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アポカリプス・ランページ⑪~ヤルダバオトの死の行進~

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●狂気に苛むは人々の
 それは絶え間なく反響する。
 神に救いを求める声。許しを乞う声。罰して欲しいと願う声。

「――煩い」

 例え男が望まずとも、まるで啓示を与えよと逆に命令されるかのように。

 ――神よ、どうか我らをお救いください!

 ――私は許されぬ罪を犯しました。どうかこの罪を禊ぐ為、神の啓示を与えたもうことを……!

「……黙れ……!」

 壁に頭を強く叩きつけても消えない。永遠に反響し続ける救いを求める声。
 それは男を狂気の淵に苛むものでしかなかった。
 救いを求める者たちは知らない。
 男が狂った教団により、無理やり神として仕立て上げられた存在でしかないことを。
 ――いや、知っていても尚求めるのかもしれない。
 この終末の黄昏を迎えようとしている世界で、救いを求めずに生きていく強さを持たない人々にとっては瑣末事でしかないのだろう。

 ――神よ。
 ――神よ。
 ――神よ。

「黙れ……黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!!!」

 俺にお前達を救う力などない。祈ってもできることなどあるワケがない。
 なのに何故俺に救いを求める?偽りの神に救いを求めて何になる?
 頼むから、俺を神などと扱わないでくれ。
 神だと扱うぐらいなら殺してくれ。

「……あるいは、俺が――」


「アイオワ州デモイン・再建されたデモイン砦にてフィールド・オブ・ナイン『デミウルゴス』の存在を確認しました」

 終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は淡々と、努めて冷静であろうとするかのように猟兵たちに語る。

「デミウルゴスは偽神細胞を持たぬ者からの攻撃を全て無効化する特性を持ち、例えユーベルコードであったとしても、偽神細胞がなければ傷一つつくことはありません。
 元々偽神細胞を埋め込んでいるストームブレイドならばそれを無効化し、通すことは可能です。

 ――では、偽神細胞を持たぬ者はどうすれば良いのか」

 日明は一つのアンプルを取り出し、猟兵たちに見せる。

「これは『偽神細胞液』。ソルトレークシティの研究施設に保管されていたものです。
 これを投与すれば一時的に『偽神化』し、デミウルゴスにダメージを与えることが可能になります。……ですが、当然ただ強化して終わるというワケではありません」

 この偽神細胞液は最早劇薬と言っても過言ではない。
 取り込めば、最悪の場合は絶命も有り得る程の激しい拒絶反応に襲われることとなる。
 デミウルゴスと拒絶反応、その双方と戦うようなものなのだ。

「ここまでのリスクを背負わねばならぬ程、デミウルゴスは強力なフィールド・オブ・ナインということです。
 命を賭して戦うことは今に始まったことではありませんが……今回は特に危険性は高い。
 覚悟のある誰かがやらねばなりません。僕が行ければよかったのですがね……」

 予知をした以上、グリモア猟兵が戦場に赴くことはできない。
 だが、覚悟無き者を送り出す程冷酷になるつもりもない。
 命を賭してでも戦う覚悟ができているならば、兵士は君たちを送り出すだろう。


御巫咲絢
 予兆を見た途端MSの性癖な気がしてなりませんでした。
 こんにちはこんばんはあるいはおはようございます、初めましての方は初めまして御巫咲絢です。
 シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページもご一読くださると幸いです。

 戦争シナリオ5本目をお送りします。ある意味被害者の一人とも呼べるであろうフィールド・オブ・ナイン『デミウルゴス』と戦う為、諸刃の刃を背負って頂きます。
 今回は純然たるシリアスな戦闘をお届けしたい所存でございます。

●シナリオについて
 当シナリオは『戦争シナリオ』です。
 一章で完結し『アポカリプス・ランページ』の戦況に影響を及ぼすことのできるシナリオとなっています。
 また、このシナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。

●プレイングボーナス
 「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。
 ストームブレイドの方はこのプレイングボーナスを満たしているとさせて頂きます。
 そうでない方は偽神細胞液を注入しない限りデミウルゴスにダメージを与えることはできません。予めご了承ください。

●プレイング受付について
 現在執筆中のものが一段落してからの予定ですので『9/16(木)8:31~』から受付開始、締切は締切は『クリアに必要な🔵の数に達するまで』とさせて頂きます。
 受付開始前に投げられたプレイングに関しましては全てご返却致しますので予めご了承の程をよろしくお願い致します。
 頂いたプレイングは『5名様は確実にご案内させて頂きます』が、『全員採用のお約束はできません』。また、『執筆は先着順ではなく、プレイング内容と判定結果からMSが書きやすいと思ったものを採用』とさせて頂きます。
 以上をご留意頂いた上でプレイングをご投函頂きますようお願い致します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ち致しております!
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マリア・ルート
ひたすらに啓示を求められる、神ではないのに神と崇められるーーああ、そんなのに似た奴、知り合いにいたわね。
ーーま、デミウルゴス(造物主)なんて言ってる時点で『創造』の力使う者として許せないのは変わんないけど!

拒絶反応で体が焼けそうなほど血が熱いし体を引き裂いて何かが出そうな痛みまである。『激痛耐性』で堪えてもいいけど、もう解放した方がいいわねこれ。
最低限の『オーラ防御』と『残像』の回避だけ考え【指定UC】発動、インファイトに持ってく!これならコピーされても真っ向勝負よ!

徐々に体の感覚がなくなってくるけど、痛覚も感じなくなるなら傷とか気にせず好きなだけ攻撃できるということ!
倒れるまで攻撃してやる!




 「煩い……煩い、煩い……ッ!!」

 果たして猟兵たちが訪れる前に何度頭を打ち付けたのだろうか。
 確かに流れる深紅の血で額を僅かながらに濡らした偽神の瞳は願っても止まらぬ声への憎悪を募らせていた。

「ああ……お前たちも、俺に縋りにきた連中か……そうだろうな……自分たちが救われさえすれば構わないんだろうからな……!!」

 同時に、正気は既になく。
こちらの姿を正しく認識されているかも非常に怪しい目を、目の前に立つ猟兵に構える剣と共に向ける。
 マリア・ルート(紅の姫・f15057)はその視線を真正面から受け止めながらも既視感を感じていた。

「(ひたすらに啓示を求められる、神ではないのに神と崇められる――)」

 ああ、と既視感の正体に納得する。
 彼女の知人にもこの眼の前の偽神と同じように神と一方的に崇められ、啓示を求められた者がいた。
 経緯や状況は違えど、その点では目の前の偽神は同じ、あるいは非常に近しい存在なのだ、と。

「――ま、デミウルゴス(造物主)なんて言ってる時点で、『創造』の力使う者として許せないのは変わんないけど!」
「……さっきから何を言っている?」
「あんたにはわかんなくていいことよ。どうせここで倒れるんだから」
「ああ……そうだな、聞こえなくなるまで殺して、殺して、殺し尽くせばいいだけのことだ……!!」

 噛み合っているように見えて全く噛み合わない会話。
 デミウルゴスの体内にある偽神細胞が活性化し、左腕を異形のそれと変えて臨戦態勢を取る。
 対抗すべく、マリアも迷わず偽神細胞液が入った注射を自らの首に突き刺す。
 直後、彼女の体内の血液全てが激しく煮え滾るかのような感覚に襲われた。身体を内側から焼き尽くされそうな程に熱く、自分の身体という”殻”を、内側から引き裂いてでも何かが飛び出そうとしているかのような激しい痛みに気が狂いそうになる。
 元より備えている痛みへの耐性があっても、尋常じゃない程に痛いと言えると確信できる程……これが偽神化への拒絶反応かと、マリアは改めて認識した。
 堪えようと思えば堪えられる。だが――

「(……もう、解放した方がいいわね、これ)」

 敢えてそれをせず、内側から飛び出そうとする痛みを隠しもせず、同時に己の中に眠るもの――破壊衝動を、解き放つ。

「ああ――■■■■■■■■■■――――!!!」

 鷲の翼が背から広がり、獰猛な鉤爪を備えた手は最早人のそれにあらず。
少女の殻を突き破り現れた死を飲み込む破壊の怪鳥の瞳が獲物を捕らえたその瞬間、デミウルゴスの身体に凄まじい衝撃が走った。
少女とは思えぬとてつもない膂力が大剣を携え異形化したその肉体を突き飛ばし、引きずり回そうと首を掴む。
だが、たかだか地面に一度叩きつけて引きずる程度で倒れるのであればそもそもフィールド・オブ・ナインにはなり得ない。
 デミウルゴスもまた、マリアを引き剥がすべく異形化した左腕を彼女の腹に突き立て、そのまま吹き飛ばす。
 数メートルなんて生易しいものではない距離を転がると同時に地面が抉れる。
 だがユーベルコードによる超耐久力を得たマリアにはこの程度致命傷どころか重傷にすら至らない。
 再び獣のような雄叫びを上げ、真っ直ぐにデミウルゴスへと突撃する――!

