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竜の贄は空に墜つるか?

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「空の世界、ブルーアルカディアには、『勇士』と呼ばれる人達がいる」

 グリモアベースに集まった猟兵に、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)はそう切り出した。
 作戦会議用のスチール・テーブルには年季の入った羊皮紙が広げられている。記されているのは、分断されたいくつもの島々とそれらを結ぶ航路。一見すると海図のようだが、よくよく観察してみるとそこかしこに高度の指示が書き加えられている。
 すなわちそれは天上の浮島を結ぶ、飛空艇(ガレオン)のための航空図だった。

「屍人帝国のオブリビオンと積極的に戦う人達に付けられた称号だね。もっとも、誰しもが正義の味方ってわけでもなく、天使核や魔獣を狙うハンターやらいっそ空賊に近いグループもあるみたいだけど」

 そこまで言って腕を組んだ伏籠は「ま、思想信条のゴチャ混ぜっぷりは猟兵も似たようなものか」と軽く笑みを浮かべた。
 目的がなんであれ、邪悪な屍人帝国に対抗する『勇士』たちは、間違いなくこの世界の希望なのだ。

 今回、伏籠が予知したのは、そんなとある『勇士』の危機にまつわる事件だった。

「事件に巻き込まれるのは『ラフトレイサ』と名乗るチームだね。小型飛空艇を所有する、4人組の勇士だよ」

 メンバーの内訳はリーダーの剣士、操舵士、砲手、料理人で、界隈でもそこそこのベテランだという。魔獣狩りによる素材や食料の入手を主目的に活動しているらしい。

 予知された情報によると、ある空域で彼らは不審な飛空艇を発見することになる。
 航路を外れ、低速でふらふらと空をさまよう飛空艇……、『はぐれ船』だ。

 ラフトレイサの面々は偶然発見したこの船の調査のため、自前の飛空艇を接舷させて内部に踏み入っていくのだが……。

「そのタイミングでオブリビオンの襲撃を受けてしまう、と。はぐれ飛空艇と接舷していたのが不運だったね。自分たちの飛空艇の再発進に手間取って、彼らはそのまま海の、もとい、空の藻屑に……」

 予知した光景を思い出したのか、伏籠がわずかに視線を伏せる。
 小さなため息。
 次いで、パンと手を打つ音。
 ネガティブな空気を振り払って机の空図から猟兵たちに視線を戻した伏籠は、意識して挑戦的な表情を作っていた。

「というわけで、みんなにはこの未来を覆してもらいたい。ラフトレイサのチームと合流してはぐれ飛空艇を調査。その後、襲来したオブリビオンを撃退すること。これが今回のミッションだ」

 猟兵たちの顔を見回して、伏籠がミッションの進行を補足する。
 猟兵ほどの実力者が冒険に同行してくれるとなれば、ラフトレイサの勇士たちは快く協力を歓迎してくれるだろう。
 彼らの飛空艇に乗り込み、はぐれ飛空艇の調査を開始したところから行動開始だ。

 はぐれ飛空艇は30人超での運用を前提とした巨大なタイプ。
 操る者を失い航路から外れているが、内部には何かが残されているかもしれない。
 放っておけばいずれ墜落するだけの船である。価値ある財宝を探して持ち帰ってもいいし、漂流の原因を探ってみてもいいだろう。
 あるいは、協力者である勇士たちと情報交換に務めるのもありかもしれない。

「と、そうこうしているうちに襲ってくるのが『ガレオンドラゴン』と呼ばれるオブリビオンだ。名前の通り、天使核の暴走によって変異し、ドラゴンと化した飛空艇(ガレオン)だよ」

 特徴としては、とにかくデカイ。しかも、空を飛んでいる。
 予知の映像から想定されるサイズはおよそ50m級。
 どうやら牙による近接攻撃や、艦載砲による砲撃を得意とするらしい。

「空飛ぶ乗り物とか飛行能力があれば対応しやすいと思うけど……、そうでないなら、飛空艇を足場にすることになりそうだね。ラフトレイサの船に同乗するとか、制御は難しいだろうけどはぐれ船を利用するとか、かな」

 いずれにせよ、『地に足が着かない』危険な戦場になるだろう。
「くれぐれも墜落しないでくれよ」と伏籠も人差し指を立てて警告している。

「無事にガレオンドラゴンを討伐できればミッション・コンプリートだよ。……そうそう、ラフトレイサの『料理人』は魔物料理の達人なんだとか。首尾よく事件が解決すれば、ドラゴン料理を振る舞ってもらえるかも?」

 そう言って伏籠は悪戯っぽく笑ってみせた。
 倒した魔獣から素材や天使核を剥ぎ取るのもブルーアルカディアの文化のひとつである。新鮮な食材が手に入るせっかくの機会、彼らのご相伴に預かるのも一興だろう。

「さぁ、空の世界の冒険の始まりだ。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 ようこそ、ブルーアルカディアへ!
 空の世界からこんにちは、灰色梟です。

 今回の依頼は現地の勇士たちと協力しつつ、はぐれ船を探索し、オブリビオンを撃破するというものです。
 以下に詳細を補足するのでご確認ください。

 第一章は冒険。
 航路を外れてさまよう『はぐれ船』を探索します。
「こんなのがあるんじゃないかなぁ」といったプレイングがあればアイテムや船の装備が生えてきたりするかもしれません。
 はぐれ船は第二章の戦場としても使えるので、今のうちに下見をして作戦を考えてもいいかもしれませんね。

 第二章はボス、『ガレオンドラゴン』との戦闘です。
 デカイ上に飛行能力を持つ難敵です。ブルーアルカディアらしい『空の戦い』を如何に攻略するか、腕の見せ所です。
 ラフトレイサの面々は自前の飛空艇に乗って戦闘に参加します。彼ら自身に有効打を出せるほどの火力はありませんが、機動力のある足場として彼らの船を利用することができるでしょう。

 第三章は日常シーンです。
 勇士の料理人が、倒した魔獣から魔獣料理を作ってくれます。
 祝杯とともに現地の料理を味わってみてください。

 空を舞台にした大立ち回り。新世界らしい冒険になるでしょうか。
 みなさんのプレイングをお待ちしています。それでは、一緒に頑張りましょう。
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第1章 冒険 『はぐれ船との遭遇』

POW   :    はぐれ飛空艇内部を歩き回り、探索する

SPD   :    はぐれ飛空艇の周囲を警戒する

WIZ   :    はぐれ飛空艇の操縦室を調べてみる

イラスト:fossil

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「俺様のフネに乗りたいって? いいぜ、アンタらみたいな腕自慢なら大歓迎だ!」

 両腕を広げた偉丈夫が快活に笑う。
 勇士たちのリーダーは見たところ40代の人間で、黒髪に白いものが混じっていた。

 空は快晴。風は穏やか。
 キミたちを乗せた飛空艇は大きな揺れもなくスムーズに蒼空を滑っていく。
 日射しは暖かく、近づく夏の気配を漂わせている。

 二時間ほどのフライトの後、飛空艇は『はぐれ船』を補足した。
 遠目でも分かる大型船だ。かろうじて飛行は続けているが、舳先が右に左にと、どこか頼りない。

 操舵士の赤髪の姐御が、熟練の舵捌きで勇士のフネを接舷させた。
 係留したロープを軽やかに伝い、キミたちははぐれ船へと乗り移る。
 船内は静寂に満ちており、人の気配はまったく感じられない。聞こえてくるのは風の音と船板が軋む響きだけ。

「どうにも嫌な感じだな……」

 リーダー格の剣士の呟きが風に消えていく。
 見たところ飛空艇の構造は、UDCアースのガレオン船に酷似しているようだが……。
 踏みしめた床板がぎしりと軋む。通路の外縁に張り巡らされた手すりも古錆びた印象だ。
 今すぐフネが墜落するようなことはないだろうが、忘れてはならない。ここが大地さえ見えない、遥か高空の世界であるということを。

 呼吸をひとつ、気持ちを新たに。
 キミたちははぐれ船の探索を開始した。
ジーク・エヴァン
不思議だなぁ
とてもじゃないけどこんな船じゃ空を飛べるとは思えないけど、この世界では空を駆ける船が普通みたいだし、この船もそういう力で空を飛んでるのかな?
とりあえず船の調査を始めるとしようか

船の損傷具合も見てみよう
これから来る竜との戦闘ではこいつを盾にして竜と戦うことになるかもだし、ある程度頑丈だと助かるな
それからこういう船ならもしかしたら槍とかの武器や網とかも置いてるかもだし探ってみよう
武器があれば、竜と戦う時に使えるかもしれないからね



 ジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)は右舷の通路を歩いていた。
 勇士の飛空艇が係留された最後尾から、前方の甲板を目指すルートだ。
 左手に船室の壁を見ながら歩いていて気がついたのは、足元の木板に特殊なコーティングが施されているということだ。
 感覚的に通路の床そのものはそれほど厚くないように思える。おそらく、床下にも船倉があるのだろう。しかし、ジークの足裏には思いのほかしっかりとしたソリッドな感触が返ってきている。緩やかに弧を描く通路を一通り見回してみても、汚れはあれど経年による腐食は見て取れなかった。

 薬剤、あるいは魔術的な被膜か、はたまたこれも『天使核』の影響なのか……。
 いずれにせよ、意図して足を叩きつけでもしない限り、うっかり床板を踏み抜くといった事故は起こらないだろう。その点はフルプレートの板金鎧を纏うジークにとって朗報である。

「それにしても、不思議だなぁ」

 ジークはふと足を止め、手摺から船の側面を覗き込む。
 眼下では半透明な薄青の翼が高空の風を受けて大きくたわんでいた。そのままぐるりと船体を見渡してみるが、やはり、はぐれ船はジークの知る船(もちろん、水上を走るためのものだ)に非常に近い構造をしている。

「この世界では空を駆ける船が普通みたいだし、この船もそういう力で空を飛んでるのかな?」

 ジークの持つ常識としては、とてもではないがこんな船が空を飛ぶとは思えない。思えないのだが、実際に飛んでいるのを見た以上、現実として信じるより他はない。
 視線を上に向けると、船の上部に巨大な円筒状のタンクが見える。しかし、どうやら飛行船や気球のように浮力のある気体を用いているわけでもなさそうだ。飛行のための支点はむしろ船全体にあるように思える。
 鍵はやはり、船の動力(エンジン)となるオブリビオンの心臓、すなわち天使核か。

「なんにせよ、ある程度頑丈だと助かるな。これからこいつは……、っと」

 そう呟いたジークの視線が一点に止まる。
 彼が目敏く見つけたのは船の側面に開いた四角の穴だ。窓と呼ぶには飾り気がなく、ガラスのような防護材も見当たらない。
 大体の位置を覚え、ジークは鉄靴を慣らして甲板に歩を進めた。広々としたデッキを見渡せば、すぐに床の一角に降ろされた鉄製の格子が見つかった。
 開閉には巻取り式のウィンチを使うようだが、どうやらそれは破損しているらしい。近くの木柱に設えられた機構には破壊の痕跡が見て取れる。

「下の部屋が使えないように誰かが壊したのかな……」

 重量のある鉄格子を腕力で持ち上げて、ジークは甲板の床下に身体を潜り込ませた。
 目測通り、床下はさきほど見つけた四角の穴のある部屋に繋がっていた。その穴のすぐ内側には、やや古めかしい大型の大砲が備えられている。つまりこの部屋は武器庫で、件の穴は砲門だ。

「砲弾も……、よし、残ってる。それに、こっちは鉄球付きの投網か。あとは対魔獣用らしき大型槍も。どっちも砲で撃ち出せるタイプだね」

 整然と置かれた手つかずの武装の山を見て「これは使えそうだ」とジークは頷く。
 猟兵たちが使わないにしても、同行する勇士にこれらを使った援護を頼めるかもしれない。
 残された武装をひとつひとつ点検しながら、ジークは来たるべき『竜』との戦闘に備えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マキナ・エクス
アドリブ・ほか猟兵との絡み歓迎

【WIZ】判定

さてさて、新たに発見された空の世界での初お仕事だ。
いやはや、漂う不審な無人船か、いいねえ。
やっぱりこういうのはなかなかそそるものがある。これこそロマンというものだよ。

