アポカリプス・ランページ⑧〜令状はその手の中に〜
ここ、セントメアリー・ベースにはとある偉人にまつわる観光名所が存在する。
その名は「マザー」。
フィールド・オブ・ナインが一柱、マザー・コンピュータの素体となった女性である。
死しても「世界最高」と未だ評され、死んだ後に生まれた者達からも支持を得る歌姫だった彼女には研究者としての顔もあり、多くの論文を遺した。
そのうちの一つが、かのプレジデントも言及していた「時間質量論」である。
「これを整理して解析することが出来れば、我々猟兵の謎に迫れたり、今後の戦闘に何らかの影響を与えられるかもしれません。ですが……」
ルウ・アイゼルネ(滑り込む仲介役・f11945)が振り返った先には、すでに他の猟兵達の手によってかき集められた紙やコンピュータ、サーバーの山が出来上がっていた。
「シンプルさを好む」マザー・コンピュータの思考と違い、時間質量論の論文は非常に難解で、凄まじい長文であった。
さらにそこへ、新しい情報を得たり、誤っていた文言を書き直すために破棄された昔のバージョンや、その裏付けとなる資料まで加えたら凄まじい量になる。それこそ常人なら見た目だけで目を回し、ただ目を通すだけでも何日もかかってしまうほどだ。
「これもマザーが世界に轟く名声を上げ、その偉業をオブリビオンの手から守るためにセントメアリー・ベースの人々が尽力してくださった結果なんですが……」
全ての資料が残っているが故の代償は、その数と重量だ。
紙媒体だけでなく過去の絵画が彫られた石版や美術品としか思えない骨董品があったり、電子化されたデータを保存する方法もフロッピーディスクにノートパソコン、サーバーなど多岐に渡る。
しかも一ヶ所襲撃されただけで修復不可能にならないように、バックアップを含めた様々なデータは整理されず近隣の洞窟や森の中の掘立て小屋の隠し地下室、地下サーバー群の一角などあっちこっちに点在している。
故に、時間質量論が保管されている場所の控えが取れている上に、これまでに手を挙げた猟兵達がフル回転してもなお、全ての資料を回収することがまだ出来ていなかった。
「壊したら取り返しのつかない物も多くありますが、スーパーコンピュータとか、普通に持ち上げようとしたら間違いなく自分自身の腰がイカれてしまうので、くれぐれもお体にもお気をつけて。まだやるべきことはたっ……くさん残ってますから」
そう言って、ルウは拠点の高台にそびえ立っている倉庫を指差す。
「この班は、あちらの倉庫にある各種資料を回収してもらいます。警報などの各種防犯設備の電源は切っていただいてますので、落ち着いて作業してください」
平岡祐樹
運べ運べ運べー! お疲れ様です、平岡祐樹です。
このシナリオは戦争シナリオとなります。1章構成の特殊なシナリオですので、参加される場合はご注意ください。
今案件にはシナリオボーナス「大量の記録媒体を運び出す」がございます。
これに基づく対抗策が指定されていると有利になることがありますのでご一考くださいませ。
第1章 日常
『時間質量論を運び出せ』
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POW : 腕力に任せて一気に運ぶ
SPD : 乗り物や道具を利用する
WIZ : より重要そうなデータを優先して運ぶ
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
七那原・望
防犯設備を切って?それって……いえ、深く考えるのはやめておくのです。
とりあえず果実変性・ウィッシーズアリスを発動してねこさん達の手を借りるのです。
今回は幻覚は使わないですけど、彼らの強大な魔力は有用なのです。
スーパーコンピューターなど極めて重い物を結界術で包んで保護したら、念動力とねこさん達の多重詠唱の魔法で浮かせて運び出すのです。
更に魔力はいくらか格落ちしますけど、アマービレでいっぱいねこさんを呼んだらその他の比較的重そうな記録媒体を同様の方法で運び出してもらうのです。
