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アポカリプス・ランページ⑤〜飢餓と自壊

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#アポカリプス・ランページ⑤


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●デミウルゴス式偽神細胞
 アメリカ西部高原地域ソルトレークシティは嘗て経済的中心地であり、同時に宗教都市としても有名であったことを、最早覚えている人間はアポカリプスヘルには存在していなかったかもしれない。
 黒き竜巻オブリビオン・ストームによってあらゆる文明は崩壊し、その残滓しか残されていない。
「う、う、う、あ……腹が、腹が……満たされない。どれだけ食べても、どれだけ奪っても、どうしても満たされない」
 無限に乾くような飢餓感が『ガブリエル・ラチェット』を襲う。

 どれだけ食べても、『飢え』ているという感覚だけが頭の中に残っている。
 いや、頭の中ではない。
 体のすべてが飢えているのだ。
 オブリビオン・ストームに呑まれた『飢えた獣』と『飢えた人』が混ざった存在である己の中には、それ以外の何も残っていなかった。
 身を包む飢餓感は、底がないようにさえ思えたのだ。
 どうしようもない感情が渦を巻いている。

「なんでだ。なんでこんなことになってしまったんだ。俺は、ただ満たされたいだけなのに。どうしてこんなにも、俺の腹には穴が空いたような感覚だけが残っているんだ。どうして、どうして、俺はこんなにも――!」
 絶叫のような咆哮が迸る。
 其処に在ったのは、あらゆるものを傷つける黒い嵐であった。
 埋まらぬ飢餓感のままに、己以外の全てを傷つける。

 それは植え付けられた『デミウルゴス式偽神細胞』が齎す拒絶反応でもあった。
 身体がきしむ。
 身体の中の全ての細胞が叫びを挙げている。
 それでも止まらない。破壊を齎し、満たされぬ飢餓感を消し去るために『ガブリエル・ラチェット』は凄まじい力の奔流と共に黒き嵐となってソルトレークシティに咆哮する。

「――壊したくて仕方ないんだ!」
 決して埋まらぬ壊れた器は、あらゆるものを傷つける。
 自身さえも壊しながら、あらゆる全てを破壊せんとする衝動は、己の存在意義を今、世界に問いかけるのだった――。

●アポカリプス・ランページ
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。ソルトレークシティへの道がついに開かれました。此処は嘗ての経済的中心地であり、同時に宗教都市としての側面も持っていたと言われております」
 そして、同時に地下に敷設された『フラスコチャイルド製造施設』が秘密裏に運用されていた土地でもある。

 その地にて待ち受けるオブリビオンの存在は猟兵たちにとってあまりにも強力な存在であった。
「『デミウルゴス式偽神細胞』……ストームブレイドの皆さんはご存知かもしれませんが、かつて『最強のストームブレイド』を生み出すべく培養されていた『デミウルゴス式偽神細胞』を移植した、強力なオブリビオンが確認されています」
 彼女の瞳、その予知に見えたのは黒い嵐の如きオブリビオン。
 その中心にて咆哮を上げるのは『ガブリエル・ラチェット』と呼ばれるヒトと獣が混ざりあったオブリビオンである。
『ガブリエル・ラチェット』は『デミウルゴス式偽神細胞』を移植されており、極めて強力な存在である。

「『飢餓』に心奪われた存在であり、同時に凄まじい力のユーベルコードでもって皆さんに襲いかかってきます。決してうまることのない飢餓が彼を駆り立て、おそらくそれはもう埋まることはないのでしょう……」
 オブリビオンであるがゆえに過去に歪んだ存在。
 それが齎した悲劇であるとも言える。だが、そんな強力な存在を放置しておくわけにはいかない。
 しかし、それほどまでに強力なオブリビオンであれば、付け入る隙がないのではないかとさえ思えるだろう。

「確かに『デミウルゴス式偽神細胞』は強力なオブリビオンを生み出します。ですが、拒絶反応もまた激烈であるのです。『ガブリエル・ラチェット』は己のユーベルコードを使うたびに肉体が自壊していくのです」
 正攻法で倒すことは難しい。
 ならば、敵の強力な攻撃を耐えしのぎ、敵の自壊を誘うしかないようである。
 いわば、終わりの見える耐久戦。

「未だアポカリプス・ランページは初戦。皆さんの戦いが趨勢を決めることは言うまでもありません。どうか、黒き嵐、『ガブリエル・ラチェット』を打倒し、彼の『飢餓』を……」
 救って欲しいとは言えなかった。
 だから、ナイアルテは言うのだ。どうか、と。

「彼の『飢餓』を停めてください――」


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『アポカリプス・ランページ』の戦争シナリオとなります。

 アメリカ西部高原地であり、同時に宗教都市でもあったソルトレークシティにおいて、『デミウルゴス式偽神細胞』を移植された超強力なオブリビオン『ガブリエル・ラチェット』を打倒するシナリオになります。

 今回の舞台はソルトレークシティの崩壊した市街地です。
『飢餓』によって暴走する超強力なユーベルコードを乱発する『ガブリエル・ラチェット』の攻撃をしのぎ、彼の自壊を誘いましょう。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……超強力な攻撃を耐え凌ぎ、敵の自壊を誘う。

 それでは、『フィールド・オブ・ナイン』の齎すカタストロフを阻止する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『ガブリエル・ラチェット』

POW   :    貪欲
自身の身体部位ひとつを【触れたものを削り取る、変幻自在の闇】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
SPD   :    暴食暴風
【触れたものを削り取る漆黒の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    無限餓狼
自身の【飢餓感】を代償に、【漆黒の嵐の中から現れる黒犬の群れ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【集団での連携を駆使し、鋭い牙】で戦う。

イラスト:海李

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠八津崎・くくりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです

『強力な敵性反応を確認、警戒を!』

ははっ、俺の同類ってわけか。
来いよ、似た者同士、壊し合おうぜ。

【リグ・ソーマ】
限界突破、リミッター解除。
来いよ、嵐の力、おまえも持っているんだろう?
機構剣タービュランス解放、暴風よ、吹き荒れろ!
(ここまで、防戦と力のぶつけ合いを誘い、同種の技で攻撃させる)

はははっ!いいぞ、もっと楽しもう。
(リグ・ソーマで回復&自壊までの戦闘を長引かせる)

ハハッ!生まれてこの方、兄弟が欲しいと思ったのはこれが初めてだ!こんな風に殺し合えるほど兄弟喧嘩できる兄弟がなぁ!
(高速治療をしつつも高速移動で回避しつつ、逆転の剣戟で最終局面へ向かう)



『ガブリエル・ラチェット』の咆哮がソルトレークシティの市街地に木霊する。
 その咆哮は己の埋まらぬ『飢餓』という穴への嘆きか。
 それとも、己の身に流れる獣の因子が齎したものか。
 もしくは、ヒトの上がらえぬ性故か。
 そのどれもが正しく、そのどれもが間違っていたとも言えるだろう。
「ああ、どうして。どうして、俺はこんなにも」
 破壊したいと言う思いと、飢えを満たしたいという思いが体の中で反芻され、膨れ上がっていく。
 触れるもの全てを削り取る黒き旋風が彼の身体の周囲に渦巻く。

 それは『デミウルゴス式偽神細胞』による凄まじき力であり、その代償に彼の身体は徐々に拒絶反応によって自壊していく。
 だが、全てを破壊する方が早いだろう。
 そのための力。
 最強のストームブレイドを生み出すために造り出された獣とヒトの融合した存在が、今まさに世界に牙を剥くのだ。

『強力な敵性反応を確認、警戒を!』
 ルドラ・ヴォルテクス(終末の剣“嵐闘雷武“・f25181)の戦闘用マシンスーツに集積された情報が警告を発する。
 目の前の存在を目視で確認し、ルドラは笑った。
 壮絶に、凄絶に、彼は笑ったのだ。
 わかるのだ。あれは己と同じだと。己と同じ身と生命を削って戦うストームブレイドだと。
 あの黒き旋風がまさにその証拠である。
「ははっ、俺の同類ってわけか」
 獰猛に笑う。

 互いに生命が少ない。わかっていることだ。
 それは言ってしまえばシンパシーのようなものであったことだろう。
「来いよ、似た者同士、壊し合おうぜ」
「満たされない。満たされない。どんな存在が俺の前に来たとしても――!」
「来いよ、嵐の力、おまえも持っているんだろう? 機構剣タービュランス解放、暴風よ」
「俺は壊して壊して壊して、全てを腹に収めなければ満たされない。黒き旋風よ」

『――吹き荒れろ』 
 言葉が重なる。
 満たされることがないのだと咆哮する『ガブリエル・ラチェット』から黒き旋風が迸る。触れるもの全てを削り取るユーベルコードの一撃は、凄まじいの一言に尽きるものであった。
 例え、ルドラであってもあの一撃に触れてしまえば、削ぎ落とされてしまうだろう。
 故に。

 彼の瞳はユーベルコードに輝く。
 それが生命を削る行いであったとしても、そこに後悔はない。
「今これより、神(ヴェーダ)に至る!」
 限界を越える出力。リミッターなどとうに解除されている。
 放たれる嵐の力はルドラを飲み込んだ。あらゆる体の部位を削り取る黒き旋風が彼の身体を切り刻む。
 だが、その瞳に輝くユーベルコードの輝きは、いささかも陰ることはなかった。
 刻まれ、削ぎ落とされる端から緊急強化修復スティム・ソーマによって、彼の能力は6倍にまで高められる。
 超高速修復形態は、彼の身体を瞬時に復元し、凄まじい速度で持って黒き旋風と暴風をぶつけあい、互いに力でもってせめぎ合うのだ。

「はははっ! いいぞ、もっと楽しもう」
「満たされない! 満たされない! こんなにも力は溢れているのに!」
『ガブリエル・ラチェット』とルドラが激突する。
 痛みが疾走る。
 それは互いにとっても同じことであったことだろう。拳が激突する。蹴撃がぶつかり合い、旋風が迸る。

 黒い嵐の中で打ち合う光が明滅するのは、雷鳴のごとく。
「ハハッ! 生まれてこの方、兄弟がほしいと思ったのはこれが初めてだ! こんな風に殺しあれうほど兄弟喧嘩ができる兄弟がなぁ!」
 ルドラは笑っていた。
 そう、笑っていたのだ。命を削るユーベルコード。それは互いに同じ。同じ境遇。違うのは、猟兵かオブリビオンか。その違いでしかない。

 ならば、二人を分かつものを生と死でしかないだろう。
 旋風を機構剣が受け止め、弾き飛ばす。身体がきしむ。骨が折れる。肉が削ぎ落とされる。
 そのたびに激痛が疾走るけれど、それでもルドラは倒れない。倒れることを己が許さない。
 そこにあるのは己の力の発露と生命の意義のみ。

 戦って、笑う。
「決められた生命だというのに! 俺は、何故まだ満たされない! 決められた生命だからか!」
『ガブリエル・ラチェット』の咆哮にルドラは笑って応えるのだ。
 そうじゃないと。
 もしも、兄弟と呼ぶことが許されるのであれば。

 そう、ルドラは応えるのだ。
「俺の生命は俺が決める」
 兄弟よ。
 同じ轍の上にありながら、違う生命よ。己と君を違えたのは、きっと己の生命を己で決めるという選択をしたかしなかったか、ただそれだけなのだと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
攻撃の威力は凄まじいみたいだけど、自分を削って攻撃してくるのか。
空っぽを満たすための破壊ってことみたいだし、ちょっと悲しい感じだね。

できれば早く落ち着かせてあげたいところではあるけど、
今回はそれができないくらい強力なんだ……。
かといってスルーは絶対できないし、被害だけでも抑えないと、だよね。

防御に徹して時間を稼ぐってことなら、わたしでもなんとかなるかな。
防御のほうが攻撃よりは得意だし、足止めさせてもらうよ!

相手の攻撃は【等価具現】で相殺して無効化。
こちらからは【M.P.M.S】や【D.U.S.S】を使って、相手の足をとめさせてもらうよ。
時間切れを狙うのは心苦しいけど……そこだけはごめんね!



