アポカリプス・ランページ⑯〜メカニカル・パニック!
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フィールド・オブ・ナイン『マザー・コンピュータ』は思案する。
真理探究の為の時間が必要だと。
しかし、相手はフィールド・オブ・ナインを圧倒する。単独の力はこちらの方が上であったはずなのに。
どこからともなく『それ』は次々と小さな力を呼び重ねて、結果としてこちらは敗北にまで近づいている。
マザー・コンピュータは、思案する。
ならば――『そのような力など、呼ばれなければ良いのだ』と。
「物事はシンプルにいきましょう。
隔離、そして滅殺。
執るべきは、この【増殖無限戦闘機械都市】による、グリモア必殺計画」
デトロイト・シティは既に、その存在を変容させていた。
あらゆる概念を機械化させるマザー・コンピュータの力により。
今、転がる石であったものすら爆弾に。雲は戦闘機となり、空からは太陽光であったものが、レーザーとなって大地を灼いて降り注いでいる。
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「フィールド・オブ・ナイン『マザー・コンピュータ』への道が拓けた。
しかし都市デトロイトが、大変な事になっている」
予知をしたグリモア猟兵、レスティア・ヴァーユが静かに告げた。
「マザー・コンピュータは、都市を【増殖無限戦闘機械都市】という概念に変換。一度転送を開始すれば『現地まで転送を行ったグリモア猟兵を含め』全ての猟兵を、都市に隔離し。そこで根絶やしにしようという算段であるらしい。
――確かに。予知担当が死ねば、新たな戦力が呼べず、他の猟兵の帰還も侭ならない。猟兵に対する的確な対処法だと言えるだろう」
淡々と、予知をした猟兵は事象の説明を行っていく。
「だが、だからと言って行うべき事は変わらない。猟兵としての『マザー・コンピュータの討伐』――それのみだ。
この場合、転送を行う私は適当に逃げ隠れていれば良いと思っていたのだが」
言葉を句切り、予知をした猟兵は告げる。
「あの【増殖無限戦闘機械都市】に、逃げ隠れできる安全地帯はなかった。
上空からのレーザー攻撃、地面には地雷に壁には砲台、他の猟兵の目につかない場所にいる方が危険だと、今回は判断した。
その為、私は敢えて目につく後方にて援護に回る事にしようと思う。狙われる事になり戦闘の足を引く事になるだろうが、最低限死なないよう善処したいと思う。
明らかな非常事態の為、了承いただければ幸いだ」
それでも了承をいただけた方のみ、と言葉を置き。予知をした猟兵は宜しく頼むと頭を下げた。
春待ち猫
アポカリプス・ランページ、対『フィールド・オブ・ナイン「マザー・コンピュータ」』戦となります。事情により間に合わないかと思っておりましたが、出せるならば是非にと思わせていただきました。春待ち猫と申します。どうか宜しくお願いします。
●プレイングボーナスは、
【グリモア猟兵を守りつつ、増殖無限戦闘機械都市の攻撃を凌ぎつつ、マザーと戦う。】となります。
今回は、オープニングにより、シンフォニアのグリモア猟兵が同行し後方支援に入ります。
都市は、至る所目につく所、全てが戦闘機械で埋め尽くされており、戦場に避難場所・身を隠す場所・安全地帯はありません。
●その為、追加のプレイングボーナスに、
【グリモア猟兵が、猟兵(参加PC様)の任意で付与する『攻撃力アップ』『防御力アップ』を有効利用する】を追加させていただきます。
※(グリモア猟兵の描写は、助けていたければ反応する程度に最低限です。効果も『事象』程度に考えていただいて問題ありません)
オーバーロードに対応致しますが任意です。マスターページをご確認いただきました上で、ご自由にお選びいただければ幸いです。
それでは、どうか宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『マザー・コンピュータ増殖無限戦闘機械都市』
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POW : マシン・マザー
全長=年齢mの【巨大戦闘機械】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【出現し続ける機械兵器群】による攻撃を可能にする。
SPD : トランスフォーム・デトロイト
自身が装備する【デトロイト市(増殖無限戦闘機械都市)】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
WIZ : マザーズ・コール
【増殖無限戦闘機械都市の地面】から、対象の【猟兵を撃破する】という願いを叶える【対猟兵戦闘機械】を創造する。[対猟兵戦闘機械]をうまく使わないと願いは叶わない。
イラスト:有坂U
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
栗花落・澪
僕はレスティアさんの安全優先で
【オーラ防御】をレスティアさんに使用
代わりに僕にも防御力アップかけてもらえると嬉しい
オーラ防御に魔力を回す分、自分を護る余裕は無さそうだから
致命傷にさえならなければどんな怪我も【激痛耐性】で耐え
【指定UC】発動
【聞き耳】で戦闘機械の可動音と方向を聞き分けながら素早い【空中戦】
攻撃に転換した花弁で通り道にある機械を切断し
自分とレスティアさんを狙う機械に【高速詠唱】で炎魔法の【範囲攻撃】で
まとめて誘爆、破壊を狙う
マザーさん、その恰好は寒いでしょう
温めてあげるよ
物理的にね
一瞬でも隙を見つけたら
★杖を用いた【属性攻撃、全力魔法】による火炎放射でマザーさんを狙う
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「閉じ込められる事が分かっていて、この場に赴いたのであれば。如何に蛮勇としか呼べなくとも、私はそれを称えましょう」
最小限の稼働機械に、己の入るカプセルを核として。フィールド・オブ・ナイン『マザー・コンピュータ』は、増殖無限戦闘機械都市へと降り立った猟兵達を見渡した。
「ですが、それならこの状況も分かりますね?
――私は、ひとり殺せば、あなた方を容易く全滅させる事ができる」
言葉と同時に、マザー・コンピュータは己が核となるカプセルの中の手を上げた。動きと同調するように、レスティアと呼ばれたグリモア猟兵の周囲に大地から自動機関銃が迫り上がり、その弾丸を一斉に叩き付ける。
逃げ場はない。しかし、その先手を取ったのは栗花落・澪(泡沫の花・f03165)だった。咄嗟に生み出した柔らかに揺蕩う白虹のオーラが、予知転送者の身を取り巻き、弾丸より完全に守り切る。
「レスティアさんは安全優先で。代わりに僕の防御を上げてもらえると嬉しい。
オーラに魔力を回す分、自分を護る余裕は無さそうだから」
「――助かる。こちらは前に出られない分、それに集中することは出来るはずだ」
シンフォニアの歌が響く。それに伴い、澪の身を天人の羽衣のように光輝くバリアが取り巻いた。
「無駄です。この地に於いて、既に戦闘機械とならない概念はないのですから。
天上よ『私の、呼び声に応えなさい』」
マザー・コンピュータが、ついと空へと眼を向ける。刹那、浮かぶ幾つもの薄雲が瞬時にレーザー発射飛翔体となり、放たれた光の矢が澪を包み込む。
それは、天空からの審判の光にも似て。想定を超えた高火力のレーザーが、マザー・コンピュータへの距離を詰めようとしていた澪に無数の傷痕を残していく。
「致命傷にさえならなければ――!」
空中戦を得手とする澪には、マザー・コンピュータの能力によって生み出され、上空を占拠する【対猟兵戦闘機械】はあまりにも相性が悪い。だが澪は、その第一波を己の痛覚を遮断に近く抑えることで乗り切ると、援護として更に強化された防御力を伴って、己の飛翔具でもあるVenti Alaにより一気に上空へと駆け上がった。
対猟兵戦闘機械よりも高く。その群れを駆け抜ければ、下方に向けられていたレーザーは、即座には澪を捕捉出来ない。
