7
アポカリプス・ランページ④〜Coffre à glac

#アポカリプスヘル #アポカリプス・ランページ #アポカリプス・ランページ④ #宿敵撃破

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル
🔒
#アポカリプス・ランページ
🔒
#アポカリプス・ランページ④
#宿敵撃破


0




●吹雪の王
「ねえ、凄いと思わない?」
 この地は過酷な地。
 過激な高温、それから乾燥が人間を襲う谷。
 通称"死の谷"デス・バレーに築かれた要塞の中で、黒髪を揺らし悠々と歩く女がいた。
 未成年特有の学生服――大半が死滅しているアポカリプスヘルで、原型を留めた服を着こなす者は稀だ。ただし彼女自体は身体に多数の傷跡を所持していた。
 あれこそは、オブリビオン・ストームに破壊しつくされた証。
 彼女はそんな事に気を留めない。
 傍に居た筈の、仲間たちがいないなー、程度の生前と現在の記憶が混濁している程度だ。野党(レイダー)の王として、手勢を連れているものの。
 "吹雪の王"にそれらを率いる意図はない。
「研究所は平均的気温を保持しているのよ、研究所であり要塞――ああ、良いことね」
 ヴォーテックス一族の機械要塞であり、コンピュータ研究所。
 そこへ吹雪の王は奇襲をかけた。
 いつか何処かで喪った恋人の幻影が彼女を導いたのだとレイダーの一部は囁いている。
 誰もその"恋人"が何者であるかも、実在したかも知らないけれど。
「禁断のコンピューターウイルス!これさえアレば、何もかもが上手くいくの」
 心赴くままの殺人計画の先駆けに、データ媒体から壊していける。
 スーパー戦車のスーパーウェポンすら狂わせる特殊性。邪悪性。
 これを手元武器に塗布できたなら。
「さあ私の武器に、そのプログラムを塗布するのよ」
 出来るでしょう、研究者であり優秀な武力を保有するレイダーならば。
「侵食プログラムで追加武装した私の行動は、誰一人妨害できないのよ!」
 電動ではないノコギリに、狂気的なプログラムが塗布される。
 通常弾丸として装填するウイルスを、物理手段で用いるために超小型通信機は取り付けられた。超粒子として送信し続ける小型媒体。
 ウイルスを塗布し続ける悪魔の兵器だ。
 研究所が有る限り、彼女が存命である限り使用し続けるノコギリにはウイルスが塗布され続ける。微振動する、摩訶不思議な電子エネルギーが――。
 研究者の中にはソーシャルディーヴァのものもいるので、この方法を取ることが出来たらしい。
「さあ行きましょうか、きっと待っているから、――急いで、ね」
 彼女は誰に会いに行くのだろう。
 彼女に誰が会いに来るのだろう。
 誰が聞いても、志乃原・遥(しのはら・はるか)は薄く嗤うだけで答えない――。

●ディスアーマメント・ブレード
「標的はひとり。ただし、要塞を守るレイダーが存在するから注意が必要だ」
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が言うところでは、研究所の鎮圧は目標ではないから度外視していいらしい。
「聞くところによれば、"侵食プログラム弾"で武装するレイダーがいるんだと」
 射撃を行う野党(レイダー)たち。
 これは、撃ち抜いた相手の武器の形状、構造面いかなる属性に影響を及ぼす魔の弾丸だ。不思議なウイルス効果で一時的に使用不能の状態へと落とし込んでくる。
「こんぴゅーたーや、すまほの電源が、突然落ちるようなイメージだと思う」
 敵対者の武器を無力化し、制圧もしくは追い払う事に特化しているのが通常の状態らしい。関係者以外を立ち入らせない徹底された環境――。
「しかし今回は、"レイダーの王"……戦いに特化したオブリビオンがいる」
 何処から現れ、どこへ行こうとしているかはわからない。ただ、"侵食プログラム弾"を利用すれば、彼女の望む破壊行動が叶うのだ、と思い込んで止まらない。
「射撃を行う野党共は、猟兵には手を出さない。彼女、"吹雪の王"の邪魔をすれば殺されるとなんとなくわかッているからだ」
 彼女はレイダーたちの王として君臨するが、仲間ではないのだ。
 協力関係にはない。強大な力を使う者と、制御する者の関係である。
「戦場は外。機械や資材の廃材類は放置されてるものがあるな」
 武装を無力化する能力を得た彼女愛用の武器――ノコギリ。
「元一般人な彼女自身に特殊な能力が有るわけではないんだが、ノコギリに付けられた能力が厄介だな……」
 無力化させる事に成功するやいなや、志乃原・遥は蹂躙する構えを取るだろう。
 殺人を速やかに達成し、次の標的を殺すために。
「武装があると無力化を狙われるんだ。その工夫が必要だろうよ」
 武装なしで止める、とかな。フィッダはぼそりと呟いて。
 未成年の破壊活動を、止めるようにと促した。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 これは戦争依頼に属する【一章で完結する】依頼となります。

 プレイングボーナス……武装の無力化への対策を行う。

 このシナリオの気をつけるべきものは"ノコギリ"だけです。要塞のレイダーは手を出さず、彼女の援護はノコギリにエネルギーを送り続けるのみ、となります。
 彼女は武装の無力化能力を得て、徐々にこの要塞から離れ"目につくモノを殺害"しにいくことでしょう。現れた猟兵が敵対意志を示すのでまずは試運転、肩慣らし……そんな状態から、シナリオは始まります。

 状態や説明はOPの通りです。施設の外が、戦闘場所。
 開けては居ますが、過激な高温、それから乾燥が人間を襲う谷の影響で、砂砂砂のジャリジャリ環境が有ることでしょう。壊れた鉄屑とかも、わりとあります。
 なるべく頂いたプレイングは採用できればと思いますが、全員採用を行えない場合がある為、プレイングに問題が無くても採用を行えない場合が存在します。公序良俗に反し過ぎる行動も場合により採用できないことがあります。
 ご留意いただけますと、幸いです。
156




第1章 ボス戦 『『吹雪の王』志乃原・遥』

POW   :    凍りなさい
【冷気と呪詛】を籠めた【ノコギリ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【内臓、またはそれにあたる部分】のみを攻撃する。
SPD   :    私の心は氷
自身の【大切な心や記憶】を代償に、【氷のマリオネット】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【不可視の糸】で戦う。
WIZ   :    貴方をもう逃がさない
自身からレベルm半径内の無機物を【視界と移動を阻む猛吹雪】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠柊・はとりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マオ・ブロークン
……そう。
動かない、ノコギリ。普段は、回るほうが。きっと、強い、けれど……
無力化、とても、やっかい。単純な、力押しは、効かないね。
あたしの、丸ノコは、動かなくて。凍りついて。
次第に、防御ばかりに。劣勢に、なって……

