#UDCアース
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●UDC-Null
虚言、妄言、如何なる言葉をもってしても結局の所、それらの存在は証明し得ないものであった。
しかし、証明し得ないからと言っても、それは人の理に過ぎない。
もしもという可能性が少しでもあるというのならば、それが存在しないものであるという証明もまた破綻する。
それは皮肉にも二つの世界を救う戦いの中で見いだされることになる。
「『UDC-Null』……まさか幾つかが我々の見落とした『UDC怪物』であったとは……これは早急に全ての過去資料を洗い出さなければならない」
UDC組織のエージェントたちは一斉に過去の資料が納められた倉庫を洗い出す。
だが、過去資料は膨大であった。
現在のように電子化されたものでもなければ、整理されたものでもない。
様々な媒体が存在しているのだ。
例えば、紙や書籍、巻物やビデオテープ、8mmフィルムやカセットテープ、ポラロイドカメラで撮られた写真……それはこれまで人類が獲得してきた記録媒体のあらゆるものを総ざらいにしなければならないという途方も無い作業への序曲に過ぎなかったのだ。
「だめだ。どんなに急いでもこれは無理だ。こうしている間にもUDC怪異が出現しているかも知れないというのに……」
エージェントたちは途方にくれる。
やらなければならないとはわかっているが、それでもこの膨大な資料は如何ともし難い。
目の前にうず高く積み上げれた資料は、『UDC-Null』の底知れぬ闇を想起させるのであった――。
●怪異の理由
人外に至るということは如何なることであろうか。
狂気に侵され、おぞましき領域に引きずり込まれた人間たちが如何なる存在に成り果てるのかを知ることができるのは、同じくおぞましき領域に踏み込んだ者だけであろう。
「私は此処にいる」
「俺は待ってる」
「僕は望んでいる」
「僕は君の仲間だ」
「私はあなたと一緒」
「俺はお前と共に」
「俺は幸せだ」
「僕は全部理解した」
「私は誰も赦さない」
誰からも見えることのない狂気が渦巻いていく。
それは決して他者の目に映ること無く、そして理解されること無く虚構の中に堕ちていく。
だがしかし、知るだろう。
深淵がこちらへと手を伸ばす時、現実もまた深淵を見ることができる。
それは合わせ鏡のようなものである。互いが互いに干渉しようとするのならば、必ず互いは向かい合っている必要がある。
一方的に干渉することなどできやしないのだ。
「そう。チャンネルを合わせるだけでいいんだ。たったそれだけで深淵は答えてくれれう。なんだっていいんだ。ダイヤルだっていい。リモコンでだっていいし、周波数を合わせるだけでいい」
響く声は、まるで深淵を覗き込むようでいながら、傍らに在るような影であった。
囁く声は神秘的なものを感じさせるが、同時にどうしようもなく浅はかなものでもあったことだろう。
その言葉に真実はない。虚構に塗れた言葉であった。
けれど、人の意識が、認識が、『其処』に集まるのならば、必ずや応える。
それが邪神というものである。
「大いなる意志が直ぐ側にある。合わせよう。意識を、意志を、心を、思いを。きっと届く。きっと伝わる。大いなる邪神はきっと答えてくれるよ」
砂嵐に攫われるように、霞む人影がひどく浅薄な笑い声と共に深淵へと沈んでいくのだった――。
●世界の虚
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアース。先日の『大祓百鬼夜行』の折に確認された『UDC-Null』はご存知でしょうか?」
彼女の微笑みはいつものものであったが、どこか猟兵達に言葉を選んで事件の予知を伝えようとしている雰囲気が伝わったかも知れない。
これは確実に面倒なやつであると猟兵たちの幾人かは気がついたかも知れない。
かと言って、ナイアルテは微笑んで言葉を繋げる。
「骸魂が飲み込んだ妖怪の皆さんはカクリヨファンタズムへと戻っていかれましたが、未だ骸魂はUDCアースに留まっているのです。そして、彼等は喪われた『UDC-Null』を『再現』してしまう可能性があるのです」
ここまで告げてしまえば、勘の良い猟兵は理解しただろう。
つまりは、『UDC-Null』と呼ばれる、かつて『UDC怪物ではないと証明されたもの』の中に本物が混じっているから、それを突き止め、骸魂が再現する前に『検証』してしまおうということである。
誰かが誤って『儀式』を行ってしまう可能性は未だ残っているのだ。
「……はい、大変申し上げにくいと思っておりましたが……その、膨大な資料の中から皆さんには、一つ一つ、記録されている儀式を確認し『検証』して頂かねばなりません」
それはあまりにも途方も無い作業である。
整理し、区分し、都市伝説にも満たないような枝葉の噂話さえもきちんと精査しなければならないのだ。
予知でどうにかならないのかと猟兵の一人が尋ねるが、ナイアルテは申し訳無さそうに首を横に振る。
「それがどうしてもできないのです。大変申し訳ないと思っています……ですが、UDC組織の支部の一つに納められてる『UDC-Null』の資料は一つの方向性を持っているのです。それは、『チャネリング』と呼ばれる儀式に関するものが多く記録されています。これらに調査の方向を絞るのも有効かもしれませんし、もしかしたのならば、まったく関係のないことのように見えるものも、『UDC-Null』に関連したものであるかも知れません」
どちらにせよ、一つ一つ検証しないことには始まらないというわけである。
「地道な作業で、皆さんはとても陰鬱な気分になられていると思います。ですが……!」
ナイアルテはどこからかともなく黄色いボンボンを手にとって、フリフリし始める。
「が、がんばれっ、がんばれっ、みーなーさーん……っ!」
耳まで真っ赤になるなら、やらなければいいのになぁと、猟兵達は思っただろうが、彼女は大真面目である。
多分、どこかでこうすれば猟兵たちががんばれると聞いたのだろう。
何処情報だそれと思わないでもなかったが、真っ赤な顔をしながら、黄色いボンボンを所在なく下ろして頭を下げるナイアルテを背に猟兵達は次々と転移していくのであった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
先日の戦争によって存在が明るみに出た『UDC-Null』の調査と、検証、そして現れた骸魂と合体したUDC怪物を打倒するシナリオとなっております。
●第一章
日常です。
あるUDC組織の支部に納められた『UDC-Null』、即ち『UDC怪物ではないと証明されたもの』の電子化されていない資料が納められた資料庫から『本物』を探し出します。
このUDC組織の資料庫にあるのは、ほとんどが『チャネリング』と呼ばれる儀式に関するものですが、多数を締めているというだけで他にも雑多な噂や都市伝説のたぐいまで納められています。
事務作業や資料整理が得意であったり、効率よく探し出す方法を編み出したりするとプレイングボーナスとなります。
●第二章
集団戦です。
発掘した資料から得られた情報によって、儀式を行うと骸魂によって実体化した『UDC-Null』が出現し、『見えない怪物の群れ』がポルターガイスト現象を引き起こしながら襲いかかっています。
ですが、皆さんには資料から導き出した正しい儀式によって、その姿がはっきりと見えます。
これらを蹴散らしましょう。
●第三章
ボス戦です。
『UDC-Null』の中でも一際力の強い存在が骸魂と合体し、噂や都市伝説の影響を受け、外見が変化し、強力になっています。
ですが、同時に『噂や都市伝説』で示された弱点も持ってしまっています。
これらを上手く利用することで戦いを有利に進めることができるでしょう。
それでは、大きな戦いの痕が残るUDCアースにおいて、未だ見つけられることのなかった悪意ある存在を見つけ出し、これを打倒する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『電子化されてない資料を漁る憂鬱な仕事』
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POW : 気合いで黙々と資料を漁る
SPD : 速読などを活かして迅速に資料を漁る
WIZ : 効率の良い調査方法を考える
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちが転移したのはあるUDC組織の支部、その資料庫であった。
うず高く積み上げられた資料の数々。
紙や書籍ならば開いては閉じるといった単純な作業でよかったであろう。けれど、この中には映像資料も残されているのだ。映像を確認し、違和感を見つけ出さなければならない。
更に厄介なのはカセットテープであった。
音源だけの物証であるがゆえに、集中して聞き分けなければならないというのは、あまりにも精神を削る作業であった。
だがしかし、ここには必ず『UDC-Null』に繋がる儀式に関する情報が残されている。
『チャネリング』と呼ばれる儀式。
それに傾倒した資料が此処には多く残されている。
宇宙との交信、大いなる神を降臨させる、など様々な言葉でくくることができるであろう儀式である。
UDCエージェントたちによって、ある程度は洗われているが未だ多くの資料が精査を終えていないままだ。
猟兵たちは今から始まる陰鬱な作業に辟易しながらも、これを突破し、未知の危険から人々を守らねばならないのだ――。
夜鳥・藍
SPD
チャネリングって私が普段してるタロット占いと大差ない気がします。
他の方はわかりませんが、私はカードを鍵として何かと繋がる感じがしますから。
となると本当に多いですね。
でも少なくとも未だ出現してないのであれば、従来からよく言われてる方法のものは除外していいでしょう。いわゆるこっくりさんとかウィジャ盤と言われるもの。
一応ざっと目を通しますが、記載内容におかしな点がなければ除外で。
問題はそれ以外ですが、これも一通り読んで宇宙交信とか神降ろしとかで分類しましょう。
分類したら再度読み込んで、記載内容の差を探していけばある程度絞り込めると思います。
間違い探しみたいな差を探すの得意なんですよ?
『チャネリング』とは即ち、交信であると言えるだろう。
何か膨大な水源から水路を引くように導かれる情報は水という液体となって、水路の出口へと排出される。
それらは一見判別の付かぬ情報という名の水であったとしても、水路の出口の先にある受け止める器によって形を変え、意味を為していく。
それは即ち、タロット占いと同じであるように夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は感じていた。
「他の方はわかりませんが……」
彼女は愛用しているタロットカードを手に取り、UDC組織の支部、その『UDC怪物ではないと証明された』物証が納められている資料庫の中に佇む。
雑多に放置された情報の数々が、長い年月にわたって集められたものであることを藍に実感させる。
真偽不明の情報の湖とも形容するのが正しい資料庫の中で、藍は見つめる。
カードを鍵として何かと繋がる感覚を彼女はいつだって占う最中に感じている。ならば、今回もこの湖の如き情報の中から彼女だけが感じ取れる何かを手繰り寄せることができるだろう。
「しかし、本当に多いですね」
だが、少なくとも未だ出現してない『UDC-Null』が本当に存在しているというのであれば、従来からよく見受けられる方法といったものは端から除外してもいいだろうと藍は判断した。
いわゆる『こっくりさん』や『ヴィジャ盤』である。
そういう古典的なものを省いて調べていけば、儀式の一端には掠ることがあるはずだ。
一応、資料に目を通していくが、それらも目を滑っていくものばかりである。
彼女の目にとまるような情報はあまり見受けられない。
「宇宙交信……神降ろし……なるほど。此処にある資料は少なくとも大まかにわければ二分割。宇宙より来たりし外なる神。降神といった類の儀式が多いですね」
分類したあとに再び読み返していく。
間違い探しみたいな誤差にも満たないような記述の差を探していくのは、わりと得意である。
違和感を感じたのは、宇宙より飛来する神を捉えるという方法であった。
複数人で円を描く……つまりは、宇宙より地球を見下ろした時に外なる神が自分たちを見つけやすいような模様を描くという点。
それは藍にとって、儀式という観点から見るに無視できないものであった。
手にしたタロットカードは逆位置の『塔』。
即ち、『受難』、『緊迫状態』そして……『不安定』さ。
これらを補強するための儀式が、かならずこの資料庫のどこかにあるはずなのだ。
一つ一つがピースのようになって、完全なる儀式を生み出すというのであれば、己が手にしたタロットカード『塔』は、これより出現する『UDC-Null』の不安定さを示しているのだろう。
「……儀式としてサインを描く。人の『手』によって繋がれたもの……」
それが如何なる意味を齎すのか。
手を繋ぐのか、それとも離すのか。
藍は、己の眼前に広がる膨大な情報の湖を見やり、息を吐き出す。
直感的にわかったことは、外より至る神を導くためのサインを描くには『人の手』が必要であるということ。
そして、それが一人ではできないということ。
複数の人間によってのみ成り立つ『チャネリング』の儀式が、『UDC-Null』を完全な状態で呼び出すものである。
彼女が知り得たのは此処までであったけれど、猟兵達がてわけをすれば、直に完全な情報としてもたらされるだろう。
しかし、同時に藍は逆位置の『塔』のカードにいい知れぬ不安を感じるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴久名・紡
情報の精査……にしても凄い量だな
まぁ、早急に確実にやっていくしかなさそうだ
貴重な資料なので、触れる際は手袋を着用しよう
直に触れてそこから腐食する事は避けたい
年代別・方向性別に分類されているならそれは問題ないけれど
それもされていないモノに関してはそこを済ませよう
一度資料を大きく広げる事になるが
分類が終われば元の状態に戻る事だし
何より、これを済ませておくことで
経緯が判り易く、情報を調べやすくなる
それか済んだら、資料の洗い出し
今回方向性が多くみられると聞いた
『チャネリング』関連……確かに多いがやっていくしかないな
情報収集も利用して調べていく
別途用意したノートに日時や内容の要点を書き出し共通点を探す
『UDC-Null』の資料は未だ山積みにされている。
その光景はまるで塔のように山積されており、電子化以外の様々な媒体で残されている。
鈴久名・紡(境界・f27962)の目の前にあったのは巻物や古文書の類と言った紙の資料であった。
「情報の精査……にしてもすごい量だな。まぁ、早急に確実にやっていくしかなさそうだ」
一つ一つを確認していくことは容易ではない。
けれど、これらを確認していかねば『UDC-Null』にはたどり着くことができない。正しい儀式の方法を見つけ出さなくては、中途半端な儀式によって一般人が危険にさらされてしまうかもしれない可能性があるからだ。
手袋を手に、紡は資料に触れる。
本物の情報ではないにせよ、これらは貴重な資料であることに代わりはない。直に触れてそこから腐食するのは避けたいと考えたのだろう。
「年代別、方向性別に分類されているなら、それは問題ない……」
しかし、未だ分類されていないたぐいのものもある。
それらはこのUDC組織の支部の資料庫に大分される『チャネリング』以外の物証に関するものばかりであった。
ミステリーサークルや、未確認飛行物体。
そういった類のものが多く残されている。民間伝承と言うよりも、目撃情報といった類であろう。
『チャネリング』とはいわば、大いなる存在との交信の術である。
水路のように導かれる情報を人々は神々との交信と考え、その身に宿そうとした。イタコやシャーマンと言ったものに近い考えなのかも知れない。
「ふむ……『チャネリング 関連、と言えばこれもそうなのかもしれないな」
大いなる存在を呼び寄せるための儀式。
年代別に整理していくと近年のものが多いように思える。ほとんどが円を描く模様を大地に描くというもの。
そして、大人数で行うものが多いようであった。
「神降ろしでもやろうっていうのか……?」
紡ぐは別途用意したノートに日時や内容や要点を書き出していく。
やはり、近年の物が多い。というより集中している。
集団での失踪。
集団での儀式。
繋がっていく点が見えてくる。今まで見えざる者であった『UDC-Null』の姿が浮かび上がってくる。
「特定の日時、特定の場所、特定の儀式に、人数……だが、まだ確証は持てないな。他の猟兵たちの情報を待つか」
紡は息を吐きだし、椅子の背もたれに身体を預ける。
これだけの情報の中に、未だ真実の欠片が残されているかもしれない。それは途方も無いことであったが、多くの猟兵たちが関わるのならば、時間の問題であろう。
ひどく目を酷使したために疲れ目になっている。
一息入れようと紡は立ち上がり、資料庫から出て背中を伸ばす。
『UDC-Null』の存在が明らかになった時に、こんなときが来るのではないかと思っていたが、まさか猟兵達自身が駆り出されるとは思いもしなかった。
はた迷惑な、それでいて未だ尻尾のつかめぬ邪神の狡猾さ。
しかし、ついにはしっぽを掴んだのだ。これを手放してはならぬと、紡は一息入れた後、再び資料庫に戻るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
いちばんの得意は電脳だけど、
資料整理やまとめ系は、それ以外のものだって得意分野!
引きこもりの底力を見せちゃうね。
わたしは音声記録いってみようかな。
いちどチェックしながら聞きつつ、DAWに録りこんで、検証していこう。
呪文みたいなものや、神、宇宙、意思、力、みたいなチャネワードは、
再生タイムをマークして再チェック。
不思議な音声やノイズなどがないか聞き直すね。
タブレットとヘッドホンの真価を今ここに!
「どんなに小さな音だって、逃がさない、よー」
自分の感覚を信じて、違和感見つけていこう。
みんなの検証した資料はリスト化しておこうかな。
【電脳潜行】使っていけば、めいっぱいできるから、
時間はなんとかなるよね!
UDC組織支部の資料庫に残されていた『UDC-Null の資料の数は膨大そのものであった。
UDCエージェントたちが苦戦するのも分かる圧倒的な物量。
物量だけであったのならば、時間をかければ十分に対処できる量であっただろうが、この資料庫に残された物証は紙や巻物、写真にビデオテープ、カセットテープの音源などなど、枚挙に暇がない。
それほどまでに雑多な情報を整理し、そこから『UDC-Null』の儀式を見つけ出すのは容易ではなかったのだ。
けれど、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)にとって資料整理やまとめることは、得意分野であった。
「引きこもりの底力を見せちゃうね!」
張り切った様子で彼女はホコリを被ったカセットテープを手に持ち払う。
他の猟兵たちが紙の情報をさらっている間に自分は音源から記録をさかのぼっていこうというのだ。
音源を再生すると流れてくるのはノイズまじりの話し声や、風の音、雑踏の音など、様々なものであった。
どれが本当に『UDC-Null』に関連したものであるかを見極めるのは聞いただけでは無理であった。
けれど、理緒は一度取り込みつつ音源データを数値化していく。
「うーん、呪文みたいなものや、チャネワードがあればわかりやすいんだけど……何か法則性があるのかな」
理緒はカセットテープの再生タイムをマークして再度チェックしていく。
しかし、どれも中途半端なタイミングで音源が途切れるのだ。
カセットテープのナンバリングが為されているものを順に並べていく。
録音された音源が途切れるタイミングがやっぱりズレている。意図したものかそうでないのかはわからない。
けれど、わざわざナンバリングされていることに意味があるとするのならば……。
「……本当に、無音なのかな?」
理緒の疑問は当然であった。
ならばタブレットとヘッドホンを装着し、もう一度ナンバリングがされたカセットテープを再生する。
僅かなノイズも見逃さないモニターを見やり、理緒は漸く気がつくのだ。
「どんなに小さな音だって、逃さないって思っていたけど、これ……逆再生すれば……!」
そう、理緒は気がついたのだ。
ユーベルコード、電脳潜行(デンノウセンコウ)によって彼女は極限まで集中していく。寝食も必要としない状態となった彼女の思考は加速していく。
ナンバリングされていたカセットテープ。
『無音』の場所を切り取ってデータに落とし込み、逆再生をかける。そうすると意味をなさない言葉の羅列が音として流れてくる。
「これだけじゃ、まだ不完全。だからナンバリングなんだ!」
検証した資料のナンバリングが施されているテープの無音領域を全て重ねていく。
すると意味をなさない言葉の羅列が意味を為していく。
「エヴァーテ、スタティム、インペリオ、カーベ、イニミカム、スコージファイ――」
理緒のヘッドセットから聞こえてくる音源はなにかの呪文のようであった。
「う、ううん? これって何……何かの呪文?」
意味がわからない。
けれど、このカセットテープのナンバリングと無音領域を重ねて導き出された言葉の羅列が無意味であるわけがない。
これらをリスト化して理緒は他の猟兵たちと共有していく。
何かわかればいいのだけれど、と理緒はヘッドセットを取り外し一息つく。
凄まじい集中力であったのだろう。
理緒のまわりには検証しつくした音源が山積みになっている。これでひとまずはカセットテープの整理は終わったと言えよう。
けれど、これからが猟兵達にとっての本番だ。
『UDC-Null』、その存在を放置してはおけない。必ず、この存在を暴き出し、白日の元にさらさなければならない。
そのために理緒はもうひと踏ん張りと言うように、再びヘッドセットを装着するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
御狐・稲見之守
虚言、妄言、戯言、流言、何れもワシの愛でるところ。
ふふ、なるほど 面白いじゃァないか。
さて、資料を漁れと。
それではちょいと資料"達"に聞いてみるとするかナ。
例えば、資料に意志があると仮定する。
そして欲しい情報を聞いていけば良いんじゃ。
そういう芸当も陰陽術の呪ってやつでナ。
[呪詛]――汝、今一時語ることを許す。
降霊術についての情報を教えておくれ。
そうして資料に触れて語りかけてくる情報を聞いていこう。
情報自体の精査に関しては専門なので大して苦ではないが
量が量である、茶でも呑みながらやってくか。
虚言、妄言、戯言、流言。
そのどれもが御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)にとっては、愛でるべきものであった。
稲荷信仰の地で現人神として祭祀を担う妖狐は気まぐれであったが、そのようなことであるのならば面白そうなことであるとUDC組織の資料庫へと降り立ったのだ。
「さて、資料を漁れと」
ふむ、と彼女はうなずく。
目の前には塔の如く山積された資料の山々。
電子化されていないのは、これらが『UDC怪物ではないと証明されたもの』であるからだ。
UDC組織にとって、UDC怪物の情報は僅かなものであっても欲するものである。
雑多に集めまわった結果、真偽のほどもわからぬものまでも収集してしまったのだろう。その結果がこれである。
しかし、中には偽物に見えて本物である物証も存在している。
その証拠に稲見之守は小さくつぶやくのだ。
「汝、今一時語ることを許す」
それは陰陽術の呪であった。仮に資料に意志があるとするのならば、それらが持つ意志によって己たちが欲する『UDC-Null』に関する情報を聞いていけばいいのだ。
それが彼女にはできるのだろう。
降霊術と合わせて彼女は手に触れた資料から流れ込んでくる情報という名の囁きに耳を傾ける。
狐耳がピクピクと動くと、そこに集まってくるのは途方も無い情報の波であった。
『エヴァーテ、スタティム、インペリオ、カーベ、イニミカム、スコージファイ――』
む、と稲見之守が眉根を寄せる。
気になれない言葉であった。しかし、これが呪文の類であることがわかったのは、彼女もまた呪の類を手繰るものであるからだ。
ならば、この言葉の意味もまた同時に情報として伝わってくるはずだ。
「これは……唱えられた形跡があるのかのう」
他の猟兵がリストアップした資料を見つける。
其処に記されていた音声から見つけ出したデータに類似した呪文の如きものがあるのを彼女は見つける。
ならば、これの意味を解することもまたできるかもしれない。
「ふむ……こっちの資料になにやらありそうじゃ」
片っ端から資料に触れて、降霊術によって情報を引き出していく。
彼女自身は情報の精査に関して専門である。なので、大した苦ではないが、量が膨大なのだ。
「これはゆっくり茶でも呑みながらやらんと、やってはおれんなァ」
焦っても仕方のないことである。
これまで他の猟兵たちが精査した情報の断片をつなぎ合わせていけば、おのずと『UDC-Null』に繋がる儀式がわかるはずだ。
稲見之守はお茶を飲みながら、じっくりと流れてくる情報に耳を傾けていく。
狐耳がピクピク動き、ついには呪文のような音声の意味を理解するのだ。
「なるほどなるほど。新聞雑誌の切り抜きのコラージュ。これの文体をつなぎ合わせていけば……ほう、これまたよくできておる」
その手にあったのは、新聞や雑誌、チラシなどの文字をコラージュして作った意味のない文体が並ぶ写真んであった。
しかし、その同じ文体をつなげていけば……。
「宙を踊れ、服従せよ、敵を警戒せよ、清めよ――……これが呪文の意味か」
きっと呪文を唱えるだけでは儀式にならないのだろう。
これらの意味を理解し、人数を集め、大地に空より見下ろすことのできる図形を描く。これが儀式なのだろう。
だが、まだ何か足りない。
その確信だけが彼女の中にあった。
「が、まあ……のんびりやるとしよう。どれ、茶でももう少し淹れておこうかの」
息を吐きだし、膨大な情報が溢れる資料庫で稲見之守はマイペースに情報の精査を行っていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
猟兵としての任務の合間、数多の世界でアナログな媒体から騎士の御伽噺を蒐集してきた経験もありますし……(アイテム参照)
この手の作業で私の右に出る物はそうはいないでしょう
自己●ハッキングで思考演算を調整し膨大な並列思考を実現
操縦する大量の妖精ロボを己が目と耳と手として扱い情報収集
瞬間思考力による見切りで検証に時間の掛かる映像や音声記録も早送りで調査
膨大な情報処理等UDCアースのパソコンでも出来る以上、私が遅れを取るつもりはありません
もっとも、この方法は新しい知見を得る際の喜色の感情演算を失うのが難点ですが…
?
