闇に撒かれし不和の陰謀
#ダークセイヴァー
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
●
「目を覚ますのだ、人々よ! 我々は欺かれていた!」
辺境の地に築かれた『人類砦』の集落。その広場で1人の男が大声を張り上げている。
風貌は冴えないが、妙に人の目を引き付ける。声の張り方から身振り手振りまで注目を集めるため計算されたものだと分かる、舞台役者のような男だ。
「自分達を『猟兵』と名乗るあの者達……奴らは我々の味方などではない! 吸血鬼にかわって我らを支配せんとする、邪悪なバケモノなのだ!」
その演説の標的にされているのは猟兵。過激な言説がここには居ない者達を糾弾する。
人類砦の住民や『闇の救済者』であれば、多少なりと猟兵との関わりはあろう。彼らは人類を闇の支配から解放する希望だったし、人々もそうだと信じていた。
「奴らの力が我々に向けられれば、吸血鬼以上の脅威となるだろう! そうなる前に奴らを抹殺しなければ手遅れとなるぞ!」
だが、異様なカリスマに溢れた男の言葉を聞いているうちに、その信頼は揺らぎだす。
積極的に賛意を示す者こそまばらだが、広場に集まった人々の表情には不安と困惑の陰が浮かび上がっていた。
「人類が再びこの世の偉大な支配種族となるために! 邪悪な猟兵を滅ぼすのだ!」
人々はまだ気付いていない。過激な演説を繰り返すこの男が、吸血鬼の手先であると。
砦に潜り込んだたった1人の『不和と分断を煽る者』によって、民衆の結束は断たれようとしていた――。
●
「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーの『人類砦』のひとつにヴァンパイアの配下が潜入し、住民を扇動しています」
人類砦とはヴァンパイアの支配に抗う『闇の救済者』達の活動により築かれた、人類の活動圏である。領主共にとっては反乱者の拠点であり、たびたび武力侵攻の標的にもなってきたが、今回の敵はどうやら「攻め方」を変えてきたらしい。
「人類砦に潜入したオブリビオンは過激な演説で民衆の不安と混乱を煽りつつ、暴動を起こそうとしています。その趣旨は『猟兵への不信感を植え付ける事』にあるようです」
曰く、奴らは得体が知れないとか、味方のふりをして自分達を操ろうとしているとか、吸血鬼共と同じバケモノだとか。根拠のない誹謗中傷や悪辣な陰謀論を並べ立て、人々の猟兵への信頼を揺るがそうとしている。
「人類砦の住民や闇の救済者達は、これまで猟兵に助けられてきたことを知っています。ですので陰謀論を信じる人は全体としては少数なのですが、過激な言動に乗せられた一部の人が扇動者に共感しつつあります」
この『不和と分断を煽る者』が持つカリスマ性と演説には、人々を洗脳する力がある。
今はまだ理性的な人類砦の住民もこのままではいずれ扇動者の手に落ち、無自覚なまま敵に寝返ってしまうだろう。
「事態を収拾するには『不和と分断を煽る者』を倒すしかありません。同時に猟兵を敵視するその言動を否定することもできれば、洗脳された人々も正気に戻るでしょう」
最低限、元凶を倒しさえすれば民衆の混乱がそれ以上広がることはなくなる。しかし、一度撒かれた疑惑の種を取り除くためには、相手が吸血鬼の手先である事を証明したり、行動や発言によって信頼を取り戻すなどの作戦が必要になるだろう。
「単純な戦闘能力でみれば、敵は猟兵にかなうほどの相手ではありません。だからこそ、民衆の前での振る舞いが重要になってくるでしょう」
ここで人類と猟兵に不和と分断が起こるような事態になれば、それこそ敵の思う壺だ。
闇の救済者による反抗も実を結びつつあるこの時制に、招来に禍根を残す事のないよう上手く立ち回りたい。
「さらに厄介な事に、敵にとってはこれは計画の第一段階に過ぎません。民衆に猟兵への不信感を植え付けるよう、『不和と分断を煽る者』に命じた黒幕が存在します」
黒幕は人類砦で配下が騒ぎを起こせば、猟兵が解決にやって来ることを予測している。
そこで予め周辺に大軍を潜ませ、現れた猟兵を砦ごと包囲殲滅する準備を整えている。
「このまま猟兵への不和が民衆に広がればそれでも良し。首尾良く猟兵をおびき出せれば数の力で押し潰す。そうした二段構えの作戦のようです」
完全に猟兵を標的に据えた周到な計画であり、黒幕がそれだけ猟兵を危険視しているのが窺える。それだけの実績と成果をこの世界で重ねてきたのだから、当然とも言えるか。
「しかし予知により事前に敵の計画が明らかとなった以上、対策も打てるはずです。皆様の実力であれば吸血鬼に率いられた大軍にも、吸血鬼本人にも遅れは取らないでしょう」
いかに策を弄そうと無意味だという事実を突きつけてやるには、戦って証明する事だ。
大軍の包囲を返り討ちにし、黒幕たる吸血鬼を撃破する。決して楽な戦いではないが、今の猟兵達ならやれるだろう。
「敵の主力は『マージナル・ビースト』という獣人型のオブリビオンです。それを率いる吸血鬼の詳細については、残念ながら予知する事ができませんでした」
マージナル・ビーストは剛力と口より吐く冷たき炎を武器とし、捕らえた犠牲者の体を絞るようにして血を飲むという。その正体は儀式に供された人狼とも黒騎士の末路とも言われるが真相は不明であり、今は吸血鬼の忠実な配下として襲ってくるようだ。
「扇動者の排除から大軍と黒幕の撃破。忙しい依頼となりますがよろしくお願いします」
説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべ、問題の人類砦へと道を開く。
希望の見えはじめた人類に不和を植え付けんとする者。そして猟兵達を狙った陰謀との戦いが始まる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回の依頼はダークセイヴァーにて、人類の不和と猟兵を狙った吸血鬼の陰謀を阻止するのが目的となります。
1章は『不和と分断を煽る者』とのボス戦です。
演説による民衆の扇動を得意とするオブリビオンで、この力で人類砦の住民に猟兵への不信感を植え付けようとしています。
ただ倒すだけなら苦戦はしない相手ですが、好き勝手言わせておくと不信感が残ってしまうかもしれません。その辺りの対処も同時にあればボーナスが付きます。
2章は『マージナル・ビースト』との集団戦です。
黒幕の吸血鬼に率いられた彼らは、1章の扇動者がやられると砦を包囲し、猟兵達を殲滅せんと襲い掛かってきます。
1体1体の強さはそれなりですが数が多く連携も取れているので、油断なく包囲に対処する作戦があると良いでしょう。
3章は今回の事件を引き起こした黒幕との決戦です。
現時点でその詳細は不明です。章に到達してから改めてお伝えします。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『不和と分断を煽る者』
|
POW : 吾輩が人類を再びこの世の偉大な支配種族にする!
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【と同時に、自身への熱狂的で盲目な崇拝思考】を与える。
SPD : 嘘だ!嘘だ!奴らの言っている事は全てデタラメだ!
【自身を称え、失敗の責任を敵に擦り付ける嘘】から【対象の発言やUCの詠唱台詞に被せる様発言】を放ち、【挑発で調子を狂わせて妨害する事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : (依頼毎に設定)を抹殺する事で我々は豊かになる!
【自身の敵に対する偏見だらけの悪辣な陰謀論】を披露した指定の全対象に【与する者も含めて全員抹殺せねばという恐怖】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:tora
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ララ・エーデルワイス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シャルロット・シフファート
猟兵が吸血鬼に変わる支配者となる…
じゃあその具体的な証拠や根拠を見せなさいよ
ああ、『超常の力を振るう』と言うのは無しね
私達はこの3年弱の間人々を朝日へと導くためにこの力を振るってきた
それすら人々を欺く為というなら、その証拠を見せなさい
口だけなら何とでも言えるわ
それに猟兵を抹殺すると言っても、どうやって?
吸血鬼すら屠るという存在に人間だけでどう滅ぼすというのよ?
それに猟兵に変わる吸血鬼対策もあるのでしょうね?
もし策もなく猟兵排除を煽るなら自殺行為よ
それが意図してないか意図しているかは関係なく…耳を傾ける価値は無いわね
そう言って相手の論理の破綻点を指摘した後、攻撃していくわ
「猟兵が吸血鬼に変わる支配者となる……じゃあその具体的な証拠や根拠を見せなさいよ」
「なにっ?」
それまで『不和と分断を煽る者』の独壇場だった街に、反論の声を上げる者が現れる。
シャルロット・シフファート(異界展開式現実改変猟兵『アリス・オリジン』・f23708)。たった今糾弾されていた猟兵の1人は高飛車な口調でびしばしと物を言う。
「ああ、『超常の力を振るう』と言うのは無しね」
何の謂れもない疑惑を押し付けられ、人々の不安を煽る種にされるのは我慢ならない。
言葉による攻め手を言葉によって挫く、猟兵とオブリビオンによる論戦の幕が開けた。
「こ、根拠は……っ」
まさか演説の最中に当の猟兵が割り込んでくるとは思っていなかったらしく、それまで淀みなかった男の言葉が詰まる。シャルロットはその隙を逃さず毅然とした振る舞いで、この場にいる群衆にも聞こえるよう堂々と反論を行う。
「私達はこの3年弱の間人々を朝日へと導くためにこの力を振るってきた。それすら人々を欺く為というなら、その証拠を見せなさい」
口だけなら何とでも言えるわと睨みつけると、敵は矢を射掛けられたようにたじろぐ。
まだ十代の少女に大の男が気圧されている。猟兵として数々の修羅場を潜ってきた彼女とでは、言葉の重みが違っていた。
「それに猟兵を抹殺すると言っても、どうやって?」
シャルロットは続けて【猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!】という扇動者の持論のひとつに矛先を向ける。百歩譲って猟兵が人類の脅威だとしても、そこにはユーベルコードという歴然とした実力の差が存在する。
「吸血鬼すら屠るという存在に人間だけでどう滅ぼすというのよ?」
「ふ、不可能ではない! 我ら人類の力を結集すれば、必ず!」
対する扇動者の答えは誤りではなかったが苦しい言い訳だった。小領主の軍を打倒するなどの実績を見せ始めた『闇の救済者』達だが、それも猟兵達の協力あってこそのもの。今まで味方だったものを敵に回すとなれば、どれほどの被害が出るかは分からない。
「それに猟兵に変わる吸血鬼対策もあるのでしょうね?」
人類と猟兵が仲違いした好機を、あの狡猾な吸血鬼が見過ごすわけもない。もし三つ巴の争いになれば最初に排除されるのは最も弱いもの――即ち現状においては人類の方だ。
「もし策もなく猟兵排除を煽るなら自殺行為よ」
「確かに……」「それはそうだ」
人類砦の住民達も、希望が見えたとはいえ現状を楽観視しているわけではない。演説の熱狂に水を差すように理路整然と問題点を述べられれば、扇動者の言葉にまるで"実"がないことに気付きはじめたようだ。
「それが意図してないか意図しているかは関係なく……耳を傾ける価値は無いわね」
「ぐぬぬ……ッ」
扇動者の論理の破綻点を指摘した後、シャルロットは【不思議の国の果て、我らは原初の弾劾者に至る】を発動。究極のアリス適合者『アリス・オリジン』の姿に変身すると、強化されたアリス適合者の力をもって攻撃を仕掛ける。
「消え失せなさい」
「ごはッ!!?」
広場に突如として出現したガラスの迷宮が縮小し、標的を内部に閉じ込め、押し潰す。
透明な花びらのように砕け散るガラス片の中、不和と分断を煽る者の悲鳴が上がった。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
なるほど、どちらにしても敵の思う壷と言う訳ですか。
気に入りませんが、やらない訳にも行きませんか。
敵のユーベルコードは厄介ですが、私も不信感を抱き始めている住人にユーベルコードを使って話しかけます。
敵の発言が私の言葉に被るとしても、信じて下さい!の一言だけは【大声】で伝えて【言いくるめ】てしまいます。
彼らと【手をつなぐ】事で化物などでは無い事を強調し、場合によっては泣きそうな表情でじっと見つめる【パフォーマンス】で【誘惑】しても良いでしょう。
少しの間だけでも不信感を払拭して味方に付け、その間に敵を斬って口を塞いでやりましょう。
その際は人間としての剣技で戦い、私も人間だと言う事を強調します。
「なるほど、どちらにしても敵の思う壷と言う訳ですか」
言葉によって不和と分断の種を撒き、猟兵達を誘き寄せた後は武力によって殲滅する。吸血鬼の描いた狡猾な策に、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は顔をしかめた。
「気に入りませんが、やらない訳にも行きませんか」
敵が演説を武器として民を操ろうとするなら、こちらも同じく言葉を武器に挑むまで。
妖狐由来の【誘惑の牙】を研ぎ、少女は『不和と分断を煽る者』の舞台に姿を表した。
「私達は貴方達の敵ではありません」
「っ?! なんだね、君は」
ふいに現れた黒髪の少女に演説を遮られ、壇上の男は露骨に不快そうな表情を見せる。
だがハロは彼のことを見ておらず、あくまで広場に集まった人々に視線を向け。猟兵への不信感を抱き始めている住人の元に近寄ると、穏やかな調子で話しかけた。
「私達は化物なのではありません。貴方達と同じ、人間です」
「え、えっ……」
そう言ってぎゅっと手をつながれた相手は、動揺した様子で顔を赤らめる。剣を振るう為に鍛えられたその手は、それでも小さくて柔らかい少女の手で、紛れもなく血の通った人間の手だった。
「嘘だ! 嘘だ! 奴らの言っている事は全てデタラメ―――」
「信じて下さい!」
場の空気が変わるのを感じた扇動者は焦って言葉を被せるが、ハロはその上からさらに大きな声で想いを伝える。まなじりにはじわりと涙を浮かべ、今にも泣きそうな表情で、目の前の相手をじっと見つめる。
「お願い……」
高い所から告げられる演説よりも、同じ目線で紡がれる言葉のほうが"響く"事もある。
妖狐の誘惑術を身に着けた少女のパフォーマンスは、猜疑心を抱く者たちの心を大きく揺れ動かしていた。
「お、俺……やっぱりこの子達が悪い奴らだなんて思えない……」
群衆からぽつりぽつりと上がる声。ハロ渾身の説得により不信感を払拭された人々は、一転して彼女の擁護に回った。感情的な扇動で疑心や不安を焚き付けられていた者達に、同じく感情に訴えかけるやり方が効いたようだ。
「バカが! なにを言いくるめられて……ぐッ?!」
「言いくるめようとしているのは貴方でしょう」
焦りを見せた『不和と分断を煽る者』を、鋭い白銀の剣閃が襲った。民を味方に付けた今が好機と、レイピア「リトルフォックス」を抜いたハロは、そのまま斬撃のラッシュで敵の口を塞ぎにかかる。
「これは人間としての剣技。私は、人間です!」
剣から炎や霊気を出すような芸当は見せず、あくまで純粋な人の技を以って自らが人間だという事を強調するハロ。幼い頃から吸血鬼と戦うために学んだその剣は、実戦により研ぎ澄まされており、口先ばかりの扇動者に捌けるものではない。
「ぐっ、おのれ……!」
論戦でも武力でも遅れをとる形となった敵は、苦虫を噛み潰した表情で負傷をかばう。
演説会場の風向きと、自分に向けられる視線が変わりつつある事に彼も気付いていた。猟兵も人であるとの印象を強く植え付けたハロの行動が、流れを変えたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
洗脳とは堅実な事だ
口先では歯が立たないと自覚してる事を褒めてやるべきかな?
【異聞降臨】発動の前触れとして静寂を生み出し敵UCの妄言を捻じ伏せる
装備[第二神権]の《封印を解く》事で《先制攻撃+ハッキング+結界術》、
空気振動に干渉し瞬間的に音の伝達を阻害した訳だ
召喚するのは真贋を司る一角の神羊
この化身が現れた地では口にした偽りの大小に応じた雷霆の裁きが下る
何なら小さい嘘で試してみるといい
好きな食べ物を誤魔化すくらいなら軽い静電気程度で済むさ
さて――開廷の時間だ
自らの所属、目的、大義。潔白を証明するとしようじゃないか
アタシはオブリビオンの暴虐から人々の解放を望む『闇の救済者』の同志だ
キミはどうだい?
「洗脳とは堅実な事だ。口先では歯が立たないと自覚してる事を褒めてやるべきかな?」
搦め手に訴えてきた敵の戦略を、カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は皮肉交じりに評価する。小賢しくも敵は演説に長けた者を刺客として送り込んできており、人類砦の住民にも少なからず動揺が広がっている。
「"――我は汝、汝は我! 交わらざるイフの時空より来たりて聖暁の威を示せ!!"」
彼女にそんな輩とまともに論を交わすつもりはなかった。【異聞降臨】の詠唱を紡ぎ、その身に宿る魔神の「第二神権」を解放すると、突如として辺りには静寂の帳が降りた。
「騙されるな諸君! 猟兵を抹殺する事で我々は豊かに―――?!」
壇上で熱弁を振るっていた『不和と分断を煽る者』の声も、虚空に吸い込まれたように聞こえなくなる。封印を解かれたカタリナの権能が空気振動に干渉し、瞬間的に音の伝達を阻害したのだ。
「随分好き勝手を言ってくれるね」
ただ一人声を発せるのはカタリナのみ。敵の妄言を力で捻じ伏せた彼女は、相手と同じ壇上に颯爽と上る。同時に天空より一角の羊が召喚され、パチパチと稲光を散らしながら浮雲のように上空を飛び回る。
「あれは真贋を司る神羊。この化身が現れた地では口にした偽りの大小に応じた雷霆の裁きが下る」
異聞降臨により現れた化身の力を、カタリナはこの場の全員に聞こえるよう説明する。
権能による発言の剥奪は一時的なものだ。すぐにまた声は出せるようになったものの、彼女の解説を聞いた者達はみな怯えたように口をつぐみ、上空の神羊を見上げていた。
「何なら小さい嘘で試してみるといい。好きな食べ物を誤魔化すくらいなら軽い静電気程度で済むさ」
「な、なんのつもりだ……!?」
何故わざわざそんな事を説明するのかと、恐る恐る疑問を口にしたのは『不和と分断を煽る者』だった。攻撃のつもりならルールを明かさないほうが効果的だったはず――その問いに魔神の娘はにやりと笑みを浮かべた。
「さて――開廷の時間だ。自らの所属、目的、大義。潔白を証明するとしようじゃないか」
虚偽を封殺した上でカタリナが仕掛けるのは神権裁判。人智を越えた力で偽りを暴き、裁きをもたらす事。女神の如き威厳あふれる態度と発言に、相手の顔がさっと青ざめる。
「ふ、ふざけるな! 人外の力で発言の自由を妨げ、手前勝手なルールを押し付けるとはまさにバケモノの所業ではないか!」
焦った『不和と分断を煽る者』は、がなり立てるような調子でカタリナを糾弾する。
その言は偏見に満ちてこそいたが、当の相手がまさに人外の力を振るった直後ゆえに、多少の説得力を有しているのも事実だった。
「そもそもルールの公平性に疑問がある! 貴様が呼び出したあの羊は、本当に貴様を裁けるのか? 貴様だけは嘘を吐いても裁かれないとか、恣意的に裁きの対象を選択できるとか……いくらでも工作ができるはずだ!」
流石にこの弁舌ひとつで民を洗脳してきただけはある。力では勝てないと分かっていながらも良く口の回るものだと、カタリナは『不和と分断を煽る者』を一瞥した後、一言。
「アタシはオブリビオンの暴虐から人々の解放を望む『闇の救済者』の同志だ。キミはどうだい?」
「う……ぐっ……」
民を欺いていたという事実がある以上、扇動者はここで迂闊なことは言えない。対するカタリナの発言は全て真実なのだ。堂々と身の潔白を宣言する者と言い淀んでしまう者、双方が傍聴者に与える印象は正反対である。
「どうした? 答えられないのかい?」
「ぐ、ぐぬぬ……ッ。こ、こんなものは無意味だ! 喉元に剣を突き立てられて議論ができるか!」
余裕をもった素振りで問うカタリナに、滝のように汗をかきながら喚き立てる扇動者。
ユーベルコードを用いた時点でそれがまともな議論にならぬのは織り込み済み。相手の弁論を封じ込め、民が抱く悪印象を猟兵から敵に移し替えられれば、それで充分だろう。
がやがやと周囲のざわつきが大きくなっていく。それは敵の信用が揺らいだ証だった。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
視線を【悪目立ち】で【盗む】のは得意さ。
俺は正義の味方を気取りたいわけじゃない。化物と言われたら――(笑んで)ちょっと訳有りな身体でね。ま、あながち間違えてるとまでは言わないさ。
そんなアンタに質問しても良いかい?――――アンタは今まで何人の人間を吸血鬼の支配から救って来た?
シンプルな質問だろ?人を化物から救った事があるのか?
言っとくが連中は弁舌が立つからって見逃してはくれないぜ。最初に良く動くその舌から喰われる事になるだろうな。
ギャラリーに混乱が生まれた所でネタ晴らし。
お粗末な演説ご苦労さん。吸血鬼の手下ってのはセールストークが苦手なのか?
身振り手振りはともかく。アンタ、扇動者には向かないな。
「俺は正義の味方を気取りたいわけじゃない。化物と言われたら――」
場の雰囲気が変わりだす中、『不和と分断を煽る者』の演説にふと割り込んできたのはカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)。彼は自信にあふれた表情に身振り手振りを合わせ、ふっと笑んでから人々の疑惑に答える。
「ちょっと訳有りな身体でね。ま、あながち間違えてるとまでは言わないさ」
まるで扇動者の演説を肯定するかのような発言に、周囲が大きくざわつく。だがそれは群衆の注意を引き付ける【話術の心得】。視線を悪目立ちで盗むのは得意さ、と心の中で彼はより深い笑みを浮かべた。
「ついに認めたな! やはり貴様らは――」
「そんなアンタに質問しても良いかい?」
我が意を得たりとばかりにまくし立てようとする男の言葉を遮って、カイムはつかつかと壇上に近付く。口元には余裕の笑みを浮かべて挑発的な程度で。それは彼が臨戦状態にある時の態度だった。
「――――アンタは今まで何人の人間を吸血鬼の支配から救って来た?」
「ッ?! そ、それは……」
言葉に詰まった。たとえ一瞬でもそれは隙を見せたに等しい。実際に人を救ってきたという実績と、吸血鬼の脅威という周知の情報を武器に、青年は敵の懐に切り込んでいく。
「言っとくが連中は弁舌が立つからって見逃してはくれないぜ。最初に良く動くその舌から喰われる事になるだろうな」
吸血鬼に言いくるめや命乞いなど通じない事は、この世界の者なら誰もが知っている。
口先にしか能のない人間が、それでどうやって吸血鬼と戦うつもりなのかと、カイムはすらすらと扇動者のこれまでの発言からおかしな点を指摘する。
「アンタは結局、他の連中を焚き付けて矢面に立たせようとしてるだけなんじゃないか? それで自分は安全な場所でまた演説をぶち上げるってわけだ」
「ち、違う! 私は……」
「違うって言うなら証明してみろよ。俺達のように前に出てな」
確かに猟兵は正義漢ばかりではないし、化物扱いされるのも無理はないかもしれない。だが常に最前線で吸血鬼と戦ってきたという事実だけは覆らない。命を張って培ってきた信用を覆そうというのなら、同等のリスクを背負わねば説得力がないだろう。
「どうなんだ? 俺が化物だと言うなら、ここで退治してみろよ」
「ぐ、ぐ、ぐ……!」
カイムの話術に男がまるで反論できないでいると、それを見ていたギャラリーの間にも混乱が生じていく。ネタ晴らしをするなら今がチャンスだろうと、彼はとっておきの爆弾をそこに投下した。
「お粗末な演説ご苦労さん。吸血鬼の手下ってのはセールストークが苦手なのか?」
「えっ?!」「あの男が、吸血鬼の……?」「ち、違う!」
男が慌ててももう遅い。水面に石を投げ込んだように、波紋はたちまち群衆に広がる。
どんなに否定しようとも一度生じた疑惑の芽は簡単には消えない――そう、この男自身がやろうとした事とまったく同じだ。
「身振り手振りはともかく。アンタ、扇動者には向かないな」
同じ土俵で完璧に周りを言いくるめてみせたカイムは、最高の皮肉を相手に浴びせる。
敵は「ぐぎぎッ!」と噛み締めた歯から血が滲むほどの形相で彼を睨み付けていたが、それ以上は手も足も出す事はできなかった。
大成功
🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
ボクは歌おう
不安を払う歌を
恐怖に立ち向かう勇気の歌を
【勇壮ノ歌姫】を発動
ボクに石を投げるなら投げつければ良い
ボクに罵声を浴びせるなら浴びせれば良い
ボクを貫くのなら貫けば良い
私はそれを身を持って知っている
故郷では……あの時は私に手を伸ばす人は誰もいなかった
でもアナタたちはどうですか?
私は虐げられてきた者を辱しめはしない
それは私を悪魔と呼んだモノたちと同じになってしまうから
だから私は闇の救済者たち、民衆たちには決して抵抗しない
痛みには慣れているから
彼らの不安が晴れるまでは抵抗せず歌い続けよう
彼らが勇気を取り戻したのなら
あとは扇動者を葬ろう
魔銃の一撃で
彼らの勇気が正しく向かうことを願って
アドリブ歓迎
「奴らの狡猾な罠に騙されてはならない! これは全て我々を陥れようと――」
風向きが変わり始めたのに気付いた『不和と分断を煽る者』は、焦りを隠せない様子で【猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!】との持論をより強硬に主張する。偏見に満ちた悪辣な弁論が、人々の心を揺さぶろうとした時――空から、歌が聞こえてきた。
(ボクは歌おう、不安を払う歌を、恐怖に立ち向かう勇気の歌を)
それは【勇壮ノ歌姫】を発動したアウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)が奏でる歌。白と黒の翼を羽ばたかせ、演説場にいる皆に聞こえるよう歌声を響かせる姿は、儚くも美しかった。
「出たな化物め! もう我らは騙されんぞ!」
何を言おうと耳を貸すなと煽るオブリビオン。民衆は彼のユーベルコードに惑わされ、不安と疑惑の狭間で揺れている。そんな者達の元に歌声と共に降り立ったアウレリアは、剣を取りもせず、銃を抜きもせず、ただメロディに乗せて呼びかけた。
「ボクに石を投げるなら投げつければ良い
ボクに罵声を浴びせるなら浴びせれば良い
ボクを貫くのなら貫けば良い」
その発言に「なっ……?!」と、これまでとは違うたぐいの動揺が人々の間に走った。
もし、この地の人々が猟兵を敵と見做して攻めるなら、自分はそれを受け入れると――彼女の態度はそう告げているように見えたからだ。
「私はそれを身を持って知っている。故郷では……あの時は私に手を伸ばす人は誰もいなかった。でもアナタたちはどうですか?」
戸惑う人々の前でアウレリアは問いかける。白黒の翼を悪魔の証と蔑まれ、幽閉され、悪意に蝕まれた過去を思い出しながら。集団となった人間の不安や恐怖は時として彼らを悪魔より恐ろしいモノに変える。けれど、そうならない道があることも知っている。
「私は虐げられてきた者を辱しめはしない。それは私を悪魔と呼んだモノたちと同じになってしまうから」
恐怖から他者を排斥してしまわないために、必要なのはひとかけらの勇気。自分の中にある強大な敵に立ち向かい、未来に向かっていくための歌を、憂愛の歌姫は心から紡ぎ、民衆の心へと伝える。
「だから私はアナタたちには決して抵抗しない。痛みには慣れているから」
無抵抗の姿勢を貫くことで敵ではない証を立て、人々の不安が晴れるまで歌い続けようとするアウレリア。儚げな少女が見せるその姿は、苛まれていた人々の心を強く打った。
「どうした、その小娘は敵だぞ! 今のうちにやってしまえ!」
扇動者はなおも恐怖と殺意を焚きつける弁論を披露するが、もはやそれは群衆の心には届いていなかった。煽り立てられた熱狂が急速に冷めていき、騒然としていた演説場には歌声だけが静かに響く。
「やっぱり、こんなのはおかしい……!」「この人達はいつも俺達を助けてくれた!」
やがて人々は自らの言葉で陰謀論を否定し始める。それは扇動者の洗脳から脱した証。
彼らが勇気を取り戻したのを見たアウレリアは、仮面の下でふっと優しく目を細め――あとは扇動者を葬るのみと、魔銃「ヴィスカム-sigel-」を抜き放つ。
(彼らの勇気が正しく向かうように)
願いを込めてトリガーを引けば、放たれた光輝の弾丸は過たずオブリビオンを射抜く。
目論見を完全に破られた扇動者は「―――ッ!?」と言葉もなくその場に崩れ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
不安を煽り、結束を崩す
ありがちだが強力な策だな
男が計算された演技なら、私は自然な【存在感】と【威厳】を以って、真っ向から相対する
我らが人類を欺いていた、吸血鬼になり替わろうとしている、脅威となる……そして、貴様が人類を列強とする
どれもこれも、具体的な根拠のない、妄言に過ぎない
異様なカリスマと恐怖よって従信させられた人々から、石を投げつけられようと揺るがずに問いかける
夜と闇に覆われ、邪神と吸血鬼に支配された世界で、あなたたちは何を願い、祈り、希望として、今まで戦ってきたのですか?
