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黄泉廻生

#UDCアース

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#UDCアース


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 甦りませ――。
 それは言う。
「あなた様は特別なお方。きっと正しく甦り、来るべき世に、神と再臨なされませ」
 記憶にあるのは、ただその一言だけ。
 後に憶える記憶の中、すべての時は歪んでいる。
 土塊の穴。木造の家屋。焼け焦げた野原。冷たい混凝土の壁。
 狂瀾の宴。数多の腐肉。見渡し限りの、屍。死が転がる闇の中――。
 人の肉を食らい。腹を破り。

 そして、再び死して――甦りませ。

●妣國参り
 ある山奥に、密かに息づく集落がある。その所以は、やれ平家の残党だ、はて高名な浪人だ、いやいや、やんごとなき身分のご婦人だ――だと、かなり胡乱であるが言われているが、定かではない。
 ひっそりと息づく田舎であるが、彼らが粛々と守る祝祭がひとつ。
 他ならぬ梅雨の時期、山が雪を溶かし、更に地下水を豊かにため込む頃。普段は堅く閉ざされた石造りの洞窟より、地下に潜る。
 地下通路は長く深く入り組んでいて、腰ほどまで水が溜まっている。
 入り口こそ人が作ったものだが、その通路は自然の――木々の根が複雑に絡み合い、作り上げられた天然の通路である。
 誰が呼んだか、それを『根の道』といい。所謂黄泉に至る道、とされている。
 内部は真っ暗で――特殊な苔が生えていて、ぼんやりと輝くことがあるらしいが、何処へ繋がるかも知れぬ道を、ひたすらに進むという祭り。
 即ち、妣國参り。

「それはどんなルートを辿っても、必ずひとつの場所に着くようになっているんですの」
 告げるは、ジュマ・シュライク(傍観者・f13211)――彼は一度言葉を切って、猟兵達を一瞥してから、続ける。
「なんでも、声が聞こえるそうですわ。神が己の名を呼んで、こっちへこい――と。種も仕掛けもなく、邪神の領域だからでしょうね」
 根の道では、死者の声が聞こえるらしい。
 嘘か誠かは解らぬ。少なくとも「こちらに来い」という声は確かに聞こえ、暗闇においても迷わず、儀式の部屋に辿り着く。
「その部屋は石造りの大広間で――儀式の次の段階として、そこに用意された柘榴に似た果実を一粒摘まんで口に含むそうですわ。果実には昂奮覚醒作用があるらしく――その広間で、正気を失わせた生贄同士を殺し合わせるそうですの」
 急に直接的な話になった。
 気にせず、ジュマは続ける。
「強い個体こそ、神の器に相応しいという選別だそうですわ」
 儀式の恵みに育てられた集落の人間は、それを拒否しないのだそうだ。
 参加は任意なのだが、不思議と毎年十数人は参加するらしい。彼らは神の一部となれることを、喜びとしているからだ。
 そして――生き残った最後のひとりこそ、神の器として奉じられるのだ。蟲毒が如く。
 黄泉路を巡る疑似体験、死者の国にて戦って、愈々、神となる。
 そんな儀式を。美しき祝祭であると――彼らは教わり、信じ、全うする。
 そこにある犠牲に、犠牲となることへ、何の怖れも抱かず。
 この生は、神のためにあるのだと、信じて禁忌を繰り返している。
「始まりより、百年近い時を経て……漸く、だけれど。この祝祭を終わらせ――邪神を滅ぼしてきて頂戴な、という話でしてよ」
 長話になった、とジュマは咳払いをひとつ。
「まずは祝祭に参加して――大丈夫、飛び入りは大歓迎でしょう……強い生贄は多いに越したことはないと思っているんですもの」
 やれやれ、と彼は肩を竦めると、猟兵達を送り出すべくグリモアを輝かせるのであった。


黒塚婁
どうも、黒塚です。
いわゆる、あれとかこれとか、感じ取るシナリオです。

●1章
妣國参りに参加していただきます。
端的にいえば、半分水につかった根の洞窟を抜けていくことになります。
ちなみに、町の人々も参加しますが、儀式中は喋るのがマナー違反ということで、あんまり質問などに答えてはくれません。
(猟兵同士の会話は特に咎められませんのでご自由に)
人によって特定の死者の声が聞こえたり、永遠を望むかというような問い掛けが聞こえるようです。

●2章
殺し合います。
ご安心ください、ゾンビが相手です。
※猟兵や一般人との戦闘にはなりません。

●3章
復活した主神(?)との戦闘になります。

●プレイング受付に関して
各章、導入公開後の受付となります。
受付日時はタグと雑記でご案内予定です。
全員採用はお約束できませんので、ご了承の上、参加いただければ幸いです。

それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●祭日
 折しも、小雨の日であった。
 鳥居を潜り、冷たい石が詰まれた小さな入り口は、社と呼ぶにはいささか寂しい。
「これはあくまで、入り口に過ぎませぬ」
 枯れきったような老婆が言う。
 口をきいたことに驚いてしまいそうな、ミイラのような老婆であった。
「この世に在りし黄泉路。或いは産道。妣國参りの所以でございます」
 斎場はあくまで根の道の先に、という事らしい。
 集う人々――猟兵ではない、集落からの参加者は、一同に白い衣装を纏い、厳かな儀式に挑む構えでいる。
 ひとつ、卑怯な話があるならば――彼らは生贄になる覚悟を持っているが。
 飛び入りの猟兵たちに、彼らはその話をしないのだ。
 ただ、この先に待ち受けるのは素晴らしき事だと、うわごとのように繰り返すばかり。

 さて、導かれるままに根の道へと入れば、頭上には数えきれぬ木々の根が絡まり、網状に張った洞になっている。
 大小構わず紡がれた道が確かな事は、腰高まで堪った水が証明している。
 無論、何処かに排出もされているだろうが――。
 うっかり誤ってそちらに向かってしまうような事にはなるまい。
 光も無く、音も無く、風も無く――身が凍える程、冷える水に身を浸し、粛々と進み行く。
 時折、ぽつぽつと、天井から水が滴り落ちてくる他には何もない。光があれば、幻想的なものであろうが。
 時折、苔らしきものが、道順を知らせるように茫洋と光っている。それもあまり美しくは見えず、かえって不気味であった。
 じっと黙って立って見れば、ゆっくりと水が波打って、此方へ来いと誘うような微かな水流を感じられる。
 そして、

 ――甦りませ。
 ――神となり。
 ――永遠を、更なる栄華を……今一度。

 遠くで声がした。

■■■捕捉────────────────────────────
プレイング受付期間:6月18日(金)~21日(月)22:00迄

静かに根の道を進んでもいいですし、誰か知ってる(或いは知らない)死者の声をきいても構いません。
わざと賑やかに騒ぎつつ通り抜けるのも問題ありません。
誘う声が聞こえる場合、「生まれ変わって、永遠の存在になろう」「おまえは神の器に相応しい存在である」という誘いをかけてくるようです。
プレイングの材料までに。
─────────────────────────────────
シキ・ジルモント
周囲と集落の者たちの様子を観察し、彼らに倣って静かに進む
この先は彼らにとっても危険だが、今は止めても無駄だろう
不用意に声を掛けず大人しくしておく
集落の者が冷たい水に足を取られでもすれば、手を貸すくらいはするつもりだが

誘うような声がしても、神の器とやらになるつもりは無い
確かに色々と面倒な事も多い人狼の身ではある、それでも邪神の為に命を捧げるなど論外だ
師でもある恩人に庇われ守られた命だ、簡単には投げ出せない

誘う声がいつの間にか、落ち着いた男の声に変わっている
聞き覚えのある、ああそうだ、その恩人の声に似ているような…
…それ以上考えるのは止めておく
誘う声も死者への想いも、深入りするのは危険だろうからな




 ざぶざぶと、静かに水の流れに従う。
 腰まで浸る水は冷たく、重たいが――彼にとってはさほどの障害ではない。少なくとも、襲いかかってくる脅威が無いなら。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はじっと黙って――五感に伝わる感覚で、無言で進む集落の者達を観察していた。
 儀式への参加者は、五人程度。別行動のものがいるならば、解らぬ。年齢どころか、性別も関係ないようで、内訳は男三人、二人は女。
 聴いてはいたが、この先に待ち受ける事を考えると、暗澹たる気持ちもある。
(「この先は彼らにとっても危険だが、今は止めても無駄だろう」)
 根の道は陰鬱として、水の音しか聞こえない。シキの耳はじっと押し黙り、人々の息づかいを捉えていた。
 証左――先も見えぬ暗闇の中、あっと小さな声をあげ、目の前の影が揺れた時。
 いち早く察したシキは、大股で進んでそれに追いつき、倒れる前に、手を貸した。
「……大丈夫か」
「ありがとう……大丈夫だ」
 線の細い男だった。よくわからないが、水に凍えたのかもしれない。
 礼こそ告げたが、彼はそそくさと無言の行に戻ってしまう。そんな態度に腹を立てるシキではないが――。
(「義務感、犠牲心……でもないな」)
 神の器になろうという盲目的な信仰だ。
 ユーベルコードの力も使い、研ぎ澄ませたシキの視覚であっても、鮮明には見えないが――彼らは頭を垂れて、じっと目を閉じ、祈るように水を進んでいる。
 ソレは何故か。理由を、シキは知っている。
 ――声が聞こえるのだ。最初は小さく。徐々に強く。
 雑音のようなものが次第に意思を持ち、明確な言葉を紡ぎ出す。
『神になる資格を持ちし者よ……死を超えよ。死の先に、まことの生がある……』
 やがて、男とも女ともとれぬ、知らぬ声がつらつらと語りかけてくるようになる。
「……神の器とやらになるつもりは無い」
 他の者に聞こえぬよう、声を殺して反論した。
 シキは人狼と生まれ――その身の獣性を、疎んでいる。
 月に狂う呪わしき体を棄て、理想的な、より強靱なものとして、生まれ変われると囁かれたとて。
 それを除いて考えても、決して恵まれた出生とも言いがたいだろう――然し。
(「それでも邪神の為に命を捧げるなど論外だ」)
 強く、裡で思う。
「師でもある恩人に庇われ守られた命だ、簡単には投げ出せない」
 そう声に出して、告げた時。
『――……』
 囁く声が変わった。
 落ち着いた男性の声で、降り注ぐ言葉も、神の器や、生まれ変わりを促すような内容では無くなっている。
 だが、此方に来ると良い、という歪な意思が混ざっている。
(「聞き覚えがある……この声は」)
 どこか懐かしい。二度と聞くことのできぬ――何かを探すように、一瞬、彼は視線を彷徨わせかけ――。
 打ち払うように、頭を振る。
 ――これ以上考えるのは、やめる。
 次に顔をあげたとき、彼の瞳には感情の揺れは消えていた。
 五感だけは鋭く尖らせた儘、この声の正体も。その真偽も。
 己の心が引っ掻かれたような不快感を飲み込んで。今は前を進む影を、追う。
「誘う声も死者への想いも――深入りするのは危険だろうからな」
 ぽつりと、虚空に響く己の声音が、しんと滲んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
出たクソ因習村…
この手の事件には生前何度か遭遇したが
懐かしさすら覚えておぞましい
今じゃ一笑に付せないがな