15番が閲覧中の書籍と32番の映像資料に目的の情報に類似点あり
付近の妖精を回しましょう
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)には自負があった。
何の、と言われれば単純作業と仕分け能力、そして生身の生物であれば必ず訪れるであろう集中力の減退とミスがないという自負があったのだ。
彼はウォーマシンである。
機械じかけの騎士であるが、この手の作業において彼以上にできるものもそう存在はしていない。
己の電脳を調整し、膨大な並列施工を実現させる。
目の前には湖のような情報が沈むUDC組織の資料庫。支部の一つの資料庫とは言え、侮ることは出来ない。
目の前の光景を正しくトリテレイアは認識していた。
まずは手が足りない。ならばどうするか。
「御伽噺の騎士に導き手の妖精はつきものです……これは偽物なのですが」
自律式妖精型ロボ 格納・コントロールユニット(スティールフェアリーズ・ネスト)をたぐり、己の目と耳と手として情報を収集していく。
一瞬の思考の合間に行われる思考の処理は凄まじいものであった。
ウォーマシンだからこそできる芸当であるが、トリテレイアは思考を止めなかった。
これまで他の猟兵たちが得た『チャネリング』に関する情報。
『UDC-Null』に至るための儀式の手順や要因を分析していく。検証に時間のかかる映像や音声記録も早送りで調査を並行処理していくのだ。
「膨大な情報処理等UDCアースのパソコンでもできる以上、私が遅れを取るつもりはありません」
彼の言葉は普段以上に平坦なものであった。
それは膨大な情報を処理するために電脳が新しい知見を得る為の喜色の感情演算を損失してしまうという難点があった。
それは機械騎士である彼にとっては本来不要なるものであったが、彼はそれこそを大切に思うのだ。
彼がこれまで猟兵として活動する傍らに収集してきた数多の世界での騎士の御伽噺の蒐集。今もアナログな手段であるが電話帳サイズの手記に納められている。
それはどれもが大切な思い出というにふさわしいものであった。
誰がそれを咎めることができるだろうか。不要であると言えるだろうか。
「――……? 15番が閲覧中の書籍と32番の映像資料に目的の情報に類似点あり。付近の妖精を回しましょう」
トリテレイアが瞬時に気がつく。
これまで『チャネリング』に関する資料を閲覧していた妖精ロボたちが一斉に指向性を持って行動を始める。
映像の中には未確認飛行物体と思しきものが飛翔する様子。
そして書籍にはサークルを作る手順といったお呪いに関する記述が見られる。
一見そこには関連性がないように見受けられる。
けれど、未確認飛行物体は飛翔しているのではなく、降下していることがトリテレイアにはわかる。
そう、降り立っている。
『チャネリング』が大いなる存在を呼び込むための儀式であるというのならば、サークルを作る手順はいわば、空から見えるサインである。
「空より見つけることのできるサークルサイン。人間を石に見立て、紋様を作る……これ以外にも何か特別な手順がありそうですね」
トリテレイアは他の猟兵たちが見つけ出した情報と統合して演算を行う。
これはUDCアースでもよく見かけられる邪神降臨の儀式に類似している。
ならば、この『チャネリング』とは邪神に、それも空より舞い降りる邪神に対するアプローチなのではないか。
トリテレイアは、この『UDC-Null』が細かく裁断され散りばめられた『UDC怪物』の策謀である可能性を見出し、これを打破するためにさらなる情報を求めて、妖精ロボをたぐり、情報の精査を行うのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
五十野・組子
やだなぁ。部屋から出たくないなぁ。
憂鬱な気持ちを無理矢理押さえて仕事に向かう。少しずつでも頑張ってUDCに対抗出来る様にならないとゆっくり眠る事も出来ない。
なけなしの気合いを入れて資料と向かい合う。小学校の途中から不登校だった頭には辛いけど、オカルト関係の知識は引き籠りながらネットで勉強してきた。資料を絞り込めさえすれば…。
チャネリング。欲しい情報にチャンネルを合わせる。眼鏡を外して魔眼の異能を解放。邪神との邂逅で得た、異世界の存在や他者の欲望等、見えなくていいものが見える能力。目の焦点を合わせる様に魔力のチャンネルを調整して「情報収集」。私に読んで欲しい資料はどの子?その願いを叶えてあげる。
陰鬱な気持ちが、彼女の心のなかを支配していた。
誰だって膨大な資料をただ闇雲に整理し、精査するなんて仕事をしたいとは思わないだろう。
それがかつては『UDC怪物ではないもの』として認定された資料であるのならばなおのことである。
生産性はあまり見いだせないし、何より面倒すぎることこの上ない作業なのだ。誰も望んではやらないであろう。
けれど、五十野・組子(イドノソコ・f33657)には、その陰鬱な気持ちを無理矢理抑えて仕事に向かわなければならないという理由があった。
彼女はUDC事件に巻き込まれ邪神の眷属に取り憑かれた猟兵である。今は眷属を支配し、従え操る能力を鍛え社会復帰する途中だ。
「やだなぁ。部屋から出たくないなぁ」
れっきとした引きこもりのお手本のような言葉をつぶやくが、彼女はもうすでに一歩を踏み出している。
小学校の途中から不登校であった頭には辛いものがあると、自虐的なことを考えてしまうが、すでにオカルト関係の知識は引きこもりながらネットで勉強をしてきたのだ。
その手のたぐいの情報はネットに溢れるほど在る。
様々な情報を大分すれば、なんとかなるであろうし、何より組子は一人ではない。他の猟兵たちもまた膨大な情報の湖である資料庫で整理と精査を行っているのだ。
「チャネリング……」
水路であるとか、そういう意味を持つ言葉。
転じて、情報を引き導くという意味合いもあって、高次の存在を身に宿すシャーマンやイタコといったものにも関連する言葉である。
「欲しい情報にチャンネルを合わせる……」
何度も練習してきたことだ。
眼鏡を外し、魔眼の力を開放する。
邪神との接触に追って異能を宿した眼球は、異世界の存在や他者の欲望を見る力を持つ。
見えなくてもいいものが見える力。
組子は、魔眼の力をそう評していたが、今それが役立つ時なのだ。
「……私に読んで欲しい資料はどの子?」
彼女の魔眼の焦点が徐々に像を結ぶ。
この膨大な情報の湖の中、闇雲に情報を求めるのは人海戦術を持ってすれば可能であろう。
けれど、例え『UDC-Null』に関連する情報を見つけられたとしても、それを精査するのは難しいことである。
現に猟兵達は多くの断片を見つけ出しているが、それらを未だつなぎ合わせるためにはピースが足りない。
「その願いを叶えてあげる」
ものにはすべて存在意義と理由がある。
ならばこそ、細かく裁断され散りばめられた、UDC怪物の策謀を手繰り寄せるのだ。魔眼が魔力を宿した詩篇を見つけ出す。
ある巻物の一部であったが、組子の魔眼はそれを捉える。
「巻物……?」
チャネリングと呼ばれるものにはあまり関連がなさそうなものである。古文書と言ってもいい類の資料であるが、その中にあったのは奇妙な紋様の連続であった。
しかし、そのどれもがフェイクであることを組子は知る。
「殆どが、偽物……意味のない陣形……だけど」
そう、彼女の魔眼が教えるのだ。
意味在る模様、必要とされる陣形。
それは一般的に言えばミステリーサークルと呼ばれるものであった。奇妙な星の運行を示すような円を描く形。
「――……これを、人で繋ぐことで完成するのが、儀式ってこと?」
ただ、それだけでは成立しない。
これは上辺だけの儀式だ。呪文、陣形、そして場所。まだまだ知り得ぬ情報はある。
それを組子は一端でも見つけ出し、他の猟兵達と共に儀式を完成させるための一手を今、確実に担うのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
うへぇ、山積みの資料に気が滅入りそうだぜ。
「・・・文句言わないの。」
へいへい、相棒。
にしても闇雲に検証してたら何日かかっても終わらねえぜ、相棒?『チャネリング』の資料がやたら多いようだが。
「・・・式、召喚【捜し鼠】。余計な資料を省いて『チャネリング』の資料、或いは一軒関係無くても何か違和感を感じた資料を捜して。」
おおッ!流石相棒の式神、便利だぜッ!UDC職員も心なしか羨ましそうに見ている気もするぜ。
んじゃ、後はゆっくり待ってれば・・・。
「そんな暇無いですよ。ほら、捜し鼠が見付けてきた資料の検証を始めますよ。」
ですよねー。仕方ねえ、これでもマシになったんだ。地道にいきますか。
【アドリブ歓迎】
UDC組織支部の『UDC-Null』に認定された情報の数々が眠る資料庫を前にして、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)はなんとも暗澹たる気持ちになっていた。
『うへぇ、山積みの資料に気が滅入りそうだぜ』
思わず文句とも取れるつぶやきを漏らしてしまったことに相棒である桜が咎める。
「……文句言わないの」
『へいへい、相棒』
しかし、実際問題、これだけの情報の山を前にしてひるまぬ者はそう多くはないだろう。
未整理の情報や『チャネリング』という分類によって大分された資料庫であれど、その中から真偽を精査するというのは、思っている以上に難儀なものである。
例え、『UDC怪物』に関連していないとわかっても、もしかしたのならば、それが偽装されたものであるという可能性もある。
それら全てを検証し、精査していくのは時間も人手もかかるものである。
言うは易く行うは難し。
まさにそんな言葉が飛び出しそうになった凶津とは裏腹に、相棒である桜は悩むよりも行動するタイプであった。
「……式、召喚、式神【捜し鼠】(シキガミ・サガシネズミ)」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
戦闘力のない式神の鼠たちが召喚され、一斉に資料庫の中へと駆け出していく。
「余計な資料は省いて『チャネリング』の資料、あるいは一見関係性がなくても、何か違和感を感じた資料を探して」
彼女は式神である鼠たちに号令を飛ばすのだ。
『おおッ! 流石相棒の式神、便利だぜッ!』
ヒーロー・マスクである鬼面がカタカタ笑う。
確かに便利な力である。こういった物量が物を言う場面に置いて、彼女のユーベルコードほど便利なものはないだろう。
こころなしかUDCエージェントたちが羨ましそうな顔をしているのは、連日『UDC-Null』関連の情報を精査し、検証している疲れからであろう。
ものすごくわかるぜ、と凶津は同情を禁じ得なかった。
『んじゃ、後はゆっくり待ってれば……』
しかし、そんな悠長なことは言っていられないのである。
「そんな暇無いですよ。ほら、捜し鼠が見つけてきた資料の検証を始めますよ」
桜の手元には早速式神達が持ってきた資料があった。
仕事が早すぎるというのも考えものである。凶津は仕方ねぇとつぶやく。同時にですよねーという気持ちも為るが、声には出さない。また怒られる。
『地道にいきますかッ!』
手元の資料はやはり『チャネリング』に関する週刊誌の記事の切り抜きであった。
なにかの金運アップのアイテムを通信販売する広告のようであった。
黄色の財布、黄色のチェーンネックレスに、数珠、もうすでに胡散臭さが充満しているようであった。
『いや、これチャネリング関係ないだろ。なんだってこれが……』
「……これ、もしかしたら身につけるものの色が共通しているという儀式になるのでは?」
どういうことだと、凶津は相棒である桜に問いかける。
『チャネリング』とはシャーマンやイタコといった霊媒的な要素も含むものである。
多くは大人数で行うものが一般的に知られるものであろうが、こうした『色』をあわせるということもなにかの儀式の一端であるように思えたのだ。
「黄色……この広告、いやに黄色のアイテムばかり並べてますね」
確かにそのとおりだ。
こういう金運アップならば、普通は黄金とか翡翠とか、水晶だとか、様々な雑多なアイテムが美辞麗句と共に並べられているものだ。
けれど、捜し鼠が持ってきた広告の切り抜きは、全てのアイテムが黄色で統一されている。
「……これが儀式そのものではないにせよ、儀式の一要因を担っていると考えれば……」
『なるほどなッ! この資料庫にある情報の山は、細かく分断された儀式の工程が隠されてるってわけかッ!』
凶津と桜はうなずく。
ならば、まだまだ儀式を繋ぐパーツとも言える情報が散らばっていることだろう。
他の猟兵たちと情報を突き合わせて考えれば、自ずと儀式は見出すことができる。
漸く見えてきた終着点に二人は駆け出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
(水盤使う家の血をひく)
我ら四人の内、資料整理に慣れているのは三人(『侵す者(豪快)』は苦手)
この儀式への親和性においても三人(『疾き者』は方向性が違う)
というわけで、両方に該当する我らで資料整理ですね。UC使用です。
まだ紙の方が慣れてますからね、我ら。
細かきことも、見逃さずに。
※
第四『不動なる者』まとめ役
一人称:わし 質実剛健
まあ、わしは元は『黒鏡使う陰陽師の家』を継ぐ予定であったからの。
さて、複数人でする儀式…既存のも洗い直すか?
案外、紛れておることもあるからの。
※
陰海月、分類済の書類を運んでいる。
情報処理というのは、単純な作業の積み重ねである。
けれど、時として人はミスをするものであり、それもまた積み重なって惨事を引き起こすことも在る。
ボタンの掛け違いが引き起こす悲劇は、人の歴史を振り返ってみても枚挙に暇がないほどである。
それが『UDC-Null』と呼ばれる存在であるのならば、そのボタンの掛け違いを一つ一つ解きほぐしていくしか解決の道はないのである。
UDC組織支部の資料庫は、一つの方向性を持てど未だ混沌としていた。
猟兵達によって徐々に整理され、精査されていく情報はあれど、まだ足りない。
「我等四人の内、資料整理に慣れているのは三人……」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は複合型悪霊である。
四柱の悪霊でもって構成される彼等の内、一柱である『侵す者』は豪快な性格ゆえに、こういった細々したことは不得手であった。
しかし、この儀式への親和性においても三人というわけで『静かなる者』と『不動なる者』が動き出す。
『疾き者』は方向性が違うし、ユーベルコード、オルタナティブ・ダブルによって顕現できるのは二人までである。
もうひとりの自分ともいうべき『静かなる者』と『不動なる者』は己たちの能力を持って、資料を整理していくのだ。
「まだ紙の方が慣れてますからね、我等」
『静かなる者』にとって、電子化された情報よりは紙の方が幾分落ち着くというものである。
なんとなくタップだとかピンチアウトだとかスワイプだとか、そういった横文字のものには慣れるのに時間がかかりそうであった。
「まあ、わしは元は『黒鏡使う陰陽師の家』を継ぐ予定であったからの」
『不動なる者』が快活に笑いながら、巻物の資料を探っていく。
二人で手分けをすれば、意識を共有する彼等にとって情報の伝達はリアルタイムであり、ラグ一つ無いものである。
ならばこそ見えてくるものがある。
他の猟兵たちが精査した情報、断片のような儀式。
これらを統合して考えた時、彼等の脳裏に浮かんだのは、一つの事柄であった。
『複数人でする儀式』
そう、それこそがこの儀式の根幹であろう。
「何かを呼び込む陣形、呪文、そしてアイテム。何を呼び込むつもりか。はたまた、何かを得るためのものか」
「どちらにせよ、人の心の隙を突くという意味では、大勢の人間の意識を統一させる手段としては簡単なものでしょうね」
既存のものを洗い直し、『不動なる者』は『静かなる者』に告げる。
やはり、大勢でおこなう儀式が鍵である。
一人では為し得ない儀式。
『手』を繋ぐという行為。
円陣を描くのは星の運行に重なるものがあるのならば、その『星』はどこにあるのか。
「星の運行に例えたのならば、それに相当する何かが必要なはず」
「他の方々の精査では共通する『色』があると」
そう、『黄色』である。
「ぷきゅぷきゅ」
その背後では忙しそうに『陰海月』が整理された書類を運んでいる。
忙しない姿に食べ過ぎたダイエットにはちょうどよかろうと思っていたが、運ぶ姿に『不動なる者』は気がつく。
『星』の運行。『黄色』。
ならば、そこから導き出されるのは『太陽の動き』である。
『黄道』と呼ばれる太陽が如何にして動くのかを示した言葉である。そして、それに関連する資料を探っていけば、自ずと儀式の断片がわかるものだ。
二人は掴んだ情報を猟兵たちと共有し、儀式を繋いでいく。
これだけ細かく分断されていても、『UDC-Null』へと至る道は導き出されるのだ。
それを為すために二人は、猟兵達は未だ情報の眠る資料庫に挑むように、情報整理という単純作業を淡々とこなしていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【勇者パーティー】
チャネ……ああ、怪しい儀式のことですか!
それならわたしの故郷でも、見た目イタイ人たちがやってました。
外からみると怖いんですよね、あれ。
あ、師匠の事じゃないですよ?
師匠は見た目ぺたんなだけですので。
サージェさん、良さそうなのを見つけたら教えてください!
「わたし、試してみますので!」
え? 面白?
これほんとに資料にある儀式ですか?
なんだかすっごくイケナイことしてるっぽいんですが!
サージェさん、さすがに飲み物系は、
危険がデンジャラスじゃないでしょうか!?
んぐぐぐー!?
師匠、助けてくださいよぅ!?
って、なにシャインさん召喚してるんですか!
シャインさんも簡単に喚び出されないでください!
フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「ふむ、チャネリング?
ああ、降霊術のようなものか。
それならば、偉大なる死霊魔術師である我に任せておくがいい」
我は、はるか昔、召喚術の奥義を会得し、悪魔との契約で不老不死となった。
その我に解明できない召喚術――チャネリングとかいう降霊術があるはずもない。
「というわけで資料調査などという面倒なこと、やってられるか!
我は、召喚術で直接UDC-Nullとやらを喚び出してくれよう!」
床に描いた魔法陣に【魔力増幅】によって増幅させた魔力を流し込もう。
「くくく、手応えあり、だ!
さあ、姿を現すがよい、異界より迷い込みし存在よっ!
……って、なんでお前が喚び出されるのだ、シャインよっ!?」
シャイン・エーデルシュタイン
【勇者パーティ】
「人外に至るということは、私のような存在になること――
生と死の狭間を越え、それでもなお戻ってきてしまった私には、人外に至った人の気持ちがわかります」
そう、私であれば、彼らに向き合い干渉することも可能なはずです。
合わせましょう。意識を、意志を、心を、思いを。きっと届きます。きっと伝わります。大いなる神はきっと答えてくださいます。
UDC組織の支部の屋上に魔法陣を描き、大いなる意志との交信を試みていると、何者かから喚ばれる感覚が。
「って、フィアさん!?
なに調査サボってるんですか!?」
資料調査ではなく召喚陣で何かやろうとしていたフィアさんにハリセンでツッコミます(ブーメラン
サージェ・ライト
【勇者パーティー】
…ごふっ(鼻血出して倒れる)
ふふっナイアルテさんそれは私に効く(例によって萌え被弾したクノイチ
もうチャネる前に私がUDC-Nullになりそうですが
このまま天に召されるわけにいきません!
応援されたのなら応えましょう!
私はクノイチなのですから!
というわけでパーティーに復帰しまーす
えいっ【かげぶんしんの術】!
まずは人海戦術(なお私のみ)でアタリそうなのに目をつけましょう
それっぽいのを見つけたらルクスさんにパスです!
「お願いします!これとか面白そうです」
後は実践…ってさすがフィアさん
この手は得意ですね
お任せしましょう
あれ?そういえばシャインさんどこいきました?
