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懐旧と渇望

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●厭いた貴族の慰め
「……つまらんな」
 ――ごとり。
 冷たい床に転がった『蝋人形』を、貴族めいた風貌の男は冷ややかに見下ろしていた。
「我が啜るに相応しい血の持ち主など、最早存在せぬものか。……あれほど奪えば一人や二人、我が首を獲らんとする勇者も出るかと期待したのだがな」
 この程度では笑い種だと、笑みの浮かばぬ口許に息が零れる。
「……片付けておけ」
 どこかに何かが潜んでいると、厭でも錯覚させられそうな影満ちる屋敷。どこからともなく現れた亡者は、長いローブを引きずり、『人形』を曳いていく。ふたつ、みっつと影は増え、やがて音も姿もどこかへと消えた。
 嘆息し、男は剣を抜く。刀身に揺れる焔の色に目を細め、長い指でなぞった。わざと付した傷に滲んだものが、ざらりと灰に変わる。それを懐古の眼差しで愉しげに見つめ、
「……訪れぬものか。この剣のように鋭き者よ」
 いつか味わった血の味を思い、唇を舐めた。

●影の館へ
「皆様、お力を貸してくださいませ! ダークセイヴァーへ向かっていただきたいのです」
 裾をささやかに摘まんで慌てた一礼をひとつ。ジナ・ラクスパー(空色・f13458)は集う猟兵たちに力添えを願い出た。
「そこは『残影卿』の領地です。名を、アシェリーラ、と。使役する亡者を使って領民を攫い、助ける為に奮い起った方々を迎え撃っては殺す……そんな非道を繰り返しているヴァンパイアです」
 広々とした館は冷たく冷え切り、ぽつぽうと点された灯りにも関わらず薄暗さの中にある。そして玄関から通路、広々としたホールに至るまでには、苦悶の表情を浮かべた蠟人形たちが居並んでいた。それは言うまでもなく、
「はい。すべて、領民の方々です」
 耐えるようにジナは告げる。
 命を残したものは既にない。ホールの先へ進み、かの貴族を倒す。それだけが出来ることであり、成さねばならぬことだ。
 一見してその先の通路はない。玄関からホールまでのどこかに、倒すべき者への道を開く何かがある筈だ。まずはそれを探さなければならない。
「何故かはわかりませんけれど、アシェリーラ卿は強い者を求めているようです。彼に至るまでに、館を彷徨う亡者たちを差し向けてくる筈」
 訪れた者の力量を見定めるため、自ら殺した亡骸さえも利用する。その末に、彼はようやく現れるだろう。待ち侘びた勇者の到来に静かな眼差しを綻ばせ、強者の匂いに喉を鳴らして。
「視てしまった私は、お送りすることしかできません。とても、……とても! 悔しいのですけれど、皆様ならきっとこの惨い支配を終わらせることができる筈ですから」
 ご武運を、とようやく微笑んで、少女は両手にグリモアを包み込んだ。――青い光が、猟兵たちを飲み込んでいく。


五月町
 五月町です。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

 第一章:広間に続く進路を探し出す探索パート。
 伏せられた情報は意図的に多くしております。また、道はひとつとは限りません。P・S・Wは参考程度に、思いのまま探索してください。
 この章では戦闘は発生しません。

 第二章:篝火を持つ亡者たちとの戦闘パート。

 第三章:残影卿アシェリーラとの戦闘パート。

 心情と戦闘に重きを置いたシナリオです。思いや戦い方を心のままプレイングに綴っていただけたら幸いです。
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第1章 冒険 『蝋人形の館』

POW   :    館にある物を片っ端から引っ繰り返してでも手掛かりを見つける

SPD   :    館を隅々まで調べ、仕掛けや隠し通路を見つけ出す

WIZ   :    館に隠された仕掛けや謎を解き明かし攫われた人や潜む敵を見つけ出す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 扉は、来訪者を喜ぶかのように素直に開いた。
 この地の民の生活からは想像に難い、アンティークの調度品が出迎える。魔法によるものか、蝋燭の灯りが不意に大きく燃え上がった。それでも、重苦しい館の暗さを補うには程遠い。――苦しげな蝋人形の表情をより濃く浮かび上がらせただけだ。
 二手に分かれた廊下のの行き着く先は同じ。通過する度に光を増す蝋燭と蝋人形は、ここでは台座に乗せられている。こつ、こつ、こつ、かつ、こつ――不揃いに反響する足音は、自分のものであっても不安を煽る。
 そして至るは、重い明かりを投げかけるシャンデリアと大理石で彩られた広間。取り囲む蝋人形たちの訴えを避け落とす視線に、不規則な彩りのモノトーンのタイルの紋様、そこに幾つか浮かぶ赤みが意味深に訴えてくる。――これは誰かの、命の痕ではないのかと。
 ならばこそ、と猟兵たちは顔を上げる。
 この先の道へ至らなければ。その染みを、これ以上増やしはしない。
ユハナ・ハルヴァリ
そう。こんなことを、しているの
…アシェリーラ。覚えたよ

蝋人形。かつて人だった、命の抜け殻
あとで此処から、外に出ようね
目を逸らさずに真っ直ぐ見つめて
魔術の痕跡がないか探りながら、同時に視覚でも探す
匂い。音。そういうのも。
仕掛けがあるとしたら、目を逸らしたくなるような
この人たちの後ろ……とか
壁をこつこつ長杖で叩いて反響を聞く

探しながら
苦しかっただろうな、って彼らを見る
覚えておかなくちゃ
だってそれは全部、此処の主に、返さなくちゃいけないから
苦しいのも、痛いのも、みんな
持って行くからね。

知らず歌を口遊むのは、冷え冷えする空気の所為じゃなくて
少しでも、ほんの少しだけでも、葬いになれば、と


勾坂・薺
WIZ
何でこんな非道い事を、って聞いても仕方ないか。
話合いが通じる相手ならこうはならなかっただろうし。
依頼をきっちりやることが、弔い代わりかな。
戦いに行く前に、隠れてる敵は排除しておきたい所。
背中を狙われるのはゾッとしないし。

他の人たちが色々探してそうな場所は任せて
人手の少ない所を重点に探そうかな。
あ、でも情報交換は大事に。

ありがちなのは書棚の後ろとか、調度品を動かしたりすると
仕掛けが動いたり通路が見つかるとかだけど。
蝋人形に手がかりとか。何気ないメモが意外とヒントになったり。
……小説の読みすぎかなぁ。

敵が出てきたらDaydream Orderで『私に害を与えるな』。
その間に味方を呼ばないと。


雨糸・咲
命はいつか終わるけれど
自身も、大切な人にも
その終わりが辛くないように
苦しくないように
誰もが願うものでしょう
苦悶に歪む顔を人形にして残すなど、あるまじき冒涜

すんなり開く扉に
暗い奥を睨み据え、呟く

…見縊らないで下さい

調度品や建具、細かいところまでおかしな部分が無いかよく探します
壁などの造りも入念に調べて【情報収集】し、
不自然な空間が無いか検討
触れてみて何か音がしたりしないか【聞き耳】を立ててもみましょう

蝋人形、特に腕に覚えのありそうな体格や顔付きの人がいれば
その付近も調べてみます

普通の人なら
彼等に近付いてよく見ようとは思わないでしょうから…

何か手掛かりがあれば、他の方と情報共有を

※アドリブ歓迎


マリス・ステラ
【WIZ】星の導くままに館を彷徨います
他の猟兵とも協力します

「主よ、憐みたまえ。彷徨える魂に救済を」

海のような深い青の瞳は憂いを帯びています
まず蝋人形と化した人たちに『祈り』を捧げます
叶うなら彼らの魂を浄化しましょう

星枢の力を使い『この地にまつわる情報』を得られるか試します
『失せ物探し』隠されたヒントを見つけられるでしょうか?
また『視力』『第六感』を働かせて手掛かりを探し、必要に応じて星の力で『封印を解き』ます

「我思う。故に我あり」

光を宿した掌をかざします

「目には視えなくても、星は常に宙にあるものです」

さらわれた人を発見したら『手をつないで』不安を取り除くように
しかるのちに館を出るよう促します


アルジャンテ・レラ
S

ジナさんの分も。
そう思って応じたのはいいのですが……少々、気分が優れません。死の匂いが漂っているからでしょうか。
(蝋人形の顔は直視できない。するのが怖い。
 かつでは人であったなど、信じたくもない)
可哀想に。せめて死は等しく安らかであるべきでしょう。

調度品を手に取り不審な箇所がないか確認します。
視野は広く。仕掛けは一つではなく複数で連動している可能性も考えておきますよ。
そして考えすぎかもしれませんが、灯りが気になるのですよね。
点灯されていない蝋燭があれば着火具で灯してみます。
全ての蝋燭を見比べ、違いがないかも確認を。
引っかかる点は猟兵同士で情報を共有しましょう。


イア・エエングラ
死した、骸は、かえらねば
土に灰に、それとも海へ
お仕舞の安寧だけは等しく、おくられるものだもの
苦しかろうと呟く声に、返る音さえないのだから
静けさに裾をひくのも悪いかしらと
せめて覚まさないようにそろりと行こうな
……影が揺れでもしたらこわいもの

頼るには細い灯を見上げ
ゆくともにはひとつ、彼岸の火をお招きしましょう
青い、火ひとつ掌に
お前が風に揺らぐなら
みえない路の流れを辿れるかしら
死霊の子らの呼ぶように
嘆く細い声の名残が、いまだに僕には届くかな

昏い路をくだるように
薄暗いにおいのする路を、探しに行きましょう
怯む足など、今更お持ちで、ないものな



●第一の通路
 扉の奥に薄暗く浮かび上がる、屋敷の威容。訪れる勇ましき者を喰らおうとする、あまりにも素直な館の口。その奥には、安い勇気など容易に打ち砕いてしまえそうな悲劇の表情が並んでいた。
 睨み据え、雨糸・咲(希旻・f01982)はつぼみのように固く結んだ唇を開く。
「……見縊らないで下さい」
 痛ましさよりも許し難さが勝る。命はいつかは終わるもの。けれどそれが自身のものであれ、他者のものであれ、その終わりが辛いものとならないように――そう、誰もが願うもの。
 苦悶に歪むその顔を残したばかりか、こうして晒す。それはなんという冒涜だろう。
「アルジャンテさん、顔色が……大丈夫ですか?」
「……すみません。ジナさんの分も、と思って応じたのですが……」
 この館に満ちる『匂い』――冷たく押し寄せる気配のようなものを、何と言えばいいのだろう。これまで読み、学んできた書物の中にはなかった筈だ。焼き物のような美しい頬に影を落としたアルジャンテ・レラ(風耀・f00799)は、友人の労りに弱々しくも微笑んでみせた。彼女の纏う花の香が、少し気分を和らげてくれる。
 直視できずに目端に掠めた表情の数々。これがかつて、笑い生きたであろう人のもの?
「信じたくもありませんが……可哀想に。せめて死は、等しく安らかであるべきでしょう」
「はい。本当に――こんな」
 続く言葉を噛み締める二人に続き、白い影がゆっくりと進み出る。
「……そう。こんなことを、しているの」
 聳え立つ蝋人形の苦悶を前にひとつ瞬いた、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)の瞳は揺れてはいなかった。その代わり、呟く彼の人の名を胸に刻む声には、冷たく静かな感情が滲み出している。
「……アシェリーラ。覚えたよ」
「何でこんな非道い事を、って聞いても仕方ないか」
 これだけの『蝋人形』を心痛めることなく作り出せる館の主だ。こちらの話も思いも、到底通じる相手ではないだろう。肩を竦め、不機嫌な琥珀の眼差しをくるりと転じて、勾坂・薺(Unbreakable・f00735)は早速、影を生む人形たちや調度品を当たっていく。
 敵はまだないという話だけれど、影が疑心を誘うなら、早々に確かめてしまった方がいい。物陰から背中を狙われるなんてゾッとしない。
「依頼をきっちりやることが、弔い代わりかな」
「ええ、始めましょう……でも、その前に少しだけ」
 主よ、憐みたまえ――憂いを帯びたマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)の青い瞳が、細波のような優しい光に揺れた。
 亡骸はここに在れど、その魂は未だ救われず彷徨っているのだろう。人々を救い、癒すべく在るマリスには、彼らを前に祈りを欠くことなど思いもよらない。
「苦しかろう。……くるしかろうな」
 薄く曇った蝋人形の面に、煌めく宝石の指先が労るように伸びた。慈愛に満ちた声が触れ、それでも返る言の葉、音のひとつもないのだからと、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は引き取った指先でつと、長い夜の裾を持ち上げた。
「せめて覚まさないように、そろりと行こうな。……影が揺れでもしたらこわいもの」
 しゅるりと床を撫でる衣擦れの音色が消える。こわいと囁くその声に、恐れはなかった。

「それにしても、本当に薄暗いですね。これほど灯りがあるのに……」
 不安を掻き立てる蝋燭の光を、アルジャンテが一つずつ検めていく。どれもが取り換えたばかりのようでありながら、点されていないものはなく、不審な点は見当たらない。
「かように細く頼りない灯では、かえり路にも迷おうな。――ゆくともにはひとつ、彼岸の火をお招きしましょう」
 ゆらり、イアの掌に目覚めるは青い炎。しんと柔らかな光に染まった玄関に、残された声がゆらゆらと呼応する。

 ――……い、おそろしい。たたかい……くない。
 ――でもおれが……なければ……こどもたち……。
 ――こんな……ろで、たおれ……わけには、……あさん。

 苦悶の声にも塞ぐことないその耳に、ふと、

 ――……った、……みつけたぞ。……りぐちだ……これで、あのこが――。

 その声は届いた。藍の瞳をゆるり、ありがとうなと手慣れた風に火を吹き消す。
「道は此処にもありましょう。嘆きの名残が、音にきかせてくれたもの」
「それでしたら、私の星にも訊ねましょう。――目には視えなくても、星は常に宙にあるものです」
 そっと目を閉じ、掌中に招いた星の導きを頼りに探索を続けるマリス。その傍ら、薺は遠慮なくも効率よく家具を調べ上げていく。
「うーん……小説の読みすぎかなぁ。ありがちなのは調度品を動かしたりすると仕掛けが動いたり、通路が見つかるとかだけど」
 対照的に、小物を丁寧に検分していくアルジャンテ。紫水晶の眼差しは品に落としたまま、そうですね、と思案を口にする。
「仕掛けが一つとも限りませんね。複数で連動している可能性もあります」
「だとすると余計に厄介だね。来て欲しいのか、欲しくないのか……ユハナ、そっちはどう? 何かわかったかな」
「魔術の気配は、灯りと、この人たちにだけ。……蝋に、魔法が使われているみたい」
 これだけの亡骸を前に死臭すら鼻につかないのは、この場所に満ちる冷気と、使者を閉じ込める蝋の蛹によるものだろう。
(「苦しかっただろうな。――覚えておかなくちゃ」)
 亡骸の訴え来るもの全て、この館の主に零すことなく返さねばならないものだと、幾度でもまっすぐにその表情を見つめるユハナ。けれど、俯きがちなアルジャンテの眼差しにも気遣わしく頷いた。優しさ故に、心痛めているのだろう。
 ――そして、気づく。
「……目を逸らしたく、なる?」
「す、すみません。あまりにも痛ましくて……」
「ごめんね、そうじゃないんだ。……目を背けたくなるのが、普通なら」
 ――隠しておきたいものは、そんな場所に隠すのではないか。
 やさしく静かな、海の底の青い闇を宿したユハナのまなざしが、微かな光を捉えた。
 眼前の死をあまりにまっすぐに見つめた彼らに、その思考は盲点であり、一条の光だった。
 こつ、こつ。仲間たちと共に丁寧に背面の壁を辿り叩く音を響かせながら、咲は亡骸のか顔をひとつひとつ見つめる。確かに普通の人なら、この顔を近づいてよくよく見ようとは思わないだろう。そしてふと、こう思う。
 ――訪れる者に、より強い印象を与え得る玄関に飾るもの。脅かし、慄かせたいのなら、ことさらに腕に覚えのありそうな者を選ぶのではないか。
 体格や顔立ちにそれを感じる一体を選び、その周囲の床や壁をつぶさに調べる。

 こん、こん、こん、――こおん。

 不意に虚ろの響きが皆の耳を打った。振り返る咲に、力強い薺の頷きが返る。
「当たり。ってことは……この辺りかな」
 もう一度、辺りの調度を見渡した。少し離れたところに花瓶の乗ったコンソールテーブル、小さなキャビネット、そして蝋人形の陰には――コートハンガー。
 枯れ木のような枝の全てに触れて確かめると、ひとつがかちり、と90度回転する。
「案外小説好きだったりするのかな、飽いた貴族様も。――同類には数えて欲しくないけど」
 低い家鳴りとともに壁に広がっていく隙間を仲間と眺め、薺は皮肉げに口の端を上げた。

「この先に待つのは……攫われた方々のなれのはてということですね」
 マリスは口を噤む。誰かひとりでも、生かされている者があればと思っていた。身の内から溢れる光で癒すことが叶えば、と思っていた。
 しかし仲間の予知は翻らず、明確に救える誰かはこの館には見当たらない。
「……せめて、これ以上は」
 主を倒しさえすれば、悲劇を止められる。露わな決意が滲むマリスの瞳に目礼を一つ、イアは拓かれた薄暗い道へ裾を下ろした。
 土でもなく灰でもなく、海でもない。これより先は、終われない死のひしめく昏い場所。その道筋をせめてもと、夜の色で彩りながら歩みを進める。
 この先の為にここへ来た。――怯む足など、今更だ。
「死した、骸は、かえらねば」
「うん。あとで此処から、外に出ようね。……苦しいのも、痛いのも、みんな……持っていくからね」
 ――ここに、共に。大切に、けれど強く握り込んだ掌。葬いの一節を冷えきった空気に残し、ユハナは仲間たちと共に、現れた入り口へ駆け込んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

五曜・うらら
なかなかにいいご趣味をお持ちの様で!
遠慮なくばんぱいあさんを斬れるなんで楽しみですねっ!
さてさて、そこまでに何が出てくるやら…

まっすぐ壁を破るだけで
目的地につければ苦労はありませんが!
仕方ないですね、地道に探しましょうっ!

こういう時は隠し通路とか壁が動く仕掛けとかを探すのが鉄則!
この館の主なら…そうですね、この蝋人形が鍵になるでしょう!
並べただけで満足するとは思えませんからねっ!

まあ、私生きてようが死んでようが気にしません故っ!
それっぽい蝋人形を見つけて
さくさくっと進む為の仕掛けを探しましょう!

あ、どうせ見てるでしょうから言っておきましょう!
乙女の行動をのぞき見するなんて趣味が悪いですよっ!


ラザロ・マリーノ
【SPD】
野郎と戦って殺された奴がいるってことは、この館を潜り抜けて野郎にたどり着いた誰かがいるってことだ。
猟兵でもないのにオブリビオンに戦いを挑んだ本物の勇者がな。
そいつの勇気を無駄にするわけにはいかねえ。

残影卿を倒しに来た誰かの足取りを【追跡】するぜ。

肉眼での観察と並行して、エコーロケーションの【聞き耳】【視力】【暗視】で、
足跡、床や壁の傷・厚み、戦いの痕跡などを調べる。
もしかしたら、仕掛けの近くに目印を残している奴がいるかもしれねえな。
そっちも注意してみるか。

強者を求めてるってんなら、お望み通り行ってやろうじゃねえか。


鴇沢・哉太
俺はね、希望を刈り取る奴らが嫌い
ただ生きるだけで苦しいこともあるってのに
他人の運命に介入して勝手に強奪していく奴らが嫌い
…だから
『残影卿』にご挨拶しよう

といっても謎解きは得意じゃないけどな
まず適当な廊下へ足を踏み入れ
蝋燭の数をカウントしつつ歩く
蝋人形の特徴、見目や性別があれば覚えておくけど
最も注力するのは床の音の反響
曲がりなりにも音楽に携わるから耳はいい
一定の強さで踏み歩く最中
不揃いな音を出した箇所にハンドライトを当て
不審点がないか調べよう

情報を得たら広間へ
他の猟兵と情報共有
タイルの不規則さとの共通項を探る

強さって何なんだ
弱いものを虐げるのは
ただの傲慢な暴力だ
それを知らしめるために
行こうか


都槻・綾
蝋の柩に眠る亡骸
一人一人に命があった、想いがあった
斯様に散らされる迄
仇を見据えていただろうか

死霊と話す事は叶わぬ身
然れど
第六感を研ぎ澄ませて

飾られている彼ら一体一体の眼差しを追う

還りたかったでしょうね
還したいですね

炎の揺らぎに不自然な風が吹いていないか
他と違う姿が無いか
浮かぶ苦悶へも悲しみへも
敢えて目を背けずに

未来を望めぬ台座に置かれた悪戯な意味は虚しく
潰えた命の数をただ『数多』と述べるには痛ましい

タイルの模様や並び、浮いた箇所の有無等も確認

隙間駆ける鼠等の動物が居ないか
笛音で呼びかけ
応える響きがあれば問う、道行き
まだ消えぬ命の灯、攫われた人の行方も分かれば

皆と情報共有を密に

※絡みアドリブ歓迎


黒江・イサカ
薄暗くてやんなっちゃうよねえ、この世界
明かりが蝋燭だけってのもまた頼りないし、ほんとホラーハウスって感じ

この蝋人形――― 死体共もそうだ
悪趣味ったらないね、死者への冒涜だよ
生きたものは尊重されなきゃいけない
彼らは生き終わったんだからね

さて、ちょっとくらい真面目に働いておこうか
何処にいるかね、その領主様ってのは

基本的に動くときは壁から手を離さないようにしよう
切れ目とかあったらわかるようにね
後はそうだな…蝋燭の火が隙間風で揺れるかもしれないな
それも見ておくようにする

…ま、こんな建物じゃ頼りにならないかもしれないけど
ぼく、強いやつに逢いに来たんだよね
まどろっこしいことやめてほしいよなあ



●アドリブ歓迎


蓮花寺・ねも
良い趣味をしている。
否、趣味が悪いと言うべきか。
……弔いは後だな。御免。
出迎えがないなら、此方から訪ねよう。

館内の探索を。
旧い屋敷なら、仕掛けだけが最新ともいくまいよ。
血痕が残っている程だし、態々誰かが仔細に探すとも思ってはいなさそうだ。

調度品の動いた跡や不自然な歪み、壁や扉の擦れた跡がないか。
隠し通路や隠し部屋の目星を付けながら探そう。
中を歩いて、表から見た幅と部屋の幅が合わないような場所も怪しい。
鍵のようなものが付いている場所は、その封を解けるか試みよう。
動きそうな場所は、念動力を使って動作の確認を。

生きているものでも、生きていないものでも、存在していれば痕跡は残るんだ。
追い詰めてやる。


空廼・柩
攫った領民を助けようとした人達を殺すのが趣味だなんて
随分と悪趣味な領主も居たものじゃないか
――良い機会だ
驕り高ぶる領主様に罰を与えてやらないと

苦痛に歪んだ蝋人形の顔
並べられたそれは、まるで生者を羨む様にも思えて
…本当に悪趣味だと悪態を零す

まあ、先ずは現場を見ない事には始らない
現場は薄暗いって話だし光源の類も用意しよう
隅々まで調べて何か不審な点がないか調査するよ
色の違う壁や床はないか調べるのは勿論
埃が不自然に払われていたり
蝋人形の間隔や位置がずれていたりしない?
壁を軽く叩いて空洞が無いかも調べてみる
何でも良い、情報になりそうな事があれば他の猟兵にも伝えよう
皆で探せば、見つかり難いものも見つかるさ


レイ・ハウンド
絡み
アドリブ歓迎
ニヒト(f07171)と

全く、そんなに好敵手求めてんなら
強い奴には自分から逢いに行けっての…
昔取った杵柄
引き篭ってたおかげで領主とやらの剣の腕も
存外鈍っちまってたりしてな?

俺?勝ちに来たんじゃねぇ
気に喰わねぇ奴を殺しに来ただけだ

影の追跡者をニヒトにつかせとく
弟子から何か助言がありゃ従おう

俺は俺で怪しいと思った所を片っ端から引っぺがしてくぞ
こういうのは大体地下への隠し通路がだなぁ…!
(敷物ひっくり返したり花壇を掘り返したりする

…ぐっ
どうせ俺は脳がねぇよ!

