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逆接のライスメキアⅠ

#シルバーレイン #銀の五月雨

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#シルバーレイン
#銀の五月雨


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●銀の雨が降る
「その歌はまだ聞こえるか」
 問いかけに応えるように唸りを上げる回転動力炉。詠唱の力を増幅され、若き能力者たちは青春を捧げる。
 死と隣り合わせの青春。
 確かに自分たちの生命は脅かされている。けれど、戦う力を保たぬ者たちは抵抗すらできない。だからこそ、その恐れを踏み越えて若き能力者達は戦うのだ。

 生命賛歌はまだ聞こえる。
 そして、こうも告げるだろう。
「その歌はまだ歌えるか」
 風に揺れる亜麻色の髪の壮年の男が言う。
 黒い瞳に映る銀色の雨が降りしきる世界にあって、超常を忘れさせる『世界結界』を見つめている。

 戦い抜けた者たちの前に平穏が訪れるというのならば、平穏を過ごす者たちの前にまた戦いが訪れるのもまた道理である。
「君は嘆くか。また戦いの日々が、あの死と隣り合わせの青春が繰り返されるのかと」
 その問いかけに君はなんと応えるだろうか。
 躊躇いも、恐怖も、不安も、何もかも一瞬。
 そう、きっと能力者とはそんな者たちの集まりである。

 彼らが駆けた青春の日々。
 謳うは生命賛歌。
 聞こえるか、その歌が。
 ならば、再び往こう。新たに目覚めた力と共に――。

●鎖無き地縛霊
 景勝地として名高い海岸線。
 そこに存在しているかつての研修施設兼宿泊施設の廃墟は、『呪いの場所』として知られている。
 そもそも完成するまでの経緯からしておかしかったのだ。
 建設時に起こった不可解な事故や、請負業者の不祥事、ストライキや台風の被害などによって完成は遅れに遅れていたし、完成したらしたで建設時の汚職や談合や、手抜き工事や強度偽装が発覚する。
 そんな風評がまるで図ったかのようなタイミングで起これば、やがて施設は閉鎖に追い込まれていくのは当然であったことだろう。
 問題の追求は止まないどころか、加速していく。まるで何者かが、この施設に執着しているかの如く、あらゆる存在を排斥しようとしているかのようでもあったのだ。

 しかし、この問題は当時の建設責任者の自殺と、いくつかの交通事故による承認の事故死によって闇に葬り去られる。
 だがそれでこの施設に残された多くの負の感情が消えたわけではない。
 あらゆる運命を反転させる力が渦巻き、近づく者を『極端な不運』が襲う。施設の天井が崩落する、床が抜ける。風雨に晒された鉄骨が落ちてくる。
 ありとあらゆる不運が襲い、足を踏み入れた者を抹殺しようとするのだ。

 そんな施設の中で蠢く影がある。
「――」
 声なき声。
 蠢く陰はまるで巨大な芋虫のようであったが、頭部であろう部分にある白い顔は薄気味悪く微笑んでいる。まるで地蔵の顔の如き頭部から滴る粘液はゆっくりと地面に落ちてい消えていく。

「裏切りは良くないことだ。唾棄すべきことだ。あんなにも尽くしたのに。あんなにも献身を持って私は生命すら捧げたというのに」
 それは巨大芋虫のような影から紡がれた言葉。
 地縛霊型オブリビオン『地獄地蔵』より放たれた言葉だった。その地蔵の如き白面から紡がれる言葉は怨み辛み。
「私の生命を持って完成させた。この場所を奪わせはしない。奪わせはしない。これが裏切りの代価――」

●シルバーレイン
 グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
「お集まりいただきありがとうございます。新たな世界シルバーレインにおける事件をお伝えいたします」
 彼女は頭を下げ、新たな世界で引き起こされるオブリビオン事件を説明する。
 かつて猟兵と同じく人々のために戦った能力者たちが存在する世界、シルバーレイン。
 ゴーストと呼ばれる脅威と戦い、勝利した地球に再び『銀色の雨(シルバーレイン)』が降り注ぎ、かつての脅威がオブリビオンとなって蘇り始めているのだという。

「生命根絶を目的とするゴーストとの戦いを集結させた銀誓館学園ですが、今まさにオブリビオンによって過去の戦争が再現されようとしています。今回私が予知した、廃墟に現れるオブリビオンもまた切っ掛けに過ぎないのでしょう」
 とある嘗ての研修施設兼宿泊施設であった建物の廃墟。
 そこに『地縛霊型オブリビオン』が出現しているのだという。
「『地縛霊型オブリビオン』とは、そのオブリビオンが固執する場所に何者かが足を踏み入れると自動的に出現し、速やかに殺す』という特性を持つ存在です」
 この『地縛霊型オブリビオン』をこのまま放置していれば、遠からず人が踏み込み新たなる犠牲者を生んでしまうのだと言う。

 ならば、その犠牲者の代わりに猟兵たちが、この廃墟に踏み込み『地縛霊型オブリビオン』を打倒すればいい。
「この廃墟には『地縛霊型オブリビオン』に引き寄せられた雑霊のオブリビオンの群れが存在しています。まずはこれを打ち払い、廃墟の奥へと進みましょう。ですが、この場所は『呪いの場所』となっており、踏み込んだ瞬間時空が歪み迷宮化してしまうのです」
 ナイアルテはあまりの現象に不安そうな顔をしている。
 それもそのはずである。空間そのものを歪ませ迷宮と化すなど、とてつもない怪奇現象である。
 これを『ゴーストタウン現象』と呼ぶようである。

 この廃墟に起こる『ゴーストタウン現象』は足を踏み入れた者に『極端な不運』を齎すものである。
 しかも、この廃墟に固執している『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに『不運』が猟兵達を襲うのだ。
「これを躱し、この廃墟の中心にいるであろう『地縛霊型オブリビオン』を打倒しましょう」
 ですが、とナイアルテが続ける。

『地縛霊型オブリビオン』とは、理由なく場所に取り憑くことはないのだ。
「必ず、この廃墟に『地縛霊型オブリビオン』が取り付いた理由があるはずなのです。もしも、共感や説得が可能ならば……弱体化することができるかもしれません」
 理由なき執着などない。
 ならば、その執着の理由を解きほぐすこともまた猟兵たちの戦いの一つであろう。
 ナイアルテは猟兵達に再び頭を下げ、新たなる世界、銀色の雨が降る中へと送り出すのであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 銀色の雨が降る世界、シルバーレインにおいて廃墟に取り憑く『地縛霊型オブリビオン』を打倒し、『呪いの場所』となった廃墟を解放しましょう。
 放置しておけば『ゴーストタウン現象』は広がり、負の感情に寄って呼び寄せられた雑霊オブリビオンたちが溢れかえってしまうことでしょう。これを阻止するため、『地縛霊型オブリビオン』の所在を突き止め打倒するシナリオになっています。

●第一章
 集団戦です。
『地縛霊型オブリビオン』の放つ負の感情に引き寄せられた雑霊オブリビオンの群れとの戦いになります。
『誘蛾少女』と呼ばれる異形なる雑霊オブリビオンの群れが廃墟より溢れ、皆さんを近づけさせまいと襲いかかってきます。

●第二章
 冒険です。
 廃墟の中に足を踏み入れると『ゴーストタウン現象』によって内部は迷宮と化し、そればかりではなく皆さんが『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに『極端な不運』が遅い、道を阻むでしょう。
 例えば、廃墟の天井が落ちてきたり、床が抜けたり。武器が防具の調子が悪くなったり。
 このような多種多様な不意の出来事に対処しながら皆さんは乗り越え、『地縛霊型オブリビオン』を目指さなければなりません。

●第三章
 ボス戦です。
『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』との戦いになります。
 地縛霊化したことにより通常のオブリビオンよりも強化されている状態になります。この廃墟に固執している以上、地縛霊化による強化は凄まじいものであり、強敵です。
 共感や説得によって強化の解除が行えるかもしれません。

 それでは、シルバーレインにおける嘗ての脅威が再び蘇る事件。それを解決するために戦う皆さんの物語の一片となれるように、いっぱいがんばります!
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第1章 集団戦 『誘蛾少女』

POW   :    汚泥弾
【汚泥の如き呪詛塊】を放ち、命中した敵を【呪詛】に包み継続ダメージを与える。自身が【汚れた姿を】していると威力アップ。
SPD   :    凶兆の化身
自身に【凶兆のオーラ】をまとい、高速移動と【疫病】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    穢れの気配
【ケガレ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【疫病】を誘発する効果」を付与する。

イラスト:七夕

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嘆きに呼応するように雑霊たちが廃墟に集まってくる。
 埃と汚泥に塗れた存在、それが『誘蛾少女』と呼ばれる雑霊オブリビオンである。彼女たちに明確な意志は多くはない。
 あるのは己以外のすべての『醜いもの』を己以上に汚し虐げることでしか、その暗い欲望を満たすことはできない。
「汚しましょう。もっと、もっと。世にも汚らしいものたちを。欲望という汚泥に塗れた者たちには何をしてもいい。何をされても文句はいえない。『醜いもの』はその程度の価値しかないのだから」
 彼女たちの言葉に真実はない。
 自分たち以外のすべてを『醜いもの』と断じ蔑む。

 そこに一切の合理も、真理もない。
 あるのはただ他者を貶め、己の位を高めたという錯覚のみ。
 何も変わらず、されど己が変わることを拒否する存在。彼女たちは次々と廃墟より、猟兵たちの道を塞ぐように溢れるように湧き出すのだ――。
蛇・水聡
懐かしいわね~この光景
ホント、色々と勘弁して欲しいとは思うけど…
こうやってまた第一線を張れるようになったんだし、
地道にコツコツ、解決していきましょうか!

ゴメンね~この中に入らせて欲しいの
だから、どいてくれないかしら?
…そう、ザンネン
大斧を手に敵へ突撃
今アタシに出来るのは、体当たりで勘を取り戻すコト…ってね!

斧を豪快にぶん回しながらの攻撃
目前の敵には脳天から振り下ろしての叩き斬り
呪詛が飛んできたら斧を盾にしたり回避したり…
やだっ、アタシを汚す気?!
UC発動、地面を破壊した事で敵の動きが鈍くくなる事を祈りつつ
出来た隙を狙って思いっきり攻撃
アナタ達の事、キレイにできなくて申し訳ないわ



 銀の雨が降る世界にあって、死と隣り合わせの青春を送った者たちの中には、もはや青春など遠く過ぎ去り日のことであった者も居ただろう。
 あの目まぐるしくも戦い抜けた日々は忘れようがない。
 己の人生において、それがどんな経験よりも得難いものであったことを知ることができたのは幸いであったことだろう。
「懐かしいわね~この光景。ホント、色々と勘弁してほしいとは思うけど……」
 死と隣り合わせの青春は過ぎ去った。
 けれど、それでもなお己の中に運命の糸がある。

 蛇・水聡(ベノムクランブル・f35305)は能力者として一線を引き、一般人として過ごしていた。
 けれど運命の糸症候群を患い、本来の肉体年齢から全盛期である17歳の肉体にまで引き戻されてしまった……言わば、ユーベルコードに目覚めた猟兵である。
「こうやってまた第一線を晴れるように成ったんだし、地道にコツコツ、解決してきましょうか!」
 手にしたバトルアックスの重みが心地よい。
 あの頃はわけも分からず戦うしかなかった。けれど、今は違う。
 目の前に『誘蛾少女』たちの群れがある。戦いに足が震えることなんてない。恐ろしい存在であることに変わりはないけれど。それでも戦えるだけの力が今、自分の中にあるというのならば、それを振るうことに躊躇いなどない。

「汚らしい。どうしてそんなに汚らしい存在なのに生きていられるの?」
『誘蛾少女』達は口々に他者を貶める言葉を紡ぐ。
 彼女たちは雑霊オブリビオン。『地縛霊型オブリビオン』に引き寄せられ、彼女たちの背にある廃墟に集まってきた存在だ。
「ゴメンね~この中に入らせてほしいの。だから、どいてくれないかしら?」
 水聡は敢えて軽く言う。
 話し合いも戦いも自分が決めることだ。
 言葉で敵が退いてくれるのならばよし。

「汚物が、汚らしい汚物が口をきく。私達はあなた達を認めない。貴方たちのような汚いものを認めない」
『誘蛾少女』達から放たれる汚泥は呪弾のようにはじき出され、水聡を襲う。
 それらの弾丸の軌跡が水聡の瞳には見えている。
 一般人であれば躱すこともできない。抵抗することもできないものだ。
 けれど、すでに全盛期の力を取り戻している水聡にとっては躱すことなど容易いことだ。
「……そう、ザンネン」
 手にした大斧、バトルアックスの柄を握りしめ、単身突撃する。
「今アタシに出来るのは、体当たりで勘を取り戻すコト……ってね!」
 豪快に振り回した大斧が呪弾を吹き飛ばし、大斧の刃を盾にして突き進む。愚直。確かに愚直だ。けれど、体が動く。自在に、自由に。

 徐々に取り戻してきていることを実感する。
 戦いを楽しむわけではない。けれど、言いようのない高揚感が襲ってくるのもまた事実。
「やだっ、アタシを汚す気?!」
 水聡の瞳がユーベルコードに輝く。
 どれだけ汚泥を呪いの弾丸として放つのだとしても、汚せぬものがこの世にはあるのだ。
 掲げた大斧の一撃が大地を叩きつけ、周囲のアスファルトを吹き飛ばす。
 それらが弾丸と成って『誘蛾少女』達に叩きつけられる。それで倒せる相手でも、傷つけられる相手でもない。

 わかっていることだ。
 けれど、そのアスファルトの破片は『誘蛾少女』達の視界を遮る一手。
「アナタ達の事――」
 疾走る。軽やかに。華麗に。大地を蹴った己の体が空中に飛び上がり、構えた大斧の一撃がグランドクラッシャーのユーベルコード、その輝きを湛えて叩きつけられる。

「キレイにできなくて申し訳ないわ」
 こうなったらとことんやってやろうじゃないと、不敵に笑う水聡は振るう大斧と共に戦線への復帰と、己の全盛期の肉体が戦いに馴染んでいくのを感じる。
 今再び青春を。
 などと言うわけではないけれど。

 それでも能力者として、猟兵としての第一歩を水聡は踏み出し、『誘蛾少女』たちを蹴散らしていくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーニアルーフ・メーベルナッハ
何処か懐かしさを感じる場所、ですね…。
このような領域を、幾つ探索してきたでしょうか。

…巣食うものの姿に見覚えはあれど、その性質はかつてと別物。けれど、為すことは同じ。
その妄執、打ち祓ってみせましょう。

ヴァイス・リートを以て白燐蟲達を操り(【蟲使い】)、【誘導弾】として敵へ射出するのが基本攻撃となります。
敵が放つ汚泥弾は【衝撃波】にて相殺を試み、浴びてしまった呪詛は、この身に白燐蟲を纏わせて【浄化】します。

敵が多いようであれば、白燐拡散弾を放って一掃を試みようかと。
只のゴーストでしたら今を生きているとも言えましょうが、オブリビオンとなった今は完全に過去の存在。在るべき処に、お還りください。



『地縛霊型オブリビオン』が執着する場所は、いつしか『呪いの場所』と成り、人を遠ざける。
 そして『地縛霊型オブリビオン』に惹きつけられた雑霊たちが跋扈し、『ゴーストタウン』へと姿を変えていく。
 この廃墟もそうなる運命であった。
 けれど、そうはならない。
 何故ならば、此処に猟兵たちが来るからだ。嘗てそうであったようにシルバーレインに生きた能力者たちも同様にそうしただろう。そうせざるを得なかった背景があったのだとしても、それでも超常を認識することのできぬ者たちのために戦ったのが彼らだ。

 そんな彼らの中には『運命の糸症候群』によって、肉体を全盛期にまで引き戻された者たちがいる。
 それが、ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)である。
 銀誓館学園の二期生にあたる彼女は学園に入学した当初にまで肉体年齢が戻っている。彼女の全盛期が其処なのであろう。
「何処か懐かしさを感じる場所、ですね……このような領域を、幾つ探索してきたでしょうか」
 戦い抜けた青春の日々を思い出す。
 辛く悲しいことばかりではなかっったのだ。あの学園で過ごした日々は、未だニーニアルーフを突き動かしてくれる。

 誰かのために。
 その戦いをすることこそ彼女にとって最も大切なことであったことだろう。
「醜い。何処まで言っても醜い。どうしてそんな醜悪な姿で生きていられるのでしょう。何故? どうしてそこまで汚らしく生き意地を晒せるの?」
『ゴーストタウン』と化した廃墟より溢れるようにして現れる『誘蛾少女』たちの群れ。
 雑霊オブリビオンたちの姿をニーニアルーフは見たことが在った。
 探索し、踏破してきた領域で見た覚えがある。
「……その性質はかつてと別物。けれど、為すことは同じ。その妄執、打ち祓ってみせましょう」
 縦笛の形をした蟲笛が鳴り響き、彼女の周囲に白燐蟲を操り、弾丸として解き放つ。
 放たれた汚泥の呪弾と激突し、衝撃波が生み出されていく。

「敵が、多い……!」
 溢れる雑霊オブリビオン『誘蛾少女』たち。
 数も勢いも尋常ではない。この廃墟に執着する『地縛霊型オブリビオン』の強大さを思い知らされる。
 けれど、彼女は戦場に足を踏み入れたのだ。
 どれだけ恐れが彼女を襲うのだとしても、どれだけ数の不利があるのだとしても。それでも彼女の心にあるのは諦めではない。

「只のゴーストでしたら今を生きているとも言えましょうが、オブリビオンとなった今は完全に過去の存在」
 オブリビオン化したゴーストたち。
 かつて戦ったものであれど、オブリビオンという過去の化身となったのならば、話は別である。
 此処ではない何処か。
 骸の海こそが彼女たちの在るべき場所なのだ。

 彼女の瞳がユーベルコードに輝き、飛び散った汚泥がニーニアルーフの体を汚したのだとしても、瞬時に白燐蟲が纏い浄化していく。
「何故汚れない。醜いはずなのに! 私達よりも!」
 呪詛の如き言葉をニーニアルーフは振り払う。
 輝くユーベルコードは、裂帛の気合と共に白燐蟲の大群となって解き放たれる。

 白燐拡散弾(シュツルム・フォスフォール)。
 それは白燐蟲の大群を弾丸と成して放つユーベルコードである。
「在るべき処に、お還りください」
 放たれた白い燐光を放つ弾丸がニーニアルーフを取り囲む『誘蛾少女』たちを打ち据え、尽くを霧消させていく。
 汚泥に塗れ、呪詛でもって己たちの存在を貶める『誘蛾少女』。
 彼女たちにとって周囲の存在は汚し、醜いと断じるものばかりであったことだろう。けれど、銀の雨が降る世界は、また超常を覆い隠す。
 自分にその力があったのは宿命であったのかも知れない。

 ならばこそ、ニーニアルーフは再び白燐蟲と共に戦場を掛ける。
 今再び君の前に現れるのは、死と隣り合わせの青春――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
湧いて出たわね、ゴーストオブリビオン。
祓い清めは巫女(あたし)の領分。穢れの悉くを、祓い清めましょう。