取りあえず探索がてらこの船がこうなった原因でも調べてみようかな。
これだけ巨大な船が漂流しているんだ、よっぽどのことがあったんだろう。
操縦室に航海?航空?の記録か船員の日誌でもあれば【世界知識】で考察できるんだけど。

まあ、もしこの船の船員たちの結末が暗く報われないものであったなら、黙禱でもささげるとしよう。せめて次の生では幸福な終わりが訪れるように。


玉ノ井・狐狛
まさか船がテメェで家出したってこともないだろ
……と言いたいところだが、勝手に動く乗り物ってのも、あるところにゃァあるからな
何にせよ、コイツがどうして“はぐれ船”なんつう状態になっちまってるのか、その理由を調べよう
ただの自発的な散歩ならイイが(よくはないが)、なにか事故があって放棄されたとか、乗ってるやつらが神隠しに遭ったとか、そういうトラブルの種があるなら、ドンパチの前に確認しとかねぇとな

対処すべき何かがあるなら対処
とくになさそうなら、あんまり気にしてもしょうがねぇ。空でも眺めておくさ。――船旅には天気が大事だし、ぼちぼちお客(オブリビオン)も来るんだろうしな



 マキナ・エクス(物語の観客にしてハッピーエンド主義者・f33726)は上機嫌だった。
 はぐれ船の甲板をかかとでリズミカルに叩きながら、ゴシック調のミレナリィドールは船内のあちこちにふらふらと好奇心の視線を飛ばしている。

「いやはや、漂う不審な無人船か。いいねえ、なかなかそそるものがある。これこそロマンというものだよ」

 中性的なマキナの口調は、ともすれば口笛でも吹き始めそうな調子である。
 周囲のあれやこれやに注視しては大仰に頷く彼女を、探索に同行した妖狐、玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)は半ば呆れを含んだ表情で見つめていた。

「ロマンは構わないけどさ、このあとドンパチが控えてるのも忘れないでくれよな?」
「もちろんだ。けれど、ひとまずはこの船がこうなった原因を調べてみようと思う。これだけ巨大な船が漂流しているんだ、よっぽどのことがあったはず。オブリビオンが現れる前にその原因を突き止めておくべきだろう」
「そこのところはアタシも同意見だな。まさか船がテメェで家出したってこともないだろ」

 琥珀の瞳の妖狐がマキナの言葉に頷きを返す。
 はぐれ船を襲ったトラブルの『タネ』が残っているのであれば、戦闘の前に対処しておく必要がある。代理賭博師である狐狛にとって、勝負の前に『場を整えておく』のは、ある意味で当然の行動だった。

「と言っても、勝手に動く乗り物ってのも、あるところにゃァあるからな」
「本当に乗員がいたかどうかも調べるべきか。となると探索の狙い目は……」
「操縦室。航空日誌でも見つかれば儲け物だな」

 程なくして、二人ははぐれ船の操縦室にたどり着いた。多段式の後部デッキの最上部、つまり、船内でもっとも見通しの良い場所に配置された一室は当然ながら非常に目立っており、特段の苦労もなく彼女たちに発見されたのだった。
 操縦室の扉は船の後方側に設置されていて、これは操舵手の前方の視界を遮らないための配慮だろう。真鍮製のドアノブを捻ったマキナは、かすかに違和感を覚える。抵抗もなく開いた扉を改めて観察してみると、鍵穴に引っかき傷のような痕跡が確認できた。

「ピッキング?」
「みたいだね。傷跡も少ないし、いい腕してる」

 鍵穴を覗き込んだ狐狛が目を細めた。
 操縦室は前方と両側面に大窓を備えた小部屋だった。中央に操舵輪が鎮座し、後方の隅には休憩用らしいソファと小さな本棚が置かれている。視線を少し上に向けると、天井からは古めかしいランプが吊り下げられていた。
 本棚に向かうマキナを横目に、狐狛は頭上のランプに手を伸ばした。背伸びではなかなか届かず、最終的には思い切ってジャンプまでして彼女はランプを手中に収める。金属製の傘を外して中身を覗き込むと、焦げるような臭いが鼻をついた。

「こりゃ、油が切れてるな。給油係がサボったんじゃなければ、『何か』が夜の間に起こって、そのままずっと火が点きっぱなしだったってことか?」

 ほっそりとした指先を顎に当てて狐狛は眉をひそめる。
 一方、本棚から航空日誌らしき一冊を取り出したマキナは、パラパラと最新のページを捲ってみてから困ったように肩をすくめた。

「乗員はちゃんといたみたいだね。でも、日誌は最後まで順調な航行としか書かれていない」
「長期的なトラブルじゃないってことだな」
「それから……、ここを見て」

 マキナが指差したのは本棚の隣のソファ、その背もたれの上半分のあたりだった。
 近づいてみて、狐狛も気づいた。ソファの一部分だけに滲む赤い色は、布の模様ではなく、誰かの血液だ。

「ちょうど首のあたり。頸動脈、かな」
「少し待ってくれ。ひょっとすると舵輪の方も……、ああ、やっぱりあった」

 部屋の中心の舵輪の陰を覗いて、狐狛も同様の血痕を発見した。ソファの血痕とはまた別の人間のものだろう。目立たない位置ではあるが、かなりの出血量があったものと推測できる。

「多分だけど、操舵手は二人一組でシフトに入っていたんだろうな」
「けど、部屋に争いのあったような跡は残されていない」
「どっちの操舵手にも気づかれずに、下手人は『仕事』を終わらせたわけだ。鍵の件といい、かなり手慣れてる感じだな」

 主を失くした操舵輪がぎぃぎぃと音を鳴らしている。この状態でも飛空艇が墜落していないのは、動力である天使核がまだ生きているからに違いない。適切な技能を持つ操舵手がいれば、船のコントロールを回復させることは可能かもしれない。
 ひとまずこれ以上の成果は得られないだろう、とマキナと狐狛は操縦室をあとにした。
 扉を開けて甲板に戻ると、なんとなく空気の味が変わった気がする。知らぬうちに操舵室の空気に淀みを感じ取っていたのかもしれない。

「要するに、夜闇に紛れて飛空艇に忍び込んだヤツがいるってことだ」
「……その『誰か』は、まだ船内に残っているのかな」
「いいや、屍人帝国にしろ人攫いやら空賊にしろ、どうにも手口がプロっぽい。やることやったら、さっさと去っていったって考えるのが自然だろうな」

 果たしてこれは朗報と言うべきだろうか、狐狛は難しい顔で思考を巡らせる。
 はぐれ船のトラブルは、これから襲来するオブリビオンとは特に関係なく発生したもののようだ。状況を鑑みるに、戦闘における後顧の憂いはなくなったと見ていいだろう。
 しかし、同時にそれは、先立って船を襲った犯人の追跡が困難だということを示している。下手人がオブリビオンであれ、あるいはそうでないのであれ、ブルーアルカディアの蒼空には想像以上に様々な悪意が飛び交っているらしい。

「襲われた船員たちは……」
「船から突き落としたか、殺して『持ち帰った』か。愉快な想像はできないな」
「だろうね。そうか、それが彼らの結末か」

 空の彼方に視線を向けたマキナが、そっと目を伏せる。
 狐狛は静かに黙祷を捧げるミレナリィドールをしばらく見つめ、それから彼女の肩をコツンと軽く小突いた。

「今はあんまり気にしてもしょうがねぇ。ぼちぼち『お客』も来るんだろうしな」
「わかっているよ。ただ、せめて次の生では彼らに幸福な終わりが訪れるように。……そう願っていただけさ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木霊・ウタ
心情
ラフトレイサをむざむざやらせないぜ

それに空の世界ってちょいと憧れるよな
楽しみだ

行動
もう生存者はいないだろうけど
せめて漂流の原因を探りたいぜ

一瞬、炎を赤々と燃え上がらせて
背後に堕ちた影を俺と瓜二つの三次元に

ブラックタールな俺ってカンジな

追跡者と二手に分かれて船内を探索
まずは船長室とか艦橋とか
記録や文書みたいなもんがあれば
原因の手がかりになるかも

手がかりがなければその後も船体を探索

このはぐれ船も
ガレオンドラゴンになっちまう危険があるってコトだよな
戦闘が終わったら天使核を回収した方がいいかも

襲撃があるから
余り長居をするつもりはないぜ
適当なとこで探索を切り上げ

事後
甲板で演奏しながら襲撃に警戒



 情熱の炎は瞳に宿る。
 『ラフトレイサ』のリーダーである壮年剣士は、はぐれ船に至るまでの旅路で、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の瞳に懐かしい輝きを見出していた。
 それは、かつて彼自身も持っていたはずの輝き。限りない空への挑戦、未知なる冒険への憧れの光だ。

「腕が立つからって気い抜くんじゃねえぞ、坊主」
「ああ。でも、やっぱり楽しみだぜ」
「ったく、自信があるのか気楽なんだか。こういうのを若いって言うのかねぇ」

 年の離れた男と別れ際に拳を軽く打ち合わせて、ウタははぐれ船へと乗り込んだ。
 むざむざ予知通りの悲劇は起こさせはしない、と背負った決意を拳に乗せたが、きっと剣士の方は気づいていないだろう。
 もちろんウタはそれで構わない。悪夢のような未来を背負うのは、猟兵だけで十分だ。

「あまり時間に余裕はないけど……、せめて漂流の原因を探りたいぜ」

 そう独りごち、ウタは目についた扉を躊躇いなく開いた。
 扉の先は狭い廊下に繋がっていた。船内は日射しが遮られ、かなり暗い。廊下の左右には複数の扉が線対称に並んでいる。おそらく、乗組員の船室だろう。
 暗闇に目が慣れると、壁に掛けられたランプに気づいた。どうやら船内の光源は電気や魔術ではなく、古風な灯火に頼っていたらしい。

 ウタは、しかし、ランプには手を伸ばさず、代わりに自身の指をパチリと鳴らした。
 瞬間、赤々とした炎が彼の目の前で燃え上がる。木造の船内が朱色に照らされ、同時にウタの足元から背後に黒い影が伸びた。
 火勢はすぐに収まり、船内にはすぐに闇が戻る。しかし、伸びた影だけは闇に溶けることはなく輪郭を濃くし、周囲の黒が凝縮したかの如くついには立体的に立ち上がった。

「ブラックタールな俺、ってカンジな」

 呼び出した影の追跡者(シャドウチェイサー)を従えて、ウタは船内の通路を進んでいく。
 予想通り左右の扉の先は乗員の船室で、壁の両際に二段ベッドが置かれているのがデフォルトのようだ。ベッドの中を覗き込むと、血に濡れた布団と枕を見つけることができた。夥しい血液の量は、ひと目で致死量と判断できる。やはり、就寝中の乗員も何者かに襲われたらしい。

「この様子じゃ、もう生存者はいないだろうけど……」

 眉を顰めつつ廊下の突き当りまで行くと、狭い階段が上下に続いていた。
 少し考え、ウタは影の追跡者を階下に向かわせると、自身は上の階へと登ってく。
 上階の構造は、先ほどの通路よりも余裕を持った間取りとなっていた。階級の高い乗員のための区画なのだろう。ウタはその中でも特に目立つ扉へと手を掛ける。
 ドアノブの傍には鍵穴があったが、施錠はされていなかった。立て付けが悪いのか、開き方がやや固い。軋んだ音を鳴らして開いた扉の向こうは、かなりの大部屋で、鎮座する豪奢な机が特に目を引く。

「ここが船長室かな。記録や文書みたいなもんがあれば、原因の手がかりになるかも」

 周囲を警戒しながら、ウタは机に備え付けられた抽斗や、壁際の本棚を物色していく。
 いくつかの書類を検めてみてわかったのは、このはぐれ船が元々は定期航路を持つ武装商船であったということだった。オーナーは複数の浮島を周航して貿易を行う商会で、船長もその商会と専属の契約をしていたらしい。
 書類の中には積載した貨物のリストもあった。その内容を確認しつつ、船の下部、船底の倉庫に入った影の追跡者と視界を共有したウタは険しい表情を作る。

「倉庫はカラッポ。これは、押し込み強盗だな」

 がらりとした船倉を見渡した影の追跡者の視界が、タイムラグなしにウタの脳裏に送られてくる。手当たりしだいに貨物を運び出したのだろう。床板に視線を落とせば、重い荷物を引きずった跡があちこちに残されていた。
 リストを照合すれば盗まれた物品の詳細がわかるかもしれないが、今はそこまでの時間は無い。影の追跡者に探索を続行させつつ、ウタは別の冊子を手に取る。数ページ流し見をしてみると、どうやらそれははぐれ船の構造図のようだった。

