アポカリプス・ランページ⑰〜アフターファイブ
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「何オンスあるんでしょうね、このグローブ」
割とどうでも良い疑問に首を傾げながらカルパ・メルカが取り出した資料には、恰幅の良いスーツ姿の男の姿が描かれていた。何者か? 既に予兆で目にした方も多いだろう。フィールド・オブ・ナインの第一席、『プレジデント』である。
「はい、そんな訳で今日も今日とて戦争のお話で御座います」
只今絶賛開催中の大戦争アポカリプス・ランページは、今のところまあまあ好調に推移していると言って良い。各戦場では順調に敵兵力を削れていたし、ストレイト・ロードによって次なる戦場への道を拓けてもいた。とは言え、まだスケジュール的には半ばに差し掛かった程度。六体のオブリビオン・フォーミュラは何れも健在であり、それぞれ戦後の計画を準備してもいる。楽観視して良い状況とも言い難い。
で、あるからして。
その問題のボス格をぶちのめしに行きましょう、というのが今回のお仕事である。
行先はコロンビア特別区。かつてこの地に国家が健在だった時分、首都として機能していた計画都市だ。その中心部に聳え立つ、ワシントン記念塔と呼ばれる巨大なオベリスク前が戦場となる。
モニュメントや周辺の街並みは完全修復されており、まるで復興を遂げたかのようにも見えるが、見掛けだけであり、実際には無人のゴーストタウンである。一般人を巻き込む心配などはないので、多少は派手にやっても問題ないだろう。真に復興を目指す時の事を考えると、無駄な被害は極力抑えた方が良いかもしれないが。
敵は最初にも少し触れた通り、ソーシャルディーヴァ・プレジデント。他所の有力敵と同じく二種類の戦術を持つが、この場では機械化した両拳を軸とした拳闘スタイルで猟兵達を迎え撃たんとする様子。
「アレです。強敵です」
何しろフォーミュラである。とっくにご存知の事と思うが、その秘めたる戦闘力は並のレイダーとは一線を画する。苦戦必至の難敵だ。
では、どのように立ち向かえば良いか。
「こちらも並じゃない状態で挑みましょう」
即ち、真の姿である。
エルドラド郡での戦いを経てプレジデントのソーシャル・ネットワークに混線したからだろうか、大統領の放つ強い精神波が猟兵にも影響を及ぼしているようだ。それによってこの戦場では窮地に陥る以前から、真の姿への即時変身が可能となっている。上手く活用すれば優位に戦える筈だ。加えて。
「どうやら、ボクシングで戦うと精神波の効果が強く働くみたいです」
ボクシングのルールを知らない方もいるかと思うが、イコール“殴り合い”と認識して頂ければ概ね相違ないかと思われる。リングなし、ラウンド制もなし、レフェリー不在で体重も無差別となれば、もはやルールも何もあったものではないのだ。と言うかそもそも大統領自身が近代ボクシングのルールからだいぶ逸脱している。
そんな訳で。真の姿に腕が生えてません、といった方々にはどうしようもないが、格闘戦が得手ならば試しに殴ってみても良いのではなかろうか。
「まあ皆様それぞれ得意なスタイルがあるでしょうし、最終的にはお好みで」
あくまで拳打だとバフが乗り易いというだけの話であって、他の戦術には他の優位性がある。道は一つではない。
「要は最後に勝ちさえすれば良いのです」
簡単でしょう? グリモア猟兵は気軽に言って、そして戦場への道が開かれた。
喧嘩のお時間である。
井深ロド
ペンは銃よりも強し。井深と申します。
掌を回転させつつ頑張りますのでお付き合い下さい。
プレイングボーナス……真の姿を晒し、ボクシングで戦う(🔴は不要)。
第1章 ボス戦
『プレジデント・ザ・ショウダウン』
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POW : アイ・アム・プレジデント
自身の【大統領魂】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : プレジデント・ナックル
【竜巻をも引き起こす鋼鉄の両拳】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : アポカリプス・ヘブン
【対象を天高く吹き飛ばすアッパーカット】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜刀神・鏡介
プレジデントはオブリビオン・フォーミュラである。つまり強力な力を持っているのは分かる
それがボクシングなのはどういう事なんだろうな。ボクシングの実力で成り上がったとか?