……だけど。あたしの、"武器"は。これだけじゃ、ないの。
ノコギリを、打ち合ってる、あいだ。ずっと、見てたの、
あなたの、顔でも、武器でも、ないの。足、だよ。
呪詛の、楔で。あなたの、足を、縫い止めて、やる。

こうして、死んだ、身体を。突き動かし、続ける……のが
抱えこんだ、想いの、強さ……呪いの、重さ、だって、いうなら。
あたしは、負けるわけに、いかない。


リーヴァルディ・カーライル
…そこまでよ。誰を探しているのか知らないけど、此処から先には行かせない

…これ以上、お前が誰かを害する前に私と私の相棒で止めてみせるわ

体勢を崩さないよう足元に注意しつつこれ見よがしに大鎌を構え敵を挑発し、
積み上げてきた戦闘知識から敵の殺気を暗視して動作を見切り、
大鎌で攻撃を受け流した瞬間に武器を手放して敵の懐に切り込みUCを発動

…残念。それは囮よ

瞬間的に吸血鬼化した怪力の掌打と同時に血の魔力を溜めた血杭を放ち武器改造
敵の体内の血杭から無数の血棘を乱れ撃ち追撃する闇属性の2回攻撃を行う

…一瞬だけの吸血鬼化なら太陽の光も許容範囲なのよ

もっとも、この世界の人間だったお前には縁の無い話だったわね


アハト・アリスズナンバー
吹雪の王……一度お会いしましたね。
あの時は訳も分からずやべー奴だと思いましたけど、今となっては何か理由があったのかなと思います。
恋人が待ってるとかなんとか言ってたけど……今はどうなんでしょうね。

どうやらサシでやらせてくれるのなら、好都合。
こちら側としてもやりやすいです。武装は無し、この拳だけで行きます。
飛び込みつつクイックドロウの要領でジャブ。ダーディファイトの暴力戦です。
それらは全てダミー。本命は彼女に斬られる事。
零距離で斬られたなら、ユーベルコード起動。オウカ・コードによるリミッター解除。自爆します。
次の自分が転送されたら、隙だらけなところを体勢を崩させてボッコボコにしましょうか。


キコ・フォーチュナ
アタシ寒がりだからこれ以上冷たいのいらなーい!

≪ジハド≫、≪大型ケーブルカッター≫がアタシの武装になるのかな
それじゃ投げ捨てちゃおう

身軽になったら姿勢を低くして[ダッシュ]で突っ込んじゃうよ!
ジャリジャリも熱さもヘーキ
だってアタシこの世界の出身だもん
彼女の視線や身体の動きを[情報収集]して[受け流し]て行くね
[功夫]も意外とトクイなんだーアタシ
避け切れないって思ったら廃材や瓦礫を蹴り上げてその隙に立て直すよ

吹雪の王様ならアタシが出来るのはソレを溶かすコト
滲む地獄の炎を≪ディーヴァの右脚≫に込めてUCを発動、[焼却]しちゃう!

アナタのノコギリと冷気
アタシがつくった自慢の右脚と炎
どっちが強いかな!



●The case again

『準備万端。これで完璧よ』
 素敵ね(でもどうして)、これで目標を達成できるもの(なにを、どこへ?)。
 彼女の言動は、違和感の欠片が点在した。
 髪を靡かせるその姿は未成年の学生。
 しかし、表情は新しいモノを手に入れて喜ぶ子供のようで。
 言動は、手にした力で制圧と圧殺する決意が滲むよう。
 自分には大事な待ち人が居るはずだから、会いに行くついでに彼女は立ち寄ったつもりだった。
『手土産に"武器を無効化"する侵食プログラムなんて、おしゃれかしら』
 誰も私を傷つけられないでしょう(その前にノコギリが仕事とをするでしょう)。
「傷つけたら最後、私の前にはきっと、誰も立っていないだろうけれど」
 鼻歌でも歌うように、彼女の足取りは軽かった。
 破壊と停止の武装は抜身の刃を輝かせて、頼もしいと思う。
「私が誰だったか、……よく憶えていないけれど」
 これ(ノコギリ)が全てを解決してくれる(くれた?)はずだから。
 きっと、きっと会いに行ける。会えるのよ。
 彼女が歩くと風が吹く。凍りつくような冷気を、何処からともなく呼び寄せる。
 それが、志乃原・遥が生きていた、最後に起こしていた事件とも、怪異とも思わせる現象だ。事件は最初に戻るように。
冬でもないのに、現場に吹雪の欠片が舞い踊る。おかしい。今はまだ、夏が終わった頃だと言うのに。レイダーたる彼女の犯罪はこうして今、現在に結びつき異常現象を引き連れて原点に回帰する――。

「……何処へ行こうというの」
 そこまでよ。
 砂利を踏み、意気揚々と歩んでいこうとする"吹雪の王"を呼び止めるリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 武器に何らかの特殊性を得て、彼女は浮足立つように、周囲のモノを凍らせていく。冷気、吹雪。氷や雪に関係する属性は、不思議と彼女から発生していた。
 ――彼女が犯行に及んだ"罪"の日に、吹雪は強く吹いたという――――。
 彼女自身が吹雪を振り撒いて、死の谷を別の姿へと至らせようとしているのだ。
 意識外の産物。彼女は当然、些細な事故気にしない。
 でも声を掛けられたから、突発的に、声を発して返すだろう。
『呼び止めた?なにかしら』
「……誰を探しているかは知らないけど、此処から先には行かせない」
『誰って、"彼"よ。何処かで見かけなかったかしら、"彼"が私を待っているの』
 レイダーとしてこの地を踏んでいる以上、彼女を待つ存在は生存者ではないかもしれない。
 彼女の表情と、行動に不可解な点を感じつつ。
 しかし絶対におかしい点をリーヴァルディは見逃さなかった。
「……そう、彼ね。今まで何人を害したの」
 志乃原・遥が手にしたノコギリにこびり着つく、残滓。
 遠いどこかで塗り染まった薄く張り付いた錆色の臭い。
 色自体は綺麗に落とされていて、目に映らなかったけれど。
 それは幾人も害し、命を摘んだニオイに相違ない。そうだ、と確信できる。
 ――……年相応の、ただの学生のはずがない。
 リーヴァルディがダンピールであるから気付いたこと。
 武器に染み込むは殺人を犯した第一の罪の証。
 犯した犯罪を、立証する案件。
 いつどこで何を殺したか、までは分からなかったけれど。
『殺したという事?何の話かしら』
 特異性が漏れ出したこれは第二の証拠となるだろうか。
 彼女はきょとんと、本当にわからないという顔をした。
 今から敵対し、傷つけ遭う場面に置いて、その顔はどうにも戦いからかけ離れたそれだった。
 どうしてそこで、単純な学生のような顔をする?
 ――……正気と、狂気。
 ――二面性……。違う。これは、混濁…………。
「……」
 ため息も出る。身体は覚えていて、記憶が混在して証拠と回答だけが欠け落ちて消えている。
 彼女は異質だ。自分の罪を、骸の海から帰還した際に取りこぼしている。
「……これ以上、お前が誰かを害する前に渡しと私の相棒で止めて見せるわ」


