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死者騙り

#UDCアース

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#UDCアース


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●学園祭の雑踏の中
 ねえ、ねえ、知ってる?
 この間、交通事故で死んだ子、居たじゃない。
 そう、1年の子……。
 あの子を見たって話、聞いた?

 ねえ、ねえ、知ってる?
 先月亡くなった、三丁目のお爺さん。
 昨日、スーパーで見かけたってお隣の奥さんが言ってたよ。
 違う、違う、見間違えかなとは思ったらしいんだけれど。
 あの大きなホクロはさ……。

 ねえ、ねえ――。


「UDCアースで、邪神教団の動きが見られたっス!」
 小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は小さく尾を揺らすと、ぐうるり猟兵達を見渡した。
「噂話で新たなおぶりびおんを呼び出すUDC、ってのが居るンすけれど。――不特定多数が集まっている場所……、今回は学園祭中の学校を拠点にして、新たなおぶりびおんを呼び出そうとしているみたいっスー」
 この時期に学園祭は珍しいみたいっスけれど、だからこそ目を付けられたンスかね? と、首を傾ぐいすゞ。

「と、言う訳で人々の中で噂を紡ぐという特性上。一般人の事前避難はできないっスけれど。噂話でおぶりびおんを呼び出すUDC――『噂語り』を見分ける方法は、まあまあ簡単っス!」
 奴らは、過去に死んだ人の姿を騙ると、いすゞは語る。
 それは、過去の友人の姿かもしれない。
 それは、もう随分と前に亡くなった親戚の姿かもしれない。
 それは、君の知っている死者の姿かもしれない。

「それがたとえ知らない人の姿でも。一目見れば今を生きている人では無いと、理屈じゃなくて感覚で理解できるみたいっス。だから……、一般人の中に混じっていても、敵はすぐ発見出来ると思うっスよ」
 『噂語り』は決して、強いUDCでは無い。
 噂を語る事、敵を呼ぶ事に特化したUDCだ。
 それこそ、一撃で倒す事も可能であろう。
 しかし、UDCの存在を知らぬ一般人が沢山いる中で戦う事になる事。
 避難等をしてしまうと、敵も逃げてしまうであろう事がハードルを上げる。
「センセ達には敵を逃さないように、一般人に悟られないように。暗殺のノリで一撃でブチ倒して貰う事になるっスー」
 首魁を発見して倒す前に一般人達が逃げてしまえば、敵も逃げ、また別の所で同じような事件が起きてしまうだろう。
 その為、猟兵達には敵を周りに気付かれないように素早く倒して貰う必要がある、といすゞは言う。

 それが例え、過去の死者の顔だとしても。
 それは死者の顔を騙る、偽物だ。
 感傷に浸る必要等、無い筈だ。

「『噂語り』を虱潰しにしていれば、必ず首魁か――首魁発見が間に合わなければ新たなおぶりびおんが現れると思うっス! ままま、センセ達はそういうの得意っスよね? 無事教団の思惑をブチ壊した後は、学園祭を楽しんできて貰うのも良いと思うっスよォ」
 くくく、と喉を鳴らして笑って。彼女は顔を上げる。
「それじゃ、センセ達。今回もよろしくっスー!」
 えいえい、おー。
 いすゞの掌の中で、グリモアが瞬き。
 コーン、とぽっくり下駄が音を立てた。


絲上ゆいこ
 こんにちは。
 絲上ゆいこ(しじょう・-)です。
 今回はUDCアースにお邪魔致します。

●やること
 老若男女の集まる、大学の学園祭の最中。
 学園祭を楽しむフリをしながら、UDCアースの学園祭に混じった異物『噂語り』を、一般人を避難させる事無く撃破して頂きます。

 『噂語り』は人混みの中で、噂をする事で新たなオブリビオンを呼び寄せる特性があります。
 沢山います。
 弱いです。
 倒れたらその場で掻き消えます。

 このシナリオだけの特殊ルールとして。
 人混みに混じった彼らは『死者の姿』をしています。
 それはアナタの知っている死者の姿をしているかもしれないし、知らない人の姿かもしれません。
 必ず違和感を覚えるので、一般人と『噂語り』を見間違える事は無いでしょう。
 描写して欲しい内容がある場合は、プレイングに記載をお願い致します。

●三章について
 今回のお話が無事に成功すると、三章は学園祭を楽しむ事ができます。
 少し大きめの大学祭みたいなイメージで、お願い致します。
 食べ物屋さん、大迷路、お化け屋敷、似顔絵屋さん、ライブ等。
 大体それっぽい出し物はあるみたいです。
 無茶振りも、できるだけ頑張って応えて行きたい気持ちです!
 がんばります!

 また三章では、一つのシーンに絞ってプレイングを行うと、ぎゅっと引き締まって良い感じになるかもしれません!

 また、いすゞはお声掛けがあれば三章のみ参加させていただきます。
 お呼びがなければ、フラフラと甘いものや、観劇をしていたりするようです。

●迷子防止のおまじない
 ・冒頭に「お相手のキャラクター名(または愛称)とID」または「共通のグループ名」の明記をお願いします。
 ・グループ名等は、文字数が苦しければ括弧で囲わなくても大丈夫ですよ!

●その他
 ・プレイングが白紙、迷惑行為、指定が一方通行、同行者のID(共通のグループ名)が書かれていない場合は描写できない場合があります。
 ・町で購入したアイテム等は、自動配布等はございません。

 それでは、素敵な皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 集団戦 『噂語り』

POW   :    自分ソックリの妖怪『ドッペルゲンガー』の噂
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使ってきた猟兵のコピーを生み出し、操り】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    学校の七不思議『動く模型』の噂
戦闘用の、自身と同じ強さの【動く骨格模型】と【動く人体模型】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    予言をする妖怪『くだん』の噂
対象のユーベルコードに対し【使ってくるユーベルコードを言い当てる言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●語り、騙る
「美味しいポップコーンは如何?」
「クレープ、クレープ、美味しいクレープがあるよ!」
「焼き鳥ー、焼き鳥、今なら3本で250円だよー」
「次何処いこうか」
「あ、第一教室のほうでライブがあるんだって」

 人混み、雑踏。
 開けた広場には人々が集い。
 賑やかな学園祭を彩っている。

 この中に、化物が混じっている事などつゆ知らず。
壥・灰色
・死者
かつて自分と肩を並べた他の『魔剣』候補
術理に長けた、美しい容貌のホムンクルスたち
成長したらこんな顔になっていただろうな、という姿
言葉を交わしたことはあった
おれを憎んでいたよ
情緒を持たなかったおれが成功作で、持った彼らが失敗作と呼ばれた
皮肉なものさ

今はもういない
おれが逃げ出すときに、彼らはおれと対立した
――昔のことだ

・攻撃手段
壊鍵を起動
手に「衝撃」を装填
ライブの音量や周りの騒音に紛れ
喉を掴んで「衝撃」を炸裂
敵を破壊する

何を言われようが、おれは選んだ
お前達は、選ばなかった
振るわれるだけの『魔剣』となりたがって
そこで止まった

おれは違う
おれは自分の意思で、自由を求めている
後悔なんて、してないさ



 第一教室を震わせる、咽ぶようなロック・ミュージック。
 音楽好きなメンバーを集めて結成したという彼らは、よくある既成ミュージシャンのコピーバンドであった。
 しかし、ライブを重ねてきたという彼らには固定ファンも居るようで。
 学園祭という場も相まれば、そこそこの人々が脚を止めて彼らの音楽に身を委ねていた。
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は、そんな皆の中の違和感を教室の後ろから見つめていた。
 何かを語り、何かを騙る彼らは、酷く美しい容貌をしていた。
 かつて自分と肩を並べた他の『魔剣』候補達だ、と灰色は思う。
 言葉を交わした事は在った。しかし――失敗作と呼ばれた彼らは、灰色を憎んでいた。
 灰色が逃げ出した時に、対立した彼ら。
 彼らの姿は、滲み出た過去だ。
 彼らはもう今はいない。
 ハイポイントに向かって加速する演奏。
「――……昔の事だ」
 灰色は、ステージへと向かって一歩踏み出す。
 彼らが情緒を持っていたから。
 おれが情緒を持たなかったから。
 スピーカーが震え、教室に膨れ上がる音と熱。
 灰色の掌の中で青白い雷火が小さく爆ぜ、灰色の拳に圧が纏わりつく。
 ギターを掻き鳴らすヴォーカルが、吠える。
 ステージの熱狂。
 固定ファンが、慣れた動きで腕を上げた。
 倣うように灰色は両腕を上げる。そして、まるで旧友の肩を抱く様に。
 何かを語り、何かを騙る『彼ら』の喉輪を掴んで、装填された『衝撃』を弾けさせた。
 喉元で炸裂した圧に、一瞬で言葉を失い。掻き消える二体の『噂語り』。
 ステージに立つヴォーカルは、大きな声で愛していると叫んだ。
 灰色は踵を返す。
 何を言われようが、おれは選んだ。
 お前たちは、選ばなかった。
 振るわれるだけの『魔剣』となりたがって、そこで止まったんだ。
 ハイポイントを超えても、ステージは続く。
 終わりに向かって、次の始まりに向かって。
「後悔なんて、してないさ」
 おれは違う。
 おれは自分の意思で、自由を求めている。
 第一教室を背に、灰色は廊下へと脚を踏み出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と
アドリブ歓迎

フレズ、学園祭よ!
微笑みかけるも不安げな様子に小さな手をぎゅと握る
大丈夫よフレズ
あたしがついてるからね
学園祭を楽しむ着ぐるみ風に【妖猫招来】でミコトを呼んでそばを歩く

『噂語り』ね
死者の姿だなんて嫌だわ
いつか首をはねたあれとかこれとか出てきたらどうす…フレズ?
ミコトが悲しげに鳴いて
彼女が釘付けになっていたのは和風の青年
あれが噂語り…フレズの縁者かしら

辛そうな彼女の頭を撫でる
フレズ、あたしがやるわ
静かに刀に破魔を纏わせて抜いてミコトの影に隠れ一気に踏み込み一閃
斬り捨てるわ

腹立たしい
あたしの可愛い子をこんなにも哀しませる
どこの誰だかわからないあなたがね!


フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒
アドリブ等歓迎

学園祭って賑やかだね、櫻宵

死者の姿……
誰だろう?
櫻宵の手をぎゅうと握って人混みの中違和感を探す
瞳に止まった違和感は
黒髪に紫瞳。球体関節の身体に書生服を纏い、番傘をさした青年

キミはだれ?

小さな頃の記憶
昔優しく微笑んで
頭を優しく撫でて
抱きしめてくれた、気がする
手に握った白皙の欠片が熱くて
心がきゅうと痛くなる

櫻宵が頭を撫でてくれたなら、ボクは大丈夫と微笑む
これは偽物
彼の姿をかりた『噂語り』

忍び足で近寄って【女王陛下の気まぐれ裁判】で攻撃
その姿をとるなんてダメなんだ
判決は死刑!
他の人は気づかれないようにひっそりとね

けれど
キミが砕ける姿を2度も
見たくなかったよ



 大きなきぐるみだねえ、なんて通りがかりの人が言葉を交わしている。
 尾を悠々を揺らす、巨大な有翼虎猫。
「フレズ、これが学園祭よ!」
 花あかりの淡墨を揺らして。
 誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)が案内するかのように腕を広げた。
 しかし。
 櫻宵の呼んだ、ミコトも居ると言うのに。
「わ……、賑やかだね」
 いつもは元気一杯のフレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)の返事は、どこか気もそぞろ。
 キョロキョロと何かに怯えるように、何かを探すように視線を泳がせていた。
「――大丈夫よ、フレズ」
 フレズローゼが探しているモノが何かなのかわからない程、櫻宵は鈍くは無い。
 彼女の手を取ると、ぎゅっと手を繋いで彼は笑う。
「あたしがついてるからね」
「……うん」
 フレズローゼの探しているモノ。
 それは彼女の知る死者の姿。
 『噂語り』。
 死者の姿を取る、敵の姿だ。
「でも、死者の姿だなんて嫌よねぇ。いつか首をはねたあれとかこれとか出てきたらどうす……、フレズ?」
 足を止めたフレズローゼの表情を見た櫻宵は、息を飲んでその視線の先を探る。
「――キミは、だれ?」
 囁くフレズローゼの視線の先。
 黒髪に紫瞳。
 UDCアースの世界で言えば、時代錯誤の書生服を纏い、番傘をさした青年の姿だ。
 その違和感は、彼が今を生きているモノでは無いと言う事をありありと感じさせる。
 そして、彼女の様子から。
 それが彼女の縁者だと言う事がわからない程、櫻宵は鈍くは無かったのだ。
「フレズ、あたしがやるわ」
 フレズローゼの表情を見た櫻宵が、ぎゅ、と屠桜の柄を握りしめ。
「……ううん、ボクは大丈夫」
 過る、記憶。
 優しく微笑む、その表情。
 優しく頭を撫でる、その掌。
 抱きしめてくれた、気がする。
 握りしめた白皙の欠片が、熱い。
 胸が、――痛い。
 大きな掌がフレズローゼの桃色に溶ける兎耳ごと、頭を撫でる。
「――なら、一緒に行きましょう」
「……うん!」
 ああ。
 今は、櫻宵が頭を撫でてくれる。
 ボクは、大丈夫。
 これは偽物。
 彼の姿を借りた『噂語り』なのだから。
 破魔を宿した刃が、ゆうるり紅色を揺らめかせて。
 ひょうひょうと風切る顎が、大口を開いた。
 駆ける二人の足取りを、大きな猫がその身に隠し。
「その姿をとるなんてダメだよ。――判決は死刑!」
「女王様の仰せの通りに」
 それは一瞬の事。
 紅色の刃が薙ぎ。
 らんらんたる眼燃やしたる、その顎が食らいつけばもうおしまい。
 判決は死刑。
 女王陛下の裁判の、判決は覆る事は無い。
 喰らわれ掻き消えた敵に、だあれも気づかない。
「……ホント、失礼な奴ねえ」
 可愛い可愛いフレズローゼをこんなに哀しませる、何処の馬の骨とも知らぬ輩。腹立たしさごと、刃を叩き込んだ櫻宵は肩を竦めて。
「うん、うん」
 相槌をひとつ。
 ほう、と息を吐いたフレズローゼは、空を見上げる。
 ――けれど、キミが砕ける姿を2度も見たくなかったな。
 柔らかく尾を揺らしたミコトが、にあ、と。頬をフレズローゼに擦り寄せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

賑やかに弾ける数多の声へ
笑みを浮かべ
出店を見て回っているかの如く
周囲を観察、警邏

噂話に集う姿や
会話も聞こえ来ないか
耳や第六感を研ぎ澄ませておく

噂の蕾が咲く輪があれば
柔い笑みにコミュ力、誘惑を添えて場に馴染み
さり気なく会話へ参加

…そう、
二度と還らぬひとに逢えるとしたら
嬉しいでしょうか
悲しいでしょうか
私にも、瓜二つのひとが居ましてね
もう亡くなって居りますが
ほら
自身に似た三人目に逢うと――、

第六感で敵出現を察知し、見切り
先制攻撃にて白梅香る花筐で葬送
数居れば纏めて仕留めましょう

舞う花弁は春の兆しの梅なれば
一般の方々へ不審を与えずに済むかと

万一
怯えさせてしまったら、催眠術で記憶を消去


蛇神・咲優
(んー、小さいからまぎれやすいけど…さすがに人多いな…―――迷子になりそう…)

学園祭がはじめてな上にクレープの誘惑に負けてしまう
【忍び足】で食べ歩きながら、【聞き耳】で回りを警戒し人ごみに紛れている
噂語りを見つけ次第、愛刀の篤光を握り周りの人に【目立たない】ように
切り捨てたり【UC】で纏めて引き連れて人目の付かない場所で動きやすく戦おう
迷子になってもきっと【第六感】で戻ってこれる…はず…きっと、たぶん

『こうゆうのコワい映画で見たことあるな…ぐあーっ!っておそってくるヤツ……カンセン、ダメ、ゼッタイ……』

うんうんと真顔で頷き、切っていく

※アドリブ・台詞改変・連携歓迎



 苺とカスタードクリーム、生クリームにバナナ。
 クレープをかじりながら。
 蛇神・咲優(迷子奇譚・f05029)は人を掻き分け、歩き行く。
 会話に花咲き笑み映える人々は、小さな少女の歩みなんて気にしちゃくれない。
 この小さな身体は、人混みに交じるには便利であるが。過去にも迷子経験豊富な咲優としては、迷子になる事はもう勘弁して欲しい所であった。
 もう一口。かじるクレープ。
 咲優の視線の先で、違和感が揺らめいた。
 懐刀を服の上より撫で付けて。
 咲優はほう、と息を吐く。
 違和感の横には、先客が居たからだ。
 鴉の濡れ羽の黒髪に、早春萌える若葉の瞳。
「……そう。二度と還らぬひとに逢えるとしたら、嬉しいでしょうか。悲しいでしょうか?」
 自然な様子で『噂語り』達と言葉を交わす、都槻・綾(夜宵の森・f01786)が柔和に笑んだ。
「私にも、瓜二つのひとが居ましてね」
 もう亡くなって居りますが、と。
 綾は、その顔馳せを俯けて。
「ほら、自身に似た三人目に逢うと――」
 それは、一瞬の事だ。
 人混みの中に、白梅の花弁が舞う。
 彼らの動きに、誰も注意なんて払っちゃいない。
 そう、咲優以外は。
 同時に駆けた咲優が、なめらかな動きで蛇切篤光を抜き放ち。
 一気に跳ねると、もう一体の『噂語り』の喉笛を掻ききって、ぴょんと地に着地した。
 黒髪がぞろりと溶けて、若葉の瞳が花弁と共に吹き消える。
 道行く人達は、溶け消えた『何か』が居た事なんて気づいちゃいない。
 顔を上げると、咲優は首を傾げて。
「……お友達だったり、した?」
「――どうでしょうかねえ」
 綾の問いに返ってきた淡い笑みからは、その答えは見えはしない。
 ふうん、と前を向き直った咲優は、肩を竦め。
「でも、こうゆうのコワい映画で見たことある、よ。…ぐあーっ! っておそってくるヤツ……。カンセン、ダメ、ゼッタイ……」
「成程。……其れはそうと、お嬢さん」
「えっ? え、え……っ!!」
 綾の視線の先。
 それは、攻撃の勢いで握りしめてしまったクレープが、咲優の服にベットリついている余りに悲しい光景だ。
 肩を竦めて屈んだ綾は、布で生クリームを拭き取ってやる。
「う、うう……、ありがと」
「いえいえ」
 咲優は泣かない、めげない、がんばります。
 この後も、戦いは続くのだから。
 ゆうるり吹く風に、春の兆し。
 白梅の花弁が、一枚。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
ケープコートにマフラー巻いて
ゆらゆら漂う人の波
賑やかさに浮足立って少し楽しく、なるけども
眩いくらいの日々を、僕は過ごして、ないけども
このまま楽しく、過ごしてくれたら良いものな

お祭り騒ぎに少し疲れて
屋台の裏に、木陰に屯す子らと
内緒話と、いきましょな
やあ知っている、浜辺に聞こえるお歌の話
崖から飛び込んだ子のいるとこの
いまでも夜になると聴こえるというの
こいしこいしと、哀しい旋律の聴こえると
こわいねえ
歌うように嘯いて
小首傾げて裾引きましょう

僕と揃いの青い目の
きっと忘れぬ同じ背丈の
そうっと身寄せるようにしたならば
青い火でさよなら、しましょうな
きみは浮いてはこないでしょう
さ、次の噂話を追いかけましょう


ニヒト・ステュクス
ー…これは本当にあったお話

ある小さなアパートに母親と双子の兄妹が住んでいました
ある日母親と兄が殺されて
妹は精神を病んじゃったんだって
殺されたお兄ちゃんの亡霊は
犯人を探して今も彷徨ってるらしいよ?

とまぁ、そんな噂を催眠術を駆使してばら撒きながら
第六感を張巡らせ
あちこち彷徨ってみるよ
…探す姿はボクによく似た面影の10歳位の男の子
みつけたら一言こう言えばいい
「お兄ちゃん」
だいじなおはなしがあるの

こっちきて
と人気のない所までおびき寄せ質問する

「ねぇ、キミを殺した犯人を憶えてる?」

…なぁんて
訊いても判らないか
だって本物の亡霊は
そっちじゃなくて『こっち』だもの

質問が終われば用はない
十徳ナイフをクルリと一閃



 ゆらりゆらり、揺れるケープコートにマフラー。
 ゆらりゆらり、泳ぐよう。
 水中を、泳ぐ事はできないけれど。
 漂う人波の中。足音、一つ。
「やあ、知っている? 浜辺に聞こえるお歌の話」
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)の藍瞳が、木陰に屯する今を生きては居ない過去を捉えた。
 まるで友人に話しかけるみたいに気軽に尋ねる。
「崖から飛び込んだ子のいるとこの、いまでも夜になると聴こえるというの」
 歌うように紡ぐ、内緒のお話。
「こいしこいしと、哀しい旋律の聴こえると」
 こいしこいしとなこうが、そんなこと、知らぬけれど。
 イアは首を傾ぐと、くいと服裾を引く。
「こわいねえ」
「そういうお話なら、ボクも知っているよ」
 ――これはホントのお話、なんて嘯くみたいに。
 ニヒト・ステュクス(誰が殺した・f07171)が飄とブーツを鳴らして。
「あらあら、そうな、ならばおひとつ。聴かせて頂こうかしら」
 イアが顔馳せを小さくあげて、ニヒトに向かって瞳を瞬かせる。
「ある小さなアパートに母親と双子の兄妹が住んでいました」
 キャスケットのつばを、きゅっと引き絞るニヒト。
「ある日母親と兄が殺されて、妹は精神を病んじゃったんだって」
 ジャケットのポケットには、手をいれたまま。
「殺されたお兄ちゃんの亡霊は、犯人を探して今も彷徨ってるらしいよ?」
「おやまあ。それは、それは。こわいねえ」
 同時に、同じくらいの背丈のイアとニヒトが動いた。
 イアはそうっと身を寄せる。
 イアと揃いの藍瞳。
 きっと忘れぬ、同じ背丈の。
 ニヒトは、ぐいと詰め寄る。
 ニヒトと揃いの空色の瞳。
 ニヒトより低い、10歳程の。
「さよなら、しましょうな」
「ねぇ、キミを殺した犯人を憶えてる?」
 ――お兄ちゃん。
 噂語りは、語り騙るだけのオブリビオン。攻撃を避ける事なんて、できやしない。
 青い火が燃えて、燃えて。
 ナイフが首を一閃する。
 あの時みたいに。
 木陰より、掻き消える二つの影。
 後に残ったのは、同じくらいの背丈のキャスケットの女の子と、青い男。
 ええ、ええ。
 もうきみは浮いてはこないでしょう。
「やあ、そしたら。次の噂話を、追いかけましょう」
「そうだねぇ、探そうか」
 イアの言葉に頷くニヒト。
 くうるり回す、十徳ナイフ。
 あんなモノに訊いても、知らないだろう。
 本当の亡霊は、あっちじゃなくて『こっち』なのだから。
 木陰より踵を返す、二人の背。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無供華・リア
わたくし学園祭というものは初めて見ました
とても賑やかで楽しそうですね
この時を護る為にも確り役目を果たしてみせますわ

あら、あの男性…
わたくしのジェイドにそっくりですわね
この子は、生前わたくしの本体を大事にしてくださっていた方がモデルなのです

ヤドリガミとして生まれて間もないわたくしが『思い出』のような気分に浸れるのは不思議な気分です
肖像画でしか見たことがないのに

手にした妖刀を振りかざしながらーー
でも、今はこの子こそがわたくしの愛しいジェイドなのです
貴方の姿が如何なるものであろうとも、この子が共にある限り惑わされることはありませんわ
……お覚悟を


花剣・耀子
学園祭なので、普通に学校のセーラーを着ていきましょう。
こういう時に女子高生という肩書きは便利だけれども。
そうね、普通に遊びに来たかったわね……。
わざわざここを舞台にするUDCの存在が腹立たしい。
でも、それ以上に気鬱だわ。

クレープを囓りながら往来をゆきましょう。
あたしたちだって紛れなくてはいけないもの。これくらいは赦されるわよね。

陽の場に滲む、生きていない陰は分かり易い。
今日は静かにいくわ。
剣の布を解いて【剣刃一閃】。
極力、行き交う目には留まらぬように。

嗚呼。
厭ね。見覚えのある腕章。
その姿は何処から掠め取ったのかしら。

あたし、記憶力はあまり良くないの。
……――きみの顔なんて、忘れてしまったわ。


星鏡・べりる
噂語りか~
そんなに強くないらしいけど、厄介なUDCだよね~
そんじゃいっちょ、やりますか!

あっ、焼き鳥ください!うん、3本!
わっ、美味しそうな焼き鳥だ。

ああ、いたいた。あれが噂語りだね。
私は【手をつなぐ】で噂語りを人気が無い所に引っ張っていくよ。
「ごめーん、待った?じゃ、行こうか!」って感じでね~

人がいないことを確かめたら、さっき食べた焼き鳥の串で胸・喉・頭を突くよ。
噂語りの弱点は知らないけど、これで死ぬかな?
ダメなら死ぬまで殴るね!