「今なら――!」
瞬間を縫うように、澪の身を爆ぜるような花びらが包み込む。戦場に場違いなまでに美しい花弁が舞い落ちる中、己のユーベルコードにより、それらの花に負けぬ華美なドレスを身に纏った澪が上空を駆け抜けた。
鋭い攻勢物質と化した花びらが、澪が空間を飛翔する都度、周囲の戦闘機械を斬り裂き爆破させていく。
「……!」
同時に、身に着けていたAngelus ametの入った小瓶が僅かに揺れれば、澪の聴覚が確かに、こちらを捕捉しようと砲台を向ける機械の音を察知した。それをぎりぎりでかわし、己の花びらで撃ち墜とすと、澪はそのまま地面の際まで滑空し、無数の機械を破壊しながら舞い踊るようにその狭間をすり抜ける。
併せ、歌うように口ずさんでいた詠唱を伴い。澪は、予知転送者に狙いを定めていた自動火炎放射機を、先んじて魔力による炎の高熱を浴びせることで一斉に誘爆させた。
「なっ……!」
周囲に上がる激しい炎。上空の澪による撃墜被害は既に何十機では済まない。いくら無限に戦闘機械を生み出せたとしても、マザー・コンピュータにはまず元になる『概念』が必要となる。澪の攻撃は、それを定義認識させる時間を与えない。
「マザーさん、その恰好は寒いでしょう」
澪の手に収まり、言葉と共に強化されたStaff of Mariaが一際の桜花の色を思わせる閃光を放つ。
それに呼応するように、澪の傍らに集まり喚び起こされた直径数メートルにもわたり燃え盛る炎が、その場に爆発するように膨れ上がった。
「温めてあげるよ――物理的にね」
澪が言葉と共に杖を突き付けた先――地獄に燃える業火を思わせる火球が流れる炎の尾を引いて、激しい衝撃と共にマザー・コンピュータへと叩き付けられた。
大成功
🔵🔵🔵
灰神楽・綾
【不死蝶】
俺たちとレスティアの関係は所謂「顔見知り」止まりだろう
でも、一緒に戦い、守ることに大それた理由なんていらないよね
閉鎖された空間で無限に湧く敵との交戦
いつもなら胸躍るけど、今回は悠長に遊んでいる場合じゃないか
まずはレスティアに攻撃力を上げてもらう
UC発動、命中率重視
そして俺のナイフに『機械』を透過する性質を与える
どれだけ巨大化しようが、無限に湧いてこようが
このナイフの前では存在しないに等しい
襲いかかってくる機械の攻撃を見切り躱し
時には梓のドラゴンたちに庇ってもらいながら
標的に向かってひたすらナイフを放ち続ける
俺の狙いはただ一つ、無数の機械の中に鎮座する
生体コア、マザー・コンピュータだ
乱獅子・梓
【不死蝶】
UC発動、巨大なドラゴンたちを召喚(命中率重視
更にレスティアに防御力を高めてもらう
ドラゴンの半数はレスティアを囲うように配備し護衛
どうだ?こんなデカくて格好いいドラゴンたちに
守ってもらえるなんて経験、そう無いだろう
今のうちに堪能するといいぞ
緊張をほぐす意味も込めて
敢えておちゃらけたようにレスティアに声をかける
ドラゴンたちのブレスで焼き、羽ばたきで吹き飛ばし
頭突きや尻尾で跳ね返し、更にはその肉体で割って入り
何が何でも守り抜く
ドラゴンのもう半数は綾のサポートにつかせる
機械の攻撃からかばうことは勿論
巨大戦闘機が高速飛翔を始めたら
わざと正面衝突させ飛行を妨害
綾が狙いを定めやすくなるようにな
空から、戦闘により猟兵の破壊した戦闘機械があちこちに落下し、地面に叩き付けられては爆発を起こしていく。
戦う猟兵達の真上には、この場に皆を転送したレスティアと呼ばれたグリモア猟兵が一時のバリアを展開し、無作為に落下してきた破損兵器の直撃を防ぐことで行動の時間を稼いでいた。
(俺たちとレスティアの関係は所謂『顔見知り』止まりだろう。
でも、)
灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と、隣に並ぶ乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、過去の依頼で転送者として、相手と顔を合わせている。顔こそ知れど、接点としては薄いもの。
それでも、
(――一緒に戦い、守ることに大それた理由なんていらないよね)
綾は静かに、今起きている戦況を目に頷いた。
覚えていない過去、そして遠くない最近に到るまで。綾は、戦闘に『己の生きている実感』を見出してきた――それは、常人を巻き込む事をよしとしない『ひとり』の生き方。
「閉鎖された空間で無限に湧く敵との交戦。
いつもなら胸躍るけど、今回は悠長に遊んでいる場合じゃないか」
過去の自分であれば、脇目も振らずに身を躍らせていた。身を切り噴き出す血に己の存在を感じていた。
それから、いつ他者の存在を思案するようになったのだろう。
いつから、自分以外を、見るようになったのだろう。
それは、隣にいる梓と過ごした時間のみが知っている――。
無差別落下を繰り返していた、切り砕かれた飛翔体の全てが地に落ちる。予知転送者のバリアが解除されると同時に、梓は黒手袋の下に隠された竜を象る右手の紋章、鸞翔鳳集に熱と光を伴いながら、己のユーベルコードを発動させた。
「『――数多無双なる竜よ、此処に集いてその威を成せ!』」
それは、高らかに響く宣告。消えたバリアの代わりとなるように、梓は体躯巨大なる竜を中心に、攻撃の的中を得意とした百体をも超える数の竜を一斉召喚する。この場の戦闘機械すらも踏み潰し、圧倒するその存在感。
その中から、現れた竜の半数がグリモア猟兵を取り囲むように動き、その身をマザー・コンピュータの視界から塗り潰す。
「どうだ? こんなデカくて格好いいドラゴンたちに守ってもらえるなんて経験、そう無いだろう。
今のうちに堪能するといいぞ」
明るく戦場の緊張すらほぐす梓の言葉に、先のバリア展開の影響により無言で息をついていたグリモア猟兵は、僅かな驚きを伴い、そして楽しげに微笑んだ。
「――これは……流石に人生でも味わった事はない。
有難い。これは是非、生き延びた折には今回の思い出話とさせてもらえれば」
気持ち軽く告げ。竜達の配置、そして傍らで鋭い金属光沢を放つナイフを手にした綾の姿を目に、予知転送者は今回どちらが攻め手であり防衛手であるかを判断する。
そして、シンフォニアは猟兵を戦いに送り出す為。
綾には身体への戦闘能力の強化、そして梓の指示で動く竜群全てのその身に、安易な外傷衝撃程度ではものともしない装甲力を伴うオーラを付与させた。
「……小癪であり、煩わしいもの。
ですが、数による質量作戦で『この私に』勝てると思っているのですか」
マザー・コンピュータの声が響き渡る。今まで、最低限の装甲で動いていたその姿が『己の周囲を取り巻く空気』という概念を機械化させ、己のフラスコカプセルを中核として、息を呑む程の巨大戦闘機械へと変貌を果たす。
同時に、金属が重ね合わせられる激しい音と共に、次々と『マザー』の名に相応しいものであるかのように、見る間に自立戦闘機械を生み出していく。
「質量作戦――もちろん。そんなに、簡単なものにはしないつもりだよ」
綾が、軽やかに己の片手指にそれぞれを挟み込むように、数多ある小型ナイフの一部を手にする。
一瞬、ユーベルコードによる紅の揺らぎがナイフを包んだ。
それは対マザー・コンピュータに於ける、決定的な一撃となりうる力。だが、相手がそれを確認することはないまま、己が身から生み出した戦闘機が空を飛び、地面の猟兵達を始末すべく絨毯爆撃を開始する。
そうして、再度猟兵達との戦端は開かれた。
正面からでは、巨大な竜が邪魔しグリモア猟兵の目視すら適わない。マザー・コンピュータは己の爆撃機を空に飛ばし、その爆弾で上空から予知転送者に狙いを定める。
「――させるか! こちらを甘く見るなよ!」
上空からの爆撃に、梓の喚び出した小型に近いドラゴンが集まりその穴を塞ぐと、一斉に炎のブレスを噴き放つ。熱に反応したミサイルが、一気に連鎖を伴い幾つかの爆撃機を呑み込み空中爆発を起こした。
降り注ぐ炎の残火と鉄鋼片は、竜達が猛烈な羽ばたきで方向を変えて吹き飛ばし、同時に地面を駆け爆弾と共に自爆特攻を仕掛けて来る小型メカは、大型竜がその太い尻尾で遠くへと薙ぎ飛ばす。
「悪いが、決めた以上は何が何でも守り抜いてみせるつもりでな!」
