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彼岸へと声の限りに君を呼び

#アポカリプスヘル #【Q】 #戦後 #宿敵撃破

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#アポカリプスヘル
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#【Q】
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#戦後
#宿敵撃破


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●彼岸と此岸を繋ぐもの
 見渡す限り砂と空。不毛の荒野のただ中で、高台の岩陰に抱かれ、砂に埋もれる様にしてその石造りの廃墟はあった。その外にある幾つかの車やバイクの存在が斯様な場所にも人の在ることを告げている。
 人の住む拠点はどれも遥か彼方でありながら、貴重な燃料を使って、いくつかの夜をも越して、人はこの地を訪れる。長い旅路を無事の身で辿り着けるとも判らぬその場所へ、定かとも知れぬ噂を聞いてやって来る。
 この地に棲まう聖女に乞えば、死んだ者が蘇る。傷心にさぞや甘美に響くのだろう、そんな噂に縋るのだ。
   
「本当に彼は蘇るのでしょうか」
「蘇るとも、それが神の意思ならば」
 部屋には死臭が満ちていた。
 その外の高くまでを砂に覆われた窓から、陽の光がわずかに一条差し込んでいる。薄闇の中にありながら光を受けるその場所で、幾らか奢侈の残り香がある鋲打ちの革椅子に腰掛けた黒衣の聖女が笑んだ。彼女が背にする壁の水槽のどろりと緑に濁った水に、大きな魚の骨が漂っている。
「でも……あの、傷がひどくて……顔だって、もう……」
 躊躇いがちに告げるのは若い女だ。機能的な服装と、この地に至れているという事実からしておそらく奪還者なのだろう。
 二人の女を隔てるテーブルに、どす黒く血を吸った布をかけられて重く横たわる物体がある。
「確認しても?」
 聖女の言葉に女は頷いた。けれども褐色の指先が死臭の染み付く布を捲るのは、顔をそむけて、見なかった。
 対して聖女は値踏む様に確かめる様に、紅の瞳でそれを見つめる。体格の良い、成人の男だ。戦死だろうか。抉れた腹に臓物と肋を覗かせて、頭蓋の半分を失くした死体は女の言う通り損傷が酷い。腐敗もだいぶ進んでいる。
ーーこれは駄目だろうな。
 そんな酷薄な内心とは裏腹に酷く優しげな笑みを浮かべて聖女は告げるのだ。
「三日待てば元気な姿で会わせてやろう。何ももてなしは出来ないが、此処に滞在して構わない」
「本当に?!ああ、ありがとうございます……!」
 感涙までも流さんばかりに喜ぶ女に適当に話を合わせてやりながら、聖女の思惟はもう他所にある。
 どうせこの男の死体の末路は出来損ないのゾンビだが、せめて色々試してやろう。そもそも彼女の目当てはこれではないのだ。
 三日の間に、今目の前にいる女には真新しい死体になって貰うのだから。

●死者への冒涜
「死んだ者をよみがえらせたいと願ったことはある?」
 私はあるよ。集まった猟兵たちへ、笑みもせぬ真顔でラファエラ・エヴァンジェリスタは言った。この黒きグリモア猟兵自身も、背後へと従えた白銀の鎧兜の騎士もまた既に生なき者である。
 頬杖をつきながら、女は黒い洋扇を揺らす。
「貴公らや、貴公らの知人にもデッドマンはいるだろうか。事実、そのように何らかの禁忌の術で死者の肉体を蘇らせることは可能らしいな。今回、アポカリプスヘルにてオブリビオンがこの術を求めているという予知をした」
 告げる声音は淡白だ。
「その探求心が本物なのか戯れなのかは知らぬがね。死者を蘇らせる者が居るとの噂を流して己の根城に死体を集め、実の目当てはそれを持ち込む人間だ。とびきりの新鮮な死体が手に入るゆえ」
 蘇らせる為に殺すとは狂っているね。女は何処か乾いた声で笑った。
 出処の知れぬ眉唾ものの噂であれど、大切なものを亡くした心の傷には、闇に差す一条の光の様に、砂漠に落ちた雫の様に沁み渡る。弱り目につけ込む様なやり口を、予知に見た一通りをラファエラは猟兵たちに語って聞かせた後に。
「廃墟には何人かの人間が居る。オブリビオンが新鮮な死体にする為に足止めをしていた者たちだ。あの様な場所に辿り着けるくらいだから、概ね奪還者か何かだろうが、戦力としては期待出来ない」
 扇を揺らす手を止めて、猟兵たちをしかと見る。
「彼奴を斃す前に貴公らは彼らの大切な者たちの成れの果てを討たねばならぬ。オブリビオンの死者蘇生の術など出鱈目で未完成ゆえに、哀れな死体も犠牲者も、ゾンビになって彷徨うばかり。今度こそ眠らせてやっておくれ」
 頼んだよ、とそう告げて女が煽いだ扇から、薔薇の香と黒い茨が広がってゆく。その先で不毛の荒野を見下ろすは憎らしいほどの晴れ空だ。


lulu
ごきげんよう。luluです。
命の軽い世界でも、大切な存在の喪失はやはり耐え難いものでしょうね。

●一章
砂の荒野の廃墟にて、ゾンビとの集団戦。
廃墟には愛する死者の蘇生を夢みてこの場を訪れた一般人が何人かいるようです。

●二章
ボス戦。黒き聖女。

戦後シナリオですので二章完結。
各章プレイング受付は断章投稿後を予定しております。
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第1章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●声の限りに君を呼び
 この世界において亡骸は幾らかの時を経たならば高い確率でゾンビに至るとされている。オブリビオン・ストームの黒き力がそうしてしまうのだ。だから火葬を推奨されているのに、この廃墟へと訪れた者たちはどうしてもそれが出来なかった。彼らの多くはそれなりに腕の立つ奪還者ではあれど、彼らがこの地に至る道中で「それ」が起きぬとも限らなかった。彼らの拠点を遠く離れて元より危険な道中を、傍らで最悪の悪夢が首を擡げる恐怖を押し殺し、それでも果ての知れない砂の海といくつもの夜とを超えて此処に来た。
 病で死んだ娘の為に。オブリビオンに殺された恋人の為に。資源の危うい拠点での諍いで命を絶たれた兄の為に。己を庇って死んだ戦友の為に。或いは、或いはーー……
 奪還者たちの歳も性別も亡くした者との関係も様々なれど、いずれも心に抱く想いは一様だ。ただもう一目、愛しい笑顔に逢いたい。それだけだ。
 暫しを待つよう聖女から告げられた彼らは最初は廃墟の無数の部屋のひとつでそれぞれに過ごしながらも、やがて目的を一にしてこの地を踏んだ者同士、幾らかの交流も生まれていた。
 もうすぐ大切な人に逢える。喪失の中で掴んだ希望は彼らに笑顔を齎した。各々が蘇りを待つ者たちの在りし日の昔話に花を咲かせて、もう一度逢えば伝えたい言葉やしたいこと、かつて交わした約束だなんて語り合う。愛しい者を亡くしても残酷に続く日常にその名残や変化を見出す度に、或いはその名を唇に上らせるだけでさえ胸を抉られるほどだった、否、起きてある時間をずっと涙を零し続けたほどの喪失の深い悲しみの中にあっては、二度とこうして笑顔になれる日なんて来ないものだと思っていた。それとてつい先日のことなのに。だから彼らはこうして救われた互いの幸運を喜び合って、互いともうじき逢えるであろう互いの愛しい者たちのこれからの幸いを言祝いだ。暗い部屋なれど希望に満ちた時間がただ緩やかに過ぎてゆく。
 扉の外におぞましい呻き声が満ちたのは、そんな時。
 永い時の間に風が運んだ砂に半ば埋もれてすべて地下めいたこの廃墟には、埋もれる前から地階があった。聖女が儀式を行うというその空間を閉ざした扉が、今、開け放たれて、解き放たれた者たちがある。
「さぁ、猟兵たちを殺してしまえ!」
 猟兵たちの襲来に気づいた聖女が差し向けたのは、訪れる者に知られぬように地下に封じ込めていた無数のゾンビたち。誰かが愛して此処に連れて来た者たちの、誰かを愛して此処に来た者たちの成れの果て。
 戦いの音と気配を感じ取り、奪還者たちの誰かが武器を構えながら用心深く扉を開いた。立ち尽くす彼に他が問えどもその喉からは声にもならぬ絶望が僅かに空気を揺らして漏れ出るばかり。
 覚束ぬ足取りでその身を微かに揺らしながら、奇しくもそこに佇んだのは彼が蘇らせたいと強く願って此処へ連れて来た存在だった。
 けれどもあんなにも希ったあの日の笑顔はそこになく。
 朽ちて崩れたゾンビの顔で、愛した者へと牙を剥く。

【マスターより】
奪還者たちはそれぞれの大切な存在相手には戦えませんので、適宜保護してやってくださいませ。
プレイング冒頭に🥃と記載頂くと、大切な者を討たれた奪還者からの容赦ない罵倒が注ぎます。
リオ・ウィンディア
ごめんあそばせ、殺し屋よ
二度目の葬式に
喪服姿でちょこんとお辞儀

