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プリ・ミョート(怪物着取り・f31555)は、集まった猟兵に礼を述べると、頭を上げてこう力説した。
「おら、思うにパワーとテクニックを併せ持つヤツが最強だと思うべ。素早くて……しかも技も使える、マッチョ? みたいな」
……あれ? ステータス10ポイントを好きに割り振る、みたいなRPG(ロールプレイングゲーム)のシステムの話かと思いきや、全てのパラメータに99ずつ割り振れば強い! みたいな話を始めてしまった。……そういう常識にとらわれないのもまた、プリのような「ワル」を目指す悪魔としては憧れなのだろう。ふんすと鼻息荒くしてサイキョー論を豪語する。
今回――冒険の舞台となる古代中国「封神武侠界」もまた、常識はずれな環境が待ち受ける、図抜けて過酷な世界である。ここに現れるオブリビオンの群れを現地人とともに退治してほしいというのが、依頼の概要だ。
その現地人とはたった一人だが、ユーベルコードにまで昇華した技を操る、文字通りの達人・天才である。
やけに興奮気味なプリの発言を掻い摘んでいくと、以下のような趣旨となる。
件の若き女英傑は、川の渡し守を生業としている。名前は鳳雛という。
かつて、とある師により剛拳と柔拳の武術の指導を受けたが、あまりの天才気質により全て……あろうことか奥義まで口伝にて体得。未だ少女と言うべき齢ながら、正確無比に教えを何度も何度も反芻し、過酷な鍛錬と困難な仕事の繰り返しで日々を過ごしている。
仙界の桃源郷、その何処かにあるとされる「連夜川」。あらゆるものが流れ着き、対岸は渡るたびに違う場所へ辿り着いていつも何があるかさえわからない。飛んで渡れば二度と陸地には足をつけられないと実しやかに囁かれる。時には上流と下流が入れ替わり、日によって水温や勢いも変わる。どうやら一定の周期があるらしいが、それを読めるのはやはりこの鳳雛だけらしい。そんな事情もあって彼女は川沿いの小さな小屋で一生を終える心づもりのようである。
「まずはこのお若い英傑サンとの協力を取り付けてほしいんだべ。見たこと聞いたことはな〜んでも正確に再現・想像できるんだと。すげえよな」
その分、言葉を選ばなければ「頭でっかち」で、外に出る必要性も感じていないのだとか。さすがにオブリビオンが出現すれば立ち向かう……が、一般人対オブリビオンの軍勢となれば結果は明白だろう。猟兵ならではの知恵や技術は、あくまで一般人である鳳雛を広い外(せかい)に連れ出す有効な手段になるはずだ。もちろん腕試しに戦っても構わない。
オブリビオンたちは水路と陸路の二方向から侵攻してくる。幸い同着しないので、順番に片付けるのがいいだろう。
水路は『海乱鬼』という、端的には海賊たちだ。十数を超える大船団が河川に集結し、宝貝にメガリス、さらには集めた奴隷を運搬する。攻撃目標がこの河川自体ではなく、通りかかったところに出くわす形なので、攻撃チャンスはこちらに恵まれている。事前に罠を仕掛けたり、船上に足止めする方策があれば、有効に働くだろう。もちろんこちらも水上を移動する手段があればなお効果的である。
彼らのいく先によからぬ目的地があるならば、なおさら一船たりとも逃してはならない。骨が折れる作業だが根絶やしにしてしまおう。
「……あー……おおー……り、り、陸路は……何が来んのかさっぱりわかんねえべな! ごめんな。なーんか、なんか、こう。ドギャーンと、とてつもないことが起きる気はすんだけんども」
ウムムム……と頭のあたりをぐねぐねぐねさせている。どうやら明確な予知とやらはできなかったらしい。前後関係からすると何かの大軍が近づいているのは間違いないようなので、どんなことにも柔軟に対応できることが重要だ。
「まあ何が来ても皆ならきっと乗り越えられるべよ! たとえ炎の中水の中、ってな!」
プリなりの精一杯の激励らしい。猟兵たちは一抹の不安と期待を胸に秘め、仙界へと旅立つ。そこには目の前に広がる雄大なる、燃えるような自然と、未知なる冒険が待ち受けるだろう。
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回も古代中国の仙界にて、大軍勢に立ち向かっていただきます。雰囲気は真に三国において無双です。
この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。
続いて、「若き英傑」鳳雛について補足をば。
彼女と協力を取り付けている場合、第二章以降はユーベルコード《降魔点穴》を用いて戦闘に参加します。接近戦主体なので囲まれると弱いですが、フォローしてあげればそれなりに立ち回れます。ちなみに気質は天才肌で、小生意気な性格です。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 日常
『私はまるでこの籠の中の鳥と同じ……』
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POW : ●『自然が見たい!』
SPD : ●『街に行ってみたい!』
WIZ : ●『仙界に行ってみたい……!』
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「事情は承知いたしましたわ」
若き英傑・鳳雛。
小舟を川辺に引き揚げていた少女は猟兵が声をかけると、左手で右拳を包み込む。いわゆる拱手という挨拶である。その態度から、来客が来ることはわかっていた素振りであった。説明も特に聞き返すこともなく、あらましを聞いて、微笑する。
「お引き取りくださいませ。私のような者は、ごまんとおりませば」
いるわけがない。仙界の僻地、連夜川に好き好んで住み込むものなど。
ましてや鳳雛は師の口伝にて武道の奥義を極め、剛拳・柔拳の秘奥にたどり着いたもの。体の細さからは想像つかないが、差し出した手、指は太く、鍛え抜かれている。軽々と何本となく櫂を持ち上げている、その眼差しは穏やかだ。
まるで、諦めているような、現実だけ見て夢を見ていないような。……想像力が豊かすぎるあまり、体験する前にそのほとんどに見切りをつけているように見える。
「では、お話くださいまし。私の想像のつかないような武勇伝、夢物語」
諸手を広げて、再び微笑する。なんて生意気な小娘だろう。人の身でありながら、猟兵を試そうとしているらしい。
「あるいは、私の身に教え込んでくださいませ。まさか、その自信がないとは、言いませんわね?」
アレクサンドル・バジル
カカカ、わからせ希望の女の子ってどーなんだ?
まあいいか。それじゃあ、いっちょもんでやるかね。
(当たり前ですが徹底的に追い込んで実力・経験・判断・戦略といった違いをその身に叩き込み敗因を理解させるっていう当初の意味でのわからせ実行です)
ゴッドハンドの体術で剛拳には剛拳、柔拳には柔拳で圧倒しましょう。
鳳雛は降魔点穴を修めているようなので、使ってくれば同質のUC、紫微天尊で粉砕します。(それでいて傷一つ残らない様に手加減)
満足したかい? それじゃあ、ちょっとの間、協力してもらおうか。
あん、武勇伝? 想像つかねえってなら他の世界での戦いが幾らでもあるが後だな。
「カカカ」
「哈哈哈!」
口角が上がったのを見て、否、見る前に重ねるように笑い声をあげた。神たるアレクサンドル・バジル(黒炎・f28861)に限らず、己が言葉を途中で遮られることほど神経を苛立たせることはない。まして、これが初対面、口火を切ろうとした彼に浴びせかけた哄笑。ぴくりと眉が動く。
「お転婆が過ぎるな、嬢ちゃん」
片手を腰に当てつつ、やれやれと首を振って見せる。
目を閉じ俯くそんな姿勢も、芸術品のようにサマになっている。もし鳳雛に数刻の猶予があれば、筆と画材にてこの場で名画を仕立て上げたに違いなかった。
「で、どういうのが望みだって言ったか?」
ぱしっと拳で手のひらへ、乾いた音を打ち付ける。顔を上げた彼の表情は好戦的な、粗野とも雄々しいともとれる精悍な顔つきに変わっていた。
「……喧嘩屋でありましたか」
「どういう教育受けたらそんな言葉がすらすら出てくるんだか。まあいいか」
――……ひゅッ!
風を切る音を立てて。
腰を捻って振りかぶった脚が、上背のない鳳雛に延髄斬りの要領で食い込まんとしていた。咄嗟に左腕に右手を添えてガードする。メギと嫌な音を響かせて、華奢な体が川辺を転々と吹っ飛んだ。
「か……フッ?!」
「そら」
吹っ飛ばした体に空気を蹴って易々追いつくと、空中で横転。拳を地面へ向かって垂直に突き落とす。鳳雛の目が見開かれた。ゆっくりと戻される拳。指関節からぱらぱらと砂埃が舞い落ちる。釣られて視線がゆっくりと下へ、下へと移って、自分が横たわっている乾いた地面が禍々しく凹んでいるのを視認する。罅、衝撃の余韻、骨まで響きそうな破壊の余波、冷や汗がどっと溢れ出して止まらない。
吐いた空気を戻す暇もなく、背中のバネでバジルを跳ね飛ばすと、鳳雛は低い体勢を維持しつつ、中距離を保つ。
そして分析する。
「まあ怯えちゃって、普通に殴っただけだぜ」
嘘だ。
視認こそはできないが、練り上げられた闘気を肉体に纏い破壊力としなやかさを増している。筋肉質だが決して分厚くはない。なのに重い。
「何より素早い。お見事です。これが普通、でありましたか」
「そうさ」
この程度は、技の範疇ですらない。基本的な技術、水の中で魚が鰓呼吸するのを、泳げてすごいと形容するものはいない。出力もかなり抑えてある。ゆっくりとアクセルを踏みエンジンを加熱させていく。ぱしんと、今度はさらに軽妙に拳を手のひらに当てた。ウォーミングアップはこの程度でいいだろう。
「それじゃあ、いっちょもんでやるかね」
「(ゾク……ッ!!)」
笑った。笑っている。先ほどまでの精悍さは形を潜めた、言うなれば獰猛な獣の眼だ。
怯えちゃって、そう。その通り。鳳雛は怯えている。仙界の河川の荒波も、しんと静まり返るような孤独も、その果てに待ち受けるであろう死の恐怖も、己が想像を愛することで乗り越えてきた。豊かすぎるイメージに体がついてくることで拳法も身についた。しかし、眼前の存在感を発揮する彼は「拳法家」でもなければ、自分が到達する英傑でもない。
その気になれば、闘気を別の破壊の形に使えるのでは? と、そんな予感さえしてくる。目や口から火炎、稲妻、氷塊を吐き出そうとも全く驚かない。
「はあぁああアアッ!!」
だからといって、はいそうですか、と赦しを乞う己の未来をかなぐり捨てて、鳳雛は逆に突撃を仕掛ける。目算ではおよそ戦闘力の力量差は倍から三倍程度か。まずは力任せに叩いてペースを奪う。
そんな目論見があったのだろう。ガン! と、痛烈な踵落としをバジルの頭部に浴びせる。空中で前回転し、勢いをつけた飛び蹴りだ。拳で繰り出す剛拳をあえて足に力を集中して放つ。駆け出した勢いそのままに轢殺しかねない荒々しい技。指摘された通り行儀はよくないけれど、勝機を狙いにいかなければ。
――ガツッ!!
「はッ?!」
「何だ。使える技ってのはそんなもんかい」
後頭部の振り上げによるカウンター! 常軌を逸した反撃に、ぐらりと鳳雛の体勢が後ろへのけぞった。体幹が違う。まるで大樹に蹴りを打ち込んだかのようだ。どっしりと根が張ったバジルの体を折るには遠く及ばない威力。
迎え撃つバジルは頭部で鳳雛を小突くと、無防備な背中目掛けて膝打ちにて突き上げる。
――めきめき……っ!
「蹴るってのは、こうするんだ」
リフティングの勢いで蹴り上げられた華奢な肉体に、もう片方の足で繰り出したケンカキックが深々と食い込んだ。
蛙が潰れた時の声の方がまだマシな、鈍い音が喉奥から漏れ出る。そのまま再び地面を転がると、ぴくりぴくりと体を震わせる。
クリーンヒットしたように見えて、しかしバジルの表情は今ひとつ明るくない。足先に伝わる衝撃が、少し「流され」た、そんな感覚だ。言葉にするのはやや難しいが、避雷針に雷が落ちるように、蹴る箇所を誘導されたイメージに近い。見ると鳳雛はむくりと立ち上がってくる。柔拳を応用した消力。インパクトの瞬間に体から闘気を消し、ダメージを最小限にしたのだ。
鳳雛の言語感覚に合わせて体に纏うエネルギーを闘気としているが、人によっては呪力であり、また別の人によっては魔力である。
神であれば神通力といったところか。
「わざわざ順序立ててわからせ希望の女の子ってどーなんだ? 世界は広いな」
「いたく同感でありますれば、山より高く海より深く、痛感しております。己の矮小さ、杜撰さ、胡乱さ」
「最後はなんか違くねえか」
とん、と、ステップを踏んで、バジルは脱力した。柔拳の妙技とは防御にあらず。剛拳と組み合わせた時の緩急による威力増大、すなわち攻めの本質である。
立ち上がった鳳雛の鼻先で幻惑すると、四方から降りかかる殺気の雨霰に、思わずガードを崩してしまう。カモフラージュに魔力をぶつけたことで攻めの手を撹乱したのだ。なまじ闘気を読み取る力に長けている分引っかかりやすい。むしろ毎日毎夜のように訓練で感覚を強化していれば、光に向かう蛾のように無我夢中で誘導にかかってしまう。
――……ボキッ!
