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青薔薇の聖女と翼の軍勢

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章

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「こんな辺境に人間共の拠点があるなんてね。愚民にしては考えたじゃない」

 明けない夜の帳に覆われたダークセイヴァーの荒野で、その女性は嘲るように呟いた。
 紫の髪に咲いた青い薔薇、背中に生えた白い翼は、オラトリオの特徴と一致している。だが、その女性の口元に浮かんだ笑みは、天使と呼ぶにはあまりにも酷薄で冷たかった。

「でも所詮は浅知恵ね。こそこそと隠れ潜んだところで、いずれは必ず見つかるのよ」

 彼女の名はセレスティア・ノート。第五の貴族に紋章を授けられた『辺境伯』の1人。
 かつて『青薔薇の聖女』と呼ばれた彼女がこの辺境を訪れた理由、それはオブリビオンの支配に抵抗する人類の砦を破壊するためである。

「あの小憎たらしい吸血鬼共の指図というのは癪に障るけど、今は従ってやりましょう。『人類砦』とやらを消し去れば、この地の支配権は実質的に私のものになるのだから」

 聖女の名からは程遠い表情で笑う女の胸元には、大粒の宝石に似た『紋章』が宿る。
 辺境伯の力を得ながら彼女には忠誠心の類は一切なく、あるのは己の邪悪な野望だけ。

「さあ進みなさい、私の薔薇、私の僕。私達の理想郷を築くために」

 堕ちた聖女の号令の下、進撃するは亡霊の群れ。オラトリオの証たる翼を持ちながら、呪いに囚われたその顔は虚ろで。ただ手綱を握る主の思うまま、意思なき戦いへと赴く。
 さも忌まわしき翼の軍勢は、この地に築かれた『人類砦』へと着実に迫りつつあった。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「『辺境伯』と呼ばれる強力なオブリビオンが、軍勢を率いてダークセイヴァーの人類の拠点を探しています」
 吸血鬼に支配された闇の世界ダークセイヴァーでは、近年『闇の救済者』という人類の抵抗勢力が力を増している。当初はごく小さな反乱運動だったが、今や地方の小領主にも匹敵するほどの大組織に成長しつつある。支配者達からすればは面白くない事態だろう。

「闇の救済者の拠点である『人類砦』を壊滅させるために、上位の吸血鬼達は『辺境伯』に討伐を命じました。力を付けてきたとはいえ、今の人類にはまだ荷が重い相手です」
 今回、敵の捜索の対象となった『人類砦』は辺境にある小規模な都市で、子供や老人を含めて2000人程の住人がいる。領主と戦うための訓練を受けた兵士や、城壁等の防衛設備も存在するが、極めて強力なオブリビオンである辺境伯の攻撃には耐えられないだろう。
「幸い、辺境伯の軍勢が『人類砦』を発見するまでにはまだ時間があります。今のうちに敵の軍容と進路を観測しつつ、奇襲の準備や避難などを行いましょう」
 既に地底都市に君臨する『第五の貴族』とも戦えるほどの実力を付けた猟兵達ならば、備えさえあれば辺境伯の軍勢にも負けないはずだ。リミティアはグリモアの予知を元に、現在判明している限りの敵軍の情報を提供する。

「敵軍を率いる辺境伯の名はセレスティア・ノート。かつては『青薔薇の聖女』と呼ばれたオラトリオの聖女ですが、生前に人間に見捨てられた経験から、骸の海から蘇った今は極度の選民主義者と成り果てています」
 彼女の過去に何があったのかは分からないが、人間のことを「愚民」と蔑む態度から、相当な恨みの深さが窺える。彼女の目的はオラトリオを集めた理想の世界を築くことで、今回の『人類砦』征服はそのための地盤作りという目論見もあるようだ。
「彼女は自分に『紋章』を与えた吸血鬼のことも本音では嫌っています。理想郷の住人として優遇するオラトリオでさえ、己を称えさせるためのアクセサリーでしかないのです」
 そんな歪んだ思想を反映したセレスティアの軍勢は、かつてヴァンパイアと戦い、敗れたオラトリオの女戦士たちの亡霊で編成されている。彼女らの魂は呪いによって操られ、死してなお望まぬ戦いを強いられる、哀れな奴隷兵士たちだ。

「辺境伯セレスティアの理想郷は全ての人類に不幸しかもたらさないでしょう。ですが、その歪んだ思想にこそ付け入る隙があります」
 オラトリオを特別視する一方で人間を過剰に蔑視するセレスティアの選民思想を上手く利用すれば策に嵌めることもできるだろう。例えばオラトリオに変装して敵軍に接触し、偽情報を吹き込むとか。逆に人間種族ならば囮作戦などもできるだろう。

「敵が人類砦に到達するまであまり多くの時間はありませんが、それまでに出来る限りの準備をお願いします」
 何時もの事と言えばそうかもしれないが、この依頼には人類砦で暮らす多くの人間の命がかかっている。燃え上がりつつある反抗の炎を逆風に吹き消されるわけにはいかない。
 説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべ、猟兵達を人類砦へ送り出す。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、強力な『辺境伯』の軍勢から『人類砦』を防衛するのが目的です。

 1章では敵が人類砦にやってくる前に迎撃準備を行います。
 進軍中の敵軍の偵察や伏兵の準備、人類砦にいる住民の避難など、後述する敵の情報も参考にしてできそうな事をお願いします。
 人類砦の住民は猟兵に対して友好的なので、要請すればできる限り協力してくれます。ただしオブリビオンの軍勢とまともに戦えるほどの戦力はありません。

 2章は辺境伯に率いられた『オラトリオの亡霊』との集団戦です。
 彼女らは呪いによってオブリビオンの支配下にあり、命惜しまず戦うことを強制されています。倒すことで呪縛より解き放つのが、何よりの救いになるでしょう。
 また、基本的に命令に従う存在なので、細やかな自己判断などは苦手なようです。

 3章は辺境伯の『青薔薇の聖女』セレスティア・ノートとの決戦です。
 吸血鬼を嫌い、人間を愚民扱いし、オラトリオによる理想の世界を築かんとする極度の選民主義者です。ただし種族が何であれ、自分に歯向かう者は皆殺しにします。
 その歪んだ思想を逆手に取れば、有利な状況を作れるかもしれません。また彼女に授けられた『辺境伯の紋章』は弱点でもあり、ここを狙った行動にはプレイングボーナスが付きます。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『辺境伯迎撃準備』

POW   :    襲撃を行うポイントに移動し、攻撃の為の準備を整える

SPD   :    進軍する辺境伯の偵察を行い、事前に可能な限り情報を得る

WIZ   :    進路上の村の村びとなど、戦場に巻き込まれそうな一般人の避難を行う

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神宮寺・絵里香
●心情
・青薔薇の聖女ねぇ。性格の悪そうなオラトリオには碌な思い出がねえ。馬鹿義娘を思い出すな…しばらく会ってねえけど、まあ、元気だろ。

●戦闘準備
・UCを使い、砦内の水場を回って片っ端から浄水。いざという時に使えるようにしておく。まあ、水は使えるに越したことはないからな。
・一通り砦を回りながら地形を覚えたら、砦の外に出て砦の付近にある川を探す。んでもって、水を蒸発させて薄く霧でも発生させておくかな。大気中の水は俺の武器になるし、姿を隠すのにも便利だしな。多少は敵からの発見も遅れさせられるだろう。
・今が夜で星が見えるならば、占星術で星でも読んでおくか。何か嫌なことに気が付けるかもしれないしな。



「青薔薇の聖女ねぇ。性格の悪そうなオラトリオには碌な思い出がねえ」
 今回の敵軍の指揮官について聞いた神宮寺・絵里香(雨冠乃巫女・f03667)は、誰の顔を思い浮かべたのか顔をしかめる。まあ「性格が悪い」にも色々あり、ため息ひとつで許せるレベルから、決して許してはならない邪悪まで様々だろうが。
「馬鹿義娘を思い出すな……しばらく会ってねえけど、まあ、元気だろ」
 その呼び方からして彼女が連想した相手は前者であり、敵のオラトリオは後者だろう。
 歪んだ選民思想に自己中心的な性格――会う前からげんなりしそうな面倒くさい輩に、人類砦を破壊させるわけにはいくまい。

「大いなる水を司る白蛇の名の下に、水よ我が支配下となれ」
 敵軍の襲来に備えて、絵里香はまず砦内にある水場を回っては片っ端から浄水を行う。
 彼女の一族が伝える蛇神の御業のひとつ【水神権限】を用いれば、泥混じりの汚れた水もたちまち奇麗になる。
「まあ、水は使えるに越したことはないからな」
「わあ……助かります!」
 籠城戦という展開も考えれば、いざという時に水を使えるようにしておいて損はない。
 砦で暮らす人々にとっても生活用水――特に飲用水の確保は生命線であり、それを浄化してくれる絵里香には大勢から感謝が伝えられた。

「中はわりと普通の街って感じだったな」
 浄水を行いがてら砦を見て、中の地形を一通り頭に入れると、絵里香は砦の外に出る。
 この辺の水場は砦内にある井戸や溜め池だけではないだろう。探してみれば一本の川が付近を流れているのがすぐに見つかった。
「ついでに薄く霧でも発生させておくかな」
 水神権限中の絵里香は、浄水の他に水の三態――水温を変化させ固体・液体・気体へと自在に操ることもできる。彼女がそっと川の流れに手を入れると、瞬時に蒸発した川水が霧となってうっすらと辺りに立ち込めていく。

「大気中の水は俺の武器になるし、姿を隠すのにも便利だしな」
 水神の力を借りて戦う絵里香にとって、水気の有無は戦い方をかなり左右する要素だ。
 そして川から発生した霧は風に乗って一帯に広がっていき、人類砦を含めた周辺地形を見えづらくする。これで多少は敵からの発見も遅れさせられるだろう。
「あとは他にできる事と言えば……」
 霧はこの位で十分だろうと川から手を離した絵里香は、何とはなしに夜空を見上げる。
 暗雲により星が見えないことも多いダークセイヴァーだが、今夜は珍しくいい天気で、雲の切れ間からキラキラとまたたく星や月が確認できる。

「星でも読んでおくか。何か嫌なことに気が付けるかもしれないしな」
 巫女としての教養の一環か、占星術の心得のある絵里香は星空を見上げて吉兆を占う。
 地域や時期、世界によって星々の配置も変わるのが難しいところだが――様々な世界を巡った経験も活かして占った結果は、「東南東に凶」と出た。
「東南東ね……もしかしたらそっちから敵が来てるのかもな」
 確証はまだ無いものの、この情報は他の猟兵にも共有しておいたほうが良いか。星占いを終えた絵里香はふむと思案げに首を捻りながら、霧けぶる荒野から砦に戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
遠距離から探知術式【呪詛、高速詠唱、情報収集】で敵の位置と侵攻方向、速度を探知…。

道中に幻影術式【呪詛、高速詠唱、全力魔法】を展開し、罠へ誘い込む為の呪符と一定範囲内に入った敵へ自動発動するようにした呪力の縛鎖や【呪殺弾】、【狐九屠雛】を仕込んだ呪符の二つを設置…。

詳細は不明だけど「敵が人間に裏切られて人間を蔑視している」「オラトリオを特別視している」という点を利用し、(自分としても気分は良くないけど)幻影術式で「オラトリオの奴隷を連れている人間の奴隷商人」の幻影を見せて敵の冷静さを奪って罠(呪符)の設置地点へ誘き寄せ、敵戦力を削って迎撃するよ…。

わたしとしてもこの幻影は気分よくないけどね…



「あれが辺境伯の軍団だね……」
 他の猟兵が察知した情報を元に、人類砦から東南東の方角に向かった雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は、荒野をゆっくりと進軍する不気味な集団を発見した。傷だらけの体と虚ろな表情でただ歩くオラトリオ達――あれが『青薔薇の聖女』の軍勢に違いない。
「この距離ならまだ大丈夫かな……」
 璃奈は敵に察知されないよう遠距離から呪術による探知術式を展開し、敵の位置と侵攻方向、それに速度を探る。奇襲のために罠を仕掛けるつもりなら、相手が何処から何処へ向かい、どのくらいの時間の猶予があるのかは綿密に調べておかねばならない。

「まっすぐ人類砦に向かってるわけでは無いみたいだね……」
 敵軍はまだ人類砦の正確な所在を突き止めていないようだ。向こうからすれば急ぐ理由も無いためか、進軍する速度も遅い。それを突き止めた璃奈は敵の進行方向に先回りし、道中に罠を仕掛け始める。
「この辺りなら……」
 設置するのは呪力の縛鎖や呪殺弾、そして魂をも凍てつかせる地獄の霊火【狐九屠雛】などの呪術を仕込んだ呪符の数々。大きく分けて罠へ誘い込む為の呪符と、一定範囲内に入った敵へ自動発動するようにした呪符の二種類を分けて仕掛けていく。

「これでよし……次は敵を誘き寄せないと……」
 呪符を仕掛け終えた璃奈は続いて幻影術式を展開し、敵軍の注意を引けるような幻影を作る。詳細は不明だが敵軍を指揮する辺境伯は「人間に裏切られて人間を蔑視している」「オラトリオを特別視している」事が分かっている。その点を利用しない手はない。
「あんまり気は進まないけど……」
 進軍中の敵の前を横切るように出現したのは、一台の荷馬車を中心とした人間の群れ。
 荷台に乗せられているのはボロボロの服を着せられ、足枷を嵌められたオラトリオ達。見るものが見れば一目瞭然で分かる、奴隷商人の一団だった。

「わたしとしてもこの幻影は気分よくないけどね……」
 かつてオブリビオンの奴隷として捕まっていた過去のある璃奈にとっても、それは不快な経験を思い出させる幻だった。だが皮肉にもそれ故に幻影の完成度は真に迫っており、敵の目を欺くのに十分なリアリティがあった。

「なに、あれは……人間がオラトリオを奴隷に? なんて身の程知らずなのかしら!」
 翼の軍勢を率いる『青薔薇の聖女』は、奴隷商人の幻影を見るなり怒りを爆発させた。
 あの不届き者を八つ裂きにせよと命じ、即座にオラトリオの亡霊達が進路を変更する。それを見た璃奈は幻影を逃げるように移動させ、呪符の設置地点へと敵軍を誘き寄せる。
「絶対に逃がすものですか! 生きてきたことを必ず後悔させて―――なにっ!?」
 冷静さを欠いた指揮のまま、まんまと罠の中に飛び込まされたオラトリオの亡霊達は、入念に仕込まれた呪術と獄炎の迎撃に晒される羽目になる。縛鎖に捕らえられ、呪殺弾に撃ち抜かれ、狐九屠雛に凍らされ――少なからぬ数の兵がまたたくまに塵と消えた。

「上手くいったね……」
 思わぬ罠に敵軍が混乱している間に、璃奈は幻影を消して静かにその場から離脱する。
 本格的な戦闘前の削りとしては上々の戦果だ。人類砦をまだ見つけてもいない内から、辺境伯の軍勢は大きな損害を被ることになった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
人類砦の住民(特に周辺地形に詳しい砦の纏め役や参謀役)に協力を依頼し、敵の侵攻ルート及び迎撃に有利な地点の割り出し協力を依頼

【虜の軍勢】で雪花、ハーベスター、ジョーカー、エビルウィッチ、異国の少女剣士、『雪女』雪華、狐魅命婦、神龍教派のクレリック、閉幕のアリス、罠うさぎ(3羽)、邪悪エルフ、万能派遣ヴィラン隊(多数)を召喚。

罠うさぎとヴィラン隊は【えげつない多段トラップ】や【あらゆるニーズにお答えします】で敵の侵攻ルート上に罠の設置。
邪悪エルフは【灰は灰に、倒木は下僕に】でゴーレム製作して戦力兼バリケードとして配置を指示。
他メンバーはわたし自身と共に迎撃地点で待機して待ち伏せを行うわ。



「落ち着いて聞いてちょうだい。この砦を狙って敵が来ているわ」
 人類砦を訪れたフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)はまず、この地に迫る危機を住民に伝えた。辺境伯の軍が来ていると知った彼らの反応は驚愕、恐怖など様々だったが、同時にいつかこの時が来ると覚悟していたようでもあった。
「貴方達の生きる場所を守るために、わたし達に協力してくれないかしら」
 吸血鬼の支配に虐げられてきた者達が、再び居場所を奪われない為には戦うしかない。
 フレミアの依頼に人々は「勿論です!」と力強く応え、できる限りの協力を約束する。

「助かるわ。それじゃあまず、周辺地形に詳しい砦の纏め役や参謀役はいるかしら」
 無事に住民を味方につけたフレミアは、彼らと共に敵軍の侵攻ルート及び迎撃に有利な地点の割り出しにかかる。この砦の周辺一帯のほとんどは荒野だが、敵が向かってくると予測される方角には待ち伏せや罠の設置に適した地形も幾つかかあった。
「ここには小さいですけど林があって、罠や伏兵を隠すのに向いているかと」
「この辺りは地面が荒れているので、敵も避けて進むと思います」
 土地勘のある住民達の知識と助言もあって、迎撃ポイントの策定はスムーズに進んだ。
 場所を絞れたところでフレミアは皆に「ありがとう」と感謝を伝え、次の準備に移る。

「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
 召喚するのはかつてフレミアの虜になり僕となった者達。雪女見習いの雪花、ハーベスター、ジョーカー、エビルウィッチ、異国の少女剣士、『雪女』雪華、狐魅命婦、神龍教派のクレリック、閉幕のアリス、罠うさぎ、邪悪エルフ、万能派遣ヴィラン隊などなど、外見も能力も様々な【虜の軍勢】が主君の前で頭を垂れる。
「まずは罠の設置からね」
「おまかせを!」
「直ぐにご用意致します」
 フレミアの命令に従って、虜の軍勢は直ちに行動を開始する。手先の器用な罠うさぎとヴィラン隊は、敵の侵攻ルート上での罠の設置。あらゆるニーズに対応した、えげつない多段トラップの数々が急ピッチで組み立てられていく。

「貴女は戦力兼バリケードとしてゴーレムを製作して配置しなさい」
「かしこまりました」
 続いてアックス&ウィザーズ出身の邪悪エルフが、木々を素材としたゴーレムを召喚。召喚者の2倍もある樹木の巨人は、敵の侵攻を押し止めるための壁として役立つだろう。
「他メンバーはわたしと共に、迎撃地点で待機よ」
「「はいっ!」」
 トラップの設置とバリケードの用意が整い、フレミアと残りの軍勢は待ち伏せを行う。
 各々の持つスキルや地形をうまく活かして、カモフラージュは入念に。いつ敵が来ても良いように戦いの準備をしながら、彼女らはじっと木陰で息を潜める。

「さあ、いつでも来るといいわ♪」
 歓迎の準備は万全。何も知らずに人類砦に迫る辺境伯の軍勢は、思わぬトラップと軍勢の奇襲を受けることになるだろう。その時が待ち遠しげに、フレミアは笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
堕ちた聖女の号令の下、圧倒的な悪のカリスマを誇る悪霊カビパンは亡霊の群れを率いていた。ブラック企業に囚われたその顔は虚ろで。ただ手綱を握る主の思うまま、意思なき労働へと赴く。社畜達は『人類砦』へと着実に迫りつつあった。

…はずだった。

「ここに悩み聞くカレー屋支店を建てるわよ!」
いつの間にかカレー屋の非正規雇用者とされた亡霊達。

「おら、24時間365日店長様の利益のために死ぬまで働け!てめぇらもう死んでんだから、感動を食べるだけで生きていけんだろうが!!無理を1週間続ければ無理じゃなくなるのよ!!」

亡霊の群れ達は社畜化し、更に大混乱になったことで進撃はゆっくりと歩いてきた仔羊のような速度になった。



「人類砦とやらはまだ見つからないのかしら? お前達、さっさと見つけなさい」
 猟兵達が迎撃準備を進める一方で、辺境伯セレスティア・ノートの軍は人類砦を探して進軍を続けていた。広大な辺境の荒野を飲まず食わずの不眠不休で歩かされても、亡霊達は不満を言わない。移動速度こそ遅いものの、行軍ペースとしては寧ろ速いほうだろう。
「うーん、これは良くない」
 そんな亡霊の軍勢の中に1人、オラトリオではない悪霊がいつのまにか混じっている。
 彼女の名はカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)。荒野を彷徨っていたところを堕ちた聖女に「亡霊だし丁度いいわ」と軍勢の一員に巻き込まれたらしい。
 圧倒的な悪のカリスマを誇る彼女は、小隊の長として亡者の群れの一部を率いていた。

「速度が落ちているわよ。のろのろ歩いてないで進みなさい」
 堕ちた聖女が号令する軍はまさにブラック企業そのもので、囚われた亡者の顔は虚ろ。
 文句ひとつ言う権利すら奪われた彼女らは、『人類砦』へと着実に迫りつつあった――はずだった。カビパンという「理解不能な異分子」を軍の中に組み込んでしまうまでは。

「ここに悩み聞くカレー屋支店を建てるわよ!」

 いつの間にかカビパンは、自分の下につけられた亡霊達を旅団「悩み聞くカレー屋」の非正規雇用者として扱っていた。全体の指揮をとるセレスティアの目を盗んで企てられたその計画は水面下で密かに、だが恐るべきスピードで軍内部を汚染しつつあった。
「おら、24時間365日店長様の利益のために死ぬまで働け! てめぇらもう死んでんだから、感動を食べるだけで生きていけんだろうが!!」
 とんでもない暴論を振りかざし、動きの悪い亡霊はバシバシとハリセンでしばき倒す。堕ちた聖女が可愛く見えるほどのブラックぶりを発揮して、カビパンは部下をこき使う。それでも悲しいかな、自らの意思を封じられた亡霊達は従う他にないのである。

