大祓百鬼夜行㉕〜遥かに照らせ、山の端の月
「みんな、遂に最終決戦だ……親分たちが全て打ち倒され、大祓骸魂の元へ至る道が遂に開通したよ。カタストロフまで残り僅かなタイミングだったけど、これで突破口が開けた形になるね」
グリモアベースに集った猟兵たちを前に、ユエイン・リュンコイスはそう口火を切った。東方、西洋、新し、竜神。四人の親分が倒された結果、とうとうフォーミュラである邪神にして究極妖怪『大祓骸魂』に通ずるルートが繋がったのである。とは言え、ここからが本番だ。刻限までに倒せなければUDCアースとカクリヨファンタズム、二つの世界が滅亡の渦へと飲み込まれるのだから。
「大祓骸魂は世界最高峰の電波塔である東京スカイツリー、その頂上にあるアンテナ格納施設『ゲイン塔』で待ち受けているよ。高所と言う戦場は厄介だけど、真の脅威は其処じゃない」
大祓骸魂はその身に纏う『虞』によって、周囲をカクリヨファンタズムが如き空間へと変容させるのだ。それによりスカイツリー頂上部一帯は、これまで戦ってきた戦場に近しい法則によって支配されることになる。
「或る時は遊戯で挑み、また或る時は都市伝説と化して。邪神の威を以て暴れ狂ったかと思えば、桜を見て酒食に耽る……正に千差万別、掴みどころがない。ただし、其処に込められた敵意と殺意は紛れもない本物だ。ぱっと見の珍妙さに騙されないで欲しい」
それはさながら、水面に移る月の如し。さざ波に応じて満ち欠けが変わろうとも、月が月であることに変わりはない。とどのつまり、どの様な戦い方であろうとも『大祓骸魂』が掻き抱く『愛』は不変なのだ。どこまでも澄み渡り、同時に澱み切った情動。討つことは出来よう。祓う事も、鎮める事も可能だろう……だが。
「この場で断言しておこう。『大祓骸魂』を救う事は出来ない。まぁ、何を以て救うのかと言われれば定義は難しいけれど……聖であれ邪であれ、神とは『そう在る』ものだ。一度定まった在り方は変えられない、と考えてくれればそう外れてはいないかな」
悠久の時を経てもなお揺らがぬ『愛』。それを戦闘中の僅かな時間、刃を交わす刹那で説き解そうなどと言うのは神以上の傲慢なのだろうか。その答えを知る者はきっと居ないのだろう。
「……今回の戦場は割れた月が頭上に輝くすすき野だ。その中心部で『大祓骸魂』は此方を待ち受けている。高さが高さだけあって空気が澄んでいてね、月の眩さは地上の比じゃない。それを利用すればうまく立ち回れるだろうね」
それを踏まえた上でも敵は非常に強力だ。だが此処まで来た以上、臆する気も躊躇する時間もない。ユエインはそうして説明を締めくくると、仲間たちを送り出すのであった。
●
――月が満ちる。
煌々と摩天の楼塔を見下ろしながら、新円より銀の輝きが降り注ぐ。
最先端の象徴、技術の粋、未来の兆し。天の樹を冠する頂き。
その頂上に立つは最古の残滓。名が消え、姿を失い、意味すら忘れた成れの果て。
それでも、胸に疼く衝動は、かつて在りし日から些かも変わることなく。
故にこそ、ソレは女であった。
純粋無垢で穢れを知らぬ女童の様な。
恋に焦がれる情動を抱く乙女の様な。
掌より愛を取りこぼした婦人の様な。
幼子を慈しみ髪を撫ぜる母親の様な。
見えず、聞こえず、触れられず、知られず。
『無い』とされたソレが像を結ぶに至り、この姿を選んだのは必然なのかもしれない。
愛が定めであるならば、定めが死であるならば。
きっとこの女は、喜んで闇夜の中へと足を踏み入れるであろう。
「……暗きより、暗き途にぞ、入りぬべき」
不意にころりと、鈴の音を思わせる言葉が漏れる。
迷妄と救いを求めた歌の一説。だが、彼女は迷わず、故に救いを欲しない。
それを示すように、蠱惑的に微笑む口元はまるで……。
「遥かに照らせ、山の端の月」
――緩やかな弧を描く、弓張月の様であった。
月見月
呑気な月見シナリオです。ごめんなさい嘘です。
という訳でどうも皆様、月見月です。
今回はフォーミュラ『大祓骸魂』との決戦となります。
こんな筆名を名乗っている以上、月の要素は見逃せないという事で。
それでは以下補足です。
●最終勝利条件
『大祓骸魂』の討伐。
なお彼女を救う事は出来ません。
●戦場
東京スカイツリーの頂上部『ゲイン塔』。『大祓骸魂』の虞によって割れた月が輝くすすき野へと変貌しております。空気は澄んでおり、戦闘を行うに十分な明度と広さを兼ね備えています。
●プレイングボーナス
月明りに乗じて逆奇襲を行う。
大祓骸魂は暗きに潜んで猟兵を待ち受けています。月明りを利用して闇を暴き、逆に先手を取れば有利に戦闘を進める事が出来るでしょう。
●プレイング受付開始、採用人数について
プレイングはOP公開直後から受付開始いたします。
採用人数については未確定ですが、キャパシティや戦況等の兼ね合いから全採用の確約は出来ません。採用が出来ない場合がある事を予めご了承頂けますと幸いです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
桜雨・カイ
相手同様に自分もゲイン塔の高所に隠れつつ、声だけの会話【闇に紛れる】
理解できなくても話を聞きたいと思ったから、彼女の『愛』を。
きれいな月ですよね
でも私はこの月は一人で見るより、他の人と一緒に見たいです
神様のような変わらぬ想いには及ばないけれど
私も最近、小さな変わらないものを見つけたんです。
それを守る為にもここで負ける訳にはいきません
【エレメンタル-】発動
今回は静かにお願いしますね
風の精霊にお願いして、周囲のススキやヒガンバナを刈り取り影を減らしていく
姿を見つけたら【焔翼】で空を飛びつつ
火と風の精霊で攻撃
救う事はできないけれど、
忘れないでいることはできます。そこに想いがあった事を。
●語りて愛、焼き切りて哀
ひょうと、一陣の風がすすき野を撫ぜ走る。既に梅雨時を迎える季節とは言え、地上634メートルの頂きは少しばかり肌寒い。その只中へと降り立った桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、そっと茂みに身を隠しながら気配を探りゆく。
(相手の狙いは奇襲。居場所を探る事は容易ではないでしょう。ですが今この瞬間、この場に『居る』という事に変わりはありません)
逆奇襲と言う観点から見れば、ギリギリまでこちらの存在を気取らせない様にすべきだろう。だが、青年はそれを選ばなかった。理解できなくても、話を聞きたいと思ってしまったのだ。二つの世界を滅ぼしてなお余りある、彼女の『愛』を。
それに、なによりも。
「きれいな月ですよね。でも私はこの月を一人で見るより、他の人と一緒に見たいです」
割れ砕けても月が風雅である事に変わりなく。であれば、言の葉の一つも語らわねば無粋と言うもので。問いかけは風に乗って溶けゆき、シンとした静寂が暫し降りて。
「……故にこそ、こうして罷り越したのです。人からも見えず、妖すらも忘却し。ただ『無き』と消え果るを拒んだが為に」
鈴の音を思わせる返答が響く。表面上は淡々とした静かな声音。だが心の奥底に仕舞われた情念は嫌が応にも言葉の端々から滲み出ている。カイはそれに敢えて触れることなく、死合い前のささやかな語らいを楽しんでいた。
「私も最近、小さな変わらないものを見つけたんです。神様のような変わらぬ想いには及ばないけれど……私にとってそのささやかな『重さ』は、確かに世界と釣り合うもので」
だが、いつまでもそれに耽っている訳にもいかない。こうしている間にも、刻一刻と世界は破滅へと近づいている。名残惜しさを振り切りつつ、カイは己が体を月光へと晒す。
「それを守る為にもここで負ける訳にはいきません。こればかりは神様相手でも譲ることなど出来ませんから」
瞬間、風が吹く。先ほどの様な生易しいものでなく、つむじ風とも言うべき鋭さを帯びた風刃。それらが通り抜けた後を示すように斬り飛ばされたすすきが宙を舞う。相手が闇に隠れ潜むのであれば、その余地をなくしてしまえば良い。シンプルだがそれ故に最適と言えた。
「今回は静かにお願いしますね? 余り騒々しいのも無粋ですから……とは言え、そう余裕を持てる訳でもなさそうです」
そうして精霊と共に黄金色の草原を削り取ってゆく一方、ぽつぽつと赤い点が生じ始める。それは大祓骸魂が咲かせし彼岸の紅花。減ったのならば増やせばよいと言う、場の支配者だけに許された力技だ。だが放射状に広がるそれは、同時に討つべき神の居場所もまた指し示す事となる。
「同じ土俵に立っていても此方の劣勢は明白。であれば、場を変えましょう!」
地を蹴って空を目指すカイの背中には一対の焔翼が形成されていた。猛る翼を羽搏かせ、月を背にして地上を眺むれば、浮かび上がるは白無垢姿の神なる女。周囲に生い茂る彼岸花ごと焼き尽くさんと、青年は風と焔を手繰って灼熱の旋風を巻き起こす。
「貴女を救う事はできないけれど、忘れないでいることはできます。そこに想いがあった事を……どの様な形であれ、この世界を愛していた事を」
花嫁衣装に身を包んだ大祓骸魂は勿論、すすき野も、紅の華さえも。一切合切を飲み込み、焼却する紅蓮の焔。それを見下ろしながら哀切を滲ませるカイ。だが、それは相手を傷つけてしまったからではない。寧ろ、その逆。
「いいえ、いいえ。それではいけません。人も、物も、世界すらも、いつかは擦り切れ朽ち果てる。それでは意味がないのです……永遠でなければ」
強大過ぎるが故に、想いが深く濃すぎるが故に。どう足掻いても分かり合えぬと理解してしまったが為。
「っ!?」
理外の力と化した『虞』がカイへと襲い掛かり、ゲイン塔へと叩き落す。炎の中から姿を見せた大祓骸魂は、多少衣装を焦がしながらもいまだ健在である。薄くほほ笑む女の姿に、人の形をした物は酷く痛まし気に顔を歪めるのであった。
成功
🔵🔵🔴
御魂・神治
とうとう現れたか、アカンヤツが
大祓骸魂っつうのも仮称に過ぎへんし、今の姿も化身か何かやろ
名無しの正体不明は怖い言うでな
クッソ明るいし、何処も隠れる場所はなさそうやけど、居るんやろ?どす黒い深淵の中に
光が強ければ強い程、闇もその分暗くなる言うでな
...ワイの影の中に潜んどるちゃうか?
