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夜明けのザカリアスとヴィクティマの三文字のあいさつ

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●嘆きの『ヴィクティマ』と去らぬ『ザカリアス』
 秋の終わり。冬の始まり。
 もうすぐハロウィンがやってくる。

 ハロウィンには、なにをしよう?
 家を飾り付けて、今日は特別なのさと演出しようか。
 普段と異なる装いをして、いつもと違う自分を見せ合いっこしようか。
 とっておきのお菓子を出し合って、悪戯するぞって笑い合おうか。
 ひと騒ぎしたら橙色の灯りの中でうまいご馳走を分け合って……。

「それじゃあ母さん、買い出しに行ってくるよ」
 青年が家の戸を開ける。見送る家族は不安げな表情で「気を付けてねえ」と呟いた。
「テロリストを刺激しないようにね、目立たないようにね」
「うん、うん」
 にゃあ、と猫が鳴いて、開いた戸の隙間からしゅばっと外へと飛び出した。
「あっ、ダメだよエディ!」
 制止の声。けれど、ダメと言われて止まる猫はそうそういない。
「にゃーん♪」
 猫は曇り空の下、何物にも束縛されぬ自由の旅人となって街を散策するのであった。

 猫が歩く左右には、背高(せえたか)の建物と中に潜む人々の気配。
「この街はこれからどうなってしまうのだろう」
「助けは来ないのか」
 人々のささやきをBGMに、小さな猫が街を往く。

 曇り空。
 乾燥した空気。
 灰色の岩壁に囲まれた街。
 岩壁に張り付くように、緑がぽつり。
 緑は、人型兵器。名は、ザカリアス。CAV-06『ザカリアス(Zacharias)』。
 体高5m、二足歩行の人型兵器。オブリビオンマシンだ。
 駆り手(パイロット)は、仮面をしている――正体不明。

 街は、数日前に現れたザカリアス集団の制圧下にあった。
 謎のテロリスト集団は『ハロウィン・ドールズ』と名乗り、全員が南瓜の仮面を被っている。彼らの目的は、不明瞭だ。

 オブリビオンマシンは、蘇ったキャバリアだ。搭乗者を破滅的な思想に狂わせる彼ら――今回は、「ハロウィン」と名乗らせているため、もしかすると蘇ったオブリビオンマシンであるザカリアスによる、ハロウィンに悪戯をする死霊を模した悪戯なのかもしれない。

「にゃあ~」
 猫がひたひたと街を歩く。
 不安と心細さが囁きの風となる、不自然に静かな街――皆、怯えているからだ。
 すこしでも刺激すると、あの緑の機体が大暴れするかもしれない。
 大切な街や家は、一瞬でたやすく破壊されてしまうに違いない。
 人の生命も、ほんの気紛れに引かれたトリガーによって呆気なく奪われてしまう。
 だから、皆で息を潜め、背中を丸めて。
 静かにひっそりと、恐々と。
「自分たちはどうなってしまうのだろうか」
 無力さを噛みしめて、震えている。

「もう、この街の命運は尽きたのかもしれない」
 どうしようもない現実を持て余しながら、日夜繰り返し――今日で4日目。
「助けは……来ないよ……だって……」
 誰かが呟く声。反論できる者は、いなかった。

●アーリーウィン/正体を隠して敵を討て
「ご自分だとバレないように敵を討つことができますか? 例えば――普段の自分なら絶対にしないような言動や戦法で敵を倒すのです」
 少年の声が問いかけた。

「CAV-06『ザカリアス』」
 人狼の少年、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が尻尾を振っている。手には、模型があった。
「基礎設計は30年以上前、古い型のキャバリア。安価かつ堅牢で拡張性が高い事から一部国家では現在もマイナーチェンジを重ね生産が続く名機。しかし生産数の多さが仇となって、オブリビオンマシンとなってしまう機体も少なくない、そんなキャバリアでございます」
 少年が可動関節を動かし、兵装を紹介する。
「POW、RS対キャバリアバズーカ。背負っている大きな筒から弾が出ます。破壊力が高いです。対策せねば、街や家が破壊され、人命も危ういでしょう。
 SPD、RSマシンガン。右手の銃から大量の弾が出ます。命中率が高いですが、猟兵ならば回避は可能でしょう。ただし、避けると付近の建物が被害を受けます。
 WIZ……これは、南瓜を被って仮装をしていたような……いえ、ふざけているわけではありません。僕の予知だとそんな姿だったのでございます」

 グリモアベースの隅っこでの出来事である。
 周囲には段ボール箱が大量に積まれていた。

「世界は、クロムキャバリアでございます。「ハロウィン・ドールズ」と呼ばれる南瓜の仮面を被った謎のテロリスト集団が、オブリビオンマシンを駆って街を制圧してしまったのです。街の人たちは、とても怖い思いをされていて、生活にも困っていらっしゃるご様子」

 今回は残念ながら、制圧前に駆け付けることはできない。
 制圧された後の街に駆け付けることになる。ルベルはそう語る。

「オブリビオンマシン『ザカリアス』を破壊すれば事件は解決。なのですが、ザカリアスの駆り手(パイロット)たちは仮面を被っており正体不明です。下手すると正体は某国の重要人物で、外交問題に発展したり……という事が起こりうるかもしれません。それは、よろしくない。そこで……」
 少年はそう言うと周囲の段ボール箱を示した。
「仮装には仮装で対抗するのです!!」

 なんと段ボール箱には大量の仮装グッズが入っている……!!

「ご自分が仮装するのはもちろん。キャバリアに搭乗されるなら、キャバリアも普段と違う外見に仮装してください。グリモアベースで仮装を済ませても良いですし、現地で……現地……」
 現地の状況に思いを馳せて、ルベルは首を傾げた。ごそごそと用意したのは、現地の地図である。

「街の名前は、『イクティマ(ictima)』といいます。元々は名前の最初に『V』が付いていたとか、いないとか。
 街は、岩山の中にあります。街の周囲には自然の岩壁があり、岩壁の内側――街の外周に一定間隔を置いて5体の『ザカリアス』が立っています。テロリストは、基本外に出てこないようですね。
「街にあるものといえば、日用品を扱うお店や、住人の家、小さな畑、学校に医療施設。墓地と……工場痕のような廃墟。地下空間もある様子。人々は、『ザカリアス』に怯えつつ日常生活を営んでいるようです。
 この街、どこかの小国家に所属しているはずですが――現在は外と隔絶されており、制圧されてから今日で4日目でしょうか。国家からの救援も来る気配がないようです。現地国家からの支援はないものと思って、現地の民をお守り頂きたいのです」
 杖をくるくると回し、少年は地図の複数個所を示した。
「建物の内部や、地下空間。はたまた街の外の岩壁の向こうなど、ご都合の良い場所に転移させましょう」

 猟兵に求められていることは、仮装して「誰でもない誰か」として、ハロウィン・ドールズを撃滅すること。勝利は勿論、依頼主や猟兵自身の素性を知られない事が、重要な作戦となる。

「クロムキャバリア世界でのお仕事の際は、どなたでもキャバリアを借りて乗ることができます。ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。キャバリアにて戦うもよし、キャバリアを用いず生身で戦うもよし。
 大切なことは、「仮装して敵を討つ」でございます」

 少年が微笑んで、おっとりと問いかける。
「それで……どのような仮装をなさるのです?」
 その瞳は好奇心でいっぱいだった。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回はクロムキャバリアでの冒険です。
 「ハロウィンパーティ」の前提となる期間限定シナリオフレームとなっており、2章構成のシナリオです。「1章で仮装する」「2章で敵を倒す」となっています。

●プレイングボーナス
 今回は、2章の戦闘時に正体がばれないように、仮装の力も借りて「普段の自分なら絶対にしないような言動や戦法」で敵を倒していければ、プレイングボーナスを得られます。

●街
 舞台は街『イクティマ(ictima)』。山岳地帯にあるようです。
 街の周囲には自然の岩壁があり、岩壁の内側――街の外周に5体の『ザカリアス』が立っています。仮面のテロリストは基本、『ザカリアス』の内部操縦席にいるようです。
 街にある施設は、オープニングでグリモア猟兵が語っていた「日用品を扱うお店や、住人の家、小さな畑、学校に医療施設。墓地、工場痕のような廃墟。地下空間」となっています。

●敵
 2章で戦って頂く集団戦敵、オブリビオンマシン『ザカリアス』は街の外周に立っています。中にいる仮面のテロリストたちは、『ザカリアス』を倒せば正気に戻ります。

●プレイング受付・リプレイについて
 プレイングは、OPが公開された後にすぐ送ってくださって大丈夫です。
 突発的なトラブル等により、再送をお願いする可能性がございます。(その際、もしオーバーロードをご使用であれば再送の必要はありません)

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 日常 『キャバデコ!』

POW   :    カッコよく仕上げる

SPD   :    可愛く仕上げる

WIZ   :    この世界に爪痕を残すレベルで独創的に仕上げる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夢咲・向日葵
●心情
・仮装…仮装かぁ。それに、普段しないような言動かぁ…。んー…モデルがないと厳しいのよ。例えば…そうね。師匠とか…。師匠っぽい言動???

ほわんほわんひまひま~
『てめえらの事情なんて興味ねぇ。とりあえずぶっ飛ばす。話はそっからだ』(くーるな口調で)
…ちょっと、ひまちゃんには難しいかなぁ。

んーじゃあ、シャチえもんとか。シャチえもんの真似なら何とか行けそうな気がするのよ。

「しゃちーっす!うちの名前はシャチえもん。通りすがりの女が‥魔法王女のマスコットだよ。どうだい、魔法王女やってみないかい?」

…完璧すぎるのよ。シャチえもんの真似なら行けるのよ
シャチの着ぐるみを着てドヤ顔で街に繰り出す。


メルメッテ・アインクラング
仮装をして鎮圧に当たるのですね
なんて貴重な経験でしょう。胸が弾んで参りました

まずは私の機体、Hanon-60に南瓜の仮装を施します
ペイントは苦手ですので、装甲表面に南瓜色の大きなシールを貼ったり、蔓や葉の形の装飾を付けたり。最後に南瓜型の帽子を頭部に被せて出来上がりです

私の方は、ドレスに手袋、アクセサリーを身に着け、踵の高い透明な靴を履いて完成です
私には縁遠い格好。今回の依頼にはぴったりかと

メイドから「プリンセスへと変身して南瓜に乗る」
ふふ。おとぎ話の登場人物のようでございますね

後は、普段の私が絶対にしない言動……『主様』をモデルにすればよろしいでしょうか?
本番までには台詞を考えておきましょう


ウィル・グラマン
●POW

へへっ、バレないように敵を倒せってステルスゲームみてぇじゃん
バレても正体が分からなければ…あー、でも小さい町だし、住民同士が顔なじみとか家族同然で知り合っている可能性もあっから、こそこそ隠れるに越したことはねぇか

んで、オレ様が借りた仮装グッズは、ジャーン!
怪盗少年セットだ!
スーツにマント、シルクハットに杖、そして目元を隠すマスクとか完璧だろ
怪盗は怪盗らしく、人気のない工場痕のような廃墟のここを本日の秘密基地としちまって、後はデータ化しているベアキャットのガワだけだな

ミニコンポケットのカスタムキャバリアを起動してっと
そうだな…ハロウィンらしくカッコよく悪魔チックにイジってみるか、ニヒヒ♪


ルク・フッシー
そもそもボクにとっては、キャバリアが普段と違う戦法なんですけど…
仮装がどうとかの前に、操縦を練習しないと…

えー、前進…後退。旋回…しながら前進。このボタンは…センサーですね
それで、魔法はどうやって使うんですか?あ、ここにボクの魔力を通せそうな回路が…
こう、ですかね?絵筆を形成して、構え、魔力を集めて…出た!やったぁ!

よし、なんとかなりそうです、ってあれーーー!?!?
(魔力とアート力が溢れ出した結果、量産型キャバリアがいつの間にか魔女風衣装に!)

と、とりあえずこのローブをアレンジします!そうですね、あちこちに星をあしらって、それから…(色々おまかせ)



●灰色の冬と女王の剣
 灰色の冬は、音も無く忍び寄る。
「我が国にかのミヒャエル・ハイネマンあらば、私が彼であれば。或いは敗色濃厚の絶望の戦場に臨み、勝利したであろうか」
 電子光が文字を輝かせている。『For The Glory of Camellia』。『project E』――、
「カメリアに栄光あれ」
 再生される記録音声が空間に反響する中、仲間たちは顔を見合わせた。付近には、横倒しになっている巨大な砲身<ロンメルの弓>と施設の機能をコントロールする管制システム群がある。

「ここ、カメリア王国っていうんだ」
 電脳魔術師、ウィル・グラマン(電脳モンスターテイマー・f30811)がグレープグミを噛みながらハッキングを進めている。仲間に見えるようにと展開した空間投影の四角い枠内に、幾つもの映像や文書が映し出されていた。
「イースタン・フロント、ナロードニク・ソユーズ、トリアイナのエンデカについて、断片的だけど情報が収められてる」
「どのように……? この世界の現状、周辺地域を把握するのが精いっぱいではないかと思われますが」
 高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星「殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)」によって広域通信網が失われて久しいクロムキャバリアでは、世界全体の情勢や地形を知る方法は根絶されているのだ。
「ここの主は戦乱の世界で情報を握る者が優位に立てると踏んで、各地の情報収集に力を入れてたみたいなんだ。傭兵や民間人、流民難民を装って国から国に渡り、本国に情報伝達する諜報組織を作ったり、猟兵から情報を買ったり。それだけしても、世界全体の情勢や地形は把握できるとは言えない情報量だけど」
「なるほど、離れた地域で事件にかかわった経験がある猟兵もいて、猟兵と交流がある現地の民もいます。断片的情報を搔き集め、つなぎ合わせて情報を得ることは不可能ではありませんね」
「日記もある……途中で終わってるけど」
 病気だったんだな。ぽつりと呟き、少年が周囲の仲間を見る。
「この映像は、現在私たちがいる国の女王トイトベルガ(Teutberga)様でございますね」
 布巾で機器を丁寧に拭っていたメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)がひとつの映像を指した。耳が長く尖っていて、黒い髪と緑色の瞳が印象的な少女だ。
「女王様から杖を授かっている男が映ってる写真あるだろ? これ、ここを根城に記録を残した人っぽいぜ。名前はマンフレート・ロンメル」

 ウィルが事件を方角別にまとめている。
「紛争状態にあったんだよ、ここも。どこもそうか――この世界に平和な国なんてそうそうないもんな。うん、つながらねえ。世界の全貌なんて見えねえよ」

「あ、ああ、あのう。キャバリアがあるんですけど」
 ルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)が恐る恐る気弱な声を挟んだ。
「隠したんだ。廃棄処分になったキャバリアをさ。マンフレートは、処分に反対だったのさ」
「は、廃棄……!?」

 持ち主はもういない――好きにしたらいい、そう告げられて、ルクが尾を丸めてキャバリアの前に立つ。薄暗い中で重量感たっぷりに鎮座する機体。量産機をベースにしたカスタム機であるキャバリアは、防御を捨て双剣による格闘戦に特化した機体。赤と金のカラーリングが目を引く中、全体を引き締める根幹関節部位の漆黒。背面に隠された追加兵装小杖は亡きマンフレートが女王より下された元帥杖を模したデザインにて、魔術系のユーベルコードを出力するのに適している。名は『シュベール(Schwert)』。剣を意味する単語だ。彼は、女王の剣だった――或いは、そうでありたいと望んでいたのかもしれない。
「……こ、この機体、近距離で戦うタイプです……?」
 ルクの声が意図せず震える。戦いを恐れている自分を自覚しながら、それでもルクはキャバリアから目を逸らすことはなかった。
 きっと、『シュベール』は亡きマンフレートと幾多の戦場を渡り歩いたのだ。国を守るために。そして、戦いの末に捨てられたのだ。
「冷たい……」
 装甲にそっと頬を付けて、少年は呟いた。
「ボク、あなたを動かしていいんでしょうか?」
(マンフレートさんは、あなたのことが好きだったんでしょうね)
 少年は目を閉じた。鼓動も熱もない。ただの鉄鋼の塊だ。だけど、見えない何かがあるようで、アーティストでもあるルクの感性が惹き付けられずにはいられなかったのだ。
(相棒が死んでしまってから、ずっと一人だったんですか)
「ボク、乗ってもいいですか? あなたに……シュベール」
 ひんやりとした沈黙。
 けれど、不思議と心が通じ合うようで――拒絶された感覚は、なかった。

「差支えなければ、操縦を助力させていただきます」
 キャバリアに向かい合う仲間の少年に、メルメッテが優しく微笑んだ。
「それにしても。マンフレート・ロンメル様は、たくさんの情報を集めていらしたのございますね」
「そうだな、これなんてやばいぜ。この世界って、暴走衛星「殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)」に高速飛翔体が破壊されるじゃん?」
 ウィルがいくつかのファイルを展開し、示した。
「この世界は、どの小国家も主戦力はキャバリアで、空を自由に行き来できない。自国間の輸送に「飛行船」を使う国はあるし、過去に猟兵が空中戦をした記録もあるけど、高度や速度の匙加減ひとつで殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)が暴れ出す。事件によっては、あれを破壊しようなんて目論む軍人も出てきたらしいけど、反撃により国が亡ぶ予知がされて防がれている……、」
 メルメッテが神妙に頷く。
「猟兵の中には、殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)を活用するユーベルコードを扱う方もいらっしゃるようですが、攻撃すると反撃で国が亡んでしまうという予知は恐ろしいものです」

「うん。それを逆手に取って、敵を誘い込んで自爆しようとした作戦があったんだ。戦争してたのは、『サザンクロス』同盟ってとこらしい。自爆地点はこの国境ぎりぎり、南端に急造した街。ただ、作戦は失敗したんだな」

「んで、この記事だ。これ以上は自国の存亡に関わるとして、カメリアが「軍備縮小条約」を交わして同盟に加わる事を決定したとある。TRI――技術研究所も縮小されてさ、騎士団も半数が解体になって、量産機も大量廃棄が決まった。ザカリアスもその中に」
 電光に照らされて宝石のように煌めくウィルの瞳が『キャバリア』を見る。
 冬の始まりは、音も無く忍び寄る――逃れることは、できない。
「『サザンクロス』同盟は北方の軍事帝国『シュティーゲルス』に連携して対抗しようとしてんだ。カメリアを無力化したら、その後は……」

●秘密基地と猟兵たち
 時は、数時間前に遡る。

 可憐なメイド。そんな印象を与える少女、メルメッテが胸を躍らせていた。
「仮装をして鎮圧に当たるのですね。なんて貴重な経験でしょう」

「仮装? ……仮装かぁ。それに、普段しないような言動かぁ……」
 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)はノートを広げて仮装案を書いていた。開いたノートのページは今のところ真っ白。先にプラスチックのシャチがついているシャープペンで紙の表面をつつき、少女は「んー……」と眉を寄せた。
 向日葵は公立中学校に通う女子中学生。クロムキャバリアは初めてだ。
「厳しいのよ、モデルがないと。いっそひまちゃんがキャバリアになればいい? って、キャバリアってどうやったらなれるのよ」
「えう……、そもそもボクにとっては、キャバリアが普段と違う戦法なんですけど……仮装がどうとかの前に、操縦を練習しないと……」
 ルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)が戸惑いがちに周囲を見ている。
「へへっ、バレないように敵を倒せってステルスゲームみてぇじゃん」
 ウィル・グラマン(電脳モンスターテイマー・f30811)がゲーミングパーカーのフードをかぶって「隠密隠密!」と笑っている。

 現地に向かう猟兵たちの中、偶然一緒に転移されることになった4人は互いに簡単な挨拶と自己紹介を済ませる。
「「猟兵同士は引かれ合う」そんなお言葉があるようです」
 メルメッテがにっこりと笑えば、向日葵が「わかる!」と笑顔を返した。

「えっと、現地の活動拠点はどうしましょうか、正体を隠さないといけませんし」
 ルクが緊張した面持ちで地図を見つめている。対するウィルは「そんなに気を張ることねえって!」と明るい声だ。
「バレても正体が分からなければ……あー、でも小さい町だし、住民同士が顔なじみとか家族同然で知り合っている可能性もあっから、こそこそ隠れるに越したことはねぇか」
 地図を覗き込む4人。
「そういえば、仮装は考えましたか……」
 ルクが悩まし気な声を発すれば、向日葵が「うーん、うーん」とノートを広げ直し、纏まらないアイディアを書きまくっている。
「すごいですね」
 メルメッテがノートを見て目を瞠り、両手をぽふりと合わせた。
「ふえ? ノート?」
「はい。私はペンでものを書くのが苦手なので」
「慣れたらそんなに意識しないで使えるよ!」
 書いてみる? と向日葵がメルメッテにノートとペンを渡すと、メルメッテは頬を紅潮させてペンを持った。
「よろしいのですか?」
「うん! いいのよ」

 そんな女性陣の隣で男性陣は。
「知りたいか? オレ様が借りた仮装グッズは、ジャーン! 怪盗少年セットだ!」
 ウィルがスーツにマント、シルクハットに杖、そして目元を隠すマスクを着て見せれば、ルクが拍手する。
「わぁっ、似合ってます!」
「完璧だろ」
「完璧ですよ!!」
「怪盗は怪盗らしく、秘密厳守だ!」
「はい……!」
 向日葵はそんなやりとりを耳にして、妄想を始めた。

「ほわんほわん」
 これは、向日葵の妄想効果音――自身が喋って演出しているのである。

「あのね、怪盗グラマンは満月の夜にだけ出没するの。シンデレラを苛める継母のところに予告状が届くのよ。シンデレラをいただきますって――実は、王子様なの!」
 楽しそうに語る向日葵を背景にウィルは地図の中の一点を指さした。
「人気のない工場痕のような廃墟! ここだよここ! ここをオレらの本日の秘密基地とする!」

 同時刻、テロリストたちも活動している。北方に佇む1機、操縦席で仮面の男が声を紡いだ。通信音声は、猟兵の中には傍受して仲間に共有できる者がいるかもしれない。
「こちら01。02、聞こえるか? オーバー」
「こちら02。何か用? オーバー」
「暇なんだよ。エネルギー充足率60%超。80%で行動開始にしないか、オーバー」
「100%必要だって言ってるだろ、南瓜頭さん。オーバー」
「お前だって南瓜のくせに! だいたいオーバーオーバーうるっさいんだよ、軍隊じゃないんだぞオーバー!」
「だったら言わなきゃいいだろオーバー!」
 まるで子供のような声とやり取り――実際、声はとても若かった。


●仮装する猟兵たち
 転移した廃墟には、地下に続く階段があった。4人の猟兵は地下に秘密基地を獲得し、戦いの準備を進めることにした。
「不思議でございますね、仮装というものは」
 メルメッテは両手で南瓜色の大きなシールを持ち、自身の機体『Hanon-60』に慎重に丁寧に貼り付けている。ぺたり、空気が入らないよう、皺が寄らないように綺麗に貼り付けて、上からそっと撫でる手つきは優しく愛情に満ちている。

「オレのベアもカッコよくデコってやるぜ」
 ウィルがミニコンポケットを取り出した。
「ポータブルゲーム機? それでキャバリアがデコれるの?」
 向日葵が首を傾げる。
「そ!」
「ひまちゃんもキャバリアデコってみたい」
「ベアはオレがデコるんだぞ」
「キャバデコゲー出ないかなあ」
 覗き込む向日葵がわくわくした様子でキャバデコを見ている。
「カスタムキャバリアを起動してっと」
「わー! これがベア? 可愛い」
「そうだな……ハロウィンらしくカッコよく悪魔チックにイジってみるか、ニヒヒ♪」
「え、どんな感じなんです?」
 ルクが練習の手を止めてキャバデコを見学しにくる。メルメッテも『Hanon-60』に蔓や葉の形の装飾を付けていた手を休めて覗き込み、「格好良いですね」と微笑んだ。