敵が飛ばしてくる穢れは「呪詛耐性」と「オーラ防御」で無効化する。
この程度で本職をどうにかしようなんて片腹痛い。

さあ、祓ってあげましょう。
「結界術」「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「破魔」「浄化」「除霊」「仙術」「道術」で紅水陣。敵が湧き出してくる地点に結界として設置する。
銀の雨ならぬ赤い雨が降り注いで、あなたたちの穢れを洗い流してくれるわ。感謝してもらいたいわね。
さあ、妄執から解き放たれて骸の海に還りなさい。

前哨戦としてはこんなものか。引き続き油断なく進みましょう。



 汚泥に塗れた存在。
 それが雑霊オブリビオンである『誘蛾少女』である。身に纏った汚れは、疫病を誘発する力を伴って廃墟より溢れ出てくる。
 圧倒的な数の暴力。
 この『ゴーストタウン』と化した廃墟に『地縛霊型オブリビオン』が留まれば留まるほどに彼女たちは集まってくるだろう。
 他者を己より醜いと断じ、それを蔑むネジ曲がった性根。
 それが雑霊オブリビオンたる『誘蛾少女』たちが過去に歪められた性質であった。

「どうしてそんなに醜く生きることができるのですか? 生きていて恥ずかしくはないのですか」
 嘲笑する声が響く。
 彼女たちにとって己の姿はどうでもいい。ただ他者の姿を蔑み、こき下ろし、己たちの位置を相対的に上へと思うことのほうが大事なのだ。
 俯瞰してみることなど何一つないと、その身に宿した性根と同じように彼女たちは汚れを解き放つ。

「湧いて出たわね、ゴーストオブリビオン」
 それに対峙するのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)であった。
 穢は祓い清めるもの。巫女たる彼女にとって、それは領分であった。
「穢れの悉くを、祓い清めましょう」
 ぐるりと構えた薙刀を回し、張り巡らせた結界が『誘蛾少女』の放つ穢れそのものを遮断する。
「どうして汚れないのです? もっと汚濁に身を浸すべき。あなたは醜いのだから」
 他者を見下す『誘蛾少女』たちの群れをゆかりは見据える。
 どれだけ彼女たちが言葉によって己をこき下ろそうとしたとしても、ゆかりは構わなかった。

 彼女たちの放つ穢れは確かにきょうりょくであったかもしれない。
「この程度で本職をどうにかしようなんて片腹痛い。さあ、祓ってあげましょう」
 ゆかりは廃墟の出口を見つめる。
 構えた薙刀によって張り巡らされた結界がきしむ。
 数で勝る『誘蛾少女』たちならば、確かに時間をかければ自分の巡らせた結界も破ることができるだろう。
 けれど、それより先にゆかりは出口の一つに視線を巡らせる。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝き、真っ赤な血のような、全てを蝕む強酸性の雨が降りしきる。

 この銀の雨が降りしきる世界にあって、紅の雨は『誘蛾少女』たちの視界を赤く染めるだろう。
 あらゆるものを腐食させる赤い靄が立ち込めていく。
「銀の雨ならぬ赤い雨が降り注いで、あなたたちの穢れを洗い流してくれるわ。感謝してもらいたいわね」
 赤い雨が『誘蛾少女』たちの体を溶かしていく。
 腐食し、あらゆるものを溶かし尽くす。
 それが、紅水陣(コウスイジン)である。彼女のユーベルコードは、この多数との戦いにおいて力を発揮するだろう。

 これより先に控える『地縛霊型オブリビオン』こそが目指す敵。
 どれだけ数がいようとも雑霊オブリビオンである。彼女たちは次々と湧き出る度に赤い雨の中に腐蝕して消えていくしか無い。
 どんな妄執があろうとも、どんな思いがあろうとも、赤い雨は関係ない。
「さあ、妄執から解き放たれて骸の海に還りなさい」
 赤い靄の中をゆかりは進む。

「前哨戦としてはこんなものか」
 だが油断はならない。
 この廃墟の中はすでに『ゴーストタウン』。迷宮と化している。それを踏まえた上でゆかりは一歩を踏み出す。
 銀の雨を塗りつぶす赤い雨、それが生み出す靄の薙刀の紫の刀身が切り裂くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファランス・ゲヘナ
【心境】
「ここが銀の雨が降る…降った世界カ…。」
何故か懐かしさもあれば、目新しさもあル…不思議な場所だナ。

【行動】

地縛霊型カ…面白イ。オレ達猟兵が極楽へ送ってやるゼ。オレは宇宙海賊だがナ
宇宙海賊流にやってやるゼ。
龍星号に乗り込むト、スロットル全開で突っ込むゼヤッハー。廃墟の中だけどナ。
宇宙海賊が今更悪霊怨霊地縛霊なんぞ気にするかイ。それにオブビリオンだから祟らないシ…。
オレの華麗な『運転』テクと『第六感』で呪詛をカレイヒラメに回避。
もしくは『オーラ防御』ダ。
そしてそのまま当逃犯。
廃墟の中だろうがどこだろうガ、オレの宇宙バイクテクニックが火を噴くゼ。



「ここが銀の雨の降る……降った世界カ……」
 ファランス・ゲヘナ(     ・f03011)は新たな世界、シルバーレインの光景に何故か懐かしさを感じていた。
 いや、正確には違う。初めて見る目新しさもある。
 だが、それでも懐かしさを感じる。
「不思議な場所だナ」
 その不思議な感情のままファランスは目の前の廃墟に一歩を踏み出す。『ゴーストタウン化現象』によって、今や廃墟の中は嘗ての研修施設兼宿泊施設の名残すらない。
 外から見ただけでも、コンクリートは腐食し崩れ落ち、鉄筋が露出している。
 サビが浮いているし、崩落している天井だってある。ただそれだけでも危険極まりないというのに、この廃墟に執着する『地縛霊型オブリビオン』によって雑霊オブリビオンである『誘蛾少女』たちが引き寄せられているのだという。

「地縛霊型カ……面白イ。オレ達猟兵が極楽へ送ってやるゼ」
 その言葉に呼応するように廃墟より溢れ出るのは雑霊オブリビオンである『誘蛾少女』たちである。
 彼女たちが解き放つ呪いの弾丸は汚濁をまとってファランスへと襲いかかる。無数の弾丸を宇宙バイクである『龍星号』へと乗り込み、スロットル全開で突っ込むのだ。
「ヤッハー! これが宇宙海賊流ってやつダ!」
「なんと見苦しい。そんな醜い姿で何故生きていられる。どうしてそんなになってまで生きるのですか」
『誘蛾少女』たちがフルスロットルで走り込むファランスへと迫る。
 その言葉はすべてが真実ではない。彼女たちの言葉は他者を貶めるためだけのものだ。

 そこに真実か否かは関係ない。
 言葉が誰かを傷つけ、己達が見下しているという事実のみが必要なのだ。
「宇宙海賊が今更悪霊怨霊地縛霊なんぞ気にするかイ。それにオブリビオンだから祟らないシ……」
 ファランスにとって、本当に今更なのだろう。
 銀河の海を征く宇宙海賊によって、恐れるに値するのは、オカルトではない。エアー漏れやら、機材のトラブル。はたまた食糧事情と言った、あらゆるものだ。
 物資がなければ銀河では生きられない。
 宇宙空間ではたった一瞬の判断ミスが命取りになりかねない。

 だからこそ、悪霊やら怨霊など気にも止められないのだ。
「というわけで、すたこらっさっさなのダ!」
 ファランスの瞳がユーベルコードに輝く。
 見据えるは『誘蛾少女』たち。まるで廃墟には入れさせないというように分厚い壁のようにファランスを阻む彼女たち。
 だが、そんなことでファランスが止まるわけがない。
 そう、宇宙バイクとはぶち当て、轢いて、ぶっ飛ばすものである。

 呪詛なんて、それ美味しいの? とばかりにカレイヒラメのように地面を滑らせながらファランスは身に纏ったオーラと共に『龍星号』のスライディングでもって『誘蛾少女』たちを吹き飛ばし、一直線に廃墟へと飛び込む。

 そう、まさに当逃犯(タチサルモノ)。
 当て逃げってやつである。轢いた『誘蛾少女』たちがどうなったかなんて確認するわけもない。
 ただぶち当ててて、吹き飛ばして、そのまま立ち去る。
 それが宇宙海賊のやり方というやつである。
「廃墟の中だろうがどこだろうガ、オレの宇宙バイクテクニックが火を噴くゼ」
 もうやりたい放題である。
 ファランスの黒光りする球体スライムボディは、雑霊オブリビオンなどものともせずに廃墟へと飛び込んでいく。

 廃墟の暗がりに輝くは海賊帽子。
 それこそがファランスの誇りの象徴。
「さあ、行こうゼ、海賊らしく奪い取れるもんは全部かっさらっていくゼ!」
 ファランスはヤッハーと楽しげに笑いながら、廃墟の深部、その中心たる『地縛霊型オブリビオン』へと迫るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎

新しい世界もまた、わりと変わっとるの?だがまあ、やることは変わらんて。
興味深くもあるのだし。

はてなぁ、呪詛。別に構わんぞ?四天結縄に封じてしまうし、そもそも悪霊(四人分)を呪うには、相応の強さがなければの?

わしはいつものように、炎属性攻撃+指定UCつきの黒燭炎をなぎ払い、ついていくだけよ。
ここで足止めを食らうわけにはいかぬし、そもそも負けるわけにはいかぬのよ。

かつて若人たちが命懸けで守った世界を、守るためにもの。



 銀の雨降る世界。
 それがシルバーレインである。他世界と同じくオブリビオンによる侵食が起こることは変わりない。けれど、この世界はかつてゴーストによって生命が脅かされていた。
 世界結界によって超常を超常として認識できなくなる。超常を認識する者を能力者と呼び、銀誓館学園と呼ばれる育成機関が世界に果たした役割は大きい。
 平穏は訪れ、続くはずだった。
 けれど、オブリビオンはそれを許さない。
『地縛霊型オブリビオン』は、廃墟を『ゴーストタウン』に変えてしまう。

 その場に執着を持つ存在であり、その執着に寄って雑霊オブリビオンを引き寄せてしまうのだ。
 新たな世界にあってもオブリビオンの齎す災いは人を傷つけるものである。
 ならば、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)、その四柱の悪霊たちがやることは変わらない。
 興味深くはある。
 かつてこの世界で『地縛霊』と呼ばれるゴーストがいたこと。
 それは己達の存在と似通っているのかもしれない。『地縛霊型オブリビオン』が土地に執着するのであれば、四柱の悪霊たちが執着するのは如何なるものであったことだろうか。

「醜い。なんたる姿。あなた達には汚泥が似合っている」
 雑霊オブリビオンである『誘蛾少女』たちが口々に四柱を束ねた存在を貶す。
 彼女たちには見えているのだろう。
 今目の前にいる猟兵が一人ではないことを。内在する4つの悪霊。その姿を見て、醜いと断じるのだ。
 彼女たちにとって、それは自然なことなのだ。
 誰かを貶め、そうすることによって自分たちがより良いものであろうと思い込む。それが彼女たちの呪詛であった。

 放たれる無数の呪弾を見やり、『侵す者』は首をかしげる。
「はてなぁ、呪詛。別に構わんぞ?」
 どれだけ穢が、その呪いを籠めた弾丸が飛び込んでこようとも、己たちを束ねている結界は、オブリビオンに対する呪詛で満ちている。
 束ねられたのは祟り縄によって。
 ならば、人を汚泥に引きずり込むが如き呪詛など、彼らにとっては呪詛にすら足り得ないものであったことだろう。
「そもそも悪霊を呪うには、相応の強さがなければの?」

 なんの問題もない。
 廃墟より出る『誘蛾少女』たちを前にしても『侵す者』は変わることはなかった。
 手にした黒色の槍を回し、宿した炎が円を描いて空に迸る。
「ここで足止めを喰らうわけにはいかぬし、そもそも負けるわけにはいかぬのよ」
 その身に宿るは『武』である。
 天才と呼ばれた彼が振るう黒色の槍は、振るうだけでユーベルコードに昇華されるだろう。

 四天境地・『狼』(シテンキョウチ・オオカミ)は、己の槍を必殺の一撃に変えるユーベルコードである。
「一つの所に力を込めると……」
 ただ、それだけでいい。
 放つ刺突の一撃が『誘蛾少女』へと踏み込んだ瞬間ふるわれ、その胸を穿つのだ。
 一瞬。
 ただの一突きで『誘蛾少女』の体が貫かれ、砕けて霧消していく。
 凄まじい一撃に溢れる『誘蛾少女』たちが殺到する。けれど、それらの尽くを槍の一撃で持って吹き飛ばし、『侵す者』は廃墟に向かって疾走る。

 時間は短ければ短いほうがいい。
「かつて若人たちが命懸けで守った世界を」
 喪わせはしない。
 オブリビオンが過去より侵食するのだとしても、守られた平穏は未来につながっている。
 守らねばならない。
 死と隣り合わせの青春があったからこそ、至った場所が再び争いに巻き込まれ喪われることなどあってはならない。
 己たちが悪霊として存在する意義。
 それを賭けて、四悪霊たちはあらゆる呪詛を弾き飛ばしながら駆け込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜時・花
花も戦えるのです!
花は猟兵のお仕事もがんばるのです、もきゅっ!

……とはいえ、廃墟はちょっぴり怖いのです
ここは、研修施設兼宿泊施設だったところなのです?
ここではどんな研修をしていたのでしょう……?
ふわふわ浮きながら廃墟の中をうろちょろ
なにかありそうなところは、花の聖者の光で照らして見てみるのです

きゅぴっ!敵さん!
びびびびっくりなんてしていないのです!
花は不意打ちに弱くなんてないのです!
うっかりパチパチ静電気を放出したら敵さんがクロコゲになってしまったのです、もきゅー!

この調子で花は先に進むのです!(えへん)



 銀の雨降る世界にあって、変わったことがある。
 それは銀誓館学園の能力者たちにとっては、身近な存在であり、同時にこれまでになかった特徴を備えていた存在であった。
 モーラット。
 人の6分の1程度の大きさしかないふわふわの存在。
 常にふわふわと浮かび上がる姿は可愛らしいの一言に尽きるだろう。それがヒトの言葉を離すのだ。

 まさに超常。
 桜色のモーラットである桜時・花(桜信風・f35313)の名前はまさに彼女にぴったりの名前であったことだろう。
 そんな彼女が迷い込んだ……わけではない。普段は郵便屋の手伝いをしているが、彼女とて銀誓館学園の生徒であり、能力者である。
「花も戦えるのです! 花は猟兵のお仕事もがんばるのです、もきゅっ!」
 意気揚々とした声を上げるふわふわ。
 桜色のふわふわは、あまりにもこの廃墟に似つかわしい存在であったことだろう。

 ちょっぴり怖いと思いながらも花は廃墟へと近づいていく。
 この『ゴーストタウン』化した廃墟を放っておけば、隣接する街に『地縛霊型オブリビオン』によって引き寄せられた雑霊オブリビオンである『誘蛾少女』たちが溢れるだろう。
 それはさせてはならぬことを花は理解していた。
 己が恐ろしいと思う以上に、自分以外の誰かが傷つくのを見たくないから恐怖だって押し殺すことができる。
「ここは、研修施設兼宿泊施設だったところなのです?」
 この『ゴーストタウン』化した廃墟の内実は確かにそうである。

 けれど、今や廃墟となった研修施設兼宿泊施設は見る影もない。
 ふわふわと浮きながら近づいていき、暗がりを光で照らす。瞬間、其処に在ったのは汚泥に塗れた『誘蛾少女』たちであった。
 ぐるりと体をうねらせながら花の姿を認め、そのふわふわの桜色を指さして笑うのだ。
「なんて醜い。そんな毛玉のような姿で、何故生きているのです?」
 彼女たちの言葉に真実はない。
 ただ他者を貶めたいだけの言葉なのだ。そうすることで自分たちの品位が高いと思いたい。ただそれだけの言葉。
 けれど、そんな言葉でも刃となって人の心をえぐるだろう。それが彼女たちの持つ穢そのものであった。

 それによって強化された雑霊オブリビオンたちが花へと襲いかかる。
「きゅぴっ! 敵さん!」
 心臓が跳ね上がるほどの光景。
 けれど、どれだけ不意打ちをされたとしても花は自分に言い聞かせるのだ。
 びっくりなんてしていないと。
 どれだけ不意を突かれても自分は弱くなんてない。学園の先生だってそう言ってくれたのだ。

 ならば、こんな時、自分が何ができるかではなく、何をするかで真価を発揮するのだ。彼女の瞳がユーベルコードに輝いた瞬間、『誘蛾少女』たちは瞬く間に黒焦げにするパチパチ光る静電気によって打ちのめされる。
 そう、これがモラスパークである。
 パチパチとした小さな静電気であれど、触れた瞬間に花に襲いかかった『誘蛾少女』たちを黒焦げにしてしまうのだ。
「もきゅー!」
 とっさに出たユーベルコード。
 戦える。どれだけ見た目が可愛らしくても、どれだけ小さな体でも花は十分に戦える。

 教えられたことをしっかりと実践したおかげだ。
「やったぁ! この調子で花は行くのです」
 えへんとふわふわの体で胸を張り、花は廃墟へと進む。
 この先に『ゴーストタウン』のダンジョン、その恐るべき罠が待ち受けて居たのだとしても、花は立ち止まらないだろう。
 きっと自分は出来る。自分を信じてくれた人がいるように、花は自分を信じてふわふわと飛ぶのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サージェ・ライト
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、胸が大きくて忍べてないとかそんなことないもんっ!(お約束の前口上

誰ですか銀の雨でも忍べてないとか言った人
銀の雨に紛れてちゃんと忍べてますから!

っと前口上の間は攻撃しないとかいうルールが
通じる相手では無さそうです
さくっといきましょうか!

近寄ったり足を止めると不利になりそうです

カタール装備&常に動く感じで
誘蛾少女の横を駆け抜けつつ
【電光石火】で攻撃!

疫病とかどう防ぐんだ
というか私、疫病とかかかるんでしょうか?(首傾げ)
(バーチャルキャラクター)

よし、病気になったらナイアルテさんに看病してもらいましょうそうしましょう!
そんな感じでハッスルして戦います!



