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お前はずっと呪ってろ

#シルバーレイン #リビングデッド化オブリビオン #運命の糸症候群

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#シルバーレイン
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#リビングデッド化オブリビオン
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#運命の糸症候群


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●何もできなかった、あの日の無力な私を
「おかえりなさい、千鶴姉さん」
 ――玄関を開けると、今日も信也が私を出迎えてくれた。
 今日も居間では父さんが新聞を読んでいる。
 今日も台所では母さんが夕飯の支度をしている。
「お帰りなさい、千鶴」
 ……そうして、私達一家の団欒が始まる。
 いつも通りに/あの時をやり直すように。

 こんな生活は嘘なんだって、本当はわかっている。
 父さんは、母さんは、信也は、あの日殺された。
 警察は犯人を捕まえてはくれなかった。
 生き残った私は、警察が犯人を捕まえてくれるって信じてなんでも話したのに。
 ……何度も、何度も、違うことを訊かれ続けて。私のあの日の記憶はめちゃくちゃになってしまった。
 もう私にはあの日父さんと、母さんと、信也とどんな話をしたのかも正しく覚えていないのに。
 犯人は死んでしまったから!もう捕まえることはできないんだって!!
 ただ私の記憶だけめちゃくちゃにして、警察の仕事は終わってしまった。
 だから、ここに父さんたちがいる筈なんてないのに――。
「「「千鶴/姉さん?」」」
 二十年ぶりに還ってきた私の家族が、私を見ているから。
「……なんでもない。ただいま」
 私は今日も、あの日の自分の無力を呪い続けるしかできないのだ。

●銀の雨はまだ止まない
「こーれはこれは皆々様!!僕の呼びかけに応えてくださり、お集まりいただきまして誠にありがとうございます!!」
 大層テンション高く猟兵たちにそう言ったのは仮面吸血軍曹・エフ(謎の吸血軍曹F・f35467)。
「皆々様におかれましても既にご存知でございましょう、新しく見つかった世界・シルバーレインにてゴースト……いいえ、オブリビオンの事件が発生しております。討伐に向かっていただきたいのですが、まずは説明をさせていただきましょうか」
 かつてシルバーレインの世界では、「ゴースト」と呼ばれる敵対存在と、彼らに対抗しうる力を持った能力者たちが戦っていた。そして戦いは能力者たちの勝利に終わった筈であった。しかし、かつてのゴーストはオブリビオン化し、地縛霊や妖獣・リリス・リビングデッドといった分類も曖昧になっている。
「今回予知されたのはかつてリビングデッドと呼ばれていた類のゴースト、いえ、「リビングデッド型オブリビオン」なのですが、川上千鶴という一般人の女性の中に「受肉化」してしまっております。千鶴さんはこのオブリビオンの、生前の姉にあたるのですが……」
 仮面の少年の話によれば、ちょうど二十年前。当時16歳だった川上千鶴の家族、両親と弟の三人が、暴漢に押し入られて惨殺されるという事件があった。警察の必死の捜査もむなしく、犯人は高速道路を暴走した果てに事故死し、そこでその事件の捜査は中断されている。
「犯人がゴースト化したのか、事件は急速に忘れ去られていきました。シルバーレインの世界の「世界結界」は、超常現象を人々から忘れさせる効果がありますので。――彼女には、復讐の権利があった。けれどその機会は、永遠に失われてしまいました」
 そして今になって、オブリビオンは川上千鶴の体内に受肉した。川上信也……当時14歳だった、彼女の弟の姿で。
「オブリビオンと因縁を持ったせいか、運命の糸症候群を患った千鶴さんは本来38歳ながら16歳の事件当時の姿に若返ってしまっています。それ以外はごく普通の、一般人ですが……オブリビオンとなった弟を、危険から守ろうとします。それは、猟兵であっても同じです。千鶴さんごと殺してしまえば手っ取り早い話でしょうが、出来ればそれはしたくありません。何せ彼女は、非武装の非戦闘員であるのですからね」
 今から千鶴のもとに行くとすると、と仮面の少年は言う。
「千鶴さんは高速道路にいます。事件の犯人たちが事故死した、その場所です。ですが、そこへ赴けば、猟兵の接近を察知したオブリビオンの群れとの戦闘になるでしょう」
 ゾンビ。さまよう腐った死体の群れだ。一体一体はあまり強くないが、群れとなると少々脅威となる。特に走るタイプのゾンビや相手の肉体をゾンビ化させるタイプのゾンビは厄介だ。
「高速道路での戦いとなりますが、一般人の対処はしなくても大丈夫です。何せシルバーレインの世界には世界結界がありますから、ゴーストを見てもすぐに何かの見間違いだと信じ込んでくれます。ゾンビたちも千鶴さんをはじめとした一般人を襲うようなことはないようですね」
 ゾンビたちを倒し切り、川上千鶴の下に到着すると、千鶴の中から信也……否、リビングデッド型オブリビオン「スワンプマン」が現れ、戦闘となるだろう。
「受肉化のために動きは遅く、通常状態より弱いのですが。千鶴さんを盾にするような動きをしてきます。彼女を巻き込まないように戦う工夫が必要でしょうね。……スワンプマンはその能力を使って、千鶴さんの前では殺されたご両親さえも生きているように振舞っているようです。実際はユーベルコードによって呼び出された人間に擬態するスワンプマンでしかないのですが……千鶴さんも、この生活が間違っていることにはうすうす気づいている様子です。それを強く意識させれば、上手くいくかもしれません」
 そしてスワンプマンを倒しても、川上千鶴の「運命の糸症候群」は消失しないのだと仮面の少年は述べた。
「猟兵でも能力者でもない一般人がこの病に罹患したままでは、またオブリビオンが誕生したときに大変危険でございます。故に、千鶴さんが抱いていた執着あるいは追憶を解消して差し上げることで症候群を治療し、オブリビオンを完全に消失させていただきたく」
 銀の雨降る世界、川上千鶴の居所までの転移は己がやると仮面の少年は言う。
「皆様方の戦い、健闘を祈っております。それではどうぞ、準備の整った方から僕の所へ!」
 にこやかに笑みを浮かべた仮面のグリモア猟兵は、そう言って猟兵たちにきれいなお辞儀をしてみせるのだった。