ともあれ、精神を統一して真の姿に変身
相手が真正面から殴りかかってくるなら、此方も正面から挑んでやる
敵のパンチを全力で受け止めたり、受け流して回避しながら片腕を狙って無の型【赤手】の反撃
鋼鉄の腕だけあって簡単には破壊できないだろうが、一点を狙っていけば壊すなり、機能不全を起こすくらいは出来るだろう
片腕を止めた後も変わらず同じ腕を狙う
油断はせず落ち着いて対応するが、大仰な鉄の腕で覆っている辺り、それがなければ能力は幾分劣るんじゃないか
戦場へと乗り込んだ黒髪黒眼の青年は、人ならざるものの存在を肌で感じた。
気配の出どころは眼前、悠然と来訪者を待ち受ける男から。青年もまた人外の領域に足を踏み入れた側だったが、これはその立場からしても十全に脅威と呼べるものだ。流石はオブリビオン・フォーミュラと呼ぶべきか。だが。
――ボクシングなのは、どういう事なんだろうな。
青年、夜刀神・鏡介は何よりそこが気になってならない。
彼はサクラミラージュの出だ。不死の帝が治める帝都の元、国家統一が為された世界の住人には、異世界で如何にして国家元首を決めるのか中々想像し難い。ボクシングの実力で成り上がった? 果たしてボクシングで成り上がれるものなのか? どう考えても政治とは無関係の技能だろう? 疑問は尽きない。尽きなかったが、いや、今は忘れよう。
ともあれ、仕事だ。
雑念を払えば、黒い瞳が紅く染まった。真の姿の暴威を示すかのような警告色。
青年は一歩を踏み込む。危険な存在が一つところに二人。相対して行う事は一つ。
闘争だ。
「腰の刀は抜かないのかね?」
君はサムライではないのかね? と、見目に似合わぬ軽快なフットワークで一定の距離を保ちつつ、プレジデントが問うた。
幾度かの短い攻防を経たが、尚その声に疲労の色はない。然もあらん。大統領の鋼鉄の腕は猟兵のそれよりも一段重く、そして長い。防御では衝撃を殺し切れず、受け流すにも神経を擦り減らし、しかし潜り抜けなければ猟兵は一撃を撃ち込めないのだ。互いにここまで直撃を避け続けていたが、微かな疲労の積み重ねが徐々に形勢を傾けつつあった。
「……無手相手だと侮るなよ」
だが、猟兵もまた充分に活力を帯びた声で応じる。彼は確かに剣士だったが、刀剣だけが手札の全てではない。勝負はまだ終わっておらず、勝ち筋もまだ残っていた。
故に、青年は一歩を踏み込む。
「そうしよう」
オブリビオンは短く答えて。轟と、風切音が双方の耳朶を打った。
それは明らかに拳が発するような音ではなかったが、出どころは確かにプレジデントの片腕から。それはジャブの軌道をなぞり、しかし秘めたる剛力は牽制程度では済まぬと、圧力が声高に訴えている。
しかし猟兵は止まらない。激突は真っ向から。こんなものに一々怯んでいるようでは、一生掛かっても近寄れまい。鏡介は臆さず間合いを詰める。
そして。一瞬の後、破壊の音が響いた。
音の出どころは、今度もプレジデントの片腕からだ。遂に直撃打が猟兵を捉えたか?
答えは、否。猟兵を襲った拳圧は、紙一重で空を切った。白く変じた髪が数本、僅かに逃げ遅れて宙を舞ったが、しかし、それだけ。
音の出どころは拳ではなく、肘。
「無の型――【赤手】」
鏡介の拳が、鉄の関節を砕いていた。
積み重ねていたのはどちらも同じ。ただ、今まで目に見えなかっただけだ。いや、正確には見えてはいた。ずっと。だが、猟兵の体捌きは剣術に由来するもの。拳闘の理合から外れたものだ。故にプレジデントは読み誤った。その内に隠された真の威力を。同じ一点を誤差なく穿ち続ける精緻な技法を。
ビキリ。更なる異音が続く。鋼の前腕があらぬ方向に曲がり掛けた。
「……やるものだね」
フィールド・オブ・ナインは感心したようにそう呟いて、改めてファイティングポーズを取り直す。手応えはあったが、どうやらまだ戦闘行動に支障はないか。であれば、次はどの部位を壊せば良いか。思案して、鏡介もまた油断なく構え直す。
状況は一歩先へと進み、しかしまだ、戦いの行く末は見えてこない。
成功
🔵🔵🔴
レナータ・バルダーヌ
ボクシングはよく知りませんけど、わたしには格闘技の得意な頼もしい味方がいます。
謎のゴボウ生物の亜種「愉快なゴボウさん」の中でもとってもでっかいユニーク個体『ビッグゴボーさん』を呼び、乗り込んで戦います。
……えっ、得意なのはプロレスだけ?
ここまで来た以上は戦うしかありません。
『焦ることはないぜ。ボクシングでは体重別に階級が分かれてるのは知ってるか?』
曰く、格闘技において体格差は優劣に大きく影響するとのこと。
回避には不利かもしれませんけど、【痛みに耐え】るのには自信があるので倒れはしません!
そして、攻撃の瞬間は敵にも隙が生まれるはず。
全体重を乗せ、【捨て身】の覚悟で【カウンター】の一撃を放ちます!
ボクシングの歴史は古い。起源については諸説あるが、古代ギリシアのオリンピア大祭で競技に採用されていたとの記録があり、遅くとも紀元前六百年頃にはボクシングの原型が完成していたと見られる。由緒正しい格闘技である。
などと幾ら喧伝してみたところで、レナータ・バルダーヌの知ったこっちゃなかった。彼女はゴボウのオラトリオであり、オラトリオとは夜と闇の世界の住人である。異世界のスポーツ興行に疎いのも当然の話。
ではこの猟兵は精神波の恩恵を受けぬまま強敵プレジデントと戦う他ないのか?