「"吹雪の王"……一度、お会いしましたね」
 アハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)は、"あの日見た光景を覚えている"。
『……?』
 しかし志乃原・遥は首を傾げて、困ったような顔をした。
「あの時は訳も分からずやべー奴って思いました」
『……人違いではない?』
「いいえ。貴方でした。そうですね……今となっては何か理由があったのかなと思います」
 まるで探偵のように、推理する。
 アハトが受けたことの有る仕事の記録。
 あのときの"吹雪の王"は、吹雪を引き連れてモンスターマシンを爆走させていた。
 破壊の規模を思えば、この"彼女"は比較的おとなしく映った。
 ――時折狂気の色に瞳を染めるのが気になりますね。
 ――恋人が待っているとかなんとか言っていたけど……。
 "彼"は彼女の恋人、のはずだ。再会できたのかを、今の彼女に問うて答えが出る気がしないとアハトはため息をつく。
 骸の海に一度、それから自身をの関わった報告書で既に二度。
 戻って戻ってくる間に、また忘れているなんて。
「"彼"は今どうなんでしょうね」


「……そう」
 アハトの疑問の返答というには無機質な、声。
 マオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)は、彼女に戀の色は存在したのだろう、となんとなく悟った。
 ――大事なものを、守れなかった子が、する顔だ。
 恋に恋して死んでしまった誰か(あたし)のように。
 もしくは。更に先の光景を誰か("彼")と見ていたのに、小さな悪意を持った誰か(被害者または愉快犯)が触って壊してしまった事で彼女自身も砕かれたのだろう。
 突発的破壊衝動。風が吹いたら始まった、単純無欠の"犯罪行動"。
 ――あたしが、見れなかった、甘い日々の、向こう側を、知っている、のかな。
 ――ううん……甘い日々を知っていたけど、瞬間的な怒りが全てを終わらせて、しまった、の、ね。
 ――全てを、終わらせた、"報復"に。
 仕返しに、最凶の終焉を。
「動かない、ノコギリ」
『そう。素敵でしょう?』
「普段は、回るほうが。きっと、強い……」
 道具を武器として使用するなら、電動の方がイメージとしても強い。
 彼女が殺人をする手の感触を味わうために、あえてノコギリで削ぐ事を選んだのだとしたら。
 切り落とされた部位は、当然"切断"されて、終わりを迎えたことだろう。


「~~~~!アタシ寒がりだからこれ以上冷たいのいらなーい!」
 キコ・フォーチュナ(赫焉娘・f30948)の耐えられる限界温度を越えていた。
 否、彼女自身が発する地獄の炎があるというのにも関わらず、極度の冷え性が過敏過ぎるほどに反応したのだ。
 大きな声を出すものだから、"吹雪の王"がキコを一瞥する。
 上から下まで流し見て、"武装の有無"を探られている気がした。
「ん、これと、これがアタシの武装になるのかな?」
 それじゃ投げ捨てちゃおう!えーい!
 元気にぱぁと投げ出したのは、キコの炎を原動力とするジハドと呼ぶ荷電粒子砲。
 それから、地獄の炎に覆われても溶けない、大型ケーブルカッター。
 後者は義肢に接続しているモノだが、軽く外してぽーいと投げられてしまった。
 少し遠くでカランカランと音がする。
『武装を極力減らした貴方の熱量は脅威よ』
 志乃原・遥の瞳には環境そのものにも影響を及ぼす程の雪の冷たさを、拒絶する兵器が一つに映っていた。
 キコのことが、全てを喰らうように燃え溶かし尽くさんとする兵器に見えていた。
 存在そのものが、燃え盛る劫火を内包するものにさえ。
 張り巡らせた氷はキコの傍ではじわじわ溶けて無かったことにされていく。
「そうかもね!でもこれで、身軽!」
 身軽になったキコは軽くその場で一度飛び、着地と同時にぐぐぐっと姿勢を低く構えて息を吸うように駆け出した。
 ダッシュを妨害するような重りは無く、足は軽やかに砂を蹴る。
「ジャリジャリも熱さも、微量の冷たいのもヘーキ!」
 ――だってアタシこの世界の出身だもん。
 多少の気候の差があったとしても、空気も風も、飢えた砂もいつもの光景。
 培養水槽越しに、いつかいつかと見ていた風景だ。
 だから何だが今は嬉しい気持ちが過ぎっていく。
「ねえどうする?アタシはキミをじぃいと見ちゃうよ」
 観察。彼女の視線や動き。
 考えまでは分からずとも、次の行動を予測するには、駆け回る事が一番だと、翻弄する者としてキコは志乃原・遥の視線を釘付けにするように声を上げる。
 後ろに回り、横を通り過ぎ、見つめる。
 見つめる、彼女という元人間がする事とは――。


『……全部で4人。ああ4人ね、そうね』
 志乃原・遥の瞳に狂気の色がぼんやり浮かぶ。
 笑う顔に、僅かに怒りの色が混ざり絶対殺さなくてはと、強い意志がノコギリを強く握らせた。
『何処を一番に無くしたい?』
 話など端から聞く耳を持ち得ない『吹雪の王』ガツンと地面にノコギリを一撃突き立てる。
 一撃により、砂地がパキパキと冷気と呪詛を孕む世界へと創り変えられていく。
『凍りなさい、一人ずつ。終わりなさい、絶命と一緒に』
 人体ではありえない地面を傷つけず、冷気は地面の上を走るように広がっていくだろう。
 志乃原・遥が支配する"王の前"で誰もが膝をつくしか無いように。
 断頭台にセットされた罪ある人(形)のように容易い首刎ねを要求する。
 捕まえたらなら、――君こそが再演する事件の第一の被害者だ。


