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怪力乱神、焉んぞ尚武の士に勝らん

#封神武侠界

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#封神武侠界


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 深山幽谷の武林、急流懸河の畔にひとりの英傑あり。

 齢十八ながら飛翔術を体得した麒麟児にして、紅顔の少女拳士。

 修行鍛錬を無二の友とし、先達同輩への仁義忠礼を重んずる。

 その者の名を燕花といった。



「封神武侠界でオブリビオンの軍勢が活動する予兆があった。みんなには急ぎこれに対処してもらいたい」

 京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)の機械の指がデスクに置かれた地図を指差した。
 四隅が丸まった質の悪い一枚紙には深山に至る細い道が蛇のように記されている。

「敵の狙いは山中で修行を積む、燕花という名前の少女だ」

 伏籠が一枚の念写真をデスクに滑らせる。
 白黒の道士服を着た長髪の少女が快活な笑みを浮かべていた。

「彼女は英傑、つまり、修行の果てにユーベルコードを会得した者で、現場の山にはよく泊まり込みで修行に訪れているらしい。今から向かえば、彼女がキャンプの準備をしているタイミングで接触できるかな」

 曰く「自給自足も修行の一環!」ということで、現地で食料の調達から始めるのが彼女の流儀なのだとか。

「昨今のオブリビオンによる騒乱は彼女も聞き及んでいるはずだからね。共闘を申し入れれば問題なく受け入れてくれると思うよ」

 幸いというべきか、オブリビオンの軍勢と接敵するまでにはまだ時間がある。
 燕花のキャンプ準備を手伝いつつ、敵を迎え撃つための用意を進めておくといいだろう。
 あるいは、秘境をエンジョイして英気を養っておくのもいいかもしれない。

「彼女の実力としては……、うん、一対一なら自分の身は十分に守れるレベルだね。みんなが主力になって矢面に立てば、彼女なりのやり方で立ち回ってくれるんじゃないかな」

 流石は英傑というべきか、守られるだけの一般人ではないようだ。
 猟兵と比べれば実力は劣るが、上手く連携できれば有利に戦いを進められるかもしれない。

「ちなみに、予知されたオブリビオンの姿は『キノコ』と『鯛』。軍勢っていうだけあって、どちらも数で攻めてくるみたいだよ」

 想定される戦局は、二波に分かれた連続集団戦闘。
 対多数の戦闘を意識する必要がありそうだ。

 ひと通りの説明を終えた伏籠が現地へのゲートを開く。
 空間の裂け目の向こうに青々と茂る深い森と急峻な山道が見えた。
 日は高く、雲はない。絶好のキャンプ……、もとい、修行日和だ。

「才気溢れる英傑は、まさしく封神武侠界の希望の卵。どうか彼女と共に危地を切り抜けてみせて欲しい。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 ホワッチャー! こんにちは、灰色梟です。
 今回は封神武侠界から物語をお届けします。
 シナリオ構成は【日常・集団戦・集団戦】の三部構成です。
 若き英傑と協力し、見事オブリビオンの軍勢を討ち果たしてください。

●英傑・燕花について
 18歳の人間の拳法家。
 大の修行マニアで、ユーベルコード【天人飛翔】に開眼している。
 格闘技+空中戦闘が基本戦術。

 実力的には集団敵を相手に一対一ならなんとかなる程度。
 猟兵サイドがよっぽど不利にでもならない限り、彼女は自力で身を守ることができます。
 もちろん積極的にフォローを入れてもOK。プレイングによっては猟兵と連携することも可能です。うまく連携が決まればプレイングにボーナスがつきます。

 以上がシナリオの概要となります。
 2・3章は比較的シンプルな戦闘シナリオです。思いっきり暴れてやってください。
 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。一緒に頑張りましょう!
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第1章 日常 『秘境キャンプ!』

POW   :    キャンプと言えば肉! ハンティングだ!

SPD   :    焼き魚も外せない! フィッシングだ!

WIZ   :    人里の喧騒から離れて精神修養! 滝行だ!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「なるほど! お話はよくわかりました!」

 見た目通り竹を割ったような気性、というべきか。
 猟兵たちと接触した燕花はハキハキとした口調で猟兵たちの協力を受け入れた。
 拱手を以って一礼した若き英傑は、しかし同時に、どこか挑戦的な笑みを見せる。

「不躾かもしれませんが、まずはお互いの実力を確かめませんか?」

 彼女は振り返り、背後の深い山林を指差す。

「難しいことではありません。一緒に野営の準備を手伝ってもらいたいのです。この地は秘境というだけあって、おっきな獣やら魚やらには事欠きません。それらを相手にして己の糧とする! すなわち、これも修行です!」

 燕花はぐっと拳を握ってキラキラと目を輝かせている。
 その純真な姿を見れば、少女が噂に違わぬ修行マニアとわかるだろう。

 さて、彼女は見知らぬ勇士の実力を測ろうと、期待に満ちた視線をキミたちに向けてきているが……。
徐・世
キャンプするのは良いが、折角秘境に来たのに修行とか面倒じゃな。わしはもっとのんびりしたい気分じゃ。どうしたものかのー

む、そうじゃ。わしの代役を立てよう。イベントホライゾンを発動、瑠璃星の力で名状しがたいエイリアン物体Xを召喚
物体Xをわしの姿に擬態させ、わしとこっそり入れ替わらせて、代わりに食料調達をやってもらうとしよう
まあ適当に功夫とか芝居しておいてくれ。宇宙怪獣なんじゃから功夫くらい余裕じゃろ

ともあれこれでぐーたらできるな。水明天衣製のパラソルやハンモックを使ったり、仙術で【空中浮遊】したりしながら、のんびり自然を愛でるとしよう。いやーいい日和じゃのー



「ううむ、どうしたものかのー」

 楡の木の幹に背を預け、徐・世(人間の仙人・f34586)は眉を傾けた。
 口調に深刻さはない。
 年齢不詳、されども乙女の姿を持つ仙人は、見た目相応の気怠げな調子で秘境の深き山々に視線を飛ばしている。
 木々は青く、空気は爽やか。近場の渓流からは涼やかなせせらぎが聞こえてくる。
 俗世の喧騒は遥か彼方。時間の流れさえゆったりとしているように思える。

「せっかくの秘境で修行とか面倒じゃな。わしはもっとのんびりしたい気分じゃ……」

 ぽややんとした呟きが宙に溶けた。
 若き英傑、燕花はすでに山中の探索に出発している。
 彼女の意気軒高な背中を見送ったのが数分前のこと。今からでも追跡は十分に可能なのだが、正直に身一つで追いかけるというのも面白くない。

「む、そうじゃ」

 天啓、来たる。
 閃いたアイディアに頬を緩ませ、徐世は木の幹から背中を離した。
 取り出したるは掌中には少し余るサイズの青い球体。
 瑠璃星と名付けられた超硬の宝貝が、宙に浮かんで星界の輝きを放つ。

「面倒なときは代役を立てるに限る。イベントホライズン、発動じゃ!」
『ノストロモモードを起動します』

 視界を灼いたフラッシュは時空の混乱か。
 草地にぺたりと降り立ったソレは、我々の想像力では表現できない姿をしていた。
 徐世が『物体X』と呼ぶ名状しがたい生命体は、明らかに地球上の存在ではなかった。
 エイリアンか、あるいは宇宙怪獣か、それとも異次元の狂気か……。

 物体Xは、しかし、ぐちゃりと形を変え、瞬時に徐世と同じ姿になった。
 擬態だ。外見はもちろんのこと、物質的な組成までコピーしている。
 作りたての骨格を試すようにコキリと肩を鳴らし、物体Xは不敵な笑みを見せる。
 鏡写しの笑顔を徐世と交わし、コピー体は燕花の追跡を開始した。

「ふっ、我ながら何という名案。……いやー、ともあれ、これでぐーたらできるな」

 茂みを掻き分けて森に入っていく物体Xを見送り、徐世は大きく伸びをした。
 気分爽快。面倒事を片付けた彼女は、おもむろに羽衣を肩から外して宙に放る。
 清流に似た透明感を持つ水明天衣がふわりと広がり形を変える。
 何を隠そうこれなるはバケーション特化型羽衣というトンデモ宝貝である。
 あっという間に羽衣から生み出された水色のパラソルが日陰を作り、木々の間にはハンモックが繋がれた。

「いやーいい日和じゃのー」

 ゆるりと空中に浮遊した徐世は、ハンモックに横たわって風のゆらぎに身を任せる。
 幽かな虫の音。草木の匂い。瑞々しい空気の味。
 瞳を閉じ、彼女はのんびりと自然を愛でるのだった。



 一方その頃。
 木々の合間を疾走する燕花は、背後から迫る気配に身震いしていた。
 ぞくぞくと背筋に冷たさが走る。
 咄嗟に横に跳ねて道を譲ると、薄着の人影がするりとすり抜けた。

 ついさっき見た顔だった。
 キャンプ地で別れた乙女の仙人と寸分変わらぬ姿かたち。
 しかし、雰囲気が違う。……ような気がする。

 疾駆の勢いのまま大木の幹を蹴った仙人が、くるくると空中で回転する。
 真下には巨大なイノシシ。
 落下速度と遠心力を乗せた踵が、その延髄に落とされた。
 ズン、と重い音がして、獣が横倒しになる。

「お見事! ……しかし、あの功夫は……」

 着地した乙女のカタチは、痙攣するイノシシを相手に残心を構えている。
 ゆったりとしたその動きに、燕花は直感的な衝撃を感じ取った。

「キラキラと……、星が、いや、宇宙が見える……?」
 
 くらりと目眩を覚え、少女拳士は額に手を当てて天を仰ぐ。
 コズミック・クンフーの背後に潜む宇宙的ななんやかんや。無自覚にそれを感じ取った若き俊英のお目々にはぐるぐると渦が巻いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴上・冬季
「武侠の修行…良くわかりませんが、求められれば応えましょう。出でよ、黄巾力士金行軍!」
「金剋木、築陣するより楽です」
100体越える黄巾力士呼び出し木を切り出してのログハウス作成命じる
自分はいつも連れている黄巾力士と川へ
雷公鞭で川に雷落とし感電した魚を黄巾力士と拾い上げ焼き魚に
薪はそこら辺の木を拾ったりログハウス作成時の端材を仙術と属性攻撃組み合わせ生木から水を抜いて薪に
火も仙術と属性攻撃組合せさっさと熾す