答えは否。案ずる事はない。自分が知らぬのなら、知っている誰かに訊けば良いのだ。レナータは一人ではない。彼女には格闘技を得意とする頼もしい仲間がいる。
その名も。
「ビッグゴボーさん!」
説明しよう。ビッグゴボーさんとは、大きな愉快な仲間のいるところからやってきた謎の巨大ゴボウ生物である。いつものゴボウさんがアリスラビリンスの環境に適応する事で生まれた愉快なゴボウさんの中でも、特に珍しいユニーク個体。四メートルにも届かんとする巨体と、ゴボウらしからぬずんぐりしたボディがチャームポイントだ。
「……ナガイモのお仲間かね?」
「ゴボウですけど」
大統領の言葉を食い気味に訂正しつつ、レナータはビッグゴボーさんの背面チャックを開いた。大統領の視線が更に怪訝なものへと変じたが、仕方がない。不思議の国の常識は異世界の非常識である。異文化コミュニケーションとは難しいものだ。
ともあれ、今は置いておこう。重要なのは見た目ではなくボクシング技能である。少女はいそいそと巨大きぐるみに乗り込んで、これにて開戦の準備は整った。いざゆけビッグゴボーさん、お前のパワーを見せてやれ。猟兵の指示を受け、ゴボウが前進を開始する。
そして。
『残念ながらプロレスにしか詳しくないぜ』
「えっ」
早くも雲行きが怪しくなってきた。
雲行きは怪しいが、今更やっぱり帰りますとはいかない訳で。さてどうしよう。覚悟を決めて吶喊か? レナータが思案していると、やたら渋い声で助言が入った。
『焦る事はないぜ』
ビッグゴボーさんがイケボで言う。ボクシングに限らず、多くの、ほぼ全ての格闘技が体重によって細かく階級を分けられていると。何故か? 答えは単純。危険だから。
大きく重いもの程、強い。自然の摂理だ。これは埒外の戦場においても例外ではない。倍の体躯は、ボクシングの経験を埋めるには十分な差だ。
「ならば、これはどうかね?」
今目の前で大統領の機械の腕が巨大化して、瞬く間に彼我のサイズ差が縮められた気がするけれど、きっとまだ何とかなる差だ。多分。
やっぱり雲行きは怪しいままだったが、もはや戦う他に道はない。意を決してきぐるみが間合いを詰める。接近戦の間合い、拳打の距離へと。
その瞬間、竜巻が雄叫びを上げた。
プレジデント・ナックル。赤と青の機拳が唸り、破壊の嵐を巻き起こす。格闘技の道理を覆す、恐るべき猛攻。俊敏さを欠く巨大きぐるみでは回避は叶わず、その体格故により多くの傷跡が刻まれる。直撃。
ビッグゴボーさんの巨体が揺らぐ。
そして。
「ビッグゴボーさん、ショータイム!」
声は、高らかに響いた。
ビッグゴボーさんは倒れない。
猛撃は並のゴボウならば百でも千でも薙ぎ倒す力を秘めていたが、しかしビッグゴボーさんはコモンではない、レジェンドレアだ。七十五度の爆死の果てに降臨したヒーローはこんな程度で斃れはしない。加えてレナータは、痛みに耐えて得た反撃の機会をみすみす逃しはしない。
ゴボウの拳が振り上げられた。その所作はボクサーにしてみれば無駄の多いものだったが、捨て身の覚悟が技量の差を縮め、絶好の機を掴み取る。
「ゴボウさんぱーんちっ!!!」
大統領はガードの構えを取るが、遅い。肥大化した両腕は、引き戻す時間をほんの僅か遅らせた。ゴボウの右腕が赤く燃える。
全霊のカウンター。全体重を乗せた渾身のストレートが放たれた。
一撃は、顎を捉えた。衝撃が全身を貫いて、大地にまで激震が走る。
プレジデントの身体が、揺らぐ。
そして。
「…………!!」
男は確かに膝を突いた。よく知らずとも分かる。ノックダウンだ。
大成功
🔵🔵🔵
トゥリフィリ・スマラグダス
っ、あぁ……自分の真の姿というのはこのようになるのですね。
(真の姿イメージ:額には「闇鬼」の力による影の角。四肢は「石呪」の影響で黒く硬化し鉤爪を備え、その身には「石呪」と「偽神」由来の石化【呪詛】混じりの冷気を纏っている)
触れるもの全て石へと変える【呪詛】の毒、その身で味わってみますか?
振るわれる拳を【見切り】、避けるのではなくあえて拳を横から叩き込み逸らすようにして狙いを外しながら、石化の【呪詛】でプレジデントの両腕を侵食していきます。
石化が十分に行き渡り、真面に腕を動かせなくなったらUCを発動。「石呪の黒獣」本来の姿、UDCアースのアヌビス神にも似た獣の姿を形作り、叩き伏せます。
「……っ」
突然の頭痛が青年を襲った。
平常を保てず、しかし不快な感覚ではない。機械脳の制御によるものではない、別種の刺激が齎す奇妙な昂揚感。プレジデントのソーシャル・ネットワークが彼の精神の奥底に微かに残る闘争心を刺激して、徐々に波紋を広げている。
そしてその波は、精神の内だけには留まらず。
「あぁ……自分の真の姿というのは、このようになるのですね」
トゥリフィリ・スマラグダスは感心したように呟いた。ふと見下ろした自らの手指が、平時とは違う形に変じていた。ヒトの備えたものではない、獣が持つ鉤爪の形に。
その異形は、しかし覚えのあるものだ。夜闇のような黒色と、衣服の上からでも伝わる硬い質感。見れば腕だけではない、脚も同じように変質している。これは『石呪』の因子が働いた結果だろうか。ならば、その周囲を漂う凍気は『偽神』の影響によるものか。とすると『闇鬼』や『禁樹』の効果もどこかに? 猟兵はそこまで考えて、止めた。
常よりも好戦的な思考が、観察ではなく実践による検証を望んでいる。
「触れるもの全て石へと変える呪詛の毒、その身で味わってみますか?」
レプリカントは静かに宣戦を布告して。
「君もこの拳を味わってくれるのならね」
プレジデントは軽妙な調子で応じた。
開戦だ。
衝撃の音が響いた。
轟音の連打が瞬く間に十度、二十度。もっと、もっと、数え切れない程に。機銃掃射の如くに連続する致命の旋律は、しかし想像より遥かに原始的な手段で奏でられたもの。
それは、拳だ。
拳打の乱舞が、嵐となって戦場を震わせる。赤の機腕が弾丸より速く標的に迫り、影の角を掠めて抜けた。続け様に追撃の青が牙を剥けば、死角から強襲した漆黒の爪撃が喉元から軌道を逸らす。聞き慣れた激突の響きが大音量で危急を告げる。
現状、プレジデントの側が優勢か。射程の差が手数の差を広げ、重量の差が被害の差を拡げる。紙一重で凌いではいるが、無差別級の殴り合いは細身の青年には荷が重い。
否。
それは常人における話。彼は人であって人ではない。人の姿をした禍だ。
トゥリフィリの中性的な貌が、僅かに歪んだ。獰猛な形に。
「おや、これはこれは」
オブリビオンの動きが、鈍る。何が起きた? 決まっている。
ここより先は、猟兵のターン。
滲出した過去の化身を蝕むものの正体とは、詛呪。黒き獣が振り撒く石化の猛毒。彼は初めから言っている。同じ土俵に上がる気はないと。殴打を躱すだけかに見えて、その実着実に反撃を見舞っていたのだ。フォーミュラの膨大な体力が発現を遅らせたが、無効化できていた訳ではない。積み重ねてきたものが今、一斉に表へ躍り出た。
神擬きの冷気が獲物の五体に絡み付く。他者を死に至らしめるのは単純な暴力だけではない。そう訴えるかのような、真綿で首を締めるが如き浸食。
じわり、じわりと戦況が傾く。
否。
今のトゥリフィリは、その完遂を待つ程に悠長ではない。
影の角が揺らいだ。それは大きく拡がって、猟兵の全身を包み込む。影を纏い、猟兵が別のモノへとカタチを変える。
それは、獣だ。古の冥府の神にも似た、石化獣の因子に刻み込まれた本来の姿。
――Code:Aesma starting.
