大祓百鬼夜行㉕〜ただ、いとおしき君へ
生と死を繋ぐ一振りを手に、大祓骸魂はただ、願う。
――愛しき世界、UDCアース。
あなたを想うからこそ、愛しているからこそ。
(「……私は」)
忘れ去られようとも、帰ってきた。
愛するこの地を、永遠にするために。
たったひと刺しで過去として、骸の海で――永遠とするために。
●ただ、いとおしき君へ
幽世の各地を繋いできた雲の道。
それがようやく、大祓骸魂の元へ繋がった。
「皆、お疲れ様! いよいよ大祓骸魂との決戦の時よ!」
キトリ・フローエ(星導・f02354)は力強く告げる。
決戦の地はUDCアースにある東京スカイツリー。その最上部に設置された、ゲイン塔と呼ばれる、アンテナが収納された巨大構造物だ。
大祓骸魂が纏う、膨大な“虞(おそれ)”。それにより、現在東京上空はカクリヨファンタズムのような、混沌とした空間に変化している。
「大祓骸魂はそこで、あらゆる手段を用いてあなたたちを陥れようとしてくるでしょう。でも、これまでの戦いを乗り越えてきた皆なら、決して負けることはないはずよ」
何故なら、大祓骸魂が放つ力はすべて、これまでの戦いで猟兵たちが乗り越えてきたものだから。
場に満ちた虞によって、初めから真の姿で戦うことも出来るし、想う誰かの魂が、形を成して現れることもあるだろう。
「……愛しているからこそ永遠のものにしたいっていう気持ちは、あたしにはわからないけれど。忘れられても大好きっていう気持ちは、わかるような気がするの」
上手く言えないけれど、とぽつり、続けて、キトリは小さく首を横に振り、戦いの地へと繋がる扉を開く。
扉の向こうには、美しい星空。月が輝き、桜が舞っていて――けれど、どこか悍ましい気配に満ちていた。
「でも、こんな形で誰かが生きる世界を失わせるわけにはいかないわ。――彼女を救うことは出来ないけれど、カクリヨと、UDCアース。二つの世界のために、どうか……全力で戦ってきてちょうだい!」
小鳥遊彩羽
ご覧くださいましてありがとうございます、小鳥遊彩羽です。
今回は『カクリヨファンタズム』における『大祓百鬼夜行』のシナリオをお届け致します。
いよいよ大祓百鬼夜行の最終決戦、大祓骸魂との戦いです。
●プレイングボーナス
全ての戦場のプレイングボーナスから好きなものを選び、使用できます。
真の姿(🔴は不要です)で戦ったり、想い人(故人)と一緒に戦ったり、仲間と連携して戦ったり、大祓百鬼夜行で集まった妖怪達を傷つけずに戦うなどなど、これまでの戦いにおけるプレイングボーナスからお好きなものを選んで下さい。
●その他の補足など
ご一緒される方がいらっしゃる場合は【お相手の名前(ニックネーム可)とID】もしくは【グループ名】の記載をお願いします。
プレイング受付は公開時より。受付期間のご案内はシナリオ上部のタグ、及びマスターページにてさせて頂きます。
なるべく頑張りますが、状況により、採用人数が少数となる場合があります。採用は先着順ではありませんが、内容に問題がなくともお返しする可能性がありますので、予めご了承下さい。
以上となります。どうぞ宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メノン・メルヴォルド
雲が繋がったの、ね
愛しい世界は、きっと誰の心にもあるはずなのよ
アナタが『永遠』というエゴで世界を骸の海へ沈めようとするなら
ワタシはワタシのエゴで世界を護るの
誰も傷つけたくない、何も失わせたくない
妖怪さん達がいたら護る
《高速詠唱》《全力魔法》でエレメンタル・ファンタジア
土の津波を発動させて攻撃を遮るの
同時に地形を隆起させて咲き乱れる彼岸花を散らす、ね
できる事は小さいけれど、高まった戦闘力を阻害する事は可能かもしれない
そう、この地に立っているのはワタシだけじゃないもの
仲間を信じて繋ぐ
繋がりはチカラだから
『永遠』は独りだけで起こせるものじゃないと思うのよ
繋げて、重ねて、成るものなんじゃないかしら…?
