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去れ、戦乱の残火よ〜ヤルタバルト和平会談遂行作戦

#クロムキャバリア #戦争モノ #物語完結

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●六大勢力和平会談
「……旧式とは言え、各国のキャバリアが揃い踏みか。実に壮観ですね」
 荒涼と広がるヤルタバルト平原地帯。其処へ足を踏み入れた青年は、眼前の光景に思わずそう感慨深げな呟きを漏らす。本来であれば只々地平線が広がっているはずのその場所には、幾つもの天幕と夥しい数のキャバリアが立ち並んでいた。
「それぞれが保有するキャバリアを破壊し、軍縮と和平の証とする……いやはや、各国が良くこの提案を吞みましたね。サフォーノフ公王殿?」
 サフォーノフと呼ばれた青年の傍らへ、副官と思しき文官が歩み寄って来る。彼の言葉通り、この場所には何と六ヵ国もの勢力が和平会談を行うべく集結していたのだ。そして、その主役の一人であるドストニエル『公国』公王ニコライ・サフォーノフは、副官の言葉に微苦笑を浮かべる。
「どうにも、その呼ばれ方は慣れませんね」

 元を辿ればおよそ一年前。事は覇権国家だった『ドストニエル大公国』の前公王が突如として乱心し、周辺各国へ侵攻を開始した事に端を発する。始めこそ優勢だったものの、無理な戦線拡張や属国の反乱により形勢は瞬く間に逆転。当時はまだ皇太子だったサフォーノフはこのままいけば祖国が滅亡を免れ得ぬと悟り、手勢を率いてクーデターを決行。王権交代を成功させ、各国と停戦協定を結んだのが四か月前の話である。
「……彼らはみんな己こそ覇権国家にならんと欲する一方、誰かがそうなる事を恐れています。我が『元』大公国を落とせば天下を手に出来たでしょうが、我々のクーデターによってその芽は潰えた……なら、今は仲良しこよしをしていた方が得だと考えたのです。例え、上辺だけのものでも」
「テーブルの上ではニコニコ握手、下では押し合いへし合い蹴とばし合い、ですか」
 公国が交戦していた相手は実に五カ国。それらを相手に、領土の割譲や賠償金を代価として何とか漕ぎつけたのがこの和平会談である。

 しかし、実情は字面ほど平和では無かった。
(形だけ兵器を提出していますが、どれも型落ちのボロばかり。一線級の最新型はそのまま。数を減らしつつ全体の質は上げ、対外的には平和貢献をアピール……全く、誰がどの程度の戦力を隠し持っているのやら)
 平時となれば、軍隊は英雄から金食い虫に成り下がる。各国ともこの和平会談にかこつけて、軍事費のスリム化を図っているのだろう。ともあれ、それで一時でも平穏が訪れるのなら上等だ。とは言え、まだ懸念点があった。

「……で、ハイネマン中佐の行方は分かりましたか?」
 ミヒャエル・ハイネマン。公国に属するラインラント自治領の暫定統治者にして、根っからの戦争狂。クーデターに際しても助力してくれた人物なのだが、和平会談の少し前に消息を絶っていたのである。
「いえ、居所は杳としれず。側近と思われる部下たちも同様です。更に未確認情報ですが、停戦に反対していた各国の過激派も同時期に消息を絶っているとの報告も」
「引き続き捜索をお願いします。加えて、会談会場の警備も……彼はきっと、何かを起こすはず」
「はっ!」
 副官は他の者へ指示を飛ばすべく公王の傍を離れてゆく。そうしてまた一人になると、サフォーノフは溜息を吐きながら空を仰ぐ。
「…………戦争は終わったんですよ、ハイネマン殿」
 そんな呟きは、虚しく風に溶け消えてゆくのであった。


「Guten Tag、Kamerad? よく集まってくれたな。今日は一つ、明るいニュースを諸君らに伝えさせて貰おう」
 グリモアベースに集った猟兵たちを前に、フランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)はそう微笑みながら口火を切った。
「以前に我々が介入した国家、ドストニエル大公国を覚えているだろうか。彼の国は先日のクーデター後、敵対国と停戦条約を結ぶ事に成功したらしい。様々な代価を支払い、名を只の公国と変えた果てに、一つの戦争が終結したのだ」
 ドストニエル大公国。一年前、オブリビオンマシンに狂わされた前公王によって開かれた戦端は、ラインラント自治領の反旗を経て、皇太子によるクーデターによって幕を閉じた。それから四か月、彼らの苦心がようやく実を結んだのである。
「公国は世論の厭戦気分に乗じ、更に一歩踏み込んで和平交渉を提案。各国もそれに乗った結果、軍縮を含む会談が実施される事になった。これが成功すれば、周辺地域に平穏が齎されるだろう」
 戦争に関わった各国は空白地帯であるヤルタバルト平原を開催地に定め、首脳陣が一堂に会した式典を行う様だ。廃棄するキャバリアを一か所に集めて爆破し、其れを以て平和への第一歩とする。兵器を破壊した爆煙から鳩の群れを飛ばす演出も予定されており、極めて象徴的なイベントとなるだろう。
「そう……何事も無ければ、な」
 だが、予知はこの和平会談が無事に終わらぬと告げていた。破壊するはずの兵器群が突如として起動し、各国の首脳陣を皆殺しする未来を映し出したのだ。そうなれば和平の機運は消え、代わりに泥沼の闘争が再開されてしまう。
「当然ながら首脳陣の警備は厚いが、過信は禁物だろう。最悪の事態だけは絶対に避けなばならん。故に今回諸君らにお願いしたいのは、和平会談の護衛だ」
 和平会談そのものを中止するのは難しい。なので予め会場へと潜入し、いざ事が起こり次第介入するという形になるだろう。幸い、会談にかこつけて様々な出店や催しが行われ、各国の一般市民も見物に訪れている。紛れ込むのも簡単だろう。面識のある相手が居れば、顔を見せるのも良いかもしれない。
「……此度の首謀者について、予知では見通しきれなかった。だが、ラインラント自治領の暫定統治者にして戦争狂の異名を持つ軍人、ハイネマン中佐が部下と共に消息を絶っている。加えて、他国の過激派も怪しい動きをしているらしい。警戒はしておくべきだな」
 件の人物を知る猟兵からは、やはりかという反応が返って来る。ある意味で予想されていた展開。だが、その思惑を実現させることは絶対に阻止しなければならなかった。
「平和とは戦争と戦争の間に過ぎない、とはよく言われるがな。それが長いに越したことは無いだろう。くれぐれも頼んだ」
 そうして説明を締めくくると、フランツィスカは仲間たちを送り出すのであった。

●????
 ――ああ、戦争は終わった。それは認めよう、公王陛下。
 ――だが、だというのに兵器だけを破壊するなど片手落ちだろう?
 ――さぁ……最後の花舞台だ。精々楽しむとしよう。


月見月
 どうも皆さま、月見月で御座います。
 一年前に始まった動乱、本シナリオはその終着点となります。
 例によってOPが長い、という場合は下記を読んで頂ければ内容は把握出来ます。
 それでは以下補足です。

●最終勝利条件
 和平会談の遂行(襲撃首謀者の生死・捕縛の成否は問われません)

●シナリオについて
 本シナリオは下記内容の続編となります。
 今回にてハイネマンを中心とする物語に一区切りつく予定です。
 勿論、内容を知らなくてもご参加頂けます。
 ・嗤え、敗残者の王よ~ラインラント自治領緊急防衛戦(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30083)
 ・立て、亡国の後継よ〜ドストニエル大公国首都侵攻戦(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=35711)

●1章開始状況
 場所はどこまでも広がる草原地帯『ヤルタバルト平原』。六か国の首脳陣が詰める天幕が円周上に展開されており、その中心に廃棄予定のキャバリアが集積されております。首脳陣警護の為、会場は各国の最新鋭キャバリアと精兵たちが警備しています。
 周囲には催し物や出店と言った賑やかなものから、戦争犠牲者への追悼スペースが設置されており、各国の一般市民が参加しています。実際に事件が起こるまではイベントに参加したり、襲撃に関する情報収集を行う事になるでしょう。

●ドストニエル公国について
 六カ国の一つ。領土の割譲などにより弱体化した為、大公国から只の公国となった。現在の公王ニコライ・サフォーノフは猟兵と協力しクーデターを敢行、狂気に侵された前王から実権を奪取して停戦を実現しました。

●ミヒャエル・ハイネマンについて
 優秀な軍人である一方、戦争行為をこよなく愛する危険人物。かつて、猟兵と協力して大公国の圧力に対し反旗を翻しました。
 現在、直属の部下も含めて行方が分からなくなっています。また、同時期に他国の過激派も姿を消しているとの事です。

●プレイング受付・採用につきまして
 第一章の断章投下と共に告知いたします。
 進行については基本的にゆっくり進行予定です。参加人数によっては再送のお願いをする可能性が高い点も御了承頂けますと幸いです。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『慰霊祭』

POW   :    死者を悼み、祈りを捧げる

SPD   :    かつて失った人に想いを馳せる

WIZ   :    死者への未練を断ち切る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●六カ国和平会談、開催
 ヤルタバルト平原。青々とした平原が何処まで続くこの場所は現在、無数の天幕と数多のキャバリア、そして式典を一目見ようと押し掛けた一般市民に彼ら目当ての商売人など、様々な人々でごった返していた。
「最近、寒くなって来ただろう。そこの御方、王国特産の紅茶は如何かな。砂糖とミルクありありだ」
「キャバリアの部品は要らんかい? 協商連合や共和国の品だ、安くしとくよ」
 飲食系の出店は勿論の事、キャバリアの部品を販売している露天商まで店を広げており、人々が他国の品物を興味深そうに冷やかしてゆく。その様子はさながら一種のお祭り染みている。
「ウチの娘はキャバリア乗りとして出征してな。命だけは無事だったけれど、片足が……」
「私の夫も似た様なものよ。でも、これでようやく平穏が返って来るのね」
 しかし他方に目を向ければ、一連の戦争で命を落とした兵士や一般市民を慰霊する祭壇が設置されており、国籍を超えて市民たちが言葉を交わし合っている。時折感情的になった者同士が諍う様子が見受けられたものの、大半は静かに祈りを捧げ、散った命を悼んでいた。

 形は違えど、誰も彼もが平和の訪れを希っている。だが、会談が恙なく終了するまで気を抜く事は出来ない。事実、行き交う人々の間へ目を凝らせば、各国の兵士たちが完全武装で警戒に当たっていた。視線を上げると、頭上からは最新型のキャバリアがセンサー類を光らせている。
 そも、このヤルタバルト平原が開催地に選ばれた理由は広大さや立地条件以上に、『余計な手出しがし難い』というただ一点に尽きた。平原が広がっているという事は、外部から何かがやって来てもすぐに気付けるという事だ。また、この場所に何かを仕込もうにも林どころか茂みすらない。下手に地面を掘り返したら、必ず誰かが違和感に気付くだろう。

 つまり……『誰か』が『何か』を仕込むなら、この会談直前しかない。
この後の武装蜂起自体を防ぐことは不可能だが、僅かでも情報があるに越したことは無い。また或いは、異変が生じるまで会場を巡るのも一手だ。この和平会談の実現には猟兵たちの働きが大きく関わっている。その成果を見ておくのも良い刺激となるだろう。
 ともあれ、時間までどの様に動くかは各人の自由である。
 例え、それが――嵐の前の静けさであろうとも。

※マスターより
 プレイング受付は7日(日)朝8:30~より開始致します。
 第一章は和平会談が行われるまで会場を巡って頂きます。不審な動きが無いか見張る、情報を収集する、この後の戦闘に備え物品を買い揃える、出店を回ったり追悼の祈りを捧げる……等々、ご自由に行動して頂ければ幸いです。
 なお、各国首脳陣は厳重な警戒態勢下にある為、接触は難しいでしょう。例外的にサフォーノフ公王だけは過去の関係から友好的に接してくれます。
 ご参加人数によっては再送をお願いする可能性がございます。その際には再送願いのお手紙をお送り致しますので、お手数ですがご協力頂けますと幸いです。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
チェスカー・アーマライト
連携アドリブ歓迎
争いの火種なんざ
そう簡単に尽きるこたぁ無ぇさ
で、そんな火種が
あたしらのメシの種だ
精々稼がしてもらおうか

ビッグタイガーを例のキャバリア集積所に停められねーか
公国側に掛け合ってみるぜ
見た目は世代落ちのボロ機体だし
そこまで違和感無いと思うんだが
ダメそうなら格納庫でも借りるかね
あたしが離れてる間
ビッグタイガー自身に集積所近辺を見張ってもらう
何かあれば
あたしの端末に合図を寄越す事も出来るし
いざって時は無線で呼び掛けりゃ
単独で応戦も出来る

あたし自身は
露天商を物色するぜ
軍の放出品が安く売り出されてる店がありゃいいんだが
買い物ついでの情報収集で
行方くらました奴らの話でも聞けりゃ
儲けモンって所か



●世に戦の種は尽きまじ
「争いの火種なんざ、そう簡単に尽きるこたぁ無ぇさ……で、そんな火種があたしらのメシの種だ。なら、精々稼がしてもらおうか」
 キュラキュラと履帯の音を響かせつつ、一両の大型戦車が和平会談の会場へと乗り入れる。搭乗ハッチを空けて顔を覗かせたのは、チェスカー・アーマライト(錆鴉・f32456)であった。彼女はシガーケースから人参スティックを取り出し齧りながら、周囲をざっと一瞥してゆく。
(とは言え、あたしらみたいな傭兵がその感覚なら健全に不健全なんだが、高給取りの軍人さんが同じような危機感を持つとはなぁ。御大層な理念よりまずは今日の飯ってのは誰も彼も変わんねぇか)
 軍縮期において、傭兵の需要は減る所か寧ろ伸びる傾向が強い。質や連携等の諸問題に目を瞑りさえすれば、常備軍を持ち続けるよりもコスト面で安くなるからだ。尤も、正規の軍人からすれば堪ったものでは無いのも事実。そういう意味では、過激派が何かを仕掛けようと言うのも分からないでもなかった。
「ま、何をしてこようが関係ない。さっさと撃破して、敵さんを報酬に変えるだけさ」
「……おい、貴様。何をしている? 傭兵か、何処に雇われた?」
 と、そんな事を徒然と考えていると巡回の兵が誰何の声を掛けて来た。各国の首脳陣が集まっている会場に戦車が姿を見せれば、警戒されるのも当然だろう。だがチェスカーは突き付けられる銃口を飄々と受け流しつつ、ぺらりと一枚の書類を提示する。
「公国に雇われた傭兵だよ。丁度いい機会だし、世代落ちの戦車も一緒に爆破して貰えってご命令だ。あたしはその運搬役って訳だな」
「なに? ……ふむ、書類に不備は無し。なるほど、偽造ではなさそうだ」
 兵士は書類をチェックすると得心が言ったように銃口を下げる。彼女は自分の愛機をキャバリア集積場の近くに駐機すべく、事前に公国側へ許可を取っていたのだ。正規の手続きは往々にして面倒だが、それを怠った場合に比べれば遥かにマシだろう。
「良いだろう、通って良し。だが、ソレを置いたらすぐに離れろよ。爆薬の設置作業中で危険な上、見ての通りの厳戒態勢だ。最悪、警告なしでの射殺も在り得る」
「オーケー、気を付けるよ」
 そうしてチェスカーは戦車をキャバリア集積場の傍へ運び込むと、乗機から降りつつ装甲表面をポンポンと叩く。
「それじゃあ、見張りは頼んだぜ? 何かあったら端末に合図をくれ。場合によっちゃ、独断で行動してくれても良いからな」
 傭兵の相棒である戦車には特にAIなどは搭載されていない。だが最近、何か自我らしきものを感じられるようになっていた。その証拠に戦車は微かに砲塔を上下させて肯定の意を示す。それを確認すると、チェスカーは兵士の忠告通りそそくさとその場を離れてゆく。
「さて、それじゃあ会談が始まるまで露天商でも見て回るかぁ。軍の放出品ついでに、行方くらました奴らの話でも聞けりゃ儲けモンって所か」
 相手が何者でどれ程の規模なのか、現時点では不明だ。だが、集団として動いているのならば痕跡を完全に隠しきる事は出来ないはず。軍組織から離反している以上は補給も望めない為、こうした民間に頼らざる得ないだろう。
 そうしてチェスカーは戦闘に備えた買い物がてら、商人たちへと話を聞いて回るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

中小路・楓椛
ごきげんよう、ダゴン焼き屋です。
式典で露店で飲食物とくれば?そう【迷物?「ダゴン焼き」】です。
と言う訳で私も許可を貰って屋台を開いて無料で試食会です。トマトもそうでしたが文化圏を離れた処での新たな食の普及の路は長く険しいものですので、ええ。

狐イヤーは地獄耳、接客対応のついでに周辺の会話から気になった内容…主に所在不明の方々の動向は【ミスラ】さんにもお願いして把握しておきますね。

爆破するとは言え保安上動力源や機体制御OSは外すなり抹消するなりしてから集積と考えていたのですが此方の作法では違うのですかね?これでは意図ある者の前に態々餌を…いえ、少し気になっただけですのでお聞き流しを。



●食べたお代は情報一つで
 情報とは人口に膾炙されて広まるのが常である。況や、実に六カ国もの人々が集まるこの和平会談会場ならば、その総量はかなりのものとなるだろう。例え一つ一つは細やかな内容だとしても、塵も積もれば何とやらだ。
 ……と、いう訳で。
「ごきげんよう、ダゴン焼き屋です。式典で露店で飲食物とくれば? そう『迷物?「ダゴン焼き」』です。なにご存じない? であれば試しにおひとつ、ささどうぞ……」
 中小路・楓椛(ダゴン焼きの可能性を信じている狐・f29038)は牽引して来た移動式店舗『いほうんでー』を拠点として、道行く人々に料理を振舞っていた。無論、営業許可証は公国を通して取得済みである。
「トマトもそうでしたが、文化圏を離れた処での新たな食の普及の路は長く険しいものですので、ええ。ですので、まずはお代を頂かずに知名度向上をばと」
 楓椛の振舞うダゴン焼きなる食べ物は、他世界で見受けられる明石焼きと似て非なる料理である。浮粉を卵で溶くと言う点では同じだが、材料調達の面から具材が蛸だけとは限らない。今回は海老や貝が手に入ったので、そちらをメイン具材としていた。
「パイやガレットともまた違うな。いったいどこの国の料理なんだろうか?」
「このソースを付けて食べるのかい? おお、熱いが旨い……!」
 季節は折しも冬が本格的になりつつある時分。暖かく、老若男女でも食べやすい料理と言うのは喜ばれる。加えて、無料であれば猶更だ。瞬く間に店の周りには人だかりができ、みな思い思いにダゴン焼きを口に運んでゆく。
(さて、良い具合にお客様が来てくださいましたね。少々無作法ですが、これも被害を抑えるため。どうか平にご容赦を)
 そうして接客と調理を行いながら、楓椛は人々の会話に耳をそば立てる。ダゴン焼きの普及も目的だが、その中から情報を拾い上げるのが第一優先だ。とそんな時、列に並ぶ男たちの会話が耳に入ってきた。
「……しっかし、勿体ねぇよなぁ。あのキャバリア、まだ使える部品が残ってんだろ?」
「旧式で使い道がないって話でさぁ。まぁ軍にとってはそうでも、民間レベルなら十分ではありやすが」
 黒い油塗れのツナギ姿に腰に吊った工具袋。恐らく、キャバリアの廃棄作業に駆り出された機械工か。注文を聞きつつ、妖狐はそれとなく水を向けてみる。
「おやおや、寒い中ご苦労さまです。にしても爆破するとは言え、保安上動力源や機体制御OSは外すなり抹消するなりしてから集積と考えていたのですが。他国様だと作法が違うのですかねぇ?」
「いや、初めはそう言う話だったんだがなぁ。土壇場で取り消しだって、眼鏡の兵隊サマが偉そうに伝えやがったのよ。ああ言うのは事故の元だから、勘弁してほしいぜ全く」
 直前での内容変更。六カ国もの勢力が一堂に会する大掛かりな会談なのだ、命令の行き違いがあったとしても不思議ではない。だが、事件が起こると言う前提があればまた違った物が見えて来る。
「これでは意図ある者の前に態々餌を……いや、寧ろそれが狙いですかね? 内通者か、敢えての厄介払いか」
「うん、どうしたんだい?」
「……いえ、少し気になっただけですのでお聞き流しを」
 その変更とやらが真実なのか、それとも首謀者たちの計略なのかは分からない。楓椛は一先ず鋭角を走る狼へ調査を依頼しながら、引き続きダゴン焼きを振舞い続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
お久しぶりですニコライ様
いえ、公王様
父君はご壮健であらせられますか?

ええ、私達が来たという事は必ずや有事が起こります
…まるで凶兆ですね

希望した猟兵の機体や装備の密かな搬入にご協力頂ければと思いまして

(盗聴など情報収集用に会場内に放った透明妖精を操縦し)

消息を絶った各国過激派やハイネマン中佐と水面下で繋がっている部隊…どれ程の規模と思われますか
何か掴めれば直ぐお知らせします

…今回の爆破の趣向
建前とはいえ、気に入っているのですよ

騎士も、兵士も、キャバリアも、ウォーマシンも
「めでたしめでたし」の後は不要ですからね

私が中佐と会話する機会はごく僅かでしたが、幸運でした
決定的な対立に至っていたでしょうから



●それは凶兆、或いは
 ヤルタバルト平原に集った六カ国の首脳陣たち。本来であれば会談の開始まで彼らは厳重に警護され、何人たりとも立ち入ることは許されない。だが今この時、ドストニエル公国の天幕には、大柄な戦機の姿があった。
「……お久しぶりですニコライ様。いえ、公王様とお呼びすべきでしょうか」
「ははは、堅苦しい礼儀作法は不要ですよ。最近肩ひじを張ってばかりで、猟兵殿とお話しする時くらいは気楽にしたいですからね」
 恭しく頭を垂れて来るトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)に対し、出迎えてくれたニコライ・サフォーノフは鷹揚に頷く。懐かし気に笑みを浮かべる相手につられ、鋼騎士もまた相好を崩す。
 彼もまた、かつての戦いに馳せ参じた猟兵の一人であった。四か月前は悲壮感を漂わせていた青年だったが、すっかり王族としての立ち振る舞いを身に着けている。海千山千の各国首脳陣との停戦交渉が彼を揉んだのだろう。
「ご謙遜を。立派に責務を果たされている様で何よりです。ところで……父君はご壮健であらせられますか?」
 そうして会話の流れを見極めつつ、トリテレイアはそっとそう切り出す。共に打倒した前公王。命を奪う事無く終結させられたものの、その後がどうなったのか気になっていたのである。
「………………」
 しかして、返って来たのは言葉ではなくどこか達観した微笑のみ。非常にデリケートな問題故、口に出すのが躊躇われたのだろう。それが吉凶どちらを意味するのか、戦機のセンサー群を以てしても読み取る事は出来ない。例え肉親についてであろうと、軽々しく語る事の出来ぬ地位に青年は座しているのだ。
「申し訳ありません、今の質問はお忘れください」
「いえ、どうかお気になさらず。こうして再び訪ねて来られたという事は、此方がご協力をお願いする事態を意味している。そうでしょう?」
「ええ、御賢察の通りです。私達が来たという事は必ずや有事が起こります……まるで凶兆ですね」
 トリテレイアはハイネマンや各国過激派の動向やこの和平会談を狙っているであろうこと、それに対し既に複数の猟兵が動いている状況を掻い摘んで説明する。その上で機体や装備の搬入協力を願うと、サフォーノフは躊躇う事無く快諾してくれた。
「半ば予想はしていましたが……やはり、ですか」
「こちらも何か掴めれば直ぐお知らせしますが……消息を絶った各国過激派やハイネマン中佐と水面下で繋がっている部隊。どれ程の規模と思われますか」
「ハイネマン殿の部隊のみであれば、把握している限り一個大隊規模。他国に関しては正直不明ですね……あまり公にしたい内容ではないでしょうから」
 偵察用の機械妖精を遠隔操作する鋼騎士に対し、サフォーノフは首を振る。自国兵士の大量離反など、国家としては恥も良い所だ。故にこそ、情報が手に入りづらいのだろう。ならば立場上動けぬ公王に代わり、猟兵が調査を進める他ない。
 調査のため挨拶もそこそこに天幕を後にしようとするトリテレイアだったが、そう言えばと去り際に言葉を付け加える。
「……今回の爆破の趣向。建前とはいえ、実は気に入っているのですよ。騎士も、兵士も、鉄騎も、戦機も。『めでたしめでたし』の後には不要ですからね。中佐と会話する機会はごく僅かでしたが、ある意味で幸運でした。きっと、決定的な対立に至っていたでしょうから」
「願わくば、切り捨てるのではなく大団円の輪に加わってほしかったのですが……儘ならぬものです」
 嘆息する公王に小さく会釈しながら、今度こそ天幕を後にする鋼騎士。だが帰りしな、ふと零れ落ちた呟きを偶然マイクが拾い上げてしまう。
「……凶兆、ですか。きっとハイネマン殿にとって、猟兵と言う存在は寧ろ――」
 最後まで聞き取れなかったが、聞き返すのも不躾だろう。続く言葉が何だったか徒然と考えながら、トリテレイアは会場へと戻ってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として密に連携

表立っての対立が遠のくと、そのぶん足の引っ張り合いも激しくなるし、この手のテロの網も自然と広がっていく…公王さんにとっては長い戦いになりますね

工作を実施するならセキュリティの穴か内通者を作るのが先ずは定石でしょうし、各国警備部門の人員に、其々の国の情報保安部門員を装い接触(変装・情報収集・催眠術:アイテムのbadge of Troy使用)し、通信・警備システム・キャバリアに妙なプログラムが加えられてないか調査(ハッキング・メカニック)
また、外周や業者等の入場管理をしてる警備の動きを監視し
要注意者がある場合は仲間に報告し指定UCで行動監視する。

※アドリブ・絡み歓迎


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動

あのハイネマンってヤツは、筋金入りのウォーモンガーだ。
そうなると、今回の和平はヤツにとって許容し難い。ガキの遊び場取り上げるの同じだからな。何とかしてこの和平をブチ壊す手管を企んでいるのは想像に難くない。
和平っつーても、火種は幾らでも転がっている。他国のフリしての襲撃、会場のVIP暗殺、手段は幾らでもあるわな。
まぁ狙いはワカランが、他の姿くらました過激派で陽動仕掛け、本命をハイネマン自ら押さえる、って破壊工作の常套手段使ってくるだろうな。俺ならそうする。

ま、とりあえず今は戦死者の冥福を祈ろう。死んじまったら敵も味方も関係ねぇしな。戦死者には敬意を表さねぇと。

アドリブ歓迎



●喧しき愚者、沈黙する死者
「……あのハイネマンってヤツは、筋金入りのウォーモンガーだ。日常を知らない訳じゃない、闘争に病んでいる訳でもない。他にも生き方があるのに、嬉々として戦場を選ぶ。そういう手合いだな」
 和平会談の会場を行き交う人々を眺めながら、ミハイル・グレヴィッチ(スェールイ・ヴォルク・f04316)はかつて相まみえた男について思い起こしていた。仕事や責務ではなく、趣味か生き方として戦争を好んでいた狂人。それを思えば、此度の事態はある意味で当然の帰結とも言えるだろう。
「そうなると、今回の和平はヤツにとって許容し難いはずだ。ガキの遊び場を取り上げるのと同じだからな。何とかしてこの和平をブチ壊す手管を企んでいるのは想像に難くない……和平っつーても、火種は幾らでも転がっているもんだしな」
「表立っての対立が遠のくと、そのぶん足の引っ張り合いも激しくなるし、この手のテロの網も自然と広がっていく……今回の和平会談が成功しても失敗しても、公王さんにとっては長い戦いになりますね」
 ミハイルの言葉に相槌を打つのは灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)。彼女もまた、先のクーデターに参戦した猟兵の一人だ。一難去ってまた一難。自らの父を手に掛けざるを得なかった青年の事を考えれば、同情するに余りある。
「他国のフリをしての襲撃、会場のVIP暗殺、市民を巻き込んだ自爆テロ……ま、手段は幾らでもあるわな」
「とは言え、会場のあちこちでは各国の兵士たちが監視の目を光らせていますし、事を起こすのは容易ではないでしょう」
 灯璃の言葉通り、ごった返す人々の中には時折完全武装した兵士たちの姿が見えた。遠くへ目を向ければ最新型のキャバリアも周囲を見下ろしている。どちらも練度はかなり高い。この状況下で馬鹿正直に突っ込んでいっても、早々に鎮圧されるのが落ちだ。
「……となると、定石は関係者の抱き込みですか。工作を実施するならセキュリティの穴か内通者を作るのが先ずは定石でしょうし。実際、停戦反対派の軍人が全員離反したと言う確証もありません」
「そうして他の姿くらました過激派で陽動仕掛け、本命をハイネマン自ら押さえる……って破壊工作の常套手段を使ってくる可能性もありそうだ。逆の立場だとしても、俺ならそうする。となると、まずは外よりも足元を洗うのが先決か?」
「そうですね。手分けして公国以外の勢力に探りを入れてみましょうか」
 ハイネマンに関する人物はサフォーノフの方で手を回しているはずだ。となれば、情報に乏しい他五ヵ国を調査すべきだろう。ミハイルと灯璃は一度別れると、それぞれ行動を開始するのであった。

「……抜き打ち監査、ですか?」
「ええ。消息を絶った兵士たちがこの機に乗じて騒ぎを起こさないと限りません。万が一を想定し、各種システムを改めさせて貰います」
「あぁ、成る程。確かにそれは神経質に成らざるを得ませんか」
 そうして暫しの後、灯璃は参加国の一つである『共同体』の警備部門へと接触を図っていた。この勢力はその名の通り幾つもの小集団が寄り集まって国家を形成しているらしく、そのぶん付け入る隙が大きかったのである。
(裏を返せば、此方だけでなく敵にとっても与し易い相手ということ。現にこうしてすんなり入り込めましたしね)
 いまの彼女は共同体の制服に身を包み、情報保安部門員という役職を装っている。情報収集を経た上で変装し、かつ意識に働きかける器具まで併用しているのだ。流石に灯璃を受け入れた職員を不用心と謗るのは些か酷だろう。
 そうして彼女は警備用の天幕へ通されると、共同体のシステムへアクセスしてゆく。目的は通信と警備、及びキャバリアのOS群についてである。
(通信記録については今のところ異常は無し。監視カメラ等も手を加えられた形跡は有りませんね。流石に異変があれば気付く部分ですし、手を出すべきでないと判断したか。或いは、電子戦に長けた人員が居なかったのでしょう……うん?)
 幸いにも、どれも特に異常は見受けられなかった。キャバリア各機の稼働状況まで目を通し終えて微かに安堵する灯璃だったが、ふとリストに表示される機数が多い事に気付く。サッと視線を走らせてみれば、何と其処には廃棄予定の機体情報が表示されていたのだ。
「これは……すみません。破壊するキャバリアは稼働可能な状態なのでしょうか」
「はい? 確か、電子部品などは取り外して再利用するとの事なので、それは無いはずですが……現場側に確認してみます」
 問いかけに対し、職員も眉を顰めながら連絡を取り始める。だが、画面に表示されている数が数だ。仮に改めて廃棄処置を行ったとしても、会談の開始までに終わるかは時間的に怪しい。
(通信記録にはそれに関する発言が見当たらない。となると、現場側へ誰かが口頭で誤情報を流した……?)
 コンソールを叩き、キャバリア集積場周辺の監視カメラ映像を確認する灯璃。
 果たして――画面上には幾人もの兵士と共に、眼鏡を掛けた痩せぎすの男が表示されるのであった。

「成る程……こっちも王国とやらに探りを入れたんだが、似た様な状況だった。ただ、ハイネマン一人で全部こなせるとは思えねぇ。十中八九、離反した軍人たちも動いているな」
 共同体での調査を終えた仲間からの報告を聞き、ミハイルは小さく舌を打つ。彼は別の王政国家を調べていたのだが、そちらも廃棄キャバリアが使用状態のまま運び込まれていたのだ。
「はぁ……もしかしたら、過激派の中にそれなりに階級の高い連中が居るのかも知れねぇな。下手に権力をもった奴が暴走していたら、かなり厄介そうだ」
 通信を切りつつ、傭兵は思わず呆れ交じりの溜息を零す。当初の予想ではハイネマンが他勢力を煽ったのかとも思ったが、実際はやや異なるのかもしれない。寧ろ同じような考えの連中が同時多発的に動き始め、反停戦の元に合流したと言う線も在り得る。
「ハイネマンも分類的には公国側と別勢力だ。他国と手を組むハードルは低い。しかしとなると、実際に相手が動き出すまでは打てる手も余り無さそうだな」
 戦争狂一人が絵図を描いているなら、事前に無力化してしまえば計画は瓦解する。だが音頭を取る人物が複数存在するとなれば、完全に動きを封じるのは至難の業だ。いっそ何かしらの行動を起こした後、一網打尽にするのが手っ取り早い可能性まであった。
「ま、だからと言って調査の手を抜くつもりは無いが……っと、あれは」
 次はどこへ向かおうかと考えていたミハイルだったが、その時ふと視界の端に背の高い何かを見つける。近づいてみると、それは石造りの慰霊碑。表面には官民問わず、一連の戦いで犠牲となった人々の名前がびっしりと刻まれていた。
「……改めて見るとひでぇもんだ。六カ国も入り乱れて殺し合ってたんだ、そりゃこんな数にもなるか」
 左右を見てみれば、同じような建造物が幾つもあった。犠牲者の数は五桁に届くだろう。それらの周りでは国籍を問わぬ人々が静かに祈りを捧げている。ミハイルもまたそれに倣い、そっと目を閉じて黙祷を行う。
(死んじまったら敵も味方も関係ねぇしな。それにこんな稼業だ、いつ仲間入りしてもおかしかない。戦死者には敬意を表さねぇと)
 そうして暫し祈りを捧げた後、傭兵は踵を返して再度歩き始める。これ以上、この石碑に刻まれる名を増やしてはならない。そう小さく誓いながら。
「……平和の為に人々が手を取り合う一方、反対に戦争を続けようと一致団結する連中も居るとはな。全く、儘ならねぇ世の中だ」
 そんな皮肉気な呟きを零しながら、ミハイルは次なる調査先へと向かうのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーゼロッテ・ローデンヴァルト
※アドリブ絡み連携大歓迎
※『嗤え…』参戦で中佐に面識あり

ま、アタシも狂ってるし多少は解るよ
現場で争うのは『軍人』等のヒト
タカ派のお偉方だってしぶとそうだしさ

そして中佐は「狂人なりにスジを通す傑物」
兵器諸共全部ツブして完勝…とかヤリそうだよね?

とりあえずは街の雰囲気を探りつつ酒屋へ
【ゴールド・セキュア】で支払って
中佐の好きそうな酒とツマミを仕入れるよ
全部片付いたら一献飲み交わす為にね

待機場所へ戻ったら【ナインス・ライン】へ搭乗
実は【ユナイテッド・ナーヴス】通常モードで遠隔制御中
オブリビオンマシンの遠隔ジャックに備えて
【ミネルヴァ】で廃棄機を全機監視してたのさ

さ、中佐…アタシ達は何時でも遊べるよ?



●酔いしれるは酒精か、闘争か
「……ま、アタシも狂ってるし多少は解るよ。現場で争うのは『軍人』等のヒト。タカ派のお偉方だってしぶとそうだしさ。上から何かを言われた程度で、はいそうですかと頷く様な連中じゃない」
 非合法だろうが闇だろうが、医者と言う職業は人間の生き汚さを嫌と言うほど見せつけられるものだ。雑踏の中を独り歩きながら、リーゼロッテ・ローデンヴァルト(リリー先生って呼んでよ・f30386)は薄く笑みを浮かべる。
「そして、中佐は『狂人なりにスジを通す傑物』。戦争狂、ウォーモンガー、倫理破綻者。それは間違っちゃいないけど、同時に自分なりの美学もある。だから不思議なんだよね、過激派なんかとつるんでるのがさ」
 それはある意味の同類だからか。リーゼロッテは他の猟兵とは若干違う視点から、ハイネマンと言う人物を見ていた。彼は確かに闘争を欲するが、同時にどこまで純粋だ。現に一年前の防衛戦時、敵手としては最上級である筈の城塞機を前にして、余計な要素を持ち込んだが為に『詰まらん』と切って捨てている。
 だからこそ、闘争を政事の具にしようとする手合いと協力しているのが解せない。それは彼が最も嫌う行為だ。だからこそ、何か裏があると思えてならなかった。
「或いは、そうだね。兵器過激派首脳陣、諸共全部ツブして完勝……とかヤリそうだよね?」
 予想とは言え、幾ら何でも無謀過ぎる方針だ。だが一方で、呵々と嗤いながら実行しかねないとも思えてしまう。
 そうしてクスリと期待交じりの微笑を零しつつ、リーゼロッテはふらりと目についた酒屋へ立ち寄る。以前、助力の報酬として秘蔵のボトルを貰った事があった。その返礼という訳ではないが、彼女はハイネマンの好きそうな酒とつまみを選んで購入してゆく。渡されたボトルの銘柄的に、どうやらドイツ風の物が好みらしい。
「気が早いかもしれないけどさ……全部片付いたら、一献飲み交わす為にね」
 共に盃を酌み交わすのか、それとも墓標にでもかける事になるのか。現時点ではまだ分からない。だがどうなろうとも、久しい顔と会うのに手土産の一つもないのは寂しすぎるだろう。
 買い物を終えた闇医者はそっと会談会場を離れると、万が一に備えるための待機場所へと足を向ける。其処には擬装用の迷彩ネットで隠蔽された彼女の愛機、『ナインス・ライン』が駐機されていた。
「実は『ユナイテッド・ナーヴス』通常モードで遠隔制御中。何も考えずに散策していた訳じゃないよ、っと」
 そのまま機体を駆け上がって操縦席へ収まると、起動状態だった各種システムやセンサー類を改めてチェックしてゆく。リーゼロッテの言葉通り、機体を離れはしていたが自前の生体電脳と搭載されたAIをリアルタイムでリンク。鉄騎の目耳と己の感覚を常時繋げていたのである。
「ま、いつ何時おっ始めるか分からなかったしね。オブリビオンマシンの遠隔ジャックに備えて、ミネルヴァで廃棄機を全機監視してたのさ。とは言え、今はまだ下準備段階ってところかな」
 副腕と換装する形で取り付けられた、分析用の高精度センサーユニット群。それらは集積場のキャバリアが帯びる熱量を敏感に読み取っていた。やはり相手が動くのは、最も注目を集める瞬間を置いて他にないのだろう。
「さ、中佐……アタシ達は何時でも遊べるよ?」
 こちらの準備は既に万端。シートに体重を預けながら、リーゼロッテは来たるべき刻を静かに待ち望むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

久遠寺・遥翔
UDC日本式のお祭り屋台を出して、UCと[料理]を駆使して道行く人々をちょっと大味だけど美味しいごはんで人々の舌を楽しませるぜ。

キャバリア乗りの仲間の要請でこの地を訪れたが、土地勘もなければ情勢にも疎い。
だから下手に探りを入れるんじゃなくて、流れのままに世間話を楽しんでこの会場の空気を思うがままに感じよう。

まぁでもそれだけではさすがに勿体ないか。
研ぎ澄ました[視力]で周囲を見回し、[第六感]でなんとなく匂う部分を見極めておこうかね。何が起きても即座に動けるようにな。



●平和の先触れ、動乱の香り
「会談って響き的に堅苦しい雰囲気を想像していたが、随分と人が集まっているんだな……こういうのもちょっと不謹慎かもしれないけど、まるで本物のお祭りみたいだぜ」
 ヤルタバルト平原と降り立った久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー/『黒鋼』の騎士・f01190)は、人混みで賑わう会場を前に思わず息を呑んでいた。それぞれが小国家に分かれて相争うこの世界において、これだけ多種多様な人々が集まる機会もそうないだろう。
(ただ、ヴィリーの誘いでやっては来たけど、生憎と土地勘も無ければ一連の事情についても疎い。なら、下手に探りを入れるよりも会場の雰囲気を楽しんだ方が得策かもしれないな)
 さてどうしたものかと思案する遥翔の脳裏に浮かぶのは、同じ旅団のキャバリア乗りについて。だがざっと周囲を見渡してみても、当の本人の姿は見当たらない。恐らくはまだ到着していないか、別の場所で独自に行動しているのだろう。
 青年自身の言う通り、不慣れな土地で動き回っても効率は悪い。ならばいっそ、行き交う人々と一緒にお祭り気分に浸るのも一興かもしれなかった。遥翔は運よく見つけた空きスペースを確保すると、持ち込んだ資材を使って手早く調理器具を組み立ててゆく。カラフルな暖簾で飾り付けれやれば、アース系世界でよく見るお祭り屋台の完成だ。
「さてさて、あっちは楓椛さんがダゴン焼きを売っているのか。なら、出す料理は粉物以外にした方が良いかもしれないな。となると、肉か野菜か、それとも甘い物か……」
 そうして持参した食材を吟味しつつ、青年は何を作ろうかと腕を捲る。少しばかり大味気味になってしまうが、調理の腕には自信があった。故に彼は人々へ料理を振舞う事で、和平会談にささやかながら華を添えようと考えたのだ。
(……流れのままに世間話を楽しんで、この会場の空気を思うがままに感じよう。過去の出来事を詳しく知らなくても、未来についてならスタートラインは同じだしな)
 串に肉を刺し、火を入れた鉄板に麺を広げ、棒先の果物へ溶かした飴を掛けてゆく。どれも複雑な手間を必要としない料理だが、それを差し引いたとしても遥翔の手際は見事と言って良かった。そうして調理が進むにつれて香ばしい匂いが漂い始めると、徐々に人々が足を止め始める。
「炒めた麺、か。パスタとは違うみたいだが、中々美味しそうじゃないか。一つ貰えるかい?」
「ああ、遠慮なくおあがりよ! 放浪生活で培った野生のスペシャリテだぜ!」
 一人が買い始めれば後はもう早かった。次々とやって来る客を相手に、テキパキと青年は料理を提供してゆく。出来立ての温かな料理はそれだけで幸せな気分にしてくれるもの、しかもそれが美味とくれば猶更だ。顔を綻ばせる老若男女の表情を見ていると、遥翔まで思わず笑顔を浮かべそうになる。
(ちょっと前まで戦争中だったんだし、そりゃ色々不便してたはずだよな。だからこそ、みんなこの和平に期待している……それをぶち壊しになんて絶対にさせられねぇ)
 それと並行して、青年は油断なく周囲へ視線を巡らせていた。彼の猟兵としての感覚は、時たま人混みに交じる剣呑な雰囲気を敏感に感じ取っている。しかしそれが警備の兵士か、はたまた敵勢力の一員なのかまでは分からない。
 だが、警戒しておくに越したことは無いだろう。遥翔はきな臭い匂いがする相手を記憶しながら、何かあれば即座に動けるよう警戒を強めてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレスベルク・メリアグレース
終戦記念式典における来賓の一人としてヤルダバオト平原に趣き、戦死者や重傷を負った、言えない心の傷を追った者たちの慰霊や慰撫を込めたメリアグレース聖教式の慰問を行います

無論、傷を負ったものや戦死した者達を慰撫する行為と気持ちに嘘はありませんが、彼等からの視点や情報を聖教皇国の儀礼を介することで収集し、この後の『後日談』への対処法を練り上げる材料を集めていきます

心身の拠り所たる宗教の首席に位置する教皇として恥じない振る舞いで慰霊儀式に集まった人々の心を癒やし、彼らの癒えた心から情報収集を図っていきますね



●死者に手向けを、生者に癒しを
「これらが全て、戦禍によって命を落とした人々ですか……争いの常とは言え、やはり痛ましいものですね」
 和平会談会場、その一角に設けられた追悼スペース。其処に打ち立てられた無数の石碑を見て回りながら、フレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)は哀し気に瞳を伏せていた。
 石造りの建造物には官民問わず、この戦争によって命を落とした人々の名前がびっしりと刻まれている。その数は百や千どころか、万を軽く超えるだろう。小勢力とは言え実に六カ国が刃を交えたのだ。累計すればこれだけの犠牲者数になるのも当然かもしれない。だが、それを是として良い訳が無かった。
(亡くなられた方々の冥福を祈るのは勿論ですが……それ以上に、生き残った人々のケアもまた大きな課題となって来るでしょうね)
 夫、妻、両親、子供、友人。此処に名を刻まれた者たちにはそれぞれ大切な誰かが居たはずだ。故にこそ、下手をすれば死者の数倍もの人々が心に傷を負っているだろう事は想像に難くない。現に周囲を見渡せば石碑に縋りつきすすり泣く女性や、微動だにせず黙祷し続ける老人の姿が散見された。
 無念にも眠りにつく犠牲者とは違い、彼らはこれからも生き続けねばならない。故にこそ、遺族に対する支援の手を欠かす事は出来ないのだが……。
(ですが果たして、各国がそこまで手を回すことが出来るのかどうか)
 小さく嘆息するフレスベルク。少女の脳裏に浮かぶのは、此処へ来る前に接触した各国首脳との遣り取りだ。彼女はメリアグレース聖教皇国の教皇と言う肩書を活かし、公国を除く五ヵ国に来賓として会談へ参加した旨を申し出ていたのである。
 だが、それに対する返答は遠回しの拒絶。第三国が参加すること自体は、会談の権威付けとして歓迎する雰囲気はあった。しかし、水面下で各国が戦後の主導権争いを繰り広げている現状、余計な横槍を嫌う感情の方が大きかったのだろう。ともあれ、そんな状況で傷ついた国民に目を向けられるかは甚だ疑問である。
(せめて、この場に居る人々だけでも慰撫したいところですが……っと?)
 徒然と思考を巡らせるフレスベルクだったが、ふと騒がしさを感じて視線を上げた。見れば、数人が語気を荒げながら掴み合っている。どうやら感情が昂った結果、諍いが発生してしまったらしい。
「そもそもお前たちが攻めてこなければ、息子は……!」
「貴様らこそ、街を破壊したせいで何人が犠牲になったと思って……ッ」
 敵対していた国同士が一緒に弔われているのだ。こうなるのもある意味当然である。フレスベルクは躊躇う事無く人々の間へ割って入ると、争いを止めるよう諭してゆく。
「……此処は死者を悼む場所です。過去を想い、手を取り合って明日へ歩む為のもの。争いの犠牲となった方々へ、更なるいがみ合いを見せるおつもりですか?」
 宗教国家の頂点に立つだけあり、少女の言動には年齢に見合わぬ威厳が感じられた。若者に促されて冷静さを取り戻したのだろう。いがみ合っていた人々は罰の悪そうに謝罪を口にする。
(話を聞いて下さって助かりました。ただそれにしても……対立感情を利用する動きが無いのは不思議ですね)
 小さく息を吐きつつ、ふとフレスベルクは疑問を抱く。反停戦派ならば今の様な憎悪を煽り、活動の大義名分にしそうなものである。それが一切見受けられないと言うのは、どういう理由だろうか。
 不審に思いながらも、人々が利用されないのであればそれに越したことは無い。斯くして少女は引き続き人々の慰撫に努めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリー・フランツ
会場内の機体の持ち込み:ドストニエル公国から派遣された警備としての参加で打診

目的:中佐以下タカ派軍人の動向を探る

心情・理由:いつかはやらかすと思ってはいたが…取り敢えず後手に回る事は確実、何とか動きを予想せんと対応すら思い付かんぞ。

手段:さて、紙巻煙草を吸って【喫煙者】を発動させるが……用意周到な中佐の事だ、既に偽造IDを使って相当数の同志を会場内部に潜入させてるだろう。
何とか探りたい所だが、下手にバレて祭りのど真ん中で軍用拳銃をぶっぱなすのもなぁ~、取り敢えず機体から降りて人気の無いエリアから見回りするしかねぇな、上手く行けば一人か二人倒して情報と戦力の削減も出来るかもしれねぇな。



