アポカリプス・ランページ⑤〜死出の旅立ちに戦いの華を
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――もはや……自分の名すら思い出せない。
しかし、いまだ胸の内に消えぬ炎がある。……戦わねば。
人々のために、あるいは自分に思いを託してくれた戦友のために。
希望の星は燦然と輝き、私はこの身を再び戦いに捧げる。我が愛機の力を得て、より強き身となって。
――実験台にされたのは誤算だった。
いかなオブリビオンとて、力の差は覆せない。されど、かの偽神細胞で得た力は私に強大な力を与えてくれた……その代償にこの身が滅ぶとも。
求むは強敵、願うは死闘。星は未だ輝き続ける――そうだ、還るべき空を私は希む。
――この身が滅ぶその瞬間まで……私は勝利を諦めない。
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「彼女、戦えば戦うほど『自分が壊れていく』ことを理解しているみたい」
緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)はグリモアベースで猟兵たちにそう告げる。『アポカリプス・ランぺージ』も終盤。そんな最中にこの依頼に集まってくれた猟兵たちにお礼を言ってから。
「彼女の名は既に失われている。仮に……そうね、『燦然たれ希望の星』と呼びましょうか」
あるいは『プロトタイプ・デミウルゴス』。もしくはもっと良い呼び方があれば、好きに呼んでもいい。この戦いの場においては名前は、所詮『敵味方を識別するだけの記号』に過ぎないのだから。
「彼女はオブリビオンとして蘇った後、デミウルゴス式偽神細胞を移植されたの」
デミウルゴス。フィールド・オブ・ナインのひとりにして、神として『造り上げられた』存在。そして最強のストームブレイド。
「そのデミウルゴスを生み出すために、数々実験が繰り返されていたのがソルトレークシティってわけ」
そして彼女はその実験の経過で生み出された『成果』の一環。それが解き放たれてしまった、というわけだ。
現在、彼女は荒野と化したソルトレークシティの近郊で戦闘準備を整えている。その準備が完了すれば、彼女はその身にあるレシプロ機関を使って空を舞うだろう。
――再び戦うために。
「彼女から今を生きる人々を攻撃することは無いわ。でも、攻撃してくるものを見逃すほど甘い性格でもない」
もし、荒廃した世界の中で人々が自衛のために攻撃を仕掛けてしまったら。
「だから、彼女がソルトレークシティにいる間に仕掛けたいの。そして倒す。これが今回の依頼よ」
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世界の敵とそれに対抗するために選ばれた者たち。その関係性によって相まみえたなら必ず戦闘へ発展する。
「皆を見て無視するなんてことは無いから安心してね。彼女が求めるのは強敵と死闘なんだから」
そして戦闘となれば、彼女は空中戦を得手として仕掛けてくる。
「戦場の周辺に巻き込んで困るようなものはないわ。ほぼ廃墟だし」
だから爆撃の被害とかを考える必要はない。ただ、彼女を倒すために行動してほしい。
「もう知っていると思うけど。デミウルゴス式偽神細胞の強烈な拒絶反応によって、彼女はユーベルコードを使うごとに自壊していくわ」
戦いを求める彼女は、戦えば戦うほど、自分が求める希望から遠のいていく。……それでも。
「きっと彼女は戦うことを止めない。だから、お願い」
――彼女の旅路に、戦いの華を添えてあげて。
「戦うことだけが彼女の望みならば、その中で還らせてあげて欲しいの」
向かう先は空ではなく、骸の海になるけれども。
「よろしくね」
そういって、冬香は猟兵たちをアポカリプスヘルへと転送するのであった。
るちる
まいどです。いつもありがとうございます、るちるです。
ちょっと心情系。でも純粋バトルです。よろしくお願いします。
●全体
1章構成の戦争シナリオです。
シリアス寄りの依頼ですが、リプレイの雰囲気はプレイングに左右されますのでご安心ください。
場所はソルトレークシティ近郊の荒野。敵の攻撃を回避するのに使えそうな大きな岩程度はありますが、大きな障害物はありません。
このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。活用してください。
『プレイングボーナス』
超強力な攻撃を耐え凌ぎ、敵の自壊を誘う。
戦闘を続けていけば、自然とそういう状態になります。
彼女の攻撃を回避、または防御しつつ、こちらも攻撃を仕掛けていってください。
●ボス戦『燦然たれ希望の星』
基本的に彼女は空から仕掛けてきます。が、ドッグファイトを好む傾向があり、遠距離から一方的に爆撃といった作戦は取らないようです。
デミウルゴス式偽神細胞によって攻撃の威力が強烈にあがっています。真正面から行くと、その威力で追い込まれる可能性もあります。
どのように立ち向かうかは皆さんの作戦(プレ)次第でお任せです(直撃しても、初手一撃でこちらが敗北するということはありません)
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プレの受付はオープニング公開から。冒頭の状況説明追加はありません。
採用人数は決めていないのですが、1日の執筆人数が多いと採用できない人が出るかも? その辺はタグでご案内します。
それでは皆さんの参加をお待ちしていまーす。
第1章 ボス戦
『燦然たれ希望の星』
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POW : 戦友たちよ、今再び共に征こう。
【Bf109戦闘機に搭乗した戦友】の霊を召喚する。これは【搭載武装】や【連携戦術】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 速度を保て、蒼空を目指せ。
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【空戦速度】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : 翼はある。希望はどうか。
【かつて戦友から仮託された『必ずや勝利を』】という願いを【己自身】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
イラスト:ヘッツァ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ユエイン・リュンコイス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
御形・菘
はっはっは、お主の願いは聞き遂げた! 妾が叶えてやろうではないか!