「ふ……グッ」
「いいのが入ったな。だが全ては神(オレ)の手のひらの上……生かすも殺すも気分次第ってな」
クロスした腕に掌底が突き立つ。どちらの体が悲鳴をあげたかは言うまでもない。
このまま終わるのは癪だ。
技の一つ、見せなければ引き下がれない。川辺をのたうち回るのが英傑の仕事ではない。鳳雛の目に炎が灯る。ゆるゆるのガードを解くと、両手でバジルの拳を掴んでみせる。五指に闘気を漲らせ、秘孔を突く《降魔点穴》の秘技である。片手だけでも手傷を負わせれば一矢報いたことになるだろう。浅ましくも涙ぐましい鳳雛のさらなる反撃が、ユーベルコードまで昇華した技の不意打ちであった。
「……これでいかがです。これ、え、あ……?」
「言っとくが見え見えだぜ? あんまり甘く見ちゃいけないな」
《紫微天尊(セイサツヨダツ)》。高められた魔力を他人に流し込み、破壊する神の戯れ。奇しくも同じ戦術を繰り出していた……否、読み切った上で先手を打ったバジルは、あらかじめ魔力を鳳雛に流し込み、技を封じたのだった。刺突を正確に命中させなければ《降魔点穴》は発動しない。したところで闘気圧の力で抵抗されるのが関の山……というのはさておいて、勝敗は決した。
およそ二分近くもの間、彼女の両腕を操作することが可能なのだ。
脱ぎ捨てた上着を拾い上げ、埃を叩きながらわざとらしく思案する。今度は爬虫類のような笑みだ、と、悔しくも抵抗できない鳳雛は目尻に涙しながら、心の奥底でそんな感想を持っていた。痺れるような感覚が腕にのし掛かる。自分で自分の体を制御できないのが、こんなにももどかしいとは。
「俺でよかったな。よいしょ」
「ああっ……あ……ぁ堪忍して……くださいまし」
「それじゃお仕置きにならないだろ」
腕を前に出し伸ばし、思わず釣られて足は肩幅に広がる。そこに待ってましたとばかりにバジルが座り込んだ。即席の人間椅子だ。一分の仕置きとしてはちょうどいいだろう。顔を真っ赤にして、淑女らしからぬ姿勢への羞恥に打ち震える。
背の高いバジルだと、座り込んで足を組むだけでもなかなかサマになる光景だから余計にタチが悪い。単に寝そべってる人間の上に座っても、この背徳感は演出できないだろう。玉座にこそ王はふさわしい。
「さて、あとは俺の武勇伝だったな。何から話すか。屍人帝国……つってもな。僵尸ならわかるかい。その群れが空に浮かんでてそいつらを――」
「はぐ……お、ちょっと……ふグゥ無理っ」
べしゃと潰れてしまった。はやくも時間切れらしい。まあよく保った方だろう。これでも怪我はしないように調整したつもりだったが、そのあたりは彼女も一端、心得ている様子。受け身するなり受け流すなり、戦闘中の音よりも目立つ外傷は見受けられない。
なんだか殴りがいというか、わからせがいのある子ではあるけれど、本筋からは外れるだろう。
「満足したかい? それじゃあ、ちょっとの間、協力してもらおうか」
「……無論、そのつもりでありましたが……その前に」
ぐ、ぐぐ、と顔を起こして。
「あなたは、人ではないのでありましょうか? 漲る闘気、覇気……それに慧眼。経験も見た目以上に積んでいる様子ですし、私めには、とても、その、自由に映りました。まるで、この世のことわりさえも無視しているような奔放さと存じた次第でありまして」
思わず手を組み、頭を伏せる。声が自然と震えて、語尾も何だかしどろもどろだ。神仙の類い、間違いなく人類としては上位の自負があった英傑が出した結論は、人ならざる領域に踏み入ったものに、戯れていただいた、である。本気で挑んで泥すらつけられず、かといってこちらも怪我を負わず。
「何だ。察しが悪いな。お前の想像通りだと、思うけどな」
正しい力量差は五十倍か、下手すれば百倍程度。時に、到る強さに際限はなく、目盛りが細かく精査できない。偉大なるものの前には首を垂れることしかできまい。事実鳳雛は、しばらく頭を地面に擦り付けて、気の毒になるくらい萎縮してしまった。
大袈裟などではない……初めて神と出会った、ヒトの反応は、こんなものだろう。
嗚呼、人の子よ。一周回って愛らしい――。
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「なるほど。ではこれはいかがでしょう」
指を鳴らすと巨大化した黄巾力士が小屋を叩き潰し次に鳳雛も捕え握り潰した
「なるほど。ではこれはいかが…」
巨大化した黄巾力士が鳳雛を捕えた
冬季が鳳雛の十指と舌を削ぎ落としスラムに棄てた
鳳雛は苦界で短い生を終えた
「なるほど。ではこれは…」
冬季が鳳雛の四肢を落とし
全ての客も惨殺して鳳雛の小屋に棄てて去った
鳳雛は逆恨みした遺族に殺された
「なるほど。では…」
冬季は何もせず立ち去り
鳳雛は訪れた邪仙に惨殺された
「なるほど。…」
冬季は何もせず立ち去り
鳳雛は海賊の襲撃を受け惨殺された
「礼には礼を。何度でも起こりうる不遇をお見せしましょう」
鳳雛に痛覚・時間経過ありの夢見せ嗤う
――べキィィッ、バキィッ、メキィィィッ……!
「……想定内でありますれば、対処させていただきます」
その声は震えている。無理もあるまい。フィンガースナップと共に自宅を破壊して宝貝が出てくるなど予期しているものか。わかるまい! わかるまいが、想像はつく。つまりヒトガタの機械なれば、関節を壊すか頭部をもぎ取るかすれば、いささか驚かされたものの対処法まで失念したわけではない。
……否。否だ。大きさが想定より大きい。むしろ召喚されてから巨大化しているようにさえ思う。巫山戯るな。世の理として、質量が際限なく増えていくものがあって堪るか。あるいは宝貝……そう、しかし、それが宝貝だとして、ならば。
「拙作ながら、その威力は折り紙付です」
自作したというではないか! 常軌を逸している。そちらの方が余程納得いかない。
「人ならざる…ああっ、仙人……!?」
「惜しい! 実に、惜しいですね」
ああ。ああ。体を持ち上げられ、腰の方で掴まれて宙空にぶら下げられる。一度漁船に拿捕され、冷凍された巨大魚を思ったことがある。おそらくあれの方が競り落とされるだけマシだろう。
腰骨が砕かれる嫌な音がする。混沌とした川縁が見える。いつもと変わらない水の流れ。自分がこの世にいようといまいと、何も変わるまい。変わらないならいる意味もない。それがわかっただけでいる意味もあった。語り継げないのが残念ではあったけれど。(語れば継げる程度のものだ)
「私はしがない『妖狐』……人は私を迅雷公なんて呼びますがね。その名を覚えて逝きなさい」
ぶし、と視界が深紅に暗転する。自分の上体と下半身がばらばらになるのをスローモーションで見ながら、ゆっくりと鳳雛は目を閉じた。これでようやく終わる。つまらない人生。いてもいなくても、この出会いがなければそれこそ。
仙人……妖狐に看取られて逝くなら、悪くない。
「後生であります。亡骸は川に流していただけますと」
「……ほう」
目を細める。鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)――迅雷公の用意する趣向は決まったようだ。
ごぽり、と血の泡を口端に垂涎して。
「なるほど。ではこれはいかが…」
……。
……。
……そういえば最初の言葉を聞きそびれてしまったと鳳雛は思う。あの時聞き返して肉薄していれば、運命は変わったかもしれないとさえ思う。
屋台骨が折れた音が、家屋であったらと後悔する。あれが夢であったらよかったのに、と思う方が現実で、あれが現実であったらよかったのに、と思う方が夢であるものだ。夢うつつ、言語化するのもストレスな、虚構と現実の折り混じる光景。
靄がかかる。かき分けられない白いスクリーンが瞳にずるりと降りて、少女の意識を混濁させる。知らない世界を理解させてほしいと他ならぬ冬季に懇願した末路がこれだ。
――ぎりっ、ぎちっ……!
黄金の剛腕、頭部の弩級砲塔、全身のスラスター。生身の少女を捕縛するのには過剰な兵力である。
只人は導かざれば悪に陥り、終には苦界に沈むという。
――ブツッ! ぼと……ぼと、ぼと……ブヂィ! めしゃ! ば……ヅン!
「このあたりでしょうねえ。何一つ望みが叶うとは思わないことです。これまでも、これからも」
「……ぁ……ぇ゛ォ゛……」
握り潰さない程度に頭を押さえつけ、手ずから削ぎ落とす。人体の先端、突起に当たる部分を全て。随分スマートな形になったと冬季は満足げに頷いた。まるで人形のようじゃないか。
自分の舌が、指が、鼻が、散らばっている。導かれなかった英傑は、斯様な末路を迎えるという、そんな未来を示唆している。短髪をかきあげながら冬季は鳳雛の項垂れる顔を、前髪を掴んで上げさせた。未来に英傑を志すものに、あまりに酷い現実と実力差を突きつける。絶望と血と涙と鼻水にぐずぐずに崩れる彼女の顔を見て、冬季は目を閉じる。
まだ、足りない。足りはしない。むしろこれ以上の罰が必要だ。世間知らずに覚悟を知らしめるには。
貧民街に打ち捨てられ、啜り泣きながら失血死する人生。臨死体験させるにはやや甘い。元より行く末も、先も長くない末期を経験させても、ものの半日も我慢させれば過ぎ去ってしまう。もっと苦痛を与えなければ、この英傑の覚悟は引き出せまい。
……そこまで冬季が考えての行為に及んでいるのかは実際にはわからないところでもある。天性の「破天荒」気質な彼。サディスティックな笑みも誰よりも似合う偉丈夫である。一歩間違えなくても廃人間違いなしの試練を、与えるというのか。
「なるほど。ではこれは…」
……。
……。
「あ、ああ……ああぁあぁあああ?!」
首根っこを掴まれている。誰だ。怒っている。鳳雛は振り解こうとして、己の腕も、足も、へし折れていることに気づく。鈍痛がひっきりなしに襲ってきて、明確に意識する意志の覚醒。
怒られている。殺意に近い目線をぶつけられ、自分の腰元あたりが生温い感触に支配されたのは錯覚ではないだろう。出血、だけではない。
生まれたばかりの鹿よりも無力だ。勢い任せに床に叩きつけられた。
――ドカッ!
「げぶぇ?!」
血の池が滲む。手は止まらない。
「お前がやったんだろ!」
「返せよ! うちの倅を!」
「この◯◯が!」
――ドカ! メリッ……べぎ、ボコっ……ボゴォ!!
ああ。多分、この人たちは怒っているらしい。
彼らの怒りは想像がつく。伴侶やら息子やら、大切な人を奪われたものの表情だ。
「私には……ついぞいらっしゃいませんでしたが……」
視界の端に死体が見えた。類推するに、客を守りきれなかった渡し守への報復だろうか。情けなさと無力さで力のない笑いが込み上げてくる。下手人は去り、自分は責任を取って遺族に屠られるのだ。謝っても許してもらえるわけがない。
遠巻きに、遺族の輪の向こうから冬季が見ている。学帽を目深に被り直す彼の、口元は笑っている。
奇しくも笑いあう構図となってしまった。
「……」
「もう少しわかりやすく教えて差し上げましょうか」
「……私のような蒙昧には、そうですね。もう少しわかりやすいと」
泣いて、助けてと。もうやめてと。
ギブアップをすれば、冬季とて人を超えた大妖怪たるもの。手を差し伸べる度量もあったろう。英傑のプライドが屈服を許さない。結局のところ己が恋しいばかりで世界に目を向けないから、土壇場で己の力が通用する幻想を夢見てしまう。
「なるほど。では…」
……。
……。
拳を組み交わすこと十幾度。相手は、見慣れていないから、おそらく悪漢か、そのプレッシャーか邪仙のそれに近い。記憶が断絶して、与えられた状況に対応するしかない。全身から嫌な汗が噴き出てくる。千に迫るほどの悪漢たちに詰め寄られ、川側に追い詰められている己。今度は五体満足だが生傷だらけで、大挙する敵は雲霞の如く。
「凡夫たる私の身に、あまりに過剰な敵でありますれば」
「なるほど。…」
呆然と佇む鳳雛の背に、怒号がぶつけられる。背負う河には、水面が見えないほどに水賊が迫っている。背水の陣ですらない。絶死の包囲陣。
対する自身は、秘技を繰り出せるのは五指しかない。何度も幻視した。四肢をもぎ取られ、尊厳を奪われ、不遜なる若者かくあるべしと、力量差。絶望感。それを泥濘のごとくしつこく、塗りたくられる。絶望の色に全身が染まるまで。
何度も、何度も。
何度も。
何度も。
骨が皮膚を突き出、何度悲鳴をあげても嘲笑とともに虐められ、爪を剥がれ目をくり抜かれる。舌を切り取られる。
何が面白いというんだ。
「何が、ここまで……私は。私を」
「礼には礼を。何度でも起こりうる不遇をお見せしましょう」
川辺にうつ伏せに喘ぐ鳳雛を見下ろして、指を鳴らす。冬季に肩を掴まれ揺り動かされると、夥しいほどの汗を噴き出して、鳳雛は焦点の合わない目線を返した。痛覚・時間経過ありの夢。疲労は回復するが、そこに催された副作用により心身は崩壊寸前まで追い詰められていた。これも鳳雛が望んで得た試練である。自分に四肢があるのが、まだ信じられないといった表情だ。安堵とも、これから苦痛が襲いくることへの不安にも見て取れる。
「現実ですよ。一つの生では数多の苦しみを祓うには短すぎる。そうは思いませんか?」
「……私はどうすれば、道を示してくださいませ」
「は」
彼は嗤う。花のように、夢のように。
誰もいない、ただひとりの、世界の支配者。
唯我独尊。
「ははははは!」
甘えるな、とも、いいでしょうとも、言わない。それが答えになってしまうからだ。たった一つ答えを得るために、人生を棒に振ることだってある。想像力が豊かで、ある程度の事象がその想像通りになって、それであれば頷けよう。こうも厚顔無恥に、若くも「インチキ」ばかりしてしまう気質に伸びてしまったことは。
だが、幸運なことは、ある。
「私に従えば、それ以外の全てもご覧にいれましょう」
瞼に映る雲霞の如くの大群。
それを相手に無双する己。
そして、それらを全て飲み込む、大炎。
この世を動かすのは熱意だ。想像のつく範囲で燻るものならば、己が被造物にすら劣る。宝貝でさえ進化するのだから、進化してみせろ。
冬季は、正直に本質を曝け出した。一の言葉と、千の夢で、鳳雛を拐かしたのだ。今や若き英傑はこの偉丈夫の見せる世界の虜である。
もっと知りたい。怖いもの知らずの少女は、怖いもの見たさに全てを捧げてしまうだろう。自分の檻の狭さを知ってしまった以上、瞳に渦巻きを描いて盲信的に、その強さと絶対さに憧れる。まるで「世界の答え」を見つけたと言わんばかりに。
「わかりやすいでしょう。立ち上がればいい、それだけですから」
「……よろしくお願いいたします」
鳳雛はゆっくりと立ち上がる。どこか浮世離れした、気だるさはもう感じられない。猟兵級とまでは言わなくとも、この世の困難さに立ち向かう気概の火種が瞳の奥にある。
これからの戦いに足手纏いになることはないだろう。もちろん……弄りがいも増しただろうが。冬季は表情で語る。――未だ未だ、物足りない、と。
成功
🔵🔵🔴
鞍馬・景正
剛柔両拳の皆伝者――花鶏殿の姉妹弟子ですかな。
彼女も卓越した才の持ち主でしたが、それを上回る神童とは恐れ入る。
……ですが、根は似た者同士なのでしょうか。
◆
拱手と共に名乗り、ひとまず川の渡しを願いましょう。
語るのみならず、少し趣向を凝らしたく。
対岸に着くまでに、鳳雛殿が私に触れられるか。
隙を作る為に言葉で惑わすも、舟を停めて焦らすも良し。
承諾されれば、舟に乗り【水月移写】の構えにて座禅を。
そして私が見て来た数多の異世界、そこでの戦を語りつつ――自らを狙う感覚は虚実を【見切り】、無想の打ち含め剣気で応じ未然に防ぎましょう。
――無事に到着できれば、改めて向き直り。
さて、退屈凌ぎにはなったでしょうか。
「……とは申しましたが、まさか渡河が目的でいらしましたか」
ギィコ……ギィコ……と、手漕ぎの船を巧みに操作しながら、向き直る。水上の小船、上には鳳雛と鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)しかいない。元よりそのタイミングを選んだわけではあるけれど、そうとは知らない鳳雛は「普段もお客様はいらすことは滅多になくてよ」と話している。
……私のような凡愚には、ふさわしい仕事ではありませんこと? と、同意を求めてくる。景正はそんな卑下する雑談には耳を貸さず、とある若い英傑のことを話題に取り上げてみた。
「たしかに私には、姉弟子と妹弟子がおりますれば」
永夜湖の雲雀。白夜山の花鶏。
そして、この連夜川の鳳雛。同門にして同じ人物を師と仰ぎ、異なる道を歩めど皆、未だ仙界の内にて修行に明け暮れる稀有な若き人財たち。
似たもの同士なのでしょうか?