 咆哮が轟くソルトレークシティにおいて、『ガブリエル・ラチェット』の放つ嵐は凄まじいものであった。
 暗黒の竜巻、オブリビオン・ストームを模したかの如き嵐は、今や市街地を飲み込むほどに巨大化している。
 それはすべて『デミウルゴス式偽神細胞』によるものであることは言うまでもない。
 猟兵たちをして、これを超強力な敵であるとし、自壊を誘う以外に打倒するすべはないとまで言わしめた力。
 これが『デミウルゴス式偽神細胞』を移植された者の姿であると『ガブリエル・ラチェット』はひび割れた身体を抑えながら、尚も満たされぬ『飢餓』を持って己の生を叫ぶのだ。

「満たされない! 満たされない! 穴が空いているわけでもないのに! この『飢餓』がどうしても満たされない。俺は、ただ、『飢え』たくはないだけなのに――!」
 その体はユーベルコードを使うたびに自壊への道を歩んでいくことだろう。どうしよもうない痛みが彼を襲っているのだろう。
 けれど、それを倒さねばならぬことに菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は己の心が悲嘆に暮れるのを感じていた。
「攻撃の威力は凄まじいみたいだけど、自分を削って攻撃してくるのか。空っぽを満たすための破壊ってことみたい……」
 その破壊が何も齎さぬことを理緒は知っている。
 同しようもないことだとも理解している。

 けれど、どうしても悲しいと感じてしまうのだ。
 同時に、彼の『飢え』を満たしてあげたいとも感じる。
「でも、それはできないことなんだよね。満たすことのできないものを、満たす術をわたしは持っていない……なら、少しでも落ち使えてあげたい」
 それもできない。
 わかっている。でも、と言葉が溢れるのを理緒は感じていたことだろう。ならば、自分ができることは何か。
 被害を抑えることだけだ。このまま彼を放置しておけば、必ず他の都市や拠点に住まう人々にも被害を齎すだろう。

 それだけはしてはならない。
「防御に徹して時間を稼ぐってことなら、わたしでもなんとかなる!」
 攻撃よりも防御にこそ己の本領を発揮する理緒の瞳がユーベルコードに輝く。
 目にするのは、黒い嵐より放たれた黒犬たちの群れ。
 それは凄まじい数で持って理緒へと迫る。己の飢餓を満たすため、破壊を齎すため、あらゆる存在をその牙で持って滅ぼさんと疾走る姿は、巨大な嵐のようでもあった。

 それを理緒は瞳に輝くユーベルコードで見つめる。
「同位、検索……具現化シークエンス起動」
 等価具現(トウカグゲン)。
 彼女のユーベルコードである。電脳世界の情報を元に具現化した等価存在を放つユーベルコード。それは目にした黒犬の存在を全て電脳世界での情報に置き換え、同じ存在を解き放つことによって相殺する恐るべきユーベルコードである。
 例え、どれだけ『デミウルゴス式偽神細胞』でもって強化されていたとしても、彼女の瞳は全て捉えている。

 正しく認識し、正しく姿を模倣する。
 寸分違わぬ情報は、それだけで『ガブリエル・ラチェット』の放った黒犬たちを鏡写しにしたかのようであり、激突した瞬間相殺されて霧散して消えていく。
「今、だよー!」
 放たれる指向性の音響兵器。
 乱れ打たれるミサイルランチャー。あらゆる武装でもって理緒は『ガブリエル・ラチェット』の進撃を足止めする。

 彼女の背後には拠点に住まう人々がいる。
 彼等を『ガブリエル・ラチェット』の牙に掛けさせるわけにはいかないのだ。今が踏ん張りどころであることを彼女は理解している。
 電脳世界から流れ込んでくる圧倒的な情報。それを彼女は処理し続ける。脳が焼ききれそうな感触を覚えながら、黒嵐の如きユーベルコードを相殺し続けるのだ。 
 だが、それ以上に『ガブリエル・ラチェット』もまた自壊し続ける。
 その痛みは凄まじい拒絶反応によって激烈な痛みを伴うものだろう。

 そこに憐憫はあった。
「時間切れを狙うのは心苦しいけど……そこだけはごめんね!」
 嘗て世界を救わんとしたストームブレイドの計画。それは間違っていたのかも知れない。こんな悲しみだけが生まれる存在が解き放たれてしまったことだけが、間違いであったのだ。
 だからこそ、理緒は彼の足を止める。
 もう此れ以上がないように。そう願うように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
成れの果てか
ならば終わらせるべきだな

戦況は『天光』で逐一把握
攻撃には煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し阻み逸らし捻じ伏せる
無限の先へ届く術はなく、万象を終わらせる破壊の原理を超え得る筈もなし
要らぬ余波は『無現』にて否定し消去
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給

絢爛を起動
目の前の空気を起点に戦域の空間を支配
因果の原理により召喚物含むオブリビオンとその攻撃のみを目標とし、自壊の原理で空間を満たす

これらは元より崩れ行くもの
自壊の原理は速やかにその存在を終える大きな一助となるだろう
闇も風も自ら崩れ何も残りはしない
心置きなく受け取れ。遠慮はいらんぞ

※アドリブ歓迎



 満たされないと叫ぶ咆哮は、黒嵐の如きユーベルコードの輝きを解き放つ。
『デミウルゴス式偽神細胞』。
 それは激烈な拒絶反応を引き起こす代わりに、通常のオブリビオンでは考えられないほどの出力のユーベルコードを解き放つ。
 黒い嵐の中から飛び出す黒犬たちは疾風のようにソルトレークシティの市街地を駆け抜け、己の主の『飢餓』を満たすためだけに疾駆するのだ。
「足りない。足りない。どうしても足りない。こんなものでは、穴が、穴が塞がらないんだよ――!」
 ヒトと獣が融け、合わさって生まれた存在。

 それは愚かな選択の結実でもあったのかもしれない。
 しかし、それが最善であると考えることは過ちであるとは言えなかったことだろう。正しさと過ちは未来の識者たちが語ることであって、現在を生きる者達が断定できることではないのだ。
 例え、過ちから生まれた生命であっても、それはもしかしたのならば、未来に続く可能性を手繰るための必要なものであったのかもしれない。
「ああ、飢えが! 腹が! 何もかもが俺を満たしてはくれない!」
 何故だと叫ぶ咆哮をアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は聞く。

「成れの果てか。ならば終わらせるべきだな」
 淡く輝く青い光が周囲に漂う。
 すでにソルトレークシティの全ての戦況は見定めた。この地にある拠点や人々を護るために猟兵が駆けつけ、『ガブリエル・ラチェット』の身に移植された『デミウルゴス式偽神細胞』から来る激烈な拒絶反応をもって、自壊を推し進める他に彼を止めるすべはない。
 ならばこそ、まとう十一の原理を無限に回す。

 天は地に。星は月に。光は闇に。
 あらゆるものが原理の中に溶け込んでいく。無限の先に届く術はなく、万象を終わらせる破壊の原理を越えるものはない。
 ならばこそ、己に迫る黒きキ場を原理でもって変換し、その身を消滅させる。
 牙はアルトリウスに届く間もなく霧散して消える。
「煌めけ」
 ただの一言で持って空間を完全に掌握する。それがユーベルコードの輝きであり、黒き嵐の如きユーベルコードと青い淡光が齎すものとの違いであった。

「これらは元より崩れ行くもの。自壊の原理は速やかに存在を終える大きな一助となるだろう」
 絢爛(ケンラン)たる淡青の輝きは黒き嵐を蝕んでいく。
 どんな攻撃も彼には届かない。
 それが原理であるというのならば、『ガブリエル・ラチェット』の理解には及ばぬものであっただろう。
「消える。消えてしまえばいい。全て、消えてしまえ! この飢えも、痛みも、全てが消えていくのならば、世界もろとも消えてしまえばいい!」
 叫ぶ言葉もまた溶けて消えていく。

 それを愚かとは呼ぶまい。
「闇も風も自ら崩れ何も残りはしない。心置きなく受け取れ」
 放たれる淡青の光は、黒き嵐に飲み込まれては明滅し、そして内側から黒き嵐の如きユーベルコードを消滅させていく。
 それでもなお、崩しきれぬ『デミウルゴス式偽神細胞』の力。
 如何なる力であるのかさえも解らない。
 ストームブレイドとしての力、オブリビオン・ストームを根源とする力。
 そのどれもが証明には至らぬことであっただろう。

 だが、それでも受け止める者がいるのならば。
「遠慮はいらんぞ」
 アルトリウスの瞳がユーベルコードに輝く。
 飢えるのならば、与える。
 膨れぬほどの穴が空いているのならば、その身が朽ちるまで付き合おうというようにアルトリウスの放つ淡青が黒き嵐の内側で、絢爛と輝き続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ツキカ・アシュヴィン
なんちゅう無茶苦茶な奴や…!
あの力も、その源も!
せやけど、何ともならん敵と違うなら、やってみよか…!

つかず離れずの位置をキープしつつ、ライフルで敵を撃っては離れの一撃離脱戦法。
ユーベルコードは遮蔽を取ったり、穴に飛び込んだりしてやり過ごす。
『占星、未来を導く』も併用して最適な回避手段を見つけ出して耐えるで。

後は【罠使い】でその辺のガラクタをウチの影に見せかけたり、ウチのおる方向とは別方向で手榴弾が爆発するよう仕掛けを仕込んだり。
BlackHazeから発煙弾を放って【目潰し】した上で、銃撃しつつ距離を離したりしてユーベルコードの空振りを誘えんかも試してみよかと。



 ソルトレークシティの市街地を駆け抜ける漆黒の旋風。
 それは文明の残骸である瓦礫の山すらも容易に削り取り、破壊していく。その力の奔流の凄まじさは言うまでもない。
 猟兵たちをして自壊を待つしかない存在。
『デミウルゴス式偽神細胞』――その力の発露は、『ガブリエル・ラチェット』の身体を蝕むものである。
 ユーベルコードを振るうたびに激烈な痛みが身体を走り抜けるのだとしても、『ガブリエル・ラチェット』の咆哮は途絶えることはなかった。
「何もかも、全て! 全部が俺のまわりにあるかぎり、俺は満たされない! 全て削り取らなきゃならない! 消えろ! 『飢え』よ消えろ!」

 その咆哮はぽかりと空いた胃の穴を埋めようとして、埋まらぬからこそ迸る怨嗟であったことだろう。
 どうしようもないことであった。
 彼がヒトと獣の混じり合った存在であり、かつてのストームブレイドとしての力の成れの果てであるというのならば、殊更、それはどうしようもないことであったのだ。
「なんちゅう無茶苦茶な奴や……! あの力も、その源も!」
 ツキカ・アシュヴィン(星追いの渡り鳥・f24375)は暴風のように猟兵たちに迫る『ガブリエル・ラチェット』のユーベルコードの強力さに舌を巻く。

 凄まじい力の奔流は確かに己たちを追い詰めるものであったが、同時に彼にとっては破滅への道である。
 これまで猟兵たちと戦い消耗しているはずだ。
 けれど、迫る旋風はいささかも衰えるところがない。本当にこれで自壊するまで己達の方が保つのかとさえ思うほどの力の激流だった。
「せやけど、なんともならん敵と違うなら、やってみよか……!」
 どれだけの激流であっても、そこに道筋があるのならば、其処を疾走るのが猟兵というものである。

 ツキカはアサルトライフルの銃口をむけ、弾丸を放ち『ガブリエル・ラチェット』の注意を此方にひきつけ続ける。
 付かず離れずの一撃離脱戦法。
「しゃらくさい! 無駄だ! 俺の旋風の前には!」
 咆哮とともに旋風が迸り、迫る弾丸の全てを削り取って消し去ってしまう。
 迫る旋風をツキカは遮蔽物を利用したり、くぼんだように落ちた地面の中に飛び込んでやり過ごし続ける。
「ほんと、なんちゅう力押しや……!」
 冷たい汗が己の頬を伝うのをツキカを感じた。

 けれど、彼女の瞳はユーベルコードに輝く。
 未だ彼女が無事であるのは、占星、未来を導く(ミルザム・サイト)からである。
 全力で今を生き集中による最良の未来を見出す力。
 それによって彼女は致命的な状況を予測し、回避し続けているのだ。
「ジリ貧ってこいうことを言うんやろうけど!」
 ただでやられるわけにはいかぬとツキカはワイヤートラップでもって瓦礫の影を己だと誤認させ、『ガブリエル・ラチェット』の力を受け流す。

 さらに別方向で手榴弾が爆発し、特殊弾頭を放つ拳銃にセットされた発煙弾でもって視界を潰す。
 煙幕の中を黒い旋風が渦巻き、振り払った瞬間、ツキカは走り出す。
「そこやぁーっ!」
 彼女が見た未来は、どれも決定打には成り得なかった。
 けれど、彼女とて猟兵である。

 繋ぐ戦いをすることこそが、猟兵の本質にして最良であるのだとしたら、彼女の戦いは次なる猟兵に度重なるユーベルコードの連発でもって自壊を誘発し続けた状態で『ガブリエル・ラチェット』を引き止め続けることである。
「そのための楔にウチはなる!」
 発煙弾が放たれ、苛立つ咆哮ままに力をふるい続ける『ガブリエル・ラチェット』を翻弄するツキカ。

 倒せなくていい。
 倒れるまで彼を翻弄し続けるだけだ。
 彼女には見えている。確かに打倒できなくても、自壊し滅びる『ガブリエル・ラチェット』の姿を。
 すでに見えているのだ。
 ならば、彼女は迷わない。
 これがタイトロープの如き戦いであっても、己が見た未来を確定させるために、暴風吹き荒れる戦場を駆け抜けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
…飢餓に呑まれたオブリビオンか…
……自壊も厭わぬ全力の攻撃と来たか…まともに戦ったら一瞬でなぎ倒されそうだなこれは…

…確かに耐久戦をするしか無さそうだ…となれば…
…【最も古き魔女の家】を自分の周囲に範囲を狭めて発動…この中にはあらゆる攻撃は届かない…
…攻撃でないなら、敵意がないのであればこの結界は意味をなさないのだけど…
…その状態では無理だろうね…その偽神細胞の解析ぐらいはさせて貰うよ…
(偽神細胞の解析行為に没頭)
……今は無理でも…その細胞に侵された者を元に戻す手立てぐらいは見つけてやりたいところだしね…



『デミウルゴス式偽神細胞』の力は凄まじいものであったけれど、その代償もまた凄まじいものであった。
『ガブリエル・ラチェット』の放つ黒き旋風は、いわばサイズダウンしたオブリビオン・ストームのようでもあった。
 その黒き竜巻を模した力は、ヒトと獣の因子が混ざり合うことによって一つの完成を見ただろう。
 けれど、その身を苛むのは『飢餓』である。