『ゴーストタウン』と化した廃墟に木霊するは雑霊オブリビオンの嘲笑であった。
 彼女たち『誘蛾少女』たちは他者を貶し、その尊厳を汚泥に塗れさせることをこそ至上としていた。
 そこに意味はない。
 あるのは己の存在を高みにという研鑽ではない。
 徹底的に他者を貶め、侮蔑することによって己の存在を確立したいというエゴそのものであった。

 そんな嘲笑を切り裂くのはお約束の前口上であった。
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、胸が大きくて忍べてないとかそんなことないもんっ!」
 銀の雨降る世界に響き渡るお約束。
 最後まで言えたことも久しぶりな気がする。しかしながら、『誘蛾少女』たちには、そんな前口上など意味がない。
 彼女たちにとってあるのは、他者を貶める言葉ばかりだ。

「あんな醜い姿でよくもクノイチを名乗れたもの。汚らわしい」
『誘蛾少女』たちの言葉に真実はない。
 だからこそ、サージェは気にする必要などなかったのだけれど、それでもそんなこと言われて黙っていられるほど彼女は大人ではなかった。
「誰ですか銀の雨でも忍べてないとか言った人。銀の雨に紛れてちゃんと忍べてますから!」
 誰も言ってない。
 困惑しか生み出さないクノイチムーヴに『誘蛾少女』たちもたじたじである。
 若干引いているとも言える。

 けれど、前口上の間は攻撃しないとか、そんなハウスルールが通じる相手ではない。前口上など知ったことかと攻撃してこられていたらやばかったが、サージェの謎の気迫に『誘蛾少女』たちは圧倒されているのだ。
「さくっといきましょうか!」
 サージェが構えたカタール。その剣呑なる輝きに『誘蛾少女』たちは漸くにして我にかえる。
 あまりのことに一瞬放心していたのだ。
「醜いもののくせに!」
 迸る凶兆のオーラをまとった『誘蛾少女』たちが一斉にサージェめがけて弾丸のように飛ぶ。
 
 彼女たちの汚泥は、それだけで疫病を齎す。
 そんな彼女たちの横を駆け抜けるは電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)の如きサージェの残影であった。
 その速度は『誘蛾少女』たちをして目で終えぬほどの速度。
 動くこと雷霆の如く。
 疾走るはカタールの剣閃。すれ違う度に斬撃が『誘蛾少女』たちに刻まれていく。
「なぜ、疫病が感染していかない。どうして」
「というか、私バーチャルキャラクターなので。コンピュータウィルスとかならまだしも」
 生物に対する疫病程度で彼女が負けるわけがない。

 電光石火の斬撃が次々と『誘蛾少女』たちを刻み、霧消させていく。
 生命の埒外たる存在、猟兵。
 そんな彼女にとって生物に対する疫病が通じるわけもない。けれど、サージェは思い至ったのだ。
 もしも、自分が疫病にかかり、体長を崩したのだとしたら……。
「……これは看病してもらえるやつなのでは!」
 閃いていた。
 まさに私利私欲。流石クノイチ。汚い。『誘蛾少女』達が言うところの汚いとは別の意味で汚い。

 これがクノイチのやり方である。
 病気になってよし。ならないでも良し。どっちに転んでも自分が得する方に流れをもっていく。
 サージェは明るい未来にハッスルしながら、廃墟の中へと意気揚々と飛び込んでいくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・沙夜
『ゴーストタウン』も久しぶりです……。
猟兵に覚醒してやっと依頼に出られるくらいになりましたけど、
ゴースト退治なら専門でしたし、やはり生まれた世界の方が動きやすいですね。

廃墟に近づいたら【破魔】の【結界術】を発動しさせて、守りを整えてから進みますね。

ゴーストの姿が見えたら【雑霊弾】を発動し、【誘導弾】を乗せて先制攻撃。
『誘蛾少女』の数を少しでも減らしてから、接近戦に持ち込みたいと思います。

接近戦は【雪斗】を繰って戦いますね。
「ゆきちゃん!」

群れへと突撃させたら、群れの中まで相手を切り裂きつつ侵入して【なぎ払い】を一閃して周囲を一掃。

そこからは【雪斗】と【繰り糸】で確実に倒していきましょう。



『地縛霊型オブリビオン』が執着する廃墟が姿を変えたのが『ゴーストタウン』である。引き寄せられるように集まる雑霊オブリビオンたちが溢れ出す廃墟は、霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)の知るそれと同じであったことだろう。
 今や銀の雨が再び降り注ぎ、世界結界すらも過去の化身へと変わり果てた。
 死と隣り合わせの青春を送り、それでもまた『運命の糸症候群』によって全盛期の姿にまで若返ってしまった紗夜。
「『ゴーストタウン』も久しぶりです……」
 感慨深いものがあるのかもしれない。
 猟兵に覚醒し、研鑽を積んできたことによって漸く戦いの場に出る事ができる。

 ゴースト退治ならば専門であったし、やはり生まれた世界でのほうが彼女は動きやすいと感じる。
 目の前の廃墟がどれだけ危険な場所であったとしても、彼女はきっと己の為すべきことを為すだろう。
 破魔の結界が張り巡らせ、己の身の守りを整えて一歩を踏み出す。
 廃墟の入り口に差し掛かった瞬間、彼女に襲いかかるは凄まじいスピードで迫る雑霊オブリビオン『誘蛾少女』であった。

 弾丸のように凶兆のオーラをまとって飛ぶ『誘蛾少女』の爪の一撃が紗夜の結界を引き裂く。
「汚い。こんなに汚らわしいものを張り巡らせて。忌々しい。どうしてそんなに生き汚いのです。生きている価値などありえないほどに汚れているというのに」
 空中を舞うようにして飛翔する『誘蛾少女』たちの群れ。
 彼女たちの言葉はどれも真実ではないだろう。ただ他者を貶めたいだけの言葉。なんの重みもない、ただ刺々しいだけの言葉だ。
 それを受けて傷つく者だっているだろう。けれど、それが『誘蛾少女』たちのやり方なのだ。
 徹底的に他者を貶め、己の位置を高めるものだと思い込んでいる。

「そんな言葉ばかり繰り返しているから……」
 紗夜の瞳がユーベルコードに輝く。
 残留思念になる前の雑霊が指先に集まっていく。
 それは練り上げられた霊気の塊となって、紗夜の指先から打ち放たれ『誘蛾少女』たちの体を貫く。
 雑霊弾(ザツレイダン)と呼ばれる霊気の弾丸は次々と『誘蛾少女』たちを貫いていく。
 けれど、廃墟から次々と溢れる『誘蛾少女』たちの数は尋常ではない。どれだけ紗夜の一撃が重くても、数で勝る雑霊オブリビオンたちは彼女を囲う。

「ゆきちゃん!」
 そんな彼女を護るようにして操り糸によって使役されるのは、死神の魂が籠もっていると言われるマリオネット『雪斗』であった。
 弾丸のように接近してくる『誘蛾少女』を受け止め、紗夜の手繰る糸によって彼女たちは次々と霧消していく。
 薙ぎ払う一撃は一閃となって雑霊オブリビオンを骸の海へと還していく。
「これが霞流繰り方……参ります」
 紗夜の戦い方は、ここからが本番である。

 マリオネットを手繰る糸と、その先に繋がれた『雪斗』による前衛。
 彼女たちは互いで一つとなる。
 その手繰る力は全盛期の姿となり、再び研鑽を積んで世界を護る力となるだろう。
 再び能力者として、猟兵として力が求められるのならば、紗夜は躊躇わず危険の中に足を踏み入れるだろう。
 きっと、彼女は元からそういう人間なのだ。

 迫りくる雑霊オブリビオンを薙ぎ払い、紗夜は廃墟に一歩を踏み出す。
 懐かしさと緊張。
 どちらも本当で、きっと彼女は不思議な気持ちで『ゴーストタウン』に入り込む。待ち受ける危険もあるだろう。けれど、それをこれまでも乗り越えてきたのだ。
 彼女の持つ生まれる前の記憶がそう告げ、今まさに新たな一歩を踏み出すのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・悠
ゴーストタウンに誘蛾少女とか
ほんと懐かしいものが蘇ってきてますねえ…
いえ、こんなに嬉しくない懐かしさも珍しいんですけど

ですが対抗できる術を得た以上
運命の糸が繋がったならば遠慮はしませんよ!

えーとまずはユーベルコードの慣らしです
【スピードスケッチ奥義】で頑張りましょう

誘蛾少女を可愛くデフォルメして描きましてー
「ほら、可愛くないですか?」
デッサン元の誘蛾少女とSD誘蛾少女を戦わせますね
がんばれー!
1対多で押し込まれそうですが冷静にひとつずつスピスケで対処
疫病だけはめんどい感じですがこういう時は気合い?
耐えるしかありませんよね!
「二児の母なめるなー!」
うちの子の子育てに比べたら余裕です!



 懐かしいと感じる心がある。
 思い返すあの青春の日々。それらはいつも死と隣合わせであった。能力者として目覚めた自分が戦い、その微笑みの先に求めていた答えがあったのと信じた。
 その戦いの軌跡はきっと間違いなんかじゃなかったのだ。
 銀の雨が再び降りしきる。

 世界結界が修復され、超常を超常として認識できなくなった人々。
 されど、自分は今超常を認識している。能力者であった自分を思い出すだろう。今は二児の母である文月・悠(緋月・f35458)は己の能力が減退していなかったとしても、此処に立っていることを自覚していた。
「『ゴーストタウン』に『誘蛾少女』とか。ほんと懐かしいものが蘇ってきてますねえ……いえ、こんなに嬉しくない懐かしさも珍しいんですけど」
 あの青春を思い出す度に影にある存在。
 それがゴーストだ。それは仕方のないことなのだ。けれど、本当に過去の化身として蘇ってきていることに頭が痛くならないわけではない。

 目の前にある廃墟は見覚えがあるし、溢れるようにして現れる雑霊オブリビオン『誘蛾少女』たちの姿は以前とは異なった性質を持っている。
「言わば、ガワだけが同じってことなんでしょうね。これがオブリビオンになるということ……ですが、対抗できる術を得た以上、運命の糸がつながったならば遠慮はしませんよ!」
 何より己には守るべきものが在る。
 愛おしい子ら。
 彼らが生きる世界をオブリビオンという過去が侵食していい理由などない。

 その瞳が母の決意によって輝く。
 元能力者であり、減退した能力であれ関係ない。彼女はコミックマスター。己の筆が疾走る限り、その力は現実になる。
「ユーベルコードの慣らしです。スピードにはスピードです」
 空中に素早くデフォルメした『誘蛾少女』たちを描き出す。
 それは『誘蛾少女』たちの他者を見下し、貶す性質を理解するからこそであった。彼女たちの言葉はすべてが真実ではない。
 ただ己の存在を高い物に見せかけるための虚飾。

 ならばこそ、悠の描き出した可愛らしいデフォルメされたキャラクターたちは輝くのだ。
「ほら、可愛くないですか?」
「そんな汚らしいものを生み出して。醜い。醜い。醜い!」
『誘蛾少女』たちが溢れるようにして凄まじい勢いで飛翔する。撒き散らす疫病、それを抑え込むようにデフォルメされた『誘蛾少女』が戦う。
「がんばれー!」
 だが、悠の声援むなしく、数で圧されるSD『誘蛾少女』。
 どうあがいても数で劣るのだ。
 ならば、数を用意すればいい。

 悠はコミックマスターだ。
 ならばこそ、己の筆こそが力。描き、生み出し、その力でもって世界だって救ったのだ。やってやれないことなど何一つない。
「二児の母をなめるなー!」
 描く。描く。描く! 
 ただそれだけでいい。高速のスピードスケッチは尋常ならざるスピードとタッチでもってSD『誘蛾少女』たちを生み出していく。
 確かに面倒だ。
 数に数で対抗する。あれやこれやとやることが多すぎる。けれど、そんなの関係ない。

「うちの子の子育てに比べたら余裕です!」
 輝く瞳。
 其処に在ったのは、能力者でもない猟兵でもない。
 ただの母の姿があった。
 煌めく力は、母の証。乗り越えてきたのだ、これまでも。
 育児という名の戦争を。毎日が続くという幸せを。それを噛みしめるようにして悠は己の筆が疾走るままに『誘蛾少女』たちを圧倒するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
『銀色の雨』が降る、ゴーストなる存在が蔓延っていた地球。
周りに映る風景も、眼前に立ち塞がる者達も……11年前、
俺の夢に現れた存在と全く同じだった。
■闘
【破魔】の力纏いし『心切』片手にいざ舞わん、【八江】乃舞。
周囲に居る敵に向かって霊力の刃による【範囲攻撃】を仕掛け、
纏われたケガレ共々【浄化】し、『送る』のだ。
余裕がある時は常に攻撃し続けるが、万一疾病を受けた時は
瞬時に効果を切り替え、病を追い出す。

舞を邪魔する者が現れたら刀を強く振るって【衝撃波】を放ち、
吹き飛ばして逆に態勢を崩してやれ。

あの夢が何を示していたかは、今や知る由は無い。
されど、俺の成すべきことは変わらぬ。

※アドリブ歓迎・不採用可



 シルバーレインと呼ばれる世界があった。
 銀の雨が降り、世界結界が超常を覆い隠す世界。
 その世界にあってゴーストと呼ばれる存在が人々を襲い、認識されぬままに生命が奪われていく。
 そんな世界にあって死と隣合わせの青春を送りながら、能力者達は見事これを打倒することができた。得た平穏はきっと得難いものであったことだろう。
「『銀の雨』が降る、ゴーストなる存在が蔓延っていた地球」
 愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)の瞳に映る風景も、眼前に立ち塞がる雑霊オブリビオン『誘蛾少女』たちの姿も、清綱は覚えがあったようだった。

 夢に現れた存在。
 あれは十一年前の出来事であったと彼は記憶していた。
「全く同じ……だが」
 迫る脅威ならば打ち払わなければならない。
 破魔の力を纏う『心切』を構える。
「いざ舞わん……八江乃舞」
 片手に刀を持って舞う剣舞。迫る『誘蛾少女』たちの言葉もどこか遠い。見えざる霊力の刃が風と共に彼女たちを切り刻んでいく。

「見えない。この刃、見えない……なんて、醜い姿なのでしょう。それでも、舞うと!」
『誘蛾少女』たちの言葉など清綱には届かない。
 どれだけ穢によって己の身を貶め、汚そうとしたのだとしても、己の剣舞が纏う破魔の力が汚れを浄化していく。
 そう、これは倒す戦いではない。
「送る戦い……これは、そういう戦いなのだ」
 今でも思い出す夢。

 それが何を示していたかは、今や知る由ははない。
 舞う度に剣風が正常なる風と共に『誘蛾少女』たちを打ち払い、吹き飛ばしていく。
 邪を払う霊力があればこそできる芸当である。
 見知った廃墟。始めてきたはずなのに懐かしささえ覚える。幾人かの猟兵がそうであったように清綱もまたそうであったのだろう。
「されど、俺の成すべきことは変わらぬ」
 煌めくユーベルコードの輝きが、廃墟より溢れる雑霊オブリビオンたちを尽く浄化しては、吹き飛ばす。

 彼女たちの道行きがどのようなものであるかはわからない。
 ただ倒すしかなかった日々もあっただろう。骸の海に送り還すだけで、果たして彼女たちの汚濁に塗れた汚れは払えるのだろうか。
 その自問がないわけではない。
 けれど、その過去が今を侵食していい理由など何処にもないのだ。

 ならば、あの夢が指し示す先は、この戦いの先にこそあるのだろう。
「迷うことなどない。お前たちを引き寄せた『地縛霊型オブリビオン』……それこそが、この廃墟の遺恨にして中心。ならば、それを祓い、送り還そう」
 ゆえに、しばし待てというように清綱はすべての『誘蛾少女』たちを祓い、刀を納めて廃墟へと一歩を踏み出す。
 迫る廃墟の入り口はまるで大口を開けているようでもあった……けれど、恐れることはない。
 本当に必要なことは、この眼の前に広がる恐怖を踏み越えた先にこそあるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
嘗ての戦いで平穏を取り戻した戦士達
その多くが力を失った現状、助太刀をするのは騎士として当然の事です
先達に恥じぬ戦いをもって彼らの勝利の証…この世界を守り抜きましょう

呪詛塊をセンサーで検知し、脚部スラスターの推力移動織り交ぜた細やかなステップで回避

ゴースト…全ての生命を否定するこの世界の敵がオブリビオンと化した姿ですか
もはや言葉も通じぬ以上、この手段を使うに躊躇いはありません

剣と盾を背にマウント
腕部と肩部の格納銃器を展開しUC乱れ撃ち
瞬間思考力とスナイパー射撃の技量で廃墟への流れ弾を最小限に抑え燃やし尽くし

(延焼を消火用薬剤封入弾で鎮火し)

さあ、この地の謎、そして残された無念の解明に参りましょう



 銀の雨が降りしきる世界。
 それがシルバーレインである。猟兵たちが知る世界にあって、かつて在りし脅威を振り払った世界は多くはない。
 能力者と呼ばれる若人たちがいた。
 頼れるものも、隣りにいる誰かの生命も、いつ喪われてしまうかも知れない世界にあって、薄氷を踏むように、されど青春を謳歌して世界を救った。

「嘗ての戦いで平穏を取り戻した戦士達。その多くが力を失った現状、助太刀をするのは騎士として当然のことです」
 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は、『ゴーストタウン』と化した廃墟の前に立つ。
 ここも嘗て能力者たちが己の力を研鑽し、高めるために幾度となく訪れた場所なのだろう。
 世界を救ったことに寄って無用の長物と化した場所であったはずなのだ。
 もう二度と訪れることはないと思っていた者もいただろう。
 けれど、オブリビオン化した世界結界によって再び、世界は超常を超常として認識できぬ世界へと戻ってしまった。

 平穏は束の間。
 争いの火蓋が切られるのは一瞬。
「先達に恥じぬ戦いを持って彼らの勝利の証……この世界を守り抜きましょう」
 トリテレイアのアイセンサーが揺らめく。
 一瞬の隙に放たれた呪いの弾丸を検知し、脚部スラスターでもってステップを踏み躱す。
「醜い。その鋼鉄の体。何処まで言っても醜い。その機械の体でどれだけの生命を屠ってきたのです。その醜いままの姿で、どうして貴方は存在しているのです」
 雑霊オブリビオン『誘蛾少女』達が口々にトリテレイアを貶める言葉とともに廃墟より這い出してくる。
 打ち込まれる呪いの弾丸は、呪詛に塗れている。
 他者を穢し貶める。ただそれだけの言葉であるが、トリテレイアは取り合うことはしなかった。

「ゴースト……すべての生命を否定するこの世界の敵がオブリビオンと化した姿ですか。もはや言葉も通じぬ以上――」
 トリテレイアは剣と盾を背中にマウントし、腕部と肩部を展開する。
 そこに格納された銃器から放たれるのは、超高温化学燃焼弾頭(消火用薬剤封入弾と併用推奨)(ヘルファイア・バレット)であった。
 水中、真空での燃焼を実現する薬剤が封入された弾丸が、『誘蛾少女』たちに打ち込まれる。
 着弾した瞬間に有機物であれば瞬時に炭化させるほどの炎が解き放たれ、『誘蛾少女』たちの身を焼滅していく。

「騎士が火攻めとは……笑い話にもなりませんね」
 ですが、とトリテレイアは己の放った弾丸が嘗てゴーストであった雑霊オブリビオンにも有効であることを確認する。
 炭化し、形無く崩れ霧消していく『誘蛾少女』たち。
 彼女たちの怨嗟の声も遠く聞こえない。延焼しないようにとトリテレイアは燃え尽きて消えた跡の炎を鎮火しながら、廃墟の入り口を目指す。

 多くの猟兵や、元能力者たちが、この『ゴーストタウン』に足を踏み入れている。
 戦いはこれからだ。
 この地に執着する『地縛霊型オブリビオン』の妄執を解き明かさなければならない。
「この地の謎、そして残された無念の解明に参りましょう」
 目指すは廃墟の中心。
 そこへ至るためにトリテレイアは躊躇いなく足を踏み入れる。

 騎士として守らなければならないものがある。それだけがトリテレイアを突き動かすものなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『運命反転』

POW   :    不運を物理的にねじ伏せる

SPD   :    素早い判断でピンチを切り抜ける

WIZ   :    一か八かの賭けに出る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵達が『ゴーストタウン』と化した『廃墟』に足を踏み入れる。
 瞬間、理解するだろう。
 外から見た廃墟とは思えぬほどに複雑化した迷宮。あちこちの通路がネジ曲がり、明らかに空間が膨れ上がっている。
 ただの建物ではない。
 天井が崩落していたり、床が抜けていたりする。

