9
月に奔るは燭影

#カクリヨファンタズム #猟書家の侵攻 #猟書家 #嫦娥 #UDCエージェント #石抱きの井戸

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#猟書家の侵攻
🔒
#猟書家
🔒
#嫦娥
🔒
#UDCエージェント
🔒
#石抱きの井戸


0




●月の満ち引き
 カクリヨファンタズムとUDCアースがつながっていると言われるのは、世界同士が隣り合っているからである。
 かつて妖怪や竜神たちは人々の信心や存在を恐れる感情によって生きていた。
 しかし文明の発達に寄って人々は徐々に妖怪たちの存在を忘れ、恐れなくなっていった。そうなってしまえば、生きるための力を失い妖怪たちは消滅してしまう。
 その消滅の憂き目を回避するために世界を渡り、カクリヨファンタズムへと至った。そのため、今でも『石抱きの井戸』は名残として残っているのだろう。

 その『石抱きの井戸』の前に一人の猟書家が立つ。
 天女の如き羽衣を身にまとい、妖しく微笑む姿は、その美貌と相まって妖艶そのものであった。
「なるほど。妾の『かつての肉体の断片』はやはりUDCアースにあると見える。未だカクリヨとUDCアースの繋がりが絶たれていないことが妾にとっては僥倖よ」
 彼女の名は『嫦娥』。
 オウガ・フォーミュラの目論む『閻魔王』の獲得を実現すべく、かつての己の肉体を取り戻すために、月に封印された己を骸魂へと変えてカクリヨファンタズムに降り立った猟書家である。

「しかし、詳細な位置がわからぬのは癪に障る。どこぞの不敬ものが妾の肉体の断片を隠しておるな……ならば」
『嫦娥』は邪神としての力を持って、骸の月を模したであろう『小型の骸の月』の持つ引力を引き出し、UDCアースに感じる己の『肉体の断片』が在るであろう街にまるで見えぬ糸を手繰るようにして引き寄せる。

 瞬間、彼女はカクリヨファンタズムにいながらにして、UDCアースの一地域、街の一つをまるごと引き寄せたのだ。
「ちまちま探すのは性に合わぬ故な。妾の『肉体の断片』を有する街一つをまるごと喰らえばよろしい。さて、それにしては人間の多いこと。余計なクズまで飲み込むには妾の舌は繊細……なればこそ、お前達の出番じゃ」
『嫦娥』は己のもとに集まった骸魂たちを解き放ち、カクリヨファンタズムに暮らす妖怪たちをオブリビオン妖怪へと姿を変えていく。
 それは影でできた狼のようでもあり、また妖しく煌めく宝石のような体を持っていた。
 彼等を使役する『嫦娥』は命ずる。
 彼女がクズと呼ぶUDCアースの街に生きる人々を鏖殺せしめ、己の『肉体の断片』を回収することを阻む全てを排除するようにと。

 それはおぞましき大量虐殺の始まりを告げるものであった――。

●UDCエージェント
 その様子をUDC組織のエージェントたちは見て驚愕し、同時に即座に理解したのだ。
 これが非常事態であり、街一つがまるごと移動させられたという未曾有の事態であることを把握し、何故、この地域が引き寄せられたのかを推察する。
「……邪神の仕業であることは言うまでもない。だが、何故街ごと移動させる……?」
「何か目的があったのか、もしくは大雑把にしか力をふるえないのか?」
「この支部にあるのはUDCオブジェクトだけ、となると……うっ!?」
 エージェントたちがUDC組織支部にて事態の把握に奔走している時、彼等の目に写ったのは、この支部に保管されている『UDCオブジェクト』がゆっくりと、けれど保管庫の壁など無いが如く通り抜け移動を開始している光景であった。

「――!? 移動している!? か、隔壁をおろせ! 全てだ!」
「ダメです! 隔壁すらも透過して移動しています! 人員が向かっていますが、触れても其処から透過していきます!」
「引き寄せられている……というのか!」
 エージェントたちが呻く。
 ただでさえ、街まるごと一つがカクリヨファンタズムへと移動しているという緊急事態。
 さらには厳重に保管していたUDCオブジェクトさえも何者かに奪われようとしている。
「エマージェンシー、レッドシグナルを発令せよ! 我々は猟兵と即座に共同戦線を構築し、この事態の終息に尽力するのだ――!」

●UDCを喰らうもの
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回はカクリヨファンタズムに現れた猟書家『嫦娥』の引き起こした緊急事態をの終息に皆さんを送り出さなければなりません」
 ナイアルテは、事の緊急性を伝えるように矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
 ついにカクリヨファンタズムにも猟書家の侵攻が始まったことは記憶に新しい。
 だが、今回の事件はカクリヨファンタズムだけでなくUDCアースにも影響を及ぼしているのだ。

「ある街一つがカクリヨファンタズムに『石抱きの井戸』を通じて移動させられ、オブリビオン妖怪によって人々の大量虐殺が……起こってはいません」
 一瞬、どういうことだと猟兵達は訝しむ。
 そう、オブリビオン妖怪たちはカクリヨファンタズムにおいてUDCアースの街の人びとが自分たちを認知したことに喜び攻撃を加えてこないのだ。
 けれど、猟書家『嫦娥』の目的である『かつての肉体の断片』を手に入れる為、猟兵の姿を見れば襲いかかってくる。

「これらを蹴散らし、現地のエージェントたちと協力し、人々を守らねばなりません。そして、『嫦娥』の目的であるUDCオブジェクトはゆっくりとですが、全てを透過し彼女の手に引き寄せられています。これを止めることはできず、戦いは時間との勝負になるでしょう」
 つまり、UDCオブジェクトが『嫦娥』の手に引き寄せられる前に決着を着けなければならないということなのだ。
「そのとおりです。皆さんならば、この時間制限の中でも十分に目的を達せられると私は信じております。どうか――」
 お願いいたします、とナイアルテは頭を下げ、猟兵たちをカクリヨファンタズムに移動したUDCアースの街へと転移させるのであった――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※このシナリオは二章構成の猟書家シナリオになります。
 ※この世界のオブリビオンは「骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの」で、倒せば救出できます。
 ※が、猟書家はそうじゃないので、普通にやっつけましょう!

●第一章
 集団戦です。
 街一つをカクリヨファンタズムに移動した『嫦娥』の配下であるオブリビオン妖怪たちは、人々を襲うことはしませんが、猟兵には攻撃してきます。
 エージェントたちは人々の保護を優先し、皆さんとの共同戦線を構築しています。彼等にもオブリビオン妖怪は見えていますので、指示を出せば言うとおりに動いてくれるでしょう。

 オブリビオン妖怪を蹴散らし、UDCオブジェクト……即ち猟書家『嫦娥』の『かつての肉体の断片』が彼女の手に移動し切ることを防がねばなりません。

●第二章
 ボス戦です。
『嫦娥』は不思議な力でもって『肉体の断片』を引き寄せ続けています。
 ゆっくりとした速度でありますが、あらゆる物体を透過し、妨害の手段はありません。故に、これは時間制限との戦いでもあるえしょう。
 エージェントたちと連携し、断片を回収される前に『嫦娥』を倒しましょう。

 ※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。

 プレイングボーナス……UDCエージェント達と協力する/人々を守る。

 それでは、カクリヨファンタズムとUDCアースの街、それぞれを守る皆さんの物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
273




第1章 集団戦 『幽み玄影』

POW   :    黒曜ノ刃ニ忘ルル
【集団で暗がりからの奇襲】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【名前とそれにまつわる記憶を奪い、その経験】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    願イハ満チ足ラズ
戦闘中に食べた【名前や記憶】の量と質に応じて【増殖し、満たされぬ執着を強め】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    名モナキ獣ハ斯ク餓エル
【群れの一体が意識】を向けた対象に、【膨大な経験と緻密な連携による連撃】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:枢真のえる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒曜石でできた獣。
『幽み玄影』と呼ばれる名を持たぬ獣のあやかしが呼び寄せられたUDCアースの街中に走る。
 その姿は猟犬そのものであり、主である『嫦娥』の命に従い、そこに住まう人々に牙を突き立て、大量虐殺を繰り広げる――はずだった。
 それ以前にオブリビオン妖怪はUDCアースでは『UDC-Null』と呼ばれる存在である。本来ならば人々に認識されることはなかったのだ。
 けれど、UDCアースの街が一つまるごとカクリヨファンタズムに移動させられたことにより、人々はオブリビオン妖怪の姿を認識してしまっていた。
「きゃああ――ッ?!」
「な、なんだあれ!? い、犬!? いや、違う黒い石で出来た……なんだよあれ!?」
 人々は次々と現れる『幽み玄影』の姿を認識し、スマートフォンを構える。
 あまりにのんきな姿であった。

 しかし、『幽み玄影』たちは人々を襲わない。
 ここに『嫦娥』の誤算があった。
 そう、妖怪たちは自分たちの姿を認識されることに最大の喜びを見出す。それは己達の存在を人びとが忘れて久しいからであり、認識されるだけで彼等は嬉しくなってしまうのだ。
 猟兵たちが妖怪たちを認識でき、その事実に妖怪たちが喜んだのと同じである。
『幽み玄影』たちは、奇異の視線を向ける人々を前に、オブリビオン妖怪でありながら人々に認識された喜びに震え、彼等を殺すことが出来ないでいるのだ――。
ミアステラ・ティレスタム
このような事態が起こり得るなど…
今一度、気を引き締め直さねばなりませんね
彼等が人々を襲わないのは助かります
ええ、彼等はもとは妖怪ですものね
こんな状況でも彼等が彼等らしくあることに、ほっとしております
ゆえに勝算は此処にある、と

エージェントの皆様、人々の保護を宜しくお願いいたします
戦いの地よりお早く離れられますよう
猟兵から遠ざかることが人々の安全へと繋がるでしょうから

わたしは彼等を引き付けましょう
聖者の光から生み出した星の欠片を利用
青く白く耀く星を彼等の周囲にちりばめて
幻想の光で彼等の意識を星の欠片へと向けましょう
此れは聖なる光、貴殿方を救うための光
そして猟書家『嫦娥』の目論見を打ち砕くための一手



 カクリヨファンタズムに現れたUDCアースの街。
 それはカクリヨファンタズムという、どこか懐かしさを感じさせる世界にあっては違和感のない光景であったのかもしれない。
 けれど、UDCアースに住まう人々にとってはそうではない。
 突如現れた非日常に人々は戸惑いながらも、スマートフォンを構える。その姿は人という生命の順応性の高さを知らしめるには十分なものであったけれど、この状況ではあまり褒められたものではなかった。

 黒い獣、黒曜石の体を持つ『幽み玄影』たちは、唸り声を挙げながら人々をねめつける。けれど、彼等が一斉に人々に襲いかかることはせず、ただ唸り声をあげているのは威嚇ではなかった。
 そう、彼等はオブリビオン妖怪である。
 彼等は本来人の瞳に認識されることはない。それが今、叶ったという事実がオブリビオン化した今でも妖怪たちの心を喜びに満たしていたのだ。
「このような事態が起こりえるなど……今一度、気を引き締め直さねばなりませんね」
 ミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)は、その光景に少し微笑む。

 こんな状況であっても、『幽み玄影』が人々を襲わぬのは、助かるというものである。彼等がもとは妖怪であり、彼等が彼等らしくあることに、ほっとしているのだ。
「エージェントの皆様、人々の保護を宜しくお願いいたします。戦いの地よりお早く離れられますよう」
「了解した。少し時間がかかるかもしれないが…頼まれてくれ」
 彼女は共同戦線を張っているUDC組織のエージェントたちに声をかけ、人々に避難を呼びかける。
 未だ襲ってこない『幽み玄影』をいいことに人々はスマートフォンを向けて動画を撮ったり写真を撮ったりに忙しい。
 これでは確かに避難に時間かかるであろう。

 本来であれば、そのようなことをしている悠長な暇はないのだが、それでもミアステラは猟兵から離れることが人々の安全を守ることに繋がると信じ、駆け出す。
「祈りを以て聖奏の時を齎しましょう」
 彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 聖者の光から生み出した星のかけらが次々と周囲に散りばめられていく。青く白く輝く星はミアステラの姿を認め、彼女を追う『幽み玄影』たちを取り囲んでいく。
 幻想為る光を生み出したのがミアステラであるとわかると彼等は、猟兵である彼女を排除せんと疾走る。

 それが彼女の狙いでもあった。
 自分を狙い、人々からオブリビオン妖怪を引き離す。
 そして、彼女の目的hはそれだけではなかった。彼女の放つユーベルコード、その力は強大そのものであり、攻撃の余波に人びとが巻き込まれかねない。
「此れは聖なる光、貴殿方を救うための光」
 祈りは力と変わって、ユーベルコードの輝きを解き放つ。
 予め撒き散らされていた星の欠片は、注意を惹きつけるためだけではなく『幽み玄影』たちを一箇所に集めるためのものであった。

 星の欠片が紡ぐ円は彼女を負ってきたオブリビオン妖怪たちをぐるりと取り囲む檻そのものであった。
「そして猟書家『嫦娥』の目論見を打ち砕くための一手……人々に認識されて喜ぶ貴殿方の心根……それは決して利用されてよいものではないでしょう。そして人々を傷つけ、滅ぼすかもしれない力の一端を許さないでしょう」
 だからこそ、紡がれるのは聖奏詩(トナンテ)である。
 ミアステラの祈りによって放たれるのは星より降り注ぐ神聖なる雷の一撃。

 極大なる輝きは、まるで光の柱のようにカクリヨファンタズムあるUDCアースの街を一瞬で白く染め上げる。
 夜の帳さえも切り裂く雷の一撃は一瞬で黒き獣の影、骸魂と妖怪たちを分裂させ、彼等を救うのだ。
「邪神……貴女の目論見通りにはいかせません。月に封じられているというのならば、その肉体の一片たりとて取り戻させはしません」
 人々の安寧を守るために。
 ミアステラは、そして妖怪たちのどこか憎めない、優しい一面を知るからこそ、『嫦娥』の計画を阻止するために戦場と成った街中を駆けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
街一つ移動できるのに、オブジェクトを即手に入れられないのは強い割には、と矛盾してるように思いますが……猟書家と言えどこの世界では妖怪のような物。妖ならではのルールに縛られているようなものなのでしょうか?

