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捧げられし命は紋章の贄

#ダークセイヴァー #第五の貴族

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「ふ……今度の『紋章』はなかなかの出来ね」

 大量の生贄の血と死骸が散らばり、悪臭を美しい薔薇の香りで押し隠した、おぞましき地下の実験室にて。不気味に輝く宝石のような何かを手に、1人のヴァンパイアが静かな笑みを浮かべる。

「この『全知の紋章』があれば、私の開発はますます捗るに違いないわ」

 自らの手で造り上げた『紋章』を胸元に装着する、一見すれば華奢な少女のようなその者こそ、この世界を支配する『第五の貴族』の中でも特別な立場にいる吸血鬼であった。
 彼女の名はリオ・スティロヴァニエ。稀なる頭脳と技術から『機血姫』の異名をとり、この生体実験室『紋章の祭壇』を管理するヴァンパイアである。

「けれど、新しい『紋章』を開発するには材料が足りないわね……」

 実験室の隅に押し込めた「材料」にちらと視線をやりながら、ふむとリオは考え込む。
 あんな凡庸な素材から作り出せるのは大した力もない量産品ばかり。真に力ある紋章を作り出すには特別な素材が必要だ――ただの人間よりも希少な命が。

「また宴を開くとしましょうか。いい素材が集まってくると良いのだけど」

 素材調達の方法と次の『紋章』のレシピを考えながら、女吸血鬼は実験室を後にする。
 ただ彼女の知識欲を満たすためだけに存在する、生贄の人間とオブリビオンを残して。


「『紋章の祭壇』を発見しました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「現在ダークセイヴァー世界を支配しているのは、『第五の貴族』と呼ばれる地底都市の領主達です」
 彼らは宿主に莫大な力を与える寄生型オブリビオン『紋章』を配下らに授けることで、地上世界を影から操ってきた。これまで猟兵は地底都市で数多くの勝利を収めてきたが、第五の貴族を討つことはできても、彼らの「紋章の製造場所」は長く不明のままだった。

「その製造場所が今回、ついに判明しました。それが第五の貴族の中でも特別な者だけがその居城に備えた生体実験室『紋章の祭壇』です」
 これまでに猟兵が遭遇してきた「辺境伯」「番犬」「殺戮者」といった数々の紋章も、全てこの『紋章の祭壇』で生産されたものになる。同時に紋章の製造工程についても断片的に情報を得られたのだが――明らかとなった方法は想像以上におぞましいものだった。
「『紋章』は大量の人族奴隷や下級ヴァンパイアの生贄を素体とし、時には聖者や人狼、異端の神々といった『高級素材』を混ぜ込むことで、より強力な『紋章』を作る事もできます……つまり、おびただしい数の命を材料に紋章は造られているのです」
 紋章をひとつ生産するために、これまでに一体どれだけの命が生贄にされてきたのか。
 祭壇の場所が明らかとなった以上、一刻も早くそれを破壊し、新たな紋章の製造を阻止しなければならない。

「リムが予知した『紋章の祭壇』は第五の貴族の1人である『機血姫』リオ・スティロヴァニエの居城の地下にあります」
 彼女は身体能力はヴァンパイアとしては低い方だが優れた頭脳と知識欲を持ち、人族を実験材料とした数々な非道な開発を『紋章の祭壇』で行っている。今までに猟兵が倒したオブリビオンの中にも、彼女が造った紋章を持つ者がいたかもしれない。
「彼女の城には地底都市の内外から大量の奴隷が運び込まれており、その中から『紋章』の素体としてふさわしい献上品を選ぶための宴が催されています」
 この宴に乗じて城内に潜入し、どこかにある『紋章の祭壇』を発見するのが最初の試練となる。当然ながら宴の会場には『機血姫』の部下をはじめ多くのヴァンパイアがおり、こちらの正体や目的が露見すれば厄介な事になるだろう。

「リオはより強力な紋章を造るための『高級素材』となりうる奴隷を常に求めています。ですので普通に潜入する他にも、奴隷やその売り手として潜入する手もあるでしょう」
 祭壇の場所は城でも一部の者しか立ち入ることを許されていないはずだが、来客として信用を得るか、あるいはそこで使われる生贄としてなら近づきやすくなるかもしれない。できれば城主であるリオに気付かれる前に『紋章の祭壇』までたどり着きたいところだ。
「祭壇には生贄にされる前の生存者と共に、紋章に"なりかけ"の下級オブリビオンが大量にいます。紋章ができあがる前にオブリビオンを撃破し、生存者を救出してください」
 紋章にされる過程で素体にされたオブリビオンには肉体的な変容が発生するらしいが、それで強さが変化することはないようだ。今の猟兵達ならたやすく撃破できる相手だが、一緒に捕らえられている生存者達が戦いに巻き込まないようにだけは注意が必要だろう。

「『紋章の祭壇』で騒ぎを起こせば、流石に敵にも気付かれるでしょう。最終的には城主との戦闘は不可避とお考えください」
 素の身体能力は低い『機血姫』だが、それを補うために人間の血液を魔力に変換して燃料にする「吸血兵装」を開発・装備しており、さらに紋章を装備することで絶大な戦闘力を得ている。まともに戦ってもおそらく勝ち目はないだろう。
「勝機を掴むには敵の紋章の弱点を突くしかありません。リオが装備する『全知の紋章』は宿主に文字通り全知の如き叡智を授け、あらゆる敵対行動を『予め知っていたように』回避する力を与えますが、『異世界の知識や技術』を絡めた行動には対処できません」
 ダークセイヴァーだけでなく様々な世界でオブリビオンと戦ってきた猟兵なら、きっと有効な手立てがあるだろう。『紋章の祭壇』を管理するほどの優れた頭脳と知識欲を持つがゆえに、リオは自分が知らない叡智を前にしては決して冷静ではいられない。

「最終的にリオを倒し『紋章の祭壇』を破壊すれば今回の依頼は成功です。難易度の高い依頼となりますが、皆様ならきっと成し遂げられると信じています」
 第五の貴族の支配力の源である『紋章』の製造拠点を1つでも多く破壊するのは、彼らの支配体制を根本から揺るがすことに繋がる。闇の世界の救済にまた1歩近付くはずだ。
 説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべると、地底都市への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、第五の貴族が『紋章』を生産するための実験室「紋章の祭壇」を破壊するのが目的です。

 1章では第五の貴族の城に潜入し『紋章の祭壇』を捜索します。
 城内では新たな『紋章』の素材集めを目的とした宴が催されているので、それに乗じて調査を行いましょう。城主が求めているのは聖者や人狼のようになかなか手に入らない希少素材のようです。

 2章は『紋章の祭壇』で、紋章になりかけのオブリビオンとの集団戦です。
 祭壇には敵以外にもまだ紋章にされていない人間の生存者がいます。彼らを守りながら戦うような行動にはプレイングボーナスが入ります。

 3章は第五の貴族である『機血姫』リオ・スティロヴァニエとの決戦です。
 その優れた頭脳で開発した装備と紋章で絶大な力を誇り、まともに戦っても勝ち目はありません。ですが紋章には弱点があるので、それを利用すれば有利になります。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『献上の宴』

POW   :    面白いものが見れると聞いたのです(堂々と客として潜入する)

SPD   :    ……(賑わいに紛れて潜入する)

WIZ   :    この珍しい品をご覧ください(売り手として潜入する)

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

尾守・夜野
(胸糞わりぃな
花で覆い隠そうと悪行が隠れるわけでもあるまいに)

呼び出したのを異端の神々…いや、あながち間違いじゃないけど ということにしてその中に紛れ込もう
腹の中にでも潜り込めば見つけるのは難しいんじゃねぇかな
…問題はどうやってこいつを運び込ませるか…だけど
近くに私兵はいるだろうし軽く他の呼び出してる奴とか含め暴れ事切れた様にしとくか
他の贄が生きてるなら虫の息的な演技をさせておく
ま、取り込み終わってる奴だしつまる所死んでるんだがな

だからこそ入ってたりしても気分的な問題を除けば問題はねぇんだしな


アドリブ連携歓迎



「胸糞わりぃな。花で覆い隠そうと悪行が隠れるわけでもあるまいに」
 華やかに彩られたその城では、至る所から血と屍の悪臭がした。この場所でどれだけの人間が『祭壇』に捧げられてきたのか、想像するだけで尾守・夜野(墓守・f05352)は吐き気をもよおしそうになる。
「希少な素材がお望みなんだったか。だったらこういうのはどうだ」
 彼は【還元式混沌創造】を発動し、刻印(ドライバー)に取り込んだUDCを混ぜ合わせたキメラ群を創造・召喚する。こいつを異端の神々ということにでもして(あながち間違いでもないが)運び込ませれば、きっと敵は喜んで食いついてくるだろう。

「腹の中にでも潜り込めば見つけるのは難しいんじゃねぇかな」
 様々な獣や怪物のカタチが混ざった肉塊としか言いようのないキメラの中に、もぞもぞと口から潜り込む夜野。よもやこんな形で城に潜入を企てる者がいるとは、流石に向こうも予想外だろう。
(……問題はどうやってこいつを運び込ませるか……だけど)
 仮にも貴族の城で宴を催すなら、警備の私兵が近くにいるだろう。そいつらに見つけてもらえば良いかと考えた彼は腹の中からキメラを操り、他の呼び出した奴らも引き連れて城に迫る。

『ウォォォォォォ―――ッ!!』
「っ、なんだ?! 敵襲っ!」
 突然襲い掛かってきた未知の怪物達に、城を守る衛兵らは即座に対応した。もし夜野が本気を出せばその場にいる数名程度は蹴散らせるだろうが、城全体にどれだけの敵がいるのかは定かではなく、騒ぎが大きくなれば今後の作戦に差し支える。
『グオオォォォ……』
 ので、キメラには軽く暴れさせた後、ばたりと地面に倒れて事切れたようにしておく。
 他の連中も適当に警備に始末させるか、生きているなら虫の息のような演技をさせる。敵が求める贄の基準は明確ではないが、生きていたほうが価値も上がるかもしれない。

「ふう……何だったんだこの怪物は。魔獣、いやもしかすると異端の神か?」
「丁度いい、中に運び込め。贄が増えてリオ様もお喜びになられるだろう」
 夜野の思惑通り、連中は倒したキメラを城内に運び込むことにしたようだ。あとは見つからないよう腹の中で息を潜めていれば『紋章の祭壇』まで辿り着けるだろう。それまでキメラ群にはピクピクと瀕死っぽく振る舞わせるのも忘れない。

(ま、取り込み終わってる奴だしつまる所死んでるんだがな)
 だからこそ中に入っていても、気分的な部分を除けば問題はないわけだ。血肉や臓物に包まれているのは正直不快だが、もっと不快な糞野郎を倒すためだと思えば我慢できる。
 ゴトゴトとどこかに運ばれていく振動を体内で感じながら、夜野は闇の中で爛々と目を光らせ、その時を待つのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
奴隷であれば生贄として紋章の祭壇に接近できると思いましたが
想像以上に劣悪な環境ですね...
奴隷の皆さんが死なないようにケアしなくては...
(辺りを見回しては苦しそうにしている奴隷の側に駆け寄って話しかけるのを繰り返す)
予想ですが敵はこのような環境下でも健康を維持できる丈夫な生贄を求めているはず
だとすればこうしてあちこち動き回っている私は目に留まるでしょう
そして生贄に選ばれれば、紋章の祭壇に連れていかれるはず
そのためにももっと奴隷の皆さんを見て回らないと...
あ、そこの貴方、大丈夫ですか?今しばらくの辛抱ですからね?



(奴隷であれば生贄として紋章の祭壇に接近できると思いましたが、想像以上に劣悪な環境ですね……)
 鎖と枷で自由を奪われ、見世物のように囲いに放り込まれた状態で、播州・クロリア(踊る蟲・f23522)は小さくため息を吐く。献上品として運び込まれる奴隷に紛れて城内に潜入するまでは良かったが、その扱いはまさに"モノ"同然であった。
「うぅ……ぐすっ……」
「けほっ、けほっ……」
 辺りを見回せば、悲しみに暮れる者や苦しそうに咳をする者など、多くの奴隷がいる。
 何のために自分達がここに運ばれてきたのかは知らないが、おそらくまともな理由では無いことは察しが付いているだろう。加えて人間には過酷な地底の環境で、ロクな扱いもされずにいれば、体調を崩す者が続出するのも当然だった。

(奴隷の皆さんが死なないようにケアしなくては……)
 クロリアは苦しそうにしている奴隷を見かければその側に駆け寄って話しかけ、彼らが希望を失わないように励ます。奴隷達の心身の状態を慮っているのも事実だが、そこには目立つ動きをして敵に注目されたいという作戦上の思惑もあった。
(予想ですが敵はこのような環境下でも健康を維持できる丈夫な生贄を求めているはず)
 紋章の製造に多数の命が必要なら、より生命力にあふれた奴隷が選ばれそうなものだ。だとすれば、こうして元気そうにあちこち動き回っているクロリアは目に留まるだろう。

(そして生贄に選ばれれば、紋章の祭壇に連れていかれるはず)
 囲いの向こうでは城に招待された賓客が、宴に興じながらこちらに視線を向けてくる。
 どれが城主の献上品としてふさわしい奴隷か、品定めが行われているのだ。相手をヒトと思っていない不躾な視線は不快だが、これも作戦だと思えば我慢できる。
(そのためにももっと奴隷の皆さんを見て回らないと……)
 劣悪な環境で体を壊しがちな奴隷が多いのも事実だった。この場で診察や薬の処方などはできないが、声をかけることで少しでも気持ちが前向きになるよう願う。あと少しだけ耐えてくれればきっと助け出すという決意を、心の内に秘めながら。

「あ、そこの貴方、大丈夫ですか? 今しばらくの辛抱ですからね?」
「けほっ……ぅ、ありがとうございます……」
 咳の止まらない女性の背中をそっとさすりながら、優しい声で励ましの言葉をかける。
 相手はそれを気休めと思ったようだが、それでも少し落ち着いたようで表情が和らぐ。
 そんな事を何回繰り返しただろうか。宴もたけなわになる頃になって、ついに囲いの外から声がかかる。

「おい、お前。こっちに来るんだ」
 犬のように鎖の端を引っ張られて、囲いの外に出された。どこに連れて行かれるのかは教えてもらえず、ただ来いと言われるだけ。さっきまでクロリアに助けられた奴隷達が、心配そうな顔で彼女を見ている。
「大丈夫ですよ」
 不安にさせないようにこりと微笑みかけて、クロリアは鎖を引かれるまま歩いていく。
 この先にあるのは『紋章の祭壇』――奴隷達にとっては絶望の終着点。だがそれを破壊するためにここに来た猟兵にとっては、千載一遇のチャンスが迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
目が覚めたら見知らぬ薄暗くて汚い、実験室のような場所。
確かヴァンパイアに会って、高級素材として自身だけに自信がありまぁす!と売り出したのよね。

ん?この部屋には他に誰かいる。
奥の方からぞろぞろ他の材料達。
話を聞いたところ、私は同じく材料にするから、躾をしておけと放り込まれたらしい。

「材料も悪くないけど、今回は逃げましょ」
しかし部屋には何もなかった。あるとすれば机と椅子。
こんな物、ゲームだったら【コマンド>とる>机】とやった所で、
「持っても意味がない」と拒否られる。

なめんじゃねーぞゴルァ、机と椅子で脱出してやんよ!
体当たりをすると扉が開いた。

カビパンの謎行動は生存者達を助け、城を大いに混乱させた。



「zzz……ハッ。ここはどこ?」
 カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)が目を覚ますと、そこは見知らぬ薄暗くて汚い、実験室のような場所だった。寝転んでいた床には血が染み付いていて、耐え難いほどの悪臭が漂っている。墓地のほうがまだマシそうな陰惨さだ。
「確かヴァンパイアに会って、高級素材として自身だけに自信がありまぁす! と売り出したのよね」
 なぜこんな場所で寝ていたのか、直前までの記憶を思い出す。『紋章の祭壇』を破壊するために、献上の宴を催すヴァンパイアに接触し――縛られて何かを飲まされたところで記憶が飛んでいる。とにかく敵に捕まったのは間違いなさそうだ。

「『こんなエネルギッシュな悪霊は珍しい』とかなんとか言われたような……ん?」
 寝ぼけ眼をこすりながらカビパンが頭を働かせていると、ふと何者かの気配を感じる。
 この部屋には他に誰かいる。暗闇にだんだん目が慣れてくると、奥の方からぞろぞろと見すぼらしい格好をした人間達が現れた。
「あら、貴方達は?」
「私達はあなたと同じリオ様の奴隷……あなたの躾をしておくように言われたの」
 話を聞いてみたところ、ここに居るのは城主から『紋章の祭壇』に捧げるのに相応しい生贄として選ばれた紋章の材料のようだ。同じく材料にされるカビパンが暴れないよう、しつけ役として一緒にここに放り込まれたらしい。なんとも不憫な役回りである。

「材料も悪くないけど、今回は逃げましょ」
 だが捕まったからと言って大人しく躾けられるようなカビパンではない。事情を聞いた一瞬後にはもう脱出計画を企てている。当然のように奴隷達もその計画に誘うが、相手は諦めきった顔で頭を横に振る。
「吸血鬼から逃げられるわけないですよ……」
 長く過酷な奴隷生活によって、彼らの牙は抜けきっていた。しかも部屋には何もない。あるとすれば机と椅子。脱走に使えそうな物をわざわざ敵が置いておくわけもなかった。

「こんな物、ゲームだったら【コマンド>とる>机】とやった所で、『持っても意味がない』と拒否られるわね」
「コマンド……?」
 よく分からないことを言い始めたカビパンはともかくとして、こんな物だけでこの部屋から出るのは無理なのは明らかである。じたばたせずに生贄としての運命を受け入れたほうが苦しまずに済むと、奴隷達は死人のような目で諦めを訴えかけるのだが――。
「なめんじゃねーぞゴルァ、机と椅子で脱出してやんよ!」
 そう言われて素直に言う通りにするどころか、逆にカビパンの反抗心は燃え上がった。
 机と椅子を踏み台にしてダッシュ&ジャンプ。この部屋にあった唯一の扉に向かって、全力の体当たりを仕掛ける。

「そんなことで開くはずが……」
「開いたわ」
「「嘘っ!!!?」」
 普通なら絶対に開かないはずの扉だったのに何故か開いた。誰かが鍵をかけ忘れていたのか、蝶番が古くて壊れやすくなっていたのか。【ハリセンで叩かずにはいられない女】が発生させるギャグ世界の法則が、理不尽な幸運を呼び込んだようだ。
「ほら脱出よ! きりきり歩く!」
「まさか、本当にこんな事が……」
 結果的にカビパンの謎行動は自分だけでなく材料になるはずだった多くの生存者を助ける事になった。宴が開かれている最中に起こったこの不祥事は、城を大いに混乱させる。

「おい、奴隷が逃げ出しているぞ!?」
「警備は何をやっていたんだ?!」
 城内の警備を担当する者達は大慌て。こんな一大事が上にバレたら物理的に首が飛ぶ。
 なんとか騒ぎが広まらないように敵が右往左往する間に、カビパンと奴隷達はどこかに姿を消していたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
奴らの力の源、ようやく叩ける時が来たのですね

私は聖者ではありませんが、パラディンとして【破魔】の力を有しているので、商品として紛れ込んでも怪しまれないでしょう
格好も聖職者然としていますしね
搬入時のどさくさ紛れとはいえ警備も厳重でしょうが、きっと【幸運】が味方してくれる筈

納品前の商品に手を出そうとする不埒な輩には、誠心誠意お願い(傾城傾国の艶美)することで手を引いてもらう
彼女らに手を出せば、貴族の怒りを買うのは必至、どうか理性的になってください

商品にされて世を儚んでいる方たちを【慰め】、【鼓舞】する
大丈夫、きっと好機は訪れます、気をしっかり持ってください



「奴らの力の源、ようやく叩ける時が来たのですね」
 第五の貴族が与える『紋章』の力には、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)も手を焼かされてきた。その製造元を叩けるとあって、彼女は勇んで今回の作戦に参加する。
「私は聖者ではありませんが、パラディンとして破魔の力を有しているので、商品として紛れ込んでも怪しまれないでしょう」
 格好も聖職者然としていますしね、と彼女はシスター服で奴隷としての潜入を試みる。
 敵は強力な『紋章』を作るのに必要となる希少素材を求めている。余人にはない能力を持っていると知れれば、おそらく無視はされないだろう。

(警備も厳重でしょうが、きっと幸運が味方してくれる筈)
 搬入時のどさくさに紛れ、城内に運ばれる奴隷の列に紛れ込むオリヴィア。これも天の思し召しということか、敵に見咎められることはなく無事に中まで入ることに成功する。だが、難しいのはむしろこれからだ。
「へへ……流石は『第五の貴族』様の催す宴、奴隷も一級品が揃っておりますな……」
 客として宴に招かれた者の中には、納品前の商品に手を出そうとする不埒な輩もいる。
 質素なシスター服を着ていても分かるオリヴィアの整った容姿やスタイルが、その手の輩の目を引くのは自然なことであった。

「へへへ……むっ?」
「おやめください……」
 欲望に忠実な連中に、オリヴィアは【傾城傾国の艶美】をもって誠心誠意お願いする。
 彼女の視線や仕草に捉えられた者は電流でも走ったように体を震わせ、何をするつもりだったかも忘れてその言葉に聞き入ってしまう。
「彼女らに手を出せば、貴族の怒りを買うのは必至、どうか理性的になってください」
「ぁ……あぁ……そうだな……」
 同じような欲望の目に晒されていた奴隷達をかばいながら願い立てると、相手は腑抜けた様子で生返事をし、そのまま何もせずに去っていく。無機物や自然現象すらも魅惑するオリヴィアの魅力でお願いされて、凡俗の者が断れるはずが無かった。

「分かって貰えたようですね……」
 自身の艶美を理解しているのかいないのか、無事にほっと胸を撫で下ろすオリヴィア。
 だが彼女とは違って何も分からないまま商品にされて連れてこられた本当の奴隷達に、この状況は苦痛だろう。恐怖に耐えかねてうずくまり、世を儚んでいる者も多かった。
「うぅ……もうやだ……」
「私達、もうおしまいよ……」
 自分達が『紋章』の素材にされそうな事は知らずとも、恐ろしいヴァンパイアが蔓延る地の底の城に連れてこられれば、これも当然の反応か。そんな中オリヴィアは穏やかに、悲嘆に暮れる者達を慰め、諦めないようにと鼓舞する。

「大丈夫、きっと好機は訪れます、気をしっかり持ってください」
 『紋章の祭壇』を破壊し、この城の主を討てば、この奴隷達も無事に開放できるはず。
 絶望など微塵もないオリヴィアの表情を見た人々は、どうしてそんな顔ができるのかと不思議そうにしながら――こくり、と小さく頷いて涙をぬぐう。
「……わかった」
 彼女の魅力は不埒者を退散させるだけでなく、良民の心の支えとしても働いたようだ。
 奴隷達は耐え忍ぶ。この行き詰まった絶望に誰かが風穴を開けてくれることを祈って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
他の生命を捧げ、その質によって強大な力を齎す錬成儀式。
この鎧の製造過程と似通ってるのは偶然か、あるいはこの世界で力を求める以上行き着く必然なのか。


【指定UC】で仮初の身体を展開。
【捕縛】しているように鎖で半身を雁字搦めにした本体を連れ売り手として潜入。
商人らしく【パフォーマンス】を混ぜた【礼儀作法】で売り込もう。

お持ちいたしましたのは生命力吸収の果てに自身が一生命体と成った黒騎士の鎧、リビングアーマーでございます。
吸い上げた生命は魔獣、人間、果ては『紋章』付きの吸血鬼。
城主様が求める素材としては申し分ないと思われますが如何でしょう?

嘘は言っていないし、見て判る範囲でも希少素材には違いなかろう。



(他の生命を捧げ、その質によって強大な力を齎す錬成儀式)
 第五の貴族が『紋章』を製造する術が明らかになってから、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は一つの疑問、あるいは懸念を抱いていた。彼の本体である黒騎士鎧には、強大な力を得るために生命を利用した呪いが付与されている。
(この鎧の製造過程と似通ってるのは偶然か、あるいはこの世界で力を求める以上行き着く必然なのか)
 黒騎士とは呪われし力を使命のために利用する業の深い存在であると理解していても、奇妙な既視感を抱かずにはおれまい。ならば敵の手によって新たな業が生まれるのを阻止することも、この身に課せられた使命だろう。

「止まれ! 貴様、何の用だ」
「はい。こちらの領主様に献上したい品がございまして」
 【縁が紡ぎし身製】で人間としての仮初の身体を展開したルパートは、そちらが主体であるかのように振る舞い、本体である鎧は半身を鎖で雁字搦めにした状態で引き連れる。この鎧(自分)を紋章の素材として売り込むことで、祭壇の場所まで潜入するつもりだ。
「お持ちいたしましたのは生命力吸収の果てに自身が一生命体と成った黒騎士の鎧、リビングアーマーでございます」
 商人らしいパフォーマンスを混ぜつつ、貴族受けのよい礼儀作法で売り向上を述べる。
 捕縛された黒鎧は内部から溶けた鉛をどろりと垂らし、時折獣のような唸り声を上げてガタガタと震える。その身に染み付いた膨大な呪いは、誰であれ肌で感じられるほどだ。

「吸い上げた生命は魔獣、人間、果ては『紋章』付きの吸血鬼」
 敵を殺しその生命を啜ることで黒騎士の鎧は力を増してゆく。猟兵として幾多の強敵を討ってきたルパートであれば宿した力は相当なものである。さらにそれ自体が魂を宿すに至った器物――ヤドリガミという存在もまた、此の世界では非情に希少な例である。
「城主様が求める素材としては申し分ないと思われますが如何でしょう?」
 嘘は言っていないし、見て判る範囲でも希少素材には違いなかろう。領主リオが求める素材の基準はクリアしているはずだ。自信をもって売り込みをかけると、対応する領主の部下もだんだんと乗り気になってくる。

「ふむ……確かにこれは珍しい。よく捕まえられたものだ」
「それはもう、苦労致しました」
 内心の敵意などをうまく押し隠しながら、仮初の肉体で穏やかに応対をするルパート。
 警備の者達は突然鎖が解けてこのリビングアーマーが暴れ出さないかどうかを確認し、城内に入れても問題ないかを確認している。棒で叩かれ、剣で突かれることもあったが、ルパートの本体はじっと耐える。
「良いだろう。連れて行け」
「おお、感謝致します」
 果たして彼の売り込みは功を奏し、領主への献上品に相応しいと認められた黒騎士の鎧は城の奥に運ばれていく。吸血鬼達による宴が開かれている広間のさらに先。おそらくは『紋章の祭壇』へと送られるのだろう。

「御苦労だったな」
 当然だが一介の商人はその搬入に同行はできない。城内でも最重要施設である『祭壇』に部外者をおいそれと近付けさせはしないだろう。鎧の代金を手渡されて終わりである。
 だが、ルパートの本体は人間の体ではなく運ばれていった鎧のほうであり、双方は意識と感覚を共有している。なのでそちらが潜入できた時点で作戦は成功なのだ。
「毎度ありがとうございました」
 ルパートの人間体はそっと城から去ったふりをして、敵から見えない位置まで移動したところで意識を本体に集中させる。鎖に縛められた黒騎士の鎧は城内を地下に向かって、どこまでもゆっくりと下っていく最中であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【兎鯱】
元奴隷だし聖者だったから
聖痕も一応残ってるけど…
今の希少価値は、どうなんだろう…

自分の事はよくわからないけど
僕の容姿で潜入するなら奴隷として…だよね
女装はちょっと癪だけど
生贄は…放っておけない

オフショルダーのドレスを着用
左二の腕にある花の聖痕★どこにでもある花園を露出したまま
髪も降ろして儚げで弱った雰囲気を装う

侵入の準備が出来たら
出来る限り微弱に調整した【指定UC】を常に使用
聖痕も淡く光らせ聖者の特徴を再現

怯えるような【演技】で言葉は一切発さない
代わりにさり気ない目線の【誘惑】で晃君の情報収集を補佐
それ以外の時間も【聞き耳】で周囲の会話を少しでも聞き取り
有益な情報があれば小声で共有


