アポカリプス・ランページ⑪~神の鋳型の中から
●Libera me
「……黙れ……黙れ……黙れ……!」
アイオワ州デモイン、デモイン砦。
異形と交じり合った姿を持つ男が、繰り返す。
「……煩い……煩い……煩い……! 俺に……お前達を救う力など無い……!」
心の拠り所への祈りを、切実な数々の声を、一方的に流し込まれて。
男はやがて、結論を出す。祈りの声が聞こえなくなるまで、祈るものすべてを殺し尽くす。
あるいは。
「あるいは、俺を殺してくれ……!」
●グリモアベース
「フィールド・オブ・ナインのひとり、『デミウルゴス』の居場所への道が開いたわ」
静かに猟兵たちひとりひとりの目を見て、コルネリア・ツィヌア(人間の竜騎士・f00948)が告げる。
「偽神細胞によって、デミウルゴスはある種の無敵の特性を得ているわ。体内に偽神細胞を持たない存在では、傷ひとつつけられない」
元より偽神細胞を持つストームブレイドならば話は別だ。
だが、それ以外の存在がダメージを与えるには、『偽神細胞』を体内に取り入れなければならない。
「ソルトレークシティでの戦闘で、偽神細胞液が入手出来たわ。これを体内に注射して、一時的に『偽神化』すれば、普段通りの戦闘力を発揮出来る」
いわば、一時的な抜け道を作るようなものだ。
だが、たったそれだけでも大きなリスクがある、と、コルネリアは言う。
「偽神細胞の接種は、激しい拒絶反応が出るの。最悪、命を落とす危険もある。……ソルトレークシティで戦闘を行ったり、記録を見た人には、何となく想像がつくと思うけれど」
僅かに目を伏せ、しかしすぐ顔を上げ、まっすぐに猟兵たちを見つめ、コルネリアは続ける。
「注射に関しては、現状で考えうる限りの安全を期して、種族や職業に合わせて出来るように準備してあるわ」
出来れば、現地への転送前に注射を受けておくのが良いだろう。
また、注射を受けず、支援に徹する者も有難い、とコルネリアは述べる。転送順としては、攻撃に行くものを急いで送る必要がある為、優先度は下がってしまうが。
「……予兆で、デミウルゴスの一端に触れた人も居るでしょう。彼個人について、私は、多くは述べられない」
彼がアポカリプスヘルという世界において、倒すべき強敵であり、速やかな討伐を望む。それだけだ。
「どうか。……どうか、貴方の強い意志で以って、赴いて、結果を出して下さい。――武運を祈ります」
越行通
こんにちは。越行通(えつぎょう・とおる)です。
『アポカリプス・ランページ』のボスシナリオをお送りします。
今回のボス敵は特殊なギミックを持ちます。
ストームブレイドであるか、偽神細胞液の注射で『偽神化』していなければ、ダメージを与えられません。
そのことから、以下のボーナスがあります。
『プレイングボーナス……「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。』
偽神化の明記があれば、注射や諸々の準備シーンは省略可です。
また、拒絶反応の詳細やPCさんの心構え・対処法などは、プレイングにあればプレイングに準じます。
むしろ大歓迎です。対デミウルゴスの諸々と合わせて、書ける範囲で、お好きな形で書いて下さい。
メタ的には『命を落とす危険』はフレーバーです。なんらかの条件で死亡判定、といった処理はありません。
通常シナリオと同じくギリギリで何とかなったという扱いになります。
つまり、書きたい部分を書きたいだけ自由に書いて下さい!