ねぇ、キミがキミなら、昔に死んだじゃん。
ずっと一緒だって、みんなで約束したのにね?
……二度とその顔で出てこないでね、噂語りさん。

さっ、次は何を食べようかな~



 セーラー襟を悠々と靡かせて。
 黒耀石の角と髪。手には甘いクレープ。
 模擬店通りを歩む花剣・耀子(Tempest・f12822)は、いつもの制服に身を包み歩いていた。
「わっ、美味しそうな焼き鳥~! 焼き鳥ください!」
 その前を駆け抜けて。
 焼き鳥屋に近づいて行く、胡桃色の跳ねっ毛。
「えーっ、可愛いねって? うふふふ、でしょ! えー。おまけしてくれるなんてうれしーい」
 耀子と同じ、対UDC組織の『土蜘蛛』の一員。
 浮かれたテンションの星鏡・べりる(Astrograph・f12817)は鈴を張ったような翠玉の瞳を輝かせて店員とやり取りをしていた。
 細く、息を吐く耀子。
 あたしたちだって紛れなくてはいけない。あれ位楽しむ事は赦されているだろう。
 こういう時に、女子高生という肩書はとても便利だ。
 便利だけれども。
「……普通に遊びに来たかったわね……」
 思わず独りごちるくらい、許して欲しい。
 こんなに楽しい雰囲気の中、儀式を行おうとするUDC共。
 腹立たしい以上に、気鬱さが感情を支配する。
「あ~、ちょっと生焼けかも。う~ん、でも美味しい!」
 そんな耀子の気持ちを知ってか知らずか、べりるの焼き鳥は3本目に突入していた。
「……まあ、良いんだけれどね」
 眉を揉み皺を広げた耀子の視線が、陰を捉えた。
 陽の場に滲む、生きては居ない影はコレ程までに分かりやすいものか。
「……あら、あの男性」
 す、と。
 髪を纏め上げた銀髪が前を行く。
 二人の横をすり抜けてきた無供華・リア(夢のヤドリギ・f00380)が、階段の前で3人も寄り集まって何やら語りあう『噂語り』の1人に目を止めると、酷く懐かしげに瞳を細めた。
「わたくしのジェイドにそっくりですわね」
 この子は、生前わたくしの本体を大事にしてくださっていた方がモデルなのです、なんて。
 銀髪の彼へと視線を向けたまま。
 リアは抱いた花婿人形のジェイドを二人に披露する。
「……へえ、じゃあ昔の持ち主って事?」
 べりるが気軽に尋ね、リアがこっくりと小さく頷いた。
「なんだか、不思議な気分ですわ」
 肖像画でしか見たことのない彼。
 ヤドリガミとして生まれて間もないリアが『思い出』のような気分に浸れるなんて。
 うそりと瞳を眇める、リアの横。
 クレープをすっかりと食べてしまった耀子は、敵を横目で確認しながら見覚えのある腕章に瞳を細めた。
 嗚呼、厭ね。
 その姿は何処から掠め取ったのかしら。
「それにしても、人が少し多いわね」
「ふふーん、じゃあ少しやっちゃいましょうかあ」
 べりるがぴょんと髪を跳ねさせて。
 焼き鳥を口に咥えたまま、『噂語り』たちに駆けて行く。
「ごめーん、待った? じゃあ、行こうか!」
 両腕で背中を軽く叩いて、まるで友達みたいに。
 さあ、一緒にいこう。
 視線を交わしたリアと耀子が、同時に隠した刀柄に手を触れて。
 べりるが腕を引く。
 押し込むみたいに、少し強引に。三人を階段の踊り場に連れ出した。
 人の視線と、視線の隙間。
 耀子とリアがその横を、まるでなんともないみたいにすり抜ける。
 本当に何もなかったみたいに。
 駆けた二つの閃光めいた刃は、敵の身を裂いて。
 その姿がとろりと空に、溶け消える。
「あたし、記憶力はあまり良くないのよね」
 前を向いたまま、耀子は独りごちる。
 ……――きみの顔なんて、忘れてしまったわ。
「でも、今はこの子こそがわたくしの愛しいジェイドなのです」
 この子が共に在る限り、どんな姿で敵が現れようと、リアの気持ちが惑わされる事なんて、無い。
 二人の囁く声音は、空に解け。
「ねぇ、キミがキミなら、昔に死んだじゃん」
 まんまるな翠玉の瞳のふたつ付いた頭が、小首を傾いだ。
「ずっと一緒だって、みんなで約束したのに」
 べりるの食べ終えた焼き鳥の串は、3本。
 胸、喉、頭。
 『噂語り』の身体に刺さった串も、3本。
 ああ、だめかあ、これだけじゃ死んでくれないかあ。
 拳を固めたべりるが、串を撃ち抜くみたいに殴る。
 殴る、殴る。
 もう、なあんにもなくなった壁を、殴る。
「――……二度とその顔で出てこないでね、噂語りさん」
 くうるり。
 振り向いたべりるは何も無かったみたいに、笑った。
「さっ、次は何を食べようか!」
 肩を竦める耀子。
 瞳を二度瞬かせたリア。
 嗚呼、厭ね。
 本当に、普通に遊びに来たかったわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
何食わぬ顔で人混みに紛れ【野生の勘】に従いするすると進む

目に付いたのは自身と同じ
白い人
アレが、きっと、

雑念も殺意も混じらぬ無の心で
静かに迷い無く意識を集中
一般人の間を擦り抜ける微風は
『噂語り』に触れる瞬間のみ「風」の「氷柱」と化して
音も無く、鋭く、貫くの
予言する間なんて与えない

誰にも気付かれる事無く消えていく
自分とどこかよく似たソレを
目を細め満足気に見送って

だって僕は知らないから
あんな、今にも泣き出しそうな
迷子の目をした男の人は
ばいばい。ふふふ。

一仕事終えたら
初めて見る学園祭の賑やかな空気にそわそわ

今から呼んでも来てくれるかな?
きっときっと来てくれる
だってあの人は僕を、独りになんてしないから!



 ふさふさとした太い尾を揺らして、人の流れに逆らわず。
 周りをきょときょと見渡しながら歩む、サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)。
 猛禽類の足も、はためく耳も。
 世界の加護を受けた猟兵である彼の姿を気にする者はだあれも居ない。
 美味しそうな匂いに、楽しい音。
 ふ、と。
 その金瞳が捉えたのは、明らかな違和感。
 目に付いたのは、自身と同じ白。
 ああ、アレかあ。
 あれが、きっと。
 少しだけ歩調を早めたサンは、人波に流され歩く彼を追う。
 雑念も殺意も、混じらぬ金の視線。
 いつもと同じ足取りで。
 それでも静かに、迷い無く。白い彼の背に追いついた。
 ひゅうるり、風が小さく渦巻き、サンの腕が『噂語り』に触れると。
 『噂語り』は、何も無かったみたいに、その場にぱっと溶け消える。
 一瞬振り向いた、彼の瞳。
 自分とどこか、よく似た瞳。
 サンは、満足げに瞳を細めて、ふふふ。と笑った。
「ばいばい」
 だって僕は知らない。
 あんな、今にも泣き出しそうな、迷子の目をした男の人は。
 知いらない。
 ふふふ、ともう一度笑ったサンは、耳をはためかせて。
 美味しそうな匂いに、楽しい音に誘われた様に、人の流れに再び身を委ねた。
「何か、食べたりしてみようかな」
 ああ、なんて楽しそうな人々の笑顔。
 ああ、なんて美味しそうな匂い。
 綺麗な羽根を集めなくても、綺麗な石を集めなくても。
 今から呼んでも、あの人は来てくれるかな?
 ふふふ、と、サンはまた笑った。
 とてもとても楽しいことを思いついたみたいに。
 きっときっと来てくれる。だってあの人は僕を、独りになんてしないから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
ガクエンサイ。
お祭りですね。

賑やかな空気を楽しむのは後で
あちこち歩き回って噂語りを探す
懐には月の名を持つ短刀を忍ばせて

違和感を見つければ追っていって
それは、女の人だ
自分と同じ銀の髪。鮮やかな空の青眼。雪のように白い肌。
その顔は知らない。覚えていない
だけれどそれは、古い記憶を揺り動かす
雪に鎖された景色を溶かす
思い出などひとつもなかったこと
触れたことも、撫でられたことも
顔を見ることも殆どなかった
あなたを──◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎と、呼んだことさえ無い
だけれどそう、覚えているのは

また、殺すんだね。僕は。
凍える花で動きを縛り、短刀で貫く
全ては瞬きの間に。

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
おかあさん。


ルルチェリア・グレイブキーパー
オブリビオンを呼び出すUDCなんて危険だわ。呼ばれる前に倒してしまいましょう

サモニング・ガイストで古代の戦士の霊を召喚するわ……霊なら人目につかないわよね
「噂語り」が噂話している所に近づいて「それって本当?」と声を掛け私に意識を向かせるわ
その隙に噂語りの後ろから古代の戦士に槍で貫かせるわ

私には「噂語り」が白い耳と尻尾が生えた優しそうな女性と、黒い耳と尻尾が生えた少し暗いけど真面目そうな男性に見えるわ
あれは私の大好きだった両親の姿だわ
その姿でオブリビオンを呼び出す噂を流されるのはとても不愉快だわ
さっさと終わらせてしまいましょう

アドリブ歓迎!



 難しい顔で、似顔絵を書く男の子。
 それを並んで。身体を動かさないようにぴんと背を伸ばして待つ少女と、おかあさん。
 談笑しながらチョコバナナを食べさせ合いっこする女の子達。
 調理をする屋台の後ろの、少し寂しい雰囲気。
 焼きそばを買い求める人達の賑やかな列。
 新月の名を持つ短剣を、懐に忍ばせて。
 賑やかな空気を後ろに、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)はあちこち歩きまわっていた。
「……あ」
 ふ、とユハナの視線が奪われる。
 お腹の下の方をくすぐるみたいな、心地悪さ。
 三人の大人たちが何やら語っている。
 騙っている。
「あら、アレみたいね」
「……そう、みたいですね」
 そこにひょっこりと足を止めた、ルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)が丸い獣の耳をピンと立てて呟き、こっくりとユハナが頷いた。
 色素の薄い髪の女の人が二人に、黒い髪の男の人が一人。
「へえ、そのお話って本当?」
 語る彼らに、軽やかに駆け寄って。
 ルルチェリアは、尾を揺らして首を傾げる。
 見上げた男女は、白い耳に黒い耳。
 優しそうな女の人、少し暗い表情だけど生真面目そうな男の人。
 ルルチェリアを見下ろす視線まで、同じ色。
 あの事故から忘れた事なんて無い、あの姿。
 あれは、確かに。
 ルルチェリアの大好きだった、両親の姿だ。
 ――ああ、嫌になっちゃうわ。
 さっさと終わらせてしまいましょう。
 一瞬顕現した霊が二人を一瞬で貫くと、掻き消える二人のキマイラの影。
 ああ、ああ。
 あの二人の姿を、騙られる事は。
「――とっても不愉快だわ」
 ルルチェリアの足取りの後を追うユハナの足取りは、どこか慎重で密やかな歩みだ。
 凍える花弁を散らし。
 大きな瞳を細めて、噛みしめるように。
 言葉にしない、言葉。
 残った『噂語り』は、動かない。
 既に動く事なんて一つもできない。
 ひいらり舞った六花は、鋭く煜る銀糸の髪の女の動きを縛り付けているのだから。
 女の空色の瞳が、フードを揺らしたユハナと視線を交わす。
 同じ色、同じ肌。
 その顔は知らない、覚えてなんていない。
 それでも、解ってしまう。
 揺れる古い記憶が、雪に鎖された景色を溶かすのだ。
 思い出などひとつもなかったこと。
 触れたことも、撫でられたことも、顔を見ることも殆どなかったことも。
「あなたを、――と、呼んだことさえ無い」
 また、呼べなかった。
 だけれどそう、一つだけ覚えている。
「――ああ、……僕は、また殺すんだね」
 新月が駆けて瞬く間に、掻き消える空色の瞳。
 それは、一瞬の事であった。
 残されたのはルルチェリアと、ユハナだけ。
 人混みの中。
 親の姿を騙っていた『噂語り』が消えた事なんて、通行人は誰も気づいて居ない。
「まだオブリビオンは居るはずよね。……行きましょう」
「……はい」
 ルルチェリアの誘いにこっくり頷いたユハナは、フードを揺らして。
 並んで歩く二人の姿は、すぐに人波に飲み込まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレアリーゼ・ローエンシュタイン
オブリビオンを見つけるまでは、色んなものを食べて楽しみたかったけど
エルの中の、もう一人の彼の声が教えてくれた

…ええ、分かる
学校に溶け込めるよう、若い姿をしてるけど

アレは、パパとママ
エルとエルくん…お兄ちゃんと、…そしてママを置いて逝ったパパ
エルが…私がこの手で、殺したママ
私達を虐げ、最後は生贄に差し出したおぞましい魔女
…この女のせいで、エルくんは身体も失くす事になって
今は、魂だけ私の中にいる

【忍び足】で雑踏に紛れての【だまし討ち】
【先制攻撃】で、出力を高めたスタンガンを叩き付ける

その姿を騙ったのは間違いだったわね
エルは、エル達はね
何度だって殺してやりたいくらい、その顔が憎くて憎くて仕方がないの



 エレアリーゼ・ローエンシュタイン(花芽・f01792)はひとり、こっくり頷いて。
「……ええ、分かるわ」
 彼女の中の、もうひとりの彼。
 エーデルトラウトが教えてくれる言葉に瞳を眇めた。
 開放された非常階段の前に立つ二人。
 アレはエレアリーゼの両親の姿だと、エレアリーゼは確信する。
 雑踏に紛れて子犬みたいな足取りで、『噂語り』に歩み寄るエレアリーゼ。
「その姿を騙ったのは間違いだったわね」
 ふんわりと桃色の髪を揺らして、エレアリーゼは悪意を籠めて二人へと兎のマスコット――スタンガンのガジェットを押し付けた。
 二人の瞳と、赤い瞳。視線が交わる。
 同じ色。
 エルと、エルくん。……そしてママを置いて逝ったパパ。
 同じ瞳。
 エルが、この手で殺したママ。
 エルとエルくんを虐げて、最後は生贄に差し出したおぞましい魔女。
 この女のせいで、エルくんは。――お兄ちゃんは身体を失った。
 大きく爆ぜる音が、一瞬響き。
 音に驚いた人々が振り向いたが、そこはもうエレアリーゼすら居ない。
 非常階段を、ゆっくりと歩み降りるエレアリーゼ。
 雑踏、人混み、人々を見下ろす赤い瞳。
 ああ、ああ。
 あの女を、また殺せた。
 ああ、ああ。
 あの男を殺せた。
 今は魂だけエレアリーゼの中にいる、お兄ちゃん。
 エーデルトラウトの言葉に、エレアリーゼはまたこっくりと頷いて。
「エルは、エル達はね」
 『噂語り』を倒した昇降口を、振り向きもしないでエレアリーゼは呟いた。
「――何度だって殺してやりたいくらい、あの顔が憎くて憎くて、……仕方がないの」

大成功 🔵​🔵​🔵​

影見・輪
攻撃はできる限り【見切り】で回避
敵の隙を狙って【ブラッド・ガイスト】使用
右掌を翳して「鮮血桜」を使用し【傷口をえぐる】ね



その人混みの中に、かつて僕を箱の中に仕舞った「彼女」が、いた

「…ちとせ?」

思わず呼びかけ…ふと先日箱から出してくれた少女が言った言葉を思い出す
『私のひいおばあちゃん。私も話でしか知らないけれど、10代の時は私に結構似ていたんだって』
少女の曾祖母なのだから、生きているなら少女の姿ではない
だからあれは死者だ

「なるほど、噂語りは…僕の過去も覗くのかい」

覗き見したくなる気持ちはまぁわからないでもない、けれど

「さすがに、誰かにそれをされると腹立たしいから…君との縁はここでサヨナラだ」



 黒く長い髪を靡かせて。
 和服に身を包んで歩む影見・輪(玻璃鏡・f13299)の姿は、日本人形めいた美しい姿だ。
 はた、とすれ違った少女に違和感を覚え、輪は足を止めた。
 何処か輪と同じ雰囲気を持った少女の姿。
「……ちとせ?」
 思わず声をかけてから。
 ふ、と先日箱から出してくれた少女の言葉が頭を過って、輪は瞳を瞬かせた。
『私のひいおばあちゃん。私も話でしか知らないけれど、10代の時は私に結構似ていたんだって』
 少女の曾祖母なのだから、生きているのならば少女の姿ではない。
 ――それは、かつて自らを箱の中に仕舞った彼女。
 何かを語り、騙る彼女は勿論、本物では在りえぬ。
 死者の姿を騙る、何かだ。
 肩を竦めて、右掌の桜花に力を漲らせる。
 そりゃあ、覗き見したくなる気持ちはわからなくもないけれど。
「なるほど、噂語りは……僕の過去も覗くのかい?」
 答えなんて、必要ない。
 首を傾いだ彼女が、何か口を開く前に。
 瞬きの間にUDCを喰らう、鮮血桜。
 血色の花がぱっと咲き、彼女の姿は掻き消える。
 呪われた鏡として、旧家の座敷牢の奥に仕舞われていた鏡のヤドリガミ。
 それが輪だ。
 敵を食らった右掌をゆっくりと下げ。
 細く細く息を吐きながら、彼は呟いた。
「でもね。さすがに、誰かにそれをされると腹立たしいから……。君との縁はここでサヨナラだ」
 来た時と同じく、黒く長い髪を靡かせて。
 何事も無かったかのように、輪は歩み行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒羽・唯
過去に死んだ人の姿で現れる敵?
「へえ…面白そう」
周りの人に悟られないようにすればいいんだよね?
それなら私、得意だよ

死者の姿
年若い青年。犯罪組織に所属していた過去を持つ唯が昔殺した相手

「おまたせ。行きたい所があるの。行こう」
青年と腕を組んで人目につかない場所へ移動するよ
移動が無理ならできるだけ周りの注目を浴びないように自然に振る舞うかな
例えば…恋人に見えるように、とか
「私ね、今日が来るのをすっごく楽しみにしてたんだ」
幸せそうな笑顔で死者の目を私の顔に引きつけて、隙を見て【シーブズ・ギャンビット】で【だまし討ち】に

「…だって、また貴方を殺すことができるんだもの」
感傷?…何の事?(心底不思議そうに)



「おまたせ。行きたい所があるの。行こう」
 黒羽・唯(多重人格者の咎人殺し・f02353)の心の中には、神様がいる。
 唯はその手を振るう事を恐れない。
 だって、神様の声は絶対だから。
 信じて、委ねられる、言葉だから。
 波打つ毛先だけ白い、錫色の髪。
 無邪気に微笑む唯は、年若い青年の腕を引いて歩きだす。
 それはまるで、恋人同士の待ち合わせみたいに。
 少しだけ戸惑った様子の青年に、はにかんだ唯は本当に幸せそうで。
「私ね、今日が来るのをすっごく楽しみにしてたんだ」
 青い瞳を開いて、彼の顔をようく見やる。
 その瞬間、青年が短剣に貫かれただなんて。
 周りを歩いて居た人々は、誰も気づかなかっただろう。
 その前の瞬間を見ていた通行人ですら。青年の姿が失われたのは、トイレにでも行ったのだろう、だなんて思ったかもしれない。
 過去に所属していた組織の中で。
 唯が、一度命を奪った相手。
「――だって、また貴方を殺すことができるなんて、とても素敵じゃない」
 感傷なんて感情、唯には無い。
 あるわけが、無い。
 ああ、面白いな。
「次は誰かな?」
 楽しげに弾む声音。
 唯の足取りは、軽い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゼルド・シュバイツァー
………暗殺なら得意ですが流石にこれ(機械鎧)、目立ちますよね……。

機械鎧は予め脱いで私服の方で参りましょうか。
学園祭ならその方が怪しまれないでしょうし。
ターゲットを確認したら光学迷彩マントの【迷彩】と【忍び足】で隠密。
死角を取りましたら【念動力】を乗せて【サイコキネシス】による【暗殺】で潰しましょうか。

………あまり『居ない』人間の姿を取るのは感心しませんね。
その姿が、俺の『なりそこない』達だとしても……だけどな。


ジェイド・カレットジャンブル
死者の姿をしたオブリビオン…。まさかとは思いましたが、あれはネフライトの姿…。姿だけの偽物とはいえ、僕やヒスイに攻撃することは…。
「すまないけど…ここは任せるよ、ネフライト。」

「ああ、任せろ。」
精神はここにあるけど肉体はあの時に死んでるからオブリビオンに利用されちまったみたいだな。ジェイドやヒスイにはつらい相手だろう。まったく嫌な手を使ってくれるぜ。

間合いに入り次第、目立たないよう【早業】で攻撃力重視の翡翠天駆を放つ。瞬時の【2回攻撃】で確実にとどめを。

かつての俺の姿をしているとはいえ所詮は偽物。ジェイドとヒスイの為にも、こんな悪趣味なやつはさっさと倒しちまおう。



 仮装めいた服に身を包んで、歩み行く娘達。
 晴れ晴れとした青い空のもと。
 のどかに響く人々の華やかな賑わいの音。
 常であれば光学迷彩マントに、機械鎧を纏うゼルド・シュバイツァー(陽炎の仇刃・f12297)であるが。
 今日ばかりは、逆に目立ってしまうだろうと私服に着替えて来たが。猟兵の世界の加護も在る、ただのコスプレ扱いで済んだかもしれない。
 いいや、……脱いで来たおかげで怪しまれては居ないはずだ。
「……おや、どうやら見つけたようですね」
 ここに在るのに、ここに無いような感覚。
 あそこに立っているのに、あそこには居ないような感覚。
 違和感、としか表現のできない感覚に、瞳を眇めるゼルド。
 横に付いて歩いていた、ジェイド・カレットジャンブル(混ざり合う欠片・f09633)も。
 倣い、違和感に視線を向ければ、ああ、と嘆息を零して。眉宇に皺を寄せ、その眼鏡の奥の翠瞳を細めた。
 『噂語り』が、二人。
 何かを、語っている、騙らっている。
 その姿は。
「まさか、とは思いましたが……」
 あれは、かつて目の前で命を落とした師匠の一人。
 今は自らの中に『在る』、剣術の師――ネフライトの姿だ。
 もう一人の師。自らの中に『在る』魔術の師であるヒスイにも、二人の弟子であるジェイドにも。
 例えそれが唾棄すべきものだとしても、あの姿を手にかける事は。
 ――姿だけの偽物だとはいえ、害する事は気持ちの上で難しいであろうと思えた。
『おい、ジェイド。――変われ』
「……すまないけれど、ここは任せるよ、ネフライト」
『ああ、任せろ』
 師の言葉に頷けば、ジェイドの翠瞳が茶に染まる。――彼はもう、ネフライトであった。
「さて、と。行きましょうか」
 ゆうるりと進む、ゼルド。
「おう、行こうか」
 人々の流れに逆らう事無く、間合いを詰めるネフライト。
 精神がここに在るとは言え、ネフライトは一度死んだ身だ。
 ああ、自らと一緒に在る二人には、どうやったってやりづらい相手だろう。
 噂を騙る敵の横。
 歩みを止めること無く、ネフライトとゼルドは進む。
「――全く、嫌な手を使ってくれるぜ」
 背後を通り抜けざま。
 ネフライトの繊月剣が、『噂語り』の身を袈裟斬りに振り落とされ。返す手でもう一太刀。
 それは、瞬きも赦さぬ早業。
 掻き消えた『噂語り』に、通行人の誰もが気づかぬ間に刃をそのローブに納刀する。
 その後方をのんびりと歩くゼルドが、軽く腕を凪いだ。
 鍛えた暗殺の業は、鎧を脱いだからと行って失われるモノでは無い。
 見えぬサイキックエナジーが爆ぜ。
 そこに最初から、何もなかったかのように溶け消えた二人の『噂語り』。
 そのまま振り向く事も無く。二人はそのまま、歩みを止めはしない。
「ああ、悪趣味な野郎だったな」
「……ええ。あまり『居ない』人間の姿を取るのは感心しませんね」
 ――その姿が、俺の『なりそこない』達だとしても。
 ゼルドは言葉を噛み殺し、空を見上げた。
 晴れ晴れとした、青い空。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四辻路・よつろ
【バッカス】
なに?
TPOはちゃんと弁えてるじゃない
私、学校とか行った事ないけど
女子大生が何しに学校に来てるかぐらいは分かってるわ
さぁ、行くわよ!任せなさい、いくらでも釣って来てあげるわよ
(ミニスカパリピ風な格好でさっさと行く)


人混みの中、耳馴染む下駄の音と背中を見つけ
おにーちゃん!と子供みたいに抱きついて
ぐるぐるぐるぐる回って楽しげに
ぐらり、と傾いたその瞬間
コートの裏側、大口を開けた犬が喉笛に噛み付いて

おかえりなさい、お兄ちゃん
偽物でも会えて嬉しいわ

もう死んでる、って分かってるからこそ
安心してあなたの事をこうやって殺せる


――じゃ、終わった事だし何か食べに行きましょうか
なあに?その辛気臭い顔


伍島・是清
【バッカス】
ネイビーのジャケット
細身のスラックス
タートルネック
右目は色付きレンズのモノクル

何だあのパリピ
…制服に書生…
まァ俺は引率のオニーサンっつーことで


幽霊は案外生者溢れる場所が好きとも聞くし
人混みには死者が混じってるかもしンないね

──なァ、『重松』
喜べ、今回は御前に自由を与えてやる

「死ね」

(敵が元の性質を保持するなら敵は自害
そうでなければ、すれ違いざま糸で刻む

親を堂々と自慢できるのは少し羨ましい
クロエに大人しく撫でられ
あれは、馴染みの彼等の、俺の知らない世界
気にしていなかったけど、そういえば知らないことも多い

何だか寂しい気持ちになって、ふるりと首を振る

あァ何か喰いもんでも、探そうか


クロエ・アルページュ
【バッカス】
セーラー服を着用
オープンキャンパス気分の学生を演出
似合いますでしょう?
皆もいつもと雰囲気違って素敵
コスプレパーティーみたいですわ

人生、誰しも多かれ少なかれ死と向き合いますものね
皆、何処か表情が優しく、険しく、複雑で
本当いつもとすこうし違いますわ

わたくしは――あぁやっぱりわたくしね
人形の外見特徴である球体関節はない、人間の自分
不愉快とは思いませんが、愉快ではないのは確かですわ
首を刎ねてしまいましょう
「はじめまして、クロエ」
血で作成した拷問具で【串刺し】に

羨ましいと零す是清によしよしと手を伸ばす
だいじょうぶ、貴方だけではなくてよ、わたくしも…

それが良いわ、美味しいもので満たしましょう!