梓の言葉にマザー・コンピュータの顔が僅か苛立ちに染まる。
「どの道、殺すもの――順番は問いません」
予知転送者への防御が容易に崩れるものではないと判断すると、マザー・コンピュータは、猟兵の数を減らすべく、ターゲットをそちらから綾へと定める。
それに気付いた残り半数の竜が、綾の守護をさらに固めつつ、波のように迫り来る機械兵器へと飛び掛かる。
ある竜は弾丸を放つ戦闘機械を鋭い鉤爪で掴み地面へと木端微塵に叩きつけ、ある竜はその身ごと綾を狙い、空爆による巻き込みを狙う航空兵器を飛翔から鋼鉄の大地へと叩き落とし力尽くで押さえ付ける。
しかし、マザー・コンピュータにより『概念』から生み出される戦闘機械の量は実質『無限』――機械が数量差で梓の竜を勝り始める。
「有限が、無限に勝てると思いますか?」
「……そろそろ、梓の竜達に庇われっぱなしな訳にもいかないよね」
マザー・コンピュータへの返答代わりとするように。そう口にした綾は、己が手にしていたナイフを一筋、腕を翻し視界を埋める機械の群れの中に投擲する。
「ついに、正気を失いましたか? 私の機械群を前に、その程度のナイフにどれだけの意味が――」
マザー・コンピュータの紡いだ言葉は、途中で途切れた。
綾のナイフは、己の存在を核とする巨大戦闘機械と、その道筋にあった全ての機械を透過し。それら全てに意思伝達をするコネクタであったその髪の一部を確かに貫き、斬り裂いた。
「な――ッ!?」
「これは『機械』という概念を無視して透過する。
……どれだけ巨大化しようが、無限に湧いてこようが。
このナイフの前では『存在しないに等しい』」
響いていたシンフォニアの歌声が変わる。身体強化の光を宿す綾に、更なる力が湧き上がる。
大型よりも小回りの利く、自動マシンガンを所持装備した駆動機械の弾幕を軽やかに飛び退き避けながら、綾は無数の閃の光を伴い狙い済ましたナイフを、戦闘機械の群れをすり抜けさせる事で、姿の見えないマザー・コンピュータへと放ち続ける。
しかし、直感を頼るにはあと一歩。狙いを確実にする為にはあと少しの視野が足りない。
「綾!!」
瞬間。梓の声が飛び、相手が強く信頼を置く一匹――成竜となった焔が綾とマザー・コンピュータとの狭間に飛び込み、他の戦闘機械達を一時的に薙ぎ倒す。
綾の前に、ほんの僅かな間、核であるマザー・コンピュータに引かれた一筋の線のように、攻撃の道筋が浮かび上がった。
「――見つけた」
その光にも似た一筋に向け、綾は手元のナイフを全てマザー・コンピュータへと投擲する。
そう、要である核だけは。この機械あふれる都市の中、その女性型のコアだけは『肉で出来た、生体』であるが故に――。
全ての機械を透過しすり抜けた、綾の無数のナイフは、回避も防御も侭ならないマザー・コンピュータの身体へ深々と突き刺さった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百目鬼・那由多
グリモア猟兵を囲い込み此方の退路を断とうとは
流石機械は演算がお得意でいらっしゃる
【指定UC】で砲撃や地雷の類は危害が及ぶ前に爆破
レスティアくんの事もできる限りお守り致しましょう
攻撃が迫れば僕の炎が防御壁となるように
あ、僕には攻撃力アップでお願いします
ふふ。頂けるものは頂いておくものでしょう?
延焼による炎の道を頼りに地雷原を避けマザー破壊に向かう
逃げも隠れもできぬなら駆け抜けて行くしかないでしょう!
【指定UC】で対応しきれない障害は【第六感】を研ぎ澄ませ回避しつつ
大剣化した【赫焉】で【武器受け】や【なぎ払い】
標的には放てる限りの炎と斬撃を
さぁ、機械は機械らしく壊れて頂きますよ
マザー・コンピュータ
「計算外です、猟兵たち。やはり私はあなた方を称えるべきなのでしょう」
猟兵の攻撃を受け、コアに深手を負い瞳を閉じたマザー・コンピュータが告げる。
そして言葉と共に生体コアから傷が消えるが、代わりに何かを犠牲にしたように、大きく己を取り巻く機械武装の一部がショートした。
「ですが、その力にもあなた方にも、私の興味はありません。
私の理論は変わることなく。――ただ、継続して排除するのみ」
液体に浸されたカプセル越しでありながらも、鮮明に響くマザー・コンピュータの宣明。
しかし、その中に於いて。とある猟兵から響いたものは、場違いに軽快でありながらも底のない闇を浮かばせる、せらせらとした笑い声だった。
「――」
マザー・コンピュータが『誰が笑い、何がおかしいのか』を計るように、視線を探査機械と共に走らせる。そこにいたのは、燃えた先に残る灰の髪に一対の黒の角を沿わせた一人の羅刹――百目鬼・那由多(妖幻・f11056)。
「ああ。いいえ、いいえ! 僕は、ただただ感銘を受けていたのです。
グリモア猟兵を囲い込み此方の退路を断とうとは――流石『機械は演算がお得意でいらっしゃる』」
「……」
明らかなる皮肉を伴い、声無くせせら笑い上げては微笑みを向けた那由多に向かい、生体コアは、言葉において己が機械であることを否定しなかった。
――だが、その返答の代わりに。今まで立っていた猟兵達の周囲全体の足元から、一斉に乱雑な金属音が鳴り響いた。
鋼鉄にて覆われていた地面は変質した。僅かに膨らみ、或いはへこみ。周囲は一瞬にして、振動にて爆発する電子地雷原と化す。
「これが私の答えです。
時間が惜しい、逆らうのなら、かかってきなさい。
――その意を問わず『私は殺します』」
言葉と共に、今までただのコンクリートであった壁から、まるで次元が歪むように巨大砲台が浮き上がり、あまりにも自然な形で砲弾がレスティアと呼ばれるグリモア猟兵と、那由多の元へ発射される。
しかし、発射までを横目で見ていた那由多は、砲弾発射の気配に合わせて、呼吸するように自然についと人差し指を空に滑らせた。そこから降り落ちるのは複数の鬼灯を模した地獄の煉火。発射と同時にその炎を浴びた砲弾は発射台ごと爆破され粉々に砕け散った。
「自然物の概念すら戦闘機械と化すのならば、人工物の壁が安全な道理はないが。いよいよ安全圏はないという事か」
「いえいえ、レスティアくんの事もできる限りお守り致しましょう」
改めて認識を確認した予知転送者に、偽りはなくとも喜とも呼ぶことのない、いつもの笑顔を張り付けて、那由多はその足元近くに橙の宝石のような先の鬼灯を浮かべ並べる。さっそくそれは、背後より放たれた散弾銃の弾に反応して激しい炎を吹き上げ、瞬時に鉛玉を溶かし尽くした。
「あ、僕には攻撃力の援護をお願いします」
今までの戦闘を見てさらりと告げた那由多の言葉に、それでも予知転送者は表情に驚きを見せる。
「ふふ。頂けるものは頂いておくものでしょう?」
「――ああ、それもそうだ。どうか、宜しく頼む。
だが……この地雷原は」
相手が言い掛けるその間に、ぶわりと那由多の周囲に数え切れない程の鬼灯の火玉が舞った。それらは一斉に朱赤の口を開くと、地面へ向けて地獄の大地を灼く炎を噴き放つ。
炎で炙られ燃える地に、振動はなくとも戦闘機械である繊細な電子地雷は存在出来ない。その場に於いて、爆発しない所のみが安全地帯――那由多は、躊躇いなくその大地が上げる煙の狭間へ飛び込んだ。
「逃げも隠れもできぬなら駆け抜けて行くしかないでしょう!」
まるで風を纏うような、足音の響かぬ駆け足。追従したシンフォニアの歌を耳にしつつ袂より取り出した大剣、赫焉を本来の姿に戻せば、それは確かに通常よりも遥かに軽く。
煙の中、上空からの飛来するミサイルを張り詰めた気配のみを頼りに、強化された身体能力で信管ごとふたつに斬り裂き、なぎ払った先をさらに駆け征く。
そして、爆破された全ての地雷の煙が引いた時、その距離はマザー・コンピュータへと肉薄していた。
「――!」
「さぁ、機械は機械らしく――」
那由多の生み出した鬼灯が、手にする赫焉へと収束しその場に業火の炎剣を創り出す。
「壊れて頂きますよ。
マザー・コンピュータ」
細身の身体からは想像も出来ない、繰り出された苛烈なる羅刹の閃撃は、マザー・コンピュータがコアを守ろうとしたその機械腕部位ごと斬り裂き吹き飛ばした。
成功
🔵🔵🔴
ラファエラ・エヴァンジェリスタ
安全な場所がない…だと…!