 どんな仕掛けがあるかもわからず、この廃墟の中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに運命がねじれ曲がっていくのを感じる。

「こんなにも尽くしたのに。責任も、不祥事も、何もかも私が背負ったというのに。何故、何一つ贖罪の言葉も、なかったのです」
 嘆く声が何処からか聞こえてくる。
 それは怨念というよりも嘆くものであったことだろう。
 理解されぬ者の嘆き。

「すまなかった、の一言だけで私は報われたというのに」
 それさえも得られなかった嘆きが廃墟の中に木霊する。
 その声を聞きながら猟兵達は足を踏み出す。次の瞬間、猟兵たちを襲うのは極端な不運。
 まるで予想のできない出来事。
 床が抜ける、天井が崩落してくる。なにもないのに足を取られる。手にした道具の調子も悪くなるだろう。

 これは中心に近づけば近づくほどに不運の度合いも上がっていく。
 どうしようもない不運の連続が猟兵たちを襲う。これらの困難を乗り越え、中心を目指さなければならないのだ――。
村崎・ゆかり
不幸と不運の迷宮か。それなら、最強の厄災を味方に付ければいいだけ。
「降霊」「召喚術」で太歳星君降臨。

ようこそお越しくださいました。この先に降りかかる不幸を、星君様の御力で撥ね除け、不運を幸運に入れ替えてくださいませ。
念のため、あたしは飛鉢法で人の歩く速度程度に、警戒しながら進みましょう。
道行きは黒鴉召喚の式たちに探らせて。六壬式占盤で、この先の運命の卦を読んで。

この手の結界が怖いのは、「不運」だからこそ、殺気も何もなくいきなり状態が発生すること。
星君様に御加護いただいても、不意の一撃がないとは言い切れない。
あくまで慎重に前進し、中央を目指すわ。

それにしても、執念深そうな声だこと。



 この『ゴーストタウン』化した廃墟に響く声は、『地縛霊型オブリビオン』のものであろう。
 中心からとめどなく風にのって聞こえてくる。
 それは嘆きの声であった。
 けれど、どんなに嘆こうとも、どんなに理由があろうとも、彼らの存在に寄って生命が奪われるというのならば話は別である。

 廃墟に足を踏み入れた村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)が真っ先に感じた異変。それは己の成す行動のすべてが不運と不幸に塗れる気配であった。
「不幸と不運の迷宮か」
 そう、今は廃墟に足を踏み入れただけだ。
 それだけでも己の背筋を這うような不運の気配にゆかりは怖気が走る思いであった。
 何かをしようとすれば、必ず何か不幸な出来事が己を襲う。
 崩れたコンクリートの壁。
 むき出しの鉄筋。
 散乱したガラス片。
 それらのすべてが不運の材料となることは間違いないだろう。中心に向かえば向かうほどに己の武具の調子もおかしくなってくる。

 ならば、第一手を先に巡らせるべきだろう。
 彼女の手には霊符『白一色』がある。念じ、ユーベルコードを発言させるゆかりの目の前に現れたのは、髯を蓄え、官服に身を包み扇を持つ太歳星君であった。
 太歳星君降臨(タイサイセイクンコウリン)によって召喚された太歳星君の前にゆかりは恭しく一礼する。
「ようこそお越しくださいました。この先に降りかかる不幸を、星君様のお力で撥ね退け、不運を幸運に入れ替えてくださいませ」
 彼女の思惑は、最強の厄災を味方につけ、己に襲い来る不幸を幸運に入れ替えるものであった。

 この場に巻き起こるすべての行動が成功する確立が激減される呪詛の術。
 それを手繰る太歳星君の力であれば、あらゆる不幸が入れ替わることだろう。ゆかりは鉄鉢に乗って人の歩く速度程度に警戒しながら廃墟の奥へと進む。
 道行きは黒鴉の式神たちに探らせる。
 迷宮化した廃墟の中は入り組んでいる。
 実際には二階、三階とあるようであるが、どういうことか上に昇る階段が見つからないのだ。
 あるのは下る階段のみ。
 つまりは地下があるということか。

「陰陽師が森羅万象を読み解き真理得る、六壬式占盤……この先の運命の卦を呼んで……」
 この手の領域において最も恐ろしいのは『不運』。
 運に殺気も何もおったものではない。不慮の事故こそが、最も避けがたいものである。太歳星君の加護があるとはいえ、不意の一撃があるとも限らない。
 あくまで慎重にゆかりは進む。
 地下へと下っていくとより一層不幸の気配が濃くなっていく。

「すべての責任を負ってもなお、それでもねぎらいの言葉一つ無い。使い捨てのコマでしかなかったというのならば、何故あんなにも期待を掛けるような言葉を――」

 呻く声が聞こえる。
 恨み節のようでもあるし、嘆くようでもあった。
 人の営みに裏切りは常であろう。けれど、その裏切りの結果生まれるのが『地縛霊型オブリビオン』であるというのならば、それはあまりにも悲しいことだ。
 その妄執が執着を生んで、この廃墟を『ゴーストタウン』にするというのであれば、ゆかりにはそれは赦し難いことである。
「執念深そうな声だとは思っていたけれど……どうやら逆恨みというわけでもなさそうね。この建物の業の深さを示しているようでもあるわ」
 ゆかりは感じるだろう。
 この建物の中心、地下へと続き、さらに奥にある存在。

 きっと逆転された運がなければ、ゆかりは無事に此処に辿り着くことはできなかったことだろう。
 何事もなく進むという幸運。逆転して尚、その程度の幸運しかもたらせぬ『地縛霊型オブリビオン』の妄執の深さを知り、ゆかりはさらに奥へと進むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛇・水聡
トラップの数が多い場所がゴールとみなしパワーで突き進むわ
っていうか今のアタシにはそれぐらいしか出来ないし!
猟兵になれたんだし、小細工できるようになりたいわよねェ

斧を片手に、不運にすぐ対処できるよう警戒して進み
物が落ちてきたり飛んできた場合、大きいブツなら斧振り下ろして叩き落としたり砕いたり
破片系なら頭庇いつつ回避したり
床がヤバそうならUCで地面ぶっ壊して罠自体を破壊
武器がダメなら拳を使うわ!
落とし穴は…そうね、重めの瓦礫を投げてみて踏んでOKか判断
落ちた時は武器を穴の壁にぶっ刺して落下回避とか…
ま、生きてる限りどうにかなるでしょ!

待ってなさい地縛霊!
抱え込んだ鬱憤、吐き出させてあげるわよ!!



『ゴーストタウン』と化した廃虚の中に足を踏み入れれば、もはや其処は外見通りの内部ではなかった。
 迷宮と化し、空間さえネジ曲がった廃虚の中はもはや容易に出ることも進むことも難しい。
 入り組んだ通路。
 崩落の危険性さえある天井や床。
 外からみた限り、この廃虚には二階三階部分があるはずだが、空間が歪んでいるせいで地下に続く階段しかない。
 そんな廃虚の中を中心である『地縛霊型オブリビオン』へと近づくにつれて猟兵たちを襲うのは不運という名の罠である。
「なるほどね。この空間を歪めているオブリビオンに近づけば近づくほどにトラップが多くなる。ということは……」
 蛇・水聡(ベノムクランブル・f35305)の判断は早かった。

 己の得物である大斧を手に廃虚の中を進む。
 もしも、不運というトラップが襲ってくるのならば、それらを尽く踏み潰してしまえばいい。
 この不運の中心こそが迷宮のゴール。即ち『地縛霊型オブリビオン』の所在だ。
「っていうか今のアタシにはそれぐらいしか出来ないし! 猟兵になれたんだし、小細工できるようになりたわよねェ」
 とは言え、水聡が出来る事は今は多くない。
 警戒しながらではあるが、それでも大胆に廃虚の中を進む。一瞬の隙が命取りになりかねない。

 突如として崩落してくる天井を大斧の一撃で振り払うようにして砕き、走り出す。
「ちまちまやるのは性に合わないわねェ!」
 苛烈なる不運という罠。
 突如として吹き荒ぶガラス片。それは散弾のように水聡を襲う。突風によってガラス片が飛ばされてきたのだろう。
 それを大斧の刀身を盾にして防ぎ、走ろうと一歩を踏み出した瞬間、その床がひび割れる。凄まじい動体視力で感じ取った水聡は瞳をユーベルコードに輝かせる。
「グラウンドクラッシャー――!」
 放つ一撃が崩落しようとしている床をぶち抜いて、地下へと落ちていく。落下のダメージはそこまでない。

 それ以上に崩落した床の下にあるであろう尖った鉄骨のほうが危うい。それ自体をユーベルコードで破壊した水聡はパルクールのように大斧の柄を利用して跳ねるようにして地下一階へと降り立つ。
 さらに襲い来る瓦礫の破片の落下を走って躱しながら、己を襲う不運が一段と危険度を増した事を知る。
「罠のヤバさがあがったわね。『地縛霊型オブリビオン』が近くなってきた証拠ってわけねェ……ま、生きてる限りどうにかなるでしょ!」
 それはあまりにもゴリ押しであった。
 しかし、それを可能にするだけの身体能力が今の水聡にはある。

 肉体は全盛期のもの。
 そして頭脳や経験はこれまでに培ってきたもの。
 ならば、どれだけの罠が襲ってくるのだとしても水聡には踏み抜いて進むことができる。
「――裏切られた。裏切られた。あんなにも信頼していたはずなのに。先生は私を、私は先生を。あんなにも無二の存在として支えていたはずなのに、トカゲの尻尾きりのように私を使うなんて、信じられない」
 その声は嘆きの声であったことだろう。
 無念と怨みが重なったかのような声。これが『地縛霊型オブリビオン』の嘆きの大本であろう。
 声は近い。水聡は慎重に進む。なにせ『地縛霊型オブリビオン』に近づく度に不運の強度は上がっていくのだ。

「でもやることはかわらないわよねェ。待ってなさい地縛霊! 抱え込んだ鬱憤、吐き出させてあげるわよ!!」
 ここで立ち止まってもいいことなど何一つ無い。
 罠があるなら大斧で割って突き進む。それだけの力と経験が今の己にはあるのだ。何も悩むことなどない。
 悩むより足を動かす。
 水聡の歩みは止まらない。これまでだってそうだったように、いつだって道を拓くのは己の力だ。

 大斧の一撃がさらに床をぶち抜き、地下二階へと水聡の体を階下へと誘う。
 其処に見たのは妄執の根源。
 色濃い不運が渦巻く先にあった『地縛霊型オブリビオン』の姿を見るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

はてまあ、不運に不幸。普段、悪霊の猟兵として相手に押し付けてますけどー…こちらにくると厄介ですねー?

竜脈使いで仙術利用で結界術底上げ。前後左右の細かいのはこれで弾きましてー。
そして、微かに空中浮遊して床のは対処しましょうー。幽霊さんですから。
で、上から大きなのが来たらー…まあ、結界で弾けるものならば弾いて、大きなものだったらUC使用して破壊すればいいですかねー?

ひとつ違えば、私だって故郷でああいう風になってたかもしれないですねー。
ほら、私だけは忍ですからねー。
ええ、内部三人はそういうことしないとはわかってるんですけどー…。まあ、その他の人たちがね?


内部三人は阻止するが。



 不運、不幸。
 それは言葉にしてしまえば、それだけのものである。ただの言葉だ。
 けれど、それを感じる時力となってそのものを蝕むものである。姿は見えず、さりとて殺気があるわけではない。
 理由なき現象。
 牙をむく不運と不幸は、猟兵たちにとって最も相手にしづらいものであったことだろう。

 この廃虚、『ゴーストタウン』の中にあって不運、不幸は天井や床の崩落、ガラス片が散弾の如く飛び散り、むき出しの鉄骨が串刺しにしようと迫ってくるものである。
 それらは廃虚の中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに濃度を増すようにして強くなっていく。
「はてまあ、不運に不幸。普段、悪霊の猟兵として相手に押し付けてますけどー……こちらにくると厄介ですねー?」
 廃虚の中に足を踏み出した馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)、その一柱である『疾き者』は首をかしげる。

 普段は彼ら悪霊としての力でもって、時にユーベルコードとして扱う不運。敵の運を吸い上げ、不意の出来事に寄って戦いを有利に運ぶもの。
 それが己達に向けられているという事実は、確かに戦いづらいものであったことだろう。
「不運が襲い来るというのなら、龍脈を使いましょう。仙術によって底上げされた結界術……私どもに降りかかる細かい不幸はこれで弾きましてー……」
『疾き者』が、瞬時に空中に浮かび上がる。
 先程まで立っていた場所に突風によるガラス片が散弾のように通貨していく。

 危ない、と思ったのはきっと忍びであったころの名残であり、直感であったことだろう。
「……結界を強化しても不調になる。なるほど。これが不運……中心に近づけば近づくほどに私どもの結界も不調をきたす、と」
 これは想った以上に面倒なことになったと理解しただろう。
 結界も猟兵が扱う武具として扱うのであれば、不運はそれすらも機能不全に引きずり込むのだ。

 これは結界があるからと想っていると痛い目を見る。
「とは言え、これはこれで面倒ですねー……!」
 宙に浮かび、ガラス片を躱した『疾き者』の頭上から迫るのは崩落する天井。
 コンクリートの大きな塊が落ちてくるのを見やり、結界で受け止めるのを諦め、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
「さてー、参りましょうかー」
 四悪霊・風(シアクリョウガヒトリ・トノムラヨシツナ)によって強化された棒手裏剣の投擲が大きなコンクリートの塊を砕く。
 さらに砕いたコンクリートの破片と内部にあった鉄筋が『疾き者』を襲う。

 砕いても、その砕いた破片がまた弾丸と成って『疾き者』に降り注ぐのだ。それを弱くなった結界でもって防ぎながら『疾き者』は走る。
 地上部には『地縛霊型オブリビオン』は居ない。
 だが、外から見た二階三階部分に至る階段がないのだ。ならば、目指すべきは地下。階段を駆け下り、地下一階、二階へと『疾き者』は下っていく。
 そこで悪霊である『疾き者』は聞いただろう。
 嘆きの声。
 もしくは、怨嗟の声である。

「献身は裏切られるというのならば、何故私は死んだのだろうか。私は守りたかっただけなのに。なのに、切り捨てられた。汚泥を払うかのように。トカゲの尻尾切りのように。組織に、人に、あらゆるものの縁が断ち切られてしまった。私は不要であると――」
 それが『地縛霊型オブリビオン』の嘆きであったのだろう。
 組織には、人の繋がりには、爪弾きものが現れることは当然と言えば当然である。何もかも拾って歩むことはできない。
 人の両手には限りが在る。

 ならばこそ、そのようなことが起きる。
 組織という巨大な生物を活かすためには、時に尻尾を切り離さなければならない。その犠牲者が恨み言をいう権利は当然あるだろう。
「……一つ違えば、私だって故郷でああいうふうに成ってたかも知れないですねー」
『疾き者』は忍びであった。 
 だからこそ、在り得た未来を今聞いているようなものであったことだろう。
 在ったかもしれないのだ。
 四悪霊の、内在する彼らはそうしないという確信がある。

 けれど、他の人間はどうだっただろうか。
 失ってしまった故郷であったし、その守りたかった故郷の中にこそ、そういう者たちがいたのだ。
 自分が切り捨てられるかもしれないという可能性を持ちながらも、それでも『疾き者』はきっと戦っただろう。
 内部にある三悪霊たちは頭を振る。
 そんなことはさせはしないと。

 君はそうはならなかった。
 ただその一言を真実にするために、四悪霊たちはゴーストタウンを生み出している中心、『地縛霊型オブリビオン』へと肉薄するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・沙夜
廃墟に踏み込んだ瞬間に、落ちていた小石に足をとられて躓きます。

……不運という罠が張り巡らされた迷宮ですか。

明確な罠が設置されているわけでなく、
何が起こるか解らないだけに、気をつけようもない感じがいたしますね。

しかし、中心に近づくほどに不運がふりかかるというのなら、
罠のふりかかるほうをめざしていけばいいということですね。
迷宮といえど、行く方向に迷うことはなさそうです。

何が起こるか解りませんし、ここは【繰り糸】を【鋼糸】として使用することにしましょう。
これなら崩落してきた壁なども切り裂けますし、
落とし穴に落ちてもわたしくらいなら支えられますしね。

糸で罠を退けつつ、中心を目指して進みましょう。



 廃虚と化した嘗ての研修施設兼宿泊施設。
 その残骸ともいうべき『ゴーストタウン』化した廃虚の中に足を踏み出せば、空間が歪んでいくのを感じ取る。
 元能力者であれば、それは馴染みのある感覚であったかもしれない。
 外から見たこの廃虚は二階、三階部分があった。けれど、周囲を見回してみても、上の階に上がるべき階段が見当たらない。

 どういうことだと霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)が上を向いた瞬間、落ちていた小石に足を取られて躓く。
 床に転がった彼女が顔を上げた瞬間、眼前に落ちてきたのは自分の頭ほどもあるコンクリートの塊であった。
「――っ」
 紗夜は確信しただろう。
 これが不運という罠が張り巡らされた迷宮であると。

 中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに危険は増して行く。理解していたことであるが、実際に目の前で起こるとにわかに信じがたいものである。
 未だ入り口であるからこそ、この程度の不幸で済んだのだ。
 これがもしも、『地縛霊型オブリビオン』の近くであったのならば、確実に紗夜の頭をコンクリートの塊が直撃していたことだろう。
「明確な罠が接地されているわけではなく、何が起こるかわからないだけに、気をつけようもない感じがいたしますね」
 だが、この程度で紗夜はおののくことはない。
 逆に考えればいいのだ。

「中心に近づくほどに不運が降りかかるというのなら、罠の降りかかる方を目指していけばいいということですね。迷宮と言えど、迷うことはなさそうです」
 紗夜は立ち上がり、頭を振る。
 誇りを払って、前を見据える。道行きは迷うことはない。困難な道、険しい道こそが正しい道であるというのならば、自分はその道を邁進するだけである。
 愚直であると言われてもいい。
 こういうやり方しか彼女は知らない。

 手にしたマリオネット『雪斗』を手繰る糸の強度を確かめる。
『地縛霊型オブリビオン』に近づけば、己の手繰る糸の不具合も発生するかもしれない。
 糸に頼り切ることもできず、けれど、それでも進むのだ。
「後悔しかない。何故あの時に私は自分の生命を差し出したのだろう。あの時はそれほどの価値があると想っていたのだ。私の生命を賭してでも、此処は護るべきだと」
 その声が聞こえる。
 進めば進むほどに色濃くなっていく『地縛霊型オブリビオン』の嘆きの声。
 それは、この廃虚に執着する謂れであったのかもしれない。

 生命を賭して守りたいもの。
 それは誰にだってあるものだろう。その結果がこれであると突きつけられれば、誰の心も折れるのかもしれない。
 あげく己をトカゲの尻尾切りのようにしたものたちは、己のことを厄介払いができたとしか思っていないのであれば尚のことである。
「これが、『地縛霊型オブリビオン』の声。裏切り、失望、絶望……ないまぜになった感情が執着と結びついて、この地に自らを縛った残霊」
 紗夜は頭上より迫りくる天井の一部を鋼糸と成った糸でもって斬り裂きながら地下へと降り立つ。

