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大祓百鬼夜行㉕〜猟兵と妖怪達の夜

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●スカイツリー・ゲイン塔の頂上
 大祓百鬼夜行の御大将『大祓骸魂』。
 佇むだけで虞(おそれ)を振りまき狂愛の彼岸花は咲き乱れ。
 オブリビオン化した妖怪達を集めては、夜の空から地上を眺めている。

「愛しきUDCアース。
 あなたを思う 私の愛は揺るがない。
 だから 私は帰って来たのです」

 哀切に細めた双眸に赤々と熱を宿らせて。
 懐刀で愛しき世界を殺せば、骸の海で永遠となるのだと囁く。
 あと、ひと差しで終わる。
 揺るがぬ愛の成就を夢見て、しかし彼女は。
「猟兵たちよ 止められますか」
 あなたたちを待ちます、と告げるのだ。

●グリモアベース
「いよいよ決戦だな、準備は良いか」
 クック・ルウは事の次第を伝え終えるとグリモアを展開させた。
 周辺の景色が変わり、ネオン輝く夜景が見えてくるだろう。
「すこし、嬉しい未来を見た」
 引き締めていた顔をゆるませて、クックは告げる。
「この戦いではきっと……あなた達が、猟兵が、辿ってきた道が助けになる」
 だから、どうかご武運を。
 そうして送り出された先で――。

●妖怪達大集合!
 ぷうぱっぱー! とおもちゃのようなクラクションを聞くだろう。
 走ってくるのはぬいぐるみの妖怪バスだ。
 なぜこのUDCアースに現れることが出来たのか、そんな事情は後回し。
「猟兵さぁーーーん!! おぉーーーい!!」
 バスの中から大合唱。その声達に聞き覚えはあっただろうか。

「おチビの裁縫妖怪とぬいぐるみバスが参りましたよう!」
 てんてん跳ねる小さな影があって。

「金平糖は如何でしょう。ひと粒食べれば、きっとお役に立ちましょう」
 屋台をバスに乗せた金平糖売りの妖怪が微笑む。

「お花をありがとう、今度は私共が花を届けに参りました」
 見覚えのない妖怪達も数人、花を携え手を降っている。
 骸魂から解放され姿形は変わっているが、彼女らは「百霊鎮守塔」で救われた者たち。

「さあさ、急ぎなら乗ってくださいバスが頂上までお連れします」
「『駄菓子兵器』も『デュエリストブレイド』も、ありったけ積んできましたよう!」
「『月』も『桜』も、あなた方が望めば現れましょう」
「このような夜に妖怪達が現れたのですもの」

 不思議不思議。
 目には見えない? 聞こえない?
 それでも我らはそこにいるのです。
 今宵は何が起こっても、それはきっと妖怪の仕業。

 なぁに、世界滅亡の危機なぞ何度も越えてまいりました。
 さあさあ、騒がしくやりましょう。
 切った張ったも宴会もぱあっと派手にやりましょう。

 それがきっと餞になるから。


鍵森
 一章完結の戦争シナリオです。
 皆様の活躍で拓かれた道だと思います。

●プレイングボーナス
 全ての戦場のプレイングボーナスから好きなものを選び、使用できます。

 OPに鍵森が書いた戦争シナリオに登場した面々が登場しますが、あまりお気になさらずご参加ください。
 駄菓子兵器とかお月見のボーナスもぜひご活用ください。

●ボーナスの参考までに補足
 【ぬいぐるみバス】。
 布と綿とで出来た不思議な妖怪バスです。
 下から塔の頂上まで走るので、足場などにもどうぞ。

 【屋台で売られている金平糖】。
 砂糖菓子ですが、星のようにキラキラしていたりします。
 食べるとちょっとだけ未来を先読みして行動できます。

 【散花の守り】。
 呪われた「百霊鎮守塔」の霊的防御装置。なぜかこっちでも使えます。
 花を捧げると、花が光となりあなたを守ります。

●補足2
 ⚠なお、大祓骸魂を救うことはできません。

●採用人数
 採用人数が少数になる場合がございます。
 早期シナリオ完結を優先させて頂きますことご了承ください。
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第1章 ボス戦 『大祓骸魂』

POW   :    大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD   :    生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:菱伊

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

灰神楽・綾
【不死蝶】
あ、金平糖売りのお姉さんだ
また会えるなんて嬉しいな

金平糖をかじりながら梓に語りかける
ねぇ梓
すべてを殺したい、壊したいほどの愛って梓はどう思う?
俺にはさ、あの子…大祓骸魂の気持ちが少し分かるかも
自分は永遠に何も変わることのない存在
相手はこれからも変わり続けていく存在
どうあがいても相手と同じにはなれないのなら…ってね

これまでも、誰かを強く想うが故に
世界を滅ぼそうとした妖怪たちを沢山見てきた
あの子も、矛先や手段が桁違いなだけで
きっと彼らと同じなんだろう

うん、分かっているさ
でも今までの妖怪たちと違ってあの子は救われることはない
だからせめて、あの子の存在を忘れずにいよう
それが俺たちに出来ること


乱獅子・梓
【不死蝶】屋台グルメを食べる
金平糖売りの妖怪との再会に軽く手を振り
あの金平糖が気に入っているのか焔と零も嬉しそうだ
勝負飯が金平糖になるとはな

綾の問いにふむ…と考え込み
どんな手段を使ってでも相手を自分のものにしたい、
愛する故にそう思ってしまうことはあるだろう
きっとどんな愛にも正解や間違いは無い
だが…
故郷への愛の為に、全てを滅ぼそうとした大祓骸魂
故郷への愛の為に、己を犠牲にしてでも守ろうとした親分たち
俺は、ここまで導いてくれた親分たちの想いに応えてやりたいと思う

ああ…そして俺たち猟兵はそれを止め続けてきた
当人たちの想いを引き裂くことになると分かっていても
だから今回も…やるべきことは分かっているな



 ぬいぐるみの奇妙なバスが走ってきて、しかしそこには見覚えのある妖怪が乗っていたものだから。
 足を止めてのんびりと、まるで夜の散歩中にばったり会ったように。
「あ、金平糖売りのお姉さんだ。また会えるなんて嬉しいな」
 ゆるりと微笑みかけて灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はバスへと近寄った。隣の乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)も軽く手を振る。
 すると開いたバスの扉から金平糖売りが降りてきて、丁寧な一礼をしてみせた。
「今晩はお客様。私もまたお会いできて嬉しく思います」
 耳をすませば、バスの奥からはしゃらりとあの不思議な音がする。
「さあどうぞ、こちらをお持ちになってください」
 そう言って渡されるのは金平糖を詰めたガラス瓶。流石に今この場でひと粒ずつ金平糖を選ぶのは難しいからと、予め用意されていたのだろう。
「紅白の金平糖だね。俺達に会えるって解ってた?」
 店主は未来を知る件という妖怪だった。それならそんな事もあるかもしれない。軽い気持ちで尋ねると、店主はただ穏やかに笑う。
「コーヒーはまたの機会になりそうだな」
 両肩に乗った仔竜達が、ガラス瓶を見て嬉しそうな声を上げている。
 あの夜に食べた金平糖を気に入ったのだろう。
「またいつの日かあらためて、おもてなしをさせて下さい」
 未来の話をして別れた、バスは走り出してスカイツリーを登っていく。
 星もまばらな明るい東京の夜空に赤い花が咲き乱れている。
 花の周りを妖怪達が百鬼夜行となって踊り騒いでいて、可笑しな光景だ。
「勝負飯が金平糖になるとはな」
 喉を鳴らして梓は笑った。