自分の影目がけて天地の陽【属性攻撃】の銃弾を【クイックドロゥ】で一発撃ち込む
反応があったらすかさず【結界術】で捉え、
『探湯』の【浄化】の爆風と【破魔】の閃光で【焼却】する
その物騒な複製された懐刀ごと纏めて消し飛ばしたる
一緒に死んでは勘弁してや、アンタ一人で消えてんか
●灯台下暗し、爆閃にて照らし出し
「とうとう現れたか、アカンヤツが。仕事柄、似たような手合いを知らん訳ではないものの……これはその中でも一等『厄』い相手やな」
炎の残滓が散り消えるのと入れ替わる様に姿を見せたのは、御魂・神治(除霊(物理)・f28925)。彼は糸目を更に細めながら、周囲に広がるすすき野へと視線を向ける。
「恐らく『大祓骸魂』っつうのも仮称に過ぎへんし、今の姿も化身の一つか何かやろ。荒神に怨霊、狐狸化生の類は数あれど、名無しの正体不明がいっちゃん怖い言うでな」
未知とは即ち恐怖だ。故に人は訳の分からぬモノに名を与え、姿を書き記し、性質を伝え広めてきた。未知を既知に変え、型へと嵌める。それが人間の編み出した対処法。だがこの場に居る神はその様な枠に収まる手合いではないと、除霊師は本能的に悟ったらしかった。
「クッソ明るいし、何処も隠れる場所はなさそうやけど、十中八九居るんやろ? 月どころかお天道様すら照らせん、どす黒い深淵の中にの」
先行した猟兵の放った火炎に乗じて再び潜伏したのだろう。周囲にそれらしい姿は無い。気配を探っても微かな妖気が感じられるのみ。相手は親分衆と妖怪たちが総力を挙げて姿を浮かび上がらせた名も無き究極妖怪、隠れるのはお手の物という事か。
暫し草原を掻き分けてみても一向に見つかる気配はない。大祓骸魂にとって時間は味方だ。ギリギリまで潜伏し続けると言うのも十分に選び得る戦術だろう。これでは埒が開かぬと、神治は頭を掻きながら腰に吊った黒白の拳銃へと手を伸ばす。
「光が強ければ強い程、闇もその分暗くなる言うでな……ここまで探して見つからんとなると、もしかして」
――ワイの影の中に潜んどるちゃうか?
一見すれば単なる戯れにしか聞こえぬ呟きだが、除霊師は本気であった。彼は拳銃を抜き放つや、足元の小さな影目掛けて弾丸を叩き込む。刹那、まるで羽虫の群れが飛び立つかのように、影が細かな断片となって舞い散ってゆく。
「あら、あら。まさか気付かれてしまうとは、ね?」
「よぉし、大正解! 周りが幾ら明るうても、足元だけには影が生まれるもんや。正に灯台下暗しっちゅう訳やな!」
その影は一つ一つが無数の懐刀と化し、切っ先を神治に向けて来る。幾ら鈍らとは言え数が数だ。一斉攻撃を受ければ無惨な骸を晒す羽目となるだろう。猟兵は咄嗟にその場から飛び退きつつ、もう残り1挺の拳銃も使って刃を叩き落し始める。
(狙いが少しばかり甘い……目的は攻撃だけや無いな。どちらかと言えば牽制か? 仕切り直そうったってそうはいかんで!)
見れば、先ほど神治が立っていた場所からぞるりと大祓骸魂が這い出て来るところであった。猟兵を遠ざけつつ、再び陰に紛れようという腹積もりなのだろう。だがそれをみすみす許す程こちらも甘くはない。除霊師は射撃を継続しながら、素早く印を結ぶ。
「めんどうや言うても、こういう手管が使えん訳ではないんやで!」
生じたのは結界術。その用途は外から来る魔を遮断するのではなく、外へ出ようとする古神を封ずるため。尤も、此度の相手は規格外の大存在だ。結界による拘束も持って一瞬。しかし、彼にとってはそれで十二分だった。
「見た目こそめんこいが、それ以上にヤバすぎる中身が嫌でも分かるわ。その物騒な複製された懐刀ごと纏めて消し飛ばしたる!」
浄化の爆風、破魔の閃光。出し惜しみなく投入された呪符による攻撃は、地上にもう一つの月を描き出す。ゲイン塔全体を揺るがせる衝撃を全身で感じながらも、しかして神治が警戒を緩ませることは無い。
「一緒に死んでは勘弁してや。数百年物の愁嘆場なんざ誰も求めちゃおらんよ。だから、アンタ一人で消えてんか」
「……ふふ、つれないですね。ですが無駄ですよ。私は私の愛を成就させる。ただ、それだけですから」
閃光が消え、爆風が薄れた中心。その中心でほほ笑む白無垢姿を認めると、除霊師は忌々しそうに眉根に皴を刻み込むのであった。
成功
🔵🔵🔴
三辻・蒜
凄く綺麗な景色だけど、とても危ない感じがする
…これも『虞』ってやつなのかな
これだけ明るいなら潜める場所なんて限られそうだけど、敵は変幻自在なんだっけ
案外、どうして気付けないんだろうってくらい近くにいるんじゃないかな
勘だけを頼りに撃っても当たる相手とは思えないし、潜んでる位置の見当がついてもすぐには狙わないよ
【羨望の光】の1発目は少し外した位置に撃ち込んで牽制
敵が何か動きを見せてくれたら、反撃でもしてきてくれたら成功かな
ススキに紛れて近付いて、2発目はもっと当てやすい距離と位置から撃つ
敵の攻撃も、当たったら痛いじゃ済まなそう
けど撃てる好機は逃せないし、多少やられても、やってみせる
●猟犬よ、月下に獲物を追い立てよ
「満ちているのに欠けている、在り得ないはずの月。凄く綺麗な景色だけど、とても危ない感じがする……これも『虞』ってやつなのかな」
ゲイン塔へと踏み込んだ三辻・蒜(緑眼の獣・f32482)は、まず真っ先に相反する二つの感情を抱いた。一つは月下のすすき野という幻想的な光景に対する感嘆。そしてもう一つは、これが地上634メートルの頂きに造り上げられたと言う事実への畏怖。
しかし、それはきっとある意味で正常な反応なのだろう。突出した魅力や美しさに対し、時に人は怖れを覚えるものだ。況や、元凶が最古にして最悪の『虞』を纏う邪神であるならば猶更である。
「ともあれ、これだけ明るいなら潜める場所なんて限られそうだけど、敵は変幻自在なんだっけ。案外、どうして気付けないんだろうってくらい近くにいるんじゃないかな」
だが彼女も猟兵の端くれ、戸惑ってばかりも居られない。気を取り直して周囲へと視線を向けながら思考を巡らせてゆく。すすき野の面積はそれなりに在るが、馬鹿正直にその中へ潜んでいるとは考えにくい。
現に相手は先程の交戦時、猟兵の足元に広がる陰へ身を潜めていたのだ。同じ手を二度も使う手合いとは思えないが、こちらの盲点を突く事は十分にあり得るだろう。それこそ、振り向いたすぐ背後に現れるなど怪談噺の定番である。
(とは言え、勘だけを頼りに撃っても当たる相手とは思えないし……まずは位置の割り出しかな。余り時間は掛けたくないけれど)
そうして不審な場所が無いかどうか探し始める蒜だが、それは非常に緊張を強いられる作業だった。時間を掛け過ぎれば奇襲を受ける危険性が高くなる上、こちら側が発見した事を気取られるのも好ましくはない。ゆっくりと確実に、しかして手早く。猟犬は舐める様に視線を走らせてゆき、そして――。
「……そこ!」
「っ!?」
言語化出来ぬ、微かな違和感。本能の警告に従い素早く愛用の拳銃を構えるや、銃口より深緑色の閃光が迸る。その射撃に手応えこそなかったが何ら問題は無い。初手で命中させられるなど、彼女とて考えてはいなかった。狙いは焦った相手から何らかの反応を引き出す事。
果たして、レーザーが照射された茂みの近くより漆黒の闇が飛び出す。それは濃縮され実体化した『虞』だ。猟犬もまた飛び退って攻撃を避けると、はらりと地面に赤い花が咲く。
(これもまた、綺麗だけど恐ろしい。当たったら痛いじゃ済まなそう。だけど、撃てる好機は逃せないし、多少やられても、やってみせる)
互いに一撃のみの交錯。だがそれだけで、相手の実力をこれ以上ない程に実感できた。言葉通り、直撃は即戦闘不能の危険を孕んでいる。だがそれに臆している暇は無い。いま下手に動けば位置を報せるだけだと大祓骸魂も理解しているはず。仕切り直される前に何としてでも第二射を放たなくてはいけないのだ。
(より近くに、より確実に……だけど、出来れば先手を取れるように。我ながら中々の綱渡りだね)
それは猟犬の狩りか、それとも狙撃手の読み合いか。ギリギリのラインを探り合う、無言の駆け引きが神と人との間で交わされていた。朧気ながらに互いの位置は把握できている。後はどの場所で、どのタイミングで仕掛けるか。
背の高いすすきに紛れ、極力音を立てぬよう注意を払い、最適な位置を求めて動き続け、そして。
「っ、これは彼岸花……撃つなら、いま!」
「人の庭に土足で踏み込む駄犬には、それ相応の報いを受けて頂きましょうか!」
くしゃりと、靴底が柔らかいものを踏んだ感触を伝えて来る。それが紅の華であると気付いた瞬間、蒜は引き金を押し込んでいた。射撃を行うのとほぼ同時に、彼女の眼前で暗闇が溢れ出す。その奥に見えるのは白無垢に身を包んだ女の姿。彼我の距離は実に三歩圏内にまで縮まっていたのだ。
「だけど、覚悟の上だから……!」
だが、被弾など始めから計算済みだ。猟犬は己の被害計算を放り捨て、ただ射撃のみに意識を集中させる。果たして、漆黒を穿ち貫いた緑光は全身を襲う激痛と引き換えに、そのまま神を焼き穿ってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
水沫・牡丹
そなたの愛は大きいな…人類全てを潰えかねんほどに
それが人類に相反する感情と気付けぬ、哀しき者よ
せめて我も介錯しよう、同じ衆生を愛する者としてな
陰に潜むならば、複製した神鏡・五穀の宝鏡で月明かりを照り返して炙りだすぞ
我の位置を知られようと構わぬ、オーラ防御で受ける覚悟はしておる
なにより他の者が攻め入る好機となればよい
神智を越える虞が地に満たそうと、我が宝鏡は豊穣にまつわる神器
植物属性の範囲攻撃として、ヒガンバナを急成長させて枯れさせる
竜脈と地形を利用すれば効率よく無効化できるだろうて
残る穢れも浄化して、徹底的にあやつの自己強化を阻止していく
愛とは難しいな、一歩間違えば執着になってしまうのだから…
夜刀神・鏡介
愛しい相手を殺して永遠に自分のものにする……ね。俺は大切な人とは一緒に歩いていきたいから、その考えは理解しかねるところだけれど。ま、今更そんな意見をぶつけても仕方ない
話をして止める事ができる相手でもなし、今は戦って止めるだけだろう
神刀の封印を解除して、月の輝きと同じ銀色の神気を周囲に展開――壱の秘剣【銀流閃】
すすき野に漂うそれが密やかに大祓骸魂へと攻撃していく
大祓骸魂に此方の位置を完全に捕捉されるまでは、隠れるように移動して、出来る限りのダメージを与えおく
見つかったのなら後は真っ向勝負、まっすぐに大祓骸魂に接近。放たれた虞をも叩き切り、そのまま大祓骸魂にも渾身の一撃を叩き込む
●愛故に焦がれ、愛故に殺す
「ふふ……猟兵と言うのも、中々に手強いものですね。ですが、この程度では止まりません。私は私の愛を必ずや成就させるのですから」
三度の交戦を経て、大祓骸魂にある程度のダメージを与える事に成功している。だが、薄くほほ笑む白無垢姿は未だ余力を匂わせており、深淵の闇が如き底知れなさを醸し出していた。
「そなたの愛は大きいな……想いの重さ故に人類全てを潰えかねんほどに。それが人類に相反する感情と気付けぬ、哀しき者よ。人が神を解せぬように、神もまた人を識れぬのもある意味では道理か」