そして勝利すらも掴んでみせるがよい、できるものならな!
機動については天地に丸投げだ! 妾はちゃんと意図を読む!
最も重要なのは、勝利を得るための最善ではなく、よりカッコ良い動きを取るということ
歴戦の強者だからこそ、逆に動きが読めないだろうという狙いもあるがな
素晴らしい空中戦ができる相手に、逃げに徹して時間切れ待ちなど許されん!
そして天地には被弾させんし、されそうなら妾が防ぐ!
妾の武器は当然この左腕だ!
弾幕を掻い潜り、あるいは防ぎ! 全力でブチ込む!
自壊など許さず、妾が直々にボコって仕留めてやろう! そういう心持ちでバトルに臨む!
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ソルトレークシティの空を飛翔する『燦然たれ希望の星』。脚と同化した愛機のレシプロ機関はこの青い空をどこまでも飛ぶ力を与えてくれる。体の中心でうずく拒絶反応すら、空を飛翔する心地よさが相殺してくれるかのようだ。
しかし……世界に定められた敵を見逃すことはできなかった。
「ああ……いるのだな。私が求める強者が!!」
猟兵を感知した『星』はそちらに向かって飛翔する。
果たして邂逅したのはひとりの猟兵。
「はっはっは、お主の願いは聞き遂げた! 妾が叶えてやろうではないか!」
御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)であった。
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「……!」
菘の声を聞いて、『星』が返したのは声ではなく、『殲滅する』という意志。直後、『星』はその速度を上げて急降下する。まずは一撃、先制!
菘の頭上を駆け抜けるとともに何発もの爆弾を投下していく。
「ふっ。はーっはっは!」
だがその爆撃を菘は右腕に纏う邪神のオーラで薙ぎ払う。菘の周辺のみで爆発する爆弾たち。土煙と爆風に包まれながら、しかし菘は笑う。
「いいぞ! 勝利すらも掴んでみせるがよい、できるものならな!」
「そうさせてもらおう!」
菘の挑発に動じることなく、『星』は空を旋回。今度は菘の直情から真っ逆さまに急降下。右手に持つ機関銃を盛大にぶっ放す。
さらに巻き起こる土煙。その中でなお菘は動かず、今度は左腕――『神殺し』と異名を取るソレで完全に受け止める。
「どうした! これで終わりか!?」
『星』が叫びながら、しかし銃撃を緩めるどころか苛烈にしていく。
返ってきた返事は……降参には程遠い叫び。
「行くぞ天地! お主が共に在れば、空すらも妾の統べる領域となる!」
盛大な土煙の中から飛び出してきたのは、変形させた『天地通眼』に騎乗した菘。天地通眼は本来、菘の傍で常に撮影を行うことができるスペックを持つ高性能AI内蔵の映像撮影用ドローン。それを乗騎とするのが菘の【天空の覇者】。
「まさかただのドローンの筈があるまい?」
と『星』の攻撃を振り切りながら、自信たっぷりに笑う菘。その実、機動については天地に『丸投げだ!』しているのだが、天地通眼は菘の意図を読んで、彼女の思惑通りに飛翔する!
(そう、最も重要なのは……!)
菘の機動に追い付いて来た、『星』の機関銃の銃撃をギリギリまで引き付けてから、身を翻すように旋回して回避する菘。
「勝利を得るための最善ではなく、よりカッコ良い動きを取るということ!」
全然ブレてねぇキマフューの一番星だよ。映え重要。
「ちっ!」
そんな菘の動きは言ってみれば『効率的』ではない。ゆえに『星』には読み切れないことがある。
だがそれは菘も一緒。
(歴戦の強者だからこそ、逆に動きが読めないだろうという狙いもあるがな)
お互いがお互いを読み切れない。こんな状況なら普通は手の内を探るべく、長期戦に持ち込む……のだが、菘の辞書にそれはない。
「素晴らしい空中戦ができる相手に、逃げに徹して時間切れ待ちなど許されん!」
『星』の誘導弾を複雑で幾何学的な動きで以て回避する菘。そして向かう先は、『星』が構える上空。
「空中で挑んでくるとは……良いだろう!」
『星』が速度を上げる。その速度を代償にユーベルコード発動。菘に向けて飛翔する。
(速度を保て、蒼空を目指せ……!)
落ちた速度を無理矢理上げて、その対価として身体の中で何かが壊れていく。
それでも『星』は飛ぶことを止めない。その身が音速を越え、ソニックブームを纏う。
――真っ向勝負!
「妾の武器は当然この左腕だ!」
音速の衝撃波を纏って突撃してくる『星』に対して、菘は天地通眼の上で左手を握る。邪神のオーラを纏い、さらに禍々しく。されど力の象徴は、『神殺し』は闇の輝きを増す。
(全力でブチ込む!)
振りかぶり、全力で突き出した菘の左の拳と速度を一切緩めることなく突撃してきた『星』のソニックブームが激突する……!
「ぐあっ……!」
菘の黄金の左に吹っ飛ばされる『星』。高速の飛翔が強引に中断され、きりもみしながら落下して……しかし体勢を立て直す。
「ぐっ……」
身体の中でまた何かが崩れる音がする。だが、だがしかし。
「まだ終わりではあるまい! かかってくるがいい!」
そう叫ぶ菘は『自分より高い位置を飛んで』いる。
「後悔させてやろう!」
再び、全身の機関をフル稼働して、『星』が飛翔する。
それを見て菘が目を細め、そして拳を握る。
――自壊など許さず、妾が直々にボコって仕留めてやろう!
そんな心持ちを改めて胸に抱え、菘はバトルに臨む!