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『デミウルゴス』
|
POW : デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD : 偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ : デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜刀神・鏡介
デミウルゴス式偽神細胞とはこいつの事だったのか
自身を救う神を自分で造ろうとは、業が深いというべきか……
神刀を抜き、限界を超えた身体能力を引き出す。その後精神統一をしてから、偽神細胞液を注射して偽神化
拒絶反応は神気による浄化と気合いで無理矢理抑え込んでから接近
敵の大剣による攻撃は攻撃の初動を見極めて回避するか、威力が乗っていない内になんとか受け流して接近
射程が長くなった分、内側に潜り込めばある程度動きは制限出来るはず
此方の射程内に入ったのなら、漆の型【柳葉】で一太刀ずつ斬撃を叩き込む
最後の三太刀目は相打ち上等で叩き込み、剣を落とさせる
剣を強化したとはいえ、それを持つお前自身はまた別の話だな
●
かつての文明の名残を、這うように生い茂る植物に沈む、デモイン砦。
その奥から、ひとつの大きな気配が、外を目指して近づいて来るのを、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は感じとっていた。
「……煩い……煩い……!」
何かの破砕音が、声と同時に響く。
悲鳴、慟哭、どちらとも取れる声と、破砕音を聴きながら、ソルトレークシティでの出来事を思い出す。
愛用の鉄刀ではなく、神刀へと手をかけ、すらりと抜き放つ。
溢れ出した気が、鏡介の内と外を巡る。自分自身が膨れ上がるような感覚を前に、じっと精神を研ぎ澄ます。
鏡のように滑らかな意識を保ち、もう片方の手に持っていたアンプルを、一気に注射する。
「――く、ぅ……!」
身体の中で暴れまわる。自分自身の細胞なのに、異物相手に統率が取れずに暴れまわる。
神刀を強く握り、力ずくで抑え込む。
異物を受け止めねばならないのだ、と。
ひととき偽神となってでも、立ち向かう相手が居るのだ、と。
暴れまわる身体を抑えつけたそのまま、限界を超えた身体で、『音』へと接近する。
禍々しきその形は、完成してしまった『デミウルゴス』――神と呼ばれ、更なる研究の素材となった男の、成れの果て。
「デミウルゴス式偽神細胞とは、こいつの事だったのか」
この特異性に目をつけ、最強のストームブレイドの手がかりとまで成った。
そういえば、あの地は宗教都市としても有名だったといったか。
「自身を救う神を自分で造ろうとは、業が深いというべきか……」
デミウルゴスが、鏡介を、見る。
ぎらついた金の眼光が、殺意を湛えた。
偽神細胞の大剣が構えられると同時、鏡介もまた構えを取った。
デミウルゴスの大剣が、膨れ上がるようにして大きくなる。
重みの変化にも頓着せず、水平に振り回された大剣の動きを目で追い、素早く懐に飛び込まんと、鏡介が動く。
まだ伸びる途上の大剣の後を追うように位置取り、神刀で押すように弾いて、距離を詰める。
偽神細胞の痛みを敢えて意識し、修行の中で鍛えた『目』をより鮮明にする。
――まだ、『大振りの戦い方』しか、意識していない。
息を吸って、吐き出すと共に脚部へと一閃。
振り抜く刃を返し、胸部への一太刀。
デミウルゴスの目が見開かれ、異形の大剣が鏡介を『叩く』ように接近する。
それに応えて、真っ向からの斬撃。
「斬り堕とす――漆の型【柳葉】」
「ぐ、がッ……ァア!!!」
「落ち、ろ!」
迫り来る凶刃を避けもせず、叩き込まれた斬撃が、デミウルゴスの腕を、大剣を捉え、跳ね飛ばす。
無論、鏡介とてただで済んだわけではない。武器を跳ね飛ばす前の一撃、叩き付けた際の痺れ、掠めていっただけでも意識を刈りそうな一撃を、しっかりと貰った。
だが、この位の相打ちは、覚悟の上だ。
荒い息を吐きながらも、神刀を構え直し、鏡介は告げる。
「――剣を強化したとはいえ、それを持つお前自身はまた別の話だな」
咄嗟に異形の爪を広げたデミウルゴスが、今度こそはっきりと、『鏡介という猟兵』を見る。
「――俺、自身、だと?」
大成功
🔵🔵🔵
マリア・ルート
死をも厭わず進む。
【偽神化】、していくわ。
拒絶反応が体を蝕む。
理性がたまに飛びそうになり、血が熱くなっているのを感じる。
ーーでも覚悟はできている。
デミウルゴスーー造物主。『創造』の力使う者として、あんただけは許せない。
必要最低限の『オーラ防御』と『残像』による回避だけ考えて、【指定UC】で大勝負!インファイトで速攻あるのみ!
