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筋肉賛歌が響く頃

#アポカリプスヘル #戦後

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#戦後


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「ハーッ! フゥー!!
 ――今日も! 立派な労働をー!!」

 それは、アポカリプスヘルの拠点の一つ。
 戦争『アポカリプス・ランページ』も無事、オブリビオン・フォーミュラを完全制圧した大勝利で幕を閉じ。
 また、ほぼ同時に発生した、新しい事変にも影響が殆ど無いような、まるで存在を忘れ去られたかのような平和な拠点で。

 今日も男女問わずに人々が働き、動く。
 戦争は勝てども、残党は残っている為、その防御を重ねることには余念が無い。
 本当に男女を問わず、倉庫から重量ある必要資材を運んで来ては、目についていた痛んだ拠点を驚くほどの早さで修復していく。
 飛び散る汗。弾ける笑顔。
 そして誰に言われるまでも無く、そこから更に強固なバリケードなどを巡らす男女のさまは、まさに万人の肉体労働の苦痛に光差す、労働手の見本のような姿であった。
 しかし、よく見ればこの拠点。
 大人も子供もおねーさんも。本来の一般的な拠点と見比べれば、
 その人々の姿は――見れば見るほど違和感しかない。

「さあ、休憩だ!
 まずは――『スクワット100回!!』」
「スクワット100回!!」
 ひとり一際のマッスルを極めた、褐色肌の男が拠点中に響きそうな号令を掛ける。
 それに合わせて。先程まで労働にいそしんでいた拠点の人間達が、声に倣って復唱すると、バッと他の人間との距離を開けて。
 両手を力強く後頭部に組み――そこから誰ひとりの例外もなく始まったものは。
 一糸乱れぬ、スクワット。

「『筋肉賛歌』! 斉唱!!」
「ひかーりかーがやーく、大腿四頭筋!
 磨け磨けや、ハムストリングス!」

 褐色肌の男の声を中心に、一斉に拠点の全ての住人が、声を合わせて高らかにスクワットをしながら、激しい歌を歌い始める。
「弾けんばかりの、臀筋群!」
「大腿二頭筋の加護ぞあれー!」

 そこに、誰ひとりの例外もない。
 拠点の住人達に、恥じらいも不満も、何一つとして見受けられない。

「機材はないがー、自重で十分!」
「今はただー、己を限界まで痛めつけー!」
 そこにあるものは、ただただ、トレーニングと筋肉に対する賛美のみ。
「次はー、腹筋300回ー!」
「目指せ、たくましシックスパック!!」

 ――本当に、誰ひとりとして疑いもしない『筋肉賛歌』が三時間を経過し、その中で力尽き果てた人々を置いていくように、拠点の住人達はただ叫ぶ。

「シスターよ、我らがバルクをご照覧あれ!
 筋肉最高! 筋肉最高!! 素晴らしいーッ!!」

 今、その場はまさに『筋肉(マッスル)』によって、光り輝いていた――。


「――個人でやる分には……自由意志というものがあるのだが」
『この猟兵、頭おかしいんじゃないの?』――そう思われる可能性の意図を、少しでも減らしたいとばかりに。先に目にした内容の全てを、集まってもらった猟兵達に伝えた上で。
 それを予知したグリモア猟兵レスティア・ヴァーユは、非常に取り扱いに困るという表情で言葉を発した。
「アポカリプスヘルの、とある拠点にて。そのような『あまりにもおぞましく、目も当てられない儀式』が確認された。
 こちら、先に話したとおり、個人でやる分には本来口を挟むべきではないのだが。
 ――この件には、オブリビオンが絡んでいる。
 オブリビオンは、その拠点の日常に潜み。長い時間を掛けて、筋肉賛歌なるものを住人達に布教し歌わせながら、筋肉トレーニングに励ませて来た。お陰で、拠点の人間達は皆、筋肉隆々となっている」
 語りながら、深いため息と共に猟兵は続ける。
「問題は、その筋肉賛歌の合間に力尽きた者たちだ。
 その者達は、力尽きた後、無抵抗のまま地下に運ばれ……その、数週間の後。
 文字通りの――光り輝くマッスルボディとなって帰ってくる」
 その善悪を定められない、という瞳で猟兵は言葉を口にした。

「オブリビオンの表層の目的は、信者獲得と己の勢力の拡大。
 本来、それだけを叩けば良いのだが――オブリビオンは、拠点にいる筋肉に洗脳された住人達からの強い支持を受けている。更に日常に上手く紛れている為、早々に近づけるものではない。
 その為、まずはあの筋肉の群れ――もとい、己のバルクを鍛えに鍛え上げた住人達の元に潜り込み、拠点の手伝いをしつつ、情報収集をしてほしい。

 目的は、その情報を元にオブリビオンを倒すこと。
 情報収集方法は任せたい。こちらで得ている情報は【みんな、筋肉だいすき】――それだけだ」

 そこまで告げると。予知をした猟兵は、できればその光景は忘れたいと言わんばかりに、手短に宜しく頼むと頭を下げた。


春待ち猫
 ゆったりとしたものを出させていただくつもりが、偶然、最初に拝見しましたフラグメントがこちらでした……。
 春待ち猫と申します。どうか宜しくお願い致します。

●このシナリオについて
 アポカリプスヘルの、日常・ボス戦による二章構成の【戦後】シナリオです。

●各章説明
 第一章は日常です。防衛の手伝いなど、ご自由に拠点の日常の中に溶け込んで、潜伏しているオブリビオンを拠点の住人達から警戒されないように探し出し、情報として見つけ出す事が目的となります。
(上記に伴い、こちらのPOW.SPD.WIZの選択はゆるふわにて問題ございません)
 拠点の住人達は【鍛え上げられたマッスルボディ】【これからそうありたいという情熱】、その他【筋肉に関する諸々】がとても大好きです。

 第二章は、第一章にて見つけ出したボス戦です。
 住人達を、ボディビルダーばりの立派な筋肉に染め上げた【筋肉こそ全て】が教義の、カルト教団の教祖との戦いです。
 教祖なだけに、『麗しく極められた』ボディはカリスマ性に溢れています。
 全てが筋肉になる、そのような想定のボス戦をイメージしております。

 ※筋肉が主軸ではございますが、どちらの章も、マッチョであられない方もお気軽にご参加いただければ幸いです。

●シナリオ進行など
 ・シナリオ公開時から、プレイング受付を開始致します。
 ・オーバーロードにつきましては、お手数ではございますがマスターページをご確認いただきました上で、ご自由にお選びいただければ幸いでございます。
(二章編成ですが、オーバーロードはご負担の無い範囲でご利用下さい。利用しないは勿論のこと、片章のみの利用などでも大歓迎です)
 ・受付期間は、システム上の送信不可までとなります。

 それでは、どうか何とぞ宜しくお願い致します!
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第1章 日常 『元富豪の物資倉庫』

POW   :    食料や水などを中心に探し、運び出す

SPD   :    補強材料や工材などを中心に探し、運び出す

WIZ   :    情報や端末などを中心に探し、運び出す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

九十九・静香
まあ!筋肉によって人々を導き拠点防衛を強固にする!
なんて素晴らしい教えと実践!

え?
教えはともかく
筋肉の増強は無理矢理っぽい?
それはいけません
あくまで素質があったり本人に希望が無ければいけません
わたくしがシスターの目を覚まさせてあげなければ!

しかし本当に無理矢理か調べたいですわね
という訳でUCでムキムキの筋肉信者師団を召喚
わたくしは普通の令嬢姿で

筋肉信者らにわたくしを力尽きた住人だと言って運ばせて
住人らに接触させます
これほどムキムキなら疑われないでしょう
住人に従い地下に連れて行かせ
残りの信者は住人を手伝って貰います

地下の処置では筋肉令嬢に変化し
処置されたと思わせ
シスターに挨拶したいと願い出ます


シャーロット・キャロル
なんと素晴らしい理想郷!……っと潜入でしたね。私なら普通に馴染めそうです。

●アルティメットマッスルモードを発動、肉体美を披露しつつ拠点を調査です。
マッスルっぷりを披露しつつ住民の方と情報を聞き出してみましょうか
ここに素晴らしい教えを説くシスターがいらっしゃると聞いてやってきたというカバーストーリーでシスターの居場所を聞き出してみますか
(実際素晴らしい教えと思っているのでカバーもなにもない)

ついでに住民達に私も愛用してる【トレーニングアイテム】をプレゼントしておきますか。これなら怪しまれることは絶対に無いでしょうとも!

(アドリブ・絡み大歓迎です)



 転送先から少し道なりへと進んだ場所に。
 グリモアベースの予知で告げられた、世にもおぞましい儀式が『筋肉を讃えよ』という名目で広げられ、疑いもなく定着されているという中規模程度の拠点が見えてきた。
 その、突入前――。
「まあ! 筋肉によって人々を導き拠点防衛を強固にする!
 なんて素晴らしい教えと実践!」
「拠点単位の筋肉フルサポートによって、住人全てが筋肉隆々――なんと素晴らしい理想郷!」
 情熱的なまでの筋肉同好の志である九十九・静香(怪奇!筋肉令嬢・f22751)とシャーロット・キャロル(マイティガール・f16392)は、互いに顔を見合わせると、その感動を余す所なく熱烈に伝え合った。

 全ての人が、バルクアップにつとめられるその環境。
 如何に筋肉を極めようとも、奇異の目で見つめられることのないその人権性。
 健康効果を皆が認めながらも、その結末のボディを杞憂される悲しみから解放された世界。

 ――『ああ、それは何という、楽園(エデン)』。

「……っと、いけない。潜入でしたね。
 行われている筋肉増強の話を聞く限り、同意があるとは思えません――突き止めないと」
「え? ――筋肉の増強は無理やり?」
 今まで、天国に近い表情で思いを馳せていた静香の表情が一気に曇る。
「それはいけません。
 あくまで『素質があった』り『本人に希望が』無ければ」
 素養があれば、本人の希望は極めて控えめでも良いのだろうか――今、それについて触れるのは恐らく禁忌に近しいことだろう。
「そうですね……。どちらにせよ情報は欲しいところ。
 グリモアベースの情報によれば、住人達はここの筋肉増強を示唆する教祖を『シスター』と呼んでいたとか。その辺りから調べられれば」
「そのシスターこそが、オブリビオンの可能性がございますわね……しかし、同じく筋肉という理想郷を求める存在に、オブリビオンである事など軽微!
 わたくしがシスターの目を覚まさせてあげなければ!」
「――ええ!」
 肉体のみならず、筋肉におけるこの門戸の広さにこそ、シャーロットは改めて静香に憧れを抱かずにはいられない。
 こうして新たなる目的意識の元に、二人はその場で話し合い、打ち合わせと準備を整える。
 そして、
「それではこれでまいりましょう。ああ、楽しみですわ……噂の筋肉……」
 うっとりしつつ、本音が溢れる静香の心。
 こうして二人は拠点へと足を向け、歩き出した。

「な、何だあれは!」
「フォぉおお!! 何という、何という興奮せずにはいられぬ素晴らしい仕上がり!!」
 拠点に現れた存在に、それを見た人々は一同に歓喜と感銘の声を上げた。
 現れたのは静香のユーベルコードによる【筋肉信者師団】の皆様。老若男女、身分も権力も問うことはない。ただ筋肉を崇め、静香と共に筋肉道を歩む人々だと――そう置けば、恐らくそれ以上の説明は必要ないだろう。

 そして、その先頭にはシャーロットが、サイボーグとしての強化特殊人工筋肉を一時的に限界まで強化させての【アルティメットマッスルモード】を発現し。日常の『筋肉賛歌』に耐え抜いている、拠点の人々のマッスルを更に凌駕したフィジカルバディで、容赦なく筋肉ポージングをその住人達に叩き付けた。
 ユーベルコードの特性として己の寿命を削り、それでも尚、苛烈なまでのシックスパックが、唸りを上げて住人を襲う!
 それでも女性らしさである胸が消えないのは、完璧なる肉体管理の象徴以外の何物でも無い!

