●しとしと
雨が降っている。
虹の光彩放つ其の橋に、オブリビオンは立っている。
翠色した和傘に、ぽつぽつ、と雨音が跳ね返る、其れが心地いい。
この橋を必要としているのは誰かしら。
東洋のひと? 西洋のひと? 其れとも新しい誰かかしら。
誰にせよ、黄泉にわたる前に優しい夢を見せてあげたかった。
例え其の先にあるのが暗闇であっても、誰かと手を取り合って渡れるなら恐れる事はない。大事な人なら尚更だ。
長い長い生の果てを幸せに彩ってあげたい。
そう思って、見付けた橋の傍に立っていた娘。いつしか彼女を護るように雨が降り出して、そうして、橋を必要とする誰かを待っていた。
――のに。
歪んだのはいつからだろう。
ねえ、貴方にもいるでしょう? 大事な人。一緒に逝こう。苦しみも悲しみもない場所へ。
おいで、おいで。此処には貴方の大切があるよ。
娘はいつしか、待つのではなく呼ぶようになっていた。
●さあさあ
「向こうも同じような天気だよ」
雨が降っている。
優しい霧雨の中、傘を差したヴィズ・フレアイデア(棺を創ろう・f28146)は鬱陶しそうな顔で言った。
「“まぼろしの橋”で竜神の娘が骸魂に飲み込まれたらしい。――アー。まずは“まぼろしの橋”の説明がいるかね?」
曰く。
カクリヨファンタズムの川には、時折橋がかかるらしい。誰の手によってかけられているのかは判らないが、其の橋を渡る事は、即ち黄泉へ渡るという事。
現世を十分生きたと感じた妖怪は、其の橋を渡って黄泉へ移り住むのだという。
「寿命なき者の死、というと、少し判りやすいかもしれないね」
――其の橋に骸魂に飲み込まれた妖怪が現れ、占拠したというのが今回のあらまし。彼女は“きっとこの橋を必要としている者がいるのだ”と思い、大切な過去を雨に映して見送ってあげようとしていたようだ。
しかし、橋は求める者の前に現れるものではない。
「ずーっと其処にいるうちに、骸魂に飲み込まれて手段と目的が入れ替わってしまったんだ。過去の幻を映し出して、誰でも良いから橋を渡らせようとしている。幸い、戦闘能力の殆どない娘だ。心さえ強く持っていれば問題ないだろう」
竜神の娘から骸魂を祓い去った後は、橋だけが残る。淡い虹色の光彩が不思議な、儚い橋だ。其処に佇んでいると、時折、死んだ人間が声をかけて来るのだという。
其れは貴方たちに縁のある人。本物か、偽物か。其れを見破ろうとするよりは――優しく今を語り合った方が良いだろう。
そうすれば橋は自ずと消える時を知り、全ては浄化される。
「……過去に囚われるな、という事かも知れないね。危なくなったら止めてあげるから、取り敢えず行っておいで」
魔女の手の中で炎のようにグリモアが燃える。
うっすらと見える向こう側の景色は、確かにこちらと同じ霧雨のようだった。
key
お久しぶりです、keyです。
カクリヨファンタズムの戦後シナリオとなります。
●目的
「雨降る橋を浄化せよ」
●プレイング受付
タグにてお知らせ致します。
●このシナリオについて
2章構成となります。
第一章では橋の上でオブリビオン「翠雨」と戦って下さい。
彼女は雨の中に「在り得ない今」を映し出します。
あの時あの人が生きていたら。
あの時あれが起きなかったら。
そんな「もしも」と共に、黄泉へいざなう事でしょう。
心を強く持ち、翠雨から骸魂を引き剥がしてください。
第二章では橋の上で一時を過ごす事が出来ます。
過去に喪った人と語らう事で、橋を浄化する事が出来ます。
其の人が本物かどうかは判りません。
けれど猟兵たちに危害を加える事もありません。皆、優しい貌をしています。
うっかり橋を渡りそうになったらヴィズが助けてくれる…かも、しれません。
●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『雨に願うモノ『翠雨』』
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POW : 雨の記憶
【『誰かの大切な過去』を映す雨】を給仕している間、戦場にいる『誰かの大切な過去』を映す雨を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD : 雨の鏡
【『今とは違う可能性の今』を映す雨】を披露した指定の全対象に【この雨の中に居続けたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ : 雨の夢
