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怨念

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 オブリビオン。
 失われた過去の化身。世界を滅亡へと導く怪物。
 それらは“かつてその世界に存在した者の姿“を持つ。
 ならばこの世界――サムライエンパイアにおいて。
 骸の海から染み出した過去が受肉を果たすに、非業の死を遂げた女武者達や、志半ばで倒れた武士の棟梁ほど、お誂え向きの存在もあるまい。
 彼らは奪われ、滅ぼされた。
 だからこそ、奪い、滅ぼしに征く。

●怨嗟に立ち向かえ
「――そして、その怨念を断つ為に私達がいるわけです」
 グリモア猟兵の一人“テュティエティス・イルニスティア”は一同を見回して言った。
「サムライエンパイアの片隅に顕現した『怨霊女武者』達が、一国一城の主だったらしき『戦国武将』に率いられて、宿場町の襲撃に向かっています」
 オブリビオンである彼らに対抗できるのは、猟兵だけ。
「世界に選ばれた者の力を発揮し、軍勢を撃破して宿場町を守りましょう」
 そう呼び掛けて、テュティエティスはさらに説明を続ける。

 敵軍を構成しているのは、先述の通り怨霊女武者だ。
 薙刀や弓などで武装する彼女らは、宿場町に向かって街道をひたすら突き進んでいる。小細工なし、物量で押し寄せるこの軍勢を、猟兵達はまず迎え撃たなければならない。
 必然、戦場は件の街道となるだろう。町を背にしての戦いに不安を覚える者がいるかもしれないが、幸か不幸か、怨霊女武者達は『生者への凄まじい恨み』で動いている。猟兵達が立ちはだかる限り、宿場町に被害が及ぶようなことはないはずだ。
「女武者の軍勢を蹴散らしていけば、いずれ大将たる戦国武将の姿が見えるでしょう。敵陣を突破しての邂逅となるか、乱戦の中で遭遇するか、或いは痺れを切らした御大将自ら先陣に出てくるか……出会い方は分からないけれども、ね」
 そして戦国武将を討ち取れば、その時点で残っていた怨霊女武者は戦う力を失い、散り散りになっていく。もはや脅威でなくなった彼女らを追討するも見逃すもよいが、ともかく無事にオブリビオンを退けたなら、宿場町で茶の一杯でもごちそうになろう。
「では、用意はいいですね?」
 一通り語ったテュティエティスは一同に尋ね、自らもテレポートの準備へと移った。


天枷由良
 第六猟兵でもマスターを務めさせていただきます。天枷由良です。
 どうぞ、よろしくお願いします。

●目的
 オブリビオンの軍勢を撃退する。

 敵と戦い、倒す。まずはシンプルな任務です。
 現地に到着後、すぐに戦闘へと入ります。
 状況や大まかな流れは、テュティエティスからの説明をご確認ください。

 それでは、ご参加お待ちしております。
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第1章 集団戦 『怨霊女武者』

POW   :    局流薙刀術
【薙刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    局流早射ち
レベル分の1秒で【矢】を発射できる。
WIZ   :    落武者呼び
【鎧武者】の霊を召喚する。これは【槍】や【弓】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:游月

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

影守・吾聞
俺の故郷のオブリビオン(怪人)は
変な奴らばっかりだからつい忘れちゃうけど
きっとオブリビオンもみんなそれぞれ
想いを残して滅んでいった存在なんだよね

でも、今を生きてるのは俺たち
これからの時代も俺たちが作るんだ
奪わせないし、滅ぼさせないよ
お前らのことは覚えておくから…もう、眠って

【黒竜召喚】で友達のリムを召喚
リムの背中に乗って敵を迎え撃つよ

『騎乗』でリムを乗りこなし
『野生の勘』も駆使して敵の攻撃パターンを見切ったら反撃だ

俺達のターンだ!
リム、タックルで敵をぶっとばせ!
俺もルーンソードでリムの背中から攻撃
風の『属性攻撃』で怨念を祓ってみせるよ



街道の彼方から“怨み”が押し寄せてくる。
 それはキマイラ――人類の滅亡した世界で面白おかしく生きる種族にとって。
 つまりは影守・吾聞のような少年にとって、もっとも縁遠い光景だろう。
 だからこそ、つい忘れてしまいそうになる。
 そして迫り来る悍ましき群れの姿に、今また、思い出す。
 彼女らも過去となる前、何か大切な想いを抱いていたのだと。
 それを残して、滅んでいったのだと。

「でも、今を生きているのは俺たちなんだ」

 呟き、吾聞は刀身にルーンをあしらった魔法剣を握る。
 彼は亡者の悲運を嘆きに来たのではない。
 生者を、世界を、未来を守るために来たのだ。
 奪わせはしない。滅ぼさせはしない。

「だから――リム、力を貸して!」

 決意と共に吠え、喚び寄せた赤い瞳の黒竜の背に乗って吾聞は征く。
 騎乗にはちょっとした心得があるのだろう。狼がベースの少年キマイラと、彼に“魂の友”と呼ばれる黒竜は、怨霊女武者達との間合いをみるみる縮めていく。
 その力強き、生の躍動とも呼べる姿を、敵はさぞ恨めしく見たに違いない。一番槍を務める少年への殺意は、早射ちによる矢の雨という形で襲いかかってきた。

「――今だ!」

 獣耳がぴくりとした瞬間にリムを操り、ほぼ真横にぐっと跳ぶ。
 僅かに遅れて、頭があったところを矢が抜けていった。
 叫びの根拠は野生の勘。実はリムを乗り回すよりも少しばかり自信のある技能に助けられ――いや、自ら用いたのだからそれは駆使したというべきか。ともかく一射を躱した吾聞は、いよいよ敵に斬りかかろうと剣を握る手に力を込めた。
 だが、女武者達の怨みも生半可なものではない。
 次々と放たれる矢を全て避けるとまではいかず、約3mもの巨体を持つ黒竜の身体には幾ばくかの傷がつく。
 その度に、友と生命力を共有する吾聞の身体にも違和感が生じたが……互いに互いの力を高め合う、吾聞とリムの戦意を砕くまでには至らない。
 
「俺達のターンだ! リム、ぶっとばせ!」

 弓から薙刀に持ち替えようとした群れの一角に黒竜が突っ込む。
 女武者達は吹き飛ばされ、勢いのままに地面を転がる。そのうち一つを金の瞳で見据えて、吾聞も魔法剣を振るう。

「もう、眠って」

 言葉と剣風が入り混じり、亡者を塵へと変えた。
 その様を、そして彼女らの存在を忘れぬと胸に誓い、吾聞は怨念を払い飛ばすかの如く、さらに敵群へと攻めかかっていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

夏目・晴夜
怨念が日々を懸命に生き抜く生者に勝るなんて
そんな道理を通すわけにはいきませんよね

「妖剣解放」での高速移動を活かして素早く急所を切り裂いていき、
軍勢を一体でも多く、なおかつ素早く倒すように尽力します
もたもたしていたら唯でさえ短い寿命が無駄に縮まるだけですからね

敵が多い分ちょっとした攻撃でも積み重なると厄介なので
高速移動で極力回避しながら戦いたいところです
射られた敵の矢を妖剣で弾き飛ばせたら実にラッキー

まあ全力を尽くしますので、
町の皆さんはこのハレルヤを後で存分に褒めそやして下さいね



かくして、街道にて始まった猟兵と怨霊女武者軍団の戦い。
 その一端に、無表情のまま敵を切り裂いていく人狼の少年が居た。
 名を夏目・晴夜。まごうことなきイケメンにして――。

「このハレルヤが来たのですから、もはや勝利は疑いようもありません」

 呟きから察する通り、重度の自信家である。
 実は何か天啓じみた策を閃いているとか、そんなことはない。
 彼の自信の、その根拠は彼自身なのだ。
 ともすれば慢心とも呼べるのだろうが……ひとまず、今この場において。それが自信の範疇に収められているのは、晴夜が躊躇いなく全力を出しているからだろう。
 そのために“他者よりも遥かに重い一秒”を費やすのだとしても、手を緩める気はさらさらない。怨念が日々を懸命に生き抜く生者に勝るなどという、ふざけた道理を通すわけにはいかないと。晴夜はそう思って、この戦いに馳せ参じた。

「まあ、全力を尽くしますよ」

 意外と侠気なところは奥に秘めて。
 口から零れるものは、どこか軽く。
 それ故か一撃は疾く、そして鋭い。奇しくも敵を突き動かすものと同種の、妖刀の怨念によって“他者よりも遥かに長い一秒”を一時手に入れた晴夜は、灰色の嵐と化して戦場を駆け抜ける。
 その中で、輝かしい紫の瞳に魅入られたが最期。喉笛や心の臓を裂かれた怨霊女武者達は、新たな嘆きの言葉すら放てずに朽ちていく。

「もたもたしていたら、唯でさえ短い寿命が無駄に縮まるだけですからね」

 人狼の性すらも自信の中に丸め込んでみれば、運も晴夜に味方した。
 射られた矢が、敵を屠った名残で流れる刃とぶつかって地に落ちる。

「……ふふ、どうですか」

 単なる偶然なのだが。
 それすらも己の核に取り込んでしまう晴夜は、宿場町の人々に褒めそやされる未来へ向かって、ばったばったと女武者達を斬り伏せていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

サリア・カーティス
まあまあ……そのまま眠っていれば……「この子」に会わずに済んだでしょうに……蹴散らして差し上げましょうねえ……!(敵相手なので声が間延びしている

屍狼召喚で喚び出した「この子」と女武将達を蹴散らしますの。弓も槍も薙刀も、素早く距離を詰めてしまえば扱いづらいでしょう……?