相手がコピーしてもこれなら真っ向からのぶつかり合いよ!
拒絶反応で理性失われそうならいっそコストにすればいい!
苦しい、息が詰まりそう。体が焼けそう。感覚がなくなって無重力のような感覚になりそう。けど、それがどうした!
ソルトレークで感じた苦しみの分ーーあんたにぶつけてやる!
●
砦の天井を突き破り、デミウルゴスの真上から、羽ばたきと共に強襲する影が落ちた。
デミウルゴスが異形の腕を振るい、掴んだ『それ』は、怪鳥と人が混ざり合ったが如き在り様となった、――マリア・ルート(紅の姫・f15057)、だった。
死をも厭わぬ覚悟で偽神化を済ませてきたマリアの身体は、拒絶反応に蝕まれ、マリア自身にも制御出来なかった。
予知地点へと移動する間、目の前にちかちかと星が走り、瓦礫を吹き飛ばした音で意識が飛びかけていた事に気づく。
今、自分は、誰なのか。
そんな疑念さえ、頭の奥から浮かんで。
――でも覚悟はできている。
どれほど呼吸がままならなくとも。全身の血が沸騰しそうであっても。
ひたすらに目的地を、たったひとりへと辿り着くことを、諦めないだろう。
「デミウルゴス――造物主。『創造』の力使う者として、あんただけは許せない」
――どれほど蝕まれようと。
許せないことこそが、彼女はマリア・ルートであることの証明となって。
そうして、頭上から仕掛けたマリアは、デミウルゴスに掴まれたことも構わず、逆に蹴爪を突き立て、凄まじい速度で屋内を駆け回る。
「偽神に……細胞に、狂ったのか……!?」
引きちぎられても構わないとばかりのマリアの猛攻に、デミウルゴスが応戦すべく、己もマリアの在り様を真似る。
偽神細胞が組み変わり、内側から溢れ出た衝動、目の前が白く、焼け付くような『力』に、それを宿した存在に、畏怖すら覚えながら。
――理性を溶かした、偽神ふたり。
デミウルゴスの爪がマリアを抉ろうとする。だが、易々と切り裂ける筈の爪にかかる手ごたえは、想定より弱い。
マリアが羽ばたき、蹴りつける。内蔵を抉る一撃に、それでも、立ち続ける。
泥仕合の予感を抱いて最後、デミウルゴスが拳を振り、食いつかんばかりにマリアが腕へと爪を立てる。理性がくべられた青い瞳は、破壊だけを考え、宿している。――。
苦しかった。
息は詰まって、身体が焼けるようで。床がなくなった錯覚の後、踵が踏んだ床石の感覚さえ朧げだ。
――けど、それがどうした!
破壊の怪鳥となっても、理性を全てくべて投げ打っても、忘れない。
――ソルトレークで感じた苦しみの分――あんたにぶつけてやる!
ひとつ、訂正すべきことがある。
マリアは、偽神の力に狂ったのではない。
デミウルゴスへと心をぶつける為に、自分というリソース全てを投げ打ったのだ。
――ぶつかり合いの果て。
砦のそこかしこが破砕され、青空が覗く屋内で、ふたつの影が、揺らいだ。
マリアが、限界を迎え、倒れる。
デミウルゴスもまた、ひととき、力尽きた。
大成功
🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
デミウルゴス、哀れな神よ。荒ぶる御霊を鎮めるのも、陰陽師たるものの務めかもしれぬ
しかし偽神化細胞か。おれはヤドリガミゆえ、この体は仮初のもの。普段は自在に出したり消したりしているが、注射をした後ではそうはいかぬだろう。無理な力の影響が本体にも及ぶかもしれぬが、やるしかない
【戦闘】
強毒化した偽神細胞は【毒耐性】の【結界術】で防ぐ。だが普通の毒ならともかく、あの攻撃には長くはもつまい
こちらは【冬帝招来】で攻撃。せめて苦しみの少ないように、凍結させて倒すことを目指す。こちらが毒で倒れるか、相手が凍死するかの勝負というわけだ
……同時に、注射の拒絶反応で起るであろう自壊も、自分自身を凍結させて防ごう
ジフテリア・クレステッド
相手の特性上、ストームブレイドが切り込んだ方が良さそうだ。
…思うところもあるしね。
騒音に苦しんでるとこ悪いけど!私のパンク・ロックを聴いてもらうよ!