🥃
愛してた?また笑顔を見せて?
見えるものにどれだけの価値があるというの
私は彼と約束したの墓場の先までと
私は望む、彼の白骨と共に砂に消えていくのを

だから、わからない
けれどもその罵倒も愛の形なのでしょう
それは認めるわ
だから存分に罵ればいい

靴の食感と地形の違和感【第六感】を頼りにゾンビを探すわ
せめて骨なら私ももう少し愛着が湧いた気もするけれども、そんな表情で襲われてもねぇ

ダガーを握りしめて刃を返して【二回攻撃】
首を刎ね四肢を刎ねる

愛しているのはあの人の生き様、考え方、それが朽ちるのならばそれすらも私は尊重するわ
彼の魂と共に私はいるから。



●肉体は死して朽ちるとも
 扉の前に佇んだ小柄なゾンビは、男にとっては最愛の娘の成れの果てだった。長い病で痩せこけた彼女は元より青白い肌をしていたけれども、今や紙の様な白へと至り、それさえ朽ちて腐った肉を覗かせながら疎らに剥がれ始めている。男手ひとつで彼女を育てた男が最期の朝に不器用な手で編んだ三つ編みだけが皮肉なまでにそのままで細い肩に揺れていた。
 手にはライフルを構えながらも、娘であった存在が己へと伸ばす朽ちた指先を、立ち尽くすばかりの男は避けることも撃つことも出来ぬまま、そのいずれを選ぶことさえ
 突如、吹き抜ける風の様に黒が舞う。その黒が靡かせたひとすじの銀の閃光が、少女の肘先を斬り飛ばす。
「ミミ……!」
 客観的にはその命を救われてありながら、男は安堵などとは程遠い悲鳴じみた声で以て斬られた娘の名を叫ぶ。当の娘が漏らし続ける呻き声は先からずっと同じ調子であったから、既に痛みなど解らないのであろうけれども。
「おまえ、何てことを……!」
「ごめんあそばせ、殺し屋よ」
 閃光の過ぎた先に男が顔を向けたなら、彼の娘と同じ年頃の喪服姿の少女が、優雅にそのスカートの裾を摘んでちょこんと一礼をする。その右手に握りこまれたダガーの刃が血に濡れている。
「二度目のお葬式の参列に来たわ」
 白く可憐なおもてを上げながら、リオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)は落ち着き払った声で男へと告げる。
「ふざけるな」
 少女を背にして立ちながら、怒りに震えるその手で男はライフルを構え直した。愚かにもその銃口はゾンビではなくリオを向く。
 部屋の中には数名の奪還者たちがいた。この男と同様に愛する者の死を受け入れることが出来ないでいる者たちだ。
 死んだ者の笑顔を今一度と願う彼らのその心情がリオには全く理解が出来ない。墓地を渡り歩き、骨を愛でるリオはよくよく知っている。人はいずれは死ぬものだ。
 リオは夫と約束をした。彼女の愛はこの生になど留まらぬと。たとえいつの日か死がふたりを分かつとも、冷たい墓標と土の下、この身が朽ちて果てようと、墓場の先まで共にありたいと強く願って、その通りに誓いを立てた。叶うことならその末に、愛しい彼の白骨と共に己も眠り、砂へと消えて行けたならどんなに素晴らしいだろう。
「見えるものにどれだけの価値があるというの」
 男の後ろで朽ちた顔を歪めて牙を剥くあの存在は、確かに生前、この目の前の男の娘であったのだろう。その命が絶えて、魂さえも失くしてこの場にただその存在を残すばかりの肉体に、幾らの価値があるだろう。斯くも朽ちてもこの男から見ればまだ幾らかは愛した娘の面影を留め、その存在を偲ばせるものだとてーーほら、この今も「娘」であった存在は朽ちて血を滴らせた口腔で躊躇いもなく父たる男の背へと齧りつこうとするではないか。
 リオの背に、白が弾けた。
 眩いばかりの白き両翼を広げた彼女の纏う喪服もまた白き衣へと変化を遂げている。悼むのは終いだ。水と風の精霊の加護を受けたダガーは煌めきを増し、今や生きる屍と化した少女が大きく開いた口を裂く。痛みはなくとも物理的に加えられた力にのけぞったその身がそれでも無事の片手でリオを捉えようと襲うから、返す刃でそれを落として、次いだ一閃で首を斬る。
 そのどれも一瞬のこと。振り向いてその結末を知り、支離滅裂に叫びながら、首も両腕も失くした娘の身体が崩れ落ちるのを男は夢中で抱きとめた。その身が完全に動きを止めたことを知り、肩越しにリオを振り返るのは憎悪の瞳。
「どうして殺した?!こんな……こんな姿になっても俺の娘だ!」
 既に答えた筈の問いである。
「こんなこと頼んでない!ミミに殺されるなら俺はそれでも構わなかった!勝手にしゃしゃり出てきて救世主気取りか?」
 涙も枯れたと言わんばかりに血走った目で叫ぶ男に、リオは強いて反論はしないでやった。これも確かに愛の形だと頭で理解は出来ている。
「呪われろ!おまえもおまえの愛する者たちももがき苦しんで百度死ね!」
 とは言え流石に聞くに堪えない。ほう、と溜息ひとつ落として、リオはダガーを握り直した。
「貴方が愛していたのは彼女のかたちの器なの? その魂を愛しているならば、死は終わりではないはずよ」
 少なくとも、リオにとってはそうなのだ。リオが愛しているのは夫の生き様であり考え方である。けれどそれさえ朽ちると言うのならそれも含めてリオは愛せる。その果てでさえ彼の魂は己と共に在ってくれることをリオは信じて、知っているから。
 やがてすすり泣く声をその背に聞きながら、今はもう喪衣を白へと変えたリオは、別のゾンビへと翔け出して蓮の名を持つ刃を振り上げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
【宵椿】

マスタリング歓迎
🥃🥃🥃

頭に浮かぶは孤児院の弟妹達、部下、事件の被害者
そして付き人であった彼
全て喪った者達だ
反魂させたい衝動を痛い程理解出来る
だからこそこの手口は許せねど
犯人達を憎みはしない
…ふと感じる手のぬくもりに
瞳細め、椿と視線を合わせ
「──大丈夫だよ。ありがとう」
そして心の内にて気合を入れ直す

椿と奪還者らを最優先に庇い護り
傷一つ付けさせない
誰かの『大切』ではない者はきっとこの世にはいない
今まで対峙してきたオブリビオンだって
少なくとも俺はそう思っている

断ち斬るはその根源
願うは安息

罵倒されようと構わない
奪われた悲しみもこの世の不条理も
全て俺にぶつけろ
──全部、受け止めるから


花厳・椿
【宵椿】
🥃◎
苦しそうな顔をしている梓お兄ちゃんの手を握る
大丈夫?
微笑む顔に微笑みを返す
そうね
梓お兄ちゃんは強いもの

アレには中身が無い
器も駄目
それでも人は望むのかしら
どんな姿になっても一目逢いたいと
椿には理解出来ないわ
だって『椿』にはもう一度同じように
いいえ
それ以上に美しく幸せに微笑んでほしい

イザナミが何故、怒ったかご存知無いようね

『かごめかごめ』

可哀想に
こんな姿にされて
愛する人には見せたくなかったでしょう

声を荒げる人々を一瞥する
こんな姿にされたあなた方の愛する人は
果たしてあなたを赦すかしら
それがわからないなんてあなた達も可哀想

梓お兄ちゃんが護ると言うから護ってあげる
死体が増えても面倒だもの



●嘆き悲しみ、怒りに狂いて
 生ける屍どもの流れ込んで来た部屋で、奪還者たちは各々の武器を手に抗っていた。襲い来るゾンビが知らぬ顔ならば、その手足を狙って攻撃の手を弱めることくらいは叶う。だがこれも自分と同じ境遇の誰かがその蘇りを願った存在と知ればこそ、喪失を知る彼らにはそれ以上は躊躇われ、明らかに押されつつあった。
 駆けつけた黒衣の男ーー丸越・梓(零の魔王・f31127)もまた、これまでにあまりにも多くを喪い過ぎて来た。
 たとえ世の理に背こうとも、反魂などと言う夢物語が叶うなら、梓にだってもう一度会いたい者たちは多くいる。血の繋がりも持たぬ梓を兄と慕ってくれた孤児院の弟妹たち。刑事としての梓の目指す正義に共感し、志を共にして梓に付いてきてくれた、友でもあったかつての部下たち。それに、つい先日の依頼において梓の付き人として在った、優しい嘘を遺して行った一人の青年。そうした愛しき者たちのほかに、仕事柄多く見てきた様々な事件の被害者たちのことでさえ、その生前には顔を会わせたこととてないと言うのにこの今脳裡に浮かぶのだ。それは梓が彼らのこともまた守りたかったのに守れなかった相手と見なし、終生その責を背負って生きる覚悟ゆえにだろうか。
 頸に巻いた包帯の下で、閉じかけの傷が咎める様に鈍く痛んだ。ほんの数日ばかり前、梓のその手の届かぬ距離で、けれども確りと見る前で自死を選んだかの付き人の亡骸より、ユーベルコードを用いて梓が己の身へと移した傷である。頭では手遅れだとは知りながら、紅にその身を沈ませながらも口元に微かな微笑みを湛えて眠る彼の目が再び開かぬだろうかと淡く願ってのことだった。理性では折り合いをつけてありながら、未だ日は浅く、その時の傷も喪失も未だ癒えない。ゆえにこそ梓にはこの場に集った奪還者たちの気持ちが痛いほどに解ってしまうのだ。
 その手をそっと握りしめる小さな手があった。梓の体温よりはいくらかひやりとしながらも確かな温もりがそこにある。
「大丈夫?」
 白く煙る睫毛の下から梓を見上げる金の瞳は、花厳・椿(夢見鳥・f29557)だ。
「ーー大丈夫だよ。ありがとう」
 その見目はいとけない少女のものでありながら、微笑みを見せる彼の言葉を額面通りに受け取るほどには椿は決して子どもではない。そうして彼がひとたびそう告げた以上はこれ以上の心配を彼が望んではいないということを解らぬほどに愚かでもない。だからその背をそっと押すように、励ますように微笑み返す。
「そうね。梓お兄ちゃんは強いもの」
 信頼ゆえに答えは待たず、そのまま花の唇は澄んだソプラノで古い童謡を紡ぎ出す。示し合わせた様に梓もまた愛刀を抜いて駆け出していた。
 椿の歌声に誘われるようにどこからともなく集うのは、真白き蝶たちの群れである。音もなく優雅に舞い遊びながら、蒼白な肌をしているくせに血だの腐敗だのでやたらとりどりの色を咲かせた屍どもに群がって、生命の残滓と言うにもお粗末なその偽りの生の源を絞り取る。
 二本の足で立ち歩いてありながら、あれらにはもはや中身がないと椿は知っている。けれどもそれのみであるならば、人らしい心など己も持たぬ椿はこうまで嫌悪は抱くまい。だが、その上で中身のないその器さえ朽ちて汚らしいと来たならば、存在価値がわからない。ああも醜い姿に成り果ててさえ、愛した存在であるならば逢いたいと人は願うものであろうか。
 椿なら、絶対にお断りだ。記憶の中の美しい面影さえも塗り潰してしまう様な醜悪な姿であれば逢わぬほうがましなのだ。だからもしも『椿』にもう一度逢うことが叶うならば、その時彼女には在りし日と変わらずにーー否、それ以上に美しく、幸せに微笑んでいて欲しい。だって椿が愛したのは優しくて何よりとても美しい『椿』なのだから。
 それには『椿』も同意してくれるだろう。結局はその終着へ至れなかった黄泉の国からの帰り道、振り向くなと告げた言葉に背いた夫へとイザナミが呪詛にも至る怒りを向けたのだって、愛する人の前ではずっと美しく在りたいと願った女心に違いないのだから。ーーそんな神話で人のこころをいかにも学んだ気になったこの人ならぬ存在は嘯くのだ。
「可哀想に……こんな姿にされて。愛する人には見せたくなかったでしょう」
 心のうちを零した後に再び歌を紡いだならば、蝶の群れは尚踊る。腐り爛れた屍たちがが刹那とは言え白く覆い隠されてゆく様は少しだけ椿の気分を良くしてくれた。まだ斃れるには至らぬそれらが蝶に覆われたまま、梓の慈悲の刀が薙いでゆく。刃など見舞わずたとえ峰打ちでさえ崩れそうなほどに朽ちた身にさえ傷のひとつも入れることはなく、一度は潰えた筈の身に歪な形で尚縋りつき、生を妬む様にして愛した者にさえ牙を剥く彼らの悲哀を終わりにすべく、その呪縛のみを断ち切ってゆく。
 彼らの視界の片隅に、大口径の銃を手にしながら、顔の半分を失くした男のゾンビの前で立ち竦む女の姿があった。目にしたならば後は早い。女へと襲いかからんとした生ける屍に白い蝶の群れが纏わりついて妨げて、梓の慈悲の刃が安息を齎した。
 言葉のひとつ掛けてやろうと思うのに、背後から迫る別のゾンビたちの気配へと気づいた梓が身を翻した刹那、響き渡るのは銃声だ。
「人殺し!!」
 劈く様に叫んだのは助けてやった女であった。弾丸は梓の背後から左肩を掠めていた。
「あなた、梓お兄ちゃんに……!」
「椿、良い。それで、危ないからお前は下がってーー……」
「助けてなんて頼んでない!何してくれるの?おまえ自分が何したかわかってんの?この人殺し!」
 守ってやろうとする梓にさえ叫び立てる女の声が耳に障って、椿は眉を顰める。苛立ち混じりに手のひらで示してやるのは、今はただの屍へと戻り横たわる、女が足を竦めた相手。
「こんな姿にされたあなたの愛する人は果たしてあなたを赦すかしら」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!」
 火に油である。女の声は絶叫じみた。
「元通りになるって聞いたんだ、知った風な口利くなクソガキが!おまえが私たちの何を知ってんの?何様のつもりなの?つーかおまえらは何しに来たんだよ?!」
 わあわあと泣き喚きながら、自棄の様に女はゾンビたちへと銃を乱れ撃つ。
「私たちが助けて欲しかったのは今じゃない!あの時……嗚呼なんで、なんでロドルフォだったんだよ?!おまえらが代わりに死ねば良かったのに!」
 見境のない銃撃を縫う様に梓は無言でゾンビたちへと刀を振るい、それを見た椿も仕方なく白い蝶たちを敵だけへと嗾ける。
 やがて周りのゾンビたちを粗方ただの屍に還す頃。改めて真正面から己へと向く銃口を梓は動じず眺めていた。纏う空気に殺気を帯びた椿を片手で制して、梓は女の瞳を見つめてやって。
「……撃ちたければ撃つと良い」
 それは梓の本心であると共に、多くの狂った犯人を見てきた刑事としての本能が無意識下に導いた最適解。
 人間の怒りと言うのはいつだって二次感情だ。怒りに我を忘れた者の根底にあるのは別の感情で、今この女を狂わせるものは怒りなどでなくーー
「それでお前の悲しみが消えるなら、構わない」
 静かに告げた梓を女は睨みつけた。睨みつけて、反論を寄越すのだ。
「そんなので……」
 この悲しみが消える筈もない。言葉の続きは声にならずに、涙と嗚咽が溢れるばかり。女の手から銃が落ちる。
「わああああああ!!!!なんで、なんで……!!」
 声を上げて泣き崩れ、二度目の喪失に慟哭し続ける女を梓は黙って見下ろしていた。無表情を装う中に彼を知るものだけが気づける微かな悼ましさを見出して、椿がそっと彼に寄り添う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月原・有希
🥃人間を弄ぶなんて、絶対に許せません……!あ、あれは、あの人たちは……もう人じゃない、人間じゃない!清算を、付けないと……
数が多いから、火炎瓶を使うしか無さそうです。前列のゾンビをテーザーで足止めして固まったところを狙って、真ん中に向かって爆撃します。燃やしてしまえば、きっと復活することは無い筈……安らかに、眠って欲しいです。
奪還者さん、ここは危険ですから、こっちに……え、今の方が奥さん?わ、私、そんなつもりじゃ……に、人間を殺した、って、でも!でも……私、人間を……?……ごめんなさい。私、もう、行かないと。ごめん、なさい……