「そうだ。動力部……、天使核の位置は?」

 目次に戻り、目当てのページを捲る。
 図面によれば動力部は船底のほぼ中心。ウタはすぐさま影の追跡者を向かわせる。
 果たして、厳しい錠前の着けられた扉の中に、飛空艇の動力室は存在していた。
 部屋の中央に金色の天使核が安置され、接続された複数のパイプが所狭しと部屋の中を這い回っている。パイプを中継するなにやら複雑そうな箱型の機械には青色のランプが灯り、今も稼働を続けている様子だった。

「……このはぐれ船もガレオンドラゴンになっちまう危険があるってコトだよな」

 このまま放置された天使核が暴走してしまえば、の話だが。
 戦闘が終わったら天使核も回収したほうがいいかも、とウタは冊子を戻しながら考える。
 オブリビオンの襲撃のことを考えると、これ以上の長居は難しい。ウタは影の追跡者を送還し、自身も船室から甲板へと戻る。

 収穫はあった。飛空艇の最大の弱点である天使核の位置を把握できたのだ。
 これから巻き起こる戦闘においても、船の中央を貫かれない限り、はぐれ船の飛行能力は最低限確保されると考えていいだろう。

「さて、敵はどこから来る……?」

 甲板を流れる風が強くなりつつある。
 空の上だからか、太陽がいつもより近くに感じられた。
 今のところ周囲に怪しい飛行物は見当たらない。
 ウタは愛用のギターを取り出し、確かめるように弦を弾く。
 見渡す限り空の青と雲の白とに彩られた世界で、彼は戦いの前奏曲を奏で始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

三岐・未夜
【みゃちしょこ】

……何か、硝子と八千代とどっか行くと毎回何か食べてるかトンチキなことしてる気がする……

えっと、とりあえずUCで探索隊組んで飛ばしとこうかな
攻撃用でも、僕と繋がってはいるから見えるもんは見えるし
あとはー……【おびき寄せ、祈り】で『はぐれ船』内の良縁を手繰り寄せてみようか
僕らが戦うために、少しでも力になりそうな装備があると良いなあ
砲撃系ないかなー
自前で弾幕張りつつ手動で砲撃も出来たら最高じゃん?僕、そういうのめちゃくちゃ得意だよ

……ねぇ、硝子?
弟で食肉の部位を示すのは……あの、どうなの……?
いや八千代もウキウキしてるのは分かるけど晶はお肉じゃないからね!?
お肉出て来るのはまだ先!


花邨・八千代
【みゃちしょこ】
初めての!魔獣料理!
肉は良いぞ、煮ても焼いてもナマでもうまい!
俺マンガ肉とか一度食ってみてぇなー

よし、折角だし素敵なお宝見付けようぜ!
古の財宝とか超ロマンあるぅー、そういうの良いよなァ
よし、俺の『第六感』が唸るz……みゃーのそれ何々ー!?
(探索隊を追いかけ回す)(飽きたら戻ってくる)

しょこに呼び出されて出てきた晶を眺めてふむふむと
なるほど、ちなみに俺はミスジが好きだぞ!あとレバー!
……晶ぁー、俺もむにむにして良い?

しっけーな、俺は食っていい肉とダメな肉の区別はつくぞ!
この触り心地は食べ頃だとか思ってねーもん!
……ちょっとだけしか思ってねーし!

……なんか肉の話してたら腹減ってきた


笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】



「さて【晶】」
『はぁい!おねえちゃん!』
 召喚したUDC――ざわつく影の獣の仔・【晶】の脇辺りをむに、と摘まむ。擽ったそうに【晶】が身悶えたがスルー
「今私達がいるのはこの辺。丁度サーロインの辺りですね」
(むに)
私はヒレの方が好みではありますが。
「船長の部屋なら貴重品がありそうですけど、大砲にも心惹かれますよね。因みに船長室ならランプ肉(むにむに)大砲ならバラ肉(むにむにむに)辺り」
 捜索も本気(『情報収集』『失せ物探し』『追跡』使用)ですから(むにむに)
「みゃー、食べることは生きることです。ましてや肉ですからね」
 ドヤ顔で言うと、堪え切れなくなった【晶】がくふふと笑った



「……何か、硝子と八千代とどっか行くと毎回何か食べてるかトンチキなことしてる気がする……」

 三岐・未夜(迷い仔・f00134)がこぼしたのは無意識の呟きだった。
 乗り込んだはぐれ船の加速度と慣性が足元から伝わってくる。空の上の景色は、船の速度を実感するための比較対象物が極端に少ない。意識できないだけで、はぐれ船は今も相当な速度で飛行を続けているはずだ。ドローンの姿勢制御に補正が必要かもしれない。
 そんなことをつらつらと考えているうちに、うっかり言葉が口から漏れていた。

「なら、今日はどちらの日なのかしら。お食事? それとも、トンチキ?」
「いやぁ……、やることやったら、何か食べることになるのは確定だと思うけど」

 その呟きを隣に佇む笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は聞き逃さなかった。
 丁寧な言葉遣いながらもからかう語調の彼女に、未夜は頬を掻いて返す。
 事件が解決すれば魔獣料理をご馳走してもらえるだろう、と事前のブリーフィングでグリモア猟兵から聞いてはいるので、そこは間違いない。……間違いない、のだが。
 ちらりと未夜が硝子から視線を逸らす。
 彼が顔を向けた先、はぐれ船の甲板のド真ん中では、もうひとりの同行者である花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)が、ありあまる元気を爆発させて、両腕を空へと突き出していた。

「初めての! 魔獣料理!」

 爛漫なテンションで天に吠える女羅刹。
 その明け透けな姿をしっかりと視界に捉え、未夜はこめかみに指を当てた。

「やっぱり、トンチキなことも起きそうな予感が……」
「豚・チキン!? おう! 肉は良いぞ、煮ても焼いてもナマでもうまい!」
「……。えっと、とりあえず僕は探索隊組んで飛ばしとこうかな」

「俺、マンガ肉とか一度食ってみてぇなー」と夢見心地で呟く八千代を横目に見つつ、未夜は片眉を傾けて小型の戦闘用機械兵器を召喚する。はぐれ船の飛行速度を演算に組み込んだドローンだ。戦闘用だが、カメラが捉えた情報は未夜とも共有される。そのまま偵察に使っても問題はないだろう。

「探索か!? よし、折角だし素敵なお宝見付けようぜ!」
「お宝? うーん、僕は戦力になりそうな装備が見つかればいいな、って思ってるんだけど」
「なんだよぅ、古の財宝とか超ロマンあるじゃん! そういうの、良いよなァ」

 わかってないなぁ、といった態度で口の先を窄める八千代。溢れ出るテンションが抑えきれないのか、彼女は今にも駆け出しそうな気配でピボットを鳴らしている。
 未夜も苦笑しながら「砲撃系の装備とか見つからないかな」と希望を口に出し、指を鳴らしてドローンに指示を飛ばす。
 数機ごとにチームを組んだドローンの探索隊が四方に動き出し、同時に、八千代が甲板を蹴って走り出した。

「よし、俺の第六感が唸るz――」
「行ってこい、『エレクトロレギオン』」
「あ! みゃーのそれ、何々ー!?」
「え、ちょっ」

 と、思いきや。
 急発進した八千代が、これまた急停止、急ターンして未夜と硝子の元に戻ってきた。
 そのまま勢いよくドローンに飛び掛かる八千代。咄嗟に未夜がドローンに回避運動を取らせると、ダイヴを回避された八千代はますます瞳を輝かせて船内に飛んでいくドローンを追いかけ始めた。

「よっしゃ! 待て待てーぃ!」
「ええ……、なんでこうなるんだろ?」

 猛烈なスピードで船内へと消えていった八千代とドローンを見送り、未夜は思わず首を捻った。リンクした視界にはひと気のない船内の景色と、ドローンを騒がしく追い回す八千代の姿がばっちり送られてきている。
 そんな二人のじゃれ合い(?)をデッキの壁に背を預けた硝子が無表情に見つめていた。不機嫌なわけでもなく、これが彼女のデフォルトの表情というだけである。
 ひとしきり未夜が困惑する様子を見届けた硝子は、何事もなかったかのように甲板の扉を開けて船内に入っていく。その背中を少し遅れて未夜が追いかけてくる。

「みゃー、探索した情報は私にも回してくださいね」
「了解。……でも、うん、どうもお宝は残ってなさそうな感じかも」
「それは残念」

 結論から言うと、未夜の言葉通り、はぐれ船に財宝の類はまったく残されていなかった。
 当然というべきか、八千代もあっという間にドローンとの鬼ごっこに飽きてさっさと二人のところに戻ってくる。しばらく船内を探索した三人は、ある程度情報が集まったところで、休憩がてら適当な船室の中に入り備え付けてあった椅子にそれぞれ腰を下ろした。

「さて【晶】」
『はぁい! おねえちゃん!』

 未夜からも船内の情報を受け取った硝子がすっと指を振る。
 三角形に並べた三人の椅子の中心に、とぷりと影が落ちた。秋風の湖面のようにさざめいた影が三次元に形を作る。召喚されたのは、ざわつく影の獣の仔、硝子の弟を自称する【晶】だ。
 どうかしたの、と三人の真ん中でキョロキョロ視線を回す【晶】。その腰に近い脇腹の辺りを、唐突に硝子がむにっと摘んだ。実体を持った影がゴムのようにみょんと形を変える。

「今私達がいるのはこの辺。丁度サーロインの辺りですね」
「ふむふむ、なるほど、サーロインか! ちなみに俺はミスジが好きだぞ! あとレバー!」
「私はヒレの方が好みではありますが」

 お腹を摘まれた【晶】がくすぐったそうに身悶えしたが、硝子はこれを貫禄のスルー。彼女の指が仮想の廊下をつうっとなぞり、影の仔はいっそうプルプルと震えてしまう。

「……晶ぁー、俺もむにむにして良い?」
「ええ、どうぞ」
『え、あの、おねえちゃん?』
「やった! うりゃ、むにむにー」
「みゃーのおかげで船内の構造はあらかた把握できています。因みに船長室ならランプ肉。大砲の保管庫ならバラ肉の辺りになりますね」

 硝子だけでなく、八千代も加わって【晶】の身体をむにむにと弄くり回す。
 頑張って吹き出すのを我慢しているらしく、【晶】の喉元はむず痒そうにひくついている。
 女性陣が楽しそうに(といっても硝子はいつものポーカーフェイスだが)影の仔をむにっている光景を目の当たりにして、未夜は困惑気味に二人へ声を掛けた。

「……ねぇ、硝子? 弟で食肉の部位を示すのは……、あの、どうなの……?」
「ここがミスジで! こっちがレバー!」
「いや、八千代もウキウキしてるのは分かるけど晶はお肉じゃないからね!? お肉が出て来るのはまだ先だよ!?」

 未夜が見た八千代の眼差しは怪しい光を帯びていた。具体的にいうと、「いっただきまーす!」とか今にも言い出しそうな輝きである。
 未夜の声にハッとした八千代は、すぐに憮然とした表情を作って口を尖らせる。

「しっけーな、俺は食っていい肉とダメな肉の区別はつくぞ! この触り心地は食べ頃だとか思ってねーもん!」
「本当に?」
「……ちょっとだけしか思ってねーし!」
「やっぱり思ってた!?」

 オーバーに頭を抱える未夜と、バツの悪い顔でそっぽを向く八千代。
 そのすぐ傍で【晶】は相変わらずぷるぷると身悶えしている。硝子がその横腹をむにっと掴み、二人に向けてドヤ顔で言い放った。

「みゃー、食べることは生きることです。ましてや、肉ですからね」

 緩んでいた空気がさらに弛緩した。
 ついに堪え切れなくなった【晶】がくふふと笑う。
 虚を突かれたのか、未夜も八千代も思わず吹き出した。
 ほとんど表情の変わらない硝子だけが、ほんの少し不思議そうに眉を傾けて、すっくと椅子から立ち上がる。

「それじゃ、大砲を見に行きましょうか。台座に車輪がついているみたいですし、今のうちに甲板に出しておきますか?」
「いいね。自前の弾幕とは別に手動で砲撃とか、僕、そういうのめちゃくちゃ得意だよ」