景正は内心、そんな感想を抱いて水面に視線を向けていた。もちろん船酔いなどではない。馬上の方がまだ揺れるくらいだ。それよりも、そう、似ている。少し触れ合えばわかることだが、才覚はもはや一人間に与えられた輝きではない。何か契機を得れば間違いなく、世界に名を轟かせる英傑の一人になるだろう。ゆえに惜しい。どこかに、現状を良しとしている弱さがある。世界の広さを知らぬからか、はたまた教えに忠実すぎるからか。
「申し遅れました。私は鞍馬景正と申します。花鶏殿の姉妹弟子とお見受けし、腕試しを所望します」
「ご丁寧に感謝申し上げますわ」
無言は肯定だった。
ギィコ……と乾いた音が繰り返しに鳴って、遠くには不自然に大きな猛禽が羽ばたく姿が見える。
「勝敗は、そうですね。私に触れ、揺することができれば鳳雛殿の勝利としましょう」
「触れさえすればよろしいので?」
「はい」
櫂がぱたんと船底に落ちるより早く、鳳雛は一飛びで間合いへ身を投げ出した。花鶏とは同郷であり、彼女を剛拳の使い手と認識していたが、彼女のような瞬発力を応用すれば加速だってできる。その上で柔拳の要領で反撃を交わし、触れてしまえば――。
――ひゅ……っ!
「……ッ!?」
切っ先が、鼻に突きつけられる……!
踏み込めば、斬られる。斬られる?! そんな危機感に全身総毛立ち、鳳雛は牽制される。
いつのまにか抜刀していたかと思えば、そうではない。剣気――鳳雛は闘気と誤認しているが――その無想の打ちにて、見えざる防衛線を敷いたのだ。
じり、と足先にて距離を確認する。遠のいてもいなければ近づいてもいない。
「まるで手が届きそうにありません」
す、と身を屈んでみせる。船底に耳をつけ、目を閉じる。座禅にて景正がどのように察知しているのか確かめなければならない。
――ザザ……ザバァッ!
「思った通りでございました。魚群が通る頃合いかと思いまして」
仙界の魚、河川とはいえ雑魚ではない。大口を開ければ子供なら丸呑みしてしまうほどの怪物である。
その一匹が水面を飛び出して、景正の背後から一直線に迫ってくる。さながら生きた魚雷の如く、食欲に身を任せ口を開けて猛進する。闘気を感じられない魚が不用意に踏み込めばどうなるか。
「……」
様子を、鳳雛は瞬きすることなく見ていた。
コマ送りに迫る巨魚。触れることになる刹那、右と左に切り別れ、真っ二つに離れていく影。切断面、遅れて飛び散る血すら綺麗な円形を描いて船縁だけを濡らし、やがて大きく揺れたかと思うと、両川に遺体が浮かんでいた。闘気によってのみで実体を切断したのだ。殺気に当てられた鳳雛は、自分が呼吸をすることを忘れていたのに気づいて、ぶわと汗をかいてため息をつく。
櫂を得物にして突いてみても、結果は変わるまい。操舵できなくなる、という脅しも兼ねての奇襲だが、何かを「聞き分けている」様子がそもそもないのだ。言ってみれば鏡像に話しかけているようなもの。よもやこれほどの境地に達する武人がいようとは。内心舌を巻きながら、鳳雛は思案する。
生きている限り多かれ少なかれ発している生命エネルギー。これを極限まで厚く、身に纏うようにして集中している防御体勢。微動だにせず目を閉じているのが集中力の証左だろう。
突撃すれば魚の二の舞。踏み込んだ手や足がばらばらに引き裂かれるのは目に見えている。想像がつく。
「……んっ」
《降魔点穴》という技がある。
鳳雛が極めた、秘孔への刺突だ。それを彼女は、躊躇なく己の体へと打ち込んだ。爆破する寸前まで闘気を流し込み、自身に元々流れている闘気を相殺、コントロールする。いわば人為的に作った無我の境地。数秒から十秒にも満たない時間だが、己の肉体を幽鬼のように自律稼働させる。
闘気のないものに、どのように反応するのか? 試してみたくなった。
――そろり。
「……」
「……」
――そろそろ。
「……」
「…………」
仮死状態、もしくは極度のショック状態にて、前のめりになるように身を投げ出す。これなら触れられそうだ。無我の状態にて確信こそ得られないが……。
「………………はっ」
数秒経って、鳳雛が意識を取り戻す。彼女の足先、顔の向き、全てが景正の方向とは真逆に向いていた。
おかしい、と、疑う前に、鳳雛はその結果に不思議と納得をしてしまっていた。意識と闘気を限りなく零にしたところで、心中の恐怖心が消えるわけではない。本能が一度荒ぶる剣気に気圧されてしまった今、反射神経のように近づくことを拒否しているのだ。目の前に広がっているのは崖の奥底か、地獄の釜の口か。
「参りました。やはり私めには、世界には広すぎるかと存じます」
思えば、そんな弱音も客か、魚か、鳥かにしか話してこなかった。あえて苦境に孤独に身を置くことで心身を強化したが、その上で脆弱になっている部分もあった。滔々と、川の流れのように自分を卑下する言葉を語る。語り尽くす。自分の情けなさ、弱点、嫌いなもの、その全てを語り明かした。
言葉の惑わし。
本心を交えつつ、言葉の刃を持って斬り込む。景正に通じるかどうか、あらゆる手段を試したくなった。
それが思う壺とも知らず、彼女は勇気を出して一歩踏み込んだのだ。
そうこうする内に、一息に、景正の目的は完遂する。
話だ。座して歴史を語った。胸襟を開いて話すには、彼女の眼差しは浮世離れし過ぎていた。だからこそ、覚悟を決めた彼女に世界の真実を伝える。とはいえ、取るに足らない、ただの戦いの歴史だ。
それは御伽の世界の無貌の怪物であった。
それは海上の世界の最強の提督であった。
それは怪異の世界の進化の竜神であった。
無双の弓取りであり、帝竜であり、魔王であり、魔軍将であり――。
――篝火を持つ亡者であり、異端の騎士であったのだ。
――雷霆の竜でもあり、幻惑の鬼でもあった。
終わりなき戦いの歴史、猟兵を猟兵たらしめる血と刃の口伝。それは語るには簡単だが、想像するなど、できるはずもない。見てきたわけでもない冒険を、次の番は君だと言われたように錯覚して。心躍るような口説き文句だった。肩を並べて戦う機会をもらったのだと、幼児心ながらときめかせた。いつまでも変わらない川の流れに投じる一石。それも隕石のような、凄まじい衝撃と存在感を以て、今、心は大きく、大きく波打った。退屈だった、のだろう。手を伸ばしても死すまで手に入らなかった英雄譚に、触れられる奇跡。そしてその体現者が、自分に時間を割いてくれる幸せ。
私は恵まれている。私は愛されている。
生まれてはじめての、心を焦すほどの熱と、憧れを感じた。自然、首を垂れて――。
――対岸。
先に揺れ動いたのは、鳳雛の心であった……。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『海乱鬼』
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POW : 宝貝「霧露乾坤網」
自身が装備する【霧露乾坤網】から【巨大な網状に変化させた水】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【溺水】【窒息】【ずぶ濡れ】【体温低下】の状態異常を与える。
SPD : メガリス『百川学海』
【コンキスタドールとの交易で手に入れた火器】で武装した【屈強な海賊】の幽霊をレベル×5体乗せた【水を自由に生み出す楼船型メガリス】を召喚する。
WIZ : 奴隷船団
戦場に、自分や仲間が取得した🔴と同数の【奴隷仙人】【奴隷寵姫】【奴隷武侠】を召喚し、その【仙術】【篭絡術】【武術】【連携攻撃】によって敵全員の戦闘力を減らす。
イラスト:ひよこ三郎
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
河面を覆い尽くす大船団、『海乱鬼』が仙界を蹂躙した時、その轍にはペンペン草ひとつ生えない。奪い、殺し、隷従させる。世のものは「己のもの」か「いつか己のものになるもの」しか存在しない。
「視認いたしましたわ。指示通り、ぎりぎりの距離まで引きつけましては……いかがでしょう」
川底からの奇襲、乗り込んでの大立ち回り、果ては想像だにしない打開策。
どんな戦術も、雛鳥には薪となるだろう。心の燃料を、若き英傑は渇望する。
「哈哈哈! 胸が熱くなって参りました」
前哨戦。鬼との戦が、幕を開けて――!
アレクサンドル・バジル
さて、お嬢ちゃんは想像力豊かなのは良いが、実戦経験が足りてねえ。
丁度、経験値になるのに良さそうな連中が大挙して来てくれたんだ。
やるだろう?
(と鳳雛を抱えて飛んで《空中浮遊×念動力》船に乗り込み、全滅させて次の船へという行動を繰り返します)
船に飛びいると同時に『神魔審判』を発動。(ただし攻撃せず)
鳳雛を暴れさせて彼女が危ない場合のみ、その敵を破壊消滅させます。
(万一彼女が傷を負った場合は即座回復「はい、一回死亡だ」)
その間、自身は適当に殴る蹴るで敵対応。
(面倒になったら船ごと消滅させます)
※演出として可能なら『闇黒炎雷』で戦場の船全ての帆と櫂を焼失させます。
とりあえず、鳳雛は褒めて伸ばす方針で。
「……ふう」
想定内だ、と鳳雛は天を仰いで思う。
浴びせられかける怒号も、手や足を抱えて悶絶する水賊たちも、怯え惑うその奴隷たちも。……喧しいどころかむしろ静かだ、とさえ感じてしまう。流れる川が一定だと思うこと自体が大きな過ちなのだ。
静かな眼差しをぶつけ、見下すように辺りを見回すと男たちは目くばせする。
「我々も死にたくないのです」
「悪く思うな」
「乗り込んできたあなたが悪いのよ」
首枷や重し、痛ましい傷痕を心身に残す奴隷仙人や寵姫、武侠が『海乱鬼』たちを庇うように姿を現した。皆奴隷として調教を施された、命を捨てて戦うことも厭わない哀れな被害者である。
「鍛錬不足でしょうか。私のような者に屠られるとは、同情いたします」
「何を言ってる! 死ぬのはお前だ!」
「哈哈哈! 参られませ」
顎を突き出して五指をぴんと揃え上に向ける。その挑発に大挙して襲いかかる奴隷たちだったが、すり抜けざまその指による刺突を受けた途端、ぶくぶくと体を破裂させ倒れてしまった。
「励んでるな」
そんな様子を見て、首の裏に手を当て、バジルが船に降り立つ。河川上にて揺れる船艇で、超然とした様子に慄く周囲。
二人、否、恐るべきはこの男のみだ。だのに倒すどころか剣撃一つ掠ることもない。
「驚愕しております。私などに斯様な機会をいただきまして……」
「言ったよな? お嬢ちゃんには、実戦経験が足りてねえって」
――バキィイッ!!