「愛しい相手を殺して永遠に自分のものにする……ね。俺は大切な人とは一緒に歩いていきたいから、その考えは理解しかねるところだけれど。ま、今更そんな意見をぶつけても仕方ないか」
そんな古々しき者の前に姿を見せたのは、水沫・牡丹(弥哭侘の地母神・f27943)と夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)であった。竜神の口振りにはどこか遥か遠い刻の記憶が滲み、青年は飽くまでも未来を見据えている。
だが猟兵側のスタンスがどうあれ、相手が一切揺らぐつもりの無い事は先の交戦からも明白。大祓骸魂は忘却された神であり、窮極を冠する大妖怪であり、そして澱の如く積もった情念を抱く女である。それを解きほぐす事は一朝一夕では為し得ない。況や、剣刃を交える死合いの最中でなど。
「……もはや問答無用。話をして止める事ができる相手でもなし、今は戦って止めるだけだろう」
「ああ、せめて我も介錯しよう。同じ衆生を愛する者としてな」
言葉で止められぬのであれば、猟兵に出来る事はただ武を以て御柱を誅する事のみ。鏡介は普段使いの無銘刀ではなく神威の刃を鞘走らせ、牡丹もまた豊穣の宝鏡を取り出し臨戦態勢を整える。対する大祓骸魂は依然として悠然さを崩すことなく、小さく後ろへと身を退く。
「これはまた、恐ろしい御仁たちですね。それでは少しばかりお暇させて頂きましょうか」
白無垢姿がすすき野の茂みに紛れたと思うや、フッとその姿が掻き消えた。恐らく周囲の陰の中へと同化したのだろう。試しに気配を探ってもそれらしいものは感じられない。
青年は小さく嘆息しながら、敵の位置を割り出すべく手にした得物へと意を籠めてゆく。
「『虞』の極北が恐ろしいとはよく言うものだ。とは言え、まずは相手の居場所を炙り出さねば一方的に攻め立てられるだけか……神刀解放。邪を絶ち、善を守護せん」
――壱の秘剣【銀流閃】。
使い手の意思に応じ、刃は黒鉄の刀身より銀の燐光を周囲へと漂わせ始める。それは神刀【無仭】が放つ神気そのもの。魔に触れれば斬撃波を放って両断し、善なる存在には邪を祓う加護を与える攻防一体の業だ。
まるでソナーかレーダーの様にジリジリとすすき野を攫ってゆくが、戦場となっているゲイン塔は存外広い。出来るだけこちらの存在を察知されぬよう身を隠して動いている事も相まって、追い詰めるまでに相応の時間を要するだろう。
「彼の神が陰に潜むならば、それを照らし出す光条もまた必要だろう。此処は月明かりが眩い上、清らかな気が満ち満ちておる。それらを我の宝鏡で束ねてやれば……」
であらばと、牡丹は手にしていた神鏡を幾つも複製するや、角度を調整して鏡面を四方八方へと向けてゆく。煌々と照り輝く満月の光、そして青年の作り出した神銀の霧。それらを相合わせ反射させることにより、より遠くまで輝きを届かせることが出来るのだ。それはさながら霊的なサーチライトを思わせる光景である。
(尤も、これでは相手からも我の位置は一目瞭然。だがそれでも構わぬ。先制の一つや二つ程度、受ける覚悟はしておる。なにより他の者が攻め入る好機となればそれでよい)
鏡介が『面』を以て逃げ隠れ出来る範囲を塗り潰し、残る領域を牡丹の『点』が走査する。二人の連携によって、ゆっくりとだが着実に闇の生じる場所が消えゆき、そして。
「……身を隠した乙女の居所を強引に暴こうなどと。その様な無粋をしては、手痛い返礼を受ける事になると教えてあげましょう」
「っ!?」
輝きに照らされてもなお消えぬ漆黒。それこそが大祓骸魂であると牡丹が気付いた瞬間、闇の中より夥しい数の懐刀が飛び出してきた。如何に鈍らとは言え物量が尋常ではない。その上、刀身には黒々とした虞が纏わされている。周囲に霊力を展開して受け流そうと試みるも、無傷では済まない事も同時に理解してしまい……。
「……そうはさせんよ。忘れたか、既にこの周囲一帯には無仭の神気が満ちているという事を」
直撃の寸前、両者の間に鋭い旋風が巻き起こる。それは虞に反応して放たれた、鏡介による斬撃だ。銀閃は懐刀を纏めて断ち切ると同時に、飛び散った虞すらも浄化してゆく。幾分かは地面へと落ちて彼岸花を咲かせるが、その数も最小限に抑えられたとみて良いだろう。
「こうして相まみえた以上は是非もなし。再び潜伏される前に決めさせて貰う!」
「あらあら、強引な殿方は嫌われてしまうものですよ?」
猛然と大祓骸魂へ切り込んでゆく青年に対し、相手は濃縮された虞を以て迎撃を試みる。彼女としては直撃せずとも問題なかった。回避によって勢いが減じるか、或いは地面へと落ちて彼岸の紅華を咲かせるか。どちらにせよ損にはならない。恐らくはそう考えていたのだろう、が。
「神智を越える虞が地に満たそうと、我が宝鏡は豊穣にまつわる神器。ヒガンバナもまた大地に根付くものである以上、どうにか出来ぬ道理もあるまい。それに助けられるだけと言うのも、竜神の沽券に関わるのでな」
咲いた端から花弁が萎れ枯れてゆく。それは牡丹による植物の過剰成長によるもの。愛も栄養も、在るだけ注げばよいと言う訳ではない。何事も度が過ぎてしまえば毒になるだけ。大祓骸魂に対してはこれ以上ない皮肉と言えよう。
「竜脈と地形を利用すれば、更に効率よく無効化できるだろうて。片端から穢れを浄化してやる故、強化なぞ望まぬ方が良いぞ」
「……花の風情を介さぬとは。無粋な龍神様ですこと」
思惑を外されて相手としても面白くないのだろう。憎まれ口を叩く大祓骸魂の表情に初めて不快感が浮かぶ。そうした仲間の支援を受け、遂に鏡介は相手を攻撃圏内へと捉える事に成功する。
「愛とは相手の為を慮るが故。一方的に押し付け、縛り、意のままにしようなどと、それこそ無粋の極みだろう。昨今の風潮的にこういった物言いもどうかと思うが……女は奥ゆかしい方が好まれるぞ?」
「齢百も生きていない子供が、賢しらに口を利くものですね」
浴びせかけられる虞を一刀の元に両断し、続く二の太刀が白無垢へと吸い込まれる。見た目以上に重く、粘つく様な斬り応えが相対した者の正体が見た目相応でない事を実感させた。直接的な戦闘は好ましくないのか、大祓骸魂はそのまま飛び退ってすすき野の中へ飛び込むや再び姿を消す。可能であれば更なる追撃を叩き込みたかったが、既に相手の気配を感じ取る事は出来なかった。
「逃したか……一太刀浴びせられただけでも良しとしよう」
「先の言を聞いて改めて感じたが、愛とは誠に難しいな。一歩間違えば執着になってしまうのだから……」
得物を鞘に納める青年の横では、竜神が悩まし気に嘆息する。可愛さ余って憎さ百倍などと世間では言うが、果たしてあの女の本音は如何ばかりか。尋ねようにも、周囲にはただそよそよと揺らぐすすき野ばかりが広がっているのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ブラミエ・トゥカーズ
現も幽も愉快な今は好んでおるのでな
奇襲
月光を背に空で蝙蝠化し超音波
降下後狼化し臭いで索敵
動き回って照準を合わさせない
位置特定後、霧に変化し月光の影に隠れつつ移動
敵の認識から外れ至近から実体化し奇襲
SPD
不変であるが故に忘却を避けれぬとは神も不便であるな
余の様に恐ろしくも愉快にもなるのも困り物であるがな
いやはや、人からの枷《愛》とは言えどもな
SPD
生と死の間には因果がある
そうであるならば余の剣は対抗しうるに十分である
全ての病の冠を銘したこの剣はな
東に老いあり、南に病あり、西に死あり
変わりゆく事こそ永遠である
北へ還り、再び東を目指すが良い
人より永きを生き続ける余を殺すのに
貴公の時間で足りるかな。
●人の尺度を超えてなお
「UDCアースを死によって永遠とする、か。生憎と現も幽も愉快な今は好んでおるのでな。我が庭を掠め取ろうと言うのであれば、動かぬわけにはいくまい」
再び姿を消した白き女と入れ替わりに、ジワリと黒い影が摩天楼の頂へと滲み出る。ひゅうひゅうと吹き荒ぶ風に髪をたなびかせながら、ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は小さく肩を竦めた。
「さて、戦場はお誂え向きに満月の夜な上、地上から最も天に近い建造物ときている。此処は一つ貴族らしく、夜空の散歩と洒落込むとしよう」
白き神が地にて潜むと言うのであれば、黒き翼は天に舞うのみ。吸血姫は地を蹴りながらクルリと身を翻すと、その身を蝙蝠へと変えてゆく。梟、夜鷹と宵闇を飛翔する生物は数あれど、こと獲物を探す点では蝙蝠の右に出る者は居ないだろう。超音波による音の反響は、単純な視覚聴覚を凌駕する。
(ふ、む……反応が無い、か。となると、影の中にでも沈み物理的実体そのものを消し去っていると見るべきだろう。まぁ良い、それならそれでやり様はある)
だが、その超感覚を以てしても敵の居場所は杳として掴めなかった。しかし、ブラミエに動ずる様子は無い。相手は邪神であり妖怪、この世から隠れ消えるなど朝飯前。彼女はふらりと音もなく地上へと舞い降りるや、今度は四足の獣へと変じて風の流れに意識を集中させてゆく。
(彼奴は常に虞を垂れ流している。それ自体は無味無臭だろうが、そこから咲く彼岸花まではそうもいくまい。畢竟、その周りを嗅ぎ回れば自ずと奴の位置も知れよう)
今度は茂みに身を隠しながら、鋭敏な嗅覚を頼みとして敵の居場所を探り始める。半ば枯れた草木の匂い、戦闘に由来すると思しき硝煙臭、そしてそれらに対して微かに混じる甘ったるい香気。籠められた想いに比例しているのか、微量にも拘らずそれは酷く強烈で濃かった。
(むせかえるような蜜の甘さ……鼻が利くと言うのも善し悪しか。世界を愛すのは勝手だが、これでは愛される側は堪らんな)
眉を顰めつつ、吸血鬼は匂いが漂ってくる中心へと目星を付ける。十中八九、相手はそこに居る筈だ。だが、接近に比例して紅華の匂いはいよいよ以て濃密さを増していた。狼のままこれ以上接近するのは流石に厳しいだろう。
故にブラミエは三度己が姿を変じさせる。今度は黒々とした霧だ。幻覚を齎す病が効くかどうかは定かでないが、相手の意表を突くにはうってつけだ。すすきの間をゆっくりと進み、一際闇が濃い場所を見つけると、タイミングを見計らい……。
「不変であるが故に忘却を避けられぬとは、神も真に不便であるな。無論、そうであろうとも貴公自身に変わる気など毛頭ないのだろうが」
「っ!?」
ギリギリまで距離を詰めてから実体化。その手には既に黒々とした刀身の刃が握られており、抉り込む様に切っ先が闇へと突き立てられる。だがそれに一拍遅れて、闇の中より無数の懐刀が飛び出してきた。ブラミエは追撃に欲を出すことなく引き際を見極めると、再び己の身体を霧へと変えてその場より離脱してゆく。
果たして、闇の中から斬り裂かれた白無垢姿が這い現れ、凝縮された霧が漆黒のドレスを形作る。近しくも対照的な者たちは大地へと足を着け、ここで初めて真正面から相対した。
「まぁ、仮に変わる事が出来たとして、余の様に恐ろしくも愉快にもなるのも困り物であるがな。いやはや、それが人からの枷《愛》とは言えどもな」