大成功
🔵🔵🔵
ニクロム・ヘドロ
嗚呼、アナタは英雄ですね、かつて、そう、いつぞやかアナタによく似た女性(ヒト)をボクは見たことがあります
だからこそ戦ってみたくなったのかもしれません
さあヘドロの宴を始めましょう
自壊も恐れず誇り高く戦うアナタに英雄の戦場を、さあヘドロの民達よ彼女に安らかな眠りを与えてください
嗚呼、ヘドロに沈んだオブリビオン達よ、今こそ這い上がりボクに従うのです
今一度戦いの愉悦を、さあアナタの力を存分に見せてください
この大軍を前に美しく、身体が砕けても尚気高く
嗚呼、今チタノの羽ばたく音が聞こえた気がします
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猟兵との戦いを繰り広げながら、空を飛翔する『燦然たれ希望の星』。その姿を地上から見上げて……認めて。
ニクロム・ヘドロ(悪堕ちヘドロ怪人・f34633)は思わず呟く。
「嗚呼、アナタは英雄ですね」
と。零れた言葉は意識的か無意識か。しかし視線は『星』を見据え続ける。
「かつて、そう、いつぞやか……アナタによく似た女性(ヒト)をボクは見たことがあります」
それがいつだったのか誰だったのかは思い出せないけれども。その想いに引きずられるように、ニクロムはこの地にいるのかもしれない。
(だからこそ戦ってみたくなったのかもしれません)
ニクロムの想いに引き寄せられるように。
「ぐあっ!?」
他の仲間による攻撃で『星』が、ニクロムの目の前に墜落する。
「ぐ……まだ、まだだ……!」
再び飛翔しようとする『星』の視界にニクロムが映る。
「……!」
咄嗟に自身の身を浮かび上がらせてニクロムを警戒する『星』。
「さあヘドロの宴を始めましょう。自壊も恐れず誇り高く戦うアナタに英雄の戦場を」
それはニクロムの宣戦布告と同時にユーベルコードを呼び寄せる声。その声に応じて、彼女の身がずるり、と一瞬崩れ、足元にできたヘドロから彼女と同じ姿の【ヘドロの民】が現れる。
「ちっ……!」
その様子に『星』は改めて空へ駆動する。
(翼はある。希望は……どうか!)
それは『星』が自身に問いかける想い。その想いの強さが『星』を飛翔させる。一閃する刃のごとく、突撃。ヘドロの民を破壊する『星』
だがニクロムの【ヘドロの民】はこれで終わりではない。
「嗚呼、ヘドロに沈んだオブリビオン達よ、今こそ這い上がりボクに従うのです」
ずるり、と。ヘドロの中から新たな兵士が生まれる。それは崩れそうな形の女性型オブリビオンの群れ。そして砕かれたヘドロの民もヘドロの中から再生する。
『星』の前にヘドロの民の大群がその道を阻む。
「さあヘドロの民達よ彼女に安らかな眠りを与えてください。今一度戦いの愉悦を、さあアナタの力を存分に見せてください」
ニクロムの言葉に、ヘドロの民たちが一斉に『星』に向かって押し寄せる。
「くっ……!」
一度空に飛び、ヘドロの民たちを回避する『星』。そのまま右手の機関銃で足元にすがろうとするヘドロの民を吹き飛ばし続けるが、べちゃりと崩れてもなお、ヘドロの民たちは再生する。
翼は希望を生み出し続けるが、その度に『星』の身体が軋んでいく。
「この大軍を前に美しく、身体が砕けても尚気高く」
ヘドロの民によって自身に近づけることすら許さず、『星』を追い込んでいくニクロム。
――嗚呼、今チタノの羽ばたく音が聞こえた気がします。
幻聴か、事実か。それはニクロムにしかわからない。
大成功
🔵🔵🔵
クロム・チタノ
反抗起動これより任務を開始します
任務了解敵オブリビオンの撃破、敵は時間の経過と共に自壊して行くのならば長期戦が望ましい
制裁執行もはや猶予なし
敵を援護する戦闘機を確認、先制して排除します
巨大な氷壁を作成して敵と戦闘機の攻撃を防御、その後氷結の猛吹雪を放射して戦闘機を氷らして連携を無効化
敵は氷壁で攻撃を防ぎつつ絶対零度の冷気を浴びせ弱体化しながら肉体の崩壊を促進させる
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突撃するだけが勝利への道ではない。不利を悟れば、体勢を立て直すのも作戦。最後に勝利すればいい。
勝利こそが全てなれば、『燦然たれ希望の星』が戦略的撤退を厭うことはない。
だが、1対1の戦いではないこともまた戦いの常。
「新手か……!」
『星』が撤退しようとした方向へ素早く視線を巡らせれば。そこにひっかかるのが如何に小さい点であろうと、猟兵であるならば視線を逸らすことなどできようはずもない。