「ぶげらっ?!」
「話してる途中だぜ。耳元でブンブンブンブン、鬱陶しいったらないな」
裏拳で、肉薄した悪漢一人を打ち倒す。
その眼差しは鳳雛の見下すものとはまた違う。経験値だ。それも自身のではない。未だか弱き少女。その実戦となれば、これ以上に格好の存在はない。適度に粗暴で、数も多く、手段を選ばない。
やる気を促してやれば応えてくれる。僻地とはいえ足を運んだ甲斐があったというものだ。
「もっとも、『それだけ』じゃないがな」
「てめえ……クソっバケモノめ!」
「なんだ。逃げるのか? カカ!」
もっとも、この広い河川の上である。船伝いに渡られてしまえば全員を打ち倒すのも難しい。……裏を返せば物量に任せて押し寄せて潰す手も打てるわけだが、そうしないのは溜息ものだ。
ともあれ、決闘するわけでもなければ、虐殺したいわけでもない。
「面倒だ」
心躍る徒手空拳のかち合いとは程遠い。
天へ向け手をかざす。なんてことはない。あくまで水賊の恐るべき戦闘力は個々の戦闘力と物量、奴隷たちを活用することによる種類の多さ。それだけだ。彼らが足として使っている船は何の変哲もない、ごく一般的に使用されている代物である。
ならば、と、かざされた手のひらから放たれたたのは迅雷、そして火炎である。戦場に雨霰と降り注ぐそれは爛れたように歪に変色している。透明でも無ければ青でも紫でもない。ただただ黒い。バジルという男の本質と性質をそのまま色として塗りたくったかのような黒い色彩。
逃げ惑う海乱鬼たちを尻目に、船尾と横に向かって降り注いだ雷炎は、瞬く間に帆、櫂、さらにはおよそ推進器になり得る全てを焼き払った。
「ば、バカな……!」
「船が……あぁ!?」
燃え尽きていく。燃え盛っていく。
野望と共に灰になっていく航路に、しかし一瞥もくれることなく興味も持たず、鳳雛はその船の残存勢力を淘汰していく。こういう視線を向けられることには想像ができていた。かつての師も、斯様な驚きと恐怖と、忌避を込めた眼差しを向けたものだ。たしかに今思えば、奥義まで口伝で体得しては「可愛げ」というものがなかった。人からの目線に鈍感だったのだ。何をどう言えば、どう思われるかということに想像力を働かせなかった。
その悪癖は、今でも残っている。
だから――。
「やるじゃないか」
「……はい!」
「もっと、やれるだろう?」
「はい!」
鳳雛はバジルの小脇に抱えられて、宙を舞う。
時間にしては僅か十秒にも満たないことだが、彼女にはもっとずっとスローモーションに見えた、感じられた。燃え盛っていく船を尻目に、重力に反して高く飛んでいく。
圧倒的な高みから、まるで手を伸ばして頭を撫でてくれるような声かけ。言葉。ともすれば、鳳雛という若い英傑が、いかに成長を遂げようとも届かない遥かな天にいるのに、褒めるという労力を割いてくれる。それが感動でなければなんだというのか。
生まれて初めての快楽であった。何かを覚えることは、全て想像の範疇に収まっていた。だからこそはっきりとわかる。自分の身に起きている想像だにしない出来事。あまりに大きな掌を持つ、超越者。
「じゃあ次だ……お」
次はだいぶ骨がありそうだぞ。と舌を出す。蛇のような舌だ、と鳳雛は思った。茂みの奥底や、川のうねりに潜むような蛇と重ね合わせて、一人合点する。そういえば蛇は神の使いであると聞く。こんな状況だ。神や悪魔が戦場に降りたってもおかしくはない。
こうして船から船へ、退避手段を奪って即席の闘技場を現出しながら『海乱鬼』の数を減らしていく。浮遊のできるバジルを足代わりにするのは若干の忍びなさを覚えるけれど、結果もっとも効率的な働きを見せている。
さて、次に降り立った船上にて、鳳雛は訝しげに鼻を鳴らした。
上を見上げると、バジルは宙空にて両手を枕に降りてくる気配はない。
ここでヘルプを出す、という手もない彼女は、可能な限り姿勢を低くして周囲の様子を窺う。もはや襲撃は読まれた上で、何かしら罠を張り巡らされていることは想像に難くない。陣営を思い返せば、人・仙の混成軍だったはず。ならば、と船底へ向かって五指を這わせ、手際良く船を破壊する。
――グシャ……メキメキメキメキ……!
「この空気。籠絡術、または催眠導入か、麻痺毒かですか。概ね把握致しましたわ」
「なら、一緒に藻屑にしてやるぜぇガあ!?」
「……申し訳ありません」
長居は無用です、と。
傾く船、真っ二つに割れて沈んでいく船から四方八方襲いくる水賊を踏み台にし、二歩、三歩駆け上がって、空中のバジルへ手を伸ばす。
「なんだ。手を借りたいんだな?」
「次の船へ、お願いいたします」
その勢いのまま、掴んだ手を思い切り振り回し、流星のようにまた別の船へと叩きつけられる。
勢い余った。過失があった。勢いのまま転がる鳳雛に、兵士たちが襲い掛かったのだ。
――バキッ! ガスッ!!
「……ぐ」
「へ、へへへ!」
「こんガキが……!」
一太刀目をへし折り、二太刀目を破砕し、前転で回避したその矢先、無防備な足目掛けて肘打ちが、さらに、顎へ痛烈な膝蹴りが打ち付けられた。
ぱたた、と鼻血を噴き出して、しかし悲鳴は漏らさず、即座に体勢を立て直す。痛い。痛覚以前に、手傷を負ってしまったことへの、心傷が抉られる。殴られたことのないものが受ける痛みは肉体よりも心的な外傷へとなり得る。拭っても血が治らない。鼻にダメージを受けたせいで涙が溢れる。
痛いだけの苦痛など、いくらでも想像がつく。ついていたはずだった。なのに、どうしてか涙が止まらない。啜り泣きながら川沿いの小屋に戻って、そのまま枕に顔を埋めて泣き腫らしたいくらいだ。
こんな顔をバジルに見られるくらいなら死んだほうがマシだ。
「はい、一回死亡だ」
「……は」
「よく反芻しよう。これからもっと痛い思いをすることになるんだ。覚悟が足りてねえ自分を呪え」
呪いは時として、祈りにも力にもなり得るものだ。カッコいいとかかわいいとかステキとか、そういう憧れが執着に変わってしまうように、思い詰めるほどの強い情動は時として大きな変化をもたらす。
だから言ったのだ。生かすも殺すも、神次第。すなわち気分次第だ。強い思いが、生き死にをまるで児戯のように左右する。
だからこそこうして褒めて伸ばすし――。
「思う存分やりな。楽しむくらいの気持ちで、な」
――アフターケアもフォローもする。戦場に事前に張り巡らせた《神魔審判》は無情なる判決を下す。直向きな若き英傑には即時の治癒を、愚かな水賊たち……特に万一にでもヒナにダメージを与えた者には、終わりなき苦痛と共に果てる破壊消滅の末期を。
繰り返しになるが、バジルは自由な存在だ。だからこそこの戦場も己が手の内でコントロールするし、アンコントロールになることを許しはしない。もっとも、この程度の数に任せた「雑兵」不測の事態など起こりようもはずがなかったが。
「次は死んだつもりで気張れよ」
「はい!! まこと、まことに申し訳なく……」
そういうのはいいから、と再び小脇に抱えて彼女を次の戦場へと派遣する。
鬼と称されるほどの残虐な水賊でさえこの程度、全ては彼の思うまま、庇護かにある英傑が糧とすべく、ひたすらに戦いを挑んでいく。
「……こんな私と思っていましたが、今は不思議と、無二の存在だと実感しています。超越者たる存在に見そめられて、共に戦場を駆けられる幸福。これを噛み締めなければ、女一つ、この地に生まれた意味すら否定することになりますれば」
「何が言いたいんだよ」
「憧れ、好いております。狂おしいほどに」
「十年早い」
世が世なら、彼を讃える歌や書物が数えきれないほどに手がけられ、彫刻や神殿の建立も後をたたないであろう神秘存在。そのカリスマにあてられ続ければ、英傑とはいえ年端もいかない少女の身、首を地に埋まるほどに擦り付けて好意を露わにするのだって決しておかしくはない。
それがどれほど即物的で、視野の狭い話かは言うまでもないが、バジルはそれもまた自由かと勝手に首を傾げて。
……そして、テキトーに流すのだ。この黒い炎を別の何色かに染めるには、まだまだ青すぎる。
ひとつ、予言するとすれば、ここは仙界。人の想像を超えることが起きる場所。不可思議の地。ならば、思わぬ邂逅を用意していることだろう。今は微笑する彼にも、少なくない驚愕が待ち受ける。遥か彼方の地平より、黒き炎にも負けぬ熱く迸る大炎を予感させる。
――刮目すべし。次なる出会いを、数多の偶然が産んだ、さらなる奇跡を……!
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「口伝で奥義を会得し三顧の礼まで求める貴女のことを、何となく軍師のように思っていましたが。そうですね、貴女は武侠なのでした」
笑う
「(小声で)私が合図したら、彼女を連れて陣の外まで離脱しなさい。(大声で)貴女が世に出る第一歩があちらからやって来たのです。是非とも会得した奥義を見せていただきたい。有事の際は、黄巾力士が補いましょう。鳳雛が孤立せぬよう重傷を負わぬよう庇え、黄巾力士」
黄巾力士に鳳雛のフォロー(制圧射撃での敵の行動阻害、敵の攻撃をオーラ防御で庇わせる)と退避命じ、自分は風火輪で空中へ
敵船団全てが入るよう八卦天雷陣重ね、書き上がったら合図しUC使用
「全ては貴女の協力のおかげです」
嗤う
冬季の笑顔は魔性――である。
先ほどまでに十二分に「わからされた」鳳雛にとって、その笑みは、いつまでも見ていられるような忘れられない感動と、忠誠心を植え付ける。生命の格としての上下関係をはっきりと自覚した今、冬季の笑みの微細な違いは見分けられない。ただ微笑んでくれるだけで、心の奥底から力が湧き出てくるかのようだ。
がっしりとした頼り甲斐のある手が、鳳雛の頭を撫でる。犬のように喉を鳴らし、彼女は言葉を待った。
「貴女が世に出る第一歩があちらからやって来たのです。是非とも会得した奥義を見せていただきたい」
「……はい! 必ずや! ご期待に応えてみせますれば」
「私には準備があります。ですが――」
……ですが、有事の際にはこの黄巾力士が守りましょう、と、背後に鎮座する自作宝貝を見遣る。人間の等身大程度にリサイズし、一体のみだが、先に与えられた恐怖と身をもって体験した威力に鳳雛はゴクリと唾を飲み込んだ。
輝く瞳は、冬季の口元が何やら「文言」を呟いた、その様をまるで見ない。
「もったいないことでございます。厚意を無駄にはしません」
自分より格上の存在が気にかけてくれる。孤独に生きてきた彼女にとってその「評価されている」甘美な感覚。
視線を背に感じながら、一切の違和感なく、鳳雛は一目散、敵船へと駆け出していった。狙うは本丸。船団の中心にある本船ともいうべき巨大船である。
「な、なんだァ?!」
「こいつ……ぎアッ?!」
鳳雛が舞い上がり、着地するまでに一仕事をこなす。黄巾力士はみるみる巨大化すると船の舳に組み付き、両手の甲から弾丸を掃射し始めた。
大経口の放たれる弾丸が木造船を瞬く間に蜂の巣にしていく。一面に散らばる血糊と肉片に足を取られないようにしながら、鳳雛もまた勢いに背を押され駆け出す。顔面に刺突を繰り出すと『海乱鬼』の顔面がみるみるうちに膨れ上がり――。
――ボンっ!
