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掠うは運気、輝くは才覚

#封神武侠界 #お祭り2021 #ハロウィン #【Q】 #断章投下後よりプレイング受付

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 嘸口・知星(清澄への誘い水・f22024)はブリーフィングに集まった猟兵に礼を言う。
「集まってくれたことに感謝申し上げる。早速だが、封神武侠界にて事件が起きるのである。皆にはこの解決をお願いしたい」
 猟兵たちには昼も夜も、もちろんハロウィンもなく次々と事件の情報が舞い込むのが常。悪しき企ては砕かねばなるまい! と、知星も心を鬼にしているわけだ。鋭い眼差しは集まった面々への激励も多分に含んでいるようである。少々わかりにくいのが玉に瑕だが……。

 さて、舞台は古代中国、人界の文明と仙界の神秘が混ざり合った「封神武侠界」。その都である洛陽によって引き起こされる事件が今回の案件だ。
 晋の皇帝である司馬炎は、自ら洛陽の都を出て武林や仙界を巡り、武侠英傑を集めている。「我々」流の言葉で表現するのであれば「ユーベルコードの使い手」を見出している、といった意味合いになるだろう。現に、厳しい鍛錬の成果としてユーベルコードに開眼するものも多くはないが存在している。
 時に、洛陽で行われる収穫祭「灯籠節」は、非常に華やかな祭典だ。一目見ることを望んでそれこそ大陸中の人間が都に押し寄せる。どうやらその中に、この英傑が紛れているらしい。
「言うなれば不世出の英傑! さぞ興味を持ったろう。皇帝司馬炎はまだ気付いていないようだ。そして――折悪いことに、オブリビオンの群れに狙われている」
 英傑との接触、そして押し寄せるオブリビオンの打倒。それが今回のミッションとなる。

 件の英傑候補は木菟という南蛮、片田舎出身の少女である。
 煌びやかな灯籠節の会場の雰囲気に呑まれた彼女は最初こそいささか心許ない弱さを醸しているが、一度調子に乗れば場の運を支配する天性の才覚を持っている。
「なれば話は単純である。勢い! 情熱! 祭りの雰囲気!! 共に堪能すればよいのだ」
 遡ること紀元前二千三百年、ギャンブルという事柄の最も古い痕跡が確認される賭け事大国・中国! 武侠世界において、こと賭博ほど心を燃やすことはない。灯籠節では、灯籠の星にも似た美しい明かりを際立たせるため、夜には皆飾り布や光り物で仮装する風習がある。さながら仮面舞踏会の様相で賭け事に興じれば、木菟が調子に乗る契機も自ずと訪れることだろう。
「浅才ではあるが……古代中国の盤上遊戯(ボードゲーム)といえば野良『麻雀』がテッパンだな。得意でなければ当日販売される『宝くじ』もある。あとは『賽子』だな。この辺りはルールも複雑ではないしとっつきやすいだろう」
 ただ、あまり複雑に過ぎると英傑候補が混乱し気圧されてしまうかもしれない。幸い、顔や正体を隠せるから目線は見られないし、子供だからと甘く見られることもない。文字通り、真剣勝負を楽しめるだろう。――もちろん、猟兵の手でイカサマをしても構わないが……!

「並外れた幸運を察知して『濁業仙人』が来るだろう。博徒や見物に偽装してくる彼らを撃退すれば任務完了だ」
 カルマを込めた掌底攻撃、呪詛、それに幸運と生命力を奪う瘴気をも操る老獪な敵だ。幸いにも出現地点は都の外れのため、事前に侵攻を食い止めれば祭りが中止になるようなことはない。
「調子に乗った英傑はユーベルコードを用いて支援してくれるだろう。重要なのは勢いだな」
 ともあれ会場に乗り込んでくる前に全滅させることが肝要だ。奇襲や、対軍団戦法等、まとめて倒せたり不意をつけると戦闘を有利に運べるだろう。指揮官に当たる敵はいないため、残らず討伐してほしい。

「最後になったが、餞別だ。受け取ってくれ」
 ……こういうのは先に問いかけるお決まりの文言があっただろうが、知星は口寂しさを紛らわす携帯用のお菓子を手渡してくる。面食らう猟兵に向かって得意げに笑う彼女は、こう続けた。
「楽しみはとっておかないとな。無事に戻ったあかつきには盛大なハロウィンパーティーを開こうではないか。武運を祈るのである」


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回は古代中国の大都市にて、賭け事に興じていただきます。荒稼ぎすると怖いお爺さまから雷が落とされる……かもしれません。

 この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
 あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
 基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。ちなみに賭け事に触れていれば麻雀をプレイングに絡めなくてもOKです。