 スカイツリーの白いトラス部分に立って、二人は金平糖をつまんだ。
 遥か下にある地上には、星々の輝きよりも眩いネオンの海が広がっている。
「ねぇ梓」
 カリリ、かじった金平糖が舌の上に甘い香りをさせた。グレープ味。
「すべてを殺したい、壊したいほどの愛って梓はどう思う?」
 大祓骸魂は研ぎ澄ませた懐刀を携えて、今も地上を眺めているのだろうか。
 思い出の中とはきっと違う、変わり果てた世界をどんな眼差しで。
「俺にはさ、あの子……大祓骸魂の気持ちが少し分かるかも」
 自分は永遠に何も変わることのない存在。
 相手はこれからも変わり続けていく存在。
「どうあがいても相手と同じにはなれないのなら……ってね」
 のんびりとした声で言う、けれどそれは危うげな告白でもあった。

 スカイツリーを吹き抜ける風が、ひゅるひゅると鳴いていた。
 蝶のようなこの男はいつでもどこかへ飛んでいきそうな気配をさせる。
 目が離せない。
「どんな手段を使ってでも、相手を自分のものにしたい」
 少し考えてから梓はそう語りだした。
「愛する故にそう思ってしまうことはあるだろう、きっとどんな愛にも正解や間違いは無い」
 だが……と言葉を続ける。
 故郷への愛の為に、全てを滅ぼそうとした大祓骸魂。
 故郷への愛の為に、己を犠牲にしてでも守ろうとした親分たち。
 愛故に対立した二つの勢力が今決着を迎えようとしている。
「俺は、ここまで導いてくれた親分たちの想いに応えてやりたいと思う」
 自分にひと粒、ねだる仔竜たちにはふた粒ずつ渡して、金平糖を食べる。
 苦い。ブラックコーヒーのような味がした。
「親分たちか」
 義理堅く、情ぶかい答え。狂愛すら優しくて真剣に受け止めようとするのが彼らしい。
 彼が愛した相手を殺すところは想像できないなあ。と思考の片隅に過る。
「これまでも、誰かを強く想うが故に、世界を滅ぼそうとした妖怪たちを沢山見てきた」
 あの子も、矛先や手段が桁違いなだけで、きっと彼らと同じなんだろう。
「ああ……そして俺たち猟兵はそれを止め続けてきた。当人たちの想いを引き裂くことになると分かっていても」
 見上げれば今にも降ってきそうな彼岸花の群れ。
 狂おしいほどの愛が零れて咲いたような花々が思いの深さを物語る。
「だから今回も……やるべきことは分かっているな」
「うん、分かっているさ」
 俺達は、止める側だ。
「でも今までの妖怪たちと違ってあの子は救われることはない」
 骸魂に飲み込まれた妖怪達とは違って、大祓骸魂は骸魂そのものなのだ。
 倒せば骸の海へと沈んで、再び浮かんでくることもできないのだろう。
 誰からも忘れ去られて、姿さえ見せられなくなった太古の究極妖怪。
 今日が彼女の最後の夜になる。

 だからせめて、あの子の存在を忘れずにいよう。
 それが俺たちに出来ること。

 とん、と二人は軽々と跳んだ。
 トラスを飛び渡って上がれば、あの子の姿も見えてくる。
 記憶の中に刻む。この夜を、語り合った言葉を、金平糖の味と一緒に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雪白・雫
ここは…生前わたしがいた世界?
記憶の故郷と程遠く
見る影もない不可思議な景色
眩い光の海に、時代は変わったのだと感慨深く

妖怪の皆さん…ありがとう
凍らせてしまわぬよう勿忘草を風精霊の蝶に委ねて
バスの周囲には水檻の結界を

愛しいものを永遠にしたいが為、傷つける
あの時のわたしと同じ…
貴方も…この世界を愛しているのですか

金平糖を懐かしむ暇もなく食めば
ひとつ、砕いて
咲き乱れる彼岸花には氷雪の風を煽り
ごめんなさい…

失えば容易くは戻りません
道理に違えば自ずと身を滅ぼします
悔やんでも、悔やみきれないのです
こんな苦しみ…他の誰にも…

この身も妖
同族と思えば怯んでしまう
今一度、思惟を凍らせ
救えずとも…せめて、穏やかに



 記憶の故郷とはあまりにも程遠い。
 UDCアース、ここは本当にそうなのか。
 あたりの景色を見て、雪白・雫(氷結・f28570)は息を呑んだ。

「ここは……生前わたしがいた世界?」
 まるできらきらと眩い光の海を見ているようだった。
 地上の光が夜の空まで明るく照らしている。
 四角く背の高い建物が立ち並んで、車の量もあんなに多い。
 時代は変わったのだと感慨深くて。
 しかし異邦の地に迷い込んだような心細さも少なからずあった。
 だから「おぉーーーい」と自分を呼ぶ声を聞いた時、すこし安堵したものだ。
 見覚えのあるぬいぐるみバスがぷうぷうぱぱとクラクションを鳴らして目の前に停まる。
「雫さん、雫さん! お会いしたかっですよう」
「裁縫妖怪さん、いらしたんですね」
「えいやっと駆けつけましたよう。さあさあ、お乗り下さい。頂上まで一緒に参りましょう」
 あれよあれよという間にバスに招かれて。
「さあ、これをお持ち下さい。きっとあなたのお役に立ちましょう」
 まず渡されたのは、金平糖の入った袋。
「この花を受け取って、あなたの守りになるように」
「駄菓子もお食べ、飴もせんべいも美味しいよ。ついでに武器にもなるよ」
 まるで祭りのような賑やかさで、花よ菓子よと贈られるのだ。
 ほがらかな妖怪達。この為に彼等は来たのだ。この為だけに生命の危険を顧みず来たのだ。
 あの時あなた達が来てくれたから今があるのだと、だから今度は自分達の番なのだと。
「皆さん……ありがとう」
 走るバスに揺られながら、雫は勿忘草をそっと取り出して風の蝶に委ねて空に流した。
 風の精霊が凍れる力からバスを護るように光になった勿忘草を纏って飛び回り。
 水檻の結界がバスの周りに現れて、邪魔立てする者を遠ざける。

 やがてバスが辿り着いたのは彼岸花咲き乱れる塔の頂上。
 自分の力に巻き込んではいけないからと、雫はバスを降りて一人で大祓骸魂の元へ向かった。
 思惟を凍らせなくてはいけない。生半可な力では太刀打ちできない相手だ。
 この身も妖、戦う相手が同族と思うと怯んでしまう。
「それでも止めなくちゃ」
 愛しいものを永遠にしたいが為、傷つける。
 あの時のわたしと同じ……、そう思わずにはいられなくて。
 大祓骸魂の佇む場所へ駆けた、彼岸花咲き乱れる先に娘は佇んで地上を眺めている。
 家々の明かりを見るその表情は、さきほど雫が浮かべていたのと同じものなのだと気づいてしまった。
 現れた猟兵の姿に大祓骸魂は向き直って、両者はしばし見つめ合う。
「貴方も……この世界を愛しているのですか」
「ええ」
 問いかけに淀みなくうなずいて、大祓骸魂は袖を翻し虞の風を起こした。
 事前に口へ含んだ金平糖が、攻撃の軌道を報せている。
 滑るように走った。甘い口溶けを懐かしむ暇もない。
 雫の蒼い水髪は波打つように広がって、その身から迸るように発せられたのは氷雪の暴風。
 雪巻く風波が彼岸花を飲み込んで。狂おしい愛を注がれて咲いた花はたちまち凍りつき。パキリパキリ、折れて砕けて欠片と散った。自分でも恐ろしいぐらい容易く。
「ごめん、なさい……」
 哀しげに紡がれた言葉も雪に消える。
 雫のたおやかな身姿に反して、荒々しい吹雪は轟々と辺り一面を見る間に白く染めた。
 自分の力を解き放てばこうなる、草木は枯れ、生きとし生ける物は凍えて絶えてしまう。
 大祓骸魂がいくら虞を振りまこうと、身の内にある虞の方がずっと深い。
 それが雫の背負った業。
「失えば容易くは戻りません」
 思惟を凍らせなくてはならないと思うのだ。
 同族を討たねばならない愁緒に、心を揺らし怯んではいけない。
 それでも気持ちは胸の内からあふれて。
「道理に違えば自ずと身を滅ぼします。悔やんでも、悔やみきれないのです」
 震えるのをこらえた声で言葉を重ねる。瞳の奥が熱い。触れるもの全て凍らせてしまうというのに、込み上げてくる熱はどこからくるのか。
「こんな苦しみ……他の誰にも……」
「……あなたは、優しいのですね」
 その大祓骸魂の声は染み入るように穏やかなものだった。
 だからますます、もう手遅れなのだと理解せざる終えなかった。
「それでも止められますか、私を」
 未だ携えたままの懐刀を握りしめて、大祓骸魂は揺るがぬ決意を示す。
 もはやできる事は一つしか無い。
「はい、……あなたを、止めます」
 雪華の舞う夜へ死霊達を喚んだなら、あわく温かな光でもって黄泉路を示そう。