「――雲が繋がったの、ね」
自分たち猟兵と、そして、ふたつの愛しき故郷を守るために、命を賭した妖怪たちの力によって、拓かれたひとすじの道。
メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)はゆっくりと雲の道を辿り、元凶たる究極妖怪――大祓骸魂の元へと向かっていた。
金色の月が浮かぶ美しい星空の下、周囲には大祓骸魂に呼ばれた妖怪たちの百鬼夜行が犇めいて。辺りに満ちる禍々しい虞の気配は、少しでも気を抜けばあっさり呑み込まれてしまいそうなほど。
けれど、胸裡に満ちる確かな想いと共に、メノンは迷わず進んでいく。
大祓骸魂が愛する、このUDCアースのように。
いとおしい世界は、きっと誰の心にもあるはずだ。――だから。
「アナタが“永遠”というエゴで世界を骸の海へ沈めようとするなら、ワタシはワタシのエゴで世界を護るの」
――誰も傷つけたくない、何も失わせたくない。
その想いは確かな力となって、メノンの心を満たしていく。
襲いかかってくる百鬼夜行の妖怪たちを前に、素早く詠唱を紡ぐメノン。
そうして放たれた大地の精霊の力は巨大な土の津波となって広がり、妖怪たちの攻撃を遮った。
「ならば、その想いで私を止められますか、猟兵よ」
すると、雲の道の先――渦巻く混沌の中心に咲く花のように佇む娘が、あえかな笑みを綻ばせながら静かに告げた。
同時に放たれる、神智を越えた虞の力。
それはメノンを退けようとしながらも、辺り一面に無数の赤を――彼岸花を咲かせていく。
悍ましいほどの赤に宿るは、狂気じみた愛。
愛に狂ったひとりの娘の、想いの欠片とも言えようか。
娘はそうして己の愛で世界を満たし、殺そうとしているのだ。
だが、メノンは大地の波を操って地形そのものを隆起させ、咲き乱れる彼岸花を呑み込み、散らしていった。
――己一人に出来ることは小さいかもしれない。けれど、高められた大祓骸魂の力を削ぎ落とすことは出来る。
何故なら、そう。
(「この地に立っているのは、ワタシだけじゃないもの」)
共に戦う仲間たちを信じ、メノンは道を繋ぐために戦う。
――この繋がりこそが、何よりの力になると知っているから。
だからメノンは微笑んで、大祓骸魂へと告げるのだ。
たとえこの世界に忘れ去られてもなお愛し続けた娘にとっては、生と死を繋ぐ懐刀のひとさしで――“それ”が叶うものなのだとしても。
「――“永遠”は、独りだけで起こせるものじゃないと思うのよ。繋げて、重ねて、成るものなんじゃないかしら……?」
大成功
🔵🔵🔵
鈴久名・紡
想うことを止められない
でも、想う以上の……この行動は行き過ぎだろう
あんたを忘れずにこの事態を止めようとした
親分衆の心意気に応えるため、覚悟を持って往く――
竜神形態の真の姿解放
煉獄焔戯使用
槍の形状に変化させた神力で
妖怪達をなぎ払い、吹き飛ばすことで大祓骸魂に近付けさせない
念の為、天候操作で吹雪も呼ぶ
槍状に変化させた禮火に氷結能力の属性攻撃を乗せて攻撃
意思を統一する時間を与えないよう迅速に行動
敵の攻撃は見切りを元にした
空中機動とフェイントを駆使して回避
回避不能時はオーラ防御で防いで凌ぎ
負傷は激痛耐性で耐える
以降の攻撃には生命力吸収を乗せていく
愛しているのであれば
骸の海で、永遠に見守っていてくれ……
――渦巻く虞の中心に、その姿は在った。
幽世の地を蝕む骸魂の元凶にして、UDCアースの大いなる邪神が一柱。
全ての知的生命体に忘れられた、究極妖怪――大祓骸魂。
「……想うことを止められない、か」
その姿を見つめながら、鈴久名・紡(境界・f27962)は小さく、息をついた。
「でも、想う以上の……この行動は行き過ぎだろう」
愛しきUDCアースを永遠の過去とすべく、生と死を繋ぐ一振りで――世界を殺そうとしている無垢なる少女。
「何故、そう思うのですか? 私はただ、愛しているだけ。愛するUDCアースを、永遠のものにしたいだけ」
どれほど言葉を投げかけようと、きっと、彼女には届かない。
自分たちに出来るのは、自分たちが今成すべきは、彼女を止め、二つの世界を守り抜くことだけ。
――巡り紡ぐ縁の果てに“ヒト”がある。
繋ぎ紡がれた数多の縁を、このような形で過去に奪わせるわけには、失わせる訳にはいかないのだ。
紡の胸の裡にある、揺るぎない想い。――それを、成すために。
そして、彼女の存在を忘れずにこの事態を止めようとした親分衆の心意気にも応えるために、紡は胸に確かな覚悟を抱き、戦いの狼煙が如く声を上げた。
「欠片も残さず、灰燼に帰せ――!」
瞬く間に、紡の姿は彼の真の姿のひとつである、青い鱗に覆われた竜神のそれへと変じた。
咆哮と共に放たれた神力は目映い輝きを放つ槍へとその形状を変えて、群がる大祓百鬼夜行の妖怪たちをたちどころに薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。
