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アポカリプス・ランページ⑱〜貫きし者

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●ポーシュボス・フェノメノン
 かつてそれは心優しい青年だった。
 かつてそれは気難しい老婆だった。
 かつてそれは傲岸不遜な男だった。
 かつて、それは――それらは。
 それぞれがそれぞれの『善』を持つ、一つの生命だった。
「わかラない、何モ、ナにもカモわからナくなッた」
「いイや、ワたしは確カに人だった!」
「ポーシュボス、ポーシュボス、そうダ、みんナ、ミンなポーシュボスにナッてしマった」
「いやだ、嫌だイヤだ嫌だイヤイヤいヤ嫌ダ――」

 ――コろしてクれ。

●邪悪なるもの
「ポーシュボスとは、生命の『善の心』に寄生し、少しでも善の心を持つ生物を新たなポーシュボスに変えてしまう存在らしいね」
 エンティ・シェア(欠片・f00526)は捲っていたメモをぱたりと閉じ、ことりと首を傾げた。
 何十、何百と人を殺すような極悪人ですら、僅かな善の心に寄生され、ポーシュボスと化した。
 それほどに見境なく、ポーシュボスは『善』を喰らう。
 そうして、成長する。
「かフロリダ州タハラシーを覆う程の超巨大オブリビオン・ストームの内部で蠢いている。全て、ポーシュボスとしてね」
 要するにポーシュボスの群れと対峙することになるねと緩く笑い、そのまま、言葉を紡ぐ。
 この群れは、かつて人であったり賢い動物であった存在であり、もう、救う事は叶わない存在だ。
 そして、その全てがポーシュボスとして善の心に寄生しようとしてくる。
 それを防ぐことが出来るのは、純粋な悪の存在のみだろう、と。
「あるいは……ポーシュボスに寄生されながら、正気を手放さずに戦える者か」
 途方もない難題だと言うようでありながら、エンティの笑みは緩やかなまま。
 視線だけで猟兵達を見渡して、また首を傾げる。
「生憎と、純粋な悪の存在である知り合いというのは急には思いつかないけれど、寄生ごときで正気を手放さないような存在なら、心当たりがあってね」
 ――ご存知だろうか。
「私は、それを『猟兵』と呼ぶと、認識しているよ」


里音
 ポーシュボスさんの群れとの戦闘です。
 今回のシナリオでは『邪悪ナる者』になるorポーシュボス化してでも戦う事でプレイングボーナスが得られます。
 我こそは純粋なる悪であるという主張、あるいは狂気になど屈さぬという強い意志を示してください。
 心情等多めで、戦闘に関するプレイングは多くなくて構いません。
 がっつり戦闘でも大丈夫ですが、その場合は狂気と正気を行ったり来たりすることになるかもしれません。

 早めの完結を目指す予定でおります。
 受付期間はOP公開後~送信可能な間といたします。
 早期の締め切りとなる場合がありますこと、ご了承ください。

 皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『ポーシュボス・フェノメノン』

POW   :    ポーシュボス・インクリーズ・フェノメノン
【ポーシュボスによる突撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【新たなポーシュボス】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ポーシュボス・ナインアイズ・フェノメノン
自身の【全身の瞳】が輝く間、【戦場全てのポーシュボス・フェノメノン】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    ポーシュボス・デスストーム・フェノメノン
【オブリビオン・ストームの回転】によって【新たなポーシュボス】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レイ・アイオライト
気付けばポーシュボスになってる?で、善を持つものは全部その現象に巻き込まれる?
へぇ、面倒ね。

……耳元で煩いのよ。死んだ肉塊が、嵐の中で囁きながら自分の不幸を他人の耳元で囀るとかアンタら厚顔無恥にも程があるでしょ。さっさと殺すわ。全部。全て。その形がなくなるまで磨り潰す。