人々の【祈り】を束ね、空と心の闇を、澄み渡る青空で照らす
【闇の世界に青空を】――いつか、この光景を現実としてみせる
「不安を煽り、結束を崩す。ありがちだが強力な策だな」
これでもしダークセイヴァーの人々に不信感が広がれば、今後の活動にも支障が出る。オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)はそれを阻止する為に、敵の演説場に足を踏み入れた。
「その演説、待ちなさい」
相手が計算された演技なら、彼女は自然な存在感と威厳を以って真っ向から相対する。
この身になんら疚しいことはなく、敵が全て偏見だらけの陰謀論に過ぎないのならば、正々堂々と説き伏せるまでだ。
「我らが人類を欺いていた、吸血鬼になり替わろうとしている、脅威となる……そして、貴様が人類を列強とする。どれもこれも、具体的な根拠のない、妄言に過ぎない」
「なにを言う! 私の言葉こそが真実だ! 猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!」
毅然としたオリヴィアの反論を『不和と分断を煽る者』は悪意を剥き出して言い返す。
どちらの言い分に理があるかとすれば前者だ。だがこの論戦においては正しさよりも、より多くの心を震わせた者が優位に立つ。
「奴らの人外の力が、我らに向けられたらどうする? 恐ろしくはないのか!」
不安と恐怖を煽り立て、殺される前に殺さなければならないという感情を植え付ける、扇動者のユーベルコード。その魔力は再びじわじわと群衆の心を支配しようとしていた。
「私を恐れるならば石を投げつければいい。ですが、私からもお聞きします」
扇動者の異様なカリスマと恐怖によって従信させられた人々に、オリヴィアは揺るがぬ態度で問いかける。たとえ石持て追われようとも、彼女が動じる事は微塵も無いだろう。
「夜と闇に覆われ、邪神と吸血鬼に支配された世界で、あなたたちは何を願い、祈り、希望として、今まで戦ってきたのですか?」
「――……!! そ、それは……」
清廉な威厳をもって口にされたその問いは、恐怖する群衆に大きな波紋を投げかけた。
明日をも知れぬこの世界で、人々が『闇の救済者』を結成し、人類砦を築き、今日まで抗い続けてきた理由――その根幹を改めて問われた意味は重かった。
「俺たちは、この世界を吸血鬼から取り戻すために」「いつか、青空を見るために……」
人々の心に浮かび上がる祈りをオリヴィアは束ね、ユーベルコードとして具現化する。
さっと天に向かってかざした手から一条の光が立ち上り、立ち込める雲を吹き飛ばす。その向こうから姿を現すのは、澄み渡る青空。
「これは……!」
「バカなっ?!」
心の闇まで晴らすような美しい空に照らされて、人々は歓喜を、扇動者は驚愕を叫ぶ。
生きとし生けるものの切なる願い、尊き祈り、希望の象徴は、陳腐な妄言や陰謀論など一瞬にしてかき消してしまう力があった。
「闇の世界に青空を――いつか、この光景を現実としてみせる」
信念のこもったオリヴィアの宣言を疑うものは、もはやこの場において皆無であった。
青空の下に立つシスターの姿は、人々の希望を体現するかのように凛々しく、美しく。洗脳を解かれて歯噛みする扇動者の醜態とは、まるで対照的な姿だった。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
「目を覚ますのだ、人々よ!我々は欺かれていた!」
その男より遥かに目立っている女がいた。
「自分達を『北海道シュークリーム』と名乗るあの菓子達…奴らは真のシュークリームなどではない、偽物で邪道だ!」
「奴らを我々が北海道シュークリームと認めれば、吸血鬼以上の脅威となるだろう!そうなる前に抹消しなければ手遅れとなるぞ!」
「北海道シュークリームが再び偉大な文明として蘇るために!偽シュークリームを滅ぼすのだ!」
容姿・声・身振りと異様なカリスマ性は男より勝っており、そして何よりも破壊力と話題性満点の意味不明な演説内容に勝ち目はなかった。
「うっ北海道にシュークリームは存在しない!」
人々もその男も洗脳された。
「くっ……ならんぞ諸君! 奴らの言葉に耳を貸すな! 目を覚ま――」
「目を覚ますのだ、人々よ! 我々は欺かれていた!」
猟兵達からの反論を捌ききれず、次第にピンチに陥っていく『不和と分断を煽る者』。
なんとか主導権を取り戻そうと声を張り上げるが――それは別の大きな声に遮られる。
「な、なんだ貴様は?!」
「私の名はカビパン。真なるシュークリームの伝道師である」
ぎょっとした扇動者と群衆の前で、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)は堂々と名乗った。瀟洒な異国の軍服を身に纏い、キリッとした表情で壇上に立つその姿は、妙なカリスマ性に満ち溢れている。
「自分達を『北海道シュークリーム』と名乗るあの菓子達……奴らは真のシュークリームなどではない、偽物で邪道だ!」
どこぞの将校のような威厳ある態度と口調で、まるで意味のわからない演説をぶち上げ始めるカビパン。なぜここで突然シュークリームが出てきたのか、そもそも北海道とは何なのか、この場にいて理解できる聴衆は誰もいない。
「な、なにをワケの分からない事を! 私は今大事な話を……」
「馬鹿者! この重大性が分からぬのか!」
「ほぐっ?!」
割り込もうとする扇動者の頭をバシーン! としばき倒して、【ハリセンで叩かずにはいられない女】はぺらぺらとよく回る舌でまくし立てる。いつの間にか彼女は元からいた男よりも遥かに目立っており、演説の主役の座を完全に奪い取ってしまっていた。
「奴らを我々が北海道シュークリームと認めれば、吸血鬼以上の脅威となるだろう! そうなる前に抹消しなければ手遅れとなるぞ!」
「そ、そんなにヤバいのか……」「北海道シュークリーム、なんて恐ろしいヤツなんだ」
カビパンの容姿・声・身振りと異様なカリスマ性はどれも『不和と分断を煽る者』より勝っており、そして何よりも破壊力と話題性満点の意味不明な演説内容が群衆をギャグとカオスの渦に巻き込んでいく。こうなってはもはや相手に勝ち目はない。
「北海道シュークリームが再び偉大な文明として蘇るために! 偽シュークリームを滅ぼすのだ!」
「「おおおーーーーっ!!!!!」」
壇上の女が拳を突き上げると、群衆の大合唱が人類砦に響き渡る。傍目には洗脳を洗脳で上書きしたようにしか見えないが、そもそもの論点をメチャクチャにする事で演説自体を茶番に変えてしまうのは、ギャグのユーベルコード使いである彼女にしかできない。
「うっ……そうだったのか、北海道にシュークリームは存在しない!」
こうしてカビパンの作り上げたギャグの世界は、人々だけでなく扇動者まで洗脳する。
真の北海道シュークリーム文明を復活させるためには、偽りの北海道シュークリームを滅ぼさなくてはならない。そんな歪んだ思想が男の脳を蝕んでいき――。
「……って、何を言っているのだ私は?!」
流石にそのままギャグに流されなかったのは、演説のプロとしてのプライドだろうか。
しかし、謎のカビパン演説に混乱している間に多くの人間が北海道シュークリーム派に寝返ってしまったのは、彼にとって大きな痛手だった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
ミラ達と一緒に参加…。
【影竜進化】でミラ達を影竜に進化させ、基本は影の中に潜んで行動…。
砦の中で最も猟兵への信頼度の高そうな人物(砦/闇の救済者のリーダー等)と接触し、今回の敵の狙いについて説明…。
自分が証拠を集めてくるので、張り紙等による洗脳効果の緩和や敵の正体をバラす時の協力を依頼しておくよ…。
影を伝って敵の部屋(拠点)に忍び込んで敵が吸血鬼側と繋がっている証拠物品を探したり、敵が黒幕側と接触してる証拠を撮影、録音する等して証拠を集め、敵が演説してる目の前でばら撒いて糾弾…。
敵が逃げる等したら、影の異空間に引き込んで中で始末…。
悪あがきで洗脳を掛けようとしたら、瞬時に凶太刀で始末するよ…
「我が家族たる竜達…闇の衣を纏いて仮初の進化を得よ……。お願いみんな、わたしに力を貸して……」
仲間が『不和と分断を煽る者』と論戦を交わしている裏で、密かに暗躍する者もいた。
雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は連れてきた3匹の仔竜を【呪法・影竜進化】で影竜に進化させ、その能力を借りて影の中に潜んで隠密行動を取る。
(まずは猟兵への信頼度の高そうな人物を探して……)
この地に暮らす皆が皆、扇動者の言葉を真に受けている訳ではない。猟兵に協力的で、なおかつ民への影響力の高い人物――その助けを借りようと、彼女は砦の中を移動する。
「貴方が、この砦のリーダー……?」
「っ?! あなたは……」
影の中からぬっと出てきた少女と3匹の竜に、その男は当初こそ面食らった様だった。
だが璃奈が自分は猟兵だと語り、今この砦で起こっている事――そして今回の敵の狙いについて説明すると、すぐにそれを事実として受け止め、深刻な表情になった。
「まさか、あの男が吸血鬼の手先だったとは……」
「わたしが証拠を集めてくるから、貴方は洗脳を緩和したり、敵の正体をバラす時に協力してほしい……」
璃奈からの依頼に、この人類砦に駐留する『闇の救済者』のリーダーでもある男はすぐに「了解しました!」と応え、自らの手の者を動かし始めた。迂闊な流言に惑わされぬよう張り紙等で市民に警告を出して貰えるだけでも、洗脳の広まりは遅らせられるだろう。
(ここが敵の住んでいる部屋だね……)
次に璃奈が向かったのは『不和と分断を煽る者』の拠点。オブリビオンとて砦の住民を装うなら、人としての住居が必要になるはず。そこに影を伝って忍び込んだ彼女は、敵が吸血鬼側と繋がっている証拠物品を探しだす。
「きゅい!」
「これは……」
室内を物色していると、仔竜達が家具の裏から命令書と思しき紙の束を見つけてきた。
そこには『バロウズ』という署名の人物から、人類砦に潜入し人々に混乱と恐怖の種を撒けという指示がはっきりと記されていた。
「このバロウズって人物が、敵と繋がっている吸血鬼なのかな……」
証拠物品を押収した璃奈は、それを抱えて再び影の中に潜航し、今度は『不和と分断を煽る者』本人の影に潜入を図る。ここまでの調査で敵を糾弾する用意は整いつつあるが、念には念を入れてあと一つ決定的な証拠がほしい。
「ば、バロウズ様。猟兵が、猟兵どもが来ました」
『慌てるな。住民の洗脳は進んでいるのだろう?』
影から尾行してみたところ、街頭や広場で演説を行っていない時の扇動者は、路地裏でネズミに向かって話しかけていた。恐らくは黒幕の放った使い魔の類だろう、そのネズミは流暢なヒトの言葉で応答する。
『このまま続けろ。貴様の言葉で猟兵と人間共を分断するのだ』
「ははっ!」
扇動者と黒幕(使い魔)との会話の一部始終を、璃奈は影の中でしっかり聞いていた。
その手にはUDCアースにて調達した小型の録音機。これで敵を追い詰めるための証拠は全て揃った。
「聞くのだ、諸君! 我々は――……」
「彼の言ってる事は全部デタラメだよ……」
かくして演説場に戻ってきた男は、再び【猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!】と持論を展開して民を煽ろうとするが、そこに現れた璃奈と影竜が彼の演説を中断させる。
「その男は、わたし達を争わせようとする吸血鬼のスパイ……」
「彼女の言っている事は本当だ。ここに証拠もある!」
事前に根回ししておいた協力者からの援護と、拠点で集めた証拠品。そして録音された扇動者と黒幕の会話内容という決定的な記録が、集まった群衆の前で次々に開示される。
扇動者はぎょっとして「馬鹿な?!」と青ざめ、驚くべき暴露を示された人々の間にはどよめきが広がる。これだけの証拠を口先ひとつで覆すのは、どうあっても困難だろう。
「俺たちは、騙されていたのか?」
「ち、違う! そんな証拠はデタラメだ……ッ!?」
分が悪いとみて後ずさった男の足が、ずぶりと影に沈み込む。はっと気付いた時には彼の身体は影の異空間へと引き込まれつつあり、中では影竜たちと璃奈が待ち構えていた。
「く、ぐ……こ、このバケモ……ぎぁッ?!」
男が悪あがきに洗脳を掛けようとするよりも、璃奈が妖刀を一閃するほうが速かった。
妖刀「九尾乃凶太刀」による超音速の斬撃が、『不和と分断を煽る者』を斬り伏せる。その悲鳴と血飛沫は影の中に吸い込まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
敵が不信感を煽ろうとするなら、魅了してしまえば良いけど…それは最後の手段にした方が良さそうね。
しかし、吸血鬼も随分と回りくどい手を使って来たわね
【創造支配の紅い霧】を発動。
商人や別の砦の闇の救済者達といった人々を霧の魔力で『創造』し、敵の演説に対抗して逆に猟兵に助けられた話等、猟兵の活躍や噂を人海戦術で町中に流布。
更に敵の演説に対して、それに被せて多くの人々が猟兵は味方だ、と表明する事で妨害を行い、町中の空気を猟兵側に引き戻す様細工を行っていくわ。
後は適当に霧の魔力で敵が吸血鬼の配下であるという証拠(指令書等)を『創造』して証拠として突きつけ、その罪を断罪させて貰うわ。
「敵が不信感を煽ろうとするなら、魅了してしまえば良いけど……それは最後の手段にした方が良さそうね」
魅了の魔眼を持つフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は、敵に洗脳された群衆を自分の虜にして寝返らせる案も考えたものの、今回はあまり適切ではないだろうと感じて取りやめる。
「しかし、吸血鬼も随分と回りくどい手を使って来たわね」
配下を潜り込ませて人間の不和と分断を煽ると見せかけて、集まってきた猟兵を軍勢で包囲殲滅する。わざわざ手のこんだ策を考えたものだと、呆れの混じったため息を吐く。いずれにせよ敵がどんな手段に訴えて来ようとも、此方はそれを叩き潰すだけだ。
「全てを満たせ、紅い霧……。夢も現実も、全てはわたしの思うまま」
フレミアが発動するのは【創造支配の紅い霧】。砦の中を紅い魔力の霧で薄く満たし、自らの支配領域に変える。この空間の中で彼女は法則さえ支配し、魔力からあらゆるモノと事象を――生物すらも具現化する事ができる。
「敵が不和と分断を煽るなら、こっちは真逆の噂を流していこうかしら」
町から町へと渡る行商人や、別の砦の『闇の救済者』達といった人々を魔力で創造し、猟兵に助けられた話等、猟兵の活躍や噂を流布させる。人海戦術で町中に猟兵を肯定する流れを作りだし、敵の演説に対抗するのがフレミアの作戦だった。
「私の住んでいた村はあの人達に救われたわ」「俺のいた町もだ」
町のあちこちで語られるそんな噂は、元からこの砦にいた人々にすぐに広まっていく。
この人類砦とて直接的・間接的に猟兵達の助けがあったからこそ築きえたものなのだ。根も葉もない陰謀論などよりも、肯定的な話題が浸透していくのはよほど速かった。
「猟兵こそが諸悪の根源! 奴らを滅ぼさない限り我らに真の平和は訪れな――」
「そんなことない!」「猟兵はわたしたちの仲間だ!」
野火の如く広まる噂は『不和と分断を煽る者』がいる広場にも届き、壇上より披露される演説に被せて多くの人々が「猟兵は味方だ」と表明する。1人2人が声を上げただけでは何も変わらなくとも、それが10人20人となれば周りにいた者たちも賛同し始める。
もちろんこれもフレミアの仕込んだこと。町中の空気を猟兵側に引き戻す為の細工だ。
「くっ……なぜ理解しないのだ! 諸君はあの連中に騙されているのだ!」
「あら。騙しているのは貴方のほうじゃなくて?」
場のムードが扇動者不利に変わってきた所で、いよいよフレミア本人が広場に現れる。
彼女の手には分厚い書類の束。集まっている群衆にも見えるよう高々と掲げて、それを敵の目の前に突きつける。
「貴方が吸血鬼の配下であるという証拠はすでに上がっているのよ」
「そ、そんなバカな……ッ」
フレミアが持ってきたのは霧の魔力から適当に創造した偽の指令書だが、物の真贋など他人には分かるはずもない。それよりも証拠を突きつけられた瞬間に相手が見せた狼狽と焦燥の表情のほうが、群衆にはよほど説得力のあるものとして受け止められた。
「随分周到な計画を練っていたようだけど、それもご破産ね」
「ち、違う。違う違う違う! これは罠だ、私を陥れる陰謀だ!」
男はなおも見苦しく反論するが、この状況下では余計に自分の印象を悪くするだけだ。
対して堂々と敵の陰謀の証を突きつけ、その罪を断罪するフレミアの凛とした態度は、広まりつつある「猟兵は味方」の噂を裏付けるものとして、人々の尊敬を集めていた。
大成功
🔵🔵🔵
ユーディ・リッジウェイ
こ、ここは、久しぶり、だな。やっぱり、静かで、暗い世界だ。すき。
で、でも、うるさい、人がいるね。こういう人、嫌いだ。それが正しいとか、間違ってるとか、そんなのはどうでもいいけど、騒ぎ立てる人は、嫌い。
それで…えっと、この人を、黙らせるんだっけ。ん、えと、黙らせるだけじゃ、ダメなんだっけ。めんどくさいね。
じゃあ、き、聞かせなければいいのかな。
眠っている人に話を聞かせることはできないよね? できたとしてもそれは、起きた時、夢だって思われておしまいのはずだ。
ララバイで話を聞いてる人たちを眠らせよう。どうせあいつは喋ることしかできないんだ。ふふ。聞く人のいない舞台で喉から血が出るまで囀り続けたらいい。
「こ、ここは、久しぶり、だな。やっぱり、静かで、暗い世界だ。すき」
久方ぶりに訪れたダークセイヴァーの世界は、相変わらず明けない夜に覆われている。それは吸血鬼による支配の証だが、ユーディ・リッジウェイ(あのひとのいないせかい・f22369)にとっては好ましい静寂と暗澹でもあった。
「で、でも、うるさい、人がいるね。こういう人、嫌いだ」
夜の静寂を引き裂くのは、怒鳴るような『不和と分断を煽る者』の声。あんなに叫んで喉が枯れないのかと思うほど、群衆の前で休みなしに猟兵に対する陰謀論を訴えている。
「それが正しいとか、間違ってるとか、そんなのはどうでもいいけど、騒ぎ立てる人は、嫌い」
【猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!】という扇動者の論に、いちいち反論する気はユーディにはなかった。彼女はただ騒がしいのが嫌いなだけ――賑やかなのは嫌いではないが、ただ喧しく喚き散らして静寂をかき乱すのは「賑やか」とは違う。
「それで……えっと、この人を、黙らせるんだっけ。ん、えと、黙らせるだけじゃ、ダメなんだっけ。めんどくさいね」
物理的に喋れないようにしてしまうのが一番簡単そうだが、それでは住民の中に不和が残るかもしれない、という説明は彼女も事前に受けている。大勢の人々が見ている前で、いきなり演説者に襲い掛かったら、悪者にされるのはこっちの方だ。
「じゃあ、き、聞かせなければいいのかな」
すうっと音もなく演説場の群衆に紛れ込んだユーディは、おもむろに【夢は如何にして我らの傷を癒すか】を発動。足元から蜘蛛の巣に似た血色の網を放ち、会場全体を包み込むように展開する。
「ん……なんだろう、眠気が……」「わたしも……ふわぁ~……」
それまで演説に耳を傾けていた人々は、蜘蛛の巣に囲われるなり急な睡魔に襲われる。
このユーベルコードは攻撃用の力ではなく、眠りと癒しを与える子守唄(ララバイ)。何をされたか気付かないまま、彼らはやさしい夢の世界へと誘われていった。
「で、あるからして奴らは……な、どうした諸君?」
猟兵に圧されがちなムードを覆すべく熱弁をふるっていた『不和と分断を煽る者』は、聴衆がいきなり眠りだしてしまったのを見て動揺する。彼がどんなに声を張り上げても、眠りの蜘蛛の巣に捕われた人々はとっとも目覚めない。
「眠っている人に話を聞かせることはできないよね? できたとしてもそれは、起きた時、夢だって思われておしまいのはずだ」
眠りこける群衆の中で立っているのはユーディただ1人。くせのある黒髪の毛先を指でいじりつつ、騒ぎたてる者が減って静かになった場を見回して心地よさそうにしている。
どんなご立派な演説も聞き手がいなければ無意味。だから彼女は煽動者本人ではなく、敵に煽動される人々のほうを夢に退避させたのだ。
「どうせあいつは喋ることしかできないんだ。ふふ」
「こ、これは貴様の仕業か! なんと卑怯な真似を!」
壇上ではまだ男ががなり立てているが、ユーディは雑音の如く聞き流して微かに笑う。
口では何を言おうが奴に猟兵と戦って勝てる力はない。まさか住民に手を挙げる訳にもいかない。この状況に置かれた時点でもう敵は詰んでいた。
「聞く人のいない舞台で喉から血が出るまで囀り続けたらいい」
「く、くそッ!」
自分まで蜘蛛の巣に眠らされる前にと、『不和と分断を煽る者』はどこかへ走り去る。
恐らくは別の場所でまた演説を繰り返すつもりだろうが――彼の言葉に耳を傾ける者は減る一方であり、状況は着実に猟兵優勢に傾いていた。
大成功
🔵🔵🔵
レプリカ・レグナント
貴様はアホなのか、口が立つようだがそれだけで此処にいる全てを救ってやれるか?出来ぬだろう、口先だけの愚か者には誰もついては来んよ
目に見えて救える力それが無い者が残酷な世界で調子に乗ってしゃしゃり出るな!
今こそ従い集え我が精兵達よ、この血迷った愚か者を斬り捨てよ
この地に住む民並びに闇の反逆者達よ、猟兵は今までに力と心を示して来た、どちらを信じるか強制はせぬ、しかしこの地を取り返す力が無くては永遠に吸血鬼の支配と圧政から解放されることはない
オレ達を信じよ、オレ達はそれに必ず応える、解放の日までオレ達はお前達と共に戦い続ける
共に反抗を進め!
「人々よ、今一度話を聞いてくれ! 吾輩が人類を再びこの世の偉大な支配種族に――」
「貴様はアホなのか」
支持者たちを必死で繋ぎ留めようと、演説や説得を繰り返す『不和と分断を煽る者』。
異様な求心力のあるその熱弁を、レプリカ・レグナント(反抗と圧政の竜・f32620)は一言でばっさりと斬って捨てた。
「口が立つようだがそれだけで此処にいる全てを救ってやれるか?」
「なっ!?」
オブリビオンの脅威に晒されるこの世界で人々を救う為には、口先だけではない"力"が必要だ。悪しき支配に反抗する力、苦しむ民を守る力。それが無い者には誰も救えない。
「出来ぬだろう、口先だけの愚か者には誰もついては来んよ」
若さに見合わぬ威厳にあふれた態度で、レプリカは毅然と扇動者の愚かさを糾弾する。
今は失われてしまった王国の王女という出生ゆえか、彼女の立ち振る舞いは洗練されており、人を引き付けるカリスマ性を持っていた。
「目に見えて救える力それが無い者が、残酷な世界で調子に乗ってしゃしゃり出るな!」
「ぐっ……!」
王女の威光に気圧されて、敵は口を噤んでしまう。先程まで扇動者が支配していた場の空気は、あっという間にレプリカに主導権を握られた。今や敵だけではなくこの場にいた群衆もみな彼女の言動から目が離せない。
「今こそ従い集え我が精兵達よ、この血迷った愚か者を斬り捨てよ」
演説の途切れた静寂の中で、レプリカは【亡国の王女の軍勢】を召喚する。国とともに亡んだはずの兵士達が、王女の呼びかけに応えて現世に舞い戻り、堅牢なる隊列を組む。
「くっ……わ、吾輩を殺すのか。野蛮な暴力で口封じをするつもりか!」
刃を突きつけられた『不和と分断を煽る者』は青ざめながらも叫ぶ。それはレプリカに対する命乞いではなく、群衆に向けた言葉だろう。暴力を訴える猟兵を糾弾することで、場の空気をもう一度味方につけるつもりだ。
「この地に住む民並びに闇の反逆者達よ、猟兵は今までに力と心を示して来た、どちらを信じるか強制はせぬ、しかしこの地を取り返す力が無くては永遠に吸血鬼の支配と圧政から解放されることはない」
陰湿な敵の目論見にも動じずに、レプリカは堂々としたまま民に呼びかける。闇に支配されたこの世界で真に信ずるべきものは何か、今一度一人一人の胸に問いかけるように。
「オレ達を信じよ、オレ達はそれに必ず応える、解放の日までオレ達はお前達と共に戦い続ける」
亡国の軍旗を高々と掲げ、自信に満ちた声で宣言する。故国の旗にかけた誓いを彼女が違えることは決してない。反抗の竜に選ばれし者として、悪しき者の圧政に立ち向かう。それこそレプリカ・レグナントの掲げる「唯我反抗」の王道である。
「共に反抗を進め!」
「お……おおぉぉぉっ!!」
王者の威光にあふれたレプリカの言動に、人々からは自然と拍手と喝采が沸き起こる。
数多の民に讃えられながら亡国の軍勢は進撃し、『不和と分断を煽る者』を蹂躙する。
「ぐっ……やめろ、やめ、ぐわぁッ!!?」
悲鳴を上げて血を流しながら、ほうほうの体で逃げていく男。その姿から当初のようなカリスマ性は微塵も感じられず――口先だけの愚か者という、王女が言った通りの浅い底を完全に露呈していた。
大成功
🔵🔵🔵
瀬河・辰巳
話のキリが良さそうな時に、協力をお願いした野犬達に吠えさせる。もちろん危ない場合は身を挺して犬を守る。
「動物は相手が悪い奴かどうか分かるって言うよね」
後は男の言動が怪しいことを指摘しよう。
「明確な根拠も示さず、いたずらに人々を不安にさせるお前が害悪では?しかも希望を持って団結してきた時に」
「それに内部分裂は集団を壊滅させる常套手段。お前こそ、この砦の敵なのでは?」
男が更に喚いてきたら、聞き流しつつライオン召喚。惨い光景はまずいから、シンプルに上から踏んだりのしかかったりする。
「ネコ科の魅惑のお腹を吸って黙れ」
こんなのを見ると、この世界出身の猟兵がいることを頭の片隅に覚えていて欲しい気もするね。
「吾輩が悪だというのか……? 違う、違う! 全ての元凶は猟兵どもだ!」
論戦で窮地に陥りつつある『不和と分断を煽る者』は、不信感を見せ始めた群衆の前で弁解を行う。くるくると良く回る舌でありもしない嘘を並べ立てる様を、瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)は冷めた目で見ていた。
「……今だ」
話のキリが良さそうな時を見計らい、彼は協力をお願いしていた野犬達に吠えさせる。
ウオォーーーンッ!! と、思いの外近くで聞こえてきた咆哮に、壇上の男がビクッと震える。群衆の注目も演説からそちらに逸れたようだ。
「動物は相手が悪い奴かどうか分かるって言うよね」
野犬達に演説を中断させるのに合わせて、人々の前に姿を現す辰巳。獣と心を通わせるビーストテイマーの彼には、野犬の他にも様々な動物やその影たちが付き添っている。
「そ、そんな薄汚い犬っころに何が分かるというのだ! 適当なことを言うな!」
「明確な根拠も示さず、いたずらに人々を不安にさせるお前が害悪では? しかも希望を持って団結してきた時に」
唾を吐いて喚く男とは対照的に、彼は冷静に相手の言動が怪しいことを指摘していく。
具体性に欠けた発言に、混乱を招くような態度。演説の巧みさやカリスマ性に惑わされないようにすれば、不審な要素はいくらでも目についた。
「それに内部分裂は集団を壊滅させる常套手段。お前こそ、この砦の敵なのでは?」
「な、なにを言うのだ! そんなワケがなかろう! なあ!」
核心を突く辰巳からの指摘に、男は明らかに動揺していた。慌てて周囲に同意を求めるものの、最初の内は熱心に演説に耳を傾けていた群衆も、今では疑いの目を向けている。
「嘘だ! 嘘だ! 奴らの言っている事は全てデタラメ……ほぐっ?!」
男はなんとか自分への不信感を猟兵に擦り付けようと喚き散らすが、辰巳はそれを聞き流しつつ【ライオンライド】で黄金のライオンを召喚。本人の倍はある巨体がもふっ、と男の上からのしかかった。
「ネコ科の魅惑のお腹を吸って黙れ」
「ぐむっ?! ぐももっ!!?」
群衆の前であまり惨い光景を見せるのもまずいだろうと、無難かつシンプルにライオンで取り押さえる作戦にした辰巳。太い前足でのしっと踏みつけられ、ふかふかの毛並みとお腹を押し付けられた男は、じたばたともがいている。
「ぐぅ?! ぐおーっ!!」
「何を言ってるのか分からないな」
ライオンの背中の上からさらに体重をかけ、しれっとした顔で下敷きの男を見下ろす。
こんな有様となれば扇動者としてのカリスマなどもはや無いに等しく、ただただ無様なだけだった。
「こんなのを見ると、この世界出身の猟兵がいることを頭の片隅に覚えていて欲しい気もするね」
この世界で生まれ育ち、この世界の為に戦う猟兵の決意や覚悟をこの男は踏み躙った。
それと比べれば軽すぎる罰だと、辰巳は『不和と分断を煽る者』を見下ろしつつ思う。
同時にこれを見ていた住民達にも、今一度猟兵への信頼が取り戻されることを願って。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
あそこまで特化した能力…舌を引き抜いても再生しますね、あれは
声は相手の印象を塗り潰すが如き声量と聞き心地に
身振り手振りも群集心理を掴む大袈裟な物に調整
…大変遺憾ですが、こうした議論では道理よりも“声”が大きな方が有利ですからね
成程、確かに
騎士道無き騎士が無法者に堕ちる様に、武力とはそれ相応の脅威を秘める物
所で、私達を葬った後
その責任を果たす為、貴方には人々を導く義務が生じますが…
(声量で論点すり替え反駁許さず)
この人類砦の首脳陣に伺った所、貴方の活動の実績は皆無
とても人類の運命を背負えるとは思えません
弁論ではなく、確固たる論拠と実績を持って己の正当性を主張しなさい!
