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ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころ

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #逢魔弾道弾

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 して。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。

 少女のうわごとに呼応して、華が咲く。
 肉を割って、身を裂いて、殺いて刹いて咲き誇る。

「おお、素晴らしい……これで戦乱が広がる! これで!」
「偽りの大正など必要なし! 戦乱こそが世を進めるのだ!」
「これが逢魔弾道弾……! 急ぎ、次の弾頭を射出せねば!」
 黒い鉄輪を着けた愚者どもが哂つてゐた。
 やがてそゐつらも、華に憑かれて裂ゐて割かれて死んだ。

●グリモアベース
「幻朧戦線が、新たな兵器に手を付けたようだ」
 ムルヘルベル・アーキロギアの表情は険しい。
「すでに予兆で耳にした者も居よう……『逢魔弾道弾』という。
 端的に言えば、影朧を贄とし、『逢魔が辻』を自動発生させる非人道的兵器だ」
 逢魔が辻。それは無数の影朧ひしめく、あってはならぬ影朧の巣。
「残念だが、兵器の発射そのものは止められぬ。対処療法的に動くしかない。
 オヌシらには着弾地点に向かい、逢魔が辻が拡大する前に原因を止めてくれ。
 ……逢魔が辻の中心にいるであろう、贄とされた影朧を無力化してほしいのだ」
 "無力化"。つまり武力で鎮圧するのは不可避ということ。

「その上で影朧の心に寄り添うことが出来れば、あるいは転生は叶うやもしれん。
 影朧は、なんらかの苦しみを抱いている。それを和らげれば、力も弱まるはずだ」
 ムルヘルベル曰く、贄となったのは『土の花嫁』と呼ばれる影朧。
 彼女は、うわごとめいて「ころして」と何度も叫んでいたという。
「少女の権能により、現地には危険かつ奇妙な花々が咲き誇っておるようだ。
 おそらくは、オヌシらに精神的に作用する、迷宮のようなもの……。
 なんらかのトリガーを引かない限り、迷宮の先へ進むのは難しいであろうな」
 オブリビオンが精神に攻撃を仕掛けるのは珍しいことではない。
 だが、過去の幻影や自らの分身を見せるようなものとは少し違うという。
「いずれにしても、緊急を要する案件だ。対処が遅れれば被害は広がってしまう。
 せめて影朧の苦しみが取り除かれるよう、力を貸してくれ。健闘を祈る」
 かくして、グリモアの光が猟兵たちを逢魔が辻へと導いた。


唐揚げ
 1章:『桜の樹の下には』(冒険)
 2章:『死に添う華』(集団戦)
 3章:『土の花嫁』(ボス戦)

 というわけで、今回は心情感強めのシナリオです。
 1章では、皆さんが背負う過去や秘密、あるいは罪の告白が必要です。
 いまさらそんなもんねえよって方は、そういうプレイングでも構いません。

 プレイングの締切に期限は特に設けません。
 システム的に送れるうちは大歓迎です。お待ちしております。
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第1章 冒険 『桜の樹の下には』

POW   :    犯した罪を告白する

SPD   :    抱えている悩みを告白する

WIZ   :    悲しい過去を告白する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 曰く、櫻の樹の下には屍が眠るという。

 咲き誇る櫻は幻朧桜によく似て、しかし異なるものだった。
 鮮やかさが違う。それは血に染まった臓物のような桃色である。
 ねじくれた木々は行き先を隠し、帰り道を覆い、踏み込んだ者を迷わせる。

 どこからともなく響く風が、ふたつの音を届ける。
 ひとつは、少女のうわごと。

 ころして。
 ころして。
 ころして。

 ひとつは、木々の囁き。

 汝の背負うものを告げしろしめよ。
 されば道拓かれん。

 哂うような声だった。
 花々の色は、怖気が立つほどに、不気味なまでに、美しい。
千桜・エリシャ
【甘くない】

血色の桜――…血桜
私の庭に咲いている桜の色にそっくり
ふふ、ここにも埋まっているのかしら

罪の告白、ね…
隣の男を見れば自ずと想うことは

私ね
あなたのことを愛していますのよ
ふふ、今更ね
毎晩って…もう…
頬を染めるも
すぐに翳って

随分と前ですが
お話したことを憶えているかしら
ええ、約束しましたものね
あなたが変わらずいてくれたら
いつか続きを話すと…

私には夫がいましたの
そう、“夫”よ
妻のふりをしていたわけじゃない
自分を攫った不届き者の男を愛していたのですから
私は彼の愛を独り占めしたくて
他にいた妻の首を彼に持ってくるように命じた
ついには私と彼だけになって
彼の御首をこの手で斬り落としたの
だって慾しくなってしまったから

そして最期は――
己の肚を撫でる
愛しい夫を喰らったそれを
謂わば此処が
屍体と秘密が埋められた
私にとっての桜の樹の下

重なる手にはっと顔を上げれば
眩しいほどの光
けれども目が離せない温かな光
引かれるまま惹かれるまま
導かれれば
ふ、と微笑む

ええ、そうね
あなたとなら歩いて往けますわ

血桜が咲き誇るこの道も


ジン・エラー
【甘くない】

千桜に血桜ってか?
お似合いだなァエリシャ。
ン〜〜〜だよエリシャ。オレの顔に見惚れちまってよ。

そうだなァ。
クカハッ!毎晩聞いてるよンなモンは。

黙って静かに聞き届ける
かつて初めてあの宿で交わした真面な身の上話
漸くかよ
あの続きが聞けンのは

秘めた罪悪感も後ろ暗い後悔も
光を背負うオレには関係がない
だから語ることなどない
この耳も、この口も
お前の為だけに使ってやる

肚を撫でるその手に己の手を重ねて
オレは其処には入ってやらねェよ。
溜り濁った罪を浄い流すように
否。その胎はもうオレのモノだと言わんばかりに
燦然と光を放つ
理不尽と暴虐の限り。手前勝手で暴慢の極み
それでいて、その輝きの中には確かに
深い愛慕の閑やかさが在った

そのまま手を引いてやる
導くのは聖者の役目だ

さァ、往こうぜエリシャ。
善だ悪だ、罪だなんだと誰にも推し量れねェ
オレ達だけの道をよ。



●桜花を紅く染め上げて
 赤い、朱い桜。血の色で染め上げたような、不気味で禍々しい桜。
 臓物色の花びらが散る中を、千桜・エリシャは微笑んで歩く。
 まるで返り血を浴びながら歩いているようだ、とジン・エラーは思った。
 あながち間違ってもいないだろう。この桜はオブリビオンが生み出したもの。
 悲嘆。怨嗟。絶望。憎悪。
 そういうマイナスの感情を糧に育った、色が示す通りの凶兆なのだから。
 ……なによりエリシャは、血を浴びることをことのほか好むゆえに。

「千桜に血桜、ってか? お似合いだなァエリシャ」
 ジンの言葉に、エリシャは振り返り、じっと彼の顔を見つめた。
「ン~~~だよエリシャ。オレの顔に見惚れちまってよ」
「……私ね」
 エリシャは囁いた。
「あなたのことを、愛していますのよ」
「あァ? なァ~~~にをいまさら」
「ふふ。そうですわね。いまさらですわ」
「だいたいよォ」
 ジンは小悪魔めいて目を細める。
「ンな台詞、毎晩聞いてるぜ」
「ま、毎晩って! もうっ」
 エリシャは生娘めいて頬を赤らめるが、その朱もすぐに翳った。

 罪の告白。
 桜どもが囀るそれに、エリシャは覚えがある。
 愛する男にも伝えていない、人の道から外れた畜生の如き愚行が。
「ずいぶんと前ですが、お話したことを憶えているかしら?」
「あァ、もう二年ぐれェ前になるかね」
 ジンは思い返す。冬の頃交わした身の上話。
 肝心の話の続きは、「あなたが変わらないでいてくれたら話してさしあげる」と煙に巻かれてしまった記憶。
 エリシャもまた、あのときのジンを思い返していた。

 "お前が、悪鬼羅刹だろうが、泣き腫らした赤鬼だろうが、オレは――"。

「……私には、夫がいましたの」
「……」
 ジンは何も言わない。エリシャが語るに任せる。
「妻のふりをしていたわけではありません。自分を攫った不届き者の男を、愛していたのですから」
「……それで?」
「私は、彼の愛を独り占めしたかった。だからあの男に、こう言いましたの」

 "私以外の妻(おんな)の首を、どうか私にくださいまし"。

 今でも目に浮かぶ。あの宇宙(そら)で見た幻の光景。
 ぎらついた彼の目。驚愕、絶望、悲嘆に染まった乙女たちの首。
 肚がかっ、と熱くなる。どうしようもない己に自嘲の笑みを浮かべた。
「ついには私と彼だけになって――彼の御首を、この手で斬り落としたの」
 だつて、慾しくなつてしまつたから。

 悪行はそれで終わらなかった。
 エリシャは、その言葉を口にしながら、火照る己の肚を撫でる。
「此処が、私という桜の樹の下。もう彼の肉も目玉も血も、消化(たべ)てしまったけれど」
 溶けた罪業(つみ)は、エリシャという花を綺麗に彩る。
 人を惹き付ける愚かで不気味で艶やかな花。愛される資格などない餓鬼の色。
「私は――」
 畜生の如き行いだとわかっていながら、語っていて胸が高鳴りもしていた。
 だって、そうしたいのだ。欲しかったし嬉しかった。だから、噫、今も。
「あなたも、いずれ」
 エリシャの震える喉が、言葉を紡ごうとした。

 掌が重なる。
「オレは、其処には入ってやらねェよ」
 傲慢なる光だった。
「あなた――」
「此処は、もうオレのモノだ。お前も、その存在も、何もかもな」
 だからオレは、お前にオレのすべてをくれてやる。手前勝手にそう言う。
 目を離せないぎらついた輝きの中に、しかしたしかな愛慕があった。

 ふたりはしばし見つめ合う。
「さァ、往こうぜエリシャ」
「あ――」
 手を引かれ、エリシャはまた生娘めいた声を漏らした。
「善だ悪だ、罪だなんだと誰にも推し量れねェ、オレたちだけの道をよ」
「…………ええ、そうね」
 あなたとなら、歩いてゆける。
 人とか、畜生とか、そんなものは関係ない。
 道理も、倫理も、何もかもを踏み越え、罪だの贖いだのに背を向けて。
 誰よりも自分勝手で、誰にも顧みられることなく、いずれ朽ちゆく獣道。
 往く果ては地獄すら生ぬるい。けれども、彼がいてくれるなら。

「往きましょう」
 血桜咲き誇る並木道を、ふたりは揃って歩き出した。
 微笑んで、胸を高鳴らせ、互い以外の誰も、何も目に入れることなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)ひひ、イイ色した桜だ。彼岸で見るよな色じゃアねェか。秘密やら背負うモンなんざァひとッつもねェが…そォさなァ。要は周囲が知らんコト言やァいいンかね。そンならいッくらでもあらァ。
会話)"俺"という個は、猟兵と〈過去〉の争いが終わったとき消滅する。宿・自我ともに消え、単なる現象に戻る。猟兵にするため切り離し、神に堕とした陰氣が俺だ。終われば不要者(ゴミ)サ。暴露とやらはこンくらいでいいかね? そんなことよか娘っこだ。どォして死にてェのかね。迷惑だからかな。俺とおンなじでさ。ひ、ひ…。
行動)娘っこの声に耳を傾けながら、のんびり花見つつ歩いて進もう。死ぬにはいい日さ、いつだってそうなンだ。



●グッド・デイ・トゥ・ダイ
「"俺"という個は、この争いが終わった時に消滅(きえ)るのさ」
 朱酉・逢真は、ポケットに手を突っ込んだまま、当然のように言った。
「猟兵と〈過去〉。相容れないふたつのモンの対立が終わったときが、俺の終わり。
 この"宿"も自我(おれ)も、ともに消え、単なる現象に戻る、ってェわけだ」
 逢真の声に、悲壮とか覚悟とか、あるいは絶望なんてものはない。
 人がその日の天気を何気なく呟くような、軽々しい声音だった。
 なにせこれは、当然の話だ。本来、逢真などという個はどこにも存在しなかった。
 逢真という個の本質は、神ですらない。陰気という世界の、いや、万象の根源。
 それの一部を切り離し、凋落させ、猟兵として独立させたのが、「朱酉・逢真」という、存在しない神。ひとでなしの「神でなし」。ならばそれはいずれ終わる。
 神すらもが永遠でないように、彼もまた、消える。当たり前のことだ。

 別に、隠しているわけではなかった。
 ただ言う必要がない。聞かれもしないし、それを問題とも思わない。
 終われば不要者(ゴミ)。それだけだ。世界は変わらず回り続ける。
「ひひ、どォだい。コイツは周りのだぁれも知らんことだぜ。暴露だろう?」
 逢真は、桜を見上げる。彼岸に咲くような、臓物色の桜を。
 彼の関心はなにより、この響き渡る声の主……影朧の娘に注がれていた。

 ころして。
 ころして。
 ころして。

「どォして死にてェのやら。あるいは、殺してほしいのかね? 誰かを」
 謳うように言いながら、逢真は花見気分でゆるゆると歩く。
「それとも迷惑だから死にたいのかい。俺とおンなじでさ。ひ、ひ……」
 病毒をばらまき、死を与え、在るだけでいのちを病ませる存在。
 この「個」はひどく不完全だ。不完全でなければ個たり得ないゆえに。
 神とは思えぬほどに脆弱で、その力はヒトの倫理としての正義からは外れる。
 生と死というサイクルを守ろうにも、この小さすぎる宿の手はあまりにも届かない。
 せいぜいが、在ることしか出来ない。それが個であるということ。
「死ぬにはいい日さ。いつだってそうなンだ……」
 だから、神は、己が廃棄されることを厭わない。
 そうやって時間は前に進む。むしろ(本来の彼に人間的機微があれば)喜んですらいたかもしれない。

 彼の本質は愛で出来ている。
 いのちが連なることこそ、神にとっての"よろこび"なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプリオギナ・ユーラス
──幻朧戦線
聞くだけで嫌になる名だ。
戦乱を好む愚者ども。

──対症療法
耳にたこができるほど聞いた。
狭められた選択肢に苛立つ。

──己の罪とは、何か?
決まっている。

・・・・・・
ころしたことだ。

他者を、身勝手に、それもたくさん、

・・・・・・・・・・・
その尊厳をも踏みにじり、

ただただ、いのちを浪費させた。
故にこそ、望むのはただひとつ。


嗚呼、意識が闇に沈む。
身を守る本能が全身を霧で覆い隠す。
悲鳴すら、どこにも届かず消えるだろう。

ああ、
あのとき おれののぞんだのは/俺が望むのは 今も
「     」ただ、それだけなのに。



●罪業は血肉となりて
 幻朧戦線。
 セプリオギナ・ユーラスは、その名を忌み嫌う。
 同じ医者でありながら狂った男の最期を、彼は見てきたからだ。
 もっとも彼は、私は医者ですなどと名乗りはしない。
「己の罪は何か――そんなことは決まっている」
 彼は自らをこう定義する。
「"ころした"ことだ」
 殺人者、と。

「他者を、身勝手に、それもたくさん、"ころして"きた」
 セプリオギナは語る。
 桜に聞かせるというより、ほとんど独白めいて。
「その尊厳をも踏みにじり、ただただ、命を浪費させた」
 もはや彼の罪悪感は、罪を背負うとかそういうレベルでは済まない。
 罪業は血肉となりて、セプリオギナという個を構成するファクターとなっている。
 皮肉なことに、積み重ねた――と彼が自認する――罪業と、それを悪と断じ己を責め苛む理性、何よりも彼の懊悩と苦しみこそが、彼を形作っているのだ。
 こうなってしまっては、もう、贖いや赦免など何の意味もない。求めすらしない。
 誰かが彼に許しを与えたとて、セプリオギナ自身が己を許さない。
「だから、俺が望むのは――ただひとつだ。今までも、これからも」

 救いたい。
 救いたかった。
 ゆえに殺す。
 ゆえに奪う。
 それが彼にとっての医療。かつて荒れ果てた黄昏の世界で決めた覚悟は、今も変わらない。変わることなど、ない。

 人に、そんなことができるわけはない。
 人は不完全だからこそ人であり、一個人が伸ばせる手には限界がある。
 だがセプリオギナは願う。救いたいと。救いたかったのだと。
 あげかけた悲鳴は霧に呑まれ、意識はまったき黒の中へと沈んでいく。

 救いたい。
 救いたかった。
 そうだ、そうとも、あの時望んだことは、今も望むのは、俺は――。

 ざわざわと、風もないのに桜の木々が揺れていた。
 枝が、花々がこすれる音は、まるで男をあざ笑っているかのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月凪・ハルマ
◆SPD

かつての主である『彼』の遺志を継ぐ
俺は確かに、そう心に決めた

だけど、自分は無敵でも万能でもない
そして決意だけでは助けられない、護れない
だから正直、いつも不安なんだ

もし全力を尽くして、それでも誰も助けられなかったら?

命、心、あるいは尊厳。それらをなにひとつ
護れなかったとしたら?

……そうなってしまった時、俺は自分を保っていられるんだろうか

【覚悟】は決めたつもりだった
それでも、ふとした瞬間にそんな考えが頭に浮かんでしまうんだ

それでも、今の状況を放置すれば逢魔弾道弾が使われて
多くの人達、そして影朧が犠牲になってしまう

だから君(土の花嫁)が望む通りに

俺は、君をころしにいくよ

※アドリブ・連携歓迎



●その手はあまりに届かない
 ヒトは不完全だ。
 欲望は無限に膨らむのに、現実の肉体はそれに対して脆弱すぎる。
 ヤドリガミがヒトの肉体を得るのは、ある意味で弱くなっているとも言える。
 何も考えず感じることのない器物であれば、悩みや苦しみも抱えずに済む。
 手を伸ばせるからこそ、届かないという痛みもまた味わうことになるのだから。

「……俺は、無敵でも万能でもない」
 ざわざわと、風もないのに桜が囀る。
 月凪・ハルマは帽子のつばを片手で押さえ、静かに言った。
「遺志を継ぐ――そう決意したからって、決意だけで誰かは助けられない。
 護ることだって、出来ない。何かを成し遂げるには、行動しなきゃいけない。
 ……行動を恐れてるわけじゃない。でも俺は、いつだって、不安なんだ」
 守りたい。助けたい。救いたい。それがハルマの根幹である原動力。
 そのために戦ってきたし、これからもそうするのだろう。
 そこに後悔はない。迷いも。嫌になることも、きっとない。

 だが。
「もしも全力を尽くして、それでも誰も助けられなかったら」
 命。
 心。
 あるいは、尊厳。
「……それらをなにひとつ、護れなかったとしたら」
 ヒトがヒトであるために必要なものを、喪わせてしまったなら。
「そうなってしまった時、俺は、俺であることを保っていられるのか、って。
 救うために「こうなった」俺は、自分でいられるのか、わからないんだ」
 覚悟は決めた。けれど、それで不安が払拭できるわけではない。
 日常を過ごしている時。
 護るべきものを護れた時。
 そんな時にふとよぎる考えを、ハルマは捨てきれなかった。

 けれども、それで足を止めてしまったら、本当に護れなくなってしまう。
 声が聞こえる。苦しみながらも呻き続ける声が。
「……俺は、護らなきゃいけない。それが、俺のあるべき理由なんだ」
 ハルマは、一歩を踏み出した。
 桜が、その道を阻むことはない。

 誰にも、阻めるはずはない。
 彼の心には、気高く確固たる意志が輝いているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
以前カルロス某が持ち出したって話があったが、元々はこの世界で生み出された兵器
であれば、此処で使われるのも当然か

これの対処には、罪や秘密を告白しろと。色々と悪趣味だな
まあ、聞きたいなら教えてやるさ

最初の罪は、故郷が焼かれたあの日。家族を含め、多くの人が死んだ中で数少ない生存者となった事
俺が原因って訳じゃないし、生き残ったのも偶然だけどな

そして、友を死なせた事
あの選択が間違っていたとは思わない。ただ、届かなかった事が罪なのだと

そして……まあ、これは別に良いか。すぐに露見するものだし、秘密にもなるまい

さて、そろそろ良いんじゃないか?
まだ満足しないっていうのなら、此方にも考えがある、と神刀に手をかける



●何を以て罪とするか
「あれは、俺が起こした災害だとか、そういうものじゃなかった」
 けれど罪と呼ぶべきものがあるとすれば、きっと「これ」なのだろう。
 夜刀神・鏡介は目を閉じて、在りし日の故郷の風景を脳裏に思い起こす。

 そして、そのすべてが、炎に巻かれて燃える光景を。
「俺の友達も、俺によくしてくれた人たちも、みんなが焼けて死んだ。
 何か確固たる理由があったわけじゃない。俺が生き残れたのは、偶然さ。
 ……それでも、俺は生き残った。多くの人が死んだあの炎の中で」
 理由などない。偶然とはそういうものだ。あるとするならば神の気まぐれ。
 だが、そんな理屈は、苦しみ死んでいった人々には通用すまい。
 よしんば冥府へ去った彼らが、鏡介や他の生存者を恨んでいなかったとしても。
「俺自身が、ずっと抱え続ける罪だ。拭うことの出来ない、な」
 その痛みは誰が悪いものでもないからこそ、ずっと残り続けるだろう。
 悪いことばかりではない。痛みがあるかぎり、この記憶はきっと消えないから。
 こうしてあの日の故郷の風景を、いつでも思い出すことができる。
 それだけが、鏡介にとっての救いだった。

「……そして俺は、友を死なせた」
 後悔はない。鏡介は、己の選択を己の意志のもとに決め、そして背負った。
 悔やむことは、手を届かせられなかった親友に対する侮辱でもある。
 けれどもこの痛みもまた、理屈ではない。癒えず、消えることもない罪業。
「……こんなところでいいだろう? まったく、悪趣味な仕掛けだな」
 鏡介はそう言って、いつのまにか拓かれた並木道に足を踏み出した。
 桜は、風もないのにざわざわと揺れて音を立てる。
 あざ笑うようなその音に、鏡介は顔を顰め、前を見据え続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロエ・ボーヴォワール
「たしかにわたくし、カネならありますわ。ですが……」
・カネにモノを言わせて活路を切り開くクロエであるが、それだけが心の拠り所である
・財閥の次期総裁として厳しく教育され、片親である父から寄せられる期待は時に重圧であり、エキセントリックな性格故に学生時代は友人もおらず孤独がちであった。老執事のセバスチャンだけはワガママを聞いてくれるが、あまり張り合いがない
・しかし修行の末生命の埒外に至った今、カネで買えない何かを得るために旅をしている。歌をうたい、自身を奮い立たせて精神的作用に対抗する。悲しい過去に耐える様に
「嫉妬も、期待も、すべて背負って前進しましょう。大抵のことは、カネで黙らせてやりますわ~」