遊津
 遊津です。シルバーレインのシナリオをお届けいたします。
 一章集団戦、二章ボス戦、三章冒険(固定フラグメント)の三章構成となります。

 「一章・集団戦『ゾンビ』」
 敵の能力についてはオープニングで説明した通りです。
 「戦場について」
 高速道路です。空が開けているため。空中戦を行うことも可能です。普通に車が走っていますが、ゾンビの群れによって空白地帯が出来上がってしまうため、車を巻き込む心配はありません。目撃者となる一般人についても、世界結界が作用しますので気にせずに戦ってください。
 高速道路上には戦いに利用できそうなものはありません。種族体格差は、種族体格差を利用するユーベルコードなどをプレイングで用いない限りは影響ありません。巨人種族などでも問題なく道路上での戦いを行うことが出来ます。
 「川上千鶴について」
 リビングデッド型オブリビオン・弟である川上信也(故人)を体内に受肉させている女性です。38歳ですが、16歳の少女にしか見えません。それなりの美少女です。
 一章の段階では彼女にコンタクトをとることはできません。

 「二章・ボス戦『スワンプマン』」
 川上千鶴に受肉したリビングデッド型オブリビオンです。
 千鶴の弟・川上信也の生前と全く同じ知性と理性・感情と行動基準を持つ存在ですが、本質的には人間とは全く異質な存在です。
 詳細は二章の追記にて行います。

 「三章・かつての事件の真相」
 川上千鶴の「運命の糸症候群」を解消するため、調査を行います。
 詳細は三章の追記にて行います。

 当シナリオのプレイング受付開始は11/10(水)朝8:31~となります。
 時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
 マスターページの不採用基準などについて加筆修正を行っています。必ずマスターページを一読したうえでプレイングを送信してください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ゾンビ』

POW   :    集団の脅威
【群れを為したゾンビの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【ゾンビ同士】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    ゾンビ、走る
【上着を脱ぎ捨てる】事で【走るタイプのゾンビ】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    ゾンビカース
攻撃が命中した対象に【ゾンビ化の呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【肉体のゾンビ化の進行】による追加攻撃を与え続ける。

イラスト:桜木バンビ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

金宮・燦斗
【チャリ族】
(クリムゾンインセイン号乗車中)

いやぁ、この背徳感。ゾクゾクしますねぇ。
高速道路を、あろうことか自転車で走る我々4人組!
最高ですよねぇ、こういうの。ははは。
あ、エーミール、アレ用意してますので呼び出したらいつでも言ってください。

ゾンビいるの忘れてましたねェ!
私はUC【生と死を操る者】を使ってサライ達の援護。
片手運転なんて余裕ですよ! いざとなったらアヴァールとエーデルトラウトがハンドル切ってくれます!

エーミールが弟たちを呼び出した瞬間、アーベントロート組と書いた旗をくくりつけて走ります。
当然言う言葉なんて、決まってますよ。

「おらおらぁ!! アーベントロート組のお通りじゃあ!!」


エーミール・アーベントロート
【チャリ族】
(フライングウィッチーズ号乗車中)

ここは戦える私達の出番のようですね……!
まあ高速道路を自転車で走るっていうのは昔からやってみたかったので、ええ。
それに! 私には昔からの夢がもう一つあるんですよ!
そう、兄さんと共に……死んでしまった弟達と共に、一緒に走る夢が!!

ゾンビの群れが見えましたね。それでは早速。
UC【生まれる前に死んだ兄弟達】で弟達を召喚!
弟達と共にゾンビ共を一斉轢殺!!
はい可愛い!! 弟達超可愛い!!

あっ兄さん、ありがとうございます。
旗があるとより一層、気持ちが高ぶりますねぇ。
この場合は兄さんが族長で私が副族長!
サライ君と砕牙君はまとめ役って感じですねー!


木々水・サライ
【チャリ族】
(ボンバーウィッチーズ号乗車中)

ねえバカなの!? お前ら実はバカだろ!?
いや俺もチビ乗せてチャリ乗りてぇって思ってたところだけどさぁ!
まさかガチで高速道路を走るとは思わねぇだろぉ!?

ああもう! ゾンビの群れがいるじゃねぇか!
仕方ねぇ、UC【チャリで来た白黒人形】で一気に駆け抜ける!
移動は俺が、攻撃はちまこい黒鉄刀を持ったチビがなんとかする!
どうだ!うちの子可愛いだろ!!

(後ろを見た)
エミさあぁん!!?? おま、何呼んでるの!?
親父も親父でなんで暴走族の旗みたいなの持ってんの!?
砕牙、お前両手離して運転してんじゃねえよ!!バカ!!
あれコレ俺だけがハブにされてるパターン!?


霧水・砕牙
【チャリ族】
(ブラッドキャッツ号乗車中)

サライ、怒らなくてもいいじゃん。
この4人でチャリ走らせるの、俺やってみたかったんだよね~。
しかも高速道路! 走れない場所を走る罪悪感なんてどっか吹っ飛んだわ!

あっと、ゾンビいるんだったな。忘れてた。
よーし! 燦斗マン、エミさん、サライ! 俺のとこに集まれ!
俺のUC【乗ったもん勝ち!】で強化してやるよ!
俺自身はチャリ爆走させながらトライデント・ダブルソード!(両手離し運転中)

いやエミさん何呼んでるの!? オカルトやめて!?
燦斗マンは燦斗マンでなんで旗掲げてるの!?
サライもサライでなんでチビ達頭に乗せてんの!?
バカでは!?(※本人も両手離しなのでバカ)



●やってはいけないといわれることほどやりたくなるのが人間の性
 車行き交う高速道路に、一人の少女が経っていた。
少女? 否、彼女――川上千鶴はもう三十路を越えた女だ。けれどその容姿は、どこからどう見ても十代の少女にしか見えなかった。
(あの日、ここで、私の家族を殺した奴らは死んだ)
 人がいていい場所ではない。けれど、彼女は毎日のようにその場所に訪れていたから、そこが往来のチェックが緩い場所だということも知っていた。それゆえに事故が起きたということも。
(そう、私の家族は……殺された。死んでしまった。だけど……)
 家に帰れば、弟がいる。父がいる。母がいる。あの頃と寸分違わぬ姿で。
あの日から動くことも出来なかった彼女にとっては、救いのような、出来過ぎた話で。
だけど臆病な自分が、やっぱりこれは違うと叫んでいる。

 ――風向きが変わった。
何かが近づいてきている。振り返ろうとした女は、弟の声にそれを止められた。
「姉さん、見ちゃダメだ」
「……信也」
 いつからそこにいたの、という言葉は、唇からこぼれる前に吐く息に紛れて消えた。
聞いてはいけない、そんな気がして。
代わりにこう問うた。
「振り返ったら、何があるの?」
 弟の声は答えた。
「……姉さんは、見ちゃあいけないものさ」