「我々妖仙も仙骨を育てるために修行しますが、呼吸法や歩行法が主ですから。人が内気功や外気功の修行をするのも見たことはありますが…殺生は技能になっても修行と言われると違和感があります」
首傾げる



 それはまさしく驚天動地だった。
 首尾よく一頭の獲物を仕留めて野営地に帰還した燕花は、両目に飛び込んできた光景にあんぐりと口を開けて絶句してしまった。

「さ、三十分も経ってませんよね……?」

 出発前にはささやかな草地が広がるばかりだった山中の野営地は、ちょっと目を離した隙に、周囲の木々を切り開いてその広さを増していた。
 中心に建つのはがっしりとした作りの真新しいログハウス。
 もちろん出発前には影も形もなかった建物だ。
 壁の傍には規則的に切り揃えられた薪がしっかり乾燥した状態で積まれている。

 呆然とする燕花を出迎えたのは、金色に輝く人型戦車の軍団だった。
 整列する人間大の自律思考宝貝を従えて、突貫工事の仕掛け人、鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は涼しい表情を浮かべていた。

「金剋木、築陣するより楽でした」



 時間は少し遡る。
 手付かずの野営地の中心で、冬季は腕を組んで思案に暮れていた。
 人の姿を取っているが、彼の正体は妖狐にして仙人。俗に言う、妖仙である。

「武侠の修行……、良くわかりませんが、求められれば応えましょう」

 残念ながら人間の仙人の修行に詳しいわけではない。
 冬季が長きに渡って積んできたのは、妖仙としての修行だ。
 しかし、己の力を見せろというのであれば、やりようはいくらでもある。
 思考の海から浮かび上がり、冬季は力ある言葉を放った。

「出でよ、黄巾力士金行軍!」

 召致に応じて現れるは、二足歩行の戦闘用人型自律思考戦車。
 名付けて宝貝・黄巾力士。
 その数、実に100体以上。

 冬季の腕の一振りで、彼らは役割を分担して仕事に取り掛かる。
 輝く剛腕が秘境の硬木を伐り倒し、建材として形を整えていく。
 作り出された建材で、ログハウスがまたたく間に組み上げられていく。
 重い丸太を持ち上げるのもなんのその。重機も裸足で逃げ出す超馬力だ。

「作業は順風満帆。では、ここは任せましたよ」

 軍勢の働きっぷりをひと通り監督してから、冬季は川辺に足を向けた。
 お供にはいつも連れている黄巾力士が1体。
 緩やかに蛇行する山中の清流は、中洲の大岩に流れがぶつかって白く波打っていた。
 水面の透明度の高い場所からは川魚の影が見える。
 人里近くではあまり見かけない魚も多い。さすがは秘境といったところか。

「嘶け、雷光鞭!」

 冬季は水中を見据え、鋼鉄製の多節棍を振るう。
 棍から放たれた範囲を絞った稲妻が、魚群の只中に叩きつけられた。
 瞬間的にスパークした水面が、その場の全てを白く染める。
 眩い閃光が収まった後、川面には感電した魚たちがぷかりと浮かび上がっていた。

「釣果は十分ですね。焼き魚にでもしましょうか」

 黄巾力士と一緒に魚を拾い上げ、冬季は野営地へと戻る。
 広くなった草地には、完成したログハウスが鎮座していた。
 端材から切り出した薪の材料も用意されている。
 一片一片が程よい大きさで、仙術で水気を抜くのに苦労はなかった。

 燕花が戻ってきたのは、ちょうどこのタイミングだった。



 乾燥した薪が焚き火で弾ける音がする。種火を熾したのも妖仙の仙術だ。
 串に刺した魚が焼けるのを待ちながら、冬季は柔らかい口調で燕花に尋ねた。

「実力見せる、というのは、こんなところでよろしいでしょうか」
「これほど見事な仙術を見せられて、どうして否と言えましょうか。この燕花、感服いたしました。修行には疎いだなんて、冬季殿もご謙遜を……」
「我々妖仙も仙骨を育てるために修行しますが、呼吸法や歩行法が主ですから」

「人が内気功や外気功の修行をするのも見たことはありますが……」と彼は続ける。
 冬季は一旦そこで言葉を切り、ふと首を傾げた。

「獣を狩ること、即ち殺生は技能になっても、修行と言われると違和感があります」
「あはは……、人間にとって猛獣と立ち合うことは、いつだって命懸けですから」
「生き死にを賭けることが修練になる、と?」
「肉体の性能では人間は獣に劣ります。その差を如何にして埋めるのか。それは、果てなき武の道におけるひとつの課題でしょう」

 表情を引き締めて真剣に語る燕花に、冬季は「なるほど」と頷いた。
 パチリとまた薪が弾ける。
 出来上がった秘境の焼き魚は、みっしりと肉が詰まっていて、とても美味だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

劉・涼鈴
キマイラフューチャーみたいにコンコンしたら食べ物が出てくるのは楽だけど、こうやって自分で獲るのも楽しいね!

普通の動物相手に奥義はいらないね
鍛え上げた【功夫】で充分!
森の中で獲物を探して……うお! でっけーカブトムシだ!!
見て見て! 10cmくらいあるよ!

猪の突進を受け止めてバックドロップ!
いい感じの牙だね、ナイフ代わりにできそう!
その辺で拾った石ころを投げて鳥打ち! 焼き鳥だー!

あまった時間は……水遊び!! 水着持って来てたよ!!
冷たくて気持ちいいー! ばちゃばちゃー!
修行? うーん、泳ぎの競争でもするー?



 劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)は大きく息を吸い、新緑の空気を肺に送り込んだ。
 冷たく潤った深山の大気が、彼女の小柄な体躯に満ち満ちていく。
 深呼吸だけでも心地良い。これも自然溢れる秘境の醍醐味だろう。
 故郷の世界、キマイラフューチャーではなかなかに得られない経験だ。

「コンコンしたら食べ物が出てくるのは楽だけど、こうやって自分で獲るのも楽しいね!」
「コンコン……? 話を聞くに崑崙(コンロン)のような仙境の類でしょうか?」
「うーん、確かに桃源郷といえば当たらずとも遠からず?」

「なるほど、博識ですね!」と感心する燕花に、涼鈴はエヘンと胸を張る。
 少女たちは秘境の森でキャンプの獲物を探していた。
 頭上には木々の枝葉が厚く広がっていて、直射日光の大半を遮っている。
 日陰が多く、高地ということもあって気温は低め。
 葉と葉の合間を抜けた木漏れ日が、ぽつりぽつりと線状に輝いていた。

 さわさわと葉擦れの音が聞こえる以外に、目立った音は聞こえない。
 足元で枝を踏むと、乾いた音がやけに大きく響いた。
 森の中に生命は満ちているが、獲物になりそうな獣の気配はまだ見当たらない。
 周囲の気配を探っていた涼鈴は、ふと足を止め、一本の木に視線を向けた。

「あそこで光ったのって……。うお! でっけーカブトムシだ!」
「えっ、涼鈴殿?」
「見て見て! 10cmくらいあるよ!」
「あ、はい」

 黒いダイヤを発見してキラキラと目を輝かせた涼鈴に、燕花は目を白黒させる。
 秘境に生きるカブトムシは見るからに逞しく、一本角も鋭く立派だった。
 もしかしたら、同じ『角持ち』として何かシンパシーがあるのかも……。

「って、そうではなくて! 涼鈴殿、声が大きいですよ!」
「ごめんごめん。でも、おかげで獲物を探す手間が省けそうじゃない?」
「え? ……あっ!」

 燕花はバッと背後を振り返り、瞬時に拳を構えた。
 木々の向こうから近づく影。
 まさしく猪突猛進。鼻息荒い野生のイノシシが、一直線にこちらに駆けてくる。
 秘境のイノシシは人界のイノシシよりも一回りサイズが大きい。
 長く鋭い牙はギラリと白く光っている。
 真正面からあれに突き刺されれば、間違いなく致命傷だ。

 まずは一度、横に避けるべきか。
 わずかに逡巡した燕花。その眼前に、涼鈴がずいと歩み出た。

「ふふん、動物相手に奥義はいらないね」
「涼鈴殿!?」
「鍛え上げた功夫で……、充分っ!」

 気合爆発、真っ向勝負!
 涼鈴は刹那の見切りでイノシシの牙を掴み、超人的な握力で突進を押し留めた。
 腐葉土の堆積した地面に少女の踵が埋まる。
 ぐっと姿勢を低く、力を溜めて、涼鈴はイノシシを地面から『引っこ抜いた』。

「っせーい!」
「ブモッ!?」

 獣の情けない鼻声が響き、イノシシの四肢が宙へと浮かび上がる。
 そのままオーバーヘッドで半円を描き、涼鈴は獣の巨躯を背後の地面に叩きつけた。
 バックドロップ! その極意は、投げるのではなく、落とすこと!

