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【旅団】🚏働くバス停珍道中🚏

作者：タテガミ

　★これは旅団シナリオです。
　★旅団「バス停」の団員(または友好団員)だけが採用されるシナリオ。
　★EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです。

●歪んだバス停のヤドリガミとバス停のヤドリガミ
　ある午後の昼下がり。
　UDCアースのごく一般的な、２階建て住居の影。
　具体的には勝手口の影に、ぼんやりとしゃがみ込む少年の姿があった。
　太陽が直接当たる場所よりも、日陰な場所に歪んだバス停までもが鎮座している。
　家の影、バス停の影に隠れるように夜行性体質なフィッダ・ヨクセム（停ノ幼獣・f18408）が仮眠中だった。
　そんな所に、バタバタと乗り込んでくる騒々しい音。
　ばーん、と勝手口のドアを開け放ち大声の主は、開口一番こういった。
「フィッダ君暇ー！？」
　ふわりと尻尾を揺らす、住人ソウジ・ブレィブス（天鳴空啼狐・f00212）。
　時々全く空気を読まない、フィッダからすれば年上のキマイラだ。
「……いやべつに。ひまじャない」
　仮眠を邪魔されて少しだけ嫌そうな顔をして。
　フィッダはすぐにまた、温かな陽気に微睡もうとする。
「またまたぁ。嘘は良くないよ？ちょっと散歩しておいでよアルバイトしながら」
　アルバイトと聞いて寝直すのだけは、やめたフィッダ。
　顔を出しているバイト先は最寄り――ある配達業者『エコライフ』の手伝いだ。
　それは、エコをモットーにした経営理念により、世界と懐に優しい人力運送を行う会社。その会社において主にフィッダは世界を渡る為の転送を主軸に気まぐれで手伝っている。たまに配達物を預かる事もあるが、あくまで――臨時アルバイターの域を出ない。
　ソウジも稀に手伝っているが、手伝う頻度はフィッダの方が上。
　両名とも異世界間の配送を行う配送業運用に協力的なだけで、正規社員ではないというところはポイントだろう。
「仕事の担当はね、君じゃないよ。不思議な伝票がキマイラフューチャー宛にあるのを見つけたんだって」
「伝票というと、店長か」
「うん」
　生真面目な店長君が見つけた伝票。その担当は、だいたい想像が付く。
　店長並に勤勉な奴――。
「いや、お前が手伝ッてくればいいじャん？」
「だーめ。僕は買い物当番で遠出しなきゃいけないし……それに」
　紙をぐい、と押し付ける。
　資料を簡単に纏めたコピー用紙のようである。
「流し読みした限りだと、荷物の届け先は廃ビルなんだよ。……おかしいよね、ゆーれいとかの噂が絶えないらしいよ？」
「それがどうした。危害を加えてくるッてんなら業務妨害で排除するだけだ」
　スッ、と立ち上がりフィッダが何処かへ歩いていく。
「宛先資料、文字化けしてるじャん。"アイツ"一人に行かせるの、心配過ぎるわ」
「御飯の時間には帰っておいでよ？」
「うるせえ。何事もなければ、届けて終わりだ」
　後ろ手にひらりと手を振っておくが、振り返るということはしない。
　視線を落とし資料の隅をよく見るに"サバイバルゲーム施設"と注釈がある。
　廃ビルとの記載通りだと仮定して、実体化した呪詛や怨嗟の思念のようなものを主軸にしたホラーというテクスチャが満載の――そんな場所に一体何を届けるというのだろう。
　頭の上には疑問符がたくさん。
　とりあえず少年は"会社"へ出向くことにする――とにかく、配送の手伝いをする。
　それだけで、――いいはずだ。

　暫くした後、到着するのは近所で尤も最寄りの会社。
　手を上げて合図を送ってきた顔見知りが一人。
「またせた？俺様寝起きでね、……悪かッたッて」
　頭をガリガリと掻いて遅刻詫び、真面目に言い訳を零して誤魔化すフィッダに対して、見た目が16歳の姿のままで停まっている男は笑って返答する。
「俺も待つのは得意だし。実際そんなに待ってないけどなー」
　アイスを食べながら待っていた、というのだから待たされていた男はマイペースそのものだった。待ち時間におやつタイムを挟んでいたから無問題。オッケー、と。
「……えええ、なんでアイス食うなら誘ッてくれねェんだよお！」
　待たせた事よりアイス休憩していたことを気にする年下のバス停を、どうどうと宥める。それより外は暑いからなさっさと仕事をしにいこう。そんな動作で"荷物"をチラッと見せてバス停の男が行こうと誘えば。年下の少年はアイスを諦めきれない顔をしていたが――渋々転送を開始する。
　目的地はそう。
　――愉快な愉快な、キマイラフューチャーの一角だ。