「無理を1週間続ければ無理じゃなくなるのよ!!」
 大体のやつは1週間続く前に死ぬだろう無茶を押し付けて、横暴に振る舞うカビパン。
 【ハリセンで叩かずにはいられない女】の暴走は止まらず、ギャグ化した空間で亡霊の群れは社畜化する。厄介なことにその状態はウイルスのように他者にまで広がっていき、新たな社畜を増やし続ける。
『ナヤミキクヨ……カレーアルヨ……』
 教えられたセリフを蓄音機のように繰り返しながら、カビパンにこき使われる亡霊達。
 当然ながらこんな有様で統制のとれた進軍などできるわけがない。傍目には「暴走」としか言いようのない亡霊が増えたことで、軍は大混乱に陥った。

「お前達、何をしているの……? 馬鹿なことはおやめなさい!」
 遅まきながら異常に気付いたセレスティアが事態を収集しようにも、一度広がった混乱はなかなか止められない。元凶であるカビパンはいつの間にやら夜逃げをかましていた。
 進撃はゆっくりと歩いてきた仔羊のような速度になり、人類砦への到着予定は大幅に遅れる。結果的に猟兵達は迎撃準備を整えるための貴重な時間を得られたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御乃森・雪音
青薔薇を穢す行いは許すわけにはいかないわよねぇ。
堕ちた聖女、もう一度骸の海へ還って貰うわ。

まず、非戦闘員がいるなら避難させないと駄目よね。
進軍経路を確認して、離れた側の城壁近くの強固な建物があるならそこへ、無いなら…アタシの薔薇園へ招待しても良いんだけど。
間違いなく安全ではあるんだけど、知らない所へ行くのって怖いものねぇ。
出来ればどうするにしても砦の兵士さん達もついて行って欲しいんだけどお願いできるかしら…。
不安になるだろうから、守る人がいた方が安心できるでしょうし。
でも青薔薇は警戒されちゃうかしら?
嫌わないで欲しいわ…アタシにとってはこの薔薇は誇りだから。



「青薔薇を穢す行いは許すわけにはいかないわよねぇ」
 "青薔薇の聖女"という辺境伯のかつての二つ名に、強く反応したのは御乃森・雪音(La diva della rosa blu・f17695)だった。青薔薇に特別な思い入れを持つ彼女としては、オブリビオンの所業で花の美しさにまで傷が付くのは見過ごせなかった。
「堕ちた聖女、もう一度骸の海へ還って貰うわ」
 敵軍が来ると予測された方角を人類砦から睨みつけ、凛とした表情で彼女は宣言する。
 その身を彩る青薔薇の飾りが、彼女の美しさと心の気高さをより一層引き立てていた。

「まず、非戦闘員がいるなら避難させないと駄目よね」
 手始めに雪音は敵の進軍経路を確認して、そこから離れた側の城壁近くに避難所として適した場所はないかと調べる。なるべく強固で、なおかつ多くの人数が収容できる建物が良いが、目的にぴったりと合致する所はそうそう見つからない。
「こちらの建物なら強度は十分かと思われますが、全員を避難させるには手狭かと……」
「そうよね……なら、アタシの薔薇園へ招待しても良いんだけど」
 この砦にいる2000の住人のうち、大部分は非戦闘員か民兵に毛が生えた程度の戦力だ。
 幾つかの建物に押し込めるとしても少々厳しい。それなら自分のユーベルコードで作った異空間に避難させるのはどうだろうかと、雪音は代替案を提示する。

「間違いなく安全ではあるんだけど、知らない所へ行くのって怖いものねぇ」
 小さなガラスの瓶に作られた薔薇園のジオラマを取り出して、【Giardino segreto】の効果を説明する雪音。このジオラマに触れた先では、術者に余程のことがない限り安全は保証される。問題は転移に抵抗しないでもらえるかだが。
「どうするにしても砦の兵士さん達もついて行って欲しいんだけどお願いできるかしら……不安になるだろうから、守る人がいた方が安心できるでしょうし」
「そうですね。では私達がまず最初にそこに入ってみましょう」
 間違いなくその場所が安全だと住民に証明するために、数人の兵士が名乗りを上げた。オブリビオンとの戦いに備えてきた彼らは、猟兵の人格や実力についても信頼している。 快い申し出に雪音は「ありがとう」と微笑みを返し、彼らを自身の薔薇園に招待した。

「とっておきの花園へご招待ねぇ」
 ジオラマに触れた兵士が吸い込まれた先は、青薔薇が咲き乱れる薔薇園になっていた。
 中には東屋も備えてあり、芳しい薔薇の香気が空気に満ちている。まさに別天地に来た景色に、兵士たちはほうと感嘆のため息を吐いた。
「どうかしら?」
「素晴らしいです。この広さなら避難所としても申し分ないでしょうし」
 砦の内外にある他の避難所候補とも合わせれば、非戦闘員全員を避難させられそうだ。
 敵襲前に安全確保の目処が立ったことに、人類砦の兵士たちは心からの感謝を述べた。

「でも青薔薇は警戒されちゃうかしら?」
 雪音にとって唯一の懸念とすれば、この花園に咲くのが敵と同じ青薔薇ということだ。
 敵将の情報は猟兵の偵察を通じて住民にも伝わるだろうし、それで不快や不安感を抱く者も出るかもしれない。
「嫌わないで欲しいわ……アタシにとってはこの薔薇は誇りだから」
「大丈夫です。こんな奇麗な花園を見て、嫌いになる人なんていませんよ」
 兵士達はその言葉を真実とするように、砦に戻ると「この場所は絶対に安全だ」と住民に太鼓判を押した。砦を守る者たちの言葉なら信頼できると、皆は続々と移動を始める。
 雪音の薔薇園はそれから程なくして、避難してきた人々の笑顔で溢れることになった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

見捨てられた聖女ね…まぁその境遇に思うところはある
だが、無分別に害意を撒き散らすと言うなら、こちらも容赦はしないさ

UCを発動
ドローン達を操作して、進軍する敵の部隊をマッキナ・シトロンから確認
敵の部隊と砦の距離を測り、奴らがこちらに到着する前に避難の準備を完了させようか

さぁ、落ち着いて静かに行動をしてくれ!
慌てなくても、時間はまだあるぞ!

女性や子供や老人、そして病人と言った人々を優先的に逃がしていこう
住民を後方に待機させておけば我々も充分に力を出せる
敵の様子をドローンでつぶさに観察しつつ安全に避難誘導をしよう

荷物がある者は運ぶのを手伝おう
心配するな、こう見えても力には自信がある



「見捨てられた聖女ね……まぁその境遇に思うところはある」
 オブリビオン化の影響もあるとはいえ、精神が歪み果てるには相応の理由があったのだろうと、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は呟きを漏らす。生前においては『青薔薇の聖女』も、この理不尽な世界の犠牲者だったのだろう。
「だが、無分別に害意を撒き散らすと言うなら、こちらも容赦はしないさ」
 辺境伯の紋章を与えられた現在のセレスティアは、人類と世界に仇なす明白な脅威だ。
 その災いを払い去るために、彼女は108機のドローン部隊【シアン・ド・シャッス】を敵情偵察のために発進させる。

「……見えた。あれが辺境伯の軍勢か」
 ドローン達の通信で送られてくる映像を、マシンブレスベルト「マッキナ・シトロン」のタッチスクリーンから確認するキリカ。荒野をゆっくりと行進するオラトリオの大軍がそこにははっきりと映し出されていた。
「奴らがこちらに到着する前に避難の準備を完了させようか」
 敵の部隊と砦との距離を測り、戦闘になるまでの凡その時間を予測。まだ猶予は十分にあると見た彼女は、引き続きドローンに上空からの偵察を続けさせつつ、自身は砦にいる住民達の避難を手伝いはじめた。

「さぁ、落ち着いて静かに行動をしてくれ! 慌てなくても、時間はまだあるぞ!」
 よく通る声で呼びかけ、避難経路の指示を出す。逃がすのは女性や子供や老人、そして病人と言った人々を優先的にだ。流石にこういった事態への覚悟はあったのか、列を乱すような者はほとんどいない。不安や恐怖を押し殺しながら、みな粛々と移動していく。
(住民を後方に待機させておけば我々も充分に力を出せる)
 罪もない人間を戦闘に巻き込むかもしれない不安があるのとないのとでは、戦い方にも大きな差ができる。住民のほうも「戦う人の足手まといにならないように」という意識があるようで、避難を行う彼らの目には猟兵に対する期待と信頼が宿っていた。

「ふぅ、ふぅ……あっ」
 予測される戦場から離れた建物や、他の猟兵が用意してくれた避難所への移動が順調に進む中、重そうな荷物を抱えている1人の住民が、躓いて転びかけるのをキリカは見た。
「大丈夫か? 手伝おう」
 キリカはさっとその住民の助けに入り、荷物を運ぶのを手伝う。どれくらい避難する事になるかは分からないが、避難所にはある程度の備えが必要だろう。必須となる食料等の物資がそれには詰め込まれていた。

「申し訳ありません、お手を煩わせてしまって……」
「心配するな、こう見えても力には自信がある」
 恐縮する住民に優しく笑いかけて、キリカは軽々と荷物を運ぶ。傭兵として鍛えられた体にはこの程度苦でもない。それは彼女に対する人々の信頼をより深めることになった。
(到着まではもう暫く時間がありそうだな)
 並行して敵の様子をドローンでつぶさに観察しつつ、安全に避難誘導を進めるキリカ。
 彼女の精力的な活動の甲斐あり、このペースなら敵が来る前に避難は完了するだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
人間に見捨てられたオラトリオ…、私と同じか。境遇と人間への恨みには共感するけど、私達は世界を築く気は無い。だから彼女は利用させてもらう。…私達の目的の為に。

私は敵戦力の偵察へ。住民の避難?私は奴らを助ける気は無いし、他の誰かがしてくれるんじゃないの。
偵察方法は空を飛行し、敵陣を【視力】で観察する。私の服と片翼は黒いから、夜闇に紛れれば気付かれ辛いはず。
偵察内容は敵の陣形と進軍経路、総数。あと私個人に必要なのが統率。広範囲を攻撃できる私でも、統率次第じゃ接近手段を考える必要があるし。

偵察後は他の猟兵にも調べた事を伝える。これで猟兵としての義理は果たした。後は協力する住民共々利用させてもらうよ。



「人間に見捨てられたオラトリオ……、私と同じか」
 緑の瞳に冷たい輝きを宿して、アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)は敵の来る方角を見ていた。かつて「呪詛天使計画」の被験者として体を弄ばれた彼女には、胴体に刻まれた手術痕と共に深い怨念と呪詛が今も宿っている。
「境遇と人間への恨みには共感するけど、私達は世界を築く気は無い。だから彼女は利用させてもらう。……私達の目的の為に」
 その身に宿し、同化寸前の状態にある呪詛天使の残滓が囁く。完全な覚醒を遂げる為、そして世界を滅ぼす為の力が欲しいと。そのために必要となるのはオブリビオンの贄――堕ちた『青薔薇の聖女』を喰らうために、少女は黒翼を広げて飛び立つ。

(住民の避難? 私は奴らを助ける気は無いし、他の誰かがしてくれるんじゃないの)
 依頼に乗ったものの恨みある人間に手を差し伸べるつもりなどさらさら無いアンナは、獲物である敵戦力の偵察へ向かう。他の猟兵が集めた情報を参考に飛べば、ほどなくして荒野を進軍するオラトリオの亡霊の群れを見つけることができた。
「よくもまあ、これだけの数の同族の亡霊を集めたね」
 闇の世界で生まれた少女の目は、高空からでもはっきりと敵陣の様子を観察することができた。敵軍に気取られぬように距離を開け、羽ばたきの音もなるべく立てないように。

(私の服と片翼は黒いから、夜闇に紛れれば気付かれ辛いはず)
 暗い夜空を背にしつつ、つぶさに偵察を行うアンナ。調べるのは敵の陣形と進軍経路、兵の総数。そして彼女個人に必要なのが、辺境伯がどれだけ兵を統率しているかだった。
(広範囲を攻撃できる私でも、統率次第じゃ接近手段を考える必要があるし)
 しばらく進軍の様子を見て分かるのは、敵の行進に一切乱れが無いこと。まるで機械のように不満を口にすることなく、休憩を与えられずともきびきびと動く。言い方を変えるなら個々の意思が感じられず、指揮者に操られるだけの完全な人形のように見える。

(統率自体は完全だけど、柔軟な対応力には欠けると言ったところかな)
 あのオラトリオの亡霊達は、本人の意思によらず呪いによって支配されているらしい。
 主である辺境伯が命じれば手足のごとく動くだろうが、命じられた以上の事はしない。支配者側には都合のいい存在だろうが、軍隊としてそれでは不都合も出る。
(参謀や小隊長らしいやつもいない。指揮権は全て辺境伯1人に集まっている)
 ざっと見渡した限りでも数百人はいる亡霊全てに、適時的確な指示を出せるだろうか?
 大きすぎる胴体や手足を、頭ひとつでは制御しきれない。軍勢の規模に対して指揮系統は貧弱との結論をアンナは下した。

「……こんなところか」
 その他にも予想される移動ルートや砦までの到着予想時間などを頭に叩き込んでから、敵に見つかる前にアンナは引き上げる。偵察から戻ってきた彼女は人類砦にいる他の猟兵にも、自分が調べた事を伝えた。
(これで猟兵としての義理は果たした。後は協力する住民共々利用させてもらうよ)
 戦闘準備を進める彼女の表情は冷たく、皮肉にもこれから戦うことになるオラトリオの亡霊と似た雰囲気を纏っていた。それでも心に残ったひと欠けの情が、彼女をこちら側に引き止めているのだが――それがいつまで続くのかは、彼女自身にも分からぬ事だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
オラトリオで薔薇、か
人に見捨てられた過去には同情するけれど、それを理由に今を生きる人々を傷つけるのは間違っていると思うよ

行動 WIZ

ボクは、人と接するのは苦手だけど、そうは言ってられないよね
ここが危険なことを伝え、【鼓舞】しつつ避難誘導するよ
怪我人がいるようならば、アイテムのアスクラピウスで野外病院を展開し【医術】で治療
余裕があれば【料理】で炊き出しを行う

ボク達の戦闘終了後、またここで暮らすにしろ、別の場所に移住するにしろ、今、万全の状態で無いと厳しいだろうからね
今出来ることを、可能な限りやっておきたいと思うよ



「オラトリオで薔薇、か」
 話に聞いた敵の辺境伯のことを考えながら、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)はぽつりと呟く。現在の『青薔薇の聖女』が人間を蔑むのには、相応の事情があるのだろう。だが、それでも。
「人に見捨てられた過去には同情するけれど、それを理由に今を生きる人々を傷つけるのは間違っていると思うよ」
 生前の裏返しのように怨恨と選民思想の塊となってしまった、かのオブリビオンの所業を認めるわけにはいかない。境遇を慮りはすれど、少女の戦う決意に揺らぎはなかった。

「もうすぐここに敵がやって来る。危険だから、キミ達は避難して」
 人類砦を訪問したエウロペは、住民に辺境伯襲来の危機を伝えて避難するように促す。
 どうすれば話に耳を傾けてもらえるか、言葉選びに内心で四苦八苦しつつ。へっぽこなところを見せまいと努めて冷静に振る舞う。
(ボクは、人と接するのは苦手だけど、そうは言ってられないよね)
 こちらが頼りない様子を見せると、相手も不安になるはずだ。ここはボク達に任せて、と凛とした姿で語る少女に鼓舞されると、人々は安堵と信頼の表情で誘導に従いだした。

「もし怪我人がいるようなら、ボクの所に来て」
 避難の列が整然と進んでいくのを確認しつつ、エウロペは魔力で縮小していた野外病院「アスクラピウス」を展開し、簡易ではあるが治療と看護の用意を整える。こんな辺境に十分な医療体制を整えるのは難しく、医師や薬も不足しているだろうと考えてのことだ。
「うちの亭主が足を折ってしまって……」
「子供が転んで膝を擦りむいたのですが」
 やって来る大小様々な怪我人に合わせて、傷口を消毒し、添え木をあて、包帯を巻く。単なる擦り傷でも化膿する恐れがあるため侮れない。高度な医術の心得があるエウロペの治療は適切で、かつ迅速なものだった。

(ボク達の戦闘終了後、またここで暮らすにしろ、別の場所に移住するにしろ、今、万全の状態で無いと厳しいだろうからね)
 エウロペが避難誘導だけでなく怪我人の治療にも精を出すのは、この戦いに勝利した先も見据えてのことだった。より良き明日をこの砦の人々が迎えられるようにと、ひと通りの治療を終えた彼女は、さらに鍋と竈を借りて炊き出しを始める。

「今出来ることを、可能な限りやっておきたいと思うよ」
 温かい料理は生きる活力になると同時に、迫る危機に対する不安を紛らわせてくれる。ふわりと良い匂いのする湯気が漂いだすと、避難所にいる人々の表情もふっと和らいだ。
 そんな様子を静かな微笑みで見守りながら、エウロペは自らの言葉通り、できる限りのことを彼らのために尽くすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
折角芽生えた希望を絶やす訳にはいかないし
皆と協力して砦を守るよ

鉑帝竜に載って上空から偵察

レールガンを形成せずに
飛竜に近い形態で移動しよう
あまり頭を使わないなら
過度に近付かなければ
野良飛竜か何か関係ないものと思って貰えないかな

オラトリオの亡霊って事だけど
飛行と歩行どちらで進軍するんだろう

歩行なら進行ルートを絞り込みやすいからありがたいな

それとぐるっと飛んで一方向から攻めて来ているのか
複数の方向から来ているのか確認しよう
避難の経路とぶつかると大変だしね

他には砦の周りの地形を上空から把握して
迎撃や足止めに適した場所を見繕おう

一通り確認したら迎撃場所に移動しよう
移動速度はこちらの方が速いんじゃないかな



「折角芽生えた希望を絶やす訳にはいかないし、皆と協力して砦を守るよ」
 プラチナの装甲に覆われた試製竜騎「鉑帝竜」に載って、人類砦防衛のために飛び立つは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)。住民の避難誘導に迎撃準備にと猟兵達が忙しなく動く中、彼女が担当するのは敵軍の偵察である。
『お役に立つのですよー!』
 飛竜形態に変身して夜空を翔ける鉑帝竜、またの呼称を【式神白金竜複製模造体・改】が晶をコックピットに乗せて元気よく咆哮する。本来は戦闘能力においても高性能を発揮する使い魔だが、今の目的はあくまで偵察という事で目立つ兵装はオミットされていた。

「オラトリオの亡霊って事だけど、飛行と歩行どちらで進軍するんだろう……と、いたね」
 報告にあった方角に飛んでいくと、ゆっくりとした足取りで人類砦に向かって進軍するオラトリオの一団が視界に入る。翼を持つ種族とはいえ常時飛びながら移動するわけでは無いらしい。障害物などがあれば飛び越えはするものの、基本的に進軍は徒歩のようだ。
「歩行なら進行ルートを絞り込みやすいからありがたいな」
 一糸乱れぬ歩列の流れから、敵がどういう経路を辿って人類砦に向かっているかを観察する晶。不審がられないよう高度はなるべく下げず、視認可能なギリギリの距離を保つ。

(あまり頭を使わないなら、過度に近付かなければ野良飛竜か何か関係ないものと思って貰えないかな)
 兵装のレールガンを形成せずに飛竜形態で移動する鉑帝竜の姿は、少なくとも地上から見上げる分には本物の飛竜とそっくりに見える。自己判断力に乏しいオラトリオの亡霊がそれを敵の偵察機だと察知するのは不可能だろう。
『…………』
 たまに視界の上端を竜騎の鉑翼が通り過ぎていっても、オラトリオ達は無反応だった。
 人類砦の捜索と人類の殲滅。与えられた二つの命令どちらにもかからない事であれば、彼女らは一切のリアクションを取らなかった。

「意思のない操り人形って感じだね」
 警戒されないのを良い事に、晶は十分に敵の上空を飛び回って進行ルートを絞り込む。
 さらに彼女はその付近をぐるっと飛んで、一方向から攻めて来ているのか、複数の方向から来ているのかも確認する。
「避難の経路とぶつかると大変だしね」
 もし別働隊がいれば、それに応じてこちらも迎撃の備えを変える必要がある――だが、幸いにも敵は全軍が一丸となって移動しているようだ。恐らくこれは指揮系統の問題で、隊を分けてもそれぞれの指揮を取れる人材が、辺境伯の軍には他にいないのだろう。

「あとは周りの地形の把握かな」
 側背を突かれる恐れはなし、と判断したところで晶は敵の進行ルート上にある足止めや迎撃に適した場所を見繕うと、敵軍がそこを通り過ぎる前に先回りする。ゆっくりと地上を歩くオラトリオの集団と、快速で飛翔する鉑帝竜とでは、移動速度は比較にならない。
「ここなら丁度いいね。皆もよろしく」
 航空偵察で得られた貴重な情報を仲間にも伝えると、晶は迎撃準備を進めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(彼女達の悲惨な境遇を想えば、口に出すのは憚られますが…。
オラトリオの軍勢とは厄介です。『飛べる』のですから)