堺・晃
【兎鯱】
下手すると内部で別行動になる可能性もあるが
奴隷商役を担当

一応聖痕は晒しておきましょう
多少は誤魔化せるかもしれない

僕も以前は客側でしたから
ある程度の内情は把握はしていますが…

念のため★紫鴉に上空から【偵察】させ商人の流れを【偵察】
招待状等が必要なら【闇に紛れ】
現地に向かう適当な商人を★麻酔弾で襲い【略奪】

敢えて澪君に【指定UC】の猿轡以外を使用
【演技】力と【言いくるめ】で周囲に溶け込み
祭壇の場所を知る者を探して【情報収集】

ただの聖者でなく、容姿にも優れた商品です
多少はお役に立てるかと思いまして

澪君の体力を考えればあまり悠長にはできない
なるべく早い事指示でも案内でも得られればいいんだけど



「元奴隷だし聖者だったから、聖痕も一応残ってるけど……今の希少価値は、どうなんだろう……」
 新たな『紋章』の素材を求める第五の貴族の城に潜入すべく、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は自分が奴隷に扮する作戦を立てていた。それに奴隷商の役で同行するのは、彼のチームメイトである堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)だ。
「一応聖痕は晒しておきましょう。多少は誤魔化せるかもしれない」
 できるだけ敵の興味を引けるように、綺麗に着飾って肌を見せ。仕上げに手枷とロープをはめれば、誰も彼を偽の奴隷だと――ついでに言うなら男性だとも気付かないだろう。

「自分の事はよくわからないけど、僕の容姿で潜入するなら奴隷として……だよね」
 元から女性と間違われるほどに線が細く可憐な容姿をした澪である。オフショルダーのドレスを着用し、左腕の花の聖痕「everywhere garden」ごとほっそりした二の腕を露出し、長い髪も降ろせばもうどこからどう見ても美少女にしか見えない。
「女装はちょっと癪だけど、生贄は……放っておけない」
 別に似合うからといって好きこのんでこんな格好をする訳ではないが、作戦のためなら受け入れる覚悟はある。かつては奴隷として酷い扱いを受けてきた彼には、ここで生贄として消費されようとしている奴隷たちを見捨てることはできなかった。

「僕も以前は客側でしたから、ある程度の内情は把握はしていますが……」
 澪が身支度を整えている間に、晃は使い魔の「紫鴉」を飛ばして偵察を行っていた。
 地位の高い人物が催す宴に参加するには、飛び入りで認められることはそうあるまい。まずは招待状を確保すべく、城に向かう商人の流れを上空から眺めて適当な獲物を探す。
「失礼」
「うっ……?!」
 闇に紛れて近付き、周りに他の人がいないタイミングでハンドガンから麻酔弾を一発。
 騒ぎになる間もなく標的を眠らせた彼は、その懐を探って領主の招待状を奪い取った。

「必要なものは確保できました。そちらの準備はどうですか?」
「問題ないよ、いつでも行ける」
 赤い瞳のカラスを肩に乗せて晃が戻ってくると、澪のほうも侵入の準備はできていた。
 よし、と頷くと晃は澪を拘束する【咎力封じ】のロープの端を握って城の入口に進む。
「止まれ! 招待状は」
「こちらに」
 呼び止めた番兵に他の商人から奪った招待状を見せると、城内にはあっさりと入れた。
 中ではヴァンパイアらしいゴシック趣味なパーティ会場で、着飾った紳士淑女や商人達しており――それとは対照的に暗い顔をした、城主への献上品と思しき奴隷達がいる。

「お初にお目にかかります、皆様」
 晃はパーティの雰囲気に溶け込めるよう、気品ある振る舞いで他の来賓に声をかける。
 演技と言いくるめは彼の得意分野のひとつだ。こういった場の空気にも慣れている風で礼儀正しくしていれば、相手も「これはご丁寧に」と挨拶を返してくる。
「そちらの娘は貴方のお連れになった奴隷ですかな?」
「ええ。ただの聖者でなく、容姿にも優れた商品です。多少はお役に立てるかと思いまして」
 晃がくいとロープを引くと、澪が項垂れながらすっと前に出る。怯えたような演技で言葉は一切発さず、【生まれながらの光】で淡く光らせた聖痕をそれとなくアピールする。その明らかな聖者の特徴を見ると、他の客達の反応も変わった。

「ほう、オラトリオの聖者とは。よく仕入れることができましたな」
「この品質であれば、城主様もきっとお喜びになられる事でしょう」
 人間ではなく"モノ"を品評する視線が、華のように可憐な少年に不遠慮に向けられる。
 この見世物になったような感覚に、澪は覚えがあった。こみ上げる不快感を押し殺し、恐怖と不安に耐えている儚い少女を装う。ここで連中から情報を集めるのなら、こちらに興味を持ってもらうほうが効率的だからだ。
「城主様はまだお見えにならないので?」
「お忙しい方ですからな。今も"例のもの"の研究を進めているようですよ」
 奴隷商として実際に話をするのは晃の役目だ。聞いてみたところ、どうやら城主リオが『紋章の祭壇』を保有しているという情報はあまり知られてはいないらしい。大半の客は今回の宴を、ただ城主の享楽を満たすための奴隷の品評会くらいにしか考えていない。

(重要施設の存在をあえて言いふらす理由もなし、当然のことですか)
 『紋章の祭壇』を破壊するには、まずその場所を知る者を探さなければ。有象無象の中から会話を通じて有益な情報を探ろうとする晃を、澪は奴隷役として傍らにはべりつつ、有形無形の補佐を行う。
「それにしても本当に美しい娘だ……」
「………っ」
 今にも涙がこぼれそうに潤んだ瞳で、怯えるような上目遣いで宴の参加者達を見つめ。さりげない目線の誘惑で注目を集めることで、晃が情報収集を円滑に行えるようにする。同時に自分でも周囲の会話に聞き耳を立て、有益な情報が紛れてはいないかと注意する。

(澪君の体力を考えればあまり悠長にはできない。なるべく早い事指示でも案内でも得られればいいんだけど)
 晃にとって気がかりなのは、聖者である事をアピールするために【生まれながらの光】を使い続けている澪の疲労だった。戦いの本番前に力尽きてしまったら元も子もない。
 焦る気持ちを演技で押し隠し、見咎められないよう慎重に調査を行う。その甲斐あって幾つかの有益な情報を得ることができた。
「祭壇の場所はどうやらこの城の地下にあるらしいですね」
「向こうでもそれらしい話をしている人がいたよ」
 集めた情報を小声で共有し、次の行動を話し合っていると、これまでの連中とは異なる雰囲気の者が近付いてくる。招待された客ではなく、どうやらこの城の使用人のようだ。

「そちらの奴隷を連れて付いてきて下さい」
 掛かった。と、澪と晃は無言で視線を交わす。献上の宴で注目を集めた結果、どうやら澪は『紋章』の素材としてふさわしい贄に認められたらしい。この案内に付いていけば、『祭壇』かそれに近い場所までたどり着けるだろう。
「光栄の至りです」
 奴隷商の晃は芝居がかった調子でへりくだり、奴隷の澪を連れて使用人の案内に従う。
 二人ともそれぞれの役を守りながらも、その内心では静かな緊張が湧き上がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
生贄として宴に参加、城内へ潜入を試みる
城に集まる適当な売り手を利用して、大人しく捕まるなり従ってみせるのがいいだろうか
どうやら人狼は「高級素材」らしいからな

念の為、武器の類は服の下等にしっかり隠しておく
目的地にたどり着くまでは、無抵抗で従順な生贄を装う必要がある
宴の様子も自分の状況も不快ではある…が、自分で選んだ手段だ、しばらく耐える

しかし、奴隷が紋章の材料とは
売り手は知ってか知らずか…まぁ、売った奴隷の用途など気にしたこともないかもしれないな
自分の利益の為に他者を平気で差し出せる者、か
…ああそうだった、生まれ育った町にも、この手合いは掃いて捨てる程居たのだった
全く、嫌な事を思い出させてくれる



「ぐふふ、宴の前に良い奴隷が手に入ったわい」
 吸血鬼の城に続く暗い道を、恰幅の良い中年男が歩いている。その後ろを鎖に繋がれて歩かされているのは、暗い顔をした奴隷達――その中にはシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)も含まれていた。
(どうやら人狼は「高級素材」らしいからな)
 自身が敵の求めている『紋章の祭壇』の生贄になると考えた彼は、城内に潜入するために城に集まる適当な売り手を利用する作戦を立て、わざと抵抗せず捕まってみせたのだ。

「ほれ、きりきり歩けい」
「…………」
 奴隷商に鎖を引かれ、シキはうなだながらとぼとぼと歩く。目的地に辿り着くまでは、無抵抗で従順な生贄を装う必要がある。大人しく従ってみせながらも念の為、武器の類は服の下等にしっかりと隠して取り上げられないよう死守していた。
「ここが今日から貴様の主人がおられる城だぞ。見事だろう」
 城の扉を抜ければ、中では既に宴が開かれていた。参加者として招待された者達はみな良い身なりをして笑っているが、それとは対照的な様子の奴隷たちの姿も目立つ。ここは城主に献上する奴隷を品評する場であり、人権の価値など欠片も顧みられない場所だ。

(宴の様子も自分の状況も不快ではある……が、自分で選んだ手段だ)
 こぞって自分の"商品"をアピールする売り子の耳障りな声や、腕に絡みつく鎖の不快な感触に耐えるシキ。ここで騒ぎを起こせば折角我慢してきたのが水の泡だ、せめて祭壇の場所を突き止めるまでは奴隷のふりを続けなければいけない。
(しかし、奴隷が紋章の材料とは。売り手は知ってか知らずか……まぁ、売った奴隷の用途など気にしたこともないかもしれないな)
 宴の参加者の会話に耳を傾けてみても、彼らが『紋章の祭壇』について知っている様子はない。それでも吸血鬼に買われた奴隷の運命がろくなものではない事くらい想像はつくだろう。だというのに笑って宴を楽しむその態度から、彼らの人間性がうかがい知れる。

(自分の利益の為に他者を平気で差し出せる者、か)
 ぐっと頭を下げて歯を噛み締める。今、誰かに顔を見られれば怒りを隠しきれなかっただろう。ここは人を人とも思わぬ扱いをして、まるで良心の呵責を感じない屑の巣窟だ。華やかに飾り立てられたパーティ会場が、故郷の暗くて汚い貧民街の光景と重なる。
(……ああそうだった、生まれ育った町にも、この手合いは掃いて捨てる程居たのだった)
 この世界では珍しい事でもないとはいえ、彼も故郷にあまり良い思い出はない。現在のシキが弱みを見せず常に冷静であるよう努め、約束や信用を重んじる性質となったのは、この過去の経験の影響も大きかった。

(全く、嫌な事を思い出させてくれる)
 ここまで不快な思いをさせられたのだ、元凶には報いを受けさせねば割りに合うまい。
 幸いにして人狼という「高級素材」であるシキは、ほどなくして宴の会場から城の奥に呼ばれる。その先に何があるか身構えつつ、彼は服の下の銃の感触を確かめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

あの厄介な紋章の出所を遂に発見できたか…
いい機会だ、二度と作れなくなるほどに叩いていこう

UCを発動
髪の先から相手の認識を惑わせる幻覚剤を毒ガスとして微かに振りまきつつ城内に進入しよう
ここで暴れるのは簡単だが…城内には未だ囚われてる人々がいるからな
城内を見回して構造を把握しながら、彼らを上手く逃がせるルートを模索しよう

あぁ、其処にいる君
恐縮だが、少し案内をお願いできるかな?

守りが固いであろう場所から出てきた相手に声をかけ、同時に幻覚剤の毒性を強める
こうすれば幻覚状態から一種の催眠状態にまで陥らせられる
油断している相手であれば尚更な

では、エスコートをお願いしよう
紋章の祭壇まで、な



「あの厄介な紋章の出所を遂に発見できたか……いい機会だ、二度と作れなくなるほどに叩いていこう」
 これまでにも何度か『紋章』持ちのオブリビオンと交戦経験があるキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は、今回の作戦に静かな意欲を燃やす。1つでも『祭壇』を破壊することで新たな紋章の生産数が減るならば、ここは徹底的にやるべきだろう。
「まずは潜入からだな……」
 献上の宴が開かれている城に入り込むため、彼女は【プワゾン】を発動して髪の先から幻覚剤を毒ガスとして微かに振りまく。毒で相手の認識を惑わせた隙に侵入する作戦だ。

「ん……なんだか甘い香りがしないか?」
「誰かの香水だろう」
 希釈された薄紫色の毒霧が発する、官能的なまでに甘い香りに気が付いた者もいるが、多くは他の香りに紛れて気に留めていないようだ。キリカは目立たないよう物陰に潜み、彼らに幻覚毒が回っていくのを待つ。
(ここで暴れるのは簡単だが……城内には未だ囚われてる人々がいるからな)
 強引にこの場を突破しようものなら、生贄として集められた人々が犠牲になるだろう。
 キリカは城内を見回し構造を把握しながら、彼らを上手く逃がせるルートを模索する。

(この辺りは守りが固いな)
 幻覚剤の効果が出始めるにつれて、キリカが城の中を移動できる範囲も広がっていく。
 頭の中でルートを組み立てながら進んでいくと、奥から使用人らしき人物が出てくる。これは怪しいとみた彼女は、髪から毒を振りまきながらすっとその相手に近付いた。
「あぁ、其処にいる君。恐縮だが、少し案内をお願いできるかな?」
「は? 貴女は……」
 声をかけると同時に幻覚剤の毒性を強める。幻覚状態から一種の催眠状態にまで陥らせられるレベルに。警戒中ではなく油断している相手であれば尚更に、この毒はよく回る。

「ぁ……なんなりとお申し付けを……」
 まさかここまで敵が来るとは思わずに油断しきっていた相手は、抵抗もできずに毒の虜となった。相手の目から光が消え、ぼんやりと夢見心地な表情になるのを確認してから、キリカはにこやかに微笑んで要求を告げる。
「では、エスコートをお願いしよう。紋章の祭壇まで、な」
「はい……」
 なぜ機密である『紋章の祭壇』の存在を知っているのか、そこに行ってどうするのか、疑問を抱くことも忘れて使用人は城の奥まで彼女を案内する。致死力のあるタイプの毒ではないが、潜入工作においては寧ろこれほど厄介な毒はそうないだろう。

「天国が視えるほどに、甘い香りだろう?」
 毒の香りを身に纏いながら、悠々と城内を進むキリカ。その歩みはやがて地下へと続く階段へと向かい、かつんかつんと一歩ずつ『紋章の祭壇』までの道程を踏みしめていく。
 案内役は今だ催眠から覚めぬまま。障害となりうる者は既に幻覚に無力化されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…紋章の祭壇ね。こんな物、後の世に残していても百害あって一利も無い
見つけ次第、破壊して闇に葬らないと駄目ね

事前にUCを発動し22人の吸血鬼狩人を召喚して奴隷役になってもらい、
外見だけの吸血鬼化を行う肉体改造を施して猟兵の気配や存在感を消し、
"影精霊装"を闇のドレスに防具改造して吸血鬼の貴族を装い宴に向かう

…失礼。第五の貴族の宴は此方であっていたかしら?

私の領内で面白い獲物が採れたので是非、姫君にご覧に入れようかと…

不遜にも吸血鬼狩人を名乗っていた人間達よ
従者や下位の者ならともかく、この私に勝てる訳無いのに健気にも挑んできたの

よく鍛えられているし優れた素材になると思うのだけど、お目に叶うかしら?



「……紋章の祭壇ね。こんな物、後の世に残していても百害あって一利も無い」
 見つけ次第、破壊して闇に葬らないと駄目ね――とリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が呟くと、フードと黒衣に身を包んだ人間達が静かに頷く。
 彼らは吸血鬼狩りの少女が手ずから鍛えた弟子であり、今回の作戦のために【吸血鬼狩りの業・血盟の型】で召喚された者達だ。いずれも師の為に協力を惜しまぬ精鋭である。
「……暫く我慢して頂戴」
 リーヴァルディは彼ら22人の吸血鬼狩人に奴隷役になってもらい、自らは外見のみの吸血鬼化を行う肉体改造を施して猟兵の気配や存在感を消す。さらに身に纏う"影精霊装"を闇のドレスに改造すれば、どこから見てもその装いは吸血鬼の貴族となった。

「……失礼。第五の貴族の宴は此方であっていたかしら?」
 変装を終えたリーヴァルディは弟子達を引き連れて城に向かい、艶めく笑みを浮かべて番兵に尋ねる。その冷たさを感じさせる凛とした振る舞いはいかにも貴族といった風で、尋ねられた相手も思わず背筋を伸ばした。
「はっ、その通りで御座います。貴女様は招待客の方で……?」
「ええ。私の領内で面白い獲物が採れたので是非、姫君にご覧に入れようかと……」
 そう言って示された弟子達は、悲壮感を漂わせてぐっとうなだれる。いかにも吸血鬼に屈服した奴隷らしく。『紋章の祭壇』の生贄を集める宴に、奴隷連れで吸血鬼の貴人が訪れたとなれば、疑われる余地は皆無だった。

「成程。どうぞお通り下さいませ」
 道を開けた番兵に「ありがとう」と微笑んで、リーヴァルディはいよいよ宴に向かう。
 城内では既に多くの招待客が歓談しており、献上品として連れてこられた奴隷もいる。その中でも高貴な装いと雰囲気をまとったリーヴァルディはすぐにみなの注目を集めた。
「お初にお目にかかります、お美しいお方」
「御機嫌よう」
 彼女は来賓達と挨拶を交わし、宴を楽しむふりをして自分の連れた奴隷達を披露する。
 この催しが生贄にふさわしい奴隷を選ぶ品評会を兼ねているなら、積極的に奴隷の良さを語ることが『祭壇』に招かれる方法になる。一番は「高級素材」と認められる事だが。

「不遜にも吸血鬼狩人を名乗っていた人間達よ。従者や下位の者ならともかく、この私に勝てる訳無いのに健気にも挑んできたの」
「ほう、これがあの噂の」
 人間の分際で吸血鬼に歯向かう者は割合としては珍しい。内心で不満を溜めていても、実行に移せるだけの勇気と覚悟を持った者は少ないからだ。そんな吸血鬼狩人の"実物"を見た来賓や城の使用人達の、物珍しげな視線が突き刺さる。
「よく鍛えられているし優れた素材になると思うのだけど、お目に叶うかしら?」
「ええ、ええ。これならリオ様もきっとお喜びになられると思いますよ」
 吸血鬼の居城に連れて来られても大人しくしているあたり、調教も行き届いている様子――実際はそう指示を受けてまだ動かないだけだが。ともあれ、その従順に見える態度も相手には好評なようだ。心身共に優良であることも『紋章』の素体の資質なのだろうか。

「素晴らしい奴隷をお連れになりましたね。ご令嬢、どうぞこちらに」
 宴席で城主に直接会うことはなかったが、無事奴隷の価値を認められたリーヴァルディは城の奥へと通される。灯りの少ない通路の先で、地下に続く階段が彼女を待っていた。
(……一体この先にどんな光景が待っているのかしらね)
 どんなおぞまじいものを見る覚悟を決めたうえで、少女は弟子を連れて階段を下りる。
 人間達の生命を力に加工する『紋章の祭壇』。その完全破壊の決意を胸に秘めたまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
SPD
宴の最中にこっそりと潜入する

紋章は寄生虫型オブリビオン。つまりは「生き物」のように呼ばれていましたから、こういう可能性もあるとは思っていましたが……醜悪ですね。
ここの主もですが、いつかはこの技術自体もどうにかしなければいけなさそうですね……

宴の会場から離れた警備の少ないところを狙い、音を立てないように気を付けながら城内に潜入します。
宴の会場に人が割かれていれば警備も少なくなっているでしょうし、【スカイステッパー】を使用した空中ジャンプも利用して敵との接触は避けていきます。

祭壇は地下。おそらく警備が最も厳重になっている場所でしょう。警備の目をかいくぐり、警備が厳重な区画へと向かいます。



「紋章は寄生虫型オブリビオン。つまりは『生き物』のように呼ばれていましたから、こういう可能性もあるとは思っていましたが……醜悪ですね」
 想定の範疇ではあるが、その中でも最低な部類の想像が当たっていた事に顔をしかめつつ、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は敵の城を外から観察する。
「ここの主もですが、いつかはこの技術自体もどうにかしなければいけなさそうですね……」
 製造工場である『祭壇』や、その知識を持つ吸血鬼を倒せば紋章の生産は減るだろう。
 だが、紋章の技術自体を完全にこの世から葬り去るのはたやすい事ではない。長い戦いとなることを覚悟しつつ、彼女はまずその第一歩を踏み出した。

(宴の会場に人が割かれていれば警備も少なくなっているでしょう)
 セルマは宴の会場から離れた警備の少ないところを狙い、音を立てないように気を付けながら城内に潜入する。祭壇の場所を確認するまでは、まず発見されないのが最優先だ。
「ん……今、何か動いたか?」
「気の所為だろう。俺には何も見えなかったぞ」
 予想通り城の人員の大半は宴のほうに割かれているらしく、その裏手の警備はまばら。
 こんな地の底で「第五の貴族」の城に忍び込むような命知らずもそうはいないためか、警戒も散漫で付け入る隙はいくらでもあった。

(地底は地上よりも吸血鬼の支配が強い。それが傲りを生んでいるようですね)
 無事に城内に忍び込んだセルマは、それからも敵との接触は避けながら城の奥に進む。
 【スカイステッパー】を使用した空中ジャンプも利用して、徒歩では不可能なルートを行くことで警備の目をかい潜る。単身で敵の居城にいても彼女は冷静沈着であった。
「そちらはどうだ?」
「異常なし」
 流石に城の奥まで進むと警備のレベルも上がってくる。見つからないよう細心の注意を払いながら衛兵の配置や巡回のルートを観察していると、彼らがどこを重点的に守っているかが見えてくる。それが『紋章の祭壇』を発見する手がかりだ。

(祭壇は地下。おそらく警備が最も厳重になっている場所でしょう)
 敵にとって紋章を製造する『祭壇』はこの城の最重要施設。他の何よりも守りを固めているだろうというセルマの推測はおそらく正しい。警備がより厚くなる方向に進んでいくうちに、周りの雰囲気が変わってきたからだ。
(地下に続く階段……当たりですね)
 ここまで来ると警備は非常に厳重だったが、彼女はその全てを見事にかい潜ってきた。
 兵士がよそ見をした一瞬の隙をついて、空中ジャンプで階段に飛び込み、足音を立てずに一気に下りる。ちらりと後ろをふり返っても、誰かが追いかけてくる気配はなかった。

(ここから先は自分の部下すら近付けたくない場所のようですね)
 地下階段の入り口を抜けて以降、あれだけいた警備の姿を目にすることは無くなった。
 目的地が近い事を肌で感じたセルマは、逆により一層注意するように気を引き締めて、暗い通路をゆっくりと進んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
あんな紋章の為に多くの命が…。
ここで絶対に元凶を断たないと…。

リオと繋がりのある奴隷商と接触して襲撃…。
捕まっていた奴隷を解放すると共に、奴隷商を脅し、呪術【呪詛、高速詠唱、催眠術】を掛けて自身をリオの居城へ奴隷として連れていく様指示…。

奴隷は許せないけど…一度協力して貰うよ…

この世界ではほぼ手に入らない「妖狐」という希少素材であれば、生贄として魅力的だろうしね…。
万一に備えて【影竜進化】でミラ達を自身と奴隷商の影にそれぞれ潜伏…。

吸血鬼に引き渡し後は生贄として『紋章の祭壇』に連れて行かれるのを待って行動…。

祭壇の場所を確認したら、機会があれば頃合いを見計らって影に潜って拘束から脱出するよ…



「あんな紋章の為に多くの命が……」
 ダークセイヴァーのオブリビオンを強化するために無数の命が使われていた事を知り、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は静かな怒りを示す。実際に紋章の危険性を戦いで実感しているからこそ、その憤りも大きいのだろう。
「ここで絶対に元凶を断たないと……」
 紋章の製造工場である『祭壇』を破壊するには、まずは敵の城に潜入する必要がある。
 丁度城に招待されている客がいるのなら、そこを狙わない手はない。まず彼女が接触を図ったのは、第五の貴族リオと繋がりのある奴隷商であった。

「奴隷は許せないけど……一度協力して貰うよ……」
「ひ、ひぃっ!」
 歴戦の猟兵の実力にかかれば、ただの商人など敵にすらならない。城に向かう奴隷商を襲撃した璃奈はまたたく間に護衛を一蹴、捕まっていた奴隷を解放すると共に、腰を抜かした奴隷商に剣を突きつけていた。
「わたしをリオの居城へ奴隷として連れていって……」
「ひ……は、はい、仰せの通りにいたします……!」
 成金的な格好をした恰幅の良いその中年男は、少女の要求に一も二もなくひれ伏した。
 生殺与奪の権を握られた上で、逆らえないよう呪術による催眠を掛けられているのだ。拒否するという考えすら今の彼には無いはずだ。

(この世界ではほぼ手に入らない「妖狐」という希少素材であれば、生贄として魅力的だろうしね……)
 毛並みのよい銀色の尻尾と狐耳をよく見えるように晒して、奴隷用の荷車に乗って城に向かう璃奈。万一に備えて自身と奴隷商の影には【呪法・影竜進化】で成長させた3匹の仔竜を潜伏させており、いざとなれば緊急脱出も可能だ。
「ご、ご苦労様です。城主様に献上する奴隷をお持ちしました」
「招待状は持っているな? よし、通れ」
 わざわざ奴隷商を脅迫した甲斐はあり、宴の会場まではすんなりと入ることができた。
 きらびやかに装飾された城内には、各地から招待された賓客や奴隷商、そして今の璃奈と同じ境遇の奴隷達がいる。『紋章の祭壇』の生贄として集められた献上品だろう。

「ほう、これは珍しい種族だな。リオ様もきっとお喜びになられるだろう」
 妖狐である璃奈はすぐに宴の開催者側の目に留まり、より強力な紋章を作り出すための「高級素材」として引き渡される事になった。協力させた奴隷商とはここで別れとなり、彼女だけが宴の会場から城の奥に連れて行かれる。
「光栄に思え。貴様はこの世界でも特に高貴なるお方の実験材料になれるのだから」
 城主の配下らしき吸血鬼は偉そうに奴隷の鎖を引くが、璃奈の実力ならば倒せない相手ではない。だが『祭壇』の場所を確認するまでは騒ぎを起こすのは厳禁だと、彼女は我慢して拘束されたまま歩く。

「ここだ」
 地下に続く階段を降り、突き飛ばされるように放り込まれたのは、むせ返るような悪臭と薔薇の香りに満ちた部屋だった。床には血痕と死骸が散らばり、どれほどの死がこの場でもたらされたのかを如実に語っている。
「ここが紋章の祭壇……」
 案内役はすぐに扉に鍵をかけて去っていき、1人残された璃奈はすっくと立ち上がる。
 祭壇の場所さえ確認できれば、もう奴隷のふりをする必要もない。鎖で縛られた少女は足元の影に囁きかける。

「ミラ、お願い……」
 影竜はその声に応えて璃奈を影の中にとぷんと潜航させる。再び影から出てきた時には彼女を拘束する鎖は解けており、一緒に影に同化させてあった装備品が携えられていた。
「これでよし……」
 自由を取り戻した少女は身体をほぐすように軽く伸びをすると、魔剣の感触を確かめて歩きだす。この部屋の奥にある『紋章の祭壇』を、二度と稼働できぬよう破壊する為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
念の為、偽装魔術【高速詠唱、化術】も使用して偽装を施し、自身を高位のヴァンパイア【存在感、威厳、礼儀作法】として潜入。

※元々父親が『吸血大公』の爵位を持つヴァンパイアなので、身分的には嘘では無いが

また、【虜の軍勢】でエビルウィッチ、黒い薔薇の娘たち、『雪女』雪華を召喚。

ウィッチと薔薇の娘たちを従者として引き連れて強力な吸血鬼である事を示し、いざとなれば【我が身は雪と共に在りて】による脱出能力を持つ雪華を信頼を得る為に(名目上)紋章の材料の手土産として引き渡し、紋章の祭壇まで案内して貰うわ

…ごめんなさいね。本当は眷属を敵に渡すなんて危険な目に合わせたくないのだけど…危険になる前に必ず助けるから!