第1章 冒険 『ライブ！ライブ！ライブ！』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス！ SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス！ WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス！ 👑1 🔵​🔵​🔵​

●幽霊退治
　転送完了後、日常の仕事を行うために猟兵が目にしたモノはUDCアースの裏路地によく見かけそうな暗がりの区画であった。
　キマイラフューチャーの賑やかさから少し外れた、異質なほど静かな一角。VR対応のサバイバルゲーム施設を多く抱えるこの区画では、内部音声は内側にいる者にしか届かない場合が多かった。気密性が高い為、外からでは何が行われているか伺い知れない。
　故に、よくわかんないけど施設の外面が多少地味でも問題ないのだ！
　多少廃ビル感が強くても！近未来的な町並みから外れてるだけで、キマイラたちには物珍しい！遊んできたキマイラ達は楽しくSNSで感想を呟くからだ。まあ、SNSであまり盛り上がらない場所というのも存在している場合もなくはない――この辺りはそういう類であるのだとか。
　ネオンの明かりも、生放送や陽気なゲーム実況声からもやや距離を感じる。どこか、――不思議と音が遠く思うのだ。
　ばりぃいん。近場でヒビだらけの窓が突然割れた。
「なあ、その文字化けした住所、マジで此処で合ッてると思う？」
　フィッダの問いかけに対し、しっかりと握った伝票へ視線を落とすジルバ・アイト（落トシ者・f03128）。
　仕事の頻度は圧倒的で、ジルバの方が配達の先輩だ。
「店長とソウジと改めて住所を洗い直して確認を重ねたんだが、この辺りで住所登録されている場所は此処だけらしいぞ？」
　絶対合っている、と保証が出来ないのはジルバも同じ。
　恐らくそう。その部分しか保証はできない。
「届け先も、送り主も何処かしこ文字化けしてるのよく受けたなあ」
「いや。それが……荷物を預かる手前、伝票の事を一番細かく聞く店長が受領したのを憶えていてな……？」
　文字化けした伝票を預かるタイプの男ではない上に、荷物の重さから住所までの必要事項が確実に記載されていたと証言を得ているジルバ。
　伝票を書き込んだのは、幸薄そうな印象のある存在感も薄そうな女性。
　店長が、キッチリと覚えているのだ。
　ならば一体どこで、書き換わったのだろう――？
「エコライフは虚偽のある仕事を受ける仕事場じゃないから」
　認識を改めるんだぞ、と注意を受けてフィッダは苦笑を浮かべる。
「そうはいうが、……ジルバは、こういうのへーきなわけ？」
　バーチャルキャラクター実況者が、自分にあう様にフィールド(環境)を整えるかの様に建物の外装に合わせて内装も苔やカビに覆われた空間に塗りつぶされているように思えるのだ。
　ビルの扉の立て付けが少々悪いようで、始めから隙間が開いており、見る限り施錠、鍵の管理という言葉もどうやら無いらしい。
　少し鼻が良い方を自称するフィッダが何かの匂いを拾うのか、嫌そうな表情を浮かべているのを横目にジルバは"特に"と答えておく。
「禍々しいモノが住み着いてそうだなぁとは思うけど……まあ、そういうモノを祓うのは得意分野だろ？お互い」
　詠唱兵器と呼ばれたのは死と隣り合わせであった遥か遠い時のこと。
　時間に置き去りにされた残留思念的なモノがもし内部に漂っていたとしても。それは明確にオブリビオンではないのだ。畏れるものでもない。
「まあな、詠唱兵器としちャあこういう場所で戦うかも、ッてのはトーゼンッて感じもするし。ほら、あぶねーモンでるかもだし先導するから付いてこい」
　"詠唱兵器"。どこかでそう呼ばれる武器として生まれた事をどちらも覚えている。敵と戦う武器としての生まれたからには、本来成すべき事をヤドリガミ化しても行うべきだと二人共が考えるものの、戦闘に挑む姿勢はどうもフィッダの方が上を行くらしい。
　――もしかしたら穏便な配達が出来ないかも知れねェし。
　――予期せずサバイバルゲームに巻き込まれる可能性すら有るしィ。
　"なんか嫌な気配"がしたからフィッダは付いてきたのだ。
「廃ビルの何階？何号室、とか読み解ける？」
「ん？……ギリギリ読める感じは、一番奥で一番上、かなー？」
　こんなところに人が住んでいるのか？と首をかしげるジルバを連れて、不思議の魔境に突入する。
「荷物はしっかり俺が運ぶからなー。もしもの時は戦闘担当、宜しく」
「……はいはい、援護はしろよ」
　配達員二人の珍道中は、此処から始まっていく――。

