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しあわせ王子と想い出道中

#カクリヨファンタズム #戦後 #しあわせな王子さま #まぼろし橋

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●予知
 なつかしいにおいがした。
 あのひとが好きだった白檀のかおり。
 振り向けば、あのひとが立っていた。
「どうして」
 聲を震わせる私に、あのひとは優しく手を差し伸べる。
「少し、話をしよう。水面にうつる月がきれいだよ」
 振り返るようにして背後を示す。灯りもまばらな川に、朱塗りの橋がかかっていた。
 ――あんな橋、あったかしら?
 そんな想いが頭を掠めたけれど。
 流行病で死んだはずのあのひとがこうしてここにいることへの疑問も、頭にはずっと浮かんでいたけれど。
 それよりも、やっと逢えた嬉しさで、わたしは何も考えられなくなっていた。

●黄金の導き
「よっす、「大祓百鬼夜行」、お疲れさんだったな」
 ここはカクリヨファンタズムのとある廃ビル。訪れる者もまばらな一角でぽつんと佇むはいいろ無機物は、過去と混沌が入り混じるこの世界を象徴しているかのようだった。
 ちょっと手を貸してやって欲しいんだ、と猟兵達を集めたジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が傍らの人物に声をかける。
「今日の説明は彼から。頼んだぜ、王子サマ」
 ジャスパーの言葉にぺこりと丁寧に頭を下げたのは、そう。
 妖怪たちの親分のひとりであり、カクリヨの滅亡を猟兵と共に身を挺して護ったその人――「しあわせな王子さま」だった。
「先日は本当にありがとう。みんなの活躍によってふたつの故郷が護られた。おかげで、骸魂に呑み込まれた妖怪たちも無事に帰ってくることができたよ」
 彼の肩にはツバメが止まっていて、ピィ、と同調するようにひと声鳴いた。

「そんな皆さんにまた戦いをお願いをするのは心苦しさもあるんだけど……。困っている妖怪たちを助ける為に、力を貸して欲しいんだ。道ならぼくが作れるから」
 そう云って、王子は体の黄金をまたひとつ剥がす。やれやれと肩を竦めるジャスパーの側で、薄い金箔がふわりと舞って――黄金色の雲の道を模った。

「王子サマが作ってくれた道を辿れば、困っている妖怪のところに辿り着ける。大祓百鬼夜行の戦場のひとつに「まぼろし橋」っていうのがあったのを知っている奴はいるかな。
 幽世に倦んだ妖怪が渡るという噂の、黄泉へとつながる幻の橋――あの橋自体は、不安定なこの世界じゃ以前から時折見られた現象らしいんだが、そこにオブリビオンが絡むと少し厄介って話でさ」
 王子いわく、『幽世と黄泉を繋ぐ橋』『死んだ人に逢える』という噂を利用する骸魂がいるらしい。つまり。
「死んだ人の姿で現れたオブリビオンが、生きている妖怪を言葉巧みに橋に誘い、黄泉へと誘い込む……そんな事件が起きちまいそうなんだ」
 ちょっとの不思議なら慣れっこの妖怪たちだ。もう出逢えないはずの大切な人と出逢えることに、さほど疑問は抱かずについていってしまうに違いない。
 ジャスパーの言葉に頷いて、王子が説明を続ける。
「事件が綻びを生み、綻びが滅びの言葉を産み、滅びの言葉がカタストロフを引き起こす――皆さんが護ってくれたこの世界を、滅ぼしてしまうわけにはいかない。共に「まぼろし橋」に行って、骸魂を斃して欲しい。ぼくは皆さんほどは強くないけれど、足手まといにはならないつもりだ。盾代わりにでも使ってもらえれば助かるよ。ほら、身体は丈夫だし」
「……だってよ」
 救いようのないお人好しだ、との言葉は呑み込みつつ、ジャスパーがまた肩を竦める。まあ同じギャグを七時間聞かされるよりは盾になる方がマシかもしれない。
「オブリビオンは、一般妖怪だけではなく皆さんにとっても「大切な人」に見えるかもしれない。それを斃せというのは酷なお願いだとはわかっている。だからこそ皆さんくらいしか頼れないんだ。……ああでも、少しだけ、心が休まることもあるかもしれない。そうでしょう?」
「らしいな」
 と、ジャスパー。
「まぼろし橋に死んだ人が現れるっていうのは、どうやら本当みたいでさ。そして、その「ほんもの」と夜通し語り明かせば、まぼろし橋は浄化され、消えちまうって話だ」
 それが真実、死後の世界に存在する「その人」であるのか。
 それともまぼろし橋を訪れた人の心に残る「想い出」を反映したものであるのか。
 答えは誰も知らない。カクリヨに生きる妖怪や神ですら、この世とあの世を自由に行き来出来る者など滅多にいないのだから。
「でも、どちらもそんなに変わらないとぼくは思うんだ。きっと大切なのは、今を生きる人たちのほうだから」
 王子はそう云って微笑み、金の道を指で示した。


 王子の案内で辿り着いたのは、灯りもまばらな一角だった。
 どこか懐かしいアーケード街を横切る小川。数百メートル先には、この世界にしてはやや近代的な橋がかかってもいるけれど。
 猟兵達の目の前にあるのは、朱塗りの橋。
 丁寧に塗り込まれているはずのあかがどこかくすんで見えるのは、その橋がやや透けているからだろう。向こう側に行けば行くほど、闇に溶けていくように橋は見えなくなっていく。
 その中ほどに、人影が立っている。
『口寄せの篝火』というらしいね、と王子が呟く。少女の妖怪を取り込んだ姿が確認されている骸魂だ。だが、今はまぼろし橋の力を利用しているためか、見る人によって異なる姿に見えることだろう。

 ――“それ”が、あなたの良く知る聲で、あなたの良く知る貌で、手招きをしている。
 一歩踏み込めば、そこは異空間となる。解除されるのは、力を利用したオブリビオンが死ぬか、あるいは生者が黄泉に連れ去られた時。

 ゆらり、水面の月が揺れた。


ion
●お世話になっております。ionです。
 王子と巡るカクリヨ素敵スポット。戦争中は忙しくてまぼろし橋に行きそびれてしまったという方もこの機会にいかがでしょうか。

・第一章:ボス戦『口寄せの篝火』
・第二章:日常『想い人と語らう』
 この二章で構成されているシナリオです。

・第一章のボスは、あなたの「死んだ想い人」によく似た姿で油断を誘います。
 想い人という表現ではありますが、恋仲であるとは限りません。大切な家族、友人――想いの形はさまざまでしょう。
 オブリビオンの思惑に振り回されて苦しむ心情重視プレでも、早々に立ち切って卑劣なオブリビオンを討つ戦闘重視プレでも、どちらでもおいしいと思います。お好みでどうぞ。
「わかっていても大切な人に剣を向けられず大けがを負わされてしまう」「一緒に黄泉の国に行こうと云われて承諾してしまう」などの苦戦プレイングでも、第六猟兵のシステム上他参加者さんに迷惑はかからないので、やりたい事をやって頂ければ幸いです。
(ただ後者の場合、本当にキャラクター様を死亡させてしまうわけにはいかないので、ギリギリのところで他猟兵様に助けられた、という扱いになります)

 プレに明記があれば、しあわせな王子さまと共闘ができます。
 使用ユーベルコードはこちらをご参考までに。
→https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=34285
 やさしすぎる性格で何をしても怒らないようです。過激すぎるのはだめですよ。

・第二章はオブリビオンが成り代わったものではない「想い人」と夜通し語り合ってください。
 つもる話を三百文字に収めて頂くのも大変かと思いますが、せいいっぱい心を込めて描写いたします。

●プレイングについて
 第一章は追加オープニングはありません。
 募集タイミングはスケジュールを見ながらお知らせ予定です。
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第1章 ボス戦 『口寄せの篝火』

POW   :    甘美な夢現
【対象が魅力的と感じる声で囁く言霊】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の精神と肉体を浸食する炎】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    怨嗟の輩
【吐き出した妖怪の亡霊】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    蠱惑の怨火
レベル×1個の【口や目】の形をした【魅了効果と狂気属性】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシエル・マリアージュです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
…まぼろし橋
誰に会うか知れている
私は抗えるだろうか

「ラファエラ様、お迎えに上がりました」
陽光の様な髪に海色の瞳の、屈託なく笑う騎士
…貴公には悪いことをしたね
「構いません。今度は共に参りましょう」
…莫迦
生きて在る時に私を攫ってくれれば良かったものを

差し出された手を取ろうとした刹那
白馬を駆り幻に斬り掛かるのは銀の鎧兜の騎士の亡霊
それは元来UCによるものだが、使用した自覚がなく戸惑う
…でも、そうだね
我が身を護る筈の貴公が私を黄泉に誘う筈がない
すまないね
此処に在る貴公こそ本物だ