アーノルド・ステイサム
【バッカス】
(何でこいつらコスプレしてるんだ…)
一応コートを着とく 普通のやつな 普通の
シャツ一枚でも別に寒くないけどな

死人の姿はかつての戦友
といっても、俺も含めて全員同じ顔してた(※)からな
見た目だけだとどいつか分からん
※同型機。ただし、現在のアーノルドは換装しているため少し外見が異なる。

お前はスティーブか?
それともエリックかな
まぁ、誰でもいいか
偽者なら俺たちほど丈夫でもないだろう 首を捻り砕いて終わりだ
(スニークプログラム起動。
 気配を消して近寄り、暗殺のように速やかに済ます)

写真ね、それもよかったかもな
でもどうせあいつらじゃないからなぁ
※死者を見て懐かしくはなるものの、気持ちはフラット。


ギド・スプートニク
【バッカス】
では私はブレザーにでも身を包もう
これが学生服というやつか、なるほど
クロエ嬢の制服姿を見て、どうせなら妻と一緒に来れば良かったなという感想を抱く
ヨツロ、お前は男でも釣りに来たのか?

死者の姿は父と母
父は黒髪に赤い瞳
母は美しい銀髪に青い瞳

ほら、見るがいい
あれが私の父上と母上だ
美しかろう
騙られるなど虫酸が走るとも思ったが、写真のひとつとでも思えば存外悪くないものだ

勿論、消えてもらう訳だがな
どうせなら本当に写真でも撮っておけば良かっただろうか
まぁ良い、所詮は余興
亡霊が騙る姿など、本物の輝きには遠く及ぶまい

皆の知己を眺めるというのもなかなかオツなもの
しかし貴殿ら、死人以外に友人は居るのか…?


静海・終
【バッカス】
学生、学生でございますか
私はマント付きの書生スタイルで行ってみましょう
…うん、たぶん学生っぽいですねえ
皆様も…なかなか…個性的な…ははあ、何でございましょうこの集団
顔がいいと何着ても許されるのでしょうねえ…
引率のおにいさん、たこ焼き買ってください

おやおや、これは見つけましたが
知らない顔ですねえ
他人も他人、真っ赤な他人、
その目の色も、その髪の色も
記憶に焼き付いたそれと似ていても、同じでも
もういないから

消し方は、すれ違いざまにでも槍で心臓をひと突き
得物も攻撃も着物の袖、マントで覆っておきましょう

いやあ、皆様もなかなか愉快な格好でさっくりしてらっしゃる
さあさあ、残りもさっくりいきましょう



「――これはスティーブか? それとも、エリックか……?」
 既に思い出せもしない、かつての戦友達。
 ……と、言っても。
 彼、アーノルド・ステイサム(天使の分け前・f01961)も含めて、過去は全員同じ顔をしていた訳で。
 見た目だけで判断は、もともと出来るものでは無い。
 まぁ、誰でも良い。
 どうせ、壊すだけなのだから。
 カチ、とアーノルドの内部でプログラムが起動する。 
 ――スニークプログラム、起動。
 アーノルドは校舎横で屯していた、滲み出した過去を一息に括り。
 クロエ・アルページュ(eine wilde Rose・f02406)と同じ瞳。
 クロエと同じ髪。
 クロエと同じ肌。
 クロエとは違う、なめらかな関節。
「はじめまして、クロエ」
 そして、さようなら。
 ――不愉快とは思いはしないが、愉快ではないのは確かだと。
 血液の刃が、クロエによく似た『噂語り』のはらわたを貫けば。その先から風に溶け消える砂のように、崩れ消えて行く。
「とりあえず、二体は片せたか」
「はい、順調ですわね」
 アーノルドの貌の無い顔。
 青いレンズを向けると、クロエは微笑んだ。
 スニークプログラムを切ったアーノルドの足先が、こつんとアスファルトで音を立てる。
 ……しかし。何でこいつらは、コスプレをしているんだ……?
 アーノルドは内なる疑問を口にはしない。
 口にすると面倒な事になるだろうし、なによりアーノルドは大人であったからだ。
 コートの裾を翻した彼は、コスプレじみた自らの店の常連客達を引き連れて。模擬店の並ぶ庭の真ん中を、歩き出す。
「しかし何なんだ、そのパリピスタイル」
 いや、内なる疑問を垂れ流す男もいる。おとななのに。
 右瞳を覆う色レンズのモノクル。
 ジャケットに細身のスラックスを合わせた伍島・是清(骸の主・f00473)が、四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)の姿に瞳を細め、その翠に困惑に似た色が揺れる。
「何?」
 コートを軽く羽織ってはいるが。
 ミニスカートに合わせたざっくりと編まれたニットからは、肩と見せブラがまろびでている。
 よつろの白い腿も、肩も、惜しげもなく曝け出すその服装。
「TPOはちゃんと弁えているじゃない」
 学校とか行った事ないけど、女子大生が何しに学校に来てるかぐらいは分かってるわ、なんて。
 よつろもまた、呆れたような視線で是清を見遣れば、さっさと歩きだす。
「さぁ、行くわよ。任せなさい、いくらでも釣って来てあげるわよ」
「何を釣るンだよ、その痴女スタイルで」
 女子大生が何をしに学校に来ていると思ってンだよ。
「あら、あなたはそんな地味な服で何処に行くの? その服は目立たないように、大きめのスーパーの洋服コーナーで買ったのかしら」
 軽口の押収。
 喧嘩するほど仲が良いと言うもので。
「まぁ、皆いつもと雰囲気が違って素敵ですわ。コスプレパーティみたいですわね」
 そんな様子を眺めてくすくすと笑うのは、セーラー服を身に纏ったクロエだ。
 オープンキャンパス気分の学生を演出、とは彼女の言。
 ミレナリィドールの彼女は年齢を重ねど、姿は少女のまま。
 その装いは、成程良く似合っているようであった。
 ――ああ、しかし。クロエの姿を見ていると、どうせなら妻も一緒に呼べば良かった、なんて。
「ヨツロ、お前は男でも釣りに来たのか?」
 何時だって、嫁思いの57歳。
 ブレザーの学生服に身を包んだギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)の装いへの感想は、見るものに委ねるとしよう。
 なお、お嫁さんはベタボメでした。
「顔がいいと、何を着ても許されるのでしょうねえ……」
 マント付きの書生服。静海・終(剥れた鱗・f00289)がゆるーい笑みのまま、ゆるーく呟く。
 しかし、皆中々。
 そう、言葉を選ぶならば個性的な。
「……ははあ、何でございましょうこの集団」
 あっ、大人だけど言っちゃった。
 終の呟き。
 一番戦闘を歩いていたアーノルドだけが、もう一度。本当に何でこいつらコスプレしているんだ、なんて心の中で同意をしたけれど。なんと言っても、終もコスプレスタイルだったもので、結局口には出せなかった。
 ゆるくゆるく、終は笑ったまま。はた、とその視線を留める。
 ああ、ああ。
 人混みの中にまぎれていても、強い違和感は拭えない。
「……おやおや、見つけてしまいましたねえ。全く、全く知らない顔ですけれど」
 マントを靡かせた終が、足を止める事は無い。
 其れは今、そこにいるのにいない。
 他人も他人、真っ赤な他人。
 その瞳も、その髪も。
 焼き付いた記憶の中と同じ色でも。
 それは、別物だ。
 だって、もう、いないのだから。
 すれ違いざまに、終の外套下より伸びた槍。
 的確に、まっすぐに。心の臓を貫く、一突きだ。
 人混みの中、すれ違う人がふいに消えようとも。
 注目をしていなければ、意外と人は気づかぬモノ。
 否、気づいたとしても見間違えだと思うだろう。
 人間が、その場から消えるだなんて。
 そのまま終は、足を止めず、まっすぐ、まっすぐ歩いて行く。
 たこ焼きの良い匂いもしていたもので。
 からん、ころん。
 前行く人混みの中に、よつろの耳に馴染んだ、あの下駄の音。
「――おにーちゃん!」
 一目散に駆け出したよつろは、その背中にぎゅっと抱きついて。
 その笑顔は、振る舞いは、まるで童女のよう。
 ぐうるりぐるり、『お兄ちゃん』と一緒に回る。
 笑って、回って、まろんで。
 その瞬間。
 コートの裏側から飛び出したのは、死霊犬の鋭い牙の並んだ大口。
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
 よつろがお兄ちゃんと呼んだその男の喉笛に喰らいつけば、ぐうるる、低い唸り声。
「――偽物でも会えて嬉しいわ」
 コートを揺らすよつろが顔馳せを俯ければ、犬も男も、失せ消える。
 ああ、もう死んでる、って分かっているからこそ。
 ――安心してあなたの事をこうやって殺せる。
「嗚呼――、幽霊は生者溢れる場所が好きとも聞く。人混みには、死者が混じってる事があるもんだな」
 それはかつて。
 是清の傍に居なかった日等、無かったモノだ。
「──なァ、『重松』」
 父より与えられた、唯一。
 己すら自由に出来なかった是清の、唯一、自由にできたモノ。できるモノ。
 喜べ。
 今回は御前に自由を与えてやる。
 あの時は、与えられなかった権利を。
 命令を、与えてやろう。
「死ね」
 是清のモノだった。
 否、――今でも是清のモノ、の首が糸で断ち切れ。
 地へと転がる前に、立ち消える。
「……まだ、奥にも居るようだ」
「ああ、本当だ。……見るが良い。あれが私の父上と母上だ。――美しかろう?」
 騙られるなど虫酸が走るとも思ったが、写真のひとつとでも思えば存外悪くないものだな、なんて。
 ギドの自慢する様に、是清は少し眩しそうに瞳を眇めて。
 黒髪に血のように赤い瞳の男と、月の光のような銀髪の女を見やる。
「まあ、勿論消えて貰う訳だがな」
 人混みの中、其れ以上近寄る事も無く。
 ギドが鋭く刃のように投げ下ろした血液は、『噂語り』を薙ぎ掻き消した。
「皆の知己を眺めるというのもなかなかオツなものだったな」
 服の裾を伸ばしたギドが、ぐうるり周りを見渡して。
 とりあえずは、『噂語り』は周りに居なくなった様だ、と。
「しかし、……どうせなら本当に写真でも撮っておけば良かっただろうか?」
「写真ねェ、それもよかったかもな。――でもどうせあいつらじゃないからなぁ」
 アーノルドの相槌。
「まぁその通りだな、店主。所詮は余興、亡霊が騙る姿など本物の輝きには遠く及ぶまい」
「いやあ、皆様もなかなか愉快な格好の割には、さっくりしてらっしゃる」
 ギドの答えに、終がゆるーい笑顔のまま肩を竦めて。
 これを言うのは二度目だが、終もコスプレ服ですからね。
 そしてその後も続いてしまったギドの御高説によれば。
 両親はもっともっと美しく、佇まいに気品があったものだ、との事で。
「――……」
 それは、馴染みの彼等の知らない世界。
 自らの立ち入る事の出来ぬ、過去。
「……親を堂々と自慢できるのは少し羨ましいな」
 小さく首を振ると、ほつりと是清より溢れてしまう言葉。
 ああ、少しだけ。
 少しだけ感傷的になってしまっているのかもしれない。
「だいじょうぶ」
 クロエはせいっぱいの背伸びと、めいっぱい腕を伸ばして。
 是清の鴉みたいな黒髪を、よし、よし、と撫でてやる。
「貴方だけではなくてよ」
 ――わたくしも。
 人生。誰しも多かれ、少なかれ。死と向き合うものだ。
 だからだろうか。
 クロエには今日の皆の表情が、どこか優しくて、険しくて、複雑に見える。
「――じゃ、一通り終わった事だし。何か食べに行きましょうか?」
 先程からずっと、ずっと。
 氷水に満たされたチューハイの缶がごろごろと入ったクーラーボックスを眺めていた、よつろの提案。
「それが良いわ、美味しいもので満たしましょう!」
「あァ。何か美味い喰いもんでも、探そうか」
 わあい、とクロエは両手を上げて大賛成。
 もう一度、断ち切るように首を振った是清も同意を示して。
「引率のおにいさん、たこ焼き買ってください」
「仕方ねえなァ、自分で買え」
 たこ焼きの模擬店の前で、じっとしていた終の軽口。
 食い気味で答える是清。
「ま、お前らがそういうなら反対はしねェよ」
 そんな彼らに、やれやれとアーノルドが歩み出し――。
「――しかし貴殿ら、死人以外に友人は居るのか?」
「まあ! ギドは死人ですの?」
 ギドの言葉にクロエは、くすくすと笑う。
 次の敵を見つけるまでの、暫しの休憩。
 そんな時間があったって、良いものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鼠ヶ山・イル
なになに?誰にも知られず人混みのなかでオブリビオンを始末してこいって?
いいねえ、オレこういう仕事人っぽいのちょっと憧れてたんだよな

ニコライ(f11619)と一緒に行動するぜ
お?甘いもん買ってきてくれたのか?うわーめっちゃ気がきくじゃん!
うんうん、これもカモフラよ
ターゲットが見つかったら、さりげなく「一番近い一般人」の気を引いて目を逸らさせる
ぶつかったり【コミュ力】使ったり
謝るときは相手の目を見てにっこり【誘惑】。基本だろ?
で、その間にニコライにオシゴトしてもらうってな感じ

いやいや、たしかにたしかに
見た目は“あの子”にソックリ
まあでもオレはもう気にしないよ、そういうの職業柄多いし
…ほんとほんと。


ニコライ・ヤマモト
■イル(f00273)と共に。彼女が足止めを引き受けてくれるはずだ。
自然に紛れるためにも出店で食い物でも買うか。イルは甘いものが良いんだったか?

…さて、仕事だ。切り替えろ。
人混みの中ナイフとUCで[暗殺]各個撃破。
体の小ささと[目立たない]で人混みに紛れ[追跡]し、逃げ出そうとも[ダッシュ]で仕留める。
目を逸らした隙に消えてもらう。人違いか目の錯覚かと思うくらいにそっと。

俺にはそのテの未練が無くてな。(白衣の男のは念入りに殺す気はするが)
死者に会いたかった奴もそうではない奴も。どちらにせよ気の毒なことだ。
良いぞ、誰の大事なものでも殺してやろう。…他人の過去に踏み込む趣味はないが、悪く思うなよ。



「イルは甘いものだったな」
「お?甘いもん買ってきてくれたのか? うわーめっちゃ気がきくじゃん!」
 ニコライ・ヤマモト(郷愁・f11619)が差し出した、まだ温かいワッフルを受け取った鼠ヶ山・イル(アヴァリティアの淵・f00273)があちち、と手の上でキャッチボールをすると、一口。
「あっつ、甘い、うまい!」
 ホワイトシュガーがジャリジャリしているのが良いアクセントで、実際模擬店にしてはなかなかの美味しいワッフルだ。
 きょときょとと周りを見渡しながら、イルはワッフルを齧り、齧り。
「ああ、美味いなら何よりだ」
 ニコライの手には器用に握られた、串にささったおでん。
 はふはふと大根を齧るニコライの尾は、それでも周りへの警戒にぴんと張り詰めたままであったが。
 食べながらゆっくりと歩く二人に纏わりつく、まだ冷たい冬風が湯気をほこほこと攫ってゆく。
「しっかし、何? こういうさぁ。誰にも知られず人混みのなかで……みたいな仕事人っぽいのちょっと憧れてたんだよなあ」
 そう、彼女達は何も、この場に文化祭を楽しみに来た訳では無い。
 食事を楽しむ事すら、文化祭に馴染む為のカモフラージュなのだ。
「――ああ、ならば憧れのシチュエーションが訪れたようだ。仕事だ、切り替えろ」
「ん」
 人の群れの中に、一つの違和感。
 たしかに、あれは今を生きるものでは無いようだ。
「……ああ、本当だな。よーし」
 敵、『噂語り』の真横を歩く女の子に、自然な動きでぶつかって『しまう』イル。
「あっ」
「おっと!」
 その勢いで女の子がつんのめり、その友達たちが目を見開き――。
「ごめん、ごめん。大丈夫?」
 すんでの所で女の子の身体を受け止めたイルは、彼女たちに向かってへにゃ、と人懐っこく笑いかける。
「えっ、あっ、だ、だいじょうぶ、ですっ」
 女の子同士なのに、なんで少しドキッとしちゃうんだろう?
 なんだか和む空気の横。
 誰にも気づかれずに小さな影が駆けていた。
 小さな影、小さな黒猫。
 ニコライが獣のしなやかさで地を蹴り上げると、構えた刃が奔り――。
 反射を抑えた黒いナイフが『噂語り』の喉笛を掻き斬り、どろりと空気に溶けるようにその姿が失われる。
「じゃ、ぶつかってゴメンね、良い文化祭をたのしんでねえ」
 手をひらひら、女の子達に手を振って歩きだすイル。
 一仕事終えたニコライは、何事も無かったかの様にその横に付き歩き。
「……ああ、しっかし。いやいやぁ、たしかにたしかに。驚いちゃったな。本当に見た目は『あの子』にソックリじゃん」
 先程始末した『噂語り』の事であろう。
 イルはいつもの様子でへらへらと語る。
「――俺にはそのテの未練が無くてな」
 ニコライは、目線だけで彼女の顔を見上げて言った。
 青い視線が交され、イルは肩を竦めて。
「まあでもオレはもう気にしないよ、そういうの職業柄多いし」
 ほんとほんと、なんて。
 言葉を重ねて、瞳を細める彼女。
 その答えに黒猫は、尾をゆらゆら揺らす。
「そうか。……良いぞ、誰の大事なものでも殺してやろう。他人の過去に踏み込む趣味はないが、悪く思うなよ」
「うんうん、勿論。ニコライはたのもしーなあ」
 イルは低い温度の青瞳を揺らして、笑う。
 キャスケットを被った小さな二足歩行の黒猫と、女性にしては少し大きめな黒髪の女。
 二人は校内をゆっくりと歩み、進む。
 次の過去を、殺すが為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コーディリア・アレキサンダ
人混みの中でも、ボクの敵は一目瞭然だ

大きな港町、その教会で一緒に働いていたシスター仲間
悪魔に憑かれ、人を襲いだした彼女
ボクが初めて殺したヒト

こすぷれというのもあるらしいけれど
修道服を着て港の香りをさせていたら、気づかないはずがない

さて何故、その姿を取ったのかはわからないけれど――

「街の人と彼女。どちらを助けるか、ボクは既に選んだ」
「もう一秒だって、迷いはしない――バーゲスト」

《喰らい、侵すもの》
空を舞う黒犬に彼女を喰らわせる
人混みから外れたところへ差し掛かった瞬間、迅速に

「前よりは、痛みもないだろう? たくさん経験したんだ」

あの日と同じように
だけどあの日より手際よく、ボクは彼女をまた手にかける



 港の香りがした。
 人混みの中でも、目立つ修道服。
 UDCにも世界の加護に似たものがあるのだろうか。それとも、『噂語り』の特性なのだろうか。
 周りの人々は、だれも気にしては居ない。
 何かを語る彼女が、今そこには居るのに居ないという違和感に。
 帽子のつばをぐっと引き絞ったコーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は、確かめるように息を吐いた。
 自らを鼓舞するように、確かめるように囁く言葉。
 何故その姿を取ったのかは、解りはしないけれど。
「――街の人と彼女。どちらを助けるか、ボクは既に選んだ」
 彼女が人の群れから離れ、皆の目線が彼女より外れた瞬間。
 コーディリアは魔力を爆ぜさせて指し示す。
 その赤瞳の奥には、確かな覚悟が真直に灯っていた。
「もう一秒だって、迷いはしない――バーゲスト」
 ――喰い殺しなさい。
 翼を持つ猟犬が空を切って一気に彼女を食らえば、その体が砂のように溶け消える。
 呆気ない、と言えば、其れまでだ。
 それでも、それでも。
「……前よりは、痛みもないだろう? たくさん経験したんだ」
 柔らかく、瞳を細めたコーディリア。
 過るのは、あの日の事。
 大きな港町、仲間だった彼女。――ボクが初めて殺したヒト。
「……さて、次だね」
 あの日と同じ様に。
 あの日よりも、もっと上手に。
 あまりにも呆気なく。
 再び彼女を殺したコーディリアは、人混みの中へとその姿を消し――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレム・クラウベル
ルト(f00036)と
無難なシャツにジャケット
この世界ではよくある服装

祭りというだけはある人混みだな
置いてかれぬようルトを追い
ああ、アレは射的というもので…
返答しつつ視線は周囲に

雑踏の中目が止まる
記憶のそれは薄れつつあれど
見間違いようのない母の背
……成る程、分かりやすくて助かるな。これは
それとなく人の流れに乗って近付き
すれ違いざまに袖に隠していたナイフで急所を一突き
ここにいる筈のない人
来ると分かっていたなら揺らぐ必要もない
居なくなれ、偽物

ルト、そちらはどうだ……と
あの様子では何が見えたかなど聞いたところで答えないだろう
見失わぬよう追いかけ腕を掴む
……まだ仕事も残っている
気分が悪いなら、少し休め


イェルクロルト・レイン
クレム(f03413)と

人の中に紛れるというから
耳はフードで隠し
尾は、……なんとかなるだろ

ガクエンサイは知識に無くて、連れられた男を放って辺りを散策
時折気になるものがあれば目をやって
なァ、あれなに
射的という遊戯の屋台に興味を

ふ、と
視界の端に灰色の尾が見え
自身と瓜二つの男がそこにいた
妙な胸騒ぎと共にナイフを手に滑り落とし
躊躇いなく喉を刈る
まみえた双眸を真正面から捉えて

雑踏が煩い
苛立ちが募る
妙に心臓が鳴るのはなぜだろう
楽しさは消え、人がいない方へ

腕を掴まれはっとすれば、クレムの姿が見え
振り払う気力もなくて俯いた
失った数十年分の記憶を恨む
きっとこの所為に違いない
だって、おれは、生きているはずなのに



 近隣の住民も多数訪れて居るのであろう。
 兄弟だろうか、共に駆けて行く子どもは前を見て居ないようだ。
 ぶつからぬ様に、クレム・クラウベル(paidir・f03413)は二歩横に避ける。
「祭りというだけはある人混みだな」
 その声掛けに答える事も無く。
 被ったフードで狼耳を隠したイェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)がフラフラと店へと歩いてゆく。
 この同居人の反応には、慣れたものだ。
 置いて行かれないようにイェルクロルトの背を追うクレムに、狼の尾を小さく揺らしたイェルクロルトが顔を上げた。
「……なァ、あれなに?」
 その指が示す先には銃。
 少し離れた位置に備え付けられた段に、的代わりのぬいぐるみや駄菓子、玩具が並んだ――。
「ああ、アレは射的というもので……」
 言葉を紡ごうとしたクレムが、眉を寄せた。
 イェルクロルトの気怠げな瞳が、更に細められる。
 あの背は、見間違えようも無い。
「……成る程、分かりやすくて助かるな。これは」
「……」
 クレムの、腑に落ちた響きの呟き。イェルクロルトは、何も答えない。
 しかしイェルクロルトも獲物を見つけたのであろう。
 何も言わずに、ただ雑踏の中にその身を隠し。
 彼が仕事をこなす事には何の文句も無い。
 自らの見つけた、眼前の仕事をこなすが為に。息を細く細く吐くクレム。
 あれは、ここにいる筈のない人だ。
 薄れた記憶を上書きするように、鮮明に、鮮烈に。
 それが今を生きては居ないと言う実感だけが、伴っていた。
 来ると解っていたのならば、揺らぐ必要は無いだろう。
「――居なくなれ、偽物」
 見つけた『噂語り』が何か語る前に。
 背後より忍び寄ったクレムはその胸を、袖の中のナイフで一気に貫いた。
 骨も、内蔵も、何も無かのような柔らかい感覚。
 まるでケーキを突き刺すような甘い貫味の後、一瞬で掻き消える『母』の姿。
「……なんで」
 服袖の中に隠したナイフ。
 イェルクロルトは真直にその男と向き合うと、躊躇いなくその喉を掻ききった。
 胸騒ぎが、止まらない。
 喉を裂かれた瞬間、溶け消えた男は。
 イェルクロルトと、同じ瞳をしていた。
 イェルクロルトと、同じ灰の尾を持っていた。
 イェルクロルトと、同じ。
 あれは、あれは、まるで。
 おれだった。
 ……ああ、ああ、雑踏がうるさい。
 イライラする。
 心臓が、変だ。
 興味を抱いた射的すら、今は見たく無い。
 尾の毛を逆立てたイェルクロルトは、人の居ない方へ人の居ない方へとただ、歩もうと――。
 ぎゅ、と引き止められる感覚。
「ルト」
 顔を上げると、彼を見失わぬ様に追いかけてきたクレムが、イェルクロルトの腕を掴んでいた。
「……クレム」
 そこで初めて気がついたように、イェルクロルトは琥珀色の眸を見開いて。
「……まだ仕事も残っている。気分が悪いなら、少し休め」
 同居人の言葉に、イェルクロルトは何かを言い返す事は愚か、掌を振りほどくことも出来なかった。
 頭の中に無い、数十年分の記憶を憎む、恨む。
 どうして。
 これが無いせいで、おれは。
 わからない、わからない。
 顔馳せを、俯けて。
 小さく小さく絞り出すように、イェルクロルトは呟いた。
「おれは、生きている、はずなのに」
 どうして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
こういう催し物に参加するのは初めてだ
難しい顔で探索していたら
雰囲気から浮いてしまうのではないかな
もう少し場に溶け込まねば

ゼロ、ゼロ
私は一度たこやきというものを食べてみたくてね
たこを焼くんだよ?
丸焼きだろうか、串焼きだろうか
場に溶け込むという演技(演技!)をしながら
会場内を回る

たこ焼きの屋台辺りに違和感を覚え
注意を向けると見た顔が
既に此方に気づいているのなら
注意は怠らないように気をつけながら接近
ご無沙汰しております
現在のご様子ではあなたは、もう…
…そう、ですか

あるべき場所に死者を還すのは私の務め
こんなことでは動揺しない
噂語りが、館で共に過ごしていた兄弟弟子だとしても
私は私の務めを果たそう


城石・恵助
目立たないよう、周囲に溶け込めるように
色々買い食いしながら歩こう
肉を食べておけば【フードファイト・ワイルドモード】にも使える
決して僕が食べたいだけとかではないよ

噂語りを見つけたら後をつけ、人目につかないタイミングを伺い
手元を隠しつつ背後から【出刃包丁】でブスッと刺し殺す

…これも違うや。知らない人だ
会いたかったのは中学時代の友人達なんだけど…
【いつかの写真】を眺めながら、ため息を一つ
偽物でもいいんだ
ただもう一度、顔が見られるんじゃないかって
ちょっと期待してたんだけど…駄目みたいだね
みんな、ちゃんと死ねてるといいんだけどな

まあUDCなんか頼るなってことだよね、やっぱ
モリモリ食べてモリモリ殺すぞー!