邪悪なる者なら、あたしの内、その力に潜んでる。
起きなさい、クラミツハ。出番よ。

『クハハハハ!!殺すのか!そうか!!喚き嘆く者の声!!成ればこそ、殺し甲斐があるというものよ!』

クラミツハに体を預けて、眼前を飛び交うポーシュポスの群れを殺し尽くすわ。
『暗殺・範囲攻撃・蹂躙』で影を自在に操ってね。




 ――へぇ、面倒ね。
 ポーシュボスとの対峙に際して得た情報へ、レイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)が抱いた感想はその一言だった。
 気付けばポーシュボスになっている。善性を持つ物はその現象に巻き込まれる。
 厄介だが、それがどうした。そう言わんばかりに、レイはオブリビオンストームへと飛び込んだ。
 すると、竜巻が生むはずの轟音は異なった、誰かの声が、レイの耳に届く。
 助けてくれ。どうしてこんなことに。
 私の可愛い赤ちゃんはどこ。愛しい君を食ってしまった。
 これは何だ。私は誰だ。分からない、分からないわからない。
 どうか、ころして――。
「……耳元で煩いのよ」
 短い舌打ちと共に、冷めた声音で、レイは紡ぐ。
「死んだ肉塊が、嵐の中で囁きながら自分の不幸を他人の耳元で囀るとかアンタら厚顔無恥にも程があるでしょ」
 冷たい声で、突き放す。
 いかに拒絶をしようとも、彼らは、彼らの変貌したポーシュボスは容赦なくレイに寄生し、取り込もうとしてくる。
 だから、レイは。彼らに取り込まれる前に、自身の内側に潜む力に、己を明け渡した。
「さっさと殺すわ。全部。全て。その形がなくなるまで磨り潰す――起きなさい、クラミツハ。出番よ」
 呼びかける声は、自身が生まれながらに負う傷跡に潜む異端の封印を解く。
 邪悪なる者。レイがそう呼ぶ存在は、外からねじ込まれなくたって、初めから、ここに居るのだ。
『クハハハハ!! 殺すのか! そうか!!』
 歓喜に湧くような声がレイの唇から迸る。それは無数のポーシュボス達をレイの瞳で見渡しながら、鋭利に笑う、闇黒の操者『クラミツハ』。
 レイの身体を操るその力は、一時的な降臨に対する不服よりも、喜びの方が勝る顔をしていた。
『喚き嘆く者の声!! 成ればこそ、殺し甲斐があるというものよ!』
 さぁ手始めに貴様からだと、目の前のポーシュボスへと刃を向ける。
 『クラミツハ』の力によって刀身に影を纏わせたその刀は、レイが扱う時より禍々しさを増し、同時に斬れ味さえも際立たせ、眼前の邪悪を斬り伏せた。
 一つを斬っても夥しい数が押し寄せるその状況を、その数が、全て個を持って嘆き訴えてくるさまを、『クラミツハ』はおおいに、愉しんだ。
 押し寄せるポーシュボス達が、体の主であるレイが持つ善性に引き寄せられている事さえも、愉快と言わんばかりに、笑みこぼして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
アドリブ・マスタリングは大歓迎

オレの心に寄生されるのは怖くねえ
オレの中に入ってくるなら、力を貸せ!
お前ら自身を倒す力を、奪われた物を取り返す力を
オレに寄越せ!
【Howling】!お前ら全部まとめてぶっ飛ばしてやる!!

時々、「人としての自分」が分からなくなる
オレの中の記憶はもともと抜け落ちていて
最近の記憶だって代償に捧げちまったから、時々思い出せない
人狼にやっちまった分もあって、
オレが人なのか、獣なのか分かんなくなる

このまま理性も吹っ飛ばして
一緒になろうって囁く奴がいる

…ダメだ
オレには帰らなきゃいけない場所がある
オレがいないと、ちゃんと寝てくれねえヤツがいる
帰ろう、帰らなきゃ
だからオレを離せ!!




 すぅ、と大きく吸った息を、ゆっくりと吐きだして。唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)は、無数のポーシュボスの群れを、善性に寄生しようと機を狙う姿を、真っ直ぐに見据えた。
(オレの心に寄生されるのは怖くねえ)
 それが、邪悪なる存在なのだとしても。それに囚われ、我を失った誰かが縋りつく行為に等しいような、そんな気さえするから。
 だから、拒まない。
「オレの中に入ってくるなら、力を貸せ!」
 吼えるように、リコは叫ぶ。
 己が誰だったかも何だったかもわからなくなってしまったもの達へ、その奥底に残っているはずの個へと、訴えかける。
「お前ら自身を倒す力を、奪われた物を取り返す力を――」
 殺せと言うなら、オレに寄越せ!
 その声に、『彼ら』が応えたわけではない。けれど、明確に心を蝕んでくる狂気的な何かを、リコは感じる。
 感じながら、リコは己の『人』としての存在も全部ひっくるめて、咆哮へと変換した。
 ――奪われない力を、オレに。
 その願いと引き換えに、リコは人としての理性を失う。
 ポーシュボスに寄生をされずとも、そうやって幾度も、人としての己を見失ってきたリコ。
 そもそもが抜け落ちた過去の記憶。そして、捧げることで曖昧になり、時々思い出せなくなる最近の記憶。
 嗚呼、今の己は、いつもの己は、人なのだろうか。獣なのだろうか。
 咆哮に蹴散らされるポーシュボス達は、本当は、獣の己が食い散らかしているだけなのでは無かろうか。
 己が曖昧になる感覚に浸るリコに、そっと、優しい声が届く。
「あなタも同ジなノデしょう?」
「分カらなくテ、もどかシクて、狂ウほど苦しイのでシょう?」
「それなラ、手放してシマえばイイ」
 そうして、一緒になろう――。
 柔らかで温かで、心地よくすらある声の囁きに、ふ、と瞳を細めて。
 きゅ、と。唇を噛みしめる。
「……ダメだ」
 口にするのは、明確な拒絶。人としての、明かな意志。
「オレには帰らなきゃいけない場所がある」
 言葉にして紡ぐことで、唆されて手放しかけていた理性が形作られていく。
 ああ、そうだ。リコが居なければ、ちゃんと寝てくれないヤツがいるのだ。
 こんな所で、獣になり果てている場合ではない。
「帰ろう、帰らなきゃ。――だからオレを離せ!!」
 突き放すその言葉は、群がるポーシュボス達を蹴散らしていく。
 それはまるで、拒絶を受け入れるかのようで。
 そうする事で、最期に我を取り戻したのだと、喜ぶかのように、感じられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤・美雨
大怪我は慣れっこだし、死んだこともあるし
そういうのは得意だけど心を侵される経験はあんまりないな
でも、勝ってみせるよ

寄生されればすぐに狂気が襲いかかるだろう
自分が誰だか分からなくなって
恐怖が身体中を満たしていって
意識を手放せば楽になるなって一瞬で理解する

でも、目を閉じない
視線を横に向ければ保命のピアスが揺れている
ああ、これが私の道標だ

私は私が誰だか分からなくても
「生きていたい」と願ってる
「勝ちたい」って思ってる
「楽しみたい」って笑える
その衝動が機械の心臓を動かす限り
私は心まで死なないよ!