逃走した敵を追い物陰で斬撃
「あそこまで特化した能力……舌を引き抜いても再生しますね、あれは」
黙ることを知らないかのように喋り続ける『不和と分断を煽る者』に、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はそんな評価を零す。生命ごと永遠に黙らせる事はできるが、群衆に撒かれた不和を取り払う前にそれを行うのは性急だろう。
「吾輩が人類を再びこの世の偉大な支配種族にする! その為には猟兵という真の脅威を取り除かねばならぬのだ!」
壇上の男は持ち前の弁論術とカリスマ性を武器に、再び自身への熱狂的で盲目な崇拝を取り戻そうとしている。そうはさせじと機械騎士は群衆を割って前に進み出ると、広場に響き渡るような大きな声で語りだした。
「成程、確かに。騎士道無き騎士が無法者に堕ちる様に、武力とはそれ相応の脅威を秘める物」
「ッ?! なんだ、貴様は」
相手の印象を塗り潰すが如き声量に、扇動者も群衆もトリテレイアのほうを振り返る。
【機械仕掛けの騎士の振舞い】により己の身体の挙動・言動をデータで補正した彼の声はとても聞き心地がよく、身振り手振りも群集心理を掴む大袈裟な物に調整されている。
(……大変遺憾ですが、こうした議論では道理よりも"声"が大きな方が有利ですからね)
正しい意見が必ずしも受け容れられるとは限らないのが世の皮肉。敵がそれを心得た上で弁論術を磨いているなら、此方はテクノロジーの力を以って自らの論に説得力を与え、互角の勝負に持ち込む構えだ。
「所で、私達を葬った後。その責任を果たす為、貴方には人々を導く義務が生じますが……」
反論者の出現に敵が戸惑っている隙を突いて、トリテレイアは論点のすり替えを図る。この流れはまずいと察した男は「それは……」と話の主導権を取り返そうとするものの、機械騎士はスピーカーの声量でそれを押さえつけ反駁を許さない。
「この人類砦の首脳陣に伺った所、貴方の活動の実績は皆無。とても人類の運命を背負えるとは思えません」
「ぬ、ぬぅ……!」
猟兵を排除したところで戦いが終わる訳ではない。吸血鬼の支配を打倒する為に求められるのは強いリーダーだが、果たして彼にそれが務まるのか。民を率いる政治的手腕も、戦いに勝利する軍事的手腕も、まだ彼は何も示していない。
「弁論ではなく、確固たる論拠と実績を持って己の正当性を主張しなさい!」
「そうだ、そうだ!」「アンタには何ができるんだー!」
びしりと指を突きつけて『不和と分断を煽る者』を糾弾するトリテレイア。彼の見事な弁論に感化された群衆からも、壇上の男を野次る声が混ざりはじめた。市民の感情を味方につけて猟兵を攻撃するという敵のやり口を、そのままやり返した形だ。
「ぐ、ぬぬぬ……すまない、今日は気分が優れないようだ」
形勢不利とみた男は額の汗を拭いながら遁走を始める。おおかた別の場所でまた演説を繰り返すつもりなのだろうが、みすみす逃すつもりもない。機械騎士は敵の逃走ルートを瞬時に検索して後を追った。
「逃がしません」
「なっ! 貴様もう……ぐぁッ?!!」
誰もいない物陰で敵に追いついたトリテレイアは、即座に剣を抜くと斬撃を浴びせる。
つい先程まで人々の熱狂の声と視線に包まれていた男は、誰の目にも留まらぬ血飛沫を散らし、誰の耳にも届かぬ悲鳴を上げた――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…確かに猟兵とは出自も、種族も、主義主張も異なる者達が、
世界の敵を討つという目的の為に集まった集団に過ぎない
…中にはお前の言う通り、邪悪な考えを抱いている者もいるかもしれない
その点で言えば"吸血鬼以上の脅威"という言葉もあながち間違ってはいないわ
…だけどね、お前の語る未来が訪れる事は決してない
猟兵の中にはこの地に集まった人々と志を同じくする者もまた多い
この暗き故郷を解放する為に共に闘う者達もいる。それを今から教えてあげるわ
…さあ、闇の救済者達よ。その目を見開いてとくと見よ
救済の誓いの下、猟兵と共に闘う吸血鬼狩りの姿を…!
UCを発動して吸血鬼狩人達を召喚
敵を乱れ撃ちする集団戦術の指揮を行うわ
「……確かに猟兵とは出自も、種族も、主義主張も異なる者達が、世界の敵を討つという目的の為に集まった集団に過ぎない」
「ッ……なんだ貴様は」
人類砦の各所を転々として、なおも演説を続けようとする『不和と分断を煽る者』に、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は正面から持論を語る。
「……中にはお前の言う通り、邪悪な考えを抱いている者もいるかもしれない。その点で言えば"吸血鬼以上の脅威"という言葉もあながち間違ってはいないわ」
集団としての猟兵が決して一枚岩でない以上、その全員が悪しき者ではないと保障する事はできない。ではやはり、猟兵は奴が言う通り人類にとって潜在的な脅威なのだろうか――それも違う。
「……だけどね、お前の語る未来が訪れる事は決してない」
壇上に立つ扇動者と、集まった群衆の前で、凛とした調子で宣言するリーヴァルディ。
彼女はこの世界で生まれ、この世界を救済する為に戦い続けてきた。『闇の救済者』と同様、救いたいという意志は人一倍強く――それが自分だけではないことも知っている。
「猟兵の中にはこの地に集まった人々と志を同じくする者もまた多い。この暗き故郷を解放する為に共に闘う者達もいる。それを今から教えてあげるわ」
「ど……どうやって証明するというのだ。何人仲間を連れてきたところで……」
同じ猟兵が増えたところで、口裏を合わせている可能性もある。猟兵が人類の味方である証にはならないと『不和と分断を煽る者』は反論する。苦しい言い分ではあるが、ここで再び聴衆の同意を得ることができれば、まだ巻き返しの機会はあると思っているのか。
「……さあ、闇の救済者達よ。その目を見開いてとくと見よ」
扇動者の姑息な思惑を斬り捨てる様に、リーヴァルディは高らかに群衆へ呼びかける。
その場にいる者達の注目が最も集まるこの一瞬、誇り高き姿を人々の目に焼き付けて。
「救済の誓いの下、猟兵と共に闘う吸血鬼狩りの姿を……!」
その声に応えて現れるのは【吸血鬼狩りの業・血盟の型】の同志達。少女が手ずから鍛えた最初の弟子達であり、少女と同じ誓いを胸に吸血鬼狩りの業を振るう狩人であり――猟兵ではない常人の身ながらも、少女と戦場を共にしてきた同志である。
『……我ら、夜と闇を終わらせる者なり』
師の元に集った狩人達の言葉は、言わされるのではなく自らの意志で発せられたもの。
この世界に救済を、人類に繁栄をもたらすため、命がけの戦いに身を投じる彼らの決意は固く、それは人類砦に住まう『闇の救済者』達にも伝わった。
「……これでもまだ証明には不足かしら」
「くっ……嘘だ、こんなものはデタラメ―――!」
「うるさいぞ!」「俺たちはこの人達を信じる!」
なおも見苦しく扇動者が喚いたところで、その言葉に同意する者はもはや誰もいない。
群衆の眼差しはリーヴァルディと狩人達への敬意をたたえており。その支持を背にして少女は狩人達の指揮を執る。
「お、おのれ……後悔するぞ!」
乱れ撃つような吸血鬼狩人の猛攻に追い立てられ、ほうほうの体で逃げていく扇動者。
もはや、この地に残る彼の賛同者などごく僅か。大勢の支持は猟兵に再び傾いており、彼の居場所はどこにもなくなりつつあった――。
大成功
🔵🔵🔵
シホ・エーデルワイス
《青炎》
敵の演説に前世で守っていた人々に蔑まされ迎えた最期を幻視
トラウマを刺激され引込思案な性格故に沈黙
あの類の敵は私にとって天敵
けど
爛の鼓舞に最初は驚き恥ずかしく思うも
やがて奮起
そうでした
今の私はこんなにも頼りになる親友達に恵まれています
孤独の痛みを知っているのは私も同じだから
私も爛をもっと知りたいです
私達が誰の味方で
何故吸血鬼と戦っているかは行動で示します!
【巡環】の雷を当て演説の調子を狂わせつつ
綺麗な花で民衆を心身共に癒しながら
民衆が攻撃に巻き込まれない様
第六感と読心術で敵の動きを見切り警戒し
危なければダッシュで割込んで庇いオーラ防御
禍根が残りそうなら
爛が落ち着かせた後に私達も同じ様に喜び悲しむ
人の心を持つ者だと話す
猟兵の出自は様々ですが
私の場合は…前世の死後
救いを求める人々の声を聞き
ただ助けたいと思った事で選ばれました
私が全ての猟兵を知る訳ではありません
ただ
殆どの猟兵は皆さん寄りの価値観だと思います
ありがとう
でも
今回私が成せたのは爛が庇ってくれたからですよ
ええ
絆の勝利です
狐裘・爛
《青炎》
むーむーっ! 思うツボかもしれないけど、こんなの黙って聞いていられないわ
うるさいうるさいうるさーい!!(ばちこーんとおじさんを炎幻奇腕で殴る)
聞きなさーい! 聞けえええぇええッ!!(地面を殴る)
シホは誰よりも人を助けたいって思ってるからここに来てるの。ここにいるのっ!
こんな私みたいな「ちんちくりん」の孤独に寄り添ってくれるくらい優しくて、いつも美味しい料理作ってくれて、いろんな場所や冒険に誘ってくれて、それにずっとずーっと強くてカッコいい私の憧れなの……知らないでしょ?
知らないくせに! シホをバケモノ扱いしないで!!
まあいいわ、これからいっぱい知ってもらえばいいんだから
万一何か禍根を残すようなら、ありったけ気合いを込めて《炎戯・魂魄幽囚》を乱射するわ。幻の炎だから痛くないし、当たれば少しは頭も冷えるでしょ
やっぱりシホはすごいな。私は自分と自分の周りのことしか考えてなくてすぐ熱くなっちゃって。反省反省
でもやったわ! 私たちの勝利! 私たちの友情は不滅よ、えへへ!
「諸君は欺かれているのだ! 猟兵を抹殺する事で我々は豊かになる!」
もはや大勢は決しつつあっても、『不和と分断を煽る者』は猟兵への糾弾を止めない。
井戸に一滴の毒を垂らし全ての水を汚染するように。民に不和の種を植え付ける悪辣な陰謀論に、しかしシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は沈黙を続けていた。
(これは、あの時と同じ……)
かつて守っていた人々に蔑まれ悲痛な最期を迎えた彼女は、敵の演説にその時の光景を幻視してしまう。猟兵として蘇った今でも前世のトラウマは忘れがたく、引っ込み思案な性格故に声を上げられない。この類の敵は自分にとって天敵だと、本人も自覚していた。
「むーむーっ! 思うツボかもしれないけど、こんなの黙って聞いていられないわ」
けれど、呆然と立ち尽くすしかできないシホにかわって、声を上げてくれる者がいた。
その少女、狐裘・爛(榾火・f33271)は右腕に狐火を宿らせながら群衆をかき分け、壇上にいる男目掛けて勢いよく殴りかかった。
「うるさいうるさいうるさーい!!」
「ぐふぁあッ!!!?」
自分の演説に夢中になっていた男の横っ面を、ばちこーんと「炎幻奇腕」が殴り倒す。
あまりに乱暴な乱入者に群衆もどよめく中、妖狐の少女は炎の巨腕を高々と突き上げ、大きな声で怒鳴った。
「聞きなさーい! 聞けえええぇええッ!!」
広場に響く大声と、ずどんと地面に叩き付けられた巨腕が、一瞬にして皆を黙らせる。
扇動者も群衆も――そしてシホも固唾を呑む中で、爛はピンと耳を立てて語りだした。
「シホは誰よりも人を助けたいって思ってるからここに来てるの。ここにいるのっ!」
彼女は怒っていた。親愛なる友が謂れない偏見に苦しめられ、心ない発言に傷つけられている事に。つらい過去をたくさん背負っているのに、それでも純粋に誰かを助けたいと想うシホに、どうしてこんな酷いことを言えるのかと、烈火の如く怒っていた。
「こんな私みたいな『ちんちくりん』の孤独に寄り添ってくれるくらい優しくて、いつも美味しい料理作ってくれて、いろんな場所や冒険に誘ってくれて、それにずっとずーっと強くてカッコいい私の憧れなの……知らないでしょ?」
爛にとってのシホは大切な、ほんとうに大切な親友だ。天涯孤独の身の上だった自分がまた笑えるようになったのも、彼女らのような友人や家族がいてくれたから。いつだって綺麗で、優しくて、素敵なところがいっぱいあるのに――こいつらは何も知らない。
「知らないくせに! シホをバケモノ扱いしないで!!」
「ッ―――!?」
子供のようなまっすぐな怒りをぶつけられて、敵は思わず返す言葉を失った。その様子を見ていた群衆も、みな黙っている。どんな洗練された言葉選びや演説技法よりも強い、普遍の説得力が爛の言葉にはあった。
「……そうでした。今の私はこんなにも頼りになる親友達に恵まれています」
爛の鼓舞に最初は驚いていたシホは、溢れんばかりの賛辞を恥ずかしく思ったものの、やがて奮起する。大切な親友があんなに力強く正面きって悪意に立ち向かっているのに、自分だけ黙って見ているだけだなんて――そんなのは友情への裏切りにも等しい。
「私達が誰の味方で、何故吸血鬼と戦っているかは行動で示します!」
純白の翼でふわりと群衆を飛び越え、爛の元に降り立ったシホは大きな声で宣言する。
その表情にもはや迷いの色はなく、聖女と呼ぶにふさわしい凛として麗しい佇まいに、誰もが胸を打たれ、圧倒される。
「まあいいわ、これからいっぱい知ってもらえばいいんだから」
今のシホを見れば皆にもちょっとは伝わっただろうと、どこか得意げな顔で爛が呟く。
シホはそんな彼女の耳元で、「ありがとうございます」と感謝を伝えると共に囁いた。
「孤独の痛みを知っているのは私も同じだから、私も爛をもっと知りたいです」
「えへへ、嬉しいな。ありがと!」
満面の笑顔でそれに応じた爛は、でもその前にと気を引き締める。戦いはまだ終わっていない――まずは目前の『不和と分断を煽る者』を倒し、元凶を引きずり出さなければ。
「ッ……黙れ黙れ黙れ! このバケモ……ぐぁっ?!」
少女達の気迫に呑まれかけていた敵は、はっと我に返ると演説を再開しようとするが、その前に灰髪の妖狐の女性の幻影がシホの隣に出現し、男の頭上から落雷を叩きつけた。
「燦、力を借ります」
【巡環】華狐相愛・巡る月。シホの恋人である妖狐の幻は、彼女への罵倒は許さないと言わんばかりに男を睨みつけていた。更に感電の所為で演説の調子が鈍った隙を逃さず、爛が炎幻奇腕を振りかぶって追撃を仕掛ける。
「あなたには一発殴るだけじゃ気がすまないんだから!」
「がふぁッ!!!」
爛が拳を突き出すのに合わせて炎の巨腕は伸長し、敵の土手っ腹を強かに殴りつける。
演説者がオブリビオンだという噂は既に広まりつつあったが、これだけの大立ち回りを群衆の前で見せれば動揺も走りそうなものである。
「皆様は下がっていてください」
そうならなかったのはシホのお陰だ。彼女の放った稲荷符は広場に綺麗な花を咲かせ、不安にかられた人々の心身を癒やす。戦いに巻き込まれないよう避難指示を出しながら、万一の際には庇いにいける立ち位置と距離を保っているのは流石と言えよう。
「武力で劣るとはいえ相手はオブリビオンです。警戒は怠らないでください」
「もちろんよ!」
第六感と読心術で敵の動きを予測し伝えるシホに、炎の腕で果敢に敵を攻め立てる爛。
本気になった猟兵2人の攻勢に耐えられる程の力は『不和と分断を煽る者』にはない。
「その雷は時を縛す」
「ぐが……ッ!?」
再び落ちてきた稲妻が男の行動速度を低下させ、停滞の間隙に妖狐の巫女が潜り込む。
慌てた男が「ま、待てッ!」と叫んでも、彼の言葉に拳を制する力はもはやなく――。
「これで終わりよ!」
「ば、馬鹿な……バカなあぁぁぁぁッ!!!」
狐火の巨腕で握り締め、灰すら残さず焼き尽くす。傲慢なる『不和と分断を煽る者』は最期の時まで己の敗北を信じられぬまま、断末魔の絶叫を上げて骸の海に還っていった。
「皆様、お騒がせ致しました」
扇動者の消滅を確認した後、シホは戦いを見ていた人たちにぺこりと頭を下げ、詳しい事情を説明すると共に、この地の住人と猟兵の間に禍根が残らぬようにと説得を始めた。
「あなたたち、シホの話を聞いて!」
話の前に爛がありったけの気合いをこめて【炎戯・魂魄幽囚】による幻の狐火を放ち、人々の心を落ち着かせて耳を貸す余裕を作っておく。煽動による熱狂もとうに冷めきり、冷静になった人類砦の住民になら、彼女の言葉も届くはずだ。
「猟兵の出自は様々ですが、私の場合は……前世の死後、救いを求める人々の声を聞き、ただ助けたいと思った事で選ばれました」
猟兵とは必ずしも生まれついての超越者に限らない。シホのように何らかの契機を境に覚醒するパターンも多い。そうした者達の大半は人として、人と共に生きた経験を持つ。
「私が全ての猟兵を知る訳ではありません。ただ、殆どの猟兵は皆さん寄りの価値観だと思います」
自分達も同じ様に喜び悲しむ、人の心を持つ者だと話すと、それまで猟兵に漠然とした期待を抱いていた者たちも、より鮮明に彼女らのことを理解できるようになったようだ。一度は揺るがされた希望は、以前よりも強固な信頼となって人々の心に根を下ろす。
「やっぱりシホはすごいな」
シホの言葉が皆の不安や恐怖を解きほぐしていく様子を眺めて、ぽつりと呟くのは爛。
耳障りがいいだけの扇動者の言葉とは違って、シホの言葉はしんと胸に沁み込むように響く。技術的なものではない、天性の素養と心の清らかさがそうさせるのだろう。
「私は自分と自分の周りのことしか考えてなくてすぐ熱くなっちゃって。反省反省」
「ありがとう。でも、今回私が成せたのは爛が庇ってくれたからですよ」
親友の賛辞と反省にシホは微笑みを返し、もう一度改めて感謝を伝える。あの時、自分よりも先に立ち上がってくれたから、怒ってくれたから、トラウマを越える事ができた。この結果に至ることができた原動力は、間違いなく爛の友を想う「熱さ」だ。
「でもやったわ! 私たちの勝利! 私たちの友情は不滅よ、えへへ!」
「ええ。絆の勝利です」
お日さまのような笑顔で胸を張る爛に、寄り添う月のような微笑でこくりと頷くシホ。
かくして卑劣な扇動者による不和と分断の種は除かれ、第一の危機は去ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『マージナル・ビースト』
|
POW : 黒の剛腕
単純で重い【岩をも砕く強靭な剛腕】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 冷たき炎
【強靭な顎を開き吐き出す、凍える炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【冷たき】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 血に猛る獣
攻撃が命中した対象に【濃厚な血の匂い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と群がる仲間のビースト】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
人類砦に潜入した『不和と分断を煽る者』を倒し、不和の危機を未然に防いだ猟兵達。
住民の間に芽生えつつあった不信感も彼らの尽力により無事に解消され、まずは一安心といったところだが――休む間もなく、砦の外からの無数の殺気を一同は察知する。
「グルルルルルルル……ッ」
壁の上や物見櫓から外を見回せば、黒い毛に覆われた獣人の群れが砦を包囲している。
あれはオブリビオン『マージナル・ビースト』。剛力と冷炎を武器として人々を襲い、犠牲者の生き血を啜る獰猛な魔獣だ。
「い、いつの間にこんな……?!」
「いったい何百匹いるんだ!?」
おそらくは『不和と分断を煽る者』の内部工作中に伏せられていたのだろう。扇動者が倒された直後にタイミングよく姿を現した事といい、全てを仕組んだ黒幕が背後にいる。
突然の敵襲を受けた民衆は少なからず動揺するが、取り戻されたばかりの猟兵への信頼が混乱を抑止する楔となり、パニックにまでは至らなかったのは幸いだった。
黒幕の狙いは扇動者を囮にして猟兵を集め、大軍の力を以って包囲殲滅する事だった。
だが予知によって事態を予測していた猟兵達には、迎え撃つ心構えもできている筈だ。敵軍を返り討ちにする事ができれば、この窮地は強大な吸血鬼を倒すチャンスに化ける。
今だ姿を現さない黒幕を戦場に引きずり出すために、猟兵達は各々の戦闘態勢を取る。
撒かれし不和の陰謀を打ち破り、闇との戦いはさらなる激しさを見せようとしていた。
トリテレイア・ゼロナイン
先の小細工の影響を完全に払拭し団結を促す好機です
扇動者に倣う訳ではありませんが、御伽噺の如く仰々しく振舞うといたしましょう
機械馬に騎乗
馬上槍機関砲に装填した●目潰し用閃光弾を空中に放ち、迫る軍勢を照らしながら人類砦をぐるりと一周
自己●ハッキングでスピーカー音声を大に
この夜闇の世界に希望を灯す為、皆様はこの砦に集い力を蓄えました
恐れる事はありません。
皆様が明日を望み希望を胸に抱く限り、私達猟兵は共に戦いましょう
弓に矢を番え、銃を構えなさい!
さあ、今こそ反撃の時です!
一周時に把握した第一波の攻撃の群れに騎馬突撃
格納銃器と馬上槍、馬の踏みつけで軍勢を蹂躙
攻勢の出鼻挫き、人類砦の攻撃を更に強化
「先の小細工の影響を完全に払拭し団結を促す好機です」
機械白馬「ロシナンテⅡ」に騎乗して人類砦の外に出たトリテレイアは、敵軍の包囲網を見渡しながら呟いた。状況は良くないがここで猟兵の力を示すことができれば、人々の信頼はより強固なものとなるだろう。
「扇動者に倣う訳ではありませんが、御伽噺の如く仰々しく振舞うといたしましょう」
彼は機関砲付きの馬上槍を空に向かって突き上げ、装填した閃光弾を空中に放ちながら砦の周りを駆ける。本来は目潰し用の弾丸は照明弾のように迫る軍勢を照らし、異形なる獣人の姿を衆目の前に晒した。
「この夜闇の世界に希望を灯す為、皆様はこの砦に集い力を蓄えました」
人類砦をぐるりと一周したところで、トリテレイアはハッキングで自らのスピーカーの音量を上げ、砦の中まで届く大きな声で語りかける。たとえ敵が大軍であろうとも、人類は既にそれに立ち向かえる十分な力を持っているはずだと。
「恐れる事はありません。皆様が明日を望み希望を胸に抱く限り、私達猟兵は共に戦いましょう」
今ここで戦わずしていつ戦うのかと、機械騎士の呼びかけは住民の闘志に火を付ける。
彼らは『闇の救済者』。悪しき吸血鬼の支配に立ち向かわんと反旗を翻した勇士達だ。
「弓に矢を番え、銃を構えなさい! さあ、今こそ反撃の時です!」
「「おおっ!!!」」
機械騎士の激励により奮い立った人々は、砦の外壁に沿って迅速な迎撃態勢を整える。
彼らの雄叫びを背に受けてトリテレイアは白馬を駆る。目標は敵の攻撃部隊の第一波。閃光弾を撃ちつつ砦を一周した際に、敵軍の布陣はほぼ把握済みだ。
「私が先行します! 後は頼みましたよ」
突撃モードに移行した【機械騎士の突撃】は、スラスターから炎の尾をなびかせて猛烈な加速を見せる。その速度と重装の質量が、凄まじい衝力となって敵軍に突き刺さった。
「グガァッ?!」「ギャァッ!!」
馬上槍の矛先に貫かれ、あるいは機械馬の蹄に踏みつけられ、マージナル・ビーストが絶叫する。騎士の先制突撃により攻勢の出鼻を挫かれた彼らは、明らかに浮足立った様子で連携を乱した。
「今だ、撃てっ!」「おうッ!」
そこに砦にいる人々からの追撃が放たれ、矢と弾の雨が敵軍の被害をより大きくする。
先陣を切って敵をかき乱し、後に続く味方を援護するのがこの戦法の肝。しょせん敵は獣崩れ、一度体勢を崩してしまえば味方のいい的だ。
「まだです、休むことなく追撃を!」
トリテレイアは敵陣のただ中から大きな声で叫び、機体に格納した銃器から弾丸をばら撒き、誰よりも敵の注目を集めながら奮戦する。彼がターゲットにされるほど味方は攻撃に集中することができ、さらなる追撃の効果が期待できる。
「ガルルッ!!」
敵も当然やられっぱなしではなく【黒の剛腕】を振るって反撃してくるが、その程度で騎士を馬上より引きずり下ろす事はできない。槍のリーチと騎馬の機動力で寄せ付けず、向かってきた敵を一方的に蹂躙していく。
「いけるぞ!」「ああ!」
トリテレイアの奮戦と倒されていく敵の様子は、人類砦の戦士達にもはっきり見えた。
猟兵の頼もしさと自分達の力が通用しているという実感は、彼らの自信と団結を強め、扇動者が現れる以前よりも結束の力を強固なものにするのだった。
大成功
🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
何百、何千。どれだけ居ようと敵じゃないさ
理不尽を更なる理不尽で打ち払う、それが猟兵の役回りってね!