「フォール・ダウン!」
「なんと!」

 驚愕する燕花の目の前で、イノシシは受け身も取れず背骨を砕かれて絶命した。
 墜落の衝撃に大地が震え、木々が揺らぎ、落ち葉が舞い上がった。
 轟音とともにバウンドしたイノシシから、ポキリと牙が折れる。
 掴んだ手の中に残ったその白い凶器を確かめて、涼鈴は無邪気な笑みをこぼした。

「いい感じの牙だね、ナイフ代わりにできそう!」
「……今日はもう驚きっぱなしで、お腹いっぱいになりそうです」

 涼鈴は戦利品を片手にポンポンと服の汚れを払う。
 その様子を燕花が驚きと憧れの入り混じった瞳で見つめていた。
 二人はイノシシを担ぎ、野営地に戻る。
 その道中でも、涼鈴は拾った石ころで鳥を撃ち落とすという芸当をやってのけた。
「焼き鳥だー!」と彼女は喜んでいるが、燕花からすればこれまた超絶技巧である。
「実力を試し合おう」と言っていた過去の自分の口を塞ぎたい気分だった。

 無事に野営地に到着した涼鈴は、獲物を降ろしして、今度は川辺に向けて出発した。
 もちろん燕花の腕を引いて、だ。
 溌剌とした涼鈴の横顔に疲れは見えない。へたりそうだった燕花も、ここまで来たら全部付き合う覚悟だった。

「時間があまった! というわけで、水遊び!! 水着持って来てたよ!」
「……え?」

 川辺でパッと水着に着替え、涼鈴は高らかに宣言する。
 これには燕花も虚を突かれた。
 目を点にした彼女の前を横切って、涼鈴が川面にダイヴする。
 着水点から大きく跳ね上がった水飛沫が、燕花の頭上に降り注いだ。

「冷たくて気持ちいいー! ばちゃばちゃー!」
「わっ、ぷ。あ、あの! 涼鈴殿、ここでの修行は!?」
「修行? うーん、泳ぎの競争でもするー?」
「う、その、泳ぐ支度までは……」

 燕花は足元だけを川に浸して困り顔を浮かべている。
 涼鈴は「仕方ないなー」といった様子で水中に潜り、遠くの水面から顔を出した。
 彼女は決して一様ではない川の流れの中を縦横無尽に泳ぎ回っている。
 それだけでも彼女の水練を窺うことができる。

「わ、私もこれからは水着を持ち歩くべきでしょうか……」

 向日葵のような笑顔を見つめつつ、若き英傑は本気で悩んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

堆沙坑・娘娘
それでは早速…身外身の法。
分身による人海戦術で野営の準備や狩り、釣りをすることにします。
勝負は50人もいれば充分でしょう。
残りには闘いやすそうな地形の選別、その地形へ誘導するための工作などをさせておきますか。串刺し落とし穴なども余裕があれば作りましょう。

暗黒料理界の暗黒料理人たちと美食闘技戦も行うことがある私は料理もそれなりにはできます。
捕まえた獲物をバラし、その身を串で【貫通攻撃】。他の世界で言うところのBBQというやつです。山林で採れた山菜、野草、果実などを使っても面白いかもしれません。
BBQには当然燕花も誘いますよ。

これが私の実力となります。如何でしたか?
おかわりもたくさんありますよ。



 身外身の法。
 西遊記に名高い孫悟空が得意とする仙術で、俗に言う、分身の術だ。
 斉天大聖の術と寸分違わぬかはさておき、そんな術を「それでは早速……」でやってのけるのを目にすれば、なるほど、ミレナリィドールの堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)が神仙の類として世に知られているのも頷けるというものだ。

「数は力。人海戦術です。勝負は50人もいれば充分でしょう」
「そんなあっさり言われても……」

 マイペースに言ってのける娘々の姿に、燕花は目眩を感じて空を仰いだ。
 50体を超える分身を軽々と?
 いったいどれほどの修行を積めば、そんな領域にたどり着けるというのだろうか。
 燕花も己の未熟に自覚はあったが、求道の極致は想像以上に果てなく遠いものらしい。

「野営の準備や狩りに釣り。やるべき仕事はたくさんあります」

 娘々が指折り数えるたび、分身の集団が秘境に散っていく。
 一切の淀みのない、統率の取れた動きだ。

「闘いやすそうな地形の選別、その地形へ誘導するための工作などもさせておきますか」
「ええ、妖怪との戦いは、これからが本番ですものね」
「余裕があれば串刺し落とし穴なども作りましょう」
「……本格的というか、過激な罠ですね!?」

 ちなみに、燕花は知る由もないが、娘々の分身はそれぞれが自律思考を持つのではなく、彼女自身の空間知覚能力とマルチタスク思考能力とで遠隔操作されている。
 ユーベルコードで能力を強化しているとはいえ、そんな離れ業を会話と並行して行っていると知ったら、燕花は文字通りに魂消てしまっていたかもしれない。

 野営地に共鳴する足音が連なって聞こえてきた。
 そうこう言っている内に分身たちが戻ってきたのだ。
 獣や魚が次々と運び込まれ、娘々と燕花の前に続々と並べられていく。

「これはまた、調理するにも一苦労な量が……」
「安心してください。私は料理もそれなりにはできます」
「本当ですか。それは助かります!」
「なにしろ、暗黒料理界の暗黒料理人たちと美食闘技戦を行うこともありますから」
「……どうしましょう。言葉の意味はわかるのに、理解が追いつきません」

 情報過多に額を抑える少女拳士。
 その様子を横目に、娘々はマイペースに食材をバラしていく。
 淡々と切り分けられていく肉、野草、山菜に果実。
 仕込みの整った色とりどりの具材を一列に並べ、鉄串をぶすりと突き刺す。

「貫く」と、やけに圧のある声が響いた。
 天下無双の貫通攻撃(……攻撃?)で串焼きの準備が着々と進んでいく。
 そう、キャンプといえば、やっぱりBBQなのだ。
 熾した焚き火に鉄網が敷かれ、具材の刺さった鉄串が順々にグリルされ始める。
 あっという間に、野営地に香ばしい匂いが漂い出した。

 『貫く』ことに魂を燃やす娘々の渾身の料理である。
 味付けは素材を活かしてシンプルに。付け合せの果実や香草がアクセントだ。
 娘々は火の通った串をひょいと取り上げ、燕花にすっと差し出した。
 あいも変わらぬ無表情だが、こころなしか瞳に自信が満ちているようにも見える。

 その意味を、燕花はBBQを一口食べた瞬間に理解した。
 口の中で花開いた旨味の奔流に、彼女は一発で魅了にされてしまったのだ。

「これが私の実力となります。如何でしたか?」
「文句のつけようがありませんって! 料理も美味しいです!」
「おかわりもたくさんありますよ」
「いただきます!」

 燕花が半ばやけっぱちに叫ぶ。
 今日一日、猟兵たちの実力を目の当たりにしてしまった彼女。
 英傑は胸中の小さな自信と慢心を砕かれつつも、垣間見た遥かな高みを目指してさらなる修行を誓う。

 ガツガツとBBQを食べる燕花を見つめつつ、娘々も自分ための串を取る。
 かぷりと一口ずつ、じっくりと一本の串を味わった彼女は、その美味に無表情ながら確かな満足を覚えるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『咎忍『冬虫夏草』』

POW   :    忍法・夜の声
見えない【胞子】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    忍法・影胞子
自身の【菌糸の生産量】を代償に、1〜12体の【キノコ人間】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ   :    忍法・迷ヒ魔譚郷(まよいまたんごう)
戦場全体に、【粘菌】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:塒ひぷの

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 秘境の森を、粘菌が這う。
 毒々しいキノコたちの大行進は、音もなく野営地に近づきつつある。

 咎忍・冬虫夏草。
 優秀な忍術研究者であった彼(あるいは彼女)は、粘菌による分身術の開発に没頭するあまり、外法に手を染め、自身の意識さえも粘菌へと移し替えてしまった。
 異形のオブリビオンと化した冬虫夏草は、他者の生命を奪い取ることで複写分裂を繰り返し、己の勢力を増やそうと画策している。

 おぞましい敵意の接近を、英傑・燕花は敏感に察知した。
 天人飛翔で宙に登り、いよいよ姿を見せたオブリビオンに拳を構える。

「自分の身は守ってみせます! 皆さん、私に構わず存分に力を振るってください!」

 少女拳士の気迫の叫びが開戦の合図となった。
 茂みを越えて次々と野営地に侵入するキノコ人間たち。
 おどろおどろしく溶け合う無数の粘菌が、群れをなして猟兵たちに襲いかかった。
徐・世
おー、これがジャパニーズニンジャのジツというやつか。なんか物騒なジツじゃの。忍者って凄いんじゃのー。こんなバイオ茸、薬膳にはできなさそうじゃのー

戦うというなら【功夫】でお相手しよう。瑠璃星と翡翠珠のW3ボールを【投擲】し、同時に体術で攻め込むぞ。攻撃の隙をフォローしたりして、空中を疾駆するW3ボールで自分や燕花の行動を援護しながら戦おう
我が魔球は追尾して正確に的を撃ち抜く。片っ端から敵勢を攻撃じゃ。キノコ人間だろうが何だろうが、まとめてドタマをかち割ってやろう

燕花も中々どうしてやるようじゃな。元気じゃのー、若いって良いのー…いやそういえばわしも17歳じゃったわ。華のセブンティーンじゃったわー。



 ぺたり、ぺたりと。粘ついた足音が迫りくる。
 冬虫夏草が足を持ち上げるたび、その足底と地面との間に粘ついた糸が引く。
 その様は、まるで一歩ごとに粘着した薄皮を剥がしながら進むかのよう。
 生理的な悪寒を惹起するその行進に、空中の燕花が思わず顔を顰めた。

「我ハ個ニシテ群、群ニシテ個。屍ヲ糧トス影法師。菌糸放散、子実結像」
「喋った!? なんと面妖な!」

 空中に飛翔する獲物を見上げ、冬虫夏草が唱和する。
 個体ごとに発声器官の形が違うのか、響いてくる声は大人数のものに聞こえる。
 しかし、それでいて声の抑揚はまったくの同一。
 粘り気のある老若男女の声が野営地に不気味に共鳴する。

「是即チ、忍法・影胞子」

 その言葉とともにキノコ人間が頭部の『傘』を膨らませた。
 ぼふん、と袋詰の空気が漏れるような音。
 煙のように傘から噴き出した微小の胞子が、地面に根付き、ぐつぐつと固まっていく。
 はじめに脚。泡立つように胴。溢れる腕。そして、涌き出る頭と傘。
 悍ましい過程を余すことなく見せつけて、影法師が分裂して数を増やしていく。

「おー、これがジャパニーズニンジャのジツというやつか」

 野営地を包囲するキノコ人間は無尽蔵とも思えるペースで増えつつある。
 その只中にあって、乙女の仙人・徐世は目を細めて敵の術を観察していた。
 泰然自若。飄々とした赤茶の瞳に、焦りの色はない。

「クケケ、英傑モ仙人モ、生命力ノ塊。我ノ贄ニ相応シイ」

 冬虫夏草がニチャリと笑う。
 横並びのキノコ人間が揃って同じ表情を浮かべていて、不気味なことこの上ない。

「……なんか物騒なジツじゃの」
「気をつけてください! 私たちを取り込むつもりです!」
「普段はわしらのほうが茸を食べる側なんじゃがな」

 シニカルな苦笑を浮かべ、徐世がするりと構えを取る。
 広げた両腕は鳳凰の如く。
 天に向けた掌上に浮かぶは、蒼碧の双つ星。
 瑠璃星と翡翠珠。超硬の球形宝貝が、今か今かと放たれる刻を待っている。