早く帰るぞ
疾く片付けよ、我が騎士よ
…ん?敵を倒してもレスティアとやらにもしものことがあったら帰れなくなるのでは…?
UC使用
愛馬に騎乗してレスティアの元へ
やぁ、王子様
危機に颯爽と現れる白馬の騎士の助けは心強かろう?
私はあまり役に立たぬが
レスティアからの支援は有難く受け、彼を守る位置で戦う
オーラ防御を展開し、彼も含めて守護
地上は騎士に任せて私は空だな
手の届かぬ高みとてその身に僅かでも影があるならば「茨の抱擁」を逃れ得ぬ
こやつらが血の一滴もない鉄塊であるのが残念よな
ついでだから茨に地を這わせて地雷の解除でも行っておこうかね
テネブレが踏んでしまったら大変だ
敵の本体は何処に居るだろう
とりあえず機械どもを壊しまくれば焦れて現れたりするかね
【Last Tango】を乱れ打ち
すっかり忘れていたが便利な武器だ
貴様がマザーとやらか
名前が嫌いだ…大嫌いだ
永遠に思索する根の暗さもグリモア猟兵を狙う姑息さも嫌い
我が騎士よ、破壊せよ
全力魔法の雷属性攻撃を騎士の剣に付与
機械は雷に弱いと聞いた
機械のみで構成されていたマザー・コンピュータの装甲腕が、猟兵の攻撃により激しく斬り裂かれ宙を舞い、地に落ちる前に大爆発を引き起こす。
先の攻撃で一掃された地雷は、大地に張り巡らされていた鋼鉄をちぎり飛ばし、本来の乾いた土の色を露わにしていた。
「安全な場所がない……だと……!」
降り立った戦場、レスティアと呼ばれた予知転送者の立つ、更に背後に降り立ったラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)は、周囲の光景に唖然とした様子を見せた。
見渡せば、あちこちを鉄鋼板で張り付けたような、若干異様な都市の姿はあちこちに爆破痕や鉄鋼を炙る炎で、正に世紀末と呼ぶに相応しいものだった。
それだけならばまだ良かった。そこからラファエラの瞳に映し出されたものは、壁から生えている炎で炙られひしゃげ欠けた砲台であり、地面から既に破壊されている自動散弾銃が、ぎりぎり形を理解出来るところまで、パーツ片が砕けながらも転がっている光景。
――相手は『物質』どころか『概念』までをも武器に出来るのだと。
グリモアベースの何処かで耳にした。だとしたら――。
不意に。その思案の間にも、地面の地雷は耳障りな音を立てて再構築された。弾け飛んだ自動砲台もマシンガンも、『金属破片』という概念から生まれ直し、今まで以上に更なる戦闘機械としての数を増していく。
圧倒的な、数に頼った無差別【対猟兵戦闘機械】の数々――それらを生み出したマザー・コンピュータの姿は一時隠れ、視界は文字通り戦闘機械に埋め尽くされた。
「『騎士――』」
ラファエラにとって――死して尚デッドマンとして『甦った』彼女にとって、信頼を置ける存在は、ユーベルコードとして骸の海より喚び起こせる――己の為にその命を差し出した、騎士団長ただ一人。
相手が骸の海に沈もうとも、一人残された寵姫はその呼称を呼んだ。共にある事を、切に求めた。
それは、ユーベルコード【深き淵への嘆息(サスピリオルム)】として――求めに応じ、死したる騎士団長が武装した甲冑馬と共に白銀の鎧を身に付け現れる。
騎士は言葉を発しない。
亡霊の声が存在するかの疑念については可能性こそ侭あれど、それらは総てフィクション映画の中であり――ラファエラ自身は、己に責のある彼の最期の死に様に、それを求める事など出来ないままに此処まで来た。
故に、ラファエラは騎士に指示する行動の返答を待たない。騎士も、それを知っているかのように、主の指示に逆らった事もない。
「早く帰るぞ。
疾く片付けよ、我が騎士よ」
「――」
しかし、現状の異常を感じ取った騎士は、僅かその言葉の実行を押し留めた。
それに何かを感じ取ったラファエラは、状況を理解し、そしてグリモアベースの情報から、改めて理解する。
「……ん?
敵を倒してもレスティアとやらにもしものことがあったら帰れなくなるのでは……?」
忘れがちとなってしまうが、転移と帰投はワンセットの行動だ。今、この眼前にいる、その移動の要が殺されたら――猟兵達に未来は無い。
ラファエラは、即、きわめて健全なる宗旨替えを果たして、いつも連れ歩いている、天鵞絨の美しい馬体と青鹿毛の毛並みを艶やかに映し出した愛馬Tenebrarumに乗ると、慣れた様子で一気に周囲を駆け抜け、騎士と共に今回の予知をしたグリモア猟兵のもとへと駆け込んだ。
「やぁ、王子様」
呼ばれた掛け声に、依頼でその姿を目にしている予知転送者は目をしばたかせる。
「危機に颯爽と現れる白馬の騎士の助けは心強かろう?
――私はあまり役に立たぬが」
「……いや」
緊張を伴っていた王子と呼ばれた猟兵は、呼び掛けられた単語の否定はせず、僅か張り詰めた空気が抜けるように苦笑を浮かべ。そして、表情を鋭く戻す。
「――マザー・コンピュータが一度後方に下がった。前衛の敵戦闘機械の数が増えた中、貴方がたの力は万金にも勝る。
後方でも凌ぐのがやっとである以上、私が前線に出れば狙い撃たれるのみであろう、すぐにここにも押し寄せる。どうかご助力願えれば幸いだ」
「そちらに守りは必要か?」
「有難く」
その言葉を合図とするように、ラファエラが両手をたおやかに優雅に広げると、纏うオーラは形となり、騎士と自分、そして予知転送者を守る。代わりにシンフォニアが歌えば、騎士とラファエラの戦闘能力を一気に跳ね上げた。
それを感じ取り、小さく頷きだけ見せたラファエラに。彼女の騎士が白馬と共に大地を駆け、白光を纏うハルバードでこちらに砲台を向けていた戦車を一撃の下に叩き伏せ再起不能にする。
「さて、ならば私は空だな」
ヴェール越しの視線が、青い空を黒に染めつつある戦闘機群を見定める。地面に小さく残していく影――それらから、影よりも遥かに黒い溢れんばかりの茨の蔓が噴き上がり、それぞれが上空の戦闘機群を囲い取り込むと、一斉に地面に引き摺り落とした。落ちた衝撃だけでも戦闘機としては致命傷であろう。だが、その場にはマザー・コンピュータの再配置した地雷が広がっており、結果双方が二重爆発を起こし木端微塵に破壊される。
大地に残された他の振動型電子地雷も、ラファエラの影から大地に伸びる茨によって次々と、見る間に爆破されていく。
「テネブレが踏んでしまったら大変だからな。
――さて……。一時ではあろうが、道は開けた」
Last Tangoによりラファエラ自らもガトリング砲を放ち、己の騎士の援護をしつつ切り拓いた先。
そこには、城塞を思わせるまでに機械装甲で防衛機構を重ねたマザー・コンピュータの姿があった。
その視野は機械だけでは補えないのであろう、核である生体コアは変わらず表にあり猟兵達を見定めるように目に留めている。
「貴様が『マザー』とやらか」
「あの数を切り拓かれるとは。どうやら私は己が子達を上手くは扱えなかったようです」
「……マザー……か」
ラファエラが思考を僅かに逡巡させる。
(名前が嫌いだ……大嫌いだ。
永遠に思索する根の暗さも、グリモア猟兵を狙う姑息さも、嫌い)
――挙げ句の果てに、『子が、上手くは扱えなかった』などと言う――。
その名で、その口で。母性の柔らかみを持つその姿で。嗚呼、それは何と、なんと――。
「嗚呼。その口にした、言葉総てが忌々しい。
我が騎士よ、破壊せよ」
蘇り、知識に明るくなったラファエラが機械の弱点を突くべく、戦場の標的をマザー・コンピュータに絞った騎士のハルバードに、激しい火花を伴う稲妻の光を纏わせた。
「破壊せよ……! その忌々しきモノを――!!」
苦しさに息を詰めるように、それでも叫ぶラファエラの言葉を受けて。白の騎士は駆け抜けるまま、主の意志を写し取るように。そのカプセルに入る生体コアに向けて、雷撃を纏ったハルバードによる一撃を叩き込んだ。
成功
🔵🔵🔴
地籠・陵也
【アドリブ連携歓迎】
グリモア猟兵を直接叩く手段……いつかはくる予感はしていたが、こうも早くくるとはな。
だがどの道俺のやることは変わらない。大事なものを護る為に戦うだけだ。
彼はグリモア猟兵である以前に俺たちの仲間で、絶対に欠けてはいけない存在……絶対にやらせはしない。
もう誰も失うものかと決めたんだ!