エージェントの方々には保護を優先して貰います。そうしていただければ私としても動きやすいですし。
あえて姿を現してこちらに意識を向けて貰います。すかさずUC雷公天絶陣を自分の周囲中心に放ち敵の攻撃を迎撃しつつ雷で攻撃します。
雷にはマヒ攻撃ものせ多くを行動不能に持ち込むようにします。
人を襲わないとはいえ万が一とあるかもしれませんし、倒せば助けられるとはいえ傷がないにこしたことはありません。



 猟書家『嫦娥』の力は嘗て邪神と呼ばれた存在に相応しい強大なものであったことだろう。
 異なる世界の街一つを別の世界に移動せしめる力は尋常ならざるものであった。
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)もまたそのように考えていたが、街一つを移動することができるのに、『かつての肉体の断片』たるUDCオブジェクトを即座に手に入れることが出来ないのは邪神としての強大さとは矛盾しているように思えてならなかった。
「何か猟書家と言えど、この世界では妖怪のようなもの。妖ならではのルールに縛られているようなものなのでしょうか?」

 彼女の考えは未だまとまらない。
 猟書家『嫦娥』は確かに邪神であり、月に封じられた存在である。
 その肉体を骸魂と変えてカクリヨファンタズムに舞い降りたからこそ、力を限定されているのかもしれないし、欠けた『肉体の断片』を手に入れた瞬間に世界を滅亡させるほどの力を発揮するのやもしれなかった。
「エージェントの方々は住民の皆さんの保護を優先してください」
「了解した。オブジェクトの位置はまだ余裕があるようだ。あの『UDC-Null』を排除しなければ、オブジェクトを追うことすら出来ないだろう」
 UDC組織のエージェントたちが藍に告げながら、人々の避難誘導を続ける。

 どうやら未だオブジェクトは『嫦娥』との距離が離れているようだ。時間的な猶予がまだ在るとは言え、のんびりしてはいられない。
「わかりました。保護はおまかせします。そのほうが私としても動きやすいですし」
 藍は姿を表し、オブリビオン妖怪たちの注意を引く。
 彼等はオブリビオン妖怪でありながら、人々に認知されたことを喜び、本来起こるはずであった大量虐殺をせずに立ち止まったままだ。

 けれど、猟兵と見れば関係はない。
 互いに滅ぼし、滅ぼされる間柄であるからこそ、彼等の注意は猟兵達にひきつけられ、人々から引き離されるのだ。
「グルゥゥゥ!」
 次々と黒曜石の獣たる『幽み玄影』たちが大地を蹴って、藍に迫る。
 すかさず藍は雷公鞭を振り抜き、宝貝「雷公天絶陣」から放たれる雷でもって『幽み玄影』たちを撃ち貫く。

 悲鳴を上げるようにしてオブリビオン妖怪たちの身体が感電し、痺れて動けなくなる。
「人を襲わないとは言え、万が一が在るかも知れません」
 倒せば助けられるとは言え、傷がないことには越したことがないのだ。
 藍は振るう雷公鞭が雷を放つ度に、戦場となった街中を駆け抜け、群れ為す『幽み玄影』たちをひきつけつつ、雷の一撃を叩き込み続ける。

 それは消耗戦のようなものであった。
『幽み玄影』達は彼女を追いたて、取り囲めばいい。
 そうすることで彼女の消耗を誘い、集団で攻撃を加えれば如何に猟兵と言えど数で押されてしまう。
 しかし、そうはならないのだ。
 有り余る宝貝の力が放つ雷は、黒曜石の獣たちを打ち砕き、次々と妖怪と骸魂とを分離させていく。
「ひきつけ、撃ち貫く。人々に危害を加えなかったことは、妖怪の性なのでしょうが……」

 在りし日の影。
 妖怪たちは未だに過去を覚えているのだろう。自分たちの存在を認識し、恐れ、感情を持って自分たちを存在させていた人々の姿を。
 だからこそ、人は襲わない。
 人々に忘れ去られたとしても、それだけは変わること無く。
 その思いに藍は応えるべく、雷で持って尽くを討ち滅ぼすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

惑草・挧々槞
ふむ、次元を超越して出現する犬。何処となくUDCアースの怪物っぽい趣があるわね。

無駄話はさて置き。
UDC組織の方々には、この街にある機械管理されている光源の照度を上げて貰いたいの。敵は暗がりから奇襲する能力を持っている様子だから、暗所を減らしておきたくて。
私はハッキングなんて出来ないけれど、貴方たちには朝飯前よね?何卒よろしく。

後は……名と記憶を奪って来るなら、奪われ次第《酷映放送》で盗り返しましょうか。
幸いにして私の名前はいっぱいあってな。数発程度なら攻撃されても大丈夫な筈。無論当たらないに越したことは無いけれど、対策は必要よね。
今の私の名前は挧々槞、かわいい化猫の妖怪です。どうぞよろしく。



「ふむ、次元を超越して出現する犬。何処と無くUDCアースの怪物っぽい趣があるわね」
 そう言葉を告げたのは、惑草・挧々槞(浮萍・f30734)であった。
 マドウクシャと呼ばれる化け猫の一種、火車と同一視される当方妖怪の悪霊たる彼女が見つめたのは、『幽み玄影』と呼ばれる黒曜石の獣――オブリビオン妖怪であった。
 彼等は一様にカクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースの街に住まう人々を虐殺するように猟書家『嫦娥』より命ぜられていたが、自身達の姿をカクリヨファンタズムに在るが故に認識できるようになった人々の視線に喜び、動けなくなっていた。

「無駄話はさて置き。人々を襲うことができないというのは好都合ね」
 それは人々の護衛をUDCエージェントに任せ、猟兵達はオブリビオン妖怪を打倒することに注力することができるということだ。
 だが、それでも挧々槞は油断できないと考えていた。
 人々は襲わないのかも知れないが、猟兵は別であろう。もともと猟兵とオブリビオンは滅ぼし、滅ぼされる関係である。
 ひと目見ただけで、敵であると認識できるからこそ、人々と同じように認識できるから襲わないという理には適応されない。

 それに彼女は黒曜石の獣たる『幽み玄影』の持つユーベルコードの力をよく理解していた。
「これでいいのか? 街中の照明の照度をあげたが……」
「十分よ! 私ができないことをあなたたちが。あなたたちが出来ないことを私がすればいい。やっぱり機械いじりは朝飯前なのね」
 彼女がUDCエージェントに頼んだのは、機械管理された照明の照度の調節である。
 挧々槞にはハッキングなど出来ない。
 けれど、彼等ならばできると踏んでいたのだ。

 照度が上がれば、街中に影は濃くなるが範囲が狭ばめられる。
 暗がりからの奇襲を得意とする『幽み玄影』たちの行動範囲を絞ることができたのならば、奇襲もまた予測できるというものだ。
「でも、それでも名と記憶を奪う力は防ぎようがない……けれどね」
 挧々槞の瞳がユーベルコードに輝く。
 迫る『幽み玄影』が牙と爪を振るって暗がりから襲うも、彼女は落ちついていた。

 ピンクのロリータ服のフリルが風になびき、牙が彼女の名と記憶を奪う。
 されど、彼女には名がいくつもある。
「そう、幸いにして私の名前はいっぱいあってな――」
 様々な名前で呼ばれる妖怪の名。
 ある時は、マドウクシャ。
 ある時は、化け猫。
 ある時は、火車。

 故に群がる『幽み玄影』の牙が彼女を傷つけ、名を奪ったのだとしても、彼女の全てを奪えたわけではない。
 そして――輝くユーベルコードの名を、酷映放送(ヴィデオドローム)と言う。
 妖力を込めたリデコレートされた魔王槌の一撃が黒曜石の獣を打ち砕くようにして、鉄槌を下す。
 砕かれた破片が飛び散り、奪われた記憶を引き抜いて自分に取り込む。
「此れ此のように。ああ、けれど……どうしても呼びたいのなら」
 手にした魔王槌を振るい、彼女は微笑む。

 凄まじい破壊音を街中に響かせながら、街中の照明が彼女にスポットライトを浴びせるようにして光り輝く。
 そう、此処こそが彼女の独壇場。
 ライトオンステージである。振るう槌が黒曜石を砕き、破片を飛び散らせ、まるで星屑のように煌めかせる中、彼女はロリータ服のスカートをつまんで優雅に一礼するのだ。
「今の私の名前は挧々槞、かわいい化猫の妖怪です。どうぞよろしく」
 恭しく一礼して、くるりと一回点する。

 襲いかかる『幽み玄影』を槌のフルスイングで吹き飛ばし、可愛らしい笑顔のまま彼女は街中のライトを独占し、次々とオブリビオン妖怪を打ちのめす。
 彼女の名は、一夜にしてカクリヨファンタズムを駆け抜け、その数多の名と物語を持って猟兵としての存在を知らしめるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
妖怪はオブリビオンになっても妖怪ね。その方が気楽でいいわ。

UDCエージェントからは広々とした競技場かアリーナの情報をもらい、飛鉢法で自分の姿を囮にして敵を引き連れてそこへ赴く。

さて、始めましょう。
「結界術」「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「仙術」「道術」で紅水陣。
引き連れてきた犬が全部入るように調整して。
さあ、紅い雨に溶け崩れなさい。形を失って、妖怪達から離れてもらう。
アヤメと羅睺は、「環境耐性」の符を使いながら、解放された妖怪を絶陣の外へ運び出して。

UDCオブジェクトの現況はどう? 『嫦娥』と合流するまで、時間はある?
あたしのところに来たオブリビオン妖怪を片付けたら、次はそっちへ。



 黒曜石の獣『幽み玄影』がカクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースの街中を疾駆する。
 彼等が追うのは、空を飛ぶ鉄鉢である。
 本来、猟書家『嫦娥』が出した命令はUDCアースの街中に存在する住人たちの抹殺であった。
 けれど、オブリビオン妖怪たちはカクリヨファンタズムに移動したことに寄って、その姿を認識できるようになった人々の視線に喜びを隠せなかったのだ。
 彼等はもともと、人々に認識され、生まれる恐れなどの感情を持って生きながらえる存在である。
 オブリビオン妖怪と成り果てても、やはり妖怪たる本質までは変わらなかったのだ。斯くして、『嫦娥』の目論見の半分は此処に達せられることなく失墜したのだ。

 ならば、『幽み玄影』たちが追う鉄鉢は何か。
 そう、猟兵である。
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)はUDCエージェントたちから広々とした競技場やアリーナといった周囲の被害を最小限に抑えられる場所を聞き出し、オブリビオン妖怪たちをひきつけながら飛んでいた。
「妖怪はオブリビオンになっても妖怪ね。そのほうが気楽でいいわ」
 ゆかりにとって、それは好都合であった。
 オブリビオン妖怪による虐殺から人々を守るのは至難の業であった。如何にUDC組織のエージェントたちと共同戦線を張ったとしても、難しかったろう。

 けれど、オブリビオン妖怪たちが猟兵しか攻撃しない特性を利用して、ゆかりは彼らをひきつけて広大な競技場の一つへと飛んでいく。
「さて、はじめましょう」
 鉄鉢より降りて、競技場の中心に立つ。
 これは罠だ。ゆかりはひきつけたオブリビオン妖怪たちを一網打尽にするためにこの場所を選んだ。
 人が多い場所では使えないユーベルコード。
 けれど、数の多いオブリビオン妖怪を効率よく殲滅するのは、己のもつユーベルコード、紅水陣(コウスイジン)しかない。