気合いを入れて笑顔を浮かべて敵へと接近
大丈夫、苦しませやしない
怪力を乗せた拳を振るい、次々に敵を倒していこう!




 大怪我を負うというのは、慣れている。何なら一度理不尽に死んだことだってあるデッドマン。それが藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)だ。
 そんな美雨でも、心を侵される経験は、あまり、ない。
 だけれど、不安はない。勝ってみせるよと笑み湛え、美雨はオブリビオン・ストームの中へ――無数のポーシュボスの群れへと飛び込んでいく。
 新たな贄の到来を歓迎するかのように一斉に襲い掛かってくるポーシュボス。
 それらをすべて避けきる事など叶わないと、最初から分かっている。だからこそ、美雨は可能な限りを躱した果てに、寄生を受け入れた。
 瞬間、『誰か』が入り込んでくる。
 それは男のようで女のようで、子供のようで年寄りのようで。人のようで動物のようで化け物のようで……理解しがたい、それでも確かに『誰か』なのだとわかる存在だった。
 それらが口々に囁く。お前も同じだと。曖昧で不安定で拠り所のない小さくて無力な存在なのだと突き付けて、説き伏せてくる。
 恐い、と。瞬間的に美雨は感じた。
 その恐怖に抗うよりも、受け入れて、彼らと同じ個を失った存在になってしまえば楽なのだろうと、一瞬で理解に及んだ。
 それでも、美雨は目を閉じることをしなかった。
 真っ直ぐにポーシュボス達を見据えるその眼差しをちらと横に動かせば、竜巻の中ではためく札が――保命のピアスが、揺れている。
 ――ああ、これが私の道標だ。
 唇だけで紡いで、美雨はそこに笑みを作る。
「私は私が誰だか分からなくても「生きていたい」と願ってる」
 「勝ちたい」って思ってる。
 「楽しみたい」って笑える。
 そうだ、願う心は幾らでもある。死体となった体を再び突き動かすほどの衝動は、いつだって、誰にも侵されない場所で、強く強く、鼓動している。
「その衝動が機械の心臓を動かす限り、私は心まで死なないよ!」
 己の善性をほじくり返して浸蝕してくる感覚は未だ晴れずとも、美雨の表情は晴れやかに笑っている。
 体は動く。思う通りに動いてくれる。それだけで十分と言わんばかりに敵へと近づくと、ぎゅ、とこぶしを握り締める。
「大丈夫、苦しませやしない」
 ただ、分かってほしい。
 此処で終わる訳にはいかない、終われない。そんな、衝動を。
 狂気すらねじ伏せる強い闘争心が作り上げたオーラが美雨の全身を覆う。
 負けられない、生き抜いてやる。そんな意志の力を拳に乗せて、目の前のポーシュボスを殴り飛ばした。
「さあ、次だよ!」
 狂気が蝕もうとする限り、跳ねのける意志の力は増すばかり。
 怪力備えた美雨の拳は、意志と意志のぶつかり合いを制すべく、幾度も振るわれるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニクロム・チタノ
アハハなるほど純粋な悪ですか、悪堕ちヘドロ怪人のボクにぴったりじゃないですかぁ~?
アハハさあボクを見てください
ヨダレを撒き散らして辺り一面をヘドロの海に変えてあげましょう
悪臭と猛毒ガスが立ち上りオブリビオンストームが吹き荒れる生き物が住めない死の大地正に邪神との決戦に相応しい戦場でしょう?まあ邪神を倒しに来たのが悪の怪人ですが、ね
アハハさあ始めましょうかヘドロの宴をみんなまとめてボクが楽にしてあげますよ!
もはや反抗の加護は失われましたがこの妖刀切れ味は抜群ですよ
片っ端から切り裂いてヘドロの海に沈めてあげます




 ニクロム・チタノ(反抗を忘れた悪堕ちヘドロ・f32208)の笑みは、無数のポーシュボスの群れを前にして、一層深まる。
 これはこれは愉快なことだと、言わんばかりに。
「アハハなるほど純粋な悪ですか、悪堕ちヘドロ怪人のボクにぴったりじゃないですかぁ~?」
 笑み象る口元から溢れ出るのは、毒素を含んだ唾液。
 滴り落ちるそれを舌先で散らしながら、ニクロムはポーシュボスらを見上げる。
 善性に惹かれ寄生をしてくるという存在が、決めあぐねているようにニクロムを見つめる姿に、くすりと笑んだ。
「アハハさあボクを見てください」
 じぃ、と。視線が絡み合う瞬間、ニクロムの全身から立ち上る悪臭が、身体から飛ぶ猛毒のヘドロが、ヘドロ化の毒素を含んだ唾液が、オブリビオンストームに巻き上げられるようにして、散布された。
 猛毒の竜巻へと転じたオブリビオンストームの中で、ポーシュボスらは口々に囀る。
「苦しイ……こレは、これハ、おまエは、善ナのかアクなのカ」
「アハハどっちでもいいじゃないですかぁ~」
 生き物が住めようもない死の大地。その状況を加速させ笑うニクロムは、悪なのであろう。
 今は、それでいい。例え普段は自身が猟兵であると認識することで自分を保っていようとも、今この瞬間は、その制御は不要なのだ。
 純然たる悪であるならば、ポーシュボスという現象さえも、こんなにも容易く狩れるのだから。
「アハハさあ始めましょうかヘドロの宴をみんなまとめてボクが楽にしてあげますよ!」
 殺してくれと言ったでしょう叶えてあげる義理もないけど苦しいばかりは楽しくないから終わらせてしまうのがいいそれがいい!
 声を上げて笑う度、毒を含む唾液が撒き散らされる。
 ポーシュボスを蝕むほどの毒でありながら、ニクロムはそれでは足りぬと言うように、刀を抜き払った。
「もはや反抗の加護は失われましたがこの妖刀切れ味は抜群ですよ」
 その身で試してみたらいい。笑みを深めて、ニクロムはポーシュボスの身体を斬りつける。
 斬り捌き、跳ね飛ばし、悉くがヘドロの海に沈んでいく様を見て、ゆったりと笑う。
「アハハもっともっとボクの姿を見て」
 笑いながら、誘うような言葉に促され視線の絡んだ金色へ、妖刀を、突き立てた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マオ・ブロークン
……ポーシュボスが、入り込んでくる。
哀れな、犠牲者、たちの、気持ちと。悲しみと。繋がって。
ころして、くれと。命を、奪ってくれと、自ら、願う、ひとびと。
死んじゃったら……終わり、なのに。あたし、のように。
それが、救いになる、まで、追い詰められて……
そんなことって。ないよ……