●交差点
　結果から言えば――バーチャルシステムは起動していた。
　シチュエーション・廃ビル。テクスチャのほぼ全てに、幽霊屋敷の要素が足されていて、霊魂がふよふよと浮かんでいる始末。
　シューティングゲーム要素を含む、VRシステム。
「おいこれのどこがいつもどおりなんだジルバ！！！」
　鎖を足元から伸ばし、自分を縛る鎖を放り投げながら絶叫(シャウト)する男女のバーチャルキャラクターの数々。ぼ、ぼ、と出没する個体数の数だけ絶叫が在り、絶叫は心自体を揺さぶってくる。実に不快な気分にさせるシャウトソウルを放ってくる！
　どの顔も絶望に溢れ、そんなにもガッツリキャラクター性を付けられた者達と思うと二人は少し苛立ちもした。こんなに個性を付けなくても…。
「ただ地縛霊がわらわらとしてるだけだろ？まあ普段どおりの光景ではないけどなー」
　本体でも有る歪んだバス停を含む武装を無数の銀炎で燃え上がらせて、室内に炎の豪雨を降らせるフィッダ。
　almatar alfidiyu（アルメーター・アルフィデュウ）。
　聴覚から訴えかけてくる精神攻撃に対して、一体一体を個別撃破するより先に進む効率を取ったのだ。
「蹴散らしてやるから付いてこい！」
「戦闘となると元気そうな顔するよな、フィッダは」
「ああ！？」
「褒め言葉だぞー、あと隙だらけだから前方注意なー」
　Unsichtbar　Kugel（ウンズィヒトバァ・クーゲル）。
　靴音を僅かに鳴らし、全ての敵がフィッダに注目しているのを良いことに不可視の風の精霊ラインハルトが周囲を駆け抜けていく。
　ひゅぉおと建物の中で風が疾走り、地縛霊を祓う風の魔法を撃ち込む。
『ぐぉお……』
　叫びではなく悲鳴を上げた個体は、続いてフィッダの輝く銀の炎が殺到して燃やし尽くす。指揮棒のように振るうモノはないが、代わりに眼前まで飛び込んで目視した全てを燃やすのだ。戦法として単純なものである。
　連続攻撃に堪えられる叫びはなく、どれも実体というほどの手応えがない。これはフィールド名"ゴーストタウン"なんて形容するのが丁度いいと思うほど――。
「廊下で囲まれるのは問題だな、どうせ階段しかないんならチャキチャキ先を進んでいこうぜ！」
「……元気だなー」
「爺みてェなコト行ッてんじャねえ！勤務中だろ！」
　ジルバがマイペースな様子を出すと、勤勉過ぎるフィッダが言葉に噛み付いてくる。ああ見えて、真面目なタイプのようだからヒトは見かけによらないらしい。

　階段を上がり、上の階に登っていく。
　どこも同じ様な景色で、敵エネミーだらけなのだが――蹴散らしてしまえばどうということはない。
　叫び声も追いかけてくる動く音も落ち着いたような気がして、二人して呼吸を整える。
「……本当に、フィッダは前衛から引かないよなあー。有言実行なんだろうけど」
「届けるべき荷物もあるけど、ジルバが後衛戦術取るからだろ」
「よく見てるなあ。フィッダと二人で戦闘に身を置くなんて滅多に無い機会だろうけどさ」
　目を丸くするフィッダに、ジルバは緩く笑いながら言う。
　――配達仕事中に戦闘が起こることの方が稀なのでは？
　――俺様の知らない乱闘にでもたまに巻き込まれてるのかこいつ？
「余計なコト考えてそうだけど、猟兵仕事の方な？敵相手ってこと」
「そりャあお前が配達仕事を本業のようにしてるからじャねえかよお」
「ハハハ」
「……今笑ッて誤魔化しただろ」
　萌え袖で口元を隠すシルバは笑いを押し殺しているのか、肩が凄く揺れる。笑いの観点がわからないと溜息を一つ零す年下の苦労を、ひとつ上のヤドリガミはわからないらしい。
　ふと視線が下に移った瞬間、フィッダはジルバのズボンにも揺れるモノを見つけた。
　ゆらりと揺れる尻尾のようなもの――。
　じぃいと見つめるフィッダが話題をそらして問いかける。
「なあ。それ、イヌ？それともおーかみの……武器飾りかなんか？アンタの趣味には見えねェけど、なんか所持してる理由があるモン？」
　いつか、お互いの出身が同じであると知った日はいつだったか。
　"バス停のヤドリガミ"、なんてそう居るものだとも思えないというのに、目の前の男もバス停のヤドリガミだ。