「…ありがとう」
亡霊は答えない
「帰ろう…パーシヴァル」
もうこの後に幻と語り合わずとも構わぬだろう
言葉なき彼を従え、橋を後にする




 人影がこちらに歩み寄るたび、おぼろげだったその姿が徐々にはっきりと見えてくる。
 陽光のような髪に、海色の眸。騎士のいでたちをしたその人は、それこそ太陽のように屈託のない笑みを彼女に向けてきた。
「ラファエラ様、お迎えに上がりました」
 寸分たがわぬ顔が。表情が。そして聲が、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)の一度止まったはずの心臓を打つ。
 誰に逢うかなんてわかっていたはずなのに。
 いろのない唇が微かに震えながらひらかれて、言葉を紡いだ。
「……貴公には悪いことをしたね」
「構いません。今度は共に参りましょう」
 差し出される手。優しい笑顔。ああ、そうだ。私はそれをいとしく想っていた。そして。
「……莫迦」
 その優しさが、時にどんな鋭利なナイフよりもこの心を苛んでいたのだった。
(「生きて在る時に私を攫ってくれれば良かったものを」)
 あれから時を重ねても、ラファエラの姿はあの日のまま。変わらぬ姿こそが、何もかも変わってしまったことを物語っている。
 気づけば手を伸ばしていた。茨纏って凛と咲く薔薇が、その棘で己を護る事も放棄し、ただいとしき人に手折られたいと願った。
 その手が騎士に触れる直前、白銀がきらめいた。あたたかい笑みを浮かべていた騎士の顔が鬼の形相となり、空気を劈くような悲鳴が辺りにこだまする。
 ラファエラの手を掴もうとしていた騎士の手が、ぱっくりと切断されていた。切断したのは白馬を駆る銀兜の騎士。死して尚ラファエラに寄り添う亡霊だが、術を行使した自覚のないラファエラは目を瞬かせた。
 ――どうして。
 ラファエラの当惑に亡霊騎士は反応を示さない。ただ、護るべき存在を害する幻影騎士へと果敢に剣を振るう。本体である骸魂を傷付けられ、幻影の騎士は消えていった。
(「……ああ、そうだ」)
 我が身を護る筈の貴公が私を黄泉に誘う筈がない。物言わぬ亡霊騎士の姿に、ラファエラは静かに頷いた。
(「すまないね。此処に在る貴公こそ本物だ」)
 雄弁な幻影よりも、それは正しくラファエラの知るあの人そのものだった。ラファエラを護るために戦い、命を落とし、そして今でも彼女を護り続けている。
「……ありがとう」
 剣を納める亡霊に言葉をかけても、返事はない。ただ静かにラファエラの側に在った。
「帰ろう……パーシヴァル」
 この後に幻と語り合う必要もない。在り方は変われど、彼は確かにここにいるのだから。
 悠然と橋を後にするラファエラに、一歩退いて白馬の騎士が付き添っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
あ、戦ってみたかった王子様だー
行って見たかった場所でもあるし、お邪魔しまーす
(宿敵:アンリの容姿だが顔だけ黒く塗り潰されていて見えない)
「…またキミ、か」
前にA&Wで見掛けた時は僕のペースを大いに乱されまくったけど、今回はオブリビオンって分かってるもーん!(つーん
「何か言ってても無駄だよ!」
…あ、そーだ!王子様、ちょっと手伝ってー!
「ふふふ、特別に黄金と黒の花弁で送ってあげるよ」(悪めの笑み
UC:黒薔薇の舞 と王子様のUCの合わせ技で攻撃だー!
「それが、キミへの罰だよ。」
…あれ?もしかして、僕怒ってた…?
嗚呼…それだけ『彼』が大切なんだな、僕ってば…(発言に自覚なし
「…? 僕、何か呟いてた?」




「あ、戦ってみたかった王子様だー」
 藍色の髪をひとまとめにした青年、インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)が屈託なく王子に笑いかける。
「行って見たかった場所でもあるし、お邪魔しまーす」
「ぼくやまぼろし橋のことを気にかけてくれていたんだね、ありがとう」
 インディゴの言葉に王子がはにかむが、直後すっとその眸を眇める。
「……気を付けて。来るよ」
 王子の視線の先、人影が静かに歩み寄って来る。
 インディゴの目には、それが燕尾服を着た黒髪の青年に見える。だが、その貌は黒く塗りつぶされていて判別がつかない。ただ洗練された佇まいが、インディゴに何かを思い出させようとする。失った記憶の中にある何かを。
「……またキミ、か」
 ざわり、心がかき乱される。知りたい。思い出したい。こわい。相反する気持ちがインディゴを責め立てる――。
「……なーんてね」
 ぺろり。舌を出してやった。執事が微かに動揺する気配と共に、何か言葉を投げかけてくる。
「前にA&Wで見かけた時は大いにペースを乱されまくったけど、今回はオブリビオンって分かってるもーん! 何か言ってても無駄だよ!」
 棘の無い薔薇は無い。自由気儘に振る舞う藍色の旅人は、正体の分かっている者にいちいち動揺してやるほど律儀ではないのだ。
 幻影は相変わらずぶつぶつと何かを語りかけている。だが耳を傾ける気にもならなかった。所詮は紛い物でしかないのだから、そこには記憶を取り戻すはずのヒントすらも無いだろう。
「……あ、そーだ! 王子様、ちょっと手伝ってー!」
「うん。何をすればいいのかな」
 頷く王子にこっそり耳打ち。せーの、で解き放ったのは、黒と金の共演。
「ふふふ、特別に黄金と黒の花弁で送ってあげるよ」
 飄々とした物言いに、浮かぶのはちょっと悪めのスマイル。
 黒薔薇が幻影を切り刻んでいく。黄金花弁がそれを浄化していく。執事の姿を語るそれは、あっという間に姿を消していった。
「――それが、キミへの罰だよ。」
 消えゆく残骸を見下ろしながら、インディゴは目を細め静かに吐き棄てた。それから胸に手を当てて、きょとんと首を傾げる。
「……あれ? もしかして、僕怒ってた……?」
 胸を灼くような熱が、急速に冷えていくのを感じる。その反動でようやく、インディゴは己の心に起きていた反応に気づいたのだった。
「嗚呼……それだけ『彼』が大切なんだな、僕ってば……」
「大切な人を騙られたんだから、無理もないよ。あの骸魂はきちんと罰を受けた。きみが云うようにね」
「……罰?」
 インディゴが聞き返す。今度は王子が目を瞬かせる番だった。
「あれ、さっき……」
「……? 僕、何か呟いてた?」
 不思議そうな様子のインディゴに、嘘の気配は微塵もなく。
「ぼくの気のせいだったかも、しれないね」
 王子はそう云って、曖昧に笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
あの日、組織は壊滅した
ロス一人を除いて、組織の全員が死んだ
俺は遠方にいてその戦場に間に合うことも出来なかった

橋に立つのは組織の頭領
「やあ、久しぶりじゃないか、同志シャオロン」
俺は跪く
いつもそうしとった訳とちゃうけど今の頭領の前ではそうなってまう
頭領は言う
「…何故、来てくれなかった」
違う、違う、違う違う違う、頭領はそれを絶対に言わへん
何故なら俺があの日遠方に行ったのは!他でもない、頭領の命令やったから!
それでも俺は項垂れたまま叱責を受け入れる

責められたかった
詰られたかった
俺が生き延びてしまったこと
俺はあの日にあそこで戦って死にたかったんやから

無理やな、抗えへん
向けられた銃口を頭を垂れて受け入れる




【鋼の鷲】。
 かつてその名で呼ばれた小さなヴィラン組織は、もうヒーローズアースには存在しない。
 あの日、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)ともう一人以外の全員が、死んでしまったから。