「向日葵様は、仮装は決まりましたでしょうか?」
 向日葵は首を振った。
「ま~だ~。うーん。例えば……そうね。師匠とか……師匠っぽい言動???」
 向日葵はノートに師匠をラクガキした。
「ほわんほわんひまひま~」
 向日葵が空想の翼をはばたかせ、無限の可能性の海に意識を遊ばせている。ガタッと立ち上がり、背筋を伸ばして脳内で思い描いた師匠を真似て言い放つのは、ちょっと背伸びがちな「くーる」ボイス。
「てめえらの事情なんて興味ねぇ。とりあえずぶっ飛ばす。話はそっからだ」
 茶色の瞳が半眼めいている。表情をつくっている……! 『師匠』を知らない仲間たちにも、それがわかった。
「えっと、その人はクールな人なんですね?」
「それ、疲れないか?」
 仲間たちのつっこみに向日葵は「ふい~」と息を吐いてちょこんと座った。
「むずっ。うんうん。ちょっと、ひまちゃんには難しいかなぁ」
 かなり無理していたらしい。
「気分転換! ひまちゃん、キャバリアの仮装をしないからみんなの仮装を手伝うよ」

 各キャバリアが仮装を進める中、ルクは専用のパイロットスーツを着て『シュベール』の操縦を練習する。コックピットは狭く、暗い。
「ううっ、こ、怖い」
 メインシステムを起動すれば、機動音。
「ひっ」
 びくりと身を竦ませるルク。
「ええと、ええと。教えてもらったのはこのレバーと、このスイッチと……」
「ルク様、大丈夫でしょうか?」
 心配そうなメルメッテの声が外部音声としてコックピットに響く。
「へ、返事は……こうですねっ!? ボク、生きてます!」
「いやいや、乗っただけで死ぬなよ!」
 ウィルのツッコミにルクはあははと笑いを返した。
「視界を広く取りましょう」
 ぎこちなく操縦盤に手を伸ばし、コードを打てばフロントとサイドが透けるような視野に展開した。
「上も!」
 指示を送れば、上部天井が外を映し出す。
「えー、前進……後退。旋回……しながら前進。このボタンは……センサーですね」
 周囲に複数の半透明モニターが浮かぶ。
「情報量が、情報量が多いです――わっ!?」
 泣きべそをかきながら弱音を吐くルクが驚いたように叫び、操縦桿を引く。
「にゃははは! 練習は相手がいたほうがいいだろー!?」
 楽し気な笑い声が響く。すぐ目の前に、迫る『ベアキャット』がいた。
「えーっ!? ま、まだ動かし方がおぼつかないですよぉっ、ウィルさーんっ」
「ベアが右パンチするから避けるか受け止めるかしろよ!」
「む、無理ですぅ!!」

「ねーっ、あんまり暴れて基地を壊さないでよねーっ!?」
「楽しそうでございますね」
 くすくす、と2機を見守りながらメルメッテと向日葵が『Hanon-60』を飾り付けている。せーの、と声をかけあって南瓜型の帽子を頭部に被せれば。
「完成でございます」
 メルメッテは『Hanon-60』を見つめた。乳青色の目が宝石めいてキラキラと煌めき、その仕上がりの素晴らしさを物語る。
「可愛い可愛い!」
 向日葵がにこにこしながら手を叩いて褒め称えている。
「ね、ひまちゃんがキャバリア乗ったら、あんなふうに練習してくれる?」
「ええ。私でよければ」
 メルメッテは続いて自身の仮装も済ませていた。爽やかで柔らかな印象のロング・チュールドレス姿。手袋は薄く透ける白色で、手首に純白のリボンを飾る。銀色の星の輝きに似た白光煌めくヘッドドレスと揃いの潜晶宝石で耳、首元、指と順に飾り、はにかみがちにほほ笑んだ。
「お姫様だ! 似合ってるよ!」
 向日葵が満面の笑みで絶賛してくれている。
 ――私には縁遠い格好、それだけに、今回の依頼にはぴったりかと。
 メルメッテはふんわりと笑み、呟いた。
「メイドから「プリンセスへと変身して南瓜に乗る」……ふふ。おとぎ話の登場人物のようでございますね。後は、普段の私が絶対にしない言動……『主様』をモデルにすればよろしいでしょうか?」
 『主様』に思いを馳せるメルメッテ。何気ない言葉、俯瞰し睥睨する高貴な囁き、愉快そうな声、少し焦ったような戦場での――、
「主様? どんな感じなの?」
「ええと……本番までには台詞を考えておきましょう」

「ほらーっ、避けないからぁーっ」
 轟音と振動の中、『ベアキャット』からウィルの声が響く。
「うわぁん! ボクにはまだ早いですぅ……」
 頑丈な基地の壁に『シュベール』が倒れ込む。『ベアキャット』が手を伸ばし、起き上がるのを助けた。
「魔法は? 近接が苦手なら遠くから魔法撃てばいいんじゃねえ?」
「あう。そうですね……えっとそれで、魔法はどうやって使うんですか?」
「わかんねえ!」
「ですよね!? あ、ここにボクの魔力を通せそうな回路が……こう、ですかね?」

「閃いたのよ」
 向日葵が発想を得たのは、その時だった。
「シャチえもんの真似なら何とか行けそうな気がするのよ」
 再びアイディアを得て立ち上がる向日葵。

「よし、なんとかなりそうです、ってあれーーー!?!?」
 シュベールの背部兵装から魔力とアート力が溢れ出し、『シュベール』がいつの間にか魔女風衣装になっている!
「一瞬で仮装ができましたね!」
 メルメッテが驚いたように目を丸くしている。
「と、とりあえずこのローブをアレンジします! そうですね、あちこちに星をあしらって、それから……」
「ベアが星飾るの手伝ってやるよ。結構器用なとこあるんだぜ。この前もさ、こうやって武器持ってさ……なっ、ベア。お前できるよなっ」
「それでは、僭越ながら『Hanon-60』も手伝いましょうか」

 仮装をアレンジするキャバリアたち。その声を背景に向日葵が仮装を済ませていた。
「みんなーーーっ、見てーーーっ」
 キャバリアに搭乗した各者が一斉に向日葵を見る。その姿は、シャチの着ぐるみ姿になっていた。
「しゃちーっす! うちの名前はシャチえもん。通りすがりの女が……魔法王女のマスコットだよ。どうだい、魔法王女やってみないかい?」
 絶妙なシャチえもんのポーズ(棒立ち)を取りながら笑顔で勧誘する向日葵シャチえもん。その真似の完成度は他の仲間たちには知るよしもない。だが、本人的には花丸だったらしい。
「……完璧すぎるのよ。シャチえもんの真似なら行けるのよ」


●ロンメルの弓<suicide bomb>は天を仰いで
「ひまちゃん、じゃなくてシャチえもん。街を偵察してくるのよ」
 仮装が決まった向日葵はいそいそとシャチの着ぐるみを着て、ドヤ顔で街に繰り出した。尾ひれが微妙に引きずられて地面に歩いた軌跡がずるずると残されていく。

 街には、何人もの猟兵がいた。それに。
「演説?」
 向日葵が目を丸くする。テロリストたちが街中に響くような音量で演説を流していた。演説というには感情的に過ぎる――まだ若い少年の声だ。

「星を食い潰すウジ虫さ、人類は――荒廃した大地の嘆きが聞こえるか。
プラントを奪い合い、争いを繰り返し、気付けば緑は減り、大地は汚染され、川が濁り、大気が汚染されて空の星は遠くなった。

野生動物たちはどこに消えた? やせ細り、棲家を追い遣られ、絶滅の危機に瀕しても人々はプラントばかり気にして、隣人をいかに蹴落とすか、いかに土地を奪い取るか、どうやって利権を貪るかで忙しいんだ。
平和のためと謳いながら大人たちは日々を生きる土着の民を平然と踏み躙り、生活の礎たる大切な家を壊し、川に毒を流し、油を撒いて森を焼く。殲禍炎剣を利用して一片を焼き払おうとまで画策するんだ。
 邪悪だよ、人という生き物の本性は。
 軍人どもはイカれてんのさ。野戦とあらば嬉々として砲弾を撃ち、家を壁にする。撃墜王は撃墜した数を誇り、死の商人は潤い、敵国の死者の数も自国の死者の数も書類に記載する数字でしかない。数字の重みがわかってない。
 人も自然も、国だって、滅ぶのは一瞬だ。それで、死んだ家族は戻ってくる? 自然が元に戻るのに何年かかる? この岩山が緑に包まれるのにどれくらいの月日がかかるのさ。

 カメリアは、和睦を結びながら武器を隠し隙を窺っているんだ。僕は知ってるぞ! 親父が隠しているんだ、とっておきの戦力を。ここにいるのは全員、死のうとして失敗した死に損ないどもさ。英雄になり損ねて、虎視眈々機会を伺ってる」
 地上で、地下で。猟兵たちがその声を聞き、近くにいる者同士顔を見合わせた。地下にいる猟兵たちには、地上の民のリアクションはわからない。だが、向日葵には――、
「そうなの?」
 呟いて、口を噤んで声の続きを聞く。
 声は感情を吐露するような口調で延々と続いている。

「どうしてみんな、優しくなれないんだい。子供にはわからないって、笑うだけで。
 言ってもわかんないんだよ。大人はさ――だからここで正義の狼煙をあげてみせよう、この僕が。

 他人の命を軽んじる奴から順に殺していけばいい。
 みんなが自然を、他人を思いやって大事にできるようになるまで殺していけばいい。
 他人を大事にできる人を残しておいて、様子を見る。人のサガとしてどうしても争いがなくならなくて、人という生き物にどうしようもなく他人を大事にできなくなる習性があるってんなら、それがわかった段階で残りも殺す。
 全部殺して人間がいない世界になればいい。滅べばいいんだよ、人類なんて。それが世界のためさ……!」

 地下の秘密基地にアラートが鳴り響く。横倒しになっていた砲身の表面に幾筋ものレッドライトが迸り、地下空間を眩く照らし染めた。音を立てて天井が動き出す。地下の天井がなくなり、廃墟の天井を見ればそれもまた動いて曇天を見せていた。遮るものがなくなった空間。天井と連動するように砲身が起き上がり、天を臨む。
 点滅するレッドライト、空間に幾つも現れて高速で文字を流して閉じるウインドウ。
 ウインドウが現れて、消える。
 ウインドウが現れて、消える。
 進行している。
「敵がこの施設の機能を使おうとしてる!」
 地下にいる猟兵たちが状況に気づいた。
「――カメリア軍が失敗した作戦だ。殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)に対宙攻撃を届かせて、反撃で自爆しようってんだ……! でも、戦時データではエネルギーが足りなくて届かなかったはず……」
「とにかく、システムを停止しませんと……! 万が一成功してしまえば、大変なことになってしまいます!」

 地上には寒々とした風が吹いていた。
 テロリストの声が山間に響き、木霊する。
「親父は最後の最後でビビったけど、僕は違う。成し遂げてみせるさ。誰にも邪魔はさせねえぜ――システム、完全制御<フルコントロール>、カウントダウン……」
 秘密基地の天井が左右に割れ、太い砲身がせり上がっていく。同時に、岩壁の向こうから続々と『ハロウィン・ドールズ』の援軍が姿を見せ始めた。『ザカリアス』で構成を統一された軍団だ。南から5体、東から10体、西から3体……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
詩乃(f17458)と

仮装姿で敵を倒す、かぁ。ハロウィンってそんな祭だったか?
おっと、砕けた口調は禁止、禁止。なんたって今のおれ、じゃない私は……「執事」ですからね。
(蝶ネクタイに燕尾服、白黒のートンカラーの仮面で目許を隠し、腕にはトーション。手には銀の盆に乗ったティーセット)

とりあえず私のことは「名もなき万能執事」と覚えて頂ければ。動物との交渉、演奏、歌唱、掃除、洗濯、チャイナドレスと何でもござれ。
差し当たっては街に迷い出た猫、エディ様の保護をば。
〈第六感〉を活かしての動向把握と、他の〈動物と話す〉ことで情報を集め、危険が及ばぬように諸事計らいましょう。

……えーと、こんな感じでイイかな?


大町・詩乃
【SPD】

嵐さん(f03812)と

元の名前はvictima、被害者という名前の町ですか。
縁起が悪いからvを取ったのでしょうか?
せめて、これ以上の被害が出ないよう頑張ります。

普段と全く異なる仮装として活発そうなメイド姿に。上手くできるかな💦
困っている人に手を差し伸べる”お助けメイド”を名乗り、心配している青年さんに「わたくし、失せ物探しは得意ですので、エディ様を捜して参りますね。」と恭しくお辞儀をして約束し、執事姿の嵐さんと一緒に街中を捜索します。

嵐さんの捜索をサポート。
幸運と第六感と失せ物探しで当たりを付けた上で、街行く人々に情報収集・コミュ力で、エディ様を見かけたか聞いて回りますよ~。


ルパート・ブラックスミス
つまり肝要なのは背景を推測しようのない素っ頓狂な姿、と。

愛機こと専用トライクを転がし量販店に。
大型スピーカーとカラースプレー、妙なデザインのアクセサリ多数を買い込んだら愛機を大【武器改造】。
考え無しの勢い任せにカラースプレーのラクガキ、アクセサリを燃える鉛で溶接。

自身はやたらカラフルな長髪のカツラとアポカリプスヘルのレイダー達が着るような刺付きジャケット。騎士鎧本体にだ。
そして叩き壊す前提のギター。

仮装のテーマはずばり「メタル系シンガー」。
テロリストどもの束縛を叩き破る痛快な悪戯(ロック)を仕掛けて進ぜよう。


忘れてた、スピーカーに繋ぐ音楽プレーヤーの用意も頼もう。
当方、楽器は別に弾けんのだ。


小日向・いすゞ
【狐剣】
なるほど
理解したっスか~
顔も隠した方が良…え、やんきー?

はいはい、きゃばりあの仮装も手伝いますよ
え?
いえ
未知の物を沢山見て驚いて…
素人質問で恐縮っスけれど何て読むンスか?
え?
あっ、はい!

こめんとは差し控えるっスけど
ここはあぽかりぷすへるじゃないっスよ
こめんとしちゃった

たぬきは却下するっス

エ!?
と、とっぷく!?
センセに合わせるとあっしも!?
ワ、ワー
気分アガってきたっス~
この目の部分が穴の開いたあいますく、結び目がめちゃ長くて素敵っスね
スカートもめちゃ長っスし
外套も金色の刺繍がお洒落っスね
天上天下
楽しいっスよ…楽しまなきゃ損っスから…
やけくそじゃないっスよ

言いたい事があるならちゃんと言って


オブシダン・ソード
【狐剣】
なるほど完全に理解したよ
僕だと想像もつかないくらいヤンキー仕様にすれば良いんだね?

ということでキャバリアの装甲にぺたぺたステッカー貼ってデコるよ
爆走とか韋駄天とか仰々しいこと字面のやつが良い
騎夜梁愛って書いてキャバリアだよ。わかる?
前方にでっかいライトを並べて、排気筒にトランペットみたいなやつをつければいいかな
か……カッコイイ……かなぁ?

後は……どうしようタヌキのペイントでもする?

気合の入ったリーゼントと無駄に丈の長い学生服で固めれば、もはや誰だかわからないよねきっと
何この裏地すごい派手
唯我独尊って何

うーん、覆面でよくわからないけど表情が固くないかい、いすゞ
大丈夫、似合って
似合……
ンー


トリテレイア・ゼロナイン
仮装…仮装…身体のシルエットその物を変えてしまえば正体がバレる事もありませんね

UCでロシナンテⅡと合体したケンタウロスの如き姿に
そして私の上半身を(目の焦点があってないブサイクな)馬の着ぐるみで覆えば、二人で動かすお馬さんの仮装の出来上がり
ハロウィンの飾りやお菓子の試供品を取り付ければ何処かの企業の催しと見られるでしょう
この状態で街に繰り出し●情報収集

やあ、僕はトリィ!お菓子はいるかい? 
後ろの無口なテレイアと一緒に活動している芸人なんだ
この街に来て仕事を受けて直ぐに活気が無くなって…どういう事なの?

外に出ている人々を危険なキャバリアや場所から遠ざける為、馬の宙返りなど曲芸ショーを開き


杜鬼・クロウ
【相反】アドリブ◎
転移場所お任せ

・仮装
血塗れの白衣
眼鏡

既に街が制圧されてるなら取り返すまでだ
この世界は俺も不慣れだ
キャバリア乗ったコトねェし
準備は念入りにいこうぜ

現地で仮装しキャバリア調達

普段と違うムルが着る服といえばずばり、コレだろ!(強調された喧嘩上等・天下無敵・夜露四苦の文字
賢者サマが不良…くく(笑い堪え
似合ってる似合ってる
俺のイヤーカフ貸してヤんよ
今回、俺は”紳士的”に振る舞うぜ
俺も演技の練習しとこ

全然甘いですよ、ムル君
遠慮せず威圧していかないと。ほらもっともっと(ビシバシ指導

あァ…この話し方久しぶりで肩に変な力が
体が先に動くし気ィつけよ

仮装後、不安がる街の民に接触
猟兵と悟らせず励ます


ムルヘルベル・アーキロギア
【相反】
アドリブ◎
仮装:ド紫の特攻服(クロウ考案、漢字入り)

さて、ワガハイは仕事をする側としては初めてのクロムキャバリアであるが……クロウ! オヌシなんであるかこのコスチュームは!?
いやまあ、普段の自分とまったく違うキャラ付けをしなければならない、そういう仕事ではあるのだが〜……!
はあ、まあよい。ハロウィンということで納得するのである。
ワガハイはキャバリアはちと扱えそうにない。とはいえ手はある。
ゆえにまずは仮装を着て、普段と違うキャラの演技の練習をしておこう
お……おうおう! チョーシくれてんじゃねーゾ? テロリスト君よお!
難しいな、これ……! クロウ、オヌシの方は大丈夫であろうな?


アン・カルド
夜刀神君(f28122)と。

普段の自分なら絶対にしないこと、ってわけでキャバリアを借りてきたけど…このままだと少し寂しいねぇ。
僕らの着ぐるみみたいに何か用意するかな。
この着ぐるみ、【縫包】で呼び出した大きめの子だから動きに合わせて動いてくれて負担は少ないし着心地いいだろう?

あ、そうだ、キャバリアにも入れるくらいの大きなぬいぐるみを呼び出して着せよう、それなら随分と見栄えが良く、さらにかわいらしくなるはずさ。
女の子が乗るんだしちょっとしたかわいらしさは必要だよね、夜刀神君?

…なんだか不服そうだ、しょうがないじゃあないか簡単に用意できるのはこの着ぐるみぐらいだったわけで。
…犬より猫の方がよかった?


夜刀神・鏡介
アン(f25409)と

事件は放っておけないし、解決に協力するのに異論はないさ
それに俺も一度くらいはキャバリアに乗ってみてもと思っていた
そして、キャバリアに乗るなら仮装が必要だとも聞いた

とはいえ初陣がこんな事になるとはな……

自身も犬のキグルミの状態で、巨大な犬(のキグルミ)と化した量産型キャバリアを見ながらしみじみと呟く
いや、キャバリアって要するに兵器な訳で。兵器に可愛らしさは別に必要ないのでは?

確かにキャバリアを仮装させるには大変だったろうし、そういう意味では感謝しているが
……キャバリアに乗るなら俺が仮装する必要ないのでは?
犬猫の問題じゃなくてこの状況そのものに疑問を抱かずにはいられない



●E、E、E
「エディ、エディ。――エミールもいないし」
 曇天。
 青年エーリッヒはため息をつき、天を仰いだ。

 空には、手が届いた試しがない。
 その先の宇宙に何があるのかも知るよしもない。
 けれど、青年は知っていた。
 死んでいない間の時間を、彼らは生き続けるのだ。上を見ても、下を見ても、前を見ても、後ろを見ても。死ぬまでの時間を、それぞれが――ただ、生きている。

「だったら、戦って死んだ方が意味があると思った。そうだよね」
 呟いた声には、やわらかな声が返ってきた。
「そうなんですか?」
「あっ……」
 視線を落として、声の主を見る。
 そこには、見たことのない2人組が立っていた。

 2人組は、猟兵のペアである。
 時間を少し戻し――現地に到着直後、青年エーリッヒに出会う前の彼らは、行動指針を語り合っていた。
「元の名前はvictima、被害者という名前の町ですか。縁起が悪いからvを取ったのでしょうか?」
(せめて、これ以上の被害が出ないように)
 青年エーリッヒに声をかけた張本人である大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)は傍らの少年に視線を向ける。背丈の違いから、若干見上げるように。
「仮装姿で敵を倒す、かぁ。ハロウィンってそんな祭だったか?」
 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は自身を見上げる
「おっと、砕けた口調は禁止、禁止。なんたって今のおれ、じゃない私は……「執事」ですからね」
 蝶ネクタイに燕尾服、白黒の仮面で目許を隠し、腕には清潔感のあるトーション、手には気品溢れる銀の盆に乗ったティーセット。
 露天カフェのテーブルに銀の盆を置き、嵐は紅茶を注いだ。テーブルには、瑞々しいフルーツアラカルトとパンプキンクッキー、塩振りの焼きソーセージも添えられて、食欲をそそる匂いを放っていた。仮装に必要な品として持ち込んだ料理の香りに、付近の住人が「金を払うからそれを貰えないか」と声をかけてくる。

「構いませんよね、お嬢様――と、呼べばいいんか?」
 確認するように囁けば、詩乃はふるふると首を横にした。
「私は、困っている人に手を差し伸べる”お助けメイド”です……」
(上手くできるかな)
 不安を感じつつ紅茶が艶やかな色を見せるカップを持て余していると、嵐が「メイド。見える見える」と頷いた。
「なんつーか。秋葉原できゅんきゅんオムレツにハート描いてる系というよりかは、貴族のお嬢さんが皇族のメイドやってる感じ」
「そんな風に見えますでしょうか?」
 せっかくなので、と紅茶を頂けば「作法がきれいだもんなあ」と呟きが聞こえる。続いて、咳払い。演技を忘れていた、と取り繕う嵐は執事としての顔になり。口の中には、紅茶の爽やかな渋みが広がっている。
「お助けメイドさん、とりあえず私のことは「名もなき万能執事」と覚えて頂ければ。動物との交渉、演奏、歌唱、掃除、洗濯、チャイナドレスと何でもござれ、差し当たっては……街に迷い出た猫、エディ様の保護をば」
「では、頼りにしています。「名もなき万能執事」さん」
 詩乃はくすくすと笑い、ユーベルコードを発動する「名もなき万能執事」嵐を見守った。
「万能執事に不可能はありません……茨の迷宮、百歳の夢、其を切り拓く導を此処に!」
 『残されし十二番目の贈り物』。情報収集において絶大な効果を発揮する能力強化技である。

 尾白の鳥が飛んでいる。
 暴走衛星「殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)」が存在するこの世界では、高速飛翔体は撃ち落されてしまう。
(鳥は、のびのび飛ぶんだなあ)
 「名もなき万能執事」嵐が空を見て呼びかける。
「なあ。今話せないか?」
くるりと旋回して降りてくる鳥。テーブルの端にとまり、黒いつぶらな目が嵐を見上げて。
「ご機嫌よう。アタシに用?もしかして惚れちゃったカシラ?」
気取った声で囀った。執事らしい所作を心がけ、嵐は林檎片を恭しく鳥に与えた。
「いんや。猫を探してるんだ。気持ちよさそうに飛んでたから邪魔して悪ぃけど、空からだと色々見えてそうだと思って」
「猫ならアッチにいるわ。御馳走をありがとう、人間の紳士さん」
向こうにいるらしい、と嵐が相方を見ると、相方は青年に声をかけているところだった。
こうして、冒頭のエーリッヒ青年と2人の猟兵のシーンに繋がるのだ。