 続いて、「英傑の才」を秘めた人物・木菟について補足をば。
 彼女と協力を取り付けている場合、第二章ではユーベルコード《賭け狂い》を用いて戦闘に参加します。オブリビオンの大群相手にはなかなか苦戦を強いられますが、逆に連携してあげれば戦いを有利に進められます。
 あらゆるギャンブルや戦闘場面を持ち前の幸運で乗り切りますが、あまり複雑なルールや命令は覚えられないため、指示やアシストをしてあげてください。

 では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
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第1章 日常 『博徒と麻雀勝負!』

POW   :    気迫で運を手繰り寄せる

SPD   :    テクニックで出し抜く

WIZ   :    戦略で上回る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「(残り4~5巡……ワタシならダマテンで連荘だナ)」
「(当日籤……すぴいどくじ……カ。これならワタシも)」
「(賽子、アレは出目予想ダナ?! フフ、滾るゾ)」

 天を仰げば、星よりも多い灯りに目がくらくらして。
 視線を落とせば、むせ返るような熱気がモワッと鼻腔に充ちる。
 灯籠で絢爛にライトアップされた大祭の最中――藁がさにアオザイ、錫杖を持った少女が、一際喧騒の大きい賭場を背伸びしてのぞきみ、嘆息しては立ち去るを繰り返している。
 民族衣装を着込んだ木菟の姿は平時であれば注目を浴びただろうが、光り物や被り物で仮装した者たちで溢れかえる「灯籠節」の中ではむしろ地味にさえ見えてしまう。
 田舎から出てきた英傑候補・木菟は、もし猟兵との接触がなければ、己の力の覚醒を待たずしてオブリビオンに抹殺されるさだめにある。立ち去ろうとしたところを襲われるのだと。

「うう……それにしても煩いし、眩しいゾ……」

 いまいち勢いに乗り切れてない彼女は、一度波に乗ればびっくりするほどノリノリになるだろう。きっかけがないのだ。情熱的に、お祭りの雰囲気の楽しみ方を伝授しよう。

「でも、うう……でもナ。見てるだけじゃ……ううン」
劉・涼鈴
アドリブOKだよ!

お祭りお祭りー!
雑技団の芸を見たりお菓子を買い食いしたり! うまい!!
あ、ちゃんと木菟を探すのも探すのも忘れてないよ? ほんとだよ?

麻雀やってるの見てるっぽいね? よーし、飛び入り参加だ!
ルールはネットでやったことあるから多分だいじょぶじゃないかな!
…………むぉー! どれで上がれるとかサポート機能ないからむつかしい!!
【野生の勘】でがんばる!!
あ、これ分かるよ! た ん や お ! !(他の役と複合してても気付かない)

勝っても負けても楽しむよ!
気負い過ぎてるから、まずはゲームは楽しむものだっていうのを思い出させてあげる!!



「うまい!!」

 ところ変わって露店前、片手のスイーツをぶんぶん振り、美味しさを全身で表現する劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)。蛋撻(いわゆるエッグタルトのようなもの)に、砵仔糕(串付きプディングケーキ)をパクついている。先ほど食べていたパイナップルパンもなかなかに美味だったが、雑技団のストリートパフォーマンスに目を奪われているうちにあっという間に食べ切ってしまった。

「デザートは別腹だね」

 本来なら主食がいただかれたのちに放たれるセリフも、間食を立て続けに食らった後に放たれれば形なしだ。
 悲しきかな、灯籠節の人混みに紛れて他の仲間とは逸れてしまった上、件の英傑にもまだ会えていないとなれば、げに不足するはツッコミ役。しばらく諸氏には満面の笑みを浮かべる涼鈴を見てご満足いただきたい。

 公主、すなわち良家皇帝の娘――であった。
 その生家に伝わる絶技を全て体得した彼女にとって、日々はまさしく戦いの連続。たまにはハメを外す日があったっていいじゃないか、と聞かれれば彼女は答えたかもしれない。憂いを帯びた調子こそなかったにしても、今が昼と見紛うような熱気と明るさ、そして活気に溢れた人混み、むせ返りそうになる。戦場における狂乱的な熱以上に、この興奮が性に合っていた。戦場における熱気、ヒートアップ。仮装越しに見える、他を圧倒するワクワク感。

 その発端は彼処かと、足先を向ければ自然出会いの場は用意されていて――。

「ん! あっ! あそこかな、よーし!」

 ごくんと喉を鳴らして飲み込めば、溢れた驚嘆の声は公開賭博場。各々が仮装して臨んでいるその場はまるでカジノの一角。よっし気合い入れるよがんばるぞー! と、ぐっと拳を握り込んで意気込んだ涼鈴は、だん! と。