俺の身体は常に凍ったままで
溢れる冷気が水温を余計に下げる
この痛みを受けるのは俺だけで良いから
極力他人を避け歩く

響くのはかつての教室のざわめき
故郷の戦乱で死んだ同級生達の声
皆下らない雑談でもするように笑ってる
「柊くんもこっち来ればいいのに」と

…そこに永遠は無いし
神になれた所で頭に『偽』が付くだろうよ
謎の細胞に蝕まれた全身が痛む
お前らを此処に呼ぶなんてお断りだ

確かに聞き覚えのある声の中
唯ひとつ耳馴染みのない男の声がした

『きみはそのまま神で居てくれ』

…?
誰だ今の…
それを聞いたのは結局一度きりだった




「出たクソ因習村……」
 柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は腹の底から、溜息をついた。
 おどろおどろしい怪奇事件には、つきものの舞台だ。
 大体はこけおどし、ないしは本当に呪われてて、降臨の果てのスプラッタ!
「この手の事件には生前何度か遭遇したが、懐かしさすら覚えておぞましい――今じゃ一笑に付せないがな」
 自分の存在がそもそも笑えないと、自嘲に頬を歪め、はとりは体を見下ろす。
 彼の体は常に凍った状態であり――視界さえはっきりしていれば、水に浸かったところから、霧のようなものが淡く昇っているはずだ。
 誰か別の人間が近くにあれば、水温をますます下げて、苛んでしまうだろう。
(「かといって、俺が平気かといえば」)
 別の意味の溜息が、口を突いた。
 冷たいものは冷たく、寒いものは、寒い。
 死者の体ではあるが、不便なことに、苦痛はあるのだ。通常の生者が感じるであろうものと、程度の程は別として。
(「この痛みを受けるのは俺だけで良い」)
 周囲に人気は無い。
 ざぶざぶと水を押しのけ進みながら、はとりの聴覚が、何処かで滴る水の音を捉える。
 こういう環境が、人々の洗脳といおうか――一種の異常集中の呼び水になるのだろうと、冷静な脳内が語る。偽神兵器に尋ねるまでもない、よくある話だ。
 闇、沈黙、水の音。己の立てる音が何処かに吸い込まれていく、不穏。
 だが、その不規則な水音が――何時しか。
 ノイズ、なじみ深い、会話が乱雑に混ざるものに変わる。
 教室のざわめき。煩くもありながら、懐かしい、心地よい喧噪。
 ――故郷の戦乱で死んだ同級生達の声。
 楽しげな笑い声と興じるは、話の内容は深く聞くまでもない、たいしたことの無い、くだらない雑談。
 ふっと、色や匂いまで、あの頃に包まれたような感覚に陥る。
 闇が、鮮明に色を描くことも、ある――。
『柊くんもこっち来ればいいのに』
 頭を内側から破壊しそうな残響に、はとりは口元に皮肉を刻んだ。
 彼が何をか発するより早く。知らぬ声が、囁いた。
『神になれば、この世界が取り戻せる』
 嘘を言え。
 氷のような双眸で、虚空を睨む。
『神となれば、永遠だ』
 うんざりだ。
「……そこに永遠は無いし――神になれた所で頭に『偽』が付くだろう」
 全身に巣くう『得体の知れない細胞』が、警告するかのように痛む。
「お前らを此処に呼ぶなんてお断りだ」
 もがくように前に進む。身を苛むのが凍気なのか、細胞なのか、どちらもなのか、はとりには解らない。
 前に進んでも、笑い声は追いかけてくる。重なり合う懐かしい声と、神になろうと誘う声が混ざって気持ちが悪い。
 過去の残滓がこびりついて、忌々しい。
 青白い貌を更に白くして、はとりが水を掻いている時、だ。

『きみはそのまま神で居てくれ』

 確かに聞き覚えのある声の中、唯ひとつ――耳馴染みのない男の声。
 不意に脚をとめて、振り返る。わんわんと騒がしい声は、ひととき途切れ、前も後ろも解らぬ闇の中で、はとりはゆっくりと瞬きをした。
「……? 誰だ今の……」
 いくら耳を澄ませても――男の声は二度と聞こえなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
(…どう見ても「素晴らしい事が待ってる」なんて雰囲気じゃないけどな)

不気味な薄暗さも、水に身体を浸して、体温が奪われる感じも
多少不快ではあるが、恐怖はあまりない
聞こえてくるのは、かつて居た実験施設で「喰ってしまった」仲間達の声
オレを招いている、永遠になろうと誘ってくる
オレの中にいる奴らも一緒に、永遠になれる、なりたいと

神の器なんて興味はない、でも「永遠」は――
少しだけ、ほんの少しだけ、心が揺らぐ
(逝かないと、生きないと。このボロボロの命に、時間が与えられるなら)
(あいつは、喜んでくれるだろうか?)

虚ろな表情で、先を急ぐ
振り払う為なのか、招く声に応じてか、自分でもわからない




 ひたひた。
 何処かで、水が零れている。
 暗い。冷たい。
 何も見えず、何も聞こえない――尾がじっとりと濡れる不快感だけがリアルだ。
(「……どう見ても『素晴らしい事が待ってる』なんて雰囲気じゃないけどな」)
 灰色の瞳を伏せ、皆城・白露(モノクローム・f00355)は訝しげに闇を見つめる。
 だが、恐怖はない――ざぶざぶと、体を重くするような水を掻き分け進む。
 水遊びというには水位が高くて動きにくく。
 泳ぐには水位が低くて動きにくい。
 その煩わしさにだけ、閉口しつつ、急ぐ必要は無いといわれているので、己のペースで進んでいく。
 暫くは、本当に無音だった。
 時折、何処からか滴る水の音がするだけで、他人の声も、呼気も感じない。自分が立てる音ばかりで。何もかも、闇に吸い取られてしまったかのようだった。
 ひた、ひた。
 だから、白露は淡々と進んでいく。
 ひた――ひた……。
 耳が捉える静かな水の音が、遠ざかっていくな、と彼が感じた刹那。
 ううう、と唸るような声が聞こえた気がして、警戒するように、耳を欹てる。
 羽虫が唸ったような、獣が唸ったような――音は、声だった。
 すぐ近くで囁き、懇願するような、声。
『――……ろう。永遠に……』
 永遠になろう。永遠になりたい。
 聞き覚えのある声が白露に、そう語りかける。ひとつではない。複数の声音が、次々と追いかけるように同じ言葉を向けてくる。
(「……オレが、『喰ってしまった』仲間達……」)
 知らず、眉間に皺が寄る。
 お前たちは内側にいるのではないか。なのに、どうやって外から声をかけてくるのだろう。
 そんな疑問は生じない。少なくとも、その鼓動が嫌な跳ね方をしたこの瞬間だけは――『彼らの声』であるように思えた。
『君の中にいる奴らも一緒に、永遠になれる……――なりたいだろう?』
 囁く声は蠱惑的だ。
 何処までも優しく、深く、誘ってくる。
(「神の器なんて興味はない、でも『永遠』は――」)
 その言葉に、白露は弱い。その願いが叶うならばと考えてしまうことだけは、やめられない。
 搾りかすの命を前に、ほんの少しだけ、揺らいでしまう。
 時間が欲しい。皆を犠牲にしている自分が、何かを残すための時間を。
 否、もっと。永遠になれるなら、虚ろな生を諦めなくてもよいのではないか、と。
(「逝かないと、生きないと。このボロボロの命に、時間が与えられるなら……」)
 ――あいつは、喜んでくれるだろうか?

 ――いや。
 苦痛を逃すように、白露は深く長く、息を吐く。
 その表情は虚ろで、何処をみるでもなく。何も考えないように、務め。
 ただ手足を動かした。少々荒い動きは、這い寄る思考を追い払うように。声から逃げるように。
 ――でも、もしかしたら、無意識の断片は。その声の元へと急ぐかのように。
 兎角、彼は一心に前へと進むことにした。
 そもそも、心を乱す元凶である、この焦りさえ――白露のものなのか。記憶に住む皆の心なのか、曖昧だった。
 そんな自分を見ないように、わざと強く水音を立てながら。
 闇に藻掻くように、白露は先を急いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
いつの時代も、どんな世でも
神さまに身を捧げたいものっているんだなぁ
此処に在るのはどういう信仰なのか
興味深いから覗いてみようか
深淵を覗くものは…ってね

示された洞窟の道を粛々と歩く
光も無く、音も無く、風も無い
死者の国とはこう云うものだろうか
見たこともなければ訪れることもないところ
聴こえる声は嘗てそうなったもの?
時を止めて仕舞えるならば
其れは確かに永遠なのかもしれない
生まれ変わってしまうのは
次に来たる刹那でまた違う気もするけど
…まぁ何方でも良いかな

どんなものさえ神の器に出来ると云うなら
その誘いにでも乗ってあげようか
ふふ、会うのが楽しみだなぁ
こんな形で信仰を享受するカミサマとやらが
信じる永遠よ、




 砂色髪の青年は、何処か楽しそうな眼差しで――闇に沈む根の道を、見渡す。
 とはいえ、特に何か見えるわけではない。
「いつの時代も、どんな世でも、神さまに身を捧げたいものっているんだなぁ」
 さて、此所に在るのは、どういう信仰なのか。
 深淵を覗くものは……、などと面白そうに嘯くは、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)であった。
 脚を浸し、水に入り――一度、掌で水を掬って見たが、確かに雨水が溜まったものようだ。独特の臭いがしないのは、恐らく、根の合間を落ちる間に少し濾過されているのだろう。とはいえ、飲用には適さぬだろうが。
 魔力などの気配もなさそうだ。この空間に人の身を害する仕掛けはないようである。
 ――自分は、人ではないけれど。
 嘯くと、コッペリウスは、水を分け、進み始めた。
 ぴしゃん。
 何処からか流れ落ちる水の音が、不定期な旋律で、不穏を誘う。
 けれど、そんなものが、彼の心を乱そうか。
 この場を支配する闇も、脚を絡める水の冷たさも何も、全く気にせぬような飄々とした様子であった。ともすれば、シチュエーションを楽しむように。
「光も無く、音も無く、風も無い――死者の国とはこう云うものだろうか」
 彼は小首を傾げてみる。
 見た事もなければ、訪れる事も無い場所だ。
 どちらかと言えば、怪物の胃の腑に入っていくような感覚に似ている――そんな経験をしたことがあるかといわれれば、そういうわけでもないのだが。
 じっとりと脚を絡める水の重みは、行くな進むなという警告か。それとも、引き摺り込もうとする亡者か。
 そんなことすら物見遊山の風情で進む彼の耳にも、やがて永遠を語る声が届く。
『生まれ変わり……――神の器に――永遠……』
 だが、コッペリウスはそれを、他人事のように聴き、その意味を客観的に考える。
(「この声は、嘗てそうなったもの?」)
 ならば、それは神になれたのだろうか。
 永遠になれたのだろうか。ゆえに、誘うのか。
 琥珀の瞳をひとつ瞬かせ、彼は微笑む。やや、皮肉げに。
 ――時を止めて仕舞えるならば、其れは確かに永遠なのかもしれない。
『今の肉の器を棄て……新しき――』
「生まれ変わってしまうのは、次に来たる刹那でまた違う気もするけど……まぁ何方でも良いかな」
 コッペリウスはふんわりと零す。
 永遠などを弄するものへ。
「どんなものさえ神の器に出来ると云うなら、その誘いにでも乗ってあげようか」
 ――己という存在を、如何なる器にできようか。
 そんなことを思い、天鵞絨よりも濃い暗色の水面に、波紋を刻みながら、彼は進む。
「……ふふ、会うのが楽しみだなぁ。こんな形で信仰を享受するカミサマとやらが。信じる永遠よ、」
 自然と浮かべた微笑みは闇の中。
 誰も見ることは無く――誰に見せることも、無い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
この世に在りし黄泉路――か。雰囲気だけなら確かにそうかもな。
いろいろ世界廻ったけど、こうまで不気味なんはそんなに無かった気ィする。

とにかく黙々と先に進んでいく。
おどけて歩くなんて気分にはなれねーし、この先に何が待ってるんか、想像するだけで怖ぇし。

――声が、聞こえる。知らねえ声が、呼んでる。神の器とか、永遠をとか、おれみたいなちっぽけな人間には途方も無えことを、耳に吹き込まれる。
……死ぬのは確かに怖ぇけど。
でも、だからって永遠を求めるってのは、なんか違う気ィする。
少なくとも、おれは今の境遇で満足してるから、ピンと来ねえな。

……それとも、この先に進めば、その答えの一端が見えるんかな?