【『未来の夢』で優しく包む雨】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
イラスト:ひろしお
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鈍・小太刀」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
雨が降っていた。
優しい霧雨。決して強い雨ではないのに、何処か檻に閉じ込められたような閉塞感があった。
「……橋を渡るの?」
橋の傍にいる、和傘を差した少女が尋ねる。雨の中だというのに、少女の姿ははっきり見える。
「じゃあ、最期に良いものを見せてあげるね」
雨の中、気配がする。其れは過去か、ありえたかもしれない今か、それとも未来か。
此処はカクリヨ。秘された異郷。
此処はまぼろしの橋。寿命なき者の最期の地。
手招く誰かは、喪った誰か。手を取りたかった、取れなかった誰か。
映る景色は、求める景色。いつか辿り着くと足を進める其の先の。
「一緒に渡れば、怖くないよ」
リオ・ウィンディア
【PCK】
橋を渡ったことがあるのよ
昔ね、怖がりな私の手を引いてくれた友人がいて
そして今も私を追いかけてくれる友人がいて…
傘をさす
雨の向こうに何をみるか/端の影に見えるものは
いくつもの人影幸せな日々
金髪の優しいあの人
あぁ、でも
私はもう橋を渡らなくていいの
この世界に来た時から
この生を受けた時から
私にはお姉ちゃんを見つける目標があったし
今も、この手はアンと繋がっているわ
この傘もお姉ちゃんからもらったものよ
WIZ 雨に濡れたくないので死霊を召喚して戦う
その手は傘の柄を
片手はアンの手をしっかりと握る
これからも向こうに行かないとは言い切れない
私死霊術師だから
でもそれは今じゃないわね
さようなら優しい人々
アン・アイデンティファイ
【PCK】
現世と常世を結ぶ橋か……果たしてこの場所に立つ私達は生きているのか、死んでいるのか、ここでは全ての存在が曖昧だね。だからこそ、皆が思い々の夢幻を描けるかもしれない
SPD使用
暗器で繰り出す連続攻撃。目立たないようでいて、いつでも動き出す準備はしておくよ
繋いだ手を離すことはせず、けれど、彼女の差す傘から外に
今はもう少し、雨に濡られていたい……私ではない私の物語を見ていたくてね。叶うことのない景色だからこそ、こんなにも目を離さないのだろうか
橋以外は全て朧気で現実味のない幻だけが視界に。唯一熱を秘めるは握る手の感触。ついと引かれれば目を醒ます
嗚呼、もう時間のようだ。さようなら、銀幕の僕
リオ・ウィンディア(黄泉の国民的スタア・f24250)は今日も喪服を纏い、歌うようにアン・アイデンティファイ(デザイン・ベイビー・f33394)に言う。
橋を渡ったことがあるのよ、と。
「怖がりな私の手を引いてくれた友人がいたの。そして、今も私を追いかけてくれる友人がいる」
ぱさり。
そっと傘を差した。しかし、アンは手を繋いだまま傘の外へ。
「あら、いいの?」
「うん。もう少し濡れていたい。…私ではない私の物語を見ていたい。……現世と常世を結ぶ橋。この場所に立つ私達は生きているのか、死んでいるのか」
――どちらだろうね?
そう呟くアンに、決まっているわとリオは言う。
生きているのよ。
「生きているのよ、だって」
其の先は喉の奥に。
リオの瞳に映るのは、幾つもの人影。幸せだった日々。
金髪の優しいあの人。
「でもね」
そっとアンが暗器を握る。いつでも翠雨を攻撃出来るように。でも、この手は離せない。話したら雨に鎖されて、離れ離れになってしまうような気がして。リオの歌うような心地よい囁きが、雨音に消されてしまうような気がして。
「私はもう橋を渡らなくていいの。お姉ちゃんを見付けなきゃいけないし、アンと手を繋いでいるから。アン、知っている?」
この傘もお姉ちゃんから貰ったものなのよ。
雨に濡れる黒髪の君に、自慢げに言う金色の君。同時に地面から湧き出るように騎士と蛇のような竜が現れて、翠雨に迫る。
「……! いやっ……!」
騎士の剣が振り下ろされる。蛇竜が牙を剥く。幻影以外に戦うすべを持たぬ彼女が其の肌に傷を負うと、ふつ、と幻影がかき消えて。