「やーだやだ!」
 キコの反応は誰よりも早く。
 彼女が視線を向ける先へ吹き荒ぶ吹雪やノコギリが攻撃した地面から徐々に氷が広がっていくのを嫌がった。
「そうやって、有利な環境を創り上げて完全犯罪を行おうっていうんだね」
 情報を、収集するのも彼女は得意とした。
 志乃原・遥は、猟兵たちの出方を伺いつつも"殺害"できる存在を値踏みしている。
 最適に、滅ぼせる相手は誰かと、冷たい目を向けて、選んでいる。
『まるで鳥のように靭やかに動いてみせますね、でも――』
 だからこそ凍りついたら、貴方は終わるのではないですか。
 ノコギリをふぉんと鳴らして、キコを追いかけるように駆け出す志乃原・遥。
 彼女はキコが、"嫌がる冷たさ"で追い詰めて終わらせようと考えたらしい。
 どうして殺しが必要なのか。どうして殺さなければならないと思ったのか。
 明確な形を意識できないまま、ノコギリを振り上げて。
 燃えるような熱量のレプリカントを単純なノコギリでの切り捨ててやろうと、狂気の刃を駆り続ける。
 キコは難なく受け流す。
 彼女の予備動作とノコギリという得物の長さが引き起こす事象を予測して、地面を叩かせるという実の躱し方で避けて躱した。
「身を捩るだけじゃないよ、アタシ意外と功夫もトクイなんだー」
 がしゃあ、と廃材の群れの中へ身体を滑り込ませて、特徴的な瞳を輝かせてキコは薄く笑った。
 実は後少しで転んでしまうところだったのだ。
 転ぶ前に慣れ親しんだ廃棄物たちが、姿勢を持ち直せと助けてくれた。
『武術センスがある、と。スキーにもし興味があったなら、いいレベルを狙えたでしょうね……っ』
 記憶の混濁は、生前の彼女の記憶とも交差する。
 彼女がノコギリを手にした日。スキー部の活動の一環として合宿を――。
『……あれ、でもその時には"彼"、は…………』
 頭を抑えるように、動きを止めた彼女。キコは見逃さない。
 "吹雪の王"の、致命的な欠陥を。
 攻撃的予備動作に心得があるキコが狙いを絞っていた廃材を拾い上げてるように、吹雪の王へと蹴りあげる。
 単純だが明確な、蹴りの威力を込めた即席弾丸。
 瓦礫の群れの中に飛び込んだのは、わざとじゃない。
 即席武器である廃材や瓦礫が、"武器"として生きていたわけじゃないと、あえて選んだのだ。
 攻撃意志を乗せられただけの"ただの廃材"でしか、無いのだから。
「思い出したくないの?思い出せないの?大事な事を、キミ忘れちゃってるんじゃない?」
 吹雪の王様。アタシが出来るのは、この寒い世界を溶かすコトだよ。
 いい加減寒すぎるからね、元の環境に戻そうね。
「こんがり焼き上げちゃうよ!」
 オレンジの炎舞が、キコの周囲に巻き起こり、地獄の炎はディーヴァの右脚に密集する。
「こっちを見て?溶けない氷は無いって教えちゃうからね!」
『……!!』
 冷気を放つノコギリで、キコの蹴り上げた右脚を受け止めた王。
 魅入るように、言われた気がしたのか、吹雪の王は躱さず受け止めたのだ。
 お互いの同時攻撃。
 ノコギリから発生する冷気と呪詛が、キコの脚の構造へじわじわと侵食するだろう。
 ユーベルコードの力が右脚の内側へ入り込むさまを、王は瞳に映さない。
 しかし破滅が訪れることを、絶望がキコを襲うだろうと彼女の終わりを予想して笑った。
 内部から、終わりの呪と氷が――地獄の炎と光熱に焼かれて消し潰されてしまうコトさえ見て取れずに。
 ヴォルカニックレイヴは逆に、全てが見えている。
 ざわりと肌を焼くオレンジの炎が轟と、跳ねる。
 キコの熱と炎で駄目になるものが多いのだ。
 終焉を届けるノコギリと冷気にだって、負けない。
「ほぉら!暖かくなってきたね!」
 物理的な気温上昇に笑うキコは、ご機嫌に笑う。
 寒すぎるのは、よくないよ!
 打ち合い続けるのは消耗戦になる。
 だから、延焼する炎をつけちゃおう!
 思い切り蹴り飛ばして、大きく後ろへ交代させた。


「無力化、とても、やっかい」
 ふっ飛ばされた丁度いいところに、人影が。
 マオは、二番手に狙われた。
 なにしろ、彼女は二度と高鳴らない不動の心。
 泣き虫だけれど、冷静に、穴が空くほど見つめて居ることが出来た。
 キコほど環境の温度に思うことはなく、アハトほど、激しい行動を起こすわけではないけれど。
 マオの視線は突き刺さるほどの、真摯さで彼女の凶暴性を見ていた。
『そうね、動くモノが有ることは厄介よ。その丸ノコもこれで終わり』
 上から振り下ろすように向けられたノコギリを、マオはバズソーで受け止めていた。
 まるで内側に氷が入り込んでくるような、寒さ、足を這い上がってくる氷の感触。
 冷たい、冷たい、氷の海に飛び込んだような、息苦しさ。
 そして何より、丸ノコがみるみる氷に覆われていく。マオの電力で駆動する、電ノコが無力化されていく。
『首がいい?それとも手?』
 切断する場所を、選ばせてくれるらしい物言いを、ゆるゆると拒否。
 マオは、防御ばかりの劣勢に立たされても、電ノコを離さずに、受ける。
 重い一撃、いつ壊されてもおかしくない怪力を込めて襲いかかる志乃原・遥はこの戦闘ですら楽しんでいるように見えた。
 オブリビオンとなった事も凶暴性になにか影響を与えているのだろう。
「……武器は、あたしの、"武器"は。これだけじゃ、ないの」
 ノコギリで撃ち合い続けている間、志乃原・遥が猛攻撃を繰り出している間。
 涙がぽろぽろ落ちている間でさえ、マオはずっと、見ていた。
「見ていたの。あなたの、顔でも、武器でも、ないの」
『ふうん、じゃあ何処を』
「足、だよ」
『"足"ね。そう、ご要望どおりに切落し……っ』
 跳躍を繰り返していた、志乃原・遥の身体は、マオより少し離れた場所で強制的に動きを止めた。
 足に絡みつく、這い寄っていた楔の存在を、今しがた彼女は理解した。
 理解を起点に、楔は撃ち込まれる。足に深々と、真新しい傷を作り出して。
「もう、届かないね。呪詛の、楔で。あなたの、足を、縫い止めて、あげたよ」
『私の方の足を斬れということだったのかしら……!』
「こうして、死んだ、身体を。突き動かし、続けてる……あたし」
 たどたどしく語るマオは、それも違うと否定した。
「これは、抱え込んだ、想いの、強さ……呪いの、重さ、だって、いうなら」
 ――あたしは、負けるわけに、いかない。
 何処かに居る"彼"が待つと信じているなら。
 足の一つ、犠牲に、出来るんじゃ、ない?
 出来ないなら、"あなた"は、"彼"の真実から、目を背けている、だけだね。