『狂暴』の名を冠するユーベルコードが、トゥリフィリの身体を“そういうもの”へと作り変えて。
だから彼は、“そのように”した。
「……逃れられるとは、思わない事です」
敵の力は強大で、しかしトゥリフィリはそういう戦場をこそ制圧する為に生まれた。
故に、この結果は必然。
獣が吼えた。拳打よりも尚旧い原初の暴威が唸りを上げて、首長の影が地へと沈む。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
砂塵の世界を救う為に…
そして九神が一つ…大統領を討ち倒そうぞ…!
ワタシは…処刑人だッ!
仮面を身に着け真の姿の[封印を解こう]
拳での殴り合いか…いいだろう…!
敵の拳を[視力で見切り]回避し
攻撃を浴びても[激痛耐性]で耐え抜き[カウンター]で反撃
ワタシは…処刑人が娘…死と救済を齎す者だッ!!!
敵放つアッパーを浴びても
【ブレイズマインド】により[覚悟と闘争心]を胸に灯し
[継戦能力]で再び立ち上がろう
[功夫と早業]で拳を素早く振るい
[鎧無視・貫通攻撃]を胴体に食らわせ[体勢を崩し]
[怪力と鎧砕き]合わせたアッパーで屠ろう…!
ウーマンパワー…!
英雄達の世界の…この地で栄えた人民の力だ…!
猟兵が戦場へと踏み込めば、まず第一に、天へと伸びる白いオベリスクが目を惹いた。ワシントン・モニュメント。合衆国初代大統領の功績を称えて建造された記念碑。
建国の父と呼ばれる初代の評価は、“良き人”であったという。穏当で賢く上品、威厳があるが厳格過ぎず、軽薄でなく親しみがある。近しいものはそう評した。
では、プレジデントと呼ばれるその男は、どうか。
仇死原・アンナの評価は、少なくとも穏当ではない、だった。
先程から彼女の心の奥底を、男の放つ精神波が刺激している。闘い、争えと。平穏から程遠い、対極に位置する思考が脳を満たす。
「砂塵の世界を救う為に……」
闘争を強いるもの、それは“良き人”ではあるまい。争い、奪い、壊し、その果てこそ今のこの世界だ。この男こそが、見渡す限りの砂塵の世界を生み出した元凶の一角。
故に、アンナは宣言する。
「九神が一つ……大統領を討ち倒そうぞ……!」
神。なるほど、これは確かに神だ。
プレジデントは異世界で神、あるいは邪神と呼ばれるものと同等、いやそれ以上の力を秘めたるもの。昔大統領だった事がある、それだけが自慢だなどと嘯くが、馬鹿を言え。一国の元首の座と言えど、これ程の高みにありはしない。
だが、その神の如き怪物を破り、天の座から引き摺り下ろさねばならぬ。でなければ、この地に安息の時は訪れぬ。そして彼女は、その為に此処へ来た。
「私をそのように呼ぶ君は何者かな、レディ?」
女の髪が朱に染まった。炎獄の執行人に相応しい、燃えるような赤色に。神に挑まんとするのなら、人の身ではいられない。封印を解き、真の姿を晒す。
「ワタシは……処刑人だッ!」
ペストマスクを身に着けて、アンナが吼えた。
これより刑を執行する、と。
風が鳴る。突風がナショナル・モールを真一文字に貫いて抜けると、枝葉を揺らされて居並ぶ木々が口々に囁いた。
傍目には爽快感すら覚えさせる光景のようだが、実態はそうではない。風の源で、鋼鉄の拳が唸りを上げる。これは死神の鎌で、ここは地獄だ。もし文明が崩壊する以前の人波があったなら、周辺は既に阿鼻叫喚の巷と化している事だろう。
迂闊に間合いに入ればどうなるか、火を見るよりも明らかで。
そこへ、アンナは迷わず踏み込んだ。
「拳での殴り合いか……良いだろう……!」
人体をミンチにして余りある衝撃が突き抜けて、だがその結末は訪れない。暴風が赤髪を靡かせて、しかし、それだけ。外した。否、躱した。
尋常ならざる権能を身に宿すのは猟兵も同じ。ヒトの域から外れた眼は、荒ぶる鉄拳を見切ってみせた。いや、それだけではない。
「ほう、流石だね」
魔女は、連打の合間に反撃を差し込みさえしてみせた。一発、二発。華奢とさえ呼べる細身が、男の剛拳とは比べるべくもない細腕が、しかし徐々に大男をたじろがせる。驚くべき怪力。
暫しの応酬。膂力は互角に思えた。ならば、趨勢を決めるのは隠した爪の性能か。
先に切ったのは、プレジデント。
「では、これならばどうかな?」
オブリビオンの腕が、今までと違う軌跡を描いた。下から上へ。地から天へ。そして。
次の瞬間、処刑人は空の上にいた。
何メートル。いや、何十メートルか。比較となるものの少ない国立公園の上空は、自らの位置を掴み辛く。相当に高く打ち上げられていたと彼女が気付いたのは、それが落下の衝撃に変じた時だった。
「……!」
痛みは声にならず。
やがて、一時の静寂が場を支配した。
そう、一時。高々一時。
「……ワタシは」
痛みには耐性がある。戦い続ける能力がある。何よりも、不撓不屈の覚悟がある。
猟兵が、ゆらりと立ち上がる。その姿は幽鬼のようで、しかし確かな力を内に秘めて。
「……処刑人が、娘」
言葉が、覚悟が、闘争心を呼び覚ます。
それは、精神波に煽られた時のそれよりも遥かに激しい。心を燃やす炎が、身体を破り外へと溢れ出す程に。
「……死と、救済を齎す者だッ!!!」
叫びと共に、執行者が駆けた。
死に掛けの身が再び命を宿す。今日一番の俊足を示し、迎撃の弾幕を掻い潜る。
繊手が、大統領の胸へと触れた。
「……ッ!!?」