「ああ、眠いわ。でも眠る訳にはいかないの。アンが私をおんぶできるとは思わないもの」
リオは矢張り、謡うように言うのだ。失礼な、というアンの視線を受けながら。
「私は死霊術師だから、向こうに行かないとは言い切れないわ。でも、其れは今じゃないわね」
そうしてリオは眠たげに、雨に融けるように消える金髪を、僅か名残惜しそうに見た。
アンは黙して、全てを心の裡にしまい込んだ。そう、あんな今は存在しない。
――さようなら、銀幕の僕。あとは雨に濡れる僕と、代えがたい友がいるだけだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
バレーナ・クレールドリュンヌ
⚫︎アドリブ 連携 OK
【WIZ】
“落果”
幸せな……いえ、決してそうではない。
もしも、それが貴女の倖せだというのなら、わたしは捧げても良いと思ってもいるわ。
熟した柘榴の実のように、赤い爆ぜりを伴って、
貴女のその、どうしようもない渇きを癒せるのなら。
……でも、それは偽り……。
『転じる』
「悪いけれど……あげられないわ」
揺蕩う波間の鎮魂歌を送りましょう。
えぇ、わたしは捧げても良いと思ったわ。
でも、それは落ちて爆ぜた果実としてではないわ。
常しえに寄り添い、朝露に身を潤ませ、柔らかく香たつ肌目の……彩を知らずとも、彩を描きださずにはいられない、そんな存在に……。
貴方の未来は、この橋を渡る事。
其れこそがきっと幸せ。
翠雨はそう言って、雨のカーテンに未来を映す。
其れはバレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)が凱歌を歌いながら橋を泳ぎ渡る光景。
――落果の如く戻れぬ橋。
「いいえ」
白皙の人魚ははっきりと告げた。
もしも其れが貴方の倖せだというのなら、捧げても良かった。熟した柘榴の実のように赤く爆ぜ、貴方の其の渇きを癒せるのなら――其れでも良かった。
けれど、駄目なの。其れは偽りだから。本当の安寧ではなく、捧げたとしても貴方はきっと、渇きに苦しむ事になるから。
「悪いけれど……あげられないわ」
バレーナは歌う。雨さえ眠るような、波間に揺れる鎮魂歌。
捧げても良いと思った。でも、其れは落ちて爆ぜた果実としてではない。常しえに寄り添い、朝露に身を潤ませ、柔らかく香り立つ肌目の――彩を知らずとも、描き出さずにはいられない、そんな存在に――
翠雨は呑まれまいと眠気に抗う。そうして抗えば抗う程、雨脚は強くなっていった。けれど雨音はバレーナの唄を遮れない。馨しい果実のように眠りを誘う歌声は、翠雨を着実に弱らせてゆく。橋を渡るバレーナの幻は、雨に霞んで消えていた。
大成功
🔵🔵🔵
国木田・光星
■WIZ アドリブ歓迎
善意からの、的なやつなんだな。
ならひん曲がった目的を正してやるのも猟兵の仕事だろ。
渡らねぇよ、俺はまだ。
それより少し、話でもどうだ?
七つ星を吹いてシロヒトリを喚んで、翅で雨を凌いでもらおう。
今とは違う可能性の今、ね。
出世欲はないし、力に後悔もない。背負ってるもんもない。
抜きん出るものない凡百の俺の違う可能性、逆に見せてもらいたいくらいだ。
あぁ、気ぃ悪くすんなよ。
俺はお前さんの善意は良いと思う。
でもな、望んでないやつを橋渡らせるのも困るんだわ。
だから対処する。それが仕事だからな。
話して分かってくれるんなら、そうしてもらいたいね。
無抵抗なガキを撃つのは、良い気分しないからよ。
雨がけぶる中に、煙が漂う。ピイと音が鳴って、空の彼方へ舞い上がる。
其れは光星が虫を呼ぶ笛の音だ。
「善意からの……って奴か」
光星は呟く。善意からの悪行は往々に厄介なもので。ならば、其れを正してやるのも猟兵の仕事だろう。何より橋が消えた後、彼女――翠雨がどのような気持ちになるのかと思えば、なおさら今正さねばならないと思った。
大きな羽音がする。光星は迷いなく翠雨に歩みよった。
「……こ、来ないで…!」
翠雨は猟兵の攻勢にすっかりと怯えてしまっている。雨のヴェールが瞬く間に光星の目の前に現れて――情景を映し出した。
其れは光星の姿だった。だが、何も変わったところはない。服装の趣味も今と同じ。虫たちと戯れ、エサをやって笑っている。
「あ、あれ……?」
翠雨の困惑した声がした。其れは光星が翠雨のすぐそばまで歩みより、大きな白い蛾――シロヒトリで雨を遮ったからではない。違う可能性の光星を映し出した筈なのに、雨に映る彼は何も変わっていなかったからだ。