「偽装はこんなもので良いかしら」
 雰囲気や印象を変える魔術を施し、真紅のドレスや宝飾で身嗜みを整えて、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は貴族の城を訪れる準備を整える。
 彼女は真祖の血を継ぐ元名家のお嬢様であり、父親は『吸血大公』の爵位を持つヴァンパイアである。猟兵であることを除けば、今回の宴に参加する資格は十分にある身分だ。
「貴女達も準備は良い?」
「はい、ご主人さま」
 高位のヴァンパイアの装いをした彼女が引き連れるのは【虜の軍勢】で召喚した眷属。
 エビルウィッチと黒い薔薇の娘たちを従者として傍に置き、雪女の「雪華」には奴隷のふりをさせると、彼女は優雅な足取りで第五の貴族の城に向かった。

「レイブラッド大公の御息女様ですね。どうぞお通り下さい」
 強力な吸血鬼である事を威厳と態度で示すフレミアを、警備の兵士達は誰も疑わない。
 あっさりと門を抜けて城内に入ると、そこでは大勢の賓客がそれぞれ自慢の奴隷を連れて宴を楽しんでいる最中だった。
「失礼。わたしもお話に加えていただいて良いかしら?」
「まあ、素敵な方。どうぞこちらに」
 本物の貴族としての教育と礼儀作法を学んだ彼女は、パーティでの振る舞いも堂に入ったもの。何気ない仕草ひとつにも気品と威厳を感じさせ、周囲の目を釘付けにしている。ここで注目を受けるのは、作戦的に見ても悪いことではなかった。

「ご令嬢、そちらの娘は何でしょう? 見慣れぬ格好をしていますが」
 フレミアに気を引かれた者達が次に視線を向けるのは、彼女が連れている雪華だった。
 この辺りでは珍しい和装をした雪女。強力な『紋章』を作り出すための希少な素材を求めているのならば、この異世界の種族は間違いなく城主の目にも留まるだろう。
「城主様への手土産よ。偶然手に入れた『高級素材』なの」
 この雪華を名目上とはいえ敵の信頼を得る為の材料にしたのにはもちろん理由がある。
 【我が身は雪と共に在りて】による脱出能力を持つ彼女であれば、いざとなれば自力で生還できる可能性が高いと考えたためだ。

「素晴らしい素材に感謝します。リオ様もきっとお喜びになられることでしょう」
 ほどなくして雪華は城に献上品として引き渡される事となり、見返りとしてフレミアは『紋章の祭壇』に近付く機会を得た。本来は城でもごく一部の者しか立ち入りの許されない場所だが、"高位のヴァンパイア"からの頼みとあらば相手も無碍にはできなかった。
「それじゃあ、案内して頂戴」
「畏まりました。こちらへ」
 雪華を縛る縄を受け渡されて、使用人と思しき男が城の奥へとフレミア達を案内する。
 宴の会場を抜ければそこは冷たくて薄暗く、ここが敵地であると否応なく感じさせる。だが今のフレミアを緊張させるのはそれとは別の事情だった。

(……ごめんなさいね。本当は眷属を敵に渡すなんて危険な目に合わせたくないのだけど……)
 大事な眷属の身柄を一時でも手放すのは、フレミアとしても苦渋の選択だっただろう。
 だが彼女の事を心から信じていなければ、雪華はそもそも作戦に同意しなかったはず。従者として付き従う他の眷属もそれは同じである。
(危険になる前に必ず助けるから!)
 愛しき眷属達の主としての決意を強く固めながら、吸血姫は『紋章の祭壇』に向かう。
 そこにどんな悍ましい光景が待っていたとしても、彼女にもはや迷いは一切無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
100年にも渡る吸血鬼達の支配
なぜこの世界が今まで骸の海に沈んでいなかったのか、その理由の一端やもしれませんが…

どんな理由であれ家畜の様に消費された犠牲者が浮かばれません
騎士としてこれ以上は…

この体躯では生贄役は不向き
UCを纏い周囲と同化する擬態性能と壁や天井に張り付く吸盤の能力を活かし城内に潜入
クリスタライズ等の透明化と違い擬態は限界ある以上、人目は避けたい物
マルチセンサーの情報収集で音を拾い接近は事前に回避

祭壇への立ち入りが一部の者だけならば、そこへ至る通路の利用回数も少ないやもしれません
暗視で床やカーペットの摩耗具合を見切り分析

不自然に途切れていれば…隠し通路の可能性もありますね



「100年にも渡る吸血鬼達の支配。なぜこの世界が今まで骸の海に沈んでいなかったのか、その理由の一端やもしれませんが……」
 今だこの世界が完全に滅びていない理由を、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)はそのように考える。紋章の製作に多くの命が必要となるなら、素材確保の為にオブリビオンは人類を滅ぼさなかったのではないかという考察だが――。
「どんな理由であれ家畜の様に消費された犠牲者が浮かばれません。騎士としてこれ以上は……」
 今は敵の思惑を推し量るよりも、発見された『祭壇』の破壊が最優先だった。罪もない数多の命と引き換えにしてオブリビオンが強化されていくなど、見過ごせるわけがない。

(この体躯では生贄役は不向きですね)
 城主への献上品として正面から入る策は早々に諦め、トリテレイアは【特殊潜入工作用試作型隠蔽外套】を用いての潜入を試みる。躯体全体を覆う黒い外套の下から複数本の触手状ワイヤーを伸ばし、城壁にピタリと吸盤を張り付ける。
(騎士らしくないのは兎も角、どうにも生物の印象が拭えませんね……)
 シルエット上はイカのような奇妙な格好になるが、ウォーマシン用最新鋭特殊装備との触れ込みは嘘ではない。ひたひたと触手で壁を這い登った彼はそのまま城内に忍び込み、マルチセンサーを起動して『紋章の祭壇』の捜索を開始する。

(警備の多くは宴の会場に振り分けられているようですね。好都合です)
 風景に合わせて色彩を変える外套によって周囲と同化し、吸盤の力で壁や天井に張り付いて移動する。静粛性と擬態性能を併せ持った装備の性能を活かせば、敵との遭遇を避けつつ城内を探索するのも不可能ではない。
(クリスタライズ等の透明化と違い擬態は限界ある以上、人目は避けたい物)
 決して過信はせずにセンサーが拾う物音にも耳を傾け、足音から敵の接近を察知すれば事前に方向転換して接触を回避する。こうした慎重な行動もあって、トリテレイアの潜入はまだ警備に察知されてはいなかった。

「こちらは異常なし。平和なもんだな」
「馬鹿、気を抜いたらリオ様に仕置きを食らうぞ」
 そんなやり取りを通路でしながら通り過ぎていく警備の兵士達。その足音が聞こえなくなると、トリテレイアは天井から逆さに触手でぶら下がりながら床にじっと目を凝らす。
(祭壇への立ち入りが一部の者だけならば、そこへ至る通路の利用回数も少ないやもしれません)
 暗視機能をオンにして床やカーペットを精査すれば、表面の摩耗具合が分析できる。
 摩耗の少ない通路は人の行き来が少ない場所。つまりは『紋章の祭壇』に近い可能性があると考えた彼は、次第に城の奥へと足を踏み入れていく。

「これは……」
 そうして調査を続けたトリテレイアは、これまで辿ってきた床の痕跡が不自然に途切れている場所を見つける。カーペット等の敷物などのせいとも周辺状況からして考え難く、とすれば他にありえるのは――。
「……隠し通路の可能性もありますね」
 各センサーをフル稼働させてその周囲を調べてみると、床の下に空洞があると分かる。
 どうやらこの床面は"蓋"だったようだ。隙間に触手をねじこんでぐっと持ち上げると、地下へと続く階段が現れる。

「いかにも、といった様子ですね」
 灯りのほとんど見えない地下を覗き込むと、トリテレイアは慎重に階段を下りていく。
 この先に『紋章の祭壇』がある可能性は高いだろう。潜入作戦はここからが本番だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
SPD
手っ取り早いのは奴隷として入るのが良さげよね。
宴に参加するという奴隷商に家族の為にお金が必要だ等まあ、適当な理由を上げて自分を売りましょうか
あまり嬉しくないけれども…人狼だとより、良いんでしょ?

さあ、飛び込みましょう。吸血鬼の居城へ
奴隷らしく、沈痛な表情で顔は俯き気味に演技をして

周囲に気付かれないように気を付け乍ら内部構造を確認して
いざ動くとなった時に迅速に行動できるようにしておく
少しでも造りが分かっておけば生存者を安全な所に誘導も出来るだろうしね



(手っ取り早いのは奴隷として入るのが良さげよね)
 敵が生贄にする為の奴隷を集めているならそれに便乗するのが一番シンプルだろうと、ディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)は自分を売りに出す決心をする。
「家族の為にお金が必要なの。どうか私を買ってくださらない?」
 宴に参加するという奴隷商に接触し、適当な理由を上げて自分を売り込む。器量の良い彼女は普通にしても奴隷としてかなりの値になりそうだが、今回向こうが目をつけたのは彼女の身体に生えた獣の耳と尻尾だった。

「ほう……お前、人狼か。これは宴の前にいい拾い物をした」
 この奴隷商が『紋章の祭壇』のことを知っているかは分からないが、自分の顧客が普通ではない希少な人種や生物を好んで集めているのは知っているだろう。もちろんディアナもそれを見込んだ上で自分が奴隷になる計画を立てたのだ。
(あまり嬉しくないけれども……人狼だとより、良いんでしょ?)
 強力な紋章を作り出すための「高級素材」のひとつに、人狼の名前が挙げられていた。
 ただでさえ病で短いこの命を、生贄なぞに使おうとは面白くない話だが――その思惑に乗ってやれば労せずして敵の重要施設に近づけるのだ。なら今は我慢すべき時。

(さあ、飛び込みましょう。吸血鬼の居城へ)
 奴隷らしく、沈痛な表情で顔は俯き気味に演技をして。奴隷商に買われたディアナは無事に城門を抜けて宴の会場まで辿り着く。薔薇や酒気の匂いに合わせて強欲で傲慢そうな連中の笑い声がフロアに響き、対照的に献上品として集められた奴隷達の姿が痛々しい。
(まったく、いい趣味してるわね)
 自分も献上品の1人として振る舞いながらも、気付かれないよう周囲に視線を向けて、城内の内部構造を確認する。いざ動くとなった時に迅速に行動できるようにするためだ。

(少しでも造りが分かっておけば生存者を安全な所に誘導も出来るだろうしね)
 優先目標は『紋章の祭壇』の破壊だが、まだ助けられる命をみすみす捨てる気もない。
 人目につきづらい場所や逃げ込める広い庭など、避難所になりそうな場所も幾つか頭に入れていると――来賓や商人ではなく使用人の格好をした人物がこちらに近付いてくる。
「そこの人狼。こちらに来なさい」
 どうやら城主からのお声が掛かったようだ。希少な人狼であるディアナは高級素材として認められ『紋章の祭壇』に送られる。それを破壊する好機が巡ってきたというわけだ。

「早く来なさい」
「はい……」
 表面上はしおらしく使用人の後に付いていきながら、ディアナは内心で笑みを浮かべ。
 案内されるままに城の奥へと進みながら、道中の経路や構造にも目を配る。どんな状況になっても即座に対応できるよう、心の臨戦態勢は万全であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・焔
≪青華≫
アドリブ等歓迎

■心情
大丈夫
焔も今まで頑張って来たんだから
それに生命を実験に使うなんて卑劣な真似をする者は
見過ごす訳には行かないから

■行動
シホ姉と一緒に奴隷として城の中に潜入するよ。
焔も妖狐だから、希少素材にはなっているだろうし。

純白なドレスを身に纏い、高級感を出しておく。
シホ姉と同様に首輪で繋がれて、
手枷と足枷付き。

過去にシホ姉と別々の商人に
珍しい妖狐だから見世物として連れ出されたり
売り飛ばされた過去があり
シホ姉とは、今の商人の下で知り合い仲良くなった設定。

「うう、シホ姉、怖いよぉー……」
と、奴隷として扱われるのを恐れている様な【演技】をするね。

「シホ姉と手を繋いでいたら、安心するね」


シホ・エーデルワイス
≪青華≫


焔…
本当に大丈夫?
酷い扱いを受けるかも…

失礼
焔も猟兵ですものね


奴隷商の拠点を動物と話すで情報収集し制圧
宴への参加に必要な招待状等を奪取
同時に救助した奴隷は『聖鞄』へ匿う


青いドレスと手枷足枷に
焔と首輪で繋がれた
囚われの姫風に変装

売り手の【剣星】に
高級希少素材としてアピールしてもらう

是は前世で大勢の人を殺め
怨嗟と救いを求める念により
聖痕を刻まれた聖女

紋章の製造工程と似ていると感じさせ誘惑


焔と手を繋ぎ合って鼓舞し合い
仲の良い義姉妹を強調

大丈夫
お姉ちゃんが焔…独りにしません

本当は守ると言いたいのを呑込んだ感じ


奴隷しかいない部屋等に入ったら
聖鞄内で待機中の【守霊】を化術で変身させ入れ替え救助活動



「焔……本当に大丈夫? 酷い扱いを受けるかも……」
「大丈夫。焔も今まで頑張って来たんだから」
 城内への潜入作戦が始まる寸前に、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)と四王天・焔(妖の薔薇・f04438)は話し合っていた。心配そうなシホとは対照的に、焔は大丈夫だよとにっこり笑顔を見せる。
「それに生命を実験に使うなんて卑劣な真似をする者は、見過ごす訳には行かないから」
 奴隷にされた数多の命を犠牲にして、紋章を創造する『祭壇』と第五の貴族。その所業を放置すれば、今後も自分達の知らないところで犠牲が増え続ける。そんな事は許せないと語る焔の表情は、笑顔から毅然とした決意の顔に変わっていた。

「失礼。焔も猟兵ですものね」
 焔の覚悟のほどを悟ったシホはこれ以上引き止めるのは無意味と察し、こくりと頷く。
 丁度その時、情報収集をお願いしていた近隣の動物達が戻ってくる。彼女は獣達と話をして、第五の貴族に宴に招かれている奴隷商の拠点を探していたのだ。
「では、一緒に行きましょう」
「うんっ」
 決意を共にしたふたりはまず、敵の城に入る手だてを求めて奴隷商の拠点を奇襲する。
 正式に招待された客なら参加に必要な招待状等を持っているはず。まずはそれを奪う。

「ひぃっ……お、お助けぇ……」
 ただの商人が猟兵二人に敵うはずがなく、奴隷商の拠点はあっという間に制圧される。
 そいつの荷物を焔が探っている間に、シホは捕われていた奴隷たちを救助して『聖鞄』フリッタラリアの掌トランクに匿う。
「さあ、皆様はこちらに」
 トランクの中は広大な空間となっており、生活必需品や野営道具と保存食が保管され、寝台のある部屋が複数ある。避難所としては完璧なスペースだろう。吸血鬼の生贄にされかけていた奴隷達は「ありがとう!」と口々に感謝を述べて、その中に入っていった。
「あったよー」
 奴隷達を全員匿いきれた頃合いで、ちょうど焔が招待状を見つけてくる。これがあれば正門から怪しまれずに敵の城に入れるはずだ。あとは上手く相手の注意を引き付ける事。
 そのための変装と身支度を整えると、二人はシホが召喚した【吸血鬼殺しの元騎士団長にして養父】を売り手役にして、偽りの奴隷商の一団として堂々と宴への参加を試みる。

「おや。ご覧なさい、あちらの方を」
「まあ、立派な奴隷を二人も連れて」
 彼女達が宴の会場に足を踏み入れた瞬間、既に到着していた参加者達の視線が集まる。
 純白のドレスを身に纏った焔と、青いドレスを着込んだシホ。手枷と足枷を付けられ、互いと首輪で繋がれたそのふたりは、並みの奴隷とは異なる高級感をかもし出していた。
「あの青髪の娘に生えているのは狐の耳かしら? 人狼ではないわよね」
「あちらの銀髪のオラトリオも見ろ。聖痕が刻まれているぞ」
 この世界では珍しい妖狐という種族に、暗黒の世界で唯一の「聖なる存在」たる聖者。
 どちらも紋章の素材として一級品の価値を持つ、希少な「高級素材」となる命である。

「失礼、貴方がこの奴隷達の持ち主ですか? どのようにご調達を?」
「この娘達は――」
 売り手に扮したシホの師匠が、宴の開催者や賓客に向けて二人の価値をアピールする。
 是は前世で大勢の人々を殺め、怨嗟と救いを求める念により聖痕を刻まれた聖女。その悲痛な過去を語るのは苦痛ではあるが、敵の興味を引けるのは間違いない。
「こちらの城主が開発に執心なさっている"例のもの"と似ているとは思いませんかな」
「ふむ、成程……」
 数多の命を犠牲に力を生み出すという観点で、紋章の製造工程とシホが聖痕を得た経緯は類似性がある。相手にもそう感じさせることで購入意欲を誘うのが彼女の狙いだった。

「もう1人の娘とは、元は別々の商人が所持していた奴隷でしてな」
 一方の焔は珍しい妖狐だから見世物として連れ出されたり売り飛ばされた過去があり、シホとは今の商人の下で知り合い仲良くなったという"設定"である。それを裏付けるように宴の会場ではシホの傍にぴたりとくっつき、視線から隠れるように身を縮めている。
「うう、シホ姉、怖いよぉー……」
 と、奴隷として扱われるのを恐れている様な演技をすれば、周囲にいる者達はなるほどと納得の表情をする。無論、吸血鬼と繋がりのあるような連中がそれで同情を示すはずもなく、ただ珍しい宝石を見るような視線を向けられる数が増えるだけだったが。

「大丈夫。お姉ちゃんが焔……独りにしません」
 シホも焔と手を繋ぎあって互いを鼓舞しあい、仲の良い義姉妹であることを強調する。
 事実、シホは焔の姉の恋人なのでその関係性がただの演技というわけでもない。本当は守ると言いたいのをぐっと呑み込んで健気に義妹をかばう様は、儚くも健気であった。
「シホ姉と手を繋いでいたら、安心するね」
 繋いだ手からぬくもりを感じると、焔の表情もすこしだけ和らぐ。周りに誰も味方がいない中で、二人ぼっちで互いを支え合うその様子はさながら囚われの姫達を連想させる。悪趣味なヴァンパイアの欲望を満たすうえで、あらゆる意味で申し分ない"素材"だろう。

「失礼します。その奴隷達を連れてくるようにと、我が主が仰せです」
 使用人らしき者にそう告げられて、二人は晴れて第五の貴族の奴隷として献上される。
 売り手の元から引き離されて城内の奥へと連れられていった先は、薄暗い小さな部屋。そこには彼女らと同じように『祭壇』の贄に相応しいとされた奴隷達が集められていた。
「あ……貴女達も捕まったの?」
「ううん、焔達は助けにきたの」
「さあ、こちらに入って下さい」
 暗い顔をした彼らを励まし、二人は前と同じように『聖鞄』を避難所として解放する。
 さらに鞄の中の空間に待機していた【今は亡き守護騎士達の勇姿】を捕われていた人々に変身させて入れ替える。これなら奴隷の数が減っていると敵に怪しまれることもない。

「あとは『祭壇』に送られる時を待つだけです」
「ちょっと緊張するね」
 全員の救助活動と準備を整えたシホと焔は、迎えの時が来るまでじっと寄り添いあう。
 枷と首輪はいつでも外せるようにしてあっても、繋いだ手はそのままで。演技ではない心からの絆が、その手の中には確かにあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ヴァンパイアの花嫁』

POW   :    この心と体は主様のもの
自身の【感情か体の一部】を代償に、【敵への効果的な属性】を籠めた一撃を放つ。自分にとって感情か体の一部を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    全ては主様のために…
【肉体の痛みを麻痺させる寄生生物】【神経の痛みを麻痺させる寄生生物】【精神的な痛みを麻痺させる寄生生物】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    主様、万歳!
【自身が主人の脅威であると認識】を向けた対象に、【自らの全てを犠牲にした自爆】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:machi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それぞれの手段で機血姫リオの城に潜入し、『紋章の祭壇』までたどり着いた猟兵達。
 そこで彼らを待っていたのは、何十――あるいは何百人分にもなる血痕と死骸。死臭を薔薇の香りで押し隠そうとして、逆に混ざり合って息が詰まるような悪臭が満ちている。
 地下の暗さに目が慣れてくれば、さらにその周りに置かれた実験器具の数々が目に入るだろう。城主の知的欲求を満たすためだけに用意された、人の命を弄ぶための道具達だ。

「あァ……新しい贄が来たのネ……」

 そんなおぞましい場所の奥から姿を表したのは、純白の花嫁衣装を身にまとった女達。
 みな驚くほどに美しいが、両手両足には鎖付きの枷が、そして首輪が嵌められており、体のあちこちから触手が生えており、そんな状態でありながら幸福そうに微笑んでいる。

「私達ハ、リオ様に見初められた花嫁……偉大なるヴァンパイア様に選ばれた供物……」

 その言動はどこか機械的で感情表現に乏しく、血が通っているのにまるで人形のよう。
 紋章の製作には人族の他に下級オブリビオンの生贄を素体とする、という話を猟兵達は思い出す。彼女達こそがその素体――紋章に「なりかけ」のオブリビオン達だ。

「さァ……私達とひとつになっテ……私達を完成させテ……」

 幅広い命令をこなせるよう肉体と精神を弄られ、主人を至高で絶対の存在と敬う忠実なシモベに作り替えられた『ヴァンパイアの花嫁』達。生贄にはうってつけの素体だろう。
 このままでは自分達がどうなるかの末路も全て分かった上で、彼女らはリオに盲目的な忠誠を捧げる。完全なる紋章として完成する事こそが、今の彼女らの最大の幸福なのだ。

「そ……そこに誰かいるの?」
「た、助けて……!」

 さらに実験室の奥、あるいは猟兵達が来たのと同じ方向からは、生きた人の声がする。
 やはり紋章製作の素体として囚われていた奴隷達だ。間一髪と言ったところだろうか、あと少し遅ければこの花嫁達に喰われていたはずだ。

「これだけ沢山の贄があればきっト……ああ、主様、お慶びくださイ!」

 生存者を救出し、『紋章の祭壇』を破壊するには、まずはこのヴァンパイアの花嫁達を倒す必要があるだろう。「なりかけ」とはいえ彼女らはまだ紋章の力を有してはいない。
 第五の貴族のおぞましき生体実験室を打ち砕く作戦は、ここからが戦いの本番である。
フレミア・レイブラッド
どうやら、間に合ったみたいね。すぐに助けてあげるわ

ここまで案内して貰った使用人の吸血鬼を【サイコキネシス】で圧縮し、一瞬で肉塊に変え、1章から連れてたエビルウィッチに【ファイアー・ボール】で敵の牽制を指示。
その隙に【サイコキネシス】で檻を破壊し、雪華を救出するわ。

雪華救出後は雪華も【氷柱散華】で攻撃し、悪いけど、ここで犠牲になった者達の力も借りて戦闘。
彼等も無念を晴らしたいでしょうしね。
ウィッチに【クリエイト・アンデッド】を指示して祭壇の数百人分の死骸を不死の魔物へと変化。敵の殲滅と祭壇の破壊を指示するわ。
更に黒い薔薇の娘たちの【クイーンの嘆き】は怨念を纏うUC…この場では更に力を得られるわ。



「どうやら、間に合ったみたいね。すぐに助けてあげるわ」
 祭壇に囚われた人々の悲鳴を聞きつけたフレミアは、安心させるように優しく微笑む。
 その後ろで、ここまで彼女を案内してきた使用人の吸血鬼が目を丸くしているが――。
「レイブラッド嬢、その発言はどういう――ぐぇ」
 問い詰める前に彼の肉体は【サイコキネシス】で圧縮され、一瞬で肉塊に変えられる。
 吸血姫の令嬢としての潜入はここまで。ここからは猟兵の1人として戦うべき時間だ。

「エビルウィッチ、やりなさい」
「はっ!」
 宴の潜入時から連れて来ていた眷属に指示を出すと、【ファイアー・ボール】の魔術がヴァンパイアの花嫁を襲う。新たな『紋章』製造の素体として集められていた彼女らは、灼熱の火球を受けて悲鳴を上げた。
「きゃぁ?! 燃えてしまウわ!」
「私の体ガ! 主様に頂いたドレスが!」
 己の身が脅かされてもなお、彼女らの判断基準は「主に喜んで貰えること」にあった。
 花嫁達が慌てて火を消そうとしている隙に、フレミアは【サイコキネシス】を奴隷達を捕らえている檻に向かって放ち、鉄格子を飴細工のように捻じ曲げて破壊する。

「た、助かった……!」
 歓喜の声を上げてぞろぞろと檻の中から出てくる奴隷達。その中には作戦の為にあえて敵の手に落ちたフレミアの眷属、雪女の雪華もいた。自由を奪われていたとはいえ、まだ危害は加えられていなかったらしく、体のどこにも怪我はない。
「辛い役目をさせたわね」
「いいえ。お役に立てて幸いです」
 忠節をねぎらう主の言葉に、雪華は深々と頭を下げると、すぐに自身もエビルウィッチと共に戦闘に参加する。冷たい【氷柱散華】の嵐が火の粉に照らされてキラキラと輝き、花嫁達の焦げたドレスを凍てつかせた。

「悪いけど、ここで犠牲になった者達の力も借りるわよ」
 眷属の戦いぶりを見守りながら、フレミアはもう1人のウィッチに【クリエイト・アンデッド】の使用を指示する。この祭壇に遺された数百人分の死骸があれば、アンデッドの創造はたやすいことだ。
「彼等も無念を晴らしたいでしょうしね」
「畏まりました。目覚めよ、死体達!」
 ウィッチが呪文を唱えると、カタカタと音を立てて亡骸が起き上がり、不死の魔物へと変化する。戦闘力自体は生前より劣るため大したものではないが、その数は膨大だった。

「さあ、思う存分暴れなさい」
 フレミアが敵の殲滅と祭壇の破壊を指示すると、魔物たちは我が意を得たりとばかりに暴れだす。骨だけになっても余程の怨みが残っていたのだろう、憎きヴァンパイアの花嫁と『祭壇』に彼らが向ける殺意は並々ならぬものがあった。
「私も遅れを取るわけには参りませんね」
 もう1組のフレミアの従者、黒い薔薇の娘たちも、他の眷属に負けじと戦いに加わる。
 彼女らの使う【クイーンの嘆き】は、怨念を纏うことで自身を強化するユーベルコード――犠牲者の無念に満ちたこの場では更に力を得ることができた。

「ひ……なンなの、こいつらッ?!」
 吸血姫に率いられた眷属達の攻勢に、ヴァンパイアの花嫁達はまるで為すすべがない。
 魔術の炎に焼かれ、氷柱の嵐に凍え、不死の魔物の軍団に押し潰され、呪いで錬成した黒い槍に貫かれる――所詮は下級オブリビオンの彼女らに耐えられるものではなかった。
「お、お助け下さイ、主様……きゃぁぁぁぁっ!!」
 自分達を紋章にしようとした主人への懇願と悲鳴を残して、花嫁達は灰と塵に還った。
 眷属の攻撃の余波を受けて、祭壇に置かれていた器具や設備も次々に破壊されていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
悪いけど、わたしも囚われた人達も生贄にするわけにはいかない…。

【冥界獄】で花嫁達の自爆等のUCを封じ、呪力の縛鎖【呪詛、高速詠唱】を展開して捕縛・拘束…。
更に、身動きを封じたところで【unlimitedΩⅡ】で遠距離から彼女達を包囲攻撃…。

囚われた人達がいる中で派手に戦闘を行うわけにはいかないからね…。
速やかに制圧させて貰うよ…。

…本来なら、貴女達だって、弄られる前は明確な自我も意思もあったハズだよね…。
高位の吸血鬼達の為の生贄になり、紋章となる事が幸せなんて絶対にない…!

必ず人々を助け出し、この祭壇は必ず破壊してみせるよ…!