地上の地形や罠の効果は薄い以上、取れる手は…

●防具改造で自身やロシナンテⅡに暗色外套装備
騎乗して移動
周囲の地形や敵集団熱源を情報収集し予測進路割り出し

奇襲の為の待機場所は…あそこが良いですね
発見されなければ、通過する軍勢の後背を突けます


装備や機械馬、自身が隠れる穴を掘り
協力を要請した人類砦の住民の方にカモフラージュを依頼

ええ、窒息は致しませんのでご心配無く

潜望鏡の如くアンカーを伸ばし先端センサーで状況把握

さて、対クエーサービースト級のサイズまで間に合えば良いのですが

地中でUC充填開始



(彼女達の悲惨な境遇を想えば、口に出すのは憚られますが……。オラトリオの軍勢とは厄介です。『飛べる』のですから)
 呪いにより支配された亡霊達に哀悼の意を表しながらも、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の機械的思考は脅威を感じていた。偵察によると敵軍は通常は徒歩で移動しているらしいが、必要となれば飛行能力を遺憾なく発揮するだろう。
「地上の地形や罠の効果は薄い以上、取れる手は……」
 機械仕掛けの騎士は思案を重ね、有効な戦術を導き出すと、機械白馬「ロシナンテⅡ」に跨って行動を開始する。白い装甲が目立たないよう自身と騎馬に暗色外套を装備させ、暗夜での隠密行動の準備は万全である。

(熱源体多数感知。あれが辺境伯の軍勢ですね)
 力強く辺境を駆ける機械騎士のセンサーが、人類砦に迫るオラトリオの軍団を捉える。
 移動のペースはさほど速くはなく、到着にはまだ暫くの時間があるだろう。その猶予を活かしてトリテレイアは周囲地形の情報収集と、敵軍の予測進路の割り出しを行う。
(奇襲の為の待機場所は……あそこが良いですね。発見されなければ、通過する軍勢の後背を突けます)
 彼の電子頭脳は程なくして最適のポイントを導き出し、奇襲に必要な要素を演算する。
 作戦と戦場が定まれば、あとは彼に必要なのは「時間」だけだった。準備にどれだけの時間をかけられるかが、この奇襲作戦の成功率を高める。

「そうと決まれば急ぎませんと」
 トリテレイアは機械馬を反転させて後退、人類砦に帰還すると住民に協力を要請する。
 引き受けてくれた有志達は、ここを守るためならどんな危険な事でもすると意気込んでいたが。そんな彼らに機械騎士はスコップを渡して、奇襲ポイントまで案内する。
「皆様にはここで潜伏する私のカモフラージュをお願いしたいのです」
「カモフラージュ? それはどのように……うわっ?!」
 そう言うや否や、騎士と機械馬は物凄い勢いで土をかき出し、地面に穴を彫り始めた。
 ウォーマシンの怪力を土木作業に活用すれば、並みの工作兵以上の能率が発揮できる。機械馬と装備、そして自分がすっぽりと入れるサイズの大穴を掘り終えると、彼はその中に自分の機体を収めた。

「ここに土をかければ良いのですか……?」
「ええ、窒息は致しませんのでご心配無く」
 砦の住民達は困惑しながらも、トリテレイアの言う通りに穴の上から土をかけていく。
 傍目には騎士を生き埋めにしているようにしか見えないのだが、本人の言う通り宇宙産のウォーマシンに呼吸は不要。何時間でも土の下で潜伏していられる。
「こんな感じでどうでしょうか」
「いい具合です。ご協力に感謝します」
 土を被せ終えた上に木の枝や落ち葉を重ねれば、闇夜で十分なカモフラージュになる。
 トリテレイアは穴の中から潜望鏡の如くワイヤーアンカーを伸ばし、先端部に備わったセンサーで周囲の状況を把握する。

「問題なく視えますね。皆様はお戻り下さい」
「分かりました。どうかお気をつけて」
 潜伏場所から住民達が離れた後、トリテレイアは身体の格納スペースから柄のみの剣を取り出し、胴体から伸びたケーブルに接続。コアから直接エネルギーの充填を開始する。
「さて、対クエーサービースト級のサイズまで間に合えば良いのですが」
 充填時間に応じて理論上どこまでも出力を伸ばせる【コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー】。これを奇襲で叩き込まれれば、敵軍は甚大な被害を受けるだろう。
 敵軍到着までの残された時間全てを、機械騎士はエネルギー充填に注ぎ込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…事前に襲撃が予知できたのは幸いだったわね
お陰でこの地の人々を逃がす事ができるもの

UCを発動して全ての能力を封印して魔力を溜めておき、
闇の救済者達と協力して敵の進路上にある村の人々を人類砦に避難させる

…此処にもうすぐ辺境伯の軍勢がやって来ます
彼らに見つかる前に急いで人類砦まで避難してください

…猟兵、闇の救済者さま達がこの地に来ています
これまで幾度も吸血鬼や異端の神に勝利してきた歴戦の英雄です

…彼らならばきっと、辺境伯を討ち倒してくれる
だから彼らの邪魔にならない為にも、どうか避難してください

事前に何台か馬車を用意してもらっておき、
闇の救済者達に指示を出し集団戦術で避難を進めるわ



「……事前に襲撃が予知できたのは幸いだったわね。お陰でこの地の人々を逃がす事ができるもの」
 荒涼とした辺境の風景を見渡しながら、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は静かに呟く。辺境伯の襲来に先駆けて備える時間はまだ十分にある。彼女の目的はこの近辺に点在する村々が、敵の進軍に踏み潰されるのを防ぐ事だった。
「……限定解放。吸血鬼の力、猟兵の力、異端の神の力。その一切を封じる……血の鎖錠」
 彼女は【限定解放・血の鎖錠】により全ての力を封印し、一般人程度まで能力を下げた状態で行動を開始する。今必要になるのは敵を狩るための武力でも魔力でもない。ただ、言葉を交わすことさえできれば十分だ。

「……あなた達もついて来てくれて感謝するわ」
「いえ。我々としても放ってはおけませんから」
 協力を名乗り出た闇の救済者達と共に、リーヴァルディが訪れたのは小さな村だった。
 多く見積もって2~300人程度の村民が農耕を営んでおり、人類砦とは共存関係にある。そして、諸々の情報から予測された敵の進路上にある集落であった。
「おや、今日はどうなさいましたか?」
 村民の中には闇の救済者達の顔を知っている者もいるようで、久しぶりの来客が険しい表情をしているのを見ると首を傾げる。迫りくる危機をまだ知らない彼らに伝えるため、一同を代表してリーヴァルディが前に出た。

「……此処にもうすぐ辺境伯の軍勢がやって来ます。彼らに見つかる前に急いで人類砦まで避難してください」
「なんですって……!?」
 一般人のふりをしたリーヴァルディの口から、淡々とした調子で語られた悪い報せに、村人達は大変なショックを受けた。もともと彼らはヴァンパイアの支配地からここに逃れてきた者達だ、せっかく手に入れた安住の地を脅かされる恐怖は人一倍だろう。
「敵は強いのですか? 大軍なのですか?」
「砦まで逃げても、攻め落とされるんじゃ……」
 不安に駆られて質問を浴びせる人々を、リーヴァルディはそっと手を上げてなだめる。
 彼らが怯えるのは当然の事だ。だがパニックになって避難が遅れればそれこそ最悪だ。敵軍の襲来までに安全な場所まで彼らを移動させるには、自分達を信じて貰わなければ。

「……猟兵、闇の救済者さま達がこの地に来ています。これまで幾度も吸血鬼や異端の神に勝利してきた歴戦の英雄です」
 リーヴァルディのその発言を聞くと、それまでとは異なる類のどよめきが沸き起こる。
 辺境に住まう人々の間にも、猟兵と闇の救済者の名は伝わっていた。彼らの活躍があればこそ、人類はこうして少ないながらも生存圏を切り拓き、絶滅を免れているのだ。
「……彼らならばきっと、辺境伯を討ち倒してくれる。だから彼らの邪魔にならない為にも、どうか避難してください」
 抑揚の少ない少女の声には、確たる自信と真心が込められていた。その場しのぎの言葉でなだめようとしている訳ではないと伝われば、村人達の動揺もやがて収まっていった。

「信じて……宜しいのですね? わかりました」
 村長らしき人物がそう言ったのを皮切りに、村人達は避難準備を始める。持ち出す荷物は最小限に、押し合いへし合いせずに秩序を保って。説得が上手くいかなければ、こうもスムーズに彼らも動かなかっただろう。
「……ありがとうございます。さあ、こちらへ」
「表に馬車を用意してあります! 老人や子供、怪我や病気の方から乗って下さい!」
 リーヴァルディは村民の理解に感謝を伝えると、闇の救済者達と一緒に避難を進める。
 集団の指揮をとるのに長けた彼女の指示もあり、全ての村人は辺境伯の軍勢が到着する前に人類砦まで無事送り届けられたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
此の地での戦いに関わり始めて、丸々弐年が過ぎた。
闘いは激しさを増し、世界を支配する者の『謎』は
増え続ける一方だ……だがそれでも、散っていった
兵(つわもの)たちのために、脚を止めるわけにはいかぬ。
■行
【WIZ】
俺は避難誘導を行う……人々を巻き込ませるわけにはいかん。
高い【視力】と暗い所でもよく利く【暗視】能力をを活かし、
大鷲の翼で上空から安全な場所を探し出すのだ。
良さげな場所が見つかったら砦の皆に報告し、避難へ移るぞ。

なお移動の際は、危険がないよう俺も同行する。
【野生の勘】を巡らせつつ重い荷物を【牛鬼】を用いて運び、
不測の事態を警戒しながらなるべく早めに移動するのだ。

※アドリブ歓迎・不採用可



「此の地での戦いに関わり始めて、丸々弐年が過ぎた」
 駆け抜けるかの如く流れていった時に思いを馳せ、愛久山・清綱(鬼獣の巫・f16956)は独りごちる。数え切れぬほどの敵を斬り、邪悪なる者の手から多くの生命を守った。だが、この世界を覆う闇は今だに晴れない。
「闘いは激しさを増し、世界を支配する者の『謎』は増え続ける一方だ……だがそれでも、散っていった兵(つわもの)たちのために、脚を止めるわけにはいかぬ」
 いつの日か、此の地に生きる者が夜明けを見るその時まで、己は信ずる兵の道を征く。
 決意を新たにした青年は大鷲の翼をばさりと広げ、夜の帳が下りた空に舞い上がった。

(人々を巻き込ませるわけにはいかん)
 敵は大軍、となれば戦闘の規模が大きくなるのは必然。彼らの安全を確保できる場所を見つけ出すために、清綱は高い視力と暗い所でもよく利く暗視能力をを活かし、上空から砦付近の捜索を行う。
「……彼処ならば良いか」
 砦から見て北西の方角に、小さいながらも木々の群生する林が見える。敵軍の迫る方角とも反対側で、人々が身を隠すにも良さげな場所だろう。実際に近くまで降りてみて危険が無いことを確かめたのち、彼はこの場所を皆に伝えるべく砦に取って返した。

「敵が来るまでにまだ時間はある。落ち着いて避難へ移るぞ」
 発見した避難場所について報告を行った清綱は、そのまま住民達の移動にも同行する。
 万一にも危険がないよう護衛兼警戒役として付きそうのが第一だが、荷物が重そうな者を見かければ【牛鬼】の怪力を発動して運ぶのを手伝いもする。
「すみません、手伝っていただいて……」
「なに、構わん。軽いものだ」
 常人なら荷車がいるような物も軽々と持ち上げ、住民の負担を減らしながらも彼は集中を切らさない。研ぎ澄まされた第六感による警戒網は全方位に張り巡らされており、何かあればすぐに対応できるよう、愛刀「心切」はいつでも抜ける体勢になっていた。

「立ち止まるな、前の者を押すな。慌てる必要はない、足元に気をつけて進め」
 不測の事態を警戒しながら、住民を焦らせずなるべく早めに移動するように促す清綱。
 常に兵(つわもの)たらんと己を律する彼の態度と言葉には厳かな迫力があり、決して怒鳴りつけるわけでもないのに、自然に人を粛々と従わせる力があった。
「林に着いたら息を潜めて静かにしていてくれ。貴殿らの砦は我々が必ず守る」
「分かりました。どうかご武運を」
 無事に避難場所まで辿り着くと、清綱は荷物を降ろし、翼を広げて来た道を引き返す。
 背中に感じるのは多くの人々の期待と信頼。彼らの生命と生きる居場所を守るために、負けるわけにはいかぬ――青年の身体には静かなる闘志が漲っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『オラトリオの亡霊』

POW   :    おぞましき呪い
【凄まじき苦痛を伴う呪いを流し込まれ狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    苦悶もたらす魔焔
【全身の傷から噴く魔焔 】が命中した対象を燃やす。放たれた【主すら焼き苦痛をもたらす、血の如く赤黒い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    汚染されし光条
【指先】を向けた対象に、【汚染され変質した邪悪なる光】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 偵察に奇襲の準備に住民の避難にと、辺境伯の軍勢を迎え撃つために奔走する猟兵達。
 それも無事に整ってきた頃合いになって、人類砦の見張り台は、東南東より迫る軍勢の影をついに捉えた。

『人類砦……発見……』

 それは純白の翼を背中に生やしたオラトリオの亡霊。自我を感じさせぬ虚ろな表情は、彼女らの魂が呪いに囚われている証。全身に生々しく残る傷跡は、かつてヴァンパイアと戦い、そして敗れた彼女らの戦傷の証である。

『人間……殲滅……』

 今は辺境伯セレスティア・ノートの手駒として操られる彼女らは、与えられた命令通り進撃する。人類砦を制圧し、この地に住まう人間を皆殺しにする――そうして手に入れた領土に自らの理想の世界を築くのが、堕ちた『青薔薇の聖女』の望みなのだ。

『敵……排除……』

 人類砦にいた住民の大半はすでに、砦の内外に用意された場所に別れて避難しており、戦闘に巻き込まれる心配はない。近くにいるのは猟兵達の助けになろうと志願して残った「闇の救済者」の有志だけだ。実力では猟兵に劣るが、足手まといにはならないだろう。

 あの軍勢を撃退し、辺境伯セレスティアを討つことが、猟兵に課せられた勝利条件だ。
 準備は万全。これまでに培ってきた実力と用意した策があれば、亡霊の軍団にも決して遅れは取るまい。

 辺境の人類砦の命運を賭けた、猟兵と翼の軍勢の戦いの火蓋は今、切って落とされた。
トリテレイア・ゼロナイン
大量の歩行振動を検知…軍勢の後背を突けたようですね
この戦法は人類砦付近では使えません
緒戦で最大の一撃を決めなくては…

地中より推力移動と怪力で飛び出し騙し討ち
光の塔か壁かと見紛う超巨大光刃を形成

苦しまずに終わらせる…等とお為ごかしは申しません
今を生きる人々の為、何も為せずに消えて頂きます…!

軍勢の一角飲み込む超巨大光刃振り下ろし

奇襲は初撃とその後の離脱が肝要
穴に潜ませていた機械馬呼び寄せ騎乗

格納銃器に装填した煙幕弾頭で軍勢目潰し
光刃の余波で傷ついたり動けない生存した敵をセンサーで把握
馬上槍機関砲で止め刺しつつ離脱

(戦力削減効果求むなら未だ健在な相手を狙うのが最上…)

…中途半端さに我ながら呆れます



(大量の歩行振動を検知……軍勢の後背を突けたようですね)
 猟兵の中でもいち早く敵の接近を察したのは、土の下で潜伏中のトリテレイアだった。
 数百からなる亡霊達が地面を踏みしめる振動に、彼が気付かないはずがない。加えて、彼の待機位置は他の猟兵よりも前に突出していたのもある。
(この戦法は人類砦付近では使えません。緒戦で最大の一撃を決めなくては……)
 乱戦に入ってから【コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー】を使用すれば友軍や味方の施設を巻き込みかねない以上、これが最初にして最後のチャンス。この状況で電子頭脳が演算する感情は"緊張"――だが、それで機械騎士の動作が鈍ることはない。

「……充填中断、刀身解放!」
 敵軍の足音が自分のいる場所を通り過ぎていった、絶好のタイミングでトリテレイアは地面より飛び出した。スラスターの出力と怪力が土を押しのけ、地雷でも炸裂したように土砂が飛び散る中、超巨大な光の刃が天に向かって立ち上る。
『――……!?』
 光の塔か壁かと見紛うほど巨大なそれは敵軍からも、そして人類砦からも観測できた。
 充填された膨大なエネルギーにより形成された疑似フォースセイバー。フォースナイトの素養を持たないトリテレイアの憧れを再現した光刃が、明けぬ闇夜を明々と照らす。

「苦しまずに終わらせる……等とお為ごかしは申しません。今を生きる人々の為、何も為せずに消えて頂きます……!」
 覚悟と決断は、穴の中に埋まっていた時からとうに済ませている。背後を突かれた敵軍が動揺から立ち直る前に、トリテレイアは全力で疑似フォースセイバーを振り下ろした。
『防御……』
『回避……!』
 軍勢の一角を飲み込む規模の攻撃に、どう防ぎようがあるのか。超巨大光刃を叩き付けられたオラトリオの亡霊達は、ジュッと音を立てて蒸発し、塵ひとつ残さず消え去った。肉体という枷に囚われ呪いに操られる彼女らにとって、それは解放だったやもしれない。

(奇襲は初撃とその後の離脱が肝要)
 一撃のもとにエネルギーを吐き出しきって消滅する白刃の柄を握りしめ、トリテレイアは即座に次の行動に移る。まずは穴に潜ませていた機械馬「ロシナンテⅡ」を呼び寄せ、土のついた鞍上に跨ると、機体に格納された銃器から煙幕弾頭を発射する。
『ゥ……ァ……』
 今の一撃だけでも敵軍は大きな損害を被り、消滅した者の他にも光刃の余波で傷ついたり動けなくなった者が多数いる。機械騎士のセンサーはそうした負傷者の所在を把握し、苦しみが長引かぬように止めを刺す。

「失礼致します」
『ガハ……ッ』
 立ち込める煙幕の中を蹄の音が駆け、遠雷のように砲声が響く。それはトリテレイアが持つ馬上槍に搭載された機関砲が、オラトリオの亡霊を仕留める音だった。光刃の余波で四肢や翼のもげた彼女らに抗うすべはなく、微かなうめき声とともに介錯を受け容れる。
(戦力削減効果求むなら未だ健在な相手を狙うのが最上……)
 実質戦闘不能になった敵ばかり倒しても損害の拡大にはさして繋がらないと、当然理解はしている。それでも、哀れに倒れている彼女らを放置して行くのは騎士の心が咎めた。

「……中途半端さに我ながら呆れます」
 自嘲するように呟いて、トリテレイアは敵軍が態勢を立て直す前にその場を離脱する。
 その道中に出くわしたオラトリオの亡霊には介錯を行う――それは作戦遂行上における"甘さ"なのか、騎士道と機械の狭間の"妥協点"なのか。答えを選べるのは彼の心だけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
1章で召喚した軍勢を連れて戦闘。
【吸血姫の契り】で眷属達を強化。

罠とバリケード兼戦力のゴーレムによる足止めを行い、足の止まった敵を狙って雪花、エビルウィッチ、雪華、狐魅命婦、閉幕のアリスが遠距離UC(【とにかくふぶいてみる、ファイアー・ボール、氷柱散華、フォックスファイアフィーバー、ハートボム(投擲武器運用))。

撃ち漏らしや突破して来た敵をハーベスター、ジョーカー、異国の少女剣士、神龍教派のクレリックが各UC(【瞬時の首狩り、ブラックレディ、縮地法、神龍降臨の儀)で迎撃するわ。

わたしは全体指揮を執りつつ、各組を魔術や槍術で支援するわ

可愛そうにね…あの歪んだ聖女から彼女達を解放するわよ!