「……愉快、とは自虐が過ぎるのではないかしらね。こんな疫病を裡に秘めておきながら、ね」
戯ける吸血鬼に、古神は先ほど受けた傷口を見せつける。先に使用した刃は病の具現そのもの。如何な大妖怪とは言え、流石に無傷とはいかなかったらしい。
「生と死の間には因果がある。そうであるならば余の剣は対抗しうるに十分であろう。全ての病の冠を銘したこの剣はな。生と死を繋ぐものは、何もその懐刀だけではないぞ」
毒を以て毒を制する、とでもいえば良いか。少なくともこの場において有効打になると分かればそれで充分。ブラミエは得物を構えると、一気に相手の懐目掛けて踏み込む。
「東に老いあり、南に病あり、西に死あり。停滞に先は無く、変わりゆく事こそが永遠である。永久を望むのであれば北へ還り、再び東を目指すが良い」
「戯言を。私の愛は変わりません。変わらぬが故に、今日まで続いてきた……それを否定などさせはしません」
四方八方より降り注ぐ懐刀を弾き返しながら、吸血姫は大祓骸魂へと斬撃を叩き込んでゆく。だが、毒を以て毒を制するのは相手も同じ。刃に込められた虞はブラミエの身体を着実に削り取る。しかし彼女は敢えて、苦痛ではなく不敵さを以て頬を歪めて見せた。
「それもまた結構。だが人より永きを生き続ける余を殺すのに、貴公の時間で足りるかな?」
白き女は愛故に、黒き女は矜持ゆえに。互いに一歩も退く事無く、相手の存在を削り切らんと斬り結び続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
神宮時・蒼
……あれが、大祓骸魂…
…世界を、滅ぼそうと、している、なんて、到底、見えません、ね
…此処が、正念場。全力を、尽くして、戦い、ましょう
【WIZ】
月明かりが一等眩しい場所を背に
【目立たない】よう【忍び足】で移動します
【結界術】で気配が遮断出来れば実施
相手に気付かれても厄介です
此処は【高速詠唱】と【先制攻撃】を駆使します
【全力魔法】と【魔力溜め】で威力を増した「白花繚乱ノ陣」を
白い花弁が月明かりに紛れるかと
相手のヒガンバナが展開されたら、【属性攻撃】で燃やします
…愛にも、様々な、形が、あるの、でしょうけれど…
…貴女の愛は、妄執に満ちて、いる、のですね
…其の愛の、果てには、何が、ある、のでしょう
●愛の果てに臨むモノ
「ふ、ふふ……人外同士の戦いと言うものは、やはり好きません。どうしても、泥臭くなってしまいますから」
すすき野の中心部、満月の下。そこに佇む大祓骸魂はこれまでと同様に酷薄な笑みを浮かべながらも、全身には無数の傷が刻み込まれていた。先に挑んできた猟兵が同じ妖怪という事で、消耗戦と化したが為だろう。ゆっくりと再生しつつあるものの、その速度は少しばかり鈍い。これまでの戦闘で蓄積した負傷が徐々にではあるが効いているらしい。
「……あれが、大祓骸魂……世界を、滅ぼそうと、している、なんて、到底、見えません、ね。でも、こうして、相対すれば……やはり、フォーミュラなのだと、分かります」
そんな相手の姿を目の当たりにして、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)はたどたどしく言葉を漏らす。一見すれば、眼前の相手は白無垢に身を包んだ古式ゆかしい少女にしか見えない。だが、その総身より滲み出る形容しがたい威圧感、それこそ『虞』としか表せない威が見た目通りの存在でない事を嫌が応にも示していた。
「二つの世界が、終わってしまうか、どうか……此処が、正念場、です。全力を、尽くして、戦い、ましょう」
「次から次へと千客万来ですね。尤も誰も彼もが招かれざる客。申し訳ありませんが、暫し暇を頂かせて頂きましょうか」
しかし、猟兵として臆する訳にはいかない。蒼が戦意を新たにする一方で、大祓骸魂は煩わしそうにすすき野の奥へと姿を消した。一度退いて体力の回復に当てようと言うつもりなのだろう。だが、そう思わせておいて不意を突いてくる可能性とて十分にある。相手の意図がどうであれ、早々に見つけ出すに越したことは無い。
「月明かりが、明るくなれば、なるほどに……闇影は、その濃さを、増すもの、です。彼女が身を、潜めるなら……きっと、其処の、はずだから」
少女は煌々と輝く満月を背に、そよそよと揺れるすすき野へ視線を巡らせる。相手からすれば逆光になってこちらの姿もまた見えにくいはず。だが念には念を入れ気配消しの結界を張りつつ、足音を殺しながらすすき野の中へと踏み入ってゆく。
(誰からも、忘れられて。同じ妖怪すらも、姿が見えず。それでもなお、胸に抱いた愛だけは……決して、摩耗させなかった)
大祓骸魂の過去に何があったのか。どの様な切っ掛けで現世に恋焦がれ、幽世へと封じられたのか。それは相手の言動から察するほかない。分かることはただ一つ、その胸に宿る莫大なまでの情念。
(愛にも、様々な、形が、あるの、でしょうけれど……貴女の愛は、妄執に満ちて、いる、のですね。未来へ、歩むためでなく、在りし日に、留まり続ける、為の)
ふと、不意に蒼は足を止めた。背の高い草に囲まれ、聞こえるのはさらさらとした葉擦れ音のみ。手にしていた月の名を冠す杖の石突を地面へ突き立て、そっと静寂へ耳を傾ける。白無垢の少女は何を思うのだろうか。それに対し、自らはどう立ち回るべきなのか。そんな取り留めのない思考が胸中で渦を巻き、そして。
「……其の愛の、果てには、何が、ある、のでしょう」
不意を突いて、唇より零れ落ちた疑問。それを契機とするかの如く蒼の周囲に彼岸花が咲き乱れるや、死角より漆黒の虞が飛来する。既に大祓骸魂は猟兵の姿を射程に捉え、攻撃の機を窺っていたのだ。
「そんなもの、決まっているでしょう? 愛しいUDCアース、その全てですよ」
タイミングとしては最上。物思いに耽っていた少女にそれを防ぐ手立てはない。
そう――。
「……何にも、染まらぬ、誠実なる、白。何にも、染まる、無垢なる、白。……舞え、吹き荒れろ。旧き想いを送る、葬送と成れ」
――本当に彼女が敵の存在に気付いていなければ、だが。
刹那、蒼の足元より極光が迸ったかと思いきや、真白き花弁が吹き荒れる。彼女はただ無為に思索していた訳ではない。すぐ近くに敵が潜んでいると看破するや、気取られぬ様に攻撃準備を整えていたのだ。紅の華は瞬く間に純白の花びらによって塗り潰され、白無垢姿さえ色無き色へと染め上げられる。
「世界の、全て。果たして、本当に……そう、なのでしょうか」
奇襲が失敗したとみて早々に見切りをつけたのだろう。花弁が消えた後には何も残ってはいない。再びの静寂が周囲に降りるのを感じながら、蒼は答えの返らぬ問いを口にするのであった
大成功
🔵🔵🔵
百海・胡麦
美しい月だ
嗚呼、写し鏡の世を見ゆれば焦がれる心はよく解る
アタシも恋しい——故に、させぬよ
かの大妖怪を暴かねばならない
「静墨」お前のまなこには何が映る?
「励振」かの人の名付け親、竜の力も残る筈、助けておくれ
気配を探り「天人」で塔を経てすすき野へ駆けよう
昔居た頃に、斯様な塔もありはしなかった
すべて人の術、あの者たちの生が創り出す
我らの望みはその生では無かったか……幽世を造りしひとよ
空高く月の光を「励振」で返し、照らそう
アタシがよく見える、狙うがいい
高く月光に潜んだ「静墨」に隙を狙わせる
虞と華は、己の白炎で身ごと焼いて貴女まで
分かれ在るものを食うてしまえばまた独り
遠く見ゆる世界も美しかろう、大祓骸魂
●愛するために必要なのは
「美しい月だ。割れていても、否、割れているからこそ風情が増すというもの。嗚呼、写し鏡の世を見ゆれば焦がれる心はよく解る。アタシも恋しい—―—故に、させぬよ」
真白い花弁が高空を吹き荒ぶ風に流されて。
宵闇へと溶け消えてゆく白き欠片を視界の端に捉えながら、百海・胡麦(遺失物取扱・f31137)は遥か頭上に聳え立つ塔を見上げていた。人の手で作り上げられし、天の樹を冠する塔。その頂上に待ち受けるのが最も古き妖怪だと言うのは、一体何の皮肉だろうか。
「昔居た頃に、斯様な塔もありはしなかった。すべて人の術、あの者たちの生が創り出す、移ろいながらも語り継がれる綾模様。我らの望みはその生では無かったか……なぁ、そうだろう。幽世を造りしひとよ」
零れ落ちる呟きはどこか寂し気で、だが小さく頭を振るとそんな感傷は波が退くように消えてゆく。蒐集者は気を取り直すと、己が招き集めて来た品々たちへと声を掛ける。
「かの大妖怪を暴かねばならないが、アタシ一人では少しばかり荷が勝つからね。さぁ静墨、お前のまなこには何が映る? 励振、かの人の名付け親、竜の力も残る筈。どうか助けておくれ? 天人よ、共に塔を経てすすき野へと駆けよう」
応じたのは宙を泳ぐ鮫に銀の針飾りが目を惹く風水盤、そして空色の箒。どれもこれも、一癖も二癖もあるコレクションだ。だがその分、頼りがいがある事もまた知っている。胡麦は軽やかに箒へ跨るや、スカイツリーが頂上部『ゲイン塔』を目指して飛翔してゆく。
猟兵はグングンと壁面を這うように加速すると、瞬く間に高さ634メートルを登り切った。彼女はそのまま勢い余って高らかに舞い上がるや、月を背にして無人のすすき野を睥睨する。
「こんなにも見事な月夜だと言うのに、作り上げた当の本人が身を隠していては勿体ない。届かぬほどの暗闇に身を沈めていると言うのであれば、そこまで光を射し込ませるとしようか」
手にした風水盤を掲げると、降り注ぐ月光を針飾りへと手繰り寄せた。そうして収束した輝きは、より鮮烈な眩さと共にすすき野へ拡散してゆく。幻想的な光景だが、相手からすれば堪ったものでは無いのだろう。がさりと茂みが揺れたかと思うや、幾つもの凝縮された『虞』が胡麦目掛けて放たれ始める。光を発するという事は相手からも良く見えるという事。尤も、その程度は彼女とて織り込み済みだ。
「アタシがよく見える以上、こうなるのも当然だろう。だが構わないよ。精々良く狙うがいいさ」
一か所に留まれば逆に位置を割り出されると、攻撃位置は都度変更されている。だが如何に場所や発射間隔を調整しようと、こちらを狙う以上は着弾差によって現在地を予測できると言うもの。
「あそこだね……待ちの時間はお仕舞いだよ、静墨。存分に行っておいで?」
そうして攻撃を回避しながら大まかな進路を割り出し終えると、胡麦はさっと手を振って合図を出した。瞬間、それまで月光の輝きに身を紛れ込ませていた鮫が猛然と襲い掛かってゆく。棘の牙を剥きだしながらすすき野へと潜り込むや、一拍の間を置いて嚙み切られた彼岸花と共に白無垢姿が飛び出してくる。
「空を泳ぐ鰐とは、また珍妙な存在を従えていますね。幾ら白いとはいえ、因幡の兎ではないのですけれど」
「神話の時代から、隠れ潜む手合いは引っ張り出されると相場が決まっているんだよ?」
こうなれば最早是非もなしと、大祓骸魂は虞を撒き散らしながら猟兵目掛けて襲い掛かってくる。対する胡麦は掌に小さな種火を生み出すと、それで白き炎龍を形成。術者の念に従うそれは、顎を開いて古き神を飲み込んでいった。