「こんなバイオ茸、薬膳にはできなさそうじゃ、の!」
「オ命頂戴!」

 瞬間、冬虫夏草が動いた。
 狂気に落ちてなお、その戦術思考は明晰。
 測るは猟兵と英傑の戦力比。
 一斉に地面を蹴った彼らは、燕花に2体を差し向け、残りの全軍で徐世に殺到した。

「ッ、速い!」

 燕花は己の失策を悟る。
 敵の人型の見てくれに惑わされていた。相手には骨も筋肉もないのだ。
 キノコ人間の跳躍は非生物的な収縮と反動を利用したもの。
 無拍子に近いその挙動に、反応が一手遅れてしまった。
 湿り気を帯びた粘菌の腕が、風を切って彼女の顔面に迫る。

(回避は間に合わない。せめて防御だけでも――)

「疾っ!」
「ケケ、グギャ!?」

 接触の寸前、異形の悲鳴が響いた。
 守りの構えを取った燕花が目を見開く。
 彼女の眼前で、地上から投擲された瑠璃星が冬虫夏草の背を貫いたのだ。

「何人たりとも、我が魔球から逃れることは適わぬぞ!」
「小癪ナ! 連携セヨ! 囲メ、囲メ!」

 しっかりと地に足を着け、徐世がすぅと細く息を吸い、止める。
 背後の空気が揺れる気配。
 伸ばされた乙女の細腕がしなやかに半円を描く。
 太極に沿って加速するは右手に浮かぶ翡翠珠。

「キノコ人間だろうが何だろうが、まとめてドタマをかち割ってやろう!」

 これぞ功夫的ホーミング超剛速投球フォーム。
 ノールックで背後に投擲される翠の宝貝が、迫りくるキノコの頭を一撃で粉砕する。
 湿った破裂音が野営地に響いた。
 弾けた胞子が霧となり、吹き抜けた風に掻き消える。

「クケケ! 隙アリダ!」
「否!」

 ならばとばかりに突っ込んでくる新たなキノコ人間。
 その胴体を大地から跳ね上がった蹴撃が貫く。
 手応えあり。次なる殺意は右側面。
 突き刺した足を軸に徐世が旋を描けば、空から降ってきた瑠璃星が敵の頭頂を砕く。
 絶命した冬虫夏草から足を引き抜き、そのまま草地を掴んでバク転。
 直前の位置に体当たりをかましてきた個体を、今度は翡翠珠が撃ち抜いた。

「縦横自在、W3ボールに死角なし!」
「ヌ、ウゥ!」

 空中を疾駆する瑠璃星と翡翠珠、そして徐世の体術が互いの隙を打ち消し暴れ回る。
 殺傷半径に踏み入る敵を根こそぎ刈り取る大立ち回り。
 それはさながら、徐世という太陽を基点に廻る、蒼碧の惑星運動の如し。
 その活躍を目に焼き付け、空中の燕花も奮起する。

「得意な空中戦に一対一のお膳立て。これで勝てずして、何が英傑か!」
「グゴッ!?」

 敵の突進を引きつけてからの翻身。そして斧の如き蹴り落とし。
 少女拳士の反撃がクリーンヒットし、冬虫夏草が大地に墜落した。
 叩きつけられ粘菌の塊が、大地を揺らして弾け飛ぶ。

「これでどうですっ!」
「燕花も中々どうしてやるようじゃな。元気じゃのー、若いって良いのー……」

 ホッホッ、と徐世は目を細めて優しく空を見つめ、それからハッと目を見開いた。
 キノコ人間をミニスカートの連環腿で蹴り飛ばし、ふぅと息を吐いた彼女は、取り繕うような笑顔の仮面を張り付けた。

「……いやいや、そういえばわしも17歳じゃったわ」
「あれ? 普通は仙人になるには、長い年月の修行が必要なのでは……」
「いやーうっかりしとったなー! 華のセブンティーンじゃったわー!」

 空中から降ってきた燕花の疑問を遮るように、乙女(ここが重要じゃぞ!)の仙人が慌てて声を張り上げた。
 ハッハッハ、とわざとらしい乾いた笑い声を振りまきながら、彼女は誤魔化すように手近なキノコ人間をぶっ飛ばすのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

堆沙坑・娘娘
キノコと鯛と聞いて少し楽しみにしていたのですが…キノコがこれでは鯛にも期待できませんね。空の彼方のように妖獣料理を作ろうと捕獲用に串刺し落とし穴を準備していたのが無駄になってしまいました。

いえ、ですがまずは挑戦です。粘菌に有効な杭を召喚しパイルバンカーに装填。まあ、詰まるところ燃え盛る杭です。焼けば大体のものは食えますから。
燃え上がれ。燃え上がれ。燃え上がれ、我が闘気。
燃え盛る杭に私の十に重ねた闘気を行き渡らせ更に燃え上がらせます。
この熱全てをパイルバンカーの射線上に放つ【貫通攻撃】です。

…しまった。消し炭になってしまえばさすがに食べられませんね。
すみません、燕花。次は火加減に気をつけます。



 グリモ猟兵は確かに言った。「オブリビオンは『キノコ』と『鯛』だ」と。
 その言葉を思い返しながら、堆沙坑・娘娘は心の中でため息を吐いた。
 あんな風に並べて言われてしまえば、食材的な意味で期待をしてしまうのは至って自然な流れではないだろうか。

「少し楽しみにしていたのですが……、キノコがこれでは鯛にも期待できませんね」

 瞳に映るのは冬虫夏草の毒々しい配色。
 けばけばしい燐光を伴ってうごめく軍勢は、さながらネオンの洪水を彷彿とさせる。
 怪しさ満載の蛍光色。どこからどう見ても可食に耐えそうにない。

「……捕獲用の串刺し落とし穴は無駄になってしまいましたね」
「ケ?」

 ぽつりと漏れた娘々の呟き。
 次の瞬間、間抜けな声を残して1体のキノコ人間が姿を消した。
 仲間のキノコたちが振り向けば、いつの間にか地面にぽっかりと丸い穴が開いている。
 落とし穴だ。
 奈落に続く穴の中から、「ケケーッ」と悲鳴が響いてくる。
 長く尾を引く金切り声は次第に遠くなっていき、ぷつりと途絶えた。
 最後に聞こえたのは、ナイフでズタ袋を刺したような、ずぶん、という異音だけ。

「空の彼方の世界のように妖獣料理を作ろうと思っていたのですが」

 娘々はいつもの涼しい表情にほんのちょっぴりの残念さを滲ませている。
 敵の進路にはまだいくつかの落とし穴が残っている。
 彼女は捕獲用と語っているが、串刺し機構を備えている以上、殺傷力もバッチリだ。
 地面に仕込まれた罠は多少なりとも敵の進軍を遅滞させてくれるはず。
 じりじりと近づいてくる敵軍を見据え、彼女は左腕のパイルバンカーを起動した。

「いえ、ですが見た目だけで判断するのも早計というもの。まずは挑戦あるのみです」

 ガコン、と重くて硬い金属音が響く。
 チャンバー内の時空が歪み、召喚された『杭』が瞬時に装填された。
 おおよそ1m。射出口から砲身の底部までを貫いて装填された鋼鉄製の巨大杭。
 その長大な凶器の弾芯には、轟々と燃え盛る炎が宿っている。

『粘菌に有効な』という条件で呼び出された、炎属性の杭。
 娘々曰く「焼けば大体のものは食えますから」とのことだ。

「燃え上がれ。燃え上がれ。燃え上がれ、我が闘気」

 パイルバンカーを保持する左腕に杭から熱が伝わってくる。
 調息、集気。
 熱伝導の経路を遡るように、娘々は闘気をパイルバンカーへと送り込む。
 ミレナリィドールのボディを覆う多重構造の闘気。
 重ねに重ねた10層のエネルギーが、高密度に圧縮されて砲身に注ぎ込まれていく。
 
 一意専心。
 小手先の技も、護りのオーラも、すべてを捨ててただ一点に力を凝縮する。
 装填された巨大杭がますます激しく燃え盛る。
 膨大な熱量に周囲の空気が歪んで見える。呼吸をすれば喉さえ焼ける。
 金属製の砲身もすでに超高温。弾体を長く保持することはできないだろう。
 一撃でケリを着ける。それしかない。

「忍法・影胞子ダ! 数デ押セ! 見ロ、弾ハ一発ダケダ!」
「それがどうかしましたか。たとえ一発であろうとも……」

 青い瞳が敵を捉える。
 分身を繰り返し、数を増しながら迫る冬虫夏草たち。
 彼らは気づいているだろうか?
 左右に配置された落とし穴が、少しずつ彼らの進行ルートを狭めていることに。
 どれほど数を増やそうと、一直線に並んでいるのであれば。
 ――それは、娘々にとってひとつの『的』にしか過ぎない。

「貫く」

 弓のように腕を引き、インパクトの瞬間に杭を放つ。
 山を揺るがす爆音が轟いた。
 放たれた杭を中心にして、灼熱の嵐が巻き起こる。
 燃え盛る炎の轟音が、あらゆる音を塗り潰す。
 冬虫夏草たちには、回避する間さえ与えられない。
 すべてが燃える。
 音速で飛翔する火炎旋風が、直線上の敵軍を根こそぎ焼き尽くした。

「……しまった」

 左腕を伸ばしきった状態で、娘々がぽつりと零す。
 相変わらずの無表情。彼女の視線の先で、黒焦げになったキノコがパサリと崩れた。
 ぺんぺん草も生えないような破壊の痕跡。一直線に伸びる焼け焦げた大地を前にして、娘々は困ったように空中の燕花に視線を飛ばした。

「消し炭になってしまえばさすがに食べられませんね。すみません、燕花。次は火加減に気をつけます」
「あ、いや、もし綺麗に焼けたとしてもアレを食べるのは遠慮したいです……」

 冷や汗を流してぶんぶんと首を振る燕花。
 その様子に、「そうですか」と娘々はマイペースに首を傾げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
ふーん、ニンジャの分身か
でも、まだまだだね!
取り敢えず10000くらいは私が相手するよ!