●豊かである、ということ
 ノブレス・オブリージュを胸に、クロエ・ボーヴォワールは邁進してきた。
 そこに迷いはない。なぜならそうすることがクロエの、恵まれた者としての使命であり、彼女の知と才と家柄はそのためにこそある。
「たしかにわたくし、カネならありますわ。ですが……」
 財力とは読んで字のごとく、現代社会における立派な武器だ。
 望んで得られるものではない。生まれというのは実に残酷である。
「……ですが、わたくしの心の拠り所と呼べるのもまた、これだけ……。
 他の方のような信念も、背負うべき宿命も、心を通じ合わせる友も、わたくしには……」
 今に至るまで、クロエに仲間と呼べるべき存在はほとんどいなかった。
 寄せられる感情は嫉妬と羨望ばかり。かかる重圧の名は期待と言う。
 求められるままに応え、こうして育ってきた。己で選択したものが如何ほどあろうか。
 桜がざわめく。それは、クロエを痛罵し嘲笑う過去の声にも似ていた。

「……いいえ!」
 クロエは己の弱気を払うように、鍛え上げた歌声で自らを鼓舞する。
「この世界には、カネで買えないもの、カネだけでは解決できない問題が山ほどありますわ。こうして猟兵となったわたくしなら、きっとそれも解決できるはず。
 だから嫉妬も期待も、すべて背負って前進しましょう。大抵のことは、カネで黙らせてやればよいのですから!」
 カネは力だ。薄汚いと侮蔑されることもあるが、人の世はカネがあるからこそ成り立っている。
 単純な財力では解決できない多くの問題を解決することこそ、力ある者の使命。
 前を向いて歩き出したクロエの表情は、晴れやかなものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
顔も見せずに尋ねる不届き者よ
しかし冥土の土産に話くらいはしてやろう

UCにて騎士を伴い、愛馬に騎乗し場に赴く
何を話そうか
生前に悪逆も非道も為して、報いを受けたのが今の私だ
懺悔などない
今ならもっと上手くやる、それだけのこと

ただ、怒り狂った暴徒から私を逃がす為に死んだ男が居たのだよ
私は愚かにも彼を案じて引き返して、
彼の死を犬死として、やがて私も死んで…
すまないと、思っている
…だがね、私は未だ此処に居て、彼もまた傍らに居る
ゆえに今度こそ主君として終わりまで共に在ろうとも
私が背負うものはそれだけでそれが全て
そして貴公は今度こそ私を守るだろう?
我が騎士よ

さて、話はこれで終い
我が機嫌の良い内に疾く道を開けよ



●私にはそれだけあればいい
 ざわざわ。ざあざあ。
 風もないのに揺れる桜の木々の音は、嘲笑に似ている。
 秘密を明かせ。罪を認めよ。声なき声がそう囁きかけてくる。
「……不届き者め。たとえ顔なく心なき木々とて、私は斟酌せぬぞ」
 馬上のラファエラ・エヴァンジェリスタは口元に不快をあらわにし、吐き捨てた。
 傍らには騎士が伴う。ラファエラは、そちらをちらりと一瞥した。
「しかし、冥土の土産に話くらいはしてやろう。そうさな――」
 話すネタには事欠かない。なにせラファエラは、悪女である。
 悪逆を為し、非道を犯し、その報いを受けて死後(いま)がある。
 心臓が止まっても、懺悔などない。思うことはただひとつ。

 今なら、もっと上手くやる。

 その非道に苦しめられた人々が聞けば、怒り狂うことだろう。
 そう、あの時のように。暴徒は死したこの身を引き裂くやもしれぬ。
「あの時――」
 ラファエラの唇が、自然と言葉を紡いでいた。
「あの時、怒り狂った暴徒から、私を逃すために死んだ男が居たのだよ」
 ヴェールの下の瞳は、定かならず。
 ただその眼差しは、伴う騎士へ注がれていることは明らかだった。
「私は愚かにも、彼を案じた。あれだけの民を苦しめておきながら。
 そして引き返し、私のために死んだ彼の命をも、侮辱してしまった」
 己が死んだことに悔いはない。当然のことだ。力不足だとは思っている。
 ただ……彼の死をも穢し、その遺志を無駄にしたことだけは、心苦しかった。

 すまないと。言葉にするだけならば簡単だ。
 けれど己は今も此処にある。死せざる死に囚われて、彼もまた同じ。
「ならば私はせめて、今度こそ主君として、本当の終わりまでともに在ろうとも。
 私が背負うものは、それだけだ。それですべて――それだけあれば、いい」
 悪逆非道な愚女の末路など、そんなものでいい。
 私は私として胸を張ろう。そう在った私を救おうとしてくれた、彼に報いるため。
「……貴公は、今度こそ私を護るだろう? 我が騎士よ」
 声は柔らかく。信頼に満ちていた。悪道を歩む女のものとは思えぬほど。
 木々が道を拓く。傅くように。

 ラファエラは顧みることなく先へと進む。
 背筋を伸ばし、胸を張り、己を己たらしめるものすべてを背負って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
次から次へと碌でも無いものばかり掘り起こしてくれる……
贄なぞで齎される改革で先など望める訳が無かろう

求めるものが罪とは。成る程、血を吸い上げて育ちでもしたらしい
――背負うものなぞ知れている
永劫変わる事無い後悔の源、己の原罪とも云うべき過去
何を護る事も出来ず、約定を果たす事も叶わず喪った
掌から零れ潰えて消えた、何よりも大切だった愛おしいもの達
焔の内に灰へと変じた、在った筈の未来、其の記憶
取り戻す事は叶わず、贖う事も出来ぬ咎こそを此の身は負っている

しかし歩みを止めはしない
生きる事を願われた――生きる事を約した
何より己の在る事こそが、嘗て総てが「在った」事の証
なればこそ、迷い留まる事なぞ出来はしない



●この身はもはや
「贄なぞで齎される改革で、先など望めるわけがなかろうに」
 鷲生・嵯泉は、幻朧戦線の変わらぬ愚かさに嘆息した。
 そも、連中は誰一人とてかつての戦乱を識らぬ若者である。
 なにせこの世界が戦に満ちていたのは、700年以上も昔の話なのだ。
 生き証人など、いるはずもない。存在するとすれば――それは、影朧である。

 にもかかわらず、幻朧戦線は影朧兵器の投入を厭わない。
 蘇らせるべき過去に縋りながら、そのために過去を消費する。
 愚劣ここに極まれり。可能ならこの兵器を使った連中を斬ってやりたいぐらいだ。
「そんなものを使えば、此のような華が咲きもするか」
 ざわざわと、風もなく揺れる桜の囁きに、嵯泉はふん、と鼻を鳴らした。
 血を吸い上げて育ちでもしたか。あの呻きを養分に花を咲かせたか。
 いずれにしても、嵯泉にとって、花々の問いかけなどいまさらでしかなかった。
「背負うものなぞ、知れている」
 永劫変わることのない後悔の源。拭えぬ、拭ってはならぬ苦痛と絶望。
 己の原罪であり、礎とすべき記憶であり、克己の糧としてきた無力。
 何も護れず、約定を果たすことも叶わず、すべてを喪った。
 贖うことの出来ぬ咎は大きすぎて、かつての嵯泉は復讐に狂うしかなかった。

 だが、今は違う。
「私に、生きることを願う者がいた。そして私は、生きることを約した。
 己はかつて何も護れなかった――されどその過去は現在(いま)に繋がる。
 此処に私が在ることこそ、かつて総てが「在った」ことの証なのだ」
 なればこそ、迷いとどまることなどしない。いや、出来ない。
「此の身は最早、私だけのものではない。……私はそう生きることを決めた」
 護れなかった者たちを、本当の無にしないために。
 今度こそ、この生命を以て約定を果たすために。
 嵯泉は歩く。揺らぐことなき、変わることなきその眼差しで、前を見据え。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
罪? あるわよ。あるに決まっているでしょ

1つ。「生前」に、リーオの肉体を操って私を撃ち殺させた事
2つ。死亡した直後の彼を、私の我儘でフランケンシュタインの怪物に仕立て上げてしまった事
3つ。リーオが記憶喪失且つ深く追求しないのを良い事に、ずっとコレらを黙っている事

あ。コレ今気絶してるリーオにはオフレコでお願い
朧気には勘付かれてるとはいえ、まだ打ち明ける度胸は、私には無いのよ
ええ、それさえも我儘な自覚はあるわ

だからせめて、何時か来る「最期」の時まで一緒に居たいの
全部打ち明けた後、彼が私をどうするかはわからないけど
「判決」は粛々と受け入れるわ
それだけの事を、してしまった自覚はあるのだもの



●いつか終わりが来る日まで
 気絶したリーオ・ヘクスマキナを受け止めると、「彼女」は立ち上がった。
「罪、ね。……あるわよ。あるに決まってる。"だから私はここにいる"んだもの」
 リーオは「彼女」を知らない。識ってはいても、彼は忘れている。
 だから「彼女」はそばにいる――いや、いられる。この関係を続けられる。

「私は、リーオに私自身を撃たせた」
「彼女」は言う。

「私は、私自身のわがままで、彼を怪物に変えてしまった。
「彼女」は、唇を噛みしめる。

「私は、リーオが記憶を失くして、そして……深く追求してこないからって、ずっとすべてを黙っている」
「彼女」は、抱えた少年の身体を強く抱きしめた。

 わかっている。
 彼はバカではない。すべてに、おぼろげにだが気付き始めている。
 その上で言葉にしない優しさに、自分は甘えてしまっているのだ。
 罪を罪と自覚し、己の背負うべきものを理解してなお、彼女は子供のまま。
 まだ、真実を打ち明けることは出来ない。
 懺悔という名の贖罪を果たすことは、今はまだ。

「……だからせめて、私は彼と一緒に居たい。けれどそれはわがままだけじゃない。
 いつか終わりが来る日まで、私たちにとっての「最期」が来る日まで……」
 そうしたら、己はまたこうして、すべてを語ろう。
 花々に擲つのではなく、罪人としてすべてを明かし、そして委ねよう。
「彼が下す判決を、私は必ず受け入れる。……どうするかは、わからないけれど」
 優しいリーオは、それでも許してくれるだろうか。
 それとも怒り狂い、己を邪神として殺すだろうか。

 どちらでもいい。彼がそう望むなら。
 それが、贖いきれない罪を犯した己のなすべきこと。

 一緒に居たい。
 結局のところ、わがままを叶えてもらっているだけだとはわかっている。
 それでももう、「彼女」は、彼を失いたくなかった。
 もう、二度とは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・エルフェルト
[POW]
アドリブ・連携◎

櫻の迷宮をゆっくりと進む
臓腑色の櫻の囁きより一際強く拾うのは
苦しそうなうわごと
ころして。
腰の「憑紅摸」に触れ、想いを新にする
其の命を絶ち、痛苦を断つ
影朧を苦悩から解放するは、慈悲
――本当に?

"ころして" は "いきたい" の裏返し
骸の海の者達だって、自ら進んで"そう成った"者など
果たして数える程もいるのだろうか
活人剣でありたいと願った己の刀は
今迄相対して来た彼等を本当に救えたか?

……判ってるんだ
こんなモノは、剣客の独り善がりだと
理解していながら今更立ち止まる事も出来ない
奇蹟を織れぬ此の身に出来る事は、只斬る事のみ
剣の道とは清河の如く、然れど業の深さは底を識らず

――だから。
何れ私が獄に墜ちた時には。
一際惨く灼いて欲しい。

此れが私の罪
歩みを止められぬ病
偽善の咎
さあ、道を開けて
大事な仲間が、想いを果たす
己の罪がまた一つ重くなろうとも
其れでも私は、往かねばならぬの



●人を活かすための
 存在することそのものが苦しみであるならば、命を絶つことが慈悲。
 以て痛苦を断つ。これこそが活人剣の本分、己の為すべきこと。

「…………本当に?」
 クロム・エルフェルトは、己に問いかけた。

 うわごとが聞こえる。
 ころして、と。
 その言葉の向かう先は、どこで、誰なのか。
 己をころしてと願うのか、あるいは――。

 いずれにしても、殺意は影。つまり「生きたい」という明より生まれるもの。
 生きずして死すことなく、存在なくして苦しみもありえない。
 残骸と成り果てた者らのなかに、はたして、どれほど望んだ者が居よう。
 過去そのものといういびつな存在は、彼らにとって願望足り得るのか?
 もしも、そうでないとするならば。
 人を活かすための剣であるはず己の刀は、彼らを「救えて」いたのか。
 すべては思い上がった己のエゴに過ぎず、
 苦しみを絶つことなど出来ているわけもなく、
 ただただいたずらに命を奪ってきただけではないのか。

「……わかってるんだ」
 クロムは、拳を握りしめた。
「こんなモノは、剣客(わたし)の独りよがり。都合のいい夢想でしかない。
 けれど私は、いまさら立ち止まれない。己の愚かさを理解していたとしても」
 ここで立ち止まってしまったら、斬ってきたすべてのものを踏みにじることになる。
 奪ってしまったことが咎であるなら、せめて己は冥府魔道を歩こう。
 剣の道は清河の如く。頂など存在せず、征けど往けども果てはない。
 この業の深さもまた同じ。底などない。欲はどこまでも膨れ上がる。

「だからせめて、私がいずれ獄に堕ちた時には、ひときわ惨くこの身を灼いて。
 痛苦を味わわせ、絶望を噛み締めさせ、骨肉を引き裂いて戒めてほしい」
 これこそがクロムの罪。
 偽善とわかっていてなお、その矛盾を識ってなお足を止めぬ。止められぬ。
「――道を開けて。大事な仲間が、想いを果たそうとしているの」
 それでもこの剣は、人を活かすためのものだ。
 罪を背負うことで、誰かの悲しみを止められるなら。
 命を絶つことで、苦しみを終わらせられるなら。

 私は喜んで、この咎を背負い続けよう。
 冥府魔道の果ての果て、血に塗れて倒れるその時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
背負うもの…
俺の場合は、背負おうとしているもの、だよな。

俺は狐として生きてきて…じいさんに出会って自分が妖狐だと知ったけれど…
それでも、素性の分からない何者かだったんだ。

カクリヨの戦争が終わって、実の家族と会えて、大切な人と出会えて。

俺は、妖狐…人として、振る舞えるんだろうか。

狐なら、生後半年もすれば独り立ちするし、早い奴は子供も出来る。

でも…俺は人だったんだ。
刹那的に今を生きるだけの狐じゃない。

何十年も生きる人という種族で、狐と違って感情が深くて豊かで繊細で。
凄い習性…じゃない、文化やルールがあって、群れの決まりがあって。
過去を背負って、未来を見つめて、今を生きる、そんな人として…

大切な人達の一員として、生きて…いけるんだろうか。

まだ、人として…全く全然経験が足りな過ぎるんだ。
必死に頑張っても、足りない。
差が埋まらない。追いつかない。

まだ再会して日が浅い両親と妹。
大切な大事にしたいと想う人。
旅団や猟兵の仲間達。

精一杯、俺の全てで、やるしかない。
それは分かっているけれど…な。



●人である、ということ
 人として生きる――それは、途方もなく困難で、大変なことだ。
 言葉も知らない赤子ですら、「人」と呼べるようになるには多大な手間がかかる。
 親が、その周囲の人々が尽力して、ようやく子は言葉を覚え一人で歩ける。
 ましてやそれが、獣として生きてきたのであれば。
 もはや生まれ変わる、といってもいいほどに、果てしない道のりだろう。

「不安、なんだと思う」
 木常野・都月は独白する。
「俺はじいさんに出会って、自分が何者なのかを教えられるまで、狐として生きてきた。……妖狐であることを知っても、素性はまったくわからなかった」
 それが、先の戦争で一変した。
 実の家族と出会い、己の出生を知り、いかにしてあるべきかを知った。
 大切な人と出会い、縁をつなぎ、そして今ここにある。

 これからのことだ。
 都月にとって重要なのは「背負ってきたもの」ではなく、「背負わねばならないもの」。
「……妖狐として、人として振る舞えるのか、俺にはわからない」
 都月は独白する。
「狐なら、生後半年もすれば独り立ちするし、早いやつは子供だってできる。
 でも……俺は人だったんだ。刹那的に今を生きるだけの狐じゃ……ない」
 人の生は長い。
 何十年……妖狐であればもっと長くなるかもしれない。
 人には喜怒哀楽があり、豊かで、繊細で、文化やルールがある。
 群れの決まりとも異なるもの。倫理、道徳、常識。人としてかくあるべきもの。
「大切な人たちの一員として、俺は生きて……行けるんだろうか」
 必死に頑張っても、足りない。
 時間という差は埋められない。
 あがいてもあがいても、追いつけない。

 再会して間もない両親と妹。
 大切な、大事にしたいと思う女性(ひと)。
 旅団や、同じ猟兵である仲間たち。繋がり。縁。

「それでも、精一杯、俺のすべてでやるしかないんだ」
 不安は消えない。これもきっと、人として生きるということなのだろう。
「……だから、この気持ちこそが、俺が背負っていくものなんだと思う」
 そう呟く都月の瞳は、揺らぎながらも前を向いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
僕を生み出した人は、一言で言えば異常だった
“最強の生物”を生み出すための実験を繰り返していた
子供を使って

生み出され…または引き取られた子供たちは——そこでの生活しか知らない子供たちにとっては——比較的まともに育てられた
実態はともかく、孤児院のようなものだ
何らかの“調整”がされる事もあるが、決して人の域は出なかった
彼女は、人の心が生み出す力こそが必須だと考えていたから
ポジティブなものではなく、ネガティブな…恐怖こそが、人に力を齎すと
傷つく事への恐怖、より強い存在への恐怖、死への恐怖
そのために、子供たち同士で生き残りをかけて戦わせ…残った、見込みのある“被験体”に更なる実験を施した

人としての心を与え、恐怖を以てそれを傷つけ、戦う術を教え磨かせた
駄目になったら破棄して、理想に届くまで、何度も何度も

結局彼女は討たれ、僕は一人…そう、“生き残って”しまった

自分がまともであるかと言えば、「否」と答えざるを得ないだろう
綺麗な人間だとは到底言えない
だが——

——今この悪趣味な事態を、終わらせる事は出来る



●コドク
 思い出した過去は、昏くおぞましいものだった。
 陰惨な風景。死と隣り合わせの日々。希望などない、恐怖に染まった毎日。
「僕を生み出した人は――一言で言えば、異常だった」
 最強の生物を作り出す。
 フィクションじみた狂った願望に、多くの子供たちが付き合わされた。
 そして、犠牲となった――それが、斬崎・霞架の思い出した過去。
 今にして思えば、何もかもが常軌を逸していた。
 疑問を持たずにいたのは、「それ以外」を知らなかったからだろう。
 たとえ「目的」のための"調整"を施されても、子供たちは知らなかった。
 己らを育てる……いや、「飼っている」女の目的も、その本性も。

「人の心が生み出す力。彼女は、それが最強に必要なものだと考えていました」
 ただしそれは、希望とか正義とか、ポジティブなものではない。
 ――恐怖。
「それが人に力を齎すと彼女は信じていた。傷つくことへの恐怖、より強い存在への恐怖、そして――死の、恐怖」
 生存しようとする本能は、なによりも強い。
 であれば生を希求し続け最期まで生き延びた者こそが、最強足り得る。
 女は狂っていた。子供たちはそのための犠牲となった。

「人としての心を与え、恐怖を以てそれを傷つけ、戦う術を教え磨かせる。
 そして子供同士で争わせ、生き残りをふるいにかけ、実験を続けた」
 何度も何度も。
 何度も何度も何度も何度も――彼が、生き残るまで。

「僕はきっと、いえ……まともではない。否と応えざるを得ません。
 動機がなんであれ、僕は手を汚し続けてきた。生き残るために」
 そして今も、己は本当の強さを求め続けている。
 きれいな人間だとは、言えるはずもない。ただ。

「……この力があれば、こんな悪趣味な事態を終わらせることはできる」
 彼は、呪詛纏う手をぐっと握りしめた。
 今度こそ、本当の強さをその手に掴めるようにと。

 せめてこの呪われた命で、本当に活かすべきものを活かすために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルナスル・アミューレンス
背負ったモノ、ねぇ。
あれもこれも背負い過ぎて、何から荷解きしたもんかねぇ?
なんせ、背負ってるモノが本当に僕のかも、ちょっとわからんくてねぇ。
(けらけら)

そーだねぇ……。
まだ残ってるやつだとねぇ……。

なぁに、ありふれた話さ。
こことは別の世界のお話だけどね。
何もかもを奪い尽くす暴威の嵐。
それに奪われたって話さ。
輩を、街を、国を、大地をね。

で、その復讐の為にって自分まで奪われちゃってさ(けたけた)
気付いたら、僕自身が何もかも奪い尽くす側になっちゃってたーってね。

今では、この身は何千何万もの命を殺し尽くし、喰い尽くす化物さ。
だからまあ、安心してよ。
君も、その向こうも、きちんと殺し尽くしてあげるからさ。



●なにもかも黒になって
「背負ったモノ、ねぇ」
 アルナスル・アミューレンスの声は軽々しかった。
「あれもこれも背負いすぎて、何から荷解きしたもんかねぇ?
 ……なんせ、背負ってるモノが本当に僕のかも、ちょっとわからんくてねぇ」
 けらけらと、世間話のように笑う。
 ガスマスクの下の表情は見えない。
 本当に彼が笑っているのか、それとも演技なのか、それさえもわからない。
 もしもアルナスルが泣いていたとしても、わからないだろう。

「そーだねぇ……まだ「残ってる」やつだとねぇ……」
 アルナスルは、晩飯のメニューでも考えるような調子で続ける。
「といっても、なに、ありふれた話さ。こことは別の世界での、ありふれたこと。
 何もかもを奪い尽くす暴威の嵐に、すべてを奪われた。ただそれだけの話だよ」
 アルナスルは肩をすくめた。
「輩を」
 声の調子は変わらない。
「街を」
 彼の表情は、見えない。
「国を」
 笑っているのか、怒っているのか、泣いているのかさえ。
「――大地をね」
 何もかもが、黒に覆い隠されている。

「で、その復讐のために……って、「自分」まで奪われちゃってさ。
 ……気付いたら、僕自身が何もかもを奪い尽くす側になっちゃってた、ってね」
 化け物は、けたけたと笑う。
 人間であれば、悲しみ、悼み、怒りによって突き進むだろう。
 だが、アルナスルは人ではない。純粋な化け物でも、ない。
 何千何万もの命を殺し尽くし、奪い尽くしておきながら、人のように囀る。
 人のように笑い、化け物のように嘯き、黒ですべてを染め上げる。
「君も、その向こうも、きちんと殺し尽くしてあげるからさ」
 だから、安心していい。
 そう語りかける声だけは、柔らかで優しげだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダンド・スフィダンテ
……ふむ。
俺様、数年前はダークセイヴァーで領主をしててな?これでも上手く治めていたんだ。本当だぞ?