 すでに崩落した場所を下ってきたおかげで、大幅にショートカットすることができた。
 身軽な体を糸でもって支えて降りることができたのが大きかった。
「それがこの地に執着する者の正体。裏切られたという嘆きの声ばかりが、木霊しています……」
 それを悲しいと思わないでもなかっただろう。
 人に優しくなれるのが人の持つ特性であるのならばこそ、紗夜は『地縛霊型オブリビオン』に同情したかもしれない。

 けれど、その執着が人を傷つける。
 何処まで言っても『地縛霊型オブリビオン』はそういう存在なのだ。その執着、恩讐が正しいのだとしても。 
 それでも祓わなければならない。
 いつだって能力者たちはそうやって戦ってきたのだ。その道を辿る。きっとこれも運命の糸なのだろう。
 自分が進むべき道の先よりたぐられる糸。
 それを目指して紗夜は、『地縛霊型オブリビオン』の嘆きと真っ向から対峙するのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
ゴーストタウン……此れも、あの夢に現れた光景。
人がいなくなったことで、『常識』が奪われし処。
己が『道』を行くならば、避けては通れぬ処。
■行
【POW】
いざ往かん、己が『道』を貫くために。
【軽業】の如きパルクールでゴーストタウンを駆けん。

地面がぐらついたと感じたら咄嗟の【ジャンプ】で飛び、
自身に向かって物が落ちてきたらスライディングや前転等の
動きで緊急回避をするなど、軽やかに進もう。
当たろうとも【激痛耐性】がある故、心配無用。

万一、躱すことも護ることも難しい『不運』が現れたら、
【無刃・渾】で其れを強引に斬り伏せ、突き進む!
刀が抜きづらくなっていた時は【怪力】を用いて抜こう。

※アドリブ歓迎・不採用可



 廃虚の中に足を踏み入れれば、夢の中の光景が様々と浮かぶようであった。
 愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)にとって、それは避けることの出来ぬ場所であると知るだろう。
「『ゴーストタウン』……此れも、あの夢に現れた光景。人が居なくなったことで、『常識』がが奪われし処」
 そして、この廃虚に巣食う呪いの如き運命反転の理は、猟兵達に不運となって襲う。目に見えず、さりとて殺気や敵意のない現象は躱し難く。

「己が『道』を行くならば、避けては通れぬ処」
 清綱は理解していた。
 己が『道』を貫くために進まねばならぬというのならば、躊躇いは何処にもない。
 廃虚の中を疾走る。
 次々と襲い来る不運。
 天井が崩落し、鉄筋がむき出しのコンクリートの塊が清綱を襲う。
 遠回りはしてはいられない。コンクリートの塊を無刃・渾(ムジン)によって居合の動作から放つ刃でもって切り捨てて進む。

 コンクリートの塊を蹴散らしながら清綱は一歩を踏み出す。
 瞬間、己の踏みしめた床が嫌な音を立てる。この『ゴーストタウン』の中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに猟兵たちを襲う不運の濃度はましていく。
 ならば、この一歩は確実に『地縛霊型オブリビオン』へと近づいている証拠であろう。
 とっさに崩落する床を蹴り、清綱は眼下にそびえるようにして露出した尖った鉄骨を見る。
 外からみたこの廃虚は3階建てであった。
 けれど、何処を見ても上階へと至る階段はなかった。ならば、目指す先は地下。崩れた床を見やる。
「……とは言え、崩落した床。これを利用させてもらう」
 軽業の如きステップで清綱は鋭い鉄骨の切っ先を躱して、階下へと降り立つ。

 さらに其処に襲うのはポルターガイストの如き浮遊するコンクリートの破片や暗闇から放たれる室内灯の一撃。
「なんの、これしき……――ッ!」
 手にした刀で打ち払おうとしたが、己の武具の調子までおかしくなっている。
 抜刀しようとしても刀が抜けない。
 これもまた、不運であるというのであろうか。刀がぎちりと音を立てて引き抜けない。

「これもまた不運……ならば、押し通るのみ!」
 腕がきしむ。
 己の持つ怪力に己の骨がきしみを上げる。万力の如き力をもってしても引き抜けぬ刀。されど、清綱の意志はそれを遥かに越える。
 嫌な音を立てて、刀を抜刀できぬという不運すらも怪力でねじ伏せた清綱の一撃が己に降りかかる不運を一刀のもとに切り捨て、さらに廃虚の中を進む。

「信じられない。何もかも。あの言葉も、あの笑顔も、何もかも。すべてが偽りであったのならばよかったのに。なのに、私は少しでもすがりつこうとしている。先生。何故私を――」
 それは嘆きの言葉であったことだろう。
 裏切られ、組織の歯車として存在することを是とした己に対する仕打ち。
 滅私の心でもって尽くしてきたというのに、それさえも裏切られた『地縛霊型オブリビオン』の絶望の声であった。

 それを清綱は聞くだろう。
 人の営みに組織は必要である。自分たちよりも大きな物に打ち勝つためには、いつだって集団の力が必要となる。
 猟兵であれば理解できるかもしれない。己達とて強大なオブリビオンに立ち向かうためには一人では無理なのだ。
 つなぎ、つむぎ、戦う。
 だからこそ、これまでも戦い抜くことができた。
 けれど、そこに裏切りは在っただろうか? 清綱は一歩を踏み出す。この廃虚の中心に近づく度に不運は濃度を増す。

 それさえも振り払い、己が対峙する『地縛霊型オブリビオン』の嘆きになんと応えるだろうか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファランス・ゲヘナ
【心境】
「不運ダァ。いいこと教えてやるゼ。最後にお宝を手に入れたらそれまでの不運なんてのは宝を手に入れるために幸運だったんだヨ。」
オレは不運なんて信じねぇナァ。
だってオレは常にハッピーだからダ。
ただの障害だヨ。そんなノ。

【行動】
引き続き龍星号に乗って廃墟を突き進むゼ。
こいつの突進はそんじゃそこらの障害では止められネー。
常に人生フルスロットル!!
飛んできたり落ちてきた障害物は『オーラ防御』もしくは『第六感』でさっちして華麗な『運転』で回避ダ。
オレの行く手に道があるんじゃナイ。オレの通った跡に道ができるんだヨ。
(覚醒体を発動して飛んできた障害物を優先的に破壊しながら適当に進んでいくタール。)



 不運と不幸が襲い来る廃虚、『ゴーストタウン』の内部は空間の歪んだ魔境であった。
 外から見たこの廃虚は三階建てであった。
 けれど、上階へと繋がる階段は見受けられない。ならば、地下こそが進むべき道であるとファランス・ゲヘナ(     ・f03011)は理解したことだろう。
 一歩を踏み出す。
 瞬間、彼に襲いかかるのは不運である。
 彼の球体スライムの如き姿めがけて振り子のように室内灯である蛍光灯が基部ごと迫る。
 それはハンマーのような鈍器となってファランスを襲う。

「不運ダァ。いいこと教えてやるゼ」
 ファランスは不敵に笑って、その球体の如き体をたわませ、蛍光灯の一撃を躱す。ぽよんと跳ねて、彼が乗り込んでいた宇宙バイク『龍星号』のシートに落ちる。
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 覚醒体(メザメタモノ)に至る彼の体は伝説の超ブラックタール。
 超絶なる攻撃力と耐久力を得たファランスは、しかして理性をなくす。
 この場合、理性をなくすということはあらゆる不運や不幸に対しても、ただがむしゃらに突き進むというkとである。

「――最後にお宝を手に入れたら、それまでの不運なんてのは宝を手に入れるための幸運だったんだヨ」
 そう、ファランスは不運など信じない。
 なぜなら、彼は常にハッピーだからである。不運や不幸などただの障害でしかない。
 人生常にフルスロットルである彼と『龍星号』が廃虚の中を疾走る。
 襲い来る不運や不幸など弾き飛ばすが如く。いや、違う。弾き飛ばすのですら無い。まるでそんなことなどなかったかのように突き進む『龍星号』とファランス。

 そこへ襲い来る数々のコンクリートの破片や鉄骨、ガラス片などが全てファランスに激突する。
 痛みなど感じない。
 確かに激突しているし、ファランスの道行きを阻んでいる。
 けれど、関係ない。
 今のファランスにとって必要なのは突き進むことだ。
「オレの行く手に道があるんじゃナイ。オレの通った跡に道ができるんだヨ」
 あらゆる障害を吹き飛ばしながら突き進む。

 彼にとってこの程度の障害は道すがらに見かけた名もなき花のようなものである。あ、キレイだな、位の感覚で不運すらも笑い飛ばしていく。
 そんなファランスと『龍星号』が崩落する床と共に下階へと落ちていく。それでも崩れ落ちる床を『龍星号』を手繰るファランスの凄まじいドライビングテクニックで躱し、見事に着地する。
「ふゥ! まだまだ道半ばってことか! それならバンバン行くゼ!」
 この廃虚にお宝があるかどうかはわからない。

 けれど、遠くから嘆く声が聞こえる。
 裏切りに失望する声。
 己を切り捨てた上役への恨み言。
 それらは確かに聞くに値するものであったのかもしれない。けれど、ファランスは伝説の超ブラックタールへと変化している。すでに理性は喪われている。
 ならばこそ、そんな声などかっ飛ばすようにしてファランスは廃虚の中を突き進む。
 目指す先にお宝がないのかもしれなくても。
 それでも不運の中心に自ら突き進むかのように宇宙バイクと共にファランスはかっ飛んでいくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・悠
うーん、あの子(使役ゴースト)がいれば全力で盾にして進むのに
ま、無いものねだりですね

【SPD】
不運をどう乗り越えるか
あんまり長物は得意じゃないんですけどねー
右手に長剣(順手持ち)、左手に日本刀(逆手持ち)
旦那仕込みの技でしのぐとしますか

不幸が目に見える形で現れるなら対処のしようもあります
ゆっくり歩を進めつつ周りをよく見て
『不幸が訪れた』瞬間に対応しましょう
転ぶなら受け身を取って素早く立ち上がる
床が抜けるなら抜け落ちる前に飛び退る
天井が落ちてきたなら斬り伏せる
武器が使えなくなったら……まぁハリセンの代わりくらいには
打撲武器として使いますね

死ぬこと以上の不幸が訪れない限り
私の歩みは止まりませんよ?



 かつての能力者である文月・悠(緋月・f35458)は『ゴーストタウン』と化した廃虚の入り口に立ち悩んでいた。
 以前であれば使役ゴーストと呼ばれる存在が彼女の伴になってくれていた。
 いつだって自分を守ってくれる存在。
 心を通わせた存在が今は懐かしい。
「うーん、あの子がいれば全力で盾にして進むのに」
 いや、本当にそうだったのだろうかと思わないでもない扱いのようであるが、それでもあの青春の日々、そこには必ず使役ゴーストの姿があったのだ。

 能力は減退し、猟兵として活動する悠にとって力の使い勝手が違うのは今更である。
「ま、無い物ねだりですね」
 仕方がない。
 母となったからには不甲斐ない姿などできるわけもない。
 力が無くなったからと言って諦めるのならば、自分はきっとあの戦いをくぐり抜けることなどできなかっただろう。
 だからこそ、不運と不幸が渦巻く廃虚の中に恐れなど無く足を踏み入れるのだ。
 手にした長剣と日本刀。
 それは夫から伝えられ習得した業である。

「こんなふうに役に立つとは思ってもいなかったけれど……不幸が目に見える形で現れるなら対処のしようがあります」
 ゆっくりと歩みを進める。
 廃虚に進む度に、その中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づくに連れて不幸が濃度を増すというのならば、決定的な不幸が訪れた瞬間を見極めればいい。
 何かに躓いて転ぶのならば、受け身をとって素早く立ち上がる。

 そう思った瞬間、悠を襲うのはまさしくそれであった。
 コンクリートの塊を浮き石を踏んだように悠は足を取られ、背後に倒れ込む。けれど、悠は慌てない。不慮の事態であったとしても、体に染み付いた反復動作が仕込まれている。
 背後に倒れ込んだのならば勢いをつけてバク転するように体勢を整える。
 降り立った床が崩れるのならば、長剣を床に突き立て、その勢いで無事な床へと体を飛ばすのだ。
「……いきなりこれ……でも!」
 対応できないわけではない。

 この程度のパルクールじみたことなど、これまでだって何度もやってきただろう。
 天井が崩落してくるのならば、手にした長剣と日本刀が斬り裂き細切れにしながら廃虚の中を突き進む。
「死ぬこと以上の不幸が訪れない限り、私の歩みは止まりませんよ?」
 そう、どれだけの不運不幸が襲ってくるのだとしても、それは歩みを止める理由にはなっていない。
 それを何度だって感じてきたのだ。
 挫けそうなときも、心が折れそうな時も、何度だって立ち上がってきたのだ。

 悠の心のなかには生命賛歌が聞こえていることだろう。
 だからこそ、廃虚の中心から聞こえる恨み言のような嘆きの声を聞く。
「裏切られた。裏切られた。私の献身は、生命をとした献身は裏切られてしまった。なのに、なのに、何故そんな平気な顔をしていられるのです」
 それは『地縛霊型オブリビオン』の発する言葉であった。
 嘗て在りし日の残影を辿っているのかも知れない。
 どうしようもない裏切りによって、『地縛霊型オブリビオン』の心は、傷つき、この廃虚に執着を示すようになったのかもしれない。

 悠はそれを理解しただろうか。
 献身がいつだって報われるとは限らない。それでも死ぬことはないのだと悠は思ったかも知れない。
 それは己の生命以上に大切なものが出来たからかもしれなかった。
「なら、終わらせましょう。その嘆きも、その絶望も」
 悠は廃虚の中心に進む。
 その視線の先にあるのは、『地縛霊型オブリビオン』の姿である。

 絶望に塗れ、嘆きによって人を害する存在。
 過去の化身。
 それを討つことが未来に繋がるのならばこそ、彼女はきっと躊躇わないだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サージェ・ライト
なるほどね?理解しました!(全然理解してない顔)
つまり不運を寄せ付けないポジティブさで行けば解決ですね!
私、無敵じゃないですか!
というわけで、クノイチいきまーす!

こう、クノイチらしくしゅばばばーっと駆け抜けていきましょう!
床が抜けても落ちる前に飛べば解決!
何もない所で転ぶとか!そのまま転がっていけば距離が稼げるのでは?
問題は忍べないことですが……あれ?いつも通り?そ、そんなことないもんっ!

というか色々起こりすぎてそろそろ面倒なんですけど!?
えーい、こういう時は
【VR忍術】私がすべて破壊するの術!!
不運が形になって襲い掛かってくる前に壊せるものを全部壊します!
そう、これは必要な犠牲だったのです!



『ゴーストタウン』と化した廃虚。
 そこは空間がネジ曲がり、あらゆる不幸と不運が敵意なき現象として猟兵たちを襲う。
『地縛霊型オブリビオン』が、その現象の中心となっていることは言うまでもない。
 しかし、近づけば近づくほどに猟兵達に襲いかかる不幸と不運の危険は増して行くのだという。
 グリモア猟兵から伝えられた言葉は、それが危険な道中であることを示していた。
「なるほどね? 理解しました!」
 サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)はそんなことを言いながら、まったく理解していない顔のまま廃虚に足を踏み入れる。

 そんな小難しく考えなくてよかったのだと彼女は思っていた。
 不運や不幸がやってくるというのならば、不運を寄せ付けないポジティヴさで行けば解決なのだと。
 根性論というか精神論である。
 ならばこそ、サージェという猟兵は自身が無敵であると知る。
 なんで?
 そう思わないでもない。ポジティヴでなんでも解決できるのは自分の精神状態だけである。けれど、それがサージェという猟兵の長所であり強みでもあるのだ。
 全然忍べてないけど、それはいいのかという疑念が湧き上がってくるが、それは些細なことであると蹴飛ばせばいい。
「というわけで、クノイチいきまーす!」

 サージェが廃虚の中に一気に駆け込む。
 そんなに勢いよく駆け込むものだから、一瞬でコンクリの塊に足を取られてつんのめる。
 つんのめった所に落ちてくるのは室内灯の蛍光灯である。
 それらを間一髪のところで躱し、飛び散る破片を避けて降りたった場所がいきなり床が抜けてサージェの体がずどんと落下する。
 けれど、その瞬間、手にしたカタールを無事な床に突き立て、ギリギリのところで彼女は下階へと落下することを防いだのだ。
「ふぅ……危なかったですね。問題は忍べてないことですが……」
 まあ、それはいつものことである。

「そ、そんなことないもんっ!」
 虚空に向かってツッコミを入れるサージェ。
 思わず力強く叫んだせいで、カタールを突き立てた床がごそっと崩れ落ちてそのまま地下に落下してしまう。
 あー! と叫び声が聞こえた気がしたけれど、そんなことはもはや日常茶飯事である。
「あーもー色々起こりすぎてそろそろ面倒なんですけど!? えーい、こういう時は!」
 サージェの瞳が落下しながらユーベルコードに輝く。
 それは、VR忍術(イメージスルノハカッコイイワタシ)。メモリをコンソールにインストールすることによって発動するバーチャル忍術にして、『私がすべて破壊するの術』である。

 何言っているのかよくわからん術である。
 しかしながら、彼女はバーチャルキャラクター。即ちゲーム空間での概念が形をなした存在である。
 ならばこそ、ゲーム内ではオブジェクトを壊せば壊すほど得点になるのである。そういうものかと思うかも知れないが、そういうものなのである。
「というわけで、参ります! 不運が形なって襲いかかる前に壊せるものを全部壊します! そう、これは必要な犠牲だったのです!」

 無茶苦茶な理屈である。
 しかし、有効だ。あらゆる現象が不運としてサージェを襲うのであれば、それらの尽くを破壊していく。
 サージェの手繰るカタールの乱舞の如き斬撃が次々とオブジェクトを破壊し、得点に加算されて……はいかないが、襲い来るすべての現象を叩き潰しながらサージェは突き進む。

 そこには嘆きも何もあったものではない。
 破壊の一撃は、あらゆる怨念すらも届かぬほどに凄まじい音を立てて、その中心へとサージェは至るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーニアルーフ・メーベルナッハ
外観からは有り得ない内部構造、かつてのゴーストタウンとは似て非なるものですね…

ともあれ探索です。
何が起こるか分からない以上、あらゆる事象に警戒しなければなりませんが、闇雲に警戒するばかりでは進行が覚束ないでしょう。
そこで、白燐奏甲を纏い、防御力を強化しつつ、敵対者――この先のオブリビオンに対し不運を齎す力を得ます。
かの敵にとっての不運とは、私達猟兵の到達を許すこと。それを妨げる不幸齎す力がうまく働かないこと。
そう解釈すれば、私に降りかかる不幸を軽減できるかもしれません。

後は床の崩落等、進行への支障を生じる不幸へ重点的に警戒。
直接的な負傷を与える不幸は、奏甲の防御強化で凌ぎます。



『ゴーストタウン』と化した廃虚は外部から見れば、3階建ての建物であった。
 けれど内部に入り込めば何処にも上階に繋がる階段がないことが知れる。内部の空間が『地縛霊型オブリビオン』によって歪められていることが原因であろう。
 そして、その空間の中を支配しているのが不運と不幸である。
 猟兵が足を踏み入れた瞬間から小さな不幸や不運が連続していく。
 それは中心である『地縛霊型オブリビオン』に近づけば近づくほどに危険度をましていくのだ。

「外観からあり得ない内部構造、かうての『ゴーストタウン』とは似て非なるものですね……」
 ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)は、目の前に広がる廃虚の空間を見やり頷く。
 これまで経験してきた『ゴーストタウン』との法則を逸脱した内部。
 だが、やるべきことは以前と変わっていない。