鍛え抜かれたフォーミュラの身体が、頽れる。
功夫。肉体を鍛え駆使する、外功の化身たるボクサーには届き得ぬもの。外功と内功の併せ技が、鋼の肉体を破り、穿つ。そして。
次の瞬間、オブリビオンは空の上にいた。
奇しくも同じ業。否。女に倍する巨体が、先のそれよりも高く宙を舞う。
これが。これこそが。
「この地で栄えた、人民の力だ……ッ!」
お前達が踏み躙ってきたものだ。
処刑人が告げた。存分に味わい、そして逝け、と。
逃れ得ぬ天の上にて、罪人はただその時を待つ。
大成功
🔵🔵🔵
無間・わだち
(縫い目の這わぬ膚、赤と金の混じる両眼、六つの仏腕、燃える地獄の青焔
繋がる精神波が脳に響く
荒い呼吸を落ち着かせる
―この躰は、はじめてだから
拳であればいいんですよね
何本の腕だって、構わないでしょう
軽い足取りはあの子のもので
ステップを踏んでふわり躱す
この眼は彼の動きがよく視える【視力
かの国の偉大さを示すなら
存分に見せればいい
だって、痛みには耐えられる【激痛耐性、継戦能力
振るう拳に籠める打撃は何度でも
けれど最後の一撃には極熱を思いきり
たった一本の右腕以外
四肢が犠牲になってもいい【力溜め、捨て身の一撃、限界突破
大丈夫、終わってしまえば必ず繋がる
俺がもらったものは、こんなところで潰えないから
かつて大統領の肩書を持っていた事だけが自慢なのだと、男はそう言った。であれば、ボクシングで栄光を掴んだ事はなかったのだろうか。それとも、掴んだ上でそんなものは自慢にならぬと切り捨てたのだろうか。
余人には分からない。ただ、男が今でも現役で通用するヘビー級の肉体を維持しているという事は、どうやら傍目にも理解できた。そしてその剛力は、己の痩腕では敵いそうにないという事も。
体格は絶対だ。だからこそ近代ボクシングは十七もの階級を設けた。筋骨隆々の巨人を小男が翻弄するフィクションは数多あれど、現実にはまともに太刀打ちできた例は皆無と言って良い。
故に。
猟兵は四本の腕で以て鋼の拳打を迎え撃ち、受け止めた。
四本。そう、四本だ。両の腕で及ばぬのなら、更に数を増やすまで。そして。
四つで拮抗するのなら、六つあれば撃攘に届く。
「……拳であればいいんですよね」
六つの仏腕を構え、無間・わだちは言った。腕であれば構わないでしょう、と。それが何本あろうとも。たとえ地獄の焔を纏っていようとも。
まともにやって敵わないなら、まともに挑むつもりはない。何しろ、まともでない姿を呼び覚ましたのは他ならぬあなたなのだから。
「勿論だとも」
プレジデントが笑った。それが、それこそが私の見たかったものだ、と。
仏の六臂は、六界の全てを救済する為にあるのだという。では、己の六臂は一体何の為にあるのだろうか。この世界を救う為ならば、それはきっと素晴らしい事なのだけれど、しかし今のわだちの精神は、救済を第一に考えられる程に穏やかではない。
彼の心を、プレジデントのソーシャル・ネットワークが波立たせている。脳が揺れて、呼吸が乱れる。その腕は他者を殴り、屈服させる為にあるのだと闘争心が告げている。
そしてそれは、この場においては存外悪くない提案にも思えた。
――この躰は、はじめてだから。
いきなり世界などと大それた事は言わず、まずはこの戦場、この敵からだ。少しずつ、何ができるか試してみよう。呼吸を整えて、わだちが動く。
最初は防御。真っ向から受け止めるのに四本。なら受け流すには三本か、二本か。試しながら、慣らしながら、徐々に数を減じていく。二本から一本。やがて零本。六臂の全てが攻勢に転じる。
「ほほう、よもやこれ程とはね」
オブリビオンの声に、感嘆の色が混じった。きっと自分も、そういう表情をしている事だろう。縫い目の這わぬ躰は驚く程滑らかに動く。軽い足取りはまるであの子のようで。いや、あの子のよう、ではない。間違いなく、今もあの子がここにいるのだ。
ひらり。ふわり。致命の間合いで“あの子”が舞う。木の葉のように。花弁のように。うつくしいものが地獄を彩る。
プレジデントの猛撃が、俄かに回転数を増した。より速く、より強く。正攻法と言えば聞こえは良いが、聊か乱雑な力押し。飄々とした男の言動からして、搦め手の一つも隠し持っていそうなものだが。それとも、真っ向から敵を打ち倒す事こそが国家元首たるものの務めとでも言うのだろうか。
「……それが、かの国の偉大さを示す事になると?」
「どうかな。安っぽいセンチメンタリズムのようなものさ」
猟兵が問えば、大統領は軽い調子でそう返した。愚にも付かぬ感傷だと自嘲しながら、しかし態度に反して圧力は更に増していく。
どうやら、あちらも本気だ。わだちはそう理解して、だが防御の手を増やしはしない。これはどちらかが斃れるまで終わらない。だから攻めろ。何度でも。一手でも多く。
否。
泥犂の青焔が右腕に移った。全ての力がその一点に集う。膨大な、極大な熱量が空気を焼き焦がす。周囲だけでなく、彼自身も。腕の一本を残して、残る手足が軋み、叫んだ。獄炎が限界を超えて猛り、狂う。
何手も要らない。この一手で、最後だ。
――俺は、痛みには耐えられる。
「……あなたは、どうですか?」
二人の色の混じる瞳が、敵を見据え、問うた。
俺がもらったものは、こんなところで潰えない。
では、あなたがもらったものは? 国からもらった魂は、国がなくなった今でも残っている? これからもずっと潰えない?