「あなたを首領とする人たちが、あの窓から覗いていますが」
 ――手を出したらどうなるか、命令や号令の一つでも出したのでしょうか。
『……知らないわ。誰か知らない人たちだけど、私の願いに協力したいと言うから、そうしただけ』
 地面に縫い付けられた吹雪の王が突きつける真実は淡白に語られる。
 アレらに仲間という認識を持っているわけではない。
 猟兵達が感じる彼女という存在の違和感を、少しずつでも彼らも感じたはずだ。
 もし、意見して決裂するものなら、必ず殺される。
 予感、予兆。冷気を発する彼女という犯人から逃れる手段は、焚き付けないコトの一点に限る。
 ――世紀末思考のレイダーが多いのかと思っていました、
 どうやら時として、事実は少し違うらしい。
 ソーシャルディーヴァも抱えているという話だった。
 攫って来たのかも知れないし、野心に溺れたマッドな存在かも知れないが――事実は小説より奇なり。
 ――どうやらサシでやらせてくれるようですね。
「こちら側としてもやりやすいです。今のあなたは動けないようですし」
 武装は無し。アハトは拳だけを一度素振りするように突きつける。
『動けなくても、凍らせる意志は動いてる。それに、刃はまだ折れてない』
 不用意に近づいたアハトを斬ろうとする振り抜きをクイックドロウの要領で軽く躱し!
 カウンターアタックを兼ねて身を屈め、素早く打つ!
 ジャブは見事に吹雪の王の頬を掠った。びゅっ、と強い風を裂く音を作りあげ堂々たる挑発のち、態度で今の気持ちを示す。
「その程度?連続で斬撃を繰り返してくるといいですよ」
 ダーティ・ファイトであると理解させる為、"掛かってこいよ"と強気に手を繰れば。志乃原・遥は、狂気の思考に飲み込まれる。
『そう。そうね、その"手"はいらないのねそうね、そうよ、そうに決まってる』
 執着心が"手"を狙い出した。
 アハトは素早く判断し、斬られるだろう場所を予測し、理不尽な事故を装って飛び込んだ――!

 どしゅ。

 嫌な音が荒野のような谷に一つ。
 着られた身体が、重くその場に崩れて倒れていく。
 不思議なことに何者かの命を終わらせた時、終わらせた者は倒れゆく速度がコマ送りするように遅くなるらしい。
『手だけのつもりだったのに(なに、これ……)』
 全て、全て手の感触に遺った。なんだ、これは。
 今、私(志乃原・遥)はなにをした?
 やったことが理解したくなくて、泣きそうな顔をする。
 頭を掻きむしるようにして、足の楔の痛みさえ、半狂乱した心ではどんな深手を負っても無痛の境地。
 縛られるその場から、よろりと刻んだアハトへ近づき――。
「後悔しましたか?」
 全てダミー行動だったアハトの、ゼロ距離の呟き。
 死んだはずの存在に、死んでないほどはっきりとした言葉。
 オウガ・コードの発動条件を満たし、斬られたアハトはリミッターを解除済。
 秒読みする時間もないくらい、抱きしめてやれるほど近く"吹雪の王"を巻き添えに。

 どかん。

 自爆行動が炸裂した。
 凍える空気が、爆炎を上げて、消し飛ばされる。
「何してくれてるんですか、死ぬほど痛いに決まってるじゃないですか」
 死んだけど。自爆後にすぐさま別個体のアハトが転送されて、呟いた。


 ボコボコにしてやろうと勇むアハトの傍を黒い影が通りすぎた。
『痛い。痛い。痛い』
 道連れの爆風に煽られて、身体の怪我が痛い。刻んだ感触が気持ち悪くて痛い。
 殺した感触が痛い。志乃原・遥の顔に驚きと嫌悪が現れた。
 正気の顔が顔を出して、行われた殺害が、こびり着いて離れないのだ。
 学生だった彼女には。到底重い、記憶であったはず。
 誰かの命を詰むという、行動は。
「……それが"摘み取る"ということ」
 これみよがしに大鎌を構え、決意無くやることじゃないとリーヴァルディは姿で示す。過去は過去として、未来を紡ごうとしてはいけないと。
 首刈りのグリムリーパーは、鈍い色の輝きをつぅうと刃沿いに映す。
「……私たちを壊したいなら、今のを何度も行わないと」
 積み上げてきた戦闘知識から、この敵には"殺気"が著しく出ることがあると、理解する。
 ではそのキーワードはなにか。
 この"学生"に、"殺人鬼"の顔をさせるには、何を言うのが適切か。
「……そう。何度も。手を、足を、身体をズタズタにしなくては」
『手と、足……』
 リーヴァルディとあまり変わりない年齢の"王"の気配が揺らいだ。
 学生は"王"にすり替わる。殺害に恐怖を抱かない、"吹雪の王"へと至る。
 虚ろに揺らぐそのさまは、失ったものの大きさを、感じさせる蜃気楼のよう。
 ――"彼"はどこにも居ないのでは?
「……狙ってみる?私は、此処」
 大鎌は決して手放さず、狂気を得た王が、足の痛みにさえ苦痛の表情を浮かべないのをリーヴァルディは見た。
 ――痛みさえ、混濁の向こう側へ沈めているのね。
『手、足。いいえ、狙うならもっと特別な場所があります』
 少し身を屈めて、それから直ぐに大鎌狙いでノコギリを大きく奮った彼女。
 かきぃいん、と打たれる感触が二人の手元へ届いた。
 武器の属性が、在り方が侵されて無効化される――。
『"首"。手も足も全部いらないと思わない?全部削いで絞首したくなるのだけれど』
 武器という頼りを無くしたリーヴァルディに、次の刃が閃く事を告げた時。
 リーヴァルディは、大鎌で攻撃を受け流して、瞬間、手放して王の懐に切り込みを駆ける。
「……残念。それは囮よ」
 言葉も。それから、武器も。
 まんまとおびき出されたの。
 限定解法・血の聖槍(リミテッド・ヴラッドパイル)……瞬間的に吸血鬼化した彼女が行ったコト。
 それは単純だが重い怪力を込めた掌底が一撃、無防備な腹へとキマった。
 一瞬変化後、余波で放出された血の魔力を鋭い血杭へと変えて、終わりなき痛みを打った腹へ植え付けて。
 植え付けた血杭に細工を施した。少し触れるだけ、少しだけの改変を。
『……!?』
「……お前には、重すぎる罪の楔が似合いそう」
 体内にも潜り込んだ血杭から、無数の血棘となって内側から串刺しに。
 乱れ撃つ拷問業。昏き闇の、連続攻撃だ。
「……一瞬だけの吸血鬼化なら、太陽の光も許容範囲なのよ」
 ちょうど此処には、太陽を遮る砂塵と吹雪。
 もっとも、太陽光を遮る2つの要素が微量とは言えあったけれど。
『~~~!!!!』
「……痛みで、話せない?この世界の人間だったお前には、縁のない話だったわね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
どこまでが武装と判断されるのか、だよねぇ
とりあえず今回は杖は使わない方向で
素手でも魔法は使えるからね