【暁と共に歌う者】、114の不死鳥を散開させ人類砦と人々の護りに回す
響かせる《歌唱》は《拠点防御+結界術》領域を形成する《多重詠唱》
味方には《鼓舞+ドーピング》の加護を、
敵には《精神攻撃+催眠術+マヒ攻撃》の呪縛を与える
同時に《属性攻撃+焼却+斬撃波》、灼熱の斬撃で獣を狩っていこう
最優先は住民と人類砦の守護
避難誘導を主に動くけれど、武器を取り戦おうとする人が居ればフォローするよ
アタシ自身は《空中戦》で戦場を俯瞰し《情報収集》、
敵戦力の多い地点を《見切り》飛び込んで《蹂躙+薙ぎ払い》で蹴散らそうか
「何百、何千。どれだけ居ようと敵じゃないさ」
人類砦を包囲する無数の獣人を見渡してなお、カタリナは自信たっぷりにそう語った。
敵に先手を打たれたり、大軍に攻められたり。こうした理不尽な局面には慣れている。
「理不尽を更なる理不尽で打ち払う、それが猟兵の役回りってね!」
高らかに叫ぶ彼女の周囲を、114羽の【暁と共に歌う者】が舞う。プラズマの翼を羽ばたかせ、妙なる歌声を夜天に響かせる不死鳥たちは、閃風の舞手に従って砦に散開した。
「“我在る限り汝等に滅びは在らず、即ち我等が宿願に果ては無し――"」
カタリナと不死鳥が響かせる歌声は呪文となり、拠点周辺に大規模な結界を形成する。
この領域は味方には心を鼓舞する加護を、敵には幻惑の呪縛を与える。催眠にかけられたようにマージナル・ビーストの動きが鈍るのが、住民達の目にもはっきりと分かった。
「戦えない人達はこっちに」
「は、はいっ!」
敵軍が幻惑されている内に、カタリナは住民の避難誘導を行う。最優先すべきは人命と人類砦の守護だ。たとえ敵軍を蹴散らせても、せっかく信頼を取り戻した砦に被害が出るようなことになれば、完璧な勝利とは言えない。
「お、俺達は戦えます!」「一緒に戦わせてください!」
「よし。ならフォローするよ」
住民の中に武器を取り戦おうとする者がいれば、カタリナはその戦意を留めはしない。
避難がほぼ済んだところで、彼女は人々の護りに回していた不死鳥の一部を呼び戻し、有志の者達と共に敵軍への攻撃を仕掛けさせる。
「行くよ」
「はいっ!」
不死鳥の翼から放たれる灼熱の斬撃が、闇の救済者達の弓矢や銃弾が、まだ幻惑から醒めきっていない獣人どもを討つ。か弱き人の力でも、猟兵との連携があればオブリビオンにも有効打を与えられるのは、これまでの実績で証明されてきた事だ。
「グガァッ!」「ガルルッ!」
砦からの攻撃を受けたマージナル・ビースト達は、怒りの咆哮とともに【冷たき炎】を吐き出す。自然の摂理に反した零下の炎は戦場を寒気で包み、不死鳥の灼熱を和らげた。
「うわ……っ」
「大丈夫。キミ達のことはアタシが護るよ」
カタリナは人々が冷たき炎に晒されぬよう不死鳥達に守らせつつ、自身は空より戦場を俯瞰して敵戦力の多い地点を見極める。押されかけた戦況を覆す遊撃手が彼女の役目だ。
「さあ、蹴散らそうか」
敵の布陣を見切ったカタリナは翼を畳んで猛禽のように急降下し、両手にダガーを構えて敵陣に飛び込む。降下のスピードを乗せた斬撃は凄まじい威力を発揮し、居並ぶ敵を纏めて薙ぎ払った。
「ギギャァッ!!?」
獣人たちが悲鳴を上げ、冷たき炎の放射が止まる。「今だ!」と叫んだ住民の追撃が、その傷を容赦なく押し広げていく。カタリナの勇姿を目の当たりにした彼らの表情には、敵への恐怖の色は微塵もなかった。
「今回も格好良く決めるよ!」
戦場の空を華麗に翔け、敵を蹂躙していく閃風の舞手。暁の不死鳥と闇の救済者達との連携が彼女の戦舞の鋭さをさらに増して、数百の敵という理不尽を今、覆しつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…内側に注意を引いた隙に包囲して一気に攻める、ね
良い戦術だけどグリモア猟兵の予知がある以上、此方の上を往く事は不可能よ
敵陣に向け「闇の精霊結晶」を怪力任せに投擲して戦場を闇で覆い、
瞬間的に吸血鬼化して強化された視力で暗闇を暗視し索敵を行い、
敵の集団戦術が乱れた隙を突いて闇に紛れて敵陣に切り込みUCを発動
…彼らにああ言った手前、あまり悪辣な姿を見せるのは気が引けるからね
負のオーラで防御を無視して敵の魂を捕縛する闇属性攻撃を行い、
捕らえた魂(生命力)を吸収して魔力を溜めて一時的な強化を施し次の闘いに備える
…魂を喰らう外法だからこそ、効果は折り紙付きよ
さあ、何が起きたか解せぬまま私の糧になりなさい
「……内側に注意を引いた隙に包囲して一気に攻める、ね」
陽動と撹乱を兼ねた煽動者の布石と、ここぞとばかりに大軍を投入してきた手腕から、敵はなかなか知恵の回るようだとリーヴァルディは認める。もしこの策に嵌っていれば、猟兵もしくは人類砦は大きな打撃を被っていただろう。
「良い戦術だけどグリモア猟兵の予知がある以上、此方の上を往く事は不可能よ」
未来を知る力にて"過去"の陰謀を暴く、それが猟兵の戦い方だ。予知されていた事態に驚きもせず、彼女は礼装から黒い結晶を取り出すと、敵陣に向けて力任せに投げつけた。
「グルル……ッ?!」
リーヴァルディが投擲したのは「闇の精霊結晶」。敵陣の真上で弾けたそれは一瞬にして戦場を闇で覆い、敵の視界をゼロにする。いかにこの世界で生まれた魔獣とて、精霊が生み出す完全なる闇の前では夜目も利くまい。
「……彼らにああ言った手前、あまり悪辣な姿を見せるのは気が引けるからね」
この戦法を採ったのは、これから自分が仕掛ける事を人々に見せないためでもあった。
精霊の闇に身を隠しながら、彼女は瞬間的に吸血鬼化して視力を強化し、索敵を行う。闇に紛れていて判別し難いが、その瞳は血のような真紅に染まっていた。
「ガウッ!」「オオォッ!」
視界を失った獣人の群れは、闇雲に【冷たき炎】を撒き散らして周囲を警戒している。
だが統率の乱れた集団は隙だらけで、味方を敵と勘違いした同士討ちすら起こる始末。その様子を暗視したリーヴァルディは好機とみて切り込み、ユーベルコードを発動する。
「……限定解放。その肉の身を安らかに離れ、我が呼び出すまで戻るなかれ」
【限定解放・血の吸魂】――それは高位の吸血鬼が行う、血を介さない魂喰いの秘術。
少女の身体から闇よりも昏い負のエネルギーが放たれ、マージナル・ビーストの群れを包み込んだ。
「グオオ……ッ!!?」
負のエネルギーの波動はあらゆる物理的な防御を無視して、獣人どもの魂を捕縛する。
魂とは生命の源。それを直に吸い取られた敵は、悲鳴を上げてばたばたと倒れていく。
このユーベルコードは暗闇では威力が増す特性もあって、耐えられる者は誰もいない。範囲内にいたのが運の尽きと、精も魂も一瞬で吸い付くされる。
「……魂を喰らう外法だからこそ、効果は折り紙付きよ」
吸収した魂はそのままリーヴァルディの魔力となり、膂力、速度、知力など、あらゆる能力を一時的に強化する。確かにこれは普通の人間には刺激が強いだろう――この所業は忌むべき吸血鬼の業。だが吸血鬼を狩るためなら彼女は決して躊躇わない。
「さあ、何が起きたか解せぬまま私の糧になりなさい」
暗闇に囚われたマージナル・ビースト達に、状況を理解し反撃する手段は皆無だった。
魂を吸い取られた無傷の屍の山を積み上げて、自らの力を高めていくリーヴァルディ。
溜め込んだ力は全て、次の闘いに備えてのもの。獣人の群れを一掃しつつ、彼女は既に黒幕との決戦を見据えていた――。
大成功
🔵🔵🔵
カビパン・カピパン
「グルル…ッ」
「気力を振り絞れ!奴らを止めるのだ」
カビパンはマージナル・ビースト達を激励していた。
「シューッ」
外を見回せば、マージナル・ビーストの群れは信じられない数のあの菓子に包囲されていた。あれは恐らく『シュークリーム』。その美味しそうな風貌とカロリーを武器としてあらゆる生物を襲う獰猛な菓子だ。
「グルルッ?!」(い、いつの間にこんな)
「グルルル!?」(いったい何千個あるんだ)
唐突な第三勢力の登場による三つ巴にきっと黒幕も驚愕したに違いない。
対シュークリーム歴戦のカビパン大尉が指揮するマージナル・ビーストだったが徐々に持久戦になり押しつぶされていった。つまり勝手に変な勢力と戦って自滅した。
「グルル……ッ」
人類砦を包囲したマージナル・ビーストの侵攻は、猟兵達の反撃に押し返されていた。
この計画は始めから猟兵が標的である。故に相応の抵抗があるのは想定されていたが、猟兵達はその想定を上回るほど強く、迅速果断にこちらを迎え撃ってきたのだ。
「気力を振り絞れ! 奴らを止めるのだ」
思わぬ苦戦を強いられる獣人達に、カビパンが力強く声をかける。さっきまで砦の中で扇動者の演説を妨害していたはずの彼女は、なぜか今は敵の陣営でマージナル・ビーストを激励していた。
「来たぞ、奴らだ」
指揮官面でさも当然のように指示を出すカビパンに、マージナル・ビースト達は首を傾げながらも指差された方を向く。新手の猟兵が攻撃を仕掛けてきたのかと思ったのだが、それは人類砦とは真逆の方向であり――明らかに人ならざる形状をしていた。
「シューッ」
いつの間にか彼らは信じられない数の菓子に包囲されていたのだ。見回す限りずらりと並ぶ、ふんわり生クリームとカスタードを生地で挟んだ洋菓子の群れ。この世のものとは思えない異常な光景に、さしもの魔獣もどよめいた。
「あれは恐らく『シュークリーム』。その美味しそうな風貌とカロリーを武器としてあらゆる生物を襲う獰猛な菓子だ」
カビパンは真面目くさった顔で解説するが、マージナル・ビーストの方はそれを聞くどころではない。目視で確認できる範囲だけでも、敵(?)の数はこちらを凌駕していた。
「グルルッ?!(い、いつの間にこんな)」
「グルルル!?(いったい何千個あるんだ)」
困惑と動揺の唸り声を上げる獣人達。これまで多くの民を血祭りにあげてきた彼らも、シュークリームと戦ったことはない。あるはずがない。見た目がただの菓子だからこそ、未知への不安を覚えるのは当然のことだった。
「狼狽えるな! 私は対シュークリーム歴戦のカビパン大尉だ」
部隊の動揺を鎮めようとカビパンが声を張り上げる。あんなよく分からないモノに包囲されていると言うのに、彼女だけがいつもと変わらぬ態度でまったく動じていなかった。
マージナル・ビースト達も彼女の謎のカリスマ性に引かれ、こうなればと藁にもすがる思いで指揮下に入る。後にして思えばきっと正気ではなかったのだろう。
「突撃!」
「グルルルオオォッ!」
カビパン大尉の指揮の下【血に猛る獣】は咆哮を上げてシュークリームの群れと戦う。
だが見た目ほど軍略に秀でているわけではない【ハリセンで叩かずにはいられない女】に命じられるまま野戦を挑んでも、数で勝るシュークリームに勝てる要素はなかった。
「グオオオォォォーーーッ!!?」
結局、カビパンの指揮したマージナル・ビースト部隊は徐々に持久戦になり、最後にはシュークリームの山に押しつぶされていった。つまり勝手に変な勢力と戦って自滅した。
唐突な第三勢力の登場による三つ巴にきっと黒幕も驚愕したに違いない。どんな綿密な計画も陰謀も、彼女という「理解不能な異分子」を予測する事はできなかったのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
歩いて砦の外へ出るぜ。散歩感覚だ。
(化物を指差して数え始め)……ヤメだ。嫌になるぐらい数だけは取り揃えてやがる。お陰で獣臭くて鼻が曲がっちまいそうだ。
二丁銃で放つ銀の銃弾に紫雷の【属性攻撃】を乗せて【クイックドロウ】。
敵軍の真っ只中に立っちまえば、凍える炎とやらで不幸による同士討ちも誘えそうだ。
飼い主の言う事を聞く程度の脳みそは持ってるようだが…飼い主が居なくなると途端にコレだ。猟兵っていう餌を前に涎垂らし過ぎだぜ、ワンちゃん。
敵軍の真ん中の【悪目立ち】で視線に晒されるってのは悪くない。欲を言えば、オーディエンスは獣じゃなく、俺のパフォーマンスを理解出来る人間が良かったがね。(肩竦め嘆息)
「……ヤメだ。嫌になるぐらい数だけは取り揃えてやがる」
散歩感覚で砦の外まで歩いてきたカイムは、待ち構えていた化物を指差して数え始めるが、すぐにやめた。雑兵とはいえよくもまあこれだけ集めたものだと、呆れ混じりに感心してしまう。
「お陰で獣臭くて鼻が曲がっちまいそうだ」
黒き異形なる獣人、マージナル・ビースト。血に飢えた彼奴らの放つ異臭は離れていてもむせ返るようで。皮肉げに口元を歪めながら、便利屋の男は化物の掃除に取り掛かる。
「さっさと終わらせようぜ」
敵群に向かって駆け出すと同時に、ホルスターから「双魔銃 オルトロス」をクイックドロウ。双頭の魔犬を模した二丁の魔銃が咆哮を上げ、紫雷を纏った弾丸を撃ち出した。
「ギャウッ?!」「グガァッ!!」
稲妻の早撃ちに避ける間もなく射抜かれたマージナル・ビーストは悲鳴を上げて倒れ、近くに居た連中は怒りの形相でカイムを睨む。大胆にもたった1人で群れの真っ只中に飛び込んできた命知らずを、逃すつもりなど彼らにはない。
「オオオッ!!!」
獣人達は強靭な顎を開き、【冷たき炎】を一斉に吐き出す。触れたものを凍り付かせる自然ならざる炎がカイムに襲い掛かる――が、彼はその寸前でひらりと炎から身を躱す。
「飼い主の言う事を聞く程度の脳みそは持ってるようだが……飼い主が居なくなると途端にコレだ。猟兵っていう餌を前に涎垂らし過ぎだぜ、ワンちゃん」
「グルルッ? ギャオンッ!!?」
的を外した冷たき炎は、対面にいた同胞を凍てつかせる。味方が密集した場所で迂闊に飛び道具など使うからそうなる。凍傷を受けてのたうち回る獣共を見て、カイムは馬鹿めと銃口を向けた。
「賭けてやってもいい。アンタらじゃあ、俺には勝てねぇよ」
不敵な態度で挑発を口にしながらトリガーを引く。彼の弾丸は銀製だ。元は対UDC用の特注品だが軽量で魔力を通しやすく貫通力と破壊力に優れる。化物退治にはうってつけだ。
双魔銃が咆哮するたびに獣の屍が増えていき、敵は躍起になって反撃してくるものの、統率の取れない行動は逆に同士討ちによる被害を拡大させてしまっている。
「ギャグッ!?」「グギギ……!」
カイムの【命知らずの賭け】は敵の冷静さや思考・判断力などを奪い、不幸をもたらすユーベルコードだ。その大胆不敵な言動に気を取られた時点で、敵は彼の術中に嵌まっていたのである。
「敵軍の真ん中の悪目立ちで視線に晒されるってのは悪くない」
無数の殺気を向けられても余裕の笑みを崩さず、群れの中でダンスを踊るように鮮やかなステップと早撃ちを披露するカイム。敵は完全に彼のペースに翻弄されており、焦り、怒り、殺意を燃やすほど、自ら破滅に突き進んでしまう。
「欲を言えば、オーディエンスは獣じゃなく、俺のパフォーマンスを理解出来る人間が良かったがね」
今の彼には敵に囲まれながら肩を竦め嘆息する余裕さえあった。直後に身を躱せば獣の爪牙は空を切り、同胞を互いに傷つける。有象無象のモブ共が戦場の主役に触れる事は、それからも一度として無かった――。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロット・シフファート
幾ら集団で群れようとも無駄よ
宣すると同時に空間そのものが変換した炎が灯される
次々と群がるビーストが存在している空間そのものが炎となり、そのままビーストを焼き尽くしていく
空間そのものが炎に変化しているという事は炎から空間に戻せば人類砦の施設を延焼させることなく、オブリビオンのみを空間ごと世界から焼却していく
刮目しなさい、人類砦の民と闇の救世主よ
これが猟兵…ヴァンパイアをも超える『生命体の埒外』の力よ
そう炎と共に叫び、一気にビーストを薙ぎ払っていく
その凛然とした姿こそ正に、闇の救世主(ダークセイヴァー)であるだろう
「幾ら集団で群れようとも無駄よ」
シャルロットがそう宣言すると同時に、空間そのものが変換した炎が辺りに灯される。
この世ならざる法則にて燃える【万象を灼す未踏級の理たる聖火世界】の炎が、夜闇の戦場を照らしだす。
「其れは、異なる灼滅。其れは異なる生きる真。炎産霊が捧げる全ての理を焼く邪炎にして聖火。それ即ち創造と終焉司る神話の起源なり」
異界の炎は空間そのものを草原の如く燃え広がり、すぐにマージナル・ビーストの存在している空間まで達する。何が起こっているのかを正しく認識する間もなく、獣達の体は紅蓮の炎に包まれた。
「「グギャアアァァァァァッ!!!!?」」
轟くは獣の悲鳴。シャルロットの空間変換により生じた炎は火力においても比類なく、瞬時に骨の髄まで焼き尽くしていく。たとえ何十、何百匹いようが、全ては薪と同じだ。
「空間ごと世界から焼却してあげるわ」
まるで戦場を焼き払うような大規模な攻撃だが、火の手が味方に害を及ぼす事はない。
空間そのものが炎に変化しているという事は、術者の意思で炎から空間に戻す事もできる。施設に延焼する前に炎を戻しさえすれば、人類砦やその住民達に被害は出なかった。
「すごい……!」
聖火に煌々と照らされた戦場の様子は、人類砦にいる人々の目にもはっきりと見えた。
彼らの視線は炎の中心にたたずむ金髪の少女――シャルロットに釘付けになっている。
「グオオォッ!?」「ギャアアァァッ!!」
【血に猛る獣】がいくら仲間のビーストを呼ぼうと、火の手を押し返す事はできない。彼らが武器とする冷たき炎も灼熱の聖火に上書きされて、吐き出した当人を燃やす始末。
敵は少女に触れることさえ叶わぬまま、断末魔の絶叫だけを遺して灰燼に帰してゆく。
「刮目しなさい、人類砦の民と闇の救世主よ。これが猟兵……ヴァンパイアをも超える『生命体の埒外』の力よ」
そう炎と共に叫び、一気にビーストを薙ぎ払っていくシャルロット。この戦場はもう半ば彼女が支配する異界と化しており、強靭なる意思と眼光の前では現実すら膝を屈する。
その凛然とした姿こそ正に、闇の救世主(ダークセイヴァー)であるだろう。彼女が示した勇戦と絶大なる力が、人々に与えた影響は大きい。
「これが、猟兵……!!!」
心にまで火が燃え移ったかのように、胸がぐっと熱くなる。これほどの強者達が味方にいて、なにを恐れることがあるだろう。万象を灼す聖火世界の裏で、民衆の士気は大いに高まっていた――。
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
二段構えの作戦、離間の計と同じく常道かつ強力な策だ
だが、我らにその手の不意打ちは通用しない
そして、その学びを活かすことも持ち帰ることもなく、ただただ無為に滅び尽くせ!
【怪力】を以って聖槍を振るい、群がる獣どもを斬り打ち穿ち【なぎ払う】
強靭であろうと単純ならば【見切る】のは容易い、【受け流し】て【体勢を崩し】たところを【串刺し】にする
冷たき炎……理屈は知らんが、それが切り札か
ならば私も、相応の力で見せてやろう
【属性攻撃】【全力魔法】で掌中に雷霆の魔力を超高密度に圧縮圧縮圧縮……【天叢雲剣】
ひとたび振り抜けば、激しい嵐と稲妻が相対する者を【蹂躙】する
「二段構えの作戦、離間の計と同じく常道かつ強力な策だ。だが、我らにその手の不意打ちは通用しない」
グリモアの予知で伝えられていたマージナル・ビーストの襲撃に、オリヴィアは迅速な迎撃体制を取る。数で勝ろうとも包囲しようとも、敵軍の策略はこちらに筒抜けだった。なぜ気付かれたのかと向こうは今頃大いに驚いているだろう。
「そして、その学びを活かすことも持ち帰ることもなく、ただただ無為に滅び尽くせ!」
破邪の聖槍を握りしめて、彼女は敵陣に吶喊する。一匹たりとも逃すつもりはないと、闘志を宿した瞳は爛々と輝いている。たった1人と侮るなかれ、彼女はその槍で数多の魔を討ち滅ぼしてきた歴戦の猟兵である。
「散れ、獣ども!」
「ギャウッ!?!」
並外れた怪力を以って聖槍を振るい、群がる敵を斬り、打ち、穿つ。魔に対し恐るべき破壊力を発揮する黄金の穂先により、マージナル・ビーストは次々となぎ払われていく。
(強靭であろうと単純ならば見切るのは容易い)
獣からの反撃は冷静に受け流し、剛腕の力の流れを別の方向に逸らす。それで敵が体勢を崩したところを槍で一突きすれば、串刺しにされた獣は醜き断末魔を上げて絶命する。
獣のあしらいに慣れたその戦いぶりは、魔狩人としての経験と技量の為せる業だろう。
「グルルルル……ッ」
短い攻防だけで甚大な被害を受けた獣人達は、オリヴィアを脅威とみなし距離を置く。
白兵戦を挑んでも勝ち目はないと本能で察したのだろう。唸り声を上げる口元からは、青白く燃える炎が揺らめいている。
「冷たき炎……理屈は知らんが、それが切り札か」
標的を焼くのではなく凍らせる異能の炎。過去にも彼らはこの炎で多くの獲物を仕留めてきたのだろう。確かにこれだけの頭数からの一斉放射をまともに浴びれば、猟兵とて命の保障はない。
「ならば私も、相応の力で見せてやろう」
冷炎を吐き出す体勢に入った獣どもを前にして、オリヴィアはぐっと拳を握りしめる。
固く握った掌中より迸るは雷霆の魔力。一体どれほどの量がそこに集まっているのか、漏れ出した紫電がバチバチと火花を散らす。
「グルル……ッ?!」
圧縮、圧縮、圧縮。極限まで圧縮された超高密度の魔力が一振りの大剣を形成した時、獣達の本能は最大級の危機を訴え、それが振るわれる事を阻止しようと一斉に炎を放つ。
だが――彼らの炎がオリヴィアを凍り付かせるよりも、オリヴィアの動きの方が速い。
「天地に轟く雷霆よ! 遍く邪悪を焼き尽くし、神の御稜威を知らしめよ!」
顕れた【天叢雲剣】をひとたび振り抜けば、激しい嵐と稲妻が戦場全体に吹き荒れる。自然災害に等しい破壊力は冷たき炎をあっという間にかき消し、相対する者を蹂躙した。
「「アギャアアアァァァァッ!!!!!?」」
圧倒的な猛威を前にマージナル・ビーストは恐怖し、嵐と稲妻に打ち据えられて生命を散らす。断末魔の絶叫が雷霆の轟きにかき消された後、オリヴィアの視界に立っていた敵は1匹残らず滅び去っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
敵は大勢、厳しい状況……ですが、私にとっては先程よりはやりやすいですね。
ただ戦うだけですみますから。
今回ですが、あえて一撃貰いましょう。
血の匂いで敵を【おびき寄せ】て、群がってくる敵を【カウンター】で仕留めて減らしていく作戦です。
【激痛耐性】で痛みを無視し【瞬間思考力】でどの敵から倒すべきか選んで斬る、と言う流れになるでしょう。
ただ、囲まれてしまったら剣だけでは不利です。
その場合はユーベルコードで多数の【破魔】の炎を生み出し【範囲攻撃】として、纏めて【焼却】してしまいましょう。
敵が多いので、傷付き体力も消耗するはず。
私が倒れるのと敵の全滅のどちらが先か、勝負といきましょう。
「敵は大勢、厳しい状況……ですが、私にとっては先程よりはやりやすいですね」
砦内の混乱を収めたハロは、砦外に出ると剣を抜く。次なる敵は獰猛な獣の群れだが、緊張している様子はない。先程の『不和と分断を煽る者』に比べれば余程与し易い敵だ。
「ただ戦うだけですみますから」
死力を尽くしての命のやり取りはいつもの事。幼い頃から少年兵として剣を学んできた彼女には数百の敵とて恐れるものではなく。左右に短剣を構えつつ、敵の前に身を晒す。
「グルルッ!!」
砦から出てきた獲物に【血に猛る獣】は素早く反応し、唸り声とともに襲い掛かった。
ハロはその一撃をあえて貰うことを選択し、獣の爪に自らの体を切り裂かせる。破れた軍服の下から白い肌が露わとなり、ぽたぽたと赤い雫が爪痕からしたたる。
「さあ、お相手いたします」
彼女が攻撃を受けたのは血の匂いで敵をおびき寄せるため。散り散りに動かれるよりも自分に標的を集めたほうが纏めて対処しやすくなる。作戦通りに敵は血の匂いに惹かれ、彼女の元に次々と群がってきた。
「一撃は貰いましたが、これ以上は簡単にやらせません」
殺到する敵群の中からハロは瞬時に思考を巡らせ、どの敵から倒すべきか選んで斬る。
爪牙を躱しざまに放たれる短剣のカウンターは、獣の喉笛や心臓の急所を的確に抉り、一撃のもとに仕留めていく。
「グガッ!!」「ギャッ?!」
敵はなおも続々と集まってくるが、立ち向かう少女の動きに淀みはない。受けた傷の痛みは無視して、ただ目の前の敵を狩ることに意識を集中させる。研ぎ澄まされた心と鍛え上げた技が、彼女自身を一振りの剣に変える。
(ただ、囲まれてしまったら剣だけでは不利です)
多勢を相手に互角以上の戦いを披露しながらも、ハロはシビアに戦況を判断していた。
敵は多大な犠牲を払いながら彼女を包囲しつつあり、数の力でこのまま押し潰す気だ。限られた刃と手数だけでは、全方位からの攻撃に対処しきれない。
「なら……私の炎が、魔を払います!」
包囲が完成する直前で、ハロは【クロスファイアー】を発動。聖なる力を帯びた破魔の白炎を生み出し、敵に範囲攻撃を仕掛けた。幾つもの白い軌跡がさっと戦場に駆けたかと思うと、マージナル・ビーストの群れは瞬時に炎に包まれた。
「「グガアアアァァァッ!!!?」」
耳障りな絶叫と共に焼却される獣達。血に飢えた魔獣に破魔の炎は効果覿面のようだ。
自身を取り囲んでいた数十の敵を纏めて焼き尽くすと、ハロは剣を握ったまま一旦呼吸を整える。
「流石に楽ではありませんね」
彼女も人間である以上、傷付きもすれば体力も消耗する。だが敵の数も当初と比べれば明らかに減ってきている。濃厚な血の匂いに引かれてきた増援の数も、前よりまばらだ。
「私が倒れるのと敵の全滅のどちらが先か、勝負といきましょう」
痛みと疲労を気力で抑え込み、再び剣を構えるハロ。たとえ消耗していても技量の冴えが鈍ることはなく、破魔の白き炎を操りながら獣を切り払う姿は可憐にして勇猛である。
鮮烈なる少女剣士と血に猛る獣達の戦いの行方は、前者の優勢に傾きつつあった――。
大成功
🔵🔵🔵
ユーディ・リッジウェイ
か、数が多いな。どうやって集めたんだろ。一匹ずつ捕まえたのかな。そ、そんなことするわけないか。きゅ、吸血鬼の言うことなら大人しく聞くのかな?
ま、まあ、いいや。むずかしいこと、ど、どうせ、わかんないんだ。
ううん…トゥッティでいいか。む、虫、嫌いな人には悪いけど。お、大きな怪我、してる人も、いなさそう、だし。相手が沢山なら、こっちも沢山の方がいいよね、た、多分。近付くのも、あ、危なそうだ。
ほら、お前たち。あの肉を存分に引き千切っておやり。
…ふふ。今のちょっと、あのひとに似てた? かも?