いくぜ、オーバーロード!!真の姿を解き放つ!
俺の目が黒い内は簡単に攻撃の一つや二つが通ると思ってくれんなよ!
レスティアを【かばう】ことができる位置を常にキープしておくぜ。
【高速詠唱】で【指定UC】を発動、俺の半径102m以内を敵への攻撃と仲間の治癒を両立する領域に書き換える!
さらに【多重詠唱】、【結界術】【オーラ防御】【環境耐性】の防御術式を俺たち猟兵側に施し、【浄化】と【破魔】【属性攻撃(氷)】の攻撃術式で敵を牽制するぜ!
どれだけ攻め立てようが、俺がいる限り攻撃は何ひとつ通さねえ!
戦線の維持と護衛は俺に任せて、みんなは遠慮なくマザーをぶっ叩いちまえ!!
核を中心に、機械で構成されていたマザー・コンピュータの防御装甲が、猟兵の攻撃により雷の一撃を以て激しく伝播し、あちこちがショートし煙が上がる。
「……」
マザー・コンピュータは僅かに罅の入った己のカプセルを目にして、初めて明瞭な苦渋の表情を浮かべてみせた。
「理論外であることが、ここまで疎ましいことであるとは……」
しかし、呟かれるその言葉の間にも油断なく、距離を取った周囲の壁から現れた細長い鎗の射出装置が、予知転送者であるレスティアと呼ばれたシンフォニアに狙いを定め撃たれる。
「グリモア猟兵を直接叩く手段……いつかはくる予感はしていたが、こうも早くくるとはな」
その鎗を、透き通る神聖性を滲ませたオーラで弾きながら、地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)が、現実となった己の予感に顔をしかめた。
「しかし、実際には極めて合理的ではある。まるで、どこかの虫属のように扱われている節はあるが」
シンフォニアが息を整える合間に言葉を置いた。陵也は不快を隠さずそれを表情に見せてから、改めてマザー・コンピュータを睨み付ける。
「だが――どの道、俺のやることは変わらない。大事なものを護る為に戦うだけだ」
「……。別れは済ませましたか? 既にここは食料ひとつ存在しない地。
転送者さえ殺せば、飢え死ぬあなた方は見逃してあげても良いのですよ?」
天には戦闘機が舞い、地には砲弾が飛び交う。安全地帯が存在しない中、更に予知転送者へと狙いを定めた弾丸を、陵也が再度、物質化に近しい形を取ったオーラ変化で弾き飛ばした。
「彼はグリモア猟兵である以前に俺たちの仲間で、絶対に欠けてはいけない存在……絶対にやらせはしない。
――もう誰も失うものかと決めたんだ!」
オブリビオンに数多の存在を奪われた魂の叫びが、空と大地へ響き渡る。
左腕に刻まれた刻印が光り輝き、陵也の身に迸るは、究極の力(オーバーロード)。
その場に眩しいまでの閃光が奔り、静かにそれが消えた時。そこにあったものは、人を保ちながらもその不可能性にまで踏み込んだ、不幸や不運と呼ばれる穢れを浄化する力『穢れを清める白き竜性(ピュリフィケイト・ブランシュドラゴン)』を宿した、白き竜の化身の姿。
静かに、そして凪のような穏やかにも近しかった瞳には、今は快活の色がある。
手にした、先端に蒼の燐光を放つ杖を大地に打ち据えて、陵也は激しくも高らかに吼え上げた。
「俺の目が黒い内は簡単に攻撃の一つや二つが通ると思ってくれんなよ!」
「……私に、勝とうなどと思わない事です。猟兵たち。
――さあ『私の、呼び声に応えなさい』。地より生まれ、天より降りて」
マザー・コンピュータの声と共に、大地から波打つように機械の群れが現れ、高速で上空へと飛び上がる。生み出された【対猟兵戦闘機械】――そこから降らせ落ちるのは『過去』の概念に汚染された、鋼鉄すら溶かす黒い硫酸の雨。
「焼け苦しみもだえなさい」
マザー・コンピュータの宣告に、上空に見えた巨大な兵器。
息を呑んだシンフォニアが間に合うことを祈り、歌によるバリアを張る前に。各々の猟兵が無理を承知で散開をする前に。
「大丈夫だっ! ――吹き荒べ!!」
陵也が、自身の言葉を最短の呪文詠唱として、己のユーベルコード『【昇華】其は正邪を見極めし天秤なり(ピュリフィケイト・ジャッジメントバランス)』を発動させた。
純白の盾と同化した、杖に溢れんばかりの光を掲げた陵也を中心に。周囲百メートルを超えて、その空間を澄んだ翡翠の色に染め上げたあらゆる魔を払う吹雪が、汚染された雨が降りそそぐ前に、総てを呑み込み聖なる力で打ち砕く。
そして、吹雪の中で尚大地へと届く神秘の光が、猟兵達の今まで負っていた傷を見る間に癒し始めた。
「……その小賢しさを、私の理論に組み入れ計算し直しましょう」
露骨なまでに見せた忌々しいという、マザー・コンピュータの表情を伴い。背後から、その領域内にいる猟兵達を取り囲むように、そのひとつでクレーターが出来る程の破壊力のミサイル砲を生み出すと、陵也を中心に狙いを定め、惜しみない火力で押し潰すべく斉射し畳み掛けようとする。
だが――マザー・コンピュータの行動は、僅か一手遅かった。
陵也は、既に同時に詠み上げていた詠唱により、日常では自らの身体を覆う浄化の白き波長(ピュリファイ・ブランシュヴェール)で、天空を、兵器との狭間を巡るように覆い尽くしていた。ミサイル砲は、陵也の固有空間となった結界を崩すことも儘ならずに爆破、無惨を思わせるまでに容易く打ち砕かれていく。
「これが……『究極の力(オーバーロード)』。
度し難いもの、何という忌々しさ――!」
攻撃の為に向けられた視線は、既に予知転送者へではない。
それを守り中核にいる、陵也に向けた、更なる火力の一斉砲火。
このカプセルの、フラスコの外に出れば――マザー・コンピュータには時間操作による直接戦闘が可能になる。だが、巨大機械の中核となっている間は、それが叶うことはなく、ただ火力で押し迫る事しか選択肢が無い。
「甘いな! それだけじゃねぇよっ、受け取れ!」
その手段は防壁だけではないのだと。叫んだ陵也が杖を持たない手を差し向けた先、夜空に舞う雪よりも白く輝く光を放った、氷の飛礫と鋭い氷柱がマザー・コンピュータのカプセルへと叩き付けられた。
牽制レベルとはいえ、それらは衝撃を受けたカプセルと機械兵装の間に無数の煙を上げて、それすら凍り付かせていく。
今、ここは圧倒的なまでに陵也が君主として則を敷く、完全なる彼が為の領域と化していた。
更には。
吹雪く翡翠の色は、その場にいる猟兵達の視野に、行動に、何一つとして不利益を与える事はない――。
「どれだけ攻め立てようが、俺がいる限り攻撃は何ひとつ通さねえ!