　――これは果たして偶然か――――？

「ああ、銀色の狼だぞ。何を隠そうかつての主をイメージして作ったんだ」
「……へえ？元の主とやらはヒトじャねえんだ？」
　息が整ったんなら先へ進もう。誘うフィッダが緊張状態(戦闘態勢)を崩さないことにも笑いがこみ上げるジルバだが、誘いに応じて話を続ける。
「あの人は銀髪で、人狼だったからなー。つまり狼に変身したら立派な銀狼なわけだ」
　あの頃の事は薄っすらとしか覚えてないけれど、と前置いて。
　遠くを見るように、記憶のページを捲る様をイメージするジルバ。
「あの人は確かいつも黒いマフラーをしていた気がするぞ」
「！……待てジルバ、"黒いマフラーをした人狼"がお前の主だッた？」
　サクサクと進んでいこうとするフィッダの足が止まる。
　――あれ。最近そういう人物らしい面影を視たような……。
　ジルバは特に気に留めず、もっと奥の部屋だと思うと足場の悪い道をすいすいと進む。悪路には慣れっこだ。
「そうだぞ。宇宙(ソラ)に俺や他の武器達を連れて旅立つような不思議な人だったな」
　一つ二つだけの私物を大事に出来る人ではなかった。不思議な技術を使って世界の外へ持っていけるモノを持てるだけ持っていたように思う。
「不思議なコトなんだけど、誰かに武器を譲り渡そうとした場面が俺の憶えている最後でな」
　――俺は宇宙(ソラ)で受け渡しに失敗。
　――なんて漫画みたいな展開に遭った。
　まるで他人事のように語るが欠片も笑える場所がないのは、物同士の会話ならではだろう。誰かが自分の異世界転移中に、手荷物(バス停)をうっかり落下させて"遭難する武器"となった過去を持つというジルバだ。
　彼は誰がへ誰が渡そうとした(未遂)、一振りなのだという。
「……あ、そういえば俺以外にも遭難した奴(武器)がいたような？意識を向けた頃には別の世界に飛ばされていたしなにが仲間だったのかは知らないんだけどな。フィッダはかつての主がどんな人だったか覚えてるか？」
　数歩離れた後方に、足を止めた少年を振り返り、置いていくぞと笑いかけると、今度はフィッダが肩をすくめて笑い出した。
「そうか。アンタも宇宙の落トシ物なんだッたな。なあ信じられねェかもだけど俺もそうなんだよ、ジルバ。落トシ物に遭うギリギリの場面……殆ど同じコトを憶えてる――ただ、俺様が"創造主"を識ッたのは最近だ」
　――似た境遇だと思っていたが、こんな身近に運命の糸は絡むのか？
　誰が落としたのか、誰に渡したかったのか。その前後はフィッダが憶えている部分に存在しなかったが、腑に落ちた。
　
　識っている存在が居た。こんな身近に。

「創造主？」
「"バス停"を武器として創り出した奴がアンタの言う"あの人"だと思うぜ？青い瞳にお前みたいな銀髪だッた」
「俺の銀髪はかつての主譲りってことなんだよな……じゃあフィッダのそれは？」
「一房のこれ、俺様一切染めてないんだけど……白じャなくて元々銀髪だッたッてコトになるよな」
　殆ど紫の髪に目立つ、前髪の白い一房を手でいじり、払い除けた。
「……多分、"俺たちを落としたもうひとりの馬鹿"が紫髪なんじャねえかな。俺達の目は色合いこそ違うがどちらも赤いから、落とし主は紫髪に赤い目の時間旅行者ッて奴だとみた」
「ほおう、フィッダは推理モノとか好きなのか？探偵みたいだ。かつての主は……生きていそうだなあ」
　かつての主を探しながら仕事をしているジルバだ。
　生きる目的が"生存"しているなら、探す手がかりが見つかることは実に嬉しいことだろう。凄い情報量の思わぬサプライズが二人を襲っているが、しかし――今たくさん発生した事柄は、それだけだっただろうか？
「あーあー。ちょっと待て、話を纏めるに……え？フィッダも宇宙で遭難してたってことだよな？」
「ああ。あの時一緒に漂流物化した一つはジルバだッたッてことだな。なんだ随分長い時間離れ離れだッた兄弟武器ッてコトになるじャん？」
　よく似たバス停。似ているどころではなかった。
　かつての主は、同じ人狼騎士の創造主。
　どうやら、同じ人物に武器として創り出されたモノだったらしい――。
「目覚めた順が兄弟、ッてーコトになるならアンタが兄貴ッてことになるよなあ。……エコライフ勤務、俺様が知ッてるより長いんだろう？」
「……驚いた。うん、凄く驚いた。確かにフィッダが顔を覗かせる前から店長のトコに身を寄せてたが……突然フィッダが生き別れの弟だと分かった俺は一体どうしたら？」
「聞くな。俺も困る。近所に住んでるバス停(のヤドリガミ)が実は本物の実の兄貴だと今識ッた俺様の苦労を知れ！」
　きゃんきゃん吼える仔犬のように、叫び散らしながら敵を蹴散らす弟。
　兄からすれば道を示す様が余計に頼もしく思えるものだから、気持ちの変化というのは凄まじい。
　確かに似た接点や趣味は、点々と合ったのだ――１つずつ、意識してみると確かに"兄弟"かもしれない。
「離れてる間の時間旅行経過はまあ、そのうち聞かせてくれると良いと思うぞ。俺の話もするから。それでいいだろ？」
「……仕事の合間、休憩時間に？アンタをやや世間からズレた変な奴だと内心思ッてたが、本質が同質と考えると俺も同じなのか……」
「全く似てないよりいいだろー！？」
　弟の皮肉混ざりの暴言の洗礼を、即座に受けるコトとなった兄。
　騒がしい二人の珍道中は、やや離れた他人行儀の平行線から――運命の糸を手繰り合わせて交差したともいうだろう。