パンクはDo It Yourself!自分たちのことは自分たちで!
私の【歌唱】でちょっとでも冷静さ失ってくれれば御の字。更には毒音波の【衝撃波】の【範囲攻撃】でなるべく大剣の射程外から毒で【蹂躙】していく。毒による【目潰し】や【マヒ攻撃】で剣の動きが鈍れば尚良し。
私は注射も打ってないし今回の戦場では他の人たちよりも【継戦能力】が高い。【激痛耐性】と【根性】で歌える限りは歌って毒で敵を削れるだけ削るよ。
私の歌、ちょっとは『祈り』をかき消せたかな?
リュカ・エンキアンサス
あんまり体に変なもの入れるのは嫌だけど…
まあ、こんな日もあるか
偽神細胞を取り入れた突入
突入後距離を保ったまま
先制攻撃から全力で灯り木を撃ち込んでなるべく早く制圧する
攻撃は第六感と戦闘知識で相手をよく見て回避
自分に不調が出てきたら、戦闘に支障がない分には無視する(痛みなど
ただし、戦闘に支障が出てきたら即撤退する(呼吸不全、ふらつきなど
その際、可能な限り体調不良そうな猟兵を見れば援護して、一緒に回収する
頑張るのはいいけど、死んだら元も子もないよ
後は動ける限り救助活動と医術で援護に回るかな
人間なんて、救う必要もないと思うんだけど
ある意味、真面目なんだね
安心するといい。あなたの願いは、もうすぐ叶う
●
砦の外を目指す『デミウルゴス』より先回りしたジフテリア・クレステッド(ビリオン・マウスユニット・f24668)が、息を潜め、デミウルゴスの様子を窺う。
足を引きずるようにして、重く、重く、進んでいる。その目はぎらぎらと光り、すべてを眺め、何をも見ていない。
時折聞こえる声は、やはり、流し込まれる祈りの声をかきけす、叫び声だ。
「――……」
息苦しさの中、ふと、もうひとつの気配に視線を巡らせる。
陰陽師の衣を纏う、壮年の男の姿をしたもの。
「俺は、勘解由小路」
「ジフテリア。ストームブレイドだよ」
ガスマスクごしに目元を緩めた彼女の自己紹介に、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は、浅く頭を垂れた。
手早く互いの手筈を取り交わし、ジフテリアの準備を待ちながら、津雲もまた錫杖を握り直す。
ヤドリガミゆえの仮初の身体。だが、今回は、いつものように自在に出したり消したりするわけにはいかない。
更には、無理な力の影響が本体にも及ぶかもしれぬ。
だが、やるしかない。
『私は注射も打ってないし、今回の戦場では他の人たちよりも継戦能力が高いと思うんだ』
『そうだな。少なくともおれは、あんたより先に落ちるだろう』
『そういう所でも、ストームブレイドが切り込んだ方が良さそうだ。でしょ? ……思うところもあるしね』
現在の命の危険。将来の、いつかの命の期限。
目の前の少女が、違うかたちでの覚悟を示している。だから、尚更。
――助けて。助けて。助けて。死にたくない。つらい。いたい。
――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。許してください。
――雷を落として。皆にわかるように。光で指差して。
「……偽物、だ、ッて、言ってるだろうが!!!」
悲鳴の代わりに、引きずった腕を振るう。
床石が飛び散り、差し込んだ光に反射する。張り上げた声を落とし、デミウルゴスが唸る。
「殺してやる。死ねば聞こえない。殺してやる……それで、いいだろう……!」
一方的に流し込まれる『声』とは、対話にならない。
時折破壊を撒き散らしながら、外を、目指す。
偽神には、殺すべき相手など、わかりはしないから。全部殺してしまえば、同じことだろう。
「騒音に苦しんでるとこ悪いけど! 私のパンク・ロックを聴いてもらうよ!」
「な!?」
転がり込むようにして、移動するスピーカーと共に、なびく灰色がデミウルゴスの進路を塞ぐ。
音を通じて、空気に、毒が満ちる。