「悪いけど、わたしも囚われた人達も生贄にするわけにはいかない……」
 奴隷に扮して『祭壇』までたどり着いた璃奈は、立ちはだかるヴァンパイアの花嫁達に毅然とした態度で告げる。自分達はもちろん、これ以上誰もここで犠牲にならないように破壊するのが彼女の使命だ。
「生贄になれる名誉を拒むの? なんて無礼ナ……」
「だったら……思い知らせてあげないとネ……!」
 璃奈が生贄になるのを拒否すると、敵はそれまでの態度を一変して襲い掛かってくる。
 基礎能力は低いが、主人への絶対的な忠誠心に基いた捨て身の攻撃が彼女らの武器だ。ひとたび脅威だと認識した相手には、自らの全てを犠牲にして自爆する事すら厭わない。

「我に仇名す全ての敵を深淵の闇へ……!」
 そんな花嫁達の危険なユーベルコードを封じる為に、璃奈は【呪法・冥界獄】を発動。地下室全体を自らの呪力で濃密に満たし、敵の能力を弱体化させる呪力結界を構築する。
「なに……これハ……?」
 この結界に囚われた敵はユーベルコードだけでなく、特性や技能等も悉く封じられる。
 特攻する手段を奪われた花嫁達が動揺している隙に、璃奈は戦場に満たした呪力から鎖を織り上げ、敵の捕縛・拘束にかかった。

「囚われた人達がいる中で派手に戦闘を行うわけにはいかないからね……」
「きゃッ?!」
 結界内に展開された呪力の縛鎖に捕らえられ、花嫁達はじたばたともがく。だが彼女らの素の腕力ではこの拘束から逃れることはできまい。身動きを封じたところで確実に仕留めるべく、璃奈はさらに【Unlimited curse bladesΩⅡ】を発動。
「速やかに制圧させて貰うよ……」
「「きゃぁぁぁぁぁぁッ?!!」」
 呪力にて顕現した千を超える魔剣・妖刀の数々が、遠距離から花嫁達を包囲攻撃する。
 この剣達が持つ属性は"終焉"。触れたものを侵食し力を奪う、まさに呪いの剣である。

「が、ぁ……主様、お、助ケ……」
 数え切れぬほどの魔剣と妖刀にその身を貫かれ、もがき苦しむヴァンパイアの花嫁達。彼女らが助けを求める相手が救いに来ることは決してないだろう。『紋章』の素体としてこの者達を祭壇に送り込んだには、他ならぬこの城の主なのだから。
「……本来なら、貴女達だって、弄られる前は明確な自我も意思もあったハズだよね……」
 どんな仕打ちを受けても盲目的に主人を敬い続ける花嫁達に、璃奈は憐れみを感じる。
 本来の人格も心も全て否定され、都合のいいシモベに作り変えられてしまった少女達。主人の為に犠牲になる事こそが至高の幸福だと、今の彼女らは信じ切ってしまっている。

「高位の吸血鬼達の為の生贄になり、紋章となる事が幸せなんて絶対にない……!」
 普段は感情表現に乏しい璃奈が、表情にはなくとも分かるほどの憤りを露わにする。
 既に紋章に「なりかけ」ているこの花嫁達を救うことはできない。だが、生贄にされる罪なき奴隷達と同じように、こんな生命と魂の尊厳を踏み躙る行為を許してはおけない。
「必ず人々を助け出し、この祭壇は必ず破壊してみせるよ……!」
 力強い決意表明と共に魔剣の嵐が吹き荒れ、奴隷を捕らえる檻と祭壇を破壊していく。
 その中で鎖に縛められた花嫁達は声もなく力尽き、一握の灰と塵に還っていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
(手足の枷を『怪力』で破壊する)
一体どれほど多くの尊い命が犠牲になったのか...
もっと早くこの祭壇を見つけることができたならば...
グリモアの力を持てていない無能な自分に腹が立ちますが
この怒りはひとまず貴女達にぶつけることにしましょう
(救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばした後{晩秋の旋律}で『ダンス』を始める)
命が惜しくないというのなら
その命、無駄に散らして差し上げます
(UC【蠱の宴】を発動し敵の動きを阻害しつつ『オーラ防御』で奴隷たちを保護して{晩秋の旋律}で練り上げた枯死の『呪詛』を纏った蹴りを『衝撃波』と共に敵に向けて放つ)



「一体どれほど多くの尊い命が犠牲になったのか……もっと早くこの祭壇を見つけることができたならば……」
 手足の枷を怪力で破壊しながら、『紋章の祭壇』の惨状を見回すクロリアの表情は憂いに満ちていた。もしも自分にもグリモアの予知があれば、あるいは今よりも早期に情報を掴めていたのではないか――そんな仮定がふと脳裏をよぎる。
(グリモアの力を持てていない無能な自分に腹が立ちますが、この怒りはひとまず貴女達にぶつけることにしましょう)
 自分の非力や過去に憤るよりも出来ることが今はある。少女は救いを求めるように天を仰ぎ手を伸ばすと、寂寥感や喪失感をイメージしたリズムを奏でながらダンスを始める。それは美しくも儚く、どこか物寂しさを感じさせる蟲の舞踏であった。

「命が惜しくないというのなら。その命、無駄に散らして差し上げます」
 この"晩秋の旋律"に込められたのは、晩秋の紅葉が散りゆくさまの退廃的な死の表現。
 そのリズムを力に変えてクロリアが発動するのは【蠱の宴】。踊りや旋律を楽しむ心を持たない者の速度を5分の1にする、行動阻害のユーベルコードである。
「な……に……この……踊り……ハ……?」
 まるで彼女らの周りだけ時間がゆっくりと流れているように、ヴァンパイアの花嫁達の動きが遅滞する。これでは標的に近付くだけでも何十秒とかかり、まともに戦う事などできはすまい。対するクロリアには踊りながら敵を攻撃する手段が幾らでもある。

「もう大丈夫ですよ。あなた達は離れていてください」
「あ、ありがとう!」
 祭壇に捕らわれていた奴隷達をオーラの防壁で保護してから、クロリアは攻勢に移る。
 ダンスで生み出した旋律を力に変えて操るのが彼女の能力だ。晩秋の旋律から練り上げられた力は枯死の呪詛となり、それを纏いながら踊り手は軽やかなステップで敵に迫る。
「全て……ハ……主様の……ためニ……」
 花嫁達は主人に植え付けられた寄生生物の作用で心身の痛みを麻痺させ、超強化による反撃を企てるが――攻めるにせよ守るにせよ、行動自体があまりに遅すぎる。彼女らから見れば5倍のスピードで動くクロリアの攻撃に対処できるはずもない。

「さようなら」
 しなやかな体のバネを使って、ダンスのムーブから流れるように繰り出された蹴りが、衝撃波と共に敵を襲う。枯死の呪詛を纏ったその一撃は、終焉を報せる死神の鎌だった。
「ァ……――」
 痛みが麻痺していたのは幸運だったかもしれない。自分の体が末端から枯れ果てていく様子に苦しまずに済んだのだから。ものの数秒足らずで花嫁達の肉体は完全に滅び去る。
 風に吹かれる落ち葉のように、散っていく彼女らの灰を見送ってから、クロリアは静かにダンスを終え、観客にするように一礼した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

堺・晃
【兎鯱】
澪君は心臓も体も弱いので
体力消耗した事もあり念のため体に触れ

…少し体温が上がってきていますね
予定通り動けますか

さて、それじゃあ…花嫁達
僕と遊ぼうか
おいで、★紫鴉

両手に★龍狼剣を持ち
【暗殺】を活かした素早く身軽な動きで接近戦
合間に紫鴉の爪攻撃による猛毒と★ネックレスの毒針で
確実な★継続ダメージ
澪の方に向かう個体がいれば
★メイデンの棘を射出し遠隔攻撃

密かに【指定UC】発動
徐々に★人形の髪(ワイヤー)を張り巡らせ
敵の行動範囲を制限、【捕縛】狙い

痛みを麻痺させても
所詮は肉体への誤魔化しに過ぎない

僕は【毒・罠使い】です
選ばせてあげましょう
毒殺か刺殺か
ワイヤーでバラバラになるか
どれがお望みですか


栗花落・澪
【兎鯱】
ふぇっ、触手…(苦手
あ、えと…僕ならまだ大丈夫!
信頼してるからね、晃君

晃君の指示に従い生存者の傍へ
足場に【破魔】を宿した★花園を広げオブリビオンの接近を阻み
【オーラ防御】で防御兼援護に徹するよ

攻撃は晃君に任せれば大丈夫
だけど…元々晃君も近接特化ではないから
討ち漏らしも考慮して迎撃準備

あの状態の敵に効果があるかはわからないけど
【催眠術】を乗せた【歌唱】で敵の動きや思考力を鈍らせ
晃君のUCに気付かれないように
援護として【高速詠唱】から氷魔法の【属性攻撃】で
敵の足を凍らせ動きを封じる

こっちに向かってくるなら【指定UC】
わーっ、と思いっきり声を出す事で実体化させた文字をぶつけ
接近を許さない



「ふぇっ、触手……」
 可憐の少女な体に似つかわしくないうねうねした物体が生えているのを見て、澪は反射的に晃の陰に隠れる。苦手というだけで戦えない訳では無いようだが、嫌な思い出でもあるのか、あるいは生理的に受け付けないのか。
「……少し体温が上がってきていますね。予定通り動けますか」
 そんな澪の体調を確かめるように、晃はそっと体に触れる。この少年は心臓も体も弱いので、念を入れておくに越したことはない。元気そうに見えても先程の潜入作戦で体力を消耗しているはずだ。

「あ、えと……僕ならまだ大丈夫! 信頼してるからね、晃君」
 気遣わしげな相方の手をそっと掴んで、澪は平気だよとアピールする。確かに体に疲労はあるが動きに支障が出るほどではない。此処まで来て足手まといになる気はなかった。
「……分かりました。では、予定通りに」
「うん!」
 その顔色を確認すると晃はこくりと頷き、その指示に従って澪は生存者の傍へ向かう。
 彼が魔力を込めて聖痕をかざせば、その足元からは草花が咲き乱れ、『紋章の祭壇』のおぞましい惨状を覆い隠していく。

「さて、それじゃあ……花嫁達。僕と遊ぼうか」
 澪が花園を広げていくのを見てから、晃はヴァンパイアの花嫁達に向き直る。あちらの役目が敵の接近を阻み生存者達を守ることなら、こちらの役目は敵を討ち滅ぼすことだ。
「おいで、紫鴉」
 呼びかけに応えて赤い瞳のカラスがひらりと羽ばたき、爪をぎらつかせる。頼れる使い魔と共に彼は一対の小型の剣を両手に持ち、風のように颯爽と敵陣に切り込んでいった。

「全ては主様のためニ……」
 主人への愛と忠誠の言葉を囁きながら、猟兵を新たな贄にしようと襲いかかる花嫁達。
 その体内に投与された寄生生物によって、彼女らは心身の痛みを麻痺させられている。ゆえに自分の体が耐えられないような超強化を行っても平然と微笑んでいた。
「なるほど。斬られても毒を盛られても痛くはないと」
 晃は持ち前の暗殺技術を活かした素早く身軽な動きで敵を切り裂き、その合間に紫鴉に爪攻撃を仕掛けさせる。この使い魔の爪には猛毒が塗られており、オブリビオンにも有効な筈だが、花嫁達はドレスを血で汚しながらニコニコと微笑んだままだ。

(攻撃は晃君に任せれば大丈夫。だけど……元々晃君も近接特化ではないから)
 ヴァンパイアの花嫁と切り結ぶ晃の様子を、澪は花園から固唾を呑んで見守っていた。
 仲間の強さを疑ってはいないが、それでも敵の数が数だ。討ち漏らしも考慮して迎撃の準備をしていると、果たして予想通りに群れからはぐれた敵がこちらに近付いてきた。
「あなた達モ……一つになりましょウ……」
 美しい容姿とアンバランスな触手を蠢かせ、贄を喰らわんとする「なりかけ」の素体。
 そのおぞましさに背筋を震わせながらも、澪はきっと敵を睨みつけ、そして叫びだす。

「わーっ!」
 澪が思いっきり声を出すと、その音は文字となって実体化し、勢いよく敵にぶつかる。
 メロディや言葉を力に変えて自在に操る【彩音】。その喉が許す限り少年は声を上げ、敵の接近を許さない。
「うるさイ……!」
 いかに痛みを感じないとはいえ、物理的妨害が効かないわけではない。声の塊をぶつけられた敵は怒りの形相で花畑を踏み荒らそうとするが、なおも放たれる声がそれを阻む。

(あの状態の敵に効果があるかはわからないけど)
 さらに澪は少しでも敵の動きや思考を鈍らせられればと、催眠術を乗せた歌唱を行う。
 地下室に反響するたおやかな歌声は、同時に魔法の詠唱にもなり、敵の足元に氷の塊を発生させた。
「あレ……足が……ぐッ!!」
 凍結により花嫁の動きが封じられた直後、拷問具「アイアン・メイデン・スキュア」の棘が飛んでくる。ロケットのような勢いで頭を貫かれ、その花嫁は完全に動きを止めた。

「君達の遊び相手は僕ですよ」
 自分がここに立っている限り、澪に傷一つ付けさせる気はない。晃が振るう「龍狼剣」は抜群の斬れ味で敵を切り刻み、さらに首にかけたネックレスからは毒針を撃ち出して、カラスの爪に侵された敵に追加の毒を投与する。
「じゃあ、まずはあなたから……あラ?」
 痛みを感じない花嫁達はそれでも戦い続けていたが、ふいに何かに引っ掛かったように動きが止まる。ようく目を凝らせば、非常に細いワイヤーが彼女らの体に絡まっていた。

「罠を張るならより綿密に……ですよ」
 晃は戦いの最中で密かに【操り鏡の生き人形】を発動し、操り人形「Mirror Doll」の髪を周囲に張り巡らせていた。剣と毒、さらに澪の歌声に気を逸らされた花嫁達は、それに気付かずまんまと捕縛されたという訳だ。
「く……放し、なさイ……!」
 拘束から逃れようと花嫁達は暴れるが、もがけばもがくほど人形の髪は余計に絡まる。
 そればかりかワイヤーのように鋭利な髪は彼女らの体に食い込み、肉を裂こうとする。

「痛みを麻痺させても、所詮は肉体への誤魔化しに過ぎない」
 斬られれば血は流れ、毒によるダメージは継続する。本人が気がついていないだけで、花嫁達の命はもはや風前の灯だった。それでもなお戦おうとする忠誠心だけは立派だが、捕縛された状態ではそれも叶わない。
「僕は毒・罠使いです。選ばせてあげましょう、毒殺か刺殺か、ワイヤーでバラバラになるか」
 どれがお望みですかと問いかける晃の表情には、いつもは紳士的な態度の裏に隠された嗜虐的な本性が露わとなっている。どちらを選んだところで苦痛と死しかない選択肢に、花嫁達は思わずゾッとした。

「ひ……ぁ……」
「残念、時間切れです」
 花嫁達が答えを口にする前に、絡みついたワイヤーが彼女らをバラバラに引き裂いた。
 鮮血と共に細切れになった亡骸はすぐに灰と塵になって消滅し、後には何も残らない。
「お、終わった……?」
「ええ、もう大丈夫です」
 付近にいた敵を一掃すると、晃は花園にいる澪のほうをふり返ってにこやかに微笑む。前線で戦っていた彼に怪我がないのを確認すると、澪もほっと胸を撫で下ろすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
紋章の材料になってやる気は無い
「なりかけ」のうちに排除する

敵の強化された攻撃を警戒、直撃は避けたい
敵の位置を確認し、ユーベルコードも併せて危険を察知し、回避やダメージの少ない防御へつなげたい

戦闘中は奴隷達への被害は優先して防ぐ
逃げ道を確保して隙を見て逃がす
危険が迫れば間に割り込んで庇っても良い
防御の際は腕を拘束する鎖を盾にして身を守り、ついでに断ち切る事ができれば自力で解く手間が省けそうだ

初めは蹴撃をメインに立ち回り、拘束が外れたら隠した銃を構え反撃
相手の鎖や触手を掴んで引き倒し、体制を崩した上で一体ずつ確実に仕留めたい
もう演技は不要だ、先までの不快感を振り払うように戦う
…さあ、元凶はどこだ?



「紋章の材料になってやる気は無い」
 贄として一つにならんとするヴァンパイアの花嫁達を、シキは端的な態度で拒絶する。
 自分も含め、これ以上誰かをこの連中に食わせるわけにはいかない。今はまだ不完全な素体だが、十分な材料を得れば彼女らは『紋章』として機能し始めるだろう。
「『なりかけ』のうちに排除する」
「主様の望みを邪魔するノ? なんて愚かナ!」
 腕を拘束されたまま抵抗の構えを取るシキに、花嫁達はきいきいと非難の声を上げる。
 そして拒むのであれば力ずくで喰らうだけだと、一斉に牙を剥いて襲い掛かってきた。

「全ては主様のためニ……」
 寄生生物の作用で痛みを麻痺させられた花嫁達は、自分の体が反動で壊れるのも構わずに限界を超えた力を奮う。その超強化された攻撃を警戒し、シキは狼の耳をピンと立てて回避行動を取る。
(直撃は避けたい)
 人狼の持つ鋭い五感と直感によって敵の位置を確認し、【ワイルドセンス】も併せて危険を察知して回避へと繋ぐ。これまでにも数々の危険をくぐり抜けてきた彼にかかれば、いかに強化されていようが下級オブリビオンの攻撃など掠りもしなかった。

「これなら腕が使えなくてもどうにかなるか」
 普段は銃撃戦を得意とするシキだが、格闘戦もできないわけではない。蹴撃をメインにに立ち回りつつ、隙をみて相手の鎖や触手を掴んで引き倒す。「きゃっ?!」と悲鳴を上げて敵が体勢を崩せば、そこに渾身の一蹴りを叩き込んだ。
「ごふッ……よ……くモ……」
 仲間を倒された花嫁達の怒りはさらに激しくなり、より苛烈に攻撃を仕掛けてくるが、シキはその全てを冷静に捌ききり、反撃で一体ずつ確実に仕留めていく。

「今のうちに逃げろ」
「は、はい……っ」
 敵の注意が自分に向いている間に、シキは奴隷達に逃げるように促す。逃げ道は後方に確保してあり、他の猟兵の救援で檻から出された生存者達も我先にそちらへ逃げていく。
「あラ……逃げては駄目ヨ……!」
「ひっ?!」
 だが、いつまでもそれが見咎められない筈もない。大事な『紋章』の材料が逃げていくのを見た花嫁は眉をつり上げて怒り、背中から彼らを引き裂こうと爪を振りかざすが――あわやと言ったところでシキが間に割り込み、奴隷達を庇った。

「あラ、自分から来てくれるなんテ……」
 これまで避けられてばかりだった相手に初めて攻撃が当たり、花嫁は笑みを浮かべる。
 だが、その手の中でパラパラと砕けたのは肉や骨ではなく――シキの腕を拘束していた鎖の破片だった。
「感謝する。自力で解く手間が省けた」
「しま……ッ!」
 鎖を盾にして敵の攻撃を防ぎ、ついでに断ち切らせる事で自由を得たシキは、服の下に隠していた愛用のハンドガン・シロガネを目にも留まらぬ早業で抜き放つ。大きな発砲音が地下室に反響し、目の前にいた花嫁の心臓に風穴が空いた。

「や、止メ……ぎゃッ!!」
 銃の腕前が戻ったシキの反撃は、いよいよヴァンパイアの花嫁風情では止められない。
 その戦いぶりは先までの不快感を振り払うようで、もう演技は不要だとばかりに、彼にしては苛烈さも垣間見えるほどの銃撃を轟かせる。
「……さあ、元凶はどこだ?」
 ここで「なりかけ」どもを倒し、『紋章の祭壇』を荒らせばその主人も黙っていまい。
 逆にこの城の主を呼びつける様に、人狼のガンナーはトリガーを引き続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
(っともう出て大丈夫そうだな)
だが外から戦闘音してるし…念のため対象をずらしておくか
キメラの腹の中に身代わりの宝珠の宝石部分を置いて出てこようか
「元オブリビオン」であるということは、奴さんもこいつも変わらん。故に同一と言えるだろうと呪詛対象を広域化

「っとあぶねぇ
保険をかけておいてよかったぜ」
あいつは…なりかけ…かね?
儀式は自動で続くのかわからんが、俺が有利に動くためにも黒纏を地面に薄く伸ばし、乗った奴から吸えるように、また地面に飛び散ってる肉片はともかく血は吸えるようにしておこう
…ま、上に乗れば俺からも吸うんだが対象ずらしてるからな

後は攻撃を無視して皆(剣)で切りまくる

アドリブ・連携歓迎



(っともう出て大丈夫そうだな)
 キメラの腹の中に潜んで『紋章の祭壇』に忍び込んだ夜野は、耳をそばだてて外の様子を窺う。誰かに運ばれている感覚もなく、どうやら無事に目的地には辿り着けたようだ。
(だが外から戦闘音してるし……念のため対象をずらしておくか)
 いきなり戦闘に巻き込まれるケースも想定し、彼は指に嵌めていた「身代わりの宝珠」の指輪から宝石部分を外し、キメラの腹の中に置く。すると【贖罪の山羊は俺ではない】が発動し、宝石から伸びた茨がキメラの内蔵に突き刺さった。

(「元オブリビオン」であるということは、奴さんもこいつも変わらん)
 この宝珠には土台部分の持ち主が受けた傷を移し替える効果と、茨で固定した対象の動きやユーベルコードを封じる効果がある。後者の発動には宝珠が対象を「同一の存在」と見なす必要があるが、夜野は解釈によってうまく呪詛対象を広域化したようだ。
(さて、外の様子は……っと)
 準備を終えて肉と臓物をかき分け、暫くぶりに外の空気を吸った彼を待っていたのは、牙をむき出しにしたヴァンパイアの花嫁だった。どうやら生贄として搬入されたキメラを喰おうとしていたようで、その牙は当然中にいた夜野にも向けられる。

「っとあぶねぇ、保険をかけておいてよかったぜ」
「むぐ……あぎッ?!」
 肩口に齧りつかれた夜野だったが、宝珠を宿すキメラが身代わりとなってくれるお陰でダメージは無い。手応えのなさに敵が困惑している内に、素早く剣を抜いて斬り伏せる。
「こいつは……なりかけ……かね?」
 ばたりと斃れたそのオブリビオンに触手が生えているのを見て、彼はそれを『紋章』になりかけの素体だと判断。こいつらに生贄の生命を食わせてひとつに混ぜ合わせるのが、紋章製作に必要な『祭壇』の儀式の一部のようだ。

「儀式は自動で続くのかわからんが、俺が有利に動くためにもこうしておくか」
 夜野は衣服として纏う「黒纏」の形状を変え、カーペットのように薄く地面に伸ばす。
 この魔布には接触者の生命力と血を啜り強度を上げる。たとえ形が変わってもその効果に変わりはなく、もし敷かれた上に誰かが乗りでもすれば――。
「ぐ、ぁ……なに……ガ……!?」
 たちまち生命を吸い尽くされ、干からびた屍となる羽目に。そうとは知らない花嫁達は何人もこのトラップに引っかかり、地下室のあちこちでばたばた倒れていくのが見えた。

「……ま、上に乗れば俺からも吸うんだが対象ずらしてるからな」
 危険な装備故に制御は十全。ついでに実験室のあちこちに飛び散っている血も(肉片はともかく)吸えるように対象設定を行い、夜野は刻印の糧でもある鮮血を補充していく。
 これで舞台は整った。あとは敵を片付けるだけだと、彼は目についた奴に斬り掛かる。
「きゃぁッ?!」
「ぎぃッ!!」
 防御を顧みない我武者羅な突撃。だが、身代わりの宝珠が効いている限り彼は無事だ。
 攻撃を無視して切って切って切りまくり、倒した花嫁から黒纏を通じて血を回収する。元より血腥かった『紋章の祭壇』は、より惨憺たる光景になりつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…随分と趣味のいい部屋だな
此処にある紋章のなりそこないごと、全て焼き払ってやろう

UCを発動
囚われた人々の前に立ち花嫁達を迎え撃つ
展開した110機のオーヴァル・レイと装備銃器を使い、一斉発射による制圧射撃を行えば花嫁達も簡単には近づけまい
弾幕を潜り抜けてきた敵にはデゼス・ポアの刃で対応だ

もう少しだけ待ってていてくれ
必ず君達を此処から助け出す

超強化された相手なら足を攻撃して転ばせた方が効果的だろう
先頭が転べば後続の動きも鈍る
痛みを感じないなら動きを封じるまでだ
彼女らの身体が崩壊するまでだ…それまでは何としてもこの場所を守る

主様か…楽しみに待っているがいい
この代償は必ず支払わせる



「フン……随分と趣味のいい部屋だな」
 惨憺たる『紋章の祭壇』の様子を見回して、皮肉げに呟くキリカ。果たしてこの場所で今までに何人の奴隷が犠牲となり、幾つの紋章が作り出されてきたのだろうか。もう二度とこのような場所を稼働させてはいけない。
「此処にある紋章のなりそこないごと、全て焼き払ってやろう」
 そう言って彼女は【オーヴァル・ミストラル】を発動、卵型の浮遊砲台「オーヴァル・レイ」を110機複製し、自らの周囲に浮かべる。青い光を放ちながら暗闇の中を浮遊するそれは、まるで満天の星々のようだった。

「行け、逃がすな」
 キリカは展開したオーヴァル・レイと共に、囚われた人々の前に立って敵を迎え撃つ。
 彼女が命じれば110機の砲台は強力な粒子ビーム線を一斉発射し、敵集団を制圧する。これにはヴァンパイアの花嫁達も簡単には近付けまい。
「ぎゃ……ッ!」
 同時にキリカは神性式自動小銃"シルコン・シジョン"のトリガーを引いて、浮遊砲台と併せて分厚い弾幕を張る。聖別された銃弾や閃光に射抜かれた敵の悲鳴が次々と上がり、蜂の巣になった屍が増えていく。

「もう少しだけ待ってていてくれ。必ず君達を此処から助け出す」
「は、はい……っ」
 一般人からすれば恐怖の対象であるオブリビオンに、敢然と立ち向かうキリカの勇姿は希望そのものだった。生贄になるはずだった奴隷達の表情にだんだん生気が戻っていく。当然、敵にとってその様子は面白いはずがない。
「あらあら……逃げられると思っているのかしラ……!」
 【全ては主様のために】と、ユーベルコードを発動した花嫁達は、降りしきる弾幕の中を強引に潜り抜けてくる。主に投与された寄生生物の効果で痛覚が麻痺しているらしく、どれだけビームや銃弾を食らっても彼女らは怯みもしない。

(超強化された相手なら足を攻撃して転ばせた方が効果的だろう)
 そう判断したキリカは戦法を切り替え、花嫁達の足元を狙って攻撃を集中させる。痛覚が麻痺していてもダメージが消えるわけではなく、被弾すれば肉は裂けるし骨も折れる。
「痛みを感じないなら動きを封じるまでだ」
「きゃ……っ!?」
 先頭を進んでいた花嫁の足が折れて転倒し、それに釣られて後続の連中の動きも鈍る。
 そこを逃さずキリカは追撃を行い、なおも這い寄ってくる者には呪いの人形「デゼス・ポア」をけしかける。

「キャハハハハハハハハ」
 キリカの相棒であり半身とも言える人形が、躯体から生やした刃で花嫁達を切り刻む。
 本来なら相当の激痛だろうが、寄生生物はあらゆる心身の痛みを消してしまう。だが、痛みを感じないことは逆に、彼女らに自分の限界を見誤らせる結果にもなる。
(彼女らの身体が崩壊するまでだ……それまでは何としてもこの場所を守る)
 自分の限界を知らぬままに暴れ続ければ、限界に達した肉体はいずれ自壊する。その時を待ってキリカは防衛線を展開し続け、人々の元まで敵を一匹たりとも近付けさせない。

「あ……ハハ……主……様……」
 やがて、その時はやって来た。数え切れないほどの弾丸や光線を浴びたヴァンパイアの花嫁達は、最期まで愛おしそうに主人のことを呼びながら、ボロボロになって事切れた。
 身も心も忠実なシモベに作り替えられた少女達の末路を見届けて、キリカは唇を噛む。
「主様か……楽しみに待っているがいい。この代償は必ず支払わせる」
 この『紋章の祭壇』を所有する外道は、ここで犠牲になった全ての生命に償うべきだ。
 決意をより強く固めて、女傭兵はシルコン・シジョンの銃把を握りしめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
過去に何があったのか、彼女らの境遇を想う暇もないようですね…

UCの杭状発振器を戦場へ投擲し設置
防御力場を展開して人々を護る防壁に(盾受け、かばう)

光の壁の内側へ!
ご安心ください、騎士としてお守りいたします

マルチセンサーでの情報収集と瞬間思考力で敵と護衛対象の彼我の位置を常に把握し気を配りつつ接近する敵を怪力で振るう大盾で排除

…強酸
先ずはこちらの装甲を脆く、ということですか

接触を最小限にする為、敵の酸でない箇所●見切り、UCを投擲し突き刺し
大電流の放電で周囲の敵ごと感電させ動きを止め
脚部スラスターの推力移動で接近

…私の装甲など足元にも及ばぬ強度の、この剣なら…

返り酸を浴びぬよう電脳剣で纏めて両断



「過去に何があったのか、彼女らの境遇を想う暇もないようですね……」
 ヴァンパイアの忠実なるシモベから、さらに『紋章』製作のための素体にされた花嫁達を捕捉して、トリテレイアは戦闘態勢を取る。斯様な境遇を幸福だと信じて疑わない彼女らの様子に思う所はあるが、現状では任務遂行が最優先である。
「まずは皆様の安全を確保しなければ」
 機械騎士は機体に格納した【多機能型電磁障壁発振器射出ユニット】から杭状の発振器を取り出すと、地下室の一画を囲うように投擲する。壁や床や天井に突き刺さったそれは強力な防御力場を展開し、人々を護る防壁となる。