●バグシステム発動
　最奥へ至る鍵のかかった部屋だらけの長い廊下。ちかっ、ちかっ、と弱そうな電気が灯る以外おかしなモノは見当たらない。
　オオォオオオオオオオオ――。
　時々室内なのに風が薄っすらと逆巻いて、吹き抜けていく。
　生暖かい気持ち悪い風だ。どこにも風が吹き込むような場所はない。
　どこから聞こえる音だろう、どこから生まれた風だろう。
　窓も開いていないというのに――。
「この施設一番奥はこの扉の向こうだぞ。此処で良いのか、その届け物」
　フィッダの問いかけに、ジルバは頷く。
　おかしな伝票に視線を落とすと、文字化けした文字群が今は読めるモノに変わっていた。
　ただ送り主の名前が水に濡れた様に全く読めない滲んだものになっているのが気になるが――今は置いておく。
「そうみたいだぞ。壁に掛かった札と同じ文字だ、うん。コレを届けて判子貰えば任務完了だ」
　コンコンコン。ジルバが流れる動作で閉ざされた扉を叩く。
　システムが起動したような音が内側で響き渡ったが……誰かが近づいてくる気配は、ない。
「……留守かな。フィッダはどう思う？」
「懲らしめて欲しいんじャねえか？ゲーム感覚でさあ」
　おそらく鍵なんてきっと掛かってない。
　鍵の有無を確認するより早くドアノブを無遠慮に回そうとするフィッダを、ジルバは止めなかった。
　持ってきた荷物をドアの前に置き去りにはできない。もう一度届けに来ればいいだろうが、内側には人の気配らしいものはするのだ。
　意図的に居留守されているならば――本人に直接渡してしまおう。