「自分はエーリッヒ。エーリッヒ、ロンメルです」
 帽子を脱ぎ、背筋を正し両足を揃えて挨拶めいた仕草を見せるエーリッヒ。詩乃は(軍人さんのよう)と心の中でつぶやいた。
「エーリッヒさん。私は困っている人に手を差し伸べる”お助けメイド”です。もしかして、何かをお探しですか」
「よくわかりましたね、まさにその通りです」
「わたくし、失せ物探しは得意です。手伝わせてください」
 青年にとって不思議な出会い。しかし、艶やかな黒髪を靡かせるメイドと言葉を交わすうち、エーリッヒは「この女性は善良な方だ」と確信を得た。それに――話術に長けている。いつの間にか、猫の名前まで語ってしまった。
「エディ様を捜して参ります」
 そう告げて詩乃はメイドスカートの端をつまみ、膝を柔らかく折って恭しくお辞儀をした。
「「名もなき万能執事」です」
 人々に料理とお茶を振る舞っていた「名もなき万能執事」嵐が自然な歩みで隣に立ち、優雅に一礼する。
(……えーと、こんな感じでイイかな?)
(ばっちし。メイドに見える)
(お姫様にお仕えするメイドですか?)
(お姫様でもいいぞ)
(メイドじゃないじゃないですか……?)
 2人は目を合わせ、こっそりと笑った。
「と、その前に」
「少しだけ、お時間をくださいね」
 執事とメイドが微笑んでテーブルで待つ人々に料理を運ぶと、エーリッヒは感銘を受けた様子で給仕を手伝った。
「先行き不透明な折にこのような奉仕活動、なかなかできるものではありません。自分は貴方たちを尊敬します」
 尊崇の念を真っすぐ伝えるエーリッヒ。エーリッヒを知る者たちがテーブルを巡る彼に声をかけている。
「エーリッヒ。親父さんの具合はどうだい。彼ならテロリストをなんとかしてくれるんじゃないかと思うんだ」
「はあ。しかし、あいにく父は先日息を引き取りまして」
「なんてことだ。それは残念だ……矢張り、俺たちはもう終いか」
「叔父さんはどうした。フェリックスは」
「はあ。叔父は忙しいようで」

(大丈夫かな?)
(うーん)
 アイコンタクトをしつつ、執事とメイドは一礼してカフェを後にした。
「それでは、皆さま。お食事をごゆるりとお楽しみください」


●道化、ナスターセを釣る
 2人組の猟兵がエーリッヒと縁を結んでいる頃。露天カフェの南に位置する墓地に別の猟兵が転移されていた。
 木で組まれた粗い囲いの中に、墓石が並んでいる。
「つまり肝要なのは背景を推測しようのない素っ頓狂な姿、と」
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)が墓地を横切り、専用トライクを転がして量販店に向かっている。愛機は雲間から控えめに差し込む陽光を浴びて、ロイヤルブルーのボディに柔らかな艶めきを見せて煌めかせている。ゆらゆらと反射する蒼炎の光は、ルパート自身が発するものだ。
 その耳には、現地民と思われる少女の声が届いていた。
「カメリアの民をお守りください……」
 視線を向ければ、頭に白い布を巻いた少女が十字を刻む墓石に向かい、膝をついている。野花が墓に備えられているのは、少女によるものだろうか?
(先祖に祈っているように見えるな)

 祈るしかない状況。
 あの少女を安心させてあげなければ――そのためにも、まずは仮装だ。
(今回は、正体がバレてはいけないからな……)
 ルパートは決意をより強いものとして、量販店に向かった。
 曲がり角を曲がって。
「うっ」
 思わず呻く。
 長い行列ができている……。

「失礼。これは一体?」
 近くの男に問えば、「長期孤立に備えて生活必需品を買い占めてるんだよ。テロリストのせいで、店側が今後継続して仕入れができるかもわからないからね」と肩を竦められる。
 疲労を色濃く表情と全身に滲ませて猫背気味に辛うじて立つ老人。後ろで項垂れて座り込む若者。泣き止まない子供をあやす母親……「だめよ、騒いだらだめよ」ちらちらと窺う先には、恐怖の象徴めいた物言わぬ『ザカリアス』。

 愛嬌のある明るい声が響いたのは、その時だった。
「やあ、僕はトリィ! お菓子はいるかい?」
 人々の視線が一瞬で集まる。突然その場に出現したのは、珍妙な大道芸人だった。下半身は機械の白馬。上半身は目の焦点があってないブサイクな馬の着ぐるみ。すれ違いざま、ルパートに巨大な毛布の塊めいたものを押し付けて。
(芸人。いや、正体見切ったり。トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)だな)
 ルパートが一瞬で正体を見抜く。無論、名を呼ぶことはなかったが。

「ハローウィーンは、ウェオドラのチョコレート!」
 言いながら派手に跳躍し、宙返りを見せると機体に飾り付けたお菓子の飾りがキラキラと輝き、着地すれば拍手喝采。
「ママァ! おうまさんだよ!」
 子供が無邪気な声をあげた。差し出したちいさな手に、チョコレートが乗せられる。
「ウェオードラ♪ ウェオードラ♪ プリンセスも夢中のこの笑顔!」
 笑顔のおじいさんの絵が描かれた包装紙のチョコレートに、子供がおおはしゃぎ。この間に毛布にくるまれた物資を獲得したルパートが物陰でいそいそと仮装を済ませ、音楽プレーヤーから音楽を流して加わった。

「ママァーーーー!! なんかきたぁ!」
 子供が指を差して素っ頓狂な声をあげた。もはや絶叫である。やたらカラフルな長髪のカツラを鎧兜の上から装着し、アポカリプスヘルのレイダー達が着るような刺付きジャケットを鎧の上から着込んだルパートは、ギターを抱えて――弾く様子はない――カラースプレーを勢い任せに吹き付けてトライクを公開大改造し始めた。

「彼は――彼は、」
 紹介しようとしてトリテレイアが言葉に詰まる。瞬間思考がアンサーを探し、果てなき1秒を彷徨った。
(ギターがあるということは?)
「彼は、愉快なギタリストだよ」「シンガーだ」
 困っている気配に気づいたルパートが同時に言葉をかぶせた。
「……」「……」
 見つめ合う一瞬。微細に過ぎる小声は、トリテレイアなら高精度センサーで拾うと計算した声。
「仮装のテーマはずばり「メタル系シンガー」だ。テロリストどもの束縛を叩き破る痛快な悪戯(ロック)を仕掛けて進ぜよう」
 馬の着ぐるみの頭がぎこちなく頷いた。
「ギターを弾き、歌を歌われるのですね」
「いや、ギターは叩き壊す予定だ」
「えっ」
「ん?」
「……」「……」
 沈黙。

「ママァ、お店よりショーがいい」
「こら」
 行列が進み、子連れが店の中へと入っていく。
 名残惜しそうな子供の視線を感じながら、ルパートはアクセサリを燃える鉛で溶接した。ギターの前には、いつの間にか投げ銭が置かれていた。
(まるでギターへの供え物だ)
 その耳に、トリテレイアが情報収集する声が聞こえる。
「後ろの無口なテレイアと一緒に活動している芸人なんだ。この街に来て仕事を受けて直ぐに活気が無くなって……どういう事なの?」
「テレイア? ああ、彼か」
「う……うん? ううん、ほら、着ぐるみの中にもう一人いるんだよ」

「ミハイ兄さん! あっちに可愛い女の子がいたよ。カメリアンガールの口説き方知ってる? オーバー?」
「ラドゥ、お前には無理。オーバー」
「ミハイ兄さん、ウェオドラのチョコレート貰えるって。サーカスだよあれ、サーカス。やば!」
「ラドゥ、カメリア野郎に怒られるぞ」
「ミハイ兄さん、ミュージシャンがいるよ」
 やり取りはどちらも少年の声だ。
 地面を振動させて、『ザカリアス』が2機接近する。
「キャアアアアッ!」
「ワアアアアアアアッ!」
 人々が逃げていく。

 センサーが近づいてくる少年の声を感知する中、トリテレイアは回想していた。人間であれば、遠い目をしていただろう。
「仮装……仮装……身体のシルエットその物を変えてしまえば正体がバレる事もありませんね」
 作戦を思い付いた自分。
「ロシナンテⅡ、ドッキングモード」
 トリテレイアが下半身をパージし、機械白馬「ロシナンテⅡ」と合体してケンタウロスのような姿になり。
「ハロウィンの飾りやお菓子の試供品を取り付ければ何処かの企業の催しと見られるでしょう……」
 作戦は成功している。
「テロリストだよ。この街がテロリストに制圧されたんだ。僕たちは『サザンクロス同盟』の南端『イストロメニア』ナスターセ家の者だよ」
 情報も提供してもらえているではないか。しかも、自己紹介までしてくれている。
「い、いけません。正体を明かしては。外交問題になりますよ……」
 思わず素になってテロリストに忠告するトリテレイアであった。
 コックピットから飛び出して猫のように着地し、両手を差し出す南瓜仮面の少年テロリストは無垢に微笑む。
「チョコだーいすき! ちょーだい! 2人分」
「1人分でいい。くれなかったら撃つぞ」
 弟の後ろで兄が『ザカリアス』の銃口を向けている。その殺意は本物のように感じられた。


●スクール・トゥデイズ・you-and-me
 緊迫した店舗前。
 同時刻、街の隅の学校では数人の猟兵チームによる平和な時間が過ぎていた。

 非日常の現在、当然休校だろうと踏んで入ってみた猟兵たち。現場は警備員すらいない有り様であった。
 猟兵たちが「仮装準備に良い」と結論を出して集合したのは、体育館だ。天井がかなり高く、キャバリアが直立しても余裕がある。しかも、ワンタッチでキャバリアが通れる外への道まで開ける機能付き。

 そんな異様に広い体育館に集まったチームメンバーは、3組のペアで構成される6人だった。
 ペア【狐剣】、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)とオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)。
 ペア【相反】、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)とムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)。
 ペア【夜銀(仮)】夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)。

 それぞれのペアは軽く挨拶を済ませるのと、広い空間を活かして活動空間を分け、キャバリアを設置して仮装とデコ活を開始した。

 やわらかな尻尾をふわふわと揺らし、妖狐のいすゞがオブシダンが余裕たっぷりに宣言するのを見ている。
「完全に理解したよ」
「理解したっスか~」
 フードで隠れた顔を見上げるようにして合いの手よろしく相槌を打ついすゞ。
 そう、2人はこれから仮装をするわけで。
 衣装を合わせていくわけで。
 どんな衣装を着たいか、着てもらいたいか。
 並んだ2人がどう見えるか……、もちろん依頼をこなすに当たって実用的であるのは大前提。
「……どうしようタヌキのペイントでもする?」
「却下っス。でも、顔は隠した方が良……」
 言いかけた声に飄々とした声が被さった。
「僕だと想像もつかないくらいヤンキー仕様にすれば良いんだね?」

「え、やんきー?」
 今なんて? 繰り返すいすゞ。
 黒い外套が背中を見せて段ボール箱を漁っている。
「センセ?」
「これと、これと、これも。あーこれいい」
 オブシダンが宝物を漁る。フードの下でその瞳が少年のように煌めいているのを感じて、いすゞは体育館の床に座り込んだ。背中をそっと預けるのは、これからデコられる漆黒のキャバリア『オブシディアンMk4_ソードカスタム』。
 寄り添うようにまわりに集まり、じゃれあっているのは真っ白な毛並みに紅のアクセントが印象的な管狐たちだ。膝に乗る子をよしよしと撫でていると、ふいに誉め言葉が降ってくる。
「管狐に囲まれてる奥さんが僕の癒しだよ。キャバリアを一緒にデコってくれたらもっと癒されると思うんだ」」
「いくらでも癒してあげるっスよォ……! ……はっ」
 満面の笑みで答えたいすゞが一拍置いてテンションを下げる。
「……はいはい、きゃばりあの仮装も手伝いますよ」
 狐の目。そんな表現がよく似合う釣り目が半眼になってユーベルコードの使い手を見た。
「僕はこれを着るから――何この裏地すごい派手」
 ステッカーの山を築き終えたオブシダンは無駄に丈の長い学生服に着替え、床に毛足の長いラグを敷いた。特等席を言わんばかりにぽふぽふとアピールして。
 わー、すべすべ、ふわふわ。ぬくぬく。気分がアガる。そして気付く。
「エ!? と、とっぷく!? センセに合わせるとあっしも!?」
 同時に遠くから少年の声が聞こえている。
「なんであるかこのコスチュームは!?」
「? ……あっ」
 一瞬『それ』を見てしまったいすゞ。一方、オブシダンはマイペースだ。
「唯我独尊って何」
 楽しそうに布をめくり、翻し、揃いの衣装をさりげなく置く。
「ワ、ワー気分アガってきたっス~、これはデコ後のお楽しみにするしかないっスね~」
 いすゞはちょこんとラグに座り直し、傍らに置かれたステッカーの山に手を伸ばした。そして、気付く。一筆入魂。そんな4文字が想起されるようなふとましく勢いのある毛筆の文字に。
「え?」
 思わず声が出る。
「え?」
 どうかした? とオブシダンが駆け付ける。「何もおかしなことはないよね」そんなオーラがありありと感じられるが、いすゞは霊符を持つように指にステッカーを挟め、オブシダンに見せた。
「指輪がよく似合ってるよ」
 へらりと笑ってオブシダンがユーベルコードを使ってくれた。
「そうでしょうそうでしょう、

 抗えない……」
「知ってる」
 本気度がよくわからないトーンで言う声。
「自慢したくてさ」
「ユーベルコードを?」
「可愛い君を」
「くっ……」
 オブシダンの口がよく回る――いすゞから贈られたユーベルコード『剣河の弁』を活用して。いつの間にか気合いの入ったキメキメリーゼントになってキメ顔にイケボで――ステッカーの単語を嬉々として読み上げる。
「爆走、韋駄天」
「え?」
「俺参上……え?」
「いえ、未知の物を沢山見て驚いて……俺惨状?」
「え、気に入らなかった?」
「いえ」
「喧嘩上等」
   「喧嘩上等」
「天下無敵」
   「天下無敵」
「夜露四苦」
  「夜露四苦」
 声がやまびこのように遠くから帰ってくる。謎の現象であった。

 リーゼントとステッカーから目を逸らしながらぺたりと丁寧にステッカーを貼り付ける。貼り付けた隣に綺麗にそろえてオブシダンが新しい『騎夜梁愛』と書かれたステッカーを並べた。
「素人質問で恐縮っスけれど何て読むンスか?」
「騎夜梁愛」
「え?」
「騎夜梁愛って書いてキャバリアだよ。わかる?」
 えっ、なにその教え諭すような顔?
「あっ、はい!」
 管狐たちがくるくると尾を巻くようにして舞い、ステッカーを貼るのを手伝っている。

 旦那はというと、子供のような顔で前方巨大ライトを設置して、排気筒にミュージックホーンを取り付けている。
「ライトで圧をかけるんだよ。ああ忘れちゃいけないこのトランペットみたいなやつ」
 パラリラパラリラ~♪
 体育館に謎の音が鳴り響く。ああ、視線が痛い。
「か……カッコイイ……かなぁ?」
「こめんとは差し控えるっスけど、ここはあぽかりぷすへるじゃないっスよ――こめんとしちゃった」
「さすが。世界観を大切にするね」
 尤もらしく頷くオブシダン。そろそろキャバリアのデコり具合も極まっている……いすゞは覚悟を決めてキャバリアの影に作った更衣スペースで仮装を済ませた。

 ペアヤンキー爆誕の瞬間である。
「この目の部分が穴の開いたあいますく、結び目がめちゃ長くて素敵っスね。スカートもめちゃ長っスし。外套も金色の刺繍がお洒落っスね……天上天下」
「うーん、覆面でよくわからないけど表情が固くないかい、いすゞ」
 顎に手を当てて覆面の穴から目を覗き込むリーゼントヤンキー。
「楽しいっスよ……楽しまなきゃ損っスから……やけくそじゃないっスよ」

「大丈夫、似合って」
「似合……」
「ンー」
「言いたい事があるならちゃんと言って」



 体育館、2組目。
 濡羽色の八咫烏(レイヴン)を召喚して、クロウは血塗れの白衣と眼鏡姿に着替えを済ませ、呟いた。眼鏡の奥で夕赤と青浅葱の瞳が強い目的意識を見せている。
「既に街が制圧されてるなら取り返すまでだ」
 華のある青年である。人はまず、その外見を見て彼の印象を決めるだろう。
 ムルヘルベルはそんなクロウを見あげ、頷いた――見上げる彼の心の熱さ、一本しっかりと通った価値観が内面で光放つように思えて、すこしだけ紫の瞳を細めるようにして。
「さて、ワガハイは仕事をする側としては初めてのクロムキャバリアであるが……」

 クロウは眼鏡の縁をきらんと輝かせ、とっておきの衣装を上からぱさりと被せた。元々長マフラーとゆったりとした宝文魔装に体の小ささが際立っていたムルヘルベルが布に溺れるようにして藻掻き、悲鳴をあげる。
「ふわっ!?」
「普段と違うムルが着る服といえばずばり、コレだろ!」
 もぞもぞと首が出る場所を探し、腕を通す場所を見つけるムルヘルベル。
「クロウ! オヌシなんであるかこのコスチュームは!?」
 コスチュームはド紫の特攻服、「エ!? と、とっぷく!?」同じ体育館で遠くからなんか似たような悲鳴が聞こえているが。
「……遠くからなんか似たような悲鳴が聞こえて……」
 視線を向けるクロウ。
 ムルヘルベルがシンクロするように、やまびこのように文字を読み上げる。
「喧嘩上等」
   「喧嘩上等」
「天下無敵」
   「天下無敵」
「夜露四苦」
  「夜露四苦」
「……クロウ?」
「賢者サマが不良……くく」
 クロウはツボに入った様子でムルヘルベルの晴れ姿を鑑賞し、笑っている。
「いやまあ、普段の自分とまったく違うキャラ付けをしなければならない、そういう仕事ではあるのだが〜……!」
「似合ってる似合ってる」
「なんか今、意図せずあちらと合わせ仮装になっているのである」
「よくあるよくある」
 クロウが大きな仕草でジェスチャーを送っている。オブシダンが同じように――楽しそうに――ジェスチャーを返している。
「優しい世界であるな……」
 ムルヘルベルは覆面の妖狐へとなんともいえない視線を送る。ああ、――目が。恐らく今目が合った。今確かに、通じ合うものがあったように思える。気のせいかもしれないが。
  乳白色の髪を揺らして首を振り、ムルヘルベルは気持ちを切り替えた。
「はあ、まあよい。ハロウィンということで納得するのである」
「俺のイヤーカフ貸してヤんよ」
 あちらとこちらのジェスチャー遊びにハマっていたクロウが面倒見の良い兄のオーラを全開にして完成度を高めてくれる。
「今回、俺は”紳士的”に振る舞うぜ――演技の練習しとこ」
 と、そんなことを言いながら。


 さて、3ペア目。
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は調達したキャバリアの外部装甲にそっと手を当てた。
「これがキャバリアか」
 搭乗権を得たキャバリアは、『ロンメルの騎士シリーズ』と呼ばれるカメリア勢キャバリアだ。体育館に集う猟兵たちが自由に選択し、自分好みに改造し、名を付けて持ち帰りまでできるという。
「この1機、初期名は『サビー(sabie)』、剣を意味するのか。こっちは『ノビドメ……野火止?』これは、『サルケットス』……『ナウス』、『リングリル』」

「普段の自分なら絶対にしないこと、ってわけでキャバリアを借りてきたけど……このままだと少し寂しいねぇ」
 隣に並んでキャバリアを見つめ、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)は銀の翼を重く擦るようにしながら魔導書の装丁を静かに撫でた。
「ふわふわ、もこもこの子がいいかな」
 呟く声。拘りのある美しい術式が展開されて、魔術師が魔術を行使する。鏡介の落ち着いた黒い瞳はその姿を見つめて、「機能美」という言葉を思い出していた。
 己を知り、世界を知り、全てを知る。剣術の道と魔術の道は異なれど、どこか似た神髄がある。美しい魔術師は「僕とは隔絶した身体能力の差」と語ったが、眼前で奇跡のような術が行使される時、鏡介もまたそれと似た感想を抱くのかもしれなかった。

「この着ぐるみ、大きめの子だから動きに合わせて動いてくれて負担は少ないし着心地いいだろう?」
 夜に微睡みを誘うような色合いの睡蓮の花が所作にあわせて揺れている。犬の着ぐるみ姿になった鏡介は左腕をあげて右手で毛並みを撫でた。しっとり、ふわふわの高級感ある手触りだ。
「着替えてくるよ」
 更衣スペースに向かうアンは、心なしか、常は重そうな足取りが軽やかだ。着ぐるみ以外にも大量のファンシーなぬいぐるみを降らせ、ふわふわもこもこ空間ができあがったからだろうか。
 視線を感じてか、ちらりと振り返るアン。
「これでも女の子だからね、ぬいぐるみだって降らせるさ」
 そう言って手をゆらりと振り、姿を隠す。

 鏡介はぬいぐるみに埋もれるようになりながら刀を持つキャバリアに近づいた。体育館の少し離れた場所で、クロウも自身のキャバリアを選び終えて操縦の練習も始めようとしている――、
「着ぐるみでキャバリアに乗るのか」
 鏡介は操縦席に収まる犬の着ぐるみ姿の自分を想像した。

「お待たせ」
 アンが戻ってきたのは、少し時間がたってからである。
「キャバリア、決めたんだね?」
 笑顔を浮かべ、愛らしい着ぐるみ姿のアンがキャバリアに歩み寄る。ごつくて巨大な鋼鉄の塊と着ぐるみのアンが並べば、――本人に「かわいい」と告げれば、「綺麗」と伝えた時と似たような微妙な反応を返すのだろうか?――鏡介は思案した。そこに、驚くべき発言が衝撃を与える。
「あ、そうだ、キャバリアにも入れるくらいの大きなぬいぐるみを呼び出して着せよう、それなら随分と見栄えが良く、さらにかわいらしくなるはずさ」
 自身もふわふわのお揃い着ぐるみ姿になったアンが妙案を思い付いたという風情で緩く笑む。
「このキャバリアを?」
「このキャバリアを」
「女の子が乗るんだしちょっとしたかわいらしさは必要だよね、夜刀神君?」
「かわいらしさ……」
「夜刀神くぅん?」

 みるみるうちに魔術で仮装するキャバリア。
 ふわふわのもこもこに埋もれるキャバリアが、するすると柔らかな着ぐるみを着せられていく。
「事件は放っておけないし、解決に協力するのに異論はないさ」
 足元は強く踏み込んでも、ふっかふかのクッションを間に挟んだようにふわっとするんだろうな。
「それに俺も一度くらいはキャバリアに乗ってみてもと思っていた」
 黒い瞳から未練が溢れる。
「そして、キャバリアに乗るなら仮装が必要だとも聞いた」
 刀を握る手が肉球つきのふわもこハンドになっている。
「とはいえ初陣がこんな事になるとはな……」
 自身の肉球つきのふわもこハンドを見比べるようにして、鏡介はしみじみと呟いた。