全身に【覇気】を漲らせて、覇王方天戟を構えて突撃!
そして【身外身法】! こっちも分身だー!
その数940人! 分身がニンジャの専売特許と思うなよ!

【怪力】で戟を【なぎ払って】ぶっ飛ばす!
戦闘力が高くたって、狙いが丸分かりなら見切るのは簡単!
胞子とか菌に拘り過ぎちゃって、単純な殴り合いの性能は低そうだし!
鍛え上げた【功夫】で躱して、戟で一刀両断!(重量攻撃)
一騎当千! 万夫不当! 戦場を【蹂躙】だ!!

ひと塊になってきたら……ダイナソウルからギガレックスの首だけ召喚!
ジェノサイド荷電粒子砲!(砲撃) 薙ぎ払えー!



「クケケ。我ハ不尽ノ忍ビ。タトエ百ノ分身ガ斃サレヨウト、何ノ痛痒ニモナラヌ」

 不気味な笑いが秘境にこだまする。
 猟兵が撃破した軍勢の穴を埋めるように、残された冬虫夏草たちが菌糸を飛ばす。
 粘菌が草地に根を張り、糸を編むように人型に固まっていく。
 次々と分裂と増殖を繰り返すキノコ人間たち。
 毒々しいキノコの傘が、野営地の周囲を埋め尽くすようにゆらゆらと揺れている。

「ふーん、ニンジャの分身か。でも、まだまだだね!」

 背筋がゾワゾワしそうな包囲の只中で、腰に手を当てた劉・涼鈴が胸を張った。
 蠢く敵意を見据え、大胆不敵に笑みを浮かべた彼女は、気を練り、息を調える。
 練気開勁。構えるは免許皆伝、劉家拳。右手に握るは無双の業物、覇王方天戟。

「取り敢えず1万くらいは私が相手するよ!」
「世迷イ言ヲ!」

 動いたのはほぼ同時。
 冬虫夏草が身体を上下に縮ませ、反動でゴム毬の如く飛び掛かる。
 一瞬で狭まる包囲網。涼鈴は『網』の一点を目指してまっすぎに駆けていく。
 多勢に無勢。加えて彼女は体格に優れるタイプの戦士ではない。
 彼女の小柄な身体は、接敵の直後、津波のように押し寄せる軍勢に飲み込まれた。

「大言壮語! 口ホドニモナイ!」

 忍法・影胞子が生み出すのは現実の質量を持つ分身だ。
 数の暴力で四方から動きを封じてしまえば、勝負はもう決まったようなもの。
 いかなる武芸の達人であろうと逃げることは叶わず、あとは圧殺の運命を待つのみ。

 勝利を確信した冬虫夏草が厭らしく口元を歪める。
 彼らに誤算があったとすれば、包囲した相手もまた『ひとり』ではなかったことだ。

「――身外身法!」
「ッケギャ!?」

 涼鈴を押しつぶしたはずのキノコ人間たちが吹っ飛ばされる。
 まるで花火。
 千々に裂かれた胞子が舞い散る中、冬虫夏草は赤く弾ける閃光を見た。

「分身がニンジャの専売特許と思うなよ!」

 三尺玉が爆ぜるが如く、真紅のチャイナドレスが放射状に散会する。
 驚くなかれ、その数なんと940人。
 西遊記に名高い秘術を行使した無数の涼鈴が、鈍く輝く方天戟を手に駆けていく。
 高地の太陽と鮮やかな真紅のシルエットが、刃のひらめきに万華鏡を成す。

「いっくぞー!」

 バトルブーツの踏み込みが草地を穿つ。
 ブレーキと同時に吶喊の勢いを遠心力に変換して、彼女たちは方天戟を薙ぎ払った。
 水平に描かれた半円が冬虫夏草の胴に食い込み、2体3体とまとめて斬り飛ばす。
 折り重なった断末魔が野営地に反響した。
 まさしく鎧袖一触。
 たったの一振りが、千を超えるオブリビオンの胴体を泣き別れにしたのだ。

「オノレ!」
「単純! 狙いが丸分かり!」

 方天戟のリーチの分だけ開いた間合い。その間隙を涼鈴が一足で駆け抜ける。
 コンマ秒遅れて降ってくる菌の雨。斬り飛ばされて宙を舞ったキノコの上半身から、猛毒の胞子が落ちてきたのだ。
 涼鈴の背後で胞子が地面に触れる。汚染された雑草たちが腐って死んだ。
 嗅覚に異臭。吐き気を堪え、武器を握る指に力を込める。
 前方には冬虫夏草。胞子を操作しているのか、虚空に向けて腕を伸ばしている。

「殴り合いなら、こっちの土俵だ!」

 踏み切り。跳躍。軸を斜めに。腰を捻って、描くは稲妻。
 唐竹に叩き落された戟の強襲が、冬虫夏草を頭頂に直撃する。
 ずぶり、と粘菌の塊に刃が食い込んでいく手応え。
 腕力、重量、速度に遠心力。刃先に凝縮された運動エネルギーが、キノコ人間を真っ二つに両断した。

「一騎当千! 万夫不当! さぁ、万の兵でも私は止められないぞ!」

 意気軒昂。響き渡る大音声。
 身の丈を超える方天戟を軽々と回転させる涼鈴から、冬虫夏草が慌てて距離を取る。
 近距離戦は不利と悟っての判断か。
 生き残ったキノコの分身たちはいくつかのグループに別れて陣形を作ろうとしている。

「やっぱり単純だね! それも想定済みだよ!」

 方天戟の石突が大地に突き刺さる。
 杖にした得物を左手で支えつつ、涼鈴は右手の掌に謎めいた宝石を掲げた。
 宝石の名は、ダイナソウル。
 輝き、震えるその石をコアにして、無敵のティラノサウルス型マシンが召喚される。
 次元を破り、少女の隣に顕現するのは、鋼鉄恐竜・ギガレックス。……の首から先。

 涼鈴の指先が敵を示す。
 ギガレックスの機械の眼光が冬虫夏草の陣を睨み、鋼のアギトが大きく開いた。
 口腔内に輝くは鈍色の砲身。
 刮目せよ、これこそがギガレックスの必殺武装!

「ジェノサイド荷電粒子砲! 薙ぎ払えー!」

 眩い閃光が視界を白に染めた。
 猛烈な衝撃に空気が撹拌されて凄まじい音を響かせる。
 戦場を貫いた超強力な荷電粒子の奔流。
 痕跡さえも残す余地はない。
 冬虫夏草は陣形ごと飲み込まれ、消し飛ばされた。
 焼け焦げた大地に残ったのは、青白いスパークの残滓だけであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「この戦場なら、30m級で充分でしょう…行け、黄巾力士」
UCで黄巾力士を全長30m級まで巨大化
敵の攻撃はオーラ防御で防ぎ高度5m程度で飛行姿勢取らせ飛来椅のソニックウェーブで周囲を鎧無視の無差別攻撃で蹂躙する
燕花が巻き込まれそうな場合は冬季が飛行して抱え上げ戦域外へ連れ出す
冬季は上空で竜脈から力を吸い上げ黄巾力士を強化
黄巾力士の継戦能力高める

「燕花さん。どんな猛獣も修行して勝てるようになった相手は貴女にとって格下です。そして蛟や龍は探しても凡俗が巡り会える相手ではない。会ったばかりの私には言えないかもしれませんが。武を求めるなら、計るためでない、主体的な願いを求めた方が宜しいのでは?」



「マダダ! 我ハマダ滅ビヌ! 再演、忍法・影胞子!」

 怨念の滲む絶叫が野営地に低く響いた。
 バラバラに分断され、上半身だけで地を這う冬虫夏草から、か細い菌糸が伸ばされた。
 音もなく集まった菌糸たちが絡まり合い、新たな分身体を作り始める。
 しかし、その生成速度は明らかに鈍くなりつつある。残存する菌糸の量が足りないのだ。猟兵たちから受けたダメージにより、冬虫夏草の消耗は既に限界が近かった。

「クケ、ケ。術ハ機能シテイル。不足ハ菌糸ノ生産量カ。……屍ダ、屍ヲ奪ワネバ」

 状況を打開するためには菌糸を生産するエネルギー源が必要だ。
 誰でもいい、誰かひとりでも『敵』を殺害して、その死体に寄生さえすれば……。
 冬虫夏草の群体の思考は、至極当然の帰結を得る。
 殺す相手を選ぶなら、もっとも弱い相手を狙えばいい、と。

「ケケ! 空ダ! アノ英傑カラ襲エ!」
「っ、狙いは私ですか!」

 群体生物の強み。それは意思伝達の速さにある。
 司令頭脳が作戦を決めた瞬間、すべてのキノコ人間たちが一斉に空を見上げ、足に力を込めた。地上から伸ばされた殺意の視線が束になって燕花に突き刺さる。
 ぞわりと悪寒を覚え、咄嗟に高度を上げようとする燕花。しかし、彼女が身を翻すよりも早く、キノコ人間たちが超人的な勢いで跳び上がってきた。
 まるでロケット。極彩色の傘の群れがあっという間に距離を詰めてくる。

「逃げきれない……ッ」
「ケヒャ! 捕マエタゾ!」

 狂的な喜色を浮かべてキノコ人間たちが腕を伸ばす。
 白黒の道士服から覗く燕花のすらりとした脚。その踵を掴むまで、あと少し。
 ……無我夢中で獲物に指を伸ばす彼らは、もしかしたら既に思考の一部が欠落していたのかもしれない。
 忘れてはいないだろうか。兵力のすべてを燕花に向けるということは、猟兵にフリーハンドを与えるのと同義だということを。

 言うまでもなく、鳴上・冬季はこの隙を見逃すほど甘くはない。
 人型戦車の宝貝・黄巾力士の肩に乗り、妖狐の仙人はユーベルコードを起動した。

「この戦場なら、30m級で充分でしょう。……行け、黄巾力士」

 行使するは巨大化の術法。天を裂き大地を揺らして顕現するは、真・黄巾力士。
 想像してみて欲しい。
 突然目の前に30m、すなわち10階建てのビルに等しい巨人が現れる光景を。
 そして、その超重のボディが容赦なく自分に激突した先の結末を。