●業火がその身を焦がせども
 「自然な人間」とは程遠い。
 廃墟に蠢くゾンビ達の群れをその円らな黒い瞳に映して、月原・有希(ヒューマニストの郷愁・f27590)がまず抱いたのはそんな感想で、次いでそれを思った自分への強烈な嫌悪感に襲われる。
 自然な人間がいちばん尊いものである。有希の育ての親たちはよくそんなことを口にしたものだ。純然たる存在からはかけ離れた、混じりものたる亜人たちも、世の脅威であり異形たる稀有な異能の持ち主たちも、彼らは決して認めずに、そうした存在を目にした日には、常の穏やかさや有希に見せる優しさからは想像もつかぬほど悪しざまに非難して罵った。それが半ばテロリズムにも近い過激な思想であると有希が知ったのは、有希ひとりを逃して彼らが死に絶えてからもう少し後のことである。差別に等しいその思想を有希は嫌っているというのに、長く吹き込まれ続けた思想はこうして折に触れては静かに蛇のようにその首を擡げて、けれどもいつも理性によってこうしてすぐにそれを自覚してしまえばこそ有希を暗く沈んだ気持ちにさせる。
 しかし裏を返すならこのゾンビの群れを前にして「自然な」人間ではないと断じたその思惟は、彼らも広くは人間の括りに入ると認識していることの証左に他ならぬ。事実、人間を弄ぶこの所業には有希は憤りを禁じ得ない。ゆえにこそ、その人間たちへと向けて愛用のテイザー銃を白く小さなその手に握りしめながら、引き金を引くことを未だ躊躇う自分がいることも自覚せぬわけに行かなかった。
 今、よろよろと覚束ぬ足取りで有希へと向かい来るゾンビの群れがある。無意識に逃げ場を求める様にして後ろを見れば、少し先、四十絡みの奪還者の男がひとり、疲れたように壁に背を預けて座り込んでいた。逃げ場はないし、逃げてはならぬ。時間がないのだ、覚悟を決めろ。
(あ、あれは、あの人たちは……もう人じゃない、人間じゃない!清算を、付けないと……)
 叱咤する様に鼓舞する様に心の内で己へと強く言い聞かせてやりながら、キッと眦を吊り上げて、有希は迫り来るゾンビ達へとテイザー銃を向けてやる。
 その前列へと向かって引き金を引けば、銃声もなく射出されるのは金属のほんの小さな棘である。ゾンビたちの腐った皮膚には易く潜り込みながらも到底致命傷には程遠いそれは、けれども有希が握る銃から莫大な電流を連れて来る避雷針の役目を担う。眩いばかりの閃光を伴って放たれた電撃は前列のゾンビ達の動きを止めて壁として、その後に続くものたちをも足止めをした。何と言っても数が多いのだ。止むを得ぬ。刹那の逡巡を噛み殺し、ゾンビの群れのただ中に有希が投げ入れるのは火炎瓶。着弾と同時に硝子片を撒き散らしつつ、爆ぜる様な大火力で燃え盛る炎が、生ける屍たちをかりそめの生あるままに火葬する。
「奪還者さん、ここは危険ですから、こっちに……」
 轟轟と燃える炎の熱に煽られてその真っ直ぐな黒髪を靡かせながら、有希が向かうのは背後で座り込んでいた奪還者の元である。
「……ありがとう」
 どこか力なく微笑んで、暫しの時をおいてから奪還者は立ち上がる。けれどもその歩みは有希を過ぎて、未だ燃え上がる炎の傍らで焼け焦げて倒れ伏すひとつの亡骸へと至る。
 幾ら火炎瓶の爆心から外れていたといえ、その身を黒く焦がしたほどの炎は直ぐには消えるものではない。埋み火を抱いて未だ燻る屍はその手をじわじわと焼き焦がしている筈なのに、けれども男は身をかがめ、愛おしむように、労るように、既に炭化した屍を撫でることをやめないでいる。その様に有希が抱いたひとつの懸念を見透かす様に、男は先回りして告げる。有希の方を見もせずに。
「ひとつだけ聞いてくれるかい。君が葬ったこのゾンビはね、生前、私の妻だったんだ」
「え、奥さん……」
 どれがどれであったろう。黒焦げの無数の屍と、それが立ち歩いていた時の姿を有希は結びつけられないでいる。けれどもこの男は迷いなく己の妻へと足を向けた。そこに垣間見る愛情が、今の有希には何よりも残酷なものに思われる。
「とても優しい女性だったよ。私が奪還者としてまだまだ未熟でろくに物資も持って帰れない頃から、不満のひとつ言わないで、拠点で帰りを待っていてくれた」
 目尻に浅く刻まれた皺を深めながら、妻であった存在をいとおしむ様に見下ろし微笑んで、同じ顔のまま男は有希の方を向く。
「君は私を助けようとしてくれたんだね。そのことは本当にありがとう。ただ、この彼女もひとりの人間だった。どうかそれだけ覚えておいて欲しい」
「わ、私、そんなつもりじゃ……」
 人間?ーー人間。
 今目の前で石の床に散らばって燃え尽きたそれが、未だ燃え続けるそれが、あれもこれも、全てすべて、すべてーー
「に、人間を殺した、って、でも!でも……私、人間を……?」
 狂乱に陥る有希のことを、男は黙って悲しげな微笑みを湛えたままに見つめていた。責める言葉のひとつでもあればどれだけ彼女は救われたろう。
「……ごめんなさい、私、もう行かないと。ごめん、なさい……!」
 言い訳をすることさえも思い至らず、ただ謝るのが精一杯。逃げる様に踵を返して有希は駆け出した。どこまでもどこまでも、男の視線が追ってくる、そんな錯覚に囚われながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶

大切な人との別れは
どうしたって辛いよね
もう一度殺させるってのも痛ましいし
僕達でやるしかないね

悲しみにつけいる黒幕は許せないなぁ

ガトリングガンで薙ぎ払うのも
奪還者の事を考えると気が引けるし
邪神の力を使わせて貰おうか

邪神の司るものは停滞、固定、保存
あいつに言わせると幸せなまま時を停めてしまえば
悲しい別れは永遠に来ないって
ありがた迷惑な優しさを語るんだろうね

静寂領域を使用しゾンビ達を
自重で砕けるまで完全に凍らせよう
石像にして形が残るのも酷だしね

不意打ちを受けないよう
ドローンを飛ばして周囲を警戒
ゴーグルに転送して動きを把握しておくよ
同様に奪還者の位置も把握して
襲われる前に神気でゾンビの動きを停めよう