●戦場と日常を分かつ矜持
「いつかはやらかすと思ってはいたが、よりにもよってこのタイミングで……いや、今だからこそか。兎も角、取り敢えず後手に回る事は確実。何とか動きを予想せんと対応すら思い付かんぞ」
 会場付近に駐機させた愛機から降りつつ、ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)は舌打ちと共にボヤキを零す。
 彼は過去の事件から、件の人物がどれほど厄介な相手なのかよくよく身に染みていた。人格破綻者の狂人だが、かと言って考えなしのバーサーカーではない。指揮官らしく腹芸もこなせる手合いなのが、より事態の複雑さに拍車を掛けている。
「ただ、こんだけ厚い警備体制なんだ。そう細かい仕込みなんざ出来ないはず。尻尾を掴める隙もあるだろうが……気付いた時にはもう手遅れって可能性が怖いな」
 ジリジリとした焦燥感を覚えたヴィリーは、いったん神経を落ち着かせるべく懐から紙巻き煙草を取り出す。慣れた手つきで火を点け、紫煙を肺腑の隅々へと行き渡らせてゆくと、徐々に思考が鋭さを取り戻し始める。
(……同時期に姿を消した、各国のタカ派。先行した仲間が掴んだ情報を踏まえると、まず間違いなく協力して動いている。用意周到な中佐の事だ、既に偽造IDを使って相当数の同志を会場内部に潜入させてるだろう)
 周囲をちらりと一瞥しただけでも、完全武装した兵士やセンサー類を常時稼働させたキャバリアの姿が視界に飛び込んで来る。戦力としては申し分ない。しかし、『六カ国が入り乱れている』という状況が問題だ。
(統制の利かなくなった兵士なんざ、お偉方からすれば醜聞でしかねぇ。自国は兎も角、他国の造反者まで把握しているとは思えない。身なりと身分を見繕った上で潜入する国を入れ子にすれば、会談の開始くらいまでなら騙し通せるはず)
 実際、同じような手口で情報を獲得した猟兵も居る。味方が出来て敵に出来ない道理も無いのだ、可能性は極めて高いだろう。とは言え、だ。
(問題は、どっから手を付ければ良いか皆目見当がつかないって事か。何とか探りたい所だが、下手にバレて祭りのど真ん中で軍用拳銃をぶっぱなすのもなぁ~)
 予想出来たとしても、即解決策が思い浮かぶものでもなかった。一先ずは会場内を虱潰しにする他ない。ヴィリーは根元まで吸い切った煙草を消し、吸殻を捨てようとする……が。
「っと、携帯灰皿を忘れたか。うっかり普通のゴミ箱に捨てて小火でも起こしたら本末転倒だ。敵さんの前に、まずは喫煙所でも探すか」
 やれやれと嘆息しつつ歩き出す傭兵。しかしどうやら式典で爆薬を扱う関係上、火気厳禁と喫煙所が会場から離れた場所へ移動させられてしまったらしい。ツイないと思いつつそちらへ足を向けると、何やら小声で諍い合う声が聞こえてきた。
「……各国の市民感情を煽れば、対立は激化し我々に賛同する者も増える。だと言うのに、なぜ止める?」
(おっと……こいつは、まさか)
 咄嗟に身を隠して耳を澄ませば、聞こえてくるのは剣呑な内容だ。ちらりと物陰より様子を窺えば、異なる軍服を着た兵士が二人。しかもその内の一人は見覚えのある顔……以前の事件で協力した、ハイネマンの部下である。
「中佐殿から一般市民への接触は厳に慎めとのご命令だ。下手に巻き込み、計画が露呈する可能性が高まるのを危惧しておられる」
「そんなもの、最悪は口を封じれば良いだけだろう!」
 血気に逸るタカ派兵士と、それを諫めるハイネマンの部下。その内容に眉根を顰めつつも、会話を聞き漏らすまいとヴィリーが僅かに身を乗り出した、その時。
「ッ、誰だッ!?」
「クソ、不味ったな……!」
 発砲音と共に銃弾が顔のすぐ傍で弾けた。どうやら運悪く気付かれてしまったらしい。こうなれば力づくだと傭兵は飛び出すも、敵の判断も早かった。咄嗟に円筒を地面へ叩きつけるや、瞬く間に白煙を噴き上げてゆく。それが煙幕弾だと気付いた時には、もう既に敵は逃走した後だった。
「逃げられたか。しかし、どういう事だ……? これじゃまるで、中佐が一般人への被害を抑えたがっているようにも見えるぞ」
 嘆息するヴィリー。だが、最低限の情報は得られたのだ。傭兵は気を取り直すと、今度こそ見回りを開始するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎹・たから
【煌々】2

たから、この世界は初めてです
こんなに沢山のキャバリアを見るのも(ぱちくり
はい、露店を見るのはすきです
不審者が居ないか観察しつつ
露店が楽しい娘にしか思われないかも

紅茶、砂糖とミルクをいっぱいお願いします(暫くふぅふぅ
とてもいい香りがします
ヴィルジール、我慢ができてえらいです
飲酒運転はいけませんからね

艦長、あっちにクレープのような食べ物がありますよ
チュロスも隣のお店に
甘いものはお仕事の前に食べると、やる気が出ますね(もぐ

祭壇で共に祈りを捧げます
赤子を連れた若い女性
幼い兄弟
寂しそうなおじいさん
皆、たくさん傷ついたのでしょうね

今は偽りでも、いつか平和は本物になるはずです
たからもお手伝いします


ヴィルジール・エグマリヌ
【煌々】2

ずらりと並んだキャバリア
斯うして見ると圧巻だね

事が起きるまで
露店でも見てまわろうか、たから
怪しい者が居ないか警戒しつつ

寒いし紅茶でも飲もうか
ホットワインも欲しくなるけど
此れからキャバリアを操縦するから
うん、我慢、我慢

砂糖とミルクたっぷりの紅茶は
美味しいし、ね

甘いものとか売ってるかな
私はチュロス食べたい
おや、クレープ美味しそうだね
…あ、チュロスもある
腹ごしらえと行こう

片手にベリークレープ
もう片手にチョコチュロス
何だか私も祭りを満喫してる人みたいだなあ

祭壇には黙祷を
此の人混みのなかには
家族や友人を亡くした人も居るんだろう
悲劇は繰り返されるべきじゃない
偽りの平和だろうと、守らなければね



●華やかな未来を眠る過去へと手向けるべく
「新旧入り混じった、六カ国それぞれの特色を帯びたキャバリアたち……斯うして立ち並ぶ姿を見ると、実に圧巻だね」
「ええ。たから、この世界は初めてです。もちろん、こんなに沢山のキャバリアを見るのも」
 ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)と鎹・たから(雪氣硝・f01148)、連れ立ってヤルタバルト平原へと降り立った二人は、地平線上に乱立する多種多様な鉄騎を目の当たりにして息を呑む。六カ国分のキャバリアが集結した光景は、言葉通り初めてこの世界へやってきた羅刹は勿論、所縁の有る青年でさえも思わず感嘆するものであった。
「ただ、どれもすごく立派ですけど……なんだか、少しだけ物悲しい雰囲気もしますね」
 そうして暫し周囲を眺めていた少女がふと零した呟き。それはこの場所の陰と陽を端的に表している。
 会場外縁部で直立し、各国の武威を示している華々しき最新鋭機。中央の集積場へ雑多に運び込まれ、静かに終焉の時を待つ旧式機体。平和への期待に心躍らせる人々と、死者の名前が刻まれた墓碑群。もしかしたら、そうした存在が醸し出す悲喜交々を無意識に感じ取ったのかもしれなかった。
「……事が起きるまで、露店でも見てまわろうか、たから。初めて来たのなら、目新しい物も多いだろう。勿論、怪しい者が居ないか警戒しつつね?」
 故に、ヴィルジールがそう切り出したのは彼なりの気遣いだったのだろう。青年が指し示す先は、飲食系の出店が密集した一角だった。人々で賑わうその場所を見て、少女はぱっと顔を輝かせる。
「はい、露店を見るのはすきです。猟兵として、不審者が居ないか観察しつつ……でもはしゃぎすぎて、傍から見れば露店が楽しい娘にしか思われないかも」
「ふふ、それもそれで良いんじゃないかい。それじゃあ少し肌寒いし、まずは紅茶でも飲もうか」
 一転して気恥ずかしそうにはにかむたからに目を細めつつ、ヴィルジールは共に露店を巡ってゆく。人混みの中であっても漂ってくる茶葉の香りに導かれてみれば、迷うことなく目当ての店へと辿り着くことが出来た。老紳士然とした店主は二人に気付くと、優雅に会釈しながら紅茶を勧めて来る。
「やぁ、いらっしゃい。紅茶を御所望ですかな。本場の王国式は勿論、ブランデー入りから砂糖にミルク、ジャムもありますからね。お好みがあればどうぞお申し付けください」
 屋台には簡易的なコンロやティーセットに加え、茶葉の入った幾つもの缶や砂糖壺、ミルクやジャムの瓶が所狭しと並べられていた。物珍しそうにブランデーの入ったボトルを手に取る青年だったが、ふとあるモノを連想してしまい微苦笑を浮かべゆく。
「酒精と言えばホットワインも欲しくなるけど、此れからキャバリアを操縦するから……流石にアルコールを入れるのは、うん。我慢、我慢、と。砂糖とミルクたっぷりの紅茶も美味しいし、ね」
「ヴィルジール、我慢ができてえらいです。飲酒運転はいけませんからね。それじゃあ紅茶を二杯、砂糖とミルクをいっぱいでお願いします」
「畏まりました、それでは少々お待ちを」
 二人の遣り取りを微笑ましく眺めていた店主は、注文を受けると慣れた手つきで紅茶を素焼きのカップへと注いで手渡してくれた。じんわりとした温もりが器越しに手を暖め、柔らかな香りが鼻腔を擽る。
「とてもいい香りがします……それになんだか、ほっとする味ですね」
 ふぅふぅと冷ましつつたからがカップへ口を付けてみれば、広がるのは優しい甘さ。クド過ぎず、さりとて薄過ぎず。茶葉とミルクと砂糖、三つの要素が丁度良い塩梅であった。ただそうなると、お茶に合うお菓子が欲しくなるものだ。
「ふむ、甘いものとか売ってるかな……出来れば、私はチュロス食べたい気分だ」
「艦長、あっちにクレープのような食べ物がありますよ。チュロスも隣のお店に。さっそく買いましょう」
「ほう、それは丁度いい。腹ごしらえと行こう」
 無論、お客がそう考えるであろうことは露店側にとっても織り込み済みなのだろう。紅茶屋のすぐ傍には甘味を取り扱う露店が固まっていた。油で揚げた細長いパンに粉砂糖を振る職人の横では、若い女性が薄く焼いた生地の上にクリームを載せている。季節的に新鮮な果物は手に入りにくいのか、具材はドライフルーツが中心らしい。だが、それはそれで美味しそうだ。
 二人は思い思いのフレーバーを頼むと、紅茶とはまた違って濃厚な甘さを楽しむ。
「んん~……! 甘いものはお仕事の前に食べると、やる気が出ますね!」
「ああ、そうだね。にしても片手にベリークレープ、もう片手にチョコチュロスか。何だか、私も祭りを満喫してる人みたいだなあ……」
 無論、こうしている間も警戒を怠ってはいない。だがそれはそれとして、この催しを楽しんでいる事に間違いは無かった。
 そうして購入した甘味を食べ終え、引き続き散策を続ける二人。だがふと、ある地点でたからが足を止めた。何事かと思いながらヴィルジールが少女の視線を追ってみれば、その先には背の高い石碑が佇んでいる。
「これは……慰霊碑、か。成程、此処が話に聞いていた追悼スペースみたいだね」
 近づいてそっと石造りの表面に手を添わせてみれば、細かな字でびっしりと人名が彫り込まれていた。これらは全て、この一年間に起こった戦いの犠牲者なのだろう。同じようなものが、周りに幾つもある。果たして、命を失った人々の総数はいかばかりか。想像するだに恐ろしい。
「……皆、たくさん傷ついたのでしょうね。先ほど明るく接して下さった方々も、きっと」
 たからが周囲を見れば、様々な人々が同じようにこの一画を訪れていた。腕に抱いた赤子の手を、ある名前へと触れさせる若い女性。此処が何を意味するのかもまだ分からず、ただきょろきょろと周りを見渡す幼い兄弟。じっと微動だにせず、ただ石碑を眺める寂しそうな老人。誰も彼も、掛け替えのない誰かを失ったに違いない。
「少しだけ、祈っていこうか。見ず知らずの相手かもしれないけれど、それでも……」
「ええ。たからも丁度、同じことを考えていましたから」
 青年の問い掛けに、少女は迷うことなく頷く。そうして二人はそっと膝を折り、静かに黙祷を捧げてゆく。
(此の人混みのなかには、家族や友人を亡くした人も居るんだろう。もしかしたら、私が関わった誰かも居る可能性だってある……悲劇は繰り返されるべきじゃない。偽りの平和だろうと、守らなければね)
 ヴィルジールがあの戦争狂と大公国に関わったのは丁度一年前。その時はよもや戦争がこんなにも長引くとは思いもよらなかった。猟兵に予知された事件以外にも、きっと多くの血が流れていたはず。そうした犠牲者の為にも、再びの戦禍は絶対に阻止しなければならない。
(会場を巡って、此処がどういう場所なのか何となくわかりました。例え今は偽りでも、いつか平和は本物になるはずです。その為に、たからもお手伝いします)
 対して、たからは先ほども述べた様に今日初めてこのクロムキャバリアへ降り立った。物珍しさに興味を惹かれる一方、この世界にも人の営みがあり、悲劇がある事を知ったのだ。故にこそ、必ずやこの地に平和を齎さなければと言う意識がより強くなってゆく。
 そうして二人は和平会談が始まるまでの間、この国々で生きる人々の姿を瞼に焼き付けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
情報収集と見回りを兼ねて会場を歩きまわってみるか
何もかもが解決したとは思わないが、仮初であっても今の平和を喜ぶものがいるなら、クーデターも無駄ではなかったと考えている

そういえば、先のクーデターで手を借りた兵士は居るだろうか
居るのであれば顔を出して、持参した煙草を持っていく
一箱返すと言ったからな
…という理由もあるが。無事な姿を見られれば、と思っている

ついでに警戒中の兵士たちにも、何か異変は無いか聞いてみよう
この地に慣れている兵士だからこそ感じられる違和感があるかもしれない

情報が得られたらそこをピンポイントに
何も無ければ、廃棄されるキャバリアの周辺を調べてみよう
罠や細工などされていなければいいが…



●香り導く懐かしき者たち
(……何もかもが解決したとは、もちろん思わないが。しかし仮初であっても今の平和を喜ぶ者がいるなら、クーデターも無駄ではなかったか)
 すれ違う人々の表情へそれとなく視線を流しながら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は独り人混みの中を征く。彼もまた、四か月前の反乱に助力した猟兵の一人である。あの一件は停戦に向けての大きな転換期となったと同時に、少なくない者たちへ傷を残した。
 しかし、行動した結果を見て、銀狼はうっすらとだが微笑を浮かべる。言葉通り、まだまだ課題は山積みだ。だがこの場所に集った市民たちの顔に浮かぶ希望と喜びを見れば、確かな意味があったのだと実感できた。
「とは言え、この平和が続かせる為には和平会談の成功が絶対条件。それを潰そうとする企みは未然に防ぐ必要があるが……その前に、まずは『借り』を返すとしよう」
 そうしてシキは会場を巡りながら、己が嗅覚へと意識を集中させる。周囲には幾つもの匂いが複雑に入り混じっているが、獣に由来する感覚器はそれらを選別し、必要なものだけを選り分けてゆく。幸い、辿るべき匂いの特徴は覚えていた。微かに漂ってくるソレを追って暫しの後、彼は或る兵士の前で足を止める。
「うん? なんだ、俺に何か用か……って、アンタは!?」
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
 兵士は一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべたものの、相手が誰か気付いて破顔する。一方のシキもまた鷹揚に手を上げて応じてゆく。声を掛けた兵士はサフォーノフの部下であり、公国首都への潜入時に協力した事があったのだ。数か月ぶりの再会だったが、二人はお互いに壮健な事を祝福し合う。
「あの時は世話になったなぁ、猟兵殿! 色々あったが、お陰でこうして和平にまで漕ぎつけたんだ。感謝してるぜ?」
「なに、感謝するのはこちらの方だ。あの時の借りを返そうと思ってな」
 ――1箱返すと言っただろう?
そう言ってシキが兵士へ手渡したのは、新品の煙草が1箱。先述の潜入時に譲り受けた煙草を、彼は律儀にも返しに来たのだ。先ほど辿った匂いもコレだった。銘柄も全く同じなのを見て、兵士は呵々と嗤い声を上げる。
「はははは! 全く、借りがあるのは寧ろ俺たちの方だってのに……ありがとよ。有難く頂戴しておくぜ。尤も、近くで爆薬を扱ってるから火気厳禁でな。会談が終わるまではお預けだ」
「実は、その和平会談に関する事なんだが……これまで、何か異変は無かっただろうか」
 シキがそうと問い掛けた途端、兵士の表情が軍人としてのソレに変わった。彼は周囲に聞こえぬよう、そっと小声で猟兵へと囁きかける。
「その口振りからして、大方の事情は知っているんだろう? 何でとは聞かんさ、そこまで野暮じゃない。で、本題だ。実はな、直前になって俺たち公国が警備を外された場所があるんだよ」
「……その場所は?」
「廃棄キャバリアの集積場だ」
 そう言って、兵士は会場の中心部たる集積場を指し示す。とは言え、見方によっては妥当とも言える措置かもしれなかった。六カ国と一口に言っても、線引きをすれば公国と他五国に陣営が分けられる。『負けた側』の乱心を警戒して、遠ざけると言うのも分からない話ではない、が。
「だが、直前にと言うのが解せないな」
「だろ? 命令の出所もいまいち不明瞭なんだが、こっちも立場上強く言えなくてな……」
 こうなって来ると、何者かによる介入を強く感じられる。顔見知りを遠ざけたいと言う、言外の意志がだ。
(罠や細工などされていなければいいが……希望的観測だろうな)
 会談の開始まで時間はもう残り少ないが、調べる必要があるだろう。シキは兵士に別れを告げると、集積場へ向けて足を伸ばすのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

グァーネッツォ・リトゥルスムィス
疑う心が暗闇にありもしない鬼を見る、っていう位だから本当の和平には程遠いんだろう
でも今の平穏が小さくても、これが本当の平和への実りになるとオレは信じる
会談阻止なんて阻止してやるぜ

情報収集となればやっぱ物の動きに鋭い商人を宛てにしたいぜ
商人の商品をベタ褒めしながらクロムキャバリアの通貨で買って、
機嫌が良い間に逆に『風竜の狩猟鱗』をキャバリアの材料や装備のアイディアに出来ないか売り込むぞ
この部品も食料もいいからこそ、オレの地元のこれはどうだろう?

鱗が買われなくてもキャバリア談義の花咲かせに誘導して、ここ四ヶ月の間に買う物の種類や頻度が変わった人の売買噂を聞きだしてみるぞ
話し合いのバトルも緊張するぜ



●物は流れ、情報は膾炙する
「疑う心が暗闇にありもしない鬼を見る、っていう位だから本当の和平には程遠いんだろう。少し前まで殺し合ってた者同士、すぐに仲良しこよしとはいかないもんなぁ……」
 ヤルタバルト平原へと転送されてから、暫しの後。会場を一通り見て回ったグァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は、思わずそんな呟きを漏らしていた。
 理由は何であれ、会場を訪れた人々の大半は和平会談を概ね歓迎している様に見える。一方で警備に当たる各国の兵士はと言うと、互いに警戒感が剥き出しだ。恐らく、未だ感情に折り合いの付かぬ者が多いのだろう。
「でも今の平穏が小さくても、これが本当の平和への実りになるとオレは信じる。会談阻止なんて、逆に阻止してやるぜ」
 しかしそれも、いずれは時の流れが癒してくれるはずだ。故にこそ、傷口に塩を塗るが如き所業を見過ごす事など出来ない。だが相手の姿を見通せぬ以上、先ずは何かしらの手掛かりを掴む必要があった。
「情報収集となれば……やっぱ物の動きに鋭い商人を宛てにしたいぜ。何をするにも、まずは先立つ物が必要なはずだからな」
 そこでグァーネッツォが白羽の矢を立てたのは、会場の周囲で店を広げる露天商たちである。敵勢力も離反時に装備を持ち出しただろうが、それで全てを賄い切れるとは思えない。人数が多ければ多い程、消費する物資もまた増大するもの。その流れを辿れば、自ずと敵の元まで辿り着くと言う算段だ。
「さてさて、それじゃあどこから話しかけようかなっと。よし、まずはあの店からだ!」
 狙いは多種多様な商品を扱っている雑貨商。何から情報を得られるか分からぬ以上、複数分野に詳しい者が手初めには良いだろう。そうして早速声を掛けると、職人気質な店主が対応してくれる。
「おうおう、遠慮なく見てってくんな。仕入れ品の他に自前で作った道具とかもあるから、分からなければ聞いてくれや」
「ふ~ん、じゃあこれは何に使う物なんだ?」
「おっ、そいつは非常時用の……」
 興味をひかれた道具を幾つか購入しつつ、煽て混じりに会話を進めてゆくグァーネッツォ。それに店主も気を良くしたのか、質問にも気前よく答えてくれる。彼女はこれならば行けると踏むや、透き通るような楕円状の物体を店主へと手渡す。
「ふむ、これは?」
「風竜の鱗だぜ! この道具も食料もいいからこそ、オレの地元のこれはどうだろう? キャバリアの部品とかに使えると思うんだけどさ」
 竜にとって鱗など抜け毛同然の代物だが、人間には一級品の素材だ。職人魂が刺激されたのか、店主は矯めつ眇めつ眺め何事か思案している。とその時、気になる事を彼は口にした。
「なるほど、耐久性はそれなりだが軽く鋭い。削り出して機動戦用の補助翼か、近接用ナイフにするのが良さげだな。最近キャバリア用装備が良く売れるから、買い手もすぐ見つかるだろう」
「……へぇ、そうなのか。因みに、それって何時頃からなんだぜ?」
「うん? 確かここ一か月くらいだな」
 それは過激派が姿を消した時期と一致していた。不審がられない様により詳細を訪ねれば、次のような内容である。
「軍の放出品が大量に流れてきたと思ったら、軍人崩れの連中がちょいちょいそれを買い占める様になってな。ただ、妙なんだよなぁ。武器に加えて、装甲板や煙幕弾ばかり買うんだよ」
「装甲板に煙幕弾……? それって、どんな相手なんだぜ?」
「確か、眼鏡を掛けた痩せぎすの男だと思うんだが……ただ、フード付きコートを着込んでて顔は良く見えなかったな」
 そう言って肩を竦める店主。だが外見特徴的に、その軍人はハイネマンである可能性が高いだろう。彼が何をしようとしているのか、より情報が集まれば分かるかもしれない。そうしてこれ以上の情報は得られないと判断すると、グァーネッツォは店主に礼を述べつつ次の店へと向かうのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
戦争が終結し、和平会談が開かれるなんて、最初にこの地を訪れた時には想像できませんでしたね。
訪れた平和はこの地に住む人達にとってかけがえのないものでしょう。

まずは追悼スペースへと向かい祈りを捧げてから、露店を巡りつつ情報収集を。
この後のことを考えると、みけさんに良さそうなパーツがあればいいのですが。
対キャバリア戦ならみけさんの力を借りないわけにはいきませんからね。

そういえば、破壊するというキャバリア…。詳しくはわかりませんが、以前見た敵国の最新式のものと違うような…。
どちらかと言うと型落ちだとハイネマン殿が私達に貸して下さったものに近いような…?

確かに武力を全て放棄するのは難しいでしょうし、有事の備えは必要かもしれませんが。でもそれは有事が起こる可能性があるということ。

…和平会談が開催されるお祝いの花火でもあげるおつもりなのでしょうか。
最もあの方のあげる花火は願い下げいたい花火でしょうけれど。



●眠り逝く魂、打ち棄てられし鋼
「……まさか戦争が終結し、和平会談が開かれるなんて。最初にこの地を訪れた時には想像できませんでしたね。小勢力が絶えず相争うのがこの世界の常。そんな中で訪れた平和は、きっとこの地に住む人達にとってかけがえのないものでしょう」
 たかが一年、されど一年。思えば遠いところまで来たものだ。会場を見て回りながら、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はしみじみとそう独り言ちる。
 かつてあの戦争狂に請われて防衛戦に参加した時はどうなる事かと思ったが、よもやこうして和平の実現に立ち会えるとは。自らの関わった戦いが結実させた光景を前に、少女は感慨深い思いを抱く。
「ですが、刻まれた傷が完全に癒えたという訳ではないはず。寧ろ、此処が終わりではなく始まりでしょうから」
 しかし一方で会場の一角へと視線を移せば、色濃く残る戦争の爪痕をまざまざと見せつけられる。草原に聳え立つ幾つもの石碑。その表面に刻まれた名前の一つ一つが、平穏を願いながらも志半ばで斃れていった人々の証だ。
(異なる世界、異なる神を信仰しているとは言え、弔うべき魂である事に変わりはありません……願わくば、その眠りが安らかである事を祈ります)
 神に仕える者として、何よりも一人の猟兵として、これらの前を素通りすると言う選択肢は存在しなかった。作法は違えども、籠める想いが真でありさえすれば良い。狐珀はそっと石碑の前で膝を折り、瞳を閉じて切々と黙祷を捧げてゆく。これ以上、慰霊碑に刻まれる名が増える事などあってはならないのだ。
「……その為にも、まずは準備を整えておくべきでしょう。この後のことを考えると、みけさんに良さそうなパーツがあればいいのですが。対キャバリア戦なら、みけさんの力を借りないわけにはいきませんからね」
 そうして弔いを終えると、少女は鋼狐を伴い人々で賑わう出店エリアへと足を向けてゆく。付き従う黒白の霊狐と違い、御食津神が宿る器は電子と鋼鉄によって形作られている。故にこの世界の物品とは比較的親和性も高く、適合する部品なども見つけやすいはずだ。
(ただ、サイズ的に余り大きな物は装備できませんからね。この後すぐ戦闘ですし、使い方の複雑な道具も避けたいところですが……っと、これは?)
 そうして露店を巡っていた最中、狐珀は不意に強い霊力を感じ取る。その源を辿ってみれば、それはとある店先に置かれた涙滴型の蒼玉だった。ややくすんでおり宝石としての価値は無さそうだが、術の触媒には打ってつけだ。
(サイキックキャバリアか何かの一部だったのでしょうか? このくらいの大きさであればミケさんに組む込むのも難しくありませんし、お値段も手頃ですね)
 恐らく、売り手も本来の価値を知らぬまま単なる宝石として販売しているのだろう。だが、こうした露店市は売り手も買い手も己の目利きが頼りの真剣勝負。掘り出し物を見つける事が出来たと、少女は品物を購入する。
「みけさん、どうでしょうか……?」
 そうして蒼玉をそっと手渡すと、鋼狐はそれを自らの胸元へと嵌め込んだ。瞬間、全身から漏れ出す霊力の勢いが増してゆく。どうやら上手い具合に適合したらしい。嬉しそうに銀色の狐は尻尾を震わせる。
「ふふっ、良かったですね……そう言えば、キャバリアに関してちょっと気になったのですが」
 クスリと笑みを零しつつ、思い出したかのように狐珀は遠くへと視線を向けた。その先にあったのは、会場中央で処分の時を待つ廃棄キャバリア達だ。解体用の措置なのか、装甲表面に何かが取り付けられた鉄騎たちを見て、少女は小首を傾げる。
「……破壊するというキャバリア。詳しくはわかりませんが、以前見た敵国の最新式のものと違うような……どちらかと言うと、型落ちだとハイネマン殿が私達に貸して下さったものに近いような……?」
 彼女の推察は当たっている。不要な武器を捨てろと言われて、馬鹿正直に高価な最新型を破棄する国などそう居ない。あれらは全て、自治領に押し付けられていたような旧式機である。ある意味、各国の本音が垣間見えるというものだ。
「確かに武力を全て放棄するのは難しいでしょうし、有事の備えは必要かもしれませんが。でも、それは有事が起こる可能性があるということ。裏を返せば、騒乱を起こせる力を持つ事も意味しています」
 一概にそれを否定する事は出来ないと、狐珀も理解はしている。だが納得できるかと問われれば、それも否だ。とは言え、だからと言って武力に訴え出ようとするのは論外である。
「兵器の爆破……和平会談が開催されるお祝いの花火でもあげるおつもりなのでしょうか。最も、あの方のあげる花火は願い下げいたい花火でしょうけれど」
 その閃光が照らし出すは平和の道筋か、更なる動乱か。少女の胸には一抹の不吉さが吹き抜けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

勘解由小路・津雲
(破壊されるキャバリアを見上げつつ)戦争が終れば、さよならか。……おれ達猟兵も、仮にオブリビオンとの戦いが終ったら、どうなるのかねぇ。まあ、余生を考えるにはまだ早い。今はやるべきことをやるとするか。

やりたいことは2つ。ひとつは襲撃に備えた守りの準備。もうひとつは情報の収集。守りの方は、慰霊祭を見て回るふりをしつつ、霊符をはったり、埋めたりしておくとしよう。

情報の方だが。フランツィスカ殿の予知では兵器群が起動するという。しかしどうやって? 機械類にうといおれでは皆目見当もつかぬ。

だが兵器は本来破壊される予定だ。そのための爆薬か何かが用意されているのではないか。動き出したときにそれを使われては、向こうからすれば面白くないはず。

もし相手があの中佐なら、用心深く他の手も用意してあるのかもしれんが、爆薬にも何かちょっかいをかけているかもしれん。爆薬そのもの、あるいは起爆装置を管理している所に話を聞きに行ってみよう。何か異変はなかったか、異変とまで言えずとも、予定とは違った出来事などなかったかい?


ファン・ティンタン
【SPD】路を征き生きて
連携、自由解釈可

……46、……47……、48―――

私も、元を辿れば護身の為とはいえ闘いの道具だ
あんな、象徴のために身を砕かれ晒される最期に納得がいくかと言えば、否と訴えたい気持ちも無くはない
けれど、道具はどこまでいっても道具なのだ
誰かの道に具える、モノ
兵器は、戦いの中でしか生きていけない存在なのだから

83……84、……85―――

彼の狂人は、軍属に在りながら、道具に成り下がることが嫌だったのだろうか
……いや、そうじゃない
彼は……彼らは、きっと戦火の中でしか肯定されない
ここまでそう生きてきてしまったがために、それ以外の道を忘れてしまったのだ
故に、平和に在っても“とうそう”するしかないのだろう

108、……109、……110

来る鉄風の舞台を巡りて、最後の刃を地に立てる
これは、先んじて建てる墓標だ
狂乱の戦士達の名は、おそらく後へは遺されまい
平和への礎、なんて呼ばれ方を望む輩ではないだろうけれど
闘争でしか生を感じられぬ彼のことだ
事がどう転ぶにせよ、派手に、送り出してあげようか



●斯くて全ては揃い踏み
「……46、……47……、48―――」
 狐像の少女が遠方より物言わぬ鉄騎たちを眺めている頃。一方でファン・ティンタン(天津華・f07547)の姿は、鉄巨人たちのすぐ下にあった。既に発破準備は終わったのか、周囲に作業員らしき人影は見当たらない。会場外縁部の喧騒を遠くに感じながら、白き少女はキャバリアを一機一機巡ってゆく。その手に握られしは、己が現身たる白刀。彼女はそれを一本ずつ、機体の足元へと突き立てながら歩む。
(……私も、元を辿れば護身の為とはいえ闘いの道具だ。あんな、象徴のために身を砕かれ晒される最期に納得がいくかと言えば、否と訴えたい気持ちも無くはない。だけれども)
 ――道具はどこまでいっても道具なのだ。
 胸に去来するのは同じ道具としての想い。彼女を始めとするヤドリガミたちは、経緯は何であれ百余年を経た上で今の姿を獲得した。無論、ただの器物が無事にその年月を積み重ねるのは稀だ。その多くは、人々の手を介すことで今代へと運ばれてきたのである。
 だが、それは人々に必要とされたからであって。逆説的に言えば、不要とされた多くのモノたちは同じ人の手によって破却されてきたのだ。この旧き兵器たちの様に。
(道具とは字義の如く、誰かの道に具える『モノ』。兵器は、戦いの中でしか生きていけない存在なのだから。こうなるのも、当然とは分かってはいるけど、ね)
 例えばアース系列において、巨大戦艦の主砲を作る技術はもう失われてしまったのだと言う。理由は単純、不要となったから。幾ら科学技術が発達したとしても、それらが戻ることは無い。きっと此処に在る彼らもそうなのだろう。

「戦争が終れば、さよならか……おれ達猟兵も、仮にオブリビオンとの戦いが終ったら、どうなるのかねぇ。定義的には『生命体の埒外にあるもの』らしいが、それが一体どういう意味なのか、我ながら分かっていないしな」
 そんな仲間の様子を、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)はどこかと複雑そうな面持ちで見守っていた。幾つかの例外はあるモノの、基本的にユーベルコードを行使できる存在はオブリビオンと猟兵が大半を占めている。もし仮に両者の戦いが終わったとして、その果てに何が待っているのか。此度の戦い同様、先行きは不明瞭極まりない。
「まあ、余生を考えるにはまだ早い。幸い、時間だけはある身の上だからな。一先ず、今はやるべきことをやるとするか」
 陰陽師は白き刀とは別途、キャバリア集積場について調べを進めていた。だが、彼はどちらかと言えばアナログ、と言うよりもオカルト寄りな存在である。複雑な科学技術が用いられたキャバリアは正直に言って専門外だ。だが、気になった点が無い訳ではない。
(フランツィスカ殿の予知では兵器群が起動するという。しかし、どうやって? 機械類にうといおれでは皆目見当もつかぬ。ハッキング、遠隔操作、あるいはより単純に人が乗り込むか……だが、そう容易い事ではあるまい)
 見上げた鉄騎の表面には、幾つもの突起と長方形の物体がびっしりと取り付けられていた。前者については良く分からないが、後者は恐らく爆薬で相違ないだろう。あれらが一斉に炸裂すれば、如何なキャバリアとて爆発四散は必至だ。
(兵器は本来破壊される予定だ。そのための爆薬も既に装着済み……動き出したときにこれらを使われては、向こうからすれば面白くないはず。機体そのものを破壊されるのは勿論、下手に乗り込もうとすれば諸共吹き飛ばされる可能性が高いだろう)
 つまり、相手としては爆破をどうにか妨害しなければ、計画が土台から破綻しかねなかった。故に爆薬そのものか、制御装置に何か仕掛けを施している可能性は十分にあり得る。
 とは言え、先述の通り津雲は機械類に詳しくない。故にこの場でそれらを改めたところで、不審点を見つけ出すのは難しいだろう。ならば、管理を担っている部署へ話を聞くのが手っ取り早いか。
「83……84、……85―――」
「ファン。おれは一先ず別の場所へ話を聞きに行こうと思う。ついでに、会場内へ念のため霊符も仕込む予定だ。此処は任せても大丈夫か?」
 陰陽師が仲間の背中へそう尋ねると、白き少女は作業を継続しながらふらりと手を上げて肯定を示す。なればと津雲はその場より離れると、会場を巡りつつ爆薬の敷設を担当した作業員たちの詰め所へと向かい、そして――。

「……爆薬の量が多く、かなり余った?」
「ああ。まぁ、上も下も色々ごたついていたから仕方ないがな。ただ可燃物なんだし、もうちっと気を付けてほしかったが」
「それはいったいどういう……?」
 対応してくれたツナギ姿の工兵は、津雲の問い掛けにそう肩を竦めた。公国に身分を用意して貰い、会談前の最終チェックとして何か異変は無かったのかと尋ねに行ったのだが、早々からきな臭い話が飛び出してくる。一方、作業員は特に気にした様子も無く先を続けてゆく。
「まず、各国がどれだけの兵器を供出するか分からなかったのさ。一国だけ多く出しても馬鹿を見るが、かと言って少なすぎても他国から睨まれる。キャバリアの機数が出て来なきゃ、必要な爆薬量も分からないって訳だ」
 加えてキャバリアごとの耐久性もまちまちなため、全機同じ量という訳にもいかない。再利用される可能性を防ぐ為にも、機体の完全破壊は必須。故に多めに用意した結果、見通しを誤り余ったと言うのである。
「しかもただでさえダブついてたのに、作業直前に追加分だって更に爆薬が運び込まれたんだぜ。幾ら何でも危なすぎるから、逆に余分を引き取って貰ったがな……ったく、発注担当の野郎、覚えてないってシラを切りやがって」
 そう愚痴る作業員。確かに現場の混乱と言ってしまえばそれまでだが、津雲は一抹の不安を拭いきれなかった。後で確認してみる必要があると思いつつ、彼は別の懸念点を口にする。
「……それは確かに危ないな。万が一、爆薬を設置し過ぎたら、周囲に被害が出るのでは?」
「ああ、それに関しても急遽対策を取ったらしい」
 ――なんでもこれから、爆風除けの壁を急ぎ設置するんだとよ。
 問いに対し、作業員は集積場を指し示しながらそう返すのであった。

(彼の狂人は、軍属に在りながら、道具に成り下がることが嫌だったのだろうか)
 一方、その頃。ファンは変わらず刃を突き立てながら、徒然と思考を巡らせていた。しばしば、兵士は歯車だと揶揄される事がある。個を殺し、組織に従属を強いられ、かつ代わりが大量に居るからだ。そんなモノ染みた扱いを、件の男は嫌ったのか?
(……いや。きっと、そうじゃない。彼は……彼らは、きっと戦火の中でしか肯定されない。ここまでそう生きてきてしまったがために、それ以外の道を忘れてしまったのだ)
 答えは恐らく否。過激派は兎も角、ハイネマンとその部下たちは寧ろ『歯車』が必要とされなくなる状況を厭うたのだろう。部品が須らく、定められた規格でしか価値を発揮できないのと同じように。
(故に、平和に在っても“とうそう”するしかないのだろう。最早それが、存在意義となってしまったから)
 平穏な日常から背を向け、戦場へと逃げ込む。ある種悲劇的だが、彼らはきっとそれらを全て理解し、望んだ上で行動しているのだろう。正しく救いようが無く、度し難い。
「108、……109、……――110」
 そうして白き少女は、最後の刀を突き立てる。巨人の足元に点々と穿たれた、穢れなき刃たち。ひゅるりと吹き荒ぶ風を裂くそれらは、まるで。
「……これは、先んじて建てる墓標だ」
 此度の戦い、その行く末がどうなろうとも各国は襲撃の加担者を許すまい。平和の敵として、狂乱の戦士達の名は恐らく歴史から抹消される。故にこそ、これらは彼らの墓碑なのだ。せめて、此処に『居た』という事実を残すための。
「平和への礎、なんて呼ばれ方を望む輩ではないだろうけれど。闘争でしか生を感じられぬ彼のことだ。事がどう転ぶにせよ、お望み通り、派手に送り出してあげようか」
 斯くして暫し物思いに沈む少女だったが、ふと遠くから近づいてくる喧騒に気付く。ちらりと視線を向ければ、連れ立って近づいてくる作業員の一団が見えた。彼らは妙に複雑な形状をした鋼板を運び込むと、急ピッチで集積場を覆うように壁を組み上げてゆく。
(……爆風とか破片避けかな。何はともあれ、長居は無用か)
 一応、此処は立ち入り禁止扱いだ。見つかればややこしい事になるのは確実。閉じ込められる前にその場を去ろうと、ファンは作業員たちに背を向ける。それ故に……。
 ――これは、これは。見給え、何とも素敵な趣向じゃないかね?
 喧騒に混じる賞賛に、彼女が気付くことは無かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『グレイル』

POW   :    シールドストライク
【シールドを使用した格闘攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パイルバンカー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    バレッジ
【友軍と共に繰り出す一斉掃射】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を制圧し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    グレネードショット
単純で重い【榴弾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。

イラスト:イプシロン

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終わりの始まり
 猟兵たちの調査に拠り、ハイネマン及び各国のタカ派が『廃棄キャバリアの爆破』時に行動を起こすであろう事は突き止められた。しかし、和平会談のメインとなるべきイベントを直前で中止させるなど、部外者の猟兵はもちろん公国のトップであるサフォーノフでさえ不可能だ。かと言って、残り僅かな時間で仕掛けを暴くのも現実ではない。
 故に、事情を知る者たちが固唾を呑んで見守る中――和平会談の幕が上がった。

『王国、協商連合、共同体、皇国、共和国、そして公国……この場に集った六か国は、つい先日まで相争っていた。だが、いまその発端がなんであるかを詮議するつもりはない。我々は過去を責めるのではなく、未来へ手を取り合う為にこの場へ来たのだから』
 各国首脳のスピーチ、停戦条約への調印、和平に関する合意確認。式典自体は概ねスムーズに進行してゆく。
 そうしてプログラムは順調に消化され、いよいよ問題の題目へと差し掛かる。壇上に集っていた首脳陣は安全確保のため急遽建てられた防護壁の後ろへと下がり、中央に残されるは物言わぬ鉄騎群のみ。
『結ばれた条約に従い、我々はまず保有兵器の削減を此処に宣言する。それに先立ち、この場にて各国が供出したキャバリアを破壊。これを以て、我らが決意の証明としたい』
 厳かな言葉と共に起爆装置が点火された。先ほどまでの静寂とは打って変わった爆音が轟き、濛々と辺りに煙が立ち込める。後は程よく煙が薄まったところで、鳩の群れを放てば無事終了だ。
 ここまで妨害らしい妨害はない。しかし、だからと言って気を抜くほど猟兵たちは相手を侮ってはいなかった。果たして、薄れゆく白煙を破り――。

『聞けぇい! 偽りの平和に興ずる奸賊どもよッ!』
『我々は「憂国正義戦線」である……!』

 現れたのは鳩の群れではなく、キャバリアの軍勢だった。荒々しい雄叫びと共に姿を見せたのは量産型キャバリア『グレイル』。攻守走のバランスが良い汎用機であり……運び込まれた廃棄兵器の中に入っていない、現行主力機である。
 突如として出現した機種と、オープン回線を通じて正体を現した『憂国正義戦線』とやらの面々。それらを目の当たりにし、各国の首脳陣が口々に驚愕と苦々しさの混じった呟きを零す。
「おい、先頭に立って居るのは我が王国の将軍ではないか! 行方を晦ませたと思っていたら、なんと馬鹿な事を……ッ」
「協商連合の軍事顧問、皇国の次席武官にあれは共同体の外征隊指揮官……思考が過激すぎるか、戦闘『だけ』は得意な、左遷一歩手前だった連中ばかりではないか」
「しかし、どうやって現行主力機を手に入れた? あれはかなり厄介だぞ」
 やはりと言うべきか、行動を起こしたのは各国のタカ派軍人だったらしい。その顔ぶれの中に無言で微笑を浮かべるハイネマンとその部下たちを見つけ、サフォーノフも表情を陰らせる。尤も彼の場合は猟兵から事前情報を得られていた分、他国よりも早く衝撃から立ち直る事が出来た。
(……詳細は洗えましたか?)
(はい、公王様。武装は本物でしょうが、ガワは十中八九『ハリボテ』です)
 副官から手渡されるのは、廃棄キャバリアの機体情報。其処に表示されている内容は、サイクロプスを始めとする旧式機について。これは欺瞞情報か? 否、ならばそもそも情報を垂れ流す必要などない。ならば間違っているのは、見えている物の方だ。
(各国の作業員として潜入しつつ、爆薬をあらかじめ用意していた煙幕とすり替えて設置。会談前の作業に乗じてキャバリアへ乗り込み、そのまま潜伏……あとは爆破の煙幕に乗じ持ち込んだ鋼板で外見を偽装した、といった所ですか)
 そのままにされた電子部品。作業場の監視カメラに映った人影。買い漁られた煙幕と装甲板。廃棄キャバリア表面の不自然な突起と余った爆薬。それらを統合した結果を踏まえ、サフォーノフは上記の様に予想する。そしてそれはほぼ正解であった。
(しかし連中、何故こんな遠回りな事を……)
(奪取可能なキャバリアが旧式しか無かったが故の、苦肉の策でしょう。暫くすればバレるでしょうが、現に周囲へ混乱を引き起こしていますからね)
 古今東西、視覚を欺くのも立派な戦術だ。かの大戦時にはトラクターをベニヤで覆って戦車と誤認させたり、ハリボテの街を作って空襲の矛先を逸らした例もあった。だがそれが分かった所で、副官は更なる疑問を口にする。
(つまり、相手の策は時間勝負なんですよね? なら、なんで連中……)
 ――悠長に演説なんてしているんですか?

『各国首脳部はッ、公国の提示した寸土や賤貨を始めとする目先の欲に惑わされ、国家の安寧と未来を蔑ろにした! 我々はこの様な欺瞞に溢れた和平を断じて許容しない! 故に国家を憂いた同志と共に、腐り切った政治屋へ正義の鉄槌を下し、遍く万民へ真実を知らしめるのだッ!』
 将軍と呼ばれた男の口上は実に饒舌だった。そうだそうだと同意する他のタカ派軍人たちと共に、滔々と行動理念とやらを語ってゆく。だがそれを聞く側の反応は冷ややか。どこのテロ組織のプロパガンダだ、演説を聞いた人々からはそんな声も漏れ聞こえる。
 ただ彼らの様子を見るに建前ではなく本気で言っているらしい。詰まるところ、自分で自分に酔っているのだ。そんなのが和平を望む人々に響く訳がない。
『無論、我らの理念を誹る者も居るだろう。だが、ドストニエル公国が公王、ニコライ・サフォーノフにだけはその資格はない。我が身可愛さに叛逆を企て、父王の首を手土産に保身を図った貴様にはなぁ! この様な巨悪を放置している現状そのものが、各国首脳部の悪辣さを証明しているのだ!』
 詰まるところ、平時になれば冷遇される者たちが揃ってクーデターを起こしたというのが実情だ。公国をダシに地位の固持を図ろうとしているのだろう。尤も、長々と語るお題目のせいで猟兵は勿論、各国の戦力も既に衝撃から立ち直り戦闘態勢を整えつつある。
(ハイネマン殿が時間の浪費と言う愚を理解していないはずが無い。数は揃っていようとも中身は旧式機のまま。拙速で挑まねば、不利は必至なのに……これでは、まるで)
 変わらず、ハイネマンは薄ら笑いと共に無言を貫いていた。この男の意図が読めない。眼前の脅威よりも、寧ろそちらの方がよほど不安を掻き立てる。だが、そこでようやく憂国正義戦線が動き出してゆく。
『さぁ……我等の正義を知らしめるぞ!』
 斯くして一抹の懸念と共に、愚か者たちとの戦端が開かれるのであった。

※マスターより
 プレイング受付はこの断章公開後からとなります。
 第二章は集団戦となります。敵はフラグメントの通りですが、外見を偽装しているため中身は旧式です。ただし、武装だけは本物のため油断も禁物でしょう。また乗り手も一応は軍人なので、技量は低くありません。
 なおハイネマンとその部下たちだけ偽装しておらず、見た目は『サイクロプス』のままなので見分けは付きやすいです。武装はフラグメントに準じ強化されています。
 各国の防衛戦力も参加している為、希望があれば援護を受ける事も可能です。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
エドゥアルト・ルーデル
つまんね!祭典とおんなじぐらいつまんね!
ちょっとだけ期待してたのに名誉と権力に眩んだただの馬鹿じゃん!

場合によっては反乱に協力もやぶさかではなかったのに…残念でござるよ
腕のツールに特定の【コンソールコマンド】をスポポンと打ち込めばあら不思議!ただの突撃銃が対物ライフル以上の威力と射程を持った化け物に大変身でござる!

人であれば平地に潜むのも苦ではないね、隠れて奇襲なり不意打ちなり先手をとっていきますぞ
所詮は鈍亀の旧式でござるコクピット狙えコクピット!マッハで蜂の巣にしてやりますぞ!
カーッ!機体と同じハリボテ共でござるなー!本物の戦争が好きでしょうがない碌でなし(どうるい)とか来ないかなーカーッ!



●誘いへ乗るにはまだ早く
『進め、進めぇ! 欺瞞に満ちた首脳部を討つのだァ!』
『各機、敵を近づけさせるなッ。既に軍籍の抹消と討伐令が出ている、奴らは只の犯罪者に過ぎん!』
 雄叫びと共に突撃して来る『憂国正義戦線』の偽装キャバリア群と、各国首脳が連れてきた防衛戦力。戦場は瞬く間に混戦模様を呈し始める一方、喜び勇んで会場へと飛び込んできたはずのエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)は、一転して拗ねた様な表情を浮かべていた。
「つまんね! 祭典とおんなじぐらいつまんね! 機体強奪からの襲撃って聞いたからちょっとだけ骨があるかと期待してたのに、実際は名誉と権力に眩んだただの馬鹿じゃん! 星の屑じゃなくて単なる屑じゃん!」
 件の中佐と方向性は違えども、黒髭の傭兵もまた戦場を飛んだり跳ねたりする事が好きな性分である。だからこそ、戦闘ではなく政争を行おうとしている敵勢力は端的に言って趣味に合わないのだろう。
「場合によっては反乱に協力もやぶさかではなかったのに……残念でござるよ。まぁ、それでも? 別の腹案を抱え込んでる誰かさんも居るみたいだし、せめてそちらに期待ですなぁ」
 そう言ってエドゥアルトが取り出したのは愛用のアサルトライフル。しかし如何なハリボテを纏った旧式とて、小銃相手に撃ち抜かれるほど脆くはない。だが無論、彼もそれは承知の上だ。腕に装着されたツールへ手早く幾つかの文字列を打ち込むや、俄かに得物が震え始める。
「チーt……ごほん、コマンドをスポポンと打ち込めばあら不思議! ただの突撃銃が対物ライフル以上の威力と射程を持った化け物に大変身でござる!」
 瞬間、カッと内部より閃光を迸らせると、電子音のファンファーレと共に突撃銃の重厚感が増す。言葉通り、それは口径や銃弾はそのままに鉄騎を穿てるだけの能力を獲得したのだ。
(幸い、相手さんの眼中には各国首脳部しか映っていない……人であれば平地に潜むのも苦ではないね、隠れて奇襲なり不意打ちなり先手をとっていきますぞ)
 元々、和平会談の会場は平野に建てられている。とは言え、多少の起伏が無い訳ではない。爆薬設置や兵器を搬入する為の凹凸も有り、身を隠すには打ってつけ。エドゥアルトはその内の一つに飛び込むと、伏せ撃ちの姿勢で得物を構えた。
「所詮は鈍亀の旧式でござる、最新兵器と比べれば機動力なぞ雲泥の差! さぁコクピット狙えコクピット! マッハで蜂の巣にしてやりますぞ!」
 撃って良いのは撃たれる覚悟のある者のみ。寧ろ無くても構いはしないと、傭兵はトリガーを押し込む。フルオートで放たれる対物徹甲弾という悪夢は、狙い違わず敵機の胸部へと集中して着弾。擬装用の鋼板を貫き、操縦席を穿った質量エネルギーは、相手を無力化するに十分すぎる威力だった。
『なんだ、今のは……! 護衛以外に戦力が居るのか!?』
『構わん、我ら以外は全て敵ッ! 撃て、撃てぇ!』
 敵軍は猟兵の姿を発見できていない様だが、ならばと射手が居ると思しき方向一帯へ牽制射を叩き込む。牽制射と言ってもそれはキャバリア基準、生身では掠っただけでも赤い霧と化すだろう。しかしエドゥアルトは穴を飛び出し、重砲撃が如き真っ只中を駆け抜けながら、遊撃手として次々とスコアを重ねてゆく。
 戦闘経過としては極めて順調。だが、手応えが無さ過ぎると言うのもそれはそれで不満なのだろう。傭兵は戦闘を続けながら、これ見よがしに愚痴を叫ぶ。
「カーッ! 機体と同じハリボテ共でござるなー、ほんとに詰まらんなー! 本物の戦争が好きでしょうがない碌でなし(どうるい)とか来ないかなーカーッ!」
『我らの大義を愚弄するかッ!』
 怒気と共に降り注ぐ銃弾を避けつつも、しかしてエドゥアルトの視線は暗緑の独眼機へと向けられている。しかして、相手は陣形奥でひっそりと控えているのみ。
 ならば取り合えず邪魔者の数を減らそうと、傭兵は戦場を駆け回るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
※ロシナンテⅣ搭乗

対巨大キャバリア戦闘での行動原理…あの方は不純物を嫌っていた筈
Oマシンの影響で燻る不満と狂気を煽られたのでしょうが、あの演説は中佐にとっては“建前”ですね

敵部隊の射撃のオート照準をUCの戦闘機動と足運びで幻惑
本来はサイキックパワーで行う武装解除をサブアームのライフルの乱れ撃ちスナイパー射撃で再現
銃器を破壊、瞬く間に接近

一、二で両腕の関節
三の剣で両足を瞬く間に切断
四は振るわず次の敵へ

狂気の“キャリア”は十中八九、中佐の機体
一体何処に…

……!