民は笑顔で、暗い世界の中それでも未来を見ていてな?
強い人間も居て、俺様も居て、吸血鬼だって倒せる者達で……きっとこのまま続くんだろうと思っていた。

でも、そうはならなかったんだ。

あの日俺様は別な世界に飛ばされて、訳の分からないまま事件を解決して、そうして戻ってくる数日の間に、なんでか全てが失くなっていて。

なんと言えば良いんだろうな。

一人残ってしまったこの過ちを。
いくら罪ではないと言われても、そうとは思えない傲慢を。尚幸福を得ようとする強欲を、先へと進めない怠惰を。

これを罪と、認めてくれるだろうか。



●傲慢、強欲、怠惰
「俺様、数年前はダークセイヴァーで領主をしててな」
 ダンド・スフィダンテは目元に手を当て、口元に笑みを浮かべたまま語る。
 太陽のような明るさを持つ彼が、無意識に目元を抑える。
 それは彼自身が、口元でしか笑顔を保てないような時ばかりだ。

 過去を思い返すのは、いつだって苦しい。
 思えば以前も、この世界で師の幻を見たこともあったか。
「これでも上手く治めていたんだ、本当だぞ? ああ、上手くやって「いた」とも。
 民は笑顔で、暗い世界の中それでも未来を見ていた。強い人間だっていたんだ」
 ダークセイヴァー。地の底の牢獄だと判明した黄昏の世界。
 残酷なものだと思う。吸血鬼どもさえ、それを知らなかったとは。
 思えば、だからこそあの統治は成功して「いた」のかもしれない。

「きっとこのまま、続くんだろうと思っていた」
 ダンドの口元は、相変わらず笑っている。
 それが「彼」だ。そうあることが、ダンド・スフィダンテなのだ。
 だから、笑う。笑わなければならない。たとえひとりだとしても。
「――でも、そうはならなかった」
 すべては過去だ。
 民草の笑顔も、何もかも、すべては過ぎて去った時間の彼方。
「あの日俺様は、級に別な世界に飛ばされて、わけがわからないまま事件を解決した。戻れたのは数日後……そう、たった数日。それですべては終わっていた」
 理由はわからない。
 まるで夢だったように、唐突に何もかもが失くなってしまった。
 民草の悲鳴も、絶望も、怨嗟の声を浴びることさえ許されぬままに。
 己を悪役に仕立て上げる自己満足さえ、出来ないままに。

「……なんと言えばいいんだろうな」
 ダンドは目を隠したまま、語る。
「誰にいくら「罪ではない」と言われても、俺様はそう思うことが出来ない。
 一人残ってしまっていながら、俺様はなお人としての幸福を得ようとしている。
 強欲で、傲慢で――なのに俺は、先へと進めない。こうして過去を抱えたまま」
 傲慢、強欲、怠惰。
 神が定めた七罪こそ、我が罪。我が背負うべきもの。

 背負わせてくれるはずの誰かも、もうすべていなくなってしまったが。
「これを罪と、認めてくれるだろうか」
 その言葉は花々に向けたもののようで、そうではなかった。
「……誰でもいい。俺様の問いかけに、答えてくれれば、よかったのだがな」
 もうここにはいない人々に向けられた、虚しいねがいだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
今更誰かに語るまでもない
罪と思うものなんて、たったひとつ
大切な人の命を、未来を、奪ったこと

それだけ――だと思ってた

だけど、最近は思うんだ
奪ってしまったことより
その痛みを、罪を、誰よりも自覚しているくせ

視て、歩いて、感じて、考えて
帰る場所があって、誰かを好きになって
そうして生きていることのほうが
そうして、生きていきたいと願うことのほうが
きっと、ずっと罪深いんだって

わかってるよ
だから、いつだって消えてしまいたいと思う
でも、今更、生きたいっていうこの気持ちだって
偽れやしないんだから

もういいだろうって頭の中で響く声を
いつだって捻じ伏せて歩いていくんだ

これからも
今日みたいに
きっと、ずっと

それで、いいんだ



●海に底はない
 痛みを感じている。
 償うべきだと、今ではわかっている。
 これが罪であり、己は許されないのだと。
 もはや命を捧げてすら、許しを乞う相手はいないのだから。

 贖いのために提示された死を、己は己の意志でもって跳ね除けた。
 生きたいというエゴのために、罪を、痛みを自覚していながら。
「罪と思うものなんて、たったひとつ――そう思っていた」
 鳴宮・匡は独白する。
「でもきっと、違うんだ。奪ってしまったことも、もちろん許されないと思う。
 ……けれどなにより許されないのは、そうしていて、わかっていながら、
 今もこうして生きている。視て、歩いて、感じて、考えて……帰る場所があって」

 誰かを、好きになって。

 今日を生き、明日を迎えたいという、当然の欲求。
 それを拒むことなく抱え続けていることのほうが、ずっと罪深いのだろう。
「誰が」許すかではない。法律とか、倫理とか、そういう話ではない。

 己が、己を、許せないのだ。
 何を馬鹿なことをと、人でなしが何をしているのだと、いつだって匡は思う。
 消えてしまいたい。何もかもを海の底に沈めて、己も沈んで逝きたいと。
 そんな破滅願望を持っていながら、自分の大切な人々は守りたいとも思う。
 死のうとする者には手を差し伸べ、厄災が降りかかるならば振り払う。
 矛盾もいいところだ。こんなのはただのポーズでしかない。
 結局、自分は死ぬことすら出来ず、友愛に甘えて生きているんだから。

「いまさら、偽れやしないよ」
 匡は言った。
「俺は生きたい。これまでと同じように、これからも時を歩んでいきたい。
 当たり前のことを、当たり前のように迎えて、当たり前に進んでいきたいんだ」
 もういいだろうと、頭の中で誰かが囁く。
 もうひとりの自分。あるいは、命を奪い続けてきた己の影。

 後悔が消えることなど、ない。
「傲慢でいい。俺は、いつだって、いつまでだって、この声をねじ伏せていく。
 これからも、今日みたいに……きっと、ずっと、罪を罪として背負っていくよ」
 だから許してくれなどと、希うつもりはない。
 石を投げたいならば投げればいい。
 揶揄したいならばすればいい。
 それだけの血と咎と屍を、己は生んできた。

 届かぬ光に向かって近づくたび、昏い影は長く黒く伸びていく。
 その痛みさえも抱える気持ちを、きっと人は「いとおしい」と云うのだろう。
 匡の瞳は、下ではなく前を向いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(殺して、と続け様に聞こえる輪唱。)
(それとは別に、木々のざわめきのように響くは「汝の背負いしとのを告げよ」という言葉。)

――――。

人を、殺した。
今此処に響くように
殺してと願う誰かでなく――
生きたかった
帰りたかった
子供たちだったろう。

憎悪と憤怒と
自分のエゴで。
たった一人に助かってほしい一心で。
それ故に、引金に手を掛けた。
(そして、結局、誰も救えなかった。)

(一番の罪はなんだったろうかと記憶を反芻する。身勝手に人を殺した事か。暴力衝動に身を任せた事か。親友を救えず、剰え友人に命を救われた事か。

そのどれもが正解なのだろう。)

――"正しい強さ"を知らなかった事が
僕の罪だ。

先へ通して貰おうか。
相棒が会うべき人が、この先にいる。

――行こう、ロク。(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

…こうなる気は、してたんだ。
いや。それも嘘になるかも知れない。

(御自身を。或いは、おれを。
死への願いは、あなたが呑み込み続けた言葉
満たされたここは、あなたの胎のうちなのでしょうか)
(だから、森だというのに堂々巡りだ)

ごめんなさい。

あなたとともにいてさしあげられなくて、ごめんなさい。
あなたと同じものになってさしあげられなくて、ごめんなさい。
あなたの声を、ちゃんと聞いてさしあげられなくて、ごめんなさい。
助けてさしあげられなくて、置いていってごめんなさい。
あなたののぞみをなにひとつ叶えてさしあげられなくて。

……ほんとうは。
また、会いたくて。
こんな形が歪んでいると、わかっていても。
ごめんなさい。

(過去と、今の罪を敷いて道と成そう
この先で、あのひとが悲鳴をあげている)
退いてくれ。
道を開けてくれよ。
おれはいまから、あのひとに、謝りに行くんだから。



●やくそく
《――人を、殺した》
 ジャガーノート・ジャックは、臓物色の桜を見上げる。
《――殺してと願う誰かでなく、生きて、帰りたかっただろう子供たちを》
 憎悪。
 憤怒。
 そして、エゴ。
 ただひとり、ひとりだけに助かってほしい。そんなわがままで、殺した。
《――けっきょく誰も救えなかった。誰ひとりも》
 そう、誰ひとり。助かってほしかった人も、子供たちも……そして、きっと。
《――本機(ぼく)も、救われてはいないのだろう》
 命は救われた。救われてしまった。
 だが後悔は消えず、己の礎となり、身を鎧い、多くの道を間違えた。
 獣へと堕し、痛みを抱え、記憶を捨て去り、また殺して、奪って。
 胸を張れるようになっても、過去は消えない。誤ちは残り続けている。
 なら己もまた、救われていないのだろう。おそらくはこの瞬間も。

《――本機に、罪があったとすれば、それは》
 身勝手に人を殺したことか?
 暴力衝動に身を任せたこと?
 親友を救えず、あまつさえ逆に命を救われたことか。
 きっと、どれもが正解だ。なら、その根幹にあるのは……。

『僕が、"正しい強さ"を知らなかったことだ』
 少年は言った。
『この罪は消えやしない……でも、それでいい。忘れずにいられるから。
 僕は、僕として歩き続けよう。約束のため、大事なひとのため、そして――』

《――本機(ぼく)が、そう願うがゆえに》
 声に迷いはなかった。
 それはロールプレイではなく、彼自身の想いだから。
 喪って、取り戻して、ようやく気付けた重さ。そしてぬくもり。
 許されないとしても、少年は歩み続ける。その強さを彼は掴み取った。
 与えられるのでも、慈悲でもなく、傷ついてもなお諦めずに戦い続けたがゆえに。
 それこそが、彼の強さ。誰にも真似できない、誰も奪えない、彼だけのモノ。
 果たすべき約束の重さは、痛みと苦しみと後悔を伴う。
 その痛みさえも、彼は己のものだと胸を張り、歩いていけるようになった。

 ならば、相棒は。

●どうしておまえはまだいきているの

 ころして。

「ごめんなさい」

 ころして。

「あなたとともにいてさしあげられなくて、ごめんなさい」

 ころして。

「あなたと同じ"もの"になってさしあげられなくて、ごめんなさい」

 ころして。

「あなたの声を、ちゃんと聞いてさしあげられなくて、ごめんなさい」

 ころして。

「助けてさしあげられなくて」

 ころして。

「置いていって、ごめんなさい」

 ころして。

「あなたののぞみを、なにひとつ……」

 ころして。

 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。

「……なにひとつ、叶えて、さしあげられなくて」

 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。

「…………ほんとうは」
 ロク・ザイオンは顔を覆った。
「また、会いたくて」

「こんな形が歪んでいると、わかっていても」

「………………ごめんなさい」

《――ロク》
「……こうなる気は、してた」
 相棒の声に、禄は顔を上げる。
「いや。それも多分、うそだ。おれは……」
 堂々巡りの森。巫女の胎。出ることかなわぬ楽園のように。
 実りあれど朽ちることなく、生と死の輪廻は停滞し、ただ在るだけの森。
 死へのねがい。その声は自らへのものでもあり、"おれ"へのものでもある。
 それしか、彼女には希望(のぞみ)がなかった。こんな形に成り果てるほどに。
 満たされていながら、ここは寒々しかった。
 ここには、命がない。ただ死だけがある。生へとつながらぬ死が。

 意味はないのだろう。
 オブリビオンとは過去の残骸。死した人の「かけら」でしかない。
 骸の海がカリカチュアライズした負のかたち。停滞しているがゆえに消えぬ過去。
 だが、この世界なら。癒やしが与えられるこの世界ならば、あるいは。
 そう思ってしまうことも、きっと罪なのだと、禄は思った。

《――行こう、ロク》
 相棒は、ただそれだけ言った。
《――先へ進もう。君が会うべき人に会うために》
「…………おーば」
 ロクは頷く。
「退いてくれ」
 木々がざわめいた。
「道を開けてくれよ」
 木々はあざ笑った。
「おれはいまから、あのひとに――」

 ころして。

「……あのひとに」

 ころして。

「…………謝りに行くんだ」

 木々が退いた。
 顔を覆うことも、下げることも、鳴くこともなく。
《――それでいい。それが、本機たちのあるべき姿だ》
「ああ」
 二つ星が前へ進む。過去と、今の罪を敷いて道をなして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『死に添う華』

POW   :    こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD   :    はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ   :    くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 はながさひてゐた。

 どくヽしひ、にじゐろの、うつくしくてぶきみなはなが。

 それは、好ゐ匂ひをしてゐた。
 しあわせになれる、匂ひを放つてゐる。

 何もかもを、手放したくなるほどに。
 何も考えず、とわのまどろみに沈みたくなるほどに。

 まどろみの名を、死と謂ふ。
 はなは、人々に、しあわせを分け与えやうとしてゐる。
 根を張り、肉を裂ゐて、咲き誇らうとする。

 草がひとのかたちをなして、根が神経の代はりをし、うごめく。
 囚われれば、とわのまどろみへと誘われるだらう。

 ころして、と。
 声は、響き続けている。

 そいつらを、ころしてと。
 声は、花々に命じた。
朱酉・逢真
心情)オヤそっちだったか。ひひ、やァっぱヒトのこころってなわからンねェ。わかる日も来るまいて。ああ、ンで? 俺を殺したいッてンならどうぞご自由に。殺されてやろうとも、死んではやれンがね。シゴトがあるンだ…死んだやつらを回収せにゃア。
行動)枯葉剤ってモンがある。こいつらァ、植物にはてきめんの猛毒でねェ…ヒトにもてきめんだったが。聞こえるかい、死んだ子ら。戦争好きの子供たち。これは"お前さんら"が作ったものだよ。さァさ返そうオレンジ剤。撒いて散らせ、眷属ども。宿主も植物も枯らしておあげ。彼岸者は彼岸へだ。すべてが終われば、毒はすべて回収するさ。もちろんそうだろう。まだ早いからなァ…ひ、ひ。



●愛すれど解せないもの
 朱酉・逢真には、ひとの心がわからない。わかることも、決してないだろう。
 だからこそいとおしく、だからこそかわいらしく、だからこそ触れ得ざる。
 神はそこに悲哀を見いださない――これもまた、彼にとっては当然のことだ。
 ひとが『おおいなるもの』のすべてを理解できないように、逆もまた同様。
 猟兵と《過去》とが、けして相容れない水と油であるように。
 理解できない/されないからこそ、浮かぶものもあるのだ。

 不思議なのは、理解しあえるはずのひと同士が、相争うこと。
 たとえば、そう……『これ』のように、殺すための兵器を作りもする。
 食うためでも生き延びるためでもなく、殺すための殺す武器を。
「戦争好きの子供たち……これは、"お前さんら"が作ったものだよ」
 だから、『これ』はお前たちに返してやろう。
 ひとの作り上げた殺傷兵器が散布され、死に添う華を枯らしていく。
 死に添う華。本来であれば、『彼岸』に咲き誇るべき華。
 それが人界にあることは、好ましくない。《過去》であればなおのこと。
 彼岸者は彼岸へと。ひとも、華も、屍も、あるべき場所へ。

 ころして。
 ころして。
 ころして。

「ひ、ひ……そンなに俺を殺したいかい。ああ、やっぱりわかンねェなァ」
 逢真は、響く声に目を細めた。
 殺意。狩猟本能ともまた異なる、ひとだけが持ち得るもの。
 人類最初の罪人たちが生み出してしまった原罪。わからぬもの。
「殺したいってンなら、いくらでも殺されてやるさ……死んではやれンがね」
 シゴトがあるんだ、と神はうそぶく。
 きっと声の主は、《過去》は、こんな『殺し方』では満足出来ないのだろう。
 わからねば、満たしてもやれない。なんと不自由なものだ、と逢真は思う。
 やはりこの宿(み)は、不自由だ。『在る』ということは、この上なく不自由だ。
「俺に出来るのはせいぜい、葬送(おく)ることだけだからなァ」
 毒を撒き、あるべからざるものをあるべき場所に送り返す。
 その毒さえも、ここにはあるべきではない。今はまだ。
 逢真の殺戮は、殺意などない。憎悪も怒りもあるはずがない。ただ自動的だ。
 何もかもを可能とするはずの存在は、それゆえに何も出来ない。何もしないというべきか。
 だからせめて逢真は微笑む……『いつか』が来てしまった屍たちを愛でるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月凪・ハルマ
夢を見たまま死ねってか。えげつないな

けど、俺はそれを幸せとは認めない
認める訳にはいかないんだ

◆SPD

(影朧の一種だろうが)植物視覚に頼っている訳でも無し
隠密行動は恐らく意味が無いだろう

現状に耐え続ける(【狂気耐性】)のにも限界があるし、
ここは早めに片を付けるのが正解だな

【神雷】を発動して周囲の『華』を纏めて雷で攻撃
手持ちの武器には火炎属性を付与(【武器改造】【属性攻撃】)

【見切り】【残像】【武器受け】【第六感】で生き残った
敵の攻撃を躱しつつ、自身と敵との距離に応じて
適宜武器を使い分けて攻撃。生き残りを仕留めていく



※アドリブ・連携歓迎



●夢見るままに死ぬか、痛みをこらえて生き続けるか
 何も考えず、まどろむように死ぬ。それはきっと楽なことなのだろう。
 痛みも苦しみもない、安楽死とでもいうべき優しい終わりだ。
 時として、毒は薬よりも甘やかで緩やかに人を腐らせるもの。
 それが救いになることも、たしかにある。だが、月凪・ハルマは。

「それでも俺は、そんなものを幸せとは認めない」
 立ち込める香りの誘惑に耐え、両手にバチバチと稲妻を纏う。
「認めるわけには、いかないんだ」
 耐える声だった。
 目の前にある救いを、あえて拒む。強がりをしている声だ。
 両掌の間にプラズマが蛇めいてのたうつ。ハルマは『神雷』を開放した。

 バチ、バチチ……ズガァッ!!

 轟音とともに超高熱の雷光が迸り、咲き誇る華を焼き尽くす。
 ハルマは自らの武器に熱の残滓を宿らせ、蔦で出来た人型を切り裂いていく。
「俺は夢を見たまま死ぬことよりも、苦しくても生きていく方を選ぶよ。
 そうしなきゃ、俺が決めた覚悟には何の意味もないんだ。なにより……」
 受け継ぐと決めた思いがある。
 貫くと決めた矜持がある。
 ここで諦めてしまえば、これまで踏み越えてきたすべての過去を無にしてしまう。

 ハルマは、まだ、過去になるわけにはいかなかった。
 救うべきもの、護るべきものが、この宇宙にはいくつもある。
「たとえそれがどれだけ楽で、優しいものだったとしても」
 ころして、と声が響く。
「……俺は殺されないよ。代わりに、背負うべきものを背負って前に行く」
 雷炎が、甘やかな香りを斬り裂く。纏わりつく蔦を払うように。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
この匂いは……嗅いでいると頭がぼんやりしてくる
ずっと嗅いでいるのは拙いと、神刀の柄に手をかけて、精神を集中させる
浄化の神気を纏う事で香りを遮断
思考をクリアにしたところで飛んできた苗に対して、神刀で素早く一閃して断ち切る

お前達はこれまで散々殺してきたんだろう。まさか、自分たちは殺されないとでも思っていたのか?
ああ、殺してくれというのなら、殺してやるさ

金色の神気を刀身に纏わせて、弐の秘剣【金翼閃】で召喚された苗と華の本体を纏めて断ち切ってやる
もし寄生されている人がいるのなら、その人は傷付けないようにしたい。多分、こんなことに何の意味もないだろうけど
……もう、眠っていいんだ。ゆっくりと休め



●過去を越える
 匂いを嗅いだ瞬間、夜刀神・鏡介は脳髄が痺れるような感覚を味わった。
「なんだ、これは……頭がぼんやりしてくる……?」
 毒か? いや、それにしては人体への悪影響が一切感じられない。
 痛みも苦しみも、病のような兆候はまったくない。
 それどころか……心地よいのだ。そう、まるで眠るように身体が弛緩する。
 底のない水の中へゆっくり沈殿していくような、甘ったるい快楽がある。

 だからこそ、危険だった。
「ずっと嗅いでいるのは、まずいな……!」
 鏡介は神刀の柄に手をかけて、呼吸を止め、精神を集中する。
 靄がかった視界が晴れていく。眠りに誘うしびれが徐々に抜けていった。
 そして、ぞっとする。一瞬でもこれを受け入れかけていたことに。
 晴れ渡った視界に浮かぶのは、己に寄生せんと飛ばされた無数の苗だ!