結局わたしは、わたし以外にはなれなかったけど。
この世界は、わたしのあこがれを思い出させてくれる。いい世界…ふふふ。
「か、数が多いな。どうやって集めたんだろ」
人類砦を包囲するマージナル・ビーストの大軍を見て、ユーディはそんなことを呟く。
訓練された兵士ではなく、血に飢えた獣の群れが誰かの命令に従って集まるというのは確かに妙ではある。
「一匹ずつ捕まえたのかな。そ、そんなことするわけないか。きゅ、吸血鬼の言うことなら大人しく聞くのかな?」
あの獣達は儀式に供された人狼とも黒騎士の末路とも言われるが、だとすれば吸血鬼の手で"作られた"という線もあるか。いずれにせよ真相は不明で、答えは出しようもない。
「ま、まあ、いいや。むずかしいこと、ど、どうせ、わかんないんだ」
獣の群れがのそのそと包囲の網を狭めてきたところで、ユーディは考えるのをやめる。
どんな方法で集めたにせよ、これから吸血鬼の苦労は水の泡になる。次に彼女が考えたのは、あいつらを1匹残らず殲滅する方法だった。
「ううん……トゥッティでいいか。む、虫、嫌いな人には悪いけど」
そう言って喚び出すのは【蝟集する発条仕掛けの黒蠅】の群れ。屍肉に集う獰猛な肉食蠅の群れ――正確には蠅を模した何かの群れが、羽音と発条の音を響かせて姿を現した。
「お、大きな怪我、してる人も、いなさそう、だし。相手が沢山なら、こっちも沢山の方がいいよね、た、多分。近付くのも、あ、危なそうだ」
靄のように辺りを黒く染める数百羽の肉食蝿の群れは、ユーディの意思のままに獣達に襲い掛かる。見た目はただの虫けらでも、彼らの大顎は獣の爪牙に決して劣らぬ凶器だ。
「ほら、お前たち。あの肉を存分に引き千切っておやり」
命令通りに獣に群がり、齧りつき、肉を裂く。敵は「ギャウンッ?!」と犬ころのような悲鳴を上げて蠅をはたき落とすが、数羽を潰しても新たな蠅が次から次に飛んできて、休む間もなく牙を剥く。
「……ふふ。今のちょっと、あのひとに似てた? かも?」
かつて牢獄に繋がれていた頃、育ての親であった「あのひと」を思い浮かべ、ほのかに微笑みを浮かべるユーディ。今は思い出の中でしか会うことのできない「あのひと」は、しかし今でも彼女の生きる支えであり、変わらぬ憧れである。
「結局わたしは、わたし以外にはなれなかったけど。この世界は、わたしのあこがれを思い出させてくれる。いい世界……ふふふ」
深い闇と怪物の脅威が渦巻く世界だが、だからこそここはユーディにとって好ましい。
今だけは自分もあんなふうに残忍に。狡猾そうな笑みを作ってみせて、少女は蠅の群れの指揮を執る。
「グルル……ッ」
肉食蠅にたかられた獣はそれを脅威とみなして反撃するが、一羽一羽は一撃であっさり壊れ、流れる血もない発条仕掛けの黒蠅は【血に猛る獣】の本能を刺激しない。ユーディが最初に怪我人の有無を確かめ、自身が近付くのを避けたのはこういう事だ。
「グガアッ?!」「ギャアァッ!!」
いつもの連携殺法が通用しない未知の敵に翻弄され、貪られるマージナル・ビースト。
襲う側から襲われる側へと転落した彼らの醜態と藻掻きを、ユーディは仄暗い眼差しで眺めていた――。
大成功
🔵🔵🔵
瀬河・辰巳
人間はともかく、俺の血は美味くないぞ。……まあ敵の血も不味そうだけど。
さて、代わりにお前達の生き血を“森”に捧げてもらおうかね。
敵が凍てつく炎なら、こちらは焼き尽くす炎で。
初手からUC発動。狩り残しは塀の上から弓で仕留め、数が減ったら飛び降りて鎌で切り裂いてゆく。
敵の攻撃は炎を纏った荊とオトモダチで対応していこうかな。
「お前達も元犠牲者かもしれないけど。変わり果てた同胞を屠るのも仕事なんだよ。……猟兵になる前から、ずっと」
猟兵になる前は、吸血鬼の命令で血に狂った同胞を始末していたけど。面識がないのは気が楽だね。
……まあ、だから人とあんまり関わりたくない、ってなるんだけど。
「人間はともかく、俺の血は美味くないぞ。……まあ敵の血も不味そうだけど」
血に飢えた獣の群れに警告してみても、長い間「待て」をさせられていた獣どもがそれで止まる訳はなかった。血が通っていればお構いなしと言わんばかりに、強靭な顎を開くマージナル・ビーストを見て、辰巳も戦闘態勢を取る。
「さて、代わりにお前達の生き血を“森”に捧げてもらおうかね」
宣言と共にユーベルコードが発動され、彼を中心とした戦場の風景が塗り替えられる。
それはかつて彼が住んでいた場所を模した影の森。この【宵闇に揺蕩う口減らしの森】に迷い込んだ者は、森が持つ悪意と恐怖を知るだろう。
「敵が凍てつく炎なら、こちらは焼き尽くす炎で」
獣達が【冷たき炎】を吐き出すより先に、辰巳は影の森のあちこちから炎を纏った荊を出現させ、敵の四肢や胴を串刺しにする。灼熱によるダメージと足止めを兼ねた攻撃だ。
「ギガアッ!!」「グギャッ!?」
突き刺さる茨と焼き焦がす炎の痛みに、堪らず悲鳴を上げる獣達。冷たき炎を吐いて熱を相殺しようとするが、凍らせても凍らせても茨の出現は止む気配もない。既に森の呪いに囚われてしまった彼らに逃れる術はなかった。
「呪いと祝いは紙一重。森の悪意も祝福となる」
一方の辰巳は茨の防壁に守られながら、「樹海の祈り」と名付けたロングボウで塀の上から矢を浴びせる。狙いは茨と炎だけで仕留めきれなかった狩り残し。森の呪いを宿した矢が、過たず獣の心臓を射抜く。
「ガ……ッ」
どうと倒れたきり動かなくなった獣の屍を、彼は冷徹に感情を抑えた視線で見ている。
森生まれの彼にとって動物は友だ。しかしここに居るのは血に狂った自然ならざる獣。情けをかける余地はない。
「お前達も元犠牲者かもしれないけど。変わり果てた同胞を屠るのも仕事なんだよ。……猟兵になる前から、ずっと」
吸血鬼の命令で血に狂った同胞を始末していた過去を思い、厭気に眉をひそめる辰巳。
友を手に掛けるあの感覚は、今でも忘れられそうにない。それと比べれば現状はまだましである。元が獣であれ人であれ、自分は彼らのことを何も知らない。
(面識がないのは気が楽だね。……まあ、だから人とあんまり関わりたくない、ってなるんだけど)
関わりが深くなれば、いつかつらい思いをする。ゆえに人当たりのいい人物を演じつつ誰とも心を開かないのが辰巳の本性だった。別にそれを寂しいとも思わない――自分にはいつだって「オトモダチ」が傍にいるのだから。
「さて、そろそろ終わらせようか」
「グルルッ!!」
敵の数が減ってきたところで、辰巳は弓から鎌に持ち替えて塀から飛び降りる。爪牙の届く距離にやってきた獲物を見ればマージナル・ビーストの残党は一斉に襲い掛かるが、炎を纏った茨と動物の形をした歪な影が、盾となって彼を守る。
「さようなら」
「ギャァッ!!?」
苔や蔦を纏った大鎌「ネメシスの遺物」を振るえば、獣の断末魔と共に血の花が咲く。
敵が狩り尽くされ、影の森が再び静寂を取り戻すのは、それから間もなくの事だった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
慌てないで!みんなは砦の中から決して出てはダメよ!
心配しないで。必ず勝ってみせるわ!
【虜の軍勢】で「エビルウィッチ、狐魅命婦」の炎コンビを召喚し、外壁上から【ファイアー・ボール】と【フォックスファイアフィーバー】で支援を指示。
自身は【ブラッディ・フォール】で「龍脈火山帯の大熱戦」の「帝竜ガイオウガ」の姿(魔力で帝竜の姿を再現構築し、外殻として纏った姿)へ変化。
【垓王牙炎弾】を撃ち込み、敵を爆砕すると同時に炎の獣を生み出して蹂躙。更に【垓王牙炎操】の竜の姿の炎の群れを追加投入し、一気に焼き尽くすわ!
よくも姑息な手段を取ってくれたわね。
わたし達を信じてくれた砦の人々の為、全力で片付けさせて貰うわ!
「慌てないで! みんなは砦の中から決して出てはダメよ!」
うろたえずに安全第一で行動するようにと、人類砦の住民に指示するフレミア。先程の細工や猟兵に好意的な噂を流した効果もあり、突然の敵襲による混乱はすぐに収まった。
「心配しないで。必ず勝ってみせるわ!」
そう力強く断言する彼女に、人々は「どうかご武運を」と期待と信頼の眼差しを送る。
悪辣な『不和と分断を煽る者』から取り戻した信頼を、ここで裏切る訳にはいかない。普段以上の期待が背中にかかっているのを感じながら、吸血姫は戦場に赴いた。
「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
炎を操る獣には炎で対抗と、フレミアは【虜の軍勢】からエビルウィッチと狐魅命婦を召喚し、砦の外壁上に配置する。主人からの支援指示に応えて、彼女らは【ファイアー・ボール】や【フォックスファイアフィーバー】など炎のユーベルコードで敵を攻撃する。
「グルルッ!」「ガウッ!!」
外壁の上から撃ち下ろされる炎の雨に、マージナル・ビーストも【冷たき炎】で対抗。
灼熱と凍結、真逆の性質を持つ炎が空中で激突し、互いを打ち消しあう。これだけなら互角といった所だが――さらにフレミア自身の参戦により戦況は一変する。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
発動するのは【ブラッディ・フォール】。マグマのような高熱の魔力を己の身に纏い、フレミアは「帝竜ガイオウガ」の力を顕現させる。魔力によって再現構築されたそれは、巨大な火山が如き威容であった。
「グルル……ッ?!!」
眷属の炎には怯まなかった獣どもも、帝竜の発する莫大な熱気には竦み上がる。ガイオウガの外殻の中からそれを見下ろすフレミアは、彼らをきつく睨み付けながら一喝しだ。
「よくも姑息な手段を取ってくれたわね。わたし達を信じてくれた砦の人々の為、全力で片付けさせて貰うわ!」
ガイオウガの全身の火口から吹き出す火山弾。吸血姫の怒りを込めた【垓王牙炎弾】は不届きなる獣の群れのど真ん中に降り注ぎ、圧倒的な質量と熱量をもって敵を爆砕する。
「「ギャアアァァァァァッ?!!」」
さらに撃ち込まれた火山弾からは無数の「炎の獣」が生み出され、燃える爪牙を以って敵に襲い掛かる。爆撃で隊列が乱れた直後にこの追撃を受けたマージナル・ビーストは、まともに反撃する間もなく蹂躙されていく。
「これで終わりじゃないわよ。一気に焼き尽くすわ!」
体勢を立て直す暇は与えないと、フレミアは更に【垓王牙炎操】を発動。ガイオウガに似た竜の姿の炎の群れを追加投入し、炎の獣と併せて敵を灼熱の猛威に巻き込んでいく。
「グ、ガガアァッ!!」「ギエェェェ……ッ!!!」
炎の牙に噛み千切られる者、骨の髄まで焼き尽くされる者。様々な断末魔が響き渡り、後には灰の欠片だけが残る。これしきの兵力で挑んだことを後悔しろと言わんばかりの、圧倒的な力の差を見せつける光景であった。
「す、すごい!」「これほどとは……!」
戦場にて猛威を奮うフレミアと炎の眷属達の姿を、人類砦の中にいる住人も見ていた。
血に飢えた魔獣を歯牙にもかけぬその力が自分達を守るために振るわれている事実に、彼らは深い感謝と安心感を抱くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
集まって来るなら好都合…一気に片づける…!
ミラ達を【雷王竜進化】で雷王竜へ進化…。
3匹で敵の攻撃を受け難い空中から、雷撃や竜巻を起こして攻撃し、生き残りの動きも封じたところで、わたしの方も【unlimitedΩ】を展開…。
雷撃と竜巻で身動きの取れない敵を黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】と【unlimitedΩ】の魔剣の一斉斉射を放ち、広域の敵を一気に殲滅…。
後は生き残りや近づいてくる敵をミラ達と一緒に凶太刀、神太刀の二刀で斬り裂き、始末していくよ…。
一匹たりともみんなの住む砦へ通さない…
みんなが信じてくれるなら、わたし達は戦える…
みんなが信じてくれるなら、わたし達は負けない…!
「集まって来るなら好都合……一気に片づける……!」
既に敵軍に包囲されている状況でも、璃奈は慌てず臆さない。これだけの兵力が一箇所に集まっているのならば、それを殲滅された際に黒幕が受ける打撃も大きくなるだろう。
「我が家族たる竜達……天空の王となりて仮初の進化を得よ……」
彼女はミラ達を一旦影竜から元の仔竜に戻すと、今度は【呪法・雷王竜進化】を発動。
雷や風を操る巨大な雷王竜の姿に彼らを進化させると、その背に飛び乗って空中から敵に強襲を仕掛けた。
「いくよ、みんな……!」
「きゅい!」
影の竜から雷の竜へと再進化を遂げたミラ達は、雷撃や竜巻を起こして敵を攻撃する。
その威力と規模はまさに天災そのもので、弱き有象無象は立っている事すらできない。稲妻に打たれて消し飛ぶか、竜巻に吹き飛ばされるか、辿る末路はその何れかだ。
「グ、グルルルル……ッ!!!」
幸運にも難を逃れたマージナル・ビーストは反撃を試みるが、鋭い爪牙も冷たき炎も、はるか上空にいる璃奈と雷王竜には届かない。しょせん翼を持たぬ獣には、空中の獲物に食らいつく術はないのだ。
「きゅぅ~!」
ミラ達はさらに激しく竜巻と雷撃を発生させ、生き残った敵の動きを封じ込めていく。
暴風と雷雨で獣達が思うように動けない間に、璃奈は【Unlimited curse blades Ω】を発動。魔剣・妖刀の現身を無数に展開し、その切れ味を呪力で強化していく。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
魔剣の巫女の号令と共に剣達は一斉斉射され、同時に彼女自身も呪槍・黒桜を振るう。
槍の穂先から解放された呪力は黒い桜の花びらとなり、雷王竜達の起こした嵐に乗って戦場全域に広がる桜吹雪と化した。
「「ギギャアアァァァァァァッ!!!!!?!」」
終焉の魔剣と呪力の桜吹雪、そして雷王竜の暴風が複合された破壊の嵐が、広域にいる敵を一気に殲滅する。天上より降り注ぐ厄災の猛威に、マージナル・ビーストは為す術もなく蹴散らされるのみ。
「一匹たりともみんなの住む砦へ通さない……」
断末魔を上げる敵群を真剣な眼差しで見下ろす璃奈。戦局は圧倒的に優勢でも、彼女は一切油断していなかった。この戦場のすぐ後ろには戦う力を持たない民衆も大勢いる――たった一匹でも取りこぼせば、大切な命が失われるかもしれないのだから。
「みんなが信じてくれるなら、わたし達は戦える……みんなが信じてくれるなら、わたし達は負けない……!」
皆の希望を背負って立っているという、強い自覚と覚悟が魔剣の巫女を奮い立たせる。
璃奈は妖刀「九尾乃凶太刀」と「九尾乃神太刀」を抜き放ち、ミラ達と共に生き残った残党の掃討にかかる。
「ギャァッ!!」「ギィッ!?」
雷鳴の轟く中で、閃く二刀の斬撃がマージナル・ビーストを斬り裂き、始末していく。
最初は数え切れないほどだった獣の群れにも、気がつけば限界が見え始めていた――。
大成功
🔵🔵🔵
狐裘・爛
《青炎》
ふーん策謀の次は袋叩き?
教えてあげる、本当の怒りは冷たく燃えるってこと
そして、炎で炎は消せないのよ
ご愁傷様。たしかに震えるほど冷たい炎の一斉放射
でもね、私の体温はもう限界まで下がってるのよ
そして下げた分だけ、私は困難に打ち勝つの!
シホの存在をそばに感じる……この温もりのお陰で動ける! さあ、どんなことも成功させちゃうわ。炎を掻い潜っての肉弾戦に、【限界突破】した【怪力】! 守りは任せて攻めるわ
開きかけた口にアッパーカットしてあげる。炎幻奇腕連打を喰らいなさいっ
狐うどん♪ ゼッタイ約束よ?
シホ・エーデルワイス
《青炎》
まあ
策謀は私達を誘き寄せる事が目的で
袋叩きにして私達を消耗させてから狩るのが
黒幕の思惑でしょう
最も…私達の事を良く知らないみたいですけどね
爛…結構怒っている?
敵と爛自身のUC効果で
爛の体温が急冷する事に不安を感じ
【献装】で爛に憑依
氷結耐性のオーラ結界防御で爛を包み庇って継戦能力を強化
守りは任せて思いっきり殴って!
攻撃時は貫通攻撃を付与
第六感と聞き耳で敵の動きを見切り適時助言しつつ
鼓舞し元気付け合う事で互いの感情を刺激し体温を上昇させる
寒さは独りで耐えるよりも
体を寄せ合った方が温かく耐え易いものです
さっきは爛が私を守ってくれたのですから
今度は私が爛を守る番です
爛て意外と…パワーファイタ―よね
その純粋な想いは物理法則すら捻じ曲げる強さがあると思います
更に残像の分身を発生させ
光学迷彩も纏い目立たなくなる事で剛腕の直撃を避ける
爛!
足元が崩れます!
必要に応じて空中浮遊や念動力による力場で足場を確保
今回の戦いが終わったら狐うどんで温まりましょ
ええ
約束です
「まあ、策謀は私達を誘き寄せる事が目的で、袋叩きにして私達を消耗させてから狩るのが黒幕の思惑でしょう」
「ふーん策謀の次は袋叩き?」
いつの間にか人類砦を取り囲んでいた敵の軍勢を眺めつつ、シホと爛は言葉を交わす。
民衆を標的にすることで逃げ隠れできない状況に猟兵を引き込み、全ての戦力を用いて叩き潰す。なかなか良く考えられた周到な計画ではある。
「最も……私達の事を良く知らないみたいですけどね」
この程度で狩れると黒幕が思っているのなら、まだまだ自分達は侮られているらしい。
シホの呟きに爛もこくりと頷いて、右腕に装備した炎幻奇腕を静かに燃え上がらせる。
「教えてあげる、本当の怒りは冷たく燃えるってこと。そして、炎で炎は消せないのよ」
先程までのような烈火の如き怒り方とは違う。冷たい表情でゆらりと歩きだした爛に向けて、マージナル・ビーストが【冷たき炎】を吐く。自然の摂理に反する氷点下の炎は、呑み込んだものを瞬時に凍り付かせるはずだったが――。
「ご愁傷様。たしかに震えるほど冷たい炎の一斉放射……でもね、私の体温はもう限界まで下がってるのよ」
「グルルッ?!」
神降ろしの巫術【凍心宿し】を発動した爛の肌は、氷のように白く冷たくなっていた。
全身の熱を全て吸い取ったように、炎幻奇腕だけが大きくめらめらと燃え盛っている。本来この体温低下は術の代償なのだが、今回は冷気への耐性としても働いたようだ。
「爛……結構怒っている?」
尋常ではない爛の気迫に、一方のシホは不安を感じていた。敵の攻撃と自身のユーベルコードによる二重の体温低下は、本人は平気そうでも身体に悪影響がないとは思えない。
「私が願い、私が庇い、私が与える、かの者に主のご加護を」
そこでシホは【苦難へ挑む者への堅信】を発動し、融霊体となって爛の体に憑依する。
このユーベルコードは憑依対象に自らの能力や技能を付与する献装の秘儀。自分が持つ氷結等の耐性をこれにより与える事で、友を危険から守ろうと考えたのだ。
『守りは任せて思いっきり殴って!』
爛の身体が光のオーラに包まれ、頭の中にシホの声が直接響く。友の想いと力をすぐ傍で感じ取った彼女は、かじかんで感覚のなくなりかけていた拳をぐっと強く握りしめる。
「シホの存在をそばに感じる……この温もりのお陰で動ける!」
湧き上がる熱に身を任せて走る。獣どもの炎を掻い潜って、思いっきり拳を突き出す。
燃え盛る炎のパンチを食らったマージナル・ビーストは「ギャッ?!!」と甲高い悲鳴を上げて、近くに居た仲間を巻き込みながら吹っ飛ばされていった。
『爛て意外と……パワーファイタ―よね』
「体温を下げた分だけ、私は困難に打ち勝つの!」
驚くシホに、自信満々に応える爛。凍心宿しの代償を限界まで支払ったことで、彼女の霊力や膂力は飛躍的に高まっている。もはや幾百幾千の敵も有象無象に過ぎないだろう。
だが常人ならとうに凍死している状態で、彼女が十全に力を奮えるのはシホのお陰だ。
「寒さは独りで耐えるよりも、体を寄せ合った方が温かく耐え易いものです」
「そうよね、体は冷たいのに心はいつもよりあったかいわ。シホのおかげね!」
霊体として友の傍に寄り添い続け、鼓舞し元気付け合う事で互いの感情を刺激し体温を上昇させる。文字通り一心同体となった2人の想いの熱には、どんな冷気も退くだろう。
『さっきは爛が私を守ってくれたのですから。今度は私が爛を守る番です』
「ありがとうシホ。さあ、どんなことも成功させちゃうわ」
負ける気がしないという確信を抱いて、獣の群れに殴りかかる爛。彼女の純粋な想いは物理法則すら捻じ曲げる強さがある――シホはそう思っていたが、今の彼女の戦いぶりを見れば疑問を挟む余地はないだろう。
「グガッ?!」「ギャフッ!!」
守りを任せて攻撃に全てを専念した爛の炎拳は、敵群を次々にノックアウトしていく。
殴り飛ばされ、焼き尽くされ、動かぬ骸に変わるマージナル・ビースト。されど彼らも黙ってやられるばかりではなく、【黒の剛腕】を振りかざして反撃を試みる。
『右から来ます』
「うん!」
聴覚と第六感で敵の反撃を察知したシホは、爛に助言を行うと共に光学迷彩を纏わせ、目立たなくした上で残像による分身も発生させ、敵に攻撃の的を絞らせないようにする。
「グ? オオッ?!」
二重に幻惑されたマージナル・ビーストの攻撃は空を切る。だが岩をも砕く強靭な一撃は、直撃を避けたとしても二次被害を引き起こす。ズドンと叩きつけられた剛腕を起点に、地面に亀裂が入ったのをシホは見逃さなかった。
『爛! 足元が崩れます!』
「わわっ! あぶなっ!」
バランスを崩しかけた爛を支えるため、シホはとっさに彼女の体を空中に浮遊させる。
さらに念動力による力場を足元に展開し、砕かれた地面にかわる足場を確保。この迅速な判断と対応のおかげで、爛は無防備に敵の追撃を受けずにすんだ。
「いっぱい守ってくれてありがとう。私も頑張るわ!」
力場の上を狐の俊敏さで駆け、また炎を吐こうとしていた獣にアッパーカットを一発。
開きかけた口を無理やり閉じさせて、さらに追撃のパンチ、パンチ、パンチ、パンチ。
「炎幻奇腕連打を喰らいなさいっ」
「グッ、ゲッ、ガッ、ゴギャッ!!!?」
燃える巨腕のフルコンボを喰らった敵は、頭部を崩壊させてピクリとも動かなくなる。
攻めにおいては無双、守りにおいては無敵。かすり傷ひとつ負わぬまま、爛は獣の群れを蹴散らしていく。
「さあ、次はだれ?」
「グ、グルルッ……」
止まる事を知らぬ勢いに、凶暴なマージナル・ビーストも怖気づいたように後退する。
こうも一方的に配下がやられる事になるとは、敵の黒幕もきっと予想外だっただろう。
『今回の戦いが終わったら狐うどんで温まりましょ』
今も巫術で体温の下がったまま戦い続けている爛に、そっと労いの言葉をかけるシホ。
油揚げが大好物な爛はその言葉に目を輝かせて、振るう拳にもますます力が籠もった。
「狐うどん♪ ゼッタイ約束よ?」
「ええ、約束です」
務めを果たし、友と一緒に食べる狐うどんは、きっと疲れも吹き飛ぶ美味しさだろう。
ふたりの間で循環する心の熱は冷めることなく、お互いの闘志を支え続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レプリカ・レグナント
獣共め現れたかオレ様のいる砦に攻め寄せて来るとは愚か者共め、今こそ猟兵の力をその目に焼き付けるが良い
滅びの果てより来たれ我が精鋭達よ
さあ行くぞ、まずは火竜で空から灼熱のブレスで攻め立てよ!
敵は猪突猛進しか出来ぬ愚か者のようだな、いや獣ではこの程度か、数と腕力に任せ乱雑に攻めて来るとはな、戦い方を教えてやる
貴様の部隊は右側に回れ、オレ様は左側から行く挟撃するぞ!
奴等は徒歩此方は騎馬機動力は此方が圧倒的に有利だ、ほう腕を振り上げて拳を叩きつけるつもりか?させんよ
今だ火竜よ腕を振り上げている奴等に灼熱の炎を吹き掛けてやれ、攻撃の初動を潰した一気に叩き潰せ歩兵は炎を受けて動きが鈍くなった奴等を攻撃し我々は左右から挟み撃ちにして敵を分断し連携して各個撃破せよ
敵の陣形を崩しつつ分断し数の利を削いで弱体化させて行け
これが用兵術と云うモノだ、戦いは数と勢いだけでは勝てぬ戦略を知らぬ獣の群れと滅んだとは云え最強の我が精鋭とでは勝負はついていた
さあ覚悟せよオレ様の領地を犯した獣共よ、貴様達に明日はない!
「獣共め現れたか。オレ様のいる砦に攻め寄せて来るとは愚か者共め、今こそ猟兵の力をその目に焼き付けるが良い」
口元に不敵な笑みを浮かべ、砦を囲むマージナル・ビーストの群れを眺めるレプリカ。
何百という数にもまるで怯まず、むしろ内なる反抗心がめらめらと燃え上がっている。
「滅びの果てより来たれ我が精鋭達よ」
亡国の王女が軍旗を高々と掲げれば、彼女に付き従う軍勢は冥府の底からでも現れる。
黒紫の軍馬、亡国の軍勢、そして灼熱を吐く火竜で編成された【忘却の軍勢】が、王女と砦を守るように平原に布陣する。
「さあ行くぞ、まずは火竜で空から灼熱のブレスで攻め立てよ!」
レプリカが号令を発すると火竜の軍勢が飛び立ち、敵軍に向かってブレスを放射する。
天をも焦がさんばかりの集中砲火によって、たちまち獣達の悲鳴が戦場に響き渡った。
「グギャァッ!!」「ガアアァァァッ!?」
火達磨になってのたうち回り、黒焦げで息絶える者が続出するが、それで敵群の進撃が止まることは無かった。黒幕たる吸血鬼の命を受けた彼奴らは恐れを知らぬ死兵となり、レプリカのいる本隊に向けって突撃してくる。
「敵は猪突猛進しか出来ぬ愚か者のようだな、いや獣ではこの程度か」
鬼気迫る敵の突進より、レプリカはその稚拙な采配を見てにやりと笑みを深めていた。
曲りなりに軍の体裁を取ってはいても、所詮は血に飢えた獣の群れだ。頭では獲物の肉を引きちぎり、生き血を啜ることしか考えてはいない。
「数と腕力に任せ乱雑に攻めて来るとはな、戦い方を教えてやる」
レプリカは軍勢を二つの部隊に分け、その一方を率いて駆け出す。黒き鋼を纏った彼女の愛馬「ノスフェラス」は、力強い馬蹄の音を轟かせながら、戦場を風の如く疾走する。
「貴様の部隊は右側に回れ、オレ様は左側から行く挟撃するぞ!」
奴等は徒歩、此方は騎馬。機動力は此方が圧倒的に有利だ。突っ込んできた敵を避けるように二手に分かれた忘却の軍勢は、そのまま左右より回り込んで敵群に襲い掛かった。
「グオッ?!」「グギャッ!!」
敵群からすれば無防備な脇腹を殴られたようなもの。さらにこの布陣では中央にいる兵が戦闘に参加することができず、本来あった数の優位を活かすこともできない。精強なる漆黒の騎馬軍団の猛攻を受け、獣共は右と左からすり潰されるように数を減らしていく。
「ほう腕を振り上げて拳を叩きつけるつもりか? させんよ」
それでも我武者羅に反撃を仕掛けようとする獣の動きを、レプリカは見逃さなかった。
追い詰められて必死になった兵の危険性を侮ってはいけない。勝ちはしても甚大な被害を受けるようでは凡将の域を出ない。そして彼女は紛れもない将器を持つ者である。
「今だ火竜よ、腕を振り上げている奴等に灼熱の炎を吹き掛けてやれ」
この時に備えて待機させてあった空中の戦力に、再攻撃を行わせる。攻撃直前の無防備な瞬間を狙われた敵は避けることもできず炎のブレスに包まれ、「グギャアァァッ!?」と大きな悲鳴を上げた。
「攻撃の初動を潰した。一気に叩き潰せ」
灼熱の炎がかき乱した敵陣を、地上の戦力が蹂躙する。歩兵は炎を受けて動きが鈍くなった奴等を攻撃し、レプリカ率いる騎兵は引き続き左右から挟み撃ちにして敵を分断し、各個撃破する。此方の各隊が巧みな連携を見せる一方で、敵群の連携は乱れきっていた。
「敵の陣形を崩しつつ分断し数の利を削いで弱体化させて行け」
彼女が命じれば兵士達は意のままに動き、命令の意図を完璧に遂行する。まるで一つの生き物のようだ。レプリカという頭脳が下した指令で、兵士という手足が動く――それは軍団という名の巨人である。
「これが用兵術と云うモノだ、戦いは数と勢いだけでは勝てぬ。戦略を知らぬ獣の群れと滅んだとは云え最強の我が精鋭とでは勝負はついていた」
必然の勝因を必然のまま現実の勝利に結びつける。用兵の基本にして極意を実行してみせたレプリカは、この戦いを締めくくるべく号令を発する。民を脅かす危険な害獣共に、情けをかけるつもりは一匹たりともない。
「さあ覚悟せよオレ様の領地を犯した獣共よ、貴様達に明日はない!」
既に包囲する側から包囲される側になっていたマージナル・ビースト達は逃げることもできず、火竜の咆哮と軍馬の蹄に踏み潰されていく。最後の獣が大地に骸を晒したのは、それから間もなくのことであった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『エウティミオ・バロウズ』
|
POW : 骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから。
肉体の一部もしくは全部を【血肉を貪り喰らう黒い鼠の群れ】に変異させ、血肉を貪り喰らう黒い鼠の群れの持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
SPD : お前たちの感情が、私にはたまらなく愛おしいよ。
【期待、歓喜あるいは恐怖、嫌悪など】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【身の丈ほどもある巨大な毒蜘蛛】から、高命中力の【皮膚を裂き、肉を焦がす体液を纏う毒糸】を飛ばす。
WIZ : 迷宮は素晴らしい。出口が必ず存在するのだからね。
戦場全体に、【迷宮内の者全てを攻撃する白い人骨】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:せんば
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ユーディ・リッジウェイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「こうも見事に策を破られるとはね。ああ、見事だ、猟兵たち」
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
マージナル・ビーストの軍勢を撃退した直後、何処からか拍手の音が聞こえてくる。
それと共に猟兵達の前に姿を現したのは、黒い燕尾服を纏ったヴァンパイアだった。
「不和と恐怖で人間達が踊り狂うさまを見ることも、獣の群れに蹂躙される悲鳴を聞くこともできなかった。温めていた計画の結果がこれでは、私も敗北を認めざるを得ないな」
どこか芝居がかった優美な立ち居振る舞いで、その吸血鬼は猟兵達に語りかける。
言葉とは裏腹に態度は余裕に満ちており、寧ろこの状況を楽しんでいる節さえあった。
「こうも事が思惑通りにいかないのは久しぶりでね。怒りよりも喜びが湧いてしまうよ。お前たちのように油断ならない敵を、私はずっと待っていたんだ」
そう言って彼が浮かべる笑みには、深い喜悦と殺意が同居していた。
もはや疑いを挟む余地もなく、このヴァンパイアこそが人類砦に配下を潜入させ、猟兵を抹殺する計画を企てた黒幕に違いない。
「ああ、私としたことが挨拶が遅れてしまった。私の名はエウティミオ・バロウズ。無理に覚えて貰う必要はないとも、どうせすぐにお前たちとはお別れになるだろうからね」
高貴なる者の所作で一礼するも、美しい外面の裏にある悪意を彼は隠そうともしない。
彼の敬意は、自ら手を下すにふさわしいと認めた玩弄物に対するものだ。ヴァンパイアらしいとも言える、残忍で狡猾な美学に基いた礼儀である。
「私は恭順よりも反骨を愛する。言葉の罠にも数の暴力にも屈する事のなかった、人々の希望の象徴であるお前たちを、踏み躙りたくてたまらない」
策破れてもなお彼――エウティミオは猟兵達の抹殺を諦めてはいない。
逆に猟兵達の実力を理解したことで、その意志はより激しく昂ぶっているようだ。
「格別の苦痛が味わえるよう、丁寧に嬲り殺してあげよう。さあ希望よ、来るがいい」
闇に撒かれし不和の陰謀は、ここにクライマックスの時を迎える。
全ての陰謀の黒幕を討ち果たすために、猟兵達は戦闘態勢を取った。
フィオリナ・ソルレスティア(サポート)
◆性格
普段から冷静沈着で人当たりが良く優しいお姉さん。
実は猫と弟を溺愛する困ったさん。隠しているつもりが割とダダ洩れ
口調は「私~だわ」「私~かしら」『下の名前+さん付け』
胸にトラウマがあるため巨乳の敵には容赦しない。絶対に。
◆戦闘
オートフォーカスで敵をロックオンし、遠距離からの魔法系UCで戦う。
アイギスの盾で相手のUCを相殺したり、敵の弱点に応じた属性攻撃等を
得意とする。フィニッシュはバベルの光が多い。
TPOに応じて愛用の宇宙バイクで戦うことも。意外と乗りこなす。
◆非戦闘
動物と話す等、情報収集を中心にしつつも、ハッキングやシステム破壊等
荒業で対応することも
アネモス・アルビレオ(サポート)
※連携・アドリブ大歓迎です※
冒険!集団!ボス!日常!