どんなに重くても浮かせてしまえば関係ないですからね。でもでも、保護してるとはいえ衝撃にはちゃんと気をつけながら運ぶのですー。
「防犯設備を切って? それって……いえ、深く考えるのはやめておくのです」
この戦争に限らず、様々な場所で多種多様な「防犯設備」を感じてきた七那原・望(封印されし果実・f04836)は顔を曇らせる。
ただ、この倉庫にあるのは許可証を持っていない人の存在を感知した時や建物の一部が壊された時に鳴る警報機、とのことなので命の危険性は考えなくて良いだろう。
「とりあえずねこさん達の手を借りるのです。今回は幻覚は使わないですけど、彼らの強大な魔力は有用なのです」
オブリビオンの捜索を終え、ゾロゾロと倉庫に集まってきた猫達と一緒に望は倉庫の一番奥にあった、一際重そうなスーパーコンピュータの周りに陣取った。
「では、いきますよー」
望の合図に合わせ、猫達が鳴き出す。すると猫達の多重詠唱の魔法で強化された念動力によってスーパーコンピュータが少しだけ浮かび上がった。
どんなに重くても浮かせてしまえば関係ない。
とはいえ、いくら結界術で保護してるとしても結界はあらゆる衝撃を軽減するだけで無効化するわけではない。
しかも望は目が見えないため、天井や壁、段差などにはちゃんと気をつけながら運ばなければならないのだ。
「ねこさん、これくらいですか? もう少しいきますか?」
望の問いかけにチェシャ猫が鳴いて答え、それに合わせて望は恐る恐る後ろへと下がる。
その足元にあった別の資料を、望が引っ掛けて転んでしまう前に、アマービレによって呼び出された猫達が素早く浮かせて足早に外へ持ち出していった。魔力は望や直属の猫達と比べるといくらか格が落ちるが、この程度の荷物なら余裕である。
「もうすぐ扉ですか? じゃあ当たらないようにほんのちょっと下ろして……もう少し右です? 行き過ぎました?」
スイカ割りで行うやり取りを猫達と交わしつつ、望は太陽の元へと出る。
続いて現れた巨大なスーパーコンピュータの姿に、偶然その場を通りかかった者達の視線は全て釘付けになった。
大成功
🔵🔵🔵
シホ・エーデルワイス
《狐御縁》6名
時間質量論…
オブリビオンは過去という時間が実体を得た存在と聞きましたが
プレジデントの話しといい
オブリビオンの謎を解明する手掛かりになるかしら?
上手く行けば燦の願いに近づけるかもね
緊張している爛と手を繋いで落ち着かせる
大丈夫ですよ皆一緒ですし
何時も通りです
皆で手分けして資料を回収
焔に『聖鞄』を貸す
ええ
時間さえあれば全ての資料を入れられると思います
バケツリレーの様子を見て
ルル
中の整理整頓を幽霊の子達に手伝ってもらえないかしら?
ありがとう
とても助かります
私は第六感と世界知識で目星を付け
袖口に触れた資料を片っ端から【救園】へ収容
その内
最重要資料が保管されている隠し区画の情報を得る
燦
この区画の場所を調べられますか?
聖鞄を?今度レプリカを贈りましょうか?
はいいろさんに呼ばれて駆けつけ
これは!時間停止!?
テフラさんの状態を『聖瞳』で撮影し情報収集しつつ
破魔の結界術で救助活動
若しくは…研究の副産物かも?
錬金術が火薬を発明した様に
それにしても
この量を普通に解析すると
年単位で時間がかかりそう
四王天・焔
《狐御縁》
■心情
時間質量論かぁ、焔は難しい事は分からないけど
物理学を応用した理論なのかな?
何にせよ、悪用されるのは避けないとね。
■行動
フォックス・アシストを使用して、ぬいぐるみと協力して
膨大な量の資料の持ち運びを手伝って貰うね。
焔自身は、シホ姉からの『聖鞄』を持っておき
その中に皆から集めた資料を入れておくよ。
焔も、ぬいぐるみと交互に、持ってきた資料を『聖鞄』に入れて行くね。
「とっても便利な鞄だね、これだと沢山入りそうだよ!」
後はコンピューターの中の情報も手に入れたいから
ハッキングなどを行って、内部情報を引き抜いてみようかなと試みるよ。
後は、ルルさん、一緒に『聖鞄』の中身を整理整頓しようね。
狐裘・爛
≪狐御縁≫
直接戦うわけじゃないけど緊張するわね……ん、んん、ビビってないけど!
