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廃病院の怪異

#シルバーレイン

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#シルバーレイン


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「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「新たに発見されたシルバーレインの世界で、特定の土地や建物に固執し、近づく者を皆殺しにする『地縛霊型オブリビオン』の出現が予知されました」
 この世界ではかつて生命根絶を目的とした「ゴースト」と呼ばれる脅威に「能力者」という異能者達が立ち向かい、勝利を収めたはずだった。しかし現在、オブリビオンとして蘇った過去の脅威により、世界は再び「銀の雨が降る時代」に逆戻りしようとしている。

「今回発生した地縛霊化オブリビオンは、現在は閉鎖された廃病院に取り憑いています」
 シルバーレインの地球には『世界結界』と呼ばれる魔術防護が存在し、能力者や猟兵でない人々は超常現象を認識できない。この結界はすでに崩壊しつつあったのだが、何故か修復され、その影響で能力者の異能(アビリティ)にも弱体化が起こっている。
「ですので現在、この事件に対処できるのは猟兵だけとなります。一般人はこの廃病院を『呪いの場所』と認識し、敬遠する傾向にあるようですが、それも確実ではありません」
 事実、興味本位で肝試しにやって来た者達がここで地縛霊に殺害されるという未来を、リミティアのグリモアは予知していた。超常の存在に対してはまるで無力な彼らが犠牲となる前に、速やかに地縛霊を撃破しなくてはならない。

「まずは廃病院の付近に集まってきている、下級オブリビオンの掃討をお願いします」
 地縛霊の怨念に引き寄せられたと思しい、そのオブリビオン達の名前は『誘蛾少女』。
 埃と汚泥にまみれた異形の姿で、疫病と凶兆を媒介すると言われる不吉なゴーストだ。
「彼女らは、己以外の全てを『醜いもの』と断じ、他者を徹底的に汚し虐げる事を悦びとしています。放置しておけばいずれ周囲に害を及ぼすでしょう」
 呪詛と疫病を撒き散らす誘蛾少女は一般人には危険な存在だが、戦闘力は猟兵にかなう相手ではない。地縛霊に挑む前の前哨戦として、1人残らず骸の海に叩き返しておこう。

「廃病院の中は時空が歪み迷宮化しています。これは『ゴーストタウン現象』と呼ばれているらしく、一度踏み込めばオブリビオンを撃破するまで脱出は困難でしょう」
 内部はどこまでも無限に続く病室と廊下で占められており、どこからともなく怨嗟の声が響き渡る。これは地縛霊が発する生けとし生ける者への嘆きと憎しみの声なのだろうか――いずれにせよ、敵の元にたどり着くにはこの声を追うしかないだろう。
「怨嗟の声は聴く者の精神を蝕みます。呑まれないよう心を強く保つか、何らかの対策をしておくことをお勧めします」
 なぜ地縛霊がこの場所に執着するのか、かつてここで何が起こったのか。怨嗟の残響に耳を傾ければ分かることもあるかもしれないが、それで心をやられてしまっては元も子もないため、無理のない見極めが肝心だろう。

「地縛霊がいるのは迷宮化した廃病院の最深部です。その名は『サナトリウムホラー』。救われる事なき精神の虚無を抱えたまま命を落とした少女のゴーストです」
 一見すると異形の巨人のような姿をしているが、その外装は少女の絶望から生まれた「霊体の鎧」で、本体が滅ぼされない限りは無限に再生を繰り返す。ゴースト化してなお少女が抱えている、想像を絶する絶望の具現化である。
「外にいた雑霊に比べればはるかに強力なオブリビオンですが、皆様なら倒せない敵ではありません。あるいは、彼女の絶望の源を突き止めることができれば……」
 地縛霊が廃病院に取り憑いた理由を知ることで、共感や説得により「霊体の鎧」の力を弱めることもできるかもしれない。いずれにせよオブリビオンを撃破することができれば手段については問われない。

「かつて能力者達が勝ち取った平和な時代を守るために、皆様の力をお貸し下さい」
 説明を終えたリミティアは、手のひらにグリモアを浮かべシルバーレインへ道を開く。
 銀色の雨が降り注ぐ地球で、あまねく生命を脅かすゴースト達との戦いの幕が上がる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 やって来ました新世界シルバーレイン。今回の依頼は現代に蘇った「地縛霊型オブリビオン」の撃破が目的です。

 1章は廃病院の付近にいる『誘蛾少女』との集団戦です。
 他者を虐げる事を悦びとし、呪詛と疫病を撒き散らすゴーストです。放っておくと危険なので、地縛霊を倒す前に残らず駆逐しておいてください。

 2章はゴーストタウン化した廃病院での冒険です。
 時空の歪みにより迷宮化した院内は、精神を蝕む怨嗟の残響で満ちています。この声に耐えながら先に進めば、最深部で地縛霊が待ち構えています。

 3章は地縛霊『サナトリウムホラー』との決戦です。
 絶望を具現化した「霊体の鎧」を武器として戦う強力なオブリビオンですが、決して勝てない相手ではありません。再生する鎧を正面から打ち砕く、少女の絶望に共感を示す等、思い思いのスタイルで戦っていただければ幸いです。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『誘蛾少女』

POW   :    汚泥弾
【汚泥の如き呪詛塊】を放ち、命中した敵を【呪詛】に包み継続ダメージを与える。自身が【汚れた姿を】していると威力アップ。
SPD   :    凶兆の化身
自身に【凶兆のオーラ】をまとい、高速移動と【疫病】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    穢れの気配
【ケガレ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【疫病】を誘発する効果」を付与する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

久留米・圓太郎
■WIZ
銀誓館学園?
オレが今、魔法の修行で通ってるアルダワ魔法学園みたいな所か?
事と次第によってはしばらく通っては見たいけど、今はそれどころじゃ無いか

疫病というと穏やかじゃ無いな。オレ自身は[毒耐性、オーラ防御、呪詛耐性]はあるが、正直心許ないぜ。
ならば、この【UC】の炎で浄化させる!

[高速詠唱、全力魔法、属性攻撃、範囲攻撃、2回攻撃]で叩けるだけ叩いてしまおう!

地の利やこの世界のオブリビオン……おっと、ゴースト、というんだっけ?ここでは…の事はよく解ってないから、深追いは禁物だ。

幅広くダメージを与えて動きを止めること優先に動こう
(トドメは仲間にも手伝ってもらわんと)

※アドリブ・連携共歓迎


鏡島・嵐
おれの故郷とは似て非なる世界だな。UDCの代わりにこっちじゃゴーストってワケか。
折角平和になったのに逆戻りなんて災難だよな。なんとかしねーと。

……にしても、ゴーストっていうわりにはなんか幽霊っぽくねえな。どっちにしろ怖ぇけどさ。
放たれる呪詛の塊を〈第六感〉を活かして〈見切り〉ながら躱し、隙をついて一気に接近して《針の一刺、鬼をも泣かす》で動きを止めて仕留める。
もし呪詛の塊を喰らってしまったら、〈呪詛耐性〉と〈オーラ防御〉でダメージを軽減しながら、同じく《針の一刺、鬼をも泣かす》で浄化して治す。

もし近くに仲間が居るんなら〈援護射撃〉で戦うんを支援したり、ユーベルコードで治療したりして援護する。



「銀誓館学園? オレが今、魔法の修行で通ってるアルダワ魔法学園みたいな所か?」
 ゴーストという脅威と戦うために若き異能者たちが集う学園と聞いて、久留米・圓太郎(自称魔法使いの一番弟子・f00447)は自らが通う学舎を思い浮かべる。とはいえこの世界とアルダワとでは文明も敵も異なるため、学べることにも様々な違いがあるだろう。
「おれの故郷とは似て非なる世界だな。UDCの代わりにこっちじゃゴーストってワケか」
 一方の鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)はここが故郷と同じ「地球」と呼ばれる世界でありつつも、見られる様々な相違点を気にしていた。名状しがたい邪神の脅威と、生命を根絶せんとするゴーストの脅威。何れにせよ平穏無事な世界など無いという事か。

「事と次第によってはしばらく通っては見たいけど、今はそれどころじゃ無いか」
「折角平和になったのに逆戻りなんて災難だよな。なんとかしねーと」
 体験入学はまたの機会として、二人が向かったのは郊外に打ち捨てられた病院の廃墟。
 一般人は誰も寄り付かない、小規模なゴーストタウンと化したそこには、不快な瘴気が立ち込めていた。
「ああ、また醜い奴らがやって来た……」
 敷地に入るなり猟兵達を出迎えたのは、蟲と蛇と人が混じり合ったような異形の女怪。
 誘蛾少女と呼ばれるゴーストの一種で、自らの悦びのために他者を汚し、疫病と呪詛をばらまく危険な怪物だ。

「……にしても、ゴーストっていうわりにはなんか幽霊っぽくねえな。どっちにしろ怖ぇけどさ」
「疫病というと穏やかじゃ無いな。オレ自身は耐性はあるが、正直心許ないぜ」
 誘蛾少女の【穢れの気配】を感じ取った圓太郎と嵐は即座に魔力のオーラで身を包み、病毒を媒介する呪詛をシャットアウトする。だがこれだけで多数の敵が放つ呪いを完全に防げる自信はなかった。ケガレを纏った少女達は不気味に嘶きながら彼らに迫ってくる。
「ならば、この【ウィザード・ミサイル】の炎で浄化させる!」
 今にも飛びかかってきそうな疫病ゴーストの群れに向けて、先手を打ったのは圓太郎。
 教鞭を模ったウィザードロッドを片手に、素早く呪文を唱えると、何百本もの炎の矢が出現し、敵陣目掛けて放たれる。

「ギィッ!?」「熱イッ!!」
 古来より炎には不浄を焼き清める力がある。その身に纏ったケガレごと紅蓮に包まれた誘蛾少女達は、悲鳴を上げて地べたをのたうち回る。敵の陣容が乱れたその隙を逃さず、駆け出したのは嵐だった。
「麦藁の鞘、古き縫い針、其は魔を退ける霊刀の如し、ってな!」
「アギャァッ!!!?」
 黒ずんだ少女の肌を狙って、使い込まれた縫い針で一突き。外傷としては大した傷でもないのに敵の痛がりようは劇的なもので、断末魔の絶叫を上げてピクピクと地に伏せる。
 これぞ【針の一刺、鬼をも泣かす】――思いの籠もった針には異常を治す霊力が宿る。存在そのものが"異常"と言える、疫病と呪詛のオブリビオンに対しては効果は絶大だ。

「もしこっちが呪詛を喰らってもこいつで治療できるから、安心して戦ってくれ」
「分かった。ならここで叩けるだけ叩いてしまおう!」
 仲間の手並みを見た圓太郎は再びウィザードミサイルを発動し、敵に追撃の矢を浴びせていく。一点集中ではなく敵陣の広範囲に炎を降らせ、幅広くダメージを与える動きだ。
(地の利やこの世界のオブリビオン……おっと、ゴースト、というんだっけ? ここでは……の事はよく解ってないから、深追いは禁物だ)
 焼き尽くせずとも動きを止める事さえできれば、トドメは嵐が手伝ってくれるだろう。
 焦らず油断せずじっくりと、確実に敵を追い詰める。それを念頭に置いて圓太郎は魔法の矢を放ち続けるのだった。

「アギィ……よくもッ」
 止まない火矢の雨に晒される誘蛾少女だったが、それでも防戦一方という訳ではない。
 ケガレを重ね塗りすることで装甲を強化しつつ、汚泥の如き呪詛塊を掌から撃ち出す。己に溜め込んだ汚れそのものを武器としたこの攻撃、被弾するのは生理的にも避けたい。
「当たったらどんな呪いに掛かるのか、想像したくもねえな」
 嵐の第六感は放たれた危険に敏感に反応し、機敏な身のこなしで【汚泥弾】を避ける。
 向こうが遠距離攻撃で来るのならと、彼は縫い針をしまってお手製スリングショットを取り出し、足元に落ちていた石ころを弾丸にして、放つ。

「あだッ!? コイツ……ぎゃぁッ!?」
「隙だらけだぜ」
 眉間に石つぶてを喰らってのけぞった誘蛾少女を、圓太郎の炎の矢がすかさず射抜く。
 燃え尽きた敵を見届けて、彼は「ナイスだ」と援護射撃を放った仲間に笑顔を見せて。嵐も笑顔でそれに応えつつ、スリングから縫い針へ再び武器を持ち変える。
「この調子で数を減らしていこう」
「ああ、いくぜ!」
 今度は圓太郎が嵐を援護する番だった。炎の矢による牽制に合わせて一気に敵陣に近付いた嵐は、敵と敵の間をすり抜けざまに縫い針で突いていき――強制的に不浄を祓われた誘蛾少女達の悲鳴が、連続して響き渡る。

「あギャッ?!」「ギィッ!!」「グアァッ!!?」
 圓太郎と嵐の巧みな連携は見事にはまり、誘蛾少女達は次々に灰となって消えていく。
 骸の海より蘇ったゴーストに再び滅びを。それがこの世界における猟兵の使命だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
フムン
勿論事件とあらば、このヒーロー・オーヴァードライブは駆けつけるさ
「例え繋がったばかりの世界でもね。良い機会だし、この世界のゴーストとやらの力、図らせてもらおうか」

敵は悪意と敵意の塊の様な手合かな
オブリビオンの宿命だ、容赦はしないよ
「誘蛾、ね。ならば灯りに誘われるかい?汚れも病も、燃える炎は全てを祓う。――燃え尽きるが良いよ!」

【降り注げ破滅の火、過去の栄光を燃やし尽くせ】を起動
燃え盛る石炭弾を敵の頭上に降り注がせるよ
数が多いなら、こちらも範囲と手数で勝負させてもらうとも

さぁて、ここからが本番
炎で照らしてもなお暗い、病院の闇を払いに行こう



「フムン。勿論事件とあらば、このヒーロー・オーヴァードライブは駆けつけるさ」
 例え繋がったばかりの世界でもね――と、ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は当然のように語る。そこに敵(ヴィラン)がいる限り、ヒーローは戦場を選ばない。何処へだって駆けつけ、前進制圧あるのみだ。
「良い機会だし、この世界のゴーストとやらの力、図らせてもらおうか」
「ウゥゥ……生意気なやつね。あんたも汚してやるわ……」
 廃病院に蔓延る誘蛾少女達は、ヒーローらしい爽やかな身なりのジュリアを見るなり、敵意を剥き出しにして近付いてくる。こうした当人の基準で「醜い」対象を汚すことが、死せる彼女らにとって唯一の悦びなのだ。

「敵は悪意と敵意の塊の様な手合かな。オブリビオンの宿命だ、容赦はしないよ」
 黒い感情を向けられるのには慣れている。ジュリアは自分を取り囲んだ誘蛾少女の群れ――蛾のような翅と蛇の下半身を備えた異形達を見回しつつ、上空に向けて手をかざす。
「誘蛾、ね。ならば灯りに誘われるかい? 汚れも病も、燃える炎は全てを祓う。――燃え尽きるが良いよ!」
 高らかに宣言すると共に、【降り注げ破滅の火、過去の栄光を燃やし尽くせ】を起動。
 上空に赤々と燃える石炭の弾丸を幾つも出現させ、敵陣目掛けて一斉発射を仕掛けた。

「なにっ?!」「ひぃッ!」「ぎゃぁぁぁぁッ!!」
 頭上から雨のように降り注ぐ石炭弾を受け、敵陣はたちまち阿鼻叫喚の坩堝と化した。
 いかに【穢れの気配】で装甲を強化しようとも、この攻撃は土と炎の複合属性。石炭の衝撃ダメージは軽減できても、燃え盛る炎までは防げない。
「数が多いなら、こちらも範囲と手数で勝負させてもらうとも」
 汚物の山を焼却するが如く、ジュリアの火力には一切の容赦が無かった。100個の石炭弾を全て個別にコントロールし、戦場の隅にいるターゲットも見逃さず叩き付けていく。炎に包まれた誘蛾少女は断末魔の悲鳴を上げながら灰燼と化して燃え尽きていった。

「よく、も……」
 為す術もないかに思われた誘蛾少女だが、彼女らのケガレは敵対者に疫病を誘発する。
 心身を脅かす病毒の呪詛がジュリアを襲い――しかしそれは彼女の周囲に浮かぶ石炭の炎により焼き祓われる。
「炎と大地は機関車の友だからね。力を貸してくれ、精霊さん!」
 蒸気機関車のヤドリガミであるジュリアと馴染みの深い、火と土の精霊の加護が彼女を疫病から守っている。平然とした様子に少女達がぎょっとした直後、お返しとばかりに放たれた石炭弾が敵を撃ち抜いた。

「ぎ、ぁ……ッ」
 胸を打つ衝撃と灼熱。不浄を纏ったゴーストは炭のようにボロボロと崩れ散っていく。
 付近の敵を一掃し終えたジュリアは、ぱっと肩についた汚れを払うと先に進みだした。
「さぁて、ここからが本番。炎で照らしてもなお暗い、病院の闇を払いに行こう」
 燃える石炭弾は照明として暫しそのままに。この先に待つより強力なゴーストに警戒心を強めつつも、ヒーロー・オーヴァードライブは迷いのない前進を続けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
銀の雨が降る世界か…
(「UDCアースみたいな世界ね。邪神が居ない分こっちのほうが平和かも」と頭の中の教導虫が話しかける)
はい!あ、いいえ!せんせー!この世界も危機が訪れようとしているのは変わらないです!
能力者の皆さんと協力してもう一度平和を取り戻さないと!
(「そうねー、あ、蛾っぽい敵。どうする?黒影」)
虫さんに対するいわれのない悪評が広がる前に滅ぼします!
強襲兵の皆さんよろしくお願いします!
ゴーストだろうがオブリビオンだろうが
悪い奴らを食べつくしちゃってください!