「ああ、煩い……煩いッ……その口を頭ごと叩き潰せばいい加減黙るかァッ!?」

 デミウルゴスの偽神細胞により異形化した身体が目の前の怪鳥と同じ鷲の姿を象る。
 偽神細胞で構成された肉体は相手に応じてその姿を変え、ユーベルコードの効果すらも模倣する。

「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!!!」」

 響き渡る二人――否、二匹の咆哮。
 互いにその人としての象徴たる理性を代償に、その獰猛な鉤爪を身体に突き立て続ける。
 何度も、何度も何度も何度も何度も――いくら鮮血が滴り落ちようと、相手が倒れない限り互いを執拗に追いかけては喰らいつき、地面に叩きつけ、雑巾のように引きずり続けて。
 だが、変化は程なく訪れた。

「……っが……ッ!」

 デミウルゴスの顔が痛みに歪む。
 偽神細胞による模倣が途端に解かれ、今までに喰らっていたダメージによる苦痛が一気に奴を苛み、感覚と判断を鈍らせる。
故に、マリアの攻撃を真正面からまともに受け止めることとなったのだ。
 当然、それで彼女は止まらない。
 最低限生命を護るだけの防御だけを考え、それ以外の理性を捨てる選択をした彼女は倒れるまで止まるつもりが元よりなかった。
 身体の感覚は最早ない、だがそれは逆に痛みすらも完全に殺して動けるということ。
 これ以上は危険だと判断され強制送還させられない限り彼女は偽神を攻撃し続ける。

「―――――――ッ!!!!!」

 最早声にすらならぬ鬨の咆哮と共に鉤爪が偽神を捕らえ、再び地面に叩きつける。
 感覚も理性もなくしたが故に出せる全力の一撃は、大地を大きく刳り割った――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トゥリフィリ・スマラグダス
人は、追い詰められると決まって「神」に救いを求めたがりますよね……。全知全能のそれなどどこにも居ないのに。


・「偽神」による冷気を全開にすることで放出された偽神細胞を凍結させ影響の抑制を試みる。並行して、【特殊マガジン】に換装した【クードフードル】より氷針を発射し、放出元の大剣を凍結させ放出量の抑制も試みる。

・上記の行動をとりながら、足裏から生成した氷の杭を地面に打ち込み、UC発動の準備を。動きは、デミウルゴスを内に置いた円を描くように。相手が気付かなければそれでよし、途中で気付かれた場合は追加の氷杭を投擲することで場を急造する。


あなたが聞く声は、過去の残滓。……もうおやすみなさい。


飛・千雨
アドリブ連携歓迎です。

っ……あなたも、望まずに力を植え付けられたのでしょうか。
……同情はあります。ですが、憐憫は抱きません。
激情に支配されぬように、心を落ち着かせて参ります。

行うは、気配を消してからの不意打ち、暗殺。
手段を選ぶ余裕はありません。
彼は今も苦しんでいます。誇りを惜しんでいる余裕は、ないのです。
宙を舞い、物陰から物陰へ移動して、攻撃の機を狙います。

「神器変形」
『祝飛刀』を用います。最も使い慣れた獲物ですから。
射程を伸ばし、威力を増して、断罪剣を掻い潜ってデミウルゴスへ届かせましょう。

かつて私が救われたように。
偽りの神よ。私たちがあなたを救いましょう。
(これ以上誰かを傷つける前に……)




 ――神よ、救いを。
 ――神よ、許しを。

「煩いッ!!いい加減にしろと何度言えばわかるッ!!」

 声は聞こえど姿はなく、当然視認できるワケもなく、ただ頭の中に響き渡る声に翻弄され狼狽し続けるデミウルゴス。

「っ……」

 その姿に飛・千雨(偽神宝貝の使い手・f32933)の心が揺れる。
 デミウルゴスもまた、望まずして力を植え付けられたのではないか――過去の自分の境遇がリフレインする。
 そう思うと同情の意を隠せないのだが――だからといって、憐憫は抱かない。否、抱けない。
 例え翻弄されているとはいえ、憐れむことは酷く侮辱することに繋がりかねないのだ。

「……人は、追い詰められると決まって「神」に救いを求めたがりますよね……」

 時を同じくして訪れたトゥリフィリ・スマラグダス(つぎはぎの半端者・f33514)もまた、思うところがあったのかぽつりと口を開いた。

「全知全能のそれなどどこにも居ないのに」
「――ええ、その通りです。全能の神はおりません……ですが、それでも耐えられないものがあると、何かしらのものに縋りたくなるのがきっと、人の性というものなのでしょう」

 自らも覚えがある故に、千雨の語り口は重い。
 激情に呑まれぬよう、自分を律することを言い聞かせるかのようにも語っているようにすら見えた。
 トゥリフィリはこれ以上は聞くべきではないと思いそうですか、とだけ答えて偽神と対峙する。

「ああ、ああ、ああ!煩い!頼むから!!俺に救いを求めるな!!
 お前達も俺を神と扱うのか!?なあ、そうなんだろうッ!?答えろッ!!!」

 その慟哭にも似た叫びに呼応するかのように、デミウルゴスの右手に携えられた大剣が振るわれる。
 それはまるでいきなり伸びたかのように千雨とトゥリフィリにその身でのしかからんと斬りかかり――回避には成功するも文字通り地面を真っ二つにせんが如き勢いで亀裂を生じさせた。
 何という威力だろうかと圧倒される間もなく、千雨は直感的にその攻撃の痕跡からあるものを感じ取った。
 兼ねてより調剤の心得もあり、毒にも精通しているが故に嫌でも気づかざるを得なかった、とも言う。

「……これは――毒?うっ……!?」

 刹那、心臓が唐突に酷く跳ね上がった。
 千雨の偽神細胞が叫びを上げる。内側から身体を突き破ろうとするかのように暴れ狂うこの症状は、まるで偽神細胞液を注入した猟兵の症状と酷く類似しているように感じられてならない。

「偽神細胞が呼応している……?発生源は――」

 トゥリフィリの頭に組み込まれた機械脳『カルディア』が、本来ならば今にも錯乱しそうな彼の感情を抑制し、冷静に分析させていく。
 彼も千雨も元より偽神細胞を埋め込まれしストームブレイド。そしてデミウルゴスもまた偽神細胞を持つ。
 ならば奴の持つ何かしらのユーベルコードの効果で自分たちの偽神細胞に干渉することは可能であるだろう。そして攻撃の痕跡からということは、奴の大剣はただの大剣ではないということだ。
 むしろあの大剣すらも偽神細胞でできているのではないか?その仮説に至ったトゥリフィリは自らに埋め込まれた精霊因子『玉塵の偽神』を最大限に活性化させ、冷気を戦場全域に放出。
 するとどうしたことか、千雨を苛んでいた症状が驚く程に落ち着きを見せ始めたのだ。

「……っ……すみません、ご迷惑を」
「いえ。……奴の大剣も偽神細胞制。恐らくそれを毒化させて散布し、自分たちに干渉しようとしたのではないかと」

 故に、細胞を死滅させるべく冷気を放出させ、毒素の影響を可能な限り抑制したのだという。
 凍結抑制さえしてしまえば、あとは自分たちの偽神細胞と自然治癒力が自然とその毒素を輩出するだろう、と。