「光の壁の内側へ! ご安心ください、騎士としてお守りいたします」
 トリテレイアが大声で呼びかけると、囚われていた人々がわっと防壁内になだれ込む。
 花嫁達も彼らを追いかけて来るが、勿論通すつもりはない。全方位を知覚可能なマルチセンサーの情報収集力を活かして、敵と護衛対象の彼我の位置を常に把握して気を配る。瞬間瞬間の思考と判断が求められる難題だが、元要人警護機体としての性能の見せ所だ。
「邪魔をしないデ……ぎゃッ!?」
 しつこく人々を狙う敵は、大盾で殴り倒して排除する。凄まじい強度と重量のある盾をウォーマシンの怪力で振り回せば立派な質量武器である。その威力を侮った花嫁は二度と立ち上がってこれない。

「どうやら……貴方から壊さないといけないようネ……」
 機械は生贄にはならないからという評価を改めた花嫁達は、奴隷達を護衛する騎士から排除すべくユーベルコードを発動する。彼女らが自らの体を掻きむしると、大量の鮮血が噴水のように吹き出し――トリテレイアは咄嗟に大盾を傘にして血を浴びるのを防ぐ。
「……強酸。先ずはこちらの装甲を脆く、ということですか」
 ジュゥッと音を立ててシールドの表面が溶けたのをみて、彼は攻撃の正体を把握する。
 自らの感情か体の一部を代償にして、対象に効果的な属性を得るのが花嫁達のユーベルコードらしい。引き換えにどれだけ自分が傷つく事になっても、彼女らは躊躇わない。

「この心と体は主様のもの」
 強酸と化した血液を纏って、邪魔な機械を溶かし尽くそうと襲い掛かってくる花嫁達。
 対するトリテレイアは接触を最小限にする為、敵の血を浴びていない箇所を見切ると、防壁を張ったのと同じ杭上発振器を投擲する。
「魔法の杖のように万能ではありませんが、このような使い方もできます」
「あぐッ……ギャァァァァァァァァッ?!」
 花嫁に突き刺さった杭は、力場の展開に使われる大電流を放出して標的を感電させた。
 漏出した電流によって周囲の敵の動きまでもが止まり、その隙に騎士は脚部スラスターを起動、床を滑るような動きで敵群に高速接近する。

「……私の装甲など足元にも及ばぬ強度の、この剣なら……」
 抜き放つは「電脳禁忌剣アレクシア」。科学の進んだトリテレイアの故郷の基準でも、破格の超技術を秘めた不壊の剣。敵が強酸の血を纏っていようとその切れ味は衰えない。
「……どうか安らかに」
「ひ……ぐあぁッ!!」
 電流に拘束された花嫁達は纏めて両断され、泣き別れとなった胴体から血が噴出する。
 トリテレイアはその返り酸を浴びぬようにスラスターで離脱すると、再び人々の護衛に戻るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
(雁字搦めにしていた鎖を【怪力】で千切り)
素材が文字通り自動して完成に至る。
成程、効率面ではこの鎧より上らしい。真似る気にはなれんがな。

UC【錬成カミヤドリ】による【集団戦術】。
囚われの奴隷達を【かばう】のと並行し敵を包囲、一体に対して多数で【グラップル】。敵がUCで強化されていようと物量戦で強引に【捕縛】する。

しかし黄金魔剣こそ持ち込めなかったが、鎧の中を調べない辺り杜撰な警備だった。

鎧内の【物を隠す】隙間に入れていた鳥、ニクスを取り出し爆槍フェニックスに変形させ装備。
動きを止めた敵を複製鎧諸共【ランスチャージ】と【なぎ払い】だ。

披露宴は無期限延期だ。
新郎を待たずこの世から退場するがいい。



「素材が文字通り自動して完成に至る。成程、効率面ではこの鎧より上らしい」
 ルパートは自らを雁字搦めにしていた鎖を怪力で千切り、自由を取り戻すと『紋章』の生贄にされた敵を観察する。意思と行動力を保持させることで、自ら完成に至らんとする素体――確かに効率的な手法ではあるだろう。
「真似る気にはなれんがな」
 贄となる奴隷だけでなく、配下さえも自身に忠実な手駒に作り替えたうえで利用する。
 この地を治める『第五の貴族』のやり方は余りにも非道が過ぎた。知れば知るほどに、徹底的に破壊すべしとの結論以外が出ないほどに。

「ここは物量戦を挑むとしよう」
 敵の数が多いのをみたルパートは【錬成カミヤドリ】にて自分の本体である黒騎士の鎧を複製し、擬似的な分身による集団戦術を行う。一部は囚われの奴隷達の元に向かわせて敵からかばい、それと並行して残った鎧達は敵を包囲にかかる。
「生きた鎧がこんなニ……?!」
 ヴァンパイアの花嫁達は目を丸くして増えた鎧を見ていたが、すぐさま気を取り直して牙を剥く。生贄となる高級な素材がこれだけ沢山あれば、自分達も「なりかけ」から完全な『紋章』になれると息巻いたか。

「全ては主様のためニ……」
 代償を顧みずに自己を超強化し、飢えた獣の如く襲いかかる花嫁達。対するルパートは一体に対して多数の複製鎧で肉弾戦を挑み、がっしりと組み付き、押さえ込みにかかる。
「大人しくして貰おうか」
「ナ……放しなさイ!」
 強化の元である寄生生物の影響で痛みが麻痺している彼女らは、肉が裂けようが骨が軋もうがお構いなしに暴れて相手を振りほどこうとする。だが、いかに強化されていようと多勢に無勢、体重も膂力もある鎧数体がかりで組まれては脱出は不可能である。

「しかし黄金魔剣こそ持ち込めなかったが、鎧の中を調べない辺り杜撰な警備だった」
 物量で強引に花嫁達を捕縛したルパートは、自分の鎧内の隙間から一羽の青いヨタカを取り出す。ニクスという愛称を与えられたその鳥は、ようやく外に出られたのを喜ぶようにパタパタと飛び回ると、真の姿である「爆槍フェニックス」に変形する。
「こうして容易く武器を持ち込めて、此方は助かったがな」
「そ……そんなの、分かるわケ……!」
 確かに警備の甘さがあったことは否めないが、それでも小動物に変身して潜伏する武具など発見できたかどうか。青ざめる花嫁達の前で、ルパートは爆槍を大きく振りかぶる。

「披露宴は無期限延期だ。新郎を待たずこの世から退場するがいい」
「そん、ナ……!!!」
 どれだけ藻掻いても足掻いても鎧の捕縛はびくともせず、逆に負荷に耐えかねた花嫁達の骨がへし折れる。完全に動きの止まった彼女らを、ルパートは複製鎧諸共なぎ払った。
「「ギャァァァァァァァァーーーーッ!!!!」」
 爆槍の名に違わぬ灼熱の青炎を纏った魔槍の一撃を受け、ヴァンパイアの花嫁は灰燼に帰す。反響する断末魔の絶叫は、いつまでも『紋章の祭壇』の中を木霊し続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
脇目もふらずに全力疾走するカビパン達。
後ろからは敵がぞろぞろと追ってきている。
カビパンは反省していた。自分から売りに出したのに逃げるのは失礼じゃないかと。
奴隷達に「私が(謝罪)何とかするから逃げなさい」と指示し、サッと身を翻して相手に謝る。

「待遇が悪かったのでイラっとしましたが、高級素材としてお使いください」
「えッ…じゃあ貴女は贄ネ」
「早く私を紋章にしなさい!!」
こんなヤツとは流石にひとつになりたくないと思ったヴァンパイアは先にカビパンを単体で紋章の祭壇に捧げ紋章化させた。

――ドドンッ!

既に命がなく、理解不能な異分子を持つ女。
いろんな意味でおぞましく、ギャグのように輝く紋章がこの世に誕生した。



「逃げるわよ!」
「は、はいぃッ!」
 猟兵達が『紋章の祭壇』を破壊するために奮戦する一方、カビパンと彼女が助けた奴隷達は脇目もふらずに全力疾走していた。その後ろからは敵がぞろぞろと追ってきている。
「待ちなさイ……!」
 カビパン達は新たな『紋章』を作るための大事な生贄。「なりかけ」から完成を目指すヴァンパイアの花嫁達が見逃すわけが無かった。広さはそれなりにあるとはいえ地下では逃げられる範囲も限られており、彼我の距離は少しずつ詰まっていく。

「お、追いつかれそうです! どうすれば!」
「やっぱり逃げるのは良くなかったかも」
「「ええッ?!」」
 何か策はないかと尋ねた奴隷に、だがカビパンはしれっとした態度で一同を驚かせた。
 逃げ回るうちに彼女は反省していたのだ。自分から高級素材として自信たっぷりに売りに出したのに、逃げるのは失礼じゃないかと。それは買ったほうも怒るに決まっている。
「私が(謝罪)何とかするから逃げなさい」
 奴隷達に指示を出してサッと身を翻すカビパン。それを見た一同は「本気ですか!?」「死にますよ?!」と引き留めようとするが、彼女の決意は固かった。あえて犠牲になろうという覚悟を無駄にはできず、後ろ髪を引かれる思いを抱きながら皆は逃げていく。

「あラ……貴女は逃げないノ……?」
 もう諦めたのかと近寄ってくるヴァンパイアの花嫁達の前で、カビパンは謝罪を行う。謝るにしてはやけにふてぶてしい態度で、片手には愛用の「女神のハリセン」を持って。
「待遇が悪かったのでイラっとしましたが、高級素材としてお使いください」
「えッ……じゃあ貴女は贄ネ」
 ちょっと引っかかる物言いだが、抵抗しないのなら生贄にしやすくて助かる。花嫁達はさっそくこの変な悪霊を喰おうとするが――その時、パシーン! という音が鳴り響く。牙を突き立てようとした花嫁を、カビパンがハリセンでしばいたのだ。

「何をするノ?!」
「早く私を紋章にしなさい!!」
 ただの贄では【ハリセンで叩かずにはいられない女】は満足できなかった。彼女はただの素材ではなく高級素材として、ヴァンパイアの花嫁達のように自分が『紋章』になる事を望んでいたのである。
「ほら早く、早く! ハリー!」
 バシバシとハリセンをしばいて喧しく要求するカビパン。なんかもう色々とおかしい。
 こんなヤツとは流石にひとつになりたくないと花嫁達はみんな思ったが、折角の素材をただ捨ててしまうのも勿体ない。どうしようかと考えた結果――。

「こいつには一人で紋章になって貰いましょウ」
「それがいいワ」
 自分達が完成されるより先に、コイツを単体で『紋章の祭壇』に捧げて紋章化させる、それが花嫁達の結論だった。かくしてカビパンはよいせと実験室の中央に運ばれていく。
 果たして大量の贄を必要とせず、単独での紋章化などできるのか。普通なら無理だが、カビパンのギャグによって時空が歪んだ世界においては、様々な理不尽が起こりうる。
「皆さん、今までありがとうございました。私、立派な紋章になります!」
 そう言ってカビパンはキラキラした謎の光を放ちながら『祭壇』に捧げられると――。

 ――ドドンッ!

 既に命がなく、神ですら予想のつかない「理解不能な異分子」を持つ女、カビパン。
 その魂を素体にして完成したソレはいろんな意味でおぞましく、ギャグのように輝く、間違いなくこの世に一つしか存在しない『紋章』だった。
「……ナニコレ?」
 花嫁達が首を傾げる中、カビパン紋章はキラキラリンとギャグチックに光を振りまく。
 人間から悪霊になったり仙人になったり死んだり生き返ったりして、とうとう紋章にまでなってしまった彼女は果たして元に戻れるのか――それは本人以外誰にもわからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
夜目が利くので余さず見える(暗視・視力)

分かっていたとも、この程度のことはやっていると
だが、それを赦せるかどうかは話が別だ

共に運び込まれた奴隷たちの前に出て、立ちはだかる
只人にはない力を感じ取れば、優先して取り込もうとその触手を伸ばしてくるだろう(存在感・おびき寄せ)
肌を這い絡み付く気色悪い感触に顔を顰める
こんなモノを喜ぶようにされたのか、憐れな

聖槍は察知されないよう城から遠くに置いて来たために無手
だが、それがどうした
槍よ――来い!

声に応じ(念動力)、城壁を粉砕し一直線(鎧砕き・貫通攻撃)に我が元へと飛来する聖槍
110に及ぶ残像、否、分身を創り出し(偽槍展開)、花嫁に殺到する(串刺し)



「分かっていたとも、この程度のことはやっていると」
 目の当たりにした惨憺たる光景を瞳に焼き付けて、オリヴィアは静かに肩を震わせる。
 夜目が利く彼女には、暗闇に紛れてこの『紋章の祭壇』で行われた、非道極まる惨劇の痕跡が余さず見えていた。
「だが、それを赦せるかどうかは話が別だ」
 めらめらと燃える怒りの火は、もはや誰にも消しようがなく。共に運び込まれた奴隷達の前に出て、立ちはだかる彼女の瞳はまるで獣のような黄金色に爛々と光り輝いていた。

「な……なによ……怒っているノ……?」
 ただならぬオリヴィアの気迫は、感情に乏しいヴァンパイアの花嫁さえたじろがせる。
 だが同時に彼女らはオリヴィアの只人にはない力を感じ取り、これを喰らう事ができれば『紋章』の完成に大きく近付くとも考えていた。
「ふふ……なら、まずは貴女かラ……」
 花嫁達はゆらりと笑い、優先してオリヴィアを取り込もうとその触手を伸ばしてくる。
 他の奴隷達が逃げるための時を稼ぐために、彼女はあえてそれを誘き寄せ、おぞましい悪意が体に触れるのを許す。

「こんなモノを喜ぶようにされたのか、憐れな」
 肌を這い絡み付く気色悪い感触に顔を顰めるオリヴィア。花嫁達にとってこの触手は主人に与えられた生贄の証であり、誇りこそすれ不快に思うはずもない。それを貶すような彼女の発言は大いに不興を買う。
「ふふふ……身の程をわきまえなさい……」
「貴女は贄……どうせ何もできないのだから……」
 敵に察知されないよう主武装である聖槍を城から遠くに置いてきたために、今の彼女は無手だった。下級とはいえこれだけの人数のオブリビオン相手に、武器無しでは不利――だが、それがどうしたとばかりに、彼女は天井に顔を向けて大声で叫ぶ。

「槍よ――来い!」

 その声に応じ、彼方にあったはずの聖槍がズガンと大きな音を立ててオリヴィアの元に飛来する。保管場所からここまで城壁を粉砕して一直線に飛んできたのだ。城内はちょっとした騒ぎになっているだろうが、今はもう構いはしない。
「顕現せよ、我が聖槍の写し身。無窮の威光で闇を斬り裂き、天地を照らせ――!」
 さらにオリヴィアは【偽槍展開】を発動。召喚した聖槍の残像、否、分身を創り出し、念動力によって全てばらばらにコントロールすると、その身に絡みつく触手を切り払う。ただ形を模しただけでなく、原型に秘められた恐るべき破邪の力は複製にも宿っていた。

「な――……!」
 110に及ぶ聖槍の分身のまばゆい輝きを見て、花嫁達の余裕は驚愕と恐れに変わる。
 ここで反撃や逃走の暇を与えるほどオリヴィアは手ぬるくない。胸の内で燃え盛る怒りのままに、全ての分身の矛が来が花嫁達に殺到する。
「滅び去れ!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁーーーっ!!!?」」
 地下室に閃く黄金と白銀の軌跡。無窮の威光に心臓を串刺しにされた花嫁達は、断末魔の悲鳴を上げて塵に帰る――彼女らが盲目的に敬愛し臣従するヴァンパイアと同じ様に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
此処の吸血鬼は宿縁の在った男を彷彿とさせる吸血鬼だ

何が偉大だ、否応なく命を積まれた犠牲者を冒涜しているだけのくせに
嗚呼、胸糞悪い。嫌悪感が増すばかり

哀れな者たち、すでに己の意思すらままならぬ傀儡

容赦なく始まる 赫の宴
鮮やかに血を喀け 華燭の花嫁たち

自身の流す血から影狼たちを召喚しその牙と爪で引き裂こうじゃないの

さあ、貴重な人狼はここにいるわ
私を取り込むのはどの個体かしら…?

奴隷たちから自分に気を引かせるためにそう声をかけ

敵の攻撃は第六感、見切りで回避を試みて
狼と、剣を持って花嫁たちを斬っていこう

敵が沈黙したら奴隷たちに安全に退避できる道を教えて脱出させる



(此処の吸血鬼は宿縁の在った男を彷彿とさせる吸血鬼だ)
 依頼を受けた時に聞いた情報と、実際に目にした『紋章の祭壇』の惨状から、この城を支配する吸血鬼の人となりを想像し、ディアナは静かに怒りをつのらせる。特に彼女の心を逆撫でするのは、紋章に「なりかけ」のヴァンパイアの花嫁達だ。
「ああ、偉大なる主様……この心も体も、すべては主様のもノ……」
 生贄として見捨てられてなお盲目的に主人を讃え、その身を捧げることを幸福と言う。心も体もヴァンパイアの都合のいいように作り替えられた彼女らの有様は、おぞましくも哀れであった。

「何が偉大だ、否応なく命を積まれた犠牲者を冒涜しているだけのくせに」
 嗚呼、胸糞悪い――この場所にいる一秒一瞬ごとに、ディアナの嫌悪感は増すばかり。
 その発言でシモベ共の怒りを買おうと構わない。向けられる眼差しや敵意の感情すら、主人によって操作されたものだと思えば、怒りを返す気にもなれない。
「哀れな者たち、すでに己の意思すらままならぬ傀儡」
 その生をここで終わらせるために、彼女は【Wolf Fang Resonance】を発動。ぐっと握りしめた拳からぽたりと血が滴り、それが影に落ちると、血の匂いに誘われてきたかのように黒狼の群れが姿を現した。

「生を蹂躙する者 闇より出でし獣よ 滅びの声をあげ 血の嵐と共に葬り去れ」
 ディアナの影より召喚された黒狼達は命じられた通りに敵に飛びかかると、その牙と爪で引き裂く。容赦なく始まる赫の宴――花嫁達の悲鳴が上がる中、群れの中心に立つ女は優雅に微笑みながら声をかける。
「さあ、貴重な人狼はここにいるわ。私を取り込むのはどの個体かしら……?」
 この城の主に認められた『高級素材』としての価値。それは紋章として完成される事を望む花嫁達にとっては、目の前にたらされた甘い蜜のようなものだ。他の奴隷には目もくれず、影狼の爪牙に晒されることを分かっていながら、彼女らはディアナに殺到する。

「鮮やかに血を喀け 華燭の花嫁たち」
 うまく気を引けたのに満足しながら、ディアナは愛剣「Halos Lila」を持って、迫りくる花嫁達に応戦する。クリスタルオパールの白き刀身が閃くたびに紅い血の華が咲き、さらに狼達が追撃を重ねる。
「きゃっ……! よ、よくモッ!」
 怒り狂いながら花嫁達が伸ばす手は、何度やってもディアナには届かない。危険を察知する第六感と見切りの技に優れた彼女は、巧みに敵の攻撃を躱しては反撃の刃を振るう。

「自分たちの赫に抱かれながら 眠りなさい」
「が……ッ!」
 夜の夢を示す刃が、哀れな傀儡の心臓を貫く。それを最期にディアナの周りにいた敵は全て沈黙した。ふうと息を吐いて刀身についた血を拭うと、彼女はこの場に連れてこられた奴隷達のほうを向く。
「この階段を昇ったら、通路を左に進んで、曲がり角を右に。安全な場所に出られるわ」
「は……はいっ。ありがとうございますっ」
 事前に調査しておいた安全に退避できる道を教えると、彼らは何度もお礼を言いながら脱出していく。これで後の心配事はひとつ消えた――後は、この不快な『紋章の祭壇』を破壊するだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…さて、諧謔はここまでよ。ここから先は吸血鬼狩りの本懐を果たすとしましょうか

…貴方達は無理せず生存者の保護に向かって

UCを維持し狩人達に闇に紛れて生存者を保護するように指示を出し、
自身は敵陣に突撃して今までの戦闘知識から攻撃を暗視して見切り、
攻撃を受け流した勢いで体勢を崩すカウンターで地面に叩き付け、
浮いた敵を掴み一点に魔力を溜め限界突破した怪力で敵陣に弾丸のように投擲を行う

…と言った物の武器の類は持ち込めなかったのよね
野蛮な手法だけど現地調達といきましょうか

…そう、無事に救出できたみたいね。後は彼らを護って…ん?

…いや、私は吸血鬼じゃないからね?
こんな格好をしているけど…こんな戦い方だけど…



「……さて、諧謔はここまでよ。ここから先は吸血鬼狩りの本懐を果たすとしましょうか」
 吸血貴族に扮して『紋章の祭壇』まで辿り着いたリーヴァルディは、これまでとは違う笑みを浮かべる。【吸血鬼狩りの業・血盟の型】により召喚され、ここまで彼女の奴隷役に専念してきた吸血鬼狩人達は、ようやく本懐を果たせる時が来たかと気迫を漲らせた。
「……貴方達は無理せず生存者の保護に向かって」
「はっ。分かりました、師よ」
 血気に逸らぬよう諌めつつ指示を出すと狩人達は静かに頷き、闇に紛れて姿を消した。彼らが役目を果たしている間に、『紋章の祭壇』に蔓延る敵を排除するのは師の仕事だ。

「……と言った物の武器の類は持ち込めなかったのよね。野蛮な手法だけど現地調達といきましょうか」
 やや心許なさもある身の軽さを確かめると、リーヴァルディは徒手で敵陣に突撃する。
 相手は下級オブリビオンとはいえ数が多い。傍目には自分から喰われにいったようにしか見えないだろう。敵の花嫁達もそう思ったのか、美しいかんばせに微笑みを浮かべる。
「貴女……ヴァンパイアじゃない……ダンピールね?」
「偉大なる方々の血を引きながら……主様に逆らうなんて……」
 その罪深い命をせめて贄にしてくれようと、触手をうねらせながら掴みかかる花嫁達。
 しかし、彼女らの主人たる吸血鬼を何体も狩ってきたリーヴァルディに、そんな攻撃は通じない。今までの戦闘知識から動きを見切り、素手で打ち払うように攻撃を受け流す。

「きゃ……ッ?!」
 攻撃を受け流された勢いで体勢を崩し、勢いよく地面に叩きつけられる吸血鬼の花嫁。
 反動で浮き上がったその敵をリーヴァルディはがしりと鷲掴みにし、魔力を一点集中。爆発的に強化された腕力で大きく振りかぶると――弾丸のように"それ"を投擲する。
「……吹き飛びなさい」
「「きゃぁぁぁぁぁッ!!!?」」
 弾にされた側と標的にされた側の悲鳴が同時に上がる。敵そのものを即席の武器として利用するという、本人が言うようになかなか乱暴な手ではあるが、確かに効果的だった。『紋章』の素体に選ばれたオブリビオンはなかなか頑丈だし、弾数に困ることもない。

「……次、いくわよ」
「ひッ! ま、待っ……!」
 手近な敵をむんずと捕まえては放り投げての繰り返し。抵抗や回避の余地は与えない。ものの数分でリーヴァルディの周りにいた敵群は全滅し、物言わぬ骸と化したのだった。
 一段落ついた彼女はぱんぱんと軽く手を払うと、地下室に置かれた檻のほうに向かう。そこではちょうど弟子達が囚われていた生存者を檻から出し、保護している所だった。

「……そう、無事に救出できたみたいね。後は彼らを護って……ん?」
 怪我や衰弱などはないかと生存者の様子を見たリーヴァルディは、彼らの反応に違和感を覚える。救助に来た者に向けるにしては、彼らの視線はよそよそしいというか、怯えや恐れを感じるというか――。
「……いや、私は吸血鬼じゃないからね? こんな格好をしているけど……こんな戦い方だけど……」
 宴からここまで直行して来たため、今のリーヴァルディの服装はいかにも吸血鬼らしい闇のドレスのまま。それに加えてあの人間離れした怪力による戦いを見られていたなら、誤解を招くのも無理はなかった。が、流石にちょっと傷つく。

 ――その後、先に救助にあたっていた弟子達の説明により、人々の誤解は無事解けた。
「た、大変失礼いたしました……命の恩人に向かってあんな……!」
「……いえ、気にしてないから……」
 生存者達に平謝りされながら、気を取り直したリーヴァルディは彼らの保護を進める。
 これから戦いはより激しくなる。『祭壇』の異変に気付いた城主が駆けつけてくる前に、安全な場所まで避難させなくては――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・焔
≪青華≫

SPD判定の行動
アドリブなど歓迎

■心情
こんなに沢山の人たちが実験を受けていたなんて
本当に『機血姫』は非道だね。
「こんな紋章の祭壇なんて、絶対に破壊してあげるんだから」

■行動
手足の枷を即座に外してシホ姉から装備を受取、戦闘開始、
焔たちが敵と戦っている内に、生存者たちを救助して貰うね。
「大丈夫だよ、焔たちはこう見えても強いんだから!」

シホ姉が放った落雷で動きが鈍った相手から優先して狙い、
白狐から【属性攻撃】で蒼い炎を放ち、敵を焼き払うね。
焔も、白狐の上から【ランスチャージ】や【串刺し】で戦う。
「シホ姉、生存者たちの方は任せたからね!」

敵の寄生生物は、【部位破壊】で
寄生生物から狙っていくよ。


シホ・エーデルワイス
≪青華≫

ええ
跡形もなく消しましょう


敵出現と同時に枷を外し
『聖鞄』から私と焔の装備を取り出し早着替え

焔!

生存者が爆発に巻き込まれない様
先制攻撃で【巡環】を展開

雷の閃光には麻痺と目潰しの気絶攻撃が加わり
稲荷符で咲いた花畑は死臭悪臭を浄化し環境耐性を付けて癒す

はい
任されました!