 神刀が、鋭く大気を切り裂いた。
 神速の居合。かちん、という納刀の音は、清廉な鐘の音のようである。
「お前たちは、これまでさんざん殺して来たんだろう」
 散りゆく花弁を踏みしめて、鏡介は一歩前に出る。
「まさか、自分たちは殺されないとでも思っていたのか?」
 斬撃。苗を切り払う。深い霧を裂いて、無明の中を歩くように。
 偽りの救いを齎す甘やかな死の香りを、鏡介は拒絶し、乗り越える。

 ころしてと、巫女の声がする。
 それはきっと、己らを殺せというねがいであり、同時に。
「ああ、殺してくれというのなら、殺してやるさ」
 もはや鏡介に迷いはない。金色の神気で、苗ごと華を斬り捨てる。
 寄生された哀れな犠牲者は、眠るように斃れた。おそらくは幻朧戦線の連中か。
「……もう、眠っていいんだ。ゆっくりと休め」
 オブリビオンを倒す。それは過去を乗り越えるということ。
 踏破には痛みが伴う。それでも鏡介は、前に進むことを選んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
──ころして
ころして、ころして、ころして

頭に響く声。
聞き飽きたフレーズ。

『いっそころしてくれ』と、何人に、何度乞われたか。それを聞き届けなかったのが、かつての己。
自分の欲望〈エゴ〉によって、かれらの願いを切り捨てた。(「だって、助けてくれと」「おれは、あきらめたくなかった」「みんなのいのちを」「あいつの願いを」)

(今の俺は)/いや、今はもっと
──悪辣な殺人者だ。

夢は夢に。
意識を手放す。

幸いにも相手はただのオブリビオンだ。周囲に一般人もいない。
殺せばいい。全て、すべて骸の海へ叩き返すだけだ。根こそぎ、根絶やしに。



●何度も乞われ、何度も壊した
 ころして、ころして、ころして。

 声が響く。聞き飽きたフレーズが。何度も乞われ、壊してきた声が。

 いっそ、ころしてくれ。
 もう、らくにしてくれ。
 たのむから、ときはなってくれ。

 生きることそのものが苦痛になってしまうことが、人にはしばしばある。
 心労の問題ではない。病んだ果て、弱った身体に魂を縛られる苦痛。
 終末をどう過ごすかもまた医療の形であり、終わりも治療のひとつと言える。
 倫理とエゴの問題だ。セプリオギナ・ユーラスは、己の欲望を優先した。

(「だって、助けてくれと言われた」)
 絶望した病人の表情。
(「おれは、あきらめたくなかった」)
 泣き叫ぶ、手足を喪った人の涙。
(「みんなのいのちを」)
 喜怒哀楽を浮かべることさえなくなってしまった、植物のようなひと。
(「あいつの願いを――」)

「……俺は」
 今はもう/いや、あの頃からもっと。
「悪辣な、殺人者だ」

 己に言い聞かせるように呟いて、セプリオギナは意識を手放す。
 そして殺す。あらゆる枷を外し、捨てたもうひとりの己に殺させる。
 まどろみの中で彼が見るのは、はてなき屍の夢。壊してきたねがいのリフレイン。
 それを、踏み潰すように、過去を殺す。すべて。すべて。

 根絶やしにすればいい。
 根こそぎにすればいい。
 そして最期には、己も眠るように死のう。――すべてを殺したあとに。

 もっとも、セプリオギナがすべてを殺すことなどありえない。
 彼はいまだに、エゴの残滓を抱いている。
 救えるのではないかと、心のどこかで夢見てしまっている。
 でなければ、意識を手放してまで枷を外す必要などないのだから。
 ゆえに彼に、救済などありえない。この苦しみはいつまでも続くだろう。
 だが、それでいい……少なくとも、贖っている気分にはなれる。

 事実は、まったく違うとしても。
 己のような殺人鬼に、安らぎの終わりなどあるべきではないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
さて…では、邪魔な華を刈り取る庭掃除と参りましょうか
——人の過去を、罪を、先に進むための鍵とした事、後悔して頂きましょう

呪いを扱いますか
…いいでしょう。ならいっそ、どちらがより呪えるか「こんくらべ」でもしましょうか?
呪いに関してならば、扱うにせよ抵抗するにせよ…背負っている分にせよ
それなりである自負はありますよ

迫る根を呪詛を籠めた手で【カウンター】の要領で掴み、ダメージを負った分だけ【生命力吸収】で奪い取る

申し訳ありませんが、僕の命は、僕の思う「好い人」のために使うと決めている
——貴方に差し出す分は、一欠片もありませんよ

そのまま呪詛を纏う手甲を解放、【何れ訪れる終焉】にて死を齎す呪いを流し込む



●命の使い道
 必要だったとはいえ、己の過去をひけらかすのはいい気分がするわけがない。
 ましてや斬崎・霞架の過去は、凄絶で陰惨な、忌むべき記憶。
 彼の双眸が殺気に冷たく淀んでいたとして、誰がそれを責められるだろう。

 何より敵は、命を吸って咲き誇る邪悪な花々である。
 ここで討たなければ、逢魔が辻とともに華は広がり甚大な被害をもたらす。
 ゆえに、容赦なく叩き潰す。やることは、何も変わらない。
「さて……では、邪魔な華を刈り取る庭掃除とまいりましょうか」
 霞架は冷たい声で言った。
「人の過去を……罪を、ここへ至るための鍵としたことを、後悔していただきます」
 掌に渦巻くは、凝縮され可視化した呪詛の塊。
 つまりこれは、呪いの「こんくらべ」である。

 びゅるびゅると、蛇めいてのたうつ根が霞架に襲いかかった。
 それは槍めいて鋭い先端を持ち、柔軟に蠢くも、同時に鋼のように強靭だ。
 どんなに鋭い刃でも、ただ斬って払おうとするなら痛い目を見る。
 動きも速く、見切るのは難しい――霞架にとってはたやすいことだが。
「申し訳ありませんが」
 命啜る根のいのちを、霞架の呪詛纏う掌が吸い上げていく。
 華は急速に萎び、色を失い、花弁が散る。後には塵さえ残らない。
「僕の命は、僕の思う「好い人」のために使うと決めているんですよ」
 華の残骸を投げ捨て、踏みにじり、霞架は一歩前に出た。
 再び繰り出された別の華の根を掴み、これも収奪。完全に滅ぼす。
「あなたに差し出すぶんは、一欠片もありません。ここで終わりです」
 華から吸い上げた呪いの力は、もはや掌に収まるようなレベルではなかった。
 数倍に拡大した呪詛の塊を掲げ、霞架はそれを……解き放つ。

 触れる必要すらない。
 死という終焉をもたらす呪いは、雨のように降り注ぎ、華を枯らした。
 風に散りゆく滓を踏み越えて、霞架は進む。少女の声のもとへと。

 この、招かれざる呪いの連鎖を、呪いを以て断ち切るために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダンド・スフィダンテ
死は救いだよな。甘美だよな。
解るとも。

けれど生きてくれと願われた以上はさ、それに報いなければならなくてさ。

ままならない物だよな。

さて、押し通らせてもらうぞ。この先に助けを求めるミューズが、居るそうだからさ。
どうなるか見届けたいし、助けになればと思うんだ。

あーーでも死にたいな。無に還れば苦しまなくて済むんだろう?この死に方めっちゃ気持ち良さそうだしな。
だけどこんな事を言えばさ、怒られるし、悲しまれるんだ。
知っているとも。分かっているとも。

約束は果たさなければならないし、周りに笑っていて欲しいからさ。
俺は生きていかなきゃならないし、俺様は笑ってなきゃいけないんだよ。

ごめんな。



●甘美なる救済と、痛苦にまみれた生と
「わかるとも」
 ダンド・スフィダンテは、悲しそうな、寂しそうな、微笑むような。
 ……あるいは自嘲するような、そんな複雑な面持ちで、空を仰いだ。
「死は救いだ。甘やかで、美しい……生きるよりずっと楽な終わり方だ」
 そう出来たなら、どれほど楽だろう。
 そう終われたなら、どれほど救われるだろう。
 死は甘美なる救済だ。ダンドは、それを拒む理由がない。

 彼自身の、中には。
「けれどな」
 生きてくれと、願われた。
 ねがいを託されたならば、それに報いなければならない。
 誰が願ったとかではない――そうしなければ、ダンドはダンドでいられない。
 いや、そうすることこそが、彼を彼たらしめているというべきか。
「……ままならないものだよな」
 ダンドの表情は、泣き出しそうなようにも見えた。
 ……声が聞こえる。救うべき巫女(ミューズ)の声が。
 ミューズには、優しくせねばならない。常に優先し紳士的にせねば。
 それが、ダンド・スフィダンテだ。だから彼は征く。
「押し通らせてもらうぞ。俺様は全てを見届けたいし……助けになればと思うんだ」
 一歩踏み出した彼の表情は、もうダンド・スフィダンテのものだった。

 槍化した『アンブロシウス』を振り回し、はびこる根を斬り裂く。
 毒々しい色合いの華の中心を串刺しにして、かき混ぜるように抉る。滅ぼす。
 殲滅の猛打。戦うと決めたならば、ダンドは強い。忌々しいほどに。
「あー、死にたいなぁ!!」
 やけになって、ダンドは叫んだ。
 甘やかな香りが、じっとりと肺を腐らせるように感じた。それもいい。
「無に還れば、苦しみだって感じない! きっとこの死に方は気持ちがいいさ!
 ……けどさ、だめなんだよ。こんなこと言ったら、怒られるし悲しまれるんだ」
 だからせめて、滅ぼすべき花々に向かって叫ぶ。
 この、望まれざる思いを抱え、俺の代わりに無になってくれと願って。
「約束は、果たさなきゃいけないんだ。皆には笑っていてほしいからさ」
 ダンドは笑っていた。笑いながら溌剌とバカをやるのが、ダンド・スフィダンテだ。
「俺は生きなきゃいけない」
 甘やかな死を希うことなど、ダンド・スフィダンテはしない。
「俺様は、笑ってなきゃいけないんだよ」
 痛苦にまみれた生を疎むことなど、ダンド・スフィダンテはしない。

 ころして、と声がした。
「――ごめんな」
 ダンド自身の中に、死を忌避する理由などない。
 託してくれたものだけが、彼をつなぎとめている。

 あるいは、縛り付けている。
 それをどう表現するかは、ダンドにしか決められない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジン・エラー
【甘くない】

そォ~~~かァ~~~~?
花の良し悪しなンざわからねェよ
クヒャハ!天国ねェ~~~~!
大賛成だぜエリシャ。オレたちにゃァ~~合わねェや

あァ?
……イッヒャラハハ!!
おォ~~よエリシャ。そうだぜエリシャ
彼女の体をこれでもかと抱き寄せて、見せつけるように
見つめ返そう。お前の瞳を
オレのもきっと此処にある。

さァ~~~~オレたちで救ってやろうぜ。このクソ花たちをよ
整然燦然。光を以って闇を消し飛ばす
まるで燃え広がるように
炎と光がいィ~~~いグラデーションじゃねェの。

こンな辛気臭ェ~~~モンじゃなくてよォ~~~
一等に綺麗なモンじゃねェとなァ。


千桜・エリシャ
【甘くない】

不気味なほど美しい花ですこと
きっと天国にはこんな花が咲いているのでしょうね
私たちには似合わないわ

ころして、だなんて物騒なこと
そんなに手招いてもそちらに行く気はありませんから
だって私の幸せは“此処”ですもの
ジンさんに隣に立ったなら身を寄せて
そうでしょう?と彼の瞳を見つめる

そうね、救って差し上げましょう
桜色の鬼火を咲かせたなら
目につくすべてに火をつけて
延焼させて燃やしてしまいましょう
いい色になりましたこと
眩しい、けれどもずっと見ていたい光

燃える花々を見て
ふふ、私達に似合いの花の色はこっちね
あなたの隣で咲く花は間に合っていますもの

あら、ちゃんと花の良し悪しがわかっているじゃありませんの



●楽園は遠すぎて
「不気味……けれど美しいですわ。むしろ逆かしら?」
 と、毒々しい花弁を見た千桜・エリシャは呟く。
「綺麗だからこそ、逆に不気味に見える……そう思いませんこと?
 きっと天国には、こんな花が咲いているのでしょうね。ふふっ」
「そォ~~~かァ~~~? 花の良し悪しなンざオレにゃわからねェし……」
 ジン・エラーは、目を細める。
「"オレたちにゃ似合わない"……だろ? エリシャ」
「……私の言うことは、なんでもわかるのね?」
「オレもそう思ったからな。大賛成ってやつさ」
 ジンは野卑に、下品に哂う。エリシャはそんな彼に微笑んだ。
 罪と穢れと、傲慢と強欲に塗れた己らに、楽園なんて遠すぎる。
 いずれ地獄に堕ちる身なら、最初から欺瞞の救済は必要ないのだ。

 神にも悪魔にも、エリシャは自分を渡すつもりなどなかった。
「ころして、と願われても、私は"そちら"に行く気はありませんの」
 なぜなら幸せは、『此処』にある。
 エリシャはジンに身を寄せ、彼を見つめて、「そうでしょう?」と囁いた。
「……イッヒャラハハ!!」
 ジンは笑い飛ばした。愛を籠めて見つめ返す。
「おォ~~よエリシャ。そうだぜ、エリシャ」
 オレの幸せも、きっと此処にある。そう、彼の瞳は応えていた。
 愛するおんなの体を抱き寄せ、見せつけるように、誇示するように輝きを背負う。
「オレたちで救ってやろうぜ、このクソ花たちをよ」
「そうね、救ってさしあげましょう」
 楽園は遠すぎる。もたらされるのは、安らぎを約束する救済などではない。
 傲慢に、強欲に、心の赴くがまま邪悪に邪悪を貪る、醜くえげつない終わり。
 それがふたりの選んだ道で、ふたりが歩む道なのだから。

 光に混じって、桜色の鬼火が揺らめく。
 咲き誇るように燃える炎は、不気味な色の花々を包み込んで強く燃えた。
「いい色になりましたこと」
「炎と光がいィ~~~いグラデーションじゃねェの」
「ええ、眩しくて目が潰れてしまいそう。けれどずっと見ていたいですわ」
「ヒヒャラハハ! こいつのほうが、オレらには似合いだぜ」
 黒は闇を、白は光を――転じてそれぞれが悪と善を顕すようにイメージされる。
 だがこうは考えられないだろうか……光=白もまた、他の存在を許さないという意味では、黒と同じぐらいに傲慢ではないかと。
 ジンの光は、「そういうもの」だ。寄り添う鬼火もまた同様に。
 何もかもを蕩かせて、喰らい、消化してしまう。唾棄すべき鬼の華。
 欺瞞に満ちた甘美なる死ですらない。おぞましく……だが、ああ、美しい。
 美醜は表裏一体である。他者がどう思おうと二人には関係なかった。
「私たちに似合いの華は、こちら。あなたの隣に咲く花はここにありますもの」
「クヒャハ! ……そォだな。こンな辛気臭ェのは必要ねェ」
 ジンは挑戦的に哂った。
「いっとうに綺麗なモンが、オレにはあらァ」
「あら。ちゃんと花の良し悪し、わかっているじゃありませんの」
 炎と光の中で、ふたりだけが自由だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
何もかもを手放すのが幸せ、か

そうかもな
苦しいまま生きて歩む必要はないって
足を止めて、考えることをやめて、眠ってしまえば幸せだって
もしかしたら、誰かは言うのかもしれない

でも
俺には、そんな幸せは必要ない

【影装の牙】は攻撃力を重視
装甲は最低限でいい、当たってやる気はない

死の光景なんていつも隣に置いて生きてきた
そんなものに今更怯みやしないし
押し付けがましい永久の微睡みとやらに囚われるつもりもない

“ひとのかたち”をなすのなら好都合
人型の殺し方なんてよく知っているし
飽きるほど繰り返してきた
足を穿って、根を断ち切って

……ああ、でも、心臓も脳もないのか
まあいいさ、動かなくなるまで撃てばいいだけ
“いつも通り”だ



●眠らぬ苦行者のように
 何もかもを手放して、考えることをやめて、悲しみも苦しみもない場所へ。
 手足の力を抜いて――そう、海にたゆたうようなまどろみに、身を委ねる。
 それはきっと、とても穏やかで安らかな、心地よい「終わり」なのだろう。

「そうかもな」
 鳴宮・匡は理解を示した。だって、彼は「それ」を振りまいてきた。
 相手の苦しみも、執着も何も斟酌せず、己が生きるために「終わらせて」きた。
 今、彼は、「終わらせる」ことの意味と重さをよくよく理解している。
 安らかに穏やかに、何も考えずに生きてきた結果の苦しみを。
 であれば、花々の誘う蜜の目指すところ――死の在り方は、考えるまでもない。
 その瞳は死をもたらすものであり、見つめるものであるがゆえに。

 機関銃のかたちを得た影の牙が弾丸を吐き出し、花々を薙ぎ払った。
「苦しいまま、生きて歩む必要はない。足を止めて、眠ってしまえば幸せだ。
 そんなふうに――もしかしたら、誰かは言うんだろうな。きっと」
 罪から解放されてもいい。懊悩を生涯背負い続ける必要なんて、ない。
 優しい言葉だ。……脳を痺れさせて、終わらせてしまうくらいに。

「俺には、そんな幸せは必要ないよ」
 匡の瞳には、その視界の片隅には、いつだって死があり続けてきた。
 己のもたらした死、己に迫る死。どちらであれ彼の生はその隣で続いた。
 だから、わかる。死によって得られる心地よい終わりは、完全なる無だと。
 それを振りまいてきたからこそ……もう、その欺瞞に己を委ねはしない。
「押し付けがましいんだよ。いまさら、そんなもので怯みやしないさ」
 飽きるほどに繰り返してきた"殺し方"で、花々を「撃ち殺して」いく。
 朝起きて身を起こすように、それは匡にとって自然で当然の行為だ。
 そうなってしまった苦しみと、そうしてきてしまった悲しみを、彼は背負う。
 眠らぬ苦行者のように。死神は、死を隣において、これからも歩む。

 なぜ、そんなことが出来るのか――そうしてしまうのか。
「俺には、安らかな眠りよりも欲しいものがあるんだ」
 "人でなし"には相応しくないくらいの暖かさと、光。
 その尊さもまた、彼の隣にある。日向のようなかけがえのないものが。
 分不相応だとしても、匡はそちらを選ぶ――そのためにこそ、彼は生きるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルナスル・アミューレンス
嗚呼、臭うねぇ。
マスク越しにも、甘ったるくて諄い臭いが。
生の陰にこびりついてる臭いが。

でも、その程度じゃあまだまだ弱いねぇ。
誘惑したいんなら、一個師団は用意してもらわないと。
そんなちんけな花一つ二つで、ヒトの死の手向けになるわけないでしょ。
まあ、精々――

――拘束制御術式、限定解除――

――徒花が関の山だよね。
せめて散り際で魅せてみなよ。
では、何もかも『消却(クラウ)』としよう。

影から。足元から。体から。
闇にまぎれるような不定形の黒い異形を滲ませて、膨らませて、溢れさせて、大波の様に襲い掛からせて捕食し尽くすよ。


その呪(ネガ)いも命も、黒い死で覆い尽くして、全部殺し尽くしていくしか出来ないからさ。



●黒は徒花を染めて
 じわじわと、白い紙に沁み込むインクのように、死という黒が這い出る。
 日が沈んで闇が訪れるように。一切の他を許容しない無慈悲な黒が。
「臭うねぇ……マスク着けててもわかるぐらいだ。こりゃしんどそうだね」
 アルナスル・アミューレンスの体の像が、揺らいでいた。
 水に濡れて滲んだインクのように、あるいは水面に映る月のように。
 外縁は景色と半ば同化していて、それは黒のグラデーションを描いている。
「甘ったるくて"くどい"臭いだ。生の陰に、汚れみたいにこびりついてるよ」
 じわじわと滲む『それ』は、ただの色ではない――異形だ。
 アルナスルが想像し創造した、アルナスル自身でもある異形の黒。
 人でも怪物でもなく、人でも怪物でもあるモノと、世界の境界はあやふやだ。
 アルナスルの力は、界すらも食らう。いわんや、咲き誇るだけの毒花など。

「でも、その程度じゃあまだまだ弱いねぇ。誘惑したいんならもっと数を用意してよ」
 ぞわりと、滲む程度だった黒が風船めいて膨らみ、そして濁流となった。
 拘束制御術式の限定解除による世界そのものの蹂躙。無敵で無慈悲な黒の波濤。
「だからまあ、せいぜい――徒花が、関の山だよね」
 散り際に魅せてみろと、何もかもを『消却』する黒が空間に襲いかかった。
 花だけを飲み込む、だなんて、まだるっこしいことはしない。
 そこに在るもの――有象無象も区別なく、黒は塗り潰して喰らって己に変える。
 光も闇すらも、虚無という名の黒に消却されて同化していく。

 ころして、と虚しい声がする。

「その呪(ねが)いも命も、黒い死で覆い尽くして、殺し尽くすしか出来ないんだ」
 それは圧倒的な破壊であり、無慈悲で容赦のない捕食である。
 だが、アルナスルには、"それ"しか出来ない。
 生み出すこと、与えることは出来ない。奪うことしか、彼は出来ない。
「何も考えないで眠るのが幸せなんでしょ? なら、そうすればいい」
 虚無をもたらすものの裡にあるものもまた、虚無だけだ。
 後悔も懊悩も、逡巡も悲哀もない。であればその対称になるものも。
 黒いレンズは何も映さない。圧倒的破壊の光景も、それを齎す彼の表情も。

 アルナスルは、眠るような死を許容しない。
 眠らぬ生など、もとより彼には必要なくなってしまっている。
 喜びも怒りも哀しみも楽しさもない。「ない」ことへの虚しさも。
 ……ある意味でそれは、死ですら救えぬ絶望なのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
どれ程に香しい振りをしようが潜んだ腐臭を隠せはしない
何もかもを手放す永遠なぞ、今は只厭わしい

正しい連鎖の輪であるならば、草木の糧と成るも悪くはないのだろうが
望まぬ死を齎し寄生する過去に明け渡す身など在りはしない
――殲遍萬猟、火剋木の理に従え
花弁の僅かな動き、生じる空気の流れから移動方向を見切り見極め
火氣を乗せたカウンターの斬撃で以って、悉く斬り落としてくれる
数が減れば隙も出来よう
衝撃波での牽制加えて一息に距離を詰め、斬撃の全てを叩き込む
一片も残さず燃え尽きるがいい

ころして、か
望んでいるのは自身の死か、自らを弄ぶものの死か
本人にも解っているのやらな……
何れにせよ――出来る事なぞ多くはあるまい



●届かなかった手の中に
 かつて、鷲生・嵯泉は、護るべきものを護ることが出来なかった。
 その記憶は罪であり苦しみであり、同時に嵯泉という人物を構成する要素でもある。
 それを見つめ、踏み越えて、拓けた先に待っていたのが、毒花の群れ。
 立ち込める甘ったるい臭いに、嵯泉は顔を顰めた。
「……どれほどに香しいふりをしようが、潜んだ腐臭を隠すことは出来んぞ」
 甘ったるい臭いの中にたしかに見え隠れする、オブリビオンの悪意。
 死は救済。なるほど、それにはたしかに一面の真実がありはする。
 末期の病気患者めいて、生の苦しみよりも死の虚無を選ぶ人もいるからだ。
 だが、"これら"がもたらす死は、ただの欺瞞でしかない。
 たとえ一度全てを喪っても、多くを手に入れた嵯泉にとってはなおさらに。
「何もかもを手放す永遠なぞ、私にとっては今はただ厭わしいだけだ」
 届かなかった手の中に、嵯泉はいま多くのものを掴んでいる。
 それを手放す終わりなど、どれほど楽だったとしても今に代わることはない。
 ゆえに嵯泉は戦いを挑む。生きることは、戦いなのだから。

 見えず、避けれず、防ぐことも叶わぬ斬撃が、雨霰のように吹き荒んだ。
 剣風は風であり、五行思想において風は木気に属する。
 以てこの斬撃は火を生み出す。すなわち、剣風で増幅された火気の斬撃である。
 裂かれた華はごうごうと燃えて散っていく。あとには何も残らない。
 それこそが、過去の残骸のいびつさの証左だ。
 ただの草木であれば、燃えた後には塵が残りそれは土を肥やす。
 やがて肥えた土はあらたな種子を芽吹かせる土壌となる。正しい連鎖の輪だ。
 ここにそれはない。ならば、すべて斬り裂き、そして焼き払うのみ。

 ころして、と、声がする。
「望むのは己の死か、自らを弄ぶものの死か……それさえもわからぬのか」
 嵯泉は無感情に呟き、血を払うように剣を振って先へ進む。
 灰さえも遺さず燃え尽きた過去を、力強く踏み越えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
へぇ、そういうやり方もあるのね
……参考にはさせて貰うわ。こういうのを望まれた時のためにね
けれど、「ソレ」は今じゃない。疾く枯れ果てなさいな


気絶したままのリーオの体は、貸していた障壁魔術で繭のように覆いつつ防護
そのまま自分の腕に抱えておく
高速飛行でかかるGや、花の香りや根からの攻撃への防御も兼用

空中から石化の魔眼をバラ撒き、対処が追いつかぬ根にのみ大鎌を振るって迎撃
嬲るようなことはせず、自身の出力の高さを活かして迅速に「草刈り」を進めていく


自業自得とは言え、何時までも華の養分のままなのも可愛そうだもの
それに、その根。リーオの肉体に悪影響が無いとも限らないし、諸共にさっさと片付けてあげるわ



●終わりが来るのは今じゃない
「へぇ、そういうやり方もあるのね」
 リーオ・ヘクスマキナは眠ったままだ。彼を抱えるのは、赤頭巾とされる『彼女』。
 花々は罪人をまどろみに誘うものであり、ならば狙うのは彼女である。
 ああ、たしかにこの香りは魅力的だ。何も悩まず苦しまない眠るような終わり。
 それは、この悲しみばかりの今に比べてずっと楽なのだろう。
 罪も、後悔も、それを抱えていてなお安らぎを感じる己の浅ましさも。
 何もかもを捨て去って、今度こそ眠れる。自己嫌悪さえもない虚無へと逝ける。

「参考にはさせてもらうわ。"こういう"のを望まれた時のために」
 赤頭巾は立ち上がった。
「けれど、"それ"は今じゃない。終わりが来るのは、今じゃないの」
 己に、そんな眠るような終わりは相応しくない。
 一瞬でもその甘美に心惹かれた己を、彼女はふっと鼻で笑う。
 背負うと決めた罪だ。終わりをもたらされるならば、彼の手であるべきだ。
 だから、彼女はリーオを魔術の障壁で護り、抱えたまま空へ跳び上がる。
「疾く枯れ果てなさいな! それがイヤなら、私が刈り取ってあげる!」
 空中を飛行し、飛来する根を避け、大鎌を振るってざんと刈り取る。
 見開かれた魔眼の石化の呪いが草を石に変え、ヒールが力強く石を踏み砕いた。
 迅速に、効率的に、そして徹底的にことごとくを刈っていく。

 慈悲があった。
「いくら自業自得でも、いつまでも華の養分じゃ、かわいそうだものね」
 赤頭巾は石の欠片を踏み潰すと、次なる華を真っ二つにし、無へと還す。
 啜り、苗床にされたいのちとともに。本当の死へと送り出してやる。

 そうするたびに、彼女にとっての安らぎは遠のいていく。
 心が痛む。けれどそれでいい。この痛みこそが背負うべき咎なのだ。
「私はまだ、終わりを選ぶことは出来ないのよ」
 少女だったはずの彼女の横顔には、枯れた涙の跡だけが残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
【狐々】

クロムさん!
クロムさんも参加してたんですね。

…なんだろう。
いつものクロムさんだけど、何か違う。
クロムさんの瞳をじっとみる。

そうか、さっきの任務を受けてるなら、きっとクロムさんも…
人は…俺よりも感情豊か、か。

クロムさんが何に悩んでいるか、今の俺には察せない。
でもきっと、辛いとか悲しいとか、あったんだろう。
…俺が大切にしたい人。
まだ悩みに寄り添えないけど、側にいるから。

森の精霊様の匂いじゃ無い。
生命力に溢れた命の匂いじゃなくて、甘い死へ向かおうとする匂い。

出来れば森に火を放ちたく無い。
まずは風で匂いを払おうか。
風の精霊様、この死の匂いを空に舞い上げて下さい!
匂いが減れば影響も受けにくいはず。

クロムさんに風の精霊様の加護を。
クロムさんの空気抵抗を減らして動きやすくして欲しい。
氷の精霊様も、クロムさんの手伝いを頼みます!