「フゥン!! ハァァアアッ!」
「これは――! フォオォォ!!!」

 それを住人のひとりが迎え撃つ。
 人語による意思疎通など、この場においては無粋の極み。発するものは双方、肉体言語による会話のみ――。
 そして、
「良く分かった! 君達が素晴らしい信念を持つ『奪還者(ブリンガー)』であることを!」
 通じた。何故通じたのかは理論としては計り知れない。だが、真の筋肉を前にしては、詭弁も嘘も建前もいらない。ここには、信念という真実のみが通じるのだ。
「実は、私達はここに素晴らしい教えを説くシスターがいらっしゃると聞いてやってきたのですが……」
 しかし、人である以上『曲げられない信念がある』という事実のみでは、やはり不便なものである。シャーロットは、自分達がここに来たという経緯を軽く前置き、説明を開始した。
 肉体言語を前にしては霞む人語ではあるが『これ自体は、心の底から素晴らしいと思っている事実である』故、嘘と判断されることもない。

「なるほど、シスターの素晴らしい教えはそこまで……! 感動だ、筋肉はどこまでも広がり続ける……!
 しかし、その少女は――」
 拠点の住人の視線は、筋肉信者師団のマッスルが抱えて動かない一人の少女――静香に目を向けていた。
 そこにあるものは、儚い一輪の花のような令嬢の姿――それは決して、あれだけ筋肉を語りつつも、静香自身が己の肉体を磨き上げていなかったという訳ではない。
 元々病弱であったその姿から、ひょんなことより怪奇人間へと変貌してしまった際、健全なる願望成就の末に辿り着いたのが、自由自在に筋肉隆々なる姿へと任意変化出来るようになった、その身体なのである。
「彼女は、噂に聞いたシスターの『筋肉賛歌』による特訓を極めようとして、力尽き……今は、辛うじて息があるものの……」
 シャーロットが、悲痛な表情を浮かべてみせる――打ち合わせ通りである。
「それは大変だ! だが、この人数の全員をシスターの御前に連れて行くわけには……」
「では、半数だけでも……残りは私を含めて、拠点のお手伝いをさせてください!」
「それなら急ごう! 万が一のことがあれば筋肉も嘆き悲しむに違いない!」
 そして、シャーロットとこっそり薄目を開けていた静香は、一瞬だけ視線を合わせて目配せをした。
 この辺りも既に試算済み。後は各々のやり方で、オブリビオンをあぶり出すのみ――。

「野良、オブリビオン退治――」
 拠点の外に出て、その光景を目撃したシャーロットは、流石にそのインパクトに絶句した。
 この世界の人類がオーバーテクノロジーを集結させてやっと対処しているオブリビオンを、徒党を組んでいない野良とはいえ、
「唸れぇ! 俺の上腕二頭筋ー!!」
 そんな言葉で猟兵でも略奪者というわけでもない、拠点の一般住民がフルボッコにしていく様は。
「実は、こいつらの肉は高タンパク質! プロテインも必須だが、やはり肉は筋肉を喜ばす必須食材だからな!」
「――手伝います!」
 その人々の輝きに、シャーロットは魅せられた。筋肉さえあれば、数の利はあれどゴッドハンドでもない、一般住人であっても立派に戦えるという事実。
 筋肉の可能性に限界は無いのだ、と。その胸に心から揺さぶられる感動を覚えつつ、シャーロットは住民達の安全の為にも率先して戦闘に参加した。
 全ては、筋肉。筋肉のお陰なのである。

 その後、一息つけば次に向かった先は拠点の整備。
 見せ光る白い歯が眩しい笑顔で、住人達は汗を輝かせながら防衛部分の綻びを、その腕力で鉄材を運びながら修理していく。
 もちろん、シャーロットも負けてはいられない。
「ふぅぅぅんッ!!」
 その余裕の怪力を以てして、重さ数百キロの鉄材をシャーロットは片手で持ち上げる。
 流石に尋常な光景ではないが、筋肉で洗脳されきっている住人には、そこに疑う余地がない。
「素晴らしい! ナイスバルクだ!」
「ああ! 俺の広背筋もこの位の重量は余裕だと叫んでいるよ! フゥォぉぉ!!」
 シャーロットに感化され、作業効率が一気に上がる。
 そして、つめたく冷えた貴重な真水を飲みながら、筋肉に必要とされている適度な休憩時間中。
「ここまでの環境を整えたシスターは、いつもはどこにいるのでしょうか?」
 シャーロットは確信に近くシスターの居場所をさり気なく聞いてみる。
「シスターなら、大体地下の筋肉礼拝堂で祈りを捧げているよ。
 倒れた基礎体力のない人も、そこで儀式を受けるんだ」
「なるほど……――あ、これは私達が旅の途中で使っていたトレーニングアイテムです! きっと皆さんにも使いこなせるはず」
 必要な話題は聞き切った。適当に話を逸らしつつ、シャーロットはポージング『フロント・ダブルバイセップス』を合間に決めながら、拠点の住人達に己のトレーニングアイテムをプレゼントした。シャーロットの怪力に合わせた仕様の為、一般人には取り扱いなどまず適わないが、ここの住人達であれば立派に使いこなせるに違いない。
 住人達は、喜んでそれを受け取ると返礼代わりに、見事なサイドチェストポーズでそれに応えた。

 一方、静香が地下に辿り着くと同時。
 気を失っていたふりから目を開けた静香を前に。響き渡ったものは、拠点の住人による高らかかつダイナミクスの限界まで響く声だった。
「筋肉に大切なモノー!
それは、一に運動、適度な休息。快適な睡眠、そして何より、高タンパク質プロテイン!!」
 そして言葉と共に、アポカリプスヘルにおいてはあまりに相応しくない、テーブルなど直ぐに壊れる家具の上に並べられたものは、筋肉増強が期待出来る高タンパク低カロリーの豪華料理の数々。

 どうやら儀式というのは、話に聞く限り食事を含めた特別筋肉育成コースの事らしいと静香は悟る。
 ――この食料が貴重な世界において。極限状態からそのような高待遇を受ければ、信心が集まらないわけがない。
(それでマッスルな方を更に強化し、集めて拠点を防衛。そこまで行けば、多少危険でも、必要な自己食料調達も可能……。
 なるほど、理に適ってきましたわね……)

「次は、『筋肉賛歌の三時間歌唱練習』が待ってるぞ!
 今のうちに、体力を付けておくように!!」
 響き渡るバリトンの声。しかし、ここにオブリビオンの気配はなく。その三時間を付き合うには、あまりに時間が勿体ない。
(流石にそこまでのお時間はございませんわね……ここは)
 食事には毒を含め、特筆すべき危険なものは含まれていない。猟兵の身をもってそれを感覚で受け取り、料理を食べ切る。次の瞬間、静香の身体は僅かな影を見せた『謎の黒粘液生物』の影響により、一気に筋肉に包まれた。
 高くそびえ立つ厳かな山肌が、一瞬砂地に見えるのではと思える程の、盛り上がりを見せる筋肉の隆起。先程現れた謎の黒い液体の影響で、筋肉を際立たせ更に美しく見せる為にあるかのように濡れたオイリッシュな褐色の肌。
 突如、その場に現れたかのように拠点の住人達が見た、静香の『バック・ダブルバイセップス』ポーズは、神々しい輝きに満ちていた。

「なんと! 通常であれば数週間でも足りないトレーニングを瞬時にこなすとは!」
 拠点の住人達に振り返る静香の姿は、今や非の打ち所がない、完全なる『筋肉(マッスゥ)』であった。
「何ということでしょう! この自分とは思えぬほどの、素晴らしい肉体美!
 輝き眩しいマッスルバディになれましたのも、全てはシスターのお陰!!」
「ああ、これは素晴らしいバンプアップだ! 華奢すぎて心配したが、君は今まで、余程信心深い『筋肉善行』を積んできたに違いない!」
 脳とはここまで筋肉であれるものなのか。しかし、静香も筋肉を全能神に据えた思考である為、お互い然程違いがあるものでもない。
 だが、ここで本来の目的は当然忘れず、静香は感動を演じて問い掛けた。
「これは、是非教祖様であられるシスターに、直接お礼をお伝えしたいのですが――!」
「ああ、君のような敬虔な信者であれば、きっとシスターも喜んで下さるに違いない!
 是非、シスターの元へ案内しよう!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
筋肉なー。
つけるのは大事なんだがどうしてもつきやすい奴とつきにくい奴といるよなー。
俺もどっちかっていうと後者でなー。
プロテインを適切な量飲んで必要な運動してもなっかなか増えねえんだよなー。
ついでに身長も伸びてくれたらよかったんだが伸びてくれなくてなー。

って感じで話振ったらこれでもかとアドバイスきそうだな、まあ俺ドラゴニアンだから元々腕っぷしは強いんだけど。
バーベル代わりにマッチョ持ち上げろって言われたら【怪力】と【グラップル】の応用で片手に一人ずつ持ち上げてみるか。
そしたら元凶の目に留まりやすいかもしれねえ。
ついでに拠点の人たちが平和に暮らせるように【指定UC】しとこっと。



「おお、拠点の外から来たのか。大戦乱があったと聞くが、よく生きてたのぅ! いかん、感動のあまり涙が――こりゃ改めて己の表情筋を鍛え直さねばならないのぅ!」
 外からの来訪者として現れた猟兵――地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)の姿に、もう見るだけで暑苦しい筋肉の塊――もとい、強靱な筋肉に身を包んだ老若男女が、一斉に周囲を取り囲む。
「よく無事だったな! 歓迎するよ!
 ――おおっ、喜びに俺の大胸筋も打ち震えている!」
「ようこそ、無事で何よりだわ!
 まあ……拠点の外から来たんだもの、そんなガリガリでも無理ないわよね!
 もう大丈夫よ、ここは何よりも安全な拠点。一緒に『たくましい筋肉(マッスゥ)』を手に入れましょう!」

「………………」
『おい、これどこからツッコめばいいんだ……?』――凌牙の胸に、そんな心の声が響き渡った。
 確かに、老若男女を問わない筋肉が脳筋状態で話し掛けてくるのだから、それはもう凌牙の瞳から光が無くなろうが、半眼になろうが、仕方も無いというものだろう。
 しかし、その沈黙に訝しげな視線を向けた住人達へ向けて。凌牙は少し慌てつつも、己のマインドを取り繕うまでの時間で、適当な話題をでっち上げた。

「筋肉なー。
 つけるのは大事なんだがどうしてもつきやすい奴とつきにくい奴といるよなー。
 俺もどっちかっていうと後者でなー。
 プロテインを適切な量飲んで必要な運動してもなっかなか増えねえんだよなー」
「ああ、確かにそういう体質の人もいるよ! でも、それもシスターの儀式を受ければ、一発さ!」
(ん……?『シスター』?)
 適当に流していた凌牙の瞳に、一瞬思考の光が差す。本能に近く浮かぶ疑念を表に出さないように、凌牙は続けた。
「ついでに身長も伸びてくれたらよかったんだが伸びてくれなくてなー」
「それは、栄養不足じゃないかね? この環境下では難しいが、非の打ち所のない『パーフェクトマッスゥ(完璧なる肉体)』には、栄養が大事じゃぞ!」
「うっ!!」
 その言葉に図星を突かれた凌牙が、思わずざっくりと言った胸を押さえて思わずよろめく。
 ――幼少の頃に、兄と共に孤児院で拾われ育った凌牙は、決して裕福な環境にいた訳ではない。己の身長についてはそれを原因として痛切に自覚していただけに、まさか不意打ちで初対面の相手に見抜かれるというのは中々のダメージだ。
「どうしたっ、まさか腹横筋が痙攣でも!?」
「い、いや、」
 全てが根こそぎ善意なだけに、凌牙の心も大ダメージが隠せない。
 しかし、ここで不審感を持たれる訳にはいかない、と。凌牙は、あくまで筋肉を讃えつつ己の心を保持する方法を、ほぼ防衛本能で思案する。
「いや! 俺、こう見えて『インナーマッスル』とか! 見えない所が凄いから!!」
 ――種族がドラゴニアンである事も要因の一つではあるが、言えば話がややこしくなりそうだ。
 そう思い、咄嗟に『インナーマッスル』などと口に出して言ってはみたが、正直凌牙は、それがどの部位か実はハッキリとは分かっていない。本音を言ってしまえば、名前的に身体の何処かにあるんじゃね? 程度の認識でしかない。
 しかし、そのあんまりにもアバウトな言葉に、凌牙の周囲が僅かにざわめいた。

「鍛えている外から来た人――もしかして君は、逃げてきたのではなく『奪還者(ブリンガー)』だったりするのか?
 ……にわかには信じ難いが……こんな細身に細身を重ねたような少年が」
「いや、腕っぷしが強いのは本当だぜ? ちょっとこっちに――」
 そう告げて、凌牙は論より証拠、見せた方が早いとばかりに、決して筋肉に盛られている訳でも無い己の片腕ごとそれぞれに、この場の大のマッチョ大人ふたりを、軽々と持ち上げた。
 周囲からどよめきと、そして溢れんばかりの歓声が上がる。
 ――竜にたとえるならば、それは爪であり牙であるもの。これは、猟兵としての力でもあるが、
(ここまで目立てば、元凶の目に留まりやすいかもしれねえ)
 僅かに思案した上で、そこから更に人をぶら下げてウエイトを上げていく。
「いやー、本当にインナーマッスル様々だなー」
「確かに……! 筋肉はすべからく全身を鍛えるべきものであるからな!!」
 少し思ってもいないことなので若干棒読みではあるが、そんな凌牙の言葉に同意する人々が感動を示せば、密やかに発動したユーベルコード『【喰穢】祝福の標(ファウルネシヴォア・セレブラール)』が、人々に一時であれども幸福となり得る吉兆を示していく。
(シスター、な……)
 そして――凌牙は、先の聞いた言葉を脳裏に刻みこみ、引き続き情報収集を再開した。

 ――それを、ガレージの上層中階段から見ていた、褐色の肌の男を従えた影が一つ。
「あの少年を、後で地下の私の元へ」
「はっ、ですが何を……」
「あの細身で、あの力……あれは筋肉ではありません。
『筋肉に対する冒涜』です。
 ――殺します」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
な…んだこの拠点は…
ええい、筋肉に憧れるフリをすれば良いのであろう
ちなみに私は我が騎士くらいの程よい筋肉の方が好き!やり過ぎだここの住人は!