だが、大祓骸魂の元に集う妖怪たちの数は無限にも思えるほど多く。
ゆえに紡はすぐに、桜舞う星空の下に凍えるような吹雪を喚んだ。
混沌の世界が、辺り一面に咲き乱れる彼岸花が、忽ちの内に白く、冷たく染まり、百鬼夜行を遠ざける。
意志を統一させる間を与えぬよう迅速に、紡は槍状に変化させた禮火――白銀の神器に、氷結の力を纏わせ空を翔けていく。
次々に群がる妖怪たちを掻い潜り、神力の槍で払いながら――やがて至るは、混沌の中心。
そこに待つ無垢なる少女へ、紡は禮火を突き立て――そうして、ただ、静かに告げた。
「――愛しているのであれば、」
注ぎ込まれる神の力は、不浄を清める煉獄の焔が如く。
「骸の海で、永遠に見守っていてくれ……」
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
プレイングボーナス…… 塔の中のトラップを解除する。
ふえ?ここは1階ですよね。
おかしいですね、最上部に転送される筈ですよね。
しかもここを駆け上らないといけないなんて、この間恥ずかしい思いをした百霊鎮守塔みたいですね。
あの時は外で防衛しましたが、中を上った人たちもいたそうです。
中はトラップでいっぱいだったそうですが特になさそうですね。
ふえ、たくさんの短刀が飛んできました。
あれを躱しながら上らないといけないんですね。
えっと、お菓子の魔法で遅くしてから上りましょう。
「ふえ? ここは1階ですよね」
高く高く聳えるスカイツリー。その最上部に待つ、大祓骸魂の元に転送される――はずだったのだが。
フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)とアヒルちゃん型のガジェットのアヒルさんは、何故かその時――地上にいた。
どれほどの高さだろうか、想像するだけでも果てしないのはわかる。
だが、どうやら塔を支える心柱の内部に設置された階段を上らなければ、大祓骸魂の元には辿り着けないらしい。
「ガァ!」
勇ましく先に駆けてゆくアヒルさんを追って、フリルも意を決したように踏み出した。
こつこつと階段を登る靴音が、やけに大きく反響するような気がして。
果ての見えない、長い長い階段は、まるでつい先日、ちょっぴり――否、かなり恥ずかしい思いをした百霊鎮守塔のようでもあった。
あの時、フリルは外で鎮守塔を守るために戦った。
だが、同胞たちの中には、実際に塔を駆け上がった者もいたのだという。
鎮守塔の内部には、様々なトラップが仕掛けられていたという話だったけれど――。
「ここは、特になさそうですね……ふ、ふえぇ!?」
「ガァ!」
不意に、ひゅん!と、風を斬るような鋭い気配にフリルが声を上げたのと、アヒルさんが警告じみた声を上げたのはほぼ同時だった。
最上階との距離はまだまだあるはずなのに、どうやら、大祓骸魂はフリルたちに気づいたようで。
どこからともなく飛んできたたくさんの短刀が、フリルとアヒルさんを虎視眈々と狙っていた。
無限に複製されたらしいそれは大祓骸魂が持つ懐刀――生と死を繋ぐものに違いなく。
言わばこれが、このスカイツリーに仕掛けられたトラップと言っても過言ではないだろう。
「これを躱しながら上らないといけないんですね。では……あ、あの、お菓子を作ってきたんです。よかったら、おひとつどうぞ」
するとフリルはどこからともなく趣味で作ったお菓子を取り出し、懐刀たちへ“給仕”を始めた。
とは言え、ただの“なまくら”でしかない懐刀の複製たちに、お菓子を楽しむという心があるはずもなく。
「今のうちに登ってしまいましょう、アヒルさん」
「ガァッ!」
途端に動きを鈍らせた短刀の群れから逃げるように、フリルはアヒルさんと共に階段を駆け上がっていった。
大成功
🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と故人と共に戦おう
愛しているからこそ永遠の物にしたい…か
きっとお前には分からぬ感情だろうと俺の為を思い一人死地に赴き逝った赤毛の前所有者…ヴェロニカへ懐かしげに声を
あの時は何故連れていってくれなかったのかと思いはしたが幸せを願ってくれたからこそ宵と…大事な相手と出会えたと、そう笑みを浮かべよう
…宵の所有者も良き者だったのだな
本当に、感謝していると宵の横の相手へ頭を下げ声を投げつつ宵と惺、そして投げナイフで援護攻撃をするヴェロニカを背に護るよう前衛へ
その後は生じさせた光の盾にて宵や前所有者達、集まった妖怪達を『かば』いながら呼び出した【狼達の饗宴】にて敵を攻撃して行ければとそう思う
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
故人とともに
愛しているから、永遠のものとする……と
残念ながら、僕には少々難しいですね
愛しているからこそ、尊重してともにあるものではないのですか?