わだちが問う。
繋がる未来がないのなら、あなたの負けだ、と。
そして、焦熱が爆ぜた。極熱が、過去を余さず灼き尽くしていく。
大成功
🔵🔵🔵
藤・美雨
真の姿は20歳くらいまで成長した姿
要は殴り合いだろ?
ルール無用なら好きにやらせてもらうだけさ
相手は堂々としてる上に自分を追い込むためには色々やるタイプだろう
こっちの攻撃を回避するだけじゃなく、受けようともするんじゃないかな
そこを利用させてもらおう
最初は普通に殴り合おう
相手は強敵だ、数発貰うだけでミンチになりそう
出来るだけ振るわれる拳を【見切り】フェイントも警戒
いざとなれば【激痛耐性】で耐え抜こう
戦いを続けて……相手がガードの姿勢を見せたらヴォルテックエンジン起動
拳に電気を纏わせスタンガンのように
卑怯?
その腕だって十分卑怯だろう!
相手が一瞬でもくらっときたら、すかさず【限界突破】のストレートだ!
二つの影が交差して、拳打の快音が戦場に響いた。
小さいものと大きいもの。軽いものと重いもの。速いものと遅いもの。女と男。現在と過去。猟兵とオブリビオン。対照的な二者は、しかし同じ土俵で対峙する。
即ち、拳闘の土俵で、だ。
前者、藤・美雨のスタイルは、動。フットワークで間合いを保ち、手数で押す戦い方。対する後者、プレジデントのスタイルは、静。ヘビー級のガタイにしては軽快な動きだと言えたが、彼我の重量差は歴然であり、猟兵と比較すれば全く遅い。結果、ガードを固めジリジリと間合いを詰める形に。
「要は殴り合いだろ?」
軽い調子で美雨は言う。彼女はボクシングは専門ではなかったが、肉弾戦ならば自信があった。要は自分の攻撃を当て、相手の反撃を避け続ければ良いのだ。問題ない。期せず己の望んだ展開になっているし、概ね予定通りだと言えた。
ただ、強いて言えば。
「……その腕は卑怯だろう」
大統領の構えは確か、ピーカブースタイル、とか言ったか。両腕を身体の前面で揃えて盾にする感じのヤツだ。いやそれ自体はまあまあ普通のガードスタンスなんだろうけど、多分それは機械の腕でやるヤツではないんじゃないか。全く隙間がない。ベアナックルにしろとまでは言わないけど、幾ら何でもその大きさはおかしいだろ。
「似合っているだろう?」
澄ました顔で言いながら、牽制のジャブをばら撒く大統領。巨大な機腕はフィニッシュブローも斯くやという圧力で飛来して、すんでのところで身を躱した少女の黒髪が乱れて揺れる。見切れない速さではないが。
――下手に貰うとミンチになりそう。いや、絶対なる。
一時ガードは開いたが、あれに飛び込むのはリスクが高いか。猟兵は瞬時に思考する。精神波の影響で享年十四の小娘は二十歳相当の身体を得ていたが、特に筋骨隆々の肉体に変貌したとかいう訳ではない。あくまで手足が順当に伸びた程度だ。元の状態よりリーチがあるのは有難いが、無理を押し通すには心許ない。
まあ、焦らずじっくり耐え抜こうか。あちらがああいう態度なら、こちらもルール無用でやらせて貰うだけの話だが。それを実行するにはもう暫く時間が掛かりそうで。
美雨は小さく溜息を吐いた。
十度だったか、二十度だったか。もっと多かった気もするし、もしかすると少なかったかもしれない。ともあれ何度目かの拳打の応酬。美雨の拳が鋼鉄の腕を上から叩き付けたところで、遂に娘の我慢が限界を迎えた。
――もうそろそろ良いだろう?
主の意思に、体内の動力装置が呼応する。抑圧された魂の衝動は常よりも大きな電流に変換されて、それはユーベルコードの異能を浴びて不可視の牙へと姿を変える。
――Chill out.