「……ということはなるべく気取られぬように一撃を加えた方がいいでしょうね」
「そうなります。……自分が奴の大剣を封じ、平行して行動抑制と攻撃を試みます」
「では、私も然るべき行動を行いましょう」

 二人のストームブレイドが各々の行動で偽神に立ち向かう。
 まず先手を打つかのようにトゥリフィリは『クードフードル』に特殊マガジンを換装し発砲。

「邪魔を……するなッ!!!」

 デミウルゴスは感情のままに大剣を薙ぎ、氷針を砕く。
 だが因子制の氷針は砕かれても尚敵を蝕む。刀身の触れた部分からまるで液体窒素の中に放り込まれたかのように凍結し、大剣の刃ごと柄を握る腕まで氷に包み込んだ。
 次にトゥリフィリは脚部パーツを即座に換装し、重力操作で浮遊し空中へ。
 足裏から生成した氷杭を地面に打ち込みながら、引き続き『クードフードル』で発砲し牽制する。

「っ……ちょこまかと……何を考えている……!」

 氷針をかわし、薙ぎ払い凍結を繰り返すデミウルゴスの視線はトゥリフィリにしか向いていない。
 その間に千雨は舞うように物陰へと移動し、偽神宝具が一つ『祝飛刀』を活性化させた。
 自らの心と寿命を代償とすることで過去を断ち未来を拓く祝福の刃と化し、威力も射程も倍増されたそれを振るう機会を、決して見誤らぬよう戦場を観察する――。

「ああ!!ああ!!俺の頭に響くこの声は!お前かァァァァァァッ!!?!?」

 まるで業を煮やしたように距離を取り牽制射撃を続けるトゥルフィリに向けて、デミウルゴスはすっかり凍った大剣を叩きつけるんと接近を試みる。

「(気づかれた……いや、それとは違う?だけど)」

 どの道手を早めるより他にないだろう。
トゥリフィリは追加の氷杭をデミウルゴスへと向けて投擲するが冷気を物ともせぬ俊敏な動きで回避されて地面に突き刺さる。
 少しでも近づけさせまいと投擲しながら、円を描くように移動し杭を打ち込んでは距離を取るが、その凍りついたデミウルゴスの大剣の刃が頬をかすめる程に距離は詰められていた。
 否、距離はある。だが最初の一撃と同じで大剣がまるで巨大化したかのように唐突に長距離に渡って刃を振るうのだ。それも間違いなく奴のユーベルコードの効果だろう。
 そしてデミウルゴスがトゥリフィリに追いつき、その華奢な身体を貫こうと大剣を振るおうと――して、できなかった。

「が、はっ……」

 胸に深々と突き刺さるは『祝飛刀』。
 トゥリフィリに向けられた大剣の軌道を弾きながらも真っ直ぐに飛んだそれが、デミウルゴスに突き立てられたのだ。

「かつて私が救われたように――偽りの神よ、私たちがあなたを救いましょう」

 これ以上、誰かを傷つける前に。

「トゥリフィリさん!」
「支援感謝します――これで、最後!」

 トゥリフィリの構築した氷の杭、その最後の一本が地面に打ち込まれる。
 瞬間、展開されていた冷気がまるで津波を起こさんと潮が引いていくかのように、杭の向こう側へと凝縮され、デミウルゴスをその外から出さまいと拘束する。

「何っ……だ、これ、は……っ!」

 デミウルゴスの視界にひらりひらりと羽根が舞う
 氷で出来たその羽根は、ゆっくり、ふわりと。まるで羽毛と変わらない軽やかさで舞い降りてくる。

「あなたが聞く声は、過去の残滓……もう、おやすみなさい。

――”Code:Mahapadma detonation”!」

 氷の羽根が何もかもを一瞬にして凍らせ、荒れ果てたアポカリプスヘルの世界には不似合いな程に綺麗な氷晶が形成される。
 まるで、偽神へ花を手向けるかのように……あるいは、悼む為の墓標を建てるかのように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリステル・ブルー
アド連携◎ご自由に

僕の祈りは人の強さや願いが対象だ
お前は僕が祈る相手じゃない…だけど可哀想なヒトだね

アンプルを使う。怖い。内から灼かれるような痛みも呼吸を奪われるような苦しさも。痛い、けど大丈夫
月に狂う事に比べれば恐怖も痛みも耐えられる
そう言い聞かせて【UC】使用

ユール援護を頼む、影は僕があいつに辿り着けるように協力して、必要なら代償は幾らでも支払うさ
細剣を握って捕食を最大限に警戒して冷静に回避して行く
危なければオーラや武器で受ける
鉄錆のにおいを飲み込んで覚悟を決めてカウンターで一撃を叩き込むよ
これは君を殺す一撃にはならないかもしれない
だけど僕の選択が、どうか君を救う未来へ繋がる事を祈っている




 アリステル・ブルー(果てなき青を望む・f27826)はクレリックである。
 彼の捧げる祈りの対象は人の強さと願い。
 人が人らしく自由であれる世界を願い、それをきっと実現できる人の可能性をこそ信仰する。
 故に偽神はその対象にあらず。

「……だけど、可哀想なヒトだね」

 恐らく、彼もフィールド・オブ・ナインになる前は人間だったのだろう。
 そして、望まずして偽神細胞を植え付けられ、神と祀り上げられた果てにオブリビオン・フォーミュラと化してしまったのだとしたら。
 ……そんな考えがどうしても頭を過ぎらざるを得ない。

「ああ、嗚呼、煩い……黙れ、黙れ……ッ、俺に、俺にお前達を救う力など無い……ッ!!」

 眼前の偽神は今も尚反響する祈りの声にただただ苦悶の声を上げ、アリステルのことも同様に縋りつきにきた者と判断し心からの殺意を向けている。
 対抗するには自らも一時的にでも偽神化する必要があり、その為のアンプルも手元にある。
 ――怖い。
 そう思う自分を押し殺すことなく受け入れて、アリステルは自らの身体に偽神細胞液を注入する。

「っ……っく……ぅ……っ!!」

 ――怖い。怖い、怖い。
 内側から灼かれるような痛みが、呼吸すらままならぬ程の苦しさが、その恐怖をより促す。
 ――痛い、痛い、痛い。
 本当に身体が引き裂かれそうな程で立っていることすら辛い。

「……けど、大丈夫……月に狂うことに比べれば……っ」

 人狼病を患った彼にとって、月こそが最も恐れるべきモノ。
 大切なものを奪いかねない程の衝動に呑まれ狂う魔力を秘めているあの光に比べれば、自らの意志を保ち続けられるこの痛みも恐怖も、大したことはない。
 そしてその湧き上がる痛みこそ、彼の力となる。

「……”過ぎ去った日、終わった瞬間、そこに囚われたままの『僕』”」

 それはまるで眠りから目を覚ますかのように。
 アリステルの【在りし日の僕(シャドウ)】は起き上がり、影があった空間という闇から溢れ出る漆黒の炎を纏う。

「代償を支払うよ……頼む、僕には君の力が必要なんだ。僕があいつに辿り着けるように協力して」

 対価に支払うは血と痛み、そして自らの心を灼く憎悪。それらは今無限に湧き出ているも同然だ、必要な支払い分の用意はできているし、いくらでも支払う覚悟はできている。
 闇から生まれた影はそれらの負の因子を力とし、アリステルの忠実な下僕として黒の細剣を構えて突撃した。

「ユール、援護を頼む」

 次に呼び出すのは心を通わせし青い鳥の使い魔『ユール』、ぴ、と愛らしい鳴き声を上げて空へ羽ばたいた。
 そしてアリステルもまた、黒の細剣を握り前へ進む。
 踏み出せば踏み出す程、痛みに身体が悲鳴を上げる――だが、これで立ち止まるワケにはいかない。