焔が敵を誘き寄せている間に
『聖笄』で透明になり目立たず生存者へ近づき救助活動
光学迷彩のオーラ防御で庇いつつ
拘束されていたら聖剣で破壊し聖鞄へ匿う


救助が一通り完了したら
医術の知識を活かし
聖銃から跳弾属性攻撃の誘導弾で急所を突く等して苦しまないよう
焔の援護射撃

生きている内に助けられなくてごめんなさい
せめてこの祈りで安らかな眠りを…



「こんなに沢山の人たちが実験を受けていたなんて、本当に『機血姫』は非道だね」
 どこを向いても血や亡骸の痕が、あるいは囚われた奴隷達が目につく『紋章の祭壇』を見回して、焔は小さな拳をぎゅっと握りしめる。ここで無惨に弄ばれ散っていった生命を思うだけで、怒りが胸から湧き上がってくる。
「こんな紋章の祭壇なんて、絶対に破壊してあげるんだから」
「ええ。跡形もなく消しましょう」
 妖狐の義妹の決意にシホも頷くと、枷を外して『聖鞄』から二人分の装備を取り出す。
 焔も即座に手足の枷を外して自分の装備を受け取る。奴隷のふりをするのはここまで、戦闘準備は万全だ。

「主様、万歳!」
 これまでの戦いでヴァンパイアの花嫁達も、猟兵をただの贄ではなく主人の脅威であると認識し始めていた。最善なのは『紋章』の素材として喰らう事だが、もしそれが叶わぬようなら――彼女らは自らの全てを犠牲にしてでも、脅威を排除せんとする。
「燦、力を借ります」
 ここで自爆されればまだ室内にいる生存者まで巻き込まれる恐れがある。シホは瞬時に敵の機先を制して【華狐相愛・巡る月】を発動。自身の恋人にして焔の姉でもある女性、四王天・燦の幻影を召喚して同時に術を放った。

「二人の想い、力となりて駆け巡れ!」
「ぎ――……ッ!!?」
 シホの頭上から放たれた落雷と閃光は花嫁達の目を眩ませ、感電により行動速度を遅延させる。同時に燦の幻影が放つ稲荷符は地下室に花畑を咲かせ、死臭悪臭を浄化して味方に環境耐性と治癒効果を与える。
「符よ妖の郷への扉を開け。おいでませ白の御狐様」
 自爆を妨害され敵の動きが鈍ると、すかさず焔が【白狐召還符】を使用。呼び出された大きな白狐が蒼い炎を放ち、まだ僅かに残る死臭の残り香ごと花嫁達を焼き払っていく。

「焔!」
「大丈夫だよ、焔たちはこう見えても強いんだから!」
 心配そうに声を上げるシホに笑顔を見せて、焔は白狐に乗って敵陣に飛び込んでいく。
 普段の甘えん坊な末っ子気質から幼く見られやすいが、彼女も姉たちと同じ立派な猟兵である。ドラゴンランス【フローレ】を巧みに操り、突撃戦法で敵を串刺しにする。
「シホ姉、生存者たちの方は任せたからね!」
「はい、任されました!」
 可憐でありながら勇ましいその戦いぶりを見たシホは、信頼を込めてこくりと頷いた。
 今なら敵の注意は焔のほうに誘き寄せられている。この間にまだ囚われている生存者を救い出そうと、彼女は『聖笄』ハイドランダのヘッドドレスをかぶって姿を消す。

「お静かに。今、お助けいたします」
「わっ、だ、誰ですか……?」
 聖笄の力で透明化したシホは、気配も臭いもさせずに生存者達のいる檻まで近付くと、鍵と拘束を『聖剣』パッシモンで破壊し、彼らを自由の身にする。急に透明人間に話しかけられた時は驚いたようだが、それが救いの声だと知れば人々の反応は安堵に変わった。
「た、助かった……」
「さあ、この中に」
 彼らは稲荷符がもたらす花畑の治癒効果で怪我を癒やされると、ここまでに救ってきた奴隷達と同じように『聖鞄』の中の安全な空間に匿われる。これで『祭壇』にいた一般人の救出はほぼ完了――あとは敵を一掃するだけだ。

「シホ姉に任されたんだもの、ここは通さないよ!」
 前線の方に視点を移せば、今も焔と白狐が奮戦中だ。数では敵のほうが勝っているが、落雷の影響がまだ残っており動きは鈍いまま。俊敏さでは白狐に騎乗した焔に分がある。
「全ては主様のために……ぐエッ?!」
 それでも花嫁達は限界を超えた力で応戦するが、焔はその強化の源である寄生生物から狙って攻撃を仕掛ける。どこか『紋章』に似ている不気味な寄生体が竜槍に貫かれると、敵のユーベルコードも解除された。

「あ、ぎぃ、ッ……あ、主、さマ……!」
 麻痺していた痛みが戻ってきたヴァンパイアの花嫁達は、助けを求めて悲鳴を上げる。
 だが、ここに彼女らの主がいたとしても、救いの手が差し伸べられる事は無いだろう。この城の主からしてみれば、彼女らも人族の奴隷と同じ生贄でしかない。使い勝手のいいシモベとして身も心も作り替えられた、哀れな人形だ。
「生きている内に助けられなくてごめんなさい。せめてこの祈りで安らかな眠りを……」
 そんな花嫁達に最期をもたらしたのは、シホが放った二挺の『聖銃』の弾丸だった。
 医術の心得のある彼女は、どこを撃ち抜けば対象が苦しまないよう終わらせられるか、という知識も備えている。地下室内を跳弾した銀と光の弾丸は的確に標的の急所を突き、眠りのようにその命を奪った。

「大丈夫でしたか、焔?」
「平気だよ。シホ姉は?」
 周囲に動いている敵がいなくなると、シホと焔は合流して互いの無事を確かめ合う。
 双方とも不慮の事態に見舞われることなく、無傷での完勝。だが、この次もそう上手くいく保障はない――迫る『第五の貴族』との戦いに備えて、二人は気を引き締め直した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
すー……ふぅ……
(自身を落ち着かせるように一度深呼吸)
まだ助けられる人がいてよかったです。守るための戦いができる。

……あの触手以外、見た目はまだ人ですが人の動きではありませんね。
痛覚も消えているのでしょうか。

ですが、自身の身を省みない程度で届かせはしません。
【絶対零度の射手】を使用、フィンブルヴェトからの氷の弾丸の連射による 『乱れ撃ち』で敵の関節部を狙い、強制的に動けなくしていきます。

(敵の首輪を見て猟兵になるより前、吸血鬼に支配されていた頃を思い出す)
あなた達に対しても色々と思うことはありますが……今はただ、終わらせましょう。
動けなくした敵を撃ち抜きとどめを刺します。



「すー……ふぅ……」
 おぞましき『紋章の祭壇』の光景を目の当たりにした瞬間、セルマの瞳は何かを堪えるようにはっと見開かれ、それから自分を落ち着かせるように一度深呼吸する。死と薔薇の匂いを含んだ空気を吸って吐けば、その後には普段のセルマ・エンフィールドがいた。
「まだ助けられる人がいてよかったです。守るための戦いができる」
 視線の先にいるのはヴァンパイアの花嫁。『紋章』を完成させるための忠実なシモベ。
 アレから生存者を救出するのも今回の依頼内容のひとつ。ただの殲滅や破壊ではない。だから彼女は冷静であっても冷酷にはならずにいれた。

「あはハ……貴女も、私達と一つになりましょウ……」
 花嫁達は口々に【全ては主様のために】と囁きながら、セルマにも襲い掛かってくる。
 その身のこなしは華奢な体躯のわりに異常に俊敏で力強い。明らかに体に負荷のかかる動作なのに、顔には微笑みを絶やさないのは不気味でさえある。
「……あの触手以外、見た目はまだ人ですが人の動きではありませんね。痛覚も消えているのでしょうか」
 改造の一環で投与された寄生生物が、彼女達の痛みを麻痺させている。斬られても撃たれても怯まず、心身の限界を超えて戦える兵士というわけだ。セルマはそんな敵の有様をじっと見据えながら、改造マスケット銃「フィンブルヴェト」のスコープを覗く。

「ですが、自身の身を省みない程度で届かせはしません」
 セルマの称号は【絶対零度の射手】。その名の通り連射された氷の弾丸は狙い過たず、敵の関節部を撃ち抜く。まずは足首や膝を、それから肘や肩を、恐ろしい程の正確さで。
「冷たイッ……あ、あら……立てないワ……?」
 いくら痛みを感じないからと言って、ダメージが消えるわけではない。逆に痛覚というシグナルを失った花嫁達は自分の肉体がどうなったのか正常に把握できていないようだ。まだヒトの形を留めている以上、手足を折られれば動けなくなるのは道理だというのに。

「動ケ……動きなさイ……主様のためニ……!」
 言うことを聞かない自分の体を叱責し、這いずってでも使命を果たさんとする花嫁達。
 だが氷の弾丸は容赦なく降り注ぎ、強制的に彼女らの動きを封じる。機械のように精密な超高速連続攻撃が終了した時、その射界上で立っていられた敵は一人もいなかった。
「これでもう戦えませんね」
「ぁ……あァ……ッ」
 氷弾の乱射により霜の降りた銃身を下ろして、セルマは淡々と告げる。戦闘力を奪った敵を見回せば、ふと目にとまるのは彼女らに嵌められた首輪。従属の証たるそれを見て、少女はまだ自分が猟兵になるより前、吸血鬼に支配されていた頃を思い出していた。

「あなた達に対しても色々と思うことはありますが……今はただ、終わらせましょう」
 支配に甘んじるまま堕ちる所まで堕ちた花嫁達にセルマが何を思ったのか、その内心は堅い無表情に阻まれて窺い知ることはできない。彼女は慣れた手付きでスカートの中からデリンジャーを取り出すと、その銃口を敵に向ける。
「撃ち抜きます」
「止メ……ッ!」
 乾いた発砲音が連続して地下室に反響し、花嫁達の声や悲鳴が消える。真新しい流血が古い血痕を洗い流していき――新たな『紋章』を創造する為の素体は全滅したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『機血姫』リオ・スティロヴァニエ』

POW   :    近距離攻撃
自身の【吸血兵装のタンクに溜めた人間の血液 】を代償に、【莫大な魔力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって吸血兵装のタンクに溜めた人間の血液 を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    遠距離攻撃
【タンクに溜めた人間の血液を消費すること 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【吸血兵装の腕を分離し飛ばすこと】で攻撃する。
WIZ   :    燃料補給
【吸血兵装の攻撃 】が命中した対象を爆破し、更に互いを【血液を強制的に奪うチューブ】で繋ぐ。

イラスト:裏海マユ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「騒がしいと思ったら……こんな所にまで鼠が入り込んでいるとはね」

 猟兵達がヴァンパイアの花嫁を倒し、囚われの生存者を救出してから間もなくのこと。
 かつんと苛立ちを含んだ足音を響かせて、地下室の入り口から1人の女が姿を現した。

「猟兵め。一体どうやってこの『紋章の祭壇』を嗅ぎ付けた……? せっかく集めた素材まで逃してしまって。集めるのにどれだけ苦労したと思っているのかしら」

 言動からして彼女がこの祭壇の主、『機血姫』リオ・スティロヴァニエで間違いない。
 見た目はまだ少女と呼べる年代の痩身の女性だが、背中にしょった血液タンクを始め、見慣れない機械仕掛けの武装が目立つ。そして胸元にはもはやお馴染みになりつつある、寄生型オブリビオン『紋章』を装備していた。

「この償いは高く付くわよ、お前達。後悔させてあげるわ」

 血を魔力に変換して稼働する『吸血兵装』と、比類なき叡智を与える『全知の紋章』。
 自らの優れた頭脳によって開発した装備を身に着けたリオは戦闘でも絶大な力を誇る。
 その不敵な態度は自信の現れだろう――だが、弱点が無いわけではない。この世界の者には知り得ない『異世界の知識や技術』が、彼女を攻略する上でのカギとなるだろう。

「さて、猟兵を生贄にすればどんな『紋章』が生まれるのかしら。実験開始よ!」

 両腕の兵装にタンクの血液を送り込み、戦闘態勢を取る『機血姫』リオ。対する猟兵達も即座に応戦の構えを取り――『紋章の祭壇』破壊作戦、クライマックスの幕が上がる。
播州・クロリア
代償ですか。そうですね、高くつきますね
このふざけた儀式で幾多の尊い命を奪った代償
貴女の命で支払っていただきます
(『オーラ防御』で身を護りながら祭壇の前で目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始める)
何でも知っている貴女ならとっくにご存知でしょうが
今から私が行う攻撃はリズムを合わせることができれば見える攻撃です
そしてこの{絢爛の旋律}は蒼天に輝く太陽と陽光に照らされ輝く大地を表現したリズムです
...つまり、この世界の未来を表したリズムです
きっと貴女には想像する事さえ困難でしょうね
(UC【蠱の力】発動)



「代償ですか。そうですね、高くつきますね」
 ついに姿を見せた『紋章の祭壇』の管理者に、クロリアは静かな圧のある声で応える。
 普段は穏やかな彼女も、これほどに悪しき――彼女の表現を借りるなら「ダラキュ」なものを見て、流石に腹に据えかねているようだ。
「このふざけた儀式で幾多の尊い命を奪った代償、貴女の命で支払っていただきます」
 祭壇の前で目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばし、指の先まで怒りという熱を満たす。力強く、激しく、そして美しく、彼女のダンスは先程とは異なる旋律を奏で始めた。

「ふん。いい度胸ね」
 『機血姫』リオはクロリアからの宣戦布告を鼻で笑うと、巨大な吸血兵装のアームで拳を固める。タンクに溜めた人間の血液を莫大な魔力に変換することで、その攻撃は絶大な威力を発揮する。これが彼女を現在の地位まで押し上げた智慧の力だ。
「すぐにその減らず口を叩けなくしてやるわ!」
 彼女はごつい武装に見合わぬ疾さで距離を詰めると、小手調べの【近距離攻撃】を踊り続けるクロリアに叩き込む。だが、人体をたやすく粉砕するはずの一撃は、標的の目前に張られたオーラの防壁に阻まれ、ほんの数センチのところで食い止められた。

「こんなもの、すぐに突き破って……いえ。お前のその踊りはまさか……」
 吸血兵装の出力に任せて防御を打ち砕こうとするリオだが、その表情がはたと変わる。
 自らの頭脳と知識を『全知の紋章』により強化した彼女は、その踊りと旋律がもたらす効果についても理解が及んだらしい。その反応をみてクロリアも踊りながら口を開いた。
「何でも知っている貴女ならとっくにご存知でしょうが、今から私が行う攻撃はリズムを合わせることができれば見える攻撃です」
 ダンスによって生み出した旋律のエナジーで攻撃する【蠱の力】。クロリアが使用するユーベルコードの中ではシンプルな技となるだろう。これで敵の全知を打ち破る為には、どのような旋律を踊りに籠めるかが重要になる。

「そしてこの{絢爛の旋律}は蒼天に輝く太陽と陽光に照らされ輝く大地を表現したリズムです……つまり、この世界の未来を表したリズムです」
 燦然と輝く天地の美しさと、光と生命にあふれた世界の栄華を、全身を以て表現する。
 それがクロリアの踊りに籠められた意味。リズムが激しさを増すにつれて、彼女が纏うオーラは太陽の光にも似た輝きを放ち始めた。
「太陽……未来ですって……?」
 いかに全知を嘯こうとも、リオは吸血鬼でありオブリビオン。その知識は闇に覆われた過去に根ざしている。永遠に明けることのない不変の夜を理想とする彼女らには、夜明けなど知る由もないことだった。

「きっと貴女には想像する事さえ困難でしょうね」
 原理が分かっていても旋律に籠められた意味を介さない者には、この攻撃は防げない。
 クロリアは舞踏にかけた情熱と旋律を全てエナジーに変えて、思いきり敵に叩き込む。その瞬間、オーラの輝きは燦然と『紋章の祭壇』を照らし、機血姫の体を灼いた。
「ッ……こいつッ!」
 痛みに顔をしかめたリオは、その輝きを忌避する様にさっとクロリアから距離を取る。
 たとえ第五の貴族が相手だろうと、もはや猟兵達は遅れを取らない。立ち向かうための備えと経験は、十分に積んできているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…高く付く、か。
それはこちらのセリフだ…この祭壇と共に、お前の全てを破壊してやろう

UCを発動しつつ装備銃器で攻撃
弾幕を張りながら動き回り、敵を牽制しつつダメージを与える
奴の知るマスケット銃よりもはるかに高い連射性能と制度を持った銃だ
好きなだけ参考にするといい…その身を使ってな

さて、宴も最高潮だな
ここで一つ、とっておきの花火をお前にプレゼントしてやろう

動き回りながら多数のオーヴァル・レイを各所に配置したら敵の遠距離攻撃と同時にビーム砲を一斉発射
視認すら叶わぬ死角からの攻撃ならば、その腕も届くまい

存分に堪能してくれているみたいだな
まだまだあるぞ…心逝くまで「実験」するといい



「フン……高く付く、か」
 いかにも吸血鬼らしい上から目線の物言いを、鼻で笑い返すのはキリカ。この状況でも奴はまだ自分が絶対的な上位者だと思っているらしい。喉元にナイフを突きつけられているのは其方だというのに。
「それはこちらのセリフだ……この祭壇と共に、お前の全てを破壊してやろう」
 再び【オーヴァル・ミストラル】を発動した彼女は、宣告と同時に銃口を敵に向ける。
 随伴する多数の浮遊砲台と共に、聖なる箴言を籠めた"シルコン・シジョン"の弾幕が、『機血姫』リオに襲い掛かった。

「お前の知るマスケット銃よりもはるかに高い連射性能と精度を持った銃だ」
 この世界の技術や知識体系に拠らぬ攻撃は、『全知の紋章』でも見切る事ができない。この世界より数百年は進んだ異世界のテクノロジーでできた武器など、その際たる物だ。
「好きなだけ参考にするといい……その身を使ってな」
「くっ……何? こんな武器、私は知らない……!」
 未知の物につい興味がいってしまうのは研究者の性なのか、リオの反応は一瞬遅れた。
 巨大なガントレットのような吸血兵装でガードを固める彼女に、キリカは動き回りながら弾幕を張り続け、敵を牽制しながら少しずつダメージを与えていく。

「ちょっと良い武器を持っているからって……調子に乗るなッ!」
 ただやられっぱなしでいるほど『第五の貴族』も甘くはなく、片腕の吸血兵装を分離し【遠距離攻撃】を仕掛けてくる。溜め込まれた血液を燃料としたその一撃は、銃を超える射程と威力を誇る。弾丸をつかみ取りながら巨大な腕が迫ってくる様はまさに脅威だ。
「其方も興が乗ってきたようだな」
 だが、戦場を駆け回るキリカの表情にはまだ余裕がある。絶え間ない銃撃を敵の本体と分離した兵装に浴びせつつ、複製した多数の"オーヴァル・レイ"を各所に配置していく。111機全てを所定の位置にセットできれば、いよいよそこからが本番だ。

「さて、宴も最高潮だな。ここで一つ、とっておきの花火をお前にプレゼントしてやろう」
 キリカの口元に笑みが浮かぶ。その直後、各所に配置した浮遊砲台が一斉に光を放つ。
 敵味方の位置関係を綿密に計算したそれは、弾幕により生じた敵の死角を突いていた。
「視認すら叶わぬ死角からの攻撃ならば、その腕も届くまい」
「ぎ……ッ?!」
 異界の技術力が造り出した粒子ビームが、青い閃光の嵐となってリオに浴びせられる。
 不慮のダメージに思わず悲鳴が漏れ、背中にしょっていた血液タンクにヒビが入った。

「存分に堪能してくれているみたいだな」
 作戦成功を確認したキリカは笑みを浮かべたまま、さらなる銃撃と閃光を放ち続ける。
 これしきで第五の貴族が倒れるとは思っていない。だが、いかに強大な敵でもダメージを蓄積させれば、いつかは必ず限界がくる。
「まだまだあるぞ……心逝くまで『実験』するといい」
「こ、のぉ……! ちょっと、止めなさ……ッ!」
 手持ちの弾薬とエネルギーを切らすまで、キリカの攻撃が途切れることは決してない。
 腹立たしげにガードに徹するリオの表情には、微かに苦痛と焦燥の色がにじんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
猟兵を生贄にすればどんな『紋章』が生まれるのか。
実験結果は出ていた。

「リオ、新しい紋章よ!」
アンパンマン新しい顔よ!のノリで変な紋章が飛んできた。
私の名前はカビパン紋章よ~ん、とか喜んで自己紹介してきたソレは恐ろしいセールストークで「これが貴女が望んだ紋章よ」とか言って押し付けてくる。
試しにリオが「いらない」と言ってみたら文章には書き起こせないようなマシンガントークで怒られた。
そして胸元に超嫌々ながら装備してしまったのである。

この世界の者には知り得ない『ギャグ世界のボケ知識やツッコミ技術』が頭の中に流れ込み、様々な壁を超越しジャンルを塗り替えて人格を破壊しようとする恐ろしい紋章であったという。



「ふふ……なかなかやるじゃない。これならいい紋章を作れそうだわ」
 猟兵たちの実力をその身で体感した『機血姫』リオは、強がりも含めてにやりと笑う。
 集めた生贄は台無しになってしまったが、これほどの強者ならば『高級素材』としての役割もきっと果たすだろう。どんな強力な『紋章』が作れるか彼女にも予想がつかない。
「リオ、新しい紋章よ!」
「え? なにこれっ?!」
 そんな彼女の元に突然飛んできたのは、見たこともない色と形をしたヘンテコな紋章。
 それは『紋章の祭壇』に自ら身を捧げたカビパンが、ギャグ補正の力によって変化した新種の紋章であった。

「私の名前はカビパン紋章よ~ん」
 とか喜んで自己紹介してきたソレは、リオのこれまでの紋章への知識を覆す物だった。
 猟兵を生贄にすればどんな『紋章』が生まれるのか。実験結果はもうすでに出ていた。彼女を猟兵のスタンダードとして前例に含めて良いのかについては非常に疑問が残るが。
「いや、何なのよお前は。なんで紋章が勝手に喋って動いているのよ」
「これが貴女が望んだ紋章よ」
 困惑するリオに対し、カビパン紋章は恐ろしい勢いでセールストークをまくしたてて、ぐいぐいと自分を押し付けてくる。装備しろと言うのか、こんな得体のしれないモノを。いくら研究熱心で知識欲の強い『機血姫』でも、こればっかりは流石に躊躇われる。

「い、いらないわ」
「なんですって!」
 試しにリオが断ってみると、カビパン紋章はめちゃくちゃ怒った。彼女はこの有り様でもユーベルコードを使えるらしく、【黒柳カビパンの部屋】で高齢した霊の力を借りて、圧倒的なトーク力と強烈なプレッシャーで敵を恐喝する。
「―――――!!!!!」
 銃撃さながらの激しさで怒鳴り散らすカビパン紋章のマシンガントークを、文章に書き起こすことはとてもできない。とにかく、敵に嫌気を感じさせるには十分なものだった。
 これ以上は聞いていられないと思ったリオは根負けし、嫌々ながらもその変な『紋章』を自分の胸元に装備する。してしまったのである。

「こっ……これは……!!?」
 カビパン紋章を装備した瞬間、リオの頭の中にはこの世界の者には知り得ない『ギャグ世界のボケ知識やツッコミ技術』が流れ込んでくる。それは彼女がこれまでに築いてきた知識や人格をまとめて吹き飛ばしかねない程のインパクトを誇っていた。
「あ、頭が割れそう……こんなの、おかしくなっちゃう……!」
 ギャグ世界の住人であるカビパンを素材とした『紋章』は、様々な壁を超越しジャンルを塗り替えて人格を破壊しようとする恐ろしい紋章であった。あわや自我を見失いかけたリオは脳内がギャグに汚染されきる前に、吸血兵装でカビパン紋章をむんずと掴む。

「こんなもの、いるかぁッ!!」
 ぶおんっと投げ捨てられたカビパン紋章は勢いよく『紋章の祭壇』の外に飛んでいく。
 この世に生み出されてしまった恐るべき新種の紋章は、かくして世間に解き放たれた。これから彼女が誰に宿りどんなカオスを巻き起こすのか、それはまた別の物語である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
実験か。いいだろう、此方も試したい。
機械兵器解禁だ、異世界で得た黒騎士ブラックスミスの銃を見せてやる。

【誘導弾】として爆槍フェニックスを【投擲】し敵UCを【武器落とし】、
その隙に愛機ことUC【炎吹きて蒼駆せし半身】形態の専用トライクを城外から召喚し【騎乗】。
後部に載せていた天使核内蔵二門機関銃『バリスタ』を
愛機に【エネルギー充填】用ケーブルを接続した状態で装備し【制圧射撃】

宇宙バイクである愛機の【ダッシュ】と【悪路走破】性を活かした機動力と
天使核を動力にした、機関銃の【弾幕】と熱線【砲撃】の【一斉発射】
馬車やマスケット程度しかないダークセイヴァーには未知の技術の大盤振る舞いだ、受け切れるか!



「実験か。いいだろう、此方も試したい」
 見慣れぬ兵装と紋章を装備した『機血姫』に対抗して、ルパートは挑戦的にそう語る。
 かの『全知の紋章』は異界の叡智までは網羅していないという。ならば猟兵として世界を渡り歩く過程で手に入れた装備こそが、かの第五の貴族を打ち倒す最強の鉾となる。
「機械兵器解禁だ、異世界で得た黒騎士ブラックスミスの銃を見せてやる」
「へぇ……それは興味深いわ、ねッ!」
 異世界の兵器という言葉に興味を引かれつつも、リオは吸血兵装による【遠距離攻撃】を仕掛けてくる。本体から分離して射出された巨大な機腕は、まるでミサイルのようだ。

「ニクスよ、頼むぞ」
 ルパートは爆槍フェニックスを大きく振りかぶって投擲し、飛来する巨腕を迎撃する。
 青炎を纏った槍と機械の腕がぶつかり合い互いの軌道を逸らす、その隙に彼は愛機こと【炎吹きて蒼駆せし半身】形態に変形した専用大型トライクを城外から召喚する。
「我に命を託す愛馬なし。しかし命を共にする愛機あり!」
 青く燃える鉛を纏ったトライクは、鉛部分で乗り手と融合し文字通り人機一体となる。
 それに伴ってルパートの四肢も青く染まり、鎧全体に青いラインが走る。全身より迸る炎の熱は、今にも大気を発火させそうな勢いだ。

「征くぞ」
 愛機のエンジンを全開にして走り出すと同時、ルパートは機体後部に乗せていた天使核内蔵二門機関銃『バリスタ』を発砲する。接続された充填用ケーブルを通じて燃える鉛を供給された機銃は、ニ門の銃口より実弾と熱線を撃ち出した。
「ッ……これはッ?!」
 未知の武装による攻撃に、リオの反応が遅れる。射出した片腕を手元に戻す間もなく、熱線弾が華奢な躰を撃ち抜いた。その一発に留まらず、尽きぬ炎鉛を供給された機関銃はルパートの意のままに銃撃の雨を降らせ、敵に反撃の隙を与えない。

「馬車やマスケット程度しかないダークセイヴァーには未知の技術の大盤振る舞いだ、受け切れるか!」
 宇宙バイクである愛機の速度と悪路走破性を活かした機動力と、天使核を動力にした、機関銃の弾幕と熱線砲撃の一斉発射。単一の世界に拠るものですらない、複数の異世界のテクノロジーに基いた武装をフル活用して、ルパートは『機血姫』を追い詰めていく。
「くっ……なんなの、あの鉛の馬と巨大な銃は? 動力は? 作動原理は?!」
 リオは困惑しながらも分離した腕にルパートを襲わせるが、地下室という限られた空間でも縦横無尽の走力をみせ、壁や天井まで走り回るトライクを捕捉することはできない。逆に隙を晒したところに、青い炎を帯びた弾幕と熱線が撃ち込まれる。

「捉えたぞ!」
 天使核のエネルギーと燃える鉛の複合により、凄まじい威力を発揮する『バリスタ』。
 その猛射をことごとく全身に浴びれば、素の肉体能力の高くないリオは堪らない。
「がは……ッ!!」
 タンクに溜め込んだ血ではなく、『機血姫』自身の血が辺りに散らばり、床を濡らす。
 彼女に休む暇を与えず、爆走する黒騎士は青炎の軌跡を描きながら追撃を重ねていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(背のタンクを見)
一体どれ程の命を費やして……
最早これ以上、一滴たりとも貴女に血を奪わせはしません
騎士として、討たせて頂きます

間合いを詰める間に
握る剣を突き出した腕部格納銃器の騙し討ちで吸血兵装を乱れ撃ち

やはり強度は十分、そして仕込み銃器等の機構には知識があるようで
……ぐっ!

