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だって、食べたことがないから

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 生まれてはじめて、少年はそれを見た。
 オレンジ、青、緑、黄色の、きらきら輝く小さな粒。
 黒と灰色が支配するこの世界にとって、その誘惑はあまりに魅力的で……抗いがたい。
 きっと舐めれば甘いのだろう。
 味わったこともない甘美が待っているのだろう。

 その先に、未来などないとしても、構わない。
 だって、元からこの村に、そんなものはないのだから。

 ●

「キミ達はキャンディは好きかい? ボクは大好きさ、甘くて、綺麗で、一日三つまでと言われていたのに、ついつい食べすぎては怒られたりしたものだけど……」

 グリモアベースに猟兵を呼び寄せたミコトメモリ・メイクメモリアは、表情を歪めて告げた。

「そのキャンディを舐めたら、死んでしまうとしたらどうする?」

 そんなこと、答えるまでもない。
 命と引き換えにするほどのことではない、普通なら誰もがそう思う。

「けれどそれが、闇に支配された、何の楽しみもない世界で、唯一存在する娯楽だったとしたら?」

 グリモアベースの景色が変化する。闇に閉ざされ、オブリビオンが人々を支配する世界―――ダークセイヴァー。
 その世界にある小さな村の一つが映し出された。
 キャンディで体を彩った異形の『何か』は、怯える村人達を集め、無造作に光る粒をばらまいていく。

「悦楽卿・パラダイスロスト! 悪趣味なオブリビオンさ。善悪も道徳も倫理、彼には関係ない。彼は領主としての勤めを果たすと言って、村人に飴玉を施すんだ……ただし、食べたら半分の確率で死んでしまうけどね」

 食べなければいい、というのは簡単だ。
 けれど、そもそもそれしか与えられなかったら。
 あるいは、支配され、死に怯える暮らしを続けるのなら。
 いっそ、甘い飴玉を一口含んで、ほんの少しでも幸せな気持ちで死にたいと思っても。
 不思議じゃあない、いや、そうなる様に、彼は仕向けている。
 光を奪い、希望を奪い、仮初の幸せを与える。
 命と飴玉の天秤を比べ、悩み苦しむ人、誘惑に負けた者達で、分かたれた生死から生まれる感情の格差。
 それを見る事こそが、悦楽卿・パラダイスロストの楽しみなのだ。

「……許せないと思うのなら、手伝ってほしい。今、パラダイスロストは大掛かりなパーティの準備をしてる」

 準備? と猟兵の一人が訪ねた。

「そう、パーティ。もうすぐクリスマスでしょう? だから村人達を集めて、甘いお菓子でもてなすんだってさ。勿論、食べたら死ぬ……かも知れない」

 悪趣味で、悪辣な宴、だが、その準備の間こそがチャンスだ。

「普段は村を支配するパラダイスロストの配下も、準備にあれこれ追われてるんだ。警備が手薄になってる、乗り込んて倒すなら、今ってこと」

 パラダイスロストの配下の多くは、知性の低い暗闇の獣だと言う。

「戦いは避けられないだろうから、手早く仕留めて、館に乗り込んでほしい。パラダイスロストを倒せれば、ボクからの依頼はおしまい……いや」

 やっぱりちょっと待って、とミコトメモリは続けた。

「できれば皆には……村の人達に、本当のクリスマスパーティを教えてあげてほしいんだ。世界はもっとキラキラしてて、素敵なことがたくさんあるってことを、知ってほしい。戦いの後で疲れてるかもしれないけど、お願いできるかな」

 誰かが任せろ、といい、それを聞いて、ミコトメモリは笑った。

「うん、君たちを信じてる。よろしく……お願いね!」


甘党
 舞台はダークセイヴァー世界。
 村を支配するのは快楽卿・パラダイスロスト。

 配下の雑魚を蹴散らした後、パラダイスロストを倒せれば、シナリオクリアとなります。

 どうか皆様の手で、村人たちを解放し、もっと楽しいことがあると、教えてあげてください。
 よろしくおねがいします。
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第1章 集団戦 『暗闇の獣』

POW   :    魔獣の一撃
単純で重い【血塗られた爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    暗闇の咆哮
【血に餓えた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    見えざる狩猟者
自身と自身の装備、【自身と接触している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。

イラスト:飴屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラニューイ・エタンスラント
……あぁ、吐き気がするわね。生まれ故郷だからこそ、この理不尽がまかり通るこの世界が許せない。クリスマスっていうのがなんだか知らないけれど……世界はもっと素敵なんだってのには同意だわ。戦い方は単純に、ユーベルコードを用いて雑魚を叩き潰すわ。他の猟兵が居たら申し訳ないけど……この世界に立ち向かうという、私なりの意思表示よ


ヴェルベット・ガーディアナ
ボクも甘いものは好きだしあの世界でそれらを口にする機会が少ないのも分かってるけど。
でも命と引き換えの…ただ一瞬の幸せなんて悲しいじゃないか。
酷なことをだけどどうか生きて。ボク達がクリスマスをするからそれまでは。

【SPD】
さぁ、ボクの可愛いお人形さん。獣が叫びをあげるならその喉笛を掻き切ってやろう。
少し先の攻撃なら絶望の福音で回避してあげるよ。



『?』

 とん、と腹部に、手のひらが当たる。
 暗闇の獣は、少ない知性でもって、首を傾げた。
 言語化できるほど知能指数の高くはない獣だったが、その内容は要約するとこういうことだ。

(なんでこの獲物は、自ら喰われきたのだろう?)

 その疑問に答えが出ることはなかった。
 小さな手が触れたその部位から、光の十字架が出現した。
 獣は四つの肉塊に裂けた後、熱で焼かれて消滅した。

 ●

「あぁ……吐き気がする」

 ラニューイ・エタンスラント(ダンピールの聖者・f05748)の放つ光が、暗闇の獣を飲み込み焼き払う。
 ダークセイヴァー……この世界で生まれた彼女にとって、こんな事は日常茶飯事だ。
 領主の気まぐれ、楽しみ、八つ当たり……様々な理由で人々は虐げられ、苦しんでいる。
 当然のように目にしてきた、当たり前の光景だからこそ、静かな怒りがこみ上げてくる。
 だから、彼女の歩みは止まらない、一直線に、領主の館に向かう。
 配下達は、当然、そんな彼女に真っ先に襲いかかる、逃げも隠れもしないのだ、当然だ。
 その行動が、賢い選択でないことも、不利であることもわかっている。
 それでも――――猟兵となったからこそ、この世界の悪逆に、自分が歯向かわなくてどうする。

『グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアアオウ!』

 暗闇の獣達が、ラニューイに集中する。
 
(――――全員、片付けてやる)
 
 ラニューイのユーベルコード――手のひらが触れた相手に十字架型のエネルギーを浴びせる必殺の攻撃。
 その制限ゆえ、対処できるのは一度に二体まで。
 対して、眼前の数の敵は、四。二回攻撃を食らうだろうか、けれど、それが何なんだ。

 退かない。それが、ラニューイの世界へ立ち向かう為の意思表示。
 先手を取って、同時に二体、手を触れる。十字の熱が荒れ狂い、獣を焼く。
 その隙を突いて、二体の獣が爪を立て、襲い来る。

 ●

 喉笛をかき切られ、ドス黒い血が吹き上がった。
 断末魔の咆哮と共に、ぐらりと横向きに倒れ、二度と起き上がらない。
 
「……あまり無茶をしないで。見てて怖くなっちゃうよ?」

 ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)は、仕事を終えた相方である人形、シャルローナを抱きしめながら、ラニューイの横へと立った。

「……貴女は?」
「ヴェルベット・ガーディアナ……ヴェルでいいよ、それより」

 心配そうに、わずかに怒りながら、ヴェルベットはラニューイを咎めた。

「あなたが襲われる未来が見えたから、つい助けちゃった。一人で戦ってるじゃないんだから、ちゃんと仲間も頼って」

 きょとんと目を見開いて、ラニューイはヴェルベットの顔を見た。

「ボクも甘い物は好きだけど……命と引換えだなんて、絶対間違ってる。気持ちは一緒だよ」
「……そう、怒ってるのは、私だけじゃないのね」

 前へ前へと行くことだけを考えて……他の猟兵に意識を払っていなかった。
 少なくとも、冷静でなかったのは確かだ。

「……あなた、人がいいのね」
「いい人って言ってほしいなあ、ねえ、シャルローザ?」

 敵の喉笛を描き切るほどの戦闘力があるとは到底思えない、美しい白髪の相棒に語りかけ、ヴェルベットは笑った。

「敵をやっつけたら、村のみんなとクリスマスをするんだよ? キミが傷ついてたら、きっと皆戸惑っちゃうよ」
「……ねえ」
「ん?」
「クリスマスって……どういうものなの?」

 今度は、ヴェルベットがきょとんとしてしまった。

「そっか……えっとね、すごく楽しいことだよ、皆が笑顔で、美味しいものも沢山!」

 ――きっと皆、世界がもっと素敵だって、そう思えるよ。

「そう……楽しみだわ」
「うん、ボクも、だから……」
「ええ――――行くわ。前に」

 二人の少女が再び歩き出す。迫る獣を退けて、悪意の主を討つために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マスクド・キマイラ
アドリブ・合流等歓迎


うおおおおっ!
ふざけやがって!

夢も希望もない地獄っ!
その甘い罠がったった一つのっ!光だと言うならばっ!!

見せてやるっ!見せてやるっ!……魅せてやるっっ!!
この俺がっ、俺がっ、このっ、俺っ!マスクドキマイラがっ!!
プロレスをっ!!!
最高にアツい、希望をっ!夢をっ!娯楽をっ!!
プロレスをっ!!!
見せてやるってんだよっっ!!!!

ゴングはまだかっ!?
前座だって手は抜かねえぞっ!
見ろっ!聞け!叫べっっ!!
俺の名はっ……マスクドっキマイラっ!!!!


的なマイクパフォーマンスを全力でカマし、乱闘します
戦闘はプロレス、心には熱い想いとエンタメ精神

例え今は観客に響かなくても、プロレスを貫きます


祷・敬夢
フッ、戦いが終われば甘いものよりも楽しいものを教えてやろう!そう、ゲームだ!クリスマスプレゼントとしても相応しいしな!この俺様とやれば至高のひとときとなるさ!!

そのためにもやることがあるな
最強の俺の相手はボスのパラダイスロストこそが相応しいが、こういった配置だと先に配下を倒さねば囲まれるだけだろう
となると、ただ待つだけは性に合わん
有象無象の獣を倒しに行くとするか

どれだけの数がいるかわからんが、数には数をぶつけようか
バトルキャラクターズを12体召喚!最高にカッコイイ俺様の指示で敵を素早く倒せ!

ただ範囲攻撃だけは流石の俺の布陣でも恐ろしいので、互いに距離を取っておこうか

フッ、己の才覚が恐ろしい……



『グオォオオオオオオオオオオウ!』

 鳴り響く獣の咆哮。
 戦いが始まってから、簡素な家の中で少年は震えていた。
 なんの意味もなく気まぐれに人々を殺戮する恐怖の象徴。
 ヤツが吠える時は、誰かを引き裂き、食らう時だ、誰かが死ぬ時だ。
 そう思って震えていた彼は――――続いて響く、その『声』を聞いた。

 ●

「うおおおおっ! ふざけやがって!」

 獅子の鬣、猛牛の双角、飛竜の眼光、狼の牙。
 傍から見たらなんの化物かと思うだろう。
 しかしそれは幸いなことに人間のシルエットだった、一応。

「夢も希望もない地獄っ! その甘い罠がったった一つのっ!光だと言うならばっ!!」
「見せてやるっ! 見せてやるっ! ……魅せてやるっっ!!」
「この俺がっ、俺がっ、このっ、俺っ!マスクドキマイラがっ!!」

 なぜマイクを持って――いや、少年はそれを『マイク』と呼ぶことも知らないのだけど――叫んでいるのだろう。
 なぜ敵の目を引くようなことをわざわざするのだろう。
 現に、姿を消して様子をうかがっていたであろう獣達も、そちらに集中しているではないか。

「最高にアツい、希望をっ! 夢をっ! 娯楽をっ!! そう――」

 高らかに拳を掲げ、人差し指を突き上げて宣言する!

「プロレスをっ!!! 見せてやるってんだよっっ!!!!」
「見ろっ! 聞け! 叫べっっ!!」
「俺の名はっ……マスクドっキマイラっ!!!!」

 そう、彼の名はマスクド・キマイラ!
 千の貌と千の技をもつ漢!