「あーっはっはっはっはー!!」
 そう高笑いを上げたのは誰だっただろう。
「いやぁ、この背徳感。ゾクゾクしますねぇ。――高速道路を、あろうことか自転車で走る我々四人組!」
 金宮・燦斗(《夕焼けの殺人鬼》[MörderAbendrot]・f29268)がいう通り、彼ら四人は自転車で走っていた。うん。高速道路を。必死にペダルこいて。
「最高ですよねぇ、こういうの。ははは!」
「まぁ、高速道路を自転車で走るっていうのは昔からやってみたかったので、ええ」
 兄の言い分に全面的に同意しながらエーミール・アーベントロート(《夕焼けに立つもう一人の殺人鬼》・f33551)が頷く。
「ねえバカなの!? お前ら実はバカだろ!? いや俺もチビ乗せてチャリ乗りてぇって思ってたところだけどさぁ!まさかガチで高速道路を走るとは思わねぇだろぉ!?」
 ママチャリのボンバーウィッチーズ号を漕ぎながら、木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)は大声でツッコむ。え、今更気づいたの。前から知ってたよ。
「サライ~、怒らなくてもいいじゃん。この四人でチャリ走らせるの、俺やってみたかったんだよね~。しかも高速道路!走れない場所を走る罪悪感なんてどっか吹っ飛んだわ!」
 口笛を吹きながら霧水・砕牙(《黒の風》[プレート・ヴェント]・f28721)がサライの脇をすり抜けていく。チャリで。ちなみに燦斗のチャリがクリムゾンインセイン号、エーミールのがフライングウィッチーズ号、サライのがボンバーウィッチーズ号、砕牙のがブラッドキャッツ号であるらしい。なお、燦斗とエーミールはちゃんと自分のバイクを持っている。だけどチャリで来た。なんで? ねえほんとになんで?
 そんな彼らの前方に見えるのは、腐り果てた屍の群れ。
「ああもう、ゾンビの群れがいるじゃねぇか!」
「あっと、ゾンビいるんだったな、忘れてた」
「ゾンビいるの忘れてましたねぇ!」
 忘れないで!? グリモア猟兵がちゃんと説明したよね!?
「ここは戦える私たちの出番のようですね……!」
 エーミールが決め顔で言う。君は忘れてなくてよかった、本当に。
「あ、エーミール。アレ用意してますので呼び出したらいつでも言ってください」
「はい兄さん!ありがとうございます!!」
 兄に声を掛けられるや否やエーミールの決め顔は崩れた。はかない命だった。
「よーし!燦斗マン、エミさん、サライ!俺んとこに集まれ!……“チャリでもバイクでも馬でも、乗り物に乗ってりゃ勝ちなんだよぉ!!!”」
 【乗ったもん勝ち!(ライド・オン)】。乗り物に乗った仲間を集めて強化させる砕牙のユーベルコードが発動する。
「おっし、そんじゃあ……一気に駆け抜けるぞ!行くぜ、【チャリで来る白黒人形(ライド・バイシクル・モノクローム)】!!チャリンコ暴走族舐めんなァ!!」
「らいらー!」
「しゃらーい!」
 サライの自転車に、サライをちまこくした五分の一サイズの複製義体・チビサライたちが十人ほど乗ってくる。重量を増して坂道を一気に下り、ゾンビのただ中へ激突した。子供十人乗ったチャリを器用に操るサライ。チビサライたちはちまこい黒鉄刀を手に、ゾンビを切り裂いていく。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
 声帯も腐り果てた濁声の絶叫が上がった。
「「「さっらー!!」」」
「どーだぁ!!うちの子可愛いだろ!!」
 チビサライたちが離脱すると、ボンバーウィッチーズ号は軽くなる。当たり前だね!そのままゾンビの爪を躱して戻るボンバーウィッチーズ号。チビサライはその場に残ってゾンビたちを囲んで黒鉄刀で刻む刻む刻む。腐肉がぐちゃぐちゃと刻まれていく。食べたくもないハンバーグが出来そうである。
『あ゛あ゛あ゛あ゛!あ゛あ゛あ゛あ゛!!』
 我武者羅に手を振り回すゾンビの爪がサライのこの十一月も半ばだというのにむき出しの腹筋に掠る。その場所がみるみる青黒く変色して行くのを見て、サライはちっと舌打ちをした。
「これがゾンビ化の呪いってやつか、……おい、親父!」
「はいはい、えーと、“さあ、貴方はどちらを願いますか? どちらを選んでも、貴方は結局私の掌の上で踊らされているわけですが”……」
「うるっせええ!わざわざ長ったらしく詠唱してんじゃねえ、さっさと治せよ!嫌がらせだろそれ!」
「ちっ、バレましたか。それじゃあ、しゃらんらーっと」
 しゃらんらー。適当な呪文でサライの腹筋にかかったゾンビ化の呪いが燦斗のユーベルコード【生と死を操る者(リコール・アーベントロート)】によって解呪されてゆく。
燦斗が魔導書を手にしている間、がら空きになったクリムゾンインセイン号のハンドルはオウムのアヴァールが爪で掴んで操作している。
「ケケケ!オウム使イガ荒ェナ!」
「きしゃー!」
「おや、エーデルトラウトも運転したいんですか? うーん、エーデルトラウトには手がありませんしねぇ……ハンドル噛んだら取れちゃいそうですしねぇ」
 空飛ぶサメのエーデルトラウトはちょっぴりさみしそうにしながら、絡んでくるゾンビを尻尾でべしべしと叩く叩く叩く。それだけで腐肉の塊が一塊こんもりと盛り上がった。ところでゾンビのサメってどっかのサメ映画にいなかった?
「エーデルトラウトはゾンビ化の呪いにかかるんじゃありませんよ!」
「きしゃー」
「よぉっし!燦斗マンもサライもやってるなぁ!そんじゃあ、俺は……トライデント・ダブルソード!!」
 両手手放しでチャリを爆走させ、激走するゾンビたちと並走して三叉の槍二刀流でゾンビを貫き、突き刺して振り回しびったんと地面に叩きつける砕牙。
「……ふふ、私には、昔からの夢がもう一つあるんですよ!」
 エーミールが遠い目をしながら語るモードに入った。
「そう……兄さんと共に……死んでしまった弟たちと共に、一緒に走る夢が!!」
【生まれる前に死んだ兄弟達(リローデッド・アーベントロート)】。455体もの霊たちが高速道路にあふれ出る。それら一体一体がかわいらしい三輪車に乗っている。この455体、すべてがエーミールの生まれてこられなかった兄弟たちだ。
「exactly(正に)ィィ!! 流石は私の兄弟達、乗り物を乗りこなす早さも、知識の吸収能力も素晴らしい!!」
 455+1の三輪車と自転車がゾンビの群れを轢き殺す。腐った皮膚がタイヤに巻き込まれてずる剥けになり、腐った肉がこね回される。
「はい可愛い!弟たち超可愛い!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
「お、出ましたね、それでは!」
 エーミールが弟たちを呼び出したのを見計らったように、燦斗が自分の自転車の背後に括りつけたのは「アーベントロート組」と書いた、旗。当然言う言葉など決まっている。
「おらおらぁ!! アーベントロート組のお通りじゃあ!!」
 その声に振り返ったサライと砕牙が顔を真っ青にした。そう、オカルト嫌いのこの二人が、エーミールが呼び出した兄弟の霊たちを目にしてしまったのである。たとえ仲間が呼び出したものだとしてもオカルトは怖い。しかも455体もいる。物量的にも怖い。
「エミさあぁん!!?? おま、何呼んでるの!? 親父も親父でなんで暴走族の旗みたいなの持ってんの!?」
「いやエミさん何呼んでるの!? オカルトやめて!? 燦斗マンは燦斗マンでなんで旗掲げてるの!?」
 同時に同じことを口走るサライと砕牙。君たち仲いいな。そんな中、エーミールだけが頬を染めて喜びを露わにしていた。
「あっ兄さん、ありがとうございます!!旗があるとより一層、気持ちが高ぶりますねぇ!」
「「何言ってんの!?」」
「この場合は兄さんが族長で私が副族長!サライ君と砕牙君はまとめ役って感じですねー!」
「何役職決めてんの!? ってかサライもサライでなんでチビ達頭に乗せてんの!? バカでは!?」
「砕牙、お前だって両手離して運転してんじゃねぇよ!バカ!あれこれ俺だけがハブにされてるパターンか!?」
 いいや、君も今この瞬間においては立派なBAKAだよ、胸を張るといい。
喧々諤々、ぎゃあぎゃあわあわあ、オカルト嫌い組が阿鼻叫喚に陥る中――
「さっらー……」
 おわったよー、と。
チビサライが血と腐肉塗れのちまこい黒鉄刀を携えて呟いた。
腐った屍たちはもはや跡形もなく踏み潰され切り刻まれて、そしてそのまま最初からどこにも存在しなかったように消滅していったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『スワンプマン』