「任務了解」
クロム・チタノ(反抗機械・f32170)は無機質に単語を紡ぐ。脳裏に再生されるのはグリモア猟兵より伝えられた内容だ。それを復唱するかののように確認するクロム。
「敵オブリビオンの撃破、敵は時間の経過と共に自壊して行くのならば長期戦が望ましい」
反抗の竜チタノソウリュウの力を解放しつつ、クロムは視界の中に、敵機『星』を捉える。
「反抗起動これより任務を開始します」
その手にあるは反抗の竜の鈎爪。その一撃で『星』を捉えるにはまず。
「制裁執行もはや猶予なし」
その言葉と同時にユーベルコードを発動。その身に纏うは氷結の猛吹雪、絶対零度の冷気、巨大な氷壁。【氷狂え無慈悲になお冷たく】によって自身を強化したクロムは、接近してくる『星』に向かって構えるのであった。
前方のクロムとの距離を把握。そして『星』は叫ぶ。
「戦友たちよ、今再び共に征こう」
『星』の言葉によって彼女の頭上に呼び出されるのは編成されたBf109戦闘機隊。今は亡き戦友の霊が乗る航空隊がクロムに向かって機関銃の掃射で攻撃を仕掛ける。
「敵を援護する戦闘機を確認、先制して排除します」
しかしクロムは冷静に、下から掬いあげるように手を振ればその動きに応じて眼前に巨大な氷壁を作り出す。Bf109の機関銃掃射を全てを受け止めてなおその場にある氷壁。その横から顔を出したクロムは目にも止まらぬ速さで氷結の猛吹雪を放つ。
いいか? 先制攻撃とは『先に攻撃を仕掛ける』ことではない。『先に攻撃を与える』ことだ。
猛吹雪が戦闘機たちを巻き込み、凍らせてその動きを阻害する。上と左右から氷壁を越えてコンビネーションアタックをしようとしていた戦闘機たちが次々と墜落していく。
「おのれ……!」
墜ちていく戦友たちの姿に怨嗟の声をあげながら、『星』は右腕の機関銃を構える。氷壁を砕かんと掃射を開始するが、絶対零度の冷気で補助された氷壁は弾丸をくわえ込みながらさらに大きな壁となる。
それを破壊せんと、『星』がさらにBf109戦闘機隊を呼び出すが、それもまた猛吹雪によって無効化され。
「これでも、飛べる?」
クロムが絶対零度の冷気を『星』に叩きつける。
「ぐあっ……!」
いかにその身がオブリビオンとなっていようとも、その身にあるレシプロ機関は冷気の影響を受ける。凍り付き、プロペラの回転が落ちていけば飛翔の速度もまた落ちていく。
「……!」
眼前で墜落しようとしている『星』に、無言でしかし強烈にクローアームを叩きつけるクロム。だがその一撃を受けてなお、『星』は墜落することを良しとしない。
「まだ、まだだ……!」
氷を振り払い、再び空へ飛翔する『星』。
「……」
その『星』の姿を見上げながら、クロムもまた反抗の竜の鈎爪を構えるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ミスタリア・ミスタニア
へぇ、いいじゃねぇか。こういう奴は嫌いじゃねぇぜ!
それに宇宙(ソラ)と大空(ソラ)の戦場の主役同士、どっちが上か勝負といこうか!
まぁソラ違いで大気圏内だろうとな、鎧装騎兵としてソラの戦いで負けるつもりはねぇぜ!
戦闘機がドッグファイトの邪魔をすんな!
こっちはビットを放って戦闘機の対処にあてるぜ
まぁデミウルゴス式偽神細胞で戦闘機が超強化されてたら時間稼ぎか嫌がらせが精々か?
だが、燦然たれ希望の星とのドッグファイト中なら、そう介入もされねぇだろ
チッ、そんな足のプロペラで、オレの鎧装と戦り合えるとはな!
ハッ!だからこそ戦り合う甲斐があるってもんだ!
自滅なんて詰まんねぇ終わりにはさせねぇから安心しな!
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『燦然たれ希望の星』は、『星』はいまだ空を飛び続ける。整った軍装は度重なる猟兵たちの攻撃によってぼろぼろになって、そこから見え隠れする身体の一部も土塊のように砕け、あるいは戦闘機の部品がショートしている。
だが、飛ぶことを止めない。
空を制する者が戦いを制する。それは昔も今も一緒だ。だからこそ、ミスタリア・ミスタニア(宇宙を駆ける翠の疾風・f06878)は『星』の航路を塞ぐように立ち塞がる。
「へぇ、いいじゃねぇか。こういう奴は嫌いじゃねぇぜ!」
そう叫びながら、ミスタリアは鎧装の背部と脚部のプラズマジェットスラスターによって真正面から突撃!