翼ならどうかな
【空中戦】で一定の距離を保つ事で物理攻撃を極力回避しつつ
敵目掛けて★飴の中身をぶちまけます
武器じゃないし、食品だし

でも、ただの飴じゃないのも確か、だね
僕の魔力が込められた飴玉
使い方次第では魔力反応を起こせるから

【高速詠唱】で植物魔法の【属性攻撃】
飴を媒介に、あるいは球根のように
急成長させたエアプラントを絡みつかせて一時的でもいい、足止め狙い
マリオネットを召喚されても気にしない
足止めさえ成功すれば、僕はこれ以上動かない

代わりに【破魔】を乗せた【指定UC】で
もろとも【浄化】攻撃を


夕凪・悠那
禁断のコンピュータウイルスの実物がすぐそこにあるんだから、手に入れないなんて噓でしょ

『Virtual Realize』で武闘家のキャラを召喚
素手は武装にならないだろうし、ちょっと[時間稼ぎ]させる

その間に『黄金瞳』を起動
"吹雪の王"を観測して超小型通信機の位置を看破する
(情報収集×瞬間思考力)

ごめんね
武装の無力化なんてめんどくさいギミックに付き合うつもりないんだ
【Take Over】
通信機を[ハッキング]して機能を強制停止
武装無効化能力を無効化する

厄介な機能がなくなったら順当に圧し潰す
あとは目的の物を確保
通信機を回収したり、『Pandora』に侵食プログラムを集積するだけだね

アドリブ○



●criminal is dead
 ぼたぼたと、志乃原・遥の足元に何かが滴り落ちていく。
 ぐさりと突き刺さった杭によって空いた孔。
 全身を内側から突き刺され、縫合跡からじわじわと零れて膨らむ赫、朱、紅。
 赤い水は乾いた地に定着出来ず消えるのみだが、"吹雪の王"が君臨する間、砂の上で赤い氷へと姿を変える。
 棘のように激しい思いの丈を、氷は形で見せ付ける。
『私は立ち止まっていてはいけないの(邪魔をする貴方たちは誰なの)』
 心は氷。怪我をして、停まってはいられない。
 此処にはだって、"吹雪がずっと、私の行動を後押ししてくれるから"。
『さあ動くのよ(どうしてこんなことを?)』
 ズタズタで血塗れの足を引きずりながら、赤い氷を増やして歩く志乃原・遥から痛みに苦痛を思う感情が消えていた。
 心と記憶を奪い、胸に納めて立ち上がる人形(マリオネット)。
 吹雪の王は、呟くように謳うだろう。
『私の心は氷。何をしているかなんてわからないけれど』
 それでも行かなくちゃと、思っていた感情まで何処かへ流れ出てしまったけれど。
 志乃原・遥である限り、今すぐしなてはならないことは"思うように進む"――それだけ。


「……うわぁ」
 痛そうだ。とても。
 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は顔を覆いたいほどの相手だと思った。
 心境を想像するには至れないが……狂気に溺れている姿に、ぞわりと翼が逆立ちそうな気分になる。
 赤い氷のマリオネットを流れた血のぶん立ち上がらせて尚、彼女は強迫観念に取り憑かれたように動く。
 止血なんて、彼女の辞書には存在しないようだった。
 記憶を代償に発生させたマリオネットに喰わせてしまった、と表現するのが正しいのかもしれない。
「どこまで、武装と思って貰えるかも怪しそうだね……」
 痛みも人らしい知識もマリオネットが存在する限り、欠落したままだろう。
 不意に、彼女の片手がピアノでも引くように動く。
 動きに合わせ、歪で顔のない氷が動き出す!
 志乃原・遥が誰よりも先陣を走り、ノコギリを手に、飛び出してくるようだ。
 マリオネットが動きに追従し、"志乃原・遥"のように振る舞って、氷のノコギリを手にしている様子。
「……とりあえず、今回は杖は使わない方向なんだよ!」
 呆気にとられ気味だった澪は、頬をペちりと叩いて自分を鼓舞する。
「何処までも狙って、追い詰めて絶対殺すって言わんばかりの殺気だね」
 翼を広げて、地上からの退散を。
 いくら"吹雪の王"とはいえ、氷の人形に飛翔機能までは付与できまい。
『逃げるの?(どうして?)』
「だって痛そうだもん!」
 斬られる方も、今の貴方のその姿だって!
『痛くない筈よ。死ぬほど痛いだけだもの(痛いでしょうね。死にたくなるほど)』
「あーそっかそっかー」
 これはきっと返答しても、狂気が返って来るだけだ。
 一定の距離を保ちながら、澪はCandy popが詰められた小瓶をここんと揺する。
 ――こぼれ落ちる飴の雨のお味はいかが?
 沢山ぶちまけて、大飴(雨)にしてあげちゃうね。
 ――魔力がたっぷり飴なんだ、これ。
 ――あ、避けたりてないね。
 かつんかつん、と跳ねる飴に殺意も敵意も無いことを志乃原・遥はなんとなく無意識下で意識しているらしい。
 戦闘用の人形たちも、意識して動いている様子はない。ただ、飛ぶ澪をどうしたら切り刻めるか、そればかりを考えているように見えるのだ。
『甘ーい飴に囲まれて死にたいのね?(素敵ね、きっと。素敵な考えね)』
「ん、武器じゃないし、食品だし、そういうのは夢があるよね」
 アポカリプスヘルの今のこの光景と比較すれば、それくらいはあってもいいかもしれない。
「でも、ごめんね。ただの飴でもないんだよね、それ」
 僕の魔力が込められた飴玉を、誰も踏んでいないみたいだね。
 だれも手にしなかったんだね。そうだね、それでいいよ。
 ――使い方次第では、魔力反応でとびっきり"甘い"コトだって出来るから。
『飴は飴でしょう(雨はただ、落ちておしまい。そうでしょう?)』
「……ううん、違うよ」
 手を伸ばしても、空中に居る僕に届かないでしょ。
 "吹雪の王"と僕の距離くらい違うよ。
 息を吸って、高速で詠唱する――さあ起きて。
 飴を媒介に。あるいは球根を相手にするかのように"甘く囁き願う声"。
 聞き届け、反応した魔力属性は、植物の急成長を齎す――!
 ぞわぞわと、飴一つ一つが蠢いて急激に成長するエアプラントが、彼女の自由をまたもや奪う。
 赤い氷の人形たちも。一緒に。
「足を何度止められても、歩き続けて探したいものがあるんだね」
 澪は羽ばたき逃げるのを止めて、じぃ、と縫い止めた"王"をみた。
 ――全てのモノに光あれ――――Fiat lux(フィーアト・ルクス)。
 反論や抱く考えを理解する事はできない。
 だから、全身から放出する破魔の輝ける光を、放つ事にした。
「僕は何処にも行くなとは言わないけれどね。死んでいるコトからは。目を背けてはいけないんじゃないかな」
『……私が、死んでる?』
 最も重要で、最も身近な終着点。
 自分が死んでいた事さえ、彼女は覚えていなかった。
 浄化の強い輝きを浴びて、狂う部分が祓われたからこそ、思い出せたのか――。