「パンクはDo It Yourself! 自分たちのことは自分たちで!」
アップテンポの歌声と共に弾ける毒が、偽神細胞すら浸そうとする。
それに気づいたデミウルゴスが、半ば本能的に剣を延ばす。
「姿勢はいいね! 猫背はだめ! ついでに目つきも何とかしようね!」
大剣の射程外へと素早く後退し、胸を張って歌い続ける。その歌声がスピーカーに乗って広がり、デミウルゴスの身を、眼球を、じくじくと刺す。
狙いを外した大剣が、床石にめり込む。強すぎる力で穿たれたそれを引き抜こうとした時。
その腕が、氷に覆われた。
「デミウルゴス、哀れな神よ」
呼びかけと共に、津雲の手にした錫杖から、凍てつく冷気が這い回る。
全身が凶器の如き男を封ずべく、四方からひそやかに伸ばされていた術が、デミウルゴスを絡め取り、凍てつく氷像へと変えようとする。
「神と、呼んだか。俺を」
「否む呼び名ならば、荒ぶる御霊と呼ぼうか。おれの国の神は、想像とは恐らく違うだろうが」
――荒ぶる御霊を鎮めるのも、陰陽師たるものの務めかもしれぬ。
それが、本当に陰陽師の務めなのかどうか。知らなくても、やろうと決めたのだ。
「せめて苦しみの少ないように――」
デミウルゴスの目が津雲を捉える。冷気で覆った大剣から放たれるものを、理解する。
「それが、慈悲というものか」
自在の偽神細胞、その、強毒化が、無作為に周囲に撒かれる。
準備していた結界術を体内に巡りらせ、極力穏やかに抑える。それでもやはり、桁違いだ。
覚悟の上だった。こちらが毒で倒れるか、相手が凍死するか。
ジフテリアが居る以上、最悪の事態は無いと願いたいが。
覚悟と共に、自身をも冷気で縛る。
――苦しみの少ないようにと告げた津雲は、デミウルゴスの目にはどんな風に映ったのだろう。
ひどく狭い世界に追い詰められた、荒ぶる御霊には……。
偽神細胞を体内に入れたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は、戦場へ降り立ってすぐ、視界内の把握に努めた。
――あんまり体に変なもの入れるのは嫌だけど……。
――まあ、こんな日もあるか。
既に先客の戦闘音が聞こえる。それを頼りに、『灯り木』を携え、想定したとおりの地点から、『目標』へと制圧射撃を打ち込む。
動きが鈍いが、リーチの長さを考えれば油断出来ない。
歌いながら動き回っていた先客が、こちらを見て、小さく頷く。どうやら、同じく、射程外からの攻撃を目的としているらしい。
「そのまま、頭冷やしちゃって! まだまだ歌い足りないから! 聴いて貰うよ十八番!」
叩きつけるような歌声は、恐らく目に見えない何らかの属性――恐らく、毒だろう、と、リュカは判断する。
彼女と、もう一人。氷に身を浸す猟兵のお陰で、狙いがつけやすい。
氷を振りほどくように、振り上げられた大剣。それを握る腕。掻い潜った胸元。細胞の鎧は無視して。30センチも要らない、――心臓へ。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
変異し、硬化した偽神細胞。その硬い表皮を、星が、いともたやすく打ち破る。
デミウルゴスの毒が、歌声に押し返される。
凍ったままの身体に強烈な一打を受け、仰け反った。その機を逃さず、リュカは走る。
ここに降りた時から、身体の内側から細胞が飛び出すように痛い。それは良い。いや良くはないが、支障はない。
だが。今のとっておきの手札から、呼吸が僅かに乱れ始めた。
更に一瞬かすんだ視野に、すぐさま方針の転換を決める。自分は、死ぬ為に来たわけではない。
歌い続ける少女の方は大丈夫と見て、凍りついた男へと走り寄る。未だ、術を解こうとしてはいないが。
「心臓に一撃入れた。さすがに、すぐに再生は無理そうだよ。……歌も、効いてるみたいだし」
リュカの方を向いた視線に肯定を見て取り、荷物を引き寄せる。