 救えないのなら。
「……せめて、穏やかに……」
 願いの込められた光が、大祓骸魂を照らし出して降り注いだ。
 まるで始まりを告げる心地のよい朝陽のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生
アドリブ歓迎

世界滅亡の危機など何度も越えたと言う言葉に思わずクスリと笑い。
そうですね、ええ、そうですとも
今度の危機も越えましょう

僕は願いを叶える竜神なれどその愛が世界を滅ぼすモノであるのならば成就させる訳にはいきません。

お花を持ってきてくださってありがとうございます。花の守りをもう一度。僕の愛する花に守られながら戦いましょう。

UC【真白き炎】
ありったけの【破魔】と【浄化】と【祈り】を
そして二つの世界を滅ぼそうとすることへの【神罰】を!



 乗り込んだぬいぐるみの妖怪バスが猛スピードで塔を上っていく。
 決戦は目の前、危険が待ち構えているというのに。
 世界滅亡の危機など慣れっこだと、妖怪達が笑うものだから。
 曲輪・流生(廓の竜・f30714)もついクスリと笑ってしまう。
「そうですね、ええ、そうですとも」
 こくん、こくん、と頷いて楽しげな気配に乗せるように首を揺らす。
「今度の危機も越えましょう」
 窓の外に視線を馳せれば、はるか遠くに家々の明かり灯る地上の景色が見えて。
 失わせてはならないと、見る度に思うのだ。

 頂上へ到着したバスを降りる流生へ乗客たちから声が掛かる。
「竜神様、私達のお花をお持ちになって」
「ご無事をお祈りしておりますからねー!」
 バスの窓から手が伸びて、次々と花が散じられ流生の上に降り注がれる。
 感謝と応援の心が込められた捧げもの。両手にいっぱい受け止めて。
「お花を持ってきてくださって、ありがとうございます」
 優しい笑みを投げかけて駆け出した。
 花の守りをもう一度。その身を包む光はやはり芍薬。僕の愛する花。
「皆さん、また会いましょう」
 きっと明日は来るから、別れ言葉は「さよなら」ではない。
 妖怪達の声援が背中を押しているようだった。

 赤い紅い彼岸花が狂い咲いている。
 その上に佇んだ大祓骸魂は流生の姿を見て、
「竜神よ。あなたは、私を笑いませんか」
 静かな口調でそのように問いかけた。
「笑いませんよ」
 慰めでもなくきっぱりと言って、説くように言葉を継ぐ。
「妖怪は時折、すこし我が侭になってしまうものですから」
 時よ止まれお前は美しい。そう言って世界を滅ぼしかけた者がいた。
 死に別れた者との再会に、駄目と理解っていても求めてしまった者を知っている。
「人間にも時折、すこし我が侭な者がいました」
 どうか自分達だけのものになってほしいと、流生へ願う者達がいた。
 それもやはり許されてはいけない願いだっただろうか。

 それでも、誰もが願いを持つ。

「心あるものは、皆そうなのかもしれない」
 すこし、と言葉を選んで紡いだ。幼い童の眼差しの奥に、深き情が覗く。
 悠久の時を掛けて人の願いを見詰め続けた者にしか解らぬ境地もあるだろう。
 だからこそ。
「……――それ故に私はあなたを止めて、裁きを下すのです」
 一転、しゅうしゅうと熱気を吐くような声を響かせた。
 紫水晶の瞳は爛と輝く。彼こそは竜なり。慈悲を持って悪を焼く神なり。
 二つの世界を滅ぼそうとすることへの神罰を与える者なり。
 どぉっと真白き炎がその身体より出て、夜を煌煌と白く照らしだす。
 その眩しい輝きを見ただけでギャッと百鬼夜行が慄き怯えて悲鳴を上げる。
 魔を、邪を、払う炎だ。熱気に炙られただけで、悪鬼悪霊は近寄ることも出来まい。
「僕は願いを叶える竜神なれど」
 しゃなりと歩くその一歩のなんと重々しいことだろう。
「その愛が世界を滅ぼすモノであるのならば成就させる訳にはいきません」
 近づく熱の気配に大祓骸魂だけは、それでも、引かない。
 それは愛故に、覚悟故に。しかしその顔にも苦悶の表情は浮かんだ。
「竜神よ。私を愚かと言われますか……?」
 絞り出された、か細く震える声。
 誰にも理解できぬような願いを持ってしまった者の悲哀を、流生は受け止めた。
「いいえ」
 そう答えた、荘厳な竜の傍に芍薬の花が揺れる。
 包み込むように柔らかな花びらが幾重にも重なった花姿は流生の心象にも似ていただろうか。
 袖を振り巨大な火焔を次々と放てば、吹きすさぶ虞を呑み込むように天翔けて。
 うねり走るような火焔は列なして、それはまるで竜の形をした炎。
 大祓骸魂は咲き乱れる彼岸花の上に立ち、懐刀を強く握りしめて竜を真正面に捉え。
 逃れることも出来ずに真白の灼熱にその身を焼かれた。

 もしもその時、夜空を見上げた人間がいたのなら。
 赤い花を散らして飛ぶ白き竜を見たのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
凛と咲く彼岸花は美しい
骸魂さんの大切にしたい想い、否定はしない
でもそのアイに
二つの世界が、皆が巻込まれてしまうなら
止めなくちゃ

ふふ、世界の解れ在る所にお二人在り
精がでるねバスさん、お針子のアリス
乗りまーす!って挙手し
骸魂さんの近くまで往ければ
お邪魔虫は得意だけど…足りない機動力
ね、皆の力を貸してね

バスさんの上に乗り
障害物は茨蔓で武器受けて弾きつつ
咲くアカに、クロの花弁で対抗を
触れた先から力を奪い
アカに染まろうとする道を守るわ
届かないならポン菓子兵器でドカーンと!
咲いて、舞って
戦う皆の時間稼ぎにもなれたら

睡魔で出来た機は逃さず
挿し木伸ばして捕縛し眠り速度に追撃を
そうして
淋しがりなアナタにお休みを



 夜空を彩る彼岸花。
 狂おしい程のアイを花に込めて零しているのだろうか。
 細い茎をまっすぐに伸ばし、凛と咲く美しい花。
 なんと鮮烈なアカの色をしているのだろう。