「ゼロ、ゼロ。私は一度たこやきというものを食べてみたくてね」
「あァ……? 好きにすりゃァ、良いじゃねぇかよ」
「何たってたこを焼くんだよ? 丸焼きだろうか、串焼きだろうか?」
「丸焼きはどう考えても、食べにくいだろ……」
「ふふ。いいや、小さなたこかもしれない」
 いかにも楽しそうに語るセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)と、顕現させられてしまった事で、面倒な会話に巻き込まれたとうんざりした様子の彼の別人格ゼロが、人混みの中を並んで歩いている。
 周りから見れば、学園祭を一緒に訪れる仲の良い双子のように見えるだろうか。
 この本気で楽しそうにしているセツナは、場に溶け込む為の演技、そう、演技だと彼は言っていた。
 そう、演技だから本心から楽しんでいる訳では無いのだ。
「たこ焼きは丸焼きも串焼きもあるけれど、一般的には小麦粉の生地で包んで焼いた食べ物だよ」
 同じ猟兵のポンコツ過ぎる会話に、思わず口を出した城石・恵助(口裂けグラトニー・f13038)の手には牛串。
 セツナ達と同じく周囲に溶け込めるようにいろいろ買い食いをする(と言い張っている)恵助の口は、世界の加護によって周りに違和感を与えはしないが、大きく裂けている。
 一口で牛を齧ってしまうと、次に開いたパックからは焼き鳥が出てきた。
 そう、けして恵助が食べたいだけというでは無い。
 目立たないように、周囲に溶け込めるように、そして、戦闘にそなえて食べているだけなのだ。
 戦闘のためならば仕方が無いよね。
「へえ、生地で包んで……、ゼロ、断然興味が湧いてきただろう?」
「いやそんな事ないけど」
「ふふ、おいで、ゼロ。共に歩もう」
「こういう時のお前ってマジで話きかねェよな」
「そっちに店があったけれど、奥の店のほうが美味しかったよ、いってらっしゃい」
 ひらひら手を振って、セツナとゼロの背を見送る恵助。
 その瞬間。
 横を歩いてきた人、――『噂語り』を恵助は出刃包丁で刺し貫いた。
 砂を刺すような感覚は、今日何度目だろうか。
 はあ、とため息を一つ。
「……また外れ、知らない人だ」
 復数の学生達が写った写真を取り出した恵助は、其れを眺めながら呟いた。
 口の裂けていない恵助と、笑う女の子。
 歪んだ顔が並ぶ写真。
「――もう一度、顔が見られるんじゃないか、なんてちょっと期待してたんだけどねえ」
 ダメみたいだな、と肩を竦めて。
 焼き鳥を口に放り込み、人通りもまばらな通りを恵助は歩き出す。
 ――みんな、ちゃんと死ねてると良いんだけど、なんて付け足して。
「まあUDCなんか頼るなってことだよね、やっぱ」
 よーし、モリモリ食べてモリモリ殺すぞー! と、彼は気合を入れ直してマフラーを巻き直した。
 彼は、自らの言っている事の、歪さに気づく事は無い。
「おや」
「……ああ」
 たこ焼きの屋台横。
 交わしてしまった視線に、頭を下げたセツナは瞳を眇める。
「ご無沙汰しております」
「おやひさしぶりだね。そうだ、――知ってるかい? こんな話」
 ……ああ、この様子では。
 これは、今ここに在るモノでは無い。
 これは、過去の滲んだ姿だ。
 つまり、もう、彼は。
「――私は、私の務めを果たそう。では、共に歩もうか、ゼロ」
「……しかたねえなあ」
 あるべき場所に死者を還すのはセツナの務めだ。
 その相手が、『噂語り』が館で共に過ごしていた兄弟弟子だとしても。
 動揺したりなんか、しない。
 『噂語り』の腕を引いて、人混みから離れたセツナは――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
お前もお前も、お前も。
名前ももう思い出せない。
薄情だろう。…ああ、だが懐かしいな。
(かつて戦友であった人々の姿。懐かしさを抱えながらも、だからといって迷いはない。これが男の仕事である限りは。)

【SPD】
[暗殺]は得意でね。特に人型が標的なのであれば好都合だ。
…私は学園祭を楽しむ一般客然としていよう。
猟兵がどのような見目でも気にされないとはいえ、敵に勘づかれてしまうかもしれないからな。
さあ仕事だ。敵を始末をするのが私たちの使命。[忍び足]、静かに近寄り、その背に[早業]で凶刃を突き立てる。
弄ばれ騙られようと、どんなに姿を真似ようと。友の魂が汚されることはない。



 革靴に仕込まれた刃が、バターのように身体を裂く。
 ああ、お前もお前も、お前も。
 名前ももう、思い出せない。
 ……ああ、だが、懐かしいな。
 鋼糸で首を断ち切ると、首が落ちる前に空に溶ける。
 幾人目の『噂語り』を始末したであろうか。
 何事も無かったかの様に、ジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)はスーツの裾を引いて佇まいを整える。
 暗殺術に長けたジェイクスからすれば。
 脆く柔い身体は死体の処理すら必要が無く、ターゲットは探さずとも勘づける程見つけやすい。
 この仕事は生身の人間の暗殺よりも、身体的に言えばずっとずっと楽な仕事であった。
 ――しかしそれは身体的に、言えば、だ。
 ジェイクスの前に表れた『噂語り』はかつての戦友の姿も見られた。
 一般的に言えば、心理的に嫌な敵に価するのであろう。
 ジェイクスとしても、懐かしさが無いと言えば嘘になる。しかしそれは、彼の動きに迷いを生ずる理由には、為り得なかった。
 それが、彼の仕事である限り。
 金糸の髪を揺らして、雑踏の中に再び身を委ねる。
 ジェイクスの蒼い瞳の意志が、揺らぐ事は無い。
 骸の海に沈んだ彼らが、弄ばれ、騙られようと。
 どんなに姿を真似られようと。
 彼らの、――友の魂が汚されることはないのだから。
 再び視界の端に生まれた、違和感。
 過去を生きた、現在を騙る、友の姿。
 指輪の中に収納された鋼糸を、指先だけでピンと張る。
「さあ、仕事だ」
 自然な動きで距離を詰めると、一瞬で伸びた鋼糸は過去の命を絡め取る。
 そのまま通り抜け歩みを止めぬジェイクスは、溶け消える戦友へと振り向きもしない。
 これは、仕事だ。
 これが、現実だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『敬虔なる邪神官』

POW   :    不信神者に救いの一撃を
【手に持つ大鎌の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    出でよ私の信じる愛しき神よ
いま戦っている対象に有効な【信奉する邪神の肉片】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    神よ彼方の信徒に微笑みを
戦闘力のない【邪神の儀式像】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【邪神の加護】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天通・ジンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●屋上
 立ち入り禁止となっている筈の屋上に立ち並ぶ、儀式像。
「……見つけた」
 多くの垂れ幕がぶら下げられた柵に腰掛けていた少女が、灰髪の少年に掛けられた声にむっとした視線を向けた。
 予知によれば。
 彼女は、UDCを神として崇拝する邪神教団の敬虔たる信徒。
 その中より選ばれた、特に可憐な少女。――神官であるとの事であった。
「あー、神さんの遣いの邪魔をしてたんはアンタらやったん?」
 少女の手には、歪な大鎌。
 神の力を封じたと言われる其れは、彼女の神官としての歪な力の象徴だ。
「もー、なんでそんな邪魔するんよお。邪魔されたら神さんが居りて来られへんやんかー。大体さあ、アンタらには関係ないやん、別にまだ誰にも危害も加えてへんやろ?」
 少年を指差して。頬を膨らせてぷりぷりと文句を言う少女――邪神官の口調からは、緊張感は一つも感じ取れない。
 紡がれる詭弁に、少年は灰色の瞳を眇めるだけだ。
「悪いね。話し合いをする気は無いんだ」
「あは、そこは意見があうやん! 邪魔するモンは、皆喰らってまいや、って神さんも言うとったからなァ」
 彼女は、神官だ。
 彼女は、死ぬ事を恐れない。
 彼女が死んだならば、次の少女が神官になるだけだ。
 彼女が恐れる事は、神様に見捨てられる事だけだ。
 だから、神様が戦えと言っていたのならば。
 彼女は、怖くない。
「ちゃちゃっと邪魔する奴ら消して、はよ呼んだらへんと神さんも困るやろしなァ!」
 元はただの少女であったはずの彼女は大鎌を構えて、笑った。
「行くで!」
 その瞳の色には、戦う事に対する恐怖は無い。
影見・輪
確かにまだ誰にも危害は加えてないのだろうけど
「まだ」という以上、その先はわからないんだろう?
その先に面倒事が待ってるなら、
その神様ごと消せば後の憂いは晴れるってことで、実に都合がいい
ん?こちらの都合?その通りだよ
…あと、まぁ個人的な話をするなら君の崇める神様とやら
呼び寄せる手段も含め個人的にとても気に食わない
気に食わないのは叩き潰す事にしてるんだ
そんなわけで、邪魔をさせてもらうよ、思い切りね

基本は後方から記憶消去銃を最大威力で
可能なら【催眠術】を併用し【傷口をえぐる】よ
邪神の儀式像や邪神の肉片が召喚されているなら破壊を試みるね

敵の動きは常に観察し
隙が生じたタイミングで【鏡映しの闇】を使用するね


イア・エエングラ
かみさま、なんているかしら
そう信じるなら、在るだろな
そう願えるなら、さいわいだもの
……周りを喰らうのでは、よくないよう
知らぬままの眼下の賑やかだこと

遊んでばっかりもいられないからねぇ
僕も為すべきを果たしましょう
きちんとお仕事、しましょうね
おいで、とリザレクト・オブリビオンでお呼びてて
僕は下がっていましょうな
前ゆくのは行ける方へお任せしましょ
お好きでない像は壊してしまおうな
そうしてお仲間を守ってあげてね
僕の盾になってくださる
朽ちるまできっと、戦ってね

あなたの信仰はかみさまに何を、望むのかしら
是とも非とも言わないけども
願えどここで、潰えるけれど
神頼みでは、分が悪いもの


ニコライ・ヤマモト
■イル(f00273)と共に。
命を預ける相手として、俺は彼女を信頼しよう。

今回の噂語りの姿と同様に、少女にも大事なものがあるのだな。UDCの影響であれ、少女の本意であれ。
ならばこれまでと同様にその大事な神様は幻なのだと否定してやるだけだ。
神でなく人を……対処療法ですまないな。

【姿なき狩人】[スナイパー、クイックドロウ]で撃ち抜く優先順位は本体>儀式像>肉片。
使い方を思いつく暇を与えないよう、UCによる高速移動と[ダッシュ、おびき寄せ]で集中を乱し、攻める時はイルの技に合わせる。
よぉ。よそ見をしている場合か? 早く全てに対処してみせろ。冷静に行動できなければ必ずミスを犯すぞ。


鼠ヶ山・イル
一途なもんだなァ、神官さんよ
そんなに大事?神さまのためなら死んでも惜しくない?
いいなァ……そういうの、欲しくなっちまう
ちょっと懐かしい思いもさせてもらったし、遊んでくれよ

ニコライ(f11619)と一緒だ
邪神の儀式像っていうの、結構厄介そうだなー
召喚されたらすぐに破壊するようにしたいな
マッチの火の狼なんてショボいだろうが、集まりゃ燃やし尽くすなんて簡単だ
【2回攻撃】も交えて、手数だけなら稼いでやるよ

ま、本命には頼りになる仲間がいるしな
ニコライの射撃、かっこいいなあ
ていうか速すぎる!おいおい、邪魔しないようにするのが精一杯か
いいね、オレも働かなきゃな
炎の狼の陰から襲う黒猫、ってな。痺れるだろ?


壥・灰色
壊鍵、『撃殺式』
起動

魔術回路「壊鍵」を最大稼働
余剰魔力が肘から牙の如く噴出し、青白く燃える
両腕に細密に這う魔術回路が青白く煌めく
――これが、おれの
魔剣六番器、イーヴィル・アーム・ナンバーシックスの真の姿

危害の有無も被害の有無も関係ない
そう、話し合いをするつもりもない
端から、おれは、きみを殺しにここに来た

神とやらを下ろすつもりなら、おれを殺してからにしろ
そうしないと、腕の動く限りきみの邪魔をし続けるだろうからね

足下で炸裂する衝撃による高速移動
儀式像の間をピンボールのように跳ね回り加速
像を足蹴に、踏み砕きながら、反射の勢いを乗せ致命の一打を振り下ろす
相手が可憐な少女だろうが狙いは頭
殺意を籠めた一撃


セツナ・クラルス
あなたの神は随分と傲慢だね
まあ、傲慢じゃない神はいないのかもしれないが
神の御許に赴くことに躊躇いがないのは私も同じ
だが、今はまだその時期ではない
なので抗わせて貰うよ

今回の敵は一撃のダメージが大きそうだ
祈りを捧げ
攻撃の効果を多少なりとも下げられればいいのだが
受けた攻撃はありがたく拝借し、
一時的に創造した別人格に使用して貰おう
敵の技を使用してはいけないという戒律はなかったはず
使えるものは何でも使わせて貰う

ねえ?
神の為に戦うというのは
とても尊いことなのかもしれないが
それはあなたが心から望んでしていることなのかな
意思を持たず、教えに従うのみというのは生きていると言えるのだろうか
…私にはわからない


リュシカ・シュテーイン
死者の姿ぁ……既に亡き人の意志を冒涜するようなぁ、行いぃ……
模された方だけでなくぅ、生きている知り合いの方にもぉ、不躾なその行為ですねぇ
……私に自由に生きろとぉ、言ってくださったぁ、元の世界のお爺様を騙ろうとすることはぁ、許されることではぁ、ありませんよぉ

事前に手投げ爆弾……こちらの世界ですとぉ、手榴弾と言うのでしょうかぁ。それほどの威力の爆破のルーンを刻んでおいたぁ、多くの鉄鉱石をスリングで射出してぇ、遠間から皆さんを【援護射撃】【スナイパー】で支援させていただきますぅ
爆発の大きさぁ、射角ぅ、タイミングぅ、私の【視力】であればぁ、隙間を縫って打ち込むことはぁ、出来るはずですぅ


花剣・耀子
べりるちゃん(f12817)と一緒に

そうね。何も語らず曲げない類の輩だわ。
お祭りを潰されないうちに、終わりにしてしまいましょう。

べりるちゃんが直接殴りに行くのを見るのも久々だわ。
――先刻の様子を思うと、すこしだけ心配だけれども。
きみがそうしたいなら、止める理由もないわね。

近接戦を強要出来るなら、ありがたく利用させて貰うわ。
ねえ、ここまで傍に居たら、首も落としづらいでしょう。
……あたしもね、腹を立てているのよ。
正面から【剣刃一閃】。
お前の何もかもを斬り果たしてやるわ。

根をひとつひとつ刈っていって、痺れを切らした大物を釣るしかないわね。
ひとまずは、お疲れ様。
あとは、憂さ晴らしといきましょう。


星鏡・べりる
【耀子(f12822)と】

うわ~、こういうタイプか~
何しても所属してる邪神教団の事は喋らなさそうだね。
うーん、殺そっか!

私は【竜騰虎闘】で殴りかかるよ。
すんなり近づけるとは思わないし、ダメージは覚悟の上。
それでも、思いっきり顔面を殴ってやろうかと思うんだ。
ちょっと気が立ってるからね。

竜気を繋いだ後は、相手が距離を取っても、こっちに引き寄せて近接戦をしてもらう。
これだけ近いと鎌も振り回しにくそうだね。
ほら、よーこじゃなくてこっちも見なくちゃダメだよ。

近距離戦を続けると味方の迷惑になりそうだから、程々で竜気を外して離れるね。

根本的に解決してないけど、事件が未然に防げてよかったーって事にしよっか!


ゼルド・シュバイツァー
仕方ありませんね。
そちらが向かってくるのであれば焚き滅ぼすのみです。ご覚悟を。

素顔のままですが、予め機械鎧は装備しますね。

【戒解:烈日の型】を使用。
『陽焔の灯火』の真なる色、太陽の如き刀身を顕現させ
『陽剣の守護者』としてお相手させて頂きます。
邪神の肉片は灼熱の如き陽光の放射で焼き払い、
光学迷彩マントの【迷彩】と【忍び足】を活かし、陽炎の如く所在を掴ませずに立ち回ります。
もし被弾しそうな場合は【オーラ防御】と【カウンター】を併用して対処。
攻め時にて【暗殺】の要領で【2回攻撃】。X字に斬り捨てましょうか。

「誰にも危害を加えてない、ですか」
「人の心を抉るような集団を出しておいてどの口が言うのです?」



 魔術回路に灯った、青白い魔力が火花と散る。
 少女の細腕とは思えぬ膂力で振るわれる大鎌と、カチあった灰色の衝撃が爆ぜ。
 弾けるような音が屋上を震わせて響き。
 灰色の少年と邪神官の少女は、同時に距離を取った。
 衝撃の余波に。アスファルトが細かく割れ爆ぜ、轍を生み――。
 一歩、前へと歩む灰色。
「危害の有無も被害の有無も関係ない」
 屋上へと続く扉が、開け放たれ、錆が擦れて軋む音。
「そう、話し合いをするつもりもない」
 灰色よりも、もっと後ろに目線を向けた邪神官はどこか苦しげに笑う。
「えー、思ったより痛いしー……。お仲間めっちゃ来てるやんー……」
 茶化すように言葉を紡ぐと、彼女は細く嘆息し。
 灰色の背後――、猟兵達に向かって大鎌を構え直す。
「えー、ウチこれが全員捌くん?」
「神とやらを下ろすつもりなら、おれを殺してからにしろ。そうしないと、腕の動く限りきみの邪魔をし続けるだろうからね」
 灰色の述べる言葉には、嘘がない。
 響きで邪神官にもそれは理解ができてしまう。
 だからこそ、彼女は苦笑した。
「それは、参るわぁ」
 背に立つ儀式像へ一瞬だけ視線を馳せる。
 像より溢れるどこか温かい力が、大鎌を通して自らに流れ込んでいる事が、解る。
 ああ、神様! 助けてくれるんやね!
 恍惚とした呟き。
瞬間。
 鎌の持ち手がずるりと蕩け、神官の腕を飲み込み、蔦植物の如く絡みつく。
 一心同体、と言えば聞こえは良いだろう。
 楽しげに笑った彼女は、床へと鎌を叩き込む形で大きく振るう。
 宙を割るその軌道は、風を生み、歪な魔力を宿して刃と昇華する。
 それは扉前の猟兵達へと一直線に加速し――。

「……『まだ』とは言っていたけど、正に今から危害を加えようとする所だなんてね」
 そして、その後は『神様』とやらを降ろして、更に面倒事を起こすのだろうけど。
 揺れ靡く、長く靭やかな黒髪。
「では後の憂いを晴らす為に、今すぐ神様ごと消してしまおう」
 掌に収まる程の、小さな銃を構え。赤い瞳子を閉じて人懐こく笑んだ輪は、愚直に駆ける風刃を小さく横に跳ねるだけで避け。
「あなたの神は随分と傲慢だね。……まあ、傲慢じゃない神はいないのかもしれないが」
 その横、風刃の先。
 両腕をガードにあげて踏み込んだ、セツナは刃を直接受け止める。
 腕が抉れ、裂かれ、おや、これは痛い、なんて漏らすけれど。
 仕方があるまい。一度は防御しないと、使えないコードだ。
「神の御許に赴くことに躊躇いがないのは私も同じだが――、それは私の神では無いのでね」
 セツナが脳内でトレースするは、邪神官。――彼女の人格。
「抗わせて貰うよ、――ウチの神様を舐められる訳にもいかへんからねぇ」
 人格を『借用』したセツナは猛然と床を蹴り上げて。
 宵と名付けた鎌を、宙を斬るように大きく振るうと、風が渦巻き刃と化す。
 そう。たった今セツナと放った一撃と、邪神官が先程放った風刃は、同じもの。
 重ねる形で、輪の銃が光線を吐き。
 風の刃は、一瞬で邪神官の腕を裂き。
 自らの技に喰らわれながら邪神官は、続き放たれた光線を転がり避けようとする。
 舌打ち、一つ。
「あーもー! 最悪やわあんたら! あんたらが邪魔せえへんのやったらウチかてこんな事せえへんわ!」
「誰にも危害を加えてない、ですか」
 戦いの前に鎧を身に付けなおしたゼルドは、紫焔色の刃を太陽の如く煌々と輝かせて。
「人の心を抉るような集団を出しておいてどの口が言うのです?」
「個人的な話をするなら。君の崇める神様とやらを、呼び寄せる手段も含めて。個人的にとても気に食わないのさ」
 輪が人間をあまり信じられない事を加味したとしても。彼女の行動はとても人道的とは言えぬ、と輪は思う。
 もう一度、銃を構え直し。
 彼女を見据えた瞳が赤く揺れる。
「気に食わない事は、叩き潰す事にしているんだ。――そんな訳で。私感で邪魔をさせて貰おう、思い切りね」
「――ご覚悟を!」
 輪とゼルドに声音が重なる。