悲しみが。あたしの中から、湧き上がって、かたちになる。
細い骨で、組み上げられた、無数の、魚。
揺さぶられて、狂気のふちに、追い詰められた、感情を、乗せて。
彼らに……襲いかかる、でしょう。

それしか、道が、ないのなら。せめて、ひと思いに。
あたしという、悪霊に、できることは。たぶん、それだけ。
……涙が、止まらない。かなしい、な。




 オブリビオンストームの中には、無数のポーシュボスが群れていて。その眼差しが一斉にこちらを見つめたと思ったその直後には、もう、『誰か』がそこにいた。
 マオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)の心の中に、狂気と共に、無数の誰かが、流し込まれる。
 その感覚に、マオは暫し、浸った。
(哀れな、犠牲者、たちの、気持ちと。悲しみと。繋がって)
 ポーシュボスが、入り込んでくる。
 ころしてくれと、最後にはそう訴えるしかない、個も我も無くした人たちの声が、耳の奥で、木霊する。
(死んじゃったら……終わり、なのに。あたし、のように)
 死ねば、何もかも失ってしまう。蘇っても、同じものではいられない。
 何かが欠けて、何かを取りこぼして、何かを忘れて、ただ命あった頃と同じように振舞う事しか、出来なくなる。
 アポカリプスヘルに生き、生きる屍たるデッドマンを数多く見てきた人達は、その事だって理解しているはずなのに。
 それなのに、死が、救いになるまで追い詰められているのだ。
「そんなことって。ないよ……」
 ほろり、と。マオの瞳から涙がこぼれた。拭いもしない雫は、溢れて、伝って、強い風に煽られて散っていく。
 涙の温度を、生気のない肌で感じた瞬間、マオは自身の悲しみと人々の悲しみが完全に同期したような心地に、陥った。
「……う、ひぐっ、あああ、ああああぁぁ……」
 マオの深い悲しみは、そのまま、かたちとなって現れる。
 散っていった涙がかたちを成したかのように、いつの間にか、無数の魚が――歪んだ細い骨でくみ上げられた骨魚が、マオの周囲を揺蕩っていた。
 けれど、マオにそれを気に留める余裕はない。ただただ胸の奥からせり上がってくるような悲しみに声を上げて泣くばかり。
 だからこそ、骨魚達はポーシュボス達に襲い掛かる。
 マオに深い悲しみを与えた存在を、彼らはどこまでも追跡し、攻撃するのだ。
 歪んだ骨魚達の攻撃は、同時に自身の骨の身を砕く勢いで。それはまるで、悲しみに追い立てられるかのようだと、顔を上げたマオは感じた。
 マオの感じた悲しみが、ポーシュボス化した人達の悲しみが、自我を押しのける程の狂気に追い詰められたがゆえだろう。
 けれど、それほどの勢いだからこそ、骨魚達はポーシュボスを打倒し、駆逐していくのだ。
「それしか、道が、ないのなら。せめて、ひと思いに」
 願う気持ちが善性を過らせ、新たなポーシュボスを呼ぶ。そうしてまた、悲しみをマオに流し込み、骨魚へとかたちを変える。
 連鎖のような繰り返しは、終わらない。マオという悪霊に出来るのは、ただ受け止めて、形に変えて送り届ける事だけなのだから。
「……涙が、止まらない。かなしい、な」
 それでも、マオは決してそれを拭う事はせず。ただ目の前の光景を、見つめていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…私の心を喰らいたければ、好きなだけ喰らうが良い、邪神ポーシュボス

…お前に寄生された程度で朽ちるほど私の善なる誓いは易く無いし、
例えどれだけ肉体を穢されたとしても私が歩みを止める事は無いもの

"…人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を…"