そうして振り返った先にはいつも難しい顔をしていた最後の主人―――惺さまがいて
愛しているからこそ、囲うのではなくその幸いを願うものなのだと……僕は知りました
そうして杖を手に取り、ザッフィーロの背中を守りましょう
惺さま、支援回復をお願いします
ザッフィーロやその前所有者たる赤毛の女性、惺さまほか集まった妖怪たちを守るように「高速詠唱」「全力魔法」「属性攻撃」を付加した【天撃アストロフィジックス】で攻撃しましょう
「愛しているからこそ永遠の物にしたい……か」
「残念ながら、僕には少々難しいですね」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が落とした言葉に、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はゆるりと笑んで――小さく、肩を竦めてみせた。
二人が見つめる先には、生と死を繋ぐ一振りの鈍を手に、たおやかに微笑むひとりの娘。
それはこの地を滅亡せしめんとする最後の一振りを携えた、UDCアースの大いなる邪神が一柱にして全ての知的生命体に忘れられた究極妖怪――大祓骸魂。
「愛しているからこそ、尊重してともにあるものではないのですか?」
「いいえ、愛しているからこそ、私はこの愛しきUDCアースを永遠にしたいのです」
宵の問いに答える声には、一点の曇りも迷いもなく。
元より対話など不可能だとわかってはいたけれど――こちらの言葉がまるで通じぬ気配に、ザッフィーロは少々眉を顰めながら嘆息した。
「……そうだな、きっとお前には未来永劫分からぬ感情だろう。――ヴェロニカ」
懐かしげに名を呼ぶザッフィーロの傍らで影が揺らぎ、赤い髪の女性が姿を見せる。
ヴェロニカ。ザッフィーロを想うがゆえに彼を残し、ひとり死地へと赴いて帰らぬ人となった――ザッフィーロの本体であるサファイアの指輪の、前の持ち主だ。
「……ああ、惺さま」
一方、宵が振り返った先にも、旧き天図盤――アストロラーベである宵の最後の主が、宵の記憶に残るそのままの難しい顔で佇んでいた。
――あの時は、何故連れていってくれなかったのかと、何故置いていったのだと思っていた。
けれど、他の誰でもない己の幸せを願ってくれたからこそだと、今のザッフィーロは理解している。
だからこそ、ザッフィーロは宵と――共に在ることを誓ったただひとりの大切な相手と出逢えたのだと、ヴェロニカへ笑みを浮かべて。
「愛しているからこそ、囲うのではなくその幸いを願うものなのだと……僕は知りました」
穏やかに微笑みながら、宵も惺へと語りかける。
惺もまた、宵の幸いを願ってくれた人だから。
そして、傍らに共に歩む最愛の幸いをいつだって願うのは、宵もザッフィーロも同じだ。
「……宵の所有者も、良き者だったのだな。本当に、感謝している」
「ええ、とても」
惺とヴェロニカ――二人がいたからこそ、二人と出逢えたからこそ、今の宵とザッフィーロが在る。
頷く宵に口元を緩め、それから、ザッフィーロは宵の隣に立つ惺へ、感謝を述べると共に深く頭を下げた。
そのまま、ザッフィーロは宵と惺、そして投げナイフを手にしたヴェロニカを背に護るよう、皆よりも前に出る。
そして、宵はそんなザッフィーロの背を守るべく、宵色と星の意匠が凝らされた杖を手に取った。
刹那、星の輝きに似た魔力が場を巡る。
「惺さま、支援回復をお願いします」
青く輝く光の盾を展開させて、皆や妖怪たちを庇いながら、ザッフィーロは大祓骸魂へ狼状の炎の群れをけしかける。
身の穢れが滲む、血肉を喰らわんとする狼たちの饗宴。子羊たる大祓骸魂へ躍りかかる彼らに合わせ、ヴェロニカもナイフで援護攻撃を行い、大祓骸魂への道を拓いて。
己が身そのものを盾として、決して少なくない傷を負うザッフィーロの元へ、惺の癒しの力が確りと届けられる。
「……太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです。――さあ、宵の口とまいりましょう」
そして、宵もまた――ザッフィーロと皆を守るための力を流星雨が如く無数の星の矢に変えて、大祓骸魂へと放つのだった。
大成功
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花嶌・禰々子
虞を使い変化したのは
学校の花子さんだった時の幼い少女の真の姿
一気に地を蹴ってバス停で応戦
体は小さいけど妖力も力も普段より凄いのよ
骸魂から妖怪仲間を解放する為にも全力全開!