　がちゃり。

　扉は簡単に開いた。
　二人の印象はその一言に尽きる。
　しかし、部屋の中は明かりがなく真っ暗で――いや、違う。
　察知したのはどちらが早かっただろう。
「うぉ！？」
　キシャアァアアアと耳障りな音を立てべったりと至る場所に粘液を引きずりながらも節足の音を鳴らす奇妙な生き物が飛び出してきた！
　ジルバが驚いた声を上げたのは、フィッダにタックル回避を強要されたからだ。即座に異変に気がついたフィッダが強引に押して退かせた、ともいうが手加減が無かったがために見事に腹にキまったものである。
「……何アレ超キモいんだけど」
　猫のような機敏さを見せたフィッダの顔色が悪い。嫌いな生き物を間近に見たような反応だ。
　それもそのはず。
　猟兵二人の背丈よりは小柄。しかし見た目は大きな大きなナメクジだったのだ。ただしナメクジの下半身から胴体からびっしり伸びる大量の脚。百足を思わせるほどの大量さだ。
　ムカデナメクジ、とでも表記するのがいいだろうか。
　ずるずると粘液を点在させて、うじゅるうじゅると気色悪い鳴き声を上げている。放っておくと夢の中にまで現れそうだ。目視を続けるだけでも大変夢見が悪くなりそうな妖獣である。
「……あ」
「なにに気がついたさッさといえ！！」
　スマホカバーに施していた術式に、小声で唱える言葉は"起動せよ(イグニッション)"。此処に存在していなかったはずの運命の糸で結ばれたと呼称する"もう一つのバス停"を召喚して構え、もう片方には歪んだ自分(本体)を握った。
「あ”！？それ俺の本体だろ！……フィッダ、短気は損気っていうんだぞ！いい子だから落ち着け」
「いーから早く言え！！俺様アレ以上キモいのに近づかれたくない！！！」
　蹴散らすのに手を使いたくない、という意志を示す割に両手のそれはお互いの本体だ。一番器用に扱えるだろうが！？とジルバも困惑を極める。
　――え？俺も道連れ！？
「さっきのコンコンコンで内側に出たのかな、と……」
「ジルバのせいじャん？じャーーあ本体借りるのも仕方がないよなあ、攻撃は全部俺が被るから諦めろ！！」
　ずるずる這いずる音がして、気色悪い鳴き声はする。
　ただし、気持ち悪いムカデナメクジには存在感が全く無かった。生物たちはたくさん"いる"という認識を二人に与えているだけだ。群れの向こうに"なにか"が存在するようだという、漠然とした確信があるのだが……群れの多さで見て取れない。じっくり見ていたくない。
　奇妙な合成獣なこれらは、地縛霊以外の化け物(ゴースト)なのだろう。
　倒して進むなら、問題のないオブジェクト(NPC)のハズだ。
「荷物を死守しろ、兄貴なんだからそれくらいしろ！」
「態度のデカイ弟だなあ……まあその方がフィッダらしいか」
　空中を掴むように撫でれば、突然現れる杖。先程はその力のみだけを使っていたが、今度はラインハルトが杖に変化して実体化した。
「よおし、じゃあ派手にやってくれ。うん、俺少し目を逸してるから」
　ジルバもムカデナメクジを見るのが嫌なのである。
　自分の本体で殲滅される可能性を考えると、少し直視できない。
　――だって飛び散るだろ、体液的なの……。
「えええ理不尽！！俺様もヤだよ、現実を見ろコレがお前の仕事だ！！」
「理不尽だー！」

　ドアの縁に集まった群れを蹴り飛ばし、それでもどかないムカデナメクジを手当たり次第に殴り飛ばす。
　フィッダは両手にバス停を構えて、ツインブレードだと言うがバス停はバス停だ。爆発的に上げた反応速度で飛沫を躱し、攻撃に使ってくる突進や粘液を躱す。
　絶対当たりたくないという確固たる意思を感じるほど。
「数が！多い！！」
　鳥肌が立つのを我慢して、周囲一体を埋め尽くす気色悪い生き物たちをなぎ払う。ナメクジの胴体ではなくたくさんある足を薙いで折り、移動手段から潰していくことにしたのだ。
　胴体を引きずられて移動されては気持ち悪さが挙がるばかりだが、それは神に祈るしかない。
　消えないなら本当に悪夢の部屋だが、もしもコレが本当にサバゲーの一種ならば……消え去るはず。
　一定以上攻撃を受けたゴースト(NPCエネミー)が煙のように消える。
　推測はどうやら、間違っていないらしい。
「よしその調子で頑張れフィッダ！今は俺の希望だぞ！」
「お前もなんとかしろよォ！！」
　理不尽をお互いに押し付け合うコト数分。
　ムカデナメクジのカサカサという節足が歩む音がほぼ失われた頃。はあはあと息を切らす弟の後方で、ジルバがラインハルトを掲げて呟く。
「そろそろ疲れたか？水分不足だろ？ほら上を見てくれ――綺麗だろ？」
　サァアアアアアと涼し気な銀色に輝く雨が、室内に降り注ぐ。
　ジルバを中心に部屋全体に降り注ぐ雨。
　ばたばたとその場に倒れていくナメクジ達に齎したのは、眠りを誘うSilber Regen（ズィルバー・レーゲン）。
「暴れる時間はもう終わりだ。さあ、そろそろおやすみなさい、だぞ」
　全対象に平等に降り注いだ雨の中、どしゃああと激しく倒れ込んだフィッダ。当然弟も例外にはならなかった。本日は睡眠時間を代償にしたユーベルコードを発動していない為、あっけなく眠りに堕とされる。
　電池が切れた玩具のように、眠りの銀の雨で出来た水たまりに顔面から突っ込んだようだ。
　意識が眠りに落ちた時点でバス停の限定召喚が解除されたようで、酷い目に合ったのはフィッダだけだ。ジルバとしては本体がアレ以上理不尽な目に合わなくてよかったと、きっと喜ぶべきところだろう。
「血気盛んなのは頼もしいけどな、頑張りすぎだ。少し寝て休むんだぞ」
　痛そうに倒れたなあ、とは思うものの。
　仕事中にバイト仲間をケアするのが"バイトリーダー(兄)"というものだ。ジルバはそう、思うことにした。そう思っておかないと、こうも上手く事は運ばなかったのだから。