「やあ、久しぶりじゃないか、同志シャオロン」
 張りのある聲に、シャオロンの身体は反射的に跪く。暴れ竜の異名を持つシャオロンがいつもこうして忠義を形にしていたかというと、そうではなかった。けれど。
 どんな重大な任務を任された時よりも、どんなに功績を褒められた時よりも、シャオロンは深く首を垂れ、誠意の全てを形にしてその人の聲に答えた。
「頭領……」
「……何故、来てくれなかった」
 静かに、だが咎めるような聲。ぎゅっと目を瞑り、それを受け入れた。
「みんな、死んでしまった。きみが来てくれたら、ひょっとしたら組織を存続できるくらいの人数は生き延びられたかもしれないのに」
(「――違う」)
 頭では判っている。
(「違う、違う、違う違う違う、頭領はそれを絶対に言わへん」)
 あの日、シャオロンが生き延びたのは。
 たった一人遠方に行っていたのは、他ならぬ頭領の命令だったから。
 自らの判断が失わせたものたちを嘆き、悔やむ事はあれど、それを誰かのせいにするような人では、ない。それは、苦楽を共にしたシャオロンが良く知っている。
(「……けど、なら、これは俺の望みなんやろうか」)
 責められたかった。詰られたかった。
 たとえ頭領が、死んだ人間たちが、誰一人としてシャオロンを恨んでいなかったにしても。
 自分はのうのうと生き延びてしまった。その事実は変わらない。
 今あの日に、あの時に戻れるなら。彼らと共に戦い、そして死にたいと何度思ったことか。
 だからただじっと黙って、シャオロンは叱責を受け入れ続けた。咎める頭領の聲は攻撃的なようでいて、今にも泣き出しそうに震えていた。築き上げてきたものすべてを、たった一瞬で亡くしてしまったひとの絶望が、しんしんとシャオロンの胸に沁み込んできた。
 ――馴染みのある金属音がした。撃鉄を起こす音だとすぐにわかった。その銃口が自分に向けられていることも。
 シャオロンは動かない。動けない。心のどこかで、お前は偽物のためなんかに死ぬんかと嘲笑うような聲がした。それでも。
(「……無理やな、抗えへん」)
 自由の代償に当時とは相反するヒーローの称号を冠し、やがて気儘な武侠の身に落ち着いても尚、シャオロンの心に残り続けた後悔と、願望。
 一瞬で人の命を奪い去るはずの銃声が、何故か妙に長く、シャオロンの耳を打った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
【千夢】

・思い人
幼い頃に目の前で私を庇って事故死した
優しくて正義感の強い父
喧嘩は弱くても、心のキラキラした優しく強い子になるように
そう願ってくれた、大切な人

・行動方針
覚悟を決めて来た筈なのに
その姿を見たら体が震えて
心も揺らいで

私、は…貴方を……

倒さなきゃ
わかってる
でも、体が動かない

どうしよう…
私…私、偽物だとしても
お父さんをもう一度殺すなんて…

躊躇いを見せたが
薄荷さんが手を握ってくれた事で少し冷静に

お父さん、に…?
…違う
見せたい、のは…強くなった姿

ありがとう…もう、大丈夫

だから
★リアムで善霊達を呼び【オーラ防御】
怪我は厭わず迷いを振り切るように突っ込み
【破魔】を乗せた【指定UC】で反撃を


薄荷・千夜子
【千夢】
自身の会いたい人はなし
不安気な智夢に同行する形

あれが、智夢さんのお父さん…
お話は聞いていましたが優しそうな方で
(ここの話を聞いていたらきっと刃を向けることも考えなかったでしょうね)
隣を見れば不安そうな智夢さんの姿
そっと手だけ握る
視線はオブリビオンから逸らさない
大切な相手をした姿、智夢さんの経験…だからこそ躊躇する気持ちも分かります
それでも、前を向いて
智夢さんがお父さんに誇れる自分であることを見せるのも今なんじゃないですか?
今の智夢さんの姿をお父さんに見せれます?素敵な方だったのでしょう?
そっと優しく背中を押して
神楽鈴蘭を鳴らしUC発動
浄化の鈴の音を彼女へのエールにして送り出す




 ――逢いたい人は、たったひとり。
 その想いが強ければ強いほど、幻影に抗う事は困難になる。
「……お父さん」
 絞り出すような百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)の聲に、薄荷・千夜子(陽花・f17474)もまた橋の方を見遣る。
「あれが、智夢さんのお父さん……」
 智夢が大切にしているテディベアを遺した人だと、聞いた。黄泉に逢いたい人がいない千夜子もまた、智夢の心に同調するような形で同じひとの姿を視ているのだった。
「お話は聞いていましたが、優しそうな方で」
「うん……それに、優しいだけじゃなくて正義感の強い人だった」
 縋るようにテディベア「リアム」を抱きしめながら、智夢が頷く。
 まだ智夢が幼い頃、彼女を庇って事故死した父。
 巫女の家系を継ぐに相応しい霊力を持ちながらも喧嘩はからきしの智夢に、それでいいと笑ってくれた父。大事なのは腕っぷしや体の強さじゃない、心の強さなんだと云っていた。心のキラキラした、優しくて強い子になりなさいと。
 亡き父の存在は今に至るまで智夢の心の支えだった。母子家庭であること、不思議な力を持つことを理由に学校で酷いいじめを受けた時も、智夢は決して相手を傷つけることだけは選ばなかった。
 ただ自分を表現することを一切放棄し、想いの全てを殺し、周りに合わせることを選んだ。父のように強くなかった自分には、それが精一杯だった。
 でも今は。
 傷付けなければいけない。それも他ならぬ、父の姿をしたものを。
 覚悟はとっくに出来ていたはずだった。ここに来る前から、まぼろし橋の話を聞いたその時から。
 でも、もう二度と見る事のなかったはずの微笑みを見れば身体が震える。心が揺らぐ。
「私、は……貴方を……」
 父は優しく手招きをしていた。口元が動いていた。――智夢、大きくなったね、と。
(「ここの話を聞いていたらきっと刃を向けることも考えなかったでしょうね」)
 顔はオブリビオンへと向けたまま、千夜子はそっと智夢を見る。今にも泣きだしそうな、不安そうな彼女がそこにあった。
 そっと手を握る。そのあたたかさと力強さに、智夢が目を見開いた。
「どうしよう……私……私、偽物だとしても、お父さんをもう一度殺すなんて……」
 あの時。智夢を庇い目の前で命を散らした父の光景が、脳裏に浮かぶ。
 智夢が無事で良かったと父は云った。最期まで強く、優しいひとだった。
「……智夢さん」
 視線で油断なくオブリビオンの様子を伺いながら、千夜子は呼びかける。
「大切な相手をした姿、智夢さんの経験……だからこそ躊躇する気持ちも分かります。それでも、前を向いて」
 微かに智夢が頷いたが、躊躇いの気配は消えない。頭ではすべきことをとっくに理解しているのだろう。だが大切な人への情は、時に理性を容易く踏み越える。
 ――自分だったら、と千夜子は思案する。自分が智夢さんだったら、どんな言葉をかけられたいか。
 繊細で華奢な印象の友が持つ芯の強さを、千夜子はよく知っている。中途半端な慰めよりも、彼女の強さを後押ししたいと想った。
 だから。
「智夢さんがお父さんに誇れる自分であることを見せるのも、今なんじゃないですか?」
「お父さん、に……?」
 智夢が目を瞬かせて見上げてくる。力強く千夜子は頷いた。
「今の智夢さんの姿をお父さんに見せれます? 素敵な方だったのでしょう?」
「……違う、私が、見せたい、のは……強くなった、姿」
 まだ、父には到底届かないと智夢は思う。心をさらけ出すのはこわい。殻に籠ってやりすごす自分は、父のような堂々とした強さには程遠い。
 けれど時には千夜子のように、支えてくれる友と出逢うこともある。少しずつ少しずつ、智夢は父の願いを、強さを、身に付けてきたのだ。
「ありがとう……もう、大丈夫」
「お父さんも、きっと見ていてくれてますよ」
 だってこの橋は、実際に黄泉と通じているというのだから。
 千夜子がそっと優しく背中を押してくれた。凛と鳴る神楽鈴蘭は太陽と風の加護を受け、清らかな浄化の力を智夢に纏わせる。
「リアム。皆、力を貸して……!」
 テディベアの眸が青く輝き、辺りに漂う善霊たちを呼び寄せる。
 攻撃動作を取る智夢を見た『父』が精神を蝕む怨火を放つが、その殆どが千夜子の加護と善霊たちの守護によって浄化されていく。
 振りきれなかったものが膚に届き、心を灼いても、智夢は立ち止まらなかった。
 流聖の煌めき。眩いばかりの破魔の光が天から無数に降り注ぎ、紛い物の身体を何度も何度も撃ち抜いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
ふふ、死んだ想い人ナ。
それでは王子殿にひとつ問おうか。