「……ごふっ」
開幕鼻血ぶっぱしたのは、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)であった。いや、正確には転移する前である。
ちょっと彼女にだけ効くグリモア猟兵の仕草にクリティカルなヒットを受けて彼女は戦う前から鼻血という負傷を追っていた。
あまりに不名誉であるが、此処に記す。
ではなく、サージェは立ち上がる。鼻血出てるし、出しすぎだけど大丈夫化。
「もうチャネる前に私が『UDC-Null』になるそうですが! このまま天に召されるわけにはいきません! 応援されたのなら答えましょう! 私はクノイチなのですから!」
ものすごいやる気に満ちている。
やめろ、また勘違いしちゃうぞ。
「チャネ……」
そんな鼻血ブッパしているサージェを他所にルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)はポンと手を叩く。
ああ、あれのことかな? と彼女は得心が行くようであったし、彼女の師匠であるフィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)もまた一定の理解をしめしていた。
「ふむ、チャネリング? ああ、降霊術のようなものか。それならば、偉大なる資料魔術師である我にまかせておくがいい」
自信満々にフィアは胸を張る。
けれど、ルクスはちょっと懐疑的な瞳になっているのは、これまでのブッパ癖のせいであろう。
普段の行いというやつである。
「わたしの故郷でも、見た目イタイ人達がやってました。外から見ると怖いんですよね、あれ」
そう、あれはカルトとかそういう類のやつである。
しっ、見るんじゃありません! と目を覆われた思い出があったかどうかはわからない。けれど、ルクスにとっては、まあそういうものであるのだ。
「あ、師匠のことじゃないですよ? 師匠は見たぺたんなだけですので」
いやそういう問題じゃない気もする。
というか師匠に対するあたり最近強くない?
ぐぬぬ、となるフィアであったが、彼女は遥か昔、召喚術の奥義を会得し、悪魔との契約で不老不死になった経緯を持つ魔女である。
マジでれっきとした不老不死の魔女なのだ。ちょっと最近はアレな雰囲気も在るが、開幕ブッパできるだけの魔力を持つ時点で、相当に恐るべき実力を持った存在なのだ。
「ふっ……言っておるがいい、ルクスよ。師の偉大さを知るときが来たようであるぞ」
彼女に解明できな召喚術、チャネリングとかいう降霊術があるわけもないとない胸を張るフィアに、そうですね、えらいですね、とたしなめるルクスはちょっともう此れは後で教えた方がいいなまじで、とフィアは思った。
だが、今は師としての威厳を見せる時である。
「まあまあ、まずは人海戦術でアタリそうなのに目をつけましょう! えいっ!」
サージェはかげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)でもって、無数に分身し、資料庫の中に駆け出していく。
人海戦術と言っても一人だけである。
いやまあ、適所適材って言葉もあるしね。仕方ないね、とサージェはあちこちからあらゆる資料をさらっては、それっぽいものを見つけ出していく。
それっぽいだけであるので、結局は検証しなけばならないのだ。ならば、とルクスにパスする。
サージェは探す人。
ルクスは検証する人。
「お願いします! これとか面白そうです!」
「わかりました! わたし、試してみますので! ……え? 面白?」
資料をぺらっとめくって見つめた先にあったのは、到底儀式に関係してそうもないものであった。
だって、それは『健康にズバッと効く! 明日から始められるデトックスダイエット!!』のレシピブックであったからだ。
マジでなんでこれが此処にあるのか問い詰めたいほどの資料であったが、サージェがなんとなく面白そうっていう理由だけで選んだのだ。
「サージェさん、流石に飲み物系は、危険がデンジャラスじゃないでしょうか!?」
物は試しですよ、と何故かサージェがゴーヤやケール、青じそやらなんやらと材料まで用意してある。
用意良すぎないです!? とルクスが慄くが、其処はクノイチであるからである。こんな事もあろうかと用意していました。
「それで、出来上がったものがこちらです」
「んぐぐぐ――!? 師匠、助けてくださいよぅ!?」
だが、弟子が弟子であれば、師匠も師匠である。
「資料調査などという面倒なこと、やってられるか! 我は召喚術で直接『UDC-Null』とやらを呼び出してくれよう!!」
床に描いた魔法陣を魔力増幅(マナ・ブースト)によって膨れ上がった魔力を流し込んでいく。
こういう途中途中を端折ったやり方で横着を覚えているから、いつもポカをやらかすってなんでわからないかなーとルクスは思わないでも無かったが、今はサージェが創り出したゲキヤバドリンコから逃げることで頭がいっぱいであった。
しかし、一方これまで勇者パーティのツッコミ役であるシャイン・エーデルシュタイン(悪霊として蘇ったクレリック・f33418)の姿が見えないのが気になった方々も多いのではないだろうか。
彼女はUDC組織支部の屋上に魔法陣を描き、大いなる意志との交信を試みているのだ。
「人外に至るということは、私のような存在になること――生と死の狭間を越え、それでもなお戻ってきてしまった私sには、人外に至った人の気持ちがわかります」
ものすごくたそがれている。
今仲間は、UDC組織の資料庫でどんちゃんやってますが、大丈夫ですか。
「そう、私であれば、彼等に向き合い干渉することも可能なはずです。併せましょう。意識を、意志を、心を、思いを。きっと届きます。きっと伝わります。大いなる神はきっと答えてくださいます」
ぼわりと光が魔法陣から溢れていく。
彼女の力がと思いが通じた証拠であろう。
それは厳かな雰囲気であり、彼女のパーティがやっている時空とは明らかに違うものであったが、なんとなくオチが読めた気がする。
「ああ、誰かが私を呼んでいます。行かなければ――」
求めに応じるようにシャインが虚空に手を伸ばした瞬間、彼女の姿は魔法陣から消え失せる。
そして場面はルクスが結局、ものすごい苦いやら辛いやら甘いやら酸っぱいやら、虹色やら毒々し色に変化する謎の飲み物をサージェから流し込まれている光景へと変わる。
「くくく、手応えあり、だ! さあ、姿を顕すが良い、異界より迷い込みし存在よっ!」
横行にフィアが叫んだ瞬間、魔法陣から現れたのは――。
「って、フィアさん!? なに調査サボってるんですか!?」
現れたのはシャインであった。
お互い呆然である。
ていうか、サボってたわけではない。フィアなりにちゃんと調査していました。多分。おそらく。めいびー。
「って、なんでお前が喚び出されるのだ、シャインよっ!?」
「私はちゃんと交信して……」
「って、何シャインさん召喚してるんですか! シャインさんも簡単に喚び出されないでくださいよ!」
「シャインさんどこに行ったのかと思っていましたが、そこにいらっしゃったんですね。ほら、ルクスさん残ってますよー」
もう資料庫の中はハチャメチャである。
しかし、彼女たちがさわぎたてたことで理解できたことがある。これは確かに何かを呼び込むための呼び水である。
シャインがフィアに呼ばれたように、儀式という断片をつなぎ合わせて何かを見えるようにするという意味では、不完全な儀式は別の何かを呼び寄せてしまう結果にしかならない。
ならば、完全な儀式で降臨する……いや、顕現する何者かが在るのだ。
それは猟兵たちにとって、大いなる前進であったが、勇者パーティたちは互いにツッコミ、ブーメランする言葉の応酬で大変に忙しいのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カイム・クローバー
これ、地獄だわ…。
雑多で膨大な資料を前に溜息。間違いなく眠くなる。珈琲の入ったカップ片手にカセットテープ聞きつつ。【情報収集】しながら手に入れた情報を【追跡】していく。
何度目かの欠伸の後、ようやくそれらしい情報に漕ぎ着ける。UDCじゃそこそこ仕事をこなしてる。違和感のある話は俺の感覚が反応するのさ。……ま、慣れない事務仕事と眠気のダブルパンチで精度が鈍ってる可能性はあるがね。
外宇宙との交信。イカれた教祖様の有難いお言葉が収められたカセットテープ。中身のテーマは犠牲の果てにある幸福。――自分の妻子を失った時、本当の私が蘇り、今の私に囁いたのだ。
本当の私、ねぇ…。どうにも引っ掛かるモンはあるな。
UDC組織支部の資料庫は今や多くの猟兵達によって情報の精査と検証によってごった返していた。
ある程度情報が整理されてきているとは言え、未だ多くの情報が山積されていることはいうまでもない。
検証された情報や分類された情報は徐々に数を増やしてきているが、これをUDCエージェントたちだけでどうにかしようというのは、あまりにも無茶な仕事であった。
それを慮ってカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は思わずつぶやいてしまっていた。
「これ、地獄だわ……」
まさにその言葉を示すとおりであった。
雑多で膨大な資料。
間違いなく眠くなってしまう。というか、嘆息の前にあくびが若干出かかっているのを噛み殺し、彼は珈琲の入ったカップを片手にカセットテープを手に取る。
もはやBGM代わりである。
こうやってでも平行作業しなければ、処理しきれないほどの情報の洪水なのだ。
他の猟兵たちが情報を整理してくれているが、何処で何を見落としているかわからない。
だからこそ、こうして別の人間の手でまた再度考証しなければならないのだ。
「……で、これが……」
皆無は何度目かの欠伸の後、ようやくそれらしい情報にこぎつける。
UDCアースではそこそこに仕事をこなしている彼にとって、その情報は違和感を覚えるには十分な内容であった。
他者からすれば、それは何の変哲もない記事であったことだろう。
児童たちの集団昏倒事件の切り抜きである。
集団パニックだとかヒステリーだとか、そういうもので片付けられたものであり、現にこの資料庫にある以上、『UDC怪物の仕業ではない』と断定された裏があるのだろう。
だが、カイムの感覚が反応しているのだ。
これは間違いのないことである。必ずUDCが何某かの関係を持った事件であると、彼の感覚が伝えているのだ。
「……ま、慣れない事務仕事と眠気のダブルパンチの後じゃあ、精度が鈍ってるかもしれないがね……」
だが、たしかに感じる。
この記事の裏側には、その事件で責任を問われた当時の校長の妻子が自殺にまで追いやられたことを告げる事実が記されている。
「……胸くそが悪い、と言えば一言で片付けられるのか?」
同時にカセットテープからささやくような音声が流れ出してくる。
外宇宙との交信を謳う教祖の言葉。
それは新興宗教と呼ばれる類の教祖が放った言葉であった。犠牲の果てにある幸福。
カイムは知り得ない事実であったが、偶然にもカセットテープの中身と記事はリンクしている。
校長は辞職し、後年新興宗教を設立していた。
そのイカれたと形容するにふさわしい教祖の言葉が垂れ流される。
「自分の妻子を喪った時、本当の私が蘇り、今の私に囁いたのだ」
その言葉は怨みでもなんでもなかった。
真実を解く言葉は、真に真理を憂うものであった。だからこそ、違和感が突き刺さる。
「本当の私、ねぇ……どうにも引っかかるモンはあるな」
カイムは他の猟兵たちの集めた儀式の情報と己が得た情報を照らし合わせていく。
外宇宙との交信。
外宇宙より来たるものは、何を目印にUDCアースへと至るのだろうか。
地球上で人間が円陣を組んだ所で、目には止まるまい。
ならば、どうするか。
「黄道……太陽を回る『星』の動きと『色』……それが外宇宙に発信するサイン」
そう、天体の、星の動きを持って印とする。
それを模した儀式こそが、この新興宗教団体の儀式と重なる。細部が違うのは、それが完全な儀式ではないからだ。
「となれば、これが『UDC怪物ではない』と断定されたのもうなずける。不完全だからこそ、発現しない。なら『UDC怪物』ではないと思われても仕方のないことだな」
この細部を埋めるものこそが、この資料庫に点在している。
完璧な儀式の解明まであと僅かであることをカイムは悟り、この眠気たっぷりの時間から開放されることを、予見するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
ここはUDCアースだよね
カクリヨじゃないよね
もうUDC組織かカクリヨじゃないと
再生できないんじゃ
普段UDC組織を手伝う事もあるし
お世話になる事も多々あるから
多少は内情を知ってると思うよ
とりあえず当時のレポートが残ってたら
ざっと目を通して変わった記述が無いか見てみよう
すぐに何もないと証明されたものよりは
何度か検証されたものを重点的に調べてみようか
ひょっとしたら当時の担当も違和感を感じていたかもしれないし
後は根気勝負だから
時々ベランダや中庭に出て気分転換したり
エナジードリンクで集中力を補ったりして調べよう
後者は猟兵になってからはあまり効果ないけどね
分霊や使い魔の助けは期待できないね
絶対向いてないし
「ここはUDCアースだよね。カクリヨじゃないよね」
そうつぶやいたのは、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)であった。
先の大きな戦いの場となったのは二つの世界であった。カクリヨファンタズムとUDCアース、二つの世界は隣接しているがゆえに、大きな戦いが股をかけるように横たわったのだ。
それゆえに影響されたことが多々あるのだ。
その一つが『UDC-Null』――『UDC怪物ではないと断定されたもの』である。
このUDC組織の資料庫には、その情報が納められている。
若干『チャネリング』という要因で分類されていることが幸いであったが、雑多な情報を一から精査し、検証していくという作業は地道であり、なおかつ陰鬱そのものであった。
「もうUDC組織かカクリヨじゃないと再生できなんいじゃ……」
カセットテープやビデオテープといった類のものは専用の機器がないと再生できない。
一般の者たちがどうにかしようとしても、それは難しいことであった。
だからこそ、危険が及ばないはずであったが、何がきっかけとなって不完全な儀式で彼等が犠牲になるかわからない。
「普段UDC組織を手伝うことも在るし、お世話になることも多々あるから、多少はね……」
晶は内情を知るUDC組織のことを思えば、これもまた一つの貸し借りであると割り切って地道な作業へと身を投じるのだ。
他の猟兵たちが整理精査してくれている情報もあるが、当時のレポートなどを洗うのもまた晶のしごとである。
ざっと目を通して変わった記述がないだろうかと見てみるが、今一判然としないものばかりである。
すぐになにもないと証明されたレポートよりは、何度か検証されたものを重点的に調べていく。
「例え、なにもないと断定されたものでも、何度か検証されたってことは、怪しかったということだろうし……」
それに、庸人の一念(オネスト・エフォート)という言葉もある。
当時の担当したエージェントも何か違和感を感じていたからこそ、何度かの検証を行ったのだろう。
後はもう根気勝負である。
時々ベランダや中庭に出て、ストレッチを行って気分転換を行う。
デスクワークは肩が凝るものである。身体を伸ばすたびに身体のあちこちから音がなる。
「もう少しどうにかならないかな……」
エナジードリンクを飲み干してみるも、猟兵になったせいだろうか、あまり効果がない。それに分霊や使い魔の助けは期待できない。
絶対に向いていないといい切れる。
むしろ、彼女たちに手伝ってもらうことで、資料庫の中が荒れることのほうが容易に想像できるのだ。
「それにしても何度も検証した場所、か……」
考える。
息を吸い込み、中庭で晶はもう一度考えるのだ。どうしても、あのレポートが気になる。
だってそうだ。
違和感を感じるのがエージェントの仕事であるし、当時の担当も何かがあると確信していたからこそ、何度も検証の実施を提案していたのだ。
「……とある新興宗教が聖地としていた所在地、か……」
そこでは度々儀式が行われていたようである。
今はもう新興宗教団体も散り散りに成って、廃墟と化した施設が残るばかりである。
その丘のようになった立地が、儀式として使われていたことから、当時の担当が検証を提案しては実施され、『UDC怪物と関連がない』とされてきたのだ。
ならば、何が間違っていたのか。
「いや、違う。間違っていたんじゃない。『足りてなかった』んだとしたら……?」
そう、新興宗教団体が行っていた儀式。
その場所と儀式事態に間違いはなかった。いや、間違っていなかったとしたら、UDC怪物として断定されていたのだ。
けれど、されていなかったのだとしたら、儀式に足りていない要素があったのだ。
「それが、今まで皆が集めてくれた情報の中にある……?」
晶は駆け出す。
資料庫の中で他の猟兵達と共に集められた物証。
数々のピースとなって欠けた儀式の全容を形作っていく、事実。
「……きっとこのレポートの『新興宗教団体の施設』にある『丘』が、儀式の場所なんだ――!」
晶は遂に儀式に必要な特定の場所を見つけ出し、全容解明に大きく前進の一歩を踏み出すのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
…これはまた厄介な事案だな…電子化してないから一つ一つチェックしていくしかないな…
量が多いからここは…ストックしている設計図に少し手を加えて【何時か辿る絡繰の夢】にて各記録媒体を解析するガジェットを実体化…
…ガジェットを使って各資料から共通点を探っていくとしよう…
…解析はガジェットに任せて……その結果を確認…
…共通点のある項目はこのぐらいか…ここまではガジェット任せで出来るけど…
…ここから先は飛躍と直感の領域だな…チャネリングに関しては見たままとして…
…じゃあ『それ以外』は…?勿論ノイズは有るのだろうけど…どうもノイズと仮定してもしっくりこない情報があるな…それを追うか…
殆どのUDC組織において『UDC怪物』の情報や詳細は電子化され、統一されたフォーマットで保管されている。
それは即座に情報を引き出し、照合するためである。
迅速なる対応が求められる場面が多いUDCに関連する事件は、こうした情報の積み重ねこそが、事件の解決への糸口になるからだ。
「……これはまた厄介な事案だな……電子化してないから一つ一つチェックしていくしかないな……」
しかし、そうつぶやいたメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)の目の前に立ちふさがる情報の湖とも呼ぶべきUDC組織支部の資料庫にある『UDC-Null』と呼ばれる『UDC怪物ではないと断定されたもの』の情報集積地は混沌を極めていた。
なにせ、優先度が最も低い情報である。
UDC怪物を疑われながらも、そうではないと断定された情報である。それらを電子化する意味はあまりなかったのだろう。
だからこそ、本物が混じるにはうってつけの場所でもあった。
「……仕方ない。量が量だ。ここは……未だ生まれぬ躰よ、紡げ、起きよ。汝は現霊、汝は投影。魔女が望むは紙より出でし彼方の絵」
メンカルのユーベルコードが輝く。
それは、何時か辿る絡繰の夢(ブループリント・プロジェクション)。
ストックしていたガジェットの設計図に少し手を加えて、各記録媒体を解析するガジェットを実体化させたのだ。
電子化されていなくても、ガジェットから資料の情報を精査し、共通点を探っていけば、大幅に精査と検証の時間を削減することができる。
解析をガジェットに任せ、その結果がはじき出されてくるのをメンカルは見つめる。
共通項という点において絞れば、僅かなものであった。
やはり『チャネリング』という点においてが最も分布としては多いものである。だが、同時に『学校』や『新興宗教団体』といった単語もまたある程度共通して見受けられるものであった。
「ふむ……『チャネリング』は予想通りだとして、『学校』と『新興宗教団体』は繋がる、のかな……?」
だが、メンカルは一人ではない。
飛躍と直感の領域であるが、『チャネリング』が大半を締めているのに、そこに残る二つの共通項はノイズと切り捨てる事ができるだろうか。
ノイズだといい切るにはメンカルはあまりにも、その二つの事柄がしっくりこないのだ。
ならば、それを追うまでである。
他の猟兵たちが精査した情報と照らし合わせていく。
「集団昏倒事件を起こした学校の校長の妻子が非難を受けて自殺。その校長が後年、新興宗教を起こして、施設を作ったが、これも離散……」
儀式を行っていた場所と、エージェントが再三の検証を提案していた場所とも重なる。
UDC怪物ではないと断定されたことからも、儀式が間違っていたか、もしくはそもそもがデタラメ出会ったかの可能性がある。
だが、それは猟兵たちの集めた情報で儀式が間違っていたのではなく、欠如していたということがわかっている。
そして、『星』の運行と『黄道』。太陽と星の動きを模した人で作り出す円陣の動き。
『色』を共通させることによって、太陽系を表現させているのだとしたら。
「『チャネリング』という事柄に繋がる。外なる神を降ろすというのならば、円陣、ミステリーサークルのような不可思議な文様を描くことによって、外宇宙からの神に己たちの存在を知らしめ、水路のように神を導くことができる……」
そう、新興宗教団体が行っていた儀式は、間違っていなかった。
けれど、決定的に足りていなかったものがあったのだ。
円陣を組んで祈りを捧げるところまでは在っていた。けれど、アイテムが足りていないのだ。
太陽系をもした円陣。
ならば、そこには『此処』に在るというサイン。即ち、UDCアースという標となすものが足りない。
「……それがなに、か」
メンカルが不意に目にしたのは、他の猟兵たちが試していた健康ドリンクだか、エナジードリンクだかわからないレシピによって生み出された七色に光ったり毒々しい色に光ったりする飲み物。
いや、中身は関係ない。
その杯だ。
「『月』。さかづき……『逆月』!」
飛躍しているのはわかっている。標となるUDCアースそのものを示すものは、人々の統一された意志であろう。
ならば、それに足りないのは、衛星である『月』を示す『杯』だ。
全ての猟兵たちが導き出し、精査した情報が揃い、此処に完成された『儀式』の全容が解明される。
これが正し儀式であるとメンカルは確信を持ち、他の猟兵たちと儀式を行うために、『新興宗教団体の施設跡地』へと急行するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『深淵に至る亡者』
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POW : 私は此処にいる・俺は待ってる・僕は望んでいる
技能名「【おびき寄せ】」「【誘惑】」「【手をつなぐ】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : 僕は君の仲間だ・私はあなたと一緒・俺はお前と共に
敵を【無数の手で掴み、自らの深淵に引きずり込ん】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ : 俺は幸せだ・僕は全部理解した・私は誰も赦さない
【妄執に魂を捧げた邪教徒の囁き】【狂気に屈したUDCエージェントの哄笑】【邪悪に巻き込まれた少女の無念の叫び】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
その儀式は、不完全なものであった。
いや、不完全であることを目的とした儀式であった。
「今はまだ時期ではない」
だからこそ、不完全なまま、人の意識だけを集めに集めたのだ。
けれど、それらは猟兵達によって暴き出された。
完全なる儀式。
『集団昏倒事件』を起こした学校の校長が後年興したといわれる『新興宗教団体』はすでに離散して、跡地と儀式に使われた『丘』だけが残されている。
其処こそが儀式における特定の場所であった。
そして、猟兵達は手を繋ぐ。円陣を描くのは正しい儀式の図形。
外宇宙に届くサイン。
そして、人の意志が地球を示し、身につけた『黄色』の物品が太陽の輝きを示す。
星の輝と共に地球を示す最後のマーカーである『月』――その酒盃が、ごぽりと黒黒とした液体を吹き上がらせるのだ。
その杯より現れるのは無数の手。
『深淵に至る亡者』たちは、かつての新興宗教団体の信者たちの成れの果てであろう。
「此処にいる」
「待っている」
「望んでいる」
「仲間だ」
「あなたと一緒」
「お前と共に」
「幸せだ」
「全部理解した」
そして、溢れる言葉の最後に怨嗟の如き咆哮がほとばしる。
「――私は誰も赦さない。赦さない。赦してなるものか。私の、私の全てを奪って、私を蘇られた、本当の私を――!!」
その咆哮は群れとなって、周囲にラップ音やポルターガイスト現象を引き起こす。
けれど、見えているのだ。
猟兵たちが不眠不休で精査し、検証した情報によって完璧なる儀式を行った結果だった。
『深淵に至る亡者』たちの歪な手がたしかに見えている。
「赦さない。赦さない。私は赦さない。人を自死に追い込むほどの悪意を私は赦さない――!!」
それはいつかの誰かの怨嗟であっただろう。
けれど、それはもう擦り切れている。
何も為さない。
何も救わないし、救えない。
『深淵に至る亡者』は、あらゆる全てを呪うのだから――。
鈴久名・紡
混濁して混合している複数の意識……
その怨嗟を聞く
無理に赦す必要などない
けれど、その果てに何が残る?