過去には永遠があるのかもしれない
続いて欲しいと願った瞬間
愛しいと感じた時の記憶
君はそういうものをずっと愛していたのかしら
あたしにもあるわ、いとおしいものが
学校に響く子供達の笑い声
授業の時の先生の声、放課後の賑わい
廃校になって
あたしが好きだった学校は過去にしかない
恋しいと思うこともある
でも今を骸の海に沈ませたいとは思わない!
絶対に守る。現世も幽世も、全て!
あの綺羅星のように誓いは輝くの
勝負よ、大祓ちゃん
これが――あたしの正義ッ!
夢と現、彼岸と此岸、二つの世界が交錯する狭間にて。
周囲に渦巻く膨大な虞の悍ましい気配と、骸魂を取り込んだ妖怪たちの百鬼夜行の影が踊る中、花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)は静かに元凶たる大祓骸魂と対峙していた。
「君にも君の正義があるのでしょう。でも、あたしにも譲れない正義があるの」
凛と告げる禰々子の瞳に満ちるのは、決して揺らぐことのない正義の光。
刹那、古びたバス停を握り締める禰々子の姿が幼い人間の少女のものへと変化する。
それは、今は獄吏の花子さんとして迷える骸魂や人々の道案内をつとめる禰々子が、かつて学校の花子さんと呼ばれていた頃の――禰々子の、真の姿だ。
「あなたに私を止められますか。妖怪でありながら猟兵たる者よ」
「勿論! 勝負よ、大祓ちゃん!」
大祓骸魂が纏う虞を戦うための力へと変えて、禰々子は力強く地を蹴った。
行く手を阻むのは、骸魂によってオブリビオンと化した妖怪たちの群れ。
大祓骸魂の元へ、虞に吸い寄せられるように次から次へと集う、妖怪の仲間たちだ。
彼らを骸魂からを解放するためにも、禰々子は全身全霊で立ち向かっていく。
たとえ身体は小さくとも、秘められた力は強大なもの。
禰々子は己の身の丈よりも大きなバス停を軽々と振り回し、襲い来る妖怪たちを押し返しながら、大祓骸魂との距離を詰めていく。
「過去には永遠があるのかもしれない。続いて欲しいと願った瞬間や、愛しいと感じた時の記憶。……君は、そういうものをずっと愛していたのかしら」
ふと、禰々子が落とした言葉に、大祓骸魂はそっと小首を傾げた。
「あたしにもあるわ、いとおしいものが」
想えばいつだって胸の裡にまで響いてくる、子どもたちの楽しげな笑い声。
授業中の先生の声や、放課後の賑わい。
――そして、学校の花子さんだった禰々子を呼ぶ、声。
時を経て廃校になり、今はもう、子どもたちの声も聞こえなくなってしまった、失われてしまった場所。
たとえ怖がられようとも、愛していた――たくさんの煌めきに満ちた、いとおしき日々の記憶。
「あたしが好きだった学校は過去にしかない。それを恋しいと思うこともあるわ。……でも、」
一歩大きく踏み込んだ禰々子は、その先に待つ大祓骸魂を確りと見据え――そうして。
「――今を、骸の海に沈ませたいとは思わない!」
渾身の力を籠めて、青と黄色のバス停を振り抜いた。
「絶対に守る。現世も幽世も、全て! これが――あたしの正義ッ!」
正義の導き手たる禰々子の誓いは、空に瞬く綺羅星のように燦然と輝き、確かな力となって――大祓骸魂へと刻まれるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
波瀬・深尋
きっと好きだった
お前のことが大切だった
でも、
ゆらりと青い炎が揺らぐ
あの日再会した銀鼠の少女が隣に居る
『だいじょうぶ、なんとかするよ!』
嗚呼、きっと
君と共に戦うのも
初めてじゃないんだろ
彼女が手を振るえば花が舞い
空へと指先を向ければ星が降る
この光景を俺は知ってるから
さあ、最期の餞といこうか
彼女を見て、微笑う
まるで星のような青い炎を放つ為
手を伸ばせば、リボンが揺れる