「銀の雨が降る世界か……」
(UDCアースみたいな世界ね)
 ゴーストタウンと化した廃病院の入り口で、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)と、その頭の中にいる教導虫「スクイリア」が言葉を交わす。幾つかの違いこそあるものの、この世界の文明は彼らもよく知る「地球」のそれに似ていた。
(邪神が居ない分こっちのほうが平和かも)
「はい! あ、いいえ! せんせー! この世界も危機が訪れようとしているのは変わらないです!」
 脳内から話しかける教導虫に、律儀な返答をする兵庫。世界で問題が起こり、自分の力が必要とされているのなら全力を尽くす。この滅私奉公と品行方正は教育の賜物だろう。

「能力者の皆さんと協力してもう一度平和を取り戻さないと!」
(そうねー、あ、蛾っぽい敵。どうする? 黒影)
 廃病院の敷地に入ると、ゆらゆらと奥からやって来たのは「誘蛾少女」の群れ。院内を探索するには邪魔になるし――何より虫のような姿で疫病と呪いをばら撒くこいつらは、虫を仲間にして同士とする兵庫には見過ごせない相手だった。
「虫さんに対するいわれのない悪評が広がる前に滅ぼします!」
「うぅぅ……煩い、死ね……!」
 闘志を全開にする兵庫に対して、誘蛾少女の方も殺意満々である。【穢れの気配】を互いに纏わせあった彼女らはばさばさと翅から汚れた鱗粉を撒き散らし、目の前のニンゲンを汚し尽くしてやろうと襲い掛かってくる。

「強襲兵の皆さんよろしくお願いします!」
 誘蛾少女の群れに対抗して兵庫が発動するのは【蝗害】。戦闘用として進化した鋭い牙と強靭な顎を持つ羽虫の群れが召喚され、ブンブンと羽音を立てながら戦場を飛び回る。
「ゴーストだろうがオブリビオンだろうが、悪い奴らを食べつくしちゃってください!」
 虫は指揮者の指示に忠実に従う。ケガレを纏う誘蛾少女の身体に取りついた強襲虫は、鋼鉄をも噛砕するというその力を十全に発揮し、皮を、肉を、そして骨を噛み千切った。

「ぎぃやぁッ?!!」
 よもや小さな羽虫にこれほどの力があるとは思ってもみなかったのだろう。甲高い悲鳴と共に、誘蛾少女の身体から血が噴き出す。身に宿したケガレのためか、或いはゴーストであるゆえか、血潮の色は生命力に満ちた赤ではなく、赤黒く濁っていた。
「病気の元は一欠片も残さないようにしましょう!」
 蝗害の名の通り、強襲兵の攻勢は標的とみなした全てを喰い尽くす激しいものだった。
 血肉も骨も臓腑も、ケガレすらも余さず喰らい、後には何も残さない。虫達の怒りに触れた敵は為す術なく蹂躙されていった――。

「満腹ですか? ご苦労さまです!」
 やがて務めを果たし終えた強襲兵に、兵庫は元気な声で労をねぎらう。周辺にいた誘蛾少女は綺麗さっぱり一掃され、彼女らの痕跡を示すものは血痕の一滴すら残っていない。
 こうして障害を排除した彼は、ここからが本番ですと勇んで廃病院に向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

戦いが終わったはずの世界に、再び脅威が迫ってきてるか…
興味は尽きんが…まずは目の前の敵を排除しなければな

なるほど、確かに私の知る地球と同じだが…
肌で感じる雰囲気で、違う世界だと言う事が分かるな
寄ってきた誘蛾少女達をシルコン・シジョンで攻撃
汚泥弾を喰らわぬように遠距離から一斉発射を行う

フン…違う世界の地球であっても、オブリビオン共は何も変わらんか…
嗤え、デゼス・ポア

UCを発動
デゼス・ポアを宙に浮かせて、誘蛾少女本体と吐き出される汚泥弾を指定して攻撃
無数の錆びた刃で付近の敵を一斉に蹂躙していく

廃病院に彷徨える幽霊か…まさに典型的なホラーハウスだ
フッ、ハロウィンはとっくに終わったがな



「戦いが終わったはずの世界に、再び脅威が迫ってきてるか……」
 オブリビオンとは元来そういうものだとしても、僅か数年で復活を遂げたゴーストに、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は興味を持っていた。また故郷であるUDCアースに似た世界の雰囲気も気になるところだ。
「なるほど、確かに私の知る地球と同じだが……肌で感じる雰囲気で、違う世界だと言う事が分かるな」
 この世界に張られている「世界結界」とやらの存在や、UDCアースとの微細な差異点が違和感となっているのだろう。ここには狂気を媒介する邪神やその眷属は存在しないが、それにも決して劣らぬ脅威が潜んでいる。

「興味は尽きんが……まずは目の前の敵を排除しなければな」
 廃病院の敷地から「誘蛾少女」の群れが飛んできたのを見ると、キリカは思索を中断して戦闘態勢を取る。まずはこの「ゴースト」という敵の能力から見極めさせてもらおう。
「うぅぅぅ……汚れろ、穢れろ、ケガレろ……!」
 鬱々とした恨み言とともに【汚泥弾】を放つ少女達。触れるだけでも呪詛に汚染されるそれに被弾することを嫌って、キリカは敵の射程から距離を取りつつ自動小銃を構える。

「まるで汚れと呪いの塊だな」
 嫌悪感さえ覚える敵群に向けて、神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"が火を噴いた。
 洗礼を施されたこの銃は、聖なる箴言を弾丸として敵を貫く。不浄なる者に対しては特に効果が大きいだろう。
「ぎぃッ?!」「ぎゃッ!!」
 事実、戒めの聖弾に射抜かれた誘蛾少女は悲鳴を上げて、ばたばたと地に落ちていく。
 だが、連携はすれども仲間意識というものが希薄な彼女らは、斃れた味方の屍を盾にしてじりじりと近付いてくる。

「フン……違う世界の地球であっても、オブリビオン共は何も変わらんか……」
 初見の敵なれども、その残酷さと邪悪さはキリカにとってはよく見知ったものだった。
 誘蛾少女の群れが周りを囲む。あと少しで汚泥弾の射程内にまで迫ろうかというその時――紫髪の戦場傭兵は静かに言った。
「嗤え、デゼス・ポア」
「ヒヒヒヒヒャハハハハハ」
 その瞬間、彼女の背後から浮かび上がったのは呪いの人形「デゼス・ポア」。少女とも老婆ともつかない不気味な笑い声を響かせる。あまりに異様なその存在感に、誘蛾少女達はびくりと震えながら反射的に汚泥弾を吐き出すが――。

「もう遅い」
 次元を切り裂いて出現する無数の錆びた刃が、汚泥弾と誘蛾少女達を纏めて裁断する。
 この刃はデゼス・ポアの力の象徴。あまねく異形のオブリビオンに苦痛と死をもたらす呪いの錆刃。人形の攻撃範囲内に入ってしまった時点で、彼女らは既に詰んでいたのだ。
「「ギィャアアァァァッ!!!?」」
 蹂躙された敵は断末魔の悲鳴を残して消滅し、残ったケガレも風が吹き散らしていく。
 後には廃墟にふさわしい荒涼とした雰囲気と、耳が痛くなるような静寂が帰ってきた。

「廃病院に彷徨える幽霊か……まさに典型的なホラーハウスだ。フッ、ハロウィンはとっくに終わったがな」
 口元に皮肉げな笑みを浮かべつつ、キリカはデゼス・ポアを連れて廃病院の奥へ進む。
 この先に待つ"幽霊"は、おそらく今のゴースト共より余程脅威だろう。決して油断はせず、しかして余裕を保ったまま、次の戦場へ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
廃病院の探索なんて、なんか、どきどきするな。楽しみ。

いかにも出そうなところだけど。……さっそく来たね。
ウィザードミサイルの雨をおみまいしちゃうよ。
強化された個体を優先的に倒すよ。強化が重なって強くなっても厄介だからね。

なんか、ぼくたち、ゴーストバスターみたいだね。
いや、彼女たちはゴーストなんだから、実際、ゴーストバスターなのかな。

ゴーストバスターらしく、怨念とかを聞いてあげた方がいいのかな?
やっぱり、理性は残ってないのか。せめて、成仏してね。


クラレンス・オズバート
また「これなる者」として
戦うとは思わなかったが……
運命とは因果か
否、身体を慣らし戻すには丁度良いか
―――青春というには随分と遅いものだがな

……醜いな
他者を醜いと断じ虐げる者こそ醜い
これなる異貌の者共は
呪詛と疾病を撒き散らすという
このように堕つ前の奴らの様子は定かではないが
……ハ、残らず討ちとるこそこそ餞になろう?

集団戦であるからな
他の猟兵との協力は惜しまん
……任務遂行に必要な共闘くらいは、問題ない

とは言え、俺が出来るのは
遠距離からの攻撃だ
近接は他者に頼ることになる
……その分働いてやるさ
共闘者の討ち漏らしや
死角をカバーするように攻撃

呪詛と凶兆、か
斯様な軟弱な概念に負けるつもりなど
端から無いがな



「また『これなる者』として戦うとは思わなかったが……」
 かつて、この世界の生命を守るために戦い、銀の雨が降る時代を駆け抜けた能力者達。
 その者達と縁があったのか、或いは彼自身がその者だったのか――クラレンス・オズバート(夜間飛行・f30962)の呟きには郷愁が滲んでいた。
「運命とは因果か。否、身体を慣らし戻すには丁度良いか―――青春というには随分と遅いものだがな」
 肩をすくめながらも「宿り木の杖」を構える。感じるのは懐かしさすら覚える敵意。
 人が立ち寄らず「常識」の力が薄れたこうした場所こそ、奴らのテリトリーなのだ。

「廃病院の探索なんて、なんか、どきどきするな。楽しみ」
 一方のアリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、あまり緊張感のないわくわくした様子で廃墟の様子を見回している。お話を好物として食べる彼女には、この手の怪談やホラーがつきものの場所にもご馳走の気配を感じるのだろう。
「いかにも出そうなところだけど。……さっそく来たね」
 果たして現れたのは誘蛾少女の群れ。オブリビオンとして現世に蘇ったゴースト達が、アリスとクラレンスの行く手を阻むように立ちはだかる。この奥にいるメインディッシュ――地縛霊型オブリビオンと相対するには、まずはこいつらを蹴散らさねばならない。

「また醜い奴らが来たわ……」「グチャグチャにしてあげる……!」
 濃密な【穢れの気配】を纏った少女達は、敵意と嫌悪で濁った視線を猟兵達に向ける。
 彼女らにとって自分以外の存在は等しく「醜いもの」であり、それをより醜く穢して、侵して、虐げて、昏い悦びに浸ることが彼女らの望みなのだ。
「……醜いな。他者を醜いと断じ虐げる者こそ醜い」
「なんですって……!?」
 外見のみならず内面からも滲み出る醜悪さを、クラレンスは冷徹な態度で言い捨てる。
 鼻白んだ誘蛾少女達は一斉に襲い掛かってくるが、そのどす黒い殺意を向けられてなお彼は動じない。

「これなる異貌の者共は、呪詛と疾病を撒き散らすという。このように堕つ前の奴らの様子は定かではないが……ハ、残らず討ちとるこそこそ餞になろう?」
 冷笑と共に杖先より放つは【ウィザード・ミサイル】。何十もの炎の矢が敵陣目掛けて降り注ぎ、誘蛾少女の纏うケガレを焼く。その熾火の色はクラレンスの双眸の色と同じ、鮮やかな緋色であった。
「ぼくからもミサイルの雨をおみまいしちゃうよ」
 同時にアリスも【ウィザード・ミサイル】を発動し、さらなる炎の矢を敵に射掛ける。
 猟兵二人がかりによる火矢の一斉射撃。この火力をくぐり抜けて二人に肉迫するのは、そこらの雑霊には厳しいだろう。

「なんか、ぼくたち、ゴーストバスターみたいだね。いや、彼女たちはゴーストなんだから、実際、ゴーストバスターなのかな」
 そんな呑気な疑問を抱きつつも、絶え間なく魔法の矢を放ち続けるアリス。クラレンスはそれに無言で返しつつも、攻撃はなるべく彼女とのタイミングを計って、隙が生じないように緋矢を放っている。
(集団戦であるからな、他の猟兵との協力は惜しまん……任務遂行に必要な共闘くらいは、問題ない)
 普段から人を避けるような居振る舞いをしている彼だが、決して他人に信を置いていない訳ではない。ただ、成すのは己の力によるもののみと決めているだけで。杖を振るいて魔術を紡ぎ、幾多の火矢を自在に操るさまは、さながら指揮者の如しであった。

「とは言え、俺が出来るのは遠距離からの攻撃だ」
「実はぼくも近距離はそんなに得意じゃないんだよね」
 白兵戦を得手とする猟兵と連携を組めれば最良だったが、突入の足並みが合わなかった以上は致し方ない。だが、扱う技の特性が近いクラレンスとアリスの二人による連携も、なかなか悪いものでは無かった。
「強化された個体を優先的に倒すよ。強化が重なって強くなっても厄介だからね」
「了解した。穴埋めはこちらでやる」
 アリスは幾本かの矢を束ねた集中攻撃で、より強いケガレを纏った敵を狙い撃ちする。
 強化された敵に火力を優先する分、生じる討ち漏らしや死角はクラレンスがカバーし、決して敵を此方に近づけさせない。

「ぎぃぃッ!」「ギャァッ!」
 クラレンスとアリスの巧みな連携攻撃によって、誘蛾少女の群れは駆逐されていく。
 どれほど強いケガレを纏おうが、この二人の炎の前には無力。そもそも近付くことすら出来ないのであれば、反撃のチャンスも皆無だ。
「ゴーストバスターらしく、怨念とかを聞いてあげた方がいいのかな?」
 戦況に余裕のでてきたアリスは、試しに誘蛾少女達の声に耳を傾けてみようとするが、聞こえてくるのは「よくも、よくもぉっ」「グチャグチャにしてやる!」といった恨み言ばかり。言葉が分かるからといって話が通じるような手合いではないようだ。

「やっぱり、理性は残ってないのか。せめて、成仏してね」
 あまねく生者を呪うゴーストへの慈悲として、その魂のケガレの一片も残らぬように、ウィザード・ミサイルを浴びせるアリス。「ギャァァァァッ!?」と断末魔を上げながら燃え尽きる最期の瞬間まで、誘蛾少女は憎しみに満ちた目で猟兵達を睨め付けていた。
「呪詛と凶兆、か。斯様な軟弱な概念に負けるつもりなど、端から無いがな」
 そんな視線を毅然とした態度で受け流し、クラレンスも止めの火矢を放つ。立ちはだかるのであれば葬るのみ――かつての感覚を取り戻すにつれ研ぎ澄まされていく術の冴え。
 人となりはまるで違う二人だが、この戦いに微塵も負ける気がないのは共通していた。その自負と自信は敵を撃ち倒す力となって、廃病院への道を切り開いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
ここは廃病院近くの作戦室

「静かに!今から会議を始めます。しっかりノートを取るように」
「「はい、先生!」」
誘蛾少女達を前に立つカビパン。箇条書きで決まった事を書き出していく。
「…以上。何か質問がある人は?」
ホワイトボードに書き写すと、振り返る。
「ここで皆さんに残念なお知らせがあります。今からここに北海道のシュークリームが襲撃にきます」
なら最初からここに呼ぶなよ、と心でツッコむ誘蛾少女達。

「!?来ました。それでは皆さん無事に逃げてください。これが最後の授業です」
その瞬間、作戦室にシュークリーム達が現れた。
キャー ワーと逃げ惑う誘蛾少女達。
彼女らは北海道シュークリームに取り込まれ駆逐されてしまった。



「静かに! 今から会議を始めます。しっかりノートを取るように」
「「はい、先生!」」
 ここは廃病院近くの作戦室。学校教室のようにならんだ瓦礫の椅子に座った誘蛾少女達の前に、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)が立っている。自分も悪霊だからだろうか、彼女はさも当然のようにゴーストの側に与していた。
「先生、もうちょっとゆっくり」「ノートが追いつきません」
 それに付き合う誘蛾少女達のほうは、【ハリセンで叩かずにはいられない女】の影響を既に受けているようだ。彼女のボケが作り出したギャグの世界に巻き込まれた者たちは、それに順応するか、順応できずに酷い目に合うかの二択を迫られるのである。

「ここ重要なのでしっかり覚えておくように」
 そんな訳でカビパンと誘蛾少女は、これからやって来る猟兵への対抗策を皆で考える。
 しかし基本的に「醜いものを汚したい」以上のことを考えていないゴーストから良い案が出るわけもなく、会議はカビパンの独壇場で進んでいく。
「……以上。何か質問がある人は?」
 箇条書きで決まったことを書き出していき、ホワイトボードに書き写すと、振り返る。
 その頃には少女の半分は面倒くさくなって寝ていたし、残った半分も「ありませ~ん」とやる気のない返事をするだけだった。

「ここで皆さんに残念なお知らせがあります。今からここに北海道のシュークリームが襲撃にきます」
「「は??」」
 だが、続くカビパンの一言で誘蛾少女達はみな耳を疑った。自分達は今まで猟兵の襲撃に備えていたのではなかったのか。どうして突然北海道シュークリームが出てくるのか。
「北海道シュークリームの狙いはここの作戦室です」
(なら最初からここに呼ぶなよ)
 真面目くさった顔で危機的な雰囲気を作ろうとするカビパンとは対照的に、誘蛾少女達はみんな心でツッコミを入れた。敵(?)がどこを狙ってくるのか最初から分かっていたのなら、もっと速く場所を移すとか、自分たちを避難させてくれても良かったのに、と。

「!? 来ました。それでは皆さん無事に逃げてください。これが最後の授業です」
 そんな一同の心のツッコミも虚しく、カビパンがそう言った瞬間に「それ」は現れた。
 カスタードと生クリームをたっぷりと挟んだふわふわのシュー。そう、それはまさしくシュークリーム。全て北海道産の素材をふんだんに使った北海道シュークリームである。
「「なにこれ……?!」」
 醜いとか醜くないとか以前に訳が分からなかった。恐らくはカビパンのギャグパワーで自律運動している北海道シュークリームの群れは、作戦室の者達に一斉に襲い掛かった。

「「こ、来ないで……ッ!!!」」
 きゃー、わー、と悲鳴を上げて逃げ惑う誘蛾少女達。だが脚もないくせに意外と俊敏な北海道シュークリームの動きに翻弄され、包囲され、やがて作戦室の隅に追い詰められ。
 哀れ彼女らは1人残らず北海道シュークリームに取り込まれ駆逐されてしまった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
UDCアースと似て非なる銀の雨降る新世界、大きな戦いを乗り越えた後にオブリビオンの跳梁が始まったそうですが…

その苦難を祓う為、騎士として助太刀するに否やは無し
大事の際に力となれる様、この世界の事も学んでゆきたいものです

呪詛塊の軌道を瞬間思考力で見切ってステップで回避
機械妖精を敵後方に放ち、背後や横から頭部レーザーのスナイパー射撃
回避の余地封じ、前に出た敵を近接攻撃で片端から斬り捨て

超常現象を認識不可能とする『世界結界』…効果はどれ程か
眼前で大口を開けた怪物すら人々は認識出来ないとしたら、UDCアースとは別の意味で厄介ですね…

銀誓館学園…機会あれば赴むいて先達の方に教えを乞うといたしましょう



「UDCアースと似て非なる銀の雨降る新世界、大きな戦いを乗り越えた後にオブリビオンの跳梁が始まったそうですが……」
 依頼にあった廃病院に向かいながら、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はここ十数年に渡るシルバーレイン世界の戦いの記録を確認していた。人類を守る能力者とゴーストの戦い、そしてそれに続くオブリビオンの出現の記録を。
「その苦難を祓う為、騎士として助太刀するに否やは無し。大事の際に力となれる様、この世界の事も学んでゆきたいものです」
 オブリビオンが「過去」の具現である以上、かつての戦いやこの世界の事情を学ぶ事はいずれ来るであろう戦争や、それに準じる大きな決戦の備えになろう。敵を知り味方を知れば百戦危うからずと、機械騎士は新たなデータのインプットを進めていた。

「……と。現れましたか」
 そんなトリテレイアの前に立ちはだかったのは、汚泥の如き穢れを纏う異形の女怪達。
 彼女らこそ過去のシルバーレインを脅かしたゴーストの一種であり、今はオブリビオンとして蘇った「誘蛾少女」だ。
「ああ、醜い、醜い……」「その白い身体、めちゃめちゃに汚してやりたい……」
 あまねく全てを醜悪と憎む彼女らは、騎士の姿を認めるなり【汚泥弾】を放ってくる。
 当人らの汚れが凝縮された呪詛の塊を、トリテレイアは瞬時に軌道予測を行い、巨躯に見合わぬ軽快なステップで躱す。

「妖精部隊、発進」
 初弾を避けてもなお飛来する汚泥弾を躱し続けながら、トリテレイアは【自律式妖精型ロボ 遠隔操作攻撃モード】を起動。肩部格納スペースからフクスの偵察用妖精型ロボを出撃させ、敵群の後方に回り込ませる。
「攻撃開始」
「「ぎゃぁッ?!」」
 本来は偵察用とはいえ限界まで充電された頭部レーザーの出力は低くはなく、本体とのリンクによる射撃精度の高さがさらに威力を補う。不意をつかれた誘蛾少女達は頭や急所を的確に撃ち抜かれ、悲鳴を上げて前にのけぞった。

「よく、も……!」
 機械妖精からのレーザー狙撃を逃れようとするなら、誘蛾少女達は前に出るしか無い。だがそれは万全の体勢で構える機械騎士に接近するということ。剣の間合いに入ってきた敵を、トリテレイアは片端から斬り捨てていく。
「失礼。貴女方にはここで斃れていただきます」
「ぎゃ……ッ!!!」
 青銀に輝く「電脳禁忌剣アレクシア」が、穢れたゴーストを両断する。敵は慌てて距離を取ろうとするが、後方からは妖精達がレーザーによる圧をかけながら迫って来ており、回避の余地はどこにもない。一般人を襲いかねない脅威を、ここで一匹も逃さぬ構えだ。

「超常現象を認識不可能とする『世界結界』……効果はどれ程か」
 妖精達と共に誘蛾少女を殲滅しながら、トリテレイアは敵がここを出た場合を考える。
 人々の「常識」の力によって神秘の力を封じてきた世界結界。だがそれはオブリビオンに対する抑止力とはなり得ず、ただ人々の目から神秘を隠蔽する力だけが健在である。
「眼前で大口を開けた怪物すら人々は認識出来ないとしたら、UDCアースとは別の意味で厄介ですね……」
 事件の記録が残らないのは良い面もあるが、非常識な存在を正しく認識できないのは、一般人が超常現象への対抗手段を一切持たないことを意味する。無力な彼らを超常の脅威から守る事ができるのは、かつての戦いにおいては能力者――そして今は猟兵だけだ。