 降り立った場所から空を見上げ城野・いばら(茨姫・f20406)はその光景に異様な美しさを感じていた。大切に秘めた愛が花となって咲いたのなら、きっとあのような花姿をしているのだ。
 急ぎ頂上へ向かおうとしたその時。
 ぷいぱぱぱー! と呼びかけてくるようなクラクションの音がした。
「いばらさーん、いばらさーん!」小さい声が呼んでいるのも聞こえる。
 振り向いて思わず目を丸くした。
 そこに見覚えのある者たちが駆けつけてくるのだから。
「あれは……バスさんと、お針子のアリス」
 驚いたのも束の間、表情は柔くほころんだ。
「ふふ、世界の解れ在る所にお二人在り」
 乗りまーす! 大きく手を挙げたのなら、バスは駆け寄るようにやって来て停まるのだ。
 車内の乗客はワアッと歓声を上げていばらを迎える。
「バラの娘さん、私達あなたのお花に止まっていた蝶よ」「ありがとう」「あの子達の分もお礼をさせて」
 口々に感謝を伝える妖怪達、その顔には輝くような笑顔が咲いていた
 それは、これまでいばらが傷ついて少し立ち止まってもまた駆け続けたからこそある光景。
 だから今度は一緒に、と妖怪達は言うのだ。
「あの骸魂さんの近くまで往ければ、お邪魔虫できるわ」
 通せんぼをしよう。あのアカがこの世界を覆ってしまわないように。
「ね、皆の力を貸してね」
 もちろん! と沢山の声が返ってくる。
 足りない機動力もぬいぐるみバスと力を合わせたのなら向かうところ敵なし。
 走るバスの上に乗って、いばらはいつかのように屋根にバラの蔓を這わせて覆った。
「行こうバスさん、頂上へ」
 布と糸の行先表示器には『大祓骸魂』と大きな文字が踊る。
 ぷうぱっぱー! とぬいぐるみバスが走り出した。
 何しろ妖怪バスだ。自在な動きで塔をぐんぐん登っていく。
 しかし頂上へ近づくにつれ、あたりを包む異様な気配は強まり。
 大祓百鬼夜行に集った骸魂妖怪達が、走り抜けるぬいぐるみバスに襲いかかろうとしていた。

 ひひひ ようやく悲願叶う時じゃ ああそら江戸が見えるぞ懐かしや。
 帰ってきたぞ 妖怪が 帰ってきたぞ。
 そこのバス 止まれ とまれ ああ あれを往かせてはならん。
 大祓骸魂さまを お守りせい。
 屋根の上にいたいばらには、オブリビオンとなった妖怪達の囁きが聞こえてしまう。
「……うん。それでも、いばら達は進まなくちゃ」
 強く手を握り茨の蔓を鞭のように振るう。弾かれて飛び退く妖怪にバスの中から花や駄菓子が放られた。援護でもあるけれど、それはまるで死者たちへの手向けのようで。
 彼等が安らかに眠れるようにと、いばらもそっとバラの花を風に流した。
 そして辿り着いた終着点、彼岸花が咲く中心には懐刀を持った娘が立っている。
 大祓骸魂は、焦がれる熱を帯びた赤い双眸でいばら達一行を見遣り、薄く唇をひらいた。
「来ましたね。猟兵――あなたは私を止めますか」
 そう尋ねる今も虞は発せられ、足元に花を咲かせていく。
 近くで見てもやはり凛として美しい。
「骸魂さんの大切にしたい想い、否定はしない」
 いばらは真っ直ぐに大祓骸魂を見詰めて。
「でもそのアイに、二つの世界が、皆が巻込まれてしまうなら」
 不思議な薔薇の挿し木から黒薔薇の香りを漂わせて告げる。
「いばらはアナタを止めなくちゃ」
「ならば私はあなたを殺さねば、この世界と共に」
 静かな殺気を漲らせ、着物の袖を大きく振って大祓骸魂が虞を放つ。
 ぬいぐるみバスが、大きな動きでそれを避けて三輪ドリフトをしてみせた。
「いばらさーん! これを使ってくださいよう!」
「お針子のアリス、ありがとう!」
 バスの上にいるいばらへ投げ渡された駄菓子兵器はポン菓子ランチャー。
 肩に担いですばやくトリガーを引いたなら。
 ポン菓子ミサイルが流星のように飛んで空中で爆発を起こす。ドカーンと甘くて香ばしい対骸魂用特製ポンの粒が辺り一面飛び散って。
「これは……っ、驚きました」
 ポンまみれになれば、さすがの大祓骸魂だって目を白黒させ。
「ああまったく、妖怪ときたら、いつだってこうなのだから……」
 仕方がなさそうに呟いた。どこか笑っているようなそんな様子にも見える。
 その姿が、どこか淋しそうで。
「あなたは、皆(世界)が好きなんだね」いばらは小さく呟く。
 黒い薔薇の花びらが挿し木から一斉に零れ咲くように溢れて飛び舞った。
 アカに染まろうとする道をクロで塗り替えていく。
 裡にある想いで花が咲くというのなら、いばらの想いとて夜の空を覆うほどに強いのだ。
 眠りを誘う花びら、咲いて、舞って。
 瞼を降ろしそうなあの娘を蔓の茨で抱きしめよう。

「お休み、淋しがりなアナタ」
 狂おしく咲くアカを、クロの花びらが包み込む。
 騒がしくて愉快な、眠るならこんな夜がいいでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
プレイングボーナス:妖怪バスとお裁縫妖怪を危険から守る

彼らは顔見知りではないけれど、同業者達が縁を繋いだからここまで助けに来てくれた妖怪達なんだろうな
力を借りながらも危険な目にあわないようにしてあげたいよ

バスに大祓骸魂の近くまで(あまり近付きすぎないように伝える)走ってもらう
俺は屋根の上に待機、大祓骸魂に近付いたら屋根から跳躍して彼女と一気に距離を詰める
暗夜の剣を抜き斬りかかると同時にUC解放・星夜を発動
俺は大祓骸魂と剣戟を行い、水晶製の小人達が援護射撃をするように持ち込む
俺達の対処に手一杯ならバスに手を出す余裕もないよね

虞は彼女の動きを見切って回避
オーラ防御も併用して受けないようにしたい



 やあやあ そこ退けそこ退け。
 猟兵さん御一行の お通りじゃ。
 大祓百鬼夜行なにするものぞ。

 いつの間にか、妖怪達はそんな掛け声を上げ始めた。
 まるで祭りの神輿が練り歩くような、そんな様子である。
 走るぬいぐるみバスの屋根に乗ったサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は、軽く瞳を瞬いた。
「頂上に着くまでこれを続けるつもりかい」
 あまり目立つのは如何なものか、此処は決戦の場だというのに。
 はるか頭上天高くに妖気は渦巻いて、空を覆わんばかり集まった骸魂妖怪が百鬼夜行を織り成す。
 バスの進行を妨げるように降ってくるものいて、猟兵達が払っては妖怪達は窓から菓子や花やらを投げて、花吹雪じゃ餞別じゃ、と手向けるのだ。
 確かに只の花や駄菓子ではないから、援護射撃のようなものだけれど。
 それでもあまり落ち着かない光景だ。
「へへ、旦那。いっそここまで派手にやれば。陰気な連中は寄ってもこれねえんで」
 と、バスの屋根に取り付いた妖怪が言い。
「そういうものなのか」
「左様でございますとも」
 妖怪達は人から向けられた感情を糧とする種族なのだという。
 月見や宴会に払われてしまう骸魂もあったぐらいだから、一応は根拠のある話なのかもしれない。

 そーれいそーれい!
 ぬいぐるみバスに轢かれるな やい!
 布と綿であんまり痛くないけど気をつけろ よい!