しかしでかくて重そうな置物や
頑丈そうなもんか…

心当たりある物を見つけたら
動かすのを試みるか若しくはー…
鎧も砕く1撃で【叩き斬る】


ニヒト・ステュクス
師匠(f12038)と
そういう師匠は挑戦する為に逢いに来たの?
…そうだね
そういう人だった

第六感も巡らせ
犠牲になった人達の目線に立って考えるよ

やっぱり嫌でも目に入るのは蝋人形達
家族や大切な人を助けに来た人なら
この中から探さずにいられないと思うから…
探して探して導かれるままにー…
蝋人形の視線や指先がどこかへ誘導してないか注目

助ける事叶わぬと悟った時の事を思うと
胸糞悪い
下手すればその亡骸に殺されるなんて

…師匠考え無しに探してないよね?
(と師匠の影に

領主が入り口を隠してるのは
挑戦者を篩に掛ける為だ

大切な者の亡骸を打ち倒せ
悲しみに折れず復讐に燃える者

…単純に力の強い者
重そうな物や頑丈そうな物を探してみて


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

くそムカつくヴァンパイア野郎の求めてるモノを与えてやるのは癪だが
このまま増やす訳にもいかねえだろ…
蝋人形に視線を向け眉を寄せる

しっかし、通路を見つけるねぇ
気になるのは床の模様が不規則な事くらいだが
考えてもわかんねえな
廊下を調べるとすっか
強いやつを求めてるっつーなら
力がねえヤツはたどり着けねえようにできてるって考えた方がいいか?
となると…重たいもの
並ぶ蝋人形の台座周りをよくみて動かしたあとがないか確かめる
一見不自然な所がなくてもなんか引っかかるモノを感じたらとりあえず動かしてみるか
【青星の盟約】を歌い力を込めて
蝋人形に「悪いな」っつって声をかけてから動かす



●第二の通路
「良い趣味を……否」
 それが皮肉であってすら、肯定を避けたかった。蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)は花色の髪をふるりと揺らし、今度ははっきりと呟く。――趣味が悪い。
「同感だね。攫った領民を助けようとした人達を殺すのが趣味、だなんて」
 声は静かに。けれど硝子の向こうの右目の青は、出迎えるものたちを前に鈍く輝いた。空廼・柩(からのひつぎ・f00796)はじっと、幾つもの光のない眼差しを見つめ返す。
 長い廊下の両側に並び立つ蝋人形たち。話に聞いてはいたものの、あまりの異様さに立ち止まる者も少なくはない。苦しみ抜き、絶望の中に息絶えた顔、顔。――命あることを後ろめたく感じるほどの。
「……本当に悪趣味だ」
「行こう。出迎えがないのなら、此方から」
 こつ、とねもが響かせた最初の足音が、猟兵たちを先導する。薄闇の廊下は静かに、訪れた者たちを飲み込んでいった。

 満ちるいくつもの足音の中を、淡く鋭い笛の響きが駆け抜ける。
 小さな生き物の答えを待つ都槻・綾(夜宵の森・f01786)に、応える気配はない。ここに在る命は比喩でなく、猟兵たちとそれを待ち構える領主、それだけのようだ。つい白い息が零れるも、それで消沈するほど男は柔くはない。
 蝋の棺に押し込められた命と、想い。綾はそのひとつひとつを、背くことなく見据える。猟兵たちの往来に揺れる炎はあれど、そこに目立った不自然はなかった。今際の際まで仇を見据えていたものか、憎悪や恐怖や絶望を隠すことない亡骸たちを暗く照らすだけ。
「還りたかったでしょうね」
 ――還したい。モノより生まれ、そこに生じた己の心。その底より浮かび上がった素直な思いを遂げるために、ひたすらに亡骸の視線を辿る。何かがあると、第六感が訴える。――訴えはする、けれど。
(「未来を望めぬ者に、こうも悪戯な意味を与えるものか……」)
 その意味を告げるのは彼らの意志ではない。視線の先を踏めば、かつ、と硬い響きが耳を打った。片眉を上げ、先へ進む。

「まっすぐ壁を破るだけで、目的地につければ苦労はありませんが! 仕方ないですね、地道に探しましょうっ!」
 いかにも意味ありげな彫刻が施された壁をこんこんと気安く叩きながら、五曜・うらら(さいきっく五刀流・f00650)は居並ぶ蝋人形たちの背後を行く。
 隠された通路と言えば、壁が動く仕掛けを探すのは鉄則。さてこの館の主であれば、やはりこの蝋人形が鍵になる。
「なかなかにいいご趣味をお持ちの様ですし、並べただけで満足するとは思えませんからねっ!」
 少女であれど、彼女もひとかどの猟兵。亡骸たちの視線の先を臆することなく、むしろ、
「あ、どうせどこかで見てるでしょうから言っておきましょう! 乙女の行動をのぞき見するなんて趣味が悪いですよっ!」
 誰よりも朗らかに賑やかに突き進んでいく。元気だねえ、と見送って、黒江・イサカ(カミノテ・f04949)は彫刻を避けるように、均された壁をなめらかになぞった。手は離さない。継ぎ目が生む風や違和感があれば、指先が教えてくれる筈だ。
 それにしても、と見上げる天井までもが薄暗い。誰にともなく、黒い瞳を陰鬱に歪めてみせる。
「悪趣味ったらないね、死者への冒涜だよ」
 否が応でも目に入る蝋人形たち。彼らはかつてを生きたもの、そして殺されたにせよ、生き終わったものだ。
 その死は敬われ、尊重されなければならないものであるというのに、こうして侮辱するかのように晒してみせるのだ――彼らの領主だというオブリビオンは。

 ――犠牲になった人々は、どう考えただろう。
 攫われた者を助けるために訪れた、頭上の人々。ニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)はゆっくりと歩みながら、彼らの思考を追っていく。
「人形じゃないと気づいたら……生きている筈と、信じていても」
 この中からきっと、探さずにはいられないだろう。歪んだ顔がその人でないことに安堵と不安を繰り返しながら、探して、探して、導かれるままに。
 心情をなぞるたび、胸が悪くなる。救うべき人を人形たちの中に見出した時の嘆きは、どれほどのものだろう。仮にここになかったとしても、この先で傀儡と化したその人に殺されるなんて。
「全く、そんなに求めてんなら強い奴には自分から逢いに行けっての……」
 頭上に悪態。帽子の上から乗せられた手と、ニヒトに添い立つ影の追跡者。全てレイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)のものだ。
「そういう師匠は挑戦する為に逢いに来たの?」
「俺? 勝ちに来たんじゃねぇ、気に喰わねえ奴を殺しに来ただけだ」
 そうだ、そういう人だった。微かに唇を緩めるけれど、
「待ってろ、すぐに見つけてやるさ。こういうのは大体地下への隠し通路がだなぁ……!」
 蝋人形の据えられた手近な土台をどかそうと、しゃにむに力を掛ける。
 ――そうだ、こういう人でもあった。
「……師匠、考えなしに探してないよね?」
「……ぐっ」
「案外当たりかもしれねぇぞ。これだけの数だ、一つくらい何かの仕掛けがあってもおかしくねぇ」
 考えても分からないのは一緒だと、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)がレイに続く。唱えるように口遊む歌が、線の細い体に秘める力を増幅させていく。長い指先は、台座をゆっくりとなぞった。
 ざらつく感触、擦れの跡。なんでもいい、動かした痕跡が残ってはいないものか。
「ご丁寧に拭き消してくれたもんだ。これだけの人間が訪れて、人の足跡は一つも残ってやしねえ」
 冷たい床にラザロ・マリーノ(竜派ドラゴニアンのバーバリアン・f10809)の苛立ちが反響する。這い蹲ることも厭わず、暗がりを視る力を生かして丹念に浚う床には、人の足跡は残されていない。拭った者――おそらく使役される亡者たちのものだろう、無臭とすら感じる冷ややかな空間に、ごく微か、腐敗臭を伴う痕跡だけが残されていた。
 気分が悪くなったのは匂いのせいではない。助けに来た者の痕跡を、助けられなかった死者たちに拭わせる所業のせいだ。
「態々誰かが仔細に探すとも思ってはいなさそうに思えたが……惑う様を楽しみたいのか。ますます趣味が悪い」
 ねもは腕組みをする。ここまで痕跡を消すことに徹底するのであれば、血の色を思わせるという件のタイルも、違う線を疑える。
 亡者たちの匂いが自分にもわかるだろうかと、床に鼻寄せる少女をやめておけと制しながら、ラザロは意見には頷いた。
「違いねえ。仕掛けの近くに目印を残したような奴がいれば、亡者たちの痕跡がより多く残ってるかもな。探してみよう」
 鱗に覆われた身を起こす。力及ばぬことを充分に知りながら、一縷の望みに掛けて――望みなどなくとも、オブリビオンに戦いを挑んだ者たち。その眼差しがラザロを見下ろし、沈黙していた。
「……こいつらは本物の勇者だ。その勇気を無駄にするわけにはいかねえ」
「ああ。くそムカつくヴァンパイア野郎の求めてるモノを、素直に与えてやるのは癪だがな。このまま増やす訳にもいかねえだろ……」
 セリオスは眉を寄せ、勇壮なドラゴニアンと視線を並べた。亡骸が訴える死の際の感情を、強く拳に握り込む。
 青い瞳に、深い深い影が落ちた。

「謎解きは得意じゃないけどな。素直に求めてくれるなら、全力で応えるのも吝かじゃないのに」
 リズミカルに、一定の強さで床を踏む。この重くのしかかる空間に、鴇沢・哉太(ルルミナ・f02480)はそこに在るだけで華やかな音を生む。甘く軽い声音に潜んだ怒りは、仲間の耳に留まらなかった。
 そう、現れてさえくれれば全力で応えられるだろう。生きている、ただそれだけで苦しいこともあるというのに、他人の運命を踏み躙り、強奪し、僅かな希望すら刈り取っていく。そんな奴らが嫌いだから。
 さほどの苦もなく思いに覆いをかけ、哉太は音の響きに集中する。
 ――こつ、かつ……こつ、こつ、こつ、かつ。
(「随分と不規則だ。こういうリズムもなくはないけど――」)
 けれど、きっとこの並びに何かがある。ひときわ高く歌ったタイルにハンドライトを向けると、さしたる特徴のないその床に、二人分の靴が照らし出された。
「……っと、気が合ったみたいだな。これが気になる?」
「俺はよくわからんが、連れがな」
「……ちょっとね。お兄さん、師匠も、あれを見て」
 ニヒトの指先が翻った方へライトを掲げると、影深く、より悲壮な表情をした蝋人形と目が合った。
「……ここを見てるみたいだ」
「うん、ボクもそう思う。それに……向こうのも、さっきお兄さんが調べてた」
 指さされるままに光を動かせば、別の蝋人形が見ているのもまた、哉太が見出したタイル。
 何か、ある。頷き合うふたりに、地団太を踏むレイ。
「どうせ俺は脳がねぇよ! 分かるように言ってくれ!」
「拗ねないで、師匠。師匠にも手伝ってもらうから」
「んん? 手伝い?」
「皆も頼む。思いついたことがあるんだ――」

 蝋人形の睨むタイルを、玄関側から順に。
 呼びかけに応えた仲間たちによって、かつ、かつ、かつ……と、高い音が連なっていく。間違いない。意図的にそう配置されている。
 そして――、

「……最後の二体のみ、音が違います」
 こつ、こつ。トーンを下げた音に、綾は二つの蝋人形を見上げた。
 廊下の果てに、白い吐息が一斉に煙った。いや、と床を検めるラザロが声を上げる。
「だが、この辺りには亡者たちの痕跡も多い。消さなきゃならねえ跡があったってことだ」
 そう、そうして痕跡は残っていく。亡き者の痕跡が、生きた者の在った証を。ねもは頷き、共に辺りを探る。
「もう少し探そう。……必ず追い詰めてやる」
「何かある筈だよ。皆で探せば、きっと見つかるさ」
 仲間の助けとなるように、柩は光源を高く掲げ、辺りを広く照らし出した。
 タイルの色に規則性はない。蝋人形の間隔は、ここに至るまで均等だった。それから――それから、
「……蝋人形の、位置は」
 左手の一体は廊下の中央を。そしてもう一体は、広間の方を。教えを乞うように二つの亡骸を見上げ、目を瞠る。視線の合う位置、見下ろす角度が二体ともほぼ、同じ。
 ――広間を向いた蝋人形の向きを変えれば、二つの視線が同じタイルを見る。
 柩の気づきに、台座の足許に屈み込んだねもが頷く。
「……見つけた。ここに」
 ふた色の瞳が見つめる先、台座の根本の床に残された、ごく僅かな掻き傷のようなもの。さやかな吐息に、背の高い影が躊躇なく近づいて、
「最後の最後に力試しってことか。野郎は強いヤツを求めてる。力がねえヤツは辿り着けねえと。……上等だ」
 美しい面立ちからは思いもつかない言葉を吐き捨て、セリオスがぱきりと拳を鳴らす。所作は優美でありながら、台座をわし掴む白い指先は力強くもあった。
「悪いな」
 生きた人にそうするように。亡骸に和らいだ声を掛け、力を籠める。ぎり、と軋んだ音を立てて台座は回り、蝋人形はゆっくりと中央を向いた。二つの目が見る一点へ、逸るようにニヒトが飛び込む。
 ――……かつ。
 音が変わった。

「……風だ」
 ごく微かに、イサカの唇が笑った。首筋にふと触れゆく細い空気の動き。見守ってきた蝋燭の灯が一斉に揺れる。
 触れた壁に、耳障りな軋りとともに細い切れ目が開かれていく。そこから細く冷たい空気の動きが伝わって、ようやくかと息が零れた。
「やれやれだ。まどろっこしいこと、やめてほしいよなあ」
「出番だよ、師匠」
「おう、任せとけ!」
 ニヒトの声に、レイはすぐさま動きを止めた切れ目に手を掛けた。きり、きり……と神経質な声を上げ、隠し通路が大きく口を開けていく。
「領主が入り口を隠してたのは、挑戦者を篩に掛ける為だ」
 大切な者の亡骸を越え、悲しみに折れず、復讐の焔をより鮮やかに燃やすもの。青く冴えたニヒトの瞳に、剣呑なものが過る。
「だろうな。だが、散々勿体ぶったその腕前はどうかねぇ……昔取った杵柄、引き篭ってたおかげで鈍っちまってたりしてな?」
 肩を叩くレイの大きな手に、少女は帽子を目深に引き下げる。
「遠慮なくばんぱいあさんを斬れるなんて楽しみですねっ! さてさて、そこまでに何が出てくるやら……」
 逸る思いのまま、意気軒高に飛び込んでいくうらら。かのオブリビオンを倒したい。高まる思いは、彼女だけにはとどまらない。
「いい気合だ、嬢ちゃん。強者を求めてるってんなら、お望み通り行ってやろうじゃねえか」
 金色の瞳に剣呑な光を浮かべ、ラザロも続く。ふと目を細め、哉太は仲間たちを促した。
「皆も――行こうか。傲慢な領主様にご挨拶しないとね」
 弱いものを虐げるのは強さではない。驕った暴力だ。
 それを知らしめるために、この先へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
手首を切り裂き血を流す
その血で【血の傀儡兵団】を召喚
血人形を複数のチームに分け館の仕掛けを調査します

蝋人形……これすべてが被害者
強いものと戦いたいそのためだけに?
そんなに戦いたいのならヴァンパイア同士で殺し会えばいいのに…

ボクは血人形たちの動きとその反響音から
道を探りましょう
いくら隠されていても音の変化はあるでしょうし
必ず見つけ出します
あとは罠を警戒して侵入は血人形から
血人形が弾ければ危険ですしそうでないなら調査をしましょう

戦いたいのならボクが相手をします
これ以上の暴虐は許さない


海月・びいどろ
WIZ

ここに並んでいるヒトたちは、勇者を呼ぶための。
永く生きていても、強さとは、そういうもの…?

海月の機械兵士たちを喚び出したなら、辺りを探索して情報収集するね
手数は多い方が良いけれど、誘い込まれても、いるような…
警戒は忘れないように、しないといけないね
他の猟兵たちにも、情報を共有しようかな

隠し扉や、タイルのスイッチ、誰かの息遣いまで、念入りに、おかしなところを調べよう

蝋人形たちーー間に合わなかったヒトたちに、何か仕掛けられてはいないかな
重石になって、いたりとか
……ここから、出られるように、するよ

大きなシャンデリア、落ちて来そうなくらいの、明かり
ふわりと、海月を浮かばせて高いところも見てみよう


リーヴァルディ・カーライル
…ん。謎かけは得意じゃない
正攻法で仕掛けを解くのは、他の猟兵に任せよう
私は私なりのやり方で、先に続く道を探ってみる…。

事前に防具を改造して第六感を強化し、
目立たない存在感を見逃さない見切りの呪詛を付与する
床に残った血痕を暗視を頼りに探して【吸血鬼伝承】を応用発動

…自ら殺した亡骸さえも利用する、ね
ならばその亡骸に、先に進む道を教えてもらおう

自身の生命力を吸収させて血痕を蝙蝠に変化させる
蝙蝠に追跡の呪詛を施し、亡者の元まで案内させる
壁等があっても僅かな隙間があれば霧に変化して通過する

…少なくとも、これでどの方向に亡者がいるか分かる

…足音の反響が変だったけど、もしかして敵は地下にいる?


冴島・類
成る程、趣味が悪い

唯…どうも
嗜好だけで並べてるんじゃ
ない、気もするんです

【SPD】
自身でランプを持参

二手に分かれた通路に並んだ蝋人形の配置や数等書き留め
非対称な部分などないか
台座に動かせそうな箇所はないか
また、ホールのタイルの模様
汚れの位置もくまなく調べる

視線届かぬ高所はコード使用し鏡で写し見

怪しい空気の流れはないか
ランプ火の揺らめきも注視
足音の反響にも、不自然な跳ね返りがあれば床や壁に耳を充て
空間や通路を探し

万一封印が怪しまれる場合は
【封印を解く】も挑戦

人形達の苦悶の表情にも目を逸らさず
寧ろ視線の向きさえも注視

……悔いるも
弔うのも、後

先に進めなければ
更に、悲しいことを増やす
その方が、御免だ


霄・花雫
【シャルちゃんと】

…………苦しかったよね。怖かったよね。それでも、立ち上がろうとしたんだよね、キミたちは。
……ごめんね、間に合わなくて。でも、此処から先は、あたしたちが引き受ける。
どうか、安らかに眠ってね。

風の姫ねぇさまを喚んで、シャルちゃんの煙を姫ねぇさまに辿って貰って道を確かにするよ。
道を探して、姫ねぇさま。
どんなに隠れた道だって、密閉されていない限りは姫ねぇさまには通れるはず。
あと、煙を吸わないように、あたしたちの呼吸の確保もお願いしようね。

あたしも勘は利く方だから、探してみるよ。
姫ねぇさまやシャルちゃんだけにやらせるワケにいかないもん。【野生の勘、第六感、情報収集】


シャルロット・クリスティア
花雫(f00523)さんと。

……悪趣味ですね。
抵抗の意志を、このような形で踏みにじりますか……。
……えぇ、そうですね。皆の無念、私達の手で晴らしましょう。どうか、安らかに……。

……さて。どうやら隠し通路の類ですね。
完全に隙間なく隠し通せるとは思えませんが……。
手元の火種を使って、煙を出しましょう。
空気の流れを可視化して、隙間を探します。
花雫さん、補助のほう、お願いしますね。
『地形を利用』する技術は私も心得があるので、ある程度の見当はつくかと。……犠牲者たちの物陰とかも怪しそうですね。
必要ならば、トラッピングツールを用い『罠使い』『破壊工作』等で仕掛けを破壊して道を作ることも考えましょう。


ジャックジャレッド・ジャンセン
能く能く悪趣味なことだ
我が物顔で他者の領域を侵す厚顔は見るに耐えん
歪んだ性根ごと渫い浄めてやるとしよう

【WIZ】
建物や調度品を観察し適当な不満を囁き乍ら慎重に調査を
広間の紋様に何らかの術が施されていないか
血痕らしきものは確かに血痕でしかないのか
壁床の変色や異音箇所、燭台等に仕掛が無いか
蝋人形や台座に異物や移動の痕跡が無いか
シャンデリアの灯や影に違和感を覚えないか
兎角考え付く限りのことを試し解明に努める

――其れにしても、犠牲となった領民達は無念であろう
可能であれば形見のひとつも預かってやりたいところだが


*アドリブ、連携歓迎


静海・終
あぁ、随分と、随分と悪辣な趣味にございますねえ
強き者を求めるなら仲間同士で刺し合えばいいものを
弱い物から搾取する、ただの弱虫ではないですか
腹を空かせて餓えてしまえばいい
…悲劇は殺して、壊す

探索し出会った猟兵仲間がいれば情報を共有させてもらいましょう
さて、先に行くには
壁か、床か、はたまた上か…
目視でできる限り見て触れておかしな所がないかを探り
特に赤い跡がある場所を重点的に
何もなければ…蝋人形なども調べさせてもらいましょう
貴方は悲劇的だが…今はもう終わったこと
申し訳ありませんがじろじろ見させてもらいますよ


ギド・スプートニク
エンと同行
エンとの面識は浅い

そう言えばエン殿は運び屋だと聞いているが。戦えるのか?
それは頼もしいなと笑う

さて、血痕など辿るのが無難であろうか
戦いを求めるなどと言っておいて侵入を拒むとは、吸血鬼は偏屈者ばかりよな

狗じゃあるまいし、そこまで鼻は利かぬわ
と言いつつクンクンしてみる
うむ、無理だな

他の猟兵などの動きも見て、大体あたりを付けたところで

こんなもの、わざわざ向こうの流儀に付き合ってやる必要はあるまいよ
と怪しい壁を魔弾にて爆破

別に隠密作戦でもないのだろう?
ならば堂々と踏み入ってやればいいのだ
むしろ向こうから出迎えるのが礼儀であろう

気が合うだと?
莫迦を抜かすな、反吐が出る

*アドリブなど如何様にも


エン・ギフター
ギド(f00088)と部屋漁り

敵の強さ次第じゃねえかな、逃げ足は自信あんぞ
アンタが貧血で倒れでもしたら奥方んとこちゃんと運んでやるよ

疑うと、どこもかしこも怪しく見えんなァ
なーギド、新鮮な血臭辿ったりできねえの?
無理なのかよ、と大袈裟にがっかりするとこまでの軽口叩いて
血痕辿る姿を横目に俺は壁各所に耳付けて聞き耳立ててみるわ
ノックもすりゃ空洞部分聞き分けられ……っておいそこ!!