「……なんだか不服そうだね、夜刀神君?」
 アンが独特の瞳で覗き込むように鏡介を見つめた。鏡介はそっと目を逸らし、瞬間思考を巡らせた結果やはり目を見つめ返すことにした。
「いや、キャバリアって要するに兵器な訳で」
「うん」
「兵器に可愛らしさは別に必要ないのでは?」
 アンは周囲に積まれたぬいぐるみを示し、軽く口を尖らせてみせた。いわく、かわいいふわもこに適応すると行動成功率が上昇する魔術だってあるのだから、と。
「夜刀神くぅん、きのうび、機能美」
 アンは知っているのだ。
 情動の力を。それを引き出す「魅せる力」を――。
「キャバリアの場合は、機能美どころか、機能を阻害してしまうように見えるよ」
 なおも反論する鏡介。口調は落ち着いているが、アンは首をかしげていた。
「しょうがないじゃあないか簡単に用意できるのはこの着ぐるみぐらいだったわけで」
「確かにキャバリアを仮装させるには大変だったろうし、そういう意味では感謝しているが……キャバリアに乗るなら俺が仮装する必要ないのでは?」
「……犬より猫の方がよかった?」
「犬猫の問題じゃなくてこの状況そのものに疑問を抱かずにはいられない」

 気づけば、周囲に他の猟兵たちが集まって様子を見ている。
「どうしたんだい、ヤンキーになるかい?」
 オブシダンが優しく提案しかけた時――、

「何者だ!」
 体育館に現地民と思しき男がやってきて、異変に気付き声を荒げたのであった。


●仰げば尊く、蛍は光れと彼らが叫ぶ
 所変わって、体育館の外。

 雲の切れ間から蒼天が覗くようになってきて、世界が明るさを増したように感じられる、そんな中。
「見つけました、エディ様です」
 メイド詩乃と執事嵐がエディを抱っこしてエーリッヒに渡している。

「エディを見つけてくれてありがとうございます!」
 エーリッヒは何度も頭を下げ、2人を家へと招待した。
「母さん、今帰ったよ。エディも見つけた」
「おかえりエーリッヒ。フェリックスさんもエミールも、まだ帰ってこないけれど」
 エーリッヒの母親が事情をきき、メイド詩乃と執事嵐に礼儀正しく頭を下げた。

「お母様ゆずりでしょうか、エーリッヒ様のきびきびした所作は」
 淹れてもらったどんぐりコーヒーを味わいながら詩乃がにこにこと微笑む。嵐は膝に乗ってきたエディを執事言葉でもてなし、撫でていた。

「父さんと叔父さんが軍人だったし、自分もこう見えて軍籍があるので」
 エーリッヒはそう言って、父の十字勲章を誇らしげに見せてくれた。
「フェリックス叔父さんはきっと、学校だよ」
 そう呟いて。


 ――学校では、噂の『フェリックス叔父さん』が仮装演技の練習台になっていた。

「君たちはなんだね、不法侵入者……テロリストの一味か」
 フェリックスの眉間に深い皺が刻まれている。

「なるほど完全に理解したよ(冒頭に戻るデジャヴ)」
 オブシダンがリーゼントを振り、荒ぶるヤンキー魂を魅せながらキャバリアを鳴らせた。
「ねえ相棒、君はどう思う?」
「あっしに何を言ってほしいんスか」

 ♪パラリラパラリラ~

「合図ですね」
 クロウが眼鏡をクイッとした。
「!?」
「合図です」
 ムルヘルベルは一瞬かなり困惑した表情を浮かべたが、高速でセリフをまくしあげた。
「お……おうおう! チョーシくれてんじゃねーゾ? テロリスト君よお!」

「テロリスト君とは私のことか!? な、何を言っているんだね君は」
「ワガハイはハロウィン・ヤンキーズでありテロリストではないのである」
「そんな名前だったんだ」
 思わずつぶやく鏡介(とても可愛い犬の着ぐるみ姿)。
「ヤ、ヤンキーズ。その着ぐるみの男女もか」
「僕たちはヤンキーズの親戚でファンシーズだから」
「そうだったのかアン」
「えっ、そうだったんスか」
「真実はいつも一つなんだよ、いすゞ。僕の奥さんはリアクションが可愛いんだよね。ヤンキーボイスを一言どうぞ」
「そ、そんな」
 混乱する現場。一度に喋るな、と怒鳴りつけてフェリックスは禿げかけの頭を掻きむしった。
「ええい、状況を整理するぞ。まず君たちは夫婦なのかね」
「そう見せかけて実はそうなんだ」
「ますます混乱する……」

「廃棄予定のキャバリアがこんなに。見知らぬキャバリアも……? それに、その改造はなんだ?」
 フェリックスはキャバリアを視界にとらえて驚愕している。

 その間にムルヘルベルは一息ついていた。
「難しいな、これ……! クロウ、オヌシの方は大丈夫であろうな?」
「全然甘いですよ、ムル君。遠慮せず威圧していかないと。ほらもっともっと」
 ビシバシ指導するクロウ。
「あァ……この話し方久しぶりで肩に変な力が。体が先に動くし気ィつけよ」

「なんということだ。理解が追い付かん」
 体育館の隅で途方に暮れるフェリックス。

「この世界は俺も不慣れだ。キャバリア乗ったコトねェし……準備は念入りにいこうぜ」
「ワガハイはキャバリアはちと扱えそうにない。とはいえ手はある」
「……ファンシーズか」
「夜刀神君、ファンシーズは2人だから責任重大だね」
「責任……なんの責任だろうか」


 ルパートとトリテレイアがテロリストにチョコレートをせがまれ、体育館のファンシーヤンキーズがフェリックス叔父さんのSAN値を削り、メイド詩乃と執事嵐はロンメル家でどんぐりコーヒーを味わいながら猫を抱っこして勲章を自慢されている。

 そんなタイミングで、演説が流れたのだった。
 
「――荒廃した大地の嘆きが聞こえるか。プラントを奪い合い、争いを繰り返し、気付けば緑は減り、大地は汚染され、川が濁り、大気が汚染されて空の星は遠くなった。野生動物たちはどこに消えた? やせ細り、棲家を追い遣られ、絶滅の危機に瀕しても話題にもされない。平和のためと謳いながら日々を生きる土着の民を平然と踏み躙り、生活の礎たる大切な家を壊し、川に毒を流し、油を撒いて森を焼く。殲禍炎剣を利用して一片を焼き払おうとまで画策するんだ。邪悪だよ、人という生き物の本性は。軍人どもはイカれてんのさ。野戦とあらば嬉々として砲弾を撃ち、家を壁にする。撃墜王は撃墜した数を誇り、死の商人は潤い、敵国の死者の数も自国の死者の数も書類に記載する数字でしかない。人も自然も、国だって、滅ぶのは一瞬だよ。死んだ家族は戻ってくる? 自然が元に戻るのに何年かかる? この岩山が緑に包まれるのにどれくらいの月日がかかるのさ。
 カメリアは、和睦を結びながら武器を隠し隙を窺っているんだ。僕は知ってるぞ! 親父が隠しているんだ、とっておきの戦力を。
 他人の命を軽んじる奴から順に殺していけばいい。みんなが自然を、他人を思いやって大事にできるようになるまで殺していけばいい。他人を大事にできる人を残しておいて、様子を見る。人のサガとしてどうしても争いがなくならなくて、他人を大事にできなくなる習性があるってんなら、それがわかった段階で残りも殺す。全部殺して人間がいない世界になればいい。それが世界のためさ……!」
 まずはここから始めよう。
 少年の声がそう言って、状況が動き出す。

「ラドゥ、エミールが動いた!」
「チョコがまだなのに」
 ルパートとトリテレイアの目の前にいたテロリストの兄弟は仲間の演説を受けて行動を開始しようとして。

「なんだねこの子供じみた演説は。しかも声に聞き覚えがある」
 フェリックスが唸る中、体育館のファンシーヤンキーズが「ファンキーヤンキーズはテロリストと戦うために出動するから学校は卒業します先生!」「安心してください先生!」「長生きしろよセンコウ!」「えっこの……何?」「ほら、乗ろうこのビッグウェーブに」「これが初戦なのに」「夜刀神くぅん?」「名前は正体がバレてしまうから呼ばない方がいいのでは(冷静)」♪パラリラパラリラ~と謎の声明を残しまくって外へと飛び出した。


「あの声は、エミールだ」
 蒼褪めるロンメル家の人々を前に、詩乃と嵐が顔を見合わせる。


 街の中心部では、地面がぱかりと口を開けて巨大な砲身が姿を見せていた。地下に秘されていたのであろう禁断の対宙兵器だ。太い砲身がせり上がり、異常事態に人々が悲鳴をあげパニック状態に陥った。
「『ロンメルの弓』だ! 廃棄されたはずなのに!」
「だからこんな街は離れましょうって言ったのに……」
 死を恐れて震えあがる人々。一方で、信仰に似た瞳で兵器を見る者たちもいた。
「ああ、これで死ねる。――相手が『サザンクロス』でないのが遺憾だが」
「『英雄死せども志は死なず』カメリアは敵に屈するより誇りを選ぶと、周辺諸国に知らしめよ」

 エミールの声が山間に響き、木霊する。
「親父は最後の最後でビビっちまったのさ。俺は違う。成し遂げてみせるよ――システム、完全制御<フルコントロール>カウントダウン……」
 エミールの『ザカリアス』を守るように岩壁の向こうから続々と『ハロウィン・ドールズ』の援軍が姿を見せ始めた。『ザカリアス』で構成を統一された軍団だ。南から5体、東から10体、西から3体……、

 この時、猟兵たちは即座に行動を開始していた――歴史書には、そのように記されている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『CAV-06『ザカリアス』』

POW   :    RS対キャバリアバズーカ
単純で重い【ロケットランチャーから放たれたロケット弾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    RSマシンガン
【自機が装備するRSマシンガン】を向けた対象に、【銃弾の掃射】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    局地戦仕様
自身の【オーバーフレームもしくはアンダーフレーム】を【今いる戦場に最適なフレーム】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 CAV-06ザカリアス。
 ハロウィン・ドールズが動き出し、『ザカリアス』が地表を駆ける。
 地上で、地下で、猟兵たちが行動を開始していた。

「兵器は我が子のように可愛いのだと、叔父さんが言ってました」
 戦乱に終わりを。
 願いを籠めた条約。
「その影響力や殺傷力を知るからこそ、戦争は嫌いなのだと言ってたんです」

 緑の瞳が物言わぬ十字を見つめて、呟いた。
「終わらぬ。カメリアが武器を捨てて丸裸になっても、終わらぬ」

「5機はエネルギーを注ぎ続けるから、他の機体が守ってよね」
 大地を駆けて、仮面のテロリストが未来を見ている。
「地下のシステム室、無人? ちゃんと抑えてくれよ。あっさり止められたらカッコワルイからさ」
「もうオーバーって言わないの?」
「言わなくても会話できるから、言わない」

 秋の終わり。冬の始まり。
 もうすぐハロウィンがやってくる。
「民を思う気持ちを持ち、どんなに祈っても奇跡は起こらぬどころか」
 ハロウィンには、なにをしよう?
 祭りに行って、屋台の店を巡って紙皿に乗った料理を頬張るのもいい。
 派手な仮装をして、写真を撮るのもいいね。
 普段は食べないようなサイケな菓子をプレゼントしてあげる。
 悪戯も、忘れないで――、
 秋の終わり。冬の始まり。

 All the fireworks Light up the sky. Lets go trick or treating.
「……ハッピーハロウィン」
 花火は空を明るくする。さあ、悪戯に出かけよう。

 猟兵たちはその時、仮装して戦場にいた。

 銃を構えて、待ち伏せするのさ。
 岩山に兎が跳ねて、猟師がほうら、撃ってしまうよ。
「皆、死んでしまう。止められぬ。助けられぬ。何もできぬ……わらわは、無力じゃ」
 ――Trick or treat、さあ、戦争を始めよう。
ルク・フッシー
くっ…まだ操縦がおぼつかないのに…!
でも、戦場で命がけなのはみんな一緒です。戦い方はわかるから、ボク、戦います

幸いボクは秘密基地にいます。だから砲身を壊すために攻撃を加えます!これさえなければ、作戦は破綻するはず…!

ボクの魔法を合わせます、シュベール!
機体に魔力を流す事で、魔法の紋様を浮かび上がらせます。それによりシュベールに【切断】の力を与えます
この加護を受けた剣で、何度も斬りつけて、砲身を切り開きます!

痛い…熱い…苦しい…こんなに苦しい時に戦いたくない、です。だから普段は隠れるけど…
ボクが逃げたらシュベールは戦うことすらできません。それは…とても悲しい事ですから



●少年の剣
 キャバリア『シュベール』の外界センサーがルクに情報を伝えている。
「くっ……まだ操縦がおぼつかないのに……!」
 ルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)が焦燥濃く砲身に向かって操縦桿をかたく握り締めた。
(悪いことばかりでもない……ううん、むしろ)
 地下に、砲身のそばに猟兵がいる。それはアドバンテージなのだと少年は緑色の瞳の奥で素早く思考を巡らせた。
 少年は、学生で。
 真面目で、自分が「そうだから」、他者の「怯えるこころがわかる」。
 少年は、努力家で、たくさんの知識を身に着けていて。
 怖がりながら、逃げずに戦い続けてきた「戦歴がある」。

 ――士気を知っている。

 するべきことが、わかる。できる。
「近くのみなさんは、離れてください。安全な距離に」
 呟いて、叫ぶ。


「ボクが!」
 凛とした声。それが望ましいと思いながら、だけど声はちょっぴり裏返ってしまった。
 けれど、必死に叫んだ声は、中遠距離の機体外部に外部スピーカーを通して響いたはず。
(恥ずかしいとか、怖いとか、そんなのよりボクはボクにできることをしたい、人を助けたい、みんなのために動きたい……!)
「ボクは地下に、秘密基地にいます!」
 ルクはスピーカーの音量を上げた。
「だから砲身を壊すために攻撃を加えます! これさえなければ、作戦は破綻するはず……!」
 地上、街にいる全ての猟兵や民に聞こえるかは、わからない。けれど、聞こえる者が多ければいい。ルクはそう願った。
 パニックを抑えたり、安心させることができたり、協力者が出たり……、もしかしたら邪魔しに来る敵もいるかも、という恐れが頭の隅でチラついて、少年はギュッと目を瞑って首を振った。

(怖い)

(――でも、逃げない)

 左手で引き寄せるようにするのは、キーが整然と配置された操縦盤。
 目を開けて入力するコードは、繰り手(パイロット)の魔法をキャバリアに通すための指示(オーダー)。状況が進むにつれて背部格納魔力変換路と魔導変換アクチュエータに気付いたルクは息を呑み、声をあげた。
「ボクの魔法を合わせます、『シュベール』!」
 その声と同時に機体が杖を抜き、構える。
 脳波によるブレイン・マシン・インターフェース。入力意志、出力する魔法エネルギーは、ユーベルコード『紋様描画(エンチャント・ドロー)』をキャバリアとして発動する。
「……」
 少年は震える両手に気付く。硬く握りしめる竜種の手は強張って、指が自分の指じゃないみたいだ。
 潤む瞳、グッと歪み、への字に結ぶ口元。
 ボク、ボクは、やらなきゃいけないのに。
 やると決めたのに、やっぱり怖がってる。

 ――誰かを助けたいと思う気持ち。

 ――力になりたいという想い。

 それが原動力になって、強化魔法を少しずつ、自分なりに改良してきた。
 ルクは怖がりだ。
 それを自覚もしている。
 ルクは自分の努力も知っていた。
 だから、こんな時に涙を流す自分を――叱咤する。

「実力を発揮すれば、ボクならできる、できるから。……やります!」
 ドラゴニアンの全身から魔力がふわりと光を帯びて目に見えるほど高まり、パイロットスーツから伸びた回線を通して機体に浸透する。
『シュベール』のフレーム表面に光が浮かび上がり、滑らかに絵筆を遊ばせたようにするすると軌跡を描いて魔法の紋様となる。杖を背に格納し、ルクは――『シュベール』は抜剣した。

「ああ、情報量が多いです。それは、複雑な動作を要求されるあなたを制御するため、監視するために必要なのですね」
 でも、それならボクと相性はいいですよ――少年はキャバリアに微笑んだ。
 ボク、情報収集は得意だから。
 それに、学習するのも得意だった。キャバリアの操作が時を経るにつれ堪能になっていく。わかっていく。それは、ウィザードが世界のことわりを知り、世界に働きかけるすべを知るのに近い感覚。

「やああああああああああっ!!」
 脚が前に出る。大胆に踏み込む。重心が移動し、勢いを活かすように腰部をひねり肩関節と肘が動く。キャバリアの疑似機械筋肉が力強く剣をもちあげて、手首で勢いを増すようにしながら――振り下ろす剣閃は地下空間に烈風を起こした。
 金属が衝突する派手すぎる大音、機体内部の駆り手に伝わる手応えと衝撃、視界一杯飛び散る外部視野の火花。
「くぅっ、」
 もう一撃です、と同じ個所を狙い斬りつける。
 ジョイスティックを引き、定格負荷を超えてパワーをあげて、大重量の機体を押し込むように激しく。

 砲身に集まるエネルギーが漏れて、鉄の塊が光熱の化身のように見えてくる。『シュベール』も限界を超えた高負荷と砲身からのエネルギーによるダメージでパイロットに危機を告げている。
 警告音はとうに止めていた。機体内部の温度は異常に高まり、モニターに示される数値やデータも損傷度合いや冷却限界を乗り手に伝えている。
「痛い……熱い……苦しい……」
 滝のように全身から汗を流し、霞んで閉じてしまいそうになる目を必死に開けて、ルクは戦った。
「こんなに苦しい時に戦いたくない、です。だから普段は隠れるけど……」

 ガクリと膝をつき、キャバリアが一瞬沈黙する。
 けれど、視野に映るキャバリアの手がまるでヒトのように地面に震えながら状態を支えて、剣を拾って。
 立ち上がる。

 ボクの脳波がそれを望んだから、それともあなたがそうしたいから?
 朦朧として今にも倒れそうな意識には、それもわからない。

 光が支配する外界から機体という鋼鉄の身が守ってくれている。
 見えなくても数値が教えている。剣を構えて――前に足を踏み出した。

「ボクが逃げたらシュベールは戦うことすらできません、から」
 それは……とても悲しい事ですから。

「ボクはきっと、あなたより先に倒れません。逃げることもしません」
 きっと今なら、勇者みたいな顔をしているだろうか? ルクはぼんやりとそんなことを考えて――刃こぼれしたキャバリアの剣に意識を向けた。
「もっと」

 もっと。もっと。もっと。もっと。
 朧な意識を狂ったように集中して、魔力を送る。
「強く、強く、つよく、つよく」
 強く――強化する。

「まだ戦えます、まだ負けません!!」
 だから、存分に――ボクの『相棒(シュベール)』。


 ああ、これはボクでないみたいで、……でも、これもまたボクなんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
Hanon-60……南瓜の重量二脚で到着です
「ハッピーエンドをお望みの方から順に前へどうぞ?」
主様の様に余裕と自信に満ちて。参ります

街に被害を出さないよう敵の攻撃は回避せず受けます
私の機体は鈍重な分、装甲が堅いので。加えてEP思念式防御機構で【オーラ防御】です
慌てず騒がず、笑みすら湛え「流石にあと何千万発も命中してはポタージュになってしまいますが」

こちらからは『想音色』。敵に蝶の光を放ち【マヒ攻撃】
動きを鈍らせ、BS重力砲で手足を狙い【部位破壊】で無力化させます

無限の選択肢・可能性……未来。命とは、その全てを生み出すもの。潰させは致しません
オブリビオンマシンに掛けられた魔法を解いて差し上げます



●――Stadtgebiet
 ――メインシステム、戦闘モードを起動。

 雲間から差し込むその日の陽光は、どこか神話を描いた絵画のような厳かさを見せていた。
 照らされる南瓜型の帽子が存在感を発揮して、敵機を引き付ける。

 メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)の『Hanon-60』――主より賜った練習機。黒い単眼の無骨な重量二脚がテロリストの前に立ち塞がっていた。一見してわかる重装甲、カメリア勢とは異なる気配の謎のキャバリア出現に敵パイロットたちが声を掛け合っている。
「国籍アンノウン、未知のキャバリアだ」
「あいつ、おせえぞ! 足で攪乱して装甲を削ってやれ」
 警戒するように後背部にスラスター光を吹かせ、『ザカリアス』が隊列を組んで地面を滑るようにして旋回する。医療施設の影に回り込むような進路を取り、一機が東へ。別機が住宅街につながる狭い道を選び、西へ。三機目は高所からの狙撃を狙うように岩壁サイドに寄る。

 建物の上に乗られるより好いですね、潰される心配がありません――敵機挙動に乳青色の目の奥では冷静な瞬間思考がなされている。
 やさしき双眸が見つめている『作戦目的』は、『被害を抑えてオブリビオンマシンを無力化し、敵パイロットの正気を取り戻すこと』。

「ハッピーエンドをお望みの方から順に前へどうぞ?」
 前傾姿勢仕様の操縦席で『プリンセス』が薄桃色の唇から可憐な声を紡ぐ。
「っ、女ァ!?」
 涼やかな鈴振りのボイスに敵が動揺の声をあげた。
「おれらは女にびびってんのかよ! 俺はいくぜ」

 誘うようにメルメッテは斜線が通る大道に滑り込み、「ファイエル(撃て)」躍り出るような好戦的な敵機が燥ぐような声で「撃つ(フォイエル)!」吠える。「ファイア!(撃て)」アンサーヒューマンの耳が不揃いな多言語を拾い、身構える。
 銃が吐き出す連続発射弾(デス・レイン)。制止してではなく、流星めいて噴出威力(スラスター)で横浮動する敵機の銃口の先が『メルメッテには把握できている』。

 ――回避すれば、街に被害が出てしまいますね。

 EP思念式防御機構、透明なサイキックの防御が機体と搭乗者双方を守るべく巡らされる。
「こいつ! バリアなんか!!」
 地団太を踏むような敵の声と対照的にメルメッテは落ち着いていた。


 慌てず騒がず、笑みすら湛え、
 超然として絶対的な優位を譲らぬ、

(主様のように)


 敵の進路に合わせて『Hanon-60』がゆっくりと旋回する。背後にそびえる建物に向かう乱弾を受け止めるように。
「のろいんだよ!」
「バリアを破って丸裸にしてしまえ……!」
 集中する敵火力はまるで大型動物を狩猟せんと挑む小型肉食獣の群れだ。前後左右から浴びせられる弾丸量に徐々にサイキックバリア耐久度が削れていく。
「流石にあと何千万発も命中してはポタージュになってしまいますが」

 外界情報の中には戦いを見守る人々の生体反応がある。
 子供が泣いている。
「えーん、えーん」
 母親が寄り添い、祈るようにキャバリア群を見ている。
 正体不明のあのキャバリアは、ひとを守っている。街を守っている。それが、皆にわかっていた。

「あ……」
 声を発したのは、ひとりではなかった。
 弾を遮っていた見えない壁のようなものが消えて、直接装甲が被弾したのがわかったからだ。
「あ、あ、ああ」
 口を覆って呻く。少しずつ傷を深められ、一方的に削られていく『助けてくれるひと』。
「あのひと、やられちゃう。やられちゃうよ」
「誰か、なんとかできないのか。助けてやれないか、なんとか」
 人々が顔を見合わせて、――でも、何もできないのだと絶望する。

「いけるぞ! 押せ!」
「誰が首級をあげるか競争だ」
 敵機が気勢を上げる。

「――うわああああん!!」
 子供が、泣いている。


 空は、高かった。
 見上げたあの日を思い出す。
 奪い取った無機質なそれを握りしめて、無我夢中で走って逃げて、
 みすぼらしい芋虫のようだと、厳しい主が評して――、少しだけ長く生きてみる気はないか。そう愉快そうに問われて。
(……アインクラングの名に恥じない戦いを……お見せしましょう)
 縋るような想いと視線を感じながら、メルメッテは広範囲に『想音色(クラングファルベ)』による無力化光蝶を解き放った。
 美しく、幻想的で、不思議なやさしさを感じさせる光る蝶。


「はあっ!?」
 突如として敵機の動きが止まる。敵味方を識別する淡い空色の蝶の形の光が、しずかに敵機を止めていた。
「原因不明、緊急――うッ!?」
「戦場を、染め替える一手――これが、私のアンサー! あなた様も。私の守るべき対象でございます」
 『Hanon-60』のBS重力砲が敵機の手足を狙い、的確に無力化していく。

 無力化された機体にやさしく語り掛けるように魔法を解けば、まるで夢から醒めたような顔でテロリストたちが――「お、俺たちはなんということをしてしまったんだ」「なんであんなことを」正気に戻り、現実を見た。

 安心させるように人々に向けて仮装姿を見せ、優雅に微笑めば「あれはどこの姫君か」とざわめきが起こる。
 メルメッテは、多数の光点が蠢く街のマップを見て味方の少ない地区を選び、移動を開始した。

「無限の選択肢・可能性……未来。命とは、その全てを生み出すもの。潰させは致しません」
 呟く声――同時に、外部情報を確認して微笑む。子供の泣き声は、止んだようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウィル・グラマン
●WIZ

なんつーかありがた迷惑にも程があるな
思った以上にヤバくなっちまったたし、まずは街に居座っている連中を外に追い出しちまうか

おっと、その前に怪盗らしく前もって予告状を送っておかねぇとな

──予告状
Trick or Treat!
夜の帳が降りて満月が昇る頃、共犯者(パートナー)と共に貴方達のハートを頂きに参上します
怪盗クロネコ(ↀωↀ)✧

UCで【ハッキング】したザカリアスのモニターにこの予告状の送信っと
にひひ♪まんまと引っかかって映像が戻れば、そこはVRなゾンビキャバリアが彷徨き回る不気味なハロウィンの夜さ
機体を降りねぇ限り抜け出せねぇし、何より街の連中には何が起きてるのか分からねぇと来たもんだ
ザカリアス同士を映し出す映像も加工してハロウィンらしくしちまうか
それで同士討ちしてくれれば、こっちの手間は省けるしな
ニャハハ!