背部コンテナから取り出す煙幕手榴弾を●投擲し目潰し
サイクロプス部隊に肉薄
中佐機と切り結び

お久しぶりです、ハイネマン中佐
過激派を纏める演技にも秀でていたとは驚きました
真意は…後程教えて頂けると有難いですね
今は広域通信では憚れる私用を優先させて頂きます

率直に申し上げますと、会場の遺族の涙と祈りを踏み躙った貴方は“大嫌い”です

ですが、利害の一致とはいえ二度の共闘に感謝を
騎士として、これだけは伝えたかったのです

横槍躱し離脱
他の偽装グレイル部隊へ



●愛するが故に儘ならず
 緒戦の趨勢はほぼ互角といった所か。偽装工作が早々にして効力を失いつつある一方、『憂国正義戦線』側の士気は高く、それがそのまま勢いに転嫁されている。対する各国の護衛戦力は、背後に居る高官たちの避難に手間取っているのだろう。敵の殲滅よりもまずは時間稼ぎをという意識が、行動の端々から滲み出ていた。
『いま暫くは彼らも防戦に徹さざるを得ないようですね。ならば、敵陣への切り込みはどうかお任せを』
 そんな中、盾に対する矛として役割を買って出たのがトリテレイアであった。彼は機体を巧みに操り硝煙弾雨を掻い潜りながら、副腕に保持したライフルによる弾幕を形成。殺到する敵群の武装のみを次々と撃ち抜き無力化してゆく。
(対巨大キャバリア戦闘での行動原理……思い起こす限り、あの方は闘争に交じる不純物を嫌っていた筈。である以上、オブリビオンマシンの影響で燻る不満と狂気を煽られたのでしょうが、あの演説は中佐にとって“建前”ですね)
 そうして戦闘行為と並行しながら、彼の演算領域はもう一つの潜在的脅威へと割り振られていた。即ち、ハイネマンについて。六カ国がそれぞれの精兵を引き連れて一堂に会すると言う、戦争狂にとっては絶好の戦場。にも拘らず、件の人物は敵群の奥で不気味に沈黙を保っている。
(真意を問い質したいところですが、単なる通信では傍受される可能性もあります……やはり、多少のリスクは負わねばなりませんか)
 此度の蜂起に関与しているのは疑いようも無いが、然りとても目的まで同じにしているとは到底思えない。ならば、直接言葉を交わすより他に無し。トリテレイアはそう判断するや、敵陣の攪乱も兼ねて吶喊を敢行してゆく。
『敵機接近! デカいぞ、重武装型か!?』
『なに、的が大きいと言うだけだ。近づかれる前に撃破せよ!』
 対する敵群も戦闘の技量だけは一級品と称された者たちである。機体が旧式とは言え、一糸乱れぬ統制を以て濃密な迎撃態勢を構築。火力を集中させ撃破を狙うが、残念ながら大盾を構えた『ロシナンテⅣ』の頑丈さは彼らの想定を大きく超えていた。
『なんだコイツ、幾ら撃ってもビクともしないぞ!?』
『騎士とは万民を守る城壁、そう易々と打ち破られる訳には参りません!』
 斯くして距離を詰めるや、まずは副腕による狙撃で敵両腕部を撃ち抜き攻撃能力を破壊。続けて鞘走らせた騎士剣で両足を斬断し、移動能力すらも喪失させてゆく。トドメを刺すよりも次なる敵との交戦を優先しながら、トリテレイアはセンサー類へと目を光らせる。
(狂気の“キャリア”は十中八九、中佐の機体であるはず。一体何処に……ッ!)
 果たして、敵群の後方に独眼機で構成された部隊が見えた。鋼騎士はスラスター出力を一気に引き上げると同時に、背部コンテナから取り出した煙幕弾を投擲。周囲からの視線を遮りながら、勢いよく指揮官機へと斬り掛かる。
『……おやおや。随分と手荒い挨拶ではないかね、騎士殿?』
『お久しぶりです、ハイネマン中佐。戦闘一辺倒な人物ではないと存じてはおりましたが、過激派を纏める演技にも秀でていたとは驚きました』
 有線接続による秘匿通信。煙幕で視界を封じたのはこれを見られぬ為だ。モニター越しに映る痩せぎすの男は、暢気に手を振って応じてきた。
『此度の真意は……後程教えて頂けると有難いですね。時間もありませんし、今は広域通信では憚れる私用を優先させて頂きます』
『ほう、私用とは?』
 興味深そうに笑うハイネマン。その表情へ、トリテレイアは端的に言葉を叩きつける。
『では、僭越ながら。私個人として率直に申し上げますと、会場の遺族の涙と祈りを踏み躙った貴方が……』
 ――“大嫌い”です。
 オブラートもへったくれもないドストレートな物言い。余りにも迷いのない断言に、戦争狂は怒る所か心底愉快そうに呵々と大笑する。
『はははは! よく言われるよ。いやはや、これでも部下からの人望は厚いのだがねぇ』
『ですが、利害の一致とはいえ二度の共闘に感謝を。騎士として、共に轡を並べた相手へこれだけは伝えたかったのです。例えこのすぐ後、敵対するのだとしても』
 それは騎士と言う道を歩む者としての仁義だ。どれほど非合理的だとしても、彼が彼で在る為に必要な行為。ともあれ、取り急ぎ用件は果たせた。煙幕の濃度も徐々に薄まりつつある。これ以上の長居は危険と判断し、有線接続を解除して離脱しようとするトリテレイア。
 だが、通信が途切れる刹那。ハイネマンが不意に口を開く。
『貴君は私を嫌いと言ったがね? 逆に、私はキミたちが大好きなのだよ。しかし哀しいかな、それ故に……』
 ――私は諸君らの敵にならなければいけなかったのだ。
 それは一体どういう意味か。問い返す前に通信ケーブルは解除され、同時に煙幕も完全に消え去る。自治領軍以外の敵も痩せ馬の姿を見つけるや、飛んで火に入る夏の虫とばかりに殺到。その対応に追われ、再び独眼機は敵の奥へと見えなくなってしまった。
(あの方が好む相手とは……即ち、そういう意味なのでしょう)
 狂人は良くも悪くもブレることが無い。そう再認識しながら、トリテレイアは敵の漸減へと舞い戻ってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイミィ・ブラッディバック
※アドリブ連携歓迎

こちらTYPE[JM-E]、戦場への遅参をお詫び致します

憂国正義戦線を敵性勢力と認定、これより交戦します
セラフィム・リッパー隊、全機ブレイク
メインシステム、戦闘モードで起動
TYPE[JM-E]、エンゲージ

制限高度の超過に留意しつつ敵の攻撃を見切り推力移動で回避
機動力に任せて撹乱します
PROVIDENCEで索敵を行いつつ無線を傍受し情報収集、敵部隊の指揮系統を戦闘知識より把握

攻撃はSOL RAVENで動きを固めつつ伊邪那岐で牽制
キャノンモードのLONGINUSの砲撃を直撃させます
狙うは敵の各部隊長機
指揮系統が崩壊したところへセラフィム・リッパー隊を向かわせ、残敵を掃討します


ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

あぁ、薄々そうじゃないかと思ってたし、事前に防ぐには時間が足りなさ過ぎて茶番の準備調査はスルーしてたが
やっぱ茶番だねぇ?
いや、本気でやってる道化がいるからこその茶番劇か
わざわざ茶番を主導してやるとは、中佐がそこまで職務に忠実だとは思わなかったよ

さて、アマランサス・マリーネで出るよ!
機体はハリボテ、パイロットは馬鹿。これでなにが出来るっていうんだい?
馬鹿呼ばわりは不服かい?
ハッ、茶番と知らずに茶番劇に大真面目に参加するような奴を馬鹿と言わずになんと言うんだい?
おっと、流石にそのグレネードは周りが危険だね
もっとも、撃たせやしないよ!遅いんだよ!
ビームアサルトライフルで腕部を撃ち抜くさね



●無機なる中隊、孤高なる海兵
『あぁ、説明を聞いた時点で薄々そうじゃないかと思ってたし、事前に防ぐには時間が足りなさ過ぎて茶番の準備調査は敢えてスルーしてたが……うん、やっぱ茶番だねぇ?』
 赤紫色の愛機、その操縦席に収まったルイン・トゥーガン(B級戦犯指定逃亡者・f29918)は呆れ交じりに深々と溜息を吐く。彼女もまた、二度に渡ってハイネマンが関与する事件に参加した猟兵の一人である。
 故にこそ、と言うべきだろうか。事件説明の時点で嫌な予感がした傭兵は、このタイミングまで見に徹していたのだ。果たして、どうやらそれは正しかったらしい。政治的主張を叫びながら、紛う事なき張り子の虎で各国の精兵へと突っ込んでゆく愚か者ども。これを茶番と言わずして何というのか。
『いや、本気でやってる道化がいるからこその茶番劇か。だからこそ救いようが無いと言うか何というか。わざわざ茶番を主導してやるとは、中佐がそこまで職務に忠実だとは思わなかったよ……っと?』
 状況から察するに、ハイネマンの狙いはこの茶番の後に有るはず。相手の思惑に乗るようで少々癪だが、一先ずは目の前の『憂国正義戦線』を壊滅させねばなるまい。さてどうしたものかと思案するルインだったが、戦場に急接近する機影に気付いた。そちらへカメラを向ければ、白銀のキャバリアがすぐ真横へと降り立つ。
『どうやら、既に戦端は開かれている様ですね。友軍へ、こちらTYPE[JM-E]。戦場への遅参をお詫び致します』
 それはジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)が駆る鉄騎だった。通信回線が開かれるや画面上に機体と瓜二つのウォーマシンが映り、遅れてしまった事を謝罪して来る。とは言えそれは自分も同じだと、ルインはひらひらと手を振って返す。
『なに、アタシも出遅れ組だよ。ま、茶番の本番は此処からみたいだし、問題ないさね』
『であれば重畳です……憂国正義戦線を敵性勢力と認定、これより交戦します。セラフィム・リッパー隊、全機ブレイク』
 そうして轡を並べる仲間への挨拶もそこそこに、ジェイミィは思考パターンを戦闘へと切り替えてゆく。彼が命令を発した瞬間、周囲に十二の機影が出現する。鋭角的なフォルムと天使を思わせる無数のビット、手にした巨剣。それはこの世界でしばしば見受けられるサイキックキャバリア『セラフィム・リッパ―』であった。
 高性能機に分類される機体が、有人ではなく自我を持つAIの操縦とは言え一個中隊分。極めて強力な増援に、ルインもニヤリと笑いながら操縦桿を握り直す。
『随分と御大層なモノを引っ張り出して来たじゃないか。さて、それじゃあこっちも……アマランサス・マリーネ、出るよッ!』
『メインシステム、戦闘モードで起動。TYPE[JM-E]、エンゲージ』
 奇しくも、この場に居合わせたキャバリアはどちらも足を使うタイプだ。両者はブースターを勢いよく吹かせるや、赤紫の海兵隊機は地を、天使を引き連れた白銀機は空を、それぞれ縦横無尽に駆け始める。
『敵機接近……っぅ、速い、速いぞッ!? 正規兵じゃない、傭兵連中か!』
『統制射撃用意、弾幕を張れッ! 榴弾も織り交ぜろ。当たらずとも地面を破壊し、機動力を殺せるはずだ。大義は我らに在り、負ける事などあり得ん!』
 大義云々はどうでも良いとして、やはり腐っても軍人といった所か。上を取ったジェイミィに対しては一斉射による対空弾幕を張りつつ、草原を疾駆するルインにはより高火力なグレネードによる面制圧を試みる。
 先入観を抜きにすれば、判断自体は悪く無い。だが故にこそ、機体性能の差が響き始める。端的に言って、猟兵側の機動力に偽装機の反応速度が付いていけないのだ。
『はっ、甘い甘い、甘過ぎて欠伸が出るね! 機体は見た目だけのハリボテ、パイロットも腕は良くてもおつむは馬鹿。これでなにが出来るっていうんだい?』
『黙れ、薄汚い傭兵風情がぁっ!』
 機体を揺るがす衝撃を巧みな操作で受け流しつつ、オープン回線でそう相手を煽る傭兵。ムキになった相手はますます火力を集中させるものの、逆にカウンタースナイプで撃ち抜かれる始末だ。だが、爆発による土煙が立ち込める中で、何故正確な射撃を行えるのか。その秘密は頭上を舞う仲間に在った。
(火力分散も兼ねた攪乱と並行しながら、敵部隊の通信傍受を継続。制限高度の超過には常に留意すること……余計な横槍を入れられては元も子も無いですからね)
 幾重にも重なる濃密な火線。それらを持ち前の速度で置き去りにしながら、ジェイミィは『憂国正義戦線』側の無線を解析してゆく。通信を行うという行為は、即ち電波を発するという事だ。である以上、その発信源を辿れば自ずと敵の位置が分かると言うもの。それを共有する事により、仲間の命中精度を向上させていたのである。
(読み取れた単語や頻度から推察するに、相手の指揮系統は五つに大別可能。恐らく、自治領を除く五勢力がそれぞれ独立しているのでしょう。船頭多くして船山に上る、とはよく言ったものですが……)
 更に彼はもう一歩踏み込み、会話内容の分析も進めていた。生憎、ハイネマンの麾下を別とすれば、敵の見た目はすべて同じ。相手側も意図していなかったのだろうが、それによって指揮官の判別が困難になっていたのだ。
『……ですが、母数を五分の一まで絞り込めれば話は別です。指揮官機を割り出せました。まずはこちらから仕掛けますので、その隙に切り込みをお願いできますか?』
『それくらいお安い御用さね。タイミングはそっちに任せるよ!』
 仲間へ通信を入れながら、ジェイミィはパルスマシンガンによる牽制と共に急降下。射線を確保するや、敵群中央へと砲撃形態に変形させた突撃槍の一撃を叩き込む。それにより対空弾幕を形成していた一角が崩れ、一時的にだが攻勢が弱まった。
『我らを愚弄するか、正しき大義よりも目先の小銭に囚われた蒙昧どもめぇ……!』
『ハッ、茶番と知らずに茶番劇に大真面目に参加するような奴を馬鹿と言わずになんと言うんだい? 蒙昧と言うなら、妄想に浸って現実を直視できないアンタらの事だろうさ!』
 その隙を見逃すはずもなく、ルインが敵陣真っ只中へと吶喊してゆく。指揮官と思しき将校は忌々し気に吐き捨てるも、傭兵からすれば馬鹿は相手の方である。味方を巻き込むのも構わず榴弾による迎撃を狙ってくるも、そうは問屋が卸さない。
『おっと、流石にそのグレネードは周りが危険だね。もっとも、撃たせやしないよ! ちょっとばかり遅いんだよ!』
『待て、弾頭が装填状態のまま落下したら……!?』
 構えた銃口より迸った閃光が、狙い違わず敵機の腕部を撃ち抜く。それにより、指揮官機はマニピュレータを破損。そのまま銃器を取り零すと、足元で炸裂した爆発に巻き込まれ沈黙するのであった。
『あり得ん……我が共和国でも指折りのキャバリア乗りである、特務大尉殿がやられただと!?』
『な、何故だ! 我々は悪しき公国を討つ、正義の筈なのに……ッ』
 組織と言うのはトップが潰れてしまえば脆いものだ。現に特務大尉とやらに付き従っていた兵たちは、予想外の事態に動揺を隠しきれていない。そんな彼らの頭上にフッと影が映ったかと思うや――。
『セラフィム・リッパー隊、全機反転。これより残敵の掃討に移ります』
 ある者は斬艦刀に、ある者はビットに撃ち抜かれ、次々と撃破される。此方はジェイミィ率いる十二機の念動機、対する相手は烏合の衆と化した旧式機。そこにルインも加われば負ける道理など無し。 
 斯くして二人は敵が混乱より立ち直る前に、一機でも多く撃破すべく追撃を仕掛けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

チェスカー・アーマライト
連携アドリブ歓迎
キャバリア隠すにゃスクラップの中ってか
似た様な考え方してんのは
ちと癪だが
ベストポジションに陣取れたのはラッキーだ
機体の横っ腹に
不意打ちかましてやれ、ビッグタイガー!
後はこっちも発煙弾を使用
変型の隙をカバーするのと
あたしが乗り込むまでの時間稼ぎだぜ

『待つのは飽きた』(ディスプレイに文章)
そう言うなって
今に飽きるほど撃たせてやっからよ

スタンディングモードなら
タンクモードより器用に立ち回れる
爆風除けの壁を一部引っ剥がして
即席のライオットシールドにしたりとかな
物理防御特化の装甲とは言え
そう何発も貰いたかねーんでな
格闘戦を挑んできた奴から
脚部パイルの蹴りも使って
返り討ちにしてやんよ!



●戦車こそ陸戦の王なれば
「キャバリア隠すにゃスクラップの中ってか。似た様な考え方してんのはちと癪だが、お陰でこっちに気付いちゃいないようだな。ベストポジションに陣取れたのはラッキーだ」
 すぐ近くで五メートル級の鉄騎がぶつかり合い、剣林弾雨が戦場を蹂躙し尽くす中。チェスカーは混沌とする戦場をそっと物陰より眺めていた。良くも悪くも、この世界の戦場における主役はキャバリアである。故にこそ、予め集積場付近へ駐機していたこの戦車は、完全に相手の警戒対象から抜け落ちていたのだ。
「ただ、あんまりシカトされんのも、それはそれで気に食わねぇな。精々派手に挨拶してやるとするか。機体の横っ腹に不意打ちかましてやれ、ビッグタイガー!」
 彼女の発破に応じて戦車はきゅらきゅらと砲塔を回転させるや、照準と同時に長大な主砲が火を噴く。元より、堅牢な装甲に覆われた同類を貫徹する為の武装である。況や、その威力は十分キャバリアにも通用するもの。
 死角より直撃を受けた『憂国正義戦線』のキャバリアは上半身を木端微塵に吹き飛ばされ、一拍遅れて下半身がその場に崩れ落ちてゆく。
『な、なんだ今のは!? まさか、戦車か!』
『キャバリアですら無いとは、我等を舐め腐りおってぇ……!』
 そこでようやく、相手も重戦車の存在に気付いたらしい。同じキャバリアなら兎も角、彼らからすれば格下である戦車に撃破されるなど我慢ならないのだろう。怒りのままに叩き潰さんと、迫り来る偽装キャバリア達。
 だがそうはさせまいと、重戦車は煙幕弾を展開。チェスカーが乗り込むまでの時間を稼ぐと同時に、相手に悟られぬよう変形を開始する。
『待つのは飽きた』
「そう言うなって。的はまだごまんと居るんだ、今に飽きるほど撃たせてやっからよ」
 ディスプレイに表示された文章に苦笑を浮かべつつ、戦車乗りは操縦桿を握り締める。重戦車の足元は無限軌道から逆関節式の二脚へと変わり、砲撃時の安定性と引き換えに柔軟な踏破性能を獲得していた。
『っ、キャバリア擬きだと……? 構わん、そのまま貫いてくれるわ!』
 煙幕を破り突っ込んできた敵機は変形した戦車に一瞬だけ眉を顰めるものの、敵には変わりないと盾による打撃を叩き込む。対してチェスカーは付近に残っていた防御壁を引っこ抜くや、それを即席のライオットシールド代わりに攻撃を防ぐ。射出された鉄杭も、それに阻まれ戦車までは届かない。
「物理防御特化の装甲とは言え、そう何発も貰いたかねーんでな。さぁ、頭でっかちな政治ボケ共はとっとと返り討ちにしてやんよ!」
『戦車で白兵戦とは、どこまでも侮ってくれるッ!』
 至近距離での戦闘を格闘戦と評する事はあるが、まさか文字通りの動きを戦車がするとは思わなかったのだろう。相手は益々頭に血を昇らせて鍔競り合うが、チェスカーは脚部に備え付けられた姿勢固定用のバンカーを打ち出し、即席の刺突武器として逆に敵の装甲を穿つ。
『戦車ならば大人しく砲撃に徹していればいいものを……!』
『お望み通り相手をしてやろう。その鉄の箱が貴様の棺桶だ!』
 こうなればもう相手も形振り構っていられぬ。様子を窺っていた他の敵機も加わり、重戦車を袋叩きにせんと殺到して来る。だが、それこそがチェスカーの狙い。そも、なぜ彼女が初撃以降砲撃を行わなかったのか。
「敵対した奴は徹底的に叩け……それがあたしら最低野郎の流儀だぜ?」
 それは敵が密集した所を一網打尽にせんが為。戦車乗りは手近な敵を引きずり倒すや、重石代わりとばかりにアンカーを射出。機体をがっちりと固定すると同時に、周囲一帯へ一斉砲撃を叩き込んだ。
 降り注ぐ鉄量は瞬く間に敵群ごと地面を耕し、砲弾が今度こそ本当にキャバリアを鉄屑へ変えてゆく。そうして周囲に散らばる無数の残骸を一瞥し、チェスカーはふんと小さく鼻を鳴らす。
「舐められたくなきゃ、もっとマシな戦い方をするんだな」
 斯くして彼女は戦車と人型を巧みに使い分けながら、敵群の漸減に勤しむのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携

…もし、不要品扱いされた人達の最後の舞台を欲してるだけなのなら、他所でやってもらいたかったものです

持参のキャバリアに搭乗と同時に指定UCで敵・味方問わずに
戦場近在の指揮通信車・所を(ハッキング)し(目立たない)よう制圧

局仲間の攻撃に連携し自身も敵の遠距離支援攻撃機体へのカウンター(スナイパー)を仕掛けつつ戦場全体の通信を見張り、ミハイルさん達の攻撃で統制が乱れて隙ができた処を狙い、通信に紛れて敵を順次ハッキングし同士討ちを狙います(破壊工作・罠使い)

更に防護壁方面の護衛隊の動きにも注視、
間者あるいは伏兵の兆しがある場合は直ぐに狙撃により牽制防御する

※絡み・アドリブ歓迎


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動

ラムダ・マルチパーパス三等兵、増援要請により参着。これより、ミハイル様と灯璃様へ支援射撃を行います。

戦闘の舞台になっている会場からやや離れた場所(可能ならば高所)に占位。そこからUCでの精密射撃を行います。ミハイル様と灯璃様が上手く混乱させていますし、何より現地での戦闘に巻き込まれない分、冷静に状況を見極められますしね。

しかしどうも、あの憂国云々の方々のやっている事は、稚拙な印象が否めませんね。ハイネマン様も、その性分故に実戦経験も豊富でしょうから、もっと効果的な手段は幾らでもあった筈。
一体何を企んでいるのでしょう…いえ、もしかしたら、ハイネマン様は何かを待っている?


ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動(計3名)

ふん、何であの手の連中は大抵、憂国だの正義だのって御大層な組織名で来るのかね。名前倒れもいいトコだぜ。

さて、状況は敵味方入り乱れてる上、他の猟兵も加わって乱戦状態だ。場所柄的に遮蔽物も多いし、歩兵1人が紛れても目立たねぇ。
遮蔽物を利用して気づかれない様に敵が射程圏に入り尚且つ側背に回り込み、関節等を狙ってUCで攻撃。
混乱ってのは、収めるのではなく、利用するモンだぜ?

(無線機で割り込み)
よぅ、ハイネマン。随分と手荒く楽しいコトやってるじゃねぇか。俺はお前と違って戦争はメシのタネだが、付き合ってやるぜ。それに仕事ってーのは、楽しんでやるべきだからな。

アドリブ歓迎



●混沌利するは何れの者か
『共和国の特務大尉殿がやられた! 指揮下だった部隊の統率が纏まらない!?』
『ええい、情けない奴らめ……だが弱卒であろうと貴重な戦力だ、何とか落ち着かせろ!』
 序盤の勢いが落ち着いてくれば、戦況の天秤が各国防衛戦力側へと傾くのは必定だった。寄せ集まった六勢力の一角が落ちた事により、敵陣の動きに幾分か乱れが生じてゆく。だがそれで士気が瓦解しないのは、『やられた部隊が弱かっただけ』と都合よく解釈しているからか。そんな有り様を眺めながら、ミハイルは憮然とした表情を浮かべる。
「ふん、派手な看板の割には脆いな。何であの手の連中は大抵、憂国だの正義だのって御大層な組織名で来るのかね。実際は単なるテロリストの寄せ集め、名前倒れもいいトコだぜ」
『誰も彼も、平時になれば閑職へ追いやられる様な者ばかりみたいですしね。無意識に注目を浴びようとしているのでしょう……もし、不要品扱いされた人達の最後の舞台を欲してるだけなのなら、他所でやってもらいたかったものです』
 仲間のボヤキに、集積場近くに駐機させてあったキャバリアへと乗り込んだ灯璃が相槌を打つ。中身が伴わぬ者ほど、見てくればかりを気にすると相場が決まっている。正に虚栄だ。とは言え、ダイナミックな自殺に付き合わされる側としては堪ったものでは無い。
 寧ろ、警戒すべきは未だ後方で沈黙を保ち続けている戦争狂だ。こうしている間にも、何かとんでもない策を組み上げていたとしても不思議ではない。さっさと『憂国正義戦線』の手勢を排除してしまおうとする二人の元へ、無線を介して通信が入る。
『……こちら、ラムダ・マルチパーパス三等兵。増援要請によりただいま参着。これより、ミハイル様と灯璃様へ支援射撃を行います』
「お、丁度良いタイミングだな。こっちも今から仕掛けようとしてたところだ。支援砲撃が有るのと無いのじゃ、戦いやすさが雲泥の差だぜ」
 発信者は仲間からの連絡を受けて駆け付けたラムダ・マルチパーパス(ドロイドは電気羊の夢を見たい・f14492)だった。傭兵が周囲を見渡すと、会場から少し離れた丘陵部に戦機の姿が見える。あの位置であれば、戦場全域を射程に収める事が出来るだろう。
『早速ですが、準備砲撃はご入用ですか?』
『ええ、お願いします。それと並行して私も電子戦を試してみましょう。近くに指揮通信を司る場所があれば良いのですが』
 ラムダの確認に頷き返す灯璃。それを受け、戦機は右肩部に搭載された120ミリカノン砲『M19サンダーロア』を展開。小刻みに仰角を調整しつつ、敵陣中央へと照準を合わせる。
『射撃プログラム起動。仰角及び方位角修正。弾種選択榴弾、装填完了。狙点固定……射撃開始』
 まずは敵陣を打ち崩すべく、広範囲を巻き込める榴弾を選んで発射する。そうして戦場に甲高い風切り音が響いたと思いきや、砲弾は狙い違わず敵軍の真っ只中へと着弾。内包した爆薬を炸裂させるや、鉄騎たちを纏めて吹き飛ばしてゆく。
『グレネード、いや砲撃か!? 馬鹿な、重砲まで持ち出して来たのか!』
『怯むなぁ! 和平を謡う会場に向けられた砲口、これこそ正に欺瞞の証左。やはり我らは間違っておらぬのだ!』
 見当違いの推論を声高に叫びながら、敵部隊は何とか被害を最小限に抑え込もうと試みる。一方の防衛側はそれを好機と捉えるや、相手を押し返すべく攻勢へと転じ始めた。そうなれば必然、敵味方問わず通信量が跳ね上がってゆくもの。無論、それが向かう先は指揮系統の中枢部だ。
(事前調査の内容を鑑みるに、相手側には情報戦に長けた人材が居ないようです。加えて機体も旧式ならば、幾ら軍用機とは言えハッキングに対する備えも脆弱なはず。それを突かぬ理由は在りません)
 情報の流れを逐次モニタリングしながら、灯璃は先刻の調査を思い起こしていた。廃棄機体のデータをそのまま垂れ流しにしていた連中である。ハッキング対策をまともに行っているとは考え難い。その不用心さのツケは彼ら自身に支払って貰うまでだ。
(上手くいけば、もう一歩踏み込むことも出来そうですね。その為にも……増えて群れなせ、小さき狐)
 灯璃がコンソールに文字列を打ち込んだ瞬間、電子ネットワーク上に無数の狐たちが放たれる。彼らは通信に乗じて周囲の回線へと潜り込むや、電子的防壁を易々と破りローカルエリアへと侵入してゆく。正に『素早い狐がのろまな犬を飛び越える』が如しだ。
(流石に仕込みが完了するまで暫く掛かりそうですが……ええ、問題ないでしょう)
 だがそれでも、システムの掌握には或る程度の時間を要する。その間に主導権を取り返される可能性も無いとは言い切れないものの、彼女に懸念は無い。ちらりとモニターに視線を向ければ、既に傭兵が行動を開始していたのだ。
(……五メートル級の巨体がすぐ近くで歩き回っているなんざ、正直ぞっとしないな。尤も、敵味方入り乱れてる上に他の猟兵も加わって乱戦状態だ。幸い場所柄的に遮蔽物も多いし、歩兵一人が紛れても目立たねぇ)
 出来る限り姿勢を低くして目立たないようにしつつ、ミハイルは戦場の真っ只中を這うように進んでいた。ラムダが遠方よりつるべ撃ちを叩き込み、灯璃が情報の掌握に勤しむ中、彼が担う役割は死角からの一刺しである。
(狙うべきは装甲の薄い関節部付近。可能なら背後を取れれば御の字か。キャバリアと言っても機甲兵器に変わりなし、随伴歩兵の一人でも付けておくべきだったな)
 ラムダの援護によって出来た砲弾跡へ身体を滑り込ませると、ミハイルは穴の淵より体を乗り出す。その肩に担がれるは戦車殺しと名高いロケットランチャーだ。
『ええい、このままでは埒が開かん! 総員、我に続けぇっ!』
 と、その時。砲撃に晒され続ける状態に業を煮やした一機が、ハッキングの傍ら狙撃を行っていた灯璃目掛けて吶喊を試みる。至近距離まで近づけば、砲撃を躊躇させられると判断したのだろう。その行動自体は間違っていない。惜しむらくは傭兵の存在に気付かぬまま、彼の真上を通り過ぎてしまったことか。
「オイオイ、良いのか。足元がお留守でよ?」
『な、なにぃ!?』
 そんなチャンスを見逃してやるほど戦場は甘くない。ミハイルは相手が穴を跨ぎ終えた瞬間、膝裏目掛けて対戦車擲弾を発射。狙い違わず関節部へと着弾させ、鉄騎を転倒させた。
「混乱ってのは、収めるのではなく、利用するモンだぜ?」
『歩兵風情が……ッ!』
 だが機動力を奪っただけで、完全に撃破したわけでない。上半身を起こしつつ、銃口を突き付けて来る偽装機。生身の人間など跡形もなく消し飛ばせるそれが火を噴く、寸前。
『……生憎ですが、精密狙撃が出来ない訳ではございませんので。寧ろ、そちらが得手なのですよ?』
 大気を引き裂きながら飛来した徹甲弾が、敵機の上半身を吹き飛ばした。一拍遅れて砲撃音が聞こえてくることからも、その速度の凄まじさが知れると言うもの。尤も、体勢を崩した相手を撃ち抜くなど、ラムダにとっては出来て当然の芸当である。
『それに現地での戦闘に巻き込まれない分、冷静に状況を見極められますしね……という訳でざっと観察した限りではありますが、護衛部隊で不審な動きは見受けられません。恐らく、過激派シンパはほぼ舞台に上がったかと』
『ありがとうございます。万が一とは思いましたが、どうやら杞憂だったようですね。ではそろそろ、こちらも仕掛けると致します』
 そんな中、戦機が観測した結果を報告すると、灯璃は小さく息を吐く。友軍の中に未だ伏兵が潜んでいないかと警戒したのだが、この様子では問題は無さそうだ。となれば最早憂いは無い。既にシステムの掌握は完了、後は指令を出すのみ。
『――Lasst uns das Festival starten≪さあ、お祭りをはじめましょう》』
 瞬間、敵軍のネットワーク内で待機していた狐たちが一斉に起動。急速にプログラムを書き換える事によって、戦闘に必要な能力を瞬く間に奪い取ってゆく。
『な、なんだ!? IFFが誤作動をッ!』
『馬鹿止めろ、俺は味方だぞ!? レーダーを信じては、がああああっ!』
 敵味方識別を司る装置が改竄されると、最早目も当てられなかった。計器類に頼らず目視に切り替えれば良いのだろうが、普段の慣れと言うものはそう簡単に抜けはしない。斯くして、戦場のあちこちで俄かに同士討ちが頻発し始める。
(敵ながら呆気ないものですが……しかしこれに限らず、どうにもあの憂国云々の方々のやっている事は、稚拙な印象が否めませんね)
 こうなれば集団としての瓦解は免れぬ。大混乱に陥る戦場をアイカメラ越しに眺めつつ、ラムダは動きの鈍った敵を順に撃ち抜いてゆく。戦況としては極めて順調。だが、その脳裏には拭いきれぬ疑問が渦巻いていた。
(ハイネマン様も、その性分故に実戦経験も豊富でしょうから、もっと効果的な手段は幾らでもあった筈。作戦上の欠点など、幾らでも見つけ出せそうなものですが)
 電子的防御の脆弱さ然り、貴重な時間の浪費然り。どれもあの戦争狂であればすぐに気付きそうな穴だ。にも拘らずそれらが放置された結果、『憂国正義戦線』が苦戦する原因となっている。
(一体何を企んでいるのでしょう……いえ、もしかしたら、ハイネマン様は何かを待っている?)
 初っ端の演説を聞いた限り、他国は将軍や軍事顧問といった高級将校が参加しているらしい。そのせいで思う様に意見が通らなかったのだろうか。だかそうなれば、スッパリと手を切って独自行動に踏み切りそうなものだ。それをしていない以上、何らかの狙いがある事はまず間違いないだろう。
「……よぅ、ハイネマン。随分と手荒く楽しいコトやってるじゃねぇか」
 しかし、ああだこうだと推測を重ねても答えは出ない。ならば直接本人から聞けば良いとばかりに、ミハイルは暗緑の独眼機へと通信を繋げる。幸い、灯璃の情報工作によって周囲に聞かれる心配はなかった。
『ははは、手荒ではあるが楽しいかは微妙なところだ。組織間の調整やら折衝やら、肩が凝ることこの上ない。君のお仲間も見ていたはずだろう?』
 敵と誤認し襲い掛かって来る偽装機を軽く叩きのめしつつ、戦争狂は肩を竦める。どうやらこの蜂起に興が乗っていないのは確からしい。共有されていた報告を思い出し、ミハイルも嗚呼と頷く。
「確かにそりゃ面倒臭そうだ。仕事ってーのは、楽しんでやるべきだからな。俺はお前と違って戦争は単なるメシのタネだが、精々付き合ってやるぜ」
『ほう、そいつは素敵だ……でなければ、こちらとしても手を尽くした甲斐が無い。楽しみにしておくとしよう』
 傭兵の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべるハイネマン。その口振りからは、彼が飽くまでも蜂起を結果ではなく過程の一つとして捉えている様子が滲み出ていた。だが問答は此処までとばかりに、独眼機は踵を返して遠ざかってゆく。その背を見送りながら、ミハイルは顎を撫ぜる。
「楽しみ、か。目的が『憂国正義戦線』でも各国首脳でもないとすれば……まぁ、自ずと見えて来るものもあるか」
 ともあれ、一先ずは眼前の敵に専念して良さそうだ。斯くして特務情報調査局の面々は、引き続き敵軍の撃破へと意識を集中させるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
【渡り禽】計五人
f32263
f30386
f01190
f29038
心情:…出来の悪い喜劇だな、場末のディナーショーの方がまだマシだぜ。

手段:連中が時間を浪費お掛けでこっちは全機配置が完了した、UC【迎撃態勢完了】で性能アップだ

ヘヴィタイフーンに搭乗、EP-Sアウル複合索敵システムによる敵総数の把握と友軍機の位置確認、後は味方と情報共有だ。

渡り禽の各機は聞こえてるな?可能な範囲で良いからコアをぶち抜くのは避けろ、それと状況が判るまで中佐以下ラインラント勢のサイクロプスには手を出すなよ、連中の狙いを見定めにゃならん。

攻撃はシールド構えながら自動騎兵步槍による射撃、武装や脚部を狙って戦闘不能を試みる。


久遠寺・遥翔
【渡り禽】で参加
了解だヴィリーさん
今回はあんたの指揮で動くぜ
共闘する皆との連携を心掛ける

イグニシオンに即座に[騎乗]
UCを使って戦場一帯に真焔結界を展開する
全ての敵を[焼却]し、全ての味方を癒す領域
ヴィリーさんの指示通り一旦中佐とその手勢を敵から除外する

領域が持続している間何もしないわけじゃない
機神太刀による[範囲攻撃]で連中を撃破していく
UC含めすべての攻撃はコックピットを避けて
死人は出さないように立ち回る
延焼しないように[結界術]で敵のコックピットブロックを守りながら戦うぜ

敵の攻撃は[視力]と[第六感]を併せた心眼で[見切り]
[残像]を捉えさせる形で回避だ


フレスベルク・メリアグレース
【渡り禽】

我が騎士よ、愚劣なる者達に裁きの鉄槌を下しなさい
わたくしが告げると同時、UCの効果で召喚された110の複数種類の高性能キャバリアに乗り込んだ騎士達を召喚
相手はいわばハリボテです
恐れずに叩きのめしてしまいなさい
最優先事項は偽グレイルの不殺鎮圧です

ノインツェーンの右腕部にヴォーパルソード・ブルースカイを具現化し、白兵戦を挑んでいきます
偽グレイルの一斉掃射を帰天の魔術防壁で防ぎながらヴォーパルソードを振るっていきます

傾聴なさい、憂国正義前線を名乗る愚者達よ
わたくしはメリアグレース聖教皇国当代教皇フレスベルク
徒に騒乱を掻き立て、遺族の心を乱した貴方達にかける慈悲はありません


中小路・楓椛
【渡り禽】
メンバーと情報共有及び協働。

――色々と思う処は在りますがニンゲンの判断を尊重しましょう。


自律稼働する【クロさん】に【ろいがーのす】を召喚装備した状態で集団に突入、接敵したグレイルの四肢を鉈に分割したろいがーのすで斬り飛ばし無力化します。死なない程度に加減はしますが何かあったら運が無かったとご寛恕ください。

後続に任せられる程度に削ったらクロさんの感知するオブリビオンキャバリアの気配のする方向へ路を拓きます。

【ミスラ】さん、痩せ眼鏡は今何処に居るのか確認を。位置捕捉後はそのまま追跡していつでも狩れる位置で待機願います。状況的に行けそうならそちらの判断で制圧を。


リーゼロッテ・ローデンヴァルト
※アドリブ絡み歓迎
愛機で【渡り禽】へ合流

想定通り始まったのは良いけど…
やっぱ敵味方双方を泳がせてる感じ?

まずは偽グレイルの不殺鎮圧優先
アタシはDA8号【クロックワーク】展開
味方機データリンクを補強しつつ
防護手薄なハリボテへ撹乱用指向性超音波♪

更に【ミネルヴァ】併用で『病巣』の在処を探りつつ
【マトリクス・メモリ】で『亜空間通信の発生源』構築
さっき狙われてた指揮官機へ手短に通信開始

中佐、お久しぶりー♪
若干らしくないお供が居るねえ
あ、でもアタシは幻滅してないよ?

だってアンタは策略もヤれる戦場の申し子
ハナからイモ共と別の思惑がある筈さ
『兵士って概念の撃破』とか?

ま、とにかくイイ酒呑も♪
んじゃ、後でね♡



●戦場に舞え、鴉よ
『左翼を担う共同体、協商連合が押されつつあり!? 増援要請が来ています!』
『こちらも手一杯だ! 自分の持ち場くらい死ぬ気で守れと伝えてやれいッ!』
 戦況は僅かずつではあるが、各国の護衛部隊が『憂国正義戦線』側を駆逐しつつあった。そも、元々が開幕時の拙速に全てを賭けた作戦である。その目論見が崩れた以上、通常であれば損切に動くのがベターなのだが……。
『……滑稽を通り越してもはや喜劇だな。キャバリアの集積場があるのは会場のほぼ中央。つまり、連中は端っから包囲状態って訳だ。これじゃ場末のディナーショーの方がまだマシだぜ』
『まぁ、想定通り始まったのは良いけど……依然として中佐は動く気配が無い、か。やっぱ敵味方双方を泳がせてる感じ? 一体どこまでが掌の上なんだかね』
 それをしたくとも出来ないと言うのが実情なのだろう。普通に考えれば自殺行為以外の何ものでもないが、なまじ腕が立つ連中だ。自分たちなら打破できると踏んでいたのか。杜撰過ぎる見通しの甘さに思わず溜め息を吐くヴィリーの横では、リーゼロッテが潜在的第三勢力へと視線を向けている。
 嬉々としていの一番に突っ込んできそうな戦争狂が、開戦より沈黙を保ち続けていると言う事実。未だ真意は見えぬものの、彼が何を求めているのかと言う点は朧気ながらに理解できた。それは即ち、『憂国正義戦線』の壊滅だ。
『連中が時間を浪費してくれたお掛けで、こっちは全機配置が完了した。迎撃態勢は万端ってな』
 その為の手段は既に整っていた。ヴィリーの呼びかけに応じ、彼の乗騎も含めた鉄騎たちが一斉に起動してゆく。この手の策は予想出来ないからこそ脅威なのだ。来ると分かっているのであれば、これほど狩りやすい手合いもそうは居るまい。
『【渡り禽】の各機は聞こえてるな? 可能な範囲で良いから敵機のコアをぶち抜くのは避けろ。命を奪うのは裁判の後でも遅くはねぇ。それと状況が判るまで中佐以下ラインラント勢のサイクロプスには手を出すなよ、色々と動きを見定めにゃならん』
 そうして起立するは、傭兵の駆る大柄な重鉄騎。テンペスト社製重装甲型キャバリア『HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ』。主に拠点防衛へ投入される、重装甲と高火力を誇る機種である。
『攻撃目標の区別と不殺の徹底、か。了解だ、ヴィリーさん。件の要注意人物と面識もあるみたいだしな、今回はあんたの指揮で動くぜ』
『……そうですね。色々と思う処は在りますが、この場はニンゲンの判断を尊重しましょう。少なくとも、彼らの行為に悪意が無いと見るのは難しいでしょうから』
 その横に並び立つのは、銀に朱が走る鋭角的なシルエットと見た者の精神を掻き乱す漆黒の機影。それは相棒のバイクを核として形成された遥翔の『イグニシオン』と、楓椛の求めに応じ呼び出された特化能力研究用実験機、通称『クロさん』であった。片や全身より陽炎を立ち昇らせ、片や濃密な闇を纏い佇む姿は、両機に内包された武威を言外に示している。
『さてさて、それじゃあまずはどうする? 五人も居れば取れる手は幾らでもありそうだけどさ』
 また、そう問い掛けるリーゼロッテが身を預けているのは、事前調査時から稼働させていた群青色の超重量級キャバリア『MPC-RW9r-LEX ナインス・ライン』。積載量と出力を重視した機体は、正に動く橋頭堡と言って差し支えなかった。
『であれば、先陣の任は私に任せて頂きましょう。斯様な悪逆を討ち、民草を安んずるのも神子代理としての務めですから』
 なればと、仲間の言葉に応じたのはフレスベルクだ。彼女は自らの座すサイキックキャバリア、『ノインツェーン』へと己の意志を通わせてゆく。天使を思わせる機体は凛と鈴の音を思わせる響きを以て、空間を歪曲させる。
『界を渡れ、我が至高なる聖なる騎士達よ。異界に遍く存在する悪徳と不条理を断罪するべく……我が元に馳せ参じよ!』
 瞬間、神機の周囲に出現せしは騎士を思わせる外観の鉄騎たち。その総数は実に百と十機を数えた。彼らこそ、フレスベルクに付き従いし直属の聖騎士団である。その一糸乱れぬ隊列は、烏合の衆状態の『憂国正義戦線』とは比べ物にならない。
『オーケー。それじゃあ、そろそろ……俺たちもおっ始めるとするか!』
 掲げられしは漆黒の旗。稲妻と共に暗雲を飛翔する鴉が描かれた其れは、騎兵団〈渡り禽〉のシンボルに他ならない。斯くして、五機の鴉(レイヴン)たちは混沌渦巻く戦場へと飛び出してゆくのであった。

『相手は外装だけ現行機に似せた、いわばハリボテです。恐れる理由など有りません。我が騎士よ、愚劣なる者達に裁きの鉄槌を下しなさい!』
『こ、ここで更なる増援だと!? 馬鹿な、会場に詰めているのは最低限の護衛部隊だけではなかったのか!?』
 まずは先の宣言通り、連隊規模の軍勢を引き連れたフレスベルクが先陣を切って斬り込んでゆく。突如として姿を見せた大部隊に思わず目を剥く『憂国正義戦線』側だったが、そこは腐っても軍人なのだろう。体に染みついた反復動作を総動員し、なんとか操縦桿のトリガーを押し込む。
 しかし、浮足立った状態では統制立った射撃など望むべくもない。吶喊して来る猟兵を疎らな火線で押し留められる道理もなく、瞬く間に両者の距離はゼロと化す。
『各員、繰り返しますが最優先事項は偽グレイルの不殺鎮圧です。下手に命を奪えば、偶像化され後々まで尾を引く可能性もあります。そんな事は決して許されません。禍根は全て、この場で断ちます!』
『横からしゃしゃり出て来た第三国が賢しらな事をッ!』
 反射的に繰り出される盾の殴打を紙一重で躱しながら、神子は蒼き長剣をすれ違い様に振り抜く。交錯の刹那に駆け抜けた斬撃は、敵機の四肢を根元から切断する事で継戦能力を奪っていった。まず一機。だが、烏合で在れども敵の数は未だ多い。
『奴が指揮官機か! わざわざ先頭に立った己の蛮勇を呪うが良いわッ!』
 敵軍はフレスベルクへ狙いを定めるや、火力を集中させ始める。帰天による魔術障壁を展開しそれを防ぐも、頭数に任せて放たれる射撃が途切れることは無い。麾下の聖騎士たちも主の援護を優先してしまう為、徐々に攻勢が鈍ってゆく。
 このままでは折角の衝撃力を活かしきれない。そんな危惧が少女の脳裏に過る中。
『……最先より在りし焔よ、醒めよ。我に歯向かう諸悪の悉くを灰燼に帰し、轡を並べる戦友を助けんが為に』
 ――原初起動(イグニッション)。
 凛とした言葉を切っ掛けとし、戦場全体へ焔が駆け巡った。外部と内部を、敵と味方を隔てるは灼熱の結界。それは仲間の傷を癒すと同時に、大熱量を以て敵軍を焼き払ってゆく。無論、鉄の塊たるキャバリアを溶解させるまでは至らないが、それでも不具合が生じるのは避けられない。そうしてのたうち回る敵軍を横目に、遥翔が操りし銀朱のキャバリアが最前線へと到着する。
『すみません、助かりました』
『なに、こういう時はお互い様だぜ。それに巻き込むと不味い相手を遠ざけておきたかったしな』
 仲間の言葉に応じつつ、青年はちらりと戦場の端へ視線を向ける。赤々と燃え盛る障壁の向こう側には、暗緑の独眼機たちが隔てられていた。数機は手持ちの武装で破壊を試みている様だが、指揮官を含めたその他の大多数は一先ず様子を窺っているらしい。
(さて、ひと段落するまで大人しくして居てくれると嬉しいんだが……こう、何かあれだ。カメラとかセンサー越しでも分かるぜ、「見られている」ってな)
 今回、司令塔役である傭兵からは彼らに手を出さぬよう言い含められている。遥翔自身も件の人物と面識が無い故その指示に従っているのだが、不意にうなじが焦げ付く様な感覚を覚えた。投げ掛けられた視線を辿れば、その源はハイネマンが搭乗している機体だ。
 蚊帳の外に置かれてお冠か? ある意味ではそれもある。だが何よりも、視線は周囲に渦巻く焔に比肩し得るほどの濃密さを孕んでいた。それはまるで恋焦がれる乙女か、玩具を前にした子供が如く、一心に猟兵たちの姿へと注がれてゆく。
(なるほど。事前に色々と話を聞いていたけど、正直いまいちピンと来てなかった。だが、こうして直接顔を合わせて分かったぜ。確かにあれは戦争狂なんて呼ばれる訳だ)
 仲間が警戒と期待を抱くのもむべなるかな。そう合点がいった青年は、しかして臆するどころかニヤリと笑みを浮かべた。
『ああまで見つめられたら、大人しくしている訳にもいかないな。領域を展開している間、なにも俺まで動けなくなる訳じゃないんだぜッ!』
 観察されているからと言って、わざわざ手の内を隠す様な真似はしない。寧ろ目に物を見せてやるとばかりに、遥翔は黒炎を纏う大太刀を抜刀。燎原と化した戦場へと踏み込むや、放たれる弾幕を物ともせず果敢に斬り込んでゆくのであった。