 牙をむく『幽め玄影』たちが一斉にゆかりへと飛びかかる。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」
 ゆありの瞳がユーベルコードに輝き、即座に張り巡らされた結界術がオブリビオン妖怪の牙を防ぐ。
 瞬間、展開されたユーベルコードが真っ赤な血のような、全てを蝕む強酸性の雨を降らせる。
 それはあらゆるものを腐食させる赤い靄でもって競技場を包み込み、ひきつけられたオブリビオン妖怪たちが一瞬で強酸性の雨によって溶け落ちていく。

「さあ、紅い雨に溶け崩れなさい。形を喪って、妖怪たちからはなれてもらうわ!」
 この赤いい靄の中では、この環境に適応した者しか存在することはできない。
 次々と骸魂たちが溶け消えて妖怪たちと分離していく。
 そこに駆け込んだゆかりの式神たちが妖怪たちの無事を確保していく。
 ゆかりは自分の戦果が上々であることを確認し、自分の使役する式神であるアヤメたちが競技場の外に飛び出すのを見て、己が撃ち漏らしたオブリビオン妖怪が存在しないことを確認する。

「どうやらあたしについてきたのは、これで全部みたいね……UDCオブジェクトの現状はどう?」
 ゆかりは無線でUDCエージェントたちに連絡を入れる。
 此の戦いは時間との勝負である。猟書家『嫦娥』の『かつての肉体の断片』であるUDCオブジェクトは今もゆっくりとあらゆる障害を透過し、移動し続けているようであった。
「速度は上がっていない……だが、時間に余裕があるわけでもない。この地域の住民たちの保護は完了した。急いでオブジェクトを追って欲しい」
 エージェントの言葉にゆかりは頷く。

 まだまだ戦いは続く。
 時間制限という厄介極まりない状況であるが、ゆかりは絶望すらしていない。
 あの月が骸の月に変わる前に猟書家を尽く滅ぼせばいいのだ。
 ゆかりは鉄鉢に乗って赤い雨のやんだ競技場を後にして飛翔する。迫る『嫦娥』との戦いは、もうすぐ其処だ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
これまで猟書家が現れた世界は全てオブリビオン・フォーミュラが倒された世界。オブリビオン・フォーミュラに成り代わるためにそうしているのかと思っていましたが……UDCアースに直接現れないあたり、何かしらの制約もあるのかもしれませんね。

現地に着いたらUDCの職員に頼み、現地の人を避難させるようにお願いします。
えぇ、確かに妖怪は人々を襲っていませんが……近くにいては、私の技に巻き込んでしまいます。
「フィンブルヴェト」からの氷の弾丸の『威嚇射撃』接近されたら銃剣での『武器受け』で住民が避難する時間を稼ぎます。

住民が避難出来たら【絶対氷域】を。
半径110mを覆う絶対零度で幽み玄影を凍てつかせます。



 世界にオブリビオンが溢れるのは、オブリビオン・フォーミュラと呼ばれる存在があったからである。
 多くの世界において猟兵達はオブリビオン・フォーミュラを打倒し、オブリビオンがこれ以上現れることのないように努めてきた。
 けれど、その努力を一笑に付すように猟書家と呼ばれるオブリビオンたちがオブリビオン・フォーミュラ亡き世界を簒奪せんと迫る。
 世界に浮かんだ月を見ればわかる。
 真実の月と骸の月。
 その二つが拮抗し、満ち欠けに寄って世界の侵略を知らせている。

「これまで猟書家が現れた世界は全てオブリビオン・フォーミュラが倒された世界。オブリビオン・フォーミュラに成り代わるためにそうしているのかと思っていましたが……」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、カクリヨファンタズムにおいて、隣り合った世界であるUDCアースの一つの街をまるごと移動せしめた猟書家『嫦娥』の力の凄まじさを知る。
『嫦娥』の目的が『かつての肉体の断片』であるというのならば、直接UDCアースに乗り込めばよかったのだ。

 けれど、『嫦娥』はそれをしない。
 敢えて、封印された月から骸魂となってカクリヨファンタズムに現れ、『石抱きの井戸』と呼ばれるUDCアースと繋がりがある場所を選んで、己の『肉体の断片』が存在するであろう街をまるごと転移させた。
「何かしらの制約があるのかもしれませんね……ですが、考えるのは後にしましょう」
 セルマはカクリヨファンタズムに現れた街の中を疾走る。
 すでに多くのUDC組織のエージェントたちが人々を避難させるために動いている。
 彼等との共同戦線は、これまで猟兵たちが解決した事件の中でも何度も構築されている。セルマが猟兵であることを知れば、エージェントたちは快く協力してくれる。

「こちらの住人の保護は完了しています。戦うのならば、この地区で……!」
「ありがとうございます。敵の状況はどうですか。確かに妖怪は人々を襲っていませんが……」
 セルマは住民たちの保護を優先するエージェントたちにオブリビオン妖怪である『幽め玄影』がどこまで迫っているのかを確かめる。
 オブリビオン妖怪たちは、自分たちを認識する人々を襲わない。
 きっと合体した妖怪たちの感情に引っ張られているのだろう。そこが『嫦娥』の誤差であったと言えるだろう。

 ならば、セルマはそこを突くのだ。
「懸念されると思っていました。あなたの邪魔にならぬように退避します」
 エージェントの言葉を受けてセルマは頷き、扇状と成った街中に駆け込む。そう、彼女のユーベルコードは全てを凍てつかせる絶対零度の冷気そのものである。
 無差別に攻撃するユーベルコードであるが、数を頼みにセルマを排除しようというのならば、これ以上にない力だ。
 その力を十全に振るうためにセルマはエージェンたちが十分にはなれたことを確認してから、マスケット銃を構える。

「グルァァァ――!」
 暗がりから襲ってくる『幽み玄影』の黒曜石の牙。
 それは受けてしまえば名を喪ってしまうことだろう。銃剣で受け止め、振り払う。
 確かに獣の強靭さをもっているが、セルマにとって、それは狩りと変わらぬことである。
 彼女は狙撃手であり狩り人でもある。
 獣を相手にするのならば、彼女ほどの適任はいないだろう。

「狩る側はこちらです」 
 セルマが銃剣でもって『幽み玄影』を討ち滅ぼし、十分な数をひきつけた瞬間、彼女の瞳が輝く。
 それは、絶対氷域(ゼッタイヒョウイキ)を告げる光であった。
「この領域では全てが凍り、停止する……逃がしません」
 放たれた絶対零度の冷気が彼女を中心として集まった『幽み玄影』を瞬時に凍りつかせる。

 それは早業と呼ぶにはあまりにも一瞬の出来事であった。
 街中は冷気によって大気中の水分すらも凍りつき、セルマだけが凍えるような吐息を吐き出し、周囲を見回す。
 すでにオブリビオン妖怪たちは冷気によって凍りつき、活動をやめている。
 マスケット銃のグリップで、それらを砕きながら彼女はゆっくりとだが、確実に移動している宝珠の如きUDCオブジェクトを見やる。
 あれが『肉体の断片』。ならば、その行き先にこそ猟書家『嫦娥』が存在している。

「あれを手に入れてしまえば、邪神として復活する……させません」
 セルマはUDCオブジェクトを追い、その線上にいるであろう『嫦娥』に狙いを付けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェット・アームストロング
私の名は『ヘビーセット』!
モンスターは私達が引き受ける!市民の避難と安全は任せたぞエージェント諸君!誰一人傷付けさせはしない!

全身を攻防一体のエネルギー「ヘビーフォース」で包み、敵の攻撃を防ぎつつ【怪力】のパンチとキックで向かい来る敵を薙ぎ払おう。
奇襲攻撃も【オーラ防御】で耐えきる。どれだけ叩きのめされようとヒーローは決して挫けはしない。

本名や過去の刑事としての記憶、常人としての犯罪者との戦闘経験。それらを奪われ覚えられたとしても怯みはしない。
このマスクを被った『私』は『僕』ではない!スーパーヒーロー『ヘビーセット』!全ては未来の正義と秩序の為に!
受けろ、必殺の【Energy Geyser】!



 猟書家『嫦娥』の力に寄って『石抱きの井戸』よりカクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースのとある街は混乱に満ちていた。
 突如として異界とも言うべきカクリヨファンタズムの光景に人々は戸惑い、されど非日常にスマートフォンのカメラを向ける。
 こんな時に会っても尚、人々は己の好奇心と非日常に出逢ったという奇跡に酔いしれてしまうものである。

 されど、そんな彼等を抹殺せんと使わされたのがオブリビオン妖怪『幽み玄影』と呼ばれる猟犬じみた黒曜石の獣達である。
 彼等は皆一様に人々を襲うはずであったが、自身の姿を認知されたという喜びがオブリビオン妖怪である彼等の身を襲う。
 そう、妖怪とは人々から溢れる感情を糧にして生きる者たちである。
 たとえ、それが恐れや不安という感情であったとしても、己達を認識したという事実さえあれば関係ないのだ。

 そして、彼等が長らく人から認識されなくなって久しい。
「な、なんだ……? 襲ってこない……?」
 人々は惑いつつも、こちらを襲ってこない黒曜石の獣を前にたじろいでいる。だが、まるでにらみ合うような状況に人々の心は摩耗していくだろう。
 それをさせぬとオブリビオン妖怪と人々の間に降り立つ黒いヒーローコスチュームに身を包んだ筋肉質なながら程よく脂肪の乗ったぽっちゃり体型の男。

 その名を――。

「私の名は『ヘビーセット』! モンスターは私達が引き受ける!」
 そう、ジェット・アームストロング(ヘビーセット・f32990)である。彼のヒーロー名で呼ぶのが筋であろうが、今はこう呼ばせていただく。
 彼はUDC組織のエージェントたちと共に現れ、人々の保護を最優先とする。されど、これまでにらみ合うように動かなかった『幽み玄影』たちが『ヘビーセット』の姿を認めた瞬間、凄まじい唸り声をあげながら突進してくるのだ。

「市民の避難と安全は任せたぞエージェント諸君!」
「了解しました。『ヘビーセット』! こっちは任せてください!」
 エージェントたちが人々を誘導する中、飛びかかる『幽み玄影』を攻防一体のエネルギーである『ヘビーフォース』で身体を包み込み受け止めるのだ。
「誰一人傷つけさせはしない!」
 ミュータントヒーローである『ヘビーセット』は凄まじい怪力でもって黒曜石の獣を蹴り砕く。

「――!」
 そのすさまじい力に『幽み玄影』たちは警戒する。 
 確かに『ヘビーセット』の怪力は凄まじいものである。けれど、たかが一人だ。ならばと暗がりに消えて行く『幽み玄影』たち。
 それは彼らのユーベルコードであり、暗がりからの奇襲を得意とする獣本来の狩りと同様であった。

「む……! 待て!」
『ヘビーセット』が暗がりへと誘い込まれるようにして『幽み玄影』たちを追って駆け出す。
 しかし、それが罠であったとしても『ヘビーセット』は怯むことはなかった。
 暗がりから突如として無数の牙が振るわれる。
 それこそが彼等の本領。いわば、彼らの狩場に誘い込まれたようなものであった。牙が突き立てられ、本来の名前や過去の刑事としての記憶、常人としての犯罪者との戦闘経験を奪われてしまう。

 記憶と名を奪う牙は、人にとって致命的なものであったことだろう。 
 如何にして戦えばよいのかさえも忘れてしまっては、如何に猟兵と言えど戦い続けることは難しい。
 されど、此処に在るのは一人のヒーローである。
「どれだけ叩きのめされようと、ヒーローは決してくじけはしない」
 あらゆる記憶を奪われたとしても、最後に残るのがヒーローとしての矜持であるのならば、『ヘビーセット』の名は燦然と輝くだろう。

 吹き荒れるユーベルコードの輝きが、『ヘビーセット』を包み込む。
「このマスクをかぶった『私』は『僕』ではない! スーパーヒーロー『ヘビーセット』! 全ては未来の正義と秩序の為に!」
 瞳に輝くのはユーベルコード。

 煌めく正義の灯火は、瞳に宿るものである。
「受けろ、必殺のEnergy Geyser(エナジーガイザー)!」
 吹き荒れるようにして『幽み玄影』の足元からエネルギーが噴出し、獣の体をはるか上空まで打ち上げ、そのまま落下の衝撃で黒曜石の身体が砕け散る。

 そう、彼はスーパーヒーローである。
 記憶なくとも、その心に正義が宿る限り、決してくじけることはないのだ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風