本来ならば二度と会えぬ胸中にある想い人
それ即ち真なき写し身の姿、影なる姿
己の内にあるそれは果たして真か、偽りか……。

骸魂は遠い昔の、あの男の姿を取ろうとするであろう。
しかしかまわん、躊躇なく破魔矢を以てこれを蹴散らさん。

……極楽は生きている者のためにあるなんて言葉もある。
ならば、偽りであろうと生者にとって真であれば
それでよいのではないか、なんてナ。

ま、思い出はいつだって美しく
そして思い出は思い出のままで良いって話さ。




 童女のような姿をしたその妖狐は、途方もない刻を生きていた。
 御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)。人を喰う狐と恐れられていたのも遠い昔のこと。五穀豊穣と火防雷除を司り、人と共に生きる彼女は、彼らの命が尽きるさまも随分とたくさん見てきたものだ。
「ふふ、死んだ想い人ナ」
 金と銀の眸が、傍らの青年を見上げて細められる。
「それでは王子殿にひとつ問おうか」
 ――本来ならば二度と会えぬ胸中にある想い人。
 ――それ即ち真なき写し身の姿、影なる姿。
 ――己の内にあるそれは果たして真か、偽りか……。
 深沈と紡がれる稲見之守の言葉に、王子はじっと耳を傾けていた。目線は橋のほうを向いたままだ。
 今、薄闇から歩いてきた人影は、男性の姿を模ろうとしている。王子の知らない人物だ。ということは、稲見之守の心にある人の姿なのだろう。
 時代がかった服装が、彼が生きていた時代の遠さと同時、彼の死後も稲見之守が生きてきた年月の長さを物語っている。
 幾星霜を越え、果たされた邂逅。だが稲見之守は躊躇なく霊符を振るい、破魔の矢へと変化させて人影へと飛ばす。懐かしい貌が驚愕と苦痛に眼を見開き、憐みを誘うように稲見之守へと手を伸ばしても、彼女はそっと目を伏せるだけだった。
「……のう、王子殿。王子殿も、確かこう云っておったの。“きっと大切なのは、今を生きる人たちのほうだから”、と」
「うん」
 頷く王子に、稲見之守も微笑み返す。
「極楽は生きている者のためにあるなんて言葉もある。ならば、偽りであろうと生者にとって真であればそれでよいのではないか、なんてナ」
「そうだね。……ぼくの話をしてしまうけれど。うんと昔の事だから真偽はあやふやだけど、元は死んだ王子のために作られた像だったんじゃないかって云う人がいて」
 そんなおとぎ話があるのだと、王子は幻影の消えた橋へと目を向ける。
「王子を想うひとのきもちが、ぼくという存在を生み出す程に強かったのなら、それはやっぱり稲見之守さんの云う『真』の想いだったんじゃないかなって……ああ、なんだかうまく言えないや。年寄りの長話に付き合わせてしまってごめんね」
 少年のような風貌でそんな事を云うのだから、もっと幼い姿の稲見之守も少しだけ、ほんとうの童女のようにころころと笑うのだった。
「ま、思い出はいつだって美しく、そして思い出は思い出のままで良いって話さ」
 涼やかな風が、水面を揺らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ビスマス・テルマール
ここで出てくるのは……やはり

わたしをネグレクトや虐待していたのは、両親に成り代わっていた方ですから……何とも複雑なんですが

猟兵になって、勇気を出して帰ってきた時に感じた、始めての違和感……それと同じ感覚がするんですよね。

偽者だと言う事は……丸分かりですっ!

●POW
ここは王子様の御前ですし、王子様リスペクトとして『早業』で【金目鯛のなめろう・ビーム熊手】を攻撃力重視で生成

攻撃を『第六感』で『見切り』『残像』回避しつつ低空『空中戦&推力移動』で隣接し生成したので『属性攻撃(幸運)』込め『怪力』で上空へ『なぎ払い』ぶん投げ

王子様と『集団戦術』で連携
UCで追撃お願いしますね

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎




 両親のことは、未だにどう折り合いをつけていいのかわからずにいる。
 ネグレクト。虐待。ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)の中にある両親との思い出は、殆どがそんなものだったから。
「けど、やはり……こういう時に出てくるのは、あなた達なんですね」
 愛されたかった。彼らがどんなにビスマスを疎ましく思い、酷い目に遭わせようと、幼いビスマスにとっては父と母だった。
 やがてビスマスは猟兵になり、力と覚悟を胸に勇気を振り絞って生家へと足を踏み入れた。そこで、力を得たビスマスは今まで感じる事のなかった違和感を抱いた。
(「この人たちは、『違う』」)
 ビスマスに手を上げ、聲を無視してきた人たちだ。それは間違いない。けれど彼らは――。
(「わたしの『両親』じゃない」)
 いつから? いつから歯車が狂っていたのだろう。愛されなくて当然だったのだ。ビスマスの本当の両親は……。
「ビスマスさん」
「……大丈夫ですよ」
 心配そうに顔を覗き込んでくる王子に、ビスマスは笑ってみせた。強がりではない。心からの本音だった。
「あの時と同じ感覚がするんですよね。あなた達が偽物だと言う事は……丸わかりですっ!」
 ――生成開始(ビルド・オン)!
 ビスマスの気迫と共に模られるのは金目鯛のなめろう・ビーム熊手。縁起のいい祝い魚をチョイスしたのは、もちろん『幸福』を冠す王子へのリスペクトが含まれている。
「わたしが先に行きます。王子様も追撃お願いしますね」
「覚悟はできているという顔だね。なら、ぼくも遠慮せずに行くよ」
 たとえきみの大切な人の姿をしていてもね――王子が微笑みながら、黄金色の花弁を宙に浮かび上がらせた。
 両親の幻影が当惑したように顔を見あわせ、口々にビスマスへと言葉を向けた。甘美な夢現。対象が求めている言葉を甘く囁き、肉体と精神の双方を侵食する言霊の炎。
 やりなおしましょう、と幻影たちは云っていた。偽物に奪われた家族の時間を、もう一度やり直そうと。
「無駄です」
 毅然と言い放ち、ビスマスはなめろうの気を輝かせる。巨大な熊手を振るい、幻影を二人まとめて宙へと放り投げた。
 ――つらい日々だった。でも、だからこそ『彼』に出逢えたのだ。ビスマスに食の楽しさと、人の善意を教えてくれたヒーローに。
 驚愕の眼差しを向ける幻影に、王子の花弁が放たれた。眩いまでの光の奔流に、両親を模っていたものたちの姿は消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
想い人…かつて領土に住んでいた幼い少女
わたくしのことを『姫様』と呼んで慕ってくれた
無邪気で、素直で、優しい子だった

だけど目の前の彼女は火傷と傷だらけのボロボロで

「村が焼かれた時、あの吸血鬼が言っていたの
姫様が『俺以外のみんなの幸せを願ったから』
罰としてみんなを殺すんだって

ねえ、どうして私たちの幸せなんか願ったの?
姫様が願わなければ、みんな殺されずに済んだのに!」

ごめんなさい
あの惨劇は、あの男の卑劣を見抜けなかったわたくしの責
それでも……誰かの幸せを願う心を裏切り、貶め、踏み躙る
それを世界が是とするならば、世界の方が間違っているの

全ての罪を清める歌
もう迷わない
決して悪意に屈しはしないと




 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が視るのは、かつて彼女の領土に住んでいた幼い少女。
 領主の家に生まれ、「天使の歌声を持つ歌姫」と名高いヘルガを『姫様』と呼び、慕ってくれた子だった。
 無邪気で、素直で、優しい子。その境遇から周りに大人たちが多かったヘルガにとっては数少ない年下の、それも純粋に慕ってくれる存在。
 まるで妹ができたみたいで嬉しかった。彼女を見ていると心があたたかい気持ちになるのと同時、この世界に蔓延る闇から彼女たちが少しでも救われるよう、幸せになれるように願わずにはいられなかった。
 ――だというのに。
 今ヘルガの目の前にいるのは、火傷や無数の傷でぼろぼろになった彼女の姿だった。何度も繕ってもらって大切に着ていたお気に入りだという服は引き裂かれ血と煤で染まり、大きな眸は炎の照り返しでぎらぎらと光っていた。
「村が焼かれた時、あの吸血鬼が言っていたの。姫様が『俺以外のみんなの幸せを願ったから』罰としてみんなを殺すんだって」
 吸血鬼らしいといえば、そうなのかもしれない。気に入らないものは、排除する。彼らからすれば、肉体も知性も劣る人間たちなど、戯れに獣を狩るのと大差がないのだろう。
「ねえ、どうして私たちの幸せなんか願ったの? 姫様が願わなければ、みんな殺されずに済んだのに!」
 聲を荒げた直後、少女は喉を抑えて噎せ込んだ。苦しさとやるせなさに涙がぼろぼろと溢れ、地面に吸い込まれていく。――どうして、と消えそうな聲でもう一度呟いた。
「……ごめんなさい」
 少女の非難を、ヘルガは静かに受け止めた。
「あの惨劇は、あの男の卑劣を見抜けなかったわたくしの責。それでも……」
 ――誰かの幸せを願う心を裏切り、貶め、踏み躙る。
 それを世界が是とするならば、世界の方が間違っているの。
「……でも、でも、姫様の理想のために、私たちは殺されたのよ……? 苦しいの。痛いの。あれからずっと……」
 これは、まやかしだ。ヘルガには分かっている。
 だが同時に、この聲を忘れてはならないとも思う。
 悪が跋扈する闇の世界で正しくあるためには、強くなければならない。力量の伴わない理想は蹂躙され、悲劇を生む。
「主よ、どうか……」
 紡ぐのは、全ての罪を清める歌。
 亡者の魂への白き慈愛を、それを騙る過去には裁きの光を。
(「わたくしは、もう迷わない」)
 懇願の眼差しを向けたまま消えていく少女の幻影にそっと祈りながら、ヘルガは決意する。
(「どんな悪意が降りかかろうと、決して屈しはしない」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