「……俺は平々凡々だからな。出世欲もないし、力に後悔もない。背負ってるもんもない、抜きんでたところのない男だ」
可能性の違う俺がいるなら、逆に見せて欲しいくらいだよ。
そう言う光星を翠雨は見上げ、何度か瞬いた。だって、今まで「見せて欲しい」なんて言う人はいなかったから。見たくないと言う人、否定する人ばかりだったから。
「俺はな、お前さんの善意は間違っちゃいないと思うんだ。だが、望んでない奴にこの橋を渡らせるのは、誰にとっても良くない事だ。誰もが――お前さんも後悔する」
「……あ……」
「だから、見せたいなら俺に見せてくれよ。俺は絶対に渡らない。俺を渡らせたらすごいもんだぜ?」
「……」
押し悩む翠雨の背から、黒い靄が立ち上る。其れは骸魂が抜け出る予兆。彼女の中に渦巻いていた悪意が、真っ直ぐな光星の言葉によって追い出されようとしている。
「……わたし、きっと誰かが来るんだって思ってて」
「ああ」
「其の人に、最期に幸せになって貰いたくて」
「ずっと待ってたんだな。……でも、この橋は誰かのためのものじゃない」
「……」
「でも」
――お前さんのやろうとした事を、悪いとは言わねえよ。
ぽん、と翠雨の頭に手を置いた光星。翠雨は驚いたように彼を見上げ、……其の青い瞳から、大粒の雨が降り出した。
「こわ、かった……ずっと、まってたのに……! ずっとひとりで、う、うぅ、うわあ、……うわああぁぁぁん……!」
幼子の泣き声が雨の中に消える。其れを聞いているのは泣かすつもりじゃなかったのにと困り顔をする光星と、雨を遮るシロヒトリだけ。
いつの間にか、黒い靄は消えていた。もうこの橋を渡らせようとする雨の娘はいない。
霧雨。困り果てた光星はしかし穏やかに、彼女が泣き止むまで頭を撫でていた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
霧雨。
穏やかに雨が降る中、橋は淡い遊色を放って輝いている。身を濡らすのが心地よい程度の優しい雨が降っている。
君は其処で、立つ姿を見るだろう。懐かしい姿だ。会いたかったかどうかは別として。
其れを偽物と断ずるのは容易い。橋が見せる幻だと。
しかし、懐かしい影は貴方が渡るのをよしとしない。渡ろうとすればきっと引き留めるという確信があった。そして、余り時間がないという事も君は判っている。
――橋は消えようとしている。其の中で、雨に打たれてもの思うか。懐かしい誰かと僅かな対話をするか。
グリモア猟兵の青き魔女は、黄泉に渡らなきゃどちらでも良いよと君たちを送り出す。
(ユーベルコードの属性関係なく、ご自由にプレイングをどうぞ)
国木田・光星
いやまさか泣かせちゃうとはな。
レディの涙は流石の俺も紳士としては慌てたぜ。
上手く泣き止ませてあげられてたらいいんだが。
で、だ。
さっき話したが背負うもんも特にないし、死に別れた相手もいない場合は何の誰が相手してくれんのかね。
…と思ったが。あぁ、そっか。
いつもUCで喚んでる皆がいたな。
会話なんかも出来るのかねぇ。
出来たとしたら、いつものお礼と俺が皆の事を好きだって事をちゃんと伝えたいし、これからもよろしく、とも言わなきゃな。あと俺をどう思ってるかも聞いてみたいかな。
物が食えるんなら、持ち歩いてる虫用の餌もくれてやろうかね。
はは、悪くねぇやな。こうして話ができるのもたまには。
アドリブ連携歓迎
「まさか泣かせちゃうとはな」
頬をかりかりと掻きながら、光星はやっちまったと呟く。あの後しこたま泣いた翠雨は、頭を下げると何処かへ行ってしまったけれど――雨は降りやむことなく、優しく降り注いでいる。
光星は、自分には背負うものがないという。
重い過去も、悲しい過去も、ないという。死に別れたものがいる訳でもない。淡く輝く橋を見詰めながら、では誰と対話できるのかと考えて。
「そうだ! お前たちがいるじゃねえか」
虫笛を鳴らした。
すると、来るわ来るわ。『呼んだー?』とばかりに大きなトンボ。先程は雨避けになってくれたシロヒトリ。カマキリに、『自分、此処にいて良いんですか……?』と何故か引け目を感じているゴキブリ。
「よう、お前ら。いやさ、此処ならお前らと会話出来るのかと思ってな」
『光星はいつも突然呼ぶんだからー』