澄ませた耳に滅茶苦茶響く爆音
犯人の顔みりゃ涼しげに尤もらしい事言いやがる
頷かねえからな共感しても
この館の大将も血の気多そうだし
アンタとスゲー気が合いそうな

へえ、割とそういう感情出すのな
その内ゆっくりその辺の話聞きたいもんだ


ニコラス・エスクード
改めて、改めてだ。
救いの無い世界であると実感させてくれる。
ありありと、見せ付けてくれる。
悲哀を、嘆きを、苦悶を。

故に進まねばならぬ。
救えなかった事に変わりなく、
報復を果たす事もまた、変わりなく。
彼らの無念は全て連れて行く。
彼の領主にその全てを与えてやろう。

遺された血の跡か。
蝋人形達の何れかのものだろう。
そもそも彼らが蝋人形となり運ばれてきたのであれば、
その跡もまた残るのではなかろうか。
血すら拭い残す奴らだ。
何かの跡が残っているやもしれん。
掃除の応用にて痕跡を探るとしよう。

続く道のさえ掴めれば此方のものだ。
あとは怪力にてこじ開けるのも宜しかろう。


クレム・クラウベル
【SPD】
……中々の悪趣味で
届くとも思っていないが思わず悪態一つ
館の様相も起こったことも
この世界ではよくあるもの
しかし慣れども、気分が悪いのに変わりはない

強者を探す様な輩がすぐ辿り着ける場所には居まい
より館の奥へと通じそうな道を進む
開かない扉は鍵開けで解錠するか
鍵部分狙い銃弾を叩き込み物理的に破壊
不自然に道が途切れたなら
隠し扉等疑い、行き止まりの気になる箇所を調査
絵画の裏や調度品の下、中身
定番はこの辺りだろうか

見当たらない場合は少し失礼して蝋人形の周囲も確認
……事が終われば弔おう
今はまだ、祈るには早い
奪われ踏みにじられた嘆きは俺たちが必ず晴らす
その魂が憂いなく眠れる様に
だからもう暫く待っていろ


リーゼ・レイトフレーズ
ほうほう、アンティーク趣味があるのか
こっちの趣味は悪くないんだね
他の趣味は悪趣味極まりないようだけど

扉を開く仕掛け、又は隠し扉か
城の見取り図でもあれば
不自然に厚い壁や地図より狭い部屋に
隠し部屋を見つけられるかもしれない
そこに何かあるだろう

もしくは広間を調べよう
血痕や何かを引き摺る跡があれば
それを追えば扉がある場所に続いているかもしれない
もし扉が見つかればその周囲を隈なく調べる
ほら、一箇所凹む壁とか隠し扉の定番だし?
最悪開ける仕掛けが見つからなければ
STARRY SKYで実弾を扉に撃ち込んで壊してしまおう
対物ライフルは伊達じゃない

しかし不気味な城だね
頼むから幽霊とか出ないでくれよ

アドリブ連携歓迎


境・花世
逢いたいと願ってくれるなら
辿り着いてみせようか
静かに壁に触れ、目を瞑って歩き出す

研ぎ澄ませる第六感は
響く足音、遺された匂い、指先の感触を
鋭敏な第三の目にしてくれる
喪われたものを探すように、追うように、
息をひそめて感じたならば
風の流れの違いを見つけられるだろうか

自身が見つけた場合は周囲に声掛け
或いは誰かが見つけたならば
手を貸して、共に路を拓こう

重くて持ち上がらないなら、
衝撃波でべりんと躊躇いなく壊し
陰鬱な舞台には不似合いなほど
鮮麗に笑ってみせる

戻らないいのちを悔いても仕方ない
ただ、
亡霊に啜らせる血なんて
此の世にありやしないんだってこと
わたしたちが――教えてあげないと、ね

※アドリブ・絡み大歓迎



●第三の通路
 クレム・クラウベル(paidir・f03413)はいち早く広間の奥へと歩みを進めた。
 舞踏会すら開けそうな広々とした一室、シャンデリアが彩る天井は見上げるほど高い。しかしそこに在るものは、着飾った紳士淑女などではなく、苦悶に象られた蝋人形たちばかり。
「……中々の悪趣味で」
 もう幾人、そう口にしたことだろう。暴虐はこのダークセイヴァーに珍しいことではないけれど、その事実に慣れることはない。
 悪態は零れるままに、クレムは最奥の壁に触れる。見たところは確かに、玄関から続く二つの廊下の他に、この部屋から出る術はない。壁に飾られた絵画の一つを裏返してみる。精密な彫刻の額も絵画自体も、全てが疑わしく感じられた。
「ほうほう、アンティーク趣味があるのか。こっちの趣味は悪くないんだね」
 言外にそれ以外を揶揄しつつ、リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)は青年の手許を覗き込む。玄関の調度品から廊下の台座まで、城の見取り図でもあればとあれこれ探してはみたが、ついに発見には至らなかった。
「まあ外観からしても、この部屋に他に扉がないっていうのは妙だよね。玄関や廊下にも隠し通路はあるかもしれないけど、ここにないのも不自然だ」
 継ぎ目の見当たらない壁に、掌を押し当ててみる。一か所だけ凹む壁――なんて、アンティーク好きの領主がいかにも好みそうではないか。
 その壁に並び触れる手が、もう一つ。
「逢いたいと願ってくれるなら、辿り着いてみせようか」
 右眼に花を咲かせた娘は淡く微笑み、そのままもう一つの眼を閉じる。触れる指先だけに心を注ぎ、伝い歩く境・花世(*葬・f11024)の五感に、全てが語り掛けてくる。
 喪われたものを視る手立てはなかったけれど、不意に何か、ひやりとしたものが首筋に触れた気がして立ち止まった。
「……風?」
 見開く瞳に映るものはない。
 ――それは、どこから?

「……これすべてが、被害者」
 探索を開始する仲間たちの中。造りばかりは豪奢な広間を見渡して、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は声を失った。感情の上り難い瞳に、見て取れぬほどの憂いが微かに混じる。
(「強いものと戦いたい、それだけのために? そんなに戦いたいのなら……」)
「えぇ、仰らずともわかりますよ。強き者を求めるなら、仲間同士で刺し合えばいいものを」
 そう、過去より蘇りしヴァンパイア同士で。静海・終(剥れた鱗・f00289)の唇はへらりと緩むけれど、それだけに続く言葉は鋭く尖る。弱き者から搾取するた血吸いの弱虫など、
「――腹を空かせて餓えてしまえばいい」
 一転。笑みを消した血色の瞳が殺気を帯びた。声に籠もる低い熱に、仲間すらぞくりと背筋を凍らせる。
 悪戯に集められた罪なき人々から命を奪い、死すら辱める――そんな悲劇は、止めてみせる。殺して、壊す。
 心柔くあるものも熾火の如く燃え燻るものも、その一点では同じだった。
 泣きそうな眼差しを逸らすことはせず、霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)は亡骸たちを労う。
「…………苦しかったよね。怖かったよね」
 ここに彼らが在ることは、それでも立ち上がろうとした証だ。間に合わなくてごめんねと詫びる花雫の肩に、シャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)シャルロットはそっと身を寄せた。
「……抵抗の意志を、このような形で踏み躙りますか……悪趣味ですね」
「うん……でも、此処から先は、あたしたちが引き受ける。ね、シャルちゃん」
 ええ、と微かな笑みを浮かべ、シャルロットは祈りを捧げる共に倣い、目を閉じた。
「皆の無念、私達の手で晴らしましょう。どうか、安らかに……」

 廊下へ向かう跡が残っていた。
 騎士然とした鎧の出で立ちで恥じることもなく膝をつき、ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は拭い残された蝋の跡を捉えていた。領民たちの中にはここで殺された者もいたのだろう、蝋人形と化した者たちを引き摺っていった亡者たちの痕跡。
 面を上げれば並ぶ悲嘆の顔に、ああと零す声は低くなった。
「改めて、改めてだ。……救いのない世界であると実感させてくれる」
 これほどに死の悲哀を、嘆きを、苦悶を――無念を、見せ付けるものは他にない。進まねばならぬ、とニコラスは決意を固くする。領民たちの受けた全てを、彼の領主に返さなければならない。
「ここに並んでいるヒトたちは、勇者を呼ぶための――」
 纏うプリズムが暗い灯を跳ね返し、居並ぶ影に柔らかな色をちらちらと映した。亡骸のひとつの前へ進み出た海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は、まっすぐに見つめ返す。けれど、少年の心が死の淵の表情の向こうに透かし見るものは、その向こうに在る長命の存在だった。
「永く生きていても、強さとは、そういうもの……?」
 唇を結ぶ。難しい。分からない。電子の子たるびいどろには、分からないと線引くばかりのヒトではあるけれど。
 ――分かりたくない、という感情を、少年はまだ見出せずにいる。
「メーデー、こちらビードロ。至急、応援を要請します――」
 開いた瞳に映るのは、硝子と機械で構成された不思議な海月の兵士たち。ふわふわと辺りに散って高みからの捜索を開始すれば、きらきらと跳ねる七色に、重い空気も気持ちばかり緩んだようだ。
「……謎かけは得意じゃない。私は私なりのやり方で、道を探ってみる……」
 自分はただ、ヴァンパイアを狩りたいだけだ。
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は手を宙に掲げる。施した傷から立ち上った血の霧は蝙蝠のかたちをとった。
 自ら殺した亡骸すらも利用する。それならば、
「その亡骸に、先に進む道を教えてもらおう。……追跡して」
 使役される『亡者』たちの匂い、その痕跡を手繰り寄せる。
「ボクも道を探りましょう。我が血は力……無数の兵団よ、響きを奏でよ。今はただ、求める道を切り拓くために!」
 床に零れた赤い飛沫がざわり、一斉に震える。アウレリアの分身となった血人形たちは散開し、その身に自分たちの生む音の反響を受けていく。分身たちから集う感覚に鋭く意識を向けながら、思うのは道の先にある存在。
「……これ以上の暴虐は許さない」
 静かに呟く。戦いたいというのなら、この自分が相手を務めよう。
 その時がかの貴族の終焉だと、心に定めて。

「運び屋だと聞いているが。戦えるのか?」
 陰鬱な屋敷の有り様に、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)の横顔は色ひとつ変わりはしなかった。連れの青年、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)もまた、張り詰めた空気に似合わぬ気楽さで男に応える。
「敵の強さ次第じゃねえかな、逃げ足は自信あんぞ。アンタが貧血で倒れでもしたら、奥方んとこちゃんと運んでやるよ」
 頼もしいなと笑うは微か。床に血痕などないものか、淡々と検めるギドに、
「なー、新鮮な血臭辿ったりできねえの?」
「狗じゃあるまいし、そこまで鼻は利かぬわ。――……、うむ、無理だな」
 僅かに眉を顰めながらも確かめるだけは確かめる男に、無理なのかよとわざとらしい落胆を示し、エンは山羊の耳を壁に押し当てた。
 ――誰かいますかー?
 問いかけるノックの音に、鈍い響きが否を告げた。

「能く能く悪趣味なことだ」
 吐き捨てた言葉が床を転がっていく。
 命とはそも、個の領域だ。望まずして我が物顔の他者に侵され、奪われることなど、耐え難い苦痛であったに違いない。その想像は、潔癖にして自身の領域に触れられることを嫌うジャックジャレッド・ジャンセン(Mr. Moan・f12377)にとって、一際嫌悪を誘うものだった。
「見るに堪えん厚顔であろうな。だが……歪んだ性根は渫い浄めるに相応しい」
 道を拓くところから始めなければならないのは、どうにも腹立たしい。趣味の不満を三割増しで並べ立てながら、妖しくも冴えた紫の瞳は床の模様を捉える。
「さて。血痕らしきものとは、確かに血痕でしかないと?」
「――考えもしなかったな」
 仲間の言に、ニコラスは改めて黒鉄の兜の奥の眼差しを床に注ぐ。
 大理石に拭き伸ばされた褐色。確かに血を思わせる色味ではある。しかし、それはただ不安を煽るだけのモノではないか。
「お察しの通り、どうやら面白くもない作り物のようです」
 その偽りに何の意味のあるものか。つとなぞった指先が得るものは冷たい感触ばかりで、掠りもしない手がかりを終はふと鼻で嗤ってみせる。
 構いはしない。次々と触れる対象を変え行く指は、とうとうタイルの前に聳える蝋人形へと伸びた。真正面に立つ終の遠慮のない視線から、身を捩って逃れようとするその視線。
「貴方は悲劇的だが……今はもう終わったこと。申し訳ありませんがじろじろ見させてもらいますよ」
 不躾な態度の底をうねり流れる感情があった。――この悲劇に次はない。
「……さて、明らかに不審なこの床が何となるものでしょうねえ。先に行くには、壁か、床か、はたまた上か……」
「……足音の反響が変だったけど、地下に敵がいるってことは?」
「それも考えましたが、血人形たちの反響から考えるとなさそうですね」
 リーヴァルディの問いに、アウレリアはですが、と可能性を示す。
「エン様も仰っていましたが、通路があるとすれば、壁の方で間違いないと思います。範囲はうまく絞れませんが……この向こうに空間があるのは確かかと」
 壁に耳を押し当てたままひらひらと手を振るエン。リーヴァルディは蝙蝠たちを呼び寄せ、一滴の血に戻った彼らから感覚を得る。
「……蝙蝠たちも、そう感じてるみたいだ。亡者の痕跡は壁の近くに多く残ってる」
 訪れた者たちの痕跡を消す為に往来したということか。
「……見かけではわかりませんが、隠し通路の類なら、完全に隙間なく隠し通せるとは思えません。……少し試してみましょう」
 シャルロットが手にした灯りにこよりを近づける。じりじりと燻りながら生まれた煙がひとすじ、天井へ上っていく。煙を吸わないよう、花雫が喚び出した『風の姫ねぇさま』が並び立つふたりを包み込んだ。
 灰色の軌跡は地上近くでは揺らぐことなく、静かに高い天井を目指していく――が、
「! 揺れた……?」
 その途中、不意に強い波が生まれた。高さは館の二階ほどだが、風の通り道となりそうなものは見当たらない。
「……なるほど、上という訳ですか」
「あの高さまで、どうやって……?」
「何か他の仕掛けがあるんだ。きっと」
 見上げる仲間たちの傍ら、蝋人形の配置と数を書き留めたものと実物とを丹念に見比べて、冴島・類(公孫樹・f13398)はぽつりと口にする。
「あの蝋人形たち……どうも嗜好だけで並べてるんじゃない、気もするんです」
 廊下の蝋人形たちは、殆どが廊下の中央、通り過ぎる者たちを見下ろすように配置されていた。だが、この広間に飾られた人形たちの視線には規則性がない。正面を見るもの、斜めを見ているもの。背を向けているものとさまざまだ。
(「……? もしかして」)
 斜めの視線を図に書き加え、類は息を呑んだ。
 ――繋がっている。入口近くの一体の視線を辿れば、別の一体へ。その視線を辿れば、また別の一体へと。
 全部で五体。そうして最後の一体は、仲間が見出した高みへと目を向けている。
「でも、それだけじゃ……肝心の仕掛けは」
「共通項は無くもありませんよ。該当する蝋人形の前にはこのとおり、必ず――」
 ――タンッ!
 長い脚に踏みつけられたタイル。
 滲む赤色に、終はゆるり、目を細めた。

 最後のタイルを踏んだ瞬間、辺りの影が一斉に揺れた。顔を上げる猟兵たちの目に、天井へ吊り上げられていくシャンデリアが映る。
 そして、がらがらと鎖の音を響かせながら天井から降りてくるのは――高みへ道を繋ぐ階段だった。

 それは確かに、焦れるような時間ではあった。
 大仰な音でありながら下がる階段はやけにゆっくりと、気を持たせながら降りてくる。貴族様ってのは勿体つけるねえ、とエンが身体を伸ばした、そのとき。
「……っておいそこ!!」
 制止よりも早かった。空気を熱した焔の矢は、掴んだ外套の先に覗く白い指先からすでに解き放たれている。放つギドの青白い頬を照らす焔の魔弾は宙を駆け、そして――鎖に突き刺さり、爆ぜた。
 ――ダァン!
 濛々と上がる砂煙。支えを失い、落下、としか言いようのない形で地に下りた階段を見据えるギドは、何を動揺していると言いたげに涼しく知己を見返す。
「こんなもの、わざわざ向こうの流儀に付き合ってやる必要はあるまいよ。来いと言うなら向こうから出迎えるのが礼儀であろう」
 苦む男を仲間とともにぽかんと見遣る、エンは思う。
 共感はしなくもない。まぁ、する。するだろう。だけど、頷かねえからな、絶対に。
「……この館の大将も血の気多そうだし、アンタとスゲー気が合いそうな」
「気が合うだと? 莫迦を抜かすな、反吐が出る」
 ばさり、払う外套で忌々しげに砂埃を往なし、ギドは規則正しい音を立てて階段を上っていく。
 不意にふ、と幾つかの声が重なった。
「先を越されちゃった。私にも一発分くらい残しておいて欲しかったな。まあ、この先でいくらでも撃てるけど」
「続く道さえ掴めれば此方のものだ。あとはこじ開けるのも宜しかろう」
「……すげえな、あんたたち」
 リーゼ、ニコラス。次々と続く仲間の背に、エンは自身も連なりながら苦笑いを噛み殺す。
 少なからず猟兵たちの士気は上がったらしい。――血の気の多いのは、連れに限ったことでもなさそうだ。
「亡霊に啜らせる血なんてこの世にありやしないんだってこと、わたしたちが教えてあげないと、ね」
 艶やかに、けれど少年のように。花世は笑み、たん、と朗らかに階段を蹴った。
 戻らないいのちを軽んじる訳ではないけれど、これからのいのちを悔いることだけはないように。

「こんなことは望んでいなかっただろうね。仕掛けなんかに使われて……」
 命を返すことはできない。けれど、せめてこの館からは解放してやりたいと、残してゆく亡骸たちに類は願う。
 けれど道が拓けた今、死した者たちが願うことがあるとすれば。それは、かの領主を打ち倒すことだけだろう。
「……事が終われば弔おう。今はまだ、祈るには早い」
 独り言つクレムと思いを同じくしたのは、偶然ではない。耳に留めれば、この場の多くが頷いたことだろう。
「奪われ踏み躙られた嘆きは、俺たちが必ず晴らす」
「……そうだね。先に進まなければ、更に悲しいことを増やす。その方が、御免だ」
 二人はもう振り返らず、階段を駆け上った。

「皆の先に行ってください。ボクらを害する者があれば、知らせて」
 先行する血人形を見送ったアウレリアが、行きましょうと仲間たちを促す。小さな頷きで続いたびいどろは、不意に足を止めた。蝋人形たちの姿が見えなくなる前に。
「待っていて。……ここから、出られるように、するよ」
 囁いて駆け出した少年を見遣り、ジャックジャレッドももう一度広間を振り返る。犠牲となった領民たちの無念は計り知れない。この広間に戻ることがあれば、
「形見のひとつでも預かろう。……今は静かに待つがいい」
 穏やかな眠りには程遠くとも。恭しい一礼を残し、踵を返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ある者たちは玄関ホールから。
 またある者たちは、廊下の壁から。
 そしてまたある者たちは、広間に出現した吊り階段から。

 交わることなき三つの通路をそれぞれに行く猟兵たちの前途。さしたる距離を進まぬうちに開けたそれぞれの部屋は、無機質な黒い壁だけで構成されていた。
 そこへ――不意にぼう、と灯る熱。
 ひとつ、ふたつ。みっつ、よっつ。……たくさん。
 息を呑む。数が多い。湧き出でる篝火は、したり、したりと冷たい足音ばかりを重ね響かせ、猟兵たちの前に立ちはだかる。波打つ亡者たちの向こうに、ただひとつの扉がちらりと見えた。
 ある者は助けてと祈ったかもしれない。またある者は助けが来ぬよう祈ったかもしれない。そうして穏やかな暴虐に命を奪われ、果てたものたち。
 それでも、いや、だからこそ。
 傀儡と化した足を止めてやるものが、掲げる篝火を吹き消してやるものが、彼らには必要なのだ。
火狸・さつま
コノf03130と声を掛け合い連携

元、領民…
辛い目に遭わされて
更に…今も、そんな姿で、苦しめられとる
もっと、早く来れず
すまない。

…コノは、どんな時でも、変わらない、な
ぶれない、強さ
相方の様子に、ふにゃりと笑えば
一度、目を閉じ
深呼吸
ゆるりと開けた眼差しに宿るは
哀しみ湛えた…殺意

其の儘にはしておけん
から…
さぁ、おくろうか
闇の、ソコへ

【安息を】にて指定出来る全ての敵を【範囲攻撃】
敵からの攻撃は【見切り・オーラ防御】にて防ぎ
受けたダメージは【火炎耐性・激痛耐性】にて凌ぐ
UCと雷火にて【範囲攻撃】


てめぇら…誰を、狙っとる…
コノの援護は怠らない
危機あればかばう

窮地に陥り味方共々危ない場合【捨て身の一撃】


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

噂に違わず、ネ
悪趣味が前菜ならメインディッシュはさぞ美味いんでしょう
その無念、嘆き、恨み
全部預かって喰らわせてあげるヨ、残影卿とやらに

『高速詠唱』にて【月焔】を最大数に分散させばら撒き
『2回攻撃』で周囲の敵の数に収束させた焔を見舞う
次第に傷与えた敵に狙い定め『傷口をえぐる』ように
収束し威力増した焔を捻じ込むヨ

術使えど足は敵只中へ
反撃も『激痛耐性』『オーラ防御』で気にせぬ素振り
だってこんなモンじゃなかったんデショ
全部預かるって言ったじゃナイの

たぬちゃんの援護に頼もしいと笑い
ケドへーき、まだ手はあると焔を刃の様に扱って『生命力吸収』
まだ倒れる訳にゃいかないもの


マリス・ステラ
【WIZ】他の猟兵と協力して戦います

「主よ、憐れみたまえ」

篝火を灯す彼らに『祈り』『破魔』の力を宿す光を全身から放ちます
それは星の輝き。勇気ある者を励まし、震える者を『鼓舞』する煌めき

弓で『援護射撃』をして、負傷者には【生まれながらの光】
回復は重傷者に限定、疲労で倒れないよう努める
ただし緊急性が高い時は複数同時も実行

「私は星の導き手。闇の涯の輝きを視る者…」

たとえ絶望しかなくても『覚悟』をもって前を向く
攻撃は星の輝きによる『オーラ防御』と流星が疾るような『カウンター』
味方に攻撃が集中するなら『おびき寄せ』て分散を図る

犠牲者の魂の救済を『祈り』闇の奥底に進む

「剣に生き、剣に斃れるあなたのもとに」


勾坂・薺
篝火の火の粉が、まるで魂の燃え滓みたい。
あーあ、亡霊も戦いも苦手なんだけどなあ。
帰ったらホラー映画は当分ナシにしたいところ。
……なんて、無念の死を遂げた人たちが聞いたら
ちょっとは笑ってくれるかな。……いや怒られそう。

一撃必殺のユーベルコードとかは無いし
支援に徹しようかな。痛い攻撃は本職にお任せ。
「Hello,world!」で敵の動きを封じて
影を使っての攻撃予測で回避しようとする相手を
足止めしていこう。

わたしが影に当たったら意味ないから影にわたしは注意しておかないと。
影ばっかり注意してて熱いのが飛んできませんように。
味方との連携大事。

……世界からさようなら、と。あの世があるなら報われるといいね。



●その熱は命暖めず
「……今も、そんな姿で」
 死の憂き目で終わることすら叶わずに、死して尚。迫り来る亡者たちのフードの奥、暗く窪んだ虚ろには、領民たちの苦しむ顔が見えるようで――火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は指先に力を籠める。
「もっと、早く来れず……すまない」
 僅かに下向く獣耳に反し、青年の獣性は押し寄せる敵意を鋭く警戒する。とん、と触れた肩が微かに笑った感触に、強張った心がふにゃりと解けた。
「噂に違わず、ネ」
「……コノは、どんな時でも、変わらない、な」
 妖狐と悟らせるものは出で立ちになく、青く醒めた瞳だけが、狐めいた鋭さをコノハ・ライゼ(空々・f03130)の顔に浮かばせていた。数だけであれば極上の『狩場』に、生きた旨みを感じさせる獲物はない。
 前菜の前哨戦でこの趣向なら、メインディッシュはさぞかし美味であろう。皮肉に眼を細め、今は見えない月の色を爪先に宿す。
「行くヨ、たぬちゃん」
「うん。さぁ、おくろうか――闇の、ソコへ」
 ひとたび瞼の闇に沈んださつまの瞳が、鮮やかに青く燃える。
 このままにしてはおけない。贈れるものが哀しい殺意だけであったとしても――いや、だからこそ。
 終わりへ導くものは、裏腹の柔らかな熱のひかり。重苦しい空気を染め抜く優しげな炎が、届く限りの亡者たちの足を止める。身を捩りながら、銀の光となって消えていく彼らの後に残るのは――きらきらと空気を震わす浄化の光。
 頼もしいと笑みひとつ、ゆらゆらと揺らすコノハの指先に、白い焔は烈しく燃え上がる。
 疾く、速く。舌先に上った高速の呪に、捻じれながら分裂した狐火は、囲い迫る亡者たちを捉えては焼き崩す。未だ倒されぬ亡者たちの術により、燃え落ちる端から立ち上がってくる。そんな苦境にも、コノハはいっそ愉快げに、口の端を吊り上げた。
「あらま、根性あるじゃナイ。いいヨ、その痛みも受けてあげる」
「コノ……!」
「へーき、まだ手はあるからネ。援護よろしく」
 月白の焔を越え来る亡者の一撃を、余すところなくその身に『預かる』まで、倒れる訳にはいかないから。
 繰り出す拳には静かに光を増す狐火。遠くとも届くであろう一撃に甘えることなく、奪い取った魔術的動力でその身を保ちながら――白々と燃えるオーラで熱を和らげながら、コノハは敵の群れへと突き進んでいく。
「だってこんなモンじゃなかったんデショ」
 抗う術を持たず、耐える術を持たず。亡者たちが生者であった頃、ただ奪われる身に浴びた筈のそれは、きっと。――だから、
「その無念、嘆き、恨み、全部預かって喰らわせてあげるヨ、残影卿とやらに」
 ただ一欠片も零すことなく、領主のもとへ。
 篝火から分かたれる熱の雨に灼かれてさえ、笑う友。熱き雨の前に割り入ったさつまの眼は血走っていた。
「てめぇら……誰を、狙っとる……!」
 迷える命も、心も。その白い輝きに眩く塗り潰される。