蒼・霓虹
目の前に居るの

わたしに全てを託した
霓さんと虹さんみたいですけど
鏡……角も尻尾も

わたしは何の変わりなく

『ファーな女性の人が霓で、霓さんに騎乗されてる完全龍体の東洋龍が虹さんでしょうか?両方ともピンクで』

偽物ですね

『断言したっ!?』

もし本物なら
わたしの体に変化がある筈ですし

[POW]
ここは王子様と一緒に【集団戦術&団体行動】で合体技の提案を

わたしがUC【高速詠唱】で真の姿に攻撃力重視でなり【高速詠唱】で〈ヒーツァンユエグァン〉の【弾幕】を【属性攻撃(鏡)】付与し【範囲攻撃】で撒き【念動力】で操作するので

王子様は弾幕にUCを撃ち、光を乱反射させ増幅させて敵にお願いします

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]




「あれは……霓さんと虹さん?」
 今、蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)という名で呼ばれている竜神が神ではなく、ひとりの少女だった頃。信仰を失い窮地に陥っていた二柱の虹龍と出逢い、未来を託される形で融合し力を授かったのだという。
『あれが話に聞いていたお二人ですね。確かに少し面影があるというか』
 二柱と、二柱の名を継いだ霓虹を交互に見比べるのは、霓虹の相棒である猟機人の彩虹だ。
『ファーな女性の人が霓さんで、霓さんに騎乗されてる完全龍体の東洋龍が虹さんでしょうか? 両方ともピンクで』
「偽物ですね」
『断言したっ!?』
 何で云いきれるんですか、と驚く彩虹に、霓虹はほら、と己の角や尻尾を示してみせた。もう片方の手には小さな手鏡。己の姿を確かめたのだろう。
「もし本当に霓さんと虹さんが現れたのなら、わたしの身体と分離したということになります。そしたら、わたしの身体に変化がある筈です」
『確かに、霓虹さんの姿はいつものままですね』
 さすが、と頷く彩虹。霓虹は傍らの王子へと声をかける。
「もしよかったら、『幸福』の合体技といきましょう」
「今度は味方同士だね」
 同じ平和を願うからこそ、剣を交えた時の会話。あの時を思い出しながら、霓虹は真の姿を解放する。
 二柱の加護をより強く受ける姿だ。霓虹の体表は霓のようなピンク色の羽毛で覆われ、彩虹のボディも不思議な紋様を纏っていく。
 掲げるマジックカードは「ヒーツァンユエグァン」。浄化弾幕が辺りに張り巡らされ、きらきらと鏡のように瞬いては幻影の目を眩ませる。
 二柱の姿で紡がれる甘言も、霓虹の胸には届かない。もっとしあわせで、もっと残酷なまやかしなら、他ならぬ黄金色の相棒によって見せられたばかりだ。
「組織の人達が『変わらなかった』未来ならまだ有り得たかもしれませんが、霓さんと虹さんがわたしを黄泉に誘うことは絶対に起こりませんからね」
 信仰を失い、力の殆どを失い窮地に陥って尚、ひとりの少女を絶望から救い出してくれた幸運の化身。その力を最大限に引き出せるよう、霓虹は護りを棄て、鏡に込めた浄化の作用を強めていく。
「道はわたしが作ります。遠慮なくぜんぶぶつけてください」
「わかった」
 王子が放つ光は、あのとき霓虹が乗り越えた『幸福』。理性を破壊するほどの幸福が霓虹の力によって乱反射し、増幅されて骸魂へと襲い掛かる。
 心を覗き込み、想いを利用するだけのオブリビオンには、王子と霓虹、それに彩虹の操るしあわせに抗えるほどの精神力がある筈もなく。
 うつろな笑みを浮かべたまま、骸の海へと還っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 斯くしてまやかしは払われ、残ったのは黄泉と幽世を繋ぐまぼろし橋だけ。
 橋そのものに骸魂のような悪意はない。カタストロフさえも身近なこの世界の不安定さが、時に黄泉へと通じてしまうだけ。
 けれどそれを放置していれば、事情を知らぬ妖怪が渡ってしまわぬとも限らない。

「だから、もう少しだけ手を貸して欲しいんだ」と王子。
 この橋に佇んでいれば、やがて「死んだ想い人」が現れるのだという。それは幻影かも知れないし、真実その人であるかもしれない。
 ただひとつ確かなのは、黄泉の者と生ある者が世が明けるまで語らえば、橋は浄化され消えていくということ。
 ――語らえば、とは云ったものの、必ずしも言葉である必要はない。想いを交わし合うのに、沈黙が何よりも雄弁である事もあるだろうし。
 心のわだかまりを払うために決闘じみたことを……有り体に云えば「拳と拳で語り合う」必要があるなら、それもいいだろう。
 丁寧に想いを重ね合えば、きっと。

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 プレイングは6/14(月)朝8:31~受付開始です。
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インディゴ・クロワッサン
(容姿は前章と同じ)
「死者、ねぇ…」
(指定UCが発動し、目のハイライトが消える/発動した自覚無し)
何も語る事無く、三対六翼を生やしていきなり先制攻撃。
無造作に振り回した愛用の黒剣は相手のカトラリーで武器受けされるものの、気にせず羽で飛び上がってから衝撃波を放ちつつ、近づいてなぎ払いの二段構え。
『■■■様…ッ!』
防ぎきれずに体制を崩しながら名前を呼ぶ相手の声も無視して、表情を一切変えずに破魔を纏ったサムライブレイドに持ち変えたら、横に切り払って、はいおわり。
破魔の反動もあって、全部終わった頃にやっと理性が戻ってくるけど
「…はっ!? え?居ないんだけどなんで!?」
なーんも覚えてないんだよなぁ…




「死者、ねぇ……」
 足を踏み入れれば、ぼんやりと佇む人影が目に入る。
 インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)を迎え入れる『彼』は骸魂の化けたものではなく、まぼろし橋が呼び寄せた『彼』。
 曖昧な記憶の奥の奥。孤独だった少年がほぼ唯一関わりを持っていたといってもいい、黒髪の青年。
 ――ああ、けれど。
 彼が言葉を発するよりも先、インディゴの双眸から光が消えていく。我先と暴れ狂うように顕現した三対六翼がはためき、黒剣が『彼』めがけて振り下ろされる。
『っ……!』
 驚愕の表情を浮かべた『彼』が、なんとかカトラリーで剣を受け止めた。刃の直撃は避けたが体勢を大きく崩し、反撃も次の防御動作さえも出来そうにない。
 ああそうだ、こいつは優秀だが戦闘向きではなかった。『インディゴ』が知らない筈の思考が脳裡をよぎる。
 だが過ぎ去った過去も、インディゴという男の理性も、藍に染まった吸血鬼を止める事などできはしない。
 衝撃波が『彼』の身体を吹き飛ばす。欄干に叩きつけられた身体めがけ、藍薔薇宿る黒剣が振るわれた。
『■■■様……ッ!』
 彼が何かを叫んでいる。何か――『インディゴ』ではない名。
 血が。噴き出る。あの時吸い尽くしてやったはずなのに。
 凄惨な光景にも血の匂いにも、今のインディゴは嫌悪も恍惚も示さなかった。ただ淡々と三日月藍染を抜き、刀身に破魔の力を巡らせていく。
 破魔。人類に牙を剥く過去の怪物たちを祓うもの。
 だがそれを振るうインディゴの何とおそろしく、そして美しいことか。
『どうして……貴方は、あの時も……』
 疑問は、『彼』を蘇らせる軸となるものだった。
 同じ所に堕ちてくるその時を、ずっと待ちわびていたのに。どうして――。
 だが『彼』がすべてを言葉にするよりも速く、一閃が彼の命を奪っていた。