『……一先ず、あちらさんは様子見に徹してくれたみたいだな。尤もこの後どうなるか分からない以上、油断は禁物だが。ともあれ、状況は整った。リーゼロッテ、そっちはどうだ』
『ちょっと待って、いまレドームを展開するから……っとと、警告か。電脳で補助するから、四の五の言わずスキャンモード起動。ついでに撹乱用エコーもっ! 情報を制する者が戦いを制す、ってね?』
 そうして、前線で神子と青年が大立ち回りを繰り広げる中。後方では傭兵と闇医者が支援体制を構築しつつあった。鋲付きの中型防盾を構えつつ、肩部に備え付けられた複合索敵システムにて友軍間でのデータリンクを張り巡らせてゆくヴィリー。その背後では、リーゼロッテが更に巨大な円環状の装置たるDA8号『クロックワーク』を展開させている最中である。
 元々がイージス艦に設計された索敵ユニットを強引に接続しているのだ。システムがエラーを吐くのも無理はない。だが、少女はそれを電脳による思考演算能力で強引に押し通す。そうして幾つかのコンフリクトを発生させながらも装置は起動を果たすと、敵味方入り乱れる戦場がリアルタイムで浮き彫りとなってゆく。
『さてさて、相手は防護も手薄なハリボテ機。見た目は誤魔化せても中身はスカスカだろうし、暴徒鎮圧用の超音波でも幾分かは通じるかな。まぁ、音響センサーを潰せるだけでも御の字だけど』
 副腕との換装式解析装置『ミネルヴァ』によって敵機の組成構造を調べ上げると、リーゼロッテは指向性を持たせた高音を敵機へと向けた。相手は雑多な旧式機に、鋼板で出来た箱を被せる形でグレイルの外観を構築している。
 だが突貫作業故か、造りはお世辞にも精緻とは言えない。故にその多くは本来の装甲と大きく隙間を生じさせており、内部で反響した超音波が凄まじい不快音となって操縦者の鼓膜へと襲い掛かっていった。
『おうおう、敵さんが転げ回っていやがる。マイクじゃなくて機体そのものが発する音だからな。ミュートにしたって止みやしないだろ。今頃、金属ロッカーに閉じ込められて外から殴られるよりも酷い事になってそうだ』
 敵ながら哀れだと、ヴィリーは口笛を吹く。二人が妨害を仕掛けているのは、前衛役が相手取っているのとはまた別の集団だ。幾分か漸減しているとは言え、頭数ではまだまだ敵の方が多い。彼らは敵陣深く切り込む遥駆やフレスベルク率いる聖騎士団を、側面後方から強襲しようと試みていた別動隊である。
 尤も、それを許さぬ為に後衛が居るのだ。幾つもの眼は不穏な動きを瞬時に察知。相手が行動を起こす間もなく、こうして無力化に成功していた。
『で、通信については問題なさそうか?』
『んー、味方同士はね。ただ、中佐に向けてはもうちょっとかな。なまじ結界の外に追い出しちゃったから、亜空間を繋げるのに時間が掛かってるみたい』
 そうして次に彼らが試みていたのは、結界外に追いやった独眼機への通信接続である。相手が敵なのか味方なのか、現時点ではまだ判断を下す事は出来ない。だがお互いに知らぬ仲ではないのだ。何かしらの手掛かりを得んと、傭兵と闇医者が接触役を買って出ていた。
 しかし、それが確立するよりも前に事態が動く。
『く、おぉぉ……!? こうなれば、もはや意味を成さぬ偽装に拘る道理もないわッ!』
『各機、後方でふんぞり返っているデカブツを狙え!』
 超音波に晒され苦悶していた敵部隊が、デメリットにしかならぬ鋼板を次々とパージしてゆく。まるで博物館か骨董市と言った有り様だが、重量が減った分だけ機動力が良化したのだろう。榴弾による牽制を行いながら、これまでの礼だとばかりに鉄騎が殺到して来る。
『この程度は想定の範囲だが、ちと数が多いか?』
 センサー類から齎される情報を頼りに、武装や駆動部を狙って立て続けに自動騎兵步槍のトリガーを引くヴィリー。しかして、盾を構えて迫る敵群を押し留めるには少しばかり手数が不足していた。着実に距離を詰めて来るキャバリアに対し、白兵戦も視野に入れ始めた、その時。
『……雁首を揃えてやって来るなど良い的です。クロさん、ろいがーのすで一網打尽にして差し上げなさい』
 両者の間へ漆黒の影が滑り込む。その正体は楓椛の命に従い自律稼働する実験機である。機体は無機物とは思えぬ滑らかな動きで体を捻ったかと思うや、手にした巨大手裏剣『ろいがーのす』を投擲。先陣を切っていた一機を上下に分断してゆく。
『ちぃっ、新手か……ッ』
『だが、獲物を手放したのは迂闊だったな!』
 しかし、後続の機体は何とか攻撃軌道上より逃れると、そのまま目標を実験機へと変更。盾撃からの鉄杭を叩き込まんとする、が。
『おやおや。投げっぱなしでお仕舞いだと思うのなら、少しばかり想像力が足りませんね』
 大きく弧を描きながら、手裏剣は投擲手の元へと帰還する。実験機はそれをキャッチすると同時に得物を変形させ、十字手裏剣から二挺の鉈へ分割。打ち出されたパイルバンカーを左手で逸らしつつ、もう一振りで偽装機の手足を断ち切っていった。
『お、のれ……!』
『死なない程度に加減はしますが、何かあったら運が無かったとご寛恕ください。そも、この場は元より戦場であり、皆様方も望んで戦いに参加していらっしゃる。恨み言など端から聞く義理も御座いませんゆえ』
 左右の刃を同時に振るいながら、流れる様な動作で敵機を戦闘不能にしてゆく実験機。そうして後衛に対する攻勢を跳ね返すと、今度は逆に戦線を押し上げ始める。操縦席でその足取りを眺めていた楓椛は、機体の進む先を見てスッと目を細めた。
(やはり、クロさんが向かう先は……あの痩せ眼鏡の場所ですか。となると別に元凶が居て、と言う可能性はほぼ無いと見て良いでしょうね)
 進行方向の延長線上、其処には結界の外で戦いの趨勢を静観する独眼機の姿が在る。実験機が身に帯びた呪詛を頼りに己の同類を探知しているのだと知っている楓椛は、それが何を意味しているのか瞬時に理解していた。
(ああは命じられましたが、それでも打てる布石を準備しておかぬ道理もありませんし……ミスラさん、亜空間通信が開くのと同時に相手の元へ)
 故にこそ、妖狐の判断は早かった。仲間に悟られぬよう呼びかけると、彼女の影からスッと狼に似た存在が身を起こす。鋭角なる時間を駆けし猟犬ならば、亜空間程度は踏破可能だ。
(捕捉後はそのまま追跡していつでも狩れる位置で待機願います。もし状況的に行けそうなら、そちらの判断で制圧を)
 命令に頷くと、狼は再び三次元より高位の領域へと消えてゆく。相手を良く知るが故に、推察できる物事もあるだろう。だが一方で、何の所縁もないからこそ下せる判断というのもまた存在するのだ。
 そうして楓椛が静かに警戒を高める中、無線機がザリザリとノイズを走らせる。どうやら、通信が繋がったらしい。開口一番、闇医者の飄々とした声が飛び出して来た。
『中佐、お久しぶりー♪ 元気してた? 秘蔵のボトル、美味しかったよー!』
『ふむ、ドクターか。ざっと一年ぶりだな。報酬を楽しんでくれた様で何より……こちらは見ての通りの状況だよ。とは言え、部下共々除け者と言うのは少しばかり寂しいがね』
 リーゼロッテのモニター上に映し出される男の姿は、記憶の中よりもやや血色が良く思えた。まぁ、前回の対面時は国民諸共が餓死一歩手前だったのだ。これも状況が好転した結果と言えるだろう。
 一先ず相手の様子に変わりない事を確認しつつ、リーゼロッテは別の方向へと水を向ける。
『確かに若干らしくないお供がたくさん居るねえ。あ、でもアタシは別に幻滅してないよ? だってアンタは策略もヤれる戦場の申し子、ハナからイモ共と別の思惑がある筈さ。例えば……』
 ――『兵士って概念の撃破』とか?
 闇医者の問い掛けに対し、戦争狂はふぅむと唸りながら腕を組む。その表情に浮かぶのは微苦笑。誤魔化しや隠し立てといった雰囲気は感じられぬが、さりとて今はまだ全てを詳らかにすべきではないと言った所か。
『概念の撃破、か。はてさて、そんな御大層なものかは判断しかねるよ。ただ現時点で一つ言えるとすれば……物事は得てして、複雑に見えて存外単純なものだ。私なぞは特にな』
 謎めいた物言いからは、彼の描く絵図の全容は窺い知れない。だがハイネマンがハイネマンに変わりないと言う事実さえ分かれば、リーゼロッテにとっては十分すぎる収穫であった。
『……ふ~ん。取り合えず、詰まらない事にはならなさそうかな。ま、とにかくイイ酒呑も♪ んじゃ、また後でね♡』
 返答の内容を吟味しつつ、少女は通信を切る。戦闘経過自体は順調だが、敵対者たちも元は最前線で鳴らしていた軍人たち。聖騎士団の出現や炎の結界による動揺がそろそろ静まりつつあり、僅かずつだが相手も勢いを盛り返しつつあったのだ。

『我らに最早戻る場所は無し。然れども、逃げ道など端から期待しておらんわ!』
『進め、目指すは前方より他にない! 進めぇ!』
 なまじ相手の退路を断つのも善し悪しだ。一つでも逃げ道があればそちらに縋る事も出来るが、八方塞がりな状況に陥り逆に腹を括ってしまったのである。残弾も気にせず射撃を行いながら、突撃を敢行する偽装機群。
 しかし、そんな破れかぶれの突撃に気圧される鴉たちではなかった。
『勝手に覚悟を決められてもな。こっちは最初っから最後まで不殺を通させて貰うぜ!』
 敵をそのまま殺すのと、生かしたまま捕らえる事。どちらが困難かなど今さら語るべくもない。だが戦闘開始からずっと、遥翔はそれを実行し続けている。攻撃はコックピットを狙わぬよう心掛け、灼熱で焼き殺されぬよう撃破後には結界術による保護まで行っているのだ。そうした戦い方一つとっても、彼我の技量差は明確と言えた。
『……やれやれ。一先ず判断は保留、と。仕方がありませんね。取り急ぎは御呼びでないご客人方のお掃除に専念すると致しましょうか。加勢させて頂きますね?』
 また、通信内容に耳を傾けていた楓椛も実験機を駆り前線へと合流する。此度の元凶があの戦争狂である事は明白だが、会話内容に気になる箇所もあった。引き続き狼を潜伏させつつも、まずは確定した敵である『憂国正義戦線』の排除へと動いてゆく。
『戦場全体の総数では拮抗している! ならば局所的優位を生み出し、敵の各個撃破を狙え!』
『各個撃破、ねぇ。知ってるか? 守勢に回った軍勢を突破するのに、攻勢側は三倍以上の戦力が必要な事を。で、この場合はテメェ等が何倍の戦力が必要かわかるか?』
 相手も何とか流れを取り戻そうとしているが、今さらそんな事を許すはずもない。敵部隊が突出した前衛役を包囲しようとするも、それを制する様にヴィリーの駆る重装機とフレスベルク率いる聖騎士団が立ちはだかる。
『な、あ……!?』
『傾聴なさい、憂国正義前線を名乗る愚者達よ。わたくしはメリアグレース聖教皇国当代教皇フレスベルク。徒に騒乱を掻き立て、遺族の心を乱した貴方達にかける慈悲はありません。申し開きが在るならば、法廷にて傾聴させて頂きましょう』
 同じ戦術をこちらが取れぬ道理もない。加えて、数だけでなく質もこちらが上なのだ。傭兵と神子は絶句する兵士たちを端から削る様に無力化してゆく。
 果たして――五機の鴉による戦闘の結果、敵総戦力の半数近くが撃破されるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ネルガロッテ・ノイン
※ヴェンデッタ搭乗
※アドリブ連携歓迎

「戦争がなくなると食えないってんなら傭兵でもやりなよ。それともフリーランスじゃ通用しない腕ってことなのか?」

言いつつ、UCを使用し機体に血液を流し込んで強化。【リミッター解除】EP-Xfaシステム・ガヤルドでの思考操縦形式を生かした機動性で【推力移動】。
敵の集団に突っ込み、BS-S全方位誘導レーザー砲で【範囲攻撃】【レーザー射撃】でまとめて攻撃。
そして格隊長機はRXSアンカーユニットを打ち込んで【捕縛】【敵を盾にする】で他方からの盾にしつつBXグリムリーパーで【なぎ払い】で撃破。
敵からの攻撃に対しては【第六感】【瞬間思考力】。

「来いよ、叩きのめしてやる」



●力もなく、覚悟もなく
『全く……戦争がなくなると食えないってんなら、オレらみたく傭兵でもやりなよ。それともフリーランスじゃ通用しない腕ってことなのか? まさか、安定した仕事が良いなんて甘ったれた事は言わねぇよな』
 灼熱の残火がちらちらと残る戦場。其処へ足を踏み入れたネルガロッテ・ノイン(超一流のヤブ医者・f31309)は、ちらりと周囲を一瞥しながらそう独り言ちる。
 漏れ聞こえた通信の内容から、同じ傭兵団に属する同僚たちも参戦している事に気付いてはいた。彼女の言う通り、腕さえあれば十分以上に報酬が約束されるだろう。相手も軍人だ、技量が低いはずもない。しかし彼らが欲するのは単なる金銭ではなく、地位や名誉、権力なのだ。
『ま、お前らの事情なんざどうでもいいわな。何であれ、こうして戦場にしゃしゃり出て来たんだ……覚悟はいいか?』
 そうしてネルガロッテは操縦桿を通し、復讐の名を冠する己が乗騎へと血液を注ぎ込んでゆく。血を力に、命を暴力に、金属の軋む不快音を響かせながら鉄騎はより禍々しい形態へと変じていった。
『これ以上戦力が減れば、拮抗状態の意地すら怪しくなるぞ!?』
『守りを固めろ! 我ら皇国が体勢を立て直すまでの時間を稼ぐのだッ!』
 それを見た『憂国正義戦線』の取った選択は守勢。先ほど散々に打ちのめされ、連携もなにもあったものではない。故に再編の猶予を欲したのだろうが、そんなものをいちいち待ってやる義理など無かった。
『無難な一手ではあるがよ。こっちからすればいい的だぜッ!』
 盾を構えつつ迎撃射を放ってくるが、ネルガロッテは地を這うような推力機動で襲い来る弾丸を危なげなく躱してゆく。片や、見た目だけを取り繕った旧式機。対して此方は安全制限を解除した有線直結式の思考操縦。そもそもからして、反応速度に天と地ほどの差があった。
『さて、こうして中に入り込みさえすれば……っと!』
『邪魔立てをするな、金銭目当ての傭兵風情が! 我等には大義があるのだ!』
 そうして守りを固めていた前列を薙ぎ払い、少女は敵集団の内部への突入に成功する。隊長格と思しき機体が盾撃で弾き飛ばそうと挑み掛かって来るも、逆に好都合だと笑みを浮かべた。
『大義ねぇ。御大層なのは良いけど、その傭兵風情に良いようにされてちゃ世話ないぜ』
 機体を半回転させて繰り出される一撃を躱しつつ、勢いそのままに背部アンカーを射出。そのまま敵機を絡め取るや、手元へと引き寄せて隊長機そのものを盾としてしまう。マニピュレーターを駆動させて藻掻き足掻くも、軋むのはワイヤーでなく関節部ばかりだ。
『そこまで言うなら、思想に殉じて見せるくらいの潔さを示してくれよ?』
『人質など恥ずかしくないのか!? 放せ、はな……待て、貴様らも撃つんじゃない!』
 加えて、なまじ大義名分を掲げていたのも不味かった。指揮官へ銃を向ける事に躊躇いを見せる者が居る一方、必要な犠牲だと切り捨てに走る兵士も出て来たのだ。どうすべきかと俄かに混乱し始める敵部隊を尻目に、ネルガロッテは背中のレーザー発振装置を起動させる。
『やるなら来いよ、叩きのめしてやる』
 瞬間、彼女を中心として全方位に向けて光条が迸る。判断に迷っていた各機にそれを避ける術などなく、次々と動力源を撃ち抜かれ機能停止へと陥ってゆく。幸運にも攻撃から逃れる事が出来た機体が咄嗟に応戦するも、攻撃は全て猟兵ではなく隊長機へと吸い込まれていった。
『が、ああっ!? 止めろ、止めろと言っているのが分からんのかッ!』
『要求を突き通すだけの実力もない、命を懸ける覚悟もない……ああ、これじゃあ立派な椅子にしがみ付こうとする訳だ』
 鉄屑と化した機体を放り捨てながら、代わりにビーム刃の大鎌を構えるネルガロッテ。そうして彼女は正しく死神が如き威容を以て、愚か者たちの妄想へ現実を叩きつけてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

グァーネッツォ・リトゥルスムィス
虚をつくのも戦闘で大事だが、偽りを騙し通せるほど戦場は甘くない
悠長な演説を許すハイネマンこそ、何かを待っているのか?
何であれ助太刀するぜ!

何をしでかすか分からないハイネマン達よりも、
一般人へ危害を加えるのも気にしない悪い意味で分かりやすい偽グレイル機達へ戦いを挑むぜ
初めての鉄巨人(キャバリア)が入り乱れる戦場にオレの『朽ちぬ闘魂』が昂るぞ!
他の猟兵や六大勢力のキャバリア含めて踏まれたり格闘攻撃や巨大弾丸に当たらないという決意のダッシュで戦場を駆け抜けて、
格闘攻撃するにもパイルバンカー放つにも大事なアンダーフレームをぶっ壊して無力化していくぜ
敵達はなるべく殺さず殺させず生きて償って貰うぞ!



●強敵へ挑むが戦士の華
(虚をつくのも戦闘で大事だが、偽りを騙し通せるほど戦場は甘くないぜ。現に『憂国正義戦線』の連中は苦戦しているし……悠長な演説を許したハイネマンこそ、何かを待っているのか?)
 巨大なる鉄と鋼がぶつかり合い、あちこちに無惨な骸を晒す集積場。平和とは程遠い光景を前にしながら、グァーネッツォは胸中にそんな疑問符を浮かべていた。はっきり言って、相手の行動は自ら勝機を捨てているに等しい。一発逆転の策があるのか、それとも単純な失策か。考えてもすぐに答えは出ない、となれば。
「何であれ、和平会談をこれ以上滅茶苦茶にさせる訳にはいかないもんな。オレも助太刀するぜ!」
 取り敢えず、はた迷惑な連中を叩きのめしてから考えれば良いだけだ。グァーネッツォは身の丈を超えるサイズの戦斧と竜槍を両手に構える。とは言え彼女自身、種族的に身長は決して高いとは言えない。見上げる鉄騎のサイズは、常人よりもなお巨大に見えているだろう。
「さて、と。何をしでかすか分からないハイネマン達よりも、一般人へ危害を加えるのも気にしない偽グレイル機達をどうにかするのが先かな。それじゃあ、まずは小手調べだぜ!」
 だが少女は臆するどころか、寧ろ戦意を激しく昂らせてゆく。分の悪い勝負を覆してこそ狂戦士の誉れ。敵が強大であればあるほど、彼女の闘志も燃え上がってゆくのだ。そうして得物を手に飛び出すや、まずは手近に居た鉄騎の脚部へと戦斧を全力で叩き込む。
『ぐっ、この衝撃は……歩兵だと!? しかも、なんだその原始的な武装は!』
 その一撃は装甲を凹ませ、内部駆動系に損傷を与える。不意に膝を着く機体に驚く敵兵士だったが、アイカメラに移ったグァーネッツォの姿に目を剥く。この世界の最強戦力たるキャバリアに斧や槍で挑むなど、本来であれば自殺行為。にも拘らず、それにより膝を着かされたと言う事実が相手の癪に障ったらしい。
『野蛮人風情がッ!』
 偽装機は咄嗟に手にした盾を振り上げるや、頭上から勢いよく叩きつけて来る。雑極まりない攻撃だが、彼我のサイズ差は五倍以上。直撃を受ければ、如何な力自慢とて圧殺は免れぬ。グァーネッツォが咄嗟に横へ飛び退いた瞬間、すぐ真横を落下した盾が地面へとめり込んでゆく。
「なるほど、これが鉄巨人のパワーか。やっぱし、デカいだけの事はあるぜ……!」
『ええい、ちょこまかと!』
 脚部を損傷している以上、距離を取られると盾が届かない。相手は苛立たし気に舌打ちするや、右手に保持したままだったライフルによる射撃を浴びせかけて来る。こちらも相手にとっては標準的な武装だが、生身の人間からすれば大砲の一撃に等しい。それがフルオートで襲い掛かるのだ。当たれば血霧と化すのは確実だ。
(大きなドラゴンとかは見慣れているけど、三十六世界にはまだまだこんなのも居るんだな……まったく、これだから戦いはやめられねぇぜ!)
 命中イコール死。そんな状況にも関わらず、グァーネッツォの顔に浮かぶは不敵な笑み。戦いとはそういうものだ。全力で挑み戦うからこそ楽しいのだ。彼女は一瞬たりとも足を止めることなく回避に専念し続けた後、相手のリロードタイミングを見計らって再度の接近を試みる。
「今度こそその機体、破壊してみせるぜ! とは言え、そっちの命までは奪わないけどな! 殺さず殺させず、生きて罪を償って貰うぞ!」
『何が罪かぁっ!』
 なればと、敵もまた次は確実に圧殺せんと盾を構える。先端部より打ち出された鉄杭はまるで丸太の様。ギラリと鈍く輝く先端部が一瞬にして視界いっぱいにまで広がり、そして。
「足腰が入っていない攻撃に当たるほど、オレは甘くないぜ!」
 直撃の寸前、身を低くし紙一重で攻撃を躱す。ちらりと金の髪を散らしながら相手の懐へと踏み込むや、そのまま腰部目掛けて得物を振り被る。
 その一撃は先程とは比較にならぬ威力を以て、相手を上下に分断。まるで達磨落としが如く、敵機の無力化に成功するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

勘解由小路・津雲
ふむ、他国の過激派が動いていると聞いたときは、いわゆる「テロリスト」のような連中かと思っていたが、各国の反応を見るかぎり、もっと大きな、それぞれの中枢にまで及ぶような勢力だったようだな。
まあ、そうでないとこれほど大規模な行動は起こせないか。

……しかし、そうなると、和平後に火種となりそうな連中がここで一網打尽にできるのでは? であれば災い転じて福となすことにも……、
いや、あるいはこれは結果的にそうなったのではなく、中佐の計算のうちだろうか? 中佐、何を考えている? 戦いのうちに死ぬ場所でも求めているのかと思ったが……。

と、戦端は開かれた、今は物思いにふけっている場合ではない。敵の攻撃は結界で防ごう。キャバリアの斉射を防ぐのは容易ではないが、幸い準備はしておいた。
結界を幾重にも張り巡らせれば、少々時間は稼げるだろう。

その間に後鬼を起動させる。会場にはもち込めないだろうから遠くに置いてきた。通常なら射程外だろう。しかし、これならどうかな? 
来たれ、八将神! 来臨守護・式神賦活!


吉備・狐珀
偽りの平和―、あながち間違っていると言いきれませんが
ですが偽りを本物に変えていくのはやりがいがあるというもの
そしてその力をニコライ殿はお持ちだと私は思っています

稲荷大神秘文でみけさん達を強化し戦闘開始
ウカ、月代!榴弾は爆発すると弾丸の破片が広範囲に飛散します。衝撃波をで弾丸を跳ね返しなさい!
ウケは結界で衝撃波で防ぎきれなかった弾丸の被害を防いで下さい!
みけさん彼ら相手に手を緩めるのは失礼というもの
全力で砲撃とレーザー射撃を!

…国の平和を守る為に兵士もキャバリアも誕生したのに、脅かす存在とされるとは皮肉ですね
しかも和平に証に出されたのは最前線で戦ってきた兵士でも、最新型でもない型落ち品
自尊心を傷つけられ、火種をちらつかせられながら燻ぶったままにされるくらいなら「平和を脅かすのは兵器だけにあらず」と疑問を投げかけ自らを差し出す
最後まで戦に身をおく兵士らしく―なんて
(邪推でしょうか?)

この場において最も不似合いなのは命を奪うこと
誰一人として死なせはしません!
ハイネマン殿、貴方達もです!



●思惑は交差し未だ見えず
『共同体、指揮系統喪失の混乱を立て直せずそのまま全滅ッ!?』
『協商連合、残存戦力半数を割りつつあり! 皇国の次席武官殿との通信も途絶しています!?』
 戦闘開始から暫くの後、既に戦況は『憂国正義戦線』側の劣勢が露呈し始めていた。各離反軍人たちのトップもちらほら討ち取られており、そうでない勢力とて残存戦力が当初の半数も居れば良い方だ。唯一の例外が在るとすれば、ハイネマン率いる自治領部隊くらいか。
「……ふむ。他国の過激派が動いていると聞いたときは、いわゆる『テロリスト』のような連中かと思っていたが。各国の反応を見るかぎり、もっと大きな、それぞれの中枢にまで及ぶような勢力だったようだな」
 ひっきりなしに飛び交う悲鳴染みた戦況報告。それを耳聡く拾い上げながら、津雲は小さく眉根を顰めている。彼も当初は、戦争狂が他国の兵士を煽ったのではないかと推察していた。だが、蓋を開けて見れば高級将校に類する面々が名を連ねており、件の中佐はその内の一人でしかない。
「まあ、そうでないとこれほど大規模な行動は起こせないか。とは言え、裏を返せば戦争で利を得ていた連中がそれほど根深かったと言う意味でもある。建前とは言え和平を為したい首脳陣からすれば頭の痛い問題だろう」
「偽りの平和――、その表現もあながち間違っていると言いきれませんが。ですが、偽りを本物に変えていくのはやりがいがあるというもの。そして、その力をニコライ殿はお持ちだと私は思っています」
 国家とは面子を何よりも重んずる組織である。それが和平会談と言う重要なイベントで泥を塗られたとあっては、間違いなく今後の関係性に影響が出るだろう。それを懸念する陰陽師であったが、傍らに佇んでいた狐珀は否と首を振った。
 公王となった青年が支払った代価は決して小さくない。しかし、そこから停戦のみならず和平と軍縮を引き出すと言うのはそう出来る芸当ではないはずだ。彼は確かに一国を担う人間へと成長出来ている。ならばきっと問題ないと、少女は力強く頷く。
 だがそれを受けてふと、津雲にある考えが浮かんできた。
(……しかし、それを踏まえて視点を変えた場合。上手くいけば和平後に火種となりそうな連中をここで一網打尽にできるのでは? であれば災い転じて福となすことにも……いや、あるいはこれは結果的にそうなったのではなく、中佐の計算のうちだろうか?)
 もし仮に、この様な機会を設けなければ。各国の不満分子は地下へと潜り、テロを始めとする根絶困難な活動に手を染めただろう。そういう意味では、こうして一纏まりになってくれた方が対処はしやすい。が、そうする事でハイネマンにどんな利があるのか?
(中佐、いったい何を考えている? 戦いのうちに死ぬ場所でも求めているのかと思ったが……まさか、今さら愛と平和にでも目覚めたか?)
「っ、キャバリア部隊が接近してきます! どうやら此方を発見されたようです、戦闘準備を!」
 と、そんな思索は仲間の警告によって断ち切られた。ハッと示された方向を見やれば、二個小隊ほどの鉄騎たちが二人目掛けて駆け寄ってきている。既に銃口も向けられており、交戦の意志は明白だった。
「と、今は物思いにふけっている場合ではなかったか……!」
「この後ろは首脳陣たちが居る天幕です! 既に集積場近くからは避難しているでしょうが、旧式とは言えキャバリアの機動力であればすぐに追いついてしまう筈。此処を抜かせる訳には参りません!」
 生身で巨大な鉄騎に挑むのは本来であれば自殺行為である。しかし、彼らは偽装機以上の巨躯を持つ『フォートレス』と真っ向から渡り合い、勝利を収めているのだ。今さら臆する事などあり得なかった。そうしてまずは仲間たちを強化すべく、狐像の少女は祈りと共に祝詞を口遊む。
「天狐地狐空狐赤狐白狐。稲荷の八霊五狐の神の光の玉なれば、夜の守、日の守、大成哉。浮世照らせし猛者達を守護し、慎み申す……!」
 奏上されし言の葉により、狐珀に付き従いし三柱の狐神と仔龍が飛躍的に霊力を高めてゆく。それと同時に敵軍の構えた銃口から無数の銃弾と榴弾が放たれるが、黒狐と月色の龍が瞬時に反応。迎撃の態勢を取る。
「ウカ、月代! 榴弾は爆発すると弾丸の破片が広範囲に飛散します。衝撃波で着弾よりも先に弾丸を跳ね返しなさい! ウケは結界を展開し、衝撃波で防ぎきれなかった弾丸の被害を防いで下さい! この場でこれ以上の流血を許してはなりません!」
 二匹の霊獣が霊力を収束させ解き放つや、不可視な圧力と化して迫り来る攻撃の軌道を逸らす。宙空で早爆した榴弾は周囲へ爆風と鉄片を撒き散らすも、それらも白狐が張り巡らせた結界によって完全にシャットアウトする事が出来た。だが爆煙に乗じて更に距離を詰めた鉄騎たちは、立て続けに第二射を試みる。
「みけさん、彼ら相手に手を緩めるのは失礼というもの。どれ程の欺瞞に彩られようとも、掲げた以上は大義に殉じて頂きます! さぁ、全力で砲撃とレーザー射撃を!」
 しかしその機先を制すように、鋼狐が五本の尻尾をゆらりと構えてゆく。瞬間、先端から幾条もの輝きが解き放たれる。複雑に絡み合うそれらはまるで虫網の如く鉄騎を絡め取るや、無数の鉄屑へと解体してゆくのであった。
『キャバリアに互する攻撃力か……! とは言え、耐久性まで同じではあるまいッ!』
「まぁ、通常であればその判断に間違いはないだろう。流石にキャバリアの斉射を防ぐのは容易ではないが……幸い、準備はしておいた。となれば話が変わって来ると言うものだ」
 とは言え、鋼狐のみで相手取るには些か以上に相手の頭数が多い。迎撃を抜けてきた機体が連携して弾幕を形成し始めるのだが、津雲に焦りは無かった。彼が剣指を切った瞬間、戦場全体へ十重二十重と障壁が生み出される。
 事前調査で爆薬の設置作業員へと話を聞きに行った際、その道中で予め霊符を会場各所に仕込んでいたのだ。一つ一つは微々たるもので在ろうとも、幾つもの基点によって霊的な陣を組み上げれば、キャバリアの弾丸を受け止めるまでに強度を高める事が出来た。
「長時間は持たんだろうが、これならば少々時間は稼げるだろう。それに、お陰で相手の足も止まった……そろそろ頃合いか。来たれ、八将神! 来臨守護・式神賦活!」
 僅かに生まれた猶予。それを無駄にしない為にも、陰陽師は次なる術式を展開せんとする。請い願うは牛頭天王が御子たる八人の御柱たち。だが、その威を注ぐ先は己自身ではない。
「キャバリアと言い張って会場へ運び込むには些か無理があったからな。遠くに置いてきた故、通常なら射程外だろう……尤も、これならどうかな?」
 そう言って彼が指し示すは、遥か遠方に駐機していた一機の二脚戦車だ。此処から見える姿は豆粒ほどで、到底攻撃が届くとは思えない。しかし神々の霊力が注ぎ込まれた結果、鉄の絡繰りは存在の位階を一時的に飛躍させていた。
『頭上に注意せよ! 敵の支援砲撃だ、散開すれば……っ!?』
 そうして放たれる、精霊砲による支援砲撃。神格の威を借り受けたその一撃は相手が結界を突破するよりも早く、敵群を纏めて吹き飛ばしてゆく。飛び散った残骸が周囲へと散らばり、無残な姿をそこかしこへと晒す。
 それを見て、狐像の少女は哀し気に瞳を伏せた。
「……国の平和を守る為に兵士もキャバリアも誕生したのに、脅かす存在とされるとは皮肉ですね。しかも和平に証に出されたのは最前線で戦ってきた兵士でも、最新型でもない型落ち品。其処には様々な意図や思惑が在るのでしょうけれど」
 戦乱時には英雄だ何だと持て囃される一方、平時には金食い虫だと揶揄される。国家や民草など身勝手なものだ、その点に関しては同情も出来よう。しかしそれに対して自らもまた身勝手さで対抗すれば、誰からの共感も得られまい。
「自尊心を傷つけられ、火種をちらつかせられながら燻ぶったままにされるくらいなら。『平和を脅かすのは兵器だけにあらず』と疑問を投げかけ、自らを差し出すという行為。もしかしたら、最後まで戦に身をおく兵士らしく――なんて。些か考えすぎでしょうか」
 そこまで高尚な裏側があるのか、現時点において未確定だ。ただ一つ分かることは眼前の脅威を取り除き、これ以上の流血を防がねばならぬという事。少女は瞳に戦意を漲らせながら、敵の奥で佇む独眼機へと視線を定めた。真実はどうあれ、こちらのスタンスに変わりはない。
「……この場において最も不似合いなのは命を奪うこと。誰一人として死なせはしません! ハイネマン殿、貴方達もです!」
 可能な限り『憂国正義戦線』を無力化する、ただその一点。彼らの犯した罪は、きっと彼らが所属していた国家自身が裁くはずだ。そして何より、如何なる理由であれ墓碑に刻む名前を一つでも増やしたくなかった。
「ま、そこら辺の考えは猟兵ごとにまた違ってくるだろうが……少なくとも、おれたちはそれを貫かせて貰おう」
 仲間の言葉に、二脚機の砲撃照準を無線越しに調整していた津雲が頷く。既に戦争は終わったのだ。更なる痛みを振りまいたと所で、誰の得にもなりはしない。斯くして陰陽師と狐像は攻守の役割を巧みに切り替えながら、敵戦力の漸減を続けてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
本当は、ね
自分は、此処に来るつもりは、なかった

だって此処には、暖かな、春の香りがしたもの
柔らかくて、くすぐったい、優しい味がしたもの
自分は、それを味わうのは、もったいなくって、場違いで
だから、来るつもりは、無かった

過去形、なんだよ

春が来る前に、冬がぶり返すのは、珍しいことでは無いよ
でも、それを、意図的に行うのであれば
……それを行う理由を、察することは出来るけども

それでも

ああ、自分は、本当に、怒っているんだよ
春が遠のく悲しみの感情を
それに抗う仲間の声の元に

コードを発動して、登場
兄姉を展開し、周囲の敵に攻撃を開始する

さて
拷問官としてでは無く、個人的に宣言するよ

あなた達を、許さない
決して、殺してやるモノか
終わらせてやるモノか

例え、何があったとしても
あなた達には、罪人として………生き恥をさらさしてやる、よ


ファン・ティンタン
【WIZ】怒りの緋
自由解釈可

戦場で、正義を語るな、虫酸が走るよ
それをやられるくらいなら、はじめから私欲丸出しの賊の方がまだ肯定出来る
不満はあるだろうけれど、あなた達はソレで死なないでしょう
一方、あなた達のつまらない名誉やエゴのせいで民が何人死にどれだけの物が潰えた? 数えたことある? ないでしょ?

言葉は仰々しく、されど真実を

あなた達は自分に力があると思うな
誰が飯を作り、鉄騎を造った?
道具を使う能がたまたまあって、たまたま使える立場にあっただけでしょう?

白き墓標の前に立ち、心からの言葉を

勘違いも甚だしい
これだから、戦士になり得ぬ“軍人”は嫌いなんだよ

攻撃の誘発、白の羽達はどこまで“散る”か
一方の私も、これだけの飽和攻撃では本来避け得ぬけれど
怒っているのは、私だけではないようだからね
彼が、何とかしてくれるだろう

……さて
自ら墓標を荒らしたんだ、墓は要らないのでしょう?
なら……緋色をもって荼毘に付する

【万象赫怒】
命を奪う道具を軽々しく使っているんだ
勿論、易易と奪われる覚悟も出来ているんだろうね?



●冷たき残雪を緋に溶かし
『残存戦力、残り三割を切る! 何故だ、どうしてこうなったのだ! 我々は正しいはずなのに!?』
『ハイネマン!? ハイネマンは何故動かん! そもそも、この計画は奴が……!』
 鳴り物入りで姿を見せた『憂国正義戦線』の面々であったが、その勢力は既に組織としての体裁を失いつつあった。軍事上で言えば既に全滅を通り越して壊滅判定を受けてもおかしくは無い状態だ。ただ後退する先もなく、然りとて降伏を選ぶことも受け入れらない。出来る事は辛うじて抵抗を継続しつつ、口々に何故だおかしいと喚く事だけ。
「ぎゃあぎゃあと喧しい……戦場で、正義を語るな。心底、虫酸が走るよ」
 その様を見て、ファンは憚ることなく不快感を露わにする。戦場において善悪を声高に叫ぶ事に如何ほどの意味が在ろうか。況や、己の正しさを信じているのならばわざわざ口に出す必要すらない。敢えて繰り返し口遊んでいる時点で、相手の性根が分かると言うもの。
「それをやられるくらいなら、はじめから私欲丸出しの賊の方がまだ肯定出来る。少なくともそちらはまだ、己の行為が何であるかを知っているのから」
「己の行為を知る、か……本当は、ね。自分は、此処に来るつもりは、なかった」
 傍らの少女が零した苛立ち。それに裡なる感情が想起されたのだろう。ぽつりと、ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)は小さくそう呟きを零す。言葉通り、彼は事前調査段階ではこの世界へ姿を見せていなかった。その理由は何故か。
「……だって此処には、暖かな、春の香りがしたもの。柔らかくて、くすぐったい、優しい味がしたもの。自分は、それを味わうのは、もったいなくって、場違いで……だから、来るつもりは、無かった」
 建前や水面下での対立がまだまだあるとは言え、人々が平和の到来を言祝いでいたのは間違いない。戦争と死が渦巻く冬を抜け、雪解けと共に平和の萌芽が感じられた。彼はそれを眩く思いながらも、陰鬱な自分には似合わぬと一歩引いていたのだ。そう――。
「……過去形、なんだよ」
 『いた』のだ。だが、彼はこうしてこの場に立って居る。その決断を下すに、どれ程の想いが渦巻いていたのか。ぎゅっと握り締められた拳に朱が滲む。激しい感情表現を不得手とする指潰しにとって、それは何よりも明確な意思表示なのだろう。
「春が来る前に、冬がぶり返すのは、珍しいことでは無いよ。でも、それを、意図的に行うのであれば……それを行う理由を、察することは出来るけども。同情の余地も、探せば在るのかもしれない。それでも……」
 絞り出すように言葉を紡ぐペインの元へと、数機の鉄騎たちが接近して来る。恐らく、ただ佇むだけの二人を与し易しと見たのか。闘争の気配を感じ取り、青年の纏う雰囲気が剣呑なものへと変化してゆく。
「……不満はあるだろうけれど、あなた達はソレで死なないでしょう。一方、あなた達のつまらない名誉やエゴのせいで民が何人死にどれだけの物が潰えた? 数えたことある? ないでしょ? きっと、大義の前の小事だとか言ってね」
 そんな想い人を慰む様にそっと握り拳を掌で包み込みながら、白き刃もまた迫る敵群へと視線を向けた。彼女もまた同じように相手の在り様に呆れ、嘆き、怒りを覚えているのだ。ならばそれを一人で抱え込まず、共に分かたんと少女は願う。
「あなた達は自分に力があると思うな。誰が飯を作り、鉄騎を造った? その資材を生み、財貨を支払ったのは? 彼らに目を向けないで、何が大義だ……道具を使う能がたまたまあって、たまたま使える立場にあっただけでしょう?」
 頑なだった拳は解かれ、そっと指と指とが絡み合う。しかし、それは一瞬。繋がれていた手はふっとまた離れてゆく。だがそれだけで十分だった。その刹那さえあれば、何も問題なかったのだ。
 そうして、ペインは己が周囲へと同胞たちを呼び寄せ、臨戦態勢を整える。
 一方のファンもまた、先の爆破によって吹き飛ばされた白刀を拾い上げ、構えた。
「勘違いも甚だしい。これだから、戦士になり得ぬ“軍人”は嫌いなんだよ」
「そう、だね。自分も、本当に、怒っているんだよ。春がまた、遠ざかってしまう事に」
 その言葉が聞こえているのか、いないのか。鉄騎たちは手にした銃器を突き付けて来る。だがそのトリガーが引かれるよりも早く、疾風の如く白き刃が飛び出した。相手も咄嗟に弾丸を撃ち放つも、それらは全て彼女の背後を穿つのみ。
『敵が突っ込んで来たぞ! 速い、生身でなんて速さだ!?』
『歩兵だとしても油断するな! 連中は単騎でキャバリアに抗しえる。まずは足を止めろ!』
 元々、どれも稼働可能状態とは言え旧式機である。整備状況など各国でまちまちの上、歴戦の猟兵を相手取れるほどの反応速度など期待すべくもない。ならばと、おおざっぱな狙いでも相手を巻き込める榴弾へと弾種を切り替えてゆく。
(判断自体は正しい。当初の考えとしては、機体性能を技量でカバーするつもりだったのだろうね……はてさて、白の羽達はどこまで“散る”か)
 至近距離で炸裂する爆発によって、礫や鉄騎の残骸が散弾の如く撒き散らされる。機動力に物を言わせて直撃を避けてはいるものの、細かな傷が肌へ刻まれてゆく。加えて地面には幾つもの砲弾跡が生み出され続けており、足場の状況は悪化する一方だ。
 だが他方、彼女は別の物へも注目していた。それは事前調査段階で突き立てた、無数の白刀たち。たかが砲撃程度で折れる強度ではないが、爆風に巻き上げられ四方八方へと飛ばされている。しかし、それで良いとファンは頷く。
(あちらは問題なさそうだけど、これだけの飽和攻撃を回避し続けるのは流石に難しくなってきたね。であれば、そろそろ虎穴に飛び込むべきか)
 そうしてまともに踏みしめられる地面が周囲に無くなった頃合いを見計らい、白き刃は鋭角的に進路を変えた。この弾幕より逃れたいと願うならば、敵中に飛び込み同士討ちを躊躇わせるより他にない。果たして、彼女は肌身を焼かれながらも群れ為す巨人の間へと辿り着く。
『っ、あの中を抜けて来たか……!』
『だが、それでどうするッ!』
 奇しくも、先の調査時と似たような状況。違う点と言えば、見上げる鉄騎が全て稼働し敵対していると言う点か。しかし、少女の表情に恐れは無い。在るのはただ、詰まらなさそうな視線のみ。
「悪いけれど、辿りつけさえ十分だ。後は……」
 ――彼が、何とかしてくれるだろう。
 刹那、ファンの周囲を血の如き真紅の霧が覆ってゆく。すわBC兵器かと警戒する敵のアイカメラに映し出されたのは、その中より飛び出す赤髪の青年だった。彼は想い人の姿と図頭上より見下ろしてくる鉄騎を一瞥し、ギリと奥歯を鳴らす。
「さて……少しばかり、私情が入るから。拷問官としてでは無く、個人的に宣言するよ」
『はっ、何を言う心算か。命乞いならば聞いてやらんことも……』
 ペインの周囲に拷問器具たちが浮かび上がる。即ち指潰し、鋭短刃、膝砕き、電磁棒、焼き鏝、九条鞭、重抱石、毒湯筒、そして骨翼枝。それらは相手の巨躯からすればささやかな大きさでしかない。何を持ち出すのかと訝しんでいた敵兵士たちは、思わずせせら笑いを零す。
 だが、そんな嘲りすら気にならぬ程に、青年は怒髪天を突いていた。
「……あなた達を、許さない。決して、殺してやるモノか。終わらせてやるモノか。死の恐怖は死そのものよりも恐ろしい事を、時には死の終焉が救いとなる事を、教えるよ」
 瞬間、末弟の意に応じ、拷問具たちが周囲の鉄騎へと殺到する。それらに相手を一撃で撃ち滅ぼす火力は確かにない。しかし、サイズ差を活かして機体内部へと侵入。配線を焼き切り、回路をショートさせ、フレームを腐食し、内側から瞬く間に崩壊させていった。
 一方で、宣言通りコックピット周りには一切手を出していない。尤も、外部からハッチを変形させた事で、中から脱出も儘ならないのだが。
「例え、何があったとしても。あなた達には、罪人として………生き恥をさらさしてやる、よ。平和を乱そうとした、愚か者として、ね」
『な、ぁ……!? 出せ、此処から出せッ!?』
 これにて一先ず猶予が出来た。このままペインに事後を任せても良いが、それでは敵が距離を取る可能性もある。故にここで完全に息の根を断つべく、ファンが動く。彼女は再び、手にせし白刀を地面へと突き立てた。
「……さて。自ら墓標を荒らしたんだ、もう墓は要らないのでしょう? ならばこれより……緋色を以て、荼毘に付する」
 すると刃へと注ぎ込まれた魔力を切っ掛けとして、戦場に散らばった白刀たちが一斉に目を覚ます。それは先の陰陽師と同様、無作為に配置した得物を起点とする術式である。ただ一点異なるとすれば、目的は防御ではなく殲滅だ。
『きゅ、急激な熱量増大……!? 貴様、一体何を!』
「命を奪う道具を軽々しく使っているんだ。勿論、易易と奪われる覚悟も出来ているんだろうね? まぁ、彼の宣告通り本当に消し飛ばすつもりは無いけれど……死の恐怖は味わって貰おうか」
 咄嗟に静止しようとする鉄騎の叫びを無視し、白き刃は術式を起動させた。刹那、刃の内側に紅蓮の輝きが幾つも生じたかと思うや……。
 ――空間そのものを埋め尽くす業火によって、敵群へ致命的な一撃を刻みつけてゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
ヴァシリッサ(f09894)と
人物・戦力共に信頼できる存在
彼女とは何度も共に戦っている、普段通り流れで連携を…

…抜け駆け?人聞きの悪い、仕事だ
頼むぞ、ヴァシリッサ

グレイル機及びハイネマンの部下を狙う
ヴァシリッサの援護を得て接近
UC発動、獣人の姿に変じてシールドでの格闘攻撃に備える
以前の戦闘では見せなかった姿、手の内は知られていない筈だ

盾の攻撃を誘い回避を試みる
強化した爪の一撃は、ヴァシリッサの攻撃で破損した箇所であれば効果が見込めるか
近距離で交戦して気を引き、ヴァシリッサの追撃を期待
ハイネマンの部下であれば、前回同じ戦場に立っていたかもしれない
その縁もある、コックピットは狙わずパイロットは捕縛を目指す
たとえ彼らが望まないとしても

…もし自分が戦う場を失ったらと、考える
それ以外の生き方など録に知らない自分がそうなった時、「普通」に生きられるのか…

…明るい声に、引き戻されるように我に返る
楽しんだ者勝ち、そういうものだろうか
ヴァシリッサのペースで呑まされれば潰れそうだ
お手柔らかに頼むと軽口を返す


ヴァシリッサ・フロレスク
呼ばれちゃ無いけど、愛車『ハティ』を駆り
愛しのシキ(f09107)の元へ♪

Ciao♪
抜駆けなンてツレないじゃない?
独りで愉しもうッてかい?

あァ、解ッてるサ、オシゴトだろ?
鉄巨人狩《ジャイアント・キリング》は予習済みだよ

持前の戦闘知識と、事前に情報収集した世界知識・対機兵白兵戦術を活かす

50口径の『ディヤーヴォル』でもセンサー、ガワの隙間、駆動系辺りを狙えば足留め程度にゃ充分
『スヴァローグ』を背負いハティで切り込み、操縦テクでフェイント、攪乱
怪力でHMGを片手撃ち
スナイパー顔負けの曲芸射撃でシキを援護

大層なオモチャだねェ?
ま、当たンなきゃ花火と一緒だろ?
精々愉しませてくれよ♪

銀狼へと変貌するシキの姿はいつ見ても血が騒ぐ

イイねェ♪
群狼《ヴォルフ・パック》のお通りだ

シキが作った隙を見切り
『ツェペシュMkⅧ』を装填したスヴァローグで強襲
跳び移りUCで零距離射撃
コクピットは外し制御系、動力系破壊を狙う

シキ?なンだい湿気たツラして
還ッたら凱旋パーティーだ、たンまり呑ますよ?