街の郊外まで誘導した頃には流石にこれが作り物だと気づくだろうし、そうなればお前の出番だ
悪魔の翼を付け足したデビル・ベアキャット!
お前の鉄拳はリアルだって思い知らせてやれ!



●怪盗の流儀と魔女家の狂気
 王国歴72年、10月末。ウェーン地方ヴァッサークッペはウォーターピークの異名を持つ。内に秘匿した軍備施設、作戦の全貌を知らず犠牲者が選出され、急増の街に人民が移された。通称爆弾街。非道なる戦術を選択した指揮官は、この時すでに逝去し、街は用済みとなっていた。
 剣を失った王国の敗戦後の後日譚、記録によればこの『ハロウィン・ドールズ事件』一番迅速に行動を開始していたのは、ウィル・グラマン(電脳モンスターテイマー・f30811)であった。

「なんつーかありがた迷惑にも程があるな」
 アラート音が鳴り響く緊迫した空気の中で がシルクハットをかぶり直して強気に口の端を吊り上げた。
「思った以上にヤバくなっちまったし、まずは街に居座っている連中を外に追い出しちまうか」

「おっと、その前に怪盗らしく前もって予告状を送っておかねぇとな」
 怪盗の杖が素早くリズミカルに上下すれば、少年の前に浮かぶ四角い半透明のウインドウに飾り文字が綴られていく。
「種も仕掛けもねぇよ?」
 にひひ、と笑いウィルは続いてユーベルコードを綴る。『ヴィジョン・ハイジャック』でハッキングを仕掛ければ――、
「とくと見やがれ!」

 仲間が作戦を提案している。
 地上と地下と、それぞれに行動が開始されていく。

 街を駆けるハロウィン・ドールズ小隊。
 先頭は、主要5機のうちの1機。『サザンクロス』の北の一星、キヴェス弦塔国の『魔女家ミスル』と呼ばれる政治家一家の長男、赤毛のピーテル33歳だ。戦うよりも筆を執るほうが好み、という文人である彼は気まぐれとしか言いようのない衝動に襲われて今、戦場にいた。
「死は美しい。こうしていると、今までにない視野が開けて何かに目覚めそうだ」
 呟く――「諸君、私は戦争が好きだ」。
 そんな時だった、音が鳴り響いたのは。

 ピー! ピー! ピー! ピー!
 作戦行動中の『ザカリアス』小隊のコックピットに一斉に高い音が鳴る。
「な、なんだ!?」
「モニターが……っ」
 駆り手(パイロット)が目を瞠る。モニターが一斉に外部映像を遮断し、『怪盗クロネコ』の予告状を全画面に映し出した。そう、ウィルの仕業である。

『──予告状
 Trick or Treat!
 夜の帳が降りて満月が昇る頃、共犯者(パートナー)と共に貴方達のハートを頂きに参上します
 怪盗クロネコ(ↀωↀ)✧』

「うぇっ!?」
「ハッキングされてら!!」
 テロリストが騒然とした。一部、「かっけー」と感銘を受けた様子で燥ぐ者もいたが。
「消えろ、外を映せ!」
「誰の仕業だ、チクショウ!」
 なにせ、作戦行動中。それも、敵前だ。命がけである。予告状を消し、機体の視野を取り戻そうと各機パイロットは必死に腕を動かし、指を動かし――『ヴィジョン・ハイジャック』の術中に嵌っていく。

 ――怪盗は微笑んだ。

 楽し気に、痛快さに悶えるように少年が身じろぎして金色の髪が頬にやわらかにかかる。
 頬は、はしゃぐような色に染まって林檎のようだった。
「夢か現か幻か。ハッキングされた視界の中で、何が現実か疑いながら迷い込んじまえ!」
 大人顔負けの頭脳を持ち、ボディは製造されてから経年経過しているものの、AIの稼働日数を思えばこの子供っぽさに誰もが納得するところである。

「お、おおおおっ??」
 赤毛のピーテル・ミスルが奇声をあげた。
 映像が戻ってみれば、取り巻く世界が一変していたからだ。
「え、え……?」
 戸惑いの声を零すテロリストたち。彼らを取り巻く世界は、渦巻くどんよりとした瘴気とひんやり青白い霊気――まるで幽霊のような――満ちる不気味な夜。腐肉を垂らし、臭気をまき散らすおどろおどろしいゾンビキャバリアが彷徨い廻る不気味なVRのハロウィン・ナイト・ワールド。
「っぎゃあああああああっ!!!」
 虚構と現実、仮想現実と一体化した現実世界に囚われて、テロリストたちが悲鳴をあげた「すごい、ゾンビだ!!」――喜んでいる者もいる――。
「05、魔女おじ。そっちはなんでエネルギーチャージを止めたんだ?」
 年少テロリストが通信を送っている。
「魔女おじ? 魔女おじー?」
 魔女おじ呼ばわりされたピーテルはというと、恍惚の表情で「これは芸術だ」と世界に見惚れて新境地に達しようとしていた。
「戦争どころじゃない。自爆もやめだ。国に帰って歴史にこの景色を残そう。タイトルは――『異世界ゾンビ被昇天』」

「テロリストの様子がおかしい……?」
 逃げ惑い、震えていた周辺の人民が異変に気付いた。
 客観的には『ザカリアス』が急に錯乱したように見えるのだ。

 狙い通り、策成れり。ウィルはにっこりとした。
「にひひ♪ 機体を降りねぇ限り抜け出せねぇし、何より街の連中には何が起きてるのか分からねぇ」
 あっ、そうだ! と、ウィルがぱしんと両手を打ち鳴らした。
「ザカリアス同士を映し出す映像も加工してハロウィンらしくしちまうか」

 背合わせにゾンビキャバリアに身構えていたテロリストたちが、互いに互いを見て。
「背後には味方がいたはずなのに!? いつの間にッ」
「さっきまでいた味方は!? まさか、このゾンビキャバリアがヤったのか!?」
「「よくも味方を!! 許せねえーーーっ!!」」

 同士討ちを始めるテロリストたち。
「ニャハハ!」
 手間が省けただろ、とウィルが破顔した。

「そら、郊外にいくぞー!」
 シルクハットに杖、そして目元を隠すマスク。人々の目に焼き付いたのは、謎の小柄な怪盗がテロリストたちを巧みに誘導し――どのように誘導しているのかは、第三者にはわからないが――街の外へと連れ去る姿。
「ああっ、世界が私を置いて逝く。ゆかないでくれたまえ! 私のゾンビ」
 怪盗はこうしてテロリストたちのハートを見事盗み、街の外へと誘導することに成功したのだった。
 ハートを盗まれたピーテルは主要機の役目を放棄して、率先してついていく。これにより、『ロンメルの弓』に注がれるはずだったエネルギーの5分の1が失われた。
 そして――、
「ん?」
 テロリストたちが徐々に異常に気付く。「あれ、これ作り物?」「戦ってる相手は味方じゃないか!」視界が晴れて、その先にいるのはマントをたなびかせた一人の少年の姿があった。

 とても、強そうには見えない――戦闘訓練も受けていないであろう、民間人の子供だ。テロリストたちは、そう思った。
「まさか! あれが予告状の怪盗クロネコか」
「許さん!」
「やってやらあ!」
 テロリストが一斉に『怪盗クロネコ』に銃口を向ける。

(テロリストは大人もちゃんと混ざってるんだなあ)
 記録によれば、この時ウィルは暢気にそんなことを考えていたという。

 敵意と殺意を一身に受けた少年は――不敵に笑った。自信に満ち溢れ、恐れる様子が全くない。それもそのはず、この地点はウィルが誘い込んだポイントX――最強の仕掛けが待っている。
「待たせたな、お前の出番だ」
 背後の地面がぱっくりと口を開け、地下から飛び出す漆黒のキャバリア。ウィルの愛機『ベアキャット』が仮装パーツである悪魔の翼をばさりと広げた。

 まるで、悪夢のように。
 まるで、非現実に。
「悪魔の翼を付け足したデビル・ベアキャット! お前の鉄拳はリアルだって思い知らせてやれ!」
 ベアキャットが羽ばたいた。
 足元と背中で噴射する光は、謎の技術力により紫いろの光を放ち、いかにも妖しげであったという。

 低く滑るように左右に進路を刻み、敵機の弾を交わし大胆に回転。
「うぐぉっ!?」
 悪魔の翼が鋭角に切り込む。ゲーマー少年がはしゃいで「いぇえーっい」歓声をあげている。
「ベア、タイフーンアタックだ!!」
 ウィルは熱く拳を握りしめた。浪漫溢れる翼、兼、刃がザクザクと敵機の装甲に傷を刻む。

「匍匐もできるんだよな!」
 オレは信じてるぜ――そんなキラッキラの目で愛機に語り掛けるウィル。ベアキャットはホップし、つんのめるようにして「おいっ、こらぁーっ! がんばれ!」双眸を煌々と光らせ、姿勢制御。
 大気を喰い破るように腕を引き、ほとんど体当たりのようにして敵機に文字通りの鉄拳を炸裂させたのだった。

「ふ、ふうー! あぶねっ」
 よくやった、と笑むウィル。ベアキャットは陽光にその縁をつやつやさせていた。ウィルが拳を作って右手を突き出す。ベアキャットもまた、ゆっくりと拳を動かして――ちいさな少年の拳と、キャバリアの拳がこつんと合わさった。

「オレたちの勝利だぜ? やったな」
 笑む少年の瞳には、目をチカチカさせる愛機の顔が映っていた。

「き、きみ」
「ん」
 声をかけられて、見てみれば正気に戻った魔女家の男が――、
「さっきの世界をまた見せてくれ」
「は?」
 新たな狂気に飲まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
【旅神】
うーん、何とか説得しねえとな。

UCで強化した〈第六感〉と〈読心術〉でエミールの心の機微を読み取りながら、慎重に言葉を紡ぐ。

エミール様。貴方様の怒りと嘆きは、ええ、ええ、若輩の私にも理解できますとも。
ですが……それが人の全てというわけではありません。
人は弱い。しかしそれを知るのは、誰よりも人自身。
だからこそ、その弱さや愚かさを何とかしようと、苦しみのたうちながらも、善き明日を求める。弱さ故の強さや美しさも、人は持っている。
貴方も、そのことは理解なさっているでしょう?
……本当に、それに背を向けてしまわれるのですか?

何より……
(素に戻り〈覚悟〉を込めたよく通る声で)
人殺しは、いけねえ事だ。


大町・詩乃
【旅神】

お助けメイドとして頑張りますよ!

人に対する絶望、閉塞した世界に対する諦念、亡国の悲しみ、敵への憎しみ、オブリビオンマシンはそういった人の想いも利用して戦争と悲劇を生み出し続けます。今回もそうなのでしょう。

UC自然回帰で全てのザカリアスとロンメルの弓についてシステム停止と電源オフにする。これを繰り返す。

再起動する迄の間にエミールさんのザカリアスに近づき、「その計画だとエディさんや街の動物達もまとめて殺しますよ!罪無き動物を平然と殺す、普段の貴方なら絶対にしない筈。
そのキャバリアに乗ったからおかしな考えが浮かんだのではないですか?」
と彼の理屈の穴を突いて心を揺らし、嵐さんの説得に繋げます。



●ジャン=ジャック・ルソーの消極的教育について
 本にはいろいろなことが書いてあった。
 大人たちは口々に考えを語り、
 新聞は世界をつくっていた。
 読むと知る――そんなことが昨日起きたんだ、と。
 読まなければ現実には存在しないことで、
 読むと現実になる。
 この国はやばいとか、あの国は良いとか、
 文字と声と、大人の言葉が現実をつくっていた。

 正しいものと、悪いものを教えてくれた。


 鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)と大町・詩乃(阿斯訶備媛・f17458)が『ザカリアス』を見上げる。

「人に対する絶望、閉塞した世界に対する諦念、亡国の悲しみ、敵への憎しみ、オブリビオンマシンはそういった人の想いも利用して戦争と悲劇を生み出し続けます。今回もそうなのでしょう」
 お助けメイド姿の詩乃が落ち着き払った目をして前に進み出る嵐を見守った。

 エミールが駆る旗機『ザカリアス』を守る『ハロウィン・ドールズ』が銃口を向ける。だが、嵐は歩みを止めなかった。
 戦うのが怖いとよく言っている彼。
 目に見えて顔色を蒼褪めさせ、がたがたと震える彼。
 それが、今は星空を見上げるように凛と顔をあげ、冷静沈着な執事めいて背筋を伸ばし、悠々と歩を進めている。

 私が敵を止めると――信じているから。
 そう感じて、詩乃はそっと両手で胸を抑える。応えます、と祈るようにこころに誓い、発するのは魂命霊気。彼女がどのような存在なのかを信仰心がない者でも感じ取ってしまう、そんな若草色の神気だ。

「アシカビヒメの名において、全ての悪しき人工物は動きを止めて自然なる状態に帰りなさい」
 あらゆる装甲・障壁を突破し、詩乃の神気がキャバリアを停止状態にする。――『自然回帰(悪しきものは緑に微睡む)』。
 突然システムダウンした『ザカリアス』に混乱するテロリストたち。エミールもまた驚き、焦燥の声を零していた。
「おい、どうしたんだよ! もうちょっとなんだぞ、動けよ!」
 一瞬、嵐が詩乃に何かを求めるような目をした。情意を汲み、詩乃はほんの僅かに旗機の動力を戻した。かろうじて音のやりとりだけが可能な程度に。

 真っ暗で窮屈な空間でシステムを復旧せんと焦る少年。そこに、まるで天雷の轟のように衝撃的な言葉が切り込んでくる。
「その計画だとエディさんや街の動物達もまとめて殺しますよ!」
「!!」
 エミールが目を見開いた。それは、そうだ。少年は情熱的で青臭い考えを持って――自分が正義だと思って――熱弁を奮っていたが、まったく物事の道理がわからぬおバカでもなかった。
 動物を救いたい。そう言って暴走衛星を嗾ければ、動物も死ぬのだ。当たり前であった。
 狭いコックピットで、外と内を隔絶されてエミールが自分にしか聞こえない声でもごもごと釈明する。
「そ、それは。……より大勢を救うためには、多少の犠牲は仕方ないんだ……本に書いてた……」
 振り下ろした拳を持て余すように呟く声には、揺らぎがあった。あるいは――『オブリビオンマシン』を無力化している事も影響しているのかもしれない。

 旗機が膝をつき、蹲るようにして機能停止に陥っている。
「エミール様。貴方様の怒りと嘆きは、ええ、ええ、若輩の私にも理解できますとも」
 穏やかに、低く、優しく。執事然として嵐が声をかける。
 共感を示している――詩乃は(飴と鞭ですね)と微笑んだ。

 よく通る声は、それだけで心に届きやすい。
 嵐という少年が持っている天性の武器だ。エミールは暗闇の中、手を止めて声に耳を傾けた。

 詩乃がやわらかに「救い」を差し伸べる。
「罪無き動物を平然と殺す、普段の貴方なら絶対にしない筈」
 少年の目が揺れる。
「殺したくない」
 素直な想いが空気を震わせ、音を成した。ちいさな震え声は戦場と化した街に不思議なほど神聖な響きを伴って反響する。

 ――そうでしょう。
 詩乃はマシンの中の少年に頷いた。

 沈黙のキャバリアたちと、遠巻きにする人々と近寄る2人と。
 そこだけ神様の手で囲われて、喧噪から守られているようだった。
 徐々に暗闇に目が慣れる。
 視えてくる――自分が居る場所が見えてくる。
「そのキャバリアに乗ったからおかしな考えが浮かんだのではないですか?」
 そう問いかけるお姉さんの声がする。優しい声に、少年は頷いた。
「こ、これ。これ……、」
 エミールが言葉に詰まる。恐ろしい現実を始めて見つけてしまった、そんな顔で。
 普通だった。それが、いつの間にか「普通だと思いながらおかしくなっていた」。少しずつ、少しずつ――。

 エミールは自らの手を視た。
 演説していた時と何も変わらない手だ。けれど、あの時はこんな「自分への違和感」を覚えることはなかった。

「エミール様、ただいま参ります」
 嵐がキャバリアに声をかけ、ゆっくりと近寄った。
「一歩、二歩、三歩――、もう、これだけ近くに参りましたよ」
 健康的な肌色の手がコン、コンと正面装甲をノックする。そして、首を傾けた。
「外に出る事ができるようにいたしましたよ」
 詩乃がそう声をかけた。しばらくの沈黙ののち、圧縮空気を噴出するような音と共に装甲が開き、操縦席から平凡な見た目の少年が降りてきた。

 ――外は、明るかった。
 透明で目に見えない風がさあさあ吹いていて、とても平凡な温度を肌が感じれば自分は今日、大地の上で呼吸して生きて過ごしているのだと思われた。その感覚を居合わせた皆が等しく感じているかもしれない、隣人も今日ここにいて、同じ大地の上にいる。吸って吐いて、同じぐらいの時間に腹を減らして飯を食うんだ。そう考えると、なんだか無性に視界にいる彼らが親しく思えてくるのだった。

「……僕、やばい演説してた。あたまがおかしくなってしまったのかも」
 エミールが恐れるように見上げる瞳は、薄い氷が青空を映すような色だった。
 きっと、嵐さんの瞳の色はあたたかな色に見えているでしょう――詩乃は一歩引いて見守った。

 膝をつく執事、目を伏せて。
 やさしく首を振る執事、目を開けて。
 声は眠れぬ子供を夢幻の夜の冒険に連れ出すように、――ああ、ひとはこころを燃やして熱を分け与えているんだね。キャバリアがそう感じ入ってしまう、そんな声。

「どういう状態だとおかしくて、どういう状態だとおかしくないのか。定規で測れない心は、繊細で難しいものですね」
 白いハンカチがそっと少年の頬を撫で、涙を拭いてくれる。
「機械と人は違います。こちらの家には、鍵がありますか?」
「? あるよ」
「私の家にも、鍵があります。家を出る時は、鍵をかけるものですね――しかし、これがうっかりかけ忘れ、もしくはかけたかどうかを忘れてしまう。そんなことがあるのです」
「? そんなの、うちのお母さんでもあるよ」
 執事はにっこりとした。
「それに気づいた時、私はもしかするとエミール様と似た気持ちになっているのかもしれません。何かに気を取られていたり、疲れていたり、たまたま「普段なら」「普通なら」そんな状態にならないのに、自分は大丈夫なのだろうか――」
「それは、疲れてたり、何かに気を取られていたんでしょ」
 少年が口を尖らせた。執事は頷いたのだった。
「ええ、ええ。エミール様も――『疲れてたり、ザカリアスに気を取られていたのでしょう』?」

 にゃあ、と猫の鳴き声がして、詩乃がエディに気づく。
「また脱走してしまったんですか」
 猫の目を見て、そっと抱き上げる。猫は逃げなかった。特有のほっこりとした臭いとともに、じんわりとしたぬくもりが伝わる。
「大丈夫、ご心配ありません……」
 メイドは猫と鼻をくっつけるようにして、笑った。


「人は弱い。しかしそれを知るのは、誰よりも人自身」
 執事が言の葉を紡いでいる。
「だからこそ、その弱さや愚かさを何とかしようと、苦しみのたうちながらも、善き明日を求める。弱さ故の強さや美しさも、人は持っている。貴方も、そのことは理解なさっているでしょう?」
 キャバリアに片手をぺたりとつければ、表面はひんやりと冷めていた。
 冷えていた。
 冷たくなってしまった。
「親父は、敵は殺していいんだって言った。殺さないといけないんだ、そのために味方を巻き込むのは、尊い犠牲。死ぬ人はヒーローなんだって」
 苦しんでいた。
 おかしくなっていた。
 そして、躊躇った。
 今日の続きを残したいと思った……自分が死んだ後の明日を。
 少年は、気付いた。届かぬ存在であり、理解できなかった父の失敗の理由に思い至った――そう思った。
「……本当に、それに背を向けてしまわれるのですか?」

「何より……」
 傍らの執事がエミールの手を握る。そして、覚悟を感じさせるよく通る声で、口調を変えた。
「人殺しは、いけねえ事だ」
 瞳が『緑色の兵器』を見つめていた。エミールは、『執事だと思っていた誰か』と一緒に『誰か』を視た。

 静かに冷たく蹲る『それ』がとても悲しい気がして、手を伸ばした。そんな先日の自分を思い出して、エミールの背筋がぞくりとした。


「親父は、こいつのことを悪い奴を倒して国を守るための兵器だ、兵器は血税を注ぎこんで開発して維持していて、腐らせずに使うものだって言ってたんだ」
 エミールは俯いた。
「叔父さんは、使われないのが一番いいって言ってた」
 少年は、つないだ手のぬくもりに顔をあげた。
 琥珀色の瞳と目が合った。
「使われなくなったんだ、こいつら。なあ、それってイイことなのかな?
 新聞は最初、「親父」を褒めていた。親父の言葉を支持して、それが正しいのだと書いていた。
 けれど新聞はある日、「叔父さん」の意見を支持した。いつの間にか、世論は変わっていった。
 なあ、教えてよ――正しさってなんなの。なんで逆になっちまうの」
 きっと、正解をくれる。縋るような目に嵐は無言で目を閉じた。
 絞りだすような声は、少年を抱きしめて――耳元で囁くように。秘密のプレゼントを贈るように。
 正解だと思うもんを見つけたら、それが正解になるんだ。
「どんな人もそう――猟兵でも」
 猟兵。
 エミールは心の中に宝物のようにその正体をしまい込んだ。




 そうか、――猟兵なんだ。
 親父が情報を搔き集めて、いつも言ってた。

『この遠い国を救ったように、猟兵が来てくれたら。味方してくれたら』
「……っ」
 噴火みたいに熱い何かが足元からせり上がり脱出口を探して暴れて、目と口を見つけたらもう、抑えられなくなる。