「ちっ……!」
『星』が思わずその突撃を回避する。衝突したとしても負ける気はしない。されど、不測のダメージは避けるべきだと、急上昇回避した後、戦友たちを呼び寄せる。上空からミスタリア目掛けて急降下してくるBf109戦闘機航空隊。
「戦闘機がドッグファイトの邪魔をすんな!」
裂帛の気迫を戦闘機を押し返すかのごとく、ミスタリアがビットを展開。複数かつ多角的なレーザー発射で戦闘機を次々と撃墜していく。僚機を撃墜するビットを無視できず、残った戦闘機たちがビットに釣られるように針路を変更。
「……!」
『星』とミスタリアの間を遮るものは無い。上空から射抜くような視線でミスタリアを見据える『星』。そして高度は下であるが、よりも不遜に『星』を射抜く視線をでミスタリアが言い放つ。
「宇宙(ソラ)と大空(ソラ)の戦場の主役同士、どっちが上か勝負といこうか!」
「……いいだろう!」
直後、ミスタリアと『星』が加速する。互いにソラを制するために。己がスラスターを、己がレシプロ機関をフル稼働させて、両者は高速の戦いに身を投じた。
天と地から流星が迸り、激突する。かと思った瞬間、二条の光は互いにもみ合うようにして空を斬り裂く。付かず離れず、交差すれば何かが砕け、しかしその速度と勢いは決して衰えない。
「チッ、そんな足のプロペラで、オレの鎧装と戦り合えるとはな!」
ミスタリアが舌打ちとともに告げる。
「……捉えた!」
返事は機関銃の掃射であった。ようやくミスタリアの速度をアジャストした『星』がミスタリアを狙う。
「ハッ!」
『星』の攻撃に焦ることなく、ミスタリアはスラスターを急制動、同時に針路を変更する。『星』の弾幕が空を切り、しかしその前方を『星』が制する。
「だからこそ戦り合う甲斐があるってもんだ!」
大気圏内による加速度および直線速度は『星』が上。しかしミスタリアは速度ではわずかに譲るものの、変幻自在な飛翔で『星』を翻弄して追い込んでいく。
そう、だからこそ。
ミスタリアが降下、後に速度を加速させながら急上昇する。角度を合わせる先は……『星』の真下。『真下から突き上げる』、いかなドッグファイトとて戦闘機にはできない芸当だ。戦闘機の戦いは通常『上を取った方が勝ち』なのだから。
「くっ……!」
理解の外――それはおそらく『宇宙と大空の違い』から来る攻撃に爆弾を投下しながら『星』も上昇するが……間に合わない。
「バンカー、捉えた! ゼロ距離、これで! いっちまえよやぁぁぁぁ!」
ミスタリアの『対艦用大型パイルバンカー』が『星』の腹部を貫き、間髪を入れず、ゼロ距離で対艦用ビームが発射される。直撃する【グリュンシュトゥルム】。
「ぐあぁぁぁぁぁああっ!!!」
強烈な一撃によって吹き飛ばされる『星』。しかし、『星』はまだ墜ちない。墜ちるわけにはいかない。
「自滅なんて詰まんねぇ終わりにはさせねぇから安心しな!」
高度を下げながらもいまだ飛び上がろうとする『星』に対して、ミスタリアは油断なく、しかし楽しそうに笑うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
白雪・まゆ
お助けすることができないのは残念ですが、
それならせめて、最後の望みくらいは叶えてあげたいですね。
空戦希望ということなら【Vernichtung durch Granaten】に乗って、
全力でお相手いたしますのですよ!
わたしは、榴弾砲台で飛び回りつつ、相手を翻弄していきますのです。
とはいえ、純粋なドッグファイトだと相手に部がありそうですね。
相手の攻撃は回避していくつもりですが、
どうしても躱しきれないときは、砲台から身を投げ出し、二手に分かれて回避。
攻撃は【Showering Blows】で、砲台からジャンプして乱打しつつ突撃。
どちらのときも落ちる前に自動追尾で捕まえてもらって飛び乗りますね。
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砕ける。壊れていく。崩れそうな感覚が全身を駆け巡る。しかし、されど。『燦然たれ希望の星』は飛ぶことを止めない。勝利を諦めない……!
(お助けすることができないのは残念ですが)
『星』の姿を見上げて、白雪・まゆ(おねーちゃんの地下室ペット・f25357)は心の内に言葉を紡ぐ。でも、だからこそ。
「それならせめて、最後の望みくらいは叶えてあげたいですね」
そう言葉をこぼして。まゆは愛用のバトルハンマー『Feldwebel des Stahles』を握り込むのであった。
「空戦希望ということなら!」
まゆが『Vernichtung durch Granaten』に飛び乗る。サブフライトシステムとして使用できる、移動型の榴弾砲台。
「これで全力でお相手いたしますのですよ!」
『星』を追尾して加速するまゆ。
それを視界の隅に捉えた『星』は空中を旋回。上方向へ翻った後、加速する!
(速度を保て、蒼空を目指せ……!)
ユーベルコード、あるいは呪い。そんな言葉を紡げば、『星』の速度ががくんと落ちる。同時に砕ける左手。だが欠けた程度で飛行には問題ない。再び加速する。砕けた左手から亀裂が広がろうとも。
「みゅっ?!」
突っ込んできた『星』を間一髪。上昇して回避したまゆは榴弾砲台の動きをフリーモードに変更。右に左に軌道を変更して翻弄しながら、しかし『星』を捉えるべく飛行する。
(とはいえ、純粋なドッグファイトだと相手に部がありそうですね)
まゆの分析通り、『星』の動きが精度を増していく。空戦に慣れていないまゆのサブフライトシステム飛行ではそろそろ誤魔化しが効かなくなってきた。『星』の速度がさらにあがって、その針路上にまゆを捉える。
「……とおっ!」
かわし切れない。そう判断したまゆが榴弾砲台からジャンプ!
「ちっ!」
まゆと榴弾砲台の間を『星』が通り過ぎる。反転した『星』と、榴弾砲台に着地したまゆが再び空中で向かい合う。
(ここしかないのです……!)
若干、『星』の機動力が落ちる瞬間。それはGがかかる方向転換の瞬間。もう一度『星』の突撃。それにあわせてまゆが榴弾砲台から再びジャンプする!
「気が狂ったか!」
空に飛び出したまゆに向けて『星』が突撃してくる。……だがそれこそがまゆの狙い。若干速度が落ちた『星』に対して、まゆがバトルハンマーをぎゅっと握る。
「行きますのです!」
「……!」
まゆが叫べば、ハンマーからロケット噴射! 『星』の飛翔には比べるべくもないが、しかしそれでも短距離・短時間なら飛行も可能な推力を放って。
「手数でだって、負けないのですよ!」
激突の瞬間、まゆがハンマーを乱打乱打乱打!! 【Showering Blows】――ロケット噴射を使用したハンマーの乱打が『星』を捉える!