「《降魔点穴》……その身でしかと味わいませ」
「……ぁ……が」
「聞こえてはいないでしょうが」
私などの言葉に耳を傾ける必要もないですよね、と呟く。慄く水賊たち、返り血に染めた指先を向けられると、触れられるまでもなくびくりと身を硬直させた。
微動だにすれば先手を打った鳳雛が逆に猛進してくる。動かなければ舳に控える黄巾力士が掃射で絨毯爆撃を仕掛けてくる。他の人形ならいざ知らず、冬季の被造物がフレンドリーファイアなどするはずもない。完璧な包囲網を、効率の良い掃除場へと変えてしまった。これも高位の仙人である冬季だからこそなせる御技であろう。
その、冬季はというと。
遥か上空にいた。
戦場全体を俯瞰できる位置。恐るべきは、この封神武侠界、人界と仙界に交流を持ち、特に過酷な地帯が自然のまま残っている。かなり高高度に圈――風火輪を装着して舞い上がった。風と火を動力源にするこれもまた宝貝のひとつである。ブーツのように足に装着すれば空を自由に飛び回れるが、訓練なしに使いこなそうとするのは至難の業。せいぜい上下逆転するか、下手をすれば足だけが肉体を切り離して飛んでいってしまうこともある。
この戦闘用の宝貝を移動のためと割り切って使っているのだから、底が知れない。
鳳雛はこの事実を知らない。自身の戦いぶりを見てくれていると信じている彼女が、実は彼は高高度に位置してずっと遠くにいる知ったら、とても落胆するだろう。
「もっとも、視力も人より劣っているつもりはないがな」
敵が乗りこなす船も大きいが、前に別世界で見かけた『ガレオンドラゴン』には及ばない。アレは乗員の有無によらず、船そのものが意志を持ち、天を翔る代物であった。あれほどのスケールがなければ被造物を強化する着想たり得ない。もっと雄大、かつできれば人工物である方が望ましい。
唯一驚くべきは、そう、つまり先に述べた仙界の自然だ。どれほど高度を高くまで上っても対岸が見えず、そして巨大化させた黄巾力士が川底に足をつける様子もない。言葉を翻すようになるが、一朝一夕で作れないものもある。それこそ神が気まぐれで作ったような自然だ。「自然」として「そういうもの」だ、と一笑するのは簡単だが、そこに存在するものにここは無限に広がっていると錯覚させるエレメントが付与されているのか。
いずれにせよこの地に走る龍脈が、超自然的な環境としてこの河川を実在させている。どこに向かい、どこから流れてきているのかもわからない。そもそも流れている水が果たして「水」なのかさえわからない。
物思いに耽っていると、ふと、眼下にて、黄巾力士が防御のオーラバリアを厚く貼り直したのを見て取った。
腥風に砂塵の弾丸、熱に氷片と仙術を攻撃に織り交ぜているのは、海乱鬼が奴隷を使役しているためだろう。奴隷といっても人間ではない。仙女、仙人、武侠。生きる尊厳を奪われ生殺与奪を握られ、戦いたくもない相手との死闘を強いられている。
「仙術か。黄巾力士の守りを抜くほどじゃない。……それよりも、存外粘るな」
あの時の不遜な態度を思うと、どうしようもなく笑えてくる。どちらかと言えば伏龍ともいうべき、三顧の礼を乞う姿勢。晴耕雨読のような生活。口伝で奥義を体得する、人にしては優れた聡明さ。
何となく軍師のように思っていましたが、そうですね、貴女は武侠なのでした――そう声をかけてやると、表情を綻ばせていた。
愛くるしい。アレは……そう、帝都桜學府に飼われている番犬を彷彿とさせる。犬を可愛がろうと、戦力が集中するこの瞬間が待ち遠しかった。時は来た。
「ではそろそろ始めるとしましょうか」
時に、无妄という言葉がある。
万物が天の摂理に従って生を遂げるという、世の理を示すものだ。この場合は、やや乱暴な言い回しをすれば、運命だとか宿命だとか、そういう決まった命数を指すものである。いつわりなきこと、自然にそうなること。正しきにあらざれば、天空に雷鳴が鳴って何の良いことはない。上爻である。
无とは無、妄はみだりに信じるといった意味合いになる。无妄は、元いに亨る。それ正しきにあらざれば災いありて、往くところあるに利ろしからず。
「木火土金水相生せよ」
天に掲げるは雷公鞭、宣ずるは手中にある属性全て。
この地に宿る気はたった今確認した。だからこそ雲にまで届くほどの上空へと飛んだのだ。川の全容が把握できようとできまいと、船団の先頭から端まで認知していれば問題にならない。
縄梯子が中央船にかけられ、続々と集まっている。なんともいじらしい話じゃないか。砂糖菓子に群がる蟻をみているかのようだ。視線をくれてやるのも惜しい。怒号とも悲鳴ともつかない言葉が聞こえる。自分がその全てを一身に引き受け、倒すという気概がひしひしと感じられる。これもまたいじらしい。无妄、无妄无妄須く无妄!
「木金火水土相勝せよ、相乗せよ相侮せよ生ぜよ滅せよ比和せよ比和せよ比和せよ比和せよ」
白雲に雷を宿し、黒き雷雲に変容させる。気を巡らせ、重なる属性をひたすらに強化していく。図を描く、というとイメージが難しいが、手遊びの遊戯(パズル)のようなものである。手に小さな雷雲を作るならいざ知らず、戦場全体にこれを起こすとなればそれなりの準備が必要なのだ。
大儀式。これが人の営みがなされた社会であれば天災となってしまうだろうが、今回は違う。
――私が合図したら、彼女を連れて陣の外まで離脱しなさい。
無機の瞳に、命令の眼光が瞬く。
そう。もちろん、唯一、人らしい有り様を晒す(しかも都合よく聞き流していた!)英傑へのフォローも忘れない。事前に命令をインプットしていた黄巾力士はオーラを解くと、鳳雛を抱えて水中へと飛び込んだ。戦場の中でただ無風の場所、水の中。そこ以外の生きとし生けるものに裁きの雷を下す。図は、完成した。ついに描き切ったのだ。
「……万象流転し、虚無に至れ!」
暗く立ち込める暗雲から、光の柱の如く直線を描いて、合図のように雷が落ちた。
極大術式《八卦天雷陣・万象落魂》。
まずは万雷が戦場に降り注ぎ、術式を同時に展開する。これが檻のような役割を持ち、内部の敵性存在を閉じ込める。そこで颶風が起こる。一般に中庸、陰陽のどちらにも極端に傾かないことが善とされる中で、五行を流転され属性が極めて高まったりするとどうなるか……均衡を保てなくなった肉体は魂と乖離し、ばらばらに崩壊する。
外向きに向かうエネルギーに内から破裂するもの、内へと向かうエネルギーにより圧壊するもの。動的な破壊衝動に身を任せ自身を傷つけるもの、静的な情動により心臓を自動に停止させるもの。マイナスとプラス、二つの属性のうち片方だけが過剰に供給されることにより、耐えられぬ无妄をあるべき形(しかばね)に変えてしまうのだ。
やがて中央一帯が壊滅し、黄巾力士の肩に捕まって鳳雛は水面から顔を覗かせた。たっぷりと息を吸い込んで、それでもわずか一分か二分たらず。その間に周囲に痛いぐらいに集まっていた闘気が霧散していた。この世から消えてしまったのだ。……凄まじい死臭がするはずの戦場は、しかし陰陽の均衡が再び戻ったことにより、それほど気にならない。
……どころかむしろ、普段より過ごしやすいくらいの穏やかさを保っている。花が咲き蝶の舞う春の穏やかな昼下がりを想像させる。極楽とは、きっとこんな地なのかもしれない。そう勘違いしてしまうまでに、ひどく平穏だ。
――ザバァッ……!
「お疲れ様。全ては貴女の協力のおかげです」
水面でもがく彼女に、冬季が手を伸ばす。
その表情が、大きすぎる日輪を背にする逆光のせいでよく見えなかったのは、鳳雛にとっては幸福なことだったろう。彼は嗤っていた。
数多の賊を屠ったからか、あるいは全く別の理由からか。
その手を握り返した頃には、柔和な笑顔を取り戻していて、遠巻きに未だ水賊が蔓延る戦場。
蹂躙は、終わらない――!
大成功
🔵🔵🔵
御倉・ウカノ(サポート)
基本的にはUC『狐薊』を使用します。
大太刀を振り回して豪快に吹っ飛ばす戦い方を好みますが、共闘する時は連携を強く意識して戦います。
戦いを始める際は囮もかねて見得をきってから切り込むことがあります。
遠距離で戦うのは苦手なので、とにかく距離を詰めることを意識します。多少無茶をしてでも相手を自分の得意な距離で戦わせようします。
「おっとっと……ぐらつく。ここは、あれか? 船の上か?」
御倉・ウカノ(酔いどれ剣豪狐・f01251)は応援に呼ばれて、水上、否、船上の揺れに紅潮した頬をふるふると震わせる。
若き女英傑は肩を貸しながら、頭を悩ませる。水賊はもちろん、彼女もまた揺れに頭を捻っていない。さて、どうしたものか。
「へへへ、気分が悪いなら手を貸してやるよ」
「っとわるいね……おっと」
抜き身の大太刀がぶるんと振るわれて、踏み出した水賊の指先に切っ先が掠める。
わるいわるい、と惚けるが、ウカノの目はすでに「悪い」気を捉えて離さずにいた。酒とは友にして百薬の長、あって困るでなしないと困るもの。それで悪化するコンディションならば。
「水に流して捨てちまえ、か」
「なんだコイツ……動きが」
「酔拳か。武侠……!」
そんな単純な言葉で語り尽くせるほどの奥深さならそこまで溺れることもあるまい。
水面に浮かぶ英傑の瞳の輝きを肴に、いざ一花、大立ち回り。
「とまあ、こんなところかね。酔い覚ましにもひとつ、付き合ってもらおうか」
剣鬼舞う、その背に英傑を守りつつ、狐薊が鮮やかに咲くのであった。
成功
🔵🔵🔴
鞍馬・景正
ふむ――やはり童は元気な方が良い。
ええ、共に戦いましょう。
◆
情報が確かなら、船には奴隷も積まれているとか。
もしいた場合には彼らを助けねば。
私が甲板で敵を引き付けます故、鳳雛殿にはその隙に船内を探って頂きましょう。
ひとまず舳先に【紅葉賀】による火矢を射込み、陽動をかけつつ船上に乗り込み。
【早業】の連射で海賊のみならず甲板にも打ち込んで火の海にしつつ、敵との間の防壁かつ目晦ましに。
宝貝が発動されれば、網目の一角を【斬撃波】で切り払い、躱すか威力を減じさせましょう。
そして炎が消され、視界が晴れれば、再び矢を放ち一気に殲滅を。
粗方仕留めたら、小舟を出して鳳雛殿や奴隷たちを迎える支度をしておきましょう。
結論から言えば、火箭の炎で逝くのであればかえって幸せなことであったかもしれない。
河が燃えていた。船が燃えていた。空が燃えていた。
「心配に及ばざれば……必ずや救える命を拾いましょう」
すでに返り血と、汗と、何物かもわからぬ液体でドロドロの少女は、奴隷たちにそう言い聞かせると、奪った小舟に押し込んだ。追っ手が迫っている。これなら、被害者たちも切り捨てた方が容易にことは運んだろう。そう予想がつく。
「思うに、あなた様はお言葉が上手に思います。姉妹弟子も、手合わせなど、工面してあげたのではありませぬか」
「……は?」
「こちらの話でございます」
この場にいない彼へと声をかける。
……不思議なものだ。共に戦いましょう、と声をかけてもらえただけで活力が漲る。賊を屠る手にも力が入ろうものだ。その気配を悟ったのか「ふむ――やはり童は元気な方が良い」と、子供扱いされるのも、なんだか撫でられているようで心地いい。
味をしめてしまう。
「では、参りましょう。揺れますので」
舳から小舟を漕ぎ出すと、甲板へ向け合図を送る。こと河での移動において、賊の船が密集していようと、追いつかれるヘマはしない。
舞い散る赤き炎の逆光で、黒黒とした背中が一層大きく見える。
「鳳雛殿! 成しましたね」
「余所見してていいのか?」
「ええ」
――ザンッ……ザシュッ!
「ぎぃあ?!」
肩口から体の中心まで斬り伏せると、蹴り倒して群れを見回す。統率が取れていない、個々の武力。
「特に問題ない、と判断しますが」
「これを見てもそう言えるか、試してやる」
奪ったばかりの宝貝をその身で味わえ! そんな怒声と共に、怯むことなく「何か」を次々投げつけた。野球ボールサイズだった物体は、賊たちの手を離れるや否や空中で解けるように広がり、視界を覆い尽くす。形状が球から立体的な捕縛装置、網へと変じたのだ。
宝貝「ムロ県根毛」――握り込んだ水を膨張させ、礫状から巨大な網状に変化させる代物である。本来多対多で効力を発揮する制圧型の武装だが、追い詰められた『海乱鬼』はともかく有効そうなものをと繰り出したというわけだ。
「下策!」
――ひゅ……!
抜き放った刀が、網目の一角に放たれる。刀身が届くよりなお早く、斬撃が命中する。ぱん! と乾いた音と共に、水滴となって弾けた。
「バカめ! 水が斬れるか……ん?」
海乱鬼たちは混乱する。
霧露乾坤網が捕らえたのは全くの空。何者もない空間を掴んだのみなのだ。まさか今まで会話していたのは幻だったのか。いかに宝貝とはいえ幻影を捕縛することはできない。狐につままれた表情で辺りを見回す。
「消えただと?! 宝貝と炎の壁で逃げ場なんてねぇはず」
「バカ、どこだ? 落ちたか?!」
「離れてく小舟があるぞ!」
情報が錯綜し、再び混乱の渦が巻き起こる。その中心に撃ち込まれる――一矢!
――ドヒュッ!!
「――焼き滅ぼさむ、天の火もがも。……沈みなさい」
ばっと見上げる。燃え盛る炎の竜巻の中心部、空中から放たれた火箭の流星が、水賊の一人と、貫通して船体を轟々と燃やし始めた。海乱鬼は、その炎が「任意に消失できる」ことを知らない。焼かれる間際に跳躍し一度包囲を逃れたのち、改めて密集したところに射かける。景正の類い稀な戦術眼が、欲望の腕(かいな)を砕く。
祈りを捧げ、集中し、一射放つ。そんな入魂の一撃を精度をそのままに雨霰と乱射する。
――ゴッッ……ボォウッ!!