黒き虞、白き焔。黒白に混ざり合う敵を眺めながら、胡麦は静かに問いを投げかける。
「愛とは二人で紡ぐもの。分かれ在るものを食うてしまえばまた独りへ逆戻り……遠く見ゆる世界も美しかろう、大祓骸魂?」
だが彼女は、その答えに否が返って来ると尋ねる前から知っていた。それを証明する様に、引き裂かれた炎龍の内側から焼け焦げた白無垢が姿を見せるのであった。
成功
🔵🔵🔴
勘解由小路・津雲
いよいよ大祓骸魂のお出ましか。どれひとつ、変わった趣向の月見と洒落込むとするかね。
【作戦】
まずは【御神水】を広範囲にばらまくとしよう。水滴に映るは無数の月。それを我が鏡を通じて爆発的に光らせ【目潰し】を。
相手が近くに潜んでいたならば一瞬怯ませることは出来よう。それで位置をつかんだら【歳刑神招来】で槍や鉾を叩き込むとしよう。
敵の攻撃はかわしても自身を強化する場を作るやっかいなもの。しかし、すすき野の中のヒガンバナはよく目立つ。そこに立つ限り姿は隠せまい。
今度はこちらがすすき野を利用して姿を隠して戦うとしようか。
……やれやれ、ゆっくりと月を眺める余裕はなさそうか。
●風雅なれど、月を眺むる暇もなし
「いよいよ大祓骸魂のお出ましか。既に随分と大暴れしている様だが……どれひとつ、変わった趣向の月見と洒落込むとするかね」
風に乗って鼻腔を擽る微かな焦げ臭さ。だが周りを見渡してみても、すすき野には焼け跡一つ見当たらない。既に少なくない数の戦闘が起こっているはずだが、周りは奇麗なものである。これも古き神の権能かと、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は小さく肩を竦めた。
月は煌々と照り輝き、すすき野が風にそよめいている。確かに一見すれば、月見にうってつけのシチュエーションだ。しかし言葉とは裏腹に、彼は呑気に寛ぐ気など毛頭なかった。
(……『虞』という概念こそ身に染みちゃいるがな。これは幾ら何でも、陰の気が濃すぎるだろう。月明りで辛うじて軽減出来ているのが不幸中の幸いか)
この場に足を踏み入れてからずっと、陰陽師としての本能が警告を叫び続けていたのである。その原因は大祓骸魂に由来すると思しき濃密な『虞』。一帯に満ちるその強さと言ったら、下手な神性や怨霊が裸足で逃げ出す程だ。
「先の交戦で火を使った者が居た様だが、どうやらお気に召さなかったらしい。であれば、次は水を以て一芸をお見せするとしよう。どうか一手御覧じろ、ってな」
こうも陰気が満ち満ちていては敵の気配を辿る所の話ではない。まずはそれらを一掃すべく、津雲は瓢箪を取り出して栓を抜く。口の開いたそれを振り抜けば、中に収められた御神水が飛沫となってすすき野を濡らす。細やかな水滴となったそれらは一粒一粒の表面に月を映し出し、キラキラと煌めきを放っていた。
「水滴に映るは無数の月。天に輝く本物も悪くは無いが、水鏡を介して見るのも乙なもんだろう? そして、次に取り出したるは我が大元たる金鏡、と」
問いかけに対する返答は依然として無い。だが、相手は必ずこちらや様子を窺っているはずだと陰陽師は確信していた。そうして彼は丸い金属鏡を手に取ると、頭上へと掲げる。つるりと磨き抜かれた鏡面が、頭上の割れ月を映し出した……瞬間。
――コォォオ、と。
水滴に映っていた月が一斉に強烈な輝きを発し、周囲一帯を暴力的な白で塗り潰した。鏡とは何かを映し出すもの。そう定義するならば、小さな水の粒もまた鏡足りえる。呪術の世界において、そうした類似の概念は極めて重要だ。津雲はそれを利用して己が本体と水滴を同期させると、霊力を流し込んで一気に発光させたのである。
「あ、あぁ、ああああっ!?」
こうなれば周囲に満ちていた虞は纏めて吹き散らされ、更には隠れ場所である暗闇もほんの一瞬だけだが消滅する。果たして、茂みの一角から白無垢姿が飛び出してきた。読み通り、どうやら閃光を直視してしまったらしい。目元を抑えてのたうち回っている。
「おっ、そこに居たか。目晦ましはそう長くはもたんだろうが、居場所さえ割れれば十分だ。神には神を以て相対するとしよう……八将神が一柱、刑罰を司る歳刑神の名において、汝を裁かん。急急如律令!」
当然のことながら、津雲自身は目元を覆って視界を保護しており無事だ。彼は五百を超える鉾槍を召喚するや、一気呵成に畳みかけてゆく。
「お、のれぇ……! 認識されぬ事には慣れていますが、よもや逆に視界を潰されるとは」
対して、大祓骸魂は涙交じりの瞳で猟兵を睨め付けると、濃縮した虞を以て鉾槍を迎撃する。それは攻撃を相殺すると同時に、薄まった虞を彼岸花によって補おうという狙いなのだろう。だが逆に言えば、紅華の上に立って居る限り身を隠すことは出来ないとも言えた。
「どのみち、元とそうは変わらんだろう? ほれ、恋は盲目と言うからな」
憎まれ口に対する反応は強烈な虞の嵐。これには堪らぬと陰陽師は茂みへ飛び込んで身を隠してゆく。奇しくも、これにて互いの立場が逆転した形となる。鉾槍による攻勢を強めつつ、津雲はすすきの囲まれながらほっと小さく息を吐く。
「……やれやれ。やはり、ゆっくりと月を眺める余裕はなさそうか。そちらは全てが終わった後、幽世にて楽しむとするかね」
そうして彼は飛び交う虞と怒声を避けながら、着実に大祓骸魂の体力を削りゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
吉備・狐珀
この明るさ、暗闇のある場所はあまりなさそうですが、はてさて
案外近くにいるかもしれませんね
UC【破邪顕正】使用
破浄の明弓を構え矢を放つ
破魔の力を込めた御神矢は何処へ隠れようとも大祓骸魂の元へと飛んでいく
矢が導く前に貴女自身が教えてくれそうですが
月代、みけさん、妖怪達が集まる方向へ衝撃波と砲撃で一斉攻撃を仕掛けるのです
手加減して勝てる相手ではありません、全力で挑みますよ
ウカは月代達の強化、ウケ、負担をかけますが結界をはり、妖怪達の攻撃を防いでもらえますか
…妖怪達がさらに闇を作ってくれたようですね
おかげでこちらも紛れることができました
永遠を与えられた代わりに物言わぬ人形にされた兄の炎に焼かれるがいい
●永遠の代わりに失いしは
「……そも、焦る必要などありません。時間は飽くまでも私の味方なのです。わざわざ討って出て挑み掛かるなど愚の骨頂。ただ待ちさえすれば、UDCアースは我が胸の中へと舞い戻るのですから」
一時の激情に駆られて猟兵を追い立てていた大祓骸魂だったが、時間が経ち冷静さを取り戻したのだろう。彼女にとって勝つことは重要ではない。敗れずに時間さえ稼げればそれで充分なのだ。そう考えなおすと、溶ける様に虚空へとその姿を沈み込ませる。
その気配が完全に消え去るのと、新たな猟兵が現れるのは殆ど同時の事であった。
「説明には聞いていましたが、高さ故に随分と月が近いですね。勿論、本物でないことは百も承知ですが……戦争でなければ、確かに月見の一つもしたくなります」
頭上に煌々と照り輝く満月。表層に亀裂を走らせたそれを眺めながら、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)はそう眩し気に瞳を細める。場合によっては月見を楽しむ事によって敵戦力を減らせる場合もあるらしいが、此度がそうでない事を果たして悔やむべきか否か。
「この明るさなら暗闇のある場所はあまりなさそうですが、はてさて。距離を取って逃げ回っていると見せかけて、案外近くにいるかもしれませんね」
狐像の少女は気を取り直すと、周囲の状況を丁寧に観察してゆく。辺りには背の高いすすきが生い茂っており、根本あたりであれば確かに薄暗いだろう。だが、そこに潜んでいるのかと問われれば疑問符が残る。相手は窮極の大妖怪にしてUDCアースに君臨した大邪神。一筋縄で終わる手合いではあるまい。
「ならば、まずは一手。恐らく初撃必中とは参りませんが、大まかな位置程度は絞り込めましょう。或いは、矢が導く前に貴女自身が教えてくれそうですが」
そう言って狐珀が取り出したのは銀色の弓。霊力を巡らせて弦を張ると、破魔の力を籠めた矢を番えて引き絞る。これなるは悪しきを駆り立てる御神矢。相手が如何ほどの隠形を為すかは分からぬが、きっとその元へと飛翔するはずだ。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。布留部、由良由良止、布留部……霊の祓」
頭上高くに鏃を向けると、少女は祝詞を口遊みながらひょうと矢を放つ。グングンと上昇する御神矢はやがてクルリと反転するや、撃ち手である少女目掛けて落下し始める。
「……? これは、いったい」
何故と疑問符を浮かべる狐珀だったが、答えはそう間を置かずに示された。矢は少女のすぐ背後へと落下すると、その背より伸びる影へと吸い込まれ、そして。
「く、ふ。ふふふ……まさか、ここまで正確とは。たゆまぬ鍛錬を感じさせると同時に、今はそれを忌々しく感じてしまいますね」
「っ!? 月代、みけさん!」
背後より上がった鈴の音が如き声。それに対し、狐珀の対応は極めて迅速だった。咄嗟に前方へ飛ぶと同時に、仔竜と鋼狐を呼び出して攻撃を命ずる。果たして、振り返った先に居たのは骸魂に取り込まれた妖怪たちを盾として、御神矢を防ぐ大祓骸魂の姿。
そう、相手は猟兵が姿を見せたのを好機と捉え、そのすぐ背後へと忍び寄っていたのである。本来の想定であればそのままギリギリまで潜伏するつもりだったのだろうが、巫女である狐珀の資質が上手くかみ合ったといった所か。
「この期に及んでまで、妖怪の皆さんを……! 手加減して勝てる相手ではありません。みんな、全力で挑みますよ!」
突発的に火蓋が切られた形となったが、両者ともに出遅れる事は無かった。大祓骸魂は強引に従えた百鬼夜行を以て猟兵を圧殺せんとし、狐像の少女は友輩と共に猛然とその只中へ切り込んでゆく。黒狐の強化、白狐の援護を受けて、二体の獣が押し寄せる妖怪たちを蹴散らしていった
「……残念ね。神に仕える者であれば、私の考えにも理解を示してくれると思ったのだけれど」
とは言え、数の差は如何ともしがたい。徐々にではあるが、仔竜と鋼狐の姿が埋もれ始める。しかし今でこそ優勢だが、相手はもう欲を掻く様な真似はしなかった。獣たちの奮戦を尻目に、大祓骸魂は再度姿を晦まそうと踵を返し……。
「ええ、分かりませんとも。そんなモノの価値など、微塵も」
今度は神が背後を取られる番であった。妖怪の群れを突き破り、白き少女と黒衣の人形が飛び出してくる。狐たちを囮とし、彼女らのみ単身で先行して来たのだ。
「っ!? 何故……!」
「密集した妖怪達が更なる闇を作ってくれた様でしてね。おかげでこちらも紛れることができました」
驚愕に目を剥く白無垢姿とは対照的に、狐珀の姿は珍しく冷たいもの。だが、それもそうだろう。永遠なぞ、彼女にとっては忌むべきものでしかないのだから。
「荒ぶる神を鎮める事も、巫女の役割……ですが、何よりもそれ以上に」
――永遠を与えられた代わりに、物言わぬ人形にされた我が兄の炎に焼かれるがいい。