この子には突進して体当たりするなり、踏み潰すなり、噛み付くなりして武将達を蹂躙してもらいましょう。あぁ、私の持っている鉄塊剣で首を落とす、ということもできるかしらあ……?



他方、サリア・カーティスを乗せた黒い狼のゾンビも戦場を蹂躙していく。

「まあまあ……」

 撥ね飛ばした敵を高みから見下ろす人狼の女は、一見穏やかな人のようにも映る。
 だが、それは大きな勘違いだ。辛うじて正気の縁に立っているサリアは、復讐すべき相手――オブリビオンを目にすれば、いとも容易く狂気への階を下りてしまう。
 なぜ“復讐”などという想いが湧くのか。
 その理由、記憶は、何とも朧気だというのに。

「眠っていれば……“この子”に会わず済んだでしょうに……」

 憐れむような囁きも束の間。
 死狼の足元で呻く女武者が一人、無残に踏み潰される。
 それによって微かに伝わる感触が、サリアをまた一段、深いところへと誘う。

「……さぁ、蹴散らして差し上げましょうねえ……!」

 間延びした口調に恐怖を散りばめて、再びの突撃。
 敵の射つ矢が死狼を、そしてサリア自身をも貫くが、女武者達に劣らぬ復讐心を宿す眼差しから輝きが消えることはない。
 それが絶えるとすれば――サリアの前から、討つべき者が消え去った時だろう。
 そして、その時はまだ先にある。

「これだけ近づいたら……それ、扱いづらいでしょお……?」

 死狼に跨ったままで問い、答えを聞くまでもなく鉄塊剣を振るう。
 斬るというよりか叩き飛ばされた女武者の頭が、地面で熟れた果実の如く爆ぜた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ツーユウ・ナン
しばしば”女は化けて出る”と云うが、
ややこを産み、育てるにはそのくらい情が深くなくては成らん。
げに世の理とは因果深いものじゃ。

さぁ、怨念の化生よ、わしが過去に還してやろう。

【POW】『ドラゴニアン・チェイン』
⇒薙刀の間合い外から練った氣(オーラ)を打ち込み、生じたオーラの鎖を操って接近・撹乱する。
掛け声:呀(ヤ)!哈(ハ)!哼(フン)!

薙刀は間合いが広い、足払いには気をつけよ。

(鎖を利して短打や掴み技が有効なインファイトに持ち込み、[グラップル]で相手の長い武器を逆手に取って崩し、重い突きや肘撃・靠撃で仕留める。)

わしの”手合い”で、その物干し竿をうまく振り回せるかのう?



大地の赤黒い染みを見やり、次に未だ押し寄せる怨霊の群れを眺め。
 ツーユウ・ナンは、一つ息を吐いた。

 しばしば”女は化けて出る”と云う。
 女性はそれほど始末に負えないものだと男の立場で茶化す言い回しの一部だが、さりとて、そのくらい強烈な情を抱けなければややこ――子供を産み、育む者として務まらないだろうと、ツーユウは怨霊の女武者と相対した今でも、そう思っている。

「げに世の理とは因果深いものじゃ」

 呟き、拳を構える。
 ただ哀れみ悼むなら、そこには数珠でも握られているべきなのだろう。
 だが、ツーユウは敬虔な祈りを捧げる僧などではない。
 無堅不催、勢不可擋。
 何者にも止められぬその拳は、万物を打ち破るべく振るわれるのだ。

「さぁ、怨念の化生よ。わしが過去に還してやろう」

 不敵に言い放ち、丹田より引き上げた気を腕から拳へと移す。
 狙い定めた敵が握る薙刀は、まだ間合いの外。
 であれば、ツーユウの拳撃も当然届くはずなどないと思われた――が。

「哈!」

 気合の一喝。
 瞬間、腰を落として突き出された掌からドラゴンオーラが迸り、怨霊女武者の胸元へと飛び込んで爆ぜた。
 手応え十分。
 オーラは敵と己を繋ぐ鎖と化し、ツーユウはそれを引く。想定外の距離から襲われた女武者も抗うが、不意を突かれての力比べなど勝てるはずもない。
 瞬く間に、二者の間は狭まっていき――。

「哼!」

 意を決した女武者が繰り出す薙刀の一撃を、ツーユウはさらに鎖を引きながらぐっと踏み込み、半ば体当たりじみた動きで躱す。
 微かに肩へと触れた長柄など痛くも痒くもない。
 その先に閃く刃でなければ、鍛え上げられた肉体の驚異にはならない。

「呀!」

 鎖を握る手と逆で薙刀を掴み、態勢を崩した敵の背に肘を落とす。
 巧みな重心移動によって生み出される破壊力が、鈍く重い音を響かせた。
 また一人、怨霊が屠られたのだ。
 しかしその証に聞き入るでもなく、ツーユウは大地を蹴る。

「――わしの”手合い”で、その物干し竿をうまく振り回せるかのう?」

 足元を浚いかけた新たな薙刀の主を見据えれば、勇ましく接近戦を挑む女ドラゴニアンの口元は否応なしに歪んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アギ・ブランウェン
怨霊であっても刃が通れば殺せます。
…処刑を開始します

初動は街道傍の物陰に潜み(隠れる場所が無ければ、姿勢を低くしておく)、敵を奇襲ないしは強襲します。
集団戦で数に劣るなら、まずは敵の軍勢を崩すべきです。

切り込んで乱戦に持ち込みましょう。街道に活用できる遮蔽物が少なくても、乱戦なら敵の身体が盾になるかもしれません。

ユーベルコードは咎力封じを使用します。敵の弓を持つ手を封じてしまいましょう。
傷口をえぐるの技能も活用して、1体あたりの敵を倒すのに時間を掛けすぎないようにします。

乱戦では傷を負うこともあるかもしれません。
生命力吸収や吸血の技能が戦闘に通用するものであれば、活用していきたいものですね。



街道のそこかしこに倒れ伏した女武者達が見える。
 戦況は間違いなく、猟兵の側へと傾いているはず。
 だというのに、大将たる戦国武将の姿は未だ捉えられない。
 数の上では、まだ敵に分があるからだ。

(「さらに切り込み、乱戦を維持すべきですね」)

 道端から敵軍へと襲いかかっていたアギ・ブランウェンは、臆せず前へと進む。
 その積極性が奏功したのだろう。長柄を主武装とする敵は懐に飛び込んでくるアギを退けられず、時に無理な攻め方をして同士討ちめいた状態に陥ることさえあった。
 怨霊と言えども、刃に触れれば傷つく。
 傷つくのならば、殺せる。

「……処刑を開始します」

 戦場という非日常であるべき情景の中に己が日常を見出したアギは、手近な女武者を先ず一人、軽く討ち果たす。
 そうして何者かに終わりを与えることなど、幾度も繰り返してきた。恨みを晴らして報酬を得る、私設処刑人にして復讐代行者――咎人殺しであるアギは、怨霊一つを仕留めたところで何を想うでもないだろう。
 なればこそ、その青い瞳は早くも次の処刑対象を見据えている。
 少し離れたところから、此方に向けて矢を番える女武者を――。

「……!」

 表情に乏しくとも、心が死んでいるわけではない。
 敵の射る速さを些か見誤ったと理解した瞬間。アギの肩口には怨嗟に満ちた鏃が深々と突き刺さり、全身を鋭い痛みが走り抜けた。
 それを堪え、反撃に手枷を始めとする幾つかの拘束具を敵へと放つ。だが、劣勢に置かれた女武者に渦巻く恨みつらみと、封じられる前に繰り出されてしまう早射ちは、アギの前に想像以上の障害となって立ちはだかった。
 これは力量や戦法でも中々に埋めがたい“相性の悪さ”というやつだろう。
 不運だが、戦場に立つ猟兵には、ままあることだ。

 ……それでも膝を折らずに済んだのは、敵の力を吸収して傷を補ったから。
 亡者より奪ったそれを“生命力”と呼ぶべきかは悩ましいところだが。ともかく、使えるものは活用していこうという姿勢が、アギを救ったことに違いはない。
 自らに手痛い一撃を与えた女武者を改めて拘束具で縛り、その最中でついた小さな傷口を抉ることでトドメを刺したアギは、さらなる処刑対象を探して戦場を見回す。
 両眼に映る怨霊女武者の数は、もう斃れたものの方が多くなっていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

バドル・ディウブ
怨霊に身を落としてまで主君に従うその姿、忠義と見るか哀れと見るか。
が、何れにせよ敵は敵だ。
その首、貰い受ける。

物量で削られれば苦戦は必至…【SPD】を活かし、更に残像で回避しつつ斬り込むとしよう。
毒やマヒ、気絶といった状態異常を、2回攻撃による連撃に乗せていきたいところだ。
ユーベルコード:空も併せて使用し、とにかく手数で対応したい。