UC【精霊の矢】で敵を凍らせたい。
氷の精霊様、お願いします!

敵の攻撃は[カウンター、属性攻撃]!
地の精霊様に電磁場を発生させて重力操作を。
飛んだ花は地面に叩き落とそう。


クロム・エルフェルト
【狐々】
都月、くん?
ふるり、頭を振って無表情を纏う
悲痛な色は、彼のまなこから隠せただろうか
彼もまた、己と同じ様に裡の傷を開いてはいないか
眼をじっと覗き込む
折角邂逅したのだから、此処からは二人で行動
きみと二人ならば、今も濃く漂う しあわせな匂ひ にも耐えられるだろうから

厳しくて優しい、森の匂ひ
妖狐の隠れ郷を覆う、深い深い鎮守の森を思い出す
命を斃し土に還す、死を内包する匂ひ
……その誘いには乗れないよ、今は未だ。
土に還るのは、全てを清算したその後で。

迫る根にお師様の太刀を幻視する
寂し、哀し、労し、憎し
辛苦の色を湛えたお師様の目も――
強烈な死の予感に震える腕に力籠め
すんでに刀で弾き▲受け流す

精霊の力、星の息吹
都月くんの力は、前へ進む力
刻の屍に借りる焔より、死華を祓うに相応しい

私には視えないけれど
風の精霊様、氷の精霊様
逆巻く風に氷粒舞わせ荒れ狂わし
どうか私の刀に碧雷を御貸し下さい
咲かせ、抜刀術・椿……いえ――精霊言祝・碧龍電刃
叶うのならば、この息吹が
獅子星の二人の背を押しますように



●ぬくもりは遠く、だが傍に
「クロムさん!」
「――……都月、くん?」
 出し抜けに、背後からかかった愛するひとの声。
 クロム・エルフェルトは声こそ返したが、振り返るのを躊躇した。
 今の自分は、『ひどい顔』をしている。これでは、彼には見せられない。
「……クロムさん?」
 木常野・都月は、いつもならすぐに振り返るクロムの様子を訝しんだ。
 こちらを向かないこともそうだが、何か……纏う雰囲気が妙だ。
 いつもの彼女とは、何かが違う。狐としてのカンが告げていた。
「……どうしたの、都月くん。何かあった?」
 クロムは改めて振り返り、無表情で小首をかしげた。
 都月は、その無表情の奥に、彼女らしからぬ感情の色を垣間見る。
「…………」
 都月は、クロムの瞳をじっと見つめ、奥に隠された何かを読み取ろうとした。
 クロムの押し隠したもの。悲痛の色……覚悟の色を、黒い瞳が見つめる。
「都月くん」
「っ」
 クロムの、たしなめるような、問い詰めるような声に、都月は我に返る。
 違和感はある。だが、それを見通したところでなんだというのだろう?
 人は時として、詳らかにしたくないものを抱えると聞いたことがあった。
 彼女がそうなら……おそらくそれは、今の自分が暴くべきものではない。
(「今の俺じゃ、きっと、クロムさんの悩みはわからない……」)
 悲しみがある。愛するひとのことをもっと知りたいという当然の欲求。
 だが、そんな即物的な欲望に抗うことこそ、きっと人として生きるということなのだ。

 都月は深呼吸した。甘ったるい死の臭いが、肺に沁み込む。
「ごめん、なんでもないよ。まずは、あの華をなんとかしないと」
「……ええ、そうですね。この先へ、行くべき人がいますから」
 クロムの脳裏に浮かぶのは、ここに来ているだろう森番の姿。
 これは、彼女の戦いだ。クロムにはそれがわかっている。
 だからこそ、なんとしてもここを突破せねばならない――彼女のために。

 ……本当に、それだけか?

 クロムは自問する。
 覚悟という名の罪を背負い、どこか郷愁をかきたてる甘い匂いに挑む。
 それも結局のところ、友のためという名の自己満足ではないのか?
「クロムさん」
 懊悩の螺旋に囚われかけた彼女に、都月がまた名を呼んだ。
「俺は、傍に居るから」
 その言葉で、クロムの靄がかった思考は霧のように晴れていく。
 そうだ。自己満足であれなんであれ、己の行いには結果が伴う。
 諦めて足を止めてしまえば、そこで終わり。これまでのすべても。
 わかっていたはずのことを、改めて噛み締めたクロムは、微笑んだ。
「ええ。きみと二人ならば」
 この隠れ郷を思い出させる、厳しくも優しい臭いにだって、抗うことが出来る。
 己の行いが、自己満足だろうとなんだろうと、背負うことが出来る。

 まだ、まどろみの誘いに乗るときではない。
 クロムは決意し、覚悟を決め、迫る根に幻視した師の太刀へ力強く挑む。
「風の精霊様、この死の匂いを空に舞い上げてください! そして――」

 風よ、氷よ。どうか、いとおしいひとの背中を押してくれ。

 死の予感に震えるクロムを、暖かく、優しく、心強い星の息吹が包み込む。
 前へ向かう力が湧いてくる。刻の屍に借りる焰よりも、ずっと気高く!
「咲かせ……」
 逆巻く風が氷粒を抱擁し、舞い踊るように渦を描く。
 視えぬ精霊に祈りを捧ぐ。今一時、我の力を高めたまえ。
「精霊様、ご助力ください! クロムさんの……いいえ、俺たちの進む道に!」
「精霊言祝……碧龍! 電刃ッ!!」
 氷が荒れ狂う。地の力が花々を縛り、クロムの剣がそこを薙いだ。
 神速の抜刀術は木気となりて、甘き死を、病んだ花々を根こそぎにする。

 ざあ、と。
 死に満ちた魔境にはありえぬくらいに、爽やかな風が吹いた。
 あとに残るのは、何もない。それらは時間を停滞させた骸ゆえに。
 輪廻に繋がる塵さえ遺さぬ残骸……その在った場所に、ふたりの足跡が刻まれる。
 今はふたり、肩を並べて。響き続けるこだまの、その主を還すために、
 息吹は道を拓き、指し示す。
 そのあとに続き、二人を追い越すであろう、獅子星へ意志を繋げて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス
(死を与うと言わんばかり、罪の懺悔を乗り越えた先に花が咲いていた。根は身体を傷つけずとも、括り縄の様に命を吸い上げてゆく。)

――"根比べ"のつもりか?
そうか。
構わない。

(首を根が捉える。
呪いが訴える。
友一人守れなかった、あまつさえそのかつての友をも殺さんとする愚図の人殺しには、死有りて然るべし。)

……そうだな
僕は愚図で
ろくでなしで
人殺しだ

だとしても
草花如きに止められる程
僕の想いも
"約束"も軽くない。

こんな所で止まれるようなら
これで死を選ぶなら
僕らは此処にはいない。

罪を負っても
歩みを止めてなるものか。

(それもまた、僕らの在り方だろう。根をレーザーで焼き払いながら、また歩みを進め)

……君の思うままにするといい。
それが"人"で
それが"君らしさ"なのだから。
(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

(きっと、咎人ばかりが此処へ招かれた)

(蔦がひとを喰らう様は、あの森のかたちにも似て)
……あねごは、「そう」成られたのですね。
(あなたが怖れ嫌悪した、かみさまのほうへ。
……おれを森から放り捨てたあのときから、
もしかしたら、もう。)

(懐かしいあなたを想わせる香りに気が緩む)
…安らかに還ることが出来ればって、ずっと思ってた
(いのちを吸って蕾がひらく)
これは、あなたの慈悲なのかも知れないと、思う
けれど。

(この花は、ただしく巡るいのちではない
その病を、己の在り方が許さない
全て【焼却】し、灰を土にかえそう)
おれは。
あなたに名付けられた、"森番"です。

……ねえ、ジャック。
好きなひとのわがまま、って、聞いてあげるもの?
……そう。じゃ、そうする。

おれ、もう一つ、
あのひとに、言いたいことができたよ。



●けだもののくせに、まるでにんげんのようなふりをして
 ころして。
 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
「…………」
 ロク・ザイオンは思う。
 きっと、咎人ばかりが此処へ『招かれた』――そう、咎を濯ぐために。
 であれば、あの桜の悪趣味な問いかけも納得がいく。
 此処に着けたということは、此処に居る者らにはすべて罪がある。
 つまり、死なねばならぬ。病というものは滅ぼされなければならぬゆえに。
 楽園に罪は必要ない。穢れなど要らない。あってはならない。
「……あねごは、「そう」成られたのですね」
 甘き死の香りが強まる。まるでロクの言葉を拒絶しているようだった。
 恐れ、嫌悪していたはずのもの。森の主。いと高き――醜悪なる、"かみ"。
 オブリビオンとなったことで……いや、もしかしたら「あの時」すでに、もう。

 ジャガーノート・ジャックは、そんな物憂げな相棒の横顔を見つめる。
 これは、彼女の戦いだ。己は傍に立ち、思うがままに稲妻で斬り裂くのみ。
 今までもそうやってきたし、必ずしもレグルスは意思統一をしてはいない。
 時としてちぐはぐに意思がすれ違っても、最後には肩を並べ蹴散らしてきた。
 それは、ロクとジャックが、ともに同じ場所を目指しているからだ。

 未来を。
 死という停滞、欺瞞の虚無ではなく、罪と苦痛と懊悩を抱えた明日を。
 それは、人にだけ出来ることだ。獣めいて、生きるために生きるのではない。
 意思の力で艱難辛苦を耐え、求めるものへ手を伸ばし、歩み続ける。
 気高き人だけが、その苦痛に耐えられる。彼らが今日まで歩んできたように。

 ジャックの首に、根が絡んだ。
《――"根比べ"のつもりか》
 構わないと、ジャックは言った。
 罪はすでに背負っている。果たすべき約束も、己の弱さも、何もかも。
 呪いが、過去を弾劾し己の無力を指摘し、死ありてしかるべしとのたまおうと。

《――そうだな》
 仮面の下から、少年の声がする。
『僕は愚図で、ろくでなしで、人殺しだ』
 目を背けなどしない。背けたところで、過去は消えはしない。
 だからジャックは――少年は、その根を掴んだ。
『だとしても』
 握りしめ、焼き払う。赤いカメラアイが、気高く輝く。
《――草花ごときに止められるほど、僕の想いも"約束"も軽くない》
 こころを鎧う。それは痛みから逃れるためでも、紛らわすためでもない。
 そうあることこそが、彼にとっての理想であり、戦うということなのだ。
 もう彼は、悪意に屈することも、己の獣性に振り回されることもない。
 幻に苛立つことも。過去の己に膝をつくことも、決して。
《――これで死を選ぶなら、僕らは此処に居ない。罪を負っても、足を止めはしない》
 一歩、踏み出す。レグルスはそうやってきた。
 いち、にと心で唱えるまでもなく、彼らの心には勇がある。

 ほら、見るがいい。相棒も、合わせるのではなく。
「これは、あなたの慈悲なのかもしれないと、思う」

 ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。ころして。
 そいつらを、ころして。

 そいつを、ころして。

 けだものを、ころして。

「おれは」
 隣の相棒に合わせるのではなく、互いに己の意思で、また一歩。それが、揃う。
 ゆえに、隣を見たりはしない。居るはずだと、彼/彼女は信じている。
「おれは、あなたに名付けられた、"森番"です」
 ロクは最初からずっと、己の征くべき正面(さき)だけを見ていた。

 焰と稲妻が、立ちはだかろうとする花々を焼き払う。
「ねえ、ジャック」
《――なんだ、ロク》
 視線をかわさぬまま、ふたりは歩む。決断的に、力強く、気高く。
「好きなひとのわがまま、って、聞いてあげるもの?」
《――君の、思うままにするといい》
 それが"人"で、それが"君らしさ"なのだから。

「……そう」
 ロクは微笑んだ。
「じゃ、そうする。……もうひとつ、あのひとに、言いたいことができたから」

 その香りは、どんな獣でもたちどころに眠らせ、逝かせるだろう。
 されどここに在りしは、けだものに非ず。己の意思で道を拓くひと、ふたり。
 友が開いてくれた道を、彼らは進む。胸を張って、誇り高く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『土の花嫁』

POW   :    あなたがにどとうえぬように
自身からレベルm半径内の無機物を【多幸感を齎す花々や果実】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD   :    このちがけしてほろびぬように
全身を【這う神血の根を広げ、戦場を目の届く範囲ま】で覆い、自身が敵から受けた【害意】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    うたをきかせて、ほめて、あいして
【声】を披露した指定の全対象に【自身を崇め守りたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はロク・ザイオンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 かつて、"かみ"がいた。
 "かみ"は森であり、輪廻であり、世界であり、ゆりかごだった。
 いのちを生み出し、いのちを受け入れ、森という世界を循環させていた。

 女たちがいた。
 女とは、生み出すもの。男にはけして出来ぬ、誕生をつかさどるもの。
 森とは世界であり、輪廻であり生であり死であり、いのちである。
 ゆえに女どももまたいのちであり、"かみ"に身を捧げた――捧げさせられてきた。

「ころして」
 女が言う。
 あれほど忌まわしく思っていたはずの「もの」に成り果てた残骸が。
 "かみ"の生み出す「もの」を、生み出さされる「もの」を嫌悪した少女が。
「ねえ、ころして――」
 少女の目には猟兵たちが映る。橙色の燃える髪をした森番も。
「わたしをころして」
 希望などなかった。そんなものは、森の闇に呑まれていったから。
「あいつをころして」
 絶望さえなかった。こころはとうに砕け、ねがいの残滓だけがここにある。
「なにもかもを、ころして」
 あるのは、苦しみだけだ。
 与えられた苦痛。逢魔弾道弾。残骸と成り果ててなお贄とされる哀しみ。
 戦争を求むる狂気は、もとより壊れていた「それ」を穢してしまった。
「もう、いや。なぜ、おまえはいきているの。けだもののぶんざいで。
 なぜ、おまえたちはいきているの。つみをせおっているのに。とがびとなのに。
 ……なぜ、わたしはいきているの。おわったはずなのに。ねむれたはずなのに」
 流れる涙はない。とうに枯れ果てている。
「こんな「もの」で、いたくない。わたしは、「あんなもの」じゃない。
 だから、ころして――ねえ、ころして。わたしを。あいつを。おまえたちを」
 お前達のその手で、殺せ。
 背負う罪があるならば、己がいのちでそれを贖え。
 罪は灌がれるべきものである。背負ってなお生きるなど許されてはならない。

「そんなことがゆるされるなら」
 少女に流す涙はない。だが彼女は、泣き出しそうな顔をしていた。
「どうしてわたしは、「こんなふう」になってしまったの」
 その答えもまた、誰にも出すことは出来ない。

 かつて、"かみ"がいた。
 森の主たる「それ」は、多くの女を苗床とし、森という世界を拡げた。
 すでに「それ」は残骸と成り果て、その骸さえも灼かれ、滅んだ。
 ここにいるのは、言ってしまえば被害者だ。
「それ」に嬲られ捧げさせられ、嫌悪と絶望のなか女であり続けた。
 残骸となってなおも痛めつけられ、苦しめられ、穢された。

 彼女は、罪人が罪人のまま生きることを許容できない。
 それを認めてしまえば、ただ奪われ続けた己の存在は無になってしまう。
 だから、ころしてと、少女はねがう。命ずるのではなく、ねがう。
 祈り、ねがうことは、すべてを失った者に唯一許された悪あがき。
 彼女には最初から、もう、何も遺されてはいなかった。

「ほしいのなら、わたしにあるものをすべてあたえるから、だから」
 果実が実り、森が生まれる。逢魔が辻が拡大を始めようとしている。
 その声は甘やかでか弱く、剣を向けるにはあまりにもあどけない。
「だから、ころして――もう、おわらせて」
 根は草花を生み、萌え出る自然は害意を以て『敵』を排除しようとする。
「ころして――!!」
 悲鳴をも飲み込み、蔓延る。世界そのものを飲み尽くすまで。
セプリオギナ・ユーラス
癇に障る相手だ
幾度も幾度も
繰り返される言葉は、否応なく過去を思い出させる

「罪なきものなどいない」
贖う手段がなくとも
誰にも赦されずとも、生きていく
「お前も」

忘れろとは
望むなとは言わない
だから


すくえなかった
それは、本来ならば罪ではない

だが、命をすくおうと足掻いた結果
尊厳を貶めた
望みを踏みにじった
かれらの心を救わなかった
それは、己の罪

──そんな、過去の夢

漆黒の霧に落ちながら、それでも望む
今度こそと
何度でも

目の前の誰かを「     」から



実を苅って〈ころして〉
花を苅って〈ころして〉
その存在を
オブリビオン〈病巣〉/望みを
否定する/肯定する

(許さず)殺す/救う(赦させず)
そう望むというのなら──ああ。



●くろぐろとした霧の中で
「罪なきものなど、いない」
 セプリオギナ・ユーラスは言った。
「贖う手段がなくとも」
 聞くまいと泣き叫ぶ声を押しのけて。
「誰にも赦されずとも、生きていくのだ」
 耳にすまいと髪を振り乱す少女に。
「お前も」
 叫びがすべてをかき消そうとし、呼応して『森』が広がった。

 忘れろなどと、どの口がほざけようか。
 望むななどと、どの口が叩けようか。
 言えない。
 言えるはずがない。
 だから/それでも、セプリオギナは、霧を纏う。
『すくおう』とする己の分身を、砕けた己の意思の残滓を喚ばう。

 そも、「すくおう」とすることが、罪であるはずがない。
 むしろそれは、称賛されるべき行い。人間が当然に持ち得るべき意思。
 ひとは寄り添い、助け合わなければ、生きていけない。
 だから、「正しい」のだ。そうすべきであり、そう思っていた。

 だが、すくえなかった。
 命はその手からこぼれ落ち、終わりを穢し、尊厳を貶めた。
 望みを踏みにじり、味わわずに済んだはずの苦しみと絶望を与えた。
 かれらの心を、救わなかった。人間の気高さを失わせてしまった。

 それは、セプリオギナにとって、紛れもなく罪だ。
 くろぐろとした霧の中で、セプリオギナは夢を見る。
 贖えぬ罪。
 拭えない過去。
 己の過ち。
 悔い。

 そして。
(「今度こそ」)
 何度でも彼は願う。
(「今度こそは」)
 目の前の少女(だれか)を、次こそは、必ず。今度こそ。絶対に。

 心は疲れ果て、己で傷つけ、傷を抉り、過去という痛みで苦しめてきた。
 それでも、ねがいはここにある。願わずにはいられない。求めずには。
 少女が、「ころして」と、すべての殺戮を祈ったように。

    コロシ  
 実を刈って、
    コロシ
 花を刈って。

 その存在を、病巣(オブリビオン)を。痛苦(のぞみ)を。

「それでも、そう望むというのなら、俺は――」
 忘却(のぞみ)を否定(こうてい)する。
 花々が、草木が、森が、彼を阻もうとする。
 そうすればそうするほど、愚かな男のねがいは影を濃くしていく。
 光が影を生むように、影もまた光を際立たせるゆえに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
まだ少し、先程の華の影響が残っている気はするが……刀を手に、心を落ち着かせる

俺は咎人だ。そんな事は分かっている
だが、咎を背負ってでも生き続けると誓った
それが罪を濯ぐための唯一の方法だと信じるが故に

あんたを殺さなければ、世界に悪影響を及ぼす。そして、あんた自身も救われないんだろ
だから、殺す事を躊躇いはしない

だが、殺す事が罪だというならば。そして、それを背負えというのなら――ああ、背負ってやるさ

肆の秘剣【黒衝閃】
跳躍から神刀を強く地面に突き刺して、周辺の無機物(或いは変換された花や果実)を衝撃波で薙ぎ払う
花嫁への道をこじ開けた所で斬撃波で牽制しつつ、一気に切り込んでから渾身の一撃を叩き込む



●覚悟と矜持の話
 影朧を救うには――つまり輪廻させるには、一度討たねばならない。
 これはどんな影朧であれ同じだ。
 なぜなら、彼らはオブリビオン。過去の残骸にして、世界を破壊するもの。
 その本質は変わることなく、たとえどれだけ嘆き悲しんでいたとしても、
 それを討つことによってのみ、残骸という呪縛から解き放つことが出来る。

 ゆえに。
「俺は咎人だ。……そんなことは、わかっている」
 夜刀神・鏡介は、神刀の柄を強く握りしめた。
「だが、咎を背負ってでも、俺は生き続けると誓ったんだ。
 それが罪を濯ぐための唯一の方法だと、俺は信じている」
 強い意志を込めて、脳髄を侵す甘やかな死への誘惑を振り切る。
 なによりも。鏡介は、涙なく泣き叫ぶ花嫁を、まっすぐ見据えた。
「あんたを殺さなければ、世界が侵される。あんた自身も、救えやしない。
 だから俺は、あんたを殺す――それが罪だというなら、背負ってやるさ」
 その剣は殺すためのものでありながら、真に活かすために振るわれる。
 されど、『森』はそれを拒んだ。鏡介に襲いかかる、蔓延る草木、根、そして甘やかな死の香り!