 そう、なにはともあれ探索である。
 この空間の中心に座す『地縛霊型オブリビオン』がいるというのならば、これを見つけ出して、この『ゴーストタウン』化現象を生み出している存在を打倒する。
「何が起こるかわからない以上、あらゆる現象に警戒しなければなりませんが……」
 しかし、闇雲に警戒しても進行がおぼつかない。
 遅れれば遅れるほどに雑霊オブリビオンは集まってきてしまう。
 それに石橋を叩いて渡るとは言え、あまりにも慎重過ぎるのも考えものであろう。ゆえにニーニアルーフは、己のユーベルコード、白燐奏甲によってまとわせた白燐蟲によって己の敵対者である『地縛霊型オブリビオン』に不幸な事故を誘発する力を発露させる。

『地縛霊型オブリビオン』にとっての不幸とはなんであろうか。
 それを考えた時に真っ先に思い至るのが、猟兵である己達の到達を許すことである。
 そして、それを妨げる不幸と不運渦巻く空間、その力がうまく働かないこと。
「これを踏まえた上で……私の意識が通じるのであれば」
 己の身に纏う白燐蟲は、他者に不幸を齎す。
 ならばこそ、己を襲う不運と『地縛霊型オブリビオン』に齎される不幸が相殺されることだろう。
 一歩を踏み出す。
 何も起こらない。

「やはり……なら、どこまで私の力が不幸を相殺できるかが問題となりますね」
 未だ中心に至っていない。
 まだ白燐蟲の齎す不幸の力は『地縛霊型オブリビオン』から離れた地点では逆転している。
 近づけば近づくほどに拮抗していくだろう。
 その拮抗を越えた瞬間こそが、ニーニアルーフの危機であろう。
 徐々に地下へと足を踏み入れる。地下一階ならばまだ大丈夫なようである。恐れる心がないわけではない。
 けれど、これまでも何度も彼女は戦ってきたのだ

 己に襲いかかる不運も恐怖も。何もかも彼女は乗り越えてきた。
 だからこそ、彼女は恐れず進むのだ。
「献身が裏切られるのならば、何故献身を美徳としたのか。裏切られ、傷つく心こそ労られるべきではないのか。傷つけた者にこそ罰が当たられるべきではないのか。なのに何故、私にばかり――」
 その嘆く声を聞いた瞬間、ニーニアルーフは己の白燐蟲が齎す不幸の力が逆転されたことに気がつく。

 突如として崩落してくる天井。
 躱すことも砕くことも出来ぬ巨大な塊。それを見上げ、ニーニアルーフの瞳がユーベルコードに輝く。
 己の身にまとった白燐蟲の装甲を盾のように形成し、その巨大な塊を防ぐ。
 腕がきしむ。けれど、それでも耐えきれないわけではない。
「ぐ……っ、これが、中心。あれが――!」
 ニーニアルーフは見ただろう。
 不運と不幸が渦巻く空間の中に座す『地縛霊型オブリビオン』の姿を。
 その嘆きと怨嗟に塗れた声を聞くだろう。

 あれこそが、この『ゴーストタウン』化現象の源である――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
確率的に有り得ない現象…完全に道理を無視した空間となっておりますね
抜ける床や落下物など物理的な妨害は苦ではありませんが、機能障害を発生させる霊障系が厄介です

致し方ありませんね

UCを使用すると大盾から球状のバリアが発生

これは…原理はSSWのサイキッカーや電脳魔術師が起こす超常現象対策の為のバリアフィールド、その強化版ですね
…感謝を
(盾受け+環境耐性)

探索の余裕も持てた以上、周囲に響く声や廃墟内部の構造から情報収集に努めましょう

この場所が元々どのような土地だったのか
彼…いえ、或いは彼らがどのような運命を辿ったのか

…苦しむ人々に手を差し伸べるは騎士の本懐
少なくとも、私はそう信じているのですから



 起こり得ないことが起こるのが不幸であるというのならば、『ゴーストタウン』と化した廃虚はまさに、その不幸と不運が煮詰められた空間であったことだろう。
 空間すらも捻じ曲げるほどの執着を持つのが『地縛霊型オブリビオン』。
 その力の源は、やはり生前の何かが関係していると言わざるを得ない。
 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は廃虚の中に足を踏み入れる。

「確率的にあり得ない現象……完全に道理を無視した空間となっておりますね」
 己のセンサーが示しだす空間の総量と眼の前に広がる光景の辻褄があわないことをトリテレイアは知る。
 己が足を踏み入れた廃虚の床は如何に老朽化が進んでいるのだとしても、己の重量を支えられぬほどのものではない。
 そして、天井もまた然りである。
 だというのに床は抜け、天井は崩落してくる。
 折れた鉄筋は不自然に尖り、己たちを害することが窺い知られる。

 とは言え、トリテレイアはウォーマシンである。
 物理的な障害は障害に成りえない。だからこそ、この『ゴーストタウン』に起こる霊障と呼ばれるトリテレイアにとっては不可解な現象のほうがよほど厄介であると実感する。
「致し方ありませんね」
 電脳禁忌剣・通常駆動機構:兵装改造『妖精の導き』(ウェポンカスタマイズ・スティールフェアリーズ)によって召喚された妖精ロボが施す改造。数瞬の後に己の大盾から球状のバリアを展開され、トリテレイアを襲う物理的な障害は尽くが防がれる。

「しかし、これは……原理はスペースシップワールドのサイキッカーや電脳魔術師が起こす超常現象対策のためのバリアフィールド、その強化版ということですね」
 感謝を、と己の叡智ではなく、己の創造主の叡智に感謝を示し、同時に己の不甲斐なさを恥じるトリテレイアは、それでも道が拓けたことを良しとする。
 マルチセンサーが次々と内部構造の情報収集を始める。
 どれだけ瓦礫や床や天井が抜けるのだとしても、バリアフィールドに包まれたトリテレイアが傷つくことはない。

 上階へ至る階段がないということは、これもまた空間が歪んでいるせいであろう。
 外部から見れば3階建てであったが、続く道は地下にしかない。
 マルチセンサーから収拾する音響データを元にすれば、『地縛霊型オブリビオン』が地下に存在していることがわかる。
「ならば、このまま進みましょう」
 その間もトリテレイアはこの土地がどのような土地であったのかを調べる。

 この土地は元々そう高値が着く土地ではなかった。
 利権に駆られた時の政治家たちが、金に目に眩んだ土地所有者が、汚泥に塗れたような闘争を繰り広げた土地だ。
 不祥事など当たり前のように山積している。
 それを見て見ぬ振りをして、放置し続けた結果、この研修施設券宿泊施設が完成した時、爆発したのだ。
 醜聞が撒き散らされ、すべての責任を問われると、政治家の秘書がすべての責任を負って自殺。

「さもありなん……すべての責任を負って自死。それが献身と教え込まれ、己でそう選択したのですね」
 献身に報いるだけの行いがあったのならば、『地縛霊型オブリビオン』は、ここまでこの土地に執着することはなかったのだろう。

 けれど、そうはならなかったのだ。
 トカゲの尻尾切りでしかなかった。だからこそ、その献身を切り捨て、なかったことにされた嘆きが今、この廃虚に木霊している。
「苦しむ人々に手を差し伸べるは騎士の本懐」
 すくなくともトリテレイアはそう信じている。
 ならば、この嘆きの声を救うこともトリテレイアの務め。トリテレイアはますますもって激しくなる不運と不幸の嵐の中を進み、この現象の中心へと至るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『地獄地蔵』

POW   :    地蔵地獄変
全長=年齢mの【巨大な地蔵像】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【親しい人物に襲われる「実体を持つ幻覚」】による攻撃を可能にする。
SPD   :    友愛破壊液
【親しい人に裏切られる幻覚を見せる粘液】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    焦熱地獄
レベル×1個の【地獄】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。

イラスト:純志

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 嘆く声が聞こえる。
 それはどうしようもない己の生命の無意味さを嘆くものであった。
「献身も、何もかも無意味であったのならば、私の生命に意味はなかったのか。私が死ぬことに寄って先生が、その政治生命を掛けることができたのならば、それでよかったというのに」
 廃虚の中心、『ゴーストタウン化現象』の渦中にある『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』は白い面のような顔からとめどなく涙を流しながら嘆いていた。

 周囲に渦巻く不幸や不運は凄まじい。
 まるで嵐のようにコンクリートの破片や鉄筋、鉄骨やガラス片が舞い上がっている。
『地獄地蔵』にとって、この廃虚は執着そのもの。
 己の生命をとしてまで守った場所である。
 だからこそ、この廃虚が寂れ、崩れ落ちることが許せない。 
 あってはならないことなのだ。
「私の献身は永久に続く。先生。私はまちがっていない。私の献身は先生を活かす。ただそれだけ。ただ一度でよかったのです。すまなかったと、その一言だけで私は報われたというのに」
 それさえもなかったのだと嘆く声が響く。

 思うだけで良かったのかも知れない。
 けれど、人とは忘れる生き物だ。どれだけの尊い献身も、どれだけの犠牲も、何もかも忘れる。都合が悪いものはすべて忘れ去られてしまう。
「それが人の成すことなら」
 忘れさせてなどやらぬ。
 己の存在を世界に叫ぶ。
 此処にあるのだと。忘れ去られてはならぬ存在が此処にあるのだと、『地獄地蔵』は廃虚に咆哮するのだ。

「此処は私の場所だ――!」
ファランス・ゲヘナ
【心境】
ただの自己満足だから普通にその先生迷惑だったんデネ?
あと貴様はただの地縛霊。本人じゃないから案外本人もあの世で迷惑してんでネ?
このまま成仏してやるゼ。オレは宇宙海賊だから除霊はできねーがナ
(注:むしろ犠牲者産む側ではないだろうか?)

【行動】
『肉体改造』で「砲獣形態」に変身すると『エネルギー充填』開始だ。
ん?攻撃を『オーラ防御』で防御したが、「親しい人に裏切られる幻影」だト…だから何?宇宙海賊にとって日常茶飯事だシ…
充填完了…内閣総辞職砲を食らうがイイ。
貴様の未練と恨みを『蹂躙』スル!!



 嘆く声が廃虚の中心に木霊する。
 この場所は己のものであると。己の献身が示す場所であると。喪われてはならぬ場所であると、その『地縛霊型オブリビオン』である『地獄地蔵』は咆哮する。
 その咆哮は正しいものであっただろうか。
「私の場所だ。私の場所だ。私が此処にある限り、この場所は、アザレアは咲き誇る――!」
『地獄地蔵』より粘液が迸るようにして放たれ続ける。
 それは親しい人が見せる裏切りの行い、その幻影を見せる粘液である。『地獄地蔵』にとって裏切りこそが最悪にして最低の行い。
 己の献身を理解せず、弔うことも、いたわることもしなかった者に対する見せつけであった。

 今はもう崩れ果てた、この研修施設兼宿泊施設のシンボルであったアザレアの花のモニュメントの瓦礫をかき抱くようにして『地獄地蔵』は迫る猟兵たちを見やる。
「ただの自己満足だから普通にその先生、迷惑だったんデネ?」
 その言葉は核心を突くものであったことだろう。
 己の献身を自己満足と否定する言葉に、『地獄地蔵』を取り巻く暴風の如き瓦礫が勢いを増していく。
「そんなことはない。私は先生のために、先生のために生命すら差し出したというのだ。その労り、その報いがないことのほうが道理に反しているだろう――!!」

 咆哮を受け止めるのは、ファランス・ゲヘナ(     ・f03011)であった。
 だが、その咆哮を受け止めて尚、彼は頭を振る。
「あと貴様はただの地縛霊。本人じゃないから案外本人もあの世で迷惑してんでネ?」
 オブリビオンとして蘇った存在。 
 それは過去に歪んだ存在である。なればこそ、ファランスに加減をする理由もなければ、その献身を肯定する意味もない。
 ブラックタールの体が第三形態――砲獣形態へと変身し、その砲身にエネルギーを充填していく。
 襲い来る粘液をオーラで防御しても、その粘液が齎す『親しい人に裏切られる幻影』はファランスの脳裏に浮かび上がる。

 数え切れないほどの裏切り。
 けれど、その裏切りを前にしてファランスの心は凪いでいた。
「だから何? 宇宙海賊にとって日常茶飯事だシ……」
 それは事も無げに言い放たれることであった。
 裏切りなど当たり前。背後から刺されるのも当たり前。それが海賊というものである。そこに情や絆と言ったものは必要ない。
 利用するかされるか。
 捨てるか拾うか。
 ただそれだけのことなのだ。

 充填していくエネルギーを見やり、ファランスは己の砲身に湛えた光を『地獄地蔵』に向ける。
「裏切りが日常など、そんなことがあっていいはずがない。そんなことなど間違っている。先生は、そのために――!」
 叫ぶ『地獄地蔵』。
 けれど、その叫びすらもファランスの心を揺らすことはない。

 砲身より放たれるエネルギーの奔流は放射熱線となって解き放たれる。
 それこそが、内閣総辞職砲(オワラセルモノ)。
 ネーミングセンスどうなっているんだと思わないでもないが、政治家の利権絡みの事件に寄って発生した『地縛霊型オブリビオン』であるというのならば、このユーベルコードの輝きこそがふさわしいだろう。
「貴様の未練と怨みを蹂躙スル!!」
 放つ熱線の一撃が廃虚を揺るがし、『地獄地蔵』の体を穿つ。

 飛び散る粘液すらも蒸発させながら、一直線に走る熱線が『地獄地蔵』の周囲に在った瓦礫すらも巻き込んで、その異形なる体を吹き飛ばす。
「どんな理由があっても、どんな境遇があっても、それでも貴様の未練んと怨みが、オレに及ぶというのなら、問答無用でぶっ飛ばス! それがオレの、宇宙海賊の流儀ダ――!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ふう、自己憐憫な嘆き節ねぇ。それほどに自分を預けた相手なら、最後までその覚悟を全うしなさい。
捨て石や踏み台にされて、その先生が上に行けるのならそれで本望じゃないの?
そうじゃないなら、それは見返りを求めてただけのありふれた媚じゃないの?

「範囲攻撃」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「衝撃波」「竜脈使い」「仙術」「道術」で烈焔陣。
あたしが砕くはオブリビオンだけに非ず。この過去の遺物と化した廃墟ごと大地の崩壊と噴出する溶岩に巻き込んで破壊してあげるわ。

親しい人が襲ってくる? あたしの仲間にそんなことをする人はいないわ。安っぽい幻影ね。
烈焔陣でまとめて焼き払う。

さあ、あなたもこんがりと焼き上がりなさいな。



『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』の嘆きの声は、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)にとって自己憐憫の嘆き節にしか聞こえないものであったことだろう。
 どれだけの献身があったのだとしても。
 どれだけの覚悟があったのだとしても。
「その理念があったのならば、それほどに自分を預けた相手なら、最後までその覚悟を全うしなさい」
 放射熱線の一撃に寄って廃虚の壁に叩きつけられた『地獄地蔵』の白面より溢れる涙が止まらない。
 どれだけ涙を流しても運命は覆らない。

 己が預けた生命を、如何なるように使われるのか。
 その想像もなく、覚悟もなく。ただいたずらに預けるだけで思考すらしなかったというのならば、それが『地獄地蔵』の大本になった地縛霊の残霊の不覚悟であったからだろう。
 ゆかりはその言葉をもって、『地獄地蔵』と対峙する。
「捨石や踏み台にされて、その先生が上にけるなら、それで本望じゃないの?」
 黙れというように『地獄地蔵』の体が膨れ上がり、巨大な地蔵像へと姿を変える。
 床をひしゃげるほどの重量を持つ『地獄地蔵』の体が飛翔する。
 この地下に在って、狭い空間を飛翔する速度は凄まじく、まるで壁や天井を跳ねるようにしてゆかりを襲うのだ。

「そんなの見返りを求めただけのありふれた媚じゃないの?」
 真実であったのかはわからない。
 どれだけ高潔な志が在ったのだとしても、汚濁に塗れれば、清廉さは喪われていくものである。
 大人になるということがそういうことであるのならば、残霊が持つ志は見返りを求めるだけの俗物であったということである。
 ならばこそ、ゆかりはその瞳をユーベルコードに輝かせる。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。汚濁に染まりし三昧真火よ。天帝の赦しを持って封印より解き放たれ、地上を劫火の海と為せ。疾!」
 床を割砕き、吹き上がる無数の火柱が、飛翔する『地獄地蔵』の体を撃つ。

 怨念に満ちた呪詛の炎が『地獄地蔵』の体に広がっていく。
 それが、烈焔陣(レツエンジン)である。
「あたしが砕くのはオブリビオンだけに非ず。この過去の遺物と化した廃虚ごと大地の崩壊と噴出する溶岩に巻き込んで破壊してあげるわ」
 砕けた床から噴出する火柱が次々と『地獄地蔵』を打ち、飲み込んでいく。
 確かに『地獄地蔵』が見せる幻影は、親しい人がゆかりを襲うものであった。
 けれど、彼女は己の仲間を信じている。

 この幻影を信じるに値しないのだ。
 彼らはこんなことをする人たちではない。安っぽい幻影でしかない。ならばこそ、立ち上がる火柱が幻影ごと『地獄地蔵』を飲み込んでいく。
「さあ、あなたもこんがりと焼き上がりなさいな」
「私の献身が燃える。私の、私の場所が。私の、あのアザレアの花が消える――!」
『地獄地蔵』の咆哮が轟く。
 自分の在り処。
 縁にして寄す処であった場所が火柱に飲み込まれていく。それがどうしても許せないのだろう。

 嘆きの声は怨嗟となって地下に響く。
 ゆかりは、その炎が煌々と燃え盛り、『地獄地蔵』を飲み込んでいく姿を幻影の向こうに見る。
 例え、親しい人たちが襲い来る幻影を見せられているのだとしても、何も信じるに値しない。
 己はただ、ユーベルコードの輝きを持ってして、『地獄地蔵』を燃やし尽くすのみ。
 床に墜ちる『地獄地蔵』の体が凄まじい轟音を立てる。
 その身を焼く恩讐すらもユーベルコードの炎は燃やし尽くすだろう。

 過去に歪んだ地縛霊。
 その執着の果てにあるのは、滅びでしかない。どれだけの献身があろうとも。それが歪み果てた結果、他者に害を成すのであれば、どうしようもないことだ。
「アザレア……その名が示す意味をほんの少しでも覚えていたのなら」
 きっとこの土地に執着することもなかったのかも知れない。
 けれど、それは詮無きことである。
 ゆかりは燃え盛る『地獄地蔵』の体を見やり、己の炎で以て浄化されることを願うばかりであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛇・水聡
ウッソでしょ、デカくて早くて飛ぶなんて最悪じゃない!
飛翔に轢かれないよう全力で回避しながら反撃の機会を窺う
ぶつかりそうになったら斧で受け止めたり
捕まったら力の限り抵抗して脱出を試みる

幻覚。
若返る前は一緒に暮らしていた彼女に、裏切られる…
…でもねェ、ほぼ寝たきりの彼女がこんな場所に居るハズが無いのよ
裏切るぐらい元気になったなら嬉しいのだけど…
幻影をぶった斬りつつUC発動、荼毘に伏す為の炎を贈るわ

