はかつてその事実をその身を以て理解して、今、この扇動者もまた然り。
「ち、くしょう……」
 旗色は頗る悪い。そう結論づけた瞬間に扇動者は臆面もなく踵を返して駆け出していた。そうして手近な飛空艇へと跳び移ろうとーーしたその踵を、ジュジュが投擲したナイフが射抜く。
 不意に走る痛みに体勢を崩し、その跳躍は次の飛空艇に届かない。咄嗟に察せど、均衡を崩すその身はもはや今ある飛空艇上に踏みとどまることさえ能わない。半ば無理やりに猫のように身をひねり、手にした武器さえ躊躇なく投げ出しながら、扇動者は飛空挺の端に辛くも片手の指先だけでしがみつく。
 その手の間近をつややかな黒いブーツの爪先が踏みしめた。扇動者が見上げた先で、春の翠の瞳はその色のくせにどうして、今、底冷えのするほどに冷厳と扇動者を見下ろしている。
「猟兵……」
「誇りも潔さも捨てて足掻いたくせにね」
「……やめろ」
「これならいっそ最初から潔い方が良かったって思わない?」
「待て、やめてくれーー」
 正義の身たる猟兵なればこそ、斯様な外道にかける慈悲など持ち得ない。過去の境遇に同情の余地があろうとも、幾多の人の命を踏み躙って来たその事実は断罪されて然るべき。
 ジュジュの手に今、鋭く光る一振りの刃がある。手首の振りをよくきかせて斜めに落とすそのナイフは、さながら断頭台にて刃が首でも刈る様に、飛空艇へと生命へと執念深くしがみつく指先をあまりにも易く鮮やかに散らして床を穿つのだ。
 刹那瞠られた金色の瞳が映すは何であったか。瞳に浮かべた僅かな畏怖と驚愕はやがて憎悪に塗り替わる。残る指ではその身をもはや支えることなど能わない。虚空へと身を躍らせながら、それでも最期まで未練がましくその手を伸ばし、宙を掴んで、扇動者たる男は吠えるのだ。
「猟兵ども!何度生まれ変わっても俺は絶対にお前たちを     ……!!」
 雲海へと落ちゆく男の怨嗟の言葉は吹き荒ぶ風にかき消えて、ジュジュの元へは届かない。聞けばその身を苛んだであろうユーベルコードの呪詛は成らず。
「何度だって止めてみせるよ」
 遥か眼下の雲海を見下ろしてジュジュは静かに呟いた。


 司令官の死を遠巻きに見届けていた黒翼たちが屍人帝国の大軍勢へその訃報を伝えに奔る。司令官を失った軍勢が半ば潰走にも等しく引き上げてゆくまでにさほどの時間は要さない。
 斯くしてひとつの王国が過去による侵略より救われた。今、王国の正規軍たちはその士気も高く、敗走してゆく屍人帝国の軍勢を追撃に回るのだ。
 血の雨は雲海に未だ降り続けども、その幕引きに相応しいのはただひとつ。猟兵たちと王国の正規軍たちは、勝者だけが許された結びの言葉にてこの終わりを言祝ごう。
 ーーめでたし、めでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年12月14日


挿絵イラスト