プレジデントの動きが、乱れた。読み通り。
「シビれただろ?」
でなければ困る。莫大な電気を注意の外から、金属の塊を通してブチ込んだのだ。一瞬でもクラッとこない筈はない。
再度、美雨の拳に力が流れた。意識のみを狙った先刻のそれとは違う、肉体を叩き壊す為の力だ。細身の体のどこに隠れていたのか、驚くべき剛力が一点に集い、限界を超えた暴力が顕現する。狙いは顎に。僅かにガードが下がっていたから。
埒外の戦場においては、一瞬の隙は永劫にも等しい。
そして。全身全霊の一撃が、迷いなく一直線に放たれる。
繊手は鋼の猛襲よりも鋭く奔り、やがて重量級の巨体が宙を舞った。
「……えげつない事をするね、君」
「どの口で言ってんだよ」
続く言葉の応酬は未だ軽やかで、しかし上辺だけだと、殺人鬼の才が娘に告げた。
激戦は、そろそろ終わりの時を迎えようとしている。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
この姿は、あまり好きではないのですが
騎士甲冑模した装甲が外れ黒いフレームが露出
騎士の体裁外れた戦機の本質が剥き出しの真の姿に
ですが、貴方の政策に異を唱える為に
騎士として挑ませて頂きます
ウェイト差は其方のフォーミュラというお立場のハンデでご容赦を!
剣は手の延長
徒手空拳の業も修めています
●瞬間思考力で敵の挙動や移動先を●見切り細やかな脚運びと●盾受けの技量を反映したガードで対応
●怪力で振るう拳で牽制しつつ相手のスタイルを●情報収集
(相手は自負に満ちた一国の主
此方の予測を超えたリスクに果敢に挑み、勝機を掴む気ですか…!)
UC使用
緩やかな挙動で相手のテンポ崩し攻撃誘い
誘い込まれた相手に鉄拳を一撃
「騎士として、挑ませて頂きます」
機械騎士トリテレイア・ゼロナインが静かに告げた。
否。それは騎士ではない。その声は確かに機械騎士のものだったが、しかしその姿は、もはや騎士と呼べるものではない。
重々しい音を立てて、白い甲冑が地に落ちた。彼の総身を鎧う騎士の証が一つ、二つと外れていく。やがて彼を彼たらしめていた外装が全て剥がれ落ちて、後に残されたものは漆黒の躯体。いかにも戦闘用といった風体の、無骨且つ無機質なウォーマシン。
戦闘兵器トリテレイア・ゼロナインの、真の姿。
――この姿は、あまり好きではないのですが。
無論騎士とは姿形だけを指すものではなく、内面の在り方こそが肝要なのだと理解してはいたが、再起動以来実に三十年もの間変えずにきた外観を手放すのはやはり好ましい事ではなかった。機械の身に騎士たらんとする心を宿していたが故に、プレジデントの放つ精神波の対象となり騎士の姿を手放す事になるとは、中々に皮肉な話で。
だが、この姿を晒してでも、敵の目的は阻まねばならない。
――全人類のオブリビオン化。
黙示録の黄昏を生き延びたものだけではなく、全ての世界の人々の。
馬鹿げた計画だ、などと笑いはしない。騎士とは政治家ではなく、戦機もまた同じく。故に彼には政策は分からぬ。是非を論じられる立場ではない。
だが、それでも確かな事があった。プレジデントの渾名で呼ばれる敵は、今現在は元首ではないという事。また、どの世界もオブリビオンが治める国ではないという事。臣民が自ら望んだ道だというなら筋は通るが、これは正当な手続きではない。
専横を許す訳にはいかなかった。
故に、確固たる決意を籠めてトリテレイアは告げる。
「貴方の政策に異を唱える為に」
騎士の精神が顕現し、プレジデントの前途に立ちはだかる
「拳闘の経験はおありかね、騎士殿?」
「徒手空拳の業も修めています」
問いと共に放たれたご挨拶を巨体を感じさせぬ軽やかな足取りで躱して、トリテレイアは淡々と応じる。
剣は手の延長だと語る彼の技術は実際、剣で武装していた時と比べても然程遜色ない。少なくとも今この場で打ち合える程度には。然もあらん。ウォーマシンにしてみれば剣も手も元より等しく武器の括り。彼にとっては全身全てが剣であり盾。ヒトと異なり、肉体と器物との境界が曖昧なカタチであるが故の強み。
そして動きにおいて遜色ないのなら、威力においても当然そうである道理。
「其方はフォーミュラというお立場ですから、ウェイト差は一つハンデという事に」
頭上から急角度で叩き込まれた黒の一撃が、馬上槍の如くに大統領の鉄臂を鋭く抉る。敵の体格も並外れたものだったが、やはり猟兵の側に分があるか。重量と位置エネルギーとがボクシング経験の差を上回り、オブリビオンがたたらを踏んだ。
「刺激的だな。無差別級とはこういうものか」
プレジデントが嬉々として語り、すぐに反撃が放たれた。ダメージを感じさせぬ圧力。これが魂の力というものか、剛撃は質量の不利を覆し、今度は猟兵が後退る。
なるほど、一国の主とはこれ程まで自負に満ち溢れているものか。トリテレイアは舌を巻いた。未知の状況、多大なリスク、しかしそれらを前にして臆する様子は微塵もない。ただの無謀や玉砕覚悟の特攻とは異なる、困難を前にして尚、己が力で勝機を掴み取らんとする姿勢。正しく称賛に値する。
だが、負けられないのは彼も同じ。この戦いには、全ての世界の未来が掛かっている。勝利を譲る気はない。故に探れ、そこに到る道を。
牽制の拳がかち合って、その隙に機械脳が高速で演算を開始する。積み重ねてきた知識と経験を元に、情報を収集し、行動を予測し、確率を計算し、結末へと誘導する。
そして。
「――ご容赦を」