「ああ、主よ、主よ……憐れみたまえ……!」
 身の内に燃える命の代わりを、掲げる熱に、眼前の生者に求めているのか。さつまの浄化の炎と、コノハの冷ややかな焔、巧みに連なるふたつの火に灼かれながらも、亡者たちは倒されては立ち上がり、また倒されて――それでもまだ手を伸ばす。
 命なき者たちの蠢く絶望の景色は、マリスの柔い心を強く震わせた。こんなことが、許されていい筈がない。
 けれど、震える思いに立ち竦む娘ではない。悲痛な祈りを捧げ、心からの救いを求めるそのこころが放つ輝きが、衆目に映るかたちで顕れる。
「私は星の導き手、闇の涯の輝きを視る者……どうぞ安らかに、あなた方の往く手にも光は兆すことでしょう」
 それを齎すのは自身だと、前を向く。さつまとコノハの元へ集う殺意が、煌々とした生の輝きに惹かれ、一体、二体とマリスの方へ向かってくる。
 それでいい――振り下ろされる篝火を弓先で弾き、空振って倒れ込む体に流星もかくやの一撃を打ち込んだ。
「ここで止まりはいたしません。剣に生き、そしてその剣に斃れるべきあなたのもとに参るまでは」
 必ず辿り着くから、どうか。紡ぎきれない祈りを乗せ、マリスは矢を放ち続ける。

 暗がりを照らす光との交差。頭上で烈しく衝突しては砕け散り、零れ落ちる赤や金の熱の粉。
 まるで魂の燃え滓みたい――と、薺は小さく息を落とした。
「あーあ、亡霊も戦いも苦手なんだけどなあ」
 当面はホラー映画はナシにしたいと嘯きつつ、琥珀色の眼差しはまっすぐに敵を映している。この命なき傀儡たちを打ち倒すだけの術は自分にないと断じ、ならばと支援に身を入れる。
「電子の魔術をご堪能あれ。土産にはなるんじゃないかな」
 電脳魔術入門、第23頁。ふわり呼吸を預けたシャボン玉は、戦場に似つかわしくない長閑さで天井を目指していく。きらきら、ちらちらと散る火の粉を映し、触れ、易々と弾ける。そうして霧のように舞い下りるこまかな飛沫のひとつひとつから、
 ――……ヴ……ン。
 空気を震わせ放たれる、青白い電子の光。発生したバグプログラムの帯は正確に敵だけを絡め取り、動きを封じていく。篝火の映す影がいかにこちらの動きを読もうとも、避ける術もないほどに。
(「わたしが影に当たる訳にはいかないし……、!」)
 篝火の作り出す影に足止めの手を知られぬよう――足許を警戒する傍らを、鮮やかな炎がごうと駆け抜けていく。
「ホラー映画なんて言ったから、不謹慎って怒ったかな」
 間一髪と一息零す間に、嫋やかな娘が薺の前に立った。
「薺様は私の後ろへ。援護、感謝いたします」
「ありがと」
 マリスの庇護下に身を置き、さらに連ねる儚いシャボン玉は、ふた色の炎に敵を巻き込んでいくさつまとコノハのもとへ。停止した敵の動きに気づいた二人がこちらを見る。
「油断しないで。効果は一時的だよ」
 告げてやれば返る二つの笑みは、生の輝きに満ちていた。それに比べて、と醒めた瞳で亡者たちを流し見る。いかに煌々と篝火を掲げようと、この人たちに温もりが宿ることはもう、ない。
「……世界からさようなら、と。あの世があるなら報われるといいね」
 呟きが届く間もなく、また一体が崩れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ニヒト・ステュクス
師匠(f12038)と

師匠だったらこの中に知った顔がいても案外余裕じゃない?
(薄らと笑みを浮かべ)
だって
何度も何度も
ボクを殺したから

亡者達の中へ特攻し
第六感を駆使して攻撃を見切りながら
できるだけ多く彼らをおびき寄せる
おいで、おいで
もう意識なんかないだろうけどー…
仲間へと影が伸びぬ様
篝火の矛先を一身に向けた所で
さぁどうぞ
我が身喰らわせ餌となる

…まぁ『それ』はオルタナティブ・ダブルで作った偽物で
絡繰意図の策略なんだけどね
(ひょこっと師匠の影から現れる)
(どうやら篝火からの炎は師匠を肉盾にして凌いだ様だ)

複製するのは黒塗りのナイフ
隙が生じた間にヤマアラシで攻撃に転ずる

師匠もどうぞ
偽物ごとやっちゃって


レイ・ハウンド
ニヒト(f07171)と
さぁて…仏さんにゃ悪いが
ぶった斬らせて貰うか
助けに来てくれた奴を
その骸で殺させちまわねぇ様にな

幸いこっちは他人な分、気が楽だ…
(弟子の言葉に顔を顰め)
ああ全くもってそうだよ!!
何度も何度もお前を殺したからな!

にしてもすげぇ数だ
2回攻撃で手数を増やしつつ
敵の影が届かぬ内は遠方から【狙撃】
極力起き上がって来ねぇ様足の関節を狙う
敵が接近して取り囲まれそうなら
黒鋼の掃射で範囲攻撃

篝火からの炎は断頭で盾受けして防御
…おい、ちゃっかりまた俺を盾にしてんじゃねぇ…!(と言いつつ弟子をかばう)

…本当お前、偽物を楽しそうに使い捨てさせるよな…
弟子が集めた亡者達を
偽物ごと纏めて【叩き斬る】


五曜・うらら
おっ、出てきましたね!
ばんぱいあさんとの戦いの前に肩慣らしするにはちょうどいいですっ!
迷える魂さんも自分の体が使われていたらお嫌でしょうし
ずばばばっ!と斬っていってしまいましょう!

さてさて、私は突っ込んでいって適当に斬りつつかく乱いたしますっ!
私も気を付けますが、皆さん巻き込まれないようにご注意を!
私のそばには敵は残らないはずですがっ!

読まれるなら読んでも意味のない動きをすればいいのです!
この変幻自在の太刀筋を本当に見切れますかっ!
そして私の領域から逃れるならば
他のいえーがーさん達に隙をさらす事になる…
相手が私一人ならばともかく、この状況では
逆にそちらの動きは読みやすくなっちゃいますよっ!



●昂るモノたち
「始まった?」
 廊下から連なる通路の壁に、びりびりと響き来る剣呑な音。囁くニヒトに頷いたレイが、愛想のない部屋の入り口で足を止める。
「ああ、そうらしいな。だがこっちも――」
 フードの奥に沈んだ眼が、一斉に猟兵たちを捉えたのが分かった。抱く思いは十人十色に違えながらも、息を合わせて展開する猟兵たち。
 その中で、レイの厳つい顔に笑みらしきものが浮かぶ。享楽に、ではない。纏うカソックの示す通りの――いっそ慈愛、とも言うべきもの。
「助けに来てくれた奴を殺したくねぇだろ? 悪いが、ぶった斬らせて貰うぜ」
 軽々と抱えた鋼の塊が火を噴いた。距離が詰まるのを待つ道理はない。揺れる炎がこちらの動向を影に映し出すより早く、レイは並み居る亡者たちの足許を一斉掃射で砕いていく。
「にしてもすげぇ数だ。幸いこっちは他人な分、気が楽だがな……」
「そう?」
 ――師匠だったらこの中に知った顔がいても余裕じゃない?
 くすりと背後から響いた笑みに眉を顰めれば、少女はさらに愉しげに告げた。
「だって、何度も何度もボクを殺したから」
 くすんだ金色の髪が、影の群れの中に飛び込んでいく。研ぎ澄ます感覚に掛かる敵の動きを獣のように躱しながら、ニヒトは部屋の中央へ。降る炎弾に飛び退き、焦がれる伸びる黒い手をすり抜け、
「おいで、おいで。もう意識なんかないだろうけど――……」
 そこに感情などなくとも、一息に部屋を突き抜けんとする勢いを見せるものを、番人たる亡者たちは逃しはしない。猟兵たちに向かう敵意の流れが滞り、見えざる視線を充分に集めたそこで、巻いたネジが切れたかのように唐突に止まる足に、
 ――……!
 声も音もない咆哮を轟かせ、炎弾が一斉に降り注ぐ。赤々と燃え上がる焔に包まれた華奢な少女は、にやりと笑った。
『……まぁ、偽物なんだけどね』
 敵の只中とレイの背後に声が重なる。死角を駆け襲い掛かる黒刃の嵐は、敵が反転するよりも早い。念動力に意識を傾ける少女の腕を、師の手がぐいっと乱雑に引き寄せる。
「熱ぃなこの野郎! ちゃっかりまた俺を盾にしてんじゃねぇ……!」
 篝火の炎弾を大剣『断頭』で受けた師の大音声に、ニヒトは一瞬目を丸くして、また薄らと笑う。今のは勝手に庇ってくれただけ――まあ、そうでなくとも盾にする心算はあったが、黙っておく。
「そんなことよりほら、早く。偽物ごとやっちゃって」
 腕引く弟子に舌打ちを一つ、レイは鉄塊の如き重厚な剣を振り上げる。
 自分の映し鏡を嬉々として殺させておいて、あんな軽口を叩きやがる。ったく、なんて弟子だ。
「――ああ、全くもってそうだよ! 俺はこうして、何度も何度もお前を殺したからな!!」
 ひっそりと微笑む少女の前で、亡者の頭が叩き飛ばされた。

「ええ、そうでなくてはっ! まだまだ肩慣らしには足りませんっ!」
 躍る刃のもとに斬り伏せること数体、うららは翻す太刀で朗らかに挑戦する。
 領民たちの命も魂も、既に亡者と化したあの体からは離れたもの。だとしても、こんな使われ方は本意ではなかっただろう。
 怖いもの知らずに飛び込んでいく少女の背に、ひとたびは倒れた亡者がゆらりと手を伸ばす。それを躊躇いも迷いもなく、無慈悲なほどにずばりと斬り落とし、さあご注意をと声を張る。
「巻き込まれませんように! 私のそばには敵は残らないはずですがっ!」
 降る炎の直撃に顔を歪めることも、身を焦がす熱に声が弱ることもない。振舞いはまさにその技の如く――天衣無縫。
 宣告し、ぐるりと太刀で示したその範囲に、突如として浮かび上がった刃の群れが躍り出す。
 操る手はない。けれど全てが、視えないうららが握っているかのような手練れの剣閃を繰り出してみせる。
「……おや? お強い方もいらっしゃるようですねっ!」
 生前戦いの心得があったものか、或いは運かは分からない。火影に次手を読み、剣戟を躱した数体の亡者たちを前に、うららは翡翠の瞳をきらきらと輝かせた。
「この変幻自在の太刀筋を見切るとは、見上げたものです! でも、次の幸運はあり得ませんよっ!」
 思考を無に、頭を空に。読まれても意味のない動きとは――? 通じない相手に出逢うほど、ただ朗らかに強さを求める少女はどうしようもなく昂揚してしまう。
 新たな一閃を繰り出す心はすでに、刃たちと共に躍っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

黒江・イサカ
やあ、やっと僕の出番って感じかな
可哀想にね、死んだ後にも嫌いなやつに使われるなんて心底虫唾が走ることだろう
せめてそれからは救ってあげよう
大丈夫、…僕は、君達が望むところへ連れていってあげられる

僕の役目は「全員殺してやる」ことさ
此処を突破して扉を狙うひともいるかな?
それはそれで構わないけど、同じ考えのひとがいるなら協力して動きたいね

死っていうのは、生きてるものだって、
ましてや死んだものだってちょっとは望んでいるものなんだ
それを擽ってやるだけさ…【誘惑】なんて言われちゃうけど
それぞれ篝火を持っているなら余計にやりやすい
そっと掻い潜って、急所を一突き
僕ってば非力だから、そういうやり方が得意なんだよね



 ――死んだ後にも嫌いなやつに使われるなんて、さぞ。
 淡々と思考を紡ぎながら、イサカは静かな熱の籠もる声で亡者たちを惹き寄せる。
「心底虫唾が走ることだろう。せめてそれからは救ってあげよう」
 飛び交う炎弾が止まる訳ではない。倒れてはまた立ち上がる、不愉快な繰り返しが止む訳でもない。
 けれどふらり、ふらりと。イサカの低い熱に、誘いに引き込まれ、振り上げる篝火を止める者がいる。まるで心持つもののように、死したからだに色濃く意志を残しているかのように。――そんな筈もないのだけれど。
「大丈夫、……僕は、君達が望むところへ連れていってあげられる」
 甘言を盾にふわり、踏み込んだ懐の内。虚ろな顔を微笑みすら浮かべて見上げ、心臓に突き立てるのは食い意地の張ったダガー。
 ひとり、と静かに胸に刻んで、黒い瞳はすぐに次の『救うべき者』を探す。ああ、ほら、またひとり。容赦なく襲い来る炎の影に、こちらを見ているものがある。
 この部屋に蠢く亡者たちを誰一人零すことなく、『殺してやる』こと。それが、イサカが自らに課した役目。それを厭わぬ自分には、まさにうってつけの出番だと頷いて、甘く、擽る。
「おいで。……正しく死にたいんだろう?」
 死んだ命。けれど、死にきれていない体。使われるばかりの虚ろの底に、少しばかり、そんな望みが沈んでいるのなら。
 距離を詰めた途端に突き放しにくる炎の一撃。避けることなく受け止めて、イサカは笑った。生きているものだって、死を羨むことがある。
「優しく殺してあげる。僕ってば非力だから、そういうやり方が得意なんだよね――」
 拒む腕をそっと潜り、差し込む刃は深々と。
 ふたり、と声が綻んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

都槻・綾
揺らぐ篝火は嘗て絶えた命の灯りか
骸の海にさえ
帰りたくとも帰れずに
眠りたくとも眠れずに
彷徨える身として
遊興の鳥籠へ閉じ込められている魂達

綿津見への帰幽奉告は
誰の耳にも届かぬ密やかな囁きで
然れど
想いに沈まず
瞑目も胸の裡に留め

急襲、死角に備えて研ぎ澄ます第六感
見切りと残像で回避
自他オーラ防御

――海原へ翔ける為の翼を差し上げましょう

翳す符で空に描く五芒星
先制攻撃、高速詠唱、二回攻撃、範囲攻撃を駆使し
七縛符で捕縛、皆の援護
安らかなる永眠へと導く祈りを籠めた鳥葬で亡者を一掃

鋭き者を求めているという残影卿が
眇眇たるやと冷めぬよう
そして
人形とされた領民達の尊厳を踏み躙らぬよう
極力長引かせず早期決着を目指したい



 ――命の翼を切り落とされ、羽戦くことすら許されずに愉しみに飼われる骸たち。この惨憺たる光景は、かの領主の遊興の鳥籠。
 心を得た身に立つ細波に沈むことなく、けれど密やかに耳を傾けて、綾は祈りを胸に置く。瞑目も、心の内に留めた。嘗てはモノたる彼の身には難いことではない。
 そうして、遠き主に倣い、翳す符で描くは五芒星。死なずの苦悩に藻掻く炎なら受けもしようが、それがかの領主の思惑であれば易々と受ける理由もない。それより速くと放つ符は、二体の炎弾を次々と封じ込める。
 力ある敵に、その封印も長くは保つまいと知っている。だが、解かれるのを悠長に待つつもりも無論、ない。そして何より、共にこの戦場に在る仲間たちが、綾の生み出した機を逃す筈もなかった。
 舞い躍る刀や貪欲なナイフが削ぎ取っていく敵の動力に、宙翔けるものの羽戦きが、あるべき死を誘い込む。
「死を濯ぐ禊の海原へ、翔ける為の翼を差し上げましょう。航り逝く路を標さむ――」
 纏う衣から抜け出たように、紺青の翼が狭い空を翔ける。一閃は優美ながらも強かに、望まぬ傀儡を終わらせた。だが、まだ終わりはしない。
 いまだ現世に彷徨う亡者たちへ五芒星を手向けながら、綾は静かに誓いを囁いた。
 ――かの領主が取るに足りぬと冷める前に、必ずや。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコラス・エスクード
我が身こそ正しく盾なれば、
肉薄し打ち当たるが戦場での我が居場所。
それを違えるは名折れとなろう。
我が身たる盾を構え、同胞たる鎧と共に、
捨て身の侭に踏み込み進む。

生命の宿らぬ火などものともせず、
薄影に隠れ潜む者共に臆しもせず、
ただ救えなかった者達の元へと、
我が身全てで受け止めんとばかりに前へ。

流れし紛いの血は刃へと纏わせる。
この亡骸達を更に殺す為の刃へと。
この亡骸達を眠らせる為の刃へと。
彼らの嘆きを、痛みを喰らい、
彼の者へと返す為の刃へと。

我が身に負いし罪も新たに一つ。
果たすべき報復も、新たに一つ。
ならば、必ずの報復を誓って。

ブラッド・ガイストにて刃を振るう。
この幽き者たちを喰らう為に。



●ただ、還す為
 華やかな戦音が開戦を告げて聞かせた頃。
 広間より階段を駆け上がり、道を拓いた一行の前へも、亡者たちは公平に押し寄せていた。
 数々の戦を見、その身に受けてきたモノとして。ヤドリガミとして魂を得る以前の在り方、質そのままに、ニコラスは迷うことなく前線へ疾駆する。
「我が身こそ正しく盾なれば、肉薄し打ち当たるが戦場での我が居場所」
 盾は体、鎧は同胞。だから降り注ぐ攻撃の中に身を投じることは、彼にとっては『捨て身』ではない。何よりも自身の血を感じさせる、自然な在り方でしかない。
「救えなかった者達よ。その嘆き、痛み――我が身全てで受け止めん」
 優しくも果敢に踏み込む鎧に、篝火が妖しく伸ばした亡者たちの影が取り付いてゆく。首を飛ばすに長ける無骨な刃の一閃が空を切り、目の前に灼熱が迫った。躱す暇なく、炎弾が続けざまに襲い掛かる。
「ニコラス……!」
 案ずる仲間の声と、浅からぬ傷。それでも盾なる男は、声を荒げることも膝を付くこともない。
「大事ない。生命の宿らぬ火も、薄影に隠れ潜む者も、臆するに足らず」
 黒鎧から溢れる命の雫をぐいと刃で拭い取れば、『首落とし』に眠る力が脈を打つ。重装をものともしない機敏さで体を落とすと、亡者の懐から首へ、一線に刃を差し入れた。影の予測すら振り切って。
 傀儡と化したとはいえ、彼らは無辜の命であったもの。その首を落とし死に還すことさえ、ニコラスは罪と断じてその身に刻む。それを成させた領主への、果たすべき報復とともに。
「――必ず、彼の者へ返さん」
 強い鉄のにおいが滲み出る。踏みしめる両の足を、切なる誓いが支えていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
貫け、七色の光剣
篝火を持つその手をめがけて【今は届かぬ希望の光】を放つ
敵の攻撃は篝火が要
なら、その数を少しでも減らす

遠距離からなら影に触れることはないでしょう
炎が飛んできたなら光剣で撃ち落としましょう

この亡者たちもヴァンパイアの被害者たち……
なのでしょうね
ボクが、ボクたちがアナタたちをその呪縛から解放します
この光が今は届かないものであっても
この世界の希望となりますように
空に輝く七色の光となれ

ボクは復讐者
それでも希望を願う
歪んだ復讐者
敵は滅ぼす。それがやがて世界の希望になるのなら……

アドリブ歓迎



 攻撃の一手を封じに来る火影に触れぬよう、アウレリアは注意深く距離を取った。それを可能にしているのは連携、押し寄せる敵を抑えに前に出る仲間たちあってこそ。
 群れなす亡者たちもヴァンパイアの被害者たち。誰とも知れぬものから故郷を奪われた過去を持つ娘には、一方的に奪われる痛みはまるで自身のことのように近しいものだ。
 耐えた時間が表情を映さぬ仮面を被せても、優しい心は封じられることはなく、今もまだ人々の痛みに共鳴して震えている。
「ボクが、ボクたちがアナタたちをその呪縛から解放します。貫け――七色の光剣」
 閉塞した部屋に目覚めを齎す、天空の彩。切っ先が選び示した亡者の懐を、澄み渡る七色の光が刃のように撃ち抜いていく。
 復讐を願う心の底で、密やかに希望を願ってもいる自分。それが歪なことだとしても――それでも。
「敵は滅ぼす。それがやがて、世界の希望になるのなら……」
 眼前の彼ら、既に命を失った者たちの、最期の希望になるのなら。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャックジャレッド・ジャンセン
真に救うことは最早叶わんが
憐れみ悼み弔ってやろう
せめて安らかに眠るが良い

頭数は面倒なばかりだが、見送ると決めたのだから文句は程々にしておいてやる
亡者となり傀儡と成り果てたとて個性は有ろう
無用の傷を負わぬ為、攻撃の前動作や技の選定に癖が有るならば努めて見極める
他の猟兵が標的とされる兆候が見える場合は注意喚起を念の為

煉獄の業火に敵わぬ篝火など怖るものでは無い
古竜を戴く杖の打擲を以て其方等の怨恨を引き受けよう
無念は私達が雪いでやる
ジャッジメント・クルセイドの光を導に冥途を辿れ
何れ未練の解ける時の巡りを祈っている
私の紋章たる黒百合を手向けに


*アドリブ、連携歓迎


海月・びいどろ
このくらやみを照らす篝火には、ならなかったんだね
その灯りに、この身が光を返すなら
ボクがキミたちを呼び寄せてみる
…こっちだよ、おいで

迷彩をまとわせた海月の機械兵士たちを喚び出しておいて
後ろから、物陰から、こっそりと囲むよ
たくさんには、たくさんで、お相手するね
海月たちには一撃でも必殺だから
フェイントで躱して、追い詰めてもらおう
海月の毒でマヒさせたら、動きも鈍くなるかな

大きな攻撃は得意ではないけれど
この、にびいろのナイフを、しっかりと握って
苦しい時間が長くならないよう、この一振りで

ろうそくの火を、そっと、吹き消そう
キミたちが、ゆっくりと眠れるように



「頭数は面倒なばかりだが、見送ると決めたのだから――文句は程々にしておいてやる」
 そもそもが眼前の彼らの非ではあり得ないのだ。そう自らに言い聞かせれば、苛立ちも忌々しさも潮のように退いていく。
 同じ襤褸を纏い、同じように影に沈む、分身のような敵の姿。薄暗い中、揺れる光もあいまってますます同じものとしか映り難いそれらに、ジャックジャレッドの透徹した眼差しが『個』を見出す。
 炎弾を多用するもの、ひたすらに前へ突き進んでは倒れ、また術により立ち上がらされているもの。――そして後方で影を用い、軍団の維持に注力するもの。
 一掃するならば、未だ倒れておらぬ者らの術をこそ封じるべきか。
 口にしたそれを体現すべく、機敏に敵のもとへ。かつ、とひときわ高く啼いた杖を振り翳し、篝火を叩き落とす。
「其方等の無念は私達が雪いでやる。これより降るは導たる天よりの光。……見失わぬよう、確と掴んで冥府を辿れ」
 未練も怨恨も容易く手放せるものではないだろう。だが、その長い道往きの果てに、いつか全てを解く日が来る。聖職者らしい言の葉を手向けに、閃光を降ろす。
 触れる杖の戴く古竜が怨嗟を喰らい、亡者たちは聖なる光の中に打ち崩されていく。くすんだ影だけが残る空間に、男の纏う黒百合の紋が手向けのように揺れていた。

「このくらやみを照らす篝火には、ならなかったんだね」
 色ばかりは暖かなたくさんの炎は、救いすら焼き焦がす業火で。びいどろは伏せた瞳を持ち上げて、まっすぐにその熱を映し出す。
「……こっちだよ、おいで」
 薄闇の中に浮かび上がる少年の姿。纏うプリズムと命の気配に引き寄せられた亡者たちの背後に、唐突に数多の気配が浮き上がる。――それは、迷彩を纏った海月の機械兵士たち。
「たくさんには、たくさんで、お相手するね」
 迷彩を解かれた海月たちの触手が伸びる。振り払う炎の一弾で、他愛なく弾け散ってしまうちいさな命ではあるけれど――ふわふわと見極めにくい動きで空中を泳ぎながら、巧みに炎を躱し、亡者たちの手足を麻痺毒で封じていく。
 戒めが解かれる前に。鈍く輝くナイフを小さな手に握り締め、少年は迷うことなく、無防備になった懐へ飛び込んでいく。
 殺された後もまだ、こうして苦しみ続けた彼らだから。二度目の死の苦しみが、長く続かないように――ひといきに。
「おやすみなさい。……ゆっくりと、眠ってね」
 貫いたそばから崩れ落ちていく感触を、その時の『こころ』の動きを、びいどろはまた記憶する。ふうっと送ったそよ風の吐息は、砕け散りながら名残を惜しむ篝火のかけらを一つ、静かに吹き消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
亡骸まで弄び、高みの見物
選別のつもりとでも?
奥に見える扉真っ直ぐ見据え、嘆息
随分と…薄い強さだとは、言葉にせず