――戦線の維持と護衛は俺に任せて、みんなは遠慮なくマザーをぶっ叩いちまえ!!」
真の姿。それは今、一時とは云え、確かな在りし日を取り戻した陵也が――総ての勝利へと向けた、確かな一歩を刻んだ瞬間となった。
大成功
🔵🔵🔵
静峰・鈴
初陣となる戦場がこれ程に苛烈なものとなるとは
けれど、怯む事も臆す事もあってはなりません
敢然と前を向き、果敢と戦いを成して見せましょう
シンフォニアの後方支援で癒やしを、また、レスティアさんには防御の加護を願いして
私はただ前線へと踊り出ましょう
竜胆色の刀を一振りのみ携え
名の通りダンス、神楽舞のように流れるように動いて、戦闘機械都市の攻撃を捌き、避けて
時にフェイントを仕掛けながら
夜色の姿に舞いましょう
どのような飽和攻撃であれ、攻撃には密度の違いがあり、癖が出るというもの
逆にいえば迎撃が薄い場所とて必ずや出ると第六感と見切りを以て
前線踊るように戦い続ければ、そこを見出せるのだと信じ、瞬間を見出せば全力で斬り掛かりましょう
「時が止まれば幸福かもしれません。望むものと共にとて」
されど、流れるが故に、喪われるが為に心は理想へと焦がれるから
「――故に、永遠など不要。それは不変という過去と同じこと」
超克の上に
儚きものとして、私の寿命を捧げながら
それでも、未来には未だ見ぬ夢があると
瑠璃の剣光にて告げましょう
「――初陣となる戦場がこれ程に苛烈なものとなるとは」
何時までも鳴り止まない瓦礫が崩れる破壊音、地雷の爆発音と、銃弾の発砲により奏でられた旋律の雨。その光景に、夜の静けさに響く幽か澄んだ銀を重ね鳴らした音色のように静峰・鈴(夜帳の玲瓏・f31251)は呟いた。
「けれど、怯む事も臆す事もあってはなりません。
敢然と前を向き、果敢と戦いを成して見せましょう」
そうして、己の意志を言の葉に捧げ。りん、と、夜陰の鈴は戦場に明澄なる音を立て、己が存在をその場に露わにしてみせた。
この場に於ける予知と転送を行った猟兵に治癒と防御を願い出れば、その予知転送者は静かに頷き、シンフォニアとしての役目を施行する。
響く旋律は鈴の知らぬ異郷のもの。だが、温かな光と共にその身に確かな守護を感じ取れば、鈴は他の猟兵が押し留めていた戦闘機械群の中に、一歩足を滑らせた。
一振りの、竜胆色に澄み渡る顕明剣「無明」。その一筋の霊刀を祈るように両手に掲げ。柄に添えられ瑠璃紺に咲き飾られた華には、願いの為に夢を捧げる、表に見せる事なき強い意志を乗せ。
夜闇とは比較にもならない、薄汚い黒の爆風に飛来した金属片は、跳躍も何も無く、ひとつ身ごと足を後ろに擦り下げかわした鈴の傍らを迫り抜けた。鈴が纏い、同時に戦闘の邪魔にならないように捌かれる夜の衣が風に煽られれば、裏地は宵空、表は小夜中。翻る布地には瞬く星の光が宿って散った。
無数の弾丸はその衣を貫くことなく、瞬間のみ輝く防御壁によって弾かれ宙を舞う。銃が届かないのであるならばと、刃を主武器に持った戦闘機械に対し、鈴が敢えて片膝を折ってみせれば、狂うように振り下ろされた狂刃は、身まで折ることのなかったその一刀によって、まるで紙切れのように鋼鉄の胴体共々斬り伏せられた。
機械兵器のエラー音は紡がれる神楽歌。爆破音は雅楽の音色。荒々しさは一陣もなく、その最中に神器を伴い立ちふるわれる様は、まさしく戦神へと捧げる神楽舞。
波状の攻撃を潜り抜け。瞬間、垣間見る苛烈な一撃の先に辿り着いた鈴の眼前には、マザー・コンピュータが。
「こう――何度も眼前に迫られる『理論の誤算』には、バグの余地を見出さずにはいられません。
一刻も早くこの世界の刻を止め。永遠の思索時間を得た後の為にも、ここで『修正』をしておかなくては」
破損の痕を大きく残すカプセルの中、夜灯に止まる羽虫を見るかのようにマザー・コンピュータは鈴を目にした。
同時に【増殖無限戦闘機械都市】――デトロイト市が、大きな地鳴りと共に迫り上がり、猟兵への殺気と共に、マザー・コンピュータのカプセルを呑み込んでいく。
「……時が止まれば幸福かもしれません。望むものと共にとて」
それでも、臆すことなく鈴は告げる。
――時は流れ、逆らう術を人は知らない。
時の流れに、己の一族は呑まれ滅んだ。己の本来の名すらも、時に呑まれた。喪われたものは、その欠片をも残さない。
『時』は、何より優しく静かに嫋やかに、人から総てを奪い取る。
故に、否、だからこそ。
人という『儚いもの』の心は、理想へと焦がれるものだから――。
「――故に、永遠など不要。それは不変という過去と同じこと」
この世界に、不変を望む存在などあるべきではない――そう、言葉を象った鈴を前にして。
激しい振動と轟音を伴い、この戦場【デトロイト市(増殖無限戦闘機械都市)】が変形した頭部に座した『機械の母』より電子音声と化した言葉が鳴った。
「私は、真理を求める時間が欲しいだけ。
時間を停止すれば……すなわち永遠の中では『時を操る私だけは』その中で無限の思索を続けられる。
私が欲しいものは、いつかは辿り着く、思索の末の結論のみ」
故に、と。鈴に詠い返すように、マザー・コンピュータは口にした。
『この世界には――世界に立つ、自分以外の全ての存在に。
理想も、夢も、希望も、未来すらも必要は無い』のだと。
「――何という」
その意図を以て、完全に失った言葉と共に。鈴は、目の前の『オブリビオン』という名の異形を理解する。
オブリビオンとは――少なくとも、このオブリビオン・フォーミュラと己の概念は、決して相容れるものではないことを。
「ですが。それにしても、邪魔者があまりに多い。
やはりこの世界には、久遠では足りぬ『永遠が必要』なのです。
……私の『理論』の邪魔は、させません」
それは、騎乗と呼ぶべきなのだろうか。巨大すぎる【増殖無限戦闘機械都市】の変形した頂天、頭部に同化にも近く搭乗したマザー・コンピュータから放たれたレーザーが激しい煙と共に、辛うじて避けた鈴の足元の際を灼く。
「……っ」
その瞬間より、鈴の心は高鳴るように己に言葉を告げ掛ける。
――倒さねばならない。既に『過去』でありながら。己以外の、全ての未来を断ち切ろうとする、この概念を止めなければならないと。
定められた己の心に存在する決意が、静謐の中にある熱が、鈴の心を満たし、閃光をも呑み込む闇夜の形を伴いその身を包み隠すように溢れ出す。
「また、変化を遂げますか。猟兵」
忌々しげな声と共に、マザー・コンピュータから更に発せられたレーザーすらも呑み込む天の闇がその場に揺らぐ。
それは、超克――総てを超えた『オーバーロード』と呼ばれる究極の力。
姿を隠すのは、神器より残り続ける夜闇の加護。そして、マザー・コンピュータに向け、闇の中より姿を見せた竜胆に染まる刀の鋒が、漆黒に限りなく近い、鈴を囲む闇の全てを吸い呑み込んだ。
そこに現れたものは、たとえるならば『人の姿を保った一振りの刀』――その存在感、形姿は、まさしく夜天の名の元にある戦神の神器そのもの。
夜天に輝く一筋の星――鈴は、今、確かに己の核となる神器に両手を添えて掲げるように真横に構える。
「マザー・コンピュータ。
その答えを、」
言葉と共に、鈴が瞳を大きく見開く。刹那、激しい瑠璃色の雷光が、手にした無明の刀身を駆け抜けた。
ここから先は、儚き存在(もの)『ひと』としての生命を容赦なく削りゆく領域。
しかし鈴は、夢をみると云う、その本来あるべき時間を喪っても。
尚もただ、そこに掲げる『願い』だけは。
その『尊きもの』だけは、残ると信じた。
「――瑠璃の剣光にて告げましょう」
宣告を伴い放たれたのは、ユーベルコード【蒼天剣衝・瞬雷(セイテンケン・シュンライ)】それは、激しい瑠璃の稲妻を伴い、マザー・コンピュータに向けて真横に薙ぎ払われた尖鋭の一閃。
想いを懸け、世界には等しく総てに『未来には未だ見ぬ夢があること』を。願い乗せたその力は――正に。儚くも一際に輝く星の煌めき。
「……ッ!?」
巨大故に避けようもない致命傷にも近しい一撃を受けて、マザー・コンピュータを囲む機械は、雷撃による激しい火花を奔らせ。変形を遂げたデトロイト市頭部は、炎と共に無数の爆発に見舞われた。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
真の姿有り
シンプルな思考は嫌いじゃねぇけど…だからはいどうぞじゃねぇんだ
攻撃は最大の防御って言うしな!