人生、愉しンだもん勝ちサ♪



●明日を想い、刹那に酔う
『誰か、生き残りは!? 戦闘可能な機体はあるか!』
『通信可能な指揮官は自治領のハイネマン中佐と王国の将軍殿……だけ!? あれだけ居た同志たちが、もはやこれだけだと!?』
 敗軍というのは今の『憂国正義戦線』をこそ指すのだろう。既に敵側の戦力は開戦当初から十分の一以下に減少している。諸条件が重なり戦力の温存に成功した自治領部隊を除けば、残存戦力は乱入時に大演説をぶった将軍の元へと寄り集まっていた。
(そろそろ、ハイネマン麾下の戦力にも手を付けた方が良いだろう。意図は未だ見えないが、出来れば奴を無傷のまま放置するのは避けたいところだ)
 そんな戦場を油断なく観察しながら、シキは手持ちの武器を改める。旧式とは言え、敵は総身鋼で作り上げられた鉄騎。生身で有効打を与えるにはある程度手が限られてしまう。加えて自治領部隊はこれまで友軍だった相手だ。手の内を知られていると考えた方が良い。
 さてどう攻略したものかと思案する銀狼だったが、不意にタイヤが砂利を噛み締める音を耳が捉える。すわ伏兵かと咄嗟に視線を走らせた先に居たのは、武骨な二輪車に跨った赤髪の美女だった。
「Ciao、シキ♪ 呼ばれちゃいないけど、来てやッたぜ。アタシを差し置いて抜け駆けなンてツレないじゃない? それとも、独りで愉しもうッてかい?」
 へらりと、妖し気な笑みを浮かべながら手を振るはヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)だった。シキとはこれまでも同じ依頼を共にした間柄、人物・戦力共に信頼できる相手である。小さく息を吐きつつも、銀狼の表情に微苦笑が浮かぶ
「……抜け駆け? 人聞きの悪い、これも仕事だ。急に出てきて一瞬驚いたが、見知った相手が来てくれたのは心強い。いつも通り頼むぞ、ヴァシリッサ」
「あァ、解ッてるサ、オシゴトだろ? 鉄巨人狩《ジャイアント・キリング》は予習済みだよ。あン時と比べれば火力も射程も低いポンコツみたいだし……ま、上手くやるさネ」
 そう言って二輪車に腰を落としたまま、ヴァシリッサは車両後部から長大な何かを引っ張り出す。それは12.7×108mm徹甲弾をフルオートでばら撒くバケモノ銃、50口径重機関銃『Дьявол(ディヤーヴォル)』だ。このデカブツをバイクに懸架して走り回りながら、急所をぶち抜こうと言う狙いか。
「50口径の『ディヤーヴォル』でもセンサー、ガワの隙間、駆動系辺りを狙えば足留め程度にゃ充分だ。あとは隙を見てとッておきを、ね。で、ソッチはどう動くつもりだい?」
「俺の得物は相手側に割れている。そのまま使用すれば、まず確実に対処されるだろう。なら、それの裏を掻いて……格闘戦を挑む」
 シキの言葉に女は思わず口笛を吹く。仲間の戦闘力を知っていたとしても、それはかなりの博打に思えたからだ。だがそんな女の視線に気付くと、銀狼は勘違いするなと手を振る。
「悪いが、正面切って殴り合うほど伊達や酔狂ではないさ。そちら同様、隙間や損傷部を食い破るのがメインだ。出来れば攻撃タイミングも合わせたいところだな」
「オーケー。それじゃアちょッくら、戦争狂とやらに挨拶をかましにいくしましょうかね!」
 ガォンと内燃機関を唸らせて、戦場へと飛び出してゆくヴァシリッサ。シキもまた暗緑の独眼機目指し、仲間へと追従し始めるのであった。

『ハイネマン、何をしている! 貴様の部隊が最も消耗が少ない。先駆けの嚆矢となり、我らが活路を切り開くのだッ!』
 一方、『憂国正義戦線』側では将軍がハイネマンへと命令をがなり立てていた。これ以上、本隊の戦力を消耗したくないのだろう。通信機から響く絶叫を聞き、部下が上官へと伺いを立てる。
『……中佐殿。そろそろ、頃合いですかね?』
『ああ、問題ない。頭数も減り、横槍の心配も無くなったしな。これまでよく堪えてくれた。もう、好きにして良いぞ。存分に楽しみ給え』
『Jawohl……それでは、お先に失礼致します』
 上官からの許可が出るや、配下の独眼機たちは猛然と猟兵たち目掛けて挑み掛かってゆく。その動きには一切の怯懦も迷いもない。遠退く配下たちの背中を眺めながら、男は薄く笑みを浮かべるのであった。

『ははははッ! もう戦闘が終わったと思ってはいないだろうな!』
『我らラインラント自治領軍は未だ健在。さぁ、相手をして貰おうか!』
 斯くして場違いなほど高い士気を見せつけながら、暗緑の独眼機『サイクロプス』たちがヴァシリッサの進行方向に立ち塞がる。だが見た目こそ他の連中と違えども機体性能は似たり寄ったり、武装も同じ装備に持ち変えている為、他の敵と同じ感覚で戦っても問題は無いだろう。
「はッ! アタシもしみッたれた連中を相手取るよか、こっちの方がまだ面白そうだ。さァ、追いついて見せな!」
 鉄騎の構えた銃口で石火が瞬いたかと思いきや、進路上で次々と土砂が噴き上がる。だが傭兵は僅かばかりの安全地帯を瞬時に見極めると、緩急を付けながらハンドルを巧みに操り、直撃を紙一重で避けてゆく。
「大層なオモチャだねェ? ま、当たンなきゃ派手な花火と一緒だろ? 精々愉しませてくれよ♪」
 そうして相手の側面から後方へと回り込むや、何と持ち前の膂力に任せて身の丈を超える重機関銃を片手で構える。そのままトリガーを押し込むや、凶悪な威力を誇る弾丸が立て続けに吐き出されてゆく。相手も動き回っているゆえ大半が装甲を穿つのみに留まるも、幾つかが脚部関節部の隙間へと入り込み、内部をズタズタに引き裂いていった。
『くっ、良い腕だ……だが、たかが足が使えなくなった程度でッ!』
「……ああ、そうだな。お前たちはそう言える手合いだ。ならお望み通り、今度は殴り合ってみるとしようか」
 膝を着く独眼機だが、それで諦める様子は無い。まだだと叫ぶ姿に一抹の懐かしさを覚えながら、ヴァシリッサの攪乱に乗じてシキは鉄騎の眼前へと躍り出た。対する相手も銀狼の事を覚えていたのだろう。喜色を滲ませながら吼え返す。
『はっ、クーデターの時ぶりか! 徹甲弾なら兎も角、拳銃弾で抜かれるほどヤワではない……だがあるんだろう、何か手が!』
 間近で猟兵たちの戦いを見てきた為か、侮りや油断は無い。寧ろいったい何をしてくるのかと言う期待すら、言葉には籠められていた。挑発に敢えて乗り巨大な盾を繰り出してくる鉄騎に対し、シキは一瞬だけ身を屈めると――。
「ハイネマン率いる部隊を前にして、見て呉れを気にしている場合では無いな。出し惜しみは無しだ」
 己の獣性を解放した。それは今までの本能や超感覚と言ったレベルではない。全身は銀の毛並みに覆われ、相貌もまた人ではなく狼のソレへと変化する。その姿は正しく人狼(ヴェアヴォルフ)と称するに相応しかった。
『おいおい、あの時はまだ本気じゃなかったってのか? 全く、見ていて飽きねぇなぁ!』
 そのまま振り下ろされる鋼板を、シキは横への跳躍でギリギリ躱す。そのまま地面へめり込んだ盾、それを掴む腕部を伝い、胸部コックピットまで迫り……そのまま、背面へと駆け抜ける。
(お互い、顔も知らぬ間柄ではない。あの時は間違いなく、共に戦う味方だった。出来るならば、生きたままの捕縛を狙いたい……例え、彼らが望まないとしても)
 操縦者を直接狙う事も出来た。だが、敢えてそれを選ばなかった彼を誰が誹る事が出来よう。銀狼は相手の背後を取るや、徹甲弾で穿たれた弾痕へと爪を掛け、表面装甲を荒々しく剥ぎ取ってゆく。
 と同時にけたたましいエンジン音が聞こえるや、彼は瞬時に離脱を選び射線を開ける。入れ替わりに仕掛けるは、スロットルを全開にしたヴァシリッサだ。
「イイねェ♪ 狼に変貌したシキはいつ見ても血が騒ぐよ……さぁて、群狼《ヴォルフ・パック》のお通りだ!」
 彼女がいま手にしているものは重機関銃ではなく、禍々しい装飾が施された射突杭。速度を微塵も緩めることなく彼我の距離をゼロにするや、シートを蹴って跳躍。仲間が切り開いた傷口へと鉄杭の切っ先を向ける。
「……悪いが、愛しいオトコの頼みでね? ヴァルハラ送りはまた今度だ」
 そうして撃発した瞬間、爆轟波により生成された液体金属の超高速噴流が内部機構を侵徹。叩き込まれたエネルギーは破壊へと変換され、まるで溶かし抉る様に独眼機の半身を吹き飛ばす。だが宣告通り、操縦席周りだけは無事だ。
『殺すのではなく生かす、か。ははっ、ここまで力量差を見せられては、悪態の一つも吐けないな』
 どこか満足げな呟きと共に、無力化される鉄騎。地面へと倒れ伏した巨大な骸を見下ろし、シキは静かに目を閉じる。
(……もしも、俺が戦う場を失ったら。彼らと同じように、それ以外の生き方など録に知らない自分がそうなった時、果たして『普通』に生きられるのか……この、忌まわしい獣性を抱えたまま)
 猟兵と言う存在の戦闘力は突出している。一騎当千の武将や権勢を誇る皇帝、大いなる龍など、様々な相手を討ち果たして来た。今はそれで良い。だがそれら終わった後、彼らと同じような主張に身を落とすかどうか。瞬時に否と断言する事は出来ない。
 いつか来る己の末路を、相手に重ね――。
「シキ? なンだい、勝ったってのに随分と湿気たツラして。還ッたら凱旋パーティーだ。悩みなンざ大抵酒で吹き飛ぶもンさ。だから、たンまり呑ますよ?」
 がしりと、首に手を回されて思考を断ち切られる。すぐ横を見れば、ニッと笑みを浮かべるヴァシリッサの顔がすぐ横に在った。眼鏡の奥にある瞳には、どこか内心を見透かす様な光が見える。そうして彼女はそっと顔を近づけ、耳元でそっと囁く。
「……人生、愉しンだもん勝ちサ♪」
「楽しんだ者勝ち……そういうものだろうか。しかし、ヴァシリッサのペースで呑まされれば潰れそうだ。全ては終わってからの話だが、お手柔らかに頼む」
 フッと苦笑を浮かべつつ、軽口を返すシキ。何はともあれ、戦いはまだ続いている。二人は新たに接近して来る敵の姿を認めると、再び戦闘へと身を投じるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鎹・たから
【煌々】
彼の真の姿を見るのは初めてで
搭乗前の彼が脳裏に過ぎる

ヴィルジールはたからの友達です
だけど時々
彼が何を考えているか、わからない時があります

たからはこの身ひとつで戦います
非武装の人々を守るために
被害が及ばぬよう彼らに雪のオーラ防御を施しましょう
大丈夫、たからがあなた達を守ります

艦長、少しお借りしますね
機体を時折足場として使わせてもらい
敵めがけて飛び跳ね【ダッシュ、空中戦、忍び足

居場所を悟られぬよう静かに駆け
手裏剣で敵兵の機体の足や腕を斬ります【暗殺、切り込み、2回攻撃

一斉掃射は残像やカスパールの陰に隠れて回避
カスパール、痛くないでしょうか
万が一攻撃が当たっても我慢できます

中佐へと向かう艦長の行く先を邪魔する旧式達は
たからが全て退けましょう

あなた達の横暴によって
悲しむ人々が居るのです
傷つくこども達が居るのです
そんなこと、たからは許せません

聴こえる友達の言葉

戦場で死ぬ以外にも
生きる道はあるはずで
けれど、中佐はそれを望まないのでしょう
たからにはわからなくても
ヴィルジールは、わかるのでしょう


ヴィルジール・エグマリヌ
【煌々】2
真の姿
白眼を黒く染め
鴉の嘴めいたマスクで口元隠す

カスパールに搭乗
たからは生身だっけ
私の機体、足場にでも使っておくれ

嗚呼、君は本当に正義の味方なんだね
その立居振る舞いはいつだって
私には眩しく見えるよ

とはいえ、心配だ
本当は相乗りできると良いんだけど
此処には彼女の助けを必要とする民衆が居る
ならば、君が危ない時は盾になろう
カスパールなら平気、頑丈なんだ

電気を纏った矢を放ち
兵卒たちの動きを止めてゆく
その隙に流し目ひとつ
視線の先に降り注ぐのは
炎を纏ったコインの雨
放たれた榴弾すら打ち落とし
敵の機体も燃やして仕舞おう

さて、此方は死神らしく
やるべきことをしようか
兵卒の間を駆け抜け
向かう先は戦争狂の中佐のもと

やあ、ハイネマン
君に終わりを届けに来たよ

――ねえ
君は“戦場で死ぬ”為にこんなことを?

まるで犠牲を抑える様な其の振舞に
少し考えが改まったよ

君が身を投じる場所が
戦乱の中にしか無いのなら
此処で終わらせてあげるのが
たぶん、一番良いと思う

望むなら真心を込めて
其の頭を射ってあげる

たからは、怒るかな



●終わりの刻は近く
『やはり、猟兵殿は強い。ああ、分かり切っていた事だ』
『だが、それで良い。それが良い。そうでなくば……』
 既に『憂国正義戦線』は事実上壊滅したと言って良い。筆頭格だった王国の将軍こそ健在だが、最早手勢は護衛の数機を残すのみ。一方、代わりにこの局面まで戦力を温存する事に成功していた自治領部隊が矢面へと出張っている。
 文字通り、敵の最終戦力。それにトドメを刺すべく、戦場へと足を踏み入れたのはヴィルジールとたからの二人だった。
「……成る程、彼らが動いたのか。これは少しばかり、本気を出した方が良さそうだね」
 姿を見せた暗緑の独眼機『サイクロプス』。性能的には偽グレイルとそう変わりはしないが、乗り手については別だ。スッと目を細める青年に対し、傍らの少女は恐る恐ると言った様子で声を掛ける。
「ヴィルジールは確か、以前に彼らと面識が……」
「ああ、あるよ。だからといって、否、だからこそ手を抜く事は出来ない。彼らはきっと、『そういう』ものだから」
 一年前に見たハイネマン麾下の兵士たちは、勝ち目のない防衛戦にも嬉々として飛び込んでゆく者たちだった。故にこそ、何となく察する事が出来るのだ。彼らが一体、何を求めているのかを。
 故にヴィルジールは躊躇う事無く、己が真の姿を解放する。瞳は白眼すらも漆黒に染まり、身に纏う空気が一段重みを増してゆく。彼はそんな己を隠すかのように、鴉の嘴じみたマスクで口元を覆う。
「たからは生身だっけ。そのままでは歩調を合わせるのも大変だろう。私の機体、足場にでも使っておくれ」
「ええ……ありがとう、ございます」
 そうして青年は呼び寄せた己の乗騎、四つ足の弓騎士『Caspar』の操縦席へと身体を滑り込ませた。起動した弓騎士はそっと少女に手を差し伸べ、自らの肩へと導いてゆく。
 本来、キャバリアに搭乗したことの無いたからにとって、それは心躍る体験の筈だ。しかしその表情は何故か、少しばかり陰が差しているように思える。
(……ヴィルジールは、たからの友達です。だけど、時々。彼が何を考えているか、わからない時があります。いまも、そう)
 清廉洒脱な青年の持つ真の姿。それを見たのは今日が初めてだった。普段とは違う姿、そして彼だけが知るかつての戦い。それらが相まって、よく見知ったはずの相手が何処か遠い存在になってしまったような錯覚を覚えてしまう。
 だが、そんな思索が長々と続けられる余裕など戦場には無い。地響きを耳にしハッと視線を向けると、その先には無数の独眼機たちが待ち受けていた。少女は頭を振って、漠然とした不安を断ち切る。
「相手は鉄の巨人……でも、たからはこの身ひとつで戦います。非武装の人々を守るために、ただただ純粋に平和を願う方のために。大丈夫、たからがみんな達を守ります!」
 此処で退けば、周辺諸国は戦乱の時代へ逆戻りしてしまう。臆することなく拳を握り、せめて少しでも被害を抑えようと、後方へ雪の防御結界を張り巡らせるたから。そんな友輩の姿を、ヴィルジールはそっとアイカメラ越しに見つめていた。
(今日、来たばかりなのに。ついさっき、出逢ったばかりなのに。それでも躊躇う事無く、彼らを守らんと決意できる……嗚呼、君は本当に正義の味方なんだね。その立居振る舞いはいつだって、私には眩しく見えるよ)
 人知れず少女が不安を抱く一方、青年の胸中に浮かぶは憧れと敬意。染まらず、擦り切れていないその在り様は如何なる宝石よりも輝かしく感じるのだろう。それを傷つけてはならぬと、操縦桿を握る手にも力が籠る。
『頼れる実力だと知っているが、やはり心配だ。本当は相乗りできると良いんだけど、此処には助けを必要とする民衆が居る。ならばたからが彼らを守る様に、私が君の盾と成ろう。カスパールなら平気、頑丈なんだ』
「ありがとうございます、艦長。なら、少しだけお借りしますね?」
 青年の言葉にはにかみながらたからは機体を足場として飛び出してゆく。恐らくは忍び寄って何か仕掛けるつもりなのだろう。生身の兵士は見つかりにくいが、それでもセンサー類に感知されないとも限らないのだ。敵の注意を惹く事も兼ねて、ヴィルジールは弓に矢を番え引き絞る。
『銃器と言うのも悪くは無いけれどね。弓の趣と言うのも、それはそれで乙なものだよ?』
 鏃に電撃を纏わせながら、ひょうと風切り音を立てて最初の一射を放つ。独眼機も攻撃に気付きアイカメラを収縮させるが、回避行動よりも先に鋭矢が装甲を穿った。
『っ、制御系統に異常発生!? 気を付けろ、あの矢は高圧電流を帯びているぞ!』
『ほぉう、前に見た時はそんな効果なぞ無かったはずだがな。賭け事らしく手札を伏せていたという事か、面白い!』
 行動不能に陥る仲間を横目に、そうでなければと嗤う兵士たち。彼らは敢えて銃器を選ばす、榴弾による曲射射撃を放たんと試みる。だが先の攻防に乗じて接近していたたからが、機先を潰すべく先手を打って動く。
「キャバリアも人型である以上、構造自体はある程度人間に殉じているはず。なら、武器を保持している関節部を狙えば!」
 取り出すは六花を象った氷晶の手裏剣。それを投擲するや、腕部の肘部分へと命中。装甲の隙間から制御ケーブルを切断すると、ぐらりと糸の切れた人形が如く腕が垂れ下がった。
『なんだ、腕部に異常!? あれは……伏兵か、いつの間に!』
 攻撃を止める事に成功した一方、此方の存在もまた相手に気付かれてしまった。兵士は操縦席からの操作を一旦諦めると、機体を上下に振って鞭の如く腕をしならせる。遠心力により、銃身内に残ったグレネードを誘爆させようと言う魂胆なのだろう。
『元より、猟兵相手に無傷で勝てるとは思っちゃいねぇ。ああ、そうだ。こちらも全力で行かせて貰おうッ!』
 そうなれば生身のたからは勿論、鉄騎とて無事では済むまい。しかしそれすら承知の上だと、兵士は自滅覚悟で少女を道連れにすべく、突撃銃を掴んだままの腕を振り下ろす……。
『残念だが、それは見過ごせないよ。盾になると言った早々、傷を付けられては私の沽券にも関わるからね』
 寸前、ヴィルジールは流れる様に敵へと視線を向けた。不正やイカサマが珍しくない卓上で、その悉くを見破って来た観察眼。それは戦闘においても真価を発揮し、少女の危険に目敏く気付いたのである。とは言え切った張ったは戦場の倣い。命知らずの度胸に対する代価は、天より降り注ぐ無数の黄金だった。
『今度は炎を纏った金貨、だと? 不味い、炎は元よりこれだけの量が積み重なれば……!?』
 それらは突撃銃の上へと降り注ぎ、小高い山と化す。金は柔らかい一方、金属の中では比較的重い元素だ。その内部で爆薬が炸裂すれば、どうなるか。高温で熱せられたグレネードは、相手が腕を引き抜くよりも先に限界を迎え……。
『純金に彩られて斃れると言うのも、散り様としては中々に贅沢な部類だろうさ』
 再び、黄金の雨が降り注ぐ。熱せられた金色が固形流体問わず周囲の機体へと纏わりつき、元来の重量と蓄積させた熱によって次々と無力化してゆく。無論、たからは弓騎士の背後へと舞い戻っており無事だ。
「カスパールにも、少し掛かってしまっていますね。痛くないでしょうか?」
『離れていた分、飛んできた量もたかが知れているから大丈夫……さて、此方は死神らしく、やるべきことをしようか。この場は任せても良いかい、たから?』
「はい。艦長の行く先を邪魔する旧式達はたからが全て退けましょう!」
 敵が体勢を立て直すまで、僅かながらに猶予がある。その気に乗じ、ヴィルジールは敵の間を抜け戦争狂の元へと駆けてゆく。一方の少女は青年への追撃を防ぐべく、その場に残って鉄騎たちと対峙していた。
『ちっ、抜かれたか。こちらも随分と減らされたが、まだだ。まだ粘らせて貰うぞ』
「いいえ、此処で終わらせます。あなた達の横暴によって、悲しむ人々が居るのです。傷つくこども達が居るのです。そんなこと……たからは許せません」
 まだ辛うじて無事な機体が立ち上がり、猟兵を睨む。一方のたからもまた、真っ直ぐに鋼鉄の巨人を見つめ返してゆく。そんな揺るぎ無い在り方を前に、兵士はほんのわずかに毒気を抜かれたらしかった。
『ああ、正しい。お嬢ちゃんが全く以て正しいだろう。だがな、俺たちはこれしかなくて……これが良いのさ』
 まただ。彼女には分からなくて、青年ならば理解できた理屈。それに何かしらの反論を口にしようとして、不意に。
 ――遠くから、友達の声が聞こえた。

『……やあ、ハイネマン。一年ぶりだね。君に終わりを届けに来たよ』
『おやおや、久方ぶりの再会だと言うのに剣呑だね?』
 他方、敵陣の奥へと向かったヴィルジールは目的の人物と相対していた。モニター越しに表示される、眼鏡をかけた痩せぎすの男。変わっていない。この男は何一つ変わっていない。だからこそ、青年は単刀直入に問いを口にする。
『――ねえ。何故、君は“戦場で死ぬ”為にこんなことを?』
 対して、男の答えは相も変らぬ微笑のみ。だがそれを意に介する事無く、猟兵は先を紡ぐ。
『まるで犠牲を抑える様な其の振舞に、少し考えが改まったよ。ただ純粋に、君は闘争だけを愛しているんだ。だからこそ、余計な横槍を嫌ったのだろう』
『……まぁ、昔のトラウマという奴だ。政治を戦争に持ち込まれたね』
 皮肉気に肩を竦めながら、ハイネマンは得物を構える。それに応じ、ヴィルジールもまた弓矢の弦を引き絞る。言葉を交わしながらも、両者はそれが行き着く先を既に知っていた。
『君が身を投じる場所が戦乱の中にしか無いのなら、此処で終わらせてあげるのがたぶん、一番良いと思う。法廷や絞首刑台での最後なんて、御免だろうしね? 望むなら真心を込めて。其の頭を射ってあげよう』
『は、冗談を。私には武器があり、手足があり、命がある。戦わずして死ぬなどそれこそ、だ』
 これ以上の言葉は不要とばかりに、独眼機は銃弾をばら撒きつつ鉄杭付きの盾を構えて吶喊して来る。対して、ヴィルジールは張り詰めた弦より指を放して矢を解き放ちながら、ふとこんな事を想い浮かべていた。
(結局は、こうなってしまったけれど。これを知ったら……)
 ――たからは、怒るかな、と。

(戦場で死ぬ以外にも、生きる道は必ずあるはずで。けれど、中佐はそれを望まないのでしょう。選べないのではなく、きっと自らの意志で選ばないのでしょう)
 青年と戦争狂。両者の会話は少女の元へも届いていた。無力化した独眼機の残骸に立ちながら、彼女は静かにその内容を反芻してゆく。彼らの理屈に理解も、納得も出来ない。だが、そうした道を選びたがる者が居ると言う事実だけが、嫌が応にも認めざるを得なかった。
(そう……たからにはわからなくても。ヴィルジールは、わかるのでしょう)
 それと同時に、どうしても青年との間に言い表せぬ隔たりと寂しさを感じてしまって。
 そんなたからの目元へ、ちらりと一粒の俄雪が舞い落ちるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『敗残者の王』

POW   :    果てし者よ、惰眠にはまだ早く
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【戦場で破壊されたキャバリアの残骸や武装】の威力と攻撃回数が3倍になる。
SPD   :    望む終わりは未だ来たらず
【戦場に散乱する残骸で補修した即席改造機体】に変身する。変身の度に自身の【武装】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
WIZ   :    数多の敗北を識るが故に
【機体に刻まれた膨大な『敗北の記憶』から】対象の攻撃を予想し、回避する。

イラスト:御崎ゆずるは

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●嗤え、敗残者の王よ
『なぜだ……なぁぁああぜだぁぁぁああああっ!?』
 戦場に将軍と呼ばれた男の絶叫が木霊する。既に大勢は決していた。あれだけ群れを成していた『憂国正義戦線』の手勢は全て、地面を埋め尽くすスクラップと化している。奇しくも、式典で予定されていた光景と同じ結末。違うと言えば、その中に同数の人間が混ざっている事か。尤も、猟兵の尽力によってその大半は無力化ないし捕縛済みだ。
『勝てる筈ではなかったのか!? 我ら大義を掲げし精兵が挑めば、勝敗は決すると! 公国に反感を持つ者が賛同すると! そう言ったではないか……ハイネマンッ!』
 戦術上の欠点すら見えず、ただ喚き散らす将軍。戦い振りから見るに精兵という言もあながち間違っていないのだろうが、現実ではなく願望だけを見つめていればこうなるのも当然だろう。
 苛立たし気に将軍が視線を向けた先には、半壊状態で立つのもやっとと言う独眼機が居た。既に部下たちも撃破され、ハイネマンもまた孤立無援。だが、相も変わらず男は薄ら笑いを浮かべ続けている。
『いえいえ、将軍閣下。これも想定通りです。全ては順調。全く以て順調に推移致しました』
『なに? まさか、ここから逆転する一手が在るのか! 新たな増援か、戦略級兵器か? ははは、戦争狂と謡われる貴様の事だ。何かやるとは思っていたぞ!』
 男の言葉に一転して期待を寄せる将軍。そんな相手へ、ハイネマンは軋む鉄騎を引きずりながら歩み寄る。そうして彼は、同じく半壊状態の偽装機へと手を伸ばすと――。
『ええ、よく言われますよ……良くも悪くも、ですがね』
『は…………?』
 盾に搭載された鉄杭を以て、将軍の座す偽装機を打ち抜いた。動力部を貫かれ、糸が切れた人形の様に崩れ落ちる鉄騎。ずるりと得物を引き抜きながら、男は周囲を取り囲む猟兵と護衛部隊へと向き直る。
 そうしてコックピットハッチが開かれると、眼鏡をかけた痩せぎすの男が姿を見せた。
「さて、さて。ご苦労様だったね、猟兵諸君。手間を掛けて誠に申し訳ないが、君たちであれば必ずや彼らを殲滅してくれると信じていたよ」
 にこやかな笑みを浮かべつつ、男はパチパチと拍手を送って来る。だが、それで警戒を緩める者は居なかった。眼だ。眼鏡越しに見える男の眼は、未だ爛々と輝いているのだ。彼を良く知らぬ者でも、これで終わりなどと楽観視することは出来なかった。
 そんな大方の予想に応ずるように、ハイネマンは続けて口を開く。
「だが……まだだ。まだ、私が残っている。どちらかを屈服させぬ限り、一兵残らず殲滅しない限り、戦争は終わらない。そうだろう、諸君?」
「ハイネマン殿ッ! あなたは……いったい、どうして!?」
 紛れもない戦闘続行宣言。それに対して思わず問いを叫んだのは、避難したはずのサフォーノフだった。彼もまた男の行動に疑問を抱いていた人物だ。真意を確かめるため、危険を承知で戻って来たのだろう。内容が漠然としているのは、どこから尋ねれば良いか掴み切れぬからか。
「ふむ……何故、か。きっと、これが最後の機会だ。少しばかり語らうのも乙だろう。全ては実に単純な話だ。私が私で在る以上、当然の帰結だ。公王殿、私はね」
 ――猟兵諸君が大好きなのだよ。故に敵対せねばならなかったのだ。

「……この一年の間に、猟兵諸君とは二度ほど肩を並べて戦った。緊急防衛戦、首都侵攻戦。どれも敵は強大であり、此方は劣勢であり、そして諸君らの戦い振りは見事だった。とても、とても楽しいひと時だった」
 常人であれば御免被りたい戦いばかりだが、彼にとってはその一つ一つが心震えるものだったのだろう。懐かしそうに目を細めながら、ハイネマンは眼鏡のクイと持ち上げる。
「対国家攻略用戦略級キャバリア『フォートレス』、殲禍炎剣制御特化型キャバリア『ネハシム・セラフ』。どれも難敵だった。だが、諸君らはそれを見事退けて見せた……その過程で、私の心の中にある欲が生まれたのだよ。諸君らと全力で戦えば、どれほど楽しいのかと、ね」
 戦争とは手段だ。何かしかの目的を達成するための過程に過ぎない。だが、男はその道中にこそ生きる意義を見出している。『戦争狂』と誰もが称するほどに、狂人の理論に殉じているのだ。
「だが、哀しいかな。諸君らは私が理由もなくただ勝負を挑んでも、きっと全力を出さぬだろう。故に、本気で挑まざるを得ない『理由』が必要だった。だからこの和平会談は残念に思うと同時に、渡り船でもあったのだよ。この重要な転換期であれば、諸君らは必ず来ると信じていたのでね」
 それがハイネマンの動機だった。和平会談を襲撃する事で猟兵を呼び寄せ、互いに全力を以て闘争を繰り広げる。ただ、それだけだ。猟兵が来ない場合も十分にあり得たが、それならそれで和平会談を蹂躙。再び彼の望む戦乱を再開するつもりだったのだろう。
「幸い、部下もみな私と同じ馬鹿者ばかりでね。手勢や装備については問題なかった。そうして、我々は地下へと潜り行動し始めたのだが……此処で、余り宜しくない馬鹿者が出て来てしまった」
 それが『憂国正義戦線』、その元となった各国のタカ派軍人たちである。彼らもまた、和平会談の襲撃を計画していた。だがその目的はハイネマンの様な闘争そのものではなく、政治的権力争いの一環として、だ。
「……一年前の緊急防衛戦時、当初計画されていた迎撃作戦は政争の具にされ失敗した。あんな事の二の舞は真っ平御免だったのだよ。ただ、かと言って事前に潰そうとすれば我々の動きが悟られかねない。だから、敢えて彼らと合流したのだ。わざと蜂起を失敗させるためにね?」
 ハイネマン属するラインラント自治領は建前上公国の一部だが、名前の通りその独立性は高い。強国に支配された屈辱と復讐、などと宣えば付け入る事は難しくなかったのだろう。加えて、『戦争狂』の通り名も今回はプラスに働いた。よもや、そんな男がわざと負けるために戦うなど、『憂国正義戦線』の面々は思わなかったはずだ。
「実に大変だったよ。欠陥を孕んだ作戦を如何に尤もらしく押し通すか。各勢力の折衝だの、余計な要素を混じらせぬよう末端の統制だの……だが、お陰でこうして諸君らと相見える事が出来た」
 この男は、やはり狂っている。猟兵と戦いたい、ただそれだけの為に六勢力を相手取って大立ち回りを繰り広げたのだから。そして、それを成功させてしまうだけの能力が在るのも厄介だった。

「あとは、まぁ……戦友に対する、ちょっとした餞別か」
 ひとしきり話し終えたハイネマンは、最後にサフォーノフへと視線を送る。戦争狂と公王の利害は対立している。だがもし、猟兵側が勝利すれば和平反対派は一掃される上、離反者を出さなかった公国は侵略側故に低かった発言力を向上させる事が出来るだろう。
 そんな意図を察し、思わずサフォーノフは口を開く。
「……ハイネマン殿。無為と承知で言わせて頂きます。降伏を。これ以上の戦闘に意味はありません」
「戦闘に意味など無いのは当たり前だよ、サフォーノフ殿。それに勘違いしている様だがね、私はまだ勝ちを諦めるつもりなど毛頭ないのだよ?」
「ッ、そんな半壊状態の機体でなにを……!?」
 拒絶の言葉と共に、ハイネマンは近くにあったキャバリアの残骸を鷲掴む。破損した部位を引き千切り、規格も無視してまだ使用可能なパーツを独眼機へと取り付けてゆく。そうして瞬く間に『サイクロプス』のシルエットは膨れ上がり、異形へと変貌を遂げる。
 機体バランスは滅茶苦茶、別規格の装備を取り付けた事でOSはコンフリクトを起こし、常人では到底扱い切れぬであろう旧式以前のガラクタ。されど、数多の鉄骸を纏い、これで良いと嗤う男の姿も相まって、その姿はまるで……。
 ――敗残者の王と、呼べるものだった。
『これは必要に駆られての防衛戦ではない。誰かの思惑に乗った殴り込みでもない。国家も、責務も、利害も、一切関係ない……私の、私だけの戦争だ! ただただ純粋なる闘争だ! さぁ、猟兵諸君……』

 ――我々の戦争を始めよう。

 此処が一年前に端を発する戦いの終着点。
 何を想い、何を感じ、如何に戦うか。それは猟兵一人一人に委ねられた。
 さぁ、今こそ――戦乱の残火を払う時が来たのだ。

※マスターより
プレイング受付は26日(金)朝8:30~開始致します。
 細かいルールはありません。無数のスクラップの中、戦争狂との真っ向勝負となります。
 なおMSコメントに記載の通り、成功条件に『襲撃首謀者の生死・捕縛の成否は問われません』。
 ハイネマン中佐がどうなるかは、皆様の行動如何となります。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
ネルガロッテ・ノイン
※ヴェンデッタ搭乗
※アドリブ連携歓迎

「手段が目的化しちまった…ってことなのかな」
誰にともなく呟く
軍人、それも優秀である者ほどままあることだ。
だが永遠に戦争を続けられる国家などない。不死の人間がいないように。
「アンタの戦争を終わらせてやるよ」
ガリ、とくわえたロリポップをかみ砕いて【リミッター解除】、システム・ガヤルドを全開に。
まずはBS-S全方位誘導レーザー砲の【レーザー射撃】【範囲攻撃】で敵機の移動を制限する。
ついで【推力移動】で一気に接敵し、BXグリムリーパーを使用したUCでコクピットを避け、動力部だけを一刀両断する。
「アンタは生きてもらう。アンタには、生きてこの先を見守る義務がある筈だ!」



●勝者にこそ自由在り
『猟兵と全力の闘争を、か……手段が目的化しちまった、ってことなのかな』
 ハイネマンの独白と宣戦布告を聞き終え、ネルガロッテは操縦席でそう誰にともなく独り言ちる。男の論理は極めて歪なものだ。だが、彼女とて医者だ。様々な者の生き様と死に様を見てきた。だからこそ、その在り方が全く分からぬ訳ではない。
(軍人、それも優秀である者ほどままあることだ。何処かで折れちまえば、或いは仕方が無いと割り切れれば、また違っていただろう。でも……アイツは自らの在り方を貫けちまった)
 永遠に戦争を続けられる国家などない。不死の人間がいないように、いつかは終わりを迎える。だが闘争に耽溺し続ける事が『出来てしまった』者は、それを是とする事が出来ないのだろう。魚が陸で生きられぬように、鳥が宇宙を舞えぬように。
 そこまで考えを巡らせた果てに、少女はガリと咥えていたロリポップを噛み砕いた。
『……アンタの戦争を終わらせてやるよ。もっともっとと強請る余裕が無くなるまで、全力で付き合ってやる』
『そいつは実に素敵な話だ。こんな事を言うのも変だが、心から感謝させて貰おう。付き合っていられぬと、匙を投げられる可能性も有るにはあったからね』
 数多の骸の上でゆらりと乗機を揺らめかせる戦争狂。相手の機体はガラクタの寄せ集め同然だが、だからと言って侮る気など毛頭なかった。ネルガロッテは有線直結された操縦システムを介し、再び制御機構を解除してゆく。だが、その度合いは先程よりも一歩踏み込んだもの。最低限の安全性だけを残しつつ、能力の向上に全力を注ぎ込む。
『それじゃあ、まずは小手調べだ。この程度で墜ちないでくれよッ!』
 斯くして臨戦態勢を整えるや、ネルガロッテは出力を最大まで上げ一気に最高速度まで加速してゆく。それと並行し、背面のレーザー発振装置を起動。変幻自在の軌道を誇る光条を放ち、敵機の周囲一帯へと降り注がせる。
(とは言え、こいつは飽くまでも足止めを兼ねた牽制。本命はこっちだ)
 狙い通り、相手は降り注ぐ熱線に対して回避に専念しているらしかった。それを確認すると、少女はビーム刃を備えた大鎌『BXグリムリーパー』を取り出し構えた。
 レーザーによる飽和攻撃で身動きを封じ、高出力の光刃による斬撃を以て敵機を両断、速やかに無力化する。極めてシンプルだが効果的な一手だ。そうして瞬く間に両者の距離は詰まりゆく。相手を攻撃圏内へと捉えたネルガロッテは得物を大きく振り被り、そして。
『生憎、攻撃一辺倒の猪武者ではない。絡め手だろうと何だろうと、取れる手は全て使わせて貰おう』
『っ、爆破時に使った目晦ましか!? だが、もう逃げる時間はねぇ!』
 相手の足元から猛烈な勢いで煙が噴き出した。恐らく『憂国正義戦線』が出現した際に使った煙幕の残りだろう。一瞬にして相手の姿が白い靄に覆われてしまうが、それでも構わぬと光刃鎌を振り抜く。どのみち、飛び退く時間すらも無い。見えずともそのまま両断してしまえば良いと考えたのだ、が。
『っ、ソイツは……また随分とデカブツを引っ張り出してきやがったな』
『持ち込んだ鋼板に少しばかり細工をしたのだよ。サイズがサイズだ、構えるまで悟られたくはなかったものでね?』
 伝わってくるのは硬い手応え。攻撃の余波で煙が晴れると、視界に飛び込んできたのは巨大な鉄塊が如き大剣であった。分厚く頑丈そうな刀身は、如何なビーム刃であろうとも両断するのは至難の業である。
『全く、どんだけ手札を隠してるんだか……そもそも扱えるのかよ、ソレ?』
『語るよりも、見て貰った方が速いだろうさ』
 ごうと風を掻き乱し、振るわれる巨剣。咄嗟に飛び退くネルガロッテだったが、相手の攻撃は止まらない。逆に振り回されてもおかしくない大質量を巧みに操り、縦に横にと斬撃を繰り出してくる。
 だが、対する少女の技量もまた尋常ではなかった。掠めただけでも引き裂かれかねない連撃を凌ぎつつ、隙あらば反撃も狙ってゆく。しかし、ビーム刃が向かう狙う先を見て戦争狂はふむと眉根を顰める。
『……コックピットではなく、動力部狙いかね?』
『流石に気付くか。ああ、そうだ。アンタは生きてもらう』
 光刃と鉄塊、ぞれぞれの得物を鍔競り合わせながら少女は獰猛な笑みを浮かべた。
『こんだけの事をしでかしたんだ。アンタには、生きてこの先を見守る義務がある筈だ!』
『なるほど。ならば勝って見せ給えよ。戦場において相手の生殺与奪を手にするには、それ以外の方法はないのだからね』
『はっ、言われるまでもねぇ!』
 此処は戦場、己が意を通す術は勝利ただ一つ。
 斯くして両者は自らの望みを叶えるべく、紙一重の攻防を続けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイミィ・ブラッディバック
(引き続きセラフィム・リッパー隊と共に行動)

平和を歩みだす国に、自分のような戦闘狂は不要となると。
趣味と実益を兼ねた最良の選択肢ということですか。

では、貴方に相応しい末路をご用意しましょう。
《Overlord System Activated──Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Ex Machina》
(アナウンスと共にTYPE[JM-E]が真の姿、白翼形態に変形)

その機体が敗残者の王たるならば、私は勝利の象徴として戦うまでだ。我が開発コード「Michael」の名に賭けて!
セフィロトシステム、起動──!

戦場で破壊されたキャバリアの残骸を利用することで強化されるならば、対処方法はある。
セフィロトウェポンを両手に構え、円状に照射して残骸を全て無に帰す。
セラフィム・リッパー隊、奴を足止めしろ!
その間に接近し、動力部を狙ってパイルバンカーモードとしたLONGINUSを突き立てる!
裁定は下った、貴様には永劫に戦う事のない宿命を与える!
それが貴様への神罰だ!



●神は裁き
 戦場を埋め尽くす夥しい数の残骸群。倒れ伏す鋼の骸を踏みしめながら、敗残者の王は好敵手たちを待ち受けている。そんな戦争狂の前へ次いで姿を見せたのは、自律稼働するセラフィム・リッパ―を引き連れた真白きキャバリアであった。操縦席へと己を接続したジェイミィは、カメラ越しに敵機を見据えつつ言葉を掛けてゆく。
『……平和を歩みだす国に、自分のような戦闘狂は不要となると。故に和平会談を最後の花舞台と見定め、こうして尋常の勝負が出来る状況へと持ち込んだ。詰まるところ、趣味と実益を兼ねた最良の選択肢ということですか』
『そう言われると些か面映ゆいがね。望みを叶えるにはこうするより他に無かった、というだけの話だ。後先考えぬ愚か者の奔走に過ぎんよ』
 ハイネマンは眼鏡の位置を直しつつ、そう自嘲気味に苦笑を零す。尤も、戦機がそれを額面通りに受け取る事は無かった。実際のところがどうであれ、相手はほぼ独力でこの状況を作り上げたのだ。その手腕、そして何よりも男をそこまで突き動かす闘争心を侮る事など出来るはずもない。
 故にこそ、ジェイミィは己が全力を以て当たると始めから決めていた。
『後先考えぬ、ですか……それでは、貴方に相応しい末路をご用意しましょう』
 ――《Overlord System Activated》
 ──《Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Ex Machina》
 鳴り響くは電子音声によるアナウンス。無機質でありながらどこか神聖さを帯びたソレが聖句を唱えると、三対六枚の翼状ユニットが背面に展開。鉄騎がそれらを一打ちするや、音もなく爪先が地面より離れてゆく。
『その機体が敗残者の王たるならば、私は勝利の象徴として戦うまでだ。我が開発コード「Michael」の名に賭けて! セフィロトシステム、起動──!』
 変化はそれだけに留まらない。白翼に包まれた背より眩いばかりの輝きが生まれたかと思うや、それらは付き従う十二機の熾天使たちを介し広がり始める。伸び、捻じれ、複雑に絡み合う光が描き出すは、十の球体と二十二の小径によって組み上げられし生命の系統樹。
 鋼で出来た存在にも拘らず、纏う雰囲気は清らかなる聖性。常人であれば畏怖の念を禁じ得ぬ光景を前に、しかして戦争に狂した男は喝采を叫ぶ。
『はははは、何とも素晴らしいじゃないか! 戦場に神なぞ居ない、居るとすれば砲兵が女神だとよく言うがね。相対する者としてもこれ以上のものはない!』
 天使たちはハイネマンの頭上を取っている。故に相手はまず上空へ向けて突撃銃を乱射しながら、対空迎撃手段として残骸の中よりミサイルポッドを引っ張り出し接続。立て続けに誘導弾を放ってゆく。
『骸の山に囲まれて、そちらはまるで地獄にでも立っているかのようだな。いや、あながち間違いでもない、か……ならば、その悉くを浄化するまで! セラフィム・リッパー隊、奴を足止めしろ!』
 対して、神の如きモノは従僕たちへと命令を下す。瞬時にそれへと反応した熾天使たちは迫り来るミサイル群を鎧袖一触に迎撃するや、全周囲より敵機を取り囲む。彼らは自らに冠された『切断者』の名を示すが如く、光剣を以て斬り掛かってゆく、が。
『……無人機も悪くは無い。微かに自我も感じられる。だが、しかし。戦争とは人間が、意志あるモノが行うべきだ。そうは思わんかね?』
 相手は足元に散らばるスクラップを巨剣で掬い上げる様に吹き飛ばし、即席のチャフを形成。熾天使のレーダーを撹乱しつつ、手近に居た個体へと肉薄し鉄塊が如き刃を叩き込む。熾天使も咄嗟に光剣を突き立て反撃するものの、そのまま押し切られ一刀の元に両断されてしまった。
 片や、指揮官機や特記戦力として運用される念動機。片や、ただでさえ旧式化していた量産型の継ぎ接ぎ。機体性能の差は圧倒的、にも関わらず対等に渡り合えるのはやはり乗り手の技量か。
『生き汚く、泥臭く、それでもなお勝利を望む執念をこそ私は美しいと思う。だからこそ、私もその純粋さに殉じよう』
『いいや、させん! 同胞の骸は元より、天使の血肉へ手を掛けんとするは驕り以外の何ものにも非ず!』
 撃破した機体の武装を利用しようと、マニピュレータを伸ばすハイネマン。だが、それにジェイミィは待ったを掛ける。彼は峻厳と慈悲の名を冠する二挺の破城バスターライフルを両腕に構えるや、躊躇なくトリガーを押し込む。瞬間、白翼機を中心として極大の光条が解き放たれ、散乱していた熾天使の残骸ごとスクラップを消滅させていった。
『こいつは何とも苛烈じゃないか……! 塩の柱にでもなった気分だ!』
『安心しろ。貴様が向かう先はその様に生易しくは無いッ!』
 しゅうしゅうと蒸気を上げる地面は赤熱化しており、当然ながら利用できそうな部品は見当たらない。獰猛に笑う相手を抑え込む様に熾天使たちが鉄騎へ取りつくと同時に、ジェイミィは射突形態に変じさせた機甲槍へと得物を持ち変えつつ吶喊。動力部目掛けて杭先を繰り出す。
『裁定は下った、貴様には永劫に戦う事のない宿命を与える! それが貴様への神罰だ!』
『ははは、済まないがそれは御免被る。我々の闘争ははまだ始まったばかりなのだから!』
 対して相手は左肩部の大盾で身を隠しつつ、不安定な機体バランスを逆に活かして強引に巨刃を振るう。果たして、両者のシルエットが交錯し、そして。
『嗚呼、やはり……良いなぁ、諸君らは。実に愉しませてくれる』
『ッ!? こればかりは流石と言わざるを得ないか……!』
 鉄杭の一撃は相手の左肩部を大きく抉り取る事に成功した一方、目標であった動力部にはあと僅かに届かない。追撃を試みるが、返す刀で大剣を叩き込まれ強引に引き剥がされてしまう。
 単騎で猟兵を相手取ろうとする狂人、その技量に偽りはなしか。ジェイミィは相手の戦闘力を上方修正しつつ、少しでも余力を削がんと引き続き刃を交えるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

グァーネッツォ・リトゥルスムィス
会ったばかりだが、オレこそもしかしたら戦闘を望んだ果てに冒険者や勇者、猟兵の敵になっていたかもしれないから、他人とは思えないぞ
でも、お前に譲れない想いがあるように、今のオレにも譲れない未来があるんだ、互いに全力を出し切ろうぜ!

オレの全力はさっきと変わらない、走って跳んで『グラウンドクラッシャー』を叩き込む!
キャバリアだけじゃなくて今回は戦場の残骸や武装も標的だ、平原に凹みが出来ても会談を守れれば良いよな!
物理武装だけじゃなくてレーザーや爆発物、毒物もあるだろうから体に封魔悪滅繃帯を巻いて致命傷だけは避ける、多少の怪我は厭わん!

お前は出来れば逃がしたい、戦争狂だから助けられる人もいると信じたいぞ



●真っ向勝負に後腐れは勿体なく
『ふ、ふふ……早々に左腕を持っていかれたか。加えて周囲のスクラップまで消し飛ばすとは、流石と言わざるを得んな。だが先ほど諸君らが戦ったように、愚か者の数は多い。当然、撒き散らされた残骸も一戦二戦程度で消え去る様な量ではないのだよ』
 装備していた大盾ごと左腕を吹き飛ばされたと言うのに、ハイネマンはこれ以上ないほど上機嫌だった。彼は大きく後方に跳躍して膝を着くや、手近にあったキャバリアの腕部を強引に左肩へと取り付けてゆく。
狂戦士からすれば正に歓迎すべき好敵手だろう。だがにも拘らず、グァーネッツオが相手に向ける視線には冷静さが滲んでいた。
(中佐とは今日会ったばかりだけど、あれは間違いなく同類だ……オレこそ、もしかしたら戦闘を望んだ果てに冒険者や勇者、猟兵の敵になっていたかもしれない。だから、他人とは思えないぞ)
 戦争狂の姿は闘争を求め続けた者が行き着く一つの終着点だ。自分も同じ末路を辿っていた可能性が脳裏を過り、昂っていた思考を冷ましてゆく。しかし同時に、戦士としての魂はどうしようもなく相手に惹かれていた。
「でも、お前に譲れない想いがあるように、今のオレにも譲れない未来があるんだ。どっちに転んでも悔いが無いように、互いに全力を出し切ろうぜ!」
『ははは! そうだ、それで良い。戦いは複雑だが、一方でシンプルであるべきだ』
 故にグァーネッツオは頭を振って余計な思考を払うと、闘志に満ちた笑みを浮かべながら得物を構え直す。それを見たハイネマンもまた、嬉しそうに嗤い返しながら相対する。もはや問答は無用、後は剣矛を以て語らうのみだ。
『生身で在ろうとも手加減はせぬよ。全力こそが貴君らへの敬意であるが故に!』
「分かってるじゃないか! それじゃあこっちも行くぜ!」
 砲口を向けて来る異形機に対し、グァーネッツオは地を蹴って這うように駆け出してゆく。瞬間、周囲で次々と爆発が巻き起こる。先の戦闘で偽グレイルが使っていた榴弾や、どこからか引っ張り出して来た誘導弾を放ったのだろう。弾が切れると同時に、新たな武装を手に取り装着しているのが見えた。
(やるべき事はさっきと変わらないけど、残骸を利用するのが厄介だぜ……! となれば、キャバリアだけじゃなくてあっちもどうにかしなきゃか。平原に凹みが出来ても、会談を守れればそれで良いよな!)
 立て続けに炸裂する爆炎が肌身を焼くが、複雑な紋様の描かれた繃帯を体に巻いて応急処置とする。本来は敵の動きを封じる為の物だが、その丈夫さゆえにこうした使い方にも利用出来るのだ。
 そうして攻撃を凌ぎつつ、狂戦士は細かく敵の動きを観察してゆく。やはり、半ば無尽蔵に供給される予備パーツや武装が問題か。あれがある限り、異形機の継戦能力が衰えることは無い。なればと、グァーネッツオは竜骨を肩へと担ぎ直す。
「せぇ、のぉっ……!」
 彼女は相手が次なる武装へと手を伸ばす瞬間を見計らい。振り上げた竜骨を勢いよく地面へ振り下ろす。体躯こそ常人よりも小柄だがその膂力は尋常ではなく、地面ごと残骸を粉砕し弾薬の補給を阻止する事に成功した。
『ふむ、やはりこちらを狙われるか。だが、不用意に近づけばこうなるのだよ!』
 一瞬だけハイネマンは目を剥くも、すぐさま猟兵に反応。力比べだとばかりに巨刃をグァーネッツオ目掛けて繰り出してくる。対して、彼女もまたそれに受けて立つ。刹那、凄まじい重圧が全身にのしかかり、踏みしめた地面が衝撃に耐え切れず割れ砕けた。
「真っ向勝負か、良いぜ……全力を出し切るって言ったんだ、、多少の怪我は厭わん!」
『お、おお、おおおおおっ!?』
 だが、ここで潰されるなど狂戦士の名折れ。グァーネッツオは一瞬だけ膝を曲げて溜めを作ると、渾身の力を以て鉄塊が如き剣を押し返した。まさか単純に力負けするとは思わず、然しもの戦争狂も今度こそ驚愕が叫びとなって口からまろび出る。
「ただ、命まで奪うつもりは無い。寧ろ、お前は出来れば逃がしたい、戦争狂だから助けられる人もいると信じたいぞ!」
『むざむざ諸君らに背を向けてかね? 敗北すればその指示に従うのもやぶさかではないが、今はまだその時ではないだろう!』
 たたらを踏む異形機目掛けて、狂戦士は得物を振り被る。対して相手も誘導弾を発射するが、その程度で勢いに乗った猟兵を止める事など出来る筈もなく――。
「なら、その時が来るまで……身の振り方の一つくらいに覚えておいてくれよな?」
 強烈な一撃を以て、異形機は強かに打ち据えられるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎹・たから
【煌々】2

ただ、戦いたいから
それだけなのですね
受けて立ちます

残骸に身を潜みながら【暗殺、忍び足
手裏剣であらん限り武装をたたっ斬ります
何度でも、機体が動かなくなるまで

弾雨を降らす友達の
心からの殺意

ああ、そうなのです
たからが本当に嫌なのは

艦長が中佐の息の根を止めるなら
カスパールの肩に乗って彼を止めます

ごめんなさい、ヴィルジール
でも、嫌なのです

たからはヴィルジールに!
人を殺してほしくないのです!