「銀誓館学園……機会あれば赴むいて先達の方に教えを乞うといたしましょう」
 超常が強固に秘匿されたこの世界で、彼らは如何にして人を守り抜いてきたのだろう。
 先達への敬意を胸に抱きながら、機械騎士は剣を振るう。現在のシルバーレインを守護する者の一人として、その技量は不足なくゴースト共を蹴散らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
ここが銀の雨が降る新しい世界…。
嘗て激しい戦いの末、平和を勝ち取った場所なんだね…。
この世界にも、もう一度平和を取り戻す為、頑張らないと…。

病院を囲む様に呪力結界【呪詛、結界術】で敵を逃がさない様に封鎖…。

病院へ入るなり、【unlimitedΩ】を周囲に展開…。
先制で黒桜の呪力放射【呪詛、衝撃波、早業、なぎ払い】と共に全周囲に終焉の魔剣を一斉斉射…。

潜んでいた周囲の敵を一掃すると共に、病院を終焉の呪力で侵食し、自身に有利なフィールドへ作り変えるよ…。
敵の呪詛や怨嗟は【ソウル・リベリオン】で喰らい尽くし、疫病は終焉の呪力で死滅させ、この病院から一歩も出させはしないよ…。



「ここが銀の雨が降る新しい世界……。嘗て激しい戦いの末、平和を勝ち取った場所なんだね……」
 UDCアース等と似た町並みを見回しながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)はぽつりと呟く。まだ訪れたばかりではあるものの、この地の人々はみな平和に暮らしているように見える――だが、その平和は人知れぬまま再び脅かされつつあった。
「この世界にも、もう一度平和を取り戻す為、頑張らないと……」
 かつての敵がオブリビオンとして蘇ったというのなら、それを再び骸の海へと還すのが猟兵の使命。静かな表情の裏側に決意を宿して、魔剣の巫女はゴーストタウンへと挑む。

「まずは敵を逃さない様に……」
 現地に到着した璃奈はまず、件の廃病院を囲むように呪力結界を張る。敷地内に蔓延るゴーストが市街地に漏れ出さないよう、ここを一時的に封鎖する構えだ。それが済むと、彼女は呪槍・黒桜を片手に自らも病院に足を踏み入れる。
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
 突入するなり【Unlimited curse blades Ω】を発動。高まる呪力の気配を察知して誘蛾少女達が集まってくるが――彼女らが見たのは銀狐の少女の周囲に展開された、無数の魔剣・妖刀の現身達であった。

「な……なに……?!」「ヤバい……!」
 危機を悟って早くも逃げ出そうとする者、【穢れの気配】を纏って装甲を強化する者。様々な反応を見せる誘蛾少女達の前で、璃奈は槍の穂先に呪力を溜めて一気に振り抜く。
「呪力解放……一斉斉射……!」
 槍から放出された呪力が黒い桜の花弁となって吹き荒れ、それと共に"終焉"の属性を秘めた魔剣達が射出される。奮い手を中心として全周囲に放たれた呪力と刀剣の暴風雨は、そこに居た敵を消し飛ばすには充分過ぎる威力だった。

「「ギャアァァァァァァーーーーッ!!!!?」」
 呪嵐の中に木霊するゴーストの悲鳴。彼女らが纏うケガレの装甲も、魔剣の呪いに比べれば実に脆いものだった。反撃の機会さえ回ってこないまま、刃と花弁に刻まれて散る。
「疫病の呪いは厄介だけど、本体はそんなに強くないね……」
 周囲に潜んでいた敵を一掃した璃奈は、呪槍をしまって歩きだす。その周辺に突き刺さった魔剣は敵を殲滅した後も消えることはなく、この地を終焉の呪力で侵食することで、彼女に有利なフィールドを作り上げる媒介となっていた。

「っ……私達のナワバリで、好き勝手して……!」
 まだ院内のあちこちに潜んでいた誘蛾少女達は、他者の呪力にテリトリーを侵食されたことに怒り、これ以上やらせまいと襲い掛かってくる。対する璃奈は呪槍や終焉の魔剣にかわって【ソウル・リベリオン】を召喚、新たな魔剣を手にして迎え撃つ。
「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……」
 斬った者から呪詛を喰らい、己の力に変えるこの魔剣は、呪詛を武器とする誘蛾少女の天敵だった。身に纏うケガレごと斬り伏せ、呪詛と怨念を喰らい尽くす――真っ二つに両断された敵は悲鳴を上げる間もなく、虚空に溶けるように消滅した。

「この病院から一歩も出させはしないよ……」
「ひっ……!」
 小柄な少女から発せられる静かな気迫と凄まじい呪力。同じ呪詛使いとして格上の相手に出会ってしまったゴースト達はたじろぐが――既にこの場は呪力の結界とフィールドに覆われ、逃げ道は完全に塞がれている。
「疫病も呪詛も、ここで全て死滅させる……」
 戦場に満ちる呪力が悪疫に終焉をもたらし、巫女の振るう魔剣が敵の呪詛を喰い斬る。
 世界の平和を脅かすゴーストは、かくして人知れず再度の滅びを与えられたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
ここが銀の雨の降る世界…。
一度は平和を勝ち取った世界だもの、最後まで守り通さないとね。

魔術結界【破魔、結界術】で敵の呪詛を防ぎつつ、周囲に【サイコキネシス】と【念動力】の網を蜘蛛の巣の様に展開し、触れた敵の動きを絡め捕って拘束。

そのまま聖属性の魔弾【属性攻撃、高速・多重詠唱、全力魔法、誘導弾】や聖なる力を付与した魔槍【属性攻撃、切断、串刺し、怪力、早業】で仕留めたり、【サイコキネシス】で捻りつぶしたり圧縮したりして、殲滅していくわ。

まるで蜘蛛の巣に捕らえられた虫の様ね…見ていて気持ちの良いモノじゃないけど。
敵の性質としてはUDCアースの邪神や眷属の類に近いのかしらね?



「ここが銀の雨の降る世界……」
 新世界を訪れたフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は空を見上げ、そして異様な気配に包まれた廃病院に視線を移す。かつて銀雨の中で「能力者」に討ち取られたはずのゴーストが、オブリビオンとなってあの場所にいるのだ。
「一度は平和を勝ち取った世界だもの、最後まで守り通さないとね」
 先人たちの意志を受け継ぐ形で、戦いの地へと赴く吸血姫。すぐにその気配を察知して誘蛾少女の群れが集まってくる。穢れと悪疫の呪詛を帯びた異形の女怪は、目隠しの裏から敵意に満ちた視線を侵入者に向けた。

「汚れろ、汚れろ、汚れろ」「全て汚れてしまえばいい!」
 あまねく世界と生者への呪詛を吐き散らし、汚泥の如き呪詛の弾丸を放つ誘蛾少女達。
 フレミアは破魔の魔術結界を張って【汚泥弾】を防ぎつつ【サイコキネシス】を発動。サイキックエナジーと念動力による不可視の網を、蜘蛛の巣の様に周囲に展開していく。
「捕まえたわよ」
「ぎぃっ!?」
 見えない念の糸に触れてしまった敵は、たちまち腕や尾や翅を絡め取られて縛られる。
 もがけばもがくほど念はより強く絡まってきて、身動きも取れないほど雁字搦めに拘束されてしまう。

「まるで蜘蛛の巣に捕らえられた虫の様ね……見ていて気持ちの良いモノじゃないけど」
 冷ややかな視線を向けつつ、フレミアはそのまま拘束した敵に魔力の弾丸を撃ち放つ。
 聖なる力を付与した魔弾は穢れや呪詛を祓い、致命的なダメージをゴーストに齎した。
「ぎゃぁッ?!」「ぎぃッ!」
 虫のような悲鳴を上げて消滅していく誘蛾少女。このままでは良い的だと悟った彼女らはサイコキネシスの網から逃れようと暴れ回るが、その前に距離を詰めてきたフレミアが真紅の魔槍「ドラグ・グングニル」を振るう。

「わたしの念から逃げられると思わない事ね」
 紅い軌跡を描いて標的を貫く魔槍。その穂先には魔弾と同じ聖属性が付与されており、串刺しにされた誘蛾少女の身体は、焼き鏝を押し付けられたようにジュウッと音を立てて焼け焦げている。
「ギィヤアァァァ―――ッ!!?」
「ひっ、いや……」「た、助け……ぐえッ!!」
 断末魔の絶叫は同胞に恐怖を伝播させ、青ざめた少女達は次の標的にされる前に逃げなければと藻掻く。だがサイコキネシスの拘束は無情にも締まり、凄まじい力で手足を捻り潰され、圧縮され肉塊と化す。既に捕らわれた時点で彼女らの命運は決まっていたのだ。

「敵の性質としてはUDCアースの邪神や眷属の類に近いのかしらね?」
 瞬く間に周辺の敵を殲滅したフレミアは、槍を収めつつ今戦った敵について分析する。
 以前のゴーストには「二つの三日月」という創造主が存在したという。オブリビオンとして復活した以上は、それに相当するフォーミュラが存在すると考えるのが妥当だろう。
「邪神も危険だけど、こちらも厄介そうね」
 雑霊共に遅れは取らなかったものの油断はしないよう気を引き締めて、彼女は廃病院へ足を進める。この先に待っている地縛霊型オブリビオンは、こう楽にはいかないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
何たる事!此の世界は、俺が幼い頃一度だけ見た夢と同じだ。
『銀色の雨』が降り注ぐ世界……あの夢は、俺が此の世界に
関わる事を示していたのだろうか。
■闘
如何なる世界であろうとも、俺のやることは変わらぬ……
『心切』に【破魔】の力を宿し、戦闘に入るぞ。

敵が呪詛弾を放つ瞬間を【野生の勘】で予測、【残像】を
伴う動きを見せて躱しつつ、敵を密集させるよう立ち回る。
少しでも当たりそうになったら【呪詛耐性】の力を宿した
【オーラ防御】を展開し、弾いてやれ。

ある程度敵が集まってきたら力を高めた『心切』に手をかけ、
【早業】の抜刀から【空薙】による【範囲攻撃】を仕掛け、
頭数を一気に減らしてやろう。

※アドリブ歓迎・不採用可



「何たる事! 此の世界は、俺が幼い頃一度だけ見た夢と同じだ」
 一度きりであったにも関わらず、不思議と忘れる事のなかった情景。愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)が見た夢は、この耳で聞いたシルバーレインの情勢と一致していた。
「『銀色の雨』が降り注ぐ世界……あの夢は、俺が此の世界に関わる事を示していたのだろうか」
 能力者から猟兵に覚醒した者だけでなく、これまで他世界で戦っていた猟兵の中にも、シルバーレイン世界に縁を持つ者がいるらしい。この世界の言葉で表すなら「運命の糸」と言うものだろうか――初めて訪れるはずなのに、不思議と既視感さえ覚える。

「如何なる世界であろうとも、俺のやることは変わらぬ……」
 この奇妙な感慨はひとまず置いておき、清綱は銘刀「心切」の柄にすっと手を添える。
 ここは既に戦場。人気のない廃病院の敷地の奥から、病の穢れと共にゴーストの群れが姿を現す。
「うぅぅぅぅぅぅ……また来たのね、醜い奴らが……」
 侵入者の姿を認めるなり、誘蛾少女達は手のひらをかざして【汚泥弾】の構えを取る。
 多勢の敵から害意を向けられて、しかし清綱は冷静にそれが放たれる瞬間を野生の勘で予測し、脚に力を溜めつつタイミングを待つ。

「お前も汚れてしまえッ!」
 誘蛾少女の手から汚泥の如き呪詛塊が放たれるのと、清綱が駆け出すのは同時だった。
 鍛錬により鍛えられた脚は凄まじい加速と残像を生み、呪弾を躱しつつ敵を幻惑する。半端な数にものを言わせて撃ちまくるだけでは、彼を捉えることはできない。
「鈍いな」
「このっ、ちょこまかと……!」
 少女達が躍起になってばら撒く弾丸を、ことごとく躱してのける清綱。稀に被弾しそうになる事もあるが、彼の体には呪詛を弾くオーラが展開されており、耐性は万全だった。

(敵が集まってきたな)
 猛攻の中をくぐり抜けながら、清綱は敵を一箇所に密集させるように立ち回っていた。
 誘蛾少女達は逃げ回る相手を追い詰めることにばかり意識が向いており、自分達が逆に誘導されているのにまだ気付いていない。一網打尽にするならば絶好の機。
「……そろそろ仕掛けさせて貰うぞ」
 ある程度敵勢が集まってきたところで、彼は破魔の力を高めた「心切」に手をかける。
 そして居合の構えから目にも留まらぬ早業の抜刀。仕掛けるは空間をも断ち斬る一太刀――奥義の域に達した技が、密集した敵陣を薙いだ。

「空薙……」
 技名を告げる清綱と、静かな納刀の音。瞬きもできぬ刹那の内に全ては終わっていた。
 一拍遅れて彼の周囲にいた誘蛾少女は一斉に鮮血を噴き出し、ばたばたと地に斃れる。
「がは……ッ!!?」
 目にする事はおろか斬られた事すら気付けぬほどの居合の奥義。何が起こったのか分からないと言わんばかりの表情のまま、ゴースト共はケガレとともに骸の海に還っていく。
 一気に敵の頭数を減らした清綱は、これまでと変わらぬ健脚で駆け、その後も遭遇した雑霊を破魔の太刀で斬り伏せながら廃病院に向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナ・ステラ
アルダワとはまた違った感じですが、ここにも学園があるんですね。依頼が終わったら少し行ってみたいです。

廃病院…怖いですが、犠牲者が出る前に何とかしないとですね!

疫病や凶兆対策として【オーラ防御】を展開しながら戦いましょうか。
また、UCで変身して戦います!
強化された聖なる魔法で攻撃します!
もし、呪詛や疫病に苦しむ人やそのような事態になった際には強化された癒しの魔法も使っていきましょう。

と、意気込んだものの…うぅ、不気味です。
―きゃあ!?来ましたね…

過去に何かあったのかもしれませんが、己以外の全てを『醜いもの』と断じて、他者を汚し虐げる事を悦びとするようなものを放っておけません!頑張って戦います!



「アルダワとはまた違った感じですが、ここにも学園があるんですね」
 災魔と戦う魔法学園に通うルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)は、ゴーストと戦う能力者達の学園――銀誓館学園に興味を持っていた。聞くところによればこの世界にも色んな魔法使いや異能者がいて、学園で日々勉学や研鑽に励んでいたとか。
「依頼が終わったら少し行ってみたいです」
 今はオブリビオンと戦う戦力を求めるという意味でも、猟兵は歓迎して貰えるだろう。
 だがその前にまずひと仕事。この銀の雨降る世界でも、猟兵の務めを果たしにいこう。

「廃病院……怖いですが、犠牲者が出る前に何とかしないとですね!」
 辺りに漂うおどろおどろしい雰囲気に怖気付かないよう、気持ちを奮い立たせるルナ。
 この廃病院のように人が寄り付かない場所は、昔からゴーストの温床になる事も多かったらしい。そんな場所をゴーストタウンと呼ぶらしいが、納得させられる雰囲気がある。
「と、意気込んだものの……うぅ、不気味です」
 うっすらと漂う瘴気に、どこからか微かに聞こえる呻き声。お化け屋敷に迷い込んだようにおっかなびっくり先に進んでいると、息が詰まるほどの【穢れの気配】と共に、人と蛾と蛇が混ざり合った異形の集団が姿を現す。

「あぁ……この世はなんて醜いの……」
「――きゃあ!? 来ましたね……」
 醜き全てを汚さんとする「誘蛾少女」の群れは、その身にケガレを纏って標的に迫る。
 対するルナはビックリして悲鳴が出てしまったものの、すぐさま彼女らがもたらす疫病や凶兆の対策としてオーラを防護服のように展開し、大きな声で呪文を唱える。
「聖なる魔力よわたしに力を! フォームチェンジ!!」
 普段の魔女っ子スタイルから白ネコミミローブを着た【聖なる猫耳魔法使い】に変身。
 ビーストマスターの力と聖なる魔力を掛け合わせたら猫になっちゃったという不思議の産物だが、ケガレを武器とする相手には聖なる力が効果抜群だろう。

「過去に何かあったのかもしれませんが、己以外の全てを『醜いもの』と断じて、他者を汚し虐げる事を悦びとするようなものを放っておけません!」
 相手への恐怖、憐れみ、怒り、それら全てを勇気で包み込んで聖なる魔法を放つルナ。
 綺羅星のように輝く光の雨が辺り一面に降り注ぎ、誘蛾少女のケガレを浄化していく。
「な、なに、これは……グアァァァッ!?」
 聖光の雨に打たれた敵群は灼けるような痛みに悶え、バタバタと地面をのたうち回る。
 さらにフォームチェンジにより強化されたこの魔法は、敵対する者以外には癒しの魔法として働き、周囲に満ちる呪詛や病を媒介する瘴気を消し去った。

「まだちょっと怖いですけど、頑張って戦います!」
 敵のケガレが誘発する疫病も、この光の雨の下で戦うルナにはなんの影響も無かった。
 白いネコミミをゆらゆら揺らして、一生懸命に戦う魔法少女は可愛らしくも勇ましい。その手に持った星の杖がピカリと輝くたびに、穢れたゴーストは塵となって消え失せる。
「お、オノレ……この恨み、忘れ、な……」
 相性の悪さを突かれた事もあり、そのまま誘蛾少女は碌な反撃もできぬまま全滅した。
 戦う前と比べれば見違えるほど清々しくなった辺りの空気。そこでルナはほっと胸を撫で下ろして、このゴーストタウンの本丸である廃病院の建物に向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『怨嗟の残響』

POW   :    大声を上げ、怨嗟の声をかき消す

SPD   :    耳を塞ぎながら素早く進む

WIZ   :    敢えて呪いの声に耳を傾け、理解を示す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 付近に蔓延っていた「誘蛾少女」を全滅させた猟兵達は、いよいよ廃病院の中に入る。
 一歩足を踏み入れた瞬間、外から見えていた景色はぐにゃりと歪み、無限に続く廊下と病室の迷宮が姿を現す。灯り一つない薄暗い院内に木霊するのは、誰かの鳴き声。

『痛い……痛いよ……たすけて……』

 声色はまだ幼い少女のようで、時折すすり泣くような音や咳き込む音も聞こえてくる。
 少女の声以外にも、老若男女様々な声が病室の扉の向こうや廊下の奥から微かにする。その全てが苦痛を訴えるものや、恨みや嘆きの声ばかりだ。

『この治験が成功すれば……きっとよくなる……』

『どうして私ばかりがこんなことに……』

『けほっ、けほっ、ぐ、ごほっ……!』

 ここは「ゴーストタウン現象」により発生した地縛霊の特殊空間。聞こえるのはかつてこの病院に居た人々の残留思念だろう。医師も患者も誰もいなくなった今でも怨嗟の残響は消えず、聴く者の精神を蝕む呪いとなった。長居すれば猟兵とて無事の保障はない。

『お父さん……お母さん……なんで来てくれないの……』

 だが同時に、この声はゴーストタウンの元凶を見つける手掛かりでもある。声を頼りに迷宮化した建物の奥へと進み、この地に取り憑いた『サナトリウムホラー』を探すのだ。
 怨嗟に呑まれぬ為に心を強く保つよう努めて、猟兵達は廃病院の探索を開始する――。
キリカ・リクサール
漸く現場に辿り着いたが…
どの世界でも、廃病院が陰鬱な場所と言う事に変わりはないらしい

UCを発動
ミントタブレットを口に含み呪詛と狂気耐性を高める
スクレットコートを着込まなければ、無告の思念がその苦しみを私に訴えんと迫ってくる事だろう

日暮れて四方は暗く 我が霊は、いと寂し
寄る辺なき身の頼る 主よ、ともに宿りませ

呪詛が精神を蝕む前に、祈りの言葉を口にする
強力な負の残留思念には、同じくらい強力な思念を祈りに乗せれば対抗できる
そして、呪詛の声の中でより強い思念を持つ声に聞き耳を立てて進んで行く
おそらく、それがサナトリウムホラーだろう