「あああああッ!!来るな、俺に、縋るなァッ!!!!!」

 デミウルゴスの異形の左腕がまさに獲物を捕食せんかのようにこちらに向かってくる。
 焦るな、落ち着け――そう言い聞かせ、ユールから送られる情報も頼りにアリステルは一歩ずつ踏み出した。
 そうして自然と左腕が届かない位置に入っていくことで回避する。
 一人と一匹で一人分の視覚と聴覚が、足を踏み出す先を教えてくれて、影が炎と細剣で奴の注意を散らしてくれていて。
 自分は今独りで立ち向かっているワケではないという事実がアリステルを奮い立たせ、恐怖にも痛みにも屈しない勇気を与えて前へと進ませていた。
 だが錯乱しながらも殺意と苦痛に塗れた偽神の攻撃は、冷静に対処しても読めぬ軌道も描いてくる。
 下手に避けようとすれば捕食される――ならば正面から受ける方が良い。
 オーラの防護膜を細剣に何重にも重ね、振るわれる大剣を受け止める。
 骨が軋む音がする。
 偽神細胞液による拒絶反応がよりダメージを増幅させているのだろう、その圧倒的に重い一撃で全身の骨にヒビが入りそうな程の衝撃が走り、防護膜を介しても身体が自身の意志とは正反対に勝手に崩折れる。
 そしてそこに異形の左腕が迷いなく追撃を仕掛け、細い胴体を鷲掴みにし砕かんばかりの勢いで締め付ける。
 鉄錆の匂いが口の中一杯に広がり、深紅の雫か口から垂れる。しかしアリステルの目は死んでいない。
 彼の眼前――偽神の背後から漆黒の炎が上がり、偽神細胞でできたその肉体を焼き焦がす。
 アリステルが受けている痛みを全て返すかのように燃え盛る漆黒の炎が、偽神の口から苦悶の叫びを吐き出させる。

「……ッ!!!」

 握り潰さんとする左腕の力が緩んだその瞬間、アリステルの瞳が覚悟に見開く。
 持てる力の全てを込めた黒の細剣を、偽神の胸に突き立てる――!

「がっ……ぁ……」

 異端の血を啜る呪われし刃が偽神の血を貪り喰らい、力を奪う。

「……これは、君を殺す一撃には、ならないかもしれない……だけど」

 この僕の選択が、どうか君を救う未来へ繋がることを――。

 祈りの句を紡ぎながら細剣が引き抜かれ、床に血が滴る。
 偽神に仕立てられた男の血は紛れもなく真っ赤なそれで。

 アリステルが祈る対象である強さと願いを持つ人々と、全く変わらないものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
へぇ、これを使えば神様と戦えるようになるなんて凄いねぇ
躊躇なく偽神細胞液を注入
…あー、これは酷い、やばい
長年培ってきた激痛耐性で気丈に振る舞うも
それが無ければ情けなく悲鳴上げてたかも
…最近すっかり「普通の人」になってたから
忘れつつあったなぁ、この感覚
でも嫌いじゃない、むしろ――

ああ、梓は無理しなくていいよー
痛みでドラゴンに指示すら出来ない有様になったら困るし
それに、痛い思いする君なんて俺が見たくないからね

UC発動、更に真の姿解放(活性化イラスト参照
拒絶反応を力で無理やりねじ伏せる
ドーピングされた身体に更にドーピングするような狂気の沙汰
この爆発力が許される時間は僅か
闇雲に戦って時間を浪費するわけにはいかない
だから梓のドラゴンたちに囮になってもらい
渾身の一撃を叩き込む瞬間を見極める

敵がうっとおしいハエを払うように
ドラゴンたちに攻撃を仕掛け、俺への意識が反れたその瞬間
Emperor構え、強化されたスピードで一気に接敵
一瞬で力溜め、思いっきりなぎ払い後方へ吹き飛ばす


乱獅子・梓
【不死蝶】
綾は何でもないような顔を保っているが
拒絶反応で汗が噴き出し、息も荒くなっている
背中を擦って声をかけてやることしか出来ない

悔しいが、綾の言う通り、俺がこんなもの注入されたら
痛みでのたうち回ってまともに戦える自信がない
そして結局、俺は偽神化を拒んだ
今回も綾にだけ痛い思いをさせてしまうのかと自分が不甲斐ない

攻撃面は無力だが、俺は俺の最善を尽くす
綾が万全の体制で攻撃出来るようにサポートに徹する
UC発動し、ドラゴンを最大数召喚
強固な鱗に覆われ、出来る限り防御に特化した形状
お前たちの役目はひたすら敵の前に立ちはだかり
纏わりつき、喰らいつき、時間稼ぎをすること
言ってしまえば、顔の周りを飛び回るハエ
奴に「こいつらうっとおしいな」と思わせられれば良し
いくら相手が無敵でもドラコンの肉体をすり抜けられるわけではない
1体払いのけるのに1秒だとしても100秒以上はかかる
底意地見せてやるぞ、お前たち!

愛するドラゴンたちをボロ雑巾のように
使い捨てることになっても綾に勝機を届ける
それが俺の「覚悟」だ




 乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は己の無力さに苦虫を噛み潰さずにはいられなかった。

「……綾」

 隣で迷わず偽神細胞液を注入し、拒絶反応に息を荒げる相棒に声をかけて背中を擦ってやる。

「――大丈夫か」
「……いやあ、これは酷い、ね」

 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は困ったように笑う。
 元より長年培ってきた痛みへの耐性がなければ情けなく悲鳴を上げていただろうと確信できる程の、まるでマグマを直接注ぎ込んで身体を溶かしていくかのような痛み。
 何でもないようないつも通りのにこやかな顔を保ってはいるものの、細胞液を注入してからずっと滝のように汗が噴き出し息も荒い。
 故に、梓は何もしてやれない己に無力さを感じずにはいられなくて。

「……すまん」

 思わず、謝罪の言葉が口をついて飛び出した。
 同じ痛みを背負えれば、少しは気持ちだけでも楽にしてやれたのだろうか――と。
 だが、そんな問いを軽く一蹴するかのように綾から答えがすぐに返ってきた。

「梓は無理しなくていいよー。痛みでドラゴンに指示すらできない有様になったら困るし」
「……」

 悔しいが、綾の言う通りだった。
 もし自分がこの偽神細胞液を取り込めば、痛みでのたうち回って戦いどころの話ではなくなってしまう。
 それは梓自身が一番理解していて、故に彼は偽神化を拒んだ。
 綾にだけ痛みを背負わせてしまう自分に、どうしようもない不甲斐なさを感じながらも――それで相棒を支えてやれないことの方が一番あってはいけないことだから。
 例えそれで悔しさに唇から血が滴る程に噛みしめることになっても。

「それに。

 ……痛い思いする君なんて、俺が見たくないからね」
「!」

 梓の目が少しだけ丸くなる。
 綾も梓の気持ちはわかっていた。
 彼が自分と同じ痛みを背負えないことを歯がゆく思う人物であることは綾自身が一番知っている。
 戦いを知らぬ自分に、旅を通して様々なことを教えてくれた存在。かけがえのない相棒。
 ……そんな彼が痛みに呻く姿を見たい、などと思う相棒がいるものか――なんて、そんなことまでは流石に口にはするつもりはないが。

「……そういうワケだから。サポート、よろしくね」
「……ああ、もちろんだ。俺は俺の最善を尽くす」

 それぞれ獲物を構え、デミウルゴスと対峙する。
 絶え間なく響く祈りの声に最早認識すら正常でない偽神。
 自分たちが見えているのかいないのかわからない正気と狂気が酷く混ざり混濁した、その上で殺意をにじませた瞳と共に、大剣を向ける。

「ああ、ああ、次から次へと縋りつきにくる!!忌々しい!!何故放っておいてくれない……!」

 デミウルゴスの嘆きの慟哭に呼応するかのように、偽神細胞で造られた剣がどす黒い空気を纏う。
 それは一目見ただけで猛毒とわかる程のおぞましい気を放っていた。
 アレを今振るわれるワケにはいかないと、梓は即座にユーベルコードを発動する。

「"集え、そして思うが侭に舞え"!!」

 【竜飛鳳舞(レイジングドラゴニアン)】により呼び寄せられた竜、その数およそ113体。
 今まで呼び出してきた竜たちの中でもっとも強固な鱗を持ち、防御にすぐれた竜の群れが一斉に偽神に牙を向け、飛びかかる――!