「ぐあっ!?」
まゆのハンマー乱打によって『星』の動きが止まる。
「えいっ!!」
最後のトドメと言わんばかりに上から大きく振りかぶったハンマーの一撃がまゆから振り下ろされ、叩き落される『星』。
落下していく『星』を見ながら、まゆは榴弾砲台に自動追尾でキャッチしてもらい、再び着地。
「……ふぅ、なのです」
下の方で『星』のレシプロ機関が回る音がする。
まだ戦いは終わっていないけれども……その音が徐々に終焉に向かっていることをなんとなく感じるまゆであった。
大成功
🔵🔵🔵
化野・那由他
まるで燃え尽きるまで止まることのない流れ星のようですね。
それでは手向けの華を。悔いなき戦いを。
本体である『無名奇譚』を開き、禍津日を呼び起こします。
(高速詠唱を用いることで、詠唱の文言は省略。長いので!)。
招来するのは、雷槌。
雷は空を飛ぶ者の天敵でしょう。
全力魔法、範囲攻撃、属性攻撃、多重詠唱を全部乗せて絶え間なく雷霆を起こします。
敵の攻撃は、化骸を手に武器受けしたり、第六感を駆使。
また念動力で自身を浮かせ緊急回避したり、化骸そのものを飛ばして牽制。
如何なる攻撃を仕掛けてこようとも、全力で攻撃し、耐え抜くのみ。
この身は傷だらけになっても構いません。
最悪、無名奇譚さえ無事なら良いのですから……。
●
地に向けて墜ちる、墜ちていく。このまま大地に叩きつけられたとしても、おそらくこの身は大丈夫だろう。空を飛ぶ機能さえ生きていれば、この身は、『燦然たれ希望の星』は飛び続けることができる。
だが。
――地に墜ちた星は、『星』のままでいられるのか?
その想いが『星』の身を奮い立たせる。このまま半壊しようとも、空に在り続けようと、再びレシプロ機関を回転させて……空へと戻る。
「まるで……燃え尽きるまで止まることのない流れ星のようですね」
化野・那由他(書物のヤドリガミ・f01201)はその様子を地から見上げて、小さくそう呟いた。『物』に宿る想い……という意味では那由他も何か感じることがあったのかもしれない。されど、求められているのは戦いだ。
「それでは……手向けの華を。悔いなき戦いを」
那由他は空へそう告げて。胸元で自身の本体でもある『無名奇譚』を開く。
●
『星』のさらに頭上、否、天空の青空から。
「……!」
突如降るのは『雷槌』。それが狙い澄ましたように『星』に向けて落下する。
「ちっ!!」
無理矢理軌道を変更して雷槌を回避する『星』。青天の霹靂とはまさにこのことか。
(いや……違う)
次々と降る雷槌を見て、これは攻撃なのだ、と『星』が察すれば。
「……そこか!」
地上に在るその主を見つけて急降下する。
(翼は……まだある! 希望も!)
かつて戦友から仮託された『必ずや勝利を』という願いを胸に、『星』は那由他目掛けて突撃する。
(来ましたか)
無名奇譚を開いたまま、那由他が空を見据える。その視線の先には自分に向かって急降下してくる『星』。
那由他が呼び起こしたのは【禍津日】。禍害・凶事などをひき起こす神の名を冠するユーベルコードはその名に違わぬ力――すなわち、荒れ狂う自然の力を那由他の敵に対して叩きつける!
「雷は空を飛ぶ者の天敵でしょう」
『星』の身が通常の鉄ならば確実な一撃必殺。しかし、デミウルゴス式偽神細胞に侵食されたオブリビオンの身ではダメージを蓄積するに留まってしまう。
(……それでも)
戦いを止めるなんて選択肢は無く。右手の無名奇譚を護るように、左手に鎬造りの打刀『化骸』を逆手に構えた那由他の宝石のような紅い瞳がすっと細められて。
那由他と『星』が激突する。
●
「……捉えた!」
速度を落とさず、右手の機関銃で掃射する『星』。
「……!」
しかしその攻撃を那由他は第六感で察知。念動力で自身を引っ張り上げて、大きく飛び退いて回避しながら、【禍津日】による雷槌を『星』に叩きつける。
「ぐぁっ……?!」
悲鳴をあげながら、しかし『星』は進むことを諦めず。
「……っ!?」
今度は那由他が小さく悲鳴をあげた。鋭く回避できない『星』の突撃。それをどうにか化骸で受け止めながらいなしたものの、突撃の衝撃は逃がしきれない。
ずしゃっ、と地に倒れ込んだ那由他の上を、機関銃の銃撃が走り抜けていく!
「くぅっ……」
銃弾のダメージに苦悶の声をあげる那由他。しかし本体の無名奇譚だけは懐に抱え込んで護る。
(この身は傷だらけになっても構いません)
最悪、無名奇譚さえ無事なら良い。
ヤドリガミ。本に宿る想いの結晶が那由他だ。だからこそ無名奇譚さえ無事なら彼女はまた彼女として在れる。
(如何なる攻撃を仕掛けてこようとも、耐え抜くのみ)
そして……起ち上がって、全力で攻撃するのみ。
銃弾を耐えしのいだ那由他が念動力の補助で素早く立ち上がり。
「――――」
高速詠唱。力を宿す言霊を素早く、そして何重にも何重にも重ね合わせる。呼び起こすは神の雷霆。そこに全力の魔力を込めて、さらに雷の属性を強化して。
「かわせますか?」
那由他は視界いっぱい、周辺のあらゆる場所へ雷槌を降らせる。それは落雷のレベルをこえた、雷槌の嵐。
「ぐっ、お、こ、れは……!!」
空を飛びながら、しかし絶え間なく降る雷霆によって身動きが取れなくなる『星』。動きが止まった『星』へさらにさらに雷槌が降り注ぐ!