俺を、この世界に繋ぎ止めてくれる
約束をしたんだ
あの子を大切に思うから
『みーちゃん!』
『この戦いが終わったらね、』
(ちゃんと、しあわせになってね、)
聞きたいことは山程あった
夜まで語り合いたかった
けど、もう、これで十分だ
この世界を守ってみせる
――きっと、好きだった。
(「お前のことが、大切だった」)
でも――。
満天の星。浮かぶ金色の月。
美しい空が見下ろす世界には、今、血のように赤い彼岸花が咲き乱れ、禍々しい混沌の気が満ちていた。
過去と未来を永遠に分かたれた世界は今ひとたび結ばれて、けれど鈍のような刃のたったひとさしで、骸の海に落とされるのだという。
『だいじょうぶ、なんとかするよ!』
――その時。
傍らにゆらりと浮かび上った青い炎は、いつしか、ひとの形をなしていた。
波瀬・深尋(Lost・f27306)の隣に立つのは、あの日、彼岸と此岸の狭間で出逢ったひとりの少女。
ふわりと揺れる、銀鼠の髪。
澄んだ青藍の瞳は、瞬く星を見つけたかのように煌めいていて。
当たり前のように感じる、隣に在る気配。
(「……嗚呼、きっと、」)
きっと、こうして共に戦うのも初めてではないのだろう。
少女が手を振るえば花が舞い、その細い指先が空を示せば忽ちの内に数多の星が降る。
深尋の中にある漠然とした予感が確信になったのは、その懐かしくも美しい光景を、知っていたから。
「さあ、最期の餞といこうか」
傍らの少女へと、深尋は微笑う。
大きく頷き返した少女は、それから真っ直ぐに前へ――大祓骸魂へと向き直った。
深尋もまた、傍らの少女から眼前へと視線を移し。
そうして、真っ直ぐに手を伸ばせば――手首に結ばれた深い青の、星空のようなリボンが揺れた。
それは、深尋をこの世界に繋ぎ止めてくれるもの。
――約束をしたのだ。
あの子を、大切に想うと。
『みーちゃん!』
名を呼ぶ声に応えるように、深尋は、伸ばした手の中に星のような青白い炎を灯らせる。
聞きたいことも、話したいこともたくさんあった。
伝えなければならないことも――それこそ、いくら時間があっても足りぬ程に。
けれど、さいごにもう一度、こうして共に肩を並べることが出来たから。
『……この戦いが終わったらね、』
少しだけ寂しそうな、けれど、いつもと変わらぬような。
そんな少女の声に、深尋は確りと頷いて応える。
(――ちゃんと、しあわせになってね、)
「守ってみせるさ、この世界をな。だから、お前も――」
少女が降らせる星を辿るように、流星のように尾を引いて、深尋が放った炎は生と死を繋ぐものを――そして、その先に佇む大祓骸魂を呑み込んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
飴屋坂・あんか
プレボ:妖怪軍団を逆奇襲
あーあ、やたら滅多に出てくんなや
飴をいくつか口に放り込み、オニと化す
この異形の見た目や
百鬼夜行に紛れてもバレんやろう
【目立たない
長い爪、牙を振るって奇襲で骸魂の群れをかき分ける
狙うのはお姫さんだけや
―死にたくねぇやろ、退け
【恐怖を与える
懐刀の群れは躱しつつも
数撃あえて受けて女に近付く
【受け流し
愛に狂った女の身体を喰らい、裂いてしまう
【生命吸収、除霊
忘れられても愛しとるってのは
わしにも、わかるげんけどな
永遠なんて
何処にもねぇげんから
どうやったって
わしら妖怪には、ひとの明日は奪えんよ
あんたには、もうずっと、わからんげんろうな
すこし寂しいわ
【慰め
…ふぁあ
眠くなってきた
「……あーあ、やたら滅多に出てくんなや」
愚痴を零しているその間にも、次から次へと溢れるように集う妖怪たちの百鬼夜行。