 邪神官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、次の光線を横っ飛びで何とか避けると。
 一気に踏み込んで、突き出されたゼルドの陽光と輝く刃に身を焼かれ。
 たまらず転がった先。
 たなびき揺れる胡桃色の跳ね毛と、黒曜の髪の影が自らに落ちてくる様を見た。
 それは、二人の少女の影である。
「あ~、こういうタイプって、何しても所属してる邪神教団の事は喋らないよねー」
「そうね。何も語らず曲げない類の輩だわ」
 本当にただの雑談のように、言葉を交わしながら。
 べりるが大振りに拳を叩き込むと、とっさにステップを踏んだ邪神官の頬を掠め。
 そのままアスファルト床を撃ち込んだべりるの拳により、罅割れ爆ぜる。
「ひゃー……、危ないやん」
「え? 何? 人の言葉話してる? 私嫌な事をする人の言葉、聞かない事にしてるんだ~」
 翠色の瞳が狂気に揺らめき。
 首を傾いだベリルが、笑う。
「うーん、わかんないし。殺そっか!」
 反射的に、と言うよりは本能的に距離を取ろうとした邪神官。
 その身体が、ぐいと『引き寄せられた』。
「しま……っ!?」
 ――拳の命中した対象を爆破し、互いの意思で引き寄せる事ができる竜気で繋ぐ。
 べりるの竜気に繋がれた邪神官は、べりるの『意志』で龍気に引き寄せられ。
「ねえ、ここまで傍に居たら、そのご自慢の大きな鎌も首を落としづらいでしょう?」
 剣筋が奔る。耀子の残骸剣は、神官の足の腱を裂き。
 べしゃりと倒れ込む神官。
「お前……ッ!」
「だーめー、ほら、よーこじゃなくてこっちも見なくちゃダメだよー」
 にっこり笑ったべりるが、神官の頬を、腹を、胸を。
 馬乗りで、殴る、殴る、殴る。
 耀子は小さく嘆息して、べりるの様子に眉を寄せる。
 ――彼女が直接殴りに行くのを見るのは、久々だ。
 先刻の様子を思うと、すこしだけ心配であったが、この分なら大丈夫だろうか。
 否、あまり大丈夫そうでもないけれど。
 べりるが危なくない上で、べりるがそうしたいならば。止める理由は、耀子には無い。
 しかし。
「……あたしもね、腹を立てているのよ」
 耀子が、ぽつりと呟く。
 脳裏に浮かぶ腕章。
「お前の何もかもを斬り果たしてやりたいくらい」
 身を低く低く、耀子は構え――、その瞬間瞳を見開た。
 拳を固めたままのべりるの腕を無理やり引いて、手を繋ぐ。
「なあに、よーこ! 邪魔しないで!」
「その竜気を今すぐ、外しなさい」
 半ばべりるを引きずるように。
 ぐったりとする邪神官から、べりるを引き剥がした耀子は、少しでも距離をとらんと地を蹴り。
 びくびくと跳ねた邪神官の身体が、大鎌の柄より伸びた触手に飲み込まれる様を見た。
 その折れた腕を、切れた腱を、圧し曲がった身体を黒く黒く染め上げ、人の形に保つ。
「ひゃ、あ、は、はははっ、ありがと、ありがと神様ァ、力、嬉しい!」
 笑い声と共に。
 立ち上がった神官より、爆ぜ伸びた触手が。床を、壁を、フェンスを、へし曲げ、叩き折り、爆ぜ割る。
 尤も近くにいたべりるが、一番最初にその餌食と為り。
 腕に、足に、黒い棘のような触手が、杭と化して彼女を貫く。
「っ!」
 耀子は刀で杭を斬り落とすと。
 しっかりと手を繋いだ、べりるを抱き寄せて。
 少女達に迫る触手が――。

「もう少しぃ、下がってくださぁーいぃ……、できれば耳もぉ、塞いでぇー」
 どこかのんびりした声掛け。
 重ねて鼓膜を震わせる爆音が、少女達に伸びてきていた触手を爆ぜ飛ばす。
「ぎっ!」
 爆発の勢いに巻き込まれ。
 大鎌より伸びた黒が絡みつき、回復というよりは補強された邪神官が床を転がった。
 更に紐状の投石器をぐうるり回すと、石が真直に跳び。
 再び響く破砕音。
 次に投擲する爆破のルーンを刻まれた石をスリングに巻きつけると、ぐうるり一回転。
 その視力と確かな技術でリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)は的確に、的確に。
 邪神官を、儀式像を爆ぜさせる。
 彼女は、死者の姿を。……既に亡くなった人の姿を模して、その者の意志を冒涜した。
 それは、亡くなった者にも、後を生きる者にも不躾な行いだ。
 ――リュシカは、気分を害されていた、といって間違いは無いのだろう。
「――……私に自由に生きろとぉ、言ってくださったぁ、元の世界のお爺様を騙ろうとすることはぁ、許されることではぁ、ありませんよぉ」
 このルーンを刻んだ石が商品だとしても。
 その分損をしたとしても。
 懐が痛いけれど、ええ、懐は痛いけれど。あの敵をここで止めなければ行けないと、リュシカは確信していた。
 何とか立ち上がった邪神官は、爆破の勢いを鎌と触手で叩き落としながら首を傾ぐ。
「……死んだ後も、また会えて嬉しかったんちゃうの? 神様の遣いやで、なぁ?」
 それは本気で不思議だ、と思っている響きだ。
 ああ、でも、ウチも今。神様の遣いに近づいとるんかなぁ。
 嬉しそうに、恋に溺れる少女のように。
 着々と化物と成りだした体に、邪神官は恍惚と笑んだ。
「そんな偽物なんて、気分が悪いだけだ。……君にはわからないんだろうけどね?」
 厄介なリュシカの投石を止めようと、鎌を振るった邪神官の風刃を受け止める鏡。
 輪の掌の上の玻璃鏡が風刃を喰らい、鎌をガードに挙げた邪神官のその身を逆に裂いた。
 ゆらり、陽炎のように揺れた空気。
 いいや。
 そこには光学迷彩マントにより、一気に接近したゼルドがいる。
「話し合いが通じぬのならば、焚き滅ぼすのみです!」
 燃える太陽の刃を、まとわりつく触手ごと叩き斬り。
 次いで更に踏み込めば、重心を落として刃を逆袈裟に振るい上げる。
 とっさに邪神官があげた鎌の柄と、軋む音を立てて食い込み噛み合う刃。
 ジリジリと焼ける熱に奥歯を噛んだ神官が、爆ぜるようにその身を纏う黒を触手と変え。
 ゼルドへと殺到する!
 そこへ飛び込んできたのは、セツナだ。
「――神の為に戦うというのは、とても尊いことなのかもしれないが。それはあなたが心から望んでしていることなのかな?」
 触手をオーラでガードしながら、刃で切り捨てるゼルドの横で。
 彼女の人格をトレースしたセツナは、ゼルドの捌ききれなかった触手を鎌で応戦しながら、黒瞳を揺らす。
 ――意思を持たず、教えに従うのみというのは生きていると言えるのだろうか。
「……私には、わからないよ」
 トレースをした人格も、答えてはくれない。

 爆ぜる音、剣戟の音より少し遠巻き。
 ケープコートに、マフラー揺らし。
 おいでと蛇竜と騎士を呼び出した、イアは笑う邪神官を真直に見据えた。
「かみさま、なんているかしら? おや、でも。そう信じるなら、在るだろな」
 彼女が、そう願えるなら、さいわいだもの。
 揺れる藍色は、空の色と彼女の黒を捉え。
 ああ、そうな。
 それでも、それでも。
「……周りを喰らうのでは、よくないよう」
 何も知ら人々は、先程からの戦闘音を爆竹や花火の音とでも思っているのであろう。
 遠くまで楽しげな喧騒が絶える事は無く。
 人々の営みの音。
 あの像達が、彼女に力を与えて居るのならば。
「お好きでない像は壊してしまおうな。たのんだよう、お仲間を守ってあげてね」
 騎士と蛇竜は低く唸り、吠え。
 爆ぜた触手より、イアを守るように騎士がその盾で叩き落とす。
「――朽ちるまできっと、戦ってね」
 イアは、呟く。
 イアがいま傷を受けると、彼らはたちまち消えてしまう。
 少し遠巻き。魔力を注ぎながら、イアは空に思う。
「――あなたの信仰はかみさまに何を、望むのかしら」
 それを是とも非とも言わないけども。
 例え願えど、ここで潰える望みだが。
「……神頼みでは、分が悪いものねえ」
 蛇竜が儀式像をなぎ倒し。イアはもうすこうしばかり、後ろに下がる。

 儀式像を蹴り倒したイルが、ゆるく口元で笑む。
「しっかし、一途なもんだなァ、神官さんよ」
「……確かに、彼女にも大事なものがあるようだな」
 それが、UDCの影響であれ、少女の本意であれ。
 イルのその背を護るように立っていた。小さな二足歩行の黒猫――ニコライが、叩き込まれる黒い触手を弾で威嚇し。
 自らに引きつけ、駆ける、駆ける。
 速度で翻弄しながら、今回のバディ。イルの動きを横目で追う。
「おお、ニコライの射撃かっこいいなぁ、ていうか、はっやいな!」
 敵の攻撃を引きつけて貰ったイルは。バディたるニコライを褒めつつ、オレも働かなきゃな、と魔導書を開き。
 49ページ目。――燐寸箱に描かれた大狼に睨みつけられる。
 つんと硫黄の燃えるような匂い。銀朱色の小さな狼がイルの周りに19匹生まれ――。
「さ、行こうぜ。小さなマッチの火狼でも、集まりゃ大火事だ、燃やし尽くしちまえ!」
 一気に散開した炎の狼達は、残った儀式像に一斉に襲いかかる。
「あんまし壊さんといてほしいなァ、神様が来られへんようになるやん」
「おー、神さまってそんなに大事? ――神さまのためなら死んでも惜しくない感じか?」
「もちろん、やろ!」
 イルを邪魔者、と判断したのであろう。
 正面からつっこんでくる邪神官。鎌をすくい上げるように構え、降り注ぐ触手が雨のように地を割る。
 冷えた瞳の奥に、揺れる熱。
 イルは笑った。
「いいなァ……そういうの、欲しくなっちまう」
 ああ、そういうの、欲しいな、欲しくなっちまうな。
「ちょっと懐かしい思いもさせてもらったし、遊んでくれよ」
 儀式像を燻らせていた狼がイルの元へと駆け集まり。
 邪神官の少女が鎌を――。
「よぉ。よそ見をしている場合か?」
 一瞬の移動。
 ニコライがその小さな身で身軽に邪神官の肩へと上り、座ったままこめかみに蒼い炉を持つ拳銃を押し付けていた。
「お前の大切な神さまは、ただの幻だ」
 ぱん、と響く乾いた音。
 至近距離から放たれた弾は、今にも鎌を振りかざさんとしていた少女の体をまろばせて。
「すこし、オレにもくれよ」
 その体へと銀朱色の狼が、殺到する!

「あ、あっ」
 燃える、燃える。
 体が燃える。
 もうすこしで、もうすこしで見えそうなのに。
 かみさま、かみさまが。
 ぞる、ぞる、ぞる。
 大鎌より伸びる黒い触手が彼女を咀嚼するように。
 なんとか彼女を保たせようとするかのように絡みつく。
 触手がめちゃくちゃに荒れ狂い、燃え生える。
 まるで地獄の植物のように。
「えーいぃ」
 ダメ押し、と。リュシカがルーン石を叩き込み――。
「やられっぱなしっていうのも、いやなんだよねえ~」
「ええ、全くだわ」
 荒れ狂う触手を、弾みあがりながら旋転をして交わしたべりるが、勢いそのまま拳を叩き込み。
 破砕され尚伸びようとする触手を、耀子とゼルドが交わす形で斬り結ぶ。
 そんな触手の合間。
 像を足蹴に、床を蹴り。
 まるで弾き飛ばされたピンボールのように、避け、跳ね回る灰色。
「――壊鍵、『撃殺式』起動」
 余剰魔力が牙の如く肘より噴出し、青白く燃える。
 両腕を覆い這う魔術回路が青白く煌めく。
 一瞬のシミュレーション。
 前後左右黒く伸びる触手は、今にも猟犬達を拘束し貫かんと蠢いている。
 隙間を縫い、間を縫い――。
「守ってあげて、ね」
 イアの声音。彼の騎士が儀式像を壊し叩き込み。
 道は開けた。
 ――これが戦闘能力を純粋に追求して作られた、魔剣六番器としての。
 イーヴィル・アーム・ナンバーシックスの真の姿。
「壊れろ」
 魔力が、衝撃として爆ぜる。
 その拳は確実に、正確に、まっすぐに叩き込まれ。
 ――邪神官の少女の頭部を、破壊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●はいれた
「……祈りを」
 セツナが瞳を閉じ、神に祈る。
 彼女が、せめて――。
「……いや、様子がおかしいよ。――皆、下がって!」
 黒髪を揺らした輪が皆を護るように腕を広げて、鏡を掲げる。

 ぶるん、と一度体が大きく跳ねると、首の無い彼女が、立ち上がった。

「おいおい。マジかよ、ガッツありすぎだろー?」
 イルが魔術書を手に、立ち上がる少女を見やり。
 無言でニコライは、弾を3発叩き込む。
 びく、びく、びく、と3度跳ねた体。
 手に握りしめた大鎌が黒く解け、神官であった少女を飲み込み――。

「はいれた、はいれた、はいれた、はいれた! はいれた! はいれた!」

 影の如く、真っ黒な少女が鎌を構えて、叫んだ。

「はいれた、はいれた、はいれた、はいれた! はいれた! はいれた!」

 壊れて散乱した儀式像。
 割れたアスファルト。
 その真中で影の少女は、同じ言葉を叫び続け。
 ぴたり、と止まった。

「腹が減った」

 そして猟兵達を睨めつけ――。
 構える、大鎌。

「――あれが、あの少女の熱望していた神様って訳か?」
「……そんなの、ずるいなァ」
 警戒を解かず、構えたまま。ニコライが呟き。
 イルは、瞳を揺らす。
 そんなの、いいなァ。
 欲しいものを、ちゃあんと手に入れてしまうなんて。
サン・ダイヤモンド
【森】
ただの人間?敵?
(最近まで森を出る事が無かった世間知らずには意外で
しかし周囲の様子からアレを攻撃すればいい事は理解した)

攻撃は「全力魔法」
エレメンタルロッドに風を集め敵を吹き飛ばす
けど、今一覚悟が決まらない
あの子の言う事が理解できない

危ない時は「地形を利用」し「逃げ足」を活かして回避する

もし追い詰められるなら――、
それでも僕は信じてる

ブラッド!

ブラッドがいてくれる
僕は大丈夫

だから僕は全幅の信頼と愛を乗せて、あなたの名を歌う
甘く、切なく、
シンフォニック・キュア
強く、強く、あなたに加護を

心も、身体も、僕の全てはブラッドのもの

牙を剥き出し叫ぶ
「邪神?そんなものに、ブラッドが負けるはずがない!」


ブラッド・ブラック
【森】
失せ物探しと追跡で急ぎサンと合流
お前が何処にいるかは大体わかる
人混みや通り難い場所は液状化しどんな場所も素早く駆け抜ける

サンが敵と交戦しているなら
過去に喰らったUDCと融合し速やかに人型へ
巨大な腕と自身の腕の内へサンを抱き「かばう」
「サン、此奴は敵だな?」
庇いにより生じた【自身の血液】で『腕』を目覚めさせ
敵へ「捨て身の一撃」を

……お前の歌声に包まれて捨て身とは名ばかりだ
俺だけの――、

「相手が悪かったな、お嬢さん」

さあ、久しぶりの食事といこうか
どろどろとタール滴る舌に刻まれた刻印(ドライバー)を見せつけて
禍々しく巨大な腕で敵を捕食する
サンを傷付ける者は誰であろうと容赦しない

(アドリブ歓迎)



 荒れ狂う嵐の如く。

 少女であったものが、笑いながらその身を人とは思えぬほどに捻った。
「ブラッド、……あれは人間? 敵?」
「彼奴は敵だ」
 ぎゅっと引き絞られた身体は、バネの如く。
 大鎌が大きく振るわれ、サンを抱えて飛んだブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)が割れた儀式像を蹴って、跳ね避ける。
「そっか、じゃあ倒さなきゃね!」
「――ああ」
 無邪気に笑うサンを抱えたまま、ブラッドは屋上の入口。天井の上へと降り立ち。
「さあ、はじめようブラッド!」
 降ろされたサンは耳を二度はためかせて。ふわふわの太い尾を、今から遊んでもらう子犬みたいに揺らす。
 やるべき事なんて、解っている。
 ブラッドがいてくれるならば、自分の出来る事を全力ですれば良いだけだと、サンは知っている。
「ああ、任せた」
 ブラッドは表情の変わらぬ鬼めいた貌を俯けると、一気に跳ねた。
 タールの腕が沸騰する湯のように、ぼこぼこと膨れ上がる。
 一度液体と化したソレが、次に形どったのは巨大な腕だ。
 瞳の無い眼孔に灯った光が、滅茶苦茶に大鎌を振り回す影の少女を捕らえ。
 落下の勢い、大きな身体、踏み込みに勢い。
 全てまぜこぜに、腕を叩き込む!
 しかし、叩き込まれた腕にぐにゃりと身体を歪めた少女は。
「あは、あはは、はははは、おいしくない、おいしくない、美味しくない!」
 尚も笑いわめきながら、滅茶苦茶に大鎌を振るう。
 ブラッドの身を刳り、裂き、飲み込む大鎌。

 でもブラッドはそんな事、気に留めた様子は無い。
 ブラッドはそんな事じゃあ、倒れたりしないもの。
 邪神なんて――そんなものに、ブラッドが負けるはずは無いのだから!
 サンは彼への気持ちを、甘く、甘く、切なく、切なく。
 歌に乗せて。
 信頼と、愛を乗せた、あなた――ブラッドの名を歌う。
 この、心も、身体も、僕の全てはブラッドのもの!

 大鎌に裂かれる身体に、甘い歌は癒しの加護を施し。
 ブラッドはぎゅう、とタールの身体で大鎌を締め付けた。
 ――サンの歌に包まれた捨て身の攻撃など、捨て身であるわけもない。
 彼を傷つけようとする者は、誰であろうと容赦する訳にもいかない。
「――相手が悪かったな、お嬢さん」
 れ、とぼってりとしたタールの舌を見せつけるブラッド。
 黒が滴る舌に、刻まれた刻印。
 ばき、ぼき、と響く鈍い音。
 膨れ上がった腕は、内部から大鎌を喰らい――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
クレム(f03413)と

乱された呼吸はそう容易く整う事もなく
狭窄した視野のままに前線へ出る
だって、生きているから
戦えば、分かるから
この燃えるような熱がおれが生きている証なんだ
ほら、やっぱり、生きている
繰り返し繰り返し、自らに言い聞かせるように

隙が多くなっていても気付けないまま
諌める声をどこか遠く聞いて
それでも前へ出たがるのは生きてる実感が得たいから
鈍い痛覚が痛みを脳に訴えるたび、ここにいると知れるから

突如割り込まれた背に目を瞠り
グリップで殴られた額が熱を持つ

分かってる、うるさいな
落ちた血は炎に変えて
我に返っては舌打ちひとつ
今はその目に甘えてやる
背はクレムに託して


クレム・クラウベル
ルト(f00036)と

ルト、……ルト!
何度呼びかけても返答はない
ああ、全く世話の焼ける……!

声で止まらぬと判断したら切り替えは素早く
先制攻撃狙い足元にでも一発銃弾を
そのまま援護射撃に入るも
当人に躱す気がないのでは防げるものも限られる

まるで相手の動きを見ていない
我武者羅なだけの特攻
ついには見かねて
負傷覚悟で振りかぶられた鎌の前に身を滑り込ませる
ナイフで鎌を押し留めつつ
グリップでルトの額を一撃

死にたがりなら他所でやれ
ちゃんと前を見て、集中しろ
そんなに無駄に傷を重ねていたら押し負ける
何よりそんな姿を見るのは好きじゃない

煩く言われたくないならしゃんとしろ
背なら見ておいてやるから
……一人で先走るな、ルト



「……ルト、――ルト!」
 クレムの呼びかけに、イェルクロルトは返事すらしない。
 影の少女がタールに巻かれ、その身より黒の触手を跳ねさせる中に飛び込んで行くイェルクロルト。

 自らの呼吸がうるさい。
 親指の先を、血が溢れる程に自ら噛み締め。
 落ちる血液は、白き穢れの炎と化す。

 触手が燃え、像が燃え。
 燃える、爆ぜる、熱。
 肩を、触手が杭の如く貫く。
 痛み、熱。
 イェルクロルトは抉られる傷口すら白く燃やし、虚ろな琥珀色の奥を揺らめかせる。
 痛い、痛い、熱い。
 これだけは、わかる。
 痛いから、おれは今、生きている。
 痛いから、戦えば、それがわかる。
 この燃えるような熱は、おれが生きている証なんだ。

 ――ルト!

 どこかで、声が聞こえた気がする。
 痛みが減る。
 誰かが、自らに降りかかる触手を撃ち壊しているのだ。

 それでも繰り返し、繰り返し。
 イェルクロルトは、自らに言い聞かせるように。
 鈍い痛覚が痛みを脳に訴えるたび、ここにいると知れるから。
 おれは、ここにいる。
 触手を燃やし、像を燃やし。
 増える傷は、白い炎をさらに燃え上がらせる。

 彼を貫く触手を撃ち抜き、彼から逸らすも。
 本人に躱す気が無いのならば、防げるものも限られてしまう。
 身を捩ってなんとかタールから解放された影の少女が、再び身体を捩る姿が見えた。
 その先には、イェルクロルト。
「ああ、もう、クソッ!」
 舌打ち一つ。
 クレムは駆け出す。
 クレムは人を上手に庇う方法なんて、知りはしない。
 だからこそ。
 握ったナイフで鎌の軌道を反らし――。
「……ッッ!」
 そのまま庇おうとしたが、クレムは人を上手に庇う方法なんて、知りはしない。
 勢いそのまま。
 イェルクロルトに体当たりするように引き倒すと、避け損った背を鎌が抉る。
 追撃を躱すが為。
 彼を抱き寄せて、床を転がり。
「いい加減に、しろッ!!」
 クレムはイェルクロルトの額に、銃のグリップを叩き込んだ。
 痛み。
 犬歯を剥き出して、イェルクロルトは額を抑え――。
「立て! 死にたがりなら他所でやれ。ちゃんと前を見て、集中しろ!」
 クレムに引き倒れたというのに、引きずるように立たされたイェルクロルトは、少女から距離を取り。
 幸い、周りには猟兵達も多い。
 彼女が追いかけてくる気配は無い。
「そんなに無駄に傷を重ねていたら押し負ける、……何よりそんな姿を見るのは好きじゃない」
 ――一人で先走るな、と。
 クレムの翠瞳には、真剣な色。
 そして。
 これ以上煩く言われたくないならしゃんとしろ、と重ねられた小言にイェルクロルトは、酷く気怠げに舌打ち一つ。
「分かってる、うるさいな」
 次にイェルクロルトが燃やす炎は、ちゃんと敵を見据えたものだ。
 ――今はその目に甘えてやる。
 こいつの……クレムの目は、ちゃんと『おれ』を見ているから。

 喉を鳴らしてイェルクロルトは、前を向き直る。
 今度こそ、倒すべきモノを見据えて。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

無供華・リア
なんで邪魔をするのか、ですか…
そうですね、さしたる意味は御座いません
敢えて言うなら…わたくしは生まれたその瞬間から猟兵でしたので
猟兵であること、貴女がたを否定し続ける事がわたくしが此処に在る理由なのです

己の信じる神様の為に命を棄てる覚悟のある貴女と
死なない為に戦うわたくしたち
どちらが強いかしら?