騎士を伴って住人たちに近付こう
皆の筋肉におめめキラッキラ
見えぬ?察せよ

貴公ら実に素晴らしいな
大胸筋が歩いているかと見紛うた
我が騎士も貴公らの様に逞しく鍛え上げてやりたいものだ
あ、いや、私は結構だ
私は全力でその手伝いを…
そうだな、三度の食事はロカボで間食にプロテイン、おやつは素焼きのアーモンドあたりにしてやることも吝かではない
完璧にマネジメントしてみせようとも
とりあえずスクワット?
…我が騎士よ、やれ
ランジ?あと3セット?
…良いからやれ
そんな目で見ないで!仕上がってるよ!(自棄)

ううむ、見ているだけで筋肉痛になりそうだ…
ところで某ザップも真っ青な斯くも完璧なプログラムは一体誰が作ったのかね
やはり肩にちっちゃい重機を乗せているのだろうか?腹筋6LDKなのだろうか?
是非その者の肉体美をこの目で拝んでみたいものだ



「な……んだこの拠点は……」
 絶句も頂点を超えれば、声も出る。その事象を改めて実感しながら、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は、拠点から少し離れた転送地点近くにてその様子を窺っていた。
 目に見えたものは、遠目からでも分かる労働にいそしむ筋肉の群れ――もとい、人々の集まり。
「イイね! 背中にQRコード入ってるよ!! これは読み取れる、間違いない!」
「さすが、拠点一の手羽先最終形態だ! 惚れ惚れするよ!!」

「な……ん、だ。これは……?」

 それは、ここまでハッキリと響き渡る、背中と腕の筋肉を褒め称える賛美の言葉であるのだが、ラファエラには理解出来ない。むしろ、これは正確な理解などしたら発狂しそうだ――恐らく、その理解に到る瞬間に待っているモノは、喩えるならばTRPGにおける正気度チェックに違いない。

 耳を汚染し、目に触れた規則正しく並び行われている活動は、まさしく『筋肉のインベーダーゲーム』――。
 もはや、その全部をLast tangoで撃ち落としたい。そのような衝動に駆られながらも、ラファエラは何とか、今回の依頼を思い出す。
 思い出した。これも一応、依頼なのだ。
「ええい、筋肉に憧れるフリをすれば良いのであろう!
 私は――!」
 纏わり付いてくる筋肉の狂気を振り払うように頭を振って、ラファエラはユーベルコード【我が騎士との輪舞曲(マイ・ディア)】を発動する。
 現れた存在は、一度は骸の海に沈んだ己の為の騎士団長。その甲冑の狭間にある筋肉が見える腕をがしっと掴む。
 騎士の姿は拠点の人間と比較してはならないのではと思われる、中庸に近しいものではあるが。むしろ一見普通に見える立ち姿には、今も重量ある鋼鉄の甲冑を易々と着こなし、その上で様々な武具を易々と振り回し切り裂く、実戦実用を極めた筋肉が宿っている。
 それは筋肉を膨張させる、バンプアップをよしとする拠点の人間とは圧倒的に異なるものだ。
「私は、私は我が騎士くらいの程よい筋肉の方が好き! やり過ぎだここの住人は!!」
 ラファエラ、魂の叫び。それにようやく己の正気を保ったラファエラは、気合いを入れて拠点に足を踏み入れた。

「おや、その様相は『奪還者(ブリンガー)』だね。今日は多い日だ。これも、筋肉のお導きに違いない!」
 二人が拠点に足を踏み入れれば、筋肉――もとい拠点の人々が集まってくる。
 ラファエラは騎士を従え、その逞しすぎる筋肉を纏う住人達に瞳をキラキラと星の如く輝かせながら近づいた。
「うむ、貴公ら実に素晴らしいな。
 大胸筋が歩いているかと見紛うた。お陰で貴公らを映すこの星のような瞳も、感動に煌めき見開くことしか出来ない」
「え、」
 その瞳は、やんごとなき事情によりヴェールで隠れ、決して見えることは無いのだが、

「見えぬ? 察せよ」

 ハッキリと口に出された、鶴の一声。
 その圧力によって、この場にキラキラとした羨望の眼差しがあることを感じ取った住人達――感じ取ったのはそのまま『威圧感』の可能性もあるが、結果が同じであればそれは全くの些事であろう。拠点の住人達は改めて、ラファエラと彼女の騎士を受け入れた。

「しかし、惚れ惚れする筋肉だ。その努力は称賛に値する。
 ――我が騎士も貴公らの様に逞しく鍛え上げてやりたいものだ」
 上手く溶け込む為にも、まず話題作りは必須であろうと。言葉を置いたラファエラに、住人達はその視線を、何故か対象の騎士ではなく、一気にこちらへと向けて来る。
「ならばあなたも是非に! 筋肉を鍛えるのに遅いという言葉はありません!
 そのような細い身を、是非とも、心身ならび自信に満ちた逞しさに――!」
「あ、いや、私は結構だ」
 丁寧に、それでも付け入る隙も無いほどに。ラファエラはスパンと断りの言葉を入れた。
 ――確かに、猟兵としての己の戦闘力には、未だ慣れないと不安なものはあるが、その力量自体は相当のもの。
 実質の戦闘外であれば、筋肉など無くとも、自分への自信も言わずもがな。
 強いて言うなれば、同じ場に己の騎士がいなければ、精神的にもその能力の特性的にも、戦闘難度は困難なものになる。しかし、それ以上に。ラファエラの心の拠り所として存在しているそれは、もはや自信で埋められる問題でも無い。
 既に、在ることが事実であり、必要であり、当然でもあるもの。それが、ラファエラの騎士なのだ。

「私は全力でその手伝いを……
 そうだな、三度の食事は低炭水化物に絞ったローカーボで間食にプロテイン、おやつは素焼きのアーモンドあたりにしてやることも吝かではない」
 その言葉を耳に、拠点の人々から歓声が上がる。
 どうやら話に聞けば、このマッチョ労働力の数に対して、その栄養管理が詳細なまでに出来る人物は限られているのだという。
 この世界においては、入手食材は限界まで限られてきている。その為、拠点で料理を作る調理側にはかなりの負担が掛かっているらしい。
「なるほど? ならば、完璧にマネジメントしてみせようとも」
「心強い!! では、まずはお互いの挨拶代わりに、か弱い女性でも出来るであろうスクワット30回を2セット――」
 ――人の話を聞いていたか? 思わずツッコみたくなったラファエラがここで筋肉を高める事への疑念を疑われてはならない――そこで躊躇わず、己の白銀の騎士へと目を向けた。
「……我が騎士よ、やれ」
 言いながら、自分の騎士がこれ以上ムキムキになったらどうしようかとも思うが、きっと大丈夫であろうと根拠のない自信で押し通す。
 周囲の温かな歓迎ムードの中で、拠点の中でも目立って筋肉たくましい男性と、強固な甲冑に身を包む騎士がスクワットに励む光景は――やはり、どう良い目で見ても中々にシュールなものがある。
「それでは、次は互いのこれからの祝辞としてランジを40回3セット――」
 スクワットを易々とこなした騎士の身が僅かに止まる。騎士に意思などないはずなのに、ラファエラに訴え掛けられている気がするのだ。
 ――この肉体言語による挨拶。
 もしや、延々と続くのでは、と。

「……良いからやれ」
 ラファエラもその気配を感じ取っていた。騎士に命令しつつも、気付かない振りをした。
 続きがないことを祈りながらも、筋肉は己の肉であり、同時に纏う鎧でもあると言わんばかりに上半身を裸に曝け出した男と、ラファエラの騎士が膝を直角に前へと出してのランジに励む。
「フゥゥゥッ!!!」
「……」
 騎士は衣類を着ている為、目に触れる事はないが、短パンである相手の脚はものの見事に、くっきりとした血管が浮かび、破裂せんばかりの大腿四頭筋やらハムストリングスも、これでもかと云う程の隆起を見せている。
 騎士は当然余裕であるが、その様子は無言の一つ。流石にそれでは物足りないとばかりに、それらを取り囲んで見ていた周囲から掛け声が上がり始めた。
「土台が違うよ、土台が!」
「脚だけでも良いカットだよ!!」
 騎士側にも声が飛ぶ。
「そこまでの余裕なら、是非筋肉で返事してくれ!!」
 ふと――そこでラファエラが受けたのは、住人達からの露骨なまでの期待のまなざし。
 しかも、騎士も無言だが、まるで何かを待っているようなその気配。
 囲んでいた、住人達が一斉にラファエラを見て『さあ、あなたも!』と言わんばかりに、フロントラットスプレッドを決めて光る筋肉と歯を見せた!
「そんな目で見ないで! 仕上がってるよ!
 キレッキレだよ! その筋肉!!」
 もはや、自棄になってラファエラが叫ぶ。同時に、ランジをキメながらも己の騎士に、主君から飛んだ声に対する、僅かな気配の揺らぎを感じて。ついにラファエラは、自分が環境に病んできたのかと本気で思い始めた――。

「……。ううむ、見ているだけで筋肉痛になりそうだ……」
 身体は先の光景を目にしていただけで筋肉痛に、心はもはや打撲状態。何故見ていただけでここまで満身創痍に――そう思いながらも、ある意味における地獄を終えたラファエラは、ふとまだ無事であった脳裏に本来の目的を思い出した。
「ところで――
 この、某ザップも真っ青な、斯くも完璧なプログラムは一体誰が作ったのかね」
「ああ、それは教祖様だよ――皆シスターって呼ぶけどね」
 グリモアベースでも出て来た単語に、心に浮かびそうになる僅かな鋭さを抑え、ラファエラは話を続ける。
「――やはり肩にちっちゃい重機を乗せているのだろうか? 腹筋6LDKなのだろうか?」
「いやぁ、どちらかというと、あの方はきっと前世が手榴弾だったに違いないよ。間違いない!」
「是非、その者の肉体美をこの目で拝んでみたいものだ」
 ――これらはどれも筋肉を讃える定型文なのだが、ラファエラがそれを知る存在であることを認識した住人は、その流れに興奮した様子で応えた。
「ああ! 是非とも案内するよ!
 シスターは聖なる肉体を更に磨くことに余念無くお忙しい御方だが、筋肉は無くとも、そのアプローチに弛まぬ努力をする者を蔑ろにすることは決してないからね!
 さあ、君もシスターの儀式を受け、その情熱をそのまま素晴らしい『筋肉(マッソゥ!)』に!!」

「――!!!」
 ラファエラの脳内が、そればかりは冗談ではないと全力で叫び上げ。そのまま、思わず己が騎士の背後に全力で隠れるように逃げ込んだのは、言うまでもない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
筋肉。鍛えれば力の増強に繋がるもの
私も、『主様』の装甲から垣間見える有機的なインナーフレームの域……とまでは行かなくとも、筋肉が付いたなら今以上にできるお仕事が増えて主様もお喜びになられるかもしれません!
メル、行って参ります!

拠点の方々に初歩から始めるトレーニングについてお聞きし学びながらのお手伝いです
お仕事の内容は何でも仰って下さい、『休仕符』で幾らでも働けますので!
「食生活も大事なのですね。その、やはりラーメン(大好物だが命令により月一しか食べられない)なども厳禁でございましょうか……」
お疲れの方にはお飲み物などをお持ちしましょう
「無理をして倒れてしまっては健全な御体作りに差し障りが生じます。何をお持ちしますか?」

勿論、情報収集も忘れません
「筋肉賛歌?まあ、ぜひお聞きしたく存じます!一体どなたが、どのような時に、どちらで行われているのですか?」

沢山働きましたのに私の体にはあまり変化が見られないのは何故でしょう……
残念ではありますが運動機能は向上している筈。成果は必ず発揮してみせます!