「笑わせようとしてるのかな、これは」
「あっしらぁ……仏頂面より笑顔が好きなもんで。へへへ」
「そうだと思ったよ」
 彼等は顔見知りではない、バスに乗り合わせて知り合った仲、と言えばいいのだろうか。
 同業者達が縁を繋いでくれたから、ここまで助けに来てくれた妖怪達。
 なんだか感慨深いものがある。
 もしかしたら、いずこかの世界でサンディと縁を持った者達も、どこかで誰かの力になろうとしているのかもしれない。
「此処まで、よく来てくれたね」
 サンディが笑みを浮かべて伝えると、妖怪はなんだか満ち足りたような顔をするのだ。
 小さな花のような妖怪だった。金平糖のような花をつけ、青い光を帯びた姿をしている。
 危ないからバスの中へ入っているよう促しても、のらりくらりと此処に留まり続けて。
「……君と縁があったのかな」
 今宵は妖怪達の夜、なにが化けて出るかもわからない。
 狐狸の変化か、夜の幻かもしれないが。
 縁があればきっと一輪の花でさえ、やって来ようとするのだろう。
 彼等の力を借りよう、けれど危険な目に合わせないようにしてあげなくては。

 やがて辺りは赤い彼岸花咲き誇る電波塔の頂上へとたどり着く。
 中央には虞を発し佇む大祓骸魂の姿。
「あまり近付きすぎないように」
 屋根を軽く叩いて、注意をしてやれば。ぷうぱ! なんてクラクションが答える。
 それでもバスはギリギリまで距離を詰めて走るようだった。
 剣を構えてぐっと腰を下ろした姿勢から、間合いを測り。……一、二、三!
 勢いをつけてサンディは跳躍した。
 スカイツリー上空に身を投げし、天翔るその身は流星のごとく。
 【 解放・星夜 】!!!
 青に輝く水晶の生き物たちが喚び出されて共に舞う。
 間合いを一気に詰めると、サンディは大祓骸魂めがけて抜き払った剣で斬りかかった。
「私を止められますか、猟兵」
「止めるよ……繋いだ縁を途絶えさせたくはないからね」
 かろうじて唐傘で攻撃をしのいだ大祓骸魂は赤々とした眼差しをサンディへ向ける。
 こちらに手一杯になるぐらいに、乱撃を見舞う。丁々発止だ。
 激しい斬撃を受けながら大祓骸魂も虞を放ち、心を試すように脅かしては、ぐるぐるともつれ合うようにサンディとの間合いを取ろうとする。
 離れるな、喰らいつけ!
 攻撃を見切る、眼をカッと見開いたままオーラを滾らせ踏み込んで。
 至近距離へ迫れば、周りを飛び回る水晶も、その激しい虞れに次々と身代わりとなって砕けて彼岸花の上に破片を散らした。それでも足を止めない。
「虞れを知らぬのですか、人の子よ」
「危険から守ると決めたからね」
 だから引けないのだと笑む、そのずっと後ろには走り回る妖怪バスの姿があった。
 己に向けられた人の感情を糧にする妖怪は――大祓骸魂は、瞬間言葉を失ったように動きを鈍らせた。
 すかさず、暗夜の刃が滑るように奔る。
 ドッ、と貫く感触。
 足元にあった赤い彼岸花が衝撃に飛び散って、夜に零れた。

 わっしょい わっしょい
 青い星の猟兵さんがやったぞう。
 勝ち鬨あげろい わーっしょい!

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

ふわり漂う花の香
見上げれば見覚えのない妖怪達
「百霊鎮守塔」で救われた者たちだと知れば、心から嬉しく思い瞳細め
──ああ、よかった。救われたんだな。
俺も彼女達の力に少しはなれただろうかと胸中独言て

…桜の花を思い浮かべる
『まぼろしの橋』にて大切な人と再会出来たときに咲いていた花
彼の愛おしい熱を思い出す
不意に手の内に熱を感じ、開いてみればそこには予想した通りの愛しい桜の花、一輪
瞳を細め、閉じる。瞼裏に甦るは大切な彼の声、姿

やってやろうぜ、と豪胆な彼の声に押される様にやがて瞼を開け
この掌から桜の花を解き放つ

──もう誰も、喪いたくないから。
この一閃にて、彼女を迎え討つ。



 猟兵さん 猟兵さん。
 こっちよ上をご覧になって。

 柔らかな声と共に、花の香がふわりとした。
 見上げれば花を抱えた妖怪達が空から降りてくる。
 その姿に見覚えはないはずだったけれど、なにか心に引っかかるものが合った。

 私達は「百霊鎮守塔」でお会いした者共。
 今度は私達がお花を届けに参りましたのです。
 来てくれてありがとう。ありがとう、本当にありがとう。

 口々に礼を言いながら、妖怪達は花を手から零して捧げる。
 柔らかな光へと変わった花がはらはらと降り注いで。
「――そう、か」
 かすれた声で丸越・梓(月焔・f31127)は呟いた。
 ああ、よかった。救われたんだな。
 無事に元気で笑う姿に、只々安堵が込み上げてくる。
 俺も彼女達の力に少しはなれただろうかと、そう思ってもいいだろうか。
 自惚れてはいけないと心は律される、けれど花の香も光も優しく感謝を伝えてくるのだ。
 こんな危険な場所にまで伝えに来てくれたのだ。
 なにか、気の利いた返事の一つでもできればいいのに、いまはどうにも上手く口が回らない。
「……どうか気をつけて」
 ややあって、漸くそれだけを言って梓は彼女達と別れた。
 スカイツリーの白いトラス部分を跳躍し上を目指せば、夜闇を翔ける梓の目の端でネオン輝く夜景が流れていく。
 もうすぐ世界の命運を賭けた最後の戦いに決着がつく。
 世界を狂愛した女の刃を止めてやらなくてはならない。
 その為に駆け回った世界で――そう、そこにはいつも桜の花があった。
 『まぼろしの橋』での光景が思い出される。
 たしかに感じた彼の愛おしい熱は、まだ消えずに残っているようだった。
 触れ合った感触も、声も、言葉の一つすらも。
 過ごした時の全てが、思い出す度、胸を熱くさせるから。
 不意に握りしめた拳の中に小さな熱を感じた。まるで火が灯ったような。
 それでも優しい感触に、答えはあって。

 手を開いてみれば、そこにはやはり愛しい桜の花、一輪。
 双眸を細めて、そのまま瞼を伏せる。裡に甦るは大切な彼の声、姿。
 やってやろうぜ。
 直ぐ側でした豪胆な彼の声に押されるように瞼を開く。
 東京の街に眩く輝くネオンの海が広がる、そこにいる人々を守らねばと決意は硬く。
 梓は掌から桜の花を解き放った。
 風に舞う花は守りを与える光となる。
 不思議な夜、縁ある誰かが駆けつけるというのなら、花となって現れるものもいるだろう。
 桜の花と夜を翔ける、その姿は凛として。トラスを軽々と越えていくものだ。

 辿り着いた頂上、辺りには赤い彼岸花が咲き乱れ。
 大祓骸魂百鬼夜行に集った妖怪達がギロリと目を向いて梓を睨めつけた。
 我らが悲願 邪魔立てするなら容赦はせぬ。
 轟々と唸り立てて恐ろしげな妖怪達が梓の元へと殺到し、これ以上の進行を妨げようとした。
 刀を強く握り振るう。桜の白刃がきらめいて、骸魂妖怪を切り払い。
「悪いが手加減はできない、……そこを退け!」
 一喝するように叫んで、妖怪達を蹴散らし進む。
 怯ませなければ道を開けないだろうからと、鋭い言葉の影にはそのような思いもあって。
 一直線へと駆けつけた、大祓骸魂は梓をじっと見詰め。
「私を止めますか、猟兵」
 そう問うた。
「俺は――もう誰も、喪いたくないんだ」
 迷いなく告げながら、刀を振り斬撃を浴びせる。
 愛しさ故の、その熱を識っているからこそ、大祓骸魂を穿つ、その一閃は真っすぐで鋭い。
 どうしても叶わぬ願いだ。叶えてはいけない願いだ。
 それをきっと何よりもよく知っているから、止めに来たのだ。

「愛するあなた どうしても 共に在りたかった」

 すがるように切なげな声がした。
 これもまた背負うことになるのだろう、それでいいのだと唇を噛む。
 桜一輪。光に込められた想いは、いまだ触れる度に熱を残すようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f11024/花世と
②連携