 苦笑いに近い表情で頷いた未夜が彼女の背を追う。
 目指すは『バラ肉』。ブルーアルカディアの大砲がどれほどの性能なのか、正確なところは不明だが、少なくとも積載許容量の一部を犠牲にして積み込んだだけの価値はあるはずだ。
 二人に続き、最後にぴょこんと跳ねるように椅子から立ち上がった八千代が、ふと、お腹に手を当てて呟いた。

「……なんか肉の話してたら腹減ってきた」
「大丈夫。もう少しの我慢ですよ」
「それは、そう。すぐに肉の方からこっちにやってくるだろうしね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ガレオンドラゴン』

POW   :    属性変換
【ドラゴンの牙】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【部位を持つ『属性ドラゴン』】に変身する。
SPD   :    ガレオンブレス
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【口】から【ブレス砲撃】を放つ。
WIZ   :    飛竜式艦載砲
【飛空艇部分の艦載砲】を向けた対象に、【砲撃】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:来賀晴一

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 黒い影は東から現れた。
 太陽は中天。はぐれ船は舳先を南に向けていたため、東は左舷となる。
 方角を考えるに、追ってきたというわけではない。遭遇自体は偶然によるものだろう。
 はじめ小さな点にしか見えなかった影は、1分と経たずに輪郭が明瞭になった。高速で接近しつつあるのだ。船とも生物ともつかないその姿を確認して、望遠鏡を覗いたラフトレイサの勇士が叫ぶ。

「敵襲! ガレオンドラゴンだ! 目測、50m級!」

 鋭い声を聞きつけた勇士たちの動きは素早かった。
 猟兵たちが探索に協力していたためか、グリモア猟兵の予知とは異なり、彼らはすぐさま自分たちの小型飛空艇をはぐれ船から発進させる。
 4人の勇士は2人ずつで小型飛空艇とはぐれ船とに分かれたようだ。操舵士は小型艇に乗り込んだので、そちらは機敏な飛行が期待できるだろう。一方、はぐれ船の細かなコントロールは彼らだけでは難しいと考えられる。

「あんにゃろう、狙いははぐれ船の方だな!」

 小型艇に乗り込んだ勇士のリーダーが視線を鋭くする。
 彼の言葉通り、接近するガレオンドラゴンは、発艦した小型艇には目もくれず、まっすぐにはぐれ船を目指して飛翔し続けていた。
 ガレオンドラゴン。その名の通り、大型の飛空艇から緑鱗の四肢と翼を生やした異形のドラゴンである。船首から突き出した頭部の瞳孔は白く、敵意に満ちた光を宿している。吠えるように開いた喉奥には人工的な砲門が覗いて見えた。

「船速(アシ)は向こうが速い! やるっきゃねえぞ!」

 キミたち猟兵ははぐれ船に残っているかもしれないし、勇士の小型飛空艇に乗り込んだかもしれない。あるいは、空中戦が可能な装備があれば、すでにそれを利用しているのかもしれない。
 いずれにせよ、眼前には巨大なオブリビオンが迫りつつある。天使核の暴走によって変異し、ドラゴンと化した巨大な飛空艇(ガレオン)だ。
 戦闘は不可避。
 生き残るため、そして、勇士たちを守るため、キミたちは武器をとった。
木霊・ウタ
心情
ガレオンを海へ還してやろう

戦闘
頼りにさせてもらうぜ
ラフトレイサ

出来る限り
ドラゴンの注意を引き付けるよう立ち回る

向かって来るんならちょうどいいや

タイミング計り
はぐれ船の甲板から
爆炎噴出でロケットの如く突撃

カウンター気味に大剣で薙ぎ払う

すれ違いざま
更に爆炎噴出で軌道を変え
ドラゴンの背に剣を突き立てながら降り立ち
刃から放つ紅蓮の炎でドラゴンの全身や内部へ延焼
砲弾を誘爆

例え俺が降り落とされても
この炎は消えないぜ
…あんまり焼いちまうと
喰える部分が減っちまうかも、だけど

吹き飛ばされたら迦楼羅を炎翼として空中戦

俺を喰いたいって?
血肉は炎となりドラゴンの内蔵を焼く
…また焼いちまったな

事後に鎮魂曲
安らかに


マキナ・エクス
アドリブ・他猟兵との連携歓迎

他猟兵がUCを足場にしてくれても化

さてさて、本命のご登場だ。
あそこまででかいと普通に攻撃するだけじゃ、ダメージも通りそうにないね。
なら、船には船をだ。
UC発動。来たれ飛行帆船【ビブリオ】
こいつであいつに対して一斉【砲撃】を食らわせる。
この船は動きが鈍重だからね、敵のヘイトを引き付けつつダメージは承知の上で船同士での接近戦と行こうじゃないか。

一応船の部分もあるんだろう?なら近づいた隙に海賊たちを何人か相手に乗り移らせて内側から敵を攻撃してもらおう。近づけたら自分も二丁拳銃で【貫通攻撃】【二回攻撃】からくり人形に持たせた鎌から【斬撃波】でささやかながら援護しよう。



 マキナ・エクスの姿は左舷の甲板にあった。
 傍らに侍るのはメイド型のからくり人形。足元のはぐれ船は変わらず飛翔を続けている。高度の変化は微小。進路のゆらぎも5度に収まる程度で揺れは少ない。足場として使うのには問題はないな、と彼女は判断する。

「さてさて、本命のご登場だ」

 ミレナリィドールの緑眼が東を睨む。
 澄み切った青い空は、果てなき海に似ていた。波のさざめきのように、白雲が太陽の輝きを反射している。
 彼方から現れたガレオンドラゴンは、すでに肉眼でディテイルが確認できる距離にまで近づいていた。距離自体はまだ相当離れているはずなのだが、対象物のサイズが大きすぎるためだ。変異した船体の砲塔がギチギチと動いている。白く濁った竜の視線がマキナを射抜いた。

「ああもでかいとちまちまとした攻撃じゃ効きそうにないね。引き寄せて、『重いの』をぶつけるべきかな」
「ああ。向かって来るんなら、ちょうどいいや」

 接敵まで、残り数十秒。口の端を持ち上げた木霊・ウタがマキナの前に歩み出た。右甲板のエッジに足を掛け、巨大剣・焔摩天を肩に担ぐ。
 ウタの瞳が蒼穹を走る一隻の飛空艇を捉えた。白い軌跡を引き連れて、ガレオンドラゴンの側面に回り込もうとしている。死角を取ろうとするマニューバである。
 勇士たちの小型艇だ。直線的な船速ではオブリビオンに負けていても、小回りの勝負に持ち込めば彼らが有利なはず。

「頼りにさせてもらうぜ、ラフトレイサ」

 巨大剣を握る指先に力がこもる。その背後で、マキナが懐から一冊の書物を取り出す。
 二人の視線の先で、ガレオンドラゴンが羽ばたいた。 分厚い竜翼が力強く風を掴む。
 急加速。ぐん、と距離を詰める巨大な敵意。
 大開きになった竜のアギト。その内に、槍鋸の如き牙の列が並ぶ。
 迫る。
 しかし、それよりも早く。
 マキナの指先が、『傍観者の偽典』を開いた。

「船には船をだ。――偽典閲覧、伝承認識、軍勢招集」

 吹きすさぶ風。彼女の掌中で、偽典のページが猛烈な勢いで捲られていく。
 記された伝承。伝説に唄われる海賊の残滓が、像を結び現実を侵食する。
 顕現する威容。ゴースト・パイレーツの駆る飛行帆船が、空を裂いて召喚される。

「大海原を支配した荒くれもの達よ、錨をあげろ! 帆を張れ! 今再び出航の時だ!」

 マキナの叫びが戦端を開く。
 ウタの頭上すれすれを、召喚された幽霊帆船のキールがすり抜けていく。
 進路はガレオンドラゴンの真正面。彼我の距離は至近。激突は必至。
 竜が吼える。風が弾ける。世界が震える。
 されど、海賊は怯えない。恐れない。止まらない。
 衝突。稲妻のような轟音が響く。衝撃がはぐれ船まで伝わる。
 飛行帆船の衝角がガレオンドラゴンの胸元に突き刺さる。ドラゴンがのけぞり、しかし、龍尾の反動で踏みとどまった。間髪入れず竜の巨大な両腕が伸びる。飛行帆船を左右から掴み、爪を立てて抱え込んだ。甲板に集結した亡霊海賊たちを、白の竜眼が睥睨する。

「鈍重は百も承知! ウタ!」
「任せろ!」

 拘束された飛行帆船の直下。船影による死角。甲板を蹴ってウタが水平に跳ぶ。
 一瞬の浮遊感。肉薄。目の前にはドラゴンの腹。
 焔摩天に炎が疾走る。力任せに振り下ろし、その力を開放した。
 剣先で灼炎が爆発する。耳の奥に高音が突き抜ける。
 さながらロケット。垂直に向きを変え、ウタの身体が飛び上がる。

「斬り、抜けるっ!」

 すれ違いざまの薙ぎ払い。首筋を捉えた巨大剣が、鱗を砕き、肉を抉る。
 ドラゴンの顔面が跳ね上がった。痛みと怒りの咆哮が轟く。
 天を仰いだ竜の視線が、上方に突き抜けたウタを捉えた。
 瞬間、その影がブレて、消える。青空に残されたのは炎の噴流。
 ジェットエンジンのように爆炎で方向転換したウタが、勢いそのまま、ガレオンドラゴンの『甲板』に焔摩天を突き立てて落下する。

「例え俺が降り落とされても、この炎は消えないぜ?」
「機を逃がすな! 一斉砲撃! 船同士、我慢比べといこうじゃないか」

 突き立てられたウタの剣から炎が迸り、変異ガレオンを内から焼き尽くす。
 同時に、飛行帆船に乗り込んだマキナがオーダーを叩きつけた。
 召喚者の令により、飛行帆船の大砲が照準を合わせ、一斉に砲弾を発射する。
 連続する爆発音。地震のような振動。立ち込める白煙が視界を塞ぐ。

「スペクテイター、接舷だ。斬り込もう!」

 白煙を縫って影が走る。
 先陣を切ったのはマキナとメイド人形・スペクテイター。二丁拳銃と大鎌、両者の得物が唸りを上げる。
 トリガー、そしてスイング。連なる銃声と風切り音。放たれた銃弾がガレオンドラゴンの鱗を撃ち貫き、漆黒の刃が鱗甲の隙間を斬撃波で斬り裂く。
 続けざまに駆けてきたのは恐れ知らずの海賊たち。
 彼らはガレオンドラゴンの身体に果敢に飛びつき、未変異の飛空艇の窓から次々と『体内』に乗り込んでいく。現在進行系でウタの炎が荒れ狂う船内を、カトラスを携えた荒くれ者たちがデタラメに暴れまわる。

「ガ、アァッ!」

 喉を震わせて竜が叫ぶ。
 ダメージは明白。しかし、押し切るにはまだ足りない。瞳に怒りを漲らせたドラゴンが、痛みを無視して全身に力をこめる。

「……あんまり焼いちまうと、喰える部分が減っちまうかもだけど、ッ、と!」

 竜の背でウタが軽口を叩いた、その直後、ガレオンドラゴンが身体を捻った。飛行帆船から腕を離し、蛇のように全身を激しくうねらせる。
 ドラゴニアン・ダッチロール。オブリビオンの周囲に激しい振動と旋風が巻き起こる。船内に侵入した亡霊たちは無事では済まないだろう。飛行帆船の衝角も引き剥がされ、ウタは焔摩天ごと勢いよく空中に放り出された。

「グルァア!」
「くっ、ダメージは覚悟の上とはいえ……」

 邪魔者を排除したガレオンドラゴンが、無数の艦載砲を狙いも定めずに撃ち放つ。四方八方に放たれた砲撃が、至近を浮遊していた飛行帆船を一瞬で貫いた。激しい衝撃と弾けとんだ船体の木片が甲板のマキナを襲う。
 砲弾を乱射しながら、ドラゴンが羽ばたく。空を睨み、アギトを広げ、首を伸ばす。
 狙いは、ウタ。墜落する彼の体躯を噛み砕かんと、凶悪な竜の牙が襲いかかる。

「……俺を喰いたいって?」
「ゴガッ!?」

 瞬間、再びの爆発。
 ウタから溢れた血肉、地獄の炎の一片が、ドラゴンの喉奥に届いて爆発したのだ。
 苦悶に呻くドラゴンを視界の隅に収めながら、ウタは爆発の反動によって飛行帆船の甲板まで吹き飛ばされる。
 墜落の直前、背中に炎翼を顕現させて滑空し、どうにか軟着陸を決める。勢い余って甲板を転がった彼のもとに、マキナが心配そうに駆け寄ってきた。

「また焼いちまったな。喰える部分、ちゃんと残ってるといいんだけど」
「……意外と元気そうだね、君」

 マキナは呆れつつも、どこかほっとした表情でウタに肩を貸す。
 大きな損傷を受けた亡霊帆船はもう長くは保たないだろう。二人と一体の人形は甲板を駆け、はぐれ船へと離脱していくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】

お肉は柔らかいのが良いので叩きましょう

「いってらっしゃいやっちー」
楽しそうな背中を見送りながら精霊銃を構える(2回攻撃、鎧砕き、高速詠唱、援護射撃、スナイパー、多重詠唱、部位破壊)
「『其は光、其は叡智。真なる理をもって私を導け。――安らかなれ、ヨハンナ。』――私達に柔らかな肉を与え給え」
 判った敵の情報はみゃーと共有
 やっちーをたまに援護しつつ、硬い部位を狙う

 あ、みゃーの火加減がちょっと強いですね?
 大丈夫、水の弾丸撃ちます

「【晶】はみゃーを手伝って、大砲の準備」
『はぁい!』
 準備できましたね?
「主砲発射用意。てー!」
 こういう時言うの、なんで『てー』なんでしょうね?