すぐ、瓜江を手繰り
目の前の篝火掲げる者達に集中

数が多いので
序盤は味方の攻撃重視の方が動きやすく、集中できるよう
彼らの攻撃、篝火を振るう挙動を注視し「見切り」
「フェイント」交えてた手繰る瓜江と共に引きつける

炎なら…慣れてる
さあさ、こっちへおいで

味方への攻撃の斜線には
【翅果の舞】にて軽減しながら庇い、いなせるよう意識

反撃時は、破魔の力を刀に込め
なぎ払いで体勢くずし
祈り込めて、無念や苦しむ炎ごと断ち切ろうと

もうこの館に縛られなくて良い
望む灯の元へ、魂だけでも帰れるように

アドリブ、連携歓迎


クレム・クラウベル
篝火と亡者の群れ
……これも見慣れたものになってきたのが不本意だな
摘み取った命まで己たち過去の残骸と同じものへと引摺り落とす
気に食わないやり口だ
送ろう、正しき眠りの元へ
死者は死者へ還る時だ

亡者を囲う様に広げるは祈りの火
命亡き者を送る葬送の火に掲げよう
周囲や味方には延焼せぬよう操作
敵の退路塞ぐ、味方へ向かう攻撃を遮断したり
援護射撃やスナイパーで銃撃による支援も意識
地形の利用で有利な立ち位置から狙い撃とう

無念も憎しみも怨嗟も、全て此処に置いていけば良い
眠りには必要のないものだ
嘆きの連鎖を断ち切るためには進まねばならない
手荒な送り方になるのは勘弁願おう
……もう何人の眠りも妨げられぬよう、後で祈ってやる



「祈りよ灯れ、祈りよ照らせ――灯火よ消えるなかれ」
 心を補うかたちばかりの祈りの句は、篝火の暗い熱を帯びる戦場を冷ややかに打った。駆け抜ける白い清浄の炎が、亡者の一体を呑み込んで灰燼へ、正しき眠りへと返していく。
 悪戯に摘み取られ、骸の海に棄てられた者と同じものへと貶められた虚ろの姿。不本意にも見慣れてしまった事実、そして気に食わないやり口に、クレムは目を細めた。静かに燻る思いは今はまだ、紡ぐ焔を煽るのみ。
「手荒な送り方になるのは勘弁願おう。その掬いのない篝火よりは幾分マシな筈だ」
 逃れる気もなく向かい来る敵を、奔らせる白き送り火に捉えていく。浄化されるかたわら、吐き出されてくる篝火の炎弾は、まるで呪いを吐き散らすかのようだ。痛ましさを目の当たりに、けれど仲間に代わって苛烈な一撃を受け止めるクレムの瞳は、しんと緑に澄んだままで在る。
「無念も憎しみも怨嗟も、全て此処に置いていけば良い。眠りには必要のないものだ」
 全てが終われば、穏やかな祈りの句も手向けよう。その為に今、祈りを要する者を斃さねばならない皮肉に、は、と小さく息を零す。
 嘆きの鎖を紡ぎ続ける者がある限り、終わらない。ならばこそ、進まなければならないのだ。――屍も皮肉も越えて、その先へ。

「……行こう、瓜江」
 混じりけのない濡羽の髪は、死の気配に濁った部屋の中で、いっそ澄んだ存在感を放っていた。
 赤い糸で繋がれた絡繰人形は、類の意のままに躍る半身。確実に仕留めにかかる仲間の一撃が読み取られぬよう、伸びる影を遮り立てば、標的はすぐに類へと切り替わる。けれど亡者の袖を引き、篝火を掲げる腕を阻む瓜江が易々とはそれをさせない。
「……さあさ、こっちへおいで」
 炎なら慣れている、と呟く口には、焼け落ちた縁を思う哀しみも滲みはしない。――滲ませない、今は。
 纏う秋の彩りを、仲間を狙う炎が熱で染める。すかさず懐刀を抜き、空を斬れば、風は翼果の刃と化して篝火を切り刻みにかかった。瓜江と共に受け止めた灼熱は、ぶれるように身に重なる神霊体によって僅かに和らいだものとなる。
 そして、刀の本体へ籠めるのは破魔の力。風が掬った足許に亡者の影が揺らげば、地に縫い付けるように切っ先を振り下ろす。
 彼らを縛り付ける忌まわしい縁を断ち切る為に。望む灯りのもとへ、魂だけでも帰れるようにと。

 切り拓かれていく亡者の波、その彼方には沈黙する扉がある。敵影が減り、先刻よりはっきりと見える輪郭を、類は警戒を緩めぬまま苦く見つめた。
 弱き者が、無謀を知りながら挑まざるを得ない。そんな状況を自ら作り出しておいて、弱き者には飽いたとこうして篩に掛けるような真似をする。
「選別のつもりとでも言うのなら、随分と……」
 薄い強さだと、胸の裡に呟き落とす。
 伸ばす手はあと僅か。振う懐刀に、必ず至ると誓いを籠めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
やあ、お目覚めの気分は……よろしくないかな
それともよろしくないのは、館の主の、趣味かしら

彷徨い続けてかわいそに
だから僕が、終わりをあげる
手伸べるように別れるように
ひとつも触れられないように
瞬き一つ逸らさずに赫辜でひとつふたつみっつと、裂いて
一緒に欠けようとやけようと、こわくはないよ
そうなぁ、ご一緒の方まで巻き込んではいけないけども
数には数と、即席でも息を合わせて、いきましょな
沢山、いらっしゃるからきちんと周りはみてような
不意打ちされては、困るもの
お傍によるなら青い火を、銀の刃と、振りぬいて

届かなかったその刃を
きっと、届けてさしあげましょう
その剣を、引き取りましょう
だから、今度は、迷わずおかえり


アルジャンテ・レラ
救う手段は、もはや。
彼等とて当然本位ではないでしょう。生きていたかったのでしょう。
恐ろしさは拭えそうもありませんが
これ以上目を背けるわけにはいきませんね……。

どうやら篝火の影には触れない方が良さそうです。
注意を払いますが、触れてしまったのなら致し方ありません。
攻撃を回避されぬよう他猟兵へ注意が向いている隙を見て矢を射ねば。
影に触れず立ち回れたなら
素早く千里眼射ちで一体でも多く射抜いていきましょう。
援護射撃で皆さんの力添えもしていきます。

……あなた達は何を想い、最期を迎えたのでしょうか。
他の結末があればどれほど良かったか。
お助けできず、すみません。
せめて安らかに眠ってください。



●優しい場所へ
 玄関より拓けた通路のその先で。猟兵たちの善戦が、確実に亡者たちの数を減らしていた。
 命を求める手が止まり、暗く照らす篝火がその数を減らし、照度の下がった部屋の彼方に、影に沈んだ扉がより近く見える。灰と化した者もあるが、アルジャンテの足許には依然として亡骸が転がっている。
 救う手段がないことは分かっていた。それでも――たとえ叶わないとしても、少年の優しさはひたすらに救済を望んで心を尽くした、それだけのこと。
 当然ながら、望まれた、受け入れられた死ではないだろう。さぞや生きていたかったことだろう。この人たちの物語は、こんな形で終わる筈ではなかった。
 惨憺たる光景は簡単に拭い去るには足りず、けれど膝をついて亡骸と向き合ったアルジャンテの瞳には、鮮やかな色が燃えていた。
「これ以上、目を背けるわけにはいきませんね……」
 戦場を駆け巡る仲間たちの頼もしさに背を押され、弓を引く。数を減らせど、まだ個体数は敵の方が上だ。十秒の集中、その十秒のなんと長く感じられることだろう。
「沢山、いらっしゃるからきちんと周りはみてような。数には数と、息を合わせて――」
 不意打ちされては困るもの。年若き仲間の前に夜の裾を引き立ったイアの微笑みの向こう、赤く冱てる星の欠片が降り落ちる。
「――、はい……!」
 迫り来る数体が怯んだ隙に、今よと笑う声に押されて放つ。懐に突き立った矢羽が命を終わらせるのを、自身が射抜かれたような痛みを抱いてアルジャンテは見つめていた。
 最期にはどんな想いがあったのだろう。他の結末があれば、どれほど良かったことだろう。もしもを手にすることは叶わない。だから、せめて、
「安らかに眠ってください」
 次の十秒に祈りを込めて、解き放つ。強い心を映した一射に口の端を薄く持ち上げ、イアは捧げ持つ銀の短剣に空の塵を映し出した。
「彷徨い続けてかわいそに。だから僕が、終わりをあげる」
 天井に遮られた天をなぞる切っ先には箒星の尾。そこから流れ、溢れた煌めきの薄片が、フードの奥に沈んだ影へと飛び込んでいく。
「……ふふ。一緒に欠けようとやけようと、こわくはないよ」
 流星雨の中に身を置けば、亡者の影が目の前で輝きに引き裂かれていく。慈愛を浮かべて手を伸べるのは、終わりを受け取るため。
「届かなかったその刃を、きっと、届けてさしあげましょう。――その剣を、引き取りましょう」
 悶え伸ばされる手は、触れることすらなく崩れ落ちるけれど。愛するもののため、震える心を勇み立たせ牙を剥かせた、温かく剣呑な想い。そればかりはとそっと受け取れば、
「――だから、今度は、迷わずおかえり」
 それを待っていたかのように、影はさらりと崩れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨糸・咲
灯る明かりと、それに照らされた黒い影たちは――

彼等も、犠牲者…なのでしょうか?

不気味とも見えるけれど、
物言わぬ姿にはどこか悲痛も感じられて

もしもこれが、彼等の望まない姿なのなら

私たちが、送りましょう
…もっとずっと、優しい場所へ

不意を突かれないよう、第六感と聞き耳で動きの把握に努め
彼等が身を支えるように持っている杖を狙ってなぎ払い
杖の一振りで喚ぶ、雨滴の狂風
燃える篝火が消えてくれればと

暗闇を照らすはずの灯りなのに
貴方たちの持っているそれは、
ちっともあたたかくないのですもの

明かりは、光は、もっと――

散りゆく彼等へ贈る、光の雨
どうか、明るい方へ
迷わず昇っていって下さいね

※アドリブ・絡み歓迎です



「彼等も、犠牲者……なのですね」
 影と馴染んだ在りよう、ローブの奥の表情すらもわからない。出で立ちは薄気味悪くも、咲は胡桃色のまなざしを逸らしはしない。
 あの蝋人形たちが攫われた者を助けに来た者だというのなら、亡者たちは身勝手に攫われ殺された者なのだろう。握り固める冷えた指先に、熱が戻る。これが彼らの望む姿である筈がない。
「私たちが、送りましょう。……もっとずっと、優しい場所へ」
 抗う篝火の一閃が炎を呼ぶ。迫る熱に怯えるなと励ますように、柔くひんやりとした毛皮が足許を撫でる。頷けば、白き狐のかたちをとった氷精は意を得たり、と掌に飛び込んだ。白銀の杖を振り抜けば、荒れ狂う雨雫が戦場を覆う。
 ――どうかあの篝火を消して。
 松明に燻り続ける支配のしるしを見据え、首を振る。まだ足りない。けれど雨に混じり零れ来る仲間の星屑が、穿つ矢が、二色の炎が、確実に篝火の数を減らしていく。
 あかりは暗闇を照らすもの。掲げるその手を暖めるもの。彼らの往く手を染めるひかりは、そんなものであってほしいから。
 願いを踏み躙るかのように迫る炎に、声が飛ぶ。けれど、掠める熱に迷う理由などどこにもない。
 目の前でほつれてゆく影に終わりを知り、最期に招くのは、柔らかに透き通る光のスコール。
 本当の温もりを知って逝けただろうか、そうであってほしいと目を伏せる。――こんな暗闇はもう誰にも見せはしないから、
「どうか、明るい方へ。……迷わず昇っていって下さいね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
彼等は勇者の成れの果て
絶望の末に果て、未だ吸血鬼に囚われている人達
…助けに来るのが遅れて悪かった
――今度こそ、終らせるから

眼鏡を外し、棺型の拷問具を手に
手数が多い亡者に使用するのは【咎力封じ】
本来は動きを封じる業だけれど、開けた場所ならばこんな使い方も出来る
…皆、伏せろ!
一人を捕らえ、振り回して周囲の亡者も纏めて攻撃を試みよう
奴等の作り出す影に触れぬよう注意を怠らず、他猟兵に使用した場合も警告、拷問具で庇う等して対処
武器で攻撃を受けたらそれだけに留まらず
叶うならばカウンターも叩き込もう
操られた亡者の数減らしも率先して
気絶した人ならば殺さぬよう注意
互いに隙を補い合い、等しく最期を
…さあ、おやすみ


蓮花寺・ねも
嗚呼、……そう。そうか。
終わりにしよう。

数が多いのは難だけれど、出来る事からするしかないな。
この先に用があるんだ。

ぼくは【サイキックブラスト】で亡者達の動きを止めて回ろう。
可能なら他のみんなとも連携を。
影に惑わされる前に、その場に留めさえすれば与し易いのではないかな。

数が増えても厄介なので、もし気絶者が居たら戦闘の外へ運ぶように気を配ろう。
亡者は、ふたたび動き出すことがないよう、砕くように。

ぼくは、死を救いとは思わんがね。
しかし誰にでも、静かに眠る権利はあって然るべきだと思っている。
……きみたちが何を祈って力尽きたかは、知らないけれど。
ここに在ったことは、ぼくが憶えていく。

おやすみなさい。



●救いではなく
 ――再び、廊下より至る通路の先。
「……助けに来るのが遅れて悪かった。今度こそ、終らせるから」
 懺悔は手短に、けれど確とした思いを滲ませて。いつの間にか眼鏡を外した面立ちは思いがけなく冷たく冴えて――けれど宿る彩は思いの外穏やかに、蠢くものたちを映し出していた。
「……皆、伏せろ!」
 術で再び起き上がった亡者は、未だ二度目の死を迎えていない亡者よりも力に劣る。並み居るそれを振り回す棺で薙ぎ払えば、ねもは夜に至る空の色した瞳をぱちりと瞬いた。
「豪快だな。数が多いのは難だけれど、今のでずいぶん減ったようだ」
 迫る影を身軽に往なし、少女は影の主へ両の掌を向ける。
 ――……ぱり、と乾いた音が弾けたのはほんの一瞬のこと。火花ほどの輝きは直後、バリバリと空気を震わせ引き裂く強烈な高圧電流へと変貌する。
 影に惑わされるというのなら、その前にその場で足を止めさせてしまえばいい。齎された痺れに動きを止めた亡者の前へ、別の亡者が割り込んでくる。けれど、
「させるか……!」
 放たれる炎弾の盾となった棺から、飛び出してゆく枷がすかさず敵を戒める。再び放たれた高圧電流が亡者を焼き切れば、目の前に訪れた死にねもがぽつり、唇を開いた。
「ぼくは、死を救いとは思わんがね」
 けれど静かに眠る権利ならば、誰にもあって然るべきだ。それは少なくとも、こんな形で奪われていいものではない。色を違える眼差しは遠くを見据えるようで、しかし確かに傍らの死を見つめていた。
「……きみたちが何を祈って力尽きたかは、知らないけれど。――ここに在ったことは、ぼくが憶えていく」
 推測も想像もしない。心に思うことさえ、自分だけのものだ。けれど、忘れない。凛とした少女のまなざしに迫る亡者の影を、油断なき拷問具の一撃で吹き飛ばし、柩は頷く。
「できるのは、ただ終わらせることだけだ」
 ――等しい最期を、皆に。
 こくりと頷き返し、ねもは掌中に爆ぜる光を呼ぶ。
 二つのこころから、ふた色の『おやすみ』が零れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ歓迎

死んだやつの行き先は蝋か亡者ってか?
ホントに…イイ趣味してやがるぜ
苦々しげに、殺意を込めて呟き
首を巡らせる

ああいう敵とは何度か戦って、そうして何となくつかめた戦法
ーー崩すならあの篝火から!
【青星の盟約】を歌いスピード重視で強化することで攻撃の手数を増やす
向こうがうってでる前に先制攻撃だ
足元で生成した旋風を炸裂させダッシュで距離を詰める
まずは1体
乗せた勢いのまま亡者の腕に剣をふるい
腕を、武器を、篝火をおとさせる
そのまま蹴倒して次の敵へ
まあこんだけ人数がいて…それなりに強そうなヤツがいるんだ
今回は篝火を落とさせることを優先してやろう
戦場を飛ぶように走りまわり
片っ端から篝火を切り落とす


鴇沢・哉太
…可哀想に、なんて言いはしない
そんなこと思っても亡くなった領民は
救われないし生き返らない
ただ
死して尚苦しみ続けているなら
俺が終わらせよう
もう泣かなくていいように

死屍葬送歌を紡ぐ
魔曲使いが奏でるは冥府への序曲
数多の鬼火を召喚したならば
立て続けに亡者へぶつけていこう
朗々と歌い続けては燃やし尽くす
黒い壁が背景だろうと
鬼火で燃えれば他の猟兵も狙いを定めやすいはず
故に出来るだけ先手を打ち鬼火を躍らせる
連携を意識し誰も傀儡として残らぬよう

それでも俺は
亡者が消える瞬間に目を逸らさず立ち会う
慈しむように寄り添い
微笑んで

死者は冥府に行くものだよ
俺が送ってあげるから
ゆっくりおやすみ
…うん、いい子だね

扉の先へ
行こう



 ……ぎり、と歯噛みする。
 影に落ちた亡者の腕を斬り落とせば、落ちた篝火が眩く散った。かなたこなたから範囲攻撃の雨が降り注ぐ戦場で、セリオスはただ炎だけを狙い跳び翔ける。
 崩すならあの篝火から――それは、あの亡者たちとの幾度もの戦いの果てに掴みかけた戦法。
「いと輝ける星よ、その煌めきを我が元に――さあ歌声に応えろ、アレを止める為に力を貸せ……!」
 身の底より響くはうたごえ。光すら喚ぶ男の喉に、恋い慕うように集う風に願うのは『速さ』。影が仲間を捉えるより速く、爆ぜる旋風を足掛かりにしたロケットダッシュで、流星のように空を躍っては篝火を斬り崩していく。
 戦績に大きく貢献しながらも、それを誇るどころか、青年の胸は鈍く痛んだ。
 戦い方を学べるほどまみえている。それだけの亡骸が傀儡と化している。――本当は、こんなことに慣れたくなどないのに。
「死んだやつの行き先は蝋か亡者ってか? ホントに……イイ趣味してやがるぜ……!」
 苛立ちまぎれに振り切った切っ先が篝火を押し斬れば、勢いよく倒れ込む亡者を足場に次の敵へ。強き仲間に後を託して走り続けるセリオスに、怒りが力を与えていた。
「! しまっ……」
 倒された亡者の手がセリオスの足首を掴む。思いがけない強さを振り切ろうと身を捩れば――奇妙に痩せた敵の腕に、不意に異質の炎が宿った。
 ――……♪
 その鬼火を育てるのは歌声。流れる指先が編む五線譜の向こうから、柔く微笑んだ哉太が音もなく告げる。『歌って、もっと』。
 力が緩んだ手を思いきり蹴り飛ばし、セリオスが逃れる。返る頷きにはゆるりと目を細め、哉太は響く歌に音を合わせた。
「……可哀想に、なんて言いはしないよ」
 今度は跳ねる指先で。浮かぶ譜面に音を並べれば、輝く五線はいつしか美しい髪を描く。現れた魔曲使いの重ねる奏では、死に向かうべき人々への餞のうた、冥府への序曲。
 憐れんでも救われない。失われた命が息を吹き返すことなどない。ただ、終って尚苦しみ続けているのなら、
「俺が終わらせよう。もう泣かなくていいように」
 冷たく塞ぐような暗闇に、楽曲が熱を生む。律動を刻む指の示すまま、セリオスによって切り崩されていく炎に代わり、点す鬼火。誰ひとり、傀儡のままこの闇の中に溶けていってしまわないように。
「――これで、最後だ!」
 セリオスの刃に斬り裂かれ、立ち続けた一体がどうと膝を落とす。奇しくも座り込むような姿となったそれに、哉太はそっと手を伸ばした。終わりに耳朶を打つ声も、虚ろな眼窩に届く微笑みも――逝くひとの望みのまま。そのために自分は在る。
「死者は冥府に行くものだよ。ゆっくりおやすみ」
 合わせた額からさらりと解けていくものに、いい子だねと囁いて。
「哉太――」
「……うん。行こう」
 扉の先へ。終わりを見送った眼差しはまだ、伏せることを知らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静海・終
このような格好になってまで貴方達の悲劇は終わらないのございますね
終演させましょう、こんな所に居てはいけません
貴方達の帰りを待つ者のところへ、送りましょう

貴方の悲劇がどのようなものか
私では理解してあげられない、貴方も語る事はできない
ただここに存在すると言う事が悲劇
だからただ壊しましょう
槍のドラゴンの化身の槍を指先で撫でる
お願いしますね、相棒
先制攻撃と2回攻撃を活かし槍で敵をなるべく多く穿ち
共闘できる者がいればありがたく共に戦いましょう

扉は開くでしょうか
また小賢しく扉を閉じているようであれば
もう開いたとしても破壊して進みましょう
弱虫の親玉のところへ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。そしてこれが領主に刃向った者の末路、ね
待っていて。今、その呪縛から解き放ってあげる

事前に防具を改造して耐火性を付与する
敵の攻撃は第六感を頼りに見切り、大鎌によるカウンターを試みる
避けれない攻撃は、怪力任せに大鎌をなぎ払い武器で受ける

…篝火の亡者。貴方達の事は知っている。
だから、ごめんなさい。貴方達の遺体は、残せない…。

吸血鬼化した魔力を溜め【限定解放・血の獄鳥】を発動
生命力を吸収する呪詛の魔法陣を黒鳥に纏わせ、
傷口を抉る突撃と呪いの黒炎による2回攻撃で亡者達をなぎ払う
…黒鳥の存在感に敵が引きつけられている隙に、
私は目立たないように離脱しておく

もう二度と目覚める事は無い。眠れ、安らかに…。



●先へ
 ――ギィン!
 受け止めた大鎌が鳴いた。酷い力で押し込まれる杖めいた灯を、リーヴァルディは動じずに見据え返す。
 予め付した耐火の術で身を守り、張り巡らせた気は死角から到来する火影に反応する。回す柄で弾き返し、反撃の刃を押し当てれば、また一つ首が飛んだ。
「……篝火の亡者。貴方達の事は知っている」
 遺体を遺せなくてごめんなさいと詫びながら、躍る刃は二度目の死をさらに切り刻む。
 新たな一体がそこに迫れば、受けた傷から滲んだものをぽとりと零した。そのひと滴にすら滲み出る呪詛が、同じ色の光を床に走らせる。魔法陣と黒き炎から生まれ出るものは――不死鳥。
 呪いを呪う一撃に吹き飛ばされ、叩きつけられた亡者が起き上がる気配はない。手荒な死ではあれど、もう二度と覚めぬ眠りに落ちたことは、彼らにとっては救いとなっただろうか。
 ――かの領主がヴァンパイアでさえなかったなら、リーヴァルディもこれほど心を寄せることはなかったかもしれない。それでも。
「もう二度と目覚める事は無い。眠れ、安らかに……」
 こんな末路から、呪縛から、解き放ってみせる。祈りも誓いも、このひとときにおいて確かな本心だった。
「このような格好になってまで、貴方達の悲劇は終わらないのでございますね」
 敵の残影を引っ掛けた穂先をふっと吹き拭う――かと思えば一閃、素早く翻した刃は深々と新たな影を穿った。一突き去ったと油断すればもう一突き、繰り出す技の冴えに反する終の声には、そうと気づかれない程の憂いに微か、染まっていて。
「終演いたしましょう、こんな所に居てはいけません。貴方達の帰りを待つ者のところへ、送りましょう」
 死の屈辱も悔恨も、知るのは本人ばかり。他人には決して推し量ることはできない。こんなにもと訴えるのが眼前の亡者その人であったなら、どれほどの情けを傾けたことだろう。
 けれど、それはない。ただここに傀儡と化して在ること、終にとって確かなのはその悲劇一つだけだ。
「お願いしますね、相棒」
 扉へ向かうものを頑なに阻む炎弾を受けながら、怯むことなく指先に槍を滑らせる。竜の化身の答えは、止まる暇なく敵の上を流れゆく連続攻撃に顕れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク
【脳筋】
いちいちこちらを試そうという態度が気に入らぬ
入口の仕掛けといい、趣味が――まぁよい
嘆息
仮に自分が城を構えたら仕掛けとかは作りたくなると思ったので何も言わない

花世の散らす花に紛れ、放つのは血の弾丸
それらは枷や鎖、重りへと変化し亡者共の動きを阻害する

自身も距離を詰め、処刑剣で斬首
中距離はギロチン・魔法などで対処しながら立ち回り

エンの迷惑な範囲攻撃には亡者を盾に回避
多少の小言なり皮肉を挟みながらも、手は休めずに襲い来る亡者を斬り捨てる

哀れとは思うが死人は死人
吸血鬼の良いように使われるよりは、滅ぼしてやるのが情けだろう


*無論、ふたり以外の仲間たちとは適宜連携を


境・花世
【脳筋】入口で出逢った二人と

それが罪なき人々の果てであれ、
武器持つ手をゆるめやしない

翻す扇からはらり散るは、
彼等にもう二度とは訪れぬ春
少しでも多くの篝火を消すように
花嵐を吹き渡らせよう

ギドが動きを止めてくれたなら、
合間に燔祭の投擲も重ねて
背後に迫る影あらば
開花させて護るよう連携を――

って、うわわ!
わたしの命の灯火もピンチだったよ今!