 地を蹴って、群れる衆を跳び越えて――、

 ――跳んで、雀卓の上に、降り立った。

 東家も、南家も西家も北家も全員目を白黒させている。
 彼女はそんな視線すらも無視して、絶叫する。

「やっぱり……見てたー!!」
「……エッ?!」
「ここからは、私の独壇場! 注もーく!!」

 突然の幕開け。ファンファーレの如き歓声と、怒涛のような注目の中で、気持ちよさそうに笑顔を浮かべる涼鈴。衆の一人、木菟から羨望の意を向けられたのは想像に難くない。

 かつて大いなる首都において勤勉と努力によって勝ち取ることの出来る「機会均等」が声高に叫ばれた。誰にでもチャンスがある。そう、幸運さえあれば。人はそれを夢と呼んだ。それが社会のあるべき姿だと信じて、すなわち生まれの由緒正しさも栄え具合も関係なく、実力か、実力以上の運が有れば成り上がれる世界だと公言した。
 今目立った彼女こそが「選ばれた者」なのだと、木菟は直感した。
 大注目の中席についていた一人を追いやると、涼鈴は上機嫌に麻雀を打ち始めた。こう見えて麻雀のルールには熟達している彼女である。教本を読んだわけでも師に教えを乞うたわけでもない。彼女の訓練相手は実在の相手……といっても広大なネットの海で求道者のように敵を求め、切磋琢磨してきた。

 ほどなくして――。

「…………むぉー! どれで上がれるとかサポート機能ないからむつかしい!!」
「じ、嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「まだまだぁーっ!!」

 涼鈴は唸っていた。
 役がいずれか、というのはもちろん頭で組み立てなければならない。当然チョンボがありそして時間制限のない、何より牌の質感や相手の表情による空気感が場を席巻する。いわゆるユーザーフレンドリーな仕様が、モニタ越しでない以上一切ない。普段過ごしている空間より空気が重い。一呼吸で鉛が肺にのし掛かるようだ。
 武道・拳の流派を極めた涼鈴をして、呑まれるかもしれないと思わせる、真剣勝負。交錯する視線、震える指先。舌が渇き、緊張で強張る感覚。
 これが、これこそが真剣勝負だからこそ味わえる感覚だ。目を閉じれば思い起こされる、カンフースターたちの繰り出す拳。頰を掠め、命をやり取りするヒりついた感覚。アレは被造物の中での出来事だが、今自分が感じているナマは現実だ。

「これが、これもまた、私の求める戦場ってわけだね!」

 荒い鼻息と共に指先へ力がこもる。黒ツノがいきり立つ。
 眉間に突き出された拳に怯む闘士はいない。相手の目論見を見抜き、果敢にリーチをかけ、己が待つ役面に躍進していく。
 喉がカラカラだ。何より、画面越しなら朗らかに話しかけられる相談相手が、この真剣勝負の場にはいないではないか。こうしちゃいられない。
 振り返った、目線の先にあった人物に、声をかける。もはやなりふり構ってはいられない。

「水!」
「……エエッ?! どうぞ?」
「どうも!」
 
 ご指名である、若き英傑。
 一も二もなく、目を瞬かせて水筒代わりを差し出した。傍に立って頷いて。
 差し出された竹筒を勢いよく飲み干す。真剣な眼差しについつい気圧されてしまったが、むしろ気負いすぎるなというメッセージを込められていることを果たして少女は知るだろうか? 年端は己と同じくらいか。いくつも死線をくぐり抜けた胆力が、言葉の端々から滲み出ている。田舎でぬくぬくと過ごしていた木菟とは違う。投げかけられる目線も、秘めた覚悟も、決して彼女に比肩するものではないのだけれど。それでも、人前に仁王立ちし、高らかに笑う背中にどれほどの勇気をもらっただろうか。
 怯む心を、押し殺して――!

「おかわり、ど、どうゾ!」
「も、もういいよ」
「あっはイ」

 素気無くあしらわれた。さもありなん。怯む心もまた、抱いた心持ちの一つ。ゲームは、のびのび楽しむものだ。心を押し殺すものではない。というメッセージは……流石に、込められてない……かもしれない。少女木菟もいい加減、都会はすごいナ! だけでは納得しかねている部分も、あるような、ないような。覚えたての言葉はしかし喉に絡みつくようで自然に出てこなくて、どうにも眩しい涼鈴が直視できない。
 そんな彼女の心中を察し、無理矢理に席に座らせた。信じられない力だ。そして、後に紡がれる言葉もまた、にわかには信じ難かった。

「代わりに打つ? どう、今からでも」
「ハ、いやワタシは……」
「ん、むむむ、お、あー、あ、これ分かるよ! た ん や お ! !」
「…………一盃口だナぁ」
「あれえ?」