POW   :    抗体覚醒
【生命根絶の使命】に覚醒して【光と闇を放つ異形】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    スワンプマンは誰だ?
自身の【血液】を代償に、1〜12体の【スワンプマン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ   :    ゾンビボール
全身を【人間に擬態していた弱いスワンプマンの群れ】で覆い、自身が敵から受けた【攻撃】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:クラコ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


========================================
 あの日、私は無力だった。
父さんと母さんが殺されている最中、私と信也は押し入れに隠れていた。
そうして、部屋に入ってきたあいつらから私を守るために、信也は押し入れを飛び出していった。
私は全部見た。信也があいつらにぐちゃぐちゃにされて殺されるところを。押し入れの隙間から、全部見ていた。
私は、私は。あの日ひたすらに、無力だったのだ。
だから、今になって帰ってきた家族を前に、拒絶することなんて、できやしない――。

「くそっ……来たな……!」
 猟兵たちを前にして。少女と見まごう女、川上千鶴の影から現れたのは、彼女の弟川上信也――その、リビングデッド、否、その感情と知識と記憶と行動の習性を完璧に引き継いだ、それでも似て非なるもの「スワンプマン」。
「ねえ、姉さん」
 川上信也の顔をしたスワンプマンは、言う。
「――姉さん、今度は姉さんが、俺を助けてよ」
 今度は姉さんの番だ。
千鶴は一瞬だけ悲しそうな顔をして、そして、ゆっくりと頷いた――
「……うん。……そうだね、信也」
========================================
第二章 ボス戦 「スワンプマン」

 おめでとうございます。猟兵たちの活躍によりゾンビたちの群れは倒され、川上千鶴とのコンタクトが可能になりました。
 ですが、それは同時に彼女の弟、川上信也――リビングデッド型オブリビオンです――との戦いの始まりでもあります。
 以下に詳細を記します。
 
「スワンプマンについて」
 川上千鶴の亡き弟・川上信也の記憶と知識・行動の習性、すべてを完璧に引き継いだリビングデッド型オブリビオンです。
 指定されたユーベルコードの他にも、腰に差した刀などで戦いますが、受肉しているため行動は遅く、弱体化しています。
 その代わりに、攻撃にさらされそうになると宿主である千鶴を盾にしようとしてきます。
 スワンプマンを倒すのが、第二章の目的です。

「川上千鶴について」
 二十年前に自宅で暴漢に押し入られ、両親と弟を殺されています。
 特に弟の信也は、彼女を庇う形で目の前で嬲り殺しにされています。
 そのためか、信也の姿をしたオブリビオンから「助けて」と言われると、盾にされることも受け入れてしまいます。少なくとも何もしなければ、彼女ごとオブリビオンを殺すことしかできません。
 彼女は二十年前に起きた惨劇で何もできなかった自分自身を呪い続けていますが、同時に二十年経って家族が返ってきたことを受け入れ切れてはいません。どこか間違っているとうっすらながらも思っています。それが説得の鍵になるでしょう。
 彼女を説得し、オブリビオンを守ろうとする行動をやめさせて下さい。
 そうしなければ、彼女は猟兵の攻撃からオブリビオンを庇って死亡します。
 オブリビオンを体内に受肉させているため、彼女だけを遠くに避難させるという行動はとれません。彼女が移動すればオブリビオンもついてきます。
 彼女を死なせないよう、説得プレイングをお願いします。
 
「戦場について」
 引き続き高速道路の真ん中となります。
 第一章でゾンビを倒した結果、世界結界が働いていますので、未だ近づいてくる車などはいません。仮に一般人が戦闘を目撃したとしても世界結界の効果で「見間違いだ」と信じ込んでくれますので、一般人の対処は気にしなくて構いません。
 晴天、空が開けているので、空中戦を行うことも可能です。
 高速道路内のため戦闘に利用できるようなものは何もありませんが、戦闘の邪魔になるものも存在しません。
 種族体格差は種族体格差を利用するユーベルコードなどを使用しない限り影響ありません。巨人種族などでも変わりなく高速道路上での戦闘が可能です。

 第二章のプレイング受付開始は11/17(水)朝8:31からとなります。
 時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださってかまいません。
 マスターページに不採用となるプレイングについて明記しております。プレイング送信前にマスターページを一読してくださいますようお願いいたします。
 
 それでは、二十年前の惨劇の呪縛から一人の女を解放するための戦いを、始めてください。
========================================
金宮・燦斗
【灰色】
こーれはこれは。
つまりお姉さんを盾に取らないと戦えない哀れな死に体ということですねぇ。

……生前の弟さんは、そういうことをする人だったのですか?
貴方を盾に取り、私達の攻撃から生き長らえようとする。
それが貴方の弟さんだった、と。
(煽るなと怒られる)

無力だった? それは違う。
今、この瞬間を生きている事。それだけで十分。
サライの言う通り、道を踏み外さなければ無力ではない。
……それとも、なにか?
貴方はずっとこのまま、脇道に逸れていきますか?