「オペラツィオン・マカブル」で貴方の攻撃を
信念を
全て受け止めて差し上げます
さあ、力比べしましょう

意外とこういう真っ向からのぶつかり合い、嫌いではないのです
え、お相手の攻撃を利用する戦法は真っ向勝負ではないって?
……うふふ、さあどうかしら


コーディリア・アレキサンダ
神官、ね
昔神様に使えていた身だけれど、こういうのは流石によくわからないな
他人の犠牲を強いる悪神に、碌なものがいるとは思わないけれど

必要に応じて、その不快な邪神の像を破壊するよ
加護が与えられると厄介――というのもあるけど、純粋に見るに堪えない
破壊が困難そうならすぐに切り替えはするけれど……

『壊し、破るもの』 破壊の黒鳥から力を借りる
邪神の像を、敵の武器を、敵自身を、どれを攻撃するにも丁度いいはずだよ
狙いを付ければあとは全てそこまで飛んでいくからね


次のキミが来たら、次のキミを殺すだけ
キミの信仰が揺るがないように、ボクの覚悟も揺るがない
この間違いを断つためなら、ボクは悪魔で構わないよ



 盲信、狂信、生贄。
 自らの身に取り付き、自らが化物に成った事を喜ぶ少女。
 笑い、喚き、荒れ狂うアレを、神様と呼ぶのならば。
「――昔神様に使えていた身ではあるけれど、……こういうのは流石によくわからないな」
 コーディリアは、再び召喚された儀式像を睨めつけ嘆息する。
 尤も。
 他人の犠牲を強いる悪神に、碌なものがいるなんて思えないけれど。
 アレに力をこの儀式像が与えているのならば――。
 いいや、コーディリアにはただ、それが見るに堪えぬだけだ。
 魔女たる大きな帽子の鍔をきゅ、と引き絞り。
 自らの心の臓に伸びる魔術回路に、巡る魔力を感じる。

 権能選択、限定状態での顕現。
 ――承諾確認。
 我身に宿る悪魔、破壊の黒鳥。

「――撃ち落としなさい」
 呪詛を宿す、弾丸が百と五つ。
 コーディリアを起点に流星の如く降り注ぐ弾丸は、立ち並ぶ儀式像を蜂の巣と化す。

「やめ、ろ!」
 力の供給源を破壊されている事に、一瞬で気がついた影の少女はコーディリアを睨めつけ。
 ぐにゃりと身体を揺らして大鎌を振り上げた彼女の前に、割り込む影。
 銀糸の髪に紫水晶の瞳。抱きしめる人形と同じ色。
 それは黒衣のドレスを揺らし、うっそりと笑みを浮かべる、リアの姿だ。
「ああ、じゃま、じゃま、じゃま! おまえからこわす!」
 笑う事を、喚く事を止めれば。
 少女の声とは思えぬ、嗄れた低い男の声。
 頭を吹き飛ばされた彼女の中には、もう彼女は居ないのであろう。
 その上で、リアは首を傾ぎ。ぎゅう、と人形のジェイドを抱き寄せた。
「ええ、お邪魔いたします。――邪魔をする事には、そうですね、さしたる意味は御座いませんけれど」
 自然な動きで、お茶をしながら話すみたいに。
 首を傾いだリアを、大鎌が薙ぎ飛ばす。
「敢えて言うなら……、わたくしは生まれたその瞬間から猟兵でしたので。――猟兵であること、貴女がたを否定し続ける事がわたくしが此処に在る理由なのです」
 否。
 彼女は、そのまま立っていた。
 ――オペラツィオン・マカブル。
 彼女の人形の『ジェイド』が、大鎌に叩き込まれた衝撃を、そっくりそのまま影の少女へと叩き込む。

「己の信じる神様の為に、命を棄てる覚悟のある貴女と死なない為に戦うわたくしたち――どちらが強いかしら?」
 こういう真っ向からのぶつかり合い、嫌いでは無いのですよ、なんてリアは微笑んで。
「庇って貰って何だけれど、……反射攻撃って真っ向勝負なのかな?」
 受け身を取る事もできず転がった少女へ、次いで爆ぜたのは呪詛の弾丸。
 首を傾ぐコーディリアに、リアは肩を竦めて。
「……うふふ、さあどうかしら」
 なんて、また笑った。
「さあ、まだ倒れては無いよね。――次のキミが来たら、次のキミを殺すだけ。キミ達の信仰が揺るがないように、ボクの覚悟も揺るがない」
 ボク達は、キミ達を倒す。
 骸の海に捨てられた過去が、滲み出した化物を信望するキミ達。
「――この間違いを断つためなら、ボクは悪魔で構わないよ」
 赤い瞳の奥に、暗い暗い色を揺らして。
 コーディリアは、再び、自らの宿す悪魔に力を強請る。
 
 ――呪詛を宿す、弾丸は百と五つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
まだ、ね。
そう、まだ、危害を加えてない。
でもこれから先は、ちがうでしょう?

君の神さまを、壊します
星花弁の攻撃対象を邪神官と儀式像へ
召喚されてもその端から狙い打つ
大鎌は氷の全力魔法で凍らせて、一時的にでも斬撃を封じる
妨害しながら隙を伺い、苛立たせてみよう

君は、神さまに見捨てられたよ
だってこれから、海に還るんだもの
もう神さまに会うことは、ない。
そんな風に誘って、おびき寄せて、攻撃が此方へ向くように
大振りの武器なら隙も見えやすい
短刀でいなして貴石の花弁を叩き付ける
神さまなんて、呼ばせない
あれは、だめ。たくさんの人が、死んでしまう
だからさよなら。
どちらが正しい、とかじゃなくて
強い方が勝つだけ。


ルルチェリア・グレイブキーパー
彼女がこの事件の張本人ね。二度とおかしな真似が出来ないようにここで倒すわ!

サモニング・ガイストで古代の戦士の霊を召喚、前で敵の神官と戦わせるわ。 
私は後ろから技能の呪詛で敵の妨害をしたり、近くに有る邪神の儀式像を破壊したりするわ。
敵が私を攻撃しに来たら技能の衝撃波で古代の戦士の方へ吹き飛ばして、そのまま古代の戦士の槍でブスッと刺せないかしら?
無理なら敵からの攻撃は古代の戦士に防いで貰うわ

私が神や仏に祈るのは墓参りの時ぐらいなの。
倒れる前に貴女の宗派の作法を教えて貰えるかしら?
邪教信者の墓参りは初めてなのよ。

アドリブ歓迎!


黒羽・唯
神様?
そう、あなたにも神様がいるんだ
あなたの神様ってどんな姿なのかなあ
ちょっと見てみたいかも

…でも、駄目
「あなた、オブリビオンなんだよね?」
私ね、オブリビオン以外は殺しちゃ駄目って神様と約束してるの
でもあなたはオブリビオンで、私の敵
「だから私が、天国に連れていってあげる」
死ぬのが怖くないのなら、最後の最期まで楽しませてね

攻撃は【シーブズ・ギャンビット】
可能なら【傷口をえぐる】で追撃
終始無邪気な笑みを浮かべながら、舞うように、楽しげに


ジェイド・カレットジャンブル
恐れを抱かずただ邪魔者を排除するためだけに動く、やっかいな相手ですね。それにあの大鎌、まともに受けるのは危険そうです。とは言え先程のオブリビオンと違って遠慮がいらない分やりやすいでしょうか。

大鎌の攻撃範囲を【見切り】、攻撃範囲に入らないよう立ち回りつつエレメンタル・エッジで攻撃しましょう。様々な属性の【全力魔法】を織り交ぜた【属性攻撃】で敵を翻弄します。敵が大振りの構えをとったら【先制攻撃】で鎌の柄を狙い、姿勢を崩したところを【2回攻撃】で追撃します。

多くの人が楽しみにしている学園祭。そんな場所で邪神を呼び出させるわけにはいきません。ここで教団の野望は打ち砕かせてもらいます。



 叩き込まれる弾丸に、跳ねる影の少女。
 声にならぬ声。
 嗄れた音を漏らすオブリビオン。
 ユハナは、もう彼女の中に居ないかもしれない彼女に尋ねた。
「……どうみても神様には見えないけれど、それが君の神様?」
 小首を傾ける彼は、深い海の瞳を細めて眉を寄せる。
 それは、あまりに神様には見えない姿だったから。
 あれは、神様なんかではなかったから。
「別のものに取り憑かれちゃったのかな、それとも、もともと神様なんていなかったのかな?」
 敵の変わりに相槌を打った唯は、ぱちぱちと赤い瞳を瞬かせて。
 少しだけ残念そうな声を漏らした。
 彼女にも神様がいるなら、見てみたかったのになあ、なんて。

 影の少女を構成する影が爆ぜ弾け、触手の鞭と化せば弾を薙ぎ落とし。
 立ち上がった、とは言えぬ姿で。
 ぞうろり。
 大きな鎌だったモノの刃を、ユハナへと駆けさせる。
 衝撃に耐えるようにユハナは片足を後ろへと引き、腰に重心を据えると銀鉤を掲げて。
 ぎ、と刃と刃が重なった瞬間。
 星の無い夜のように、冷気が爆ぜた。
 一瞬だけ刃が凍り。
 ユハナは、地を軽く蹴ってバックステップを踏む。

「君は、神さまに見捨てられたよ。だってこれから、海に還るんだもの」
 神様ですら無いものに、喰らわれた哀れな彼女。
 挑発するような響きのユハナの声音。
 例え、それが本当に彼女の神様だったとしても。
 彼女は体よく利用されてしまっただけに、ユハナには見えていた。
「君がもう神さまに会うことは、ない」
 降り注ぐ、煌く貴石の花弁が影に落ちれば、じゅう、と白煙を上げて焼き焦げるように。
 ユハナが紡ぐ言葉は、敵が彼に意識を向けてくれるように。
 あれは、神様なんかでは無い。
 神様なんて、呼ばせない。
 あれは、沢山の人が死んでしまうものだから。
 ――どちらが正しい訳でも無いだろう、彼女は最後まで信じていた。
 あんなものでも、邪神官の彼女は救われたのかもしれない。
 だから、どちらが正しいなんて、無い。
 ――強い方が勝つだけなのだ。
 ちり、ちり、と貴石の花弁が散り、落ちる。
「そろそろ、さよならだね」
 彼女の意識が、ユハナに向いているならば。

 その隙を狙って。
 繊月剣を握ったジェイドが、壊れた儀式像の破片を跳び継いで大きく踏み込んだ。
 身を大きく捻り、膂力を振り絞るが如く筋肉を軋ませる。
「――刃に宿り、理を刻め!」
 爆ぜる炎。
 円を描く形で振りかざされた刃が火花を散らして、影を斬り潰す。
「おま、え!」
 柄が震え。
 伸び爆ぜる触手が、剣を叩き込んだジェイドの足を捉えんと――。
「二度とおかしな真似が出来ないように、倒れて貰うわ!」
 ルルチェリアの召喚した、今はこの刻を生きぬ戦士の霊。
 槍を掲げた彼は、その触手を押しつぶすように一息に突進した。
「ぐ、う、う……」
 貫かれた敵の身体が、槍の半ばでぶらりと揺れる。
 次の瞬間。
 影の少女は、自らを貫いた戦士の霊を喰らう様に。
 触手を萌やし伸ばし、殺到させた。
 その間にバックステップを踏んで、体勢を整えるジェイド。
「――多くの人が楽しんでいる学園祭に、あなたのような人をのさばる事は許せません」
 ジェイドの眼鏡の奥。
 翡翠の瞳が、決意を秘めた色に揺れる。
 ……彼の人格が行ったとはいえ、この手は彼を斬ったのだ。
 一度目は護れなかっただけで無く、二度目はこの手で斬らせたのだ。
「――ここで、教団の野望は打ち砕かせてもらいます!」
 ジェイドへと振り向こうとした、影の少女。
 先程一度爆ぜ飛んだその首に、ひたりと押し当てられた違和感。
「ね、ね? あなた、オブリビオンなんだよね?」
 肩車というには些か乱暴だろう。
 敵の首を締めるように、唯が足を巻き付けた先。
 その黒首には、唯のダガーが押し込まれていた。
 ああ、先刻も言った事だ。
 唯の中には神様がいる。
 だから、唯は約束をしている。
 神様との約束。
 オブリビオン以外は殺しちゃ駄目、って、約束!
 ああ!
「あなたが、オブリビオンでよかったぁ」
 花が綻ぶような笑顔を浮かべた唯は、影の少女の首を掻き斬る。
 ああ、これが、これが!
 何度も斬れるなんて!
 なんて、素敵なんだろう。
 あなたがオブリビオンで、私の敵で、本当に良かった!
 肩口へと、ダガーを差し込む。
「私が、天国に連れていってあげる!」
 死ぬのが怖くないのなら!
 そんなに丈夫なら!
 最後の最期まで楽しませてね、なんて。

「……っ、ぐ、あ、ああああ!」
 滅茶苦茶に身体を揺すって、唯を弾き飛ばした影の少女。
 出鱈目に駆けたのであろう、ルルチェリアへと向かって来る敵。
 ルルチェリアは、肩を竦めて笑う。
「ねえ、私はね。神や仏に祈るのは墓参りの時ぐらいなの」
 お昼時の休日に、友達にあったみたいにルルチェリアは影の少女へ話しかけた。
 少しでも此方を見てね。
 ぴょっこり揺れる、細くて白い尻尾。
 ああ、古代の戦士を呼び出すには、今からでは少し間に合わないけれど。
「倒れる前に貴女の宗派の作法を教えて貰えるかしら? 私、邪教信者の墓参りは初めてなのよ」
 自らの野生の勘が告げていた。
 もう少しだけ、彼女を惹き付けていれば良い、と。
 既に力を失いだした影の少女の後ろに、二人が駆けて来ているのが見えていたから。

 ギリギリまで彼女を惹き付けたルルチェリアは、衝撃波をブチかまし――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒
アドリブや絡み等歓迎

キミが元凶?
彼に…ボクの知らない、けれど大好きな彼に会わせてくれたんだね……
だけど、ボクは怒ってる!
2度も、見たくなかったのに

キミの神様なんて知らないよ
ボクはボクに従うまでさ!
櫻宵、行くよ!
ボクを守る彼を鼓舞し無事を祈るよ
櫻宵まで傷ついてほしくないから

野生の勘、空中戦や見切りで攻撃を躱して
怒りの雷の全力魔法にのせるマヒ攻撃で行動阻害をする!
攻撃は白皙の欠片からのオーラが防いでくれる
「dump dump Humpty Dumpty」をキミに落してその邪心ごと潰したげる!
さぁ、首をおはね!

哀しみを絶望を塗り替えるように
キミの首(暴虐)をはねたげる!


誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と
アドリブ歓迎

神様ねぇ
下らないわ
どうでもいいわ

ええ、あたしは怒ってる
可愛いフレズを傷つけた、あなたをね
その醜い首を落して
愛しの神様にあわせてあげるわ!

フレズを庇えるよう前へでる
もうこの子は傷つけさせない

刀には破魔を宿らせて
衝撃波を込めてなぎ払い
傷口抉るように斬りつけ
第六感で攻撃を予測して鞘で盾受けするわ
見切りで躱して、残像でフェイントを
鍔迫り合いになれば怪力やグラップルも織りまぜて殴り飛ばす
嗚呼はやく
その首をねじ斬りたい
想いも力も込めて刀をふるい
『鬼哭華』の啼き声と共に散らせてあげる

許さないわ
許さない
あの子を傷つけて大切な人を穢したあなた

これは怒りと
一匙の
嫉妬ね



「キミが、元凶だよね」
 衝撃波に弾き飛ばされた影の少女を貫く、櫻宵の刃。
 嗄れた声音で呻き。
 鎌をただ牽制するように凪ぎ、距離を取った少女を睨めつけるフレズローゼ。
 フレズローゼはぐっと鍵型の剣を握りしめる。
「彼に……、ボクの知らない、けれど大好きな彼に。キミが会わせてくれたんだね……」
 だけど、と言葉を次いで。
 彼女が首を揺すると、甘く蕩ける蜂蜜を抱く桃色の髪がふわふわと揺れた。
「ボクは、怒ってるんだよ、2度も。――2度も見たくなかったのに!」
 彼が砕ける姿を、また見る事になるだなんて。
 癇癪を起こした子供のように、フレズローゼは大きく鍵の剣を掲げて。
「ボクは、神様なんて知らない! ボクはボクに従うまでさ!」
 自らを庇うように立つ、櫻宵の背に号令を下す。
「行くよ、櫻宵!」
「ええ、勿論」
 女王陛下の裁判の結果なんて、ハナから決まっているのだから。
 フレズローゼが纏う魔力が、迸る紫電と化して床を舐め。
 それを合図に一気に距離を詰めた櫻宵と、影の少女の大鎌の柄がカチ合った。
「だって、あたしも怒っているもの。可愛い可愛いフレズを傷つけた、あなたをね」
 少女が間合いを取らんと、滑らせた柄。
 彼女の背より黒い触手が、爆ぜたみたいに幾本も生え伸びる。
「――うるさい、しね」
 少女の鎌の柄が櫻宵の鳩尾を強かに突くと、共に黒い触手が彼に殺到し――。
「櫻宵!」
 フレズローゼの背にぞっと走る、嫌な予感。
 ああ、ああ。
 ボクを守る為に、彼まで砕けてしまったら。
 触手の勢いを止めようと、フレズローゼは鍵の剣を手に踏み込み――。
「大丈夫よ、フレズ」
 押し込まれたならば、それは敵を捕らえるチャンスを貰ったとも言えよう。
 柄を掴んだ櫻宵が、奥歯を噛み締めて。
 痛いが、痛くはあるが。
 こんな痛み、全く耐えきれぬ程の痛みでは無いのだ。
 そう、フレズローゼにあんな表情をさせるよりは、ずっと。
 少女が触手を伸ばし終える前に、掴んだ柄を少女ごと擡げて。
「その醜い首を落して、本物の神様にあわせてあげるわ!」
 櫻宵はひっ掴んだ柄を振るって、少女を床へ叩き込み潰す!
「フレズ!」
 今よ、と、言うような彼の声。
「……っ、dump dump Humpty Dumpty!」
 フレズローゼの視線に宿る魔力が、少女を砕く魔力を産む。
 ああ、その邪心ごと、キミの首ごと。
 哀しみを、絶望を。
 塗り替えるように、その暴虐を潰してしまおう。
 さぁ、首をお刎ね!
「ふっ!」
 鋭い呼気を零して。
 ――歌いなさい、屠桜。
 赦さない、赦さないわ。
 あの子と、あの子の大切な人を、穢したあなたをあたしは赦しはしない。
 重心を落として体勢を立て直した櫻宵は、フレズローゼの衝撃に合わせて屠桜を抜き放つ。

 空気の裂けるような、大きな音が響いた。
 伸びた触手ごと、構えた大鎌ごと。影の少女の首が、ずぱんとねじ斬れ。
 再生するにも、もう儀式像は無い。
 猟兵達が、ぜーんぶ壊してしまったのだから。
 女王陛下の裁判の結果は、死刑。
 力の供給源を失ったソレは、水に満たされた袋に穴が開いたようにその中身をブチまけた。

 はあ、と。
 肩より力を抜いた櫻宵にフレズローゼが駆け寄ってくる。
「……勝ったね、櫻宵!」
「ええ、お疲れ様、フレズ」
 何時もみたいに、櫻宵は笑ってみせる。
 気持ちの片隅に、少しだけ処理のしきれぬ思いを抱いたまま。
 ――ああ、これは。
 怒りと、一匙の嫉妬ね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『学園祭』

POW   :    食べ歩き

SPD   :    迷路を制覇

WIZ   :    演劇やライブを観賞

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●行き交う人々
 先程の屋上での騒ぎなんて、何も知らない人々が行き交う広場。
 誰もあそこで邪神を呼ぶ儀式が行われていただなんて、思っちゃいない。

 でも、それで良いのだ。
 こんな平和な光景を護るために、猟兵達は戦っているのだから。

 笑って戯ける学生。
 甘い匂いに、ソースの匂い。
 人混み、雑踏。
 開けた広場には人々が集い。
 賑やかな学園祭を彩っている。

 この中には、化物なんてもう居ない。
ジェイクス・ライアー
ああ、終わったのか。
仲間たちが屋上の方へ駆けて行く姿は見えた。そこで片をつけたのだろう。
…結局、何体の噂語りを始末したか分からない。友の姿、記憶にもない亡者の姿。きっと彼らも、どこかで摘み取った私の罪だ。

静かだった私の世界に音と色彩が戻ってくる。
笑い合う声、呼び込み、混ざり合う香り、まとまりのない看板、そのどれもが今過ぎた時間の面影も感じさせない。

どれもかれも私には縁遠い。
今日はもう終いにしよう。
いすゞ。私はこのまま戻る。送りを頼む。



「――ああ、終わったのか」
 キュル、と音を立てて鋼糸がジェイクスの指輪に巻き込まれる。
 結局何体の『噂騙り』を始末したかだなんて、もう分かりやしない。
 獲物に体液一つ残さず。再び消えた、――消した友の姿。
 記憶にも無い、亡者の姿。
 この記憶の中に残滓は無くとも、彼らもどこかで摘み取ったジェイクスの罪であったのだろう。

 戦いの中で、研ぎ澄まされていた五感に熱が戻ってくる。
 明るく賑やかな呼び込み、色んな食べ物の混じり合う香り。
 洗礼されたとは言い難い、雑多な看板たち。
 今の今まで戦いの最中にあったとはとても思えぬ、平和な『日常』の香り。

 く、と喉を鳴らして。上等な仕立ての革靴が踵を返した。
「センセ、お帰りで?」
 そこにぽっくり下駄が、コーンと音を立てて。
 口元を袖口で隠した狐が、瞳を細めて首を傾いだ。
「――ああ、送りを頼む」
「はぁい、はい」
 尾を揺らす少女が腕を引く。

 その香りは、何もかも。
 ジェイクスには、もう縁遠いものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルルチェリア・グレイブキーパー
あの子たち(私の頭に乗ってる子どもの霊たち)、何処に行ったのかと思ったらお化け屋敷で遊んでいたのね!
コラ!ポルターガイストを止めなさい!
作り物の生首をボールにしない!
お客さんの頭に乗らない!
もう、怖がらせる役の人までビックリしてるでしょ!
もうお仕事は終わったんだから帰るわよ!


ジェイド・カレットジャンブル
なんとか学園祭を無事に続けさせることができましたね。せっかくですし三人で色々見て回りましょうか。

まずは食べ物を買いましょう。僕とネフライトは主食、ヒスイにはデザートを買います。食べ物が買えたらジャズサークルなんかの野外演奏を聴きつつ、おいしく頂きましょう。

こうして三人で和やかな時間を過ごしていると昔を思い出します。
「僕達にも、こんな平和な毎日を送っていた頃があったな。」
「ああ。そんな平和を守るために、俺達は戦うことを決めたんだ。」
「そうですね。私達の背負った悲しみを、もう誰にも背負わせないために…。」

忘れられない、忘れてはいけないことを再確認しつつも、今はこの時間を三人で楽しむとしましょう。


セツナ・クラルス
ゼロ、ゼロ
たこ焼きもいか焼きも大判焼きも食べてみたいのだが
私は、今はおこのみやきというものを食べてみたいんだ
お好みに焼くんだよ?
店主の気まぐれ焼きといったスタンスなのかな
楽しみだねえ
そわそわしながらお好み焼を受け取り一口
…!ゼロ、たいへんだ、ゼロ
このおこのみやきには麺が入ってるぞ
ん?これはソバというのか
炭水化物+炭水化物の組み合わせとは…なんて罪深い
私はこの業の深さに耐えきれるだろうか
(煩悶しつつ食べる。とてもおいしい)

いすゞの姿を見かけたら声をかけよう
禁断の食べ物を見つけてしまったよ
きみも共に墜ちる覚悟はあるかな
彼女にお好み焼を差し出して
ソースの香りと鰹節がふにゃふにゃと揺れながら誘惑してる


雨糸・咲
綾さん(f01786)と

人の集まる場所は慣れず
少しそわそわ

お祭りって
こんなに賑やかなものなんですね

馴染みはと問われ緩く首を振り

いいえ
私、お仕事以外ではあまり外の世界へ出なくて…

あちこちへ目移りしていると
一瞬連れの姿を見失いかけ

あっ、つづ…綾さん!
精一杯声を張り慌てて呼ぶ
常とは違う下の名

す、すみません
こちらの方がよく聞こえるかと…

咄嗟のことと
慣れない手の温かさに
つい少し照れてしまいます

これ全部食べ物なのですよね?
凄く良い香りがします!

ソースの香り
ふわふわの綿菓子
艶やかな林檎飴にも興味津々

…綾さん、意外と沢山食べるんですね

次々口へ運ぶ様子に初めは驚くものの
美味しく楽しい時間に
何時しか笑み綻ぶ


都槻・綾
f01982/咲さん

彼女が人混みに流されぬよう
歩幅を合わせて散策

常は穏やかな声音も
出店の明るく賑やかな呼び込みや喧噪に
掻き消されまいと弾んだ彩りで

私にとっては目新しいものばかりです
貴女は馴染みがありますか?

同様に物珍しげな横顔と
慌てて探す様子にふわりと笑い

どうぞ
名で呼んで下さいな
私も嬉しい

互いに馴染みが無いならば、と手を引く

折角ですし
端から制覇しましょう

香ばしき粉物焼きそば焼き鳥
甘さが擽ったい綿菓子クレープ林檎飴
両手一杯の戦利品

勿論全部頂きますとも
咲さんも手伝って下さいね

悪戯な笑みで片目を瞑る
普段は読書に耽って寝食を忘れがちでも
いざ食べる時には際限ない健啖家

賑わいを肴にした食事は
一段と美味しい


影見・輪
食べ歩きで楽しむよ
*可能なら小日向さん(f09058)、他の方とも一緒に
*アドリブ大歓迎

さっきは噂語りにばかり目が行ってしまっていたけれど
こういう雰囲気楽しむのもいいものだね

個人的には定番のたこ焼き、りんご飴あたりかね
(とりあえずはと買ったのを食べながら面白そうに見て回り)

へぇ、プリンそのまま凍らせたプリンアイスってのもあるんだ?
(カッププリンに棒を刺したような形状のアイスを面白そうに眺め)
学園祭ならではのアイディアかもね?


小日向さんも皆もお疲れ様だね
どう?そのプリンアイス、食べてみるかい?
いやね、初めて見るんでちと道連れをと思ってさ
(どうよ?とにこにこ問いかけて
人数分買い、各々に手渡そうと)


リュシカ・シュテーイン
わあぁ、わあぁ、なんだかとても賑やかですねぇ、素敵ですねぇ
……まぁ、私は今は殆ど無一文ですのでぇ、今回の報酬を頂かなければぁ、御飯や飲み物が買えないのはぁ、とてもぉ、とてもぉ、悲しいことなんですけれどもぉ

……でもぉ、学生さん達の奏でる音楽を聴くくらいはぁ、お金が無くても参加してもぉ、罰は当たりませんよねぇ?
ふふぅ、このローブ姿もぉ、がくえんさいぃ?ということであればぁ、こすぷれいぃ?というものと勘違いされるみたいなのでぇ、あまり気にされないみたいぃ、ですかねぇ?