カスパールの肩から王様の機体へと飛び
精一杯の蹴りを【ダッシュ、空中戦、貫通攻撃
壊れてしまう機体に
ごめんなさい、と一言

中佐には謝らない
あなたに恨まれても
たからはあなたを死なせません

これは、たからのわがままです


ヴィルジール・エグマリヌ
【煌々】2

真の姿
白眼は黒く
鴉の嘴めいたマスク嵌め

いいよ
君が其れを望むなら
全力で相手になろう

機体が自己修復を続けるなら
其れが追い付かなく成る迄
壊し続けてあげる

狼谷より愛を込めて――

弾が切れる迄
ライフルから呪殺の弾丸を射出

先程も言ったけどね
ハイネマン
私は君を此処で終わらせる心算だよ

其れが、犠牲を最小限に抑え
母国へ義理を貫いた君への
最大限の敬意だと思う
別に、君が嫌いな訳じゃ無いんだ

弾丸の雨で押し切った隙に
其の頭へ心を込めて青鉄の矢を放つ

ねえ、敗残者の王様
私たちとの戦争は、愉しかった?

ーーあ

危ないことをするんだね
君らしいよ、たから

とはいえ
中途半端に退くのも彼に失礼かな
王の躰が壊れる迄は戦争に興じようか



●想うだけでは届かぬ故に
『また、随分と愉快な提案がなされたものだ。とは言え、今ではなく先の事について考えるのは少しばかり早計だろう。後先を考えて勝てる程、猟兵諸君も甘くは無い』
 機体を散々に打ち据えられたにも拘らず、ハイネマンの口振りは飽くまでも楽し気だった。彼は引き千切られてしまった武装を再度纏い直し、再びそのシルエットを禍々しく増大させてゆく。
『さぁ、戦おう。死力を尽くし、魂を燃え上がらせ、己が全てを賭してぶつかり合おう。その為に、私はこの場に立ったのだから』
 撃ち抜いても、切り捨てても、打ち壊しても。同胞の骸を糧として鋼の巨人は再生し蘇り続ける。男を突き動かすのは、ただ猟兵と全力で戦いたいと言う一念だ。故にこそ、青年と少女は戦争狂を止めるにはその望みを果たさせる以外に無いと改めて悟る。
『その果てにどの様な末路が待っていようとも、きっと笑って受け入れるのだろうね……いいよ。君が其れを望むなら、私も全力で相手になろう。機体が自己修復を続けるなら、其れが追い付かなく成る迄、壊し続けてあげる』
 引き続き弓騎士の操縦席に座すヴィルジールは、すぅと漆黒に染まった瞳を細めゆく。彼はハイネマンと言う人間を知っていた。一見すれば破綻している望みをこそ、相手は請い願っているのだと理解出来たのだ。故にこそ、青年は先程と同じように弓に矢を番え引き絞る。
「……ただ、戦いたいから。本当に、それだけなのですね。成し遂げたい何かが在る訳でも、守りたい誰かが居るのでもなく、戦う事だけを求めて……ええ、分かりました。たからも、受けて立ちます」
 そして、弓騎士の肩に乗るたからもまた嫌が応に理解してしまう。眼前に立つ敵は自らと決定的に価値観が異なる生き物なのだと。だからこそ、傍らの友は初めから対話でなく闘争を選んだのだと。
 この瞬間、初めて少女の経験が青年に追いついた。しかし、それが齎したのは戦いを避けられぬという冷たい事実のみ。彼女は一瞬だけ眼を閉じながら深呼吸すると、自らもまた戦闘を行うべく鉄騎の肩から飛び降りる。
(全てが終わった時、立って居るのはきっと、どちらか一方だけ。勿論、たからは艦長が勝つって信じています。だけど……それなのに)
 これから弓騎士は一切の手加減なしで戦闘に臨むのだろう。闘争は間違いなく苛烈を極め、どちらかが斃れるまで止まることは無いはず。それこそが戦争狂が求め、享楽艦の長が応じた遊戯なのだ。無論、少女は友に生き残って欲しいと願う。だが同時に何故か、胸が締め付けられるような感覚を覚える。
 それがいったい何であるのか。彼女がその答えを出すよりも前に、鳴り響く銃声が開戦を告げるのであった。

『弓矢と言うのも実にクラシカルで好ましい。ただ、連射性と言う点ではやはり銃に軍配が上がると言うものだ。さぁ、どう対処か見せて貰おう!』
 先に仕掛けたのはハイネマンだった。彼はアサルトライフルの銃口を突き付けるや、躊躇なくトリガーを引いた。立て続けに放たれる銃弾が弓騎士の装甲を叩き、甲高い金属音を響かせてゆく。
『伊達や酔狂という点では、そちらも良い勝負だと思うけれどね。ただ、君の言にも一理あるよ』
 対して、ヴィルジールは先制攻撃に一切動ずることなく弦から指を放す。解き放たれた鋭矢は風切音と共に異形機を目指すが、相手はそれを受けた部下がどうなったかを知っている。故にハイネマンは防御ではなく回避を瞬時に選択。攻撃の手を止めてでも確実に鏃を避けていった。
 彼の言う通り、弓矢が第二射を放つまでにはどんなに急いでも数秒を要する。男にとってはそれだけで十二分。再装填の隙を突いて肉薄し、巨刃を叩き込まんと推進器を吹かそうとした――。
『だから……こんな物を用意してみたんだ』
『ッ!?』
 瞬間、頭部アイカメラに銃口が突き付けられた。モニターいっぱいに広がるそれは、漆黒の銃身に精緻な金細工が走るマスケット銃。その奥で火花が瞬いたのを認識するや、ハイネマンは半ば反射的に操縦桿を叩く。刹那、一瞬前まで頭部の有った場所を弾丸が通り過ぎる。
 ひやりと一滴、汗を頬に伝わせながら男はそれでも不敵に笑みを浮かべた。
『ははは、こいつは何とも素敵だ! 銃は銃でも、わざわざ古式ゆかしい形式を貫くとは!』
『ただ、性能までそうだとは限らないよ。さぁ、狼谷より愛を込めて――』
 しかし、弓騎士の攻勢は一発だけに留まらぬ。正にそれは魔弾の射手が如き猛攻だった。第二射、第三射と間髪入れずに弾丸は放たれ、余りの射撃間隔に銃声は途切れることなく一つの長き唸りと化して耳朶を苛んでゆく。
 何とか回避に徹しようとする異形機。だが取り込んだ武装は火力と装甲を強化する引き換えとして、当然ながらその分だけ機体重量を増加させ回避性能が低下してしまう。故に相手は榴弾や誘導弾による相殺や、装甲厚のある部位での受け流しを試みる。それは功を奏し、武装の減少と引き換えに再度距離を詰めてゆくことに成功する、が。
「……たからも居る事をお忘れですか、中佐。一人だけ除け者というのは、とても寂しいんですよ?」
『ッ!? 関節部に凍結警告……!』
 ガクンと、つんのめる様にその動きが止まる。ハッとハイネマンがモニターに視線を走らせれば、脚部関節を中心とした異常報告が画面に踊っていた。それは氷刃手裏剣を手にした少女によるもの。
 狩猟の魔王が弾丸は、最後の一発を除いて射手の望んだ場所へと導かれる。故にこそ、生身の人間が両者の間を駆け回ったとしても掠める事など在り得ない。そのまま、たからは完全に相手の動きを止めるべく得物を振るい続けてゆく。
「全部、全部、見える限りの全てを斬り捨てます。再び武装を身に纏おうと、何度でも。機体が動かなくなるまで、その果てに艦長が貴方を……倒す、まで。たからは……!」
『…………ふむ』
 このままでは完全に足が止まる。そうなれば事態は致命的な段階へと至るだろう。故にハイネマンは歩兵を振り払うべく、対人用Sマインの起爆スイッチへと指を掛けた。だが、ちらりと。ほんの微かに舞い散った雫を認め、指先に籠められた力が緩む。
『先程も言ったけどね、ハイネマン? 私は君を此処で終わらせる心算だよ』
 そんな周囲の機微を知ってか知らずか。ジリジリと攻勢の圧力を高めながら、ヴィルジールは再度そう宣告する。青年が定めた方針は変わらない。だがそれは、憎悪や嫌悪とは真逆の感情に起因するものだ。
『其れが、犠牲を最小限に抑え、母国へ義理を貫いた君への、最大限の敬意だと思う。別に、君が嫌いな訳じゃ無いんだ。法廷で糾弾され、死に様を衆目へ晒されるのは、余りにも忍びないと思ってね』
『既に勝つ前提で話されるのは些か癪だが、その配慮は誠に痛み入るよ。まぁ、私は自身の末路にそこまで頓着していないがね。ああ……「私自身」については、だ』
 含みのある物言いにヴィルジールは少しだけ眉根を顰める。だがその疑念が像を結ぶ前に、操縦桿が不意に空虚な感触を伝えてきた。それと同時に鳴り響いていた銃声もピタリと止む。
 マスケット銃の弾丸が尽きた。両者はほぼ同時にそう認識するが、動いたのはハイネマンの方が一瞬早かった。背部スラスターを一気に最大出力まで上げると、巨刃を担ぎ上げて吶喊してゆく。
『さぁ、耐え切ったぞ。今度はこちらの番と行かせて貰おう!』
『……いいや。これでお仕舞いさ』
 だが、組み上げられたのは先程と瓜二つの状況。大剣を振り被る異形機の頭部へピタリと宛がわれるは、弓に番え直された矢だった。弾切れの機を狙っていたのは、何も敵だけでは無い。ただ一度目と違うのは、今度は避けようが無いと言うただ一点。
 そうして終わりを齎すまでの刹那、青年は静かに問いを口にする。
『ねえ、敗残者の王様……私たちとの戦争は、愉しかったかい?』
『ああ、無論だとも。私と君の戦いは実に良い物だった。だが、そうだね……』

 ――どうやら、『彼女』はそう思っていない様だよ?

 次の瞬間に起こった出来事は、完全にヴィルジールの予想外であった。モニター画面いっぱいに映るは、共に戦争狂を追い立てていたはずの友達。少女は眦に雫を浮かべながら、弓騎士のアイカメラ前へと立ちはだかっていたのだ。まるで敵を庇うかのように、青年に最後の一撃を放たせない様に。
『……――あ』
「ようやく、分かりました。ああ、そうなのです。たからが本当に嫌なのは……除け者にされる事でも、分からない事でも無くて」
 呆気にとられるヴィルジールを尻目に、たからは機体を蹴って跳躍。はらはらと宙空に涙の軌跡を残しながら、彼女は異形機へと向き直る。
「……ごめんなさい、ヴィルジール。これはきっと、単なる独り善がりなのでしょう。それでも、どうしても嫌なのです。たからはヴィルジールに!」

 ――人を殺してほしくないのです!

 それが少女にとっての真実だった。もしこのまま事態を見過ごしてしまえば、追いついた青年の背中がまた遠ざかってしまう。そう思い至った瞬間、彼女は胸の痛みの正体を悟ったのだ。あとはもう、自然と身体が動いていた。
 たからは迫る鉄躯を視界に捉えるや、くるりと身体を反転。凍気を纏った蹴撃を猛烈な勢いで叩き込んでゆく。その勢いは凄まじく、霜に覆われた武装を蹴り砕きながら相手を押し返す程だ。
「……ごめんなさい、乱暴に壊してしまって」
 少女は今一度、小さく謝罪を口にする。だがそれは青年や戦争狂にではなく、自らが打ち壊す鉄騎に対して。それを耳にしたハイネマンは何故か反撃らしい反撃を行う様子も無いまま、薄っすらと微笑を浮かべるだけだ。
『私には何もなしかね?』
「ええ、中佐には謝りません。あなたに恨まれても、たからはあなたを死なせません。だってこれは……たからの、わがままですから」
『ふふっ、やはり君は戦場が似合わん人間だよ。だが、それで良いのだろうさ』
 交わす言葉はそれっきり。最後に渾身の一撃を打ち込むや、異形機はそのまま遠くへと吹き飛ばされていった。派手に地面を転がり土煙を巻き上げるも、この程度で死ぬような相手ではないだろう。
 そんな光景を見つめながら、既に我に返っていたヴィルジールは苦笑と共に小さく息を吐く。
(随分と危ないことをするんだね。一歩間違えれば、諸共に射貫いていたかもしれないのに……でも実に君らしいよ、たから)
 青年の胸中に去来する感情は何と言い表せばよいのだろうか。複雑で様々な感情が綯い交ぜとなったものだ。だが、不思議とそれは心地よいもので。
『……とはいえ、中途半端に退くのも彼に失礼かな。王の躰が壊れる迄はこのまま戦争に興じよう。尤もその前に、たからへ掛ける言葉を絞り出す方が先だろうか』
 そうして青年はこちらへと歩み寄ってくる少女の姿を認めながら、僅かに肩の力を抜くのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エドゥアルト・ルーデル
磯野ーもといハイネマン氏ー戦争しようぜー
いやーそこそこ付き合い長かったけどあんま言うことなくてネ…お互い戦争屋ならお返事って弾丸でするもんじゃん?
まあ強いて何か言うなら前菜が腕も頭もないクソで不満が有頂天でござる!明るく楽しく元気よく殺し合いさせてくれよな!

対物ライフル担いで生身で駆け回りますぞ!さてどないしよでござる、修復持ちの相手はね面倒なのよ
爆撃機とか出して大火力で吹き飛ばしたい…何より得意技を出さないのは無作法というもの…でもここではそらをとぶはできねぇンだ!おFuck!
小細工するしかねぇ!残骸を取り込むなら残骸に仕掛けをすればいいじゃない!
残骸に爆発物を仕掛けますぞ!爆弾持たせてこっそり野に放っておいた流体金属君がね!
残骸に張り付かせて一緒に取り込まれたら中から起爆させたる!

吹き飛んだら更にもう一発!残骸が剥がれた箇所目掛けて【グラビティ】発射!着弾地に謎爆発をおこし元々の装甲を粉砕でござる!
最後に対物ライフルをダメ押しにシューッ!これがァ!猟兵ん力だァァァァ!


チェスカー・アーマライト
連携アドリブ歓迎
機体損壊OK
(ビッグタイガーも廃材や中古部品で修理した機体)

平和の祭典もテロリストも
なんもかんもをベット(賭け金に)して
挑む相手は猟兵ってか!
なんつー熱烈なラブコールだ
いいぜいいぜ
ノッてやんよ!
テンションに任せて
真っ向から突貫するぜ
Howdy、中佐!
お噂はかねがね、ってヤツだ
かく言うあたしも
戦場が棲み家の最低野郎(ロクデナシ)でね
一曲つきあってくれよ!

弾切れすりゃ
落ちてる武装を拾ったり
パーツがぶっ飛ばされりゃ
そこらの残骸を取り付けて補修したり
こっちもスクラップを利用さしてもらう
規格が合わなくても無理矢理接続するんで
アラートが鳴りっぱなしだ!
左手のバトルライフルは
弾切れ前に放棄するが
こいつは外部バッテリー付きで
遠隔で発射制御ができる
背後にゃ気をつけな、中佐!

ああ全く
終わっちまうのが惜しくなる戦闘なんざ
生まれて初めてだ



●鉄骸の中にこそ勝ちは在り
『取り得る戦術は千差万別、生身でもキャバリアと対等に渡り合う。良い、実に良い。これまでと代り映えせぬサイクロプスを扱っている此方が逆に申し訳なくなるほどだ』
 全身を凍らされた上で徹底的に打ちのめされ、地面を無様に転がされたにも関わらず、ハイネマンの口振りは飽くまで楽し気だった。彼は手近にあったキャバリアのパーツを無造作に掴み上げるや躊躇なく自機へと接続する。
 読みづらい機体性能や操縦者の技量は勿論だが、この残骸を利用した継戦能力の高さも猟兵からしてみれば厄介極まりない。だが、そんな相手の様子にチェスカーはまた違った印象を抱いていた。
(属国だか自治領だが知らないが、中佐と言えば一応は高級将校だろ? 見た限り高性能機だって持ち出せたはずなのに、わざわざああしてオンボロを使い倒してよ……よっぽど愛着があるんだろうな)
 彼女の相棒たる重戦車もまた、廃材や中古部品でレストアした車両だ。故にこそ、男の気持ちが分からない訳でもなかった。相手はテロリスト紛いの戦争狂、だが所々に彼なりの美学が垣間見える。それを良しとしたチェスカーは愛機のエンジンに火を灯しつつ、不敵な笑みと共に名乗りを上げてゆく。
『平和の祭典もテロリストも、なんもかんもを賭け金代わりにベットして、挑む相手は猟兵ってか! なんつー熱烈なラブコールだ、そこまで期待されちゃあ仕方がねぇ。いいぜいいぜ、ノッてやんよ!』
「お、なになに? こっちもおっ始める感じ? それじゃあ拙者も参戦しちゃうもんね。そういう訳で磯野ー、もといハイネマン氏ー戦争しようぜー!」
 と、そんな戦車乗りの真横へひょっこり顔を覗かせたのは髭面の傭兵。エドゥアルトもまた、まるでスポーツにでも誘うような気楽さで戦場へと足を踏み入れてゆく。彼は仲間と異なり、これまでの事件で戦争狂とも面識が在る筈だが、悲壮な様子は微塵も感じられない。
「いやー、そこそこ付き合い長かったけどあんま言うことなくてネ……まぁぶっちゃけ、いつかはこうなると思ってたでござるしなぁ。お互い戦争屋ならお返事って弾丸でするもんじゃん? こんにちは死ねが拙者らの合言葉!」
 ある意味、ブレないという点ではこの男も大概である。過去現在含め、数多の猟兵たちが一連の事件に関わってきたが、この黒髭の傭兵がある種最も近しい同類と呼べるだろう。その証拠にハイネマンはエドゥアルトの物言いに怒るどころか、心底愉快気に大笑していた。
『はっはっはっ、話が早くて大変結構。今さら膝を突き合わせて語らうような時でもあるまい。まぁ、やった事が事だ。恨み言の一つくらいはぶつけられる心算でいたがね』
「え、言って良いの? じゃあ強いて何か言うなら、前菜が腕も頭もないクソで不満が有頂天でござる! 鉄十字だの赤い国風味なのにそこは英国面とかノーセンキューですぞ。さぁ、明るく楽しく元気よく殺し合いさせてくれよな!」
 明け透けとかそんなレベルではない宣戦布告を吐きつつ、傭兵は爽やかスマイルで対物ライフルを取り出す。またその傍らではチェスカーもまた薬室へ初弾を装填するところであった。
『Howdy、中佐! こっちに関しちゃ今回がハジメマシテだが、お噂はかねがね、ってヤツだ。かく言うあたしも戦場が棲み家の最低野郎(ロクデナシ)でね。似た者同士、一曲つきあってくれよ!』
『こちらこそ願ってもない。では諸君らに敬意を表し、まずはこちらから仕掛けてさせて貰うとしよう』
 そう言うや否や、ハイネマンは手近に散乱していた武装を片端から装着してゆく。偽グレイルのアサルトライフルや鉄杭付き盾は勿論、どこから引っ張り出して来たのかミサイルコンテナや追加装甲までも身に纏い、瞬く間にシルエットが倍近くにまで膨れ上がる。通常であれば移動どころか火器管制すら覚束ぬ有り様だが、男は器用にそれらを使い分けながら単騎で弾幕を形成し始めた。
『こいつはまた派手だな……! あたしとビッグタイガーが正面を切る、随伴歩兵は任せられるか?』
「合点承知の助でござる! ぶっちゃけた話、修復能力持ちの相手は面倒なのよ。だから打撃力の有る友軍はこっちも大歓迎ですぞ!」
 重戦車の装甲なら突撃銃の弾丸程度であれば正面装甲で受け止め切れる。有効打となり得る誘導弾や榴弾の類を巧みに避けながら、主砲による砲撃を叩き込み始めるチェスカー。そんな華々しい戦闘を横目に見つつ、キャバリアの残骸群へと飛び込んだエドゥアルトは悩まし気に愚痴を零す。
「……正直言えば、拙者もああいう風に爆撃機とか出して大火力で吹き飛ばしたい。何よりも得意技を出さないのは中佐相手に無作法というもの。でもここではそらをとぶはできねぇンだ!? おFuck!」
 過去、航空歩兵なり戦車なりに急降下爆撃を決めてきた男である。今回もまた己が本領で挑みたい所ではあったのだが、残念ながら殲禍炎剣の存在がそれを阻んでいた。強引に飛ばす事も出来ないでもないが、一歩間違えば即撃墜。流石に最後の花舞台で醜態を晒す様は避けたい。故にこそ、エドゥアルトは苦渋を呑んで一歩兵に徹する事に決めたのだ。
「真正面から殴り合えないなら、小細工するしかねぇ! さぁさぁさぁ、図画工作のお時間だ!」
 斯くして対物ライフルで牽制を行いつつ、スクラップの中を駆けずり回る黒髭の傭兵。その間、異形機と重戦車は一歩も退かぬ砲撃戦を繰り広げてゆく。
(百聞は一見に如かず、とはよく言うが……なるほど、こんだけの大事を仕掛けるだけはあるな。バランスも何もかも歪だってのに、致命傷だけは的確に避けやがるッ!)
 排出される空薬莢の熱、立ち込める火薬の匂いに包まれながら、チェスカーは頬を伝う汗を乱暴に拭う。両者ともに命中弾は出ており、装甲や武装が着実に剥ぎ取られている。だが一方、動力部やコックピットといったバイタルパートに関しては互いに無傷のまま。
 戦車乗りの方は扱いなれた相棒だが、相手に関しては即席故のぶっつけ本番だ。それを苦もなく操ると言う時点で戦争狂の名に恥じぬ戦い振りと言えよう。
(……でもな、そんなのはあたしだって同じだ。色んなモンを利用するのも、見てくれが変わるのもな!)
 また一枚、装甲板が吹き飛ばされる。くるりと宙を舞ったそれが音を立てて地面に落ちた瞬間、それを契機としてチェスカーは相棒を重戦車から二脚形態へと変形させた。頭頂高が上がり、かつ戦車に四肢が生える光景にさしものハイネマンも意表を突かれる。
『先の戦闘時、なにやら奇妙なキャバリアが居るとは思ったが、なるほど君か!』
『覚えていて貰って光栄だな。似た者同士、とことんガチンコで行こうじゃねぇか!』
 四肢が展開したことにより、可動域は重戦車形態と比べて大きく広がった。だが反面、被弾面積もそれに伴って増大してしまう。それを避ける様に走り回りつつ、頭部の主砲に加えて左右腕部に装備した火器で応戦するものの、運悪く直撃した榴弾によって左腕が肘先より千切れ飛んでしまった。
『まず、ひとつッ!』
『いいや、まだだね!』
 畳み掛けようとするハイネマンを牽制しつつ、チェスカーは周囲に散乱するスクラップを引っ掴むや、相手と同じように愛機へと接続。瞬時に継戦能力を取り戻す。無論、規格外のパーツを取り付けた事に対し重戦車はすぐさま抗議のアラートを鳴り響かせる。
『悪いが、形振り構っていられる相手じゃないんだ。少しばかり辛抱してくれ!』
 そうして宥めすかしながら、今度は一転して戦車乗りが攻勢を仕掛けてゆく。その過程で当初取り付けていた追加パーツが粗方剥ぎ取られると、ハイネマンは躊躇なくまだ利用可能な残骸群を再度身に纏い始めた。
『この戦術を選んで、心底良かったと思うよ。これならば幾ら壊れようと、思う存分諸君らと戦う事が出来るのだから』
「……ええ~、ほんとでござるかぁ? いやまぁその評価は嬉しいけど、軽々しく拾い食いしたらお腹を壊しちゃうゾ☆」
 戦闘を続けようとする男だったが、足元より聞こえた声に思わずハッとアイカメラを向ける。そこに居たのはとぼけた表情を浮かべたエドゥアルト。傭兵がちょいちょいと指差す方向へ視線をずらせば、装甲の隙間よりにゅるりと流体金属が顔を覗かせた所だった。その表面に浮かぶは、幾つもの小さなピンたち。
『それは、まさか……!?』
「瓦礫や手に取る物に『お土産』を仕込むのなんざ、基本中の基本だぜ、中佐? という訳ではいドーン!」
 咄嗟に取り込んだ部品をパージしようとするがもう遅い。内部で炸裂した幾つもの爆薬により、異形機のシルエットが瞬く間に崩壊してゆく。辛うじて核となる機体は健在だが、それを見逃すほどエドゥアルトは素直な性格をしてはいないのだ。
「中佐は女の子じゃないけどリア充っぽいから問題なし! さぁ、爆発するでござる!」
 全身より放たれた重力波がサイクロプスへと命中。着弾地点で原理不明の爆発を巻き起こし、木端微塵に装甲を粉砕する。そうして露わになる内部機構。これを損傷させることが出来れば、そう容易くは修復できないはず。
『これは一杯食わされたな。だが、まだ終わらんよ!』
 しかし、然しもの傭兵も次の一手を放つには数秒のタイムラグを要する。その間に一枚でも装甲を取り込む事が出来れば、状況はまたイーブンに戻せるだろう。ハイネマンは傭兵と戦車乗りの双方へ注意を払いながら、さきほど重戦車より零れ落ちた装甲板へと手を伸ばし――。
『……終わらせたくない、か。ああ全く、同感だぜ。終わっちまうのが惜しくなる戦闘なんざ生まれて初めてだ』
 ガツン、と。背後より飛来した銃弾によってそれは弾き飛ばされ、マニピュレータをすり抜けて再び宙を舞う。だが、今この場にいる猟兵はチェスカーとエドゥアルトだけのはずだ。咄嗟に振り返った先にあったのは……重戦車の左腕。其処に保持されたままの銃口から硝煙が立ち昇っていた。
『罠を仕掛けていたのはあたしもだぜ? そいつは外部バッテリー付きで、遠隔で発射制御ができるのさ。次から背後にゃ気をつけな、中佐!』
『は、はは……ハハハハハハッ!』
 流れを取り戻すための一手が潰された。それによって生じた隙は正に致命的と言って良かった。視線を戻せば、モニター越しに髭面のむさくるしい笑顔と目が合う。
「目ん玉かっぽじってよく見ろ、中佐ぁっ! これがァ! 猟兵ん力だァァァァ!」
 そして、対物ライフルの弾丸が放たれる。狙い違わず露出部へと吸い込まれたそれは脆弱なコードや基盤を蹂躙し、部分的な機能停止へと陥らせた。即時行動不能という訳ではないが、手痛い損傷である事に変わりはない。
『見事だッ! それでこそ……それでこそ、敵対した甲斐があった! 感謝するぞ、猟兵諸君!』
 無数の警告とダメージレポートがサイクロプスの操縦席に鳴り響く中。戦争狂と呼ばれた男は涙すら浮かべながら好敵手たちへと喝采を叫ぶのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
ヴァシリッサ(f09894)と

闘争に見出す悦びは身に覚えがある
こちらも戦いの中で生きてきたのだからな
だが、ヴァシリッサの言葉は肯定
覚えがあってもそれだけではないと、今なら言える

だからこそ『戦争』に興じながらも冷静に、コックピット以外を狙いハイネマンの生存・捕縛を目指す
降伏を促すサフォーノフの意向は尊重したい
それに命まで奪っては、ハイネマンの思惑に乗るようで癪でもある

交戦時は真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
ヴァシリッサの愛車に乗りハイネマンへ接近
障害物はグレネードで破壊
流石だなヴァシリッサ、最高のエスコートだ

エンチャント・アタッチメントを銃へ装着、炎の魔力によって威力を強化
ヴァシリッサの攻撃で体勢が崩れた所へ、ユーベルコードを撃ち込む
纏った残骸を破壊し機体内部まで届くように連射
射撃の反動は大きいだろうが、このくらい出来なければ奴の満足する闘争には届かない
それに反動で腕が動かなくなっても、後はヴァシリッサに託す
今度はこちらが礎となればと


ヴァシリッサ・フロレスク
アドリブ◎
シキ(f09107)と

Hm?戦争の為の戦争ッてワケかい?随分と高尚な趣味をお持ちで。
此処まで極めると一層清々しいね、イカれたマゾヒストだ

…同族嫌悪か
アタシだッて微塵も分からない、ッちゃ嘘になッちまうね

あァ、コッチだって立派なライフワークだ

ま!こちとらマケズ嫌いで滅法欲張りなタチなンでね?
負け戦なンて以ての外だし、帰る場所も在るし

     ・
生憎アタシらはもう、“闘争《それ》”だけじゃ満足出来やしないからさ
だろ、シキ?

"Dienst ist Dienst und Schnaps ist Schnaps《仕事はシゴト、酒はサケ》"、サ♪

あァ、思い通りにゃさせないよ、アタシも性格が悪いンでね

「天之加久矢」をスヴァローグへ装填
リミッター解除した愛車ハティにシキとタンデム
猛攻を見切り、自慢の操縦テクで悪路走破し切り込み一気に接敵を計る

Honey♪確り掴まッてなよ?

「天之加久矢」で脚部の部位破壊を狙いシキの一撃への礎に

Klasse《最高だ》♪

UC「弑逆の矢」で傷口をえぐるように駄目押しを



●弾丸は数多の障害を越えて
『嗚呼……楽しいなぁ。年甲斐もなく心が躍る。私は実に幸せ者だよ。こんなにも多くの猟兵たちがそれぞれの全力を以て挑んでくれる。正に夢の様だ』
 ハイネマンが零す呟きには溢れんばかりの喜悦が滲んでいる。『憂国正義戦線』側に立っての戦闘を含めれば既にかなりの時間を戦い続けているはずだと言うのに、微塵も疲労感を見せる様子が無い。寧ろより活き活きとしつつあるのを感じ、ヴァシリッサは呆れと困惑を入り混じらせながら眉根を顰めた。
「Hm? 戦争の為の戦争ッてワケかい? 随分と高尚な趣味をお持ちなことで……逆に此処まで極めると一層清々しいね。あんだけぶッ叩かれてるってのに悦んじまッて、イカれたマゾヒストだ」
 だがそう言いつつ、彼女は己の身を振り返って益々渋面を深める。荒事を生業とし、専ら考えるよりも先に体が動く性質だ。特攻紛いの戦法を好む性格を自覚し直し、これでは戦争狂を笑えぬと溜息を吐く。
「はぁ……これも同族嫌悪か。アタシだッて微塵も分からない、ッちゃ嘘になッちまうね。あァそうさ、コッチだって立派なライフワークだ。」
「だが俺も、闘争に見出す悦びは身に覚えがある。こちらも戦いの中で生きてきたのだからな、命の遣り取りに魅入られる気持ちは分からんでもない。そこは肯定しよう」
 他方、傍らに立つシキは仲間の言葉に同意を示す。あそこまで振り切ってしまった例は極めて稀だ。しかし戦場へ身を投じる者の胸中にはきっと、大なり小なり同じものが眠っているのだろう。とは言え、全部が全部それに支配されているかと問われれば断じて否だ。
「ま! こちとらマケズ嫌いで滅法欲張りなタチなンでね? 負け戦なンて以ての外だし、帰る場所も在るし……生憎アタシらはもう、“闘争《それ》”だけじゃ満足出来やしないからさ。だろ、シキ?」
 ――"Dienst ist Dienst und Schnaps ist Schnaps《仕事はシゴト、酒はサケ》"、サ♪
 謡う様に格言を諳んじるヴァシリッサに、シキもまたフッと笑みを零す。彼女らしい物言いだが本質を得ている。確かに闘争は悦びを孕んでいるのだろう。だが、それは他も同じだ。ささやかな日常が秘める輝きを、彼は既に知っていた。
「ああ……覚えがあってもそれだけではないと、今なら言える。闘争の悦びは飽くまで己を構成する一要素だ。ハイネマンはただ、それ以外を切り捨てたに過ぎない」
「オーケー、オーケー。それじゃ、方針はどうする?」
 調子が出て来たなとウィンクして来る傭兵に対し、銀狼は思考を巡らせる。今さら話し合いで解決など望むべくもない。故に武力衝突は不可避だ。彼女が尋ねているのはその後について。
 そうして僅かな思案を経て、シキは決断を下す。
「……闘争の誘いには乗ってやるが、そこまでだ。此方は生存させた上での捕縛を狙う」
「へェ、その心は?」
「出来るなら、降伏を促すサフォーノフの意向を尊重したい。あと強いて言えば、命まで奪ってはハイネマンの思惑に乗るようで癪でもある。ここまで盤面を引っ掻き回したんだ。後始末くらいは自分でしてもらおう」
 男は勝ちを狙いに行く一方、己の死を予見し戦後処理の布石を打っている節があった。民間人から死者が出る事を嫌ったり、蜂起以外の妨害工作をしてこなかったのがその証拠だ。そも、猟兵がこの場に現れたのも相手がそう仕向けたが故。
 つまりこの場でハイネマンを殺せば、始めから終わりまで相手の思惑通りと言う事になる。幾ら何でもそれは『試合に勝って勝負に負ける』ようで座りが悪い。であるならば、その思惑を打ち破るのは良い意趣返しとなるだろう。
「ハッ、良いねェ。あァ、思い通りにゃさせないよ。アタシも性格が悪いンでね、勝ち逃げなンざ許さないさ。あちらさンもお待ちかねの様だし、そろそろ動くとしますかネ?」
 方針は決まった。ならば、後は行動在るのみ。気が付けば、異形と化した鉄騎も猟兵へジッと視線を投げ掛けている。律儀に準備が整うまで待っているのか。ヴァシリッサは愛機のエンジンを暖めつつ、とっておきの射突杭を得物へと装填してゆく。
「乗りなよ。王様の元までひとっ走りして送り届けてあげるからサ♪」
「すまないが、有難く同乗させて貰おう。無論、俺も援護を怠るつもりは無い」
 大型二輪車のシート後部へと跨ったシキは纏う雰囲気を一変させてゆく。全身には月光を思わせる燐光を帯び、犬歯は鋭さを増し、瞳は獣の本能を映し出す。そんな変化をゾクリとうなじで感じ取りながら、傭兵はガォンと内燃機関を唸らせ走り出した。
「Honey♪ これで一蓮托生だ。あちらさンも反応し始めたし、確り掴まッてなよ?」
 それと同時に夥しい数の弾丸や誘導弾、グレネードが進路上で炸裂し始める。いよいよ相手も本格的な攻撃を開始したのだ。相対しているのは単騎にも関わらず、弾幕の濃密さは先ほど以上。
(今はまだハティの速さに追いつけてないけど、目が慣れ始めたら不味いね。その前に駆け抜けたいが、そう易々と通しちゃくれないか……!)
 既に安全保護用の制御機構は解除済みである。だが、それでも一瞬一瞬が紙一重の連続だった。先程とは違い、地面にはスクラップが散乱しており路面状況は最悪。かつ、相手の狙いが嫌らしい程に上手い。こちらがどう避け、どの方向に進むかを読んだ上で二手三手先へと攻撃を置いているのだ。
「伊達に指揮官をしてる訳じゃないッて事か。てッきり、真正面から殴り合うだけの猪武者かとも思ったンだがな」
『よく言われるよ。なに、個対個の死合いも軍勢同士のぶつかり合いも、どちらも好むと言うだけの事……さぁ、チェックだ』
「おいおい、スクラップの壁だと!? いつの間に作りやがッた!」
 ハイネマンの言葉に目を凝らせば、進路上に聳え立つは残骸が複雑に絡み合った山。恐らく爆発の衝撃を利用して組み上げたのだろう。だが左右に逃げようにも、既に山なりの軌道を描く投擲物が見えた。回避すれば十中八九それに巻き込まれるが、かと言って直進も出来ない。停止などそれこそ論外だ。
「……ヴァシリッサ、そのまま直進しろ。道は俺が作る」
「っ! オーケイ、信じてるよシキ!」
 いったいどうすべきか。ハンドルを握る傭兵に助け舟を出したのは銀狼であった。ヴァシリッサは仲間の言葉を信じて進路はそのままを維持。背後ではシキが身動ぎしたかと思うや、小型の円筒物が投擲されると同時に銃声が響く。
『ほう、上手い具合にキングを逃がしたか。ツーク・ツワンクを狙えると思ったのだがね』
 刹那、撃ち抜かれたグレネードが障害物を吹き飛ばし、無理やり空間を抉じ開ける。左右両側のスクラップが崩れ落ちてくる前にその間を駆け抜けた瞬間、背後からの凄まじい轟音が耳朶を打った。
「流石だなヴァシリッサ、最高のエスコートだ」
「なに、援護あっての事サ♪ それじゃあ、今度はアタシの番だ!」
 だが、これでもう征く手を遮る物は無い。再加速しながら傭兵は進路直線状に異形機を捕捉する。一方、相手はアサルトライフルで牽制を行いつつ、微かに足元を気にする素振りを見せた。何事かと目を凝らせば、脛部分に台形状の突起物。恐らく、対人用の空中炸裂地雷か。
(なるほど、意気揚々と近づいた瞬間にドカン、ね。残念だけど、射程圏内へ踏み込む前にカタを付けようか!)
 ヴァシリッサは左手でハンドルを握りながら、もう一方の手で射突杭を構える。だが、彼我の距離は未だ遠い。ただ杭を放っても途中で運動エネルギーを失い、装甲に弾かれるだけだ。
『ふむ……それは君のとっておきか』
 だが、ハイネマンは逆に警戒を高めてゆく。猟兵ならば必ず何か仕掛けてくる筈。この一年でそんな信頼が形作られていたのだ。果たして、肩部の大盾に身を隠す異形の鉄騎目掛けて……。
「来ると分かッても、反応できなきゃ意味がないッてね――Hasta la vista, baby♪」
 得物を起動させた瞬間、音の壁が絶叫じみた唸りと共に穿ち抉られる。同時に強烈な衝撃が機体を揺るがし、勢い余ってその場でぐるりと一回転してしまう。混乱する視界の中、機体状態を確認しようとした男は思わず目を剥いた。
『右脚部……喪失!? 左脚部にも異常発生だと? 攻撃の命中時速度はマッハ10オーバーとは! はははは、出鱈目過ぎて笑うしかないな!』
 見れば右足は根元より食い千切られ、左足からも火花が飛び散っている。また、計器が示す鉄杭の着弾速度は音速を軽く超えていたのだ。これには然しもの戦争狂も驚愕を通り越して感心するより他ない。
 種明かしをすれば、鉄杭は内蔵したラムジェット推進装置によって瞬時に加速。弾体質量と弾頭硬度、そして飛翔速度を全て運動エネルギーへと変換し相手に叩き込んだのだ。
「相手はもう見ての通り木偶の坊だ! さァ、今の内にやッちまいな!」
「ああ、任された」
 こうなれば暫くはまともに動けまい。脚部を別パーツへ換装される前に勝負を決めんと、シキはシートを蹴って大きく跳躍。獣の身体能力を活かしてそのまま鉄騎に取りついた。振り払おうにも脚部機能は喪失。対人用地雷も人間相手を想定している為、上半身には装備されていないのだ。
『今度はこちらが王手を掛けられる番か!』
「一応はそうなるな。だが、キングを取るかはまた別だ」
 銀狼は愛用の大型拳銃へ属性付与アタッチメントを取り付けると同時に、素早く弾倉を取り換える。通常の拳銃弾ではキャバリアの装甲を抜けないが、こちらには大威力の特注弾のみが籠められていた。反動は凄まじいが、これならば装甲を貫徹出来るはず。
「命までは奪わない。だが、機体は直ぐに修復できても、生身の身体についてはそうもいかないだろう。少しでも継戦能力を削がせて貰うぞ」
 狙いは操縦席周りの装甲板。引き金を押し込むたびに銃声が轟き、装甲へ次々と弾痕を穿つ。狙い通り、その威力は絶大だ。しかし、反動もまた強烈である。本能を解放し強化されている筈の身体が、衝撃を殺しきれずに悲鳴を上げてゆく。
(だが、このくらい出来なければ奴の満足する闘争には届かないはず。それに反動で腕が動かなくなっても構わない)
 ハイネマンを捉えるか、弾丸が尽きるか、身体が耐え切れなくなるか。何れが先となるのか、銀狼はただ無心にトリガーを引き続ける。そして、その果てに――。
「……まさか、こうして直接顔を合わせるとは。予想よりも早かった。見事だと言わせて貰おう」
「ハイネマン……ッ!」
「だが、もうさようならだ」
 幾重にも重なった装甲板の奥の奥、中枢部たる操縦席に件の男は座していた。パチパチと拍手する戦争狂を確保すべく再度弾丸を放つが、その狙いは大きく逸れてしまう。もう、シキの身体は限界を迎えていたのだ。反動を殺しきれず、機体から転げ落ちてゆく銀狼。だが、その表情に浮かぶのは苦渋や諦念ではない。
「悪いが、そちらと違い俺には後を託せる仲間が居るんでな。今度はこちらが礎となろう……ヴァシリッサ!」
「……あいよ、任せな?」
 仲間の叫びに応じ、上がるは静かな銃声。銀狼が攻め立てている間に狙撃態勢を整えていた傭兵が、鉄杭と銃弾に続く『第三の矢』を放ったのである。それは計算され尽くした軌道を以て、針の穴を通すかの如く装甲に穿たれた孔を通り抜け、そして。
『ぐぅっ……ははははは、実に見事だッ!』
 十重二十重に護られているはずの男、その肩口へと初めて攻撃を届かせるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミハイル・グレヴィッチ
SIRDの面々と共に行動(計3名)

ったくハイネマン、手前は骨の髄までウォーモンガーだよ。
そこまで覚悟してるってんなら、いいだろう、最後までキッチリ相手してやる。
幸いこれ以上余計な邪魔も入らねぇし、おまけにお互いプロ同士、恨みっこなしの納得ずくだ。せいぜいハデに行こうぜ。

XPT-11B<ストラーウス>に搭乗。
その大柄な機体と重装甲を生かして灯璃とラムダの盾になりつつ攻撃。
恐らく実戦経験豊富なハイネマンのコトだ。このままの射撃戦じゃ埒が明かないと踏んで、隙を見て白兵戦を仕掛けてくる筈。こっちには白兵戦装備がないのも計算してるだろうしな。そこが狙い目だ。
接近戦仕掛けてきたら、ストラーウスの重装甲を信じて攻撃を受け、同時に奴の機体にのしかかって動きを止める。肉を切らせて骨を切る、ってヤツだな。一時的に動きを封じられれば御の字、その瞬間を逃さずに上部ハッチ開いて、そこからRPGで至近距離からUCを使用。狙うはヤツのいると思われるコクピット付近。

コイツは俺からの手向けだ、受け取れハイネマン!


灯璃・ファルシュピーゲル
SIRD一員で連携

自機キャバリア使用

マッドハッターのお茶会に付き合う程、こちらは暇では無いんですがね?