三岐・未夜
【みゃちしょこ】

うっわ、でか……
え、そういう問題!?
あー、まあいっか八千代楽しそうだし……行ってらっしゃーい

手を振って見送ったら、僕は自前の弾幕と、折角見付けたんだから砲撃準備しなきゃね!
こんなの撃ちたいに決まってるじゃん
【操縦、第六感】で大体の物なら何とかするよ、こういうの大得意
【誘導弾】でどんどこ命中させてこ!
ついでにUCの火矢を【弾幕、全力魔法、属性攻撃、範囲攻撃、誘導弾、多重詠唱】でどんどん撃っちゃうよー
【集団戦術、見切り】で八千代や他の人には絶対当てないから安心してね
うわ、楽しくなって来ちゃった

っと、ごめん硝子、火力強かった?
ご機嫌にぶんぶんしていたしっぽがへたり、耳もぺたんと寝た


花邨・八千代
【みゃちしょこ】

うっひょー、でっけー!
すげー!ほんとに飛んでやがるぜ、アレを食うのか!
にしても硬そうな見た目してんなぁ、肉質ヤバそう

よーし、いっちょボコボコにして肉柔らかくしてやっか!
みゃー!しょこー!俺行ってくんなー!

はぐれ船の船首から勢いよく【空躁】でぶっとぶぜ!
南天を金棒に変えてめっちゃ殴るぞ!(怪力、なぎ払い、2回攻撃)
ヒューッ!たーのしー!

時々敵の体でも味方の船でも足場を確保して更に飛びつつ戦うぞ
食われそうになったらその牙圧し折ってやらァ!

うはは!弾幕ン中で戦うのも楽しーなぁ!
しょこー!みゃー!気にせずぶち込んでいーぜ!
勘で避ける!(大声、第六感)

さぁて天使核ってのはどーこかなー?



 ガレオンドラゴンが空中で身を捩る。
 有機と無機の融合した巨体がうねるたび、砕かれた鱗が剥がれ落ち、ガレオンの構造が軋んで歪む。付近に漂う異臭は肉と船体とが焼かれた臭いか。
 それは本能的、否、反射的な行動だったのだろう。引き金となったのは、痛みと怒り。
 苛烈な気配が空域を満たしていく。その一部始終を、はぐれ船の甲板で三人の猟兵が見つめていた。

「うっわ、でか……」とシンプルに感嘆する三岐・未夜。
「うっひょー、でっけー!」とテンションを上げる花邨・八千代。
「なるほど、大きいですね」と変わらずクールな笹鳴・硝子。

 三者三様、リアクションはそれぞれだが、共通することがひとつ。
 ガレオンドラゴンがどれほど強大な敵であれ、彼らの戦意に翳りはないということだ。

「すげー! ほんとに飛んでやがるぜ、アレを食うのか!」
「可食部は半分くらい? うーん、アレを食べるのかぁ……」
「胴体はガレオンのままなんですね。身体の末端から変異する傾向があるのでしょうか」

 硝子が首を傾げると、八千代が大きく頷いた。

「頭も腕も脚も硬そうな見た目してんだよなぁ。肉質ヤバそう」
「え、そういう問題?」
「そりゃ、そういう問題だろ?」

 甲板に並べた大砲の具合を確かめながらツッコミを入れた未夜に、八千代の「みゃー、なに言ってんの?」という視線が突き刺さる。
 ……なるほど、確かによくよく考えてみれば、オブリビオンとの戦闘において相手の防御力というのは大事なファクターだろう。敵の硬度を肉質と表現するのも、まぁ、なくはないはず。
 そう解釈して納得しようとした未夜の肩を、精霊銃を握った硝子がぽんと叩いた。

「お肉は柔らかいのが良いので、みんなで叩きましょう」
「やっぱりそういう問題なの!?」

 ポーカーフェイスの硝子がぐっとサムズアップを未夜に送る。未夜はこめかみに指を当てて、思わずため息。二人の掛け合いを眺めながら八千代は屈伸運動中だ。
 そうこうしている内に、態勢を立て直したガレオンドラゴンが、咆哮とともに翼を広げた。天空に轟いた恐るべき咆哮に空気がびりびりと震える。竜の翼膜が帆となり、大きく風を掴んでガレオンドラゴンを加速させる。
 狙いは言うまでもなくはぐれ船。そして、その甲板に立つ猟兵たちである。
 急接近する禍々しい敵意。しかし、八千代は怯むことなく、むしろ好戦的な笑みを浮かべるのだった。

「よーし、いっちょボコボコにして肉柔らかくしてやっか!」

 握るは南天紋の印籠。信じるは己の肉体能力。
 とん、とつま先で甲板を叩き、八千代は勢いよく駆け出した。

「みゃー! しょこー! 俺、行ってくんなー!」
「ええ、行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃーい」

「まあいっか、楽しそうだし」と手を振って見送った未夜はすぐさま砲撃の準備に入る。
 チャンスは一瞬。ここから先はタイミングの勝負だ。甲板に並べられたブルーアルカディアの大砲は、幸いにも複雑な機構を持たないシンプルなものだった。扱い方は直感でもわかる。この手の武器の操作は未夜の得意分野だ。整然と並べられた砲身の列に、次々と誘導弾が籠められていく。
 それと並行して、未夜は自身の『弾幕』をもセットしていく。電脳魔術士の本領発揮だ。
 演算、多重化、展開、そして、待機。発射口たる魔力の渦を、並べて、並べて、時を待つ。
 ――勝負の刻は、硝子が知っている。

「『其は光、其は叡智。真なる理をもって私を導け。――安らかなれ、ヨハンナ』」

 硝子の掌中でフリントロックがくるりと回る。
 ピタリと止まった銃口は、あやまたず、ガレオンドラゴンの顔面へ。
 カウントダウンは必要ない。
 引きつけて、引きつけて、トリガーを引く。それだけだ。

「聖解。――私達に柔らかな肉を与え給え」

 乾いた銃声。放たれる青い弾丸。
 彼我の距離は20m。的は巨大。外すほうが難しい。
 ヒット。精霊力を通じて、指先に手応え。鱗の硬さが脳裏に刻み込まれる。
 ガレオンドラゴンは止まらない。敵は、単発の攻撃なら無視できる防御力を持っている。
 敵の砲塔がはぐれ船を捉える。この距離で撃たれれば撃墜は必至。
 だが、遅い。
 こちらの撃鉄はすでに落とされているのだ。

「みゃー、変異の繋ぎ目が狙い所ですよ」
「了解! さあ、どんどこ命中させてこ!」

 未夜が指を弾く。
 次の瞬間、鼓膜が麻痺しそうな爆音の連打が戦闘空域を塗り潰した。
 はぐれ船の大砲から誘導性の砲弾が撃ち出され、同時に虚空から放たれた炎を纏う破魔矢がガレオンドラゴンに殺到する。
 ショートレンジからの一斉射。たとえるなら、ショットガンか、クレイモアか。
 強烈なストッピングパワーがガレオンドラゴンを真正面から撃ち据える。
 ソリッドな激突音が高らかに響く。ゴキゲンな火力に未夜の尻尾がぶんぶん揺れる。
 忌々しげな唸り声。強制的にブレーキを掛けられたドラゴンが空中でたたらを踏む。
 距離は変わらず、近いまま。
 ゆえに、『届く』。

「よっしゃあ! ぶっとぶぜ!」

 甲板を駆けた八千代が舳先に至り、勢いよく空へと飛び出した。
 足場はない。翼はない。空も飛べない。だが、何も問題はない。
 彼女にとってはたかが20m。ジャンプ一発で格闘戦の間合いへ。
 握った印籠が形を変える。手に馴染む超硬の重みに、猛々しいシルエット。
 すなわち、金棒。肉を叩くのなら、これが一番だ。

「ッぜぇーい!」

 技巧もなにもないフルスイングが、ガレオンドラゴンの肩部に叩きつけられた。
 鱗が砕け、肉が潰れる湿った音が八千代の耳に届いた。
 伝わった鈍い痛みに、ガレオンドラゴンが反射的に腕を振り回す。
 超質量の危険なカウンター。巻き起こる風さえも脅威。
 八千代はその窮地を『空気を蹴って』躱してみせた。

「ヒューッ! たーのしー!」
「僕も楽しくなって来ちゃった。このままどんどん撃っちゃうよー」
「【晶】はみゃーを手伝って、次の大砲の準備」
『はぁい!』

 二段ジャンプ、どころか、三段四段と跳ね回る八千代。
 その背中を追うように、未夜と硝子の弾幕が再び放たれる。
 今度の射撃は硝子の解析を踏まえ、四肢の付け根、変異の繋ぎ目に叩き込まれた。
 弱点への集中砲火。爆音と同時に鱗が吹き飛び、真っ赤な鮮血が噴出する。

「ガ、グルァアア!」
「うはは! 弾幕ン中で戦うのも楽しーなぁ! しょこー! みゃー! 気にせずぶち込んでいーぜ!」

 世界を震わす竜の吼え声。それさえも愉しみながら、八千代が舞う。
 ムーンサルト、宙返り、続けざまのツイスト・ジャンプ。
 未夜も硝子も八千代を巻き込まないように、弾丸の行く末には常に注意を払っている。
 だが、それ以上に、爆炎の乱れ咲く弾幕を彼女は『勘で避けている』のだ。

「ゴガァッ!」
「俺を喰おうってか? 上等! その牙、圧し折ってやらァ!」

 刹那の交差。
 障害を噛み砕かんと迫った竜の牙を、金棒の一撃が粉砕した。
 重たい破壊音が遅れて響く。なんたる怪力。なんたるデタラメ。
 だが、そのデタラメを押し通せる者こそが羅刹であり、八千代なのだ。

「あ、みゃーの火加減がちょっと強いですね」
「っと、ごめん硝子。火力強かった?」

 その暴れっぷりを認識しつつ、精霊銃を的確に撃ち続けていた硝子が呟く。
 あいも変わらず戦場には砲撃音がこだましているのだが、未夜はしっかりとその声を聞きつけた。彼はハッと我が身を振り返り、「楽しくなりすぎてたかも」と耳をペタンと伏せる。ぶんぶんと振られていた尻尾も「しまった」と言わんばかりにへたってしまった。
 硝子としては咎めたわけでもないのだが、せっかくなので彼女は少し考えてみる。
 戦闘の開始から今に至るまで、ひたすらオブリビオンに火力を叩きつけているわけだが、どうにも有効打を出せていないように思える。これは、相手の生命力が高すぎるのが原因だろう。局所的なダメージはガンガン通っているのだが、それでも相手に元気がありあまっているのだ。
 ならば、どうする。
 狙うならクリティカルな弱点だ。硝子の手中には『聖解』によって解析したガレオンドラゴンの物理的・魔法的耐性度の情報がある。相手のどこが硬く、どこが脆いのか。その情報を元手にして、彼女はある推測を組み上げた。