怜悧な声音に抑え込まれた、猛る激情を示すかのように。赤々とした業炎が大祓骸魂の全身を包み込んでゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ペイン・フィン
月の明かりの元、奇襲する、か
最も、自分もまた、本来は闇に紛れる物
見つけ出し、自分は隠れ、襲撃を行うとしようか
忍び足に、迷彩
隠密系技能で、姿を隠そう
同時に、暗視に視力、索敵、追跡、偵察、見切り、第六感
知覚強化の技能を使って、その存在の所在を暴き出す
……最低限、大まかな場所さえ分かれば良い
あとは、皆でなんとか出来る、から
コードを使用
自分に兄姉、枝
9種を同時に複製し、展開
即座に攻撃
大まかな場所さえ、暴ければ
後は、こちらの番
蹂躙し、なぎ払い、範囲を圧倒する
……貴女の行くべき所は、此処では無い
さあ、地獄の門は此処にある
貴女のいるべき場所へと、帰ると良いよ
●我もまた、闇を往く物なれば
「月明かりに乗じて、先手を取り合う……言葉にすればただそれだけの話ですのに、よくもまぁ手を変え品を変えて挑み来るものですね」
白無垢の袂より手巾を取り出し、全身の煤を拭う大祓骸魂。光で照らすのは元より、直感で狙い澄まし、己が影を撃ち、果ては視界を塗り潰す。数多の奇妙な戦術を操る神を以てしても、猟兵の戦い方は千差万別と言って良かった。
「光明とは確かに美しいものです。されど、それらはいつの日か消え去る定め。故にこそ、私は骸の海と言う闇の中でこの世界を愛し続けたいのです」
「……永遠を求める気持ちは、分からないでもない、よ。人は八十余年で果て、形あるものも、必ず崩れる時が来る。でも、自分はその、限りある輝きこそ、大切だと思うから」
古き乙女の独白に、相槌を挟むのはペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)。これまで経て来た半生を鑑みるに、彼もまた日陰に立つ存在である事に間違いはない。そういう意味では大祓骸魂に近しいと言えるが、それでも決定的に違う点がある。愛に縛られた乙女は闇へと沈み、指潰しはそれでも尚と光へ踏み出した。それこそが過去と未来を分かつ、決定的な差である。
「それでは、貴方も月の輝きにて私を暴き出すのかしら?」
「……いいや。自分もまた、本来は闇に紛れる物。そちらの弱みを突くよりも、自分が得手とする方法で、挑ませて貰おうか」
「ふふ、こちらは構いませんよ。しかしぱっと見、物静かな方ですけれど……その実、酷く傲慢ね」
ペインの言葉に酷薄な笑みを浮かべると、白無垢姿が音もなく地面へと吸い込まれる。残された皮肉気な物言いが静寂に溶けるのを待って、指潰しもまた行動を開始した。とは言え、彼の行動は普段とそう変わらない。
己の気配を殺し、五感を研ぎ澄ませ、敵の所在を暴き出す。いつも通りに行動し、いつも通りに撃破するだけで良いのだと、青年は理解していた。
(仲間みたいに、術や気っていのうは、分からないけど……それでも、御同類の雰囲気なら、感じ取れるから。最低限、大まかな場所さえ分かれば良い)
彼に陰陽師が備える呪術的素養や、狐像の様な神との交流経験に乏しい。然れども、重ねて来た年月に裏打ちされた第六感とも言うべき感覚は本物だ。特に彼の神が抱える情念は、愛と称しているが紛れもなく負に類する感情。それを感じ取れぬほど、青年も鈍くはない。
(当たりさえつける事が、出来たなら。あとは、皆でなんとか出来る、からね)
そうして、ペインはある地点で不意に足を止めた。周囲は相変わらず薄暗く、すすきが風に揺れているのみ。しかし彼は静かに目を閉じると、小さく息を吐き、そして。
「それじゃあ……始めようか」
カッと目を見開いてそう呟いた瞬間、俄かに月明かりが陰った。叢雲が掛かったのか? 否、青年の頭上に無数の器物が出現したのである。それらは彼の兄姉たる拷問器具に枝骨だけではない。周囲全てを取り囲む様に、懐刀がその切っ先を指潰しへと向けていたのである。
「はて、隠密勝負は引き分けでしょうか?」
「自分は、それでも、構わないよ。なら、次の勝負で、決着を着ければ、良いだけだから、ね」
神と物、両者がお互いの存在に気付いたのはほぼ同時だった。次いで繰り広げられるのは、四桁を優に超える器物たちの大乱戦である。襲い来る懐刀の切れ味は短刃と比べるべくもない。だが頑丈さは抱き石に匹敵し、纏う虞の濃密さは毒湯や焼き鏝に引けを取らないもの。その上、数も互角なのだ。
本来であれば、拮抗勝負となるべき戦力差。事実、交戦直後はそうであった。だが、戦況が進むに従ってその均衡は崩れ始める……そう。
「何故……私の方が、有利なはずですのに」
指潰しの側へと、だ。叩き落される懐刀を眺め、呆然と呟く大祓骸魂。だが一方で、ペインにとってこの結果は自明の理であった。
「愛を口にするけれど、貴方はいま、独りぼっちだ。でも、自分には、家族が居る。仲間も、そして……大切な相手も」
想いが己を強くする。文字にすればそれだけで、余りにも陳腐なフレーズだ。しかし相手がそれを謡って挑み掛かって来る以上、その理はこの場において絶対のもので。
「……貴女の行くべき所は、此処では無い。さあ、地獄の門は此処にある。そんなに闇を望むのなら、貴女のいるべき場所へと、帰ると良いよ」
そうして無慈悲な宣告と共に無数の拷問器具たちが白無垢へと殺到するや、その内に孕んだ情念ごとズタズタに蹂躙してゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ファン・ティンタン
【SPD】かわらずのあなたへ
忘れ去られた亡霊か
己の殻に閉じこめたその愛とやらでは、永遠に誰かと繋がることは叶わないよ
あなたの不変なる情動は、ある意味、シアワセの形の到達点なのだろうけれど
私は有限のモノとして、あなたを否定する
月は等しく夜を照らせども
その眼差しの届かぬ陰に闇を滲ませるだろう
尾花は靡き人影は踊る
なら、どうするか
狂姫に【祈り】も【優しさ】も不要
さらば、全て【蹂躪】せよ
とっておきだ
【夢想剣生】
星影の子よ
剛獣の牙よ
万雷の鋒よ
無銘の刃よ
退魔の輝よ
そして我が身、天上の華よ
我ら、刺し穿ち断ち斬るモノ
故に、故に―――彼の者のイトを、斬る
鈍ら風情が何するものぞ
研ぐ間もなく、端から叩き斬ってみせよう
●終わるが故に永遠で、限りあるが為に愛おしく
「ぅ、ぐ……ふ、ふふふ。よもや、私が愛について説かれるとは、その上で押し負けるとは。長い年月の中で、いったい何度あった事でしょうか」
すすき野の中心に立つ大祓骸魂の姿は惨憺たると形容できる程に荒れ果てていた。こと人体を破壊する事にかけては右に出る者が居ない猟兵の全力を喰らったのだ、それも当然だろう。
だが、全身をひと撫でするとそれらは時を巻き戻したかの如く跡形もなく消え去ってしまった。忘却された神にとって、見た目上の姿など所詮は仮初という事なのだろうか。
「……誰からも忘れ去られた亡霊、か。己の抱いた愛に準じると言えば、耳障りこそ良いけれどね。一つ、私からも補足するならば」
自嘲とも怨嗟とも取れる笑みを零す相手に対し、呆れたような声が掛けられる。そちらへ視線を向ければ、ファン・ティンタン(天津華・f07547)が真紅の左瞳を細めながら佇んでいた。普段の白装束から黒の軍装に身を包んだ白き刀はそのまま言葉を続けてゆく。
「己の殻に閉じこめたその愛とやらでは、永遠に誰かと繋がることは叶わないよ。あなたの不変なる情動は、ある意味、シアワセの形の到達点なのだろうけれど。それで幸福になるのは、結局あなた一人だけだ」
「まるで、自分は違うという様な物言いですね。ですが、少しばかりの共感すら覚えないと本当に断言できますか。永遠など欲しくはない、と」
ファンの批判を受け流しながら、大祓骸魂は逆に問い返す。確かにこの邪神の願いは度を越しているが、誰しもの心に一度は生じる誘惑でもある。幸か不幸か、この女はそれを為し得るだけの力を持っていただけで。対する猟兵は『さてね』と肩を竦めた。
「確かに否定は出来ない。だけど、相手の気持ちを慮る余裕くらいは持ち合わせているつもりだよ。だって相手は自由に出来る人形でも、意思のない道具でもないのだから」
そう言って、白き刀はスラリと己自身たる刃を抜き放つ。戦場へ微かに残る、愛しいモノの残り香。彼の青年が己の本分を全うしたのならば、こちらも遅れてはいられない。
「飽くまでも……私は有限のモノとして、あなたを否定する」
「そうですか。ならば限りある存在らしく、ここで潰えなさい」
猟兵の返答に対し詰まらなさそうに首を振ると、大祓骸魂は飛び退って草葉の闇へと溶けてゆく。これまでと同様、隠れ潜んで襲撃の機を窺う心算なのだろう。加えて、相手も己の位置を探られることは想定しているはず。尋常な手ではそろそろ通用しなくなってくる。
「月は等しく夜を照らせども、その眼差しの届かぬ陰に闇を滲ませるだろう。尾花は靡き人影は踊る。然して、そこに求める真無し……なら、どうするか」
それに対し、ファンの考えは極めてシンプルだった。つまり、それは。
「狂姫に祈りも優しさも不要。救いの手を伸ばせども、相手に掴む気が無ければ全ては徒労に過ぎない。さらば、全て蹂躪せよ……とっておきだ」
見つけるのではない。探すのでもない。そんな生温い手段はもう止めだ。
蹂躙を。隠れ潜む闇もそうでない草原も、一切合切を斬り潰す鏖殺こそが取るべき手段。
翡翠輝石を握りしめた白き刀の威に応じて、同胞らが姿を見せる。
「星影の子よ、剛獣の牙よ。万雷の鋒よ、無銘の刃よ、退魔の輝よ……そして我が身、天上の華よ。我ら、刺し穿ち断ち斬るモノ。故に、故に」
――彼の者のイトを、斬る。
それは愛しき者が用いた友輩たち。それらを引き連れたファンは、触れるを幸いにすすき野を片端より伐採してゆく。隠れる場所が無くなれば、獲物は自ずと出て来よう。仮に潜み続けるのであればそれでも結構。枯草と共にただ刈り取るのみ。
「見た目と違って、随分と乱暴なことを……!」
「外見云々だけはそちらに言われたくはないね。如何に数を揃えようと、鈍ら風情が何するものぞ。さぁ、研ぐ間もなく端から叩き斬ってみせよう」
これには堪らず大祓骸魂の待ち伏せから一転、懐刀を展開しての奇襲へと切り替える。だがそれこそ猟兵側の思う壺だ。同じ刃でも此方はどれも一線級の逸品ばかり。ならば負ける道理は無しと、白き刀は宣言通りに刃も神も纏めて蹂躙し尽くすのであった。
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
こちらも物陰に潜み、『闇に紛れる』『目立たない』ようにしながら『暗視』機能を使って索敵します。
先に見つかれば逆に奇襲を受けることになる、ですが恐れず焦らず、いつものように『落ち着き』を持ってやりましょう。
先に見つけたら『スナイパー』の技術で「フィンブルヴェト」からの氷の弾丸を大祓骸魂に撃ち込みます。
一度撃ち込んだら場所は割れるでしょうが、電波塔内の物に隠れて敵の攻撃の直撃を避け、位置取りを変えつつ【シェイプ・オブ・フリーズ】で視界を悪くし彼岸花が咲ける環境でなくしながら引き続き狙撃します。