「邪魔、だァァッ!!」

 デミウルゴスの大剣が大きく振るわれ、見た目以上の距離まで届いたその一撃が一気に2体程ドラゴンを斬り伏せる。
 まるで酸が溶かすかのようにその強固な鱗が崩れ落ち、肉をえぐられて地に伏せたドラゴンたち。
 大剣に纏われた強毒化した偽神細胞がその生命を蝕み、死に至る程の拒絶反応を齎したことにより動くことすらままならない。
 ずきり、梓の胸が痛む。
 だが、それでもやらねばならない。自分の役目はドラゴンを操ることでひたすらデミウルゴスの前に立ちはだかることだ。
 ダメージが通らないことなど知ったことではない。いや、むしろ通す必要はない。
 目の前で同胞が即死寸前の一撃を喰らったことに臆すことなくドラゴンは次々にデミウルゴスに飛びかかる。
 纏わりつき、その肉に喰らいつき、動きを抑制して。

「がぁあああああああああッ!!」

 再びデミウルゴスの一撃がドラゴンたちを斬り捨てる。
 しかし即座に次のドラゴンが飛びかかり阻害、結局二人に届く一撃は未だ与えられない。
 そうして時間稼ぎをすることが梓の役割だ。
 相手がいくら偽神細胞がない相手に無敵であるとはいえ、世界によっては史上最強の生命体とも呼ばれるドラゴン、その肉体を容易にすり抜けられるワケではない。
 1体払いのけるのに1秒、100体以上で向かえば100秒以上。

「――まだだ!底意地見せてやるぞお前たちッ!!」

 梓の号令にドラゴンたちが鬨の咆哮を上げ、死を恐れず偽神に立ち向かう。
 これはある意味死地に赴かせているにも等しいことなど百も承知だ。
 だが、例え愛する彼らをボロ雑巾のように使い捨てることになったとしても、勝機を届けなければ行けない相棒がいる。
 ドラゴンたちも主の意を汲み取っているからこそ、迷いなく神風の如き特攻をしかける。
 ――梓の「覚悟」を、無駄にしない為に。

「……」

 そして綾は愛機たる『Emperor』を構え、その光景から一秒たりとも目を逸らさない。
 梓のドラゴンたちがデミウルゴスに飛びつくことで囮になっている間に一撃を見舞うタイミングを見極める為に。
 相棒の覚悟を無駄にすまいと、確実に仕留められるその時をただただ待ちながら、同時に身体を蝕む痛みに想いを馳せる。

「(……忘れつつあったなあ、この感覚)」

 かつてはこんな痛みに塗れ続けることなんて日常茶飯事だった。
 だが今は違う――「普通の人」として、様々な世界を旅して。色々なことを知って。
 戦いだけが己の全てではなくなった。
 そして相棒の存在があったからこそ、この感覚からは非常に遠くなっていた。だがだからといって嫌になったワケではない。

「(でも嫌いじゃない……むしろ――)」

 マグマのように沸騰するかのような体温の上昇も。身体を引き裂くような痛みも。
 呼吸するのすらままならない程に喉が詰まるような感覚も。
 全てが全て、懐かしく、愛おしさすらも覚えた。

 ――ああ、これが戦場の感覚だ、と。

 ひたすら戦いに明け暮れ、殺し合いを楽しんでいたあの時の感覚が蘇って――!

「……ふふっ」

 無意識に口元が綻んだその時、湧き上がる感情が綾の中に眠るヴァンパイアの血を再び呼び醒まし、超克の果てへと誘う。
 真っ赤な真っ赤な蝶の群れを従えて、6枚の翼を背に広げ。胸に深紅の蝶の刻印を刻んで舞い降りる廃戦場の揚羽。
 その目は何かを封印するかのように覆われながらも、確かに機を見定める。
 拒絶反応は力で無理やりねじ伏せた。
 ドーピングにドーピングを重ねる狂気の沙汰、普通の人間がやれば間違いなく反動で死ぬ程だろう。
 長いこと「普通の人」をやっていたが故に、この後もしかしたら自分はただでは済まないかもしれない。
 だがそれでも倒さねばならない存在が目の前の偽神で、それに渾身の一撃を振るうことこそ、相棒の「覚悟」に応えるに相応しい結果なのだ。
 故に、迷うことは何もなかった。
 決意と同時に湧き上がる感情を押さえつけるのではなく、溜め込んで……一気に爆発させるだけ。

「あああああああああああ!!鬱陶しいッ!!俺の邪魔をするな!!!縋るなッ!!!!」

 デミウルゴスが怒りに吠え、大剣を勢いよく振るう。
 薙ぎ払われるようにドラゴンが吹き飛び、壁に、地面に叩きつけられる。

「させるか……ッ!!」

 梓の指示で次の一撃を振るおうと構えたデミウルゴスの右腕をドラゴンが捕らえ、さらに彼を護るように飛ぶ『焔』と『零』がそれぞれブレスを放ち牽制。
 それらはダメージを与えることはできなかったが、奴の視界を完全に阻害した。

「がああああああああああああああッ!!!」

 獣のような咆哮に呼応するかのように偽神の大剣が強毒化した断罪剣を活性化させ、ドラゴンから抵抗する力を奪ったデミウルゴスが一気に踏み込む。
 梓目掛けて、その大剣を振り下ろそうとした、その刹那。

「――……ッ……!」

 『Emperor』の一閃が偽神を捉える。
 その一番大きくできた隙を狙っての綾の渾身の一撃が、偽神の身体を強く打ち据えて遥か後方へと吹き飛ばす――!
 声にならない声を上げ、打ち付けられた壁を何枚も砕きながらデミウルゴスは遥か後方へと追いやられていく。

「綾……!!」

 直後、まるで持てる力全てを振り絞ったかのように力なく崩折れる相棒を抱きとめる梓。
 その身体から体温は失われていない。さらに言うなら静かに寝息を立ててすらいる。
 ユーベルコードの効果が切れると共にオーバーロードも解除されたのだろう、その姿はすっかり普段の綾そのものだった。

「……はー……!」

 それがわかった途端、梓も力が抜けたかのようにへなへなとその場に崩折れる。
 知らない間に随分と緊張の糸が張り詰めていたのだろう、よく見ると自分の手が震えていた。

「覚悟があっても、緊張するのはするもん、か……――おっと」

 「キュー!」「ガウ!」と、『焔』と『零』が梓と綾にすり寄ってくる。
 大丈夫?と言いたげに。
 梓がユーベルコードで召喚したドラゴンたちも、動ける者が皆彼に集まって主を気遣うように喉を鳴らす。

「……ありがとうな、お前たち」

 信じて、応えてくれて――心からの感謝と、慈しむような微笑みを彼らに浮かべる梓。
 傍らで眠る綾には聞こえていないのだろうが、その表情はいつものように……いや、もしかしたらいつもより穏やかな笑みを浮かべていたように見えた、かもしれない。
 確かに大きな一撃を刻み込んで、二人はグリモアベースに帰投した。かけがえのないドラゴンたちと共に――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

アンプル内の偽神細胞に憑依し、化術肉体改造で偽神細胞のみで新しい肉体を再構築。失敗すれば死、だが耐えきれれば……限界突破リミッター解除オーバロード、真の姿として偽神化した姿を構築できる。
さて、強毒化した偽神細胞に死に至る拒絶反応か。だが、そこから自らの内に生み出される苦痛も恐怖も感情エナジーだ、ならばソレを捕食しエネルギー充填しよう。外的要因による自家発電みたいなものだが、リソースは確保しておくにこしたことはない。
ふむ、死は救済たり得ない。ええ、あなたにそれを思い知らせてあげるわ。『夜』に抱き、『夜』に蕩かせ、『夜』に堕とすことで♡こういう真面目な人ほど一度ハマると抜け出せなくなるのよねぇ♪
だからフロンティア・ラインで愛でてあげるわ。あなたの偽神細胞を化術肉体改造で私と融合させ作り変えてあげる☆偽神細胞を別物に改造してしまえば声も聞こえなくなるでしょ?ま、医術で脳を弄って聞こえなくなるする手もあるけど。
さぁ、『夜』(アリス)と一つに蕩けましょ♡