悲鳴、悲鳴悲鳴! 周囲を瞬く間に火の海としながら、悠々と船を後にする。傾きつつある影を尻目に、大跳躍で小舟へと渡る。
「お疲れ様です」
「そちらこそ。首尾は?」
「見ての通りでございますれば、上々であります」
揺られる縁に掴まる景正を労いつつ、鳳雛は櫂を操作し巧みに小舟を動かしていく。
奴隷たちを川辺に先導する。この地に迫る脅威は水賊だけではない。しかし、炎上し焼け落ちるか、永劫奴隷の屈辱に甘んじるか、それらの選択肢に比べれば活路を求めて陸路に入るのは自明である。崩れ落ちる仙人や仙女、武侠たち。生きている実感も湧いてこないようだ。荒く肩で息をついている。
そんな様子を見ていて、ふと鳳雛が熱い視線を向けてくるのに気づく景正。
「いかがされました?」
「私めが敵の手に落ちる時は、見捨てていただいて構いませんので」
「未だそのようなことを? 頷くわけにはいきませんが」
「他意はございません。ひとえに、優れたる武辺は、言葉の刃も長けているもの。まるでそう、天下を統べる帝のような。そう邪推しますれば」
そうでなければ「奮起させろ」と、言ってるらしい。この英傑、あろうことか味をしめている! しかも……独特、言い回しが奇妙だ。見えない姉妹弟子(なにか)と競っているような気配があった。
謙っているのに、それでいて尊大。孤独であったはずなのに、強く意識する何かがある。
回りくどい。意思を揺さぶるような声をかけられた経験がなさすぎるためか、褒められたり共闘したり、そういう触れ合いに飢えているのかもしれない。見れば瞳の色も燃え盛る炎のように、影響を受けて朱に染まっている。ひとたび戦場に出たならばその色に染まれ、と言うのは簡単だが。
急激な成長は、焦る、が、しかし――心地いい。
「英傑の血、ですか」
黒曜石の角を撫でひとりごちる。己もまた沸る血を抑え込むのには苦労する身。解放させてやらなければ、むしろ負荷となってしまうことも、知っている。
「ただ……」
「ただ?」
「ただ、戦後手ほどきを、私めも、と期待するのは、高望みでありましょうか」
現代風に言えば、放課後にデートをしようか、くらいの意味合いではあるが、景正も果たして十年前に、そんな甘酸っぱい思いを抱いていただろうか。ふと、角に触れる人差し指を強張らせて首を傾げる。表情に出なかったのは奇跡に近かったろう。
もじもじと顔を赤らめ、言いにくいことを決心して伝える。戦いばかりでこういう搦め手には得意でない景正にとって、あしらう文言は辞書に載っていない。
そういえば。直近、英傑と触れ合った依頼ゆえ、そんなことまでこの子に語っていたか、どうか。そもそもどこまで話たか。戦闘の最中に記憶を手繰ろうとして、鳳雛の特質に気づく。想像力が豊かなのだ。あらぬことを考えて、悩むものなのかもしれない。
「まずはこの方々を安全な場所へ」
「はい」
感情の向け方や発散の仕方がわかっていないのか、世界の広さに打ちひしがれていた先程の姿とは打って変わって逞しい。若者が笑い、朗らかに、成長していく様の、眩しい様よ。多少背伸びしていても、その背を支えてやるのが先達の務めか。
「……いささか急すぎる気もしますが、一考しましょう……まずは」
降りかかる火の粉を払わなければ。
ギリギリと強弓「虎落笛」を引き絞る。
「シッ……!」
洋弓ならば三百メートル、和弓でも四百メートルが最大射程の精々とされる中で、弓の名手である景正が正確に狙える範囲は千メートルを超える。正確に測った試しはない。目に映る範囲ならば、必ず射れると豪語するからだ。
事実、航行可能な船を見定めると次々に甲板へ撃ち込み、炎上させていく。視界が晴れたと見るや否や、二矢、三矢と。一度退いたのは矢の補充をするためだ。射掛けた矢を回収してもよいのだが、対軍団戦ならば消耗は致し方ないとの考えだ。
それに、延焼する火箭は目眩しにもなる。効果は実演済みだ。
「すごい……」
「それほどでもありません。世には私の倍の体躯もある方もいれば、手のひらに乗る方もいます」
「なんですと」
オブリビオンに捕まりさえしなけれは、奴隷に貶められた仙人たちもそれなりに奇跡を見せるだろうが、これは言っても仕方ない。できるならば身の安全と今後を保証してやりたいが、継戦中だ。
そろそろ汗ばむ肌への滴りも煩わしくなってきたところだ。
「遠い外へと飛び出せとは言いません。ですが、船を漕ぐだけでなく、たまには河原を駆けてみてはいかがでしょう」
特に馬の早駆けなどはいたく感動するものだ。人生の半分を馬上で過ごした、といっても過言ではないくらい、騎走を愛している。振動、そこから見える光景、手綱を握る感触、風。そう、風となる一体感を忘れてはならない。話が逸れてしまったが。
夢中になれ、ということだ。
忘我しろ、ということだ。
「馬拉松でしたら、心得は」
「それは歩行(かち)では……?」
――さておき、今日はいやに暑い。戦いが帯びる熱、だけではない。
焦熱に体の内から焼かれているかのようだ。
「鳳雛殿、時に此処は普段からこれほどの気温で?」
「いえ。記憶している限りにおいては、はじめてでございます」
心当たりもないらしい。
試しに延焼を全て消してみるか、とも思ったが、撃ち漏らしがあってはそれもまずい。
「乗り込みましょう。先ほどと同じ手筈で参ります」
「は!」
脅威が迫りつつある。水賊とは比べるべくもない、何かとてつもない大きな存在が、異変を起こしている。敵が味方かはわからないが……。
繰り返しになるが――火箭の炎で逝くのであればかえって幸せなことであったかもしれない。
河が燃えていた。船が燃えていた。空が燃えていた。
空が燃えるはずもないのだ。天が気まぐれに灼くでもない限りは、あるいは予想だにしない奇跡が起きでもしなければ。
景正の胸騒ぎは、成功の戦果を収めてなお収まる気配がない。どころか、むしろずっと勢いを増すように、むくむくと膨れ上がる。
「強者相手ならば……その時は」
――燃える炎が、また一つ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『虚ろなる処刑人』
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POW : 首を刎ねる
自身の【雷光を纏った剣】から、戦場の仲間が受けた【ユーベルコード】に比例した威力と攻撃範囲の【雷の一撃】を放つ。
SPD : 咎人は拘束する
【拘束マスク】【両手を封じる手枷】【鉄球の付いた足枷】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 罪を告白しろ
質問と共に【雷光を纏った檻】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
イラスト:なみはる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
砂塵に舞う世界に、燃える唯一絶対の炎。
日輪と見紛うは「シバの炎」である。
高温で燃え盛るこの炎の特徴は、決して「消えない」ということだ。
地に擦っても、水に浸かっても、仮にその場が真空であったとしても、絶対に消えない。反面、仙界といえど一度この炎を放ってしまえば環境変動は免れない。消えぬ炎は地を遍く焼き焦がし、いずれは流れる連夜川を「シバの炎」の川へと変えてしまうだろう。
斯くして彼の名はあまねく天下へと広く知れ渡っていく。「炎」と共に。
彼が、炎を放つ時は、対象を敵と見定めた時だ。
「余の命を騙り、英傑に仇なすものよ、この屠龍刀の錆となるがよい」
『虚ろなる処刑人』たちが慄く間もなく、剣を抜く暇さえ与えず先制の炎を放ち、そして戦場に悠然と現れた好丈夫。見た目の齢は五十代そこそこだろうが、たくわえられた髭は威厳を感じさせ、体に漲る闘気は若者のそれに劣らない。
その姿を見て、若き英傑・鳳雛は自然と平伏する。心に何度も思い描いてきた、想像だけで姿を克明に描くことができた、天下を統べる「勇」の体現者。数多の伝説から実在を疑う己を必死に押し殺して、しかしどうしても夢見てしまう「頂き」の存在。滂沱と涙を流して拝んでいる。
「時に、汝らは『此れ』に抗う存在であるな? よい。一目見れば分かるぞ、我が国でこれまで余が出会ってきたどの英傑よりも強い! 股肱の臣として迎えたいところだ」
猟兵へ向けた言葉の端々に、彼が歴戦の猛者である経歴が滲んでいた。事実、彼は名君である。それも功績は枚挙に遑がない。その手で三国を統一した以降も精力的に尽くしている。今また世を脅かす「オブリビオン」の存在と恐ろしさにいち早く気づき、対抗する力を模索している最中なのだ。
国と、民とを守る決意に満ちた眼差しを向け、拱手をする男。
そう、その男の名は――!
「その強さに免じて名乗ろう。余は司馬炎、晋の皇帝司馬炎なり。これより義によって助太刀致す!」
アレクサンドル・バジル
よお、皇帝陛下。ナイスタイミングだな。(拱手し返して)
(シバの炎を見て)良い炎だ。
それじゃあ、俺もそれでいくかね。(と再び『闇黒炎雷』を発動。戦場全体のオブリビオンたちを消えない炎で燃やします&行動不能の異常つき)
鳳雛、感動してねえで皇帝陛下の前で良いところを見せてやれ。
(と彼女をけしかけましょう。行動阻害されているので敵ではないでしょうし、敵を燃やし続ける黒い炎は味方を燃やさないので恐れることもありません)
敵SPDUCは軽く避けるか衝撃波で弾いておきます。
(そうしながら鳳雛の動きと並行して司馬炎の動きも観察。ちなみに臣下云々はメリットを感じないので興味なし)
「――良い炎だ」
砂漠に燃え盛る太陽の如き「シバの炎」……バジルをして良いと、そんな感想を引き出す。美しさでもなく、火力や熱量でもなく、拡散の勢いでもない。強いて言えば「純粋さ」が際立っている。だからこそ、ぽつりとそんな感想を口から漏らしたのだろう。
その彼の態度は、一度は両手の指を腕の前で組み合わせて拱手してみせたが、今は上着のポケットに手を突っ込んで、不遜そのもの。
ゆえに見定めるのはともかく、見定められるのは「好み」じゃない。
「汝は……ほう」
「何だ。お呼びじゃない、は今更なしだぜ」
「種族や氏素性、門派は問題ではない。重要なのは共にこの国を、民を守れることのみであるよ」
司馬炎とて一廉の人物。瑞獣や羽衣人、仙人、あるいは――異界の民であろうともな、と尊大な様子を嗜めるまでもない。どころか仙術武侠文明下においても異端な存在であるバジルの正体を立ち所に見抜いてしまった感である。自ら玉座に鎮座せず洛陽の都を離れて旅し、その足で事件を調べ、その目で脅威を目の当たりにしてきた慧眼と経験の賜物だろうか。
バジルとて、その様子を漫然と見ているだけではない。司馬炎が用いているのもまたユーベルコードだろう。手にしている「屠龍刀」を媒体にしているのがその証左だ。竜殺しの剣、ドラゴンスレイヤー、三国統一以前には伏龍と準えられるものもいたが、あの刀は果たしてどのような獲物を討ち取ってきたのか。
全身から溢れるような闘気こそ感じるものの、その圧はあくまで『虚ろなる処刑人』を相手に向けられたもの。
「それじゃあ、俺も『それ』でいくかね」
「任せよう。余に合わせるも、合わせずも汝らの自由である。存分に力を見せるがよい」
「見せるがよい、か。見せ物じゃあないけどな? それにお前もだ! いつまで呆けてる」
実のところ、最も気の毒な存在といえば「帝の命にて罪人を処刑する」妄執に憑かれていたにもかかわらず当の帝が眼前に現れてしまった処刑人たちなのだが、次点でいえば若き英傑鳳雛もなかなかな惨状に置かれている。
自身の延々の住まいであり故郷に近い、連夜川。仙桃が近場に生え、多少の客が来、生きる限りにおいては絶好の環境であった……海乱鬼が来訪するまでは。彼奴ら水賊たちの放置された船、川底の水草にまで燃え移ったシバの炎が轟々と延焼し、いよいよレッドクリフの様相を呈し始めている。言うなれば己の家が焼かれているくらいの実感なのだが、果たして彼女はこれもまた想定内と言い切るだろうか。
鳳雛は前髪を摘みつつ、額についた泥を拭って、荒く吐いた息を整えて。
「……は。いえ。……元よりこの戦乱に身を投じれば、いま一度かつての生活には戻れぬ、とは思っておりましたゆえ」
「よく言った。鳳雛。感動してねえで皇帝陛下の前で良いところを見せてやれ」
「……お任せを」
バジルが声をかけなければそのまま黙していたに違いない。まだ目が泳ぎがちなのは、シバの炎に加え《闇黒炎雷》が戦場に降り注ぎはじめたからであろうか。シバの炎と同様、この黒炎もまた自然に消えることはない。どころか炎と炎が互いを燃やし合う、龍虎相打つ壮観。天下に号令した覇者の炎にも、引けを取るどころか対抗するように燃える炎。もはや長らく住み着いていた地が灼かれることへの情動より、感動の方が強い始末だ。精神の均衡が崩れつつある、極限の状態。極限――精神の極まりに達した、無我の境地。
「そうだ。その眼だ。剛拳も柔拳も、どちらも修めた気概は、通用する。だよな?」
「然り。英傑よ、示せ! 汝の覚悟に偽りなき、ということを」
背中を押されれば、塞ぎ込むわけにも、立ち止まっているわけにもいかない。
相変わらずの物量差は歴然。千を超える、陸を埋め尽くす処刑人たちが包囲している。しかも折悪いことに背に川を背負っている状態。こと環境においてはオブリビオン軍勢にとって有利な状況である。
それに対して、司馬炎は動かない。硬直して優柔不断なのか、それとも英傑が振るう力を試しているのか。
「蛆虫が……」
「他とは違う。自惚れるな貴様」
次々に手枷、足枷を放ち、瞬く間に鳳雛の動きを封じる。
元よりその実力は、軍団には押される程度。一対一であるならともかく、一対多ならば分が悪い。実戦経験も乏しく、不安要素が多い。
「自惚れるなど、恐れ多い! こ、この状況で自惚れるなどそこまで神経が太くありません、ともあれ疾く失せませ!」
――ズグっ……ぐボッ!!