「ふ、っぅ、う、うう、ううっく、」
 少年が嗚咽する。顔を歪めて、鼻水を垂らして、どうしようもなく泣いてしまう。
 ぽろぽろと透明な涙を流して、全身を震わせる。
「っ、そいよぉ……、お、そい、よぉ……っ」
 理不尽だ。この人はわるくない。言っちゃいけない。でも、それなのに、言葉と涙が胸の奥から飛び出して。からだが震えて止まらない。

 猟兵は、すごく強くて、戦況を簡単にひっくり返すんだ。
 猟兵は、ユーベルコードってのを使って、病気を治したりもできるんだ。

「奇跡が起きてるって言ってた、奇跡が起きるかもって言って、言って」
 ――カメリアには、来なかった。奇跡が起きなかった。
 救われる側ではなかったのだ。
 勝利する側にはなれなかったのだ。
 絶望の病床で、親父は死んだ。


「……来てくれたよ、親父ぃ……」
 少年は奇跡に縋りつき、父を偲んで泣いたのだった。


 詩乃はそんな『3人』に背を向けて、若草色の神気で地脈を探る。
 地下に注がれ、行き場をなくして耐久の低い鋼鉄を破り暴発しようというエネルギー。それを感じ取り、鎮めようとして――「これは……」呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
「お菓子も悪戯もしないでトンズラ、今日が何の日か解っちゃいねぇなお坊ちゃま!
こっちを向けよ、余興にも付き合えない男はモテないぜ!トリックオアトリィィート!!」

先程のナスターセ家兄弟を【追跡】。
専用トライクで建物の壁を駆け(【クライミング】【悪路走破】)
スピーカーから大音量の音楽、メタル系シンガー的振る舞いと【大声】で【挑発】。ギターを叩きつけて【先制攻撃】、ロックな【パフォーマンス】だ(偏見)

敵が此方を視認したら燃える鉛で刃物を追加【武器改造】したギターでUC【映す心断ち割る呪剣】。街中で撃たせる前に駆り手を気絶させる。

兄弟を無力化次第次へ。
ロンメルの弓や首謀者は他に任せ敵各個撃破に専念する。



●Metal Gear Cavalier
「地獄で会おう、『俺を殺してくれ』」
「うん、僕、兄さんを絶対殺すよ」
 追跡行の始まりは、そんな声だった。

(それは何だ)
 ギュイイインとギターの音を再生し、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)がカラフルな髪を振り乱し、トライクで敵を追う。
「お菓子も悪戯もしないでトンズラ、今日が何の日か解っちゃいねぇなお坊ちゃま!」
 彼が追うのは『ザカリアス』『03』。仲間が一体を抑えた隙に逃げた一体だ。
「ミュージシャン!?」
 ラドゥが驚いたように声をあげて速度をあげる。
「こっちを向けよ、余興にも付き合えない男はモテないぜ! トリックオアトリィィート!!」
 ルパートがシャウトする。遠くからは銃撃戦や暴走族(?)のけたたましい音も響いて、全く騒々しいハロウィンだった。

「ごめんね、僕いま忙しいんだ。見逃して」
「ヘイ、何に忙しいのか言ってみな!」
 浮力を得て医療施設を跳び越える南瓜頭の『ザカリアス』。トライクは壁を駆け、激走する。金切り声のようなボーカルを響かせて。速いテンポのドラムが追いかけてくる。
「うっそだあ。かっけえ、いやいや、こわっ」
 コープス・ペイントの鎧兜が鈍く光る。炎が燃えている――文字通り、ルパートから炎が出ている。
「♪ハロウィンの夜 メタルと共に戦う」
 歌が追いかけてくる! ラドゥは震えあがりながら銃を撃とうと後方を振り返り、躊躇った。

「病院があるじゃん」
 銃口を下げて再び逃げる『03』。
「自爆すれば全部消し飛ぶんだぜ?」
 ルパートが問いかける。
「病院を巻き込むのが嫌なんだな? だが、お前の行動の結果病院は消し飛ぶぞ」
「知ってるさ!!」

 歌が流れている。
 ♪悪魔のアンプは爆発寸前

 ♪治療するには血管をぶちやぶれ!

 目の前に自然の岩壁が見えてくる。
「あれを乗り越えて、『Ⅴ』を起動してやるんだ」
 ラドゥがマップを確認し、呟いた時。「どこへ行くんだ?」回り込んだトライクが――例のギターを叩きつけた。注目を引いて発動したのは、『映す心断ち割る呪剣(完全勝利への道標)』。
「あっ!!」
「ロックだろ」
「い、岩だけに」
「そんな意図はない」
 ♪貪欲に野生をむき出しに 水銀はメタル
 ♪原子の力 爆音アンプに悔恨はない掟だ

 少年が口を尖らせる。
「ものは大事にしないといけないんだぞ」
「それを言うのか、お前が?」
「ふん! やってやるよ。僕は、負けられないんだから」
 ラドゥが銃を構えて照準の向こうの生命を見つめる。あの壁を乗り越えないといけない。そう思い――「それなに?」呟いた。
 『ミュージシャン』は、燃える鉛で追加改造されたギターを持っていた。ギターと呼ぶにはいささか攻撃的に過ぎる形状で、楽器というよりは武器だろう。巨大な刃を備えて、ぎらぎらしている。
「シャークギターだ」
 それが、悪夢のように爆音と共に大加速する。
「速ッ」
 目にも止まらぬ、という言葉が生温いほどの加速の中、ルパートはスローモーションのように刃を(ギターを)横にした。炎がぶわりと巻き上がるのを制御し、視界を鮮烈に自身の色に染めながら、横一文字に『それを断つ』。
 必死に『ザカリアス』を動かそうとする少年は、――ふと空を見ている自分に気づいた。
「え……え?」

 気づけば、機体の外に投げ出され、少年はミュージシャンに救われていた。いつの間にか、終わっていた。

「さて、転戦する」
 お前との追いかけっこは終わりだとばかりに告げるルパート。その背で少年は飛び起きて、『ザカリアス』に駆け寄った。

「……う、動かなくなってる、そんな」
「そのキャバリアはもう動かない」
 事実を告げれば、ラドゥはがくりと項垂れ――ぎらりと激情に瞳を煌めかせて大地を蹴った。
「!!」
 体当たりのようにぶつかってくる少年。ルパートはそれをなんなく防御する。
「っああああああああああああ!!!」
 生身の拳でがむしゃらに鎧が殴られる。軽い拳だ。猟兵にとって、ルパートにとっては防御する必要すらない。仔ウサギがぶつかってきたようなものだった。
 繰り返す感情だけの言葉。獣のように激憤し、理性を失い興奮している。
「よくも! よくも! よくも! よくも! よくも! 」
「それは、生命を脅かされた民がお前たちに言う言葉だ」
 ミュージシャンは理知的な声とまなざしで少年を受け止めた。
 感情を抑えられない幼い子供だ。駄々をこね我儘を言い、暴れているガキだ。自己中心的な慟哭だ。
「知ってる、知ってるよ。そんなのわかってる。でもさあ!」
 殴るにつれて皮がむけて傷ついた生身の拳をおろし、少年ががくりと座り込む。

 泣いているのか。
 そう思った。

 ルパートは視線を合わせずその姿を見つめる。
「僕は、殺すって約束したんだよ、兄さんを。僕はしくじっちゃだめなんだよ、」
 少年は地面に幾つもの水滴を垂らし、傷ついた拳で土を打つ。
「死なせてあげるって約束したんだからあ!」

 雲が晴れて、青空が眩しく広がっていた。
 岩壁の向こうの何か――おそらくは、凶悪な装置――は作動を未然に防がれて、エネルギーをチャージしていた主要『ザカリアス』も、その役割を果たせず沈黙していた。

「なぜ?」
 ヤドリガミは短く呟いた。口には自信がない。だが、ここにはルパートしかいないのだ。そう痛感しながら。
 その体には、普段は肉体が存在しない。手を伸ばしかけて止めると、少年が顔をあげて睨んでいる。

「病気だからさ。少しずつ動けなくなって、死ぬんだ、兄さんは」
「……なるほど。色々合点がいく」

 炎が揺らめいた。少年の目に人が映っている。それが自分だ。ルパートは頷き、拳を振り上げ、加減しつつ少年を殴り飛ばした。
「――ッ!!」
 地面をバウンドし、岩壁にぶつかって止まる少年はショックを受けた顔で「殴った人」を見上げた。

「な、な、な、なんで。なっぐ、なぐ」
「殴られるのは、初めてか」

 空を鳥が往く。滑るように羽根を休め、風に乗り。
「お前にどんな事情があってどれだけ辛くても、それは無関係な他人を巻き添えにする理由にはならん」
 それは、厳しい声だった。
「わかっているから病院を撃つのを躊躇ったはずだ。お前は理解する脳みそを持っている――そうだな」
 とてもしずかに響く声は、感情に揺れて荒ぶる様子のない穏やかな低音だった。
「お前は殴った。殴り返されない理由はない」
 手が差し伸べられ、助け起こされる。冷たく、あたたかい。

 少年はやがて頷いたのだった。
「――……ごめんなさい」
 男は当たり前のように頷いて、遠くを見て言った。
「兄貴の治療法が見つかるといい」



 ルパートは空を仰いだ。その上に広がる宇宙を想った。
「人類は困難を克服してきた。過去に不治と呼ばれた病が治るようになった例は、幾らでもある」
 砂時計の砂は休まず落ちる。彼は、時間の大切さを知っている。戻らぬ過去を、取り戻せぬものを覚えている。未来に続く道の存在を信じている。戦う意味を持っている。

 背を向けて次の戦場に向かう仮装の男。

           Cavalier
 その正体は、異界の「キャバリア」。

          ――騎士である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
【狐剣】
ハッピーハロウィン
こんなのは、悪ふざけで終わらせようね

それじゃあ、ええー……いつもと違う感じで、オラついていこうか
はいはい、ぶっこんでいくんで夜露死苦ぅ~

ぱらりらぱらりらーってホーン鳴らしながら敵陣に切り込むよ
敵の攻撃は街への被害を出さないようボディで受け止め
破損を気にせず威嚇を兼ねて無闇に接近してあげようか
オラオラびびってんじゃねーよー
やんのかコラー
ということで、この際ぶつけるのも辞さない
ごてごてさせた飾りがーってなるけど肩の上の人が怖いので我慢

接敵したらUC使って敵機のハロウィン仕様ボディをぶったぎってあげる
秘剣武羅苦愛須!調子のんなよ小僧どもー

うーん我ながら棒読みが過ぎる


小日向・いすゞ
【狐剣】
センセのキャバリアの肩に腰掛け
発飛~覇郎院~
ただの木刀で装甲を叩いて音を立てる

悪戯上等っs…ってコトじゃろが
オラッキリキリ走らんかい!ぶっこんでいけや!
想像上のヤンキー喋りなので何を言い出すかわからないっスけれど
パッションと気合で頑張ります
夜露死苦~

賦活符で火をばらまいて、煙幕よろしく視覚だけでも強そうに
この火は皆を癒やす、癒やしの火
攻撃はキャバリアの影に隠れて避け
駄目なら回復
攻撃は任せた

この街にVなんてつけ直す必要なんて無い
死にてェなら人を自殺に巻き込むなよ
願っただけで何故か助けて貰える事もあンだ
余計な思想ごと、バッキバキに叩き斬ってやんな!

あっ
飾りは別にバキバキになっても良いっス



●手探りヤンキーロードと万有引力の法則
 愛機が暗闇のコックピットが搭乗者を待つ気分は、どんなだっただろうか。
 暗闇の中、制御システムが立ち上がった瞬間を覚えている。
 制御システムによる薄明かりに見つけた文字は――『Obsidian-Mk4』。

 衛星を想い、林檎を思う。

 主砲弾は、大きく二つに分けられる。弾頭が爆発することで標的にダメージを与える化学エネルギー弾と、砲弾自身の質量や速度で破壊をもたらす運動エネルギー弾だ。
 衛星攻撃兵器は大きく2種類に分類される。ひとつは物理破壊、もうひとつは内部エラー誘発。運動エネルギー弾を打ち上げ質量、弾頭硬度、速度といったミサイル・砲弾自身が持つ運動エネルギーによって対象を破壊する兵器と、レーザーやレーダー波、サイキックエナジーを用いて一時的に機能を停止させたり完全停止させる兵器。
 高速飛翔体迎撃対策として一種類を採用するなら後者がより有効だろうか。実際、猟兵の中にはユーベルコードでのハッキングを成功させた例もある。

 目元に空いた穴から人を視る。
 隙間から覗く曇天世界。高所からの眺望――、

 かがり火のレアリア、人を見て
 やまのなか、やまのなか
 きつねがこんこん
 あなのなか ふゆのやま
 ――Fuchs, du hast die Gans gestohlen.

「ハッピーハロウィン――ガチョウを返すんだ。
 こんなのは、悪ふざけで終わらせようね」
 夜に燻る焚火の揺らめきめいて優しく囁く彼の声。

 オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が愛機を駆る。スコープ照準が敵を見つめて、自己流にアレンジしたガチョウの歌を口ずさみ。駆けるキャバリアは仮装した黒機。量産機を好みに装飾、換装、仮装デコレーションまでした『オブシディアンMk4_ソードカスタム・ヤンキーバージョン』。その肩に貼られたステッカー「天上」と「天下」の間にちょこんと腰掛ける覆面特攻娘の小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)はキャバリアに取り付けられた『卍』の文字入りホーンが派手な音を騒ぎ立てるのを聞き、覆面の内側で耳先をぴょこぴょこさせている。

 ぱらりらぱらりらー♪

 突如鳴る得体のしれない音と謎のキャバリア出現に『ハロウィン・ドールズ』の間に緊張が走る。
「敵か?」
「あの文字は……? あと音うっせえ」
「肩部にちまいのが乗ってるぞ」
 戦うための道具――武装である『緑機』のことは、つい親しみの籠った目で見てしまう。ヤドリガミは、敵機に挨拶するように左右に黒機を揺らした。
「発飛~覇郎院~」
 ちまいのと呼ばれたいすゞは自分なりの「やんきー」をいざ演じようと木刀で装甲を叩いてぽこぽこと音を立てて威嚇する。
「喧嘩売ってんのかワレェ」
 好戦的な『ザカリアス』一機が前に出てメンチを切るようにオーバーフレームを変形させた。
「こちとら南瓜頭だぞアァン? 踊るか? 踊っちまうか?」
「い、悪戯上等っs…ってコトじゃろが~」
 あーいすゞが頑張ってる、と操縦席で生温い笑みを浮かべて一部始終を録画したオブシダン。
 言い出したのはアンタっスよ、やんきー喋りなんて想像しても何言い出すかわからないっスからねと木刀が装甲をばしばし叩くのに相槌を打って。
 実は僕もなんだ――『剣』は頷き、黒機を前進させる。ヤンキーロードは目に見えない。
「オラッキリキリ走らんかい! ぶっこんでいけや!」
「はいはい、ぶっこんでいくんで夜露死苦ぅ~」
(それじゃあ、オラついていこうか)
 賽は南瓜になり、正解のない戦い(色々な意味で)が始まる。
「夜露死苦~」
 何はともあれ四文字の漢字。符牒のように繰り返し「切り込むよ」笑う『マイペース』――けれど、本当は『いつでも君のペース』。
「まっすぐ信条は曲げない」
「忍者……?」
「ラーメン食べたい」
 ぱらりらぱらりらー♪
 ホーン鳴らし敵陣に切り込めば、混乱する敵機が足並み乱して踊るように突っ込んでくる。ステッカー『仏恥義理』がちょうど恥部分で攻撃を受け止める。現地カメリアでは、これをきっかけに『恥は受ければぶつぎりになる』という言葉が生まれたという。背後では、収穫期を迎えた火焔菜、テーブルビートが緑のじゅうたんを揺らして――葉の隙間から戦いを見ている爺さんの顔と言ったら!
「ザカリっち、見えねえのかよ、爺さんが畑守ってんのが視えねえのかよ」
「ザカリっちってなんだよ! じじいなんて、しらねーーっ」
 『ザカリアス』が弾を吐く。爺さんを守るよう斜線を塞ぐ『オブシディアン』は、一歩引いて片側の肩を引く。逆手に持った武装を同時に翳し、大事な人を守る動き。いすゞは懸命に守り手の影に隠れてから言の葉を紡ぐ。
「やんきーならお年寄りには優しくすりゅっしゅ、しろよ」
「ただのいいひとみたい」
 ツッコミが旦那から零れた。噛んでるのはツッコまない優しさがある。
「やんきーってなんだよ」
「筋を通せってんだ~」
 南瓜頭が突っ込んで――「俺の南瓜頭の固さを教えてやんよ」「狂気……」連続で機体が振動し、後ろ脚が地面を抉り押されて――踏みとどまる。
「てめぇら、その、カタギのひとに迷惑かけちゃだめっs、んん……なよ」
「ん?」
「だめんなよ?」
「か、かけんなよ……ざかりっち?」
 いすゞが賦活符を切る。大気が揺らぎ、あかあかとした火が生まれて螺旋を描いて視界に広がる。

「……火、」
 誰かが言う声が不思議と皆の耳に残る。
「――火だ!!」
 燃える! 畑が、家が燃えるぞ! 一瞬恐慌に陥る人々。爺さんが水撒き機を駆り出して、水を噴射し始めて。だが、すぐにその炎が畑も燃やさず、家も焼かず、人も傷つけることなく――「なんで?」「怪我が治った」呟く声が連鎖する。

「賦活の、火計――」
 妖狐が目を細める。
「戦旗をあげよっす、すすすす、あげていくぜ!?」
 やんきーは頑張っていた。
 『オブシディアン』の背に炎旗がのぼる。人々はそれを瞳に映し、狐につままれたような顔であった。戦場を支配するように巡らせた焔は機内にも及び、良人の内部視野を明るく照らし上げて、ほんわりと包み込むように全身を抱きしめていた。


 やわらかに。
 やさしく、あたたかに。
 
 疲労が癒されていく。
 活力が湧いてくる。


 ――君の温度だ。
「僕の君だ」
 黒機の操者オブシダンは鋭い眼光を一瞬瞼で閉じ、息をつく。額から一条滴る汗に初めて気づいた様子でそっと拭って、目を開けた。

 月光は月自身の力によらず夜に君臨するものだった。
 癒しの火に照らされて陽光にかがやく月のように『オブシディアン』は下部二脚からスラスターを吹かせて大胆な挙動を見せる。
 この火は皆を癒やす、癒やしの火なのだと人々が徐々に気づき始めていた。
 ソードカスタムの本領を発揮して「ソードナパーム!」と叫びながら炎を指揮するようにライフル銃剣を突き出せば――惑乱の戦場に炎が躍り、緑の間を駆け抜けて――傷つき萎れかけた収穫物まで癒していくではないか。


「おお、……おぉ……」
 爺さんが両の手を合わせ、指と指を組む。
 この火は、長い人生の終わりにあらわれた救いの奇跡。これを見るために今日まで生きていた、そんな気すら起こるのだ。
「これを見ずに先に逝った連中に自慢ができるわい」


「オラオラびびってんじゃねーよーやんのかコラー」
 棒読みなんだよね、と自覚しながらオブシダンが通信音声を響かせる。
(いいんだ、獣が吠えるのと同じで、中身なんて)
 距離を詰める。読み合い撃ちあいを捨てて、弾道を真っすぐに突っ込んでいく。跳ね滑り土煙と推進剤の光尾を引き炎旗を陽光に揺らめかせ、漆黒の魂が駆ける。
「この街にVなんてつけ直す必要なんて、無い」
 やさしい覆面の声が慣れない口調で想いを紡ぐ。
「……死にてェなら人を自殺に巻き込むなよ」

 激突音と同時に火花が派手に散る。揺れる視界の中、人々は互いに互いを抱きしめあうようにして支え合い、覆面が発する声を聞いていた。
「願っただけで何故か助けて貰える事もあンだ。余計な思想ごと、バッキバキに叩き斬ってやんな!」
「余計な思想? 余計な思想だって!?」
 『ザカリアス』の両目が至近で光を増したように思えて、オブシダンはキャバリアを「退くわけねえよなあ(棒読み)」「アンタ言い出した側なのにどうしてそんな棒読、はきゃっ」「あ、揺れるよ」「揺れる前に言」発動するのは、『願いを断つ剣(ブラックアイス)』。「ごてごてさせた飾りがー」「別にバキバキになっても良いっスよ」息を吸うように言葉を交わす。そのために声があるのだろうから、黙らない。
 手元に計上される機体損傷状況を見送り、繰り手はユーベルコードを綴り、出力する。
「秘剣武羅苦愛須! 調子のんなよ小僧どもー」
 掲げるブラックアイス、声は親しい友に語るようミステリアスに調子を変えて――、

「『ザカリアス』」
 衝突を繰り返す。緑色の量産機が間近に炎に照らし出される。水撒き機の水を浴びたのか、一機は水滴を滴らせて。
「君は、働き者だ」
 君は喋れない。
 泥水を跳ねて、押し込むように振るうのは、一振りの剣。

 煌々と光る敵機の赤い目を見つめる『オブシディアンMk4_ソードカスタム』パイロットの瞳もまた、赤だった。

 たくさん戦場を駆けたんだね、ヤドリガミはそう呟いて『オブシディアン』に意思を伝える。キャバリアが腰を落とすように二脚が姿勢をつくり、黒耀石の剣を握る手が力を溜めるように引く。
 黒い機体にしがみつき、いすゞが敵を視る。赤い目が光っている。頭から目の縁から水を垂らして、炎に巻かれてきらきらとした透明な空気と水がひとつになる――機体がもう動く。斬る。踏み込みは苛烈で、光と泥水を跳ねて風を起こす。空気はすこしだけ青臭くて、ウェットだ。
「君の願いは届かない――お休み」

 一つの大きな黒耀石から削り出した原始的な剣がしゅばりと装甲を断ち切って、飛びずさる。脱出する人間が遠目に見える。着地と同時に爆散の光が視界を染める。白煙天を覆い、磨かれた魂は遠く火砲煌めく戦場臨み歩む脚を止めることがない。

 おおきめの特攻服の袖の端からちょいと覗いた白く細い指がやさしく黒機の装甲を撫でている。その背を人々が見上げて、手を振っていた。旗が応えるように揺らめいて、消えていく。


 ――ぼくのレアリア、ここにある

 ――きみに魂、やどるかな



 駆ける戦場に物言わぬ鉄屑となった『ザカリアス』の残骸が幾つも転がっている。
 人々は、その姿を見て恐れる瞳を見せていた。
 動かぬ鉄を憎むような目をする者もいた。
 そんな中――「『ザカリアス』」。
 ひとりが『残骸』に向かって敬礼した。正気に戻り、捕縛されるテロリストの誰かだったのかもしれないし、街にいた軍人だったのかもしれない。肩書や身分よりも大切なのは、何をしたのかということだった。



 ホップして、落ちる。
 依頼をして、帰る。
 操縦には、だいぶ慣れたようだった。

 ぱらぱぱらぱぱぱー♪
 いすゞが笛を吹いている。特攻服の裾を風に靡かせ、覆面姿で――(器用だね)吹いている。
 山の中、街の中。
 オブシダンは口元をゆるゆるとさせてホーンスイッチをONにした。

 ぱらりらぱらりらー♪
 ぱらぱぱらぱぱぱー♪
 賑やかに行こう、威圧して。方程式の代わりに四文字熟語を考えて、空気よりも当たり前に重力より気軽に手を繋ごう。
 爆音を流し、彼らが駆ける。
 いつしか雲は何処かに旅に出て、頭上には美しい青が広がっていた。

 キャバリアは何故人に似た形状なのか。
 ある者は姿勢制御性をあげ、ある者は操縦者の心への作用を語る。
 では、ヤドリガミは何故人の肉体を得たのだろう。
 それは、ヤンキーロードよりもずっと簡単な答えに違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アン・カルド
夜刀神君と。

ファンシーズとして恥ずかしくない戦いをしないとねぇ、夜刀神君?
…む、言われてみたらだ…じゃあポチ君で。

僕らだけじゃなく戦場もちゃんとふわふわにしてあげないと…改めて、【縫包】。
君らだって本当は仮装したいんだろう?
僕が許そうじゃあないか、この戦場に最適なフレームはぬいぐるみ…存分に仮装するといい。
…上半身か下半身、片方しかもこもこじゃないからちぐはぐだなぁ、それじゃあ完全に適応できたとは言えないね。
そんな様だと僕の拙い操縦に押されちゃうよ?
というわけで、ちぎっては投げのふわふわのぶつかりあいだ、身軽に動けるのは気分がいいね。

っと、慣れないこともここまで…後は慣れてるポチ君に任せよう。


夜刀神・鏡介
アン(f25409)と

普段と違う戦い方をやれと言う意味で、キャバリア用のライフルを一丁借りていく

そもファンシーな奴が戦うなって話だと思うけど。っていうか、仮装してるんだから名前を呼ぶな、名前を
じゃあどうするって……もう俺がポチでそっちがタマで良いよ

しかしこのぬいぐるみだらけの環境……なんかこれ、別の意味で地獄絵図っぽくなってきたぞ。ええい怯むな!