『グオァアアアアアアアアアア!』

 鮮血で赤く染まった爪が、マスクド・キマイラに一斉に振り下ろされた。
 地形すら変えるその攻撃を、しかし受けて耐える。
 避けない。なぜか? これはプロレスだからだ。
 もちろん敵が行っているのはプロレスではなく殺戮だ。
 しかしマスクド・キマイラが行っているのはプロレスだ。
 戦いとはパフォーマンスであり、エンターテイメントだ。

 感じるものは恐怖ではない、興奮でなくてはならない。
 震えるのは恐怖ではない、興奮でなくてはならない。

 故に、マスクド・キマイラは倒れない。彼はプロレスラーだからだ。

「――――聞き捨てならないな!」

 だが、何故か物申す者がいた。
 そして闇に覆われた世界で、エンタメとエンタメが交錯する。

 ●

「何奴!」

 マスクド・キマイラは反射的にそう叫んだ。彼はエンターテイナーだからだ。

「誰かと聞くのであれば名乗ろう――――! 」

「頭脳明晰、眉目秀麗、百戦錬磨と呼ばれる最強のバトルゲーマーとは、そう、この俺様――祷・敬夢のことだぁっ!!」

 祷・敬夢(プレイ・ゲーム・f03234)――バーチャルキャラクターにして、最強のバトルゲーマー(自称)!

「ゲーマー……だと!?」
「そう。マスクド・キマイラよ。確かにお前の演説、一理ある。希望と、夢と、娯楽は必要だ……こんな世界では特にな。だがしかし!」

 プレイ・セット―――電子音が周囲に響き渡る。
 敬夢が装着したバーチャルゴーグルの機能によって、世界は電脳世界、彼の領域へと変じる。

「――――最高にアツい娯楽とは……なにか? ゲームだ! 何せ見ているだけじゃあない体感がある!」

 同時に展開する、十二体のバトルキャラクター――彼の操作の元に動く、プレイングスキル=戦闘能力であるゲームと連動するユーベルコード!
 電脳領域に巻き込まれた暗闇の獣達を、バトルキャラクターが薙ぎ払う。
 見事な連携とコンビネーション、攻撃が命中するたびに舞い散る、派手なエフェクト。

「どうだ……これがエンタメの真髄だ」
「――――ふっ」

 マスクド・キマイラは笑った。
 屈辱を感じたからでも、けなされたと感じたからでもない。

「ならばバトルゲーマーよ、お前ならっ! どうするっ! この絶望に飲まれた世界でっっ! どう世界を盛り上げるっ!!」

 敬夢の瞳に宿る熱――それもまたエンタメだと確信したからだ。
 応じるように、敬夢も手を降った。電脳領域が変質し、新たな舞台が出来上がる。

『ガ――?』

 いつの間にか、暗闇の獣達はリングの中央に居た。
 東側にマスクド・キマイラ。
 北側に合体しマスクを付けたバトルキャラクター。

「俺はプロレスッッ!」
「俺様はゲームっ!」

「「二倍じゃない、二乗のエンタメを喰らいやがれ!!!」」

 マスクド・キマイラとバトルキャラクター。
 片腕を上げて突進するその姿は、まさしくラリアットそのもの!
 鍛え上げられた二つの肉体が、リングの中央で交錯する!
 間に挟まれた暗闇の獣達は――――もはやひとたまりもない!

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
『グオァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

「――――さぁ! まだだ! 前座だって手は抜かねえぞっ! もっと来やがれっ! もっとだっ!」
「さっさと片付けるぞ、何せこの戦いが終わったら――この村の連中は俺様とゲームをするんだからな!」

 ●

「ねぇ、お母さん」
「こ、こら、顔を出しちゃいけないよ、もし見咎められたら――――」
「ぷろれすげーむって、なに?」
「……え?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル
「クリスマスパーティ、なのにみんなぜんぜん楽しそうじゃないね?」
わたしはキャンディの味も知らないし、クリスマスパーティに参加したこともないけど
外から見てるだけでも、もっとずっと素敵なものだって伝わって来たのに

「見えないけど、わかるよ。わたしたちがちゃんと見てるもん」
五感を共有する追跡体のわたしたちが暗闇の獣たちの観察に専念
消える瞬間や消えた後も音や臭いを追って伝えてくるから、それを参考にバラックスクラップを振るうよ
「ふへへ。当たった?」



『グルル……』

 仲間たちが蹴散らされる様を見て、残った獣達の一部は自らを透明化し、姿を隠すことにした。
 領主の命令は絶対だが、命は惜しい。正面から向かうより、この状態で背後から忍び寄って奇襲をかけるべきだ、と判断したらしい。

「んー、このあたり……かなぁ?」

 ゆらり、ゆらりと。
 夜の闇に混ざって、何かが揺れていた。
 それは人のかたちをしているが、人にあらざるもの。
 それでありながら……彼らの敵となるもの。

「……みぃつけた」

 ぞくり、と本能的な恐怖を抱いたときには、もう遅かった。

 むるりむるりと。
 ゆらりゆらりと。
 ふらりふらりと。

 いつの間にか、不定形の『何か』に、彼らは囲まれていた。

「見えないけど、わかるよ。わたしたちがちゃんと見てるもん」
「消える前から、ずっと見てたよ?」
「隠れんぼしてるつもりだったのかな」

『ガ、ルルルル――――』

 いつの間にか、悪臭が充満していた。
 獣達の鼻は、厄介なことによく効くが、それは今回、彼らにとってはマイナスだった。
 
「ふへへ」

 いつの間にか、背後に、黒い少女が居た。
 スクラップの塊を、無造作に振り下ろす。

「あ、当たった」
『ガッ! ギィッ!』

 不意を打たれた彼らに、為す術はなかった。
 その衝撃で透明化が解除され、姿が顕になる。
 解き放った小さな自分自身をその体に戻しながら。
 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は微笑んで、再度スクラップを振り下ろした。
 
 ●

「クリスマス、楽しそうじゃないね」

 人々は怯えている。
 良くないことだと思う。
 甘いキャンディの味も、素敵なパーティの空気も、知らないけれど。
 きっとこんな、悲しいお話ではないはずだから。

「さあ、いってらっしゃい、わたし」

 体の一部を切り離す。小さなアイシス達が再び生まれる。

「いってきます、わたし」

 ブラックタールの少女は、暗がりの中、それでも人々の為に戦う為に、今一度、自分の欠片を戦場に解き放った。

成功 🔵​🔵​🔴​

アポリー・ウィートフィールド
食の希望で人を弄び苦しめる……許されざる行為!斯様な悪漢は我が許しておけぬ!この昏い世界に食の歓びを取り戻すために、討たねばならぬ敵と見た!

手始めの集団戦、暗闇の獣共は我が【貪食の黒き靄】で範囲攻撃し、こちらへと注意を集中させる。敵の攻撃を躱しながら誘導し、一網打尽にしやすい一塊になるように仕向けるぞ。



食事とは尊い行為だ。口に入れて、味わい、噛み締め、舐めて、味わって飲み下す。
 その工程にあるのは発見と驚き、恍惚と快感、そして何より喜びで無くてはならない。

「食の希望で人を弄び苦しめる……許されざる行為!」

 故に、アポリー・ウィートフィールド(暴食のイナゴ男・f03529)の感情は怒りと義憤だった。
 食べることを愛し、食べることを生きがいとするからこそ、ただ命を冒涜する為だけに、飴玉を弄ぶパラダイスロストは、討たねばならぬ敵だ。

『グルル……?』

 暗闇の獣達が、アポリーに気づいた。目を凝らし首を傾げ、わずかに戸惑った。

「我に気づいたか。だが、まさか同類とは思うまいな?」

 この世界に置いても――アポリーの姿はなお面妖に映るだろう。
 キマイラである彼の、百九十センチに及ぶその体の頭部は、完全なる昆虫――イナゴのそれだ。
 だが、オブリビオンと、本質は全く異なる。
 彼には自信の信じる正義がある。悪を許せぬ義憤の心がある。
 故に――――猟兵。

「汝らは罪深い。食に楽しみを見いだせぬ人生に、何の花がある。奪い、手折る事に悦を覚えるか」

 ヴ、ヴヴヴヴヴヴウ――――
 
 空気を細かく叩く無数の羽音が、闇の中から生じる。
 警戒心を強め、牙をむく獣達に、アポリーは手をかざした。

「斯様な悪漢は我が許しておけぬ! この昏い世界に食の歓びを取り戻す為に、汝らを討とう! さぁ――我が忌むべき欲望の片鱗よ!」

 蟲。
 蟲。
 蟲蟲蟲蟲蟲。

 生理的嫌悪感すら生じさせる――――獰猛にして凶悪、全てを喰らい尽くす蟲の群れ。
 アポリーが自らを律し禁じている暴食の開放、《貪食の黒き靄(アポカリュプシス・アポリオン)》

「さあ、喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ! 汝らが人の苦しみを喰うのであれば、我は汝らを喰らおう!」

 蟲の群れが獣達に襲いかかる。
 悍しい咆哮を放ち、迎撃を試みるも、焼け石に水だ。無差別に周囲を破壊しても、蟲はどこからともなく湧いてくる。
 アポリーの食欲の片鱗なのだ、故に、彼が『食』への渇望が消えるまで、蟲もまた尽きることはない。

『ガルルル――――』

 暗闇の獣達は、慌てて退いた。あまりの数に、四方八方から攻めてくる蟲達に、立ち向かうのは厳しいと、本能で察したのだろう。

「さぁ道は開いた、いざ、悦楽卿を討たん!」

 警備の獣達は、もはや無力化したも同然だ。
 猟兵達は、機を見てそれぞれ、屋敷の内部へと足を踏み入れた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『悦楽卿・パラダイスロスト』

POW   :    プレゼント、プレゼントですよぉぉぉぉ?
【水飴の鞭 】【砂糖菓子の杭】【飴玉の弾丸】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    あーあー、こーわしたこーわしたっ!
対象のユーベルコードに対し【相手にとって守るべき民衆の幻影 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ   :    大人しく死ぬわけないでしょぉぉぉぉ!?
自身が戦闘で瀕死になると【無数の飴が集まってできた数十mの巨人 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:礎たちつ

👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「オヤぁ?」

 悦楽卿・パラダイスロストはキャンディの頭部を持つオブリビオンだ。
 ともすれば、ユニークな外見は、この世界には存在し得ない物――遊園地のマスコットキャラクターにも見える。
 だが、その本質は残忍にして悪辣。
 娯楽に溺れ、人が破滅する様を眺めるのを何より好む異形の主。

「存外、使えない獣達でしたねぇ――――まぁ――――良いでしょう……」

 【パーティ】の準備は整っている。飴玉、クッキー、スコーン、ケーキ、紅茶……。
 どれも、村人たちが目にしたことの無いような、ご馳走の数々だ。
 領主として、彼はそれを振る舞うつもりで居た。ただし、村人の半分だけに。

 手にできなかった半分の村人は、その『飴』を与えられた者達を妬み、嫉み、憎むだろう。
 そして与えられたもう半分の村人は、『飴』を食べても死なないことに気づき、安堵し、喜ぶだろう。
 ――――そうやって希望を与えた後、一週間かけてじわじわ死んでいく様を見るのだ。
 ああ、今から楽しみだ、だから邪魔者は排除しなければ。

「助かるかもという希望を抱いた後にぃ――――それが消え去ってしまったらぁ?」

 絶望。
 そして、村人たちは今度こそ、パラダイスロストの従順な玩具になるのだ。

「というわけでぇ――――――」

 バンッ、と。
 屋敷の扉を開け放ち、入ってきた無礼者達に、領主として、悦楽卿・パラダイスロストは優雅に告げた。

「これはこれはお客様ぁぁぁ――歓迎いたしますよぉぉぉ?」

 戦闘が、始まろうとしている。
エルネスト・ポラリス
アレが、悦楽卿ですね。
ええ、この世界は本当に悲しい事ばかりですから、先に待つのが絶望だとしても、あの煌びやかな毒に縋りたくなるのも無理はない。
ええ、ええ。彼はそれをよく分かっているのでしょう。ですが私は、いや僕は。

アイツが!心から!気に入らない!!
こんな物が『シアワセ』か!?この村の人たちは、アイツのオモチャにされる為に生きているのか!?違うだろう!!

【野生の勘】を駆使してプレゼントを躱す。避けきれないようなら2個までは【武器受け】だ。
十分な間合いに入ったら【ロープワーク】を駆使した【人狼闘技・拳】!!

ああ、それじゃあ倒れないんだろうさ。それでも、コイツは一発ぶん殴ってやらないと気が済まない!


祷・敬夢
フッ、ボスに相応しい性質だな
悪辣な魔物を最強の俺様がカッコよく倒してやろうじゃないか!

しかし、ユーベルコードを封じられると厄介だろう
俺と近くに仲間がいればそいつにもバトルキャラクターズレベル1を護衛に置き、【水飴の鞭 】【砂糖菓子の杭】【飴玉の弾丸】のどれか一つを庇える状況にしておこう。それ以外の行動はこの護衛はしなくていいだろう

あとは残りのバトルキャラクターズを合体させ、スピードで翻弄して攻撃だ!
俺様のゲームで培った回り込みや回避技術を大量に喰らわせてやるぞ!
俺のプレイを喰らえるなんて、甘味よりもはるかに極上の気分になるだろう!ハッハッハ!!