「大丈夫、私が水の弾丸を撃ちます。……あそこ、狙えますか?」
「あそこ? ……わかった!」

 情報の共有。ターゲットを把握し、未夜が力強く頷く。伏せていた耳もピンと立った。
 乾坤一擲の一撃だ。タイミングよく晶も大砲の準備を終えている。
 こういうときは、なんと言うのだったか。唇に指を当てて、硝子は言葉を探す。
 閃くものがあった。彼女は腕を伸ばし、開いた掌を敵に向けて突き出した。

「主砲発射用意。てー!」
「イエス・マム!」

 ……そういえば、なんで『てー』なのだろうか。
 ふと浮かんだそんな思考は、この日一番の砲撃音にかき消えた。
 晶の準備した大砲の弾幕は目くらまし。本命は未夜のユーベルコードだ。
 広角に拡散した砲弾の隙間を貫いて、束になった炎の矢が疾駆する。
 狙うはガレオンドラゴンの胸部。船体と鱗が折り重なる、多層構造の外殻。
 決して脆い部位ではない。否、むしろ、ドラゴンの持つもっとも硬い部位である。

「でも、だからこそ、大事なものを隠しているのでしょう?」

 鮮やかな朱色の軌跡を残して、破魔の火矢が竜鱗を穿つ。
 空気すらも焦がす高温の一撃に、木造の船体部分がいっきに燃え落ちた。
 露出する超硬度の竜鱗。高熱に赤く変色しているが、しかし、圧倒的な強度は今も健在。
 その鉄壁の如き守りに、間髪入れず硝子の弾丸が襲いかかる。
 籠められたのは水の属性。超低温の属性弾が加熱された鱗と激突し、強烈な反応を起こす。
 湿った爆音とともに、膨張した空気と水分とが弾け飛んだ。
 はぐれ船さえ揺らす大きな衝撃。同時に、戦場を水蒸気のベールが覆い隠す。
 天空の霧中。その只中を、八千代のシルエットが駆け抜けた。
 そう、彼女もずっと探していたのだ。
 ガレオンドラゴンの心臓部――、天使核の在り処を。

「そーこーかーっ!」

 合図は不要。呼吸は阿吽。
 空中ジャンプによる急速接近。
 クロスレンジ。振りかぶられた金棒がギラリと鈍く光る。
 渾身。フルスイングの猛打。
 熱して、冷やして、叩く。硬いものを砕くのに、これほど効率的な手順があるだろうか。

「ガッ、ァ、ガァア!」

 金棒の棘が鱗にめり込む。次の瞬間、ガレオンドラゴンの胸部全体に罅が走った。
 べきり、と生々しい音が響く。
 振り抜かれた金棒に合わせて剥がれ落ちていく竜の鱗。
 こじ開けられたその隙間から天使核の輝きが漏れるのを、猟兵たちは確かに見たのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジーク・エヴァン
アド・連携 ○

まず多重詠唱結界術で、はぐれ船と船員、他の猟兵を守ろう
これですぐに墜落するのは防げる

でも相手は竜
船員には俺が見つけた武器庫に隠れ、大砲を準備するように伝えよう

(腰に差した魔剣グラムが一人でに震える)

…お前もあの竜を早く喰いたいのか?
ああ、分かってる
あの竜を、狩るぞ

【滅竜戦装】を発動し、船から飛び立つ

奴の艦載砲は結界で弾き、空中機動力で避け、アスカロンの斬撃波で切り払う!

竜の周囲を飛び回って攻撃したり盾を叩いて挑発して注意をこちらに向けさせ、大砲の射線上に誘い込んで…
今だ!(砲撃を指示)

砲撃で怯んだ!
喰らいつけグラム!
(呪詛の黒炎纏うグラムを竜の喉に突きたて生命力吸収、捕食、吸血)


玉ノ井・狐狛
お客のお出ましだ
たしかに結構な大物じゃァあるが、来るとわかってればもてなしのしようもある
(ラフトレイサの船内にて待機)

乗り物同士でドンパチやるなら、重要なのはざっと三つ
ひとつ、相手に攻撃を通せる火力
ふたつ、相手の攻撃を凌げる耐久力
みっつ、位置関係を理想的に運べる機動力

猟兵がこれだけいれば、攻撃と防御はまァ心配ねえだろ
つーわけだ、アシ回りの手伝いといこう

船速では向こうさんに利があるらしい……が
条件をイーブンでなくしちまえば、実際の形勢は変えられる
(UCで周囲の風を操作、ラフトレイサ船が有利、敵船が不利になるように)

(敵に向け)やれやれ、天気予報は確認してこなかったのか?



「乗り物同士でドンパチやるなら、重要なのはざっと三つ」

 玉ノ井・狐狛の姿はラフトレイサの飛空艇の船上にあった。
 ガレオンドラゴンの巨躯を横目に眺めながら、彼女の白い指がすっと立つ。

「ひとつ、相手に攻撃を通せる火力。
 ふたつ、相手の攻撃を凌げる耐久力。
 みっつ、位置関係を理想的に運べる機動力」
「お嬢ちゃんよぅ、そりゃあ、このフネにゃあどれもこれも足りてねえって話かい?」

 同乗する勇士のリーダーがガリガリと髪を掻いた。この小型飛空艇で50m級のドラゴンと真っ向からやり合うには、いかんせん性能差がありすぎる。チームの頭目である彼は、その残酷な事実をはっきりと認識していた。
 もっとも、彼らとてくぐった修羅場はひとつやふたつではない。かつての危機的状況もなんやかんやで仲間とともに切り抜けてきたのだ。
 そうして培われた勇士としての直感が言っている。今この状況で生き残るための一手を握っているのは、間違いなく――。

「なァに、ここには『アタシら』がいるんだ。攻撃と防御はまァ心配ねえだろ」
「おいおい、自信満々だな。するってえと、こっちは機動力だけでもどうにかしろ、ってか?」
「おっと、自信がないのかい?」
「ハッ、言ってくれるぜ」

 両者は視線を交わし、互いに不敵に笑みを浮かべる。その様子をちらりと視界の端に映し、舵を握る操舵士が呆れたように肩をすくめた。格好をつけてる余裕など本当はないくせに、と。
 ガレオンドラゴンは怒り狂っている。猟兵たちの攻撃でじわじわとダメージを受け続け、あろうことか最大の弱点である天使核さえ露出してしまったのである。まさしく怒髪天だ。
 視線の先ではドラゴンの艦載砲が目まぐるしく角度を調整し続けている。小型飛空艇の動きも捕捉されていることだろう。一歩でも射程圏内に入り込めば、砲火の嵐が出迎えてくるはずだ。
 これは大仕事になりそうだな、と姐さん操舵士が唇を舐める。舵輪を握る指に力を籠めた彼女の背に、飄々とした狐狛の言葉が聞こえてきた。

「大丈夫さ。なにしろ今日は、すこぶる良い風が吹きそうだからな」



「アイヤー! こんなの料理人の仕事じゃないアルヨー!」
「いいから、黙って手を動かす」

 視点は変わり、こちらははぐれ船の甲板の下、探索で発見された武器庫である。
 灯りの少ない床下は、先刻から戦闘の余波でぐらぐらと揺れっぱなし。その中でえっちらおっちらと大砲に砲弾を装填しているのは、勇士チームの残りの二人、特徴的な語尾の料理人と無愛想な砲手だった。


「外で戦うよりはマシだろう?」
「デモデモ、ここってフネが潰れたら逃げ場がないアル! コワイ!」

 砲弾を抱えながら泣き言を漏らす料理人と、不器用に相方をなだめる砲手。
 壁の中の彼らは知らない。
 怒りに燃えるガレオンドラゴンが、今まさに艦載砲の照準をはぐれ船に合わせたことを。
 砲口の昏い奥底に殺意の火が灯る。その数、13門。
 一斉射。砲音のハウリングが戦場の空気を掻き回して耳朶に響いた。
 独特の風切り音とともに殺到する飛竜式艦載砲の砲弾。
 その脅威に対して、甲板のジーク・エヴァンが真っ正面から立ち塞がる。
 
「結界よ、護りをここに!」

 はぐれ船の甲板に厳かな詠唱が幾重にも折り連なる。
 打ち鳴らされる剣と盾。清らに響く鐘にも似た音色。虚空に顕現するは不可視の結界。
 はぐれ船を守るように展開された透明な障壁に、ガレオンドラゴンの砲弾が激突する。
 瞬間、光のカーテンが空をたなびき、オブリビオンの攻撃を押し留めた。

「アイヤー!」
「正念場らしいな。急ぐぞ」

 伝播した衝撃にぐらりと揺れるはぐれ船。甲板に立つジークは、足元の武器庫で勇士たちがドタドタと駆け回る気配を感じ取る。戦闘の開始前に頼んだ通り、彼らは砲撃の準備に専念してくれているらしい。
 ジークは空を睨む。相手は天舞うドラゴン。あの巨体に蓄えられた火力は膨大の一言に尽きる。展開した結界もそう長くは保たないだろう。
 守るだけでは勝てないのだ。奥歯を強く噛み締めてこぶしを強く握る。研ぎ澄まされる戦意。その気迫に呼応するように、腰に差した魔剣グラムが幽かに震えた。

「……お前もあの竜を早く喰いたいのか?」

 応える言葉を魔剣は持たない。ただ、抑えきれない滾りにその身を震わせるだけ。
 ああ、分かってる。そうだ、そんなの聞くまでもないことだ。
 柄を握る。鞘から引き抜く。現れた黒い刀身がぎらりと輝く。
 ――あの竜を、狩るぞ。

「来たれ。怒りを剣に、決意を鎧に、希望を盾とし、我は滅竜の英雄とならん……!」

 甲板を駆ける。躊躇いはない。眼前に蒼穹。踏み込み、跳ぶ。
 変わる。茶色の髪は白銀に。鋼の甲冑は漆黒に。見開いた金眼が爛々と燃える。
 人は呼ぶ。彼の者、竜を討ち果たす戦士なり。
 すなわち、滅竜騎士と。

「人剣一体! ジークフリートッ!」

 ジークの背に黒竜の翼が生えた。風を掴み、自らが張った結界を突き抜ける。
 途端、くぐもって聞こえていた砲声が鮮明になった。高空の突風が頬を撫ぜる。びりびりと鼓膜が震える。
 ガレオンドラゴンの頭部が動く。白い眼球がぎょろりとジークを捉えた。
 殺気。
 咄嗟に盾を構える。次の瞬間、艦載砲の連打がジークに撃ち込まれた。
 展開した結界に激しい衝撃が伝わる。逆らわず、空中機動で射線から逃れる。
 硝煙の先、砲門が動くのが見えた。ぴたりと吸い付くような敵意。
 砲の奥に炎を見た瞬間、アスカロンを振るう。
 両断される砲弾。しかし、ジークがその場に留まることはできない。
 絶え間なく続く砲火の嵐。その渦中を、位置を変え、躱し、凌ぐ。

(近寄れない……ッ!)