 ひとつひとつ指差しにて確認して、うんやはり間違いないナと頷いて、済めば一夜の笑い話。燈火の一つとして華やかに、笑い声と共に消えていく。
 涼鈴は、ありのままの姿にて登場してきた木菟と対面して、ふと指摘した。

「でー、ところであなたはやらないのかな?」
「い、いや、だからワタシは」
「誰も責めないよ。怖くないよ。誰にも迷惑をかけない。失うものなんてない。だって全部あなたの戦い、そうじゃないかな?」

 どういう想念か知らずだが、ともあれ一念発起して都にのぼった意思は買うべきだろう。飴細工のようにうっとりと牌を摘んで、笑いかけて。
 自分自身の拳に賭けるから、戦いは面白いのだ。オブリビオンとの戦いにいつも真っ先に駆けつける涼鈴が、リモートで依頼に向かうことなんてあり得ない。生きている限り最前線で、楽しめる限りはこうして卓に参じて。そして、笑って。そう、満面の笑みで手を取るのだ。

「はい! 次はあなたの番だよ。ではご一緒に!」
「え、エエッ?!」
「がんばるぞー! おー!!」
「お、おオ!」

 釣られて少女は一歩、踏み出した。あとは歩くだけだ。勝利への、栄光の架け橋を、踏み外すことなく――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「…なるほど。始まる前から甘味を渡すとは、貴女は随分思慮深い方のようです。謹んで拝命いたしましょう」
笑う

「どうしました、お嬢さん?ここで賭け事をなさらぬのは無粋ですよ?」
ぽんと木菟の肩叩き「邯鄲の夢」
木菟に各ゲームのルールや遊び方、そして大勝する数時間にわたる夢を一瞬で見せ、目覚めた木菟の耳元でそっと囁く

「ほら、どのゲームも簡単だったでしょう?貴女なら勝てますとも」
嗤う

こっそり小さな式神も放ち胴元や対戦相手の手札等確認
木菟が大敗しないよう後ろに立ってそっと囁き続ける

「あまりひとところで勝ち続けては余計な恨みを買いますそろそろ卓を移動しませんか?」
嗤って木菟の口に貰ったお菓子を突っ込み手を引く



 大小。シックボーとも呼ばれる賽子の出目や、その数字の大小を予測して賭ける遊戯である。
 木菟はその舞台に上がり賭け事に興じている。なんてことはない、キッカケはある男の一言であった。

「どうしました、お嬢さん?ここで賭け事をなさらぬのは無粋ですよ?」
「……エ?」
「ゆきなさい。それとも、この都は戦場として狭過ぎるとでも言うつもりですか?」

 吸い込まれるような魅力、魔貌を、木菟はよく覚えている。なのに細やかな造形はちっとも思い出すことができない。思い返せば妙な話だ。その偉丈夫、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)の存在が、未だ燻る木菟の心を掻き立ててやまない。
 すれ違いざまに軽妙な指の音と、肩を叩かれた感触があったのを覚えている。アレはもしや何かの思し召しだったのかもしれない。

「……?」

「…………?」

 いや。否。否だ。
 思し召しなどで、あるものか!

 パッと振り返り、仮装と仮想の入り混じる熱狂の混雑を見遣る。当然喧騒に紛れてその姿を視線で追うことはできない。
 頰を摘む。ヒリヒリと痛い。瞼の裏には鮮やかに光景が蘇る。あれが本物でなくてなんだというのか。生々しく興奮の残る実体験……およそ幾数刻にもわたる明晰夢。大勝に次ぐ大勝、夢、まぼろし。

「か、感謝すル! ど、どなたかは存じ上げないが、ワタシは、必ず勝ち、力を証明してみせるゾ!」

 どことも、誰ともなく遠く広がる虚空へ向かって叫んで、木菟の覚悟は決まった。どのゲームでももう遊び方はわかる。そしてこうなった以上、ただ勝つことが目的ではない。歴史に残るように鮮やかに、そして芸術的に、遊び尽くす。骨までしゃぶるように、身まで喰らい尽くすように。
 これからの遊戯は、夢見を施した偉大なる仙に捧げよう、と。

 鋭く眼光が閃いて――!