残念、アナタの嘆きに共感できないみたい
先生とやらに欠片でもいいから愛があれば良かったのにね
相手の虚を突けたならその勢いで猛攻

この一件でアタシにとってアナタは忘れられない存在になったわよ
安らかに成仏なさい



 猟兵の攻撃に寄って燃え盛る芋虫の如き『地獄地蔵』の体が宙に浮かぶ。
「忘れてはならない。献身を。私の献身を。命をかけて護ると決めたのだ。私の居場所を。此処こそが私の護るべき場所。ならば、お前たちはすべて滅ぼす。この地に踏み入れた者全てを排除して、私の居場所を護る――!!」
 咆哮が轟く。
『ゴーストタウン』化した廃虚の地下にて怒号の如き叫びが迸る。

 嘆きの言葉は怒りに変わる。
 何故理解してくれないと。何故己の献身は報われなかったのかと。そんなことなど間違っていると世界を破壊する過去の化身の咆哮が迸るのを蛇・水聡(ベノムクランブル・f35305)を真正面から見据える。
 膨れ上がっていく『地獄地蔵』の体。
 巨大な地蔵像へと姿を変えた『地獄地蔵』が飛び上がり、空間を歪められた地下を幻影を撒き散らしながら飛ぶのだ。
「ウッソでしょ、デカくて早くて飛ぶなんて最悪じゃない!」
 飛翔によって突撃を繰り返す『地獄地蔵』の体を躱しながら、水聡は走る。
 あの突撃に轢かれでもしたら事である。

 構えた大斧の刀身を盾にして激突の衝撃を殺す。
 けれど、その衝撃は凄まじく地面を靴底が削ってもなお、突進の威力が収まらないのだ
「大したものね……だけど」
 突如として水聡の視界を埋めるのは幻影。
『地獄地蔵』が生み出した親しい人の裏切りを見せる幻影である。それがわかっているのは、水聡が理解しているからだ。
 目の前に広がる一緒に暮らしていた彼女の姿。
 その裏切りを見た。

 確かに衝撃的な幻影であった。
 けれど、それは幻影でしかないのだ。彼女はほぼ寝たきりの状態なのだ。こんな場所に居るはずがない。
 もしも、自分を裏切ることができるほどに元気になったのならば、それは喜ばしいことであった。
「よく出来た幻影だこと……でもねェ……それは真ではないのよ」
 理解している。
 幻影だ。己が見たいと思ったものではないのかもしれないけれど、それは一つの幸せの形であったのかもしれない。

 裏切ることができるということは生きることができるということでもある。
 ならばこそ、その幻影を大斧が断ち切り、水聡が唇に指先を付け、弾くようにして思いを飛ばす。
 それはまとわりつく魔炎と成って、幻影を荼毘に付す。
 あり得ない現実。
 それが幻影と成って己の前にあるというのならば、それこそ水聡は踏み越えていかなければならない。
 なんのために己の運命の糸がまたつながり、若返ったのか。
 その理由を探すために。

「残念、アナタの嘆きに共感できないみたい」
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 確かに目の前の『地獄地蔵』の大本となった残霊は裏切られたのだろう。献身の果てに報われることのない思いだけが還ってきたのだろう。
 だからこそ、『地獄地蔵』の喚く『先生』とやらに欠片でもいいから愛がったのならばよかったのに。そう思わずにはいられない。

 ならばこそ、その輝くユーベルコードに寄って齎されるのは、溢れんばかりの水聡のLOVEのお裾分け(ラブパワー・シュート)である。
 再び放たれた投げキッスは魔炎となって『地獄地蔵』に絡みつく。
「愛など、私にはなかった。あったのは献身を求めるものばかりだた。だから――!」
 与えたのだ。献身を。その献身の代価を求めて何が悪いと水聡に激突する地蔵像の体。

 それを水聡は受け止め、弾き飛ばす。
 魔炎は未だ『地獄地蔵』を包み込んでいる。
「確かにこの一件でアナタシにとってアナタは忘れられない存在に成ったわよ」
 アザレアのモニメントが砕け果てた廃虚に水聡の言葉が小さく響く。
 忘れがたき幻影を見た。
 けれど、それは幻影に過ぎない。ならば、己の振るう大斧の一撃でもって決別しなければならないのだ。

 一直線に飛び込んでくる地蔵像を大斧の一撃が見舞う。
「安らかに成仏なさい」
 その言葉は、一閃となって『地獄地蔵』の妄執ごと引き裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サージェ・ライト
よーし辿り着いた
強引な手段で辿り着いたのはクノイチの特権です(キリッ

さて、と
怨嗟も嘆きもあなたのものでそれを拭う術は私にはありません
人の道ではあなたを救うことはできないのでしょう

ならばこそ私は【威風堂々】とあなたをこの地から祓いましょう
そんなわけでクノイチ参ります!

その怨嗟の叫び、真正面から斬り裂いてみせましょう
『漆黒竜ノ牙』を全投擲からのカタール装備!
ダッシュで間合いを詰めつつ
地獄の炎はスライディングで回避ー!
どうしても食らいそうなのはカタールで切り払い!(ジャストガード)

間合いを詰めたら態勢を整えつつ勢いを殺さず
正拳突きの要領で刺突攻撃!
「ちぇすとー!」
その怨嗟ごと貫通して破壊します!



 猟兵の放った一閃が『地縛霊型オブリビオン』である『地獄地蔵』の体へと叩き込まれる。
 その体は芋虫のような体であり、白面より流れ出る涙のような液体が粘液となって床へと滴り落ちる。
「私の生命はなんだったのか。なんのために生まれ、何のために死んだのか。全ては先生のためであったのに。なのに、ねぎらいのことば一つなく、私は忘れさられる。そんなことがあっていいわけがない」
 嘆く声は『ゴーストタウン』と化した廃虚に響き渡る。
 どうしようもない嘆きの言葉は過去に歪んだ地縛霊のものであったことだろう。
 大本である残霊が持っていた嘆きは、この地への執着と成って膨れ上がっていく。

 噴出する嘆きは地獄の炎となって廃虚の中を巡っていく。
 燃え盛る炎。
 そこへ落ちてくるのは崩落した天井の破片とサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)であった。
「よーしたどり着いた!」
 サージェはオブジェクトを破壊しながら床をぶち抜くというショートカットを決めて、『地縛霊型オブリビオン』である『地獄地蔵』へと至る。
 こんな強引な手段が許されるのはサージェだけであろう。これがクノイチの特権である。流石汚い。

「此処は私の場所だ。誰にも渡さない」
 放たれる地獄の炎を前にして、サージェは怯むことはなかった。
 威風堂々(シノベテナイクノイチ)とした佇まいのまま、その瞳がユーベルコードに輝いている。
「怨嗟も嘆きもあなたのもので、それを祓う術は私にはありません。人の道ではあなたを救うことはできないのでしょう」
 サージェにはわかっていた。
 目の前の『地獄地蔵』を救うことができるのは自分ではない。
 人は自分で自分を救うことができる。他者が誰かを救うなどとそんなことはできようはずもない。

 だからこそ、サージェは己の姿を隠すのではなく、晒すことで己の力を高めていくのだ。
「ならばこそ私はあなたをこの地から祓いましょう。そんなわけでクノイチ参ります!」
 放たれる地獄の炎をサージェの手にしたカタールの一閃が振り払う。
 切り裂いた炎の向こう側からサージェが放つは、漆黒の鱗の如きクナイであった。手にしたそれらをすべて投擲し、『地獄地蔵』との距離を詰める。
 舞うサージェめがけて地獄の炎が放たれ、それを彼女は地を滑るようにして走り抜け、その勢いを殺さず床を蹴る。

「どれだけあなたが此処に執着しても、あなたが本当に欲しているものはきっと得られないでしょう。ただいたずらに人を傷つけるだけ」
 ならば、それはきっと悲しいことなのだろう。
 永遠に欲しいものは手に入れられず、けれど、誰かを傷つけることだけは止められない。そんな舞台装置のような存在に堕ちることだけはさせてはならない。
「此処は私の場所だ。私だけの。私の生命が在った証明――!」
 きっとそれはサージェにとっても理解できるものであったのかもしれない。
 おのれがクノイチの概念をもって、自己を成す存在ならばこそ、居場所を持って自己と成す『地獄地蔵』は似ている存在であった。

 けれど、その在り方は決定的に間違ってしまっている。
「ならば、討ち祓いましょう! ちぇすとー!」
 放たれるは正拳突き。
 カタールを装備した拳の一撃は怨嗟の嘆きごと貫く。忍ぶ必要はない。今まさにサージェは己という存在を持って、『地獄地蔵』という場所に固執する存在を貫く。

「あなたの行く先が地獄なのかもしれません。それでも骸の海に沈み、歪み果てることがもう二度とないように」
 そう願わざるを得ない。
 サージェの一撃は『地獄地蔵』の体に大穴を穿ち、その無念と怨嗟を祓うのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・悠
ふー、やっぱり昔みたいには体が動きませんねーうふふ……
さて、と

あなたの怨嗟も本来なら残留思念程度のものだったのでしょうか
それとも銀の雨がなくても、怪奇現象になっていたんでしょうかね?

いずれにしても人に害およぼす存在ならば
あなたはここに居てはいけないんです

『親しい人に裏切られる幻覚』ですか

すみませんね、もう経験済です
正確には違うかもですが、期待通りにならないことなんて
たくさん経験してきました、仲間が死ぬことだって

それを一緒に乗り越えてきた今の私の親しい人たちなら
たとえ裏切られても構いませんし
まぁそんな簡単に裏切られる仲でもありませんし?

ですから無意味ですよ?
その怨嗟、私が断ち切ってあげます



『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』の芋虫のような体に穿たれた一撃は、嘆きと怨嗟を打ち払うものであったことだろう。
 されど、オブリビオンである肉体は滅びない。
 体に内包された粘液が、『地獄地蔵』の体を膨れ上がらせる。
「私は此処に居る。此処以外に私の生命の証明はない。生命を賭して、私は、この場所を、存続させる。そのためだけに、私は」
 傷は浅からぬものばかりである。
 だというのに、『地獄地蔵』はこの地に執着する。

 すでに砕けて落ちたアザレアのモニュメント。
 その破片は見る影もない。けれど、それに縋るしかない。それが『地縛霊型オブリビオン』であるというのならば、それは悲劇であったことだろう。
「ふー、やっぱり昔みたいに体が動きませんねーうふふ……」
 文月・悠(緋月・f35458)は世界結果の復活に寄って弱体化した己の能力を顧みる。
 けれど、それで歩みが止まるわけではない。
 目の前には討つべき『地縛霊型オブリビオン』がいて、逃す理由などないのだから。
「あなたの怨嗟も本来なら残留思念程度のものだったのでしょうか。それとも銀の雨がなくても、怪奇現象になっていたんでしょうかね?」

 銀の雨が降る時、ゴーストは湧き出す。
 世界結界によって超常を超常と認識できなくなる人々に変わり、生命奪うゴーストと戦う。
 それが悠たち銀誓館学園の能力者の定めであった。
 どうして戦うのかと問われたら、悠は迷わずにこう応えるだろう。
「いずれにしても人に害を及ぼす存在ならば、あなたは此処に居てはいけないんです」
 ただそれだけだ。
 害を成す存在を捨て置け無い。ただそれだけで、生命を賭ける理由になる。能力者とは大なり小なりそういう存在なのだ。

 溢れる粘液が弾け飛び、そう答えた悠に飛び散る。
 その粘液が見せる幻影は、『親しい人に裏切られる幻覚』である。悠にとっては夫や友人たちだろう。
 己を裏切る彼らを前にして悠は、泰然自若としていた。
 取り乱してもおかしくないほどの幻覚。
 それほどまでに酷い裏切りが悠の視覚を占めている。けれど、悠は頭を振る。
「すみませんね、もう経験済みです」

 正確には違う。
 けれど、それでも期待通りにならないことなんて、多く経験してきたのだ。
 死と隣り合わせの青春。
 駆け抜けた日々で仲間が死ぬことだって在った。それが当たり前のように行われてきたのだ。

 けれど、それを。
 それさえも仲間と共に乗り越えてきたのだ。
 いつだって一人ではなかった。自分の周りには親しい人たちがいてくれた。
「だから、たとえ裏切られても構いませんし」
 それに、と悠は一歩を踏み出す。
 そんなに簡単に裏切られる仲でもないのだ。だから、それは無意味だと、彼女の瞳がユーベルコードに輝く。

「さあ、貴方の姿、可愛く描けましたよ」
 スピードスケッチ奥義(スピードスケッチオウギ)によって空中に素早く描かれた『地獄地蔵』のデフォルメされたキャラクターが粘液迸る『地獄地蔵』へと迫る。
 そこに迷いなどなかった。
 どれだけ惑わされても関係ない。迸る怨嗟は己が断ち切る。

「次、なんてことがあるのかもわかりませんけれど」
 悠の手繰るデフォルメされた『地獄地蔵』が粘液の中を飛び、『地獄地蔵』に組み付く。
 その体がが膨れ上がり、地獄の炎を噴出させ『地獄地蔵』そのものを炎に包み込んでいく。凄まじい炎。あらゆる怨嗟も、嘆きも焼き尽くしてしまうほどの勢いで立ち上り、悠は己の手にしたGペンを収める。

 描くべきは描いた。
 幻覚を真正面から見据え、振り切り、あの遠き青春の日を思い出す。
 死ぬことも生きることも、全てがあったあの日。
 もう返ることのない日々。その延長線に自分がいる。走らせたGペンの軌跡が未来を描くのならば、悠はきっともう悩むことなんてないだろう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

ただの一言を求め、それで地縛霊に。まあ、あり得る話ではありますよねー。
…それくらいの見返りはあってもよかった、のかもしれませんが。何せ、私とは違うのでー…。
(『皆が幸せであればいい』に自分入れない人)

んー、まあ親しい人は内部にいたり、同じく猟兵として活動してたりしますのでー。まあ、良くできた偽物で。
見えてないはずの内部からも「そんなこと言わないが?」という訴えが。

その速度で動くにしても、どこちらに来るならば、手はある。
四天霊障による結界で一瞬でも止める。そして、そこへ漆黒風を投擲していきましょう。

あなたはもう、お眠りなさい。あなたの役目は、もう終わったのですから。



 炎が上がる。
 それは地獄の炎。『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』を包み込む炎は怨嗟と嘆きを焼く。
 されど『地獄地蔵』の嘆きは終わらない。
 生命をとして守ったはずの廃虚。
 かつての研修施設兼宿泊施設。アザレアの花のモニュメントが砕けて散る地下に在りて『地獄地蔵』の執着は凄まじいものであった。
「私の生命は、私のものではなかった。けれど、それに胃を唱えるものではない。私はそれでよかったのだ。喪われてしまう生命であったとしても、その使い道を自分で決めたのだから」
 けれど、『地獄地蔵』の大本となった残霊は嘆く。
 そう、例え喪われる生命であったとしても、その生命に労いの言葉がほしかったのだ。

 ただの一言。
 その一言すら得られなかった残霊に残ったのは執着だけであったのだ。
「ただの一言を求め、それで地縛霊に。まあ、ありえる話ではありますよねー」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の四悪霊のうちの一柱、『疾き者』は共感するものであった。
 切り捨てられる者にとって、労いの言葉一つで報われるものである。
 けれど、かの『地獄地蔵』の大本になった残霊にはそれがなかった。
 ならばこそ、『疾き者』は同情する。それくらいの見返りがあってもよかった。だが、そうはならなかったのだ。

 己のようにはならなかった。
 自分と残霊は違う。
 己の中にある思いが『皆が幸せであればいい』である以上、己は勘定に入っていないのだ。
「私は私の生命の使いみちを間違えた。ただそれだけなのかもしれない。けれど、此処は私の場所だ。私が私であるための場所だ。ここだけが私の生命の意味」
 咆哮する『地獄地蔵』の体が芋虫のような体から巨大な『地獄地蔵』へと姿を変え、地下を跳ねるようにして飛ぶ。
 その速度は凄まじく、次々と撒き散らされる粘液が見せる幻影は、己を裏切る親しき人々であった。

「まあ、よく出来た偽物で」
『疾き者』にとって、幻影はその程度の感想でしかなかった。
 例え裏切られたとしても、『疾き者』は笑うのかもしれない。己以外の皆が幸せであるのならば、それでいい。
 それだけの覚悟があった。
 それを覚悟と呼ぶのかはわからない。けれど、『疾き者』は誰かのために生命を使う。

 内部にある三柱たちは言うだろう。
 どれだけ幻影が己たちの姿で『疾き者』を責め立てるのだとしても、そのようなことは一言も思わないし、言うことはないのだと。
 その訴えを『疾き者』は聞き、笑むだろう。
 さりとて、その笑みは向けられるものではない。今は戦わなければならないのだから。
「その速度で動くにしても、こちらに来るのならば手はある……」
 視線を巡らせる。
 地下を跳ねるようにして飛ぶ『地蔵像』が一直線に己へと向かってくる。幻影を伴って、己の心をかき乱そうとする『地獄地蔵』の姿。 
 それを視界に納めながら、『疾き者』は目をそらすことはなかった。

「あなたはもう、お眠りなさい」
 ただ一言告げる。
 もう起きていていい時間ではないのだと。確かに残霊はこの廃虚を守ったのだろう。利己的な行いであったのだとしても、それは己の居場所を護るためだ。誰にだってあることなのだ。
 だからこそ、その魂は疲れ切っているはずだ。
 握り込んだ棒手裏剣の一撃が投げ放たれる。
 霊障が『地獄地蔵』の体を一瞬留め、体勢を崩す。そこへ放たれた四悪霊・風(シアクリョウガヒトリ・トノムラヨシツナ)の一撃は、『地獄地蔵』の白面を穿つ。

「あなたの役目は、もう終わったのですから」
 アザレアの花のモニュメントは砕けている。
 そこはもう『地獄地蔵』の大本たる残霊の居場所ではない。
 もしも、その残霊が骸の海に返るのならば、二度と今に滲み出ることがないようにと願わずにはいられない。
 終わった役目。終わった生命。
 その悲しき結末を変えることはできない。ならばこそ、その魂にこそ手向けとなる一撃でもって『疾き者』は『地獄地蔵』を砕くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霞・沙夜
あなたの献身も犠牲も、否定するつもりはありません。

けれど、その執着が生み出したこの『場所』は、
能力者……いえ、猟兵として否定させていただきます。

それに、本当の『献身』とは見返りなど求めないもののはず。
そんな気持ちになってしまうということは、
あなたの気持ちが純粋ではなかったということになってしまうのではありませんか?