●時は停まれど時既に遅く
 蹂躙されるも同然に猟兵たちに屠られた無数のゾンビが、動きを止めた屍となりあちこちに転がっている。傍目にはただ一様に「腐乱した死体」以上の感慨を抱けぬそれらとて、かつては名前と人格を持っていたのであろう。そうして二度目の死を遂げたそれらの中のどれかが愛した人だったのだろう、泣き喚く奪還者たちの姿があった。この世界で戦地に身を置く彼らなら人の死などは倦むほど目にして、その手でゾンビを斃したこととて一度や二度ではないであろうに、度を超えた悲しみは今や怒りへと形を変えて、猟兵達へと罵声を浴びせかける者もある。
 どこか勝気な蒼い猫目にその光景を映してやりながら、仕方ない、と佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は思う。大切な人との別れはどうしたって辛いものだ。見目のよい無邪気な少女の姿をしていながら、その実、晶の内面というべき人格はーー彼(晶)は、四半世紀を確かに過ごした成人男性なのである。ごく普通に生きてきたその人生で目にして来たごく普通の人々の営みを、その悲喜交々を晶は知っている。奪還者とて猟兵たちに比べたならば「ごく普通の」人々だ。そうして自身を他の猟兵たちよりは幾分彼らに近いと思える晶には、彼らの悲嘆はよくわかる。
 ただ、猟兵であることを差し引いたとて、彼らと晶との間には決定的な違いがふたつある。まず一つあげるとするならばーー晶にとっての大切な者はこの場にいないこと。愛する者の死を嘆いて此処へと至った奪還者たちに、今また今度は自らの手でもう一度愛する者に死を齎せと言うのはあまりに痛ましい。
ゆえに晶は心を決める。
 ドローンを幾つか放ち、蒼い瞳を多機能ゴーグルの下へと隠してしまいながら、
「僕達でやるしかないね」
 ーー僕"達"。気づけば意識もせずに口をつくほど、深く染み付くその一人称である。
 高く結わえた豊かな金髪をしゃらりと揺らす少女のかたちの眼前に、他の猟兵が討ち損じた、或いは尽きずに後から後からこの部屋へと至っては未だ無傷のゾンビたちの群れがある。携行型のガトリングガンを華奢なその手に携えながら、引き金を引けば無限に生み出す弾は彼らを薙ぐであろうに、晶はそれをせずにいた。少し離れた場所から得物を握る手さえも力なく下ろしたままに、晶を、晶へと向かうゾンビたちを呆然と見つめる少年の姿があった。その瞳の見つめる前で、彼の大切な誰かへと与う死はせめて、死という結果は同じであれど穏やかなものにしてやらねばならぬ。己の手では成し得ぬそれを、晶はその身に宿す「もうひとり」の力を借りて成し遂げる。
 ーー死臭に満ちた部屋の空気が、刹那、揺らいだ。幾らかの禍々しさを孕むそれはおよそ清浄とは言い難くも、澄んだものへと成り代わる。
『さあ、皆様を優しい微睡みにご招待致しますの』
 笑みを含んだ驕慢な少女の声は誰の鼓膜も揺らさずに、幻聴とでも称すべくその脳裡へと語るのだ。この場に満ちた神気を浴びたゾンビたちの、元より鈍い動きが徐々に重さを増して、やがて時をも止めたかの様に、文字通り凍りついてゆく。氷像めいて薄氷を煌めかせたその身は、そうして冷えきるその肌に成した結露をも凍りつかせて、氷は徐々に厚みを増して、やがて自重で崩れ出す。晶の用いたユーベルコード【静寂領域(サイレント・スフィア)】の異能であった。
 「普通の」人間だった晶が奪還者たちと異なる点を今もう一つあげるなら、その身に邪神を宿していることだ。晶にとってはあれは事故とも言うべき出来事。趣味の登山の最中に予期せずルートを外れたその先で、当時は未だ成人で男性だった晶は不思議な石像を見た。惹き込まれる様に手を伸ばしてそれに触れーー封じられていた邪神にその身を乗っ取られ、姿かたちさえ邪神本来の少女のそれへと変えられながら、人格だけは辛くも保って今へと至る。
 晶がその身に宿す邪神が司るのは停滞、固定、そして保存。それらに象徴されたその異能は、時間停止や彫像化、それからこの今用いた永久凍結を齎すのだ。朽ちた姿を愛する者の目の前にとわに残すのも残酷だから、晶は凍結を選んでやった。
 死角の筈の晶の背後で牙を剥くゾンビが凍って、やがて砕けてゆく様を晶は振り向かぬままに見た。先刻放ったドローンたちは遍くこの戦場をその搭載されたカメラに捉え、転送された映像は、晶の眼前、ゴーグルの内へと像を結んでいる。彼方で神気にとらわれた屍がまたひとつ、崩れ落ちる様さえ克明に。
『幸せなまま時を停めてしまえば、悲しい別れは永遠に来ないでしょう?』
 ありがた迷惑な優しさで嘯く邪神の無邪気な声を晶は聞いた気がした。凍って砕けた一塊の肉塊を前に涙を流す先の奪還者の少年を目にしては、到底頷く気になどなれぬ。
 時を停めるにはどうやら少し、遅すぎた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◎🥃

◆心情
歩み続ける故に、私も我が軍勢も、共に「人」なのですから…

◆行動
『暗キ獣』を使用
【集団戦術】を駆使し奪還者達を防衛

軍勢と共に【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復

…救済?
何を甘えているのでしょうか
『あなた』自身が実現を目指す行為であれば、如何な末路であろうと肯定しましょう
ですが、誰かの手を借りた不確かな「希望」に縋った時点でその資格はありません

誰もが死別を迎えて後悔し、しかし其を抱いて歩みを進める
何故なら其は、死者が遺した想いや生き様をも抱いた歩みであるから

其れこそが、「ヒト」が「人」である所以でしょうに…



●後ろ向きとて歩みは歩み
 同じ死者たる存在でありながら、どうして斯くも違うだろうか。各々が槍を手に一糸乱れぬ規律でこの地を踏みしめる己の屍者の軍勢と、不明瞭な呻きを垂れ流しながら数と力量の差も知れぬまま無謀にも彼らへと向かうゾンビの群れを見つめて、霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は思案する。白く細いその手には似つかわしくない程に丈も重さもある黒剣で手近なゾンビを両断にした彼女の傍らを、疫病纏う屍獣が吼えて駆けてゆく。
 放心状態にある奪還者たちを囲って守る様にして、絶奈の指揮するままに屍者の軍勢は陣を敷いていた。
 そうだ。死してありながら彼らは絶奈の声を聞く。別に強制されたものなどでない。それは彼ら自身の意志の下、蒼白き燐光放つ霧を纏いて、白き衣を髪を揺らしてこの戦場を駆ける女神を崇めて護り、どこまでも忠実に付き従っては、ただ勝利の為に槍を振るうのだ。死して尚歩みを止めぬその有様は、ゆえにこそ何処までも「人」である。誰かの槍に貫かれ、藻掻くゾンビの頸をまるで介錯するかの様に一刀の下に落としてやりながら、絶奈は思索をそう結ぶ。
 そのまさに対極にあるとも言うべき、己の意志など不在のまま、強制的にその両の足を、その牙を、生ある者へとただ引き寄せられるだけの死にきれもせぬ屍などがどうして彼らに敵うであろう。今、「人」たる屍者の軍勢が慕う女神が存分に暴れさせてやった魔力はこの場の空気を揺るがして、木の葉の様にゾンビたちを吹き飛ばす。その先で待ち受けるのは寸分の隙さえもなく整えられた槍衾。朽ちた屍を貫き受け止める。
「人でなし」
 不意に絶奈の背後より放たれた声は酷く冷ややかに落ち着いていた。
 胸のうちに強い怒りが満ちた時、激しい情動を昂らせる者も多いけれども、そのまた逆も存在する。じとりと絶奈を睨む女は、明らかに後者のようだった。
 無数の銀の穂先が貫いた内のどれかが彼女の愛する者だったのだろう。次の敵へと向ける為に穂先が乱暴に抜き去られては肉を裂き、投げ出されたその先で動きを止めた屍は朽ちた屍肉を床に散らして。引きも切らずにやってくる生ける屍どもに、死者の軍勢に踏みしだかれては形も留めぬ残骸に至り、どれとはもはや解るまいとも。
「こんなとこまで来たっていうのに救いも何もありやしない」
「……救済?何を甘えているのでしょうか」
 絶奈の形のよい唇は、呆れを隠しもせぬままに飾らぬ言葉でその内心を告げていた。
「『あなた』自身が実現を目指す行為であれば、如何な末路であろうと肯定しましょう」
 それが、茨の道であればあるほどに。
 かつてはただの人間としてその生を享けながら、後天的に神へと至った奇跡の存在。それが絶奈というこの白き異端の神の一柱である。確かに師には恵まれた。切磋琢磨する朋輩もいた。だがその上で決して楽な道などでは有り得ぬことは、今はもう絶奈ひとりを残して彼らの誰もが逝ってしまった事実が物語ろうと言うものだ。
 その奇跡さえ成し遂げた彼女からしてみれば、死者を蘇らせる等という傍から見ればまるで荒唐無稽とも映る試みだとて、真に願うというのなら己の手でこそ成すべき事柄だ。
 向かい合う絶奈と女の周りにて、その在り様だけは交わらぬ死した者たちが果たし合う。その喧騒さえ意にも介さず、絶奈は静かな声で続ける。
「ですが、誰かの手を借りた不確かな「希望」に縋った時点でその資格はありません」
 希望。それは誰もが暗闇で縋らんとするひとすじの光。だが光など掴めない。その手を伸ばして、すり抜けて、尚絶望に沈むなら、闇の中を這い手探りででも、定かなものをこそ己の手で掴みとるべきなのだ。
 絶奈の言葉を女は心底冷めた目をして聞いていた。
「あんたの肯定に何の価値があるの? 資格って何? あんたにはマルチェロを殺す資格があったってこと?」
 その言葉尻を捉えては女が淡々と重ねるのは、どう答えてもなじるつもりの悪意そのものの問いである。冷淡なれど、冷静である筈もないそれらには絶奈は敢えて答えない。答える価値を感じなかった。言葉に窮する様もなく視線と沈黙を向けてやったなら返るのは苛立ちだ。
「ねえ、答えてよ。大上段から批評しといてさ、自分は無傷でいるつもり?」
「誰もが死別を迎えて後悔し、しかし其を抱いて歩みを進める。何故なら其は、死者が遺した想いや生き様をも抱いた歩みであるから」
 問いを無視して紡がれた答えに、不意を突かれた様にその目を瞬いてから、やがて俯いた女の肩が震えた。押し殺す様にくぐもった声を漏らしてからややあって、もはや耐え切れぬという様にその喉から漏れたのは。
「あっはははははは!」
 怒りを通り過ぎて今や狂気じみた哄笑である。
「有難いお説法ならよそでやってよ。ねえ、わざわざこんな場所まで来て人殺しといてさ、その遺族にだよ?それって本気で言ってるの?」
「本気ですとも。歩みこそが、「ヒト」が「人」である所以ですから」
 それは気の遠くなるほどの長い年月を歩み続けた絶奈その人が、一度は死を迎えた者たちの軍勢がこの場で克明に語るというのに。そうとは知らぬ、知っても今はもはや狂乱の中では到底理解も及ぶまい女は尚も食ってかかるのだ。
「何よそれ? 私べつに立ち止まってたつもりなんてないのにさ、私の歩みを止めに来たのはあんたでしょ? 人でなしが「人」を語らないでよ」
 血走る眼は笑みを濃くしてゆくほどに、怒りを隠しようもない。
「お偉いご立派なあんたはさ、大切な誰かがぐっちゃぐちゃの肉塊にされたってしっかり歩み続けるんだろうね。もうね心底尊敬するよ、私には絶対無理だもん」
 どこまでも皮肉塗れの言い様に、もはや平静も装えぬ。
「私、あんたのことを永劫恨むよ。あんたの行く道にいつもあんたの愛する人の血と肉が散らばってるように寝ても醒めても祈ってやるし、」
 絶奈を真っ直ぐ向いたまま、刹那、女は銃を抜いて引き金を引く。
 二人の横合いから躍り出たゾンビの眉間に風穴が開いたのと、銃弾にさえ引けを取らぬ速さで絶奈の黒き剣がその首を薙いだのが同時。
「あんたの一番幸せなときに殺しに行くから覚悟しててよ」
 腐った返り血を浴びながら、もう笑みを消した女が告げる。
「どうぞご自由に」
 異端の神が今纏う蒼白く輝く霧は、穢れた血も悪意もその身に届かせることはない。答えた聖女のかんばせはただ白き儘、常と変わらぬ微笑みを湛えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『黒き風の聖女『ニグレド』』