「この世に在りし黄泉路――か。雰囲気だけなら確かにそうかもな」
 闇に沈む根の道。様々な旅路を経たけれど――鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は静かに息を吐き出した。
 自分の声ばかりがよく響く。
 それすら、何処かに吸い込まれていくような、不思議な感覚だ。
「いろいろ世界廻ったけど、こうまで不気味なんはそんなに無かった気ィする」
 すぅっと、水面を打つ声音が跳ねて返り、ひどく狭いところに押し込められているような、大海原に放り出されたような。相反する感覚に、嵐は口を閉ざす。
 それ以外は何も聞こえない。
 水の揺れる音は、これもやはり己から生じているものだ。
 やっぱ不気味だ。
 もう一度声に出していうと、今度は神妙と口を閉ざして、嵐は歩き始めた。
 耳に入るは水の音。彼が掻き分けるそれと、何処かで水がぽたぽたと滴っている。
 ぽた、ぽた、ぽ……た。
 感覚が鋭敏になるようで――聴覚以外が鈍化させられている。ぞわぞわと悪寒が背筋を襲うのは、水の冷たさだけではあるまい。
(「おどけて歩くなんて気分にはなれねーな……この先に何が待ってるんか、想像するだけで怖ぇし」)
 小さな不安と不穏が呼び覚ます恐怖が、嵐の心を挫くことはないが。
 沈黙と細やかな水の音しかないそこに、何かが混ざり始める。
 ――ぽ、ぽ、ぽ……た。
 ぴちゃ、ざぶ、――……を。
(「……知らねえ声が、呼んでる」)
 嵐は脚を止めることはなかったが、軽く目を伏せた。どうせ視界はろくに効かぬ。
『――を……永遠を。ひとの肉をすて、新たな神に……』
 神の器。
 永遠を得られる。
 そんな声音が耳を擽る。当然、知り合いの声でもなければ、嵐自身の声でもない。
 しかし、永遠などと突きつけられても実感は湧かぬ。虚空に進み続けながら、笑う。
「おれみたいなちっぽけな人間には途方も無えことを、」
『望め、望めば、得られる』
 声は畳みかけてくる。
 死すら、経過にすぎぬのだと。
 ざぶざぶと足下で水の音を立てながら、嵐は寡黙にして考える。
(「……死ぬのは確かに怖ぇけど。でも、だからって永遠を求めるってのは、なんか違う気ィする」)
 人の生はひとめぐり。
 いつかこの遙かなる旅路の終着点が訪れるように。永遠の旅――想像して、嵐は双眸を細めた。
「少なくとも、おれは今の境遇で満足してるから、ピンと来ねえな――」
 永遠をよいものだと説く声を、重すぎず軽すぎず、ひとまず正面から受け止めた青年は。
「……それとも、この先に進めば、その答えの一端が見えるんかな?」
 重い足取りで先へと進む。
 再び沈黙し、永遠を囁き続ける声を道連れに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
濡れちゃうし髪は結ってこうか
集落の人に紛れる様に白い衣に身を包んで
刀は着物の中にどうにか隠していく
防水布で包んだけど…錆びませんように、と

水に映る自分が幽霊に見えて笑っちゃいそう
地下水なら冷たい、よね
蒸発しない程度に、触れる水の温度は調整しつつ浸かって進む

ふと古事記を思い出す
黄泉路を行ったイザナギもこんな気分だったのかな
あの世の事を根の国とも言うし
そう言えば東西共に冥界は地下にあるものだ
そしてどれも戻りのリスクは高い、と

声は聞こえる気がするけど、反響か何かだと己に言い聞かせつつ、淡々と進むに限る
イザナミの怨嗟の声もこんなかも知れないね…
慌てなくても僕らが行くから大人しく待っててくれると嬉しいな




 白装束の男が、その着物が如く白い髪を結い上げて、天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は居心地悪そうに服を直す。
 不自然では無いか、というよりは、幾度直しても不自然さがある――。
(「防水布で包んだけど……錆びませんように」)
 何せ、愛刀を衣服に隠しているのだ。
 いざや洞へ、と覗き込んだ水面には、光が差して、己の姿が映った。
 ふっ、と笑いそうなところを、堪える。
 白に、白――脆弱な面立ち、赤い瞳。
 水に映る己が――まるで幽霊のようだ、と。他ならぬ己の考えに、紅紀は微笑を浮かべた儘、
(「地下水なら冷たい、よね」)
 皮膚から、炎の熱を高めて発する。
 水が蒸発せぬ程度に――触れる部分の水だけが、日光に暖まったかのように温くする。
(「風邪とか引いたら、うるさいしね」)
 紅紀大事のあまり、小言の多い誰それの顔を思い浮かべながら、歩き始める。
 脚が動くたび、ざぁざぁと音がする。それ以外は暗闇で――その気になれば、炎で灯りもとれるが、紅紀は黙したまま、歩く。
 括り付けた刀が心配ということもある。あまり水に浸からぬよう、歩き方にも気を遣う。時折意味ありげに光る苔を見上げる。
 さて何処まで進んだかと振り返ったところで闇。前後が解らなくなるだけであろう。
 此所では時間すら、あやふやだった。
「声が聞こえるって話だったけど……」
 今のところ何ともない。
 それにしても――紅紀は赤い瞳をゆっくりと瞬き、見えぬ道をぐるりと見渡す。
 ざぶざぶ、腰の辺りで強い波が当たる。
 困難な道程は進むも不穏、引き返すも不安。先の見えぬ不気味な道……猟兵である彼には明かされていないが、識っている事実として――死に向かい、粛々と進む路。
「黄泉路を行ったイザナギもこんな気分だったのかな」
 まるで古事記だ、と。彼はひそり呟く。
(「あの世の事を根の国とも言うし……そう言えば東西共に冥界は地下にあるものだ」)
 妣國参りというからには、曾て誰かがこの道に黄泉路を見たのは、間違いあるまい。
「――そしてどれも戻りのリスクは高い、と」
 ゆっくりと進みながら――最初に耳に飛び込んで来たのは、羽虫が唸るような音だった。
 恐らく筒状である道に、反響する振動。
 だが、紅紀はそれを『ことば』としては捉えなかった。捉える気が、なかった。
 ――何か聞こえるが、それは何かの反響だ。
 聴こうとしなければ、それは言葉にはならぬ。虚空を叩く空しい振動だ。
「イザナミの怨嗟の声もこんなかも知れないね……」
 フィールドワークにいそしむ研究者のように、平静に彼は嘯き。
 くすり、と。確信めいた笑みを湛えた紅紀は、刀を支え直し、淡々と脚を動かす。
 結構、疲れるな――ぽつりと零した言葉こそ、本音だが。
「慌てなくても僕らが行くから大人しく待っててくれると嬉しいな」
 さて、この底で待ち受けるイザナミは――どんな姿をしているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・フェンブロー
これは、また……
重力のある地の闇にも慣れたと思っていたのですが……

何かが違う
腰に触れていた水があったというのに
白装束の彼らの気配もあった筈だというのに、遠い

感覚を取り戻すように指先で水に触れる
水音が届けば、見知った声がひとつ届く

——お前、は

死した相棒の声に息を飲む
影一つ残さない深い闇に、己が何処にあるのか天地さえ見失いそうになる

いいえ…、神の器など私ではありえないでしょう

貴方を英雄にして沈めた、私にはその責がある
それに…貴方も、人として死んだ
託宣の役など似合いませんよ

私はただ…生き残ったものの価値を知りたくて
此処に来たんです

これでは、生者と死者の見分けも付かなくなりそうですね
先に進みましょう




 死に向かう祭事とは、また珍しい――否、何処にでもあるものだな、と思う反面、それがもつ意味合いは様々だ。
 神の復活を願い、命を捧ぐ。そのものは、珍しいとは思わない。
 水に半身を浸して――リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)は深い溜息を吐いた。
「これは、また……重力のある地の闇にも慣れたと思っていたのですが……」
 ずん、と五感が引きこまれるような暗黒だった。
 無論、この洞の半ばまで、リオは他の――白装束に身を包んだ、集落の人間の気配を捉えながら、進んでいた。
 若干土臭い水の臭いに、なるほど、と地上ならではのものを感じつつ、何も見えぬというのは、いささか勿体ない、などと思っていたところで――急激な違和感に襲われたのだ。
(「何かが違う――腰に触れていた水があったというのに……白装束の彼らの気配もあった筈だというのに、遠い」)
 すべての感覚がリオから消えたのか。
 遠ざかっていったのか、解らぬが。
 体を支えるために、咄嗟に伸びたのか。きちんと意図した通りにか。リオは水面に触れた。掴めぬ其れこそが、現実を結ぶ唯一確かな感触であると言わんばかりに。
 指先を、冷たさが包む。
 叩く傍から波紋が広がって、ぴちゃん、と小さな水音が耳朶を打つ。
 それに、混ざり。
『――……だ』
「――お前、は」
 知った声がして、知らず――呻くような声が漏れた。
『――まだ……生き恥をさらしているのか?』
 いっそ優しい声音で、問うてくる。美しい声だ。
 死んだ相棒の、声。
 リオが周囲へ、沈む青の瞳を向ける――だが、何も見えぬ。影一つ残さない深い闇……。
(「私は……地上にいるのか。それとも……」)
 もしや、故郷である宇宙の、何処かに追放されて、漂い見ている夢なのか。
 目眩に襲われたかのように、衝撃を受けた脳は、正しい情報を何一つリオに齎さぬ。
『いっそ、神にでもなりたまえよ』
 とても善い提案をしているかのように、声が響く。
 つまり、死ね、といっているのだと――あの声が、そう言っているのだと解釈し、リオは少しだけ、笑う。
「いいえ……、神の器など私ではありえないでしょう」
 軽く頭を振れば、髪が頬に触れた。
 またひとつ、感覚を取り戻す。
「貴方を英雄にして沈めた、私にはその責がある――それに……貴方も、人として死んだ――託宣の役など似合いませんよ」
 失っていった命に報いるために。リオは、前へと進むだけだ。
 無為にはしたくないが、世界の役に立とうとか、神になろうとか――そんな不遜な望みは持っていない。
「私はただ……生き残ったものの価値を知りたくて、此処に来たんです」
 そうか、と。ただ一言聞こえた気がした。そして、冷ややかに笑う声も遠ざかっていく。
 だが、また――虚無の底に落とされたような、闇と沈黙の中だ。然し、リオは儚く、楽しそうに、水に触れて、その冷たさを感じて――微笑んだ。
「これでは、生者と死者の見分けも付かなくなりそうですね」
 先に進みましょう、己へ語りかけるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゾンビ』

POW   :    反射行動
【生者を追うだけの行動パターン】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    活性化
戦闘中に食べた【被害者の肉】の量と質に応じて【興奮状態となり】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    感染増殖
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と同じユーベルコードを持ったゾンビ】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●願い
 かしこみて願い奉る――。
 その命の再来を。
 輪廻の旅路を此所に到りて、甦らせたまえ。

 ――結果から言って、それは失敗であった。
 幾度繰り返しても、死体は甦らない。
 確かに植えたはずの種は芽吹かず、その肉の内側から覗くは蛆ばかりだ。
 だが、祖は諦めなかった。

 素晴らしき御方、いずれ再び我らが前に、以前より優れた肉体を持ち、甦られるであろう。

●開宴
 薄暗く何も無い大広間の奥に、小さな祭壇があった。
 ――白い柩だ。
 だが、今はその詳細を探るより先に、全体を見る。石造りの、広間。洞穴の入り口のように、切りそろえた石をじっくり並べて作られた時代がかかった一室は。
 ねっとりとした土と水の臭い。
 そして、消せぬ腐臭。
 室内は清められているのに、五感を誤魔化せぬ不穏な気配が漂う。
 白装束の人々は、三方に載せられた柘榴――正確には、少し違う果実らしい――を一粒、恭しく摘まむと奥へと進む。
 猟兵たちも倣って、然り気無く敷いてある薄い敷物の上に行く。それは、贄同士が対峙するような形で並ぶように敷かれていた。
 そこにある意味は、考えるまでもないだろう。
 彼らは、座すると同時に果実を口に含む。
 ――それに従うのは危険だろう。
 猟兵たちは真似だけをして、じっと動くべきタイミングを、待つ。
 ――何処からか空間に響く声が、何か祝詞に似た言葉を続けている。人々はじっと目を閉じ、同じ祝詞を唱えている、が。
 正気である猟兵たちは、異変を、見ていた。
 壁際が薄黒く染まっていく。外側から、血が滲み出すように、じわじわと部屋の中に異質な影が現れる。
 臭気が強くなる。腐った肉の臭い。凝った血の臭い。死者がもつそれ――。
 いつからか、部屋の隅に死者がいる。
 彼らは虚ろな眼差しを生贄達に送っている。一心不乱に祈る人々を見守るように。見張るように。

 神の器を!
 新しい、強く、美しく、素晴らしき器を!