「フレミア・レイブラッドが血の契約を交わします」
 迎撃ポイントに迫る敵軍を察知したフレミアは、既に召喚した軍勢と【吸血姫の契り】を交わして強化を施す。吸血姫の血と魔力を用いた契約は対象を一時的に吸血鬼化させ、魔力や身体能力を飛躍的に向上させるのだ。
「汝等、我が剣となるならば、吸血姫の名において我が力を与えましょう」
 とうにフレミアに身も心も捧げた眷属に、その契約を拒む理由はないだろう。彼女らの瞳は闇の中で爛々と赤く光って、辺境伯の軍勢がやって来るのをじっと待ち構えていた。

「さあ進みなさい。あんな小さな砦、ひと押しで踏み潰して……なに、どうしたの!」
 辺境伯セレスティアの号令の元でオラトリオの亡霊達は前進を続けていたが、その先鋒の動きがふいに停滞する。罠うさぎとヴィラン隊の手で仕掛けられたトラップとゴーレムのバリケードが、彼女らに牙を剥いたのだ。
「足の止まった敵を狙いなさい。今よ!」
 敵の足並みが乱れた瞬間にフレミアが合図を出し、雪花、エビルウィッチ、雪華、狐魅命婦、閉幕のアリスといった遠距離戦の得意な面々が攻撃を仕掛ける。吹雪に火球に氷柱に狐火にハートの爆弾など、多彩なるユーベルコードの一斉射撃が敵軍に襲いかかった。

『ぐァ……敵……!』
 万全の状態で待ち構えていた虜の軍勢の先制攻撃を受け、辺境伯軍から悲鳴が上がる。
 ある者は氷で凍てつき、ある者は爆炎に焼かれ。だが撤退を許されていないオラトリオの亡霊達は【おぞましき呪い】に操られた狂戦士として、勇猛果敢に突撃を敢行する。
「迎撃開始! 砦に行かせては駄目よ!」
 弾幕の撃ち漏らしやバリケードを突破した敵を迎え撃つはハーベスター、ジョーカー、異国の少女剣士、神龍教派のクレリック。主に近接戦に長けたメンバーで構成された彼女らは、各々の武器でオラトリオの亡霊を切り払い、先に進ませまいと押し返していく。

「斬り捨て御免!」
『あぐぅッ……!』
 【縮地法】で切り込んだ少女剣士の刀が閃き、ハーベスターとジョーカーの振るう大鎌が円弧の軌跡を描く。その斬光を見たオラトリオの亡霊は一瞬の内に首を狩り落とされ、骸の海で二度と目覚めることのない眠りにつく。
「神龍よ、汝の威光を示したまえ!」
 さらにクレリックが【神龍降臨の儀】により顕現させた神龍が咆哮を上げ、敵陣の只中で大いに暴威を奮う。呪いの力で敵の攻撃力と耐久力も増しているとはいえ、吸血姫との契約を交わした今の眷属達には一騎当千の力が宿っていた。

『ゥあ……敵……殲滅……うぅぅっ!』
 それでもオラトリオの亡霊は戦いを続ける。彼女らがうめき声を上げるのは眷属達から受けた傷が痛むだけではない――彼女らの身体に流し込まれる狂化の呪いは、それ自体が凄まじき苦痛を伴うのだ。
「可愛そうにね……あの歪んだ聖女から彼女達を解放するわよ!」
「「はいっ!」」
 本人らにとってはただ絶望しかない戦いを強いられる亡霊達に、フレミアは憐憫の視線を送りながら味方に檄を飛ばす。魔術と槍術に長けた彼女は全体の指揮を取りつつ各組を状況に応じて支援し、戦場を忙しなく駆け回っていた。

「安らかに眠りなさい……」
『あ、ぐぅッ……!』
 真紅の魔槍「ドラグ・グングニル」を突き立てられた亡霊が、また1人骸の海に還る。
 付近では雪花が一生懸命に吹雪を起こして敵陣をかき乱し、邪悪エルフ達がゴーレムのバリケードを作り直していた。
「おねぇさま……」
「ええ。このまま押し返すわよ」
 主君の奮戦を目の当たりにすることで眷属らの士気も上がり、迎撃は攻勢へと転じる。
 血と絆によって結ばれた軍勢は、呪いによって縛られた軍勢を圧倒的に凌駕していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
避難が完了してるなら安心して戦えるね
それじゃあ皆と協力して戦うよ
敵だけど被害者の様にも思えるから
無為に苦しませる様な事はせずに
素早く倒していこう

汚染されし光条は神気で攻撃の時間を停めて防御
これは僕なりのオーラ防御だよ
光自体はともかく邪悪という属性は
邪神に効果あるのかなぁ
まあ、あえて受けて試す気もしないけど

攻撃を凌いだらUCを使用
そのまま神気で包み込んで
オラトリオの亡霊達を彫像に変えよう
これなら痛みも苦しみもなく終わらせる事ができると思うよ

目に見える攻撃じゃないし
頭が働かず命令通りにしか行動できないなら
近付くと危険と理解できるか怪しいし
気づいても攻撃をやめられないだろうから
逃れるのは難しいかもね



「避難が完了してるなら安心して戦えるね」
 開かれた戦端を前方に、住民達の避難場所を後方に見て、晶は安堵したように呟いた。
 敵の進路は偵察時と概ね変わらず。すでに前線では複数の猟兵が交戦しているようだ。彼らと協力して敵軍を撃退すべく、彼女も迎撃地点から戦いに参加する。
(敵だけど被害者の様にも思えるから、無為に苦しませる様な事はせずに素早く倒していこう)
 死してなお魂を束縛され、呪いによって操られるオラトリオの亡霊達の気持ちを慮り、普段使っている携行型ガトリングガンは手放す。晶と融合した邪神の力は本人にとっては厄介なものだが、苦痛を与えずに相手を仕留めるのには適していた。

『敵……排除……』
 近付いてくる晶に気付いたオラトリオの亡霊が、指先から【汚染されし光条】を放つ。
 本来なら天の御使いとも呼ばれる彼女らの光は、オブリビオンに堕ちたことで変質し、生ける者を蝕む邪悪なる光と化していた。
「届かないよ」
 だが、その光条は晶が発する神気に阻まれ、空中で静止する。邪神と呼ぶにしては彼女が纏うオーラから禍々しさは感じられず、静謐さが漂っている。ただしそれは動くものが一切ないがゆえの静謐さだ――かの神気に触れたものは、光や時間であろうと停止する。

(光自体はともかく邪悪という属性は邪神に効果あるのかなぁ)
 汚染されし光条を神気で防御しながら、晶はそんなことを考える。純然たる邪神ならば邪悪な力など意にも介さなかったかもしれないが、彼女はあくまで人間と邪神の融合体。人としての心と魂を残すぶん、邪気の影響は避けられないかもしれない。
「まあ、あえて受けて試す気もしないけど」
 無用なリスクを犯すよりも、早々に戦いを終わらせるほうが重要だ。敵の攻撃を凌ぎ切ると、晶は「宵闇の衣」と名付けられたドレスの裾を翻して、神気を周囲に広げていく。

「永遠をあげるよ」
『………!?』
 発動するのは【邪神の慈悲】。晶から放たれる神気がオラトリオの亡霊を包み込むと、彼女らの身体は動かぬ彫像に変化していく。万物に停滞を齎す邪神の力は、オブリビオン――即ち"過去"にすら効果を及ぼすのだ。
(これなら痛みも苦しみもなく終わらせる事ができると思うよ)
 晶が考えたように、それは正しく"慈悲"であった。終わりなき苦痛と戦いを強いられたオラトリオの亡霊達は、無機質な彫像となることで呪縛から解放される。固まった彼女らの表情がどこか安らいでいるように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。

『敵……まだ生きてる……』
『殺す……殺さないと……』
 仲間が物言わぬ彫像と化すのを目の当たりにしても、亡霊達の前進は止まらなかった。
 偵察時に分かったように、彼女らは隷属の代償として判断力に制限をかけられている。機械的に迷いなく戦い続けられるのは利点だが、不測の事態に対してはひどく脆い。
(目に見える攻撃じゃないし、頭が働かず命令通りにしか行動できないなら近付くと危険と理解できるか怪しいし)
 その目論見通り、敵軍は異変が起きているのは分かっても原因を予想できず、辺境伯が与えた命令通りに戦い続け、晶に触れられる前に邪神の慈悲に包まれて彫像化していく。

(気づいても攻撃をやめられないだろうから、逃れるのは難しいかもね)
 彼女はただ、敵軍からよく見える場所にいて、神気を放ち続けているだけでよかった。
 押し寄せるオラトリオの亡霊が、荒野に並ぶ彫像の群れに変わっていく。息をするのも躊躇われるほど冷たい静謐が、その場を満たしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神宮寺・絵里香
●心情
・おーおー、亡霊共がぞろぞろと。星で読んだ通りだな。じゃあ、決めていた通りに始末していくとするか。

●戦闘
・準備しておいた霧に紛れて攻撃を仕掛ける。まあ基本的には遠距離戦闘だな。空を飛んでいる個体に対して、高速詠唱からの破魔の力を込めたUCを発動。相手の真上から落ちる雷の攻撃だ。攻撃の起点からオレの位置がばれることはない。とりあえず、目につく限りの飛んでいる敵は雷で叩き落とす。
・空を飛んでいることが不味いと思って降りてきたら霧を濃くしつつ接近戦で仕留める。第六感で敵の位置を見切り、破魔の雷を宿した薙刀で敵の首を薙ぎ払う。敵の視線が集中して来たら、雷を強く瞬かせて目つぶし。



「おーおー、亡霊共がぞろぞろと。星で読んだ通りだな」
 薄っすらとけぶる霧の中、占いに出た通りの方角から敵がやって来るのを見て、絵里香はこきりと肩を鳴らす。相手は大軍のようだが、既に何度も修羅場をくぐってきた彼女にすれば、この程度はまだ慌てるほどの事ではない。
「じゃあ、決めていた通りに始末していくとするか」
 この霧を見ても警戒せずに、のこのこと近付いてきてくれたのは好都合だった。身を潜めつつ空を見上げれば、人類砦に向かって飛んでいくオラトリオの亡霊達の姿が見える。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ! 神々の王の裁きよここに! 魔を滅ぼせ因達羅の矢よ!!」
 空の敵に指先を向けながら真言を唱えると、真っ暗な天から青白い稲妻が落ちてくる。
 破魔の力を込めた【因達羅乃矢】は、絵里香の狙い通り相手の真上から突き刺さった。
『ぎゃ……ッ?!!』
 落雷の直撃を喰らったオラトリオの亡霊は、小さな悲鳴を上げて地面に墜落していく。
 上空からの視点では、霧に紛れた絵里香の姿は見つけられない。攻撃の起点から彼女の位置がばれることもない。亡霊達にとってそれは完全な不意打ちだった。

「とりあえず、目につく限りの飛んでいる敵は叩き落とすか」
 絵里香は動揺する亡霊の群れに次々と指先を突きつけ、真言の詠唱を素早く繰り返す。
 晴れていたはずの天候はたちまち落雷の嵐に変わり、魔に堕ちたオラトリオを容赦なく攻め立てる。多少飛び回ったところで避けられるものではなかった。
『このままでは……いけない……』
 亡霊達の弱い思考力でも、このまま空を飛んでいては良い的だということは分かった。
 因達羅乃矢の脅威から逃れるために彼女らは翼を畳み、自ら降下していく――そこには刃を研いだ雨冠乃巫女が待ち構えているとも知らずに。

「そりゃ、そうくるよな」
 絵里香は敵が降りてくるのに合わせて霧を濃くしつつ、稲妻による遠距離戦闘から薙刀での接近戦に切り替える。この場で敵の位置を把握できるのは彼女だけ――神がかり的な第六感が見えない敵の場所を見破り、霧と稲妻と共に巫女は駆ける。
「別に恨みはないが、じゃあな」
『――……!』
 破魔の雷を宿した薙刀「叢雲」の刃が、敵の首をなぎ払う。体勢も立て直せぬまま断首された亡霊の顔は驚愕の色に染まっていた。泣き別れとなった胴体が塵に還っていくのを見届ける暇もなく、絵里香はすぐに次の標的を見定める。

『敵……殺す……』
 ここまで近付かれてようやく敵も、襲撃者である絵里香の存在を捉えることができた。
 朧げにしか見えない霧中の人影ではなく、雷光を目印に【汚染されし光条】を放とうとするが――視線が集まってきたのに気付いた絵里香は、その寸前で薙刀に霊力を込める。
「悪いが、それは勘弁だ」
『ッ……!?』
 ひときわ強く雷が瞬き、オラトリオ達の目を潰す。視界が真っ白になり標的を見失った彼女らの元に、絵里香は音もなく踏み込み――一閃された刃が、纏めて首を撫で切った。
 悲鳴も断末魔も全ては霧に吸い込まれ。一矢報いさせもしない鮮やかな一掃であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
「このたわけ!!」
突然、奥のほうからどなり声が聞こえた。雷のようなその声にその場にいた亡霊達の肩がびくりと震え上がる。

『店長……発見……』
「カレー屋、教訓!」
『……?』
「全員で口を揃えてあとに続かんか!」
目がマジだった。こーいう目のヤツは逆らうと何をするか解らない。
『味は……殲滅……』
亡霊達の答えにカビパンの目が、カッと見開かれた。

「カレー屋、教訓!」

『『『カレー屋、教訓!』』』

亡霊達もその言葉を続いて復唱。社畜達の決定事項。

『美味しいは……排除……』

「カレー屋、教訓!」

『『『カレー屋、教訓!!!』』』

彼女らは汚染されし社訓に洗脳され、このツッコミだらけの空間は何時までも終わりそうになかった。



『殲滅……破壊……』
『殺戮……征服……』
 猟兵達の周到な迎撃作戦により、辺境伯軍の侵攻は人類砦の前で押し止められていた。
 だが、オラトリオの亡霊達に与えられた命令に「退却」の二文字はない。どれほど犠牲が出ようとも敵を殲滅し砦を制圧すべく、彼女らは保身なき進撃を続けるのだが――。
「このたわけ!!」
 突然、奥のほうからどなり声が聞こえた。雷のようなその声に、その場にいた亡霊達の肩がびくりと震え上がる。振り返れば怒りの形相のカビパンが、眉をつり上げて彼女らを睨みつけていた。

『店長……発見……』
 一部の亡霊達は、悪霊として陣中に紛れ込んでいた時のカビパンのことを覚えていた。
 そのブラックな経営手腕で散々な混乱を引き起こした彼女だが、果たして今は敵なのか味方なのか【おぞましき呪い】に囚われた亡霊達には判断がつかない。
「カレー屋、教訓!」
『……?』
 そんな困惑する連中の前で、カビパンはでかい声で叫んだ。はてなと首を傾げて彼女らが沈黙していると、今度はもっとでかい声で怒鳴りつけ、バシバシとハリセンを振るう。

「全員で口を揃えてあとに続かんか!」
 カビパンの目はマジだった。こーいう目のヤツは逆らうと何をするか解らない。判断力に乏しいオラトリオの亡霊も、本能的に危険を悟ったのか、互いに顔を見合わせてから、おそるおそる口を開く。
『味は……殲滅……』
 亡霊達の答えに、カビパンの目がカッと見開かれた。満足してもらえたのだろうか――いや違う。これは彼女を勢いづかせる切っ掛けを作ってしまっただけ。理不尽なギャグの空間に調子を合わせてしまったら、後はどこまでも引きずり込まれるだけだ。

「カレー屋、教訓!」
『『『カレー屋、教訓!』』』
 カビパンが大声で叫べば、亡霊達もその言葉を続いて復唱。それは社畜達の決定事項。
 身も心も魂も完全にカレーうどん色に染まるまで、このパワハラめいた【洗脳】活動は続く。そして洗脳が完了した時、彼女らは立派なカレー屋の社員となっているはずだ。
『美味しいは……排除……』
 教訓の中には飲食店的にどうなのかという内容も多々飛び出すが、疑問を感じる余裕はない。辺境伯の命に従っていた時のように、亡霊達はただ言われた通り復唱するだけだ。判断力の低さがこんな形で裏目に出るとは、きっと辺境伯にも予想できなかっただろう。

「カレー屋、教訓!」
『『『カレー屋、教訓!!!』』』

 あまりに独特かつ理不尽な「悩み聞くカレー屋」の教訓を、何度も言わされる亡霊達。人類砦に侵攻し人類を殺戮するという当初の命令は、とっくに頭からすっぽ抜けている。
 彼女らは汚染されし社訓に洗脳され、このツッコミだらけの空間は何時までも終わりそうになかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
自我を奪い、呪いで自分の人形や奴隷の様に彼女達扱う…。
そんな事をしたら、貴女(セレスティア)の行いは貴女を裏切った人間や吸血鬼達と何ら変わらないよ…。

砦の「闇の救済者」達にはバリケードや砦の櫓等、遠くから弓矢や弩弓、大砲、投石等による遠距離支援をお願い…。

わたしは【unlimitedΩ】を展開し、【呪詛】で強化…。
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、薙ぎ払い、早業】と【unlimitedΩ】の一斉攻撃を行い、残った敵を凶太刀と神太刀の二刀による攻撃で確実に仕留めていくよ…。

貴女達の魂を縛るその呪い…わたしが解き放つ…!
堕ちた聖女や吸血鬼達の事はわたし達に任せて…。
だから、ゆっくりお休みなさい…。



「自我を奪い、呪いで自分の人形や奴隷の様に彼女達を扱う……」
 辺境伯セレスティア・ノートの非道な行いに、璃奈は怒るよりもまず哀しみを覚えた。
 あのオラトリオの聖女は生まれながらに無慈悲な人物だったわけではない。その仕打ちがどんなに辛く苦しいことなのか、身を以てわかっているはずなのに。
「そんな事をしたら、貴女の行いは貴女を裏切った人間や吸血鬼達と何ら変わらないよ……」
 生前に『青薔薇の聖女』と讃えられた頃の慈愛の心は、もう残っていないのだろうか。
 何れにせよ、オブリビオンと化した彼女にこれ以上の罪を犯させるわけにはいかない。この地に生きる人類砦の人々のためにも、呪いに支配されたオラトリオ達のためにも。

「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
 璃奈が呪文を唱えると、周囲に凄まじい呪力を纏った魔剣・妖刀の現身が展開される。
 それは受けたもの全てに終わりを齎す「終焉」の力を帯びた魔剣達。術者の呪詛により強化されたそれらは迫りくる亡霊の軍勢へと切っ先を向けて、空中でピタリと静止する。
「『unlimited curse blades 』……!!」
 一斉攻撃の号令と共に、璃奈は手にした呪槍・黒桜をひと振り。すると矛先から放出された呪力が黒い桜の花吹雪を巻き起こし、終焉の魔剣・妖刀を乗せて戦場に吹き荒れた。

『うぁ……ッ!!!!?』
 闇よりも黒い呪力と魔剣の一斉攻撃を受け、吹き飛ばされていくオラトリオの亡霊達。
 齎された"終焉"は、苦痛と戦いを強いられる彼女らにとっては救いだった。肉体すらも跡形もなく塵に還されることで、その魂はようやく冥府での安息を得る。
「すごい力だ……俺達もやるぞ!」
「おおっ!」
 敵軍が大きな損害を受けたのを見て、バリケードや砦の櫓にいた「闇の救済者」達も、遠くから弓矢や弩弓、大砲、投石による攻撃を始める。それは璃奈が予めお願いしていたことであった。遠距離からの支援であれば、彼らも比較的安全なまま戦いに参加できる。

「貴女達の魂を縛るその呪い……わたしが解き放つ……!」
 闇の救済者達の援護射撃が敵陣を動揺させている隙に、璃奈は妖刀「九尾乃凶太刀」と「九尾乃神太刀」を構えて切り込んだ。表情に変化はなくとも、亡霊達を見据える瞳には強い意志が宿っている。
『敵……殺す……ッ!』
『殲滅……はか、い……』
 凶太刀の呪力は使い手に音を超える速度を付与し、神太刀には不死なる者を滅ぼす力が宿る。目にも止まらぬ早業で繰り出される剣戟は、忌まわしき呪いにより繋ぎ止められた彼女らの生を断ち斬り、痛みすら感じる間もなく死をもたらした。

「堕ちた聖女や吸血鬼達の事はわたし達に任せて……。だから、ゆっくりお休みなさい……」
 【unlimitedΩ】の攻撃から生き延びたオラトリオ達を、残さず仕留めるまでにかかった時間は僅かだった。荒野に倒れ伏した彼女らに、璃奈は穏やかな声色で言葉をかける。
『ア……りが、とぅ……』
 骸の海に還っていく刹那、虚ろであった亡霊達の口元に、ふと微かな笑みが浮かんだ。
 それは、死してなお貶められた戦士達から猟兵に送る、精一杯の感謝の想いであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

天の御使いが、人類を狙う尖兵と成り果てたか
…ならば、その魂を在るべき所へと解放してやろう

装備銃器で攻撃
2丁の銃による一斉発射を敵の集団に撃ち込む
さらに軽業で砦の周囲を駆け巡り、四方から鉛玉を撃ち込めば甚大なダメージを与えられるはずだ
住民がいないから自在に動けるな
敵集団の狙いがこちらに向いたら、闇の救済者達からの援護も頼もうか

さらにUCを発動
敵集団の前に立ち塞がり、全身を脱力させて魔焔を受け止める
なに、心配はいらないさ…
敵に魔焔を排出したら、燃え広がらぬように操作しながら敵集団を焼き尽くしていく

かつて、人は炎の中に神を見たという
…この炎が、お前達を安息の地へ導くように祈っているよ



「天の御使いが、人類を狙う尖兵と成り果てたか」
 人類砦に迫るオラトリオの亡霊達の様子を見渡して、憐れむように目を細めるキリカ。
 生前の彼女らはヴァンパイアと戦って敗れた女戦士だという。言わば「闇の救済者」の先駆けとも呼べる者達だが、今は呪いに魂を弄ばれ、怨敵らの駒として利用される始末。
「……ならば、その魂を在るべき所へと解放してやろう」
 右手には神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"を、左手には強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を構えて、女傭兵は前線に出る。その眼差しは力強くはあるが殺意はない。哀れな魂を呪縛から解き放つという決意の眼だ。

「行くぞ」
 敵群の先頭が射程に入った瞬間、キリカはトリガーを引く。銃声が高らかに鳴り響き、聖句と秘術で強化された弾丸が戦場に降り注ぐ。呪われた亡霊相手には効果覿面だろう。
『がぁぁぁぁ……っ!』
 亡霊達は獣のような悲鳴を上げながらも、銃弾の雨に逆らうように襲いかかってくる。
 どれほどの苦痛に苛まれようとも、彼女らに退くという選択は与えられていないのだ。無理攻めで押し切られる前に、キリカは銃を引き撃ちしながら砦の周囲を駆け巡る。

「住民がいないから自在に動けるな」
 射撃の反動をコントロールしたまま、軽業めいた身のこなしで戦場を駆け回る。それは誰にでもできる事ではなく、鍛錬と経験の為せる技だ。数では敵のほうが勝るが、機動力と武器の射程ではキリカが勝っている。これしきの戦いで遅れを取る彼女ではなかった。
『ぐ、あぁッ!?』
 亡霊達はキリカの動きを捉えきれず、逆に四方から撃ち込まれる鉛玉で甚大なダメージを負っていた。傷つけば傷つくほど彼女らは躍起になってキリカを追いかけるが、それは向こうの思う壺だった。

「『敵集団の狙いがこちらに向いたら、援護を頼む』……だったよな。今だ!」
 そう事前に伝えてあった通り、待機していた闇の救済者達が弓や銃による攻撃を放つ。
 単発威力はキリカの銃には及ばないが、集団での一斉射撃は侮れない効果を発揮する。何より相手方からすれば完全な不意打ちだという点が大きかった。
『ぐはぁ……あああああッ!!!』
 矢弾を浴びた亡霊達の全身から、血のように赤黒い【苦悶もたらす魔焔】が噴き出す。
 傷を内側から焼きながら噴出したそれは、主に耐え難いほどの苦痛をもたらしながら、全ての敵を焼き尽くさんと燃え広がっていく。

「いかん、退避を!」
「なに、心配はいらないさ……」
 慌てる救済者とは対照的に、キリカは冷静に【ディアレ・アリュシオン】を発動する。
 敵集団の前に立ち塞がり、全身を脱力させて燃え広がる魔焔を受け止める。すると焔は彼女の白い肌に火傷ひとつ付けることなく吸い込まれていった。
「狂い震えろ、デゼス・ポア。貴様が喰らう幻覚を吐き出せ」
 さらにキリカが命じると、傍らに浮かんでいた呪いの人形「デゼス・ポア」が少女とも老婆ともつかぬ不気味な金切り声を上げ、吸い込まれた焔を敵集団に向かって排出する。その火力は最初に放たれた時より大きく、かつ燃え広がらぬよう規模は操作されていた。

「かつて、人は炎の中に神を見たという……この炎が、お前達を安息の地へ導くように祈っているよ」
 亡霊達に苦痛を齎す呪いの火は、苦痛を焼き尽くす浄火となって彼女らを飲み込んだ。
 祈りをこめた眼差しでキリカが見守る中、オラトリオ達の肉体は灰となって散っていき――「ありがとう」と囁くような風の音が、彼女の耳に届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御乃森・雪音
じゃ、避難も済んだ事だしちょっと派手に行っても大丈夫そうね。
有志の皆さんは、無茶をしないように…出来れば、こっちに集めるように動いてくれると助かるわね。
少しでも怪我したら下がるのよ?
これからの為に犠牲は要らないの。勝つのは決まっているんだから。
生きて、未来を見なきゃね?