ころり転がる飴玉をいくつか口の中に放り込み、飴屋坂・あんか(夜参曇・f28159)は骸魂である岩井戸の猿鬼を内に取り込んで――その身を異形の“オニ”へ――オブリビオンそのものへと変えた。
あんかはそのまま、迷うことなく大祓骸魂に呼び寄せられた百鬼夜行の群れへと飛び込んでいく。
(「この異形の見た目や。百鬼夜行に紛れてもバレんやろう」)
たとえ列を乱すものがいたとして、元より妖怪たちの百鬼夜行――騒然たる大行列の中では目立つこともなく。
「――死にたくねぇやろ、退け」
ゆえに、突如その中で長い爪を振るい、鋭い牙を剥いたあんかの存在は、瞬く間に大混乱を引き起こした。
誰が敵で味方かわからぬ恐怖に、忽ちの内に呑み込まれていく骸魂の群れ。
怒濤のようにうねり蠢く彼らを力ずくで掻き分けながら、あんかはその中心へと進んでいく。
狙いは此度の大戦の元凶たる、大祓骸魂――ただひとり。
けれど、大祓骸魂の目はどうやら誤魔化せなかったようで。
不意にあちらこちらから飛来した懐刀――生と死を繋ぐものの群れは、的確にあんかへと狙いを定めてきていた。
無論、あんかにしてみれば当然ながら想定の範囲内。
致命傷だけは避けるように躱し、あるいは敢えて受け流しつつ、あんかは大祓骸魂との距離をひといきに詰めていく。
――はたしてそこには、愛に狂った女がひとり。
あんかは躊躇うことなくその身に牙を突き立てた。
「忘れられても愛しとるってのは、わしにも、わかるげんけどな」
華奢なその身体といのちを喰らい、引き裂いて、あんかはぽつりと言葉を落とす。
「……ならば、何故止めるのです」
対する女の問いは、ひどく純粋な響きを帯びていて。
「永遠なんて、何処にもねぇげんから。……どうやったって、わしら妖怪には、ひとの明日は奪えんよ」
「いいえ、それでも私には、出来るのです」
――元より理解り合えぬ存在なれど、元は同じ妖怪であるはずならば。
救えずとも、共に未来を見れずとも。
届く何かがあるのかもしれないと――心のどこかで思いたかった、けれど。
やがて口の中で転がしていた飴玉がすべて溶け消えて、あんかの中から骸魂の気配が消えていく。
「あんたには、もうずっと、わからんげんろうな。……すこし、寂しいわ」
あんかは小さく眉を下げて微笑って――そうして、抗えぬ睡魔に呑み込まれながら転移の光に包まれた。
大成功
🔵🔵🔵
壱織・彩灯
焔璃(f28226)と
…ふふ、宴とは。
愉し好きは焔璃も流石、此方妖側よ
美しい其方もまこと桜が似合う
その、笑顔とかな
…噫、宴はもう少しお預けじゃ
愛というものは一つの感情だけでは無い
言の葉にしているものだけでも無い
難儀な欲よなあ
問い掛けには掴めぬ雲の様な回答を
己を忘れられても
俺が憶えているから想いは何も変わらんが
殺して喰ろうて仕舞えば
我の血肉と成り永遠に共に…という感情は
在るからな、大祓殿と其の辺は似ておる
焔璃、そんな想像はせずとも良い
喩え視えずとも俺が必ず見つけよう
お前の元気な聲が聴こえれば屹度
さあさ、其方の愛は悪いが
此処で終わらせねばならぬ
俺の椿と共に力を合わせ折ってしまおう
ああ、桜も忘れずに
波紫・焔璃
彩灯/f28003と
わー!
月に桜にって宴が出来そう!
ぉお…彩灯は夜桜似合うね!
いひひ、と笑って
愛してるから…ふぅん
まだあたしにはわかんないなあ
そういうもん?
首を傾げ、彩灯に問いかけ
んん、難しいな
忘れられても…ていうのはわかるけど
…あたしは寂しくて消えちゃうかも
やっと自分を見ることができる人に出会い
友達になったのに
また見えなくなって忘れられてしまったら…て
想像して悲しくなる
もしあたしなら
消えちゃうまでは大好きな人の隣にいたいし
いてほしいけどな
…ひひ、そっか
じゃあ約束ね!
アンタの快刀が何かを刺すことは無いよ
私がすぐへし折るから
大好きなものを傷付けられたくないからさ!