 器に穴が空いているのだ。
 どれだけ注いでも満たされることはない。その穴を塞ぐ手立てすらない。
 そして、その器事態も己の力によって自壊していく。
「……『飢餓』に呑まれたオブリビオンか……自壊も厭わぬ全力の攻撃ときたか……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は冷静であった。
 この戦いに勝利するためには、敵を打倒する必要はない。
 どれだけ強大な力を振るうのだとしても、振るうたびに己の身体を自壊させるほどの拒絶反応が出るのであれば、消耗戦に引き摺り下ろせばいい。

 そのために先行した猟兵達は『ガブリエル・ラチェット』を消耗させ続けていた。
「満たされない。穴が、穴が塞がらない! どんなに貪っても、喰らっても、消えていくんだよ!」
 振るわれる黒き旋風がメンカルを襲う。
「我が領域よ、築け、保て。汝は堅牢、汝は不落。魔女が望むは破れず侵せぬ護の結界」
 彼女の詠唱が間に合ったのは奇跡としか言いようがなかった。
 まともに戦ったのであれば、一撃でなぎ倒されて終わりであった。けれど、メンカルの瞳に輝くユーベルコードを前にして、黒き旋風は止まる。
 それは最も古き魔女の家(キテラーズ・イン)にして、絶対防御の力。
 あらゆる外部からの攻撃を遮断し、その生命を繋ぐユーベルコードである。

 彼女は魔法陣の上に立ち、メンカルを護る結界の内側で『ガブリエル・ラチェット』の瞳を見据える。
 その瞳に合ったのは狂気以上に飢餓であった。
 満たされぬままに力を振るうしかない。それしか知らぬ者であるがゆえに、その瞳には満たされる者を許さぬ敵意が燃え上がる。
「何故、俺は満たされない! 何故俺は飢えたままなのだ! 何故! 何故! 何故!」
 凄まじい力の本流がメンカルを襲う。

 しかし、彼女の結界はほころびも、きしむこともなかった。
 静かにメンカルはうなずく。
 何故、と問いかける言葉に彼女は言葉を紡ぐ。
「確かに満たされないのだろうね……その偽神細胞のせいであろうけれど……『飢餓』であるがゆえに、それを満たすのは食物であるのだろう。けれど、言葉通りのそれではないよ……」
 メンカルの電子解析眼鏡『アルゴスの眼』がきらめいていた。
 力の本質。
『デミウルゴス式偽神細胞』こそが、『ガブリエル・ラチェット』のちからの源である。

 やはり自壊を起こすほどの拒絶反応。
 あらゆるものを否定するからこそ得られる力。その力を前に、齎される力の激流に身体が耐えられないのだろう。
「本来、この結界は敵意がなければ意味を成さないのだけど……その状態では無理だるね……全てが敵に見えているのなら」
 メンカルは解析を続ける。
 己の戦いは此処から始まるのだ。
 全ての戦いが終わった後も。きっと彼女の戦いは、この戦場の外にこそある。

『偽神細胞』の解析。
 今は無理であるのかもしれない。けれど、ストームブレイドたる猟兵は他にもいる。
 生命を削りながら戦う者たちに明日を望むことの何処に恥じることがあるだろうか。糾弾されることもありえない。
 誰もが望み、当たり前のように歩み進むことのできる明日を得るためには、メンカルが研究という場で戦い続けなければならない。
「……その細胞に侵された者を元に戻す手立てぐらいは見つけてやりたいところだしね……」

 だから、その敵意は全て己に向けると言いと、メンカルは解析の手を止めることはなかったのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナ・ヴァレンタイン
やれやれ、制限付きの使い捨て兵器ということか
だがいくら強かろうが時間に追い立てられて冷静さを欠いた牙では届かんよ

ユーベルコード起動
鴉の群れを召喚し、周辺展開
鴉の持つ反射能力は「相手に相手の力を返す」設定を基礎に、あとは適時マニュアルで変更していく
集団戦が得意なようだが、突進してくれば敵に敵をぶつけるように、後続がいるならば後続の道をふさぐように転倒させて
ひたすら此方は敵の攻撃を弾き返し続ける

反射行動が追いつかないなら拳銃の抜き射ちで反撃して体制を崩しにかかるし、余裕があれば敵の急所をぶちぬきにいくとも

やれやれ……これほどのものを使い捨てとは、いささか贅沢すぎるのではないかな?



 黒き旋風、その力の奔流が齎す破壊の痕がソルトレークシティの市街地の残骸に刻まれていく。
 すでに荒廃した文明。
 その残滓すらも容易く破壊してしまう力は、『デミウルゴス式偽神細胞』が齎したものである。
 しかし、その強大過ぎる力は、オブリビオンに拒絶反応でもって自壊に追い込む。
 凄まじいユーベルコードは強力過ぎるが、それでも猟兵たちは『ガブリエル・ラチェット』の牙と旋風を受け止め、この場に釘付けにし続けていた。

「満たされない。どうしてだ。こんなにも、俺の存在意義が、此処にあるというのに! 戦い続けているのに、何故、満たされない! この胸の内にある虚はなんだ!」
 咆哮が迸る。
 振るわれる嵐の如き力から、黒犬が無数に生み出され戦場を駆け抜ける。
 己の前に存在する全てに牙を突き立て、己の飢えを見たさんとするユーベルコードは、ただそれだけで『ガブリエル・ラチェット』の身体を蝕んでいく。

「やれやれ、制限付きの使い捨て兵器ということか」
 大仰な手振りと口ぶりでもってレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は旋風吹き荒れる戦場に立つ。
「使い捨てなどと! 俺は! 今、此処に存在る!」
 迫る黒犬たちをレナは見据える。
 確かに強力な力でもって、迫る黒犬の大群は脅威そのものであった。けれど、レナは思うのだ。
 それは激情に駆られた力であると。

「だがいくら強かろうが時間に追い立てられて冷静さを欠いた牙では届かんよ」
 彼女は、彼女の敵全てに、凶報の運び手(レイヴンマスター)となる存在である。
 輝くユーベルコードの瞳が見据え、迫る黒犬の群れに放つは鴉であった。
 それがただの鴉ではないことは当然であった。
 物理攻撃の尽くを反射する渡り鴉たちは、一斉に空を飛び牙を突き立てんとする黒犬たちの牙を反射させ、群れを横転させる。

「無駄だよ。集団戦が得意なようだが、突進してくれば跳ね返し後続の者にぶつけるし、バリケードにも変えよう。ほら、後続の道が塞がれた」
 力を振るう牙が一方方向であるからこそ、渡り鴉たちの保つ力は、黒犬たちの力を反射する。
 ただひたすらに敵の攻撃を反射し続ければいい。
 それだけで『ガブリエル・ラチェット』は自壊への道を突き進んでいくことだろう。

「邪魔、だ! 俺の前に! 立つな――!」
 狂えるほどの飢餓に駆り立てられ『ガブリエル・ラチェット』が咆哮する。黒き旋風は益々持って力の発露を増す。
 溢れる力は、振るえば振るうほどに自壊を進ませるはずであるが、『ガブリエル・ラチェット』は構わなかった。
 己の身体が滅びるよりも、己の飢えが満たされぬことのほうが恐ろしい。
 その飢えを抱えて消えることが、どれだけ彼を追い詰めているだろうか。

「やれやれ……これほどのものを使い捨てとは」
 レナは憐憫も哀切もなかった。
 目の前の存在を確かに哀れであると思っただろう。
 オブリビオンとはそういうものだと言えば、一言で片がつく。
 けれど、それでも迫る黒き旋風の主を見据え、マスケット銃を向ける。水銀を混ぜ込んだ弾丸が装填され、引き金を引く。
 
 確かに『ガブリエル・ラチェット』は強大な存在であろう。
 自壊に導く他勝利するすべはなかったのだろう。けれど、それでもレナは思うのだ。
「いささか贅沢がすぎるのではないかな?」
 自滅していくしかない運命を保つ存在。
 せめて、その『飢餓』が長く続かぬようにと放たれた水銀の弾丸は、『ガブリエル・ラチェット』の胸を穿つ。
 黒き旋風すら切り裂いて飛ぶ弾丸の軌道をレナは見やり、決して塞がらぬ穴を持って、『ガブリエル・ラチェット』への手向けとするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
尽きぬ餓えに苦しみ、自壊するまで力を振るう
なるほど、これが親近感と言う物ですか
我等が怨念を満たすは怨敵の血肉のみ
しかし幾ら喰らえど我等が怨念は尽きる事なく餓えも同じ

我等は狩るもの、喰らうもの
何方かが絶えるまで我等が怨敵を喰らい続けるのみよ

【行動】POW
呪詛+殺意が形を成した怨念の炎を限界以上に滾らせUC+限界突破
五感と第六感+野生の勘と戦闘知識+瞬間思考力を活かして敵行動を予測し攻撃を見切る

残像+フェイントで敵UCを誘発させて躱しながらなぎ払い+切断
武器が纏う怨念の炎によって敵を消耗させ生命力吸収+吸血で自身を回復できる継戦能力と各種耐性を活かし限界突破や敵攻撃による動きの停滞を防止



「尽きぬ飢えに苦しみ、自壊するまで力を振るう」
 それは言葉にしてしまえば端的なものであったことだろう。
『ガブリエル・ラチェット』はオブリビオンである。己の憎悪の対象である。
 決して許せぬ存在である。
 それが存在しているということ事態、己の怨念が尽きぬ理由であることを、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は知っている。
 正しく理解している。

 だからこそ、己の胸に浮かんだ感情に彼は、なるほどと新たな理解を得る。
「これが親近感というものですか」
 怨念を糧に戦い続ける己。
 決して満たされることのない者と、決して晴らされぬ怨念を抱える者。
 両者は相反するようで居て、似ているのだ。
 だからこそ、相容れない。
 どれだけ親近感を覚えてていたのだとしても。
「我等が怨念を満たすは怨敵の血肉のみ。しかし幾ら喰らえど我等が怨念は尽きる事もなく、飢えも同じ」
 ならばこそ、狩らねばならぬ。
 喰らわねばならぬ。

「我等は狩るもの、喰らうもの。何方が絶えるまで我等が怨敵を喰らい続けるのみよ」

 その言葉は互いを認識した瞬間に消し飛んだことだろう。
『ガブリエル・ラチェット』の咆哮が戦場に轟く。これまで多くの猟兵たちが消耗を強いているというのに、未だ彼は咆哮を轟かせ、己を自壊させるほどの強大なユーベルコードを振るい続ける。
 あらゆるものを削り取る黒き旋風を身にまとい、獣そのものたる姿に変貌し、戦場を一直線に駆け、織久を目指すのだ。
「来るか、怨敵」
「飢えが、止まらない! 俺の敵はどこだ! 何処に行けば、何を殺せば、これは満たされる――!」

 振り下ろされる鉤爪の如き黒き旋風。
 それを怨鬼解放(エンキカイホウ)によって限界を超えた『禍魂』に宿る念を解放によって、己を荒ぶる怨鬼へと変える。
 禍々しき姿。
 己の本性。
 怨念の集合が己を鬼へと変えていく。
 限界を超えて尚、その力は『デミウルゴス式偽神細胞』の力には及ばないだろう。

 だが、倒せぬ敵ではない。
 自壊を待つ。ただ、それだけでいい。ならば、織久は迷わない。己の野性的な勘と五感、第六感、あらゆるもの、己たちが積み上げ、研鑽し、練磨した『怨敵を穿つ』切っ先を突きつけるのみである。
「消えろ! 消えろ! 俺の前から、俺の飢えを齎す存在!」
 振るわれる嵐の如き斬撃を織久は躱し続ける。

 どこまでも付き合うつもりであった。
 ユーベルコードを振るえば振るうほどに『ガブリエル・ラチェット』の身体は自壊に追い込まれていく。
 だが、同時に一撃でも己がもらえば、それは致命傷に成り得る。
 肌を焼く緊張。
 迫る凄まじき力の奔流、その全てを五感で感じながら織久は残像すら残す速度で戦場を駆け抜ける。
 己の放つ極細の糸が怨念の炎を纏い、振るわれる。

 切断まで行かない。
 恐るべき力。恐るべき耐久。だからこそ、織久は怨念の炎で持って、その身宿る生命の力を吸い上げる。
 動きを止める。
 己の放つ極細の糸は血と髪を加工し、研ぎ上げられたものである。
 怨念があらゆるものを凌駕する。例え、強大な『デミウルゴス式偽神細胞』の力であろうと引けは取らぬ。

「我等が怨念尽きることなし」
 もしも、『ガブリエル・ラチェット』を凌駕するというのならば、その一念においてのみ。
 織久は、己の狂気と殺意のままに怨念を振るい黒き旋風をいなし続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
オブリビオンを相手に感傷を抱くのはよくありませんが……憐れですね。

【スノウマンフォート】を使用、氷の砦と雪だるまの幽霊たちを召喚します。
城攻めにおいては、通常攻める側は守る側の3倍の兵力を必要とするとか。
この砦を落とすつもりならば、それだけの兵力を用意してもらいましょう。

城壁の上から雪だるまが放つ氷の礫の【弾幕】で近寄る黒犬の群れを撃退し、時間を稼ぎます。
私は城壁の上から『スナイパー』の『視力』で戦場を見渡し、連携によりうまく弾幕をすりぬけた黒犬を狙い「フィンブルヴェト」で撃ち抜きます。