カクリヨも猟書家が来るとはの…

さて、UDCエージェントには街の人々を守ってもらおう
いやな、妖怪はもちろんなんじゃが…うん、念のためである

はは、暗闇からの奇襲。ある程度は絞れるとは言え、黒燭炎で凪払っておっても防ぎようのないものもあろう

ただの、名前を奪ったのは間違いぞ
わしらは四悪霊。その名前を、他者に認識させることによって成り立つ者。束ねておる紐を解いたらどうなるか、ということだ
奪われれは…四天結縄の封印は全て解け、さらに四天霊障の暴走は止まらぬ
しかも、今はUC効果出とるんじゃよ?押し潰すに決まっておる


ソノ名前ヲ返セ



 ついにカクリヨファンタズムにも猟書家の魔の手が伸ばされた。
 猟兵たちにとって、それは新たな戦いの幕開けである。骸の月が本来の月を侵食する。今、満ち欠けは互いに拮抗するが、猟書家の侵攻を許せば、オウガ・フォーミュラによって、新たな火種が撒き散らされ、オブリビオンの事件は増していくことだろう。
 そうなってしまえば、猟兵たちが戦ったことも無駄になる。
 いや、無意味な犠牲が増えるだけだ。

 それを許せぬからこそ猟兵達は戦う。
「カクリヨも猟書家が来るとはの……」
 四つの悪霊で持って一人の猟兵となった複合型悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は、カクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースの街中でUDC組織のエージェントたちと共に人々の保護に走っていた。
『侵す者』と呼ばれる人格が表層に現れ、人々をオブリビオン妖怪『幽み玄影』から遠ざけるようにエージェントたちに指示を出す。

 多くの猟兵たちが駆けつけたことにより、人々の保護と避難は恙無く進んでいる。
 けれど、『侵す者』には一つの懸念があるようであった。
「こちらの区画の避難は終わった。次はどうすればいい?」
 エージェントたちの言葉に『侵す者』は頭を振る。これ以上はもういいということであるのだが、エージェントたちは訝しむ。
 何故、自分たちまで遠ざけようとしているのかと思ったのだろう。
「いやな、妖怪はもちろんなんじゃが……うん、念の為である」
 そういった瞬間、街中の暗がりから黒曜石の獣の牙が『侵す者』を襲う。
 構えた槍で弾き飛ばしながらも、彼は今自分の名が喪われたことを実感する。

 いや、まずいとさえ思ったのだ。
「疾く、この場から離れよ。いつまでも護ってやれるとは言えぬ」
 その言葉にエージェントは頷く。
 自分たちの存在が猟兵にとって足枷になると判断したからだ。けれど、それはある意味で間違いであったことだろう。
 彼等は四人で一人の複合型悪霊である。
 四つの悪霊を束ねるのは名だ。その名を奪ったということは、束ねたものを解き放つということだ。

 一瞬、『幽み玄影』達は何が起こったのか理解できなかったことだろう。
 目に見えぬ霊障の一撃が地面をえぐり、周辺に在った建物を一瞬の内に破壊せしめたのだ。
 凄まじい力。
 それは火のように(シンリャクスルコトヒノゴトク)。溢れるユーベルコードと四つの魂を結びつけていた名前という縛りが消えた瞬間、『幽み玄影』たちは一撃の元に霧散して消えた。

 四天結縄の封印は全て解け、霊障の暴走は止まらない。
 さらにはユーベルコードの効果まで付与されている。そこにあったのは、猟兵としての姿ではなく、ただ別物の何者かであった。
 溢れる黒き影。
 霊障は黒曜石の獣たちを尽く粉砕して街中を進む。
 己の名前を奪ったものを鏖殺せねばならぬと、名前を求めてオブリビオン妖怪たちを砕くのだ。

「ソノ名前ヲ返セ」
 つぶやく言葉は、霊障となって周囲に撒き散らされる。
 暴走とも言って差し支えぬ彼等の戦いは、奪われた名前を取り戻すまで終わらない。衝動のままに霊障を振りまき、あらゆるものを災厄に飲み込んでいく。
 オブリビオン妖怪たちは抵抗らしい抵抗すらできず、砕かれ消えて行くのみ。
 UDCエージェントたちは、その姿を見て、何故『侵す者』が離れるように言ったのか、その真なる理由を知るのだ。
 凄まじいまでの力。

 真なる姿、その正体すら誰も知り得ぬ猟兵としての本質。
 その一端を彼等は今垣間見ているのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
うむうむ、気持ちは分かるぞ、妖怪の皆(←謎の関心)
だが、このままにしておくわけにはいかぬか。
妖怪の皆、楽しい所誠に申し訳ないが……帰って丁髷。
■前
逃げない人々に『あれは人喰いの獣だ!』と嘘をつき、
【恐怖を与える】ことで去らせる。
誘導はエージェントの皆に任せよう。

■闘
鬼ごっこをするぞ。【野生の勘】を研ぎ澄ませ、意識を
向けられたと感じたら【残像】を伴う高速【ダッシュ】で
縦横無尽に逃げまくり、敵を無意識に密集させる。

ある程度集まってきたら【破魔】の力を込め【心切・祓】に
よる【範囲攻撃】を発動、元ある処へ強引に還す。
抵抗されても、心を鬼にして発動継続。

共存する術があればなぁ……

※アドリブ歓迎・不採用可



 猟書家『嫦娥』が放ったオブリビオン妖怪『幽み玄影』たちは、本来であればカクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースの街に住まう人々を虐殺するはずであった。
 けれど、オブリビオン妖怪たちは、骸魂と合体してなお、己たちを認識した人々を襲うことはなかったのだ。
 何故ならば、彼等はもとより人の感情を糧にして生きている。
 UDCアースからカクリヨファンタズムに移住したのは、人々から認識されなく成ってきたため、その感情を得ることができなくなったからだ。
 故に、彼等は長らく欲していたのだ。
 己たちの存在を認識できる者を。

 それが猟書家『嫦娥』の目論見の一端を担う形で叶ってしまったのは、皮肉であったが、猟兵たちにとってはこの上ない好都合であった。
「うむうむ。気持ちはわかるぞ、妖怪の皆」
 そう言って謎の感心を見せていたのは、愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)であった。
 しかし、と彼は前置きする。
 彼等が如何に喜んで人々を傷つけぬからといって、このまま放置していくわけには行かないのだ。
 喜んでいるオブリビオン妖怪たちを打倒するのは気が引ける……のだが、やらねばならない。

「妖怪の皆、楽しいところ誠に申し訳ないが……『あれは人食いの獣だ!』」
 清綱は街中に降り立ち、物珍しげに『幽み玄影』を撮影している人々に嘘を付きながら声を駆ける。
 それは一言で彼等を恐慌に陥らせるには十分であったが、惑う人びとが蜘蛛の子を散らすように逃げては保護も難しくなる。
 故にここで誘導をエージェントたちに任せるのだ。
「もっと段階を踏ませてくれよ! いきなりじゃあ、混乱するばかりでしょう!」
 そんなことをいいつつもUDC組織のエージェントである。慣れたように人々を誘導し、避難を開始する。

 それを見て、清綱は少し申し訳ないなと思いつつもオブリビオン妖怪たちと対峙するのだ。
「……然らば、帰って丁髷」
 清綱なりに精一杯の茶目っ気であったが、黒曜石の獣達は理解しないようであった。
 唸り声を挙げて襲いかかる牙を同じく獣たる因子を持つ清綱は野生の勘を研ぎ澄ませ、残像伴う速度で持って縦横無尽に街中の建物の間を逃げ回る。
 意図的に目立つように動いているのは、敵の意識を自身に集中させるためだ。

「よしよし……海原の、渦が祓うは罪穢…… 在るべき海へ還さん。秘儀・心切にて!」
 ユーベルコードに輝く清綱の瞳が、己を追い集まってきた『幽み玄影』たちを見やる。
 彼等とてオブリビオン妖怪である。
 本来であれば人との共存が望ましいのだろう。けれど、人の世はすでに妖怪たちの存在が入り込む余地はない。
 やはり離れるしかないのだ。
 共存する術があるのならば、それに越したことはない。
 けれど、そうはならなかったのだ。

 ならばこそ、清綱は己のユーベルコードに寄って溢れる清浄なる霊力を発露させ、『幽み玄影』たちを元ある棲家へと押し戻すのだ。
 抵抗したとしても彼等の肉体は次々と清浄なる霊力でもって浄化され、骸魂との合体をほどかれていく。
「仕方なきこととは言え、心は痛むものだ。共存がならぬというのならば、やはり押し返すしかあるまいよ」
 清綱は、ユーベルコード、心切・祓(シンキリ)の放つ波動の中心に立ち、消えて行くオブリビオン妖怪たちを見送る。

 穏便にことは済んだと言えるのだが、それでも彼等の嬉しそうな顔を思い返せば、仕方ないという言葉だけではどうしてもやりきれぬ。
 だが、猟書家『嫦娥』の目論見を果たすことは許されない。
 猛禽の翼を広げ、清綱は飛ぶ。
 目指すはUDCオブジェクトを引き寄せる首魁の首であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
街ごと世界を移動させるってとんでもないね
UDC組織と協力して事態を打開しよう

戦いに巻き込まれても困るし
敵の近くにいる人達はエージェントに誘導をお願いしよう
僕らよりも慣れてそうだしね

巻き込む心配が無くなったら
ガトリングガンで攻撃していこうか

名前と記憶を奪う
それは本来とても恐ろしい事なのでしょう
ですけれど虎の尾を踏む事もあると憶えておくと良いですの

骸魂に飲まれた妖怪方も巻き込まれた人達も
皆様石像として固定し保存しますの
ええ、傷一つ付けさせたりはしませんの

封印による石化の進行が鬱陶しいですが
これくらいでしたら雑作もありませんの

平穏を齎したら名前と記憶は返して貰いますの
これは私が保存しておくものですの



「邪神としての力なんだろうけれど、街ごと世界を移動させるってとんでもないね……」
 邪神と融合した猟兵である佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、猟書家『嫦娥』の力の凄まじさを知る。
 しかも、未だこの街には戦いに巻き込まれるかもしれない住民たちの避難が終わっていない区画があるのだ。
 晶はUDC組織のエージェントたちと協力して事態を打開しようと街中を走っていた。

 エージェントたちに人々の避難誘導をお願いし、晶は自分にオブリビオン妖怪の目を惹きつけるように走り続ける。
 オブリビオン妖怪たちは自分たちが認識された喜びで人々を襲うことはなかったが、猟兵と見れば話は別である。
 滅ぼし、滅ぼされる関係である猟兵とオブリビオンでは、いかに認識されようが本能が勝るというものである。
『幽み玄影』と呼ばれる黒曜石の獣たちが晶を追うように暗闇の街中を疾走する。
 やはり獣の体躯であれば、人の身である晶を追い詰めるのは容易であったが、それは晶にとっても望むところであった。

「ここらならもう遠慮は要らないよね!」
 構えた携行型ガトリングガンが火を吹くようにして弾丸を撃ち放つ。
 ばら撒かれた弾丸は建物を破壊しながら『幽み玄影』の体を穿つ。しかし、ひきつけすぎたのか、数が多い。
 これでは徐々に包囲されてすり潰されてしまうだろう。
 そうなってしまえば、晶と言えど突破は容易ではない。

「束の間ですけれど、好きにさせて貰いますの。一蓮托生、心配せずとも悪い様にはしませんの」
 瞬間、晶の体の主導権が邪神に渡る。
 ユーベルコード、邪神覚醒(ウェイク・アップ)によって邪神の意識が表層に上がり、晶の体を持って邪神本来の権能を解放するのだ。
「名前と記憶を奪う。それは本来とても恐ろしいことなのでしょう。ですけれど虎の尾を踏むこともあると覚えておくと良いですの」
 それは如何なる理由からであっただろうか。
 晶がそれを知ることがあったのか、それさえもわからぬままに荒ぶる邪神の権能は即座にオブリビオン妖怪たちを石化し、固定する。

 まさに彼女の言葉通り虎の尾を踏んだことになるのだろう。
 名を知らぬ邪神。
 その名前を奪うという行為は、二度の屈辱を味合わされることと同義であったのかもしれない。
 放たれる権能が次々とオブリビオン妖怪たちを石像に変えていく。
 しかし、徐々に晶の身体が石化していく。
 それは本来封印されていた邪神としての力を抑制するものであった。怒りのあまりに顕現したことにより、石化の封印が身体を蝕んでいくのだ。

「鬱陶しいですが、これくらいでしたら雑作もありませんの」
 そう、まるで雑作もないことだ。
 邪神の権能の光は、周囲に追い迫ったオブリビオン妖怪たちを尽く石像へと変え、周囲に静寂をもたらす。
 完全に身体が石化される封印の前に邪神は胸を抱くようにしてつぶやく。
「名前と記憶は返して貰いますの。これは私が保存しておくものですの」
 小さくつぶやいた言葉は、晶には届かなかったことだろう。