かりそめの記録使用
葬焔と禮火を弓矢に変化させて先制攻撃
初撃は『当たれば』いい
初撃が当たれば
以降の攻撃のタイミング等は回避に流用
敵の手がどれ程伸びるかも判明したら
掴まれない程度の距離を取り
引き続き弓矢での射撃攻撃
禮火には氷結能力の属性攻撃となぎ払いを乗せて
念の為に近付けさせない
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぎ
以降の攻撃には生命力吸収を乗せて対処
救済は必要だ――
だとしても、『赦し』は絶対の救済ではない……
それ以外の救済を俺達がくれてやる
だから、その怨嗟を抱いて過去に還れ
儀式の場となった『新興宗教団体施設跡地』の『丘』は、溢れる無数のポルターガイスト現象に苛まれていた。
それが不完全であったのならば、目に見えぬ手、『深淵に至る亡者』たちによって、同じく深淵へと引きずり込まれてしまうことだったろう。
けれど、完全なる儀式を執り行った猟兵たちには見えている。
その怨念、その狂気、『深淵に至る亡者』たちの腕がはっきりと見えているのだ。
「赦さない。私は赦さない」
「君の仲間だ。私は仲間だ」
「俺と共に在れ。共にいこう」
その声の数々は度重なる儀式によって、重なり溶け合い、一つの『深淵に至る亡者』へと姿を変えたのだろう。
迫る腕を振り払うように鈴久名・紡(境界・f27962)は、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
「無理に赦す必要など無い。けれど、その果てに何が残る?」
かりそめの記録(カリソメノキロク)は、彼の心のなかにしか残らないだろう。
放たれた白銀の神器と漆黒の鬼棍棒が弓矢に変化し、迫る腕達に放たれる。
それは一撃としての威力は低いものであったが、初撃が当たればいいのだ。
記憶した『深淵に至る亡者』の迫るタイミングを覚え、再び放った弓矢は、一撃目よりも威力をましていく。
ユーベルコードの輝きが強くなっていく。
どれだけ深淵が迫ろうとも、その輝きは闇を晴らすように照らし続ける。
「何も残らない。残るわけがない。残って言い訳がない。あるのは怨念だけだ。赦す権利すら与えられない私にとって、赦すことも、赦されることもひつようとしない」
伸びる『深淵に至る亡者』の腕が、まるで引き伸ばされたように紡に迫る。
まるで混濁して混合している複数の意識が奏でる怨嗟が力の源になっているように、統一された意識が猟兵を殺し、深淵へと引きずり込もうと迫っているのだ。
それを見やる紡の瞳はユーベルコードに輝き続ける。
結局の所、人の人生において救いとはなくてはならないものだ。
人は間違いを侵す。
それはどうしようもないことだ。
「『赦し』は救済たり得ないか……絶対ではない」
そう、目の前の『深淵に至る亡者』がそうであるように、『赦し』『赦される』ことが救いにはなり得ぬ者もいる。
罰することでも足りない。
かといって、すくい上げることもできない存在。
それを望んでいるのだ。
「だから、その怨嗟を抱いて過去に還れ」
それ以外の救済を己たちが与えなければならない。それができるのがユーベルコードの輝きである。
絶対はない。
けれど、過去より染み出したオブリビオンであれば、骸の海へと還ることこそが、一つの救済であるのかもしれない。
「……しばらくは覚えておくよ」
放たれた矢が『深淵に至る亡者』たちの腕を凍りつかせ、その動きを止める。
引き絞った弓矢の雨が無数の『深淵に至る亡者』へと降り注ぐ。
どうしようもない怨嗟。
それを断ち切る力がなければ、いつまでたっても彼等は終ることができない。
力で持って為し得ることであるが、それでも幾ばくかの救いにはなるだろう。
願わずには居られない。
悪意によって翻弄された亡者の成れの果てが、こんな終わりではないことを。
誰もが祝福とともに生まれたのならば、この滅びもまた祝福である。
放たれた矢の一撃がまた一つの腕を霧散し消し去る。
ただ、覚えていればいい。
例え、それが己の仮初であったとしても。
確かにその怨嗟が此処にあったのだと覚える者が一人でも存在しているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
そうね。人は意識無意識で人を死に追い込み、殺すのよね。
擦り切れ残るぐらいなら、使い切って何も残さず死ぬ。そう誓った誰か。現にそうした誰か。その心が私の奥底にある。
だから終わらせましょう。あなた達のそれも終わらせましょう。
青月を構え雷公天絶陣を放ちます。攻撃と共に雷の音で囁きも哄笑も無念の叫びの声もかき消してしまって。すべてを終わらせられると思いません。ですがせめて願い祈る事は出来るでしょう?
一つの想いに囚われ続ける事はある意味不幸で、ある意味幸いで。
生きて未来があるのならそれもまた一つの道だけど、死したのちも、死んだままでもそうなのは、とてもつらいのではないでしょうか。
道も光も無いのは。
人の心はか弱くか細いものである。
だからこそ寄す処を求める。信仰に己の心を預けるのかもしれない。
真に人の心を救うのであれば、悟りは要らず。
必要であるのは、その人の思索の果てにあるものである。人はいうだろう。禅問答の如きものを求めているのではないと。
しかして、それは路の途中であることを知らなければならない。
「赦さない。赦されない。私は私自身を赦さない」
「幸せだ」
「理解した」
「何もかも赦さない。赦さない」
『深淵に至る亡者』たちの手が無数に猟兵たちへと放たれる。
それは救いを求めた手ではなかった。
あったのは、ただの怨嗟だけであった。人の成れの果てであるUDC怪物が、深淵へと猟兵諸共引きずり込もうと迫るのだ。
「そうね。人は意識無意識で人を市に追い込み、殺すのよね」
夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は己に向けられる視線を感じて瞳を伏せた。
別に何もかもから目を背けたかったわけではない。
ただ一時で良いから、視線を感じたくなかっただけなのだ。
「擦り切れ残るぐらいなら、使い切って何も残さずに死ぬ。そう誓ったの誰か。現にそうした誰か。その心が」
彼女の奥底にある。
対するUDC怪物『深淵に至る亡者』たちは己の心を映し出す鏡のようであった。
「だから終わらせましょう」
その瞳がユーベルコードに輝いて見開かれる。
ほのかに輝く青い光。その手にした打刀よりほとばしる宝貝「雷公天絶陣」の雷撃が空を染め上げる。
青白き光は雷鳴とともに轟き、降り注ぐ雷が『深淵に至る亡者』たちの腕を撃ち抜いていく。
「あなたたちのそれも終わらせましょう」
哄笑も、囁きも、無念の叫びも、全てが雷撃の轟音にかき消されて、藍の耳には届かなかった。
「一つの想いに囚われ続けることはある意味不幸で、ある意味幸いで」
すべてを終わらせられるとは思っていない。
だが、せめて願い祈ることはできるのではないかと彼女は思ったのだ。
一体何を願うというのだろうか。
終わってしまった存在。
過去の化身。
彼等を前にして彼女は何を願うのか。
「生きて未来があるのなら、それもまた一つの道だけど、死したのちも、死んだままでもそうなのは、とてもつらいのではないでしょうか」
だからせめて、彼等が辿るべき道を照らす輝きが必要なのだ。
例え、滅びを齎す雷撃の輝きであったとしても、その一瞬の明滅が道を明るく照らすだろう。
その道行に幸いはない。
けれど、癒やしはあるのかもしれない。ならばせめて、それだけは願ってもいいのではないかと思うのだ。
「道も光も無いのは、あまりにも酷です。だから、どうか輝きの元に骸の海へと還りなさい」
道を照らす雷。
恐ろしいほどの轟音であったとしても、彼等自身の胸の内をかき消すことはできない。
非業の死も、無念の死も。
等しく死であると言うのはあまりにも無情である。
「赦さない。私は赦さない。どれだけの理由があろうとも」
怨嗟の声は、かき消される。
その声が誰の元にも届かぬことこそが、彼等の救いであるというように藍の瞳はユーベルコードに輝き、『深淵に至る亡者』たちを尽く消滅させていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
引き続き『静かなる者』にて。
武器:灰遠雷
我らと似ているようで、似ていない…あちらは混じってしまっていますね。
我らのように、個ではなくなって。
陰海月、あなたは連れ去られては危険ですから、影の中で大人しくしているように。
先制攻撃の【四天境地・雷】にて破魔+雷+氷雪属性の攻撃を。無数の手には、無数の矢を。
掴まれぬように、四重結界術で防御しますね。
悪霊に呪いは簡単には聞きませんけれど…。ええ、念のためです。
一部の呪いは四天結縄に封じましょうかね?
※
陰海月、なんか怖いの出てきたので、ぷるぷるしながらも言いつけ守ってる。
『深淵に至る亡者』たちの腕は儀式を経て、闇より這い出るような不気味さと、昆虫のような整然さを持って猟兵たちの前に現れる。
こんこんと湧き出る泉の如く『杯』より溢れ出て、無数の腕が物理法則など尽く無視した動きで猟兵を『深淵』へと引きずり込もうと迫るのだ。
「あなたと一緒だ。私も、あなたも」
「君の仲間だ。何も変わらない」
「共にある。常に、常に、変わらない罪と共に、共に在る」
忘れるなというようにささやく声は馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)という複合型悪霊である四柱の耳に届く。
「確かに我等と似ているようで、似ていない……」
そう、『深淵に至る者』たちは、かつて此処で行われた儀式の果てに『深淵』へと引きずり込まれた被害者たちの意識や想念すらも取り込んで混じり合った存在である。
もう元の形も思い起こすこともできない存在へと成り果ててしまったことは、彼等にとって不幸か、それとも幸いか。
今という現実を侵食するUDC怪物へと成り果て、骸の海より滲み出ることでしか現在に干渉できない。
あらゆるものたちを自分たちと同じにしたいという願いが暴走した結果なのかもしれない。
「我等のように個ではなくなって……『陰海月』、あなたは連れ去られては危険ですが、影の中でおとなしくしているように」
『静かなる者』は手にした黒弓を引き絞る。
どれだけ数でまさるのだとしても、彼にはユーベルコードがある。
呪詛が込められ黒くなった弓は、四天境地・雷(シテンキョウチ・カミナリ)によって放たれた矢を分裂させ、狙ったあらゆる敵を追尾する矢となる。
雷の力を込められし矢は、一瞬で『深淵に至る亡者』へと放たれ、その腕を貫く。
「無数の手には、無数の矢を」
囲まれぬようにと張り巡らせた四重の結界術が『深淵に至る亡者』たちの腕を防ぐ。
悪霊である彼等にとって、呪いの類は簡単には効くことはない。
けれど、自分たちより多くの想念が入り混じり溶け合った『深淵に至る亡者』たちを侮ることはない。
「ええ、念の為です」
彼等の無念は、執念、怨念、そういった類のものに正しさはない。
もしかしたのならば、己たちの抱くオブリビオンへの怨念もまた間違いだらけなのかも知れない。
けれど、過去から現在を侵食しようとするオブリビオンによって奪われた生命は戻らないのだ。
どれだけ己たちが怨念を高め、呪詛によってオブリビオンを打倒しようとも覆ることのない事実なのだ。
「だから、悪霊からは逃げられない」
放たれた四つの結び目がついた『祟り縄』が『深淵に至る亡者』たちをひとまとめに縛り上げる。
その瞳にはユーベルコードの輝き。
一切の妥協はない。
どれだけ己たちの怨念に正当性がなかったのだとしても、これだけは言える。
「過去から逃げることはできない。けれど、現在がそれに飲み込まれていい理由もない。ただ、オブリビオンは呪い、祟るのみ」
己たちのような悪霊を生み出さぬために。
二度とあんなことがあってはならぬと願うからこそ、彼等は呪詛と共に力を振るうのだ。
放たれた矢が雷そのものとなってひとまとめに捕らえた『深淵に至る亡者』たちを貫き、霧散させていく。
「これだけの犠牲者を出した邪神……いいでしょう。必ずや討ち滅ぼしてくれましょう」
その気迫は、まさに悪霊そものであった。
鬼気迫る力は、それだけで周囲に霊障を撒き散らし、戦いの凄まじさを物語るように、次々と『深淵に至る亡者』たちの腕を振り払うのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
五十野・組子
ようやく見える様になった亡者達に魔眼を向ける。相変わらず、見たくないものばかり見せつけて、見たいものは見せてくれない眼だよ。
異能の眼に映る欲望や狂気や絶望に怯えて、でも目をそらさずに。私も引き籠ってなかったらこうなってたかもしれない。
可哀想だけど、怖いんだから仕方ない。常に傍に寄り添ってる不可視の眷属「語られぬもの」をUCで具現化。お願い、私を守って。
私以外には誰にも邪神にも認識されなかった怪物が嬉々として暴れまわる。伸びてくる腕をうねる鎖がなぎ払い私を庇う。ゲラゲラと笑いながら暴力的に拳を振るい、牙の生えた口で捕食する。
可哀想な人達相手に酷い光景だけど私がやらせてる事。せめて見届けないと。
完璧な儀式を執り行うことで『UDC怪物』は、完全な姿として猟兵たちの目の前に現れる。
儀式に中心である杯より溢れるようにして現れた有象無象の腕。
それが『深淵に至る亡者』である。
腕だけが無数に襲い来る姿は、おぞましさを感じるものであったことだろう。
けれど、見えることによって彼等は一切のアドバンテージを喪っていた。
これまで彼等が容易に犠牲者たちを増やしてこれたのは、不完全な儀式によって人々の目に触れることがなかったからである。
逃げることも悲鳴をあげることも出来ずに、深淵に引きずり込まれた者たちはどうなるのか。
その答えは簡単である。
「――……全部、飲み込んで同化したんだね」
五十野・組子(イドノソコ・f33657)は漸く見えるようになった亡者たちに、その魔眼を向ける。
「私は其処に在る」
「俺は直ぐ側に」
「僕は君の後ろに」
声が反響するように周囲から組子に襲いかかる。
それは、亡者たちの怨念そのものであった。生きとし生けるもの全てへの怨嗟そのものであった。
喪われてしまった生命は帰らない。
戻らないのだ。時が逆巻くことがないように。
「あいかわらず、見たくないものばかり見せつけて、見たいものは見せてくれない眼だよ」
足が竦む。
魔眼が写すのは、おぞましき腕ばかりだ。
生命を妬み、同じく深淵へと引きずり込もうとする悪辣さばかりであった。
だが、組子は目をそらさなかった。
そう自身もまた引きこもっていなかったのならば、こうなっていたのかもしれないと怯える。
けれど、彼女は瞳をそらさない。
可愛そうだという憐憫の情はあれど、怖い物は怖いのだから仕方ない。だから、彼女の瞳はユーベルコードに輝くのだ。
「来て」
短く告げる言葉と共に彼女の眷属、語られぬもの(サイレントワン)が具現化する。
お願い、と願う言葉を受けて正体不明の邪神の眷属がうねる漆黒の鎖を振り回し、周囲にせまる『深淵に至る亡者』たちの腕を振り払う。
ゲラゲラと笑う声が耳に障る。
けれど、『語られぬもの』は笑うままに圧倒的な暴力でもって『深淵に至る者』たちを打倒していく。
拳を振るい、牙の生えた口で捕食する。
鮮血が周囲にほとばしり、その口元を汚していたも関係がない。目の前に『深淵に至る者』たちが横切ったのならば、捕食の途中であっても構うことなく襲いかかるのだ。
その姿は獰猛と呼ぶにふさわしいものであった。
「可哀想な人達相手にひどい光景……だけど」
そう、自分がやらせていることだ。
自身の身を護るために。どれだけ悲惨な過去が彼等に在ったのだとしても、己の身の安全には変えられない。
それを咎めることは誰にもできないだろう。
漆黒の鎖が走り、周囲に集まってきた『深淵に至る者』たちを消し飛ばしていく。
邪神の眷属『語られぬ者』がゲタゲタと笑いながら、腕の尽くを叩き潰していく。
怨嗟の言葉など意に介さないように、圧倒的な暴力を振るうままにしている。
組子は瞳をそらさない。
せめて見届けないといけないという感情のままに彼女は魔眼を開いたまま、見つめるのだ。
それは在る種の覚悟であったことだろう。
例え、『語られぬ者』にやらせていることであっても、どれだけ陰惨な光景が目の前に広がろうとも、目をそらさぬという意志だけが彼女の拠り所であったのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
二丁銃から銃弾をぶち込んで仲良くこんにちは、の挨拶だ。ようやく欠伸から解放されそうだぜ。
此処に居るとか待っているとか理解したとか。存在しない誰かの声なんだろう。生憎と俺は穴倉に友人を持ってはいなくてね。
怨嗟の声だってのは分かるし、誰かなんざ興味もねぇが。
銃をホルスターに戻して歩み寄り、無数の手に掴まれてやるぜ。
『僕は君の仲間だ』とほざきやがる。仲間?暗い穴倉に閉じ籠って世界を呪うだけの逃げ腰が俺を仲間呼ばわりか?
ハッ――笑わせるなよ。
至近距離で足元の深淵に向けてUC。紫雷を纏わせ。意味ははっきりとした拒絶。
俺とダチになりたいってんなら――まずはその殻から出て来て顔を見せるのが礼儀ってモンだろ?
双頭の魔犬が咆哮をあげるように凄まじい銃声が周囲に鳴り響く。
それは、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の手にした二丁拳銃から放たれた弾丸が『深淵に至る亡者』たちの尽くを撃ち貫く轟音であった。
「ようやく欠伸から開放されそうだぜ」
彼の視線に先にあるのは完全な儀式によって現れたUDC怪物たちだけであった。
その成り立ちがどれだけ陰惨を極める事実によるものであったのだとしても、彼にはためらう理由などない。
「君を理解した」
「此処こそがあなたの在りしところ」
「共に行こう。俺と共に」
『深淵に至る亡者』たちの腕がカイムへと伸びる。
それは同じく深淵へと引きずり込み、彼をもまた新たな犠牲者の一人へと変えようとするUDC怪物の本能であった。
けれど、その声は怨嗟に満ちていた。
存在しない誰かの声であり、かつて存在した誰かのものであったことだろう。
「生憎と俺は穴倉に友人を持っていなくてね」
カイムは理解していた。
これは怨嗟の声だ。
理不尽に奪われた生命の残滓があげる叫びであったのだろう。
「だが、興味はねぇ」
手にした二丁拳銃をホルスターに納め、歩み寄る。
迫る腕は無数。
それらに掴まれてしまえば彼といえど『深淵』に沈むしかない。けれど、彼はかまわなかった。
腕が次々とカイムの身体を掴む。
「これで僕は君の仲間だ」
「そして私の仲間になる」
「俺とおなじになる。きっと」
その言葉を聞きカイムの唇の端がつり上がっていく。
「仲間? 暗い穴倉に閉じこもって世界を呪うだけの逃げ腰が俺を仲間呼ばわりか? ハッ――」
鼻でカイムは笑った。
大いに笑ったのだ。それは一瞬の出来事であった。
およそ百分の一秒の一瞬。
その瞬間、彼のホルスターから抜き払われた黒い二丁拳銃が銃撃の協奏曲(ガンズ・コンチェルト)を奏でる。
紫電をまとわせた弾丸は足元の深淵に向かって放たれていた。
「笑わせるなよ。俺とダチになりたいってんなら――まずはその殻から出てきて顔を見せるのが礼儀ってモンだろ?」
次々と打ち込まれていく弾丸は、彼の体を掴んでいた腕の力を弱め、容易に振り払うことができる。
「It's Show Time! ド派手に行こうぜ!」
手にした二丁拳銃が振り払った腕へと銃口を向け、一気に撃ち抜いていく。
霧散して消えていく『深淵に至る亡者』たち。
カイムの瞳はユーベルコードに輝いていた。己が敗ける理由などなく、同時に『深淵』へと引きずり込まれる理由もないのだというように。
「伝わったかよ。この弾丸の意味が! はっきりと言わないとわかんねぇか――お断りって意味だよ」
双頭の魔犬の咆哮が再び轟き、紫電纏う弾丸が乱舞する。
怨嗟の声が霧散するとともに遠のいていく。
カイムはまるで踊るように二丁拳銃の引き金を引き続ける。そう、何処まで言ってもUDC怪物は救えない。
ならば、即座に骸の海へと送らねばならない。
かつての誰かであるかなんて思索は関係ない。どれだけの事情があろうとも、今という現在に牙を向くのならば、その牙を叩き折るのが己達猟兵の役目であるとしるのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
これが『盲信の果て』ってことかな。
教祖でもあった校長さんがなにをしたかったのかは解らないけど、儀式の目的がこれってことはないよね。
たぶん、準備として生贄的に飲み込ませたんじゃないかなって思う。
ま、こんな儀式な時点で、喚び出そうとしていたものも普通ではないって事だと思うけどね。
【E.C.O.M.S】を発動させて、半数で自分のまわりに防御壁を作ったら、
もう半分は、亡者の手に向けて突撃させていこう。
まだ捕まるわけには行かないから、いまは倒させてもらうよ。
倒すことが最善とは思わないけど、このまま怨嗟に囚われ続けるよりはいいよね。
ぜんぶが終わったら、資料とか調べ直して浄化の方法探すから、今はごめん!