魂、魂ねえ。幽霊とか召喚術とかオブリビオンとか、なんだか身近すぎて真剣に考えたこともなかったわ。ねえルル?
とりあえずセキュリティ?のロック?を解除して持ち出しよね。中に小人でも入ってなければ《乖炎戯・魂魄凍結》で炎にして「操る」わ。見て見て、狐火式の操炎術! ふふ、炎上しちゃってるわね、見事に!
……火災報知器とか延焼しそうなら元に戻すわ。煙いのは流石にね? 整頓した情報はゆっくり精査しましょ
サポート専念! セキュリティ解除に集中するから持ち出しは任せるね。ちょっとお! もう少し慎重にしなさいよ! びっくりするじゃない
四王天・燦
《狐御縁》
アタシの中には魂喰いした魔物娘が何人もいる
『器』を作り再び生を歩ませてあげたいけどオブリビオンなんだ…
それに封印を施したままの影朧もいる
転生で生まれた爛を神妙な表情で見つめるよ
彼女達を現在の存在へと昇華するヒントが欲しい
盗賊式電脳戦法でハッキングして重要データの保管場所を暴くぜ
シホ、任せな
理系は得意だ
ついで複写プログラム走らせる傍ら、他の機材を聖鞄に預けるぜ
その鞄いいなー
お揃いだと最高だね
テフラ…ムチャシヤガッテ
試作のマザーコンピューターみたいな大型装置があれば試すぜ
流石に着衣のまま
髪を機器と繋ぎ、ガラスに手をつく姿は神秘的で映えるかも…一枚撮ってもらおっと♪
遊んでました、すんません
ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫
マザーの計画を妨害する為にも
しっかり情報を集めて帰らないとね
確かに爛さんの言う通りね
身近な事って後回しにしがちよね
これを機に幽霊たちの事も考えてみるべきかしら
UC【お子様幽霊たちの海賊団】で空飛ぶ海賊船を召喚
幽霊の子たちに皆が集めた記録媒体をバケツリレーで運ばせて
海賊船と『聖鞄』に積み込むわ
コンピューターは慎重に運ぶのよー!コラ、書類で遊ばない!
あら?一人だけカメラを持って燦さんに付いて行っちゃったわ、もう!
わかったわシホ
幽霊の子たち数人をUC【救園】内の整理整頓を手伝わせるわね
中の食べ物は勝手に食べちゃ駄目よ!
私は焔さんと一緒に『聖鞄』の整理なのよ
あの子たちったら雑に入れちゃって…
テフラ・カルデラ
《狐御縁》
燦さんの言葉にわたしもちょっと思い当たる節を思い出します
わたしも…オブリビオンをカードに封印しているわけですし、今後も封印する対象も増えていくと思うと…こちらもがんばらねばなのですっ!
とはいえ一人では時間が掛かるのは予想していますので【はいいろ・きゃんぱす】さんを召喚して二手に資料集めをしましょうか!
とりあえずそれっぽいものを集めて…
あっ!この資料良さそうで―――
(トラップに気づかずに手に取った瞬間、時間停止してしまい…はいいろが気付いて救助が呼ばれるまで人形のように止まり続けている)
はうぅ…まさか『時間質量論』とかけて時間停止だったとは…ちょっと安直過ぎませんか…?