砕牙の合図が出たら、UC【再び現れる夕焼けの殺戮者】を使ってと。
逃げる相手を延々と追いかけますよ。

――"弟"を使った所業を、私は永遠に許さない。


エーミール・アーベントロート
【灰色】
説得は兄さんとサライ君に任せて、私は敵の攻撃を引き受けます。
説得の邪魔はさせません。

でも兄さん、結構前に私を盾にしてたのは……言わないでおきましょうか。
なんなら今も盾にされてるような気がしますね。ええ。
あとで目一杯、こら! って叱ります……。

砕牙君のUC発動と同時に、見張り当番へ。
説得が進まないようでしたら、私も参加します。

弟さんって、とても優秀な方だったんですね。尊敬します。
……私がその立場なら、きっと、逃げ出してます。
命を張って誰かを守るって、勇気がいるんですよ。
でも、今の弟さんはどうですか?
レディを盾にしてますけど。

攻撃する時はUC【生まれる前に死んだ兄弟達】。はい弟達超優秀!


霧水・砕牙
【灰色】
なるほどねぇ……何もかもを引き継いでる。
となると、俺ら攻撃しないほうが良さそうだし、時間稼ぎは任せとけ。

サライと燦斗マンが説得中は俺とエミさんで敵さんの攻撃を引き受ける。
外套で視界遮ればなんとか回避は出来るかな?
攻撃はしないぜ。受け続けるだけだ。

説得が終わったら、UC【灰色の光】!
流石にイーゼル立てる暇がもったいない。片手で立てて銀の指輪から直接塗りたくる。
そして待機列を作成して、敵さんの身動きを止めさせて……。

お姉さん、アレをよーく見てくれ。
アレは、お姉さんが知ってる弟さんか? それとも、違う何かか?
もし違う何かだというのなら、俺達はアレを排除する。

決断してくれ。倒すか、倒さないか。


木々水・サライ
【灰色】
俺はオブリビオンに両親ぶっ殺されて……戻ってきちまってるもんなぁ。

死んだやつは何をしても死んだやつだ。
蘇りなんてもんは、理からも外れちまってる。

これが、この状況が、正しい道だと本当に思っているのか?
弟が作ってくれた道を踏み外すつもりか。
アンタも一緒に死んでいたかもしれない状況で出来た道を。

俺もアンタと同じ状況だった。
でも俺は父さんと母さんが作った道を踏み外さないように、今を生きてる。
そうすることが、2人への弔いだと思っているから。

アンタも弟が作ってくれた道を大事にしろ。
それがアンタを守って死んだ弟への餞だ。

砕牙の問いかけ後、UC【願い叶えるチビサライ軍団】で家を建てる。
そこで待ってな。



●あの日には言えなかった言葉を、だから私は今になって言う
 私は、弱かったから。狂ってしまうことも出来なかった。
復讐なんてできやしない。だって犯人は死んでしまったのだから――勝手に、事故に遭って。
「犯人死亡」その一言で、ただただ私だけを取り残すように、事件は収束していった。
泣き暮らすことも憤り続けることも出来ない私を置いて、いつの間にか二十年が経っていた。
私ができたのは、この二十年間することが出来たのは、あの日の私の無力を呪い続ける事だけだった。
……今になって、信也が帰ってきたことに……私は、喜びを感じられていない。