『深淵に至る亡者』たちが元は如何なる人物であったのかを知ることは最早難しいものであった。
数多の犠牲者たちの精神と魂が混じり合ったUDC怪物は、当初の目的も、何を思って儀式を行ったのかさえわからなくなっていた。
あるのはただの本能でしかない。
より多くの生命を『深淵』へと引きずりこむこと。ただそれだけなのだ。
儀式が不完全であればあるほどに犠牲者を増やすことは容易である。
だからこそ、儀式は細く裁断され不完全なままに伝播させた。
この儀式の首謀者が何を考え、何を目的としていたのかは菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)にはわからなかった。
これが『盲信の果て』であるというのならば、かつて教祖になったという学校校長の思いは如何なるものであった。
「多分、儀式の目的がこれってことはないよね」
邪神にそそのかされたのか。
自殺した妻子を取り戻したかったのか。
それとも自死に追い込ん者たちへと復讐したかったのか。
どちらであったとしても、これはただの準備として生贄にされただけに過ぎないのだ。
この『UDC-Null』の首謀者が人の意思を捻じ曲げ、歪めた結果が襲いくる無数の『深淵に至る亡者』たちなのだ。
「ま、こんな儀式な時点で呼び出そうとしていたものも普通ではないってことだと思うけどね」
彼女の周囲に飛ぶのは、正八角形のユニットであった。
無数のユニットをE.C.O.M.S(イーシーオーエムエス)によってコントロールした理緒は怨嗟の声を上げ続ける『深淵に至る亡者』たちである腕から自分を守る防御壁を生み出す。
「作戦行動、開始」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
呼び出したユニットたちの半数で自身の防御を硬め、もう半数でもって『深淵に至る亡者』たちへと突撃させる。
「まだ捕まるわけにはいかないから、今は倒させてもらうよ」
ただ彼等を打倒することが最善であるとは思わない。
けれど、このまま現実にとどまり続けて、怨嗟に囚われ続けているのもまた良いことであるとは思わない。
「私はともにある」
「君の中身に為る」
「俺は隣にありたい」
その言葉はあまりにも悲しいものであった。
どうあがいても彼等が望むものにはたどり着くことは出来ない。それが遠き日の残響でしかないことを理緒は知っている。
過去の化身に成り果てた彼等が望むものなど、もはや『今』にはないのだ。
彼等が求めたのは過去に在りしかつての何かだ。
ならば、もう何処にも救いなんて無い。
「でも、それでも!」
そう、それでもと理緒は思うのだ。
例え、救う理由も、手段も見つからないのだとしても。
それでも次なるなにかに繋がる浄化の道があるのならば、理緒は手をのばすことをやめないだろう。
「今はごめん!」
放たれた正八角形のユニットが輝き、『深淵に至る亡者』たちと激突しては霧散して消えていく。
物悲しいまでの怨嗟。
誰を恨んでいいのかもわからぬままに、犠牲者を増やしていく彼等の魂に安寧がいつか必ず訪れるようにと、理緒は祈らずにはいられないのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
やれやれ、絵に描いたような魑魅魍魎のお出ましだな。
そんだけ人を、世の中を怨んでりゃ疲れるだろ。今楽にしてやるよッ!
敵の超強化してきた攻撃を複数枚の結界霊符で結界術を発動して防ぐぜ。
攻撃を防いで敵に隙が出来たらこっちの番だッ!
「・・・その怨嗟、妄執、狂気、無念、祓い浄化します。」
さあさあ、御照覧あれッ!!俺の神楽笛の音色と相棒の【祓神楽】、その魂にこびりついた厄を祓い浄化しお前さんらの魂を慰め、深淵から解き放ち在るべき場所に還してやるぜッ!
【技能・結界術、楽器演奏、ダンス、慰め、浄化】
【アドリブ歓迎】
「ああ――幸せだ」
「満ち足りている。これ以上ないくらいに」
「私は赦さない。赦さない。赦してはならない。何もかも」
それは『深淵に至る亡者』たちの怨嗟であった。
どれもこれもが同一でありながら、無数の犠牲者たちの魂が入り混じった混濁した意識は、とりとめのない言葉ばかりをつぶやき続け、腕だけと成り果ててもなお、新たな犠牲者を己達に取り込もうと宙を舞う。
もしもこれが、不完全な儀式であったのならば猟兵へ立ちは目に見えぬUDC怪物と戦わなければならなかったことだろう。
けれど、調査に酔って完全な儀式を執り行った猟兵たちの瞳には、すでに彼等の姿が見えている。
『やれやれ、絵に描いたような魑魅魍魎のお出ましだな。そんだけ人を、世の中を怨んでりゃ疲れるだろ』
赤き鬼面である神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)がカタカタと口元を揺らす。
彼の言葉通りであった。
何もかもを怨んでいるし、妬んでいる。
負の感情の蓄積こそが、『深淵』であるというのならば、彼等を構成しているのは、人の底知れぬ悪意だけであった。
煮詰まった悪意は、形を持って人々を襲う。
『今楽にしてやるよッ!』
相棒の桜が張り巡らせた結界術が『深淵に至る亡者』たちの腕を食い止める。
複数の結界霊符によって強化された結界は、容易には破られぬだろう。けれど、ギシギシと音を立てているのは、『深淵に至る亡者』たちもまた強化されている証であった。
「……その怨嗟、妄執、狂気、無念、祓い浄化します」
桜が舞うは祓神楽(ハライカグラ)。
瞳がユーベルコードに輝き、神楽笛の音色が奏でられる。桜の黒髪が揺れ、流れるようにして世界に示すのだ。
悪意だけが世界ではないのだと。
悪意があるからこそ善意が生まれる。また逆も然りである。
世界を二分することは難しい。清濁が合わさるように、陰と陽が隣り合わせに在るように、善悪もまた同様である。
ならば、人の心に厄が舞い込むのならば、桜は舞う。
神楽によって発生する神気を振りまくように、彼女の瞳はユーベルコードに輝くのだ。
『さあさあ、ご照覧あれッ!!』
その魂にこびりついた厄を祓い、浄化する神楽が神気を振りまき凶津たちに襲い来る『深淵に至る亡者』たちの魂を慰める。
それは彼等を深淵へと引きずり込み、己の力にせんとした首謀者の意図を完全に打破するものであった。
『深淵から解き放ち、在るべき場所に還してやるぜッ!』
桜は踊る。
凶津がヒーローマスクであるからこそ、彼の正義の心が彼女の心に伝播する。
助けなければと願う心があるからこそ、彼女の神楽舞は浄化の儀式へと昇華するのだ。
戦うのではなく、祓う。
これもまた一つの戦いだ。
霧散し消えていく『深淵に至る亡者たち』。
彼等の魂の安住が此処であるとは思えない。だからこそ、過去に還る彼等の魂が、一欠片であっても浄化され、安らかに眠るようにと願いを込めて、神楽舞は神気満ちるように、この場所を浄化していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
シャイン・エーデルシュタイン
【勇者パーティ】
「ああ――これが完全な儀式。
私も理解しました――いえ、思い出しました。
あのカクリヨの橋の向こうの世界を――」
UDCの手に掴まれて深淵へと引きずり込まれながら、悪霊たる私は、本来いるべき世界のことを思い出します。
そう。我が主の待つあの世界――。
「私は赦しません。主のいるあの世界から私を蘇らせた仲間たちを――
私をツッコミによるストレス死に至らしめた仲間たちを――!!」
悪霊化して、仲間たち――主にフィアさんに襲いかかり【連鎖する呪い】を放ちます。
「なんですか、ルクスさん!
いまさら私に手を差し伸べるなんて――
それなら――なぜ、あのぺたん魔女にツッコミを入れてくれないんですかっ!?」
フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「ほう、下級の亡者どもか。
その程度の亡者で偉大なる死霊魔術師の我をどうにかできると思ったか!」
ここは、この我が本物の亡者を見せてやろう。
【リザレクト・オブリビオン】で蘇りし我が従者よ、その力を示すがよい!
「って、シャインの馬鹿者が!
亡者などに簡単に取り込まれおって!
これだからツッコミ死するような真面目クレリックは!」
シャインの呪いで我の喚び出した亡者が崩れていくのを見て――
「よし、ここは我が弟子ルクスの出番だな!
なんか、我、シャインに狙われてる気もするし!
ルクスよ、その勇者としての光の力を示し、闇に墜ちたクレリックの仲間を救い出すのだ!」
ほら、サージェもサボってないで行くのだ!
ルクス・アルブス
【勇者パーティー】
これは儀式に飲み込まれた人たちでしょうか?
それならば!
そんな魂を解放するのも勇者の……。
って、師匠、これ以上キモイの増やさないでください!
サージェさんも忍ぼうとしないで手伝ってくださいよ-!
シャインさんに狙われるのは、まぁ、はい。
『気』ではないかと思いますが!
え?勇者のお仕事ですか?わかりました!
【光の勇者、ここに来臨!】で、
しっかりポーズを決めてシャインさんと握手。
「儀式の丘で、わたしと握手!」(懐かしの戦隊イベントCM風)
「あなたは赦さなくても、わたしはあなたを赦します」
とかキメてみようかな。
ほらシャインさん、そっち側で雰囲気出してないで、
ツッコミとサージェさんの回復を!
サージェ・ライト
【勇者パーティー】
こう、みょんみょんとか電波飛ばすわけじゃないんですねー
って、なんかいっぱい手でてきたーっ!?
ちょっとこの数はマズイです!
【VR忍術】等価交換だ!的な土壁の術!
これで隠れて、げふんげふん
え、やだなーこっそり壁から覗こうとかしてないですよ
壁が消えたら影縛りしますので
ってシャインさんがシリアス?シリアスナンデ?
ぺたん魔女は……ってツッコミ切る前に壁消えたー!?
いきます!【VR忍術】影縛りの術!
これで動きを止めている間にフィアさんルクスさんお願いします!
ってシャインさん闇堕ちしたー!?
私いま身動きできないんですけどー!?
ぎゃー!?
きゅぅ……人間ドラマは楽屋裏でやってください……がくっ
猟兵たちの為した完全な儀式によって、本来であれば不完全な儀式であったはずの『UDC-Null』を召喚は果たされた。
見えぬ存在であった『UDC-Null』をただのUDC怪物へと貶めたのは、この事件の首謀者にとっては計画が狂ったことを意味していた。
「ああ――これが完全な儀式。私も理解しました――いえ、思い出しました。あのカクリヨのまぼろしの橋の向こうの世界を――」
シャイン・エーデルシュタイン(悪霊として蘇ったクレリック・f33418)は悪霊である。
一度死した存在であるからこそ、迫る『深淵に至る亡者』たちの腕に捕まれ、深淵へと引きずり込まれていく。
どうして忘れていたのだろうとさえ思う。
本来自分がいるべき世界は此処ではない。ましてや、彼女たちと共にあることなど願ってはならないのだ。
「こう、みょんみょんとか伝播飛ばすわけじゃないんですねーって、なんかいっぱい手が出てきたーっ!?」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は素っ頓狂な叫びを上げて、無数に這い出す腕、『深淵に至る亡者たち』の姿に褐色の肌が粟立つのを感じていた。
ちょっとこの数はまずい。
そう思うのも無理なからぬことであった。現に仲間であるシャインは腕に捕まって引きずり込まれようとしている。
「メモリセット! チェックOK! 参ります! 今回は等価交換だ! 的な土壁の術! これで隠れてげふんげふん」
VR忍術(イメージスルノハカッコイイワタシ)によって生み出された土壁に隠れるようにして、『深淵に至る亡者』たちの攻撃を躱すサージェ。ここから気を伺って……と。
なんて悠長なことをしている暇はなかった。
「ほう、下級の亡者どもか。その程度の亡者で偉大なる死霊魔術師の我をどうにかできると思ったか!」
フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)は弟子であるルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)と共に並び立ち、その瞳をユーベルコードに輝かせる。
リザレクト・オブリビオン。
それは死霊騎士と死霊蛇竜を召喚し、彼女の従者として使役する力であった。
死霊騎士の剣が翻り、その剣閃で持って腕を薙ぎ払っていく。
「これは儀式に飲み込まれた人達でしょうか? それならば! そんな魂を開放するのも勇者の……師匠、これ以上キモいの増やさないでください! あとサージェサンも忍ぼうとしてないで手伝ってくださいよー!」
サージェが土壁に隠れたのを目ざとく見つけ、ルクスが叫ぶ。
正直に言って今はそんな余裕がない。
シャインが深淵に飲み込まれてしまったのを見てしまっていた。悪霊と深淵。それはあまりにも相性が良すぎるものであった。
「私は赦しません。主のいるあの世界から私を蘇らせた仲間たちを――。私をツッコミに寄るストレス死に至らしめた仲間たちを――!!」
マジで悪霊の形相と成ったシャインが咆哮する。
びりびりと肌を震わせるプレッシャー。
これが普段怒らない人を怒らせた時のアレである。アレってなんだ。修羅場だよ。
「って、シャインの馬鹿者が! 亡者などに簡単に取り込まれおって! これだからツッコミ死するような真面目クレリックは!」
えぇ……。
ルクスもサージェもフィアのあまりの言い草に、ちょっと引いた。
なんで引くんじゃ! とフィアがツッコミ返しをしてくるのまた珍しい。だが、そんな彼女を襲うのは連鎖する呪いである。
シャインが悪霊らしく放った。というか、フィアばっかり狙っているのは、苦労させられたからだろうか。
ほらー、だから言ったじゃないですかーとサージェがぽやっと言う。
シリアスなんでシリアス? とサージェはちょっとぼやけたことを言うが、シャインにとっては関係ない。
忍ばない、ツッコまない。そんなサージェも同罪であると言わんばかりである。ぺたん魔女は何してるのかなーって思う前に土壁が消える。
「ってツッコみいれる前に消えたー!? ええい、もう四の五の言ってる暇はないですよ! 影縛りの術!」
コンソールにメモリをセットしなおして、サージェが影縛りの術でもってシャインの動きを止める。
しかし、動きを止めたからと言ってフィアを襲う連鎖する呪いは止まるところを知らない。
「よし、ここは我が弟子ルクスの出番だな! なんか我、シャインに狙われてるし! ルクスよ……」
フィアがものすごく良い顔をしていた。
師匠の顔ってやつだ。
こんなときばっかりそんな顔するんだからとルクスは思ったが、なんかいい感じのことを言おうとしている気配を察した。
ルクスは空気を読める子である。
「――その勇者としての光を示し、闇に堕ちたクレリックの仲間を救い出すのだ!」
え、ここで勇者のお仕事とかいい出すんだ? と思わないでもなかったが、ルクスは素直な良い子である。
「わっかりました! 任せてください!」
彼女の瞳がやる気とユーベルコードに輝く。
いつもの効果線と光が輝き、光の勇者、ここに来臨!(ユウシャトウジョウ)とばかりに世界に光を照らす。
その輝きはシャインの深淵に染まった瞳を晴らすには十分なものであった。
「なんですか、ルクスさん! 今更私に手を差し伸べるなんて――!」
びしっと何故か昔のCM風の雰囲気を醸し出しながら、ルクスはシャインの手を握りしめる。
あ、これ『儀式の丘で、わたしと握手』ってノリのやつだ。よく見た。懐かしい雰囲気を放ちながら、なんとなーくノリでことを進めようとしているのがわからんでもなかったが、サージェはひっそりと影縛りの術で『深淵に至る亡者』たちの動きを止め続けていた。
「あのー、そういう人間ドラマは楽屋裏でやってください……早くしてもらわないと私今身動き取れないんですけどー!?」
もうギブである。
フィアはあんまり役に立ってない。むしろ、サージェに鞭打つ係である。サボってないでがんばれと叱咤激励している。
「ほれ、もっと気合を入れんか!」
「だから、すでにがんばってるんですけどー!?」
そんな二人のやり取りを背にルクスとシャインはしっかりと手で繋がっていた。
「それなら――なぜ、あのぺたん魔女にツッコミをいれてくれないんですかっ!?」
シャインの言葉は尤もであった。
一緒にボケ倒す側にいなかったのならば、どんなにシャインの心は軽かったことだろう。
ツッコミ死という前代未聞の珍事になんてならなかっただろう。
けれど、これが自分の罪であり罰であるというのならば受け入れようとさえ思っていたのだ。
「あなたは赦さなくても、わたしはあなたを赦します」
決め顔でルクスが言う。
いや、それ完全に終わった後のセリフ。
けれど、なんかユーベルコードの輝きがシャインにまとわりつく深淵を強制的に排除するのだ。
これがユーベルコード。
これが光の勇者。
シャインは思い出した。何故自分がパーティに同行したのか。
そう、光の勇者を導かねばならないと思ったのだ。
正しい『ツッコミ役』に。ぺたん魔女に負けず、忍んでるのか忍んでないのかわからないクノイチの首根っこを掴んで離さない。
そんな立派なツッコミに育て上げると。
「いや、そうじゃないですよ――!?」
思わずシャインは突っ込んだ。
いや、誰にって話である。思わず言わざるを得なかったのだろう。もうこれは天性のものである。
シャインのツッコミが唸りを上げ、ルクスはにっこり決め顔のまま……。
「やっぱりシャインさんはツッコミ入れているときが、一番活き活きしてますね――」
違います! といつもの勇者パーティは、一章もシリアスが保たないのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
……怨嗟…というよりはこれはもう鳴き声だな…それ自体にほとんど意味がない…
…さて…腕が犠牲者を引き込み犠牲者が腕となり…かな…ここで祓わないと面倒なことになりそうだ…
…それに…死してもなお歪まされて囚われているのを見るのは流石に気分が悪いからね…
…【起動:応用術式『増幅』】を使用……各種術式に効果を三倍増しにするよ…
…そして浄化術式を付与した術式組紐【アリアドネ】で腕の侵入を防ぐ結界を構築…
…重奏強化術式【エコー】により更に効果を倍増させた復元浄化術式【ハラエド】を無数の腕に対して発動…救うとまでは言わないけれども…正しく骸の海へと還すとしよう…
それは堂々巡りであった。
不完全な儀式によって召喚された『深淵に至る亡者』たちは、姿を見せぬままに儀式を行った者たちを引きずり込んでいく。
混濁した意識はさらなる混沌へと至り、当初の目的も何もかもが塗りつぶされていく。
怨嗟の理由すらわからなくなってしまった彼等の言葉は最早。
「……怨嗟……というよりは、これはもう鳴き声だな……それ自体にほとんど意味がない……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、奇妙な怨嗟の声をあげながら己に迫る『深淵に至る亡者』たちの腕の切っ先を見つめる。
彼等はもう何を止めていたのかも忘れてしまっているのだろう。
その存在意義は、一人でも多くの生命を深淵に引きずり込もうとするだけであった。
「こちらへおいで」
「共にあろう」
「満たされた世界に行こう」
断続的な言葉。
それはかつての犠牲者たちが望んだものであるのだろう。共に有りたい、満たされたい。幸せになりたい。
幸福追求が人間の性であるというのならば、その結果喪われた生命が深淵に汚れることなどあっていいはずがない。
「……さて……」
メンカルはつぶやく。
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
迫る腕が動きを止めた。それは術式組紐『アリアドネ』によって展開された結界に阻まれたからだ。
彼女を覆う結界の強度は凄まじいものであったし、同時に絡め取られた腕たちは、指先一つ動くことはできなかった。
「腕が犠牲者を引き込み、犠牲者が腕となり……かな……ここで祓わないと面倒なことになりそうだ」
メンカルの起動:応用術式『増幅』(ラン・ブーステッド)は、彼女の持つ術式全ての力を三倍にまで引き上げるものである。
「各種術式への魔力導線を強化、魔女が望むは膨れ弾けぬ増魔の理……――それに……死してもなお歪まされて囚われているのを見るのは流石に」
そう、流石に彼女も気分が悪い。
悪辣なる手段でもって力を増そうとしている存在がいる。
これはそういう儀式なのだ。
意図を持って細かく裁断された儀式がその証拠である。端から儀式を成功させるつもりなどないのだ。
密やかに、そして確実に長きに渡って繰り返されてきた儀式。
チャネリングとは即ち、水路から力を導くことである。ならば、この儀式の首謀者は、己の欲望のためだけに多くを犠牲とすることを選んだのだ。
「……救うとまでは言わないけれども……」
そう、どれだけ力を増した術式であったとしても、彼等を救うことは難しい。
けれど、過去に還すことはできる。
ただ霧散させるよりは、きっと彼等の心の慰めにも為るだろう。
再びメンカルの瞳がユーベルコードに輝き、その輝きで持って重奏強化術式『エコー』によって更に効果を倍増させた復元浄化術式『ハラエド』が展開される。
その力は儀式である丘を包み込んでいく。
「正しく骸の海へと還すとしよう……その生命が無意味ではなかったという慰めに為るかはわからないけれど。過去が排出されることによって世界が未来に進んでいくのならば」
彼等もまた世界を進める要因であったのだ。
誰かのためにと願った儀式もあっただろう。その一欠片だけでも正しかったと言わしめるようにメンカルの術式が輝き、溢れる『深淵に至る亡者』たちを浄化し、霧散させていく。