「……はっ!? あれ……?」
 びくっ、と全身を振るわせてインディゴが覚醒する。光の戻った眼できょろきょろと辺りを見回すが、確かに見たはずの人影はそこにはいなかった。
 黄泉に還ったひとは飛び散っていたはずの血も、その匂いも連れ去ってしまっていた。橋の欄干にほんの少しだけ罅が刻まれていたが、昏さもあってインディゴは気づかなかった。
「え? 居ないんだけど……なんで!?」
 暫くそこに佇んでみても、『死者』が再び現れることはなく。気づけば東の空が微かに赤みを帯び、夜明けの時を告げている――ということは、もうすべては済んでしまったのだろうか。
「なーんも覚えてないんだよなあ……」
 ただ釈然としない思いを抱えながら、インディゴは橋を後にしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
ああ
村衆で一番の生真面目で頑固で
そしてからかい甲斐のある男。

遠い昔話だ。

「どうか、ヒトを喰ってくれるな」
「ならば代わりにお前を喰うが?」
「かまわん」
その時はからかいのつもりであった。
まあ、人喰い狐とも知らず
助けてくれた村の者達を喰う気もなかったが。

その後、男は共に赴いた悪鬼との戦いで
死にかけながらも助けも請わずに我に願った。
我が男を喰らうかわりに、もうヒトを喰わぬことを。
月が綺麗な晩であった。

王子殿。
こいつを、彼岸花を一輪 あの男に渡しておくれ。
それで十分である。

まぼろし橋に影ふたつ、顔を合わさず声交わさず
天に浮かぶ月に想い馳せ夜明けまで仰ぎ眺めていよう。
同じ月を見られるだけでも過ぎた願いよ。




 遠い昔話だと、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は云う。

 村衆で一番の生真面目で頑固で、そしてからかい甲斐のある男。
 元より悪戯好きの性分がある妖狐にしてみれば、何事にも真っ直ぐな男の反応は随分と楽しく、そして好ましいものだった。

「どうか、ヒトを喰ってくれるな」
 そう男は云っていた。人喰い狐とも知らず助けてくれた村の者達を喰う気など毛頭なかったが、妖狐は片眉を持ち上げながら問うた。
「ならば代わりにお前を喰うが?」
「かまわん」
 間髪入れずに返ってきた言葉。くつくつと喉を鳴らす妖狐を、何がおかしいのかといった様子で男が不思議そうに見ていたものだった。

 それから、男は死んだ。
 共に赴いた悪鬼との戦いで致命傷を負った男は、散り際にもう一度同じことを云ったのだった。
 ――この身体なら差し出そう。だからもう、ヒトを喰わぬと誓ってくれ、と。
 喋るたびに痛みで貌を歪ませながら、それでも助けも請わずに妖狐に願うのだった。
 最後まで、男は生真面目で、頑固だった。
 悪鬼の去った静寂。澄んだ空気。月が綺麗な夜だった。
 今日のように。

「……王子殿」
 あの時と同じ姿をした稲見之守は、手にした彼岸花を王子へと差し出した。
「こいつを一輪、あの男に渡しておくれ」
「きみが渡さなくていいの?」
 目を瞬かせる王子に、稲見之守はゆっくり頷いた。
 その表情を見た王子はわかったと頷き返し、橋で待つ人物の元に歩いて行った。
 王子と彼が言葉を交わしている気配。繊細な細工のような花が渡されて、王子がそっと踵を返す。じゃあ、と稲見之守に手をあげて、そのまま橋から離れていった。
 それから夜が明けるまで、稲見之守はぼんやりと月を仰ぎ眺めていた。
 橋に佇むひとの気配はずっとつかず離れずの距離に感じていたが、向こうも声をかけてくることはなかった。
 ただ心地よい懐かしさだけが、そこにあった。

 まぼろし橋に影ふたつ。顔を合わさず声交わさず、天に浮かぶ月が夜明けに溶けるまで、静かに眺めていた。
 ――同じ月を見られるだけでも過ぎた願いよ。
 それ以上が必要だとは、稲見之守は思わなかった。

 やがて東雲の時が訪れ、水面を揺らす風が彼の気配を攫っていった。
 ただ一度だけ、稲見之守はちらりとそちらを向いた。彼の姿も、彼に贈った彼岸花も、綺麗さっぱりと消え失せていた。
 ふ、と笑んで稲見之守も踵を返す。
 その後ろで、黄泉へと連なる橋も静かに消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャオロン・リー
「茶会をしないか、シャオロン」
頭領の声は穏やかやった
気まぐれで開く茶会
甘ったるい紅茶と茶菓子で、偶にやっとったっけ
呼ばれた事も何度かあった
その度に頭領は夢を語ってくれた
組織内で暴れ散らしとっても、これだけは邪魔せぇへんのが暗黙の了解やった
せやけど頭領、ここには茶ぁも茶菓子もないねんで?
「なに、茶請けならあるさ」
そういって指をさす上にあるのは、まんまるのお月さん
しゃあないな、言うて隣に立って

「そろそろ、自分虐めもやめたらどうだ」
ああ、そう言うなら
ほんまにあんたは「ほんもの」なんかもな
けど無理や
もうしばらく無理や
誰が俺を許しても、俺が俺を許せへん
「前を向いてくれないか、私達の暴れ竜」
ごめんな、頭領




「茶会をしないか、シャオロン」
 穏やかな聲が、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)の耳を打つ。
 一瞬、まるで景色までもがあの時に戻ったかのような錯覚がした。甘い紅茶の香りが脳裡をくすぐり、湯気の向こうに『頭領』がいる――。
 実際には、頭領は橋の上に立っていた。あの時と変わらぬ姿で。あ、とシャオロンは小さく声をあげた。まだ自分が幻覚の中に閉じ込められている気がしたが、どうやらここではこれが現実であるらしい。
(「茶会、か」)
 懐かしい響きだ。頭領が気まぐれで開いていた。
 好き嫌いが分かれそうな甘ったるい紅茶と茶菓子。組織内でいくら暴れ散らしても、これだけは邪魔しないというのが暗黙の了解だった。
 その度に頭領は夢を語ってくれた。それを聞くのがシャオロンは好きだった。
「せやけど頭領、」
 あの時のまま穏やかに笑む頭領に倣い、シャオロンも何事もなかったかのように快活に笑うのだった――笑えているだろうか?
「ここには茶ぁも茶菓子もないねんで?」
「なに、茶請けならあるさ」
 そう云って頭領が指差すのは空。まんまるの月が辺りをやわらかく照らしている。
 つい先日まで繰り広げられていた二世界を巻き込む大規模戦争では、世界崩壊の幼生がここから生まれていたなど嘘のように。
 世界が変わっても姿の変わらない月は見慣れた姿で、だからこそ不思議な光景に見えた。
「しゃあないな」
 肩をすくめて、シャオロンは頭領の隣に立つ。
 あの時の咎めるような顔が頭を掠めて、ぎゅっと手に力が籠った。そんなシャオロンの方をちらりと見ながら、頭領は云う。
「そろそろ、自分虐めもやめたらどうだ」
 ――ああ。
(「ほんまにあんたは「ほんもの」なんかもな」)
 その言葉はシャオロンが望んでいる断罪ではなく、部下想いの頭領が云うだろう言葉だったから。
 黄泉との境を越えてまでそう願ってくれるなら、応えたいという気持ちは勿論あった。けれど。
「…………」
 無理や。もうしばらく無理や。否定を口にして頭領を傷つけたくなくて、沈黙を押し通すのがやっとだった。
 頭領が、組織の皆が、許してくれたとしても。
 他ならぬ自分自身が、まだ自分を許せていないのだから。
「前を向いてくれないか、私達の暴れ竜」
 声は穏やかで力強く、月光は全てを優しく照らしていた。
 この光が朝に呑み込まれるまで、こうしていられる。
 伝えたい事は、山ほどあったはずだったのに。
「……ごめんな、頭領」
 それだけを絞り出すのがやっとだった。
 自分のしたことも未だ許せず、それによって頭領の想いを踏み躙ってしまう自分もまた、許せなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ビスマス・テルマール
もし……わたしの両親がすり変わり、殺されたのだとしたら

やはり……ですね。

でも、お父さんもお母さんも
学校のクラスメイト達も、成り代わった輩達のわたしに対する所業を知らないんでしょうね

『ビスマス!?……ひょっとしてビスマスなのか?いや、それにしては背丈が』

『あの時、ビスマスだけは居なかったでしょう?あの大惨事には、あのまま成長したら、こんな感じじゃないのかしら?』

そうですよね……お母さんが手招きして、ビスマスなんでしょうと?