「こーれはこれは。つまり、お姉さんを盾に取らないと戦えない哀れな死に体ということですねぇ!」
『……く……そっ!』
 川上信也――スワンプマンが鞘から引き抜いた刀を、燦斗に向けて振り下ろす。型など何も出来ていない、素人同然の刀捌きだ。燦斗にとっては見てから十分躱せる刃だった。
「ああもう燦斗マン、あんま煽んなって!」
 砕牙は燦斗の言葉を諫め、頭をがりがりと掻く。
「なるほどねぇ……何もかもを引き継いでる。――となると、俺ら攻撃しない方がよさそうだし、時間稼ぎは任せとけ」
「私と砕牙君が敵の攻撃を引きつけます、その間に千鶴さんの説得はお願いしましたよ、兄さん、サライ君!」
 エーミールが前に出て、スワンプマンの刃をグラスナイフで受け止める。砕牙は宵闇の外套を翻して、スワンプマンの攻撃を避け続ける。二人とも、スワンプマンに攻撃を仕掛ける素振りは見せず、躱し続けるだけだ。川上信也に攻撃を仕掛ければ、信也が姉の千鶴を盾にしようとすることがわかっていた故のことだった。
 燦斗がかつん、と靴音を立て、千鶴の前に立つ。
「……生前の弟さんは、そういうことをする人だったのですか?」
「そういう、こと……」
 体を強張らせながら、千鶴が燦斗の言葉を繰り返す。
「ええ。貴方を盾に取り、私達の攻撃から生き長らえようとする。それが貴方の弟さんだった、と――」
「ち、がう、ちがうの、信也は、信也は……」
「ああ!だから煽んなって言ってんだろ、親父ィ!」
 サライの怒号が飛ぶ。その後ろでスワンプマンの刃を躱しながら、エーミールはこっそり思う。
(でも兄さん……結構前に私を盾にしてたのは……言わないでおきましょうか)
 何なら今も盾にされてる気がする。広義で言えば現状も盾にされてると言えるのでは?
(あとで目一杯、こら!、って叱りますか……)
 「こら!」で済んでしまう。もっと怒っていいと思うよ。しかしエーミールにとって兄たる燦斗は絶対のもの、『兄さんのいうことはすべて正しいのです!』の理念の持ち主なので、少々どころか激烈に兄に甘くなっても仕方がない。こら!の一言も言えるかどうかわからない。言えないんじゃないかなと見ている。
 煽るな、燦斗を怒鳴ったサライは、目の前の少女――にしか見えない女――の境遇に、自分自身のそれを重ね合わせる。
(俺はオブリビオンに両親ぶっ殺されて……「戻って」きちまってる、もん、なぁ)
 はぁ、と深く息を吐き出して、サライは千鶴に言葉をかける。
「――死んだ奴は、何をしても死んだ奴だ」
「……、っ」
「蘇りなんてもんは、理からも外れちまってる――なぁ」
 千鶴の肩を掴もうとしたサライの手は、空を切った。震える千鶴の肩が細すぎて、絞め殺しそうに思えたからだ。
「これが、この状況が、正しい道だと本当に思ってるのか? ……弟が作ってくれた道を、踏み外すつもりか」
「――道?」
「ああ、アンタも一緒に死んでいたかもしれない状況で。アンタ一人は生き残らせるって、そうやって出来た道を作ったのは、アンタの弟だろ」
「……信也……信也は、私を、庇って」
「俺もアンタと同じ状況だった。でも俺は、父さんと母さんが作った道を踏み外さないように、今を生きてる。……そうすることが、二人への弔いだと思っているから」
「弔い……信也が、作った……道を」
「アンタも、弟が作ってくれた道を大事にしろ。それがアンタを守って死んだ弟への餞だ」
「……信也は、私を庇って殺されたの……!私は無力で、だから、何もできなくて……!だから……!」
「だから今、あなたが盾になってもいいとなんていう道理はありませんよ」
 燦斗が、サライの後を続けた。
「無力だった? それは違う。今、この瞬間を生きている事。それだけで十分。――サライの言う通り、道を踏み外さなければ無力ではない」
「わたし、私は……」
 千鶴の足ががくがくと震える。
『やめろ!そいつらの話を聞くな、姉さん!』
「おっと、お前の相手はそっちじゃないぜ」
「ええ、私たちですからね!!」
 スワンプマン――オブリビオンが川上信也の顔と声で叫び、千鶴へ声を届かせまいとするのを、砕牙が、エーミールが、前に出て防ぐ。彼らは防波堤だ。時が来るまで、千鶴を守るためにも、そしてスワンプマン自身の自己強化をさせないためにも、相手にに攻撃はしない。ただ、スワンプマンからの攻撃を躱し続ける。
 顔を紙のように白くする千鶴の瞳を覗き込んで、燦斗は言う。
「……それとも、なにか? 貴方はずっとこのまま、脇道に逸れていきますか?」
 ――弟さんが守ってくれた、あなたの道を逸れていくのですか。
千鶴の背中を押すように、エーミールの言葉が燦斗の後に続く。
「弟さんって、とても優秀な方だったんですね。尊敬します」
 ……私がその立場なら、きっと、逃げ出してます。
千鶴は知らないけれど。「兄」を最上のものと見做すエーミールの言葉は、ずっと真実味を帯びた言葉だった。
「命を張って誰かを守るって、勇気がいるんですよ。……けれど、今の弟さんはどうですか? レディを、盾にしてますけれど」
「……信也……私、私は……」
『姉さん……!』
 スワンプマンの、川上信也の顔が引き攣りながらも、尚も千鶴へと縋ろうとする。
彼をそれ以上近寄らせないために、砕牙はキャンバスを取り出した。イーゼルを立てる暇も今はもったいない。左手だけでキャンバスを持ち、銀の指輪から出てくる絵の具でもって直接絵筆でべたべたとキャンバスに塗りたくられる灰色。それが砕牙のユーベルコード、【灰色の光】。
 灰色の光と風が、スワンプマンと川上千鶴の間に――越えることのできない無限のの人垣(待機列)を作り上げる。屈強な、顔の見えない、恐らくは人々の群れ。それは鉄壁だ。決して割り込めない。割り込んではいけない。看板を持った最後尾は酷く、遠い。
『く……そっ……!姉さん、姉さん……!』
「お姉さん、アレをよーく見てくれ。……アレは、お姉さんが知ってる弟さんか? それとも、違う何かか? もし違う何かだというのなら、俺たちはアレを排除する」
「……!」
『姉さん、姉さん聞いてくれ!俺は……』
「――決断してくれ。倒すか、倒さないか」
『……姉さん!』
 俯いていた千鶴の顔が、ゆっくり、ゆっくりとオブリビオンの方を向いた。その両目には涙が溜まっていた。
「……信也、私」
 絶望に染まっていた川上信也の顔が、晴れる……けれどその笑みは、次の千鶴の言葉で打ち壊されることになる。
「私、信也が帰ってきても、嬉しくなんてなかったの」
『姉……さん……?』
「父さんがいても!母さんがいても!ちっとも喜べなかった!たとえ若返ったって!みんなのいない二十年間は戻ってこないの!ただこの不自然な生活が怖かった!私の心だけ大人になって、父さんも母さんも信也も、あの頃とちっとも変わらない不自然な暮らしが、毎日怖くてたまらなかった!!」
『姉……さ……』
「……さよなら、信也」
『姉さん!!』
 川上信也の顔が、声が――生前の川上信也をそっくりそのまま引き継いだ心が、姉の拒絶の言葉に悲痛な声を上げる。
『そん、な……俺は……』
 よろめくスワンプマン。燦斗のユーベルコード【再び現れる夕焼けの殺戮者(コール・アゲイン・アーベントロート)】が発動し――燦斗の「過去」の影、殺人鬼エーリッヒ・アーベントロートが現れる。姿は燦斗と同じものだ。けれどその表情は酷薄で、残忍な、殺戮者の表情で――。
「――“弟”を使った所業を、私は永遠に許さない」
 燦斗の冷たい声が、スワンプマンの耳朶を突き刺した。
「……来い、チビ共」
 サライが【願い叶えるチビサライ軍団(ウィッシュ・カム・トゥルー・モノクローム)】を使い、大量の彼の小さな複製義体を呼び出す。チビサライたちが作り上げたものは、高速道路上に立つ一軒の家。
「そん中で待ってな」
 サライは千鶴を家の中に押し込める。チビサライに手を引かれて案内された寝室のベッドに座り込み、千鶴は涙を零した。
「……ごめんなさい、信也。ごめんなさい、ごめんなさい、薄情な姉で、ごめんなさい……!!」
 だから千鶴には見えない。家の外での、弟の――スワンプマンの最期を。
無数の三輪車と自転車に乗った子供の幽霊、エーミールの【生まれる前に死んだ兄弟達(リローデッド・アーベントロート)】に轢き殺され、ブロックノイズに塗れて消えていったのを。
 エーミールの「はい弟達超優秀!」の声も、聞こえることはなかった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『かつての事件の真相』

POW   :    過去の新聞や雑誌を片っ端から調べ、不自然な点を探す

SPD   :    現場周辺を調べ、それらしい噂話の断片を探す

WIZ   :    関係者を探し、「常識」によって修正された証言から真相を推理する

イラスト:乙川

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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 川上千鶴に受肉した、亡き弟・川上信也のリビングデッド型オブリビオン「スワンプマン」は猟兵たちによって打ち倒された。
 けれど、それで川上千鶴が罹患した「運命の糸症候群」が解消されたわけではない。
 現在の千鶴の肉体年齢と実年齢の間には、実に二十年もの隔たりがある。
 これを解決しなければ、いずれまた彼女の中にオブリビオンが受肉してしまうこともあり得るという。そのためには、川上千鶴が抱える過去の事件への執着あるいは追憶を解消しなければならない。
 