鬼哭啾々、地は暗し…死しても想いは残る
それが、どんな想いでもあっても…な



「漸く現場に辿り着いたが……どの世界でも、廃病院が陰鬱な場所と言う事に変わりはないらしい」
 埃かぶった床の上にかつんと足音を響かせて、迷宮化した廃病院の探索を行うキリカ。
 誰もいない院内の雰囲気は否応なく"死"を印象付けるもので、絶え間ない怨嗟の残響がそれを助長する。ここは既に人ではなく怪異の領域、ゴーストタウンなのだ。
「Tout vient à point à qui sait attendre(待つ事を知る者には、良いタイミングで全てが訪れる)」
 彼女はフランス語の諺を口ずさみながら、【パスティーユ・ド・ヴィッシー】のミントタブレットを口に含む。舌の上で踊るミントの清涼感が脳への刺激となり、院内に満ちる呪詛や狂気の影響を和らげてくれる。

(このコートを着込まなければ、無告の思念がその苦しみを私に訴えんと迫ってくる事だろう)
 キリカが普段着用している「スクレットコート」には、対UDCを想定した強力な防護魔術が施されている。その耐性はゴーストに対しても有効なようだが――彼女はあえて防護服を脱ぎ去って、怨嗟の残響にその身を晒す。
『痛い……苦しい……』
『タスケテ……タスケテ……』
 数え切れないほどの怨嗟の声が院内を反響し、鑢で削るように生者の心を蝕んでくる。
 ここは時空の歪んだ迷宮。ゴールを見つけるのに手間取って時間を浪費すれば、たとえ耐性があっても保たないだろう。

「日暮れて四方は暗く 我が霊は、いと寂し
 寄る辺なき身の頼る 主よ、ともに宿りませ」

 呪詛に精神を蝕まれる前に、キリカが口にしたのは祈りの言葉。讃美歌39番「日暮れて四方(よも)は暗く」――生涯における苦境と死において共にいてほしいと神に願う、死の怨念に満ちたこの場所においてはぴったりの聖句だろう。
(強力な負の残留思念には、同じくらい強力な思念を祈りに乗せれば対抗できる)
 祈りの言葉を繰り返すたびに、心に伸し掛かる重石がすっと軽くなるような気がする。
 死者が遺した有象無象の残留思念よりも、今を生きる者の思念が強いのは当然のこと。だが、それでも退けきれない怨念があるとすれば――。

(おそらく、それがサナトリウムホラーだろう)
 呪詛の残響の中でより強い思念を持つ声に聞き耳を立てて、キリカは先へ進んでいく。
 それは泣きじゃくる少女のような声で、他の思念よりもひときわ強い痛みと、嘆きと、絶望に満ちていた。
『また、お薬のむの……? もう、いや……』
 今にも消え入りそうなくらい小さい声なのに、耳に残ってはなれない。つい耳を澄ませてしまえば引き込まれる――正気を奪われないように一層気を引き締める必要があった。

「鬼哭啾々、地は暗し……死しても想いは残る。それが、どんな想いでもあっても……な」
 廃病院に残された数多の哀しき想いを悼みながら、キリカは歩みを止めはしなかった。
 この怨嗟の残響がさらなる悲劇を招く前に、地縛霊を倒し事件を解決する。そのために自分達は来たのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
すごくホラーじみた雰囲気になりましたね・・・
(「じみた、じゃなくてそのものでしょ。黒影、『呪詛耐性』と『狂気耐性』の『オーラ防御』を行いなさい」と頭の中の教導虫が指示を出す)
はい!せんせー!
(ライトイエローのオーラで身を護る)
完了しました!
(「よし、じゃあ声に耳を傾けて『情報収集』しましょう。ただし他人事のスタンスで聞くこと」)
む、難しいですね…
(「同情したら取り込まれるわよ?怨嗟の声を増やさないためにも必要なことと割り切って行動しなさい」)
はい!せんせー!頑張ります!
(UC【脳内教室】発動)



「すごくホラーじみた雰囲気になりましたね」
(じみた、じゃなくてそのものでしょ)
 陰鬱な雰囲気に包まれた院内を歩きながら、頭の中で言葉を交わす兵庫とスクイリア。ふとすれば足元から恐怖が忍び寄ってくるような環境で、相談相手が常に一緒にいるのは彼らの強みだった。
(黒影、オーラ防御を行いなさい)
「はい! せんせー!」
 教導蟲の指示に従って、兵庫はライトイエローのオーラで身を護る。このオーラは呪詛や狂気に対する耐性を高めるもので、先程から聞こえていた怨嗟の残響のプレッシャーが幾らか弱まった。

「完了しました!」
(よし、じゃあ声に耳を傾けて情報収集しましょう。ただし他人事のスタンスで聞くこと)
 防護策を取った上でスクイリアは次の指示を出す。この時空の歪んだ迷宮でゴールを見つけ出すには、怨嗟の声が唯一の手掛かりとなる。その際には精神汚染を避けるために、なるべく声に感情移入しないように気をつけねばならない。
「む、難しいですね……」
(同情したら取り込まれるわよ?)
 兵庫は情の厚いタイプであり、人々の遺した無念の声を聞き流すのは心苦しいだろう。
 だがここで情に流されても危険が増すだけで誰も救われない。スクイリアには教導者としてしっかりと釘を差しておく役目があった。

(怨嗟の声を増やさないためにも必要なことと割り切って行動しなさい)
「はい! せんせー! 頑張ります!」
 本人も頭ではちゃんと理解しているのだろう、兵庫はいつも通り元気な声で返事する。
 そしてオーラを身に纏ったまま、院内に木霊する怨嗟の声に耳を傾ける。【脳内教室】で決まった通り、心まで傾けてしまわないよう気を引き締めて。
『ぐすっ……痛いよぉ……誰か……』
 どこまでも続く廊下の奥から、すすり泣く少女の声が聞こえた。他の残留思念の声よりも小さいのに、なぜか耳に残る声――それだけ籠もっている思念の強さが違うのだろう。

「向こうから聞こえました!」
 あの少女の声がする方向にゴーストがいると当たりをつけて、廃病院を駆け出す兵庫。
 渦巻く怨嗟の中を突き抜けるように、その足取りにもう迷いはない。心苦しさを感じないわけではないだろうが、それ以上に彼は"せんせー"の事を信じている。
(長居は無用よ。さっさと大本を見つけましょう)
「はい! せんせー!」
 頭の中で響く女性の声に導かれて、不惑の尖兵はひた走る。一度こうと定めた決意を揺るがすことは有象無象の残響にはできず――もはや彼の前に障害はないも同然であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
さて、勇んで飛び込んだのは良いものの……
「実のところ、入院患者の無念というのは少し苦手なんだ。ヒーローが現れて、誰かをやっつければ解決するような問題じゃない事ばかりだからね」

だからボクに出来ることといえば、とにかく励ますしかない
「キミ達のその苦しみには同情するとも。治療が上手くいって欲しいと、心から思うとも」
ここにあるのは残留思念
無事完治してここを後にした人も居れば、快癒叶わず亡くなった方も居たろうね
その念をせめて、現世から開放するためにボクはここへ来たんだ

だから止まらない
断固として、このゴーストタウン現象の核となる地縛霊の元へ
ボクはやると決めた以上、立ち止まりも諦めもしないさ!



「さて、勇んで飛び込んだのは良いものの……」
 蔓延るゴースト共を一蹴して、廃病院までやって来たジュリア。そこで彼女を出迎えたのは嘆きと怨嗟に満ちた幾つもの声。かつてここに居た者たちの残留思念の残響である。
「実のところ、入院患者の無念というのは少し苦手なんだ。ヒーローが現れて、誰かをやっつければ解決するような問題じゃない事ばかりだからね」
 悪を退治するヒーローも、病気や怪我に苦しむ人には時として無力である。当の患者がこの場にいないとなれば尚更できることは限られてくる。握った拳を叩き付けるべき相手はおらず、ただ無念を訴える声が冷たい炎のようにじりじりと心を炙ってくる。

(だからボクに出来ることといえば、とにかく励ますしかない)
 ジュリアは薄暗い廊下を歩きながら、聞こえてくる残響のひとつひとつに返事をする。
 病の悪化や死の予感に怯え、いつここを出られるのかと嘆く人々の声。それに耳を塞いでしまう事など彼女にはできなかった。
「キミ達のその苦しみには同情するとも。治療が上手くいって欲しいと、心から思うとも」
 優しくも芯の通った声で、病床にいる相手の気持ちを慮り、少しでも苦悩が和らぐように励ます。それしか出来ることがないのなら、出来ることを精一杯やるのもヒーローだ。

(ここにあるのは残留思念。無事完治してここを後にした人も居れば、快癒叶わず亡くなった方も居たろうね)
 ジュリアがここで何をしても、現実に生きる人達に何かあるわけでもなく、亡くなった人が生き返るわけでもない。この声はあくまで残留思念――強すぎる人の念が世界に焼き付けられた、まさに残響なのだから。
「その念をせめて、現世から開放するためにボクはここへ来たんだ」
 もしこのまま放置すれば、この念は消えることすらできずに何年、何十年と残り続けるかもしれない。それは余りにも哀しい事だろう。晴らせぬ無念に終わりを伝え、呪縛より解き放つ――それは確かに猟兵にしかできない事だ。

(だから止まらない)
 渦巻く怨念全てに断固として向き合いながら、ジュリアはこのゴーストタウン現象の核となる地縛霊の元へ向かう。嘆きや怨みの声が心を傷つけようが、それが何だ。この声の主達のほうが、その何百倍も痛かったはずだ。
「ボクはやると決めた以上、立ち止まりも諦めもしないさ!」
 ヒーローの決意の叫びが廃病院に響く。それをかき消す事はどんな怨念にもできない。
 揺るぎない足取りで踏みしめていった後に、怨嗟の残響はもう聞こえなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
この病院、負の念が強過ぎる気がする…。
元々ここで何かあったのかな…?

探知術式【情報収集、呪詛、高速詠唱】と周囲の残留思念達の声から情報を集めつつ、「霊魔のレンズ」による霊気の繋がりや霊気溜まり等を辿り、地縛霊の元へ進む道筋を見極めるよ…。

その上で、残留思念による声を受け止め、完了次第、【ソウル・リベリオン】で積もった怨嗟や呪いを喰らい力に変え、破魔の鈴飾りによる【破魔】の力で浄化していくよ…。

呪いはわたしの力…。
霊本体ではなく、残留思念だとしても、危険な事に変わりはないし、その苦しみや悲しみも彼等には本物だからね…。
その苦しみから解放するよ…。

さぁ、あるべき姿へ戻り、向かうべき所へ…。



「この病院、負の念が強過ぎる気がする……」
 見えない霊や魔力を可視化する「霊魔のレンズ」をかけて院内を見回すうちに、璃奈は違和感を覚え始めていた。病院に墓地に刑場など、生死にまつわる場所には死者の想念が集まりやすい傾向があるが、それにしてもこの場の残留思念は異常な強さだ。
「元々ここで何かあったのかな……?」
 オブリビオンが地縛霊として取り憑くような土地なら、特殊な謂れがあっても不思議はないだろう。彼女は探知術式を展開して周囲の怨念の声を聞き取り、情報を集め始めた。

『ごほっ、ごほっ……先生……私の病気はいつ治りますか……?』
『すまない……だが、次こそは……』
 この地に遺された思念の中には、患者の他に病院の関係者らしきものも含まれていた。
 それは患者を救うために奔走し、それでも救えない生命に苦悩する医師達の残留思念。彼らの声は病に苦しむ患者と同じか――それ以上の狂気をはらんでいた。
『この薬ならきっと治せる……』
『この手術ならきっと救える……』
 彼らが口にする医薬品や治療法がどんな物なのか、この世界の医学知識のない璃奈には分からない。だが、その後に続く嘆きの声を聞けば、どれも望む成果は挙げられなかったのだろうと推察できる。それでも、彼らは何度でも治療を繰り返す――。

「患者さんも、お医者さんも、みんな辛かったんだね……」
 残留思念による声を受け止めながら、璃奈はゴーストタウン化した廃病院の先へ進む。
 彼女は怨嗟の残響から拾える情報に加えて、この地にある霊気の繋がりや霊気溜まりを霊魔のレンズで辿ることで、地縛霊の元へ向かう道筋を見極めていた。
「呪いはわたしの力……。霊本体ではなく、残留思念だとしても、危険な事に変わりはないし、その苦しみや悲しみも彼等には本物だからね……」
 遺された無念を聞き届けた少女の手には、呪詛喰らいの魔剣【ソウル・リベリオン】が握られている。先刻は悪しきゴーストの呪いや怨嗟を祓うために使われたが、この魔剣は本来、呪いや怨念に縛られた者を救済するためのユーベルコードだった。

「その苦しみから解放するよ……」
 剣舞のような流麗な所作で、ソウル・リベリオンを振るう璃奈。積もりに積もった怨嗟を剣で喰らい力に変えながら、腰につけた「破魔の鈴飾り」を鳴らして呪いを浄化する。
「さぁ、あるべき姿へ戻り、向かうべき所へ……」
『ぁ……いたぃ……い……た……』
 りん、と涼やかな鈴の音に導かれるように、残留思念の声は次第に小さくなっていく。
 静寂を取り戻した院内には、一筋の霊気のラインが続いているのがはっきりと見える。それが最奥へと繋がる道筋だと確信した璃奈は、魔剣を収めて移動を再開するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
残留思念が残っているんだ。美味しいお話、食べられるかな?

声に耳をかたむけて、過去に何があったか調べるよ。

ぼくは怨嗟に飲み込まれることはないよ。ここにあったお話を理解して食べることが、ぼくの目的であり、アイデンティティだからね。

病院だから、亡くなる人もいただろうけど、それだけでこんな怨嗟が集まるのかな。この世界のことはよくわからないけど、何かがあったのかな。もし、誰かに知ってもらいたいって気持ちが残ってるなら、教えてもらえないかな。



「残留思念が残っているんだ。美味しいお話、食べられるかな?」
 地縛霊に取り憑かれ、ゴーストタウンと化した廃病院。そこで過去に何が起きたのか、残留思念を辿れば分かるかもしれないと、アリスは期待を隠せずにいた。これだけ多くの思念が閉鎖後も残り続けるような場所なら、きっと何かの「物語」があったに違いない。
「さあ、キミたちのお話を聞かせて」
 辺りに渦巻く怨嗟の残響に、自ら耳を傾ける。心を蝕まれる恐怖は微塵もないようだ。
 美味しいお話を味わう為ならこの程度のリスクは軽いもの。声に隠された過去を求めて妖精は情報収集に勤しむ。

「病院だから、亡くなる人もいただろうけど、それだけでこんな怨嗟が集まるのかな」
 ただの病院にしては異常なほどの残留思念の強さが、最初からアリスには疑問だった。
 何か通常ではありえない悲劇が、超常にまつわる事件がここで起きたのかもしれない。
「この世界のことはよくわからないけど、何かがあったのかな。もし、誰かに知ってもらいたいって気持ちが残ってるなら、教えてもらえないかな」
 ここにある思念はレコードの記録のようなもので、それ自体に意志はない。だがアリスが語りかけると思念の渦は反応し、残響の中から意味のある言葉が浮かび上がってくる。

『私達は、いかなる患者も、決して見捨てない……』
 壮年の男性のものと思しき、力強い声。これはかつてここに居た医師のものだろうか。
 語られるのは全ての患者を救うためにあらゆる手を尽くすという、崇高な理念。だが、そこには隠しきれない狂気が滲み出していた。
『不治の病でも、死者でさえも……この世で命を落とす全ての人を救うのだ……』
 彼の声は妄執だった。定命の人類には抗えぬ「死」という運命に逆らおうとする執念。
 それに重なるのは幾つもの無念、悲嘆、絶望の声。それは彼の試みが無数の試行錯誤を経て、成就せぬまま終わったことを暗示していた。

「患者さんを救うための実験をしてたのかな。それじゃあ、この声たちは」
 医師の声を聞いたアリスは、その他の残留思念にも改めて意識を向ける。この廃病院に遺された怨嗟の残響は、多くが患者のもの――その悲鳴のひとつひとつにも物語がある。
『このお薬を飲めば……助かるの……?』
『また手術……もういやだ……』
 治らない病への嘆きに闘病生活の不満、迫りくる死への恐怖、そして諦め。患者の嘆きを癒やすために、医師はあらゆる手を尽くそうとしたはずだ。本来ならば生命を救うという崇高な試みは、次第にエスカレートしていく――。

「なるほど。そんなことがあったんだね」
 混沌と化した怨嗟の残響に耳を傾け続けていても、アリスは変わらず平然としていた。
 彼女が怨嗟に飲み込まれることはない。ここにあったお話を理解して食べることが彼女の目的であり、アイデンティティだから。
「だとしたら、この奥にいるものが気になってきたかな」
 残留思念から聞き取れたのは物語の断片。これを完結させるカギを握るのは、ゴーストタウンを作りだした地縛霊だろう。物語をエンディングまで味わう為に、情報妖精の少女は足取りも軽く廃病院の奥に進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
この場所…地縛霊の少女といい、残留思念達の声といい、この病院、単なる廃病院じゃないのかもしれないわね…。

【念動力】の防御膜と【破魔】の【結界術】で怨嗟の呪いの影響を遮断しつつ、【創造支配の紅い霧】を発動。
迷宮化した空間に紅い霧を放ち、空間を紅い霧の魔力で侵食して「支配」。
逆に空間の制御を乗っ取るわ。

後は空間を正しい形に修正しつつ、声に耳を傾けたり、何かしらの手がかり(カルテや日誌等の記録等)が無いか【情報収集】を実施しながら最深部まで進むわ。

地縛霊は救われないまま亡くなった少女という事だし、可能な限り救ってあげたいわね…。
その為にも、何があったのかしっかり手がかりや情報を集めないとね



「この場所……地縛霊の少女といい、残留思念達の声といい、この病院、単なる廃病院じゃないのかもしれないわね……」
 現状のあらゆる異常性が、フレミアの脳裏に警鐘を鳴らす。ただ閉鎖された病院というだけでは説明が付かない闇の深さ――過去に何かあったのだろうという確信を抱きつつ、先に進もうとすれば怨嗟の残響が出迎える。
『ぐす……ひっく……いたいよぉ……』
『どうして……私ばっかり……』
 胸を締め付けられる悲痛な嘆きや、痛々しいまでの苦悩の声。念動力の防御膜と破魔の結界術で心を守っていなければ、この夥しい残留思念の渦に呑み込まれてしまいそうだ。

「全てを満たせ、紅い霧……。夢も現実も、全てはわたしの思うまま」
 フレミアは怨嗟の呪いを結界で遮断しつつ、【創造支配の紅い霧】を発動。迷宮化した院内に紅い魔力の霧を放ち、空間を侵食し始める。ここは地縛霊の影響下にある特殊空間だと言うが、それなら逆に制御を乗っ取ってやればいい。
「随分デタラメに組み替えられた空間ね……」
 歪曲した空間を正しい形に修正すれば、無限に続く廊下や病室も本来のカタチに戻る。
 全域とまではいかないが、この紅い霧が漂う範囲は彼女の支配領域だ。迷宮化の解けた院内を、吸血姫は迷いのない足取りで進む。

「地縛霊は救われないまま亡くなった少女という事だし、可能な限り救ってあげたいわね……」
 廃病院の攻略を進めながら、フレミアはこの先にいるゴーストの事を気にかけていた。
 恐らくこの場所と地縛霊には何らかの関係性があるのだろう。無念に囚われた魂を解放するには、無念の在り処を確かめなければならない。
「その為にも、何があったのかしっかり手がかりや情報を集めないとね」
 フレミアが空間の修正を行ったのは、情報収集の為の探索を行いやすくする意図もあったのだろう。何かしらの手がかりが残っていないか、残留思念の痕跡や声を頼りに怪しい場所を調べる。

「これは……カルテかしら」
 探索の末にフレミアが見つけたのは、この病院の医師が残したと思しき診療録だった。
 何年も放置されていたらしくボロボロになっていたが、幾つか読み取れる箇所もある。記録対象となる患者は、十代前半の少女となっていた。
『X月XX日、新薬の投薬を開始。しばらく経過観察を行う』
『X日が経過したが、薬の効果は認められず。投薬を打ち切り、次の治療プランに移る』
 その少女は難病を患っていたらしく、記録では何種類もの薬や治療法が試されていた。にも関わらず芳しい成果の挙がらない治療と、進行していく病状に対する医師の苦悩が、筆跡からまざまざと察せられる。