…それが私が戴く誓い。私が多くの人達から託された願い

…例えその誓いがこの世界の事では無かったとしても。いえ、だからこそ…

…この荒廃した世界と同じく、闇に覆われた世界を救済するその時まで…

…私は死なない。こんな異郷の地で朽ちる事は決して、ね

「影精霊装」の闇に紛れる力で陽光を遮り吸血鬼化してUCを発動
六種の「精霊結晶」と全魔力を溜めた混沌の黒光をなぎ払う




 オブリビオンストームの内側で蠢くポーシュボス達も、その数を幾らか減らしているだろうか。
 一瞥してほんの僅かだけ思案したリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)だが、全て駆逐するまでは無駄な考えであろうと、すぐに切り上げた。
 そうして、普段はストールとして首に巻かれる布に、そっと手を触れた。
「……私の心を喰らいたければ、好きなだけ喰らうが良い、邪神ポーシュボス」
 誘うような声が、彼の邪神の群れに届こうとも、届かずとも、彼らはお構いなしにリーヴァルディに群がる。
 そうして、彼女の善性を探り、寄生しようとしてきた。
 リーヴァルディは、何も悪を自覚しているわけではない。
 世界を――故郷たるダークセイヴァーを救いたい。その誓いは間違いなく善なる心から生まれた誓いだし、自らが手に掛けるのは吸血鬼を始めとする悪だ。
 だが、だからこそ。異なる世界の邪神ごときに寄生された程度で朽ちる『善』ではないのだと、リーヴァルディは強くその心を鼓舞する。
 体の奥底から歪んだ気配が立ち上るのを感じようと、それが、まるで自身の身体を作り替えようと浸蝕して来ようと、リーヴァルディの歩みは止まらない。
 ――人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を。
 それが、リーヴァルディが戴く誓い。彼女が、多くの人達から託された願い。
「……例えその誓いがこの世界の事では無かったとしても。いえ、だからこそ……」
 猛然と唸る竜巻に破壊しつくされ、荒廃した世界を見渡すリーヴァルディの瞳に、ちらり、ポーシュボスと同じ金色が見え隠れし始める。
 それが寄生の証だとしても、リーヴァルディの意識は確かに、何一つ欠けることなくそこにあった。
「……この荒廃した世界と同じく、闇に覆われた世界を救済するその時まで……」
 朽ちようとする世界に重ねる、常闇の世界。
 救いを求める世界が目の前にあるというのに、手を伸ばさずして何が成せるというのだ。
 ストールを握りしめた指先がそれを引けば、引き伸ばされるように闇が広がり、リーヴァルディを包んだ。
 陽光を遮り、吸血鬼としての自身を表に引き出しながら、リーヴァルディは極限まで凝縮した『自然現象』の形である精霊結晶をばら撒いた。
「……六色の精霊の息吹と、我が血の魔力を以て、来たれよ混沌」
 呼応するように、結晶が輝き、同時に砕ける。解放された力は、混沌と化して、ポーシュボスらを消滅させんとする黒き光となって、放たれた。
「……私は死なない。こんな異郷の地で朽ちる事は決して、ね」
 だから、諦めて殲滅されなさい。
 揺るがない意志が、善なる心に縋りつこうとするポーシュボスさえ、握り潰してしまったかのように。
 歪んだ金色を押しのけ、追いやるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

牧杜・詞
『純粋な悪』に対抗できるのは『純粋な善』と思うかしら? 違うわね。
『悪』も『善』も、純粋なものは人には強すぎるのよ。
だから人が純粋なものに対抗するには『無』しかないの。

ただ無心に『殺せ』ばいいのよ。
善も悪もない、そこにあるのはただ『殺したい』という衝動。

それは悪じゃないかって? そうかしら?
わたしは望まれて殺した。望んだ人にとってそれは善、望まない人に取ってそれは悪。

だけどわたしにはどちらでもないわ。
わたしはただ『殺したい』と思うものを『殺す』だけ。

さて『ポーシュボス』だっけ?
あなたが神で悪魔でも善でも悪でも、なんでもいいわ。
わたしはあなたを『殺したい』から、【識の境界】で殺させてもらうわね。




 蠢く群れは、邪神と呼ばれるべき異形の存在。
 見つめていれば狂気に陥ると警告された宝石によく似た、狂気の権化。
 けれど、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)はそれを見渡して、ゆるり、首を傾げて見せた。
 人の善性に寄生する、悪辣な存在。
 それは『純粋な悪』と言えよう。そして、それに対抗できるのは『純粋な善』だと、囁かれるのかもしれない。
「――違うわね。『悪』も『善』も、純粋なものは人には強すぎるのよ」
 だから、と。詞はポーシュボスに歩み寄る。
 竜巻が起こす風に巻き上げられる髪を払う事もせず、ただその手に馴染む得物だけを握りしめて。
「だから人が純粋なものに対抗するには『無』しかないの」
 そう、ただ無心に、殺せばいい。
 語る詞の声に迷いはない。昂揚もない。当たり前のように、自身が求める『殺したい』という衝動を許容しているだけだ。
 だが、殺すという行為は、悪ではないか。善を持つ者にとっては眉を顰めよう持論だ。
 だけれど詞の殺人は望まれて殺してきたものだ。
 殺してほしいと言うから、殺してあげた。
 自分を殺してほしい。あいつを殺してほしい。いつだって、殺戮には人の願いがつきものなのだ。
 望んだ人にとって詞の行為は『善』。望まない人にとっては『悪』。たった、それだけの差でしかない。
 だけど、それすらも詞にとってはどちらでもない。
 善と言うなら言えばいい。悪と言うなら言えばいい。誰かがつけた定義なんて、興味がない。
「わたしはただ『殺したい』と思うものを『殺す』だけ」
 今までも、これからも。詞の在り方は、何一つ変わらない。
 ――それは、邪神たる存在に寄生されたところで、同じなのだ。
「さて『ポーシュボス』だっけ?」
 群れを見上げる詞の瞳に、覇気はない。けれど同時に、狂気もない。
 無数のポーシュボスが入り込み、寄生しようとしているはずなのに、迷いも不安も動揺もない。
 それなのに、意志だけは、ある。
「あなたが神で悪魔でも善でも悪でも、なんでもいいわ」
 胸の内側で、耳の奥で、頭の裏側で、誰かが何かが嘆いているけれど。
 だから、なに?
 望まず変貌してしまった。大切な人を食ってしまった。自分を見失ってしまった。
 そんな言葉のどれもこれも、詞の欲求をねじ伏せる事なんて、出来ないのだ。
「わたしはあなたを『殺したい』から、殺させてもらうわね」
 ――これで、終わり。
 何よりも純然たる殺意を込めた刃が、ポーシュボスを斬りつける。
 異形の身体を傷つけることなく、その内側で形を失くしながら嘆く、歪な生命だけを、斬り裂いていく。
「ああ、ア、あアァ……命ガいのチがイの、ちが……キエて、削レテ、ワたし、死ン……」
 自覚をした声が、左の耳から右の耳へ。物理的に横切っていったような気がしたけれど、気に留めない。
 物足りないけれど、断末魔らしいものを残してくれる方が、余程、『殺して』いるような気がするのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
寄生する生命は多くとも、他者を完全に変異させる生物なんて聞いたこともない
こんなものを野放しにしていたら、いずれ世界中の全てがボーシュボスになるんじゃないか……?
倒すのは困難そうだが、放っておけないしなんとか戦うしかないか