いっぱい活躍出来たらいいな!
性別:美少年を司る自称性別:美少年です。
人生エンジョイ勢、喜怒哀楽の喜楽特化型。誰かを非難したり、自画自賛はせず「〇〇さんってすごーい!」と人を褒めて感動して喜ぶタイプです。
各世界を楽しみながら渡り歩き他者をお手伝いすることを喜び積極的に行動します。
「大丈夫。僕に任せて!皆と世界のために美少年パワー発動!」
探索・戦闘どちらにおいてもUCビショーネン・クリエーションを使用、その場に大量の美少年を呼び出し人海戦術で行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
トゥルリラ・トゥラリラ(サポート)
堕天使の四天王×殺人鬼、17歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、キミ、なの、よ、なのね、なのよね?)」、戦闘中は狂える殺人鬼「私、相手の名前、呼び捨て、なの、よ、なのね、なのよね?」です。
性格は明るく無邪気ですが、殺人や殺戮は遊びとして認識している危険人物です。
【地の魔王】と呼ばれる魔王に仕えていて、その魔王に心酔しています。
実は語尾がおかしい事を気にしています。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
ロバート・ブレイズ(サポート)
『否定せよ』
人間の文豪 × 隣人の花嫁
年齢 80歳 男
外見 184.6cm 黒い瞳 白い髪 色白の肌
特徴 立派な髭 投獄されていた 過去を夢に見る 実は凶暴 とんでもない甘党
口調 冒涜翁(私、貴様、~である、だ、~であろう、~であるか?)
気にいったら 冒涜王(俺、貴様、~である、だ、~であろう、~であるか?)
恐怖・発狂・誘惑などの精神的な攻撃に対しての異常な耐性を有しています。
否定する事で恐怖を与え、冒涜する事が多いです。実は凶暴なので近接戦闘が好み。
宜しくお願い致します。
「ずいぶん悪そうな人が出てきたのね。私も負けてられないのね」
事件の黒幕が姿を現したタイミングで、折よく数名の猟兵達がサポートに駆けつける。
その1人であるトゥルリラ・トゥラリラ(鏖殺の堕天使・f31459)は、魔界の堕天使として悪しき吸血鬼に対抗心を燃やす。悪い事はいいことだというのが魔界の法律だが、なればこそ多くの人間を苦しめる大悪事を見過ごしはできない。
「美少年らしくお手伝いするよ!」
その隣には美少年を司る自称美少年の神、アネモス・アルビレオ(神は云った。「美少年あれ」・f17321)が、まさに性別:美少年と言うべき可憐かつ健気な笑顔を見せる。
若干マイナーな領域を司る神格ではあるが、大好きな世界と大好きな皆を守る意志には揺らぎない。夜闇と絶望が支配する世界に、美少年らしく希望を届けよう。
「手の混んだ策を練っていたみたいだけど、それもここで終わりよ」
伝家の宝具「銀翼杖セラファイト」を携え、敵をロックオンするのはフィオリナ・ソルレスティア(サイバープリンセス・f00964)。冷静に敵の強大さを把握した上で、確実にここで撃破するために思考を回転させる。
「反骨を愛し蹂躙するが望みか。ならば呉れてやろう、貴様が御しきれるとは思えぬが」
そしてロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)は敵を前にしても泰然とした態度で、かの者に皮肉と嘲りをぶつける。万象を否定し冒涜する者、それが彼の有り様であれば。
「実に賑やかな顔ぶれだ。歓迎するよ」
吸血鬼エウティミオがぱんぱんと手を叩くと、戦場の環境が変化する。遮るものの無い荒野から、白い人骨で形作られた迷宮に。それが彼のユーベルコードの産物であることは言うに及ばず、猟兵達はその中に閉じ込められる形になった。
「骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから」
さらに敵は自身の体の一部を黒い鼠の群れに変えて迷宮内に放つ。血肉に飢えた彼らの襲撃を退け、迷宮の出口に辿り着かねば、敵と対峙する資格さえ得られぬということか。
「皆、美少年になーれ♪」
「――創れ」
この迷宮を攻略する為に、まずはアネモスが【ビショーネン・クリエーション】で大量の美少年を、ロバートが【王冠】で混沌と恐怖の登場人物を召喚し、探索を開始する。
迷路の出口を見つける方法は色々あるだろうが、結局の所人海戦術に勝るものはない。総勢数百名になる美少年と混沌の眷属らは、創造主の命に応じて四方に散っていった。
「大丈夫。僕に任せて!」
敵は黒い鼠だけでなく、迷宮を構成する人骨自体も壁や床から侵入者を攻撃してくる。
しかしアネモスに呼び出された美少年達は率先して盾となり仲間を守り、また彼自身も積極的に前に出て道を切り開かんとする。
「皆と世界のために美少年パワー発動!」
キラキラ輝く美少年オーラが迷宮を照らし、無機物を媒介に新たな美少年が次々と創造され、鼠や骨を押しのける。見た目通り暴力沙汰にはそれほど長けてはいないようだが、とにかく人数の多さがこの環境にマッチしていた。
「否定せよ」
一方のロバートは美少年神のような華麗さとは無縁に、ただただ無慈悲に邪魔する者共を排除する。名状しがたき混沌の登場人物たちは彼の内なる凶暴性を体現するかのように暴れ狂い、骨を砕き、鼠を潰す。
「この程度では遣り甲斐が無いな」
理知的な老紳士といった風貌とは裏腹に、彼は意外と近接戦闘を好む。敵の排除を眷属任せにはせず、自らも地獄の炎を放つ鉄塊剣を振るい、邪魔な骨と鼠の群れを焼き払う。その威圧的な様を目にすれば死者や獣さえ恐れをなし、狂気に蝕まれて逃げ去っていく。
「地の魔王様、どうかお力をなのね!」
彼らの戦いを後方から支えるのは、トゥルリラの【セイクリッド・ダークネス】だ。
心酔する魔王に祈りを捧げている間、彼女の翼からは光と闇が溢れ、味方には治癒を、敵には破壊をもたらす。多人数が入り乱れる戦いにおいて、その効果は絶大だった。
「鏖殺なのね! はやく骨のある人と遊びたいのね!」
その言動は明るく無邪気だが、殺意を微塵も隠そうともせず、立ちはだかる鼠の群れを闇の力で駆逐しながら物足りなさを感じている様子。彼女にとって殺戮とは遊びであり、魔王にも劣らぬ魔力を躊躇いなく殺しのために用いる、恐るべき鏖殺の堕天使であった。
「皆、こっちよ」
迷宮内での激戦が繰り広げられる中で、フィオリナが出口への有力な手がかりを得る。
電脳魔術士として情報処理にも長けた彼女は、仲間が人海戦術で集めた情報を精査し、正解のルートを導き出そうとしていた。
「鼠達も騒がしいし、間違いないわ」
決め手となったのは彼女が動物と話す力を持ち、敵が放った鼠の鳴き声を理解できたことだ。もちろん敵同士なので簡単に対話に応じてはくれないが、まさか盗み聞きされているとは思わず、うっかり漏らした鼠同士の会話が主人の居場所を示唆するヒントになる。
「おや、もう出てきたのかい。思ったよりも早かったね」
かくして猟兵達は大きく損耗する事なく迷宮を制覇し、再びエウティミオの前に立つ。
予想以上に早く攻略されたことに敵は驚きつつも、まだ余裕の表情で鼠の群れを放ち、脱出してきた者達を手荒く歓迎しようとする。
「この子達は僕が!」
迷宮内にいたよりも大量の鼠を、アネモスが大量の美少年達と一緒になって抑え込む。
その間に残る3名はエウティミオ本人に標的を定めると、一気呵成の攻撃を仕掛けた。
「遊興の駒に選ぶには、手に余るものを招いてしまったな」
敢えて猟兵を誘き寄せた愚を嘲笑いつつ、ロバートが獄炎の鉄塊剣を豪快に一閃する。
全てを『否定』する為の斬撃は辛くも躱されるが、その直後に敵の動きがふいに鈍る。
「おや……なんだろう、この感覚は……」
「夢の中で逢いましょう。安息へ導け、紡ぎ車の錘よ!」
味方の攻撃に合わせてフィオリナが発動した【眠れる森の美女】。羽根付きブローチの形をした「アポロンの髪飾り」から放たれた電波が敵の脳に干渉し、強制スリープモードに追い込んだのだ。
「キヒヒ……ようやく本気で遊べそうな人が出てきたのね!」
急な眠気でエウティミオの動きが止まった瞬間、トゥルリラが改造重機関銃のトリガーを引く。地の魔王から貰った彼女のお気に入りの玩具は、けたたましい咆哮と共に大量の弾丸を吐き出し、無防備な標的を撃ち抜く。
「ぐっ……」
吸血鬼の表情が始めて苦痛に歪む。お陰で眠気は覚めたが、ダメージは小さくはない。
そして危機はまだ去ってはいない。殺戮堕天使の銃撃が鳴り止んだ直後、間髪入れずに冒涜翁とサイバープリンセスの追撃が襲い掛かる。
「消え失せろ」
「貫け、バベルの光よ!」
ただ敵の尊厳を冒涜し恐怖させる事を目的とした、暴力の乱舞が吸血鬼を打ちのめす。
鉄塊と炎に薙がれたエウティミオの体が宙を舞い――そこをフィオリナのオートフォーカスがロックオン。上空より降り注ぐ高出力レーザーが、光の柱となって敵を貫いた。
「みなさんすごーい!」
その光景を見ていたアネモスは、仲間の猟兵達の力に純粋な感動と賞賛を浴びせる。
陰ながら尽力していた彼の美少年達により、敵が放った鼠の群れもほぼ全滅していた。
「……ふふ、これは期待以上だ」
レーザーの熱と光に灼かれたエウティミオは、焦げた胸をさすりつつも笑みを深める。
浅からぬ傷ではあるものの、これしきで吸血鬼を殺せはしない。猟兵達も油断することなく構えを取り直す――戦いはまだ、始まったばかりだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
カビパン・カピパン
北海道にシュークリームは存在しない屋のシュークリーム
ある者は不可解な言動や行動を訝しみ、勝手な事を言うカビパンに反発を示したが、彼女は負けなかった。
そしてエウティミオの元へ、カビパンは精鋭のシュークリーム達を率いてやってきた。
「エウティミオ様。カビパン大尉、北海道シュークリームに勝るとも劣らないシュークリームを作り上げ戻りました。貴方のシュー生地となり、クリームとなるべき我が菓子。その目でご見聞ください」
シュークリーム達を見てなんて反応すればいいか困惑するエウティミオ。
「ほ、骨も残さず喰らってあげよう、わわわ私は優しいから…」
引き攣った顔になった彼は反骨したシュークリーム達にボコボコにされた。
「さあ、次は誰だい。お前たちの抵抗を私にもっと見せておくれ」
反骨心ある者を心から愛するエウティミオは、猟兵達の挑戦を嬉々として待ち受ける。
最初の攻勢を耐えた彼の次なる相手は、瀟洒な軍服姿のカビパン。彼女は"あるもの"を率いて吸血鬼の前に立つと、恭しい態度で敬礼する。
「エウティミオ様。カビパン大尉、北海道シュークリームに勝るとも劣らないシュークリームを作り上げ戻りました」
「……はて? シュークリーム?」
彼女――カビパンの後ろに並んでいるのは、綺麗に整列した精鋭のシュークリーム達。
まるで菓子店のショーケースに陳列されている時のように隙のない並び方から、練度の高さが窺える。それはそれとして何故シュークリームなのかと相手は首を傾げるが。
「お前は何者だね?」
「北海道にシュークリームは存在しない屋の店主、カビパン・カピパンと申します」
堂々としたカビパンの口上に、エウティミオの理解を進める要素は何ひとつなかった。
彼女を前にした大抵の者の反応はこうである。ある者は不可解な言動や行動を訝しみ、勝手な事を言うカビパンに反発を示したが、彼女は負けなかった。
「貴方のシュー生地となり、クリームとなるべき我が菓子。その目でご見聞ください」
ただひたすらに己の道を行き、シリアスな雰囲気など関係なくギャグなのか本気なのか分からない行動を繰り返す。迷走しているようで一直線に爆走する彼女の作り上げた成果――もとい製菓が、吸血鬼の前に披露される。
「あ……その、なんだね。これは……」
ずらりと並ぶシュークリーム達を見てなんて反応すればいいか困惑するエウティミオ。
せっかく興が乗っていたところにこんなモノをお出しされて、どう反応すればいいのか悩むのは当然だろう。そういう意味ではこの吸血鬼にもまともな感性があったと言える。
「ほ、骨も残さずに喰らってあげよう。私は優しいからね……」
顔はだいぶ引き攣っていたものの、結局彼はその献上品を受け取ることにしたようだ。
それでも直にいただく気にはならないのか、肉体の一部を黒い鼠に変化させて、自分の代わりにシュークリームを貪り食わせようとするが――。
「者共、やれ!」
「なに……!?」
鼠の牙がシューに突き立てられるその瞬間、シュークリーム達は一斉に反旗を翻した。
カビパンの作り上げるギャグ時空に適応したソレは、餌だと思って近付いてきた鼠達を逆にボコボコにして、本体であるエウティミオにも襲い掛かる。
「ま、まさか……罠だったというのかい? ごほっ!!!」
このシュークリームは彼のために作り上げたとカビパンは言った。反骨を愛する吸血鬼を喜ばせるため、クリームと一緒に反骨心をたっぷり詰め込んだシュークリームである。
よもや食べ物にまで反骨されるとは予想もしていなかったエウティミオは、身を護る暇もなくボコボコにされ、自分の迂闊さを呪う羽目になったのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
お褒めに預かりどうも。吸血鬼の貴族様に上から目線で褒められて、その報酬が格別の苦痛を伴った嬲り殺し。ハッ、反吐が出るぜ、陰険野郎。
魔剣を顕現。肩に担いで空いた左手で【挑発】。
魔剣から黒銀の炎を放ち【焼却】。鼠の生餌にするには勿体無い色男だと思うんだがね、俺は。
ま、アンタみたいな節穴じゃあ、俺の価値が分からないのも無理ねぇか。
UCを発動させて懐に潜り込んで【串刺し】を放つ。
おっと…そういや挨拶が遅れちまったな。俺の名はカイム・クローバー。希望、何て呼び方じゃなく、こっちで呼んでくれ。
ま、最も――(ボウ・アンド・スクレープしつつ)無理に覚えて貰う必要はねぇさ。どうせすぐにお別れになるだろうからよ。
「お褒めに預かりどうも」
まるで光栄とも有り難くも思ってない調子で、カイムはエウティミオの賛辞に応じる。
自由人気質の彼が、この手の輩と反りが合わないのは、傍目にも明らかだっただろう。
「吸血鬼の貴族様に上から目線で褒められて、その報酬が格別の苦痛を伴った嬲り殺し。ハッ、反吐が出るぜ、陰険野郎」
「これは手厳しいね。いっそ小気味良いくらいの挑発だ」
神殺しの魔剣を顕現させ肩に担ぎ、空いた左手でくいと相手に挑発を仕掛けるカイム。
それを見透かした上でエウティミオはどんな反抗を見せてくれるのかと、敢えて挑発に乗る構えを取った。
「骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから」
エウティミオの肉体の一部が分離し、血肉に飢えた黒鼠の群れとなって解き放たれる。
一匹一匹は矮小でも、その牙は人の肉をたやすく引き裂く鋭さを持つ。雲霞の如く迫るそれを見たカイムは、されどにやりと不敵な笑みを深め。
「鼠の生餌にするには勿体無い色男だと思うんだがね、俺は」
瞬間、魔剣から黒銀に煌く炎が放たれ、鼠の群れを焼却する。封印の渦中にあるとは言え、全ての神を滅ぼすとまで謳われた魔剣の力だ。これしきの有象無象が一秒たりとて耐えられるものか。
「ま、アンタみたいな節穴じゃあ、俺の価値が分からないのも無理ねぇか」
黒銀の炎の中から吸血鬼への挑発を続けつつ、カイムは【紫雷を纏う者】を発動する。
その身に宿る邪神の力の一端が呼び覚まされ、迅る紫雷が全身を覆う。気を緩めれば内から弾け飛びそうな力の奔流を制御しながら、彼は大地を蹴った。
「――……!!」
その跳躍は飛翔に等しく、ものの1歩で燃えた鼠の屍を飛び越え、敵の懐に潜り込む。
エウティミオがはっと気付いた時には、魔剣の切っ先が彼の心臓を貫く寸前であった。
自信満々な態度も不敵な挑発も、全てはこの一撃を成功させる布石だったと気付いた時にはもう遅い。紫雷の一閃は、音すら置き去りにする。
「おっと……そういや挨拶が遅れちまったな。俺の名はカイム・クローバー。希望、何て呼び方じゃなく、こっちで呼んでくれ」
猛る狼を思わせる横顔でカイムが笑う。黒銀の炎と紫雷を纏った神殺しの魔剣は、敵の胸を深々と串刺しにして、傷を内側より焦がしていた。ごほっ、と咳き込むエウティミオの口元から、ぽたぽたと血が溢れる。
「ま、最も――無理に覚えて貰う必要はねぇさ。どうせすぐにお別れになるだろうからよ」
傷口を広げるよう魔剣を一捻りしてから引き抜き、優雅にボウ・アンド・スクレープ。
その慇懃な一礼と物言いは、戦いが始まる前に敵が口にした発言の、そのまま意趣返しとなっていた。
「ふふ……これは、してやられたな。カイム・クローバー……覚えておくよ」
神殺しの魔剣に抉られた傷を抑えつつ、エウティミオは笑いながらも眼光を鋭くする。
ただ慈愛を以って蹂躙する獲物ではない。生死を賭けて殺し合うべき相手だと、多少はカイム達猟兵への認識を改めたようだ――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
…少々、私達の力の見積もりが甘きに過ぎたようですね
例えその相手が傲慢であろうとも、名乗りには応じるが騎士の礼儀
トリテレイア・ゼロナイン、この世界の人類の側に立つ騎士として貴方を打ち倒させて頂きます
変異した鼠の群れに対し頭部、両腕部、両肩部格納銃器を展開
乱れ撃ちで蹂躙し迎撃
成程、数で飲み込むつもりですか
装甲内部に潜り込まれては敵いません
ですので…
UCを戦場に射出し起動
恐らく、血肉求める本能が過剰強化されたのでしょう
私は生憎そうした物はありませんので、近くの肉に喰らい付くのは当然の帰結ですね
“共食い”で数減らした鼠共を踏み潰し本体に接近
背負った剣盾を抜き放ち、打ちのめし
「……少々、私達の力の見積もりが甘きに過ぎたようですね」
傲慢は吸血鬼の性なれど、過ぎれば身を滅ぼす事を指摘しつつ、トリテレイアは丁寧に挨拶を行う。例えその相手が傲慢であろうとも、名乗りには応じるが騎士の礼儀ゆえに。
「トリテレイア・ゼロナイン、この世界の人類の側に立つ騎士として貴方を打ち倒させて頂きます」
「良いね。まさにお前のような者こそ、人類の希望だ」
礼を尽くした宣戦布告にエウティミオは笑みを深め、自らの体から再び鼠を作り出す。行けと一声命じれば、それは飢えた猛獣の群れとなり、機械仕掛けの騎士に牙を剥いた。
「成程、数で飲み込むつもりですか」
何百匹いるのか数えるのも億劫になる群れに対し、トリテレイアは頭部、両腕部、両肩部に格納した銃器をフル展開。ロックオンなしの乱れ撃ちで寄せ付けまいと弾幕を張る。
ダダダダッと響く銃声と弾丸の雨に、鼠は次々に肉塊へと変わる。それは一方的な蹂躙にも見えたが、敵は怯むことなく仲間の屍を乗り越えて騎士の足元に縋りついてくる。
「装甲内部に潜り込まれては敵いません」
堅固なウォーマシンの装甲は鼠の牙や爪など通さないが、中身までそうとは限らない。
侵入した小動物の仕業で精密機械が故障するのは、宇宙船内でもあり得た事故である。
「ですので……」
纏わりつく鼠を振り払いながら、トリテレイアは【対ユーベルコード制御妨害力場発振器射出ユニット】から杭状の発振器を射出。戦場を囲うように突き刺さったそれは、起動すると特殊な力場を展開する。
「なんだね、これは?」
魔力とも異なる力の波長が周囲を覆ったのは、エウティミオもすぐに気付いた。だが、それで自分の体に異常が起きたようにも、向こうの力が増したようにも感じない。むしろ力が湧き上がってくるような感覚さえあって――。
「過剰な破壊力や効果が命取りとなる場合もあります」
「なんだって……っ?!」
トリテレイアがそう呟いた直後、鼠の群れは一斉に彼の元から離れていき、互いに争い始めた。いかに反抗を愛する吸血鬼でも、眷属達の突然の暴走は予想しなかっただろう。
「恐らく、血肉求める本能が過剰強化されたのでしょう」
トリテレイアの展開した力場は、対象のユーベルコードの制御を妨害・過剰強化する。
これにより本体の制御を受け付けないほどに凶暴化した鼠達は、敵味方問わず見境なく血肉を求めだし、互いに牙を剥いたのだ。
「私は生憎そうした物はありませんので、近くの肉に喰らい付くのは当然の帰結ですね」
団子のように密集した獣同士が齧り合う、凄惨な"共食い"によって鼠達はみるみる数を減らしていく。そして蠱毒を生き延びた僅かな個体も、自由の身となったトリテレイアに踏み潰された。
「生身であれば食い尽くされていたでしょうが、生憎相性が悪かったですね」
「……そのようだ。またもや失態だよ」
背負った剣盾を抜き放つ機械仕掛けの騎士を見て、眷属を失った吸血鬼は肩をすくめ。
直後、剛腕による斬撃と殴打がエウティミオを打ちのめし、血飛沫と共に「ぐぁっ!」と苦悶の声が彼の口から漏れた。
大成功
🔵🔵🔵
レプリカ・レグナント
フン、貴様がこのくだらん茶番劇の筋書きを書いて失敗した三下か?
かつてのオレ様の国は貴様等のような悪臣の謀略により滅んだ、其れは良いオレ様が至らないが故だ、しかし別の世界とは云え同じ事を繰り返す下郎を黙って見過ごす訳にはいかん
ネズミに化身するとは下衆な吸血鬼らしいな、オレ様に噛みついたら大変だぞ?
我が血は我が威光、ひれ伏し燃えろ
どうだ、オレ様の高貴な血肉は熱かろう?人心を弄ぶ腐った心の持ち主にはとても良く効く
貴様のくだらん行いのによって不安になった民達の安寧の為に我が王家の聖なる輝きで灰に成るがよい!
「フン、貴様がこのくだらん茶番劇の筋書きを書いて失敗した三下か?」
ようやく正体を見せた今回の事件の元凶に、レプリカは辛辣な言葉と視線を浴びせる。
反骨を愛し希望を蹂躙する吸血鬼エウティミオ。反抗を掲げるレプリカにとって彼奴は決して相容れぬ敵であった。
「いかにも。楽しんでいただけたかな?」
慇懃無礼を絵に描いたような態度と笑みで、敵は丁寧にお辞儀をする。計画は失敗したとはいえそれを悔やむ様子もなく、猟兵の力を識ることができたなら十分ということか。そんな余裕綽々の態度もまた癪に障る。
「かつてのオレ様の国は貴様等のような悪臣の謀略により滅んだ」
まだ王国が健在であった時代、レプリカは暴君ながらも部下に慕われる王女であった。
しかし民との間に生じた軋轢が亀裂となり、王国は滅んだ。彼女の故郷を亡国となさしめたのは、まさに今回のような悪辣なる不和の陰謀であったのだ。
「其れは良いオレ様が至らないが故だ、しかし別の世界とは云え同じ事を繰り返す下郎を黙って見過ごす訳にはいかん」
「それがお前が私に反抗する理由か。なるほど愛おしいよ」
刺し貫くようなレプリカの眼光に、エウティミオは莞爾と笑みを返す。反抗の竜に選ばれた亡国の王女と、圧政を敷き反抗を蹂躙する吸血鬼。両者の間に見えない火花が散る。
「骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから」
エウティミオの傷口から滴り落ちる血、その1滴1滴が黒い鼠に姿を変え、レプリカの血肉を貪らんと襲い掛かる。どれだけ威勢はよくとも彼女は特別武芸に秀でる訳でもない人間だ、無数の獣に群がられればひとたまりもないように思われた。
「ネズミに化身するとは下衆な吸血鬼らしいな、オレ様に噛みついたら大変だぞ?」
だが穢れた牙が少女の柔肌に食い込む刹那、鼠共は炎に包まれる。その小さき身を焼く灼熱に彼らはキイキイと悲鳴を上げ、地べたをのたうち回りながら黒焦げの骸と化した。
「我が血は我が威光、ひれ伏し燃えろ」
鼠達を焼いたのは【かつて輝いた王女の威光】。レプリカが纏う王族の輝きは国滅べども消えることはなく、触れた者を高熱の光に包んでダメージを与える。そして本人の血が流れる時、その威光はさらに輝きを増すのだ。
「どうだ、オレ様の高貴な血肉は熱かろう? 人心を弄ぶ腐った心の持ち主にはとても良く効く」
薄汚い眷属風情にその威光は熱すぎたか、彼女に近付いて生き延びた鼠は一匹もない。
そして光熱はこそこそと闇に潜んで陰謀を巡らせてきた吸血鬼の姿も白日に晒し出し、容赦なく裁きを下した。
「貴様のくだらん行いのによって不安になった民達の安寧の為に我が王家の聖なる輝きで灰に成るがよい!」
威風堂々たるレプリカの一喝と共に、王女の威光はなおも輝きを増して戦場を照らす。
それは明けるはずのない夜に太陽が訪れたようであり、邪悪なる闇の住人にとっては、天敵にも等しいものだった。
「くっ……成程、これは堪らないな……!!」
流石のエウティミオも笑みを引きつらせて下がるが、レプリカは彼を決して許さない。
高熱の輝きは吸血鬼を焼き続け、癒えぬ傷と継続的なダメージをその身に与えていた。
大成功
🔵🔵🔵
カタリナ・エスペランサ
わざわざ姿を現すとは話が早い
いいよ、幕引としようか!