 電子データの中に浮かび上がる人体図。グリモアベースにて依頼を耳にし、転送までの待機時間の間に、メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は、改めてその情報について確認していた。
「筋肉。鍛えれば力の増強に繋がるもの――」
 眼前の3Dデータには、典型的な一般男性の姿と共に、その筋肉部位が映し出されている。
(私も、『主様』の装甲から垣間見える有機的なインナーフレームの域……とまでは行かなくとも、筋肉が付いたなら――)
 思い起こすのはメルメッテの『主様』――『サイキックキャバリア』という概念で括られた『ラウシュターゼ・アインクラング』――知る者の殆どいない、この主従関係の主について、メルメッテは思いを馳せる。
 まず思い浮かべたものは、美しい純白と紅の甲冑下に存在している、稼働の基軸となる黒のしっかりとしたインナーフレーム。
 それらを思い浮かべながら。メルメッテは一度、浮かんでいたデータから目を離し、己の右手を握って、そして確認するように開いてみる。
 思えば、これも筋肉の成せるものだ――アンサーヒューマンであっても、人間の基本形式は同じであるはず。ならば、己の主のインナーフレーム造形美とまではいかなくとも、それを鍛える事が叶うのであれば。

「今以上にできるお仕事が増えて、主様もお喜びになられるかもしれません!」

 もしも――この場に主様『ラウシュターゼ』がいれば、それはもう最大級の叱責と共に止めたであろうに違いない。
 考えてみてほしい。
 初めて出会ってから、ほぼ十年。その年月を共に過ごし、ずっと目を掛け続けてきた、見た目からして可愛らしく忠実な己のメイドが――主様の為と叫んで飛び出し『大胸筋だけを、自分の意思で動かせるレベルのムキムキマッチョ』になって帰ってくる――その光景を。
「――メル、行って参ります!!」
 そう心に決め言葉に強い意志として固めると、メルメッテは単独で準備の整った転送場所まで小走りに駆けていく。
 主の不在。それが良きものであったのか、そうでないのか。全てはメルメッテの行動に掛かっている――。

 それからしばらく。
 転送先から少し離れ、メルメッテが辿り着いた拠点に入れば、その瞳に映るのは、ムキムキマッチョの筋肉の群れだった。
 だが、メルメッテはそれらに対して、ドン引きも、改まった感動も、驚くこともない。
 あったものは、この上ない程の感銘ひとつ。
 人間は鍛えればここまで成り得る。それらは逞しくも同時に凛とした細身でもある己の主の身姿より遥かに無骨で豪胆なものばかり。
「おお、お嬢さん! 外から来たのかい!? そんな細い身体でよく無事で!」
「……今まで私は、アンサーヒューマンであるが故に、筋肉については考えたこともなかったのでございますが……こちらで『筋肉の特訓が出来る』と伺いまして――!
 どうか是非、私にその方法を教えてはいただけませんでしょうか……! 拠点のお手伝いもしっかりさせていただきますので!」
「おおおっ、ここにも『シスターへの迷える子羊』が! 筋肉の声を聞いてくれる新たな道を歩み始めた君への祝福を、この三角筋で現そう!
 拠点の手伝いまでしてくれるなら喜んで!」
 そして、取り囲む一同が全員一斉にサイドアップポーズで迎え入れる中、メルメッテは己の未来に希望を懸けて、その瞳の遊色を光り輝かせそれらを目にした。
 ――本来の依頼である、オブリビオンのことについては、ちょっと優先順位が下がりに下がっている可能性もあるが、それも全ては己が主様の為であればこそである。

「まず、全ては運動に欠かせないストレッチからー!」
「はいっ!」
 住人の動きに合わせ。拠点の修理をするという集団の一部に交えてもらいながら、メルメッテは健康的で伸びやかな身体を更に動かす。
メルメッテの主は、パイロットである彼女を甘やかさない。時としては無茶にも近い酷使に到る場合もあるが、しかしそれは決して無為ではなく戦況下に於ける最善手であることが殆どだ。それ故に、メルメッテは日常から主の期待に応えられるよう、アンサーヒューマンであろうとも、最低限の体力作りだけは欠かさない。

「良いスジの伸びしてるなー! これは素質があるぞ!」
「はいっ! ありがとうございます」
「今日は、いつもなら『筋肉賛歌』の斉唱日なんだが……リーダーもシスターもお忙しい方でおられるから。
 それでは、先に拠点の修理から入るとするか」
「はいっ、お仕事の内容は何でも仰って下さい、『休仕符』で幾らでも働けますので!」
 メルメッテが力強く頷くと、己のユーベルコード【休仕符(パウゼ)】透明なバリアにより、戦闘外の行動に集中している間、外部攻撃と生命維持まで不要とする能力――を、己の所持する能力の一つとして説明する。
 それに拠点の住人達が感動を覚える中、メルメッテは今まで手を付けられないでいた、危険故に修理が後回しにされてきていた拠点の一部の修復に無事成功した。

「ありがとう! 物凄く助かったよ! 幾ら筋肉のお力とはいえ、天井から落下してくる瓦礫に対処するのは困難だったからね。
 重たい瓦礫を運ぶ、これも立派な筋肉を作る修行の一つなんだよ」
「で、では、私にもこれで筋肉が!?」
「いや! 筋肉におけるバルクアップの道は、一日にしてならずだ!
 ――次は、初心者向け食生活について説明しながらの、クランチとフロントブリッヂ!
 初心者とのことだから『それぞれ、50回3セット』にしておこう。質問は体勢を崩さないように行ってくれ!」
 もう既に初心者でなくなってしまった筋肉信者に、加減という言葉はない。回数的に若干正気でもなさそうだが、メルメッテは【休仕符(パウゼ)】の力も借りて、何とかそれを乗り切っていく。

「しかし――やはり、食生活も大事なのですね」
 筋トレをしつつの、規律正しい低炭水化物摂取の在り様などを聞きながら。
 ふと、とある事が気になったメルメッテは、恐る恐るクランチをこなしながら住人のひとりに問い掛ける。

「その、やはり『ラーメン』なども厳禁でございましょうか……」

 ラーメンは、メルメッテにとって至福の味だ。
 麺の食感と、スープ、豚骨も良いけれども醤油も美味しい。みんな違ってみんな良い。嗚呼、なんて素晴らしいラーメン。
 己が主に『月に一度に制限せよ。異論は認めん』とばかりに止められていなければ、毎日三食それにしたい気持ちすらあるほどだ。
 ――しかし、その純粋たるラーメンへの愛を抱いたメルメッテの心は、
「ラーメン!?
 あれは炭水化物と脂質の塊!! 立派な『筋肉(マッスゥ!)』を目指すなら半年に一度、年に一度でもいいくらいだよ!!」
「――!!」
 その一言で、木端微塵に打ち砕かれた。体重において、ラーメンは敵以外の何物でも無いのである――メルメッテの主ももしかしたらそれを知っていたのかも知れない――。

 そこからは、真の休憩と相成った。
 ――しかし本当は、このタイミングで『筋肉賛歌』が斉唱されるというのに、今日に限ってそれが無いという。
 メルメッテは、今の段階で疲弊しきっている、ここに来たばかりの住人へと、食糧管理が仕事だという拠点の調理人の許可を受け、この世界においては貴重であるはずの水を配って回る。
 しかし――やはり、皆が不思議がっている。今日に限って『筋肉賛歌』が響かない、と。

「筋肉賛歌? まあ、ぜひお聞きしたく存じます!
 一体どなたが、どのような時に、どちらで行われているのですか?」
 筋肉をつけに来たのも、勿論ある。だが、猟兵としての情報収集も決して忘れる事はない。
「ああ、筋肉賛歌はね。最初にシスターの力を借りて汚染されていない真水を見つけた、ここのリーダーが作業合間のタイミングを見て斉唱と一斉運動を行うんだ。
 でも、本当に何かあったのかも……いつもは三日に一度必ずなのに」
 傍でメルメッテから水を受け取った、まだ細さの残る男性がそれに答えた。
「――」
 そこで、今日はここに複数の猟兵が入り込んでいることをメルメッテは思い出す。もしかしたら、既に誰かがここのオブリビオンと接触している可能性がある。
 もしそうならば、可能な限り急ぎたいところではあるが。

「しかし……沢山働きましたのに、私の体にはあまり変化が見られないのは何故でしょう……」
「ああ、気にしない気にしない!
『筋肉(マッスゥ)パワー!!』の道は、一日にしてならずだよ! 繰り返していけばきっと身につくし、シスターの儀式を受ければ皆『ムッキムキのキレッキレ』になって帰ってくるから、君も心配いらないさ!」
「はい……!
 残念ではありますが運動機能は向上している筈。成果は必ず発揮してみせます!」
「ん、そういえば。運動機能ならシスターに見てもらえるんじゃないかな?
 シスターは教えを広める為にこのアポカリプスヘルを一人で旅をしてきたっていうんだ。きっと強いと思うよ!
 シスターはとても良い方だから、ちょっと聞いてみてあげる」
 そう告げて、体力を取り戻した少年の面影を残すマッチョな男性は、おもむろに立ち上がると、姿を消して――そして、大した間もなく、許可の言葉と共に戻って来た。
 どうやら、シスターは地下にあるという筋肉大聖堂にいるらしい。
「ありがとうございます! これで少しでも強くなっていれば……!」
 そう告げて、メルメッテは素直な喜びを露わに微笑んだ。
 しかし。
 そのシスターという存在は、グリモアベースからの情報をまとめればオブリビオンである事にほぼ間違いは無い。
 己の筋肉増強結果の確認が、実戦となってしまうことには、若干の勇気はいるが。

 メルメッテは、この依頼終了後も続ける予定の、今まで教わった筋トレ続行も期待値に入れ。
 いつか。この筋肉(マッスゥ)マシマシの拠点の人々のようになれば、自分はもっと主様のお役に立てると――心から、そう信じて。
 さっそく、地下にいるというシスターの元へと己が身を駆り立てたのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『聖母』マッスルマリア』

POW   :    入信への誘い
【肉体美を見せつけるポージングと入信の誘い】を披露した指定の全対象に【入信したいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    筋肉の聖戦
【自身を信仰する信者達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[自身を信仰する信者達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
WIZ   :    聖なる筋肉開放
対象の攻撃を軽減する【極限まで筋肉が強化された肉体】に変身しつつ、【鍛え抜かれた肉体】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルミナ・セシールです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
いやだって俺のこの【怪力】生まれつきだし。冒涜だ何だと言われても困るんだが。
……まさか、先天性の力持ちのことをそう言って片っ端から殺してきたのか?
教祖だかシスターだかが聞いて呆れるぜ。
筋肉ってのはその太さの通りに心が広いモンじゃあなかったのか?

……と【挑発】して【おびき寄せ】ておこうかな。
攻撃は【激痛耐性】と【継戦能力】それから【気合い】でカバー。

そして力ってものは筋肉だけがモノを言わねえことを証明してやろう。
【指定UC】でハムスターを一匹召喚してシスターを持ち上げさせる。
そう、何故ならこいつも【怪力】だからだ。
かわいい小動物に持ち上げられる気分ってどんな気持ちだろうな。



 服の上からでも分かる褐色肌のマッチョ――恐らくはここのリーダーであろう、彼に半ば強制的に連れて行かれた地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は、大人しく連れて行かれるふりをしながら地下礼拝堂にて、ようやくオブリビオン【『聖母』マッスルマリア】との邂逅を果たした。
「筋肉(ゴッド)は、あなたの存在そのものが悪であると告げています。
 その筋肉のない細身における怪力は、人型の生き物にあるまじき冒涜。神が手を下すまでもありません。私が自ら制裁を下しましょう」
 そう告げたマッスルマリアの外見容相をと言われれば、美しいストレートのブロンドを靡かせアクアマリンの瞳を宿す、顔面の造形に非を打つ必要も無い美人、ではあった。しかし、問題点を挙げるならば、その首から下は――マッスゥ(筋肉)――ただただ、それに尽きていた。

「いやだって俺のこの怪力、生まれつきだし。冒涜だ何だと言われても困るんだが」
 それと正面から向き合い、凌牙はもはや筋肉による威圧感の権化と化している聖母――オブリビオンである、マッスルマリアに言葉を向ける。
 それに対して、マッスルマリアは悠然たる微笑みを湛えこちらに歩み寄ると、躊躇いなく凌牙の顔面に正拳突きを繰り出した。
「うぉっと!!
 ……まさか。先天性の力持ちのことをそう言って片っ端から殺してきたのか?」
 問い掛けと共に、凌牙の瞳に鋭すぎる刃のような光が走る。マッスルマリアは答えず、その微笑みは凌牙へと向けられたまま。
「ハッ、教祖だかシスターだかが聞いて呆れるぜ。結局はオブリビオンってか。
 ――筋肉ってのはその太さの通りに心が広いモンじゃあなかったのか?」
「笑止。
 ――全ては筋肉であり! 筋肉こそ全てであるもの!
 心というあまりにも儚きものは、その後の道についていく事で偶然的に磨かれていくに過ぎません。
 真にか弱き筋肉を知らぬ者には、その素晴らしさを説きますが、そもそもそれに頼らぬ無頼者を受け入れるものではありません。
 まず『筋肉ではない細ヒヨコ!』――あなたとは、そもそも在り方からして違うのです!!」
 言葉の狭間、マッスルマリアが、ガッとフロントラットスプレッドをキメる!
「あなたに足りないのは、圧倒的な膨張筋肉――バンプアップ!!!
 その細い実用と呼ばれる筋肉は――我々の理念とは相容れません! 細ければ良いというものではないのです!!」