「アナタ方はぁ……自分たちがぁ……村人を助けに来たのだと、そう思ってはいませんかぁぁ……?」

 悦楽卿・パラダイスロストは甲高い声で、猟兵達に告げる。

「違いますねぇ……あなた達は、添え物なのですよぉ」
「添え物?」

 エルネスト・ポラリス(『シアワセ』の探求者・f00066)は眉を顰め、問い返した。

「もしかしたらぁ……自分たちは、救われるかも知れないとぉ……そんな希望を抱いた村人達の目の前でぇ……」

 ククク、とこぼれ出る感情を隠さず、嘲笑う。

「あなた方が無様に死に絶えぇ! 慟哭しぃ! 苦しむ姿がぁぁ! 彼らにさらなる絶望という甘美な蜜を与えるのですよぉ……!」

 ああ、ああ、何という贅沢。何という究極。
 希望を奪われた時の絶望。願望が悪夢に変じた時の人の心。

「それが私のぉ! 何よりの娯楽ですよぉおおおおおおおお!」

 念動力の一種なのか、テーブルに飾られていた砂糖菓子と飴玉が、ふわりと浮かび上がった。
 キラキラと、ピカピカと。様々な色で飾られたお菓子たち。
 あれを見て、村人たちは何を思ったろう。
 綺麗だと、たとえ命と引き換えにしても欲しいと思っただろうか。
 ほんの僅かな、与えられた飴に、縋りたくなる気持ちだって理解できる。

「……楽しいのでしょうね」
「?」
「毒という名の希望を与え、人々を支配するのは、さぞかし」
「ええ、ええ、楽しいですともぉ、フフフフフフ、なんならぁ、あなたもどうですかぁ? 頼れる相手に裏切られた顔を眺めるというのもまた面白そうで――――」

「――――ふざけるな」

 気に食わない。
 心から気に食わない。
 へらへら笑いながら、仮初の『シアワセ』を作り出し、嘲る、眼前の異形が。

「この村の人達は――――オマエのオモチャにされる為に生きているわけじゃあないっ!」

 怒りと共に駆け出す。応じるように、砂糖菓子が杭となり、飴玉が弾丸となり、エルネストへ降り注ぐ。
 人狼の本能と、磨き抜かれた野生の勘が、その軌道を読み取った。

「私からのプレゼントをぉぉぉぉ! 受け取らないとはぁぁぁぁ!」
「そんなもの、誰が欲しがるものか! 誰も欲しがらせない為に、僕達はここに来たんだ!」

 それでも、全てを避け切れはしなかった。眼前に迫る杭と弾丸。
 自らの獲物であるフック付きワイヤーを駆使して、それらを弾く。

「――――私のプレゼントは、もう一つあるんですがねぇぇぇぇ?」
「――――!」

 背後から、水飴の鞭が迫る。
 しまった、と感じた時には、すでに回避も迎撃も不可能だった。

「――――――ッ!」

 反射的に行ったのは、ワイヤーを投擲することだった。
 こいつさえ絡めば、エルネストの一撃はパラダイスロストに届く。

(間に合え――――!)

 右手が人狼のそれへと変じていく。盛り上がる筋肉、鋭い爪。
 たとえ一撃で倒れずとも。

(一発ぶん殴ってやらなくては、気が済むモノか――――!)

「――――突き進め。案ずるな、俺様がフォローする」

 べちゃりと、水飴の鞭が触れたものを絡め取る。

「!」

 だが、パラダイスロストの眼前にあるのは、動きを封じられるはずだったエルネストの姿ではない。
 頭部に数字をつけた、場違いなキャラクターだった。

「あまりに低速過ぎるな、フレームの世界で生きる俺様にとっては蟻に等しい」

 背後に一人の男の姿があった。
 祷・敬夢(プレイ・ゲーム・f03234)が放ったバトルキャラクターは、周囲の猟兵達をかばえる様、配置されている。
 敵の攻撃は三つの攻撃を当てることによって、ユーベルコードを拘束する。
 ならば、その内一つをしのげばいい。複数のキャラクターを同時操作できる、神ゲーマーだからこそ出来る結論と実行。

「エルネスト! お前の怒りは正しい! 存分に示してやれ! そのような低俗な娯楽など、ゲームには到底及ばないということを!」
「――――あぁ!」

 入れ替わるように放たれたワイヤーは、パラダイスロストの右腕を縛り上げた。
 もう、【当たる】距離だ。

「それとパラダイスロスト、貴様は根本的に娯楽というものを勘違いしている」

 精密に計算された、しかし楽しげに動くゲームキャラクター達を操りながら、敬夢は宣言する。

「娯楽とは――――共有するからこそ面白い! それを知らないお前が、俺様達に勝てる訳なかろう?」
「調子に乗るんじゃあなぁぁぁい!」

 飴玉が更に宙へと浮かぶ。だが、一手遅い。

「届いたぞ――――パラダイスロスト!」

 エルネストの人狼の右腕、ユーベルコード《人狼闘技・拳(リュコス・ラ・パットゥ)》。
 鍛え抜かれた一撃が、飴細工の顔面を確かにとらえ、吹き飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィアラ・マクスウェル
「甘い遊戯をしているのね。バターブロックにこれでもかと砂糖を落として、でたらめな着色料で塗ったくった……甘さしかない固まり」

魔法の矢で迫るお菓子を撃ち落としながら、スカートを軽くつまみ上げ踵を鳴らす

「品のないお菓子も中身のない幻影も、私には届きません。舌が肥えていますいますので」
「踊り回る大衆を見るのが好きなのでしたら、アナタも混ざってみては?」

血が滴るような赤い瞳でパラダイスロストを見つめながら、周囲に光の弾を灯らせていく

「誰かと楽しめないお茶会に、なんの意味があるのでしょうか。踊り終わる頃には……アナタも理解できているかもしれません」


街風・杏花
【SPD】「あーあー、こーわしたこーわしたっ!」に、さらに割り込み。
獣奏器の鈴を慣らし、メイド服で狼に跨がり、牙と刀を振り回し。
民衆の幻影を蹴散らしましょう。

気に食わない。
ええ、ええ、自分でも驚くほど。
せっかくの強敵ですのに、実に実に気に入りません、悦楽卿。

私の望みは強敵との切り合いだけ。今更人格者を気取る気もありませんが。
それでも、希望とは、美しいものだと思うのです。美しいものを見るのが、好きなのです。
甘いもの、楽しいこと。美を何一つ与えず飼い殺す者も、何一つ知らず飼い殺される者も、ええ、嫌いです。

醜い魔物が操る、美しくない幻を食い散らかすのは
正義の猟兵より、私のような獣が相応しいでしょう?



「甘い遊戯をしているのね。バターブロックにこれでもかと砂糖を落として、でたらめな着色料で塗ったくった……甘さしかない固まり」

 一撃を受けて体を揺らすパラダイスロストを、フィアラ・マクスウェル(精霊と止まり木の主・f00531)は、血の雫を落としたような赤い瞳で、冷たく見下ろした。

「ゲームというのがどういうものかはわかりませんが、娯楽は共有すべきもの、というのは同意見です。
 手を取り合えない舞踏会に。語る相手のいないお茶会に、なんの意味があるのでしょうか?」

「知ったような口を聞くんじゃぁないですよぉぉぉぉぉ! ならばぁ――――これをごらんなさぃぃぃぃ!」

 パチン、とパラダイスロストが指を鳴らした。
 瞬間、室内に無数の気配が生じる。

『あぁ――あぁ……』
『甘い、甘いよォ……シアワセ……あははは……』
『こんなものがこの世にあるなら……もっと早く、死ねばよかった……死んだら、味わえたのに……!』

 それは、かつてこの村で、パラダイスロストの余興で死に絶えた者達。
 飴玉を口に含み、初めて味わう甘美に取り憑かれ、たとえ運良く死ななかったとしても――あれをもう一度味わえるならと、再び手を出してしまった者すら居る。
 猟兵たちが守るべき、救うべき民衆の成れの果てを、パラダイスロストは呼び出した。
 それが、正義を胸にする者達に、最も有効だと知っているからだ。

「さぁぁぁぁぁ! あなた達にぃぃぃ、壊せますかぁぁぁぁぁ! この村人達のぉぉぉ! 怨嗟をぉぉぉぉ!」
「――――」

 フィアラが、迎撃の視線を向けようとした刹那。
 ――――チリン、と鈴の音がなった。

 ●


 それは暴力の嵐だった。
 呼び出した村人達の幻影は、その嘆きで、その涙で、猟兵達の動きを鈍らせるはずだった。
 それが、見るも無残に吹き飛んで消えてゆく。

「――気に食わない、ええ、ええ、自分でも驚くほど、気に食いません。せっかくの強者との斬り結びに、この感情は。ケーキに毒でも盛られた気分です」

 焦げ茶色の毛並みを持つ狼に騎乗し、刀と牙で暴れまわったその女は、怨嗟の声をあげ消えてゆく幻影に、一瞥もくれなかった。
 街風・杏花(月下狂瀾・f06212)の怒りの矛先はそんな些細なことではなかった。

「あ、ああ、あー! あー! こーわしたこーわしたっ! それはあなた達が守るべき者の姿じゃあないんですかぁぁぁぁぁ!?」

 パラダイスロストの非難の声に、杏花は動じない。

「ええ、ええ、ですから私が喰らったのです。こんなくだらない事で、誰かの正義が傷つくなど、そちらのほうが不愉快ですわ」

 刀を構え直すその瞳は、純粋な闘志と殺意があった。
 ああ、なんて残念なのだと思わずにはいられない。

「ただただ、闘争だけがあればよかったのに……ええ、ええ、一つ学びましたわ。敬意を感じられない相手と殺し合っても、充実した満足感は得られませんのね」

 だから役割を果たそう。誰かの心を傷つける幻影は、その前に自らが傷つけよう。
 自分は戦闘狂だ。自覚はある。だから、『それ』は他の誰かが抱けばいい。それを見る事が出来るなら、この暴力に価値はある。
 希望の光になれずとも、それを眺めて、美しいと思う権利ぐらいは得られるだろう。

「なら、手を取り合うのは如何? お嬢さん」

 杏花の横に、黒衣の少女が並んだ。
 きょとん、としてしまい、それから、慌てて表情を作り直す。

「あら、あら、よろしいんですの? 私、上手なステップが踏める自信はないのですけど」
「リードぐらいはさせてください。……私がやろうとしてくれたことを、代わりにしてくれましたから」
「あら、あら、そんな、お気になさらずとも」
「舌が肥えているんです、一緒に踊る相手ぐらいは選びたいの」

 スカートの両裾を軽くつまみ、踵を打ち鳴らす。音に合わせて、無数の光の弾が浮かび上がる。
 フィアラの視界に映り、彼女の魔力が満ちた刻印が刻まれた物、全てを蹂躙するユーベルコード、《断罪に舞い踊れ輪舞曲(ジャッジメント・ロンド)》

「あら、あら――――では、一手、ご指導、よろしいですの?」
「ええ、お嬢さん――――見せてあげましょう」

 パラダイスロストが手を振り下ろすと、砂糖菓子と飴玉が降り注ぐ。
 狼が動き出すのと、光の弾が、それらを撃ち落とすのは、ほぼ同時だった。

「――――手のひらで踊る大衆を見るのが好きなのでしたら、アナタも踊ってみては?」

 最も、その手を取る相手は、居ないでしょうが。
 幻影を斬り裂き、お菓子の守りをなくしたパラダイスロストを、少女の剣閃が引き裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ラニューイ・エタンスラント
あらそう、歓迎してくれるの?嬉しいわね、私もあなたにぴったりのプレゼントを持ってきたの……破滅っていう、プレゼントをね。とまぁ、そんな感じに相手の歓迎をいなしつつ、聖霊剣グロワール・リュミエールを呼び出してユーベルコードを使用し、聖剣と光魔法で攻撃するわ。そのお菓子みたいな顔面、粉々に打ち砕いてゴミのように捨ててやるわ。



「そうですかぁぁぁそうですかぁぁぁ! あなた方はどうにも往生際が悪いようでぇぇぇぇ――――!」

 猟兵達の攻撃を受けてもなお、悦楽卿・パラダイスロストは倒れない。
 領主級のオブリビオンともなれば、耐久力も戦闘力も図抜けている、ということなのだろう。
 だからといって――――それで怯む理由になりはしないのだが。

「当然でしょう、あなたがプレゼントを受け取ってくれるまで、やめる気はないもの」
「プレゼントぉぉぉぉぉぉ……?」

 ラニューイ・エタンスラント(ダンピールの聖者・f05748)は、迫り来る飴玉の雨を退けながら、自らのユーベルコードを起動する。
 聖霊剣グロワール・リュミエール。剣に宿る精霊と、内なる光が混ざり合い、ラニューイの体を包み込む。

「ええ……破滅という、プレゼントよっ!」

 《神聖輝装・光導乙女(ホーリーアームズ・リュミエール・ラ・ピュセル)》――――聖剣の一閃が、パラダイスロストの腕を裂き断つ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ? バカバカしいにも程がありますよぉぉぉぉぉ……本当に私を倒せるつもりなのでぇぇぇぇ!?」