あなたにとって何が救いなのかは分かりません。故に「救います」とは言えませんが……せめて、終わらせましょう。



「消えない。穴が消えない。埋まらない。どうしたって埋まらないんだよ……! 腹が、満たされない! なんでだよ――!」
 その咆哮は己の身を自壊に晒しながら、吹き荒れる黒き旋風と共に轟いていた。
 ソルトレークシティの市街地は荒廃し、残骸ばかりが積み重ねられていた。どこにも文明の兆しはない。
 あるのは残滓ばかりである。
 そして、『ガブリエル・ラチェット』は己の『飢餓』を満たすために力を振るい続ける。
 黒き旋風は全てを削り取るように破壊を齎す。
 彼という器に空いた穴は満たされない。ヒトと獣の因子を織り交ぜて生み出された存在であるがゆえに、満たされぬ『飢餓』こそが本質となったのだろう。

 その『飢餓』を抱えたままオブリビオンとなったことが、彼にとっての不幸であったことだろうか。
「オブリビオン相手に感傷を抱くのはよくありませんが……」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、その青い瞳に黒き旋風の如き『ガブリエル・ラチェット』を見た。
『飢餓』は人の心を荒ませる。
 どんな些細なことであっても、人の心は容易に悪へと傾く。
 それを彼女は知っているからこそ、『ガブリエル・ラチェット』の抱える『飢え』を見た。

「……憐れですね」
 その瞳がユーベルコードに輝く。
 立ち並ぶは雪だるま。
 だが、その数は尋常ならざるものであり、同時にそれは氷の砦であった。
「邪魔を――するな! 俺の、穴を満たすのは!」
 それではないというように『ガブリエル・ラチェット』が咆哮し、その咆哮にいざなわれるようにして黒き旋風より黒犬たちが溢れ出す。
 それはあらゆるものを噛み砕く牙。
 黒き旋風たちは、一瞬で氷の砦に迫る。だが、セルマは氷の砦に立ち、銃で武装した雪だるまたちの指揮を執る。

「城攻めにおいては、通常責める側は護る側の三倍の兵力を必要とするとか。この砦を落とすつもりならば、それだけの兵力を用意してもらいましょうか」
 彼女の言葉と共に雪だるまたちが武装した銃から氷の礫を放つ。
 それはまさに弾幕と呼ぶに相応しいものであり、放たれる弾丸は氷雪の嵐そのものであった。
 砦の上から放たれる礫は黒犬たちを撃ち貫き、その波状攻撃を寄せ付けない。
 しかし、徐々に黒き旋風は氷の砦にさえ取り付き始めるのだ。

「……自壊を待つしかないというのは、どうやら本当のようですね……」
 あまりにも強大な力。
 取り付いた黒犬たちをセルマはマスケット銃で狙い撃ち、叩き落としていく。
 その背後にある『ガブリエル・ラチェット』の姿を見やる。
 穿たれた胸。
 血潮を流しながら、その体は自壊による傷跡が広がっていっているようであった。これまで猟兵たちが消耗を強いた結果であろう。
 どんなに強大な存在であっても猟兵は繋ぐ戦いによって、打倒してきた。

 それは『デミウルゴス式偽神細胞』を保つ『ガブリエル・ラチェット』であっても例外ではない。
『飢え』――決して言えぬ苦しみは彼の心に何を去来させているのだるか。
 それは言うまでもない。
 自壊による痛みではない。
 苦しみだ。埋めても埋めても、抜け落ちていく喪失感。
 それに常に苛まれるということは、耐え難いものだ。何処まで言っても理解されることのない感情は、澱のように体に蓄積していく。

 自壊よりも先に、その澱で『ガブリエル・ラチェット』は滅びるだろう。
「あなたにとって何が救いなのかわかりません。故に『救います』とは言えませんが……」
 セルマのマスケット銃『フィンブルヴェト』のスコープが煌めく。
 引き金を引くのに躊躇いはなかった。
 何故ならば。
「せめて、終わらせましょう」
 その魂を救うためには、それしかなかったのだから。

 満たせぬ者を満たせるほど、傲慢ではない。
 だから、せめてと願わずにはいられない。放たれた弾丸が『ガブリエル・ラチェット』の肩を穿つ。
 どうしようもない『飢餓』に終わりを齎すために。冬を齎し、春の訪れを願うために――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…お前がどんな存在でどんな過去があったとしても、私の為すべき事に変わりは無い

…この黙示の世界を終わらせない為に、この世界に生きる人々の為に…お前を討つ

「写し身の呪詛」に限界突破した魔力を溜め無数の残像を展開して敵の索敵から逃れ、
分身による陽動により敵UCを受け流しつつUCを発動

…何処に敵が潜んでいるのか分からないならば、諸ともに吹き飛ばせば良い

…自明の理ね。だけど、それ故に至極読みやすいわ

残った分身達に武器改造を施してコピーした【暴食暴風】を乱れ撃ち、
敵の追撃を複数の黒風のオーラで防御して時間を稼ぐ

…足りない出力は手数で補えば良い
さあ、次を撃って来なさい。お前が枯れ果てるまで付き合ってあげるわ



 穿たれた体は痛みなど感じなかった。
『ガブリエル・ラチェット』にとって、痛みとは二の次なるものであった。
 これまで猟兵達の銃撃が彼を捉えたのは二度。胸と肩に一発ずつ。
 されど、彼を取り巻く黒き旋風の勢いに衰えはなかった。吹き荒ぶ嵐の如き黒き旋風はあらゆるものを削り取るように荒れ狂う。
 それは、彼の抱える『飢餓』の現れであったことだろう。
「満たしても、満たしても、満たせない! どうしてこんなことになっている。飢えから程遠くなるために、力を求めたというのに!」
 嘆きでもない。
 悲しみでもない。
 あるのは『飢餓』のみ。

 穴が空いた器を埋めるための別のものすら探さぬ存在に言葉を尽くしたとして、それが穴を埋めるわけではないことをリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は知っている。
「……お前がどんな存在でどんな過去があったとしても、私の為すべきことに変わりはない」
 言い放つ言葉は、彼女の変わらぬ意志であり、同時に『ガブリエル・ラチェット』の持つ『飢餓』が、不変であることを告げる。
「飢えが、止まらないんだよ!」

 咆哮が轟き、黒き旋風が凄まじい力を伴ってリーヴァルディを襲う。
 それはあらゆるものを削り落とす力。『デミウルゴス式偽神細胞』の力は凄まじいものであり、彼を打倒することは敵わないであろうとさえ言わせた。
 けれど、勝てぬわけではないのだ。
「……この黙示の世界を終わらせない為に、この世界に生きる人々のために……お前を討つ」
 放たれた黒き旋風を『写し身の呪詛』で受け止める。
 だが、受け止めきれない。

 きしむ腕が痛む。限界を超えた魔力が体より放たれ、注ぎ込まれても尚、己の体をきしませる力をリーヴァルディは感じたことだろう。
 これが己を自壊させるほどの力であるのかと。
 咆哮が轟いている。
 あらゆるものを破壊し、己の穴を自覚することもできずに、徒に世界を蝕む存在。それを赦してはおけないのだ。
「……魔力同調。返礼よ、受け取りなさい」

 だからこそ、彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 吸血鬼狩りの業・幽眇の型(カーライル)。それは『写し身の呪詛』でもって受け止めたユーベルコードをコピーする力である。
 放つ一撃は黒き旋風と全く同質。
 放つ一撃が旋風とぶつかって相殺され、世界に吹き荒れる風が周囲を破壊し、削りとっていく。
『ガブリエル・ラチェット』はこれまで、時間稼ぎをするように戦う猟兵達を前に、無差別なる攻撃を放っていた。

 リーヴァルディが残像を展開し、敵の索敵から逃れようとしても、構うことなく、それどころか狙いすらもつけずに黒き旋風を解き放ち続けていたのだ。
「……自明の理ね。だけど、それ故に至極読みやすいわ」
 体がきしむ。
 限界を超えた魔力。溜め込んだ魔力を開放し、無数のリーヴァルディの分身たちが空に舞う。
 敵の出力はこちらを遥かに超えている。
 未だ自壊で崩壊していないことがおかしなくらいである。完全に質で下回るというのであれば、なんとする。

「……足りない出力は手数で補えば良い。さあ、次を撃ってきなさい」
 分身たちが空を飛ぶ。
 手に掲げる『鏡写しの呪詛』が煌めく。
 自壊さえじさぬ敵を前に己もまたなりふりを構うことなどできようはずもない。
「消えろ! 俺の前から! 俺の虚を、穴を、覗き込む忌々しき者達など!」
 放たれる黒き旋風は、極大なる嵐。
 かつて模したと言われるオブリビオン・ストームそのものなる黒き嵐がリーヴァルディたちを襲う。

 けれど、その尽くをリーヴァルディは受け止め、己の持てる最大の魔力で持って尽きるまで黒き旋風を打ち返す。
 それは黙示たる世界、アポカリプスヘルにおいては、終末の光景と同じであったことだろう。
「お前が枯れ果てるまで付き合ってあげるわ」
 その『飢え』を満たすためには。
 全てを出しきらねばならぬとリーヴァルディは、己の持てる力全てを持って、『ガブリエル・ラチェット』の持つ『飢餓』に応えるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
アドリブ&連携歓迎

今回の戦争…
序盤の侵攻具合でどれだけ多くのオブリビオンフォーミュラを倒せそうか
変わってくる…

私はこの世界の人々を守る為になるべく多く倒しておきたい
なら
今が打って出る時!


…痛ましい…

敵の荒れ狂いぶりに心が痛むも
深入りしない様気を引き締め挑む


【贖罪】に激痛耐性のオーラ結界で防御し時間稼ぎ
更に催眠術で私が美味しそうか壊しがいがありそうに見える様
誘惑し夢中にさせて誘き寄せる

迫りくる闇に戦慄するも
体が壊れていく姿を憐み
早く楽にさせたいと思いつつ継戦能力と狂気耐性で恐怖に抗う

私からのせめてもの手向けです
好きなだけ弄って良いですよ


戦後
ガブリエルさんに冥福の祈りを捧げる

どうか安らかな眠りを…



 アポカリプス・ランページは猟兵たちにとって過酷な戦いであると同時に時間との戦いでもあった。
『フィールド・オブ・ナイン』と呼ばれる全てが『オブリビオン・フォーミュラ』たる存在は時をかけるほどに、その計画でもって世界を破滅に導く。
 戦いの序盤において、六柱の『オブリビオン・フォーミュラ』のどれを打倒し、どれを残すのか。
 あらゆる問題が未だ山積した状態である。
 それ以前に、『オブリビオン・フォーミュラ』にたどり着くことができなければ、この戦いはアポカリプスヘルに甚大なる被害を齎す。
 ならばこそ、己が打って出るべきだとシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)はソルトレークシティの市街地へと駆け出す。

 周囲には嘗て市街地であった残骸が山積している。
 すでに多くの猟兵たちが戦いに馳せ参じ、『デミウルゴス式偽神細胞』を移植された『ガブリエル・ラチェット』との苛烈なる戦いに身を投じている。
 これだけの戦力が豆乳されて尚、打倒することが難しい。
 しかし、『デミウルゴス式偽神細胞』は兄弟な力を齎す変わりに激烈なる拒絶反応によって、オブリビオンである『ガブリエル・ラチェット』の肉体すらも自壊に追い込んでいく。
「満たせない。どうして、満たせない。俺の穴は、虚は、どうして、こんなにも広く、深いんだ! 何故、満たせない!」
『飢餓』こそが人と獣が混ざりあった存在である『ガブリエル・ラチェット』の抱える根源であり、本質であった。

 オブリビオン化したことが不幸であったのならばこそ。
「……痛ましい……」
 シホにとって、『ガブリエル・ラチェット』の咆哮は嘆きそのものであった。
 荒れ狂う姿。
 胸が痛む。その苦しみ、その『飢餓』がどれほどのものであるか。考えれば考えるほどに『ガブリエル・ラチェット』と呼ばれる存在が悲しみに煮詰められていくようでもあった。
 黒き旋風が『ガブリエル・ラチェット』を包み込み、咆哮と共にシホに迫る。

 あらゆるものを削り落とす旋風の力は鉤爪のようにシホへと振り下ろされる。
「どれほどの『飢餓』を抱えて生きてきたのでしょう。何があれば、そこまで己という器に空いた虚を広げることができるのですか」
 防御のために展開したオーラの結界が容易く削り落とされ、シホの体を切り裂く。
 全てを削り落とす一撃は、シホの体を切り裂いた。

 けれど、鮮血が迸ることはなかった。
 何故、と思うことはなかっただろう。血など『ガブリエル・ラチェット』にとっては関係のないことであった。
 これは、【贖罪】償いの時間(ラクニハシネナイノロイ)である。
 シホの瞳がユーベルコードに輝いていた。
「私はあなたを許します」
 慈愛に満ちた穏やかな微笑は、痛みなど感じせなかった。
 どれだけ深い傷跡が身に刻まれようとも、シホには無関係だった。なぶり甲斐があると思われただろうか。
 少しでも己の存在が『ガブリエル・ラチェット』の『飢餓』を満たすことができればいいと、シホは無抵抗のままに鉤爪の如き一撃を受け入れ続ける。

 傷跡が身に刻まれ続ける。
「なんだ、この手応えは。何も感じない。何も、なにも!」
「私からのせめてもの手向けです。好きなだけ弄って良いですよ」
 それは狂気を受け入れるものであった。
 恐怖がなかったわけではない。痛みがないからといって、心まで無事であるわけではない。
 体は心の容れ物であるかもしれないが、器が傷つけば中身もまた漏れ出て元に戻らなくなるのだ。

 だからこそ、シホの慈愛は微笑みでもって『ガブリエル・ラチェット』の『飢餓』が癒えることを望む。
 安らかなる眠りを得て欲しい。
 今は自壊による痛みが、『飢餓』が彼を支配しているのだとしても、滅び去った後に訪れる物が癒やしでなければ、救いがない。
 誰も祈らぬというのならば、己が祈る。
 シホは、静かに腕を組み、祈る。黒き旋風が頬を裂きながら、それでも彼女は己の心に従い、『飢餓』に堕ちた魂の咆哮を受け止め続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
「やぁ、つまんねェ事になってる敵さん。」
…ホント見てられない。だから殺す。殺して殺して殺せば敵さんも良い夢を見れるかな?