可能であれば、注意が散漫な敵には暗殺を狙ってみよう。
一撃で討ち取るのは無理かもしれぬが、背後からの強襲でこちらが優位となる可能性もあるかもしれない。



同胞の屍を踏み越え、尚も向かって来るのは忠義故か。
 ――否。彼女達の一挙一動に、そんなものは欠片も感じられない。
 あるのは怨み。ただそれだけ。
 ならば一纏めに哀れむべきか。
 そうすべきだと言うなら、それでもいい。
 何れにせよ、あれが討つべき敵であることに変わりはないのだから。

「――参る」

 瞬間、バドル・ディウブの姿が二つに分かれた。
 それは付かず離れずの距離を保ち、合わせ鏡の如く女武者達の間で踊る。
 その度に短剣が亡者の肉を裂き、穿ち、過去へと還す。
 湾曲した刃には毒でも仕込まれているのだろう。一撃で沈まなくとも、斬撃を浴びた者は尽く歩みを止め、再び動くことを許されぬまま狩られていく。
 ならばと遠方から、反撃の早射ちが幾度か襲いかかったが、幻影のみならず残像すら駆使するバドルを捉えるのは容易いことでない。
 二の矢、三の矢も大地を抉り、四度目にしてついに穿ったかと思えば幻の方。
 真のバドルは背に回り込み、短剣で亡者の首を捌く。
 まさに暗殺と呼ぶべき手際のよさ。
 そこに他者を圧倒する手数を重ね、次々と敵を屠る寡黙な狼女は、怨霊達の攻勢に歯止めをかけた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『戦国武将』

POW   :    合戦具足
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【自分の城の一部もしくは武者鎧】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD   :    乱世斬
【日本刀による衝撃波を伴う斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    戦国兵団
【自分に従う兵士達】の霊を召喚する。これは【火縄銃】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:酉作

👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「――ふん、やはり女子など役に立たぬか」

 怨霊女武者の攻勢を撥ね退けた猟兵の耳に、不遜な言葉が届く。
 赤備えの鎧と太刀が二振り。戦が劣勢であるにも関わらず、堂々と街道の中心を歩んでくるその武士こそ、軍勢を率いる大将――名も知れぬ『戦国武将』だろう。
 彼奴を討ち取れば危機は去る。
 だが猟兵は、目で、耳で、肌で、驚異の程を察していた。
 あれは、先に倒した女武者達とは違う。
 言い草は気に食わないが、確かに、あれは戦乱の世に在った武士なのだ。
バドル・ディウブ
たとえ怨霊と成り果てようとも貴様の為に戦った者、それを愚弄するとは聞き捨てならぬな。
時と共に、その士道も腐り果てたか。
ならば問答無用、刃にて語るのみ。

あの物言い…確かに奴は強い。
だが、その慢心にこそ付け入る隙がある筈だ。
見境無く斬り込むのではなく、【SPD】と残像を活かして回避し、連撃に乗せた毒・麻痺・気絶・呪詛でゆっくりと侵してやろう。
UC:血河の乱れ飛ぶ刀剣で注意を逸らす事が出来れば、一気に距離を詰め深い一撃を叩き込みたいところだ。
私の得物には、鎧無視や鎧砕きといった特性もある…狙ってみるのも悪くない、か。
その他の持てるスキルも最大限駆使し、戦闘を有利に運びたいな。


社守・虚之香
役に立たないのは相手がボクら猟兵だからなんだけどなー?と思いつつ。思うだけ。

なかなか強力な攻撃をしてくる(きそう)だね?
でも、当たらなければどうってことはない!
【インテリジェンス・レギオン】を召喚し、50機で少しずつ距離を変えてドーム状に取り囲むよ。距離30mから50cmずつ離すことで、敵の間合いを計ろう。
内側の何機かは落とされるだろうけど、その間に敵の動きを『電脳ゴーグル』と『ハッキングツール』を連結して解析。戦闘ドローンからのデータを使ってね。
解析データから敵の動きに合わせて照準を随時変更しながら、残り全機で鎧の隙間目掛けて『高出力レーザー』をフルパワーで撃ちこむよ。
「やったか!?」


夏目・晴夜
堂々とした如何にも猛者という風貌で、実に羨ましい限りです
私、速さばかりで力の強さはイマイチなんですよねえ……
それを補って余りある魅力に満ち溢れていますので、
全く気にしていませんが

乱世斬に技能「カウンター」で【オペラツィオン・マカブル】
私の人形は完全に愛玩用なので戦場には出したくないのが本音ですが、
強敵と対峙しているさ中に一方的な我が儘を押し通す気はありません

人形やカウンターの他にも「フェイント」や「傷口をえぐる」「殺気」等
能ある鷹ゆえに使えそうな爪は全て隠さず駆使して、全身全霊で挑む所存

世に褒められる事を成し遂げる為ならば、寿命も力も惜しみなく尽くせる
それがこのハレルヤがハレルヤたる所以です


サリア・カーティス
【真の姿:下半身が複数の犬になっている。スキュラみたいな感じ】

あらあら……血が目立たなそうな鎧ですこと。

【鎧砕き】で鎧を破壊。敵の防御手段を無くして行きますわ。
それから引き続き屍狼召喚を使用していきます。大きな相手にはこちらも大きくならなくてはねえ。斬撃は……範囲外に逃れて避ければいいかしら?

戦国兵団も私のこの子で蹴散らしますわ。火縄銃……とかいう銃、いちいち装填しなくてはいけないようですしその隙をついて接近しますねえ。


ツーユウ・ナン
ほほぅ、大将自ら戦場で赤を纏うとは、わしの功夫を試すに相応しい猛者と見た。

甲冑に二刀と、あの構え…気を急いて迂闊に打ち込めば、相打ち覚悟の大振りを喰らいかねん。
機を見定めねば、手合いに入るのも危うかろう。

ならば虚実を交え、攻め時は味方と呼吸を合わせるのが肝要。

【対『合戦具足』】
巨体からの攻撃は長く、広く、力強い。
しかし反面死角も広がり、動きも大振りになる。

その攻撃を[見切り]、または"火箸"で白刃を[武器受け]した一瞬の隙に刀の間合の内側へ突進する。

そして、求めるは一撃必殺の境地。
爆発的な震脚から足、腰、肩、腕を通して倍加した勁が、拳に至って絶大な衝撃となろう。

⇒撃破後、合掌し立ち去る


黒瀬・ナナ
……戦場に男も女も関係ないわ。
怨霊であっても、先の彼女達は正しく武者だったと、思うから。
彼女達の誇りと魂を軽く見るような言い草は気に食わないのよ。
『女子など役に立たぬ』ですって?
じゃあ、今からその女子にこてんぱんに倒されるあなたは、もーっと役立たずってことよね!
おねえさん、手加減しないわよ!

【POW】
街道を歩いてくる戦国武将を真っ向から迎え撃つ!
万が一街の方に行かないように、『羅刹旋風』で大きく武器を振り回して注意を引き付けて。
間合いに入ったら特大の一撃を喰らわせてあげるわ!
的が大きいなら、当て易いでしょ?

周りに他の猟兵さん達がいたら、適宜連携を取って畳みかけるわね。


稲宮・桐葉
女子を役立たず呼ばわりとはの
そなたを産み落としたのは木の股かえ?
ならば滅ぶも道理じゃのぅ
一族の血を先の世に残せるのも女子あっての事じゃろうが

さてはて見得を切ったはよいが、一体でありながら怨霊女武者とは格が違うのぅ

されど女子を軽んじているならばそこを逆手にとって油断を誘い隙を突くのじゃ
効かぬであろう事を承知の上で誘惑を試みもし効いたなら良し、効かぬならば、なお女子を侮らせ隙を誘い素早くなぎ払いを叩きこむのじゃ

攻撃が通じぬなら無理はせぬ。素早く後退じゃ
前線から身を引き後方にて負傷した猟兵たちの支援を行うのじゃ
状況が許すならユーベルコードを全力で使用し味方の立て直しを行うのじゃ


七星・桜華
「遅くなっちまったね!…到着して早々に巫山戯た言葉を聞いたね!」

戦場に到着して早々に苛々させられる言葉を聞いたが頭はクールに心はホットにして行動を開始する。

多数の【残像】を発生させて(残像】に【殺気】を残しながら移動して敵に向かって【ダッシュ】で突撃する。【第六感】で危険を回避しながら『戦国武将』に接近して《破突刃・零式》でヒット&アウェイで攻めながら考える。鎧で硬く、また巨体であることを考えれば内側…鎧の内側は狙い目なのではないかと。

攻撃方針を固めて鎧の上から内側にダメージが入るように【力溜め】【2回攻撃】【残像】を多用しながら攻撃を始める。【第六感】で危険な状況を避けながら戦闘を続ける。


アギ・ブランウェン
先程の女武者との戦いでは、不覚を取りましたが。
「…少し、怒りました」
※でも無表情
少し怒ったので、血統覚醒でヴァンパイアに変身して戦います。
「貴方は、優しく殺したりなんてしませんから…」

巨大な敵が相手です。
正面から立ち向かうよりも、なるべく背後や側面を狙っていきましょう。
敵には刀が2本ありますし、それでも安心はできませんが。
残像や見切りの技能も活用して、素早く立ち回ります。