 賑わう人々の群れの中。
「もう、あの子たちったら、何処に行ったのかしら!?」
 ルルチェリアが混雑を掻き分けて、周りを見渡しながら駆けてゆく。
 ひゅうるり。
 その後ろに付き従う、ひとつの人魂。

 楽器を演奏する人々。
 甘い匂いの細長いお菓子のチュロス。
 握った米を肉で巻いた甘辛い味付けの食べ物。肉巻きおにぎりというらしい。
 串に刺さった大きな腸詰め肉の焼いたもの。――フランクフルト。
 食物が立ち並ぶ模擬店に、何かの展示。
 学生の作った作品の販売なんてものも在る。
 賑やかな喧騒が響き渡る、おまつり。

「わあぁ、わあぁ、なんだかとってもとっても賑やかですねぇ、素敵ですねぇ」
 美味しい匂いに包まれて、ほわわーと微笑むリュシカ。
 戦闘でルーン石を投げまくってしまった。
 その上で、今日の彼女には現金の持ち合わせが全く無い。
 そう、彼女は今。
 今回の報酬を貰いに行かなければ、飲み物すら買えない状態であった。
 しかし、素寒貧な事を除けば、この場所がとても楽しい場所である事も確かだ。
「……お金がなくても、学生さん達の奏でる音楽を聴くくらいはぁ、罰は当たりませんよねぇ……?」
 せっかくですしぃ、と首を傾いだリュシカの後ろ。
 コーンと、ぽっくり下駄の音が響いた。
「おや、素寒貧なのかい?」
「お仕事が終わったばっかりなのに寂しい事言うじゃないっスかぁ、センセ!」
 通りかかったのは。黒髪を靡かる輪に、狐の耳を隠す事も無く彼に共するいすゞであった。
 手にはたこやきに、りんご飴を装備中。
「あらぁ、輪さんにぃ、いすゞさんじゃないですかぁ」
 素敵な物をもっているなあ、とリュシカがほわわ、と首を傾ぎ。
「丁度良かったよ。今そこでプリンアイス、ってのを見つけてね。是非、道連れを増やしておきたかった所だよ」
 彼の視線の先には、カッププリンに棒を突き刺して凍らせた様な形状のアイスの模擬店。
 学園祭ならではのアイディアで面白そうだろう、と輪は笑い。
「わあぁ、ごちそうしていただけるなら、是非ぜひぃ。いただきますぅ!」
 掌を合わせて、へにゃっとリュシカは微笑み返す。
「ワーイ、あっしもあっしも。ご相伴に預からせていただくっスよォ」
「じゃ、お疲れ様のご褒美とゆこうか」
 輪がくすくす笑い。連れたって、三人はプリンアイスの屋台へと。
 例え素寒貧でも。
 そこに仲間達がいれば、オヤツくらいにはありつける幸運だってあるのだ。

 人出に圧倒されたのだろうか。
 すこし落ち着かない様子で、糸・咲(希旻・f01982)は周りを見渡し。
「――お祭りって、こんなに賑やかなものなんですね」 
 彼女と歩調を合わせて歩む綾も、こっくりと頷いた。
「えぇ、盛況なようで。――ここは私にとっては目新しいものばかりですが、貴女は馴染みがありますか?」
 常なら穏やかだが、喧騒に負けぬように弾む彼の問いに。
 いいえ、と咲は首を振る。
「私、お仕事以外ではあまり外の世界へ出なくて……」
 物珍しい、聞いたこと事も、口にした事も無いようなモノばかりのこの世界。
 咲は物珍しげにキョロキョロと周りを見渡した。

 ここはUDCアース。
 別の『世界』を拠点としている猟兵達には、綾の言う通り目新しい物ばかりであろう。
 ――勿論、UDCアースを拠点としている猟兵達には、見慣れた物ばかりだろうが。
 猟兵達の守った平和は、ちゃあんとお祭りを滞りなく回している。
 彼らの活躍が無ければ。
 お祭りを続ける事なんて、できなかったのだろうから。

 キーボードの甘い音色に、トランペットが穏やかに滑り込む。
 ドラムのリズムに、サクソフォンが楽しげに跳ね――。
 耳に心地良い、跳ねるようなジャズ演奏を前に。
 ジェイド達は備え付けられたベンチに並んでいた。
「へえ。ネフライトの買った焼きそばは、香ばしい匂いがして美味しそうですね」
「このソースの香りに、なんとも食欲が唆られてな」
 ケバブサンドを持つジェイドに、プラスチックのフォークを片手に笑うネフライト。
 クリームたっぷりのクレープを齧るヒスイも上機嫌。
 ジャズはいつのまにか、甘く優しい曲へと変調し。流れるようなアルトサックスのソロ。
「……僕達にも、こんな平和な毎日を送っていた頃があったな」
 こうして和やかな時を過ごしていると、自然と過るのは過去の事だ。
 ケバブを一口齧り、瞳を細めたジェイドは呟く。
「ああ。そんな平和を守るために、俺達は戦うことを決めたんだ」
「そうですね。私達の背負った悲しみを、もう誰にも背負わせないために……」
 二人の師は、ただ頷く。
 忘れられない、忘れてはいけない事に思いを馳せて。
「――それはそうとして。今日はまあ、ぱあっと遊ぼうじゃないか」
 なんて、ネフライトが笑った。

 ぽーん、と誰も触っていないのに跳ねる生首。
 ルルチェリアがわっと、お化け屋敷の中で声を上げる。
「こらーっ!」
 客の悲鳴に交じったその声音は目立ちはしなかったが、ルルチェリアは少し慌てていた。
 なんたって。
 自らに憑いている亡霊達が、お化け屋敷の中で思いっきり遊んでいたのだから。
 あんな演出あったか……?
 なんて。お化け役の学生は目を見開き、後ずさり。
「メイ! ポルターガイストを止めなさいっ、作り物の生首をボールにしないのっ!」
 落ちそうになった頭をぽーんと擡げたメイは、ルルチェリアが追いかけてくるものだから。
 次はおいかけっこになったと判断して、きゃあきゃあと駆け出し。
 お化け屋敷の中を、人魂と走り回るルルチェリア。
 逆走正走、なんのその。
「マイ……、は帰ってきたわね。おかえりなさい」
 気づけば頭の上に乗っていた人魂――マイに。
 怒られたけれど、十分遊んでもらってご満悦。きゃっきゃとくるくる回って笑うメイ。
「もうっ、……タクロウは何処に行ったのかしら? もうお仕事は終わったんだから帰るわよ!」
 帰ってきたらひどいんだから!
 ぷう、と頬を膨らせたルルチェリアは尻尾をゆらゆら。
 その日。
 そのお化け屋敷の模擬店にはは本物が出る、と話題になったとかならなかったとか。
 因みにタクロウは、ルルチェリアの後ろをこっそりついていくゲームをしていたようで。
 ずっと後ろに居たそうです。

「ゼロ、ゼロ」
 ゆるーく笑うセツナに、その別人格のゼロはハチャメチャに嫌そうな顔をした。
「たこ焼きも、いか焼きも、大判焼きも食べてみたいのだが……。私は、今はお好み焼きというものを食べてみたいんだ。お好みに焼くんだよ?」
 お好み焼きの屋台を見つけ、はしゃぐセツナ。
「店主の気まぐれ焼きといったスタンスなのかな?」
「いや、知らねえけど。学生の屋台に店主の気まぐれを介入する要素あるか?」
「つまり店毎に具が決まっていないのかもしれないねぇ、これは幾つ食べられるか……ああ、試されているね!」
 のんびりと楽しみだねえ、とそわそわするセツナに。ゼロはまあまあうんざりした様子で、肩を竦めた。
 注文すれば。
 すぐに焼き立てのお好み焼きがパックに詰められ、手渡される。
 受け取ったセツナは――。
「……! ゼロ、大変だ、ゼロ! このお好み焼きには麺が入っているぞ」
 ほわほわと、鰹節が湯気に揺れる。
「そこらで売ってる焼きそばじゃねえの?」
「そうか……これは焼きそばというのか……。お好み焼きに焼きそば……。これは炭水化物と炭水化物の組み合わせ……。なんて、なんて罪深い……」
 この業の深さに耐えきれるだろうか……と、セツナは煩悶している間に、ゼロは勝手に摘んで食べはじめていた。
「ああっ、ゼロ、待っておくれ」
 ぱくり、ひとくち。
 おいしい。
 漫才をやってる二人の視界の端に、狐尾が揺れた。
「……おや、いすゞさん。それに輪さんと、リュシカさん、だったかな?」
「おやー、センセ。何してるっスかー?」
「やあ、こんにちは」「ふふふーぅ、美味しそうなものぉ、食べてますねぇ~」
 手をあげた輪に、ぺこりと頭を下げたリュシカが微笑み。
「ふふ、君たちもこの禁断の食べ物を楽しんでみるかい?」
 君達も共に墜ちる覚悟が在るのならば共に歩もう、なんてセツナは笑った。
 揺れる、揺れる、鰹節。
 それに、香ばしいソースの香りがふわふわと。

「これ全部食べ物なのですよね? 凄く良い香りがします!」
 あれは何のお店だろう。
 ああ、あちらも美味しそうな香り!
 ソースの香り、ふわふわのわたあめ、艶やかなりんご飴。
 咲がじっと看板を眺めていると、軽やかなチャイムが響いた。
 それは飛び入り参加自由のバンドバトルが始まるとの校内放送だ。
 プロも参加する学園祭の目玉イベントだそうで、一気に人の流れがステージの方へと流れ出す。
「あれ……?」
 並ぶ店に目を奪われているうちに、動き出した人波に飲まれ。
 横にいたはずの綾の姿は、見当たらなくなっていた。
 きゅっと、咲の背に冷たいものが走る。
「つづ……、――綾さん! ど、どこですかっ!」
 声を張り上げ、咲は綾の名を呼ぶ。
 それは、常とは違う呼び名。
 名字でない、彼の名前だ。
「はい、こちらに」
 すぐ横より聞こえた綾の声。
 人に流された彼女の背後で、綾はずっと立っていたのだ。
「す、すみません……」
 驚きに見開いた瞳。
 思わず口元を掌で隠し、胡桃色の視線を逸らす咲。
「こちらの方がよく聞こえるかと……」
「どうぞ、名で呼んで下さいな。それは私も嬉しい事です」
 笑みにふくふく肩を揺らした綾は、咲の手を引く。
 互いに馴染みが無いならば、なんて。
「……は、はいっ」
 名を呼んでしまった事。
 繋いだ手の暖かさ。
 少し照れてしまうけれど。
「さ、折角ですし。端から制覇しましょうか」
「……あ、綾さん、意外と沢山食べるんですね?」
 立ち並ぶ店を前に宣言した綾に、咲が目を丸くして。
「勿論全部頂きますとも。――咲さんも手伝って下さいね」
 なんて、綾は悪戯に瞳を眇めた。
 普段は読書に溺れ、寝食を忘れる事すらあるが、こう見えて彼は健啖家。
 さあ、何から食べようか。
 楽しい会話と笑み。
 そして、人々の賑わいを肴にした食事は、一段と美味しいだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレム・クラウベル
ルト(f00036)と

押し付けられたコートに
人混みに紛れていく背中
傷の痛みが残るなら追いかけるには遠い
応急処置は済ませたがよく効く鼻は誤魔化せないらしい
粗相しないか心配なものの
珍しい気遣いには素直に甘えコートを羽織る

咄嗟にかばいはしたが
……余計な節介、だったろうか
動き回るなと言われた以上大人しく待つ他ない
ぼんやり人混みを眺め

ずいと差し出されたそれに数度目を瞬く
……どうも
渡された飲み物は普段よく口にする珈琲。包む手が温かい
他人には無関心なものとばかり思っていたが
案外そうでもないらしい

ん、ああ。射的か?
そうだな、折角だからやっていくか
……今日だけで随分知らぬ顔を見たものだ
揺れる尾にひそりと目を細め


イェルクロルト・レイン
クレム(f03413)と

流石に気付かぬ程疎くはない
鼻につく鉄の臭いに目を眇め
これ、やる
コートを脱いで押し付けて
どっか座っとけ、動き回られても迷惑だ
クレムを置いてさっさと人混みへ

並ぶ看板は何と読むのか分からないので
瓶や缶を目安に、ふらふら温かい飲み物を求め
珈琲がいいだろう、いつも飲んでいたから
それも、一番苦いやつ
適当に見繕えばクレムの元へ

受け取るまで無言で差し出し
いつもなら丸くなるところだけれど、隣に座って
こういう時はどうするべきか分からない
かける言葉を持たないから
ただ、隣に

そういえば、来た時に見ていたっけ
行きたいなら、いいけど
はたりと尾を揺らし
心なしか機嫌好く



 鉄の臭いが鼻につく。
 それが何故臭っているのか、それが何を意味するのか。
 気づけぬ程に、イェルクロルトは図々しく成る事もできなかった。
 琥珀色の瞳をますます気だるげに揺らしたイェルクロルトが、羽織っているコートを脱ぎ。
「……これ、やる」
 鼻を鳴らして瞳を眇めたイェルクロルトは、そのままコートをクレムに押し付けた。
「どっか座っとけ、動き回られても迷惑だ」
 さっさと人混みに消える彼の背。
 クレムは彼の珍しい気遣いに素直に甘え、ベンチに座り込んだ。
「……ああ、解った」
 応急処置は済ませど、裂かれた背中の痛みは確かに残っている。
 人狼の鼻はずいぶんと良いらしい。
 いつもあんな調子のイェルクロルトが、人様に迷惑をかけないかと不安は残れど。
 クロムには彼を待つ事しか今はできなかった。
「……余計な節介、だったろうか」
 ぽつり、呟き。
 人混みをクレムがぼうと、眺めだした頃。
 突然、眼の前にブラックコーヒーが現れた。
 押し付けられたソレの上に目線をずらせば、いつもの瞳で立ち尽くすイェルクロルト。
「……どうも」
 クロムは瞬きを、二度、三度。ブラックコーヒーを受け取り。
 イェルクロルトはそのまま頷く事も、言葉を紡ぐ事無く。
 クロムの横にただ腰掛けた。
 普段のように、丸くなりもしない彼。
 しかし、掌を温めるブラックコーヒーを見下ろして、クロムは眉尻を落とした。
 ――他人には無関心なものとばかり思っていたが、案外そうでもないらしい。
 彼が買ってきた飲み物は、クロムが普段良く口にしているコーヒーだったのだから。
「……」
 こういうときに、おれはどうすれば良いか解らない。
 言葉を知りはしない。
 イェルクロルトには、ただ隣に腰掛けて、遠くを見る事しかできない。
 ピアスが幾つも重ねられた獣の耳は、何時も通りぺたりと倒れたまま。
 はた、と。その視線が、一つの店に留まった。
 ああ、あれは、射的、だっけか。
 戦う前に見ていた――。
「……射的か?」
 そこにクロムの声が重ねられ、イェルクロルトは顔を上げる。
「……行きたいなら、いいけど」
 ぶっきらぼうな返事。
 クロムが頷き、ゆっくりと立ち上がった。
「そうだな、折角だからやっていくか」
「あんたが行きたいなら、ついてく」
 先導するように立ち上がったイェルクロルトが、歩きだし。
 その背を見やったクロムは、細く息を吐いた。
「……今日だけで随分知らぬ顔を見たものだ」
「……なにか言ったか?」
「いいや」
 クロムの前を歩く彼の背。
 ゆうるり揺れる尾は、どこか機嫌好さげに揺れて。
 彼のコートを羽織り直して肩を竦めたクロムは、瞳を細めた。
 全く、珍しい日だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と
アドリブ歓迎

フレズ、あんまりはしゃぐと転んじゃうわよ!
何も触れず、無邪気に笑うフレズを撫でる
無理してないか心配だわ
学園祭はそうね
学生達がやっているから縁日とはまた違った魅力があるのかも
焼きそばを買ってあげて、美味しそうに頬張るフレズに微笑む
あたしはじゃがバターにしようかしら
はい、1口どうぞ
あーんして?

フレズは学校行ったことないものね
握られた手を握り返し
そうしましょうと屋台へ向かう

砕けてなお想われる彼は仕合せね
嫉妬する程に
あたしが砕けるようなことがあったら
フレズは同じように想ってくれるかしら?

……なんて、らしくないわ
安心して
あなたの分までこの子はあたしが守るから


フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒
アドリブ等歓迎

櫻宵!櫻宵!お祭りー!
学園祭は初めてだと、何も無かったように笑ってはしゃいで
香ばしソースの焼きそばを食べる
学園祭って縁日とは違ったわくわくがあるね、櫻宵
櫻宵のじゃがバターも1口頂戴!
微笑みながらも櫻宵はボクを心配してるから安心させるように
学園、ボクちょっと憧れるかも

きっと
砕けた彼も――ボクに笑ってて欲しいって思ってくれてると思うんだ。多分ね
白皙の欠片を優しく密やかに撫でて
それから、いつもボクを笑顔にして守ってくれる大好きな人の手をとる

櫻宵、次はチョコバナナが食べたいな
なんて事ないように祭りではしゃいでまわる

ねぇキミよ
ずっとボクのそばにいて
見守っていて



「櫻宵、櫻宵! お祭りー! お祭りだよ!」
 初めての学園祭。
 その前に、なあんにもなかったみたいに。
 フレズローゼはぴかぴか笑顔で、ぴょんぴょん跳ねるように休憩スペースに駆けてゆく。
「フレズ、あんまりはしゃぐと転んじゃうわよー」
 莞爾として笑った櫻宵が、焼きそばとじゃがバターのパックを手にその背を追う。
「だいじょーぶー!」
 一番乗り、と。
 ベンチに腰掛けたフレズローゼは、櫻宵に横に掛けるようにと、横をぽんぽんと叩き。
 くつくつと喉を鳴らして笑った櫻宵が、女王様の言う通り横に腰掛けながら。焼きそばのパックを手渡した。
「学園祭って縁日とは違ったわくわくがあるね!」
「そうね、学生達がやっているから縁日とはまた違った魅力があるのかもしれないわねぇ」
 香ばしいソースの匂い、バターの甘い匂い。
 いただきます、と焼きそばを頬張るフレズローゼ。
「あっ、櫻宵のじゃがバターも一口頂戴?」
「はいはい、一口どうぞ。――あーんして?」
 二人は、先程の出来事になんにも触れないまま。
 ――櫻宵はボクを心配してるだろうから、安心して貰えるように。
 ――フレズは無理をしていないか心配だわ。
 ぱくり、とじゃがバターを口に収めてしまったフレズローゼが、ぽつりと呟いた。
「……学校かぁ、ボクちょっと憧れるかも」
「フレズは学校に行ったことが無いものね」
 食べ歩きながら笑いあうカップル。泣きながらおかあさんに手を引かれる子どもが歩いて行く。
 どこでも長閑な光景を眺めながら、二人は他愛のない言葉を紡ぐ。
「楽しそうだよねぇ」
「機会があれば、チャレンジしてみるのも面白いかもしれないわね」
 なんたって、アルダワ魔法学園に行けばだれだって『転校生』だ。
 ぽん、と。
 彼女の淡桃色の髪を撫でた櫻宵が、心配する気持ちを覆い隠すように柔く目尻を落として。
 彼の大きな掌に撫でられて、フレズローゼは白皙の欠片を優しく密やかに撫でて、笑った。
 ――きっと。
 砕けた彼も、フレズローゼに笑っていて欲しいと思ってくれていると思うから。
 ゆるりと、白皙の欠片より指先を離して――。
「櫻宵、コレを食べたら次はチョコバナナが食べたいな!」
 彼の掌の下に、指先を滑り込ませる。
 いつもフレズローゼを笑顔にして、守ってくれる大好きな人の掌へと。
 寄り添うように。
 ――ねぇキミよ。ずっとボクのそばにいて、見守っていてほしいな、なんて。
 フレズローゼの甘いワガママ。
 その掌をきゅ、と握り返す櫻宵の掌。
「ええ、そうしましょう。今日は楽しんじゃうわよ」
 彼女の瞳の奥に揺れる色に気づかぬ程、櫻宵は鈍くは無かったのだ。
 砕けてなお、想われる彼は仕合せなのだろう。
 ――嫉妬しまう程に。
 櫻宵の脳裏を過る、ワガママに似た甘い考え。
 あたしが砕けるようなことがあったら、フレズは同じように想ってくれるかしら? なんて。
 らしくない想像。
 小さく頭を振って、肩を竦め。そして砕けた彼に、櫻宵は心奥で誓う。
「櫻宵、焼きそばも一口食べる?」
「ええ、勿論」
 ――安心して。
 あなたの分までこの子はあたしが守るから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
やあ、賑やかなあ
過る影も知らないなら、良かったこと
お前がどこかへ消えたとて、何一つ
――ほんとうに変わらなかった、かしら

過れども一度マフラー巻いて
楽しい音のする方へ人垣のある方へ
興味の赴くまま覗きましょう
びっくりするような音の振動も
振り返りそうな拍手に歓声も
物珍しくてふらふら気儘に
楽し気な気配に浮足立つよに
ちょっと背伸びに人の肩越し
……あっ
僕の背では見えない、かしら
……悔しいけども拍手だけは
ぽふんと気の抜けた袖越しに
流行かどうかも知らないけども
跳ねる音は楽しいものな

人の波縫ってゆらゆらと
ねぇ、肩越しに触れるきみの影が
誰かだとてもう、振り返りは、しないかな
また逢えたなら、さよなら、しましょ


ギド・スプートニク
【バッカス4人】
学園祭とやらは初めてだな

店主向けのオイルか何か売っていれば良いのだがな
この世界ではなかなか厳しいか
あの犬にしても、食事を楽しめぬとは難儀だな
そればかりが娯楽とは言わぬが、残念だ

射的か。西部劇とやらで見た事はある
よかろう、受けて立つ
おや、人を撃つわけでは無いのか

飛び入りバンドの募集だと?
どれ、ひとつ腕試しといこうか
なに、我が魔眼に掛かれば楽器のひとつやふたつ、演奏するなど造作もない
楽器を支配する事で、その力を限界以上に引き出す
ステージの支配者
バンド名は『Bad Luck Curse』
私の担当はギター
クロエ嬢とのツインボーカル、圧倒的な旋律と魅惑のトライアングルが観客たちを魅了する


アーノルド・ステイサム
【バッカス4人】
なんかいつの間にか終わってたな
まぁいいや、祭り見てくか
何も食えないが遊べる店はあるだろ

オイル入れても別に美味くはねぇからなあ
バニラ味のオイルとかが売ってありゃいいんだが
いいさ、食えないなら食えないで他の楽しみも多い
ところで食いすぎるなよアルページュ
いや、食いすぎても別に肥えないのか…?(種族的に)

バンドは見学しとく
意外に多芸だなあいつら
えっ、すげぇ盛り上がってる…何だこれ

おっ、射的あるじゃねーか
誰かやるやついるか?競う相手がいないと張り合いが無ぇ
よし、やるかスプートニク
素人相手でも手加減はしな…うわ、小っせぇなこの銃(撃ちにくい)
分かってる そっと扱うよ、そっとな…
※勝敗お任せ


静海・終
【バッカス】
ははぁ、気づかぬうちに満喫してしまいましたねえ
クロエ嬢は食べ盛りでございますねえ、タコ焼きください
店長も学園祭ならではの味を食べれると良いのですが難しそうでございますね

バンドは見学しておきましょうか
私、音楽の心得は…まあお披露目するほどでもないので
まあ、2人は見た目より…お年を召しておられますし多少は…
いえ、なんでもありません

射的は参加させていただきましょう
いっぱい落としてお土産に~って勝負ごとになってます?
あぁっ、店長、銃壊しちゃだめですよ

少しだけ、人混みを見渡す、居るはずのない事は分っている
居たとしてもきっと今では見つけられない事も分かっている
ただ少しだけ、探してしまう


クロエ・アルページュ
【バッカス】
(たこ焼きやイカ焼き、りんご飴など手にもぐもぐ)
屋台のお食事がとても珍しくあっちこっちふらふらと
えぇ終、こういうのはシェアして楽しみましょう
もっと食べて下さいまし!
ふふ、女性に体重のお話はNGですことよ?

まぁ!射的応援いたしますわ
ふふ、そんな玩具では人は倒れませんわギド
たくさん倒した殿方の勝利ですわ!

ギド、いまバンドとおっしゃいましたわね!
学園祭でバンド!何事も経験ですのよ
どうせなら衣装も揃えたくありましたが
わたくしのトライアングル捌きをおみせしますわ
ギドやりますわね、わたくしの歌もお聴きになって

学園祭というものは楽しいですわ
次は何処にいこうかしら、もっと色んな所行きましょう!