言いつつ敵味方の動きと攻撃タイミングを把握(情報収集)しながらUC:ウロボロスアーセナルでタンデム弾頭のキャバリア用砲弾を作成

把握した敵の動きから癖を読んで(見切り)回避し
動き回りながら指定UCで黒霧と狼達を頭部・脚部狙いで放ち、
四方より襲撃させて動きを鈍らせると同時に霧でセンサーを妨害し
ミハイルさんの接近を支援

更に敵の関節部と破損した残骸装甲の傷を集中狙撃(スナイパー・鎧砕き)しタンデム弾で残骸を剥がしつつ本体装甲にダメージを与え穴を空け、味方の攻撃が通り易い様に支援する

※アドリブ・絡み歓迎


ラムダ・マルチパーパス
SIRDの皆様方と共に行動

いやはや、もはや業とでも言いましょうか。どうやらハイネマン様は、「兵士」ではなく「戦士」だった様ですね。兵士は命令に従って戦い、戦士は戦いを選ぶ。もっとも、戦士は戦士でも、頭に狂が付くと思われますが。

ミハイル様、灯璃様をUCを使用しての援護射撃を展開します。
全兵装を展開しての斉射にて攻撃。とはいえ、恐らくこの程度の攻撃では、ラッキーヒットでもない限り、効果はあまり見込めないでしょう。せいぜい、攪乱と牽制程度でしょうか。まぁいずれにせよ、わたくしは援護射撃で裏方に徹し、後は御二方にお任せしましょう。それが、わたくしの様なドロイドの役目ですから。

アドリブ・他者との絡み歓迎



●望むが儘の闘争を
『……当然ながら、諸君らの能力はこれまでの経験から予測はしていた。「憂国正義戦線」を使い潰す間、情報収集も改めて行っている。だが、何の意味も無かったな。予想通りに予想以上だ、猟兵の実力は!』
 無数に穿たれた、操縦席にまで到達する弾痕。それらを廃材や鋼板で再度覆い直しながら、ハイネマンはくつくつと楽し気に喉を鳴らしていた。先に交戦した猟兵により、男自身もまた銃創を負っている。持ち込んでいた包帯で傷口をきつく縛りながらも、しかして臆した様子は微塵もない。
『マッドハッターのお茶会に付き合う程、こちらは暇では無いんですがね? ともあれ、相手の思惑通りなのは釈然としませんが、交戦が避けられない事に変わりはありません』
「いやはや、あれはもはや業とでも言いましょうか。どうやらハイネマン様は、『兵士』ではなく『戦士』だった様ですね。まぁ、何となく察してはいましたけれど」
 そんな相手の姿に灯璃は呆れたように溜息を吐き、仲間と合流したラムダは興味深そうに首を傾げていた。劣勢になった途端に何故だどうしてと喚いていたテロリストたちもそれはそれで面倒だったが、こういう手合いもまた別ベクトルで脅威である。彼なりの美学や規律はあるようだが、それでマシかと問われれば微妙なところだ。
「兵士は命令に従って戦い、戦士は己の意志で戦いを選ぶ。もっとも、戦士は戦士でも、頭に狂が付くと思われますが。まさか立場や勝率は愚か、自らの命まで頓着しないとは予想外でした」
「同感だな。ったくハイネマン、手前は骨の髄までウォーモンガーだよ。だが、そこまで覚悟してるってんならいいだろう。お互い知らない仲じゃないんだ、最後までキッチリ相手をしてやる」
 その点に関してはミハイルも同じだったが、彼もまた傭兵と言う生き方を選んだ人間である。相手の抱く望みに全く共感を覚えぬ訳でもなかった。仮にも一度は肩を並べた戦友が、全力の勝負を求めているのだ。ならばそれに応じるのも渡世の義理だろう。
「幸いこれ以上余計な邪魔も入らねぇし、おまけにお互いプロ同士。勝とうが負けようが、それこそ死んでも恨みっこなしの納得ずくだ。せいぜいハデに行こうぜ?」
『ああ、感謝するよ。【特務情報調査局】の諸君。私の我儘に付き合って貰ってね。その礼として……こちらも一切の加減なく挑ませて頂こう』
 ニッと豪胆な笑みを浮かべるミハイルに対し、ハイネマンもまた弧を描く様に頬を歪ませる。ある戦場で味方だった者が、別の戦いでは敵に回るなど稼業柄ままある事だ。ならば馬鹿笑いを浮かべながらぶつかり合うのも、一種の礼儀作法と言うものなのだろう。
「ミハイル様、灯璃様。先程と同じく、まずは定石通りにいくとしましょう。わたくしの保有する火力で支援射撃を行います。その隙にどうか各々方の行動をお進め下さい」
 相手は単独、対してこちらは三機。純粋なキャバリアは灯璃の『SJPzH.188 JagdSköll』のみだが、ラムダは大型なウォーマシンで在り、かつ今回はミハイルも歩兵支援用のマシンウォーカーを持ち込んでいる。戦力的に優位である以上、奇策に頼らず王道を以て当たるのが堅実だった。
『ええ、感謝します。あちらの機体は即席改造で流動的に性能が変化しますからね。まずは現状の能力を把握してきたいところです』
『それに二人ともどちらかと言えば遠距離型だしな。前衛は任せてくれ。こいつが在れば、もう逃げ隠れする必要もない』
 序盤は情報収集に徹しつつ、対機甲兵器用のタンデム弾頭榴弾を形成し始める灯璃。そんな仲間を庇う様に、ミハイルは乗り込んだ二脚機『XPT-11B<ストラーウス>』を前線へと押し上げてゆく。搭載された30mm機関砲や対戦車ミサイルがあれば、火力面でも互角に渡り合えるはずだ。
「了解しました。それでは……FCSオール・グリーン。射撃モード・フルファイア。目標、ミヒャエル・ハイネマン中佐。全兵装照準完了……斉射開始」
 仲間からの承諾を受け、ラムダは火器管制システムを起動。持ちうる全兵装の照準を異形の鉄騎へと合わせるや、寸分の狂いもなく一斉に射撃し始めた。複合式センサーシステムに導かれ、無数の誘導弾に徹甲弾、120mmカノン砲が火を噴いてゆく。その火力密度は肥大化した敵機と比べても遜色ないものだ。
(とはいえ、恐らくこの程度の攻撃ではラッキーヒットでもない限り、効果はあまり見込めないでしょう。既に同じ様な攻撃を受けているはずですし、それに対して何の対応もしないとは思えません。せいぜい、攪乱と牽制が出来れば上出来と言った所ですか)
 だが一方、戦機は冷静に己の行動を分析していた。相手も既に二桁を超える猟兵と戦闘を繰り広げている。素材が旧式のスクラップだけとは言え、それらを組み合わせてより効果的な戦闘スタイルを導き出していたとしてもおかしくは無い。そんな予想を裏付けるかのように、少しずつ異形機の動きに変化が表れ始めてゆく。
『保有火器による迎撃、装甲での耐久、そのどちらも抜かれてきた。ならば此処は一つ、足回りを試してみるとしよう』
 武装と装甲を幾つかパージし、代わりに接続するは無数の小型バーニア。即席故に向きや配置も大雑把なものだったが、ハイネマンはそれらを巧みに操りながらラムダからの射線を切り始めたのだ。
 相手の適応力は特筆に値するだろう。しかし、飽くまでも戦機は冷静さを保ち続ける。
(これはまた随分と小器用な……まぁこれだけ動き回らせれば、情報収集も捗る事でしょうし。いずれにせよ、わたくしは援護射撃で裏方に徹し、後は御二方にお任せしましょうか。それが、わたくしの様なドロイドの役目ですから)
 相手とは違い、こちらは部隊として戦っているのだ。自らが有効打を与えられずとも、時間さえ稼げればそれで十二分。その間に準備を整えた仲間が勝ちさえすればそれで良い。
 果たして、視界の端では今まさに猟狼の名を冠した機体が仕掛けるところであった。
(……機動力を重視した改造ですか。正直、これまでと同じ重装型の方が好都合でしたが、ままならぬものです。ですが、支援射撃のお陰である程度のパターンは把握出来ました)
 灯璃はモニターに映るデータを元にして相手の動きを絞り込む。ハイネマンとて人間だ。何をするのか分からぬ底知れなさがある一方、しっかりと観察すれば癖や得手不得手というものも見えて来る。彼女は相手の機動に合わせて動き回りながら、最適な射撃位置を調整してゆく。
(ですが、相手が相手です。読み切ったと思った瞬間こそが危なそうですし、念には念を入れておきましょう)
 そう判断すると同時に機体の周囲へ光すら通さぬ霧を生み出すや、その内部より狼の姿をした影たちを解き放つ。幸い、目印となる戦意や興味には事欠かぬ。影狼たちは地を這うように残骸群の中を駆け抜けると、四方八方から異形機へと襲い掛かってゆく。狙うは狩りのセオリー通り、頭部と脚部だ。
『む、猟犬の群れ……だがレーダーには映らない? なるほど、思い出したよ。前公王との戦闘時に使用していた技か。よもや、実際に体験するとは思わなかった!』
『ええ、御推察の通りです。ですが、分かった所で対処できますか?』
『残念ながら、前公王の敗北を残しておくのはサフォーノフ殿に忍びなくてね。消してしまった事が今更ながらに悔やまれるよ』
 ハイネマンは合点が言ったように頷くが、そもそも狼たちの本質は影だ。実体がない以上、どうにかするのは至難の業だろう。相手は機体を小刻みに動かし振り払おうとするが、獲物を前にした獣のしつこさは語るまでもない。関節部にじわじわと損傷が蓄積し、センサー類もその精度を低下させてゆく。
 こうなれば後は狩り立てるのみ。灯璃は乗機を狙撃形態へと変形させると、ラムダの砲撃に紛れて狙い撃つ。こちらも有効打を叩き込むのは難しいが、相手の気を散らすには十分である。
(……さて。降り注ぐ砲撃やチクチクと刺してくる狙撃は鬱陶しいだろう、ハイネマン? 実戦経験豊富なアンタのコトだ。このままの射撃戦じゃ埒が明かないと踏んで、隙を見て白兵戦を仕掛けてくる筈)
 そんな戦況をじっと見守りながら、ミハイルはこの均衡がそう長くは続かないと予想していた。現状お互いの戦力は拮抗しているが、裏を返せば決定打が無いという事でもある。闘争を求めるあの男がそんな詰まらぬ状況に甘んじるはずが無い。早晩、打って出るに違いないだろう。
(その場合、十中八九こっちには白兵戦装備がないのも計算してるだろうしな。そこが狙い目だ。まぁ俺の方もやや博打気味ではあるが、出たとこ勝負はいつもの事さ)
 果たして、戦場の中心で眩い輝きが生まれる。その源を目線で追えば、ゆっくりと降下しつつある光の玉が見えた。ハイネマンは陽光とは別種の光源を用意する事で、影狼たちの弱体化を図ったのだ。
『正直、煙幕のついで程度に用意させていた物だがね。全く、戦場では何がいつ役立つか分からんものだ』
「皆様お気を付けを、どうやら抜けてくるつもりです!」
 ラムダが警告を飛ばすと同時に火力を集中させるが、着弾の寸前で異形機が猛然と前方へ向け加速してゆく。多少の被弾は必要経費だと割り切りつつ、距離を詰める事だけの優先しているらしい。この瞬間を待っていたと、ミハイルは敵機の進路上へと二脚機を前進させる。
『よう、ハイネマン。ストラーウスを見せるのは初めてだろ? 折角の大一番なんだ、少しばかり遊んでくれよ!』
『ふむ、何か企んでいるな? だが、こうも誘われて断るなど無粋が過ぎると言うものだ!』
 相手も傭兵が何か狙っていると悟ったのだろう。だが、その上で押し通れば良いと判断。リクエスト通り、手にした巨刃を大上段より振り下ろす。鉄塊が如き一撃が齎す衝撃を予想し、ミハイルは操縦席内で手足を思い切り踏ん張る。
(頼むぜ、耐え切ってくれよ……!)
 刹那、凄まじい轟音が二脚機を揺るがせた。分厚い装甲が凹み、ひしゃげ、ギチリと脚部が軋みを上げてゆく。だが、受けきった。損傷は免れなかったがまだ動ける。その瞬間、ミハイルは形振り構わず機体を前へつんのめらせた。
『お、おお……!?』
『肉を切らせて骨を断つ、ってヤツだ。このまま動きを封じさせて貰うぜ!』
 ぐらりとバランスを崩し、二脚戦車と異形の鉄騎はもつれ合って倒れ込む。これこそが彼の狙い。白兵戦を誘発してわざと攻撃を受け止め、持ち前の重量を利用して自ら重しとなったのだ。
『この機を逃す理由は在りません。照準に問題ありませんか?』
「ええ、勿論です。味方を誤射するなど、ドロイドの名折れですからね」
 事前の打ち合わせに従い、後衛側も瞬時に反応。灯璃は先程作成しておいたタンデム弾頭榴弾を、ラムダは命中させ辛い大口径砲をそれぞれ構えるや、単なる的と化した敵機へと躊躇なく叩き込んでゆく。
 こうなると、機動力重視で装備を見繕ったのが裏目に出てしまう。空間装甲は二段式の炸薬で突破され、取り付けられたバーニアが砲撃によって端から毟り取られてゆく。ほぼ密着している友軍機に掠らせもせぬ技量は流石と賞賛されるべきだろう。
『これは一杯食わされたよ。だが、装甲をすべて失う前に脱出できれば……!』
『ま、ずっと拘束できるとは端から思っちゃいないさ。だからこそ、俺もずっと寝ている訳にはいかねぇな』
 何とか抜け出そうとするハイネマンだったが、上にのしかかっている二脚機のハッチが不意に開く。至近距離で爆発や鉄片が飛び交う中、上半身を覗かせたミハイルの肩には対戦車榴弾が担がれていた。この状態では避ける事は愚か、迎撃すらも不可能だ。
『私が言えた義理ではないが、何という無茶をするものだ!』
「長い付き合いの相手だ、このくらい屁でもねぇよ。さぁ、コイツは俺からの手向けだ。受け取れ、ハイネマンッ!」
 トリガーを引いて弾体を発射すると同時に、巻き添えを喰らわぬようミハイルは機体内部へとすぐさま引っ込む。そうして、楕円形の飛翔体はコックピット周辺目掛けて吸い込まれてゆき……。
 ――ドォン、と。
 凄まじい轟音を響かせながら、鉄騎中枢部を吹き飛ばしてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

まったく、やれやれだよ
そう来るだろうだと思っていたが、実際にされると呆れるねぇ
中佐の戦争に巻き込まないで欲しいね、憂国正義戦線の道化共を潰した時点でアタシの仕事はもう終わってるんだよ
金にならない残業を増やさないで欲しいさね

なんて、文句を言っても結局は巻き込まるんだねぇ
ったく、堪ったもんじゃないよ!
両肩部のマイクロミサイル48発全部放ってミサイルポットはパージ、マイクロミサイルは敵機じゃなくてその周囲の武器弾薬を当てて誘爆させるよ
同時に左手で落ちてるライフル拾って、それも使ってサブアームのサブマシンガン2門に右手のビームアサルトライフルに、左手の拾い物のライフルの計4門の掃射さね!
これで仕留められれば楽なんだがねぇ、まぁそう簡単にくたばる奴じゃないさね
後は機動力の差で距離取って翻弄しながら撃ちまくるよ
拾い物のライフルやサブマシンガンは弾切れしたら投棄して、その辺からまたライフルやらを拾ってを繰り返してね
アタシがスクラップを利用しちゃ駄目だなんて、そんな決まりはないからねぇ!



●将と兵士は同じ戦場に在りて
 濛々と異形と化した独眼機より煙が立ち上がる。操縦席目掛けて至近距離から対戦車榴弾を叩き込まれたのだ。本来であれば良くて昏倒、最悪の場合ミンチより酷い状態になっているはず。普通であればこれで終わりなのだが……。
『が、はぁっ!? は、ははっ、ハハハハッ! 油断しているつもりなど毛頭なかった! しかし、上手い具合に転がされてしまったものだ!』
 ヴゥンと、喝采と共にモノアイが光を灯す。未だハイネマンは健在であった。勿論、無傷ではない。軍服は焼け爛れ、全身に火傷を負っている。だが、今は痛みよりも喜びの方が勝っている様だ。一向に立ち止まる気配の無い戦争狂に対し、ルインは呆れたように深々と溜息を吐く。
『まったく、やれやれだよ。そう来るだろうだと思っていたが、実際にされると呆れるねぇ。こう、もうちょい人情味の有る意図なり事情なりがあればまだ可愛げがあるってもんなのにさ』
 彼女もまた、この男の狙いに薄々勘付いていた猟兵の一人である。しかし、だから納得できるかと問われれば話は別だ。少しでも良いから予想から外してくれと言うのが本音だろう。
『中佐の戦争に巻き込まないで欲しいね、憂国正義戦線の道化共を潰した時点でアタシの仕事はもう終わってるんだよ。後は各国から報酬をせびってサヨナラするだけってのに、金にならない残業を増やさないで欲しいさね』
『なに、アフターファイブと言う奴だ。仕事の後は趣味に興じるのが人生を楽しむコツ、そうだろう?』
『いや、そっちと違ってアタシにその手の嗜好は無いんだが……なんて、文句を言っても結局は巻き込まれるんだねぇ』
 軽口を叩き合いながらも、彼らは一分の隙も見せることは無い。傭兵は各センサーから齎される情報へ常に視線を走らせ、戦争狂は破壊された操縦席を庇う様にゆるゆると手近にあった装甲板へと手を伸ばしている。そもそも、両者ともに端から相手を見逃す気などなかった。
 ジリジリと、まるで導火線の如く緊張感が張り詰めてゆく。先手を取るか、出方を見るか。そうして、そんな言外の読み合いが限界まで高まった果てに――。
「ったく、本当に…………堪ったもんじゃないよ!」
 先に仕掛けたのはルインであった。彼女は機体両肩部に取り付けられたコンテナを解放するや、中から夥しい数のマイクロミサイルを斉射してゆく。一基につき二十四、計四十八発もの誘導弾を撃ち終えると同時に、デッドウェイトとなるユニットをパージ。そちらへの対応を相手に強いると、手近に落ちていたライフルを拾い上げる。
(ミサイルの狙いは本体じゃなくてその周り……此処は未使用の弾丸やら火薬がそこら中に散乱している文字通りの鉄火場だ。そいつらを誘爆させてやれば、大抵はそれで終わりなんだけどねぇ)
 彼女の考えを裏付ける通り、モニターに表示された残弾は半分以上が残っていた。グレネードもまだ数発装填済みのまま。同じような兵装が戦場にはまだまだ残っている。相手に使われるくらいなら攻撃代わりに消費してやろうと彼女は考えていたのだ。
『ふむ、これを全て迎撃するには些か以上に数が多い。操縦席の防護板もまだ仮止め状態でね、直撃は勿論として至近弾も御免被りたいところだ……で、あるならば』
 だが、異形機は手にしていた巨大な刃を地面へと突き立てるや、勢い良くそれを振り上げた。幅広の剣腹に掬い上げられた残骸が宙空へと広がり、一瞬だけドーム状に鉄騎を覆う。相手がスクラップをチャフ代わりにしたのだと気付いた瞬間、ミサイルがそれらと接触。内包していた火薬と反応し、凄まじい爆発を引き起こしてゆく。
(憎たらしいほど反応が早いね……! だけど、あれならあっちだってその場から動けない筈だよッ!)
 見た目は派手だが、直撃していない以上はダメージも無いと見るべきだ。瞬時に判断したルインは右手のビームアサルトライフル、両サブアームへ握らせたサブマシンガンに拾い物の突撃銃を加えた合計四門による掃射を叩き込む。
 ミサイルと一斉射撃の二段構え、通常であればこれで詰みである。だが、傭兵が警戒を緩める事は無い。果たして、爆煙を突き破り鉄騎が飛び出す。右手に巨刃、左手で鉄杭付き盾を構えて銃弾を弾き返しながら、一直線にルイン目掛けて突っ込んできた。
『今ので仕留められていれば楽なんだがねぇ、まぁそう簡単にくたばる奴じゃないとは承知の上さね!』
『ははは、信頼頂いている様で何よりだ。さぁ、今度はこちらからゆこう!』
 スラスターを吹かし後ろ向きのまま距離を取るルインへと、ハイネマンが迫る。だが、猟兵の機体は高機動強襲型、そう容易く追いつかせなどしない。そのまま駆け回りつつ銃撃を続けていたのだが、このままでは埒が開かぬと悟ったのだろう。
 異形機は余計な装甲をパージしつつ、代わりに道中拾ったバーニアを取り付けて機動力を向上させ始める。それによってジリジリと距離を詰めて傭兵を射程圏内へと捉えるや、大剣を横薙ぎに振るう。
『っ、ビームアサルトライフルが……!? まさか、届かせるとはねぇ!』
『機動戦も悪くないが、そろそろ殴り合いも恋しくなってきたのだよ!』
 剣の切っ先を引っ掛け、ハイネマンは相手の主武装を弾き飛ばす。左手の突撃銃も既に弾切れ、だがサブマシンガンのストッピングパワーでは止め切れぬ。男はそのまま二の太刀を叩き込まんと、一歩奥へと踏み込む、が。
『強引な男は嫌われるよ、中佐! 何もアタシがスクラップを利用しちゃ駄目だなんて、そんな決まりはないからねぇ!』
 いつの間にか、サブアームは短機関銃ではなく別の突撃銃を握りしめていた。後ろ向きに移動している間、悟られぬよう持ち変えていたのだ。既に相手から肉薄してきている以上、避ける暇も猶予も存在はせず――。
『戦争中毒に、特務隊の戦い方を教えてやるさね!』
『ははは、有難い! そいつは大好きだ!』
 弾倉が空になるまで、ゼロ距離射撃から銃弾を叩き込んでゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペイン・フィン
言い分は、解った、よ
最も、そんなことだろうとは、思っていたけども、ね

だから、そう
これは、説得でも何でも無い
ただの愚痴、独り言、だけど、ね

ハイネマン
貴方が切り捨てた、或いは選ばなかった選択肢
それでも願いは、叶ったかもしれないよ

まあ、でも、解るよ
確実に叶えたかったから、こうなっているのだから
だから、後は……
蹂躙する、のみ

コードを、使用

貴女の主にして弟が、約定に誓って、その苦痛を代行する
ソレは万物蕩かす毒の湯
快楽たる天の獄、苦痛たる地の獄
双方極地を無限に呼び出す災害の化身
顔隠しの裏に笑みを浮かべる着物女性
―――酔わせろ"煉獄夜叉"

扱うのは麻痺昏睡毒
人も霊も神も機械も
この世あの世どこに存在する者であっても
酔わせ、痺れさせ、ついにはわずかな動きも出来なくなる
そんな毒を、本来なら、戦場全体に暴れさせる蛇を
一点、一体に集中する

殺しはしない、よ
他の猟兵にも、手出しはさせない
でも、生憎と、その毒は、効き目が長い

しばらくの間、身動きも何も出来ないままに
文字通り、生き恥を晒すが良いよ
……そのときがくるまで、ね


吉備・狐珀
それでこそ戦闘狂といった動機ですね
…些かどころでなく考えすぎでした

和平会談が襲撃されるとなれば猟兵が止めに入るでしょう
ですが模擬戦を申し込まれた方が純粋な闘争ができましたのに

月代、ウカ、衝撃波でここにある残骸を粉砕し、戦闘狂めがけて吹き飛ばすのです
ここに修復可能な材料がある限り中佐は利用します。それを防ぐのです!
衝撃波で飛ばされた残骸が中佐の機体に当たったり、周囲に落ちた所で
真の姿になりてUC【天鼓雷音】使用
月代達が飛ばした残骸は全て私が触れたもの。私の霊力を避雷針代わりにハイネマンへ雷を落とす
雷を避ける隙を逃してはいけません
みけさん、全力で砲撃とレーザー射撃を!
砲撃がくることは織り込み済みでしたか?
…その雷、真っ直ぐ落ちてはきませし、落ちたら終わりではありませんよ?

貴方は強い。そして紛れもない戦闘狂。
そんな貴方に模擬戦とて手を抜けるはずもなく。
ですが依頼となれば貴方の処遇を考えねばなりません。
そこに戦闘を純粋に楽しむ思考はない。

諭したり、説教をしながらの戦闘は全力ですらありませんから。



●毒杯を乾すは神鳴る轟き
『……全く、諸君らはどこまで私を楽しませてくれるのか。戦えど戦えど、その底が見えることは無い。寧ろ次から次へと新たな手妻や兵装が出て来る。良かった、猟兵と言う好敵手を知ることが出来て本当に良かったッ!』
 男の駆る機体はまるで『テセウスの船』と言った有り様であった。原型機であるサイクロプスから絶え間なくパーツの接続と破損を繰り返し、ただでさえ歪だったシルエットが更に混沌と化している。だが、その本質は微塵も揺らいではいない。ハイネマンと言う男を抱く以上、この機体は戦争と言う概念に狂し続けているのだ。
「それでこそ、正に戦闘狂といった動機ですね。些かどころでなく考えすぎでした……いえ、もしかしたら私自身が違って欲しいと無意識に考えていたのかもしれません」
 そんな相手の様子を一瞥し、狐珀は複雑そうな表情で首を振る。しかし、少女の推察もあながち全てが深読みという訳ではない。民間人への被害抑制を見るに、男は自らが敗北した際の事も考慮に入れているのだろう。戦死しても捕縛されても己をスケープゴートにして責任を引き受け、負の象徴として各国の団結を促す……そんな魂胆があったとして不思議ではない。
「確かに和平会談が襲撃されるとなれば、狙い通り猟兵が止めに入るでしょう。ですが模擬戦を申し込まれた方が、横槍の無い純粋な闘争ができましたのに」
『嗚呼、それでは駄目なのだよ、フロイライン? 模擬はどれだけ真に迫ろうとも、所詮は仮初に過ぎない。平和を守る為、絶対に退けぬ……そんな嫌が応にも身命を賭す状況でなければ、人と言うのはどこかで歯止めを掛けてしまうものだ』
 狐珀の問い掛けに、男は眼鏡の位置を直しながら答える。彼女の言う通り、模擬戦を求められても猟兵は全力を以て臨むだろう。だが、男はそうした『全力』と戦争における『全力』を異なる物だと考えているらしかった。
「……言い分は、解った、よ。最も、そんなことだろうとは、自分も思っていたけども、ね。だから……そう。これは、説得でも何でも無い、ただの愚痴。単なる、独り言、だけど、ね?」
 尤も、それは狂人の理屈だ。他者がそう容易く頷けるものではない。しかし、仲間の傍らで会話に耳を傾けていたペインは小さく頷く。共感したのではない。ただ、『そういう物』だと在るがままに認識しただけ。その上で、彼は訥々と呟きを零す。
「ハイネマン……貴方が切り捨てた、或いは選ばなかった選択肢。ぬるま湯の様な日常に浸って、平穏を受け入れて。戦場に背を向けたとしても……それでも願いは、叶ったかもしれないよ」
『…………ふむ。諸君らはこれまでに、いったい何を見て来たのやら』
 青年の言葉に戦争狂は微かに興味を示す。それが単なるブラフやハッタリでないと、男の嗅覚が嗅ぎ取ったのだろう。だが、それが何かまでは見通すことは出来ない。それも無理ならぬこと。それこそ猟兵でもない限り、今の会話だけで意味を察せと言うのは酷である。尤も、それ以上を懇切丁寧に説明してやる気など、指潰しには毛頭なかった。
「まあ、でも、解るよ。いつ来るかも分からぬ何かよりも、目先の望みを確実に叶えたかったから、こうなっているのだろうし。だから、後は……」
 ――蹂躙する、のみ。
 ヒントは出した。後は気が向けば他の仲間たちが何某か伝えるだろう。これより先はああだこうだと言葉を交わすのではなく、望み通り闘争にて返してやるべきだ。ぞわりと纏う雰囲気の鋭さを増すペインの横では、狐珀もまた友輩たちと共に臨戦態勢を整えていた。
「ええ、そうですね。お喋りの合間に相手をするなど、戦闘狂殿からすれば『本気』と言えないでしょうから」
『これは一本取られたな、諸君らの言う通りだ。続きを聞きたければまずは勝ってから、と……よろしい、実に分かりやすい』
 猟兵たちの戦意に応ずるように、ハイネマンもまたゆらりと機体を構えさせてゆく。会話している間、相手は抜け目なく機体の修復を完了させていた。肥大化したシルエットの中、モノアイだけが怪しく光り輝いている。それが一際眩く瞬いた瞬間、合図も前兆もなく敵機は吶喊を開始した。
「こっちは少しだけ、準備に時間が必要、だね。まずは、お願いしても、良い、かな?」
「ええ、勿論です……月代、ウカッ!」
 指潰しの要請に応じ、狐像の少女が迎撃へと動いた。主の呼び声に白き仔龍と漆黒の霊狐が飛び出すや、くるりとそこら中に散乱するスクラップの上へと飛び乗る。すると一陣の風が逆巻き、ふわりと幾つものパーツが浮かび上がってゆく。
「衝撃波でここにある残骸を粉砕し、戦闘狂めがけて吹き飛ばすのです。損傷を与えられるかどうか気にする必要はありません。ここに修復可能な材料がある限り中佐は利用します。まずはそれを防ぐのです!」
 戦闘を通じて消費されているとは言え、集積場に散乱した鋼鉄はまだまだ多かった。これがある限り、相手は止まることなく動き続けるのだ。搭乗者の消耗が期待出来ぬ以上、地道に継戦能力を奪う他ない。
 少女の命令を受けた霊獣たちは衝撃波や霊力を以てパーツを歪め、へし折り、割り砕くや、それらを散弾の如く飛ばし始める。尤も、狐珀の言葉通りそれらに鉄騎の装甲を貫徹するだけの威力は無い。飽くまでも牽制程度だ。
『着眼点は間違っていない。だが、先についてよりも今を凌がねば意味が……っ!?』
 この程度は問題ないと、そのまま加速しようとするハイネマン。しかし、彼は不意に急制動を掛けるや、大きく背後へと飛び退る。入れ替わりに飛来した鉄屑が地面へと落下した瞬間、内部から勢いよく炸裂してゆく。
『……未使用のグレネードや燃料を、即席の爆弾へと変えたか』
「やはり気付きましたか。ですが、これは露見してからが本番ですよ?」
 足を止めた鉄騎に少女は不敵な笑みを向けた。飛んでくる全てが残骸であれば、或いは全てが爆弾であれば対処は簡単だ。だがそれらが入り混じっているとなると話は変わって来る。敗北した記録と記憶を総動員したとしても、瞬時にどちらかを見分けるのは至難の業に違いない。
「――貴女の主にして弟が、約定に誓って、その苦痛を代行する」
 そうして強制的に足を止めさせられた異形機を尻目に、ペインは己が一手を進めてゆく。恭しく畏まった青年の傍らへ、すぅと薄墨が滲む様に漆黒の着物へ身を包んだ女が現れる。漂う硝煙の香りがお気に召さなかったか、彼女は布越しにそっと口元を隠す。その仕草はたおやかだが、纏う気配は剣呑そのものだった。
「ソレは万物蕩かす毒の湯。快楽たる天の獄、苦痛たる地の獄。双方極地を無限に呼び出す災害の化身、顔隠しの裏に笑みを浮かべる着物の乙女。誰よりも優雅で、大らかなる毒」
 ――酔わせろ、"煉獄夜叉"。
 厳かに請願を口遊む指潰しに対し、姉たる毒湯はゆるりと笑みを浮かべる。刹那、彼女の足元から禍々しい色の液体が溢れ出したかと思うや、それらは奔流と化して荒れ狂ってゆく。そうして生まれるは、猛毒で形作られし双頭の蛇。これには然しものハイネマンも呆気に取られてしまう。如何な戦争狂とは言え、液体で出来た蛇と戦った事などないだろう。
『一年前、君が何かしらの薬液を戦闘で使用していたのは記憶に残っている。しかしよもや、こんな物が出て来るとは。何とも嬉しい誤算じゃないか!』
「自分も、成長しているから、ね。前のままだとは、思わない方が、良いよ」
 鎌首をもたげる毒蛇へ向け、我に返ったハイネマンは誘導弾や銃弾、鉄杭など手持ちの武装を片っ端から叩き込む。だが、液体に個体をぶつけても効果は薄い。爆発なら体の一部を吹き散らすことが出来たものの、それ以外は虚しくすり抜けていくだけだった。
「今回選んだのは、麻痺昏睡毒。人も霊も神も機械も、この世あの世のどこに存在する者であっても。酔わせ、痺れさせ、ついにはわずかな動きも出来なくなる。体験したことは、ないよね?」
『ああ、無論だとも!』
 臆するどころか、玩具を前にした子供の如く目を輝かせるハイネマン。本来、この異能は戦場全体を蹂躙し得る技だ。それをただ一体一か所へと集中させる。その意味を知っているのかどうか。だが何であろうと関係ない。ペインが意を念じるや、それに応じて双頭の顎が異形の鉄騎を飲み込んでゆく。
「……拘束はするけど、殺しはしない、よ。もちろん、他の猟兵にも、手出しはさせない。でも、生憎と、その毒は、効き目が長い。しばらくの間、身動きも何も出来ないままに……文字通り、生き恥を晒すが良いよ」
 ――そのときがくるまで、ね?
 装甲の隙間から流れ込む毒湯は、もはや有効量などと言うレベルではない。文字通り溺れる程の量だ。常人であれば数か月単位で病床より動けぬのは確実である。そう……。
『は、ははっ…………フハハハハハハハハハッッ!!』
 相手が常人であれば、だ。突如として双頭蛇の頭部が爆ぜ、戦場に雨となって降り注ぐ。それが爆薬を至近距離で起爆させた自爆紛いの行動だと青年が気付くと同時に、半壊状態となった異形機が姿を見せる。毒は確かに効いているはず。視線を走らせたペインが見たものは、眼鏡の奥で爛々と瞳を輝かせる痩せぎすの男。
「まさか……気力で、耐えている?それはちょっと、出鱈目過ぎだね」
『いやいや、正直に言えばかなりキツイ。まぁ、ちょっとばかり気付けをね?』
 見れば両手を操縦桿に縛り付け、かつ太ももへナイフが突き立っている。痛みで無理やり覚醒を保っていると言うのか。それを加味してなお、尋常ならざる闘争心と言わざるを得ない。
『さぁ、続きといこうか!』
「……ええ。出来れば、そのまま眠ってほしかったですが。こうなれば致し方ありません」
 まだだと叫ぶ戦争狂へ応ずるのは狐珀。彼女は鉄屑と液体に塗れた戦場を一瞥するや、そっと掌を合わせて祝詞を口遊み始めた。
「暴れ狂う紫電は全てを侵す無形の刃。全方位を囲め、紫電の雷精よ。双頭の蛇に導かれ、那辺無尽に迸れ。我は雷を統すべる者。その身に流れる雷を操る術を行使せん」
 取り出した鉾鈴が凛とした音を響かせる度に、共に舞う月白色の龍が咆哮する度に、少女の姿が真へと変じゆく。それに伴い戦場上空には暗雲が立ち込め始め、漆黒の中で閃光が煌めきを放つ。そうして、今度は何が出て来るのだと天を見上げる戦争狂目掛け。
「其は雷、神鳴る力であればこそ!」
 大気を引き裂き、落雷が降り注いだ。先刻投擲していた残骸たち、それらへこっそり霊力を籠め、導雷針代わりとしているのである。咄嗟に自由の利かぬ体に鞭を打って機体を後退らせるハイネマンだったが、そんな隙を狐珀は決して見逃さない。
『ネハシム・セラフの様な天候兵器? いや、これはもっと根源的な……!』
「雷を避ける隙を逃してはいけません! みけさん、全力で砲撃とレーザー射撃を!」
 すかさず、控えていた鋼狐が間髪入れずに光条を照射してゆく。それらは鉄騎が纏う兵装を吹き飛ばしてゆくも、男もまた重要箇所だけは被弾させまいと紙一重で回避する。だが、此処まで含めて、狐像の想定内であった。
「砲撃がくることは織り込み済みでしたか? ……その雷、真っ直ぐ落ちてはきませんし、落ちたら終わりではありませんよ? 丁度良い具合に、周りに水もある事ですしね」
『ははは、これは流石に避け切れんな!?』
 其処此処に点在する水溜まり、残骸に纏わりつく水滴。ペインの一手は狙い半ばで止まってしまったものの、そのお陰で仲間の技を強化する事に成功していたのだ。周囲全てが電流を伝達する誘導体である、回避は当然防御も不可能と言って良い。
「……貴方は強い。そして紛れもない戦闘狂。先程は否定されましたが、そんな貴方に模擬戦とて手を抜けるはずもなく。ですが依頼となれば、私も同じように貴方の処遇を考えねばなりません。そして、そこに戦闘を純粋に楽しむ思考はない」
 それは正しく電光石火。液体を伝って迸る大電流を見据えながら、狐珀はゆっくりと瞳を閉じ――。
「諭したり、説教をしながらの戦闘は……全力ですらありませんから」
 轟く雷鳴から、己が戦果の程を把握するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

勘解由小路・津雲
ははっ、死に場所を求めているなどとは、これは中佐殿に失礼な推測であったな
まさかこの状況で勝つつもりで仕掛けていたとは。理詰めで狂人を理解しようとしていたおれが、いささか浅はかであったか
いや、皮肉を言っているわけじゃないぜ、少々呆れてはいるがな

さてさて、戦略・戦術で競うならともかく、実践では生身のおれは少々物足りないかもしれんが、相手をしてもらおうか
冬帝招来!

半径100mちょっとでは、キャバリア相手ではやや狭いか? だが【範囲攻撃】や【二回攻撃】で少しでも範囲を広げるとしよう
キャバリアを直接は難しくても、燃料の中の水分など凍る部分はあるだろう。動きを止めさせてもらうぞ!

……が、これすらあんたはかわすかもしれんな。まあいい。あんたはかわせても、落ちているスクラップは凍るだろう
それを利用されながら戦われるのはやっかいなのでな、そちらを封じさせてもらうぜ

ところで中佐、猟兵達と戦いたいというのはかまわんが……この世界には、それに匹敵するだけの敵がまだいるぜ?
いいのかい、そんな獲物を逃してしまって?


ファン・ティンタン
【SPD】戦路は続くよ何処までも

対話、と言うよりは要求か
あなたを負かせてからでないと聞き入れないようだけれどね
まずは、攻略戦だ

【求煉鬼道】
求煉、ひと仕事行くよ
鉄騎乗りには鉄騎を
その方が、色々と“盛り上げやすい”

敗北の残滓を自らに還元するのはあなただけの特権ではないよ
求煉も、先の公王に手痛くやられて飢えているからね
無骨な殴り合いと併せて残骸機の奪い合い
さて、死力を尽くす背水の狂人に勝れるかと言うと……まあ、お見込みの通りだ
でも、それでいい
砕かれ弾けた求煉の断片も散り、いずれは彼の機体に貪欲に奪われるだろう

ただじゃ、負けてあげないけれどね

取り込まれた内から敵機制御系に妨害をかける
断片故にいずれ自壊するだろうけれど、時間が稼げれば十分だよ
私は一人で戦っていないからね


……さて、勝ったあかつきの要求だけれど
“しばらく”大人しくしていなよ
詳細は語れないけれど、後々に世界規模の大乱が訪れる
戦いは、あなたが死ぬまで尽きないんだ
だから今だけは、平に和やかを享受せんとするこの世界で……嗤えよ、敗残者の王サマ



●明日に焦がれ、刹那を生き逝く
「ははっ、死に場所を求めているなどとは、これは中佐殿に失礼な推測であったな。まさか本当に勝つつもりで仕掛けていたとは、流石に読み切れなかった。理詰めで狂人を理解しようとしていたおれが、いささか浅はかであったか」
 ツンと鼻を刺す異臭と轟く雷鳴。仲間の放った異能の残滓を感じ取りながら、津雲もまた戦場へと姿を見せていた。あれやこれやと可能性を考えてはいたが、蓋を開けてみればなんてことは無い。戦争狂は飽くまでも戦争狂であった、ただそれだけである。
 そのブレなさに苦笑を浮かべる一方、陰陽師はざっと一瞥しただけでも戦争狂がいまどの様な状態であるかを見抜いてゆく。
「だが、戦況は些か以上に芳しくない様だな。それでも未だに折れぬのは、流石と言うべきかね」
『些かとは、随分とマイルドな表現じゃないかね?』
「いや、皮肉を言っているわけじゃないぜ。少々呆れてはいるがね……なんせ、常人だったらとっくに絶命していてもおかしくないのだからな」
 猟兵の言葉に小さく肩を竦める戦争狂。その姿は津雲が述べた通り、正に死に体といった有り様だった。身体のあちこちには銃創や鉄片が食い込み朱を滲ませ、ボロボロの軍服の下に見える肌は無惨に焼け爛れている。機体を揺らす衝撃によって全身は打ちのめされ、挙句の果てには麻痺昏倒毒と電流を浴びた上で、気付けとして膝にナイフを食い込ませていたのだ。
 普通であれば激痛に耐えかねて意識を手放すか、心が折れて戦意喪失しているべき有り様。にも拘らず、男は笑みを浮かべながら眼鏡の奥で爛々と目を輝かせている。先ほど彼は自らを浅はかと自嘲したが、そもそもこんな狂人の思考を読めという方が無茶だろう。
「なるほど。死ぬか負けるまで止まる気など毛頭なし、と。である以上は対話……と言うよりは要求か。あなたを負かせてからでないと、聞き入れないようだけれどね」
 仮に幾ら問答を積み重ねようと、この期に及んでハイネマンが頷くことは無いだろう。全ては闘争ありきと言う大前提を再度確認しながら、ファンは先程の戦闘で使用していた白刀を拾い上げてゆく。
 勝つにしろ、負けるにしろ。きっとこの男に墓標は似合わぬ。寧ろそれよりも相応しいモノがある。今の彼女にはそれが何なのか、はっきりと理解出来ていた。
「まずは、攻略戦だ……さぁ、求煉。ひと仕事行くよ? 鉄騎乗りにはやはり鉄騎を。その方が、色々と“盛り上げやすい”だろう」
 白き刃が己の現身を散らばる残骸に突き立てるや、ぞるりと切っ先より黒白の液体金属が溢れ出す。それは鋼の骸たちへと手を伸ばし自らの血肉へと変え、一騎のキャバリアを形作っていった。
『敗北の残滓を自らに還元するのはあなただけの特権ではないよ。求煉も、先の公王に手痛くやられて飢えているからね。ここらで一つ、名誉挽回といこう』
「さてさて。それに比べて戦略・戦術で競うならともかく、実践では生身のおれは少々物足りないかもしれんな。だが、そちらとて侮る気は無いのだろう? 仲間共々、相手をしてもらおうか!」
 真っ向から相対する鉄騎の傍らでは、津雲もまた錫杖を構えて霊力を練り上げてゆく。幾度も肩を並べてきた猟兵たちが、その実力を間近で見続けた強者たちが。いまこの瞬間、自らの敵として戦場に立っている。その事実に、ハイネマンは幾度目かになるかも分からぬ感動を覚えていた。
『勿論だとも、どの様な者で在れ歓迎しよう! 愛する戦友よ、我が麗しき好敵手たちよ!』
 そうしてもはや待ちきれないとばかりに、ハイネマンは二人目掛けて吶喊して来る。瞬時にトップスピードまで加速する鋼の巨人に対し、まず対処すべく動いたのは津雲。彼はシャンと金輪を鳴らしつつ、石突で大地を打ち据えてゆく。
「幸いにも今は冬真っ盛り。他の季節で使うよりも、より効果的だろうさ……北方司る天の四神が一柱、水神にして冥界の守護者たる玄武よ。冬を統べるその力にて氷嵐寒風を束ね、戦火に荒ぶる者を討て! 冬帝招来ッ!」
 瞬間、術者を中心として強烈な冷気が戦場全体へと吹き荒び、一気に気温を低下させてゆく。元々、これは冬季に由来する術式だ。特性と合致する時分に使用すれば、当然ながらその威力は増大する。
「効果半径が100mちょっとではキャバリア相手にやや狭いかとも思ったが、この調子であればもう少し拡張できそうだな。さぁ、踏み込んで来るが良い。圏外から銃火器でチマチマと攻め立てる様な詰まらぬ真似、よもや戦争狂と謡われた男が選ぶまい!」
『露骨な挑発だな、あからさま過ぎる。だが、そうまで言われて乗らぬ選択肢などあるまい!』
 きちんとした処置を施していなければ、冬の寒さはいとも容易く兵器を無力化し得る。故に合理的に考えるのであれば、距離を取って術者を潰すのが定石だろう。だが、その様な道理を押し退けるからこその狂人。ハイネマンは一切の躊躇なく、冬将軍へと飛び込んでゆく。
(とは言え、キャバリア自体が度重なる戦闘で熱を帯びている。完全に凍結させるのは難しいだろうが……燃料、正確にはその中の水分ならば話は別。武装にも不具合が生じれば御の字か。さぁ、動きを止めさせてもらうぞ!)
 彼我の距離が百を切ると同時に敵機の装甲表面へ霜が張り付き、瞬く間に全身を白く染め上げる。こうなれば遅かれ早かれ、内部にまで冷気が浸透し各所を凍てつかせるはずだ。相手は無茶な肥大化を繰り返している異形の鉄騎、全てとはいかずとも幾つかを機能停止に追い込めば自重が仇となって身動きが取れなくなるはず。
 だが、それは相手も承知の上だった。
『……古今東西、冬の到来に泣かされてきた将兵の何と多い事か。だが、効率の悪さを無視すれば何とか出来ない事もない。そうだろう?』
 戦争狂は陰陽師本人ではなく、自らの周囲と進路上目掛けて榴弾と誘導弾をばら撒き始めた。それらは凍結による機能不全へ陥る前に起爆し、強烈な爆炎と熱波を生み出す。そう、相手はほんの数秒で消えてしまう熱量を絶え間なく生み出し続ける事により、強引に凍結領域を切り開いたのだ。
「予想はしていたが、やはりこれすら超えて来るか!」
『まぁ、そうでなくちゃこちらも求煉を呼んだ甲斐が無いからね。さて、それじゃあ真正面から殴り合いと行こうか』
 叫ぶ陰陽師の横を、モノクロの鉄騎が飛び出してゆく。相手が持つ火薬類はほぼ全て冷気の相殺へと充てられている。しかしそれでも銃火器に不具合が生じつつある現状、異形機が使用可能な武装は白兵戦用の得物のみ。なればと、ファンはハイネマン相手に真っ向勝負を仕掛けたのである。
 周囲に渦巻く爆煙を掻き乱しながら鉄騎は勢い良く踏み込むと、異形機の横面目掛けて拳を叩き込む。操縦桿代わりに突き立てた白刀を通じ、ぐにゃりと歪み曲がるフレームの感触が伝わって来る。しかし、モノアイは明滅しながらも挑み掛かって来た敵手へ視線を合わせてきた。
『重く、良い一撃だ。これは是非とも返礼せねばなるまいよ!』
 無論、相手もその程度でノックダウンする男ではない。頭を振って打点を外しながら、返す刀で肩に背負った巨刃を振り被る。咄嗟に求煉が両腕を交差させた瞬間、凄まじい衝撃が機体を揺らす。素材とした残骸が軋みを上げ、殺しきれなかった勢いにより地面が罅割れゆく。
『ふむ、なるほど。液状の金属を繋ぎとして、複数の残骸を寄り集めているのか。こちらと似て非なる構造とも言えるだろう。以前は碌に観察する暇もなかったが、こうしてみると実に興味深い』
『それ、褒めていると受け取って良いのかな? そんな有り様なのに、随分と余裕そうだね』
『はっはっはっ、これは手厳しい! 実を言うと、常に何かへ注意を向けていなければ今にも意識を手放しそうなのだよ!』
 ファンの皮肉気な言葉に、ハイネマンも嘘か真かも分からぬ返答を返す。ともあれ、その間も攻勢の圧が緩むことは無い。男は大剣の柄より片手を放すや、空いた手で中型の盾を取り出した。それは偽グレイルの使用していた射突機だ。身動きの取れない鉄騎へ向け、脇腹を抉る様に鋭い切っ先を打ち込んでくる。
『これでお相子……っ!?』
 してやったりと嗤う戦争狂だったが、その顔は直ぐに疑念へ染まる。手応えが軽すぎるのだ。攻撃箇所を注意深く観察してみれば、穿たれた損傷部のフチ部分から液体金属が蠢き、まるで粘菌が触手を伸ばすか如く鉄杭を侵食しつつあった。
『……確かに、少しばかり頭が回っていないらしい。さっき自分で言ったことをもう忘れているみたいだね。素材に相手を使えないなんて、どうして思ったのかな?』
 ぞるりと鈍色の流体は相手の得物や武装を絡め取り、自らの一部として取り込んでゆく。キャバリア乗りとしての純粋な力量では、白き刃は戦争狂の後塵を拝す。だが、継戦能力と言う点では互角だ。泥臭い殴り合いならば少女にも抗しえる目がある。
『これは流石に堪らんな。だが、すぐに別の武装を拾って……ああ、そういう事か』
 本来であれば、それは趨勢を決するには些か物足りぬ要素だ。しかし、ここで陰陽師の展開していた凍結領域が大きな意味を成す。相手が補充部品を漁ろうと足元へ伸ばした手が空を掴む。否、正確には氷に覆われた残骸群の上を滑ってしまうのだ。もし氷を砕こうものなら、内部の残骸も諸共破壊されるだろう。
「例えあんたが冷気を凌げても、落ちているスクラップは御覧の有り様だ。それを利用されながら戦われるのはやっかいなのでな、そちらを封じさせてもらうぜ。もし、追加の武装が欲しければ……」
『目の前の相手から奪うより他ない、という訳だよ』
 これこそが陰陽師と白き刃の戦術だった。相手の継戦能力を奪いつつ、同じ土俵へと持ち込む。単体での技量で劣ろうとも、二人で当たれば話は別である。
『これは一本取られたな。だが、これで良い。やはり諸君らはそうでなくては!』
 二重三重と重ねられた猟兵の策に、男は感嘆と喝采を送る。術中に嵌められたというにも関わらず、ハイネマンはより嬉々として足を止めての殴り合いへと没頭してゆく。お互いの纏う残骸が弾け飛び、それを奪い、己の力としてまた相手へと叩きつける。正真正銘の消耗戦だ。
(さて、さて。とは言っても、死力を尽くす背水の狂人に勝れるかと言うと……まあ、お見込みの通りだ。ダメージレースではややこちらが不利。砕かれ弾けた求煉の断片が散り、いずれは彼の機体へ貪欲に奪われるだろう)
 しかし、戦況は拮抗状態から徐々に猟兵側の劣勢へと変わりつつある。求煉は素手なのに対し、敵の手には巨大なる大剣。剣道三倍段と言う諺そのままでは無いにしろ、得物の差はやはり大きい。だがにも拘らず、少女に動揺する様子は無い。
(でも……それでいい。こっちだって、ただじゃ負けてあげないけれどね?)
 果たして、体積を大きく減じさせた鉄騎が異形機の攻撃を受けきれずに片腕を崩壊させてしまう。バラバラと弾け飛ぶパーツに目もくれず、ハイネマンは此処で勝負を決めるべく深く一歩踏み込んで来た。横薙ぎに迫る鉄塊が如き剣閃の直撃を受ければ、如何な猟兵とて致命は免れ得ぬ。
 そうして、必殺必中の重撃が黒白の装甲へと触れ、そのまま一刀の元に両断……。
『なん、だと……?』
 ――しなかった。びたりと、まるで一時停止ボタンでも押したかの如く、異形の独眼機はその動きを静止させていたのだ。何が起こったのかとモニターへ視線を走らせると、システム系に関するエラー警告が視界に飛び込んで来る。
『ハッキング? だが、電子戦を仕掛けられた様子は無い。となれば、物理的に直接干渉したと……そうか、まさか!?』
 何かに思い至ったハイネマンが装甲の一部をパージする。するとその下では、液体金属が内部機構へがっちりと絡みついていたのだ。それを見て、男は疑念を確信へと変えてゆく。
『わざと、か。一度取り込んだ残骸群を敢えて再利用するように誘導し、予め付着させていた液体金属を操ってこちらの制御を奪ったと。戦場全体を凍らせたのも、全てはこの為……!?』
『ご名答。断片故にいずれ自壊するだろうけれど、時間が稼げれば十分だよ。私は一人で戦っていないからね』
 敵機は火薬類で生じる熱で冷気を遠ざけ、かつ常に動き続ける事で凍結を防いでいた。故にこうして身動きを封じた途端、凍てつく指先が急速に異形機を鷲掴みにしてゆく。こうなれば求煉による制御奪取が解除されたとしても、すぐさま動く事は難しい。
「やれやれ、御膳立てするだけでも中々に骨が折れたぞ。まぁこうでもしなきゃ、こちらの話に聞く耳など持たなかっただろうしな」
『なに……?』
 息を吐く津雲の言葉に、ハイネマンは眉根を顰める。どういう意味かと視線で問いかけると、ファンが口を開いた。
『……さて、勝ったあかつきの要求だけれど、“しばらく”大人しくしていなよ。詳細は語れないけれど、後々に世界規模の大乱が訪れる。幸か不幸か、戦いはあなたが死ぬまで尽きないんだ』
「中佐が猟兵達と戦いたいというのはかまわん。だが……この世界には、それに匹敵するだけの敵がまだいるぜ? いいのかい、そんな獲物をみすみす逃してしまって?」
 白き刃は勿論、捕捉する陰陽師の言葉にも嘘偽りは感じられない。全貌は杳として見えぬが、それが真実であることは確かなのだろう。彼らの語った内容をじっと咀嚼する戦争狂へ向け、ファンはニッと笑いかける。
『だから今だけは、平に和やかを享受せんとするこの世界で……嗤えよ、敗残者の王サマ?』
『なるほど、もしそれが本当であれば心躍る話だ。是非とも一枚嚙みたいね……だが』
 それに対し、ハイネマンも薄く笑う。しかし、その表情はすぐさま獰猛なものへと変じた。男は自爆覚悟で搭載していた炸薬を起爆させるや、瞬間的に生じた熱量を以て機体の自由を奪還する。
『いま立っているのはこの戦場だ。私が居て、君たちが居て、どちらもまだ戦うつもりでいる。だと言うのに、別の戦場へ現を抜かすなど不誠実だというものだろう?』
 濛々と立ち込める爆煙の奥でモノアイが輝く。それは未だ、戦争狂が勝利を狙っているという事実を如実に表しているのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
Ⅳ降りOロードにて禁忌剣に干渉

機能制限一時停止
剣に眠る設計図…未完の兵器
敵手と同等の体躯
御伽を愛した創造主の憎悪の形
“騎士に討たれるべき竜”に

私は『めでたしめでたし』が標の機械の騎士
故に闘争を嫌悪します

戦機に鉄騎、武器に兵器
兵士も騎士も
猟兵もオブリビオンも
貴方も私も、全て、全て、全てッ!

等しく平穏の花の肥しとなればいい!!

戦場の弾丸や残骸を悉く素粒子干渉で花びらに変換
近接戦へ

宙往き星砕く世界
死を以て封じられた兵器が地に縛られるなど!

敵機組み付き飛翔
会場離脱
殲禍炎剣圏内へ

砲撃回避の姿勢制御にご協力を
さもなくばお互い消し炭です

見えますか、数多の偽りの星が
先人の遺産に敗北し続けるこの世界が

我が種族の父は人の悪性
Oマシン無くとも人は争い、その悪性が宙へと未来を拓きます

…私は貴方を嫌悪で殺せません
故に敵手と戦場を示しました
死に時を失った際はご一考を

会場へ降下
復旧した剣の不適切使用制裁機構で体躯吹き飛び
満身創痍の通常形態に

鬱憤と結論は吐き出しました
後は貴方を屈服させるのみ!