 だが、斬り込んだ故の反撃もまた手痛かった。
 水飴の鞭、砂糖菓子の杭、飴玉の弾。
 この全てを喰らう事は、戦場での機能停止を意味する。
 片腕を鞭に拘束され、片足を杭で貫かれる。
 最後の弾丸が、ラニューイに狙いを定めた。

「わたしとあなたじゃ、何もかも違うわ」
「はぃぃぃぃぃぃぃ?」
「だってあなた、一人じゃない」

 瞬間、ラニューイの肩と頬の間を通るように、弾丸が飛び込んで――パラダイスロストの体を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナ・ヴァレンタイン
逃がさんように罠を張ってたら出遅れたな
遅刻代は弾丸で支払おう、と最初は長銃での援護射撃
射線は気にするな。味方に当てるヘマはすまい

負傷は気にせず銃弾を放つ
即死は避けるし、ぎりぎりまで火力を吐き出すために最低限の回避行動はするが、攻撃重視で突撃
無謀で頭の悪い獣だ、と油断してくれれば儲けもの
これを退ければ逃げられる、と思わせられれば最高だ
その安堵、一瞬の隙をついて殺す

私を倒したと、油断しただろう?
これで逃げられると「希望」を抱いたろう?
――お前の流儀だ。一切の矛盾なく、その希望を打ち砕く
さらばだ。その骸は、二度と過去(うみ)から浮かばない



「出遅れたか、まあいい、その分はこっちで返す」

 レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は、『黒衣のウィリアム』と名付けられた愛用のマスケット銃を構えながら、呟いた。
 戦うラニューイの、僅かな体の隙間を縫ってパラダイスロストを撃ち抜くという荒業を見せながら、動揺も焦りもない。

「ふん……」

 応じるように飛んでくる飴玉の弾丸を体に浴びるレナ。
 だが、肩を、足を、腕を貫かれても、その動作に一切の濁りはなかった。
 撃たれながら、撃ち返す。

「知っているか、この世には飴玉よりも甘い物があるということを」

 弾丸が交錯する。お互いの体を貫く。止まらない。

「“復讐”だ」

 致命傷にはならない。避けなくても問題ない。
 『殺戮機構デロス』は解を導き出す。
 攻撃続行、全ては計算通り。

「“復讐は蜜より甘い”。踏みにじってきたんだろう? ならその分を喰わせてやれ」

 代行は、この銃が行う。

「――――避けもしない愚か者ならぁぁぁぁ、これでぇぇぇぇぇ!」

 ラニューイと切り結び続けるパラダイスロストにとって、迫る弾丸は煩わしいそれにほかならない。
 怒りの矛先が明確にこちらに向いた。杭と弾丸と鞭。三つの攻撃が同時に迫る。

(――――おっと、煽りすぎたか)

 ですがそれすら計算どおりと、『殺戮機構デロス』は告げる。
 飛んできた弾丸を撃ち落とす。それではしのぎきれない。
 杭が全身を貫き、鞭が体を絡め取り打ち据える。

 ――――機能損傷。
 ――――条件確定。
 ――――ユーベルコード発動。
 ――――承認。

「ふふふはははははぁぁぁ! まずは一人――――」

 仕留めた、と思った瞬間こそ、誰もが油断し隙を見せる。

(ああ、この瞬間を待ってたんだよ)

 『希望』を抱いた相手を、即座に『絶望』へと叩き込む。

「お前のやり方だろう? これが奪われ続けた者達の“復讐”だ」

 存分に味わえ。
 《死を運ぶ者(コード・ワイアット)》が放つ弾丸は、狙いを違える事なく。
 悦楽卿・パラダイスロストの顔面を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水縹・狐韻
こんこ~ん、こいんちゃんですよっ!
……え、えへへ。恥ずかしいですけど、恥ずかしがってちゃだめですよね。
皆にひどいことする人には、負けられませんっ!
でもでも、私は直接戦うのが得意じゃないので、皆の治療にまわりますねっ!
この力を使うとすっごく疲れちゃいますけど……けどっ、こいんちゃんは負けませんっ。
疲れちゃっても、負けられないんですっ!
私は……こいんちゃんは、皆に笑顔になっていて欲しいから!
だからどれだけしんどくて苦しくったって、負けちゃいけないんですっ!
皆、がんばれーっ! がんばれーっ!



戦うのは得意じゃない。
 それは、グリモア猟兵である水縹・狐韻(妖狐の迷者・f06340)にとっては良いことでもあり、悪いことでもある。
 自らが予知した事件を、仲間に任せるしかない焦燥。
 けれど、どっちにしたって手伝えることは少ないのだ、という小さなコンプレックス。

 でも。
 狐韻だって、猟兵だから。
 酷いことをする人は、許せない、負けたくない。

 戦うのは得意じゃない。
 だったら、出来ることをしよう。

『こんこ~ん、こいんちゃんですよっ!』

 笑顔でびしっと決めポーズ。
 本当はちょっと恥ずかしい。
 『地味』だなんて言われた自分の、ささやかなアピール。
 けれど、それは自分が来た、という証明だ。

 この世界の人々は、ほとんど、笑顔を知らない。
 楽しいとか、面白いとか、嬉しいとか。そんな気持ちがないのだ。
 笑顔になってほしいから。
 大丈夫だよ、あなたの味方はここにいるよと。
 どれだけ苦しくたって、笑顔で言うのだ。

 その矜持だけは、譲れない一線だ。

「皆、がんばれーっ! がんばれーっ!」

 強い思いから生じる聖なる光は、自らの体力と引き換えに、傷を癒やす生まれながらの光だ。

「皆、負けないっ! こいんちゃんも、負けませんっ、だって!」

 この戦いは――――笑顔のための戦いなのだから!
 猟兵達の傷が癒えていく。戦闘は、最後の局面に入ろうとしている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル
あなた、きらきら、ぴかぴかしててきれいだね
わたしとは大違い
なのにあなたは、人を悲しませたり苦しめたりするのが好きなんだね
……じゃあ、いらないね
いつもの笑顔も忘れて、悦楽卿にそう宣言するよ

巨人が出てきたら、収集体のわたしからたくさんのスクラップを取り出して
対抗しておおきな、おおきなバラックスクラップを組み上げる、よ
「わたしはくさくて、きたないけど」
「だからこそ、きれいなものを台無しにするのは得意だよ」


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)――討伐対象、視認。鼻が曲がりそうな甘い匂いだ――――可及的速やかに排除する。

(ザザッ)【SPD】を用い戦闘。
使用UC:クイックドロウ。
技能『スナイパー』も使用し的確に相手を射抜く。
1/16秒の内に討伐対象へ一撃を与える。技を視認する暇など与えない。
技を認識することがなければ、敵のユーベルコードも発動率が下がるだろう。
仮に『迷彩』を使う事で本機の視認性が薄れ敵が本機を見つけづらくなるならば、これも使用する。

(ザザッ)一撃で斃れる程温い敵だとは思わない、故に本機は隙を作り、対象の殲滅は他の猟兵に任せる事とする。

――彼らの幸福な聖夜の為に。
本機の行動指針は以上、オーヴァ。(ザザッ)


ロカロカ・ペルペンテュッティ
明日をも知れぬ人々の命を弄び、僅かな希望すらも踏みにじることに悦楽を覚える……その有様、邪悪という他ありません。許すことなどできない、滅ぼすべき、敵です。
斯様な邪悪なる敵を討つためならば、ボクの身の内で眠る彼も、その眠りから呼び起こすことを許してくれるでしょう。
標本番号001《雷鳥》。ボクの守護霊でもある彼を呼び起こし共に戦います。
瀕死になると強力な切り札を切ってくるようですから、他の猟兵の方々と連携しつつ、敵の様子を見て全力の一撃をぶつけます。多少危険ですが、ボクの内にある複合型連鎖刻印と封鎖紋の制限をぎりぎりまで解放し(技能;捨て身の一撃)、《雷鳥》の全力の稲妻をぶつけます。


アポリー・ウィートフィールド
猟兵達とパラダイスロストが激戦を繰り広げている隙を見て、パラダイスロストが用意した菓子とティーセットを貪り喰らう。
傍目から見れば気が触れたかのように映るであろうが、構わぬ。全ては毒を喰らうことで我がユーベルコード【苦悶の蒼き血潮】を発動させるがため。
彼奴の悪意という毒を、そして人々の苦痛と怨嗟を我が毒液に凝縮し、毒手でもって報いるのだ。


法月・志蓮
「まったく、嫌らしい敵のようだな……性悪かつしぶとそうだ」
敵は屋内、遠距離から狙撃を行うには厳しい。けれど……チャンスはあるはずだ。予知によれば奴は追い込まれれば数十mにも及ぶ巨人を呼び出すらしい。そんなものを屋内で呼び出せば屋敷は崩壊し、そして敵は姿を表すだろう。そこが狙い目だ。

「巨人の足元か、肩や頭の上か、それとも巨人の内部か。はたまた巨人に目が行った所でどこかに隠れようとするか……さて」
どう出る?と予想しながら狙い続ける。視界に入れば、どこであろうと【夜陰の狙撃手】によって撃ち抜いてみせよう。



「これでぇえええええええ! 終わるわけぇえええええええ! ないでしょぉおおおおおおおおおお!?」

 顔面を撃ち抜かれたパラダイスロストは、それでもまだ致命傷に至らない。
 壊れゆく体を維持しながら、絶叫と共に手を振り上げた。

「大人しく死ぬわけないでしょぉぉぉぉ!? 死ぬのは、お前たちの方ですよぉおおおお!」

 瞬間、テーブルに載せられた……いや、部屋全体にある、ありとあらゆる全ての飴が、菓子が、パラダイスロストに収束する。
 飴と飴が、溶けて、くっつき、寄り集まり、新たな体を形成する。

『踏み潰してあげますよぉぉぉぉぉぉ! さぁぁぁぁ! でておいでぇぇえええええええええええ!』
 
 もはやパラダイスロストは一つの異形と化していた。
 色とりどりの飴玉とお菓子で出来た、人の形の体裁すら忘れた『何か』。
 だが、それを見た猟兵の一人が、ん? と首を傾げる。その理由は、パラダイスロスト自らが叫び教えてくれた。

『――――なぁぜぇぇえええ! 右腕がないのですかぁぁぁぁぁ!』

 その巨人には欠けている物があった。
 右腕に当たる部位が消失しているのだった――パラダイスロストにとって、不測の事態だったらしい。

「皆が奮闘している間に、頂いたよ。あぁ、甘美な毒であることだな――――これを只人が喰らえば、悶え苦しみ死んだ事であろうよ」

 アポリー・ウィートフィールド(暴食のイナゴ男・f03529)は、ただ只管に、パラダイスロストが『パーティ』の為に用意した菓子を貪っていた。
 それが毒であることは理解している、だが、これがなくなれば、そもそもパラダイスロストの目的は果たせなくなる。
 そして何より――――

「……だいじょうぶ、なの?」

 一部始終を見ていたブラックタールの少女、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は、アポリーに問いかけた。
 自分が近寄っても大丈夫かな、と不意に思ったものの、アポリーは特に動じもせずに告げる。

「構わぬ。これこそが我がユーベルコードの発動条件なのだから」

 毒を貪り、その毒を濃縮・高密度の体液へと変じる、悪食のユーベルコード《苦悶の蒼き血潮(ペイン・ペイバック)》。

「……きらきら、ぴかぴかしてるよね」

 アイシスは、ポツリと呟いた。
 希望に見せかけた偽りの輝き。
 色とりどりの地獄への誘蛾灯。
 それでも、アイシスには綺麗に見えた。

「わたしとは、大違い…………」

 自分にはない色彩を、たくさんたくさん持っている。
 だから、不思議だ。なんであんなに綺麗なのに、誰かに意地悪をするのだろう。

「あれは美しさとは程遠い」

 アポリーは、ブラックタールの少女の疑問に答えた。

「如何に外面を取り繕おうと、中身が伴わければ価値などない。アレが喰うのは人の苦痛と怨嗟だ。悪食が過ぎる。もしあのふざけた極彩に美しきものが生じるとすれば」

 アポリーの体を覆う毒液は、パラダイスロストが用意した醜悪な悪意の凝縮にほかならない。
 故に。
 
「それを綺麗だと感じた、心にこそある。断じて、アレではあるまいよ!」

 その一撃は、パラダイスロストの肉体を、大きく侵食した。
 菓子細工の巨大な右足が一瞬で黒く染まり、擬態の色彩を引き剥がす。

『ンンンンンンンン! 誰ですかぁぁぁぁぁ!? この私にぃ、このようなぁぁぁぁ!』

 無論、パラダイスロストは反撃に応じる。
 毒を浴びてもまだ動くその足を大きく振り上げて、アポリーめがけて振り下ろした。

「……そっか。あなたは、人を悲しませたり苦しめたりするのが好きなんだね」

 ぺっ、と。
 ぺぺぺ、っと。
 アイシスの足元に、小さなスクラップの山が吐き出されていく。
 それは、小さな彼女達自身が集めたゴミの山。
 自らの粘液でそれらをつなぎあわせ――――一瞬で、矮躯を遥かに超える巨大なスクラップが構築された。