ポーシュボス化を受け入れてから、神刀を解放
浄化と破魔の神気によって物理的な寄生の進行を抑えつつ、意識は刀に集中させることで精神的な侵蝕の進行を抑えていくことで、ある程度は戦える状態まで持っていく

ポーシュボスの突撃をタイミングを見極めて跳躍で回避。空中で神刀に黒の神気を込めつつ落下。肆の秘剣【黒衝閃】を発動
大地を穿つ衝撃波によって、周辺のポーシュボスをなぎ払っていく




 何かに寄生する生命というのは、少なからず存在するものだ。
 けれど、他者を完全に変異させる生物なんて、聞いたこともない。
(こんなものを野放しにしていたら、いずれ世界中の全てがボーシュボスになるんじゃないか……?)
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の危惧は、概ね間違ってはいないだろう。
 少なくとも人類は、ポーシュボスに飲み込まれてしまえば抗う事は難しいはずだ。その結果が、今の現状なのだから。
 途方もない存在は、倒すのだって困難だろう。それでも、放置する事なんてできない。
 戦うしかないと心を決めた鏡介に、ポーシュボスは否応なく襲い掛かり、寄生してくる。
 脳の内側を直接書き換えられるような、言いようのない不快な感覚。それに伴い聞こえてくる、無数の嘆き。
 同じになろう。お前は私ではない。
 一つになろう。私は私でいたかった。
 誘う声と拒絶する声。相反する感覚が、一層の混乱を助長しているようにも感じた。
 ぐらり、と。意識が持っていかれるような感覚に伴う眩暈に一度頭を押さえて、鏡介は振り払うように、刀を握りしめた。
「神刀解放。剛刃に依って地を穿つ――肆の秘剣【黒衝閃】」
 刀が持つ、浄化の力。溢れる神気が齎す破魔の力。それらによって、ポーシュボスの寄生という行為そのものを、物理的に抑え込む試み。
 同時に、意識を刀に集中させる。無数の嘆きは一旦退けて、目の前の敵を打倒する事だけを考えるために。
 脳を叩きつけてくるような苦痛にも似た不快感は、まだ、残っているけれど。
「これなら、戦える」
 確信で以て、刀の柄を握りなおした鏡介は、地を蹴り、駆ける。
 鏡介の敵意に応じるように突撃してくるポーシュボス。ぎりぎりまで見極め、引き付け、力強く踏み込んでの跳躍で突進を躱すと同時に、鏡介は触手のような何かを踏みつけ、更に高く跳んだ。
 身を翻しながら、振りかぶるのは神刀。目の――目と思われる金色と視線を合わせ、蠢く闇のような黒を、見据える。
 落ちるに任せ、闇よりも濃く、それでいて神聖な黒の神気を込めた刀を力強く振り下ろせば、叩きつけられたその一点から広がるような衝撃波が、ポーシュボスを蹴散らしていった。
 掻き消える仲間を見つめるポーシュボスの瞳は、虚無に色を付けただけのような空虚さで。
 けれど、その中にほんの僅か、羨むような揺らぎが見えた気がした。
 ころしてくれ。
 頭の奥で、そんな風に囁く声が聞こえる気がして。
 しかし、鏡介はそれに頷くことも、否定することも、しないまま。
 今はただ、戦う事だけを。
 その一刀が、最後には彼らを救うことになるのだと、信じているから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
寄生されても戦えれば良い、と
大丈夫ですよ、多分ね

確かに私は生まれながらの厄災ですから、世界からの分類としては悪なのでしょうけれど
人に情けを掛ける心や、誰かを愛する心があるのなら、それを善性と呼ぶのでしょう
でもね、私は概念の集合体ですから
私じゃないものが入り込めば、分かります
私という概念に、君は居ませんもの

まして、ね
私のために分け与えられた神域で動けるものが、どれだけ居ると?
UCで己の力を強化、【誘惑、おびき寄せ、カウンター、呪詛】
【斬撃波】で彼らを斬り離し斬り捨て、【催眠術、郷愁を誘う、慰め、祈り】
ねぇ、最期の時くらい、穏やかに逝きなさいな
だって君たち、善性ある可愛い人の子だったのでしょう?