事実を告げるのは、酷でしょうし
偽物の所業は伏せて、本人だとは名乗っても良いんで……

(考えてる内に母親に抱き寄せられて)

あれ?眼になんでか汗が入って……。

※アドリブ掛け合い大歓迎




 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が両親だと信じていた二人は、全く別の存在だった。
 それにあの時すり替わってしまったクラスメイト達も。
 では「本物」はどうなったのだろうと、考えた事はある。
 そして彼らの姿が黄泉へつながる橋に見えた時、ビスマスはやっぱり、と小さく呟いた。
(「もう、みんなは……」)
 半ば覚悟していたことだ。哀しみよりも、諦めに近い感情が心に沁み込んでいった。
『ビスマス!? ……ひょっとしてビスマスなのか?』
 クラスメイトの一人がビスマスに駆け寄って来る。あの時と変わらない姿のままだ。
『いや、それにしては背丈が……?』
『あの時、ビスマスだけは居なかったでしょう? あの大惨事には』
 他のクラスメイトがビスマスを仰ぎ見る。あの時は同じくらいの背丈だったはずなのに、今では随分と小さく見える。
『あのまま成長したら、こんな感じじゃないのかしら?』
『そうか、生き延びてたんだな』
 温かく迎え入れてくれるクラスメイトたち。
 ビスマスの記憶には、成り代わった後の彼らが酷い仕打ちをしてきた日々が鮮明に焼き付いていた。
 人の記憶は、楽しい事よりも辛い事の方が強く残りやすいのだという。けれど――そうだ。あの時より前には、こうして楽しく笑いあえていたのだ。
「……うん」
 小さくうなずくと、クラスメイトたちはやっぱり、と笑顔になった。
『ビスマスだけでも生きててくれて良かったな』
『クラスのこと、誰も覚えてくれてないなんて寂しいもんね』
 口々に歓迎してくれるクラスメイトに囲まれるビスマスを、誰かが手招きしていた。大人の、女性の手だ。
『ビスマス? ……ビスマスなのね?』
 優しい声音に、ビスマスの眸が見開かれる。
「……おかあ、さん」
 その言葉に、ビスマスの母は目を潤ませながら微笑んだ。
『大きくなったのね……小さいあなたを残していなくなってごめんなさい』
 親を亡くして生きていくのは大変だったでしょう、と母は云った。話を聞きたがっているようにも見えたが、ビスマスは言葉にすることは出来なかった。
(「わたし本人だって名乗るまではいいにしても……偽物の所業を告げたら、酷でしょうし……」)
 母という立場と姿かたちを、大切な娘を苦しめるために利用されたと知ったら。
 目の前の優しそうな人に、そんな事はできない。嘘でも安心させてあげられるような言葉をかけるべきだろうか。
 考え込んで沈黙してしまったビスマスを、母が抱き寄せた。
(「あ、この匂い……知ってる」)
 懐かしい、と感じた瞬間、ビスマスの眼がつんと痛んだ。
 視界が潤む。
(「あれ? 眼になんでか汗が入って……」)
 今は夜で、こんなに涼しいのに、どうして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蒼・霓虹
わたしの角と尻尾が消えて
彩虹さんの姿が虹さんに変わって
霓さんがその上にっ!?

「いやはや、僕達もまたシャオビーちゃんと顔を合わせると思わんかったなぁー」

「虹、はしゃぎすぎですよう、わたし達もまたビーちゃんと話せる時が来るとは思わなかったけど

ずっと活躍、魂の中から見守ってました、立派に虹龍やってるじゃんと」

これまでの事全部見てたんですか?

「意識はありますし……ビーちゃんの夢の方は、わたし達の全盛期まで信仰集めれば、何時かは表に出す目処が立ちますよう」

「まぁ、信仰復活とシャオビーちゃんの夢の前祝いに一杯やろうや、食べもん飲みもんは僕達が出すで、ビーちゃんの運気使ってな」

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]




 頭と腰に感じた違和感。
 あれっ、と手をあててみると、蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)にあったはずの角も尻尾も消えていた。
「彩虹さん、わたし……」
 相棒のロボット、彩虹に声をかけようとした霓虹は、その目を更に見開くこととなる。彩虹の姿はかつての竜神――『虹』に変わっていたのだから。
 そしてその上に身体を預けているのは、同じく竜神の『霓』。
 霓虹の名を授けてくれた二柱が、こうして再び姿を現したのだった。
「いやはや、僕達もまたシャオビーちゃんと顔を合わせると思わんかったなぁー」
「虹、はしゃぎすぎですよう、わたし達もまたビーちゃんと話せる時が来るとは思わなかったけど」
 もう呼ばれる事の無くなったかつての名で、二柱は霓虹を呼ぶ。あの時少女に共感し、未来を託してくれた時のように。
「ずっと活躍、魂の中から見守ってました、立派に虹龍やってるじゃんと」
「……見てたんですか?」
「うんうん、ずーっと見とったよ」
 猟兵として数多の世界を巡り戦場を駆けまわる『霓虹』。戦友や友人を得ても、心に密かに宿した願いはずっと秘めたままだった。
 本質的には、自分は独りぼっちなのではないかと思うこともあった。かつて全てを失った時のことを思い出せば、それも仕方ないとどこかで諦めていた。けれど、違ったのだ。
 あの時意気投合し、少女の夢に共感してくれた二柱は、力だけでなくその魂も、ずっと霓虹に寄り添ってくれていたのだった。
「意識はありますし……ビーちゃんの夢の方は、わたし達の全盛期まで信仰集めれば、何時かは表に出す目処が立ちますよう」
 ――全盛期まで。
 人々に忘れられた妖怪や神の住むこの世界に生きる霓虹は、それが決して楽な道のりではないことを知っている。
 けれど虹龍の力と猟兵の力を持つ霓虹は、それが不可能ではないことも知っている。現に世界を護り抜いた『猟兵』を妖怪たちは応援してくれているし、それに何より、自分には誰よりも力強い二柱がついてくれているのだから。
「まぁ、信仰復活とシャオビーちゃんの夢の前祝いに一杯やろうや、食べもん飲みもんは僕達が出すで、ビーちゃんの運気使ってな」
「元々の虹龍であるお二人に幸運を披露するというのは、ちょっと緊張しちゃいますね」
 えへへ、と頬をかく霓虹に、二柱は顔を見合わせて笑った。つられて霓虹も笑うのだった。
「心配しないで。ビーちゃんの頑張りは、わたし達がよーく知ってますよう」
 でも今日は神としてではなく、ひとりの少女として心行くまで楽しんで欲しい、と。
 そんな願いの元、楽しいひと時が始まるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
想い人:父

警察官の父は、霊感も殆んど無かった
それでも
母と私の話は、どんな嘘みたいな事も全部信じてくれた

きっといつか父のように、理解してくれる人に出会えたら
そう願い続けた


あのね、お父さん
私の話…また、聞いてくれる?
学校での辛かった話も
猟兵としての話も

それから…この前から考えてる事があるんだ

背中を押してくれたまま
残ってしまった薄荷さんの事を想いながら

断られるかもしれない
迷惑って言われるかもしれない
それでも、ちゃんと…伝えてみたいの
私の、お姉ちゃんになってくれますか、って
あっ、勿論養子とかじゃなくて、その…
気持ち的なやつ、ですけど…
お父さんからもね、応援…してほしいの
もう一度私に、勇気を…ください




 あの時百鬼・智夢(慈愛の巫女・f20354)の背中を押してくれたように、千夜子はまた、笑って智夢を送り出してくれた。
 視線の先には父がいる。優しく、時には厳しく智夢に接してくれた父が。
 警察官だった父には霊感と呼べるものは殆どなかった。それでも、巫女の血を引く智夢や母の話をどんな嘘みたいな事も全部信じてくれた。
 視えるものが違っても、クラスメイトのように気味悪がったり、その反動で攻撃的になるような人達ばかりではないのだと、智夢は父から学んだ。
 ――きっといつか父のように、理解してくれる人に出逢えたら。
 ずっとそう願いながら、辛い日々を耐え続けていた。

「あのね、お父さん」
 気を抜いたら、いろいろな想いが溢れだしてしまいそうだった。一度泣いてしまったら、話も出来ないほどに抑えきれなくなってしまいそうだった。夜が明けるまでという制約は何と短いことだろう。
 振り返る父はあの時のままだった。どんなに忙しくとも、智夢の話に耳を傾けてくれた父。
「私の話……また、聞いてくれる?」
 勿論と父は頷いた。いろいろな事があったよ、と智夢は語りだす。
 父が死んでから虐めが加速し、辛い日々を送っていたこと。
 猟兵という、智夢と同じように不思議な力を持つ者達と一緒に、いろいろな脅威に立ち向かっていること。
 父が遺してくれたテディベアが、今でも智夢を護ってくれていること。
 楽しい事ばかりではない。虐めに命がけの戦場、父を心配させてしまいそうなことも、正直に話した。
 父は静かに聞いてくれていた。人一倍他者に気を遣いがちな智夢が自らの辛さを打ち明けるのに要した勇気を、受け止めてくれているように。
「それから……この前から考えてる事があるんだ」
 頭に浮かぶのは千夜子のこと。
「断られるかもしれない、迷惑って言われるかもしれない。それでも、ちゃんと……伝えてみたいの。私の、お姉ちゃんになってくれますか、って」
 あっ、と自分の言葉に慌てたように、智夢は小さく声をあげた。
「あの、勿論養子とかじゃなくて、その……気持ち的なやつ、ですけど……」
 父はふっと笑って、わかるよ、と頷く。
 それからこう付け加える。智夢がお姉ちゃんになって欲しいと願う子なら、きっといい子なんだろう、と。
「うん、明るくて、優しくて……辛いときは支えてくれて、楽しい時は一緒に楽しんでくれる……とっても、素敵な人だよ」
 父は安心したように笑っていた。つられて智夢も笑顔になった。
「お父さんからもね、応援……してほしいの。もう一度私に、勇気を……ください」
 智夢なら大丈夫、と父は智夢の頭に手を置いてくれた。
 あたたかくて、力強い手だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
静けき橋の上に佇む、見覚えのある幼い少女
先刻のような敵の罠ではないと認め、今度こそその名を告げる
アマーリア
身なりこそ質素なものの、五体満足で痛々しい傷はない