 弟も、両親にも別れを告げた川上千鶴は言う。
「あの事件のあと、犯人たちは死んでしまった」
 グリモア猟兵は言っていた。「死んだ犯人がゴースト化したのか、事件は急速に収束していった」と。
 二十年前の事件の真相を今になってどう調べるのか?
 しかも、犯人たちは死んでいるという――
「もしかしたら、僕たちが力になれるかもしれません」
 そう言ったのは、シルバーレインの世界の能力者集団「銀誓館学園」だった。

猟兵たちが旅団を作るように、銀誓館学園の能力者たちは「結社」を作っていたらしい。
結社「新聞部」――そう名乗った彼らは、過去の新聞記事や雑誌の記事のみならず、2006年からの銀誓館学園の能力者たちが解決した事件をつぶさに記録していた。
この資料の山の中からなら、二十年前に起きた事件の犯人が、死後どうなったかもわかるかもしれない――。
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第三章 「かつての事件の真相」

 おめでとうございます。猟兵たちの活躍により、リビングデッド型オブリビオン「スワンプマン」は倒されました。
 ですがまだ、川上千鶴の罹患した「運命の糸症候群」は治っていません。このまま放っておくと、能力者でも猟兵でもない一般人の彼女はまた同じような事態に巻き込まれてしまう可能性があります。
 これを防ぐために、彼女の心残り――執着と追憶――を解消し、千鶴を運命の糸症候群から解消してください。
 
 いかに詳細を記します。
 
 川上千鶴の心残りは「家族を惨殺した犯人たちが死んでしまったことについて」です。
 事故死であることも彼女は承知であり、犯人たちが死んだ場所である高速道路に毎日のように訪れていました。
 二十年も前の事であり、調べるにはシルバーレインの世界の能力者の組織「銀誓館学園」の力を借りることが出来ます。
 ここの「新聞部」という結社には学園創立以前、事件当時の資料も数多くあります。
 また、能力者たちが解決してきた事件について調べることも可能です。
 
 ●POWで調べる
  「銀誓館学園」の結社「新聞部」の資料を漁ることになります。
 ●SPDで調べる
  事故現場は今まで戦っていた高速道路です。戦闘中とは違い、世界結界の効果は及ぼされていないために車が通っています。ただし、チェックが甘いために人間が侵入することも可能です。
 ●WIZで調べる
  関係者は二十年前の人物となります。「世界結界」のためか、一般人は真相について「常識」によって修正された情報しか知りません。(オブリビオンによって人間が引き潰されても、常識によって認識を修正され「車に轢かれた」と思い込んでしまうのです)
  あるいは、銀誓館学園の学生に聞けば、先輩たちから過去に伝え聞いたことを話してもらえるかもしれません。
 
 「ゴースト=オブリビオン化の可能性」
 事件が急速に収束したため、「犯人が死んだ後にゴースト=オブリビオン化した」可能性が非常に高い確率であります。
 その場合、事件のあった場所では、犯人のオブリビオンが現れるかもしれません。
 この場合現れるオブリビオンは、とても弱い存在です。
 ……あるいはそれについても、これまで「ゴースト」を退治してきた銀誓館学園の生徒たちは知っている、伝え聞いているかもしれません。
 
 第三章のプレイング受付開始は11/24(水)朝8:31~となります。
 時間帯によっては上記タグやマスターページに受付中の文字がないことがありますが、時間を過ぎていればプレイングを送ってくださって構いません。
 マスターページを一読したうえでプレイングを送信してください。
 また、第三章の必要成功数は5と少ないので注意してください。

 それでは、事件を再発させないためにも――
 川上千鶴の心残り、過去の「惨殺事件殺人犯の死亡事故」の調査を行ってください。
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金宮・燦斗
【夕焼け】

うーん、私は調査担当ではないのですが。
はいはいわかりました、ちゃんと行きますよ。
まあ頭使うことはエーミールに任せますけどね。

聞き込みの前にUC【再び現れる夕焼けの殺戮者】で人手を増やしてと。
影の方は銀誓館学園での聞き込みを。私は一般人への聞き込みを。
同時に聞き込みをすれば、どこかでズレが生じるはず。
そして聞いた情報をエーミールに伝え、彼にまとめてもらって。

犯人のオブリビオンが現れたら、もうね、言ってあげますよ。
「殺人者の風上にも置けない雑魚が」ってね。
影の方で斬ります。私自身は今、殺戮者ではないのでね。

遠いところ、ね……。
それは死ぬなと言ってるのか?
だったら、私は死ぬことはないさ。


エーミール・アーベントロート
【夕焼け】

兄さん、ちゃんと動いてくださいね。彼らがいないんで。
私、アレ使ったら1分は昏睡になるんですよ。
なので兄さんいなかったら本当に大変なんですって。

兄さんから情報を頂いたら、UC【アルジャーノンエフェクト】で情報をまとめ上げます。
少しでもズレが生じている部分があれば兄さんに伝え、そこから更に聞き込みしてもらって。
気になる点があれば兄さんと2人で話し合ってから聞き込み情報を纏めます。