 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗のケイオト魔少女・f05202)はアンプルを手に戦場に立つ。
 目の前で今も尚祈りの声に苦悶する偽神を前に、思考する。

「(……失敗すれば死。耐え切れれば)」

 注射器に移し替えずに持ってきたアンプルの蓋を開き、自らを霊体化させる。
 それは化術とサイキックヴァンパイアとしての特性を応用した強制的な肉体改造にして、ある種自らの身体を使っての人体実験。
 "偽神細胞液そのものに憑依"することで、偽神細胞の分裂を過剰促進させて肉体の再構築を試みたのだ。
 当然、拒絶反応はある。
 これに耐えられなければ彼女は即座に死に至るであろう程の苦痛が何重にも重なって襲ってくるが、それでも最後の意識の一線は保ち、偽神細胞を自らの支配下に置こうと手を伸ばし続け――それは実った。
 アンプル内の細胞液が突如湧き出た源泉のように溢れて噴き上がる。

「……何、だ……?」

 デミウルゴスが何かに導かれるかのようにそれを見た。
 彼の携える偽神細胞で造られた大剣がまるで共鳴するかのように反応を示している。
 新たな偽神が生まれようとしている、と。
 ここで、初めてデミウルゴスは祈りの声が形を成した幻覚ではなく、目の前に立ちはだかる相手を視認した。
 溢れ出した偽神細胞液の勢いは徐々に収まり、どろりと人の形を作る。
 本来の少女の面影はそのままに、煌めく星の力を内包する『夜(デモン)』の翼をその背に広げた女性――それこそがアリスの真の姿。
 偽神細胞そのものと一つになることで、超克(オーバーロード)を果たした偽神となったのだ。

「……自ら、偽りの神になったというのか……正気か……!?」
「正気も正気、私は大真面目にここにきているわよ?偽神化しなければ貴方に痕の一つもつけられないのならこうするしかないわ。まあ、貴方とは色々勝手が違うようだけど」

 拒絶反応が全部消えたかというと否だ。ただそれを、自らが一体化したことによってまだ支障がない程度に抑え込んでいるに過ぎない。 
 当然、デミウルゴスはそういうことを言いたいワケではないことは理解して敢えて言っている。

「……わざわざ自分から苦しみ藻掻くしかない道を選んだというのか。バカなことを」
「バカかどうかはこの先訪れる結果を見た者が評価すること、それを決めるのは貴方でも私でもない。
 でも……そうね、一つ答えるとするなら――あなたに思い知らせたいことがあるからこうする必要があったからこうした、かしらね」
「………ならば思い知らせてみろ。そしてあわよくば、俺を終わらせてくれ」

 デミウルゴスの大剣がまるで生き物が嘶くかのように振動する。
 それは黒い靄のようなものとなって辺りを包み、アリスの肉体を構成する偽神細胞に干渉した。
 デミウルゴスの肉体も装備も全て偽神細胞でできており、縋る声に答える力はなくとも偽神細胞そのものを自在に操ることはできる。 
 自らの偽神細胞を強毒化させて散布し、それを取り込んだ者に死に至る拒絶反応を与えるのだ。
 細胞というものは目に見えないものを回避する術などそう簡単にはない。だがアリスはその毒を敢えて受け入れ、その苦痛を享受する。
 死が迫る苦痛も恐怖も全て感情というエナジーであり、絶望が迫る時の感情程凄まじく効率の良いエネルギーはない。
 自らのそれを冷静に俯瞰し、糧として捕食することでそれを耐え忍ぶ為の継戦能力と同時にリソースとすることで死に至らしめるその拒絶反応を抑え込む。

 ――神よ。

 同時に、アリスは神に縋る声を聞いた。
 恐らくデミウルゴスの脳内に響き渡るものと全く同じなのだろう、目の前で頭を抱えて苦しんでいる姿が見える。

「やめろ……やめろッ、俺にはお前たちを救う力などない……ッ!!」

 老若男女問わず、あらゆる人の神を乞う声が無限に脳内で反響し続けることが如何に恐ろしいだろうか。
 自分の声は決して届かず、ただ一方的に脳内を侵蝕され続けるかのような感触――ただの人間であれば狂気に陥るのは当然だろうとアリスは冷静に状況を見ていた。

 ――そう、ただの人間であれば。
 狂った教団によって祀り上げられた偽りの神というのは間違いではないらしい。

「真面目ね。声がいくら響こうと救えないならそのまま聞かずに放置すればいいのに」

 私ならそうする、と。
 強毒をさも何ともないかのように振る舞いながらアリスは静かに近づき……その頬に手を触れる。
 そして無理やり視線をこちらに向けさせた。

「死は救済たり得ない。ええ、あなたにそれを思い知らせてあげるわ」
「なら、何が救いだ――……と……!?」

 デミウルゴスは言葉を失くす。
 それもそうだ、何の前兆もなかったのに目の前にただただ暗い夜の空間が広がっているのだから。
 そして自らに触れるこの偽神化した女性はまるで愛でるような視線をこちらに向け、さらに顔を近づけてくる。

「……な、にを」
「言ったでしょう、死は救済たり得ないと思い知らせるって。

 ……そう、『夜』に抱き、『夜』に蕩かせ、『夜』に堕とすことで♡」
「は……???」

 デミウルゴスの頭がまた別の意味で混乱し始めた。

「貴方みたいな真面目な人ほど一度ハマると抜け出せなくなるのよねぇ♪」
「な……ん……??」

 絶句している様子がまた何とも言えない。
 実に初な人の反応だとアリスの中の小悪魔がニヤリと笑う。そう、こういう人程この手のには疎いし鈍いし、何より一度ハマると抜け出せなくなるのである。
 だが、そうして忘れてしまえば何も気にすることはないのだ。

「だから、あなたの偽神細胞を私と融合させ作り変えてあげる☆別物に改造してしまえば声も聞こえなくなるでしょ?」
「なっ……できるワケがないだろう!!」
「あら。試してみないとわからないわよ?――ま、医術で脳を弄って聞こえなくする手もあるけど」
「っ……!!」

 こいつはヤバい。
 ……デミウルゴスはそう直感した。
 したのだが、不思議なことに身体が全く言うことを聞かない。
 それどころか内側から何かがこみ上げるような感覚にくらくらと目眩がしそうにすらなっていた。
 アリスがこちらを見つめてくる程に力が抜けて、何も考えられなくなってくる。むしろこの身を委ねたくなるような気さえしてきた。
 当然、これらは全てアリスのユーベルコードによるもの。
 【模倣結界術『フロンティア・ライン』】によって築かれた夜の結界が彼女の眷属になることを望ませるよう感情を植え付け、見えざる文明侵略の衝撃波でデミウルゴスの偽神細胞そのものに直接干渉。
 そうしてじっくりと作り変えていく。
 苦痛はない。ただあるのは『夜』に抱かれ、蕩けていく心地良さだけ。
 狂気に苛む人々の縋り付く声も、偽神細胞による苦しみも、ここには何一つとして存在しない。

「さぁ――『夜』(アリス)と一つに蕩けましょ♡」
「……っ……」

 縋る声とはまた違う、少女の声が脳内に反響して。
 抗うという発想も既に無くした偽神の手は、だらりと力なく垂れた。

 ――それからどうなったのかは、彼女のみぞ知る。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィゼア・パズル
【白岩】
異物を排除しようと細胞が奮え上がり全身が燃える様にあつい
全身に廻り始めた痛みに気が遠くなりそうな中…目の前へ意識を向け直す。
偽神の嘆きへ『そうか』と笑った。
「それが『普通』なのだろう、な。」
オーバーロード発動・真の姿解放
「頼もしい…では任せよう。」
一番槍を勤める月隠へ

仲間と連携を取り波状攻撃
「超常の力が揃い、他者が神と呼ぶのなら其れは神に他ならない。」
きっと、お前は、神なのだろう。
【属性攻撃】を応用した【2回攻撃・カウンター】にて一撃目は呪詛たる「毒性」を攻撃しダメージ軽減を図る