「ばわっ?!」
「御免……なさい」
おもたげに体を投げ出しながら、無理やりに軍勢に指を打ちつけ爆散させる。
彼女とて今後の人生、その全てを投げ打つような覚悟と決心の時を迎えているのだ。薄っぺらい「処刑」の宣告など何するものぞ。容赦のない散華の一撃を次々に敵の頭部に命中させ、爆散させていく。手枷、足の鉄球を引き摺りながら突進してくる姿は悪夢に思えて仕方ない。
命を賭け、そうでなくとも今後の進退を天秤に乗せ、少女は吠える。
「ハァッ……ハァ……!」
「やれやれ、危なっかしいな」
その立役者はバジルである。
こと静観と、それ以外の「何か」を決め込む司馬炎に対しバジルの介入は積極的だ。燃え盛る炎が筋繊維を焼き切り、黒き雷が迸り神経を破砕する。グチャグチャとした肉体が焦げ落ちる臭い、収縮する感触、およそ想像し得る凄惨な戦場の有様にしかし眉一つ動かさず、描くは戦場の整形図。
「どうした。まだまだいけるよな?」
「は……はい!」
思えば積み重ねるは多少のスパルタ。その様子司馬炎は髭を撫でて見つめる。猫の手も借りたい今の世界の惨状において、全ての英傑の活躍を見てきたが、しかし事の起こりから終わりまでを共に在って見るなど、まして成長を促すなど……。
「ほほう」
「よお、皇帝陛下。暇なら手を貸してもいいぜ?」
「然り。ここからは余も、民を守ろう」
「私めを……民と、お、畏れ多い……!」
ちょうど(?)鳳雛に口枷を科さんと迫る処刑人に斬撃を加えつつ、彼女の体をひょいと抱きこんだ。
しどろもどろに弁明をする英傑を小脇に抱え、振るうは右手の屠龍刀。切れ味は人体をバターのように切断する文句なしの威力ながら、刀自体の威力、そして、余波で噴き出すシバの炎の火力は紛れもなくオブリビオンに通用する一線級である。灼熱の炎は大地を蝕むほどに焼き、およそ普通の生命が生きることを許さない。
バジルはそれをある種、冷ややかに見ている。それだけの実力がありながら、「戦争」ならいざ知らずわざわざ介入する意図が読めない。ともすれば偽物の可能性も疑う必要があるだろう。実在が疑われかねないほどに逸話の多い人物。そこに油断なく視線を向けるのは猟兵として自然の振る舞いだと言えた。
バジルの懸念を知ってか知らずか、司馬炎の無双ぶりは筆舌に尽くし難い。斬っては払い、凪いでは突く、剣技一本に絞っても見るべきものの多い卓越した技術。おそらく馬上、攻城戦、守勢、撤退戦、どの戦況においても一振りで左右する実力を誇る。
「お前は……」
「刮目せよ! 余は、余だ!」
皇帝司馬炎。天下の覇王。
彼がいかに無双の名将だとしても、封神台から溢れ出したオブリビオン全てを相手取るには手不足であったろう。広大な大陸、それも人界だけでなく仙界まで手を広げ、視野を広げるとなれば、不眠不休の視界を確保しなければなるまい。そこにあえて己の足と目を介在させるところに人間味があるではないか。神たるアレクサンドル・バジルは、そこに一抹の慈しみを感じずにはいられない。
「この程度、挑む資格もないと知れ」
投げ放たれた口枷、足枷を斬り払いつつ、逆撃の斬撃を放つ。面白いように吹き飛んでいく処刑人たち。見るも哀れであり、「この程度」の雑兵に出向かなければならないことに一抹同情を禁じ得ない。
「その通りだ」
腕を払うと薙ぐように巻き起こる衝撃波。乾いた大地を割り、砂塵を巻き起こし、直撃した処刑人たちは投げかけた拘束具ごとバラバラに引き裂かれる。食い下がろうとすればもろとも肉片になり、掠めた皇帝こそ涼しげな顔だが、処刑人たちは戦々恐々だ。
「この程度、な」
戦う仲間を求め、各地を転戦する。その気持ちはわからなくもない。バジルとて、表向きには面倒見の良さを全面に出し、事実精力的ではあるが、その裏側本質は神である。自由気まま、一つの世界に収まらない存在感と、それに見合っただけの実力がある。あるいは、神に比肩する実力がありながら天下にその行動を捧げるというのであれば。
文字通りの名君かも知れない。殉職、殉教、尊びこそすれ貶すものではない。
「お前は、その背中でどれだけの人間を導いてきた?」
答えはない。
過言ではあるが、神たる汝ほどではない、とそう言いたかったのかも知れない。
世界を担い、世を憂い、世のため力を尽くす。
文字にしてこれほど単純なことはない、救世主とも王ともつかない表現だが、体現すれば悪夢ほどの労苦を伴う。見上げた根性だ。力を貸せ、ギブアンドテイクならば悪くはない。
「時に、臣下に、の話であるが」
「――はっ。悪いな」
メリットを感じないな。と軽く遇らう。彼もまた彼で、ワールドワイド、それも一つだけでなく世界から世界へ、スケールの大きい存在であり、一世界に止まらない男なのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ケヴィン・ウッズ(サポート)
無口な少年です。武器を見るのが好きな為、戦う行為には積極的にいきます。
周りの武器の扱い方や戦闘行為をよく観察し、自分の動きにも取り入れていきます。
反面話して説得、作戦を考える等は面倒くさいことから消極的です。
無意味に傷つけるような行為でなければ、言われれば素直に従います。
あとはお任せします。
ケヴィン・ウッズ(人間の剣豪・f34923)は寡黙である。
喋るよりも雄弁に刀で語ってきた。ゆえに飛び入りで助っ人として参戦し、そこにただならぬ人物がいたとしても動じない。年端としても英傑に近い年齢でありながら、泰然とした態度。それが、大いに晋の皇帝司馬炎の興を買った。
「汝の力、余に見せてみよ」
「…………。」
あの皇帝は屠龍刀から炎を放ち、自由自在に操りながら戦闘していた。自身もその動きを取り入れられないか、刀を振るい試す。
余計な考えは巡らさず、大群へと踏み込み、斬り払う。
その黙々とした戦いぶりに、英傑もまた背を押され、懸命に拳を突き出す。
「ほほう。今なお不世出の鬼才たちがこうして水面下で産声を上げている。それらを見出し、股肱に加え、迫る脅威を打ち払う。国を、民を守るには、これが最短の道であろう」
燃えた焦げ跡が道のように一直線にぐんぐんと伸びていく。日輪から伸びた射光のように、有象無象の処刑人たちに阻まれることなく。
「……」
その行く末をウッズは見ない。
彼が見るのは己の剣先だけだ。その剣がいくつの障壁を打ち破れるか。どこまで通用するのか。国の未来、己の成長、どちらも重要な問題だ。
……ゆえに、偶然交差した時、思わぬ爆発力と成果を生む。処刑人たちは悲鳴と血飛沫を上げながら、次々に倒れ伏していくのであった。
成功
🔵🔵🔴
鞍馬・景正
司馬炎――この中華の天子ですか。
自ら各地を巡っているとは聞いていましたが、まさかここで龍顔を拝するとは。
戦場なれば正式な礼は後として、今は拱手のみ返しましょう。
◆
予想外の事はありましたが、為すべき事に変わりはありません。
私が道を切り開きますので、鳳雛殿にはその隙に攻め込んで頂きましょう。
敵の業は剣からの雷撃、それも先程の焔で強化されているやも知れませんが。
両拳と足腰の動きから【見切り】、合わせるように【鞍切】を。
電撃を切り払いつつ、まっすぐ進んで行きます。
視界の外や時間差での波状攻撃は【第六感】を働かせ、脇差も抜いて対応しましょう。
当流も剣の到達点は雲耀――雷の如くあれと教えています。
何より迅く、強く。
されどそれのみに非ず。
変幻していつ落ちるとも悟らせず、一度閃けば地まで切り通す。
ただ雷を飛ばすだけの芸と、雷そのものと化すべく鍛えた太刀、どちらが上か競いましょう。
そのまま接近戦の間合に持ち込めば、鳳雛殿の出番です。
私も迎撃の雷を引き続き切り落としつつ、共に敵を掃討していきましょう。
家。名前。氏。
武家として名を馳せる景正にとって、決して軽んじるものではない。体に流れる血、受け継がれる志。短いながらも代々冠してきたその文字には、単なる字の意味合い以上の、魂ともいうべき意義が込められている。名乗りこそすれ誇りを持ちこそすれ、穢すことなどまして絶やすなどあってはならない。
だからこそ景正は驚いた。この時代、この世界においていかなる歩みを進んだのか詳細な知識はないが、倒れればその家そのものが崩れかねない「皇帝」その人が戦場に立つとは。未知の脅威(オブリビオン)との戦いに身を投じるとは。
「まさか」
「我が国をこの目で見てまわるのに、赦しを得る必要もあるまい。汝らと共に戦う気紛れではあるが、共に立つ以上遊戯に耽るつもりもない。……汝も、こと闘いにおいて手を抜かぬ性分であろう?」
「! もちろんです。天子殿」
それでも、言葉を選ばずにはいられない。繰り返しになるが、その重さを知っているためだ。「あの」笑みを知っている。
そう、アレは、あるいは幕府の将軍のように、かの赤髪の、景正の忠義を捧げるあの――!
ゆえに挨拶は拱手のみ返す最小限にて、沸る内心と興奮を押し殺しつつ、必ず正式な挨拶をと心に決めて。
「シャあ!」
「刑罰を与える!」
――ザンッ……!!
「過去が、道を阻まないでいただきたいものですね」
大切な会話の途中に、これほど無粋ということもない。
斬りかかってくる『虚ろなる処刑人』一人を真向斬りにすると、さらに横なぎに薙いで命を刈り取る。走り回って斬ったとしても、力が続くのは十二、三人くらいまでだろう。それは常人であった時の話。
「げふッ」
「が、ア……バ」
その駆け出す背中には、己がまず進撃するという役割分担を意味していた。無人の荒野を征くが如き猛進。右手に抜き放った鞍切を大きく広げ、駆けていく。
挟み込むように男士が両側から斬り込んでくる。片方は頭頂を、もう片方は足首を。合図一つで急所と機動力の要を目掛けて躊躇なく斬る姿は、それが本当に罪人相手の刑罰であったならば抜群の切れ味を発揮したに違いない。
すでに体の半分をシバの炎に焼き爛らせながら、寸分狂わないタイミングで仕掛ける。取捨選択を強いる。
斬撃の威力と範囲を増強しているのが雷撃だ。体内に発電器官を持つのかはたまた仙術の類いか、あるいは刀自体の機能の一か。振り払った斬撃よりも遥かに大きい範囲をカバーする、雷霆の一閃。それが両側から光の速さで迫れば。
――たんっ……!
両膝を折り曲げ、跳躍。
暗く溶け落ちるような重苦しい殺気の中で、青白い雷の光すら霞むほどの眼光。両側から迫る刀剣の間を器用に跳んですり抜けると、前進した勢いのまま時計回りに回転しズバンズバンと斬りつけた。
さながら殺人独楽の如く瞬く間に空中で斬り捨てると、勢いを一切落とさず、さらに敵陣深く、奥深くへと猛進していく。振り返ることもない。
「止まれいッ」
今度もまた横なぎの一振りだが、野球のバッターのフルスイングの如く、腹部あたりを目掛けた一閃。同じ避け方をすれば空中にて胴で真っ二つになるだろう。
――たぁん……!
軽快な跳躍で、同じくその攻撃を振り切る。今度は勢い殺さぬ回転といっても横ではなく縦。くるんと前転宙返りすると振り下ろし、そのまま着地。人中を斬り裂かれた男が、景正が着地してからゆっくりと斃れる。
その背を追って、追って追ってようやく鳳雛が合流する。
「その動き、血振も兼ねているのでありましょうか」
「野の獣物でも毛についた血はふるい落とすものですから」
「滅相もない! そんなつもりでは……!」
「同じですよ」
ひとたび戦場に立てば。
男も女も、老けようと若かろうと。
平民でも皇帝でも、獣物と同じ。
「見るのは得物ばかりではありません。両拳、足腰、一挙手一投足には必ず予備動作があります。それを読みなさい。気の流れは正直です。鳳雛殿の武技にも通ずる部分がありますよ」
「であるか。己が武の高みを目指すだけでなく、若き萌芽にも目を向ける。その意気が天下あまねく広まれば、降りかかる脅威もいずれ取り払われよう。だからこそ、余が力を貸す意味もある」
ごう! と戦場の一角が再び炎に包まれる。黄金と玉で飾られた屠龍刀から噴き出した炎が、戦意を半ば喪失した処刑人たちを焼却していく。うねる炎が渦になって――そう、これこそが、船上にて火箭で焼け死んだ方が幸せだった、その所以である。一度点火した炎は消えないのだから、生きながら焼かれる苦しみを延々と味わうことを強いられる。延焼こそすれ、決して勢いが収まることはない。
そんな天へと向かって伸びる炎の柱が、飛ばした熱が、散る火の粉が、敵にとっては災厄のように広がって襲いかかる。永劫消えない炎が地に焼き付いて、その罪が燃え切るまで焦がし続ける。
「汝は強いな。余が出る前から敵影が浮き足立つようだ」
「当流も剣の到達点は雲耀――雷の如くあれと教えています」
「ほほう?」
「天より平等に注ぐ熱射の如き威光を見せられたからには、私もまたさらに猛らねばなりません」
武の頂の、その先へ。到達点を定め上り詰めるのではなく、遥かな道を往くが如き、昆明の旅路。
顕現せし第二の日輪。戦場をひしめく、偽りの雷。
「迅く、強く。されどそれのみに非ず」
刀を抜き放ち。己に、誓う――!
至天。
果ては、天蓋を覆う武辺者となりて。
「変幻していつ落ちるとも悟らせず、一度閃けば地まで切り通す……たかだか感電する刀、何するものぞ。手合わせ願いましょう。競い合いに手加減は無用。全員で、かかって来なさい」
――お、おおおォオオオ!
もはや悲壮感漂う、しかして決死の覚悟を気合いの叫びに乗せて、景正と司馬炎に向かって斬りかかる。ここまでくれば陣形も何もない。一つの手傷を与えるため、十、二十の束となり襲いかかる。包囲していた分だけ水賊の方がまだ戦の心得があったというものだろう。総力戦。存在と、命を賭けてぶつかり合う、大戦(おおいくさ)。
「言うまでもないことであるが、シバの炎が牙を剥くは余の敵のみよ。只管に言を成すがよい」
「ご配慮痛み入ります。それでは――」
突き出された刀をへし折り、腕を落とし、勢いのまま頸を刎ね、蹴り倒す。乱戦になれば手足の動きをつぶさに観察するのは難しい。ならばとさらに神経を研ぎ澄ませ、迫る殺気を精査する。磨き上げられた感覚は五感を超えた第六感へと昇華され、わずかな気配を敏感に感じて、反射神経で迎撃する。
その動きすらもまるで雷のよう、放つ斬撃や刀身だけでなく此れ一身空裂く雷たらんとする、景正は言葉を真にしている。己を裏切らなければ自ずと結果はついて回るものだ。
――ザシュ! ズバッ!! ドスッ! ザンッ!! ズバァッ!