POW   :    洗脳演説「黒き風こそが神の意志である!」
【『黒き風の教団』の教義の演説】を披露した指定の全対象に【オブリビオン・ストームを信仰する】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    『黒き風の教団』「信徒達よ、ここに集え!」
戦闘力のない、レベル×1体の【『黒き風の教団』の狂信者達】を召喚する。応援や助言、技能「【言いくるめ】」を使った支援をしてくれる。
WIZ   :    黒風魔術「神の意志に従うのだ!」
【オブリビオン・ストームを模した風の魔術】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彼岸と此岸は斯くも遠くも
「おまえたちは死を超克したいと願わないのか?」
 ゾンビたちが誰も二度目の眠りについて、今また静寂を取り戻した広間に女の声が響いた。その歩みにて屍肉を踏むのも意にも介さずに、優雅な足取りで猟兵達の前へと姿を現すは黒き聖女だ。
「黒き風は神の意思だ。その黒き風がゾンビを作るなら、死の超克もまた神の意思」
 その声は威厳を持ちながら朗々と、強弱、ペースや間の取り方、どれひとつ取ってさえ己の言葉に他人を傾聴させる術をよく心得た者のそれである。
 ーーかつて、とある地で「黒き風の教団」と呼ばれるカルト教団が名を轟かせたことがある。オブリビオン・ストームを神の意思として崇め、殺戮をよしとするのがその教義。洗脳で信者を増やし、破竹の勢いで規模を拡大して行ったその教団は、けれどもある日唐突に表舞台から姿を消した。
「此処ならば誰にも邪魔されることもなく、その術を追究出来ると思ったのだがな」
 その指導者が、この女。信者を増やし続ける中で、彼女はある日真理に気付く。
 死の超克は神の意思。黒き風により死者がゾンビに至ることで一見完結しているかに思えるそれは、けれども、果たして本当にそうであろうか。こうして神の意思を伝える己の身は、過去には死を経験しておきながら斯くも生に近しくここに在る。オブリビオンたるこの身を完成形だとするならば、不完全なゾンビなど途上にも満たぬ拙い未完の存在だ。神の意思の被造物が、未完成? 有り得ない。許されない。であれば己が完成させねばならぬ。
 そうして聖女はこの地に身を潜め、死者の蘇生の術を求めた。各地に散らばる信者たちに例の噂を流させて、新鮮な死体を集めては試行錯誤を繰り返す。
「どれだけ時間がかかろうが、私はいつか完全な形で死者を蘇らせてみせる。おまえたちに邪魔はさせない」
 その白き髪を千切れんばかりにはためかせながら、聖女の背後よりぶわりと風が吹く。オブリビオン・ストームを模した黒き風が、今、猟兵たちに襲いかかるのだ。

【マスターより】
聖女からの反撃はWIZ主体となりそうです。SPDの場合には信者の代わりに今回はゾンビたちに来てもらおうかなと。

奪還者たちはその辺にいます。怒りの矛先は聖女に移るも、無茶はしないので放置していても大事はありません。
リオ・ウィンディア
その信仰心に冷たい拍手と乾いた笑みを捧げましょうか
神の意思ならば私はそれすら呪ってあげる
2度目の人生を本気で願った人々を食い物にして、己が信仰心のために実験台としたその愚行
とっとと亡骸の海に還ればいい

敵の風の流れに沿うように【空中浮遊】で対応
魔術には呪詛の【結界術】を展開して身を守る
また鬼気による【恐怖を与える】ことで相手の隙を作る
【第六感、早業、精神攻撃、2回攻撃】
ニグレトに近づいたらすかさずダガーで切りつけ同時にダガーを媒体にUC発動

男の罵倒忘れやしないさ
そのまま呪詛としてお前に叩きつけてやるわ
肉に食い込む刃を嵐に変えて内部破壊を試みる

私が信じるのは死神
善悪の区別なく等しく皆の命を刈るもの



 黒き聖女の宣誓に、緩やかな拍手が降った。
「素晴らしい信仰心ね。開いた口が塞がらないわ」
 拍手と裏腹にリオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)が紡ぐ言葉は辛辣である。不服げな視線を寄越す黒衣の聖女へと、乾いた笑みを向けるのはこちらも黒を纏う少女。黒い衣に白い髪までは似通ってありながら、肌は褐色と乳白色。何処か対偶めいたその存在は、その実、在り様も考えも真逆なのである。
「それが神の意思ならば、私はそれすら呪ってあげる」
 拍手を止めて笑みを消したリオの金の瞳が聖女を見据える。吹き付ける風にその髪を、ドレスの裾をなぶられながら、けれども風の流れに逆らう様に膨らんだのは呪詛と殺気だ。黒き聖女は刹那の怯みを気取られぬ様に、その手にした杖を差し向けて、黒き風を叩きつけて来た。
「とっとと骸の海に還ればいい」
 ひらり、ドレスを翻し、まるで風に舞う様にしてリオの身体が宙に浮く。殴りつける様に吹き荒ぶ黒き風の本流に強いて逆らうことはせぬ。所詮流れ行くものなれば、その流れを読んで漂う様に縫う様に、受け流すのが賢かろう。無論、魔術によって齎された風である。黒き風は唐突に悪意の様に棘や刃を形づくれど、端からそんな小細工は見切ったものと言わんばかりに、先の呪詛と共にリオ張り巡らせていた結界がある。襲い来る黒を淡い光で迎え討ち、悪意の刃を散らして行く。
「二度目の人生を本気で願った人々を食い物にして、己が信仰心のために実験台としたその愚行、骸の海で後悔なさい」
 冷ややかな声が連れて来た殺気にその背を撫でられて、怖気だつような感覚に聖女が一歩を後ずさる。あれほど暴れた風がその刹那を僅かに凪いだのをリオが見逃す筈もなく、宙を蹴り翔けたその身は瞬時に聖女の懐に飛び込んで、清らな光を纏うダガーをその身に届かせる距離にある。距離を詰めてからの最初の一閃はまだ読みやすく、聖女はそれを黒い杖で受け流すことが叶いながらも、手のひらの中でくるりと刃を返す早業からの突き上げる様な二撃目は防ぎ切れずに身を穿つ。
『Bienvenidos! 私の舞台を見せてあげましょう。』
 その詠唱が解き放つ異能は、無機物を嵐へと変えて操作するもの。呪詛のこもった闇の音で、嵐は来たる。そのはずだ。けれども今その音はなく、荒れ狂う様な風雨とてなく。
「――……っ!」
 代わりのように、赤き眸を見開いた聖女が声にもならぬ声で叫んだ。
 リオが嵐に変えたのはその手に持ったダガーの刃だ。それは今聖女の身の内で暴れ狂う。その物理的な猛威と数多の呪詛とが、内からその身を蝕んでいる。――リオに罵声を浴びせたあの男の分の呪詛も、それに僅かながら気分を害されたリオからの呪詛もしっかりと引き連れて。
遮二無二振るう杖で、伸ばすもう片手でリオを払いのけようと足掻いて、そうして辛くも呼んだ黒き風が刃のかたちで背後から迫るのをリオは第六感で感じ取り、ダガーを聖女の身から抜きながら身をかわす。聖女のその身から今抜き去られたのは刃ではなく、傷口から血飛沫を巻き上げて荒れ狂う闇の音の嵐。黒き風などぬるいとばかりに吹き散らしてゆく。
「私が信じる神の話をしましょうか」
 げほごほと血を吐く黒き聖女を見やり、リオは己の唯一の信仰を口にする。
「死神という神よ。善悪の区別なく等しく皆の命を刈るもの」
 その神は今日、じきに――否、既にこの場へと降臨しているかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
死を超克ね
個人的に目指すのは自由だけど
誰かに犠牲を強いるのは見過ごせないね
オブビリオンだし
癒す方向には変われないんだろうなぁ