「ゲギャ!?」
「なんとぉ!」
「燕花さん、巻き込まれないでくださいね」

 残酷なまでの質量差。キノコ人間の一群がまとめてミンチと化す。
 ケバケバしい菌糸が舞い散るすぐ傍で驚嘆の声を上げる燕花。涼しい顔をした冬季は巨人の肩から飛び降ると、落下しつつ彼女を抱きかかえて回収、反転して天高く飛翔した。
 風の壁を突き抜ける感覚を味わいながら、到達したのは真・黄巾力士の頭部の隣。地上からは30m。追いすがる冬虫夏草さえもここからはひどく小さく見える。

「尋龍点穴。我が腕に龍脈は集う……」

 冬季はひょいと燕花を空中に放り、両の腕を大地と黄巾力士に向けて伸ばす。
 わたわたと態勢を整えた燕花が、何かに気づきハッと両目を見開いた。
 大地を流れるエネルギーラインが、冬季の身体を介して巨大宝貝に注がれていくのだ。
 視覚化するほどの強靭なオーラが黄巾力士を包んでいく。足元の冬虫夏草たちが振りまく有害な胞子さえも、その護りに阻まれて届くことはない。
 胞子攻撃では埒が明かないと悟ったか、生き残ったキノコ人間たちは冬季と燕花のところまで登りきろう蠢き始めた。
 しかし、その試みは無謀というもの。
 険嶽に挑むが如き彼らを冷たく見下ろして、冬季が両手を打ち鳴らした。

「行けぃ、黄巾力士! 今こそ飛翔せよ!」

 驚天動地! 冬季の指令に応え、真・黄巾力士が宙に浮く!
 地上5m、屋根の高さほどまで浮かび上がった黄金の巨体が、瞬間、眩く輝いた。
 直後、黄巾力士の姿が二重にブレる。
 残像を生み出すほどの高速飛行。超音速の衝撃波が冬虫夏草を一掃する。
 破山空裂。キノコたちの断末魔さえが音の彼方に消し飛んだ。

 まばたきの合間の制圧劇。蠢いていた敵意が消え果て、秘境に静寂が戻ってくる。
 燕花はもはや目を白黒させるしかない。目撃したのは、昨日までの想像を遥かに超える凄まじい力。世界とは、斯くも広いものなのか。

「燕花さん」
「ひゃい!」

 思わず背筋が伸びた。

「どんな猛獣も修行して勝てるようになった相手であれば、貴女にとって格下です。そして、蛟や龍は探しても凡俗が巡り会える相手ではない」

 黄巾力士を地上に降ろしながら、冬季が顎に指を当てて言う。

「会ったばかりの私には言えないかもしれませんが、武を求めるなら、計るためでない、主体的な願いを求めた方が宜しいのでは?」
「願い、ですか……」

 滔々と語られるその言葉に、燕花はじっと考え込む。
 まず浮かんだのは、昨今の普国の乱れよう。跳梁跋扈する亡者や妖獣の噂があちこちで聞かれるようになってすでに久しい。
 燕花とてこの地に住まうひとりとして、大地と民の安寧を願わぬ日はない。さりとて武勇に覚えがなくば、いたずらに怪異に挑むのは無茶無謀というもの。
 そう思い自分なりに修行を重ねてきたのだが、目の前の鍛錬に打ち込むあまり、もしかしたら当初の目標を見失っていたのかもしれない。
 少なくとも、冬季にはそう見えていたのだろう。

「やはり、この身は未熟。冬季殿、感謝致します。まこと、身の引き締まる思いです」
「さて、私はふと思ったことを口にしただけですが」

 かしこまった燕花の抱拳礼に、冬季はなんでもないように首を傾げて応えた。
 ……若き英傑の永き旅路は、まだまだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『昇龍鯉』

POW   :    昇龍の突撃
【滝をも登る勢いを乗せた】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【群れ】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    昇龍の はねる
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    昇龍の食慾
【吸い込むような食い付き攻撃】が命中した物品ひとつを、自身の装備する【消化管】の中に転移させる(入らないものは転移できない)。

イラスト:白狼印けい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 キャンプ地に襲い来るキノコ人間たちを無事に撃破した猟兵たち。
 しかし、休む間もなく彼らの耳は新たな騒動の種を聞きつけてしまう。
 騒がしい音の発生源は渓流の方角。すぐさま現場に駆けつけると、そこには驚くべき光景が待っていた。
 数え切れないほどの巨大な魚が、群れをなして川を遡っているのだ。

「あれは! まさか、昇龍鯉!?」

 同行する燕花が驚きの声を上げる。
「知っているのか?」と猟兵が問えば、彼女は頷き説明を始めた。

「長い年月を生きた鯉の瑞獣です。曰く、登竜門と呼ばれる滝を登りきれば、果には龍に至るとか。人界に現れるのは稀ですが、身を揚げて甘酢餡で仕上げた『糖醋昇龍鯉魚』が縁起物として有名で……って、いや、しかし、これほどの群れを見たのは、私も初めてですよ!?」

 燕花は困惑の表情を浮かべているが、猟兵であるキミたちなら理解できるだろう。
 瑞獣といえど、アレらはオブリビオンだ。おそらく元々は仙界に封じられていた存在なのだろう。まとまった数で現れたのは、封神台の破壊が原因に違いない。

「鯉は無胃魚、何にでも噛み付くのがサガと聞きます! お気をつけを!」

 燕花の鋭い警告。その言葉を証明するかのように、猟兵たちの姿を認めた昇龍鯉たちが、我先にと大口を開けて襲いかかってくる。滝登りの栄養源にでもするつもりだろうか。

 びちびちと活きの良い音がみるみる迫ってくる。
 戦場は川辺。敵のほとんどは水の中。
 荒れ狂う川面を前にして、猟兵たちは武器を構えた。



 ……ところで、もしかしたらキミたちは疑問に思うかもしれない。
「鯛じゃなくて、鯉?」と。
 その疑問は正しい。
 ちょうどその頃、とあるグリモア猟兵が次元の彼方で自身の伝達ミスに頭を抱えていたのだから。
堆沙坑・娘娘
鯛ならば清蒸魚や麻辣鱼にしようと品書きを考えていましたが鯉でしたか。鯉ならばやはり基本は糖醋鯉魚ですが流石にあの大きさでは…燕花、今、なんと?
糖醋昇龍鯉魚…あの大きさの鯉を丸揚げでき、尚且つ美味しく仕上げられる料理人がいるのですか…この世界にもまだ私の想像以上の達人がいるのですね。とても素敵なことです。世界は広い。異郷と繋がったとはいえ、私はまだこの世界の中でさえ未熟なのだと思い知らされる。(どこか感動しながら次々襲いかかる鯉の動きを先読みし敵の口を避けて【貫通攻撃】で迎撃し続けている)

燕花、素晴らしい知識をありがとうございました。
私も頑張って糖醋昇龍鯉魚を作ってみます!一緒に食べましょう!



「鯛ではなく、鯉でしたか……」

 駆ける、駆ける、流れに逆らい、上流へ。
 岩を跳び、飛沫を避けて、堆沙坑・娘娘は秘境の清流を遡行していく。
 流れる川の中に視線を向ければ、並走する昇龍鯉たちの鱗が輝いている。猟兵たちに敵意を向けつつも、瑞獣の群れの大部分は川登りを続けているのだ。
 おそらくは彼らにとって抗いがたい本能的な行動なのだろう。となれば自然、オブリビオンの逃走を防ぐため猟兵たちも彼らを追いかけて川上を目指さなければならない。
 重装備のパイルバンカーを抱えつつ、軽やかに岩場を走る娘々は、しかし、無表情ながらどことなく気落ちしたような様子だった。

「あの、鯛と鯉の違いがそんなに重要ですか?」
「そうですね……、鯛ならば清蒸魚や麻辣鱼にしようと品書きを考えていたのですが」
「……もしかして、キノコを焦がしたことをまだ気にしていたり」
「いえ、それはそれとして鯛料理も計画していただけのことです」

 心配そうに燕花が尋ねると、なんともあっけらかんとした答えが返ってきた。
 淡々と述べる娘々の様子に、大物だなぁ、と燕花は乾いた笑みを浮かべるほかない。
 燕花の実力を基準にすれば、昇龍鯉の1匹だって苦戦は避けられない難敵なのだが。

「ときに、先程の話は本当でしょうか」
「さっきの話というと『糖醋昇龍鯉魚』のことですか?」
「そう、それです! っと」

 喋りながら渓流の岩から岩へとジャンプした娘々。
 その真下の川面から、昇龍鯉が飛び出して彼女に襲いかかった。弾ける水飛沫の突き破り、無胃魚の大口がガバリと開く。
 ぼーっとしてれば丸呑みコース。その急襲に対して、娘々は空中で身体を捻り、昇龍鯉の分厚い唇に右手を引っ掛けることで対応した。
 フックにした右手を支点に視界がぐるりと回る。ムーンサルトの要領で勢いをつけて、娘々はそのままパイルバンカーを鯉の頭部にぶち込んだ。

 腹の底に響く重低音。
 炸薬の爆ぜる音と機巧兵器の駆動音が川面を震わせた。超至近距離で発射された大杭があやまたず鯉の頭に突き刺さる。
 ワンショット・ワンダウン。
 頭部を破壊されて沈んでいった昇龍鯉を確認しつつ、娘々は次の杭をリロードする。

「私も鯉ならばやはり基本は糖醋鯉魚だと思いました。ですが、流石にあの大きさでは丸揚げは難しいと諦めそうになっていたのです……。しかし!」

 何事もなかったように岩場に着地し、再び次の岩へとジャンプする娘々。
 表情は変わらないが何やら熱く語り出した彼女に、新たな昇龍鯉が襲いかかる。
 が、それも拙遅単調。娘々はまったく動じずに水中の影から襲撃を先読みして、今度は鯉が川面から顔を出した瞬間にパイルバンカーを叩き込んだ。

「糖醋昇龍鯉魚……、あの大きさの鯉を丸揚げでき、尚且つ美味しく仕上げられる料理人がいる。つまりはそういうことなのですね、燕花」
「ア、ハイ。なんでも特級厨師の中には大型の獣を専門に扱っていて、調理用の超級大型鍋を所有している人もいるとか」
「……この世界にもまだ私の想像以上の達人がいるのですね」