逃げも隠れもできねぇなら、真っ直ぐ道を切り開いてやろうぜアレス!
よぉく送り出してもらっちゃいたが
まさかこんなことになるとはなぁ
知ってると思うがアレスの守りは完璧だ
信じていいぜ
ついでに俺の攻撃もな
軽く見せた口調でウィンクひとつ
レスティアにしてもらう援護は…俺は攻撃力アップ一択だな!
剣としてもっと強く
さらに歌を重ねて身体強化
靴に風の魔力を送り生成した旋風で加速しながら
剣に炎の魔力を重ねて…機械兵器を迎撃する
敵の攻撃は見切り避けるか…レスティアのぶんもアレスが何とかしてくれるだろ!
だから俺は攻撃に専念して…って…ああ~!
うじゃうじゃうじゃうじゃ…うっとうしいな!
やっぱ大元をたたなきゃ意味がねぇ
ちょっとぶちかましてくる!
真の姿へ変じて翼を広げ空へ
…ならふたりで挟み撃ちだ
デカいのにはデカいのってな!
二人挟み込むように剣構え
全力の魔力を一気に注ぐ
行くぜアレス!【彗星剣】!!
アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎
真の姿あり
ああ。征こう、セリオス!
たとえ相手が戦闘機械都市であろうと
切り開き、僕達の友を守り抜く!
脚鎧に光の魔力を充填し
後方のレスティア殿の元へ
盾から『閃壁』をドーム状に展開
兵器群から攻撃を防ごう
無事かい、レスティア殿
…君との共闘がこのような形で実現するとは思わなかったよ
援護に防御力の付与を頼めるかな
攻撃には信頼する剣が…セリオスがいるから大丈夫
防御は僕に任せて欲しい
閃壁に雷属性を注ぎ
兵器群へ放電の範囲攻撃
隙が生じたらそのままシールドバッシュ
そしてセリオスが攻撃に、レスティア殿が支援に専念できるよう
閃壁と見切りを駆使して彼らへの攻撃を防ぎ切ってみせる
彼らに銃口を向けたければ、この盾を超えてもらおうか!
…ッこれではキリがないな
空へ向かおうとするセリオスを止める
僕にも剣がある
だから、僕も一緒に飛ぶよ
…防ぐ以外にも守る事は出来る
ふたりで切り開いてやろう
真の姿となり光翼で飛翔
二人で挟み込むように剣を構え
魔力を剣に注ぐ
仮想元素生成、供給。概念新星形成
ー解放
行くよセリオス!【新星剣】!!
「………………」
変形させ、騎乗していた【デトロイト市(増殖無限戦闘機械都市)】が連鎖爆発を起こし破裂するように、頭部を模していた金属パーツが熱膨張を伴い砕け散る。
機械油と共に燃え盛る炎の中に、マザー・コンピュータのカプセルだけが残された。自身が身を浸す内包液の半分近くを零し、それでも砕けないカプセルの中で。生体コアであるはずの黄金の眼は、完全に人間らしきものの感情を失っていた。
恨みも、憎しみも、苛立ちも、全てを消し去った瞳が猟兵達を無言で見つめている。
――ガシャン、と。
カプセルに触れた破片が再び、否、今まで以上の質量を伴い、耳を塞ぎたくなる程の音と共に再構成され始める。
【全ての金属】という概念を『マザー・コンピュータ』という名の【最終戦闘機械兵器】として。それらはデトロイト市に巡らされていた金属の全てを巻き込むように、拡大膨張を始める。
変形していたデトロイト市が元の大地を取り戻す。代わりに。猟兵たちの目の前には視界には到底収め切れない大きさを伴った、巨大戦闘兵器が立ち塞がった。
「これは……」
「おい、これデタラメ過ぎるだろ!」
見上げれば、その頂天よりも空を目にした方が早く。それを見たアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)とセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は思わず露わに息を呑む。
そして、電子音声による『機械の母』の声が響き渡った。
『この場にいる、生きとし生けるもの全てに告げます。
――滅びなさい』
かつて無い程の大きさ、デトロイト市全ての金属を纏ったマザー・コンピュータの姿は、既に機械要塞と判断した方が良いであろう。その中から立て続けに、飛行戦闘機械兵器が現れ、無数の巨大爆弾を落としては旋回しつつ内部へと戻っていく。
それは、透明な防御壁が光り防ぐ、猟兵達のいる中央以外の大地を、爆発と共に根こそぎ抉り取った。
「容赦なく皆殺しってことか……。シンプルな思考は嫌いじゃねぇけど……だから『はいどうぞ』じゃねぇんだ。攻撃は最大の防御って言うしな!
逃げも隠れもできねぇなら、真っ直ぐ道を切り開いてやろうぜアレス!」
「ああ。征こう、セリオス!
たとえ相手が戦闘機械都市の存在全てであろうと。切り開き、僕達の友を守り抜く!」
セリオスが己のブーツであるエールスーリエに薄緑の風を、アレクシスが白銀の脚鎧に曙光を宿して。一度、攻撃の集中砲火を受けている後方へと下がる。
レスティアと呼ばれていた予知転送者の元へ。シンフォニアの歌による防御壁にて攻め手である猟兵を守ると共に、砲火を一身に浴びる己が身も同時にオーラによる具現変化で防いでいた予知転送者が、歌が残す残響の合間に、二人の姿を目にして「ああ」と、ひとの言葉と共に小さく微笑んだ。
「よぉく送り出してもらっちゃいたが、まさかこんなことになるとはなぁ」
「ああ。本音を言えば、皆にはもう少し楽をしてもらいたかったのだが……」
セリオスの言葉に、日常では鉄面皮に近い表情の予知転送者が、面目なさそうに苦笑する。
「無事かい、レスティア殿。
……君との共闘がこのような形で実現するとは思わなかったよ」
「本当に……。本来は『これからだ』と喜ぶべきところだが。
――済まない。個人援護はまだ出来る。だが【全体防衛は保たない】」
そう告げ、喉から、空気を震わす歌に激しいノイズが走った瞬間。今まで、周囲に巡らされていた透明な防御壁が、僅かな光と共に一斉に罅入った。
即座に、アレクシスが代わりに手にしていた燐光漂う純白の大盾、閃盾自在『蒼天』を天に掲げる。それは閃光にも似た輝きを放って、今まで以上の規模を伴う光の壁『閃壁』となりドーム状に張り巡らされた。
それを見届けたように、今までの防御壁は音と共に硝子片のように砕け消える。それを見た地を走る戦闘機械が、一斉にこちらに飛び掛かろうとして。今張られた壁の方が遥かに強固である事を認識しつつも、諦めることなく、更にこちらへと迫り戦線を詰めるように群がり始める。
「知ってると思うがアレスの守りは完璧だ。信じていいぜ。
ついでに俺の攻撃もな」
今までの猟兵の活躍により限りなく戦力を潰してきた結果、向こうも総力戦を仕掛けて来ている。状況は楽観視出来るものではない。
それを肌身で感じつつも、セリオスは敢えて軽く言葉を紡いで、予知転送者へウィンクまでしてみせる。
喉に手を触れていた予知転送者は、一言「知っている」と応え、思わずつられ微笑んだ。
「――個人の援護ならば、まだいける。遠慮無く」
「それならば、援護に防御力の付与を頼めるかな。防御は僕に任せて欲しい。
攻撃には信頼する剣が……セリオスがいるから大丈夫」
それは、アレクシスからの絶対的な信頼の言葉。セリオスはそれに応えられるだけの自信を以て、己の胸を片手で叩く。
「任せろ! なら、俺は攻撃力アップ一択だな!」
「分かりやすい、了承した。
――後は、どうかよろしく頼む」
更に数歩下がった戦線の中、再びシンフォニアの歌が響く。それは、セリオスの身体を魔力により熱く滾らせ、アレクシスの張る閃壁の光を真夏の陽光の如く激しく輝かせた。