「これ、解いた方がいいんじゃないかな。頑張るのはいいけど、死んだら元も子もないよ」
「……ああ。これは、自壊防止だ。……すまない、運んで貰えるか」
「わかった」
承諾の声に、安堵の息だけが返る。凄い覚悟だな、と考えながら、てきぱきと運搬の準備を整える。
歌はまだ響いている。僅かに揺れていたデミウルゴスの腕が、動きを、止める。
「私の歌、ちょっとは『祈り』をかき消せたかな?」
疲労困憊といった体で、それでも自分の足で歩きながら、ジフテリアがぽつりと呟く。
独り言のような声に、リュカは直接は返事をせず、ちらりと後ろを振り向く。
「人間なんて、救う必要もないと思うんだけど」
彼に支えられた津雲が、目だけを動かしてリュカの横顔を見る。
表情から、感情は読めない。
視線の向こうには、デミウルゴスが居る。骸の海へ帰るまで、幾度も死ぬ、オブリビオンたる偽神。
「ある意味、真面目なんだね」
「そ、かもね」
流し込まれる祈りの声、応えられない事実。誰も知らない祈りの廃棄。果てに、極端に狭くなった世界と視野と、もう存在しない彼の未来。
「安心するといい。あなたの願いは、もうすぐ叶う」
手向けのような言葉を残し、リュカは再び歩き出す。支えられた津雲が目を閉じ、ジフテリアが重苦しい息を吐く……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ペイン・フィン
こんにちは
自分は、ペイン・フィン、という
指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ
負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える
そういう、存在、だよ
今回は、ね
貴方を、終わらせに来たよ
「偽神細胞液」を注射
そして、コードを、使用
自分の属性を、怨念の力を、反転
浄化の属性へと、変わる
……自分は、貴方がどんな存在だったのか、よく知らない
でも、ね
祈りに押しつぶされ、苦しんだその怨念と恐怖を
造られ、偽物の神として虐げられたその憤怒と憎悪を
救う力を持たず、無力だったその悲哀と絶望を
細胞の拒絶反応の痛みと一緒に
自分が、全部、食べていこう
だから、そう
貴方の痛みは、此処でお仕舞い、だよ
お疲れ様
●
幾度もの交戦を超えて。
顔も知らない『誰か』より間近に現れた、猟兵たちの輪郭を思う。
その間も、祈りが流れ込む。
この声が聞こえる限り、決して解放はされない。
起き上がり、歩き出そうとする。それだけが、たったひとつの、
「こんにちは」
落とすような、静かな声に呼びかけられる。
少し先に佇む赤髪の人影。仮面に覆われた顔は、表情や個性を読み取れない。
「自分は、ペイン・フィン、という。指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ」
「怨念、喰らい……?」
「負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える。そういう、存在、だよ」
そうか。とだけ、思う。
信じることも信じないことも、磨耗した精神では、同じことだったから。
どちらにしても、ただ、大剣を、向ける――
「今回は、ね。貴方を、終わらせに来たよ」
その言葉に、デミウルゴスの目つきが変わる。
意に介した様子もなく、手にした何かを腕に注射する赤髪の仮面に、剣を、延ばそうとして。
「……ねえ、あなたは、どんな物語が、望み?」
一斉に、鳥影が飛ぶ。
先ほどまで平気で目にしていた仮面が、ひどく目に痛い。痛い。……筈だった。
自分に飛びかかる、ツバメと思しきものは、紙で出来ていた。それが、自分を切り裂く。痛い。苛立つ。戦わねばならない、のに。
「……なんだ」
それは、恐れの呟きだ。
だが、その恐れも、ツバメが啄ばんでゆくようだ。安らぐ。……安らぐ? これで? こんな所で?