 熱心に祈り続ける彼らは気付かない。
 だが、祈らぬ猟兵たちを、死体を継ぎ合わせた邪神の眷属は敵と見なす。
 そして、猟兵たちもまた――儀式を続けさせぬために。不完全な邪神を引きずり出すためにも。成すべき事は明確であろう。
 ――戦い、排する。それだけだ。


■■■捕捉────────────────────────────
プレイング受付期間:6月30日(火)~7月3日(土)22:00迄

戦闘が始まってもゾンビは、一般人を襲いません(彼らはUDCサイドの人間なので)
ですので、特に庇ったり、守ったりする必要はありません。
また、この章では特に猟兵たちに反応することもありません。
─────────────────────────────────
コッペリウス・ソムヌス
祭壇に白い柩、漂う腐臭に
神殿よりかは墓標といった印象だね
死してから甦った救世主とやらの
話も嘗てはあったようだけど

カミサマって何だろうなとは思う
祈り願って縋られるもの、
望み叶えるため実体は得ても
生きてる信者を利用して
先に肉体を欲するのは本末転倒じゃないかな
多数の屍を引き連れる様は
まるで支配者や王様のようで

始まりに望み抱いたのは誰だったのか
今知る術が無いなら出来ることをしようか
敵と見做した邪神の眷属たちに
耳を塞いで祈ってあげよう
神の容れ物にさえなれぬものたちよ
疾く土塊に還るといいよ
おやすみ




 そうっと、息を吐く。空気は悪いが――だからといって、そんなことで身が変じるような感覚はなく。
 砂色の髪を軽く揺らす。ぐるりと部屋を眺める動きだ。
「祭壇に白い柩、漂う腐臭に――……神殿よりかは墓標といった印象だね」
 コッペリウス・ソムヌスはうっそりと零した。
(「死してから甦った救世主とやらの話も、嘗てはあったようだけど」)
 ゆえに、ついと思う。
「カミサマって何だろうな」
 それは自虐にも似た、思考であるが。
 コッペリウスは琥珀色の双眸を細め――凝る闇を見つめる。じわじわと距離を詰めてくる、その人型を、見極めるように。
 ああ、視界で形を成した影が発するものは、浅ましい欲。
 崇高なるものの眷属とは、思えぬ。
 目の前の人々が重ねる禍々しい祈りで、濃密な死の気配が高まりつつあるものの、
 祭壇であり柩であるそれを再び見つめ、コッペリウスは微かな声で嘯く。
「祈り願って縋られるもの、望み叶えるため実体は得ても――生きてる信者を利用して、先に肉体を欲するのは本末転倒じゃないかな」
 声は、虚空に溶ける。果たして顕現が近づきつつあるのだろうか。根の道より、ずっと熱心に語りかけてくる主に、彼の言葉は、届いただろうか。
 如何なる像が此所に光臨するとて――。
 ――多数の屍を引き連れる様は、まるで支配者や王様のよう。
 喉の奥で笑って、いいだろう、と。悠然とコッペリウスは腐臭を散らす屍を、振り返る。落ちくぼんだ眼窩、歪な肉体。欠損ばかりの、屍は――当然彼の背後にも立ち、祈りを捧げるのを待っていた。
「……ッ!」
 琥珀の瞳に宿る明確な意思に、それは突如と不明瞭な声で哮り、彼へと腕を振り上げた。
 ひょうと、それを僅かな動きで、彼は躱し。
「始まりに望み抱いたのは誰だったのか、今知る術が無いなら出来ることをしようか」
 祈って欲しいというのなら、祈ろう。ただし、それは――微笑の儘、コッペリウスは耳を塞ぎ、祈りを奏でる。
「祈る言葉が届いたならば、」
 何処からともなく――終焉を告げる鐘の音が、鳴る。
 死せるモノに、終焉を。厳かな旋律は、魂ごと屍の実体を震わせ――その身を砕く。
 役目を果たすために滅び、報われぬものどもを。偽りの永遠から、解き放つための、音色。
「神の容れ物にさえなれぬものたちよ、疾く土塊に還るといいよ――おやすみ」
 そのコッペリウスの囁きは、何処までも優しく。穏やかに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
置かれた白い棺も、漂う死臭も、祈る人々も、胸糞悪い
他者を喰って、喰わせて、蘇ろうとする何か――考えただけで、虫唾が走る
(「喰った」オレが責めていい事じゃないだろうけど)

まあ、歩きながらなんやかんや聞かされてた時よりは、少し頭が冷えた
敵が「見える」のは何よりだ
…そうだな。どうあれ期待に沿えなくて悪いな、とは言っとく

ファントムフォース(装備中のペインキラー)を呷って戦闘開始
【ブラッド・ガイスト】使用、左右一対の黒剣を禍々しい爪状に変化させ攻撃
負傷は【激痛耐性】で耐え、【2回攻撃】【カウンター】使用で暴れ回る
手近な敵をぶん投げて「速く動く物」と認識させ追わせる(【敵を盾にする】)




 じっと――皆城・白露はこの世のすべてを訝しむような、灰の瞳ですべてを眺めていた。
 不気味な沈黙を見せる白い柩。思わず顔をしかめたくなる斎場に漂う悪臭、それらを物ともせず、一心不乱に祈る人々。
(「胸糞悪い――」)
 喩え、それらが彼らの総てあったとしても。
 その恵みが彼らを育んだのだったとしても――否、なればこそ、白露には我慢ならなかった。
(「他者を喰って、喰わせて、蘇ろうとする何か――考えただけで、虫唾が走る」)
 身震いするほどの、不快。怒り。
 されどそれは――苦々しい思いで、軽く俯く。
(「『喰った』オレが責めていい事じゃないだろうけど」)
 だが、きっと。己が其処まで悔いていることだ。善いことであると納得することなどできようか。ましてや、そうではないと知っている――。
 ふ、と微かに笑いが溢れた。
「まあ、歩きながらなんやかんや聞かされてた時よりは、少し頭が冷えた」
 白露は言って、軽く身構える。臭いは不快で、声も不快だが、『見える』相手だ。正体も掴めず一方的に語りかけられる状態より、余程いい。
「……そうだな。どうあれ期待に沿えなくて悪いな」
 言うなり、小瓶に入った蛍光色の飲み薬を口にする。甘ったるさが舌に残る。
 弾けるように、白露は背後に迫った屍から距離を取る。獣に似た跳躍で姿勢を低く、すらりと抜いた左右一対の黒剣が――悲しみと復讐を示すそれが、彼の血を啜り、禍々しい爪と変貌する。
 白露自身は――静かに凪いでいる。薬の影響だろう。感覚と感情が遠くなる。冴えた視界に転がる果実と、似たようなものか。
 うっすらと己の頬が動いた気がしたが、敵対行動に反応した屍の影に、忘れる。小さく横へ身を傾ぐと、両腕を無造作に振り、内側から掻き裂く。
 だがそれも元より死人。ズタズタに裂けた肉を落としながら、白露を抑え込もうと、驚くべき力でのしかかってくる。
 果たせるかな、彼は再び、力任せに爪を振り上げた。
 左右の爪で引き裂かれた肉を、体当たりで引き離し、ちぎれそうな頭を掴んで、適当に放り出す。
 総てではないが、何体かの屍が、そちらを敵と認識して殺到する――その頭部を狙い、白露は跳ぶ。体を伸ばすと、背中が小さな悲鳴をあげるように痛みを知らせた。しかし白露の爪に比べれば、大した疵ではない。
 顔色一つ変えず、彼は固まる屍どもの頭を薙いだ。視界の限り、赤と黒が斑に散らばる。
 それを無感動に見下ろして――休むこと無く、彼は暴れ続けた。
 ――耳に聞こえる祈りを、掻き消そうとするかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
ゾンビの大群に襲われるとか、ゾッとしねえな。ホラー映画じゃあるまいし。

《我が涅槃に到れ獣》を使ってクゥを呼び出す。
クゥに乗って〈暗視〉で目視しつつゾンビとつかず離れずの間合いを保ちながら、〈スナイパー〉ばりの精度で攻撃を撃ち込んでいく。
囲まれそうになったら〈逃げ足〉や〈ジャンプ〉を駆使して、とにかく多勢に無勢って状況はなるたけ回避するように動く。
もし近くに他の仲間が居るんなら、攻撃に合わせて〈援護射撃〉で支援したり、〈マヒ攻撃〉や〈目潰し〉をゾンビにぶつけて防御を助けたり。

そんなに簡単に永遠なんてモンは手に入らねえ。だから命は尊い。
当たり前のことなのに、どうして皆忘れちまうんだろうな。




 咄嗟に飛び退いて――鏡島・嵐は、のろのろと距離を詰めてくる相手に、表情を曇らせる。
「ゾンビの大群に襲われるとか、ゾッとしねえな。ホラー映画じゃあるまいし」
 まあ現実、襲われているのだから――事実は小説よりも奇なり、か。
 正直、少し恐ろしい。
 平然としている皆が凄いやら、奇っ怪やら、落ち着かない気持ちに襲われる――が。
 しかし善良なる登場人物よろしく、うっかりそれらの仲間入りしてやるわけにはならぬ。
「我ら光と影。共に歩み、共に生き、共に戦うもの。その証を此処に、その連理を此処に。……力を貸してくれ、クゥ!」
 主の声に応え、焔を纏った黄金のライオンが、暗い斎場に、堂々とした姿を現す。
 見上げるほどに大きな獅子へ、目配せひとつ、ひらりとその背に乗るなり、嵐はお手製のスリングショットを構える。
 黄金の獣が疾走する――ゆらり、と焔が揺れて、広間を照らす。輝きに惹かれる羽虫のように、或いは炎に飛び込む虫のように。
 屍どもは嵐とクゥに押し寄せる。
 黒いやら、赤いやら、青いやら――それらは全身を押しつけるように、躍動する獣を止めようと挑む。
「跳べ、クゥ!」
 嵐のかけ声に合わせ、それは後ろ足で跳ねた。軽々と屍の頭上をとり――不安定な姿勢から、嵐は一撃放つ。
 弾丸が屍の頭部を貫通し、大袈裟に倒れ込む。巻き添えになった同胞へ、嵐は連続してスリングショットを向けた。
 クゥもまた、前肢で食らいつくようにして、着地地点に構える屍どもを蹴散らした。
 多勢に無勢とはいかず――蹂躙するような彼らであるが、邪神の眷属どもも、それでは済まさぬ。ぐしゃりと潰れ、ただの死骸に戻った肉へ、動く方の屍は、思い切り噛みついた。
「うわ……」
 思い切り顔をしかめて、嵐は呻く。
 屍が、屍を食らう――そして立ち上がった屍は、より早く、より屈強と変貌して、彼らに襲いかかってきた。
 クゥが加速する。振り落とされぬよう身を倒し、嵐は次々と弾丸を撃ち出す。先程までは容易に打ち抜けた額も、目も、それが回避するように動くと一撃では仕留められぬようだ。
(「麻痺は効くか……?」)
 弾を入れ替え、素早く放つ。胸に埋まったそれに蹌踉け、屍が離れていく。隙を見せたそれに追撃を重ねつつ――捕らわれぬよう、翻弄するように身を躍らせる獅子へ、頼もしいと双眸を細めた。
 それにしてもこのゾンビどもの数は――想像して、暗澹とした気持ちになる。永遠を囁く声。神の器となろうとした人々。
 そのなれの果てが、これならば――。
「そんなに簡単に永遠なんてモンは手に入らねえ。だから命は尊い――当たり前のことなのに、どうして皆忘れちまうんだろうな」
 思わず漏れた言葉は――嵐が考える以上に切なく、響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
動く死体だと?
まさかこれは、過去の儀式に参加した者の成れの果てではないだろうな
…何にせよこちらの行動は変わらない、邪魔をするなら排除するまでだ