「二度と過去よりにじみ出てこないこと……それが喪われた犠牲者たちへの手向け……」
どうするのが正しかったのかなんて誰にもわからない。
けれど、今は彼等の魂が少しでも正しく骸の海へと沈むことを祈るしかなかったのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
御狐・稲見之守
ふふ、なにを信じるかは勝手であるが
信じた末がこれではナ。
さて――。
呪とは、想いの力に他ならぬ。
あるものないことに、ないことをあることに。
それはあるとすれば空っぽのモノにすら心を宿し
或いは、ないとすれば姿を見えなくさせる。
そして、悪しき想いは鬼を生み出してしまうものよ。
名もまたそのヒトそのモノを定めし呪
連中や本当の私とやらは己の名を思い出せるのやら。
ま、こうなっては救えぬ。
本来ある形すらも忘れているのでは。
すまんナ。
[UC魂喰らいの森]
森よ、連中を喰らうてしまえ。
迷うことなく憎悪に身を焦がすことなく
また世に出ないことを願うばかりである。
信じる者は救われる。
その言葉は決して人を欺くために使われるものではなかった。
けれど、その言葉は人の心を悪戯にかき乱す。確かに救われる者もいるだろうが、救われぬ者もいる。
言葉は言葉でしか無い。
言葉に力はない。その言葉から感じる心があるからこそ、人は言葉を力に変えることができるだけの話なのだ。
「ふふ、なにを信じるかは勝手であるが、信じた末がこれではナ」
御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は仕様がない話だと思いながらも、微笑みを絶やすことはなかった。
目の前には『深淵に至る亡者』たちの腕の群れが迫っている。
「理解した。理解したい。」
「満足している。だからあなたも満足してほしい」
「赦さない。私は赦さない」
混濁した魂は、すでに個として成り立ってはいなかった。腕一つ一つが同一のものであったとしても、混濁した意識と魂は、彼等の個を全て塗りつぶす。
もはや同しようもないほどに『深淵』に染まりきっているのだ。
「さて――」
稲見之守は息を吐き出す。
呪とは、想いの力に他ならぬものである。
あるものをないことに、ないことをあることに。それはあるとすれば空っぽのモノにすら心を宿し、あるいは、ないとすれば姿を見えなくさせる。
「そして、悪しき思いは鬼を生み出してしまうものよ」
この事件の主謀者がそれである。
人の思いを利用し、悪辣にも死へと貶め、その力を持って己の力となそうとする存在である。
「名もまたそのヒト、そのモノを定めし呪」
もはや名前すら忘れた『深淵に至る亡者』たちにとって、それは思い出すことのできぬものであったことだろう。
こうなってしまえば、救うことすら出来ない。
浄化することは出来ても、真に彼等を救うことは出来ない。
「すまんナ」
稲見之守は短く謝った。本来ある形すらも忘れているのでは、どうしようもない。
ならばどうするのか。
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
「魂喰卿、御狐稲見之守の名に於いて命ず」
幻術の霧が儀式の場となった丘に降り注ぐ。
それは、異世界の大陸に存在する魂喰らいの森(ドミニオン・ザ・ソウルイーター)と同じ環境に変化させる力であった。
その名の通りであった
如何なる魂であっても喰らい尽くす森。
「森よ、連中を喰らうてしまえ」
怨嗟の咆哮が響きわたる。
それは恨みがましい声であっただろうか。だが、それでも稲見之守には届かない。
何故ならば、魂喰らいの森が全てを飲み込んでいくからだ。
迷える魂も、形を喪った魂も。
何もかもが飲み込まれて消えていく。それは惑うことなく憎悪に身を焦がし、魂を擦り切れさせる間もなく、世に出ることすら赦されずに消えていく。
それを願ったのは彼女自身である。
「世に出れば害を為す。かつて願った誰かの願いが、未だ見ぬ誰かを傷つけることを望むまいよ――」
連鎖は誰かが断ち切らねばならない。
己が恨まれてもいい。
けれど、これ以上の犠牲者が出ぬようにと、稲見之守は願わずにはいられないのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
一人の男の妻子の喪失が、次の喪失を呼び
……もう、終わってしまっているのですね、何もかも
皆様のその怨嗟、十二分に吐き出すと宜しいでしょう
幸福な結末を用意出来ぬ以上、討ち祓い禍根を断つ
騎士としてそれを為しましょう
マルチセンサーでの情報収集で伸ばされる複数の手の軌道を見切り、怪力で振るう剣と盾の縁で切り刻み
精神干渉と思われるクラッキングはハッキング技能用い電子防壁構築
排除プログラムを作成し迎撃(盾受け、武器受け)
酒盃から後から後から…ですがこちらも時は満ちました
戦闘開始時から充填していたUCなぎ払い一掃
…まだ終わっていません
Nullの中で一際強い存在と骸魂との合体形態
恐らく核となるのは…
始まりは一体なんであったのだろうか。
過去は知ろうと願っても知ることは断片的過ぎた。どちらが悪でどちらが善なのか。
それを判断することは人の身であれば難しいものであったことだろう。
立ち位置によって、主観は代わり善が悪へと変わり、悪が善へとひっくり返る。それが世の常であるというのならば、集団昏倒を引き起こした最初の儀式を執り行ったのは、悪意からであったのだろうか。
「一人の男の妻子の喪失が、次の喪失を呼び……もう、終わってしまっているのですね、何もかも」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は遣る瀬無いという感情を思い浮かべることはできなかったかもしれない。
演算は数値を叩き出したとしても、それは電脳が生み出したゆらぎにしか過ぎないのかも知れない。
ウォーマシンは機械である。
感情とはゆらぎにすぎないものであったのだとしても、彼がためらう理由にはならないし、ためらうことを電脳は赦さないだろう。
「皆様のその怨嗟、十二分に吐き出すと宜しいでしょう。幸福な結末を用意できぬ以上、討ち祓い禍根を断つ」
それが己の騎士としての役割であるとトリテレイアは剣と盾を構えた。
飛来する『深淵に至る亡者』たちの腕。
その複数は全てトリテレイアを引きずり込もうとするものばかりであった。
「私は赦さない」
「何も喪われないように」
「全てが満たされるように。共に行こう」
軌道を見切り、トリテレイアのアイセンサーがきらめく。
精神に干渉する力は、トリテレイアにとってはクラッキングそのものであった。だが、それらを電子頭脳が障壁を構築しファイアウォールとして機能させる。
彼のアイセンサーに写ったのは、儀式の中心に存在する酒盃。
そこから『深淵に至る亡者』たちは溢れてくるのだ。
「騎士として私はそれを為しましょう……充填中断、刀身解放!」
格納部から取り出したのは、柄のみの剣であった。胴から伸びたケーブルが接続され、白い粒子が周囲に撒き散らされる。
それは、コアユニット直結式極大出力擬似フォースセイバー(ダイレクトコネクトセイバー・イミテイト)であった。
充填されたエネルギーが巨大剣の刀身を形成し、掲げる。
それが篝火になるとは思っていない。
導けるとも思ってない。
この剣が為すのは、『深淵に至る亡者』たちの滅びだけである。
騎士としてできること。
それは彼等がこれ以上の犠牲者を増やすこと無く、骸の海へと還ることである。抜本的な解決には至っていないことなど百も承知である。
だが、これは己が為さねばならぬことであるとトリテレイアの炉心が燃える。
過剰に供給されたエネルギーが溢れ出し、巨大剣の刀身を揺らめかせる。
限界まで出力されたエネルギーの奔流のままにトリテレイアは剣を振るう。放たれた一撃は酒盃を砕き、周囲にあった『深淵に至る亡者』たちをも巻き込んで、すべてを霧散させていく。
「……まだ終わっていません」
そう、まだ終わっていない。
『UDC-Null』――と骸魂が合体する存在。
その核となるのは、おそらく最初の犠牲者であり、またその犠牲者を唆した存在である。
いつだってそうだ。
何かを謀るものは、人の善意を利用する。
純粋な思いを、無垢なる願いを食い物にし、己の欲望を満たそうとする。
それをトリテレイアは許せぬと思った。
騎士としてではなく、ウォーマシンとしてもでもなく。
唯一人の猟兵として、トリテレイアは、それを赦してはおけぬと己の炉心を燃やすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『シオサフィの影』
|
POW : バシャールの神託
【チャネリング中の感染者】から、対象の【ワクワクして現実逃避をしたい】という願いを叶える【錯乱状態にさせるお告げ】を創造する。[錯乱状態にさせるお告げ]をうまく使わないと願いは叶わない。
SPD : プレアデスの助言
【チャネリング中の感染者】から【癒しのお告げ】を放ち、【聞いた者全員の闘争心を喪失させる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : アークトゥルスの啓示
【チャネリング中の感染者の慈悲深いお告げ】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
イラスト:烏鷺山
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「榊・霊爾」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
最初は子供らの『お願い』であったのだ。
ある子供が願ったのだ。
友人が怪我をしてしまった。己の不注意から怪我をさせてしまったのだ。とても悔いた。謝ったし、友人も彼の過失ではないと、気にするなと言ってくれた。
けれど、子供は己の両親から正しさを持つことを教わって生きていた。
例え、友人が気にしなくていいと言っても、己自身がそれを許せなかった。
赦してはならないと思ったのだ。
だから、願った。己の願いで友人の怪我が一日でも早く完治するのならば、何だってすると。
「なら、こうするといい」
闇から染み出したような存在が言ったのだ。
このオマジナイを皆でするといい、と。そうすれば、友人の怪我はすぐに良くなると。
その結果は言うでもない。
集団昏倒事件が引き起こされ、子供の親は糾弾され、彼自身も自死に追いやられた。
「ああ、なんていうことだろう。これはひどいはなしだ」
だから、闇から染み出したような存在は、自死した妻子を持つ男の耳元に囁いたのだ。
「なくしてしまったのなら、よみがえらせればいい。きれいなおもいでのままに、ひとのおもいをしゅうやくさせればいい」
そうして、儀式は再び不完全なまま執り行われた。
死した妻子たちの誇りを、尊厳を取り戻したいと願った心のままに、男は信仰を興し、信者を募り、儀式を行った。
けれど、結果はどうだろうか。
何もなせぬままに生命だけが喪われた。
溢れた生命は混沌に。濁った魂は溶け合って、亡者へと成り果てる。
「けれど、それがきみたちのねがいにして、ぼくのねがい。ああ、ちからがみちていく」
笑う。
嗤う。
嘲笑う。
すべての命を冒涜する低級邪神が哀れなる骸魂と合体し、その力を増していく。
だが、猟兵達は、かの『シオサフィの影』の弱点を知る。
チャネリングを介して力を供給するのであればこそ、彼に力を齎す『深淵に至る亡者』たちの存在は必須。
しかし、猟兵達は尽くを打倒してきた。
もしくは浄化してきた。その力が彼に与えられることはない。其処に在るのは、そうただ強大な存在であるだけである。
「けれど、かわらないよ。ちからのさはかわらない。もっとあわれないのちをふやささないと。それがぼくのやくめだからね」
不安定な存在であれど、『シオサフィの影』は嗤う。
再び哀れな犠牲者をふやさんと、姿をくらまし、猟兵たちにも感知されぬままに世界を破壊せんとするのだ。
ならば此処で止めなければならない――!
鈴久名・紡
例え、始まりが純粋なものであれ
もはやこれは純粋さなど微塵もない
止めること、還すこと、それが出来る事であるのなら
ただそれを成すだけだ
煉獄焔戯使用
神力を槍の形態に変化させ、神罰を乗せて先制攻撃
禮火と葬焔は引き続き弓矢の形状にて射掛ける
矢とする葬焔の……
熱のない焔がお前の行く末を指し示すように
迷うこと無く、黄泉路を辿れるように
敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぎ
負傷に対しては
以降、生命力吸収も乗せて対処
錯乱状態にさせるお告げには狂気耐性で対処
あぁ、けれど……純粋さは欠片でもあればいい
そう思わない訳じゃないんだ
その欠片も砕く事になるとしても
還って貰う、ここにはお前は不要だから――
人の心は善悪混在するものであればこそ、その善意は尊ばれるべきものであったことだろう。
だが、その善意を無理に維持しようとしてはいけない。
必ずどこかでほころびが生まれてしまう。
正しいことは愛すべきことだ。されど、人の身に悪意があることを知るのならば、時に善意すらも悪意へと変わることを知るべきである。
鈴久名・紡(境界・f27962)は例え、はじめりが純粋な誰かの願いであったのだとしても、目の前の『シオサフィの影』が放つ気配に、純粋さなど微塵もないことを知る。
「きみもげんじつからにげたいだろう? きみのりそうにきみじしんがとどかないことを、きみがいちばんしっている。だから、それはみなくていいげんじつなんだよ」
嗤う『シオサフィの影』を前にしても紡は立ち止まらなかった。
目の前のUDC怪物は人の心の虚に住まうものだ。
その虚から、その人自身を蝕んでいく毒のような存在だ。
それが再び放たれればどうなるか。純粋さゆえに悪意に翻弄され、喪われていく生命が増えるだけだ。
ならば。
ならばなんとする。
「止めること、還すこと、それが出来ることであるのなら――」
その瞳がユーベルコードに輝く。
神力がほとばしり、彼が手にしたのは槍であった。
煉獄焔戯(レンゴクエンギ)。
それは発露した神力による武装を解き放つ一撃であった。放たれた槍の一撃が、『シオサフィの影』を穿つ。
だが、影故にその身体は不定形であった。
耳元に囁く声が響く。
「めをそらしていいんだよ。すくえないいのちなんてみすててしまっていいんだよ。むりにすくおうとしなくたっていいんだよ」
くすくす嗤う声は、誘惑するようであった。
なりふり構わず打倒することによって、紡の心に隙を作ろうとする悪辣さしか、声からは感じなかった。
だからこそ、紡は叫ぶのだ。
「ただそれを為すだけだ」
引き絞った弓から放たれた一撃が、黄泉路を示す熱のない炎を宿した矢となって、『シオサフィの影』を貫く。
紡の耳元で囁かれる言葉が、どれだけ紡の心を抉るものであったのだとしても、彼は泰然自若として揺らぐことはなかった。
「あぁ、けれど……純粋さは欠片でもあればいい」
そう思わない訳じゃないんだ。
今己が矢を放つ行為が、その欠片さえも砕くことに為るのだとしても。彼はヤラねばならないのだ。
「この葬焔がお前の行く末を指し示すように」
放たれた矢は『シオサフィの影』に突き立てられ、炎となって燃え上る。
熱はない。
痛みもないだろう。
それは篝火だ。迷うこと無く黄泉路を辿れるようにと願った紡の一欠片であったのかもしれない。
オブリビオンは打倒しなければならない。
そこにどんな理由があろうとも、どんな起こりがあろうとも、例え、どれだけ純粋さを持ったモノであったとしても。
滅ぼさなければならない。
ならばこそ、紡は優しさには優しさでもって答えたい。
それができる存在になりたいと願うのだろう。
「還って貰う、ここにはお前は不要だから――」
そう、もはや誰かを思った願いは届かない。その思いの先にあるものは『今』にはいない。
もしも、その思いが届くのならば、それは『過去』である。
思いの集積地たる『骸の海』においてのみ、その純粋さは報われるのだ。だからこそ、紡は炎の篝火を持って、二度と迷い出ることがないようにと、己の神力を燃やして、導こうとするのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
役目ですか。ひどい話ですね。
此度向くのは…ええ、交代いたしましょう。
人格交代
『不動なる者』
武器:黒曜山(剣形態)
ああ、ここにて止める。
貴殿は逃げようとしておるようだが、語っている間に陰海月を背後に行かせるのは簡単であったぞ?
それに…その位置には、既に斬擊を『置いて』ある。この黒曜山にて見た未来の位置を【四天境地・山】にて斬っただけぞ?
感染者はここにおらぬよ。わしも、現実逃避なぞせぬしな。
※
陰海月、こーっそり背後に回ってた。そして、触手ぺちぺちする。
置き斬擊のことは知ってた。
現実逃避なにそれ美味しいの?
「すべてからめをそむけたっていいじゃない。だってげんじつはくるしみとかなしみにみちているのだから」
その言葉は『シオサフィの影』より放たれたものであった。
その低級邪神は骸魂と合体したことによって、力をより強大なものとしていたが、チャネリングによる力は儀式を完成させ、呼び出した『深淵に至る亡者』たちによってのみ、さらなる力を流動させるものであった。
その『深淵に至る亡者』たちは猟兵達によって尽くが打倒された。
もはや一体も『シオサフィの影』に力を与えるものは存在していなかったが、嗤う『シオサフィの影』は何も気にしてはいなかった。
例え、事の起こりが純粋なる願いであったのだとしても、悪意は容易にそれを歪める。歪めてしまえる現実が目の前に顕現していた。
「だから、ぼくはいつまでもこのやくめをつづけるよ。あわれないのちをうみだしつづける。それがやくめだからね」
少年の声のようにも聞こえる『シオサフィの影』の言葉。
おそらく最初の犠牲者でろう願いを思った少年の残滓が核として残っているのだろう。
それを馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)はひどい話だと吐き捨てた。
四柱の一柱を顕現させて戦う彼等にとって、此度の戦いに向くのは一人だけであった。
「ええ、交代いたしましょう」
静かな言葉と共に人格が変わる。
『不動なる者』が一気呵成に駆け抜ける。
彼の耳元で囁かれる言葉に耳を傾ける暇などない。
「ああ、ここにて止める。貴殿は逃げようとしているようだが――」
簡単な話だ。
『シオサフィの影』は言葉をたぐり、チャネリングの力をもって、対する存在の精神に干渉する。
誰だって強靭な精神を持ち合わせてはいないし、強靭な精神とて摩耗するものである。
人の心は柔らかく砕けやすい。
だから、壊したいし、壊した時に生まれる力の奔流は凄まじいのだ。それを『シオサフィの影』は求める。
「にげる? にげてもよいことなんてないし、ただやくめをはたしたいだけだよ?」
「それを果たさせぬと言っておる。貴殿がどれだけ感染者を増やそうとしても、それはここには居らぬよ。わしらが全て霧散させた故な」
それにと『不動なる者』が言う。
現実逃避など自分たちはしない。現実から目を背けることは、己たちの魂を冒涜することである。
どれだけ苦しく悲しい過去があったのだとしても。
怨念の元である呪詛が枯れ果てることはない。オブリビオンという存在が在る限り、己たちの魂に宿る呪詛は決して消えないのだ。
「ぷっきゅ」
『シオサフィの影』の背後から『影海月』が忍び寄り、触手を叩きつける。
その一撃を受け止め、『シオサフィの影が』揺らいだ瞬間、其処へ叩きつけられるのは斬撃の一撃であった。
何が起こったのか理解出来なかったことだろう。
目の前にいる猟兵は、斬撃を放ったとしても真正面から来るはずだ。けれど、斬撃の一撃は己の横合いから切りつけられた。
「四天境地・山(シテンキョウチ・ヤマ)、父の技を、ここに再現せん」
その瞳に輝くのはユーベルコードの光。
己の斬撃は未来への視認不可視なる斬撃の一撃である。
すでに未来より切りつけていた斬撃を置いていただけの話である。
そして、それはもとより一撃とは限らない。
「現実から逃げることは確かに心の癒やしとなろう。だが、それは傷に痂をかぶせるだけのはなしよ。いつしか人は痂を撮らねばならぬ。どれだけ身が痛むのだとしても、己の心に誓わねばならぬ」
そう、人の心はもろく弱い。
けれど、同時に過去を乗り越えて未来に進む力だって持っているのだ。
悪辣なるものはそれを利用する。
人の心を弄び、その善意すらも悪意に染め上げて嗤うのだ。それがどうにも許せない。
「人の心とはそういうものだ。例え、この義憤さえも悪意に染まることもあるのだとしても――」
人の心がそれを正してくれるのだと知る者だからこそ、『不動なる者』は己の放つ未来よりの斬撃を持って『シオサフィの影』を包囲し、その身を何処にも生かせぬと、未来という『檻』に閉じ込めさせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
人の心を、尊厳を汚し嗤う下衆が漸く姿を表しやがったな。
コソコソ悪事を働く低級邪神らしい、お似合いの姿だぜッ!
おっと、卑怯物らしくまた姿をくらます気か。
「・・・逃しません。お前は今この場で滅します。」
結界霊符を相棒の巫女服に貼って結界術で呪詛、狂気耐性を更に底上げだ。これで敵の闘争心を喪失させるお告げとやらを対処するぜ。
てめえは骸魂と合体し、その力を増してるらしいな。
こっちも似たような事は出来るんだよッ!
相棒、後は任せたぜ。妖刀憑依ッ!
「・・・鬼面の大霊剣(ソードオブヒーローマスク)ッ!」
敵の動きを見切り破魔の大霊剣となった俺で叩き斬ってやるぜッ!
てめえの悪意はここで終わりだッ!