 弾幕が厚い。突撃する隙間がない。
 当然だ。相手の火力は戦艦に等しいのだから。
 このままではジリ貧。かといって強行突破は自殺行為だ。

「だけど、このまま注意を惹けるなら!」

 気迫とともに砲弾を弾いて防ぎ、ジークは魔剣の柄で盾を叩いた。
 高らかに響く金属音。明らかな挑発。かかってこい、とドラゴンを誘う。
 ガレオンドラゴンには知性がある。しかし、長引く戦闘が彼の冷静さを奪っていた。
 本能的に喉を鳴らしたガレオンドラゴンが、カッと沸騰した思考に従い、ありったけの砲門をジークに差し向けた。

「そうやって視野を狭くしちゃあ博打はお仕舞いだぜ」
「っらぁ! 持ってけドロボーが!」

 刹那、ドラゴンの頭上を小型飛空艇が掠めた。
 すれ違いざま、船上の勇士が備え付けの砲を放つ。
 ずん、と腹に響く重低音。発射された砲弾が、ガレオンドラゴンの右目に直撃した。
 のけぞる頭部。残された左目が飛空艇を睨む。竜式艦載砲が即座に照準を合わせる。
 小型艇の操舵士が表情を険しくする。攻撃を通すためとはいえ、近づきすぎた。
 避けられない。彼女の経験はそう判断した。舵を回したのは、半ば反射的な動作だ。

「やれやれ、天気予報は確認してこなかったのか?」

 パチリ、と。指の鳴る音が聞こえた。
 風が吹く。追い風だ。帆が膨らみ、フネが加速する。
 すっと小型艇とドラゴンとの距離が開いた。2人の勇士が目を見開く。
 後ろを振り返れば、ガレオンドラゴンがバランスを崩したように翼を傾けていた。
 歴戦の勇士たちは気づく。敵の周囲に逆風が吹いているのだ。
 勇士たちは狐につままれたような気分になる。ふと見れば、鮮やかな笑みを浮かべた狐狛の髪がきらきらと風に揺れていた。

「さぁ、総仕上げの時間だ」
「今だ! 砲撃を!」

 ジークが剣を振り、合図を送る。
 次の瞬間、はぐれ船の武器庫で勇士たちが大砲に火を点けた。
 発射される無数の砲弾。けたたましい炸裂音が空を埋め尽くす。
 直撃。意識の外からの攻撃がガレオンドラゴンの態勢を崩す。ぐらりと巨躯が揺れ、艦載砲の砲口が敵を見失う。

「怯んだ!」
「決めにいくぜ! フネを回しな!」

 風が再び吹く。猟兵たちを導くように。オブリビオンを抑えつけるように。
 喉元に肉薄したジークが魔剣を構える。
 小型艇の砲が露出した天使核に照準を合わせる。
 ガレオンドラゴンが無我夢中で振り回した腕は、ひときわ強く吹いた風に煽られて、空を切った。

「喰らいつけ、グラム!」
「アンタ、ツキがなかったな」

 竜の喉に魔剣が突き立てられる。溢れ出た呪詛の黒炎が竜の巨躯を呑み込む。
 小型艇の砲撃が天使核を撃ち抜く。動力部を砕かれてガレオンの機能が停止する。

 有機と無機、その双方の命脈を絶たれ、ガレオンドラゴンはここに沈黙したのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『おいしい魔獣』

POW   :    ボリューム満点の肉料理をいただく

SPD   :    まろやかな味わいの卵料理をいただく

WIZ   :    ひと手間かけた臓物料理をいただく

イラスト:Hachi

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 天使核が停止してもガレオンドラゴンが『船』に戻ることはなかった。
 ドラゴンの肉体を保ったまま、その遺骸は最寄りの浮島まで牽引されることとなった。

 大荷物を浮島に降ろし終えると、ラフトレイサの面々は大きく息を吐く。これほどの大戦果は彼らにとっても初めてのことだ。
 流石にこの巨体をそのまま持ち帰ることはできない。というわけで、ガレオンドラゴンの肉体の一部は、食材としてこの場で調理されることとなった。

「ミンナには感謝感激雨あられアル! さぁ、ドンドン食べちゃって欲しいヨ!」

 手際よく料理を完成させた料理人がキミたちに胸を張る。
 鱗を鉄板代わりにしたドラゴンステーキ、なぜか砲弾そっくりの卵の煮物、じっくり煮込んだモツ料理……。その他諸々、並べられたのは彼の故郷に伝わる伝統料理なのだとか。
 料理人がすべての皿を並べきると、勇士の仲間たちがドリンクをなみなみと注いだジョッキをキミたちに渡してくれた。彼らは皆、笑顔を浮かべてキミたちの活躍を称えている。

 勝利の栄光はキミたちの頭上に輝いている。さぁ、祝杯を上げるとしよう。
木霊・ウタ
心情
世界を滅ぼす存在が資源として
今を生きる人達の生活を支えてるってのは
ちょいと複雑なカンジもするけど
倒した相手を喰らい己の血肉にして
しぶとく生き抜いて未来へ進むってのは
生き物として自然な姿だ

有難くいただくぜ

序にラフトレイサの連中と
ダチになれるといいよな
勇士に乾杯!

行動
はぐれ船の天使核回収の手伝い
その後に食事

俺も焼いちまったしステーキを喰う
鱗の鉄板も野性味があるぜ

美味い!
部位によっても違うんだろうけど
柔らかいぜ
噛む程に旨味が染み出すってカンジ?

にしても卵があるってことは繁殖する?
魔獣ってのは厄介だな

ラフトレイサ
竜の天使核はよかったのか?
動力源になるんだろ

この世界の歌を教えてくれよ
伴奏するぜ?


ジーク・エヴァン
竜の料理か…
いや、魔獣食自体に抵抗は全くないんだ

ただ、色んな世界で「仇敵」として何度も竜達と戦ってきたけど、その竜が料理になってるのを見ると何とも言えない気持ちになるな…
でも故郷で聞いた祖先達の伝説では竜の血や心臓を食べて特別な力を得たみたいな話も聞いたことがある
流石にこの竜を食べても何もないだろうけど

それに料理人さんには無理を言って一緒に戦ってもらったし、何よりどの料理も美味しそうだ

一緒に戦ってくれたラフトレイサの人達に感謝して、いただきます

このモツ料理を食べてみよう
凄く柔らかくなってるな
…美味い!
噛めば噛むほど味に深みが増してくようだ
あの竜がこんなに美味しくなるなんて、やっぱり不思議だなぁ



 その浮島は無人島だった。
 係留設備の無い島に停泊するには、島の端、つまり空との崖際に船を停めるしかない。宴会の場となったのは停泊地点に近いちょっとした広場で、なだらかな草地から空海に向けて視界が大きく開けていた。景色がいい。抜けるような青空から、涼やかな風が吹き抜けてくる。

 椅子代わりの丸太に腰掛けて、ジーク・エヴァンはじっと手元の料理を見つめていた。
 厚手のスープ皿に盛られているのはガレオンドラゴンのモツ煮込みだ。臭みを取るために香辛料がふんだんに使われているらしい。湯気に乗って香ばしい匂いが漂っている。

「竜の料理か……」
「不思議なもんだよな」

 ジークの隣に木霊・ウタがどかっと腰を下ろした。こちらは鱗の鉄板に乗ったドラゴンステーキを膝に置いている。

「世界を滅ぼす存在が、資源として今を生きる人達の生活を支えてるってのは」
「そうだね。いや、魔獣食自体に抵抗は全くないんだけど」

 ジークは苦笑する。

「ただ、色んな世界で『仇敵』として何度も竜達と戦ってきたから、その竜が料理になってるのを見ると何とも言えない気持ちになるな、って……」
「ちょいと複雑なカンジはするよなぁ。けど、倒した相手を喰らい己の血肉にしてしぶとく生き抜いて未来へ進むってのは生き物として自然な姿だ」
「血肉に? ああ、そうだ、聞いたことがある。故郷の伝説だったかな。竜の血や心臓を食べて特別な力を得たとか、そんな話」

 昔を懐かしむようにジークが目を細めた。「そういう話もあるのか」と目をしばたかせたウタが手元の料理を覗き込む。その様子を勇士の料理人が笑い飛ばした。

「アハハ、面白いこと言うネ。そんな料理を作れたら、今頃ワタシは億万長者ヨ」
「この竜を食べても何もないか。流石にそうだよね」
「そりゃあ残念だ」

 ウタはそう言うが、もちろん本当に残念なわけではない。彼は肩をすくめ、ドラゴンステーキに齧りついた。フォークに突き刺された丸みを帯びた肉塊は、どうやらテールの部位らしい。

「ん、美味い!」
「魔獣料理は下拵えが命ネ。独特のクセを処理できれば味は花丸、万々歳アル」
「筋っぽくなくて、柔らかいぜ。噛む程に旨味が染み出すってカンジ?」
「へえ……。それじゃ、俺も。いただきます」

 相好を崩したウタに料理人がサムズアップする。
 ジークも器の煮込み料理に取り掛かった。スパイシーな香りが食欲を刺激する。口に含むとモツの独特な食感と、刺激的な旨味がぶわりと広がった。

「……美味い! こっちもすごく柔らかくなってる」
「だよな!」
「噛めば噛むほど味に深みが増してくようだ。あの竜がこんなに美味しくなるなんて、やっぱり不思議だなぁ」
「そうアルそうアル。もっと褒めていいアルよ」

 感嘆の声をあげたジークを見て、料理人がエヘンと胸を張った。
 よく噛んでからモツを飲み込んだジークは、改めて勇士に礼を言う。

「さっきは助かったよ。無理を言ったけど、一緒に戦ってもらえて」
「気にすることないアルよ。あんなの日常茶飯事ネ。ウチのリーダーってば、いっつも人使いが荒いんダカラ」
「でも、やっぱり、ありがとう」
「……あー、まっすぐ言われると照れちゃうアル」

 料理人が視線を逸らして頬を掻く。照れくさそうな横顔に喜色が浮かんでいた。

「なあ、あの天使核はどうするんだ」
「ボッコボコにしたから、どのみちあのままじゃ使えないネ」
「ふーん。飛空艇の動力源になるんだろ?」
「そうだケド、雑に扱えば暴走一直線アル。餅は餅屋、街に持っていって専門家に任せるのが一番ヨ」

 ウタの問いかけに料理人は腕を抱いて大袈裟にぶるりと身体を震わせた。おどけた仕草だが、やはりこの世界の住人も天使核――、すなわちオブリビオンの心臓の危険性は認識しているようだ。
 便利なようでいて、どこか危うい。外の世界からやってきた猟兵たちは、天使核文明にそんな印象を抱くのかもしれない。

「なるほどね。……なぁ、この世界の歌を教えてくれよ。伴奏するぜ?」
「おお、それならワタシの故郷の祝い唄を……」

 ぺろりと平らげた食器を横において、ウタがギターを構えた。料理人が上機嫌に懐かしい歌を口ずさむ。
 料理人は歌が特別上手いわけではない。素人丸出しで、たまに調子を外す。
 しかし、とにもかくにも楽しげな歌は、なによりも宴会の場にふさわしかった。



「……にしても、卵があるってことは繁殖するってことか? 魔獣ってのは厄介だな」
「巣の奥深くで卵を守るドラゴン、っていうのはよく聞くけど」
「コワイコワイ。でも、だからワタシたちの仕事がなくならないのカモネ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三岐・未夜
【みゃちしょこ】

やっとご飯だー
他の世界だと敵倒したら消えるのにねぇ、何で幾つかの世界とか種族は消えずに食肉に出来んだろ

硝子、硝子、僕、卵食べたい
たま、……ご、だよね、これ
うわ、でか、砲弾みたい……
んーーっ、とろっとろ!半熟!
え、美味しいめちゃくちゃ美味しい……
お肉もちょっと貰って、卵の黄身を絡めてぱくり
やっばいねこれ……うわぁ……団地に持って帰りたいお土産にしたい……

わー……八千代の前めっちゃお皿積み上がってる……
こんだけ食べてると逸そ清々しい……
ていうか、八千代も硝子もお酒良いなー
……いや待ってふたりともお酒強くなかったよね!?特に硝子!
酔わないでね!?やだよ酔っ払い連れ帰るの!


笹鳴・硝子
【みゃちしょこ】


働かざる者食うべからず――つまり今の私達ほど食べて良い者はいないということです(決意表明)

ドラゴンのテールのシチューあります?好きなんですよね、煮込み
あと唐揚げを下さい
勿論ビールに合うからですよ(ごっきゅごっきゅ)
あーこの一杯の為に生きてるー

おや、みゃーの食べてるのは卵ですか……一口下さい
いいじゃないですか減るもんじゃなし(減ります)
「あ、今思い付いたんですけど、『てー』って『撃てー』の『てー』では?私冴えてるのでは??」
大丈夫ですよ、みゃー。私酔ってません。まだ大丈夫。イケルイケル。

『ボクはステーキください!ウェルダンのやつー!がぶー』
うちの弟は今日もかわいい


花邨・八千代
【みゃちしょこ】

ごーはーん!!!
これを!俺は!待っていた!!!
ドラゴンステーキとモツ煮込み!あとご飯大盛りで!

んんんまぁーい!
なんだ、思ったより濃厚な味してんなぁドラゴン
みゃー!しょこ!うまいなぁコレ!
お土産に持って帰れねぇかなぁ…

ところで骨付き肉ねーの?こう、漫画みてーな肉
わぁい!あるじゃんあるじゃん!最高!
俺こういうの大好き!うんまーい!