 何故ならば、これは邪神だけのものだからだ。
 未だ明かされぬ名。
 そして記憶。如何なる理由と経緯により封印されたのかも知れぬ邪神の過去。
 それに触れる事が如何なることかを、石像と化したオブリビオン妖怪たちの造形が物語り、街中に一時の静寂をもたらすのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
……街一つって言うのはこれまた大雑把なことだね……
…オブリビオン妖怪共は人々を襲わないけど…パニックが怖い…
こちらが囮になる間にエージェント達に避難誘導を任せるとしよう…

…認識されることに喜びを見出して一般人をあまり襲わないのはありがたい話だ…
一般人を守りながら…となったらもっと厄介なところだった…

…連携して襲いかかってくるのであれば…それらの連携を周囲に術式組紐【アリアドネ】を展開して作った結界で防御…
…連携のために固まっている敵に【連鎖する戒めの雷】を発動…
…群れ一つをまとめて雷鎖で縛り上げるとしよう…
…そして動けない幽み玄影の骸魂を術式装填銃【アヌエヌエ】で撃ち抜いて破壊するよ…



『石抱きの井戸』と呼ばれるカクリヨファンタズムとUDCアースを繋ぐ場所があったとは言え、猟書家『嫦娥』の街一つを引き寄せる力は、まさに邪神の力そのものであると言っても過言ではなかったことだろう。
 しかし、『嫦娥』の肉体は未だ月に封印されている。
 その彼女が何故、月の封印より逃れたのかは、カクリヨファンタズムという世界の理に端を発するだろう。
 己を骸魂へと変え、喪われた『嘗ての肉体の断片』をもって月の封印を解く。
 それこそが彼女の真なる目的であり、オウガ・フォーミュラの目論む『閻魔王』の探索に紐付けられた行動であった。

 今も尚、『かつての肉体の断片』であるUDCオブジェクトは、ゆっくりとだが確実に彼女へと近づいていっているのだ。
「……街一つっていうのは、これまた大雑把なことだね……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、UDCアースの街ひとつがカクリヨファンタズムに引き寄せられた光景を見下ろしつぶやく。
『嫦娥』の目論見の一つである大量虐殺はオブリビオン妖怪たちによって引き起こされては居ない。
 それは、彼等が人々に認知されているという喜びにふるえ、攻撃できないからである。
 僥倖と呼ぶに相応しい現状であったが、パニックに人びとが陥ることこそが事態の悪化を招くことであるとメンカルは理解している。

 UDC組織のエージェントたちに人びとの誘導を任せ、メンカルは街中に降り立つ。
「……認識されることに喜びを見出して一般人を襲わないのはありがたい話だ……」
 そのとおりである。
 彼等が見境なく人々を襲っていたのならば、猟兵達は二重の意味で苦しい戦いを敷いられることになっただろう。
 大量のオブリビオン妖怪を打倒しながら、UDCオブジェクトを追う。
 さらに人々の安全をも図らなければならず、如何にUDC組織と共同戦線を張ったとしても全てをまかなえることはできなかっただろう。

 だからこそ、メンカルは妖怪たちのあのおどけたような笑顔を思い出して救われるのだ。
「――グルルルッ!」
 暗闇より現れる『幽み玄影』たる黒曜石の獣達の牙と爪が、数で持って連携しメンカルを食い殺さんと迫る。
 しかし、メンカルの発動した術式組紐『アリアドネ』による結界でそれらを防ぎ、彼等の連携に意趣返しをするように、『アリアドネ』の組紐が、その肉体をひとまとめにして縛り上げるのだ。

「綿密な連携が仇となったね……」
 ぐるりと『アリアドネ』がメンカルを追っていた群れそのものをひとまとめに包囲し、団子状態に拘束し、空へと打ち上げる。
 ただそれだけではオブリビオン妖怪を打倒することはできなかっただろう。
 けれど、彼女の瞳に輝くユーベルコードであれば可能である。
 周囲に展開される無数の魔法陣が煌めく。

「紡がれし迅雷よ、奔れ、縛れ。汝は電光、汝は縛鎖。魔女が望むは魔狼封じる天の枷」
 詠唱とともにメンカルが放つのは、連鎖する戒めの雷(ライトニング・チェイン)である。
 それは同じ性質の存在に伝播する雷の鎖である。
 雷の鎖がアリアドネの糸をつたい、『幽み玄影』の肉体を締め上げていく。如何にオブリビオン妖怪と言えど、同じ性質を持つ存在であれば彼女のユーベルコードは全てを縛り上げ、雷の絡みつくダメージが累積していくのだ。

「数で圧するのならば、もっと工夫をすべきだったね……そして、『嫦娥』はもっと妖怪たちのことを知るべきだった。彼等が何を糧にして、何を大切に思っているのか」
 それが如何にして『嫦娥』の目論見を打破したのかを知らしめなければならない。
 メンカルは構えた術式装填銃『アヌエヌエ』の銃口をオブリビオン妖怪たちに向ける。
 引き金を引き、弾丸を打ち出して弱りきったオブリビオン妖怪たちを打倒していく。

 瞬く間にオブリビオン妖怪たちは骸魂と分裂し、『アリアドネ』の組み上げられたネットに掬われていく。
 その光景を見やり、メンカルはUDCオブジェクトを追う。
 あの先にいる者こそ、この事件を引き起こした首魁。
 彼女に最早アドバンテージがあるのだとすれば、時間だけである。ならばこそ、メンカルはそれをさせぬと『アルゴスの眼』を光らせるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『嫦娥』

POW   :    月陰退弱陣
自身が装備する【小型の骸の月】から【身体活性を静める月陰波動】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【真の姿・強化効果無効】の状態異常を与える。
SPD   :    陰陽反転光
自身からレベルm半径内の無機物を【陰陽反転体】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    月影侵蝕魂
骸魂【「嫦娥」が対象】と合体し、一時的にオブリビオン化する。強力だが毎秒自身の【魔力と対象の精神力】を消費し、無くなると眠る。

イラスト:山本 流

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟書家『嫦娥』は忌々しげに表情を歪ませていた。
 すでに『かつての肉体の断片』たる宝珠のようなUDCオブジェクトの所在はわかっている。
 けれど、そのUDCオブジェクトを引き寄せる力が弱まっているのだ。
 本来であれば、オブリビオン妖怪たちが引き起こす大量虐殺によって犠牲になった人々の怨念で持って引き寄せる力を強化し、一気にオブジェクトを奪い返して邪神の力を発露させ、猟兵を一掃するつもりだったのだ。

「役立たずどもめ! 妾の計画を台無しにしてくれるとは。一時の糧を前にして立ち止まるなど、まさに矮小なるものがすること!」
『嫦娥』は、己の目論見が妖怪たちの喜びによって阻まれたことに歯噛みする。
 彼女にとって、喜びなど無関係であった。
 そんなものの為に己の道が阻まれているという事態こそが、許せぬことであったのだ。

「だが、時間は妾の味方よ。『かつての肉体の断片』はすでにこちらに向かっている。全てを透過する力であれに触れることはできぬ。なれば、妾は時を稼げば良い」
 小さな骸の月を模した月にもたれかかり『嫦娥』は嘲笑う。
 そう、時間は彼女の味方だ。
 時がすぎれば過ぎるほどにUDCオブジェクトは何者にも遮られることなく彼女の手中に収まり、完全なる邪神の復活を持って猟兵たちを駆逐するだろう。

 猟兵達に求められるのは迅速なる打倒である。
 UDCオブジェクトが『嫦娥』の元に向かうのは止められない。ならば、引き寄せる力を持つ『嫦娥』自身の手にオブジェクトが渡る前に彼女を倒しきればいい。
「お前達の目論見などわかっておるわ。しかしできるかな? 骸魂と成り果てても妾は月の邪神! 骸の月のちからの一端を思い知るがよい――!」
ミアステラ・ティレスタム
まあ、役立たずとは……
彼等の性質を貴女が理解出来ていなかっただけの話でしょう
そしてそれが貴女の敗因となるのです
時間が貴女に味方……してくれるといいですね?
此方も貴女の目論見はお見通しですよ
時間稼ぎなどさせません
速やかに猟書家『嫦娥』を還しましょう

これは終わりのはじまり
猟書家『嫦娥』を終わらせるための序曲
浄化の力を此処に、祈りと浄化を以て貴女の目論見を打ち砕きましょう
生半可なことではわたしの精神力は削られませんよ?

祈りはわたしの力、自分のための祈りではなく他者を想い祈るもの
他者への想いを、祈りを水の矢に変えて、今貴女を穿ちましょう



 妖怪たちの喜びを持って己の目論見を打破された猟書家『嫦娥』は、彼等のことを役立たずと罵った。
 その言葉を聞いたミアステラ・ティレスタム(Miaplacidus・f15616)の心は今、燃え上がるでも無く未だに漣が立つ程度であった。
 けれど、その漣の如き感情の揺れこそが彼女の心をユーベルコードでもって輝かせるのだ。
「まあ、役立たずとは……彼等の性質を貴女が理解できていなかっただけの話でしょう」
 ミアステラは告げる。
 彼等妖怪たちが喜んだのは、自分たちの姿を人間が認識したからだ。
 長らく彼等は人に認識されることなくカクリヨファンタズムに流れ着く過去の思い出から得て生きてきた。

 端的に言えば寂しかったのだろう。
 本当ならば、UDCアースでずっと人間の傍にいたかったのだろう。
 その想いを『嫦娥』はくだらないことだと一笑に付したのだ。
「クズのことを理解する時間ほどむなしものはないわ!」
『嫦娥』の身体が小さな骸の月と合体し、身体をオブリビオンへと変えていく。
 その力の発露は嘗ての邪神のそれに近いものであり、凄まじいプレッシャーを未アステラに与えたことだろう。
「嬉しいなどという感情の何処に価値があろうか! 力こそが妾の全て。妾を月に封印した忌々しき者たちを滅ぼし、真に世界を地獄に包み込んでくれようぞ!」

 ミアステラは自身の胸の内側から発露するユーベルコードの輝きと共に終奏詩(カデンツ)を奏でる。
 それは加護の水纏う姿。
 彼女の祈りは、彼女自身の力だ。自分のために祈るのではなく、他者を想い祈る力こそが彼女の力となるのだ。
「無価値と切り捨てたそれが、貴女の敗因となるのです。時間が貴方に味方……してくれるといいですね?」
 ミアステラは加護の水纏う姿のまま『嫦娥』に対峙する。

 彼女が放つ重圧など物ともせず、世界を写す水色の瞳が『嫦娥』を貫くのだ。
「ほざいたな! 猟兵風情が! 妾の力を見誤るか!」
 放たれる力の衝撃がミアステラを襲う。
 しかし、彼女は知っている。時こそが確かに『嫦娥』の味方である。彼女に時を稼がせれば稼がせるほどに『かつての肉体の断片』たるUDCオブジェクトは彼女に近づいていく。
「此方も貴女の目論見はお見通しですよ。時間稼ぎなどさせません。速やかに猟書家『嫦娥』――骸の海へと還してさしまげましょう」

 紡がれるは終わりの始まり。
 猟書家『嫦娥』を終わらせるための序曲。
 浄化の力を持ってミアステラの周囲に集まった水が矢を形成していく。
 それは必中の力を持つ水の矢。
 何人たりとも躱すことのできぬ凄まじきユーベルコードの輝きが、世界に彼女の祈りを力に変える。
「他者への想いこそ、祈りこそ今、貴女を穿つと知りなさい」
 人の想いこそが力を為す。

 生半可な力ではミアステラの精神力のこもった加護の力宿す矢を砕くことはできない。
 生み出された数多の水の矢が降りしきる雨のように『嫦娥』へと降り注ぐ。
「馬鹿な……! 貴様の魔力も、精神力も、この骸の月が削っているはずだ! なのに何故……!」
「誰かを想った祈りはわたしの力。確かに貴女の月は精神力を削るのでしょう。けれど、他者を思い祈る力が、わたしの中から尽きることはありません」
 そう、ミアステラは想う。

 妖怪たちがあんなにも喜んだ顔を。
 あの笑顔をクズだと切り捨てた『嫦娥』を捨て置くことなどできはしない。彼等は喜んだのだ。
 自分の姿を認めてくれた人々たちの視線を。
 だから誰も傷つけなかった。その想いを蔑んだ者を許してはならないと、ミアステラは己のあらん限りの力を持って水の矢を『嫦娥』へと放つ。

 躱すことのできぬ、千射必中の矢が『嫦娥』の身体を尽く穿ち、その嘲りの代償を支払わせるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
さて、あとはお前だけだね……とは言え速攻を心がけないといけないか……
透過する力が嫦娥にも働いていないのはありがたい話だ……