耐久力もありそうですね。鎧を着込んでいますし。
傷口をえぐる技能を活用して、少しでもダメージ効率を上げていきましょう。

私は処刑人です。
女ではありません。…関係ありません。
…たぶん、ただの人殺しの道具です。
残念ながら。
「…殺害」



「あらあら……」
 目にも鮮やかな赤備えは、血が目立たなそうで何とも面白くない。
 サリアはぎらつく瞳で敵を見つめたまま、間延びした声を漏らす。
 一方、ツーユウは顎を撫で擦って「ほほぅ」と唸り。
「大将自ら赤を纏うとは、わしの功夫を試すに相応しい猛者と見た」
 そう言って、ぐっと拳に力を込める。
 確かに、あれが厳しく立派な風貌であることに間違いはない。
「実に羨ましい限りです。……まあ、このハレルヤには非力を補って余りある速さと絶大な魅力が満ち溢れていますので、全く気にしていませんが」
 敵と、さらには己の傍らに立つ龍女の屈強な肉体にも視線を向けて、晴夜が自嘲に見せかけた自信を示す。
 それを聞きながら、決戦に馳せ参じた七星・桜華は一歩前に出て。
「ちょいとばかし遅れて来てみれば……なんだい、随分と巫山戯た台詞が聞こえたね!」
 刀に手をかけながら、声を荒らげた。
 滾る心より溢れたものをそうして吐き出し、苛立ちに頭を侵されぬよう心がけたのは実に賢明な判断だったろう。桜華に――居合わせた全員にとって聞くに堪えない戯言は、まだ尽きていなかったのだから。
「真を述べたまでよ。現に露払いすら為せず、無様に屍を晒しておるではないか」
(「そりゃあ、相手がボクら猟兵なんだからしょうがないんじゃないかなー?」)
 思いこそすれど口は閉ざしたまま、じっと敵の様子を伺う社守・虚之香。
 それに気づいているのかいないのか。大将はカカカと不愉快な笑い声を響かせながら、道端に転がる“女武者であったもの”を太刀で指し示す。
 その仕草に、労いや弔いの情は一片たりとも込められていない。
「有象無象も使いようかと思うたが。カカ、女子の始末の悪さを侮っておったわ」
「役立たずだの始末が悪いだのと、よくもまあ。そなたを産み落としたのは木の股かえ?」
 堪らず口を開いたのは稲宮・桐葉だ。
 尊大な相手に気迫で負けてはならぬと感じたのか。はたまた同じ女子として思うところがあったのか。
 或いは、そのどちらもであるのか。ともかく、彼女は若き身形の妖狐でありながら、武士と相対して怖気づくこともなく見栄を切る。
「ならば滅ぶも道理じゃのぅ。一族の血を先の世に残せるのも女子あっての事じゃろうが」
「なればこそ、長柄や弓など持たずにおればよかったのだ。斯様な姿で現れたが故、手勢として率いてはみたが……そうさな、いっそ其許の申す通り、我が血族を増やす苗床にでもした方がマシだったかのう?」
「っ、最っ低ね!」
 黒瀬・ナナが息巻く。
「……少し、怒りました」
 表情に乏しいアギもまた、先に喫した苦杯の分まで込めて呟き、瞳を青から真紅へと変える。
 大将の妄言を真に受けて憤る必要などないのかもしれない。頻りに侮蔑されている女武者達はオブリビオン。猟兵として討ち滅ぼすべき相手、世界にとっての敵だ。
 しかし。
「彼女達は、あなたなんかよりよっぽど誇らしい武者だったわよ!」
 ナナがさらに怒る。骸の海より受肉した怨念といえど、それが過去ならざる時に抱いていた想いさえも汚すような言い草は、到底受け入れられるものでない。
 だが虚しいかな。何を語ろうと態度に示そうと、所詮は異形である大将の、その心を打ち震わせることなど出来やしない。
「カカカ。其許のような女子が武者の誇りを語るとは。片腹痛いわ」
「馬鹿にして! あなたはね、今からその女子に“こてんぱん”に倒されて、自分がもーっと役立たずだったってことを思い知らされるのよ!」
「抜かしおる。儂を其処な屍程度と見くびるでないぞ?」
「……怨霊に成り果てようと、今一時、貴様を将と仰いで戦った者達だろう。それを徒に愚弄し続けるとは――」
 ついには寡黙なバドルまでもが口を挟んで。
「聞き捨てならぬな。時と共に、士道までも腐り果てたか」
 御大将自らの誇りを問うも、返るのは嘲笑ばかり。
 ならば。
 これ以上の言葉は、不要だ。

 バドルが両の手で刃を握ると同時に、五十機もの小型戦闘用ドローンが空へ飛び上がった。
 操り主は虚之香。大将を中心として30mの距離から、ドーム状に展開したそれは50cm毎の等間隔に配置され、高出力レーザーによる攻撃を始める。
 ずば抜けて強力な兵器ではないが、全方位からの射撃ならば避けようがないはず。数多の光線が赤備えの姿を覆い隠した時、虚之香は思わず「やったか!?」と口にした。
 だが。
「来たれぃ! 我が同胞よ!」
 眩い輝きの中から聞こえた叫びが、この戦場に在るはずのない鬨の声を呼び寄せる。
 かつて大将が一国一城の主であった頃の配下。軍団と呼ぶべき数の兵士達が忽然と戦場に現れ、まるで石垣の如く連なって光線を阻んだのだ。
「矢弾尽き果てるまで、存分に馳走してやれぇい!」
 太刀を軍配代わりに号令下せば、地鳴りのような雄叫びと共に矢が射ち上がった。
 整然とした配列が裏目に出たか、一撃すら耐えられぬドローンは次々と穿たれて地に墜ちていく。それが大地で爆ぜる頃、軍団からは鉄砲隊が進み出て、一斉に鉛玉を弾く。
 当たらなければどうということはない。そんな考えを抱く間もなく襲った銃撃に、支援電脳ゴーグルとハッキングツールによる解析準備の最中にあった虚之香の身体は否応なく引き裂かれていった。
(「なるほど。確かに女武者とは格が違うのぅ」)
 侮っていたわけではないが、しかし認めざるを得ない。
 桐葉は流れ弾をひらりと避けながら内心呟き、策に満たぬ企てとは思いながらも大将の誘惑を試みる。
 面の奥に秘された眼を見つめ、色白の肌を少し晒しながら品を作り。
 狐耳と柔らかそうな尻尾をこれ見よがしに動かして、その反応を待った。
「……カカ、カカカカッ!!」
 あまりの大笑いに鎧までもが音を鳴らす。徹底して女子を見下す大将には、妖狐の誘いも効かぬらしい。
 だからといって狼狽えたりはしない。予想の範疇だ。それほど此方を軽視するならば、むしろそのまま油断させておけばよい。
 そうして生まれた隙を突き、素早く一太刀を叩き込む――と、二段構えで居た桐葉だったが、大将首にまで踏み込む機会は中々見出だせない。
 無理をすれば蜂の巣か、それとも微塵切りか。何れにしても碌なことにはならぬだろう。
 ならば一度退く。退いても為すべき役目はある。桐葉は敵から十分な距離を取ると、はだけていた狐の羽衣を整え、静かに片腕を伸ばした。
「――なにとぞ我らに幸をもたらし賜え」
 生命の息吹言祝ぐ舞いを八百万へと捧げ、呼び起こした桜吹雪に満ちる神気で呻く虚之香を包む。
「色仕掛けの次は妖かしの術か。カカッ」
 彼方からは相も変わらぬ嘲笑が届くが、聞き流す。そんなことには構っていられない程度の急激な疲労を代償とすれば、虚之香の声から苦しげなところが失せていく。
 大将もそれを感じたか、新たな軍令を下した。
 弓兵と鉄砲隊が動き、再射撃の用意へと移る――が、その刹那。
「火縄銃……とか言いましたよねぇ?」
 一発毎に随分悠長な作業を要する武器だこと。
 そうせせら笑うサリアが、屍狼に跨り敵群へと飛び込んだ。
 まだ弾込めの途中であった鉄砲隊が次々に撥ねられて、急ぎ矢を番えた弓兵も牙と爪の前に散っていく。真の姿を解放して腰より下を数多の犬に変え、敵よりも異形と呼ぶに相応しい様相で狼の巨躯と一体になった彼女は、勢いのまま軍団を喰い破り、ついには大将の御首さえも噛み千切らんと迫った。
 だが。
「カカッ、犬畜生も存外やりおる!」
「――っ!」
 竦むどころか却って猛り、大将は刃を指揮でなく滅ぼす為に振るおうと構える。
 反転、サリアと屍狼は急ぎ間合いから離れようと駆けた。しかし敵は追ってくるどころか、その場に留まったままで毘沙門天の如く二刀を広げ――、
「ハアッ!!」
 一喝すると、四方八方へと振り回す。
 その度に剣閃が衝撃波となり、触れたもの全てを斬り刻んでいく。
 そこには敵味方の区別さえない。同胞と呼んだはずの兵すらも巻き込む斬撃は、逃れていくサリアの屍狼にまで届き、広く深い傷を幾つも作った。
「っ……よくもやってくれたわねぇ……!」
 辛うじて横転を踏み留まり、苦痛に耐えながら唸るサリア。
 だが、やり返してやろうにも飛びかかる隙間がない。猛り狂う大将からは、何時止むとも分からない斬撃が放たれ続けている。
「ちっ……」
 桜華も不服を露わにしながら、踏み出しかけた足を下げる。
 これでは殺気を孕んだ残像を放ったとて諸共になろう。
 或いは第六感に己を委ね、一か八かを仕掛けてもよいのだろうが。
「迂闊に……踏み込むでないぞ」
 癒やしの舞いをサリアにも捧げ始めたせいか、息を切らしながら呼びかける桐葉の声が、今暫く突撃を堪えさせた。