 そして、流れるような仕草でその筋肉をサイドアップへと切り替え、更なる筋肉の際どさを強調する。見る者が見れば皆が思うことだろう――なんでその服、破けないんすか、と。

「さあ、信徒たる住人達よ! この場に己の筋肉の在り様を見せるのです!!
 筋肉賛歌・第一準備! 健全なるトレーニングは――!」
「「まずは、しっかりとしたストレッチからー!」」

「うぉう!! いつの間にいたよっ!?」
 マッスルマリアに気を取られる間に、その呼び声に集まった信徒達が、凌牙を一斉に敵と見なして、彼女を守るべく集まってくる。
 今は、訳も無くポージングを決めたり、ストレッチをしたりしているが、準備が終われば、あれらが一斉に襲い掛かって来る事は想像に難くない。

 凌牙は己の戦闘に自身を削る攻撃スタイルだが、その耐久力とメンタルを支える気合いには自信がある。
 しかし――。
 身構えながらも考える。捌ききる事は恐らく容易い。だが、その後どうするのか。
 この人数において、マッスルマリアへ一般人を無傷のままに、己の攻撃を届かせる事は出来るのか。

 それに、このマッスゥ達の集合姿。まるで集合体と錯覚する程に集まる姿は、雰囲気で語るとするならば、まるで『皆でプロテインを飲んでみた、仲良しシルバ○アファミリー』のようである。
 ――それを体感一言で片付けるならば、怖い。

 脳内を一度、綺麗に整理して。凌牙は一度思考を取り直す。
「よしっ、こちらは脳が筋肉じゃねぇ事を証明してやるよ!
 ――『筋肉だけが、【力】じゃねぇ!!』」
 気合いを伴う叫びと共に、凌牙のユーベルコードが唸りを上げる!

 ヂューッ!

 ――正確には、喚び出して凌牙の頭の上によじ上る、もっふもふで、ふわっふわの『ジャンガリアンハムスター』が。

「よし、頼むぜお前た……あいただだだだだ!!! だから俺の頭を噛むんじゃねぇって!!」
「何ですか、その小さきもの達は!」
 マッスルマリアが驚愕と共におののき、信者の住人共々、数歩後ずさる。
 その隙を突いて『術者の頭の齧り具合サイコー!』とばかりにあぐあぐしていた複数のジャンガリアンハムスターが、一気に地面に着地しては一斉に信者とマッスルマリアの元へと駆け込んだ。
 ――ちなみに、術者が代償にしたものは、噛まれたときに気持ち何本ともなく引き抜かれた【将来有望だった髪の毛】である。男子にしては中々の代償であったかも知れない。

「この小さきもの達に何ができるというのです!」
 しかし、マッスルマリアの言葉とは裏腹に、集まっていた信者達からは、周囲に散ったそのふわふわもっふの毛並みから『なんて可愛い!』『素敵!!』という言葉が飛び交い、すでに戦力としては期待出来ない。
 そんな中を、一体が躊躇いなくマッスルマリアへと特攻し、その足元に潜り込んだ。
「憐れではありますが、敵の間者であるならば踏み潰すまでです。
 ――フゥゥゥゥン!!」
 マッスルマリアの、正に『鋼鉄製肉柱』と呼ぶに相応しい脚が、一匹のジャンガリアンハムスターへ向けて容赦なく振り下ろされる。そのパンプスが、今まさに、それを肉塊に変えるのではないかと思われた瞬間。

「甘いな。そいつも――オブリビオンとも戦えるだけの、怪力持ちなんだ」
 凌牙の自信にあふれた声が、地下礼拝堂に響き渡った。
「何ですって、きゃっ!」
 ――聞こえた悲鳴と、その外見は。あまりにも『事故レベルのミスマッチ』ではあったが。言葉通り、踏み潰されるだけと思われていたジャンガリアンハムスターは、軽々とその圧力を耐えきり、逆にマッスルマリアを易々と持ち上げた。
 凌牙の表情に勝利が見える。
「さあ! 筋肉がどーだとか言うが。
 こんな、かわいい小動物に持ち上げられる気分ってどんな気持ちだろうな?」
「――」
 マッスルマリアが、完全にハムスターに持ち上げられたままに硬直する。そして、ゆっくりと己を持ち上げるその小さき存在に目をやると。

「ああ、本来ならば敵対すべき猟兵の手先……。
 ですが、私は確かに!『そのミニマムの中に秘めるマッスル』を感じ取りました! 見逃しましょう!!」
「……へ?」
 感動に打ちひしがれ、高鳴る声を伴い感銘を受けるマッスルマリアと、想定外極まりない声を上げる凌牙を中心に。

 周囲では、
「やーん、このハムスターかわいぃーっ!」
「これでシスターが認めたマッスルだとは……! これは一度はあやからなくてはなるまい!」
 ――その場に集まっていた信者の住人達は『賢い動物』よりも逞しく、それでいて可愛いというジャンガリアンハムスターを、一度は触れたいとばかりに追い掛けている。

「………………」
 あまりにも、あまりにも予想外の展開に。術者である凌牙も呆然とする中で。
 気付けば、地下礼拝場はユーベルコードが切れるまでの間、怪力で何でもこなせる愛くるしいハムスターたちは、その場を一気に歓喜を纏わせたほのぼの空間へと変化させていた――。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャーロット・キャロル
聞き出した情報を元に地下の筋肉礼拝堂へ。
確かに街の皆さんが言っていたように見事な肉体美。思わず見惚れてしまいます。
でも私だって負けてませんよ!●アルティメットマッスルモード発動で私も負けじとマッスルっぷりをアピールです!

お互いポージングを決め互いの筋肉を褒め称えますよ。敵対してても筋肉は平等ですからね。シスターもそこまで鍛えられたのは素晴らしいことだと個人的には思いますし。そうするとシスターは敵意を見せず私も勧誘してきますね。私もシスター自らが話す教義には興味ありましたしまずは話を聞きますか。

話を聞いて教えは素晴らしいとは思いますがそれを人々に強制するのは良くないです、筋肉は自由でなければいけません。故に、シスター貴方を止めなくてはならない!

お互い鍛え上げた身ならやることは一つ。正面から掴み合ってのパワー対決!
シスターのパワーは流石ですが私だって負けてませんよ!全力のフルパワーで勝負です!
(アドリブ・絡み大歓迎です)



「確か、ここの地下階段から『筋肉礼拝堂』へと行けると伺いましたが……」
 あれから、更に拠点の手伝いを重ねて。住人達から『シスター』と呼ばれる、恐らくはオブリビオンがいる正確な場所を聞き出したシャーロット・キャロル(マイティガール・f16392)は、集めた情報を元にして、ゆっくりと地下に通じる階段を降りていった。
 アポカリプスヘルの拠点としては、かなり贅沢な方であろう。地下であっても常時、電気が通っている。ゆるやかではあるが灯りが伴い、照明が壊れている箇所もない。
 そして階段を降りれば、そこには広々とした空間と、拠点の住人が数人ほど目に入る中で、一際目立つ赤の衣に身を包んだ存在が、まるで『我は樹齢百万年の縄文杉である』と言わんばかりに、シャーロットを待ち受けていた。

「待っていましたよ、猟兵――もとい、筋肉の迷い子よ!!」
 響き渡るオブリビオン【『聖母』マッスルマリア】の声。それに合わせて、天井から一気に煌めき輝く照明が降りそそぎ、その圧巻たる筋肉を照らし出した!
「何というナイスバルク!!」
 同じ筋肉の道を志す者として、オブリビオンであろうがその身に構える強固な肉の壁すら彷彿とさせる姿には称賛をせずにはいられない。思わず上げたその声に、マッスルマリアは住人達を後ろに下げると、ボディビルの基本であるフロントリラックスポーズから、サイドリラックスへの流れをシャーロットに見せつけた。
 名に『リラックス』とは付いているが、その実態は全身に力を込めた筋肉全体を見せつける、華麗なる基本にして、究極のポージング形態である。
「はぁぅ……っ、何という素晴らしい筋肉でしょう……」
 心の底からの感銘感動のため息を零しながらシャーロットは呟いた。これは、ただでさえ筋肉量がおかしかった拠点の住人達が、心から讃え告げていただけの事はある。その様子に気を良くしたマッスルマリアは『リラックス』のポージングを前後左右、流れるようにシャーロットへと決めていく。
「ええ、ええ。筋肉は正しく『父であり母であるもの』!
 猟兵であろうとも、その身が細くか弱いものであったとしても!
 筋肉を讃える心さえあれば、それは神(マッスゥ)の慈悲をもって向かえましょう!」
 滔々と謳い語るマッスルマリアが、一度完璧なるフロントラットスプレッドを決め上げる。
 キレッキレの筋肉、服の上からでも浮かんでいるのが分かる素晴らしきその血管、血流の流れ――。
「何という、キレの入った筋肉……服の上からですら分かる、身体に浮かび上がる血管血流の存在感――
 でも私だって負けてませんよ!」
 その筋肉が、シャーロットの意志を、心を煽る。シャーロットは半ば高鳴る胸を押さえきれずに、相手の肉体に相応しいこの上なく適切なユーベルコードを発動させた!

「はぁぁぁぁッ!! フゥゥゥゥウ!
 筋肉はぁ――素晴らしいぃ!!」

 その筋肉の雄叫びと共に現れたのは、シャーロットがサイボーグへと改造された際に付属された、強化特殊人工筋肉による、マッスルマリアに負けずとも劣らないバルク増し増しのマッスルボディだった。人工筋肉とはいえ、それは彼女の努力にしかと応え続けては膨張を続けて来た、神の与えたもうた唯一無二。この姿に至るまでに鍛え上げた筋肉は、正に彼女の為だけに存在しているものなのだ。
 そのまま、まずシャーロットが見せたものは、三角筋から大腿四頭筋までをも、パーフェクトに相手の視界に叩き付けるサイドチェスト!
 女性のボディビルダーの場合、背中からヒップに向けた美しいラインもジャッジ項目に含まれる筋肉の性別差による難易度の高いものだ。だが、それを完全に備えたシャーロットに対し、筋肉だけを求め続けて来たマッスルマリアにはその流れが足りていない。
「くっ……!! 己の弱点というものは、己が一番良く知るもの――!
 何ということでしょう。名乗りなさい、猟兵。
 ――敵であれども、その筋肉は素晴らしい!」
 マッスルマリアが次なるポーズをキメつつも、魂より叫び上げる。それはまさしく、シャーロットをライバルとして定めた証だった。
「流石は、敵であれその筋肉の意味を知る存在――私は、シャーロット・キャロル! 敵対していようとも、筋肉は全てにおいて平等!
 ――シスター、あなたこそ、それぞれ、ひとつひとつに魂の宿ったシックスパックは、称賛以外の何物でもありません! そこまで鍛え上げたからには、その激しさに眠れぬ夜もあったことでしょう!
 私は、あなたを讃えます!!」

 互いに激しくポージングを決め合っていたシャーロットとマッスルマリアが、それを解き、利き手同士で固い握手を交わす。
 それは、本当は少々越えてはならないような気もする、オブリビオンと猟兵の壁を越えた、確かなる同志としての証明であった――。

「猟兵――いえ、シャーロット」
 マッスルマリアがサイドトライセップスのポーズと共に、弾けんばかりに鍛えた上腕三頭筋を、服下からでも分かるように際立たせながら問い掛ける。
「全ての生きとし生けるものが持つ『筋肉(マッスゥ)』――それを私と共に鍛え、更なる高みを目指しませんか?
 私の見立てに間違いはありません。あなたならば、より高い世界へと立ち登れるはずなのです!」
 ――マッスルマリアのユーベルコード【入信の誘い】が、シャーロットの心に響き渡る。筋肉を前にしては、敵も味方も関係は無い。その信念を正面から形にするマッスルマリアの言葉は、既にメンタルの三分の二以上を筋肉の神に捧げていたシャーロットには大打撃とまではいかないものであったが。しかし、オブリビオンとはいえ、拠点の住人達を通し、その教祖本人が掲げる教義には興味を引かれるものだったのだ。
 ひとまずは、話を聞こうという気持ちになってみる。オブリビオンであろうとも、筋肉を前にしては平等なのだ――という、新興宗教ではアウトまっしぐらであるが、シャーロットとマッスルマリアの場合は、完全なる『同好の志交流会』に近いものの域を出ない。