エンの攻撃を第六感とジャンプで避けて、
文句を言いつつ唇は笑ってる
いいよ、そのまま信じてて
全てを吹き消してしまうまで
再び暗闇に、葬送の花びらを

――残念だったね、黒幕さん
わたしたちは立ち止まらない
嘆くよりも先に、することが、あるんだ

※アドリブ・チーム外連携も大歓迎


エン・ギフター
【脳筋】力押し三人組で

趣味?ノリがニンジャ屋敷みたいで悪かない
が、中に居るモンが鮮度最悪な辺りで
ここの評価はダダ下がりだなあ

ギドが敵の動き止めてくれたのを見計らって
なるべく多くの標的巻き込めそうな位置へ飛び込む
花の嵐に乗せて舞わせる黒い羽根
威力はそれなりだが
コントロールはお察しでな

悪ィな!
アンタらならきっと避けると信じてた
謝罪と信頼を味方へ届ける声は
羽根みたく薄く軽い
信用に保証がついたか、流石と笑い篭らせる

篝火がやたら悪さするようだし
消しきれない物があったらカトラリーで切り落としてみるわ

黒一色の部屋に、死人送りの花はやたらと映えるな
今が散り際だぜ
操られてたあんたらも
さっさと眠りたかったろう


エンジ・カラカ
アァ……まだいるのかァ。
篝火を持って迷うヤツらが。
コイツらの炎はとても煩わしいンだ。
賢い君、賢い君、揺らめく炎はぜーんぶまとめて吹き消してしまおう。

先制攻撃で人狼咆哮。
はっぴーばーすでい、って火を消すってこの前聞いたンだ。
咆哮でも消えるのカ?
アァ……とーっても楽しいなァ。

相棒の拷問器具の賢い君と共に素早さを生かして敵を翻弄。
はぐれないように、離れすぎないように、時には味方に誘導をして
自慢の足なンだ。

属性攻撃は賢い君の毒を。
トドメは味方任せ、連携もちゃんとするサ。



「アァ……まだいるのかァ。煩わしい炎を持って迷うヤツらが」
 死者に手向ける作法など、持ち合わせはない。だって誰が教えてくれた? ――いいや、誰も。
 緩い笑みを浮かべた優男の唇が、一転、屋敷を震わす獣の咆哮を生む。生まれを呪うあの儀式のように、この吼え声も奴らの終わりを消し尽くすだろうか。
 今にも尽きそうに揺れる炎をゆるりと眺め、エンジ・カラカ(六月・f06959)はにいと歯を見せた。――あぁ、とーっても楽しいなァ。
「賢い君、賢い君。揺らめく炎はぜーんぶまとめて吹き消してしまおう」
 甘く囁きかけた剣の所業は、亡者たちが生前に受けたであろう持て成しにも似る。消えた炎に構わず向かい来る敵の眼前に身を落とし、切っ先で掬い上げる足許はあまりに軽かった。
 転がる頭のフードの奥を不躾に覗き込み、笑う。別の個体が迫ると見れば、執着せずに跳び退いた。――命を止める一撃は仕損じまい。ならば担うのは、自分ではない方がいい。
 やけに饒舌な金の眼を受け止めて、ギドはとどめの冷めた一閃を、求められた喉へ振り下ろす。
「――気に入らぬ」
 思うだけならば、その言葉を幾度重ねたかわからない。忌々しげな嘆息と冷え切った視線を未だまみえぬ領主へ向け、男は迷いの欠片も匂わさず、亡者たちの首を次々に刎ね続けた。
 悪趣味な人形と化した『勇者』たちも、出迎えもないと苦むギド達の前にこうして湧き出る傀儡たちも。かの領主に纏わる全てが気に食わない。
 そも、あのくどいほどの仕掛けも……、言いかけて、――それはまぁいいだろうと口を噤む。自分とて一城の主となれば、作りたくなるかもしれない。そんな気がした。それはともかく。
「哀れとは思うが死人は死人。吸血鬼の良いように使われるよりは、この場で滅ぼしてやるのが情けだろう」
「わたしたちが嘆いても始まらないし、ね」
 右の瞳から零れた花ひとひらを仰ぐ扇に、風も花弁も不意打ちのようにざっと湧き上がる。暗がりを花の色に染める花世の花嵐、その渦中を、ギドの血を元とした咎力封じの弾丸が駆け抜ける。
 鉄の匂いの軌跡に生まれるものは鎖、連なるものは枷。抗い難い重みに沈む亡者の腕から、篝火が零れ落ちる。
 最も標的を捉えそうなそこへ、唐突に飛び込んでくる鋭き蹴爪。そして湧き起こるのは、間隙を漆黒に塗り潰す羽嵐――、
「――」
「って、うわわ!」
 不機嫌な眼差しと丸めた瞳に不満を読んで、招き手たるエンはマスクの下でにんまり笑った。
「コントロールはお察しだ、悪ィな! アンタらならきっと避けると信じてた!」
「もう、わたしの命の灯火もピンチだったよ今!」
 羽を得たように高く跳び躱す娘の口先は、尖るそばから緩んでいく。その間も一瞬たりと隙には変えず、エンの嵐に吹き飛んだ亡者たちの対処にあたりながら、ギドは深々と溜息を吐いた。
「……調子の良い。都合の良い信頼もあったものだ」
「まぁそう言わず! そら、あの一団で終わりらしい」
 顎で示す亡者の一弾めがけ、花世の袖が馳せていく。横顔に婀娜めく花と笑み、共に携え駆ける袖から零れる種子は、一瞬にして薄紅の花弁と化した。
「調子いい! でも――いいよ、そのまま信じてて」
 罪なき人々の成れの果てであれ、この手を緩めなどしない。全て吹き消してしまうから。篝火を叩き消す花世の手並みの鮮やかさに、エンはひゅっ、と口笛鳴らす。
 美しい嵐を逃れた炎がひとつ。切り落とすのはテーブルナイフにデザートナイフ――さてどちらをご所望か、
「それとも両方か? 美味しく頂いて終いにしようぜ」
 散り際というなら、今。
 力押しの連携に僅かな感傷をくゆらせて、エンは最期の一体に切っ先を突きつける。操られてたあんたらも、さっさと眠りたかったろう?
 薄い胸を突き抜けた瞬間、刃は不意に軽くなった。

 さらりと朽ち崩れたいくつもの亡骸の中に、紛れた葬送の花が映えるけれど。
 進む彼らの足は止まらない。――嘆くよりも早く、果たすことがあるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『残影卿・アシェリーラ』

POW   :    我が終生の敵手の力を見よ
【刀身に封じられた『太陽の炎』を纏った剣 】が命中した対象を燃やす。放たれた【吸血鬼を浄化する太陽の力を秘めた】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    我は既に死者である故に
【オブリビオンとして復活させた自分の分身 】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    我が闘争の果に
【オブリビオンとなる前からの戦闘経験により】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はランゼ・アルヴィンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 注意深く押し開けた扉に、鍵はかかっていなかった。
 あるいはかかっていたのかもしれないが、それすら確かめることなく吹き飛ばしたものもある。
 三方よりなだれ込む猟兵たちに、外套をはためかせゆっくりと振り返った男は、密やかに微笑んだ。
「――」
 憂いさす眼差しに残酷さは一見して見えず、しかし酷く渇いていて。
 猟兵たちを映しながら、焦がれるようにどこか遠くを彷徨っていて。
 青白い喉を上下させ、薄暗い熱を静かに漲らせ、残影卿・アシェリーラは武器を取った。冷たい影を思わせる在りようには不似合いな、強い陽光の気配が大剣を覆っていく。
「……待ちかねた。我が過去に、この剣に代わる者共よ」
 叶うとは、欠片も思わぬ風に。それでいながら上擦る声を抑えられぬ風に、男は誘った。ただ一言、
 ――殺してみせよ、と。
マリス・ステラ
【WIZ】他の猟兵と協力します

「あなたのために祈りましょう」

残影卿の言葉には憤りよりも悲しみを覚える
彼は本当に殺してほしいと願っているのでしょうか?

「退屈を癒し、生を実感したいがために、あのようなことを繰り返したのですか?」

そうだとすれば、それは過ちです
奪っても真に得られるものはなにもありません
あなたはまず与えれば良かったのです
何をと問われれば、

「愛です」

断言します

弓で『援護射撃』をしながら、負傷者に【生まれながらの光】
全身から星の輝きを放ち、重傷者限定で回復
緊急時は複数同時に癒します
星の輝きは『破魔』の力を宿し『オーラ防御』と『カウンター』としても働きます
残影卿の魂の救済を『祈り』ます


エンジ・カラカ
アァ……任せてくれ。必ず殺してみせるサ。
それが命令なンだろ?賢い君、行こうか。

相棒の拷問器具を片手に、足の速さを生かして先制攻撃と暗殺で背後にまわる。
賢い君で狙うのは敵サンの手。
ソレを封じれば楽になりそう。
分身が現れたら分身から狙う。
同じヤツが二人もいたら面倒臭いンだよなァ……。

コレは支援に徹する。トドメは味方任せ。
背後にまわれなくても味方と協力して倒しはするサ。
殺してみせよって本人が言っているンだ。
手加減はしない。そうだろ、賢い君?

回避は見切りで。アァ……見切り切れなくても地に膝はつかない。コレはやりきる。


五曜・うらら
ややや、余裕のおつもりですかっ!
まあいいです、私も戦いは望むところ!
ばんぱいあさん、しかと斬らせてもらいましょうっ!

炎の剣とは厄介なっ!
ですが、その炎が吸血鬼を浄化する炎だというのならば
距離を取るよりも懐に飛び込むべきですねっ!

いくら自由に消せるといっても
自分を巻き込んで炎を放つわけにはいかないでしょうっ!
あなただって自殺したい訳ではないのでしょうし!

自分ごと燃やすとしてもあなたの方がダメージが大きくなりますっ!
そしてそれはその技の弱点と言えます!
ゆーべるこーどを封じられても
一度ついた炎を自由に消す事が出来ますかねっ!

その炎、利用させてもらいますよ!
炎を纏え、淋傘奔麟車刀!浄化の炎で、斬るっ!



●躍動
 ――問いたかったことがあった。
「退屈を癒し、生を実感したいがために……そのためだけに、あのようなことを繰り返したのですか」
 それは過ちだ。略奪から、殺戮から、得られるものなどありはしないと、マリスは哀しげに首を振る。
「あなたはまず与えれば良かったのです」
 ――愛を。囁くように、けれど熱を込めて言い切る娘に、残影卿は嘆息する。
「我が求めるものを履き違えているな、娘」
 狙い来る一矢をばさりと外套で往なし、
「愛、とやらで我が渇きは満たされまい。強き者、猛き者と渡り合う一瞬のみが我が血を沸かせ、我が心を潤す。――このように」
「……!」
 突如、マリスの背後に立ち上がる気配。鏡のような『分身』が腕を掴んだ瞬間、残影卿は無防備な懐へ燃える刃を振り下ろした。だが、
「むむっ、炎の剣とは厄介なっ! ――えいやっ!」
 受けた熱など、その爛漫の気で塗り替えてしまうかのように。強敵に目をきらきらさせて一撃をその身に受け止めたうららは、打ち返す一閃で残影卿と距離を取る。そして、
「――待っていた。コレと踊ろう、残影卿」
 分身の頭上に躍るのは、凝った赤に染む拷問具。獣の性にぎらりと輝くエンジの眼は、マリスを開放し跳び退る分身を見遣り、笑った。
「アァ面倒だ。面倒だ。同じヤツが二人もいたら面倒臭いンだよなァ……」
 嘯きながらも張り付いた笑みは変わらぬまま。分身の繰り出す炎剣より速く、『賢い君』は敵影を縫うように駆け抜ける。剣持つ腕に負わせた傷に、残す赤はふた色――ぎりりと肌に喰い込む糸、そして血の雫とともに零れ落ちる、深紅の毒の宝石。
 一瞬遅れて到来する刃が肌を焼く。それですら、男は揺らがない。偽物の刃も燃えるンだなァと肩を震わせ、地を蹴った。
「殺してみせよ。命令なンだろ? アァ……任せてくれ。コレはやりきるさ」
 軽く妖しい言葉に『賢い君』の襲撃が連なり、ぽたぽたと血痕を遺す。自らを武器に傅くもののように扱うエンジが翻弄する中、
「殺してみせよとは余裕のおつもりですかっ! まあいいです、私も戦いは望むところ!」
「……ふ。我が終生の敵手の剣に勝れるものならば、それこそが我が願い」
 剣技と挑発の応酬。残影卿の一挙一動を、うららの大きな瞳はひとつも零すまいと見つめ、受け続ける。
 在り方も犯した罪も数えはしない。見るべきものはただ、知らざる強敵の剣捌きだけだ。――剣の高みに上り詰めるための糧として。
「その炎が吸血鬼を浄化するというのならば――それこそがあなたの弱点ですっ!」
 圧し合う剣から不意に抜いた力を、退いた足へ。強く踏む一歩で、うららは兎のように低く跳んだ。懐に飛び込み、吐息のかかる距離で繰り出す一閃――
「その浄化の力、利用させてもらいますよ! 炎を纏え、淋傘奔麟車刀!」
 自身を巻き込むほどの近距離で、持ち主に仇なすその炎をこそ本領とする剣を振るえるか。挑みかかる少女の瞳の煌めきに、懐へ押し込まれた木刀に流れた炎に――至近で見下ろす残影卿は、眩しげに笑んだ。
「確かに自死する心算は無い。だが――」
 どう、と静かに溢れ出す殺気に距離を取るうららのもとへ、今度は男から距離を詰める。
「愉しませてくれるのならば、些末な傷など惜しみはすまいよ」
 一瞬で熱高まった一閃を振り下ろす。零れる熱で自らを焦がし、身の一端を灰と化しながら。
 躱しきれない一撃を、うららは真正面から受ける。背は見せまい。傷は決して浅くはないけれど、
「その心意気や天晴です、ばんぱいあさんっ!」
 晴々と笑う。――ああ、ますます斬りたくなった。
 そんな仲間の背に届くのは、聖なる癒しの光。庇われたマリスの強い祈りが、傷を厭わず戦場に躍動する者たちの支えとなる。
 ひとたびの死を遂げ、棄て去られた過去より蘇ったもの。強者の業にのみ意味を見出し、弱者の生を踏み躙るもの。
 その質に殺されたいのちは数知れない。傍らを通りながら、心を痛め、マリスはここへ至った。けれどそれでも、
「……あなたの魂の救済を祈ります」
 清らかな心の輝きに身を染めて、目を伏せる。この戦いの果てに渇きが消えたなら、今度こそ――巡りなき終わりに至れるようにと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

クレム・クラウベル
……随分飢えた眼だ
そのようだからこそ過去から滲み出たか
それとも呼び起こされたか
どちらにせよ、為すことは変わらない
望み通り討ち祓うまで

初手は先制狙い一撃銃弾を
当たらずとも牽制になれば十二分
そのまま踏み込み続けざまに一発、二発と重ねる
戦況に合わせ味方への援護射撃も適宜
一対多にも限界があろう。息揃え共に喰らいつく
予測して躱すと言うなら
跳弾でフェイントくわえ読み難い軌道を
撃ち抜く弾は銀の弾丸
ヴァンパイアには御誂え向きだろう

例えお前が過去の残滓でなくとも
無用に他者を奪い弄ぶ事は罪に他ならない
俺は神でも、神の使いでもない
だがお前を裁く
差し向けるは祈りの火
未来は生者に与えられたもの。死者は死者へ
灰へと、還れ


都槻・綾
心満たす者が現れぬまま涯て
骸海に彷徨えど
穴の開いた虚胸に水は酌めず
潤う事なく乾きたるが故の渇望だろうか

剣を鍛えし日々への懐旧か
仮初の生に還り
幾星霜が過ぎたのでしょう

私もまた
乾いて満ちぬ
欠けた器の宿神

其れでも
貴方の気持ちに副うてはならぬのだと

未来があった魂を
無碍に屠られた命を
「数えきれない」とは表さぬ為に
目を逸らさず瞼に焼いた骸の数を忘れない

急襲、死角に備え第六感で見切り
残像で惑わせ躱し
フェイントで翻弄
皆の援護に七縛符

高速詠唱、二回攻撃にて畳み掛ける鳥葬
水纏う鳥の羽搏きが胸の虚を突き抜ける飛沫は
貴方の眼に輝いて映るでしょうか

全て終えたら
白花の花筐を舞わせ
領民の亡骸へ手向けたい

安らかな眠りを祈ろう


静海・終
ようやっとお出ましでございますね
…ひどく期待をしている目、でございますね
誰に焦がれているか理解しかねますが
思い描く人がいるのであれば何をしようと貴方は満たされないのではないですか?
我々に、人間に、縋らないでください
求める者はここにはありません、だから
望み通り殺してさしあげましょう
おやすみ、かげを追う吸血鬼

剣は槍で受け流し懐に入り込み腕を獅子に変えその喉元に食らいつく
周囲と連携を取りつつ確実に仕留める

すべてが終わり亡骸を弔いをするのであれば協力しましょう
私は主催はしませんので手がいれば貸すだけで
悲劇が終わったのであれば私共はここには不要
どうか皆様、良き生を



●表層から深層まで
「ああ、ようやっとお出ましでございますね――」
 水に縁ある者にすら身を冒す炎は熱く、けれど終がそれを顔に上らせることはない。灼熱の痛苦を齎す一閃を槍で押し退け、代えて喉を狙いにゆくのは腕に吼える獅子の牙。多少の足しにはなりましょう、と喰らった気は、至近に見た眼差しに似る奇妙な温度を孕んでいた。――やたらと冷たく、焦げつきそうに熱い。
「……ひどく期待をしている目、でございますね」
「……その癖随分飢えた眼だ」
 退く青年と素早く身を入れ替え、クレムは二つの眼――二つの銃口で敵を視る。牽制の一発を躱す一瞬に距離を詰め、二発目はその足許へ。こめかみを掠めた跳弾に歪んだ眼差しが、自身に標的を定める。――望むところだ。
 あのようにあからさまな眼差しをして、だからこそ過去から滲み出たものか、或いは呼び起こされたものか。けれど、そこに同情の余地など何もない。
「お前が裁かれるのは、過去の残滓ゆえではない。――飢えを凌ぐために無用に他者を奪い弄ぶ、その罪ゆえだ」
 祈りを問いながら、時は待たない。浄化の力を帯びる銀の一弾が、残影卿を射抜いた。止まらない足取りに臆することなく次を撃つ。肉に喰い込む浄化の雫に、振り抜く炎で答えが返る。
「断罪を振り翳すとはな。……汝は神の信徒か」
「神でも神の使いでもない。だが裁く」
 迷いも衒いもなく言い放って連ねる銃撃を、一閃が跳ね返した。軌跡に連なる炎の帯を引き受けるクレムと視線だけを合わせ、終が残影卿の足許に滑り込む。片腕で担う槍の閃きが敵の身を捩らせる、その一瞬を狙って逆手の獅子が牙を剥いた。
 あの眼差しが焦がれるものなど知らない。けれどそこに明確なひとりだけを描くというのなら、その影を求めて人を弑するばかりだというのなら、
「何をしようと、幾人殺そうと、貴方は満たされないのではないですか?」
「ふ……そう思うか。汝らでは我が敵手を――この剣を越えるに及ばずと」
「戯れを。貴方の求めに命を捧げ応えるものは、ここにはないと申し上げているのです」
 ――だから望み通り、殺してさしあげましょう。
 悲劇を殺す一撃に命を咬み取り、終は静かに微笑んだ。その背後に殺気を湛え立った分身を、綾は氷にも似る『冴』の一薙ぎで打ち払う。
 自らを傷つける剣を形見に。それは、燃え立つ一戦に心満たされたかつての証。
 その『過去』を抱いたまま、揺蕩い彷徨う骸の海から蘇った。ただ一つ胸を満たしたものを伴わない今生に、奪った命から零れる滴を満たしても満たしても――漏れては渇くばかりで。
「剣を鍛えし日々への懐旧、か」
「我には価値あるものだ――狂おしい程に。……笑うか」
 密やかに笑む分身の語る実感は、本人のそれと何ら違いない。
「いいえ。……それでも」
 薄い唇ばかりに否定を乗せ、綾は百を超える羽戦きを招く。陰陽の気を纏い、死出の路を青く青く描く鳥たちを、燃え上がる炎剣が潜り躱して圧し迫った。我、未だその路に至るには及ばずと告げるように。
 身に灯った炎にごく微かに顰めた眼差しが、酷く冷えた眼差しと出会って――綾は押し返す冬気の剣をきりと鳴かせながら、内心に嘆息する。
 自らもまた、欠けた器を本性とするもの。この飢えた眼は映し鏡に見る自身のそれに似て、満ちぬもの同士と思わずにはいられない。
 けれど、無数のと括りたくはないいのちの抜殻があった。全てを見つめ、引き受け、瞼に焼いた。彼らの安らかな眠りを願えばこそ、
「――私が貴方の気持ちに副うことはないでしょう」
 一度は受けた灼熱が迫る。躱すと見せて貫かれた――と残影卿に思わせたものは、残像で。駆け抜ける詠唱が招く鳥たちの群れに、狙わせるのはその胸の空虚。埋まることはなくともせめて、
「……輝いて映ると良いのですが」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火狸・さつま
コノf03130と連携

……待ちかね…
殺して…みせ、よ?
力の…継承者を
己の、後継者を…
望んでる、のか…?