【アドリブ歓迎】
『シオサフィの影』は嗤う。
何がおかしいのか、嗤うのだ。生命の全てが無駄であるとあざ笑う行いは、たしかに純粋なる願いから発露したものであっても、悪意に捻じ曲げられていた。
チャネリングによる感染者、即ち『深淵に至る亡者』たちの力によって、彼の力は強大なものとなり、亡者立ち寄り放たれる言葉こそがユーベルコードとなって聞く者の戦意を喪失させる。
しかし、完全な儀式によって現れた『深淵に至る亡者』たちの尽くは猟兵達によって打倒されている。
感染者として力を振るうことは叶わなくなったが、それでも言霊の如き力は健在であった。
「どうしてじゃまをするのだろう。ぼくのねがいはじゅんすいなものなのに。あわれなぎせいしゃはしかたのないことなのに。ねがいにだいしょうはひつようなものでしょう?」
だから喪われる生命は仕方のないことなのだと『シオサフィの影』は笑った。
それはかつて『シオサフィの影』が唆した少年の思いを踏みにじる行いそのものであった。
『人の心を、尊厳を汚し嗤う下衆が漸く姿を現しやがったな』
神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)はヒーローマスクである。
その心には常に正義が燃え上がっている。
だからこそ許せない。
人の純粋さを逆手に取るやり口、善意を悪意に捻じ曲げる行い。それがどうにも許せないのだ。
『コソコソ悪事を働く低級邪神らしい、お似合いの姿だぜッ!』
「おにあいだなんて、そういわれたのははじめてだよ。でもぼくにはぼくのやくめがあるからね。かまっていられないんだ」
姿をくらまそうとする『シオサフィの影』に凶津と桜は迫る。
『おっと、卑怯者らしくまた姿をくらます気かッ!』
「……逃しません。お前は今この場で滅します」
どれだけ凶器をはらんだ言葉であっても、桜は結界霊符の力に酔って呪詛と狂気に対する体勢を上げ、闘争心を喪失させる言葉を防ぐ。
耳にすれば、否応なしに桜の心から闘争心が喪われていく。
結界でもってしても防ぎきれぬほどの言霊の力。
それが邪神の得た力なのだろう。だが、その心には篝火がある。灯火のように共にある凶津、そのヒーローマスクの宿す正義の心が、飛び火するように桜の闘争心を燃え上がらせるのだ。
『てめえは骸魂と合体し、その力を増してるらしいな。だがよッ! こっちも似たようなことは出来るんだよッ!』
相棒ッ! と凶津が叫ぶ。
そう、彼等は一心同体である。
凶津の心が折れぬ限り、桜の心が折れることはない。逆に桜の心が折れぬ限り、凶津もまた同様である。
『妖刀憑依ッ!!後は任せたぜ、相棒ッ!!』
「……鬼面の大霊剣(ソードオブヒーローマスク)ッ!」
ユーベルコードが輝く。
骸魂にも似た状態へと変化した凶津が妖刀と合体し、一時的であるがオブリビオン化する。
その力は己の気力を消費するものであったが、今の彼女たちにとっては問題にはならない。
どれだけ闘争心を削られようが、気力を消費しようが、彼等の心には正義が燃えている。
「迷わない。必ず此処で止める。かつての純粋な願いがそうであったように、ためらわない」
桜が叫び、大霊剣の刀身がきらめく。
それは正義と意志の力の象徴であった。どれだけ強大な存在へとなった邪神であったとしても、その動きは見切っている。
『その動きは見きったって言ったぜッ! 大霊剣となった俺で――』
「――叩き斬るッ!」
放たれた一撃が、一刀のもとに『シオサフィの影』を両断する。
止める、止めてみせる。それが二人の意志であった。
『てめえの悪意はここで終わりだッ!』
どれだけ人の悪意が薄まらず、なくならないものであったのだとしても、善意が欠片でも在るのならば、それに賭けたいと思うのだ。
人は心の拠り所を求める。
それが隙となるのならば、時として人の心砕くものへと様変わりするだろう。
けれど、その悪意を断つ剣を振るう者たちがいる。
「必ず終わらせてみせる。それだけが、かつてのあなたへの手向け……」
悪意にねじ曲がったまま還すことはしない。
桜と凶津は、その霊剣の一撃で持って、『シオサフィの影』を打倒するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
五十野・組子
望みを視て、それを叶える異能。邪神と邂逅して得た能力。欲望具現術とかいう魔女の力らしい。
なるほど、これは迂闊に使えない。目の前のご同輩を見て認識する。悪意なく、善意や同情からだろうと他人の人生や魂を歪めかねない。私が自分の事しか考えないクズで良かった。
正確な自己認識で狂気耐性。啓示に対抗。友好なんかするもんか。
無機物に襲われたら「語られぬもの」に受け止め庇って貰う。何考えてるかは分からないけど頼りになるよ、ありがとね。
さぁ勝負だ。無機物を魔眼で睨み「浸食」、黒鎖へと改変。操り縛り捕縛、触れた者を捕食し喰い尽くす。他人を食い物にしないと何も出来ない奴に、自己完結した引き籠りの根性が負けるもんか。
邪神とは如何なる存在であるかを知るためには、目の前の『シオサフィの影』を見れば良い。
確かに純粋なる善意に応えた結果であった。
しかし、それが悪辣なる存在が深淵へと引きずり込むための方策であることがわかるほど人の心は、己で思う以上に賢くはない。
自分だけは騙されることはない、なんて思う者こそが邪神の格好の餌食である。
むしろ、邪神を利用してやろうという半端な賢さがあればあるほどに、引きずり込まれてしまうものである。
人は欲望によって生きる存在である。
生きるためには欲望は不可欠であり、ネガティブな言葉と共に語られるものではない。けれど、時として欲望は甘美なる罠となって人々を苛むものである。
「その証左がこれってわけだ。なるほど、これはうかつには使えない」
五十野・組子(イドノソコ・f33657)は、『シオサフィの影』が扱うユーベル個ーコードの力を見てつぶやく。
そして確信を得た。
己が操る邪神の力もまた同様である。
悪意なく、善意や同情からだろうと他人の人生や魂を歪めかねないのが邪神の力だ。
奴らは誰かのためにという善意をこそ餌とする。
悪意へと転じた時の落差こそが極上の甘味であるかのように振る舞うのだ。
「私が自分のことしか考えないクズでよかった」
組子は自分のことで手一杯だった。
他人のことを考えられるように為るには余裕がなかった。いつだって精一杯なのだ。だからこそ、彼女に『シオサフィの影』の言葉は届かない。
それがどこまでも甘やかな言葉であったとしても、届くことはない。
友好的な言葉も、何もかもが彼女の耳には薄っぺらく聞こえるだけであった。
「――」
言葉は届かない。
何かを『シオサフィの影』が言っているのだろう。だからなんだ。
目の前には己の眷属である『語られぬもの』がいる。かばってくれているのだろう。何を考えているのかわからないけれど、頼りになる存在だ。
だから、こんなこというのは間違いなのかも知れないけれど。
「ありがとね」
感謝の言葉は本当はいらなかったのかもしれない。
けれど、これから輝く組子のユーベルコードにとっては必要なことであったのかもしれない。
「さぁ、勝負だ――鎖れ」
その魔眼が輝く。
浸食(シンショク)するようにユーベルコードによって発露した魔眼の輝きが無機物を鎖へと変換していく。
それは奇しくも『語られぬもの』を縛る鎖と似通っていた。改変された鎖は、猟兵の一撃に酔って両断された『シオサフィの影』へと迫る。
おそらく両断されても再び結合しようとするだろう。
消耗しているが、逃げられる前に捕縛して戦いの場に縫い止め続けるのだ。
「――」
「何か言ってるみたいだけど、届かないってば! 他人を食い物にしないと何も出来ない奴に、自己完結した引きこもりの根性が負けるもんか」
組子のユーベルコードによって生み出された黒鎖が、『シオサフィの影』を縛り上げ、その黒鎖が触れたものを貪っていく。
『シオサフィの影』は、その身体を強大な力で覆っているが、それらごと黒鎖が貪っていく。
「――」
悲鳴のような声が聞こえた気がしたけれど、組子は気にしていなかった。
だってそうだ。
これまで『シオサフィの影』が貶めてきた生命にも、彼は言葉を貸さなかっただろう。
自分の欲望のままに他者を貪る者が、何故自分だけが貪られる側に立つことがないなどという理屈を信じるのかを組子は知っている。
「自分だけは大丈夫だって思っているんでしょう。あなただって人と変わらないよ。何が――邪神だ」
くだらない、と組子は黒鎖の力を振り絞り、『シオサフィの影』の身体を構成する力を削ぎ落としていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
おまじない、お呪い。呪い(のろい)、呪(しゅ)
気休めの行動なら問題なかった事でしょう。
死者は蘇らない。よみがえったとしてもそれは本当にそのまま本人なのかしら?
きっと違うわ。死んだらその人本人の生は終わり。
転生したとしてもやっぱりそれは新しい命。
もし死んでも生き続けるとしたら、誰かの心の中での話だと思うわ。
忘れない限りその人は生き続けるんじゃないかしら。
神器鳴神を複製し周囲を逃げられないように取り囲むように一斉に攻撃します。
私が信じる言葉はお告げは、私自身が引いたカードの言葉のみ。それは私自身が開いた扉だから。
少なくとも占いの本職なんです。未来を願い祈り、真の言葉を見つける。
今更惑わされません。
人の心はいつだって弱いものだ。
寄す処を必要とするように、先の見えぬ未来を見通すように、同時に恐れるように知りたいと願う。
それは言わば、暗中を一人で手探りのままに歩くのと同じである。
弱さとは云うまい。
おまじない、お呪い、呪い(のろい)、呪(しゅ)。
どんなに言葉を変えても変わらぬものがある。
「気休めの行動なら問題なかったことでしょう」
それが善意から出た行動であることを夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は知っている。
子供心に己がしてしまったことに対する償いをしようと思うことは尊ぶべきことである。
それが正しい人間の生き方なのかもしれない。
だが、その善意すら食い物にする存在がいる。それが邪神であるし、同時に邪神にも似た生き物が人間である。
すでに彼等は死した存在である。
邪神の糧となって今もなお、『シオサフィの影』の核として存在しているのだとしても、それは残滓に他ならない。
「よみがえるかもしれないよ。もしかしたのならば、しんえんにのみこまれたひとたちも。おそくはないかもしれないよ。でも、もたもたしていたらておくれになってしまうかもしれない」
その言葉は甘やかなものであったことだろう。
だが、藍は否定する。
「死者は蘇らない。蘇ったとしても、それは本当にそのまま本人なのかしら?」
いいや、違う。
藍は断定する。
死んだら、その人の生は終わりである。
例え転生したとしても、それは新たな生命である。
「もし、死んだでも生き続けるとしたら、誰かの心の中での話だと思うわ。忘れない限りその人は生き続けるんじゃないかしら」
「でもわすれさられてしまうさだめだよ。かこがはいしゅつされてときがすすむように、わすれられないそんざいなんてない。かみだってわすれさられてしまうんだから、わいしょうなひとなんてすぐにだれのきおくからもいなくなってしまう」
その言葉は、人の闘争心を削ぎ落とすユーベルコードであった。
虚無しかない。
『シオサフィの影』が紡ぐ言葉は全てが虚構であった。彼自身も大した意味はないとさえ思っている。
ただユーベルコードとして、人の耳に触りの良い言葉や、より良く捉えられる言葉を選んでいるだけに過ぎない。
だからこそ、藍はその言葉に惑わされることはない。
猟兵の放った黒鎖が断ち切られた瞬間、『シオサフィの影』を取り囲むのは、藍の放った神器の複製であった。
念力によって操作される神器は、ぐるりと包囲して逃さない。
「私が信じる言葉は、お告げは、私自身が引いたカードの言葉のみ。それは、私自身が開いた扉だから」
誰もが人生という暗夜行路を往く。
篝火も、灯台もない道を往く。
不安と恐れを胸にいだいた希望と意志によって踏破していくのだ。藍は自分の手で探り、生を進むのだ。
「今更惑わされません。そんな言葉に、何処かで聞いたような言葉なんかに――響け!」
それは雷鳴(ブロンテス)のように鳴り響くユーベルコードの輝きであった。
放たれた神器が『シオサフィの影』へと突き立てられ、これまで彼が得てきた哀れな犠牲者たちの怨念や無念といった力を切り裂く。
「未来を願い祈り、真の言葉を見つめること。それが私の開いた扉。それを、お告げなどという言葉で汚させはしません。いつだって道を歩くのは私自身なのですから!」
藍の意志が、あらゆる言葉を超越する。
篝火がないというのならば、己の手にしたカードこそが己の篝火である。
そのかすかな光に満たない輝きであったとしても、藍はためらわず一歩を踏み出すだろう。
誰もがそうするように。
先の見えぬ未来をこそ、己の意志で照らし出すように――。
大成功
🔵🔵🔵
御狐・稲見之守
願われなければ在ることのできぬ者。
心の隙間へと分け入り、想いをよるべにするモノ。
ヒト、それを怪異と呼ぶ。
願いもまた呪とはよくいったもんじゃの。
ま、奴が何者であろうと知ったことか。
あえて喜ばせるエサを与えるつもりもない。
あれはただのなにかである。
[UC眩惑の術][催眠術][呪詛]
汝、我が云いに抗うこと能わず。
"喋るな"
"嗤うな"
"応えるな"
影は、なにも語らんよ。
霊符を放りこれを祓うこととす。
どうしようもないことだったのかもしれない。
己を責める心に、邪神の言葉は甘やかなものであったし、滋味であった。抗いがたい誘いは、純粋なる善意を食い物にするのだと知っていたとしてもどうしようもないものであったことだろう。
誰を責められようか。
最初の善意を、それが間違いであったのだと誰が言えるのか。
間違いではなかった。
友人を思った少年の心は間違いではなかった。けれど、それが諸悪の根源であるとあざ笑う者がある。
『シオサフィの影』である。
「どうしようもないほどにおろかだよ。ひとはかんたんにじぶんのつみからのがれたいと、ていのよいりゆうをみつけるのがじょうずだから。どんなぜんいも、かんたんにあしきものにおちる」
笑い声が響きわたる。
哄笑であった。かつて在りし善意を嗤う邪神の声が響きわたる。神器の斬撃が力を削ぎ落としてもなお、人の愚かさをあざ笑うのだ。
「願われなければ在ることのできぬ者。心の隙間へと分け入り、想いをよるべとするモノ」
玲瓏なる言葉が響きわたる。
御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は哄笑を聞いても、ぴくりとも眉根を動かすことはなかった。
そこにあったのは怒りでもなんでも無かった。
「ヒト、それを怪異と呼ぶ」
願いもまた呪とはよくいったものである。
だが、稲見之守は『シオサフィの影』を見ているようで見ていなかった。彼が何者であろうと関係ない。
あえて喜ばせる餌を与えるつもりもない。
猟兵たちの義憤こそ、『シオサフィの影』にとっては、喪われた生命への冒涜を強めるだけである。
喜ばせるだけだ。
愚かな存在をあざ笑い、それによって得られた負の感情こそを喜ぶのだ。
だからこそ、稲見之守は『あれはただのなにか』であると既定するのだ。
彼女の瞳が妖しく輝いた。
瞬間、『シオサフィの影』は言葉を発することができなくなる。妖しき輝きはユーベルコードの輝き。
眩惑の術(ゲンワクノジュツ)である。
「汝、我が云いに抗うこと能わず」
その瞳が輝く度に、言葉が紡がれていく。
「“喋るな”、“嗤うな”、“応えるな”」
律として縛る言霊そのものであった
『シオサフィの影』がかつて在りし少年の想念を核とするのならば、稲見之守は、これ以上彼に何かを語らせることはなかった。
少なくとも、彼女のユーベルコードが輝く限り、一言も喋らせることはない。
眩惑の術は、幻覚により『シオサフィの影』の動きの一切を止める。
「影は、なにも語らんよ。ましてや……そう、かつて在りし少年の善意を騙ることもない。出会ったことが間違いであったのかもしれないが、お前は悪意を持って善意を弄んだのだ」
稲見之守の手には霊符が添えられていた。
強力な呪と真言が込められた霊符が『シオサフィの影』へと落ちる。
それは強烈なる力の本流となって『シオサフィの影』を焼き払うように力を顕現させる。
「ならば、これこそを報いと知るがいい」
稲見之守は溢れる力の奔流によって祓われる『ただのなにか』を見下ろし、そして影法師の如く揺らめく姿に背を向けたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
俺にも是非、アンタの神託とやらを貰いたいね。カミサマの有難いお告げなんだろ?(両手を広げて来いよ、と)
錯乱状態のお告げってのがどんなモンか知らねぇが…俺の現実逃避をしたいという願いを叶える?笑わせるぜ。
UCで自身を魔剣で【串刺し】。お告げとやらを【焼却】する。
俺は【覚悟】を持って猟兵としてこの場に居る。現実逃避なんざ考えた事もねぇ。
ああ、けど。ワクワクはしてる。依頼とはいえ、アンタみたいなクソッタレをぶちのめせるんだ。
悪い気はしねぇさ。
魔剣で【串刺し】を放ち。
――それと。言ってなかったが、そもそも俺は神託だとか啓示とか、カミサマってヤツが嫌いなのさ。
勧誘ならもっと信心深いヤツを誘うんだな。
霊符の一撃が『シオサフィの影』に張り付き、その力を焼き払う。
ノイズ混じりの影はのたうつように苦しんでいたが、それが人の形をした振りであることをカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は見抜いていた。
なまじ人の形をしているから、こういった心理的な行動を取ろうとする。
そうすることで猟兵の油断や憐憫の情を引き出そうとしているのだ。
「俺にも是非、アンタの神託とやらをもらいたいね。カミサマの有り難いお告げなんだろ?」
両手を広げ、挑発的な行動をとったカイムを前に『シオサフィの影』は少年の声で言う。
「ぼくはただだれかのためになにかをしたかっただけなんだ。あくいにまみれたのはぼくいがいのだれかのせいさ。ひとりだけがきれいなままではいられない。きれいなまましなせてはならないというおもいがあったから、ぎしきはしっぱいしたんだ」
それは最初の善意。
ある少年が願った純粋なる友人を思っての願いを踏みにじるものであった。
その言葉がそのままユーベルコードとなってカイムに襲いかかる。
錯乱状態へと陥らせるお告げの言葉は、カイムの耳に届く前に黒銀の炎を従える魔剣によって一刀のもとに両断された。
「笑わせるぜ」
これが現実逃避したという願いを叶えるお告げとやらなのかとカイムは告げる。
その瞳に輝くのユーベルコードの輝きであった。
かれの魔剣はユーベルコードすらも切り裂く、必滅の刃(スキル・スレイヤー)である。
滅却されたユーベルコードはたちまちの内に消え失せ、効果を喪って世界から消えていく。
『シオサフィの影』が放ったかつての少年の善意を踏みにじるような行いそのものを赦さぬとばかりにカイムは胸が高鳴るのを感じていた。
「俺は覚悟を持って猟兵としてこの場にいる。現実逃避なんざ考えた事もねぇ……」
ああ、けれども。
そう、カイムの唇の端がつり上がっていく。
自身でもわかるのだ。
今まさに自分が高揚していると。それを『シオサフィの影』は知っただろう。
今目の前の猟兵は確かに己の前に立ち、ユーベルコードを断ち切った。
どういうことだろうか。
ユーベルコードの効果は無いと云うのに、何故そんなにも。
「ああ、ワクワクはしてる。仕事とはいえ、アンタみたいなクソッタレをぶちのめせるんだ。悪い気はしねぇさ」
獰猛な笑顔であった。
偽らざる言葉であった。
その凶暴さは、『シオサフィの影』にとって恐怖そのものでしか無かったことだろう。己を滅ぼす猟兵。それが己のはなったユーベルコードさえ両断して迫るのだ。
どれだけ神託の如き言葉を紡いでも止まらない。
「なぜとまらないの? かみさまのことばはひとにとってぜったいてきなものでしょう?」
なのに止まらない。
カイムの瞳がユーベルコードに輝き、直ぐ側まで剣呑なる輝きを放つ魔剣の切っ先が迫るのだ。
「――言ってなかったが、そもそも俺は神託だとか啓示とか、カミサマってヤツが嫌いなのさ。勧誘ならもっと信心深いヤツを誘うんだな」
そう、彼が振るう魔剣は神殺しの魔剣。
黒銀の炎の魔力が込められた刀身は、影すらもかき消す。
その一撃は『シオサフィの影』を貫き、その身を内側から神殺しの炎で焼くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
想いを弄んで、命を冒涜する存在……。
『あわれないのちをふやす』なんて、そんなことさせないよ。
だれかの想いや命を守ることができるから、わたしは『猟兵』してるんだからね!
あなたはこの世界に存在してはいけないモノ。
人の想いを、願いをねじ曲げて、自分の力にするなんてもう二度とやらせないからね!
あなたは『消す』よ。【虚実置換】で存在を消去してあげる。
だれかを嘲笑えるほど、あなたはたいした存在じゃないしね。
さすがに簡単にはいかないだろうけど、何度でもデリートをかけるよ。
あなたが消え去るまで、ね。
救ってあげようとは思わない。
この世界からあなたの全てを消し去ってあげるよ。
1ビットのデータも残さないくらいにね!
魔剣の一撃が『シオサフィの影』を内側から滅する炎となって包み込む。
ノイズ混じりの影は、のたうつようであったが、その影は未だ消えず。それどころか、猟兵たちの義憤を嗤う。
「なぜそこまでするのかな。どうしてたにんのためにそこまでするのかな。このうしなわれたいのちはきみたちにはむかんけいないのちなのに。あわれないのちをふやしていけば、いずれはきみたちにかんけいのあるいのちにたどりつくかもしれないけれど」
それでも、今は無関係なのだからと『シオサフィの影』が嗤っていた。
あらゆる善意を悪意で持って踏みにじる行為であった。
いつかの誰かの純粋なる善意すらも、尽く悪意で持って塗りつぶし、ひっくりかえし、ゲタゲタ嗤う存在。
それが低級邪神である『シオサフィの影』の所業であった。
「想いを弄んで、生命を冒涜する存在……『あわれないのちをふやす』なんて、そんなことはさせないよ」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の瞳に合ったのは決意であった。
彼女は誰かの思いや生命を護ることができるから、『猟兵』となったのだ。
そんな彼女の思いを受けてユーベルコードは輝く。
彼女のヘッドセットに映る電脳魔術に寄る影は、一片たりともこの世界に残してはならないものであった。
「あなたはこの世界に存在してはいけないモノ」
理緒の瞳が輝く。
彼女のコンピューターに映る画像の書き換えにより、画像と現実を入れ替える事によって、『シオサフィの影』存在そのものを消去するのだ。
現実は消しゴムなんて影を消すことなんてできない。
けれど、虚実置換(キョジツチカン)によって置き換えられた画像は現実を入れ替える。
「レタッチ、アンド、ペースト」
人の想いを、願いを捻じ曲げて己の力へと変えることなど二度とさせてはならない。
消す。
必ず消してみせる。理緒の心は今、静かに燃えていたのだろう。
彼女自身も自覚せぬほどに、今の彼女は誰よりも『猟兵』であった。誰かのためにと戦う姿は、いつかの誰かの善意を汲み取るものであったことだろう。
「どれだけそんなことをしたってむださ。きえない。きえるわけがない。ひとのあくいがこころからきえさらないのだから、きえるわけがない」
『シオサフィの影』が嗤う。
全ては無駄なのだと。
何度だって湧き上がる力とともに消去された端から影が過去から染み出すように現れるのだと。
けれど、理緒は根気強かった。
簡単に消せるとは思っていない。けれど、力を得ようとしたということは、力には限りがあるということだ。
核となった少年の思いを救ってあげようとは思わない。
もう混じり合って、混濁しているだけなのだ。その核である言動も、『シオサフィの影』によって都合よく使われているだけのガワにしかすぎない。
「誰かを嘲笑えるほど、あなたはたいした存在じゃないしね。わかっているよ。あなたが低級邪神だってこと。その力はあなた自身のものじゃないって」
全てが借り物。
善意を悪意に変換しただけの力。
自分だけでは何かをすることもできない。けれど、人の善意と悪意を利用するもの。
だから、理緒は赦さないのだ。
「この世界からあなたの全てを消し去ってあげるよ。1ビットのデータも残さないくらいにね!」
理緒は即座に書き換えていく。
一度で終わらぬのならば、二度、三度と幾度も繰り返していく。
やめろという声が聞こえた気がしたけれど、かまわなかった。だって、理緒はもう決意したのだ。
だれかの想いや生命を護ることを。
そして、それを脅かす存在を打倒することを。輝くユーベルコードの光を灯した瞳は、今、強靭な光となって影を吹き飛ばすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【勇者パーティー】
あ、あれはなんでしょうか?
全身くまなく放送禁止とか、イタイを通り越して、
ヤバイ人なんじゃないですか!?
言っていることも相当危なそうでしたし、
別のところで同じようなことされてもめんど……こほん。
光の勇者としては、許せません!(←
ほら師匠。シャインさんにツッコまれないうちに、
いつものぶっぱ、お願いしますよー?
わたしはいまのうちに、サージェさん回復しますから!
【ピーターイートン】を取りだして、
【クラリネット狂詩曲】を演奏しようと……痛ぁ!?