剣放り捨て素手で殴り掛かり



●竜は消え逝く為に天火を希う
『さて……次のお相手は君か、騎士殿。だが、異なる事をするものだ。わざわざキャバリアを降りるとはね?』
「ええ。貴方と言う人物に相対するならば、より相応しいものがあると思い至りましたので」
 肥大化した機体も、搭乗者本人も、既にズタボロの満身創痍。そんな状態でありながらも爛々と目を輝かせる戦争狂の前に姿を見せたのはトリテレイアであった。しかし男の言葉通り、いまの鋼騎士は己が愛機たる痩せ馬から身を降ろしている。どの様な意図があるのかと眉根を顰めるハイネマンだったが、彼は戦機の手に見慣れぬ得物が握られている事に気付く。
 それは一振りの大剣であった。白銀の刀身に菫色を差した、鋭角的かつ流麗な外観。なれども、男は其処に内包された理外の威を感じ取ったのだろう。躊躇なく残骸群で再武装しながら身構える。一方、トリテレイアはそんな相手の反応に頓着する事無く、剣を頭上へと掲げた。
「機能制限、一時停止。用途倫理判定……強制承認。申請者処刑機構、無効化確認。内部格納情報より、未完兵器の設計図をダウンロード」
 言葉が紡がれる度、規定されたプログラムに従って刃に課せられた拘束が強引に紐解かれてゆく。其れは剣であって剣に非ず。かつて銀河帝国に利用されし科学者が、己の超技術を封じた禁忌の結晶。数多の権能を内包せし其れより、此度トリテレイアが求めたのは或る未完兵器の設計図だ。
「不肖の騎士たる我が責において――貴女が厭うた邪竜を、此処に」
 情報が解凍された瞬間、戦機を中心として閃光と共に暴風が吹き荒れる。それは空間を押し退け、何かが実体化せんとするが故。果たして、眩いばかりの輝きが消え去った後に現れたのは、白と蒼を基調とした一騎の機動兵器。
 牙を思わせる頭部バイザー、手足に伸びる爪、翼の如き背部ビーム砲と姿勢制御用テールスタビライザー。それらが相まったシルエットは、正しく西洋的なドラゴンを思わせるものであった。
「……これが御伽を愛した創造主の憎悪の形、“騎士に討たれるべき竜”。敢えて露悪に興じ、戦火に嗤う貴方を相手取るならば、これ以外は考えられませんでした」
『なるほど。だが、騎士殿は些か不満がある様だ。聞かせておくれよ、今さら体裁を取り繕うような間柄でもあるまいに』
 ハイネマンがこの様な好敵手を前にした場合、感極まって快哉を叫ぶのが常であった。しかし、何かしらの感情を相手より読み取ったのだろう。戦争狂は薄く目を細めながら問いを投げ掛ける。
「私は『めでたしめでたし』が標の機械の騎士。故にあらゆる闘争を嫌悪します。ええ、そうです。戦機に鉄騎、武器に兵器。兵士も騎士も、猟兵もオブリビオンも……そしてッ!」
 対して、トリテレイアの声音は無機質なまま。しかし、それは機械的と言うよりも寧ろ逆だ。端々には抑圧された感情が滲んでおり、言葉が紡がれる度に激情が露わとなってゆく。それは騎士と言う武を志しながら、力を嫌悪する矛盾の発露とも言えた。
「貴方も、私も……全て、全て、全てッ!」
 ――等しく、平穏の花の肥しとなればいい!!
 自己否定を孕んだ絶叫、其れを開戦の狼煙として邪竜は異形の鉄騎へと吶喊を開始する。相手もまた猟兵の動きへ瞬時に反応し迎撃射を行うも、それらは鋼騎士へと到達する前に無数の花びらと化して舞い散っていった。
『なんと、まさか比喩でも何でもなくそのままの意味とは……!?』
 一歩踏み込む度に残骸は咲き誇る花々へと姿を変え、その一瞬後に邪竜が巻き起こす突風によって無惨にも千切れ飛ぶ。破壊と再生の矛盾を孕みながらトリテレイアはハイネマンの眼前まで肉薄すると、両腕と尾を使ってがっちりと相手を拘束する。
『圧殺!? いや、違う? 騎士殿、君は何を……!』
「この権能は宙を往き星砕く世界の極北たるモノ。『彼女』の死を以て封じられた兵器が、天蓋に覆われた地へ縛られるなどッ!」
 刹那、鋼騎士の行動は戦争狂をしても予想外のものであった。邪竜は全推進器を全開にするや否や、天空目掛けて上昇し始めたのである。無論、その先に待つはこの世界最強にして最悪の焔剣。それはハイネマンでさえも挑む対象とはしない、不可避の死だ。
『私が言える立場では無いが、正気の沙汰ではないぞ!?』
「そう思うのであれば、どうか砲撃回避の姿勢制御にご協力を。さもなくばお互い消し炭です。さぁ、来ますッ!」
 こうなれば下手な抵抗は即撃墜に直結する。男が止むを得ず頭上へとセンサー類を向けた途端、チカリと星が瞬いた。それが砲撃だと察知した瞬間、両者は言葉を交わすことなくスラスターを吹かす。直後、すぐ真横を緋色の柱が通り過ぎてゆく。
『は、ははっ……何ともはや、ぞっとせんな』
「ですが、こうしなければ分からぬ事もあります。見えますか、数多の偽りの星が。先人の遺産に敗北し続けるこの世界が」
 間断なく降り注ぐ攻撃を綱渡り染みて回避しながら、トリテレイアは天地を指し示す。頭上には空を閉ざす人工衛星が煌めき、大地にはそれに首を垂れる国々が犇めいている。彼らは星にへばりつきながら、絶え間ない闘争に明け暮れているのだろう。
「我が種族の父は人の悪性。オブリビオンマシン無くとも人は争い、その悪性が宙へと未来を拓きます……だからこそ、私は貴方を嫌悪で殺せません。故にこうして敵手と戦場を示しました。死に時を失った際は、どうかご一考を」
『先ほども、似た様な事を言われたよ。頭の片隅には入れておこう。だが……それはそれとして、今まさに死にそうなのだがね?』
 鋼騎士の言葉に頷く戦争狂。だが、静寂はほんの数瞬。禁忌と超克を合わせても尚、殲禍炎剣は絶対であった。砲撃を避けようとする邪竜だったが、僅かに反応が遅れてしまう。幸運にも被弾部位はごく僅かなれど、余波だけでも強烈な威力。
 バランスを崩した両者は堪らず離れ離れとなり、数十秒の自由落下を経た後に地面へと激突する。
『がっ、は……!? このサイクロプスが飛行可能な機種でなければ、今ので死んでいたぞ!』
 ハイネマンは機体特性を活かし、何とか命を拾ったようだ。だが、猟兵はどうだ? 濛々と立ち込める土煙の向こう側へと、戦争狂は目を凝らし――。
「……鬱憤と結論は先の遣り取りで吐き出しました。加えて、今の出損傷状態はほぼ五分。ならば、後は貴方を屈服させるのみ!」
『ははは! 全く、やはり猟兵と言う存在は出鱈目だなッ!』
 褐色の幕を突き破り、騎士の姿へと戻ったトリテレイアが飛び出してきた。禁忌剣を不適切使用した反動で邪竜の体躯は吹き飛び、落下の衝撃であちこちにガタが来ている。だが、憂いは全て断ち切ったとばかりに、彼は剣を放り捨てて殴り掛かってゆく。
 そうして戦争狂もまた、そんな好敵手の姿に呵々大笑しながら、嬉々として殴り合いに応ずるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリー・フランツ
【渡り禽】計五人
f32263
f30386
f01190
f29038
心情:…俺もセンチメンタルなこった、市民の事も考慮してる話を聞いて、心の底では中佐はまだまともだと思っていた。
なぁ中佐、俺はどうすればいい?
猟兵のとしてアンタを捕らえ、獄死させるべきか、戦友として戦い、戦士として戦場で死なせるべきか?俺にはわからんよ。

手段:「…ヘヴィタイフーンより各機に告ぐ、ルビコン川の渡河を確認、これより交戦規定の変更を通達する、現時点よりターゲットをエネミーと指定、オールウェポンズフリー、パイロットのデッド・オア・アライブ、グッドラック、オーバー」
今回はオフェンスだ、中佐を助けたいのなら俺は邪魔もせんよ、だがこれだけは忠告しておく、絶対に手は抜くなよ、さもなきゃ殺られるのはこっちだ。

ライフルにはUC【完全被甲弾】を装填、手足なんて甘い事は言わねぇ、定石通り胴体に装甲貫通弾を叩き込む!

距離が離れたらミサイルを使用、逃すつもりはねぇ!
距離を詰められたらライフルを捨てマチェーテを抜刀、白兵に移行し迎撃する。


久遠寺・遥翔
【渡り禽】で参加
初めまして中佐。お噂はかねがね
あんたと俺はある意味似た者同士なのかもしれない
正義の味方っていうのは自分が救いたい相手を救いたいように救うエゴイストの事だ
だから、俺はあんたを死なせ(たすけ)ない
この戦場にいる誰かがあんたの生存を望む限り、
この俺の全霊を以て、あんたにはこの闘争の果てを生きて見届けてもらう

オーバーロード、イグニシオン・ソーリス
真の姿である碧い機神の姿を取ったイグニシオンで交戦を開始する
団の皆と連携を密に
残骸の処理は味方に任せ、俺は敵機に専念

UCを起動
グレイルに捕捉されない低空を、
ワイヤーを引っかけた[地形の利用]で速度を殺さないように適度に着地も挟みながら高速で飛行し
巨大化を繰り返す敵機を迦具土で斬り刻み[焼却]していく
敵の攻撃は研ぎ澄ませた[視力]と[第六感]からなる心眼で[見切り]
[残像]による回避を行う

手加減なんて甘い事は言わないさ
ただ、[2回攻撃]で斬りながら相手のコア部分だけは[結界術]で守る
さっきの連中にやったことをより高い精度、強い力でするだけだ


リーゼロッテ・ローデンヴァルト
【POW】【渡り禽】
※アドリブ絡み歓迎

◆心情
ははっ…なるほどね、中佐♪
その純粋さ、やっぱアタシ好きだよ♡
OK、全力で遊ぼうか

…アンタは大好きなモノの為
不器用でも、狂っても、ただ想いを遂げる
ま、ソレも意思持つモノのサガさね…


◆行動
※手加減抜き、生存時治療
※最後は約束通り酒持参

愛機背部の『クロックワーク』をパージ後
別の【ディヴィエイト・アームズ(DA)】を接続&展開
中はDA51号【ゴルディウム】
ガトリング砲を5基束ねた業物、SSW等由来のジャンクで構成

DAは高負荷、本来は前線換装NG
今回は規格外装備&ジャンク利用の別解と
猟兵の「多世界から集う力」を示す為

天使核補機【アダマンタイト】含め全リミッター解除
ゴルディウム&【アーク・ファランクス】の粒子砲撃を
【マトリクス・メモリ】由来の『ワープ発生源』で全方位化
※メモリはバズりん(新し親分)作

利用予定残骸等の排除&足止め後
ゴルディウムを巨腕化、右腕へ接続

超音速突撃しつつ『ワープ発生源』で背後から掴み
掌からの超光速重力衝撃波で光子還元
※正面から救助可?


中小路・楓椛
【渡り禽】

勝敗(結果)よりも闘争(過程)をお望みですか。ミスラさん、成功報酬はお渡ししますので撤退して下さい。

【クロさん】は自律稼働に任せ自身は機体より降機。装備【ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・封印を解く・リミッター解除】併用にてUC【といりあにめいたー】起動。

クロさんが目標の牽制足止めをしている間に目標周囲広範囲の機体残骸や武装を玩具修理者(UC)によって選択的に片っ端から元素レベルで超高速分解。空気中の酸素と結合・畑の土壌成分に近い形で再構築し残骸と兵器の存在を否定します。
有害物質も抽出して纏めて無害化して封印です。

さて、「辰[トキ]の氏神(デウスエクスマキナ)」の如く手品の種は取り上げました。この後は渡り禽のメンバーを筆頭に猟兵の皆様の活躍に期待します。双方思う存分望みを吐き出し尽くすと宜しいでしょう。

この世界でニンゲン同士で争う時間と資源があるなら環境再生ほか解決すべき事象がある筈なんですけどネエ?(遥か上空の殲禍炎剣のある筈の空間をちらりと眺める)


フレスベルク・メリアグレース
【渡り禽】
ミヒャエル・ハイネマン……
闘争を愛するのが罪だ、とは言いません
闘争こそが人の可能性を促進する、という言葉もどの世界においてある種の真理を突いているでしょう
ならば、その闘争の果てに付き合うとしましょう

闘争を愛するなら名乗り合いに応じなさい――
わたくしの名はメリアグレース聖教皇国第十六代教皇、フレスベルク・メリアグレース!
闘争に目を焼かれた者よ、我が帰天を目に焼き付けなさい!

敵機体の有する機体に刻まれた膨大な『敗北の記憶』――敗残者の王の『過去』そのものから因果に刻まれた斬撃が浮かび上がり、機体とUCそのものを切断していきます
貴方には生きてもらいます
貴方の存在は公国の力となるでしょうから



●去れ、戦乱の残火よ
『ごふッ……いやはや、全く。猟兵と言う存在は私の予想を軽々と超えて来る。まさか、殲禍炎剣を相手にワルツを踊る羽目になるとは。まぁ、新鮮ではあったがね?』
 二桁を超える激戦と死闘の果てに、ハイネマンはもはや満身創痍と言った有り様だった。彼の駆るサイクロプスは装甲と言う装甲がひしゃげ、骨組みたるフレームは歪んで軋み、残骸を纏う端からボロボロと崩れ落ちる始末。その姿は周囲に散らばるスクラップともう何ら変わりが無い。
 そして、機体がそんな有り様で乗り手が無傷などあり得ない。操縦席に座す男の全身には火傷や銃創が無数に刻まれ、太腿には気付けの為にナイフが突き立てられている。麻痺と昏倒を誘う毒が意識を蝕み、電流が全身の神経を焼き、高空から落下した衝撃に骨と言う骨が悲鳴を上げていた。
『だが、まだだ。まだ、私は戦える。未だこの手は動き、視線は揺るがず、心臓は脈打ち続けている! 私はこうして、生きているのだからッ!』
 それでも、戦争狂は止まらない。罅割れた眼鏡の奥で爛々と瞳を輝かせ、飽くなき闘争を求め続けていた。しかし、何事にも必ず終わりはやって来る。戦乱の果てに終止符を打つべく姿を見せたのは、五羽の鴉(レイヴン)たち。
(なまじ付き合いが長いせいかね……俺も随分とセンチメンタルなこった。市民の事も考慮してると聞いて、心の底では中佐もまだマトモなんだと思っていたらしい。こうして敵対するに至って、未だに腹が決まらねぇとはな)
 仲間たちと共にハイネマンの前へと立ちながらも、ヴィリーの内心は未だ揺れ動いていた。事前の情報収集や『憂国正義戦線』との戦闘を通じ、彼は内心淡い期待を抱いていたのだ。戦争狂だ何だと言われつつも、実際は真っ当な狙いが在るのではないかと。
 その推察は確かに間違っていなかった。だが、男の真意は想定と真逆の内容。やはりかと頭の片隅で理解しつつも、感情は未だ納得しているとは言い難い。
(……なぁ中佐、俺はどうすればいい? 猟兵としてアンタを捕らえ、檻に叩き込んで獄死させるべきか。それとも戦友として戦い、戦士として戦場で潔く死なせるべきか? どちらを選ぶべきか、俺にはどうにもわからんよ)
 仮にどの様な末路を辿ろうとも、きっと男は嗤いながらそれを受け入れるだろう。現に戦後を見越して布石を打っている様子も見受けられる。しかしだからと言って、はいそうですかと相手の思惑に乗れるかはまた別だ。ハイネマンを良く知るからこそ、ヴィリーは己が迷いに答えを出せないでいた。
『何を差し置いても闘争を、か。初めまして、中佐。お噂はかねがね聞いているぜ。尤も、実態は聞きしに勝る狂い振りだったが……もしかしたら、あんたと俺はある意味似た者同士なのかもしれないな』
『……ふむ。差し支えなければ、そう思った理由を聞かせて貰えないかね?』
 そんな思案に沈む仲間を一瞥しながら、まず口火を切ったのは遥翔だった。漆黒の大太刀を油断なく構えつつ、青年は敗残者の王へ語り掛ける。己が欲望の赴くままに戦火を撒き散らす狂人と、正義を志し世の為に力を振るわんとする猟兵。その在り方は対照的でありながら、彼は或る共通点を見出していた。投げ掛けられる問いに、彼は答えを返す。
『正義の味方っていうのは自分が救いたい相手を救いたいように救うエゴイストの事だ……だから、俺はあんたを死なせ(たすけ)ない。此の戦場にいる「誰か」があんたの生存を望む限り、この俺の全霊を以て、あんたにはこの闘争の果てを生きて見届けてもらう』
『その望みを、私は肯定も否定もするつもりは無い。それを為せるのは即ち、勝者だけと知っているが故にね。勝った者のみが、己の意を強制できる……そう、君の言うエゴをだ』
 男は不快な金属音を響かせながら、傍らに突き立てていた巨刃を引き抜き構えてゆく。ならば勝って見せろと、彼は言外に告げていた。だが同時に、未だ陰りを見せぬモノアイの輝きが己の勝利を諦めていない事も示している。
『ははっ……なるほどね、中佐♪ 何はともあれ、全ては闘争在りきって事か。その純粋さ、やっぱアタシ好きだよ♡ OK、お望み通り全力で遊ぼうか』
 そんな飽くまでもブレない姿勢に、リーゼロッテは相貌に喜色を滲ませてゆく。ある意味、彼女は五人の中でハイネマンの思惑を一番深く理解していたと言っても良い。故にこそ、彼女は同じく面識のある傭兵ほど惑うことが無いのだろう。
 とは言え、闇だろうと何だろう医者である事に変わりなし。自ら望んで死に逝く者の姿に、何も思わぬ訳では無かった。
(……アンタは大好きなモノの為に、不器用でも、狂っても、ただ想いを遂げる。例えその先が断崖絶壁だろうとも、きっとレミングの群れみたいに意気揚々と行進し続ける事を望むんだ。ま、ソレも意思持つモノのサガさね……)
 ちゃぽんと、操縦席の片隅に固定した酒瓶が虚しく酒精を揺らす。それはまるで、少女の心境を映す水鏡。相手の狂い振りを言祝ぐ心がある一方、一抹の寂しさがグラスに投じられた氷の如く思考を冷やしていた。
(なるほど、なるほど。【勝敗/結果】よりも【闘争/過程】をお望みですか……ミスラさん、成功報酬はお渡ししますので、一先ず撤退して下さい。どうやら、わたしはこれ以上の戦闘行動が許されそうにありませんから)
 一方、そんな仲間とは対照的に楓椛は冷静に現在の状況を分析していた。彼女はこれまでの戦闘中も含めて、ずっと戦争狂のすぐ間近に潜み続けていた猟狼へ引き上げる様に指示を出す。相手の真意とそれを受けた仲間の心境を鑑み、奇襲による暗殺は不要だと判断したのである。
 加えて『憂国正義戦線』という差し当っての脅威が消え去り、敵の残存戦力は満身創痍のキャバリアがただ一機。これ以上の戦闘は妖狐が規定した自衛の範疇より逸脱してしまう恐れがあった。
(それにしても、この世界でニンゲン同士が争う時間と資源があるなら、環境再生ほか解決すべき事象がある筈なんですけどネエ?)
 小さく溜め息を吐きつつ、楓椛は先ほどの戦闘で敵機が落下して来た先を見やる。その果てに居るのは遥か上空に君臨し、人々を地上へと封じ込め続ける焔の天剣。星々の海、昏き闇の帳を知るこの猟兵にとって、その存在は決して面白いものでは無いだろう。
 とは言え、今は目の前の騒動を収める事が先決である。上から下へ視線を戻すと、フレスベルクが一歩前へと歩み出るところであった。
『ミヒャエル・ハイネマン……闘争を愛するのが罪だ、とは言いません。古今、進歩と戦争は切っても切れぬ車の両輪。闘争こそが人の可能性を促進する、という言葉はどの世界においてある種の真理を突いているでしょう。ならばお望み通り、その闘争の果てに付き合うのも猟兵としての務めです』
 荘厳なる神騎と自壊寸前の異形、一国を治める聖人と己以外の全てを敵に回した狂人。余りにも違い過ぎる両者であろうとも、戦場においては対等だ。同じ地平線、変わらぬ目線で挑み合い、勝敗を決す。である以上、例え敵であろうとも礼節を尽くすのは必然である。
『闘争を愛するなら名乗り合いに応じなさい――わたくしの名はメリアグレース聖教皇国第十六代教皇、フレスベルク・メリアグレース! 闘争に目を焼かれた者よ、我が帰天を目に焼き付けなさい!』
『はっはっは! なるほど、そういった外連味も闘争において重要か。だが、この身は既に国を離れ、名乗る肩書も無い……ああ、そうだ。私はミヒャエル・ハイネマン。ただの戦争狂い、今この場においてはそれで十分だろう?』
 最早、これ以上の問答は無用。手にした蒼剣の切っ先を突きつけ宣戦を布告するフレスベルクに対し、ハイネマンは巨大な得物を肩へと担ぎ、なけなしの出力を総身へと巡らせてゆく。その様は消える寸前の蝋燭が放つ輝きを思わせる。しかし、それは放置すれば諸共を焼き尽す大火となりかねない。
 ヴィリーは一瞬だけ眼を閉じると、仲間たちへ向けて通信回線を開く。
『……ヘヴィタイフーンより各機に告ぐ。ルビコン川の渡河を確認、これより交戦規定の変更を通達する。現時点よりターゲットをエネミーと指定、オールウェポンズフリー、パイロットのデッド・オア・アライブ……グッドラック、オーバー』
 斯くして傭兵の号令一下、猟兵たちは戦乱の残火をこの場で断つべく、猛然と戦争狂へ挑み掛かってゆくのであった。

『さて、と。それじゃあ手筈通り、俺は敵機に専念させて貰うぜ。残骸の処理については任せた……オーバーロード、イグニシオン・ソーリスッ!』
 そうして、まず真っ先に動いたのは遥翔が駆りし朱銀の鉄騎。それは搭乗者の戦意に応ずるが如く発する熱量を増大させ、全身に走る紅を蒼へと変じさせてゆく。一見すると涼やかな印象を受けるものの、その実は逆。真に熱き焔は紅蓮でなく群青と相場が決まっているのだ。
 碧き機神はワイヤーアンカーを進路上にある残骸へと打ち込むや、巻き上げる力を利用して機体を前方へと引き寄せてゆく。自身が発した高熱による上昇気流も利用し、地面すれすれを這う様に突き進む。
 とそんな中、青年の真横へ並走する様に漆黒の機影が追いついて来た。
「ええ、委細承知しました。どうかお任せを。ただ気の回し過ぎかとも思いますが、こちらもクロさんを援護に向かわせておきましょう。星辰の御柱に及ばぬまでも、人間の狂気と言う物は決して侮れませぬ故……足止め程度ならば許容の範囲内という事で、此処はひとつ」
 それは楓椛の実験機である。だが機体は自律稼働に委ねられており、当の妖狐本人は単身大地へと降り立っていた。彼女の目的は直接的な戦闘ではなく仲間の支援。遠退く機影を見送りながら、青銅で出来た片刃曲刀の切っ先で地面を穿つ。得物が帯びし用途は武器ではなく術式を助ける補助具としてのもの。
「この様な身の上で科学を語るのも些か奇妙ではありますが……熱力学第二法則は否定する為にこそあるのですよ?」
 楓椛が意を籠めた瞬間、幾つかの残骸を触媒として百を超える人型が形成された。鉄骨と発条、歯車によって構成された玩具修理者。チクタクと金属音を刻むそれらは、術者の意志に反応して行動を開始し始める。
『原理は良く分からんが、あれは何だか嫌な匂いがするな。出来れば、早々に潰しておきたいが……』
『悪いが、それは俺が許さない。お望み通りの闘争なんだ、嫌……とは言わないだろうが、付き合って貰うぞ!』
 後方へと視線を向けるハイネマンに対し、仲間の邪魔はさせないと遥翔が斬り込んでゆく。素の俊敏性とワイヤーの直角機動を織り交ぜながら肉薄するや、黒炎を纏った大太刀を振り被る。またその反対方向からは追従して来た実験機も格闘戦を試みており、どちらかを止めれば確実にもう一方の攻撃を受けざるを得ない状況だ。
 瀕死状態だろうとも決して慢心はせず、数の利を活かし確実な手を打つ。その判断は極めて正しい。もしも、問題があるとすれば――。
『……劣勢、不利、苦境。その様な戦場など、幾らでも体験して来た。なればこそ、してはいけない一手というのも導き出せるものだ』
 相手が尋常ならざる手合いと言う点か。異形機は僅かに上体を逸らせつつ、碧き機神の方へと巨刃を繰り出す。しかし、それは攻撃の為に非ず。傾斜をつける様に寝かせられた得物はするりと炎剣の下へと潜り込むや、刀身に沿って攻撃を滑らせてゆく。
 機体を傾ける事で生まれた空間を切っ先が撫ぜ、斬撃が敵機後方へと受け流される。その先に居るのは、今まさに殴り掛からんとする実験機。
『しまっ……!?』
 瞬間、味方同士の攻撃がぶつかり合い、互いを弾き飛ばし合ってしまう。機体を揺らす衝撃にたたらを踏む両機の中心では、異形機のみが無傷で交錯を終えていた。
 機体に内包されし数多の敗北の記録。それは『何をどうしたから、或いはしなかったから負けた』という敗残者たちの集合知である。裏を返せば、似た状況に対して未だ行われていない行動を選べば生存の眼を拾えるという事を意味しているのだ。
 敗北の可能性を塗り潰し、残った勝利の余地をもぎ取る。その判断を一瞬で下せる技量は流石と言わざるを得ないだろう。しかし、そうした迂遠な方法だからこそ付け入る手段もまたあった。
『過去とは文字通り過ぎ去ったもの……果たして、そうでしょうか。確かに、現在と言う幹に未来と言う枝を伸ばす時間という名の世界樹は、根たる過去があってこそ。ですが骸の海より蘇る者たちの様に、それらは決して学びのみを与えてくれるわけではありません』
 ――故に消えざる過去にこそ、救いと裁きは体現されるべし。
 フレスベルクの座す神機から輝きと共に膨大な魔力が解き放たれる。それらは自身を中心として戦場を白く塗り潰すと同時に、その背後へと濃密な陰を映し出してゆく。刹那、過去と言う漆黒に押し込められた敗者の記憶が発現。まるで記録映像を再生するかの如く、無数の斬撃がハイネマンを切り刻む。
『むっ!? これは、機体自身が受けてきた損傷を再現したという訳か。幾ら過去の記憶を漁ろうとも、攻撃を浴びたという事実までは確かに変えられんな!』
 これにはさしもの戦争狂であっても対処や回避は不可能。各種制御ケーブルや動力伝達経路を寸断され、一時的に身動きが鈍ってゆく。そんな相手の隙を見逃すはずもなく、今度はこれまで後方で支援に徹していたヴィリーとリーゼロッテもまた前線へと姿を見せる。
『今回は俺もオフェンスだ。俺の答えはまだ出てないが、そっちが中佐を助けたいのなら邪魔もせんよ。だがこれだけは忠告しておく……絶対に手は抜くなよ、さもなきゃ殺られるのはこっちだ』
『りょーかい、手負いの獣がどれだけ厄介かってのは身に染みているよ。それが中佐なら猶更、ね。ただ腐っても医者なんだし、患者を殺すのも殺されるのもノーセンキューってことで♪』
『……ま、今さら俺が言えた義理でもねぇか。先に仕掛けるぞ!』
 拠点防衛向きの重武装機とは言え、全くの機動戦が出来ないという訳でも無し。重量級の機体を脚部に備え付けられたバーニアで浮き上がらせ、滑る様に地面をホバー走行してゆく。そうして相手を射程圏内へと捉えるや、傭兵は手にした騎兵歩槍を構える。
(手足なんて甘い事は言わねぇ、定石通り胴体に装甲貫通弾を叩き込む! 幾らパーツを換装出来ても、操縦席の有る其処だけは替えが効かねぇはずだからな!)
 照準用センサーへ敵機を収めた瞬間、彼は躊躇なくトリガーボタンを押す。刹那、無数の薬莢を吐き出しながら、幾つもの弾丸が放たれた。それらは普段使いの弾薬ではなく、より高価かつ強力な完全被甲弾(フルメタルジャケット)だ。
『っ、この状態でまともに受けたらそれこそ詰みだな……ジリ貧となるだろうが、已むを得んかッ!』
 体勢を崩している状態で回避は困難。かと言ってスクラップ同然の装甲ではどれだけ厚い箇所で受け止めたとしても貫徹は免れぬ。故にハイネマンが選んだのは手にした巨刃を盾代わりとする事だった。突き立てられた鉄塊の如き剣はそのまま分厚い壁となり、撃ち込まれる弾丸を受け止めてゆく。
 だがそれは、数少ない攻撃手段を犠牲にした上での延命処置とも言える。現に銃弾が激突する度に、刀身の腹部分に弾痕が穿たれ、金属同士の結合が罅割れてゆく感覚が操縦桿越しに伝わってきた。
『上手い具合に身動きを封じられたみたいだね。本来は敵の前で換装するのはご法度なんだけど……いま無茶をしないで何時するのかって話さ!』
 駄目押しとばかりに続けて畳みかけるはリーゼロッテ。彼女は背部に接続していた大型レドームをパージするや、五つの銃身を束ねた大型ガトリング砲を再接続する。しかしそれと同時に、モニター上には先程よりも大量の警告やエラー報告が表示されてゆく。
 彼女の扱うディヴィエイト・アームズ、通称DAはどれも強力な反面、機体への負荷もまた尋常ではない。本来であれば戦闘中に切り替えるなど以ての外だが、闇医者は今この場においてはそうすべきだと判断を下していた。
(これも元々は星海由来のジャンク品……規格外装備&ジャンク利用の別解と、猟兵と言う「多世界から集う力」を示すには、これしかないだろうしね?)
 メインは勿論、天使核を利用したサブジェネレーターのリミッターもカット。警告欄に危険速度への到達も加えながら、リーゼロッテはガトリング砲と可変防盾内臓の二連装ファランクスによる弾幕を形成してゆく。
『更にバズりん謹製のマトリクス・メモリをダウンロードしてあげれば……!』
 それと並行し、彼女が取り出したるはUSB型の情報記憶媒体。カチリと表面を押し込むと、電子音声が鳴り響く。それを機体に突き刺しデータを注入するや、陽炎の如く機体がブレ始めた。
 徐々に大きくなるそれが最大まで高まった瞬間、なんと機体は複数に分裂。全周状に異形機を取り囲み、十倍以上に膨れ上がった弾幕を以てより圧力を強めてゆく。
『くっ……この程度、猟兵諸君を相手取るにあたり覚悟していた事だ。数の劣勢など、始めから織り込み済みであっただろう! 的になるだけの情けない姿を見せる事など出来まいよ!』
 先の完全被甲弾に続き、更なる鉄量の投射。ハイネマンも巨刃を傾け何とか安全地帯を確保しようと試みるが、周囲全てから射線を通されては十字砲火どころの話ではない。加えてさしもの鉄塊も耐久限界を迎えつつあり、刀身へ目に見えるレベルでの亀裂が走り始める。
 これ以上の防戦は削り殺されるだけ。そう判断したハイネマンは残弾僅少だった虎の子の誘導弾を全て吐き出すや、猟兵たちを強引に引き剥がしてゆく。その隙に残った残骸を掻き集め、何とか継戦能力を維持せんとする……のだが。
『ッ……これは!?』
 手に取ろうとした屑鉄たちがクズリと崩壊する。赤さびに覆われ腐食したかと思うや、幾つもの細かい破片と化して地面へ降り積もり、そのまま瞬く間に土と同化していったのだ。何が起こっているのかと周囲へ視線を巡らせれば、答え合わせをする様に楓椛が静かに口を開く。
「余分な兵器の処分……対応として些か片手落ちだったのは否めませんが、方向性自体はは間違ってはおりませんでしたね。ええ、そうですとも。こんな物がありふれているからこそ、要らぬ考えや嗜好に興じる者が出て来るのですから」
 結論から言えば、ハイネマンの嫌な予感は当たっていた。妖狐が呼び出した人型機械たちの能力、それは原子の分解、抽出、再構成。つまりは物体を元素レベルにまで解体し、別の物へと作り変える機能だったのである。今回に関しては分解した鉄分を酸素と結合させることで、一般的な農作向け土壌に近しい状態にしてしまったのだ。
「有害物質等々に関しましては、どうかご安心を。別途一纏めにして封印済みですので、汚染の心配は御座いません。いやはや、兵器が良い作物を育む下地になるなど、それこそ平和式典の趣旨に沿っているとは思いませんか?」
『ぐうの音も出ない正論だ。だが、後片付けを始めるには少しばかり早いのではないかね?』
「いいえ? 気付いていないのか、それとも認めたくないのかは分かりませんが……もうそろそろ、幕引きの時間です」
 歯噛みする戦争狂の言葉を楓椛はたおやかに受け流す。相手の修復と強化を完全に防げはしなかったものの、それでも武装の過剰装備を潰す事は出来た。集積場の何処を見渡しても鉄屑の一欠片たりとも落ちておらず、もうこれ以上の強化は物理的に不可能だ。
 そうして場を整え終えると、彼女は小さく会釈しながら一歩身を退いてゆく。
「さて、『辰[トキ]の氏神(デウスエクスマキナ)』の如く手品の種は取り上げました。この後は渡り禽メンバー皆様の活躍に期待します。正真正銘、これが最後の一戦。双方、思う存分望みを吐き出し尽くすと宜しいでしょう」
 この戦場において自らの役割は果たしたと、妖狐は一足先に舞台を降りる。これでもう、出鱈目な再生能力を支えていた残骸は底を尽いた。後はただ、全力を以て殴り合うのみ。後顧の憂いは無くなったとばかりに、フレスベルクは一気に敵へと攻め掛かってゆく。
『……望む望まずに関係なく、貴方には生きてもらいます。きっと貴方の存在は公国の力となるでしょうから。自らが招いた戦乱ならば、自身の手で後始末をすべきです!』
『その言に理は在るが、我が戦友を見縊って貰っては困るよ。私など居なくとも公国、ひいては自治領の先行きは決して暗くは無い。故にこそ、私もこうして戦場へと立てたのだからね!』
 蒼き刃を手に挑む神機へ向け、ハイネマンは手にした突撃銃で牽制射を行う。もはや補充の当てもなく、マガジンが空になるまで撃ち尽くすや、突杭を内蔵した盾を繰り出してくる。だが神子は展開した帰天の障壁で銃弾や爆風を弾き、射出された鉄杭の切っ先を逸らす。細かな違いこそあれ、奇しくもそれは先ほど男自身が見せた防御術だった。
 そうしてすれ違いざまに振り抜かれた剣撃により、保持する腕部ごと突杭盾を切り飛ばしてゆく。
『飽くまで、操縦席は狙わぬというのかね……!?』
『手加減だなんて甘い事は言わないさ。ただ、俺の狙いはさっき言った通りだ。勝って、俺は俺のエゴを突き通すッ!』
 続けて遥翔が二の太刀として間髪入れずに敵の懐目掛けて踏み込む。先刻展開した真なる焔の残滓を束ね纏め、敵の操縦席を二重三重に保護。攻撃の余波に巻き込まれぬようにしつつ、同時に敵の脱出も封じる。
(さっきの連中にやったことをより高い精度、強い力でするだけだ。そのぶん力加減も難しいけど、此処まで来て失敗するなんて格好がつかないからな!)
 相手は最後の手持ち式グレネードを投擲しつつ、唯一の武器である大剣を以て青年の動きに合わせてきた。しかし、もう先ほどの様な後れを取る気など毛頭ない。碧き機神は自らの発する高熱でグレネードを早爆させつつ、漆黒の得物を閃かせる。
 鉄塊が如き巨剣、黒焔を纏いし太刀。振り下ろしの斬撃と横薙ぎの抜き断ち。果たして、それらが真正面よりぶつかり合った、結果――。
『ッ、流石に耐え切れなかったか……!?』
『おおおおおおおッ!』
 数々の激戦で負荷が蓄積した結果、厚く広い刀身が遂に限界を迎えへし折れた。急に軽くなった得物にバランスを崩し、堪らずつんのめる異形機。遥翔は瞬時に手首を返すと、返しの一刀を以て、残るもう一本の腕も根元より両断してゆく。
 両腕と共に武装を失い、もうハイネマンに戦う為の手段は残されていない……いや、否。彼にはまだあった。まだ、賭けられるモノがあった。
『固定兵装は残弾ゼロ、マニピュレータの喪失により追加兵装の使用も不可能。主機出力、半分以下にまで低下……ふむ、なんら問題ない。脚が残っていれば蹴り、歯が在れば噛み付き、視線で敵を射殺す。全てを武器として戦ってこそ、闘争に純粋と言えるのだよ』
 それは即ち、己自身の命。戦争狂は動力部の保護制御を解除するや、一気に出力を上げる。エネルギーを臨界させ、以て内包した熱量によって猟兵を吹き飛ばそうという狙いなのだ。無論、遥翔の結界を加味したとしても、無事で済む保証は限りなく低い。
 だが、男は躊躇わない。後先も保身も考えない。闘争において、最善の手を選ぶ。戦争狂の思考原理はただその一点にのみ集約されていた。それこそが彼なりの好敵手に対する礼儀で在るが故に。
 しかし――そんな決着など許さぬと、二機の重鉄騎が動く。
『……らしいっちゃらしいけどさ。それはちょっとばかり困るかな。最後を看取る覚悟は決めてきたつもりだけど、爆散されたら死に水も取れないし?』
『そもそもだ。諸共吹き飛ばしてドローなんざ、それこそ興ざめだろ。なぁ中佐、ここまで引っ張ったんだ。きっちり白黒つけて終わらせようや!』
 リーゼロッテとヴィリー。五人の中でも指折りの大型機がハイネマン目掛けて吶喊する。ライフルを投棄し、代わりに赤熱化する山刀を構える『ヘヴィタイフーン』。その背後で燐光を纏う群青の『ナインス・ライン』。音の壁すら超え肉薄して来る両機だったが、ほんの一瞬だけ異形機の動力炉が臨界点に到達する方が早い。
(二機、か。多いとは言えないが、少ないと嘆くのも失礼な話だ。猟兵と言う好敵手に手を届かせられた……その事実で十二分)
 そうしてモニターいっぱいに映る重装機を愛おしそうに眺めながら、男は動力炉の起爆スイッチへ指を掛ける――。
『……ねぇ、中佐。奥の手を最後まで取っておくのは、なにもそっちばっかりじゃないよ?』
 寸前、凄まじい重力によって腕ごとシート壁面へと叩きつけられた。何事かと目を剥く彼が見たものは、自らの機体を鷲掴みにする巨大な腕。つい一瞬前までこちらへ向かって来ていたはずのリーゼロッテが何時の間にか背後へ回っており、異形機の拘束に成功していたのだ。
『疑似的にとは言え分身も出来たんだし、ワープもやってやれない訳じゃないさね。これなら仮に自爆したとしても、勢いを封じ込められるって寸法だよ!』
『という訳だ。アンタからすれば残念な結果かもしれんが……』
 そうして動きさえ止めれば、後はもう語るまでもない。ヴィリーは突撃の勢いを全て山刀の切っ先へと集中。コックピットを傷つけぬようその少し横、もう一つの中枢部たる動力炉へと狙いを定め、そして。
『――この戦争、俺たちの勝利だ』
『ああ、そのようだ。はっはっは! ……楽しかったなぁ、でも悔しいなぁ。だが、今は何よりもまずこう言うべきだろう』
 ――勝利、おめでとう。我が戦友(カメラ―ド)よ。
 動力部を貫かれ、モノアイの輝きが消滅し、暗緑の独眼機が今度こそ沈黙する。
 もう決して、動くことは無い。
 これこそが一年にも渡って六カ国を巻き込んだ戦乱、その終幕の瞬間であった。

「……で、と。戦ってハイ御終い、といかぬのが余の世知辛さですね。此度の和平会談然り、終わってからがある意味本番とも言えましょう」
 斯くして、勝敗が決した直後。機能停止した機体より引きずり出されたハイネマンを前に、楓椛は小さく嘆息する。騎兵団【渡り禽】の総意として、戦争狂については生きたままの捕縛と相成った。だがそうなった以上、当然ながらこの後どうすべきかと言う問題が発生していたのだ。
「あー、と。順当にいけば、このまま公国側へ引き渡す事になるのか? ただ、その場合の処遇って……」
「ほぼ間違いなく、今回の事件について洗い浚い吐かされた上で処刑でしょうね。他の『憂国正義戦線』指揮官共々、此度の一件に関する責を負う形で……まぁ、このニンゲンはそこまで想定して動いたのでしょうが」
 遥翔の疑問に、妖狐がすっぱりと断言する。眉根を顰める青年がちらりとハイネマンを見やるも、男はただ微笑を浮かべて沈黙するのみ。彼自身の言ったように、敗軍の将はとやかく語るべきでないという事だろう。
「……処刑、か」
 仲間の言葉を聞き、ヴィリーはちらりとフレスベルクへ視線を向ける。彼女は若輩ながらも一国の代表を務めているのだ、そこら辺に関する知見は無いかと言外に問うと、少女は暫く思案した後に口を開く。
「中佐殿が今回の蜂起に加担したのは紛れもない事実。ですが、わざと失敗するように計画を組み、かつ意図は何であれ首魁だった王国の将軍を討っています。それらに加え、公国側からの口添えが在れば……罪一等を減ずる事も不可能ではないかと」
「そうなると終身刑、か。当然、仮釈放とかは無さそうだよねぇ。確かに命は保証されるし、医者としては歓迎すべきなんだろうけどさ。中佐にとっては、うん……」
 フレスベルクの提案は一番実現性のある筋書きではある。今回の功労者である猟兵側も意見を具申すれば、より確実さは増すだろう。しかし一方、リーゼロッテは複雑そうな面持ちだ。
 闘争を奪われるという事。それはハイネマンにとって精神的な死を意味する。心情的にそれを選ぶのは避けたい様子だった。ならばいっそ、後腐れなくこの場で終わらせやるのも慈悲か? それこそ否だ。一度救った患者の命を奪うなど、それこそ話にならない。
「本当に儘ならねぇな……なぁ、ヴィリーさん。今回の依頼はそっちの誘いから始まったんだ。だから結局のところ、やっぱり付き合いの長いあんたがどうしたいかなんじゃねぇかなって。俺たちはそれに従うぜ?」
「そう、だな……」
 青年に水を向けられた傭兵は、瞼を閉じて己の内面へと思考を沈めてゆく。彼らのみならず、先行した多くの猟兵たちもこの男の行く末を案じていた。ある者は真っ向から闘争に付き合い、ある者は此処で斃す事を良しとし、またある者はどんな形で在れ生存を望んだ。
 そうしてこの場で繰り広げられた戦いを、この一年で共にした戦場を思い起こす。
「なぁ、中佐。アンタはなにか望みは無いのか。本当にこれで満足しちまったのか?」
「ふむ……幾人かが語った、いずれ来る大戦争とやらが気にならんでもないがね。だが、私は既に己の望みを満たせた。加えてそも、敗者が勝者に要求するなどあってはならんよ」
 問いに対して、やはり戦争狂の考えは変わらない。思えば、この男はいつもそうだった。にやにやと薄ら笑いを浮かべ、眼鏡の奥で全てを見透かしている一方、口を開けば闘争についてしか語らない。いまだってそうだ。
 そうして相手が何者であるかを再確認した果てに、傭兵はようやく己が心に適う答えを導き出した。
「……リリー先生、治療を頼む」
「オッケー。取り合えず自力で歩けるくらいまで? 色々と瀕死状態だし、副作用もキツいだろうけど」
「構わん。どのみち、死ぬよりかはマシだ」
 ヴィリーの言葉に応じ、リーゼロッテがハイネマンへと駆け寄り手早く治療を始める。中々にエグイ光景が繰り広げられるも、男は眉一つ動かさぬままヴィリーを見つめ返す。
「……なるほど、これが君の選択かね。良いだろう、今から話す情報を吟味しておくとしよう。流石に拷問は勘弁願いたい」
「オイオイ中佐、早合点はいけねぇな。俺は治療して欲しいと頼んだだけで、引き渡すなんざ一言も言ってないぜ?」
「……なに?」
 その返答は予想外だったのだろう。今度は男が眉根を顰める番だった。一方、様子を窺っていた仲間たちについてはその反対。青年はフッと笑みを浮かべ、少女は頷き、妖狐はやれやれと言った様子で肩を竦めている。呆気にとられるハイネマンへ、ヴィリーは仲間たちを代表して己が選択を明かしてゆく。
「自分が死のうが生きようが、全部丸く収まる様に準備してたんだろ? 悪いが、俺たちは最初から最後まで掌の上で転がされたままなんざ御免でね。別の選択を選んで貰うぞ」
 ――アンタには生きて貰う。但し、この国以外の何処かでな。
 それを聞いた瞬間、戦争狂の表情から感情が消えた。しかし、それも一瞬だけ。一拍の間を置き、男は噴き出したように呵々大笑し始める。
「は、はははっ! しょ、正気かね諸君らは。私をそのまま野に放つなど!」
「私としては懸念が無い訳ではありませんがねぇ。ただ、これが落とし所としては一番角が立たないのもまた事実ですから」
 嗤う男に対し、楓椛はスッと目を細めてゆく。彼女の言う通りリスクは勿論ある。だが当然、それに対するセーフティもまた考えてあった。
「勿論、今回みたいな真似はしないって事が大前提だぜ。勝者の指示には従うんだろ? あんたなら自分の言葉を裏切らないって信じられるからな」
「もし万が一、再び何らかの企てを起こそうとすれば、必ずや我々が阻止に駆けつけます……いえ、それを目的にされたら困りますけれど」
 遥翔とフレスベルグがそう言って念入りに釘をさす。傭兵みたく、戦場を渡り歩く分には好きにすれば良い。だがまた同じ真似をすれば、次こそは討ち取る。猟兵ならばそれが可能だと、今回の一件で示せたが故の処置であった。
「よっし、一先ず治療は終わり! さてさて、怪我人にアルコールはご法度なんだけど、まぁ消毒という建前でと……さ、どうぞ?」
 そうして仲間が説明している間、一通りの治療を終えたリーゼロッテは瓶を取り出すと、栓を抜いてハイネマンへと差し出した。相手はそれを受け取りながら、スンと匂いを嗅いで中身が酒精である事を知る。
「これは……シュナップス?」
「せっかく買って来たんだしね。いわゆる、別れの盃ってやつ?」
 飲めと促す闇医者に従い、男はグイと中身を乾す。ヒリついた喉を酒精が焼き思わず咽かけるも、不思議と身体全体に活力が巡るのを感じた。再び栓をして酒瓶を仕舞う戦争狂へと、ヴィリーが言葉を掛ける。
「……今日ここで、ミヒャエル・ハイネマンと言う軍人は死んだ。アンタはもう、何処の誰でもない。だからこれからは好きに生きろ。勿論、節度を守った上でな」
「なるほど……老兵は死なず、ただ去りゆくのみ、か」
 ハイネマンは憑き物が落ちた様に薄く笑みを浮かべると、疲れ切った体に鞭を打って立ち上がる。未だ傷は痛む様だが、それでも動けるのはリーゼロッテの技量故か。幸い、各国はまだ混乱から立ち直っていない為、姿を晦ませるのであれば今しかないだろう。
「サフォーノフ殿に別れの挨拶が出来ぬのは残念だが、贅沢が言える立場でも無し。後で手紙でも送っておこう……さて、諸君」
 そうして暫し歩いて距離を取った後、男はくるりと猟兵たちへ振り返る。彼はこれまでと同じく不敵に嗤いながら、ビシリと敬礼の姿勢を取った。
「いずれまた相見えるか、それともそれぞれの戦場で斃れ朽ちるか。それは分からぬ。だが、戦火がある限り、我々は永遠であり不滅だ。さらばだ、諸君。これにてさようならだッ!」

 斯くして、戦争狂が戦場より去りゆく。
 好敵手に、戦友に、祖国に、平穏に背を向けて。
 ただ独り、戦乱の世界へと歩み出す。
 彼の言葉通り、何処かで果てるか、それとも何時か顔を合わせる刻が来るのか。
 それは分からない。
 しかし、いま確実に明らかなことは……。

 ――1年にも及ぶ戦乱、その残火がようやく消え去ったという事実だけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ――拝啓、公王陛下殿。

 先日は別れの挨拶も出来ないまま、慌ただしく消えてしまい済まなかったね。
 深くお詫びさせて貰うよ?
 その前に謝るべき事が他にあるだろうと君は言うかもしれないが、そちらに関してはノーコメントとさせて頂こう。
 趣味と実益を兼ねての行動だったのは否定しないが、一応公国の事も考慮には入れていたつもりだ。
 現に、あの後は他国との交渉も随分やり易くなっただろう?

 ……とまぁ、恩着せがましい物言いはこれくらいにして。ここからは私の頼み事だ。
 私の部下たちと自治領の運営について、どうか後事を託したい。
 後者について不安は無いが、前者は些か心配でね。
 無罪放免とはいかないまでも、流石に末端の兵士まで処刑はされまい。だからこそ私の後を追わぬよう、よくよく言い含めて欲しいのだ。
 どうやら、彼らにもいずれ相応しい戦場が待っているらしいのでね?
 なぜ自分がと思うかもしれないが、任せられる相手が他に思い浮かばなかったのだ。
 我ながら虫の良い話だが……どうか頼むよ、Kamerad。

 さて用件のみで恐縮だが、この辺りで筆を置かせて頂こう。
 それと、この手紙は早々に燃やしてしまう事をお勧めするよ。
 文句については、もしもまた会えたらその時にでも聞かせて貰おうか。
 それまでどうか壮健である事を祈っているよ、ニコライ・サフォーノフ殿。
 それでは。
                             名も無き者より。

                    ――厳重に保管された手紙より抜粋。

最終結果:成功

完成日:2021年12月05日


挿絵イラスト