UCで吸血鬼化して戦う。
んでもって、敵さんの懐目掛けて突貫。
敵さんの殺気を感じ取って動きを見切り、適切な攻撃を即判断しながら、ただ敵さんを殺す為だけに何度も何度も身体を再生させながら敵さんを攻撃し続ける。
塵一つでも残っているのならば、まだ戦える。
そうやって死ぬまで殺し続ければいつかは死ぬでしょ。

「その飢えは永遠に満たされる事はないよ、ガブリエルさん。」
だけど、死ねば眠れる。だから殺す。



 咆哮が轟く。
 それは怨嗟でもなければ、悲嘆でもなかった。
 あったのは『飢餓』のみ。
 震える喉は血潮を求めていたわけではない。己の牙があらゆるものを削り落とし、己の臓腑を満たすのだとしても、彼の心に空いた穴は埋まることはない。
「何故、何故、何故、どうして、俺は満たされないんだ。こんなにも俺は――」
 貪り喰らい、無差別に破壊を齎しても尚、世界は己を満たしてはくれない。
 底が抜けたかのような感覚。
 足元がおぼつかないような感覚ばかりが彼の体を苛んで行く。どうしようもない感情ばかりが湧いて、溢れていくのだ

「決して、満たされない。何処まで言っても俺は、『飢餓』と共にあらねばならないというのか」
「やぁ、つまんねェ事になってる敵さん」
 その声は十年来の友人に語りかえるような言葉面であったけれど、その声色は心底うんざりしたようなものであった。
 振り返った『ガブリエル・ラチェット』が黒き旋風と共に、声の主へと鉤爪の如き一撃を振るう。

 放たれた全てを削り落とす一撃は須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の体を一撃のもとに切り裂いた。
 だが、その斬撃の後は即座に再生し、まるで斬撃などなかったかのように莉亜を立たせるのだ。
 倒れることなどあり得ないとでもいうかのように、言葉を掛けた時と同じ様に莉亜はかぶりを振った。
「……ホント見てられない」
 呟く。

 それは本心からであったことだろう。
 常に吸血衝動を抑え込み、敵さん――オブリビオンのみを吸血の対象とする莉亜にとって『飢餓』を抱えるオブリビオンたる『ガブリエル・ラチェット』を見やる。
「だから殺す。殺して殺して殺せば敵さんも良い夢を見られるかな?」
 本心であった。
 敵意ではない。殺意。あるのはそれだけであった。
 瞬間、金の瞳が輝く。

「全力で殺してあげるね」
 原初の血統(オリジン・ブラッド)が此処に目覚める。開放された吸血鬼としての力。
 覚醒された力は、平素抑え込まれている吸血衝動を解き放ち、莉亜の体を吸血鬼そのものに変える。
 放たれる黒き旋風の如き四肢の一撃一撃を莉亜は、殺気を感じるままに見切る。
 だが、それ以上に速いのだ。
 攻撃の速度が嵐そのものである。一撃をかわしても、その間に数撃が叩き込まれている。
「へえ、速いね」
「邪魔だ。どけ! 消えろ! 俺の前から! 満たされる事を知る者は全て!」
 世界のすべてが満たされていると呪う言葉。

 それを莉亜は否定しない。
 否定しても仕方ないと思うだろう。なぜなら、己もまた同じであろうから。
 鏡写しであったし、1つボタンを駆け間違えれば、己もまたそうであったはずだから。だから、見ていられなかったのだ。
 放たれる黒き旋風を受けながら、瞬時に再生し、『ガブリエル・ラチェット』を追い詰める。
 例え、凄まじい力でもって己を切り裂くのだとしても、塵一つ残ればそこから再生するのが己である。
 まだ戦える。
 どれだけ己を引裂くのだとしても、『飢餓』が乾くことがないのだとしても。
 それでも戦い続ける。

「その飢えは永遠に満たされることはないよ」
 その言葉理解であった。
 敵さんと常に彼はオブリビオンを呼ぶ。正しく呼ぶことなどなかったかもしれない。
 だからこそ、彼の言葉は真に迫っていた。
「ガブリエルさん。だけど、死ねば眠れる――」
 だから殺す。
 純然たる殺意を持って莉亜は金の瞳を輝かせる。

 放たれる大鎌の一撃が、その瞳の色を反射させ、袈裟懸けに振るわれた斬撃が『ガブリエル・ラチェット』の自壊を後押しするように刻まれるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マキナ・エクス
アドリブ・他猟兵との連携歓迎

最強を生みだすための実験、その産物の末路か…
私としては彼にこのような終わりを迎えさせるなど私の矜持に反するのだけれど、残念ながら今の我々にはその飢えを満たしてやることも君を救うこともできない。すまないね…

UC発動。ひたすらに相手が自壊を迎えるまで耐え忍び続けよう。

嗚呼、やはりバットエンドは迎えるべきではない…悲しいことだ。



 物語の結末を決めるのは誰であろうか。
 神か運命か。
 それとも必然か、偶然か。
 どれにしても、物語の最期はハッピーエンドが相応しいものである。
 誰もが笑顔で終わって欲しい。
 それを願うことは偽りであっただろうか。
 否である。誰もが幸せを求めるように、人は幸福追求の生き物である。ならば、そこにハッピーエンドがあるからこそ、懸命に足を伸ばすのだ。
 生きることを諦めない。

 この世界、荒廃した文明だけが残るアポカリプスヘルにおいて、人々は全てを喪った。けれど、それでも明日を求めたのだ。
 今よりもより良い明日を。
 そのために生み出されたのが偽神細胞を用いたストームブレイド。
 最強を生み出すための実験、その産物の末路が今目の前にあることを、マキナ・エクス(物語の観客にしてハッピーエンド主義者・f33726)は憂いた。
 彼女としては『飢餓』に狂う『ガブリエル・ラチェット』を自壊という終わりで締めくくらせることに智慧光を墓得ていた。

「偽典閲覧、伝承認識、神具構築。これはあらゆる厄災を退ける戦女神の盾である」
 輝く瞳にユーベルコードが紡がれる。
 偽典神話・絶対なる神の盾(オルタナティブファーブラ・イージス)。己を覆う神話の盾の再来、『イージス』の力で覆われたマキナは迫る黒き旋風を受け止める。
「砕けない! 何故だ! 俺の力は砕けぬを砕くための力だ! それなのに、何故砕けない! お前は!」
『ガブリエル・ラチェット』の瞳にあったのは『飢餓』だけであった。
 狂気も恐れも、何もかもを飲み込む飢餓。

 されど、その瞳を真正面から見据えるマキナの心に去来するのは、一体なんであっただろうか。
「消えろ! 消えろ! 俺の中の虚を見つめる者! その目をやめろ!!」
 憐れむなと叫ぶ黒き旋風がイージスと激突して凄まじいスパークを迸らせる。
 力と力の激突。
 されど、神話の再来たる盾は、わずかに揺らぐこともなければ亀裂を生み出すこともなかった。
 己は動かない。
 マキナは、その『飢餓』から瞳をそらすことはなかった。目をそらしてはならない。それこそが侮辱であると知るからであろう。

「私としては君にこのような終わりを迎えるなど私の矜持に反するのだけれど、残念ながら」
 マキナの瞳は確かに憂いを帯びていたことだろう。
 どうしようもないことだと割り切っている。いや、割り切ることなどできようはずもない。
 彼女はいつだってハッピーエンドを求めている。
 そのために猟兵としての力、ユーベルコードでもって終わりを彩る。

「今の我々にはその飢えを満たしてやることも君を救うことも出来ない」
『デミウルゴス式偽神細胞』の力。
 その力の代償は肉体の自壊。終わりを迎えるまで、ただ耐え忍ぶしかない。救うことも、痛みを和らげることもできない。
 底に在るのは明確なバッドエンドであろう。
 誰が悪かったわけではない。
 明日を求めるが故に道を踏み外しただけに過ぎないのだ。だからこそ、マキナはすまないと呟いた。

 けれど、そのつぶやきは黒き旋風の前にかき消される。
 その謝罪すらもかき消すのは、人の心であったことだろう。悲劇を受け入れることも、かといって喜劇にすることも許さぬと迸る『飢餓』そのもの。
 そこにはマキナの求めることはなかっただろう。
 ひび割れていく体。
 体のあちこちに疾走る自壊の痕が、マキナの心をえぐる。
「嗚呼、やはりバッドエンドは迎えるべきではない……悲しいことだ」

 悲しみが溢れている。
 世界のあちこちに。どうしようもなく溢れている。そのどうしようもないことを、どうにもならないのだと嘆くことだけはしてはならない。
 マキナは、今、『飢餓』という物語に真正面から立ち向かっているのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒髪・名捨
【心境】
「飢餓…か。」
哀れだ。
オレ達で終わらせるぞ。

【行動】
耐える…か。
少ししんどそうな話だが…やってやるさ。
まずは『薬品調合』でちょっぴり強化した合法阿片で『ドーピング』
ふー。よく『気合い』と『元気』が『限界突破』だ。テンション上がってきたぜー。
覇気の『覇気』と『オーラ防御』で守りを強化。
防御態勢で耐えて耐える。スティンガーの『封印を解く』と『カウンター』に『捕食』して『生命力吸収』する。
まじぃ。

負傷回復に闇鍋を寧々に『料理』してもらう。
世界的に持ち込めた食材が少ないからここぞというときだ。
ふう。腹八分目だ(飢餓に苦しむ敵に酷い挑発)
はッまだ耐えれるぞ。



「穴が! 穴が塞がらない! 何故だ! こんなにも力は俺の中で荒れ狂っている! 壊しているはずだ! 世界の全てを! それなの!」
『デミウルゴス式偽神細胞』が齎す激烈なる拒絶反応でもって肉体を自壊に追い込まれている『ガブリエル・ラチェット』の咆哮がソルトレークシティの市街地、その残滓で轟く。
 黒き旋風はオブリビオン・ストームを模した力。
 荒れ狂う風はあらゆるものを削り落とし、破壊を齎す。

 其のために己は生み出されたはずだ。
 其の力を奮っている時だけが、己の体を満たす充足があるはずだった。
 けれど、『ガブリエル・ラチェット』は咆哮する。
 何も満たされないのだと。どこまでも穴が空いているのだと。こんなことがあっていいはずがないと、『飢餓』のままに破壊を齎し続ける。
 その力は猟兵をして自壊を待つしかないものであったし、同時に救うことすらできないものであった。

「『飢餓』……か」
 哀れだと黒髪・名捨(記憶を探して三千大千世界・f27254)は呟いた。
 目の前の獣は人と混じったからこそ、獣のように本能で生きることができない。人は獣と混じったからこそ、己のうちに出来た穴を埋める術を知らない。
 そのために嘆くような咆哮が轟き、どうしようもない結末に向かってひた走るしかないのだ。
 それを哀れと思わずしてなんと思う。
 だからこそ、名捨は小さく呟いたのだ。
 ――オレ達で終わらせるぞ、と。

「消えろ! 消え失せろ! 俺の前から! 俺の飢えを齎す者共よ!」
 迫る黒き旋風は凄まじい力の奔流であった。
 まともにぶつかっては絶えることも出来ないだろう。
 故に、名捨は己の体を強化された合法阿片でもってドーピングする。
「ふー……テンション上がってきたぜー」
 満ちる力。
 全能感が己の体の中を駆け抜けていく。ぐらりと視界が揺れる。限界を超えた力が体の中で唸りを上げて、発露を求めるようにして名捨の体から溢れる。
 オーラの力と覇気が迸り、黒き旋風を受け止める。しかし、その旋風の力は遥かに猟兵の力を上回るものであった。

 強化されたオーラの防御ですら切り裂く鉤爪の如き旋風。
 それを名捨は己の口元を覆っていたマスクをずらし、口腔に封印されていたオブリビオンを喰らう魔導装置を解き放つ。
「まじぃ」
 それはたった一言であった。
 黒き旋風を喰らった名捨の体が内側から痛みを走らせる。尋常ならざる痛み。どうしようもない痛み。
 これが『飢餓』であることを名捨は知っていたことだろう。

 満たされない思い。
 それを喰らい、なお名捨は『寧々』に願うのだ。
 病鍋(ヤミナベ)。それは『寧々』の作り出した見た目がものすごくわるい食べ物である。
 けれど、効果の程は言うまでもない。
 味も保証されているのだ。
「旦那様!」
 叫ぶ『寧々』の言葉にうなずく。満たされぬままに『飢餓』を振りまく存在を止めるには、己が受け止めるしかないのだ。