「寄生されても戦えれば良い、と」
 告げられた言葉を復唱して、葬・祝(   ・f27942)はふむと呟く。
「大丈夫ですよ、多分ね」
 同じ口が紡ぐのは、楽観。あるいは自信と呼ぶべきか。
 どちらにせよ、祝に不安らしいものはない。オブリビオンストームの内側で無数に蠢く異形の姿を認めても、それは変わらなかった。
 来るのなら、来てみるがいいと。微笑みかけて、促して見せた。
 オブリビオン・ストームが大きく回転し、無尽蔵にも思えるほどに、新たなポーシュボスが生み出される。
 それらが祝の姿を見定めるや、猛然と迫ってくるのを見るに、彼らにとって祝は『善』の存在なのだろう。
「私は生まれながらの厄災ですから、世界からの分類としては悪なのでしょうけれど……」
 やはり、快楽殺人者の中の僅かな善性とやらも見出す存在だ。人にな酒を駆ける心や、誰かを愛する心というものを感じ取れば、彼らはそれを善性とみなすのだ。
 厄災の身でありながら、善と呼ばれるのも、なんだか、愉快な心地で。
 触手のような部位が絡みついてくるのを幼子の戯れのように受け止めてやりながら、くすり、祝は笑む。
「そうして入り込んだなら、わかるでしょう?」
 私は、概念の集合体ですから、と。祝は祝を形作る様々を丁寧に整列させながら、異物たるポーシュボスを探る。
 ほら、そこにいた。
 自分の中に居ないはずのものを見つけるのは、実に簡単なこと。
 まして――。
「行きはよいよい帰りは、」
 歌うように紡ぐと同時、ひぃらり、蝶が舞う。朱蛺蝶は、降るように飛び交い、戦場を神と妖の力が増す常秋の神域に作り替えていく。
 それは、祝のために分け与えられた神域。
 祝の生を望む祈りの形。
 そんな場所で、祝を消し去ろうとする異物が、まともに動けるはずがなかった。
 じゃれてくるポーシュボス達を斬撃波で斬り離し、斬り捨てて。祝はぐずぐずと崩れていく残骸を指先で摘まみ落としながら、ことりと首を傾げた。
「ねぇ、最期の時くらい、穏やかに逝きなさいな」
 望まず喰われ、変貌した、かつて人であった者達へ。
 紡ぐ言葉は祈りであり慰め。そして、催眠だ。
「だって君たち、善性ある可愛い人の子だったのでしょう?」
 よい子はそろそろ眠る時。あるべき場所で、お休みなさいな。
 それが出来るなら、きっと、斬り裂かれる痛みだって感じないまま、逝けるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・景近
(悪人に為る
敵の形に為る
…其自体は、どちらでも良い

忍として心を殺し、制す事には慣れている
扱う力が力故に、狂気は常に隣り合わせ――自分自身で無いものに、心身蝕まれる感覚にも慣れている

でも、そうだな
敵の糧には、為ってやれない
…こういう叫びにだけは、やっぱり慣れない

そう一瞬でも過った時点で
寄生は必定か)

でも、悪いね
俺には先約があるんだ
君と一緒になる訳にはいかない

(UC使い目潰し狙えば
妖刀に、悪霊や幽鬼――
忽ち更なる狂気が鎌首を擡げる

其等の怨嗟や寄生に蝕まれて尚、唯一つ――
強く心を繋ぎ止めるものは、この手にかけた恋人の笑顔と、最期の――)