「神刀、解放……ッ!」
 おぞましい速度で侵食する花々を、鏡介は衝撃波で薙ぎ払った。
 ばらばらに散った果実は、胸が焼け付きそうな甘ったるい匂いを放つ。
 あれは、同じだ。死に寄り添う花々と――否、それよりもなお。
「まだだ」
 薙ぎ払う。
「まだだッ!」
 鏡介は、薙ぎ払う。進むべき道を、己の意志(けん)で切り拓く。
「どうして。なぜ、とがをせおっているのに、そんなにまっすぐなめをしていられるの」
 花嫁は問うた。
「じぶんがゆるされないと、わかっているくせに……!」
「それでも、やれることをやらなかったら、俺は一生後悔するからさ」
 たとえば今、その身を討つという咎を、それと解っていて背負うことを。

 拓いた道を、鏡介は駆ける。迷うことなく、まっすぐに。
 彼の剣は、己を殺すためにあるのではない。
「俺はいつだって、未来(まえ)に向かって進んでいくんだ!」
 困難を切り拓き、明日を掴むためにこそあるのだから。
 その剣はどこまでもまっすぐで、そして、悲しいほどに清廉としていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルナスル・アミューレンス
あぁ。
それだけ奪われて穢されて、それでも願い続けて。
そこまで壊されてなお、ヒトでいることを忘れなかったんだねぇ。
成程、それならあの程度の死の臭いも納得だ。

嫌って、哀しんで、憎んで、恨んで、願って。
それはヒトの特権だ。
なら、今生は無理でも、まだヒトに引き返せるよ。


でもまあ、その前に――

――拘束制御術式、解放――

――キミにこびりついた余計なモノは、一切合切『枯渇(ウバウ)』としよう。

森を。緑を。命を。逢魔が辻を。
捕食し、呑み込み、喰らい尽くし、奪い尽くし、殺し尽くそう。
僕に出来る事をね。


キミを赦して終わりを与えるのは、僕には出来ないし、適任がいるみたいだしね。
まあ、次はヒトに成って還ってきなよ。



●ヒトでいることを忘れない
「あぁ」
 アルナスル・アミューレンスは、納得した様子だった。
「それだけ奪われて、穢されて、それでもねがい続けて……そこまで壊されて。
 なお、ヒトでいることを忘れなかった。忘れられなかった、というべきかな」
 アルナスルは、多くのものを手放した。
 自ら望んでそうしたのかもしれないし、耐えられなかったのかもしれない。
 もはや過去の己がどう考えていたのかさえ、アルナスルには曖昧だ。
 彼の精神構造は、ヒトらしさをとうに失っている。

 だからこそ、わかる。
 暗がりにいれば、明るい日差しがより明るく見えるように。
 底の底に居るからこそ、差し込む光が煌めいて見えるように。
「なるほど。それなら、あの程度の死の匂いも納得だよ。キミは――」
 アルナスルは、実感を籠めて言った。
「嫌って、悲しんで、憎んで、恨んで、そして今なお願っている。
 それはヒトの特権さ。だから、今生は無理だとしても、『引き返せる』」
「…………」
「僕とは違う」
 怪物でもヒトでもないモノ、カタチある混沌となってしまったもの。
 それを悲しいとか、虚しいとか、そう感じることさえ、アルナスルには出来ない。
 だから彼は、笑いながら己の罪を語り、罪を罪と認識出来なかった。
 より正しく言えば、『認識』は出来ても『理解』が出来ない。
 己のものなのか、そうでないのかも、すでにわからなくなっていたから。

「でもまあ、その前に、僕は僕に出来ることをやろうか」
 アルナスルは気付いていた。
 彼女を『終わらせ』、そして『始めさせる』には、より相応しい役目がいることを。
 ならば自分はどうする? 奪うことしか出来ないカイブツは?

 奪うだけだ。
「キミにこびりついた余計なモノは、僕が枯渇(ウバ)おう」
 一切合財を。
『敵』を排除しようとする草木を、花々を、黒が侵食していく。
「あ――」
「ヒトを赦せるのは、ヒトだけだ。だから僕には出来ない」
 無感情な声音だった。
 けれども、その行いは、間違いなく暖かなヒトの行いだった。
 たとえカイブツに成り果てても、アルナスルは、人の側に拠って立つ。
「次はヒトに成って還ってきなよ」
 カイブツであるよりは、そのほうがずっといい。
 抑揚のない声音は、それゆえに悪意も、怒りも、宿してはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジン・エラー
【甘くない】

ヴァッヒャッハッヒウヒャラハハハ!!!
「ころして」だァ~~~~?
だァ~~~~れに向かって物言ってンだこのバァァァ~~~~~カどもがよォ~~~~~~~!!!
救ってやるぜ、一片残らずなァ~~~~~

感じていたのは些細な違和感
けれどあまりにも矮小すぎて
その程度、大したことでもないだろ
お前は

肩からの体当たり
この身が何に貫かれようが知ったことか
そんなことよりも

オイ、エリシャ
なンだそのザマは
寝惚けでもしてンのか
襟元を引き寄せて、額と額を突き合わせて

オレを見ろ
オレだけを見てろ
光を、目に焼き付けろ
刻ンでやる。何度でも。

罪を背負うのが人間だ
オレにも罪は多量に
呪いだって致死量ほどに
この身に全部背負ってンだ
灌ぐなンざ軽々しく言うなよ
灌げもしなけりゃ償えもしないモンだ
だからといって
生きちゃいけねェ理由にだってなりゃしねェよ

身の程よォく知ってンじゃねェか
祈って願って藻掻いて駄々こねて
オレが来た
救いが来てやったぞ

お前は救われるために生きて
救われて死ぬンだ
上等な人生だろ

なァ、エリシャ
お前もそうだろ。


千桜・エリシャ
【甘くない】

この方を見ていると
あの家にた頃の幼い私を思い出すようで
刃が鈍る
生家で政略結婚の道具として育てられた私
あの家にいた女性たちは皆そうだった
あなたも繁栄のための贄にされたのね

同情を抱くとともに
向けられた言葉が私に突き刺さる
私はその宿命から逃れられたけれども
結局は罪を背負って生きている
奪われる側から奪う側になったから
私の往く道は常夜
咲くのは血染めの桜だけ
一度血に染まったら
もう戻れない

私は…この方を…
刀を握る手が緩めば
それは無防備極まりない姿で

きゃっ
じ、ジンさん…!
なんで私を庇って…
私は…寝惚けてなんか…

引き寄せられれば瞳が揺れる
あなただけを…?
見つめれば視界には彼だけ
常夜に彼の光だけが拡がって

嗚呼、私は
あなたの隣でなら息ができる
生きていられる

――ええ、そうね
あなたは私を救ってくださると
約束してくれたもの

刀を鞘に納める
この方に刃を向けるつもりはない
向けるならば
手向けの花を
桜を咲かせて森の生命力を奪い侵食していく
そうすれば、そこは
満開の桜の森
花嫁を贄に繁栄する森を
私の桜で塗り替えてあげる



●桜花、満開

 刃が鈍った。

 千桜・エリシャは、残忍で、残酷で、そして共感不可能な衝動を抱える怪物だ。
 人を食らう。たとえ彼女が羅刹であるとしても、けして赦されぬ禁忌。
 ヒトは、己らを食らうものを、『同じ存在』として見ることは出来ない。
 猛獣は柵の中に居なければ、狩られる。
 人を食らう人は、異常者であり、赦されざるものとして裁かれる。
 鬼とて同じ。ましてや彼女は、人の首級を求め、愛でる、破綻者だ。
 不幸というべきは、エリシャ自身には共感性が備わっていること。
 彼女は己のどうしようもない衝動を、それとわかっていて捨てられない。
 己がいかに赦されざるものであるかを、痛感できてしまう心がある。

 だから、同情ではなく、想起によって手が止まった。
 あの家にいた、幼い頃の自分。
 政略結婚の道具として育てられ、『女』であることを利用された自分。
 同じだ。繁栄のための贄とされた彼女と、自分は、同じだ。
「あなたも、『花嫁』にされてしまったのね」
 エリシャは鬼であるがゆえに、狂気と衝動に救いを見出した。
 だが、噫、この少女のなんといたいけで、哀れなことか。
 彼女はヒトで在り続けた。――逃げ出してしまった自分とは、そこが違う。

「ころして」
「……!」
 花嫁の言葉が、エリシャに突き刺さる。
 宿命から逃れ宿業を背負った己は、結果的に罪を得た。
 奪われる側から、奪う側へ。主観的な救済はなされど、この身はまったき悪。
 日向を歩くことなど叶わず、赦されず、咲くのは血染めの桜のみ。
 一度でも紅に手を染めてしまえば、戻れるわけがない。
 あまつさえ、それを好んで啜り、肉を喰むとあっては……。

「――ヴァッヒャッハッヒウヒャラハハハ!!」
「!?」
 草木に飲まれかけたエリシャを、下卑た笑い声が救った。
 ジン・エラーは背をそらして大笑いしながら、エリシャを抱き寄せる。
「ジンさ……っ」
「ころして、だァ~~~?」
 ジンは花嫁を見ていた。
「だァ~~~れに向かってモノ言ってンだ、このバァァァ~~~~カどもがよォ~~~~!!」
「……!?」
 傲慢な口振る舞い。下品な笑い声。いつも通りの彼がそこにいる。
「救ってやるぜ。いっぺん残らず! 誰ひとりとて溢さず! すべてなァ!!」
 それは救済をうそぶく。体当たりされたのだと気付いた時には、彼は、
「ジンさん」
 腹部を、槍のようなヤドリギで、
「ジンさん!!」
 美味さうな血が、滴つてゐた。

「罪を背負うのが人間だ」
 ジンは言った。
「オレにだって、罪はある。多量に、命なンざ奪うぐらい、オレは呪われてら」
 美味そうな血が、エリシャの胎(はら)に熱をもたげさせる。だが。
「この身に全部背負ってよ、生きてンだよ。オレは、救うために、生きてンだ」
 ジンの言葉は傲慢で、自分勝手で、だが――優しかった。
「濯ぐなンざ、軽々しく言うな。濯げもしなけりゃ償えもしないモンもある」
「…………」
「テメェを構成するモンは、なおさらそうだ」
 花嫁は昏い目をしていた。
「だからといって、生きちゃいけねェ理由にだってなりゃしねェんだよ」
 その言葉は、花嫁に向けたものであり、エリシャに向けたものでもある。
 穢れて、奪われて、壊されて、それで死なねばならぬ理由などない。
 生きたければ生きればいい。赦しも贖いも、乞わず果たせずともいいのだと。

「ジン、さん」
「オレが来たンだ」
 傲慢なるモノは言った。
「救済(オレ)が、来てやったぞ」
 お前は、救われるために活きるのだと。
 救われて死ぬのだと。
 花嫁が目を見開く。その瞳に、光が映っていた。
「……すくう? かみでもない、おまえが」
「オレは神より偉いンだぜ。オレは、救世主(オレ)だからな」
 女達に、男は言う。
「なァ、そうだろエリシャ」
「……そうね」
 桜が花開く。草木(みどり)を飲み込んで。
 もはや刃は必要ない。エリシャは、胎の熱を克己した。
 なぜなら、隣に彼が居てくれる。ここに憎悪も殺意も欲望もない。
「私とあなたは、よく似ているわ」
「なにを――」
「たとえあなたがそう思わなかったとしても、私はそう思ったの」
 それが活きるということ。
 それが、エリシャの選んだ道。
「だから、あなたが旅立つための道行きを、この桜色で染めましょう」
 きっと同じように、魂を慰める桜が花開くことだろう。
 ならばその道行きを彩る。血染めではなく、いたいけな桜花で。
「どうか忘れないで、奪われてしまったひと」
 エリシャは言った。
「――生きることを願ったって、赦してくれるひとは、必ずいますのよ」
「……わたしの、ねがい、は……」
 ねがい。
 ころしてというねがい。
 それは本当に、己が心からもとめる願望(もの)だったか?
 凝り固まった残骸という名の停滞に、亀裂が生まれた。
 思考という名の変化。オブリビオンには在りえぬもの。

 桜は咲き誇る。
 あかあかと燃えるそれは、呪われた花ではない。
 華々しく旅路を彩る、迎えるものであり送り出す色だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
お前から受け取るものは何も無い
だが要らぬ変容を与えられたものを捨て置けはせん
此れ以上の災厄と化す前に、其の“ねがい”を叶える一助と成ろう

――刃雷風裂
目視範囲の動きは勿論、全周囲の音や空気の流れ等の五感の情報に第六感重ね
攻撃の軌跡を先読みして見切り躱し
身に触れる前にカウンターのなぎ払いで斬り落としてくれよう
展開させた飛刃を囮に使い、其の後追う様にして接敵
痛苦では無く眠りを与える為に、怪力乗せた一撃で以って斬り払う

罪は濯がれねばなるまい
咎は贖われなければなるまい
だが――命1つ捧げた程度で祓える罪科なぞ多くは無い
だからこそ罪人こそが生きねばならぬのだろう
“生きる”という痛苦での贖罪を果たし続ける為に



●"ねがい"を叶えるため
「罪は灌がれねばなるまい」
 鷲生・嵯泉は言った。
「咎は、贖われなければなるまい。少なくとも私は、それに同意する」
 草がなおもしぶとく蔓延る。猟兵達の侵食を浴びてなお。
 それが、"かみ"の残滓であり、少女を、花嫁を呪う過去の根深さ。
 嵯泉は、蛇めいてのたうつ『森』を切り払った。

「だが」
 隻眼は、最初から花嫁を見据えている。
「命ひとつを捧げた程度で、祓える罪科なぞ多くはない」
「……え?」
「死ぬことですべてを濯げるならば、罪の裁きは"それ"だけでよくなるだろう」
 花嫁は困惑した。彼女は、結局のところ、賢者などではないのだ。
 "かみ"の腹として生かされていたがゆえに、多くを知らぬ。
 罪は灌がれねばならない。そういう在り方しか、彼女は識らない。
 彼女にとって、己の命だけが拠り所だったからこそ。

「罪人が生きるのは、贖うためだ。死ぬことは贖いではなく、逃避に過ぎん」
 嵯泉は、殺戮者である。
 己の意を通すため、己の守りたいものを守るがため、彼は剣を振るう。
 剣とは畢竟『殺すためのもの』に過ぎず、そこを誤魔化せるはずがない。
 また、彼は、誤魔化しもしない。結局、剣士とは血塗られたものであるがゆえ。
「"生きる"ことは、痛ましく苦しいものだ。その身がよく理解していよう」
 枝が槍めいて繰り出される。嵯泉は切り払う。
「ならば、その痛苦が贖いとなる。殺してしまえばそれで"終わり"だ」
「でも――」
「お前のねがいは、"どちら"だ」
 花嫁の差し出す幸福(しあわせ)を、嵯泉は斬り捨てる。
「わたしの、ねがい、は」

 ころして。

 わたしをころして。

 "あいつ"をころして。

 なぜ、ころしてほしいとねがうのか。

 ――それは、この辛さを、痛みを、苦しみを……。

「あああああ!」
 花嫁は吠えた。
 "それ"に至ることを、影朧という停滞した残骸の本質は認めない。
 ここだ。嵯泉は顔をしかめる。『ここ』が、彼女が乗り越える線なのだ。
 死という停滞で終わるか。
 生という前進を得るか。
 ここなのだ。ここを乗り越えられるのは、彼女だけなのだ!
「目を逸らすな」
 嵯泉は斬る。森を。呪いを!
「己に問い続けろ。ことばに耳を傾け、思考し、答えを見い出せ」
 嵯泉は! 蔓延る歪みを! 斬り続ける!
「――お前にそうあれと望む者たちから、目を逸らすな」
「わたしは、わたしの、ねがい、は……!」
 終わらせるのはたやすい。
 その身を厄災と断じ、斬るのは、あまりにも簡単だ。

 ゆえに、嵯泉は困難を選ぶ。
 彼の言葉は、その在り方は、花嫁という残骸に亀裂を深める。
 たとえそうすることが、彼女にとって本当の痛みを与えるとしても。
 嵯泉は、そうする。彼は、ただ贖い続ける罪人ではなく、今を生きるひとなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月凪・ハルマ
すまない。その『なぜ』に対して、俺にも答えは出せない

……俺に出来る事は

◆WIZ

【幻想術式・夢幻回廊】発動
ただし、今回の悪夢の内容は俺が決めるものじゃない

見せるのは『影朧の内にある望み』
もう叶わないと分かっていて、それでも望まずにいられないなにか
それはある意味、影朧の苦しみでもあるだろう

それでも、教えてくれ
君という存在が、何を望み、何に苦しみ、
そしてどうしてこうなってしまったのか

それが救いになるなんて言えないけど、
今の俺に出来るのは多分これだけ

そういう存在が確かに居たのだと、
記憶に留めておくことだけ

――破砕錨・天墜。エンジン起動
【武器改造】+【属性攻撃】で火炎属性付与

後はただ、【捨て身の一撃】を



●出来ることは
 なぜ。
 どうして。
 問われるたびに、月凪・ハルマはうつむいて、己の表情を隠した。
「……すまない」
 謝ることしか出来ない。いや、出来ることはある。だが言わずにはいられない。
「俺は、その『なぜ』に対して、答えを出せない」
「なら、ころして。おまえの手で、おまえをころして」
「それも、出来ない。死にたくないからじゃない、死ねないからだ」
 ハルマは顔を上げる。強い決意が、瞳に満ちていた。
「理由はもう一つ。……俺がその通りに死ねば、やるべきこともやれない」
 そして彼女の"のぞみ"は、本当にそうなのか――そんな疑問があった。

 ねがい。
 奪われ穢され、壊され辱められ、すべてを失ったものに唯一残るもの。
 涙も、笑顔も、何もかもを失ったものにさえ、遺るはずのもの。
 もう叶わないとわかっていて、それでも望まずにはいられない『何か』。
「きっと君のねがいは、「ころして」なんてものじゃない」
「……ちがう」
「君という存在を、教えてくれ。君が何を望んで、苦しんだのかを。
 本当に君が望むものが、君を『そう』してしまった"ねがい"がなんなのかを」
「ちがう。そんなもの、もうない。わたしには、なにも!」
 草木が襲いかかる。ハルマは武器を振るい、蔓延る根を燃やした。

 森を通じて、呪印が花嫁を冒した。
「あ――」
 悪夢が蘇る。ただし、それは、花嫁を絶望させるためではない。
 むしろ、逆だ。絶えたはずの望みを、再び彼女に認識させるために。
「君が生まれ変わるには、そうしないといけない。君自身の、ねがいを。
 それがわからなきゃ、俺達にも、君自身にも、なんにも出来やしないから」
 ハルマは炎を纏う。花嫁を飲み込もうとする森を焼き払う。
 たとえそこに終わりが見えずとも、彼は、戦うのだ。己の信念のために。

 少女は、裡なる"ねがい"を、見せつけられる。
「ちがう――!」
 だが拒む。己はもう壊れてしまったのだとうそぶく。
 そうしなければ、耐えられないからだ。
 叶わぬ望みに身を焦がされるほどに、辛いことはない。
 ハルマは奥歯を噛みしめる。これ以上の痛苦は彼女にはないだろう。
「いつまでだって、何度だって……俺は。戦い続けるさ」
 罪人が、贖えぬ罪を購おうと生きるように。
 未来をつかもうとするならば、その痛みと向きあわなければならない。

 これは、花嫁の戦いでもあるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーオ・ヘクスマキナ
同情はする。けれど私にはそれを口にする権利は……きっと、無い
私の”今”は、多分ただの猶予期間
猶予が有ることがあなたより恵まれているかどうかなんて分からないし、あなたがそれに対してどう感じるかも、やっぱり分からない
力だけはあるけど、力しかないのよ


だから、私に出来るのはコレだけ

―――あなたが望んだ通り。楽にしてあげるわ


リーオは障壁の繭に入れたまま
石化の魔眼で花々や果実を何もかも石に変じさせて封殺
その石をも変換しようが、その隙に石を飛び越し置き去りにして、大鎌で切り刻む


私より先に楽になれるかもしれないのが、ちょっとだけ羨ましいし妬ましいけど
あなたを放っておけば、悲劇が増え続けるんだもの。仕方ないわ



●いつかは終わる"いま"の中で
 わかっている。
 いつか、この"いま"は終わるのだ。
 約束された、審判の時までの猶予期間。
 自分勝手な己に、少しだけ赦された……終わるからこそかけがえのない日々。

 恵まれているかどうかなんて、言えるわけはなかった。
 だって、リーオ・ヘクスマキナは『その時』に、きっと答えを出す。
 赦されるとは限らない――赦されるはずがないと彼女は思っているから。
 どんな責め苦でも受け入れて、永劫贖い続ける覚悟があった。
 怖い。痛みよりも苦しみよりも、彼にどんな目を向けられるかが、怖い。
 恐れるのだろうか。
 憎むのだろうか。
 怒るのだろうか。
 どれだってありえる。どれだって、自分には当然だ。
 他の誰かが責め立てるのではなく、"彼女"自身が、そう思っていた。
 力があったって、何も出来ない――彼女には、力しかなかったから。

 めきめきと音を立てて侵食する『森』が、石化し、砕けた。
「私は、あなたに何も言えないわ」
 同情も、理解も、共感も、どれひとつとておこがましいと彼女は思った。
 実際にどうなのかなんて、識らない。他者の評価におもねるつもりもない。
 苦しみ、嘆き、「ころして」と喚く花嫁自身がどう思うかさえも。
 大鎌を振るう。石化した森の残骸を踏み砕く。
 伝えるべき言葉があるとすれば、それは。

「私はあなたが、羨ましいわ」
 ちょっぴりと。だが羨望と嫉妬は、"彼女"の中に燃えていた。
「……うらやま、しい?」
「だって、あなたは楽になれる。多くの人にねがわれて、望まれて」
 感じている。彼女を――花嫁とされた少女を救おうとする人々の念を。
 世界を脅かす災厄としてではなく、奪われた被害者として見る猟兵らの想いを。
 それが、妬ましい。妬ましいと思うことさえ、彼女は呪わしく思った。
 痛々しかった。少女はどうしても、己が許せずにいたのだ。