「な、なんだこの嬢ちゃん……!」
「勝負に……ならねエ!」

 大勝ちした。それも、立て続けに。
 三つの賽子を振り、10以下であるか、11以上であるかを賭ける。この成否が二倍の配当、数字を一つ的中させればさらに二倍、出目の合計数を的中させれば脅威の六倍から六十倍を手にすることができる。

「一、一、三ダ」

 藁がさで目元を隠し、不敵に笑って言いのける。繰り返しになるが、本来なら大小を当てても配当が発生する遊戯にて、こんな賭け方は普通しない。
 それができるのは、彼女の異常に発達した運。もはや呪いに近い幸運の女神の微笑。
 何より――。

「……」
「ほウ? その握り込んでる賽子は、無粋ダ。四五六しか出目にないな。疾く捨てたまえヨ」

 何かに頷くと、さらに木菟は笑みを濃くする。
 賭け士たちは戦々恐々だ。田舎出の小娘にしか見えなかった少女が、豪運を発揮して賭場を席巻し、手玉にとろうとイカサマをすればそれも見破ってくる始末。悪鬼羅刹に魅入られた、という方がまだ納得がいく。笑うしかないやら怒りやら恐怖やらで、制御できない感情がめちゃくちゃだ。

「……どうやって気づいたんダ?」
「それよりも、あまりひとところで勝ち続けては余計な恨みを買いますそろそろ卓を移動しませんか?」

 千里眼か、と木菟自身舌を巻く。壁越しの札を見ることなど叶わないように、当然、イカサマを見抜く眼力など彼女は持ち合わせない。まるで天から俯瞰してこの状況をのぞき見ているか、はたまた全知全能なのか。真相が知りたくもあるが、その深淵を覗き見ることは、彼女にとってもよからぬ事態を招くに相違ない。古くから触らぬ神に祟りなしという。ここから先は神の了見だ。
 それでも、心地よく囁き続ける声にもいい加減慣れてきたところだ。大人しく聞くに限る。田舎住まいの彼女は存外信心深いのである。見えないものほど、よく信じられる。いざ前にすれば――。

 ――どんっ……!

「も、ま、むグッ」
「おや」
「すままい」

 むぐむぐむぐと、謝意もそこそこに口へ突っ込まれた菓子を咀嚼する。席を立ち、律儀に稼いだお金を純粋なタネ銭を残して全て返却し、その去り際に口に入れられた形だ。見上げれば大男が、仮装らしき学帽……黒服? 姿でにこやかに佇んでいる。異国東夷の学生服など及び知るはずもない。木菟の落ち度、そして粗相だ。宝石細工のような棒付き柔飴を食べてしまっても、怒る素振りもない。
 本を片手に口元を隠し、彩り深い青い瞳は玉のよう。この眼差しを知っている。

「て、手解きいただいた夢の神、さマ?!」
「なに。これはあらかじめ預かっていたものですから」

 ぽんと木菟の肩を叩く。これが合図。微睡む仔羊を招く《仙術・邯鄲之夢》である。木菟に各ゲームのルールや遊び方、そして大勝する時間を体験させたのも、冬季の気まぐれがなせる御技だ。
 彼がその気になれば潜在的な自己顕示欲の強い彼女を人前で大敗させ晒し者にし、身ぐるみを剥ぎ取り、その後オブリビオンに殺される夢を体験させることもできた。その際に四肢を順にもぎ取り、路地裏に人知れず捨てるようなことも。干渉しなければ発生し得る不運を何倍にも濃縮したような、絶望。
 そんなものに決して負けはしないと、弾みをつけるように甘美な夢を見せたつもりだったが、今は口に含んだ菓子の方によほど夢中なようだ。これはこれでいささか張り合いもない。

「ほら、どのゲームも簡単だったでしょう? 貴女なら勝てますとも。では今度の死闘(ゲーム)はどうでしょうか。ベットするのは一枚、己の命のみ。本当に心の底から望んでいる、刺激です」

 彼女が夢中になるスリル。一度手にした金を容易に手放したことから、その根源は財産への欲にはない。そこでオブリビオンの群れとの戦闘を疑似体験させてみた。膝から崩れ落ち、ガクガクと震え、肩を抱いて、舌を出して汗を滝のように流して。極度の興奮か、あるいは幻視による絶望か。どちらもか。
 そんな彼女の手を引いてみせる。

「いかがでしょうか?」
「あ……お」
「恐れることはありません。さあ」
「お、もしろイ!」

 冬季は、英傑に足りうる資格や資質を、実は知っている。なにせそれを見出す大元、皇帝と出会ったことがあるのだから。ユーベルコードを体得する実力はもちろん、揺るぎない力への探究心。それに猟兵と出会い、そこで折れずなお前に進む胆力。いくつもの要素が複合的に絡み合って初めてその存在を形容する言葉がつくのだ。
 ここで敵の群れを前にし背を向けて逃げ、布団を引っ被って震えるのであれば所詮その程度。命までもを賭け事の場に出したくないと我儘を言えば、それは英傑の振る舞いではない。人に囲まれ、命さえも担保にして、なお笑う。

「面白いナ! 偉大なる使い手、仙のモノよ! ワタシは、このために生きていたのカ?! ワタシはワタシに賭けてみたイ! 戦うゾ!!」
「よろしい。では今しばらく遊んできなさい。時がくれば、巡り合わせが導くでしょう」
「は、はハッ……!」