「……じゃあ、いらないね」

 異形の足を正面から受け止め、固定する。驚愕するパラダイスロスト。

『臭いっ! なんですかぁこの臭いは! 悍ましいぃぃぃ! 鼻が曲がりますよぉぉぉ!』
「――そう、わたしは、くさくてきたないけど」

 アイシスは笑顔を捨て去った表情で告げる。

「だからこそ、きれいなものを台無しにするのは得意だよ」

 スクラップをつなぐ汚水が、パラダイスロストが作り上げた異形の体を侵食していく。
 毒と混ざりあった汚水は、飴と飴の接着を引き剥がし、溶かし、分解していく。

「あ――」

 後のことを考えていなかった。バラバラと、アイシスの元に敵の残骸が降り注ぐ。
 重たいスクラップを腕に抱えて、避ける事ができない――――。

「見事。助けられたな。それに深手を与えた」

 ……目を閉じる一瞬先に、アポリーが毒液を解除し、黒く、ぷにぷにと震える手を引いて、飛び退いた。

「……わ、き、きたないよ?」

 体に触れられる感触に慌てるが、アポリーは、やはり動じず言った。

「アレを許せぬと断じ、挑む事を決意した心を持つ汝が、汚い事はあるまいよ」

 ●

「すごい……これなら」

 右足が崩壊しつつも、パラダイスロストの異形はまだ倒れたわけではない。
 左手と左足、いびつな姿を晒しながら、むしろ、攻撃は一層苛烈さを増す。これ以上暴れられれば、外にまで影響を及ぼす危険性がある。
 ロカロカ・ペルペンテュッティ(《標本集》・f00198)は自らに問いかける。
 この戦いに、命を賭すだけの理由はあるか。

 ――――人々の命を弄び、僅かな希望すら踏みにじる。
 ――――その邪悪相手に退くならば、どうして戦場に身を投じる意味がある。
 ――――ここで滅ぼさねばならない。これ以上の犠牲は許せない。

「………複合型連鎖刻印、制限開放」

 全身の刻印――それはロカロカの力を制御する為のものだ。
 ともすれば己すら滅ぼしかねないそれを、限界ギリギリまで解除する。
 全力の一撃でなければ、致命打は与えられない、ならば…………

 ザザッ

「…………!」

 ロカロカの装備の一つ、UDCスマートフォンが、不意に音を鳴らした。
 この世界で、どこから通信が? 疑問に思う前に、声が聞こえてくる。

『(ザザッ)――――屋敷内部で戦闘中の友軍に告げる』

 僅かにノイズが混ざる、機械的な声。

『本機は――(ザザッ) ジャガーノート・ジャック、猟兵だ。応答を――』
「……ジャガーノート、さん、ですか? 一体どうしたって……」
『――――通信、確立。友軍に要請。屋敷の屋根が邪魔だ』
「……屋根?」

 パラダイスロストが巨大化したこともあり、領主館は壁も天井にも大きな傷がある。
 猟兵の力なら、吹き飛ばすこともできるだろう、だが……。

「――――それができれば、奴を倒せますか?」
『肯定。本機及び協力者は既に配置についている。協力を求める』
「わかりました、僕が、やります」

 決断は一瞬だ。
 もとより一人で勝てる相手ではない。
 ならば、離れていても手を取り合う仲間がいるのなら。

「―――――封鎖紋、制限開放」

 ただ命を賭けるより、こんなにも落ち着いて、挑むことができる。

「起こしてごめん、けどキミの力が必要なんだ」

 制御不能寸前の力を、屋根の――――いや、その向こう、暗黒の夜へと向け、解き放つ。

「標本番号001《雷鳥》――――おいで、猛き雷!」

 その瞬間、雷光がダークセイヴァーの暗夜を引き裂き、一斉に領主館向けて降り注いだ。

 ●

 空を埋め尽くす雷の雨が、意思を持ったかのように狙いすまし、一箇所に降り注ぐ。
 それははたから見れば天罰に見えただろう。邪悪なるオブリビオンを裁く、神の裁決。
 だが、それは決して、そんなものではない。
 一人の少年が、己の挟持をかけて放った、魂のユーベルコードなのだ。
 もちろん、吹き飛んだのは屋根だけではない。中にいるパラダイスロストの体を貫き、焼いていく。
 雷に打たれ、悶え、怒りながら手足を振り回すその巨体に、ジャガーノート・ジャック(オーバーキル・f02381)は照準を合わせた。

『熱線銃(ブラスター)起動、射線確保』

 確実に当たる弾道。迷彩を解除し、全エネルギーを攻撃に回す。
 回避のことは考えない、必要ないからだ。

『――――対象目視、目標敵胸部』

 高密度に圧縮された熱量の線が、空間を裂いた。
 十七分の一秒の速度で放たれたそれは、雷の雨の間を縫って、パラダイスロストの異形の胸部に命中した。

『――――――――』

 飴の体が溶けて、ついに悦楽卿・パラダイスロストの本体が顕になる。
 だが、殺しきれては居ない。仕留めきれては居ない。こちらを向いた。

『角度調整確認――――これにて本機の任務を完了とする』

 故に、ジャガーノートは。

『引き金を預ける。彼らの幸福な聖夜の為に。オーヴァ』

 自らの役目である【支援射撃】を終えて、通信を飛ばした。

 ●

 ザザッ。

『引き金を預ける。彼らの幸福な聖夜の為に。オーヴァ』

 通信を受けた法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)は、目を細めてスコープの中を見た。

「ああ、幸福な聖夜の為に」

 戦いが始まってからずっと。
 ずっと彼はそこにいた。
 敵が姿を見せるのを。
 猟兵達が追い詰めれば、その本性を曝け出すと予測し。
 屋敷の外、村にある一番高い木の上で、微動だにせず、ライフルを構えていた。

 一度、同じ戦場で、同じ戦い方を見せた事のあるジャガーノートと連携できたのは、幸運だった。
 よく見える。
 敵の本体がよく見える。
 飴玉と砂糖菓子の鎧を剥ぎ取り、巨人の中央に収まった、化物の顔がよく見える。
 どれだけ暗くとも外す余地はない。
 狙撃手の弾丸は、放たれる前から命中が決まっているものだ。

「メリークリスマス、プレゼントだ」

 音を置き去りに、弾丸が飛翔した。

 ●

 悦楽卿・パラダイスロストは、実の所、快楽主義者であると同時に、冷徹な現実主義者だ。
 狂ったような言動も、煽るような行動も、全ては敵の冷静さを削ぎ落とす為に過ぎない。

(――――引き際ですねぇ)

 猟兵達の行動するタイミングが、結局、良かったということだ。
 こちらがリソースを割いた合間を的確に狙い、大戦力で連携をとって攻めてきた。

(まぁ、いいでしょう。連中もずっとこの世界にいるわけじゃぁない、また別の村を探せば良い――――)

 逃げる算段はすでに整っている。都合よく天井に穴を開けてくれた。
 猟兵たちの消耗も激しい。だから、自分は生き残れる。
 そう信じていた。

 結局、パラダイスロストは最後まで気づかなかった。
 過去から生じ、未来を食らう己に。
 オブリビオンという存在に。
 『次』などないということを。

 パスッ、と。
 飴細工の頭部を弾丸が貫いた。
 一拍遅れて、遠くから、タァン、と銃声が鳴った。

「…………え?」

 体が崩壊していく。維持できない。

「え、ええええ?」

 当然、生き残れるはずだ、という無根拠な傲慢が。
 必然、死にゆくという現実を突きつけられて。

「…………嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁああああああああああ!」

 希望が、絶望に変わって。

「ああああああああああああああああああああああ!」

 パラダイスロストの肉体は、絶叫とともに塵になって崩壊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『失うで終わらせない』

POW   :    体を動かして肉体的癒しを

SPD   :    沢山料理を作ってお腹を満たす

WIZ   :    知識を与えて知的好奇心を刺激させる

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


戦いの轟音、雷の雨、パラダイスロストの断末魔。
 村人たちは家の中で震えながら聞いていた。

「なにが……どうなったの……?」

 誰かがつぶやく。彼らはまだ知らない。
 もう、自分たちを縛るものがないことを。
 救われたことを。
 一時でも、この先の未来がどうなるかわからなくても。
 確かに、自由を得たことを。

 享受したことのない果実の味を、彼らは想像することができない。
 だって、食べたことがないから。

 村人たちが、「これからのこと」を思い描けるかどうかは……猟兵達が教える、クリスマスパーティにかかっている。
水縹・狐韻
クリスマスパーティといえば、甘ーいお菓子にプレゼント交換ですよね!
ここはひとつ、こいんちゃんが美味しいケーキを……と行きたいところですが、料理下手なこいんちゃんには、市販のクッキーの差し入れぐらいが限界(チョコチップクッキーを差し出し)
……悔しいっ、自分のぶきっちょが悔しいですっ!
ですので、代わりといってはなんですが、お菓子のレシピののった本を用意しました!
せっかく甘いものを安心して食べられるようになったんですから、自分達でも今後作れるようになれれば、きっと嬉しいと思うんです!
えへへ……喜んでくれると嬉しいです


メルエ・メルルルシア
あーあー、辛気くせえ世界だなあオイ……オレの故郷みてえだぜ
どいつもこいつも、楽しいことなんてありません、みてえな顔してやがる
そんなだからあんな飴玉野郎がでかい顔してるんだよ

オレ様の飛び切り美味しいクリスマスパンで、お前らに希望ってのを見せてやる

チビの作ったパン、めっちゃ旨いだろ?生きてればまた食える、何ならあのちょろそうなお姫様に頼んで、オレ達の世界にパン買いにくればいい。

この世界だって……そのうち、皆が……まあ、これは先の話だな。
でも先の話はいい、美味いもの食って、先の話をすれば、生きる希望ってやつがちょっとは出てくるだろ

【パン屋の妖精さんです、超すごいクリスマス特製のケーキパンを配ります】


マスクド・キマイラ
アドリブ合流大歓迎


俺はマスクドキマイラ……では、ないっ!
今の俺はっ!マスクドトナカイっ!
雄々しくもキュートな角が、その証っ!

サンタがいれば脚になろう!
タイヤの束より、引き甲斐があるってもんだっ!!

気になるチビ共は、まとめてかかってこい!
最高のエンタメ、プロレス教室だっ!
あぁ、だが……ゲームも、たまには悪くないかもなっ!


お前等の心の隅っこに生まれた、アツいなにか……それが。勇気だ。覚悟だ。そして……プロレスだっ!
いいかっ!?わかるなっ!?それだっ!それが大事なんだっ!!

それでもっ、それでも本当にダメな時はっ
……このっ、俺の名をっ!呼べ!叫べ!リングの上まで、届くようにっ!
そう! 俺の名はっ―――


ラニューイ・エタンスラント
……クリスマスってなんなのか、よくわからないのよね。姫様(※ミコトメモリ・メイクメモリア(ポンコツプリンセス・f00040))は知っているみたいだし、何か教えてくれるかしら?それに、パーティーを開くというのなら、村の人だけじゃなくて……みんなで楽しみたいものね。教えるついでに、一緒に楽しまない姫様?


フィアラ・マクスウェル
さて、本番はここからですよ
良いことがあれば子供も大人も騒いで楽しむ、それがこの世界で生きていくってことなんですよ
片手に乗せたトレイにはフルーツとクリームのデニッシュパンとクッキーにビスケット、砂糖をまぶしたラスクも添えて
今日のパン屋はスペシャルメニューです

甘いものを食べたことには星や鈴、ふわふわの綿飾りを渡して
パーティなら飾り付けも大事ですよ……どうすればいいかわからない?
ほら、あのツリーをよく見て。精霊がここに付けるんだよって教えてくれていますよ
ツリーにとまる、光の玉に蝶の羽が生えたような姿の精霊を指して微笑む

奪い合うのではなく、助け合い楽しみ合う……そんな気持ちを教えるように


ジョン・ブラウン
サンタクロースは誰にだってやってくる
特に僕みたいな良い子だと、ホット・ラインも知ってるのさ
ホントだよ?

やぁサンディ、プレゼントの準備はOK?
それじゃあ行こうか『楽しい』を届けに!

空飛ぶソリからの魔法のプレゼント!落ちても安全安心、壊れやしないよ
中身はジョン・プレゼンツの非電源ゲーム……ん?
あの人だかりは……サンディ!ちょっとあっちに……うわわわ落ちるぅぅ!?

僕らが出来るのはこれくらい
一夜限りの冬の夜の夢

でも、知っただろう『楽しい』を
足りないだろう『楽しい』が
今のままじゃあいられないだろ?