忘れはしない
何があっても、此だけは
此は罪の証
…俺が俺たる証だから




 悪人に為る。
 敵の形に為る。
 二択が、百鬼・景近(化野・f10122)の前にぶら下がっていたけれど、彼にとってそれは、どちらも大差のない事だった。
 忍びとして生きる以上、常に心を殺し、制することには慣れていた。
 同時に、妖刀を扱う以上、呪いが齎す狂気とは常に隣り合わせで。自分自身で無いものに心身を蝕まれる感覚にも、慣れいた。
 敵が景近の『慣れ』を凌駕する狂気を与えてくるのだとしても、恐れる程の事では、無い。
(でも、そうだな……敵の糧には、為ってやれない)
 狂気そのものを恐れる事は無くとも、その果てに敵の手足として使われるのは、ごめんだった。
 それに、幾つも聞こえてくる声が、あまりに歪んだ嘆きを発するものだから。どうしても、気持ちに憂いが過る。
 その憂いこそが善性なのだと言わんばかりに群がってくるポーシュボスに、景近は苦笑を漏らした。
「私、わたシの、大切ナ赤ちゃンはどこ、ドコに、あア、ワタしが喰らッて、殺シ、て……!」
「モウいない、いナい、居ル、ここに、イる。一緒に、あなタも、みんなデいっしショに……」
 ずぶりと心の奥深くに直接ねじ込まれるような狂気の嘆きが、景近の善性を握り込み、ポーシュボス化を促してくる。
 哀れな者達の声を、憐れに思う心に、つけ込むように。
「……悪いね。俺には先約があるんだ」
 君と一緒になる訳にはいかない。
 きっぱりとした拒絶と共に、景近は自身に妖刀の怨念を纏う。
 それは景近に入り込んできたポーシュボスが齎すものとは違う狂気を膨らませ、景近を蝕んできた。
 絡め取ろうとする触手を高速移動で躱し、斬撃による衝撃波で禍々しく光る瞳を潰して回る内に、徐々に強く、強引に、景近の理性を削り取ろうとしてくる怨嗟の念。
 それでもなお、景近の脳裏に、心の奥に、強く残るものがある。
 怨嗟も狂気も寄生も嘆きも寄せ付けないそれは、自らが手にかけた恋人の笑顔と、最期の――。
「忘れはしない」
 突き立てた刃に込められた感情は、まるでそれそのものが刃であるかのように、ポーシュボスを斬り裂く。
「何があっても、此だけは」
 紡ぐ言葉を、そこに伴う苦さを噛みしめる景近の脳裏で、笑顔が、血に染まる。
 此は、この記憶は、罪の証。
 そしてそれこそが、景近が景近たる証。
 何物にも掻き消せはしないのだと言わんばかりに刀を振るいながら、景近は再び、忘れはしないと口にする。
 唯一を繋ぎ止める傍らで、種類の違う狂気と狂気が主導権を争ってぶつかり合う心地に、薄ら、不快気に瞳を細めながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
妙なモンにゃ憑かれ慣れてる――心身を蝕み苛むモノなら、既に飼ってる
今更厄介者が増えよーが、是式で潰えてやるもんか

(善の欠片も無い悪に染まる――奥底に憑き纏う鬼や呪いに心身の全て明け渡せば、其の手も使えたかもしれない

或いは、善悪なんて心すら無き虚ろなモノに戻れば、何も気にせず行けたかもしれない

でも、俺は――ちゃんと俺の儘で、成してみせる)

――この力も、狂気も、御してみせる
(恩師の形見の数珠や、仲間に貰った品を一瞬見遣り――UC使うと同時に檠燈や花明を踊らせ閃かせ、厄介な瞳狙い目潰しを

――顔向け出来ぬ真似はすまいと
密やかな覚悟で狂気に抗い)

この心は、道は、お前なんかに譲れない

…狂気と辛苦に、幕引を




 何かに寄生をして、自身の手足にと目論む存在は、相応に貪欲で執念深いものだ。
 呉羽・伊織(翳・f03578)は、それを十分に理解している。何せ、妙なモノには憑かれ慣れているのだから。
 心身を蝕み苛むモノなら、慣らせているかはさておいて、既に己の内側で飼っている。
「今更厄介者が増えよーが、是式で潰えてやるもんか」
 零した呟きは悪態でもあって。伊織は自身の奥底に付き纏う鬼や呪いの存在をちらと思い起こし、グリモア猟兵の語った二つの対抗手段をなぞる。
 その一つ、善性に寄生するポーシュボスがつけ入る隙のないような、純粋な悪と化すことも、きっと伊織には可能だった。
 鬼や呪いに心身の全てを明け渡したなら、それが叶っただろう。
 あるいは、善悪の定義を付けられる心すら無い、虚ろなモノに戻ってしまえば、何も気にせずに戦えただろう。
(でも、俺は――)
 指先でなぞるのは、手首に纏う、何の変哲もない数珠。
 感覚を確かめたそれを、己の視界でも捉えて。同時に、仲間に貰った品にも視線を走らせて、伊織は顔を上げる。
(ちゃんと俺の儘で、成してみせる)
 護身符を撒き、短刀を引き抜いて、伊織を見据える幾つもの瞳を見渡した。
「――この力も、狂気も、御してみせる」
 力を解く契機を紡げば、途端、自身の内側から本当にそれでいいのかとせせら笑う声が聞こえた気がした。
 それは潜む鬼の声だったかもしれないし、入り込んだポーシュボスの声だったかもしれない。
 どちらともつかない声が、声の群れが、伊織の決意を挫こうとするように、唆してくる。
 身体の主導権を奪い合う声達が、脳内で暴れているかのようで。いっそ眩暈を起こしそうだったけれど。
 護身符が放つ焔の揺らめきや、刀が閃く軌跡を見ていると、自分の芯を取り戻せるような気がして。不気味に輝いてはぎょろりと向けられる瞳の群れを潰しながら、決して立ち止まることなく、伊織は駆けた。
 瞳を輝かせることで攻撃回数を増している敵との対峙ゆえ、という事もあるだろう。
 だが、それ以上にわずかでも立ち止まれば、つけ入る隙を与えてしまいそうで。抗う意思を明確にするためにも、伊織は、駆けるのだ。
「この心は、道は、お前なんかに譲れない」
 伊織を伊織として認め、受け入れてくれる全ての人に、顔向け出来ぬ真似はすまい。
 瞳を潰すべく突き立てた刃を、触手の先端まで奔らせ裂いて。ぐちゅりと嫌な音を立てて、裂いた触手がくっつこうとする前に焔で焼き払って。
 そうしている内に、伊織はポーシュボスの声が聞こえなくなっていたことに気が付く。
 掻き乱すほどだった声が消えた理由が、その場のポーシュボスを全て駆逐したことによるものだと気づいたのは、最後の目玉を潰し、顔を上げた、その時だった。
 狂気と辛苦に、幕引を。
 叶ったと気が付いた胸裏は、どこか、晴れやかな気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月21日


挿絵イラスト