激情が噴出し、宥められる。メトロノームのように、思考が。そして、偽神細胞が、ありえざる浄化を果たそうとしている。
「……自分は、貴方がどんな存在だったのか、よく知らない」
その声に対する感情を、自覚させられる。
恐ろしい。恐ろしくてたまらない。
「祈りに押しつぶされ、苦しんだその怨念と恐怖を」
目に見えない『誰か』たちの引き止める手や声の重みを。
「造られ、偽物の神として虐げられたその憤怒と憎悪を」
『誰か』『みんな』の声ばかりが満ちて、もう、それを通してしか、自分も、世界も、わからない。
「救う力を持たず、無力だったその悲哀と絶望を」
それは一番の元凶であり、辛うじて残っていた、自分らしさかもしれなかったもの。
「細胞の拒絶反応の痛みと一緒に。自分が、全部、食べていこう」
こういう存在にこそ、祈りが流れ込むべきだった。
「だから、そう。貴方の痛みは、此処でお仕舞い、だよ」
「やめてくれ!!!」
祈りに対するように、声を荒げて耳を塞ごうとする。――耳を塞ぐのは、正の感情のような。
目の前のものがどんな表情をしているか。直視することが出来ない。
いっそ嘲って、笑ってくれていればいい。けれど、声には、そんな気配がない。
慈愛の救済者のような顔をされていたら、自分の感情はどうなってしまうのだろうか。
――こんなにも恐ろしい、『俺』は、一体、誰なのだろうか。
いつのまにか膝をついていた。
身体を包むツバメを払いのけていた手を、見下ろして。
「お疲れ様」
耳朶を打つ声と共に、意識を手放した。
大成功
🔵🔵🔵
ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです
嵐を鎮めるのは、同じ嵐の剣を持つ者の宿命、嘆きも哀しみも全て断ち切る。
【アストラの解放】
限界を超えて、アストラ、最大解放!
アストラは単なる武器ではない。
戦う覚悟、意思そのものが力となる、その意思を最大まで解放すれば攻防一体となる。
迎え撃つは、悲哀の断罪剣。
チャンドラーエクリプスを盾として展開、アストラを最大限まで収束、光弾、意思の一閃として解き放つ。
アストラで解放した意思は、弓のように光芒の結界として展開、断罪の剣の一撃はこれで受け、リミッター解除、覚悟、約束の祈りの力で更に解放、トドメの反撃を。
デミウルゴス、友として会えたのなら、悩み迷いながらも共に歩めたかもしれない。
藤・美雨
偽神化して戦うよ
身体中が痛い
一瞬でも気を抜けばそのまま倒れて起き上がれなくなっちゃいそうだ
でも負けるもんか
どんな時でも楽しくやるのが私だからね!
無理矢理にでも笑顔を作れば楽しくなるものさ
少なくともそこで苦しんでいるお前よりはね!
死に至る拒絶反応だって耐えてみせる
私が楽しみたいと思う限り
心から生きたいと願う限り
ヴォルテックエンジンが応えてくれるから!
想いを糧に足を止めないよう突き進む
相手の大剣の動きをしっかり【見切り】やられないように
そして接近したら……より滾れ、私の心臓!
全力で拳を振りかぶり【怪力】を乗せた一撃を!
思い切りぶちかます!