単独とはいえ有象無象とは一線を画する吸血鬼、万一にも住民が巻き込まれるのは避けたい
敢えて嫌悪を強く向ける事で敵UCの狙いを引き付けよう
《戦闘知識+第六感》で敵の動きを《見切り》先読み、攻撃は《空中戦》の機動力で回避
攻め手は【神狩りし簒奪者】
魔神権能の《封印を解く》事で《ドーピング》、黒炎の嵐による《属性攻撃+焼却+蹂躙》に敵を纏めて呑み込み焼き払うよ
しぶといのは想定内
黒炎に対処しようとする隙を突き死角からの影鎖で《早業+捕縛》
白雷槍の《弾幕+串刺し》を重ね能力ごと抹殺する
思い知るといい吸血鬼
アタシが居る限り、誰一人として犠牲にさせやしないよ!
願祈・廻璃
WIZ
首謀者との戦いに何とか間に合いましたか…。
計画を破られてもなお余裕に満ちたヴァンパイア…これは恐ろしい強敵ですね。
ですが、強いと分かっている敵だからこそ今ここで倒さなければいけません。
どんなに困難であろうと私達はオブリビオン達の支配からこの世界を取り戻します!
そしてその想いは一緒に戦っている皆さんも同じはずです!その願い、必ず叶えます!
『願いの奇跡』で想いを同じとする味方の傷を癒します。
迷宮内で攻撃をしてきて消耗をさせようとしても無駄です。
願いの力によって癒しながらこの迷宮…そしてオブリビオン達の支配からも抜け出してみせます!
(巡瑠と同行します。アレンジや味方と共闘も大丈夫です。)
願祈・巡瑠
WIZ
空飛ぶ大筆で急いで応援に駆けつけたけど……なかなかにヤバそうな敵ね。
態度は紳士的に振る舞っているつもりらしいけど、言動はいかにもオブリビオンらしい理不尽な言い分だわ。
戦闘する気満々っていうのならある意味こちらにとっても好都合ね。
ここにいる猟兵の皆もアイツを仕留めておかなければならないって思っている筈よ!
『祈りの奇跡』でアイツをここで倒したいという祈りによって皆の力を高めるわ!
迷宮なんてまた回りくどい攻撃をしてくるあたり、今回の計画を立てた首謀者らしい悪趣味な戦法ね!
でも祈りの力で戦闘力を高めている私達を閉じ込めておくには不十分過ぎるわ!
(廻璃と同行、アドリブや味方と共闘もOK!)
「わざわざ姿を現すとは話が早い」
扇動者を退け、獣の軍勢を撃退し、遂に相まみえた黒幕に短剣を突きつけるカタリナ。
刃の届く距離に出てきたということは、殺せるということだ。これまでと変わらず彼女の表情は自信に満ちている。
「いいよ、幕引としようか!」
「ああ、そうしよう」
エウティミオの側もここでの幕引きに依存はない。そのためにわざわざ出てきたのだ。
真っ向から自らに敵対し倒すつもりでいる猟兵のことを、彼は心底から面白がっているように見えた。
「首謀者との戦いに何とか間に合いましたか……」
「急いで応援に駆けつけたけど……なかなかにヤバそうな敵ね」
丁度その場にやって来たのは、願祈・廻璃(願い廻る神秘・f04941)と願祈・巡瑠(祈り巡る神殺・f04944)。空飛ぶ大筆に乗って上空から敵の姿を確認した2人は、一目で分かる強大な存在感に緊張を走らせる。
「計画を破られてもなお余裕に満ちたヴァンパイア……これは恐ろしい強敵ですね」
「態度は紳士的に振る舞っているつもりらしいけど、言動はいかにもオブリビオンらしい理不尽な言い分だわ」
姉である廻璃が冷静に分析し、妹の巡瑠が不快そうに眉をひそめる。その傲慢で余裕な態度も、これまで自身に反抗した者を全て蹂躙してきたという実績あってのものだろう。どれほど舐められているように見えても、決して油断はできない相手だ。
「ですが、強いと分かっている敵だからこそ今ここで倒さなければいけません」
「戦闘する気満々っていうのならある意味こちらにとっても好都合ね」
今回のような陰謀を再び繰り返されることの無いよう、確実にここで奴に引導を渡す。
願い祈る姉妹の闘志を受け取ったエウティミオは、さらに笑みを深めて戦いに応じる。
「ああ、素晴らしい。お前たちの感情が、私にはたまらなく愛おしいよ」
芝居がかった調子で彼が呼び掛けると、背後から身の丈程もある巨大毒蜘蛛が現れる。
期待、歓喜あるいは恐怖、嫌悪など、自分に向けられる様々な感情を標的として大蜘蛛は狙いを定め――その射線に、さっと割り込む翼があった。
「キミの相手はアタシだよ!」
嫌悪の籠もった眼差しで睨み付けて、吸血鬼と毒蜘蛛の前に姿を晒したのはカタリナ。
敵のユーベルコードがこちらの感情に反応することに気付いた彼女は、敢えて強い感情を向ける事で敵の狙いを引き付けようと考えたのだ。
(単独とはいえ有象無象とは一線を画する吸血鬼、万一にも住民が巻き込まれるのは避けたい)
予想通り毒蜘蛛は姉妹や砦にいる住民達よりも真っ先にカタリナを狙って襲いかかり、毒の体液を纏った糸を飛ばしてくる。カタリナは経験と直感からその動きを先読みして空へ逃れるが、僅かに掠めた糸が肌を裂いた。
「こちらから誘ったとはいえ、流石にやるね」
鋼のような強度と鋭さに加え、肉を焦がす毒まで含んだ大蜘蛛の糸。なかなか厄介だと警戒を強めるカタリナに、同じ空から廻璃と巡瑠の2人が支援のユーベルコードを放つ。
「どんなに困難であろうと私達はオブリビオン達の支配からこの世界を取り戻します! そしてその想いは一緒に戦っている皆さんも同じはずです!」
「ここにいる猟兵の皆もアイツを仕留めておかなければならないって思っている筈よ!」
巡瑠の願いは共感する者に癒やしをもたらし、廻璃の祈りは応える者の力を増強する。
【願いの奇跡】と【祈りの奇跡】によってカタリナが受けた毒と傷は瞬時に癒やされ、心身には攻撃を受ける以前よりも強い力が漲る。
「ああ、勿論。アタシも同じ想いだとも」
「その願い、必ず叶えます!」
「あなたの祈りは、きっと届くから!」
姉妹からの支援を受けて、改めて敵の前に立ちはだかるカタリナ。大蜘蛛はまた毒糸を放つものの、スピードも第六感も強化された彼女は今度こそ完璧にそれを躱してみせる。
「流石に3対2では分が悪いようだね。舞台を変えよう」
そのままカタリナが攻撃に転じる構えを示すと、エウティミオはぱちんと指を鳴らす。
すると周囲の地面から白い人骨でできた壁がせり上がり、上空にいる猟兵達を囲い込んで巨大な迷宮を作り上げた。
「迷宮は素晴らしい。出口が必ず存在するのだからね」
遮られた射線の向こうから聞こえるエウティミオの声。おそらく迷宮の外側にいるのだろうが、すぐに見つける事はできそうもない。なぜなら迷宮を構成する人骨がカタカタと動きだし、全方位から猟兵達に襲い掛かってきたからだ。
「迷宮なんてまた回りくどい攻撃をしてくるあたり、今回の計画を立てた首謀者らしい悪趣味な戦法ね!」
巡瑠は空飛ぶ大筆の後ろに廻璃を乗せて、人骨からの攻撃をひらりひらりと回避する。
カタリナのほうも飛行を多少制限されても機動力は衰えず、華麗に攻撃を躱している。
とは言え、このまま迷宮に閉じ込められたまま攻撃を受け続ければ不味いのは確かだ。
「でも祈りの力で戦闘力を高めている私達を閉じ込めておくには不十分過ぎるわ!」
「消耗をさせようとしても無駄です。願いの力によって癒しながらこの迷宮……そしてオブリビオン達の支配からも抜け出してみせます!」
環境全てが敵に回っても負けない力を。傷を負ってもそれ以上の癒やしを。巡瑠と廻璃は悪辣な吸血鬼の攻撃にもめげずに立ち向かう決意を示す。そして彼女らの祈りと願いは共に戦うカタリナにも伝わり力を与えた。
「いいね。ならアタシも全力でいこうか!」
その身に宿した権能の封印を解き、発動するのは【神狩りし簒奪者】。魔神"暁の主"の権能のひとつである黒炎の嵐を現出させ、襲い掛かる人骨どもを――そして迷宮を纏めて飲み込み、焼き払う。
「なんと……!!」
迷宮の強度には自信があっただけに、まさかそれを力尽くで破壊されるとは敵も思っていなかっただろう。内部より爆発的な勢いで噴き出す黒炎を見て、エウティミオは咄嗟に大蜘蛛を盾とする――憐れ身代わりにされた眷属は瞬時に炭の塊と化した。
(しぶといのは想定内)
カタリナは炎嵐に紛れて壊れた迷宮から飛び出すと、大蜘蛛の肉盾を避けて敵の背後に回り込む。そして捉えたエウティミオの姿をきっと睨みつけると、黒炎が作りだした影が異能封じの縛鎖へと変わり、彼の足元より絡みついた。
「くっ!? いつの間にっ」
影鎖に捕縛されようやく焦りを見せるエウティミオ。だが吸血鬼の怪力を以ってしても魔神の権能を振りほどくのは瞬時にとはいかない。その間にカタリナは3つめの権能――白雷の槍を顕現させ、力を溜める。
「思い知るといい吸血鬼。アタシが居る限り、誰一人として犠牲にさせやしないよ!」
「これが私達の祈り!」「そして願いの力です!」
仲間達の祈りと願いを乗せた槍は何十にも数を増やし、白雷の弾幕となって降り注ぐ。
影の縛鎖に囚われたままの敵に、光に等しい速度で突き立つ槍を避ける術はなかった。
「ぐ……ははっ! 本当に大したものだよ、猟兵……!」
その身に宿る異能の力ごと串刺しにされたエウティミオは、血を吐きながら大笑する。
能力を封じられた事で燃え尽きた大蜘蛛も消えていくが、そんなものには目もくれず。彼の視線は上空にいる反骨の徒らを、まっすぐに見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
瀬河・辰巳
典型的なヴァンパイアのようで。まあ、大人しく玩具にされる気はないけど。
さてさて、悪意ある悦び、抱くのはお前達だけだと思うなよ?
敵が蜘蛛を出してきたらUC発動。同じ技ばかりは芸がないけど、丁度いいんだよね。
糸が厄介だから、先に蜘蛛から対処。基本的に糸は尻側からのはずだし、背後に回らないように気をつけつつ尻を切り落とす。
敵本体は他の攻撃に気を付けつつ鎌で斬るか。
このUCは、過去にヴァンパイアに襲われた時の状況を自己流に再現したもの。ヴァンパイアが同じ目に遭うって、すごく素敵と思わない?
ふふ、怒り憎しみ悲しみを抱えた森の中で、『なぶり殺される側の苦痛』をどうぞ。
「典型的なヴァンパイアのようで。まあ、大人しく玩具にされる気はないけど」
悪趣味と高慢を絵に描いたような敵の物言いに、きっぱりとそう言い返したのは辰巳。
あんな輩に素直に弄ばれてやるほど、自分も"オトモダチ"も従順な性分はしていない。
「さてさて、悪意ある悦び、抱くのはお前達だけだと思うなよ?」
「ほう? お前は何を見せてくれるのだろうね」
反抗的な彼の態度にエウティミオはにこりと笑みを深め、ユーベルコードを発動する。
召喚されるのは身の丈ほどもある巨大な毒蜘蛛。期待、歓喜、恐怖、嫌悪など、敵から向けられる様々な感情に反応して牙を剥く、吸血鬼の休日な眷属だ。
「お前たちの感情が、私にはたまらなく愛おしいよ」
その言葉と共に大蜘蛛は毒糸の発射体勢を取る。だがその寸前に辰巳も【宵闇に揺蕩う口減らしの森】を発動。戦場を再び影の森に変化させて、エウティミオ達を閉じ込める。
「同じ技ばかりは芸がないけど、丁度いいんだよね」
彼はそう嘯きながら大鎌「ネメシスの遺物」を構え、木々の影に紛れて近付いていく。
対する大蜘蛛は敵の発する感情に狙いをつけて毒液を纏った糸を放つが、この環境下では辰巳のほうが動きがいい。さっと身を躱され、あるいは鎌で切り払われる。
「糸が厄介だから、先に蜘蛛から対処しよう」
基本的に蜘蛛の糸は尻側から吐かれるはず。実際に攻撃を見てそれを確認した辰巳は、背後に回らないよう、そして向けさせないように気をつけつつ蜘蛛と距離を詰めていく。
敵はその動きに対応しようとしても、森のあちこちから飛び出す炎を纏った茨が足止めとなり、思うように身動きが取れない。
「これはなかなか、趣味の悪い森だね」
エウティミオ本人は串刺しになるのを避けているが、毒蜘蛛のほうは巨体が仇となり、脚や腹を茨に貫かれる。彼奴が刺傷と火傷に悶えている隙に影の森の主は音もなく迫り、苔と蔦を纏った大鎌を振るう。
「一丁上がり、と」
『ギィッ!!?』
辰巳の一閃は大蜘蛛の体から毒糸を吐く尻部分を切り落とし、攻撃手段を喪失させる。
これでもう奴は怖くない。撒き散らされる体液を避けつつ、彼はそのままエウティミオ本体への強襲を掛ける。
「このユーベルコードは、過去にヴァンパイアに襲われた時の状況を自己流に再現したもの。ヴァンパイアが同じ目に遭うって、すごく素敵と思わない?」
「なんと……これを考え付いたのがまさか同胞とはね」
足元から襲う炎の茨に、森の中を自在に駆ける襲撃者。二つの脅威に晒された吸血鬼は顔をしかめる。他人のことはとやかく言えないが、随分と悪趣味な同胞もいたものだ――そんな事を考えているのがありありと分かる。
「ふふ、怒り憎しみ悲しみを抱えた森の中で、『なぶり殺される側の苦痛』をどうぞ」
襲う側と襲われる側の立場は反転し、薄暗い影の森で辰巳は容赦なく敵を攻め立てる。
絶え間ない茨と鎌の攻撃が、少しずつ吸血鬼を捉えていく。蹂躙される者の立場を味わったエウティミオは「やってくれるね……!」と、斬られた傷口を抑えて呻くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
名乗られたからには姫として最低限礼儀を見せないとね。
フレミア・レイブラッドよ。
わたしも貴女に覚えて貰う必要は感じてないわ。
ここで滅びるから
【ブラッディ・フォール】で「因果を超えた挑戦」の「マザー・タイムフォール・ダウン」の力を使用(カプセルに入った姿に変化)
【オールドマンズ・クロック】を敵の迷路の壁面に刻印する事で迷路の時間を数千~数万年単位で経過させ、劣化により崩壊させるわ
硬くても破壊できるのであれば干渉も可能
まして人骨なんて経年劣化であっという間に朽ち果てるわ
【タイム・タイド・アタック】で全力の一撃を叩き込み、同時に敵本体にも【オールドマンズ・クロック】を刻印
さて…貴女は何年保つかしらね
「名乗られたからには姫として最低限礼儀を見せないとね。フレミア・レイブラッドよ」
真祖の血を継ぐ元名家のお嬢様らしく、フレミアは高貴な振る舞いで敵に挨拶をする。
ただしそれは形式的なもの。自らの遊興のために多くの人間を弄んだ吸血鬼に、心から払う敬意などありはしない。
「わたしも貴女に覚えて貰う必要は感じてないわ。ここで滅びるから」
「はは。そう来なくてはね」
明白な殺意の籠もった彼女の宣告に、エウティミオは全力で受けて立つ構えを見せる。
既に猟兵の牙が彼の生命に届きうることは証明された。ならばこそ、生死を賭けた戦いに彼の心は踊るのだった。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
その不敵な余裕を叩き潰すために、フレミアは今夜二度目の【ブラッディ・フォール】を発動。今度はアポカリプスヘルの文明を破壊したフィールド・オブ・ナインがひとり、『マザー・コンピュータ』の能力を発現させる。
「おや。その格好でどう戦うつもりかな?」
カプセル型の機械に入った彼女の姿を見て、何のつもりかと首を傾げるエウティミオ。
時間の理を研究し、時間干渉能力を得た『マザー・タイムフォール・ダウン』の力を、ダークセイヴァーの住民である彼が知る由もなかった。
「そちらが来ないのであれば、私からいこうか」
得体の知れないものに直接迫るのは危険と判断したのか、エウティミオは相手の周辺をユーベルコードで迷宮化する。白い人骨でできたこの迷宮は高い強度を誇り、内部に閉じ込められた者を自動的に攻撃する、攻防一体の要塞でもあった。
「こんなものでわたしを閉じ込めたつもりかしら?」
だが、白骨の群れに襲われたフレミアは慌てることなく、カプセルの中から迷路の壁面に【オールドマンズ・クロック】の刻印を付与する。すると刻印された箇所を中心に白骨が急激な風化をはじめ、ボロボロと崩壊していくではないか。
「硬くても破壊できるのであれば干渉も可能。まして人骨なんて経年劣化であっという間に朽ち果てるわ」
フレミアはタイムフォール・ダウンの力により、迷宮の時間を数千~数万年単位で経過させたのだ。堅固な白骨もこれほど長い時の試練に耐えられるものではなく、さらさらと粉のようになって崩れ落ちる。
「なんと……!」
エウティミオが目にしたのは崩壊した白骨迷宮の中から飛び出してくるフレミアの姿。
カプセルから出て膨大な時間質量を解放することで、驚異的な加速を得た彼女の飛翔は敵に避ける暇を与えなかった。
「これが、今のわたしの全力の一撃よ」
「ぐぁ……ッ!!!」
超高速の【タイム・タイド・アタック】を叩き込まれたエウティミオの身体が、衝撃で大きく吹き飛ばされる。速度と戦闘開始からの経過時間に比例したそのダメージは非常に大きく、敵も堪らず悲鳴を上げたほどだった。
「やってくれるね……っ!?」
さらに、それだけではない。激突の瞬間にフレミアは迷宮に仕掛けたのと同じ【オールドマンズ・クロック】を敵本体にも刻印していた。胸に付与された時計型の刻印を見て、吸血鬼の顔色が変わる。
「さて……貴女は何年保つかしらね」
「ぐ……おぉぉぉぉぉッ!!?!」
加速する時によって急激に老化していくエウティミオの肉体。いかに不老不死を謳われる吸血鬼と言えど、千年万年、あるいは億年もの時の重みに果たして耐えられるものか。
老化と再生の狭間で徐々に朽ちていく敵の姿を、フレミアは冷たい眼差しで見ていた。彼女が其処にいる限り、刻印の効果は消えず、時の追撃は止まらない――。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
貴女の計画が杜撰なだけ…。人はそんな罠に屈する程愚かでも弱くもない…。
オマエは人(わたし達)を舐め過ぎた。その報いは受けて貰う…。
…覚悟しろ、吸血鬼…。
抱く感情は怒りである為、(偶然だが)敵SPDのUCの引き金を引かない為、呪力の縛鎖等の呪術【呪詛、高速詠唱】と凶太刀、神太刀による二刀で真正面から対抗…。
他二つのUCを使用して来たら、それに合わせてこちらも【九尾化・天照】封印解放…。
迷宮は光速で一瞬で踏破する事で脱出し、鼠の群れは光速二刀流による乱撃と二章で雷王竜に進化したミラ達の支援の雷撃で殲滅…。
敵の戦術の悉く全てを真正面から叩き潰すよ…。
オマエの力と策がどれだけ無力か教えてあげる…!
「貴女の計画が杜撰なだけ……。人はそんな罠に屈する程愚かでも弱くもない……」
策を破られたエウティミオに力を讚えられても、璃奈は喜びもせず淡々とそう応えた。
あの吸血鬼は完全に自分たちを、そして人間を舐めきっている。どれだけ反抗した所で最後には捻じ伏せられるか弱い存在だと、たかを括っているのが丸わかりだ。
「オマエは人(わたし達)を舐め過ぎた。その報いは受けて貰う……」
胸の奥で静かに滾る怒りを抱え、魔剣の巫女は二振りの妖刀を構える。使い手に音速を超える速さを与える九尾乃凶太刀と、不死なる存在から不死性を否定する九尾乃神太刀。彼女が特に多用する二刀流の構えだ。
「……覚悟しろ、吸血鬼……」
たんっ、と一蹴りで音を置き去りにして、猛烈な速さで敵に接近する璃奈。怒りの籠もった二刀の斬撃からエウティミオは咄嗟に身を翻すが、躱しきれずに肩を浅く斬られる。
「怒りか。その感情も愛おしい……が、これは困ったね」
エウティミオのユーベルコードは恐怖や嫌悪など多様な感情をトリガーにしているが、偶然にも璃奈が抱いた「怒り」はその中に含まれなかった。人を侮辱する吸血鬼に対する怒りは、純粋であるが故に付け入る隙を与えない。
「……捕まえた……」
璃奈は防戦に立たされる吸血鬼を真正面から攻め立て、詠唱を紡ぎ呪力の縛鎖を放つ。
呪術の縛鎖に捕まって動きの止まったエウティミオを、二本の妖刀が切り裂いていく。
「ッ……やるじゃないか」
このままでは一方的にやられるばかりだと悟った彼は、毒蜘蛛の召喚を諦めて攻撃手段を切り替えようとする。だが敵の動きを察した璃奈もそれに合わせて【九尾化・天照】の封印を解き、金髪金毛の九尾の妖狐に変身を遂げる。
「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……封印解放……!」
この姿になった璃奈が得るのは光を操る力と、音速を超えて光速に匹敵するスピード。
エウティミオは戦場を迷宮化して彼女を閉じ込めようとするが、そんなものはこの速さの前ではなんの意味も成さない。
「しばらくそこで遊んでいたまえ……なッ?!」
白骨の妨害をすり抜けて一瞬で迷宮を踏破してきた天照の巫女に、エウティミオも驚きを隠せない。慌てて体の一部を鼠の群れに変えて攻撃するが、その時上空からゴロゴロと雷鳴が轟き、稲妻が雨のように彼らの元に降り注いだ。
「オマエの行いに怒っているのは、わたしだけじゃない……」
「これは……私の獣達を駆逐した、あの竜か!」
マージナル・ビーストの軍勢と戦う際に雷王竜に進化したミラ達。まだその姿を保ったまま待機していた彼らの雷撃による支援が、鼠の群れを殲滅する。運良く雷に打たれずに済んだ鼠も光速の二刀に切り払われ、吸血鬼本体を護るものは今度こそ何もなくなった。
「オマエの力と策がどれだけ無力か教えてあげる……!」
敵の戦術の悉く全てを真正面から叩き潰す事。それが璃奈の決意していた戦法だった。
どんな手を打ってこようが、自分達は絶対に屈しない。言葉ではなく実力でそれを示してみせた彼女は、無防備となった吸血鬼に猛烈な乱撃を叩き込む。
「ここまで、想定を超えてくるとはね……がはぁッ!!」
再生を封じつつ斬り刻む光速の斬撃を浴びては、吸血鬼とて無事では済まないだろう。
エウティミオの顔から余裕の笑みは崩れ、代わりに鮮血の化粧がその身を彩っていく。璃奈の言う通り舐め過ぎていた事を認めざるを得ないほど、彼は追い込まれつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
はっ、どれだけ上品に振る舞おうとしても、性根の下衆さが隠し切れていないな
ネズミの群れ……なるほど、余所の世界では「窮鼠猫を嚙む」という言葉があるらしい
だが、貴様が噛もうとしている猫は……少しばかり獰猛だぞ(威圧)
紅き衣の獅子女神に変身
四肢に聖なる炎(破魔・浄化・属性攻撃)を帯び、踊るような軽やかな身のこなし(ダンス)で爪を振るって焼き斬り(なぎ払い)、踏み潰す(踏みつけ)
丁寧に嬲り殺し、とか言っていたな
攻守を逆にして返してやろう
雑に惨たらしく殺してやる
口腔内に炎の魔力を集中(全力魔法・神罰)
【灼滅の吐息】で一匹残らず焼き尽くす(蹂躙・焼却)
灰も残さず燃え尽きろ!
「はっ、どれだけ上品に振る舞おうとしても、性根の下衆さが隠し切れていないな」
さも上位者を気取って優雅を装う態度を、オリヴィアは冷ややかな調子で一笑に付す。
しょせん鍍金はすぐに剥がれるもの。予想を遥かに超えた猟兵達の反撃に追い込まれたエウティミオの様子から、最初の頃のような余裕はなくなりつつあった。
「ふ、手厳しいね……これでも私はお前たちに敬意を示しているつもりなのだが」
それでも強気に笑みを浮かべてみせるのは、吸血鬼としての矜持故か。その身から滴り落ちた血や肉片は無数の鼠の群れとなって、目の前の獲物を貪り食わんと襲い掛かった。
「ネズミの群れ……なるほど、余所の世界では『窮鼠猫を嚙む』という言葉があるらしい」
一匹一匹は小さな鼠でも、群れれば油断ならない脅威になる。血肉に飢えた獣の大群に襲われ、されどオリヴィアは怯まず――逆に、彼奴らを威嚇するように威圧感を強める。
「だが、貴様が噛もうとしている猫は……少しばかり獰猛だぞ」
その言葉と共に彼女は紅き衣の獅子女神に変身し、破魔と浄化の聖火を四肢に帯びる。
元より獣は火を恐れるもの。それが不浄を焼き清める聖なる炎となれば尚更のこと――びくりと立ち止まった鼠の群れの中に、獅子女神は颯爽と飛び掛かった。
「丁寧に嬲り殺し、とか言っていたな。攻守を逆にして返してやろう、雑に惨たらしく殺してやる」
踊るような軽やかな身のこなしで、怒れるオリヴィアは技を振るう。聖火を纏った爪撃は鼠共を塵芥の如く焼き斬り、大地を鳴らすステップは足元で逃げ惑う者らを踏み潰す。
その戦いぶりは見惚れるほどに美しく、なおかつ苛烈であり、悪しき者にかける慈悲は微塵もない。まさに蹂躙と呼ぶべき戦女神の勇姿は、敵対する者には恐怖の対象だろう。
「はは……凄まじいな!」
そう言って笑うエウティミオの口元も微かに引き攣っている。彼は鼠の群れを増やして対抗しようとするが、それが自分の肉体より生み出したものである以上、限界はあった。増殖を遥かに上回るスピードで、黒き鼠は炎の舞いに駆逐されていく。
「我が吐息を以って、邪悪を焼き尽くす――!」
頃合いとみたオリヴィアは口腔内に炎の魔力を集中させ、【灼滅の吐息】を発動する。
それは獅子女神の姿でのみ使用される炎の吐息。竜のブレスにも劣らぬであろう灼滅の劫火が、鼠の群れごとエウティミオを包み込んだ。
「灰も残さず燃え尽きろ!」
神罰の如き断罪の炎は、群れなす鼠を一匹残らず焼却し、灰の一欠片すらも残さない。
その力はエウティミオにとっても脅威に他ならず、莫大な熱量と浄化の力が吸血鬼の体を骨の髄まで焼き焦がしていく――。
「ぐ、ああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
燃え盛る灼滅の劫火の中で、エウティミオは堪らず絶叫した。だが、怒れる獅子の炎はこの程度では収まらない。オリヴィアの内にある憤怒が消えぬ限り、吸血鬼に燃え移った劫火もまた、継続して火傷を負わせ続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ハロ・シエラ
そうですね、同感です。
なるべく早く、お別れとさせていただきましょう。
とは言ったものの、小さな鼠の群れへの対処は面倒ですね。
敵が鼠を出してきたら一度引き付けて、レイピアで【なぎ払い】つつダガーで【受け流し】ていきましょう。
その際、剣で傷付けた鼠に魔力を流しておきます。
この量の敵の動きを【見切り】ながら捌くのは難しいでしょうし、多少の怪我は覚悟しておきましょう。
後は頃合を見計らって傷付けた鼠を一匹掴んだら、炎の【属性攻撃】を放って残りの鼠を遠ざけつつ敵本体に向かって【投擲】し、命中すればユーベルコードで爆破します。
もし残りの鼠を戻してくれればしめたものです。
それらも一気に爆破してやります。
「そうですね、同感です。なるべく早く、お別れとさせていただきましょう」
名前を覚える必要はないと言った吸血鬼に、ハロは言葉とレイピアの刃を突きつける。
これ以上奴の悪趣味な遊興に延々付き合うつもりはない。真面目で実直な性格ゆえに、彼女は黒幕の撃破にただ全力を尽くす。
「つれない子だね。短き出会いだからこそ、楽しむ余裕があってもいいものを」
エウティミオはそう嘯きながら体の一部を変異させ、黒い鼠の群れを無数に作り出す。
【骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから】――そんな戯言と共に放たれたそれは鋭い牙を剥き出しにして、少女の血肉を貪り食わんとする。
(とは言ったものの、小さな鼠の群れへの対処は面倒ですね)
ハロは襲ってくる鼠を一度引き付けて、レイピアの間合いに入ったところを薙ぎ払う。
仕留め損ねたものが飛び掛かってきたら、逆の手に構えたダガーで受け流す。軍勢との戦いから衰えぬ剣技の冴えだが、今度の敵はより小さな獣である事が不利な点だった。
(この量の敵の動きを見切りながら捌くのは難しいでしょうし、多少の怪我は覚悟しておきましょう)
ちょこまかと刃を避ける小鼠の群れを、剣だけで駆除するのは難しいと分かっていた。
だから齧られても引っかかれてもそれは想定内。取り乱さずに払いのけ、大怪我だけは避けるように立ち回りながら剣を振るい続ける。
「随分と落ち着いているね。何か策があるのかな?」
冷静さを崩さないハロの態度に違和感を覚えつつも、エウティミオは攻勢を緩めない。
彼の血肉が変異した黒鼠はなおも増殖を続け、獲物を取り囲もうとしている――だが、逆に言うと増えた鼠の分だけ本人の肉体は無防備になる。ハロはそれを見逃さなかった。
「頃合ですね」
ダガーを鞘に納め、空いた手で近くにいた鼠をさっと掴まえる。その鼠には一連の攻防にて付けられたのか、レイピアによる真新しい傷がある。魔法に心得のある者であれば、その傷口から魔力の痕跡を感じ取れただろう。
「そろそろ反撃といきましょう」
視線を彼方にいるエウティミオに向けて、自身の周りに炎の魔力を放つハロ。突然の熱と光に鼠の群れは驚いて散り散りとなり、彼女に捕まられた一匹だけがそこには残った。
「なにを……!!」
ただ火で追い散らすだけでは時間稼ぎにしかならない。だがその直後、ハロは敵の本体めがけて鼠を投擲した。【陥落】の魔力を流し込まれたそれは生きた即席の手榴弾と化しており――驚くエウティミオの眼前で爆ぜ、炎と血肉と骨片を撒き散らした。
「まさか、こちらの眷属を利用してくるとは……」
小ささの割に強力な鼠爆弾の不意打ちを喰らい、エウティミオの余裕の表情が崩れる。
このまま追撃が来ると睨んだ彼は、盾となるように残った鼠の群れを呼び戻すが――。
「しめたものです。これは、オマケです!」
ハロが傷と魔力を刻みつけた鼠が一匹だけだと見誤ったのが、彼の最大の誤算だった。
傷ついた鼠たちが本体の元に戻ってきた直後、それらは術者の合図で一気に起爆した。
「な―――……ッ!!!」
単発とは比べ物にならない爆破の多重奏が、邪悪なる吸血鬼を爆炎と衝撃に包み込む。
想定を超えるダメージに吹き飛ばされたエウティミオは、蓄積した負傷に耐えかねて、遂にがくりと膝をついた。
大成功
🔵🔵🔵
狐裘・爛
《青炎》
随分といい趣味してるわね。他人を見下したその態度、どうにかならないものかしら?