そして、雷槌が止む。
「……はぁ、っ……」
大きく息を吐く那由他。嵐が過ぎ去った空には青空……しかし、いまだ『星』は那由他の頭上に在って。
(……いえ)
那由他が紅い瞳で見据えた『星』は自壊と崩壊によって……もはやその身を支えることができないほどにまで追い込まれていたのである。
大成功
🔵🔵🔵
リッター・ハイドン
◎
この世界の為に、こんなおれにも
いや、おれだから出来ることだってある筈だ…!
彼女も、まもる為に戦うのか…
手を出さなければ、戦うことも無いのに
いや、これは未来《あした》の為の銃弾だ
過去は、終わりにしなくちゃいけないんだ
味方との交戦の様子を見、その攻撃の苛烈さに戦慄
正義感に駆られて志願した事に後悔を禁じ得ない
やっぱり無茶だ…!あんなのに敵いっこない!
そもそも対空装備も無しに!おれは何しに来たんだ…!
…でも、ブリーフィングでお姉さんが言ってた通り、
本当に、どんどん壊れていって…?
あのお姉さん、綺麗だったな…
何考えてるんだ!
そうだ、これなら、味方がもってくれれば…
なら、おれに出来ることは
なけなしの戦闘知識とサバイバル知識を総動員
極限まで索敵を欺瞞、負傷した味方がいれば応急救護を試みる
いつでも駆け付けられるように、隠れて耐える
その中でUCが発動
爆撃や銃撃を受けても奇跡的に被弾しない
もし
戦いの中で自壊し、満身創痍となった彼女が
索敵の為高度・速度を落とし頭上を通過したなら
この手で
過去を終わらせる弾丸を
ニクロム・チタノ
アナタはどんなに傷ついても戦い続けるんだね、でももう良いんだって言っても止めないんだねなら
ボクの真の名紅明日香の名を以てチタノヤタテを降臨させる
八つの蒼焔の盾を展開して攻撃を防ぎながら隙を見て重力槍を七つ撃ち出すよ!
く、早いかなり疲弊しているはずなのに・・・でもまだ一本重力槍は残っているよ!
全重力を集中して、いっけー
ギリギリかわした所に渾身の妖刀の一撃をくらわすよ!
反抗の竜よ、どうか英霊に安らかな眠りを
●幕間・攻防を見上げる視線
『燦然たれ希望の星』が猟兵たちと、仲間たちと死闘を繰り広げている。戦闘によって激しく進行した自壊の状態が外から見てもわかるほどに『星』が崩れていっている。
それがわかってなお、両者とも戦いを止める気配はない。
「この世界の為に、こんなおれにも……いや、おれだから出来ることだってある筈だ……!」
銃を握る手に力を入れて、言葉を絞り出したリッター・ハイドン(シムーン・f29219)。だが、彼はこの戦いにまだ介入できていない。
脳裏をよぎるのは、グリモアベースで聞いた話。『星』の在り方。それが楔のようにリッターの動きを鈍らせている。
(彼女も、まもる為に戦うのか……)
もしかしたら、彼女は飛び続けるだけで誰にも危害を与えないかもしれない。不倶戴天の敵である猟兵さえいなければ『星』は空に在り続けるだけかもしれない。
でも、彼女は過去――オブリビオンだ。
「……過去は、終わりにしなくちゃいけないんだ」
その手に握るのは『未来《あした》の為の銃弾』だ。
リッターは再度、介入を試みて……空を見上げる。
●決戦
猟兵の度重なる攻撃によって、既に『星』は満身創痍であった。見た目が、ではない。中身が、だ。
「くっ……」
空を飛ぶ機関はまだ活きている。だが出力があがらない。速度に耐える身体がもたない。
(だが……それでも!!)
声に出さずとも零れる気迫。それに応じて脚のレシプロ機関、プロペラが再び回転速度を上げる。
「翼は……まだある! 希望もまだ!」
上昇する『星』。それに応じて身体が砕けていく感覚。それを振り払うように、さらに速度を上げて、猟兵を視界に捉える。
「いくぞ……!」
『星』は『蒼空を目指す』ために、その身を犠牲にしながら、失速しそうな身体を無理矢理飛翔させる。
「アナタはどんなに傷ついても戦い続けるんだね、でももう良いんだって言っても止めないんだね」
自身に向かってくる『星』を見て。ニクロム・チタノ(蘇った反抗の翼・f32208)はそう呟いた。もう、見てわかるほどに、彼女の機身体(身体)はガタガタだ。速度を保っているが、飛行態勢が保てず、上下に機身体がぶれている。いつ墜落してもおかしくない状況なのに、決して自然には墜落しないとニクロムは察する。
「なら」
『星』の突撃を真正面から受け止める構えを取って。ニクロムは一度だけ深呼吸。
「ボクの真の名、紅明日香の名を以て……チタノヤタテを降臨させる!」
その身から解き放つのは反抗の竜の力。【其の真名を以て反抗せよ】とニクロムの眼前に、八つの蒼焔の盾が展開される。
「がっ!? ……ぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
突如現れた蒼焔の盾に激突する『星』。しかし推力を振り絞って、そのまま押し込む!
「……! でも!」
押し込まれる蒼焔の盾をどうにか押し返して。しかし動きの止まった『星』は好機。
「いけっ!」
ニクロムの言葉に応じて出現するのは超重力槍。全てを飲み込み破壊する超重力の槍が立て続けに7本、『星』の身体に突き刺さる。そのダメージと重力に、『星』の身体ががくんっと高度を下げる。墜ちる……いや。
「……それでも!」
まだ墜ちない。無理やり蒼焔の盾を突き破り、そこから差し込んだ機関銃の銃口から全力の掃射を放つ!