「あなたの望みは、きっと叶うわ。私は、それが妬ましい」
 それだけを口にすることで、彼女は憎まれるべき己で在り続ける。
 幼い頃の選択の結果を、背負う。悲壮なまでに。孤独に。
 繭の中、少年の瞼は開かない。――今はまだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
空もなく、夏も冬もなく
けれど、命の営みの続く場所
それは、燃えるような赤い髪の妹分が語った“森”の話

いつか見た、小さな金属の箱
そこに納められた紙片
……記された、血を吐くような懇願

思い出して――

ああ、そうか
彼女はきっと、冀うしかできなかったんだな

ただ、そう、理解した

何を理解したからと言って
この手が緩むことは、ないけれど

“なにもできない”ものなんて目を瞑ったって殺せるけれど
そうはしない
あんたを終わらせるのは、俺じゃないから

――【抑止の楔】
這い回る根の蔦を、萌える草木を、花を穿ち
“彼女”と“森”の繋がりを断ち切っていくよ

本当は、こんな手助けも蛇足なんだろうけど
まあ、兄貴分の我侭ってことで

頑張れよ、ロク



●この手は緩まず、その眼が視るは
 森の話を、聞いたことがある。
 其処に空はなく、夏も冬もなく。
 けれど命の営みの続く場所。
 燃えるような髪の『妹分』が語った、森(ゆりかご)の話。

 彼女にとってのふるさとであり、
 彼女が求めていた居場所であり、
 彼女の過ぎ去った時の骸であり、

 罪を罪と識らぬままに、遊んでいた場所。

 箱を見たことがある。
 そこに納められた紙片を、見たことがある。
 血を吐くような懇願。

 ころしてくれ、と。
 それを記した者は、ねがっていた。

「ああ」
 鳴宮・匡は理解した。
 彼女は――"あねご"は、冀うことしか出来なかったのだ。
 己のように、心を沈めて、求めるがままに奪うことも。
 妹分のように、与えられたものから学び、育つことも。
 残骸のように、欲望のままに邪悪となり、奪うことも。
 何も出来ず、ただ願い、望み、そして……『こう』なってしまった。

 殺すことは簡単だ。
 そして、匡はそれを躊躇わない。躊躇うような精神構造をしていない。

 だが、彼は考え、学び、理解し、選ぶことが出来る。
 選ぶことなく歩んできた生から、選ぶことを選んでみせた。
 だから匡は、その手を緩めず、されどその眼で死ではなく生を視た。

「あんたを終わらせるのは、俺じゃないんだ」
 這い回る根の蔦を、殺す。
 萌える草木を、花を穿つ。

 森とは、呪いだ。
 人はゆりかごから巣立たねばならない。
 鳥も、獣も、虫も、すべてそうだ。
 生命とは、幼年期を終えれば旅立たねばならないのだ。
 森は、それを否定する。ただ輪廻を続けることだけを目的とする。
 ゆえに、その呪いを殺す。彼なら殺せる。

「本当は、こんな手助けも蛇足なのかもしれないな」
 匡の知る彼女なら、己の力だけで、声を届けられるだろう。
 それでも、こうしたいと思った。だからそうする。自分勝手に。
 生きることは、エゴの戦いだ。終わりのない、苦痛と懊悩との闘争。
「――頑張れよ、ロク」
 そんなわがままが、時として、背中を押す力になる。
 匡はそれを知っている。彼もまた、そうして歩んできたのだから。

 匡が、花嫁に言葉を送ることはない。
 彼が示すべき答えを、妹分はもう識っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
──否、ですよ。
たとえ、そう望まれたとて
(まるで、いつかのように)

ユキは罪人です
ユキは友達を殺さない
ユキ・パンザマストは己を殺せない
あなたからは何も奪わない
ねえ、ただ、
その時、その場所で
選ばれてしまったあなた
(己もそうだった)(だからこそ)
もう一度、眠って欲しいのです
安らな場所で
あなたを心より想う人の手で
(果てに、願わくば
正しく巡って欲しいのです)

──その人は、ね
歌も楽器も上手いんです
あなたを想い、上手くなったんです
あなたと友達が一緒に歌えたらって
わたし、思ってしまいましたもの

マヒ攻撃、呪詛耐性、郷愁を誘う
【逢魔ヶ報】
ひび割れたサイレンの遠吠えを響かせて
さあさ、
お帰りは──あちら、まで。



●いつかのように

 ころして。

 嘆きとともに希われることば。縋り付くような切なるおもい。
 噫、彼女はたしかに、そうねがうしかないほどに壊れてしまったのだろう。
 悪意でもなく、怒りでもなく、それしか遺らぬほどに。
 生前の痛み、影朧となってからの苦しみ。想像するだにあまりある絶望。
 終わりをくれてやるのが慈悲なのだろう――事実、終わらせねばならない。
 さもなくば、その存在が、意志によらず世界を侵す。
 天敵たる猟兵を飲み込み拒もうとする、あの森が示すように。

 だが。
「否、ですよ」
 ユキ・パンザマストは、はっきりとそう言った。
「たとえ、そう望まれたとて。ユキは、否と言います」
 まるで、いつかのように。はっきりと、花嫁の――少女の目を見つめて。

「どうして」
「ユキは罪人です」
 彼女は言う。
「ユキは、"友達"を殺さない――『ユキ・パンザマスト』は己を殺『せ』ない。
 ……あなたからは何も奪いません。もう、奪われる必要なんて、ないんです」
「でも、わたしは」
「あなたは」
 言葉が紡がれる。歌うように。
「選ばれてしまったのでしょう。その時、その場所で、否応なく」
 己もまたそうだった。意志など何の関係もなかった。
 仕方ないと人がうそぶく運命のように、理不尽に、ただ選ばれた。
 理解できる、などと口にはしない。ユキはそこまでおこがましくはない。

 彼女が、「ころして」という欺瞞を拒む理由は。
「あなたを、心より想う人を知っているのです」
 脳裏によぎるのは、夕暮れよりも燃える髪(たてがみ)のおとめ。
 我が友。森の番人。けものではなく、ひととして生きるもの。
「その人は、ね。歌も楽器も、上手いんです」
「……」
「あなたを想い、上手くなったんです」
 識っている。ユキは、彼女のことばを、音楽(おもい)を聞いたのだ。
 花嫁は目を見開いていた。うた。彼女にとって忌むべきことば。だが。
「あなたと友達が一緒に歌えたら、って――わたし、思ってしまいましたもの」

 だから、どうか。
「けものは、ユキだけでよいのです」
 響き渡るサイレンの遠吠えが、蔓延る根を退ける。
 正しきめぐりを、そうはさせじと侵す悪意を、退ける。
「どうか、わたしの友達のうたを、聞いてあげてくださいな」
「……あいつ、が。うた? わたし、に?」
「ええ。あなたに。あなたを想って、歌おうとしています」
 それが、彼女にとってどれだけ衝撃的で、忌むべきものであったとしても。
 ――いや、だからこそ。届かせねばならないのだと、ユキは思った。

 どうか、正しい巡りを。
 終わりを迎えて、祝福されて、愛とともに次のはじまりへ。
 夕暮れのけものは想う。夜のあとには朝が来るべきなのだ。
 はざまに立つ己だからこそ――友とその想い人には、そうあってほしかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダンド・スフィダンテ
俺様ミューズに攻撃は出来ないし、するつもりも無いんだよな。
それにきっと、もう沢山傷付いてるだろ?だから良いんじゃないかな、俺様ぐらい。

花を踏まない様に近付こう。
多幸感は痛みで打ち消して。
出来るだけ近くに、その瞳が見れる様片膝をついて。この声が、僅かな篝火となる様に。

さて、ミューズ。
人は誰しも生きていて良いし、幸せになって良いものなんだ。例え罪を犯した者でもだ。心の底から怒って良いし、嫌になる程泣いても良いし、腹の底から笑って良い。それらを奪われたなら、それを人は理不尽と言うんだと俺様は思うよ。

なぁ、理不尽を越えようとした名も知らぬミューズ。
俺様はさ、ミューズに幸せになって欲しいと思うし、ここに居る者達はきっと、それを願っているとも。

だからさ、なぁ、頼むよ。
もう一度、そのどうしようもない運命に、抗ってはくれないか?

ミューズの好きな人も、来てるんだろう?
大丈夫。きっと次は、上手く行く。
人は手を取り合う事で、理不尽を乗り越えて来たんだからさ。



●きっと、次は
 ざわざわと蠢く花々を、ダンド・スフィダンテは慎重に踏まないように歩く。
 それらが、己を異物(てき)とみなして排斥しようとしているとしても。
 猟兵達の逆侵食によって弱められた「それら」は、いまさらダンドが攻撃するまでもない。
 そもそも彼は、信条として女性(ミューズ)を攻撃できないし、しない。
 だから、己を傷つけて、立ち込める多幸感を押し殺す。
 傷つけるのは自分だけでいい。こんな少女を傷つける必要は、もう、ない。
「……もうたくさん、傷ついてきたもんな」
 ああ、そうだ。ああして「森」の中で泣きじゃくる少女は、花嫁などではない。
 仮に「そういうもの」だったとしても、ダンド自身が認めないだろう。
 彼の目に映るのは、嫌というほど傷ついて、苦しんで、悲しんだ少女だけ。

 ダンドは拳を握らず、武器も持たず、異能さえも使わず。
 出来る限りに彼女に近づいて、目線を合わせようと片膝を突いた。
「さて、ミューズ」
 少女は顔を両手で覆ったまま、応えない。ダンドは微笑んだままだ。
 もともと、答えなど期待していない。これはひどく一方的な押し付けなのだから。
 この声が、届かなくても構わない。この一言で救えるつもりなど、ない。
 ただそれでも、言わずにはいられなかった。
 世界の存亡とか、影朧兵器がどうとか、そんなものさえもどうでもいい。
 目の前で、少女が苦しんでいるのだ。
 すぐそこに、嘆き悲しむ女の子がいるのだ。
 ならばどうして、寄り添わず、言葉を伝えないでいられようか。
 正義とか悪とか、合理性とか、猟兵のさだめとか、そんなものはどうでもいい。
 ただ、今ここで苦しむ彼女を、少しでもなんとかしてやりたい。
 一縷でもいい。その絶望を和らげてあげられたら。
 そして、彼女を救うべき、彼女を大切だと思う人々の助けになれたら。

 そこには、名誉だとか義務感だとか、そんなものは何一つなかった。
 ダンドは思うがまま、己として、為したいと思ったことを為している。
「人は誰しも生きていていいし、幸せになっていいものなんだ」
「…………」
「たとえ、罪を犯した者でもだ」
「…………」
「心の底から怒っていいし、嫌になるほど泣いてもいい。
 腹の底から笑ってもいいし、あるがまま楽しんだっていい」
「…………」
「それらを奪われたら、それを人は理不尽というんだ……と、俺様は思うよ」
 優しい声だった。
 温かい言葉だった。
 ダンドは……死者達の存在をもってして、己の生存を縛り付けている。
 死の誘いを甘やかなものと――今でさえ――感じてなお、彼は生きる。
 それは、願われたからで、望まれたからで、そして生き残ってしまったから。
 彼自身が、死にたくないと思っているわけではない。他者あらばこそ。
 されど彼の言葉は、紛れもなく、ダンド自身が紡いだ真実だ。
「なぁ、理不尽を越えようとした、名も知らぬミューズよ」
 ダンドは語りかける。答えなど期待していない。必要がない。
「俺様はさ、ミューズに幸せになってほしいと思うんだ」
「…………」
「ここに居る者達もそうだ。きっと……いや、必ず、そうだろう。
 ミューズに刃を向けた者でさえ、怒りや憎悪を抱いてるわけじゃない」
「…………」
「だからさ」
 おこがましいとわかっている。
「なぁ、頼むよ」
 傲慢だとわかっている。
「もう一度……そのどうしようもない運命に、非がってはくれないか?」
 己が言えることではないと、わかっていた。

「ミューズの好きな人も、来てるんだろう?」
「…………」
「大丈夫。きっと次は、上手くいく」
「…………」
「人は手を取り合うことで、理不尽を乗り越えてきたんだからさ」
 ダンドは、拳を握りしめた。死の甘やかな香りに抗うために。
 伝えるまでは、死ぬわけにはいかない。これは、エゴだ。
「……そんなこと、あるわけがない」
 少女は言った。
「わたしは、うばわれた。のぞみも、ねがいも、なにもかもを。
 それがいまさら、なにをこえろというの。なにをねがえというの」
「幸せを願えばいい」
「そんなの、もう、むりよ。つぎなんて、わたしには――」
「あるとも」
 ダンドは曇りなき瞳で言った。
 強がりだとも。ああ、それは水面に映る月のようにおぼつかずか弱い。
 歴たる根拠などない。彼女の「これから」を己が守り抜けるわけじゃない。
 そんな覚悟も、余裕も、今のダンドにはない。だとしても。だとしてもだ。
「人は誰しも、幸せになっていいものなんだ。ねがいを抱いていいものなんだ」
 たとえ罪があろうと。
 たとえ何を背負おうと。

 己がそうであるように。
「だからどうか、諦めないでくれ。運命に、『仕方ない』と悲しく笑わないでくれ」
 ころして、などと。ねがわないでくれ。
「もう一度だけでいい。……ミューズ自身のねがいを、見つめてくれないか」
「……わ、わたし、は……」
 溢れる涙はもう枯れていた。
 だがそれでも、たしかに――その言葉は、少女のこころをまた、動かした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
【狐々】

そうか貴女は…
人、ヒトなんだな。
俺は、貴女の言う「ケダモノ」だから、分かるんだ。

だって、罪の意識は、頭のいい感情の豊かな動物がもつもの。
罪を感じて苦しんでいるそれは、紛れもないヒトの証なんだ。

庇いたいのは、グッと我慢。
クロムさんを助けるためにも、今は俺にできる事を。
精霊の石の精霊様、どうか、クロムさんを護って。

まずは[情報収集]を。
[集中力、野生の勘、第六感]を研ぎ澄まし、森にいる「奪うだけの歪なかみ」を探そう。
森育ちの狐の俺なら嗅ぎ分けられるか?
運良く分かれば狙い撃ちできるはず。

俺の知る森のかみは…森に在る全ての命、命の子らと共に在った。
子の命を啜り、一方的に奪う…それは森のかみじゃない。
俺と同じ…獲物を狩り喰う飢えたケダモノだ。
ケダモノの声に貸す耳はないぞ。
俺は森の声を知ってる。
野生動物は皆、森の声を聞いて育つ。忘れるものか。

チィおいで。
月の光で浄化を頼む。
[魔力貯め、属性攻撃、全力魔法]を乗せた、UC【エレメンタル・ファンタジア】で月光の洪水を。
俺の全てでケダモノの浄化を。


クロム・エルフェルト
【狐々】

――。

 "ヒトとは業深き獣の銘よ"
 "吾等剣士もまた然り"

命で汚名を濯げ、と
反論はしない、武士道の在り方だもの

 "然れどクロムよ"

でも、苦しむ貴女を前にして
死に逃げては、正に武士の名折れ

 "悪因を断ち悪果を断ち"
 "非業より解放せし一刀こそ剣士の悲願"

――「すべてあげる」と言ったね、女神さま。
ならば、貴女の魂を助ける時間を頂戴。
脳裏に蘇るお師様の声をよすがに
天片・識即是遂を発動する

情動も何もかも置き去りにした筈なのに
慈しむ者が傍に居ると、こんなにも心強いのね。
貴男は己をケダモノと言うけれど。
尊尚親愛。其れが出来るのもまた、ヒトだけ。
そうでしょう、陽鏡の君(都月くん)。

敢えて受けましょう、女神の慈愛
根に血を吸わせつ、ゆるりと歩み寄る
此の身に在るのは目的だけ。
貴女の"妹"が参じる迄の時間稼ぎ。
そして……
「ころして」の呪いを生む裡の痛み
▲早業の一閃にてその澱の▲切断を試みましょう。
月明かりの奔流に、少しでも痛みを流しなさいな。

少しでも、貴女と。
森番さんが、言葉を交わせるように。ね。



●道を拓く

『ヒトとは、業深き獣の銘よ』

 かつて、師は云った。

『吾ら剣士も、また然り。ヒトの命を奪ってまで、窮極に至らんとするがゆえ』

 武とは、果てのない海のようなもの。
 只人ごときがいくら研鑽を重ねようと、真の意味での終わりは見えない。
 ゆえにこそ求める。
 ゆえにこそ何をも犠牲にする。
 他者をも。
 己の時間さえも。

 命で汚名を濯げ――反論出来るはずがない。否、それはむしろ『正しい』。
 クロム・エルフェルトが修めてきた剣は武士道に通じ、武士道とはつまり己を捨てて一振りの刃となす教えだ。
 名誉こそが命よりも尊ばれるべきものであり、自己などそのためには些細な枷に過ぎぬ。
 己を捨てよ。
 剣となれ。
 以て信を貫き、忠を尽くすべし。
 罪人が、生きていていいはずがない。

「でも」
『然れど、クロムよ』

「苦しむあなたを前にして」
『悪因を断ち、悪果を断ち』

「死に逃げては、まさに武士の名折れ」
『――非業より解放せし一刀こそ、剣士の悲願』

 武に果てはない。ヒトが到達できる領域などたかがしれている。
 それをわかっていて求めることは、まさしく強欲で愚かしく、罪業そのものだ。

 ゆえにこそ。

『お前は、どうかそう在ってくれ』

 ヒトは、叶わぬねがいを抱くことが出来る。

『業深き道を征き、然れど堕ちるべからず。刃の如く、気高く在れ』

 そして時には、そのねがいを掴むことが出来るのだ。

 ざわざわと、「森」がうごめく。
 木々が重なり、蔦が絡まり、蔓が噛み合い、花々が開く。
 やがて立ち上がった姿は、かつての「あるじ」あるいは「かみ」を模していた。
「それ」はすでに滅ぼされ、灼かれ、もはや骸の海にとて在りはしない。
 であればここに再現されたものは、花嫁――否、少女にこびりついた神性の残滓がなしたものか。
 あるいは少女の絶望が、己に刻み込まれた悪夢を再現したものか。
 猟兵という天敵の出現に対し、影朧が影朧たる所以が自動的に模倣したものか。

 真相は定かならぬ。たしかなことはただひとつ。
「俺は、あなたが言う『ケダモノ』だから、わかるんだ」
 木常野・都月が、倒さなければならない相手だということだ。
「あなたは、ヒトなんだ。罪を感じて苦しむのは、紛れもないヒトの証だ。
 頭がよくて、感情が豊かだからこそ、ヒトは罪を感じて、意識するんだから」
 神妙なる面持ちの、クロムの隣に立つ。
 かばいたい気持ちがある。戦わないでくれとすら言いたかった。
 だが、彼女は戦おうとしている。己の裡なる悪念とすら。
 ならば――己がなすべきは、隣に立ち、ともに戦うことだ。
「精霊の石の精霊様。どうか、クロムさんを護って」
 祈る。祈りは力なきものに許された最後の抵抗であり、悪あがきだ。
 祈り自体は何も変えられないし、ねがうだけでは何も叶わない。
 されども、祈り、願うことは誰にでも出来る。誰にだって許されている。
 絶望の底の底ですら。彼女はそれをすら失くしたと言うが、それは否だ。
「俺達が、また始められるんだっていうことを、証明してみせる――!」
 ああ、己はヒトならず。所詮は畜生が賢しらになったモノに過ぎぬ。
 万人がそう言うだろう。
 己すら、自らをそうみなしている。
 だとしても、都月は戦う。なぜなら、彼は。
「俺は……ヒトにならなければいけないから!」
 彼にもまた、譲れないねがいがあるからだ。

「かみ」が、吼えた。
 回帰せよ。
 すべては森に還るべし。
 ゆりかごにして墓場たる森のうちで、終わらぬ輪廻を循環させよ。
 いのちとは、ただそうあればよい。「かみ」のこだまはそう嘯く。
「――心強いなあ」
 クロムは微笑んだ。
 隣に立つぬくもり。陽鏡の君。慈しむもの、愛するひと。
 その存在があるだけで、こんなにも戦える。
 同時にぞっとする――それを失った少女の心細さと、絶望。
 己にそれがあるならば、この道を切り拓こう。
 彼女に寄り添うべき友が、すぐそこにいる。ならば!
「ケダモノの声に貸す耳は、ないぞ!」
 クロムが放つべき一線のみちしるべを、都月が描いた。
 森の声。いのちという形で己に循環する、正しき輪廻の形。
「これ」は、違う。これは、ただ「在り続ける」ことだけを目的としたものだ。
 否だと叫ぶ。ヒトならざるものだからこそ、わかるのだ。
「チィ、おいで――俺達に、力を貸しておくれ!」
 月光の洪水が溢れる。
 偽りの芳香を、蔓延る生という名の死を、月の光が祓い清める。
 斬るべき道が、クロムに映る。己が開くべききざはしが。

 進み出たクロムに、根が蔓延り、血を啜る。
 それでいい。与えるというならば、その愛、受けてみせよう。
「あ――」
「あなたの妹が、ここに参じようとしているの」
「かみ」が吠える。いのちよ、回帰せよ。ただ森にすべてを委ねよと。
 あれこそが、呪いだ。あれこそが少女を縛るものだ。
「もう、痛みも必要ないの。苦しむ必要も、絶望する必要もない。
 ――それはすべて、私が斬ってしまうから。だから、どうか――」

 極致の天へと、剣閃が届く。
 冴え冴えとした剣が、のろいを、偽りのねがいを、斬った。
「かみ」の残滓が、消えていく。蠢く森は、森でなくただの木々と花々の集合体へ変わる。
「だからどうか、彼女の言葉に耳を傾けてあげて」
 そのうたを、心のままに受け止めて、そして声を返してと。
「……どうして、あいつのために、わたしのために……そこまで」
「私の、友達だから」
 クロムは微笑んだ。
「誰かのためなら、ヒトはどれだけでも強くなれるんだ。……俺も、そうありたいだけだよ」
 都月も、また笑う。

 月光が少女を照らし出す。
 切り開かれた道に、今、あかがねが降り立った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
★レグルス

おれは行くよ
…ありがと、任せた
おーば。

ごめんなさい。
約束を破って
あなたを救えなくて
その嘆きに気付かなくて

聞いてくれませんか

あなたがくれた半分の残り
おれは歌えるようになったんです
おれの、この声で

禄歌。

もう贄の花嫁でなくていい
おれのあねごでなくていい
あなたは、かつてそうだったように
おれにそうだったように
今も
世界があなたを過去の骸と呼ぼうと
あなたがおれの声を拒もうと
あなたがそれを信じられなくても
神を利用するほど弱くて脆くて強かな
ただの、人間です。

聞こえますか

あなたの幸せは、何ですか?
おれはあなたのわがままを、願いを、聞きにきました。
…何もかも殺すことを本当に望むなら
おれはあなたが好きだから、それがおれのわがままだ
けれどそれは、苦し紛れではないですか?

聞いてくれよ

禄歌の夢みた幸せは何ですか。
おれは、それを叶えに来たんだ。
あなたはずっと、めでたしめでたし、で終わる話を
恋しがっていたじゃないか!!