トンッと足踏み鳴らせば
足元より出で飛び掛かる【燐火】
どちらが勝るか、炎比べと行こか
先制攻撃・見切りにて敵周囲へ燐火と雷火の範囲攻撃で移動範囲狭め
コノの攻撃の道筋作る
其の陰へ隠れ、燐火で範囲攻撃維持しつつ敵死角へ移動
瞬時コノと交代、敵の顔面か即狙い易い箇所目掛け掌向け
【捨て身の一撃】超近距離で燐火放つ
足元からしか出せぬなど、言った覚えは無い

見切り・オーラ防御で防ぎ
火炎耐性・激痛耐性で凌ぐ
攻撃されそなコノをひょーぃと取上げ、かばう

堕ちた力を志を継ぐものなど、居ない
何度、甦ろうとも

さぁ…鎮むが、良い


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と

っはーヤだねぇ
メインディッシュにゃ期待してたのに
ただの死にたがりじゃ食欲も落ちるってぇの

たぬちゃんの炎に紛れ、或は盾にし接敵
駆ける勢いのまま『高速詠唱』により【紅牙】発動
今度は「柘榴」を大きく振りかぶり喰らい付いて気を引く
ギリギリ噛み付き続け「氷泪」による『2回攻撃』
刻印の牙で『傷口をえぐる』よう足回りを狙い身動き取れなくしてあげる
――ねぇ、まだ物足りないでしょう
全部たぬちゃんの追撃を見込んでのコト

庇われたら取り上げないでヨ、と減らず口叩きつつ
競うように喰いつきに戻る

引き摺り込まれる感覚を、ゆうっくり味わいなさいな
こんなモンじゃまるで振る舞い足らないケドね


勾坂・薺
ねも(f01773)さんと

やっとお出まし、か。今晩は。
何だか酷く飢えてて、まるで世を儚んでるみたい。
亡霊、それも未練の塊だからかな。

知り合いを見つけたなら
そっと声をかけ

ねもさん。奇遇。元気してた――って挨拶は後。
良かったら、共闘とかどう?
支援には少し自信あるんだけど。

弱点は炎、日光、十字架、…ベタか。
炎は効きそうだけど、避けられたら意味ないし。
自分の剣で灼かれてくれないかなぁ。

出来る事をしよっか。私の役割は足止め。
しゃぼん玉を吹いて【Hello, world!】。
攻撃を予想しても回避出来ない様行動封じ。

常夜の世界も、終わりが近いのかな。
亡霊とも、吸血鬼ともお別れの時間。
さよなら、アシェリーラ。


蓮花寺・ねも
薺君(f00735)と

嗚呼、随分な所で会うものだね。
奇遇と言うには、あんまりにもあんまりだけれど。
知った顔とご一緒出来るなら心強い。
うん。それでは、背中は任せた。

薺君のしゃぼん玉が動きを留めたなら、
ぼくはその隙を衝きにいこう。

落ちろ、【星の雨】

ぼくはサイキッカーだからな。
距離を歪めて、そこにあったことにするくらいの芸当はできる。
見えても避けられなければ意味はなかろう。

永く生きると、焦がれ乾いて仕舞うものなのかな。
ぼくにはお前の熱の由縁なんて判らないし、
過去に何があろうと知ったことではないけれど。

――でも、これだけは言える。
死者が、起きてくるんじゃない。
じきに朝が来る。残った影も消える時間だ。


レイ・ハウンド
弟子(f07171)と
さて、いっちょ本気(真の姿:特に変化はない)でいくか

まるで自分を殺せるのは自分だけとでも言いたげな物言いだな
…だが不老だろうがここで死ねば不死じゃねぇ
望み通り殺しにきたぜ

死合いを望むなら剣で臨もう
敵の攻撃は黒鋼で盾受けしつつ
2回攻撃で休む暇も与えぬ勢いで
一投一投本気で鎧砕きの斬撃で叩き斬る!
愚直なまでに単純に
捨て身で力のぶつけ合いを愉しむ

「てめぇもそれが望みだろう?

あぁ気に喰わねぇよ
化け物の身で強者望んどいて
矛先が人間じゃ
所詮弱い者虐めだろうが

お陰で手加減せずに済むがなぁ!

見切られようが構わん
兎に角残影卿の気を惹き続ける

余所見はさせん!
後ろからの攻撃に
気づかせねぇ程度には


ニヒト・ステュクス
師匠(f12038)と
ちょっと本気:真の姿

へぇ…意外と若いんだね
いや不老不死なのか
永い時間生きる事に飽きちゃったのかな?
…贅沢な悩みだ

師匠の言葉にふむり
彼も分身使い…
ならボクは分身を牽制

現し身と挟撃する形で
第六感尖らし攻撃見切りながら翻弄試む
フェイント交え多角的にヤマアラシの刃を投入
徐々に余裕失うふりで刃の動きを単一化
ボク達の動きを刷り込ませじわじわ絡繰意図の術中へ

外に出て同胞と殺り合えば済むのに
そうしないのは
ただ負けるのが怖いだけじゃないの?
…臆病だね

十分気を惹けたら挑発し
現し身とボクを纏めて攻撃できる様一射線上に(分身盾に
その先に残影卿を捉える様炎を誘導
本体に躱されぬ様
騙し討ちで鋼糸で捕縛



●包囲する縁糸
 ――待ちかねた。殺してみせよ。
 罠すら匂わせる淡い笑みを危ぶみながら、さつまは軽快に歌う一歩で地を叩いた。
 柔い振動に跳び上がった青い炎は、仔狐のかたちを得た鬼火。明々と燃える大剣に果敢に飛び掛かる青い仔らは、さつまの思うがまま標的へ飛びついていく。
「どちらが勝るか、炎比べといこか」
 残影卿の頬が微かに動いた。薙ぎ払う風圧で吹き消されそうに揺れた仔狐たちの尾が、油断なく睨み上げるさつまの眼差しに勢いを盛り返す。燃える刃に取りついた仔らごと距離を詰め来る男を、っはー、と飽いた調子でコノハが受ける。
「ヤだねぇ、メインディッシュにゃ期待してたのに。……ただの死にたがりじゃ食欲も落ちるってぇの」
 声音が冷える。光の気配の薄い室内に、構えた『柘榴』が十色を放つ。炎が届くのを待たず、コノハは卿の眼前に跳び込んだ。頭上から大きく振り下ろした刃が、零れた血を受けかたちを変える。
 ――それは、喰い込み身を裂く牙の一撃。
「悪くない手並みだが――隙も大きい」
 肩口に溢れる血に銀の髪を濡らしながら、残影卿は微笑んだ。コノハが離脱する前に翻る刃は、肚へ。大振りの一撃は確かに反撃の猶予も作る。けれど、
「俺の前で、コノを傷つけられると思うな」
 刻印の光を尾に走らせたさつまの眼差しが、血に猛る。自分よりは小柄ながら、決して小さくはない悪友の身を軽々と引き寄せて、代わりに我が身を射線に投げ込んだ。
 傷に灯る炎の翳りに、残影卿の眼差しがぴくりと動く。与えた筈の痛みも炎も、見えざる護りに阻まれているのだ。
「あらまぁ、獲物を取り上げないでヨ。――ふふ、ねぇ、まだ物足りないでしょう」
 庇われた青年の笑う右眼に、深く淡く刻まれた刻印が輝いた。視線をなぞり生まれた『氷泪』が、冷たく冴えた二撃で足を縫い留める。
 すかさずそこに連なる炎の仔らに、コノハは口の端を上げた。敵刃を離さない友と気配だけを並べる。――この追撃までもが策の内。
「こんなモンじゃまるで振る舞い足らないケドね? ゆうっくり味わいなさいな、死に引き摺り込まれる感覚を」
 突き放す炎剣に、ようやく距離を取った獣たちが不敵に笑う。

 ――その後方で、支援に立つのは薺。
「やっとお出まし、か――何だか酷く飢えてるみたい」
 その距離あってなお見て取れる、世を儚むかのような眼差しに、ふうわりと嘆息を泡に含ませた。
(「炎、日光、十字架、……ベタか。自分の剣で灼かれるのは厭わないようだし」)
 そんな厭世的な在りようで、眼前の戦いは心底愉しんでいるらしい。過去の亡霊なんてそんなものかと肩を竦めて、漂いゆくバグプログラムが漂いゆくのを見送った。いつの間にか隣に並び立った花の言葉に、意味を異にする吐息を小さく零す。
「随分な所で会うものだね。奇遇と言うには、あんまりにもあんまりだけれど」
「本当に。――良かったら、共闘とかどう?」
「うん。それでは、背中は任せた」
 申し出る支援に、こくりと頷いたねもが掌にひかりを生む。
 空の塵、衛星の欠片。彼方の宙にあって不要となされる人工の星の涙。それは残影卿の頭上高く、弾けた泡からバグプログラムが降るのを待って、掌から消え去った。
 向ける指先で示すのは無論、過去の海から漂着した男。
「――落ちろ、『星の雨』」
 作り出す歪みにぐらり揺れた天井を、消え去った星、燃え尽きる刹那の光が埋めていく。見上げる眼差しがそれを映すより速く、閃光は次々と残影卿を撃ち抜いた。
「予想までは想定内」
「ああ。見えても避けられなければ意味はなかろう」
 降り注ぐ光に照らされるオブリビオン。どれほどの生を生きたか知らないが、身の裡を焦がし渇かせる熱の由縁など知らない――知ったことではないと、ねもは凪いだ瞳を向ける。でも、
「これだけは言える。死者が、起きてくるんじゃない」
「そうだね。亡霊とも、吸血鬼ともお別れの時間」
 背を守る分身が、冷えた殺気と灼熱の魔力を向けてくる。気づかれたねと言い合って、二人身構えはするけれど――空中に連ねる泡も再び喚ぶ光も、動揺に揺れることはない。残った影すら掻き消す夜明けはきっと、もうそこにあると信じられるから。
「はっ、その余裕の面を歪めてやろうじゃねぇか――いっちょ本気でな……!」
 一瞬で距離を詰める炎熱が、娘たちの前にぶわりと散る。防ぎ止めたのは『黒鋼』――伝う灼熱の残滓にへっと悪態を吐きながら、レイは盾代わりの重火器ごと肉薄した。
 炎剣と鋼とが、睨み合う視線の間で拮抗する。
「自分を殺せるのは自分だけ、とでも言いたげだな」
「我がどう思おうと構うまい。……汝に殺せると言うのならな」
「はっ、言ってろ! 不老だろうが、ここで死ねば不老じゃねぇ!」
 大きく実直な剣筋は読まれ易くも、相棒たる鉄塊剣に馴染んだ手は、空を切った一閃を引き戻すにも長ける。返す二閃めで首筋を引き斬れば、白い首筋に鮮血が走った。
 にやりと笑う師匠に油断なくねと言い置いて、ニヒトは眼差しを帽子に沈めた。
「キミも分身使い、か……ねえ、それは本当に」
 ――キミの意志?
 問いかける声がくすくすと笑う。気づけば左右から挟み撃つ笑い声に、なに、と男の静かな呟きが落ちる。
『不老不死で……永い時間生きる事に飽きちゃったのかな?』
『外に出て同胞と殺り合えば済むのに』
『そうしないのは?』
『そう、そうしないのは、待ってるからじゃなくて』
 くすくす、くすくす。
 ――ただ負けるのが怖いだけじゃないの?
 返答を待たずに放たれる炎の閃きを、師の影に潜り込むようにして躱す二人のニヒト。
「ぐ……っ、おい!」
「余所見はさせないんでしょう? よろしく」
「……くそっ!」
 再び盾にされたレイの元気な悪態に違う笑みを向け、闇に紛れるナイフを殖やす。――柔い少女の身を守る、ヤマアラシの針の山。一斉に躍りかかる剣先は、巧みに師を避けて敵を穿つ。
 そして聖衣を焦がす炎に顔を顰めながらも、レイは熱の余波から巧みに弟子を、後背の仲間たちを庇う。大きな体で、熱の全てを封じ込めようとするかのように。
 生意気にもニヒトの言はいちいち正しい。化け物の身で力を求める矛先が力を持たない人間などと、所詮は弱い者虐め。
「……あぁ、てめぇは気に喰わねぇよ。お陰で手加減せずに済むがなぁ!」
 斬撃は叩き潰すように。怒りに任せた大剣が、血の飛沫を辺りに降らす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
貴方が、残影卿…

見た目には人と何ら変わらない
けれど、誘う声は明らかに異質

長い時を人と過ごし、その心に触れてきたけれど
こんな感情は、知らない
「気味が悪い」というのは
こういうことなのかしら…?

皮肉ですね
多くの命を塵芥のように使い捨てた貴方が
命を育む天の光を揮うなんて

フェイントと第六感で可能な限り攻撃を避け
高速詠唱で氷の属性攻撃を叩き込みます
どこまで通用するかは判りませんけれど…
だからって、
諦めるなんて選択肢は最初から無いのですから
踏み込まないと前へは進めない
そうでしょう?

掲げた杖を白菊の花弁に変え
本体も分身も包み込んで
ひらひら舞い綻ぶ澄んだ白が
飢え渇いた魂を黄泉へと近付けるよう

※アドリブ・絡み歓迎


ジャックジャレッド・ジャンセン
貴公こそ未練の影を残す者か
終幕を望むのならば相見えたことを喜ぶが良い

私とて厭わしき吸血鬼の血を継ぐ身ゆえ
抑え難き渇きの衝動は理解しよう
なれど生死を分かつ淵を踏み越え
侵す可からざる領域を瀆すならば
――骸の海の落とし子よ、徒花と散れ

血統覚醒を発動し能力強化
剣の相手は杖を以て務めよう
白兵戦の知識と技量は心得が有る
私の血を喫してみるか、と忍ばせる言葉へ
密かに意識蝕む呪詛を込め
望むものを得ようとも満ち足りはすまい
魂の渇きを癒すものは永遠の眠りだけ
ジャッジメント・クルセイドの光の下には影の遺る憂惧は要らぬ
煉獄の揺籠が貴公の還りを待っているぞ


*血統覚醒
犬歯が一層尖鋭になる他は外見変化無し

*アドリブ、連携歓迎



●覚悟
 あれほど人を苦しめることができる者は、どんな姿をしているのか――と、知らず残虐な顔を思い描いていたのかもしれない。
 それほどに『残影卿』の姿はただ人と変わりなく、それだけに誘う声は咲の耳に異質に響いた。
(「……気味が悪い、というのはきっと」)
 こういうことなのだ。長き人との関わりのなかに得ることのなかった感情が、咲の心を強張らせる。ちらと見遣る眼差しで傍らの娘を慮りながら、ジャックジャレッドは朗々と声を張る。
「貴公こそ、未練の影を残す者か。――終幕を望むのならば、相見えたことを喜ぶが良い」
 身に滾る熱、流れる血。紅く変じる瞳のいろは、男にとっては厭わしい吸血鬼の血統を示すもの。それが眼前の敵を打ち倒す力の礎となる皮肉に、先刻よりも鋭さを増した牙が軋む。
 それでも、ジャックジャレッドは知っている。渇きの衝動も、それを抑えることも――越えることを許されぬ領域も。諫めの一撃はそんな彼にこそ相応しい。
「望むものを得たところで満ち足りはすまいが……戯れに私の血を喫してみるか」
 甘言は毒。意識を喰らう呪詛を込めた囁きに、整ったかんばせを微かに歪めた残影卿。追い討ちかける苛烈で清冽な光は、魂の善悪を量る天秤。
「魂の渇きを癒すものは、永遠の眠りだけ。この光の下に、影の遺る憂惧は要らぬ」
「――」
 ざわり、と湧き上がった殺気が猟兵たちを冷やす。けれどそれでも、杖を構える咲のしなやかな腕が、仲間を傷つける者を前に竦むことはない。
 唇に乗せる響きは疾風のように軽く速く、素早く凍てつく魔力を喚び集めた。
「陽光を冷ますとは、無粋な娘よ」
「どちらが……! それは命を育む天の光、多くの命を塵芥のように使い捨てた貴方が扱っていいものではありません」
 小気味いい啖呵に気を損じた風もなく、言の葉に代えてぶつけてくる重い一閃。杖で凌ぐも衝撃の全てを殺すには至らない。けれど、負けまいと熱風の圧に乾いた唇に詠唱を紡ぐ。
 ――強い。けれど、いつだって踏み込まずには前へは進めない。
(「……そうでしょう?」)
 諦めるという選択だけは自身に許していない。ひりつくほどに乾ききった眼前の心に、手向けることができるとすれば――それは。
 澄みわたる白の嵐が吹き渡る。清廉な破魔の香を纏う菊の花片が、暗い熱を帯びる戦場の気を涼やかに掃き浄めていく。
 ごく微か、煩わしげに歪んだ顔は嵐の彼方。白を掻き分け、その眼が再び咲を捉えようとしたとき。
 そこに立ち塞がっていたのは、彼女ではなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニコラス・エスクード
飢えた狼が人々を襲えば是非もなく。
荒ぶる獣が人々を喰らわば是非もなく。
無辜の生命に牙剥く害獣に他ならぬ。

その過去が如何なものであろうと。
その誇りを如何に掲げようとも。
その願いへ如何に焦がれようとも。
全て、凡てだ。
我が身に宿りし報復にて塗り潰してやろう。

陽焔であろうとも受け止めるが我が有り様。
この身の血を流し尽くそうとも。
この紛いの身が朽ち果てるとも。
有り様は違えぬ。違える訳にはいかぬ。
我が盾と、同胞達は、その為に。

ただ一度の刃を振るえるだけが残れば良い。
ただの一度にて全てを。
痛みを、無念を、悲痛を、報復を。
全てを呉れてやる。

「さぁ、報いを受けろ。」

振るうは一刃、『報復の刃』



「――」
 強い情動の上らない残影卿の眼差しすら、僅かに見開かせる姿。
 彼は盾。摩耗した見てくれなどなきもののように立つニコラス、その人。
「手負いの獣よ。……その姿で何故我が前に立つ」
「語るも無用。されど聞かざれば量れぬと言うならば――」
 兜の奥から殺気が滲む。喰い込む陽光の刃が鎧を熱の色に染め上げても、ニコラスの声は揺るがない。
「この身の血を流し尽くそうとも、紛いの身が朽ち果てるとも――有り様は違えぬ。違える訳にはいかぬ」
 進めば深く喰らいつく刃に音を上げることもせず、一歩、一歩と突き進む。静かに当惑する残影卿に、返すべきものがある。盾なる鎧の裡に預かってきたもの、全て、凡てを。
「痛みを、無念を、悲痛を、報復を。呉れてやる」
 残影卿の白い喉が動く。僅かに引こうとする身を、その刃を、ニコラスは鷲掴んだ。
 逃がすまい。如何な過去も誇りも願いも、あれだけの無辜の人々を弑するにはあまりに軽すぎる。
「――報いを受けろ」
 逃れられないと知った残影卿が再び刃を押し戻した。流れる血の熱さを踏みしめる両足で堪え、ニコラスは『首落とし』を振り下ろす。
 引き裂かれた空気が悲鳴を上げ、新たな衝撃波を次々と発しては標的へ襲い掛かる。報復の刃の威力は、身を削り挑んだニコラスだからこそいや増しになる。
「……報いを……受けろ」
 どう、と倒れ込む騎士から逃れる残影卿。
 理解し得ない信念に触れた男の頬を、言い知れぬ動揺の色が染め上げていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

イア・エエングラ
まるで、こどもの我侭ね
そんなに可愛くはないけれど
お前は誰を、待ってるかしら
傾げたところで知りもしない

銀の短剣引き抜いて
そっと胸に抱いたなら
青い火を灯して滄喪でもってお前をおくろう
その刃に捕まらぬよう床を蹴って駆けだして
ひとり増えたとて振りぬくなら迷わずに
纏った炎と手向かおう
迷えば届かぬ、刃でもって
のぞむ熱をさましてあげる
凍てて裂くのはどちらだろ

いつかの熱が恋しかろうと
きっと過去には、叶わない
代わりに手折られ、
いつか砕いた刃が、またお前をころすよ
だから笑って逸らさず終わりを見送ろう
降り積もる嘆きがもう覚めることのないように

――良い夢は見られそう、かしら


アウレリア・ウィスタリア
花の嵐、敵を切り裂き我が身を守れ

武器を花弁に変え【空想音盤:追憶】を発動
自身の周囲に花弁を集め、花嵐の中心となって敵に挑む
攻撃を予知されても回避できない密度で攻撃すれば問題は解決します
一撃は軽くとも、この密度で切り裂かれればただでは済まないでしょう

敵が二人に増えようとも花嵐でまとめて切り裂きましょう
花弁を燃やされてもそれを切り捨てれば良いし
利用出来そうなら太陽の炎を巻き込んで火炎旋風のように
敵を焼き尽くすのもいいかもしれない

お前は殺されたいのですか?
そのために多くの人を苦しめたと?
そんなエゴは、ボクが許さない
苦しんで死ねとは言わない
ボクはお前に苦しめられた全てに代わり
お前に復讐する

アドリブ歓迎


アルジャンテ・レラ
あなたは人の未来を奪った。
それならば、こちらがあなたの未来を奪おうと、文句はありませんよね。
ええ……ご要望通りに。
当然の結末を迎えさせてみせますよ。

先程の一戦とは根本的に違いますね。
隙が、ここまで生じないものだとは。
ですが私とて退きません。
ここままでは……彼等に、ジナさんに、顔向けができませんから。

現れた分身のみならず、本体の動きもよく見ておきましょう。
どちらかに距離を詰められそうになったら麻痺の一矢で牽制を。
10秒動きを止められれば充分です。
次の一矢を本体に。
この一撃に全ての力を注ぎます。
それでも彼等の受けた痛みには、到底敵わないはずですが。

(ああ、……そうか。これが憎悪という、感情)



●戻らぬものへの追想
 ――ふ、ふふ、ふふふ。
 歌うように零れた笑い声はさも可笑しげに二人の残影卿を打った。
「……何が可笑しい」
「まるで、こどもの我侭だもの。そんなに可愛くはないけれど」
 包まず告げるイアの瞳は、全てを呑み込んで微笑んでいた。崩れ落ちた仲間の雄姿、亡骸たちの無念を届ける盾として在り続けた勇ましさ――どうしてそれを怒ろうか、悲しもうか。
「殺してみせよ――殺してみせよ。ああ、お前は誰を、待ってるかしら」
 勇気ある者? 強い者? ことりと傾げた首だけが訊ねる。答えを待たない銀の短剣は、抱かれる胸で空色銅鉱の美しく妖しい煌めきを映し出した。冷ややかな彩を命を燃料に燃え上がらせながら、イアは馳せる。目指すものは炎剣で薙ぎにかかる分身。同じく構えた残影卿その人は、追い詰める仲間たちへの信頼と、
「花の嵐――あれなる敵を纏め切り裂き、我が身を守れ」
 晴天の蒼に染む花風を纏ったアウレリアへ託す。愛すべきものすべてを守る勇気を盾に、娘は密度ある花の嵐ごと残影卿を呑み込んだ。
「お前は殺されたいと言いましたね。できる訳もないと高を括ってそう言うのでしょうが……そのために多くの人を苦しめたと?」
 荒れ狂う花弁に阻まれて、返事は届かない。けれど勢いを増す嵐は、アウレリアの憤りを映していた。
 ――そんな勝手が許されていい筈がない。
「苦しんで死ねとは言わない。……けれど、ボクはお前に苦しめられた全てに代わり、お前に復讐する!」
 仮面の下、言葉は強く敵を打つ。その強かさを傍らに、アルジャンテの感情も放つ一矢とともに開花する。
「あなたは人の未来を奪った。それならば、こちらがあなたの未来を奪おうと、文句はありませんよね」
 先刻までの戦いとの違いを痛感させられながら、退くまいと心に定めて分身を狙い射つ。語気強く言い放ったのは、アウレリアたちの抑える残影卿にも届くように。
 殺せと薄ら笑ったあの一言が、たとえ戯れと侮りで口にしたものだとしても、それを与えようとアルジャンテは心に決めた。
 ここまで自分を送り届けた少女に――そして何より、残影卿の手により死した者たちに報いるために。
 刻々と移りゆく戦況に、十秒の集中は容易くはない。しかし、
「――さあ、凍てて裂くのはどちらだろ」
 唇でにい、と美しい弧を描いた男が、太陽の剣の狙いを一手に引き受ける。ちらと振り向く眼差しを理解して、番える一矢に全てを預ける。一方でそれが、亡骸たちの痛みの全てに代わることなどないことも知っている。
(「ああ、……そうか。これが憎悪という、感情」)
 機械人形の身には未だ知り得なかった熱を、そうと知って解き放つ。花の嵐も猛炎すらも貫いて駆け抜けた鏃は、狙い通り、分身の懐に突き刺さる。
「――」
 見開かれる眼差し。炎に炎で手向かった男は、仲間の生み出したこの好機を逃しはしない。
 いつか交わした熱に恋い焦がれ、どんな代わりを求めようとも、過去そのものの輝きには届かないだろうに――そう微笑んで、
「ねえ、ほうら、聴こえような。砕いた刃、壊したいのちが、おまえをころしにやってくるよ」
 仲間の言葉に、一撃に。そしてこの青く澄んだ炎にも、数多の無念と悲嘆が宿るから。胸に突き立った一矢を信じ難く見下ろす分身を、イアは炎のかいなを広げて抱き締めた。
 その背に回す手には、人魚の姫の如き銀の剣。微笑みを湛えて貫いた手応えがふつと消え、男は残された片割れをゆうるりと振り返る。
「残るお前は、良い夢は見られそう、かしら――?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
自分が殺されないって相当自信がある様子で
…その鼻、へし折ってやらないとね
――残影卿・アシェリーラ
処刑人の名の下、その命を貰い受ける

【咎力封じ】で残影卿の身とか、後は大剣とかの動きを制限
強敵だからこそ全力でその力を押さえつけたいし、何より分身が現れるのは厄介だ
奴の業を封じる位の心持ちでいくよ
分身が呼ばれたら分身の方を拷問具で足止め
面倒なのが更に増えるのは勘弁願いたいんだけれど

亡霊との戦闘以上に警戒は怠らず
他に戦う猟兵の援護も忘れちゃいない
全力で庇うし、卿が回避行動を取ろうとしたらその隙をついて攻撃を試みる
躱されようが少しでも牽制になれば充分

戦闘が終ったら蝋人形に火を
…これは、残すべきものじゃない


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

ハッ…過去が過去を求めてさ迷うなんざ笑えねえ話だなぁ
勝手にお前一人で干からびてろ

靴に風の魔力を送り『ダッシュ』で『先制攻撃』を狙おうか
炎の『属性攻撃』を乗せて回転しながら斜めに跳ねあげ『二回攻撃』

バックステップで距離をとり『見切り』回避
体勢が崩れても持ってた剣を『投擲』して攻めの姿勢
立て直すのと同時に左手でもう一本の剣を抜き斬りかかる
残念これは『フェイント』だ
剣を止められたらあっさり手を離して一気に距離を詰め
これで終わりにしようぜッ!
右の手で『全力』の炎の『属性攻撃』をのせた【星球撃】を叩き込む!