 ほぅ、と娘々はささやかな感嘆の息を漏らした。
 次々と襲い来る昇龍鯉にカウンターでパイルバンカーをクリティカルさせながら、彼女は胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 猟兵たちの探訪により、封神武侠界は異郷の世界と接続された。
 しかし、それでもなお、この世界は斯くも広いものなのか。
 知らないもの、見たことのないもの、やったことのないこと……、果てしなく広がる大地の懐に広さに、娘々は己の未熟を思い知らされる。
 胸中に宿るのは、不安ではなく喜び。そうでなくっちゃ、面白くない。

「燕花、素晴らしい知識をありがとうございました」

 次々と昇龍鯉の頭に風穴を開けながら、娘々はほんの少し口元をほころばせた。
 ひいこら言いながら後を追う燕花の腕を掴み、ぐいと強く引き寄せる。

「私も頑張って糖醋昇龍鯉魚を作ってみます! 一緒に食べましょう!」
「……はい! じゃあ、おっきな鍋を用意しないとですね!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

徐・世
ふむ、鯛ではなく鯉か。まあどっちでも構わん、水・飛行タイプに進化する前に烤魚にしてやろう。…と言いたい所だが、正直またサボりたい。水中とかダルいし。どーしようかのー

む、また閃いた。仙界で買った雷公鞭を燕花に渡して、天人飛翔を使うよう頼むぞ。回避率上昇を利用しつつ鯉どもを誘き寄せてもらおう。わしは遠間から球宝貝を【投擲】して最低限の援護はしよう
あとは十分に鯉を引きつけた燕花が、雷公鞭のボタンを押して雷撃を発射するだけじゃ。イオンを含む自然の水の中なら、より広範囲に雷ダメージを与えられよう

かっかっか、入れ食いとはまさにこの事。これでサボ…無駄な労力をかけることなく倒せるという訳じゃ。わしかしこい。



「ふむ、鯛ではなく鯉か……」

 荒れ狂う水面の白波を眺め、徐世は腕を組み「むむむ」と唸る。
 ……唸ってみてはいるのだが、実のところ本気で考え込んでいるわけでもない。魚の種類など些事も些事。鯉と鯛とで攻撃手段が変わるわけでもなさそうだし、気にしたってしょうがない。
 それでもついつい意味深なポーズを作ってしまうのは、もしかしたら仙人のサガなのかもしれない。

「まあどっちでも構わん。水・飛行タイプに進化する前に烤魚にしてやろう」
「確かに、龍に変じて空を舞うようになってしまえば、余計に厄介ですものね」

 軽い調子の徐世の台詞に、燕花が真面目な表情で頷く。
 やる気満々の英傑の横顔をちらりと見つめ、徐世は腕を組みつつ胡乱に眉を傾けた。
 胸中にふわりと生まれたのは悪戯心か、それとも先達としてのお節介か。

「……と言いたいところなんじゃが」
「え?」
「正直またサボりたい。水中とかダルいし。どーしようかのー」
「徐世殿!?」

 だるーんといった雰囲気を醸し出した徐世を見て、燕花があたふたと慌て出す。
 自分一人では昇龍鯉の群れに対処しきれないことを燕花はきちんと理解しているのだ。己の力量を知り、敵の戦力を的確に把握する。それもまた得難き能力だろう。
 されども、ときに獅子は我が子を千尋の谷へと落とすというもの。徐世はおもむろに口元をたわませてにやりと笑みを浮かべた。
 そう、たまには後進に花を持たせるというのもアリかもしれない。

「む、また閃いた」
「……あの、なんでしょう、そんな私の顔をじっと見て」

 仙人らしい万里を見通すかの如き笑顔を目にして、燕花がぴたりと動きを止める。
 不安そうなその顔に向けて、徐世は取り出した『武器』をひょいと放り投げた。
 放物線を描いたソレを慌ててキャッチした燕花は、軽くしなやかなその『鞭』に思わず目を見開いた。

「これは、宝貝!」
「そう、その名も雷公鞭! 仙界で買ったお土産……、もとい、伝説の武器じゃ!」
「今お土産って言いましたよね!?」

 説明しよう! 雷光鞭とは、知る人ぞ知る仙界の最強宝貝のひとつである!
 ……当然のことながら、いくら仙界といえどもそんな伝説の武器がぞんざいに販売されているわけもなく、徐世が所有しているのはそのレプリカである。
 しかし、レプリカだろうと宝貝は宝貝。人界の英傑である燕花にとっては、滅多にお目にかかれない強力な武装だ。徐世の戯言にツッコミを入れつつも、手中の武器から感じる力強さに、彼女の胸は否応にもときめいてしまっている。

「細かいことは横に置いておくのじゃ。今はそれよりも……、ほれほれ、鯉どもがおぬしに熱い視線を向けておるぞ」
「ひゃっ! ああもう、あとで覚えておいてくださいね!」

 徐世が仙人歩法でするりと川から距離を取った。
 昇龍鯉のまんまるお目々がぎょろりと動く。食欲旺盛な彼らは、迷うことなく手近な位置にいる燕花へと狙いを定めたのだ。

 少女拳士は口を尖らせながら地を蹴り、宙に舞う。
 天人飛翔。高度はおおよそ1m。跳ねれば届きそうなその距離感に、昇龍鯉の群れが我先にと襲いかかる。
 ビチビチとうねる魚体。しっちゃかめっちゃかに弾ける水飛沫。底なしの暗闇が広がる無数の大口を前にして、燕花の頬が引き攣った。
 迎撃しようにも迂闊に手を出せば他の個体に呑み込まれるだけ。燕花は冷や汗を流しながら必死で回避に専念するしかない。

「わっ、ととっ」
「そのまま上手いことおびき寄せるのじゃぞ!」

 混沌とした主戦場から距離を取り、徐世は狂乱の魚群に瑠璃星と翡翠珠を投げつけた。
 水面すれすれを滑るように飛翔した宝貝が、鯉の胴体を撃ち抜き、渓流の大岩を砕く。
 轟音とともに粉々になった岩礫が、スコールのように昇龍鯉の群れに降り注いだ。
 ドシャドシャと水と岩とが弾ける音が連続で響く。
 空から落ちてきた凶器に打ち据えられ、複数のオブリビオンがまとめてノックアウトされる。しかし、どれだけ仲間が倒されようとも、鯉たちの食欲に翳りはない。清流に混じった岩の欠片さえ呑み込みながら、彼らは空中の燕花に突撃を繰り返している。

「岩まで喰らうか。まこと見境なしの食欲よな!」
「その貪食の囮にされている私の立場は!?」
「焦るな焦るな。よいか、もう少し群れを引き付けてから……」

 最低限の援護を繰り出しながら、徐世は燕花を鼓舞しつつタイミングを計る。
 昇龍鯉たちの我慢が限界に達し、互いにひしめき合いながら撹拌された水中でひとところに身を寄せ合う、その一瞬を。
 猛烈な勢いで跳ね上がった一匹の昇龍魚。その突進を燕花がすんでのところで躱し、獲物を逃した怪魚が水面に落ちて同族たちにもみくちゃにされる。
 その瞬間、徐世が叫んだ。

「ようし、燕花よ! 今こそ雷公鞭のボタンを押すのじゃ!」
「くっ……、これですね! 委細承知!」

 燕花の腕が雷光鞭を振り下ろすと同時に、握りに設えられたボタンが押下された。
 直後、ほとばしった稲光が視界を灼く。
 鞭を介して放たれたのは無双の雷撃。レプリカと侮るなかれ。その威力は雷光鞭の名を冠するに恥じぬだけのものがある。
 ひとたび鞭先を渓流に叩きつければ効果は覿面。バチバチとけたたましい音が鳴り響き、燕花の周囲に集まった昇龍鯉たちは容赦なく電撃の餌食となった。
 川面から上がる白い蒸気。一拍遅れて、昇龍鯉がぷかりと白い腹を見せて浮かぶ。
 水の香りに混じって、焼き魚のような匂いさえ漂ってきた。

「かっかっか、入れ食いとはまさにこの事!」

 呵々大笑、徐世が腰に手を当てて胸を張る。
 肩で息をする燕花が、恨めしげにその笑いっぷりを半目で睨んだ。

「これでサボ……、否、無駄な労力をかけることなく群れを倒せるという訳じゃ」
「いや、今更取り繕っても。徐世殿が面倒くさがりなのは、身を以て理解しましたので」
「何を言おう。少ない労力で大きな成果を上げるのが兵法の真髄よ。わしかしこい」

 堂々とそう言われると反論しにくい。
 華々しい戦果は徐世の助力のおかげ。それは理解しているのだが、どことなく釈然としない燕花だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴上・冬季
「ふむ、貴女はずいぶん引きが強い。どうです、一匹見逃して、竜になるのを待ちますか?」
笑う

「…そうですね。害獣を倒したいと言った貴女が、この提案に同意したら、私の方が驚きます。それでは少々時間をいただいて、全滅させるとしましょうか」
嗤う

「黄巾力士、空中から制圧射撃で群れの進行を調節しながらこちらへ鯉を引き付けなさい。私から合図があったら、燕花を連れて私の横を全速ですり抜けなさい」
鯉の進行方向に八卦天雷陣を複数重ねて群れ全体が入りそうな複合陣作成
「来なさい、黄巾力士!」
「…万象流転し虚無に至れ!」
黄巾力士と燕花が術範囲を抜けたらUC使用
群れを颶風で鏖殺する

「貴女の望む強さは、仙とは違うでしょう?」



 果てなき大河を遡り、登竜門に至る。
 その試練に挑めるのは幾億の名もなき鯉の内、万に一つか、はたまた億に一つか。
 なればこそ、昇龍鯉は縁起物であり、ときに出会うことすら強運であるとされるのだ。

「ふむ、貴女はずいぶん引きが強い」

 水中に群れなす鯉の影を見て、鳴上・冬季がシニカルに笑う。

「どうです、一匹見逃して、龍になるのを待ちますか?」
「否! 人界に仇なす可能性がある以上、見逃すわけにはいきません!」

 彼の問いにきっぱりと首を振り、燕花が拳を構えた。
 迷いなく、そして凛とした彼女の立ち居振る舞いに、冬季は軽く肩を竦めて応える。

「……そうですね。害獣を倒したいと言った貴女が、この提案に同意したら、私の方が驚きます。それでは少々時間をいただいて、全滅させるとしましょうか」
「準備の時間を稼げばよいのですね? しからば!」