「目と鼻の先に超貴重なお宝があって、使うだけで十分?」
 夕凪・悠那(電脳魔・f08384)は志乃原・遥を当然のように指摘する。
 UDCアース出身の悠那は、邪神に弄ばれて戻ってきた存在。
 邪神共でさえ、邪悪なオンゲを張り巡らせるのだから、"禁断のコンピュータウイルス"の実物を何故見過ごすのかがわからない。
 複製でもなく、直接力の恩恵を受け取れればそれで終わり?
 そんなバカな。
「手にいれないなんて嘘でしょ。全てが終わる前に、全て皆殺しする気でしょ」
 他の猟兵が放った無差別な輝きをモロに浴びて、目がくらんでいた"吹雪の王"は返答するのに一歩で遅れる。
 得意な戦いな気がした悠那の先制。
 Virtual Realizeを弄り理想を得る為の氷の人形たち相手に、即戦力を迎える必要がある。
 具現化にも似た電脳魔術を展開しよう――IT'S SHOWTIME。
「そっちが自分の血が混ざった人形なら、こういう対策をとってもいいよね」
 ボクは素で出し。プログラムから実体化した格闘家が蹴散らすんだもの。
 プラグラムだ、武装ですらないだろ。
『殺人に手慣れてるんだ?(怖い人なのかな……)』
「ゲームのなかで殺しなんて起こると思う?」
 動きづらそうな志乃原・遥と人形へ向けて、格闘家は殴りのモーションから、勢いよく突っ込んでいく。
 突進からの、強攻撃からコンボへ繋ぎ、連続で殴り掛かる。
 格闘家と、戦闘遅れて戦闘を興じるノコギリの煌き。
 どこか一歩離れた離人感を、此処ぞというタイミングで発揮するべきは恐らく今
 "黄金瞳"を輝かせ、目に映る情報を収集する。
 これまでの動きはずっと見える範囲で見ていた。怪我の多さは正直見ていられない。だが……壊そう。殺そう、終わらせよう。
 "吹雪の王"にはその感情が時折顔に浮かぶのだ。
 心が氷だというのなら、壊すのは忍びないが――。
 自分より少し上の年上の、どこか苦しい胸の内は、正直喋っても行動を見ていてもわからない。
 ――でも、何処にアレがついているかの検討はついた。
 ノコギリに塗布されたプログラムの解除方法は、サーチ済。
 送受信媒体じゃないなら、なぁに答えは単純なものだ。
 ――柄尻のところ。
 ――握るにも振るにも邪魔じゃないところに取り付けるとは。
「ごめんね」
『……?』
「マトモに話聞いてくれる気がしないけど、武装の無力化なんてめんどくさいギミックに付き合うつもりないんだ」
 自前の特殊能力じゃなくて。電子的なギミックだというのなら。
「――掌握完了っと」
 Take Over(テイクオーバー)――距離も申し分ない。
 ログインコードやロック機能。どれも超小型媒体には存在しなかった。
 IPアドレスさえデタラメ。潜り込まれる事を想定してない軽微な造り。
「正直、呆気ないなとさえ思うね。ボクは。そのノコギリはもうタダの普通のノコギリだよ」
 通信機をハッキングし、全てを一気に機能停止に書き換える。
 荒っぽいが丁寧に、情報を送り込んでいる筈のソーシャルディーヴァに立て直されないように"36桁のパスワード要求"プログラムまで仕込む。
 解析に時間を割いているといいだろう。
 10分毎にランダム数字だ。別途ログイン権限まで取得し確立した悠那以外、この小型端末を解除できる存在は無い。
 ――まあ、電波取得範囲は狭そうだから、あまり離れると使え無さそうだけどね。
『……なんてことを。でも首という首を落とすだけなら問題ないわ』
「脳筋かい?」
 厄介な機能が無くなっても、狂人は狂人のまま。
 氷の人形がいつの間にか力を失って無くなったコトにも気がついていないだろう。
 彼女の秘匿する事件性に、ついに記憶と心が追いつけなくなってたらしい。
 ふぉん、と切り裂く音を眼前に響かせるものだから、彼女の殺意は本物だ。
 ――お、チャンス!
 すっ、と手を伸ばし用済みのハズの超小型通信機を剥がして奪う。両面テープでひっついているようにたやすくとれて、これまた呆気ないものだった。
 ――……わかってるよ、ボクのゲーム時間は終わりなんだよね?
 離れた場所で怖い顔した学生服の猟兵が、睨んでいるのは随分前から。服装が同じ学校の制服のようにも見えるから、あれはなにか言いたいことがあるのだろう。
 ――これはあとで集積させて貰うからね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
高校の制服を着て

志乃原先輩
俺だ
探してる男じゃないと思うが
可愛い後輩程度には思ってくれてただろ

先輩の恋人は…死んだよ
幾ら人を殺しても帰ってこない
過去の過ちを止められなかったのは
俺が未熟だったせいだ

こんな剣いらない
『探偵』として
この悲劇を終幕へ導く

UC使用
証拠品として過去の写真を創造する
恋人の有馬先輩と寄り添う写真
俺と夏海と先輩で撮らされた写真
いつでも優しく笑ってた
あんたこんな事したくない筈だろ!