「そもそも人間はあまりに脆弱なもの。それを正すことは宿命――そう感じ、この地で我に返った私は、まず人々に『筋肉(ゴッドマッスル)を宿す』ということは、確かなる崇高な使命だと思ったのです」
「そう、ですね――」
 マッスルマリアがゆったりと、しかし真摯に語り始める。聞くに従い、若干極論じみてはいるが、それを皮切りに始まった相手の話は、シャーロットから見ても、大幅に間違っていると否定するものでもないように思われた。
 これが他の世界ならばともかく――アポカリプスヘルは、基本的に弱者が生き残る余裕があまりにも少ない世界であるが故に。

「故に、私は。ここに協力者を得て、拠点を定めました。
『筋肉賛歌』を作り、筋肉の在り様を伝え、その素晴らしさを訴え、讃え忘れないようにする――その実績を、私はこの拠点に作り上げたのです。すると、住民達は次々と筋肉の素晴らしさに気づき、栄養学を研究し、食料を自ら手に入れ、他者から奪う必要もない程の理想郷が完成したのです」
「なるほど――」
 思いの外、壮大すぎた話にシャーロットは今まで頷く事しか出来なかった、が。

「その結果の末に、私は確信しました。
【筋肉に差別があってはなりません】。その為、私は筋肉賛歌の歌唱時間を増やし、更なる筋トレに向かわせては、倒れるか弱き者を選別し隔離して、密なるコースにて完全なる肉体を手に入れさせる――。
 最初は、恐れ悲鳴を上げますが、拘束してでも訓練を続けさせれば――皆、最後には光る歯と波打つ筋肉を得て、喜び勇んで仲間達の元に戻っていくのです。
 完全に教えを拒否した者を、仲間の元に戻すことは叶いませんでしたが……主(筋肉)の教えに従えなければ止むを得ないこと」
 その言葉に、耳を傾けていたシャーロットの息が僅かに詰まった。

 ――その教えを、完全に拒否した人たちは最終的にはどうなったのか。相手がオブリビオンである以上、聞くまでもないことだろう。
 ここまでだ、とシャーロットの心が告げる。

「教えは素晴らしいとは思いますが」
 いつしか、お互い床に座り、膝を突き合わせるように話を聞いていたシャーロットが立ち上がる。
「筋肉――それを人々に強制するのは良くないです。
【筋肉は自由でなければいけません】。
 故に、シスター。……私は、貴方を止めなくてはならない!」
「……やはり、猟兵とは、相容れませんか」
 マッスルマリアも、膝下に付いた埃を払い、ゆっくりとその体躯を揺らして身を上げる。

「ならば、やることは一つ、ですね――」
 シャーロットが臨戦態勢を取る。
「ええ……。
 法(筋トレ方針)に従わぬ者よ――死になさい」
 そして、マッスルマリアが両腕を広げ――互いの視線がぶつかり合った瞬間、その互いの両掌を一気にぶつけ合わせた!

「ヌゥゥゥゥンッ!!
 あなたに、負ける訳にはぁ――ッ! フゥゥぉああ!!」
「ハアァァァアッ!! 私は、この法を敷く者として、猟兵には負けません――! フォォォォォォ!!」

 互いのバルクが、組み合わせぶつかった手を通じ、全身で唸りを上げる。
 ぶつかり合うその力を支え、更なる血管の張りを見せる泣く子も黙る盛り上がりを見せる三角筋。
 互いの力を受け止め合い続ける、海波の如く波打つその上腕二頭筋。
 油断すれば背骨すら折られかねない力の暴力。それを総力をあげて支えきる、鬼神が宿って縦筋にキレにキレた脊柱起立筋と、大地について地面を抉るヒラメ筋に込められたその力!

 フルパワーにおける互いの力は互角、それは数百年、むしろ千年の均衡すらも保ちかねないと思われた――その時、
「ヌゥォアアアア!!」
 シャーロットが己の寿命を更に削った最大パワーにより、ほんの刹那の間、力の度合いでその力はマッスルマリアを上回る。
 ――均衡は崩壊した。マッスルマリアは全ての衝撃を受け、己では支えきることが出来ないままに背後遠くの壁へと、罅割れと共にシャーロットの力で激しく叩き付けられた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九十九・静香
やはりこうして相対し言葉とそしてマッスルポーズをかわせば
貴方のそれが純粋な筋肉愛であることが分かります
筋肉化もそこまで無理矢理のものでもない(多分)のもわかりました
ですがオブリビオンである以上
対処はしなくてはいけないですわね

まずはマッスルポーズの◆パフォーマンスで
マッスルポーズをし合って挨拶しましょう

次は筋肉対話ですわ
◆グラップルで肉弾戦を挑みます
むう、流石の強靭な筋肉
ならばこちらも筋肉にて真っ向勝負!
ぷ炉手院を食べて更に一時的に筋肉を増強
◆力溜めからの拳で◆鎧砕き効果の筋肉も貫通する一撃を

UCで骸の海との繋がりを断ち
此処で皆様と歩めないか試しますが
我儘は申しません
無理でも攻撃に容赦はしません



 今、戦場はあまりにも『筋肉(マッスゥ)』一色だった。
 筋肉に想いを懸けた存在のみが、呼吸を許される、存在を許される――そのような、修羅の世界。
 今までの、戦況を一瞬でも逃すことの無いように、目を見張り凝視し続けて来た、黒粘液謎生物『クロ様』と完全同化した上で、フルマッスルバディと化していた、九十九・静香(怪奇!筋肉令嬢・f22751)は、その光景をひたすらその栗色の瞳に留め続けていた。

 そこにあったものは、互いに敵対し相反しながらも、そのパーフェクトなまでに決まりに決まったボディに宿した『筋肉言語ポージング』による、激しいまでの強き意志の争い。
 目にすれば、それだけで静香には分かるのだ。
【『聖母』マッスルマリア】も、その想いが、無垢なまでに純粋な、筋肉愛によって動いている事を。

 ――実際、マッスルマリアが指導しているという儀式に参加してみた静香としてみれば、数口ではあるが、先程まで出され食していた料理は間違いなく美味しかった。
 少々、原材料が特殊である可能性については目を瞑り、その後の『三時間の筋肉賛歌斉唱』については話題を逸らし。
 その後、恐らく発生していたであろう実施筋肉トレーニングについては、量によるところもあるだろうが、それら自体はサイボーグ化されたり、半同意の末とはいえ怪奇人間への変貌へと到る【肉体強制改造行為】と比較すれば、あまりにも健全なものであろう――(多分)、と言わざるを得ない。
 とにかく、か弱い乙女達が手を伸ばし求める『筋肉道』というものは、それだけ一般的な人間性から見ても過酷な道のりであり、困難を極めるものなのである。
「ですがオブリビオンである以上……
 ――対処はしなくてはいけないですわね」
 そう、どのように人類に輝かしく見えようとも。
 オブリビオンとは、世界を必ず滅ぼす宿命を背負うが故。

「――改めまして、地下ではお目に掛かる事かなわず、大変な失礼を。
 私、九十九・静香と申します」
 全身を、筋肉隆起の麗しさを一切邪魔しない、黒粘液謎生物『クロ様』による密着型スーツを纏った静香が、マッスルマリアへ向けて、ボディビルダーの基本とも言えるフロントダブルバイセップスポーズをキメて歩み寄る。
 華麗なる仕草、それは拠点の一人が思わず天井からのスポットライトを、静香の方へと照らし出す程。
「ええ、話には聞いていましたよ。まさか猟兵だとは。
 私は今程これを悲しい出会いであると思った事はありません」
 うっすらと瞳に哀愁の色を差し、顔を向けたマッスルマリアも、哀しみの重さに瞳を閉ざしつつ、静香のポージングに向けて、己の想いをモストマスキュラーポーズへと捧げ託してこちらに向ける。
 筋肉を前に、尚も相容れない存在である事を実感し始めたマッスルマリアの哀しみをそのポージングより一心に受けながら。
 それでも相手はオブリビオン――静香は筋肉ポージングの緊張感をそのままに、両手を前に構えると、激しくマッスルマリアに向けて突進した。
 指先、否、爪の先の細胞ひとつすらも筋肉なのかも知れない手指が、迎え撃ったマッスルマリアの両手に絡みぶつかり合う。
 他の猟兵に、まさしくそれで一度負けている態勢である事を思い出し、マッスルマリアは苦悶の表情を隠さない。――それでも尚、油断をすれば負けそうになるのを押さえ込み。
 同時に、静香の上腕三頭筋が、ビシビシと筋繊維がちぎれていく小さな悲鳴を上げ始めるのを感じ取る。
「これは……! 見事なまでに、強靭な筋肉ですわね――!」
「あなたの情熱。見事、確かに感じ取りました――。
 そこまでの本気であるならば、私もこれを見せましょう――この筋肉(素晴らしきマッスゥ!)の真の姿を!!

【聖なる筋肉、解放!!】」

 一歩、組み合いから距離を取り。マッスルマリアから高鳴り響いた声は、戦場にて天への祈りを捧げ叫ぶ、戦士そのもの。
 ――瞬間、
「フォォォォッ!!」
 マッスルマリアの雄叫びと共に、上半身のシスター服が一斉に、縫合箇所の有無など問うなど愚か、と言わんばかりに無数の布片となって弾け飛ぶ!
 現れたのは、肩を編み目脈打つメロンにでも差し替えたのかと言わんばかりの三角筋に、筋肉フェチが彫刻でも彫って継ぎ足したのではないかとすら思わせる上腕筋。そして、内部にボディビルダー用の水着を着用していたその大胸筋は、まるで天使が空飛ぶ為の筋肉量を物理再現したかのような分厚さにあふれ返っていた。

「はぁぁあぁぁっ!! これぞ、私が持ちうる最上の筋肉ぅ!!」
「――! 何という、賛美の言葉も足りない仕上がりでございましょうか!! ならばこちらも筋肉にて真っ向勝負ですわ!」
 マッスルマリアと離れた距離は、静香にとっても幸いだった。あの筋肉に勝つ為には、手段は一つ。
 ――九十九家謹製合法パワーフード『ぷ炉手院(ぷろていん)』――それを手にすると、静香は食べやすいスティック状のそれを齧り食す。本来ならば令嬢らしい礼節もあるが、今は一秒を争う緊急事態である以上、止むを得ない。――それだけの理由が、ここにはあるのだ。
 一般人ですら、即ムキムキになれる明らかな違法――否、合法として許可されている『ぷ炉手院』を齧り切ると、静香は更なるパワーに包まれた!

「ふぉぉぉぉお!! これぞ筋肉! これこそ筋肉を通した魂の輝きです!!」
「一時の眩き筋肉の為ならば、ドーピングすらも認めましょう! さあ、勝負です!!」
 距離を取っていたマッスルマリアが、空気の摩擦で光すら放つ速度を伴って静香に迫り、相手の胴体へ捕捉を狙う手を見せる。
 ――静香は、コンマにも満たない短い時間を見据え、マッスルマリアを迎え撃つ。脇を締め、絞りに絞った拳をその胸中央に据え。
 そして、静香は相手が防御態勢に入る前に、鉄鋼の甲冑すら撃ち抜かん勢いの正拳突きを、マッスルマリアのボディに一撃容赦なく叩き込んだ!
 衝撃波が、マッスルマリアのバルクを撃ち貫く――鋭すぎる衝撃は、刃のようにその反動を奪い、相手の両膝を地につけた。

「か……っ、ふ……!」
 一時、マッスルマリアの動きが完全に無力化される。その隙に静香は、骸の海にまで干渉し、本来そこから滲み涌くオブリビオンを、骸の海自体から解放するユーベルコード【過去より離れ新たな命で在れ(ニューライフマッスル)】を発動させた。
「『在るだけで世界を蝕む存在、ならばその基との繋がりを絶ちます。縛られぬ生を貴方に。願わくは筋肉愛と共に私と歩む道を』」
 言葉のままに、その場に振り始めた黒い雨は、『骸の海と対象を断絶する筋肉鍛練ジム空間』というとんでもないモノを創り出した。
 ――付属して出来上がった空間は、ともかく。
 少なくともそれにより、マッスルマリアは、オブリビオンと骸の海との関係性を完全に切り離されたのだ。

「これで、あなたはここにおいてはオブリビオンではない一介の筋肉を讃える同志の一人――。
 どうでございましょうか。……此処で、皆様とその道を共に歩んでは行かれませんか」
 ユーベルコードがどこまで保つものかも分からない。だが、大切なのは、マッスルマリアの心ひとつ。
 しかし――彼女は答えた。

「……私の存在は、私の讃える筋肉は全て『過去の生き様(きんにく)』によって綴られしもの。
 その『過去』無くば――私は、私の筋肉諸共、いつしか必ず消滅する定め……
 私は消えても構いません――ですが。
 過去の己に『確かに輝いていた。その筋肉の意味』だけは、今あるこの手で広め、残さなくては……。
 故に、ここがいかなる理想郷の意味を持つ場であろうとも……私は、立ち止まり続ける訳にはいかないのです!」
「……そう、でございましたか。
 ならば」
 静香は、その決意を、その覚悟を、確かに胸に刻み込み。再びオブリビオンであり続ける選択をした相手と向き合う――。

 そして再び、
「「ふぅォんんんーーッ!!」」
 その我が筋肉のみを戦友として。敢えて加減するというリミットを外したままに、互いは今にも爆発しそうな己が信じるマッスル(神)を伴い、相手の胸元へ飛び込んだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
入信すればムキムキに?普段ならオブリビオンの話に耳を貸さない私にも魅惑的な響きとなって聞こえます
「私でも逞しくなれる……強靱に、鋼の様に……。まあ。それは、まるで」
主様の、ような。
……『主様』?