「……なあ。そこの大きな人」
　敵性個体を鎮圧し部屋の中にジルバより大きい、ムカデナメクジではない個体が一つ存在しているのを瞳に映す。
　太い鎖が地面から伸びていて、泣き腫らした顔で叫び続ける地縛霊。
　どんな声よりも不安にさせる声を放ち、これまで聞いたどの声にも似ていた。途方に暮れた落胆の声。絶望の縁に叩き落されたまま再起できなかった者の声。
　苦悩と悲しみ、に苛まれ、この場所に縛り付けられたボス(住人)――。

『……帰ってくれ』
　叫んでいるはずなのに心に響いてきた気がするモノは拒絶の一節。

「この部屋の住人なんだろ？これ、荷物なんだぞー」
　ダンボールが濡れてない事を確認して、地縛霊の男に提示する。
　大きな男が叫ぶ声を中断し、視線を落としてきた。
『……荷物？』
「ああ。俺は配送の仕事で来ただけなんだよなー。受取のサインさえ貰えればあそこで伸びてる弟を連れて、すぐにでも帰ると約束するぞ」
　届け物より帰りは大荷物になりそうだけどな、と軽口を叩き、ジルバは楽しそうに笑った。
「バーチャルか本物の残留思念かは判断できないけど、サインと判子ならどちらを貰えそうだ？」
『受け取らないという選択肢はないのかね？』
「ないなー。これでも仕事、受取拒否は相応の理由を貰わないと承諾しかねるんだよ」
『……仕方がな、ない、な。……――ッ！？』
　伝票に描かれている文字を、地縛霊は読み取った瞬間に血相をかえる。
　元々血の気のない顔を、崩れ落ちそうな眼球に多少なりとも光を宿したような。口から零れ落ちそうな舌を飲み込むように巻き戻し、存在しそうにない生唾を呑むような音が響く。
「知人からの贈り物か？じゃあ判子を……」
『勤勉だな、きみ。……済まないがそれを置いてくれ』
　箱の上に伝票を置くと、呪詛のようなどす黒く重い空気が紙の上で凝縮し、ジュゥウウウと音を立てて小さなシミを作る。
「確かに受け取り印らしきものは貰った。じゃあなー」
　よいしょ、と深い眠りに落ちている弟に肩を貸してジルバは一度だけ声をかける事にした。
「――それ。中身に心当たりでも有るのか？」
　無言。叫ぶ声はもう聞こえない。
　すすり泣くような声が、地縛霊の周囲に囁くのが聞こえるだけだ。
『妻が質に預けてそのまま紛失した、……結婚指輪だ』
　探していた荷物は"その妻"から届いたものだという。中身をみていないはずなのに、中身を明確に応える地縛霊の男。
　中身にはおそらく、手紙などは添えられていない。ただ、小さな小箱がちょこんと入っているだけだ、と。
『永い時間を掛けて、見つけ出したんだろう……ああ、では私は……』
　地縛霊の鎖が突如砕けて床に転がった。
　男を縛り付けていた呪縛が、解けたのだ。大きな男から空気が抜けるように悪いエネルギーが霧散していく。呪縛から解き放たれて、染み付いた穢れが一気に浄化でもされていくのだとジルバは悟った。
「大事なものだったんだなー。今度は絶対、無くすんじゃないぞー」
　歩きだしたジルバは振り返らない。返る声は"ああ"と聞こえた気がするが背後には振り返っても、きっと其処にはもう何もいない――。