近くまで亡霊たちが来たらゆっくりと空に手を伸ばして、掲げた手から華やかな花弁を飛ばして。
舞う花弁を糧として、空に舞え炎
Fiamma di incenso rosa
貴方達を包むこの送りの火はどんな形に踊るのかしら?

薔薇の香りに導かれて、骸の海に還りなさい。
青い薔薇は無いけれど、すぐに後を追わせてあげるわ。



「じゃ、避難も済んだ事だしちょっと派手に行っても大丈夫そうね」
 自身が所有する薔薇園を始めとする安全圏に住民が全員避難したのを確認して、雪音はふっと微笑を浮かべた。今この場に残っているのは、腕に覚えのある一部の者達だけだ。
「有志の皆さんは、無茶をしないように……出来れば、こっちに集めるように動いてくれると助かるわね」
 その彼らに対しても、雪音はまず自分の安全を第一にするよう口を酸っぱくして言う。
 戦場に残った以上、傷つくことも覚悟の上なのだろうが――それよりも彼女にとっては誰一人欠くことなくこの戦いを終わらせることが最大の目標だった。

「少しでも怪我したら下がるのよ? これからの為に犠牲は要らないの。勝つのは決まっているんだから」
 有志の者を慮る雪音の言葉は、勝利の確信に裏打ちされたものだった。自分達は絶対に負けないという揺るぎない自信。それを慢心にしないだけの実力と経験も彼女にはある。
「生きて、未来を見なきゃね?」
「は……はいっ!」
 そう言ってにこりと魅力的に微笑まれては、誰も異論を口にすることはできなかった。
 有志一同はあくまで敵軍の牽制と誘導を務め、敵を彼女の元に引きつける役に徹する。

「こっちだ!」
『ぁ……敵……』
 人々が遠巻きに矢を射掛けると、それに反応した亡霊達はゆらりと幽鬼のような足取りで迫る。凄まじき苦痛を伴う【おぞましき呪い】により理性を喪失した彼女らは、辺境伯の命令に従う他は近くの動くものを攻撃するような単純な行動しか取れない。
「来たわね」
 誘導に乗った亡霊達が近くまで来たのを見ると、雪音はゆっくりと空に手を伸ばして、掲げた手から華やかな花弁を飛ばす。赤に黄など色とりどりの薔薇の花弁が夜空を彩り、芳しい香気が戦場を満たした瞬間――それらは一斉に燃え上がる。

「舞う花弁を糧として、空に舞え炎」
 【Fiamma di incenso rosa】。薔薇に包まれたオラトリオの亡霊達が、花弁の色と同じ彩りの炎に焼き焦がされる。それは美しくも苛烈に、一度捉えた標的は決して逃さず。
「貴方達を包むこの送りの火はどんな形に踊るのかしら?」
『う……ああぁぁぁぁ……っ!!!』
 もがき暴れる亡霊達の動きに合わせて、火の粉が新たな花弁のように散る。呪いにより尋常ではなく強化された彼女らの耐久力も、火達磨になってはいつまでも耐えられず――やがて抵抗する力も失い、静かに燃え尽きてゆく。

「薔薇の香りに導かれて、骸の海に還りなさい」
 香気を纏いながら燃え続ける薔薇の炎は、死者をあるべき場所に還す葬火でもあった。
 炎はやがて亡霊を束縛する呪いをも焼却し、苦痛から解放された彼女らは静かに頷き。
「青い薔薇は無いけれど、すぐに後を追わせてあげるわ」
『あり……がと……』
 堕ちし『青薔薇の聖女』にも必ずや報いを受けさせる事を約束して、雪音はオラトリオ達の最期を見届ける。燃え尽きた灰に微かに残った香りが、煙となり天に昇っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…霧に幻影、呪術にゴーレム、カレー屋は…まあ置いておくとして

…戦端が開かれる前に罠で相応に混乱している
どうやら敵は軍勢の指揮に秀でている訳では無さそうね

UCを継続しつつ今までの戦闘知識から闇の救済者の戦士達の指揮を取り、
罠や奇襲で混乱した敵陣に向け事前に配っておいた"呪宝珠弾"を乱れ撃ち、
敵の集団戦術を乱す同士討ちを起こせないか試みる

…操られている彼女達をさらに利用するのは心苦しいけど、
彼女達も生前と同じ志を抱く戦士達を殺めるのは本意では無いはずよ

…それに配下のオラトリオが人間に操られたと知られれば、
辺境伯は此方を優先して狙ってくるはず
それを逆手に取り他の猟兵が設置した罠に敵を誘導しましょう



「……霧に幻影、呪術にゴーレム、カレー屋は……まあ置いておくとして」
 事前に敵の力を削ぐために猟兵が仕掛けた策、その成果をリーヴァルディは見ていた。
 人類砦を発見するまでに、どれだけ引っ掛かったのだろう。遠目にも敵軍の陣容は万全ではないことが見て取れる。
「……戦端が開かれる前に罠で相応に混乱している。どうやら敵は軍勢の指揮に秀でている訳では無さそうね」
 どんな無茶な指示にも盲目的に従う駒ばかり率いていては、指揮の手腕も磨かれまい。今までは良かったのかもしれないが、今回で敵は己の落ち度を思い知る事になるだろう。

「……では、よろしくお願いね」
「はい。準備はできています」
 損害も省みず前進を続ける辺境伯軍に対して、リーヴァルディは今までの戦闘知識から闇の救済者の戦士達の指揮を取る。彼らが装備するマスケット銃には、事前に配っておいた"呪宝珠弾"が装填済みだ。
「……混乱している所を狙って……今よ」
「「はっ!!」」
 味方の仕掛けた罠がまたひとつ作動し、奇襲攻撃が敵陣をかき乱す。その混乱に乗じて戦士達は一斉に発砲を開始し、呪いの籠もる弾丸の雨をオラトリオの亡霊達に浴びせた。

「……どうかしら」
 銃撃を受けた亡霊の様子を、リーヴァルディは固唾を呑んで見守る。呪宝珠を加工したあの弾丸には、召喚された死霊(オブリビオン)の命令に割り込みをかける術式が組み込んである。それで敵集団に同士討ちを起こせないかというのが彼女の試みだった。
『う……あぁ……!』
『がぁぁぁ……っ!』
 果たして【おぞましき呪い】に囚われたオラトリオの亡霊達は、呪弾の効果で辺境伯の統率から外れ、目についたものを無差別に攻撃しはじめた。さながら闘鶏のように組み付き合い、互いの翼を引きむしり、血に染まった羽がはらはらと辺りに飛び散る。

「……操られている彼女達をさらに利用するのは心苦しいけど、彼女達も生前と同じ志を抱く戦士達を殺めるのは本意では無いはずよ」
 凄惨な同士討ちの光景から、リーヴァルディも闇の救済者達も視線は逸らさなかった。
 守るべき人々や志を継ぐ者達を傷つけることなく、自らの手で始末をつけるのは当人にとっても本望かもしれない。相打ちで果てた彼女らの死に顔に、憂いや苦悶はなかった。

「僕達が仲間割れを……? まさか!」
 前線で起こった異常は本陣にいる辺境伯セレスティアにも伝わり、何が起きているのかを察した彼女はすぐに軍を動かす。"自分のモノ"を勝手に利用されれば、歪んだ人格を持つ彼女は黙っていないだろう。そんな相手の心理をリーヴァルディはお見通しだった。
(……配下のオラトリオが人間に操られたと知られれば、辺境伯は此方を優先して狙ってくるはず)
 辺境伯軍の矛先がこちらに向いたのに気付くと、リーヴァルディはそれを逆手に取り、戦士達に散発的に銃撃を行わせつつ撤退――すると見せかけて、他の猟兵が設置した罠に敵を誘導する。

「私の僕達に手を出すなんて、絶対に許さな……ッ?!」
 怒りのままに軍を動かしたセレスティアは、霧に隠された呪術の罠に気付かなかった。
 束縛や呪弾の術式が次々と作動し、軍は再び大混乱に陥る。その間にリーヴァルディの手勢は悠々と距離を取り、再び攻撃体勢を整えていた。
「……集団戦では将の指揮が勝敗を左右する。これが戦術というものよ」
 戦士達に射撃の指示を出しながら、リーヴァルディ自身は今だ【限定解放・血の鎖錠】の封印を継続していた。猟兵としての力を揮えばより優位に事を済ませられただろうに、敢えてそうしないのは、この先の決戦に備えて力を温存しているからに他ならなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
彼女達もまた、此の世界の為に戦った者達。
ゆえに、今すべきことは只一つ。
拙者、愛久山清綱……誉れ高き兵(つわもの)の魂に、安寧を与えん。
■闘
名乗りをあげると同時に【剣宿・現】を発動。
危険は承知で戦場を動き回り、標的を自分のみに向けさせる。
近づかれたら剣気を放ちつつ【ダッシュ】しその場から逃れるか、
動きを【見切り】つつ【武器受け】することで押し返す。

攻撃時は刀に【破魔】の力を込め、『自分の近くにいる敵』を
優先して攻撃しよう。彼女達にかけられた呪いを【浄化】し、
在るべき処へ『送る』のだ。
纏めて攻撃するような事は決してせず、必ず一人ずつ斬り祓う!

……後は、我々に任せてほしい。

※アドリブ歓迎・不採用可



「彼女達もまた、此の世界の為に戦った者達。ゆえに、今すべきことは只一つ」
 【おぞましき呪い】に縛られたオラトリオの亡霊の前で、清綱は銘刀「心切」を抜く。
 哀悼の意を表するならば、今は祈るのではなく戦うべき時だ。彼女らの手が守るべき者の血に汚れ、その名が不名誉に穢されてしまう前に。
「拙者、愛久山清綱……誉れ高き兵(つわもの)の魂に、安寧を与えん」
 名乗りをあげると同時に【剣宿・現】を発動。彼の肉体に天空舞う剣神の御霊が宿る。
 憑神体となる事で人の限界を超えた鬼獣の巫は、稲妻かと見紛う速さで戦場を翔けた。

『うぅ……敵……抹殺……!』
 飛翔する清綱の姿を見たオラトリオの亡霊達は、攻撃の標的を彼ひとりに集中させる。
 呪いによって狂戦士と化した彼女らは、高速で動く物体に敏感に反応する傾向にある。清綱もそれを把握したうえで、危険は承知で戦場を動き回り、標的を自分に向けさせる。
「剣の神は、我と共に在る……」
 自分のみが攻撃の的になれば寧ろ好都合。戦場全域に微弱な剣気を放ちながら飛翔する彼を捉えようと、亡霊達も翼を広げて飛び掛かってくる。だが、剣神の力を我が物とした今の彼の間合いに踏み込むことは、即ち死地に他ならない。

「――御免」
 清綱は近付いてきた敵の先頭に狙いを定め、刀に破魔の力を込めて振るう。刀身に収斂された剣気は光刃となり、夜闇を裂いて亡霊を斬り伏せる――其れは彼女達にかけられた呪いを浄化し、在るべき処へ『送る』ための剣だ。
『ぁ……』
 破魔の光刃に討たれた亡霊の顔つきが、憑き物が落ちたように安らいだものに変わる。
 呪いによる束縛と苦痛から解放された彼女は、光の粒子となって虚空に消えていった。

「安らかに眠れ……」
 解放された魂に見送りの言葉をかけると、清綱はさっと翼を翻してその場から逃れる。一つ所に留まっていてば数で勝る敵軍に取り囲まれ押し切られる。それを避けるためだ。
 一人を祓えはしたものの相手はまだ数多おり、未だ呪いに囚われたままの亡霊の群れは続々と彼の元に集まりつつあった。
『わ……たし……嫌……』
『殺したく……ない……』
 殺戮に飢えた狂戦士のごとき彼女らは、まるで彼に救いを求めているようにも見えた。
 忌まわしき隷属と苦痛からの解放を求めるオラトリオ達を、清綱は纏めてなぎ払うような事は決してせず――誠心誠意を込めて、必ず一人ずつ斬り祓う。

「……後は、我々に任せてほしい」
 暴威に狂ったオラトリオの動きを見切り、剣神の技で押し返し、返す刀で呪いを断つ。信念を以て戦場に立つ者と、傀儡にされ理性を失った者では、動きに歴然の差があった。
 ただ戦いに勝利するだけなら効率の良い手練手管は幾つもあるだろう。それでも清綱がこの戦い方に固執するのは言うまでもなく、其れが彼の兵(つわもの)の道だからだ。
『ありが……と……』
 葬送の剣に呪いを祓われたオラトリオの戦士達は、一人一人感謝の言葉を遺して逝く。
 はらはらと白い羽根が空を舞い散り、音もなく荒野の戦場に降り積もっていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
戦いが始まったか。私も目的の為に動きだすけど、慎重にいかないと。これは何の糧にもならない、無駄な戦いだからね。
まず戦場から離れた位置から戦闘が始まってからの聖女の位置と視界に入らず、亡霊達に接近できるであろう場所を【視力】で調査。偵察時の情報と照らし合わせ、接近する場所を見極めよう。闇の救世者達は助ける気は無いし、せいぜい囮として役に立ってもらおう。

戦いへ注意が向いている隙に、接近場所から闇に紛れ亡霊達の集団へ接近、目立たない為にも全力の【呪詛】を乗せた【拒絶式・呪詛黒百合】で亡霊達を攻撃。同じオラトリオとして、アンタ達の事は忘れないよ。…多分意味ないだろうけど。

・アドリブ、絡み歓迎



「戦いが始まったか。私も目的の為に動きださないとね」
 猟兵と辺境伯の軍勢が激突する模様を、アンナは戦場から離れた位置で見守っていた。
 彼女の狙いは最初からただ一人。あの軍勢を指揮している『青薔薇の聖女』の位置と、視界に入らず亡霊達に接近できるであろう場所を、冷静にじっくりと見定める。
「慎重にいかないと。これは何の糧にもならない、無駄な戦いだからね」
 本命と出くわす前に力を消耗してしまっては元も子もない。偵察時の情報とも照らし合わせ、接近する場所をよくよく見極めると、彼女は闇に紛れて音もなく移動を開始した。

(闇の救世者達は助ける気は無いし、せいぜい囮として役に立ってもらおう)
 各所で繰り広げられている戦いの喧騒は、アンナにとっては都合の良い隠れ蓑だった。
 加勢するつもりはさらさら無い。避難していれば良いのを好きこのんで戦場に出てきた連中だ。お人好しな猟兵が近くにいれば、どうせ死ぬこともないのだろう。
(私は私で好きにさせてもらう)
 これだけ戦場全体が騒がしければ、彼女ひとりの物音など簡単にかき消されてしまう。
 敵味方どちらからも気付かれないまま、断罪の御手は亡霊の軍団との接近を果たした。

(目立たない為にも全力で)
 可能な限り呪力は温存したいが、討ち漏らしを出せばそこから増援を呼ばれてしまう。
 出し惜しみをした挙げ句余計な手間をかけるような、よくある愚か者とアンナは違う。鞘走りの音を立てぬように剣を抜き、本気の呪詛をその刀身に込める。
「我が怨念は全てを包む」
 次の瞬間、黒く染まった剣は無数の黒百合の花弁となって散り、亡霊達に襲いかかる。
 その一枚一枚に宿る呪いは、亡霊を支配する呪いよりも強い。この世界を蝕む呪詛天使の怨念が生み出した【拒絶式・呪詛黒百合】である。

『う……あぁぁぁぁぁ……っ!?!!』
 アンナの接近に気付かぬまま不意打ちを受けた亡霊達は、呪詛を纏う黒百合の花吹雪に巻き込まれて悶え苦しむ。その光景はオラトリオの使用する【鈴蘭の嵐】に似ているが、怨念の影響ではるかに禍々しく変質していた。
「同じオラトリオとして、アンタ達の事は忘れないよ。……多分意味ないだろうけど」
 怨念に呑まれゆく同族の亡霊達に、アンナがかけた言葉はせめてもの情けだったのか。
 その表情に、相手を悼む様子や哀しみの感情はまるで見られない。怨念に黒く染まってしまった彼女の心の内を見通せる者など、この世にどれだけいるのだろうか。

「……じゃ、いずれまた」
 黒百合の嵐が過ぎ去った後に残るのは無人の荒野。開かれた道をアンナは迷わず進む。
 このまま最高効率で『青薔薇の聖女』の元に向かう。夜闇を見通す彼女の瞳にはもう、刈り取るべき獲物しか見えてはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
その呪いから、今解き放ってあげるよ

行動 WIZ

「闇の救済者」の有志達は、ボク達がいない時にこそ必要な人達だから
ここで傷を負わせるわけにはいかないね
ここは、ボク達冒険者とボクの自慢の騎士達に護られて欲しいと思うよ

「勇敢なる我が騎士よ! 尽きぬ忠義と、その武勇を以て我が眼前の敵を討ち滅ぼせ!『勇敢なる騎士の凱旋(フォルティス・リッター・トリウンプス)』」

敵の攻撃の命中率が高いようだから
有志達には【結界術】で更に防御を固める
ボクも、騎士達に前衛を任せつつ、【オーラ防御】で防御を固めつつ
氷の【属性攻撃】で【誘導弾】を用いて攻撃するよ

やっと芽吹き始めた希望を、摘み取らせたりはしないよ



「『闇の救済者』の有志達は、ボク達がいない時にこそ必要な人達だから、ここで傷を負わせるわけにはいかないね」
 協力を申し出てくれた人々の勇敢さに頼もしさを覚えながらも、キミ達が体を張るのは今ではないとエウロペは言う。いつでも同じように駆けつけられるとは限らないが、今回は猟兵の救援が間に合った。ならば最前線で力を尽くすのは自分達の役目だ。
「ここは、ボク達冒険者とボクの自慢の騎士達に護られて欲しいと思うよ」
「騎士達……?」
 闇の救済者はそれを聞いて辺りを見回すが、それらしい騎影はどこにも見当たらない。
 だが、戦いの熱気に包まれた荒野に、真冬のような冷たい風が何処かから吹いてくる。

「勇敢なる我が騎士よ! 尽きぬ忠義と、その武勇を以て我が眼前の敵を討ち滅ぼせ! 『勇敢なる騎士の凱旋(フォルティス・リッター・トリウンプス)』」
 高らかなエウロペの号令に応じ、冬風と共に現れたのは白銀の鎧に身を包んだ騎士団。
 それはエウロペの故国であり、今は亡き氷の都の守護騎士達。祖国と共に滅びてなお、彼らの忠義は失われてはおらず、在りし日の栄光を再現するように壮麗な隊列を整える。
「おぉ……!!」
 人々が思わず感嘆の声を漏らすなか、氷の寵姫に率いられた騎士団は整然と行進する。
 おぞましき呪いに囚われたオラトリオの亡霊達を解放し、その元凶たる辺境伯を討ち、此の地に生きる者達を守護するために。