攻撃中断し防御専念
爆発を大盾で防御

チューブ…成程、燃料補給という事ですか

背の濃厚な血の匂いの影響か、私の『体液』の有無も判らなかったようですね

召喚し飛翔するUCでチューブ切断

私の種族も、誘導兵器も初見であれば有難いのですが

大量に敵に突き刺し花を咲かせエネルギー奪取
動作を封じ

言った筈です
一滴たりとも、と

怪力で振るう剣を一閃



「ッ……思ったより手こずらせてくれるわね」
 予想を超えた猟兵の反撃に『機血姫』リオは顔をしかめ、背中のタンクの残量をちらと見る。その中に溜め込まれた大量の人血は、吸血兵装を稼働させる彼女の生命線である。
「一体どれ程の命を費やして……」
「さあ? 人間は個体ごとに血の量もまちまちだから、いちいち数えてられないわ」
 そのタンクを満たす為に失われた命を問うトリテレイアに、彼女はこともなげに返す。
 この女吸血鬼にとって人間とは研究のための素材や資源でしかない。それが良く分かる態度だった。

「最早これ以上、一滴たりとも貴女に血を奪わせはしません」
 紋章の素材に兵装の燃料にと、膨大な命を犠牲にして研究を続ける『機血姫』リオは、もはや看過する余地のない大敵だった。『紋章の祭壇』の破壊は当然として、彼女自身も絶対に逃すわけにはいかない。
「騎士として、討たせて頂きます」
「やってみなさいよ、できるものならねッ!」
 タンクに溜めた血液を吸血兵装に注ぎ込み、近接戦闘の構えを取るリオ。機械仕掛けの豪腕を振りかぶって近付いてくる彼女に対し、トリテレイアは握った剣を前に突き出し、腕部に格納した銃器による乱れ撃ちを仕掛けた。

「騙し討ちのつもり? 甘いわよッ!」
 完全に不意打ちだったはずの銃撃を、リオは予め知っていたかのようにひらりと躱す。背中や両腕の吸血兵装に何発か弾丸が当たるが、それだけでは兵装にヒビ一つ入らない。
「やはり強度は十分、そして仕込み銃器等の機構には知識があるようで……ぐっ!」
 『全知の紋章』がもたらす回避能力をトリテレイアが検証している間に、距離を詰めた敵の攻撃がきた。即座に攻撃を中断し、大盾を構えて防御に専念するが、叩きつけられた拳の重さと、同時に発生した爆発の衝撃は、彼の体躯をきしませる威力だった。

「捕まえたわよ」
 リオの攻撃は単にダメージを与えるだけが目的ではなかった。見れば吸血兵装の先から太いチューブが伸びて、トリテレイアの機体と繋がっている。彼女のこれまでの戦い方を見れば、その用途は容易に想像がつくだろう。
「チューブ……成程、燃料補給という事ですか」
 敵から血液を強制的に奪うチューブ。これによりリオは敵から【燃料補給】を行いつつ燃料の枯渇を恐れずに戦えるという訳だ。こと「人間」を相手にするのであれば、無限に戦闘を継続できる恐ろしい兵器である――だが。

「背の濃厚な血の匂いの影響か、私の『体液』の有無も判らなかったようですね」
「なに……っ?!」
 ここに至りリオも気付いた、相手に突き刺したチューブから血液が流れてこない事に。
 直後にトリテレイアは【電脳禁忌剣・通常駆動機構:抑止兵装『守護の花』】を起動。ブローディア型の誘導兵器を召喚・飛翔させ、その花弁の刃でチューブを切断する。
「私の種族も、誘導兵器も初見であれば有難いのですが」
「お前……人間じゃない、いや生物ですら?! 機械だっていうの?!」
 自らの意思をもって行動する機械兵器ウォーマシン。それはスペースシップワールドで開発された、リオが知る由もない異世界のテクノロジー。見たことのない超科学の産物に動揺した彼女は、次の回避までの動きが僅かに遅れた。

「この花園での狼藉は、ご遠慮頂きましょう」
「ぐ……ッ!!」
 花を模した誘導兵器の大群が次々とリオに襲い掛かり、鋭利な茎の根本が突き刺さる。
 それは敵の行動を封じるだけではなく、開花の養分として魔力などのエネルギーを吸い上げる機能があった。命を奪う側だった吸血鬼は、一転して奪われる側になる。
「言った筈です。一滴たりとも、と」
 その機を逃さずトリテレイアは渾身の膂力をもって剣を振るう。美しき電脳禁忌剣の刃が吸い込まれるように標的を捉え――ブローディアの花に続き、赤い血の花を咲かせる。
 リオは「ぐぅッ!?」と苦悶の悲鳴を上げ、機械と血の花園の中に膝をつくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四王天・焔
《青華》
アドリブ歓迎

■心情
シホ姉も、能力は低めだと言っているけど
シホ姉のその気持ちの強さは本物だと思うよ。
感心しているリオにも負けてないよ!

大丈夫だよ、焔はシホ姉を本当のお姉ちゃんみたいに受け入れているから。

■行動
シホ姉から【霊装】で憑依して貰うね。
「シホ姉、一緒に力を合わせようね!」
【フローレ】の攻撃力を上げて、攻撃するよ。
【ランスチャージ】や【串刺し】も駆使して、一気に倒しに行くね。

敵が距離を取ろうとしたら、焔自身も、混沌七彩符を使用して
光線で攻撃するね。
【属性攻撃】で七種類の属性を強化して攻撃するよ。

敵の燃料補給に対しては
混沌七彩符の炎属性と異常で熱を与えてみるね。


シホ・エーデルワイス
≪青華≫

敵に感心

身体能力の低さにめげず知力で出世
私も前世は能力が低めで一杯努力したから
同族であれば尊敬していたかも


焔…ありがとう
不快に思わないか少し心配したけど
寧ろ認められて励ましてもらえて…


焔と燦の仲に入って良いのか心配だったけど
今回二人でここまで来られて
その言葉を聞けてホッとしました


焔に【霊装】で憑依

防御は任せて!

紋章を沢山作った貴女でも
宿主と心を通わせる紋章は作れるかしら?

熱湯属性攻撃のオーラで包んで防御し
敵の動きを第六感と聞き耳で見切り情報収集し学習力で分析
適時助言して鼓舞

熱がチューブを伝ってタンクが高温になれば血は凝固するでしょう


戦後
聖鞄に匿った人達で帰る当ての無い人は人類砦へ案内



「身体能力の低さにめげず知力で出世……私も前世は能力が低めで一杯努力したから、同族であれば尊敬していたかも」
 生来の能力を頭脳と技術にて補う『機血姫』の姿勢に、シホは思わず感心を口にする。
 言ってしまってから、少しだけ心配になった。多くの人間を犠牲にしてきた第五の貴族を一面でも認めるような発言は、快く思わない者もいるだろうから。
「シホ姉も、能力は低めだと言っているけど、シホ姉のその気持ちの強さは本物だと思うよ。感心しているリオにも負けてないよ!」
 だが、隣にいる焔はそうではなかった。シホの意見も、シホ自身の事も、彼女は純粋な笑顔で肯定してくれる。きゅっと握られた手のぬくもりが、不安をそっと溶かしていく。

「焔……ありがとう。不快に思わないか少し心配したけど、寧ろ認められて励ましてもらえて……」
 その言葉は今だけに限ったことではない。姉の恋人であり同居人という立場の自分を、こうして受け入れてくれる彼女への感謝。四王天家の姉妹の仲睦まじさをよく知っているからこそ、自分のことを拒絶せずにいてくれるのが嬉しい。
「私、焔と燦の仲に入って良いのか心配だったけど、今回二人でここまで来られて、その言葉を聞けてホッとしました」
「大丈夫だよ、焔はシホ姉を本当のお姉ちゃんみたいに受け入れているから」
 焔にとってはシホももう大切な家族の一員だった。裏表のない無邪気な笑顔と言葉が、どれだけシホの心を癒やしていることだろう。この優しくて可愛らしい義妹と一緒なら、あの強大にして叡明な『第五の貴族』にも負けはしないと――今なら胸を張って言える。

「この身は剣、この身は鎧、この身は翼、あなたに祝福を」
 互いの信頼と絆を確かめあった上で、シホは【高潔なる勇気の聖霊】を焔に発動する。
 これは聖霊体に変身して他者に憑依し、対象の能力を強化するユーベルコードである。我が身を霊装としたオラトリオの少女の加護を受け、焔の背中に純白の翼が生える。
「シホ姉、一緒に力を合わせようね!」
「ええ!」
 まさしく一心同体となった"姉妹"は翼を大きく広げ、【フローレ】を構えて敵に挑む。
 対する『機血姫』は新手が近付いてくるのを見ると、巨大な拳を振り上げて迎え撃つ。

「異なる種族の霊的融合体……へえ、面白いじゃない」
 霊装憑依した二人の状態に研究者として興味を引かれたリオだったが、だからと言って攻撃に手を抜くタイプではない。少女の頭部よりも巨大な機械の拳が轟と唸りを上げて、標的を爆砕せんと襲いかかる。
「防御は任せて!」
 直撃の瞬間、憑依したシホが焔の体を熱湯属性のオーラで包み、ダメージを軽減する。
 インパクトと同時に爆発が来るが、炎属性と水属性の複合がうまく熱と衝撃を和らげ、被害は最小限に抑えられていた。

「お返しだよ!」
 敵の攻撃を受けきると、焔はすかさず反撃に移る。青いドラゴンランスの矛先には聖霊となったシホの加護が宿り、威力を大きく引き上げている。閃光を伴ったその一突きは、見事に敵の脇腹を抉った。
「ちっ……やるじゃないの」
 攻撃直後の隙を突かれたリオは、脇腹から流れる血に顔をしかめ、二人を睨みつける。
 防がれはしたものの吸血兵装が命中したことで、彼女らには【燃料補給】用のチューブが繋がれている。爆殺し損ねたのなら、全身の血を強制的に吸い尽くして殺してやろう。

「ちょうどタンクの燃料も補給したかったところだわ……んっ?」
 チューブと繋がった吸引器を作動させ、焔の血を奪わんとするリオ。だが予想に反して流れてきたのは血ではなく熱湯だった。シホの張ったオーラの守護はここまで読んだ上で吸血対策を取っていたのだ。
「熱がチューブを伝ってタンクが高温になれば血は凝固するでしょう。焔」
「うん、わかってるよシホ姉!」
 すかさず焔も【混沌七彩符】から炎属性の符を発動。高温の光線を相手が背負っているタンクやチューブに向けて照射し、兵装に熱を与えてみる。これで装備自体が破壊されることはなくても、中に詰まっている血液のほうはどうか。

「ッ、不味い……!」
 熱湯と光線によりタンクの温度が急上昇したことで、内部の血液が固まり始めている。
 暴力的な性能を誇る吸血兵装も、燃料が切れればガラクタだ。慌てたリオはチューブの接続を解除して距離を取ろうとするが、その動きをシホは見逃さない。
「逃してはだめ。追撃を」
「符よ七色の力を顕現せよ。混沌の輝きにて敵を討て!」
 その助言に応じて焔がまたも【混沌七彩符】を使用。今度は炎を含めた七種類の属性による光線が、虹色に混ざり合いながら放たれた。いかに『全知の紋章』を持つリオでも、これは避けられないと確信する絶好のタイミング。

「紋章を沢山作った貴女でも、宿主と心を通わせる紋章は作れるかしら?」
「ガ……ッ、なにを……!」
 炎・冷・雷・光・闇・心・無の七彩符による痛打を喰らったリオは、苦々しげな表情でシホの聖霊体を見る。すでに彼女は敵の動きを聴覚と第六感で捉えた情報を元に分析し、先読みができるようになっていた。そして彼女の予測は適時助言として焔に伝えられる。
「もう一息です。頑張って」
「まだまだ大丈夫だよ!」
 心と体を一つにして互いを鼓舞しあう二人の連携は、『機血姫』の全知を超えていく。
 七色の光が収まった直後、オラトリオの翼で飛び込んできた妖狐の少女が、青いランスを振りかざす。

「一気に倒しに行くね!」
 強化された技と体を駆使した怒涛の攻め。加護を纏った矛先が敵の身体を何度も貫く。
 彼女らには負けられない理由がある。『聖鞄』に匿った人達を元の居場所に戻し、帰るあての無い人は人類砦へ案内する。そこまでやって初めて今回の戦いは大団円を迎える。
「貴女の知力と努力には感心しますが、その所業を許すわけにはいきません」
「この祭壇も破壊して、二度と紋章なんて作れないようにしてあげる」
 揺るぎない決意に裏打ちされた少女達の攻勢は、徐々にリオを窮地に追い込んでいく。
 ただの素材と見下していた者達に遅れを取っている――その事実はプライドの高い彼女をさらに焦らせるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

堺・晃
【兎鯱】
敵のUCは全て僕が引き受けますが
澪君にも多少の怪我は耐えていただきましょう

★住まう者に取り憑く何かに【オーラ防御】を張らせ【激痛耐性】
★ハンドガンの【援護射撃】と★龍狼剣の斬撃を使い分け
攻撃兼タンクの破壊狙い
マスケット銃とハンドガンでは飛距離も威力も異なりますから

澪君が傷ついたら【指定UC】
猛毒を纏わせた★人形の髪を伸ばし
分離された腕すら絡め取るように張り巡らせ

その毒に触れたら溶けますよ
別に、僕は彼を護りたいわけじゃない
もっと単純な話
僕の玩具を壊していいのは、僕だけだ

血なら好きに奪えばいい
間に合えばね

手持ちの猛毒をリオにぶちまけ
怯んだところで足払い+龍狼剣での【なぎ払い】で首狙い


栗花落・澪
【兎鯱】
僕は生贄はお断りだよ
逆戻りは、ごめんだから

地下室だから大きくは動けないけど
自分の翼と風魔法を宿した★靴で【空中戦、空中浮遊】
翼を狙われても大丈夫なように

今回は先手必勝で【指定UC】を発動
空間全体を【破魔】の光や花園で満たし
悪、つまり敵であるリオさんに対して【浄化】を
…若干晃君の判定が色々心配だけど
まぁ味方だし、大丈夫…かな

伸縮自在の★杖を片手に【高速詠唱】
成功率を上昇させるため光魔法の【属性攻撃】を主体に
攻撃兼目晦ましで晃君の補佐しつつ
万一接近されそうになったら杖を伸ばして
一時的に物理的な打撃に変更

伸びる武器も…明るさも
この世界には早々無いだろうから
少しでも隙を作れれば



「僕は生贄はお断りだよ。逆戻りは、ごめんだから」
 邪悪なるヴァンパイアの貴族にそう告げて、澪は自分の翼と風魔法の靴でふわりと宙に浮かび上がる。かつて奴隷であった過去を持つ少年は、現在の自由を守り抜くためにも、この圧政者に立ち向かう。
「力を貸しますよ、澪君」
 そんな彼とここまで一緒に戦ってきた晃は、ハンドガンを手に援護射撃の態勢を取る。
 普段と変わらぬ優しげな笑みを浮かべた仲間に励まされ、澪はありがとうと微笑むと、先手必勝とばかりに【心に灯す希望の輝き】を発動する。

「貴方の闇に、希望の輝きを」
 血と屍に満ちた薄暗い実験室に、この世のものとは思えない美しい花と光が降り注ぐ。
 その輝きは瞬く間に空間全体を塗り替え、悪を浄化する天上世界と同じ環境に変える。この場における最大の悪とは、言うまでもなく数多の民を犠牲にしてきた『機血姫』だ。
(……若干晃君の判定が色々心配だけど、まぁ味方だし、大丈夫……かな)
「ええい、眩しいわねッ」
 味方の善性に今ひとつ信用がおけないという不安要素はあったが、破魔の力で満たされた空間に敵は居心地悪そうに顔をしかめ、この環境を創り上げた澪に敵意を向けている。
 それを遮るように晃がすっと前に出ると、敵の背負ったタンクにハンドガンを向けた。

「マスケット銃とハンドガンでは飛距離も威力も異なりますから」
 乾いた発砲音が鳴り響き、タンクにピシリと小さなヒビが入る。この世界の銃を遥かに上回るその性能にリオは驚きと興味を持ち、そしてタンクを狙われた事に警戒を抱いた。
「面白いオモチャね。だけど火遊びが過ぎるわよ!」
 タンクに溜め込んだ血液はリオの戦闘能力を支える大事な燃料である。それを破壊される訳にはいかないと、彼女は吸血兵装の腕を分離させて【遠距離攻撃】を仕掛けてくる。砲弾のように射出された腕が、不埒な猟兵を叩き潰さんと迫る。

(敵のユーベルコードは全て僕が引き受けますが、澪君にも多少の怪我は耐えていただきましょう)
 この攻撃は自分で受けると決めた晃は、ハンドガンから龍狼剣に武器を持ち変えると、刀身を交差させて吸血兵装を受け止める。身体能力では劣るとはいえ流石は第五の貴族、その一撃は全身の骨が軋むほどであった。
「なかなかやりますね」
 彼が「住まう者」と呼ぶ髑髏に取り憑いた"何か"に、オーラの防壁を張らせていなければ重傷を負っていただろう。苦痛には耐性のある彼はすぐに体勢を立て直すと、追撃を受ける前に自分から距離を詰めていく。

「よく耐えたわね。だったらもう一発――」
「やらせない」
 リオが再び遠距離攻撃を放つ寸前、澪が聖杖「Staff of Maria」を振って光を放つ。
 聖なる加護を具現化したその輝きは闇の住人である吸血鬼の目を眩ませ、隙を作る。
「ちっ。鬱陶しいのよさっきからチカチカと……!」
 やはり彼から先に潰すべきかと考えたリオは、向かってきた晃を片腕で迎え撃ちながら分離させたもう片腕の兵装を澪へと向ける。轟と唸りを上げて飛んでいった機械の拳が、宙を舞うオラトリオの少年を捉えた。

「澪君っ」
「……だ、大丈夫」
 被弾したのを見て晃が一瞬声を荒げるが、澪は宙に浮かんだまま健在をアピールする。
 敵の攻撃は片翼をかすめたのみ。地下室では大きく動けないため避けきれなかったが、翼を狙われるのは想定して、空中浮遊を可能にする「Venti Ala」を履いているのだ。音を上げるほどのダメージにはまだ程遠いと、聖杖をかざして光の反撃を放つ。
「素直に落ちればいいものを……あら」
 ちっと舌打ちしながら光撃を躱したリオを、龍と狼が刻まれた双剣の斬撃がかすめる。
 振り向けば、これまでとは異なる明確な怒りを瞳にたたえた晃が、鬼気の宿った笑みで彼女を見ていた。

「僕の物に手を出して、生きて帰れるとでも?」
 大切な何かを傷つけられた時、怒りが【悪魔の独占欲】を発動させるトリガーとなる。
 晃は操り人形「Mirror Doll」の髪に猛毒を纏わせ、分離された兵装の腕すら絡め取るように張り巡らせていく。
「その毒に触れたら溶けますよ」
「なッ……!」
 一度捕らえたが最後、獲物を確実に仕留める猛毒の罠。どのような毒が使われているか分からない以上、リオも慎重にならざるを得ない。ただでさえ光に満ちた環境は戦い辛いと言うのに、ここに来て行動を制限する要素がさらに増えたわけだ。

「別に、僕は彼を護りたいわけじゃない」
 もっと単純な話だと、毒糸を蜘蛛のように張り巡らせながら晃は言う。澪が晃にとって大切なものであるのは間違いない。ただ、その愛で方が普通の人間とは違うだけのこと。
「僕の玩具を壊していいのは、僕だけだ」
「趣味悪いわね、お前……!」
 本性と共にとびきりの笑顔を見せた悪魔に、リオは思わず顔を引きつらせ、付き合っていられないと【燃料補給】を仕掛ける。ここまでの攻防を通じて晃の身体にはチューブが繋がれており、血液を強制的に奪う準備は整っていた。

「血なら好きに奪えばいい。間に合えばね」
 だが晃はそんな物は知った事かと言わんばかりに、手持ちの猛毒をリオにぶちまける。
 別に人形の髪に付与したので毒が全部だと言った覚えはない。虚を突かれた敵が怯めばすかさず足払いをかけ、体勢を崩す。
「しま……ッ!」
 直後に怒りを込めて繰り出された龍狼剣が、首を刎ね飛ばさんと迫る。退路は既に塞がれている――リオはやむなく兵装の腕で猛毒の糸を掴み、宙に這い昇って斬撃を避けた。

「ふんっ。お前達ごときに、私の首が取れるとでも思った?」
 糸に付与された毒でじわじわと兵装を溶かされつつも、リオは強気な態度を崩さない。
 彼女にとって人間とは血液袋であり紋章の素材――せいぜいその程度の価値しかない。そんな輩に負けるはずがないという歪んだプライドが態度にありありと表れている。
「傲慢だね」
「なに、ッ?!」
 そんな彼女を叩き落としたのは澪の一撃だった。毒の糸を伝って宙に昇ってきた敵を、彼は伸長させた「Staff of Maria」の柄で打ち据えたのだ。光による攻撃は警戒していたリオも、ここで物理的な打撃が来るのは予想外だっただろう。

(伸びる武器も……明るさも。この世界には早々無いだろうから、少しでも隙を作れれば)
 決着は味方が付けてくれるという信頼のもとで補佐に徹する澪の行動は、糸に掴まっていた敵を再び地面に叩き落とし、地上で待っていた晃に決定的なチャンスをもたらした。
「次は逃がさない」
「が……――ッ!!!」
 再び放たれた龍狼剣でのなぎ払いが、今度こそ『機血姫』の首筋を捉える。横一文字に斬り裂かれた喉笛から噴水のように血が噴き出し、敵は首を押さえて床にうずくまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
(見えるような異世界の技術ねぇんだよな…刻印とか自分の体のどこにあるかも知らんし
錆鉄は…機械には強いが生身相手にゃ…だし…)

内心頭を抱えてる
ま、あからさまに興味引きそうなのは刻印だし強化術式過剰に暴走させりゃ光か魔方陣か何かしら多分出るだろ(ノープラン)

取り敢えず吸血兵装のタンクの底を狙って動くか…
減れば減る程奴さんの攻撃の威力も上がるだろうが、黒纏や皆(剣)で俺が【吸血・生命力吸収】する機会も増えるだろ

ちょっと前に貯めた血も合わせそれなりには動けるはずだ
奴さんの行動を見るに、ほぼ貯めてる血を使わねぇと動けねぇみてぇだしな

無くしちまえば他の奴らも動けるだろう

アドリブ・連携歓迎



(見えるような異世界の技術ねぇんだよな……刻印とか自分の体のどこにあるかも知らんし。錆鉄は……機械には強いが生身相手にゃ……だし……)
 表情は余裕そうにしつつも内心では頭を抱えながら、『機血姫』の対策を考える夜野。
 かの吸血鬼は自分が知らない技術や知識に弱いというが、彼が保有するそれは内在的な物が多く、一見して分かりづらい、そもそも気付かれなければ動揺も誘えないだろう。
「ま、あからさまに興味引きそうなのは刻印だし暴走させりゃ光か魔方陣か何かしら多分出るだろ」
 あれこれ考えた末に彼が決めたのは出たとこ勝負のノープラン。先程の戦いで摂取した血液と吸収した生命力を体内の刻印(ドライバー)に過装填し、強化術式を暴走させる。

「っ……この力は……!?」
 強化式【累】を作動させた夜野の身体から、爆発的な勢いで魔力があふれ出す。意図的に暴走を起こすことで得られる戦闘力の増加も凄まじいが、それ以上にリオを瞠目させたのは術式のシステムそのものだった。
「その魔術式……血液を力に変換しているの? 私と同じ……?!」
 鮮血を動力として稼働する夜野の刻印は、リオの吸血兵装と作動原理が類似している。
 吸血兵装はリオが肉体的不利を補うために創り上げた、人体実験と研究の成果である。たかが猟兵風情がそれと類似した未知の技術を使っているなど、信じがたいことだ。

「なんか知らねぇけど驚いてるみたいだな」
 意図した事では無かったとはいえ、敵が動揺しているチャンスを見逃す夜野ではない。
 強化された身体能力で一気に迫り、変形する「黒纏」と剣による連続攻撃を仕掛ける。
(取り敢えず吸血兵装のタンクの底を狙って動くか……)
 背中にしょったタンクに剣を向けると、敵は露骨に嫌そうな顔をしてそれをかばった。
 やはり――と、口元をにやりとつり上げる夜野。戦闘力の大部分を吸血兵装に依存しているリオにとって、最も恐れるのは血液の枯渇というわけか。

「奴さんの行動を見るに、ほぼ貯めてる血を使わねぇと動けねぇみてぇだしな」
「っ、煩い! お前達を殺すのにはこれだけあれば十分よ!」
 痛い所を指摘されて逆上したリオは、タンクから吸血兵装に血を注ぎ込み、莫大な魔力を籠めた【近距離攻撃】を放つ。ここでさらに血液を消費する代償は大きいが、それ故に彼女の拳は凄まじい威力を誇っていた。
「潰れなさい!」
「御免だね」
 だが、直撃すれば全身バラバラになりかねないその一撃を、夜野は紙一重で回避する。
 こちらも出し惜しみは一切なしだ。生存に必要な限界まで血を使って、強化術式の暴走をギリギリまで引き上げ、第五の貴族に太刀打ちできる戦闘力を得る。

(ちょっと前に貯めた血も合わせそれなりには動けるはずだ)
 互いに血の貯蔵を消費しながらのチキンレース。だが夜野がここまで大きな消耗もなく血を溜めてこられたのに対し、リオは猟兵との戦いで既にかなりの血を使わされている。どちらが余裕が無いかは表情を見比べれば明らかだった。
「このッ、さっさと倒れなさ……」
「隙ありだ」
「ッ、しまった?!」
 余裕のなさは焦りを生み、早く決着を付けようとして攻撃は大振りで乱調気味になる。
 引き換えに甘くなったガードの脇を狙って、夜野は剣でタンクに一撃。そこから敵が溜め込んでいた血液と生命力を吸収し、刻印の機能を回復させる。

(無くしちまえば他の奴らも動けるだろう)
 このまま敵と競り合いながら吸血の機会を狙うのが、夜野の立てた戦闘プランだった。
 暴走状態が続く限りタンクの貯蔵を減らしてやれば、ここで倒せずとも味方が仕掛けるチャンスが巡ってくるだろうとの判断だ。
「くそッ、蚊みたいにしつこい奴……!」
 吸血鬼である自分が血を狙われる側になったのは、恐らくリオにとって初めてだろう。
 苛立ちと焦りが心をかき乱す一方で、タンクの血液は無情にも着実に減り続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
これ以上、紋章なんかの犠牲者を増やすわけにはいかない…。
紋章作成はここで終わりだよ…。

【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。

無限の終焉の魔剣を展開し、【呪詛】で強化…。
ここで犠牲になった人々や改造された花嫁達の怨念・呪いも込めて呪力を強化…。
魔剣による連続斉射で敵の武装をに突き立てて侵食すると同時に、戦闘力の根源である血液の入ったタンクを狙って魔剣を斉射…。
破壊できれば良いし、破壊できなくても血液を呪いで侵食する事で血液を取り込む際に侵食した呪力で内部から本体を侵食させて貰うよ…。

後は巨大で重量のありそうな腕を狙って呪力の縛鎖で捕らえ、その隙に一気に接近して、敵の紋章へ凶太刀を突き立てるよ…



「これ以上、紋章なんかの犠牲者を増やすわけにはいかない……」
 ついに相見えた『紋章の祭壇』の管理者に、鋭い眼差しと共に魔剣を突きつける璃奈。
 この場所で繰り返されてきた悲劇を今日で最後にするために、祭壇とその管理者は絶対に倒さなければならない標的だ。
「紋章作成はここで終わりだよ……」
「なにを、私の研究はこれからよ!」
 リオとしても重要な実験施設である『紋章の祭壇』をみすみす失う訳にはいかない。
 劣勢に立たされながらも退却の選択肢はなく、此方も全力を以て猟兵を殺す構えだ。

「我が眼前に立ち塞がる全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
 【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解いた璃奈は、莫大な呪力のオーラを纏った九尾の姿に変身し、無数の魔剣を周囲に顕現・展開する。対するリオは吸血兵装のアームにタンクから血液を送り込み、こちらも莫大な魔力を籠めた近接戦闘の構え。
「狐の血なんて不味そうだけど、少しは足しになるでしょう」
 敵の目的は猟兵からの【燃料補給】だ。予想外の長期戦になった事でタンクに残された血液はもう半分もなく、枯渇の危機が迫りつつあった。もし燃料を失えば吸血兵装はただのガラクタとなり、素の身体能力が低いリオは窮地に立たされる事となる。

「さあ、お前の血をよこしなさい!」
「貴女なんかには、一滴も渡さないよ……」
 リオが吸血の間合いに飛び込んでくる前に、璃奈は無限の魔剣による連続斉射を放つ。
 "終焉"の属性を秘めたこの魔剣達は、璃奈の力だけでなくここで犠牲になった人々や、改造された花嫁達の怨念・呪いも込めて呪力を強化されている。
「ここで死んだみんなの残した呪い……その身で味わうといい……」
「……ッ!?」
 黒い嵐のような呪いと共に斉射された無数の魔剣が、リオの武装に次々と突き刺さる。
 本体に貫通まではしなかったものの、魔剣に籠められた呪いは突き立てられた箇所から武装を侵食する。それは『機血姫』の戦闘力の根源である血液タンクにも同じだった。

(破壊できれば良いし、破壊できなくても血液を呪いで侵食する事ができれば……)
 タンクに浸透した魔剣の呪いが、中身の血液を汚染していく。リオはそれに気付かないまま反撃のために吸血兵装をフル稼働させるが――まさにそれが璃奈の思惑通りだった。
「ぐ、ぅ、がはっ?! なに、が……」
 腐った泥水を飲まされたような強烈な不快感と共に、激痛と倦怠感が全身を駆け巡る。
 出力上昇時に呪われた血液を取り込んだ際、呪いが内部から本体に侵食を始めたのだ。