嫦娥が操作する「陰陽反転体」を回避しながら戦闘……ある程度こちらに気をひきつけてエージェントに合図
嫦娥を閃光手榴弾で一時的に怯ませて貰おう……
そこに術式装填銃【アヌエヌエ】から遅発連動術式【クロノス】により、命中箇所に【想い転ずる妖硬貨】が張り付く銃弾を発射、嫦娥にコインを貼り付けるよ……
引き寄せる力は彼女のもの……反転したらどうなるかは言うまでもなく
あとはエージェントからオブジェクトの動きを連絡してもらい
この効果に気づかれて解除されるまで存分に時間を稼ぐとしようか



 生み出された祈り紡ぐ水の矢が猟書家『嫦娥』の体を貫く。
 しかし、腐っても邪神であった骸魂『嫦娥』は未だその身体を維持し続けていた。周囲にある無機物の全てを『陰陽反転体』へと変換しながら、小さな骸の月にもたれかかるようにして彼女は力を振るう。
「忌々しい……妾の体に傷をつけるなど……!」
『陰陽反転体』は彼女の力によって操作される、あらゆるものを逆転させる物体である。
 球状の宝珠めいた『陰陽反転体』が次々に空を舞い、猟兵たちを駆逐せんと迫るのだ。

「さて、あとはお前だけだね……とは言え、速攻を心がけないといけないか……」
 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は引寄されるUDCオブジェクトを追って、街中を疾走る。
 彼女の瞳に写っているのは、『嫦娥』とUDCオブジェクトとの距離であった。
 目算で未だ『嫦娥』の手中にオブジェクトが収まるのは時間がかかる。
 けれど、それ以上に未だ猟書家『嫦娥』の力は衰えを見せていない。オブジェクトに掛けられた全てを透過する力が、本体である彼女にまで至っていないのが救いであった。

「もしも、その力が自身の体にまで及ぶのであれば、私達は一方的に敗けて居ただろうけれどね」
 けれど、そこまで十全の力を発揮できていない。
 なぜなら、彼女の本体は未だ月に封印されたままであり、彼女自身が骸魂となってダウングレードしているようなものだからだ。
「だからなんだ。お前達は妾を倒しきらねば、滅びることは必定であるぞ。妾はお前達をかわせばよいのだ」
 未だ余裕を持った言葉を紡ぐ『嫦娥』にメンカルは変わらぬ表情のまま頷く。

 確かに彼女の言うとおりだ。
 時間は『嫦娥』の味方であり、時間がすぎればすぎるほどに猟兵達は滅びの道へと歩み続ける。
 けれど、メンカルは一人ではない。
 他の猟兵たちもいれば、UDCエージェントたちだっているのだ。
「とはいえ、『陰陽反転体』だっけ……動きに精彩を欠くのは、やっぱりダメージあ入っているからだよね」
 その言葉と同時にUDCエージェントたちが一斉に閃光手榴弾を投げ放つ。
 それは凄まじい光量でもって『嫦娥』の目をくらませる。

「目くらまし! 光で妾の目を潰そうなど!」
 月の邪神たる『嫦娥』が歯噛みする。それも一瞬であったことだろう。大した時間稼ぎにもならない。
 だが、一瞬でよかったのだ。
 抜き放った術式装填銃『アヌエヌエ』より放たれたのは、遅発連動術式『クロノス』を込められた弾丸であった。

「――ぬっ!?」
『嫦娥』は己の体に撃ち込まれた弾丸……いや、妖怪メダルに目をみはる。
 その妖怪メダルは妖怪『うらはら』が描かれていた。なにをと、思った瞬間『嫦娥』は驚愕に目を見開く。
「儘ならぬ心よ、変われ、逆らえ。汝は反転、汝は心変。魔女が望むは思えど叶わぬ裏表――……強く思えば思うほどにってね」
 メンカルは己のユーベルコードがもたらした『嫦娥』への影響を語ることはなかった。

 何故ならば、このユーベルコードの術策は、仕組みを解明されぬことこそがもっとも効果を発揮する。
 そう、妖怪『うらはら』の力を宿したメダルは、『無意識に思考とは逆の行動・言動をしてしまう』という力が込められている。
 即ち、今の『嫦娥』が最も求めているのは――。
「何故だ、妾の『肉体の断片』が遠ざかっていく!?」
 そう、妖怪メダルの力、想い転ずる妖硬貨(リバース・マインド)によって引き寄せていたオブジェクトは、真逆に『引き離されて』いくのだ。

 それも無意識化に行っている事故に、制御することは難しい。
「このメダルか!」
『嫦娥』が引き剥がそうとするのをメンカルは術式装填銃より放たれた遅発連動術式『クロノス』の術式を展開する。
 次々と張り付いていくメダル。
 一枚引き剥がしたとしても、また再びメダルが張り付いていく。堂々巡りのような悪夢。

 時間こそが味方であった『嫦娥』の計算違い。
 メンカルはさらなる時を稼ぎ、己のもつ術式装填銃の銃口を向ける。
「意識がそれた――今だよね」
 引き金を引いた瞬間、今度こそ術式を装填された弾丸が『嫦娥』の体に撃ち込まれ連鎖するように爆破の術式でもって、その肉体を爆炎に包み込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

惑草・挧々槞
無機物を操る能力、って、改めて考えると凄く厄介よね。特に市街地ならガラスや金属の類には事欠かないでしょうし。

ひとまず、通信機が殺される前にUDC組織の方々へ無機物を含む装備をなるべく使わないよう通達を。相手が同時にどれだけの陰陽反転体とやらを扱えるかは知らないけれど、警戒は必要よね。
後は戦闘区域付近に遠隔操縦可能な機械があるなら遠ざけて貰うとして……

周囲の無機物を完全に無くせる訳は無いし、反転体の攻撃は甘んじて受けるわ。まあ脱力状態で受ければ《霊線歿発》の効果で無効化出来るのだけれど。
受けたダメージを光に変換して、経絡や地脈を巡らせて少し遅延させてから<不意打ち>気味に霊光を発射しましょうか。



 爆炎の中から猟書家『嫦娥』が飛び出す。
 己の周囲に点在する『陰陽反転体』は彼女の体を守るようにして、浮遊していたが彼女の本来の目的である『かつての肉体の断片』を引き寄せる力を反転させられ、はるか遠くまで跳ね返されていた。
「おのれ……! 癪に障ることばかりしてくれる! 妾の無意識に影響を及ぼすユーベルコードなど……!」
 引き寄せようとしていたUDCオブジェクトを無意識下で反転させられた『嫦娥』は真逆の行為でもってこれまで稼いだ時間を無駄にさせられていた。

 猟兵達の戦いは時間との戦いであったが、そのおかげで僅かであるが時間に余裕ができたのもまた道理である。
「無機物を操る能力って改めて考えるとすごく厄介よね」
 惑草・挧々槞(浮萍・f30734)はピンクのフリルをはためかせながら、大槌を手に街中を疾走る。
 周囲には無機物と呼ばれるようなガラスの破片や建物の残骸が残っている。
 周囲に利用しようと思えばいくらでも『嫦娥』は調達してくることができるのだ。

「小賢しい人間どもは!」
『嫦娥』の放つ『陰陽反転体』が飛ぶ。
 それに触れてしまえば、あらゆるものが反転させられてしまう。意識も力の作用も、何もかもだ。
 触れた瞬間に人間の血液の流れさえも逆流せしめてしまうだろう。
 そうなってしまえば、UDCエージェントたちはひとたまりもない。挧々槞は通信機が破壊される前にエージェントたちに距離を取るようにと耐える。
 彼等が使う装備は却って『嫦娥』に武器を与えるようなものであった。

「それはさせないって言っているでしょう!」
 振るわれる魔王槌の一撃が『陰陽反転体』に寄って防がれる。攻撃だけでなく防御にも使えるのだろう。
 反転した魔王槌の一撃の衝撃が挧々槞を吹き飛ばす。
「無駄だ! 妾の『陰陽反転体』は攻防一体! 如何に攻撃を加えようともな」
 迫る球状の『陰陽反転体』が挧々槞を圧殺せんとせまる。
 その鉄槌のような攻撃を彼女は躱しながら、周囲にある無機物から『嫦娥』を引き離していく。

 どれだけの数を彼女が使えるのかはわからない以上、警戒は必要である。
 見たところ、無数の『陰陽反転体』を扱うことができるようであるが、攻撃に使うことができるのは今の所一つ。
 残りは防御に使っているのだろう。
「攻撃の意識を向けられるのは一つだけってわけね――なら!」
 挧々槞は迫る『陰陽反転体』に己の体を向ける。
 完全なる脱力状態。
 攻撃を躱すのではなく、受ける。それも受け止めるという意識すら捨て去る。ただあるがままに放たれる『陰陽反転体』の一撃を彼女は受けたのだ。

「フハハハ! そのまま潰れてしま――!?」
『嫦娥』は驚愕しただろう。 
 戦いの最中にあって、猟兵が完全に脱力することが如何なる意味を持つのか。それは輝くユーベルコードによって、意味を知らしめられる。
「余所見するなんて、随分と余裕そうね?」
 挧々槞は無効化され、光の粒へと変化させた『陰陽反転体』であったものを、その手中に納めていた。
 一体何が起こったのか、『嫦娥』には理解できなかったことだろう。

 目の前にあったのは己の操るものを無効化し、我がものとした猟兵の姿だけだ。
「霊線歿発(フォトンレイライン)――よそ見をしている暇なんてないわよ」
 彼女の手の内から光の粒が消える。
 いや、違う。消えたのではなく、彼女の足元にある地脈へと入り込んだのだ。
 巡る光の粒は、地脈を駆け巡り、『嫦娥』へと迫る。
「妾の力を簒奪するというか、猟兵風情が!」
「確かに貴女はすごく厄介。だけど、詰めが甘いようね。そんなのだから封印なんていう憂き目にあうのよ」
 挧々槞が微笑んだ瞬間、『嫦娥』の背後から光の粒が集まり一塊の巨大な光珠へと変化し、その背を貫く。

「ぐあっ――!?」
 不意打ちで放たれた光。霊光たる一撃は、如何に防御を固めていようとも、『嫦娥』自身が反応できなければ無意味である。
 貫いた一撃でもって、『嫦娥』は益々消耗させられる。
 丁寧に積み重ねた策とユーベルコード、その経験則こそが挧々槞にとっての真なる武器である。

 どれだけ強大な存在が相手であったとしても、彼女の手癖の悪さは、それをたやすく上回るのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェット・アームストロング
カクリヨの人々も救出出来たか。後はあのヴィランを倒すのみ。
全身を覆う【ジェットフォース】による【推力移動】で宙に飛び上がり嫦娥へと突撃する。
月の波動で減衰させられる。ならば更なる力を。
【Caloric Blast】。体内の体脂肪をエネルギーに変換し、拳に【エネルギー充填】する。
この一撃に全てを込める。生命維持に必要なギリギリまで脂肪を消費しエネルギーに代える。
体が見る間に痩せ細っていく。持久力を失った身体は継戦困難になるだろうが気にしない。破滅まで時間がない。この一撃に全てを込める。
エージェント達や猟兵達、共に戦う仲間がいる。後は彼らに託す。
二つの世界の秩序と正義の為。全身全霊の拳を叩き込む!