 名捨はうなずく。
 絵快適に持ち込めた食材が少ない。それはこのアポカリプスヘルという世界においては死活問題である。故に、彼は『寧々』の作ってくれた料理を前に手を合わせる。
 恵みへの感謝と続く明日を祈る。
 瞬時に腹八分目まで満たされる。それは挑発そのものであったことだろう。満たされぬ者の前で、満たされた者がいる。

 迸る咆哮を名捨は真っ向から受け止めるのだ。
「はッ、まだ耐えられるぞ。どんどん来い」
 身体がきしむ。痛みが神経を焼く。
 それでも耐える。『飢餓』を救うことができないからこそ、『ガブリエル・ラチェット』は自壊させるしかない。
 それがどれだけ困難な道であるのかを名捨は知っている。だからこそ、やるのだ。己が、此処で。

 その瞳に輝く光は、きっと暗獄ではなく、明日という輝きであろうから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マオ・ブロークン
……かわいそう、な、いきもの。
いくら、食べても、満たされない、の。
ありかたを、歪め、られた、命が。この、大地には、たくさん。ある。
あたしだって、きっと。その、ひとつ、だけれど。

黒い風、に。掠った、身体が。ぱっくり、削りとられる。
あたしの、ことも。喰らって、飲み込む、つもり、だ。
剥き出しに、なった、中身……
身体の、芯に、埋められた。ヴォルテックエンジン。
魂を、つかまえて。衝動に、変換する、機械。

……外装が、剥がれれば。
檻から解き放たれたように。身体から、悪霊が湧き出す。
何にも「触れる」ことのない、怨念だけの存在が
あなたを見つめて、その魂を擦り減らしていく。
残された時間を、削り取っていく。



『ガブリエル・ラチェット』の咆哮がソルトレークシティの市街地に響き渡る。
 哀切でもなければ悲嘆でもない。
 そこにあったのは『飢餓』だけであった。癒えぬ『飢餓』はきっと、彼の中にある器が既に底が抜けているからであろう。
 穴が空いていると理解していても、その抜けた底を補修する手立てすら彼にはない。
『デミウルゴス式偽神細胞』を持って、最強のストームブレイドたらんとした実験の産物は、今此処に『飢餓』でもって破壊の力を齎す。

 それは凄まじいの一言であったことだろう。
 最強と呼ぶに相応しい力だった。これならば明日を望むことだってできるはずだった。
 けれど、『ガブリエル・ラチェット』はそうはならなかったのだ。
「塞がらない。満たされない。俺の中が、中身が、抜け落ちていく。どうしてこんなにも俺は『飢え』ているのか、それさえもわからない!」
 黒き旋風が迸り、周囲に破壊を齎す。どうしようもないほどの『飢餓』が彼を狂わせている。

「……かわいそう、な、いきもの」
 小さく呟いた。
 本心だった。いくら食べても満たされない者。あり方を歪められた生命。
 それがこのアポカリプスヘルに満ちていることをマオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)は理解している。
 己もまた其の一人である。
 デッドマン。死を超越した存在。わかっている。それがとてもつらい生きているともいえないような生き方であることは。

 けれど、彼女は前に進む。
 例え、目の前に迫る黒き旋風が己の身を傷つけるものだと知っていてもマオは一歩を踏み出しただろう。
 溢れる涙が視界を歪ませる。
『ガブリエル・ラチェット』――満たされぬ『飢餓』を持って世界に破壊を齎す存在。わかっている。どしようもないことは。

 それでも。
「―――ッ!!」
 振るわれた旋風がマオの身体を削り取る。掠めただけでえぐられるようにマオの半身が削り取られるのだ。
 凄まじいユーベルコードの力。けれど、それには代償がつきまとう。激烈なる拒絶反応によって、『ガブリエル・ラチェット』の身体がひび割れていく。
 自壊。
 ああ、とマオは痛みよりも何よりも、己の魂が痛むのを感じただろう。

 むき出しになった中身。
 己をデッドマン足らしめ、死を超越する『魂の衝動』――その根源たるヴォルテックエンジン。
 電流に変え、迸る力でもって敵を穿つ意志。
 涙が溢れて流れて、止まらない。きっとあなたもそうなんだね、とマオは呟いた。
『これ』をあなたも抱えているのだと、マオは『ガブリエル・ラチェット』に歩む。

 喪われた半身。己の手が掴むのは、衝動を変換する機械。
 外側の殻が喪われれば、檻から放たれるは、実態無き悪霊。
 溢れ出す衝動。怨念だけの存在。何もにも触れることができな、実態無き者。
 それがマオの内側から溢れていく。

 全ては空。全ては虚(ー)。
 ならば、朽ちた肉体という枷は此処に解き放たれた。溢れる涙は止まっていたけれど、見つめる『ガブリエル・ラチェット』の咆哮を虚しく聞くしかない。
 それが悲しいと思えるのならば、マオの心に去来するものは、やはり憐憫であったことだろう。
「消えろ! 消えろ! 満たされない! 俺の心の虚を、見るな――!」
 ああ、とマオは諦観にも似た気持ちを抱いた。
 残された時間を、削る行い。
 けれど、目をそらさない。涙で視界をにじませることもしない。

 それだけはしてはならないことだ。『ガブリエル・ラチェット』と言う『飢餓』、それを彼女は瞳に刻み込む。
 その魂を擦り減らして、消えゆく嘗ての存在を、見つめ続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
満たされないか、お前も壊したいのか。なら付き合ってやる!!

両手に騎兵刀を持って、ガブリエルと相対する。
【煉獄倍眼】で騎兵刀をオーラ防御。振るわれる貪欲な闇に削られるより先に、防護を無視する刃で貪欲な闇へ貫通攻撃。斬れるかなんてどうだって良い。

自分も、お前を壊したい!

瞬間思考力で闇を躱す、身を守る為でなく、切断する為に、傷なんてどうだっていい、刃を振るい刀を叩きつける。
継戦能力、肉体を再生させ、騎兵刀が折れても別のを使い、なにがなんでも戦い、精神感応の超能力で闘争心をガブリエルへ叩きつけ、破壊の感情を共感増幅する。

壊れ尽くして、終わってしまえ、さっさと終われ、終われ、お前は、終わって楽になれ!!



 燃えるような激痛が疾走る。
 それは己の身体の内側から発露するものであり、荒れ狂うような力の奔流でもあった。
 肉体が自壊していく感触。
 それは何ものにも耐え難い痛みであったはずだ。
 けれど『ガブリエル・ラチェット』にとって、それは二の次であった。己の身体を蝕む『デミウルゴス式偽神細胞』の拒絶反応による痛みなど、彼にとってはどうでもいいことだった。
 黒き旋風が迸り、彼の身体を包み込んでいく。
 破壊の化身そのものな姿であったが、その本質は『飢餓』にあえぐ人と獣の混ざりものでしかなかった。

 そこにあったのは、虚でしかない。
 穴が空いているのだ。決して埋まらぬ穴が。それを埋める術も、塞ぐすべもなにもなく、ただ徒に力をふるい、破壊を振りまくだけの装置。それが『ガブリエル・ラチェット』であった。
「満たされない。満たされない。壊しても、壊しても、満たされない!」
 その咆哮に応える者がいる。
 炎熱する義眼を赤く迸らせながら、叫ぶ者がいる。

「満たされないか、お前も壊したいのか。なら付き合ってやる!!」
 両手に騎兵刀を抜き払い、『ガブリエル・ラチェット』と相対するのは、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)であった。
 彼女の左義眼が異常発熱により、燃えるような激痛を走らせている。神経を走り抜ける激痛は、彼女の脳や身体のあちこちに伝播するものであった。
 そこにユーベルコードの輝きなどという生易しいものはなかった。

 ――煉獄倍眼(パーガトリー)。

 それは彼女の痛みを持って発現するユーベルコードである。
 身を焼く熱は、瞬時に再生される。己の意志がそうさせているのか、それともそう在るべきと造られたからか。
 答えは彼女の中にしかないだろう。
 振るわれる旋風を薙ぎ払い、騎兵刀を振り下ろす。

「自分も、お前を壊したい!」
 放たれる一撃は互いの肉を削り取る。自壊すら齎す力は小枝子の身体を削ぎ落とすが、その端から再生していく。
 血潮が流れる暇すらない。
 蒸発するように凄まじい熱が己の体に帯びていることを小枝子は自覚さえしなかっただろう。
 身を守るためではなく、ただ切り捨てるためだけに彼女は疾走る。
 旋風の中を、荒れ狂う力の奔流の中を。
 叩きつけ、騎兵刀と旋風がぶつかっては、刃が砕けていく。
 即座に別の騎兵刀を抜き払い、まるで何事もなかったかのように小枝子は刀を叩きつける。

 そこにあったのは『飢餓』ではなかったが、戦いへの渇望と呼ぶに不和さいいものであったことだろう。
 シンパシーとでも言えばいいのだろうか。
 互いは刀を旋風をぶつけ合いながら、破壊の感情を共感増幅していく。
 どうしようもない存在同士がぶつかり合う。誰も止められない。
 止まることがあるのだとしたら、それは彼等の戦いの末路にある破滅というものだけであろう。
「壊れ尽くして」
「壊し尽くして」
「終わってしまえ、さっさと終われ、終われ、お前は――!」
 互いの言葉がぶつかりあい、小枝子の言葉が『飢餓』を上回る。

 哀れとは思うまい。
 互いにそれしか知らぬ身であれば。そうあるべきと生み出されたものであるが故に。だからこそ、憐憫は要らず、共感だけがある。
 激突する力の奔流が周囲に明滅するような輝きを齎す。
 いつの日にかなどという生易しい感情などなかった。そこにあるのは、意志。

「お前は、終わって楽になれ!!」
 放たれた騎兵刀の一撃がへし折れながら『ガブリエル・ラチェット』の体へとめり込む。
 その一撃と共に小枝子は駆け抜ける。
 炎熱する瞳の残光が、『飢餓』を満たすことはない。けれど、その絶え間なき生命の燃焼、それを縮めるように燃やし尽くすことだけはできるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
自分が飢えるのも他人が飢えるのを見るのも、
どうにも嫌なものだねえ。
まあ、しばらく付き合うとしようか。

さて、触れたものを削り取るなら、体の丈夫さに意味は無いかな。
なら、【超獣祇我】で高速再生能力を最大まで高めて受け止めようか。
出来るだけ羊毛や樹になっている部分を盾にして受けて、急所は守ろう。
あと、樹羊蹄で地面に根を張って再生に必要な養分を吸い上げておくよ。

もうどうにもならなくて、こうすることにも意味なんて無いんだろうけど。
かかってきなよ、受け止めるから。



『ガブリエル・ラチェット』は、己の体に刻まれた傷跡に頓着していなかった。
 元よりその体は『デミウルゴス式偽神細胞』によって自壊への道をたどっている。猟兵たちはただ耐えればよかったのだ。
 終わらせる必要などなかったのだ。
 彼は滅びる。
 必定なのだ。どうあがいても、自壊する未来しかない。それが遅いか速いかだけの違いでしか無い。

 けれど、猟兵たちは救うことができぬのならばと、その『飢餓』を一刻でも早く終わらせようと己達の力を振るう。
 その結実が今此処にあった。
 十字に刻まれた傷跡、押し込まれた刀の一部。穿たれた銃創。あらゆるものが、彼の『飢餓』を終わらせんとしていた。
「まだ、まだ……まだ、俺の飢えが、乾かない。これだけ、力を奮っているのに、充足感の一つもない。どうしてだ。どうして、俺はこんなにも飢えているのだ」
『ガブリエル・ラチェット』は咆哮する。

 穴を塞ぐことも、埋めることもできない人と獣の混じり物を見やり、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は嘆くことはしなかった。
 ただ、小さく呟いたのだ。
「自分が飢えるのも、他人が飢えるのを見るのも、どうにも嫌なものだねえ」
 彼女にとって、それは生命の維持が出来ぬということだ。
 己という生命を理解している。人と獣が混じった者。常に己という生命が如何なるものかを考えてきた彼女にとって、『ガブリエル・ラチェット』の懊悩は、己の身を裂くものであったことだろう。

 だからこそ彼女は超獣祇我(ブルート・ストレングス)の輝きを瞳に宿す。
 筋力が増強され、全身に纏う電撃が迸る。
 其の身に宿した再生能力は、あらゆる傷を瞬時に癒やすであろう。
 ユーベルコードに寄って高められた体の力をペトニアロトゥシカは、最大にまで高める。
 体の大きさは関係ない。
 あるのは、敵の攻撃を受け止め続けるという決意だけであった。
「まあ、しばらく付き合うとしようか」
 その『飢え』が満たされることがないことを知る。けれど、振り下ろされる黒き旋風の一撃は鉤爪のように彼女の理解すら拒むのだ。

「消えろ! 俺の中をかき乱す者! 全て消え失せれば、俺の中の穴も塞がるはずだ、だから、消えろ――!」
 咆哮が轟く。
 振り下ろされた鉤爪の一撃を羊毛にくるまれた樹木の腕でもって受け止める。削り取られる。一瞬だった。
 これだけ力を高めても尚、ペトニアロトゥシカは大地に足が沈み込むのを感じた。圧されている。自壊すら齎す強大すぎる力は、ペトニアロトゥシカにとって、脅威そのものであった。
 けれど、それでも彼女は引くことはしない。
 樹羊蹄が大地にめり込み、そこから根を張って大地より力を吸い上げる。