相手は遠距離への攻撃方法を持たないようだ
逃げずに寄ってくるなら話は早い、まずは戦いながら敵の位置を把握していく
死角にいるものも嗅覚から得られる情報で察知したい
これだけ目立つ臭いがするなら、視界の外に居てもそれなりに感知はできるだろう

攻撃力を強化したなら接近される前に倒せば良い、敵の位置を把握したらユーベルコードを発動
範囲攻撃に多数のゾンビを巻き込み、頭部を狙って弾丸を撃ち込む
耐久力が増しているなら長期戦は不利だ、急所を一息に破壊して早めに倒してしまいたい




 鋭利と澄ませた感覚は不要なまでの、死臭。慣れ親しんだ、悪臭。
「動く死体だと?」
 率直すぎる臭いにではなく――それが存在することの意味に、シキ・ジルモントは顔をしかめた。
(「まさかこれは、過去の儀式に参加した者の成れの果てではないだろうな」)
 咄嗟に、その死体の特徴へ、観察眼を走らせてしまうのは、傭兵の性であろうか。
 縊られたような首。ねじれた手足。腐敗も進む肌からは、もはや何も解らない。ぐずぐずと赤黒く染まっている傷口は、噛みちぎられたような印象だ。
 眉間に深い皺を刻み、それ以上の観測は、やめる。
「……何にせよこちらの行動は変わらない、邪魔をするなら排除するまでだ」
 素早く視線を巡らせ、シキは広間の状況を把握する。
(「室内の四方から――囲まれているのか」)
 臭いは、その数を曖昧にする。だが、距離を測るには都合が良い。
 四方を囲むということは、即ち――己の背後にも、それらはいる。
 呆然と立っていればこそ、様子を窺い、動かぬやもしれぬが。既に、違和感から生じるイレギュラーな動きを見せ始めている。
 それらが、シキの首根を捕まえるより、早く。
 短く、跳躍する。
 すかさず開く腕の先に鈍く輝く白銀の銃。振り向きざまに素早く打ち抜き、水平に狙いをずらす。
 前のめりに屈んだ死体の額に、次の銃弾が吸い込まれていく。
 小気味よい発砲音の続く限り、赤い花が咲き、のろのろと屍どもは頭なり腰なりを弾き飛ばされ、崩れ落ちていく。
 シキの立ち回りはコンパクトであった。掴みかかって来たそれを足払いで躱すと、銃口を突きつけ、トリガーを引く。
 果たして敵も、屍であれば――淡々と撃ち抜く銃弾に怖れることなく、挑みかかってくる。
 軌道を逸れ、肩を撃ち抜かれようが、手足を吹き飛ばされようが、屍はのろのろとにじり寄り、掴まれれば、万力のような力で締め上げてくる――腕を掴まれたシキは、顔色一つ変えず、二撃――肩と、額をダブルアクションで仕留めると、空いた隙間へと身を滑らせた。
(「耐久力が増しているなら長期戦は不利――ならば、」)
 ひとつ、息を整える。身を屈め動きを止めたシキへ、屍どもは距離を詰めてくる。
 ともすれば、姿勢も揃おう。先程、大方の体格は把握した――。
 尾の反動を感じる勢いで、シキは振り返る。すっと上げた腕の位置は完璧だった。
 撃ち尽くすまでの銃声が広間に鋭く強く、響く。白煙を帯びた煙の中で入れ替わり、血霞が漂い――真の屍の山が、床に重なり合う。
 シキは黙った儘、再度、厳しい眼差しでそれらを眺めた。
 これらはすべて犠牲者であり――加害者である、その意義を。暫し思案するかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
こっちの地球にも居んのかよゾンビ…
まるで悪夢だがこれが俺の現実
名探偵の呪いが引き寄せた運命…だろうな
正直気分は優れないし体調も悪い

まあ今回は面倒なトリックも無いし
犯人も明白だ
解決してやるよ…物理でな

【第六の殺人】墓場村
今使うにはうってつけだろう
此処で死んだ村人の霊を呼び
俺の代わりに戦わせる
幾度となく行われた殺人をこの目で視る為に

村の人間が正気に返るとは思っちゃいないが
何が神だ、何が儀式だ
どう見ても人と人の醜い争いだろうが

苦しい
心も身体も全部
強くも美しくも素晴らしくもないし
ましてや神でも何でもない
俺は…
『ふふふ そうですか わーい』

…コキュートス
お前…何笑ってやがる
今までこんな事なかったが…最悪




「こっちの地球にも居んのかよゾンビ……」
 呆れを息と共に吐き出して、柊・はとりは――他でもない、己の運命を呪う。
 諦めきっているのは、呆れきっているのは、この世の因果『ばかり』ではない。
 まるで悪夢。
 一流だろうが三流だろうが、陳腐なまでの。
「これが俺の現実――名探偵の呪いが引き寄せた運命……だろうな」
 達観したように零してみるものの、その顔色が冴えないのは、決して、道中で凍えたから……ばかりではあるまい。
 ――自覚はしている。悉く、はとりの在り方を刺し貫く、嫌な状況だ。
「まあ今回は面倒なトリックも無いし、犯人も明白だ――解決してやるよ……物理でな」
 ゆえに、棄ててやろう。切り離せない因果の総てを乱暴に。
 己を括り操るような其れを、一時的に、こちらから断ち切って。
 名探偵としての誇りを擲ち、笑みに表情を歪めて――謎解きを、する。
「死体が生きて歩く筈ないよなあ。観念しろ≪墓守≫。そこに居るんだろ?」
 彼がそこに呼びつけた亡霊は、亡者どもの生き写し。
 容貌は生きていた頃のものだが、どいつがどれと答え合わせはできぬ。それらは屍どもへ『生前と同じく』掴みかかって、引き倒す。
 彼が紡ぐは、曾てあった「事件の再現」――犯人と被害者の、再現。
 殴りかかり、爪を立て――理性などという言葉をしらぬように、暴れ回る。
 ゾンビもきっと曾てと同じように、亡霊に報復する。殴り、殴り、噛みつく――獣のように。
 ただの殴り合いを、はとりは冷めた視線で見つめている。
 これが、神の器を選ぶ儀式だと?
 冗談にしても、もっと巧いやり方があろう。
 祈る声は、気付けば弱々しくなってきた――猟兵たちが立ち回り、屍どもが崩れ落ちて行く中で、いよいよ違和感に気付いたか。
 現実を突きつけるような光景を目の当たりに――されど、彼らの瞳が宿すは恐怖というよりも、ただの混乱に等しい。
「何が神だ、何が儀式だ。どう見ても人と人の醜い争いだろうが」
 吐き捨てるような言葉とともにはとりは嘲笑するも、どうにも噛み合わない。
 己の心が、胸の奥が。何処か、おかしい。
 ――苦しい。心も身体も全部。
 不快感を吐き出すように、そっと息を逃す。眼前では醜い争いが続いている。肉が弾け、爪が飛ぶ。びちゃびちゃと不快な音がしている。ゾンビは空を掴もうと藻掻くばかりだ――どうやら、実体の肉が無いだけ、亡霊の方が強いらしい。
 はとりを除け者にして、世界は回っている。
「強くも美しくも素晴らしくもないし。ましてや神でも何でもない――俺は……」
 ひとりごちた時、彼の脳裏に響いた声は。
『ふふふ そうですか わーい』
 勝手に反応した偽神兵器に、ぎょっとする。元々、はとりにとって、想定外ばかりの道具ではあったが――。
「……コキュートス……お前……何笑ってやがる」
 頭の後ろがぎゅっと冷たくなったような。
(「今までこんな事なかったが……」)
 身を苛む冷たさが――瘧に掛かったように止まらぬ震えを、無理矢理、捻じ伏せる。
 やはり、自分は、この世界で――これ以上も無く、孤立している。今も、なお。
 それを自覚し、名探偵の性と嗤っていたつもりだったが。
 ……俺は。お前は――一体、なんなんだ。
 ――最悪だ。気分も、何もかも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・フェンブロー
信仰は清らかとは限らず、そうである必要もないのでしょう
他者がどう計ろうと、彼らにとってそれが信じるものであれば
……、いえ、私が言えることでもありませんね

果実の香りが残っていた手を握り、オプシディアノス達を喚びましょう
私の戦い方では白装束の人々を巻き込みかねない
黒耀の蝶達をゾンビに放ち、意識をこちらに向けましょう

あちらが走るにしろ歩くにしろ、間合いはこちらから詰めさせて頂きましょう
これでも魔女の血を引くもので、尊き祈りにはきっと向きませんよ

青廻にてアンサラーを召喚します
ゾンビ達を見据え、射線に捉える。
全ての魔力を砲撃に回しましょう

枷を外し、全てを穿てアンサラー
——よき眠りのあらんことを




 信者である白装束の者達は、争いに巻き込まれることもなく、だが半ば祈りを止めていた。
 それは眼前に繰り広げられる惨状よりも、『猟兵が何をしているのか』を理解できず、呆然としている、といったほうが正しいだろう。
 つまり、彼らは――澱を怖れる心を、持たぬのだ。
 そんな現実を見つめていた青の双眸が、陰る。
「信仰は清らかとは限らず、そうである必要もないのでしょう」
 リオ・フェンブローは、そっと呟く。
 神の器。
 そのための死。
 彼らにとって――それは喜んで受け容れるべきことなのだ。
「他者がどう計ろうと、彼らにとってそれが信じるものであれば……、いえ、私が言えることでもありませんね」
 つと視線を、掌に落とす。
 この手は、友すら……――先に聞こえた懐かしくも冷ややかな声を思い出し、ただ微笑む。
 手袋に包まれた掌には、赤い果実を摘み取った時の芳香が僅かに残る――それごと、堅く握り込める。
 それを合図に、魔力を巡らせ、黒曜石に似た煌めきと色彩を持つ不思議な蝶を、手の内に呼ぶ。
「誘導をお願いします」
 再び開かれた手より、黒き蝶たちは、ふわり飛び立つ。
 いくら狂信者であろうと、彼らを巻き込むつもりはない――黒く輝く鱗粉を纏う幽世蝶は、主の意に従い、ゾンビどもの頭上をひらひらと舞い踊る。
 果たせるかな、屍どもは、ふわふわと浮かぶ蝶を掴み落とそうと、腕を振り回し始めた。その口元は血肉に濡れている――倒れた同胞を、食らったのだろう。
 やがて逃れるように蝶が此方へと動き出すと、それらは猛然と蝶を追い、即ち、リオへと迫る。
 応じるように、リオも前へと踏み込む。適切な距離をとるために。或いは横から掻き薙ぐ腕から、逃れるように。
「そんなに熱心に追いかけてくれたところで、」
 力任せ、勢い任せの抱擁では、重力の地であれ捕らわれませんよ、と彼は嘯く。
「これでも魔女の血を引くもので――尊き祈りにはきっと向きませんよ」
 くるりと身を翻し、一方へと寄せた屍どもを見る。反動に、結った銀の髪が、ふわり揺れ。それが重力に従って落ちていく、前に。
 リオは均衡を保つように、ぐっと引いた姿勢で、戦場における無二の相棒の名を呼ぶ。
「では、参りましょう。アンサラー」
 瞬くは、灰の魔女の瞳。
 朽ちぬ灰は瞳に青き炎を熾し、敵を見据え――リオの背を支えるように現れた漆黒のアームドフォートが、砲口に光を湛える。
「枷を外し、全てを穿てアンサラー」
 吸い込まれるように光を集めた漆黒の砲身が、幾重にも光線を放ち、駆けてくる屍どもを焼き穿ち、塵に変える。
 広間は刹那、眩まんばかりの光に満ち。
 ――そして、暗闇に落ちる。
「――よき眠りのあらんことを」
 リオの祈りは、光に焼かれた深い闇の中で――静かに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『残響の女神』