　コンコンコンで溢れ出た正気じゃない妖獣のようなそれらも、順次かき消えるようにいなくなる音を耳に聞いた。カサカサと脚を鳴らす個体も、フィッダが力任せに怪我させた個体も。
　どちらも目視しては鳥肌モノ。
　――フィッダも嫌そうだったし。
　――見えないまま通り過ぎれたら万々歳だ。
　――俺も、見たくないし。頑張って貰ったぶんは我慢しないと……。
　ジルバは建物を出るまで、余計なものを見ないように視線を上向きに固定する。対策としてはコレが限界。
　――階段を降りる頃には目が覚めるといいんだが。
　自分が眠らせた弟が、起きる事をわずかに祈りつつだ。
「……ん？」
　祈りが届いたのか、フィッダが起きた。
「お？配達は無事に完了したぞ。……歩けるか？」
　配達完了。微睡み寝ぼけたフィッだがその言葉を認識するのに数秒。
　更に、辺りが静かになっていたことで廃ビルの中の敵意も根こそぎ無くなっていると悟るまで数秒。
「一番いいトコだけ見事に見逃したァアア……！！ジルバァ、加減しろよォ！！！」
　落胆からの恨みがましい激怒。兄に向けて弟が言い放ったのは、仕事完了を見届けられなかった悔しさだ。
「な、なんだよ、回復してやったのに何怒ってるんだよー！？」
「うるせー！！いいところだったのに！！」
　戦闘を楽しむフシの有るフィッダは、戦闘に水をさされたことにも激しく怒った。弟は壊す斃す事の方が得意であり、除霊や浄化こそ確かに出来ないけれど。
　兄の心、弟知らず。
　弟の心、兄知らず――等と言い表すのが適切な関係。
　おどおどが全面に出ている困り顔のジルバが、この後暫くフィッダに怒鳴り散らされるわけなのだが。どうして激しく怒られたのかを知るには兄弟相応に話す時間が必要なのだろう――。


●？？？
　二人が廃ビルから出てきたのを見かけた廃ビル管理人を自称するキマイラがSNSで呟いた内容によれば。
『仲良し兄弟猟兵がサバイバルゲーム肝試ししてた！(鮮明な写真複数付き)』(１００件以上の(・∀・)ｲｲﾈ！!が付きました)。
　誰が見ても仲良しそうに見えるものだったという。


●本日の遠方業務(終了報告)
　二人がぎゃあぎゃあと騒ぎ合いながら配達を終えて、エコライフへ戻ってきた時休憩室でソウジが何本目かのアイスを食べていた。
　数はゴミ箱がこんもりしていたのでお察しだ。
　詳細を悟ってはいけない。
「あ、ふたりともおかえりー。外暑かったでしょー」
　放られた冷たい袋をキャッチする。
　アイスだ、スイカなパッケージがなかなか可愛い。
「僕からの差し入れでぇす。さあさあ溶けちゃわないうちにどうぞー」
　ほらほら、座って座って！と椅子を進めて来るソウジは本当に涼しい顔をしていた。
「あれ？なんでアイス？って顔してるねそりゃあ……」
　ソウジが指差す先で、伝票を各世界ごとに仕分けているドラゴニアンな店長が笑っている。
「店長君が"差し入れするならアイス"ってイチオシしてたからね！君たち行く前にアイス一つで揉めたんだって？」
　ふたりとも子供だなあ。それともバス停のヤドリガミは、甘いモノがお好き？ソウジが楽しそうに笑うので、フィッダが一気に怒り出しそうな気配を出すのをジルバがアイスを口に突っ込んで黙らせる。
　この兄、弟が黙るポイントを見事に学んだようである。
「ふふふ、仲良しそうでなにより！じゃあ僕そろそろ帰るねぇ」
　近所から来たというのに、ソウジはグリモアだと言う狐火を燃やしてどこかへテレポートした。
「……あ、このあいすうまい」
「店長、ソウジはなんで此処に居たんだ？」
　アイスをしゃくしゃくと食べ進めながらジルバが尋ねても、店長は首を横に振るばかり。何故いた。何故か二人の帰りを待っていた。その事実しか、店長も知らなかったのだ――。

　場所は再び――キマイラフューチャーの一角へ。
　ソウジがテレポートで跳んだのは、二人が訪れたという廃ビルのそば。
　資料を渡したのはソウジだったのだ、守秘義務こそあるが住所はさりげなく確認済み。
　しかし、現地へと足を運びそ見たものは。
「……夏だねぇ」
　壊れてたテクスチャの荒れた敷地。解放的な更地と言うべき場所であり廃ビルな建物などない。
　滅亡したはずの人類が作り上げたような痕跡はなく。
　旧人類を名乗る怪人たちが悪さをした様子もない。
「幻にしては、キマイラSNSが騒がしいんだけど……二人は一体、どこでリアル実況されてたっていうんだろうねえ」
　ソウジが視線を落とすと、動画投稿サイトで猟兵二人の配達実況！などと不鮮明な文字化け投稿者が存在していた。
　電子の海には不思議がいっぱい。
　ソウジは笑っていたが、背筋が凍る思いを抱いて――廃ビル跡地の前を後にする。
　バス停のヤドリガミ達が、この事実を知るまで数日掛かることはない。
　楽しい事が大好きなキマイラな一人が"真実"を目にしたのだ。
　話は風のように駆け抜けていく事はもう確定したも同然だ。
　この事実を知った"エコライフ"とバス停達に衝撃が走るまでが――バス停たちの珍道中。オブリビオン絡みではない、ちょっと不思議なある日の出来事である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2021年06月23日