失われてから取り戻す事を考えるより
失われる前に永遠にする事を考えるべきですの

それ、不老不死的な意味では言ってないよね
ともあれ、後は力づくで停めるしかないね

風の魔術って見えない空気を使うのも利点だよね?
黒い風なら目視で射線を予想して避けたり
神気で風の時間を停めて防いだりしようか
後者は僕なりのオーラ防御だよ

攻撃を凌いだらガトリングガンで射撃しつつ接近し
相手の逃げ道を狭めるように攻撃していこう

動きが制限されたところでUCを使用
麻痺と拘束で動きを停めて
締め付けでダメージを稼ごうか



 目で見てさえもそうと明らかに知れるほど、黒い風が廃墟の中を吹き荒ぶ。その根源たるこの広間においては、黒の旋風は縦横無尽に全てを塗り潰さんばかりの勢いでその猛威を奮っているほどだ。
「死を超克ね」
 ごうごうと唸る風の音に消えるのは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の零した呟きひとつ。別に誰に聞かせてやる意図を持ったものでもないから構わない。晶が今、ただ静かに思うて曰く、それは個人的に目指すのであれば別に自由なことである。彼は偏った思想もなければ、苛烈な気性もしておらず、この聖女との因縁もない。ゆえに今狂信を叫ぶこの黒き聖女の思想そのものを真っ向から否定してやる気は起きぬ。
 だが、とそこには条件がつく。個人が目指すことは自由であれども、別の個人に、誰かに犠牲を強いるのであれば、人として、猟兵として無論見過ごすことは出来ない。今あえて見逃すことでその探究がいつか将来その実を結ぶとて、所詮オブリビオンたるかの聖女がその力を誰かを癒し救う方向へと使うとはとても思えないのだから。
『失われてから取り戻す事を考えるより、失われる前に永遠にする事を考えるべきですの』
 晶の思索を知りながらその心などは露も知らぬもののように、邪神が無邪気な少女の声をして彼の脳裡に語りかける。傍から聞けば耳あたりの良い言葉でありながら、事象の停止や停滞を司る彼女が口にする以上、晶は不穏なものを感じざるを得ぬ。
「それ、不老不死的な意味では言ってないよね」
 果たして少女の声は答えずに、機嫌の良さげな含み笑いを返すのみ。思わず零した晶のため息を黒い風が刈り取って行く。
「……っと!」
 思わず後へと跳び退きながら風の吹いて来た方向に顔を向ければ、黒き聖女の赤き瞳はこの今定かにこちらを向いている。その視線に随う様に、畳み掛ける様に吹き付ける、禍々しく黒い軌跡で迫る風の刃に、けれども晶は怯まない。
 晶に言わせれば風の魔術の脅威は「目には見えない」空気を扱う点にある。目には映らぬが故に何処から迫るか射線も読めぬことが脅威であると言うのにーー今、黒く色づいたこの風はそれらを易く許すのだ。ひとたびその青の瞳に写した以上、黒き風など飛来する矢や振り下ろされた刃を躱してやることと大差なく、駆ける足取りは射線を躱して聖女へとその距離を詰めてゆく。阻む様に聖女が次の風を呼ばえば、風の流れに抗ってばら撒かれ、その身へ届くはガトリングガンの無数の弾丸。誰かの愛した哀れな死者には使うを躊躇われたその武器も、今、その元凶が相手なら晶に微塵の躊躇いもない。
 降り注ぐ弾丸さえも払いのけるかの様にして黒き風が暴れた。けれどもその風の向かう先さえ、晶が狙って降らせた弾丸に誘導されて、晶からはかけ離れてある明後日の方向だ。ゆえにこの時、風に阻まれぬ路が確かに晶と黒き聖女の間に生まれ、晶が引鉄を引くと同時に、凪いだその箇所から聖女のその身へ向かうのは風があるならば流されてもしまいそうなほど華奢な無数の鉄糸であった。けれどもそれを阻むべき風は彼方を向いている。
「おのれ……ッ!」
 その身を囚われた後に於いて聖女が足掻けど後の祭りだ。
「そう簡単には千切れないよ」
 【試製電撃索発射銃(エレクトリック・パラライザー)】。鉄糸は黒衣を裂いて聖女のその身を締め付けながら、高い電圧を連れてきた。褐色の肌へ食い込み、血を溢れさせた箇所から火花が散る。苦悶の声をあげた聖女が、退けど進めどそこは蜘蛛の巣の上。この晶という男の、邪神の依代の手のひらの上。
『わからずやの貴女には、今この瞬間で時を止めてあげられたなら素敵ですのに』
 晶の脳裡に囁いた邪神の声は、この今、息の合わない操り人形の様に支配と苦痛から逃れんとする聖女の鼓膜も確かに揺らして響いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月原・有希
アド連○
人間は……人間は、死ぬんです。少なくとも、『神の意志』で生かされるべきものじゃ、ないんです! 月原有希、狙撃体勢に入ります……!
瓦礫の影に身を潜めて、本命を……う、他の人……ゾンビたちに隠れて、狙えない。相手の頭数を減らして、接近を容易にすることに専念します。他の人に攻撃しているゾンビや、進路上のゾンビを狙撃して……なるべく、それ以外には発砲の数を抑えるように。私は……まだ、覚悟がちょっと足りない、ですから



「人間は……人間は、死ぬんです。少なくとも、『神の意志』で生かされるべきものじゃ、ないんです!」
 手負いの黒き聖女へと真っ向から声を上げた者がある。
 圧倒的に人外たるその存在を前にして、月原・有希(ヒューマニストの郷愁・f27590)は己の膝が笑うのを、爪先が他所を向かんとするのを気力で押し留めながら、それでも凛と背筋を伸ばしてこの聖女へと対峙した。
「小娘が、何を知った気でそんな口をきく?」
 黒い聖女は手にした杖でその身を支えてありながら、血を滴らせた唇の端をぐいと吊り上げて、赤い瞳で目の前の少女を睥睨した。怯えを隠してそれを睨み返しながらーーこれはどう考えても自然な人間ではないと有希は断じ、そうしてその己の思惟を嫌悪した。だが、幸いなるかな、この今その嫌悪は有希の恐怖を刹那なれども攫ってくれた。
「月原有希、狙撃体制に入ります……!」
 その声で注意を引きながら、目眩しの様に投げつけるのは火炎瓶。その用途には不似合いなほどに愛らしく丸い笑顔が描かれた硝子瓶、フルボトルのその容量に並々と燃料を満たした緑のそれは石の床へと砕け散り、聖女の足元に炎を咲かす。黒衣の裾を舐めた炎へと聖女の注意が逸れたその隙に、有希は瓦礫の影へとその身を躍らせた。黒き聖女の知覚が遅れたその間に、その頬を掠めたのは、その身を襲う炎への苛立ち混じりに彼女が闇雲に放った黒き風を裂き、一直線に宙をかけたスナイパーライフルの銃弾である。
「下僕たちよ……!」
 その苛立ちに焦燥に、頬に一条の紅を刻まれた聖女が高い声で呼ばう。その声に今応えて黒き風の彼方からその影を揺るがせて湧き出でるのは生ける屍たちである。部屋の何処かから悲鳴が上がる。奪還者たちのものであろうか。その悲鳴が有希へと呼び起こすのは先の記憶だ。この屍たちとて誰かの大切な人や家族だとしたら……使い慣れたライフルへ、スコープを取り付けることで格段にその狙撃性能と命中率を高めてありながら、照準が狙う、彼方よりこちらを向いたその一体をーー有希は撃てない。己にはまだ覚悟が足りないことを有希は確りと自覚している。
 瞬時に狙いを変えたのは、ひとりの奪還者の男へと牙を剥く別の一体だ。有希がそこに大義名分を求めたことは明らかだ。それでも銃弾が過たずその脳天を撃ち貫いた直後、スコープの向こう、崩れ落ちる屍の傍で驚きを湛えて此方を向いたのは、先刻、有希がその妻に二度目の死を与えたのだと静かに語って聞かせた四十絡みの男であった。どうしてーーと、その困惑した顔が語るよう。この男は、有希の罪悪感を煽る言葉をわざと選んで紡いだというのに。
「人間は、人間は死にます。でもそれは神だとか誰かの意思によるものじゃない……!」
 男へと語り聞かせるかの様に、己を鼓舞する様にして有希は叫んでやりながら、構えたライフルは聖女と己との間を遮るゾンビたちを撃って、討ち減らしてゆく。罪悪感がないと言うなら嘘になる。けれども、元凶たるかの存在を討つことこそが弄ばれた彼らへの何よりの弔い足り得ると己に言い聞かせ、有希は引鉄を引き続ける。減らされてゆく朽ちた肉壁に焦りを隠せもしない聖女が杖を振るって、一陣の黒き風を有希へと差し向けたのと、引き金を引くのがほぼ同時。黒き風を切り裂いて唸りを上げた凶弾が、聖女の胴を穿つのを、その身を襲う黒き風の向こうに有希は確かに見届けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧島・絶奈


◆心情
てっきり私は、猟兵と現地民との間に不和の種を植え…
その正義を傷物とし、人々を護る事への疑念を生じさせる
そんな策士を想定していました

我が身は秩序の執行者ではあっても正義の味方ではない故に…
適任かと思いましたが、まさか只の狂信者だったとは…
浮かばれませんね、誰も彼も

◆行動
<真の姿を開放>し『暗キ獣』を使用
【集団戦術】を駆使し奪還者達を防衛しつつ敵を殲滅

私は軍勢に紛れ【目立たない】様に行動
【罠使い】の技を活かし「魔法で敵を識別するサーメート」を複数設置

設置後【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復

貴方が重視する手がどれであろうと対策済みです

…愛する者を奪った対象や其の想いを弄んだ者へ怨嗟を向ける
其れもまた「人」である故なれば、私はその感情や行為を否定しません
時として其れを向けられる事もあるでしょうけれど…
敵味方関係無く、戦場に立つとはそう言う事でしょう?