魔法はいつか必ず解ける
けれど、これからの彼らは昨日までとはきっと違う
愛を知った獣が暴君に戻ることがないように


ミーユイ・ロッソカステル
【wiz判定希望】
さて、どうしたものかしら……

歌なら、歌える。けれど……
私の歌は、陽光を呪い、夜を賛美するもの。……彼らにとっては、支配の象徴であるヴァンパイアを想起させるかもしれないわ

……けれど、そうね。誰かに、「それでもいい」「『歌』という文化を彼らに披露することが大事なんだ」と背中を押してもらえたら
それは、マクスウェルの屋敷で同居している皆の、誰かかもしれない。この場に送り込んでくれた姫様かもしれない。……見知らぬ誰かかも、しれないけれど


その時は……勇気を出して、歌いましょう
そして、それが少しでも彼らの目に、あの醜悪な飴以外の娯楽として映ったなら。
……きっと、笑みを浮かべてしまうわね


ピート・ブラックマン
プレゼントを配るっていうなら、運び屋の俺の仕事だよな
つうわけで、色んなプレゼントを村人たちに配って回るぜ
クリスマスを知らねぇっつうなら、そういった新しい世界を届けるのも俺の仕事……なんてな

プレゼントを配る時は安全運転で丁寧に
こういった時は一人一人の顔をちゃんと見て配るのが俺の信条よ
後は辛気臭くならねぇようにバイクや俺も飾っていくか

俺の仕事はあくまで配る事、まぁトナカイみたいなもんだ
じゃあ、誰がプレゼントを用意したって?
そりゃクリスマスなんだから決まっているさ
サンタクロースだよ


ヴェルベット・ガーディアナ
クリスマスパーティーの準備ができるようになって嬉しいな。
暖かいお料理や美味しいデザートはきっとお腹も心も満たしてくれるよ。
ボクはお料理が得意なわけではないからお手伝いはできないけれど…。
ボクからみんなにできるクリスマスプレゼントは人形劇とクリスマスのお歌、かな?
よかったら歌を覚えて一緒に歌おうよ。
シャルローザも一緒に歌おう、って言ってるよ。

街の人の心に歌を灯す。
それが希望になればいいな。


レナ・ヴァレンタイン
いやはや。派手に吹っ飛んだなこの屋敷も
花火というには些か華に欠けるだろうが

私は負傷がひどくて村人たちを怯ませてしまうだろう
だから私がやるべきは物色だ
今まで奪われた分もあろう、ため込んでる物もあろう
村人たちの腹の足し、懐の足しになるもの、遺品等を探す
男衆の手も借りて運び出せるものは運び出す

どう使うかわからん品もあるだろうが、答えられる範囲で答えよう

あと備蓄食料があれば一番だが……ああゆう性悪のことだ、毒を事前に仕込んでないとも限らん。確認は執拗なほどやっても損はない
私だけでは不安だから、毒に詳しい猟兵がいれば頼る


彼らが幸福になれるかは、まだこれから
使えそうなものは全部持っていけ
新たな出発の餞別だ


アイシス・リデル
にへへ。これでクリスマス、みんな楽しめるね
わたしは村の人たちに見つかる前に、そっと、いなくなるよ
わたしがここにいると、みんなに嫌な思い、させちゃうもん

……けど、追跡体のわたしに、こっそり、他の猟兵の人のお話聞いててもらうね
わたしには聞くことしか、見ることしかできないけど、やっぱりクリスマスって素敵だなあって
そう思えるから、それで充分だよ

帰り道、こっそり持って来た悦楽卿のキャンディを眺めながら
「こんなにきれいなのに毒があって、でもその毒で強くなる人もいて」
不思議だね、って笑って
「わたしもあの人みたいに、つよく、やさしくなれるかなぁ?」


秋冬・春子
「いい! みんな! 楽しい時は楽しむことが大事よ! どんな時だって、楽しみのない人生なんて人生じゃないんだから!」
と言いなが、一升瓶ごとお酒を飲みつつ、楽しむということは楽しいことであると全力で表現したいわね!
全力で楽しみ、全力で遊び、全力で恥をかくのがクリスマスってもんよ!! 
マクスウェルの止まり木のメンバーとかいるのなら、積極的に絡みたいところでもあるわね!
「まあまあ、色んなことを解決どきるお薬についても教えてあげる! アルコールって言うゆだけど、これ、度数が高いほど効くのよ! ためになるお話でしょう!」


九十九・九
さぁさ、見たまえ、これからするのはクリスマスパーティだ
何すればいいかって? 飲んで騒いで楽しむがいい、プレゼント交換をするのも一興だろう
今はただ、つらいことは忘れて羽を伸ばしたまえよ
ミコトメモリもありがとう
よかったらおひとついかがかな?

私のゴーレム、浮遊する無数の手を駆使して、私の住む寮『マクスウェルの止まり木』で焼いているパンを配り歩こう
可愛らしい形をしたものや甘いものもあるんだ
少しは元気になるだろう?
私? 私は移動式の椅子に座って、酒でも酌み交わしているよ
飲んだことはあるか? もしなければ飲んでみるといい
だが、気を付けたまえよ。あまり飲んでしまうと後に響くからな


祷・敬夢
フッ、前菜のバトルは終わったというわけだ
つまりは今からメインディッシュッ……!!!
この俺様とゲームをするという贅沢に溺れるがいい!

ゲームというのは色んな種類がある
バトルゲーム、平和なゲーム、一人用ゲーム、協力や対人ゲーム、ジャンルも様々だ
そしてどれが一番楽しいかと思うのかも千差万別
つまぁり!今から貴様らはこの大量のゲームをひたすら遊べるというわけだぁ!!
本物の緊張感こそないが、俺好みのカジノ電脳空間で遊ぶこともできるぞ!
ハァーッハッハッハ!俺のゲーム布教の才能が素晴らしすぎるぞ!

ゲームは楽しむためにある
楽しむことは生きるための活力になる
つまりゲームは人生である!!


エルネスト・ポラリス
パーティーの準備も素敵ですが、どうせならトコトン楽しんでもらいたいと思いませんか?
料理や娯楽、それらを楽しむ前の移動の時から、彼らにワクワクしてもらえないかと思うのです。
それに、このパーティーは彼らこそ主役、それにふさわしいおもてなしが必要でしょう。

そんな思いと共に、ユーベルコードで作りました、特大そり!これで村人さん達をお迎えに行くのです!!
これでトナカイがいれば完璧なのですが、真の姿である、巨狼となった私がひくので見逃していただきたいですね……

さて、村の方々を乗せたなら、本当の『シアワセ』を用意してくれる猟兵達のところまで、一気に駆け抜けますよ!


街風・杏花
これでも本物のメイドですので、「料理」スキル完備です。
そんなわけで、ええ、ええ、裏方としてぱたぱた駆け回るとしましょう!

だって、ええ、私、村の皆様のこと、美しくないと思ってしまいましたもの。
であれば、正しく美しい光景を教えねば。それが、美学というものでしょう?

ああ、そうだ。思いはあれど技術は拙い、そんな方がいれば、お手伝いをするのも良いかもしれません。
もし、もし、お手伝いしましょうか? ホイップクリームはもう少しこう……ガッ、グワッ、とかき混ぜた方が、ふわっとしますのよ?(実演)

うふ、うふふ、らしくもなく、良い子が過ぎるでしょうか?
だって私、素敵なダンスを楽しんで、今とっても気分が良いのです!


零井戸・寂
……「僕」にだって、戦い以外なら、彼らを手伝える事がある……かも。

【WIZ】
……せめて、夢を与えるくらいは。
バトルキャラクターズを使って、人形劇の真似事は出来ないかな。
演目は……そうだね、バトルキャラクターズは戦う事しか出来ないんなら。
僕ら『猟兵』たちの話を、アドリブででっち上げようか。夢を与えられる話に出来たらいいな。

他の人も参加して、盛り上げてくれてもいい。
僕のキャラクターたちは、敵役でも、敵を倒す役でも、どっちでも。
(内容仔細はMSさんにお任せ)

……口下手で臆病な僕だけど、なけなしの『コミュ力』を使います。引っ込み思案の弱い心は『覚悟』で補う……あとは、みんなが楽しんでくれたら。


新堂・澪美
(ミコトメモリを手招きして)
ひめひめ! ひめさま!! 遊びだったらちょーいいのがあるじゃん!!
ほら、こないだキマイラフューチャーの動画でやってたあれ! カードゲーム!!

あれ絶対楽しいよ!! みんなに遊び方教えてあげよーよっ。あたしも初めてだから、一緒にね!

……んー、なるほどなるほど……。
やっぱ口で言うより直接見せてあげた方がいいよね……とゆーわけでひめさま、デュエルだーっ!

……えっ!? なにそれ!? 聞いてないよー! ずるいずるーい!!
くっそー、じゃああたしのターン、これだーっ、「影の追跡者の召喚!」
えーっと、なになに……「相手の手札を見てカード1枚をゲームから除外する」だって……。つよそう!


アレクシス・アルトマイア
はいはい!
すこーし出遅れてしまいましたか
いえいえ、これからが本番ですね?

SPD重視に、パーティーを盛り上げる料理を皆さんとたくさん作りましょう
クリスマスといえばツリーも欠かせませんね。
とびきりきらっきらに飾りましょう。
パーティーの準備も楽しいもの。
村の皆さんを導いて、料理をいっしょにしたり、一緒にツリーを飾ったり。
てっぺんのお星様を付けてくれるのは誰かなー?

プロレスやゲーム、夢中な人たちにあったかなおやつやおつまみを配って参りましょう。
チキンや、ポテト。焼き芋なんかも良いかもですね。
ホットチョコレートなんかも美味しいですよ
美味しくお腹を満たして、綺麗なきらきらを見て。

「メリークリスマス!」


ロカロカ・ペルペンテュッティ
「これからのこと」を思い描けるか、ですか。
……とても、とても難しい課題です。
ボク自身ですら、正直に言えば、明日を知れぬ身なのですから。

これからのこと、は、ボクにもわかりません。
でも、それはきっと、『今』を生きる事から、始まると思います。
まずは、腹ごしらえから始めましょうか。
ボクは料理が好きで、いろんなレシピをスマートフォンの中に残しています。
彼らがこれからも楽しむことができる様なクリスマスらしい料理を振る舞い、そしてそれらのレシピを教えましょう。あくまで出来るのは家庭料理ですが、彼らにはそちらの方がいいかもしれませんし。
……今のボクには、この程度が精いっぱい、です。



●運び屋から始まるクリスマス。

「プレゼントを配るっていうなら、運び屋の俺の仕事だよな」

 ピート・ブラックマン(流れのライダー・f00352)は、自身と愛用の宇宙バイクに色とりどりのイルミネーションを飾り付け、若干怖くも見える自分を、楽しくカラフルに彩った。

「メリークリスマス。おっと、順番に並んでくれよ、大丈夫、なくなりゃしないさ。どれが好みだ?」

 一人の子供が、ピートの前に歩み出て、ちらりちらりと、目の前のプレゼントに手を伸ばしかけては、躊躇い、引いてしまう。

「……なるほどね。なあ、大丈夫だ、いいか? こいつは……」

 一つ、プレゼントの箱を開けてみせた。中に詰まっているのは、色とりどりのキャンディ。

「毒なんかじゃない、食う度に怯える必要もない。プレゼントってのは、ただただ楽しいもんよ」

 眼の前で一粒、ピートはキャンディを食べてみせた。それでようやく、子供たちも安心して、プレゼントを受け取り始める。
 一人一人、プレゼントを受け取って、キャンディを口に含む度に、顔を綻ばせる子供たちの顔をみて、ピートは、はっ、と小さく笑った。

「そ、その……ありがとう、とっても……甘くて、美味しい!」
「おっと、俺はただの運び屋だ。礼なら、別のやつに言ってくれ」
「別のやつ……?」
「そりゃクリスマスなんだから、決まってるさ」

 ピートが指差す先は――――空。

「サンタクロースだよ」

 子供たちがつられて、一斉に空を見上げた。
 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。
 遠くから、鈴の音が聞こえてきた。

「当然、これで終わりじゃないぞ。これからお前たちをパーティ会場に連れて行ってやる。楽しみにしてろよ?」



 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。
 響き鳴る鈴の音に、村人達は戸惑いながらも、しかしどこか、わくわくした表情で空を見上げた。
 その音が、自分たちに害をなすものではないと、自然と理解できたからだ。

「サンタクロースは、誰にだってやってくる。特に僕みたいな良い子だと、直通のホット・ラインを知ってるのさ」

 サンタクロース、とはなにか。子供たちはすでに説明を聞いていた。
 けれど、良い子って、一体なんだろう? その基準すら、彼らにとっては曖昧だ。

「ん? 誰が、どこから、どこまでが良い子なのかって? そりゃあ決まってるさ」

 ジョンは、あえて指で口の端を釣り上げて、にかっと笑ってみせた。

「笑うべき時にちゃんと笑って、楽しむべきときにちゃんと笑うことさ。そうすればほら」

 耳をすます素振りを見せて、わざとらしく手を耳に置く。
 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。音は確実に、近づいてくる。