「私の故郷では、神とは他称なのですよ。どれほど当人が否定しようと神としての能力を有した者は神だ」

「しかし貴方には心(チカラ)が無い…心の器だけがヒトだったのですね」

【二回攻撃・全力魔法・空中戦】同時に2撃目は【属性攻撃】にて『虚無』を産み出す星脈精霊術
苦い顔のエスタに気付けば流し目に苦笑を溢す
偽神として耐え抜いた時間へ敬意を表し、最期は彼の望む様に彼自身を『無』へと還しましょう
「その意思、風と共に在れ。」


月隠・三日月
【白岩】
これが偽神細胞液……まあ、何事も経験だよね。デミウルゴスにダメージを与える唯一の手段を使わない手はない。
命が惜しいのなら、そもそも戦いに出てはいないよ。

私は皆さんのサポートに回ろう。デミウルゴスと拒絶反応、両方との戦いだ。足止め役がいた方がいいだろう?
敵の撹乱を狙って暗器を投擲しつつ【紅椿一輪】で敵を攻撃しよう。特に敵が仲間を狙っているときは、できるだけ邪魔をしたいね。
「此は全てを断つ呪いの刃……神様も斬れるかどうか、試してみたいね」等と敵を【挑発】しようか。敵の意識をこちらに向けられれば御の字だ。正直、拒絶反応でかなりキツいんだけど、ギリギリまで強気に出てやるよ。

敵の偽神細胞に捕食されるとUCがコピーされるから、見つけ次第斬っておきたいね。コピーされても紅椿一輪は妖刀ありきの技、完全には再現されないと思いたい。

神だろうが何だろうが、私はあまり興味がないのだよね。敵なら倒すまでだ。
けれど、デミウルゴスの在り方を考えるヒトがいることは、何もなく死んでいくよりはいいことなのだろうね。


エスタシュ・ロックドア
【白岩】
その意気やよし、三日月
任せたぜ

俺ぁ拒絶反応は【激痛耐性】で耐える
古傷開いて血の代わりに青い業火が垂れ流しになるが、
あとですぐ使うんだ
気にしねぇ
オーバーロード使用
真の姿開放
殺してくれか、望み通りにしてやろう
獄卒が引導を渡しにやって来たぜ

鴉衣まとい、鴉火車に乗って、
背中の翼を羽ばたかせ、【空中浮遊】【空中戦】
獲物を啄む鴉の如くヒットアンドアウェイ
燧石を渾身の【怪力】で振り下ろすぜ
敵が負傷したら容赦なくその【傷口をえぐる】
反撃が来たら【カウンター】
『群青業火』発動
全身から業火を噴き上げて敵を【焼却】
敵が業火を食って返して来たら【火炎耐性】で耐えながら、
構わず燃やし続ける

ヴィゼアの言にゃ苦い表情するぜ
かくあれかしと押し付けられる気持ちはわからねぇでもねぇからよ
……あんたが悪ぃんじゃねぇのにな
どうして燃やさねぇといけねぇんだろうな
笑わせるよな
裁く相手を間違えてるぜ
ああ、だからって
見逃したって何にもなりやしねぇんだ
せめて荼毘に付してやる
地獄の業火で悪いがよ




 再建されたデモイン砦も最早数々の戦いで再び廃墟とも同然になっており、その中心でデミウルゴスは蹲っていた。
 ぶつぶつと、うわごとのように「煩い」「黙れ」「縋るな」、その3つの言葉を繰り返している。

「これが偽神細胞液……」 

 身体の奥底から焼けるような熱さと引き裂かれるような痛みに改めてその強さと恐ろしさを実感する月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)。
 それぞれの身体を構築している細胞が異物を排除しようと震え上がれば震え上がる程、それはより強烈に。
 少しでも気を抜けば持っていかれそうな拒絶反応。

「……まあ、何事も経験だよね」

 偽神細胞液を用いて偽神化することがデミウルゴスにダメージを与える唯一の手段である。ならば使わない手はないし、そもそも選択肢として存在していない。

「それに、生命が惜しいのならそもそも戦いに出てはいないよ」
「その意気やよし、三日月」

 同意を示すエスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)。
 彼の拒絶反応は誰が見ても特に著しいと感じざるを得ない状態であった。
 偽神細胞への拒絶反応はこれまでに彼がこれまでに受けた古傷、その傷口を再び開き、青の業火が血液の代わりに垂れ流しになっている……古傷が開けば、当然痛みも尚の事増す。
 ――後ですぐ使うんだ。そう一切気に留めず、目の前の偽神を見る。

「ああ、もう、やめろ……やめてくれ……もう聴きたくない……!」

 ――誰かコレを止めてくれ。……殺してくれ。

 そう叫ぶ偽神の頬から伝った雫は果たして涙なのか、それとも。
 気が遠くなりそうな中、ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)は目の前に意識を向け直すと同時に偽神の嘆きを耳にしてふっと笑う。

「……そうか。それが『普通』なのだろう、な」

 神というものの概念は多岐に渡り、どの姿がその場にとっての『普通』なのかははっきりと断ずることはできない。
 だが、ヴィゼアの中の神の概念と目の前の男にとっての神の概念は紛れもなく違っていて。
 自分の知る神の概念は、少なくともここにおいては――否、この眼の前の男にとっては『普通ではない』のだろうという認識だけは確実だと認識した。

「殺してくれ、か。……望み通りにしてやろう」
「ああ、そうだな」

 ――超克(オーバーロード)。
 猟兵が至った新たな極致、その秘奥を解放する。
 ヴィゼアのケットシーの身体が人の形を取り、エスタシュは鴉衣を纏った大鴉となり、戦場に翠風と蒼炎が吹き荒れる。
 その空気の変化でようやくデミウルゴスがこちらを向いた。
 疲弊と狂気で濁りきった視線を向け、黙って大剣を構える。

「……誰だ。お前も縋りにきたのか」
「いいや。……獄卒が引導を渡しにやってきたぜ」
「……そうか。ならば渡してみせろ」

 そう言って散っていった者しか見たことがないのでな――自嘲気味に偽神は言う。
 空気がまさしく一触即発のものと化し、各々得物を構える。

「私は皆さんのサポートに回ろう。デミウルゴスと拒絶反応、両方との戦いだ。足止め役がいた方がいいだろう?」
「頼もしい……では、任せよう」
「ああ。任せたぜ三日月」

 戦いの火蓋は切って落とされた。
 一番槍として三日月が先陣を切り、暗器を投げつけて牽制する。当然簡単に当たりはしない一撃で、故にこそ牽制に最適だ。
 化身忍者特有の素早い身のこなしで動き回り、四方八方から投げつけて撹乱してやる。
 そうしてデミウルゴスが三日月に気を取られている間に、鴉火車に乗り翼を広げたエスタシュが空中から迫る。
 その燧石を渾身の怪力にて振り下ろすも、デミウルゴスはその一撃を携える大剣で受け止めた。
 上空からかかる重量と力に辺りの大地が抉れて窪む、だがその偽神細胞でできた大剣は、燧石の一撃を受けても尚刃こぼれ一つすらしない。
 エスタシュはそのまま追撃をかけず距離を取り、デミウルゴスは追撃をかけようとして三日月に阻まれる。

「――落ちろ」

 【紅椿一輪(クビキリツバキ)】の紅染の一閃はその刃に触れたもの全てを切断する。
 その脅威を本能的に悟っていたのか、デミウルゴスもバックステップを取り、大剣の刀身そのものが切断されることは避けた。
 刃こぼれした大剣が嘶くかのように震え、黒い靄を辺りに生み出す。
 強毒化した偽神細胞の分裂と増殖が始まったのだ。
 まともに受ければ拒絶反応に加えて死に至る程の苦しみを味わうのは間違いない。
 三日月は即座に再び【紅椿一輪】で空気中に漂う細胞を切り捨て、風向きそのものも変えてやる。

「超常の力が揃い、他者が神と呼ぶのなら――其れは神に他ならない」

 きっと、お前は、神なのだろう。

 そう告げるヴィゼアの精霊術が生み出す清らかな翠風は、毒化した偽神細胞、その毒性を呪詛として浄化していく。
 場を包む重く苦しい毒の流れを消し去り、文字通り風通しを良くすれば強毒によるダメージの軽減を図ったのだ。
 結果は上々であり、三日月とエスタシュの接近も容易になるだろう。