ね、彩灯
ちょっとお花見して帰ろ
空には無数の綺羅星が瞬き、今にも落ちてきそうなくらいに大きな金色の月が輝いている。
二つの世界が交錯する不可思議な空間には今、溢れるような桜吹雪が舞っていた。
「わー! 月に桜にって宴が出来そう!」
茜色の瞳を輝かせ、声弾ませる波紫・焔璃(彩を羨む迷霧・f28226)に。
「……ふふ、宴とは。愉し好きは焔璃も流石、此方妖側よ」
傍らに佇む壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)は、思わず赫き瞳を瞬かせ、それから小さく笑みを零していた。
「ぉお……彩灯は夜桜似合うね!」
今は二つの世界の命運を賭けた、最後の決戦の時。
だというのに、焔璃はいつもと変わらぬ様子でいひひと笑っているものだから、彩灯もついつい興に乗るようにさらりと、戯れめいた言の葉を紡ぐ。
「美しい其方もまこと桜が似合う。その、笑顔とかな」
――刹那。
世界を繋いだ雲の道を染め上げるように一面に咲いた彼岸花に、彩灯はすっと目を細め、頂を振り仰ぐ。
「……噫、宴はもう少しお預けじゃ」
虞が渦巻く混沌の中心に佇む、白い影。
愛する世界を永遠とするために、生と死を繋ぐ一振りの鈍で殺そうとしている――たおやかに微笑む少女のような、ひとりの女。
愛するがゆえに、永遠にしたくて。
永遠にするために、世界を己の手で殺すのだという。
「愛してるから……ふぅん。まだあたしにはわかんないなあ」
決して揺らぐことのない愛。
どれだけ想いを巡らせてみても、焔璃には答えはわからない。
それでも頭を捻って懸命に考え込む焔璃に、彩灯はゆるりと微笑んで告げる。
「愛というものは一つの感情だけでは無い。言の葉にしているものだけでも無い。……難儀な欲よなあ」
まるで掴めぬ雲のような彩灯の言葉に、焔璃は首を傾げるばかりだ。
「……そういうもん? んん、難しいな」
「己を忘れられても、俺が憶えているから想いは何も変わらんが。殺して喰ろうて仕舞えば、我の血肉と成り永遠に共に……という感情は在るからな。大祓殿と其の辺は似ておる」
それはある意味では、大祓骸魂にとっても似たようなものなのかもしれず。
ゆえに、彩灯にはかの女が抱く想いが、わからなくはないのだと語った。
すると、焔璃は胸の裡に浮かんだ想いをぽつりと、ありのままに零した。
「忘れられても……ていうのはわかるけど。……あたしは寂しくて消えちゃうかも」
猟兵の皆がやって来て、やっと自分を見ることが出来る人に出逢えたし、友達にもなれた。
なのに、いつかまた見えなくなって、大好きな皆に忘れられてしまったら――。
それは焔璃にとってはとても悲しくて、寂しい。
――それでも。
たとえ忘れられて、寂しくなって、消えてしまうのだとしても。
「でも、もしあたしなら消えちゃうまでは大好きな人の隣にいたいし、いてほしいけどな」
「……焔璃、そんな想像はせずとも良い」
小さく眉を下げて微笑う焔璃の耳に届いたのは、いつもと変わらない、けれど胸の裡に溢れる不安を柔らかく包むような彩灯の声。
「喩え視えずとも俺が必ず見つけよう。お前の元気な聲が聴こえれば、屹度」
――その声に、その言葉に。
ぱちりと瞬いた焔璃の顔には、もう、満面の笑みが咲いていた。
「……ひひ、そっか。じゃあ約束ね!」
噫と頷き、彩灯は眼前の神なるものへと振り向いて。
「さあさ、其方の愛は悪いが此処で終わらせねばならぬ。……焔璃、俺の椿と共に力を合わせ折ってしまおう」
焔璃もまた彩灯が呼ぶ声に大きく頷き、忘れ去られし究極妖怪――大祓骸魂へ向き直った。
「アンタの懐刀が何かを刺すことは無いよ。私がすぐへし折るから。――大好きなものを傷付けられたくないからさ!」
大祓骸魂に呼ばれ集った百鬼夜行の軍勢さえも、もはや恐るるに足らず。
「閻魔様の加護の元、今こそ我ら獄卒その任を果たす時! いざいざ……突撃ー!!」
向こうが百鬼夜行ならば、こちらは獄卒夜行。
掲げた爍華は導の如く。焔璃の陽気な声に応えて、地獄に棲まう牛頭や馬頭を始めとする獄卒たちを乗せた船がゆるりと漕ぎ出した。
船が纏う煙に忽ち呑まれて右往左往する百鬼夜行の妖怪たちは、獄卒たちに呆気なく捕まり、為す術もなく骸魂を祓われる。
そして、煙る視界に大祓骸魂が僅かに眉を寄せた時には既に、その眼前に彩灯が迫っていた。
「――御前の噺を聽かせてご覧よ」
刹那、銀月の弧を描いた紅影の一閃が強かに刻まれて。
大祓骸魂の白く細い喉元を突き破るように生えた棘から、大輪の紅椿が秘めやかに零れ咲く。
「私……私の、愛は……、――私は、」
女はそれでも世界を愛し、そうしてひとり、骸の海へと落とされる。
――その時。
ふわりと、桜が舞った。
「……ね、彩灯。ちょっとお花見して帰ろ」
虞は祓われ、愛に狂った彼岸花は残らず散って。辺りには、穏やかな静けさが満ち始めていた。
「ああ、桜も忘れずにな」
舞い踊る淡い一片を掴まえ楽しげに笑う焔璃に、彩灯もゆるりと頷いて応える。
世界の歪みは正されて、混沌とした光景もやがては元に戻るだろう。
けれど、その前に少しだけ。
元来た道へと振り返れば――そこには夢幻の桜が咲いて、二人を優しく出迎えてくれた。
大成功
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