「クカカカカッ! どうした! 儂を討つと吼えたからには打ち込んでみせぃ!」
「言ったわね! 泣いたって喚いたって、手加減しないわよ!」
 大将の煽りに乗る形で、ナナは衝撃波を躱しながら薙刀を振り回す。
 それは単なる威嚇や挑発でなく、費やした時間に応じて力を高める羅刹旋風と言う技であるのだが――。
(「急いて打ち込めば思う壺、じゃな」)
 ツーユウが考える通り。幾ら強化術の類を用いたところで、迂闊に攻め掛かれば斬り伏せられるのは必至。
 よくて相打ち――いや、そんな希望的観測などすべきではないだろう。ツーユウだけでなく、ナナも、他の猟兵達もそれを分かっているから、未だ前には踏み出さない。
 ……ただ一人を除いて。
「ふふ。やはり私が、皆さんを勝利へと導かねばならないようですね」
 溢れて止まない自信で僅かに口元を歪めながら、晴夜は花道でも歩くような足取りで大将との距離を縮めていく。
「カカッ! 気でも触れたかッ!」
「このハレルヤに何という台詞を。……ああ、それとも貴方なりの褒め言葉でしょうか? でしたら受け取ってあげないこともありませんよ。酷いセンスだとは思いますが、私の心は海よりも深く山よりも高いので」
 一投げれば十返る。如何に大将が強者と自負していても、張り合う相手が悪すぎる。
 夏目・晴夜とは、自信という言葉に美男子の皮を被せた存在なのだ。
 これが女子であれば大将も意地になるところだろうが、恐らく、ただ一度の応酬でその無意味さを感じ取ったに違いない。一転、猛りを腹の奥まで押し込めて、とびきりの一太刀を放つ。
 大上段から振り下ろされた剣閃は半月にも似た煌めきを生み、大地すらも削りながら迫った。
 避けねば二つに分かたれる。誰の目にも明らかな状況に、ある猟兵は声を上げ、ある猟兵は少年の歩みを暴挙とさえ断じかける。
 しかし当の本人はといえば、戦場である街道のど真ん中に突っ立ったまま。挙句の果てには武器を構えるでもなく、だらりと両腕を下げて脱力しきっていた。
 終わった。
(「立て続けに三人はしんどいのじゃが……」)
 そう言ってもいられまい。虚之香とサリアの傷を埋めるべく舞い続けていた桐葉は、次の演舞を少年の為に奉じようと決めて背筋を伸ばす。
 それと同時に剣閃は晴夜の元に届き――。
「……ふふっ」
 堪えきれずに微かな笑声が溢れた瞬間。
 晴夜の鼻先にまで迫った斬撃は、霧のように散り失せた。
「何ッ……?」
 さしもの大将も動揺を滲ませ、乱舞を止める。
 立ち尽くすばかりの少年は無防備で、避けるにも受けるにも遅すぎたはず。
 ならば、一体何故。
 同じ猟兵にまで走る疑問に答えを示すべく、晴夜は凡そ荒事と無縁に見える両手を握り込む。
「本音を語れば、これを戦場には出したくないのですが」
 途端、彼の傍らに姿を現したのは一匹の白柴。晴夜の愛玩人形であるそれは小刀を咥え、蒼炎とも水流ともつかぬものを迸らせて主にじゃれつくような元気さで跳ねると――消え失せたはずの半月を、そっくりそのまま赤備えに向かって返した。
 動揺が衝撃に、さらに苦悶へと変わる。
(「――此処か」)
 剣閃が途絶えた今こそ好機。
 己の全てを静から動へと移して、バドルは地を蹴った。
 逆襲の衝撃波より立ち直った大将もすぐに乱斬りを繰り出す。だが、暗殺を生業とする者に瞬くほどでも猶予を与えてしまったのは、明らかな失態。
「戦に生きた者らしく葬(おく)ってやろう……!」
 バドルはひた走りながら片手の小剣を投げる。
 それが赤備えの真上に達した瞬間――二振りの小太刀と、長剣、湾曲した両刃の剣、そして大将の頭上にあるものを含めた四本の小剣全ての複製が“十七本ずつ”現れ、討つべき敵を半球状に覆う。
「この刃を、手向けとしてな」
 量は勿論のこと。質も不足あるまい。
 なにせ最も多い小剣“ガナーザ”は、その名の通り葬礼の刃。
「舐め腐りおってッ!」
 念で操られ、雨の如く降る模倣品に大将は太刀を振り続ける。
 乱世で鍛えられた斬撃、それに伴う裂波は百を超える刀剣を尽く撥ね退けた――が、全力を費やした彼の抵抗は、無意味とまでは呼ばずとも酷く愚かしい行い。
 何故ならば。
 暗殺者の真なる殺意は、自らが握るただ一本に込められているのだから。
「――む、うッ……!?」
 強固な甲冑を貫き、ともすればその存在自体を無視して。
 左胸に深々と突き立てられた小剣は、心の臓に毒を送り込む。
 そしてバドルは、手応えに酔いしれるような愚鈍の輩でもない。一撃必殺。使命を果たし終えたなら、疾く離れるまでが暗殺という行為。
 赤備えを蹴り飛ばし、一息で駆けてきた道を帰る。
 まだ戦の構えでいる猟兵達の元へと戻った頃には、剛健たる大将が音を立てて倒れ込んでいた。

 ――しかし。
「カカッ、カカカカッ!」
 大の字で横たわったまま、それは笑い声を上げる。
「おや、気でも触れましたか?」
「戯言を。狂っておらねば戦乱の世など生きれんわ」
 晴夜の嘲りも軽くいなされる。
 仕留め損ねた。否、端から一撃で仕留められる相手ではなかったか。
 バドルは追い討ちをかけようと再び刃を構える。だが、彼女が踏み出すよりも早く。太刀を大地に突き刺しながら立ち上がった戦国武将は、自らが纏う鎧の真価を猟兵達へと見せつける。
 即ち、合体と変形による肉体の倍加。
 背はサリアの屍狼よりも巨大な十二尺ほどに。腕と下肢は巨木の如き太さに膨れ、太刀までもが常人の身の丈よりも長く伸びていく。
「これぞ、我が合戦具足よ!」
「成程のう」
 ツーユウが腕を組んだままで唸る。
 単純な大きさ故の広い間合い。巨躯を活かして繰り出すだろう力強い斬撃。
 受けるまでもなく想像するのは容易い。喰らえばひとたまりもないだろう。
 ……喰らえば、だ。
「斯様な大太刀で、果たしてわしを捉えられるかな?」
「抜かせ!」
 ならば示してみせよう。
 猛然と攻めかかる大将は、仁王立ちする女拳士へと刃を振り下ろす。
 対するツーユウは。
「……やれ、些か正直過ぎるな」
 半身の構えで僅かに一歩。横へと逸れて剣戟を躱す。
「小癪な!」
 断てぬなら薙ぐ。
 もう一太刀が真横から迫れば、今度は玉鋼の箸が、まるで蝿でも捕らえるかのように斬撃を掴み取って防ぐ。
「膨れ上がって鈍らとなったのは刃か、それとも太刀筋か?」
「ええい!」
 さらにもう一振り。落ちたままの初太刀で斬り上げる。
 しかし、刃と龍女が重なった直後。
 返るはずの手応えすらないどころか、その姿は消え失せた。
 兜が右に左に揺れて行方を探し求める。
 だがついぞ見つからず。その所在を知ったのは、全身を凄まじい衝撃に揺るがされる時。
 地面を力強く踏みつける武術の基本動作――震脚によって生じた力を、腰、肩、腕を通して拳にまで導き、勁として打つ。
 腕が届くほどの距離からでなければ繰り出せぬ技であるが、巨大化によって動きから鋭さを失い、死角を広げた今であれば肉薄するのも訳は無い。
「――哈!」
 三連の剣戟を捌いて懐に潜り込んだツーユウは、己が今出せる全てをその一瞬に叩き込んだ。
 巨体が軽々と吹き飛ばされ、もんどり打って転がる。
「ぐぬぅ……まだまだ!」
 太刀も闘志も折れてはいない。
 戦を続けるべく大将は顔を上げた。
 そして、正しく獲物を狩る勢いで攻め寄せてくる猟兵に、息を呑んだ。