真にあなたの気持ちが純粋ならば、
執着を解き、素直な成仏をされることで示されるのがいいと思います。

……いかがでしょうか。

していただけないのならば……しかたありません。
【雪斗】とわたしで送ってさしあげましょう。

【繰り糸】を絡めて相手の動きを止め、そのまま【雪斗】の鎌で一閃いたしますね。



 その身に穿たれた一撃は『地縛霊型オブリビオン』である『地獄地蔵』への手向けであったことだろう。
 もういいのだと。
 嘆きと怨嗟に塗れる必要など何処にもないのだと言うように、猟兵達は己の力を持って打倒する。
 確かに『地獄地蔵』は強大なオブリビオンであったことだろう。
 かつて在りし残霊の持つ後悔や遺恨、そういったものを増幅させ、つのらせ、この土地に執着したからこそ廃虚の空間すらも捻じ曲げる力を獲得したのだ。
「私の生命の居場所は此処だけだ。此処だけが私の生きた証。此処でしか私は私の生命を実感できない。生命をなげうってでも守りたかったもの。それだけが私の生命の誇り」

 膨れ上がっていく『地獄地蔵』の体。
 芋虫のような体に白面の如き顔から粘液が涙のように溢れ出ていく。
 それは決して美しいものではなかったことだろう。裏切りによって、心をひどく傷つけられた魂。そこに美しさを見出すことはできない。
 あるのは人の世の常。
 その醜さだけであった。けれど、その醜さがあるからこそ、人の心の美しさがある。献身が美しいもののように思えるのだ。
「あなたの献身も犠牲も、否定するつもりはありません」
 霞・沙夜(氷輪の繰り師・f35302)は未だ崩れ、霧消せぬ『地獄地蔵』を前にし打撃を加えるのではなく、言葉を尽くす。

「けれど、その執着が生み出したこの『場所』は、能力者……いえ、猟兵として否定させていただきます」
 紗夜はこれまでも何度も同じような戦いをしてきたのだろう。
 あの青春の日々は、いつだってこのような戦いばかりであった。人は死ぬ。己たちが世界結界によって生じたゴーストを倒さなければ、生命は消えていく。
 自分たちの生命だってそうだ。

 だから、戦うのか、それとも対話をするのかを紗夜は選ぶことができた。
「それに、本当の『献身』とは見返りなど求めないもののはず」
 紗夜は今の『地獄地蔵』が吠え猛る言葉に頭を振る。
 彼の生前の行いは確かに尊ばれるべきものであったのだろう。けれど、死して見返りを、たった一言を求める一滴の染みが生じることによって、純粋であった献身は献身ではなくなってしまう。
 紗夜は否定したいわけではない。

 その献身を。
 けれど、今の『地獄地蔵』は誰にも純粋さを感じさせることはない。
 徒に他者を傷つけるだけの存在に成ってしまっている。それがどうしようもなく悲しいことだと紗夜は感じるだろう。
「真にあなたの気持ちが純粋ならば、執着を解き、素直な成仏をされることで示されるがいいと思います」
 真理であったことだろう。
 誰もがそうするべきだと思うだろう。けれど、染みは消えない。
 一点の曇りなき者が存在しないように、『地獄地蔵』もまた過去に歪み果てた存在である。

「ただの一言でよかった。それだけで私は……どうしようもなく、怨みが、辛みが、溢れてくる……!」
『地獄地蔵』の白面から粘液が溢れ出る。
 涙のようなそれはとめどなく。周囲に渦巻いていた力の奔流が消え、瓦礫をまとっていた『地獄地蔵』の周囲に落ちていく。
 それは彼の中にある澱が解けて、溶けていく様であったことだろう。
 けれど、オブリビオンとなった『地獄地蔵』の体は未だ世界を侵食しようと残っている。自らの意志ではもう止めることのできない破壊の衝動が、紗夜に襲いかかるのだ。

「……しかたありません。『雪斗』とわたしで送ってさしあげましょう」
 これを悲しいことだとは思わない。
 思ってはならない。
 それは『地獄地蔵』の解きほぐされた心を傷つけるものでしかないから。
 だからこそ、紗夜は鋼糸の如き操り糸を『地獄地蔵』に絡みつかせ、動きを止める。マリオネット『雪斗』が大鎌を振り上げ、その一閃が『地獄地蔵』を切り裂く。
 アザレアの花のモニュメントが砕けたそこへ、彼の手が触れる。
 どうしようもないことだ。
 もしも、少しでも『地獄地蔵』の大本となった残霊の心を慰撫するものがあったのだとすれば、この地にある執着を紗夜が切り裂いたことであろう。
 喪われてしまったものは戻らない。
 けれど、執着は何も生み出さない。あるのは生命を奪う行いだけだ。
 その悲しき輪廻の如き鎖を紗夜は断ち切った。それだけが『地獄地蔵』に出来る唯一のこと。紗夜は、マリオネットを手繰る糸が張り詰めるのを感じた。
 悲しいと思いながらも人は生きていかなければならない。
 その意味を彼女は砕けたアザレアの花のモニュメントに見るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーニアルーフ・メーベルナッハ
そうですね、献身という目的そのものは間違っていなかった。
間違っていたとすれば、その為の行い。
あなたは、あまりにも手段を選ばなすぎた。その献身が報われなかったのは、因果、であったのかもしれません。

ともあれ戦闘です。
現れるのはきっと、かつての仲間達。
今はそれぞれの人生を送る彼らの幻覚で襲ってくるのでしょう。
けれど、幻覚と理解しているならば。恐れることはありません。

土蜘蛛の檻を展開、幻覚も本体も諸共に拘束。
後は張り巡らせた蜘蛛糸を利用した跳躍も交えて敵に接近、【怪力】を乗せたブレンネン・ナーゲルにて殴り抜くと共に炎を浴びせ【焼却】します。
その罪業も妄執も、諸共に焼き尽くして差し上げます…!



『地縛霊型オブリビオン』、『地獄地蔵』の体が放たれた一撃によって穿たれる。
 それは凄まじき一撃であり、怨嗟と悔恨によって増幅した力すらも貫くものであった。膨れ上がる芋虫のような体。白面の如き顔から粘液が涙のように溢れている。
「私は、此処にしか居られない。此処だけが私の場所なのだ」
 アザレアの花のモニュメントは砕けている。
 もはや戻らぬ日々。 
 どうしようもないことだ。生命は喪われてしまえば、二度と戻ることはない。それがこの世の理であるのならばこそ、人は懸命に生きるべきなのだ。

 その結果がこれである。
 その末路がこれである。
『地獄地蔵』の体が膨れ上がり、巨大な『地蔵像』へと姿を変えていく。この地下の空間にありて、壁や天井を跳ねるようにして飛ぶ姿は異様そのものであった。
「献身が裏切られるのならば、尊ばれるべきではなかったのだ。生命を賭すことに、生命を懸けるに値するものなどこの世にないのだと、何故誰も――」
 教えてはくれなかったのだと『地獄地蔵』は嘆く。
 意味のない人生。無駄に喪われただけの生命。

 その嘆きを前にニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)は立ちふさがり宙を飛ぶ『地獄地蔵』へと視線を送る。
「そうですね、献身という目的そのものは間違っていなかった」
 それ自体は尊ばれるべきものだ。
 ならば、何が間違っていたのか。
 その答えをニーニアルーフは知る。
「間違っていたとすれば、その為の行い。あなたは、あまりにも手段を選ばなすぎた。その献身が報われなかったのは、因果、であったのかもしれません」

 人の生命は喪われる。いつか必ず。
 だからこそ、人は懸命に生きるのだ。けれど、その懸命さが時に人を殺す。
 因果でしかない。懸命に生きるがゆえに、人の生命は軽さを増す。
「……わかっているのです」
 目の前に現れる幻影。
 それは幻覚であるとニーニアルーフは知っている。わかっているのだ。嘗ての仲間たち。今はそれぞれの人生を来る彼ら。
 知っている。わかっているのだ。
 その幻影が裏切りと共に己に牙をむく。恐るべき力であると同時に、これが他者に裏切られたがゆえの力。

 人に裏切りを見せる力を前にしてもニーニアルーフは躊躇わなかった。
 幻覚と理解しているからこそ、恐れるに足りない。
 その瞳がユーベルコードに輝き、幻影すらも振り払って土蜘蛛の檻たる糸の巣を生み出していく。
 宙を舞うように飛ぶ地蔵像を捉えた瞬間、『地獄地蔵』は己の腕力が急激に喪われていくのを感じたことだろう。
「――私の、力が、振り切れ、ない」
 糸を振り切ろうとしても、振り切れない。断ち切ることのできない糸が絡みつき『地獄地蔵』の体を絡め取る。

「これこそが土蜘蛛の本領。私の巣の中にあって、あなたの力は無いに等しい」
 彼女の手に備えられた手甲の赤手。鉤爪がユーベルコードの輝きを受けて煌めく。炎が噴出する赤手を振り下ろし、『地獄地蔵』の体を一閃する。
 炎の軌跡が『地獄地蔵』を薙ぎ払い、絡みつく糸に延焼しその身を焼いていく。これが因果。
 幻覚すらも取り込み、その炎は巨大に立ち上る火柱のように姿を変えるだろう。
「その罪業も妄執も、諸共に焼き尽くして差し上げます……!」
 それだけが彼女に出来ることだった。

 懸命に生きるがゆえに生命を失ってしまう。
 どこかで立ち止まることができたのならば、また違った結末があったのかもしれない。
 アザレアの花のように、その結末が別の道を示したかもしれない。
 人は生きてこそ。
 死と隣り合わせの青春を送ってきたニーニアルーフだからこそ、知ることの出来た道。その道を示せど、喪われた生命は戻ってこない。

 だからこそ、ニーニアルーフはこの因果を焼き尽くさんと赤手の鉤爪より『地獄地蔵』に炎を送りこみ、その存在を焼き尽くさんとするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
姿形は同じでも、身のこなしは雲泥の差
これでは同一視は困難ですね

猟兵の戦友や知己の実体幻影斬り捨て
脚部スラスターの●推力移動併用した疾走や跳躍で巨大地蔵の肉弾攻撃躱し

ご自身でも御分りの筈です
貴方の献身は、期待は裏切られたのだと

時に●怪力で振るう大盾で弾き飛ばし、攻撃を●継戦能力で捌き続け

…もう十分でしょう

懐に潜り込み大盾殴打
地に沈め

己を滅するまでの献身は美徳です
ですが、騎士でも無い万人に求める物ではありません

貴方は“先生”に見切りを付け、己を護って良かったのです
その選択は、決して貴方が唾棄する裏切りでは無かったのですから

充填していたUC解放

…その未練、祓わせて頂きます

巨大光剣で廃墟ごと切り裂き



 炎の奥に揺らめく姿があった。
 それは友とする猟兵たちの姿であったし、同時に知己の者でもあった。
 無数に揺らめく姿をしたそれらが一気に己へと襲いかかる姿をトリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は冷静に見ていた。
 彼はウォーマシンである。
 確かにこれだけの視覚情報を己のアイセンサーから誤認させるように浮かび上がらせる力を持つ『地獄地蔵』は強大なオブリビオンであるのだろう。

 けれど、それでもなお、トリテレイアは電脳で判断する。
「姿形は同じでも、身のこなしは雲泥の差。これでは同一視は困難ですね」
 襲い来る幻影たちを剣で一閃し、斬り捨てる。
 そこに迷いは何一つなかった。例え己の知る者たちの姿をしていたのだとしても、トリテレイアはこれらが幻影であることを知っている。
 襲い来る彼ら。
 動きが違う。『地獄地蔵』の手繰る幻影では、友とする猟兵たちの動きを再現できていないのだ。粗ばかりが目立ってしまっている。
 脚部スラスターが噴射し、地下を疾駆する機械騎士。

 空中を自在に飛び回る地蔵像と化した『地獄地蔵』を前にしても、その機動力は劣らないものであったことだろう。
「私の居場所は此処だ。此処にしか無い。私が命をかけた場所」
 それは最早嘆きでしかなかったのだ。
 生命を賭して守った場所。象徴たるアザレアの花のモニュメントは砕けて地下に散らばっている。
 それを悲しいと思えるだけの心が在りながら、過去に歪んだ存在が『地獄地蔵』である。
 労りを求める心がネジ曲がることによって生まれた存在、『地縛霊型オブリビオン』。その力の奔流は白面から溢れる粘液の如き涙によって表されている。

「ご自身でも御分かりのはずです。貴方の献身は、期待は裏切られたのだと」
 大盾で幻影を吹き飛ばし、そのまま突撃して来る『地獄地蔵』の巨体を受け止める。怪力でもって巨体を押し留めながらトリテレイアは告げる。
「……もう十分でしょう」
 それは、『地獄地蔵』の大本となった残霊に対する慰撫であったことだろう。
 大盾を一瞬引き、僅かな空白を生み出して打ち出す大盾の一撃。その殴打の一撃が『地獄地蔵』の体を床に叩きつける。

 もう意味のない戦いだ。
 守るべきものは崩れて、消え去ろうとしている。
 人の生み出したものは永遠にはならない。
「己を滅するまでの献身は美徳です。ですが、騎士でもない万人に求める物ではありません」
 美徳は尊ばれるべきものである。
 けれど、それはすべての人が出来るものではないのだ。誰もがしたいと、そうありたいと願うものであれど、無理をしては意味がない。
 きっと嘘になるから。

 だからこそ、トリテレイアは静かに告げる。
「貴方は“先生”に見切りを付け、己を護ってよかったのです。その選択は、決して貴方が唾棄する裏切りではなかったのですから」
『地獄地蔵』の変じた地蔵像が大地より浮かび上がり、再び飛翔する。
 その白面から溢れる粘液はとめどなく流れ続けている。
 今も尚トリテレイアを襲う幻覚はある。けれど、彼は気にもとめなかった。己が見据えるべきものは唯一つ。

 己の格納スペースより現出した柄を手に取る。
「私は此処にしか居られない――! このアザレアの花の元にしか!」
「……その未練、祓わせて頂きます」
 迸る輝きは、コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー(ダイレクトコネクトセイバー・イミテイト)である。
 極大まで解放されたエネルギーの刀身が『ゴーストタウン』化した廃虚の天井を貫き、形成される。
 見据えるは、『地獄地蔵』。
 その悔恨と嘆きの塊を切り裂く一撃。振り下ろされた極大の光剣の一閃が『地獄地蔵』を切り裂く。

 そう、もしかしたら在り得たかも知れない未来を思わせる輝き。
 もしも、『地獄地蔵』の大本である残霊にあったのが献身だけではなく、忠言であったのならば。
『今』は変わっていたのかも知れない。
 けれど、それは詮無きことであるとトリテレイアは知る。
 光剣の一撃が『地獄地蔵』を斬り裂き、トリテレイアは手向けとする。次なる生があるかはわからないけれど、

 それでも良き生になるようにと、騎士として願わずにはいられないのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
話は聴いた。只一人矢面に立たされ、嘸や辛かったろう。
だが、すまぬ。其れ故に俺は、愛久山清綱は……
貴方を止めねばならなくなってしまったようだ。
■闘
戦闘に入ると同時に【剣宿】で真の姿に変身。
火除けに【オーラ防御】を纏おう。

渦巻く嵐をものともせず、真正面から接近を測るぞ。
次々と放たれる地獄の炎に広範囲の【斬撃波】をぶつけて
消し去りつつ、全力の【ダッシュ】で彼の懐を目指す。
合体して大きくなった炎が来たら真っ二つに【切断】する
ことでその間を通り抜け、擦りによるダメージは神霊体の
防護で我慢する。
怯みはせぬ……只々突き進むのみ。

接近できたら『心切』に【破魔】の力を最大限に込め、
一瞬の太刀で其の悲しみを【浄化】するのだ!

乱暴な形になってしまい、申し訳ない。
願わくば、其の御霊が安らかに鎮まれることを祈ろう……

※アドリブ歓迎・不採用可



 この土地にまつわる一つの話。
 それは数多ある人の生き死にの一つに過ぎなかったのかも知れない。
 人の営みに裏切りは常である。
 利己の為に。他者の為に。言葉は変えど、本質は変わらない。人とはそういう生き物である。どうしようもなく、誰かのためにと願う者がいれば、その対極に位置する自己のためだけに生きる者もいる。

 それを否定することは、『地獄地蔵』そのものの生き方を否定することであったことだろう。
「只一人矢面に立たされ、嘸や辛かったろう」
 愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は『地獄地蔵』の大本たる残霊の境遇に共感する。
 だが、共感すれど、それを許容することなどできないのだ。
 すまぬ、と清綱は頭を垂れることなく、その真摯なる瞳を『地獄地蔵』に向ける。極大なる光の一撃、その一閃によって穿たれ、崩れ去ろうとする体。
 それを見据え、彼の瞳がユーベルコードに輝く。
 剣の神は彼と共にある。剣宿(ツルギヤドシ)し、彼の体は天空舞う剣神を宿した神霊体へと変貌する。

 その手にあるのはあらゆる概念を切り伏せる霊力の剣。
 地獄の炎が『地獄地蔵』から噴出したとしても、彼には届かないだろう。身にまとう火を遮るオーラが、彼にまで地獄の炎すら届かせぬのだ。
「私の居場所は此処にしか無い。此処以外あり得ない。どうしようもない執着だと笑うのならば――」
 共感すれど、肯定することはできない。
 執着は強き思いに変わる。変わった思いは妄執へと成り果て、その妄執は人を傷つける。

 だからこそ。
「だが、すまぬ。其れ故に俺は、愛久山清綱は……貴方を止めねばならなくなってしまたようだ」
 嵐の如き炎を前にしても怯むことはない。
 迫る炎を真っ向から清綱は飛び、放たれる斬撃波によって、壁となった炎を斬り裂き突進する。
 けれど、さらに巨大な炎が清綱を阻むだろう。
「止められぬものか。私は、此処にしか居られないのだから。私の居場所を、奪う、な――!」
 崩れ果てる定めの体を引きずりながらも『地獄地蔵』は炎を噴出させ続ける。
 それが彼の抱いた妄執と執着の成れ果。

「それだけの懸命さがありながら、それでも人は間違える。悲しみを抱くのが人。ならば、喜びもまた同じく、等しく抱くべきだったのだ」
 迫る清綱の瞳がひときわ輝く。
 それは超克の輝き。オーバーロードによる輝きは、清綱の構える霊力で出来た刀をさらなる輝きへと導くだろう。
 神霊体へと至ったとは言え、地獄の炎は凄まじい勢いで己の体を焼く。
 痛みはある。
 いや、体の痛みは無視することができる。

 けれど、己の心が擦り切れていくのを感じただろう。
 懸命に生き、献身をもって生命を棄てたもの。
 その志と、その決意と覚悟。 
 それを裏切られたという事実。アザレアの花のモニュメントが砕け、地下に散らばっているのが、その証である。

 ただの一言がほしかったと言ったのだ。
 だが、それさえも得られることのなかった魂の慟哭を清綱は見る。
「ならば越えよう。其の悲しみを浄化しよう」
 己の手にした霊力の刀。『心切』に籠められた破魔の力がみなぎっていく。
 このような手段に出なければならない。それが心苦しいと清綱は思った。

 焼ききれる頬。
 痛む心。
 其のすべてが籠められた霊力の刀身が輝きを増していく。距離を詰める。その考えさも、今は空。
 願うは唯一つである。
「其の御霊が安からに沈まれることを祈ろう……」
 放たれた一閃。それは『地獄地蔵』と地獄の炎さえも切り裂いて、崩れ果てる体を霧消させていく。

 光の柱の如き剣閃の向こうに消えていく『地獄地蔵』。
 その白面から溢れる粘液は途絶えることはなかった。
 いつまでも涙を流し続けることだろう。裏切りに対し、報われることのなかった魂は、いつまでも傷ついたままだ。

 けれど、それを傷ではなく。
 別のものに感じ取ることはできる。献身。ただその一言のみに彼は生きた。その証は、確かにあったのだ。
「さらば悲しき人よ。その胸に抱いた献身の念だけを抱いて還るがいい」
 このような形にしか出来ない。
 こうすることしか出来ない。それを不甲斐なく思う清綱であったけれど。

 それでも。銀の雨がまた降る。
 五月雨のように、長く、途切れながらも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月08日


挿絵イラスト