「時間質量論かぁ、焔は難しい事は分からないけど物理学を応用した理論なのかな? 何にせよ、悪用されるのは避けないとね」
四王天・焔(妖の薔薇・f04438)が首を傾げる隣で、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は握り拳を作って、自らの口を隠していた。
「時間質量論……オブリビオンは過去という時間が実体を得た存在と聞きましたが、プレジデントの話といい、オブリビオンの謎を解明する手掛かりになるかしら? ……上手く行けば燦の願いに近づけるかもね」
「だな。一つでもいいから彼女達を現在の存在へと昇華するヒントが欲しい」
そう言って頷く四王天・燦(月夜の翼・f04448)の体内には中には魂喰いした魔物娘が何人もおり、祓えずに封印を施した影朧も存在する。
「どいつもこいつも、『器』を作り再び生を歩ませてあげたいけどオブリビオンなんだ……」
自身を影朧の生まれ変わりだと主張する狐裘・爛(榾火・f33271)の後ろ姿を眺めながら呟く燦にテフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)も神妙な面持ちになる。
テフラもまた、意気投合したオブリビオンや影朧をカードに封印していた。今はまだ少ないが、ひょっとしたら今後も封印したくなる同士と邂逅するかもしれない。
「……こちらもがんばらねばなのですっ!」
「直接戦うわけじゃないけど緊張するわね……ん、んん、ビビってないけど!」
「大丈夫ですよ皆一緒ですし。何時も通りです」
シホが口とは裏腹にガチガチになった爛の手を取り、頷く。ホッとしたように息を吐いた爛の肩を勇気づけるようにルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)は叩いた。
「マザーの計画を妨害する為にも、しっかり情報を集めて帰らないとね」
「そ、そうね。がんばっていくわよ! とりあえずセキュリティ? のロック? を解除して持ち出しよね」
「爛、あちらの見落としがなければここのセキュリティは全部解除されてるぞー」
緊張で今回の話の半分も聞いてなかったことが発覚した爛をよそに燦は最寄りに置いてあったサーバーに浮かび上がったバックドアを開く。
「【盗賊式電脳戦法】でハッキングして重要データの保管場所を暴くぜ。シホ、任せな。理系は得意だ」
「あ、お姉ちゃん。無理そうだったらすぐに言ってね。焔も少しは出来るから」
「お、なめんなよー?」
すでに本元の回収が終わったデータのバックアップは間違いなく優先順位が低くなる。にもかかわらず見た目が立派だからと言ってそればかり入った激重のコンピューターを優先的に運んでしまえば、その作業は徒労に終わってしまう。
それを防ぐために燦はキーボードを叩いて、既出のデータと内蔵されているデータが重ならない点を確認していった。その間手持ち無沙汰になってしまった面々はそれぞれ自分達が集められる人手を片っ端から呼び出していく。
『はいいろ・きゃんぱすさん召喚なのですよ~♪』
『ロイヤル・ルルチェリア号発進よ! キリキリ働きなさい!』
『魂を込めてあげるね。狐さん、焔と一緒に頑張ろうね!』
自力で立ち上がった自身とほぼ同じ大きさの白狐のぬいぐるみに抱き着いた焔の姿を眺めつつ、爛はふと呟く。
「魂、魂ねえ。幽霊とか召喚術とかオブリビオンとか、なんだか身近すぎて真剣に考えたこともなかったわ。ねえルル?」
「確かに爛さんの言う通りね。身近な事って後回しにしがちよね……これを機に幽霊たちの事も考えてみるべきかしら」
倉庫のある高台に横付けされた空飛ぶ海賊船から降りてきた子供の幽霊達がその言葉に反応して期待のこもった眼差しでこっちを見ているが、ルルは燦の操る画面に集中して気づかなかった。
「焔、これを使って」
「え、これって……」
そんな中、シホから焔に渡されたのは『聖鞄』フリッタラリアの掌トランク。見た目こそハンドバッグサイズだが、生活必需品や野営道具と保存食に、寝台のある部屋が複数ある広大な空間を持つこの鞄は今回の作業に正に打ってつけの存在であった。