 サリアの屍狼が駆け抜ける最中、赤備えの一部を皮のように剥ぎ取っていく。
 その下も頑健な肉体であるが、強固な甲冑よりは遥かに柔い。
 バドルが、そしてハレルヤが入れ違いに刃で傷を抉って過ぎる。
 それを追おうとした矢先、今度はヴァンパイアとなったアギが背後から襲いかかる。
「優しく殺したりなんてしませんから……」
 囁きの通り、アギもまた突き立てた拷問具で執拗に傷を抉った。
「ぐ、が……女子如きが……ッ!」
「……私は処刑人です。女ではありません。……たぶん、ただの人殺しの道具です」
 だから。
「……関係、ありません」
 淡々と。アギは言葉だけでなく、操る器具さえも淡々と肉の内側に沈めていく。
 大将の呻きが、悲鳴とも呼べるほどにまで悲惨なものに変わった。
 巨躯も頻りに揺り動かされ、その余波を浴びる前にアギは見切りをつけて間合いを取る。
 だが、攻勢は終わらない。
「なかなか痛かったけど……やられなければどうということはないよ!」
 傷の癒えた虚之香が、僅かに残っていたドローンからレーザーを撃ち放つ。
 最大出力だ。それでも最初のように、巨体を埋め尽くすには足りないだろうが――その必要もない。
 虚之香とて、ただ治癒されるのを待っていただけではないのだ。慢心した敵が此方の存在すら忘却していた頃、準備の途中で終わった解析作業を改めて始め、まるでハッキングでもするかのように盗み取っておいた情報。それを元に最適な箇所だけを狙えば、今得られる最大の結果が返ってくる。
 ……暴れ狂っていた大将が、ぴたりと動きを止めた。
 いや、動けなくなったのだ。四肢の筋でも貫かれたのか、大将は太刀こそ取り落とさないまでも、呻くばかりとなってしまった。
 案山子か木人か。ともあれ動けぬ巨人など、それらと同じようなもの。
「散れ! 星屑のように!」
 肌が触れるほどにまで近づき、桜華が目にも留まらぬ早さと地すら割る威力を両立させた剣技を繰り出す。
 その技量を持ってすれば、欠けた鎧など無に等しい。溜めた力は一度振る毎に二度打ち込まれて、臓腑さえも潰された大将は地を舐める。
「おの、れ……!」
 唯一動かせると言っていい首だけが動き、恨みつらみが漏れ出た。
 が、そうすべきではなかっただろう。顔を上げずにさえいれば、大将は己を終わらせに来る者を見ずに済んだのだから。
「たっぷり溜めに溜めた一撃、喰らわせてあげるわ!」
 敵の兜目掛けて飛び上がったナナが、振り回していた薙刀を大上段に掲げて打ち下ろす。
 赤備えが割れ、肉が裂け、ただの一振りで巨躯は形を失った。
 それから軽やかな身のこなしで降り立ったナナの、そして猟兵達の前で、大将は再び過去の存在となっていく。
 やがて全てが消え失せると、ツーユウが静かに両掌を合わせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『甘味』

POW   :    めいっぱいのみたらし団子を買い込んで食べ続ける

SPD   :    その飲食速度は、目にも留まらなかったという

WIZ   :    そして、後で食い過ぎの腹痛を直しつつ悶絶する。やりすぎた、と

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


かくして驚異は去った。
 使命を果たした猟兵達には、また次の戦いが待っている。

 ――だが、その前に。
 守り通した宿場町へと顔を出しておくのはどうだろう。
 茶の一杯でもごちそうになれとは、皆を此処に誘った彼女も言っていた。
 町の方から漂う香りも、戦で疲れた身体を呼んでいる、ような気がする。
黒瀬・ナナ
【POW】
このまま真っ直ぐ帰るのも良いけど……町の方から漂ってくる香りに呼ばれて、ちょっと寄り道しまーす ♪

んふふ、一仕事終えて、自分達が守りきった平和な町と皆の笑顔を見ながら、美味しいお団子を頂くなんて最高!
しかも、このみたらし団子、ものすごく美味しいからいくらでも食べられちゃいそう。すみませーん、おかわりくださーい!

他にも美味しそうなものを見つけたら、のんびりたっぷり食べ歩き。
こんな穏やかな時間が、少しでも長く続きますように。


……ぁ、お土産にも買って帰ろうかしら。
美味しい幸せは、お友達にもお裾分けしたいもの。



「――お姉さんが妖怪退治したってのかい?」
「そうよー。まあ、私一人だけじゃないけどね」
「はあー。こげなめんこい娘っ子がねぇ」
「ちょっとやだもう、煽てたって何も出ないわよ。それにね、お婆ちゃんから見たら娘っ子かもしれないけれど、わたしはもう十分に“おねえさん”なのよ? ――あ、お兄さん! お団子もう一皿いただけるかしら!」

 粋に陽気に和気藹々。
 茶屋の縁台に腰掛けるナナは、街道に押し寄せた異形を尽く退けた者がいると知って来た人々に愛想よく応えながら、合間に大皿で出されたみたらし団子をもぐもぐと頬張っていた。

「んふふ、一仕事終えてから頂くお団子って美味しいー♪ もう最高♪」

 甘味そのものの出来は勿論の事。
 守り通した町の平穏な様子と、行き交う人々の笑顔がとびきりの隠し味。

「それにしてもこのお団子、程よい食感に醤油だれがとろーんと絡んで……ものすごく美味しいから、いくらでも食べられちゃいそう。すみませーん、おかわりくださーい!」
「へ、へーい!」

 本当に? まだ食べるの?
 茶屋の主人が目を丸くしているのを知ってか知らずか、ナナは団子の山を何ともあっけなく崩していく。後に残るのは、束ねられるほどの串ばかりだ。
 しかし、そんな光景を見て大笑いする馴染みの客だとか、或いは大食らいの存在にすら気づかないまま通り過ぎていったりする人々が、いつまた滅びの危機に晒されるかも分からない。世界は、絶えず過去からの侵略者に脅かされているのだ。
 だから――。

(「こんな穏やかな時間が、少しでも長く続きますように」)

 最後の一串を平らげてから、ナナは巫女らしく祈りを一つ捧げた。

「……さて、ごちそうさまでした! お代はここでいいかしら?」

 それから、次は何を食べようか。
 るんるん上機嫌のお姉さんは、たらふく食べた団子のたれとおんなじくらい、とろーりまったり、のんびりと宿場町を歩き始め――。

「……ぁ、お土産にも買って帰ろうかしら」

 曰く。美味しい幸せは、お友達にもお裾分けしたいもの。
 サムライエンパイアの、とある宿場町で感じた想いを分かち合うべく、踵を返したナナは、またたんまりとお団子を買い込むのであった。
 それに茶屋の主人が仰天していたのは、言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七星・桜華
「中々に苦しく不快で…愉快な戦場だったな。まだ私は上を目指せると感じた戦場だった。」

宿場町を先程までの戦闘を頭の中で思い出しながら歩いているとフワッと茶の良い香りが鼻に届き足を止める。

「茶屋で団子も風情があるね。」

茶屋に入り団子と茶を注文して周りを見渡す。

ここは平和になった…なら次の戦場を探さなきゃいけないねぇ。

待っていると注文した団子と茶を持ってくる店員だが…

「注文した量より多いけど、いいのかい?…そうかい、ならいただくよ。」



(「中々に苦しく不快で……愉快な戦場だったな。まだ私は上を目指せると感じた戦場だった」)

 まだ記憶と呼ぶには鮮烈すぎる戦いを思い出しながら、歩く桜華の鼻にもふわりと芳しい香りが届く。
 目を向ければ……長旅でもしているのだろうか。大きな荷物を置き、腰を落ち着けて一服する人が映る。
 一休みなんて光景はどの世界でも見られるだろう。
 だが、鄙びた店先に立つ傘の下で、縁台に座りながら茶を一杯などという姿は。
 如何にも、サムライエンパイアらしいものではないだろうか。

「茶屋で団子も風情があるね」

 桜華は店に入ると、先人に倣って茶と団子を頼んだ。
 暫し待つ間には、通りを見やる。
 平和だ。実に平和。首元に刃を押し当てられるような、滅びの危機に直面している者など一人として居やしない。
 喜ぶべきことだ――が、しかし。己が高みを目指せる戦場、猟兵として挑むべき戦場、今まさに朽ち滅ぼうかという戦場が、数多の世界に在るはず。

「……次を探さなきゃいけないねぇ」

 グリモア猟兵もまた、滅びの予知に抗う為の猛者を求めているだろう。
 茶と団子を味わったなら、すぐに出立だ。
 桜華は早くも意思を固める。
 と、そこへ丁度、注文の品も運ばれてきたのだが――。

「……ちょいと兄さん、注文した量より多いけど、いいのかい?」
「へ、へえ。なんだか薙刀担いだお嬢さんが小山ぐらいの団子を召し上がってったのを見てから、うちの旦那が『どんどん振る舞え!』って言って聞かねえんですよ。なんで、腹に収められる分なら幾らでも……」
「……そうかい、ならいただくよ」

 出されたものを突き返すのも気が引ける。
 しかし、出立の予定は大分繰り下げとなりそうだ。
 桜華はまず一串目に手を伸ばしながら、思わず笑ってしまうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バドル・ディウブ
往生際の悪い男だったが、あそこまで生き意地汚ければ乱世を生き残る事は出来なかった…のかもしれないな。
何にせよ、戦いは終わった。
暫し、休息を取るとしようか。