戦機らしからぬ言葉と共に、しかし戦機に相応しい威を以て、機械騎士が踏み込んだ。舞踏のように滑らかな、鮮やかな歩みが、科学の牙を喉元へと密やかに運ぶ。
公園の空に、打撃の轟音が鳴り響いた。
鉄拳が矜持の鎧を喰い破り、過去の姿が揺らぎ、傾ぐ。
成功
🔵🔵🔴
レイ・オブライト
この場で引き出される真の姿には外見的変化はない
拳でやりあうんだろう? 余分なもんは不要だ
オレの戦いはジム通いで習ったようなお利口なもんじゃあないが、さてどの程度通用するやら
『覇気』+格闘で応戦。覇気の『オーラ防御』で致命打を僅かでも逸らしつつ、足捌き、重心移動等の敵の攻防時の癖を打ち合って確認
(全人類の死、などと)
ご立派でデカい夢だが
オレとて譲る気はねえんでな
【UC】攻↑・怪力・属性攻撃(電気)
敵の殴打の拳に『怪力』の拳撃をかちあわせ『属性攻撃』直撃雷を叩き込む。これで壊れる腕じゃなかろうが、体…筋肉ってのは鍛えようと感電で痙攣するものだ
一瞬でもガードが遅れれば逆の拳を本体にブチ込む
※諸々歓迎
「それが君の真の姿かね?」
その言葉に、僅かに落胆の色が含まれていた事に、果たして敵は気が付いただろうか。フィールド・オブ・ナインの第一席、プレジデントは内心で小さく呟く。
――惜しいな。
超克へと到る瞬間をこの目で見られるかと期待していたのだが、どうやらこの戦場では叶いそうにない。楽しみは次の機会に持ち越しか。恐らく、次はないだろうが。
「拳でやり合うんだろう?」
思考を遮り、猟兵の言葉が響いた。この拳さえあればそれで事足りる。ごちゃごちゃと無闇矢鱈に飾り立てれば良いってもんじゃあない。余分なもんは不要だ、と。
猟兵が両の拳を構えた。お望み通りだろう? 来いよ。そう聞こえた。
「なるほど、違いない」
既に業務の時間は過ぎ去った。ならば好きに楽しむとしよう。
フォーミュラが笑って、最終ラウンドの幕が上がる。
隙の少ないジャブ、意識の外から強襲するフックとアッパー、威力で強引に捩じ伏せるストレートにジョルト、加えて感覚を狂わせる左右のスイッチ。基本はこんなものか。
ボクシングのハウツーなど教わった憶えはないが、大統領の行動が状況に応じて適切に選択されているらしい事は、我流のレイ・オブライトにも想像が付いた。
――オレの戦いは、ジム通いで習ったようなお利口なもんじゃあないからな。
岩山を殴り砕き、大地を叩き割るのがゴッドハンドだ。お上品なミット打ちなど学んだ経験はなく、実際今まではそれで充分だったが、さて今回はどうか。打ち合いの中で確認してみれば、やはり細かな技術は相手の方に分がある様子。
多少打たれた程度じゃあ問題にならないガタイだろうに、見掛けによらず存外に防御が丁寧だ。それとも、千切られても死なない身だからとオレの方が疎かにし過ぎただけか。ともあれ、このまま打ち合えばジリ貧で、しかし戦いの中で成長するだなどと悠長な事も言っていられんから、ひとまずオーラで以て差を埋める。電流迸る闘気の壁が立ち昇り、赤の一閃を押し止め、続く青色を直撃軌道から逸らし、流す。
防御が同等に機能するなら、彼我の戦力は概ね拮抗。となれば、後は如何に相手の虚を衝けるかだ。致命打を避けつつ、敵の癖をつぶさに観察する。足捌き、重心移動、好みの間合い、視線、呼吸、エトセトラ、エトセトラ。
どうやら、思いの外隙は少ない。同じように観察すれば、きっと自分の方が多く晒している事だろう。だが、だからと言って退く理由になりはしないが。
――全人類の死、などと。
ご立派でデカい夢だ。そう思う。
悪しき企み、などと言うつもりはない。立場の違いだろう。あちら側に立って見れば、素晴らしい試みと感じてもおかしくはない。
だが、所詮たらればの話だ。オレの物差しはこちら側で、当面鞍替えする気もない。
故に。
「オレとて、譲る気はねえんでな」
デッドマンの言葉は活力に満ち、遠く響いた。
そして。晴天の下、雷鳴が轟く。
空には雲一つなく、だからその轟きは地上から。
重なった両者の拳の狭間で、雷光が爆ぜた。魂の衝動が雄叫びを上げて、ヴォルテックエンジンが限界を超えて稼働する。
「グ、ガ……ッ!?」
プレジデントの五体が俄かに痙攣した。
如何に恐るべき過去の化身であろうとも、現世で受肉したならそれは地上の存在と何ら変わりない。機械の腕は電気を通す。ただの雷ならいざ知らず、埒外の雷が通らない筈はない。そして身体、筋肉にまで流れれば、その結果はご覧の通り。
猟兵が、拳を構えた。
敵とてフォーミュラ。同様の手を以前にも喰らって、警戒していなかった訳ではない。実際、このまま待てばすぐに立て直せた事だろう。だが、多大な隙を一瞬まで縮めるのと一瞬をゼロにするのとでは、天と地程には隔たりがある。
故に、これは不可避の一手。
放たれた拳撃は、過たず胴体へと突き刺さった。
比喩ではない。光の名に違わぬ神速の拳は筋肉の鎧を打ち破り、あってはならぬ位置にまでめり込んでいた。プレジデントの身が、頽れる。
「……終わりだ」
レイが告げる。
ダウンカウントを待つまでもない。誰の目にも明白なノックアウト。
「……フ、ハ」
プレジデントは何事かを言い掛けて、そして止めた。声帯がその機能を喪失したのか、それとも何か気取った言い回しを探そうとしたのか。一瞬の静寂が訪れて。
やがてそれは、永久の静寂へと変わった。
試合終了のゴングはなく、勝者へと捧ぐ賛辞の声もなく。ただ平穏の気配だけが、死闘の終わりを知らせている。
大成功
🔵🔵🔵