「その呪いから、今解き放ってあげるよ」
『ぐ……うあぁぁぁ……!』
 慈悲の眼差しをもって敵軍と相対するエウロペに対し、オラトリオの亡霊達は苦しげなうめき声を上げながら腕を前に出す。指さされた者に放たれるのは【汚染されし光条】、かつては聖なる力と呼ばれながら、呪いにより変質した邪悪なる光だ。
(あの攻撃は命中率が高いようだから、防御を固めたほうがいいね)
 エウロペは騎士に闇の救済者を護るように布陣させつつ、更に結界術で防御を固める。
 魔力で構成された雪と氷の壁は、何物にも穢せぬ白銀の輝きをもって邪悪を弾き返す。彼女はただ守られるだけの姫ではなく、優れた魔術師でもあった。

「やっと芽吹き始めた希望を、摘み取らせたりはしないよ」
 敵軍の攻撃を完全に防ぎながら、エウロペは騎士達に攻撃指示を出す。彼らが装備する氷の魔剣も召喚主の魔力で創られたもの。騎士団全ての武装をたった一人で用意できる事からも、彼女の非凡な実力が窺える。
『う……あぁ……っ!!』
 魔剣に斬り伏せられたオラトリオ達は、氷の帳に覆われながら骸の海へと還っていく。
 前衛として戦う頼もしい騎士達の後ろで、エウロペも氷雪のオーラで身を護りながら、氷の誘導弾による追撃を仕掛けていく。
『あ、……ぁ…りがと、ぅ……』
 氷の寵姫と守護騎士達の活躍により、亡霊達が解放されたのは、それから程なくしてのことであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『青薔薇の聖女』セレスティア・ノート』

POW   :    従いなさい、私の法に
【青薔薇の荊】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    蹴散らしなさい、私の僕
無敵の【青薔薇を戴く翼もつ従者】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    咲き誇りなさい、私の薔薇
【自己再生する青薔薇の荊】で攻撃する。[自己再生する青薔薇の荊]に施された【血を吸うことで威力を増す棘】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。

イラスト:朔にゃ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は八上・偲です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「忌々しい奴ら……よくも私の大事な僕達を」

 自身の軍が猟兵に討ち破られる様を、辺境伯セレスティアは唇を噛み締めて見ていた。
 オラトリオの証たる白翼に青薔薇。天使と見紛うほどの美貌を持ちながら、その表情は怒りと嫌悪に彩られていた。それはかつて自身を見捨てた、人間共への尽きぬ憎しみだ。

「やはり人間共は醜いわ……浄化して、選ばられ者の理想の世界を築かなければ……」

 聖女と讃えられたのもかつての話。今の彼女は歪んだ選民思想に凝り固まり、理想郷とは名ばかりの絶望の世界を築かんとする、吸血鬼と変わらぬ邪悪に成り果ててしまった。
 彼女が選ばれし者として集めていたオラトリオの亡霊達も、しょせんは己を称えさせるためのアクセサリーでしかない。モノとしての愛着はあっても、人としての慈愛はない。

「役立たずの駒に任せてはいられないわ。この上は私が手ずから裁きを下してあげる」

 軍勢に壊滅的な被害を被ったセレスティアは、ついに自ら猟兵の前にその姿を現した。
 選民思想と自己顕示の塊のような女だが、第五の貴族からも認められた実力は確かだ。その胸元に寄生する『辺境伯の紋章』が、地位と力を証明している。

「愚かな人間に与する愚かな猟兵。せめて我が青薔薇と理想世界の養分になりなさい」

 堕ちた『青薔薇の聖女』セレスティア・ノートは、傲然たる態度で猟兵達に宣告する。
 人類砦を防衛し、辺境の人々の命を守るためにも、ここまできて退くことはできない。
 翼の軍勢を率いし辺境伯との戦いは、ここからがクライマックスである。
神宮寺・絵里香
●心情
『hey!マミー!アタシの特製の槍の面白…秘密機能を使うデース』
…アホ娘が作った槍から幻聴が聞こえた気が…疲れてんのか。それとも変な電波でも拾ったか。まあいい…あの物騒な槍が有効そうだとオレの第六感も告げているし、黒翼槍で行くか…
●戦闘
・霧に紛れて襲撃。槍でかすり傷でも与えれば呪詛は発動するのでインファイトを狙っていく。襲い来る荊を第六感と戦闘知識で見切り、当たりそうなものは武器受けで薙ぎ払い、道を開く
・防戦一方に見せれば、隙が生まれるだろう。「人間」を見下しているからな。その瞬間を見切り、槍投げ。かすり傷でも追えばUCを発動
・呪詛の効果を嫌って逃げるだろうから、味方の居る方へ追い立てる



『hey! マミー! アタシの特製の槍の面白……秘密機能を使うデース』
 絵里香が軍勢を切り抜けて辺境伯の元まで辿り着くと、ふいに底抜けに明るい誰かの声が聞こえる。すわ敵に見つかったのかと一瞬緊張が走ったが、それは彼女にとって馴染みのある声で、発生源は彼女の装備の中からだった。
「……アホ娘が作った槍から幻聴が聞こえた気が……疲れてんのか。それとも変な電波でも拾ったか」
 見るのは「黒翼槍 スノードロップ」。その名の通り黒い翼をモチーフとした槍から、確かに義娘の声がした――気がする。呪いのかかった武器だということは知っているが、まさか一緒に製造者の意志的なものまで吹き込まれていたのだろうか?

「まあいい……この物騒な槍が有効そうだとオレの第六感も告げているし、黒翼槍で行くか……」
 この重要な局面で、自分の直感と義娘のことを信じてみるのも悪くない。絵里香はここまで来たのと同じように霧に紛れて距離を詰め、辺境伯セレスティアに襲撃を仕掛ける。
「来たわね愚民。八つ裂きにしてあげるわ」
 流石に、簡単に不意打ちを許すほど相手も甘くはなかった。槍の間合いに入られる前に絵里香の接近に気付いたセレスティアは【咲き誇りなさい、私の薔薇】と呪文を唱える。
 すると、髪に咲いた青薔薇からしゅるしゅると荊が伸びていき、まるで飢えた蛇の群れのように襲い掛かってきた。

(槍でかすり傷でも与えれば呪詛は発動する)
 敵に一刺し見舞うためにインファイトを狙う絵里香を、近寄らせまいとする無数の荊。
 冴え渡る第六感と歴戦の戦闘知識で、襲い来る荊の動きを見切り、当たりそうなものは槍でなぎ払い、道を開く。だが青薔薇の荊は切っても切ってもすぐさま再生してしまう。
「貴女ごときが私に近寄れるとでも思ったの? 身の程を知りなさい」
 荊はセレスティアの武器であり、身を守る防壁でもあった。十重二十重と絡みあい道を塞ぎながら迫る荊を、絵里香はひたすら切り払う。第五の貴族から「紋章」を与えられた辺境伯の実力、侮っていたわけではないがやはり手強い。

「フン、愚民が。駒を倒したくらいでいい気になった罰よ」
 接近戦に持ち込むどころか防戦一方の絵里香を見て、傲慢にほくそ笑むセレスティア。
 身の程を知らぬ愚かな人間を自分の荊で弄ぶのはさぞや愉悦だろう。ここで荊に施した封印を解除すれば絵里香を仕留められたかもしれない。だが、彼女は早々に決着をつけるよりも獲物をより長く甚振ることを望んでしまった。
(防戦一方に見せれば、隙が生まれるだろう。「人間」を見下しているからな)
 人間に対する歪んだ蔑視も、それによる油断と慢心も、絵里香は全てお見通しだった。
 荊のガードが緩んだ隙を突いて、彼女は黒翼槍を投擲のポーズでぐっと振りかぶり――敵に目掛けて思いきり投げ込んだ。

「なっ?!」
 ひゅうと風を切って矢のように飛んできた槍に、セレスティアの表情が変わる。咄嗟に身を躱して直撃は避けたものの、黒翼槍の穂先は彼女の肩をかすめ、小さな傷を付けた。
「掛かったな」
 敵の肩からつうと血が流れるのを見て、絵里香は【魔槍顕現・狂い咲き裂く血棘の槍】を発動。義娘が作り上げた呪詛は敵の血中の鉄分を材料として、深紅の棘を発生させる。

「ぐっ……なに、これは……痛っ?!」
 呪いの棘は増殖と成長を続け、体内から敵を食い破る。苦しげに身を捩るセレスティアの体内から深紅の棘槍が飛び出し、肉片の混じった血飛沫がド派手に撒き散らされる。
「アホ娘が戯れに作り出した糞みたいに性格の悪い呪詛だ。よーく味わうがいい」
「くっ……よくも、この私に傷を……ッ!!」
 義娘の槍に籠められた呪詛は「私は貴方の死を希望する」。絵里香の近くにいる限り、血棘の増殖が止まることはない。それを察した辺境伯は屈辱を噛み締めながら後退する。
 それを見た絵里香は落ちた黒翼槍を拾い上げると、呪いが持続する距離を保ったまま、味方のいる方へ敵を追い立てていく。もはやこの戦場に辺境伯を援護する者などいない。どこへ逃げても、次なる刺客が待ち構えている――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御堂・伽藍
アドリブ、即席連携歓迎

小首を傾げ
ば ら ちる?
盛者必衰は花の理

先制UCに火土雷属性を乗せ最大範囲発動
強化効果を味方にも付与

忍び足でゆるゆると接敵

射程に入り次第念動怪力火土雷属性UCで3つの「しん」を操り攻撃
二回攻撃や範囲攻撃を交え攻める

敵の攻撃を見切り念動怪力オーラ防御等で受け流し
カウンター念動怪力火土雷属性UC…フェイント
二回攻撃念動怪力土雷属性UCで宝探しスナイパー
「紋章」にすてぜに(ローズクォーツ)をレールガン的に撃ち込む

窮地の仲間は積極的にかばい援護射撃

ち?わたしのち?
あおいばら…ふかのう(花言葉)
物の屍の血を欲す?
人もせぬ胡乱を…滑稽!滑稽!

さようなら
さようなら
御然らば
御然らば



「ば ら ちる? 盛者必衰は花の理」
 傲然たる態度で戦場に立つ『青薔薇の聖女』を、御堂・伽藍(がらんどう・f33020)は小首を傾げて見つめていた。堕ちてなおその花は美しく、闇夜の中で美しく咲き誇る。だが散らぬ花などこの世には無い筈で、あるとすれば常を逸脱した魔の理に他ならない。
「八柱の死神、我等の守護に降り臨む! やくもたつ、いずも……」
 魔の理にて駆動するがらんどうの少女は、抑揚に奇妙な差をつけながら呪文を唱える。
 すると、その躰から八つの紫電の剣が射出され、紋を描くように地面に突き刺さった。

「これは……力が漲ってくる……!」
 近くにいた闇の救済者達は、大地に描かれた巨大な紋から力が湧き上がるのを感じた。
 それは火と土と雷の属性を乗せた九曜紋。その上に立つ術者と味方の力を高める布陣。それを為した伽藍は感情の読み取れぬ微笑みを浮かべ、ゆるゆると戦場を歩きだす。
「くっ、少し油断しすぎたかしら……」
 彼女の歩みゆく先には、他の猟兵によって追い立てられたセレスティアの姿があった。
 動揺する敵の近くまで音もなく忍び寄った伽藍は、3つの「しん」を念動力で浮かべ、射程の端から勢いよく放った。

「ふんしん、じしん、びょうしん。散りゆく時を薔薇に伝えよう」
「ッ?! 新手ね!」
 九曜紋と同じく火土雷の属性を刻んだ、折れた長い針がセレスティアの体をかすめる。
 焼き、痺れ、抉る痛みに顔をしかめながらも、怒れる辺境伯はすぐさま反撃に転じた。
「咲き誇りなさい、私の薔薇」
 青薔薇から伸びだす無数の荊が、不埒者を捕らえようと迫る。対して伽藍は残る2つの「しん」と【大炎黒拆若土鳴伏】の剣を巧みに操り、荊を切り払いながら敵を攻め返す。

「とき とき ときよ」
 曲がった細い針が風前の実り穂が如く微細にしなり、青薔薇の荊をさくりとなぎ払う。
 それらが再生するまでの僅かな隙を突いて、欠けた短い針がセレスティアを切りつけ、時を刻む力をもって彼女の"過去"を爆ぜ破った。
「ッ……目障りなのよ、愚民がッ!」
 激痛に顔をしかめながら、セレスティアは自らの流血をもってユーベルコードの封印を解除。鋭さを増した棘が四方八方に――伽藍だけでなく周囲にいた者達にも襲いかかる。

「しま……ッ、お嬢さん?!」
 後方から伽藍を援護する機会を窺っていた者達は、よきせぬ攻撃に目を丸くする。が、彼らが青薔薇の荊によって生命を落とすことはなかった。その寸前に割り込んだ伽藍が、身を以て全ての荊を受け止めたからだ。
「ち? わたしのち?」
 念動力とオーラの護りを以てしても、全ての攻撃を受け流すことはできなかった。だが茨の棘に切り刻まれても、がらんどうである彼女の体からは一滴の血も流れない。まるで人形が糸もないのに動いているように、その少女はじいっと敵を見つめ返す。

「あおいばら……ふかのう。物の屍の血を欲す? 人もせぬ胡乱を……滑稽! 滑稽!」
 挑発するような声音のどこまでが本心なのか。己の負傷を厭うことなく、また青薔薇に一切の血を与えることもなく、伽藍は火・雷・紫電を宿した剣による反撃の構えを取る。
「こいつッ……なんなの?!」
 明らかに普通の「ヒト」ではない反応に戸惑って、セレスティアは防御の構えを取る。放たれた三属性の剣は、何重に張られた茨の壁に阻まれる――だが、それはフェイント。「俺達も遅れるな!」
「少しでも援護するんだ!」
 窮地を救われた闇の救済者達も、弓矢による攻撃を放つ――だが、それもフェイント。
 誘いの攻撃に守りを固めた敵が、新たな荊を再生させる前に、本命の追撃が放たれる。

「さようなら さようなら 御然らば 御然らば」
 土と雷の属性を込め、「すてぜに」と呼ばれた貨幣の弾をレールガンの如く射出する。
 戦場に紫電の軌跡を描き、矢や銃弾より速く翔け抜けたその一射は、過たず辺境伯の証――第五の貴族より与えられた「紋章」に撃ち込まれた。
「がはぁ……ッ!!!?」
 力の源にして弱点でもある紋章に直撃を受け、目をむいて悲鳴を上げるセレスティア。
 青薔薇の花言葉は「不可能」。歪んだ理想が叶う事も、薔薇が永遠に咲き続ける事も、また不可能であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
突然だがカビパンは泣いた。
「セレスティアってば、経営手腕は悪くないはずなのに、この通り奥手でしょ?それが、自ら支店長に名乗りを上げるだなんて。嬉しくて、うっ…」
セレスティアは支店長に任命された。
「ちょっと!」
「おめでとう!」
慌てて何か言おうとするセレスティアを遮って抱きつく。
「わ、私は…」
「そうと決まったら宴の用意しなくっちゃね!」
「やらないって…」
「よーし、みんなで新支店長を称えるわよ!」
『おー!』
「セレスティア支店長最高!」

『『『セレスティア!セレスティア!』』』

「ちょっと!」
※セレスティアリピート

「や、やめて…」
※セレスティアリピート

「わかったから!」
「今了承したわね。じゃあ後ヨロシク」



「よくもやってくれたわね愚民ども! この痛みは倍にして返して――」
「おーいおいおいおいおい」
 予想を超えた猟兵達の攻勢に、怒りを燃えたぎらせる辺境伯セレスティア。その言葉を遮ったのは、突然戦場に響き渡った誰かの泣き声だった。一体誰だと思って振り返ると、そこにいたのはカビパンである。
「セレスティアってば、経営手腕は悪くないはずなのに、この通り奥手でしょ? それが、自ら支店長に名乗りを上げるだなんて。嬉しくて、うっ……」
 相変わらず場の空気ガン無視でよく分からないことをのたまい、誰にはばかることなくおいおいと泣きじゃくる。まるで母親目線のような物言いだが、当然彼女とセレスティアに血縁関係はない。奥手だのなんだの勝手に心配される筋合いも向こうにはないだろう。

「貴女、いったい何を言って……」
「いいのいいの、全部わかってるから。支店長頑張ってね!」
 何のつもりと問い詰める暇もなく、セレスティアはカビパンから支店長に任命された。
 周囲にはいつの間にか【寒風にも負けぬモノ】で召喚されたロボットの観客が並んで、二人の一挙一動に合わせて拍手や小気味良い笑い声を送ってくる。
「ちょっと!」
「おめでとう!」
 慌てて何か言おうとするセレスティアを遮って抱きつくカビパン。彼女の支店長就任はもう確定事項らしく、完全な歓迎ムードのまま話を進めていく。準備段階から翼の軍勢を大いに混乱させた理不尽ワールドが、ついに敵将にまで牙を剥きだしたのだ。

「そうと決まったら宴の用意しなくっちゃね!」
「やらないって……」
「よーし、みんなで新支店長を称えるわよ!」
『おー!』
 戦場のド真ん中で宴など正気の沙汰ではないが、これまでにカビパンがやってきたのは概ね正気を疑われるような事ばかりである。観客達はせっせと宴の準備をはじめ、逃げられないようセレスティアを取り囲んで歓声を浴びせる。

「セレスティア支店長最高!」
『『『セレスティア!セレスティア!』』』

「ちょっと!」
 主役扱いされているのに1人取り残されている状態のセレスティアは、せめて説明しろと詰め寄るが、カビパンも観客もただただ彼女を称えるばかりで、具体的な事は何も言ってくれない。
『『『セレスティア! セレスティア!』』』
「や、やめて……」
 彼女が何を言っても歓声は大きくなるばかり。抗議の声も騒ぎにかき消されてしまう。
 何度も何度も何度もリピートされるセレスティアコール。それは意味不明さとゴリ押しで相手の心を折る、一種の精神攻撃に近いものだった。

『『『セレスティア! セレスティア!』』』
『『『セレスティア! セレスティア!』』』
『『『セレスティア! セレスティア!』』』

「わかったから!」
 とうとう耐えきれなくなったセレスティアが叫んだ瞬間、観客の声がぴたりと止まる。
 さっきまでの騒ぎが嘘だったかのように場は静まり返り、困惑する彼女の肩をカビパンがぽんと叩く。
「今了承したわね。じゃあ後ヨロシク」
「は……? いや、ちょっ……!」
 何をヨロシクすればいいのか、最後まで一切の説明をしないまま去っていくカビパン。
 それに合わせて観客ロボット達もぞろぞろと引き上げていき。ぽつんと1人取り残されたセレスティアは、わなわなと肩を震わせ、今のありったけの気持ちを込めて叫ぶ。

「な……なんだって言うのよぉーーーーっ!!!!!」

 以上が「悩み聞くカレー屋」ダークセイヴァー辺境支店のオープンまでの経緯である。
 なお、これからほんの数刻もせずに、支店長の死によってこの支店は閉鎖となるのだが――そんな当たり前の未来は猟兵ならば誰もがわかっていたことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

かつての聖女も、守るべき者達を鏖殺せんとする悪鬼に変わったか
フン…お前も、お前の言う理想世界も、完全に破壊してやるさ

エギーユ・アメティストを装備
ロープワークで現れた翼もつ従者を絡めとる
無敵だと言うのなら、他の従者にぶつけて動きを止めてやろう
更にUCを発動
召喚したドローン達に強力な粘着弾を装備させて発射
集団の動きを封じる

フッ…これはこれは
随分と頼れる従者達だな

と挑発すれば極端な選民思想持ちの奴の事だ
すぐに能力に疑念を持つだろう
そのまま弱体化した従者達ごと鞭で敵の紋章を打つ

お前を陥れたのは一部の人間で、人類種全体ではない
…その憎悪と悲しみが、何時か凪いでいく事を此岸から祈っているよ



「かつての聖女も、守るべき者達を鏖殺せんとする悪鬼に変わったか」
 失われた過去の化身、オブリビオン。それは必ずしも生前の在りようのまま復活する訳ではない。功徳の聖人も、偉大な英雄も、世界の敵として蘇った時点で人格や肉体に歪みが生じている場合が多い。キリカもそうしたケースに遭遇するのは初めてではなかった。
「フン……お前も、お前の言う理想世界も、完全に破壊してやるさ」
 故に彼女は迷いなく、堕ちた『青薔薇の聖女』に殺意を向ける。それが今を生きる者達の生命と未来を守るためであり、死者の名誉と尊厳を守る事でもあると知っているから。

「愚民ごときに私の理想を壊せるものですか……蹴散らしなさい、私の僕!」
 辺境伯セレスティアが一声叫ぶと、青薔薇を戴く翼持つ従者が彼女の背後から現れる。
 それは彼女の歪んだ理想の体現。想像から創造された最強の下僕。創造主の意に反するモノを抹殺し、この地に理想郷を築き上げんがためにソレは動きだす。
「私の僕は無敵なのよ! お前なんかに勝ち目があるものですか!」
「ほう……?」
 その発言にキリカはすうと目を細めつつ、白の革鞭「エギーユ・アメティスト」を装備して青薔薇の僕と対峙する。夜闇にあっても目立つ白鞭がひょうと音を立ててしなると、蛇のようにしなやかに素早く敵の体に絡みついた。