願ってくれ。あなたの幸せを。



おやすみなさい。
今まで、ずっと、ずっと
よく、がんばりましたね。


ジャガーノート・ジャック
★レグルス

そうか。
彼女が君の"あねご"か。(ザザッ)

――あとは、君のやりたいようにするといい、ロク。
それが君の望みなら。

(銃火も熱線も爆薬も、刃も
人を傷つけるあらゆる物は最早いらないだろう。
ヒトとヒトとなら、言葉とで伝い合う事ができるのだから。
かつて獣だったものでも、この数年で
多くの言葉を憶え培って、ここまで来たのだから。

だから)

――僕から貴方に言う事は、何もない。
言葉ならもう、ロクがつくしたろう。

だから
(銃火も熱線も爆薬も、刃も
人を傷つけるあらゆる物は最早いらない。
要るのは――たった一つの"弾丸"だけで、十分だろう。)

これが、僕からの貴方への餞だ。

"LAPLACE".

(電子魔弾が着弾と同時、
【《多幸感》を齎す花々や果実】⇒【《癒やし》を齎す花々や果実】に効果を改竄。
一面の、幻朧桜を此処に。
桜の精の癒やしがあれば
この世界に甦ってしまった影朧たちならば
転生もできるだろう。)

――めでたしめでたし、とは言わないが
来世でどうか、良い日々を送れるように。
そう、願ってる。(ザザッ)



●おまえが、けだものであればよかったのに
《――そうか》
 ジャガーノート・ジャックは、すべてを理解していた。
《――彼女が、君の"あねご"か》
「……うん」
 ロク・ザイオンは素直に頷く。
 あねご。ロクというヒトの土壌を形作った、大事なひと。
 彼女が恋い焦がれ、憧れ、敬愛し……一方で、彼女を呪ったひと。
 その"ざま"は、なんと哀れで、そして痛々しいことか。
 もはやあれは、ロクが知っている"あねご"とすら呼べないのかもしれない。
 黒い鉄輪の無謀が、そうしてしまった。
 痛みが、彼女を変えてしまった。

 それでも。
「おれは行くよ」
 ロクは、"あねご"のもとへ行こうとする。
 もはや森は(奴らにとっての)害悪を阻む力を失っていた。
 逆侵食と殲滅により、彼女を縛る呪いはほとんど祓われていた。

 ただひとつだけ、花嫁を縛るものがあるとすれば、それは絶望だ。
 痛み。
 苦しみ。
 哀しみ。
 虚しさ。
 影朧……残骸としてのオリジンを形作る、生前の絶望。
 この世に顕現してから味わわされた、筆舌に尽くしがたい痛み。
 そのふたつが、彼女の心を壊した。
 流す涙すらも絶え果てて。
 叫ぶ喉さえも壊されて。
 ただ囁くしかできない。ねがうことしか。

《――あとは、君のやりたいようにするといい、ロク》
 それが君の望みなら。
 相棒はそう言って、銃火も熱線も、爆薬も刃も、稲妻も何も生み出さない。
 だってもう、そんなものは必要ない。それは、敵を殺すための力だ。
 ここに居るのは、敵ではない。ただ、声を届けるべき相手だ。
 猟兵とオブリビオンであれば、戦うしかないだろう。
 けだものとヒトであれば、お互いに傷つけ合うしかない。

 だが、此処に居るのは、ヒトとヒトだ。
 争い合うかもしれない。それと同時に、言葉で伝え合える可能性もある。
『僕から君に言うことは、何もない』
 相棒に対しても。
『……あなたに言うことも、何もない』
 彼女に対しても。
 少年は言葉を持たない。持てないのではなく、『持たない』のだ。
 相棒は、多くの言葉を知った。
 己の歪みを知り、一度はすべてを失い、学んで、知って、涙して。
 希望が偽りであったことを理解して、己の存在が罪たることを知って。
 それでも、生きていたいと、ヒトらしい「わがまま」を言った。
 なら、手助けはいらないだろう。もうすでに多くの人が、そうしてくれている。
 相棒を、あるいは苦しむ彼女を心から思いやって、言葉を、意志を伝えた。
 だから……。
「ありがと」
 ロクは微笑んだ。
「任せた、相棒」
『オーヴァ』
「うん。おーば」
 ロクは歩き出す。相棒は、ただその背中を見守る。

●わたしは、おまえが
 花嫁は、へたりこんで泣いていた。
 いくら嗚咽をあげたところで、流れるべき涙は溢れないけれど。
「ごめんなさい」
「…………」
 花嫁は、顔を覆ったまま動かない。
「約束を、破りました」
「…………」
「あなたを、救えませんでした」
「…………」
「その嘆きに、気付けませんでした」
「…………」
 多くのものを取りこぼしてしまった。
 たすけて、というねがいを。
 やめて、という懇願を。
 だれか、という悲鳴を。
 歪み壊れた己は、それを「うた」としか聞こえなかった。
 無邪気で、無垢で。だからこそ邪悪で、穢れていて。
 けだものだった。ゆえに、ころしてと、ねがわれた。
 箱の中から現れた絶望は、彼女にとって唯一の希望だった。

「おれは、あなたのねがいを、裏切り続けています」

 これをみているひと。どうカおねがいです。
 このけだものをころしてください。

「……なぜ」
 花嫁が顔を上げた。

「なぜ、私の言葉を最後まで聞けなかったの」
 禄を睨んだ。
「なぜ、私の願いをわかっていて、お前は生きているの」
 憎悪を籠めて。
「なぜ、お前はヒトになどなってしまったの」
 悲鳴(うた)に笑って楽しんでいたお前が。
「私の苦しみにすら気づきもしなかったお前が」
 ただ無邪気に神を崇めていたお前が。
「私の孤独を知りもさえしなかったお前が」
 なぜいまさら謝罪する。
 それで何が変わると思っている?
 私を怒らせたいのか。
 私に憎悪させたいのか。
「お前は何も解ってない」
 私が、お前に願うことは、ひとつなのだ。
「お前は、けだもので、私はただお前の死を――」

「聞いてくれませんか」
 ロクが言った。
「…………何を」
「あなたがくれた、半分の残りを」
 焼けた鉄に骨をこすりつけるような声で、獣は言う。
「のこ、り?」
 何を? 私がこんなやつにくれてやったのは、怒りと憎悪と呪いだけだ。
 "このけだもの"に、私が、何をあげたという。
「おれは」
 なにか。
 何かを、私は忘却(Oblivion)している。
 何を?
 私は、これに何をあげたというのだ?
「おれは――歌えるようになったんです」
 醜く、歪んで、穢れた声で言う。
「おれの、この声で」

●おまえは

 記憶が溢れた。

 罪の園の記憶。
 辛く、苦しく、汚らわしく、絶望に満ちた記憶。

「おれは、おぼえています」
 怯えと好奇心に満ちた眼差しでおれ/わたしを見つめていたことを。

「おれは、おぼえています」
 こわごわ差し出された手を。
 痛々しく恐る恐る触れる指先を。

「おれは、おぼえています」
 おれが何か覚えるごとに、誇らしげに笑う顔を。
 遠くを見つめてしまう私を、わけもわからず気遣う愚かな顔を。

「旧い彼方の物語を。それを教えてくださる横顔を」
 他愛もない話に耳をぴんとそばだてて、きらきら輝く瞳を。

「憎々しげに血溜まりを見下ろす姿を」
 私の憎悪の理由もわからずに、恐ろしげに震える毛並みを。

「あなたはわがままを言う時、いつも耳に触れていました」
 おまえは私に触れようとする時、いつも尾を丸めていたわ。

「おれを恐る恐る撫でる指を」
 私の声にそっと寄り添うような鼻歌を。

「驚愕と、深い失望の貌を」
 おまえは、私の悲鳴を待ち遠しがっていた。物欲しそうな貌で。

「泥のような虚ろな瞳と、こわばった声を」
 何も知らない無垢な眼差しと、きたならしい声を。

「――あの、うつくしい悲鳴を」
 おまえの父を崇める、お前の鳴き声を。

「もう、贄の花嫁でなくていいんです」
 おまえは。すべてを知ってなお、"禄"であるというの。
「おれのあねごでなくていい。何にも、縛られなくてよいのです」
 私が、「こう」でしか在れないのに。お前は。
「あなたは、かつてそうだったように。おれにそうだったように、今も――」
 違う。私はもう。終わってしまった。停滞(とま)ってしまった。
「世界が、あなたを過去の骸と呼ぼうと」
 だって、あの男達がそうあれと望んだ。
「あなたが、おれの声を拒もうと」
 おまえが、聞いてくれなかったのでしょう。
「あなたが、それを信じられなくとも」
 いまさら、何を言っているの。
「神を利用するほど、弱くて脆くて、したたかな――」
 わたしは……。

「ただの、人間です」

●わたしの半分
「おれはあなたのわがままを、ねがいを、聞きに来ました」
 すぐそばに声があった。燃えるようなあかがねの髪が。
「あなたの幸せは、なんですか。何もかもを殺すことなのですか」
 ほんとうに馬鹿な子。そんな風に育ったのに、相変わらず声は、恐る恐る触れるようで。
 伺うような顔を隠せていないわ。立派に胸を張っているくせに。
「それが本当の望みなら、おれは――おれは、あなたが好きだから」
 そんなこと、出来るわけないのでしょう。
「それが、おれのわがままだ」
 思ってもいないことを言うなんて、まるで――いえ。

「けれどそれは、苦し紛れではないのですか」

 賢くなったものね。

「聞こえますか」
 なまいき。
「聞いてくれよ」
「自分勝手。
「おれは、叶えに来たんだ」
 なら、呼んで。私が忘れてしまった、私の名前を。

 私が、過去の骸でないというなら。
 お前が、私をそうであるというのなら。
 だからどうか、教えて――私に、ちょうだい。私の名前を。

「禄歌の夢見た幸せは、なんですか」

「――私の、夢は」

「あなたはずっと」
 ロクは泣いていた。

 Happy ever after
「めでたしめでたしで終わる話を、恋しがっていたじゃないか!!!」

●私の、たったひとりの

 ああ、そんなのだったのね。そんなのだったわ。
 他愛もない、謎も所以も何もない。そう、ただそれだけ。

「願ってくれ、あなたの幸せを」
「私は、願ってもいいの?」
「いいとか、悪いとかじゃないんだ」
 軋むような鑢のようなみにくい声が、うつくしく響いた。
「おれが、そうしてほしいんだ。あなたに」

「なまいき」
 おっかなびっくり伸ばされた手を、禄歌はそっと掴んだ。
「お前は、けっきょく、私の願いを何一つ叶えてはくれなかった」
「……あねご」
「違うのでしょう」
「…………禄、歌」
「言われないと呼べないだなんて、歌がないとお前はダメだわ」
 憎悪があった。
 怒りもある。
「お前だけ、ずるい。私はあそこで、何もねがいを叶えられずに死んだ。
 終わってまで「こう」在り続けて、苦しめられて、名前さえ忘れて。
 なのにお前は、私があげた半分を、お前のものにしてしまったというのね」
 禄は、もういない。
 その名は返還され、されどヒトはここに。
 あかがねの獣は、ロク・ザイオンとしてここに在る。
「お人好しが、たくさんいたわ」
 どうか幸せを願ってくれと。
 どうかわがままになってくれと。
 たとえ終わったとしても、また始められるはずだと。
 罪を背負わねばならないなら、この身が請け負うと。
「どうして、こんな暖かな気持ちに、もっと早くふれあえなかったのかしら。
 どうして、こんな暖かな人達が、私を助けてくれなかったのかしら。
 どうして、こんな歌を歌えるお前が、私のこえに気付いてくれなかったのかしら」
「…………ごめんなさい」
「頭の悪いロク」
 少女は笑った。
「仕方ないのよ、全部。だってもう――終わってしまったのだから」

 怒りは消せない。
 何故という怒りがある。
 どうしてという憎悪がある。
 哀しみは消えない。苦しみも痛みも消えはしない。傷痕も。
 犯した罪は消えず、贖えず、これで過去が代償されることなどない。
 過去は、殺すしかない。そして乗り越えるしか。

「だからもう、いいのよ」
 指先が、あかがねの髪を撫でる。
「禄歌」
「けだものは死んだわ」
「……おれは」
「お前は、ロク・ザイオンなのでしょう」
 私の妹ではなく。
 無知なる獣でもなく。
 無垢なる森でもなく。
「あなたは、ただの人間なのでしょう」
 ありふれているくらいに欲深く、
 どこにでもいるぐらいに自分勝手で、
 何の変哲もないぐらいに生意気で。
「なら、もう、いいわ。私は終わって、お前もまた、終わらせたのでしょう」
 けだものはもう、何処にも居ない。
 罪の園は、もう、何処にもない。
 虚しさがある。
 私の苦しみはなんだったんだと、私が叫ぶ。

 でも、もう、いい。
「私は、頑張ったわよね」
「はい」
「私は、偉いわよね」
「……はい」
「私は、許されてもいいのよね」
「…………はい!」
 泣いていた。
 こぼれおちる涙を指ですくいとり、己のまなじりに一筋撫でる。
「今まで、ずっと――ずっと、よく……頑張りましたね」
 ああ。こんな視点だったんだ。

 罪の園で、何度も同じことがあった。
 私の言うことを聞いて、黙った時。
 私の話を、静かに聞けた時。
 私の癇癪に、そっと寄り添ってくれた時。
 こうやって、あかいたてがみをなでてあげたっけ。

《――"LAPLACE"》
 ばあっ、と。
 燃えるように。
 彩るように。
 森の残滓が、花に変わった。
 満開に咲き誇るいくつもの桜。幻朧桜。
 猟兵達が生み出したものと一緒に、桃色が空を染める。
 罪の園でただ見上げた、切り取られた四角い届かぬ空ではなくて。
「きれい――」
 花びらは、少女を優しくなでてくれた。

   Happy ever after
《――めでたしめでたし、とは言わないが》
 騎士が言った。
《――来世でどうか、良い日々を送れるように……そう、願ってる》

●さようなら、そして

 もはや、逢魔が辻はそこになく。
「ロク」
 同じ響きなのに、まったく違う名を呼ぶ。
 私のよく知る、私の知らないヒトの名を。
「いまさら私が言うことじゃないでしょうけれど、ねえ、私の知ってる、知らないあなた」
「……はい」
「あなたは、自由に生きなさい」
 青い瞳が見開かれた。
「私が、もう、あなたの姉でなくていいのなら」
 ――あなたももう、私の半分でなくていいの。

「禄歌」
「あなたがその名で、うたを歌ってくれるなら、私はそこにいられるわ」
 呪わしさがある。
 憎悪も絶望も怒りも、消えやしない。過去は消せない。けれども。
「私の半分。わたしの、たったひとりの妹。憎らしくて、きらいで、でも私は――」

 私にとっては、あなたこそが。紛れもなく、希望だった。
 だから裏切られた時、私はすべてを喪った。
 ねえ、だからどうか。このねがいと、呪いを、ありったけの想いをあなたへ。

「ありがとう」
 禄歌は微笑んだ。
「そしてどうか――これからも、あなたのままに、生きていて」
 私をころした罪を、お前/あなたが背負うというのなら。
 憎悪も、怒りも、呪いも、喜びも、安らぎも、感謝も、祝福も。
 どうか、あなたの行く先へ。一緒に、連れていってください。

「うん」
 ロクは微笑んだ。
「……おやすみなさい」
 夜が終われば、朝が来る。
 だから次は、きっともっと幸せな明日を。

 さようなら、いとしいひと。
 ありがとう、だいじなひと。

 抱きしめた身体は、ほつれて崩れて消えていく。
 桜の花びらに混ざって、風にまかれて飛んでいく。
 もう、戻ることはないだろう。
 もう、戻らなくていいのだ。
「さようなら」
 ロクは掌に降ってきた花びらを、ぎゅっと握りしめた。
「……さようなら、どうか、幸せに」
 そしておれは、これまでと同じように、これからも歩み続けよう。
 相棒とともに。
 友と一緒に。
「――ありがとう」
 振り返ったロクは、仲間達に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)因・縁・罪。いろいろとあるンだろうな。だが俺に関係があるのはひとつだけ。ヒトよ、"終わらせたい"と願ったな。ならば選択肢を作るのが俺の役目だ。すべての弱さを赦し愛そう。逃げ道も終わりも俺が作ろう。ただし、選ぶのはヒトだ。お前さんだ。
行動)いのちの声に、俺のこころが震わされることはない。俺はいつだって、俺の思うままいのちを赦すだけだ。傲慢で一方的。だからこそ、"悪いことはすべてかみさまのせい"なンだ。萌え出ずる森を枯らそう。眷属ども。毒と病を運んでおやり。端から腐り枯らして土に返しな。俺は娘御に話がある。
対話)お聞き、お嬢さん。痛いことは何もしない。もしお前さんが真実、消滅(おわ)りたいンなら。お前さんの縁を辿り、対話を望む者らが来ている。話してなお、転生も拒むというのなら。一緒にころされてあげよう。俺の首を落とし、お前さんを毒で消滅らせよう。祈り・咒い・願う意思があるならば、そのこころのとおりに選んでご覧。
(*神なので消滅はしないが、この宿はここで死ぬ)



 かくて、たましいは桜にさらわれ、幸せなる次の生へと旅立った。
 それで、お話は終わり。めでたしめでたしとは、いかないけれど。
 もう、綴る必要はない。語る必要も、意味も、何もありはしない。
 絶望した少女は、願われ、望まれ、そして己の名とねがいを思い出して。
 うたに導かれて、旅立った。その先には、幸福だけがある。

 だからこれは、誰も知らなくていい刹那の話。
 語る必要も、綴る意味もない、ただの蛇足。けれども――。

●おわりの一秒前に
「お嬢さん」
 優しい声だった。
 男がひとり、私の前に立っていた。

 ……不思議な感じがした。
 だってその男は、ヒトの形をしているのに、ヒトらしくなくて。
 浮かべた微笑みは、母のようで、父のようでもあり、けれどどこか冷たくて。
「あなたも、"かみ"なのね」
「あァ、そうさ。俺は、"かみさま"だよ」
 朱酉・逢真という名前の何かは、小首をかしげた。

 周囲には、無窮の暗闇が広がっている。
 光はなく、何も存在せず……けれども不思議と、暖かい。
「ここは」
「黄泉路」
 逢真というかみさまが言った。
「冥府。地獄。天国。あの世。彼岸――ひひ、人間はいろいろな名をつける。
 どれでもあって、どれでもないさ。だってここは、その"瀬戸際"なンだ」
 かみさまは言ったの。
「お前さんには、因も、縁も、罪もあったンだろう。全部、見てたし聞いてたさ。
 だが、俺に関係があるのはひとつきりだ。俺がなすことも、ひとつきりだ」
「……私を、裁くの?」
「ひひひ!」
 かみさまは笑った。まるでバカにされているような響きだったけれど。
 不思議な話。声は暖かいままで、眼差しもそうで。怒りは湧いてこない。
 嘲ってなどいないのだと、きっと、こころが理解したから。

「お前さんがするべきことは、"選ぶ"ことだ」
 かみさまは言ったわ。
「終わらせたいと、お前さんは願った。ころしてくれと、願い続けた。
 他のものは、そうでないと言った――だが結局、願うのは、お前さんさ」
 まるで最初からそこにいたような、不思議なけものに、かみさまは座る。
「因果も、宿縁も、罪業も。喜・怒・哀・楽も、俺にゃあ関係がないのさ」
「傲慢ね」
「ああそうさ。俺はかみさまだからな」
 ひひ、と喉を鳴らす。
「だからこそ、"悪いことはすべてかみさまのせい"なンだ。そうだろう?
 お前さんは、そうやって心を保ってきたはずだ。かつても、そして今も」
 ……罪を裁こうとした私に、それはとても残酷な言葉だった。
 だって、私がやっていたことは、嫌っていた"かみ"と同じだと言っているから。
 けれど、かみさまは裁くわけでも、責めるわけでもなかった。
 そう感じて、己を苛むのも、結局は私。すべては私なんだから。

「お聞き、お嬢さん」
 目の前の顔が言う。
「痛いことは何もしない。苦しみもない。安らぎも、希望も何も俺はあげない。
 お前さんは聞いただろう。その縁を辿り、やってきた者らの言葉と歌を」
「……ええ」
「そして今、お前さんは"此処"にいる。"此処"からは、『どちら』へも逝ける」
 暗闇が晴れて、「わかりやすい」二つの道が生まれた。
 ひとつは、ぞっとするような、けれど暖かなくらやみに通じている。
 もうひとつは、桜が――あの綺麗な桜が、わっと咲いていた。
「お前さんは、どうしたい」
 かみさまが言った。
「もう一度転生するなら、それはきっと幸せだ。だがそればかりじゃない。
 めでたしめでたしに至るまでに、また同じような苦しみがあるかもしれん」
 その言葉は脅しでもなく、怖がらせるわけでもなくて。
「だから、消滅(おわ)りたいなら、それでもいい。それも"ねがい"だ」
 こてんと、かみさまは首を傾げた。
「そのときゃ、俺も一緒だ」
「……一緒?」
「この首を落として、お前さんを毒で消滅(おわ)らせる。それだけさ」
 道連れというには、あまりにも簡素。だってかみさまは死なないのでしょう。
 ここにあるいのちひとつ――でも、終わりに向かうなら、それで十分だった。

「ありがとう」
 私は、いもうとに送った言葉を、彼にも送った。
 弱さを許し、愛して、逃げ道も終わりも与えてくれるかみさまに。
「私は、もう一度始めたい」
「そうかい」
 理由なんて必要ない。かみさまは聞かなかった。
 だってきっと、言わなくてもわかってる――もちろん言葉もうたもあった。
 けれど、それはきっかけにしか過ぎなかった。決めるのは私自身。
 このねがいは、最初から私のうちにあったもの。だから何もかも関係ない。
 ……なんて言い方は、少し理不尽かもしれないけれど。

「それがこころのままの答えなら、それでいいさ」
 かみさまは微笑んでた。
「お前さんが、また辛く悲しくなったなら、神(おれ)を呪えばいいさ。
 何もかもを受け止めよう。弱さも、痛みも、呪いも、なンだってな」
「ありがとう――でもきっとそれは、必要ないわ」
 私は歩き出す。咲き誇る桜の向こうへ。
「……そりゃアどうしてだい」
「だってあなたは、とても優しいから」
 それも、私が勝手に出した、私のエゴ。でも、それでいい。
「さようなら、優しいかみさま。またいつか」
「――ああ。いつでもおいで。いつでも待ってるさ」
 変わらない微笑みに送り出されて。
 私は、戻れない道を歩く。
 もう次にいるのは、私であって私ではないのだろう。でも、それでいい。

 これは、誰も知る必要がない、綴る必要もない物語。
 少女自身も、いずれ現象へとかえる神すらも覚えていないだろう刹那の話。

 ただ、それでも。
 救われたたましいは、桜に導かれ幸せな生を得るだろう。
 ヒトのかたちに押し込められた神は、与えられた感謝をも受け止めるだろう。
 だから、それでいい――この物語には、もう続きはいらない。

●めでたし、めでたしと。それだけあれば、もう十分。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月11日
宿敵 『土の花嫁』 を撃破!


挿絵イラスト