『まだだ。まだ私は諦めない』
『どんな生命も絶対に救う。救わなければならないのだ』
 医師の苦悩はやがて妄執を帯びたものとなり、筆跡も読解が困難になほど荒れていく。
 ほんの一ヶ月のうちに幾つもの薬を連続して投与したり、何件もの手術を行ったり――治療の手段そのものも倫理と法を無視した、常軌を逸するものとなっていた。
『救わなければ。救わなければ。救わなければ。救わなければ――』
『……もう、いや』
 思わずカルテを握りしめるフレミアの耳元で、幼い少女らしき声がそっとささやいた。
 振り返ってみてもそこには誰もおらず、かわりに一冊のノートが落ちている。変色してボロボロになった表紙をそっと開いてみると、そこには血で書いた様な赤い文字で――。

『しにたい』

 ただ一言、そう書かれていた。後のページは全て塗り潰されていて、判読は不可能だ。
「…………」
 生命を救うという理想の下で、不治の病に蝕まれながら、それでも「治療」され続けた少女がいかなる体験をして、何を感じたのか。それを察するのにこの一言は余りあった。
 フレミアは無言でノートとカルテをしまい――病院の最深部へと早足に進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
廃病院内の灯り一つない薄暗い院内に木霊する怪奇な声。

古代北海道シュークリーム伝説

生ものなのに放置しても余裕で新鮮
マグマの海が地表をおおっていても、温泉気分
氷点下でも平気。流氷を割り進む
食べようとした生物を、逆に自分のクリームに吸収
隕石の直撃を受けても持ち前の丈夫さで耐える
3個作って5個出来上がるは当たり前
パティシエの寿命よりシュークリームの寿命の方が長かった
あらゆる言語に流暢に対応
北海道の暴風雪は実はシュークリームが起こしているという
モーセが海を割ったのではなく、シュークリームが海を割った
イザという時は材料無しでも作れるお菓子

地縛霊達はシュークリームに呑まれぬ為に心を強く保つよう努めていた。



「知ってる? 古代北海道シュークリームは生ものなのに放置しても余裕で新鮮なのよ」
 ゴーストタウンと化した廃病院の、灯り一つない薄暗い廊下に木霊する怪奇な女の声。
 悩み聞くカレー屋あらため北海道シュークリームの悪霊ことカビパンは、院内に渦巻く残留思念に向かって古代北海道シュークリームの伝説を語っていた。
「マグマの海が地表をおおっていても、温泉気分。氷点下でも平気。流氷を割り進むわ」
 一体何だそれはと疑問に思う者もいよう。これはあくまでシュークリームの話である。
 現在北海道シュークリームを名乗って流通しているモノは、彼女に言わせれば紛い物。遥か昔に失われた古代のシュークリームこそ、唯一至高の北海道シュークリームである。

「古代北海道シュークリームは食べようとした生物を逆に自分のクリームに吸収するし、隕石の直撃を受けても持ち前の丈夫さで耐える。3個作って5個出来上がるは当たり前」
 それはもはや食品なのかという次元を越えた荒唐無稽な伝説を、さも真実のごとく語るカビパン。洪水の如くあふれる怒涛のボケは陰鬱は雰囲気を残留思念ごと押し流し、院内をギャグで染め上げようとしていた。
「パティシエの寿命よりシュークリームの寿命の方が長かったって知ってる?」
 知るかそんなこと、とツッコミを入れる者はいない。ここにあるのは残留思念と地縛霊くらいで、どちらも基本的に会話が成り立つような存在ではない。だが、そんなモノでもカビパンの謎トークには恐れをなしたのか、怨嗟の残響が小さくなっている気がする。

「あらゆる言語に流暢に対応。北海道の暴風雪は実はシュークリームが起こしているという噂もあるって」
 【ハリセンで叩かずにはいられない女】の伝説トークはまだまだ続く。周辺はすっかり彼女のペースに合わせた環境となり、時空はギャグで歪められ、地縛霊達は恐れ慄いた。
「出エジプトって知ってる? あれってモーセが海を割ったのではなく、シュークリームが海を割ったのよ」
 そんなバカなと声を上げる怨嗟はいなかったが、嘘くせえという雰囲気は漂ってくる。
 だが、まことしやかな調子で延々と語られと、嘘だと思っていても心が揺らぎかける。それは精神までもがカビパン時空に蝕まれかけている証だった。

「イザという時は材料無しでも作れるお菓子! 偉大なる古代北海道シュークリーム!」
 ついにシュークリームが無から創造される下りになると、残留思念はシュークリームに呑まれぬ為に心を強く保つよう努めつつ、必死にギャグ空間から逃げ去ろうとしていた。
 結果としてカビパンの周りから怨嗟の残響はきれいさっぱり消滅し。何の妨害も受けることなく廃病院の奥まで進むことができたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
うーん、こういうのは苦手だな。
いや、オバケや幽霊がダメとかじゃなくて、いろいろ敏感に“感じ取っちまう”んだよなぁ。第六感が鋭いってのも考えモンだ。
まあ、我慢はするけどさ。

よくないモンも拾っちまうのは覚悟の上で〈第六感〉を研ぎ澄ませながら、迷宮の構造を把握して、早めに出口を探し出す。
聞こえてくる“声”は〈呪詛耐性〉〈狂気耐性〉を働かせて我慢。それでもどうしても悪影響が無視できなくなったら《針の一刺、鬼をも泣かす》で自分を刺して取り除く。
ついでに場に焼き付いたよくないモンも、余裕があれば針でつついて浄化しとくか。

……簡単に“救う”とは約束できねえけど。
まあ、おれに出来るコトが救いになればいいかな?



「うーん、こういうのは苦手だな」
 廃病院の中に足を踏み入れた嵐の顔は、恐怖とはまた少し違った表情を浮かべていた。
 彼は自他共に認める"怖がり"で、戦いや命のやり取りを特に苦手としている。しかし、今眉をひそめている理由はオバケや幽霊がダメとかではないようだ。
「いろいろ敏感に“感じ取っちまう”んだよなぁ。第六感が鋭いってのも考えモンだ」
 祖母に高名な占星術師を持つ血筋ゆえだろうか。彼は普通の人間よりも霊的なモノへの感受性が強く、死者の未練などもはっきりと感じ取れてしまう。膨大な残留思念が渦巻くゴーストタウンでは、いろいろな声が"聞こえすぎて"辛いだろう。

「まあ、我慢はするけどさ」
 よくないモノも拾ってしまうのは覚悟の上で第六感を研ぎ澄ませながら、嵐は廃病院の構造の把握に努める。こうなればとにかく早めに出口を探し出すしかない。地縛霊のいる最深部にたどり着くには、怨嗟の残響が最大の手がかりだ。
『ひっく……ぐす……』
『もう……いや……』
 幼い子供のすすり泣くような音や、絶望に満ちた嘆きの声。それは鼓膜よりも脳に直接響くような感覚で彼の精神を削り取ってくる。呪詛や狂気の類に耐性がなければ、早々に心を折られて脱落していただろう。

「やっぱりキツいな……けど、こっちか」
 耳を塞いでも意味はないと察した嵐は、いっそのこと残響に耳を傾けながら先へ進む。
 院内のあちこちから様々な残留思念の声が聞こえてくるが、特に第六感に訴えかけてくるのはあの少女の声だ。儚げなその声を聞き逃さないように細心の注意をはらう。
『すまない……また救えなかった……』
『おとうさん……おかあさん……』
 患者を治せなかった無力を悔やむ医師の声。今際の際に父と母の名前を呼ぶ患者の声。
 この場に焼き付けられた無数の無念が、残響を生み出している。生者に悪影響を与えるモノではあるが、内容はいずれも悲劇に満ちたものばかりだった。

「……放っておくのもよくないよな」
 嵐はそう呟いて懐から古い縫い針を取り出し、残留思念の溜まっている場所をつつく。
 外で誘蛾少女を退けた時のように、【針の一刺、鬼をも泣かす】は場に留まった怨念を浄化し、正常な状態に正していく。
『あぁ………』
 残響の発生源が1つ浄化されると、彼は自分にも針を刺して精神の悪影響を取り除く。
 脳の中にあった"淀み"が消えたような感覚と共に、思考がクリアになる。歩いている間に大分悪影響が蓄積していたようだ。

「……簡単に"救う"とは約束できねえけど。まあ、おれに出来るコトが救いになればいいかな?」
 このゴーストタウンを生み出した本体たるサナトリウムホラーも、こうした残留思念のようにこの病院に縛り付けられているのなら、自分にも出来ることはあるかもしれない。
 怨嗟の残響に耳を傾け、浄化を行いながら、嵐は迷宮の奥に進み続ける。その先に待つモノへの覚悟を固めながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
声が聞こえてくる……此れは、死せる者の悲しみの声か?
何か分かるやもしれぬ。此処は彼等の声に耳を傾けよう。
此の迷宮は、『己が道』を往くなら避けて通れぬ処故……
■行
【WIZ】
彼等の声を聞き入れ、情報を得つつ先へ進むぞ。
勿論、【狂気耐性】を用いるのも忘れない。
一人一人の声を聞いたら『内容』や『共通点』等から
ゴーストタウン発生の原因を推理する。
戦いの役に立つ情報があればいいが……

終点まで進んだら、無意味は承知で声をかけよう。
皆、聞いてくれ。俺は、皆を生き返らせる力はない。
故に、皆を完全に救うことは叶わぬ。
だが……これ以上皆を苦しめさせはしない!
其れだけは、必ずや果たしてみせる。

※アドリブ歓迎・不採用可



「声が聞こえてくる……此れは、死せる者の悲しみの声か?」
 廃病院に踏み込んだ清綱を出迎えたのは、折り重なる幾つもの声だった。苦悩、悲嘆、怨嗟、そして絶望――この場に刻まれた残留思念の声が、残響となって木霊している。
「何か分かるやもしれぬ」
 死者の声を聞くのは危険を伴うが、先へ進む手がかりは勿論の事、ゴーストタウン発生の原因を推理する情報があるやもしれぬと考え、此処は彼らの声に耳を傾ける事にする。

「此の迷宮は、『己が道』を往くなら避けて通れぬ処故……」
 埃かぶった廊下を一歩一歩踏みしめるように、ゴーストタウンの奥に進んでいく清綱。
 怨嗟の残響は容赦なく彼を苛むが、この程度で狂気に陥るほど柔な精神はしていない。
『いたい……くるしい……もう治らないなら、いっそ……』
『私の開発した新薬だ……この薬なら今度こそ……!』
 辺りを漂っているのはかつてここにいた患者や医師の残留思念。彼等の声を聞き入れ、情報を得ればまた次の場所へ。時空の歪んだ迷宮の中で、彼は堅実な調査を進めていく。

「戦いの役に立つ情報があればいいが……」
 そう考えて一人一人の声に耳を傾け、その内容や共通点から推理を行うと、朧げながら過去にあった事が分かってきた。ここにはかつて難病に苦しむ患者達と、その治療に励む医師達がいた。いかなる患者も決して見捨てない、それがこの病院の理念だったようだ。
「それは崇高な精神だが……いつしか歪んでしまったか」
 全ての患者を救おうという理想は、残酷なる現実に阻まれ。現代の医学ではどうしても治せない傷病を前にして、まず狂い始めたのは医師達だった。彼らは患者の生命を永らえさせるためならば、法と倫理を無視した医療行為にも手を染めるようになる。

「文字通りありとあらゆる手を尽くし、患者を救おうとした訳か」
 だが、当の患者の意志すら無視してエスカレートした"治療"は、やがて破綻を迎える。
 この病院がいかなる理由で閉鎖に至ったのかを記録している残留思念はいなかったが、想像に難くない。「治りたい」と「治したい」から始まったはずの人々の願いと祈りは、この地に怨嗟の残響だけを遺して終焉を迎えた。

「……皆、聞いてくれ。俺は、皆を生き返らせる力はない。故に、皆を完全に救うことは叶わぬ」
 怨嗟の声を全て聞き届け、迷宮の終点まで進んだ清綱は、無意味は承知で声をかける。
 ここに在るのはただ過ぎ去った過去の残響。鎮めたところで死者が蘇る訳ではないと、痛いほどに理解している。
「だが……これ以上皆を苦しめさせはしない! 其れだけは、必ずや果たしてみせる」
 この先の戦にかける己の覚悟を。『己が道』を征く決意を改めて語り、男は前を向く。
 ゴーストタウンと化した悲劇の廃病院に真の終焉をもたらし、人々の無念を解き放つ。そのために彼はまた一歩、地縛霊の待つフロアへと足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラレンス・オズバート
……痛いか
苦しいか
楽に、なりたいか?

救いを、差し伸べる手を
あたたかな恵みを乞うモノたちの声が聞こえる
理不尽な現状を嘆くモノたちの怨嗟が聞こえる

……なるほど、随分と深い迷宮のようだ
【破魔】で身に迫る邪念を避け
【浄化】で襲い来る不浄を祓おう
比較的弱いモノたちに対しては
【覇気】が幾許かの効果を成すだろうか

嗚悪いな
俺では貴様らを救えん
貴様らの生への恨みがそうさせるのだと言うならば
くれてやる命も無い

ただ、ひとつ確かなことはある
嘗ての「俺達」がそうしたように
戦う者たちの先に、「救い」は必ずあるものだ

―――さあ、道を譲れ
響き渡る亡者の叫びなど不協和音
斯様に不快な音を生み出すモノには
一言、物を申さねばな



「……痛いか。苦しいか。楽に、なりたいか?」
 あたたかな恵みを乞うモノたちの声が聞こえる。理不尽な現状を嘆くモノたちの怨嗟が聞こえる。残留思念が奏でる数え切れないほどの残響に、クラレンスは手を差し伸べる。
『たすけ、て……』
『もう、いや……』
 かつてこの地にいた人々の悲痛な嘆きは、生けるものの精神を蝕む呪いと化している。
 だが、そのただ中にあっても男の顔色は変わらず、表情が歪むことは微塵も無かった。その双眸は氷のように冷え切ったまま、薄暗い廊下の先を静かに見据えている。

「……なるほど、随分と深い迷宮のようだ」
 クラレンスは身に迫る邪念を破魔の力で避けながら、迷宮化した廃病院を進み続ける。
 時空すら歪んだこの場所においては、ただ闇雲に歩いても堂々巡りするだけ。ゴールにたどり着くには残留思念の声に否応なく晒されることとなる。
「すまないが、道を開けてくれ」
 覇気を込めて呟くと共に、彼の足元から【静寂なる森の世界】が周囲に広がっていく。
 廃れた病院の景色は深い森の演出に塗り替えられ、仄かに灯る祝福の光が闇を照らす。
 その光と本人の威風を前にして、比較的弱い思念たちは慄いたように鳴りを潜めだし、それでも襲い来るような強い不浄の念も、結界に付与された浄化の力に祓い散らされた。

「悪いな、俺では貴様らを救えん。貴様らの生への恨みがそうさせるのだと言うならば、くれてやる命も無い」
 元は悪しきモノではなかったにせよ、ここで彼等の声に心を囚われる訳にはいかない。
 断固たる決意で固められたクラレンスの心を、残響如きが揺るがすことはできない――この"声"の主たちに救いをもたらせぬことに、悔やむ気持ちが無いわけではないが。
「ただ、ひとつ確かなことはある。嘗ての『俺達』がそうしたように、戦う者たちの先に、『救い』は必ずあるものだ」
 積み上げてきた過去があるからこそ彼の足は迷いなく前に進む。そう、自分達はどんな困難にも立ち向かい、不確定な未来を切り拓いてきた。ならば「今」も戦い続けよう――その先に散っていった者たちへの救いと、より良き明日があることを信じて。

「―――さあ、道を譲れ」
 響き渡る亡者の叫びなど不協和音とばかりに静寂の森で包み、奥へと進むクラレンス。
 一角の音楽家としてもいい加減、この残響達が奏でる不協和音にも辟易してきた所だ。
「斯様に不快な音を生み出すモノには、一言、物を申さねばな」
 この地をゴーストタウンに変えた地縛霊との邂逅は、もうすぐそこまで迫りつつある。
 ある種の懐かしさすら感じる気配に緊張しつつも、男の視線は前だけを見つめる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナ・ステラ
ただ怖いだけでなく悲しい感じもするところですね…

怨嗟の残響をできるだけ聴いていきたいのですが、聴きすぎるのは危険そうですね…
UCで浄化の力をもつユニコーンさんを召喚して【呪詛耐性】を上げつつ、できる範囲で耳を傾けつつ探索しましょう。
また、【楽器演奏】を通して自分の心を【鼓舞】して心を強く保ったり、地縛霊さんの心に寄り添えるような【優しさ】のある演奏をしたりしましょう。

昔ここで何があったか少しでも手がかかりが掴めたらよいですが―わたしのできる範囲でやってみましょう!



「ただ怖いだけでなく悲しい感じもするところですね……」
 おどろおどろしい雰囲気に満ちた廃病院に、木霊する怨嗟の残響。そこにルナが怨みだけではなく悲しみも感じ取ったのは気のせいではない。この場所でかつて起きた悲劇を、残留思念が訴えているのだ。
「できるだけ聴いていきたいのですが、聴きすぎるのは危険そうですね……」
 手がかりは欲しいが、あまり耳を傾け過ぎればこちらの精神まで取り込まれてしまう。
 無防備なまま長居するのは良くないと、星と月の魔女っ子は箒を片手に祈りを捧げる。

(お願い! 浄化の力を持つ聖なるユニコーンさん来てください!)
 祈りに導かれて姿を現したのは、【主人の心の声を聞き届け出現する聖なる一角獣】。
 聖なる獣はルナの願いに応じて浄化の力を行使し、彼女の呪詛への耐性を底上げする。
「ありがとうございます!」
 残響からの圧が和らいだのを感じ、ルナはそのままユニコーンを伴って探索を始める。
 これなら心を蝕まれることなく声を聞けるかもしれないと、怨嗟に耳を澄ませながら。

「昔ここで何があったか少しでも手がかかりが掴めたらよいですが――わたしのできる範囲でやってみましょう!」
 怖くない訳ではないが、恐怖で耳を塞いでしまったら地縛霊を鎮めることはできない。心を強く保ちながら前に進むルナに、渦巻く残留思念が嘆きと無念と絶望を伝えてくる。
『もうお薬……飲みたくない……』
『がんばれ……これも、生きる為なんだ……』
 どれだけ治療しても治らない病気。苦しみを訴える患者に、必死の治療を続ける医師。
 双方の想いはすれ違い、快方への道は見えないまま苦痛と苦悩だけが日々増していき、擦り減った心は解放を求めて――。

「辛かったのですね……」
 そんな言葉では収まりきらないほどの悲しみを聞き届けたルナは、涙をこらえるようにきゅっと唇を引き結び。それから「癒しの獣奏器」を取り出すと、徐ろに演奏を始める。
「これで少しでも癒やされてくれたら……」
 絶望に支配された地縛霊の心に寄り添おうとする、優しい音色が廃病院に響いてゆく。
 一音一音が星々の煌めきのように美しい。癒しの力を宿したルナの演奏はカタチのない霊魂の苦しみさえ和らげ、傍らの一角獣も心地よさそうに耳を傾けていた。

「必ず、この悲しみから解放しますから!」
 この演奏はルナにとっても覚悟と決意を新たにし、自分の心を鼓舞する意味もあった。
 浄化の聖獣と癒しの音色で怨嗟を祓い清めながら、少女は一歩一歩奥へ進んでいく――その眼差しにもう恐怖はなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
もう、2年以上も前でしたか

UDCアースの任務
邪神の因子を生まれた時より宿し、その覚醒を防ぐ為に生涯軟禁状態だった少女
聡明故に絶望し、無為な人生より『誰かの特別となりたい』とわざと邪神として覚醒し、猟兵達に討たれた少女

『忘れないで』とは、ほとほと酷な我儘です
…宇治田 希様 (苦笑漏らし)

己を蝕む病魔、明日に希望を持てぬ閉鎖環境が人の精神を何処まで蝕むのか

死者の幻影と会える村
その幻に、私の願望が反映された貴女が選ばれる程に
(戌MS・忘れがたき死人の村)

それと無縁のこの鋼の身に、僅かばかりでも刻んだ事には感謝しておりますよ

呪詛による演算負荷を真っ向から無視
残留思念の濃い場所へと真っ向から踏み入り

ぐっ…げっ…縺偵°?医!?
…リミッターが外れても相応の負荷ですね

ですがこの残響の中に地縛霊の絶望が含まれているのならば、聞き取らねばなりません

同じ苦しみを体感し共感する為?
いいえ、それは無意味な自己陶酔

廃病院内部の痕跡、幻、残滓

探すのです、私が己自身が目指す騎士である為に
絶望から掬い上げる手掛かりを!