私は月の光を頼みにはしません。この足があれば暗い道へも明るい道へも歩いて行ける、それで十分です。
●光明無くとも、征くべき途は在りき
「……周囲に敵影は無し。随分と激しく戦闘を行ったようですが、既に潜伏へと移行した様ですね。とは言え、問題はありません。隠れ潜む相手を見つけ出すのは寧ろ得意ですから」
スカイツリー頂上部『ゲイン塔』、そこに展開された在り得ざるすすき野と満月へ降り立ったセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、一目見てこれまで行われてきた戦闘の激しさを見抜いていた。
高さが疎らどころか、根元から寸断されたすすき。金属製の足場に刻まれた斬傷弾痕、焼け焦げた外壁。どの様に先行した猟兵たちがフォーミュラへと挑んだのか、狙撃手には痕跡だけ手に取る様に分かる。
「どうやら、居場所を見つけ出される事が余程堪えたと見えます。単純ですが、それだけに効果的な対応ですね」
だがそれも、急速に再成長するすすきによって瞬く間に覆い隠されてしまう。生え揃った植物の高さが先程までよりも高く見えるのは、身を隠したいという意思の表れか。厄介であることは確かだが、セルマにとってこの程度の妨害は些細な範疇であった。彼女は揺らぐことも動じることなく、ただ常と同じ平静さを以て戦場と相対する。
(逆に奇襲を受ける危険性がある以上、わざわざこちらの姿を晒す必要もなし。卑怯と誹られようと、狙撃手は隠密こそを旨とするもの……闇に紛れ、音もなく忍び寄り、必中を期す。普段と何ら変わりません)
鳥であろうと、獣であろうと、例え神であろうとも。弾丸の前には須らく獲物でしかない。セルマは身を低くして気配を殺しながら、ゆっくりとすすき野の中を進んでゆく。狙う者は自らが狙われる事にも敏感なものだ。敵がどう動くかを常に想定し、自分ならばどこに身を潜めるか思考を巡らせ続ける。
(…………)
そうしてどれ程の距離を進んだのだろうか。少女は不意に足を止めると、肩から愛用の猟銃を外してそっと構えた。スコープ越しに見える、小さな暗がり。そこへ狙いを定めると、ゆっくりと引き金を引き絞り。
――タァン、と。
一発の銃声が響くと同時に、茂みから汚泥の如き闇が噴出した。その中から飛び出し、弾丸の飛んできた方向を睨みつける白無垢姿を照星越しに確認すると、セルマは踵を返して駆けだし始める。それは位置の割れた狙撃手など、即駆られる側へ転落すると知っていたが故。果たして、彼女の背中目掛けて雨霰の如く虞が襲い掛かって来た。
「機先を制した腕だけは認めましょう。ですが、所詮はそれだけ。さぁ、今度の鬼はこちらですよ?」
外れても尚、咲き誇る彼岸花が猟兵の軌跡を示し続ける。セルマは電波塔内の障害物を利用して逃げ回るも、敵の追撃も極めて執拗であった。このままでは捕捉されるのも時間の問題だ。
「こうも煌々と輝く月に背を向けて、わざわざ闇夜の中を選ぶなど。驕りが過ぎると言うものです」
そして遂に、ゲイン塔の外延部にまで追い詰められてしまう。周囲に紅の華が咲き誇る中、背を向ける猟兵に大祓骸魂はクスクスと哂い掛ける。だが、振り返ったセルマの表情は恐れや焦りに歪むどころか、逆に毅然とした意志が浮かんでいた。
「……いいえ、私は月の光を頼みにはしません。そんなものが無くとも、この足があれば暗い道へも明るい道へも歩いて行ける……それで十分です」
「月夜の下でそんな世迷言、を……?」
少女の言葉を切って捨てんとした古神だったが、ぽつりと頬を打つ雨だれに疑問符を浮かべる。思わずハッと頭上を見やれば、いつの間にか分厚い雲が空を覆っていた。するとそれを切っ掛けとしたかの如く、ザァとみぞれ交じりの豪雨が降り注いでゆく。
「これは……! 季節外れな天気など、いえ、そもそも此処は私の領域のはず!?」
「月に叢雲、花に風。何事も常に万全とはいきません。それこそ、追い詰めたと思った時こそが、最も危険だと相場が決まっていますから」
氷点下の冷気によって花は枯れ凍てつき、大祓骸魂との繋がりが断たれてゆく。そうして水気を吸った白無垢で身動きの取れぬ女の眉間へと、セルマは必殺の弾丸を叩き込むのであった。
成功
🔵🔵🔴
春乃・結希
【狼と焔】
月明かりの戦場、隣に立つ人狼さんに同行を頼んだ事は少しだけ罪悪感もある
けど、大丈夫だって言ってくれたから
…ふふ。最終決戦らしい、エモいシチュエーションです
ね、そう思いません?
シキさんがあの子を見つけるまで、静かに待機
合図を受けたら、そちらへ踏み込みつつUC発動
withを全力で振り抜く
私からは何も見えない、聞こえない
でもあの子は絶対そこにいて、シキさんは絶対避けてくれる
二度、三度振り抜き、すすきごと刈り取る【範囲攻撃】
見つけたらwandererで距離を詰め、withを振るう【ダッシュ】【重量攻撃】
目障りな懐刀はシキさんが撃ち落としてくれる
だから私はあなただけを見つめて
…月が、綺麗ですね
シキ・ジルモント
【狼と焔】2名
結希を危険に曝さぬよう月は直視しない
ざわつきを抑え、大丈夫と告げ
普段通りの結希の言葉に肯定を返す
ユーベルコード発動、敵の潜伏位置『追跡』し特定を試みる
彼岸花の香り、すすきと衣の擦れる音等、探る要素はある
加えて、俺も普段は人狼の特性から月を避ける
自分が月光を避け潜むならと考え見当を付け…変則的だが月明りを利用し位置を絞り込みたい
位置が分かったら結希へ合図
攻撃の瞬間、高く跳躍して薙ぎ払いを回避
相手が姿を現したら結希に攻撃が集中しないよう挟撃
懐刀を牽制射撃で撃ち落とし、結希の接近を援護し畳みかける
…嫌う月の光も、倒すべき大祓骸魂も、美しいとすら感じる余裕は
共に見ている者のおかげだろうか
●独りでは見えぬ景色とは
「わぁ……月が、おっきい。高いとは聞いていましたけど、地上から見上げるのとは全然違いますね。それに空気が澄んでいるせいか、こっちの方が明るく感じよるけん……!」
「そう、だな。厳密に言えば本物ではなくフォーミュラの作り出した幻像だろうが、性質的に言えば本物以上と言えるだろう。欠けるのではなく、割れている意図は良く分からんが」
夜空には割れたる満ち月、地上には揺らめく街の灯り。それら二つの輝きによって薄く四方へ影を伸ばしながら、新たな人影がすすき野へと降り立った。降り注ぐ月光に思わず顔を上げて感嘆を漏らす春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の横では、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が油断なく愛銃を取り出して問題ないかを確かめている。
ぱっと見、普段通りの旅人と銀狼だ。何ら不審なところは無い。だが、二人の胸中は風に揺れる芒穂の如くひっそりとさざ波が立っていた。
(……敢えて月明かりの戦場を選んで同行を頼んだ事に、罪悪感が無いと言えば噓ですけれど)
結希はちらりと横目でシキを見やる。彼の人狼が月を、取り分け満月を忌み嫌っている事は彼女も知っていた。現に今も青年は手元へ視線を落としたまま、ジッと微動だにしていない。それが己の本能を暴走させまいとする意志の表れだという事も重々理解している。
この状況そのものが仲間にとって不利を背負うもの。にも拘らず連れ出したことに、何も思わぬほど旅人も木石ではない。
だが、それでも。
(……大丈夫だって言ってくれたから)
それら全てを承知の上で、銀狼は頷いてくれたのだ。無論、それに甘えるつもりは無いけれど。無理をさせただなんて、己惚れるつもりもないけれど。今も尚、自分を危険に曝さぬよう律し続ける仲間に、謝る事だけはしちゃいけないと分かるから。
「月明かりに照らされて、すすき野を舞台に神を討つ……ふふ。最終決戦らしい、エモいシチュエーションです。ね、そう思いません?」
「……ああ、そうだな。出来るならさっさと終わらせて、祝勝がてらの月見とでも洒落込もう。立役者の妖怪親分たちを呼ぶのも面白いかもしれないな」
「いいですね、それ。妖怪の皆さんって宴会が好きそうですし、きっと楽しいですよ」
だから、これで良い。普段と同じ様に話しかけ、いつも通りの言葉が返って来る。きっとそれが、百の言葉よりもなお雄弁に想いを伝えてくれるはずだから。
故にこそ、二人は常と何ら変わらぬ様子で戦場に臨むのだ。この先に待つ戦い、その結果もまた『普段通りだった』と言う為に。
「その為にも、まずは相手の姿を探し出すとしよう。幸か不幸か、今日はいつも以上に五感が冴えているからな。そう時間は掛からないはずだ。済まないが、それまで少し待っていてくれ」
「ええ、分かりました。合図、お願いしますね?」
そうして、先に動いたのはシキであった。彼は理性を持つ人でもあり、獲物を駆り立てる獣でもある。忌むべき力だが、こうした状況で有用なのもまた事実。であれば精々、存分に使い倒すのも一興だろう。後退って離れる旅人に見送られながら、銀狼はすすき野の中へと飛び込んでゆく。
(大祓骸魂……実体は勿論、名も姿も失った成れの果て。恐らく、あの姿とて仮初のものに過ぎないだろう。だがそれでも全く手掛かりが無い訳じゃない)
気取られぬようギリギリまで身を低くし、這うように地を蹴って視界の利かぬ茂みを駆け抜ける。普段ならまだしも、暴走の一歩手前まで本能が搔き立てられている今の状態であれば、見落としてしまいそうになる痕跡すらも感じ取ることが出来た。即ち甘やかな彼岸花の匂い、すすきと白無垢の擦れる微かな騒めき、そして……汚泥の底を思わせる、仄暗い闇の香り。
(俺もこんな有り様だからな、普段から月の光を避けるようにしている。だからこそ、相手が何処に潜もうと考えるか見当がつかない訳じゃない)
輝きが増せば増す程、闇はより深く濃密になってゆく。故にもし大祓骸魂が身を隠すのであればそれは最も暗い場所であると同時に、何よりも明るい位置のはず。そうして頭の中で組み上げられた考察が五感より齎される情報と結びついた瞬間、シキは在る一点へと銃口を向けていた。
「スカイツリーの最上部たるゲイン塔。その中で最も月に近いものなど、これしかないだろう?」
弾丸が放たれた先はゲイン塔頂上部の中央に立つ鉄杭状の構造物。すすき野に紛れて隠されてはいたが、それこそがこの天の樹における最高度位置。最も月の光を浴び、それに比例した暗黒を孕む格好の隠れ場所。
果たして、弾丸は着弾するまでに虚空で火花を散らした。鉄杭から滲み出た懐刀に撃ち落とされたのである。それを確認した瞬間、シキは思い切り跳躍しながら仲間の名を叫ぶ。
「結希ッ!」
「……ええ、待ってましたっ!」
刹那、轟と薄い大気を掻き乱しながら銀狼の足元を巨大な何かが通り過ぎてゆく。それは旅人が鞘走らせると同時に巨大化した、漆黒の大剣。彼らの作戦とは即ち、先行したシキが発する合図を目印として、待機していた結希がすすき野を纏めて薙ぎ払うと言う豪快な内容だった。
(私が居るこの場所からじゃ何も見えない、聞こえない。でもあの子は絶対そこにいて、シキさんは絶対避けてくれる。なら、私に出来る事はただ一つ……withを全力で振るう事だけ!)