タマに前に出てもらって、遠距離からライフルで援護
弐の型【朧月】の構え――銃でやるのは初めてだが、落ち着いて敵の弾丸を撃ち落とし

機を見て敵の関節部などに銃弾を撃ち込み動きを止めたなら、タマに下がるよう声をかけて、刀を抜いて切り込んで止めを刺す



●ファンシーズが行く! ポチタマぬいぐるみ大集合!
 フェリックス・ロンメルの半生は、兄の影にあった。志願兵であった兄弟は、第41・東部連隊に士官候補生として配属し、肩を並べて戦った。だが、兄はめきめきと才覚を現して出世し、弟は、東部戦線での戦闘で重傷を負い後送、退役後は両親の面倒を見ながらパン屋でパンを焼いていた。のち敗色濃厚の祖国防衛に加わるべく義勇軍に加入、後方支援隊を経て突撃隊に入隊、教育部長に就任し軍事教練の教書を制作しつつ、女王の剣として華々しく活躍する兄が掲載された新聞記事を切り取っては息子を誇る父母のためにどんぐりコーヒーを味わいながら丁寧にスクラップ・ブックに記事の兄を飾る。そんな日々だったのだ。

「クレイジーだ」
 学校から飛び出したキャバリアを遠目に見つめて、フェリックスが呟いた。ふわふわの巨大なぬいぐるみ(キャバリア)が街にいる。
 全く奇天烈極まる光景に人生観が変わった。――のちに、彼はそう語っている。


「ママァー、わんにゃん」
「そ、そうね……」
 街の子供が指を差して目をまんまるにしている。
 視線が集まるのを感じ、『ハロウィン・ファンシーズ』アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)はキャバリアにポーズを取らせた。
「『ハロウィン・ファンシーズ』が街を守りにきたよ」
 外部に音声を響かせると、子供たちが大喜び、いっしょのお母さんもびっくりだ。
「「わああああああっ!!」」

「名乗りあげるのか」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)が着ぐるみIN着ぐるみ状態で苦笑している。
 アンは着ぐるみキャバリアを並べて言葉を返した。
「正義の味方って名乗りあげるんだろ? 僕みたいなのはこうでもしないとらしくならないからね」
「らしく……」
「ファンシーズとして恥ずかしくない戦いをしないとねぇ、夜刀神君?」
 子供が応援している。

 応援している場合ではないんじゃないか、避難勧告をするべきじゃないか。鏡介は生真面目にそう考え、「そもそも」と言葉を連ねた。
「そもファンシーな奴が戦うなって話だと思うけど。っていうか、仮装してるんだから名前を呼ぶな、名前を」
「……む、言われてみたらだ……」
 アンは尤もな言葉に口を噤む。外部を映し出す機内モニターには、敵『ザカリアス』が状況にかなり戸惑っている何とも言えない現場が映っていた。
「じゃあどうする? 名前、呼べないと不便じゃないか」
「どうするって……」
 沈黙する2機。その眼前で『ザカリアス』の1機が南瓜ヘッドに変形している。
「『ハロウィン・ファンシーズ』に告ぐ。こちら『ハロウィン・ドールズ』。貴様ら、さては――オレたちのパクリだな! 許せねえ。どっちがハロウィンにふさわしいか決めようじゃないか」
「や、こほん……どうリアクションを返せばいいかな」
「ア……、こほん。戦って勝てばいいんじゃないか」
 2機はふわふわのあんよで前進し、子供たちの声援を受けながら互いのキャバリアを視た。
「もう俺がポチでそっちがタマで良いよ」
 ファンシーだろ、と言う鏡介(ポチ)。アン(タマ)は頷いた。
「じゃあポチ君で」

 『タマ』が前に出て再び『縫包』でぬいぐるみを降らせようと予備動作を見せると、敵の一機が警戒を強めて銃を構える。
「させんぞ!!」
「――それはこっちのセリフだな」
 鏡介が口を挟み、『ポチ』のふわもこの手がキャバリア用のライフルにて弐の型【朧月】の構えをし、敵機の手元を狙い撃つ。
 銃、それもキャバリアによる戦闘、さらに言うならふわもこという謎の状態。
 しかし、弐の型は鏡介が10歳の頃より修練した流派の基本八型のうちの一つ。日々の鍛錬は嘘をつかないものだった――ユーベルコードが発動すると、キャバリア操者とキャバリア双方の能力が高まり、スコープを覗く鏡介が確信をもってトリガーを引けばキャバリアの手がリンクするようにトリガーを引き絞り、外界の銃口が弾を吐き出して一瞬で敵の手を撃ちぬいた。
「あの狙撃手は、油断できないぞ」
「犬でポチなんて呼ばれてるのに……」
 敵が動揺を露わにした。この時、実戦経験と日頃の研鑽が物を言ったか素の成功率は110%を超え、「……――仮装する必要はあったのか――?」ひとつの疑念と共に鏡介は加速度センサに似た成功度センサの数値をちらりと見た「92」。
「……96じゃなくてよかった」

「きゃあああっ」
「うわあああああああ」
 銃撃戦が始まると、人々が真っ当な反応をしている。そんな現実を見て鏡介は「これで喜ばれたら逆に困るよな」と冷静なコメントを零すのであった。

「僕らだけじゃなく戦場もちゃんとふわふわにしてあげないと」
 アンがそんな現実を再びふわふわに染めていく。『ライブラの愉快話・縫包』、この時の成功率はやはり100を超え、『ポチ』と揃いの成功度センサは「01」を示していたという。

 南瓜頭の『ザカリアス』が横滑りするように動き回り、右手のマシンガンを構えている。「見切った」呟く『ポチ』、鏡介。その視界にぬいぐるみがゆっくりゆっくり降るのがわかる。

 目が小判のように大きく、茶色い黒目にピンクでハートを描かれたわたあめみたいな雪うさぎは、長い耳をぴこぴこと揺らして、手足をばたばたさせて降りている。
「かわいい」
 呟くアン。周囲環境が彼女に有利になっていく。
 薄紫のくまは水色のフードつきパジャマを着ていて、空から降りながらフードをかぶろうとして。両手を広げる子どものもとへと、ピンクのフェルトカゴに入った白羊が降りていく。黄色いサイのぬいぐるみが白とピンクのリスキツネと手を繋いでキャバリアの頭に乗っかった。

「ん……」
 鏡介は斜線を塞ぐ雪うさぎを避けてトリガーを撃ち、敵の脚部関節を破壊して銃撃を阻止し、アンを守った。次の瞬間、前方モニターにオーロラの毛皮のねこが張り付き、カメラに顔を寄せてくる姿が映る。淡々と展開し、確認するのは近距離マップと敵味方を示す光点。塞がれた視界のかわりに敵の位置を確認する助けにして、ライフル銃を構え――ぬいぐるみが銃にじゃれている。
「しかしこのぬいぐるみだらけの環境……なんかこれ、別の意味で地獄絵図っぽくなってきたぞ……ええい怯むな!」
 どうするんだ、これ。と銃を下げてキャバリアの腕を動かし、ぬいぐるみを地上に降ろせば足元がぬいぐるみだらけになっている。
(踏まないようにしたほうがいいな……)
 困難なのでは? しみじみと戦場の混沌ぶりを痛感しながら、鏡介は移動せずにその場で「降りてくるぬいぐるみを避けながら敵を狙う」という不思議な狙撃仕事に勤しむことになったのだった。もうふわふわの両腕で頭を抱えてしまいたい。しかし、アンを守らなければ……。
「ちょっと待ってくれ」
 銃を手に戦いを挑んでいた敵たちもまた、動揺していた。
「君らだって本当は仮装したいんだろう?」
 と、『タマ』が声をかけてきたからだ。
「僕が許そうじゃあないか、この戦場に最適なフレームはぬいぐるみ……存分に仮装するといい」
「どういうことだ! 仮装テーマを提案されただと……!?」
「仮装したほうがいいよ、このテーマで高得点を取るとぬいぐるみたちがファンシーパワーをくれるよ?」
「ファ、ファンシーパワーだと」

「『ハロウィン・ファンシーズ』。一体何者なんだ……」
 頭にたぬきのぬいぐるみを乗せ、肩にへびのぬいぐるみを巻き付け、腕にうさぎのぬいぐるみを抱っこしてフェリックスが呟いた。
「彼らは街を救おうとしている。その点だけは、間違いあるまい」
 視線の先では、テロリストたちが仮装を頑張っていた。
「頼む、『ハロウィン・ファンシーズ』。街を、この国を守ってくれ」
 シリアスな表情なのだが、なんとなく締まらないのは気のせいだろうか。

「うさぎ頭にしたハロウィン・ドールズくんは10点。そっちの尻尾付のは……5点。上半身か下半身、片方しかもこもこじゃないからちぐはぐだなぁ、それじゃあ完全に適応できたとは言えないね。そんな様だと僕の拙い操縦に押されちゃうよ?」
 ふわふわのキャバリアがぶつかり合い――衝突の感触は「ふわっ」としていた――「ボツだからぼっしゅーだ」10点のうさぎ頭がボツにされて「出直し」と言われて下がっていく。
「これは、戦いなのか」
 『ポチ』こと鏡介は思った。
「そろそろ終わりにしよう、『タマ』」
 俺が止めないといけない、このファンシー・ふわふわワールドを……。
 呟いた時の目は、まるで闇墜ち主人公のようだったと記録されている。

「身軽に動けるのは気分がいいね」
 ぬいぐるみたちのふわふわもこもこ世界に最高レベルで適応した結果、アンはかつてなく身軽になっていた。
「もう何も怖くないような気分だよ」
「いけない、油断は禁物だ」
 下がるんだ、と神妙な声をかけられて『タマ』が退く。
「っと、慣れないこともここまで……後は慣れてるポチ君に任せよう」

 現実は創作より奇なり。
 困っていたのを見ていたのか、アンがぬいぐるみたちを左右に分けて道を作ってくれている。ざ、ざ、ざああ。ふわふわっ(謎の音!)
 まるでモーセの眼前で海が割れるよう。
 ふわふわもこもこの波と壁だ。

 タマとすれ違うように前進する『ポチ』は、駆けるうちに後背部と脚部スラスターから推力を得て光の尾を引き、加速する。キャバリアの『ポチ』は、なんといっても我儘ふわもこボディ(謎)だ。関節もなんとなくこのあたりが関節なんだろう、というおぼつかないシルエット。
 敵機のメインカメラはそんな迫る姿を映している。ふわもこのぽてぽて走行だ。だが、さりげなく左腰に装着されている刀が音も無く前に出る。腕ではなく装着部の押し出しによる作用なのは、兵器ならではだ。
 スッ。
 ふわもこ左ハンドが鞘を後ろに引くのは、ふわもこ右脚が真ん前ではなく右斜め前へ踏み出すのと同時だった。
 カタカタ。
 硬質な音が立てられる――巨大な鞘と刀が奏でる音だろうか。二脚間に距離が空いたことで自然と腰が落ちる中、右のふわもこハンドが柄を握って――肉球がぷにっと潰れて手と柄の間に不思議なフィット感を計測――抜刀。

 陽光を反射して、
 鋼が閃光のように硬線を走らせた。

 ――シュッ……、ザッ、
 抜き放った右ハンドは自然な勢いで斜め左上へと伸び、流れるようにふわもこ左脚が右前に出る。右脚との左右の距離を縮めたことで、全身は右に寄った。
 ぶわり、ふわり。
 背の光が激しさを増し、浮くように加速する。左のふわもこハンドが右上に持ち上がり、刀の柄の根本を掴む。
 ぷきゅっ(とても可愛い握った音!)。
 右脚を前に出し、機体まるごと浮力を得て空中回転するような――「あ、あれ?」気づいた時には、もう遅い。まるでなろうテンプレのような文言が出たが、まさにそれであったと目撃者は後日語る。
 なんだかんだ言ってデカイキャバリア。それが、毛皮をかぶってふわふわ走って――、すごい勢いになって、いつの間にか刀が振られて!?
 シュパーッ!(とても可愛いぬいぐるみキャバリアの一撃)。

「う、うわあああああっ」
 そう、それは勢い付いたキャバリアの特攻袈裟斬り。敵にとっては全く予期せぬ鋭すぎる突撃であった。
「お、おわった?」
 一呼吸のうちに一連の動作が終わっていた。
 勢いのまま駆け抜けた『剣の風が凪ぐとき』、背後で敵機が爆散している――テロリストは斬られる直前に『ザカリアス』の自動パイロット保護機能により脱出させられ、正気を取り戻していた。抜かりない。

「「わああああああっ!!」」
 歓声があがる。
 アンは大衆の中に学校で出会ったフェリックスがいることに気づいてキャバリアの手を揺らした。
「もうなんかショーみたいになってるな……」
 鏡介が呟き、『タマ』と並んで手を振った。2機はやはり、可愛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夢咲・向日葵
●心情
エクスカリバーで丸焼きは洒落にならないのよ。ハロウィンの悪戯は笑えるものじゃないとね。さて、シャチえもんならどうするかなぁっと

●戦闘
・秘密基地に引き返そうかな。ロンメルの弓ね。シャチえもんの弓とどっちが強いかな。シャチぐるみのままダッシュで帰る。着慣れているからね、問題なく走れるのよ
・引き返した先で敵キャバリアに遭遇したら変身するのよ。シャチえもんのように風と水を操る弓使いの魔法巫女に
「随分凝ったことをするわね、悪ガキども。妾が相手をしてあげるから光栄に思いなさい」
・女神モードのシャチえもんの真似をしつつ、氷の矢でキャバリアを落としつつ、〈ロンメルの弓〉の砲塔に巨大な氷の矢で蓋をする



●幻想のカソードと秘密の部屋
 まわる、めぐる、重力に引かれて夢を見る。
 果てへの旅、一粒の麦、もの食う人々、星への旅。
 夢の花に始まり、いつしかエゴと欲望の渦が巻く。


 夢咲・向日葵(魔法王女・シャイニーソレイユ・f20016)は大地が震動する中、立っていた。着ぐるみの尻尾が絶妙にバランスを取ってくれている。便利だね。

 ――エクスカリバーで丸焼きは洒落にならないのよ。
 向日葵はおおきな瞳を見開き、砲身を見る。
「ハロウィンの悪戯は笑えるものじゃないとだめなのよ」
(……シャチえもんならどうするかなぁ)
 明るい色の瞳が瞬いて、大地を踏みしめるシャチフットを見た。ここにいたらよかったのに、そう口を尖らせて。
(ロンメルの弓ね。シャチえもんの弓とどっちが強いかな)
 踵を返し、顔をあげて少女は駆け出した。
 秘密基地に戻ろうと考えて――
「ボクは地下に、秘密基地にいます!」
 声が聞こえたのは、その時だった。
「だから砲身を壊すために攻撃を加えます! これさえなければ、作戦は破綻するはず……!」
 少年の声が街に木霊する。
「……!!」
 人々が「あれを止めてくれる人がいる!」と湧き、『ハロウィン・ドールズ』たちは「そんなことをさせるものか」と怒りの声をあげた。

「あの声は、ルクさん?」
 さっきまで一緒にいた猟兵仲間。弱気がちで、優しい少年。
「そう。うん。今行く。ひまちゃんが守るのよ」
 声、震えてた。
 でもきっと、頑張るのね。頑張りたいのね。
 こころの中で『仲間』に話しかけながら、向日葵は地下へと走る。シャチぐるみ姿はいかにも重そうでダッシュには不向きだが、着慣れているからどうすれば楽に走れるかは知っていた。
 とくん、とくん。
 駆けるハートが鼓動する。地面を蹴る足がパッと光る。紫色の光が足元から咲いて、一足前に駆けるたび蔦のように細く伸びる。やがて全身を鳥かごめいて囲い、シャチをくるむ光繭になって一瞬で花開くような広がりを魅せ、中の少女が姿を現す。

 変身した魔法少女がそこにいた。
 着ぐるみだったシャチが髪飾りになっていて、長いラベンダーヘアーが揺れている。ポーズを取るでもなく、前に進む少女は廃墟を通り、地下に駆け降りて、砲身を破壊し膝をつく満身創痍の『シュベール』を見た。すでに『ロンメルの弓』はその矢を宙域に届かせることはできなくなっているように思われた。
 向日葵は、暴走衛星『殲禍炎剣』からの反撃による予知事件を知っている。もし宙域に達して反撃されるような事態になれば、被害はどれ程の規模になることか。
(防がれた、……防いでくれた)
「頑張ったのね。……あとは、休んでいて」
「敵が……エネルギーが」
 少年の声が反応を返すのを耳にして向日葵はほっと胸を撫で下ろした。
「……ひまちゃんが守るよ」

 開けた天井から入っていた地上の左が一瞬翳る。
「うっそ、壊れてる!?なんだよこいつ、亡霊か?」
「なんてことだ。作戦は失敗だ!」
 敵が驚嘆し、憎悪と殺意を剥き出しにした。
「ゆるせない」

「ぼくはいらないといわれたのに、しゅべーるはどうしてまもられているの」

「ぼくはすてられたのに」
 元々、テロリストの声は少年が多かった。だが今、向日葵は。
「……ザカリアス」
 そう思った。
「思想を歪めて、みんなを唆した。そうなのね」
「……ん?おれは今変なことを口走ったような……」
 声の調子を変えて、テロリストの1人が返答した。
「そうでもないか……、そうだ。このキャバリアを見て思うんだ。カメリアが隠してたこいつも廃棄してやらねえとな」

 仲間を守るように間に割り込み、マギカプリンセスは『女神』になりきり、演技する。
「随分凝ったことをするわね、悪ガキども。妾が相手をしてあげるから光栄に思いなさい」
 マギカプリンセスが言い放てば、『ハロウィン・ドールズ』たちは少女をじろじろと見つめて笑い飛ばした。

「民間人の女の子? 可愛いな」
「生身で何する気ぃ~?」
 子供の声がケタケタと笑っている。

 地面がぐらりと揺れる。
 砲身は破壊されたものの、システムは健在だった。テロリストが3日かけてチャージしたエネルギー。それが矢となって飛び出そうとして、脱出口を求めて彷徨っている。行き場を無くして破壊された砲身の根本から爆発しようとしている。

 向日葵が――変身している今は『魔法巫女・シャイニーソレイユ・ヴィオレ』だけれど――仮装する女神は、大人だ。この姿も水風神パリジャードの力を借りて変身する巫女モード。だから、魔法巫女は大人びた顔をして自分よりもずっと縦にも横にも大きなキャバリアたちを余裕たっぷりな目で見てやった。
 そう、お母さんみたいな。
 心の中で似た感じを探り探り、微笑んだ。
「そなたらは妾が何をするか、見たいと?」
 マゼンタカラーをベースに植物意匠をあしらった弓を構え、風と水を想う。地下空間は大地から力を得る向日葵には適していて、天井も開いて空を覗かせていた。
素早く肘を引き、右半身を引いて矢を放つ。風のようにはやく、水のように淀みなく。放たれた矢は夢のように空間をはしり、キャバリアの関節部位を凍らせる。

 次いで少女は弓矢を砲塔に向けた。

 矢は、まっすぐなの。
 想像したとおりに飛ぶ、それが彼女の弓。
 つがえれば、目に見えて魔法を感じさせる輝きを帯びて、「戦いは先手必勝だ」教えが蘇る――「迷わず討て」「うん、迷わない」懸命な目で射る。

 守りたいから。

 想いを乗せた『守るための矢』は透明できらきらしていて、真っすぐに目的に飛ぶ。瞬きする時間もなく命中し、心臓が脈打つ速度で兵器を氷漬けにし、シュベールから出てきた仲間と共にその場に座り込んで兵器の末を静かに見つめたのだった。
「溜めたエネルギーは、もうここからは外に出せないのよ。あとは……」
 基地の警報が鳴っていた。同じ音量で続く単調で情感のない音は、沈黙と静寂の温度を忘れさせてそれがあることが常態なのだと錯覚させる。だが、パチリバチリと電気が弾けて火花が飛び上がり、ケーブルや配管が破損していくにつれ、それはやはり異常なのだと思い出させるのであった。

 地下は、まんなかに近い。
 洒落じゃないけれど、ほんの少し、誤差みたいな距離だけど、惑星は丸いんだと向日葵は学んでいて、上に宇宙が広がっていて、下はまあるい惑星の真ん中に近いんだって当たり前みたいに思ってる。
 向日葵は、大地がだいすきで、大地の鼓動をきいて温度を確かめて――「……」その時、自分が居る場所がとても……。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●彼
 他国の戦争記録には、無限の選択肢が散りばめられていた。
 大気の影響が小さく光の透過率が高い波長域。窓領域に一致する波長域のレーザーは有効だろうか。エネルギー兵器は、猟兵の記録を見るにつれ可能性を広げていくように思えてならなかった。フッ化重水素レーザーによる波長3.8μmの中赤外線域化学レーザーは、大気圏内での減衰が少ない。
 サイキックエナジーは? 魔法は? 召喚とは? ユーベルコードを組み込むことは? 採用して捨てる。捨てて採用する。砂場で城をつくってるわけじゃねえんだと怒鳴り、札束を燃やして無理だとぼやく。サイキックエナジーは得られても、ユーベルコードは空から降ってこなかった。
 飛行船は空を飛ぶ。ぎりぎりの高度と速度で飛翔キャバリア隊を展開し、そこから打ち上げて――夢を見て、気付けばサイロに深く潜り眠るそれは奇跡でも魔法でもなんでもないものになり果てていて、語り合い上を目指した彼も気付けば病床にいる。高揚が終わる秋。家族を連れ、志を等しくする同志達を集め、無知な民と知り合い親しくなり、そのあたたかさを知り、衰える心身を自覚してもう一度空を見た。
 ちいさな子が手を伸ばし、言った。

 もうすぐ雪がふるよね。

 あまりにも当たり前に無邪気に、そう言ったのだった。
ムルヘルベル・アーキロギア
【相反】
クロウの奴、めちゃめちゃぎこちないな……これワガハイ笑かそうとしてる作戦とかではないのか??
なんとか我慢してお腹に気合を入れつつ、ワガハイもぎこちなく演技である

「ワ……俺らの前で虚無(シャバ)い真似してっとユルさぬ……ユルさねーゾ!?」
とかなんかそういう感じである。耀が持っておった漫画にそういうのがあったのだ!

「オヌ……クロウくんさァ、リキ入れねェよ許さねーからナ!?」とかクロウに返しつつ、UCを使って突撃である
長時間は保たぬゆえに、クロウが切り開いたルートに乗る形で全力の攻撃を仕掛けるとしよう
無論、パイロットは無事で済むようにである。でもガンつけたりしたほうがよいのであろうか……?