こういう稼業をやっていると、悠長に食事をする暇も無かったのでな…飲食も戦も【SPD】が肝心、という事で大目に見て欲しい。
猟犬という存在がいなければ、この町も人々も、存在する事は出来なかった。
そう考えると、やはりこの道に進んで良かったと思えるな。
今回無事に任を果たせたのも、仲間あっての事。
またどこかの世界で巡り合った時も、今回の様に肩を並べて戦いたいものだ。



あれは往生際の悪い男であった。
 今際の際、もはや四肢すらも動かせぬとなって尚、鬼神の如き面の奥からは闘志で包んだ生者への怨念が溢れ出ていた。
 ともすれば、首だけで喰らいついてきそうなほどに。あのくらい意地汚くも生き残ろうする気概がなければ、かつての乱世で一国一城の主を務めることなど出来なかったのかもしれない。

(「……何にせよ、戦いは終わった」)

 そう、終わったことだ。武者は既に過去へと還った。
 たとえどれほど推し量っても真を知るには至らないだろう。
 ならば今一時は心を鎮め、英気を養う時。
 丁度よいところに茶屋などもある。
 バドルは縁台に腰掛けると、悩む素振りなど一切なしに茶と団子を頼んだ。

 それが出てくるまでの僅かな間には、やはり周囲の様子が目に入る。
 猟兵という存在がいなければ、今頃は町も、行き交う人々も、全てが消え失せていただろう。
 そう考えれば、この道を進んで良かったと思える。
 己の血に塗れた両手でも、守れるものは確かにあるのだ。

 とはいえ、驕り高ぶってはならない。
 慢心は死を招く。今しがた目にしてきたばかりの事実を忘れれば、次に刺し貫かれるは此方となる。
 使命を果たせたのは猟兵仲間あっての事と心に刻もう。頼もしき彼らとまた何処かの世界で巡り合ったならば、その時は今日のように、肩を並べて戦いたいものだ。
 バドルは内省を、そう纏めて――。

「お待たせしましたー」

 茶屋の娘が来た瞬間、目にも留まらぬ早さで全てを腹の中へと収めた。

「……あ、あら? 確かに持ってきたはずなんですけど……」

 空の皿と茶碗しかない盆を抱えたまま、娘が目を瞬かせている。
 無理もない。持ってきたと思ったら消えていた。何を言っているのか分からないと思うが、分からないからぽかんとしているのだ。
 団子すらも一撃必殺。一口確殺。
 バドルの前には、みたらし餡の一滴すら残っていない。
 これぞ暗殺者。いいや餡殺者。

「あ、ああ、いや……茶も団子も頂いた。美味かった」

 少々バツが悪そうに、バドルは事実を告げる。
 何分、稼業が稼業だ。悠長に舌鼓でも打って好機を逃したら目も当てられない。
 いや、それで済めばまだいい。ともすれば命を失う可能性だってあろう。
 飯時は、隙なのだ。そして隙は限りなく小さくしなければ生き残れない。
 この染み付いた習性というものばかりは、如何ともし難い。

「食い急いでしまったのは、その、大目に見てくれ。そういう性分でな」
「は、はぁ……そうですか」

 お代を置いて去るバドルを、娘はずっと不思議そうに見つめているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アギ・ブランウェン
お茶をいただきます。
「…あったかいもの、どうも」
※ずっと無表情で戦ってきたが、少しホッとしたような柔らかい表情を見せる。本当に少しだけ。

お団子はみなさんが美味しそうに食べているのを見たので…いえ、そうするまでもなく。
あの丸っとした可愛らしさから、一目で無害なものだと判ります。
まずは一つ。
「…!」
甘い…と独り言のように呟いて。
あとは夢中になってPOW的に食べました。
表情はそう、真剣。
お店の方にお礼も言わなくては。
「美味しい…です。これ」
少しだけ、でも自然な笑顔で。

処刑を成功させた時も、褒められてお礼をもらったりすることはありましたが。
それとは全然違う、嬉しい気持ち。
こういうのが幸せなのかな…?



「はーい、お茶ですよ。あったかいうちにどうぞー」

 ことん。
 小さな音立てて置かれた茶碗からは、緩やかな湯気が立ちのぼる。

「……あったかいもの、どうも」

 答えたアギの顔にも微かに。
 本当に僅かな、安堵が滲む。
 それを運良く見てしまったからこそなのか、それとも普段からの愛想良しなのか。お盆を抱えた茶屋の看板娘は「お団子もすぐ持ってきますからねー」と、にこやかに声掛ける。

 お団子。
 つい頼んでしまった、お団子。
 茶屋で寛ぐ皆々が揃いも揃って、あまりにも美味しそうに頬張っているものだから……なんて、他人のせいにするまでもないか。
 とろりとかかった蜜の下。あの丸っとした白いもの。
 可愛らしい。数多の死を見た両眼でさえも和ませる、あれを無害と呼ばずして何と呼ぼう。

「はい、お団子おまちどうさま」

 そうだお団子だ。
 みたらし無害、などでは誰も手にしてくれないだろう。
 団子、お団子、みたらし団子。
 名前すらも可愛らしいとは、この卑怯ものめ。
 処刑、いや成敗してくれる。まずは、一つ。

「……!」

 甘い。
 舌に触れた瞬間、優しく絡みついてくる醤油だれ。
 口内を緩やかに弾み、噛めばつるんともちっと心地よい歯ざわりをくれる団子。
 どちらも。

「……甘い……」

 思わず独り言のように呟いて、それが確かに現と悟った時。
 アギの中に、何かが目覚めた。
 食べて、食べて、食べて食べて食べて食べて食べ食べ食べ――。

「そんなに美味しい? それともお腹、減ってたのかな?」

 ふと我に返れば、目の前には何度も皿を運んできただろう看板娘。
 にこにこと眩しい笑顔で見つめられると、何だか居たたまれない。
 でも、せっかくあったかいもの、美味しいものを頂いているのだ。
 お礼くらいは、言わなくては。

「美味しい……です。これ」
「そう? よかったわ!」

 また、ぱあっと娘の笑顔が弾ける。
 それに釣られたか、お団子の甘さで綻んだか。
 アギの顔にも少しだけ、自然な笑みが浮かんでいた。

 ……処刑人の務めを果たした時も、褒められたり何かを貰うことはあったのだ。
 けれど、その時に抱いた想いと、今の気持ちは全く違う。
 これが――陽だまりで味わえる幸せ、なのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

稲宮・桐葉
やれやれ、一件落着じゃな。
それにしても腹が減ったのぅ。ちょいと力を使いすぎたようじゃの…。
ふむ?町の方から良い匂いが…これはみたらし団子のたれの砂糖醤油の匂いかえ。

そこできゅぅ~と腹の虫が鳴き。

仕方ないのぅ。腹の虫が騒ぐ故、ちょいと馳走になってゆこうかの…

口調とは裏腹に軽やかな足取りで宿場町の茶屋へ向かう。

ほれ、みたらしをたーんと持ってくるのじゃ♪

狐耳をくるくる、狐尻尾をもふもふ揺らし舌鼓を打ちながら、みたらし団子を次々に頬張る。

うーむ!美味いのじゃ!

ついつい食べ過ぎてしまうほど。

団子のお代にと尻尾をモフらせて、ちゃっかり精を頂いて。
腹ごなしだからと舞いを披露する。

人には笑顔が一番似合うのぅ♪



「……腹が減ったのう」

 街道でお腹をさすさすと撫でて、桐葉は狐耳と尻尾を力なく垂らす。
 一件落着したのはよし。宿場町も、猟兵も無事であってよし。
 しかし、ちょいと力を使いすぎたらしい。
 多くを助けられたとはいえ、舞いっぱなしは我ながら頑張りすぎた。

「何か小腹に収めるものでも……む?」

 ふらふらと宿場町へ近づくにつれて、何やら良い匂いが鼻をくすぐる。
 これは……!

「みたらし団子の、たれの砂糖醤油の匂いかえ――」

 きゅぅ~。
 返事は自分のお腹から来た。
 間違いない。どうやらいい塩梅の茶屋でもあるようだ。

「仕方ないのぅ。腹の虫が騒ぐ故、ちょいと馳走になってゆこうかの……」

 やれやれ全く。
 言葉にそんな雰囲気を纏わせつつ、しかし足取りは軽やかに。
 ぱたぱたぱたっと宿場町を駆け、辿り着いたは傘の下。

「いらっしゃいやせ! 何にしやしょう!」
「決まっておろう。ほれ、みたらしをたーんと持ってくるのじゃ♪」
「へい!」

 なんとも茶屋らしくない男が応対に来たが、まあ構わないだろう。
 桐葉とて、客というよりか姫のような振る舞いであるし。
 とにかく、今は甘だれたっぷりなお団子を頬張りたい。
 暫し待つ間にも、期待で尻尾が右へ左へ。

「お待たせしやした!」

 そうして差し出された皿には、お供え物の如き団子の山。
 なるほど。この男、中々に仕事の出来る奴と見た。

「褒めて遣わすぞ、うむ♪」

 声掛けつつ、一つぱくり。

「……♪ うーむ! 美味いのじゃ!」

 ひょいぱくひょいぱくひょいぱくぱく。
 あれよあれよと言う間に食べ尽くして、さらに同じ量をもう一皿。
 美味い甘い美味い甘い美味い。
 狐耳がくるくる、もふもふ尻尾もこれでもかと揺れる。
 舞って癒やした傷の分だけ、団子は桐葉の腹に詰まっていく――。

「……はっ! しまった、のじゃ……」

 うっかり食べ過ぎた。
 懐が苦しい。二重の意味で。
 さっきからそわそわしている男に払えるだけの持ち合わせは……。
 持ち合わせ、は……。

「……ふむ、こうなればやることは一つじゃの。そこの、ちと!」
「へい!」
「ちぃとばかし、あちらの物陰にてお話でもしようではないか……♪」

 さて、桐葉は妖狐である。
 戦いの後には色々枯れ果ててしまうらしく、人間だろうがなかろうが、甘やかそう甘やかされようとするらしい。
 そんな桐葉が、このような誘いをかけるということは、だ。

「――ほれほれ、妾の尻尾を思う存分もふってよいのじゃぞー♪」
「あーっ! 困りますお客様!  あーっ!! それはお客様! あーっ!!」
「ほーれほれ♪」
「お客様! あーっ! それはお客様! あーっ! あーっ!!」

 何事かと、少しずつ人が集まってくる。
 そうして彼らが見たものは――なんと!