――脳裏に主様の御姿が浮かんで踏み止まります
本を正せば、主様の御役に立ちたい・主様の為に更なる高みを目指したい、その熱が始まりなのでございました

「……拠点の方のお話では”儀式を受ければ皆ムキムキになって帰ってくる”と
けれども、そうして得られた肉体は真の意味で鍛えたと、己が成長の証であると言えるのでございましょうか」
「私は、私の意志で!私自身で鍛えてみせます!
それに!私の心を決めるのは貴女様のお言葉ではありません!」
【狂気耐性】で誘いを振り切り『殉心戯劇』
先程の訓練の成果を発揮すべく、体を動かして敵の攻撃を回避しながら敢えて接近を試み、至近距離から渾身の熱を込め銃撃します
「進歩の切っ掛けを下さった点については感謝をしております」

手応えを感じました!終わり次第一刻も早く帰還して主様に報告致しませんと!



「「皆様の! 素晴らしき筋肉の為に!
 ここで少しの休息と、給水時間を設けます!!」」

 戦闘で火花を散らす【『聖母』マッスルマリア】と、今まさに火花を散らす猟兵達の間に、上半身マッパで輝くボディをした拠点に住まう男性住人達が勢い良くその身を盾に双方を押し留めた。
「クッ! あと一歩でキメるところでしたが『筋肉の叫び(神の宣告)』には逆らえません!
 ここで一時休憩とまいりましょう、猟兵達」
 熱気と血気を溢れんばかりに散らしていたマッスルマリアが、住人から冷たい水を手に、突然空気を読まない、完全なる休憩モードに入る。
 そして、猟兵側にも、筋肉信徒が決して少なくない今回は『筋肉の為の休息を無視してまで、敵を殴る事は出来ない』とばかりに、一旦の仕切り直しを提示した。
 相手は決して弱いオブリビオンではない。筋肉の問題もあるが、数で勝らなければ相討ちが上々となってしまうであろうと判断し、休息をもどかしく思う存在もありつつも、一旦は、全員一致で可決がされた。
 休息の意思を見せれば、同時に猟兵皆にも、住人達の手から、この大地にまだ汚染されていないキンと冷えた水が配られていく――そして、マッスルマリアが率先して腰を下ろすという警戒心の無さから始まった休憩で、皆がふぅと一息ついた。
 今まで、命を削る戦闘をこなすオブリビオン戦で、このような間の抜けた時間があっただろうか。『緊張感が可哀相』になってくるので、少なくとも、毎回は避けたい状況ではあるかも知れない。

「そこの、柔な少女も猟兵とは。筋肉と力は圧倒的な共有関係にあるというのに、神(筋肉)に逆らう悪魔というものは、あまりにも残酷な事をなさるというものですね」
「え? わ、私でしょうか――!?」
 気が付けば、寛いでいるマッスルマリアの視線が、受け取った水を心地良く飲んでいたメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)へと向けられていた。一気に緊張の走るメルメッテに向けて、マッスルマリアが安心させるように、足を流すように座りながらも、完璧なまでの『フロントラットスプレッド』を決めて見せる。
 この安心効果はあまりにも期待出来そうにないが、それでも『筋肉がゴッド』であるならば、マッスルマリアにとって、それは『神の後光かつ、神の加護そのもの』でもあろう。それを掲げて、マッスルマリアはメルメッテに慈母の瞳で話し掛けた。

「猟兵である前に、私達は等しく筋肉を求める同志であるべきなのです。これからも戦いに赴くのであれば、筋肉ほど素晴らしく、筋肉ほど美しく、筋肉ほど勝利に相応しいものはありません。
 筋肉により上がるのは腕力のみならず、瞬発力も反射神経も。己に存在する、全ての潜在能力を最大限に利用する事が出来るのです。
 ――あなたも、神(マッスゥ)を感じてはみませんか。そうすれば、そのようなか弱い身体から解脱する事も可能なのです――!」
「――! 入信すれば、この身体の筋肉も、ムキムキに……?」
 メルメッテは、思わず己の腕、手、背中に脚と、順番に目を向けていく。それは、良い意味で柔らかい女の子の身体そのものであり、通常であれば『構成物質:筋肉』であるマッスルマリアに言われても、嬉しい要素などどこにもないものだ。
 しかし――。
「ムキムキ……」
 メルメッテは最後に自分の手のひらに目をやり考えた。普段であれば、そもそもオブリビオンの話などに耳を貸すまでもない。迅速に、徹底的なまでに倒して、骸の海へと送り返すのみ。――しかし、今回ここに来たメルメッテの目的は、それとは大きく異なるものだった。
 その彼女には、マッスルマリアの【入信への誘い】を向ける言葉が、今あまりにも甘美に響く。
「ええ、筋肉は平等なのです。たとえ、始まりがどのような身体であろうとも。もうこの場におられる時点で、あなたにも逞しく、強靱なる鋼のような肉体が約束されているのです」
「私でも逞しくなれる……強靱に、鋼の様に……。
 まあ。それは、まるで――」
 既に、完全なまでに、オブリビオンのユーベルコードの術中である。
 しかし、そこに陶酔するメルメッテの言葉に合わせて浮かんだイメージは――。

「あるじさまのような」

 それは――激しいまでの褐色バルクに包まれたメルメッテの姿などではない。
 当て嵌まったものは、純白と紅の、色味美しくもすらりとした体躯を支え、傍目にすれば華麗さすら伴うであろう動きの基軸となる黒のインナーフレームを携えたキャバリア、己の『主様』――。

「……『主様』?」
 ふと、我に返ったようにメルメッテが呟く。今はこの場にいる気配はなけれども、思考の中に、まるでパズルのピースのように綺麗に収まった己の主の姿。
 危うく手放し掛けた思考が全て一瞬の元に引き戻される。
 元を正せば、己の筋肉獲得意欲は、全てはその主様が為、そのメイドである己が『主様の為に』更なる高みを目指したいのだと、その心に灯った熱ひとつで生まれたものだった。

 だが、拠点に来て集めた情報を改めて振り返れば――そこには、ひとつ。想像していたものとは異なるものが存在していた事を、メルメッテは改めて思い返す。
「……拠点の方のお話では『儀式を受ければ皆ムキムキになって帰ってくる』と」
「ええ、ええ。もちろん、あなたにもその権利はあるのですよ」
 マッスルマリアが穏やかな微笑みを、惜しみなくメルメッテへと向けている。

 ――しかし、もう。己の熱と鼓動の意味を取り戻したメルメッテは躊躇わない。
「けれども、そうして得られた肉体は真の意味で鍛えたと、己が成長の証であると言えるのでございましょうか」
「……なんですって」
 マッスルマリアの声が、一瞬にして、周囲の温度を冷たいものへと変えていく。

 ――メルメッテが単独行動を許されているのは、ひとえに自身の見識を広める事を、他でもない己の主様から許可されたからだ。
 その、自分が主から与えられた自由を、時間を、意志を。
 己の輝きを他人に委ねたと知った時、まず己の主はそれを許容するだろうか――答えは、間違いなく否であろう。

「私は、私の意志で! 私自身で鍛えてみせます!
 それに! 私の心を決めるのは貴女様のお言葉ではありません!」
 コップに残っていた水を一気に飲み込み、メルメッテは立ち上がる。
「休憩もお話も……ここまでの様子。
 ――その言葉は、ここに差し出された筋肉(ゴッド)の手を拒否したものと見なします」
 言葉と共におもむろに立ち上がったマッスルマリアは、己の身を確かめるように『バックダブルバイセップス』を決める。
 その身体は、上半身のシスター服が破け散り残った、水着のバルクからは溢れんばかりの熱を醸し出しながらも。その場の空気は住人達が思わず、そこから足を遠のかす程の、ひやりとした雰囲気で埋め尽くす。
「……しかし、己の心によりいつか鍛えるというその意志を、神(筋肉)は尊重することでしょう。筋肉とは、愛溢れる、枯れる事無き泉と同じであるが故に。
 ――今すぐ、眼前より姿を消せば。全身の骨が、筋肉よりも体内で先に砕け散るような、カルシウム片となる前に見逃す事もやぶさかではありません」
 ポージングを決めたマッスルマリアの【入信の誘い】――それを、己の心臓に燃え上がる情熱ひとつで撥ね除けたメルメッテは、腰に身に着けていた厳つい思念銃を手に取った。

「――武器、ですか――完全、決裂ですね。
 鍛え上げきった筋力を前にしては、それすら無力。
 そして、筋肉(神)はその存在を、全霊を以て認める事は無いでしょう。
 慈悲はありません。死になさい」
 声音が完全に凍りついたマッスルマリアから、凍える宣告を正面から受け止めるべく、メルメッテは答える。
「……確かに、筋肉を前にして武器は卑怯かも知れません……。
 ですが、これは武器である前に、私の心の熱をそのまま伝え、形にする為の道具です!
 ――その全霊にて、私の心、味わっていただきたく!」
 互いの空になったコップが、置かれたその場から弾け飛んだ。
 避難誘導の必要が無いまでに、住人達は自らの身の安全を確保している。それは今、明瞭すぎるまでのオブリビオンとしての恐怖が、マッスルマリアから溢れているに他ならない。
 マッスルマリアは距離を詰めようとするメルメッテに向かい、巨木の幹にも近い太さと樹齢を刻みこんだかのような己の両腕より、ダブルラリアットを繰り出した。
 暴風を伴い近づくそれを、情報収集時に教わっていた訓練の成果を生かし、視野と動体視力、そして瞬発力を限界まで活用してしゃがむ事で回避する。
 メルメッテの手にする思念銃は、近接距離におけるアドバンテージはゼロどころかマイナスにも近く、更に相手が化物じみた筋力保持者では、それは明らか過ぎるまでの、不利。
 それでも、とメルメッテは『己が信じる熱意に、更なる想いを寄せて』――願う。

「己の胸の高鳴りは、己の意志で定めるものでございますれば!」
 メルメッテの手にする思念銃が、己の身を包むアンサーウェアが。その銃口に光と、全身に視界の透過を揺るがす陽炎を生み出していく。
「なっ!?」
 体勢を立て直す為に、マッスルマリアが大きくバックステップで距離を取る。しかし、それをメルメッテはアンサーヒューマンの能力により予測し、更に追い縋るように距離を詰めた。
 そして、鋼鉄すらも融かす灼熱にまで近くなった銃口を、ほぼゼロ距離に近いマッスルマリアに突き付け、
「それでも。進歩の切っ掛けを下さった点については感謝をしております。
 ――【この己の意志を向ける、激しいまでの熱をあなたと共に】――」
 メルメッテのユーベルコード発動の瞬間。その心と繋がった思念銃が、暴発しかねないまでの光を放ち。
 あまりの眩さに目がくらんで、身動きを失ったマッスルマリアの胸を、苛烈なまでの光が貫いた。

 燃えるような肉の焼け焦げた音――マッスルマリアが無言で、胸を押さえ蹲る。
 激しく息をつきながら、己の一撃がオブリビオンに有効であったことを、改めてメルメッテは感じ取る。

「手応えを感じました……!
 終わり次第、一刻も早く帰還して主様に報告致しませんと!」

 ――メルメッテは、その心に、己の『成長した想い』に、今回の依頼を通し、確かな自信と確信を得た。その自分に僅かではあるが誇りすら感じ入るものであり。
 そして、この成長は――そして、それを元にした【己の筋肉増強計画】は『主様』にも、きっと心から喜んでもらえるに違いない――そう、疑ってもいなかった。

 だが『己のメイドであるメルメッテを、褐色バルクの筋肉ダルマにする為に、彼女に自由を与えているわけではない』――その主が、この事実や信念を知ればどうなるかは、あまりにも想像に難くない。
 ――せめて、日常からはあまりに感じられないが、その分純粋に溢れた己のメイドへの、恩情にあふれた寛容を心から祈るばかりである――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
本当に前世が手榴弾!!
…何かこれはこれでちょっと美しいとか思ってしまった
悔しい
…大丈夫だ、我が騎士よ
私は入信などはせぬ

愛馬に騎乗し敵から出来るだけ離れよう
何だかんだで暑苦しいゆえ
それにしても我が愛馬の馬体の今日も美しきこと
筋肉は斯様な機能美こそ至上…
いや待て
何故筋肉のことを考えている私

疾く倒せ我が騎士よ
どうだ、見かけ倒しめ
貴公のフロントラットスプレッド用の見せる為だけの筋肉など、我が騎士の実戦実用のー
…嗚呼駄目だ!
脳が汚染されている
わ、私もう駄目かも…介錯してくれ我が騎士よ
…否、うむ、そうだな、斃せば良いな
蹂躙せよ、我が騎士よ
事態は一刻を争う

「黒薔薇忌」を鳴らしつつ「茨の抱擁」を嗾ける
邪魔をするなら信者どもにも差し向けて、死なぬ程度に吸血させる
活きの良い血液はさぞ美味であろうよ

我が身に筋肉など不要
私はこの手振鈴より重いもの等持たぬ
そうであろう?我が騎士よ
我がオーラ防御の前には鍛えた拳も無駄である
全力魔法で強化した我が騎士は筋肉で劣れど貴公らよりも強かろう!