 地面に平伏せん勢いで頭を擦り付ける。その背に、冬季がこっそり忍ばせた式神がいることを木菟は気づかない。
 調子に乗りやすい彼女に効果的なのは、神を装って導くことであった。神なんて言葉さえも陳腐になる迅雷公には、少女一人をその気にさせるなどお茶の子さいさい。あとは己の運で道を切り開くことだろう。運でどうにもならないことだけサポートしてやればいい。

「どんな勝負でも、ですか」

 彼は、嗤う。冬季が介入した以上、運命でさえも、彼に跪く。もはや思いのままだというのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『濁業仙人』

POW   :    業雷衝
自身の【理性】を代償に、【業(カルマ)】を籠めた一撃を放つ。自分にとって理性を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    業濁瘴
【漆黒の瘴気】を解放し、戦場の敵全員の【生命力】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    呪仙痕
攻撃が命中した対象に【激痛を与える呪詛の刻印】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【刻印の拡大】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「直感に従って来てみれば……わかるゾ。オマエ、悪いやつだ」

 英傑見習い木菟は、祭りも酣(たけなわ)のころ、胸騒ぎを感じて人気の少ない辺りにやって来たのを、『濁業仙人』と鉢合わせていた。
 彼女の生まれた地方では、老人は敬うべしという古い教えがある。

「フェフェフェ……小娘が、覚悟はよいかえ?」
「フフ! どうかナ。運良く善戦するかもしれないだろ」
「笑止!」

 重苦しい空気にカルマが混ざり合い、緊張感が場を支配する。一触即発の雰囲気の中で、輝かしい星のような才覚を持つ猟兵たちは颯爽躍り出る。若き命を掠められる前に、カルマごとねじ伏せてやろう。
奉籠霧姫・櫻轟霆(サポート)
 ドラゴニアンのパーラーメイド×寵姫、7歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、尊敬する人には「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「団体様、ご案な〜い♪」

 一触即発の雰囲気の中、小柄な少女がハートを振りまいて馳せ参じる。奉籠霧姫・櫻轟霆(パーラーメイドラゴニアン・f32840)は奉仕を信条とする猟兵である。それがカルマに満ちた『濁業仙人』であろうと、曲げられることはない。

「誰だか知らぬが、これでも喰らえい!」

 給仕にやってくる無防備な櫻轟霆に、杖での一撃を見舞おうとする。当たれば最後、死ぬまで激痛を与え続ける刻印が刻まれ、永久の苦しみを与える呪いだ。業の深い翁に、子供に手を挙げることへの躊躇は一切ない。
 しかし、こと体に触れられることを嫌悪する櫻轟霆。咄嗟に繰り出したトレーオボンシールドが、金属音と共に杖を弾き返した。

「……これが、力なのカ。狂気の沙汰ほど、というやつかな? フフフ!」

 偶然、ではない。
 戦場に立つ若き英傑木菟が奪った運気が、仙人に悪運を呼んで望んだ結果を引き起こしたのだ。

「では、改めて――Let’sゴホーシにゃ♡」

 気を引き締めて、でもどこか楽しげに、即興の給仕を施していく。あまりに自由、あまりに制御不能! 毒気の抜かれた仙人たちは無力化されてへたりこんでいく。むやみに女性に手をあげる仙人など、言語道断。厳しいもてなしが必要だろう。

「おカエりくださいませ、ご主人様♪」

成功 🔵​🔵​🔴​

火土金水・明
「せっかくのハロウィンなのに戦闘とは無粋ですね。」「私は英傑見習いさんのお手伝いをさせてもらいます。」(木菟さんに合わせて攻撃します。木菟さんへの攻撃は私がかばいます。)
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は、【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】と【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【ホーリーランス】を【範囲攻撃】にして、『濁業仙人』達を纏めて【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【呪詛耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)それは残像です。」「私の役目は少しでもダメージを与えて次の方に繋げる事です。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。


劉・涼鈴
戦さの気配にシュバっと現れるよ!
こいつは魔教ってやつだね、遠慮はいらない! ぶっ飛ばす!

【気合い】を入れて全身に【覇気】を漲らせる!
よっしゃー! 行っくぞー!

練り上げた【功夫】と、天性の【野生の勘】で動きを【見切る】!
普段は戟を使ってるから、杖術の動きもだいたい分かるよ!
【受け流し】て拳でぶん殴る!

なかなか強いみたいだけど……邪に寄り過ぎてる!
それで仙なんて笑わせるね!
代償を支払うことを恐れてる!
どれだけ強くても、思い切りが良くないと肝心な時に実力を発揮できない!
武術も博打もそこは変わらないよ!
業雷衝をギリッギリの紙一重で躱して、懐に潜り込んで【捨て身の一撃】【怪力】【劉家奥義・神獣撃】!