POW   :    信者の供物
自身の装備武器に【生贄になった者の身体部位の一部 】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD   :    叫ぶ
【絶叫 】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
WIZ   :    凝視
小さな【狂気 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【トラウマに応じてダメージを与える空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●根
 ――この集落の由来は、かなり古く。
 落ち武者が作ったとも。それより昔から、高貴なる罪人が捨て置かれるために作られたとも。謂れは、諸説ある。
 そういった経緯からか、まじない――死者を奉る教えなどは、集落の風習に深く刻まれ残ってきた。しかし極々平凡な、少し特異で、少し古くさいだけの祝祭に過ぎなかった。
 転機は、百年前――。
 長く密かに息づいてきた集落が変異したのは、たった百年前の事。その前の百年とも定かではない歴史を塗り替える、まれびと。
 それは深く傷ついて、息も絶え絶えの女であった。
 しかし壮絶な美と気品をもち、ただならぬ人であろうと、集落の人々は思ったらしい。
 寄り添う従者は、集落の出身者で、寄る辺を求めて帰郷したような風でいて――その顔は、狂気を孕んでいた。
 事情を聴こうにも、取り付く島も無く。総てを拒絶していた。
「この方はやんごとなきお方だ。やすやす近づくな」
 二人がどんな事情をもっているかも解らぬが、受け容れた集落の人々が、こんな風に追い払われる義理はなかろう。
 男が、自分では満足に口もきけぬ、この瀕死の女に心酔しているのは明らかで。
 その焦燥が――鬼気迫る男に、集落全体が呑まれていた。
「この方は、生まれるのが早すぎたのだ。だが今此所で、失われてはならぬ……ならぬのだ」
 呻く男は、一日二日の間にこの集落に伝わる、最も禍々しき呪いに辿り着く。
 転生の呪い。
 他者の体を借り受けて、新しく生まれ変わる、魔術。

 冷たい洞で、冷たい水に清められ。
 根の道をゆきて根の国に辿り着き、そして、そこで再誕を待つ。
「甦りませ――」
 祈る男の声は懇願に似ていた。
 相応しき肉体と。相応しき時代に。
 生贄はいくらでも捧げよう。
 その時、おそばに侍ることはできないやもしれませんが――。
「あなた様は特別なお方。きっと正しく甦り、来るべき世に、神と再臨なされませ」

 ――そう、ならば私は、私は。
 神になったのね。

●時はきたれり
「ああ、神が……!」
「祭壇が……!」
 白装束の人々は、慌てた。己が成すべき事を、すっかり忘れ果てて、しかし改めて隣人を殴り飛ばそうという気概をもつものはいなかった。
 猟兵たちが大体の屍どもを吹き飛ばした直後――白い柩が弾けた。
 何が起こったのかは、確認するまでもない。
 広い石室の中央に――得体の知れぬ怪物が、いた。
「おお神よ……永遠の繁栄を……」
 白装束の一人が、そういって近づく。彼らは、この怪物が、集落やそこに住むもの達に永遠を授けるものだと教えられてきた。
 そうして、最も尊い存在として、仕えるようにと。百年後をも支配する、ひとりの男の妄執に捕らわれていた。ゆえに、それが真に神であるのか。
 神であったところで、善きものなのか。
「……――ッ!!」
 それは言葉にならぬ絶叫を吐いて、信者を掻き裂く。真っ二つ――新たな血潮が床を塗らし、それで、すべてが『無意味』であったことを知らせる。
 数多の肉体を、着ては脱ぎ。
 素晴らしき神を産もうとする忌まわしき伝統は。
 祝祭は――成就した。
 ただしその結末は、最初から間違っていたものであり。ならば間違ったものしか生まれぬ。
 神の名を借りた、怪物が。絶望と空虚を叫び、此所に在る。
「いいや、まだ……より強い体と、心をもつものを捧げれば」
 呻く声が何処かで響く。集落の人間か。それとも、この地に残された執念か。
 猟兵がすべきことは、明瞭だ――この祝祭を。この怪物に、終焉を。

■■■捕捉────────────────────────────
プレイング受付期間:7月9日(金)~12日(月)22:00迄

甦った邪神(ではあるのです)を滅ぼす最後の一戦となります。
集落の人々に何をいうも、言わぬも良しです。
(尚、集落の人々は事件解決後、UDC組織によって法の下裁かれることになります)
─────────────────────────────────
シキ・ジルモント
無駄だとは思うがな
どんな生贄を捧げても、召喚されるのはただの怪物でしかない
…あんた達が縋るモノがどういう存在なのか、自分の目でしっかり見ておけ

あの『神』は、信者であろうと躊躇いなく手に掛けるようだ
集落の者にアレを近付けないように気を配る
助けなど望まないかもしれないが、彼らにこれ以上の被害が出ないよう、いざとなれば守る事も考えておく
あの動く死体の仲間を増やしたくは無い

叫ぶ声に共感などする筈も無いが、酷く耳障りだ
ユーベルコードで叫び声を一時的にでも止めて、その隙に邪神へ一気に接近
駆ける勢いのまま祭壇へ向かって蹴り飛ばし、射撃で追撃を加えたい
儀式も贄も今日限りで終いだ、こんな祭壇はもう必要無いだろう




 静かに息を吐く。それは感情を含んだものでもあり――ただの戦いの前動作ともつかぬ。
 敵と向き合う男は、非難の瞳を向けられても、揺るがない。
「どんな生贄を捧げても、召喚されるのはただの怪物でしかない」
 シキ・ジルモントは言う。
 その言葉が、彼らに伝わる事は無いと知りながらも。
 人として――告げておく。
「……あんた達が縋るモノがどういう存在なのか、自分の目でしっかり見ておけ」
 そして、守るに値しない人間達だったとしても――同時に、それを当人らが望まなかったとしても――シキは彼らの前に、立つ。
 見れば見るほど、不気味ではある。先程の屍どもと良い勝負――否、その歪な形状は、ただの死者よりもおぞましい。
 その姿とて、誰の望んだものではないのやもしれぬ。
 果たして圧と負の気配ばかりは強い神は、機敏そうには見えぬが。まずは一撃、銃弾を叩き込む。
「『神』の癖に、祈りを捧げたものとそれ以外の区別がつかないのか」
 敢えて、挑発めいたことをいう。
 言葉がきちんと通じているのか、何か呻いているが、解らない――然し、その視線がシキを捉えた事は、感覚で悟る。
 長い腕が厭うように動く。続けざまに、肉の弾けるような音がした。
 シキは初撃の結果を見るより先に駆け出し、駆けたまま、トリガーを引く。
 連続して響き渡る銃声は、その都度、鈍い肉の破裂音で応じる。だが、神の両腕は赤い銃痕で次々と彩られても、すぐにその傷口を閉ざした。
「ふはは、神はやはり神なのだ……」
 誰かが呻く。
 絶望にも似た声音は、所謂、銃弾が効かねばそれを何で殺せるか、という彼らの常識の中からの問いだ。
 青い瞳は冷徹に一瞥し、更に銃を突き出す。無駄、とは思わなかった。
 反撃の機を見たか。神は――虚空のような口を大きく裂いて、絶叫する。
 途端に、その様々な肉を接いだような肉体が、大きく膨れ上がる。筋肉を膨張させた神は、膝を深く折ると。双方の距離を一足で詰めてきた。
 大音量に、不快そうに眉を僅かに寄せたシキは、足を止め、それを躱さなかった。
「……あの動く死体の仲間を増やしたくは無いからな」
 背後に人々を庇った儘、その両腕に掴まれぬよう、低く構え。両手で銃を支えて、一呼吸だけ集中する。そちらから来てくれるならば、銃撃だけに集中できる――。
「大人しくしていてもらおうか」
 小気味よいリズムで、銃声が応えた。
 腕、足、頭部――大凡の急所へと流れるように銃弾を叩き込む、技。
 すると不思議と、それの口から漏れていた絶叫が、絶えた。
 更には体が萎み、速度も落ちた拳は、シキの耳上を掠めて、空回りする。
 すかさず地を蹴り、懐から逃れるべく進みながら、シキは銃弾を重ねる。その魔性も幾分か封じられたのか、今度の銃撃は神の肉体を深々と傷つけ、どろりとした赤黒い血――溶けた肉にも見える――を吐き出していた。
 彼はそのまま神の傍らを駆け抜けると、勢いに任せ、祭壇を思い切り蹴り飛ばした。それだけに留まらず――シキは、銃弾を更に叩き込んだ。木が焦げたような臭いが、漂う。
 嗚呼、と嘆声が何処かで聞こえた。
 にべもなく、シキは吐き捨てる。
「儀式も贄も今日限りで終いだ、こんな祭壇はもう必要無いだろう」
 ――終焉を見せつけるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
水路で手間取ってる内に黄泉醜女は排除済、かな
喩えた通りにイザナミよろしく女神とはね

刀覆う布と白衣燃やし、動きやすい格好になり
抜刀の構えと同時にUC発動
カグツチよろしく炎操る者として
この俺がきっちり殺してやろうか

その絶叫は果たして何を意味してる?
歓喜か悲壮か――いずれにせよ俺には理解し難い
ただ耳障りなのは間違いないな
幾多もの炎槍を飛ばし、叫びを強制中断
今もっとイイ声で泣かせてやるから一旦黙れ
邪魔な信者達は燃えぬ様に横に突き飛ばしながら一歩二歩と近づき
遮るものが無くなった地点で刀抜き、真空刃放ち叩き込む
それを追う様に俺自身も一気に距離詰めて
炎纏った一太刀、思い切り不細工な女神に捧げてやんよ




「水路で手間取ってる内に黄泉醜女は排除済、かな――喩えた通りにイザナミよろしく女神とはね」
 天瀬・紅紀が肩を竦める。遅参したものの、間に合って良かったと嘯く。
 祝祭のクライマックス、その一端を彩る炎は、重要であろうと――常の紅紀に比べ、残酷な微笑みを口元に浮かべると、その白装束姿が、赤く燃えた。
「始めるよ、僕も君も燃え尽きるまで」
 疾く、彼は――剣を守るための包みも。偽りの白装束も焼き捨てて、黒衣の戦装束姿へと変わる。
 周囲に浮かぶは、念発火で生じさせた、炎。
「カグツチよろしく炎操る者として、この俺がきっちり殺してやろうか」
 いらえは、ない。
 消えない炎を纏い、彼は一歩ずつそれとの距離を詰めていく。
 その歩みを、阻めるものがあろうか。実際、進路の邪魔になった人間を、紅紀は容赦なく突き飛ばす。
 その紅の瞳は、冷ややかで、何もかもを拒絶していた。
 不機嫌さを隠さない――否、これが彼の本性ではある。他人などどうでもいいが、戦いに巻き込んで、己の炎で焼くのは目覚めが悪い。
 というよりも、純粋に立ち回るのに邪魔だ、というだけだ。
 置き去りにされた信者たちは、薄闇に幾重と弧を描く炎の軌跡をただじっと見つめた。不安そうな視線は、紅紀ではなく、神を案じるもの――。
 相対し――紅紀を正面から見つめる神は。
 ぽっかりと開けた虚空のような口から、再度、絶叫を放ち――空気を震わせる。
「――――ッ!」
 それは言語として認識できる文字列ではない。
 感情すら何処にあるのかも解らぬ、叫喚。
(「その絶叫は果たして何を意味してる?」)
 白い貌を不快と歪ませながら、柄を引き寄せる。
 見る見るうちに、相手の体が膨張していく――絶叫で強化された当人が、間合いに近づかんとしている紅紀へ、殺気を吹き付けてくる。
「歓喜か悲壮か――いずれにせよ俺には理解し難い。……ただ耳障りなのは間違いないな」
 同じような感情を湛えた眼差しを向けた彼は、鯉口を切りながら、強く地を蹴る。
「今もっとイイ声で泣かせてやるから一旦黙れ」
 不敵な笑みを浮かべた紅紀は、刀を振り下ろす。
 刀身はまだ、届かないというのに――神の体に一筋の朱が爆ぜた。剣戟で生じる真空刃だ。
 彼はそれを幾度か叩き込んで、神の絶叫をひとたび中断させる、が。
 既に肉体を強化した神は、大きく長い腕を、紅紀へと振り下ろす。拳は頭よりも大きい。
 流石にひとたまりもないなと、回避すべく、横へと跳ぶ。
 途端、ひどく重い衝撃が体を襲う。神が腕を薙いだらしい――胸部を殴打され、息が詰まった。
 そのまま吹き飛ばされた紅紀は、その場で口に溜まった血をぺっと吐いて、さっと起き上がり、駆け出す。
 命を代償にした速度で、腕を振り上げた姿勢から元に戻れぬ神へと、大きく上段に刀を振り上げる。
「なぁ、不細工な女神さま」
 何の因果か、姿すらイザナミもどきのような存在を、真っ直ぐ見つめ。
 再会を願った誰かに、こんな姿になって――この『女』は、会いたいだろうか。解らない。解りたくも、ない。
「この一太刀――お前に捧げてやんよ」
 炎を渦巻かせた刀身が、垂直に落ちる。その肩口へとずぶりと埋まり――広がる炎に、肉の焼ける臭いが続く。
 神が小さく上げた声には、苦痛の感情が滲んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス
やぁ、カミサマ
永遠を望むでもなく
望まれたのはどんな気分だい?
呪われたとでも言うべきかもしれないが
生きた人間の妄念が
やっぱり一番畏ろしいのかもね
其れを信仰ともいうのだろうけれど