 気炎万丈、少女拳士が宙を駆ける。己が持つ唯一の異能、天人飛翔を頼りにして、彼女は昇龍鯉たちを牽制し始めた。決して深追いはしない。というか、できない。跳ね回る怪魚の群れの中、少女の四肢が慎重に拳打蹴撃を繰り出している。
 その混戦から少し離れて、冬季は冷笑を浮かべた。酷薄なその瞳が捉えているのは、燕花か、それともオブリビオンか。彼はすっと戦場を指差して、傍らに佇む人型戦車に指示を送る。

「黄巾力士、空中から制圧射撃で群れの進行を調節しながらこちらへ鯉を引き付けなさい。私から合図があったら、燕花を連れて私の横を全速ですり抜けなさい」

 返答は金属の擦れる駆動音。
 砂埃を舞わせて浮かび上がった黄巾力士が、縮地の如く渓流の直上へと飛翔した。
 風の破れる音が戦場に響く。同時に、冬季は渓流の川上に向けて駆け出した。

 深山の川縁は峻厳。冬季はいくつもの角張った大岩を一足で飛び越えていく。
 背後からは連続した射撃音が聞こえてくる。黄巾力士の宝貝・金磚による威嚇射撃だ。
 指示したのは遅滞戦術。近接戦の燕花と射撃戦の黄巾力士。彼女たちが協働すれば十分に昇龍鯉を足止めできるだろう。
 値千金、生まれた時間の猶予を使って、冬季は上流に罠を張る。

「木火土金水相生せよ、木金火水土相勝せよ。相乗せよ相侮せよ」

 川の中心で急流を二つに裂く大岩。
 その天頂に将の如く立ち、帥の如く指先を伸ばす。
 描くは五行。重ねるは八卦。
 筆起招雷。呼ばうは颱風。

「生ぜよ滅せよ比和せよ比和せよ比和せよ比和せよ……。来なさい、黄巾力士!」

 陣成りて号を発す。
 揺らめく川面には薄明の霊陣。波と陽光にきらめくその領域を目掛けて、すぐさま下流から黄巾力士が飛んできた。金色の剛腕の内には、抱えられた燕花の姿。直撃した風圧に思いきり顔を顰めている。
 金色の弾丸は速度を緩めず陣の上をすり抜けた。冬季の真横を猛スピードで機体が通り抜け、遅れて轟々と突風が追いかけていく。

 されども、冬季の視線は動かず。見据えるのは川下から現れる影のみ。
 透き通った水の流れに、黒い魚影が蠢く。我先にと揉み合いながら、無数の昇龍鯉が渓流を遡ってくる。彼らは脇目もふらずに直進し、冬季の陣になだれ込んだ。
 刹那、冬季は点睛を穿った。

「……万象流転し虚無に至れ! 八卦天雷陣・万象落魂!」

 落ちる、という言葉が相応しい。
 構築された仙術陣地に発生したのは、高空から叩きつけられた颶風だった。
 魂魄ごと冥府に突き落とすようなダウンバースト。
 複数の陣を重ねたその威力は如何ばかりか。インパクトの瞬間、秘境の渓流は圧力に弾け、川底の土砂さえもが顕になった。水、岩、砂、そして風。すべてがミキサーのように掻き回されて、それぞれが鋭利な鋒となる。
 その渦中で巻き起こったのは、まさしく鏖殺だった。

「これが、妖仙の術法……。いったいどうすれば、これほどの領域に至れると……」

 黄巾力士の腕の中で燕花が絶句する。
 空中で膾切りにされた昇龍鯉たちがボトボトと川に墜ちていく。
 血風が吹き荒れ、臓腑が流れに浚われる凄惨な絵図。
 その描き手は、変わらぬ冷笑を以って彼女に首を傾げた。

「貴女の望む強さは、仙とは違うでしょう?」
「そう、なのですが……。それでも、震えが止まりません」

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
キノコの次は鯉! 今度は食べられるヤツだね!
レベルを上げてドラゴンに進化するために私たちを食べる気だな!
逆にこっちが食べてやるぞー!

【ジャンプ】で背中に飛び乗る!
嫌がってビチビチ飛び跳ねるのを利用して移動! ロデオごっこだ!
覇王方天戟をぶんぶん振り回して周りの鯉の頭をぶっ叩く!(重量攻撃)
鯉を捌くときは頭を叩いて気絶させるって聞いたよ!

結構手間のかかる料理みたいだし、全部をそれ用に確保しなくてもいいよね
他はまとめて……練り上げた闘気(覇気)を掌打から解き放つ! 【劉家奥義・祝融禍焔掌】!!
焼き魚にしてやる!!



 瑞獣・昇龍鯉。
 伝承に語られるこの怪魚は、意外にも仙術に類する技を扱えるわけではないらしい。
 では、彼らはどうやって激流を遡り、あまつさえ登竜門の瀑布を乗り越えるのか。
 答えは単純。彼らの破天荒な生き様は、生物としての強靭さに支えられているのだ。

「キノコの次は鯉! 今度は食べられるヤツだね!」

 劉・涼鈴は掌で拳を打ち鳴らす。
 そう、昇龍鯉は可食の魚。伝え聞くところによれば、ギュっと詰まった激流を物ともしない筋肉が、そこらの川魚とは一線を画す濃厚な食べごたえを生み出すのだとか……。
 もっとも、伝聞は伝聞。『糖醋昇龍鯉魚』は縁起物として伝わっているが、果たして実食したことのある者が人界にどれだけいるのやら。常人がうっかり昇龍鯉と遭遇しようものなら、自身が彼らの餌になってしまうことのほうがよっぽど多いだろう。

「ドラゴンに進化するために私たちを食べる気だな! 逆にこっちが食べてやるぞー!」

 奈落の大口を開けて迫りくる怪魚の群れに、涼鈴は覇王方天戟を構えて啖呵を切る。
 流れる風は涼。太陽は高く、日差しは強い。波打つ川面が銀色に輝いている。
 先頭を泳ぐ昇龍鯉が水面から飛び出した。光を弾いて水飛沫が眩く輝く。
 滝をも登る猛突進。相対する涼鈴は地を蹴り、放物線を描いた怪魚の軌跡よりも高くジャンプする。

「ロデオごっこの時間だ!」

 交差の瞬間、涼鈴の左手が昇龍鯉のヒゲを掴んだ。
 これが手綱代わりだと言わんばかりにヒゲを引き寄せた小柄なシルエットが、怪魚の背中に飛び乗り、ぬめった魚鱗を穿脚で凹ませて鐙とする。
 当然、脚下の怪魚は大暴れ。荒々しく水面を跳ね回るその魚体を、涼鈴はヒゲを引っ張ることで強引にコントロールしていく。

「鯉を捌くときは! 頭を叩いて気絶させる!」

 左手に手綱、右手に方天戟。となれば当然、進路はいつだって左回り。
 さながら台風。歪に渦を描く軌道に乗って、長柄武器の重打が吹き荒れる。
 騎魚(?)の跳躍に連動させた振り上げと振り下ろし。涼鈴の膂力に怪魚の速度と体重までが乗算された一撃は、えげつないほどの威力に達していた。
 ヒットして気絶で済めばマシなほう。食い込んだ矛先は容易く頭蓋を砕き割り、横から殴りつければ怪魚の巨体が悠々と陸地までぶっ飛ばされた。
 低く重い打撃音の連打。輝く水飛沫に血潮が混じる。
 その暴威の中心で、涼鈴は無邪気な笑みを浮かべていた。

「食材はこのくらいでいいかな? それじゃ、あとはまとめて……!」

 不意に、彼女は足元の怪魚の頭部に方天戟を叩きつけた。
 ビクンと痙攣し、ひときわ高く跳び上がった昇龍鯉。絶命の瞬間にその背を蹴り、涼鈴は天高く舞い上がる。
 空中で反転し、眼下の清流を睨む。怪魚に跨って円運動を繰り返した影響か、渓流にはいつの間にか轟々たる渦潮が生まれていた。目を凝らせば、生き残った昇龍鯉たちが洗濯機に放り込まれたかのように渦の流れに巻き込まれているのが見える。

「いくぞ! これが劉家拳の奥義がひとつ!」

 喚声と共に覇気を練る。
 全身に充溢した闘気を凝縮し、大きく広げた右の掌に乗せる。
 重力が彼女を掴む。加速度に従って、真っ直ぐ落ちるは渦の上。
 突風が頬を切る。ほのかに水の香り。息を止め、丹田に気合を入れる。
 みるみる近づく水面。闘気に満ちた掌をかざし、力の限り叩きつけた。

「焼き魚にしてやる! ――祝融禍焔掌っ!」

 まさしく絶技。
 渾身の掌打が渦潮の中心に炸裂した瞬間、爆音が轟き、『水が燃えた』。
 焼き魚という言葉に偽りなし。渦は炎の竜巻と化し、昇龍鯉たちをまとめて焼き払う。

 炎に包まれた昇龍鯉に、もはや生き残ったモノは無し。
 超高熱が生み出した水蒸気が白い霧となり視界を覆う。
 そのカーテンを切り裂いて、川底から跳躍した涼鈴は川縁の大地に降り立ったのだった。

「これにて一件落着! なんちゃって」



 その後のことを少し語ろう。
 オブリビオンの軍勢を退けた猟兵と燕花は、運良く原型を残した昇龍鯉を背負い、秘境から近場の街へと下山した。
 町人から驚きをもって迎えられた彼らは、なんやかんやで大鍋と大量の油、その他の素材を入手して、念願の『糖醋昇龍鯉魚』の調理に成功したのだった。
 からっとした昇龍鯉の姿揚げにたっぷりの甘酢の餡掛けをまぶした豪快な一皿は、ひとたび口にすれば、まさに天にも昇る心地を味わうことができるだろう。
 
「此度の助力、感謝に堪えません。今日一日で、己の未熟を痛感した。しかし、いずれは皆さんの助けになれるよう、これからも精進を重ねたいと思います!」

 ほくほくの魚肉に箸を通すキミたちに向かって、燕花が頭を下げる。
 若き英傑の瞳には、武の探求における新たな目標の灯火が明々と燃えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年08月15日


挿絵イラスト