「やぁサンディ、プレゼントの準備はOK?」

 デバイスを耳に当て、わざとらしい演技を一つ。
 帰ってくるはずのない返事が――何故か、聞こえた。

『……ああっ、来る……来るぞ……俺が……ココに……来る……っ!』
「え?」
『うおおおおおおおおおお!』

 ズンッ、と轟音を立てて。
 空から降ってきたのは、一人の『漢』だった。
 獅子の鬣、猛牛の双角、飛竜の眼光、狼の牙。
 千の貌と千の技を持つ最強のレスラー。

「ま、まさか……!」

 ジョンは顔を抑えて、歓喜に湧き上がる表情を抑えながら叫んだ。
 なぜなら彼は、このヒーローの大ファンだからだ。

「マ、マスクド・キマイラ――――――」
「では……っ、ない……っ!」
「えっ」

 高らかに手を上げたそのマスクマンの頭部には、おおなんという事か!
 雄々しくもキュートなトナカイの角が生えているではないか!
 そう、彼はマスクド・キマイラではない!
 彼の名は――――。

「今の俺はっ! マスクド・トナカイっ!」
「マスクド・トナカイっ!?」
「今宵、俺達が……っ、お前たちを夢の国に連れて行く……っ! さあ、降りてこいっ!」

 マイクを片手に叫ぶマスクド・トナカイ。
 その声を目印にするかのように、シャンシャンシャン、という音は、もうすぐそこに迫っていた。

「――――皆さん、おまたせしました」

 空から舞い降りたのは、巨大な犬ソリ。それを引く巨大な狼の錆色の毛並みですら、夜の冷気を浴びて、どこか輝いているように見える。
 わああああ、と目を輝かせる子供たち。
 《めあて星へと手を伸ばし(トレノー・ド・ボヌール)》。
 真の姿を見せた巨狼――エルネスト・ポラリス(『シアワセ』の探求者・f00066)が引く、ユーベルコードによって生み出された、『シアワセ』へと誘う、今宵だけの夢。

「さあ、皆に『シアワセ』をくれる所まで――僕達が案内します。良いかな、マスクド・トナカイさん」

 事前に打ち合わせをしたとおり、エルネストが合図を出した。
 このソリは……村人達に、最高の『シアワセ』を体験してもらうために、エルネストが用意したものだ。
 ただ移動するだけでも、記憶に残る最高の体験を。
 これから何が待ち受けるのかという、未来への期待を。

「ああ……っ、さあっ、皆、行って来い……っ! そこには、いいか、そこには――――」

 村人達がソリに乗り込んだのを確認すると、マスクド・トナカイはその背中をがっしりと掴み、その逞しい腕で! 持ち上げた!

「――――楽しいことしかっ! 無いっ! 俺達からのプレゼントを――――持っていけ――――っ!」

 ブンッ、と全力でソリを投げる――――勿論、こんな事をしなくても、エルネストのソリは、自由に空を駆けられる。
 けれど、きゃあ! と勢いよく風を切る感触を楽しむ彼らの声のためならば、無用な事だってしてみせる。
 それこそがプロレスだ、それこそがエンタメだ。

「……マスクド・トナカイ。アンタは……いや、アンタ達ってやつは……」

 村人達を見送ったジョンは、はは、っと笑って、その軌跡が見えなくなるまで、空を見上げていた。

「かっこいいなあ! もおおおおお!」
「はっはっはっはっは! サインはいるかな?」
「めっちゃほしい!」

 この瞬間だけ少年に戻り、ジョンもまた、クリスマスプレゼントを手に入れるのだった。

●クリスマスって、なんだろう?

「……クリスマスってなんなのか、結局、よくわからないのよね」

 ラニューイ・エタンスラント(ダンピールの聖者・f05748)は、賑わい始める村を眺めながら、隣に座る少女に尋ねた。

「ねえ姫様、私に教えてくれるかしら?」

 尋ねられたミコトメモリ・メイクメモリア(ポンコツプリンセス・f00040)は、そうだねー、と少し考え。

「もともとは聖人の生誕祭――なんだけど、今この瞬間に限っては、皆で、楽しいことをする理由になってくれるもの、かな」
「楽しいこと?」
「そう、温かい料理、素敵な飾り付け、ワクワクのプレゼント、そういう素敵な時間を、皆と共有させてくれる理由。それがクリスマスさ。勿論、良い子にはサンタがプレゼントをくれるよ?」
「ふうん……なら、私も楽しんで、いいのかしら」

 ラニューイのつぶやきに、ミコトメモリはくすくすと笑って、肩を叩いた。

「勿論だよ、だって、今日の主役は村人達と、キミ達なんだから」
「……でも、作法がわからないのよ。よかったら、教えるついでに、一緒に楽しまない? 姫様」
「誘ってもらえるなら、ぜひ」

「――――それならデュエルしようよ!」

 ばぁーん、と効果音付きで、突如として新堂・澪美(追い風パーカッション・f01930)が現れた。あまりの唐突っぷりに、村人達もなんだなんだと押し寄せてくる。

「でゅえる? 決闘?」

 ラニューイが首をかしげると、違う違う、と澪美は手をぱたぱた振った。

「これこれ、カードゲーム! 前にひめさまがやってた奴、キマイラフューチャーの動画でみたの、すっごい楽しそうだったからさー、みんなに遊び方教えてあげよーよ!」
「あ、あれは真似しないほうがいいんじゃないかなあ……」
「何言ってるの、あっちじゃボードゲーム配ってたよ? 同じ同じ、楽しいことは何やったって楽しいんだから、ほーらー」
「わわ、わかった、わかったよ。ラニューイ君、まずはこれで遊んでみようよ、ちょうどギャラリーもいることだし」
「……良いけど、これは、楽しいの?」
「やればわかるって、さあ、デュエルスタートだよー!」

 村人達の前で始まった、この世界にない遊戯の一つ。
 やがて子供達が、自分もやってみたい、と言い始める頃には、誰もが笑顔を浮かべていた。

「…………影の追跡者召喚、手札を見せなさい」
「ちょ、ラニューイちゃん適応早……あーっ! フィニッシャー取られたー!」

●マクスウェルの止まり木で

「あーあー、辛気くせえ世界だなあオイ……オレの故郷みてえだぜ」

 メルエ・メルルルシア(宿り木妖精・f00640)は、闇に包まれたダークセイヴァー世界の空を見上げ、辟易した表情を浮かべた。

「どいつもこいつも、楽しいことなんてありません、みてえな顔してやがる、そんなだからあんな飴玉野郎がでかい顔してるんだよ」
「だから、こうして皆で来たんじゃない」

 ムスッと膨れた妖精の横顔を見て、フィアラ・マクスウェル(精霊と止まり木の主・f00531)は小さく笑った。
 シャンシャンシャン、シャンシャンシャン。
 村人達を乗せたソリが、もう間もなく、猟兵達が用意したパーティ会場に辿り着こうとしている。

「ほら、ソリが来た。」
「ったく……」

 錆色の巨狼が引く犬ソリが、会場へとたどり着いた。村人達は、テーブルの上に並ぶ様々な料理に、イルミネーションの飾られた木々。
 楽しそうに降りてくる子供もいれば、まだ少し不安げな大人もいる。
 その全員に聞こえるように、メルエは、小さな体から、大きな声を張り上げた。

「おい! お前達、よく聞けよっ!」

 視線が集中する。小さな妖精は大きな態度で、腕を組んで高らかに言った。

「今からオレ様の、とびっきり美味しいクリスマスパンで、お前らに希望ってのを見えてやる!」
「パン……?」

 彼らにとって、パンとは、固くて苦い、質の悪い黒麦を使ったものだったり、カビの生えかけた腐りかけだったりするものがほとんどだ。
 それを、塩の味が僅かにするスープに浸して、飲み下す。そんな暮らししか、彼らは知らない。
 パンとは、彼らにとって幸せの象徴ではなく、生きていく上で必要不可欠な、苦しみの象徴だった。
 ……そう、だったのだ。

「……本日はこちら、フルーツとクリームのデニッシュパン。こっちは特性のくるみのクッキーに、たっぷりバターのビスケット」

 フィアラは、両手に皿をもって、テーブルに特性のパンを並べていく。
 柔らかくて、甘くて、ふわふわで。匂いだけでも、彼らの期待を、否応にも高めていく。

「遠慮しないで、さぁ、召し上がれ」

 促されれば、一口、それをかじる。とたん、口いっぱいに広がるのは、まさしく『シアワセ』のそれだ。
 こんなものが、この世にあるなんて、彼らは、全然、知らなかった。
 だって、食べたことなんてなかったから。

「言っとくけど、これは特別なんかじゃねーからな! 飯ってのは、うまくて、幸せで、当たり前なんだよ」

 メルエは、ふんっ、と鼻を鳴らし告げる。

「けど、こいつはその中でもとびっきりだ、そんで、生きてりゃまた食える。オレ達のところに来たら、いつでも喰わせてやる。だから――」
「言わなくても、大丈夫みたいよ」

 一口、また一口と、手が止められなく彼らの表情は。
 間違いなく、『シアワセ』だった。
 だって、こんな美味しいもの、食べたことないから。

「ちゃんと、シアワセみたいね?」
「…………みてーだな、ったく」

 笑みが溢れるのを止められない村人達の顔を見て、お嬢様と妖精は、手をぱちんと合わせるのだった。

●一方その頃。

「いい! みんな! 楽しい時は楽しむことが大事よ! どんな時だって、楽しみのない人生なんて人生じゃないんだから!」

 秋冬・春子(宇宙の流れ星・f01635)は何故か村人達の集まりのど真ん中で、一升瓶片手に熱唱していた。

「そのために必要なのはなんだと思う! はいそこのおじさん!」
「え、ええ……? そ、そりゃあ嫁さんと」
「はいブッブー!!!!!!」
「えええええ」

「はいじゃあそこのお姉さん! なーんだ!!!」
「え、ええと……か、可愛い赤ちゃん?」
「ぶっぶのぶー!!!!」
「えええええ」

「…………いや流石にそれは滅茶苦茶じゃないかね?」

 滅茶苦茶横暴な秋冬の謎問答を、九十九・九(掌中の天地・f01219)は呆れながら目で追った。

「だってこの村、お酒が一本もないのよ! 可愛そうじゃない! 誰もアルコールの味を知らないのよ! 酷くない!?」
「ワインぐらいならあるだろうに」
「全部酸化してるのよ酸っぱくて呑めたもんじゃないのよ違うでしょそうじゃないでしょ!」

 あー、これ酔ってる。ついでに悪い面でてる。
 同じ【マクスウェルの止まり木】の仲間として、一言言ってやるべきか。悪絡みされる村人達も可愛そうだ。

「だからぁー…………これよぉ!」

 どんっ、とテーブルの上に置かれた一升瓶、銘は『具理藻亜 二十八』。
 二十八が何を示しているのかはわからない。間違っても秋冬がグリモア猟兵として使っているグリモアそのものではないだろう。
 確か自分の部屋に秘蔵していて、祝い事のときに呑むのだと楽しそうに話していた酒がこんな銘柄だった気がする。

「色んな事を解決できる万能薬がこれよ! アルコール!、これ、度数が高いほど効くのよ! ためになるお話でしょう! さぁまずは一杯!」

 とくとくと、村人達にコップをもたせて勝手に注いでいく秋冬。自由だ、自由がすぎる。

「……何、不安かもしれないが、百薬の長と呼ばれるだけのことはあるとも。しっかりわきまえれば、良いものだよ、これも」

 まさか己がフォローする側に回るとは。
 酔っぱらいの戯言はともかく、冷静沈着な九の言葉に、興味をいだいた者も出たらしく、それぞれが静かに口をつける。
 年若い女性たちは、はじめての酒の刺激にうぇ、と舌を出すものの、男集は「お?」「これは?」と顔の色を変えていく。

「気をつけたまえよ、あまり飲みすぎると後に…………」
「何よ行ける口じゃなーい! さぁもういっぱい! そう! いいわいいわー!」

 あ、もうだめだこれ。

「……ね、ねえ、何があったのかな?」

 一時間後。顔を真赤にして酒盛りに興じる村人の男集と、テーブルの上で一升瓶を煽る秋冬が残された惨状を見て、様子を見て回っていたミコトメモリは、冷や汗を流した。

「やあ、ミコトメモリ。お一つ如何かな?」
「あ、ありがとう。あ、このパン、美味しい……それで、その」
「何、羽目を外せるというのも、幸せの形の一つであろう。私はそう思うことにするよ」

●『シアワセ』のためのお料理を。

「クリスマスパーティと言えば、あまーいお菓子にプレゼント交換ですよね!」

 水縹・狐韻(妖狐の迷者・f06340)は、ぐっと拳を握ってそう宣言した。

「美味しいケーキをプレゼント! ……と言いたい所なのですが」

 しかし、すぐに表情は暗くなってしまう。猟兵の皆が思い思いに用意したクリスマスパーティのそれらと比べて、市販のクッキーを買っただけというのは、どうにも残念な気持ちになってしまう。
 というか悔しい。むむむ、という感じである。