 今此処にあってペトニアロトゥシカは己の力だけではなく、大地の力さえも汲み上げて、『ガブリエル・ラチェット』の放つ黒き旋風を防ぐのだ。
 削り取られてもいい。
 即座に再生し、大地より養分を得てさらに再生は加速していくのだ。
 振り払った一撃が『ガブリエル・ラチェット』を吹き飛ばす。けれど、彼もまた即座にペトニアロトゥシカを削り殺そうと黒き旋風を纏って嵐のように迫るのだ。

「もうどうにもならなくて、こうすることにも意味なんて無いんだろうけど」
 そう、彼の命運はすでに決まっている。
『デミウルゴス式偽神細胞』による自壊。
 決定していることだ。覆ることなどない。それだけの力なのだ。だからこそ、ペトニアロトゥシカは似た者同士であるがゆえに、その瞳をもって『ガブリエル・ラチェット』の『飢餓』宿る瞳を見据える。

 一歩を間違えれば、己もああであったことがわかる。
 だからこそ、彼女は大地に根を張る。獣と人。混じり物同士。されど、彼女はもう一つだけ『ガブリエル・ラチェット』と違うところがある。
 樹木さえも組み込まれたキマイラたる体。
 大地はいつも其処に在る。だからこそ、ペトニアロトゥシカはためらわないのだ。傷つけ、痛みが走ったとしても、それでも尚、彼女は言う。

「かかってきなよ、受け止めるから」
 大地を思わせる広げられた両腕。
 彼女は意識してそう行ったわけではないけれど、それでも『ガブリエル・ラチェット』の中に空いた穴ごと受け止めるように、一歩も退くことなく、黒き旋風に真っ向からぶつかり続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シーザー・ゴールドマン
無限に続く飢餓感と絶え間ない破壊衝動に支配されるか。
『デミウルゴス式偽神細胞』
いくら力が増しても使い捨て以上にはなりえないね。
まあ、滅亡を望む者達にとってはそれで構わないのか。
憐みを感じないでもないが……まあ、是非もないな。

『アイオーンの隔絶』を発動して対峙。
自壊を眺めながら無限餓狼を真っ向から受け止めて、その受け止めた分を戦闘能力に変換。最期は変換した力を全て集約した炎で焼き付きします。
(属性攻撃×浄化×全力魔法)



 黒き旋風がソルトレークシティの市街地に疾走る。
 それは『ガブリエル・ラチェット』の咆哮でもあり、決して癒えぬ『飢餓』そのものであった。
 力の奔流は『デミウルゴス式偽神細胞』によるものである。
 自壊すら齎す強大な力は、猟兵たちをして耐えるしかないものであった。それほどまでの凄まじい力を得ても尚、『ガブリエル・ラチェット』に充足は訪れない。
 最強のストームブレイドとして生み出されるべく実験を繰り返され、まさしく、その名の通りの力を今得ているのに、『飢餓』だけが満たされない。

「なぜ、なぜ、こうまでして俺を止める! 俺の『飢え』は満たされない! 俺の存在意義は、まだ満たされていないというのに! 邪魔を、するな!」
 しゃがれた声は、喉がひび割れているからであろう。
 もはや自壊は、どうしようもないところまで進んでいるのだろう。身に刻まれた斬撃の痕、銃創、あらゆるものが彼を終わりへと進ませる。

 一刻でも早くと多くの猟兵が願っていた。
 たとえ、耐えて自壊を待つしか無い相手であったとしても、その『飢餓』を満たすことができないのであれば、一刻も早い終わりをと願ったのだ。
「無限に続く飢餓感と絶え間ない破壊衝動に支配されるか」
 シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は、息を吐き出す。
『デミウルゴス式偽神細胞』、たしかに力が増すのは理解できる。けれど、自壊を齎す使い捨てにしかなりえないというのならば、それは肯定できるものではなかった。

 けれど、滅亡を望む者にとっては、それで構わないのかとシーザーは哀れみを感じるものであった。
「……まあ、是非もないな」
 その金色の瞳がユーベルコードに輝く。
 アイオーンの隔絶(デウス・アルムム)、それはあらゆる攻撃を吸収するオドによよって全身を覆う。
 放たれる黒き旋風はあらゆるものを削り取る凄まじき力を有しているが、旋風が攻撃である以上、シーザーには届かない。

「消えろ! 消えろよ! なんで、俺の前から消えない!」
 迸る咆哮が大気を震わせる。
 そこにあったのは癒えぬ『飢餓』への絶望であったことだろうか。シーザーは薄く微笑む。
 放たれる黒き旋風から生み出される黒犬の群れを真っ向から受け止め続け、振るわれる牙の全てをオドでもって受け止め続けるのだ。
 涼しい顔であった。
 どこにも恐れはなく、されど憐憫もなかった。

 ひび割れる『ガブリエル・ラチェット』の姿は、見る者によっては憐憫の対象であったことだろう。
 シーザーにとっては違う。ただ受け止める。ただ、見つめる。それが『飢餓』を持ち、癒えぬ定めを持つ者に対するシーザーができる最大の敬意であったことだろう。

 力が膨れ上がっていく。
 彼のユーベルコードの煌めきが、最高潮に達するのに数分もかからなかった。
「これほどの力だとはね。此処まで集約される力。確かに君の『飢餓』は本物だよ。あらゆるものを飲み込んでも尚、足りぬ飢えである。だからこそ、此処で終わらせよう。それは世界にむけてはならぬものだからね」
 次があるとは思わない。
 来世があるなどとは言えない。

 だからこそ、終わらせる。
『飢餓』を埋めることができないのならば、終わらせるしかないのだから。
「君という存在は覚えておこう。哀れなる人と獣の混じり物。人の明日が見せた『飢餓』――」
 放たれる炎が集約され、一点に凝縮する。
 放たれる黒犬たちと旋風すらも一瞬で薙ぎ払い、ソルトレークシティの市街地の残骸を消し飛ばしながら疾走る炎は『ガブリエル・ラチェット』を貫き、その『飢餓』を埋めるのではなく、焼き尽くすことに寄って手向けとするのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
憐みを持つべきではないんだろうけど割と惨い話だね
とは言え一思いに片を付けるとはいかないから
時間稼ぎをさせて貰おうか

邪神の領域を使用
今回は短期決戦とはいかないから
石化の速度は抑え
攻撃を回避する事に集中して使おう

離れた位置からガトリングガンで攻撃
近付いてきたら時間ごと固定して
短距離瞬間移動のように見せて
離れた位置に移動し背後から射撃
これを繰り返して時間を稼ごう

相手が慣れてきたら
移動ではなくワイヤーガンで拘束し
自由になる前に距離を取ったり
足を麻痺させて動きを乱したり
他の方法での引き撃ちと混ぜて対応を迷わせよう

ちょっと卑怯かもしれないけれど
正面から正々堂々という訳にはいかないからね
姑息に戦わせて貰うよ



「哀れみを持つべきではないんだろうけど、割りと惨い話だね」
 最強のストームブレイドを生み出す実験による産物。
 それが『ガブリエル・ラチェット』と呼ばれるオブリビオンである。その身に宿した『デミウルゴス式偽神細胞』は、強大な力を齎すと同時に、その身を自壊に導く。
 止める事はできず、その自壊をなかったことにもできない。
 ひび割れた体のあちこちから黒き旋風が迸り、力の奔流がソルトレークシティの市街地をさらなる破壊へと陥らせる。

 最早其処に人の営みがないのだとしても、その破壊こそが狂気の実験の成れの果てであることを佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は知ったことだろう。
「とは言え一思いに片を付けることができないのであれば……時間稼ぎをさせて貰おうか」
 晶の瞳がユーベルコードに輝く。
 それは、周囲の存在を停滞、固定させる神気で多い、己の肉体を石化させていく。自壊とは異なり、身を覆う封印が解かれていくことを意味する邪神の領域(スタグナント・フィールド)において『ガブリエル・ラチェット』の放つ黒き旋風はまるで、時を止めたかのように己へと迫ってくるのだ。

 石化の速度は抑えている。
 黒き旋風は躱せない速度ではない。自壊に導くためにはとにかくユーベルコードを乱発させる必要がある。
 打倒させる必要はない。
 未だ多くの猟兵たちが時間を消費させてもなお、『ガブリエル・ラチェット』は自壊することはあっても消滅することはなかった。
「消えろ、消えろ! 俺の前から! 破壊するもの全てがなくなれば、俺は満たされるはずなんだ! 世界があるから、俺は満たされない!」
 それは彼の中に空いた穴の大きさを示すものであり、同時にその穴を塞ぐ手立てが誰にもないことを示していたことだろう。

 ガトリングガンから弾丸を放ち、距離を稼ぐ。
 神気による停滞を持ってしても、強大な力を振るう『ガブリエル・ラチェット』の黒き旋風は晶を削り殺そうと迫るのだ。
「速いな、やっぱり……けど!」
 背後に回り込み、晶はワイヤーガンを解き放ち、その身を拘束する。けれど、拘束は一瞬だった。
 鋼鉄の糸であるワイヤーガンの拘束ですら、黒き旋風は削り取って、『ガブリエル・ラチェット』の身を自由にするだろう。

 疾走る姿は、荒野を往く獣そのもの。
 足を麻痺させ、引き撃ちをし、あらゆる手段を講じて停滞を望むも、それでもなお、底知れぬ『飢餓』が晶を襲う。
「同しようもないことだけど……!」
 それでもと誰もが願ったのだ。
 一刻も早く解放してあげたいと。目の前の『飢餓』にあえぐ者が、これ以上苦しまなくて済むようにと。

 けれど、其の願いは届かない。
 結局己たちができるのは遠回りでしかない。徒に『ガブリエル・ラチェット』の苦しみを長引かせるだけであったのかも知れない。
 ユーベルコードを振るうたびに、彼の身体がひび割れていく。
 晶はかぶりを振る。
 それだけは思ってはならないのだと。他の誰が思ってもいい。憐憫の眼差しをむけてもいい。

「僕らが、それを認めてはならないんだ。苦しみが続くのだとしても、それでもと懸命にあがくのなら!」
 救いはない。
 わかっていることだ。自壊を齎す力。その成れの果て。
 押し止めることも、消し去ることもできない。終わらせるしかない。その痛みを肩代わりすることも『飢餓』を埋めることもできない。

 ならば、晶は己を謗れと叫ぶのだ。
「卑怯だって言ってもいい。姑息だって言ってもいい。だけど、君は終わらせる。これ以上『飢餓』が続かぬように。他の誰かに同じ思いをさせないためには」
 こうするしかないのだと、晶は叫び、その力を振るう。
 停滞の神気。
 その権能を今ほど呪ったことはないだろう。加速であったのならばと思わざるを得なかっただろう。

 それでもひび割れていく姿から目をそらすことはなかった。
 これが己の為すことだと晶は知っているから。そうすることだけが、唯一の手向けであると知るからこそ、晶は邪神の力でもって、『ガブリエル・ラチェット』を終わりへと導くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィア・シュヴァルツ
「う、う、う、あ……腹が、腹が……満たされない。
腹減った……」

弟子とはぐれて、世紀末な世界に来た我。
ここ数日何も食っていないので、死にそうである。まあ、不死身だから死なないのだが。

「む、この気配……」

感じる、感じるぞ。我と同じ飢えた野生の魂の叫びを。
この者となら、一緒に飯を探す心の友となれるやもしれぬ。

「さあ、そこの者よ。
我と一緒に飯を探しに行こうではないか。
そう、我らのパラダイスを求めて!」

え、ちょっ、急に攻撃してくるでないわーっ!
ならば、我も【リザレクト・オブリビオン】で黒犬の群れを迎撃だ!

……この犬、食えるだろうか?