鳴上・冬季
「理性をなくした一撃、ですか。畜生にも劣りますね」
嗤う

「出でよ、黄巾力士火行軍」
9体1小隊とした12小隊を
・砲頭から制圧射撃
・砲頭から焼夷弾で鎧無視・無差別攻撃
・上記2小隊をオーラ防御で庇う
の3小隊で1隊に編成
4隊で敵を包囲し波状攻撃

残り7体は木菟につけ
3体は木菟に向かう敵に制圧射撃
残り4体に木菟への攻撃をオーラ防御で庇わせる

自分は空中から竜脈使い全黄巾力士の継戦能力底上げ
自分への攻撃は普段から連れている黄巾力士にオーラ防御で庇わせる

「理性をなくした攻撃が通るほど、黄巾力士は弱くありません。まして私が強化しているのですから」
嗤う

「攻撃も勝負も、勝つのは理性あってこそですよ、木菟さん」
笑う



 魔法の箒に凭れて戦場を睥睨していた影が、しゅたっと舞い降りる。
 彼女は自由に憧れ不躾な争いを嫌う、”荒廃の魔王”アゼル=イヴリスの落とし子。カオスを受け入れ、夜闇と魔を我が物顔で闊歩し微笑う少女。

「どうやら手が足りない様子。我、善を助け悪を挫く者!」

 高らかに名乗りをあげ参戦するは火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)。三角帽子を傾け、仮装の祭りの賑やかさに背を向けて――。

「そして、日常を守る者!」
「おオー! 心強いナ!」
「私は英傑見習いさんのお手伝いをさせてもらいます。存分に戦ってください!」
「なニー?! ワタシが、ワタシなのカ!?」

 正直、ソレは違うんじゃないカ……? とモジモジしている。木菟は田舎育ち、実戦に臨むほどの気概は、賭け事を通してでしか発揮できない、勢いと波に乗れるかどうかが命運を分ける人材。
 その様子を見かねてか、涼鈴に冬季も参陣する。片や闘志を漲らせ、片や涼やかな様子は超然として底知れなさを感じさせる。

「分担しましょうか。私としては、やはり……」
「うんうん。あいつらはぶっ飛ばーす! それでいて木菟は支援する! だね」
「うまく繋げられるよう、がんばります」

 作戦会議は終わったかえ? と、禿頭を撫でつつ、ゆっくりと包囲の輪を狭めてくる『濁業仙人』たち。歩むことすら放棄した、悠久の咎人たちが募るカルマを高めて更なる罪を重ねようとせせら笑う。
 キェエェエエエ!! と、そんな狂気の叫びをあげて、襲いかかった。翁たちは真剣だ。

「そんな見せかけの狂気……!」

 欺瞞を見て、真に賭ける命の重さを知って。

「ワタシは賭ける。自分に、皆に! 人生全部だ! そんなおままごとじゃなくて、真剣にぶつけてやル!」

 その双肩に都市の人たちの命が、幸せが。
 強がる言葉には、気持ちが、掛かり気味に。

「死ね!」
「死ぬカ! 死ぬもんカ!!」

 狂え。狂い、狂えば、拓ける道もある。

「――無論、閉ざされる道もありますね。理性をなくした一撃、ですか。畜生にも劣りますね」

 赤く光る眼光を、白い閃光が灼いた。薙ぎ払うような上空からの制圧射撃が、反撃をものともせず群がる翁を駆逐していく。黄巾力士――其の火行軍。百体を超える自律宝貝秘軍が、敵を包囲し、一斉に砲塔を向けたと思いきや、刹那。

「元より狂気とは起爆剤。綿密に組み立てられた理論、それを裏打ちする才覚、完成したそれをより上の段階に上げる起爆剤と言えるでしょう。元から狂ったものはただの制御できない爆弾です」

 では、そんな向うみずの火の粉が、果たして何を焼けるだろうか。語るに落ちた狂気の敗残者たちに、嗤う。無駄に歳を重ねてきた翁と、数多の転生で蓄積してきた経験のある妖狐の違いだ。

「理性をなくした攻撃が通るほど、黄巾力士は弱くありません。まして私が強化しているのですから」

 蹂躙せよ。その下知で事足りる。
 己の持ち得る知識を惜しみなく使って、教科という名の研鑽を積んだ黄巾力士が、奪うことしかしてこなかった翁を、触れる猶予さえ与えず次々に屠っていく。絵面、一場面を切り取れば、虐殺にも取られかねない、阿鼻叫喚地獄絵面。
 俯瞰して嗤う冬季は、どんな名画よりも絵になるだろう。