『ほんとほんと。水浴び中だったらどうするのよ』
「えぇ? そりゃ悪いな。でもなあ、お前さんらの事を必要としているから呼んでるんであって」
『だからちゃんと来てるでしょー』
「ははは」
子どもっぽく羽をばさばさするシロヒトリ。鎌が濡れちゃうわと手入れするカマキリ。やっぱり何か引け目を感じているゴキブリ。
「俺はな、お前たちが好きだよ」
光星は切り出した。
「俺を助けてくれて、俺と友達でいてくれる皆が好きだ。今までありがとな、これからも宜しく頼む。……俺が、橋を渡るまで」
『渡らせないに決まってるでしょー! 光星は大事な友達なんだから!』
『はい……こんな嫌われ者の自分も、何かお力になれるなら……精一杯助けたいと思っています』
『Gちゃんは引っ込みすぎ。もうちょっと私みたいに堂々となさいよ』
『む、無理ですよ……! いまだって誰かが通りがかったらどうしようって』
「其の時は俺が説明するよ。だからこいつの言う通り、堂々としてりゃいいんだって」
まあ、ゴキブリを嫌悪する気持ちは判らないでもないが……其れでも自分の力になってくれる、大事な仲間だから。
カマキリの剣幕にあせあせするゴキブリに、まあまあと光星はカマキリの肩を叩く事でたしなめた。
『あーあ! 僕疲れちゃったなあ。雨避けで疲れたなー! お腹減ったなー!』
『お疲れ様。でもシロヒトリさんは羽が立派だから、そういうのに向いてるって思われたんじゃないかな?』
『そうだけど!』
「悪い悪い。そうだ、虫用の餌を持ってるんだよな……此処でならお前たちも食べられるか?」
『ごはん!』
拗ねた様子のシロヒトリも、宥めていた大トンボも、思わず餌を注視する。
そうして始まるのはエサの取り合いである。いっぱいあるから、と光星は言うけれど、虫たちは大事な光星からの貰い物を我先にと食べ始めた。
ゴキブリは『あ、自分は残り物でいいんで……』としり込みしていたところを、光星にこっそりまるまる一つの餌を貰っていた。勿論カマキリに見咎められて、8割くらい食べられる羽目になってしまったけれども。
――こうして話が出来るのも悪くない。其れに、俺に悪感情を持っている訳ではなさそうだしな。
酷使していやしないかという光星の懸念は見事に拭われ、彼はなんのうしろめたさもなく、虫たちが餌を食べるのを微笑ましく見ているのだった。
大成功
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バレーナ・クレールドリュンヌ
【影】
涙雨に濡れる橋が見せる優しい幻は、きっといつかの遠い穏やかな人の影。
決して、邪な悪意のあるものではないのだもの。
なら、消えゆくそれを愛おしむ想いもあっても良いのではない?
鎮魂と慰め、いつの日か、誰かにとって、それが良き旅路の始まりであることを祈り、この歌と舞踊で送りましょう。
瑠璃と淡桜の夢幻泡影、わたしなりの、次への優しい目覚めになるように、安らかな眠りへ誘いましょう。
穏やかな時間が流れている。
幼い竜神が去ってなお降り続く霧雨に、バレーナの髪がしっとりと濡れる。ぼんやりと輝く橋に垣間見えるのは、いつかの穏やかな人の影だろうか。
悪意は見えない。ただ、そっと其処に佇んでいるだけの者たち。
――なら、いずれ消えゆく其れを愛おしむ想いもあっても良いのではない?
「la――」
バレーナは歌いだす。さらり、と桜花を模した髪飾りが揺れる。鈴鳴るような歌声は、先程までの雨とは違って、遠く遠くまで響き渡る。
鎮魂と慰めの唄。誰かにとって、良き旅路であるように。
白い指先が弧を描いて、人魚は舞う。
旅路に立った誰かが、いつかまた、泣きながら生まれて来れるように。泣きながら送る人たちが、いつかまた、笑って出会えるように。
この世は夢幻泡影、壊れやすくてとても儚い。けれど其の中で懸命に生きる命を、誰に否定できようか。泣きながら生まれ、泣いて貰いながら逝く。其の命の営みを、バレーナは音に込めて歌い上げる。
………
そうして――誰もが橋から去った。
其れはまるで示し合わせたかのように。橋はぼんやりと輝いて、やがて光の粒となって天へ昇る。
雨の中、空へ昇る虹色の光の粒は幻想的で、けれど其れゆえに触れる事叶わず――やがて橋は跡形もなく掻き消えた。
雨も明日にはやむだろう。晴れ間が見えて、いつもの日常が始まる。
黄泉へつながる橋の話はこれでおしまい。もう、誰も泣く事はない。
大成功
🔵🔵🔵