犯人のオブリビオンが現れたら……あ、兄さんが言ったし斬った。
まあ私も兄さんと同意見ですけどね。

……あー、兄さん。
あんまり遠いところに、行かないでくださいね。
まあ、兄さんは死にそうにないですよね。
……彼がいるから。



●彼女には復讐の権利があった。機会も、確かにあったのだ。
「うーん、私、調査担当ではないのですがねぇ」
 こきこきと首を鳴らしながら、燦斗は机の上に行儀悪く腰を掛ける。
ここは銀誓館学園の結社の一つ「新聞部」。銀誓館学園の能力者たちの一部有志によって作られた、これまでの新聞や雑誌記事のみならず、神秘絡みの事件の顛末をも記し記録している結社だ。こうしているのは、銀誓館のゴースト/オブリビオン討伐事件に対して「依頼報告書」が作成されないからである。顛末は赴いた者の記憶にのみ残り、伝聞によって残される。作成されないのであるが、多くの人は誰かが作っていると思っている。それを担うのがこの有志達「新聞部」なのであった。
「兄さん、ちゃんと働いてくださいね、彼らはもういないんですから!」
 若者二人は先に帰還してしまった。そしてこの先、エーミールが膨大な情報を扱うために用いるユーベルコード【アルジャーノンエフェクト】は使用する毎に一分間昏睡状態になる。
「なので、兄さんいなかったら本当に大変なんですって!」
 必死な声で訴えるエーミールに、燦斗はへらりとした様子で返す。
「はいはいわかりました、ちゃんと行きますよ。まあ頭使うことはエーミール、あなたに任せますけどね」
「それは任せていただきますけれども!」
「さて、それでは人手を増やすとしましょうか。聞き込みをするにしてrも、私ひとりじゃあ効率が悪くていけない」
 ユーベルコード【再び現れる夕焼けの殺戮者(コール・アゲイン・アーベントロート)】によって過去の自分の影「エーリッヒ」を呼び出した燦斗は、エーリッヒを学園に残して町へと出ていく。
同時に聞き込みをすれば、どこかでズレが生じる筈。特に世界結界の影響を受けて真実を歪められて認識している一般人たちと、その影響を受けずにゴーストの仕業を「それがゴーストによるもの」だと認識できる能力者たちとなれば、情報にゴーストが絡んでいれば全く異なる答えが返ってくるだろう、その燦斗の読みは間違っていなかった、のだが。
「二十年前に起きた殺人事件の、犯人の事故死について……ですか。それじゃあ僕たちだと、ちょっとお役に立てそうにないですかねぇ……」
 いやあすみません、お力になれるだろうって言っておいて。そう、銀誓館学園の生徒たちは困り顔で頭を下げた。
「な、どうしてですか!?」
 声を上げるエーミール。エーリッヒも目をぱちぱちとさせている。そこに投下されたのは、ちょっと目を逸らしたくなる理由だった。
「いや、だって二十年前……ですよね? 僕たち、その頃まだ生まれてないので……」
「ハァーッ!!ジェネレーション・ギャップッ!!」
 銀誓館学園は小中高一貫の教育機関であるが、大学は併設されていない。
つい先ごろ誕生日を迎えて三十五歳になったエーミールには痛いものがあった。うめくエーミールには聞こえなかったが、エーリッヒもちょっとうめいていた。エーリッヒと五感を共有している燦斗にもそれは聞こえていたので遠いところでうめいていたが、それはエーミールには聞こえなかった。ほとんどないも同然の兄の威厳は守られた。
「大丈夫、大丈夫です!わが校の卒業生には今も学園に残って教鞭をとってくださっている方々も沢山いますので!誰か、毒島先生とか海音先生とか呼んできてくれー!卒業生なら誰でもいいぞー!!」
 斯くして、卒業生の教師陣を投入しての聞き込みとなった。燦斗の方も燦斗の方で、聞き込み相手は最低でも三十代後半くらいの人じゃないと当時の事件をそもそも知らない……生まれてない……その時五歳……とかいうジェネレーションギャップによるダメージが半端なかったのでそこそこに捜査は難航した。その間にエーミールが三回ほど昏睡した。
「……あれ? それじゃあ、話がおかしくなりませんか?」
 得られた情報をまとめていく中で、小さなズレに気が付いたのが始まり。それは二十年前から最近までちょくちょく起こっているという、真夜中のインターチェンジでの車上荒らしと暴行事件。
「野犬や猪の仕業にしては、なんていえばいいんでしょうね。手口が人間臭いというか……?」
「ええ、ですが現地の方々はもちろん、警察でも野犬の仕業で片づけられているのですよねぇ」」
「犯人のゴースト化の可能性は極めて高いんですよね? だったら事故現場からほど近いこのインターチェンジで、生前と同じ悪事に手を染めている可能性も、十分ありますよ!」
 銀誓館の能力者たちも皆一様に頷く。――犯人は、今も罪を重ね続けている、と。
「彼らが真夜中に現れるというのなら、私たちも真夜中に参りませんと、ね」
 真夜中は、私たち(殺人鬼)の独壇場ですが!

 その日の夜。高速道路を抜けた先にある、小さなインターチェンジ。あるのはトラックドライバーを休憩させるための駐車場くらいだ。そして、ここは昼間のうちに銀誓館学園の能力者たちの手を借りて交通止めにしてある。駐車場内に停まっているのは置き去られたようなトラックばかり。
『チッ、何だよ今日は!しけてんなァ!!』
 腐った体を引きずって、濁声で男たちが喚く。
『なぁんでだぁれも居ねぇんだァ?』
『知るかよ、それよりさっさとヤることヤって……あぁん?何だぁ?』
 男――腐敗した体で動き回るゴーストが、歩いてくる三人の男に目を向ける。
『何見てんだよ、とっとと失せ――』
 失せろ、と。屍者が最後まで言葉を紡ぐことは叶わなかった。
血が凝った真っ黒な刃が、その頭を斬り飛ばしたからだ。――三人の男――エーリッヒの手に握られた、燦斗の黒鉄刀によるものである。
「殺人者の風上にも置けない雑魚が」
 凍えるほどに冷たい声で、燦斗は吐き捨てるように言う。
自らが手を下すまでもない。燦斗自身は今は殺戮者ではないのだから。
「手を出すのが早いんじゃないですか、兄さん。私も言いたいことがあったんですが」
「言えばいいじゃあないですか」
「兄さんがぜーんぶ言っちゃいました。私も兄さんと同意見ですよ」
『こ……の、野郎ォ!!』
 叫んだ屍たちをエーリッヒはずたずたに引き裂いていく。もう這い戻ってくることすらできないように、念入りに、念入りに切り裂けば、脆弱なゴーストたちはすぐに鏖殺された。
「ああ、口程にもない。この程度の塵屑が、ひとさまのご家族を奪ったばかりか二十年間も苦しめていたなんて――本当に、とことん吐き気がしますねえ」
 真夜中の冷たい風を浴びて毒づく燦斗。彼の後ろ姿を見ていた弟は、その時こみあげてきた感情を口から零す。
「……あー、兄さん」
「はい? 何です」
「あの、あんまり遠いところに、行かないでくださいね」
「遠いところ、ね……。それは「死ぬな」と言ってるのか? だったら、私は死ぬことはないさ」
「そ、そうですよね……!まあ、兄さんは、死にそうにないですもん、ね……」
 ――「彼」が、いるから。
兄の「息子」たる、この事件を途中までともに解決してきた青年の、白黒の髪を靡かせた後姿を兄のそれにかぶせ、そしてそれを振り払うようにかぶりを振って、エーミールは兄の後を追いかけた。

 ――後日。
「……ありがとう。ありがとう……私の代わりに、あいつらを、殺してくれて」
 事の顛末のすべてを聞いた川上千鶴は、涙を流しながらそう言って。
その涙が枯れるころには、彼女の姿は二十年前の十六歳の少女の姿から、三十六歳の妙齢の大人の女性の姿へと戻っていたという。
彼女が事故現場へ赴くことは、もう二度とない。
そこにいた彼女の家族の仇は、もうどこにもいなくなったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月27日


挿絵イラスト