「フェフェフェ! 効かぬ効かぬ効かぬゥウウアァハア!! フヒャアハハハ!!」
「一筋縄ではいかないようですね……これなら!」

 ぐるりと描かれた不可思議な軌道が、次々に螺旋を描いて飛ぶ聖なる槍だ。どのような力で浮き、何を以て敵を刺し貫くのか。明の指先の動作一つで、撒き散る黒い血飛沫をものともせず、次々に翁を昏倒させていく。
 数にすれば五百を超える槍の雨。今更命乞いをし悔い改めたところでもう遅い。

「ハロウィンを邪魔して迷惑をかける無粋な方々には、お引き取り願いますよ!」

 都市を去るどころか命を差し出しても許されないだろう。カルマなどと都合のいい言葉を並べ立てて、若者の芽を摘む蛮行。ハナから許すつもりは毛頭ない。
 両手両指を交差させて一斉攻撃に持ち込む。蜘蛛の巣に捕われた羽虫のように、その最期の散りざまを晒してこの世から消え去った。

「はッ! 私たちの攻めに怖気付いた? なら教えてあげる、どれだけ強くても、思い切りが良くないと肝心な時に実力を発揮できない!」

 例えば腕を犠牲にしても、例えば今までの積み重ねを消してしまったとしても、例えばそれで己の財が全部藻屑と消えようとも。
 恐怖は人の心を鈍くする。心の贅肉がひとときの安寧をもたらす代わりに、踏み出す勇気を根こそぎ奪い取る。己の才覚にあぐらをかかずアップデートを続ける冬季。己の存在気質に確固たる自信があるだけに、変化と混沌を、そこにある自由を尊重する明。
 そして、涼鈴の秘拳が、天へ向かって突き上げられて――!

「もし志を高く持つなら、攻撃も勝負も、勝つのは理性あってこそですよ、木菟さん」
「そうそう! どれだけ強くても、思い切りが良くないと肝心な時に実力を発揮できない! 武術も博打もそこは変わらないよ!」

 その拳はそのまま肉薄する仙人へ向けられた。

 ――ボッ……!!

 空気を引き裂き音を置き去りにし――!

「ぶ ち か ま す !!」

 突き出したストレートが、夥しく重なる仙のカルマごとぐちゃぐちゃのミンチへと変えていく。巻き起こったソニックブームが近隣建物を粉砕し、木菟もきゃと小さく叫んで頭を抱えた。
 そこに強さはない。破壊をもたらす奇怪な老人には、どうにも相容れない隔たりを感じて仕方ない。そこにある狂気を、仙という言葉で表現することそのものが受け付けられない。

「……あなたのそれは臆病なだけ! だから徒党を組んで、まだ若い子を標的にして!」
「なん、じゃとう! 年寄りは敬えい!」

「――それで仙なんて笑わせるね!」

 気合いを込めて地を踏み鳴らす。震脚だ。体勢を崩した翁たちを、回し蹴りがまとめて薙ぎ払った。

「狙うなら、今!」
「応とも!! 悪運も尽きたなア! フフ、フフフ!!」

 出来上がったばかりの亀裂に、木菟が一歩踏み出して、笑いながら駆け抜ける。一見すれば無意味な行動。しかして運命の女神に微笑まれた彼女は、涼鈴の打った布石を、勝利間違いなしの盤面へと作り替える。すなわち地割れ。決して脆くなかった地盤を、まるで最初からそこに落とし穴があったかのようにぐしゃぐしゃにかき乱して、仙人の動きを封じてしまう。

「愚かな、お、なんと……これで仕留めたつもりかえ……?」
「そんなつもりは――」
「――ありませんが」

 闇のように纏わりつく漆黒が、仙の動きを硬直させる。得意げに笑う明の笑顔が、邪仙が見た最後の光景となる。
 宝貝、再起動。黄巾力士たちがトドメとばかりに残党を蹴散らしていく――!

 そこにあるのは、狂気さえもコントロールする、すなわち熱を読み取る眼力だ。破天荒。天を破り荒ぶる超越者。すなわち英才の傑物。人ならざる青い瞳が、若き英傑の本質を見据える。木菟は伏せて、ただただ遥かな高みを仰ぐだけだった。

「鮮やかな腕前だ。圧倒的ダ……! まるで星、まるで輝く――!」

 そう、それは綺羅星のような、夢で。

 仮装の奇祭は深けていく。そこにはもはや抵抗の怒号も、悲鳴もなく、愉快な収穫の感謝と祈念だけがひたすらに綴られていた。
 完膚なきまでに蹂躙されたオブリビオンは一人残らず駆逐され、若き希望は守られたのだ。

 ……それから数えて近い未来。
 ある若者が「英傑」として取り立てられた。今まで身を伏せ才を隠していたことを驚かれたことは言わずもがな。また彼女の推挙には、猟兵の人知れずの活躍があったことは言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月29日


挿絵イラスト