 カクリヨファンタズムに引き寄せられたUDCアースに住まう人々は猟兵たちとUDC組織のエージェントたちに寄って無事、戦いの場から引き離された。
 もしも、猟書家『嫦娥』の目論見が全てうまく行っていたのならば、猟兵達は護るべき存在の多さとUDCオブジェクトを引き寄せる力に対処しきれなかったことだろう。
 この事態を引き寄せたのは、他ならぬ妖怪たちである。
 彼等が人々を攻撃せず、虐殺に寄って負のエネルギーを取り込む隙を与えなかったからこそ、事態は猟兵に傾いたのだ。

「カクリヨの人々も救出できたか。後はあのヴィランを倒すのみ」
 ジェット・アームストロング(ヘビーセット・f32990)は全身を覆うジェットフォースの力によって大気の力を取り込み、凄まじい推進力で『嫦娥』へと迫る。
 UDCオブジェクトは猟兵の活躍により、彼女の手より再び離れた。
 けれど、再び時間さえかければ彼女の手中に落ちるだろう。そうなっては猟兵と言えど、完全なる邪神の力を取り戻した『嫦娥』に勝てる見込みは少ない。
『ヘビーセット』は小さな骸の月に乗る『嫦娥』めがけて一直線に飛ぶ。大気の力を取り込んだ彼の体は、まさに矢のように飛ぶのだが、『嫦娥』に近づくにつれて力が減退していくのを感じる。

「馬鹿め、不遜なる者が妾に近づけると思うてか! この骸の月の力は貴様たちの力を減退させる。如何に体を強固な力で覆うのだとしても、妾の骸の月の前では無意味よ!」
『嫦娥』が嗤う。
 彼女の勝利条件は唯一つである。
 時間を稼ぎ、UDCオブジェクトたる『かつての肉体の断片』を手に入れること。そのためには猟兵達に今勝つ必要はけっしてないのだ。

「む……月の波動で減衰させられる――ならばさらなる力を! Caloric Blast(カロリックブラスト)!」
 その叫びと同時に『ヘビーセット』の脂肪が燃焼していく。
 それは諸刃の剣であったことだろう。彼の力は脂肪を持って発揮するものであるが、膨大なエネルギーへと変換された脂肪を失えば、彼はただの人程度の力しか持たぬ存在へと成り下がる。
 けれど、彼にとって、それは問題ではなかった。

 たとえ、体を護る障壁たる脂肪を喪ったとしても、己の拳に宿る膨大なエネルギーでもって敵を穿てばいいのだ。
 これまで他の猟兵たちが紡いできた強大な敵との戦い。
 それを他の者に繋ぐためには、己もまた生命維持ギリギリまでに脂肪を削ぎ落としてエネルギーに変えなければならない。
 見る見る間に身体がやせ細っていく。
 けれど、彼の拳だけが輝きを放ったままであった。
「この程度のこと、気にかけてなどいられるものか。お前の存在が世界に破滅をもたらすというのならば、この一撃に全てを込める!」

 限界を超えたエネルギーに拳がきしむ。
 されど彼は気にしなかった。
 何故ならば。
「私にはエージェントたちや猟兵達、共に戦う仲間がいる。後は彼等に託す」
 ほとばしる膨大なエネルギーを持つ拳が大気を振るわせる。
 力を減衰させる骸の月の力をもってしても『ヘビーセット』の決死の一撃を衰えさせることはできなかったのだ。
「何故、そこまでする……!? 貴様に何の縁もない世界であろうに!」
『嫦娥』が叫ぶ。それは本能的に悟ったのだろう。

 今目の前にいるヒーローに骸の月の力が効かぬことを。
 極大にまで膨れ上がったユーベルコードの輝きを放つ拳を受ければ、己とて無事ではすまぬと理解したのだ。
「関係あるさ。二つの世界の秩序と正義の為! ただこれだけで十分なのさ!」
 振りかぶられる拳の一撃が膨大なエネルギーを放出し、『嫦娥』の身体を撃つ。
 瞬間、『ヘビーセット』の拳は、彼女がまたがる小さな骸の月に亀裂を走らせ、その力を十全に発揮できぬ致命的な一撃を加えたのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
月の邪神はご機嫌斜めかしら、『嫦娥』?
他者の心を理解出来ないから、己が欲求を叶えることしか眼中にないからこその、邪神。そんなものは骸の月にでも永遠に封印されてなさい。

「結界術」「全力魔法」風の「属性攻撃」「衝撃波」「範囲攻撃」「仙術」「道術」で、風吼陣展開。

真の姿とか自己強化とか、そんな悠長なことするのは面倒でね。
速戦即決で、あなたを切り刻んであげる。逃げても無駄。あたしの絶陣はすぐに抜けられるほど狭くない。
この剣風吹き荒ぶ風吼陣の中で、骸の月の力を使えるとは思わないでね。
反撃しても、舞い踊る剣が波動を乱反射してくれる。
でも、出来れば何も行動させずに終わりたいわ。それが世界平和のためだもの。



「おのれ! 猟兵! 妾の月を!」
 猟兵の一撃が猟書家『嫦娥』のまたがる骸の月に亀裂を走らせる。
 それは彼女にとって予想しないことであったのだろう。本来であれば、彼女の十全な力であるのならば月の邪神とも呼ばれた力で猟兵を一掃することなど容易いことであった。
 けれど、猟兵達は尽くを踏破してくるのだ。
 けっして違えることのない矢で、己の引き寄せる力を反転させ時間を稼ぎ、背後より放たれた一撃で身体を穿たれた。
 さらには小さな骸の月さえも亀裂走る姿に変えられた。

 それがかまんならぬと『嫦娥』は怒りのままに力を放つ。
 今だ骸の月の力は衰えど、猟兵たちを相手取るには十分であると言わんばかりに、対峙する猟兵達の力を削ぐのだ。
「月の邪神はご機嫌斜めかしら、『嫦娥』?」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、衰えたとは言え、凄まじい力を放つ小さな骸の月の波動を結界術でもって防ぐ。
 けれど直感する。
 それが数分も持たぬことを。
「わかっておるのならば、わざわざ聞くでない。癪に障るやつ!」
『嫦娥』を見据えるゆかりは、その言葉を聞いて満足げであった。

「他者の心を理解できないから、己が欲求を叶えることしか眼中にないからこその、邪神。そんなものは骸の月にでも永遠に封印されてなさい」
「笑わせるな。己の欲求すら偽る者に何が成せるというのだ! おためごかしを!」
 ゆかりが組み上げた風の仙術と道術によって紡がれるのはユーベルコードの輝きであった。
「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。天上までも響き渡る破壊の風よ。その身に宿せし無限の剣刃により触れるもの悉くを裁断せよ。疾!」
 ゆかりを中心にして吹き荒れる無数の刃をはらんだ暴風圏が展開される。
 それこそが風吼陣(フウコウジン)。
 広範囲に広がった攻撃範囲こそが彼女のユーベルコードの真骨頂であろう。

 たとえ、月の波動に寄って真なる姿や己にたいする強化などが必要であったのだとしても、ゆかりはそれを悠長なことだと、面倒だと切って捨てる。
「速戦即決で、あなたを切り刻んであげる。逃げても無駄。あたしの絶陣はすぐに抜けられるほど狭くはない」
 吹き荒れる刃が、陣の中に巻き込まれた『嫦娥』を切り刻む。

 たとえ反撃したとしても舞い踊る刃が月の波動すらも切り裂くのだ。
「おのれ……だが、知るがいい。息巻く貴様もまた過去になるのだ。その時、お前は己の欲求を抑えることができるか? いや、できはしまい。生命である以上、妾の欲求こそが生命そのもの!」
 月の波動を放つ『嫦娥』の叫びが刃の暴風圏の中にこだまする。

 確かに手応えはある。
 けれど、それでもゆかりは、己の絶陣の中で息絶えることなく空へと舞い上がる小さな骸の月を見た。
 血化粧のように全身を赤く染めながらも、『嫦娥』は笑っていたのだ。
 己こそが生命であると。
 遍く全ての生命こそ己に服従するのが正しいことであると笑っていた。
「それでもなお妾を打倒するというか、猟兵!」
「ええ、それが世界平和のためだもの」
 ゆかりの渾身の輝きを放つユーベルコードが凄まじい突風と共に刃を振るう。

 再び刃の嵐の中に飲み込まれた『嫦娥』の哄笑が嫌に耳に響く。
 ゆかりは、凄まじい力を持つ嘗ての邪神の姿に、今だ己たちが知らぬ強大な存在を垣間見たのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
役立たずを呼び出し、作り出したのはご自分でしょうに。名のわりに、いえ盗人と同じ名の通り器の浅さが見えますね。

神器鳴神を投擲、念動力で操作し確実に命中させます。掠る程度でも当たったことには変わりません。そのまま竜王を召喚し雷撃で攻撃します。
私は一人ではありません。力を貸して下さる竜王さんや白銀がいるんです。
強化を無効されたところでなにも支障はありませんよ。
ええ、きっとあなたは誰も信用していらっしゃらないのでしょう。だから簡単に「役立たず」なんて言えるのでしょう。それは自分に向けて言っているのも同じなのに。



 猟兵の攻撃を受けて鮮血に身を染めた猟書家『嫦娥』の表情は憤怒に染まっていた。
 己のまたがる小さな骸の月に亀裂が走ったのは猟兵の一撃によるものであった。『かつての肉体の断片』を喪っている身であるが、その骸の月より放たれる波動は、あらゆる猟兵の力を減衰せしめる。
 たとえ、真なる姿をさらけ出したとしても、『嫦娥』の前には無意味であったことだろう。
 けれど、猟兵の戦いはいつだって紡ぐ戦いである。

 次に繋がる戦いを続け、連綿と勝利への道筋を紡ぐことこそが猟兵の最大の強さであった。
「どいつもこいつも役に立たなぬ。妾をここまで追い詰めることになるとは」
 だが、UDCオブジェクト、『かつての肉体の断片』さえ手に入ってしまえば、猟兵と言えど恐れるに足りない存在である。
 ゆっくりと確実に引き寄せられるオブジェクトの存在を彼女はしっかりと感じていた。
 しかし、時間が足りない。
 猟兵たちが己のユーベルコードと知略でもって先延ばしにし続けているのだ。
「役立たずを喚び出し、作り出したのはご自分でしょうに。名のわりに、いえ盗人と同じ名の通り器の浅さが見えますね」
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は己の知る伝承を紐解けば、『嫦娥』という名の存在が如何なる末路を辿ったのかを知る。
 盗人と呼びつけたのもまた、そのとおりであったのだろう。

 目の前の猟書家が、彼女の知る通りの存在であるかどうかはわからない。
 けれど、藍にとって『嫦娥』の器はその程度であると知れたのだ。
「ほざいたな、猟兵! 妾の名を持って盗人と言うか」
 月の波動が藍を襲う。
 この波動の前にはあらゆる強化が無意味に成り果てる。しかし、藍は手にした神器たる三鈷剣を素早く投げつけた。
「私は一人ではありません」
 投げ放った三鈷剣が空中で一回転し、彼女の念動力によって方向転換する。しかし、どれだけ念動力によって制御された投擲なのだとしても、『嫦娥』には意に介するものではなかった。

 たとえ、あたったとしてもユーベルコードでもない一撃である。
「その程度のもので今更妾を……!」
 かすめるようにして三鈷剣を躱す『嫦娥』であったが、それは彼女の驕りであった。
 藍の瞳がユーベルコードに輝く。
「そう、力を貸してくださる竜王さんや白銀がいるんです。竜王招来(リュウオウショウライ)!」
 その瞳に呼ばれるようにして嵐の王たる竜王がカクリヨファンタズムの空に顕現する。

 念動力によって放たれた一撃は、その竜王が放つ雷撃へのマーキングであった。
「ええ、きっとあなたは誰も信用していらっしゃらないのでしょう。だから簡単に『役立たず』と言えるのでしょう」
 藍の瞳には『嫦娥』の姿がある。
 血まみれになり、穿たれ、頼みにしていた骸の月すらもひび割れている。
 それが彼女が誰も信用せず、誰も省みることのなかった証拠であった。故に藍は憐れむのだ。

 誰も信じないということは、自分も信じないということだ。 
 誰かを信じることのできない者に、人は信頼を託さない。きっと己だけの力で世界が回ると思っていたのだろう。
 その傲慢さを穿つように空より極大の雷撃が落ちる。
 轟音が迸り、凄まじい衝撃波が周囲に吹き荒れる。
 藍は召喚せしめた竜王に一礼しながら、雷撃に撃たれる『嫦娥』を一瞥する。

「それは自分に向けて言っているのも同じなのに」
 藍は己のユーベルコードの輝く瞳を伏せ、哀れなる独りよがりの結末を見送るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
猟書家にも邪神がいるんだ
骸魂でもあるなら妖怪でもあるのかな
大祓骸魂もだし邪神と妖怪の関係は気になるね

とはいえ今は目の前の敵を倒すとしよう
ガトリングガンで攻撃するよ

月影侵蝕魂、骸魂として相手に憑りつくUCなのかな
丁度いいから隙を見せて敢えて憑りつかれようか
名前や記憶を奪われるのと違って邪神が自由にならないしね

こちらに憑りついたら邪神の恩寵を使用し嫦娥ごと石化しよう
普通なら融合を解除すれば逃げられるんだろうけど
この石化は邪神を縛る封印だから簡単には逃げられないと思うよ

晶の名を奪ったり体を奪おうとしたり失礼な話ですの
そこは本体(わたし)が存分に力を揮える数少ない場所ですの
是非堪能していって下さいまし



 猟書家『嫦娥』は月に封印されていた邪神が骸魂へと姿を変えて世界への侵攻を企てた存在である。
『かつての肉体の断片』であるUDCオブジェクトを求めたのは、封印されている己を完全に復活させ、オウガ・フォーミュラの求める『閻魔王』を見つけるためだ。
 されど、今や猟兵達の攻撃にさらされ、その身を鮮血に染め上げながら雷撃の一撃を受けた『嫦娥』は満身創痍であった。
 もたれかかる小さな骸の月は猟兵の一撃でひび割れ、その力を十全に発揮できていない。

 だというのに、彼女が逃走することがないのは、『かつての肉体の断片』さえ手中に収めれば猟兵たちを一掃することなど容易いからだ。
 しかし、ゆっくりとだが確実に引き寄せられていたオブジェクトは猟兵の機転によって遠ざけられている。
 今だ『嫦娥』を打倒できていなくても、時間の猶予はある。
「けれど、それでもまだ悠長にしてはいられないんだよね」
 佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は猟書家にも邪神の存在があることに驚いていた。
 骸魂へと姿を変えて封印を抜け出してきたのならば、大祓骸魂が邪神であったことと何らかの関係があるのかと訝しむ。