…尤も、其の怨嗟を甘んじて受けるつもりもまた、ありませんが



 手負いの黒き聖女が新しくゾンビたちを呼び寄せる。黒い風が唸り、生ける屍が呻いて不協和音を増してゆく。
 対して白き聖女がその異能たる【暗キ獣(ソラト)】によって連れて来た屍者の軍勢は、何処までも整然とその戦列と穂先を並べ、その一挙手一投足に無駄がない。その隙のなさに思考を持たぬゾンビたちですら怯んだか、はたまた黒き聖女がとどめたか、黒き風の吹く中で両者睨み合う間があった。
 挑発してやるかのように先に口を開くのは軍勢を率いる白である。白き聖女ーー真の姿を現した霧島・絶奈(暗き獣・f20096)のその尊容は今は白き女神とも言うべきか。巡る血潮を、生命を露も感じさせぬ白い肌、長いストラを靡かせた法衣の様なドレスを何かの白骨が鎧う。かの聖女などより遥かに死を司り、死を超越したかのようなその姿。そのかんばせへと零れかかる銀の髪の向こうより、常は目深なフードの下へと隠されている硬質な銀の瞳が聖女を射た。
「残念ですね。もっと策士にお目にかかれるかと楽しみにしていたのですが」
「なに?」
 黒き聖女が眉根を寄せる。絶奈の穏やかな口調の中に、その言外に、辛辣な棘がある。
「てっきり私は、猟兵と現地民との間に不和の種を植え……その正義を傷物とし、人々を護ることへの疑念を生じさせる。そんな策略かと思っていました」
 事実、ゾンビとなった愛する者を猟兵たちに屠られて、奪還者たちはこの事態の元凶よりも、目の前でその手を汚した猟兵たちへとその怒りを向けて来た。説得等も聞き入れず、猟兵たちへと銃を向けたものさえもいる。人の心の弱さ脆さを思えば不思議でもない展開ながら、守る側たる猟兵たちとて怒りを返して不思議もなくーー意図してこの構図を描いたものがいるならばさぞ曲者だろうと思われたというのに。
「まさか只の狂信者だったとは……」
 絶奈こそ秩序の執行者である。そうして神とはいつだって中庸で公平だ。ゆえにこそ人の子の幸いのために奔走する正義の味方たちとは絶奈は違い、それがいかに残酷な過程と結果であれど、いかに憎悪を向けられようが、悪辣な策を破って秩序を保つ為に動くには適任であろうと思われた。にも関わらず、タネを明かせばそこにはそんなご大層な策もなく、ゾンビたちも奪還者たちも、駒の一つにもなれぬとは。
「浮かばれませんね、誰も彼も」
「黙れ。我が探究の役に立てただけで奴らも本望だろう」
「その探究も何一つ実を結んでいないのにですか?」
「ーーッ!」
 白き女神の毒舌に身も蓋もない指摘を受けて、黒き聖女は俄かには返す言葉も見つからぬ。膨れ上がった殺気を形にしたかの様な黒い風が威力を増した。
「あの不敬者を殺せ!!」
 聖女の号令に応える様に、控えていたゾンビどもの群れがその歩みを絶奈へと向ける。対する絶奈は退きもしない。代わりに前へと進み出る、主君へと向いた敵意に応えるように槍を構えた軍勢たちを見送れば、彼らは絶奈の剣となり盾となる。軍勢のただ中に呑まれたその姿を黒き聖女もゾンビも見失い、やがて敵味方が入り乱れてゆく中で彼女の姿を見つけた生ける屍があろうとも、無数の槍に阻まれ貫かれ、近づくことなど出来はしない。
 一度後衛に紛れておきながら絶奈は魔力を宿したサーメートを陣の後方へ無作為に設置してゆく。味方のただ中でそれが叶うのはこのサーメートが魔力によって敵味方を区別することが出来るが為だ。
 押されてなどいない軍勢をあたかもそうと見せかけて絶奈が戦線を後退させたなら、地雷原にも似たその地へと敵勢は易く誘い込まれた。あちらこちらで火柱が上がり、人の大きさで燃える炎が不明瞭な呻きを上げて、助けを求めるかの様に敵に味方にしがみつこうとする。屍者の軍勢がその槍でその歩みを阻み、炎に包まれたその身へとどめを刺してゆく傍らで、武器など持たぬゾンビは燃える朋輩を拒めもせずに、絡み合う様に燃え上がる。吹き付ける黒い風が火をあおり、なお燃え上がらせる様に気づいて聖女が風を止めれば、その瞬間に戦場を駆け抜けたのは石の壁さえ揺るがせんばかりの衝撃波。絶奈が放った一撃だ。屍肉にいくらかでも感覚めいたものが残っていたとしたなら、その身をよろめかせたゾンビどもは己の身が痺れていることに気づいただろう。この場でその感覚を明確に理解したのはただ一人。
「お……のれ……!」
 杖に縋って毒づく黒き聖女であった。衝撃波が齎した麻痺により動きの重いその身において、ぎこちなく絶奈を向こうとする顔の、憎悪を燃やす赤い瞳が彼女を映す前に。再度爆ぜた衝撃波が受け身もとれぬ黒き聖女を、無数のゾンビたちを大きく吹き飛ばした。畳み掛ける様にして屍者の軍勢の槍衾が追い掛ける。
 その様を見守る絶奈の背後に立ち尽くした儘の一つの影がある。敵意がないゆえ放置していたそれへと絶奈は振り返る。先刻絶奈を罵った奪還者の女がそこにいる。
「……愛する者を奪った対象や其の想いを弄んだ者へ怨嗟を向ける、其れもまた「人」である故なれば、私はその感情や行為を否定しません」
 その手に銃が握られているのを認めて、絶奈は手のひらで戦地を指し示してやる。未だあちこちに火の手が上がるその場所で獅子奮迅の戦いぶりを見せる屍者の軍勢を目にしては、人の身が銃の一つを携えて何が出来るものかと、元凶たる聖女の苦戦に今は幾らか溜飲も下がったらしいこの女にも知れている。ゆえに頷きも銃を構えることもせぬままの女へと、近づきながら絶奈は語る。
「時としてこの身が其れを向けられる事もあるでしょうけれど……。敵味方関係無く、戦場に立つとはそう言う事でしょう?」
 たとえば、先の様に。女の前で絶奈はその歩みを止める。
「……尤も、其の怨嗟を甘んじて受けるつもりもまた、ありませんが」
 冷ややかに刺す様な言葉にびくりとその身を震わせた女へと無言の笑みの一つを向けて、屍者たちの戦う地へと絶奈は踵を返すのだ。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

花厳・椿
【宵椿】◎
ねぇ、梓お兄ちゃんも願った事はある?
誰かを蘇らせたいって
椿はあるわ

でも『椿』を蘇らせるのは…幸せにするのは椿じゃなきゃ嫌
他の誰かに願いを叶えられるのは『椿』を奪われる事

そんなの
絶対に許さない
もう二度と誰にも『椿』は渡さない

「花から花へ」

彼岸の先が見たいなら連れてってあげる
椿の蝶々になりなさいな
そうすれば、椿の糧として永遠に生きられるわ
あなたの悪趣味なゾンビより美しいでしょう

椿が唯一知ってる理はね弱肉強食
願いを叶えられるのは強いものだけ
だから…
椿はもっと食べなきゃ

あぁ
とても眠たい
閉じてしまいそうな瞼をこすりながら
梓お兄ちゃんへ両手を差し出す
ねぇ、梓お兄ちゃん
椿はとても頑張ったでしょう
…褒めてもいいのよ?

閉じかけた目に頭を下げる梓お兄ちゃんが映った
どうして…?その人は梓お兄ちゃんを傷つけたのに
護ったあなたを傷つけたのに
…椿にはさっきの聖女を名乗る女より梓お兄ちゃんの方が理解出来ないわ

でも…
もし
理解出来るようになったら『椿』も微笑んでくれるかな…

彼の暖かい瞳と腕の中で静かに目を閉じた


丸越・梓
【宵椿】

マスタリング歓迎
NG:相手の顔を傷つける
_

死は恐ろしい
責任も果たせず死ぬことが
大事な人たちが死ぬことが
だからこそ、超克出来る力があるのなら
縋りたいと共感してしまう部分も正直言えばある

だが
少なくとも貴女方の力を許容することは出来ない
その方法は世界に牙を剥くもの
己の大切な者たちに
そんな真似はさせたくない

彼女や彼女の神を軽んじるわけでは決してない
敵も味方も関係なく
誠実に敬意を以て接しつつ
椿と奪還者らを最優先に庇い護り

…一つ尋ねたい
どうして貴女は死を超克したいと思ったのか
彼女の心に真摯に向き合い
断ち斬るはオブリビオンたる根源のみ
願うは彼女の安息を

_

──ああ、そうだな
椿、よく頑張ったな
彼女の様子に穏やかに瞳細め抱き上げる
あやすように背を優しく叩きながら
振り返るは先程の奪還者の女性
…どんな理由であれ俺は彼女の大切な人を殺した
その事実から目を背けず
唯深く頭を下げる