教祖みたいなモノの方が
色々詳しそうではあるけど
好奇心のため聞くだけ聞いてみようかと
開いた書から情念の黒蛇たちを召喚し
どれほどの歳月を費やして
幾人の生贄と呼ばれるものを捧げた果てに
どんな奇跡を起こして
何を齎すことを望まれた女神かな?
信者の集落を鏖すのも
ある意味で救いかもしれないが
そうなる前に何とかするのが
猟兵の仕事みたいだからね

二度と目覚めること無いよう
滅ぼしてあげよう
誰かの信じた永遠よ




「やぁ、カミサマ。永遠を望むでもなく、望まれたのはどんな気分だい?」
 親しさを含ませ、コッペリウス・ソムヌスが問うてみる。
 無論、いらえはない。
「――……■□■□……」
 言葉とは大凡思えぬ音が響くばかりだ。
 否、実際は、何か答えているのかもしれない。その言語は、如何なるものでも解読できぬ世界のものに変じているのだ。
 望まれて作られたものの、その在りように。
 コッペリウスは皮肉を感じた。
「呪われたとでも言うべきかもしれないが……生きた人間の妄念が、やっぱり一番畏ろしいのかもね」
 琥珀色の眼差しが、傅く――若干、腰が砕けておののいている――信者たちを一瞥する。
 神は傷つき、血を流している。辛そうに悲鳴をあげている。
 それでも、彼らは永遠を信じている。信じるように、彼らもまた、作られたのだ。
「――其れを信仰ともいうのだろうけれど」
 指先に見えぬ糸を遊ばせるようにして、コッペリウスは、ねぇ、と問い掛けをする。
 いつしかその手には年季の入った本が収まっている。
「これはただの好奇心なんだけど――」
 その裡からスルスルと影が飛び出し、何かが溢れていく。石の床を這う影は、情念の黒蛇。
「どれほどの歳月を費やして。幾人の生贄と呼ばれるものを捧げた果てに――どんな奇跡を起こして、何を齎すことを望まれた女神かな?」
 問い掛けと共に、蛇たちは神へと飛びかかる。
「ッ――!!!」
 ――答えは、絶叫。
 疵をも埋めるほどに膨れ上がった肉体で、神は抗う。黒い群れを払い飛ばせど、解が得られぬ限り、蛇は牙を剥き続ける。
 乱暴に蛇を踏み潰し、腕を乱暴に振るい、引き千切るように掴むも、それがあまり意味をなさぬと悟るや、神はコッペリウスへと距離を詰めてくる。
 押し寄せる圧力に、小さく笑って、
「そうかい。うん。まったく解らない……けれど、伝わるものはあるよ」
 コッペリウスは僅かに頷く。
 砂色の髪の狭間から、琥珀の瞳が怪しく輝いた。
「深い悲しみ。怯え。無念……沢山の声がする」
 絶叫は数多の声を含んで響く。
 はっきりと明言できるほど――具体的な何かを察したわけでは、ない。だが、全身で叫んでいるような神の姿に、少なからず、自分の力が『役に立てる』ような気はした。そういった救いを与えに来たわけでは無いけれど。
 双眸を伏せて、彼は囁く。
 その頬を、歪な手が張るより先に――本から、更なる蛇が飛び出し、喉元へと食らいつく。
「二度と目覚めること無いよう、滅ぼしてあげよう――誰かの信じた永遠よ」
 優しく、優しく。
 眠りを誘うものは告げた。すべてが喪われた、静寂のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
本命のお出ましか。
誰がどこで何を間違えたのか、それとも最初から正しいモンなんてなかったのか。今でも戦うんが怖くて震えてるおれにはわかんねーけど。
これを止めなきゃなんねえってコトだけは、わかってる。
やるぞ、クゥ。力を貸してくれ。

〈第六感〉を研ぎ澄ませて、向こうの攻撃はなるべく躱す。避けきれねえなら〈オーラ防御〉で耐える。
隙を見て〈援護射撃〉を飛ばして、クゥや他の仲間が攻撃するんを助ける。
可能なら、〈目潰し〉や〈マヒ攻撃〉で動きを止めて、状況が有利になるように。

弱くたって、脆くたっていいじゃねえか。
むしろそういう存在だからこそ、ヒトはいろいろな試練を乗り越えられるんじゃねえかなって、思う。




 漸く、ゾンビどもを片付けたと思ったら――。
「本命のお出ましか」
 真摯な表情で、鏡島・嵐は強気な風を装って、言ってみたものの。
 現れた神は不気味だ。絶えず呻くような声を上げる様は、恐怖を誘う。いきとしいけるものならば、誰もが嫌悪と不安を覚えるような、存在。
 邪悪で重い。
(「誰がどこで何を間違えたのか、それとも最初から正しいモンなんてなかったのか――今でも戦うんが怖くて震えてるおれにはわかんねーけど」)
 ふわりと、金の毛並みが眼前でそよいだ。
 自分の二倍も大きな獅子が、寄り添うように傍にいてくれる。
 解ってる、と嵐は深く息を整え――その背を軽く叩いた。相手を励ますことで、己も鼓舞するように。
「これを止めなきゃなんねえってコトだけは、わかってる。……やるぞ、クゥ。力を貸してくれ」
 言うや――すっ、と嵐の瞳が鋭い光を宿す。
 スリングショットを構えた彼を背に乗せた、焔を纏った黄金のライオンは、風のように走り出す。
 ごう、と耳を風の音が通り過ぎていく。不気味な神の姿もいくつかの筋のように視界に伸びた。されど、嵐は狙うべき的は見逃さぬ。
 様々な弾を撃ち出しながら、相手の反応を見る。
 神は自分の体を守ろうとしながら間に合いきらず――というような愚鈍な動きを見せていたが、深いダメージを負っているようには思えなかった。
 目を狙った目潰しも、べったりと染みるような汚泥と化して、その顔から溶け落ちていく。無論、全く無意味であったようには思えぬが、やった、という手応えも感じない。
 不意に――唐突に、言葉では説明できぬ、直感的な悪寒に襲われた嵐は武器を下ろし。鬣にしがみつきながら、指示を出す。
「ヤバいのが来る――捕まるなっ」
 刹那、絶叫が響く。不快なそれから逃れるべく、耳を覆いたいが、できぬ。
 急に力を増し、俊敏に動き出した神の長い腕から逃れるべく、クゥが縦横無尽と部屋を駆る。跳ね回りながらも、その胴や足に、掴みかかる腕がぶつかると、屈強な獣の肉体も戦慄いた。それは謂わば――死の気配が執拗に追い回してくるような感覚だった。
 素直に、怖い、と思う。
 だがそれを振り切るように。嵐は身を起こす。
「弱くたって、脆くたっていいじゃねえか!」
 よく通る声で、彼は叫ぶ。
 絶望の叫びを上書きするように。スリングショットを構えて、クゥの尾に四つん這いで迫る神を、強い眼差しで見つめ。
 距離が詰まる。異様な臭いが近づいてくる。だが、ぐっと堪えた儘、その眉間に向け、弾を放つ。
 加速の乗った弾丸は、神の額を強か撃ち抜き――声にならぬ叫びを上げて、仰け反る。
 即座クゥが転回するに合わせて、嵐は追撃の連弾を浴びせかける。神は全身を襲う衝撃に、地に倒れ込むを、見つめ。
「むしろそういう存在だからこそ、ヒトはいろいろな試練を乗り越えられるんじゃねえかなって――思う」
 強靱ではあろうが死と恐怖しか周囲に与えぬ悲しき存在と。それを信奉するものたちへ――届けと願い、囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
…まあ、神にも色々あるもんな、多分。よく知らないけど。

信者達の事は、一応守ろうとはする
逃げるように脅しもする
これからの自分の姿は、あまり見られたくない

誰かの命を喰ったのは、歪んでいるのは、お互い様だ
だから、せいぜい食らい合おうぜ
オレは、神なんかじゃない、ただの獣だけどな

懐から注射器を取り出し、赤い薬液を自分に投与
(『赤い月』(装備中の興奮剤)による【限界突破】【ドーピング】)
そのまま【人喰い灰白】使用、人と獣が混じったような異形と化す
人としての理性も半ば吹き飛び、【2回攻撃】【カウンター】【捨て身の一撃】を駆使して、敵に白い炎を叩き込む




 嘆息が溢れる。屍どもを片付けた反動を堪えながら、皆城・白露は神をじとりと見つめる。
 永遠や――神、という聞こえの良い言葉を散々並べてきた空間であるが。
 どうも眼前のそれを羨ましいとは、思えない。
(「それどころか、コイツ、オレよりも……いや、」)
 ゆっくりと目を瞬いて、億劫そうに呟く。
「……まあ、神にも色々あるもんな、多分。よく知らないけど」
 何より――迷わなくて、いい。
 きっとこれはオレの願いを叶えてくれる、とか。そんな風に迷う事はなさそうだと、自嘲めいた声で一笑すると、おい、と周囲の人間へと声を掛ける。
「退いてろ。オレに食われたら、神の一部にはなれないぜ」
 脅しのつもりで、言ったことだ。
 だが、少しだけ自分の心が軋むのが、可笑しかった。
 軽く剣を見せてみれば、気配が少しだけ遠ざかる。わざわざ、視認してまで確認はしない――出来ない。
(「これからの自分の姿は、あまり見られたくない」)
 懐から注射器を取り出す。赤い薬液を湛えた興奮剤。死の恐怖を遠ざける――理性を鈍化させるだけ。いっそ、死に近づくための。
 神を見る。
 数多の命と肉体を糧に、歪に育ちきった怪物。
「誰かの命を喰ったのは、歪んでいるのは、お互い様だ」
 薄く笑って、白露は告げる。
 注射器の針を腕に刺し、薬液を注入しながら――毛を逆立てて、牙を剥く。
「だから、せいぜい食らい合おうぜ――オレは、神なんかじゃない、ただの獣だけどな」
 投げ出された硝子は、ぱんと割れた。
 四肢を使って地を蹴り駆けだした白露の目は爛爛と輝いている。
「――食っていいぞ、全部」
 その一言で、彼の体は変貌する――逆立つ毛はより鋭く、手足の爪は伸び、その四肢の形も人の形状を残しつつも、獣じみたものになる。背も湾曲するが、すべてが強靱な撥条の作用をなして、弾けるように彼は疾駆できた。
 顔立ちも同じく――牙が伸び、獰猛な表情で、対峙する敵を見て笑う。
 その体は、白い炎を纏い。薄闇の空間に、その残影は強く刻まれる。
 身と心の人らしさを擲つことで得た力で、白露はあっという間に神へと飛びかかた。両腕を振るえば、炎が奔る。
 焦げた臭いがする――肉が燃えている。
 誰の、神の。オレのか?
 白露は事象を捉えてはいるが、その殆どを理解して動いてはいない。体と衝動の働く儘に、神の体を爪で抉る。
 そして敵なるそれも屍どもの体を引き寄せ、何やら大きな肉の塊を作り、炎と爪の乱舞を受け止めんとした。白露の視界に詳細は描写されないが、無数の屍の頭を幾つも纏めた盾であり鈍器だった。頭蓋骨が入っているので、堅くて丈夫で、重い。
 風を斬る音と共に、大きな肉の塊が白露に振り下ろされる。彼はそれに頭からぶつかっていく。前のめりに爪で掻き裂く。砕ける音と、拳が傷つく感触が同時にある。
 一拍遅れて炎が肉を焼く。
 白炎で溶ける肉の狭間から、獣は躍り――神の腕をひとつ、ふたつ。
 その爪で、削り取った。痛みを忘れた白露は、更に躍りかかる。
 これが獣の性であるかと言わんばかりに、ひどく楽しそうに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
また止められなかった
俺の存在も
俺を構成する夏海の血肉も
全て無意味だと嗤うように
殺人犯が其処に居る

笑える
名探偵を名乗る資格なんかないのに
咄嗟に出た方便が村人共を恫喝する
いいから全員外に出ろ!
俺が生贄になる!