だが実のところ、彼女の位置からだと見通しが悪く、懐刀は愚か鉄杭状の構造物すらよく見えていなかった。況や、暗がりに紛れた仲間の姿などとてもじゃないか判別できない。しかし、旅人が同士討ちを恐れる様子など微塵もなかった。
(――大丈夫だって、言ってくれたから。だから、私はそれを信じ抜く!)
巨剣を一振りする度に刈り取られた枯草が宙を舞う。もしかしたら、其処に敵は居ないのかもしれない。もしかしたら、愛する刃で親しき友を斬り裂いているかもしれない。そんな鎌首をもたげる疑念を振り払い、結希は征く手を阻むすすきを一切合切刈り取り、そして。
「……随分とまぁ、乱暴なお嬢さんですね。女は少しばかり奥ゆかしい方が良いそうですよ?」
「っ!?」
枯草を跳ね散らしながら、夥しい数の懐刀が切っ先を向けて来る光景が視界へと飛び込んできた。鉄杭の上に立つ白無垢姿が忌々し気に視線を向けている。だが巨剣を振り切ってしまっている結希が回避行動を取るには、ほんの一瞬だけ時間が足りない。鈍らとは言え鉄で出来た刃、直撃すればただでは済まない……が。
「お前が知っているUDCアースとは文字通り時代が違う。一概に否定するつもりもないが、些か古臭い事は否めんな」
立て続けに響く発砲音と共に、それらは次々と撃ち落とされてゆく。少女が音の源へと視線を向ければ、銃口より硝煙を立ち昇らせるシキの姿があった。当然なら五体満足のまま、傷らしい傷もない。
「懐刀はこちらで引き受ける。余計な横槍を気にすることなく、気兼ねなく叩き込んでやれ」
「はいっ!」
そんな銀狼の様子に我知らず笑みを浮かべつつ、旅人は鉄靴から猛烈な勢いで蒸気を噴き上げながら敵目掛けて吶喊する。周りを飛び交う懐刀も、もはや視界に映り込むことは無い。引き受けると告げられた以上、それらが己を傷つける事は絶対に無いと確信しているが故に。
(目障りな懐刀はシキさんが全部撃ち落としてくれる。だから、私は『あなた』だけを見つめて……ッ!)
それは驚愕と憎悪に顔を歪ませる大祓骸魂の事か。それとも振るった腕の軌道と共に現れる、黒々とした鋼刃か。或いは、視界に焼き付いた銀色の影姿か。そんな曖昧模糊とした思考が答えを結ぶ前に、両者の距離が遂に零となり、そして――。
「……月が、綺麗ですね」
大剣が深々と白無垢を斬り裂き、彼岸花を思わせる血飛沫を散らす。そのまま倒れ込む様に茂みの中へと踵を返した敵に代わり、瞳を染め上げたのは煌々と輝く新円の月。その息を呑むような光景に思わず結希は呟きを漏らした。
(嫌う月の光も、倒すべき大祓骸魂も。本来忌むべき全てを美しいとすら感じる余裕は、きっと)
つられてシキもまた、チラリとではあるが月を眦の端へと捉える。しかし何故か、理性を揺らがせるはずの本能は不思議と大人しいままで。その理由を、彼は朧げにではあるが分かっていた。
(……共に見ている者のおかげだろうか)
不意に訪れた、シンとした静寂。剣担う旅人と銀の人狼は一刻いまが戦闘中だという事も忘れて、ただ割れた満月を見上げ続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
外気に露西亜を想起する
『愛しき』の涙拭う困難と共に
…刻限ですね
すすき野の下、ゲイン塔下部にしがみつき
宙に身を投げグリモア転送でUC装着
UCハッキングし加速性能限界突破
一瞬で上を取り
乱れ撃ちレーザーロック、重力波解放、百鬼夜行拘束
大祓骸魂攫って飛翔
目指すは百鬼が直ぐに届かぬ遥かな月へ
…これ以上抱えては…っ!(継戦能力でダメコン、空へ放り)
騎士として、眼下の世界の為に
その想いを成就させる訳には参りません
そして…
(戦機の合理が傲慢、愚昧と謗る、されど)
貴女は愛した世界を元に幽世を拵えた
その愛で救われた妖が、貴女の愛の証が数多あるのです
それを、貴女の刃で殺めて欲しくは無いのです!
空中で交錯、剣を一閃
●神よ、我が矜持をその眼へ刻め
(愛、ですか……否が応でも、思い出してしまいますね。寒波吹き荒ぶ露西亜の地にて、同じ言葉を口にした神/少女の事を)
梅雨入りの季節と言えども、地上六百メートルを超える夜空に吹く風は冷たい。性能的には凍土どころか暗黒宙域でも問題なく活動できるよう設計されているトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)もまた、本来感じ得ぬはずの『肌寒さ』を覚える心持だった。
(幸いにも、かの幼子の時は過去を知ることが叶いましたが……此度はその様な幸運も望めないでしょう。況や、知り得た上でもあの結果だというのに)
電子頭脳に浮かび上がるのは彼にとっての『真実』。いま思い出しても暗澹とした気持ちになる一方で、その最後に生じた記録為らざる記憶については未だ答えを出せないでいる。しかし、感傷に浸っている余裕はない。今は過去を想うのではなく、未来を掴み取るために行動しなければならないのだ。
「……刻限ですね。それではこちらも参りましょう」
先程まで響いていた戦闘音が鳴り止むのを合図として、鋼騎士は思考を切り替えてゆく。彼がいま居るのは平らになっているゲイン塔頂上部ではなく、その下に聳え立つ塔本体の側面部。鉄塔を掴んでいた手を離すと、総身鋼の巨体が宙へと投げ出される。無論、投身などでは断じてない。
「これは騎士と名乗るのも烏滸がましい姿です。ですが、今は我が身の見栄えなどに構っている刻ではありません!」
俄かにトリテレイアの周囲が歪んだと思うや、虚空より出現した追加武装群が全身へと装着された。頭部に光学センサー、背面には大型推進器、そして肩部には二門の重力砲。一回り程大きくなったシルエットを反転させると、彼は制御機構の一切を取り払った大推力を以て重力の軛より解き放たれる。
(……彼の神を救えぬ事が大前提である事など百も承知です。ですが、だからと言って私の歩む騎士道を捻じ曲げる道理もまた無い。飽くまでも愚直に貫かせて頂きましょう!)
そうして急加速を以てゲイン塔の頂上すら飛び越えると、月を背にして眼下のすすき野を瞬時に走査する。大祓骸魂は最早すすきに紛れるだけでは足りぬと考えたのか、そこら中に無数の妖怪たちが跋扈していた。彼らの中に溶け込もうと言う魂胆なのだろうが、今さらその様な枝葉末節に係う気など毛頭ない。
「手荒な真似で申し訳ありませんが、今は動きを止める事を優先させて貰います!」
幾条もの光線が降り注ぎ、強烈な重力波が百鬼夜行をその場に押し留めてゆく。もしこの状況下で動ける存在が居るとすれば、それは実力が一つ頭抜きん出ている存在……即ち、探し求める大祓骸魂に他ならない。
「自然現象ではない動きを検知……見つけました、其処ですッ!」
「っ!? 絡繰り仕掛けが、一体何をっ!」
目標を発見した途端、トリテレイアは瞬時に急降下を敢行。彼は白無垢姿を抱きすくめるや、なんとそのまま頭上の月目掛けて一気に上昇し始めたのだ。それは余計な横槍を入れられぬ戦場を求めたが故の行動。だが無論、相手も大人しく為されるがままな訳もない。全身から虞を吹き上がらせ、懐刀を以て鉄人形を解体せんと抵抗し続ける。
「離しなさいっ! 再び私を、この大地から引き離そうと言うのですか……!?」
「っ、ぅ……!? これ以上抱えては……然らば、御免っ!」
これ以上の保持は墜落を免れ得ないと判断。鋼騎士は無礼を承知で白無垢を引っ掴むや、煌々と煌めく満月目掛けて放り投げる。そうして開いた手は腰へと伸び、今後は鞘に納められた騎士剣を握りしめた。
「この身は大地無き星海で鍛造されたモノなれど。騎士として、眼下の世界の為にその想いを成就させる訳には参りません……それに」
引き抜かれた刃が月光を受けて照り輝く。続けて放とうとする言の葉に対し、冷徹なプログラムが傲慢愚昧と誹り警告する。されどこれは、戦機ではなく騎士と己を定める以上はどうしても叫ばねばならぬ想いだった。
「貴女は愛した世界を元に幽世を拵えた。その愛で救われた妖が、貴女の愛の証が数多あるのですっ! それらは確かに、貴女が真に欲したものではないのでしょう。ですが私はどうしても、それらを貴女の刃(て)で殺めて欲しくは無いのです!」
「っ……!?」
鋼騎士の言葉に大祓骸魂が反駁しなかったのは如何なる理由だろうか。余りに見当外れで呆れたのか、木偶の世迷い言と切り捨てたか。或いは、其処に己が抱く情念に相通ずる何かの片鱗を見出したか。『真実』は分からない。だが、相手の動きが鈍ったのが紛れもない『事実』で。
「……きっとこの世界を、貴女の望んだ通り永遠として見せます。終わりによる停滞ではなく、弛まぬ未来への歩みを以て」
叩き込まれた刃が縦一文字に白無垢を両断した。別たれた半身は地上へ向けて落下しながら、虚空で無数の虞へと解けてゆく。それに一拍遅れて、稼働限界に達したトリテレイアもまたゆっくりと重力に惹かれて下降し始める。
彼が機能停止する寸前、最後に記録した映像は……。
――変わらぬ輝きで煌々と天から地上を照らし出す、割れた満ち月であった。
大成功
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