俺事件後聞いたからな
『柊くんなら止めてくれるかもしれないと思った』って
今止めたぞ
もうやめろよ、先輩!

吹雪に唯耐え忍び
心を凍らせる雪が融け
彼女が自ら過去へ還る事を祈る

…さよなら
俺の最初の事件
俺を探偵にした人



●detective is also dead

 どうせ身体は継ぎ接ぎだらけ。
 俺も、先輩も。痛みを追加で更に与えられて"痛くないわけがない"。
 あの日潰えた時間から、俺もまた、このザマだ。
「志乃原先輩」
 声を掛けたら、先輩は顔をあげて、こちらを見た。
 今や孔が穿たれ赤く染まった箇所の多い制服。実に無残だ。
 自身が着こなす制服さえ、忘れたわけじゃないだろう?
 あえて高校制服を身につけて訪れた俺の顔を、もし忘れていたとしても。
 吐き零す血さえ、それが血かさえわかって居ない顔だ。
『その声は』
「俺だ」
 柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)。
 享年16歳の高校生探偵。事件あるところに出くわす体質は、相変わらず。
 こうしてまさかという顔と出くわすとは。
 健康だった顔色とは、今は随分異なる。
『柊君……?』
「なんだ覚えてるのか」
『……あれ?』
 口から出た言葉は、頭が考えるより先に出たようだ。
『迎えに来てくれたんだ。でも、私……』
 混濁。先輩は被せて俺を見ている。名探偵に論破させるきか。
「先に言う。探してる男じゃないと思うが、可愛い後輩程度には思ってくれてただろ」
 名前が出たのだから、先輩の曖昧の生死戦後の記憶は物的証拠から明るみに出るように動くなら。
 きっと、声は届くはず。
 ――届いてくれなければ困る。
 猟兵の暗躍でノコギリに塗布されたウイルスは、もう欠片も存在しない。
 電波を受信できないノコギリは、ただのノコギリだ。
 つまり脅威にさえ先輩はもう成れない。
 ――変わり果てているとは言え。先輩は、先輩……のハズ。
 ざわざわと、コキュートスが何か言おうとするのを無視しておく。
 ――こんな剣、いらない。
 どが、と地面に突き刺して置けばいいか。無視安定。
『そうだね、柊君はいつもの柊君だったよ』
 要領を得ない言葉は、同意とも相槌ともとれた。
 不思議とお互いボロボロの身体だというのに、狂気性が落ち着いて見えるのだから不思議だ。
 みえる、だけかもしれない。
 欠けたピースは俺が嵌めよう。後輩として、手向けるべき言葉として。
「先輩。"彼"……こと有馬・英次は、恋人だった男は…………死んだよ」
『え……嘘よ、柊君。だって、昨日だってその前だって…………』
「オブリビオン・ストームが白雪坂にあったはずがないだろ。どこに遭った。先輩の昨日は」
 全てが段階を追わずに壊れていったのは先輩が死んだ"あの日"あたり。
 事件が置きた山荘に、黒い嵐は吹き荒んでいなかった。
「このデス・バレーで記憶の追想いや、追葬をはじめようとしていたのは何故だ」
 再現すれば、今度こそ氷の心が破滅すると、"レイダーの暗躍"が先輩にそうさせたのか?
『吹雪が吹いていたからだよ』
 ぶわああ、と貴方のことも逃さない、"吹雪の王"の突発性が吹雪を喚ぶ。
 無機物が点在していた。
 アレらが全て、猛吹雪へと変じていて、この地が乾燥高温の地であることさえ忘れてしまう。
 はとりの髪を揺らす。
 目の前に、絶対零度を刻む、真冬の"吹雪"を連れた王(せんぱい)がいるというに、眼鏡が吹き飛ばされそうになる。
「確かに!過去の過ちを止められなかったのは俺が……未熟だったせいだ」
 眼鏡を抑え、声を張る。まだ誰も殺してない。はずだ。
 錆色の名残は、あのときに相応しい姿で還ってきたから物的証拠として存在するだけだ。
 幻創。幻覚。あれはこの場にあってはいけない。
「『探偵』として、この悲劇を終幕へ導きに来たんだ!」
『嘘だよ、柊君』
「探偵に嘘はない!」
 第八の殺人『倖せな匣』――決定的な証拠品を突きつけて。指摘する。
 先輩の欠落させた過ちを。
 忘却と混濁の中、認識できない事実を。
『……それ、は』
 数点の写真。吹雪こうが見えるだろう?
 過去を記録した、写真には恋人の有馬先輩と寄り添う写真。
 俺と夏海と先輩で撮らされた写真。
「いつでも優しく笑ってた!殺す壊すだなんだとあんたこんなコトしたくない筈だろ!」
『そうだね、笑っていた。これは私だね。それから……』
 生きている筈の彼、……もう死んでいる彼を、終わらせた。事件の断片。
 手の感触。ああ、なんだ。今日この死の谷で、起こった事はもう一度、経験済みじゃないか。
『柊くんなら止めてくれるかもしれないと思った、からね』
「事件後聞いたからな、分かるか。今止めてるぞ。もうやめろよ、先輩!」
 吹雪にただ耐え忍び、叫ぶデッドマンは最悪ノコギリで裂かれても。
 物的証拠を突きつけられた、犯人の言葉を意識が続くまで待つつもりだった。
『……うん、今度は間に合ってくれて、ありがとう。柊君』
 からん、と取りこぼすノコギリ。
 そうだ、それは先輩の愛用品ですら無い。"あの日"浸かってしまったトリガー(犯罪道具)。
 離せ、思い出せ。取り戻せ、真実を。
『私が終わってしまう頃には罪の意識はあったからね。後輩が止めてくれたら実行しないよ』
 ――今の柊君を壊したら、"彼"にあわせる顔まで無くなっちゃうもの――――。
 名探偵の言葉を受け止めて、レイダーは自ら過去へと還ることを選んだ。
『良かった。柊君が、白雪坂にいてくれて』
 自害、という言葉は相応しくない。
 これまでの負傷が、継ぎ接ぎだらけの内側で暴れまくっていた事で先輩は限界だった。どさり、と倒れた先輩は自分が起こした吹雪に飲まれるように隠されて。
 操作していた"吹雪の王"が斃れた事で力が解除された時。
 その場に、赤い滲みを残すばかりで誰も倒れてなどいなかった。

 復讐の為の殺人の、"もう一度"を防げた事は"柊・はとり"にとって。
 大きな意味を持つ。
「……さよなら」
 俺の最初の事件。
 さよならだ、俺を探偵にした人(せんぱい)――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月05日
宿敵 『『吹雪の王』志乃原・遥』 を撃破!


挿絵イラスト