あな嬉し
金平糖、実は食べ損なってしまったの
めぐり逢いって素敵ですねぇ

星めく菓子を早速、一粒
ぱちぱち弾ける檸檬曹達味が爽やか

眸を煌かせて
ふたり同時に顔を見合わせれば

ねぇ、ほら
言葉交わさずとも
奔る先が視えている
恩恵を有難く享受致しましょ

微笑んで頷き、大妖怪の許へと疾駆
風を孕んで翻る袂が
後方より駆け来る花世の姿を
大祓の眼差しから隠す蓑となる

踏み込んで抜刀、袈裟懸けに斬りあげる一閃
身を躱されることも勿論、先読み済み故に
浮かぶのは嫣然の笑み

勝機は、其の僅かの間
ついと剣先を避けた際の
身の揺らぎに生じる隙を
きっと逃さず突くと信じている

最後は御褒美に
金平糖を心ゆくまで味わいましょうね


境・花世
綾(f01786)と
②他猟兵と連携して戦う

口のなかでかりり砕いた小さな星は
銀色のヨーグルトソーダ味
涼やかな甘さが弾けて染みとおって
一瞬だけ、瞼にひかりが閃く

笑み交わす隣のきみと、
きっとおんなじ未来をみた
言葉なんてなくたって
駆け出す先は間違わない

綾の背を追い駆ける躰には
百花王の蔓が這い、花芽は萌え、
音もなく獲物を待ち詫びる
だけどまだだめだよ、もうすこし
凛冽な刃が道を斬り、拓くまで

──さあ、今!

流れ星めいた速度で
揺らいだ敵の隙を全力で突いていこう
食らい付いた敵の命を啜って
爛漫に咲く牡丹が鮮やかに笑う

勝利の乾杯の代わりに、
ハニーイエローの金平糖を綾にもおすそ分け
きらめくひかりはきっと、蜂蜜生姜味



 ぬいぐるみの妖怪バスに乗って現れたのは金平糖売り。
 星のような不思議な金平糖を饗するのだと、風のうわさを耳にしたものだった。
「あな嬉し」
 ほくほくと笑み浮かべ、都槻・綾(絲遊・f01786)は連れ人へ囁く。
「金平糖、実は食べ損なってしまったの。めぐり逢いって素敵ですねぇ」
 するするとぬいぐるみのバスから降りてきた店主が頭を垂れた。

 さあどうぞお食べ下さい、お客様。
 星のように淡く輝く金平糖、ひと粒ひと粒、ちがう味わいがしますでしょう。
 これを未来のひとかけらと私共は楽しんでおります。

「ふぅん」
 妖怪の口上に、面白そうに頷いて境・花世(はなひとや・f11024)も屋台のガラスケースを覗き込んだ。しゃらりと音をさせて満たされた金平糖はどれも淡く輝いている。
 ツツ、と白い指先を滑らせて、すばやく選びとった銀色の一番星を口へと放る。
 同じように綾もひと粒を取り金色めいた黄色の星を早速頂く。ゆっくり楽しむ時間がないのが少し惜しい。
「ヨーグルトソーダ味」
 がりりと噛み砕けば口に染み透る涼やかな甘さ。
「私は檸檬曹達」
 酸い甘さが舌の上でぱちぱち弾けて溶けていく。
 互いの味を告げて、その時。
 予感がした。瞳の奥にひかりは閃いて。
 二人は同時に顔を見合わせた、ハッとした表情はやがて笑みへと変わって交わされる。
 きっと同じ未来を見た。
 言葉もなく通じ合ったのは、きみだからだろう。

 同じ瞬間に動き出せば、二人の姿は夜を疾駆する影となる。
 上を目指してスカイツリーのトラスをぐんぐんと昇った先。

 夜の空に赤い彼岸花が咲き乱れている。そこに、大妖怪は居て。
「……私を止めますか、猟兵」
 問いかけに、言葉ではなく態度を返す。
 一歩先んじた綾の背を追い駆ける花世の躰には百花王の蔓が這い、花芽は萌えて。
 絢爛な花を纏う花世の姿を、綾は風を孕んで翻る袂でもって隠し立てた。寸分たがわずに動きを合わせて流れるように一列と並んだまま、大祓骸魂へと迫る。
 赤々と狂愛を宿した双眸は綾のみを目にして。
「研ぎ澄ませた鈍ら刀、その身に突き立てましょう」
 囁きながら懐刀「生と死を繋ぐもの」の複製を生み出しては操り浮かばせる。おびただしい数の刃が投げ放たれた。
 夜闇に閃く白刃が吹き荒ぶ風の如く迫る、それを切っ先に振れる前に躱しては一糸乱れぬ動きで二人は前へと駆けた。風を避けるのならば、風よりも疾く走ればよい。
 一気に間合いへ、踏み込む。
 綾は抜刀し下段から夜気を裂くように振り上げ、凛冽の一閃を煌めかせた。
 斬撃を大祓骸魂は紙一重で躱す。けれどその動きも、読めている。
 浮かぶのは嫣然の笑み。
「──さあ、今!」
 音もなく影の中に潜んでいた花世は迷いなく跳んだ。
 まちがいのない勝機、躱すために身体が揺らいだその隙を逃さない。
 天翔ける流星の如きスピードで食らいつくように花びらを見舞った。
「あ」
 大祓骸魂の視界が花弁の色に染まる。
 狂愛を込めた彼岸花よりも尚あかい、脳を融かすようなあまさに奪われていく。
 断末魔さえ飲み込んで百花の王は終焉を与えるのだろう。
 その命を啜り爛漫に咲く牡丹が鮮やかに笑う。

「ご褒美に金平糖を心ゆくまで味わいましょうね」
「勝利の乾杯の代わりに、ね」
 囁き交わして夜景を望む、星もまばらな都会の夜よ。
 おすそ分けのハニーイエローにきらめくひかりはきっと、蜂蜜生姜味。
 あまくて、すこし辛い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

庵野・紫
キラキラの金平糖じゃん!
えー!やっぱ最高にかわいい!
金平糖を食べたアンに怖いもんは無いよー。

ちゃっちゃとやっちゃお!
愛は揺るがないから帰ってきたとかさー
古くね?

どこのバカップルよ。
あーあー、はずかしい言葉だよね。
そんなに愛してんならアンが邪魔したげる!
愛とかさーしょーじき、アンにはどうでも良いんだよねー。

金平糖を食べて戦いを挑むよー。
アンの脚は鋼の脚!
この踵でどーんとやっちゃうよー!

金平糖のおかげで先読みが出来るのラッキーすぎ
信じるべきものはキラキラしたキレイな物だよねー。

この金平糖うまくね?
もう少し食べたいかも。
戦っている最中にも食べていい?



 赤い髪をなびかせて、夜の街を駆けていく。
 はるか上空には赤い花が咲き誇って、妖怪達が百鬼夜行を始めていた。
 妖怪達の夜だと騒いでいる。
 妖怪達が帰ってきたぞと、嬉しげに恐ろしげに嗤っている。
 ちょっとやりすぎ。パリピ気取りもほどほどにしなよ。
 スカイツリーの頂上で、まるで自分達を見せつけるように誇示をして。
 子供みたいに馬鹿騒ぎ。
 そんなのは、もう、時代遅れなのに。

 スカイツリーのトラスを跳び上がって昇っていく、鉄を蹴りつける度に音がカーンと鳴り響いた。
 その後ろから、ぷぱぱとクラクションが一つして。振り向けばぬいぐるみのバスが走ってくる。
「アンになにか用?」
 そのままぬいぐるみが追いかけてくるので、庵野・紫(鋼の脚・f27974)はスピードを緩める。
 すると窓から身を乗り出すように「竜神さま」と女妖が手を振る。
「キラキラの金平糖じゃん!」
 そのとおりだと微笑んで、金平糖売りが「これを」と投げ渡したのは、金平糖の入った包み。
 しっかりキャッチして、
「えー! やっぱ最高にかわいい!」
 喜びの声を上げれば、包の中の金平糖もまたあの不思議な輝きをしてみせた。
 未来のひとかけら。あの時はバチバチと弾ける未来を予感させてくれたけど。
 ひと粒口に放り込んで、片手をひらりと振る。
「金平糖を食べたアンに怖いもんは無いよー」
 笑顔を送って、それじゃね。と大きく跳び上がった。