…恐ろしい敵であったなぁ…



 他の猟兵による、鋭い閃光の一撃が【『聖母』マッスルマリア】を貫いた。
 この拠点のリーダーであろう褐色肌の筋肉マッチョである男が、慌てて駆け寄ろうとするのを、マッスルマリアは自らの豪腕で制止する。
「……ッ、この程度で、筋肉が屈することはありません……!
 筋肉は、無敵なのです! この程度の血、己がマッスルを絞り上げれば一時の手当すらも不要!!
 ――この【聖なる筋肉開放】! フォォォォォオ!!」

 それは、まさしく神(筋肉)へと捧げられた祈りの叫び。
 マッスルマリアが片膝をついていた状態から立ち上がり、掛け声と共に、正面へ向けた全身に力を込めるポージング『リラックス』を決めれば、その収斂により高熱による血の流れぬ焼け傷が完全に筋肉によって埋め尽くされた。
 それを目にした拠点の住人達から歓声が上がる。傷は塞がっていないのだが、それに皆が気付かない程に、マッスルマリアの筋肉は完璧であったのだ。
「痛覚などすらも、神の則(筋トレ)の苦難に比べれば、あまりにも、あまりにも些事に等しく!
 さあ、住人達よ讃えるのです! それらを成し遂げる筋肉の素晴らしさを!
 その筋肉から泉の如く我々に注がれていく、その愛を!!」

 ――その光景に、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は流石に言葉を無くした。絶句した。
 単純な呆れからなどではない。
 そこにあったものは、明らかなる衝撃を伴う感銘だった。
「これは――これでは本当に話に聞いていた通り、相手は【前世が手榴弾】ではないか!!」
 己の傷口すら覆い隠した、豪胆なリラックスを神々しく向けるその姿に。ラファエラは胸に感動という言葉すら浮かび上げては、激しくその心を揺さぶった。
 今、己の目に映し出されるものは、鋭く定められた自我を伴い、怠惰ひとつなく鍛えに鍛え上げられたその筋肉――。
「い、いかん……何か、これはこれでちょっと美しいとか思ってしまった。
 ……悔しい……」
 ぽつりと、言葉紡ぐラファエラの胸に、不思議な圧倒感と、僅かな敗北感が滲みわたる。
 その筋肉は明らかに、生前、金銭と過去の権力を伴い、本当に大事な物以外の全てを手にしてきたラファエラが、いくら望もうとも手に入らないものだった。
 その呟きを耳にしたマッスルマリアが、慈愛に溢れた瞳をもって、ラファエラに微笑み返した。

「今からでも遅くはありません。筋肉は、全てに対して平等なのです――私にも、あなたにも」
「う――っ!!」

 思いきり言葉が心に突き刺さる。
 その様子に、本来であれば速攻戦闘と定めるべく発動させていたユーベルコード【深き淵への嘆息(サスピリオルム)】によって、喚び出されていた白馬を伴った騎士が、主への心配をその雰囲気から露わにした。
「……大丈夫だ、我が騎士よ」
 その心を察して、ラファエラが応える。
 ――しかし。今まで、骸の海からユーベルコードで強制的に召喚した己の騎士に心など望むべくもないと、そう思い続けていたラファエラである。騎士もそれを胸に押さえ、己の想いも行動も、その全てを最小限に抑えてきた。故に、今の――こちらの心配を認識し、それを疑わない主君の状態は、危険である、と。

「私は入信などはせぬ……ああ、何だかんだで暑苦しい空間だな! 後は任せる、私はテネブレと共に離れ――」
 そう告げて、ラファエラの意に応えその場に現れた、見事な青鹿毛を持つ愛馬Tenebrarumに騎乗しようとして、ふとその馬体へと目を向けた。
 ヴェール越しでも分かる、今日も自分の愛馬は美しい。この項から頚の鋭い逞しさを見よ。サイドサドルの鞍を乗せても決して隠れることのない鬣甲から腰の流れはどうだ。更に嗚呼、絞り引き締まった腿の、

 筋肉。

「筋肉は斯様な機能美こそ至上――。
 ……いや待て。
 何故筋肉のことを考えている私――疾く倒せ我が騎士よ!」
 ちょっと、段々思考が自分のものではなくなっていく気配がする。僅かな動揺を伴い、ラファエラが指示した騎士は、己の甲冑すら空気を思わせる駿足でマッスルマリアに駆け寄ると、『フロントラットスプレッド』のポーズでラファエラにアピールをしていたその腰に、剣による横一文字の閃撃を浴びせ掛けた。
「どうだ、見かけ倒しめ。
 貴公のフロントラットスプレッド用の見せる為だけの筋肉など、我が騎士の実戦実用の――」

 筋肉。

「……嗚呼! あああ!! 筋肉!!
 思考が、何もかもが! 何もかもが!!」
「ええ、ええ! 素晴らしい筋肉への感動が聞こえます!
 この筋肉……! 一人でもその素晴らしさに気づき、道を目指してくれる者が現れるのでしたら――この程度、私の傷などかすり傷程度のもの!!」
 錯乱を伴い、ラファエラが叫び上げ。マッスルマリアは、流石にここまでの傷を誤魔化す事は不可能と、逆にポージングを解き、猛々しく両腕を掲げ戦闘態勢を露わにする。
 ユーベルコードでなくとも、人を魅了するには充分たるマッスルマリアの筋肉は――そこに確かなる『己が求め得られない美』を見出してしまったラファエラの思考を、ものの見事に『筋肉(マッスル)』に染め上げることに成功していたのだ。

「わ、私もう駄目かも……介錯してくれ我が騎士よ」
 隠れていても涙目である事が分かる程に震えた声で、思わず騎士へと縋る手を伸ばす。騎士は、その手をそっと取り、静かに恭しく下へと降ろさせると、ラファエラとマッスルマリアとの間に割り入るように身を置き、力強く武器を構えた。
 その後ろ姿に、ハッとラファエラは我に返るように呟く。
「……否、うむ、そうだな、斃せば良いな」
 ぜーぜーと荒く息を吐きつつ、こくこくと頷く。そして、騎士の背の元に落ち着いた息をひとつ置き。

「蹂躙せよ、我が騎士よ」
 りん、と声が響いた。
 ラファエラの命令を受け、騎士は確かに頷くようにその手の中の刃こぼれた武器を、その身に美しい紋様の刻まれた白銀のハルバードへと持ち替える。
 ――マッスルポーズを決めなくとも、一種のカリスマ性すら漂わす、その筋肉が健在である以上、ラファエラの正気がまたいつ崩れるかも分からない。そうなる前に倒さなければ。
 騎士がその視線を、一緒に喚び出された白馬に向ける。その時、
「――騎士と呼ばれし者よ。その細身の筋肉に尚も自信があるならば、その馬に乗らぬ事で己が矜持を示しなさい。
 乗馬の上で挑むのならば、それも私は許容します。しかし、その白馬の筋肉を増した上で、それで己の勝敗がつく事をあなたが許容するのであればですが」
 ぴくり、と――瞬間、確かにプライドを煽られた騎士の眉間に、罅が走る音が響き聞こえたようだった。それを証明するかのように、白甲冑の白馬からオブリビオンへとその目に映した騎士は、騎乗を留め腕にハルバードを奮わせると、単身でマッスルマリアへと駆け出した。
 ――実際に、それは理に適った事でもあった。馬は逞しいがその地を支える脚はあまりに細く、今回の敵を相手取るには、己の弱点を曝け出すにも近しいからだ。

 騎士の背を目にしながら、ラファエラも小さく息を整える。
「あまりに――つい魅入ってしまうのは、己が目に悪すぎるのでな――!」
 ラファエラが、表に現れれば歴史に残るであろう古式特有の美しさを残す金の手振鈴、黒薔薇忌の音色を響かす。どこからともなく浮かんだ怨霊が騎士の隙を作るように、マッスルマリアの視界を霞ませた。
「この程度、然したる問題ではありません。フンッッ!!」
 マッスルマリアの豪腕一振りで、怨霊が一瞬で掻き消えていく。しかし、先程まで呆然と眺めることしか出来ないでいた、拠点の住人達の目がラファエラへと向いた。想定通り――これならば、住人が騎士の邪魔になる事は無い。

「シスターに何を!」
「貴公らには――少し『献血』とやらにでも勤しんでいてもらおうか」
 駆け寄ってきた住人達の影から湧いた漆黒の茨が、人数全ての足に絡みつき、痛覚へと到ることのないまま束縛し、少しずつその血を吸い上げていく。
「ああ、この己の健康を提供する感覚!! 素晴らしいー!!」
 活きの良い血液はさぞ美味であろう――そう思案したラファエラは、響き渡ったマッスルボディの、健康を宿した健全なる声に、一瞬『きもちわるくなったので、止めようかな』とも思った。

 傍らでは、白銀の騎士とマッスルマリアによる激しい攻防が続く。
「――!」
「フゥゥゥン!!」
 騎士のハルバードによる突きを、腕を前に出したマッスルマリアが圧倒的な力技で真横に薙ぐ。斧部位による振り降ろしも、鉄柱に筋肉を彫り込んだような腕で、柄の部分を受け止められれば刃が届くことはない。
 騎士の体躯は確かに、実戦を極めることでついた筋肉である。しかし、よりにもよって『オブリビオンにマッスルボディの概念』が乗ってしまったマッスルマリアには、どうしてもあと一歩及ばないのだ。
 己が身を掴まれれば、勝ち目は一気に薄くなる。それでも、騎士はひとつの賭けとして、相手を仕留められる間合いを得る為、敢えて武器の柄を短く取った。
 騎士の劣勢――その中で、再び細身の鈴の音が、今度は辺り全体に鳴り響く。

「我が身に筋肉など不要。
 私はこの手振鈴より重いもの等持たぬ。
 ――そうであろう? 我が騎士よ」
「……この期に及んで油断とは。
 ハァァァアアアっ!!」
 マッスルマリアの右フックが、確かに騎士の左頭部を捉えようとした瞬間。漆黒の闇を成したオーラが、相手の拳を包み込むように捕らえ、その力と勢いを霧散させる。
 そして、もう一振り――強く、しかと響いた黒薔薇忌の音色は、その騎士の武器に全てを呑み込む闇を纏わせた。
「全力魔法で強化した我が騎士は――筋肉で劣れど、貴公らよりも強かろう!」
 動揺に、マッスルマリアの回避に遅れが見えた――そこに騎士の放った一撃は、相手の胴体を、その筋肉全てをも、闇の中へと消失させる。そして闇は、その苛烈な閃撃に沿い、マッスルマリアの存在そのものを完全に呑み込み尽くした。

「ハッ! 私は一体何を――!」
 オブリビオンが倒され、リーダーを始めとする拠点の住人達が、我に返ったように状況を把握し始める。
 今となっては手遅れにも近い、ムキムキマッチョな己の身体を見ては絶叫する者が数多存在しているが、同時に半分くらいから歓喜の声が聞こえる為、あとはこの拠点の住人達の問題となるだろう。

 ――実際、人間に筋肉がついている分には、何も困ることは無いのである――。

「……恐ろしい敵であったなぁ……」
 今回は、本当に恐ろしい敵であった、と。思わず、うっかり洗脳され掛けたラファエラが呟く。
 あくまで、筋肉そのものは何も悪くなく、その主導がオブリビオンであったことこそが、今回の問題でもあった。思わずふと、誰ともなく罪過の在処については思いを巡らせてしまうところであろう。

 未だに浮かぶ、マッスルマリアの見事なバルク――。
 猟兵たちは、様々な思いを抱えながらも、少なくとも確実にオブリビオンの脅威が去って平和になった、その拠点を後にしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月13日


挿絵イラスト