黒江・イサカ
なるほど
君が僕を―――…呼んだのかな
そう思わないかい、死ねなかったひと
もはや満たされないひと

なんだ、随分綺麗な火を扱うんだね
これが目に焼きついちゃう気持ち、わかるなあ
このメンツにもいるんじゃないかな
こんな炎を扱う奴が
だからと言って懐旧なんてする暇ないぜ、僕ばっかりを渇望してな

間合いに飛び込むことに恐れはないよ
僕の手は短いからね、近付かないと触れられやしない
後衛もいることだろうし、
攪乱するように一撃離脱を繰り返すように立ち回ろう
【先制攻撃】を何度も繰り返す感じだね
僕の得意分野と言ってしまえばそれまでだけど、これが中々集団の中じゃ効くんだ

言ったろう?
僕はお前を殺すために、此処までやってきたんだよ



●燻る業炎
「ここまで追い詰められて、まだ自信があるのかな」
 それだけの力と測り知るには、充分な時があった。仲間の包囲は成っているものの、血を流しながらも未だ余力を残す残影卿に、手を抜く理由はない。
 放たれる炎の威を『餞』――棺型の拷問具を盾に削り、柩は途切れる熱のはざまから枷を放つ。残影卿の片腕を戒めた魔力のロープを離すまいと絞め上げる。
「……これで捕らえたと?」
「いいや、そんな風に笑えるんだからまだだろう? ……その鼻、へし折ってやらないとね。残影卿・アシェリーラ」
 処刑人の名の下、その命を貰い受ける。柩の厳かな宣告に、まだ残された腕はあると燃え上がる大剣が主張する。ごうと迫り来る熱の塊が駆け抜けた隙へ、靴に付した風の魔力に勢いを借り、セリオスが飛び込んでくる。
「ハッ……過去が過去を求めて彷徨うなんざ、笑えねえ話だなぁ!」
 整ったかんばせからは放たれる口撃は思いの他険しく、次々と叩き込まれる剣戟も苛烈なもの。生まれた間隙に身を滑り込ませ、躍るように跳ね上げるセリオスの剣を、片腕で幾度も弾き返す残影卿の腕前も相当のもの。
「――……っと!?」
 戒めるロープを利用して喉元を狙いに来る狡猾さに、ちっと舌打ちを一つ。ただでは退かずに放った投剣を、残影卿も容易くは喰らわない。蹴り躱す。しかし体勢が緩んだその一瞬に、いかにも善良な笑みを湛えたイサカが、巧みな刃を仕掛けに来る。
「なんだ、随分綺麗な火を使うんだね」
「……く」
 別段秘めた訳ではなくも、火を見るような殺気がそこにはあった。身を捩ってナイフの罠を躱し、報復に放たれる炎。もっと暗い火かと思ったのに――と、イサカは身を灼く澄んだ熱に微笑みすら浮かべてみせた。
 敵の懐中へ飛び込むことに恐れはない。触れなければ倒せない――殺せないじゃないか。
「このメンツにもいたでしょ? こんな炎を扱う奴が。……ああ、でも」
 今はそんなこと考えないでと胸倉を掴み、青年は口の端を吊り上げた。
「懐旧なんてする暇ないぜ。僕ばっかりを渇望してな」
 言葉は奇妙に甘く、ナイフが導く『死』の運命に引き摺り込もうとする。拒む炎波に突き飛ばされたイサカが受け身を取る間に、
「悪いな、ぶちのめしたいのはお前だけじゃねえんだ!」
 にっと歯を見せ、再び戦線に飛び込んでくるセリオス。
「自分を倒しに来た奴の剣なんか後生大事に持ちやがって、余計に渇くばっかりじゃねえか。――勝手にお前一人で干からびてろ」
 腰に佩くもう一振りを左で抜けば、あっさりと弾かれる。けれど、それすらも想定の内。
「――武器が剣だけだと思うなよッ!」
 触れるほど近く。握り締めた拳に乗せた星の力が、残影卿の腹部に炸裂する。炎に斬られることを恐れぬ勇気あってこそ飛び込める距離ゆえの高威力。けれどそれは、諸刃の剣でもあった。
「――つッ!」
 返る一閃が強かに爆ぜる。咄嗟に躱すも間に合わない。セリオスの肌と髪とを容赦なく焦がし、残影卿は笑わない眼を猟兵たちへ向ける。
「……久方振りだ。これほどの昂揚が期待できるとは思っていなかった」
「……まだそんな余裕が?」
 軽々と『餞』を従えた柩が、足許へ叩きつける一撃で連なる狙いをセリオスから引き剥がす。撒いた罠は手のみと言わず、挑発する声、よく駆ける脚、三点全てを封じ込めた。
 手にした剣から急速に熱が失われる気配に、残影卿の顔から余裕が消える。
 過去においては残影卿への叛意を象徴しただろう陽光の剣。けれど敗れて彼の手に収まったそれは、もはや彼の業だ。生きられる筈の命を裂き、燃やし、蝋に捉えて殺した罪の証。
「その業ごと封じ込めたよ。効果は一時的だ、だけど」
「ああ、わかってるさ」
 イサカの剣が躍る、誘う。
 その『一時』を無駄になどしない。――自分は殺すために、此処までやって来たのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
【脳筋】

敗北の味が恋しい?
ならばお望みに応えてみせよう
一度目よりもっと鮮やかに
きみを、殺してあげるから

ギドと笑みひとつ交わして
真直ぐ駆け出してゆく
花の眸で敵の動きを見切って、
怖れずに懐へ飛び込んだなら
甘い馨が何もかも蕩かすだろう
思考も経験も、懐旧さえも

ひととき忘れて今をごらん
動けなくなるのと引き換えに

さあ、とっときの一撃を!

エンへと花舞う勝機をつなけば
敵は冷たく凪いだ表情を揺らすだろうか
自らも記憶消去銃を構えて撃ちながら
晴れやかに笑ってみせて

これがお望みのフィナーレだ
満足してくれた? そうだといい
――さあ、このまま、送ってあげよう

※アドリブ・チーム外連携も大歓迎


ギド・スプートニク
【脳筋】
なるほど
死に損なった――往生際を逸した哀れな亡霊という訳か
同情はしよう
さりとて、その行ないが許される道理はない

花世の言には思わず笑い
一度目よりも鮮やかとは、なるほど花世嬢らしい

貴殿の過去は貴殿のもの、それに代わるものなど在りはしない
だが、今を生きる者として
もうひとたび引導を渡してくれよう

花世が敵の動きを封じた瞬間を逃さず、エンと合わせて連携を
分身しているなら各々1体ずつ、そうでないなら1体に同時に攻撃

全身全霊を賭けて殺してやる
それが堕ちてなお垣間見えた、貴殿の誇りに対する私の礼儀だ

血が沸き立ち瞳は金に
敵の心臓を狙い血槍を繰り出す

冥府に堕ちよアシェリーラ
そのまま朽ちて、二度と帰ってくるな


エン・ギフター
【脳筋】

もう一度痛い目に遭いたいたあ
大層な趣味だな、おい
いつかを懐かしむ気持ちは分からんでもないが
他人様に迷惑掛けた時点で世迷言だ

しかし、花のかんばせとは花世用の言葉かね
舞う薄紅に感心して嘆息一つ

花に飾られた引導だ
二度目の旅路を飾るに充分だろう
俺からは何もくれてやる気はねえよ

分身したところで
同時に潰せばいいだけの事
ギドに槍貰う方は幸せだな?
俺は食い千切るだけだしなあ!

間合いやギドと合わせるタイミングは勘頼り
手の中に大食い山羊の頭を喚び出して
不味そうな体に齧りつかせる"食事"には
礼儀も何もありはしない

さっさと海に還んだな
アンタも、その不釣合いな剣も
アンタに集められた奴らも
あるべき場所に戻ればいい



●誇りは心に、その眼に今を
 脚を、首を、連なる連撃に噛み取られ。腕を、胸を、喰い込む斬撃に斬り刻まれて。
 ゆらりと立つ領主の身は、もはや十全には程遠い。それでも、重苦しい眼差しは死地にあってひときわ影を深め、殺戮の薄暗い昂揚の中にあった。
「来るぞ、花世!」
 封じられた炎熱の代わりに大剣が纏うものは、殺気。あわい影に沈むその部屋に鮮やかな花の彩が目立ってか、唐突な狙いと詰まる距離。思わず声を上げたエンへ、眉顰めたギドへ、花世はにこりと微笑ってみせる。
 ――ああ、どうやら大丈夫らしい。
 妙な安堵が胸に落ち、エンは喉奥に吐息を溶かす。まったく、花のかんばせとは花世用の言葉か――。
「敗北の味が恋しい? ならばお望みに応えてみせよう」
 一度目よりも鮮やかに。あまく強かな囁きを違えることなく、大剣の一閃を受け止めた花の袖をぐっとこちらへ引き寄せて、残影卿の眼底を見つめにいく。
「ひととき忘れて今をごらん――動けなくなるのと引き換えに!」
 片目にひらく花が、舞う花が、纏う香りで敵の思考を蕩かす。思考も、経験も、懐旧さえもその中に見失ってしまえばいい。
「……一度目よりも鮮やか、とはな」
 強く花咲く彼女らしいと思わず零れた笑み。けれど、ギドの思考は涼やかに、対極の感情へ移行する。
 ――残影卿・アシェリーラ。いにしえの栄光こそが、全てを踏み躙って過去に生きる哀れな亡霊の誇り。
「今を生きる者として、もうひとたび引導を渡してくれよう。それが貴殿の誇りに対する私の礼儀だ」
 花ひと色に染められた残影卿の視界へ、唐突に影が落ちる。残影すら残さず距離を詰めたギドの瞳は、気づけば卿の目の前にあった。
 どの装飾よりも身を飾る冴えた青が、金色に染め変えられていく。満ちる力に鉤爪のように強張り歪んだ手指の中に――ずるり、浮き出た血の槍は、一瞬に一途に一心に、残影卿の心臓を穿ちに奔った。
「――は、……っ!」
 それを翻す外套で絡め留めようとする敵の思惑は、死角に迫る影に阻まれる。片端を引き掴むエンが、残影卿の動きを軋ませていた。
「花に飾られた引導だ、二度目の旅路を飾るに充分だろう。素直にギドに槍貰っておいた方が幸せだったのにな?」
 冷えた眼差しがまず射抜き、意外なほどに邪気も敵意もない声が語り掛ける。だが。
「――俺は食い千切るだけだしなあ!」
 布一枚の護りを剥ぎ取る――否、喰い奪るのは、爛れ落ちそうな山羊の頭。
 昂るままにさあ食事だと謳う青年に、獰猛かつ貪欲な獣は従った。濁った眼に映る命を、容赦なく喰み尽くしてゆく。
「いつかを懐かしむ気持ちは分からんでもないが、他人様に迷惑掛けた時点で世迷言だ」
「ああ、その行ないが許される道理はない。――冥府に落ちよアシェリーラ」
 反撃の一閃が再び業火を取り戻す。だが、『旧き誇り』を恐れる理由など彼らにはない。
 花が舞う。血が躍る。獣が喰らう。呼吸さえ奪う連携が、残影卿を過去の海へと追い込んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
…そう。捜しているの
君の捜し物が、見つかっても、見つからなくても
言われなくても、

抑制、反転。
滑らかに出るようになった『声』は、僕の魔力の源
月の名を持つ短剣に氷纏わせ、身の丈ほどの大剣を成し
君の望みを叶えたい訳じゃない
僕の得手が此れだというだけ。
だけれどそんな偶然があるのなら
せめて跡形もなく君を、『殺してあげる』
懐に飛び込み剣戟を交える
此方に気を引ければ味方が隙を生かしてくれるし
斬り刻めるならそれでもいい
炎には氷と雪の属性攻撃で、分身には二回攻撃やフェイントで対処
腕の一本、傷の幾つや、関係ないから
ただ一筋願うなら、『君に報いを』
望みの在処が歪んだことは哀れと思うけれど
安らかに海に、還したりしない


鴇沢・哉太
初めまして残影卿
そして永遠にさよならだ
お前の願いを叶えよう
俺が、ころしてあげよう

笑みは絶やさず
眼差しは鋭く

基本的に仲間の援護に徹する
後方の立ち位置を確保し戦局を見極め
端的にフォローを飛ばす
特に分身が出た場合隙を突かれぬよう注意を促す
俺は残影卿を過小評価はしていない
強敵には違いない
ならば
その分全力を尽くすまでだ

楽園揺籃歌を紡ぎ残影卿の動きを抑える
完璧に攻撃を封じられなくとも
少しでも敵の手数を削り
こちらの攻勢を強められれば僥倖

畳み掛けられそうなら死屍葬送歌にシフトし
反撃の糸口を与えぬよう攻撃連打
さあ永劫に眠れ

冥府で領民に詫びるがいい
もっとも、お前はただ骸の海に還るだけで
何にも残りはしないけど


海月・びいどろ
まるで、とても喉が乾いた、けものみたい
あなたこそ、過去そのものなのに

あの剣に、彼の積み重ねてきた永い時間に
ボクは、太刀打ち出来ない、けれど
ふわり、ゆらり
喚び出した海月たちの真似ごと、身を任せたら
――力を、貸して

あなたは、強いね
でも、勇者は、きっと
もっと、それ以上に

…それなら、

海月のぬいぐるみが、その剣を飲み込んだら
陽光まばゆい一振りを
過去の勇者の一撃を、お返しするよ

並んでいた、蝋人形にされてしまったヒトたちの分も、乗せて
その身を蝕む、痺れる毒まで染み込ませて

強さとは、なんだろう
その剣が、あなたの手にあったとしても
ひかりを束ねた、勇者の、こころこそ?

それとも今、生まれるのかな
――あらたな、勇者が


冴島・類
言うに事欠いて、殺してみせろ
…成る程
ならばひとつ
聞かないと

相手の剣技や手数を冷静に注視
見切りで致命傷になるのは避け
頼もしい味方の攻撃の支援に
瓜江をフェイントと残像交え手繰り引きつけ

炎纏う刀身の強力な一撃の前には力抜き
糸車にて、受け止め
焼かれようと
残影卿に向け笑顔で問う

それで
今、此処で
幾人もの猟兵を前に
貴方は沸き立ちますか
そんな、遠い目をして

過去に焦がれ
光の為に
奪い続けたと言うなら

痴れ者が

そんな事のために、奪ったか
あの人達の明日を

それは妄執です
奪った命はどれ一つ
代わりない者だった
その剣の主も、あの人達も

満ちた無念を想い歯噛みする
届かせると祈りと破魔の力込めた刀身で
二回攻撃にて斬る

終われば、弔いに



●渇きの淵にただひとつ
「――あなたこそ、過去そのもの」
 まるで、とても喉が渇いたけものみたい。ふわりと戦場を揺蕩いながら、びいどろは硝子のような瞳に映る男をそう評した。
 獣。ひどく醒めた出で立ちに、それを感じる者は多くはなかっただろう。けれど渇きの為に全てを牙にかけるその在り方は、確かに狂った獣じみていて。それは、永い時がそうさせたのだろうかと頭を微かに巡らせる。
 その時間には太刀打ちできないけれど、
「びいどろさん、避け――」
「うん。――大丈夫」
 本質を近しくする技を持つ類は、少年の頷きに意図を汲んだ。
 唸りを上げて、鮮やかな陽光に燃え盛る『獣』の剣が迫り来る。辺りを漂うぬいぐるみの海月たちを真似るように、危機感なくふわふわと身を揺らしながら、びいどろはそれを受け容れた。
「……あなたは、強いね」
 突きの衝撃が、その自然体に受け流される。異常に気付き飛び退る残影卿の眼前に、抱いた海月が呑み込んだ陽光が、映し鏡のように跳ね返される。
「過去の勇者の一撃を、お返しするよ」
 熱量を持つ光輝。眩い反射に、電子の子はそっと魔力を染み込ませる。電子の海月たちが司る毒。並び迎えた亡骸たちの無念もじわり、そこに滲ませて。
 多少弱りはしていよう。けれどその力を、過小評価などしていない。
 あれほどの命を躊躇いもなく奪い得た心が、力が、弱いものである筈がない。成すべきことは、哉太の胸に定まっていた。
「存分に味わっていくといい、天国なんて二度と見ることはないだろうから。――お前の願いを叶えよう」
 叶うまいと侮ったからっぽの望みに添わすのは、天上の調べ、楽園の子守歌。
 ――ころしてあげよう、この眠りの中で。紡ぎ出す歌声は柔く甘い魔力を帯びて残影卿に絡みつき、剣に荒ぶる炎すら宥めていく。
 今、と告げる視線に頷いて、類は赤い糸を自在に戦場に巡らせる。意志持つ糸に従う瓜江もまた意のままに、力をひとときの眠りに落とされた卿を誘い出すように前に出る。
「……ひとつ、貴方に訊かないと」
「――ッ」
 瓜江へ向けられた刃の前に、とん、と。斬撃を恐れることも保身に構えることもなく、身を置いたように見えた。
 息を呑む仲間たちの前、類は痛みに顔を顰めることもなく、残影卿に笑いかける。確かに受けた筈の傷が、ない。
「それで。……今、此処で、幾人もの猟兵を前に、貴方は沸き立ちますか」
 ――ここに無いものを見るような、そんな遠い目をして。目を瞠る卿の背に、赤い糸に導かれた瓜江が廻り込む。声には出さず、顔にも出さず、ただ十指のみで伝える思惑を、半身は一分と違えることなく読み――そして動いた。
「……は……!」
 どう、と。突如背後から残影卿を襲った斬撃は、先刻自らが放った筈のもの。膝を付く男の前から跳び退いて、それでもまだ類は言の葉を紡ぐ。過去に焦がれ、自らが光を得る為に奪い続けたというのなら、
「……痴れ者が。そんな事のために、あの人たちの明日を、未来を」
 笑みが崩れる。歯噛みする。かつてその身に人々の思いを受け、愛し続けた類は、知っている。ささやかでも弱々しくとも、どれひとつ、誰ひとり代わりのない命であることを。
「それは妄執です。貴方の過去に代えられるものもまた、居ない」
 組紐飾りの短刀に籠めるのは、預かり来た無念。絶対に届かせる――そう信じて貫いた切っ先に入れ違い、分厚い剣が返り来る。炎を帯びなくも、今度は無傷とはいかないだろう。
 けれど、敢えて逸らさず一閃を誘い込む。斬られながら翻す短刀は、深々と男の肩に突き刺さった。まるで裡にある魔の根を断とうというように。
「……そう。捜しているの。でも、見つからなかったんだね」
 どちらにしても、とユハナの囁きがひたり、迫る。
「――抑制、反転」
 瞬時に白い肌を覆いゆく茨が、雛のまま押し込めたユハナの時を喰い千切り、解き放つ。すらり伸びた背と腕をしなやかに広げ、冱てる夜を研いだ短剣は氷を結び、時を食むように大きく育つ。先刻までとは打って変わってなめらかに零れる声が、一言ごとに刻む一閃に魔力を伝わせていく。
 そう、言われなくても叶えてあげる。それは残影卿の為じゃなく、
「此れが僕の得手でよかったね。――跡形もなく君を、『殺してあげる』」
 地を蹴り、逃れようとする男の懐に飛び込んだ。ごく近く見上げる顔は未だ涼しく、仲間たちのこれほどの思いをぶつけられてなお、この男には『過去』しかないのだと腑に落ちた。
 それならばそれでいい。返る刃を身に受けながら、冬星のように冴え冴えと輝く青い瞳を顰めることなく相対する。剣を握る手に突き刺した氷の刃は、眠ったままの炎剣をいっそう冷やしていく。
(「強さとは、なんだろう」)
 桃色の海月人形と共に戦場を漂い、ふわふわとした在りようからは思いもかけない鋭さで痺れを振り撒きながら、びいどろはずっと考えている。
「その剣が、あなたの手にあったとしても……それはきっと、強さじゃ、ない」
 その非道に挑んだ者、暴虐から誰かを守ろうとした者をこそそうと呼ぶならば、残影卿の求める強さとは――、
「……ひかりを束ねた、勇者の、こころこそ?」
 その強さはもう過去の中。けれどここに、亡き人々の為に憤る猟兵たちの中に、それは新たに生まれ出でようとしている。
 力を封じ続ける声の在り処に向けられた目を、哉太は鋭い眼差しで、逃れもせずに掬い取った。
「初めまして残影卿――さあ、冥府行きのお時間だ」
 けれどその死に、甘い夢など呉れてはやらない。指先で描く五線に並べる音は、悲嘆。生まれる奏でに、魔曲使いの霊が目を覚ます。燃え上がる剣を持つ、青白い死者の鬼火を引き連れて。
「ああ、……お前、は、我が終生の――」
「望む夢だけ得られるなんて、随分と都合のいい最期だな。……だけど残念、まぼろしだ」
 その渇望は、何ひとつ満たしてなどやらない。次へ残してやるものもない。哉太がこの館で出会った者たちは、奪われるばかりで逝ったのだ。
 魔曲の調べに導かれ、剣持つ鬼火がかたちを変える。悲哀、苦痛、怨嗟――現れる顔、顔は、かの亡骸の姿を映していた。
 引く手は数多。冷たい死の感触にひたひたと命を引き摺られ、満ちる叫びをノイズのようだと哉太は思う。
「さあ永劫に眠れ。冥府で領民に詫びるがいい」
 一方で、それは叶うまいとも知っている。――あれは骸の海に還るだけ、心も言葉も音ひとつ残りはしない。
「……望みの在処が歪んだことは、哀れに思うけれど」
 翻すユハナの氷剣が、眠る炎剣の根を突いた。それほどの執着を生む敵は、彼には心地好いものだったのかもしれない。知らない、他人の侵せぬ過去でしかない。けれどそれなら、他人に身代わりを押し付けられるものでもない。
 青く冴えてなお静かな瞳に、ユハナは映してきたものを想う。傷を刻んだ一閃が再び標的へ翻るまで、その一瞬で随分と思い出せるものだと思う。
 苦しんだ幾つもの顔に、持っていくからと誓ったもの。すべて、全て返さなくちゃいけないから。
「安らかに海に、還したりしない。――君に報いを」
 引く一線は、その喉笛に。
 潰えた殺気と魔力にかわり、溢れ出す赤が屋敷を染める。
 強敵を求めた渇きを越え、身勝手に懐かしむ昂ぶりを越え、報いを受けた男の死に顔にはもう、涼やかな愉悦など残されてはいなかった。
 そこにはただ、齎した悲劇に相応しい死があるばかり。

●レクイエム
 ――戦いの果てには、弔いがあった。
 死の際に写し取られた悲憤が、彼らを案じる者たちの眼に留まらぬように、その亡骸を熱の中に還すもの。卿の死とともに魔力を失った蝋を綺麗に除いてやるもの。自ら動くもの、仲間の求めに手を差し出すもの。
 そして何より、十色の祈り。
 誰かが招いた白い花が降る。優しい子守歌が迷える魂をあやす。傍らに膝をつき、祈るものがある。
 祈りが命を引き戻すことはない。喪失に泣くものの涙を乾かす訳でもない。
 それでも、猟兵たちは祈りを捧げた。
 どうか安らかに――もう、何にも傷つけられはしないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月26日


挿絵イラスト