お前も……骸の海で笑える時が来たらいいね
見てて辛かったからさ
●
ぼこり、という音がした。
僅かに残った偽神細胞が、息を吹き返す。
思考のあちこちに穴が開いたような心地で、身を起こす。
祈りの声が聞こえる。助け、許し、裁き……。
「……俺の方が、助かりたい……?」
呟く。が、しっくり来ない。
ゆらりと立ち上がる。細胞が全身を痛めつける感覚を、久しぶりに明確に感じ取る。
藤・美雨(健やか?屍娘・f29345)が、崩れた砦を、一直線に走る。
その顔には、満面の笑み。吊り上げた唇にも、目の喜色にも、よどみはない。
「あっは! 身体中痛い!」
いっそ屈託の無い声が、砦に響く。
その近くを並走していた、ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)が、美雨の様子を見て、僅かに眉をひそめる。
「大丈夫なのか」
「ははは。一瞬でも気を抜けば、そのまま倒れて起き上がれなくなっちゃいそうだ」
「自信たっぷりに言うことではないだろう」
「ふっふふ」
響いた声が、デミウルゴスの許へも届くほど、近づく。
「でも負けるもんか。どんな時でも楽しくやるのが私だからね!」
心まで死ぬものかと、殊更に大きく飛びはね、走って、着地した、その先。
大剣を生成しつつあるデミウルゴスへ、笑顔で、呼びかける。
「無理矢理にでも笑顔を作れば楽しくなるものさ。……少なくとも、そこで苦しんでいるお前よりはね!」
女が、笑っている。
気を違えたわけではないらしいことも、わかる。
女の方から、身体の底に響くような、何かの轟きが伝わって来る。
続いて現れた、銀髪の男の眼差しが、こちらを刺す。
「俺は、楽しみゆえではない。だが、今のお前に勝る意志があるというのは、同感だ」
――。
「っつ……本当に、痛いな。でも、死に至る拒絶反応だって耐えてみせる」
女が地を蹴る。聞こえてくる轟きは、女から。
「私が楽しみたいと思う限り。心から生きたいと願う限り。ヴォルテックエンジンが応えてくれるから!」
心底それが嬉しいのだという声で、笑顔で、一直線に駆け抜けて来る。
その拳が硬く握られるのを見て――不意に、自動的に腕が動き、大剣から、毒が湧いた。
女の持つ何かに、自動的に反応した。確かにこの有様では、意志とは、言えない。……。
「――生命よ! 我が敵を討つ意志よ! 今こそ破滅と死を象らん!」
割り込んだ男の声と共に、毒を切り裂いて、光が飛来する。
思わずそちらを見れば、盾状のかたちをした向こうから、重く、鋭い何かが、こちらに狙いを定めていた。
湧き起こる。
これっぽっちも、自分を崇めず、祈らず、ただ、走って来る者たち。
「生き生きしてるかい? 私はしてる!」
「――!」
拳を振りかぶった女の胸部、心臓から、咆哮のような轟きを聴く。
全てを載せた一撃が、肉も骨も細胞も押し潰して、デミウルゴスを吹き飛ばす。
吹き飛ばされる一瞬、崩れ落ちる瞬間すらも、楽しそうに。
「……お、れ、……は」
からん、という乾いた音を聞いた。
立ち上がる。
座して死なせて貰う為ではない。
意志も目的もなく、『自分』の輪郭すらわからない今、たったひとつあるもの。
「殺すか、殺されるか、……どちらか、だ……!」
倒れた女に続くように、男が近づいて来ていた。
全身に満ち満ちたその意思に、追いついてみたかった。
「嵐を鎮めるのは、同じ嵐の剣を持つ者の宿命」
「同じなら、相打ちだろう」
偽神細胞を駆り立てるのが、――これほど満ち満ちたことは、きっとなかった。
「些事だ」
不動の赤い瞳が告げると、手にした得物に、更なる変化が起こった。
――リミッター解除。
――滅びの未来を破壊する意思に応え。
――すべてを懸けて闘争する覚悟に奮い立ち。
――約束の祈りの力に、其は満ちる。
「アストラ、最大解放! ――嘆きも哀しみも、全て断ち切る!」
「やってみせろ、猟兵!!」
輝きは最高に達した所で、ぎりぎりまで収束し、解き放たれる。
偽神は、己の全てで光を断たんと、全身で大剣を振るう。
双方ともに、血が火花となったかのような錯覚。
――生き生きしてるかい?
デミウルゴスの、口元が、僅かに動いて。
全てが砕かれる。
●
彼の目指した『外』は、すぐそばだ。
戦いの余波を残した砦の外に出れば、僅かに雲の渦巻く青空が目に焼きつく。
人は居ない。『誰か』や『みんな』はいない。平等な空は、死者も生者も区別なく広がっている。
「お前も……骸の海で笑える時が来たらいいね。見てて辛かったからさ」
砦に背を向けたまま告げた美雨の言葉に、ルドラもまた、振り向かず、思う。
――デミウルゴス。友として会えたのなら、悩み迷いながらも共に歩めたかもしれない。
背負ったものも、抱いた覚悟も違った。――だからこそ。
青空は未だオブリビオンの手に落ちることなく。ただ、彼の眠る砦を見下ろしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