褒められて光栄だけど、すぐに燃やしてあげるわ
白くてすべすべして、うどんみたい。……よく見たら、これ生き物じゃなくてただの骨ね。手品でもするつもり?
うわぁ! なにこれ、迷路……どうしよう、シホ!?
そうか。どれだけ硬度があっても、炎なら自由に操作できるってわけ。《乖炎戯・魂魄凍結》を喰らいなさい! なら炎に変えてあげるわ。燃えて燃えて、燃焼し続けるよっ
シホ、一発キツいのお見舞いしてやって!
ふふう、生き返るわ。これがお袋の味、ってやつね。えへへ
シホ・エーデルワイス
《青炎》
難しいでしょうね
敗北を認めると言いつつも
計画が失敗した本当の原因に気付けていない様ですし
まあ
彼の言う通りもう会う事は無いでしょう
縁者(宿敵主)が来ている様ですから
爛!勝った気で狐うどんの事を考えないで!
そんなコミカルな物ではありません!
この骨!魔力が籠っていて動きます!
落ち着いて爛!
そういえばマザーコンピューターと戦った時もこんな感じでしたね
見渡す限り無機物で硬そうな敵だらけ
いっそ纏めて無力化できれば…
すごい!
あっと言う間に地の利がこちらに傾きました
それでは
期待に応えて一曲披露しましょう
【星奏】
銃口をあらぬ方向に向け
楽器演奏の様に発砲しながら敵の気を誘き寄せるダンスを披露
爛が操る炎との彩の共演と旋律で誘惑し
気付く頃には包囲し蜂の巣
止めは刺さず弱らせ宿敵主の方へ逃走するよう誘導
どうか悔いの無い決着が付けられますように
戦後
私達猟兵と人々の懇親も兼ね
『聖鞄』から取り出した食材と砦から大鍋等の調理器具を借りて
狐うどんを料理し
希望する猟兵や砦の人々に振舞う
爛
味はどうかしら?
今日はありがとう
「随分といい趣味してるわね。他人を見下したその態度、どうにかならないものかしら?」
「難しいでしょうね。敗北を認めると言いつつも、計画が失敗した本当の原因に気付けていない様ですし」
完全にこちらを舐めた敵の態度に不快感を示す爛に、それに答えて眉をひそめるシホ。
反骨を弄び、希望を蹂躙する――吸血鬼の性とも言える悪辣と傲慢は、たとえ死んでも治りはしないだろう。この世界で多くの吸血鬼と対峙してきた者ほどそれが分かる。
「まあ、彼の言う通りもう会う事は無いでしょう。縁者が来ている様ですから」
蘇った過去に真の終焉をもたらす事のできる縁を持つ者。それが今回の戦いに参加しているのをシホは感じていた。ならば自分達はその者が決着を付ける為の道を引けば良い。
「褒められて光栄だけど、すぐに燃やしてあげるわ」
「随分と情熱的だね。ならば此れは焼き尽くせるかな」
爛が炎幻奇腕を構えて殴りかかろうとすると、エウティミオはぱちんと指を鳴らす。
すると両者の間を遮るように白い何かが地面からせり上がり、強固で高い壁を築いた。
「白くてすべすべして、うどんみたい。……よく見たら、これ生き物じゃなくてただの骨ね。手品でもするつもり?」
「爛! 勝った気で狐うどんの事を考えないで! そんなコミカルな物ではありません!」
つんつん壁をつついて材質を確かめる爛。その呑気な調子にシホが警告を発した直後、壁の中から人骨の腕が飛び出して、迂闊にも近付いてきた獲物を引きずり込もうとする。
「この骨! 魔力が籠っていて動きます!」
「うわぁ!」
慌てて人骨の攻撃から飛び退く爛。シホの警告があと少し遅ければ、痛い目を見ていたことだろう。はっと気が付けば辺りは完全に骨の壁や天井に囲まれており、どちらに行けば出られるのかも分からない、複雑な迷宮と化していた。
「なにこれ、迷路……どうしよう、シホ!?」
「落ち着いて爛!」
周りにある全てが道を阻む障害であり敵。ここが吸血鬼の術中だと悟った爛はあたふたと弱り顔になるが、そんな彼女をシホが叱咤し励ます。たとえユーベルコードの産物だとしても、この世に脱出する手段のない迷路など存在しないのだから。
「そういえばマザーコンピューターと戦った時もこんな感じでしたね」
襲い来る骨を二丁拳銃で撃ち倒しながら、シホは数ヶ月前のアポカリプスヘルでの戦争を思い出す。あの時に戦った『マザー・コンピュータ』の増殖無限戦闘機械都市も、閉鎖環境で周囲の全てが敵という、規模は違えども今と似たような状況だった。
「見渡す限り無機物で硬そうな敵だらけ。いっそ纏めて無力化できれば……」
「そうか。なら炎に変えてあげるわ」
その時、友の呟きからひらめきを得た爛が、徐ろに【乖炎戯・魂魄凍結】を発動する。
それは周囲にある無機物を炎または氷に変換するユーベルコード。魔力の宿った動く骨といえども、無機物に違いないのなら効果の対象内だ。
「どれだけ硬度があっても、炎なら自由に操作できるってわけ」
爛達を捕まえようとした人骨の腕が、ぼうっと炎に包まれる――いや違う、骨そのものが炎と化したのだ。爛は変換したそれを周囲の骨の壁に燃え移らせていき、またたく間に迷宮全体に広がる大炎上を起こす。
「燃えて燃えて、燃焼し続けるよっ」
「すごい! あっと言う間に地の利がこちらに傾きました」
嬉々として炎を操る爛に、シホは惜しみない賞賛を送る。こうなれば一つしか無い出口を探す必要もなく、壁を焼き払って力尽くで迷路を突破できる。狡猾を気取っていた敵も予想だにしなかった脱出手段だろう。
「まさか、こんな手を使うとは……少々無粋ではないかな?」
焼け落ちる迷宮の中から出てきたふたりを見て、エウティミオはやれやれと苦笑する。
だが、そんな苦情に取り合うつもりはない。敵のフィールドを炎で塗り替えた今こそ、反撃に転じる最大のチャンスである。
「シホ、一発キツいのお見舞いしてやって!」
「それでは、期待に応えて一曲披露しましょう」
炎の操作に集中する爛に代わって、攻勢を仕掛けるのはシホ。「ピア」「トリップ」と名付けられた2丁拳銃をあらぬ方向に向け、トリガーを引く。放たれた弾丸は夜闇に光の軌跡を描いて、流れ星のように空を切った。
「心を籠めて奏で紡ぎましょう」
まるで楽器を演奏するように発砲しながら、翼を広げて華麗なダンスを披露するシホ。
戦場においては場違いな、されど美しき聖女と魔弾の芸に、敵であるエウティミオさえ目を離せなくなる。
「これは……なんと見事なものだ」
四方に散らされた魔弾は花火のように色鮮やかに輝き、爛が操る炎との共演により戦場を彩りに染め上げる。銃声が奏でる旋律も相まって、吸血鬼がその光景に完全に心奪われた時――【聖銃二丁で奏で紡ぐ芸術的弾幕結界】は完成していた。
「あなたの魂に救いあれ」
「――……ハッ?!!」
エウティミオが気付いた頃には、旋律の魔弾は標的を完全に包囲しており、指揮者たるシホの宣言で一斉に降り注ぐ。星奏に魅了され身も心も無防備になっていた敵にとって、この集中攻撃は痛烈だった。
「私としたことが……!」
腕を、脚を、胸を撃ち抜かれながらも、エウティミオは魔弾と炎のない方向へと必死に逃れる。蜂の巣にされてもまだ息絶えないのは、流石吸血鬼の生命力と言うべきだろうか――追撃を仕掛けることもできたが、シホはそこで銃を下ろした。
「もういいの?」
「ええ。あとは縁者の方にお任せしましょう」
シホが拳銃をホルスターに収めると、爛もそれに倣って炎を消す。エウティミオが逃走した先には、先の戦いで見かけた彼の縁者がいたはずだ。もちろんそれは偶然ではなく、意図的に包囲に穴を作って敵を誘導したのだ。
「どうか悔いの無い決着が付けられますように」
この戦いの勝利を疑わず、ただ縁ある者に最良の結末を迎えられるようにシホは祈る。
猟兵とオブリビオン、相争うしかない関係だとしても――だからこそ、戦いの中で全てをぶつけられるように、願ってやまなかった。
――そしてこれは、全ての不和の陰謀に決着が付けられた、少し後の話。
「爛、味はどうかしら?」
「ふふう、生き返るわ。これがお袋の味、ってやつね。えへへ」
人類砦に帰還したシホは住民から大鍋等の調理器具を借りて、狐うどんを作っていた。
必要な食材が『聖鞄』フリッタラリアの中に入れてあったのは、爛との約束に応えるためだろう。戦いで冷えて疲れた体も、真心こもるうどんをすすれば芯まであったまる。
「はふぅ……うめえ」「助けてもらった上、こんないいものを食わせてもらえるなんて」
場所や道具を貸してもらった砦の人々や、戦いを終えた猟兵達にも、もちろん狐うどんは振る舞われる。ひとつの鍋で作った同じものを食べる――こうした素朴な営みも、互いの懇親を深めるうえで無視できないのだと、シホはよく分かっていた。
「今日はありがとう」
「えへへ、私こそよ」
美味しそうにうどんを食べる人たちを見て――そして、誰より一番おいしそうに食べてくれる大事な友人に、シホは感謝を伝える。爛は尻尾をぱたりと振ってそれに応えると、どんぶりを持ったまま満面の笑顔を見せるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロット・シフファート
迷宮展開UCならアリス適合者である私も使えるのよ
さぁ、ぶつけ合おうじゃない!
相克するは人骨と四大元素で構築された迷宮
けれど、相性差と言うものがあるようね!
私の迷宮はオブリビオンに纏わる事象を滅ぼす
故に、アンタというオブリビオンの放った迷宮展開型UCも滅ぼすことができる!
無論の事、それはアンタという本体も例外じゃないわよ!
迷宮内に展開されている四大元素を用いて電脳精霊術を行使
4つの魔法陣から魔導砲を放ち、オブリビオンを焼き尽くし滅ぼし尽くしていくわ!
さぁ、原初の荘厳によって砕かれなさい!
「ふ……ここまで手のかかる相手は初めてかもしれないね。さあもっと見せておくれ」
反骨の徒を嬲るつもりが、今や窮地に立たされている吸血鬼エウティミオ。彼は余裕のなさを表情に見せつつも笑みを絶やさず、再び迷宮を築き猟兵達を閉じ込めようとする。
「迷宮展開ユーベルコードならアリス適合者である私も使えるのよ」
周囲が白い人骨の壁に囲われていく中で、対抗するように微笑んだのはシャルロット。
彼女が【罪深き咎神に滅びを捧げよ熾天迷宮葬送曲】を発動すると周囲の現実は歪み、地水火風の四大元素により構築された迷宮が現出する。
「迷宮は素晴らしい。出口が必ず存在するのだからね」
「さぁ、ぶつけ合おうじゃない!」
ひとつの戦場の中で相克しあう人骨と四大元素の迷宮。人骨達がシャルロットを仲間に加えようと襲い掛かれば、火が焼き、水が押し流し、風が吹き飛ばし、土が埋め立てる。だがまた新たな骨が魔の手を伸ばし――双方の力は拮抗しているかに見えた。
「けれど、相性差と言うものがあるようね!」
単純なユーベルコードの強度で言えば同等だったろう。しかし実際に競り合うにつれて崩壊が進んでいくのは人骨の迷宮のほうだった。四元素の侵食に耐えきれず、骨の髄まで地水火風に呑み込まれ、跡形もなく消失していく。
「私の迷宮はオブリビオンに纏わる事象を滅ぼす。故に、アンタというオブリビオンの放った迷宮展開型ユーベルコードも滅ぼすことができる!」
対オブリビオンに特化したシャルロットの迷宮が、強大な吸血鬼との力の差を覆した。
人骨の迷宮は崩れ、その跡地を埋め立てるように四大元素が戦場全域へ広がっていく。
「無論の事、それはアンタという本体も例外じゃないわよ!」
「くっ……やるじゃないか!」
敵はすぐに次の手を打とうとするが、それよりシャルロットが攻勢に転じる方が速い。
フィールドの支配権を得た彼女は展開した四大元素の力を用いて電脳精霊術を行使し、4つの魔法陣を描き上げた。
「四天に熾天を捧げ、災いもたらす愚鈍と無感動を砕くは理解と慈悲を奉じるが為、此処に聖閃を形にしよう」
地水火風を象徴する4色に輝く魔法陣。その中心で呪文を唱えるシャルロットの姿は、元素を支配する女王の如し。その眼差しは世の理に反するオブリビオン――悪しき吸血鬼を敢然と睨み付けている。
「さぁ、原初の荘厳によって砕かれなさい!」
明朗なる一喝と共に術式は完成し、4つの魔法陣から4発の魔導砲が同時に放たれる。
ここは彼女の迷宮の中、閉じ込める側から閉じ込められる側になったエウティミオに、逃れる場所などありはしない。
「ッ―――!!!!」
劫火が焼き焦がし、激流が飲み込み、暴風が引き裂き、巨岩が押し潰す。オブリビオンを滅ぼし尽くさんが為に編み出された術式は、エウティミオに甚大なダメージを与えた。
荒れ狂う元素の渦から辛うじて生還を果たしたものの、受けた傷が再生する事はなく。やるね、と笑いはしても表情から疲弊の色は消えずにいた――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…主従はどこか似ると言うけれど、本当にペラペラとよく回る舌だこと
…連戦で消耗している所を狙ったつもりなのでしょうけど、残念ね
今さら、この程度の敵に消耗するほど柔では無いわ
前章で吸収した獣達の魂を左眼の聖痕に降霊して喰わせUC発動
積み重ねた戦闘知識と第六感が捉えた殺気に感応して空中機動の早業で六本の黒刃を操り、
敵UCの集団戦術を呪詛の斬撃波を纏う黒刃のカウンターで迎撃する
…どれだけ数を増やそうと無意味よ。鼠程度に後れをとる私ではない
…このままお前の言葉通り体を削るように鼠を狩って、
丁寧に嬲り殺しても構わないけど…まあ、時間の無駄ね
脚部に魔力を溜め残像が生じる高速の踏み込みから敵の懐に切り込み、
肉体改造を施し限界突破した怪力任せに大鎌をなぎ払い、
敵を吹き飛ばし体勢を崩し弾丸のように黒刃を乱れ撃ち捕縛した後、
「陽光の精霊結晶」による銃撃を行い光属性攻撃の追撃する
…紋章すら持たずに私達の前に現れた時点でお前の命運は決まっていた
さあ、その思い上がりの代価を支払うが良い吸血鬼。その生命でね
「……主従はどこか似ると言うけれど、本当にペラペラとよく回る舌だこと」
敵の芝居がかった雄弁さに、リーヴァルディは先程戦った『不和と分断を煽る者』との類似を感じていた。その呟きを聞いた吸血鬼エウティミオはおやと大げさに肩をすくめ、嘘くさい笑みを浮かべてみせる。
「口先しか能がなかったあの男と一緒にされるのは、心外だね」
湧き上がる魔のオーラ。並のオブリビオンに勝る力を彼が持っているのは間違いない。
だが、歴戦の吸血鬼狩人であるリーヴァルディを怯ませるには、まるで不足であった。
「……連戦で消耗している所を狙ったつもりなのでしょうけど、残念ね。今さら、この程度の敵に消耗するほど柔では無いわ」
「ふ、どうやらそのようだ。それでこそ私自らが赴いた甲斐がある……!」
数百の獣を相手取った後とは思えぬ凛とした佇まいで、大鎌"過去を刻むもの"を構えるリーヴァルディ。その態度が虚勢でないと察したエウティミオは、手ずから彼女の反骨心を砕こうと、自らの血肉を元に対象の黒鼠を作り出す。
「骨も残さず喰らってあげよう、私は優しいから」
血肉を貪り喰らう黒い鼠の群れが、黒い絨毯のように地面を埋め尽くして襲い掛かる。
それを見下ろすリーヴァルディの左眼は、紅い満月のように爛々と光り輝いていた。
「……聖痕解放。その呪わしき刃にて、生と死を断ち切る」
先刻の戦いで吸い取った獣達の魂を左眼に刻んだ聖痕に取り込む事で、リーヴァルディは【代行者の羈束・生と死を分かつもの】を発動させ、三対六刃の黒刃外装を召喚する。
翼のように優美で研ぎ澄まされた六本の黒刃は、使い手の意志に応じて空中を飛翔し、迫りくる鼠の群れを迎え撃った。
「……どれだけ数を増やそうと無意味よ。鼠程度に後れをとる私ではない」
『ギギィッ!!?』
呪詛の衝撃波を纏う黒刃は一瞬の早業で数十匹の鼠を切り刻み、肉片と血痕に変える。
リーヴァルディ自身が積み重ねた戦闘知識と第六感は、血肉を狙う鼠達の殺気を鋭敏に感じ取り、まとわり付かれる前の迅速なカウンターを可能にしていた。
「なかなかやる……ッ!!」
エウティミオは傷口から滴り落ちる血や体の一部を使って鼠の群れをさらに増やすが、縦横無尽に飛翔する黒刃外装の迎撃を突破する事はできない。攻めあぐねる彼に対して、霊魂というリソースが十分にあるリーヴァルディは余裕の表情だ。
「……このままお前の言葉通り体を削るように鼠を狩って、丁寧に嬲り殺しても構わないけど……まあ、時間の無駄ね」
相手の悪趣味に意趣返しで付き合ってやる義理もない。決着を付けようと彼女は脚部に魔力を溜め、黒刃が黒鼠の群れを切り刻んで道を開くと、一気に敵の懐まで切り込んだ。
「ッ……?!」
残像が生じる程の高速の踏み込みにより、エウティミオは一瞬相手の動きを見失った。
その間隙を突いてリーヴァルディは大鎌を振るう。肉体改造によりヒトの限界を超えた剛腕の一撃は純粋な吸血鬼のそれに迫るほど重く、堪らず敵は空中へと吹き飛ばされた。
「……紋章すら持たずに私達の前に現れた時点でお前の命運は決まっていた」
自分達はこれまでにも、力では彼より強大なヴァンパイアを何体も討ち果たしてきた。
その自負を以ってリーヴァルディは語ると、体勢が崩れた的に黒刃で追撃を仕掛ける。
弾丸のように乱れ撃つ6本の刃が、敵の手足や肩を貫いて捕縛する。空中で磔にされたエウティミオに、もはや抵抗する術は残されていなかった。
「さあ、その思い上がりの代価を支払うが良い吸血鬼。その生命でね」
得物を大鎌から「吸血鬼狩りの銃・改」に持ち替え、陽光の精霊結晶を弾として装填。
慣れた手付きでくるりと銃身を回し、動けない獲物に狙い定めると――リーヴァルディは冷たい眼差しでトリガーを引いた。
「がはぁッ……!!!!」
吸血鬼の天敵である太陽の力を凝縮した弾丸が、エウティミオの胸の中心を射抜いた。
苦悶の叫びと共に、焼け焦げた傷と口から滝のように血があふれ出す。此度の悪辣なる陰謀撃にも、いよいよ終焉の時が迫りつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
ユーディ・リッジウェイ
あ、う、え、エウティミオ、だ。ひ、久しぶり。…で、いいのかな。わ、わたしのこと、お、覚えてないよね。たぶん。まあどっちでもいいんだけど。
…こ、この世界に来たらいつか会えるだろうって思ってたけど、ま、まさか、最初に会えるなんて。ふ、ふふ。わたし、運が、いいね。
ううん…ずっとそうだった。エウティミオに会えたことが、わたしにとって一番幸運なことだと思う。これまでも、これからも。
あ、あなたが昔、「ちゃんと生きろ」と言った意味を、わたしは考えてきたよ。正直、まだよくわかってない。ごめんなさい。でも、これだけはわかる――わたしはもう、『あなた』を殺せるよ。
フィナーレだ、エウティミオ。
不思議な金貨だよね、と、飛ぶんだよ、これ。光は反射してどこまでも届くし、光を遮ってあなたに影を落とすこともできる。
傷ついた猟兵はわたしが癒す。
わたしの影はあなたを貪る。
あなたは死を優しさだと教えてくれたよね。
だからこれはわたしの優しさ。わたし、あなたにだけ優しくしたいんだ。
恋しているよ、エウティミオ。骸の海で待っていて。
「あ、う、え、エウティミオ、だ。ひ、久しぶり。……で、いいのかな」
久方ぶりに訪れたダークセイヴァーの地。そこでユーディを待っていた事件の黒幕は、彼女にとって縁の深い人物だった。多少雰囲気は変わっていたかもしれないが、見間違えるはずがない。育ての親であり、人生に大きな影響を与えてくれた人を。
「おや、お前は……」
エウティミオの方もユーディを見た。だがそれは知己の相手への視線ではなく、記憶の陰にある残像、骸の海に落としてしまった残響――それらを刺激する"何か"を見つめる、懐旧の眼差しに近かった。
「わ、わたしのこと、お、覚えてないよね。たぶん。まあどっちでもいいんだけど」
今のエウティミオが自分のことを思い出せなくても、ユーディは落胆を見せなかった。
自分は覚えているから、大丈夫。あのひととの思い出、かけられた言葉、全ては鮮明に心の中に残っている。だから、大丈夫。大丈夫だから。
「……こ、この世界に来たらいつか会えるだろうって思ってたけど、ま、まさか、最初に会えるなんて。ふ、ふふ。わたし、運が、いいね」
不器用に笑みを浮かべて、邂逅を喜ぶ。この世界にいる数多のオブリビオンの中から、こうして最初の依頼でまた会えた。この幸運と驚きを、うまく言葉で表わすのは難しい。
「ううん……ずっとそうだった。エウティミオに会えたことが、わたしにとって一番幸運なことだと思う。これまでも、これからも」
このひとに会えなければ、自分はずっと装置のままだったかもしれない。人として独りでも生きていけるようになったのは、このひととの出会いがあったから。奇蹟にも等しい幸運を噛みしめるように、ユーディはじっとあのひとを見つめる。
「……ああ、私も幸運だとも。こうして最後に、お前が来てくれたのだからね」
そのひとは血のにじむ唇に優雅な笑みを浮かべ、礼服の襟を正すと穏やかに返答する。
猟兵達との激戦を経て、エウティミオは既に満身創痍だった。この状況から逆転の望みはもはや無い――だからこそ、分かったのだろう。目の前に現れたこの少女こそが、自分の戦いに幕を引くのにもっとも相応しい相手であると。
「あ、あなたが昔、『ちゃんと生きろ』と言った意味を、わたしは考えてきたよ。正直、まだよくわかってない。ごめんなさい。でも、これだけはわかる――」
静かに溢れだす血色の魔力に包まれて、ユーディは人の姿から真の姿に変貌を遂げる。
伝承に謳われる悪魔の如きその姿こそ、彼女が超克(オーバーロード)に至った証明。
「――わたしはもう、『あなた』を殺せるよ」
「素晴らしい。では見せてもらおうか。お前の積み重ねた生が、私の死に届くのかを!」
残された力の全てを尽くして、エウティミオが迷宮を創造する。死の象徴たる白い人骨で出来たその迷宮のつくりは、かつて繋がれていた地下牢獄をユーディに思い出させた。
「フィナーレだ、エウティミオ」
"一つ"だった頃は誰かに連れ出されないと出られなかった。けれど"独り"から"彼女"になった今のユーディは、白き死の迷宮に囲われても迷いなく自分の脚で出口を目指す。
「不思議な金貨だよね、と、飛ぶんだよ、これ」
ポケットから一枚の金貨を取り出して放り投げると、それは彼女の聖痕から放たれる光を反射してキラキラと輝く。上空からの反射光は地上に影を落とし、白い迷宮を黒く染め――侵食し、破壊し、貪り喰らう。
「光は反射してどこまでも届くし、光を遮ってあなたに影を落とすこともできる」
ユーディの額で輝く聖痕は、光を受けた者に癒やしを、影を落とした者に死を与える。
空飛ぶ金貨を反射板にする事で、彼女はその光を迷宮の外まで拡張するのに成功した。
「傷ついた猟兵はわたしが癒す。わたしの影はあなたを貪る」
これまでの戦いで負傷した者に加えて、自分自身が迷宮の骨から受ける傷も、聖痕の力はすぐに治してくれる。光と影を引き連れて進むユーディの後ろには、無惨に貪られた骨の破片だけが散らばっていく。
「ああ。素晴らしい」
崩れゆく白骨の迷宮から飛んできた1枚のコイン。それは小さな星のように煌めいて、エウティミオの姿を照らした。怪物のように長く伸びた影法師が、彼の体を貪っていく。
「あなたは死を優しさだと教えてくれたよね。だからこれはわたしの優しさ。わたし、あなたにだけ優しくしたいんだ」
迷宮から出てきたユーディは、その光景をまばたきもせずにじっと見つめながら語る。
穏やかな言葉遣いには心からの優しさが籠もっていて、彼女らにしか分からない共通した想いがあった。
『殺してあげるのは、私の優しさだよ』
かつてのエウティミオはそう言った。人々はそれを残酷と言ったけれど、ユーディはこのひとよりも優雅で、綺麗で、そしてやさしいひとを知らなかった。それは、今も同じ。
だからユーディは彼を殺す。少女が吸血鬼に手向ける"死"は、愛の告白のように甘い。
「恋しているよ、エウティミオ。骸の海で待っていて」
「では私は、これからのお前の生き方を、骸の海から見ていよう」
交わすのは別れの言葉。きっとこれが今生での最後になると、お互いに理解していた。
服も体もボロボロでも、ユーディの瞳に映るエウティミオは相変わらず優雅で、綺麗で――最期まで変わらぬ"やさしい"笑みを浮かべて、ささやく。
「その希望を奪えなかったのは残念だが……約束を破ってすまないね、ユーディ」
それから彼はさっと両腕を広げて夜空を仰ぎ、末期の力を振り絞って声を張り上げた。
「愛おしきお前たちに喝采を。悪しき吸血鬼はここに討ち取られた!」
直後、エウティミオの体は糸が切れたように崩れ落ち――二度と起き上がらなかった。
影に溶ける様に消えていく恋しいひとの骸を、ユーディは最後まで見つめ続けていた。
――かくして猟兵達は闇に撒かれし不和の陰謀を挫き、吸血鬼の脅威を退けた。
一度は揺らぎかけた人類砦と猟兵の結束は、危機を乗り越えたことでより一層深まり、闇を照らす希望は輝き続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年11月28日
宿敵
『エウティミオ・バロウズ』
を撃破!
|