俺には資格が無いかもしれない
けれど
彼女と彼女の大切な者の安息を
願ってしまうのだ



 黒き旋風は部屋を満たした死の匂いを攫わない。命を終えた筈の者たちが、斯様に朽ちた身の何処に何の未練があるというのか、恨みがましく呻きながら、未だその身を休めることさえ許されぬとでもいう様に闊歩する。
 今ここに、黒き風の中にあって尚一層に黒く濃く沈む影ひとつ。黒い外套の裾を遊ばせるその身に至る間近にて、魔王然としたその威容にまるで恐れでもなしたかの様に、風の刃が弾かれる様にその切先を返してゆく。オーラで守りを張りながら、丸越・梓(零の魔王・f31127)は陰惨なこの戦場を見渡していた。生も理性もある者の様によく統率された屍者の軍勢と、黒き聖女が差し向けたゾンビたちとが攻防を見せたさなかのことである。
 死は恐ろしい、と梓は思う。無論、常に死地へと身を置いてその身の危険も顧みず刃を振るうこの男が、己が死に至ることそれ自体を恐れていよう筈もない。己に関して言うならば、恐るべきは死という結果ではなくて、責任も果たせぬままにそこに至ってしまうやも知れぬその過程こそである。それはいかにも自己犠牲を厭わぬこの男らしい責任感によるもので、ゆえに他者に関しては話は別だ。己ではなく、大切な者たちが死ぬとしたらーーそれが責任を果たす途上のものであれ、果たした末のものであれ、「死」そのものが、恐ろしい。
 だからこそ、それを超克する力などこの世に存在するのであれば、縋りたいと願う者の気持ちを、弱きものだと甘えだと笑うことなど出来はしない。決して弱くはない筈の梓でさえも、心の何処かで縋りたいと願う自分に気づいている。
 そんな気持ちを知ってか知らずか、鈴を転がす様な声が傍らより問いかける。
「ねぇ、梓お兄ちゃんも願った事はある? 誰かを蘇らせたいって」
 見た目には白く儚い少女のかたちをした化生ーー花厳・椿(夢見鳥・f29557)は、その在り様に気質において梓と真逆でありながら、不思議と今は梓と同じ気持ちを口にするのだ。
「椿はあるわ」
ーー嗚呼、嘘だ。「願ったことが」あるだなんて。
 一度や二度のことではない。優しく美しく可哀想な『椿』のことを蘇らせたいと何度も何度も、否、もしかしたらずっと、この今だって椿は願い続けている。そうして『椿』が生き返ったなら、今度こそ幸せにしてやろう。『椿』が心を惑わされた男なんかと椿は違う。女ごころの解らないあんな男と違って「今の」椿なら、『椿』が望んだ外の世界を、願っても叶うことのなかった平穏であたたかい日常を彼女に贈ることが出来る。そうして『椿』の美しい顔を二度と曇らせることなどせずに、ふたり幸せに生きて行くのだ。
 『椿』を蘇らせることが、叶うなら、の話だが。
「でも『椿』を蘇らせるのは……幸せにするのは椿じゃなきゃ嫌」
 その言葉は半ばまことで半ば欺瞞だ。死せる者の蘇り、その高すぎる障壁を無意識のうちに言い訳にでもするかの様に。
「他の誰かに願いを叶えられるのは『椿』を奪われる事」
 まるで蘇らせさえすればそれだけで『椿』を幸せに出来るとでも言わんばかりの歪な論理がそこにある。けれども蘇って、それでも『椿』が幸せでなかったとしたら?胸の内の奥深く、自覚もしないその底に沈めた不安が浮かび上がろうとするのを押し留める様に。
「そんなの絶対に許さない。もう二度と誰にも『椿』は渡さない」
 ……まだ、『椿』を蘇らせることなんて許さない。
 術を解かれたか、屍者の軍勢は消えていた。彼方より、肩で息をしていながらも此方を睨み据える黒き聖女の瞳は未だ死んでいない。杖にその身を預けながらも確かに地を踏みしめる姿はなるほど、カルト教団とは言え指導者然とした風格を失わぬ。
 振りかざした手のひらが、黒い風を巻き上げる。
「聞こえていたぞ。理由はどうあれおまえも死を超克したいのだろう?」
「全然聞いてないじゃない。彼岸の先が見たいのなら連れてってあげる」
 黒い風を阻む様に舞うは白き蝶の群れ。その後ろ、椿の白いその身にあえかな光が宿る。燐光めいたそれもまた白なれど冷たく冴えた色をして、その力が聖なる類のものではないと告げていた。事実、椿が身に宿したのは白い蝶の骸魂。
「椿の蝶々になりなさいな」
 そうすれば、椿の糧として永遠に生きられるわ。
 嫋やかな声と鋭い鋏の刃は、黒き聖女が瞬きをした間に、息の触れるほど間近にあって、その頬と耳元を撫でてゆく。思わず聖女が飛び退れども間合いは開かず、白き少女の振るう鋏はその肩口を切り裂いた。
「おまえ……まさか……」
 次いで首筋を狙う刃を杖で防ぎながら、猟兵のものならぬ椿の気配に黒き聖女が何かを察する。その禍々しい気配は己と同類たる存在ーーオブリビオンであると本能が告げて、実際それは正解だ。【花から花へ(ハナカラハナヘ)】。己の身を成す白き蝶を贄として骸魂と融合し、一時的とは言えその身をオブリビオンと化す禁断の術である。
「小賢しい……!」
 聖女が手にした杖より黒き風が溢れ出し、椿はそれを白い蝶の群れで防いで、刹那、風の向こうで聖女の唇が笑みに歪むのを見た。ハッとして肩越しに振り向けば、無数のゾンビがそこにおりーーけれどもその身が、傷の一つもないままに動きを止めて、頽れる様にその場に倒れ伏す。見れば周りは死屍累々。最初から椿の背後を取ろうとしていた聖女の目論見を誰かが封じ続けていた。
 無論、それを為せるのはただ一人。
「勝手に飛び出すな。危ない」
 凛とした声が、黒い影がよぎって、呆気に取られかけていた椿の背後より聖女が振り上げようとしていた杖を受け止める。腹立たしげに聖女が呼んだ黒き風をも不可視の障壁が散らしてゆく。
「貴女方の力を許容することは出来ない。その方法は世界に牙を剥くものだ」
 聖女の杖を大きく上方へ跳ね除けながら、梓は告げる。返す刃を絡みつくような黒き風で妨げて、がら空きになった身を黒き風で守りながら、聖女はなりふり構わず逃げ出す様に距離をとる。
「世界に牙を剥くだと? 死の超克こそ神の意思、世界が求める力であろう!」
 聖女が嘲笑いながら、盾にでもするように二人の間合いを埋めるかの様に召喚するのはゾンビたちだ。哀れな犠牲者たちに対して死してなおこの扱い。鬼畜の所業とも言うべきそれを目にしても、梓は彼女にもその崇める神にも敬意を払い、礼は失さない。
「少なくとも、俺は己の大切な者たちにそんな真似はさせたくない」
 黒き風の吹き荒れる中、ゾンビたちを、梓の刃が、椿の鋏が、群がる白い蝶たちが減らしてゆく。
「一つ尋ねたい。……どうして貴女は死を超克しようと思ったのか」
「神の意思だからだ。神の意思ならば世の理だ。ゆえに成せぬ筈などない……!」
 梓の問いへと返す黒き聖女の答えはどこまでも狂信じみている。
「椿が唯一知ってる理はね、弱肉強食」
 さも可笑しいというように笑みを孕んだ声音で告げるのは椿であった。剪定鋏でゾンビの最後の一体の首を落としながら。
「願いを叶えられるのは強いものだけ……だからもっと食べなくちゃ」
 聖女と彼らとの間に遮るものはもはやなく、椿の言葉を受けて駆けたのは梓だ。彼女の手を汚させぬ為、オブリビオンとは言え黒き聖女の尊厳を損なわぬ為に振り抜いた慈悲の刃は、杖と風とに阻まれながらも彼女の身を捉えーーだが、手応えが幾らか浅い。未だ風を呼び、立ち回る黒き聖女の、オブリビオンたるその根源を断つべくもう一刀を振おうとしたところで、梓の視界の端で白が揺れた。
「……椿!」
 駆け寄って、力なく倒れ込みそうになるその身を抱きとめる。背後で聖女が駆けてゆく足音がする。
「……とても眠たい」
 いつもは円らな大きな瞳の、閉じかけた瞼は今は重く、今にもこのまま微睡みに落ちてしまいそうなほど。子供じみた仕草で椿が両手を差し出せば、何も言われずとも察した様に梓はその身を抱き上げてやる。骸魂と融合した代償に彼女が失った蝶はあまりに多かったのだろう、華奢な体は驚くほどに軽かった。
「椿はとても頑張ったでしょう」
「ーーああ、そうだな」
「……褒めてもいいのよ?」
 あやす様に背中を撫でてやりながら、梓は穏やかに瞳を細める。
「椿、よく頑張ったな」
 その言葉に、満足げに椿が微笑む。そのまま一度は瞼を閉して、けれども椿を抱いたまま梓が振り向く気配に、不思議に思って瞳を開ける。部屋の端、壁を背にしてそこにいたのは先の奪還者の女であった。
 梓がただ深く頭を下げるのを、女も、椿も黙って見つめる他にない。種類は違えどいずれにも幾らかの困惑がある。梓にしてみれば理由はどうあれ彼女の大切な人を奪ってしまった事実から目を背けずに、出来る精いっぱいをしたまでだ。しかし椿にしてみれば、全く理由がわからない。あの女は梓に銃を向けて、実際に引き金を引いた。護ってやったはずの自分を傷つけた相手にどうしてそうまでするのか、先の聖女だと言う女の狂信よりも椿には理解が及ばない。
「俺には資格はないかもしれないが……安息を願っている」
 静かに告げた梓へと女は何も答えなかった。
ーー嗚呼、なんて優しい梓お兄ちゃん。
 椿は思う。彼の優しさを、その根源をいつか理解できるようになったなら、『椿』は微笑んでくれるだろうか。そんな幸せな夢想を抱いて、梓の暖かい腕の中、微睡みに落ちてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
【※ニグレドの宿敵主です】

死者の蘇生など罰当たりな!
汝の研究はここで終いだ
我が引導を渡してくれる!

オブリビオン・ストームを生み出せしフィールド・オブ・ナインは、先の戦争にて討ち取った
それは神の声に非ず、邪悪なる意志の具現なり!

オブリビオン・ストームの真実は既に我らの知るところとなった
今更如何なる演説をされようとも、それが我の心に響く道理無し
確固たる意志で洗脳を撥ね除けるぞ

黒風魔術に関しては、神通力(武器)の障壁(オーラ防御、結界術)で防御だな

そして『天之浄魔弓』より放つ『清浄の矢』でニグレドを射抜くぞ
因果を断ち切り、その魂を浄化してくれよう!

●神鏡のヤドリガミ
●本体の神鏡へのダメージ描写NG



 満身創痍の聖女はその身を引きずるようにして、二人の猟兵たちの刃を辛くも逃れて駆けながら苦々しく思案していた。どう考えても分が悪いのだ。かくなる上は一旦はこの場を捨てても逃げるべきだろう。便利な隠れ家であったが見つかってしまった以上はもう使えぬし、そもそも死の超克という使命を果たすべき己の命がここで潰えてしまっては意味がない。
 猟兵ごときにしてやられるのは癪ではあるが、自尊心さえかなぐり捨てても逃げ出そうと決めた彼女の前に、けれども立ちはだかる者がある。
「死者の蘇生など罰当たりな!」
 鋭い声と共に放たれた矢は、殺気を感じて咄嗟に足を止めていた聖女の足元の床に刺さっていた。
 廃墟の出口を背にして立った戦巫女ーー天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、黒き聖女の探究を真っ向から否定する。
「汝の研究はここで終いだ。我が引導を渡してくれる!」
 威勢よく告げる百々を黒き聖女は疎ましげに眺めやる。互い睨みを利かせるように赤い瞳同士がぶつかった。
 齢おそらく十余才、円らな瞳に宿す光は鋭くも、いとけなさの残るその姿。所詮子供と踏んでか、嘲る様に黒き聖女の唇が弧を描く。そうしてよく通る声で朗々とその教義を説いてみせるのだ。
「オブリビオン・ストームは神の意思だ。その神の意思が死の超克を願うなら、人類はそれに従うべきだろう」
 その声は、言葉は、かつては数多の人間を洗脳し信徒へと変えて来た異能。斯様なわらべ一人の心を変えること等は赤子の手を捻ることよりも遥かに容易い、筈だった。
「オブリビオン・ストームを生み出せしフィールド・オブ・ナインは、先の戦争にて討ち取った。それは神の声に非ず、邪悪なる意志の具現なり!」
 この童はーー百々は毅然と、それもこの黒き聖女にとって不都合な事実を添えて切返してくるものだから、虚をつかれるのは聖女の方だ。
「出鱈目を。この世界の理の根幹たる黒き風が神の意思でなくして何とする。フィールド・オブ・ナインが討たれようとも黒き風は消えてなどいないではないか」
 オブリビオン・ストームの真実は既に猟兵たちの知るところとなっている。いかに黒き風を崇める教団の指導者がその神性を叫ぼうと、仕掛けのバレた手品めいて荒唐無稽とさえ映る。ゆえに百々は脳を揺さぶる声を言葉を、確固たる意思で跳ね除けんと、己に言い聞かせるようにして告げるのだ。
「今更如何なる演説をされようとも、それが我の心に響く道理なし!」
「愚かな……!」
 その気迫に圧されたかの様に笑みを僅かに引き攣らせながらも、尚強がるように、見せつけるように、己が崇めるオブリビオン・ストームを模した黒き風を聖女は呼ばう。
「確かにおまえは死を超克すべきではないな。神の意思を軽んじたこと、地獄で悔いるが良い!」
 刃を成した黒き旋風が、渦を成しながら百々へと襲いかかるのを、彼女は避けない。避ける道理などありはしない。神通力により張り巡らせた結界は黒き風を刃を払い、白い肌へと傷の一つもつけさせぬ。
 黒き聖女は見誤った。天御鏡・百々たるこの少女が、ただの童などではないことを、その力を目にするまで見抜けないでいた。百々は永い時を過ごしたヤドリガミたる存在であり、その本体は御神体として祀られた破魔の神鏡であればこそ、まさしく神にも等しい存在である。この神を前に、黒き風だのを祀り上げ出鱈目な説法さえも披露したその不敬。今、神罰の時は来た。
「因果を断ち切り、その魂を浄化してくれよう!」
 結界の向こうで百々が引き絞る弓より放たれたのは祈りを込めた光の矢。黒き風の中を流星のように翔け、過たず聖女の胸を貫くそれは血の一滴も流させることはなく、その魂の穢れだけを浄化してゆく。
 射抜かれた胸元を押さえながら、黒き聖女が膝をつく。杖に縋れどその手にさえももはや力は入らずに、その身はやがて床に伏す。何かを求める様にしてその手を伸ばしながら、その唇が絶え絶えに声を紡いだ。
「眠れるフィールド・オブ・ナイン……第5席に栄光あれ……」
 死を超克せんと願った黒き聖女の身にも今、平等に死が来たる。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月11日
宿敵 『黒き風の聖女『ニグレド』』 を撃破!


挿絵イラスト