ナンデ? なんでわたしにハリセンなんですか-!?
それに『広域に被害』ってひどいです!
クラリネットは、可愛い音符がみんなを回復してくれるんですよ!
シャイン・エーデルシュタイン
【勇者パーティ】
「友人の怪我を治そうという願い。
死した者の命を取り戻したいという想い。
どちらも主に仕えるクレリックのおこなうことです。
あなたのような冒涜者がおこなうことではありません」
ルクスさんを立派なツッコミに育て上げるという目的を思い出した私には、自分のやるべきことがはっきりとわかっています。
そう、まずはこの偽クレリックにお手本としてツッコミを入れるのです。
というわけで【ジャッジメント・クルセイド】!
「見ていましたか、ルクスさん……
って、なにフィアさんに広域魔法を使わせようとして、さらに自分も広域に被害を出す回復をおこなおうとしているのですか!」
ルクスさんにハリセンを振り上げるのでした。
フィア・シュヴァルツ
【勇者パーティ】
「なるほど。
友人の怪我を直すオマジナイ。死者を蘇らせる儀式。
素人がやれば不幸なことになるのも当然よな」
儀式魔術には代償が付き物。
この我ですら、悪魔を喚び出す儀式の代償に、自身の時――成長し年老いて死ぬという人として当然の未来を喪ったのだ。
何の代償もなく願いを叶えようとした者たちが、このような末路を辿るのも当然だな。
「これ以上、儀式による被害者を増やすわけにはいかぬ。
貴様のパワーアップを阻止するためにも、な」
【竜滅陣】で全てを吹き飛ばしてくれよう。
「悪魔を喚び出そうとした過去の我にもツッコミをいれて止めてくれる友が欲しかったものよ」
響くハリセンの音にちょっぴり過去を思うのだった。
サージェ・ライト
【勇者パーティー】
(ちゅー←1章の健康ドリンクを胸の谷間から出して飲んでる
ふぅ、鬼のような展開でした
変なのが続きますがアレが最後ですね
ではクノイチ突撃します!
時間稼ぎますので
攻撃はフィアさんとルクスさんで
シャインさんは援護
って敵に直撃してる?!
気を取り直してカタール持って
【乾坤一擲】で仕掛けます
錯乱、錯乱って
うちのパーティーのこの状況が錯乱してなければ
何だと思うんですか?(まがお
つまりそんなものは無効です!
くらえ!必殺クノイチぐふっ!?
……お腹が、お腹が痛い…!?
まさかさっきのドリンクに毒が?!(たぶん違う
おのれ卑怯な(濡れ衣
倒れた上を高域魔法とか飛び交ってますが
私はここまでのようです(ぱたっ
全身がノイズまじりの影、それが『シオサフィの影』であった。
今や猟兵たちの攻撃によって、その身体はひどくかすれた存在へと落ちぶれていた。けれど、未だ長年に渡る不完全な儀式によって培われた生命の力が、『シオサフィの影』を包み込む。
告げる言葉は狂気と虚構。
あらゆるものの心を蝕む悪辣の言葉。
ガワのごとき言葉の響きは、かつて最初の善意であったであろう少年の言霊にして残滓であったことだろう。
「のぞんだのはぼくだよ。ぼくがさいしょにねがったんだ」
その言葉は確かに善意であった。悪意も何もない。純粋なる心。
けれど、それを利用しようと忍び寄る悪意があることもまた世界の理であったことだろう。
人の心が善意一色ではないのと同じように悪意もまた世界に存在して然るべきものであった。
「友人の怪我を治そうという願い。死した者の生命を取り戻したいという想い。どちらも主に仕えるクレリックの行うことです」
断じて『シオサフィの影』のような冒涜者が行うことではないと、シャイン・エーデルシュタイン(悪霊として蘇ったクレリック・f33418)は告げる。
「素人がやれば不幸なことになるのも当然よな」
フィア・シュヴァルツ(漆黒の魔女・f31665)にとって、それは我が身の過去を振り返るようなものであり、直視することはあっても、己の過去を変えるものでははない。
儀式魔術とは常に代償がつきものである。
自身ですら、悪魔を喚び出す儀式の代償に、自身の時――成長し年老いて死ぬという人として当然の未来すら喪った。
「何の代償もなく願いを叶えようとした者たちが、このような末路を辿るのも当然だな」
たそがれるわけではない。
どちらにせよ、あの『シオサフィの影』を放っておく道理など何処にもないのだ。
「あ、あれはなんでしょうか? 全身くまなく放送禁止とか、イタイを通り越して、ヤバイ人なんじゃないですか!?」
そんなアンニュイなというか、シリアスな雰囲気をぶち壊すのが我等の光の勇者である。
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる自称『光の勇者』・f32689)、その人はシャインとフィアがなんとなーく出していた雰囲気を一掃するし、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は胸元から調査の折に作成した健康ドリンクを胸の谷間から伸びたストローでちゅうちゅう吸っている。
「ふぅ、鬼のような展開でした。変なのが続きますが、アレで最後ですね!」
もはやクノイチというより突撃娘である。
その健康ドリンク、本当に健康ドリンクなのだろうかという疑念はあれどサージェは回復したようにカタールを手に突貫しようとする。
攻撃はフィアとルクス、シャインは援護、自分が先制するというパーティの役割分担を果たそうとしたが、シャインが放ったユーベルコード、ジャッジメント・クルセイドの一撃が『シオサフィの影』を穿つ。
「って、普通に敵に当ててる!?」
「ルクスさんを立派なツッコミに育てあげるという目的を思い出した私には、自分のやるべきことがはっきりとわかっています。そう、まずはこの偽クレリックを手本としてツッコミを入れるのです」
シャインもシリアスが保たなかった。
というか、最初からそういうつもりだったのだろう。
当初の目的ってそういう目的なのかなーってサージェは思わないでもなかったが、一気に『シオサフィの影』へと迫る。
乾坤一擲(ヒッサツノイチゲキ)のように敵の機先を制することが、彼女の役割だ。
「さくらんしているのかな。へんなひとたちだね」
その言葉にうっかり同意しそうになったサージェであったが、首を振る。
「うちのパーティのこの状況が錯乱してなければ、何だと思うんですか?」
まがおである。
だって、常に錯乱しているようなものですし、とサージェは言葉を飲み込んだ。パーティの面々の面子というかプライドというか、そういうものを護るために今、必殺の一撃を見舞うのだ。
「くらえ! 必殺クノイチぐふっ!? ……お腹が、お腹が痛い……!?」
まさかさっきのドリンクに毒が!? いや違うと思うし、自業自得というか、さもありなんていうか。
あの毒々しい色のドリンコをなんで飲もうと思ったのかと問い詰めたいものであるが、サージェはうっかり倒れた。
それを見たルクスが叫ぶ。
「まさか毒が……! 光の勇者としては、許せません!」
よくもサージェさんを! という濡れ衣を着せつつ、ルクスは駆け出す。
サージェを回復しなければならないし、その間にフィアに援護を頼むのだ。
「見ていましたか、ルクスさん……」
いや、もうだいぶ時を逸した気がするけど、シャインはシャインでジャッジメント・クルセイドの一撃をツッコミに見立て、ルクスに指導しようとしていた。
これが自分の役目だと自覚した良い顔だった。
けれど、彼女が見たのはぶっぱ魔女であるフィアにぶっぱをけしかける光の勇者の姿であった。
「って、なにフィアさんに広域魔法を使わせようとして……」
「これ以上、儀式に寄る被害者を増やすわけにもいかぬ。貴様のパワーアップを阻止するためにも、な! 我が、竜滅陣(ドラゴン・スレイヤー)の威力、思い知るが良い!」
膨大な魔力が練り上げられ、放たれる極大魔術の一撃が『シオサフィの影』と周囲を巻き込んで爆発を引き起こす。
それはあまりの威力故に周囲に衝撃波を走らせ、圧倒的な破壊の渦へと丘を飲み込んでいく。
「わたしはいまの内にサージェさんを回復しますね! って、いたぁ!?」
ばすん! とハリセンが振り下ろされた。
シャインのツッコミである。ルクスがクラリネット狂詩曲(クラリネットキョウシキョク)という名のんぅんむ、んぅ、んぅんうぃむゃむぃむ! を演奏する前に止めたのだ。
あれは回復と言っていいのか微妙な旋律であった。
同じく音楽や楽器をユーベルコードにしている猟兵がいたら卒倒するかもしれないレベルであった。
「自分も広域に被害を出す回復をおこなおうとしているのですか!」
「ナンデ!? なんでわたしにハリセンなんですかー!? あと『広域に被害』ってひどいです!」
クラリネットは可愛い音符がみんなを回復してくれるんですよ! と力説するが、シャインは取り合わない。
音符はいいのだ。回復してくれる。
けれど、その音色が問題なのだ。んぅんむ、んぅ、んぅんうぃむゃむぃむ! だから。
耳が壊れるやつである。
「ふっ……悪魔を呼び出そうとした過去の我にもツッコミを淹れてくれる友が欲しかったものよ……」
なんてフィアは訳知り後方彼氏面でたそがれつつ、ハリセンの音を聞きながら過去を思う。
その端でサージェが青い顔をしつつ……。
「あのー……できれば回復を早めにお願いしたいんですがー……」
そんな声がか細く響き、再びハリセンの音が鳴り響くのを聞くのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
神と名乗るわりに……やることは人の心の隙間をつくだけか……大層な神様じゃないか…
…こちらにもお告げで干渉してくるようであれば狂気耐性で抵抗…
…神であろうともそんなあからさまな甘言ではこの矜恃を崩す事は出来ない…魔女を舐めるな
…そして重奏強化術式【エコー】で効果を高めた【尽きる事なき暴食の大火】を発動…
…力の差はあれどもそれを埋めるわけでもなくそのままに打倒する知恵をだすのも人間だ……特にUDCのこの国はその手の話で満ちている…
…不安定な状態で出て来たのは失敗だったね…この白い炎は強大であろうとも存在そのものを喰らう…不安定であればなおのことだ…何も成せずに骸の海に還ると良い…
「どうしてわからないのかな。すべてのひとのこころにぜんいはあるけれど、どうじにあくいもそんざいしている。しろとくろでわかれていても、おなじうつわにはいっているのだから、どちらもたいせつにするべきなのに」
『シオサフィの影』の声が響く。
それは神託の如き声であり、対する猟兵達の闘争心や現実逃避したいという願いに訴えかけるものであった。
同時に、己の味方に引きずり込もうとする甘やかな悪辣そのものであった。
けれど、響きわたるはユーベルコードの詠唱であった。
「貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔」
輝きの中から溢れるのは、尽きる事なき暴食の大火(グラトニー・フレイム)。
それは如何なる存在も燃料にする白色の炎。
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が解き放った白色の炎は、重奏強化術式『エコー』によって効果を倍増され、『シオサフィの影』が紡ぐ言葉を尽く飲み込んで、メンカルの耳にまで届かせることはなかった。
「神を名乗る割には……やることが人の心の隙間を突くだけか……大層な神じゃないか……」
メンカルの耳には言葉は届かない。
あらゆる存在をも燃料にする白色の炎は、あらゆる言葉すらも飲み込んで燃えていく。
伸びる炎が『シオサフィの影』へとまとわりつき、その身に宿したかつての善意であったはずの力を飲み込んでいく。
「魔女を舐めるな」
彼女の瞳が剣呑に輝く。
そう、彼女にはあらゆる狂気も己に干渉してくる存在も赦しはしない。
例え相手が神であろうとも、あからさまな甘言で彼女の矜持を崩すことはできない。
力の差がどれだけあろうとも、それを埋めるわけでもなくそのままに打倒する智慧を持つのが人間である。
「……特にUDCアースのこの国はその手の話で満ちている……不安定な状態で出てきたのは失敗だったね。よほど力を取り戻したいと思ったんだろうね」
猟兵たちが完全な儀式に寄って召喚した『深淵に至る亡者』たち。
彼等こそが『シオサフィの影』の力の源であったのだ。彼等を増やし、哀れなる犠牲者をもって彼は己の力に変えていく。
低級邪神である理由がよくわかるというものであった。
「この白い炎は強大であろうとも存在そのものを喰らう……」
「くわれるなんてそんなひどいはなしがあるわけがない。ぼくはかみになったんだから、こんなほのおだけで……なんで、なんで、きえない。なぜきえない」
存在そのものを喰らう炎。
その炎が一端でも燃やせば、次々に炎は広がっていく止めようがないのだ。
存在そのものを燃料とする以上、そこに在るという事実だけで十分なのだ。
恐るべきユーベルコードの力は、さらなる術式『エコー』によって膨れ上がっていく。
それが智慧である。
例え力が劣るのであっても、人は己の智慧と経験、そして紡ぐ歴史がそれを為していく。
邪神であろうとも神殺しを為してみせるのだ。
メンカルは、それに連なる魔女の家系。
「何もなせずに骸の海に還ると良い……」
メンカルは白色の炎の向こうで輝くユーベルコードの瞳のままに『シオサフィの影』を睨めつける。
人の矜持を、人の善意を、人の想いを踏みにじった行いの報いが如何なるものかを知らしめるのだ。
何かを為すことが、邪神の思惑なのならば、そのどれ一つとして為さしめることなく消滅させる。
それだけが、喪われてしまった生命たちへ報いる唯一のことであるというように、メンカルの放った大火は轟々と音を立てるように世界に燃え盛るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
其方が己が役目を果たすなら、此方も役目を果たすまで
世に仇成す存在の跳梁を阻む為…ええ、その少年の姿のこれ以上の冒涜は許しません
安全圏から人を弄ぶ時間は終わりにさせて頂きましょう
…我が身の力不足を嘆いても、騎士として逃げ出すことはいたしません
錯乱状態へ導くお告げに対しUC
先の戦闘でこの種の精神干渉手段の情報収集は十全
邪神の思考を焼き切り
言った筈です、安全圏から弄ばせはしないと
易々とクラッキングなどさせはしません
電子演算から流し込む膨大で無意味な情報の奔流…
指向性すら持たぬ単純な意味の『狂気』に陥って頂きましょう
動きが硬直した相手に接近
盾の殴打で宙へ打ち上げ落下した所を憑依している骸魂ごと剣で一閃
白い炎が『シオサフィの影』を包み込み、未だ完全に燃え尽きぬままに一歩を踏み出していた。
逃げようとしている。
明らかに不利を悟ったようだが、もう遅きに失するものであった。
「其方が己が役目を果たすなら、此方も役目を果たすまで。世に仇成す存在の跳梁を阻む為……」
『シオサフィの影』の前に回り込む巨躯があった。
それは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の言葉と機械騎士としての矜持であった。
「なぜぼくをほろぼそうとするのかな。あわれないのちのひとつでしかなかったかもしれないのに」
少年の影にはノイズが走っている。
それはかつての善意のはじまりの核であったものであろう。
甘言に絆され、そして、己の善意のままに走った結果、その末路。されど、それを誰が責められる。誰が貶められる。
だというのに、存在する『シオサフィの影』は少年の善意すら踏みにじった。
「……ええ、その少年の姿のこれ以上の冒涜は赦しません」
トリテレイアは宣言した。
掲げた剣に誓うのだ。安全圏から人を弄ぶものを断固として赦してはならぬと彼の炉心に燃える騎士道精神が云うのだ。
目の前の敵こそが己の敵であると。
どれだけの力の差があったとしても関係ない。己ができることを為さしめなければ、かつての少年の魂すら救えない。
「もうすくえないよ。どろどろにとけてもうかけらものこっていないのだから」
嗤う声が響く。
それが『シオサフィの影』のやり口なのだろう。
義憤を、憂う気持ちを、全てをあざ笑い無価値だと貶める行いに、トリテレイアは真っ向から立ち向かう。
騎士として逃げることはできないのだ。
お告げとも取れる言葉が、トリテレイアの電脳を侵食使用と迫る。
だが、トリテレイアはこれまで蓄積した戦いの経験によって、この手の干渉は慣れていた。
「……易々と電脳へ干渉させる訳にもいきませんので。報復措置を取らせて頂きました」
銀河帝国護衛用ウォーマシン・上級攻性防壁(ファイヤウォール)。
それは在る種の必然であった。
侵食しようと迫るユーベルコードの言霊が電脳の思考領域内に発生する炎に寄って一瞬で焼ききったのだ。
「言ったはずです。安全圏から弄ばせはしないと。そう易易とクラッキングができるとは思わぬことです」
逆流する炎は膨大な無意味な情報の奔流となって『シオサフィの影』へと流れ込んでいく。
指向性もなく、おおよそ生物とは思えぬ思考のロジック。
あらゆる情報が無意味であり、方向性がない。
それは人をして混沌と言わしめるものであった。人の魂を核とする邪神にも、それは同様のものであった。
「これがきょうき。これがくるうということ。うごきが、とま――」
「他者を貶め、弄ぶ。その行為の代償と知っていただきます。例え、それが理解できないのだとしても」
トリテレイアは大盾の殴打でもって『シオサフィの影』を吹き飛ばす。
宙に浮かんだ『シオサフィの影』の身体を剣の一閃が切り裂く。
影は両断され、合体した骸魂毎切り裂く。手応えがあった。これがかつての少年への手向けとなるか、トリテレイアにはわからない。
けれど、たしかに少年には友人を思う善意しかなかったのだ。
その末路は果てしなく遠く、そして道程にはあまりにも多くの生命が喪われてしまったことだろう。
「それでも、と私は言わねばならぬのです。これ以上の惨劇が起こらぬために、過ちが繰り返されぬためには」
己が騎士の剣に誓わねばならぬ。
二度目がないように。
トリテレイアが放った剣閃は、たしかに邪神の悪辣さを斬り裂き、少年の善意を持って『シオサフィの影』を打倒せしめたのだ――。
大成功
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佐伯・晶
弱った人の心につけこみ
破滅に導くなんて悪魔の様な所業だね
こいつを倒した所で巻き込まれた人達が
帰ってくる訳じゃないけど
更なる悲劇は避けられるからね
色々と後腐れ無いようにここで倒させて貰うよ
甘言でこちらを惑わすつもりなんだろうけど
分かっているなら呪詛耐性もあるし耐えられるさ
ガトリングガンの弾で返答する事にするよ
例え非実体でも通用するように
紋章を刻んだ弾丸を生成して発射しよう
そしてUCを使用して拘束を狙うよ
UDC怪物向けのワイヤーを使ってるから
そう簡単に抜け出せるとは思わない事だね
捉えたら電撃と締め付けでダメージを与えていこう
邪神に人生を狂わされる人なんて
居ないに越した事はないさ
という訳で消えてくれ
いつだって人の心は弱い。
柔らかく、もろく、砕けやすく。
そして一度でも傷が付けば二度と元には戻らないものである。それほどまでに人の心は弱いものである。
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、目の前で両断された『シオサフィの影』がうごめくのを見た。
まるで少年の姿であったし、苦しげに呻くような言葉は同情と憐憫を湧き上がらせるには十分なものであったかもしれない。
そう、例え『シオサフィの影』を打倒したところで、巻き込まれた人々が帰ってくるわけではない。
生命は回帰しない。
決して同じ生命として戻ることはないのだ。けれど、さらなる悲劇は、これ以上に犠牲者はでない。
ならば、晶が出来ることは一つだ。
「後腐れないようにここで倒させてもらうよ」
わかっていたことだ。
「どうして。ぼくはただおともだちにしあわせになってほしかったのに」
「違うね。君が赦されたかっただけだ。自分が楽になりたかったんだ。大人になれば、わかることだっただろうけれど。人は自分のやったことを抱えて、背負って生きてかないといけないんだよ。取り返しのつかないことなんてないけれど、やってしまったことは消えないんだ」
晶は『シオサフィの影』の言葉を遮る。
その言葉が全て虚構にまみれていることを知ってる。
もっともらしく元となった少年のことを告げているのだとしても、それはもはや面影はないものである。
とっくの昔に『シオサフィの影』によって取り込まれ、残滓として残っていたものに過ぎないのだ。
それを再生することで猟兵から逃れようとしているだけに過ぎない。悪足掻きそのものであり、唾棄すべき行いであった。
引き金を引くのに躊躇いはなかった。
放たれたガトリングガンの弾丸が、『シオサフィの影』を貫く。
弾頭に紋章を刻まれた弾丸は非実態である影をも容易に貫いて霧散させていく。
「ああ、ああ、あふれる、こわれる、もれでていく。ながれてきえてしまう。せっかくあつめたのに、ここまでになったのに」
『シオサフィの影』はここに来てもなお、逃げようとしていた。
哀れであった。
哀れみがあれど逃がす理由には成っていない。
試製電撃索発射銃(エレクトリック・パラライザー)から放たれたワイヤーが『シオサフィの影』を拘束し、電撃を流し込み動くことすら奪っていく。
「うばわれる。からだのじゆうがうばわれる」
「自分は奪ってきただろう。自分の欲望のままに。そう簡単に抜け出せるとは思わないことだね」
邪神に人生を狂わされる人なんて居ないに越したことはない。
自分がそうであるからといって、他者にまでそう在って欲しいなんて思わない。
己の身に融合した邪神。
それを思えばこそである。その影響が大なり小なりは関係ない。
もう自分だけでたくさんだ。UDCアースは邪神が跳梁跋扈する世界だ。いつでも、どこでも、邪神は人の心に入り込もうとする。
破滅に導こうとする。
まるで悪魔そのものだ。
だからこそ、容赦はしない。例え、その姿が哀れなる少年の姿と声を再生しているのだとしても。
それはもうただの残滓だ。
逃した所で……。
「あの少年は戻っては来ない。生命は帰ってこない。子を思った父親も、誰かのためにと祈った人達も。何もかも戻らない」
戻すことが出来ない。
どれだけ超常なる力を持っていたとしても、それはできない。
できないというのならば。
「消えてくれ」
一片たりとも残さずに。
ガトリングガンから放たれた弾丸が轟音を立てて『シオサフィの影』の断末魔、そして一片たりとも残さずに消滅させていく。
過去に在りし善意がこの事件の発端である。
遣る瀬無い気持ちが心のなかに澱のように溜まっていくのを晶は感じたかもしれない。
けれども止まらない。
善意が悪意に飲み込まれるというのならば、それを止めなければならない。人の意志と想いがあるのならば、それもできるはずだと信じ、晶は過去より続く事件と、そして『存在しないもの』と呼ばれたものに終止符を打つのだった――。
大成功
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