 空に咲く彼岸花の群れの中に、大祓骸魂は立っている。
 うようよとひしめき合うように百鬼夜行の骸魂妖怪たちも集まって。
 あははっ。
「愛は揺るがないから帰ってきたとかさー、古くね?」
 一途な恋だなんて何時の時代の話だろう、それも過去より前に進めぬ者の性だろうか。
 死んで一緒になろう、なんて。
「どこのバカップルよ。あーあー、はずかしい言葉だよね」
 臆面もなく、そんな風に。赤い彼岸花に狂愛を込めて咲いて零して散らして。
 なんだか気に入らないなあ、なんて思う。
 独りよがりなくせに、それでも帰ってきたかったとか、今でも愛しているだとか。
 笑えないのに、笑ってしまう。
 ガリガリと金平糖を口の中で噛み砕いた。まるで相手の心ごと噛み砕いてしまうように。
「そんなに愛してんならアンが邪魔したげる!」
 まるでイタズラな子供のような表情をして、仕掛ける。
「私を止められますか、竜神よ」
「うん」
 そういってんじゃん。軽い調子で告げてやる。
 でもさ。
「愛とかさーしょーじき、アンにはどうでも良いんだよねー」
「……本当に?」
 跳んで、一気に詰めた間合いから蹴撃を見舞った。
 鋭い足先がかすめて、大祓骸魂の頬に一筋の切れ目をいれ血が滲ませる。
 しばし、両者は視線を交差させた。
 バチバチと火花が散るような、そんな熱いものがあっただろうか。噛み砕いた金平糖のせいだろう。
 頭をそのまま蹴り飛ばしてやろうとすれば、するりと大祓骸魂も身を躱す。
 わかってるよ、その動き。
「ほらほら、どーんとやっちゃうよー!」
 先読みした動きに合わせて、緩やかに体を畝らせながら相手の脇腹を蹴り入れた。
「か、はっ」
 たまらず大祓骸魂もうめき声をあげる。それでもまだ折れない。
「妖怪達よ 私達の故郷への愛を 示して」
 息も絶え絶えの号令に、古き妖怪達が咆哮を上げて紫を取り押さえようと襲いかかってくる。
 がしゃどくろ、牛鬼、一つ目入道、邪鬼。さまざまと。
 紫は宙返りを打って、ふわりと妖怪達の頭上高くに舞い上がった。
 緑の瞳に冷たい輝きを灯らせて、見下ろす。
「お前たち――踏み潰すよ?」
 誰 を 相 手 に し て い る つ も り。
 妖怪達が震えて慄いても、もう遅い。鋼の靴で踏み抜いて。
 でかい頭だの硬い角だのを蹴りつけては軌道を変えて、まるで踊るように跳ねる。
 横に縦に、視界を揺さぶるような角度から。
「ちゃっちゃとやっちゃお!」
 とびきりの一発を大祓骸魂の頭上から叩き込んだ。

「信じるべきものはキラキラしたキレイな物だよねー」
 金平糖のおかげで先読みが出来るのラッキーすぎ。
 甘い口溶けを楽しむ、スカイツリーの周りには輝くネオンの海が広がって。
 キラキラと星よりも強く輝いているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
【桜牙】

殺せば永遠?
莫迦な子だね、其処に在るのは
唯の靜かで虚しい世界
生憎と見過ごせない
俺もこの世界を尊んでるから
頷くは隣のきみへ

流石レン。速い速い
ふふ、担がれちゃう前に俺も本気出そっかな
甘い金平糖が口の中で転がれば
其れはレンへの信頼が当たり前に在るだけ
噫、凄くわくわくする感覚だ

俺があげられる花は薄紅の
灯れば優しく俺達を包んでくれて
幽世月が浮かんだなら
桜を咲かせてみせようか

レンが望める唯一の月と共に
花舞い彩る景色を灼きつけて貰えるように
白き竜と息ピッタリに飛ぶ背中を
追いかけ咲かせ続けよう

宴は華やかに、艶やかに
そうでなくては詰まらない、だろう?

――噫、ほら、ほんの少し先の未来は
笑顔が咲いてる


飛砂・煉月
【桜牙】

死ねば愛も潰えるのにさ
やれやれと肩竦めて
けどその愛とやら受け止めてやるさ
――な、千鶴?

駆け上がるは塔の上迄
千鶴、追い付けないなら担ぐ?なんて戯れは信頼
齧った星屑の金平糖はこの先のキミとの共闘を脳裏に置いていく
あっは、楽しくなりそ

幽世の月ならきっと望む
オレの唯一恐れぬ黄金
幽世の桜なら望まずとも
ほら、千鶴が綺麗に咲かすから
オレはハクを槍にして
駆けて、飛んで、奏でる竜の咆哮

戦いだけど気持ちは半分宴
餞なんだろ?
なら景気良く行こうぜ

少し先が見える星屑の恩恵で避けつつ
的確に狙い
率先して盾になりに
千鶴には内緒、ね

噫、千鶴が咲かす桜は初めて出会ったあの夜を思わせる綺麗な
金平糖が見せる先は
笑顔の咲く未来



 愛するものと永遠になりたいと。
 それが彼女の願いなのか。
 夜の空に彼岸花が咲き誇る。狂愛を注いで花開き、零れ咲いて空を染める。
 星もまばらな都会の空は赤々と燃えるような色を広げて。

「殺せば永遠?」
 それはあまりにも意味がないと宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は首を振る。
「死ねば愛も潰えるのにさ」
 やれやれと飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)も肩を竦めてみせた。
「莫迦な子だね」
 其処に在るのは、唯の靜かで虚しい世界。
 世界よ死んでくれと本気で願うなら、生憎と見過ごせない。
 この世界を尊んでるから。
 俺も、そしてきっときみも。
「けどその愛とやら受け止めてやるさ――な、千鶴?」
 声に、頼もしい笑顔をさせてうなずく。

 手の中にはバスから届けられた金平糖の包がある。
 こんなところであの店主と会えるなんて、奇遇なことだった。
 決戦に臨む為の手助けにと、渡された。
 ならば、きっとあの時とは違う味がするのだろう。
「行こう」
 二つの影が塔のトラスを駆け上がる。
 カン、カン、鉄を叩く足音も置き去りして、追いかけっこのように跳ねては飛んで。
「流石レン。速い速い」
「千鶴、追い付けないなら担ぐ?」
「ふふ、担がれちゃう前に俺も本気出そっかな」
 わだかまりのない信頼の通った戯れをして。
 そろって金平糖をひと粒、口の中で転がしたならば。
 砂糖菓子一つ分の予兆は。
 当たり前に感じている彼への信頼があるだけ。
 この先のキミとの共闘を脳裏に置いていった。
「あっは、楽しくなりそ」
「噫、凄くわくわくする感覚だ」
 とーん、と天駆けるように高く飛ぶ。降りた先には赤い彼岸花の群れ。
「来ましたね、猟兵。あなたは私を止めますか」
 妖怪達は百鬼夜行を織りなして、大祓骸魂も猟兵たちを凛として迎えた。
 ああでもこの場には華やかさが足りない。これはお前達が望んだ舞台だというのに。
 月も桜も望むなら、現れましょう。
 今宵は不思議な妖怪達の夜。