杜鬼・クロウ
【相反】他連携×

「テロリストが占拠したこの地で本当に得たかったのは何だかね…です
それが引っ掛かりますが
民の心からの安寧の為に
討つぞ…ですよムル君
俺達はキャバリアに乗る方法を知らね…ないので、特攻は任せる、ます!」
俺は真面目にやってるわ!

眼鏡を癖で投げそうになるの堪え

(澄ました可愛い天使からの奇跡の力
使うなら、今だろう
借り受けるぜ)
UC使用

「図体でかい分、的は当たりやすいでしょう
嘆き苦しむ民の想いも乗せて」

敵の進行方向、ダメージを瞬間思考力で判断
弾道見切って玄夜叉で真っ二つ
地形破壊される前に敵の機体にジャンプ
ムルと目配せし、黒焔を剣に出力させ機体のみムルと部位破壊
聞けたらテロリスト達の目的を聞く



●アレグロ・アジテート、予知語り
 頭頂部のメインカメラが街を映している。
 一対のデュアルカメラが人を見ている。
 エネルギーインゴットを燃料とし、敵の小隊が動いている。

 街の女の子が逃げる途中でつんのめり、転びかけて――自力で姿勢を立て直して走っていく。すれ違うのは、2人組。白と紫、黒と白、長身と小柄。逆の方向には、あの恐ろしい『緑の兵器』が並んでいるのに。
 案ずるのは一瞬で、余裕がない。逃げる足は前に進み続ける。遠くなる距離に比例して心は離れていく。命が脅かされる時、見ず知らずの人が逃げる脚を止めて手を差し伸べる行為褒められるのは、「だから」なのだろう。

「生身の人間? 逃げもせずにこっちに来るだと?」
 テロリストが訝しむ。『ザカリアス』に近づく2人組の恐れぬ堂々とした歩みぶり、そして身分や関係性が推測しにくい衣装。小柄な少年らしき人物は人目を引く異国の士官学校の学生制服めいた衣装。色が奇抜で、着慣れていないのが明白だ。
 眼鏡の青年はというと、血塗れの白衣を気にする様子もない。あの落ち着き具合、まさかうっかり人を刺したわけでもあるまい。過激派マッドサイエンティストか、負傷者を診て回ろうとしている戦医だろうか? なによりあの武器だ。只者ではあるまい。

「テロリストが占拠したこの地で本当に得たかったのは何だかね……です」
 注目される謎の男、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は知的な印象を与える眼鏡の奥で彩の異なる双眸を瞬かせ、ぎこちなく語尾を取り繕った。紳士的な話し方をするのは初めてではない。だが、傍らにいる相手が齎す安心感があるからこそ、素も出やすくもなるものだった。
(引っ掛かる)
 猟兵が同じ依頼を受けてこの地に集いつつもひとりひとり抱く想いや目指す戦果が異なるように、テロリストもまた同じ目的を掲げつつ各人の想いを胸に作戦に参加しているのだろう――クロウはそう思うのだ。リーダーと思われる少年の演説では過激に過ぎる環境保護を訴え天を向くあのバカでかい羽付きの鉄筒を起動していたが、あれが何だというのだ。お菓子でも出てくるというのか――呟く彼に、のちにムルヘルベルは「予知していたのであるか?」と思わず確認したのだけれど。

 逃げる人々とすれ違い、流れに逆行するように脅威に向かう。

  結局、体育館のキャバリアは選ばなかった。レンタル機をキャバリアデコレーション仮装させるのに遠慮があり、無仮装で戦わせては外交問題にもなるかもしれない、という配慮を見せるクロウの背に(あるいは、あの並んでいたカメリア機をそのまま休ませてあげたかったのかもしれぬ)と賢者は胸のうちに推測をする。
 頷くのは、なんだかんだと面倒見の良い彼のあたたかな気質を理解しているからだ。
「戦乱世界の国際外交とは、厄介であるな」
 火種がそこかしこにある。どこから何が大火に育つか、考えればキリがない。生身で強敵と戦うのは、猟兵にとっては茶飯事だ。常はクロウに依頼し、送り出す立場の賢者はその猟兵がゆっくり歩く理由に思い至り、気持ち急ぎ足になる。本日この場は肩を並べて戦う対等な相棒、ならば合わせるなら互いに、と。
「民の心からの安寧の為に討つぞ……ですよムル君」
 クロウが真剣な面持ちを見せて声をかけてくる。共に戦場にあるからこそ感じる温度感。だがしかし、それにしても喋り方が無理をしている感ありありのありである。
「キャバリアの一発本番でのガチ操縦は自信がね……ないので、特攻は任せる、ます!」
「キャバリア乗り本職並みの操縦技術には至らずとも、猟兵はいつでもこの世界でキャバリアを借りて操縦可能である。気が向いたなら、次の機会に――戦場でも、戦場でなくとも、試し乗りしてみるのもよいであろう」
 外見こそ青年と少年だが、中身はムルヘルベルが年上で、なんといっても賢者と呼ばれるだけの明晰さと豊富な世界知識を有している。予知経験も多い身としては、自然と世界紹介もしたくなるというものだった。
 むろん、優秀な猟兵である。
「とはいえ、おぬしは生身でも十分強いのであるからして。実戦ではより確実な戦術を採択するのも、優れた猟兵らしい選択なのである……」
 見上げる先から返ってくるのは、いかにもインテリ年長者といった声だ。
「ムル君、喋り方も変えねェ……ナイといけませんですよ」
「うっ」
 ――ムルヘルベルは会話を中断し、肩を震わせた。
(クロウの奴、めちゃめちゃぎこちないな……これワガハイ笑かそうとしてる作戦とかではないのか??)
 なんとか我慢してお腹に気合を入れつつ、ぎこちなく演技をするムルヘルベル(賢者)。
「オヌ……クロウくんさァ、リキ入れねェよ許さねーからナ!?」
 会話音声を拾い上げてテロリストが「ああ、この2人は先生と生徒ではない。上下関係ではなく友人関係なのだろう」と悟る。

「お兄さんたち、逃げて」
 お節介で知られるおばちゃんが遠くから手招きしている。紳士的に微笑み、「俺達はテロリストをぶっ倒、お帰り頂くので、今しばらく待ってろ、お待ちください」と言えば隣で賢者がぷるぷるしている。
「っ、さては吾輩の腹筋を鍛えるつもりであるなーっ!? わざとそんな!」
「俺は真面目にやってるわ!」
 敵も民も、目を剥いてそのやりとりを見つめている。テロリストの銃口が向けられても「それがどうした」と言わんばかりに、コントのような言葉をやりとりし、打ち解けた空気で楽し気な会話の花を咲かせている。

 様子を見ていた一機がキャバリアバズーカを構えた。
「テロリストを舐めるな」
 わからせてやる、そんな風に叫んで感情のままにトリガーが引き絞られる。
 その瞬間だった、血染めの白衣が翻ったのは。閉架書庫目録が幻想的な光を煌めかせたのは。
 眼鏡を癖で投げそうになるの堪え、クロウが前傾姿勢で駆ける。素早く抜き放つのは、身の丈ほどもある漆黒の大魔剣。永海・鋭春作『五行相生「玄夜叉・伍輝」』。
 敵視が自分に向いているなら、対応もしやすい。それが狙いだと言わんばかりに不遜に口の端を吊り上げて、弾丸より過激に前に出る。躍動する肉体は野性の獣めいて生命の活力に満ちていて、冗談のように敵の弾丸を見切り、真っ二つにぶった切る。
 思考は冷静で、戦闘慣れした頭脳は慣れない話し方の言葉を探すよりもずっとスムーズに瞬間思考を閃かせる。コントからバトルへ一瞬でスイッチを切り替えて火蓋が落とされた戦端に足並み乱す敵機、それぞれの対応能力差が機動にあらわれている。
(対応能力の高い奴から無効化、損傷度の高い順に破壊!)
 戦闘は得意分野だ。紳士喋りよりナチュラルで、ネイティヴだ――、
 爆発を背に、その体はすでに高く跳躍している。

 ――突撃である。

 身に纏う衣装よりも優し気な紫の瞳に戦う意志を揺らめかせ、ムルヘルベルが閉架書庫目録で呼び出した書庫の禁書の呪詛を浴びている。永遠の少年たる賢者は、自己修復・記憶保持・魔力励起の三機能を持つ珪素細胞群(エクスリブリス)を持っている。ユーベルコードにより、その細胞群が過剰励起しクリスタリアンの身体能力を高めていく――、
「……くっ」
 襟巻に隠れて、ちいさな口が真一文字に結ばれる。零れたのは苦痛の声。だが、足を前に出し、クロウの背にぴたりとついて駆け、跳ぶ。

 ムルヘルベル・アーキロギアといえば、賢者と呼ばれるだけあって多くの者はその千里を見通す予知眼と明晰な頭脳と該博による状況分析、戦術策定、そして微笑ましく親しみの湧く押しの弱さ、弄られ具合などが知られている。戦いの場においても、矢張り得手は後衛と思われていた。
「は……」
 夕赤と青浅葱の双眸と紫の双眸が空中で絡み合う。
「ムル君」
 思わず声をかけそうになり――、
「――舐めんなはこっちのセリフであるんだぜ!」
 気勢に頷く。
 ど紫の色の上に長マフラーが揺れている。進行方向から後ろへと流れる世界。脈動するたびに毒が巡っていくようだった。心の弱い部分を巧みに突いて芯を削り、立ち上がり前を見るための活力を奪い、命の熱を冷ましていく……そんな目立たず、緩やかで、厄介な毒だった。


 息をするたびに喉が締められるようだ。
 前を見る瞳が熱く、揺らいで目的を見据えるのが困難だ。
 腕一本、足一本を繰り出すだけで力尽きても許されるのではないかという気持ちが沸き起こる。
 心を奮い起こして駆けて、駆けるはしから疲労感が押し寄せる――、

 そんな苦痛の中、賢者はどうすればいいのかを識っているから、唇を薄く開いて声を出す。
「ワ……俺らの前で虚無(シャバ)い真似してっとユルさぬ……ユルさねーゾ!?」
 長時間は保たぬ。
 そんなことは言う必要もなく、察せられている。
 見栄を張る必要もなく、理解されている。
 ――だが、弱音も吐かぬ。
 

 背合わせに着地して、魔剣を振る相棒が切り開く道をまた駆ける。乾いた血の色が黒い。背を見て思った。
「ムル君、」
 黒く染められた白衣が喋っている。誰に? 仲間にだ。
「それは誰かの真似か、マイナーなネタか、でするか」
 その場違いなほど暢気で楽しい問いかけは、この場にこそ相応しいのだと目を合わせずともわかるのだ。それでこそ「気心知れて」「共に死地に臨む」というものだ。
「耀が持っておった漫画にそういうのがあったのだ!」
 笑う。白衣もまた笑っているのがわかる。

 ――ああ、立派な猟兵ぶりだぜ。止めネェし、信じてる。そっちも俺を信じてくれてんだよな?
 笑いながら金蓮火に意識を向ける。
(澄ました可愛い天使からの奇跡の力。使うなら、今だろう。借り受けるぜ)
 隙を補うようにムルヘルベルが前に出て強化された力を奮っている。よろめく背をそっと支える掌が熱い。光がふわりと生まれて、世界を照らす。

 蝶が生まれて、飛翔する。
 召喚した火炎蝶が2人を中心に飛び立つさまは、幻想的な絵物語の1シーンのように色鮮やかで現実離れして、美しい。
 緋き光の奔流。身を削る魂の強さに耀く業火。
「図体でかい分、的は当たりやすいでしょう。……嘆き苦しむ民の想いも乗せて」
 世界に選ばれた自覚がある。
 だから、戦い、救い、見届ける。
 クロウは一瞬深呼吸して、遠く舞う蝶を撫でるように魔剣を持たぬ側の手を虚空に滑らせた。
 一瞬、ここにはいないやさしい気配を感じて息をつく。贈り主の白い翼がやわらかに広がるように心地よい風が吹いていた。『紅蓮蝶洸』はムルヘルベルの負傷を威力と飛翔範囲に変換し、『ザカリアス』に可憐な赤い花、炎の華を咲かせていく。

 光踊る中、弾が来る。
「いきますよ」
「おう」
 斬り、跳び、機体を足場に着地して、目配せして黒焔を剣に出力させる。いつ何が掠めたかこめかみから滴る生温い液体を乱暴に拭って、弾む息の色に季節を感じながら敵機の手足を破壊し、沈黙させていく。

「生身の人間とは思えない……」
 引き摺り出した女テロリストが呆然としている。白衣の定義が曖昧になるほど汚れた衣装を揺らし、クロウは「で、アンタはなんでテロに加わってたんですかね」と問いかけた。



「それは」

 見上げる瞳は虚しさを漂わせていた。

「死んだあの人を、愛していたから」



 「あの人」というのが誰なのか、クロウには知る由もない。けれどその時クロウは返す言葉に迷うことはなく。
「それ、その人はよろこばねぇよ」
 ――吐き捨てたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
空への砲…殲禍炎剣による自滅が目的…!
おっと

ごめんね、チョコは“今は”君達にはあげられないんだ
だって実は僕は…

馬の着ぐるみを電脳魔術で防具改造
フード纏った半人半馬の姿に
剣を武器改造した鎌構え

休暇中の死神
仕事を増やされては敵わない

推力移動で跳躍
銃持つ手首を怪力で蹴り上げもぎ取り
四肢を鎌で解体
搭乗者引き摺り出し

マシンに煽られた不満の種火にアドバイス
世界を変えるなら剣や銃でなく知恵と言葉を使うんだ

その二つは恐ろしい力
そして、優しさを忘れない限り素晴らしい事を起こせる事を忘れないで

説教装った己への戒めとは救い難い…

「弓」の元へ急行

大気圏外に届く出力
砲を破壊しても臨界状態の充填エネルギーが問題です
行き場失い地表で大爆発など…

制御装置ハッキング
充填エネルギー処理試み

記録音声…勝利でなく闘争を生き甲斐とする“あの男”がいたなら
或いはこの国は荒野と化していたか…
彼を毛嫌いし過ぎですね、私は

UC起動

素粒子に干渉し変換
破壊の力全て空に打ち上がるお菓子に

死神のトリック…滑稽な光景でしょうね
見届けられず残念です



●Das Ich und das Es
 魔女家が魔力を持っていた。
 それは兄弟のサイキックエナジーとは似て異なる謎のエネルギーで、エミールはそれが運命だと喜んでいた。そんな運命なんてどうでもいいと、本当は兄弟は思っていたけれど。


 これは、演説に兄弟が作戦を思い出した時の話。まだ2人が共にいた時の事。結局、魔力とやらがパンの耳ほども役に立たなかった話だ(――兄弟はそう思っていて、本当は役に立ったのだけど)。
 まだ、もうすこし。人生の残り時間を想えば、怖さと嬉しさとがミックスしておかしくなりそうだ。
「おっと。ごめんね、チョコは“今は”君達にはあげられないんだ」
 うまの道化師がそう言って、輪郭をぶらしてそれこそ魔法みたいに姿を変えた。
「だって実は僕は……」
 声がノイズ混じりに高く割れたかと思えば次の発語で地の底を這うような低さになり、スペクトラムアナライザーが異常を見せた。リバーブの効きすぎた声、それなのに作り物というには生々しい。そんな奇妙奇怪な機械声。悪夢みたいに鼓膜に悪戯を仕掛けて、鳥肌を誘う。


「――死神だから」


「仕事を増やされては敵わない」


 耳を疑う告白。だが、その変貌した姿や声、威圧感――「死神……?」呟けば、もう心の中でその認識が固定される。目の前にいるのは死神で、ならば「そういうことなのだろう」。迎えにきた。
「ラドゥ、行け」
 兄機が声を発する――お別れだ、と言ったのだ。
 フードで隠れた表情は謎めいて、半人半馬が鎌構え、愛嬌たっぷりに戯けていた道化者は、今や黄泉に誘うべく現れた死神だ。せっかく休暇を楽しんでいたのに、と不機嫌そうに呟いて跳躍する姿。同時に動いた兄機は弟機に体当たりするようにして死神の矛先に割り込んだ。
「――行け!」
 俺を殺してくれ。

 希いに弟が息を呑む。そうだろうと思った。
 逃げる背中を見て、あいつは生きるだろうとそんな予感を胸に抱く。不思議と、あれが死ぬ想像が湧かないのだ。
 推力移動で跳躍した『死神』トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)は『ザカリアス02』の銃持つ手首を怪力で蹴り上げもぎ取った。四肢を鎌で解体しながら、死神は「逃げる弟を追いトライクで走り出すルパート」を見送る。任せろとその背が語るよう。ゆえにトリテレイアは即座に『03』への対応優先順位を下げたのだった。
 圧縮された空気の音、炸裂音が響く中、『ハロウィンドールズ』の緑色を基調とした迷彩柄の胸部装甲に線が刻まれ、無理やりに剥がされる。放物線を描いて装甲が高く飛び、落ちる時は重力に引かれて大地に亀裂作り折れた大剣のように刺さった。
「う……」
 搭乗者を引き摺り出すと、神経質そうな線の細いテロリストが目を見開いて死神を見た。少年が青年に変わる年頃。
 青白い肌。目はぎらぎらしている。
「来たのか」
 囁く声は気の昂りをあらわし、震えていた。顎を上げ、胸を張り、口元がきゅっと引き絞られる。
 逃げない。
 その表情がそう語っていた。

 覗き込む死神トリテレイアは鎌を脇に抱え、前に両腕を伸ばした。
「逃げないんだね」
 従順な魂が首を縦にするから、地に降ろして座らせる。まるで本物の神を拝むような敬虔なまなざしを見つめ返した。問いかけられる。


「見ていてくれた?」
「何を?」
「『戦ってたのを』、見ていてくれた……?」


 遠くで戦火が閃いて、煙が濛々と立ち上る。
「君は、どう思うの」
 音は、空気を振動させている。今は素に近い穏やかな音だ。
「見ていてほしいと思ってた」
 でも、見ていなくてもいい。ミハイはそう言って瞳を閉じた。
「もう終わるよね。だから、どっちでもいいんだよ」

 地面が時折揺れる。戦いは続いている。

「さっきの演説は、全員が共感しているんだよね?」
「まあまあだよ。寄せ集めなんだ」
 トリテレイアは鎌を地面に横たえた。
「世界を変えたい気持ちがあるのかな」
「そうかもしれない」
「剣や銃を持てば、変えられると思った?」
 目を閉じたまま、青年の腕がのろのろと上がる。見えない何かを掴むようにして。
「変えるために、人は道具を作るんだ」

(作られた側の私が……)
「世界を変えるなら、兵器や武器ではなく知恵と言葉を使うんだ。
 その二つは恐ろしい力。優しさを忘れない限り素晴らしい事を起こせる事を忘れないで」
(説教を装った己への戒めとは救い難い……)
 内心で自嘲する死神の声は内なる痛みを秘匿し笑むような大人の声だ。
 青年は従順に呟いた。
「知恵と言葉で人が殺せる?」
「人を悲しませ、殺すことができる。人を喜ばせ、救うことができる。愛を伝えることもできる」

 銀河帝国時代の話。
 数々の兵器を設計した才女がいた。彼女は、幼馴染を愛していた。
 その幼馴染は優しい騎士の御伽噺が大好きだったという。
   侵入者を排除した戦機、主が泣く理由を不思議がり――、
 開発された兵器、最優先防衛目標であったのは親とも呼べる彼女。
   命令を請う戦機、声を聞く――「私を殺しなさい」――、
 制作者が自分を殺せと懇願(オーダー)して、矛盾に壊れた戦機。
 再起した彼は、空白の記憶・人格データの中、残存データの海に揺れ――「斯く有れかし」ああ、……道標を見つけた。活動するうち、『矛盾』を感じるのは珍しいことではなかった。表面をなぞるように模倣して、許容し、誤魔化し、懊悩し、機械の心が情を識る。模倣の域を越えていく。

「死神」
 目を開けた青年の目に自分が映っている。
 人が彼を認識する。そこに彼は存在するのだ。
「殺さない……?」
 アイセンサーが瞬いた。
「殺してほしい」
「剣と銃のほうが容易なのです、私には。本当は」
 遮るように断って。炉心が揺れる。
「……ですが今、私は知恵と言葉で人を救いたいのです」
 駆けていく。人として。騎士として。
 自らの意志で、道を往く。道は視えているのだから「制御装置、ハッキング開始」迷うこともない。

「――失敗ですよ」
 跳んで射出するのか。撃つのか。

 サイロと氷塊、廃棄処分機と猟兵。
「失敗作ですよ……」
 夢を見たのか。
「大気圏外に届く出力。砲を破壊しても臨界状態の充填エネルギーが問題です」
 現実が眠っている。
 天に向く凍結の蓋の下眠るシーカーとガイダンス・システム。2種新型転換炉。推進装置。管制システム。記録音声。名前。
「勝利でなく闘争を生き甲斐とする“あの男”がいたなら或いはこの国は荒野と化していたか……彼を毛嫌いし過ぎですね、私は」
(実現したかったのは、異世界の技術でしたか)
 充填エネルギーを誘導する。同時に綴るユーベルコードは禁忌の剣を最大駆動状態に変えていく。素粒子に干渉する非現実的の象徴めいた数多の居住可能惑星滅ぼしたオーバーテクノロジー。猟兵の情報に発想を得ても、技術力の隔たりは大きかった。躊躇う以前の問題だった。兵器は完成しなかったのだ。

 剣が神話級に神々しく煌めいて駆動する。事実、彼にとっては神話に等しい。両の手で恭しく掲げ、人知を超えた反動制御負荷に外と内と灼かれ、罅割れ破損し、砕けていく。

(死神のトリック……滑稽な光景でしょうね)

「そんな力を使ったら、あなたの体が……」
「――大丈夫なの……!?」
 居合わせた猟兵の少年少女が心配そうな声をあげている。

(見届けられず残念です)


 不必要な感覚から先に遮断され、意識が落ちる寸前に感じ取ったのは「ただひとりの自分」という存在の手応えだった。それはきっと「誰も見ていなかったとしても」揺らがないだろうと確信を持てば、心が視えない羽根をはばたかせるようで、いかにも身軽だった。




●『猟兵の夜の詩』
 山は空に近かった。
 少しでも高所へ。そんな考えでもあったのか。

 破壊の力が変換される。
 雲が晴れた広い空を見て、人はさまざまに呼ぶものだ。
 シアンの空は爽やかで、澄んでいて、花が可憐に見上げていれば絵本みたいにきっと、美しい。
 花の色はピンクと濃い赤紫、広げた花弁の下で生命力を感じさせる緑の茎がしゃんとして、そよそよと揺れる。悠久ともいえる時の果て、あるいはこの山もそんな顔を見せる時が来るのかもしれないし、来ないのかもしれなかった。想えばあるともいえる可能性は、けれど、否定すればそれはやっぱり無い方へと天秤が傾く。
 ――ここに世界が息づいている。地上には、人がいた。


「わ、あ」
 人々が口を開け、手を天に向け不思議で奇妙な贈り物を見る。魔法だ、奇跡だ。
 空に打ち上がり、ふわりふわり、綿毛のように降りてくるのは大小さまざまなお菓子たち。
 トリックオアトリート、悪戯をしたからお菓子をあげるよ。
 ――プリンセスが大好きなチョコレートも、忘れずに!
「ママァーー! 空からお菓子が降ってるよ!」
 子どもの声が木霊する。木の梢には安らぎがあり、眠るような小鳥たちの存在感。『ザカリアス』もまたその中にいた。その静寂に。



   Warte nur, balde Ruhest du auch.
  けれど、待て――やがて皆が憩うだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月29日


挿絵イラスト