幻影でもいい
本物なら尚更告げなければならない
たとえ許されなくても
取り返しがつかなくても

ごめんなさい
わたくしの『理想』が、あなたたちを巻き込んでしまった
それでもわたくしは理想を捨てるわけにはいかない
それは幸福を諦め、暴虐と悪意の奴隷になる運命を認めることだから

いつか必ず、仇敵ジョヴァンニ・メスキーノを討つ
そして故郷に平和を取り戻す
今後こそ、人々が理不尽に泣く世を作らぬために

だから今はせめて
あの日の優しい歌を


アマーリアの反応はお任せ
アドリブ◎




 静けき橋に佇むのは、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)にとって見覚えのある、そして先程も見せられた少女の姿。
「……アマーリア」
 あの世界を生きる子供であったから、身なりはとても質素だ。けれども先ほど骸魂が化けたものと違い、五体満足で痛々しい傷もない。
「姫様」
 懐かしい声と共に、アマーリアが振り向いた。零れ落ちそうな涙を必死で堪えながら、ヘルガは声を絞り出す。
「……ごめんなさい」
 脳裡に浮かぶのは先程の光景。あれが悪趣味な作り物だとしても、自分の決断が彼女たちの何もかもを奪ってしまったことには変わりない。
「わたくしの『理想』が、あなたたちを巻き込んでしまった。それでも……」
 だから、告げねばならないと思った。たとえ、あの時のように糾弾されたとしても。
「わたくしは理想を捨てるわけにはいかない。それは幸福を諦め、暴虐と悪意の奴隷になる運命を認めることだから」
「姫様、あのね。……あの時、痛くて、苦しかったの」
「……ええ」
「お父様も、お母様も、みんな死んじゃった。どうして、って思ったの。わたし達は吸血鬼にひどいことなんてしないのに、吸血鬼はどうしてひどいことするんだろう、って」
「ええ」
「でもね、それは吸血鬼がしたことだから、姫様は間違っていないよ」
 ――は、と貌をあげる。大きな眸が、真っ直ぐにヘルガを見上げていた。
 これは幻影だろうか。自身の心にあるわだかまりが、心の奥で云われたいと思っている言葉が、橋を鏡のようにして跳ね返って来ているだけではないのか?
「わたしはね、みんなのことを大切にしてくれる姫様が大好きなんだよ。今までも、これからも」
 でも、真っ直ぐに慕ってくれるその言葉も、質素な身なりの中で宝石のようにきらきらと輝く瞳も、あの頃のままで。
「それに姫様なら、悪いやつを倒してくれるよね?」
 そう云ってアマーリアは、少しだけ悪戯っぽく笑うのだった。
「わたし、知ってるよ。あのね、お空から見てたの。姫様には、強くて勇敢な剣士様も一緒なんだよね」
 だから絶対負けないよ、と小さな手をぎゅっと握って云う。
「……ええ」
 ヘルガは頷く。
「いつか必ず、仇敵ジョヴァンニ・メスキーノを討つ。そして故郷に平和を取り戻す」
 今度こそ、人々が理不尽に泣かずに済むように。
「ありがとう。アマーリア、あなたに逢えてよかった」
「姫様、いっこ、お願いしていい?」
「わたくしに出来る事なら、なんでも」
「おうた、歌って欲しいな」
 こくりと頷いて、ヘルガは歌い出す。
 訊かずとも、彼女に捧げたい歌は決まっていた。
 あの日の、優しい歌。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モフ・ラムシュタイン
んむむっ…!ぬしは、鵲(かささぎ)!!

見慣れた童子水干姿の男子を見やれば
破竹の勢いで駆け寄ろうぞ。突撃もふんじゃ。

堅苦しい敬語は相変わらずじゃの!
その欄干に座すがよい!やはりぬしの膝枕は格別じゃ!

のう、鵲…。
わしを斯様な姿にせねば
如何に脆弱かつ定命のぬしであっても
子を成し、安寧を享受できたのではないか?

陰陽師の小間使いと知ってなお
ぬしを遠ざけなかったわしのせいじゃ。

すまぬ。

存分にもふるがよい。
わしはこの姿が気に入っておるのじゃ。
ぬしが…己の命の引き換えに
与えてくれたものだからのう。

わしの近況が知りたい?
…物好きめが!今宵だけは、寝かせはせぬぞ!

※終始もきゅもきゅしていますが、鵲くんには通じます




 薄闇を往く、白い毛玉のようないきものが一匹。
「もきゅ!(んむむっ、主は……!)」
 ふさふさ尻尾をぴいんと立てて、モフ・ラムシュタイン(いともふし・f30317)が全力ダッシュで駆け寄る先には。
 見慣れた童子水干姿の男子が一人。遠慮する必要など何もない。勢いのままに全身をぶつけても、今のモフは全身がクッションのようなものなのだから。
「ぷきゅ! ぷきゅきゅ!(鵲(かささぎ)!! 久しいの!)」
『貴方様は……!』
 鵲と呼ばれた人は目を丸くして、モフのかつての名を呼ぶ。
「(堅苦しい敬語は相変わらずじゃの! 鵲よ、その欄干に座すがよい!)」
 モフは相変わらずもきゅもきゅ云っているだけだが、鵲には問題なく通じているらしい。腰かけた鵲の上に即座に乗っかり、ぷきゅーと満足そうに四肢を伸ばした。
「(うむ、やはりぬしの膝枕は格別じゃ!)」
 そうして仰ぎ見る鵲の顔と、あの時自分に力を向けてきた彼との顔が重なって見え、モフはのう、と友に呼び掛ける。
「(鵲……。わしを斯様な姿にせねば、如何に脆弱かつ定命のぬしであっても子を成し、安寧を享受できたのではないか?)」
 この男の行く末を、モフは――かつて夜行老君と呼ばれた妖は知っている。
「(陰陽師の小間使いと知ってなお、ぬしを遠ざけなかったわしのせいじゃ。……すまぬ)」
 彼の事を想えば、もっと早く手を打っておくべきだった。
 けれどそう出来なかったのは――。
『……夜行老君さま』
 鵲が口を開く。思いつめたような顔から紡がれる言葉は後悔だろうか。謝罪だろうか。
(「ぬしが謝る事など何もないというに」)
 だからモフはその先を云わせないように――ででん、と四肢を伸ばして仰向けに寝っ転がった。
『……あの、夜行老君さま……?』
「(存分にもふるがよい)」
 雅な面影残る眉をきりっとさせ、短い前脚で鵲の腿をてしてししながらモフは云う。
「(わしはこの姿が気に入っておるのじゃ。ぬしが……己の命の引き換えに与えてくれたものだからのう)」
 鵲はしばし逡巡していたが、では、と小さく呟いてその腹に掌を乗せる。
 どこまでも指が沈んでいくのではと錯覚するほどの柔らかさ。
『……斯様に質の良い毛並みに触れたのは初めてで御座います』
 そうじゃろう、とモフは満足そうに喉を鳴らすのだった。
『そのお姿では、毛並みのお手入れも大変でしょう。今の貴方様にも腕の良い女房(召使い)がいらっしゃるのですか?』
「(ふふ、わしの近況が知りたいとな? 物好きめが!)」
 これ見よがしに桃色の肉球も見せびらかしつつ、モフは胸を張る。
「(今宵だけは、寝かせはせぬぞ!)」
 無二の友とのもきゅもきゅなお喋りは、まだ始まったばかり。


 空が明るく満ちる頃。
 橋が消えるのを見届けた猟兵達は、それぞれの場所へと帰っていく。
 辺りは暫しの寂寞に包まれ、そして朝の賑わいが訪れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月20日


挿絵イラスト