「無敵だと言うのなら、他の従者にぶつけて動きを止めてやろう」
 直後にキリカは【シアン・ド・シャッス】を発動。召喚されたドローン部隊は偵察にも使われた時と外見は同じだが、武装には通常弾ではなく強力な粘着弾が装填されている。
『オォォ―――!?』
 鞭の絡まった敵にドローン部隊が一斉射撃を行うと、トリモチのような粘着弾が従者達のあちこちにベタベタと貼り付き、互いの体をくっつける。"無敵"の従者とやらがどんな攻撃にも傷ひとつ付かない存在だとしても、これでは思うように身動きできまい。

「フッ……これはこれは。随分と頼れる従者達だな」
「チッ……何をやっているの?! 使えないヤツ!」
 粘着弾に塗れてもがく青薔薇の従者の滑稽な様子を、キリカは鼻を鳴らしてあざ笑う。
 配下への侮辱がすなわち自身への侮辱でもあることに気付けないほど、セレスティアは鈍感ではない。羞恥と屈辱から頬を真っ赤に染めて、醜態を晒した下僕を口汚く罵る。
『ァ……ァ……』
 だが、それは口にしてはならない一言だった。術者の想像力から生み出された被造物は能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。"無敵"の従者を"使えないヤツ"と呼ぶことで、彼女は自らの創造を否定してしまったのだ。

(極端な選民思想持ちの奴の事だ。すぐに能力に疑念を持つだろう)
 予想通り従者が弱体化したのを見て、キリカは手元に引き戻した鞭をもう一度振るう。
 今度は獲物を絡めとる蛇ではなく、刺し貫く蠍の尾のように。エギーユ・アメティスト(紫水晶の針)の名の由来である、白鞭の先端にはめ込まれた紫水晶が鋭い輝きを放つ。
『ウァ……!』
「かはッ?!」
 剛鞭一閃。光速に迫る勢いで放たれたその一撃は、動けない従者達ごとセレスティアを捉え、その胸元に宿る『辺境伯の紋章』をしたたかに打ち据えた。紫水晶の針に抉られ、紋章に一筋の亀裂が走る。

「お前を陥れたのは一部の人間で、人類種全体ではない……その憎悪と悲しみが、何時か凪いでいく事を此岸から祈っているよ」
 たまらず地に膝をついた『青薔薇の聖女』を見下ろしながら、キリカは静かに告げる。
 オブリビオンの所業を見過ごす事はできないが、生前の彼女に恨みがある訳ではない。
 生前にかの聖女が受けた苦しみも、オブリビオンとなることで歪んでしまった感情も、骸の海に還ることで安息に変わっていくように――それは偽りなき鎮魂の祈りであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
いよいよ親玉が出てきたね
皆と協力して打倒を目指すよ

こちらに注意を向ける為に話しかけようか

オラトリオは人間から生まれ覚醒する
人間がいないと増える事はない
どれだけ蔑もうとも
人間がいないと成り立たない種族だよね

選ばれたなんだと言ってみても
人間を害する事は土台を削る行為だから
自分で自分達の首を絞めてるってことじゃないかな
と相手の目的を否定してこちらへの攻撃を誘おう

ガトリングガンで攻撃し
神気で相手の攻撃を防ぎつつ
押されているふりをして
発煙装置を仕掛けた場所に誘い込もう

首を刎ねたくらいで死なないかもしれないけど
五感の大半がまともに働かない状況なら
隙ができるだろうから
立ち直る前に胸元の紋章を攻撃してしまおう



「いよいよ親玉が出てきたね」
 翼の軍勢を率い、辺境の人類砦を脅かした『青薔薇の聖女』。彼女を打倒するために、晶は携行式ガトリングガンを構えつつ、まずは注意を自分に向けさせる為に話しかける。
「オラトリオは人間から生まれ覚醒する。人間がいないと増える事はない。どれだけ蔑もうとも人間がいないと成り立たない種族だよね」
「なに……?」
 その発言に、堕ちた聖女の眉がぴくりと動く。指摘された事実に気付かなかったのか、あるいは気付いても目を背けてきたのか。何れにせよそれはセレスティアにとって不都合で不愉快な事実には違いなかった。

「選ばれたなんだと言ってみても、人間を害する事は土台を削る行為だから、自分で自分達の首を絞めてるってことじゃないかな」
 人間を排除してオラトリオだけの理想郷を作る。それがセレスティアの目的らしいが、本当に人という種を根絶してしまってはオラトリオも存続できない。晶の発言は根本から敵の理想を否定するものだったが――堕ちた聖女はウフフフ、とヒステリックに笑う。
「やはり愚かね、人間は。貴女はここまでに私の僕を見なかったのかしら?」
「……なるほど、そういう事か。悪趣味だね」
 理想郷を築くといっても、その住民が"生きて"いる必要はない。そもそもセレスティア自身が死者なのだから。彼女の唱える理想とは詰まる所、あのオラトリオの亡霊のように盲目的に自身に従い讃えるお気に入りの魂を陳列した、"自分のための"理想なのだ。

「納得したかしら? では私の理想郷にケチをつけた償いを支払ってもらうわ」
 晶が思う以上にオブリビオンとなったセレスティアは歪みきっていた。だが注意を引いてこちらへの攻撃を誘うという目的は成功したようだ。【咲き誇りなさい、私の薔薇】と唱えた辺境伯の髪から、青薔薇の茨が無数の鞭となって襲い掛かってくる。
(あとはうまく誘い込まないと)
 神気のオーラで茨の棘を防ぎつつ、ガトリングガンの弾幕で青薔薇の茨を撃ち払う晶。
 茨は破壊されても何度でも再生を繰り返し、神気の上から獲物を包み込むように迫る。激しい攻勢に晶は押されているふりをして後退――ここに来るまでに予め仕掛けておいた【試製発煙攪乱装置】の場所まで敵を誘導する。

「ふん、威勢が良かったのは口だけかしら」
「ううん、ここからが本番だよ」
 晶が手元にあるリモートコントローラーのボタンを押すと、仕掛けておいた発煙装置が一斉に作動し、いい気になっていたセレスティアの周囲を煙幕で包む。突然視界がゼロになった彼女は「何を?!」と罠にかけられた事にようやく気付いたが、もはや遅すぎた。
「ちょっと姑息な気もするけど、こっちも命懸けだからね」
 ガトリングガンを置いて煙幕で囲まれた内部に突入した晶は、戸惑う対象の首にさっとワイヤーをかけ、反撃がくる前に一気に引き絞る。切断用に製作された極細のワイヤーはギロチンの刃のように、悪しき咎人の首を一瞬で刎ね飛ばした。

「―――!?!!」
 ころりと地面に転がったセレスティアの首が、驚愕と怒りの表情で何かを叫んでいる。
 死霊使いのオブリビオンが首を刎ねたくらいで死なないのは晶も想定内。煙幕が晴れる前に彼女は次の行動に移っている。
(五感の大半がまともに働かない状況なら隙ができるだろうから)
 敵が立ち直る前に、銃型デバイスから射出される鋭利なワイヤーが、今度は胸元の紋章を攻撃する。切り刻まれた寄生虫オブリビオンの体から、血のような体液が噴き出した。

「よ、くも……ッ」
 落とされた首を拾い上げ、つなぎ合わせながら煙幕の範囲より後退するセレスティア。
 即死には至らずとも、頭部の切断と紋章の破損は甚大なダメージだったはずだ。平気なふりをしていても、晶の目は敵の足元がふらついているのを見逃さなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
醜いわね…。裏切りやオブリビオンとして歪んでしまった所為もあるのでしょうけど…。
同族すらも駒と、役立たずと言い捨てる貴女は、その外見に反してどうしようもなく醜いわ。

眷属達を下がらせて戦闘。
【吸血姫の覚醒】で真の力を解放し、真祖の魔力で爆裂の魔力弾【属性攻撃、高速・多重詠唱、全力魔法】で青薔薇を派手に吹き飛ばし、超高速を利用して接近。
本体の顔面を掴んで思いっきり地面に叩きつけや投げ飛ばしを行って吹き飛ばし、追撃で【限界突破、魔力溜め】で限界まで力を練り上げた魔力砲撃【砲撃】を叩き込むわ!

手ずからと言いながら、結局戦いは薔薇と想像の僕任せ?
能力は強力でも、それではわたし達は倒せないわよ



「醜いわね……。裏切りやオブリビオンとして歪んでしまった所為もあるのでしょうけど……」
 ついに相まみえた辺境伯セレスティアの言動、行動の全てを、フレミアはそう評する。
 白翼と青薔薇で彩られた、聖女のごとき麗しき見目でも覆い隠せぬ暴言と悪行の数々。近寄れば腐った魂の悪臭が漂ってきそうで、顔をしかめながら冷ややかな眼光を向ける。
「同族すらも駒と、役立たずと言い捨てる貴女は、その外見に反してどうしようもなく醜いわ」
「私が醜いですって……?!」
 それはセレスティアの癇に障る発言だったらしい。後退して傷の再生を行っていた彼女は目を剥いてどろりとした殺気を向ける。その反応と態度が醜さをより増しているのには気付かないままで。

「貴女達は下がっていなさい。わたしだけで十分よ」
「舐めるな! 従いなさい、私の法に!」
 眷属達の力を借りずに単独で戦う構えをみせるフレミアに、セレスティアは青薔薇の茨を差し向ける。その棘には傷つけた者にルールを宣告する効果が付与されており、命中すればあの亡霊達のようにどんな指示を強要されるか知れたものではない。
「我が血に眠る全ての力……今こそ目覚めよ!」
 だが。青薔薇の茨に絡まれる前に、フレミアは高らかに【吸血姫の覚醒】を宣言する。
 その瞬間、爆発的な勢いで解放された魔力が茨を吹き飛ばし、真紅の旋風が吹き荒ぶ。軍勢の戦いではまだ見せていなかった真の力、それを彼女はここで叩きつける気でいた。

「な、なにが……?!」
 魔力の爆風によろめいたセレスティアが見たものは、17~8歳程の外見へ成長を遂げたフレミアが、4対の真紅の翼を広げて接近してくる姿だった。そのスピードは瞬間移動かと見紛うほどに速く、「紋章」の力で強化されていなければ捉えられなかっただろう。
「く、来るな――うぐっ!?」
「あら、この程度?」
 接近を阻もうとする青薔薇を爆裂の魔力弾で派手に吹き飛ばし、いともたやすく距離を詰めたフレミアは、驚愕するセレスティアの顔面をがっと鷲掴みにし――そのまま乱暴に思いっきり地面に叩きつけた。

「がはぁっ!!!!」
 覚醒中のフレミアの膂力は高位の竜種にも匹敵する。なんら技を用いない単純な暴力であっても威力は十分だった。セレスティアが悲鳴を上げるのにも構わず、彼女は何度も、何度も、陥没していく地面に敵を叩きつける。
「し、僕よ……がふっ?!!」
「手ずからと言いながら、結局戦いは薔薇と想像の僕任せ?」
 召喚や操作をさせる暇は与えないと、容赦のない暴力を振るい続け。掴まえた敵の頭が流血で薔薇まで真っ赤に染まってから渾身の力で投げ飛ばす。ボールのように地面を跳ねながら吹き飛んでいく敵を見送るフレミアの視線は、真冬のように冷え切っていた。

「能力は強力でも、それではわたし達は倒せないわよ」
 転がっていった敵に手のひらを向けて、限界まで力を練り上げる。解き放たれた真祖の魔力を純粋な破壊の力に変えてて放つ、フレミアという個の力をシンプルに体現した技。
「く、そ……主が危ない時に、役に立たない駒なんて……!」
「貴女には、その駒をきちんと扱う能力すらなかったようね」
 上に立つ者としての力と格の差を見せつけるように、極大の魔力砲撃が叩き込まれる。
 鮮烈なる真紅の輝きに呑み込まれたセレスティアの、甲高い絶叫が戦場に響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
その考えに至った経緯…
私に知る術はなく、出来ても全て理解する事など不可能でしょう

…故に騎士として、その非道を阻ませて頂きます

茨を脚部スラスター推力移動織り交ぜた疾走で躱し
怪力で振るう儀礼剣で斬り払い接近試み応戦

しかし青薔薇とは珍しい
常ならぬ美は人を惹きつけるもの
聖女と嘗て呼ばれた所以でしょうか

一輪、頂けますか?

種族特徴
頭部に咲く花

交戦中に忍び寄らせていた妖精を操縦
青薔薇引っこ抜き、彼女の眼前に放り投げ

妖精追い払う為に隙見せた敵へ接近
剣を胸の紋章に一閃

貴女が弄び、私が消し飛ばしたオラトリオ達の花
ありふれていようと、一輪一輪に美がありました
同胞すら蔑ろにする者に、種族を理由に戦う資格はありません!



「く、そ……愚民どもが……私の理想の世界に、お前達は不要なのよ……!」
「その考えに至った経緯……私に知る術はなく、出来ても全て理解する事など不可能でしょう」
 猟兵から痛打を受けるたびに、怒りと憎しみを募らせるセレスティア。その感情の源泉たる人間への恨みがどうして培われたのか、過去を知らぬ者には推し量る事もできない。決して踏み越えることのできない価値観の断絶を、トリテレイアは感じ取っていた。
「……故に騎士として、その非道を阻ませて頂きます」
「非道? 非道ですって? この程度がッ!!」
 今は同情よりも為すべき事を為す。騎士然とした隙のない構えで剣を向ける彼に対し、辺境伯は燃え立つような殺意を露わにした。荒ぶる激情に呼応して青薔薇の茨が再生し、仇なす"愚者"を捕らえんと襲い掛かる。

「従いなさい、私の法に!」
 命中した対象にルールと罰則を設定する青薔薇の茨。それ自体のダメージは防げても、行動に制約がかかることを嫌ったトリテレイアは脚部スラスターによる回避機動を取る。
 荒野の大地を滑るように疾走し、伸びてくる茨を躱すか、あるいは儀礼剣で斬り払う。強力な紋章持ちのオブリビオン相手でも、騎士の技量は一歩も遅れを取っていなかった。

「しかし青薔薇とは珍しい。常ならぬ美は人を惹きつけるもの、聖女と嘗て呼ばれた所以でしょうか」
 茨に応戦してじりじりと接近を試みながら、彼はセレスティアの頭部に咲く花を見る。
 オラトリオの種族特徴でもあるそれは、オブリビオンと化した今でも変わらぬ美しさをたたえている。本人の魂が堕落しきってなお『青薔薇の聖女』の美名を讃えるように。

「一輪、頂けますか?」
「誰が貴方なんかに……いたっ?!」
 セレスティアは近付いてくるトリテレイアを刺し殺すような眼光で睨みつけていたが、その視界の外から【自律・遠隔制御選択式破壊工作用妖精型ロボ】がひそかに忍び寄り、頭部の青薔薇を引っこ抜く。髪をむしられたような痛みが、彼女に悲鳴を上げさせた。
「なにをしたのよっ!」
「さて、なんのことやら。妖精の悪戯やもしれませんね」
 トリテレイアは白々しくとぼけながら掌サイズの妖精型ロボを操作し、引き抜いた薔薇を敵の眼前に放り投げる。その挑発的な行いにセレスティアはかぁっと怒りで我を忘れ、なおも飛び回る妖精を追い払おうとするが――その為に生じた隙を騎士は見逃さない。

「貴女が弄び、私が消し飛ばしたオラトリオ達の花。ありふれていようと、一輪一輪に美がありました」
 茨の攻撃対象が拡散した間隙を突き、敵に接近するトリテレイア。「しまっ……!」とセレスティアが迂闊を後悔するよりも早く、儀礼剣による剛力の一撃が振り下ろされる。
「同胞すら蔑ろにする者に、種族を理由に戦う資格はありません!」
 糾弾の言葉とともに放たれた一閃は、過たず辺境伯の証たる『紋章』に傷跡を刻んだ。
 急所に痛打を受けたセレスティアは苦しげな呻き声を上げ、騎士の言葉に反論することもできず、憎しみに満ちた眼差しだけを残して後退していく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
オラトリオ達を僕と呼び、駒として使役する…。
歪んでしまった貴女は貴女が憎む汚い人間達や吸血鬼と同じだよ…。
だから、貴女はここで止めてみせる…!

【魔剣の媛神】封印解放…。
更に九尾化の呪力を用いて【狐九屠雛】を展開…。
敵の青薔薇を全て凍結するよ…。

再生するって言っても、破壊せず薔薇そのものやその成長を凍結させて止めてしまえば再生できない…。
そして、想像した従者も呪力の縛鎖と呪力の結界【呪詛、結界術】で動きを止め、【狐九屠雛】で凍結…。
無敵は最強ではない…。
攻撃が通じないなら動きを止めてしまえば良い…。

敵の攻撃手段を全て凍結させたら、無限の終焉の魔剣を一斉斉射…。
彼女の心臓を貫き、終わらせるよ…



「オラトリオ達を僕と呼び、駒として使役する……。歪んでしまった貴女は貴女が憎む汚い人間達や吸血鬼と同じだよ……」
 そんな事にさえ気付けなくなるほど、『青薔薇の聖女』は堕ちてしまったのだろうか。
 璃奈は憐れみと哀しみが入り混じった視線でセレスティアを見つめる。このまま彼女を放置すれば多くの生命が失われるだけでなく、彼女自身の魂の尊厳さえ失われてしまう。
「だから、貴女はここで止めてみせる……!」
 聖女の名誉をこれ以上汚させぬ為、少女は【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解放する。
 全身から解き放たれた莫大な呪力が周囲を崩壊させ、その中から無数の魔剣が顕れる。妖狐の証たる尾は九つに分かれ、幻妖たる気配をその身に纏っていた。

「止める……? できるものですか。私の理想はもうすぐそこなのよ!」
 辺境の人類砦を制圧し、理想郷を築くための礎とする。そのために嫌いな吸血鬼の力も借りて紋章を手に入れたのだ――辺境伯セレスティアの野望と執念は尽きることがない。
「咲き誇りなさい、私の薔薇!」
 傷ついた紋章が光り輝き、髪に咲いた青薔薇から無数の茨が伸びていく。何度切られても再生し、血を吸うことで威力を増す茨と棘は、セレスティアが持ちうる最大の武器だ。
 しかし、その猛威の矛先として狙われても、魔剣の媛神の表情はぴくりとも動かない。

「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
 九尾化により解放された呪力を用いて呪文を唱える。すると璃奈が纏うオーラの中から青白く燃える狐火の群れが現れた。それは熱気でなく冷気を発する、この世ならざる炎。
「再生するって言っても、破壊せず薔薇そのものやその成長を凍結させて止めてしまえば再生できない……」
「な……っ!!!」
 触れるモノ全てを凍てつかせる絶対零度の炎が、璃奈を捕らえようとした青薔薇の茨を凍結させる。一瞬で美麗な氷細工のように動かなくなった薔薇達を見て、セレスティアの瞳はこぼれ落ちそうなほどに見開かれた。

「くっ。だったら蹴散らしなさい、私の僕――」
「無駄だよ……」
 茨を封じられたセレスティアは自らの想像力から無敵の従者を創造するが、その動きを読んでいた璃奈は再び呪文を唱える。召喚された従者の周りを呪力の結界が囲い、無数の縛鎖がその四肢や翼に絡みつく。
「無敵は最強ではない……攻撃が通じないなら動きを止めてしまえば良い……」
 二重の拘束で身動きできなくした所に【狐九屠雛】を放ち、茨と同じように凍らせる。
 これでセレスティアは全ての攻撃手段を凍結させられた。流石に辺境伯相手ともなればそれも一時的なものだろうが、戦場において一瞬でも丸腰となる事がどれほど致命的か。

「これで終わらせるよ……」
「ま、待っ……!」
 抗うすべを失った辺境伯に向けて、璃奈は用意しておいた無限の魔剣を一斉斉射する。
 "終焉"の力を宿した魔剣達は豪雨となりて戦場に降り注ぎ、標的の腕を、脚を、胴を、翼を――そして心臓を貫いた。
「が、は……ッ!!!!!」
 全身を串刺しにされたセレスティアは無惨な有様で地に縫い付けられ、おびただしい量の鮮血が溢れる。その肢体を包む青いドレスも、誇らしげに咲いていた青薔薇も、全てが血の赤に染まっていく――それは、間もなく彼女にもたらされる終焉の暗示のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御乃森・雪音
貴女の勝手で生きるものを選ぶなんて身勝手ねぇ。
そんな権利を個人が手にするなんて有るわけが無いのに。

La danza della rosa blu
貴女の青薔薇とアタシのならどっちら強いのかしら。
次のパートナーは貴女、さあ踊って貰うわよ?
とん、と地を蹴ってくるりと回って、差し伸べた手から鎖を伸ばして。
荊の攻撃も絡ませて動きを封じて、そのまま遡る様にセレスティアまで。
胸元の紋章も、青薔薇で上書きしてしまいましょう。

堕ちた聖女は骸の海に還りなさい。
元々の境遇には多少同情するけれど、此処の人達を苦しめるのは筋が違うわ。
此処には聖女なんて必要ないの、そんなものが無くても人間は必死に生きていけるのだから。