「もう、2年以上も前でしたか」
 迷宮化した廃病院の探索を行いながら、トリテレイアは過去の記録を振り返っていた。
 それはUDCアースの任務にて彼が出逢った1人の娘。邪神の因子を生まれた時より宿し、覚醒を防ぐ為に生涯軟禁状態を強いられていたその少女は、聡明であったが故に自らの境遇に絶望し、無為な人生より『誰かの特別となりたい』と望んだ。
「『忘れないで』とは、ほとほと酷な我儘です……宇治田 希様」
 その名を呟いた騎士の口から苦笑が漏れる。自らの意志でわざと邪神に覚醒し、猟兵に討たれた少女との短い思い出は、時が過ぎても色褪せず、鈍い手応えと共に残っている。

(死者の幻影と会える村。その幻に、私の願望が反映された貴女が選ばれる程に)
 忘れがたき死人の村で交わした言葉。もし神様が気まぐれを起こしたら、青い空の下でまた会いたいと、儚い微笑みを残したあの少女は、幻だったが、ただの幻ではなかった。
 きっと、この地に漂う残留思念も同じ。死してなお深く、深く焼き付けられた想いが、残響となって哀しみを訴えている。機械の身体では本当の意味では理解できぬ哀しみを。
「己を蝕む病魔、明日に希望を持てぬ閉鎖環境が人の精神を何処まで蝕むのか」
 この廃病院に渦巻く残留思念、そして地縛霊の抱える絶望も、あの少女に類似したものだろうとトリテレイアは予測を付けていた。日に日に近付いていく終わりを自覚しながら希望も自由もなく生きる――その過酷さは想像に余りある。

「それと無縁のこの鋼の身に、僅かばかりでも刻んだ事には感謝しておりますよ」
 怨嗟の残響は呪詛となり、機械の演算にも負荷をかける。それを真っ向から無視して、トリテレイアは残留思念の濃い場所へと踏み入った。それが今、騎士として相応しい行いだと判断したが故に。
『痛い、痛い、痛い痛いいたいイタイイタイタイタイタイタイ―――』『助けて、誰か、助けて助けてお願い』『救ってみせる、絶対に、絶対に今度こそ』『もう、いや、いや、いやなの』『諦めないでくれ。私達がきっと、キミを』『治らないなら、もう、いっそ』
 幾人もの思念が混ざりあった怨嗟の残響が、濁流の様に騎士の思考回路に押し寄せる。
 それは悲嘆、苦悩、絶望など、ありとあらゆる負の感情の塊だ。もしこんなものに常人が晒されていれば、即座に心が砕けたであろう。

「ぐっ……げっ……縺偵°?医!? ……リミッターが外れても相応の負荷ですね」
 自らの理想のため【機械人形は守護騎士たらんと希う】トリテレイアでも、処理限界を上回る負荷にノイズが漏れる。即発狂しないだけでも大したものだが、このまま長く耐えられる保障はない。
「ですがこの残響の中に地縛霊の絶望が含まれているのならば、聞き取らねばなりません」
 彼は撤退という選択肢を既に放棄していた。合理的であるべき機械としては「狂気」と言い換える事もできる非論理的思考だが、その狂気こそが彼を前進させる原動力となる。
 譲れぬ信念と覚悟を支えに、機械仕掛けの騎士は響き渡る怨嗟の声に耳を傾ける――。

(同じ苦しみを体感し共感する為? いいえ、それは無意味な自己陶酔)
 声だけではない。廃病院内の痕跡、幻、残滓。センサーをフル稼働させて情報を集め、この地で過去に起こった出来事をシミュレートする。電脳への負荷は加速度的に増すが、今更そんな事を気に留めるものではない。
「探すのです、私が己自身が目指す騎士である為に、絶望から掬い上げる手掛かりを!」
 ほんの一欠片でもいい。無間の絶望から希望を見いだせれば、地縛霊を救う事も出来るかもしれない――否、救うのだ、今度こそ。2年前と同じ哀しみを繰り返さないために。拙くとも歩み続けてきた騎士としての軌跡を示すために。

『……おとうさん……おかあさん……? きてくれたの……?』

『うん……わたし、がんばるね……いつか、また、みんなで一緒に……』

 確かに聞こえた。絶望のノイズの中から、誰かに向かってささやく、少女の儚い声が。
 それは空耳のような一度きりの残響だったが、機械騎士の電脳にはしかと記録された。
「……それが、貴女の願いだったのですね」
 闘病生活の中で少女を最後まで支えた希望。おそらく今の彼女が忘れてしまったモノ。
 残留思念という形で遺されていた、生前の少女の想いのカケラを抱え、トリテレイアは迷宮の最深部に足を進める――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『サナトリウムホラー』

POW   :    サナトリウムナックル
単純で重い【『霊体の鎧』の拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    インクリーズホラー
自身が装備する【『霊体の鎧』】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    深き絶望の鎧
対象の攻撃を軽減する【外装強化形態】に変身しつつ、【腕を振り回すこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――かつて、この病院では『全ての患者を救う』という理想が掲げられていた。

 どんな難病人も、重傷者も、決して見捨てない。
 怪我や病気によって失われる生命をなくすために、あらゆる手段をもって治療に挑む。
 医療に携わる者として崇高な信念の下で、この病院の患者は手厚い治療を受けていた。

 だが、現実は非情である。彼らの理想を嘲笑うように、救えない患者は必ず存在する。
 現代の医学では手の施しようがない不治の病を前に、それでも医師達は諦める事なく、懸命な治療を続けた――そう、ありとあらゆる手段をもって。

 たとえ法に触れようと、倫理を侵そうとも、救ってみせる。
 終わらぬ病魔や怪我との戦いの中で、病院が掲げた理想はいつしか狂気と化していた。
 治る見込みのないまま続けられる延命措置。それは患者にとって苦痛を長引かせる行為でもあった。たとえ患者が諦めてしまっても、医師達は"絶対に"諦めなかったのだ。

 生きたいのに、生きられない。
 死にたいのに、死なせてもらえない。

 生と死の狭間で終わりのない苦しみに絶望した、ひとりの患者から生まれたゴースト。
 ――それが、廃病院の最深部で猟兵を待ち受けていた『サナトリウムホラー』だった。

『オオオオォォォォォォォ―――!!!!!』

 咆哮を上げる青黒い霊体。その体躯に埋もれるように、病院着を着た少女の姿がある。
 あの巨体は少女の絶望が生み出した「霊の鎧」であり、少女を外界のあらゆるモノから守護する存在である。絡みつく鎖に縛られて、少女はまるで眠っているようにも見える。

 地縛霊を倒せばこの地のゴーストタウン化は解ける。だが、あの莫大な絶望の念の塊をどうやって倒すのか。本体が滅ぼされない限り、霊の鎧は無間に再生を繰り返すという。
 有効打となるのは鎧をかいくぐっての少女本体への攻撃か、もしくは鎧の構成素である少女の絶望をどうにかするしかない。どちらの手段を選ぶにせよ容易ではないだろう。

 ゴーストと残留思念渦巻く廃病院の怪異との戦いは、ここにクライマックスを迎える。
 オブリビオンとして復活した脅威を再び終焉させるため、猟兵達は戦闘態勢を取った。
ジュリア・ホワイト
嗚呼、伝わってくる。あの少女の絶望が
歪んでしまった病院の理想に囚われ逃げ出せなかった嘆きと苦しみが
「その絶望の鎧……強引にどうにかしてしまったらヒーローじゃない。良いさ、キミには自分から外へ踏み出して貰うとも!」

複製増殖する霊鎧達をかいくぐって本体に接近
なるべく近くから少女の霊に呼びかけよう
「怖かったろう!辛かったろう!だがそれはもう終わったんだ。もうキミを苦しめるお医者さんたちは居なくなったんだ!」
「こんな病院の奥にいつまでも居ることはないさ。ここは暗すぎる、寒すぎる」
「もっと暖かい場所へ行って良いんだよ、キミは」

我が言葉よ、どうか届いてくれ
あの子の心に風穴を開けるんだ



(嗚呼、伝わってくる。あの少女の絶望が)
 地縛霊『サナトリウムホラー』と対峙したジュリアの心に押し寄せたのは、闘志よりも深い悲しみだった。歪んでしまった病院の理想に囚われ、逃げ出せなかった嘆きと苦しみが、霊体の鎧を通じてはっきりと伝わってくる。
「その絶望の鎧……強引にどうにかしてしまったらヒーローじゃない。良いさ、キミには自分から外へ踏み出して貰うとも!」
 ヒーローの使命はただ敵を破壊するだけではなく、救われぬ者に手を差し伸べること。
 信念という石炭を心の炉に焚べて、ヒーロー・オーヴァードライブは前進する。武器は持たず、ただ拳を握って、絶望に囚われた少女の元へとまっすぐに。

『オオオオォォォォォォォ―――!!!!!』

 サナトリウムホラーを構築する霊の鎧は、猟兵の接近に反応して複製と増殖を始める。
 青黒い霊肉でできた不気味な巨人の群れが、ジュリアの前に立ちはだかる。これを突破しなければ本体である少女にたどり着くことはできない。
「どいてくれ!」
 いつもなら力ずくで破壊するところだが、今回は事情が違う。叩き付けられる巨大な拳を避け、巨体と巨体の間や股下に生まれる隙間をかいくぐって、交戦を回避し前に進む。その目線は地縛霊の鎖に縛られて眠る、少女のことだけを見ていた。

「怖かったろう! 辛かったろう! だがそれはもう終わったんだ。もうキミを苦しめるお医者さんたちは居なくなったんだ!」
 接近できるギリギリの距離まで近づいて、ジュリアは少女の霊に呼びかける。この病院で起きた悲劇は既に過去となり、少女がここに囚われる理由はもうどこにもないのだと。
「こんな病院の奥にいつまでも居ることはないさ。ここは暗すぎる、寒すぎる」
 懸命に声をかけ続けても少女は反応を見せない。それでも聞こえている筈だと信じる。
 止まることのない「霊の鎧」からの追撃をかわしながら、喉の奥から言葉を絞り出す。

(我が言葉よ、どうか届いてくれ。あの子の心に風穴を開けるんだ)
 絶望という壁にトンネルを掘り、その向こうにいる少女の心を救助する。自由に走れる足も、人の言葉を話すための口も、今はそのためにある。ヤドリガミとなって手に入れた人の体でジュリアはひた走る。
(明日へ繋げ命の灯! 希望に向かって脱出せよ!)
 何度も声をかけ続けるうちに、霊の鎧の中で少女のまぶたがぴくりと動いた気がした。
 届いている。自分の声は、あの子に。まだ少女は完全に絶望に心を閉ざしてはいない。

「もっと暖かい場所へ行って良いんだよ、キミは」
 ヒーローからの優しい呼びかけは、絶望の闇に差す一筋の光となって希望を指し示す。
 その温かみに触れた少女の霊がまた少し反応をみせ、周囲にいた霊の鎧が崩れていく。
『あたたかい、ばしょ……それは、どこ……?』
 脳内に直接響くように、幼い少女の声が聞こえた。それは不安げで、深い哀しみに包まれていたものの――孤独な絶望に囚われていた彼女が、微かに希望を抱いた瞬間だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
そうか。患者を救いたいって気持ちが暴走したのか。
バッドエンドだね。いや、エンドを迎えられていないのか。せめて、安らかな終わりを。

構成素になった少女が天使に迎えられる妄想を雨として降らせるよ。
もう疲れたでしょ。そして、なんだかもう眠い。お眠り。安らかな眠りを。



「そうか。患者を救いたいって気持ちが暴走したのか」
 残留思念の声からこの病院でかつて起こった物語を理解したアリスは、その内容を吟味するようにまぶたを閉じる。誰もが救いを求めていたはずなのに、誰も救われなかった。理想は狂気にすり替わり、残されたのは絶望だけ。
「バッドエンドだね。いや、エンドを迎えられていないのか」
 目の前にいるサナトリウムホラーこそ、エンドのない絶望に囚われた哀れな犠牲者だ。
 完結しない物語に縛られ続けるのは辛いだろう。このままではあの少女の霊は、自らが作り出した絶望の鎧の中で永遠に苦しむことになる。

「せめて、安らかな終わりを」
 アリスは【妄想世界】を発動し、サナトリウムホラーのためのエンディングを考える。
 彼女の思念は雨となって戦場に降り注ぎ、陰鬱な廃病院を妄想したお話で塗り替える。埃だらけの床は美しい花畑に、ボロボロの天井は青空と白い雲に、壊れたライトは太陽に変わって、あたたかな日差しで少女たちを照らす。
『オオォォォぉ―――???』
 正におとぎ話そのものの突然の環境の変化に【深き絶望の鎧】も困惑しているようだ。
 これは妄想なれども幻覚ではないため、いくら巨腕を振り回しても消えることはない。

「キミが求めているのはこんなお話かな」
 少女の霊を腹に抱えたまま暴れる「霊の鎧」の元に、白い羽がひらひらと舞い降りる。
 見上げれば太陽の光と共に、白い翼と光輪を備えた天使たちが降りてくるのが見えた。
 アリスが妄想したのは不幸な少女が天国に迎えられる、ありふれた優しい救いの物語。
『ぁ……天使さま……?』
 鎧に縛られた少女がかすかに反応を見せる。マッチ売りの少女、フランダースの犬――様々な童話で語られてきたエンディングの様に、その天使は救いと終焉をもたらすもの。

「もう疲れたでしょ。そして、なんだかもう眠い」
 モノローグのようなアリスの言葉とともに、天使がゆっくりと少女の元に降りていく。
 霊の鎧はそれを阻もうと腕を振り回すが、天使の羽に触れた瞬間、絶望で構成されたその身はジュッと音を立てて崩れ落ちていく。
「お眠り。安らかな眠りを」
『ぁ……わた、し……』
 絶望の鎧を溶かしながら、天使の翼がそっと霊を包むと、少女の表情が安らかになる。
 天使のお迎えの物語。妖精の作り上げた優しい妄想が、少女の心を癒やしていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
かつて、北海道にはシュークリームの文明があった。だが、現実は非情である。異常気象の影響で存在は消えてしまった。

幾年もの月日が流れ、パティシエ達により新たな文明が芽生えるも人々は北海道のお菓子は何でも美味いという風潮の上に胡坐を掻き堕落した。

文明がなくとも、科学力が伴わなくても作ってみせる。
一部のシュークリーマーは"絶対に"諦めなかったのだ。

――それが、廃病院の最深部で待ち受けているのが北海道シュークリームじゃなかったとしても。
「何これ、ただのチョコレートシュークリームじゃん」

ガッカリしてカビパンは帰った。帰った後にソレは現れ、チョコレートシュークリームを自らに吸収した。シュークリームホラー。



「ついに辿り着いたわ」
 サナトリウムホラーとの戦いが始まる少し前、他の者よりも一足早く廃病院の最深部に到達した者がいた。その名はカビパン・カビパン。彼女の目的は絶望に囚われた地縛霊の少女を解放することではなく――。
「ここに古代北海道シュークリーム文明の手がかりがあるのね!」
 かつて北海道の地にて栄えたと言われるシュークリームの文明。非情な現実と異常気象の影響により消えてしまったその存在を蘇らせるために、彼女は冒険を続けてきたのだ。何を言ってるのか分からないと思うが、本人以外誰にも分からないと思うので問題ない。

「北海道のお菓子は何でも美味いという風潮の上に胡坐を掻き、現代の北海道シュークリームは堕落してしまったわ」
 この探検を始めた理由を振り返って、カビパンはくっと涙をのむ。偉大なパティシエ達の手によって、幾年もの月日を越えて芽生えた新たな北海道シュークリーム文明。だが、それは彼女にとっては紛い物の域を出ることはなかった。
「私が真の北海道シュークリームを作ってみせる」
 レシピも材料も分からないし、そもそも普通のシュークリームもちゃんと作ったことがあるのだろうか。それでもカビパンの心は根拠のないやる気と信念に満ちあふれていた。

 文明がなくとも、科学力が伴わなくても作ってみせる。
 一部のシュークリーマーは"絶対に"諦めなかったのだ。

 ――それが、廃病院の最深部で待ち受けているのが北海道シュークリームじゃなかったとしても。

「何これ、ただのチョコレートシュークリームじゃん」
 苦労(?)のすえ最深部にやって来たカビパンは、そこにいた敵を見てガッカリした。
 別にそれはチョコレートでもシュークリームでもないと思うが、だとすれば尚更興味はない。彼女が欲しているのは北海道シュークリームだけだ。
『オオオオォォォォォォォ―――!!!!!』
「うっさいわね」
 相手はなんか吠えていたが、カビパンは「女神のハリセン」をパシーン! と鳴らして咆哮をかき消すと、さっさと帰っていった。本当に何がしたかったのだろうかこの人は。

 ――だが、此処には何もないと思ってすぐ帰ってしまったのがカビパンの失敗だった。
 【ハリセンで叩かずにはいられない女】の力に導かれて、"ソレ"は姿を現したのだ。

『ウウゥゥ……?』
 謎の侵入者カビパンと入れ違いに現れたソレは、サナトリウムホラーの元にころころと転がってきた。クリームとカスタードの香りのするふわふわしたソレを【深き絶望の鎧】はなんとなく踏み潰してみる。
『グ? オオォォォぉぉッ!?』
 ソレが一体なんだったのかは分からない。だがカビパンのギャグの力で具現化した何かなのは確かであり、迂闊にもソレに触れてしまった敵はギャグ世界からの侵食を受ける。

『甘い……なに……これ?』
 かくして純粋なる絶望の塊だったサナトリウムホラーの鎧には、シュークリームホラーという不純物が混ざり込む事になった。この一件が地縛霊に多少なりとも影響を及ぼし、猟兵達の勝利のカギとなった――かどうかは、正直なところよく分からない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
なんだろう。懐かしいような、異質なような。見ていると不思議な気持ちになる。ゴーストって、皆こんななのか。
……まあ、今から戦うことを考えれば、怖くてそれどころじゃねーんだけど……!

絶望の塊に守られた眠り姫……なんだか童話みてえ。その絶望をどうにかしないと、本当の安らかな眠りには就けねーよな。
〈第六感〉を活かして核になる部分を見つけ出し、〈破魔〉の力を込めた〈鎧無視攻撃〉を〈スナイパー〉ばりの精度で撃ち抜く。
あと、ユーベルコードを応用すれば、多少は絶望の念を癒せるかもしれねえ。やるだけやってみるか。
向こうの攻撃はなるべく〈第六感〉で〈見切って〉躱す。
近くに味方が居るなら適宜〈援護射撃〉も行う。



「なんだろう。懐かしいような、異質なような。見ていると不思議な気持ちになる。ゴーストって、皆こんななのか」
 嵐にとってはこの世界で初めて対峙することになるはずのゴースト。人の残留思念から生まれた死の怪異に、彼はなぜか既視感めいたものを感じていた。それは想いが生んだ哀しき存在への共感か、あるいは「運命の糸」とでも言うべき縁があったのだろうか。
「……まあ、今から戦うことを考えれば、怖くてそれどころじゃねーんだけど……!」
『大オオォォォォォォ―――!!!』
 【深き絶望の鎧】が上げる咆哮が、嵐の恐怖を刺激する。あれと戦うのは凄く怖い――だが、逃げればきっと後悔する。あの鎧の中には、救われぬ少女の霊が眠っているのだ。

「絶望の塊に守られた眠り姫……なんだか童話みてえ。その絶望をどうにかしないと、本当の安らかな眠りには就けねーよな」
 少女の霊に安息を与えるために、嵐は退かない覚悟を決めた。お手製スリングショットに弾丸を装填すると、害意を察知した「霊体の鎧」が唸り声を上げて襲い掛かってくる。
『ウゥゥゥゥゥ……!』
 歪な巨人の姿をした鎧はぶんぶんと腕を振り回すだけだが、あの膨大な絶望の霊力塊を叩き付けられるだけでも十分危険だ。嵐は第六感を研ぎ澄ませて鎧の動きを見切り、巨腕の攻撃を紙一重で躱す。

(これだけデカいもんを維持するなら、核になる部分があるはずだ)
 絶望を生み出す少女とは別に、それを鎧の形で維持する核があると考えた嵐は、攻撃を躱しながらそれを見極めんとする。中央に埋まっている少女の他に、サナトリウムホラーの外見上気になる箇所は――。
「……あの鎖とかが怪しいか?」
 スリングの紐をぐっと引き絞り、破魔の力を込めた弾丸を放つ。飛んでいった弾丸は狙い通りに鎧に絡みついていた鎖を撃ち砕き――その途端、どろりと巨人の原型が崩れる。
 やはり、理由はよく分からないが、あの「鎖」は地縛霊にとって重要なもののようだ。

『ウオォォ……?!』
 形の崩れた鎧の動きが鈍くなる。その隙に嵐は追撃を仕掛けるのではなく、妖精を召喚し【瞑する魔女の子守唄】を発動する。可憐な妖精より放たれる霊力の波動――それには眠りと癒しの力があった。
「これを応用すれば、多少は絶望の念を癒せるかもしれねえ。やるだけやってみるか」
 エピメニデスや厚狭の寝太郎、いばら姫など「眠り」にまつわる伝承は様々であるが、眠りをある種の呪い、もしくは祝福とする逸話は多い。過去の悪夢に囚われ続ける霊に、安らかな夢と眠りを送れば、絶望もすこしは和らぐだろうか。

「智慧持つ者、機を待つ者、呪われし者――眠りの果てに、祝福あれ」
 果たして嵐の試みは効き目があったようで、眠りの波動を浴びたサナトリウムホラーの動きが止まる。絶望の鎧に埋もれたままの少女の表情が、穏やかになったように見えた。
『もう休んでいいの……? わたし……これで……』
 どれだけ苦しんでも、絶望しても、かつての病床の少女に安らぎは与えられなかった。
 だが、今は――瞑する魔女の子守唄を聞いた霊は、穏やかなまどろみに包まれていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
成程ね…理想も信念も立派ではあるけど、やり方を間違え、いつしか医師達はその意思から狂気に呑まれてしまった、というところかしらね…。

ここに縛りつけられる限り、あの子は苦しみ続ける事になるわ。
あの子を苦しみから解き放つ為にも、

【ブラッディ・フォール】で「全てを賭けて、究極に挑め」の「大祓骸魂」の力を使用(大祓骸魂の服装と懐刀を装備)

何でも殺す事ができる懐刀「生と死を繋ぐもの」を【生と死を繋ぐもの】で複製。
自身も両手に懐刀を握り、複製した懐刀を遠隔操作で操り、霊の鎧に再生が追い付かない程の波状攻撃を仕掛けて本体を露出。
あの子を縛る絶望の鎖を断ち切り、貴女はもう苦しむ必要が無い事を教えてあげるわ!