「狂った教団が生み出した紛い物でしか無いものを神と呼ぶなど……!!」

 デミウルゴスが一気に踏み込んだ。
 ヴィゼアの言葉が奴の心の奥底、触れてはいけない領域に入り込んだからなのか、強い毒素と化した偽神細胞を纏った大剣を大きく振りかぶろうとする。
 だが仲間に手を出そうとすれば、当然仲間が道を阻むもの。
 再び上空からエスタシュが迫り、毒素ごとその大剣を受け止め、さらに三日月の一閃が毒素と大剣そのものをまとめて切断。
 追撃で投げつけた暗器がデミウルゴスの右腕に深々と突き刺さり、否応無しに距離を取らせる。

「此は全てを断つ呪の刃……神様も斬れるかどうか、試してみたいね」

 剣はこうして斬れたのだし、と三日月が挑発する。
 正直に言うと拒絶反応が表情を作るのすらキツい領域にまできているのだが、ギリギリまでそれは見せない。
 相手に付け入らせる隙を与えるワケにはいかない、それが仲間を護ることに繋がるなら尚更だ。

「俺は……神なんかじゃない……!」
「神だろうが何だろうが、私はあまり興味がないのだよね。敵なら倒すまでだ」
「っっ……黙れ!!」

 ぎり、とデミウルゴスが歯軋りする。
 それは確かに気を引くには最適な一言であっただろう、何せ逆鱗に触れたのだから。
 その怒りに呼応するかのように既に異形化している左腕が変容し、まさに噛みちぎらんとする猛獣の口が如き凶器へと変わる。
 このまま距離を取って躱せば避けられる距離であるが、拒絶反応が邪魔をして三日月の動きを鈍らせ、一気に踏み込むことを許してしまう。

「ぅ、っ……!」

 痛みに飛び出そうな声を噛み殺す。
 間一髪で何とか身体の一部を持っていかれることは避けた。利き腕も無事だ。
 だが確かに傷を受けた、すなわち血という身体の一部を食われたのには変わりない。
 デミウルゴスの偽神細胞が三日月の【紅椿一輪】を模倣し、異形の左腕が刀を形作り、そのまま追撃を仕掛けようと――して、阻まれる。
 ヴィゼアの【星脈精霊術(ポゼス・アトラス)】が闇属性と落雷を合成し、空中から攻撃。割って入ったのだ。

「私の故郷では、神とは"他称"なのですよ。どれほど当人が否定しようと、神としての能力を有した者は神だ」

 故に、ヴィゼアはデミウルゴスを神と呼ぶ。先程投げかけた言葉はそういう意味であると、静かに語る。

「……っ、例えそれが、偽りだとしてもか」
「ええ。――しかし貴方には心(チカラ)が無い。

 ……心の器だけが、ヒトだったのですね」
「……!」

 デミウルゴスの目が怒りとはまた別の感情に見開いた。
 同時にヴィゼアの星脈精霊術が再び紡がれ、虚無を産み出す一撃がデミウルゴスの左腕を喰らう。
 虚無に食われた左腕、そこから血が溢れ出るのを塞ぐかのように。

「……ッ!!」

 エスタシュが三度空から飛びかかる。
 ヴィゼアの言葉に思うところがあったのか、敵に向けるには程遠い苦い表情で。
 それを流し目で見たヴィゼアが苦笑しているのが見える。だがわざわざ一瞥する必要も時間の余裕もない。
 その上で、決してその勢いを鈍らせることはなく、燧石で左腕をえぐるように打ち付けた。

「っ、が……ぁッ!!」

 左腕から走る痛みにデミウルゴスが吼える。だが奴の勢いもまだ衰えず、右腕がエスタシュの肩を貫いた。
 だがエスタシュは敢えて引き抜かせまいと燧石から手を離してその右腕を掴んで離さない。
 
「"此処に示すは我が血潮、罪過を焙る地獄の炉、以て振るうは臓腑の火"――!!」

 紡ぐはユーベルコードの詠唱句。
 【群青業火(ブレイズアズール)】――傷口から噴き上がる地獄の業火で、自分諸共に偽神を包み込む!

「ぐ、おおおおおおあッ!!!」

 突き刺した右腕が焼かれ、包み込む炎で左腕も焼かれる偽神デミウルゴス。
 偽神細胞は彼を生かそうとするかのようにその地獄の業火をも模倣し、同じように焼き尽くさんとするが――

「――かくあれかしと、押し付けられる気持ちはわからねえでもねえ」
「!」

 神として祀り上げられるのとはまた違うが、エスタシュもまたある意味ではそうだった。
 獄卒の生まれ変わりと信じられ、宿命に従うことが当然だと。
 我ら前世獄卒、今生一時の暇。死後は十王の下、罪人の呵責へ戻らねばならぬ――
 そんな信仰も知るものかと飛び出して今に至るのがエスタシュである。
 ある意味で、偽神は彼にもしかしたら存在していたかもしれない別の道、その成れの果てのように感じてならなかった。

 そう、わかっているのだ――彼も"犠牲者"であると。

「……あんたが悪いんじゃねえのにな。どうして燃やさねえといけねえんだろうな」
「……」
「笑わせるよな。裁く相手を間違えてるぜ」

 絞り出すように紡がれる言葉。
 先程からの苦い顔から表情は変わらずとも、エスタシュは目の前の偽神から決して目を逸らさずに地獄の業火を上げ続ける。

「……そんなことを言ったのはお前が初めて――いや、もしかしたら。俺が聞こえていなかっただけかもしれんな」

 デミウルゴスの声が、不思議な程に穏やかに紡がれる。
 先程まで自らに縋り続ける声に、自らを神と称する言葉に怒り、それ故の狂気に呑まれていたというのに。

「――だが、俺は」
「ああ、だからって見逃したって何にもなりやしねえんだ。せめて荼毘に付してやる。……地獄の業火で悪いがよ」
「……そうか」

 ふ、とデミウルゴスの口元が緩む。
 模倣したユーベルコードの業火が勢いを潜め、エスタシュの地獄の業火はそれをも飲み込んで燃え盛る。
 その業火を、デミウルゴスは静かに受け入れた。
 脳内に反響する声と違って、自らを焼く音は非常に心地よく、そして静かに感じられたのか。とても穏やかな表情を浮かべて……

「…………ああ……静かだ、――」

 最期に動いた口から出た言葉は声になることはなかった。だが、何を言おうとしているのかを理解するのはエスタシュには容易だった。
 三日月もヴィゼアもその表情を離れて見ているだけではあるが、偽神の紡いだ最期の言葉が何なのかを悟った。
 地獄の業火が収まっていく。
 エスタシュの足元には、かつて偽りの神と祀り上げられた男だった灰が積み重なる。

「――その意思、風と共に在れ」

 その灰を、ヴィゼアが精霊術でを使って無へと返す。永きに渡り偽神として耐え抜いた一人の"ヒト"へ敬意を評し、安らかな眠りを祈って。

「……先程も言ったけど。神だろうが何だろうが、私はあまり興味がないのだよね」

 けれど、と三日月は風にさらわれ虚無に消えゆく灰を見上げて。

「デミウルゴスの在り方を考えるヒトがいることは、何もなく死んでいくよりはいいことなのだろうね」

 少なくとも、それでデミウルゴスは確かに救われたのだろう。
 死にゆく間際の声は、望んでいたことであったというのを加味してもとても穏やかなものだったから。


「……よし、帰るか」

 彼の痕跡が無に還ったのを見送ってエスタシュが踵を返し、ヴィゼアと三日月がそれに続く。

「正直、私は少しでも気を抜いたら意識が飛びそうな気がしてる」
「月隠に同じく」
「流石に今回ばかりは背負って帰ってやれる程の体力はねえぞ……」

 拒絶反応をはぐらかすようにそんなやりとりをしながら、三人はグリモアベースへと帰投する。


 ――かくして、偽神へと祀り上げられた哀れな男は眠りについた。
 願わくばその眠りが安らかかつ、永遠に妨げられることのないよう、祈っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月23日


挿絵イラスト