うぇへへへ酒もガンガン進むぜぇーい
あ、みゃーが砲弾食ってる!ウケる~~~!
ほらほらみゃーも肉食えよー、うまいぞー!

別にィ、俺酔ってないしィ
めちゃくちゃ元気だぞ!うん!

そういや天使核ってなにで食うとうまいの?酢醤油?
え、食えない?マジで?
うまそうなのに……



「やっとご飯だー」

 魂の抜けた声でそう言って、三岐・未夜はテーブル代わりの切り株に突っ伏した。
 疲労は困憊、お腹はペコペコ。黒髪の妖狐はぐでんと上半身を横たえる。
 頬に触れる切り株の断面はほのかに温かい。きっと日光をたっぷり浴びていたからだろう。ごろりと首を回すと、雲ひとつない青い空が見えた。いや、雲はもっと、島の下のあたりにあっただろうか。
 温かさにぼんやりと身を委ね、未夜はふと思いついたことを口に出した。

「他の世界だと敵倒したら消えるのにねぇ……。何で幾つかの世界とか種族は、消えずに食肉に出来んだろ」
「まったく。みゃー、こんなときに何を考え込んでいるんですか」

 すとんと隣に腰を下ろした硝子が呆れたような視線を未夜に送る。
「こんなときって?」と首を捻る未夜にため息を吐き、硝子は「いいですか?」と人さし指を立てた。

「働かざる者食うべからず。――つまり、今の私達ほど食べて良い者はいないということです」
「ごーはーん!!! これを! 俺は! 待っていた!!!」
「あ、うん。そうだね……」

 硝子がキリッと決意表明し、向かいに座った花邨・八千代が天に吼えた。ちょうど三人で切り株(といっても文字通りテーブル大の、巨木の切り株だ)を囲む形だ。
 食欲を漲らせる彼女たちを見て、たくましいなぁ、と未夜は思うしかない。
 ……などと彼がぽやっとしていたら、両側から脇を肘で小突かれた。シャキっとしろ、ということだろうか。ふらふらと上半身を持ち上げた未夜は、掌に顎を乗せて考える。

「じゃあ、硝子、硝子、僕、卵食べたい」
「では私は……、ドラゴンテールのシチューあります? 好きなんですよね、煮込み」
「ドラゴンステーキとモツ煮込み! あとご飯大盛りで!」

 八千代がぶんぶんと手を振ると、勇士のリーダーがニヤリと口元を緩めた。
「ガハハ、元気がいいじゃねえか、なぁおい!」と彼は豪快に笑い、飛空艇の厨房から持ってきた料理の皿をドカドカとテーブルに並べていく。
 山盛りになった魔獣料理は、見た目にも迫力抜群だった。繊細な盛り付けではないが、むしろそれが圧倒的なボリュームを演出しているようにも見える。

「たま、……ご、だよね、これ? うわ、でか、砲弾みたい……」
「そいつぁテッペンを割って食べるんだぜ。ほれ、スプーンだ」
「スプーンもでっかいし……」

 手渡されたのは金属製のしゃもじみたいなスプーン。未夜がおそるおそる卵の頂上を叩いてみると、意外と簡単にぱらりと殻が崩れた。殻の厚さそのものはあるので、火が通ることでも脆くなっていたのかもしれない。そのままスプーンを入れて掬ってみると、半熟の白身がとろりと持ち上がった。

「んーっ、とろっとろ! 半熟!」
「そうだろう、そうだろう!」
「え、これ美味しい。めちゃくちゃ美味しい……」

 目を丸くする未夜の様子に、勇士が誇らしげに胸を張った。
 その隣ではステーキを頬張った八千代がやはり美味に瞳を輝かせている。

「んんんまぁーい! 思ったより濃厚な味してんなぁ、ドラゴン!」
「煮込みもいい塩梅ですね。肉の繊維が口の中でほどけて、ほろほろと……」

 テール煮込みに箸をつけた硝子も「ほぅ」と幸せな吐息を漏らす。
 それからしばらく、猟兵たちがもぐもぐと料理を口に運ぶ時間がひたすら続いた。
 味は抜群。それに加えて、量もたっぷり。
 50m級の巨大魔獣は伊達ではない。食べても食べても新しい料理が運ばれてくる。
 これなら大食漢もにっこりだ。

「骨付き肉ねーの? こう、漫画みてーな肉。お、あるじゃんあるじゃん!」
「わー……、八千代の前、めっちゃお皿が積み上がってる……」
「最高! 俺こういうの大好き! うんまーい!」
「……こんだけ食べてるといっそ清々しいね」

 未夜の称賛の混じった視線の先で、八千代が骨付き肉に齧りつく。さすがはドラゴンというべきか、骨も太くて大きい。両手持ちでの大仕事だ。噛み付いた肉がみょーんと伸び、ある程度引っ張られたところでぶつりと切れて八千代の口の中に収まった。なんというか、見ているだけでお腹が膨れそうである。

「みゃー! しょこ! コレもうまいぞ! ほら、みゃーも肉食えよー、肉!」
「なら、ちょっと貰って、卵の黄身を絡めて……、と」
「あ、こっちには唐揚げ追加でお願いします」

 デン、と置かれた肉の皿に、未夜は掬った半熟卵を絡めてみる。トローリと黄色い黄身が、じゅわりと鉄板で弾けて音を立てた。……これ、絶対美味しいやつだ。

「! やっばいねこれ……。うわぁ……。団地に持って帰りたいお土産にしたい……」
「みゃーもそう思うだろ? お土産に持って帰れねぇかなぁ……」
「包んでもらえるか、あとで聞いてみましょうか。……あ、唐揚げも美味しい」

 追加で運ばれてきた唐揚げは、外はカリッ、中はジュワッのパーフェクト唐揚げだった。鳥とは違ったドラゴンの風味が硝子の味蕾をバチバチと刺激する。その後味を楽しみながら、彼女はぐいっとビールを傾けるのだ。

「あー、この一杯の為に生きてるー」
「しょこ! 俺にもビール!」
「はい、どうぞ。……ん、やっぱり唐揚げとビールは合いますね」
「うぇへへへ、肉がウマいと酒もガンガン進むぜぇーい」
「ていうか、八千代も硝子もお酒良いなー。……って、あれ?」

 三岐・未夜、18歳。グビグビと飲み始めた成年組を見て、「おや?」と首をひねる。
 確かにラフトレイサからドリンクは提供されていた。多分、その中にはアルコールの類も混じっていたと思う。けれど、今、ふたりが飲んでいるのは?

「あ、みゃーが砲弾食ってる! ウケる~~~!」
「おや、みゃーの食べてるのは卵ですか……。一口下さい。いいじゃないですか、減るもんじゃないですし」
「減るよ!? いや、それは別にいいんだけど!」

 缶だ。UDCアースでよく見かける、あの缶ビールだ。
 未夜がハッとしたときにはもう遅かった。切り株には銀色の空き缶がすでに3つか4つ。硝子も八千代もいつの間にか頬が赤い。目元だってとろんとしている。ふわふわとした言動で絡んでくるふたりに、未夜は猛烈に嫌な予感を覚える。

「……待って待って、ふたりともお酒強くなかったよね!? 特に硝子!」
「大丈夫ですよ、みゃー。私酔ってません」
「そうだぞォ。別にィ、俺酔ってないしィ」
「酔ってる人はみんなそう言うんだよ!?」
「まだ大丈夫。イケルイケル」
「俺もぉ! めちゃくちゃ元気だぞぉ! うん!」

 ふたりの呂律が微妙に怪しい。未夜の顔が引きつりそうになった。

「あ、今思い付いたんですけど、『てー』って『撃てー』の『てー』では? 私冴えてるのでは??」
「おお、やっべー! しょこ天才じゃん! あ、天使核ってなにで食うとうまいの? 酢醤油?」
『ボクにもステーキください! ウェルダンのやつー! がぶー』
「はー、うちの弟は今日もかわいいですね」
「話の脈絡! あと、天使核はさすがに食べられないから!」
「え、食えない? マジで? うまそうなのに……」

 本気で残念そうに眉を傾ける八千代。
 もきゅもきゅと肉を頬張る晶を見つめて、目尻を下げる硝子。
 混沌としてきた宴会の場で、未夜は思わず頭を抱えこんだ。

「酔い潰れないでね!? やだよ、酔っ払い連れて帰るの!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

マキナ・エクス
アドリブ・他猟兵との連携歓迎

【POW】

では祝杯を、乾杯!
なんというか、意外と可食部が多いんだね。
あの砲弾ぽい卵さっき打ち出してなかったかい?どんだけ強度があるんだ…

それはさておき、私はシンプルに肉をいただくとしようか。こういう時はシンプルなほうが味がよくわかるもんさ。
あっおいしい…(語彙力消失)(その後も無心でもぐもぐ)



 舞台に上がるのは苦手だ。マキナ・エクスはそう自覚している。
 きっと、『観客』であろうとする者のサガなのだろう。『演者』として現実という『物語』に参加することに、どうしても躊躇いがあるのだ。

「よーし、全員、ジョッキは持ったな? 野郎ども、乾杯するぞ!」
「今日はこれで4回目の乾杯か」
「リーダーは飽きないアルねー」
「いいんだよ! 楽しめるときに楽しんでおくのが俺様の流儀だからな!」

 マキナの視線の先ではラフトレイサの面々が円になって歓談している。
 彼らの溢れる笑顔が眩しい。猟兵の助けがあったとはいえ、彼らは自身の窮地を無事に切り抜けたのだ。素晴らしい結末、掛け値なしのハッピーエンドだ。それを見ているだけでもマキナの胸の奥には喜びの花が息吹く。

「さーて、と。お、そこの嬢ちゃん。ちょいと乾杯の音頭を取ってくれねえか?」
「……私?」

 だから、というわけでもないが、勇士のリーダーに声をかけられてマキナは少し驚いてしまった。緑の瞳をしばたかせる彼女に、リーダーがぐいぐいとジョッキを押し付けてくる。
 強引だ。しかし、飄々としているようで根は真面目なマキナである。期待に満ちた勇士たちの目を見てしまうと、どうにも断ってはいられない。ジョッキを受け取り、彼らの輪に加わると、彼女はひとりひとりの顔を見回して、すぅと息を吸った。

「では祝杯を。ラフトレイサの無事の生還と」
「頼もしき助っ人たちの勝利と栄光に!」
「乾杯!」

 ジョッキがぶつかり合って快音が鳴る。
 ぐびりとドリンクを飲み干した勇士たちは、口々にマキナを始めとする猟兵の活躍を称えている。快活な笑みを浮かべる彼らはマキナをテーブルに導き、やいのやいのと料理を勧めてくれた。
 目の前にドンと置かれたドラゴン料理は、なんといってもまず量のインパクトがある。渡されたフォークを片手に、まじまじと料理を観察しながらマキナは呟く。

「なんというか、意外と可食部が多いんだね」
「元々はただのフネだってのに、不思議なもんだよなぁ。空っぽだった船室なんて、中身は筋肉の塊になっちまってたしよ」
「あの砲弾ぽい卵はさっき打ち出してなかったかい? どんだけ強度があるんだ……」
「フフーン、それを食べられるように調理しちゃうのが、ワタシの腕の見せどころネ!」

 料理人が得意げな口調で腕まくりしてみせる。なるほど、世界が違えばそこに根付く知識も違ってくる。それもまた、物語の彩りのひとつとなるのだろう。
 それはさておき、である。
 ずらりと並べられた皿の中から、マキナはシンプルな肉料理を選んで手元に引き寄せた。「こういう時はシンプルなほうが味がよくわかるもんさ」と訳知り顔で彼女は呟くが……。

「あっ、おいしい……」

 それ以上の言葉は必要なかった。語彙を考える余裕がなくなったとも言える。
 ドラゴンの巨体を支えていたリブ肉は分厚く弾力があり、噛めば噛むほど濃厚な旨味が染み出してくる代物だった。一口で魅せられ、二口食べればもう夢中、三口から先は止まらない。

 マキナは無心にもぐもぐと口を動かす。勇士たちは酔い、笑い、歌う。
 空は青く、風は柔らかい。
 ブルーアルカディアの物語に刻まれたのは、そんな幸せな1ページだった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年07月13日


挿絵イラスト