 空に、満月があった。

 まるで急に現れたのだ。丸くて大きな月が黄金色の月明かりで舞台を照らしている。
 煉月が望める唯一の、幽世月。
「餞なんだろ? なら景気良く行こうぜ」
 ワァッとそこかしこから妖怪達が歓声を上げる。宴じゃ宴じゃ。と浮かれはしゃいで。
「俺があげられる花は薄紅の花片」
 桜なら望まずとも綺麗に咲かせることができるから。
 千鶴は己の武器を桜へと変えて、辺り一面に花を降らせた。
 はらはらと花が舞う美しい光景に大祓骸魂も見入っている。
 まさかこのような賑やかな騒ぎが起ころうとは、思ってもみなかったというように。
 しかしこれが宴なら、ここからが本番。
 月を背に負うように煉月は駆け出し、千鶴も後に続く。
 軌道はピタリと合い、流れるように疾駆すれば。
 虞れを波のように放って大祓骸魂は進行を妨げんとしてみせた。星屑のひとかけらが与える予兆でその攻撃の軌道を先読みしながら右へ左へ避け続けて。
 けれどそれでも避けきれぬのならば、先行する煉月がさりげなく盾となった。
 内緒。と胸に秘めて虞れが齎す恐怖を振り払う。
 傷つくことは怖くはない、キミを守れないことに比べたら。
 だから、最後の一歩も大胆に踏み込んだのだ。
「ハク」
 相棒の竜を白き槍へと変え、大祓骸魂との距離を一気に詰めて。その胸を穿つ。懐刀の鞘でかろうじてその一撃を受けた大祓骸魂はよろめいて。
 ほら、相棒。奏でてやんなよ。
 追撃する竜の咆哮は葬送曲となって夜空に鳴り響き。
 宴には歌が似合うと誰が言っただろう。
「宴は華やかに、艶やかに――そうでなくては詰まらない、だろう?」
 千鶴の囁きは桜と風に乗って、流れていく。
 月と花舞い彩る景色を灼きつけて逝けるようにと、花を咲かせ続けたのなら。
 花見月が大祓骸魂の瞳いっぱいに広がるだろう。
「きれい」
 ポツン、と呟きがした。
 白い槍が鋭く刺し貫き、桜の花吹雪がその体を覆う。

 噫、千鶴が咲かす桜は初めて出会ったあの夜を思わせる綺麗な。
 煉月は感慨深げに光景を見遣る。

 カリリ。金平糖をひと粒。
 伏せた瞼の奥に広がるのは――噫、ほら、ほんの少し先の未来。
 大事な人の笑顔が咲いた未来。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
如何にか此処まで来たものだ
煙草吹かして見上げれば
聞えたクラクションに瞬いて

…乗せてくれるのかい?
それじゃ、一っ走りお願いするよ

彼等とは知った間じゃないが
戦で見えた妖達も何処かで戦っていると
そう思えば、負ける気もしないさ

ぬいぐるみバスに乗り、金平糖を口にして
桜と月が彩る鳥居の道を駆け抜ける
障害は念動力で吹き飛ばそう

青い千寿菊を捧げ、散花の守りを得たら
いよいよ大将の御出座しだ

真の姿は、容易に晒したくないが
『腕』を増やすだけなら良いだろう

他の猟兵達と連携を心掛け
一撃必殺、鎧砕く怪力載せた拳を叩き込む
大将に取巻きにと素早く畳み掛ける

世界を滅ぼすほどの愛か…眩しさすら感じるが
心中なんて、させはしないさ



 如何にか此処まで来たものだ。
 薄くひらいた唇の間から煙草の煙を吹き上げて。
 見上げたスカイツリーの上空は赤い彼岸花が咲き乱れ。
 妖怪達が百鬼夜行を織りなして、夜を練り歩いているようだった。
 今宵は可笑しな夜なのだろう。
 ぷうぱっぱ。なんて、妙なクラクションまで聞こえたものだ。
 高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は瞳をかるく瞬いた。

「……乗せてくれるのかい?」
 布で出来ているらしい妖怪バスを見て煙草を消す。
「それじゃ、一っ走りお願いするよ」
 ふかふかとした車内は案外に乗り心地がいい。
 乗客は妖怪と猟兵。
 金平糖売りが、なにやら包みを差し出して。
 他の妖怪達も、花よ駄菓子よと進めてくるものだから、和やかな道中に思える。
 彼等とは知った間ではないが、もしかしたら自分が今まで巡り会い戦い合った妖怪達の姿もどこかに駆けつけていて。何処かで戦っていると、そう思えばこの戦いも負ける気がしない。

 頂上を目指すバスに揺られながら、目の端に流れていく夜景を見遣る。
 きらきらと眩いネオンの海が広がっている。
 金平糖をひと粒口にしてみた。
 舌の上を転がせば、なんだか覚えのある味がして。
「どうもエナジードリンクのような」
 呟けば。
「私共は、それを未来のひとかけら、と楽しんでいるのです」
「不思議な金平糖だね」
「本当はもっとゆっくりと、おもてなしをしたいのですけれど」
 金平糖売りなのだという女妖は残念そうに首を振った。
 バスに乗せた屋台からはしゃらりと不思議な音がして、ガラスケースの中の金平糖達は星のように淡く輝いている。
 時折、妖怪達はケースの中の金平糖や駄菓子を花と一緒に放り投げていた。
 手向けなのだという。
 今も骸魂妖怪達は猟兵達の手で払われては空を落ちていくので、餞を送っているのだと。
「わあっしょいなんですよう」
 小さな妖怪が跳ねながら窓の外へ手を振っている。まるで祭りだ。
 バスはスカイツリーを走り続けている。
 けれど外の景色は時として様変わり、まるでどこか別の場所へ迷い込んだようでもあった。

 桜並木があらわれて、夜桜のトンネルをつくりだした。
 どこからか月もあらわれ花見月の光景を織りなして。
 そうかと思えば、バスは千本鳥居の下をくぐり抜けている。

 空を目指すようにバスは駆け、梟示を彼岸花の咲き乱れる場所へ連れて行った。
「ここで降りるよ」
 バスを降りて、狂愛を込めて咲いた彼岸花の花畑を行く。
 青い千寿菊を風に捧げれば、それは光となって梟示を守った。
 サリサリ、と花が風に揺れて寂しげな音をさせている。
「いよいよ大将の御出座しだ」

 視線の先には年端もいかぬような娘の姿をした妖怪が居る。
 大祓百鬼夜行を引き連れて、大祓骸魂は静かな眼差しで梟示を迎えた。
「私を、止められますか」
「ああ」
 問いかけに、軽く頷く。
 そして地を蹴って素早く駆けだした。拳を強く握りしめる。
「世界を滅ぼすほどの愛か……眩しさすら感じるが」
 赤々とした瞳に宿る熱は情念か。ただ帰りたかったのだと、家を恋しがる少女のような想いだったのか。どちらりにせよ世界は置いていった。君も世界を置いて逝ったのだ。
「心中なんて、させはしないさ」
 狂ってしまった愛を止めてやるために。
 拳を叩き込む。
 何度も何度も何度も。そうでなくては届かない。
 百鬼夜行は大祓骸魂を守ろうと躍起になるのだから、ひたすらに拳を振った。
「だ、め」
 猛攻を振り払うように、はじめて大祓骸魂は後退った。けれど逃してはやれないから。
 黒い腕が一本、にゅうと伸びて。
 容易に晒せぬ彼の真の姿――その一端が、怪力を載せた拳を見舞った。
 ずん、と重い感触がして。
 足元の彼岸花が衝撃の余波に舞い飛ぶ。赤々と、鮮やかに散って。



「あと、ひとさし」
 今際に。
「――……刺せませんでした」
 泡沫のような吐息をさせて。
 懐刀を胸に抱いたまま大祓骸魂の身体はゆっくりと傾き、塔から地上へと落ちていった。
 けれどその体はついぞ世界に触れることもなく空の中で夜のあわいへと消えていくのだ。
 すべては一夜の夢であったかのように。

 やがて日が昇り朝がくれば、妖怪達も去っているのだろう。
 猟兵さんいつまでもお元気で。どこかでそんな声が、聞こえたかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月03日


挿絵イラスト