「その血はもう使い物にならないね……」
「く、やって、くれたわねッ」
 たとえ兵装自体が無事でも、燃料に呪いがかかっていれば万全な性能は発揮できない。
 燃料を補給する目処も立たない現状、敵はそれでも呪われた血で戦い続けるしかない。
「こんな小癪な真似で、勝ったと思うなッ!」
 策に嵌まったリオは怒りのままに腕を振り上げるが、その動作は明らかに鈍っている。
 すかさず璃奈は呪文を唱え、呪力の縛鎖によってて敵の腕を捕らえる。巨大なぶん重量もある吸血兵装のアームは、こうなればただの重石でしかない。

「しまった……ッ!?」
 リオの顔色が焦燥に染まったその隙に、璃奈は妖刀・九尾乃凶太刀を抜き放つと、その刃に秘められた呪力を使って一気に加速する。疾風の如き速さで接近した彼女の狙いは、敵の胸元に宿る『全知の紋章』。
「その紋章、貫かせてもらう……」
「が……ッ!!!!」
 妖刀を突き立てられた紋章に亀裂が走り、リオの喉から絞り出すような悲鳴が上がる。
 吸血兵装に紋章と、戦闘力を支える装備を立て続けに傷つけられた『機血姫』の窮地は加速していく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…お前は知る由も無いことだけど、その紋章なら過去に打ち破っているもの

…さあ、全知を僭称するならば次の私の行動を予測してみなさい

UCを発動し「魔光、世界知識、破壊魔、操縦、盗人、暗殺者、迷彩」の呪詛を付与
敵UCを異●世界知識を基にした光学●迷彩術式で●暗殺者のように気配を消して受け流し、
電子精霊の魔力を溜めた●誘導弾によるカウンターで敵の吸血兵装の●操縦を●盗み、
紋章目掛けて【遠距離攻撃】を発動し自爆させる●破壊工作を試みるわ

…この術は私達の想像もつかないような、遥か未来の技術を基にしているもの

…この世界でそんな機械を造り出したのは称賛に値するけど、
百年そこらの研鑽でどうにかできる差では無いわ



「……お前は知る由も無いことだけど、その紋章なら過去に打ち破っているもの」
 リオが保有する『全知の紋章』を見て、冷ややかな微笑みを浮かべるリーヴァルディ。
 この世界で彼女が討伐した幾人の『第五の貴族』。その中に同じ紋章を持つ者がいた。それ即ち、紋章の効果を打ち破ったという事であり、全知が絶対でない事を示している。
「……さあ、全知を僭称するならば次の私の行動を予測してみなさい」
「なにを……!」
 挑発的な物言いに、リオの注目が彼女に向けられる。身体能力で他の吸血鬼に劣る分、頭脳には余程のプライドがあるだろう。絶対に予想してみせるという鋭い敵意があった。

「……術式換装」
 注目を引き付けた上でリーヴァルディが発動したのは【吸血鬼狩りの業・千変の型】。防具に付与した術式を瞬時に切り替え、その名の通り千変の技を行使する呪騎士の型だ。
「好きにさせるとでも……!」
 リオもそのユーベルコードの発動自体は予測できていたのか、即座に兵装を分離させ、【遠距離攻撃】を放つ。だがリーヴァルディが術式換装に要する時間は僅か0.05秒。いかに瞬時に対応しようとも、換装を妨害することはできなかった。

「な……消えた?」
 まるで背後の景色に溶け込むように、リオの視界からリーヴァルディの姿は消失する。"世界知識"と"迷彩"の呪詛を組み合わせた光学迷彩術式だ。さらに"暗殺者"の呪詛の効果により気配も完全に消し去った彼女は、完全なる不可知となって敵の攻撃を受け流した。
「……次は何をするか分かるかしら?」
 回避に成功した直後にはもう攻撃用の術式への換装は完了している。"操縦"、"魔光"、"盗人"そして"破壊魔"――この4つの術式により電子精霊の魔力を籠めた誘導弾を作り、敵の吸血兵装にカウンターを仕掛ける。

「っ、何を……?!」
 反撃の正体を掴めなかったリオは咄嗟に腕で魔弾をガードするが、それは誤りだった。
 電子精霊の力はあらゆる機械を操る。使役者も構造をよく理解していない吸血兵装でも例外はない。巨大な機械の腕に魔力が進入し、その操作系統を一時的に"盗んだ"。
「う、腕が、勝手に……何をしたの?!」
 自分の意思に反して吸血兵装が勝手に動き出したのを見て、リオは慌てて叫ぶ。こんな魔術は知らない、見たこともない。『全知の紋章』の力を借りても予測のつかない術式。それが1つ2つではなく幾つも同時に展開されている事実が、彼女の動揺を激しくする。

「……この術は私達の想像もつかないような、遥か未来の技術を基にしているもの」
 リーヴァルディが異世界の猟兵と交流を持つうちに学んだ知識。光学迷彩やハッキングといった言葉は、まだこの世界には存在すらしていない。そうした未来の技術を反映することで、彼女は『全知』が知りえない独創的な術式を編み出していた。
「……この世界でそんな機械を造り出したのは称賛に値するけど、百年そこらの研鑽でどうにかできる差では無いわ」
 異世界知識の優位性をまざまざと見せつけて、彼女は吸血兵装の拳を『全知の紋章』に向けさせる。タンク内の血液が自動的に注ぎ込まれ、莫大な魔力と推進力に変換される。彼女が何をするつもりか理解したリオは、反射的に「やめ……ッ!」と叫ぶが――。

「……自分の技術同士が砕け散る様を見なさい」
 紋章目掛けて発射される【遠距離攻撃】。巨大な機械の拳がリオの胸に叩き込まれる。
 自分の兵装で自爆する形となった『機血姫』は、屈辱と怒りに塗れながら血を吐いた。
「がはぁッ……!!!!!」
 鮮血に紛れて散ったのは紋章の破片か。過剰に酷使された兵装にもヒビが入っている。
 技術的優位を根本から覆され、無知を突きつけられた敵はさらなる窮地に陥っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
空を闇で覆い、地の底へ隠れようと、真実の光は必ず邪悪を照らし出すと識れ

全知の紋章……貴様らの台詞を借りようか
私はそれを「知っている」ぞ(挑発)

【怪力】を以って聖槍を振るい、巨腕と打ち合う
ダークセイヴァーらしからぬ機械の腕
他世界ならともかく、この世界でそのような武器を作るとは、確かに抜きん出た頭脳の持ち主なのだろう
吸血鬼の膂力も合わされば……図に乗るのも当然か

爆破の粉塵に紛れてチューブに絡み付かれ、血液を奪われる
そう、チューブの血の流れは一方通行
貴様に「未知」を――苦痛と屈辱に這い蹲る敗北を「教えてやる」

【呪穿魔槍】、チューブを突き刺す
血と共に呪詛と猛毒が流れ込み、内側から腐り墜ちる



「全知の紋章……貴様らの台詞を借りようか。私はそれを『知っている』ぞ」
「ッ、お前も……!?」
 傷ついた『機血姫』の胸元に飾られた紋章の形状を見て、オリヴィアが静かに告げる。
 それは挑発だが事実でもあった。ここではない別の地底都市で、彼女は確かに同じ紋章を宿した第五の貴族と遭遇し――戦い、そして勝利した経験がある。
「空を闇で覆い、地の底へ隠れようと、真実の光は必ず邪悪を照らし出すと識れ」
 数多の生贄によって作り出されたかりそめの『全知』如きに、その真理は分かるまい。
 自らの意志によって証明してきた真実を胸に、オリヴィアは破邪の聖槍を突きつける。

「真実の光……? 無知で愚かな人族風情が、なにを賢しらに!」
 カッとなったリオはひび割れた吸血兵装の拳を振りかぶり、猛然と殴りかかってきた。
 莫大な魔力で稼働する巨腕が、破邪の聖槍と打ち合い、爆発を起こす。その一撃の重さにオリヴィアは内心で密かに感嘆した。
(ダークセイヴァーらしからぬ機械の腕。他世界ならともかく、この世界でそのような武器を作るとは、確かに抜きん出た頭脳の持ち主なのだろう)
 人格面はさておき発想と知能は認めざるを得まい。人並み外れた怪力を持つオリヴィアであっても、膂力を全開にしなければ打ち負けていた。さらにはインパクトの際に生じた粉塵に視界を覆われ――それに紛れて【燃料補給】用のチューブが絡み付いてきた。

「捕まえた。さあ、血を献上なさい!」
 チューブの接続を確認したリオは吸引器を作動させ、オリヴィアの血を強制的に奪う。
 吸い上げられた血は背中のタンクに溜めこまれ、兵装を稼働させるための燃料となる。敵対者から血を確保することで無限に戦い続けられる、"吸血兵装"の名の所以である。
(そう、チューブの血の流れは一方通行)
 だが、生命に危険が及ぶ勢いで血を吸われながらも、オリヴィアは冷静なままだった。
 このチューブは『機血姫』が一方的に血液を収奪するための機構。逆に血を奪われないために逆流を阻止する措置も組み込まれているかもしれない。だがそれは、もしも血の中に"異物"が紛れ込んだとしても、容易には排出する事のできない弱点にもなっていた。

「貴様に『未知』を――苦痛と屈辱に這い蹲る敗北を『教えてやる』」
「なにをする気……ッ!?」
 リオが止める間もなく、オリヴィアは自らの体に絡んだチューブに聖槍を突き刺した。
 発動するのは【呪穿魔槍】――異境の伝説に謳われる魔槍の再現。その穂先に纏わせた猛毒は、傷つけた者に不治の裂傷と弱体化の呪詛をもたらすという。
「ぐ、ごえ……ッ! こ、れは、毒……!?」
 穂先からチューブの中を流れる血液に溶け込んだ呪詛と猛毒は、吸血兵装の本体とリオの元へ流れ込む。体が内側から腐り墜ちるような苦痛に、堪らず彼女は嗚咽を漏らした。

「我が槍に穿たれしもの、決して癒えることなし――!」
 オリヴィアがチューブから魔槍を引き抜いた後も、一度流し込まれた猛毒は消えない。
 直前までの余裕はどこへやら、喘ぎ苦しむ『機血姫』の無様な醜態を、彼女は冷ややかな視線で睨め付けていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
貴女の苦労なんて知った事では無いわね。
寧ろ、今回の件で大切な眷属を危ない目に合わせてくれた分、ぶつけさせて貰おうかしらね。
わたしの可愛い眷属達に手出しはさせない

眷属達は下がらせ、【ブラッディ・フォール】で「一撃必殺、竜の大親分」の「竜神親分『碎輝』超電竜撃滅形態」の力を使用(碎輝の槍と服装へ変化)。

【サンダーエンブレム】による加速度的に数を増す紫電の放射で敵の攻撃をまとめて薙ぎ払って接近し、【撃滅放電槍】で敵の武装を破壊。
至近距離から【滅びの光】を紋章へ叩き込んで吹き飛ばしてあげる!

わたしの事を知っていようと、異世界で得た戦いまでは知らないでしょう。
さぁ、この城諸共吹き飛ぶと良いわ!



「ええい、くそッ……愚か者共め! 私が今までどんな苦労をしてきたと思って……」
「貴女の苦労なんて知った事では無いわね」
 思いがけない窮地に苛立つ『機血姫』リオの悪態を、フレミアは最後まで言わせない。
 罪もない生贄をかき集めて、自分の知識欲を満たすための苦労など、聞きたくもない。
「寧ろ、今回の件で大切な眷属を危ない目に合わせてくれた分、ぶつけさせて貰おうかしらね」
 表情では優雅に微笑んでみせるが、その内心には激しい怒りが燃えていた。作戦だったとはいえ大事な眷属が危険に晒されたのだ、この落とし前は付けなければ気が済まない。

「貴女の眷属……? ああ、確かに。面白い『素材』になりそうね」
「わたしの可愛い眷属達に手出しはさせない」
 モルモットを見るような敵の視線からかばうように前に出て、フレミアは眷属達を後ろに下がらせる。もう二度と誰も実験材料にできないように、奴はこの手で思い知らせる。
「知っているわよ、レイブラッド嬢。貴女の経歴とその能力は」
 対するリオは不敵な笑み。これまでは猟兵の持つ不可思議な技術に翻弄されてきたが、同族の血を引く者が相手なら恐れることはない。『全知の紋章』を身に宿した彼女には、この世界のあらゆる知識や戦術、魔術は通用しないのだから。

「わたしの事を知っていようと、異世界で得た戦いまでは知らないでしょう」
 しかし、フレミアにも秘策はあった。それは彼女が別の世界で戦ってきた強者達の力。
 彼女のユーベルコード【ブラッディ・フォール】は、過去に倒したオブリビオンの力を一時的にその身に宿し、再現することができるのだ。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
 今回彼女が顕現させたのは、幽世の妖怪達を束ねる四大親分が一角、最弱にして最強の竜神親分『碎輝』超電竜撃滅形態の力。雷竜の力を宿した彼女の服装は真紅のドレスから現代的な男性のファッションに変わり、手元には紫電を帯びた黄金の槍が現れた。

「な、ドラゴン……?! それは、ダンピールの力ではない……!」
 この世界に存在しない竜神の力の発現を目の当たりにして、激しい動揺を見せるリオ。
 揺らいだ自信を立て直せないまま吸血兵装の拳を繰り出すが、フレミアは周囲に紫色の【サンダーエンブレム】を描き、紫電の矢で敵を迎え撃つ。
「意図が見え透いているわね」
 この状況での敵の狙いは【燃料補給】による血液の確保だろう。タンクに溜め込んだ血もそろそろ寂しい頃のはずだ。だが加速度的に数を増す紫電の放射はリオを寄せ付けず、吸血用のチューブをフレミアに繋ぐ隙を与えない。

「ずいぶん焦っているのね」
「うるさい――ッ!!」
 思うようにいかない怒りをリオが爆発させようとした瞬間、紫電の嵐の中からフレミアが飛び込んできた。その手に携えた【撃滅放電槍】が、まさに稲妻のような早業で閃く。
「まずは片腕をもらうわ」
 連戦で損傷した吸血兵装の片腕に黄金の穂先が突き刺さり、その亀裂をより深くする。
 大きく破損した機械の巨腕は、内部から燃料となる血液を噴き出して機能を停止した。
「わ、私の兵装を――ッ!!!!?」
 己の頭脳と技術の集大成である吸血兵装を破壊された『機血姫』の衝撃は絶大だった。
 ショックから立ち直る暇を与えず、フレミアはさらなるユーベルコードの構えを取る。竜神親分が誇る最強のドラゴンブレス【滅びの光】を、この至近距離から叩き込む気だ。

「さぁ、この城諸共吹き飛ぶと良いわ!」
 発射された雷のブレスは敵の胸元にある『全知の紋章』に突き刺さり、そのまま瞬時に成長・増殖を行い規模を膨れ上がらせていく。最弱でありながら無限の進化を繰り返す、竜人親分『碎輝』の能力をもっとも体現した御業。
「ぎ、あぁぁぁぁぁ…………ッ!!!」
 その破壊力を一身に浴びたリオは、悲鳴を上げて地下から城内へ吹き飛ばされていく。
 成長に要する時間が十分とはいかなかったため、完全破壊には至らなかったものの――稲妻のブレスが翔け抜けた後には、機血姫の城も『紋章の祭壇』も大きく損壊していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
「苦労して集めた素材」を逃してやれたなら、少しは溜飲が下がるというものだ
しばらく距離をとって交戦、敵の情報を集める
敵の攻撃方法や癖を見極めたい

得た情報を元に、飛来する腕の回避と反撃を試みる
腕の飛来に合わせて、敵の背負うタンクへフック付きワイヤーを射出して引っ掛ける
同時に巻取り、その勢いで敵へ急接近
瞬時にその場を離れる事で腕の軌道から逃れ、同時に確実に銃弾を撃ち込める距離へ移動したい

珍しいか?ワイヤー兵器も自動拳銃も、この世界には無い物だからな
接近後、零距離射撃の距離でユーベルコードを発動
これまで重ねた悪行の精算には足りないだろうが
奴の胸の紋章へ、犠牲者への弔い代わりにありったけの銃弾を叩き込む



「『苦労して集めた素材』を逃してやれたなら、少しは溜飲が下がるというものだ」
 いつもと変わらぬ冷静な顔で、女吸血鬼に皮肉を浴びせるシキ。やはり腹に据えかねるものがあったのだろう、幾多の奴隷達を『紋章の祭壇』の生贄にしてきた元凶に対して、向ける視線は冷たい。
「うるさい、うるさい、うるさいッ!」
 敵もいよいよ余裕が無くなってきているのか、半壊したアームをぶんぶんと振り回して喚き散らす。巻き込まれないように彼はさっと距離をとると、しばらく敵の情報を集めるために遠巻きでの交戦を行う。

(注意すべきはあの腕を飛ばす攻撃か)
 他の猟兵との交戦内容も観察した結果、どうやら敵の【遠距離攻撃】手段は分離した腕を飛ばす攻撃だけのようだ。腕部の質量を砲弾にした強力な攻撃だが、撃ち出したあとの本体は腕を呼び戻すまでの間、当然ながら戦闘力が落ちる。
(飛び込むならそのタイミングか)
 シキはハンドガン・シロガネの威嚇射撃で牽制しつつ、敵の攻撃方法や癖を見極める。
 あれだけごつい武装だ、必ず予備動作は生じるはず――研ぎ澄まされた人狼の感覚は、決してそれを見逃さない。

「くそっ、狼が猟犬のつもり……? うざったいのよッ!」
 いつまでも近付いてこない相手に業を煮やしたリオは、タンクに溜めた血液を吸血兵装に送り込む。巨大な機械仕掛けの腕が本体から分離し、莫大な魔力を推進力にして飛んでいく――歯向かう愚か者を捻り潰すために。
「それを待っていた」
 すかさずシキは銃を持つのとは逆の手をかざすと、腕の飛来に合わせて腕輪型の射出機から「改良型フック付きワイヤー」を射出する。放たれたフックは彼の狙い通りに、敵の背負う血液タンクに引っ掛かった。

「捉えたぞ」
「なッ!?」
 命中と同時にシキはワイヤーを巻取り、その勢いで敵に急接近。瞬時にその場を離れる事で腕の軌道から逃れ、確実に銃弾を撃ち込める距離まで移動する。渾身の遠距離攻撃を躱されたリオは、彼の予想外の挙動と見たことのない道具に目を丸くしていた。
「珍しいか? ワイヤー兵器も自動拳銃も、この世界には無い物だからな」
 驚く敵の胸元にハンドガンの銃口を突きつける。吸血兵装さえ無ければ、敵の身体能力は吸血鬼としては低いレベルに留まると聞いた。戦闘力を支える兵装も片腕は破損済み。
 絶対に外しようのない状況で、人狼の銃手は【フルバースト・ショット】を発動する。

「これまで重ねた悪行の精算には足りないだろうが」
 零距離から敵の胸の紋章へ、犠牲者への弔い代わりにありったけの銃弾を叩き込む。
 鳴り響く銃声は弔鐘のように響き渡り、紋章の砕ける音と敵の悲鳴がそこに重なる。
「が、あぁぁぁぁぁッ!!!?」
 超高速の連射を精確に一点に撃ち込まれたリオの傷は、心臓のすぐ傍まで達していた。
 ぐらりと華奢な体がよろけて膝を突く。いかに強大な『第五の貴族』といえど、もはや体力も生命力も限界に迫りつつある――決着の時はもうすぐそこまで来ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
随分と遅い登場ね、まあそのおかげで贄にされかけていた人たちを助けられたけどね
しかしまた随分と重たそうなものを背負っている事
その背のものは…聞くまでもないわね

後悔させてあげる、その言葉をそのままお前に返しましょう

タンクの中に入っている血液が少なくなれば、弱体化するかしら
限りがあるもの、無駄玉を打たせるとしましょうか

UCで狼の姿に、多少の攻撃もこれで耐えられるでしょう
獣の足で相手の攻撃を第六感で避けながら
大きな腕を掻い潜り、攻撃を仕掛ける

鋭い牙と爪で嚙み砕いてやろうか
喉笛を喰い千切ってやろうか

嗚呼、どちらでもいい

生贄にしてきた者たちの様に今度は貴方が消えなさい



「随分と遅い登場ね、まあそのおかげで贄にされかけていた人たちを助けられたけどね」
 生きている者が猟兵たちと『機血姫』だけになった空間で、ディアナは敵を冷笑する。
 紋章の素材として囚われていた人々は全員避難を終え、素体となるオブリビオンも全滅させた。あとは元凶を倒して『紋章の祭壇』を破壊すれば、この戦いは決着だ。
「しかしまた随分と重たそうなものを背負っている事。その背のものは……聞くまでもないわね」
 敵の武装の中でもひときわ目立つ巨大タンクに視線を向け、その中に詰まった赤い液体に目を細める。集められた奴隷の用途は紋章の素材に限らなかったらしい――吸血兵装を稼働させるための膨大な人数分の血液が、その中には溜め込まれていた。

「後悔させてあげる、その言葉をそのままお前に返しましょう」
「やれるものなら、やってみなさいよッ!」
 連戦で消耗したリオは手負いの獣のように【近距離攻撃】の構えで殴りかかってくる。
 対するディアナは【断罪の咆哮】を発動。人の姿を捨てて紫紺の狼に変身し、四本の脚で地を駆ける。俊敏さと防御力に優れたこの姿ならば、多少の攻撃も耐えられるだろう。
(タンクの中に入っている血液が少なくなれば、弱体化するかしら)
 血液を莫大な魔力に変換して放たれる強烈な一撃を、第六感で予測し獣の足で避ける。
 敵にとっては予想外の長期戦となり、その間燃料補給もままならなかった事で、タンクの残量はもう2割にも満たない。それを削りきれば吸血兵装は機能を停止するだろう。

(限りがあるもの、無駄玉を打たせるとしましょうか)
 ディアナは無理に反撃に出ることはせず、まずは防御に徹して敵の近距離攻撃を誘う。
 敵は燃料切れを意識しなければならない状況で、それでも血液を消費せざるをえない。基礎的な身体能力を装備の性能で補ってきたツケが、ここに来て回ってきていた。
「くそッ、さっさと倒れなさいよ……!」
 颶風を起こす勢いで放たれるリオの機拳は、しかし紫紺の狼を完璧に捉える事はない。
 掠めた程度のダメージであれば、強化された防御力と再生力で十分に補える。決定打を与えられないうちに、敵に残された血液はみるみる減っていく。

「はぁっ……はぁっ……不味い、もう燃料が……」
 気が付けば、リオの背負っているタンクはほとんど空になっていた。血液の残量は1割を切り、吸血兵装の出力も落ちている。これまでずっと耐えてきたディアナからすれば、待ち望んでいた反撃のチャンスだ。
(鋭い牙と爪で嚙み砕いてやろうか。喉笛を喰い千切ってやろうか)
 獣と化した肉体に倣うように、心を獰猛な野性が満たしていく。研ぎ澄まされた殺意を獲物を狩る爪牙に変えて、紫紺の狼は燃料切れの『機血姫』に飛び掛かった。

「嗚呼、どちらでもいい」
「きゃっ?!」
 満足に動かせもしない吸血兵装は、ただ大きくて重いだけの枷に成り下がる。ディアナに飛びかかられたリオは「離れなさい!」と喚くが、もはや強引に振りほどくだけの力は残されていなかった。
「生贄にしてきた者たちの様に今度は貴方が消えなさい」
 がぶり、と。ナイフのように鋭い牙が、女吸血鬼の首筋に突き立てられる。これまでの所業の意趣返しも籠めたその一噛みは深く、命を捉えた感触がディアナに伝わってきた。

「が、ぐあぁぁぁああっぁぁぁッ!!!!!」
 リオの苦しみ方がこれまでと変わる。先程までが思い通りにならない事態に怒り散らす傲慢な貴族のそれだとすれば、今は死の目前にまで追い詰められ恐怖する獲物のそれだ。
 血と共に流れていくの己の命を感じ、『機血姫』はようやく絶体絶命の危機を悟った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
後悔しろと言うのであれば、私はこう言いましょう。
あなたには、後悔する時間すら与えません。

「フィンブルヴェト」を手に氷の弾丸の『威嚇射撃』で接近戦を狙う敵を牽制し、近づけないように戦闘します。
改造を重ねているとはいえ元はこの世界で手に入れたマスケット銃、あちらの知るところでしょうしあまり牽制にはならないでしょうが、それで近寄ってくれれば狙い通りです。

敵がこちらの隙を縫って接近し、近距離攻撃を放とうとしたら「デリンジャー」を『クイックドロウ』、吸血兵装に守られていない本体を狙い怯ませます。
ここではない場所には、こんな物もあるんですよ。

敵が怯んだらその隙に胸元の紋章を狙い【アイシクル・エンド】を。



「くそ……くそっ! 猟兵め……この報いは必ず……絶対に後悔させて……!」
「後悔しろと言うのであれば、私はこう言いましょう」
 進退窮まった『機血姫』リオに、氷よりも冷たい言葉と銃口を突きつけたのはセルマ。
 己の知識欲のために数多の生命を玩んできた諸悪の元凶。かける慈悲など一片もない。
「あなたには、後悔する時間すら与えません」
 誰よりも冷徹な宣告と共に、絶対零度の射手はトリガーを引く。「フィンブルヴェト」より放たれた氷の弾丸は、第五の貴族の権威と力の証たる『紋章』を精確に狙っていた。

「舐めるな、実験台風情がぁッ!」
 もはや貴族としての優雅さなどかなぐり捨てて、必死の形相でリオは氷の弾丸を躱す。
 破損により性能は下がっているが『紋章』の機能は辛うじて健在。飛来する弾丸の軌道を最初から分かっていたように回避するその動きは、セルマにとっても予測の範疇だ。
(改造を重ねているとはいえ元はこの世界で手に入れたマスケット銃、あちらの知るところでしょうしあまり牽制にはならないでしょうが……)
 全知の力で予測されるのを承知の上で、セルマは威嚇射撃を重ねて敵を牽制し、近づけないように戦う。余裕をなくした敵は【近距離攻撃】での一発逆転を狙ってくるだろう、逆にそれを捌けさえすれば此方の勝ちだ。

「舐めるなと……言っているのよッ!」
 だがリオにも上位者としてのプライドと意地がある。巨大な兵装の腕を盾代わりにして弾丸を防ぎ、射撃の隙を縫ってじりじりと距離を詰めてくる。直接交戦してから僅かしか経っていないのに、もうセルマのマスケット銃の性能を把握したらしい。
「しょせんは愚昧で非力な人間の技術! 我が叡智にかかればこんなものッ!」
 頭脳で現在の力を築いたという自負が、窮地に立たされた彼女の最後の拠り所だった。
 潜り込むように射手の懐に接近した『機血姫』は、タンクに残された血を全て使って、渾身の【近距離攻撃】を放とうと拳を振りかぶり――。

「……狙い通りです」
 その刹那、セルマは目にも留まらぬ早業でスカートの中からデリンジャーを抜き放ち、近寄ってきた敵を撃つ。マスケットの銃撃が予測される事も接近される事も想定の上で、彼女はこのタイミングを狙っていたのだ。
「ここではない場所には、こんな物もあるんですよ」
「な……ッ?!」
 衣服の下に隠し持てるほど小型化された銃器は、まだこの世界には存在しない技術だ。
 いかな『全知の紋章』もその奇襲を予測することはできず――吸血兵装に守られていない敵の本体を、実弾が射貫いた。

「がぁッ!!」
 小口径の弾では吸血鬼を仕留めるには威力不足だが、敵を怯ませられればそれで十分。
 その隙にセルマはマスケット銃を構え直すと、先端に装着した銃剣「アルマス」を胸元の紋章めがけて突き立てる。
「そこです」
 氷のように研ぎ澄まされた刃が『全知の紋章』を穿った直後、氷の弾丸の零距離射撃が放たれる――それは悪しき吸血鬼に終止符を打つ、必中必殺の【アイシクル・エンド】。

「ぁ……バカな……こんな結末……私は、知らない……」

 氷弾に心臓を撃ち抜かれた吸血鬼は、最期まで己の敗北を信じられない顔をしていた。
 吸血兵装が機能を停止し、全知の紋章が砕け散る。自らの叡智の結晶が壊れていく様を目にしながら、『機血姫』リオ・スティロヴァニエの肉体は灰となって散っていった。



 かくして第五の貴族を討伐した猟兵達は、残された『紋章の祭壇』を完全に破壊する。
 これでもう二度と、この場所で新たな紋章が作り出される事はない。生贄として連れて来られた奴隷達も無事救助され、それぞれの故郷に帰るか、人類砦に保護されていった。
 この世界を覆う闇の支配力、その源を生み出す一端を、猟兵達はここに滅ぼしたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月30日


挿絵イラスト