「なのでなので! じゃじゃーん! お菓子のレシピ本! これがあれば、今日のシアワセを、皆、自分たちで作れるように鳴ると、こいんちゃんは思うのですが、どうでしょうっ!」
「良いアイディアだと思います、ボクも同じことを考えていました」

 ロカロカ・ペルペンテュッティ(《標本集》・f00198)は、狐韻の意見に頷いて、自分が用意した、スマートフォンの中の家庭料理のレシピを見せた。

「まずはボク達で料理を作って、そのレシピを教えてあげる、というのはどうでしょう。家庭料理ぐらいなら作れますので」

 狐韻ちゃん、ピタリと固まる。

「…………じ、実はこいんちゃん、なかなかぶきっちょでして、お、お料理はちょっと苦手というか……」

 目をじわじわ逸らす狐韻。ロカロカは「あっ」と気づいたが、時すでに遅し。

「あら、あら。では、村の方と一緒に、練習してみたら良いのではありませんか?」
「そうですよ、せっかく皆いるのですから、お手伝いしますから、やってみませんか?」

 凄まじい速度で料理を配膳していた、街風・杏花(月下狂瀾・f06212)とアレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)が、そんな二人の会話を聞いて、さっそうと駆けつけた。

「え、ええーっ!」

●そんなわけで、お料理を。

 シュババババババ、と包丁が振るわれれば、野菜の皮はしゅるりと向けて、肉は筋を断たれ柔らかく仕上がり、魚は骨が抜かれ切り身となる。
 速度を活かしたテクニック、アレクシスの包丁捌きを前に、村人達は「おおおー」と感嘆の息を零した。

「ふふーん、どやぁ」

 ドヤ顔アレクを前に、狐韻は杏花のメイド服の裾を掴んで首をブンブン横に振った。
 ロカロカも驚く側ではあったが、やれと言われると話は別だ。

「あのあのあのあの、こいんちゃんあれは絶対無理だと思うんですけども」
「ボ、ボクもちょっと……」
「がーんっ!」
「ええ、ええ、よくわかりました。大事なのは基準を合わせること。では、こんなのはいかがでしょう?」

 杏花が用意したのは、焼き立てのスポンジケーキだ。アレクシスがカットしたイチゴやキウイなどのフルーツが皿に盛られている。

「生クリームを塗って、フルーツを飾ってみるというのは。これなら皆で楽しめますわ」
「なるほどー、杏花ちゃん、かしこいっ!」
「そ、それほどでも……あ、皆さんもよろしかったら。食べたいものがあったら、言ってくださいまし。お手伝いいたしますわ」

 騒ぎを聞きつけ、わらわらとやって来た村人達。
 皆、狐韻とロカロカが用意したレシピを見て、材料の味や素材を確認しながら、これがそうなのか、なるほどそうか、とそれぞれ試行錯誤し始めた。

「な、生クリーム、泡立てて……ロ、ロカロカくん!」
「えっ、ど、どうしましたか?」

 ボウルに入れた生クリームをカシャカシャかき回しても、一向に固まらない狐韻ちゃん。
 対して、家庭料理に慣れ親しんだロカロカは、素早く空気をかき混ぜて、柔らかなホイップを作ることに成功していた。

「そうでした、ロカロカくんは、で、できる派の人……!」
「そ、そのカテゴリ分けは一体……」
「こ、こいんちゃんはどうすればー!」
「あら、あら、ホイップクリームはもう少しこう……ガッ、グワッ、とかき混ぜた方が、ふわっとしますのよ?」

 狐韻のボウルを横からとって、ガッ、グワっと力づくで練り上げる。あっという間に弾力のあるクリームを目の前で作り出し、さぁどうぞ、と新たなボウルを泡立て器を渡す。

「む、むむむむ……てやーっ!」

 真似して、全力で、ぶわーとかき回す。

「ぴゃっ!」

 ばしゃっとクリームが跳ね、狐韻の顔に白い水滴が着いた。

「あ、あうあうあー、こいんちゃん、もうだめです……」
「あはははは!」
「こ、こら、笑っちゃ駄目……あははは、あ、ごめんなさいっ、ふふっ」

 同じ様にクリームを混ぜていた子供たちと、それを指導していたアレクシスも、つい笑ってしまう。

「も、もー! そんな風に言わなくても……ふ、ふふふっ」

 釣られて、狐韻も笑った。
 シアワセの形は、人それぞれだけれど、料理を一緒に学ぶ、という過程は。
 少なくとも今ここに、皆のシアワセを作ってくれた。

「…………ふふ」

 ロカロカも、また、小さく笑った。
 『これから』がどうなるのかは、まだ誰にもわからない。
 明日を思い描け無いのは、もしかしたら村人だけではないかも知れない。
 けれど、今日この日の思い出は、たしかに、ここにあるものだ。

●祭りの華に、劇と歌と、そして

「さて、どうしたものかしら……」

 ミーユイ・ロッソカステル(微睡みのプリエステス・f00401)は、パーティの会場を、少し離れた場所から見ていた。
 あの喧騒に並ぶことは、きっと出来る、ミーユイには歌がある。
 けれど、自身の歌は、夜の闇を賛美する歌だ。それは、この世界で支配されてきた彼らにとって、好ましくはないのではないか。
 そう思うと、戦いに赴く際の苛烈さが嘘のように、全く動き出せない。

「あ、ねえねえ、少し良いかなっ」

 そんなミーユイに、声をかけてきたのは、金髪を三つ編みに結った少女、ヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)だった。

「? 貴女は……猟兵?」
「うん、ヴェルベット・ガーディアナ。ヴェルって呼んで」
「そう……ヴェル。私は、ミーユイ。ミーユイ・ロッソカステル。一体、何の用かしら?」
「その、ミーユイさんは、歌を歌える人?」

 ぴたり、と動きを止める。どうして、そんな事を問うのだろうか?
 疑問が顔に浮かんだのだろう、ヴェルベットは頬をかいた。

「これから、人形劇をするんだ。せっかくだから、歌も欲しくて。ボク一人じゃ手が足りなくて……手伝って、もらえないかな?」
「……人形劇、ね。何を上映するの?」
「うーん、それはね」

 ヴェルベットは、小さく笑っていった。

「ボク達にもわからないんだ、ね、シャルローザ」

 小さく指先を動かすと、人形のシャルローザが、両手を肩先に持ち上げて、『さっぱり』と読み取れる仕草をした。

●ゲームを。

 零井戸・寂(アフレイド・f02382)は、自らのバトルキャラクター達を並べながら、若干の困惑を抱いていた。
 人形劇をしようと思ったのだ。人形遣いで、賛同してくれたヴェルベットと共に、手伝ってくれる人を探していた。
 演目は、今回の戦いのダイジェストだ。猟兵達が悪の領主を倒す所をわかりやすく、面白おかしく。
 演じようと思った、が……。

「さあ、準備はいいか! この世界を救えるかどうかは、お前達にかかっているっ!」

 わあ、と子供たちが鬨の声を上げた。彼らの足元には、自分とは違うバトルキャラクターたちが居る。
 彼らを扇動するゲーマー、祷・敬夢(プレイ・ゲーム・f03234)の物である。

「演目は即興劇! 参加者(プレイヤー)は子供たち! ロールプレイングは好きか? 英雄に憧れたことは? ゲームならそれが叶う! 今日の主役は俺様、そしてお前達だ!」

 バトルキャラクターを目撃されたのが行けなかった。確かにゲームは好きだけど、これからやろうとしてるのは劇なのに。
 だけど、敬夢は自信満々に、寂に向かってこういった。

「何を言ってる、俺達にとって得意なことをしたほうが、ずっと上手くいくに決まってる。観客参加型の劇だ、盛り上がらないはずがない!」
「そ、それ、まとめられますか……?」

 若干の不安と困惑を込めて尋ねると、敬夢はんん? と首をひねった。

「まとめる必要があるのか?」
「……ええええ!?」
「今回に限ってはこれでいいんだ、何せゲームは【楽しければ参加者全員の勝ち】なんだからな! これをルールとして明言したゲームがTRPGだ!」

 バトルゲーム、平和なゲーム、一人用ゲーム、協力や対人ゲーム、あらゆるゲームを極めた男にとっては、即興劇すらゲームの舞台。
 しかも、それに巻き込まれて、参加しろとまで言う。
 強引に、グイグイ来る。得意とは言い切れないタイプだ。けれども。

 小さな勇気と覚悟を持って、引っ込み思案の寂は、それでも、なにか出来ないかと覚悟して、ここに来たのだ。
 楽しめれば、皆の勝ち。それは、もし寂が楽しめなければ、皆の負けということだ。

「……お前も楽しめ、ゲーマーだろう?」
「……わかるの?」
「当たり前だ、同類だからな!」

 その時、突如、歌が響き渡った。透き通る、しかし激情の込められた、それでいて、どこか切ないメロディーが。

「大変だ! ついに、夜の闇を支配する、吸血鬼の女王が目覚めてしまったよ!」

 飛び出してきたヴェルベットは、シャルローザを巧みに操り、囚われの姫を演じる。

「ああ、このままじゃ、姫シャルローザの命が危ない! 勇敢な勇者達よ、姫を助けて!」

 わぁわぁと子供たちが騒ぎ、どうすればよいかと敬夢と寂に問いかけてくる。
 もう、劇(ゲーム)は始まっているのだ。だったら、参加する勇気を持とう。
 バトルキャラクターの一体を立ち上げて、寂はNPCとして、子供たちのキャラクターに語りかける。

「『そうだ、皆で姫を助けよう、ボクに続いて、さあ!』



 自分の出番は、まだ少し先。勇者たちが冒険を重ねた後の、大ボスだ。
 それまでは、歌おう。闇を賛美し、陽光を拒む呪いの歌を。
 それは恐怖を与えない。舞台装置の一つとして、ゲームを盛り上げる。

 ――――たとえ、夜を愛する歌だって。
 こうやって、誰かを奮い立たせ、確かな娯楽の一つになる。
 歌いながら――奏でながら――。
 ミーユイは、小さな微笑みを浮かべた。

●だって、食べたことがないから。

 喧騒から離れた場所で、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は体を揺らしながら歩く。
 楽しそうでよかった。嬉しそうでよかった。戦いは無駄じゃなかった。それだけで十分だ。

 ――だって、わたしは臭くて汚いから、嫌な思いをさせちゃうから。

 沢山に別れた、アイシスの追跡体が、クリスマスの様子を眺めている。
 その賑わいを見ているだけで、素敵だなと思えるから。
 だから、それで十分だ。アイシスは、ちゃんと楽しめてる。

「――――ん? まだ誰かいたのか」

 アイシスが向かう先から歩いてきたのは、猟兵のレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)だ。
 パラダイスロストに大きな一撃を食らわせた後、姿をくらましていたレナは、白い大きな袋を担いでいた。
 まるで、サンタクロースのように。

「あ、ううん、わたし、もう帰るから」
「なんだ、宴には参加して行かないのか」
「うん……わたしは、いいの」

 そう告げるアイシスに、レナは特に感情を示さなかった。
 同情もなければ、不快もない。普通で、フラット。

「奇遇だな、私も同じ考えだ。見ろこの傷を。流石に村人も怯えるだろう」

 戦いの負傷の後を見せて、レナはため息を吐いた。

「が、収穫もあった。さすが領主と言うだけある。これだけあれば、村人もしばらくは生活に困らんだろう」

 どうやら、誰もいなくなった屋敷をあさっていたらしい。
 なるほど、あたまいいなぁ、と、アイシスは素直に感心した。

「ふむ。どれ」

 レナは、そんな袋の中身をあさると、アイシスに、ひょいと何かを投げた。
 反射的に手にする。それは、包にくるまれた飴玉だった。

「それは毒がないものらしい、折角働いたんだ、選別ぐらい貰ってもバチは当たらんだろう」

 メリー・クリスマス。
 別に私はサンタではないがな、と告げて、レナはそのまま歩いていった。
 不思議な出会いをして、アイシスは、小さな自分が持ってきてくれた、もう一つの飴玉を取り出した。

 これには、毒が入っている。
 人を殺し、希望を絶望に変えてしまう、猛毒が、でも。

「こんなにきれいなのに毒があって、でもその毒で強くなる人もいて」

 毒を喰らい、己の信念を叫び、手を引いてくれた人のことを思い出す。
 きらきら、きれいに光る飴玉。今回の戦いでアイシスが得た、小さくて、けれど確かなもの。
 形ではなく、心に残った思い。

「わたしもあの人みたいに、つよく、やさしくなれるかなぁ?」

 身体の中に、毒のない飴玉を一つ取り込んで、アイシスは、その心のかたちを、誰も聞いてない夜の闇の中、一人口にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月25日
宿敵 『悦楽卿・パラダイスロスト』 を撃破!


挿絵イラスト