この女はあまりに…
認め難い結論だが…
…俺に似過ぎている
何かの縁だ
神ならせめて俺ぐらい救って消えろ


女が『貌のない少年』に見える
何度も見た悪夢の中で
俺は繰り返し奴に殴打されて…

呪詛耐性で正気を保ちUC発動
ずっと頭に靄がかかったようだったが
今ならはっきり指摘できる
お前が…『俺を殺した犯人』…!
只管攻撃

名の代わりに偽がついても
俺はどうしようもなく探偵で
だから何かが救われる事を
愚かにも神に祈ってしまう




「また止められなかった」
 柊・はとりの呟きは、忘我の裡に。或いはこれ以上無い理性から、無念に震えるように。
 此所にありて、此所にあらず。
 震える己の指を見る。この肉体は。思考する頭脳から切り離された、頭蓋は。形を変えられた、ペルソナは。
(「俺を構成する夏海の血肉も」)
 そうして今を生きる『はとり』が。今も名探偵の名を背負っていながら。
(「俺の存在も――全て無意味だと嗤うように、殺人犯が其処に居る」)
 その定めは、変えられないのやもしれぬ。だが、それを認めてしまえば、彼は。
 ぷつりと何かが切れたような、先程からの戦慄きは――自嘲。
 哄笑できればいっそ小気味よかっただろうが、気の触れた名探偵など、笑えない。その衝動を怒りに見せ、さんざ猟兵に脅されながら、まだ埃のように部屋の隅に居座る人々へ、はとりは一喝する。
「いいから全員外に出ろ! 俺が生贄になる!」
「は……?」
 猟兵たちのスタンスは見ている。だからこそ、彼らは驚いた。同時に――はとりの青き瞳に宿る、尋常ならざる気迫に、押し出されるように動き出す。
 最も、そうするように指示を出したはとり自身、それらの動きを、意に介してはいなかった。
 彼が意識を向けるは、眼前の神。空虚な表情。何かを訴えかけるようで、何も伝えられぬ言葉を発する、神。
「この女はあまりに……」
 自分のものかと疑うような、掠れ声が出た。
 本来雄弁なる彼が。そこで言葉が詰まったのは――そこに、『認め難い結論』があったから――。
 絞り出すように、息を吐く。吐き出すように、言葉を続ける。
「……俺に似過ぎている」
 望まれたもの。そうあれと願われたもの。そうして継続してくれと言われたもの。
 ――それを、叶えられぬもの。
 唇を噛みしめ、剣を手にする。剣であれ、ただの物言わぬ道具であれ。そう心を凍らせ、はとりは大剣を握る。
「何かの縁だ。神ならせめて俺ぐらい救って消えろ」
 戦闘の意を見せた刹那。
 ぐにゃりと――神の顔が、変わった。女を思わせる容貌を残した顔が『見えなく』なる。
 はとりの前に立つのは、『貌のない少年』――幾度となく、見定めようとしても、決して解らぬ貌の持ち主。
 苦痛の記憶に、はとりは思わず呻いた。
(「何度も見た悪夢の中で、俺は繰り返し奴に殴打されて……」)
 夢の中の光景が、再び繰り返されようとしている。女――否、『貌のない少年』がひたひたと寄ってきて、拳を振り上げる。
 此所は何処だ。
 敵の攻撃だと解っていても、はとりは混迷しかけた。いつしか距離を詰めている少年の手が、いつもの殴打ではなく――首を縊ろうとする意図で突き出される。
 息が詰まる。この体でも、苦痛はある。馬鹿馬鹿しい事に。
 何にか怒りが浮かんだ瞬間――握っていた剣の柄が、指がもげそうな程に、凍える。
 皮膚が焼けるような痛みに苛まれた青年は、小さな罵倒を口の裡で零してから、名探偵の務めを果たすべく、声を絞り出す。
「今ならはっきり指摘できる。お前が……『俺を殺した犯人』……!」
 虚像の罪を告発するなら、今だけだ。
 不意に体が自由になる。狂気に支配された虚像が消えた。それよりも先に、剣を振るう。
 乱暴な斬撃が、不気味な髪を切り落とす。ずるりと滑る黒い影を踏んで、更に斬り込む。肉がずぶりと斜めにずれる感触を掌に感じる。
 凍っちまえ、という意だけで、剣を中心に何もかもに白い霜が這う。
(「名の代わりに偽がついても、俺はどうしようもなく探偵で――」)
 解決を願うのは、悲劇を厭うから。
 救いたい限り、探偵であることを、やめられはしない。
「だから何かが救われる事を……愚かにも神に祈ってしまう」
 なあ、何でもいいから、救ってくれ。囁きは、己と相手の狭間に落ち、何処にも届かない。
 力尽きる前の大立ち回りは、神の弱ったパーツを次々と切り落とし――そこで、はとりの意識も、闇に墜ちた。
 ぷつりと、接続が断たれたように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・フェンブロー
……此処が黄泉に至る道の果てであれば、
地の底にいる貴方は死を知った者か
神とされた何かであれば、貴方は——…

いえ、私が言える話でもありませんね

この坂を上り、貴方を出す訳にはいきません
終わりにしましょう
貴方が何を望まれた神であれ——ここで

炉の番人にてアンサラーを強化
移動力を下げ、攻撃力を上げます

相手の動きをよく見て、継ぎ接ぎの躰を人の動きでは読まずに
腕を盾に致命傷だけは避けましょう
移動力を下げていますから、回避よりは攻撃を

怪我は構いません。狙い来れば外しはしない
火力を上げた砲撃を叩き込みます

火を以て鎮めるのが魔女の習い
その名を示すときです。アンサラー、神たる者へ我ら人の言葉を
良き眠りのあらんことを




 複数の腕を断たれ。皮膚は焼け爛れ。その虚ろな口腔は、虎落笛のような音を立てる。
 だというのに。
 神は――ただそこに、あった。
「……此処が黄泉に至る道の果てであれば、地の底にいる貴方は死を知った者か」
 リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)の声音は静かに抑えられていた。
 特別な感情は籠めていない。だが、不思議な揺らぎがあった。
 死を、それは認識しているだろうか。
 虚ろなる神は何も答えぬ。ただ、残骸と成り果てた眷属どもの中央、己も無数の疵に包まれ身を赤く染めながら、忘我に似た表情で、こちらを見るばかりだ。
 誰も彼女の言葉を理解できず。誰も彼女の真意を知らぬ。
 選択の余地もなく神となり。望まれ、望まれ、そして、望まれたものには永遠に至れぬものは。やはり邪悪で、醜悪で、どうしようもなく――神聖であった。
 それから孤高さ――触れる事も許さぬような絶界の空気を、リオが感じてしまうのは、彼も死地に身を置いてきたからやもしれぬ。
「神とされた何かであれば、貴方は――……いえ、私が言える話でもありませんね」
 胸に過った何かを打ち払うように、リオは、頭を振る。銀髪が揺れる感覚に、感傷を捨て、冷徹に敵を見つめる。
「この坂を上り、貴方を出す訳にはいきません。終わりにしましょう……貴方が何を望まれた神であれ――ここで」
 神の口が、微かに動く。
 ――……。
 いらえは、やはり何の『言葉』も結ばぬ。あれほど流暢に永遠を問うた声も、もう聞こえない。
(「やはりあれは……神を下ろすための句にすぎなかったのでしょうか」)
 自分を苛んだ、自分にだけ聞こえる言葉。強い思いを呼び起こす声は、神の声にあらじ。神を望むものの、声。
 解ったところで、正しい道に導く事はできまい――アンサラー、呼びかけ、リオは黒き砲台を再度起動させる。
「雷霆を束ね、今こそ、その名を示せ」
 告げるなり、その口径が変形し――超大口径砲へ。ただ、巨大化したことで明らかなように、リオの身に掛かる重みが、彼の動きを阻む改造だ。
 神は。敵は、反射的に動いていた。
 周囲に散らばる屍を総て身に纏い、幅も高さも倍となる。眷属の盾、眷属の鎧、そして、その身が武器と。そんな体で、神は奔った。
 大きな腕が、ぐわんと撓んでリオの体を殴り倒そうとする。
 リオは逃げぬ。軽いステップで、アームドフォートを大きく薙ぐように動かすと、即座に火をくべる。
 小規模な爆発が、互いの距離を強制的に空ける。
 だが、一部の肉を穿たれた隙間から、次の拳が迫った。異様に長い腕から、スナップをきかせた鞭のような一撃。
 それを、次は徒手で受ける――それしか方法が無いとも言えた。リオは己の腕が嫌な音を立てるのを聞きつつ、微笑んだ。
 呻くような神の表情がひどく近い。屍の装甲は、そこまでは隠していなかった。
 砲口をすべて、正面に。
「火を以て鎮めるのが魔女の習い――その名を示すときです。アンサラー、神たる者へ我ら人の言葉を」
 双眸を細めて、最後に祈る。
「良き眠りのあらんことを」
 砲撃が、肉と骨の障壁をつんざく。光線の尾が闇に幾筋も伸びて、石すら溶かす。何もかもをを消し飛ばすように。肉片を花と飛ばした。

 ウァアアアァ……――呻き声のような悲鳴が、石室に響く。
 異形は、四肢を弾き飛ばされ、体の忠心を穿たれ、襤褸と化して地に仰け反る。炎が焼き、銃撃が続く。
 逃げ延びようにも、褥たる祭壇は破壊されており、それを守るものは、ない。
 さて、それを最初に見たのは誰だろうか。
 床で大雑把に分割された神の体が、最後のおののきに震えていたとき。
 真っ二つとちぎれた上半身の内側。多すぎる肋骨の奥。
 表にあるものとは別に、もうひとつ。隠れるように潜んだ顔があり――目が覗いていた。
 猟兵たちをじぃっと見上げる、その瞳は。場違いなほど、きらきらと輝き、澄んでいた。
 やがて、神の痙攣が収まると同時。その瞳は、一度ゆっくりと大きく瞬いてから、静かに伏せられていった。
 それで何もかも終わったのだと、皆は悟る。
 嘆く信者どもの声は、遠い。何処かから光が差し込んで、現世が戻ってくる。

 何処かで幻の声が聞こえた。
「ねえ、私は……貴方の願いを、叶えてあげられる私になりたかったの」
 私が神になったら、また、会えるかな。
 今度は長い時間を、共に。
 ――そんな期待を抱いていたの。
「……貴方達は幸せだったかしら? そうね、私は……」

 この地に、神など宿らない。今までも、この先も。
 河に流れていった異形の神は、望む物にはなれぬもの。
 あとはただ、ザアザアと――雨が降る音だけが響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月15日


挿絵イラスト