「うう、魔法使ったら、また腹減ったぞ……」

荒野に倒れ伏す我であった。



 飢えは生きる者にとって平等であろう。
 その大きさは大なり小なり異なるものであったが、身体的にも精神的にも、生命を蝕む病であった。
 例え、不老不死なる存在であったとしても、『飢餓』は耐え難いものである。
 全てが耐えうることのできるものではないことを知るからこそ、猟兵たちは『ガブリエル・ラチェット』を一刻も早く終わらせようとしていたのだ。
「満たされない……こんなにも破壊が満ちているのに。俺の中には何一つ落ちていかない。塞がらない。こんなことがあっていいはずがない。なら、世界を壊すしかない。俺を形作る全てを壊して、穴を、塞がなきゃあ――」

 彼の咆哮が黒き旋風と成って黒犬たちを解き放つ。
『飢餓』を満たすためではなく、破壊を齎すために。
 もはや、『飢餓』が癒えることがない。ならば、己を形作る世界と、土台を壊すしかない。
 そこまで追い込まれて尚、自壊は未だ成らず。ひび割れた身体で相対する猟兵たちを駆逐し、世界すら滅ぼさんと咆哮するのだ。

「う、う、う、あ……腹が、腹が……満たされない。腹減った……」
 フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)もまた呻く猟兵であった。
 弟子とはぐれて、世紀末な世界、アポカリプスヘルへと至った彼女は、此処数日何も食べていない。
 この荒廃した世界にあって食料は手に入れることが難しい。
 泥水をすすることもできず、死にそうに成りながら彼女はソルトレークシティの市街地を歩んでいた。
 遠目に見た時、街だと喜んだのはすぐに落胆に変わっていた。
 これだけ荒廃していれば、食料も何もあったものではない。
 不死身であるから死なないのであるが、それでも『飢餓』は気が狂いそうなほどの苦しみを齎すのだ。

「む、この気配……」
 フィアは戦いの気配ではなく、己と同じ飢えた者の気配を、その魂の叫びを感じ取る。
 ああ、と彼女は嘆くと同時に喜びにも満たされた。
 この魂の叫びを持つ者とならば、一緒に食料を探す心の友になれるかもしれぬとふらふらとした足取りで近づくのだ。
 けれど、彼女の言葉は遮られる。
 其処のものよ、と共にパラダイスを求めようではないかとフィアの笑顔は迫る黒犬たちの咆哮にかき消された。

「え、ちょっ、急に攻撃してくるではないわーっ!?」
 フィアからすればオブリビオンも何も関係なかった。
 魂の叫びに共鳴しただけに過ぎなかったのだ。あれだけの叫びは、そうそう出せるものではない。
 共感したからこそ、フィアは手を差し伸べたのだが、その手に繰り出されたのは黒犬の牙であった。
「ぬぅ! ならば、リザレクト・オブリビオン! 征け、死霊騎士、死霊蛇竜よ!」
 たまらず応戦するように黒き旋風を纏う黒犬たちの群れを迎撃するフィアの死霊騎士と死霊蛇竜。

 彼等の戦いは一進一退であった。
 騎士の一撃に寄って切り捨てられた黒犬を見て、フィアは涎が零れそうであった。
 ここに料理番である弟子がいたのならば、きっと調理をしてくれたのではないかとさえ思ったのだ。
 流石にそれは無理ですよーと言う幻聴が聞こえるほどの限界。
 食えるだろうか? とまさかの生食すら厭わぬ彼女の前で黒犬は霧散して消えていく。

 長引けば長引くほどにフィアの魔力は枯渇していく。
 奇しくも、それは『ガブリエル・ラチェット』に対しても同じことであった。一進一退であるがゆえに、決定打のない戦い。
 それは自壊を引き起こすユーベルコードを持つ『ガブリエル・ラチェット』にとっては、唯一の打倒策だ。
 フィアは意図せずしてそれを行っていたのだ。
「うう、魔法を使ったら、また腹減ったぞ……」
 お腹が空くという可愛らしいレベルではない。
 もう腹の虫が咆哮にも届きそうなほどの唸り声を挙げている。どうしようもない飢えと共にフィアは荒野に倒れ伏す。

 きっと彼女を見つける仲間たちがいるだろう。
 その時、彼女を迎えるのは懐かしい笑顔であったはずだ。それが飢えを満たす……かどうかはわからない。
 けれど、『ガブリエル・ラチェット』とフィアを違えるものはきっと、それであったことだろう。
 答えは、彼女が次に目覚めた時にわかるはずだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
その飢餓を他者に向けさせぬ為に……
騎士として立ち塞がらせて頂きます

耐える戦いこそ、騎士の本望
限界までお付き合い致しましょう!

電脳剣を振るいUCの花を召喚
放たれる黒犬を茎で突き刺し攻撃阻止
格納銃器の乱れ撃ちで止め

花に頼るだけではとても足りぬでしょう
怪力で振るう剣と盾で猛攻を捌き、斬り捨て殴り伏せ防戦を維持
ウォーマシンの疲れ知らずの●継戦能力をフルに活用し限界突破

(苦しむ者に向ける物が手ではなく、剣であるのが不甲斐無い)

されど…その衝動を私達以外に向ける事を許す訳にはいかないのです…!

花の開花で黒犬を全て止めた機を●見切り、漆黒の嵐へ飛び込み怪力で剣を振るい敵の消耗を図り



『デミウルゴス式偽神細胞』の齎す力ではなく『飢餓』こそが『ガブリエル・ラチェット』を突き動かす本質にして根源であった。
 強大な力は、彼の身体を自壊へと導く。
 ひび割れた身体は、猟兵達との戦いによって最早、余裕など何処にもなかった。
 崩れ落ちる身体は必定。
 ならばこそ、もはや捨て置けばよいものであったはずだ。
 けれど、それでも尚、『ガブリエル・ラチェット』は牙を剥く。
『飢餓』という誰にも理解されず、理解を求めぬ牙が猟兵たちへとむけられている。それは僥倖と呼ぶべきものであったことだろう。

「その『飢餓』を他者にむけさせぬ為に……騎士として立ち塞がらせていただきます」
 トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)にとって、耐える戦いこそが本懐であり、本望であった。
 己の限界まで『ガブリエル・ラチェット』の『飢餓』に応えるつもりであった。
 手にした電脳禁忌剣が振るわれ、電脳禁忌剣・通常駆動機構:抑止兵装『守護の花』(ディタレンスウェポン・ブローディア)としての権能を齎す。
 周囲に、その花の名を冠する誘導兵器が飛ぶ。
 複雑な幾何学模様を描きながら飛翔する『ブローディア』、その守護を意味する花が迫る旋風纏う黒犬を迎撃する。

 牙が振るわれ、誘導兵器が噛み砕かれる。
 一基が喪われても、他の千を越える兵器がトリテレイアの電脳剣が振るわれるたびに走り、黒犬を貫き動きを止める。
 格納されていた銃器が展開され、乱れ打たれる弾丸が暴風のように迫る黒犬たちの波を押し止めるのだ。
「消えろ! 消えろ! きえてくれ! 俺と共に、世界諸共に! 消えてくれ!」
 何故、そこまで破壊を齎すのか。
 何故『飢餓』を抱え続けるのか。それはウォーマシンたる己には理解できないことだとトリテレイアは理解していた。

 どれだけ矛盾を許容する電脳を持っていたとしても、『ガブリエル・ラチェット』の抱える『飢餓』を癒やす術はない。
 自分で埋めるしか無いのだ。
 けれど、『ガブリエル・ラチェット』は、人と獣が混じり合ったもの。そして、致命的なことに『デミウルゴス式偽神細胞』は、それを許さない。
「確かに私には理解出来ぬ『飢餓』……されど、其の衝動を私達以外に向けることを許すわけにはいかないのです……!」
 振るう剣が黒犬を切り裂く。
 力が落ちていると、トリテレイアは感じたことだろう。これまで猟兵たちが紡ぎ、繋いできた戦いによって、自壊は早まっている。

『ガブリエル・ラチェット』の終わりはすぐ其処だ。
 もう終わりは来ている。
 だというのに、トリテレイアの電脳が『懊悩』をはじき出す。
 そう、それこそがトリテレイアの唯一無二。
 苦しむ者に向ける物が手ではなく、剣であるという不甲斐なさ。それを彼は感じていたのだ。
 しかし、それでもと懊悩を踏み越える。

 己の懊悩が、自身を刻むのだとしても、その懊悩が他者を傷つけることは許してはならない。
 己は騎士である。
 騎士であるのならば、その懊悩を抱えてもなお、誰かを守らねばならない。そういう存在であるからこそ、己の中にある騎士道精神、その物語は、今を紡いでいるのだ。
 咲き誇るように『ブローディア』の花、その誘導兵器が黒犬達全てを貫き、動きを止める。

 戦列に裂く花の色をトリテレイアは良く知っている。
 己の機体と同じ色。
 これが手向けになるだろうか。自問は尽きぬ。されど、迫る黒き旋風が花を吹き飛ばす。
 どれだけ人の心が『飢餓』を癒そうとしたのだとしても、獣の如き本性が、その手を振り払う。
『ガブリエル・ラチェット』にだけあったことではない。誰しもが抱えるものであったからこそ、トリテレイアは疾走るのだ。

 花弁舞い散る中、その道を疾走る。
 アイセンサーの残光は雷光のごとく。己を見上げる『ガブリエル・ラチェット』の瞳には、自壊に至っても尚、『飢餓』があった。
 すくい上げることができないのを理解し、同時にトリテレイアは己が為すべきことを為すと剣閃を振り下ろす。

 ならば、記憶しよう。
 己が振り下ろした『飢餓』、それを救うのではなく終わりへと導いたことを。
 その痛みさえもまた、己の歩みの一路となる。
 矛盾を抱える電脳の痛みを持って、己は進む。燃える炉心は尽きること無く。そして、『騎士』は花の葬列を切り拓くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです

『ルドラ、満たされざる、壊れた杯に何を思うのですか』

____!

【アーディシェーシャ】

おまえの飢餓を解き放て、それは単なる空腹じゃないだろう?
思い描け、おまえの飢餓を、体現して見せろ、飢渇のなんたるかを!

(相手のUCを誘う、飢餓感がアイツの力なら、思うがままにに振るえば良い、それで解き放たれるものがあるなら……)

UC、アーディシェーシャ、『今』を縛る世界蛇の戒め。
おまえの飢餓は恐るべき狂える嵐そのものだった。
俺はおまえと戦えたことを誇りに思う、ここまで血湧き肉躍る、同じ者同士の己のぶつけ合う闘争は初めてだった。

もう眠れ、命を全力で全うした誇るべき強敵よ。



 己の戦闘用マシンスーツから響く声を聞いた。
 その問いかけにルドラ・ヴォルテクス(終末の剣“嵐闘雷武“・f25181)は答えなかった。
 答える必要がなかった。
 目の前には花の葬列。自壊を齎された『ガブリエル・ラチェット』の姿があった。
 未だ瞳には『飢餓』が輝く。
 すでに身体は動かないのだろう。此処まで耐えた……いや、此処まで戦い抜いたのだとルドラは、その胸に何が去来するのかを表現する言葉を持っていなかっただろう。

 だからこそ、其の瞳がユーベルコードに輝く。
 無終の円環(アーディシェーシャ)。
 それは見えざる波紋。
 咆哮が聞こえる。それは果たして、己のものであったか。それとも『ガブリエル・ラチェット』の放つものであったか。
 どちらにせよ、ルドラは叫ぶのだ。
「おまえの『飢餓』を解き放て、それは単なる空腹じゃないだろう? 思い描け、おまえの『飢餓』を、体現してみせろ、『飢餓』のなんたるかを!」

 今を縛るユーベルコード。
 それが時間停止コード・アナンタ。終わり無き円環。蛇が己の尾を食むように。それは終わらない。
 戒めであるとさえ癒えるだろう。
「――」
 答えはない。
 あるのは『飢餓』。しゃがれた声が響くのみである。自壊は成った。猟兵達との戦いが紡いだのは、このアポカリプスヘルに生きる人々の望む明日である。
 それは希望とも呼ぶのかもしれないし、同時に未来と呼ぶものであったのかも知れない。

 けれど、『ガブリエル・ラチェット』にそれはない。
 明日は望めず、未来はつかめず。
 己の在り方は、破壊しか齎さぬ。故に、『飢餓』。渇望しても得られぬ物に手を伸ばすことさえも、意味をなさぬ破壊。
 それこそが『飢餓』の本質。
 世界を救うストームブレイドの力を望みながら、決して為し得ぬという未来を持って生まれたがゆえの『飢餓』こそが、『ガブリエル・ラチェット』の根源。

 放たれる黒き旋風が、今際の際にあってなお、迸る。
「破壊する。壊す。この世界の枠組みを壊す。全部壊すんだ。人が人らしく生きられぬ未来を壊す! そんな滅びの未来さえも壊してやる! そのために俺は!」
 それは生命の咆哮であったことだろう。
 すでに終わりを告げた者。オブリビオン。世界に忘れられた者であるからこそ、叫ぶのだ。

 解き放たれるように迫る黒き旋風と黒犬たちの群れをルドラは見据える。
「おまえの『飢餓』は恐るべき狂える嵐そのものだった」
 だが、その本質をルドラは理解していた。
 世界を救う。
 明日を望んだ人々のために、荒廃の未来を覆し、破壊する。そのために求めた力は、決して間違いなんかではなかったのだ。
 彼だけでは出来なかった未来。己達だけでも出来なかった未来。
 ならば、ルドラは叫ぶのだ。

 迫る黒き旋風たちを真っ向から受け止めるべく、一歩を踏み出した。
「俺はおまえと戦えたことを誇りに思う。此処まで血湧き肉躍る、同じ者同士の己をぶつけ合う闘争は初めてだった」
 旋風はそよ風に変わっていた。
 全てを削り取る力は、ルドラの頬を切り裂くことさえなかった。
 攻撃というものですらなかったのだ。

 あの迸る咆哮も、あの破壊への欲求も、満たせぬ『飢餓』も。
 本質をたどれば、世界を救わんとした救世の意志。
 ならば、己が引き継ごう。
 誰もが求め、手を伸ばし、朽ちていくしかなかった世界。目の前には、自壊し崩れていく『ガブリエル・ラチェット』の姿があった。

 白化し、そこにあった黒き色は抜け落ちて。
 されど、その身に宿した救世への『飢餓』は形を変えず。空いた穴をこそ、ルドラは誇れと言う。
「もう眠れ、生命を全力で全うした誇るべき強敵よ」

 そこにあったのは花の葬列。
 数多の猟兵たちが紡ぎ、その『飢餓』にこそ終わりをと願った戦いの軌跡。
 ルドラはそよ風に変わった、かつての嵐を抱くだろう。
 その『救世』の意志を己こそが次に繋ぎ、紡ぐと誓う。

 かつて見た『飢餓』に恐れと後悔の色が欠片もなかったことを、その身に宿す。例え、その生命が長くはないのだとしても。
 そよ風の如き託されたものがあるのならば、惜しむことはない。

「俺もそうすることを決めるよ――」
 どれだけの隔てりがあったのだとしても、本当に出逢ったものに別れは来ないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月07日


挿絵イラスト