「成程ね……理想も信念も立派ではあるけど、やり方を間違え、いつしか医師達はその意思から狂気に呑まれてしまった、というところかしらね……」
 哀しげな眼差しでサナトリウムホラーを見つめながら、フレミアは何故このような事件が起こってしまったかを考える。頑なに過ぎた意志が理想を狂気に変えた時、その犠牲となったのは最もか弱き患者だった――ということか。
『オオオォォォォォォォ―――!!』
 少女の霊を包む【深き絶望の鎧】は、修復を繰り返し強化形態と化して咆哮を上げる。
 その叫びは、生前には上げられなかった少女の悲鳴そのもののようにも聞こえた――。

「ここに縛りつけられる限り、あの子は苦しみ続ける事になるわ」
 決意と共に【ブラッディ・フォール】を発動し、紅白の着物姿へと変身するフレミア。
 この装束はかつて幽世と現し世のふたつを脅かした究極妖怪『大祓骸魂』の力を宿したもの。その手元にはかの妖怪の懐刀である【生と死を繋ぐもの】が握られている。
「あの子を苦しみから解き放つ為にも……」
 フレミアはその懐刀をユーベルコードにより複製し、百本以上の懐刀を念力で浮かせ、遠隔操作する。狙うは少女を覆う絶望の鎧――歪な巨人に向かって豪雨の如く刃が飛ぶ。

『グオオォォォ―――!!!』
 懐刀「生と死を繋ぐもの」は、時を費やすことで何でも殺すことができる妖刀である。
 たとえば世界でも死者の霊であっても例外なく死をもたらす。地縛霊と化して現し世をさまよう亡者を解き放つには、最適の武器と言えるだろう。
「切られても再生するなら、再生が追い付かない程の攻撃を!」
 複製された懐刀が絶望の鎧を切り刻む。敵は腕を振り回して刃を払い落とすが、たった2本の腕では全てに対処することはできない。フレミア自身も遠隔操作する懐刀とは別に攻撃に加わり、両手に持った2本の「生と死を繋ぐもの」で敵を斬りつける。

『ガアアァァァァッ!!!』『いや……こわい……こわい……!』
 霊の鎧の絶叫に重なって、少女の声が聞こえてくる。幾多の懐刀によるフレミアの波状攻撃は分厚い霊肉を削ぎ落とし、その中央に埋もれていた本体の姿が露出しつつあった。
「生前の苦しみに今も囚われ続けているのね……」
 恐怖と哀しみに満ちた少女の嘆きを聞いて、フレミアはぐっと「生と死を繋ぐもの」を握りしめる。再生に追いつかれないよう遠隔操作の刃で鎧を切り続けながら、少女を縛る絶望の鎖に狙いを定め――。

「貴女はもう苦しむ必要が無い事を教えてあげるわ!」
 着物姿の吸血姫がさっと両手を振るうと、少女に絡まった鎖が音を立てて断ち切れる。
 懐刀「生と死を繋ぐもの」の力の前では、絶望さえも死に絶える。固く閉ざされていた少女のまぶたが、うっすらと開くのをフレミアは見た。
『もう……痛いことしないの……?』
 それまでの恐怖心に満ちた声ではなく期待と安堵を含んだ声。同時に、ズタズタに切り刻まれた鎧の修復が目に見えて減速する。大祓の力を得たフレミアの攻撃と呼びかけは、間違いなく少女の絶望を祓いつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
必ず助けるよ…!

三度【ソウル・リベリオン】を使用…。
「破魔の鈴飾り」による浄化で霊の鎧の力を弱めつつ、霊の鎧に込められた怨嗟を喰らい、鎧を破壊…。
【ソウル・リベリオン】の救済の力で地縛霊/オブリビオンとなった彼女をあるべき姿へと戻すよ…。

更に【救済の呼び声】を発動…。
彼女を救いたいという願いを次元を超えてこれまでに訪れた全ての世界の人々の慈愛の心(無意識)に訴えかけ、得た賛同を以て救済を齎すよ…。
(救済の内容は彼女の望み/願い次第)

病気と絶望から解放されて、生前出来なかった事をしたいっていうなら、解放後なら【共に歩む奇跡】も併用して使えば疑似的に再び人として生きる事も可能かもしれない…。



「必ず助けるよ……!」
 絶望に縛られた少女に真摯に呼びかけ、三度【ソウル・リベリオン】を召喚する璃奈。
 サナトリウムホラーを構成する「霊の鎧」は今だ再生を続けているが、その速度は当初より落ちている。彼女ら猟兵の呼びかけが無駄ではない証だ。
『ウウゥゥゥゥゥ――……!!』
 これ以上関わるなと言うように【深き絶望の鎧】は唸り、腕を振り上げて璃奈に迫る。
 だが退くつもりなど毛頭ない。自分達は少女を絶望から救い出すために来たのだから。

「呪詛も絶望も、全て喰らい尽くすよ……」
 璃奈が「破魔の鈴飾り」を鳴らすと、清らかな浄化の音色が霊体の鎧の力を弱める。
 敵が怯んだ隙に彼女はソウル・リベリオンで斬り掛かると、少女の本体を覆う霊の塊に一太刀を見舞った。
『グオオォォォォォォ……ッ!!?!』
 呪詛喰らいの魔剣ならば鎧に込められた怨嗟を喰らうことができる。斬撃を受けた箇所の再生は明らかに鈍く、思わぬ深手にサナトリウムホラーが悲鳴を上げる。このまま一気に押し切ろうと、魔剣の巫女は果敢な追撃を仕掛けた。

「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の魂に救済を……!」
 願いを込めて振るわれるソウル・リベリオンは強固な絶望の鎧を破壊し、その奥にいる本体を露わにする。怯えるように体を丸め、微かに震える少女の姿を眼差しに捉えると、璃奈はさらに【救済の呼び声】を発動させた。
「彼の者に救済を……世界に届け、人々の願い……」
 これは不幸な者、傷ついた者を救いたいという願いを、次元を超えて人々の心に呼びかけるユーベルコード。これまでに璃奈が訪れた全ての世界の住民が持つ、無意識なる慈愛の心に訴えかける奇跡の業だ。

「あの子を救うために、どうかみんなの想いの力を貸して……」
 世界の壁を越えて、数多の人々の慈愛と善意の心が集まってくる。その純粋なる想いは奇跡を起こすための力に変わり、あたたかな光となったサナトリウムホラーに降り注ぐ。
(病気と絶望から解放されて、生前出来なかった事をしたいっていうなら、解放後に【共に歩む奇跡】も併用して使えば疑似的に再び人として生きる事も可能かもしれない……)
 璃奈の願いはあまりに荒唐無稽かに思われたが、集まった想いの数によっては、それも不可能ではなくなる。ただ、どんな形で願いが実現するかまでは本人にも分からない――救済の内容は対象となる少女の望みと願い次第だ。

『あったかい……』
 救済の想いが紡いだ光に照らされた少女は、ぽつりと呟きながらうっすらと目を開く。
 日だまりのようにあたたかな輝きの向こうから、見覚えのある誰かが手を振っている。
『よく頑張ったわね』『偉いぞ、■■■』
『おとうさん……おかあさん……』
 少女にとって一番の願いは、病気や苦痛からの解放でも、安らかな死でもなかった。
 大好きな家族に、もう一度会いたい。救済の呼び声が束ねた心の光は、叶うはずのなかった親子の再会を、束の間だけ実現させた。

「病気を治したかったのも、また家族と一緒に暮らしたかったからなんだね……」
 光の中でふれあう少女とその両親から、璃奈は片時も目を離さずに見つめ続けていた。
 オブリビオンの侵攻で家族と故郷を失った彼女には、少女の望みが痛い程よく分かる。
『ふたりとも……だいすきだよ……』
 少女の霊は光に包まれて幸せそうに笑い、深き絶望の鎧がどろどろと崩れ落ちていく。
 救済の奇跡はここに成され、少女を縛り付ける絶望の鎖はまたひとつ砕け散った――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラレンス・オズバート
……フン
希望を求めて
ただ今を生き延びるため
健康な自分を夢見て
理由など何でも良いが

己が信念などという大義名分によって
ただただ苦痛をもたらす措置など
自分のために、他人を食い物にしているだけだ

少女も被害者だろう
入ったら最後、出られぬ鳥籠とは知らず
運ばれただだろう
だが俺には掛けるべき言葉など持たん
ならば送ってやることが
せめてもの餞だろう?

破魔と浄化は変わらず発動
鎧をかいくぐっての本体への攻撃など
器用なことはできん
他の猟兵に任せるさ
代わりに露払いくらいは受け持とう

本体を狙う敵の腕をユーベルコードで
威嚇射撃を交えて攻撃
隙が生まれたならば合図をしよう

……下品な不協和音のコンサートは
これにて終いだ、地縛霊


ルナ・ステラ
悲しい気持ちや絶望した気持ち―全部受け止めるのは不可能かもしれませんが、少しでも寄り添い悲しみから解放できるように…!

(悲しみや絶望の中でも家族や友人などの関りから一縷の希望や苦しみを少しでも忘れられる瞬間はあったはずです)
できるだけ会話をして少女の「願い」について【情報収集】を行いたいので、時間をなるべく稼げるように回避に徹しつつ会話を試みます。
箒に乗って攻撃を見切っていきます。特に腕との距離感には注意しましょう。もしものことがあれば、ブースターで緊急回避します。

「願い」を少女が語り始めてくれたらUCを発動します!
あなたの願いを聞かせてくれませんか?
そしてあなたの力にならしてくれませんか?



「……フン。希望を求めて、ただ今を生き延びるため、健康な自分を夢見て。理由など何でも良いが」
 淡々と語りながら冷徹な視線を【深き絶望の鎧】に向けるクラレンス。その言葉の端々から滲み出る怒りはサナトリウムホラーに対するものではなく、その元凶となった医師達に向けたものだった。
「己が信念などという大義名分によって、ただただ苦痛をもたらす措置など、自分のために、他人を食い物にしているだけだ」
 斯様な忌むべき所業の果てに病院が閉鎖されたのは、当然の報いだったのだろう。醜悪な狂気に落ちぶれた理想は絶望の残留思念と、死してなお解放されぬ亡霊を生み出した。

「少女も被害者だろう。入ったら最後、出られぬ鳥籠とは知らず運ばれただだろう」
 クラレンスはそれを表には出さないが、憐れむ想いが微塵も無いと言えば嘘になろう。
 救いを求めて入ったはずの病院で、終わりなき苦しみに苛まれることになるとは、あの少女は思ってもいなかったはずだ。
「だが俺には掛けるべき言葉など持たん。ならば送ってやることがせめてもの餞だろう?」
 宿り木の杖を構える男の心にさざ波はない。ただ超然と成すべきことを遂行するのみ。
 もし惑えばそれだけ彼女の苦しみを長引かせる事になる。クラレンスの思考は徹底して冷静であった。

「悲しい気持ちや絶望した気持ち――全部受け止めるのは不可能かもしれませんが、少しでも寄り添い悲しみから解放できるように……!」
 一方で、クラレンスとはまた異なる決心をもって絶望の地縛霊と対峙する猟兵もいた。
 彼女――ルナはあくまで少女の心も絶望から救い出すことを願い、同時にそれを叶えられるかもしれない魔法を知っていた。
(悲しみや絶望の中でも家族や友人などの関りから一縷の希望や苦しみを少しでも忘れられる瞬間はあったはずです)
 今は深き絶望の鎧に沈んでしまったその希望を、もう一度呼び覚ますことができれば。
 そのためには少女自身から話を聞き出す必要がある。この戦闘の最中に対話を試みるのは危険が伴うが、リスクの高さは彼女にとって諦める理由にはならない。

「できるだけ会話をして少女の『願い』について情報収集を行いたいので、時間をなるべく稼いでもらえませんか」
「……いいだろう」
 魔女っ子の少女からの真剣なお願いに、クラレンスは表情を変えぬまま確かに頷いた。
 ルナが箒に乗って飛び立つのと同時に、彼は杖を掲げて【昏き森の槍牙】を発動する。
「鎧をかいくぐっての本体への接触など器用なことはできん。他の猟兵に任せるさ」
 代わりに露払いくらいは受け持とう――指揮者の魔力に呼応して放たれた植物の槍が、サナトリウムホラーの巨躯に突き刺さる。植物はそのまま霊体に根を張り動きを鈍らせ、味方が接近するための隙を作り出した。

「今の内だ」
「はい!」
 生じたチャンスを逃すまいと、ルナは全速力でサナトリウムホラーの元に翔けつける。
 そして鎧の中から露出した少女の本体を見つけると、できるだけ近くから声をかけた。
「あなたの願いを聞かせてくれませんか? そしてあなたの力にならしてくれませんか?」
 ゴーストになる程の絶望の中で、少女を最後まで支え続けた「願い」は何だったのか。
 裏表のない純粋な気持ちを言葉にして訴えかけると、少女の霊が微かに反応を示した。

『オオオォォォォォォォッ!!!』
 絶望の鎧はこれ以上煩わせるなとばかりに槍を引き千切ると、腕を力任せに振り回してルナを遠ざけようとする。それを更に制するのは、クラレンスからの追撃の魔法だった。
「……下品な不協和音のコンサートはこれにて終いだ、地縛霊」
『グオ―――ッ!!?』
 傍らに残されていた数十本の森の槍牙が、喚く鎧の口を縫い付け、腕を串刺しにする。
 その間にルナは箒に搭載したコメットブースターを点火し、敵の攻撃を緊急回避した。

「お願いです、あなたの気持ちを教えて下さい!」
 腕との距離感に注意して飛び回りながら、少女の霊に声をかけ続けるルナ。後方からはクラレンスが植物の槍による威嚇射撃も交えて鎧の注意を散らしつつ牽制を行っている。
『わたしの……願い……もう一度、おとうさんとおかあさんに会いたい……』
 激しい戦闘の最中でも続けられた対話の試みに、ついに少女の霊からの返事があった。
 辛い闘病生活に耐えたのも、病を治して元気になりたかったのも、全てはもう一度家族と一緒に暮らすため――それが少女の一番の願いであり、最後の希望だった。

「叶えます、その想い……星に願いを!」
 少女が願いを語り始めると、ルナはすかさず【Wish Upon a Star】を発動。薄暗い廃病院の中でも、天井の上には夜空が広がっている――彼女はそこから一筋の流れ星を呼び寄せ、サナトリウムホラーの本体に向かって落とした。
『あ……流れ星……?』
 眩しそうに目を細めて少女が見上げるなか、ゆっくりと流れる星は願いを実現させる。
 院内の闇に曳かれた光の軌跡が、二人分の像を描き出す。ひとりは女性、もうひとりは男性。少女がずっと会いたくてたまらなかった、愛しい人たちの姿を。

『おとうさん……おかあさん……!』
 それは流星が見せた一時の幻だったのかもしれない。けれどもそれは紛れもなく少女にとって救いだった。愛する家族の腕に抱かれて、少女の瞳から一滴の涙がこぼれ落ちる。
 泣くことも忘れてしまうほど深い絶望の中、救われる事なき虚無を抱えた少女の心は、この瞬間希望を取り戻したのだ。
「これで少しでも癒やされたでしょうか……」
「そのようだな」
 霊体の鎧が原型を失い徐々に崩れていく。クラレンスの槍が貫いた箇所も再生が鈍い。
 それは本体である少女から生まれる絶望が弱まっている、なによりの証明でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
患者のことを最優先に考えるように見えて
実際は自分の理想を押し付けていた
つまり、この病院の医療従事者たちは患者を対等な存在と見ていなかった、と
絶望的なまでのすれ違いですね、せんせー
(「・・・えぇ、そうね」と頭の中の教導虫が居心地悪そうな声で返事をする)
せんせー?
あ、もしかして俺もここの患者と同じように
望まぬ戦いを強いられていると感じているんじゃないかって不安になりました?
(「そ、そんなことは」)
図星っぽいですね
でも安心してください!俺はこれっぽちもそんなこと考えてませんよ!
今ここで猟兵として戦っているのも
せんせーと一心同体のままでいるのも
そして虫さんたちと一緒に戦うことができるこの力を身につけたことも
すべて俺の意思です!
俺が望んだことなんです!
(「ありがとう、黒影。ごめんね?」)
気にしないでください!
さて!じゃあせんせーに嫌な思いをさせてもの全てを全力でぶっ飛ばしましょうかね!
(真の姿に変身後、UC【一寸鋒矢】を発動し敵に向かって突撃する)



「患者のことを最優先に考えるように見えて、実際は自分の理想を押し付けていた。つまり、この病院の医療従事者たちは患者を対等な存在と見ていなかった、と」
 この地で起こった悲劇の根本的な原因を、兵庫はそう語った。全ての患者を救うという美しい理想に目が眩んだ医師達には、患者が求める「救い」が何か視えていなかったと。
「絶望的なまでのすれ違いですね、せんせー」
(……えぇ、そうね)
「せんせー?」
 頭の中にいる教導虫スクイリアが居心地悪そうな声で返事をする。彼女にしては珍しく端切れの良くない調子に、兵庫は首を傾げた。それは何かを思い悩んでいるようで――。

「あ、もしかして俺もここの患者と同じように、望まぬ戦いを強いられていると感じているんじゃないかって不安になりました?」
(そ、そんなことは)
 ふと思いついた心当たりを尋ねてみると、返ってきたのは焦りを含むスクイリアの声。
 蜂皇族という昆虫種族が統治する島で育った兵庫は、そこで幼児期に教導虫を脳に埋め込まれ、訓練と教育を受けてきた。その行為が1人の若者の人生を狂わせ――あるいは、今も狂わせ続けているのではないかと問われれば、スクイリアに即座の反論はできない。

「図星っぽいですね。でも安心してください! 俺はこれっぽちもそんなこと考えてませんよ!」
 しかし兵庫は普段と変わらぬ朗らかな調子で"せんせー"の不安を否定した。その瞳にはこれまで歩んできた過去への後悔や、自分をここまで導いた教導虫や蜂皇族への怨みなど一切映っていない。前だけをまっすぐに見る、澄んだ美しい眼差しだった。
「今ここで猟兵として戦っているのも、せんせーと一心同体のままでいるのも、そして虫さんたちと一緒に戦うことができるこの力を身につけたことも」
 望まぬ戦いだなんてとんでもない。もしせんせーが引け目を感じているのだとすれば、それは大きな勘違いだ。だから彼は頭の底まで響くような大声で、はっきりと宣言する。