「うあっ……!!」
銃撃の直撃に身体勢を崩して後退するニクロム。蒼焔の盾が緩む。そこを突き抜けた『星』がなけなしの爆弾で絨毯爆撃を行っていく。
●その傍で
――そうだ、これなら……。なら、おれに出来ることは。
リッターが『星』の絨毯爆撃で発生した土煙の中を走り出す。
ここに至るまでなけなしの戦闘知識とサバイバル知識を総動員して、『星』の索敵を逃れ続けたリッターはいつでも駆け付けられるように、隠れて耐えていた。
最初はニクロムの支援のために隙を窺っていたのだ。
しかし。
(やっぱり無茶だ……! あんなのに敵いっこない! そもそも対空装備も無しに! おれは何しに来たんだ……!)
ニクロムと『星』の交戦の様子を見て、その攻撃の苛烈さに戦慄し、再び足が止まっていたのだ。至近距離で目視した戦闘の様子に、自身が正義感に駆られて志願したことに後悔を禁じ得ない。
だが不思議とその身は『星』の攻撃から外れていた。絨毯爆撃に巻き込まれるほどの距離にあって、いまだ無傷。【贖罪】を彼が自覚することは無い。彼はまだその境地に至っていない。
だから、見続ける。彼は視続ける。
(……でも、本当に、どんどん壊れていって……?)
不意に脳裏をよぎったグリモア猟兵の容姿に『あのお姉さん、綺麗だったな……いやいや、何考えてるんだ!』とかしていたが、それもまた【贖罪】を維持する力であるなら、その思考は無意識だったのかもしれない。
――おれにも、まだ。できる事があるはずだ――。
そして見つけたのだ。リッターにできることを。
●決着に至る
ニクロムの上を『星』が飛翔する。上からありったけの銃弾と爆弾をニクロムに向かって放つ。
「く、早い! かなり疲弊しているはずなのに……」
蒼焔の盾を頭上に向けて展開。『星』の攻撃は全て蒼焔の盾が受け止めているものの、『星』の速度はいまだ落ちない。捉えるにはまだ……難しい。
(でも、まだ……)
ニクロムもまだ終わりではない。まだ残っている、最後の1本が。
(チャンスは……)
訪れるはずだ。そのタイミングをニクロムは待ち続ける。
レシプロ機関、プロペラによる飛翔は空気を巻き込んで飛ぶ。その関係で滞空が難しい。『星』は常に旋回、飛翔して、しかし標的であるニクロムからは離れない。
だが、その身体が限界だ。突如、がくんと高度が落ちる。
「ちっ、だが……」
まだ立て直せる。そう思って『星』が空を見上げようとしたその時。土煙の中に人影を確認したのだ。
「……!!!!」
『星』が目を見開く。その人影はニクロムではない。全然別の存在。少なくとも今までこの戦場で確認した存在ではない。『何故、今まで気付かなかったのか』と『星』が自問自答する……前に。
その人影は手にした銃を空へ向けていた。
(もし……戦いの中で自壊し、満身創痍となった彼女が高度を落として頭上を通過したなら)
その時をリッターはずっと、ずっと待っていた。『できること』――その一瞬のためにリッターは全てを賭けていた。
だから、この瞬間を逃すことは……ない!
(この手で! 過去を終わらせる弾丸を!)
完全にタイミングを合わせた真下からの銃撃に。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
完全なる不意打ちの一撃に空へ向かって吹き飛ばされる。ついに『星』の航路が途切れたのである。
●最後の一撃を
『星』の絶叫が響く。
「……!」
その様子を確認するよりも早く。ニクロムが残っている超重力槍の最後の1本を頭上に構える。
(全重力を集中して……)
残る力の全てをその1本の超重力槍に込めて……土煙が晴れる。ニクロムが『星』を、地上から空の一点を……捉える!
「いっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
裂帛の気合とともに放たれる超重力槍。それは空を斬り裂いて、『星』を貫く!!
「が……あ……」
貫かれた『星』はその槍が描く放物線のままに、地面に向かって墜落していく。
「ま、だ……」
「終わりだよ」
いつの間にか距離を詰めてきたニクロムの跳躍からの渾身の妖刀、一閃。
「反抗の竜よ、どうか英霊に安らかな眠りを」
ニクロムの言葉を聞きながら、『星』はついに墜落していったのである。
●崩壊までの刹那
――この身が滅ぶその瞬間まで……私は勝利を諦めない。
そう誓った。そう、あるべきと戦った。戦い続けてきた。しかし、結果はどうだ?
目指す星は未だ輝き続け、そこに、その向こうに還るべき空をあるというのに。
――ああ。
消える、希望の星の燦然とした輝きが。胸の内にある炎が。
また、墜ちていく……大地へ、死へ……否、その向こうにある深淵に。
もはや空気抵抗ですらこの身を砕くほどに、自身の身体は自壊して崩壊して。それでも空を仰ぎ見る。そこにいたのは先ほどまで戦っていた2人に加え、これまでに激闘を繰り広げた猟兵たちが全員。
――強かった。誰一人として、正面から挑まなかった者はいなかった。
私は、間違いなく。彼ら彼女らと戦って……墜ちたのだ。
――すまない。戦友たち。私は、また……勝てなかった……。
でも。
――ようやく……ゆっくり眠れそうだな。
燦然としていた炎が、輝きがふっと消え去る感覚。同時に完全に塵と化していく自身の身体。
猟兵たちが見ている前で。
『プロトタイプ・デミウルゴス』あるいは『燦然たれ希望の星』は、ようやく辿り着いた穏やかな『眠るべき場所』へ沈んでいったのである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