 人混みの中。
 頭一つどころで無く、飛び出しているその姿。
「なんかいつの間にか終わったみたいだな」
「ははぁ、気づかぬうちに随分と満喫してしまいましたねえ」
 周りを見渡してアーノルドが呟き、終がこっくりと頷いてから何気なく後ろを振り向く。
 『噂騙り』を始末しながら、模擬店を周り。
 酒に酔っ払って面倒くさくなった女の始末を、一人の男に全て委ねて置いてきている間に戦闘は全て終わっていたのだ。
 もう、この辺りにUDCの気配は全く感じられない。
「まぁいいや、祭り見てくか」
 アーノルドが摂食出来るような物は無いだろうが。しかし、遊ぶ事位は出来るだろうと再び足を進める。
「店長も学園祭ならではの味を食べられると良いのですが、難しそうでございますね」
「店主向けのオイルか何か売っていれば良いのだが、……この世界ではなかなか厳しいか」
 その後ろを付いて行く。マントを揺らす終に、ブレザーをしっかり着込んだギド。
 何でこいつらはコスプレをしているんだろうか、なんて疑問すらアーノルドの中でそろそろ麻痺してきている。
「オイルを入れても別に美味くはねぇからなあ……。バニラ味のオイルとかが売ってありゃいいんだが」
 バニラ味のオイルだとしても、味は分かるのだろうか。
 如才無く笑う終は首を傾げるが、突っ込む野暮な事はしない。
 ふんと鼻を鳴らしたギドが、瞳を眇めて。
「あの犬にしても、食事を楽しめぬとは難儀な身体だな」
 今日もすれ違った、ピアスだらけの人狼を思い浮かべる。
 様々な世界の住人たちが集まれば、文化の違いは数多く有りはする。
「いいさ、食えないなら食えないで他の楽しみも多い」
 無骨な見た目に反して、酷く人間臭い響きでアーノルドは言葉を重ね。
「ところで食いすぎるなよアルページュ」
 たこ焼きにイカ焼き、りんご飴に、手首に下げた袋には沢山のどんぐり飴。
 指という指に串を装着しながら歩くクロエへと、青いレンズの焦点を絞った。
「クロエ嬢は食べ盛りでございますねえ、タコ焼き下さい」
「えぇ終、こういうのはシェアして楽しみましょう」
 笑みを張り付けたまま言った終の口に、たこ焼きを放り込むクロエ。
 勿論終は人間なので、たこ焼き直シュートはまあまあ熱い。
 熱い。
 はっふはふする終の横でクロエは微笑む。
「もっと食べて下さいまし!」
 93歳セーラー服人形はやることが違う。次はふーふーしてあげてる。
 そんな様子に顎に掌を添えて、首を傾ぐアーノルド。
「いや、食いすぎても別に肥えないのか……?」
 なんたって彼女はミレナリィドール。
 勿論、アーノルドがパーツを変えれば体重の変化はある。
 しかしミレナリィドールの彼女に、食物の摂取によって体重の変化はあるのだろうか?
「ふふ、女性に体重のお話はNGですことよ?」
 嫣然とクロエは笑み、やわらかな赤髪を揺らした。
「おや、あれは射的か」
 西部劇とやらで見た事はあるな、と。
 先を行くギドが、足を止めた。
 安っぽくちゃちな、プラスチック製のコルク銃。
 的代わりのぬいぐるみや駄菓子、玩具が、少し離れた位置に備え付けられた段に行儀よく並べられている。
「ほう、人を撃つわけでは無いのか」
「ふふ、そんな玩具で人は倒れませんわギド」
 遊ぶ子どもたちを後ろから眺め、ルールを把握したギドにくすくすとクロエが笑いかけ。
 小銭を取り出すアーノルド。
「誰かやるやついるか? 競う相手がいないと張り合いが無ぇからな」
 皆に振り向き、問うと――。
「はい、参加致しましょうか」「受けて立とう」
 終とギドもすでに準備万端であった。
「たくさん倒した殿方の勝利ですわ!」
「いっぱい落としてお土産に~って……勝負ごとになってます?」
 応援、応援とぴょんぴょん跳ねるクロエ。
 コルクを詰めて銃をコッキングしながら、終がエッて顔をする。
 いつの間に?
 ――射的はコルクの詰め具合、角度で飛ぶ方向が変わるシビアな遊びでもある。
「おう、お前ら。素人相手でも手加減はしな……うわ、小っせぇなこの銃」
 アーノルドに握られたコルク銃は本当に玩具めいていた。
 実際玩具ではあるのだが――。
「あぁっ、店長、銃壊しちゃだめですよ」
「分かってる。そっと扱うよ、そっとな……」
「今にも持ち手が壊れそうですわ!」
「店主が壊した場合は、私の勝ちという事で良かったか?」
 四者四様、言いたい放題。
 手入れのされた銃と玩具は、やはり勝手が違う。
 小さな玩具の指輪しか落とせなかったギド、珍妙なぬいぐるみを手に入れてしまった終。
 そして、軽い物に狙いを定めて大量の駄菓子を落としたアーノルド。
 沢山の駄菓子を手に入れたクロエはにっこにこ。

 過る影も知らないなら、良かったこと。
 お前がどこかへ消えたとて、何一つ、何一つ。
 ――ほんとうに変わらなかった、かしら?
 マフラーを巻き直すと、イアは音の鳴る方へ、鳴る方へ。
 ライブをしているという会場に足を運んだイアは、人波を泳ぐよう。
 響くギター。ヴォーカルの甘い声。熱狂に溺れる声援。
 音の洪水へと飛び込んだ。
「やあ、賑やかなあ」
 思わず呟いた声音は、人々の熱っぽい声音に掻き消える。
 音の振動も、大きな拍手も歓声も。
 イアにとっては、物珍しい。
 何を見ているのだろうか、何が歌っているのだろうか。
 ちょいと背伸びをして、――。
「……あっ」
 イアの身長では、すこうし見るには背が届かない。
 流行りの歌かすら分かりはしないが、跳ねる音は耳に心地よい。
 悔しいけれど、拍手くらいは。
 ぽふ、ぽふ、と袖越しの拍手は少し気の抜けた音。

 ――人の波縫ってゆうら、ゆら。
 人波を泳ぐように、イアは歩く。
 この肩越しに触れるきみの影が、例え誰かだとて。
 もう、振り返る事は無いだろう。

 ――また逢えたなら、さよなら、しましょ

 そのステージの上。
 飛び入り参加歓迎の、バンドバトル。
 ギターを掻き鳴らすGuidoと背中合わせ、トライアングルを掻き鳴らすChloéのツインボーカル。
 その名も――『Bad Luck Curse』!
 ギドの支配下に置かれた楽器の力は、全て彼の物だ。
 ステージの支配者たる彼にピックスクラッチされた弦がギャリ、と音を立てれば。
 綺羅びやかなトライアングルが、星々の輝きの如く響き渡る。
 甘い声音と、低く響く言葉が絡み合い。
 一つのメロディを作り出す。
 セーラー襟とスカートがたなびき、ピッチリと着こなされたブレザーは激しい動きの中でも乱れる事は無い。
「まあ、まあギド! 学園祭というのものは楽しいですわね!」
「ああ、悪く無い。――さあ、ラストスパートと行こうか」
 滑る指先、響く弦。
 そんなステージを跳ね回るギドとクロエを、舞台脇で眺めるのは――。
 困惑。
 なんでギターとトライアングルで盛り上がるんだ?
「えっ、すげぇ盛り上がってる……何だこれ」
 アーノルドと。
「まあ、2人は見た目より……、お年を召しておられますし多少は……」
 いえ、なんでもありませんなんて、即言葉を逃した終だ。
 何処で誰が聞いているかも分からない。
「しかし、あいつら意外と無駄に多芸だな……」
「そうですねえ……」

 笑みを張り付けたまま、終は肩を竦めた。
 そして、少しだけ。
 また、人混みを見渡した。
 居るはずのない事は解っている。
 居たとしても、きっともう。今では見つけられない事も解っている。
 ただ少しだけ。少しだけ、探してしまうのだ。
 あの、人影を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
【森】
必要な戦後処理を済ませ学園祭へ向かう
基本、甲冑姿で行動する
どちらにせよ化け物然とした容姿だが
人混みを並んで歩くにはこちらの方が都合が良い
気にする一般人もいないだろう
飛び込んできたサンが怪我をしないよう
衝突箇所のみ甲冑→柔らかなタールに変えて受け止める

「何でも好きなものを食べるといい」
UDCアース産「姫林檎」の説明をしてやるが多分サンは聞いていない

忙しないサンを穏やかに見つめて(と言っても表情は変わらない)

サンが世話になったようで
「いすゞ殿もどうぞ、お好きなものを」
もちろん奢りです

真っ白なお前に
猟兵や世界についてよく言って聞かせなければならないが
それは帰ってからにしよう

(アドリブ絡み歓迎)


サン・ダイヤモンド
【森】
大好きなブラッドを見付けて飛び付き、慌てて怪我の有無を確認する
ブラッドが無事なら五感をフル活用して【POW】食べ歩き!

そして見付けた「林檎飴」
大好物の林檎にそっくりだけど、小さい
「ブラッド、これも林檎?」
一口食べれば
パリパリ!甘い!すっぱい!?衝撃!

ふわふわな琥珀色の頭を見付けて手を振って
「あ、いすゞー!」
ここへ案内してくれた彼女へ初仕事の出来栄えを聞く
「見てた?どうだった?ちゃんとできてた?」

くるくると落ち着きのない様ははしゃぐ子犬のよう
大きな狐の尾も翼のような兎耳も全身で楽しいを表現し
いすゞとブラッドの手を繋いで(ご迷惑でなければ)
笑顔絶やさず次の場所へ

(アドリブ絡みご自由にお任せ)



 大きくて白い狐尾を揺らして。
「ブラッド、早く、早く! お祭りが終わっちゃうよ!」
「焦らずともまだまだ終わる時刻では無いぞ、サン」
 急かすようにブラッドの腕を引くサンは、それでも早くーと耳をぱたぱたとはためかせて。
 あ、と視界に入った赤い果実に瞳を輝かせた。
「ねえ、ねえ、ブラッド! あれも林檎?」
 いちご飴、みかん飴、――小さな姫林檎の飴。
 それは赤い飴に包まれた、果物飴の模擬店だ。
 サンの大好物の林檎に似ているけれど、それはとても小さく感じられる。
 まだ小さな林檎ならば、青いはずなのに。
 これは真っ赤で――。
「ああ、それも林檎だ。……食べてみたいのか?」
「うん!」
 こっくり頷いたサン。
 ブラッドがその大きな手で器用に小銭を取り出すと、学生がありがとうございますと微笑む。
 世界の加護は、UDCアースで言えば人とは取れぬ形をした二人組も『自然』と受け入れさせる。
「そもそも姫林檎には二種類あるそうで、……」
「わっ、パリパリ! 甘い! 酸っぱい!」
 ブラッドが何やら解説をしようとする横。
 既に姫林檎飴を齧りはじめているサン。
 もう、そりゃあ。全く聞いて無い。
 外はパリパリなのに、中はシャクシャクで酸っぱくて!
「あっ」
 尾をぱたぱたと揺らしながら、また別のモノを見つけて耳をぴん、と一度立てるサン。
「いすゞー!」
 ぽっくり下駄がコーン、コン。
 サンとお揃いの尾を揺らして、掌をゆらゆら。
「おや、おや。センセ方お揃いで」
 瞳を眇めたいすゞは首を傾ぎ、笑う。
「どうも、いすゞ殿。サンが世話になったようで」
「見てた? どうだった? ちゃんとできてた?」
 ブラッドが軽く頭を下げ。
 落ち着き無く尾を揺らし、角を揺らし。
 どうだったかな、ところころと表情を変えて、サンはいすゞの顔色を伺う。
「いえいえ、あっしもお仕事っスからお気になさらずー。サンセンセもバッチリだったっスよォ」
 わあいと跳ねて、いすゞの手をサンは取り。
「いすゞも、林檎食べるよね!」
「おや、ご馳走してくれるっスか?」
「いすゞ殿もどうぞ、お好きなものを」
 ブラッドの許可も取れば、サンは無敵だ。
「いすゞ! 行こう、行こう!」
「奢りならどこでも行くっスよー」
 わあいと、サンのマネをして跳ねたいすゞ。
 サンはいすゞと繋いだ手とは逆の手で、ブラッドと手を繋ぎもう一度あのお店へ向かう。
 いすゞにだって、食べてもらいたい。
 だって、だって。
 とってもとっても、不思議で新しい味だったのだから!
 リードを目一杯引く子犬の様に、歩み行くサンに。
「ブラッド。焦らなくても大丈夫だ」
 ブラッドは小さく嗜めるように、言葉を紡ぐ。
 しかし、その言葉に嫌な響きなんて一つも無い。

 ――真っ白なお前に。
 猟兵や、世界についてよく言って聞かせなければならないだろう。
 しかし、それは二人のあの洞の家へと帰ってからにしよう。

 今はただ。
 この時を、この場所を。楽しむ彼に手を引かれるがままに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる
よーこ(f12822)と一緒に

そだね、鬱憤晴らししよ!
気持ち切り替えていかなきゃね。

うんうん、ソースの焼ける匂いとソース味はお祭りって感じだよね。
え、いや、どれだけ食べるの、よーこ。
ちゃんと全部食べるって話じゃなくてね?

そうだね、甘い物もいいよね。
……まだ食べるの?太るよ?
あっ、待って叩かないで、今は手足に穴が空いてて
ぎゃん!

うう、私もクレープ食べよ。
バナナとクリームのやつにする……
おいしい。

よーこは冷たいな~
私は、うーん……忘れられないかな。
きっと、ずっと、いつまでも、ね。

でも、うん。
今回も平和を守れてよかったよ!


花剣・耀子
べりるちゃん(f12817)と

鬱憤晴らしをしましょう。

お祭りと言えばソースの味は外せないと思うのよ。
お好み焼きにたこ焼きに焼きそば、
広島焼きもあるの? ではそれも。
全部ちゃんと食べるから安心して頂戴。

甘いものも良いわよね。
矢張りここはクレープかしら。
沢山カロリーを使ったもの。大丈夫よ。
べりるちゃんもちゃんと食べて治してね。
あ、苺とクリーム、チョコソースもお願いします。

同じようにお祭りを過ごしたかったヒトなんて、もう忘れてしまったけれど。
いま笑っているヒトがいるなら、それで良いわ。

ええ、あたしは冷たいの。
……でも、べりるちゃんが憶えていてくれるなら、浮かばれるのではないかしら。

そうね。
お疲れ様。



「鬱憤晴らしをしましょう」
 耀子の宣言。
「そだね、鬱憤晴らししよ! 気持ち切り替えていかなきゃねー」
 べりるも同意。
 ならば、することは一つ。
 食べ物の模擬店が立ち並ぶ廊下を、二人で散策開始だ!

「お祭りと言えばソースの味は外せないと思うのよね」
「うんうん、ソースの焼ける匂いとソース味はお祭りって感じだよね!」
 冷えた青い瞳を揺らして。
 真剣な様子で、粉物の屋台を見据える耀子。
 べりるが頷くと、跳ねっ毛がぴょんぴょん揺れる。
「――お好み焼きにたこ焼きに焼きそば。あ、広島焼きもあるの? ではそれも」
「えっ。いや、どれだけ食べるつもりなの、よーこ」
「大丈夫よ、全部ちゃんと食べるから安心して頂戴」
「……いや、えっと、よーこ? ちゃんと全部食べるって話じゃなくてね?」
「そうね、甘いものも必要よね」
 べりるの困惑の交じる声に、耀子がああ、と思いだした様に付け足して。
 そうじゃない。
 話しながら耀子の持つ白いビニール袋の中に詰められたパックは、どんどん増えてきている。
 お好み焼きにたこ焼きに焼きそば、そして広島焼き。
 うわーって顔のべりる。
「学園祭と言えば、矢張りここはクレープかしら……?」
 言ってることは中々ポンコツだが。
 顎に拳を寄せた、耀子の真剣な表情は崩れはしない。
「……そんなに食べるの? 太るよ?」
「今日は沢山カロリーを使ったもの。大丈夫よ」
「あっ! 待って! 叩かないで、今は手足に穴が空いてて」
 即答しながら、耀子はビニール袋を持っていない方の手でべりるに制裁を与える。
「ぎゃん!」
 女子高生は太りません。
 色んな所に穴が開いてしまい、まだ傷の塞がりきっていないべりるは涙目だ。
「うう……、私もクレープ食べよ……」
「べりるちゃんもちゃんと食べて治してね。……あ。苺とクリーム、チョコソースもお願いします」
「バナナとクリームの奴……えっ、そんなに盛るの? 太」
 耀子の制裁が再びべりるを襲う。
「ぎゃん……」
 今のはべりるが悪いよ。

「デザートにはやっぱりクレープよね」
「おいしい」
 クレープを受け取ると。
 ゆっくりと座って食べられる場所を探して、模擬店の教室を背にした二人。
 耀子と、既に食べ始めて静かになったべりるは、並んでゆっくり階段を降りて行く。

「――同じようにお祭りを過ごしたかったヒトなんて、もう忘れてしまったけれど」
 踊り場に差し掛かり、ふ、と口を開いた耀子。
「いま笑っているヒトがいるなら、それで良いわよね」
「……よーこは冷たいな~」
 ふは、とクリームを頬につけたべりるが少しだけ眉を下げて、笑った。
「ええ、あたしは冷たいの。……でも、べりるちゃんが憶えていてくれるなら、浮かばれるのではないかしら」
「私は、うーん……忘れられないかな。きっと、ずっと、いつまでも、ね」
 階段を降りきったべりるは、今度こそ目一杯笑み栄えて。
「でも、うん。今回も平和を守れてよかったよ!」
「そうね。お疲れ様」
 耀子は、こっくりと頷いた。
 それならば、きっと。
 ――きみだって、浮かばれるだろうから。
 白いビニール袋の中には、美味しいものがいっぱい。
 少女は二人、賑やかな廊下を並んで歩いて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニコライ・ヤマモト
【無花果荘】
仕事は万事、つつがなく。
甘い物……模擬店巡りか。任せろ。
(珈琲片手に、先の探索時に記録したメモがびっしりの学園祭のパンフを広げ)

こっちの店は気前が良い。特に美人にはおまけがあるという噂だ。俺の分も頼む。
女子の一番人気はこの店。人の流れが一瞬滞ったのはここの待機列のせいだ。
ところで合流前に射的を[スナイパー]でちょちょっと(大人げない)した景品の、模擬店の優待券が……。
物珍しいだけだ。はしゃいじゃいない。本当に。

良い食いっぷりだな。よしよし。土産は最後にするとして、次のおすすめはあっちの――。(ドヤ顔33歳)
……そうそう、金銭面はUDC組織が全面バックアップしてくれるんだったよなァ?


鼠ヶ山・イル
【無花果荘】

いやはや、ガッツある神官ちゃんだったなー
んでも、世は祭りってな。張り切って楽しもうぜ

ってわけで、オレは甘味めぐりー
ここの学園祭の模擬店、なかなかレベル高いもんな
ワッフルもめっちゃ美味かったが、やっぱクレープは外せねーだろ?
あとチョコバナナとーパンケーキとーりんご飴とー
ソフトクリームあるかな?抹茶味あったらいいなー
え?もちろん全部食うぜ。この場で。

ニコライ超スマートじゃん…ハンパねぇな…
その情報収集能力、やっぱただもんじゃねーな
よし、目的オールクリアだ!
あーあ、甘いもんいっぱい食ったら塩気欲しくなっちゃうな…
よし、このあとはお好み焼きだな

ひょっとしてオレ、めちゃめちゃ満喫してる?


壥・灰色
屋上から、終わっていく学校祭を眺めている

食事は済ませた
もう帰っても何の問題も支障も無い
それでもここに残っているのは感傷のようなもの

敵は打破した
あの雑踏の中には、もうオブリビオンはいないだろう
ざわめきと楽しそうな人々の声
その中に、おれはいつか一緒にいた誰かを探している

もう幻だとしたって、どこにもいないと解っているのにね
その幻さえも、さっき自分で砕いてしまったのにね

少しだけ想像するんだ
おれと彼らががもし、何の変哲も無い学生だったなら
ああして、あの雑踏の中で共に笑えたんだろうか

目を閉じ、息を漏らすように笑った
踵を返す
もう行こう

おれは猟兵だ
甘いIFに酔う時間なんて、どこにもありはしないのだから



「いやはや、ガッツある神官ちゃんだったなー」
「ああ、だが、万事恙無く。仕事を終える事が出来て、良かったな」
 校内を二人歩む、黒髪の女と黒猫。
「んまあ、世は祭りってな! 張り切って楽しもうぜ。ってわけで、オレは甘味めぐりがいいなー」
 へらへらと笑うイルは、戦闘前に食べたワッフルに思いを馳せ。
 あれは美味かった、と舌なめずり。
「ここの学園祭の模擬店、なかなかレベル高いもんなぁ。ワッフルもめっちゃ美味かったが、やっぱクレープは外せねーだろ?」
 それに、チョコバナナとーパンケーキとーりんご飴とー、なんて。甘味の名前を並べだしたイルに――。
「ふむ、模擬店巡りか。任せろ」
 司令を受けた、ニコライは青い瞳を鈍く光らせる。
 取り出したるは、書き込みビッシリのパンフレット。
「こっちの店は気前が良い。特に美人にはおまけがあるという噂だ。イルが行くならば俺の分も頼みたい所だ」
 黒猫の爪先が、コツと薄い紙を叩き。
 地図の上を滑る。
「――女子の一番人気はこの店。先程、人の流れが一瞬滞ったのはここの待機列のせいだな。この横の店は、人気の有る横の店に人を取られてはいるが、意外に美味いあんみつを出すそうだ。プラス百円で生クリームを盛り放題と言うのを安いと取るか、高いと取るかは人次第だろうな。チョコバナナの模擬店はココとココ、……パンケーキ店は複数あるな。スフレタイプに、タワーのように薄いモノを積み重ねるタイプ、食事系も――」
 次々にニコライから飛び出してくる、情報の波、波、波。
 一度言葉を切ると、彼はこほんと咳払いを一つ。
「ああ、ところで。合流前に少し、そう少しばかり射的で遊んで。……ちょっと興味があって覗いて見ただけなんだがな? 模擬店の優遇券を景品で貰っているんだ」
 そんなー。
 まさか33歳にもなるニコライさんが、大人げなくスナイパー技能を、遊びなんかで遺憾なく発揮した訳が無いじゃないですかー。
 ちょっと軽く揉んでやったら、ちょっと。
 まあ。ね?
 物珍しさでちょっと触ってみただけで、はしゃいじゃあいないんですよ。はしゃいでなんか。
 ね、本当です。
「エッ……、ニコライ超スマートじゃん……マジでハンパねぇな……」
 ニコライの本気具合は、本気で半端無かったので、イルは少しだけ慄いていた。
 この情報収集能力……、やっぱただもんじゃねえな、なんて呟き。
「しっかし、これで情報面はバッチリだな、……よし、行くぞニコライ! オレを導いてくれよな!」
「ああ、任せろ」
 イルは元気にニコライに案内を丸投げ。
 ニコライははしゃぐ心を押さ――いいや、平然とニコライは頷き。
 黒髪の女と黒猫は、校内を二人歩みだす。

 ――傾き出した陽の光。
 終わりに向かい行く、学園祭の一日。
 朱色に染まる屋上の柵に腰掛け。
 瞳を眇める灰色の少年も、今だけは煌々と照り返す朱色に染まっていた。

「……」
 灰色は、グリモア猟兵だ。
 人に頼らずとも、いつだって帰る事ができる。
 何時帰ろうが、何の問題も支障もありはしない。

 ――それでもここに残っているのは感傷のようなものなのだろう。
 遠く行き交う人の群れ。
 敵は猟兵達が、打破をした。
 あの雑踏の中には、もうオブリビオンはいやしないだろう。
 耳をすませば、ざわめきと楽しそうな声音が遠く聞こえる。

 ――例え幻ですら、そこに在るわけも無いのに。
 雑踏の中に、いつか一緒にいた誰かが居ないかだなんて、探してしまう。

 ――その幻ですら、さっき自分で砕いてしまったのに。
 雑踏を眺めつづけていた、視線を断ち切り。
 掌を掲げると、顔の上に影が落ちた。

 細く細く伸びる影。
 夕陽に染まる赤い掌を見上げて、灰色は呟いた。
「少しだけ想像するんだ、おれと彼らがもし、何の変哲も無い学生だったなら」
 ああして、あの雑踏の中で共に在れたのだろうか?
 ああして、あの雑踏の中で共に笑えたのだろうか?
 ああして、――。

 灰色は瞳を閉じてまるで息を漏らすように笑うと、踵を返して。
 立体パズル様のグリモアを取り出した。
 グリモアをパチと掌の中で回せば、六面揃った其れは白く光を漏らしだす。
「――おれは猟兵だ」
 灰色に、……猟兵に。
 甘いIFに酔う時間なんて、どこにもありはしないのだから。

 頬についたクリーム。
 イルはお腹をゆるく撫でて、しあわせスマイル。
「よーし、目的オールクリアだ! ……あーあ、甘いもんいっぱい食ったら塩気欲しくなっちゃうな……」
「良い食いっぷりだったな。ああ、そうそう、塩気の在る食べ物と言えば、おすすめはあっちのお好み焼き屋だな。モダン焼きのソバがまた絶品だそうで……」
 ニコライの書き込みは未だ増え続けているようで、ペンを耳の横に器用に刺したまま。地図を片手に道を指し示す、黒猫。
「よし、このあとはお好み焼きだな」
 ウムウム、と頷くイルが言われるがままにそちらへと向き――。
 はた、と気がついた様に顔を上げた。
「あれ……ひょっとしてオレ。今、めちゃめちゃ満喫してる?」
 イルの今更な疑問。
 ニコライは元よりにんまりしたように見える猫の口元を、(密やかなつもりで)ドヤっと擡げた。

 夕陽に沈みだした世界。
 もう少しだけ、あと少しだけ。
 お祭りは続くのであろう。
 猟兵達に守られた、平和の中で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月21日


挿絵イラスト