 邪神と妖怪。UDCアースとカクリヨファンタズムが隣り合った世界であるように、世界と世界の間には『石抱きの井戸』のように繋がりを持つ何かがあるのではと考えるのも無理筋ではないように思えたのだ。
「とはいえ今は――!」
「ほう、妾と似た気配がすると思えば」
『嫦娥』が晶を見る。
 彼女の身の内に融合した邪神の気配を感じ取ったのだろう。

 それならば好都合とばかりにガトリングガンの斉射を躱しながら『嫦娥』が骸魂としての力を発露させ、晶に取り付く。
「邪神を身に内包しているのならば、妾とも馴染むだろうよ。傷を追った妾を癒す栄誉を与えてやろう」
 そう微笑み、『嫦娥』は晶の体にまとわりつき、その身を強制的に合体せしめる。
 恐るべきユーベルコードであったが、晶は違う。
 晶は敢えて隙を見せていた。名前や記憶を奪われるのと違って、邪神が自由にならない。

 先程の戦いで邪神に主導権を奪われこそしたが、この状態ならば内包する邪神と恐らく競合すると踏んだのだ。
「――何……? 貴様、停滞の権能を!」
「皆様に優しい静寂を差し上げますの。晶の名を奪ったり、体を奪おうとしたり失礼な話ですの。そこはわたしが存分に力を揮える数少ない場所ですの」
 にこりと微笑む邪神。
 そこは晶の体の中であれど、邪神が唯一好きに出来る場所であった。晶本人としては迷惑な話であるが。

「邪神の恩寵(ガッデス・グレイス)、わたしの権能を是非堪能していってくださいまし」
 晶の体の中は、石化を司る邪神を縛る封印そのものである。
 普通ならば融合を解除すれば逃げられるのだろう。けれど、邪神を封印する器そのものたる彼女の体の中からは、骸魂とは言え、邪神である『嫦娥』はたやすく逃げられるものではいだろう。

「馬鹿な……! たかが人間の身体が邪神を封じる器だと……!?」
 奪うはずだった精神力を欠片も奪うことができずに『嫦娥』は合体した晶の身体の中で権能同士をぶつけ合い、石化の封印に抗う。
 逃げなければならない。
 いや、逃げ込むはずだったのだ。如何に猟兵と言えど、同じ猟兵の体に憑依した己を攻撃できないと思っていた。

 だからこそ、この罠のような権能を手繰る邪神を相手に消耗するのは得策ではない。
「あら、もうお還りですの? もう少しゆっくりされていっては?」
 邪神が微笑む。けれど、その言葉通りではない。
 此処は己の場所だと言うように固定の権能と月の邪神の権能がぶつかり合い、吹き飛ばされるようにして、晶の体から『嫦娥』の骸魂たる身体が吹き飛ばされる。
「本当にもう、失礼ですの。人様の厚意すら無碍にするなんて」
 ぷんぷんする邪神を他所に晶は、この体は自分のモノなんだけどな、と言わずには居られなかった。

 けれど、それでも二人は奇しくも邪神とのつながりがあるからこそ、『嫦娥』に消耗を回復させる隙を与えなかったのである――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『侵す者』にて
武器:黒燭炎

ああ、とんでもない目に合った…。
UDCエージェントには、敵から距離をとってもらいつつ『馬県義透』という名を意識してもらおう。

あー…その波動、ちょうどよいな。さっきまでの荒ぶりがおさまる。それでわしが倒れるはずもなし。
ダッシュして一瞬で距離をつめ、さらには黒燭炎でなぎ払う。
避けたとして、下からは陰海月、上から霹靂の強襲あるでの?わしだけに気を取られぬことだ。
そして、これら全てにUC効果が乗っておるからの。


陰海月と霹靂は友達。さっきのはびっくりしたけど、悪霊だというのは元々知ってた。
陰海月「ぷきゅ」
霹靂「クエッ」



 ほどかれた束が結わえられるように狂える魂が束ねられていく。
 それは本来あってはならない現象であったのだろう。名前を奪われることが暴走の起因となるのが複合型悪霊の欠点であるのならば、それを縛る名の力とは如何程のものであったことだろう。
「あ、あとんでもない目に合った……」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱たる『侵す者』は、己の不始末に頭を振る。
 予めUDCエージェントたちに離れていてもらってよかったと心底安堵した。

 あのままでは彼等さえも巻き込んで暴れかねない様相であったが故に、己達の一文字ずつを取って名付けられた名前である馬県義透という名を彼等に認識してもらうことでしか、解けた束は元には戻らなかった。
 魂というあやふやな状態を縛るのが名前であるというのならば、確かに彼等は悪霊そのものであったのだ。
「しかし、月の邪神……」
『侵す者』は猟兵たちの攻撃を受けて満身創痍の消耗を受けた猟書家『嫦娥』を見やる。

 鮮血に染まった身、ひび割れた小さな骸の月。
 如何に『かつての肉体の断片』を引き寄せようとも、猟兵達の機転と攻撃に寄って尽くが先延ばしにされてしまった『嫦娥』は、その顔を怒りに歪ませている。
「どこまでも妾の道を邪魔立てするものたちよ。貴様らさえいなければ――!」
 怒れる『嫦娥』の放つ月の波動が『侵す者』には今は心地よかった。
「さっきまでの荒ぶりが収まる。だが、それでわしが倒れるはずもなし」
 先程までの荒ぶり様が嘘のように『侵す者』は黒色の槍を手にして、『嫦娥』との距離を詰める。

「それは此方のセリフであるよ!」
 月の波動は衝撃波となって『侵す者』を吹き飛ばす。
 されど、彼の影から飛び出した二つの影が『嫦娥』を追い詰めていく。
『陰海月』と『霹靂』である。
 巨大な海月と雄々しきヒポグリフ。その二つが嘶くようにして声を上げるのだ。
「ぷきゅ」
「クエッ」
 彼等は『侵す者』たちの影に潜むものであるが、先程の荒れ様には、ひどく驚いたようであった。

 もともと悪霊であることは知っている。けれど、それ以上にあれほどまでに荒れ狂うとは思っても居なかったのだろう。
 けれど、それで彼等を見限ることはない。
 何処まで言っても自分たちの棲家は彼等の影の中にあるのだから。
 上と下から、『影海月』と『霹靂』が同時に『嫦娥』を強襲する。
「わしだけに気を取られぬことだ」
 放たれる攻撃の数々はそれは火のように(シンリャクスルコトヒノゴトク)苛烈な重さを持って放たれる。

 どれを受けても今の『嫦娥』にはこらえることはできないだろう。
 だからこそ、躱し続けるしかないのだ。
「忌々しい……! 妾がこの程度の者たちに手間取るなど!」
 月の邪神であった彼女にとって、この状況は腹立たしいことこの上ないのだろう。本来の力であれば一掃できる程度の存在でしかない。
 此れもそれも、全ては妖怪たちが人々を襲わなかったというケチがついてからだ。舌打ちする『嫦娥』は誰も信じていないのだろう。

 けれど、『侵す者』は違う。
『陰海月』と『霹靂』を信じている。上と下との同時攻撃に対応するために、『嫦娥』の意識が一瞬、自分から外れる瞬間を見つめる。
「わしの一撃、受けきれるか!」
 輝くユーベルコードを受けて放たれる黒色槍の一撃が、意識の間隙を縫って、『嫦娥』へと放たれる。
 それは防御すら不可能な一撃であり、とっさにかばった小さな骸の尽きすらも穿ち、『嫦娥』の身を貫くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
時間はあなたの味方かもしれませんが、この状況で時間稼ぎなどさせません。
狙撃手に自分の場所を教える愚、その身で味わってもらいましょう。

UDCの職員と協力し、複数の引き寄せられるUDCオブジェクトから嫦娥の位置を把握し、陰陽反転光の射程外である嫦娥のレベルm半径外にある嫦娥を狙うことができる場所に案内してもらいます。

敵の目的は時間稼ぎですし、陰陽反転体を壁にしているかもしれませんが、身を隠したところでUDCオブジェクトの動きから位置は分かります。

あとは壁を貫く威力があればいい。一発撃つだけで代償のある弾丸ですが……1発あれば十分です。
『スナイパー』の技術と【凍風一陣】で敵を撃ち抜きます。



「馬鹿な……! 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!!」
 猟書家『嫦娥』が呻く。
 如何に己が骸魂となって封印を抜け出してきた半端な存在であれど、ここまで猟兵に追い詰められることが在っていいはずがない。
 彼女にとって本来猟兵など一掃出来る程度の存在でしかないのだ。

 しかし、それは『かつての肉体の断片』を手にした月の邪神としての彼女の話であった。
 今の彼女は、UDCオブジェクトたる『かつての肉体の断片』を手に入れるためにカクリヨファンタズムにUDCアースの街を一つ引き寄せた。
 今も尚、そのオブジェクトはゆっくりとだが確実に己の手中へと収まろうとしていた。苛立つのは、本来であればもっと早くに『かつての肉体の断片』を手に入れることができたという事実のせいである。
「猟兵どもが、妾の道行きを邪魔ばかりしおって……! だが!」
 そう、時間はない。
 彼女の瞳にはすでに『かつての肉体の断片』であるUDCオブジェクトの宝珠のような煌めきが映っている。

 漸くにして手に入れることができるのだ。
 これまで猟兵の機転や攻撃によって妨害されてきたが、時間さえ稼げばこの通りである。
『嫦娥』は笑った。
 如何に猟兵が攻撃してこようが、倒しきらねば全てが水泡と帰す。
「ようやくだ! これで妾は完全なる姿に――!」
 己の求めるものが手に入ると確信した瞬間にこそ『嫦娥』は最も警戒するべきであった。
 いや、もとよりそれはできなかったのかもしれない。
 煩わしい羽虫のような存在たちが、己の邪魔をするばかりであったがゆえに、その忌々しい猟兵たちをこれで一掃出来るという愉悦に笑ったのだ。

 だが、その笑みは一瞬で『凍りついた』――。

「確かに時間はあなたの味方かもしれませんが」
 彼女は見た。
 そのユーベルコードの輝きを。その身を苛む流血に塗れながら銃口煌めくマスケット銃を構え、スコープを覗く青い瞳を。
 そう、それはセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)の放つユーベルコードの輝き。

 彼女はUDC組織のエージェントたちと協力し、引き寄せられるUDCオブジェクトから『嫦娥』の位置を把握していた。
 そして、彼女たちは演算によって割り出した『嫦娥』が己を認識できず、されど己が狙撃できるギリギリの射程。
 きっとセルマだけでは割り出すことはできなかっただろう。
 そして、他の猟兵たちが『嫦娥』の力を削ぎ落としていなければ、叶わなかったことだ。

『嫦娥』はすでに満身創痍である。
 身体は鮮血に染まり、穿たれた穴が胴に空いている。
 打ちのめされた身体は、もはや無事な場所はない。そして、己の『かつての肉体の断片』に手をかけようとした瞬間という、絶頂。
 そこをセルマは見逃さなかった。
 陰陽反転体すらも展開せず、周囲に気を配ることもしていない『嫦娥』。それはまさに邪神としての驕りであったことだろう。
「狙撃手に自分の場所を教える愚、その身で味わってもらいましょう」
 セルマが呟く。

 瞬間、展開される陰陽反転体が『嫦娥』とセルマの間に壁を作り出す。
「あとは壁を貫く威力があればいい」
 一発を放つだけで彼女の全身からは夥しい血が喪われる。それほどの代償を持って放たれるユーベルコードの弾丸なのだ。
 けれど、ただそれだけでいい。
 己は狙撃手である。
 たった一発の銃弾だけで、性差を性能差を、あらゆる差を覆す事ができるのだ。

「『寒い』と思う暇も与えません」
 引き金はあっさりと引かれた。
 弾丸は燭影すら映さず、月へと奔る。
 陰陽反転体の壁すらもたやすく打ち抜き、高められた威力は『嫦娥』の眉間を正しく撃ち貫いていた。

 知覚することのできぬ凄まじい超長距離射撃。
 されど、それに反応したのが邪神である『嫦娥』。だが、惜しむらくは、相対したのがセルマであったこと。
 彼女の放つ弾丸は、凍風一陣(イテカゼイチジン)の如く。
「スコープの向こうにいるのは獲物だけです」
 たとえ、邪神であろうとも関係ない。
 彼女が狙い撃つのは獲物。ゆえに、『嫦娥』は己が撃たれたということを自覚することもできず、永遠に手に入らぬ絶頂のまま、霧散し消えていくのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月08日


挿絵イラスト