「ええ。時間さえあれば全ての資料を入れられると思います」
「ありがとうシホ姉、大事に使うね!」
「お、その鞄いいなー。お揃いだと最高だね」
「聖鞄を? 今度レプリカを贈りましょうか?」
「やったぜ。あ、抽出終わったぜ。この番号がついてる機材を優先的に運んできてくれ」
そう言ってバックドアから頭を出した燦は数字とアルファベットが混ざった文字列が印刷された紙を渡していく。それを元にシホ達は倉庫での作業を始めた。
「うわ、まだまだ入るや。とっても便利な鞄だね、これだと沢山入りそうだよ!」
聖鞄の性能の高さに焔が驚く中、大量の紙媒体を前に爛は自分の口に人差し指を当ててウインクをした。
『知らない? こういうのもあるのよ』
すると紙の束は一瞬で炎へと変わる。
「見て見て、狐火式の操炎術! ふふ、炎上しちゃってるわね、見事に!」
警報機が切られた今、スプリンクラーは作動せずこのまま倉庫は火の海と化すかのように思えた。しかし炎は壁も天井も床も焼くことなく聖鞄の中に吸い込まれていき、そしてその中で元の書類へと戻った。
「中に小人でも入ってなければこんなことも出来るのよ。整頓した情報はあとでゆっくり精査しましょっ!?」
達成感を噛みしめていた爛の真横をサーバーが凄まじい勢いで通り過ぎる。
「ちょっとお! もう少し慎重にしなさいよ! びっくりするじゃない!」
その犯人であった幽霊達は集めた記録媒体をバケツリレーのように運び、海賊船と聖鞄に積み込んでいた。しかし自分達が何を扱っているのかを理解せず、はたから見てひやひやするほど乱雑に扱っていた。
「コンピューターは慎重に運ぶのよー! コラ、書類で遊ばない! ……あら?」
大声で注意しながらふと幽霊の人数が足りないことに気づいたルルが辺りを見回すとカメラを持って、燦の後を追う後ろ姿を見つけた。
「もう!」
今から走ってとっ捕まえるわけにもいかず、ルルはその場で地団駄を踏む。その様を不憫に思ったのと、幽霊達の行動に一抹の不安を覚えたシホは申し訳なさそうな表情を浮かべながら一つの提案をした。
「ルル、中の整理整頓を幽霊の子達に手伝ってもらえないかしら?」
「……わかったわシホ。あなた達、中の食べ物は勝手に食べちゃ駄目よ!」
「はーい!」
「ありがとう、とても助かります」
頭を下げたシホは服の袖口を幽霊の頭にくっつけ、次々と異空間に吸い込んでいった。
「これで、中で遊び出さない限り、資料が壊れることはないと信じたいわ……」
待遇改善の選択肢を脳内から赤線で消したルルは大きなため息をついた。
「はひぃ……これ、あと何往復ぐらいすれば終わります?」
「このペースだと少なく見積もっても100は多分……」
「ひえぇぇぇぇ……」
その一方でテフラの返答に瓶底眼鏡をつけた着物の女性、はいいろが悲鳴をあげていた。カードに封印される以前から屋内にこもって創作活動にふけっていた彼女にとってこの肉体労働は拷問にも近かった。
「こ、これは、後日一日フルでモデル役を、してもらえないと、割にあわなぁぁぁぁっ!?」
運んだ紙束を届け、次の品を取りに戻ろうとしたところではいいろは足をもつれさせてバランスを崩し、盛大に壁にぶつかる。すると壁ははいいろの体を受け止めることなく盛大に倒れた。
「は、はいいろさん!?」
予想外の事態に周囲にいた面々の視線が集中する。壁が外れた先には階段が隠されており、一番下まで転がり落ちたはいいろは目を回していた。一同が慌てて階段を駆け下りると、その先には大小様々な石板が鎮座していた。
「明かりは私が確保するわ。どうせこんな重い物、普通に運ぶことなんて出来ないだろうし」
そう言って爛が石板の一つを炎へ変換し、辺りを赤く照らす。ただ明かりをつけるスイッチはなく、シホは通信機越しに燦へ話しかけた。
「燦、この区画の場所を調べられますか?」
『ちょっと待って……その石板に書いてあることとか最寄りの機械のナンバーとか教えてくれる?』
しかしデータ上にそれらしき情報は見つからなかった。だがわざわざこんなところに隠し部屋を作り、置くような代物だ。何らかの関わりが無いわけがない。当然これらも回収対象に加わり、一同はさらに分散していった。