「すべて俺の意思です! 俺が望んだことなんです!」

 訪れたのは数秒の沈黙。それはスクイリアの心に言葉が沁み込むのに必要だった時間。
 それから脳内より返ってきた声は、いつもの調子と切れの良さを幾分取り戻していた。
(ありがとう、黒影。ごめんね?)
「気にしないでください!」
 せんせーの憂いが少しでも晴れたのならそれで何より。兵庫はにっと歯を見せて笑い、それから改めて戦いの構えを取る。この院内に残る敵はあと1人、深き絶望の鎖に囚われた地縛霊『サナトリウムホラー』だけだ。

「さて! じゃあせんせーに嫌な思いをさせたもの全てを全力でぶっ飛ばしましょうかね!」
 揺るぎない信頼と絆を胸に超克(オーバーロード)に至った兵庫の身体が、真の姿へと変貌していく。部分的に外殻化した手足に触覚や翅など、その外見は半人半虫と言うべき姿となり――長く伸びた髪は、教導虫となる以前のスクイリアの髪色に染まる。
『オオオォォォォォォォ―――!!』
 闘志に反応して霊体の鎧が【サナトリウムナックル】を振りかぶるが、兵庫は真の姿の上から更に【一寸鋒矢】を発動し、今まで共に戦ってきた虫たちのオーラを身に纏った。

「何兆! いやそれ以上の虫さんたちの思いを込めたこの一撃! 止められるものなら止めてみやがれ!」
 背中の翅を広げ、蜂蜜色のオーラを纏って、猛烈なスピードで地縛霊に突撃する兵庫。
 紡ぎ繋いだ絆の全てを込めたフルパワーの一撃。脳内からスクイリアのエールが響く。
(行くわよ、黒影!)
「はい、せんせー!」
 その瞬間、二人は一条の閃光となって戦場を翔け抜け――地縛霊を鎧う絶望を貫いた。

『グオアアァァァァァ―――ッ!!!!?』
 半身が消し飛ぶほどの大損害を受け、霊体の鎧が絶叫を上げる。あまりにもダメージが大きすぎる為か、破損した部位は再生が追いつかずにボロボロと崩れ落ちていっている。
 これが兵庫の意志と絆の力。変身を解いた彼の表情には、会心の笑みが浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

己の使命に燃えて、理想を追い続けた者達の夢の跡か
「苦しむ者を救う」…言葉だけは、美しいがな

シルコン・シジョンを装備
ダッシュと軽業で戦場を駆けて、霊体の鎧を回避しながら狙い撃つ
聖なる箴言が込められた弾丸を祈りと共に撃ち出せば霊体の鎧も霧散するだろう

今その屍を地に委ね、土は土に、灰は灰に、
塵は塵に還すべし…Amen(かくあれかし)

霊体の鎧が一時的に剥がれてきたらUCを発動
本体である少女に大蝦蟇のコインを張り付ける
少女の深い苦痛と絶望が霊体の鎧を呼ぶと言うのならば、それを取り除こう
あらゆる傷病を治す秘薬の名は伊達ではない…それが、例え歪になってしまった魂であってもな

もう泣かなくてもいい
その絶え間ない苦痛も、深い絶望も、直ぐに終わるさ

少女に語りかけながら襲い来る残った霊体の鎧をシルコン・シジョンで浄化させていく
私が癒すべきものは身体ではない、欠けてひび割れたその魂だ

死は生からの永遠の別れではなく、ほんの一時の離別にすぎない
だから何も心配する事は無い、在るべき所へ帰るだけなのだから



「己の使命に燃えて、理想を追い続けた者達の夢の跡か」
 残骸と呼ぶにも無惨な今の廃病院の状態と、眼前にいる地縛霊『サナトリウムホラー』の異形を見て、キリカは独りごちる。きっと理想を追っていた当時の者は、自分達の行為がこのような結末に至るとは想像すらしていなかったろう。
「『苦しむ者を救う』……言葉だけは、美しいがな」
 朽ち果てた理想に正しき終焉をもたらすため、彼女は"シルコン・シジョン"を構える。
 銃口を向けられた地縛霊は咆哮を上げると、崩れつつある霊体を不気味に震わせた。

『ウオオオォォォぉぉぉぉぉ―――!!!』
 病院中に轟く咆哮と共に【インクリーズホラー】が発動し、霊体の鎧が増殖を始める。
 本体を擁する鎧から分裂するように、外見上はまったく同じ鎧が数十体。異形の巨人に囲まれかけたキリカはダッシュでその場を離脱し、銃の照準を合わせ直す。
「今その屍を地に委ね、土は土に、灰は灰に、塵は塵に還すべし……Amen(かくあれかし)」
 祈りを唱えながら銃撃を仕掛けると、撃ち抜かれた霊体の鎧は陽炎のように霧散する。
 聖なる箴言が込められた弾丸は、外で下級のゴーストを祓った時と同じく、絶望の怨霊に対しても抜群の効果を発揮した。

『グオアアァァァァァ―――?!!』
 己にとって天敵といえる凶器を持つキリカを抑えようと、増殖した霊体の鎧がわらわらと襲い掛かる。しかしキリカは軽業めいた身のこなしで戦場を駆けて、敵を回避しながら狙い撃つ。鳴り止まぬ銃声は霊体が再生する速度を上回り、鎧の数は次々に減っていく。
「少女の深い苦痛と絶望が霊体の鎧を呼ぶと言うのならば、それを取り除こう」
 鎧の複製が打ち止めとなり、本体を覆う鎧が一時的に剥がれてきたのを見ると、キリカはポケットから大蝦蟇の描かれたメダルを取り出しながら素早く本体との距離を詰める。
 そして、いまだ醒めやらぬ絶望にまどろむ少女の霊に、ぴたりとコインを張り付けた。

「あらゆる傷病を治す秘薬の名は伊達ではない……それが、例え歪になってしまった魂であってもな」
 医師の技術では叶わなかった理想を実現する、ユーベルコード【秘薬・大蝦蟇之油】。
 そのメダルを貼られた途端、不治の病に侵された少女の霊の顔色がすっと良くなった。
『ぁ……いたく……ない……?』
 死してなお病の過去に苦しめられていたのだろう、驚いたような少女の声が聞こえる。
 苦痛からの解放を成し遂げたキリカはふっと優しく微笑み、少女の頬をそっと撫でた。

「もう泣かなくてもいい。その絶え間ない苦痛も、深い絶望も、直ぐに終わるさ」
 少女に語りかけながら、残った霊体の鎧をシルコン・シジョンで浄化していくキリカ。
 聖なる弾丸に貫かれた鎧はそれ以上再生することもなく、ぼろぼろと崩れ去っていく。
「私が癒すべきものは身体ではない、欠けてひび割れたその魂だ」
 絶望が具現化した鎧の再生が鈍いのは、少女の魂が癒やされつつある何よりの証明だ。
 大蝦蟇之油の効能を確認した戦場傭兵は、なおも銃撃と少女への呼びかけを続ける。

「死は生からの永遠の別れではなく、ほんの一時の離別にすぎない」
 生命尽きても魂は巡り、あるものは安息を得て、あるものは現し世で新たな生を得る。
 今生で苦難を受けた魂にも、きっと救いがあるはずだと、キリカはそう祈りを捧げる。
「だから何も心配する事は無い、在るべき所へ帰るだけなのだから」
『しんぱい……ない……じゃあ、またあえるかな……』
 返ってきたのは何かを期待するような少女の声。それは彼女が希望を抱きはじめた証。
 サナトリウムホラーが抱き続けてきた絶望の虚無は、少しずつ埋まりつつあった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
子よ、俺は……かの医者と同じ所業を犯すやもしれぬ。
だが……貴方を苦しめさせはしない。
拙者、愛久山清綱。貴方の命を救うことができずとも……
我が身に懸けて、其の魂を祓い清めてみせよう!!
■闘
名乗ると同時に真の姿へ変化、『心切』へ【破魔】の力を宿し
殺傷力を消す。決して苦しめさせはしない……決してだ。

先ずは少女のもとへ全力の【ダッシュ】接近を図る。
振り下ろされた腕は此方に来る瞬間を【見切り】つつ、
持ち前の【怪力】一つで受け止め、此の身に代えてでも
祓うという意思を見せるのだ。
万一耐えきれず吹き飛ばされようとも、【激痛耐性】で
痛みを堪え、再び駆ける!

距離が半分まで詰まったら、此処からは何が来ようと一直線。
疾走の最中で雑念を振り払い、破魔の力を最大限まで込めた
【夜見・慈】を横一線に放ち、鎧と少女の双方を斬り祓うのだ!

※アドリブ歓迎・不採用可



「子よ、俺は……かの医者と同じ所業を犯すやもしれぬ」
 医療の道を極め、全ての患者を救わんとした医師達の行いを、清綱は否定しきれない。
 己もまた兵(つわもの)の道を極める途上で、同じ業を背負うやもしれぬ。苦しむ者を救いたいというこの想いも、道を踏み外せばただのエゴと成り果てるやもしれぬ。
「だが……貴方を苦しめさせはしない」
 鋼の決意にて己の為すべき事を定め、退魔刀「心切」を構える。その研ぎ澄まされた刃と同じように、心には一点の曇りなく。絶望の鎧に縛られた少女をまっすぐに見据える。

「拙者、愛久山清綱。貴方の命を救うことができずとも……我が身に懸けて、其の魂を祓い清めてみせよう!!」

 意気軒昂たる名乗りと同時に、真の姿へ変化する清綱。具足一式の上から陣羽織を着込み、蒼い霊気を纏ったその姿は貫禄に満ちており、力のみならず心の強さも感じさせる。
 その霊力は「心切」を握りしめる手を通じて刀身に籠められ、破魔の力を刃に宿した。
「決して苦しめさせはしない……決してだ」
 刀から殺傷力を消し去り、純然たる退魔の刃と為す。それが鬼獣の巫が示す決意の証。
 準備万端整えた彼は鋭い踏み込みから一気に加速し、少女のもとへと全速力で駆ける。対するサナトリウムホラーは巨大な腕を振り上げて迎え撃つ構えを見せた。

『オオオォォォォォォォ―――!!!』
 近付いてくる相手を剛力と質量で叩き潰さんとする【サナトリウムナックル】の一撃。
 豪快だが単純なその攻撃は、歴戦の兵たる清綱ならたやすく此方に来る瞬間を見切れるものだ。だが彼はそれを避けるのではなく、持ち前の怪力ひとつで受け止めんとする。
「ぬうっ……!」
 受けた拳は想像以上に重く、インパクトの瞬間にすさまじい衝撃が全身を駆け抜ける。
 威力を殺しきれず、身体が後ろに持っていかれる。だが清綱は即座に体勢を立て直すと再び駆ける。これしきのことで諦めはしないと示すように。

(此の身に代えてでも祓うという意思を見せるのだ)
 果敢に接近を図る清綱を、再びサナトリウムホラーの拳が襲う。またも押し返されるかに思われたが、今度の彼は踏みとどまった。骨身がきしむ痛みにぐっと奥歯を噛み締めながらも耐え、一瞬たりとも少女から視線を切らさない。
『どうして……』
 なぜ、そこまでするのかと少女が戸惑いの声を発した。同時に霊体の鎧の動きが鈍る。
 その問いは清綱にとっては答えるまでもない事だった。緩んだ拳を振り払い、少女との距離をさらに詰める。此処からは何が来ようと一直線、止まりはしないと覚悟を決めて。

「救える魂は必ず救う……其れが俺の兵(つわもの)の道」
 たとえ人を逸し、世の理に叛逆しようとも、其処に救いを求める魂あらば進むまで。
 それ以外の思考は全て捨て、疾走の最中で雑念を振り払う。霊体の鎧の懐へ潜り込み、少女と肉迫した清綱の眼差しに一切の殺意はなく――ただ慈悲の心を持って剣を振るう。
「秘伝……夜見」
 其は破魔の力を最大限まで高めた、慈悲の奥義の最終形態【夜見・慈】。横一線に放たれた殺意なき退魔の剣が、サナトリウムホラーの鎧と少女の双方をまとめて斬り祓った。

『ぁ………』
 刃が体をすり抜けていっても、少女に痛みはなかった。逆に、胸の奥底で渦巻いていた黒いものが晴れた感覚がある。清綱の秘剣は彼女の怨念と絶望のみを確かに祓ったのだ。
 同時に少女を鎧う霊体が『オォォ……!!』と不気味に鳴動しながら崩れ落ちていく。廃病院の怪異と長きに渡る少女の絶望に、終止符が打たれる時が迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
超克…オーバーロード始動
創造主の叡智刻まれたる電脳禁忌剣に強制アクセス
その奥底の設計図…『破壊兵器としての最高傑作ウォーマシン』の姿へ

“騎士に討たれる忌むべき竜”とは…御伽を愛し、銀河帝国に設計を強制されたあの方の嫌悪が反映されているのでしょうね

霊体と四つに組み合い

既に沢山の暖かな思いが届いた筈です
私の声も聞こえますね?

沢山頑張った貴女に、ご褒美を届けに参りました
帰りたかったのでしょう?
ご両親に会いたかったのでしょう? 

少しの時間ですが、叶えて差し上げます
名一杯、甘えて…そしてお別れを伝えられますよ

大丈夫、数多の星を砕いた叡智
場所も、時間も、生死も出力任せに越えられますとも
さあ、強く念じて…

この廃墟に漂う数多の無念…貴方達もお連れしましょう

そして、医の道を邁進し続けた残留思念
罰として私の代わりに彼らの見届け人の任を命じます

生死は人の常 医の道はよそにあり…
家族と彼らの表情こそが、貴方達が望んだ物の筈ですから


天衝く巨大光刃で廃墟病院飲み込み
騎械竜…只“機構”となりてひと時の再開と別離司り



「超克……オーバーロード始動」
 その宣言と共にトリテレイアのコアユニットがフル稼働し、電脳禁忌剣が蒼銀に輝く。
 彼を造り上げた創造主の叡智が刻まれた、剣内部の秘密機構に強制アクセス。その奥底に眠る設計図のデータに基いて、騎士型のボディが変形を始める。
「……起動完了」
 それは『破壊兵器としての最高傑作ウォーマシン』の姿。各部の装甲や四肢は鋭角的でより攻撃的なフォルムに変化し、背部には六枚の羽と巨大な浮遊砲門のユニットを装備。その外観は騎士よりも竜人と呼ぶべき姿であった、

「"騎士に討たれる忌むべき竜"とは……御伽を愛し、銀河帝国に設計を強制されたあの方の嫌悪が反映されているのでしょうね」
 破壊と死を追求しながらもどこか幻想的な、この形態に込められた創造主の想いを慮るトリテレイア。しかし感慨に浸る時間はあまり無い。機竜化した頭部で正面を見やれば、救うべき者と倒すべき絶望が待っている。
『オォォォォォォ―――!!!!!』
 地縛霊『サナトリウムホラー』を構成する霊体の鎧は、既に半ば崩壊しかかっていた。
 猟兵達の攻撃によるダメージもさる事ながら、かけられた言葉の数々が心を揺さぶり、絶望を薄れさせてきたのだ。

「既に沢山の暖かな思いが届いた筈です。私の声も聞こえますね?」
 六枚羽とスラスター出力を最大にして、トリテレイアはサナトリウムホラーに急接近。
 霊体の鎧と四つにがっしりと組み合い、すぐ傍から本体の少女に向かって声をかける。
『うん……きこえる……』
 うっすらと目を開いた少女の口から、ささやくような応答が漏れた。終わりすら見えぬ生と死の狭間で絶望を味わい、死してなおゴーストとしてこの地に縛られ続けた彼女に、ようやく救いの声が届いたのだ。

「沢山頑張った貴女に、ご褒美を届けに参りました」
『ごほうび……?』
 霊体の鎧が暴れぬようぐっと押さえつけながら、機械仕掛けの竜は少女に話しかける。
 廃病院の探索中に彼は聞いた。生前の少女を最後まで支えた望み。辛い闘病生活の中で願い続けたことを。
「帰りたかったのでしょう? ご両親に会いたかったのでしょう?」
『かえり、たい……あいたいよぉ……!』
 少女の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちる。深い絶望に囚われて忘れてしまった想いも、今ならば思い出せただろう。儚い霊から絞り出された切なる願いに、トリテレイアは深い首肯をもって応じる。

「少しの時間ですが、叶えて差し上げます。名一杯、甘えて……そしてお別れを伝えられますよ」
『ほんと……?』
 少女の両親が今どうしているかも分からない。少女が亡くなり、病院が閉鎖されてから長い時が流れすぎた。そんな現状で彼女の願いを叶えるのは至難の業かと思われたが――超克(オーバーロード)に至ったトリテレイアには確信がある。
「大丈夫、数多の星を砕いた叡智。場所も、時間も、生死も出力任せに越えられますとも」
 彼の手の中で最大駆動状態へと移行する電脳禁忌剣。かつてスペースシップワールドで運用された惑星破壊級の出力を費やし、少女の悲しみを拭うための電脳魔術を行使する。それは大いなる力の浪費の極みにして、破壊もたらさぬ【電子と鋼の御伽噺】。

「さあ、強く念じて……」
『……うん』
 少女が祈るようにそっと目を閉じると、彼女の守護者だった霊体の鎧も動きを止める。
 トリテレイアがその前で剣を掲げると、機構より迸る光が天を衝く巨大な光刃となり、戦場を眩く照らし出す。
「この廃墟に漂う数多の無念……貴方達もお連れしましょう」
 光刃の輝きは少女とサナトリウムホラーだけでなく廃墟と化した病院全体を飲み込み、そこに残留する全ての想いを巻き込んでいく。罪なき者には救済を、罪ある者には贖罪を――誰一人として余さぬその力は、まるで機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)。

「そして、医の道を邁進し続けた残留思念。罰として私の代わりに彼らの見届け人の任を命じます」
 この悲劇を生み出した元凶とも言える者達さえも、トリテレイアは例外としなかった。
 それは罰であると同時に救い。理想の果てに狂気に歪んでしまった者達に、真に理想としたものを思い出させるための。
「生死は人の常 医の道はよそにあり……家族と彼らの表情こそが、貴方達が望んだ物の筈ですから」
 悲劇の役者達を残らず舞台に上げて、機械仕掛けの竜が紡ぐ電脳魔術は完成を迎える。
 この姿を以ってしても耐えきれぬ、限界を超えた電脳剣の制御負荷により、自らはその結実を見届けられぬとしても――騎械竜は只"機構"となりてひと時の再開と別離を司る。

(数多の居住可能惑星滅ぼしたテクノロジーを、ただ人の涙拭う為だけに使うのです。滑稽な非効率の極みで、愉快な御話でしょう? 我が創造主)
 意識が白刃の光に染め上げられていく中で、トリテレイアは満足げに心の中で呟いた。
 現実すら書き換える電脳魔術の輝きが、絶望に囚われた少女たちに見せるものは――。


『……ここって。わたしのおうちだ』
 気がつくと少女は暗い病院の廃墟でなく晴れた青空の下、一軒の家の前に立っていた。
 着ているものも粗末な病院着ではなく、お気に入りだったかわいらしいワンピース。
 おそるおそる玄関の前に立って、震える指でチャイムを押すと、すぐにドアが開いて。
『おかえり』『よく頑張ったわ』
 出迎えたのは、愛おしくて懐かしい人たちの笑顔。ずっとずっと会いたかった家族。
 求めていた希望は、願っていた理想は、ここにあった。瞳から溢れ出すのは大粒の涙。
 優しく広げられた両親の腕の中に、少女はくしゃくしゃの笑顔で飛び込んでいき――。

『ただいま、おとうさん、おかあさん。ありがとう、そして……さようなら』

 ――それは、長い悲劇の果てに訪れた、一幕の御伽噺。
 現し世を離れられぬ怨嗟の残響に、終わりを告げるカーテンコール。
 それが過ぎ去った時、まるで全ては悪い夢だったように、廃病院の怪異は消えていた。

 銀の雨が降る時代から時を経て、現代に蘇ったゴーストの脅威。
 忘れられた悲劇と少女の絶望に猟兵は救いをもたらし、この世界の平和を守ったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月23日


挿絵イラスト