「妾の舞い、たんと目に焼き付けるのじゃぞ」

 腹ごなしに、また一つ舞い踊る桐葉の姿。
 なあんだ。ただ踊ってるだけじゃないか。ははは。

「うむ、やはり人には笑顔が一番似合うのぅ♪」

 桐葉も満足げに微笑み、そして――。
 腰を抜かした男を見やり、少し妖しげな舌なめずりをして見せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ツーユウ・ナン
(戦いの後、ツーユウは久しぶりに経を唱えた。今は亡き誰かの霊に冥福あれと。)
帰依を捨てた身とはいえ、誰もせんよりはよかろう……

(クンクンと辺りを嗅ぐと、団子を炙るいい匂いで茶屋に誘われる)
おぉ、これはいい……
おーい、わしにも茶と団子じゃ、十串ほど頂こう。

来たな、うむうむ、醤油がきいた甘だれがいい。腹にストンと落ち着くわ。
それに炙ったことで食感が増し、香ばしさと相まっていくらでも食えそうじゃ。

(ぐびりと茶を飲み干して、ふと辺りを眺めると、守ることができたこの風景が愛おしく感じ、腹が満たされた心地良さと共にしばしの幸福感に浸った)


ジャスパー・ジャンブルジョルト
●戦闘に微塵も貢献してないくせにちゃっかり団子を食いに来る

うん、美味ーい! (口の周囲が葛餡でベタベタ)
この美味いダンゴのお礼に、猟兵たちと赤備え野郎との激闘の様を茶屋の連中や他の客に(さも自分がそこにいたかのように)聞かせてやるか。
「疾風迅雷、電光石火、斬っては躱し、突いては避ける、目にも止まらぬ立ち回り。刃と刃が打ち合う音に裂帛の気合いを織り交ぜて、命を燃やし、魂こがし、死闘に興ずるその様は剣鬼か剣魔か剣神か!」 ……と、愛用のサーベル(ゴム製)を振り回し、講釈師の気分で語っちゃったりなんかして。

他の参加者の引き立て役や調子に乗って痛い目を見る役など、お好きなように扱ってください。



誦経するなど、いつぶりのことだろう。
 そもそも己は帰依を捨てた身。それが法具も持たず御仏の教えに触れたところで慈悲も恩恵も得られるとは思えぬし、何処かの厳格な僧にでも知られたら雷を落とされるに違いない。
 ただ……今は、そうすべきだと思ったのだ。
 亡き誰かの霊に冥福あれと。そう祈るべきだと。
 それをするのが、法門と袂を分かった己であっても。
 誰もしないよりは、いいのだろうと。

 案外、そんなことを思う時点で完全には捨て去れていないのか。
 或いは鍛え上げた肉体を他者の為に用いようとしている事も、その証なのか。
 拳に曇りはない。だが、求道の余地はまだ大いにあるのかもしれない。

 とはいえ、街道に突っ立っていたところで何が始まるわけでもない。
 ツーユウは宿場町に入る。すると、先程から香っていた匂いが一段と強くなった。
 茶屋だ。団子だ。――みたらしだ。

「おぉ、これはいい……」

 匂いよしなら味もよしに違いない。
 善は急げ。
 ツーユウは芳しさを辿っていき、間もなく野点傘の横に腰を落ち着けた。

「おーい、わしにも茶と団子じゃ、十串ほど頂こう!」
「はーい、ただいまー!」

 なんとも気前のいい注文に陽気な返事。
 ただそれだけで、諸々彼方に流されてしまった気さえする。
 耳をそばだてれば、団子を炙る微かな音すらも聞こえてくるようだ。

『うん、美味ーい!』

 そうそう、あれは絶対に美味し――。

「……む?」

 誰だ今の。
 突如として世界に割り込んできた声を追って、ツーユウはぐるりと辺りを見回す。
 ……居た。すぐそこに居た。猟兵らしき猫妖精――ケットシーが口を葛餡でベッタベタにしている。
 はて、あのような者が戦いに加わっていただろうか。
 いやいや、人の形をした者が多い中で、灰色のお猫さまなど見たらすぐに忘れるはずがない。きっと何某かあって立ち寄った者だろう。
 それよりも団子だ、団子。

「お待ちどうさまですー」
「おおっ、来たな! ……うむ、うむうむ!」

 やはり目に、いや鼻に狂いはなかった。
 まず醤油が利いた甘だれがいい。これは基礎であり、そして最大の要素。
 さらに団子は炙ることで食感の良さも増し、香ばしさまでも加わっている。

「これを茶で流し込むと……ふぅ、いやいや。腹にストンと落ち着くわ」
「全くだ! いやいや、お前さんよぉくわかってるな!」

 猫の姿をしているが故の耳聡さだろうか。
 ケットシーは凄まじい速度で身体よりも大きな団子山を崩すと、なんともお調子者であることを滲ませるように笑って、いきなりべんべん! と縁台を叩いた。

「どれ、美味いダンゴをたらふく食わせてもらった礼だ! 一つ、怨霊退治の武士(もののふ)と赤備えの亡霊武者との大戦でも語り聞かせてしんぜよーう!」

 べんべん!
 サーベル(ゴム製)を振り回すお猫さま――ジャスパー・ジャンブルジョルトは大きな声で宣うと、なんと先程までツーユウ達が行っていた戦いを(さも自分がそこに居たかのように)仰々しく、しかし軽妙に述べていく。

「疾風迅雷、電光石火、斬っては躱し、突いては避ける、目にも止まらぬ立ち回り!
 刃と刃が打ち合う音に裂帛の気合いを織り交ぜて、
 命を燃やし魂こがし、死闘に興ずるその様は剣鬼か剣魔か剣神か~!!」

 べんべん!
 講釈師、見てきたような、嘘をつき。とはよく言ったものだ。
 まあ嘘でもないのだけれど。というかほぼ真なのだけれど。
 さておき突然始まった講談に人々は足を、ツーユウは飲食の手を暫し止める。

「――さて一度は倒れた赤備えだが、やはり怨霊、タダでは朽ちぬ!
 カッカッカッと大胆不敵に笑ってみせれば!
 かくも悍ましき姿が入道雲の如く膨れ上がった~!(べんべん!)
 しかし武士も竦まぬからこその武士!
 己の肉体一つで死地を渡り歩く女拳士が颯爽と進み出たならば、怨霊の大太刀をするりと躱し、かちりと受け止め、ついぞ三連の剣戟全ていなしてみせると気合一喝!
 一気に懐へと飛び込んで拳を打ち込む!(べんべん!)
 これには怨霊も堪らずもんどり打って転がっていく~!(べんべんべん!)」

 黙って聞いているとツーユウは妙な気分になる。
 しかしジャスパーの語り口は留まるところを知らない。やがては小さな体を縁台の上で目一杯に振り乱し、ぶるんぶるんとサーベル(ゴム製)を振り回しては切った張ったの大立ち回りを一人で演じきる。
 ぽつ、ぽつと鳴り始めた拍手が大きな喝采を呼び、それを受けた主演猫はぴょんと地に下りると肩で風切って彼方に――。

「あ、ちょっとお客さん!」

 去ろうとしたところで、茶屋の主人に呼び止められた。

「お代! お代!」
「お代なら今しがた聞かせてやったぜ!」
「そんなのダメに決まってるでしょう!」
「にゃんだと!?」

 そんにゃバカにゃ!
 慌てふためくジャスパーであったが、元来の気の小ささが災いしたのだろう。
 蛇に睨まれた蛙、いや猫に睨まれた鼠の如く縮こまり、主人に連れられて茶屋の奥へと消えていく。

「……」

 なんだったんじゃろうか、今の。
 さしものツーユウも呆然と佇み、やがてまだ温もりの残る茶碗を手にしていた事を思い出し。
 それをぐびりと飲み干して、ふと町並みを眺めながら。

「……うむ。平和じゃのう。うむ」

 先程の事はすっかり頭の外に置いて、満たされた腹と愛おしい景色からなる幸福感に浸るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月24日


挿絵イラスト