無数の銃弾は、防衛を引き受けたアレクシスを中心に広げられた閃壁に当たれば粉々に砕け散る。目前に近く群がる刃と短銃を持つ戦闘機械群の光景に、アレクシスは僅か眉を寄せ、この場に漂う魔力を雷へと形成すると、閃壁へと駆け抜けるように奔らせた。
目の前に蔓延る機械群が一斉にショートし崩れ落ちていく。
アレクシスは更に集ろうとする戦闘機械達の一部に隙を見出しては、己の蒼天で弾き飛ばし、他の猟兵達が戦いやすくあれるよう、更に閃壁の範囲を広げていく。
(セリオスが攻撃に、レスティア殿が支援に専念できるよう――)
そして、何よりも己より味方の事を考える守護者は、自身の存在を誇示するように、力強く大盾をかざして魂から響く喊声を上げた。
「この場に於いて――
彼らに銃口を向けたければ、この盾を超えてもらおうか!」
予知転送者を守るという不安要素が消滅すれば、後は眼前の敵を叩くのみ――セリオスは、己に宿る熱に心が響きならす歌声を添えて、更なる自己身体強化を図り、大地にエールスーリエの踵をひとつ打ち鳴らす。
その合図に応え、足元より魔力を放つ翠の爆風が噴き上げると、セリオスは腰に付けた二振りの得物の片方、純白の剣『星の瞬き』に炎を纏わせ、その刀身を灼熱が宿る深緋に染めると、一気にこちらに向かい来る敵陣の中へと迷いひとつ無くその身を躍らせた。
剣を一振りすれば、駆けた閃の先にある金属は全て融解され戦闘機械としての機能が再起不能となっていく。
その分だけ広がるアレクシスの閃壁を信頼すれば、セリオスを狙った遠距離の弾丸は、確かな彼の加護により弾かれ消えた。
「これなら、いくらでも攻撃に専念出来――って……ああ~! うじゃうじゃうじゃうじゃ……うっとうしいな!!」
電子音声のひとつも響かないマザー・コンピュータの存在。だが、その意志は言葉よりも明確に、今この瞬間も、陸空問わない戦闘機械を次々に生み出している。
叫ぶ間にも囲まれる。道を切り開くのは容易いが、敵が増えたままに進めば流石のアレクシスにも限界がある――否、セリオスの守護の為ならば、アレクシスは己の限界すらも超えるだろう。しかし、セリオスは何よりもアレクシスの負荷を好ましいとは思わなかった。それは自分の為であろうとも、決して。
「…ッこれではキリがないな。
――アレス!!」
閃壁の安全地帯が己のいた場所まで広がったのを確認して、セリオスは一度アレクシスの元へと取って返す。
「セリオス! どこか怪我でも――!?」
「いや、やっぱ大元をたたなきゃ意味がねぇ。
――ちょっとぶちかましてくる!」
激しくも強い意志を魂にぶつけた瞬間。
セリオスの姿を、全ての根源の具現である闇色の風が、突風の如くその身を包み込んで迸るように駆け抜けた。
「……っ」
そして風が抜けたその先に、露わとなったセリオスの姿に。アレクシスはいつも、胸中にて悲痛に湧き上がる想いを抑え込む。
セリオスの『究極の力(オーバーロード)』による真の姿。数度、アレクシスが目にして来たそれは、今の日常よりもずっと若く幼く。
その様は――過去、セリオス達の故郷を滅ぼした吸血鬼に彼が身を囚われた瞬間から、十年以上前よりずっと、刻を止めたままの少年の姿。
アレクシスには、セリオスの心に身体に、魂に。それが真の姿として完全に刻まれてしまった事が耐え難かった。
――あの時、自分がセリオスを守り切れていれば。
いつか、彼が危険な戦いに身を置き続ける猟兵として、覚醒することに止めようは無かったとしても。……少なくとも、彼の『真の姿』と呼ばれるモノが、これであることは避けられたのではないかと――。
「じゃ、ちょっと行ってくる!」
超越を成したが故か、それともセリオスの身に残る呪痕が元になったものか。どちらにせよ『あの時なかった、既にひとではない異なるもの』を示す、腰から生えた一対の夜空色の羽根が、空を飛ぶべく、大きくアレクシスの眼前に広げられる。
「――待ってほしい」
思わず、僅か縋るかのように出た自分の声を聞く。
セリオスは強い。おそらく一人でも今のように死地となりうる場所にすら気にすることなく、きっとどこまででも征けることだろう。
だが、アレクシスには――この姿の彼を、そのまま危険な場所へと向かわせる事など出来なかった。
それだけは、避けたいと思った。
あの時、自分が守りきれずに消えたと思った星の光を。今度こそ護らせて欲しいと、切に願った。
「僕にも剣がある。
だから、僕も一緒に飛ぶよ」
その決意は、絶対だった。セリオスが何か言うよりも早く、アレクシスの身体を陽光の加護が包み込む。
現れたのは、背より溢れ広がるニ対四翼の巨大な光の翼。一対は朱く、一対は蒼く――しかし、その在り様は天使などではない。
人のままに人として。しかし、その背には天球を覆う空の化身を伴い。アレクシスはセリオスの隣に並び立つ。
アレクシスの行動に、セリオスは驚いたように、大きく星散る夜色の瞳をしばたかせ。それから、己の腰のもう一振り――双星宵闇『青星』を手に、アレクシスに向けてニッと笑ってみせた。
「……ならふたりで挟み撃ちだ。
デカいのにはデカいのってな!」
「……ああ!」
地上の結界である閃壁を維持する為に、その要である白銀の大盾を大地に突き立て。二人は各々の翼を羽ばたかせ、一気にマザー・コンピュータよりも高みにある天空へと到る。
今は空にも戦闘機が飛び交い、囲まれれば地上と同じ目に遭うことは否めない。
時間は無い――だが、二人が揃えば『時間を掛ける必要も無い』。
アレクシスが大剣へと姿を変えた己の剣、双星暁光『赤星』を手に構え。同時に十字を重ねマザー・コンピュータを挟み込む角度へと、セリオスが身を置き、双星宵闇『青星』を鞘から引き抜く。
機械要塞と化したマザー・コンピュータに、猟兵達の動きと狙いを回避する術はない。その代わりに、二人の元へと更なる戦闘機が迫り始め、マザー・コンピュータの周囲に電子バリアが張り巡らされる。
「ハッ、その程度で防げると思うなよ!
『根源よ――今、この歌声に応えてみせろ!』」
セリオスの呼び声に、双星宵闇『青星』から爆発的な白蒼の光が溢れ出す。
「『仮想元素生成、供給。概念新星形成。
――解放』」
同時に紡がれるアレクシスの静かなる声に、同じく双星暁光『赤星』が純白へと燃える光を宿す。
「行くぜアレス!」
「行くよセリオス!」
マザー・コンピュータを挟む彼方。だが、互いの声は、光は、確かに届いた。
歌声に応えろ。
是なるは闇を貫き、星を拓く光輝の剣。
力を貸せ――この壁を打破する、無窮の力を!!
その身に刻め!!
「【彗星剣】【新星剣】!!」
対なる剣より放たれた互いのユーベルコードが、眩いまでの光の奔流を生み出し。天空より十字の型を刻んで、その全てがマザー・コンピュータへと叩き付けられた。
その場にいる直視した者の視界すらも奪う、全てを掻き消す刹那の彗星と迸る新星の力と輝きは、オブリビオン・フォーミュラすらも抗う術を見出せず。マザー・コンピュータは無数の戦闘機械を巻き込み、声ひとつ上げる事も許されず、全てが光の中へと消えていく――。
そうして、オブリビオン・フォーミュラ『マザー・コンピュータ』は、猟兵達の手により完全なる消滅を果たした。
その存在は、もう二度と世界に象られる事はない。
こうして戦闘は、猟兵達の勝利で幕を閉じたのである。
大成功
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