「貴女の勝手で生きるものを選ぶなんて身勝手ねぇ。そんな権利を個人が手にするなんて有るわけが無いのに」
 辺境伯セレスティアの傲慢で選民的な思想に、呆れたような調子で異を唱えるは雪音。
 この世界の人間達の生命を選別する権利など誰にもない。この世界のオブリビオンは、どうもその事を勘違いしている連中が多いようだが。
「愚民は滅んで当然でしょう? 尊き存在であるこの私の手で死ねて光栄と思いなさい」
 手負いとなってもまだ居丈高にそんな事をのたまうセレスティアも、そんな勘違いした連中の1人らしい。そんな驕り高ぶった輩に『青薔薇の聖女』の名は似つかわしくない。

「貴女の青薔薇とアタシのならどっちら強いのかしら」
 負ける気はないけれど、とでも言うような毅然とした態度でステップを踏みだす雪音。
 唱えるは【La danza della rosa blu】。歌とダンスを支えであり武器として生きる、サウンドソルジャーにしてスカイダンサーたる彼女ならではのユーベルコード。
「次のパートナーは貴女、さあ踊って貰うわよ?」
 とん、と地を蹴ってくるりと回って、差し伸べた手から鎖を伸ばして。紡がれる歌声は伸びやかに響き渡って、戦場は彼女のステージとなる。美しく舞い踊るその身を装うは、誇りの証たる青い薔薇。

「その花は愚民には相応しくないわ……私だけの薔薇なのよ!」
 堕ちた『青薔薇の聖女』は怒りを露わにして、【咲き誇りなさい、私の薔薇】と叫ぶ。
 宿主の血を吸って鋭さを増した青薔薇の茨が、雪音の青薔薇の鎖を迎え撃つ。同じ花と花による、互いの誇りをかけた争い。どちらも譲るつもりは微塵もなかった。
「この美しき花は私にこそ相応しい……!」
「さあ、それはどうかしらね?」
 醜い憎悪と顕示欲を剥き出しにするセレスティアに対して、雪音はあくまでも優雅に。流れるような足運びと腕の動きに合わせて青薔薇の鎖は動き、敵の茨をするりと絡める。

「堕ちた聖女は骸の海に還りなさい」
「くっ……?!」
 茨の動きを封じた鎖は、そのまま遡るようにセレスティアまで。本体と繋がっているがゆえに逃れる術はなく、四肢と翼、そして胸元の紋章までも青薔薇で上書きされていく。
「元々の境遇には多少同情するけれど、此処の人達を苦しめるのは筋が違うわ」
 生前に彼女を見捨てた者がいたとして、それが人類砦の民を滅ぼす理由にはならない。
 本人は復讐のつもりなのかもしれないが、オブリビオンとして歪み果てたその行為は、ただの無差別な殺戮でしかないと、雪音は喝破する。

「此処には聖女なんて必要ないの、そんなものが無くても人間は必死に生きていけるのだから」
「私が……必要ない、ですって……!!」
 何物にも縋らず"人間"として堂々と己の脚で立つ。そんな雪音の歌と舞いは見惚れる程に美しく、咲き誇る青薔薇が彩りを添える。自分のものではない薔薇にその身を染められながら、セレスティアは一瞬その姿に目を奪われ――激しい屈辱と敗北感に襲われた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エウロペ・マリウス
そんな狂った選民思想はお断りしたいところだね

行動 WIZ

【空中浮遊】で空中で待機
【空中戦】と【対空戦闘】を用いて、荊をかいくぐりながら詠唱
回避が難しそうならば、氷の【属性攻撃】の【誘導弾】で攻撃

「終焉の怨嗟。憎悪の颶風。廓大し・結び・安寧を欺け。死にその身を窶す復讐者よ、敵を喰らう顎となれ『反逆の黙示録(リベリオン・アポカリプス)』」

この者達は、キミの下らない選民思想の犠牲になった者達
キミが言う醜い者達であり、理想世界には不要なモノとして切り捨てられた者達の末路
キミが彼らの憎しみを満たす養分になるといいよ



「この……目障りなのよ! 私の気に入らない愚民は、1人残らず殲滅して……!」
「そんな狂った選民思想はお断りしたいところだね」
 窮地に立たされ馬脚を現しつつある辺境伯に、エウロペは氷のような冷たい声で言う。
 亡国の姫として、誰かの上に立つ者の視点が分かるからこそ悟る。あんな狂った思想を掲げる者が築く理想郷とやらは、踏みにじられた多くの生命には到底見合わないものだ。
「ここで終わらせるよ」
「できるものですか!」
 杖を片手にふわりと宙に浮かぶ氷の寵姫に、セレスティアが向けるのは憎しみと殺意。
 たとえ同族たるオラトリオであろうと、己の意に反するのであれば容赦しない。彼女の理想とは所詮自分本位なものだと、その行動が証明していた。

「咲き誇りなさい、私の薔薇!」
 セレスティアの髪に咲いた青薔薇から伸びた茨が、裏切りの同族を絡め取らんとする。
 エウロペは白翼を羽ばたかせて夜空を舞い、その茨をかいくぐりながら詠唱を始める。空中戦と対空戦闘は彼女の得意分野だ、辺境伯相手にも遅れを取りはしない。
「終焉の怨嗟。憎悪の颶風。廓大し・結び・安寧を欺け……」
「やらせるものですか!」
 青薔薇の茨はなおも執拗に標的を追うが、少女は詠唱を続けながらすっと視線を向け。
 氷の妖精「コキュートス」が姿を変えたエレメンタルロッドより氷の誘導弾が放たれ、避けがたい茨を凍りつかせた。

「死にその身を窶す復讐者よ、敵を喰らう顎となれ『反逆の黙示録(リベリオン・アポカリプス)』」

 詠唱の完了と同時に、冥府の海から憎悪と怨嗟の念に満ちた巨大な白骨船が浮上する。
 その甲板上に並んだ幽霊の乗員はみな、氷で創られた薔薇を体の何処かに宿していた。
「な……なによ、そいつらは……」
「この者達は、キミの下らない選民思想の犠牲になった者達」キミが言う醜い者達であり、理想世界には不要なモノとして切り捨てられた者達の末路」
 無言のまま彼らが発する殺気は、オブリビオンであるセレスティアすらたじろがせる。
 にわかに青ざめた彼女にエウロペは告げる。どうせ彼女は切り捨てた"愚民"の顔など覚えていないだろうが、殺された者達は決して忘れない。冥府で眠りについてもなお消えることのない憎悪と怨嗟は、氷の寵姫の御業によって復讐の機会を得たのだ。

「キミが彼らの憎しみを満たす養分になるといいよ」
 エウロペが氷杖を指揮棒のように振ると、幽霊達が一斉にセレスティアに襲いかかる。
 その体から生えた氷の茨が、鞭となり棘槍となって青薔薇を切り刻む――それは彼らが生前に受けた責め苦と殺害方法の再現だった。
「愚民どもが、この私に逆らうなんて……っ、やめ……!」
 青薔薇の茨で打ち払わんとするセレスティアだったが、彼女に復讐したいと望む死者は骨船に乗せられた者だけでも何百人といる。いかに辺境伯とただの亡霊の間に実力の差があったとしても、これでは多勢に無勢なのは明らかだった。

「これが自業自得というものだね」
「このっ……うぐ、ぁ……ッ!!」
 幽霊達が放つ氷茨に縛り上げられ、苦痛に喘ぐセレスティアを、エウロペは冷ややかに見下ろしていた。犠牲者達が受けた苦しみと憎しみは、この程度ではまだまだ足りない。
 その怨嗟がわずかばかりの慰めを得て癒やされるまで、反逆の黙示録は終わること無く怨敵を苛むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
本命は引きづり出せたか。行こうか、私達…呪詛天使の悲願、その成就の為に。

セレスティアの前へ出、私も黒い片翼が原因で捨てられ、同じように人間も憎んでいると伝え、仲間になり人間や猟兵を攻撃しようとする素振りを見せる。

それでセレスティアが油断したら【断罪式・鮮血蔦】を発動。不意打ちすると同時に、武器を手に取り紋章目がけ突き立てよう。

不意打ちに成功したら私達の目的を言うのと同時に、武器を【武器改造】で【捕食】特化の形態へ変化させ攻撃、オブリビオンの力ごと彼女の肉体を【捕食】しよう。
「私達は世界を築きたいわけじゃない。ただ全てを私達自身の手で滅ぼしたいだけ」
「だから…アンタには私達の力になってもらう」



「本命は引きづり出せたか」
 猟兵と戦う辺境伯の姿を目前にして、緑色の瞳をすっと細めるアンナ。オブリビオンを狩るという目的こそ共通しているものの、彼女の目指しているものは他の猟兵とは違う。
「行こうか、私達……呪詛天使の悲願、その成就の為に」
 自分達を苦しめたこの世界を滅ぼす為には、今よりもっと力を付けなければならない。
 経緯は異なれども同じ世界を憎むオラトリオであれば、それを喰らうことで得られる力はきっと少女とも"馴染む"だろう。

「また新手……! 咲き誇りなさい、私の……」
「そう慌てないで。私はアンタと戦うつもりはないわ」
 前に出てきた少女を見るなり、セレスティアは青薔薇の茨を放とうとするが、その前にアンナは両翼を広げて自分もオラトリオであることと、害意がないことをアピールする。
「私もこの片翼が原因で捨てられ、同じように人間も憎んでいるのよ」
 片方だけが黒い特徴的な翼は、彼女にとってコンプレックスだった。それを晒しながら少女が語る人間への憎しみは、とても演技とは思えない迫真のもので――憎悪そのものは本心からのものだからこそ、セレスティアに彼女の真意は見抜けない。

「アンタと私、同じオラトリオ同士で協力できると思わない?」
「私の仲間になるっていうの?」
 同族とはいえ猟兵がオブリビオンに協力するという提案には、セレスティアもすぐには信じられない。だがアンナは本気であることを示すように、断罪剣・エグゼキューターを味方であるはずの猟兵や人間達に向け、攻撃する素振りを見せた。
「手始めにこいつらを皆殺しにしましょう」
「……ふっ。こんな辺境で同志に会えるなんてね」
 混じりけのない殺意をその気迫から感じ、警戒していたセレスティアも表情を緩める。
 自分と同じように人間を憎むオラトリオの同族ならば、信じて良いとでも思ったのか。その歪んだ選民思想が彼女の判断を誤らせた。

「この剣から逃れられると思うな」
 まんまと敵を油断させたアンナは【断罪式・鮮血蔦】を発動。自身の血液から処刑用の剣を何百本と生成して攻撃を仕掛ける。幾何学模様を描いて複雑に飛翔する剣群の切っ先は全て、猟兵や人間ではなく辺境伯に向けられていた。
「な……ッ、騙したの?!」
 不意打ちを食らったセレスティアは反射的に身を躱すが、避けきれなかった処刑剣が体のあちこちを抉る。鮮血が青い薔薇を赤く染めるのと同時に、アンナはさっと身を翻すと断罪剣を手に取り、辺境伯の紋章目掛けて突き立てた。

「私達は世界を築きたいわけじゃない。ただ全てを私達自身の手で滅ぼしたいだけ」
 驚愕する敵に"自分達"の目的を言うアンナ。彼女が求めるものは徹底的な破壊と破滅であり、その先の事など考えていない。似ているようでいて決定的に相容れぬ違いがある。
「だから……アンタには私達の力になってもらう」
 協力を持ちかけたのは嘘ではない。これからは彼女の力も自分達の力になるのだから。
 少女は口元に酷薄な笑みを浮かべ、その手元で剣がより捕食に特化した形に変化する。

「や、やめ……ぎいぃぃっ!!!!?」
 セレスティアが抵抗する間もなく、オブリビオンの力ごと彼女の肉体が貪り食われる。
 苦悶の絶叫と共に流れ込んでくる憎悪の力は、アンナにとって実に甘美なものだった。
 これでまた一歩、完全覚醒の時は近付いた。昏い高揚に満たされながら、少女は嗤う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…生前の在り方を歪められ、生者のみならず死者をも苛む存在に堕する

…そんなこと、かつて聖女と呼ばれていた貴女とて望んではいないはず

…鎖錠解放。来なさい、その呪わしき魂を解放してあげるわ、辺境伯

【血の鎖錠】を解除し強化した第六感を頼りに敵の茨を見切り回避し続け、
あえて攻撃を限界突破した魔力のオーラで防御して隙を生み出し、
敵が宣言を行う直前に残像が生じる早業で懐に切り込みカウンターでUCを発動

…ここは、私の距離よ

紋章に向け生命力を吸収する掌打で敵を捕縛して怪力任せに地面に叩き付け、
同時に極限まで魔力を溜めた血杭を放ち紋章ごと本体を貫き武器改造
血杭から無数の血棘を乱れ撃ち追撃する闇属性攻撃を行う



「……生前の在り方を歪められ、生者のみならず死者をも苛む存在に堕する」
 オブリビオンと化した『青薔薇の聖女』の凋落と醜態は、見るに堪えないものだった。
 人を救うための力は人を害する力に変わり、オラトリオの象徴たる花も傲慢なプライドの象徴となった。その有様を見て心を痛める者がいるとすれば――。
「……そんなこと、かつて聖女と呼ばれていた貴女とて望んではいないはず」
 彼女にもあったはずだ。この世界に繁栄と救済をもたらさんと希望に満ちていた頃が。
 リーヴァルディのかつての同志らのように、正しき理想をその胸に抱いていたはずだ。

「……鎖錠解放。来なさい、その呪わしき魂を解放してあげるわ、辺境伯」
 この時のために施していた【血の鎖錠】を解除し、封印していた力を一気に解き放つ。
 リーヴァルディの全身は溢れんばかりの魔力のオーラに包まれ、その瞳は双つの満月のように煌々と輝く。これまで指揮に徹してきた彼女が、ここで初めて見せる戦いの構え。
「っ……何よ、そんなもの。虚仮威しに決まっているわ!」
 あまりにも強大なオーラにセレスティアは気圧されるが、ダンピール風情に臆するなどプライドが許さなかった。髪に咲いた青薔薇からざわざわと棘だらけの茨が伸びていき、毒蛇の群れのように襲い掛かった。

「従いなさい、私の法に!」
「……お断りよ」
 四方八方から取り囲むように迫る無数の茨を、リーヴァルディはひらりと最小限の動きで躱す。鎖錠解放によって強化されたのは魔力や身体能力だけでなく、第六感等の全ての戦闘力が封印をかけた時間に応じて大幅に高まっている。
「……吸血鬼に媚を売ってまで手に入れた力はこの程度かしら」
「貴様……っ!!」
 茨の動きを見切って回避し続けながら、さらなる攻撃を誘うように言葉を投げかける。
 挑発だと分かっていてもそれを無視できないセレスティアは、残された力を振り絞って茨を増殖させ、猛然とリーヴァルディを攻め立てる。

「触れられさえすればッ!」
 ここまでの戦闘で敵は相当消耗している。それでも余力を使い切って放たれた攻撃は、これまでにない規模のものだった。今のリーヴァルディならば避けられたかもしれないが――彼女はあえてそれを魔力のオーラで防御し、隙を生み出すことにした。
「……最後の意地といったところね」
「抜かせ! 命令よ、この私に――」
 限界を突破した魔力の奔流に阻まれて、茨がリーヴァルディに与えたダメージは皆無。
 だが命中さえすれば青薔薇のユーベルコードは効果を発揮し、対象にルールを課すことができる。これで形成は逆転だと、セレスティアは大声で宣告を行おうとするが――。

「……ここは、私の距離よ」
「ッ!?」
 ルールが告げられる直前、リーヴァルディは残像が生じるほどの早業で敵の懐に飛び込んでいた。鎖錠解放により強化された能力の底を、彼女はまだ見せてはいなかったのだ。
「……限定解放」
 反応できない敵の紋章に向けて、彼女は一瞬だけヴァンパイア化しながら掌打を放つ。
 人間離れした怪力がセレスティアの体を押し倒し、したたかに地面に叩き付け。同時に極限まで圧縮された魔力が掌に集束していく。

「……刺し貫け、血の聖槍……!」
 変身解除の余波により放出される圧縮魔力の杭。リーヴァルディ渾身の【限定解放・血の聖槍】を胸に受けたセレスティアは紋章ごとその身を貫かれ、大地に縫い付けられた。
「ぐ、があああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」
 彼女を貫いた杭はそのまま無数の血棘を乱れ撃ち、体内をズタズタに引き裂いていく。
 耐え難い激痛に絶叫しながら杭を引き抜こうとするセレスティア――だが、その抵抗は弱々しいものであり、彼女の命脈が尽きかけていることの証明でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

愛久山・清綱
其れが貴殿の導き出した『答え』なのだな、聖女殿。
承知した……では、参るぞ!

■闘
『心切』に【破魔】の力を込める。
思想を咎めはせぬ……其の武で語るのみ。

構えると同時に足を踏み出し、【ダッシュ】でセレスティア殿の
懐まで距離を詰める。
薔薇の荊は軌道を【見切り】つつ刀を振るい【切断】することで
防御を試みるが、命中時は『従うと不利になる』ルールに限り、
【激痛耐性】で我慢。

辿り着いたら雑念を払い、紋章が位置する『胸元』目掛けて
【夜見・慈】を放ち、その心を少しばかりでも【浄化】せん!
如何なる形になろうとも、如何なる者であろうとも、
救える魂は救うべし……其れが、俺の兵(つわもの)の道だ。

※アドリブ歓迎・不採用可



「ま……まだよ。まだ、こんなところで死ねるものですか……!」
 猟兵達の猛攻に晒された『青薔薇の聖女』の敗色は、もはや誰の目にも明らかだった。
 それでも彼女を立ち上がらせるのは歪んだ妄執。愚民どもをこの世から一掃し、理想の世界を築き上げるという狂った野望を叶えんがために、彼女はここまで来たのだから。
「其れが貴殿の導き出した『答え』なのだな、聖女殿」
 悪意に歪みきったものとはいえ、その覚悟がいかに堅固なものかを清綱は改めて問う。
 堕ちた聖女が答えを変えることはありえない。「当然よ!」と殺意の籠もった眼差しで返すセレスティアを見て、彼の答えも決まった。

「承知した……では、参るぞ!」
 銘刀「心切」に破魔の力を込め、隙のない足運びで駆けだす清綱。練達の兵である彼と刀の間合いで立ち会うのは分が悪い。セレスティアも瞬時にそれを悟ったのか、青薔薇の茨を放って彼を寄せ付けまいとする。
「思想を咎めはせぬ……其の武で語るのみ」
「ふん、無骨な男ね。従いなさい、私の法に!」
 触れた者にルールを強要し、違反すればダメージを与える呪いの茨。清綱はその軌道を鋭い眼光で見切ると刀を振るい、切り払っていくが――間合いを詰めようとすれば攻撃に敢えて向かわざるを得ない場合もあり、全ての茨を切断するには至らなかった。

「近寄るなッ!」
 一本の茨が清綱の頬を掠めた瞬間、セレスティアはヒステリックに一喝する。接近戦を得意とする相手の行動を制限するには、最もシンプルかつ効果的なルールの指定だろう。
「従うと不利になるか……ならば」
 前に進もうとする清綱の体に痛みが走る。だが、彼は立ち止まることなく走り続ける。
 これしきの激痛に耐えられずして武辺者を名乗れはすまい。痩せ我慢と言ってしまえばそれまでかもしれない。だが、揺るぎない信念に裏打ちされた彼の歩む道は曲がらない。

「っ! こいつ、どんな神経をしているの?!」
 宣告したルールを真っ向から無視されるとは思わず、明らかに動揺するセレスティア。
 その好機を突いて清綱は彼女の懐まで距離を詰め、愛刀を握る手にぐっと力を込める。
「捉えたぞ」
 己の間合いに辿り着いた彼は雑念を払い、目前の女人に対する敵意を心から捨て去る。
 曇りなき心にて、滅殺ではなく救済のために刀を振るう時、「心切」はその銘の通りに肉体ではなく心を切る刃となる。

「秘伝……夜見」

 斬光一閃。破魔の力を込めた斬撃が、辺境伯の紋章が位置する胸元目掛けて放たれる。
 その心を少しばかりでも浄化せんとする一撃が、セレスティアに苦痛を与える事はなく――刹那の静寂の後、彼女に力を与えていた紋章はパリンと音を立てて砕けた。
「如何なる形になろうとも、如何なる者であろうとも、救える魂は救うべし……其れが、俺の兵(つわもの)の道だ」
「ぁ………」
 赦されざる邪道に堕ちた者とて見放さない気高き道を示した上で、清綱は刀を納める。
 キン、という鍔鳴りの音が合図だったかのように、紋章なき辺境伯は地に倒れ伏した。

「ぁ……感謝、します……私を、止めてくれて……」

 塵となって骸の海に還る最期の瞬間、彼女が口にしたのは紛れもなく『青薔薇の聖女』の言葉だった。彼女の救いを望んだ猟兵の想いが、一瞬だけ生来の心を呼び戻したのか。
 辺境伯セレスティア・ノートは斃れ、戦場に舞い散る青薔薇が戦いの終わりを告げる。


 ――かくして猟兵達は翼の軍勢と堕ちた聖女の侵略から、辺境の人類砦を守り抜いた。
 砦には命を救われた人々の歓喜の声があふれ、数え切れないほどの感謝が伝えられる。
 闇の世界に灯った希望の火はこうして守られ、未来を切り拓く力となっていくだろう。夜明けの時は遠かれど、それはもう"不可能"な夢物語ではないのだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月27日
宿敵 『『青薔薇の聖女』セレスティア・ノート』 を撃破!


挿絵イラスト