面白いように血飛沫が飛び散り、血霧の中で眼光が悍ましく揺らめいて。
陽炎のように立ち上った絶望が、死出の旅へと手招きする。
悪夢か、死神か?! 戦慄するのはかつて一方的な蹂躙を与えた処刑人たち。ならばと皇帝へ刀を向けられるかといえば、その切先は鈍るばかりで手傷を負わせる事も叶わない。命を騙り存分に権力を笠に着ていたものの当然の報いといえた。
斬れば斬るほどに研磨され、次第に練り上げられた闘気がえも言われぬ、視覚に訴えかける青とも赤とも見える極光を放つ。命の輝きを吸ったかのように発光する刀身は、いよいよ妖刀の様相さえあって。燃え上がるような熱と、鋼金の冷涼さとを。
「はっ」
おもむろに、脇差を飛刀の要領で投げつけた。ヒンと音を切り、一閃、飛来する刀は切先から処刑人の頭を貫通。なお止まらず他に振りかぶっていた、別の男の手のひらに深々と食い込んだ。
ぱっと真紅の華が満開と散り、処刑人は痛烈な感覚に見入ってしまう。
「ぎぇえ?!」
「隙あり! 《降魔点穴》!」
敵陣に潜り込んだ鳳雛は、中指と人差し指で頭蓋を一突きすると、怯む男の頭を爆砕する。抜くと同時に脳漿が辺りに飛び散るが、すでにどろどろの鳳雛は拭うことすら面倒そうに、目が合った景正に拱手する。
当初に比べて戦場がよく見えている。単独で戦うよりも、やはり連携した方が成長を促せるということだろう。二律背反、両立はしない。だからこそどちらも有効なだけにどちらも取り入れなければならない。己との戦いに邁進しては他者を鏡として見つめ直して、今再び他者を凌駕した時に己を見つめ直す。一点のみで武を極めるのも一興、しかし質と効率を考えるならば、断絶も癒着も良い結果は招かないだろう。
単なる組み合わせであるところの剛拳と柔拳との関係ともまた、違う。
「我が剛拳、地を割りますれば……我が柔拳、水のように流れます」
地面に亀裂を入れて足場を崩し、ズレた剣先を弾いて勢いを殺す。トドメを刺す手段が一つしかないため長期戦を強いられるが、よく粘る。
疲労困憊の中でも、前向きさと直向きさだけでなんとか食らい付いている。額に汗して何かに望むことのなかった少女の、生まれてはじめての輝きが、この与えられた舞台なのだ。
処刑人にとって女子供など抹殺の対象でしかない。この反抗は想定外だ。そして粘られれば粘られるほど炎に巻かれ、雷の一閃が迫るリスクが高まる。
「く……だがまずはこの小娘を」
「下劣ですね」
人としても心底見下げ果てる。戦略的にも、とりあえず、の感が拭えない下策。
鬼包丁を回収しつつ、腰砕けとなった処刑人を見下ろす景正。鬼、鬼だ――! 顔面蒼白となる雑兵たち。先に突撃してきたほどの勢いはない。ひたひた、ひたひたゆっくりと近づいてくるのみで、踏み躙られる感覚は起こらない。元から安全圏のない戦地にて、じわじわと領域を侵食されている。
その分ゆっくりと、真綿で首を絞められる恐怖が澱む。処刑人たちは刃を振り下ろす時には顔が笑みに染まるものだ。景正の顔には喜色どころかそういった「揺らぎ」がない。
だからこそ、「鬼」に見える。剣の鬼、擬人化した刀、そのもの。
――パキッ……!
「遅い」
――ガキんっ!!
「ぬるい」
不意打ちも通じない。背後から斬られようと、躱すか受け止められるかで止められない。戦馬車の方がまだしも攻め立てるに易いだろう。鋼鉄の塊に斬りかかるような絶望感がずしりとのしかかる。
静なる動きがゆったりであればあるほど、迅く動いた速度が上増しにされる。
「如何です? 相乗させる動き、鳳雛殿の技にも通じるでしょう」
笑った。
その笑顔に心穿たれないものがいるだろうか。片や恐怖を与え、片や憧憬を受ける。
総崩れとなる処刑人の後背など狙う価値もない。背後からであれなんであれ斬りかかってくるものと勝負する。別世界において武名轟かす彼の名は、この仙界においてもますます響き渡るだろう。なにせ証人は、天を統べる帝であり、また別の証人は未来を託されるに足る若者なのだから。通ずると絆されて、笑顔が伝播する。
……その二人をして、未来は明るい、と、そう思わせる。
天へと降り来たる、一筋の光。
景正は征く――その背に、道はできる。
その後、彼が、どのような話を交わしたかは、知るのはやはり、二人のみである。
大成功
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鳴上・冬季
「仙界と人界は随分近いのでした。忘れていました」
司馬炎眺め
鳳雛に
「貴女の仕官先がわざわざやってきたようです。貴女の英傑ぶりを見れば、彼も仕官を許すでしょう。頑張りなさい。逆にここで仕官できぬようであれば、貴女の未来など先程より酷いものにしかならないでしょう」
嗤う
「庇え、黄巾力士!」
「蹂躙せよ、黄巾力士!」
黄巾力士金行軍召喚
37体ずつの3隊に分け
1隊で司馬炎
1隊で鳳雛をオーラ防御で庇わせる
1隊は砲頭と金磚で敵を鎧無視・無差別攻撃させ蹂躙する
自分はいつもの黄巾力士と共に飛行
自分をオーラ防御で庇わせ敵の頭上で雷公鞭振るい雷属性で攻撃
敵が話す隙を奪う
「仕官するなら、名を賜り改名するといいでしょう」
嗤う
失念していた。と、口にするのが穏便だろう。生粋の神仙たる冬季の判断は早く、聡かった。干渉はオブリビオンと若い英傑のみと思っていただけに意表をつかれる形ではある。数多の戦場を巡った。そのほとんどが偶然やハプニングなどない、圧倒的な実力に裏打ちされた勝利で終えてきた。
その自負はある。飲み友達に今回の話を伝えれば魚にはなるだろう。少なくも瓦解間近の処刑人とは名ばかりの愚民相手よりかは、いささか興である。
「貴女の仕官先がわざわざやってきたようです」
「は! は……ああ、ええ……私めがなんと、そんな恐れ多い……お声かけされたのは、私などではなく」
「萎縮することはありません。貴女の英傑ぶりを見れば、彼も仕官を許すでしょう」
その言葉とは裏腹に、瞳の裏が雄弁に物語る。
明るい未来の暗示……とはほど遠い、仄暗く、絶望に満ちた、四肢を捥がれ、舌を抜かれ、目を抉られ、討ち死にした方がよほどマシだと思えるほどの苦悶と苦痛に塗れた未来。
幻視したそれに、へなへなぺたんと、若き英傑は尻餅をついてしまう。目を閉じれば涙が溢れそうだ。頑張りなさい。は、応援じゃない。叱咤激励でもまだ甘い。頑張らなければ先はない、才能に胡座をかくなという忠告だ。
「さて。ではこちらも。出ろ、黄巾力士!」
今再び忠実なる自作宝貝・黄巾力士を呼び出す。
清純さと怜悧な殺気を併せ持つ金行軍総勢三十七体ずつの三隊体制。
「蹂躙せよ、黄巾力士!」
命令は一言で事足りる。それぞれに邁進し熱線を照射しながら徒士の処刑人に対し無慈悲な閃光を浴びせかけ始める。重厚な機械音とやけに甲高い発射音に混じり、悲鳴が響き渡る。
戦場の甘美な喝采は全て冬季が手にするべきものだ。間違っても譲り渡すことなどできない。例えその相手が皇帝だったとしても、だ。
雷光の剣を振るって反撃するも、雷の一撃がオーラと干渉し合い、思ったほどの被害を出すには至らない。
「くそぅ……」
「ならば術者を狙え!」
地を舐めるように炎の舌が伸びる。大いに屍を焼き尽くし白煙を上げさせながら、しかし、炭になってもなお消えることはない。煙幕を張るにしてはあまりにも存在感のある「シバの炎」。太陽が眼前に顕現したような熱量、威力、その威光に、処刑人たちは統率が取れないままひと固めに押し込まれていく。
英傑鳳雛もまた手をこまねくばかりではない。敵の円陣に向かって体ごと突っ込むと、百烈拳の勢いで拳を突き当て、次々に処刑人たちの肉体を破裂させていく。だれがこの場において死に物狂いか、という問いの答えは間違いなく彼女である。
他人の期待やら、結果への希望やら、そんな甘い思いを感じる暇さえない。
「退きませい! よもや私めも、覚悟を決めた身でありますれば!」
血走った眼、それに胴着も髪も真っ赤に染まり、悪鬼羅刹の如き形相で処刑人に襲いかかる。
「そうそう。またもや貴女のお陰で、こうして一網打尽にすることができます。では――」
振り下ろす。
指揮棒のように、宝貝・雷公鞭を。
すでに焼き尽くされた川辺と大地に、避雷針になるものは存在しない。敵味方を区別しない極大威力の一撃に、黄巾力士は両手を広げて覆い被さるように二者を庇う。やがて紫色の雷霆が幾度となく降り注ぎ、処刑人たち、そのことごとくを鏖殺した。
声さえあげる喉も残らない。肉の焦げる臭いだけが充満し、ついには動く物音さえ聞こえなくなって。
「……呆気ない。これにて終いです。私は引き上げるとしましょう」
黄巾力士から降り立つと、不敵な笑みのまま皇帝に向かってそう言い放つ。それは、仕えるつもりはない、と暗に示していた。
「不服であったか? 赦そう。だが去る前に余に理由を聞かせよ」
「…………」
晋の皇帝司馬炎。傑物と見受けられる。
この世界の行く末を担うものの竜顔が見られただけでも骨を折ったかいはあったが。さて。
「この世界の甘味は、少々淡白に過ぎますので」
「世界、ときたか!」
立派な髭を撫で上げて、強さの理由がわかったと、得心した様子で頷く。戦闘中も絶えず雷鳴と火炎が散見される極限状態ではあったが、随分と観察されてしまったらしい。
「わざわざ空中で戦ったというのに、食えないな」
「ほほう。其れが本性であったか」
戦闘は終わったというのに、ぴりぴりと肌がちりつくような殺気が走る。
若き英傑は居た堪れない。両手と膝をついて、いよいよ疲労しきったていで首を上げてその様子を見ていた。想像がつく。ここから果し合いになれば……未来は仄暗い。身を挺してでも、場を和ませなければ。せっかくあの訳の分からない処刑人たちを退けたのに、これで終わり、とはならないのか。
「あ……あの少々、お話が。込み入った事情というのは承知しましたわ。ですが……」
「そうでした。時に、仕官するなら、名を賜り改名するといいでしょう」
彼は嗤っていた。この笑顔だ。直視すると心臓の音が大きくなるような、冬季の凄惨な笑み。そのせいで言われた言葉の意味を咀嚼するのにワンテンポ遅れてしまう。ええと。仕官……仕官!?
「名君であることに違いはないでしょう」
「氏素性は不問であるがな?」
オブリビオンに対抗できるユーベルコードの使い手として数えられたなら、股肱とは言わずとも末席に加わることもできるだろう。もちろんそれで終わるか、それ以上の上を目指すかは、彼女の努力次第である。
慌てふためいた拱手を差し出しながら、鳳雛は今再び礼を尽くし頭を下げる。不敵で毒気のあった小娘は影も形もなく、今はただただ心底平伏するばかりである。
そういえば、オブリビオンを討伐すると国から報奨金が出るという話だったか。
晋を治める皇帝から直々に褒美を受け取るというのも悪くない経験だ。
「立派な刀剣をお持ちですね」
「武具にも興味があるのだな。これは屠龍刀だ」
黄金と玉に彩られた、絢爛な宝剣である。国の威信そのものを帯刀しているかのような、見た目以上の「重み」を感じる。寛恵にして仁厚、沈深にして度量あり、などと評された傑物が持つに相応しい。それに不消の「シバの炎」の媒介としていたものであったか。
話していると性格気質としては鷹揚か。
歩んだ歴史が異なれば、如何様にも映るだろう。時の王権とは得てして民の求める声に応じ変化を繰り返す。数多の時代を違う形で駆け抜けてきた冬季にとって、市井で聞こえた声は懐かしい。
「師を敬い同門を助け己が望みに邁進せよ。この言葉を送りましょう。貴女がここで過ごした時間は、貴女が今思うよりもずっと価値あるものです」
「肝に銘じます」
「考えてもご覧なさい」
川が燃えている。小屋も燃えている。船も燃えている。斃した水賊と、処刑人たちが撒き散らした被害と相まって、いかに仙界といえども元の形に戻るのは不可能であろう。少なくも自身がここで生きてきた痕跡さえ失われてしまった。
それでも我が身に宿る教えは身を助けてくれた。漆黒の未来に絶望し足が折れても、希望を得たことでなんとか生き延びることができた。
私めはなんと幸せなのでしょう。この幸せを噛み締めて、その先へ進むためには。
「私も、より考え、より笑います。応援してくだされば、これ幸いであります」
「ええ。頑張りなさい」
若き英傑と、猟兵と、思わぬ闖入者の邂逅は笑顔で終わる。
連夜川という地名は失われ、シバの炎が輝く炎の大河が滔々と流れている、世界を蝕む脅威の存在を知らしめるが如く。
――いつか、この地の戦いは伝説の始まりの一ページとして語られるだろうか。
大成功
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