「あっ! この資料良さそうで―――」
そう呟きながらある石板を手に取った瞬間、テフラの動きが固まる。そしてそのまま微動だにしなくなった。しかしこの時地下の回収がほぼ終了しており、作業しているのはテフラだけで、その異変を知らせてくれるものはいなかった。
その頃、燦は予兆などで見覚えのあるカプセルを眺めていた。プロトタイプなのかコピー品なのかは定かではないが、人一人が余裕で入れるほどのスペースがある。
さすがに服こそ脱がないが、燦はカプセルの蓋を外すと中に滑り込み、突起物に髪を巻き付け、ガラスに手をつき、マザー・コンピュータに近しいポーズを取ってみた。
「これはなかなか神秘的で映えるかも……一枚撮ってもらおっと♪」
そのリクエストに応えてノリノリで幽霊がシャッターを切る中、不意にシホが部屋に入ってきた。
「燦、どこに行ったんで……」
「あ」
2人に気づいて立ち止まったシホは何も言わず、じっと見つめるのみ。沈黙に絶えかねた燦は中から出てくると無言で両膝をつき、深々と頭を下げた。それに追随するように幽霊も同じポーズを取る。
「遊んでました、すんません」
「……よろしい」
しっかり圧をかけつつ進んでいった作業はついに終盤を迎えた。
「後は……ルルさん、一緒に聖鞄の中身を整理整頓しようね」
「わかったわ。あの子たちったら雑に入れちゃって……」
「それにしても……この量を普通に解析すると年単位で時間がかかりそうですね」
倉庫の一階部分の媒体をほぼ片付け終わり、次の段階に話が進んでいるにも関わらず全然地下から上がってこないテフラを心配したはいいろが地下へと降りる。壁のように聳え立っていた石板は爛によって回収され、すっかり見通しは良くなっておりテフラの姿はすぐに見つかった。
「もう……なにボーっと突っ立ってるんですかテフラさん!」
手を顔の前に出して振っても反応しない。ムッとして肩に手をかけて揺らそうとしたが、まるで地面に釘付けにされた人形のように全く動かなかった。
「……あれテフラさん、テフラさーん、テ・フ・ラ・さ・んー? ……シホさぁぁぁぁん!」
想定外の事態に引き返してながら発せられたはいいろの鬼気迫る絶叫にシホと燦は慌てて階段を駆け下りた。
「はいいろさん一体何が……」
「テフラさんが、テフラさんが、全く動かなくなっちゃったんです!」
「これは! 時間停止!?」
一目見ただけで状況を理解したシホが聖瞳で撮影し、状況把握と情報収集を行う中、燦は片手で顔を隠してゲーム史に残るめい言を口にする。
「テフラ……ムチャシヤガッテ」
「言ってる場合ですか!」
はいいろのツッコミが飛ぶ中、手早く一連の作業を終えたシホによる破魔の結界術がテフラと地面を切り離す。その瞬間テフラは動き出し、地面から離されたことでバランスを崩してその場に尻餅をついた。それでも石板を手放さなかったのはファインプレーだろう。
「うわっ、な、なんです!?」
「なんですじゃありませんよ、さっきまでドキドキのしっぱなしだったんですから!」
自分の身に先程まで何が起きていたのかを聞かされたテフラは身を震わせる。
「はうぅ……まさか『時間質量論』とかけて時間停止だったとは……ちょっと安直過ぎませんか……?」
「いや、若しくは……研究の副産物かも? 錬金術が火薬を発明した様に……不慮の事故で物が壊れないようにするための保存法? それとも侵入者を捕獲するための防犯装置? いや、それならわざわざ健康状態を維持しておく必要が……」
「お姉ちゃん、なんかドタバタしてたけど何かあったの?」
聖鞄で作業をしていた分、出遅れて合流してきた焔が燦に話しかける。燦はその頭をわしゃわしゃと雑に撫でながら困り顔になりながら笑った。
「うーん、ちょっと色々な」
「この罠はどんな状況で発動するか確認しないと……でもこの場でしか発動しない術式などが組まれていたら……」
どうやらまだまだ撤収には時間がかかりそうだ。
聖鞄の中でもう一度マザー・コンピュータごっこを他のメンツを誘ってやるかな……と燦は懲りずに考えるのであった。
大成功
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